まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

…ここ、初めてプレイしたとき、ちょっとまてぃ!でしたねぇ。
いや、だって回復役とかいなくなるんですよ!?
で、装備とか…別のセーブさんからあわててあらたにLVをひたすらにあげた記憶が…
最終決戦で一人とヒロイン?だけの戦いになったら洒落にならないぞ。
とおもったのはいうまでもなく。…ありえるし。鬼畜設定。
まあ、どうやってもクラトスルートにはならなかったんですけどね~。
というか攻略本でそれをしったという。
ゼロス…涙、状態。
あるいみで、あれって、敵をだますにはまず味方から、を率先してたのに、
仲間に信じてもらえなくて、そのまま…という感じですよね。クラトスルートって…
す、すくわれない……
まあ、2セカンドの騎士ではゼロス生存なので、生存ルートが正規ルート、
と判明してあるいみほっとはしてますが。
やはり、人の争いはなくなってないんかい、という思いのほうが大きかったりv
あれ、精霊達がでてこなかったのは、精霊達もわかってたからでしょうねぇ。
人間は害にしかならないし、自然界からしてみれば。
だから、率先して口出ししてはこなかったんだとおもうんですよね。切実に。
だって、直接ラタ様の邪魔?したのヴェリウスだけですもん。実質的に…
ちなみに、これでもルーンボトルにはお世話になりましたv
ファンタジアでもデミテルの館でひたすらルーン盗んでは、うっぱらっては資金稼ぎ。
してたしな…あはははは……
そういえば、これってしいな…コリン(ヴェリウス)とあわせて…はいなかった、よな?
うん、いなかったはず。…とりあえずいなかったことのパターンで打ち込みしたけど…
あってたら矛盾が生じるぅ…
なので、そのあたりすこしごまかして打ち込みしておきます……

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「相談があるのだけど」
「私にか?」
映し出されてるは、ハーフエルフの女性と、
そしてたしか、ここテセアラのかなりの財団だというところの会長だという人物。
「あなたが一番冷静そうだからよ」
そのことばに、こくり、と相手がうなづいているのがみてとれる。
「この先は危険だわ。命の優先順位をきめておかなくては」
その言葉をきき、おもわず顔をしかめる。
命に優先順位など、ありえない。
なのに、彼女は何をいっている、というのだろうか、と。
「なるほど。ロイドがおこりだしそうな話しだな」

それはかつて、クラトスにもいわれたことがある。
あのとき、ミトス自身は、そんなことはありえない、と一喝し、
皆で生きるために戦うんだ、そういっていた。
死ぬかもしれない、という思いをいだけばそこからその可能性が広がってしまいかねないから、と。
ユアンはざれごとだ、といっていた。
かならず、選択を迫られる時はかならずくる、と。
ラタトスクにみせられている映像は、かつてのミトス自身の旅をおもいおこさせるようなもの。
その思いなどはミトス自身によく似ている、と彼ですらおもう。
が、あそこまで自分は何も考えていなかった、とは思いたくはないが。
すくなくとも、みているかぎり、あのロイドという少年は、自分で考えようとしていないふしがある。
常に何かに流されているような、そんな感覚をうける。
事実そうなのだからタチがわるい。
それは幾度もラタトスク…エミルが指摘しても治らないその性格。
そのときは反省したようなふりをして、幾度も幾度も繰り返しているのが現状。
そのときは覚えているが、いざとなるとどうやらすっかり失念している、というのがロイドという人間らしい。
人、とよべるのかはわからないが、まあヒトなのだろう。
心がきちんとある、のだから。
精神体であるがゆえにわかる。
マナのそれが、人のそれでもなく、エルフのそれでもない、かといってハーフエルフのそれでも、
また、天使化している自分達のそれでも。
ヒトと無機生命体たる精霊石のマナと入り混じったそんなマナ。
そんなマナをもつものなどミトスはこれまで一度もみたことがない。
「めずらしいであろう?歪みが歪みとて存在していない、異種族同士のあらたなる種だ」
「…いぜん、国がやっきになってつくろうとしていた種族…か」
ミトスもそれはしっている。
そのためにどれほどの命が犠牲になっていたのか、も。
必ず異なるマナ同士、反発がおこり、成功しなかったともきいている。
「あのものは自然に誕生している。…永きにわたる融合の結果だろうがな」
クラトスの四千年にわたる精霊石との融合。
そして、幼いころからつけられていた精霊石との融和性。
それを身に宿していた女性との間に誕生した子供。
クラトスの人の要因、そして精霊石の波動、天使ととしての属性。
それら全てをうけついであらたにうまれている、いわばこの地上に一人しかいない人種。
見た目がまったく人であるがゆえに誰にも気づかれていない、ただそれだけのこと。
「あの子はその真実をしったとき、うけいれられるのかな?」
「どうかな?また取り乱すのではないのか?クラトスが親だ、としったときのように」
どうも彼は自分のことに関しては取り乱す傾向があるらしい。
他人のことならば、ま、いっか、ですます性格だ、というのに。
それは心から本音で相手の立場にたっていない、ということを示していることに、
あの人間、ロイドというものには気づいてすらいない。
この前のクラトスの一件でようやくすこしわかりかけている、ただそれだけ。

「ロイドは、死守しなければ…最終決戦で道の力をもつユグドラシルと対決するには…」
「ロイドの特別だ、というエクスフィアか」
「ええ、それがどんな力なのかはわからないけれど。
  あれほどクルシスが必至になって奪い返そうとする品よ。勝算があるほうにかけるべきだわ」
「…承知した。ロイドを護ろう。我々の手で」

「ねえ。ラタトスク、あの子のもってる、精霊石…ハイエクスフィアって…」
「あれは、別に特別な力をもっているわけではない。勝手に人がそうおもっているだけでな。
  まあ、自分自身の子というか力をうけついだ子であるがゆえに、
  あれも力を貸しているというか、かの精霊達も我が子に力を与えているにすぎない。
  それにくわえ、あのものの実母の精神体が力を貸しているゆえな」
まあ、その力を制御というか制限しているところはあるにしろ。
「精霊石…人の精神体すらとりこむ、精霊達の結晶石…」
「母親が力をかしている、ただそれだけだ。あのものは自分自身の力を使いこなせてはいない」
それでもクラトスの指導のもと、少しはましにはなっている、かもしれないが。
「…というか、僕が人を家畜同然にしてエクスフィアを狂わせている、なんて、信じられない……」
「俺もまあ、しったときにはたまげたがな。負に狂わされた結果だろう」
「……ほんと、僕の本体、何やってるんだろ……」
いくら狂わされているとはいえ、今、自分の本体がやっていること。
それはかつて自分自身が一番嫌悪していたことに他ならない、というのに。

そんな彼らの様子を、ここギンヌンガ・カップから眺めている二人の姿が、
この場においてしばしみうけられてゆく……

光と闇の協奏曲 ~仲間と覚悟と選択と~

みずほの里をでて、伝言としてアルタステの護衛をしている彼らによろしくたのむ、
と伝えたのち、朝も早く。
朝霧がたちこめ、まだ日ものぼりきっていない最中、出発したロイド達。
不思議なことに、空には雲までみえているというのに、その先にあるはずの青空がなく、
別の大陸がある様子がみえている、というのが何とも不思議な気分でしかない。
これが一日、二日ならまだしも、毎日この光景なので、
いまでは人々の心に不安が広がっていっている。
それはシルヴァランドにしろテセアラでも同じことがいえるのだが。
シルヴァランドでは、あれは伝説のテセアラが自分達を責めてくる前振りだ、
といい、人々の心をあおっているものが存在している。
テセアラでは、王家と教会が神子をないがしろにしたから、
天の怒りをかい、世界の終わりがちかづいている、という流言飛語が飛び交っている。
みずほの民がそれぞれの世界において集めた情報による報告なので、おそらく嘘はないのであろう。
太陽は、まるで二つの空間をただようかのごとくの蜃気楼のようにしてそこにある。
レアバードを低空飛行にて操り、救いの塔へ。
おそらくは、前回の侵入から警戒されているかもしれない、ということもあり。
シルヴァランド側からの侵入を、という話しもでたが、
何でもシルヴァランド側の救いの塔付近はレアバードでも近づけられないほど、
何やら大陸変動がいちじるしい、らしい。
それに何より、こちら側よりも確実に大気の状態が不安定であるらしく、
近づこうとすればまちがいなく、竜巻のような風に巻き込まれてしまう、とのこと。
こちら側もそのような風はあるが、不幸中の幸い、というべきか。
永きにわたり繁栄世界であったがゆえに、人がこっそりと救いの塔へとつづく、
地下道をつくっていたらしく、その情報がみずほの民よりもたれさらた。
そこにはいる入口はたしかにレアバードにて移動しなければいけないような位置なれど、
地下を進んでゆくので、風などによる影響はないといってよい。
地下道をぬけ、外にでて、やがて見慣れた景色。
すなわち、しばらくすすむと救いの塔の真下にとたどりつく。
が、塔の入口付近だけでなく、周囲には天使がいりびたっており、
近づこうにも近づけない。
白き翼をもつ天使と黒き翼をもつ天使。
鳥のような翼をもつ天使達がそれぞれ武装してそこにいる。
「だめだ。ふさがれている」
「このままでは退路がふさがれてしまうわ」
みずほよりもらった遠見鏡をもちい、入口付近を確認する。
おそらくここからでればすぐさまに発見されてしまうであろうほどの天使の数。
と、
「ロイド、こっちだ」
いつのまに現れたのであろう。
ロイド達の横のほうの岩影よりユアンがあらわれ何やらいってくる。
どうやらユアンの奥に小さな洞窟らしきものがみてとれる。
「こっちから中へはいる道がある」
ユアンにいわれ、それぞれ顔をみあわせ、ここはユアンに従うしか確かに道がない。
ゆえに、素直にユアンについてゆくことに。
「どうして俺達に協力してくれるんだ?」
ロイドの素朴なる疑問。
洞窟の奥には見慣れた転送陣らしき装置があり、どうやらここから出入りが可能、らしい。
何でもユアン曰く、緊急用の避難通路、らしいが。
「ユグドラシルに正体をしられていると判った今、
  マーテルを救う手段はお前達に力を貸すことしかできないからだ。慣れ合っているわけではない」
淡々と語るユアンであるが、そんなユアンに苦笑せざるをえない。
「ひねくれた奴だなぁ」
「あなたは、何か処罰をうけていないの?」
「表向きは私はテセアラの管制官だ。クラトスのように表だって反逆した。
  とわかった証拠がないいじょう、ユグドラシルも動けないのだろう」
クラトス、の名がでて、ぴくり、とロイドが反応する。
「クラトスさん…なにかあったんですか?」
不安そうなコレットの声。
「何、前とかわらん」
そう、以前と何もかわらない。
彼がクルシスをでてこのかた、今回のこの一件のときまでずっと、
かの地…デリス・カーラーンからでることを許されていなかったのだから。
「あいつは今、実質、自室にて軟禁状態だからな。部屋から一歩も外にでることは許されていない。
  まあ、どうせたまりにたまった仕事を片付けているのだろう。
  …かくいう私も仕事はたまっているのだがな」
それはもう盛大なるため息をつかざるをえない。
ここにきて、テセアラ側の被害とシルヴァランド側の被害。
その報告がどんどんとあがってきている。
あからさまに変動している大地。
ついでに切り離された王都。
グランテセアラブリッジはすでにもうその面影も痕跡すら残していない。
デリス・カーラーンのコアシステムで調べようにもなぜかそれらのことはしらべられず、エラーとなる。
それだけ、ではない。
デリス・カーラーン内部においても異変がたしかにおこっている。
数多にあったはずのエクスフィアが突如とて現れた魔物によって奪われる事件が多発している。
きづけば、在庫のエクスフィアはほとんどからになっており、
今はその現状を急いで調べさせている最中。
ユアンがこうして外にでてきたのも、ゼロスからの報告があってこそ。
少し、そとの空気をすって気分転換をしてくる、といって抜けだしてきたに他ならない。
「仕事って……まあいいや、協力してくれてありがとう。いこうぜ、みんな」
きになることはあるが、部屋、しかも自室に、というのだから命に問題はないっぽい。
プロネーマからしてみれば、自室に監禁など甘すぎるとはおもうのだが、
ユグドラシルにいわれてはどうしようもない。
今は大事な時期だから、クラトスには仕事をしてもらう必要がある、といわれればぐうの根もでない。
クラトスはココ、クルシスの四大天使の一人であり、シルヴァランドの管理官、なのだから。
緊急用の脱出避難通路、というだけのことはある。
転送装置をくぐったさきにたどりついたは、ロイド達が見知った場所。
どうやらいっきに封印の間…エターナルソードが安置されているかの部屋までたどり着いたらしい。
どうやらそことあの場所は直通、という形になっていたのか。
それとも、あの場所はどこにでも繋がるようになっていたのか、それはロイド達にはわからない。
何やらユアンが横のほうでパネルのようなものを触っていたこともあり、おそらくは後者なのであろう、
と何となくだが予測をつける。
封印の間は目前。
あいかわらず、床には不釣り合いな剣がしっかりと突き刺さっているのがみてとれる。
そして、その背後にはかつてロイドが壊してしまった柱がいまだに健在。
どうやら修理すらしていない、らしい。
と、移動しようとするロイド達を制し、ゼロスが立ちふさがるようにと前にとでる。
「ゼロス?」
「ここは俺様にまかせとけ」
何やらそんなことをいってくる。
「まかせとけ、ってどうするんだよ」
ロイドの問いはまさにここにいる全員の思いをあらわしたものであろう。
「前にここにきたときに、こんなこともあろうかとちょっとした細工をしておいたんだ。
  コレット、ちょっとこっちへきて」
「え?うん」
エターナルソードの前にまででてたちどまり、ひらひらとコレットを手招きしているゼロス。
ゼロスにいわれ、首をかしげつつもコレットが近づいてゆく。
と。
直後、魔方陣のようなものがその場に浮かび上がったかとおもうと、
あっというまに天使達がコレットの周囲をとりかこむ。
「御苦労じゃったな。神子ゼロスよ。さあ、コレットをこちらへ」
「はいよ」
どこかで聞きおぼえがあったはず。
その声は、昨夜、ロイドがきいたこえ。
どうして思いださなかったのだろう、とも。
「プロネーマ!」
おもわずその姿をみとめロイドが叫ぶ。
天使達の上にふわり、と浮かんでいるのはロイド達もよくしっているディザイアンの…五聖刃の長だという女性。
「ゼロス!?」
「あんた何するんだよ!」
プロネーマがいうのと、ゼロスが答えるのとほぼ同時。
コレットの姿がその場からきえさり、次の瞬間、コレットはプロネーマのすぐ真横にと出現する。
どうやら、間接的とはいえ強制的に瞬間移動をさせられてしまったらしい。
ジーニアスとしいながそんなゼロスの行動とコレットの様子をみて同時に叫ぶ。
そんな彼らにたいし、まるであきれるように、それでいて淡々と、
「うるせ~な~。よらば大樹の陰ってしらねぇのか?おまえらのしていることは無駄なんだよ。
  いいじゃないか。コレットちゃんだって生贄になりたがってただろ?」
いつもの口調で、さらり、と何やらそんなことをいってくるゼロスの姿。
たしかにコレットは常にいっていた。
自分が器になれば全ては丸く収まるのではないか、と。
そのたびに、リフィルがそれだと実りが失われてどちらにしても世界は滅ぶ、とコレットにいっていたのだが。
物ごころついたころから、死ぬことを前提にして育てられている以上、
どうしてもそういった思いは完全には抜け切れてはいない、らしい。
そのことを、この場にいる全員は知っている。
ゼロスは神子として、繁栄世界の神子と衰退世界の神子の役割。
それをテラアラの管理官だというユアンから聞かされている。
それこそ天のおつげ、という形をとる、という名目で。
神子に救いの塔にくるように、と神託のようなものを下した上で。
それもまた、クルシスの四大天使という立場にあるユアンの、
テセアラの管制官としての仕事のうちの一つであったがゆえに。
繁栄世界側の管制官がそれらの担当を受け持つことになっているのは、クルシスのものしかしらない事実。
また、それに末端たる天使達が口出しすることすら許されてはいない。
それぞれの管理する地において、管制官達は自由な行動を認められている。
すべては、不足の事態のときのため。
もっとも、それぞれの、というが、テセアラをユアンが、シルヴァランドをクラトスが。
二人がみていた以上、実質、他の天使達が介入の余地がなかったというのもあるにしろ。
「ゼロス、うらぎるのか!?」
ロイドが手を握り締めて何やら叫んでいるが。
「うるせぇなぁ。フラノールでの俺さまの言葉、わすれたのかよ。俺さまは強いものの味方なんだぜ?」
以前、たしかにゼロスはそんなことを彼らにといったことがある。
「うらぎるとは笑止。ゼロスは最初からわらわたちの密偵としてお前達の中まになったのじゃ。のうゼロス」
そもそも、彼らがこちらにくることになったとき、ゼロスに連絡をクルシス側からとっている。
まあ、ゼロスからしてはたまったものではなかったが。
何しろ、プロネーマに始まり、それからユアン、さらにはクラトスからまで連絡がはいった、のだから。
「本当…なのか?」
「嘘でしょう?嘘だよね、そうだよね」
唖然とした様子のロイドに、何やら必至で懇願するようにいっているコレット。
本当に、このお子様達は、いらいらさせてくれるとおもう。
人を疑うことをしらない。
そこにある目先のことでしか判断ができていない。
行動に含まれている深い意味などまったく考えてすらいない。
「俺様は強いものの味方だ。レネゲードとクルシスとおまえら、計りにかけさせてもらったぜ」
「な、レネゲードにまで情報を流していたのか!あんたって奴は!
  いい加減だけどいいところもあるって思ってたのに」
相変わらずだまされてくれるなぁ、とつくづくおもう。
しいなもどうも感情にまかされて、大局をよく見失う。
だが、それでいい。
特に、今回のこの一件に関しては。
そうでなければ意味がない。
「おほめのことば、ありがと~。
  結局、マナの神子から解放してくれるってミトス様が約束してくれたんで、こっちにつくことにしたわ」
しいなの目にはうっすらと涙が浮かんでいるのがみてとれるが。
あいかわらず、というべきか。
彼女もいわばロイドと同じ。
基本的に他人を疑うことをまずしない。
だからこそ、忍び、という仕事は彼女には向いていない、とつくづくおもう、のだが。
「神子がそんなにも嫌か。仲間をうるほどに」
リーガルが厳しい口調でいってくる。
おやま、めずらしい。
あのリーガルですらどうやらだまされているっぽい。
ならば、それを利用するのみ。
そこに彼のトラウマになっていることを示唆してやれば彼らは嫌でも信じるはず。
この茶番劇を。
「ああ、嫌だね、そのおかげでロクな人生じゃなかったんだ
  おまえらにはわかんねぇだろ。神子として望まれない誕生をし、父親にはいないものとされ。
  母親にすら産まなければよかった、といわれた俺様の気持ちなんかな。
  しかも、昔。母親が死ぬきっかけとなった暗殺事件。
  その首謀者は、俺様を殺そうとしたのは、父親の愛人…元、父親の恋人で妹の母親だぜ?
  クルシスによっての神託で結婚できなかけど、ずっと関係はつづいていたその相手。
  たまんね~よ。理由は、俺様がいなければ娘であるセレスが神子につけるから、とな。
  だからさ、セレスに神子をゆずれるっていうんだ。せいせいするってもんだろ?」
そんなゼロスの言葉にリーガルとしいなが顔をゆがめる。
そのあたりの事情を彼らは知っている。
だからこそ強くいえないというのもある。
そして、その時の実行犯はまだ五歳にもみたない妹セレスの仕業、とされ、
セレスは修道院にと監禁となった。
生まれつき体がよわく、常に安静にしていなければ危険な状態であった、というのに。
「嘘だ、俺はお前を信じるからな。信じていいっていったのはお前なんだぞ!」
ロイドはそんな詳しい事情はしらない。
ただ、ゼロスが信じていい、といったから、ただそれだけ。
だからこそ、いわれたままに信じようとする。
それはたしかに美徳、ではあるのであろうが、しかしその裏に何が意味されているのか。
ロイドも少しは考える必要がある、とおもう。
世の中、綺麗事だけでは、かならず自分が被害をうけるようになっている、のだから。
特に周囲が綺麗ごとだけですませてはくれはしない。
「ばっかじゃねえの?それよりそろそろいきましょうよ。プロネーマ様~」
そのまま、ロイドのほうをふりむくことなく、こびるようにしていつもの口調で笑顔で言い放つ。
それはゼロスが女性にたいしよく使用している口調。
「ロイド、ロイド!ロイド~~!!!」
コレットが叫ぶが、だが叫びもむなしく、そのままコレットはプロネーマ達とともにその場からかききえる。
おいかけようとするロイド達の周囲をあっというまに別の天使達が取り囲む。
リフィルのみは先ほどから少し考えるそぶりをしているが。
ゼロスがいつになく饒舌であったことにどうやら彼女のみきづいた、らしい。
ゼロスがあのような態度にでるとき、それはいつだって理由があった。
そのことに短い間共にいた間ではあるが、リフィルは気づいている。
さすが、人を導く教師の職を選択しただけのことはあり、人を見る目は養われているといってよい。
彼があのようにしてまで、敵の懐にはいらなければならない理由。
そんな理由など一つ、しかない。
伝説の鉱物、といわれているアイオニトス。
おそらく、ゼロスの目的はそれ、であろう。
ならば、自分も覚悟をきめる。
ゼロスが自分が恨まれてでもロイドの役にたとうと動くのならば、ロイドの担任である自分も。
それはリフィルならではの内心の決意。
と。
ぼふん。
いきなり突如として周囲に煙がたちこめる。
みればその煙の中よりでてくる見知った格好の人の姿。
「大丈夫か?」
声をかけてきたのは、たしかロイド達が里にいったとき、
里の入口で出迎えた男性であることがうかがえる。
「どうしてあんた達がここにいるんだい?」
それは、みずほの民のものたち。
ゆえにしいなは問わずにはいられない。
「投げ文があった。それよりも急げ。コレットが浚われたのだろう?」
その投げ文はゼロスから。
アイオニトスを手にいれるため、あえて敵陣に乗り込むことがかかれていた。
そのために、敵をだますにはまず味方から、ともいうので力をかしてほしい、とも。
だが、今それを彼らに説明するわけにはいかない。
そうすれば全ての計画は無にきしてしまう。
彼が、命をかけてその計画を実行しようとしている今、テセアラの民としてそれを黙ってみているしかない。
あれでも、あのゼロスはテセアラの神子、なのだから。
神子の決定は、国王の決定よりも尊重される、のだからして。
「わかった」
人にいわれただけで素直に信じる。
彼らがどうしてコレットが浚われたのかとか知っているのかとか不思議にもおもわない。
少し考えれば、わかりそうなものなのに。
ロイドはそこまで思考がまわらない。
「気をつけろよ」
「そっちこそな」
そんな掛け声とともに、
しいなの合図でゼロス達がきえた場所にとかけてゆくロイド達。
そこには、いまだに魔方陣らしきものが起動しており、あわい青白い光を放って回転しているのがみてとれる。
「作動…しているのでしょうか?」
「ここからワープできるようね。いそぎましょう」
プレセアがとまどったような声をあげ、リフィルが言い放つ。
背後では、みずほの民達が天使達と交戦しているのがみてとれる。
死なないでくれよ。
そんな思いをいだきつつ、ロイドもまた、リフィル達とともに、転送陣なのであろう、
それにと足を踏み入れてゆく。

「コレットはどこにいるんだろ?」
ワープした先はどこかの地下のよう。
壁はかなりもろくなっており、大きな亀裂が何本も走っている。
どうやらどこかにつづく通路、らしい。
「おそらくは、大いなる実りのあるところでしょうね」
リフィルがいうが、ふと、ロイドの表情が暗くなる。
「……俺達、ゼロスの言葉の真実をいつだって考えていたのかな」
それは、ぽつり、としたロイドの台詞。
「何がだい?あいつの言葉が裏切りのこと場だって、いちいち疑えばよかったのかい?」
そんなロイドに吐き捨てるようにいいはなつしいな。
まるで、考えるのも嫌だ、とでもいうように。
しいなもまた気づいていない。
みずほの民が投げ文といい、しかもいなかったはずなのに、コレットが浚われた、
ということをしっていたその事実の真意に。
どうもしいなは自分を含んだ事柄になるととことんその感覚が鈍くなってしまう傾向がある。
それは今も昔もかわらない。
それが特にゼロスがらみ…さらにいえば女性絡みとなると、特に。
しいなの思考を遮っているのは、ゼロスがプロネーマにたいしこびたような声をあげていたこと。
たしかにゼロスのこのみにぴしゃりの女性だ、とはおもう。
プロポーションも抜群で、しかも美人。
だからといって自分を…自分達を裏切っていいようなものでもないが、
あのゼロスならば、美人に手をかしてあたりまえ、といいきりそうなのではしてなく信用度が低い。
特に女性が絡んでいればなおさらに。
だからこそ、吐き捨てるように言い放つ。
その声に嫉妬という感情が含まれていることにしいな自身も気づいてはいない。
「違うよ。おゃらけていたあいつの本当の気持ちに全然、俺達気づいてやれなかったんだなって」
「そうだね…今さらおそいけど」
ロイドの言葉にジーニアスもそういえば、その言葉の真意をきちんと意識したことはなかった。
そうおもう。
ゼロスはテセアラの神子、なのだから、クルシスとかかわりがあってしかるべきなのかもしれなかった。
そのことを失念していたのもたしかに事実。
「ああ、こうなる前にもっとあいつのことをちゃんとみておくべきだったのかな」
そんな会話をしつつも歩いてゆくと、どうも足元がおぼつかない。
見れば、足元にはびっしりと木の根らしきものがはりめぐらされており、
よくよくみれば壁にも木の蔓というかねのようなものがみてとれる。
「うわ、また木の根だよ」
「本当、嫌になっちゃうね」
「忘れたの?ここはあの大樹のあった場所よ。その名残にちがいないわ」
どこに移動したのかはわからないが、すくなくとも救いの塔の内部ならば、
あの樹は救いの塔を呑みこむようにして成長していた。
なごりという痕跡がのこっていても不思議ではない。
「げ、じゃあ、こいつらって」
おもわず、周囲をみわたし、あとずさるロイド。
「心配いらないよ。こいつらにそんな力はのこっちゃいないさ」
しいなが壁にある木をさわりつつも、それが普通の樹の根であることを確認しつついってくる。
そこにある根からは何かしらの力を感じ取られない。
だからこその台詞。
「でも、どこかに生き残りがいたらどうするの?」
「植物ってけっこうしぶといんだよ?」
いい例が草木であろう。
人が雑草とよぶそれらはたくましくもすぐさまにはこびるように生えそろう。
「その時はあたしにまかせときな」
「おう、たよりにしてるぜ」
そんな会話をしつつも、足元をきにしつつ進んでゆくことしばし。
怖いほどに静寂であることも何かしらの不安を誘う原因、なのであろう。
敵とみられし天使も、また魔物の姿もみあたらない。
「何だか胸騒ぎがする」
しぃん、とした中に彼らの足音のみがひびいてゆく空間。
「どうした?ジーニアス?」
「うん。不安…かな?どうしてだろう。皆がいるのに」
それは漠然とした不安。
「根拠のない不安は杞憂、です。頑張りましょう。ジーニアス」
プレセアがそういうが、プレセアもこれが罠ではないのか、とかんぐってはいる。
何しろ敵が一人もいないのはおかしい、とおもう。
敵がきえた転送陣から移動した先だ、というのに。
「でも、ゼロスのことがあったし、気になっちまうね」
たしか、ハーフエルフの直感は捨てがたい、ときいたことがある。
だからこそしいなの表情も曇ってしまう。
「大丈夫さ。いざとなったら皆で力を合わせればいい」
「そうだね。うん、そうだよね」
「…どうやら、どこかにつく、ようだな」
ふとみれば、道の先が少しばかりこれまでとは異なり明るくなっているのがみてとれる。
どうやらその先はぽっかりと開けたドーム状の空間。
天井がかなりたかくどこまでもドーム状の壁が四方にあるのがみてとれる。
広い空間の先に、一つのみ出入り口なのであろう、ぽっかりとひらいた場所があることから、
どうやらここを抜けなければ先には進めない、らしい。
と。
カラーン、カラーン。
ロイド達がその部屋に足をふみいれたその直後。
どこからともなく鐘の音が鳴り響く。
はっとして背後をみれば、はいってきたはずの入口の扉が、
まるで蓋をするかのように閉じられているのが目にはいる。
そして、鐘の音を合図にしたかのように、ドーム状の壁のいたるところがぽっかり、
とひらき、その中に一つの穴に一人づつ。
手を前でクロスさせている無数の天使達の姿がみてとれる。
それらは、鐘の音を合図にしたかのように目覚め、無数の天使達が、
ロイド達にむかって舞い降りてくる。
「な、何だ!?」
「天使だ!くるぞ!」
黒い翼の、まったく表情のない天使達。
だが、倒しても、倒しても天使達はきりがない。
みれば、壁のいたるところからどんどんわいてでてきているっぽい。
倒した直後に光の粒となっているのが気にかかるが、今はそんなことを気にしている場合、ではない。
その光景はまるでかつてのドアそのもの。
死亡したときに光となってきえてゆく様は、その痕跡すらのこしていない。
そう、彼らが身につけいてたであろう防具全てを含んで光となって消失しているこの現状。
「くそ!これじゃあ、きりがねぇ!」
そんな中、リフィルがちらり、とリーガルに目配せする。
その先には一つしかない出入り口。
唯一、今、進めるであろう道の先。
どごっ。
リーガルがそのあたりにある一本の柱をおもいっきり蹴り壊す。
崩れた柱の影響で、天使達の視界が一瞬うばわれる。
「今のうちに奥の通路まではしれ!」
「わかった!」
その隙をついて、ロイド達がいっきに走り抜ける。
だが、その直前。
「!?」
ロイド達全員が部屋を通り抜けたのを確認し、リーガルが再び周囲の柱をけり壊す。
どごっ。
柱がこわれる鈍い音、それとともに崩れ落ちる瓦礫の音。
「リーガル!?」
はっとしてふりむけば、今リーガルが壊した柱によって、
完全に今、自分達がとおりぬけた入口がふさがれているのがみてとれる。
「ここは引き受けた。はやくいけ!」
かろうじて隙間からみえるその先では、一人残っているリーガルにたいし、
天使達が群がるように近づいてきているのがみてとれる。
ロイド達を背にし、そういいはなってくるリーガルの姿。
「何いってんだよ!そんなこと、できるわけないだろ!」
そう、できるはずがない。
だけど、この瓦礫をどうにかしなければ、リーガルの援助にいくことすらままならない。
どうみても人が擦りぬけられる隙間はあいていないっぽい。
「判っているはずだ。今は一刻を争うことを。コレットを救えるのはお前しかいない!」
背中ごしにいわれる言葉。
そう、その理屈はロイドにもわかる。
わかるが、
「わかってるよ!でも、仲間を犠牲にしていくなんて……」
ここで彼を一人のこしてゆくこと。
それは、彼を犠牲にすることに他ならない。
誰かを犠牲にするために本拠地に乗り込んだわけじゃない。
皆で力をあわせ、解決するための選択、だったはず、なのに。
なのに、これは一体。
「それは違う。私はかつて大切な人を護ることができなかった。だから今度こそ護りたい。大切な仲間を」
「リーガル……」
「コレットを、護ってやってくれ」
直後、餌にむらがるありのように、天使達がリーガルの体を。
否、ロイド達の視線、かろうじてみえていた隙間すらうめるようにたちふさがる。
どうやら完全にリーガルは囲まれてしまった、らしい。
「ああ、リーガルっ!…っ!……わかった!
  …リーガル、死ぬなよ。あんたと同じ苦しみを背負うのは俺は嫌だからな!」
ここで叫んでいてもどうにもならない。
それは身をきられるような選択。
「いきましょう。ロイド」
「姉さん……」
「リーガルの思いを無駄にしないで」
「「っ!」」
そういわれてはどうにもいえない。
だからこそ、その場をふりきるように、駆けだすロイド達。
ロイド達が遠のく気配を感じつつ、
「ふ。難しいことをいう。すまん、アリシア、お前のところにいくのはまだ先になりそうだ。
  ここから先は…とおさん!」
そんなことを天使達にむかっていいはなっているリーガルの姿。
その直後。
何ともいえない音が周囲を満たしてゆく……

どれくらい進んだであろう。
誰もが無言の中、ロイドは自分の無力さを嘆くしかできない。
みずほの民の皆、そして、リーガル。
彼らを置き去りにして、自分は何をしたいのか。
理由はわかっている。
コレットをたすけるため。
だけど、それが本当に正しいのか、ロイドはわからなくなってくる。
と。
「うわ。こいつ邪魔だ」
ふと、道を歩こうとしたその先に、うねうねとした巨大な樹らしきものがみてとれる。
おもわずジーニアスが術を放とうとするものの、
「まちな、こいつはあのときの生き残りみたいだね」
しいながそれをみつつ、彼らに一歩さがるように指示をだす。
「あのとき?まさか、大樹の!?」
「この感じ…おそらく間違いないね」
よくみれば、その樹の下にはあのときよみみていた樹の魔物達が無数にむらがっているのもみてとれる。
かつての神子であったものたちがいっていた。
それはかつての神子達の魂が魔物と化した姿なのだ、と。
女性の魂によって産まれた、ともいわれている魔物達の姿がそこにある。
おもわずロイド達がさらに言葉をうしなったのは、
彼らの頭付近にある花に、しっかりとそれぞれ、人の顔がみてとれたからに他ならない。
それはまだコレットと同い年くらいの少女達の顔。
完全に覚醒しているわけではなく、どうやらそれらはまどろんでいる、らしいが。
「ここはあたしの出番ってことさ。あんたはさがってな」
「おい、どうするつもりなんだ」
しいなが何をしようとしているのかロイドはわからない。
ただ、不安が押し寄せる。
「魔導砲のまねごとさ。威力はかなり落ちるけど、こいつには十分だよ。
  ロイド、あたしが合図したらあんたたちはこいつの下を走り抜けるんだ。いいね?」
いってその場にいる他のものにも指示をだすしいな。
「わ、わかった。でも、お前は大丈夫なのか?」
ここには、魔導砲のようなものはない。
だとすれば、しいな自身を媒体にすることになるであろう。
それがどれほどの負担がかかるのか、ロイドにはわからない。
だが、何となくそれは普通ではないような気がしなくもないがゆえのといかけ。
「心配いらないって。じゃあ、いくよ!」
いいつつ、しいなが詠唱を開始する。
「蒼ざめし永久氷結の使途よ、威き神が振るう紫雷の槌よ」
しいなの詠唱とともにあらわれる、ウンディーネとヴォルト。
「気高き母なる大地の僕よ 大いなる暗黒のふちよりいでしものよ」
それにつづき、ノームとシャドウがその場にと現れる。
「契約者の名において命ず、わが前につらなり我が身をもって陰の力と化せ!」
しいなの言葉とともに、しいなの体に四属性の精霊達の力がそそがれる。
それとともに、ものすごい爆発がその場にとおこり、
その爆風にてそれぞれがその場から吹き飛ばされる。
「しいな!大丈夫か!?」
「しいな、大丈夫!?」
心配した声はロイドとジーニアス、ほぼ同時。
「……ああ、何とかね」
みれば、今の衝撃でぽっかりと穴、があいてしまったらしい。
さきほどまであった床はあとかたもなく、大きな底がみえない穴があいてしまっている。
そして、吹き飛ばされた衝撃。
術を使用したものと近くにいたものの差なのであろう。
それぞれが穴の向こうとこちら側に吹き飛ばされ、しいなと離れ離れになっている。
かろうじて部屋の隅に移動できるかどうか、という足場しかみられない。
「…すげ~な、今の……」
すごい、としかいいようがない。
人を媒体にしただけでここまでの威力がでるなど。
のぞきこんだ穴の底はみえない。
「いっとくけど、あれをもう一回やれってのはなしだよ。おかげでマナがからっぽさ。
  ちよっと休ませてもら……きゃぁ!」
しいながその場に座り込もうとすると、あなの底からでてきた、樹の根らしきものが、
いきなりしいなの体をからめとる。
すぐさましいなが反撃し、根はしいなの体から離れていったが。
それが最後のあがきであったのかはわからない。
だが、その反動でしいなは穴におっこちそうになってしまい、
かろうじて反射的につかんだのは、壁をつたっていた樹の根っこ。
根っこをつかみぶらん、と穴の上に宙釣り状態になってしまう。
「しいな!まってろ。今そっちに……」
どうにかしてしいなをたすけにいかないと。
そうおもい、移動しようとするが、かろうじてある床の隙間に足をのせようとすれば、
その足場はもろくも崩れ落ちる。
「ぷ…あははははは!」
と、いきなり宙釣りになっているしいなが笑い始め、
「な、なんだよ。笑いごとじゃないだろ!」
ロイドの言い分もわかる。
こんな状況なのにいったい、何を笑っているのか。
そうおもっても不思議ではない。
だが、人は究極状況におちいったとき、そのような現象をひきおこす。
そのことをロイドは知らない。
「いや、思い出したんだよ。あんた達と初めてあったときのこと。
  あたしってば落とし穴に縁があるのかねぇ」
あのときも、コレットを狙おうとして落とし穴…正確にいえば避難通路に落ちていった。
そこにある梯子にきづかずそのままおっこちたことを思い出す。
「いいからじっとしてろ。今、そっちにいくから」
そうはいうが、どういけばいいのかがわからない。
デイリグチは二つ。
一つは自分達がやってきたほうこう。
すなわち、しいなの後ろにみえている入口。
そして、自分達の後ろにみえている出口。
他にあちらに戻るみちがあるのかすらもあやしい。
かといって壁際にのこっている床に足をのせれば、その足場はもろくなっているらしく、
そのまま音をたてて、底のみえない穴の中に床はおちていってしまう。
「余計なお世話だよ。あんたは早くコレットを助けにいきな」
樹の根につかまり、宙釣りになっている状態でしいながそんなことをいってくる。
「馬鹿野郎!つよがってる場合か!」
「姉さん…どうにか、できないの?」
ジーニアスのすがるような台詞に、リフィルは何もいうことができない。
だが、しいなの視線をうけ、リフィルも理解する。
ならば、リフィルにするべきこと…子供達を導いてゆくしかない。
「強がりじゃないさ。あの時だってそうだったろ?あたしは地の底から這い上がってあんたたちと戦った。
  今度だって、メインイベントまでには必ず間に合ってみせるよ」
「しいなのいうとおりよ。彼女は忍びなのですもの。大丈夫よ」
しいなの言葉をうけ、リフィルが肯定する。
それは慰めともいえない、だけどもロイド達を先にすすまさせるための嘘。
「……本当、だな?」
「絶対さ。リフィルもいっただろ?あたしは忍びだ。だからあたしの見せ場、のこしといてくれよ?」
「いきましょう」
しいなとリフィルにいわれれば、ロイドとしても従う、しかない。
すくなくとも、自分に今、できることといえば先にすすむことしかできない。
彼女の忍びだ、という言葉を信じるしかすべはない。
「わかった。まってるからな」
リフィルがしずかにしいなに頭をさげてくるのが視界にうつる。
やがて、ロイド達の姿を完全に見送ったのち、
「……あたしって馬鹿だねぇ。最後までいじっぱりで。こんな時くらい女の子らしく助けてもらえばいいのに。
  …って、そんな柄じゃないよね。ロイド、しっかりやりなよ……」
すでに、やせ我慢も限界であった。
さきほどの疑似的魔導砲で力すらのこっていなかったのである。
根っこをつかんでいる手がしびれ、もはや感覚はない。
コリン。
あたしも、あんたのもとに、いく、からね。
遠のく意識の中でおもったことはコリンのこと。
自らをかばったコリンの姿。
そのまま、しいなは漆黒の穴の中にその身を投じてゆく……

たどり着いた先は、何もない、しかも行き止まりの空間。
その中央に何やら装置らしきものがみてとれる。
「ここは。どうやらここから操作するみたいね。ここは私にまかせて」
いいつつ、ロイド達に念のために扉の前で待機しておくようにと指示をだす。
リフィルがかちゃかちゃと操作をするが、そこに何か認証システムのようなものがあるのは気づいたが、
それにかまってはいられない。
今は一刻も早く、先にすすむ道を切り開くのみ。
「これね」
「やった!」
リフィルの操作とともに、ロイド達の目の前の扉が開かれる。
と、リフィルの足元がぐらり、と揺れる。
「きゃっ!」
「先生?大丈夫か?」
それはちょっとした振動となり、ロイド達にもきづかれる。
「何でもありません。ちょっとした操作ミスです」
そんなロイドに気取られないようにと、淡々といいはなつ。
そう、何の問題もないかのように。
問題がないどころ、ではない。
今の操作でリフィルの周囲の床が完全に抜け落ちた。
そう、すでに退路は断たれてしまった。
大きくジャンプすればかろうじて先にいける、であろうが。
だがしかし、まだ扉は幾重にも続いている。
「しっかりしてくれよ」
「もう大丈夫です。次の扉をあけるわよ。…てのこんだしかけね」
  おそらく、クルシスのもの以外があけると仕掛けが発生するようになっているのね」
幾重にも重なった扉の解放。
そのたびに、床が崩れてゆく。
さすがに扉をひらくたびに、振動を感じ、おかしい、とおもったのであろう。
しかも、扉をひらくたびに、樹の魔物がそこにいればなおさらに。
「先生?本当に操作ミスなのか?」
「余計なことを考えている場合?次、あけるわよ?」
ロイドが振り向こうとするが、有無をいわさず次の扉を解放する。
再び、樹の魔物があらわれ、さすがにおかしい、とおもいリフィルのほうをふりむくと、
そこには、先ほどまであったはずの床がなく、
その中央に機械とともに取り残されているリフィルの姿が目にはいる。
「え?先生!?まさか…」
さすがにその光景をまのあたりにすれば、嫌でもわかる。
さきほどからの振動は、そう、床が抜けて行っていたためなのだ、と。
「今はコレットを助けることだけを考えていなさい。余計なことにきをとられないで!次、いくわよ!」
リフィルの操作とともに、さらに揺れが激しくなる。
が、どうやらその扉が最後の扉、であったらしい。
ようやく扉、ではなく先につづく部屋のようなものにつづいたことがみてとれる。
「く!先生!もういいよ、早くこっちへ…先生!?」
幾重にも重なった扉。
樹の魔物を倒しつつ進んだ先。
ふりかえってみれば、今にも崩れ落ちそうな、かろうじてのこっている小さな足場。
そこにたたずんでいるリフィルの姿。
ぽっかりとひらいた穴の中央のその足場は今にも崩れ落ちそう。
振動はどんどん激しくなってきており、さらには、ロイド達がさきほどたっていたはずの足場すら、
どんどんと抜け落ちていってるいのが視界にうつる。
「ロイド。この部屋はもうすぐ崩れ落ちるわ。はやくいきなさい」
淡々とした口調でいわれ、現実がわからなくなってしまう。
先生は、今、どこにいる?
横にいるジーニアスをみればその目に涙をためているのがみてとれる。
「何だよ…何だよ、それ!先生をおいていけるわけないじゃないか!」
そう、おいていけるはずがない。
いったい、何がおこっているというのだろう。
コレットに始まりリーガル、そしてしいな、今度はリフィルまで。
ここにくることを決めたのはロイド自身。
だが、こんなことを望んできたわけではない。
自分の選択が、今まさに仲間を失うことに直結しているなど信じたくはない。
「俺は…俺はもう誰も犠牲になんてなってほしくないんだ!」
誰も犠牲にならない世の中をつくりたい。
そのためにだからといって大切な仲間を見殺しになんてできはしない。
「犠牲?犠牲になんてなったかしら。いつ、誰が?」
そんなロイドにたいし、あっけらかん、と何やらそんなことをいっているリフィルの姿が目にはいる。
そう、これはリフィルにとっては犠牲ではない。
すでに、もう覚悟していたこと。
「私は、あなたの理想を信じた。私たち狭間のものも、あるがままにうけいれてくれる。
  そんな世界をつくる、というあなたの理想を信じたのよ。
  それは、私にとっての希望。その実現のために私はここまできたのだもの、悔いはないわ」
悔いがあるとすれば、母のこと、そしてその世界を自分でみられなかったこと。
あとは自分でそんな世界の人々にたいし、教えをほどこしていけないこと。
いってしまえばいろいろとある。
だけども不思議とこわくない。
なぜかこんな状況なのに、死ぬ、という感覚がでてこない、というのもある。
だからこその台詞。
「世界を救うことができたって、先生がしんだら何にもならないだろ!」
その叫びはまさに、かつてミトスがいったものとほぼ同じ。
世界を助けることができても姉様がいなくなったら何の意味もない!
そういって叫んだミトスの台詞とほぼ同じ。
そのことにロイドは気づかない。
気づけない。
「あなたの理想がいきづく世界で私の心は生き続けるわ。
 でも、あなたの理想がついえたら、それは私の希望が死ぬとき。
  希望を失っていきつづるのは死ぬより辛いことではなくて?」
こういう状況になって、今まさにあのミトスの思いがリフィルにはよくわかる。
おそらくは、姉と平和に暮らせる世界を、とおもってミトスは…勇者ミトスとよばれしものは頑張ったのだろう。
だが、その結果は人間の裏切り。
だが、姉を救う手段が残されていた。
それはミトスにとっての希望。
その結果、今のような世界になってしまったのは何ともいえないが。
おそらく、今のミトスの行動はマーテルは望んでいない、とおもうから。
「そんなの、そんなのわかんないよ!」
ダダをこねるロイドにたいし、ジーニアスとプレセアはどこか悟ったような表情になっている。
彼らもわかっているのである。
この状況はどうしようもない、と。
わかっていないのはロイドだけ。
「わからないなら、人がいきる、という意味がどういうことなのか、これからの人生で学びとりなさい。
  それが、あなたの先生としての最後の教えです。さあ、もういきなさい。先生のいうことはきくものよ」
生きていく上では、どうしても綺麗ごとだけの理想だけではどうにもならないこともある。
だけど、その綺麗事の理想を実現するために、自分達は行動していた。
ロイドもいいかげんに理解する必要がある、とおもう。
だからこその台詞。
人の心、とは、現実とは理想ばかりではどうにもならないのだ、ということを。
だけども理想を失うことなく生きてゆくことがどれほど難しいのか、ということを。
「リフィルさん……」
「ロイド、いこう」
このままここにいてはつらくなる。
姉があのまま床ごと奈落の底におちてゆく様などみたくない。
ロイドの手をにぎるジーニアスの手は震えている。
むりもない。
物ごころついたころから常に傍にいた姉が今まさに死に瀕している。
この床の底がどうなっているのかはわからない。
助かったとしてもおそらくは、囚われの身になるか、下手をすれば……
「今は、はやくいかないと。コレットをたすけなきゃ」
コレットがマーテルの器として覚醒してしまえば、種子も失われてしまう。
そうなれば、世界は滅亡しかない。
「先生…俺、忘れないよ、先生のこと」
ぐいぐいとジーニアスの手にひっぱられるようにその場を後にしてゆくロイドの姿。
そんなリフィルにたいし、ぺこり、と頭をさげてそのまま走ってゆくプレセア。
彼らの後ろ姿をみおくりつつ、
「後は頼んだわよ…私のかわいい生徒……ミトスを、止めてあげて。コレットを頼んだわよ」
揺れはよりいっそうひどくなり、やがてリフィルの足元の足場も崩れだす。
そのまま、その場にある機械とともに、リフィルもまた、あなの底にと落ちてゆく……

「プレセア!」
「きちゃ、だめです、はやくいってください!」
「できないよ!俺は…俺は…」
扉を解除したとおもったら、その先の扉が閉じられてゆく。
その間にわってはいり、斧でどうにか支えているプレセア。
このままではおそらく斧はもたない、であろう。
「ロイドさんは優しい人です。でも、優しさにまどわされて判断を誤るのならばただの甘い人です
  あなたにはやるべきことがあるはずです。それを忘れないでください。いってください」
そう、ロイドは優しい。
だけど、優しすぎるのが欠点ともいえる。
それは甘さ。
その甘さは時として全てを巻き込んだ悲劇をうむことがある。
かつて、ロイドがマーブルを助け、その結果としてイセリアが襲われたように。
「私、でないとあなたのことを軽蔑します。私なら大丈夫です。だから、早く。
  ジーニアス、後はたのみます」
「プレセア…うん、いこう、ロイド」
「ごめん…プレセア!」
分厚い扉。
かろうじて人がくぐりぬけられる程度の。
プレセアがどうにか支えているその隙間からロイドとジーニアスが扉をくぐりぬける。
「プレセア、はやく…」
くぐりぬけ、プレセアをその場から救いだそうと手を伸ばそうとするが。
みしみしと斧が今にも壊れそうになっているのが目にとまる。
手をのばしても届かない。
「ロイドさん、どんなことがあっても負けちゃだめです。逃げないで戦ってください。あなたならできるはずです。…いってください、さあ、はやく!」
「…く。ロイド」
「プレセア、約束するよ。必ずコレットを助けてみせる。誰もが自分らしくいきられる世界をつくってみせる」
二人が駆けだしたその直後。
ずぅん。
扉が重苦しい音をたててしまる音が、二人の耳にと届いてくる。
それは、プレセアが支えていた斧がまさに限界をむかえ、完全に扉が閉じられてしまったということ。
あの隙間からプレセアが脱出できたのかどうか、それはロイド達にはわからない。
ただ、抜け出せたことを信じる、のみ。
石の扉につぶされた、などとは思いたくはない、から。

どれくらい進んできただろう。
もう、それすらわからない。
この短い間にいろいろなことがありすぎた。
「…とうとう、二人っきりになっちゃったね」
横を進むジーニアスがぽつり、とつぶやく。
「…ああ、リーガルもしいなも、リフィル先生も…皆、コレットを救いだすために俺を前に進ませてくれた」
ふとおもう。
コレットが浚われなかったとしても、この結果は同じではなかったのか。
と。
敵の本拠地なのだから罠があって当たり前。
それを完全に失念していたといってもよい。
ただ、のりこんでいってミトスを止められればよい、そうとしかおもっていなかったことに今さらながにようやく気づく。
あなたは、思慮がたりないの。
リフィルによくいわれていた言葉。
その言葉が今では痛いほどにわかる。
天使達に一人挑んでのこったリーガル。
深い穴に宙釣りになったままのしいな。
仕掛けを解除し、その罠によって床ごと奈落の底におちていったリフィル。
そして、今。
自分達をすすますために、大きな石の扉に…下敷きになってしまったプレセア。
あのとき、背後の空間に抜け出ていることを信じたい。
「ジーニアス。俺達はぜったいにコレットのところにたどり着こう。絶対に、だ」
でなければ、皆にあわせる顔がない。
「うん」
しばらく進むと、どうやら普通の通路らしき場所にでた、らしい。
先ほどまでみえた、壁をつたう樹の根はもはやあまりみあたらない。
それでもところどころにまだ樹の根のなごりのようなものはみてとれるが。
と、行く手に透明の何か膜のようなものが、す~とおりてくる。
「くそ、また罠か!?」
おもわず剣できりつけるが、びくり、ともしない。
ということは、透明にみえてかなり頑丈である、ということ。
ある意味光の壁といってもいいのであろう。
「さっき、別の道があったはずだ、そっちへ!」
この道はいくつもの通路にとわかれていた。
ならば、そこから移動できるはず。
二人が別な道をめざし、かけだしてゆくが、やがて十字路にとたどりつく。
ふとみれば、四方から光の壁が迫ってきているのがみてとれる。
「く!」
完全に手詰まり状態。
「ロイド、後ろも横もだ、囲まれちゃったよ」
「こうなったら、オレとお前で同時攻撃して、あの壁をぶちぬくぞ!」
「え?そんなことできるの?」
「ドワーフの誓い、第十六番、なせばなる!どうせ失敗したらあの世だ。全力でいくぞ!」
「あはは。ロイドらしいや。…うん、いいよ。やろう」
しばし思考したのち、ジーニアスは決意した表情をうかべる。
その表情にロイドは気づかない。
「イチ、ニのサン、でいくぞ」
「……ロイド」
「?何だよ?」
「ううん、何でもない。僕のほうは準備完了だよ」
「ようし、イチ、ニの、サン!」
どごっ。
ジーニアスの魔法と、ロイドの剣技が同時にシールドらしき光の壁にととどく。
それとともに、ちょうど人ひとりとおれるほどの縦長の亀裂が一瞬入る。
「今だ!」
掛け声をかけ、そのままその亀裂めざしてかけぬける。
「ほらみろ、うまくいっただろ」
「……ロイドの作戦にしては上出来だったよ。
  唯一の五さんは、僕の運動神経の鈍さかな?」
なぜだろう。
横から聞こえるべきジーニアスの声が背後から聞こえるのは。
まさか、とおもい、振り向いたロイドの視線の先で。
閉じられてゆく亀裂の中、光の壁のなかに取り残されているジーニアスの姿が目にはいる。
ジーニアスは魔法を行使したままの姿でその場にたたずんでいるらしい。
「へへへ。失敗しちゃった」
それとともに、ジーニアスがその場にかくん、と膝をつく。
「お前…まさか、オレを逃がすために?」
「ち、ちがうよ!」
「嘘だ!こうなるとわかっていたんだな!?だったら、何で!!」
あのとき、何かをいいたそうだったジーニアス。
今さらながらにロイドは気づかされる。
そんなロイドを光ごしに、上目遣いでみたのちに、ぽつりと、
「……ロイドだって、立場が逆なら同じことをしたんじゃない?
  いつだって困ってる人をみるとほうっておけなくて。
  あとさき考えず飛び出しちゃって。…でも、そんなロイドが僕のあこがれだった。
  僕も、ロイドみたいになりたかった」
そう。
何もかんがえず、本能のままに。
それはたしかに褒められたことではないかもしれない。
けど、その純粋さが眩しくもあったのもまた事実。
何も考えておらず、常に自分にそのとばっちりがまわってこよう、とも。
振り回されるのが楽しかった。
だからこその台詞。
「お前……」
「さあ、早くいってよ。手遅れにならないうちにさ」
「ふざけるな!お前をおいていけるかよ!」
がんがんと剣でたたくがやはりびくともしない。
「そうだ、もう一回……」
向こう側とこちら側とから攻撃すれば、とおもうが。
だけども、ジーニアスは首をふる。
どちらにしても術をはなったちょくごのジーニアスはうごけない。
だとすれば、ロイドが再びこの罠の中にもどってきて、こんどこそ完全に壁にとかこまれ、
下手をすれば壁ごとつぶされてしまうであろう。
この光の壁の特性はわからない。
わからないが、もしかしたら、かつてきいたことがある光の罠、だとすれば。
自分の体は切り刻まれる。
それをジーニアスは理解している。
「いってったら!僕はロイドと違って臆病なんだ。
  いざとなったら、体が震えてきちゃって…最後に格好わるいところみせたくないんだ」
「ジーニアス……」
「いけよ、いけったら!」
「ば…ばかやろう!」
そういうしかできない。
歯をくいしばり、幼馴染であり親友であるジーニアスに背をむけ走り出す。
もう、ロイドは何も考えられない。
ただ、がむしゃらにはしってゆくのみ。
そんなロイドの走り去る姿をみおくりつつ、
「大好きだよ、ロイド、僕の、一番大切な友達…」
つぶやき、目をとじるジーニアスにむかい、四方から光の壁がせまってゆく……

つぶされるジーニアスをみたくなくて、がむしゃらにはしった。
どれくらい走ったのかわからない。
もう、涙で前がかすんでみえない。
脳裏に浮かぶは、皆のこと。
「何が…何が誰も犠牲にしたくない、だ、くそ…みんな、ごめん」
なんでお前、いつも術をはなったあとにうごかないんだ?
もう、ロイド、わすれたの?授業でもならったでしょ?僕らが術をしようとしたとには……
「そうだ、そうだった。…俺、なんでわすれてたんだ?」
それは、イセリアからでたときにジーニアスと二人で旅をしていたときの会話。
ロイドが魔物に攻撃し、ジーニアスが術で攻撃。
すぐさまにうごかないジーアスを不思議におもい、ロイドがきいたこと。
そのとき、術をしようとしたき、マナの関係で術後硬直といわれるものがおこる、といっていた。
それは術によってさまざまなれど、威力によって違う、と。
ロイドがいった全力の攻撃。
それはまさに、ジーニアスは先ほど実戦した。
その結果、長い硬直時間があり、そのためにジーニアスは即座に動けなかったのだろう。
「くそ…俺、馬鹿だ…大馬鹿だ!」
わかっていた、しっていたはずなのに。
自分のことしか考えていなかった。
知っていたのだから、そのままジーアスをひっつかんででもくぐりぬけることができたかもしれないのに。
せめて、ジーニアスの手をひいていれば、ジーニアスをのこさずにすんだかもしれない、のに。
がんっ。
無意識のうちにそこにある壁にと拳をたたきつける。
痛いはずなのに痛くない。
心が、いたい。
ジーニアスに関してはあきらかにロイドのミス。
判断ミスといってよい。
ロイドは知っていたはず、なのである。
術後硬直のことを。
それを失念していた、というのはいいわけにすぎない。
あなたは、いつも大切なことを見落としがちなのよ、それで何かあってからではおそいのよ?
よくリフィルにも授業の最中にいわれていた。
気をつけます、とはいっていたが本当に気をつけていなかった。
ロイドって、いつも自分で考えようとしてないよね。いつも周囲に流されて行動してるでしょ?
それはかつてエミルにすらいわれた台詞。
それらの言葉がぐるぐると頭をめぐる。
「俺は…」
ふときづけば、こぶしから血がながれている。
どうやら痛みもかんじないが、かなり強い力でたたきつけた、らしい。
血がながれているのに痛くない。
それより自分自身の愚かさが苦しい。
とにかく、涙で前がみえないその視界をどうにか手でぬぐいつつ、
今はとにかく前にすすむしかない。
後悔するのはいつでもできる、そういった自分のかつての台詞。
それがここまで重い意味をもっている、など夢にもおもわなかった。
他人にはよくいっていたが、自分が経験してはじめてわかる言葉の重み。
と。
「うわ!?」
おそらく何も考えずにただ走っていたから、であろう。
どうやら何らかの罠に触れてしまったらしい。
壁から矢が雨のように降り注ぐ。
どうにかそれをかわしたが、交わし切れるものでなく。
そのまま胸にその矢の直撃をうけてしまう。
その場に倒れ込むロイドだが、ふと気付けばいたくない。
「…いったい……」
たしかに矢があたったはず、なのに。
そこに手をあててみれば、ふとあたる硬いもの。
みれば、懐にいれていたお守り、とわたされていた雪うさぎの像がぱっかりとわれている。
そして、その先にあるロケットに少しばかり傷がついているのもみてとれる。
「これは…コレットがくれた雪うさぎ…それに…」
おそらくは、今の一撃をコレットの雪うさぎが緩和し、さらにその先にあった、
ロケットペンダントがその切っ先をとめた、のであろう。
それは偶然かもしれない。
だが、切っ先が少しでもずれていれば、ロイドは致命傷をおっていた。
「…コレット、かならず助けるからな!」
自分を信じて先にと進ませてくれた皆のためにも。
壊れた雪うさぎの像。
それをそっとポケットにとしまいこみ、決いをあらたに独りつぶやくロイド。
が、その呟きに答えてくれる仲間は、今はもう、いない……


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あとがきもどき:
薫:どうも最近、容量的に別話しがもりこめない(苦笑
  まあ、あれももうちょいやったらラストのほうしか打ち込みしてないしなぁ。
  とりあえずあっちはきりのいいあたりで別話しは完了みたいな形にするか。
  はたまた、ラストはこうなるよ~といのをあげとくべきか。
  まあ、話しの筋をざっとのせとくくらいでいいかな?大まかな(まて
  さてさて、次回はようやく簡易的なマーテル復活。
  今回は、仲間との別れ?のシーンだけで終わってしまいました…ではまた次回で~

2013年10月24~31日(木~水)某日

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