まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ふう。ようやく前振りさんに、禁書で一人わかれてた(まて)ミトスの記憶をば。
ここにまできて、ようやく、禁書とかこれにくみこんでた理由が皆さんにはわかるかとv
うん?ミトスが二人?なら、過去のミトスは?の状態になるのを前提にしてましたv
え?このミトス?そりゃ、この後…皆さんのおそらくは予想通りですv

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「……あれ?」
何だかぬるま湯につかっていたような、そんな感覚。
ぼんやりとしながらも意識が浮上してくる。
「おきたか。ミトス」
ふと、目の前には、みおぼえのある姿が。
周囲の気配というか光景もどこかみおぼえがある。
台座の背後にあるセンチュリオン達の紋様をかたどった巨大な扉。
質素ながらもしっかりとした創りの台座と、そして椅子。
その椅子に腰かけている少年は、ミトスにとってもみおぼえのあるもの。
「…ラタ、トスク?あれ?僕、たしか……」
封印の完了とともに自分もまた本体に戻るはずではなかったのか。
あくまでもあの方法は記憶とはいえ魂をわけることであり、魂自体に影響がでてしまう。
ゆえに完了すればそれぞれの本体に魂は戻るようにしておく、とはアクアが伝えてきたラタトスクの言葉。
「ユアンとクラトスは元の本体たる彼ら自身にもどった、が、
  お前のほうの本体に、少しばかり問題のようなものが発生しているようなのでな」
その言葉に思わず首をかしげてしまう。
よくよくみれば、自分自身はどうやら精神体のまま、であるらしい。
「簡易的な処置は施したが、当人が考えを改めないかぎり、
   お前自身、すなわちお前の本体たるミトス自身が再び負におかされてしまうだろう」
その言葉に目をみひらく。
「え?…まさか、僕が心の闇ともいえるものにまけてる…の?」
信じられない、信じたくない。
心がくじけそうになっても、常に頑張っていたのに。
「一度、魂をわけただけでも魂が不安定になる、というのに。
  どうやら再び同じことをしたらしくてな。それで魂がもつ力自体が弱まっているようだ」
目の前の少年の姿を模している彼が盛大にため息をついているのがみてとれる。
どうやら嘘ではないらしい。
まあ、彼が嘘をつけないというのはしっているが。
基本、精霊達は精神生命体である以上、嘘をつくことができない、のだから。
そのように精霊達からきいている。
「なんで、僕の本体はそんなことを……まさか……」
可能性として考えられること。
自分ならばどうするか。
仲間が傷つけられて、それを助けるためにそんな行動をしそうな予感がする。
それはもうひしひしと。
「おそらく、お前の予感は正しい。マーテルのやつが人間に害されたらしくてな。
  マーテルを蘇らせるためにいろいろとやっているらしいが、その方法がな……」
再びため息。
いったい自分の本体は何をしでかしている、というのだろうか。
「姉様が?…可能性とすれば、姉様が人間に…でも、姉様もハイエクスイフィアをもっているし。
   精霊石が破壊されない限り、姉様は死ぬこともない。それで何かを、ということは。
   精霊石が傷つけられたかして、姉様の精神体の保護すら難しくなってるとか……」
自分ならばどうするか。
そこまで考え、はっとする。
「…まさか、僕の本体、姉様を蘇らせるのに、デリスカーラーンのマナを全部姉様に注ぎ込んでる。
  …とか、いわないよね?ラタトスク?」
それはもう不安というか、ありえそうでこわい。
「その、まさかだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・
「ええ!?でも、僕らの体はラタトスクのマナで構成されてるんだから。
  姉様のエクスフィア…姉様の精神体がはいっているそれを保護しておいて。
  先に大樹を蘇らせれば、どうにかなるんじゃないの?でしょ?
  …それとも、姉様の体の再構成のお願いは…きいてもらえない?」
それはもう不安ではあるが、しかし、してくれる、という確信もある。
「お前がきちんと約束をはたし、大樹を蘇らせたのであれば、それくらいはたやすい。
  のだが、…それを指摘するやつもいなかったようでな……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
ミトスの無言に同意するかのように、しばし二人の間に静寂が訪れる。
「僕、自分をとめるよ。ラタトスク」
「お前ならそういうとおもった」
それはもう確信をもっていえること。
かつてのミトスならば確実にそういう、そうおもったからこそ。
共に行動していて、完全に自分を裏切っているのではない、そう確信がもてた。
だからこそのこの選択。
「お前自身のことはお前自身の手で決着を。そうだろう?ミトス?」
「当然でしょ?まったく、僕の本体は、ラタトスクにどんな手間をかけさせてるのさ?
  あ、だから、僕が封印の役目を終えても、僕のみここにのこしてるの?」
「そういうことだ。お前が本体にもどったとしても、…今の心に呑みこまれかねないだろ?」
「……ありえそうでこわいよ。ラタトスク。ありがとね。
  まったく、ぶんなぐってでもちゃんとした役目をしてもらわなきゃ!僕には!」
「ふ」
「あ、ラタトスクが笑った!」
「お前らしいな、とおもったまでだ」
「なら、僕、今から……」
「まて。今のお前が何をしているのか。何をしようとしているのか。視てからでもおそくはないだろう」
いいつつも、すっとラタトスクが手をかざすとともに。
天井付近に何やら光景が映し出される。
「?これは?」
「…今のお前をとめようとしているものたちの姿だ」
今の自分をとめよう、という言葉がでてくること自体が不安になる。
いったい、僕の本体は何をしたのさぁぁ!
という思いに答えてくれるものは、おそらくいない、のであろう。
みたところ、ラタトスクも答えてはくれそうに…ない。

光と闇の協奏曲 ~しいなのけじめ~

「皆、アルタステさんはどうだった?」
なかなか寝つけなかった。
だけどもどうやらいつのまにか眠ってしまっていた、らしい。
朝になり、起きてみればどうやら皆、部屋からでているらしく、
外にでてみれば、どうやらアルタステのもとに残った彼らや、ゼロス達も戻ってきているらしい。
姿をみとめ、そんな彼らにとロイドが話しかけるが。
「お、ロイド君か。ようやく御目覚めか?ま、心配なさんな。なかなかしぶとくてな~」
かるい口調のゼロスの台詞。
「ミズホの連中がアルタステの護衛についてくれたよ」
そういうしいなの表情が少し曇っているような気がするのはロイドのきのせいか。
「?しいな、どうかしたのか?」
「いや、何でもないよ」
なんでもない、いうがどうみてもそうはみえない。
「……しいなさんは、くちなわという人とある約束をしました」
そんなロイドに答えるかのように、プレセアがぽつり、といってくる。
「プレセア、ちょっと、あんた」
そんなプレセアの言葉をあわててとめようとしているしいなの姿。
そんな彼らの様子を怪訝に思いつつ、
「くちなわ…って、何があったんだ?」
教皇に加担していたもの。
そして、あの異界の扉とよばれし場所でも襲撃してきたもの。
ここでその名がでてくる、ということは何かがまたあったとしかおもえない。
「あいつは…ミズホの里に引き渡されていたらしいんだけど」
ぽつり、と語るしいなの口調は暗い。
裏切り者、として里に幽閉…処罰がきまるまで、ということで捉えられていたらしいのだが。
彼はその里をも抜けだしたらしい。
里から彼に追手がかかっている最中、アルタステの治療のためにとつれていった医者。
その医者の命をたてに、しいなに迫ったらしい。
そんなくちなわにしいながある取引をもちかけ、どうにかことなきをえた、らしいが。
「…こいつ、何かんがえてるんだか。あいつの命をたすけるため、
  かもしんないけど、こいつにとって命よりも大切なコリンのスズを証にあずけやがった」
ゼロスがとめたが、そのときのしいなはきこうとしなかった。
自分にとってコリンの形見がどれほど大切なのか、くちなわにもわかるはず。
だからこの場はこれでいいのだ、と。
しいなが、すこし別行動をしてもいいか、というような会話を今、していたらしい。
ゆえに、リフィルの表情が少しばかりけわしくなっていた、らしい。
どうもしいな一人でくちなわとの決着をつけにいくつもり、だったらしいのだが。
「あの男は里にてまつ、といっていた」
リーガルの表情も何やら苦虫をつぶしたような顔をしている。
「あたしは…あたしの過去と決着をつけるためにも、それにあいつのためにも。
  逃げるわけにはいかないんだ。だから、あたしはあんたたちとすこし別行動するよ」
しばし顔をふせたのち、しいながそんなことをいってくる。
「あのなぁ。何でそうなるんだよ。俺達、仲間だろ?それに俺達にも無関係じゃないだろ?
  …なあ、先生?」
「わかっていてよ。ロイド、あなたは、決着をつけにミトスのもとにいくまえに、
  まずはしいなのことを解決したいのでしょう?
  あなたが決着をつけに敵陣地へ乗り込もうと考えていることはすでに説明しています」
どうやらロイドが起きる前にそういった会話がすでになされていた、らしい。
「しかし、ロイド、敵陣地へのりこむ、とは…」
リーガルの問いかけも理解できる。
しかしたしかに、最善策、ともいえるであろう。
いつも、こちら側が後ろ手にまわっている以上、しかける、ということは悪くはない。
「ああ。俺、いろいろと考えてみたんだ。このままずるずるとクルシスの出方をまっていても、
  世界はかわらないどころか、下手をすれば世界の存続すらあやしくなるかもしれないんだろ?
  だから、今度からこちらから仕掛けようとおもうんだ」
「つまり、クルシスになぐりこみってか?」
ロイドの決意をきき、ゼロスがちゃかすようにいってくる。
「ああ、目的は二つ。千年王国の阻止と、オリジンの解放だ」
「でも、オリジンを解放したら、クラトスさんの命は……」
そんなロイドの言葉に、コレットがうつむくが。
「まだ、よくわからない。でも、まだ死ぬと決まったわけでもないし。
  それに、あいつが俺達の味方をするのかもわからない。判らないことで悩んでいる暇はないさ」
昨夜の話しぶりから信じられることがある。
クラトスは、エターナルソードを自分に託すまでは死ねない。そういっていた。
味方なのか、それすらもよくわからないが、すくなくとも完全敵対はしない、とおもいたい。
切実に。
「エターナルソードはどうするの?仮にオリジンの封印をといたところでロイドでは装備できないんでしょ?」
「そうね。ハーフエルフにしか扱えない、というオリジンの枷。私もジーニアスも剣はまともにあつかえなくてよ」
この場にいるハーフエルフはリフィルとジーニアスのみ。
どちらも互いに剣を使用できるか、といえば答えは否。
だからこそジーニアスとリフィルの懸念もわからなくはない。
「それなら心配にはおよばねえんじゃねえの?」
そんな彼らにたいし、かるい口調でゼロスが何やらいってくる。
「どういうことだ?」
ロイドもその意味がわかりかねず、おもわず首をかしげてゼロスにと問いかける。
「おいおい。ユアンのやつが説明してたんだろ?忘れたのか?
  それに、もう一つの方法もある。俺様がどうして魔法を扱えるとおもう?
  テセアラの技術で魔道注入をうけたからよ。神子は必ずそれをうけることになっているからな。
  クルシス経由で」
いいつつ、すらり、と剣をぬきはなち、その剣に炎を纏わせる。
ゼロスが得意とする魔法剣。
剣に魔術をからませ使用するという技。
本来ならば、エルフ、もしくはハーフエルフでしか使用できないという術をゼロスは使いこなしている。
それは、神子だから、という理由で皆気にもしてないというのがこのテセアラでの常識。
神子は天使の子なのだから使用できてあたりまえ、という認識のもとだからこそ。
偽りに覆い隠されているこそ真実に誰もたどり着けない。
たどりつくことができない。
「だからこそ、俺様は人間だけど、エルフの血も入っているってわけだ」
正確には違うようだが、まあにたようなもの。
すくなくとも、テセアラのハーフエルフ認識装置にはひっかかることはない。
ゼロスも詳しく知ろうとまではおもわなかったというのがある。
何しろうけたのが三歳のころ。
物ごころついてすぐ、なのでそこまで深く考えるすべはない。
「そうか。神子が本当は天使の子でないのならば、魔法を扱える理由がなければおかしいよね。
  僕たちは、神子は天使の子だとおもってたから何も気にしなかったけど」
そういえば、とおもう。
コレットは天使の子といわれているのに回復術などは扱えなかった。
術が使用できはじめたのは、神託をうけたのち。
そして、イフリートの封印をといてのち。
あのときの光り輝く翼。
あれが全ての象徴といえたのだろう。
「でも、現実は、神子は天使の子でもなかった。ならば術をあつかう要因が必要、というわけね」
あのとき、光がコレットの体内に吸い込まれた。
コレットに生えた羽。
そして、術が使用できるようになったコレット。
おそらくは、あれが魔導注入とよばれしものなのだろう、とリフィルは推測する。
すべての答えは始めから目の前にあったのだ。
だが、それをみようとしなかった、また知ろうとしなかった、ただそれだけで。
神託の儀式、という偽りの真実に覆い隠され大局がみえていなかっただけのこと。
「エターナルリングってやつが手にはいらなくても、それだと何とかなるんでねえの?」
たしかにゼロスのいうとおり。
「一時的にハーフエルフのマナを纏うようにする契約の指輪、ね。今から探していてはたしかに間に合わないわ」
それに、ともおもう。
「そんなものを、クルシスが放置しているとはおもえないし。確実破壊されてるでしようね。
  もしくはユグドラシル当人がもっているか、そのどちらかでしかないでしょうし」
リフィルの懸念は完全に真実をついている。
が、それが真実だ、と指摘できるものがいない、というだけのこと。
「ともあれ、クルシスに直接乗り込むのならば、おそらくこれが最後の戦いになるわね」
そう。
おそらくは最後の決戦。
どちらにころぼうが、世界がたどり着く先にまっているのは、消滅か、それとも再生か。
「わかりました。やりましょう」
「世界の統合のため、か。よかろう」
そんな彼らの言葉をきき、プレセアとリーガルもまた同意を示す。
「そうだね、私も頑張るね」
「コレットは残れ」
「え?どうして?」
ロイドの言葉にコレットは驚かずにはいられない。
ここにきてまで、残れ、といわれるなんて、とおもうのは致し方がない。
「お前は、マーテルの器として狙われているんだぞ?
  ミズホかレネゲードにかくまってもらうんだ。ちょうどこれからみずほにいくしな」
「ロイドが…そう、いうなら……ううん。やっぱりついていく」
「でも」
いつもならば、ロイドがいうことはきいていたい。
けど、今はそうじゃない、とおもう。
全ては自分にも原因があるのだから、ロイドにだけ責任を押し付けておくことはできない、とおもう。
自分はたしかに、神子として失格かもしれないけど、
それでも見届ける義務はある、とおもう。
特に二つの世界において多大なる被害をだしてしまった、と理解している以上、なおさらに。
「はは~ん、お前、ミトスからコレットちゃんを守り抜く自信がねぇんだな?かわいそうなやつ」
「な、なんだと!?」
「大丈夫よ。コレットちゃん。このゼロス様が護ってあげるからよ」
「ゼロス!」
いいながらも、コレットの肩をさりげにだきよせているゼロスの姿。
そんなゼロスにたいし、ロイドがいきどおる。
何にたいし、こうもやもやとした感情がおこるのかわかっていないが、
何となくだが、ゼロスがコレットの肩をだきよせていることにいい感じはしない。
「つれてってやりな。どこにいたってコレットは狙われるんだ。そんなことわかってるんだろうが。
  男ならびしっときめな」
ロイドがゼロスにくってかかろうとする前に、とんっとコレットの肩をおし、
そのままコレットをロイドの前にと押し出すゼロス。
ゼロスに押し出される格好で、コレットはロイドの胸の前に飛びこむ形になってしまうが。
そんなコレットをあわててうけとめているロイド。
体勢をくずし、こんな雪の中でこけてもらってはかなり困るがゆえ。
「は。めずらしくあんたと意見が一致したね。ロイド、悪いけど今回はゼロスの言葉に同意するよ」
あわててコレットをうけとめたロイドにたいし、コレットがわたわたしながらも、
どうにか体勢をととのえ、ロイドにお礼をいってそっとロイドの横にたつ。
そんな二人をみながらも、しいながきっぱりといってくる。
たしかに今回はゼロスのいいぶんがもっとも。
かつてのリフィルのいい分ではないが、監視するのならばそばにおいておいたほうがいい。
という理由のほうがつよいが。
傍にいれば護ることもできるかもしれないが、離れていればどうなっているのかすらわからない。
「それに預けたとして。
  もし万一、我らの目の届かないところで。シルヴァランドの神子が浚われでもしたら。
  それこそ我らには残された手段はなくなるのではないか?」
「クルシス…なら、確実にコレットさんを器、として狙ってきます。
  コレットさんが一緒にいたほうが、危険性は低い、です」
リーガルとプレセアの至極もっともな意見。
「……わかったよ。コレットはつれていく。それでいいな」
全員にいわれ、ロイドとしてもそういうしかない。
たしかにいわれてみればそのとおりで。
いくら預けたから、といって安心できるものではないのはロイドとて理解している。
だけど、預けたほうが自分にとって安心なのではないか、とおもっていったこと。
ゼロスにいわれ気づいた。
コレットを護る自身がないんだろう、と。
たしかにそうなんだろう、とおもう。
そう考えてしまった時点で、自分は逃げているだけなのだ、と。
理解できてしまった以上、ロイドも自分の意見をまげざるをえない。
コレットを連れていかない、というのは自分から逃げているだけのようなものなのだから。
「ありがと。ロイド。それに皆も」
自分を援護してくれるような意見をだしてくれた皆にコレットが心からの御礼の言葉をいう。
おそらくは、これが最後。
自分が器として…マーテルとなってしまうか、それとも。
それはコレットにもわからない。
だけど、コレットもミトスにいいたいことがある。
きっと、お姉さんは、ミトスにそんなことは望んでいないよ、と。
話せばきっと、ミトスも理解してくれる、そう、思うから――
「それより、ゼロス。そんな技術がテセアラにあったのかい?」
ふと、しいながきになったらしく、ゼロスにと問いかける。
「前からあるぜ?まあ、口外されてないだけだろ。神子のみ限定ってことらしいし」
神子が三歳になったときにうける神託の儀式。
そこにて行われる儀式は一般的には解放されていない。
神聖なる儀式だから、という理由で。
「なるほど、ね。だから代々の神子は不思議な力、
  エルフの血がはいっているわけでもないのに、魔法がつかえるってことだったのかい?」
「じゃねえのか?俺様もくわしくはわからねぇけどよ」
しいなの台詞に首をすくめる。
神子としてはそれが当たり前である以上、自分が魔法を扱えることを不思議にはおもわなかった。
自力で学習していき、真実にいきあたった、ただそれだけのこと。
もっとも、ユアンによる情報も大きい。
テセアラを管理している、というユアンによってゼロスはある程度の真実をしりえた、のだから。

「具合はどうだい?」
まず、決戦の前に、しいなの用事を。
ついでに近くなのでアルタステの様子をみていこう、とはコレットの意見。
どうしても御見舞にいきたい、というコレットの意見もあり、みずほの里によるまえに、
ここ、オゼットのアルタステの家にとやってきている一行の姿。
見張りをしていたみずほの民がいうには、あまり無理をさせるな、とのことらしいが。
「お前達か。おかげで助かったようじゃ。しかし、あのミトスがユグドラシル様じゃったとはな……」
しかし、どうりで、でもとおもう。
自分なはなかなか心を開かなかったミトスだが、常にタバサの傍にいた。
タバサの特性…本来はマーテルの器としてつくりだされ、
生前のマーテルそのものの姿として生み出された彼女ならば、自然と傍にいたくなるのも道理。
おそらくは、そう、複雑な思いで。
あのとき、吐き出していた思いはまさしく、ミトスの…ユグドラシルの本音、だったのだろう。
タバサが、マーテルの器になりえれば、神子を犠牲にしなくてもすむ。
おそらくは、心のどこかでこの方法も間違っている、とミトスはおもっていたのだろう。
そうアルタステは確信をもてる。
どこかいつもさみしそうであったミトスの姿を目の当たりにしていたからなおさらに。
「なあ。アルタステさん。俺達、ミトスと決着をつけるよ」
「…そうか。デリス・カーラーンへいくんじゃな」
「ああ」
ベットに横になっているアルタステ。
かなりひどい怪我であったことはロイドも確認している。
あのときは気が動揺してそこまで詳しくはみていなかったが。
一晩経過したことにより、ロイドも少しは冷静に物事をみれるようにはなっている。
コレットにいわれたこと、そしてクラトス当人と話せたことが何よりも大きい。
「ロイドよ。エターナルソードを扱う方法がまったくない、というわけではない」
「え?」
アルタステは攻撃をうけ、気を失っていたがゆえにユアンが説明していたことを知らない。
だからこそ、その言葉を紡ぎ出す。
「かつて、精霊オリジンが悪意ある人に使用できぬよう、保護をかけハーフエルフにしか扱えない。
  という制限をもうけていたエターナルソード。が、不測の事態もありえる。
  ゆえに、そのためにうみだされているものがある。エターナルリングとよばれしものだ。
  それと、かつてのテセアラにおいて開発されていた、という方法。
  それは、人の身でありながら、ハーフエルフのマナに近づけさせる、という方法。
  デリス・カーラーンだけでとれるというアイオニトス。
  そのアイオニトスを粉末にしてその身に投入することで、人もエルフと同様、
  魔術を使用することが可能となる。クラトス様が魔術を使用できるのもアイオニトスのおかげじゃという」
ドワーフの間では、エターナルリングのことは有名、ではあった。
だが、それがどうなったのか、アルタステは知らない。
彼がクルシスをでてのち、クラトスがもっていたそれが破壊されたことを彼は知らない。
「アイオニトスにはそんな力があるの?」
それはリフィルの問いかけ。
「クラトス様はかつて、アイオニトスを粉末にしてのまれた、らしい。
  そして、それは今ではクルシスは魔導注入と称している」
最も、それを受けれるものは滅多といない、というよりは、
クラトス以外にうけたものをアルタステはしらない。
それ以外でうけていたのは、代々の繁栄世界における神子達のみ。
「クルシス…そう、ゼロスのいっていたのは、そのことね」
いいつつも、ざっと視線を泳がしゼロスを探すリフィルであるが、ゼロスの姿がみあたらない。
どうやら、部屋の中にはいない、らしい。
「つまり、クルシスからマーテル教をつうじ、もたらされたったことのなかねぇ」
フラノールでのゼロスの説明からしてみれば、おそらくはそう、なのであろう。
それがいつなのか、までゼロスは詳しくは説明していなかったが。
ゆえにしいなはそうつぶやくしかない。
「アイオニトスは周囲からマナを吸い上げ、魔力に変換する特性があるときく。
  ゆえに、あれを手にいれ何らかの形でつかえば、もしや……」
正確には、微精霊であるがゆえにマナを集める特性がある、ということなのだが。
そこまで彼らも詳しくはない。
げほっ。
ゲホゲホッ。
どうやらまだ体調は完全、ではないのか、話しの最中にむせ込み始めるアルタステ。
気のせいでなく、それとともに血を多少ばかりはいているのもみてとれる。
どうやらまだ完全に完治、してはいないらしい。
あれほどまでに強く岩に叩きつけられたことと術による直撃。
それらが内蔵にまで影響を及ぼしている何よりの証拠。
一晩や二晩程度で感知するような簡単な怪我でなかったことがうかがえる。
「無理するなって。わかった。ユグドラシルを倒したあと、アイオニトスとやらをさがしてみる」
「うむ。しかし、あれはユグドラシル様の側近でもなければ…
  そう、プロネーマ様やクラトス様ならば、保管場所を御存じかもしれぬが……」
むせこみつつも、なおも説明しようとするアルタステに対し、
「これ以上、話しをするのは、私が禁止しますよ?患者に死なれては成功報酬がもらえませんからね」
しいなたちによって頼まれたフラノールの医者がロイド達に忠告をうながしてくる。
たしかに医者からしてみれば、患者に無理はさせられないであろう。
特に、今は安静にしていなければ命すら危うい、という状況ならばなおさらに。
内臓の損傷はそう簡単にはなおらなければまた元に完治するまで時間がかかるもの、なのだから。
「わかったよ。…あれ?ゼロスは?」
ロイドがそれ以上の質問をとめ、アルタステに横になるようにうながすと、
やはり疲れてはいるのであろう、横になったとたん、アルタステは目をつむる。
やがて、安らかなる寝息がきこえてきていることから、かなり無理をしていたっぽい。
正確には寝息、というよりは気絶した、というほうが正しくはあるのだが。
ふと、背後をみわたせばいつのまにか一緒にきたはずのゼロスがいない。
それゆえにそこにいるはずのない、外で見張りをしていたはずのみずほの民にと話しかける。
「神子なら、さきほど、外の空気を衰退、といって自分と見張りを交代されました」
どうやら彼と交代し、ゼロスは外にでているらしい。
「そうか。ゼロスを呼びにいこう」
どちらにしてもアルタステの見舞いはすませた。
あとはみずほによって、敵陣地に乗り込むばかり。
外にでてみると、何やら話し声がする。
ふとみれば、少し離れた場所にてゼロスが何やらいっている。
そして、そんなゼロスの前には……

「フラノールでの答えか?わかってるよ。やってやる。オレ様にしかできないってんだからな」
目の前にて立体映像を送ってきている相手にあきれざるをえない。
というかこの親は何を考えているのだろうか。
散々息子をだまし、そし利用したあげく、実は裏から手伝っているという矛盾。
ついでにいえば、旅の最中、よくよくストーカーのごとくについてきていたこともしっている。
だからこそ呆れざるをえない。
はっきりしろ、と。
子供を護りたいのか、それとも、自分がつかえているかつての弟子をとるのか。
おそらくどちらも選びきれないからの行動、なのだろうが。
その煮え切らなさがゼロスを余計にいら立たせてしまう。
「たのむぞ」
「しかし、あんたがやればいいだろうに」
「私は監視されている。そちらにこんな映像を送るのが限界だ」
「そりゃ、監視されてちゃ、難しいだろうけど。そもそも、この通信と映像は……」
「…常に臨時的な通信装置はもっている。がそろそろ時間も限界だ」
「あ、おい、ちょっとまて…ったく。毎回いつもいいたいことばかりいってくれるぜ。あのおっさんは」
それは毒にちかい呟き。

と。
「あれ?今、誰と話していたんだ、まさか……」
聞こえたのは、クラトスの声。
はっきりとはみえなかったが、そこにクラトスがいたような気がした。
だが、そこにクラトスの姿はまったくみえない。
というより、ゼロスの正面にはただの崖、しかない。
「へ?俺様、ずっと一人よ。何いってるのよ。ロイド君」
「でも……」
確かに聞こえた。
低い、聞き覚えのある声。
「ほれ。つべこべいってないで、次はみずほだろ。いこうぜ」
「あ、ああ」
クラトスがいただろう、といいたいが、事実そこにクラトスの姿がない以上、いたとはいいきれない。
ロイドは立体映像のようなものを直接目の当たりにはしていない。
していたとしてもそれは大々的な機械の中にういていた程度。
簡易的な、小型の立体装置付映像という概念があまりない、といってもよい。
ユアンとの通信のときも、そこにはユアンの姿は映し出されはしなかった。
おそらくここにリフィルが一緒にでてきていれば、すぐさまに小型立体映像装置に思い当たったであろう。
だが、ロイドはそこまで技術的な面に詳しくはない。
もっとも、ロイドの手先の器用さから考えれば、それなりの技術を学べばかなりの代物がつくれる、であろうが。
いかんせん、ロイドが物理的な論理をきちんと把握してそれらを行えるかどうかははなはだ疑問。

みずほの里。
きのせいか、以前よりもすこしばかり人が少ないような気がするのはロイドの錯覚か。
「くちなわが、里からの離脱を条件に、お前との決闘を申し出ている」
里にちかづくと、見張りのものであったらしい人物がしいなに気づき、
何やら伝言を他のものにつたえたかとおもうと、奥のほうからおろちがでてくるのがみてとれる。
おろちはしいなの前にて立ち止まり、開口一番、そんなことをいってくる。
「ああ、わかってる」
そんなおろちの言葉にしいながうなづく。
「くちなわはどこまで……」
タイガの命令でメルトキオの精霊研究所との連絡係りをしていたはずのくちなわ。
きづけば、教皇と結託していたらしく、里の情報をも外部に漏らしていたことが判明。
処分がきまるまで捕えていた場所からの脱走。
それだけでも、里を裏切っているというのに、ここにきてそのようなことをいってくるとは。
「頭領もくちなわのアレは感情にまかせた私闘でしかない、と御怒りだぞ?」
彼の口から里の秘密がどれだけ外にもれたのか。
頭領が自白剤の使用を許可し試そうとしたその矢先、くちなわは里から脱走した。
だからこそ、理解せざるをえない。
あのことに関し、頭領が絶対的に仲間内にすらもらさないように、といっていることが。
それをしっているのは、くちなわの関連もあるので、自分にも知らせておいたほうがいいだろう。
という頭領の意見のもと。
そうでなければ、おろちもあの計画のことを知らされているはずもない。
「あたしから、頭領には話すよ」
「……頭領のもとに案内する」
しいなの言葉におろちとしてはため息をつかざるをえない。
どうやらしいなが時期頭領、として里に認められるには、世界の統合、ということだけでなく。
おそらくは、くちなわにたいする処遇も関係してくるのでは、ともおもう。
だが、しいなは優しすぎる、ともおもう。
みずほはある意味、忍びの里。
ゆえに、優しさはときとして牙をむく。
優しさを履き違えれば、すぐさまに里に影響がでてしまう、というのが頭領としての立場。
もっとも、イガグリいわく、頭領たるものそれくらいのほうがいい。
でなければ、皆が思考にこりかたまって、視えるものもみえなくなるから、ともいっていた。
だが、こうもいっていた。
これからは、完全なる忍びの掟、というものを設置する必要があるだろう、とも。
しばし何ともいえない沈黙の中、おろちによってしいなたちは頭領の家にと案内される。
どうやらすでに頭領達には話しがつたわっているらしい。
目の前には頭領イガクリと、副頭領、タイガが上座に座っているのがみてとれる。
「…くちなわは、私を両親の仇、として仇打ちを希望しています」
いつもの帰還の挨拶のあと、タイガ達からしいなに今回の一件の説明をもとめられ、
しいながつむぎだした台詞は、仇打ち、というもの。
「あいつ!まだヴォルトとの因縁を、あれは元をただせば……」
すべてはしいなを陥れようとした自分達の両親もかかわっていたこと。
だからこそ、おろちは情けなくおもう。
そんな勝手なあるいみで逆恨みのような感情で、自分の家名を穢した弟のその行動に。
あの後、里のものがどれほどの機密が外にもれだしたか調べはした。
するとまあ、でてくるでてくる。
どうもあの教皇、という人物はある程度マメ、であったらしい。
わざわざ懇切丁寧にくちなわなどからもたれされた情報をきちんと形にのこしていた。
すなわち、書き留めていたことから、どれほどの機密事項がもれていたのが判明した。
こともあろうに、里がうけている依頼の全てが、ある時をさかいに、
すべて教皇のもとに流れていた、らしい。
どうりで教会からみの探索は、ここしばらくなぜかきちんと把握しきれていなかったはずである。
「それを、お前はうけたのか?」
しずかなタイガの問いかけ。
そのタイガの上座にすわりしイガグリはじっと目をつむり、二人の会話、
とくにしいなのいい分をきいている。
「理由はどうあれ、くちなわのいい分ももっともだとおもいました。
  あたしが失敗したから、皆の命を奪ったことにはかわりはありません。
  あたしは…たしかに、おろちとくちなわ。
  そしてあの一件で命をおとしたものたちにとっては仇で……断る理由がありません」
どんな利用にしろ、あのとき、自分がきちんと恐怖に捉えられずに何か行動していれば。
あのような結果にはならなかったのかもしれない。
…もっとも、当時のヴォルトは人の話しなど聞くきはまったくなかったのだが。
また人が自分を利用しにきた、という感覚でしかない。
自分達を裏切って…王を裏切っておきながらも、力を欲する人の欲深さ。
それに心底呆れており、すでに見限っていた、といってもよい。
王に…ラタトスクに諭され、また同胞たる精霊の自己犠牲という精神がなければ。
おそらく確実にヴォルトはしいなと契約を、という結論をださなかったであろう。
人の思いがうみだせし、あらたな精霊。
その精霊に心を与えた人にはまだ可能性があるかもしれないだろう。
そういったラタトスクの言葉があってこそ、ヴォルトはしぶしぶではあるが、しいなをみとめた。
「イガグリ流の教えに感情にながされるなかれ、というのがあるのをわすれたか?」
「それはわかっています。いますけど…」
だけども、これはあるいみしいなにとってもけじめといえる。
ずっと逃げていたとおもう。
里のものたちに常に虐げられていたのも仕方がないんだ、と。
自分からきちんと里のものたちに謝ろうとしたこともあったが、聞く耳すらもってもらえなかった。
時には里にはいってくるな、といわれたことすらもあった。
当時の犠牲者を慰める為の慰霊碑にお参りにいっても、しいながお参りに持参したものだ。
とわかれば、すぐさまそれらはふみにじられ、破棄されていた。
小さな子には、家族の仇だ、と親が子供に教えていた。
親が親である以上、子供も素直にそれを信じてしまう。
それが十数年続いたみずほの里の現状。
ゆえに、しいなの居場所ははっきりいってなかった。
里にもどるのは、依頼をうけたその結果の報告のとき、のみ。
それ以外は、常に外での活動を強いられた。
精霊研究所では精霊との契約に失敗したから、という理由でかなり責められもした。
やはり、どこの血をひくかわからないものにそんな大それたことはむりだったか、とまでいわれた。
みずほもあてにはならないな、といわれたことが当時のしいなとしてはくやしかった。
あのとき、タイガがしいなをゼロスのもとにいかすことがなければ、
しいなの心はおそらく挫折していたであろう。
そして、コリンの存在がなければ。
くちなわの感情は、たしかに理解できる。
自分のせい、というのはたしかに事実、なのだから。
そこに里の掟とかそういうものは関係がない。
肉親であるがゆえの、情。
本来ならば精霊にその憤りをぶつけるのが道理なれど、人は愚かではあるが、
力ないものにどうしてもその感情をぶつけ、そのものを虐げることにより心の安定を図ろうとする。
絶対にかなわない強者には決して逆らおうとはせずに。
確実に勝てる相手を虐げ、そして心の安定をはかり満足しようとする。
それは、人の心の醜さであり、愚かさでもある。
くちなわの感情はまさにそれ。
ヴォルトの一撃で死んだ仲間や両親は、ヴォルトのせいではない。
しいなのせいだ、というあるいみ擦り変えといってよい。
まあたしかに、しいながヴォルトと契約を、という運びにならなければ死ぬようなこともなかった、
かもしれないが。
失敗をみこし、それを選んだのは、ほかならぬ当時のしいなを排除しようとした、
くちなわの両親をはじめとした一派の存在。
そしてまた、精霊研究所内における、どこの馬のほねの子ともわからない子が、
自分達ですらできない精霊との契約をするなんて、というやっかみから、
ヴォルトが特殊な言葉をもちいる、という情報は一切しいなのみみにはいれられなかった。
ハーフエルフ感知機に察知されないだけで、エルフの血をひいているのには違いないのだから、
道具扱いするのが道理なのに、という思いからの彼らの行動。
それは、根強い差別意識が根底にある、といってよい。
何しろ当時から、王立研究院ではハーフエルフにたいしては、家畜、否道具扱い。
さらには使い捨て扱い、していたのだから。
「ふむ。自分自身に納得をつけたい、か。よかろう」
「頭領!?ですが!」
それまで目をつむり、じっとききいっていたイガグリが、しずかに決定をつげる。
そんなイガグリにタイガが抗議の声をあげているが。
「あいつは、こんかいのいっけんがおわったらきちんと裁きをうける、と申し出た。
  あいつのしていること、したことは許し難いこと。
  だが、わしが眠っている間、あいつのようにしようとしたものが他にいなかった、とはいいきれまい」
「それは……」
ことあるごとに里のものはしいなを虐げてきていた。
それは事実なのでいいかえせない。
すべての責任をしいなにおしつけて。
「あたしは、くちなわと約束をしました。決闘をうける、と。約束をたがえることはできません」
約束、それは里の掟の中でももっとも重要なもの。
約束をやぶることなかれ、という掟をつくったのは、ほかならぬイガグリ自身。
何ごとにも自分の行動にたいし、責任をもたさんがためにつくりし掟の一つ。
「くちなわのやつ…しいなを恨むあまり、わが家名を穢したばかりか、どこまで……」
おしむべきは、きちんと弟に両親の真実を教えなかった彼にも責任がある、のだが。
くちなわが両親になついていたことから、おろちは両親の真実をくちなわには伝えなかった。
それゆえにそこまで恨んでしまったのかもしれない、とおもうとおろちとしてもやりきれない。
両親がしようとしたことは許されざること。
だが、里のものにとっては、誰の子ともわからないしいなを認めたくなかったものが大多数。
中には、赤ん坊から育っているのだから、里の子にはちがいない、と声をあげるものはいはしたが。
しかし、その子供が頭領が育て、時期頭領になれるほどの力を示し始めれば答えは別。
誰しも赤の他人に、頭領…すなわち自分達の長になどなってほしくはなかった。
特に永らく里に所属している存在達にとってはとくに。
だからこその計画。
しいなを陥れるための…それゆえの、ヴォルトの契約の儀式。
それが全ての真実であり、全ての発端。
「おろち。おまえは船の準備を」
「はい」
イガグリの言葉をうけ、タイガはため息をひとつつき、
そしてしずかに部屋のふすま付近に控えているおろちにと指示をだす。
その指示をうけ、そのまま外にでてゆくおろちの姿。
そんなおろちの姿をみおくりつつ、
「して、立会人は?」
「ロイドに頼みたい」
しいながすでに決めていたとばかりにきっぱりと言い放つ。
「オレ?立会人って何だ?」
いきなり名をよばれ、戸惑いをかくしきれないロイド。
というか、そんな話しきいてすらいないし、タチアイ何とかという意味すらわからない。
「よかろう」
「ロイド殿も決闘の島にむかってくれ。準備ができたらおろちにつたえよ」
イガグリとタイガがうなづき、タイガがイガグリにかわって何やらいってくる。
「も~、だから、立会人って何なんだよ!」
ロイドがおもわず声をあらげるが、すでに話しは終わった、らしい。
誰一人として、ロイドの疑問に答えてくれるものは、どうやらいないようである。
「ま、わだかまってるよりは決着をつけたほうがいいわな」
退席したタイガとイガグリ。
残されたは仲間達のみ。
外にでつつも、ゼロスがそんなことをいってくるが。
たしかに、そうではある、あるのだが。
そもそも、いまだにタチ何とかというのが何なのか、ロイドは説明をうけていない。
「みずほの情報がたしかに最近漏れてると感じていたけど、まさかくちなわが……」
外にでれば、里にすまうものたちが、何やらそんな会話をしているのが耳にとどいてくる。
どうやら今、里ではくちなわの話題でもちきり、らしい。
「コリンのスズ、もどってくるといいですね」
プレセアが静かに、しいなを気遣いながらに声をかける。
コリン。
あの肉級がプニプニしていたかわいらしい生き物。
そして、ヴォルトの攻撃をうけ、しいなのかわりに消滅した人工精霊だという存在。
「くちなわという男、よほど心に深い闇を秘めているのだろう」
でなければ、あそこまで執拗にしいなをつけねらう意味がわからない。
少し考えればしいなに罪はない、少しはあるかもしれないが、子供にそれをとうのは酷というもの。
とくに、しいなとくちなわたちは歳も近い。
だが、リーガルはしるよしもないが、くちなわのあの感情は、
主にその当時からの里にいた大人たちのしいなにたいする態度が起因しているといってもよい。
しいなをことごとく虐げていた里の大人たち。
そんな大人をみて育った子供がどうなるか、それはいわずもがな。
自分できちんと考えようとしないものにとっては、それはまさに悪の象徴としてしかうつらない。
「毎回きておもうのだけど、ミズホにはいろいろと変わった風習があるのね。興味深いわ」
気になるのは、以前きたときにいたはずの魔物達の姿がすくないということなのと、
あとは以前にきたときより里のものが少し少ないということ。
おそらくは少ないものたちはどこかに仕事に…情報収集をかねて任務についているのではあろう。
そう予測はつくが、何かを視落としているようなそんな感じがしてならないリフィル。
あるいみ、そのリフィルの直感は正しい、のだが、それを指摘してくれるものは当然いない。
「くちなわとしいな、仲なおりできればいいのにね」
それはコレットの本音。
しいなが七歳のときにおこったという事故。
精霊ヴォルトとの契約。
長きにわたり、くちなわはしいなを恨んでいるそぶりはみせなかった、ともきいた。
ならばずっと心の奥底でしいなを恨んでいたのかとおもうと悲しくなってくる。
しいなという人をしれば、それは間違いだ、とわかるはずであったであろうに、と。
「くちなわは、先に決闘の島にむかった。……弟をたのむ」
どうやら決着の場にいけるのは、立会人とその当事者、だけらしい。
しかたなく仲間達をその場にのこし、ロイドはしいなとともに、
決戦の場として指摘された島へと、おろちが用意して小舟にて向かうことに。

「しいな、まちかねたぞ」
決戦の小島。
それはみずほの里の中の小川をしばらく下った先にある、
川の中にある中州にできた小さな島。
そこが常に何かあったとき、みずほでは事をおこなう場として認められているらしい。
「……どうしても、たたかうんだね」
「当たり前だ。立会人はそいつか?」
すでにくちなわはまっていた、らしい。
中州にたっている一本の木の根元にてくちなわがそんなことをいってくる。
「そうさ。ロイド・アーヴィングが立会人だ」
「だから、立会人ってどんなことをするんだ?」
結局、立会人とかいうのが何なのかロイドは説明をうけていないまま。
「勝負の勝敗をただ身守り、どちらかが負けをみとめるか。
  あるいは死んだとき、それを確認する役割だ」
死んだ時、というのが穏やかではないが。
どうやらとにかく不正がないように、と身守る役目、であることは理解した。
ならべつに何かをしなければいけないとかいうわけではないらしい。
こういうのって、先生が適任だとおもうんだけどなぁ、とはおもいつつ、
「わかった。それじゃ、二人とも、勝負だ」
死んでも、という言葉に不安を覚えるが。
とにかく決着がついたとおもったときに止めればいいわけで。
だとすれば、自分の判断でとめてもいい、ということなのであろう。
そう勝手に解釈し、始まりの合図をひとまず紡ぐ。
そんなロイドの言葉を合図にし、しいなとくちなわは互いに向かいあい、それぞれ決闘を開始してゆく。

決闘による戦いはしばしつづき、やがて日がのぼり、そして沈みかけるころにようやく決着がつく。
決闘を始めたのが昼前ということを考えれば数時間、彼らは戦っていたことになる。
どちらも満身創痍。
くちなわはどうやら接近戦を得意としているらしいが、しいなは遠距離からの攻撃も可能。
そのすべをもっている。
精霊達の呼び出しをしないのは、おそらくしいななりのけじめ、なのであろう。
だが、そこにまでロイドは気がつかない。
しいなの扱う数々の符と、体術による攻撃。
ぴたり、としいなの手にした短剣がくちなわの首すじにあてられるが、しいなはその姿勢でぴたり、
と手をとめる。
「俺を殺したくはない、というわけか。そんな同情はおことわりだ。
  負けたのは我が未熟のため。さらば!」
しかし、くちなわからしてみれば、それは情けをかけられているようにしか捉えられない。
しいなの気持ち、など考えてすらいない。
そもそも、しいなに決闘を申し込んだとき、くちなわは死を覚悟していたといってよい。
里を裏切ったはてにしった、両親、そして過去の真実。
しったときにはすでに里の情報をほとんど教皇にともらしていた。
後戻りができないがゆえに、その憤りをすべてしいなにむけ、さらに恨みをつのらせた。
しいながかつての契約を失敗しなければこんなことにはならなかった、と。
仇であるしいなになさけをかけられるくらいならば死を選ぶ。
ゆえに、そのてにもっていたクイナを自らの首元へ。
よく、自らの手首をきって自殺しようとするものがいるがそれは間違い。
手首程度ではまず死ぬことはできない。
ただ、痛い思いをするのみ。
それよりは、首の頸動脈をすっぱりと断ち切ったほうが一気に失血するので確実性は高い。
「やめろ!」
が。
キィン。
今、まさにくちなわの手にしたクイナが自らのノドを貫かん、としたその直後。
ロイドがすかさず傍により、おもいっきり剣にてそのクイナをはじきとばす。
キィン、と乾いた音が周囲にと響き渡る。
「何をする!」
そんなロイドにいきどおるくちなわであるが。
「俺は立会人なんだろ?お前の負けは確認した。それで十分だ」
もう、誰も死ぬところなんて見たくない。
それがたとえ、自分達を散々裏切っていた相手でも。
彼にはたしかに、ロイド達もまた助けられていた、のだから。
「ロイド」
しいなは一瞬、行動しようかどうかと思い悩んでしまった。
このまま、くちなわを身捨てたくはない。
が、里を裏切っていた以上、何かしらの処罰は必然。
みずほの民の感覚からすれば生き恥をさらす、という認識になりえる可能性がたかい。
だからこそすぐにはうごけなかった。
しいなとて、これまでくちなわに助けらていた覚えはある。
それがたとえ偽りの手助けだったとしても、である。
普通に話しかけてくれる彼らにどんなにしいなが心をなぐさめられていたか、
彼はおそらく知らない、であろう。
「あたしが憎くてもいい、恨んでいてもいい。だから」
すっと目をとじ短くロイドの名をよびお礼の気持ちをこめてよんだのち、
目の前にいるくちなわの前に一歩すすみでて、自分の思いを、素直な気持ちをつたえる決心がつく。
みずほの掟とか関係なく、一人のヒト、として。
「…両親の仇のお前になさけをかけられるとは。俺もとことんまでおちたものだ」
それは自嘲にみちたつぶやき。
そんなくちなわに対し、
「それでも死ぬよりもましだ。というか、あんたさ。しいなを恨んでるらしいが、逆恨みじゃねえか?
   そもそも、しいながあのとき、失敗した要因は、あんたらにあったときいたけど?」
前々からいいたかったこと。
だからこそいわずにはいられない。
「っ!それでも、そいつが失敗しなければ!」
「…言葉が通じないってわかってて、それでも成功させろって、あんた、何様だよ?
  あんたならならできたのか?できるのか?しかもそのときしいな七歳だっけ?
  まったく言葉の通じない相手に交渉をもちかけてそれを成功させることが」
自分が七歳のころといえば、走り回って遊んでいた記憶しかない。
大人たちのいうことなんて聞いたためしは…そういえばなかった、とおもう。
いつもいつも怒られるようなことばかりしていた記憶。
そんな遊びたい盛りの子供に何を求めている、というのか、
また当時のみずほの里のものたちは何をもとめた、というのだろうか。
それがロイドとしての本音。
「よそものが、しったふうな口をきくな!」
「しらないからいうさ。何度でもいってやる。お前のそれは逆恨みだ。
  それ以外の何でもない。ただお前はそれを認めたくないから。
  誰かに責任をおしつけたくて、逃げたいだけなんだ。だから、死ぬなんて簡単に選ぼうとする。
  死と生は同じ次元の話しじゃないっていうのにさ。生きることに意味はある。
  けど、死ぬことには意味がない」
「死ぬことに意味がない、だと?」
よそものが何をいいだすのかとおもえば。
ゆえにおもわずきっとロイドを睨みつける。
「ああ。うまくいえないけど。人は誰かの生きていた道を尊敬するから。
  その誰かが死んだとき、悲しむんだとおもう。だから、死ぬことに意味はない。
  生きて、生きぬいたからこそ、そこに意味がうまれる。
  生きぬいた人生に意味がある。だからこそ生きなきゃだめなんだ」
「里を裏切り、情報を流し、こんな俺にもいきる意味がある、というのか。お前は」
それこそ自分が流した情報で命をおとしたものもいた。
判っていて、情報を流していたのは事実。
「そのままで、ただ、そこにいて生きているだけでも意味はあるとおもう。
  生きるってことはさ、そこにいるだけで必ず何らかの影響を誰かに与えてるんだよ」
それが自分が意図していない結果だ、としても。
かならずどこかで何らかの影響はあたえている、はずである。
たった一人がいるのといないのとでは、まったく周囲の状況もかわる。
それこそ、様々な道が、分岐点が人生にあるように。
「……おれにはそうはおもえない」
「思えなくてもいい。けど、死んで償うというのは間違ってる。それはつぐないじゃない。
  ただ、自分から、自分のしでかしたことから逃げているだけでしかない。
  死んでつぐなおうとする…それは、臆病者のすることだ」
「おくびょうだと?」
臆病でしかない、といわれ、びくり、とこめかみがひきつるのを止められない。
何もしらないよそものにそんなことをいわれたくはない。
それこそ当事者、でもないというのに。
「ああ、そうさ。臆病者だ。あんたは、臆病者なのか?それとも?」
「…くっ。よそものにそこまでいわれて、死を選ぶなどできるものか。
  …しいな、お前にかつてわたしていたそれはもう用済みだ。
  壊すなり捨てるなりお前の好きにすればいい」
臆病者、といわれてまで死を選ぶのは、くちなわの誇りと自尊心が許せない。
そこまでいわれ、死をえらべば、自分はやっぱり臆病者でしかなかったのだ、
としか思われない。
そんなこと、くちなわのプライドが許せない。
「いや、あたしはこれをもってるよ。事故とはいえ、私の未熟な腕であんたの両親。
  それに里の皆をまきこんじまった。そのことを忘れないためにも。
  自分のことを戒めるためにもこのお守りはもっておくよ」
それは、自分に対しての戒め。
相手のうわべしかみえていなく、その本心を見抜けなかった自分への。
おそらくは、くちなわはずっと昔から両親への思いを秘めてしいなに接していたのであろう。
いつか仇をうってやる、そうおもいつつ。
この十数年、ずっと。
それにきづけなかった、という点で、時期頭領候補に選ばれている以上、
戒めは必要。
自分が思いあがらないために。
お守りといわれ素直にずっとみにつけていた。
これが式神だ、と少し調べてみればわかったであろうに。
どんな効果がかせられているのか、くらいは。
それを調べなかったのは、くちなわを信用していたから。
お守り、といわれその通りにうけとっていたしいな自身。
結果としてそれが、ロイド達をも巻き込んでの幾度もの襲撃をうけることになってしまった。
常にしいなのもつ式神たるそれから情報がくちなわに流れ、
それをくちなわが教皇にと流していたのだから。
「しいな、それだといつまでも罪にしばれてしいな自身を苦しめることにならないのか?」
「そうだよ。だからこそもっているのさ」
常に裏を考えろ、とは頭領イガグリの談。
仲間のふりをして近づいてくるものも必ずいるのだから、と。
それこそ、変装などをほどこして。
「……心でも俺はお前にまけている、というのか。さんざん悪態をついいたあげくこのざま。…か。
  ざまはないな。これが…里を裏切った俺自身の得た結果、とはな」
自分のしたことを忘れない、常に自分を戒める。
それはたしかに心の強さといえること。
くちなわは、ずっと目をそらしてきていた。
自分が流した情報で仲間が、里のものが死亡したとしても。
しいなが全てはわるいのだ、とそう自分に言い聞かせ、責任転換をして。
だが、しいなは誰に責任をおしつけるわけでなく、自分の責任において自分を戒める、そういった。
その時点で人として、否、里にいきる忍びとして確実負けている。
自分が頭領にふさわしい、とおもわなかったわけではない。
むしろ、自分のような才能あるものが頭領になるべきだ、そうおもっていた。
しいなのようなどこの馬の骨ともわからないものに頭領などさせられない、と。
常に心強くあれ、それがイガグリ流の基本たる教え。
それをまもっていなかったことに今さらながらに気づかされる。
「おい、どこに?」
そのまま、すっとたちあがり、しいなたちにと背をむける。
「…頭領のところにいく。判断を仰ぐ。俺は、里を裏切り、そして里の牢獄から脱獄した。
  このままだまって里を立ち去ったとしても、それは俺が逃げているだけ、とお前にまたいわれそうだしな」
「くちなわ、あんた……」
ロイドの問いに振り替えることなく、そのまま、その場をたちさってゆくくちなわの姿。
しいなは何といえばいいのかわらかない。
くちなわを助けたのが、正しかったのか、それすらもわからない。
ただ、自分の手で、彼を殺したくなかったからだけなのでは、という思いがよぎる。
「…しいな、もどろう」
「…ああ」


「よ~し、いよいよだな。ばっちりきめようぜ。ロイド君」
里にもどり、イガグリの決定で、くちなわは里を追放処分、ときまったらしい。
たしかに彼がしたことは許されないことではあるが、それを止めようとしなかった、
また、そう彼におもわせた里の全体責任でもあるがゆえの酌量処置、とのことらしい。
それぞれいろいろと思うところもあるだろうから、今日はここで一晩ゆっくりやすみ、
それから行動すればいい、というタイガの意見のもと、
たしかにしいなにも少し考える時間が必要、というリフィルの意見のもとに、
ひとばん、みずほの里にてやっかいになった。
もう一つの理由は、朝早くに行動したほうが、相手のふいをつける、という理由もあってなのだが。
「ゼロス、信じてるからな」
昨晩もまたゼロスは外にでていた。
こっそりときになりついていっていたが、いつのまにか見失っていたらしい。
途中で眠れないらしいしいなと出会い、結局しばし話し込んだのちに、
移動した森の中。
何かの話声がきこえてきた。
一人はゼロスのもの、もうひとりはどこかできいたような声ではあるが、
女性の声であることは疑いようがなかった。
しいなはゼロスにたいし、里の女の子をたぶらかすな!といって怒っていたが。
どうもそうじゃないような気がする。
それはもう、ロイドの直感。
だからこそゼロスにいわずにはいられない。
「な、何いってんだよ。いきなり。まあ、この俺様を頼る気持ちもわかるぜ。
  泥船にのったつもりでど~んとまかせとけって」
「それをいうなら木の船だろ」
「そそ、それそれ、んじゃまあ、いこうぜ~」
何だかはぐらかされたような気がするが、しかしそれ以上何もいえない。
そもそも、何の確証もない、のだから。
あの声が、どうもクルシスに属していた女性の声に近いような気がした、などとは。


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あとがきもどき:
薫:とりあえず、オゼットたちよりと、あとはしいなのみずほの里の決戦をば。
  ようやく次回にクルシス突入~え?ルートはどれ?
  そりゃ、死亡ルートはこの話しにはありませんv
  何しろ公言してるように、ミトスすら生存するくらい、ですからね……
  ではまた次回にて~

2013年10月17~23日(木~水)某日

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