まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、ようやくフラノールイベントの回~
そういや、ラタ様のフラノールイベント、
ロイドの破壊力(たらし)が半端なかったですね…特にリフィル(汗
しかし、内容的に、しいなたちをアルタステのところにもどしたので、
ゼロスの母親の独白がないのがすこしさみしい…かな?この話しだと…
ともあれ、いっきまーす

※11/6発売のクラトスの贖罪をよんで、追加がしてあります。
ファンダムでは、クラトスの幽閉…箇所からしかなかったですしね。
というか自室に軟禁、のほうがしっくりきたというのもあります。
いや、だっていちおう、クラトス幹部だし…クルシスの……
いくら天使達が感情をほとんど失っているとはいえ、その幹部を牢獄に、というのは、
さすがにおかしい、とおもわれても不思議はないかな、とおもって小説のほうに変更をば。

########################################

「…しつこいな」
どうも最近、ここ、異界の扉と人が勝手に命名した付近に人がうろうろとしている。
よくもまあ、気流が乱れている中でも、やってこようとしていると感心せざるを得ないが。
「しかし、あのアステルというものは…ほんと、根性だけはすごいと認めざるをえないな」
絶対にここがあやしい。
とすでに確信をもってこのあたりをうろうろとしているのは、なぜかアステル達。
見知っているがゆえにラタトスクの言葉に苦笑がまじっているような気がするのは、
おそらくこの場にいるセンチュリオン達のきのせいではないであろう。
「…ラタトクス様に似ているとそのあたりも頑固になるのでは?」
「どういう意味だ?」
「いえ、別に」
ラタトスクの視線をうけ、テネブラエが涼しい顔をしていってくる。
あとは、きっかけをまつばかり。
「しかし、ラタトスク様、ミトスのその分霊体といもえる記憶の魂をいかがなさるおつもりですか?」
この場には、あのミトスの魂が、とある品物にやどり、存在している。
今はまだ、眠っている状態になっているのだが。
それがきにかかる。
アクアとて驚いた。
あのミトスが、あのよりによってミトスがこのような歪なる世界をつくった当事者だ、ときかされて。
あのときのミトスからは考えつかないその行動。
「なに、ミトスに過去の自分と対峙させようとおもってな。
  今、あいつは、過去のことをおもいだしかけている。が、きっかけをつかみきれていない。
  かつてのようなミトスならば、世界の理がかわったのちも、
  どうにかしようとするかもしれぬだろう?
  おおかた、マナが少なくなったことに気付いた国のものは、
  今でも実験しているようだが…人からマナを取り出す選択をしかねないしな」
すでに今ある実験施設達は魔物に命じたり、また天変地異を利用して、破壊していっているが。
人がその程度のことで欲を諦める、とはおもえない。
今いる人の根本的な構造はマナを主体としているまま。
素直にうけいれる自然界の動植物や大地とはことなり、人は新たな理を受けつけようとしない。
人をも完全に新たな理に変化させるのには、おそらく数年はかかるであろう。
急激に変化させるのを拒むのであれば、ゆっくりと変化させてゆけばよい。
それまでに、人が滅亡の道をたどれば、所詮人は、今いるものたちはそれまででしかなかった、
としかいいようがない、のだから。

光と闇の協奏曲 ~雪の街での決意~

クラトスが目をさましたのは、ウィルガイアにとあるクラトスの私室。
どうやら命を奪われることはなく、クルシスへと連れ戻されたらしい。
クラトスを殺せば、オリジンが復活してしまう。
それを考えれば当然の処置、ともおもえるが。
ハイエクスフィアの生命維持機構の力もあってなのであろう、クラトスの傷は大分癒しをみせている。
私室は外部からロックされており、外にはどうやら出られない、らしい。
部屋の外を確認してみれば見張りの兵らしきものがたっている。
あるいみで事実上の軟禁。
しかし、どうやら詳しいことは説明がなされていない、らしい。
そこにいる兵士達と話してみたが、どうも負傷したクラトスが無理をしないように部屋で休ませている。
との説明を彼らはうけている、らしい。
クラトスはほうっておくとすぐに仕事づけになるから、という理由が述べられたらしく、
ほんどの天使達が一も二もなくうなづいた、という。
それをきき、自分は天使達にいったいどんな印象をもたれているのだ?
とおもわず今さらながらクラトスが思ったことはいうまでもない。
もっとも、天使達からすれば、自分達にもきさくに対応してくれる幹部であり、
とにかく仕事づけ、という印象でしかないのだが。
今は実質、二人ともいってよい、彼らと接する四大天使達。
ユアンはあまり人と接することを好まない。ユグドラシルは指導者としての立場がある。
必然的にクラトスがそういった分野まで請け負っていたのが理由ともいえる。
時間を確認してみれば、どうやらあれから半日が経過、しているらしい。
ここ、ウィルガイアでは時間という概念はないが、クラトスが地上において行動するのに必要となる、
という理由でもっていた懐中時計がその時を示している。
きけば、ユグドラシルは帰還するや否や、大いなる実りの間にこもっているらしい。
クラトスが立ち去ったあと、ロイド達がどうなったのかをしりたいが、天使達にきけるような内容でもない。
やはり、強引にでも部屋をでるしかないか、そんなことを思っているその矢先。
何やら外が騒がしい。
「クラトス様を誰にもあわせないようにと命じられている」
「私は、ユグドラシル様の御命令でここにきています!」
外からきこえてくるその声には聞き覚えがある。
「な…何?ユグドラシル様…だと、お前はディザイアン階級ではないか!」
天使にもなっていない、まだディザイアン階級のものがどうしてユグドラシルの名をだしてくるのか。
ゆえに見張りの兵士はとまどわずにはいられない。
「私はハイエクスフィアの研究を行っていました。
  そのためにユグドラシル様には目をかけていただいています」
「…ケイト、か?」
どうして彼女がここにいるのであろう。
彼女はユアンにたくした、はず、なのに。
クラトスが思わず声をかけると、ケイトがさらに言葉を重ねてくる。
「ほら、ご覧なさい。部屋の中におられるクラトス様も私をハイエクスフィアの研究者と御存じではないですか。
  そうですね、クラトス様」
といかけは扉ごし。
どうやらその勢いにおされた、のであろう。
部屋の外にいた警備天使が困惑した様子でクラトスに対し
「…クラトス様、このケイトとかもうすディザイアンを御存じでしょぅか…」
困惑している様子がありありとみてとれる。
やはり、とおもう。
ここ、ウィルガイアにすまう天使達に、あからさまに感情がもどりかけている。
かつて、ハイエクスフィアをその身にやどし、感情を失った存在達ですら。
ゆっくりとではあるが、確実に感情を取り戻していっているのを確信せざるをえない。
「知っている。おそらくユグドラシル様の計画にかかわることだろう。あわせてくれ。
  お前達が私に仕事をさせないように、といわれているのはしっている。
  が、計画に支障がおこるべく事柄のことならば事は一刻を争う」
「……では、特別に面会を許可いたします」
たしかにクラトスのいうとおり。
ここで却下して、ユグドラシルの…千年王国の計画に問題がおこっては洒落にならない。
それこそ、一介の警備兵にしかすぎない自分が判断できることではない。
ゆえに、預けられているクラトスの部屋の鍵をつかい、ケイトを部屋の中へと招き入れる。
そして、その会話は自分のような下級のものがきくものではない、と判断したのであろう。
用事がすめば声をかけてください、といって少し離れた場所にと移動する。
ケイトに報告がおわったことを知らせる装置をもたせたのち。
どうやら完全に会話をきかないために、ここから離れることを選択、したらしい。
あるいみで忠実ともいえるその行動。
一介にすぎない自分達が要ともいえるハイエクスフィアのことを知るべきではない、とおもっての行動。
しかし、念には念を。
ケイトを招きいれると、クラトスは扉をしめて、私室ないの防音機能をたちあげる。
念には念をいれなければ、天使達に余計な話しがもれてしまいかねない。
「クラトスさん…無事でよかった」
ケイトが瞳をうるませてほっと息をついてくる。
「ケイト…レネゲードのもとにいたのではなかったのか?ユアンにお前を託したはずだが……」
ユアンは彼女を送り届けなかったのであろうか。
それがきにかかる。
「ユアンという人が、オゼットまで送ってくれる、といってくださったんですけど。
  でも、クラトスさんがつかまっている、ときいて…
  私でも御役にたてるんじゃないかとおもって、入口まで連れてきてもらいました」
「…ゲートキーパーに誰何すいかされなかったのか?」
「ユアンさんが共にいたこともおおきかったようで。
  それに、私がクラトスさんにここに連れられてきたことを覚えていたらしくて。
  ユアンさんは用事があるから後まはかせた、といって天使達に引き継ぎをしたのですが…
  私は、ハイエクスフィアの研究者だ、といいはって、ここにつれてきてもらったんです」
その台詞をきき、ケイトが以前、ドワーフ達のもとに研修にきていたことをしっていた天使もいた、らしい。
「…たいしたものだ」
おもわず素直な感想がクラトスの口からもれる。
護衛もなく、一人で乗り込むなど、普通はできはしない。
そう、普通の女性、ならば。
「いえ…それより、ユアンさんからクラトスさんへ伝言を頼まれています」
「ユアンから?」
「ロイドさん達のことです。クラトスさんが連れていかれてからのことを伝えてほしい、といっていました。
  どうせあの不器用な親ばかは心配しているだろうから、と」
「……あいつに不器用、といわれるとは……言い返せないのがつらいところだな」
その台詞に苦笑せざるを得ない。
「…話しはききました、クラトスさんは、あのロイドさんの本当の……」
自分が父を慕っているように、クラトスは実の息子のロイドを心配している、のだろう。
それこそ名乗りを上げる前から。
おそらくは、本当ならば隠しておきたかったのかもしれないとおもう。
敵対する位置にいる彼ならばおそらくは。
ケイトの話しによれば、ロイド達はそれぞれ怪我の治療を行ったあと、
怪我、ということからおそらくは何かあれからあった、のであろう。
そして、命の危険があるアルタステを救うため、
腕がいい医者をもとめ、フラノールにむかっている、とのことらしい。
ユアンはミトスに完全に正体をつかまれていると悟り、
レネゲードをクルシスから逃がす作業をしているらしい、と。
しかし話しをきくかぎり、どうにか全員何とか生きてはいるようである。
そのことにほっとする。
「……彼は、ユグドラシルはこれからどうするつものりなのでしょうか?
  ユアンさんはコレットさんを奪還してマーテル様を復活させるつものなのだろう。
  とおっしゃっていました。そうなればもはや手のほどこしようがない、とも」
「…そう、だろうな。だが、打つ手がないわけではない」
ロイドが無事ならば、まだやれることはある。
クラトスは私室の本棚にとかくしていた銀色の鍵をとりだし懐にとしまう。
「それは?」
「これは、ルインのシノア湖に隠したコンテナの鍵だ。そこにアダマンタイトと神木がはいっている」
「アダマンタイト…王立研究院で生成に成功した、という?」
あのときもあるいみぎりぎりであったといってよい。
特にあのアステルという少年。
彼は自分のことを看破していたように視えなくもなかった。
だからこそ、彼らがロイド達とともに行動していたときに行動をおこした。
「神木は、以前にプレセアが納めたものがある。ときいたのでな。それを入手した。
  アダマンタイトと神木、それにあとはアイオニトスという鉱石があれば逆転の目はある。
  ユアンにはすでにそのことは伝えてある。が、問題は最後の鉱石、だ。
  アイオニトスはユグドラシルの元にある。今、私が入手するのは難しい。むろんユアンもな」
そんなクラトスの言葉にケイトが顔をふせ、
「誰か別な人に頼むことはできないんですか?」
「いや、難しいな。私にはつねに監視がついているし、味方はいない。
  ユアンもユグドラシルには近づけないだろう…
  それなりの地位があるか、もしくはユグドラシルに近いものでなければ、
  アイオトニスを入手することは難しい。しかし、そのような人材は……」
そこまでいいかけ、ふと脳裏にひらめく一人の人物。
そう、彼ならば。
「ケイト、頼みがある」
「私に協力できることならば、何なりと」
「先ほどの要領で私を通信室へ連れていってくれないか?
  そうだな、ユグドラシルが今、おおいなる実りの間にいるから、
  そこに緊急に連絡する必要がある、とでもいえばいいだろう」
「それで、アイオトニスを得られるかもしれないんですね。わかりました」
その言葉をうけ、ケイトは兵士から渡されていた装置を鳴らす。
と、その連絡をうけ、さきほどの兵士が扉をあける。
そして、その兵士を毅然とみあげ、
「クラトス様から至急、ユグドラシル様へ連絡する事項が発生しました。
  至急、ユグドラシル様へ奏上すべき御話しがあります。
  大いなる実りの間に連絡をとるため、クラトス様を通信室へお連れします」
「しかし、それは……」
「通信がダメだ、というのならば、クラトス様を直接、実りの間に御連れすることになりますよ。
  それこそ問題になるのでは?それにこの報告が遅れることで、
  もし、大いなる実りに何らかの問題が出た場合、あなたに責任がとれるのですか?」
「うっ」
そういわれれば何もいいかえせない。
仕事をさせないように、といわれていたクラトスのもとにまで、訪ねてきた以上。
何か緊急性のことが発生したのかもしれない、とはおもってはいたが。
ゆえに、
「…仕方がありません。が、私も同行させていただきます」
「それはかまいません。よろしいですね。クラトス様」
「ああ」
ケイトのいい分をそのまま信じ、警備天使をともない、通信の間へ。
そして、ケイトと警備天使を通信室の外にまつようにと指示をだす。
そこにいた通信室を警備していた天使にも。
この話しはユグドラシル様にしか伝えることはできない、という理由にて。
それをいわれれば、天使達は従うしかない。
機密事項に近いことをきけばどう処罰がなされるか、考えたくもない。
そのまま誰もいなくなった通信室にて、コンソールをたたき、
神子ゼロスの回線を検索、そのままゼロスにと繋ぐ。
と。
しばらくのちに、不鮮明なゼロスの映像が立体スクリーンにと映し出される。
相手がわには同じようにクラトスの立体スクリーンが投影されている、であろう。
「…なんだよ、あんたか。感動の親子ご対面。感想はいかが?」
相変わらずの皮肉まじりの挨拶だが、今はそれにつきあう時間がない。
地上ではアイオニトスを発見することはできなかった。
だからこそ、彼の協力が必要不可欠。
「時間がない。手短にいう。神子、ロイドのために力をかしてくれ」
「な、何だよ、いきなり」
ゼロスが動揺したのがみてとれる。
ゼロスからしてみても、いきなり通信をいれてきて、そのようなことをいわれれば、
動揺せざるをえない。
それでなくても、つい先刻、プロネーマから指示があったばかり。
「ロイドが目指す、世界の統合にはエターナルソードが必要だ。
  人間であるロイドがエターナルソードに認められるためには、契約の指輪。
  エターナルリングがいる。
  エターナルリングは…十五年前に破壊されたが、だが創り方はわかっている。
  エターナルリングをつくるためには、特別な鉱石が必要だ。
  が、今の私では、ユアンも、それを手にいれることはできない。
  アイオニトスはユグドラシルが保管しているのだ。神子、私のかわりにアイオトニスを手にいれてくれ」
「ちょ、ちょょ、おいおいおい。一気にまくしたてるなよ。契約の指輪?それは…」
それは、あのとき、ユアンがいっていた台詞。
ゆえにおそらくクラトスの言葉に嘘はないのだろう。
嘘は。
「詳しいデータを転送する。エターナルリングのことはそれで確認してくれ。
  たのむ。神子よ。これができるのは神子だけ、なのだ」
転送されてきたらしき資料にざっと目をとおし、ゼロスからしてはあきれるしかない。
「…はぁ。なるほどね。よめてきたわ。あんた。
  あんたが世界中をうろちょろしてやがったのは、このエターナルリングってのをつくるためってか。
  だったら、どうして最初から…」
どうして、最初からそう、彼らにいってやらなかったんだ、とおもう。
特にロイドに。
自分の息子、生き別れになっていた実の息子だ、というのに。
「そんなことはどうでもいい。それよりも、神子、たのめるか?」
「アイオニトス…ねぇ。
  アイオニトスって、たしか俺様が三歳のころにのまされた変な石だよな?
  あれで契約の指輪をつくる…か。俺に…できるのか?」
「ゼロス!そんなところにいたのか!町の人達はどうしたんだ?というか、何独り言いっるてんだ?お前…」
「やべえ、ロイドだ。きるぞ」
ゼロスからの明確な返事をもらえぬまま、一方的に通信は途切れてしまう。
クラトスが通信室をでると、一礼し、もどってゆく通信室を管理していた天子。
そして、クラトスと同行していたはずの天使の姿がないことにきづき、首をかしげる。
「ユアン様の使いというかたが、あの天使に伝言していきましたが。
  何でも、彼はテセアラの警備天使でもあるらしく……」
そのことで話しがある、といわれ、とまどっていた彼らしいが、
ケイトが自分がいるから問題はない、と言い含め、ならば、とこの場をあとにしたらしい。
ユアンもきのきいたことをする。
おそらくは、通信で、彼らを集めるように、とでもいったのであろう。
すくなくとも、テセアラで異変がおこっているのは事実。
彼らを総動員してでも異変を確認させるのは、ユアンの立場としては間違ってはいない。
すくなくとも、完全なる資料がない状態では、ユグドラシルに説明ができない、のだから。
「もしも、不安ならば、直接、確認をしたほうがいいのではありませんか?」
たしかに、今ならば。
「ユアンさんから、緊急脱出用の出入口はきいています」
それはしばしの巡航。
「……わかった、いこう」
見張りの兵士がいない今が、絶好のチャンス。
「フラノールへ向かう。あなたもくるといい。あなたを地上にもどせるチャンスは今しかないだろう」
クラトスの問いかけに、ケイトはうなづきをみせる。
もう、賽はなげられた。
あとは、全てをロイド達に託すのみ。


フラノールは相変わらずの雪景色。
が、問題とすべき点はそこではない。
フラノールの周囲の大地があからさまに変化している。
フラノールはたしかに孤立した島のような地形であったが。
その地形そのものがどことなく丸みをおびて変化している。
リフィル曰く、おそらくは周囲に点在していた島々と融合したり、
もしくは別れたりしたのね、ということらしかったが。
上空からみたことがあるがゆえに、その違いは一目瞭然。
町もどうやら多少の被害がでているらしく、人々は不安そうにしているのが目にとまる。
町にはいるとともに、ぜろすに気づいた町の人達が、ゼロスにつめより、
ゼロスがここはまかせろ、といってロイド達は目的を果たすべく先に移動した。
人々も不安、なのである。
空にみえているもう一つの大陸。
お伽噺にあるシルヴァランドなのでは、という誰ともなくつぶやかれた台詞。
ゆえにこそ、誰しもが心の中で思ってしまう。
天の怒りをかったのでは、と。
だから、神子ゼロスに救いをもとめる。
神子は天の使い、なのだから。

フラノールの寺院の前。
その前でゼロスは何やら物影のあたりでたたずんでいるのがみてとれる。
何やら独り言を物影にむかってぶつぶつといっているような気もするが。
ロイドの場所からは死角になっていて、ゼロスが誰と話しているのかはみえていない。
物影にむかって独り言をいっているようにしかみえない。
たしか、ゼロスがむかっている先は、人が入れるような隙間はなかったはず。
それゆえのといかけ。
もっとも、相手が立体映像なのでまったくそれらの隙間云々など問題ない、
ということなど、ロイドはしるよしもない。
「ゼロス!そんな所で何してるんだ?町の人達はどうしたんだ?
  というか、何独り言いってるんだ?お前?」
「やべえ。ロイドだ、きるぞ」
何やらそんなことをいいつつも、ゼロスがロイドにとむきなおる。
「ロイド、あんた町の人達はどうしたのさ?」
あれほど囲まれていた、というのに。
「町の人達には俺様が丁寧に説明したさ。
  きちんと発表を天界にお尋ねをしてから報告するからまってほしい、とね」
さすがに神子にいわれては、町の人も引き下がるをえなかった。
きちんとした発表があるならば、それを待つしかない、というのもある、のであろう。
そして。
「すでに、彼には話しをつけた。すぐにでも出発できるぜ。
  念のために町の人達が不安がってはいけないから、ロイド君達はここでまってなさいよ」
「どういうことだよ?」
「たしかに、一理はあるわね。神子ゼロスがきたのにすぐにいなくなったのでは。
  だけど、あなたの同行者とおもわれている私たちがいるのならば、
  町の人を神子が身捨てたわけではない、とおもわれるわけね」
「さっすがリフィル様ぁ、話しがはやいや。んじゃ、俺様、ひとっとび、彼をつれていってくるわ」
そのまま、どうやらすでに話しをつけていた、らしい。
医者をつれてそのまま、その奥にとある広場においてレアバードを出現させ、
それにまたがり飛んでゆくゼロスの姿。
そんなゼロスの姿を見送りつつも、
「…なんか、あいかわらず勝手だなぁ」
おもわずロイドが愚痴をこぼす。
それにたいし、しいなは苦笑せざるをえない。
おそらく、それはゼロスがロイドを気づかってのことだろうとは理解できるが。
が、それをいうとゼロスが嫌がるのもしっている。
だから苦笑するしかできはしない。

夜が更けてゆく。
ロイドはフラノールの宿屋でいつまでも眠れずにいたりする。
アルタステ、少しは回復したかな。
そうおもい、目をとじると、その瞼にうかんだのはクラトスの姿。
自分をかばって倒れ、血の海に横たわったクラトスの姿。
肉を焦がす焦げ臭い臭いは今でもロイドの鼻にのこっているような錯覚になってしまう。
あのとき、ミトスが放ったのは炎の術。
焼け焦げたクラトスの背からとめどなく流れる血。
そして、焼けただれたその背中。
クラトスの纏っていた服が血でそまるほどに。
「…ええい!ちっともねれはしねぇ!」
がばり、とロイドがベットから飛び上がる。
と。
コンコン。
なぜかその直後、ドアが控えめにノックされる。
「ロイド、まだおきてる?」
その向こうからきこえてきたのはコレットの声。
「えへへ。あのね。おきてるんなら、ちょっと外に散歩にいかないかな~、とおもって」
おそらくこれはコレットなりの心遣い、なのだろう。
だが。
「そう、だな。すこし散歩してくるか」
すこし頭を冷やしたほうがいいかもしれない。
そうおもい、ロイドはコレットにうながされるまま、夜の街にと繰り出すことに。
しんしんと降り積もる雪。
「どうりで、寒いとおもったよ。雪…だな」
昼間は降っていなかった、というのに。
今は空から深々と雪が降り続いている。
「そうだよね。寒いよね!」
「なんか、お前、嬉しそうだな」
「えへへ。…ねえ、みてみて、ロイド。フラノールの街がみたわせるぞ?」
宿をでてしばらくすすむと、自然と足は教会へとむいていたらしい。
教会の前にとあるちょっとした広場。
すでに教会はクルシスによる人心を管理するものでしかない、とわかっているのに。
産まれ育ってうけていた信仰、というものはなかなかどうにもならない。
ロイドとて、ことあるごとにマーテル教会にいくように、といわれていたほど。
それがすでに習慣になっている、といってもよい。
「…綺麗だね~…」
淡い灯りの中、降り積もる雪。
たしかに綺麗としかいいようがない。
「…ああ」
この光景をみていれば、今、世界でおこっいることなど、また、偽りの平和の中で人がいきていた、など。
風景だけを見る限り、一体誰が思うであろう。
「ねえ、ロイド、覚えてる?クラトスさんが前にいったこと…」
「あいつが、何かいってたか?」
クラトスの名をだされ、びくり、と反応するのがロイド自身にもわかる。
それほどまでに、彼が実の父親だ、という事実はロイドに影響をあたえているらしい。
それに気づき、思わず自分自身に苦笑する。
俺って本気で口先だけでしかわかってなかったんだな。
誰が父親でも関係ない、そういいきったのは自分だったというのに。
いざ、自分はといえば意識している自分を認めざるをえない。
コレットがどうしてあそこまで、実の父親だとおもわれしレミエルを慕っていたのか。
今ならば判るような気がする。
…あのときは、口では関係ない、といっていたが、本当に自分は理解してなかったのだ。
今さらながらに理解し、自分は何もわかっていなかったんだ、と打ちのめされてしまう。
「……エクスフィアを捨てることは、いつでもできる。
  今は犠牲になった人々の分まで彼らの思いを背負って戦うことがあるはずだ、って」
そういえば、そんなことをいっていた。
あの牧場で。
エクスフィアがどうやって産みだされているかしったあの後に。
「あれって…ロイドのお母様のこと…だったんだね」
「…でも、あいつは、母さんを怪物にした親玉にへこへこしてやがる」
そして、その親玉はロイドも友達だ、とおもっていたミトス自身。
しかも、そのミトスはあの伝説の勇者ミトスだ、という。
理想をとき、古代戦争をとめた、古代の英雄。
男の子なら、否、おそらく男女問わず誰もがあこがれた英雄。
なのに、今の彼がしていることは英雄の面影はどこにもない、といいきれる。
そう、いいきれていたはず、だった。
なのに、知ればしるほどわからなくなってくる。
彼らのことが。
ただ、敵だ、と思うだけでいいのならばどれほど楽だっただろう。
以前にクラトスがいっていたことが今さらながらに理解できてしまった。
人は真実だ、とおもいこまされているものを信じていればそれだれで救われるからな。
その言葉の意味が今さらながらに理解できたような気がする。
あのとき、いわれても意味がわからなかった。
「それは違うとおもうな。クラトスさん、いつも私たちのこと、い具とも助けてくれたよ?
  それにロイドのこともまもってくれたんだよ?」
「それは……」
コレットの言葉に嘘はない。
事実、あのとき、ロイドはクラトスに助けられた。
ロイドに覆いかぶさるようにしてかばったクラトス。
鼻につく、肉が焼け焦げたような匂い。
「だからきっと、クラトスさんは、ロイドのことも。ロイドのお母様のことも大切に思ってるんだよ。
  ステキなお父様だよね」
そういわれ、そうかもしれない、ともおもわずにはいられない。
母の墓の前に供えられていた、母の好きだったような気がする花。
以前、花をみたときに、ふと思い出した、母親が好きだった、と確信をもった花。
それが、墓の前に添えられていた。
今まで、クラトスがかの地に出向いたときには、必ず、といっていいほどに。
そして、何ともおもわなかったが、だいたい、ダイクの家にいったとき、
クラトスは一人はなれ、墓の近くにたっていたことが多かった。
そう、あのとき。
コレットがお別れをいいにきたというあの夜でも。
どんな思いだったんだろう、とおもう。
母を、手にかけたそのときの思いは。
その行動はリーガルと思いっきり重なる。
リーガルも愛する人だというアリシアを、当人だとわかって手にかけた。
リーガルは今でもそのことを悔いている。
何か方法があったのでは、と。
しいながいうには、あのときは仕方がなかったはずだ、とはいっていたが。
後からきいたことだが、異形とかした彼女はすでに幾人かの人をあやめていたらしい。
ゆえに放っておくことなどはできなかったであろう、とも。
リーガルが行動しなければ、別の誰かが必ず殺したであろう、とも。
愛するあなただからこそ、私を殺してほしい。
そう、リーガルに懇願した、というアリシア。
ロイドはまだ人を愛する、というその意味をよく理解していない。
自分が命をかけてでもコレットを助けたい、とおもう心がそれなのだ、と理解すらしていない。
「……もしかして、それをいいたくて俺を外につれてきたのか?」
「えっと……」
人から…しかもコレットにいわれ、理解するなんて、俺って情けないな。
あのときから、何も考えず、コレットにすがっていたあのときとかわらないじゃないか。
そんな自嘲気味な考えに一瞬なるが、しかし、コレットの様子をみていれば、
そんな考えもすぐさまに吹き飛んでしまう。
困ったようでいて、それでいて、何といっていいのかわからない、その表情。
いつも、どこか人にたいし、一歩ひいていたようにみえたコレット。
ロイドが学校に初めていったときも、一人、ぽつん、と教室の片隅で、静かに本を読んでいた。
それなのに、常に人のことをきにかけ、自分のことより人を優先する。
そんなコレットをロイドは間近でみてきた。
今回のこれも、自分を思っての行動、なのだろう。
もじもじするコレットをみていると、自然と笑みが浮かんでくる。
「……ありがとう、な。大丈夫だよ。
  あいつが親父だつてこと、今はもうそんなにショックじゃないんだ」
そう、どこかクラトスとは他人でないような気がしていた。
だからこそ、あのとき、ストンと納得してしまった自分に気づき、あれほど取り乱した。
ぽん、とコレットの頭に手をおき、自分の本音を紡ぎだす。
理屈はわからなかったが、たしかに、クラトスの剣を教わっているとき。
彼の傍にいるとき、たしかに自分はどこか心安らかになっていた。
そして、クラトスに自分の悪いところを指摘されると、ついムキになってしまった。
他の人…とくにいつもいわれるリフィルにいわれてもそこまでムキにはならなかったというのに。
なぜか、クラトスにだけはいわれたくなかった。
認めてほしかった。
なぜ、とは今になって理解せざるを得ない。
父親に認めてほしい、それは子供が誰しももつ感情。
コレットもいっていた、父親に認めてほしい、と。
そしてそれは、あのケイトも。
人それぞれなれど、子供はいつも、心のどこかで親をもとめている。
…俺って、ガキだったんだな、ほんと。
どこかクラトスの背中をみていると安心感があったということは否めない。
記憶にある大きな背中。
夜空と、そしておそらく、頭とおもわしき、赤い色。
ヒントはあったはず、なのである。
旅立ちのとき、クラトスは墓の近くにいっていなかったというのに、
母の…アンナの名をつぶやいていた。
ダイクと自分の会話をきいていたにしても、母の名などだしていなかったはすだというのに。
あの場からは、より視力がよくてもかろうじて文字は読み取れなかったであろうに。
否、天使であるクラトスならば、離れていてもよみとったのかもしれない。
だから、あのとき、問いかけてきたのかもしれない。
あそこにあるあの石は何なのだ、と。
墓標にもみえるが、と。
どこかその言葉に戸惑いが含まれていたような気があのときしたのは間違いではなかったということなのだろう。
今際の際に旧姓を名乗ったのは、クラトスに迷惑をかけたくないがゆえ。
ダイクがそのとき、それがお前さんの名かい?といわれ薄くほほ笑んだことをロイドは知らない。
ノイシュに助けられ、ノイシュにかばわれるようにしてロイドは当時、そこにいた。
「うん、でも……」
不安そうなコレットの顔。
ああ、俺はまたコレットにこんな顔をさせてしまっているのか。
ふとロイドは自分がなさけなくなってくる。
「…オリジンの封印のことか?」
「うん。嫌なこといってごめんね。でも……体内のマナを放出したら、いくらクラトスさんだって……」
そういうコレットの表情はうつむき、判断できないが、おそらくは泣きそうな表情をしているのであろう。
コレットはそういう子だ、というロイドは確信がある。
他人のことなのに自分の痛みのように感じる優しき心の持ち主。
だからこそ、犠牲になんてさせられはしない。
「…わかってる。生きてられるのか。それすらも判らないってんだろ。
  いまだに俺としては実感がないけどな。マナ…か。それがそれほど大切なものだなんて」
感じられないからこそわからない。
実感できないからこそ。
自然はそこにあるではないか、とおもう。
マナが涸渇すればどうなるのか、なんてロイドは説明されてもピン、とこない。
そもそも、シルヴァランドが自然が乏しく感じていたのは、すべてはディザイアンのせい。
そういわれていた。
ディザイアンの封印が弱まり、マナを浪費するがゆえに世界が滅びにむかっている、と。
それがロイドが物ごころついたころから教わっていた常識。
「えっと、だから、だからね?私のことを助けてくれたみたいに、クラトスさんの命を失わなくてもいい方法を。
  オリジンを解放できる方法を探そうよ」
「コレット……」
「皆もわかってくれるよ、ね?そうでしょ?そうしようよ!」
コレットからしてみれば、ようやくあえた親子が争う、ということ自体が悲しくてしかたがない。
クラトスが常に旅の最中もロイドを気にかけていたことに、コレットは気づいていた。
常に、いつもクラトスの視線はロイドを身守っていた。
それはとても暖かなまなざしで。
昔、物語をよんでいて、不思議におもったことがある。
どうして、勇者ミトスは困難するとわかっていても、旅にでたの、と。
男だから、男にはやりとげなければならない、ということが必ずあるんだよ。
よく私はわかんない。
コレットも必ずわかる、コレットは神子、なのだから。といわれたあの当時。
それはまだ、コレットが三歳になって間もなくのこと。
「ありがとな。いろいろと考えてくれて。
  でも、俺、思うんだ。クラトスにはクラトスの考えがあってミトスについたんだって。
  師匠…か。禁書とかいう中であのミトス達がいってただろ?」
「…うん」
「クラトスは、ミトスに…勇者ミトスに剣の指南をしていた。
  そう、彼らはそういってた。勇者ミトスとその仲間達…いろいろとあったんだとおもう。
  そう、いろいろと。マーテルが殺されるまで、いや、殺されてからもいろいろと」
様々な場所で聞かされた台詞。
今ならば冷静に判断できる。
いつも、かっと頭に血がのぼり、その場でおもいつくまま、感情のままにつきすすむが。
この大気の冷たさが思考を常に冷静にたもってくれる。
「…俺は、そのあたりのことをきいてみたい。全てはそれからだと思うんだ」
「……いくんだね。デリス・カーラーンに」
「どこか決意したように、救いの塔をじっとみるロイドの視線に思うところがあったのであろう。
コレットが静かにいってくる。
「ああ。明日、アルタステさんの具合をきいたらいくつもりだ。
  ミトスの千年王国には賛同できない。だから、それを阻止する。
  ミトスと…戦うよ。あいつ、いっぱつ殴って、ぜったいに改心させてやる!
  お前はまちがってるっていってやるんだ」
「ロイドらしいよね」
決着をつけるというのではなくて、止めにいき、改心させる、というのがいかにもロイドらしい。
「だって、友達が間違っていたら、それを止めてやるのが友達の役目、だろ?
  あいつは、間違いをおかしてる。だからこそ、それを自分でやり直す必要がある、とおもう」
いつもダイクにいわれていること。
自分がしでかしたことで他人様に迷惑をかけるな。
と。
ミトスのそれはまさにそれ。
そして、自分でカタをつけ、それでもどうしようもない、とおもったら他人を、仲間を、友達をたよれ。
と。
「……もうすこし、傍によってもいいかな?」
「え?ああ、そういえば寒いよな。そろそろ宿にもどるか?」
「もう少し、だけ」
いいつつも、じっと町景色に雪が降り積もってゆく様をながめるコレット。
「…綺麗、だよね」
「ああ。そうだな。こんな綺麗な景色、あらされてほしくないよな」
ここに住む人々は、何の脅威も感じずに生活をしている。
もしも、こちらの世界、テセアラが衰退世界といわれる世界になれば、
彼らが今度は自分達にかわり、ディザイアン達の脅威にさらされるのであろう。
そんなことは許せない。
そして、こちらの世界のように、シルヴァランドの人々は、動力源として利用されはじめるであろう、
エクスフィアに何の疑問も抱かずに、無駄に消費してゆくのであろう。
それが人の命を犠牲にしてつくられている、とはゆめにもおもわずに。
「そうだね。今度こそまもろうね」
自分達のせいで破壊されてしまっている大地。
シルヴァランドにしろテセアラにも。
確実大地は変動し、被害は甚大ではない。
被害はシルヴァランドだけでなく、どちらの世界においても平等に広がっている。
何かを成し遂げるためには犠牲はつきものだ。
とは昔の人がいっていた格言であり、誰も認めないが、それでも心のどこかで許容しているその言葉。
シルヴァランドにしろ世界を救うためにコレットの…神子の犠牲、という立場を暗黙していた。
それが当然、と永きクルシスからの干渉によって信じ込まされていたがゆえに。
「ああ、知ってるか?ドワーフの誓い、第七番」
「あはは。ロイドがそれ、一番嫌いなやつでしょう?」
さすがに、いつもそれは自分は嫌いだ、といっているのでわかっているらしい。
けども、今はそれを願わずにはいられない。
「「正義と愛は必ずかつ!」」
ロイドとコレットの言葉が同時にかさなる。
何が正義なのか、というのは人それぞれだ、とこの旅の最中で知ったとおもっていた。
今までは知っている、と思い込んでいた。
本質をただ理解していなかっただけ。
それでも、本当に正義というものがあるなら、どうしてディザイアンなんてものがいるんだ。
とおもい、ずっと正義、という言葉が嫌いだった。
ディザイアンにはむかうのは、人にとっては正義、であろう。
が、その正義を振りかざした人は、ディザイアンにつかまるか、もしくは粛清された。
そう、ロイドが牧場に侵入した報復、といって村を襲撃されたように。
「……本当に、そうだといいんだけどな………」
誰も殺すことなく、皆が笑っていられる世界。
それがロイドが望む理想。
それが絶対に正義だ、という自身はある。
が、それがざれごとでしかない、というのも理解しはじめてしまった。
理解できてしまった。
それでも、互いにすこし譲り合い、認める心があれば、とおもう。
皆が笑っていられる世界云々はともかくとして、皆が一歩、それぞれ歩み寄れるような、そんな世界。
ミトスが目指しているという千年王国は、あるいみで理にはかなっているのかもしれない。
全てを同じ種族にしてしまえば、種族という差別はなくなる。
たしかにそうかもしれない。
だが、テセアラのように身分というものがうまれ、いずれはまちがいなく差別が始まるであろう。
心があるかぎり、完全に差別意識というものはなくならないかもしれない、とも。
ロイドとて、今までディザイアンをずっと悪だ、ときめつけていた。
牧場のフォスティスを悪でしかない、と。
ロイド達にとってはフォスティスは確かに悪、であったが、ハーフエルフ、
また彼にかつて助けられたというものたちにとっては、彼を殺したロイドこそ悪だといえる。
正義と悪との区別は、とても曖昧で、一概にどちらが正しい、といえるものではない。
そのことにようやくロイドは気づいたといってよい。
「心配?じゃあ、これ」
「これは?」
そっと、ロイドの手にのせられる小さな白い何か。
「お守り。フラノールの雪うさぎ。幸運を呼ぶんだって。あと、これも」
「お前、これ……」
コレットが頭からはずしたもの、それは、常にコレットがつけていた蝶の髪飾り。
「うん。前、私が救いの塔にいくときに、ミエルがくれたの。
  これつけてたらね、いつも何か暖かいものに護られてるような感じがしてたんだ。
  だから、今はロイドにこれ、預けておくね」
エミルが以前、お守り、といって、救いの塔にはいるときにコレットに手渡した品。
「いや、これはお前がもっていたほうがいいだろ?何となくだけど」
それはもう、本能的な直感といってよい。
これをコレットが体から話したら取り返しのつかないようなことがおこるような、そんな予感。
あるはずがない、とおもうのに。
「ううん。ロイドにもっていてほしいの。……だめかな?
  そして、皆でまたもどってきたときに、エミルにこれありがとう。といって渡したいの」
「エミルか…あいつ、今どこにいるんだか……」
禁書からでてきたときには、たしかにそこにいた、のに。
またあれから姿すらみせていない。
「昼間ね。雪うさぎをアルテスタさんの所にももっていってもらったんだよ?
  だから、これはロイドにあげるの」
「ありがとう。ごめんな。気をつかわせて」
おそらく、ロイドの分としてわざわざ購入したのだろう。
コレットらしい、とおもう。
いつも自分より他人を優先するその心が。
だからこそ、ロイドは自分な情けなさを実感しつつもお礼をいうことしかできない。
自分は自分のことしか考えられなかった、というのに。
「ね。皆もついてるし、もう大丈夫だよ」
「ああ、そうだな」
「うん。…くしゅん」
と、どうやら長居をしすぎたらしい。
コレットが小さなかわいらしいくしゃみを口にする。
「コレット?体が冷えてるじゃないか。宿にもどるか」
そっとコレットの手をさわってみれば、手がとても冷たくなっている。
そういえば、コレットは手袋をしていない。
ロイドは指抜きグローブのような手袋を常に身につけているのでさほど手は寒くはない。
「え、でも……」
「風邪をひいたらもともこもないだろ?」
ロイドに手をにぎられて、コレットとしてはうなづくしかできない。
事実、以前倒れたことがある身なのであまり大丈夫だよ、ともいえはしない。
事実、コレットは意識すれば、なぜか寒さを遮断することができることに戸惑いを覚えている。
天使化が治ったわけではない、天使のままであることは疑いようがない。
天子とは、体の代謝機能を自由に変更できる存在だ、とアルタステがいっていた。
そういえば、とふと思う。
クラトスの羽や自分の羽は薄い光のようなそれなのに、ウィルガイアとよばれし町で出会った天使達。
彼らの羽は完全なる鳥のような翼であった。
その差が何なのかは、コレットは判らない。
わからないが、そこに理由があるような気がしなくもない。
「…ロイドはどうするの?」
「そうだな。お前を送り届けたら、もうすこし、夜風にあたってるよ。
  大丈夫、きちんとちゃんと、もどるから」
そんな会話をかわしつつ、教会のある広場から宿屋のある方向へともどってゆく。
と。
「あれ?ロイドにコレット?」
「ジーニアス?それに先生?」
みれば、視界の先、進行方向に見慣れた二人の姿がみてとれる。
「あら、二人とも、あなた達も夜風にあたりに?」
宿に戻りかけるその道筋に、ばったりと出くわすジーニアスとリフィルの姿。
「あ、ああ。先生達も?」
「すこし、冷たい風にあたりたくてね。この子もいく、ときかなくて。
  ほら、もう、ジーニアス、こんな中走り回るから」
どうやらジーニアスの服が雪まみれであることから、こけた、らしい。
「まったく、この子ったら、さっきまで走り回ってたのよ?」
その言葉に思わず顔をみあわせるロイドとコレット。
しかし、その瞳にどこか涙のあとがみえるのはきのせいではないらしい。
「先生?」
「…怖くなったんですって」
「「え?」」
「…えっとね。雪はこんなに冷たいのに。…天使になったというミトスはそれにも気づかないのかなあって」
「それはない、と私はいったのですけどね。そもそも、クラトスはトリエットでも雪の中をあるいていたわけだし」
「あれ?でも先生、クラトスさん、一人だけ平気で移動してましたよね?」
「そういや、あいつ一人だけ平気そうな顔してたなぁ」
ふとあのときのことを思い出す。
雪に覆われた、ありえない砂漠の旅を。
「……あのね。僕、少しだけ、ミトスの気持ちがわかるような気がするんだ……」
「ジーニアス、あなた、まだそんなことを……」
リフィルが盛大にため息をつく。
「…僕たちがイセリアの街を追い出されたとき、
  ぼく、自分が人間の血をひいているのが、嫌で、嫌でたまらなかった」
それはジーニアスの独白にちかい呟き。
「それに、ヘイムダール。あのときも、エミルの指摘がなかったら、きっと、ううん、まちがいなく。
  …僕たちは里にはいることすら許されなかったとおもう」
監視つき、制限付きの行動を強いられた。
「それが、くやしくって、なさけなくて。
  僕は人間でもエルフでもない。だから、どちらにも入れてもらえない。
  そのくせ、どっちかに所属していないと生きていかれない。
  生きていることすら認めてもらえない」
「ジーニアス、つらいのならば、あなたもエグザイアに……お母様の傍にいてあげてちょうだい」
もしもつらい、というのならば、戦いがつらい、というのならば。
母の傍にいてあげてほしい、とおもう。
それもつらいかもしれないが、だけどもいつか母が正気にもどる、そう信じたいのもある。
リフィル自身の覚悟はもうできてはいるが、弟まで巻き込みたくはない、というのが本音。
あの地ならば、ハーフエルフは無事に成長することができるはず。
それゆえの台詞。
「姉さん…ううん。違うよ。…ミトスと、戦いたくない、っていうんじゃないんだ。
  ただ、友達同士で争うのは間違ってる。そうおもうけど…だけど、ミトスがやったこと、
  やってることは許せないし、たぶん許してもらえるようなことじゃないとおもう。
  始めは、大地を…世界を救うための行動が、
  なのに、いつのまにか他人を虐げ、命をないがしろにする方法にしてしまっているミトスの行動は……
  でも、ミトスを倒したとしても、本当の意味でミトスを倒したことにはならない、とおもうから…
  だから、余計に……」
「ジーニアス。悪いけど、俺は、ユグドラシルを倒す」
「……うん」
ロイドならそういうだろうな、とおもっていた。
ミトスのしたことは間違いなく許されることではないのだから。
だからこそジーニアスはうなづかずはいられない。
ほんとうはうなづきたくなんてない。
だけども、ミトスを…ユグドラシルを止めないかぎり、クルシスは存続しつづける。
そしてそれぞれの世界で人々が知らないだけで犠牲はどんどん増えてゆく。
この四千年の間、そうであったように。
「でもって、ミトスをぶんなぐって目をさまさせてやる!」
「「は?」」
今、倒す、といったではないか。
なのに、目をさまさせるとはどういうわけか。
おもわずぱちくりと目をみひらいた、ジーニアスとリフィルの声が重なる。
「ユグドラシル、という呆れたクルシスの指導者を倒して、俺達の友達のミトスの目をさまさせる!
  俺達は、ミトスの友達なんだ。友達が間違ってたら止めるのが友達の役目だろ?
  そして、道を戻してやるのも役目だって、親父がいってた」
「止めるって……」
「こうもいうだろ?男はこぶしで語り合え!」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
コレットは先ほどきいていたので何もいわない。
ただ、にこにことロイドの横でしているのみ。
ロイドならばきっとミトスを助けてくれる。
それはもう盲目的ともいっていい信頼。
ある意味で恋しているからこそ信じ切っている、といってもよい。
「…ロイド、あなたって子は…そう、簡単にいく、かしら?
  たとえできたとしても、あの子がおかした罪は…つぐいきれるものではないわ」
ため息まじりにリフィルが頭をふりつつ、呆れたようにいい放つ。
そう、つぐないきれるものではない。
ただ、その事実を人が認識していないだけ。
「それでも、俺は諦めたくはない。だって俺達の知っているミトスは、非情なユグドラシルじゃない。
  いつも俺達のことを心配してくれた友達のミトス、なんだ。
  俺は諦めない。だってミトスは、あの勇者ミトスなんだろ?絶対に目をさますはず。
  というかぶんなぐっでても目をさまさせてやる!」
「あ…あははは!ロイドらしいよ。…うん、ロイドらしい。
  でも、そうだね。ミトスは僕たちの友達、だものね。僕もならあがいてみようかな」
「そうだぜ。諦めたらそこで終わり、だからな。俺は諦めない。
  コレットのことも、ミトスのことも…そして、クラトスのことも」
必ず、どこかに道はあるはず。
「あなたって子は……」
頭がいたくなる。
本気でいっているのだから余計に。
だけど、これこそがロイドだ、とおもう。
どんな困難なことがあっても、めげずに進もうとするその心。
…深く物事を考えていない、という理由もあるにしろ。
だからこそリフィルはコメカミをおさえつつも笑みをうかばせずにはいられない。
これが自分の教え子であることが情けなくもあり、同時にまた誇らしくもある。
「でも、あなたがそういう、ということは、決めたのね?ロイド、あなたは」
「え。うん。…明日、皆がもどってきたら、デリス・カーラーンへいく。
  明日、先生達にも話そうとおもってたんだ」
「やるべきことはわかってる。オリジンの封印をといて、エターナルソードで世界を統合する。
  人間の俺じゃあ、エターナルソードはユアンの説明をきくかぎり使えなさそうっぽいけど。
  ミトスの説得がうまくいけばそれも問題ないだろ?」
「…それだけではなくてよ。目的を達成するためには、ミトスだけではないわ。
  ミトスがあなたの説得に応じればミトスの命はともかくとして、クラトスは…
  オリジンの封印はクラトスの命を犠牲にしなければいけないのよ」
リフィルの言葉はまさに真実をついている。
クラトスが生きているかぎり、オリジンは解放されない。
ゆえに、エターナルソードは扱えない。
オリジンの封印をとかずして、ミトスにエターナルソードを扱わす。
それは無理のような気がする。
同じヒトによる契約の上書きというものができるかどうかすらもあやしい。
そして、上書きするにしても、エターナルソードにあのとききいたように、意思があるのならば。
オリジンを封印しろと命じたであろうミトスの契約の上書きを容認しないであろう、とも。
しいなのときのように、別人が上書き、正確にいえば書き換えるのならともかくとして。
「コレットのときみたいに道があるとおもう。それを信じて俺はすすむ。
  というか、ラタなんとかってやつをアステルがみつけてくれたら万事解決するんじゃないの?」
「…ロイド、それって他力本願といわない?」
おもわず呆れたような声をだすジーニアス。
何をいってるのか、ともおもうが、ロイドらしいともいえなくもない。
問題は、おもいっきり他人任せ、という点ではあるが。
「うるさいなぁ。でも、何とかなりそうな気がしないか?」
「どうかしら。でも…以前の私ならそんな夢みたいな方法はない、と断言したわね。
  この世界には決して変えられない運命があるって。私は信じていたから」
「先生?」
「先生…今は、どうなんですか?」
「……やっぱり、変えられないものはあるとおもうわ。
  でも、可能性を信じるのは悪くないとおもうの。自分でもこの気持ちの変化に戸惑っているのだけどね」
「姉さん?」
「ハーフエルフ、というだけでいつも追われていた私たち。でもそれは私が逃げていただけ、なのかもしれない。
  そう、思えたのよ。すくなくとも、イセリアの人達は私たちをしっているから、という理由で、受け入れてくれた。
  ロイドのいうように、人にも悪い人がいるんだから、ハーフエルフにもいい人がいてあたりまえ。
  その意見をもってして、ね」
いいつつ、
「ちょうどいいわ。ここでおさらいよ、ロイド、雪を拡大鏡でみるとどうみえるかしら?」
「うえ!?な、何だよ、い、いきなり……」
あからさまに嫌そうなロイドの声。
事実、嫌なのであろう、顔がおもいっきりしかめっつらにとなっている。
「はい。綺麗な六角形の結晶!ですよね、先生!」
そんなリフィルの問いに、コレットが元気よく手をあげて、答えを紡ぐ。
それは、まるで学校の授業の光景のごとく。
「そう。コレットのいうとおりよ。だけどね。雪結晶は降雪時の温度と湿度でまったく違う形になってしまうものなの。
  どれも同じにみえる冷たい雪、でしかないけども。
  だけど、周囲の環境に敏感に反応しているのよ。だからさらさらの雪もあれば、重たい雪もある。
  ロイド達には、雪が降り始めた時に説明したわね?」
イセリアにおいても異常気象によって雪がよくふっていた。
ちょうどいいので課外授業としてリフィルが拡大鏡をもちい、生徒達に教えたのはついこの間のような気がするのに、
それでいてかなり前のような気もしなくもない。
「えっと……」
「はぁ。あなたはあのとき、そういえば、雪玉をいきなりつくって投げていたわね……」
それをかわきりに、あっというまに雪合戦へと発展した。
リフィルからしてみれば、教師の立場として頭がいたくなる思いでではある。
「皆、同じようにみえて違うのよ。そう、違うの……」
同じ種族、ハーフエルフだから、人だから、エルフだから、ではなく。
それぞれ、一つづつ、まったく同じ結晶は存在していない。
「?先生?何がいいたいんだ?」
ロイドは意味がわからないらしく、きょとん、と首をかしげているのみ。
「はぁ。あなたに理解しろ、というほうが無理なのかしらね……
  とにかく、十人十色、雪の結晶と同じように、同じ種族でもそれぞれ異なるということよ」
「そんなの辺りまえだろ?皆が同じだったら…あれ?どうなるんだ?」
「ロイドと同じような人ばかりだったら、それこそ皆学校にいかなくなるとおもうよ。
  もしくは、いつも課外授業で遊んだりとか」
「あのなぁ!ジーニアス!」
そんなやりとりをしている二人の様子をみつつ、
「「くしゅん」」
くしゃみは、ジーニアスとコレット、まったく同時。
「あまり外にいると体にわるいわね。とにかく宿にもどりましょう。
  ロイド、あなたもよ」
「え?俺は、もうすこし……」
「夜更かしはきちんとした思考をも遮るわよ。
   それに、いくらあなたでも熱をだして寝込んだりしたら洒落にならないわ」
「それはないとおもうよ。姉さん、馬鹿は風邪ひかないっていうし」
「おう、今までひいたことはないぜ!」
「…ほめてないのに、どうしてこう、誉められてる、ととらえるのかしら…この子は……」
「とにかく、三人とも、宿にもどりますよ」
「「「は~い」」」
リフィルのこめかみがぴくぴくしだしたのをみてとり、あわてて素直になるロイド達。
リフィルがこのように変化をはじめたとき、そのあとに長い説教がまっている。
もしくはお仕置きか。
それを身にしみてロイドはしっている。
…もういい年なのだから、お尻叩きだけはやめてほしい、と切実に願うが。
ともあれ、リフィルのいい分もあり、ロイドもひとまず一応宿へと戻ることに。


「だぁぁ、寝られねえ…もう一回外にでるか」
なあ、ロイド、友達がもし間違ったことをしていたら、それを止めてやるのもまた友達ってもんだぜ。
そういっていたダイクの言葉が脳裏をよぎる。
「コレット達にはああいったけど……ま、なるようにしかならないか」
それでも、とおもう。
もしかしたらこの手で友達を殺すことになるのかもしれない、という不安と恐怖。
ミトスがセットくに応じなかったら、計画を止めるために、また大地を救うためにそうするしかすべはないかもしれない。
そう思いたくはないが。
ロイド?
「え?…気のせいか」
今、何か聞き覚えのある声で名をよばれたような気がしたが。
そんなわけないよな。
そうおもい、再び宿をでて歩きだす。
空耳まできこえるなんて、俺って気づかなかったけど、かなり気にしてたんだな。
そんなことを思いつつ。
自然と足がむかったのは、さっきと同じ場所。
教会の前の広場、町全体を見下ろすことのできるちょっとした展望台。
しばし町をじっと眺める。
「ロイド」
今度は空耳ではなく、たしかに聞こえた。
思わずそちらをちらり、とみれば、なぜかそこにはクラトスの姿が。
何ごともなかったかのように立っているクラトスの姿をみて、ほっとした自分にふときづく。
ああ、そうか。
俺、クラトスのこともあって心配して眠れないのもあったんだ。
今さらそう、ようやくきづく。
だけど何といっていいのかわからず、さらには体も硬直していうことをきかない。
やがて、ゆっくりと視界の中、クラトスが静かに自分の横にたったことにきづくが、
何と声をかけていいのかロイドはわからない。
しばし、無言でその場にて町を眺めているロイドとクラトス。
と、
「…ずっと、しってたのか?俺が……あんたの息子だって」
ずっときになっていたこと。
いつから知っていたのか、とかいろいろと。
聞きたいことは他にもあるのに、言葉がロイドはうまく紡ぎだせない。
「…お前の家でアンナの墓をみつけたときから……気づいていた」
ということは、始めから、ということに他ならない。
あのとき、コレットと一緒にやってきたとき、クラトスはといかけてきた。
あの墓らしき石は誰のものだ、と。
あのとき、コレットがロイドの元にいきたい、といわなければ、
クラトスとてロイドが実の息子だという確証は得られなかったであろう。
初めてあったあの場では、息子と同じ名であることにすら驚いたくらいなのだから。
「…なあ、母さんはどうして死んだんだ?
  …あんたは、知ってるんだろ?何があったのか、を。どうしてそうなったのか、を」
忘れてしまっている三歳より前の記憶。
否、普通、三歳より前の記憶はほとんどのものが覚えていないはず。
なのに、綺麗さっぱり、両親のことだけ記憶から抜け落ちているその不自然さ。
これまではあまり気にしたことはなかったが。
「……アンナは、お前も知ってのとおり。プレセアと同じエンジェルス計画にかかわっていた。
  クルシスの輝石を体内でつくる実験に、その研究に利用されていた」
「…ミトスの、無機生命体による千年王国の構想をしったとき、
  ……私はミトスと対立し、地上におりてアンナと出会った」
それまではみようとしていなかっただけ。
エクスフィアを体内でつくるという牧場の構想においても反対をしていた、というのに。
それでも、アメとムチは必要なんだよ、クラトス。
そういわれ、何もいえなくなってしまった。
「私は地上におりた。そのとき…アンナに出会った」
アンナとの出会いがあるいみ決定的だった、といえる。
それにより、クラトスは完全にクルシスを抜ける覚悟をし、アンナとともに脱出した。
人を愛する、そんな気持ちなどとうに忘れてさっていた、とおもっていたはずなのに。
冷めた口調でソレイユ王女にいわれたあの台詞をきいたあのときから。
「母さんが、プレセアと同じ…実験体……」
すべては、このエクスフィアから始まっていたのだ、ということを今さらながらに理解する。
幼いときからずっともっていたこのエクスフィア。
ダイクにいわれ、人にみせないように、といわれ手袋にて隠していたもの。
「アンナと出会って、私はミトスのやり方を黙認することが世界統合の早道だ。
  という考えが間違っている、と気づいた。いや、気づいていたが認めようとしていなかったのだ。
  ……私は、人の身でエターナルソードを使える術を模索した。
  そして、思いだした。当時、オリジンに対し、ミトスが提案した時のことを」
オリジンの気持ちはうれしいけど、もしも僕が傷ついたとき、僕の意思を代弁する人にも、
使用できるようにしてほしい。
そんなミトスの願いから、うまれた、とある品物。
「それが、エターナルリングとかいうやつか?」
「…ユアンからきいたか。そうだ。不足の自体にそなえ。
  万が一、自分の変わりを託せるものにも扱えるに、とミトスが提案し、オリジンが受け入れた」
クラトスもいって当時のことを思い出す。
あのときはこんなことになるなどどおもってもいなかった。
よもや、人にマーテルが殺される、などとは。
「…私と、アンナは二人してクルシスに追われる立場となった。
  だから、各地を転々とした。そして、やがてお前が産まれた」
ロイドが産まれたことにより、ミトスを討つ決心があのときについた。
その、はず、だったのに。
「…私たちはお前をつれ、不可侵条約を結んでいる、というイセリアに向かっていた。
  だが…クヴァルに見つかってしまい…」
そこまできけばロイドとて理解できる。
「…そして、母さんは化け物にされちまったんだな……」
「クヴァル達の手によって、エクスフィアか無理やりにはがされたのだ。
  要の紋がなかったアンナは体内のマナが狂い、魔物と化した」
それは、かつての国が行っていた生体兵器。
天使もまた生体兵器なれば、エクスフィギュアとよばれしそれらもまた兵器であった。
天使とは異なり、こちらは使いつぶし、使い捨ての。
「……異形と化してしまったアンナがお前を喰い殺そうとしたときに、ノイシュがお前をかばった。
  ノイシュが間にわってはいったことでなのかはわからないが、そのとき、
  アンナが一時的に正気にもどった」
あのとき、アンナの攻撃をうけて虫の息になっていたノイシュの行動。
ノイシュがその力をふりしぼり、クヴァルの肩にかみついたことにより、
クヴァルが人質としてつかまえていたロイドをその手から離した。
クラトスとノイシュは同時に動いたが、ノイシュのほうがはやく、
ノイシュがロイドを加えて逃げ出した。
その背にライトニングの術が、炸裂した。
ロイドを護ろうとしたのだろう、その雷光からノイシュは体をよじり…
ロイドごと、崖下にと転落した。
あのときのことは、鮮明にクラトスは思いだせる。
妻はエクスフィギュアにかえられ、ロイドはクヴァルにつかまっており。
クラトスは手だしがまったくできなかった。
何とか彼らを撃退し、そして崖下にとたどりついたとき…
そこには、ノイシュも、ロイドもいなかった。
あったのは、大量の血痕と、魔物に喰い荒されたとおもわしきディザイアン達の死体。
「…ノイシュが、助けてくれたのか」
だとすれば、ノイシュがいなければ今、自分はこうしていきてはいなかったということに他ならない。
そういえば、クラトスは以前、いっていた。
昔、動物をかっていたことがある、と。
それはまちがいなくノイシュのことなのであろう。
ノイシュはずっとクラトスの傍にいて、そしてロイドを護ってきてくれていたのだと今さらながらに理解する。
そう、ノイシュにとっての御主人さまの変わりに。
それは、クラトスがロイドがうまれたとき。
私の息子だ、ノイシュ、頼むぞ、お前もまたこの子を護ってやってくれ。
そういったことをノイシュはずっと実行していたに他ならない。
「ノイシュが魔物に…怪物に敏感になったのは、そのときのせいだろう。
  おそらく、そのときから……あいつは、アンナになついていたからな」
元来、プロトゾーン自体はかしこく、そして大人しい生き物である。
様々な種族をへて、彼らはその強さを増してゆく。
今は動物の姿をしているが、進化の果てに彼らは人型を成しえることとなる。
「…ノイシュは怪我をおい、アンナも傷ついた体で自分を殺すように嘆願してきた」
「……もう、いい」
だいたいわかった。
そのときのことが。
クヴァルがいっていた自分を人質にしてうごけなくなっていたという台詞。
おそらく、そのとき自分はクヴァルの手につかまっていたのだろう。
だからこそこれ以上、ロイドとしては聞くに堪えない。
自分から聞いておいてそれは酷かもしれないが、
ただ、無言に耐えかねて、気になっていたことを問いかけた。
それが自分にもクラトスにもつらいことなのだ、とわかっていながら。
あなた、私を殺して。どんなに自分を抑えようとしても、私は大切なロイドを殺してしまう。
だから、ロイドを助けるために。
そう懇願してきたアンナ。
できるはずがなかった。
オリジンを封印してのち、再上級の術…レイズデットが使用できなくなっていること。
それが今さらながらにあのときほどクラトスは悔やまれたことはない。
命をかけた封印は、文字通り、死者を読み戻すほどのマナを紡ぐレイズレッドを使用する。
ということに封をせざるをえなかった。
この姿になったものを元に戻す方法、それはレイズデッドしかない、とわかっているのに。
今、それが使用できないこと、それがどれほどきついことなのか。
「だが、再びアンナが暴走し、そして、お前を狙った、私は……」
「…もう、いい!」
「…私は、アンナを殺した」
「もう、いいっていってるだろ!」
わかっていても、つらい。
今さらながらに理解できてしまう。
プレセアが、リーガルを許せないが、許す努力をする、といっていたその言葉の重みが。
ロイドにとってそれが実の両親であった、という違いはあるにしろ。
何ともいえないやりきれない思い。
感情のまま、そのまま拳を目の前の柵にと叩きつける。
痛いはずなのに、痛みが感じない。
それどころか、気のせいか、心が、痛い。
ロイドにとっては酷な話しなのであろう。
それは理解している。
が、今話さなければ真実をロイドに伝える機会は二度とない、とおもう。
だから、クラトスは止まらない。
命をかけてロイドを護ろうとしたアンナのためにも。
「その後、クヴァルが襲ってきて、お前とノイシュはエクスフィアごと崖からすべりおちた。
  クヴァル達を退けて、崖を降りたが…残っていたのは怪物に口散らかされたディザイアンの死体だけだった。
  大量の血痕…もう、生きてはいない、とおもった」
「……それで、あんたはクルシスにまたもどったのか?」
「私はオリジンの封印そのもの。殺せば封印が解ける以上、ユグドラシルも私を放置できなかったのだろう」
「あんたは、それでよかったのか?あんたは、一度はミトスのやり方に反発したのに!」
ロイドのまっすぐな視線にたえられない。
ゆえに、自らの影をじっとながめるように視線をずらし、
「もう、何もかもがむなしくなったのだ。大地が元にもどるなら、それでもいい、とおもったのだ。
  ……お前にであうまでは」
「オレ?」
「お前はミトスに似ている。ミトスもお前のように世界を救おうと必至だった。あきらめなかった。
  虐げられても、何をされても、迫害をうけても、常に前を向いていた。
  …マーテルを、ヒトに殺されるまでは」
「……勇者って、よばれてたんだよな…あいつ」
誰もがしっている勇者ミトスの英雄話。
誰もが無理だ、とおもっていた戦争を仲間達ととめた、英雄。
長きにわたる、数百年にもおよぶ戦争をとめた、古代勇者ミトス。
「そうだ。しかし、ミトスとお前では決定的に違うところがある」
「種族のさってやつか?」
「いや、違う。ロイド、お前は自分が間違える生き物だとしっている。
  いや、間違いを犯しても認めることができる。それは勇気だ。
  ミトスも、私も…それができなかった」
「間違いを認める…勇気」
間違いはたしかに認めている。
が、その間違いを正せているか、といえばロイドは自身がない。
いつも、間違えない、といってはいるが、常にロイド自身、間違った選択ばかりよくしている、のだから。
あのときも、そして、今も。
「我々は謝った道を正せなかった。過ちは正せない、と諦めた。が、お前は諦めなかった」
「……だったら。あんたはもう気づいているんだろ?間違いは正せるんだ。
 今からでもいい。あんたの命を犠牲にしなくてもオリジンを解放できる方法を探して…一緒に……」
一緒に戦い、そしてミトスを止めよう。
そういいたいのに、何もいえない。
言葉がでてこない。
間違いは正せる。
そう信じている、が、それが真実、きちんと自分が実行できているか、といえば答えは否。
「私には、まだやるべきことがある。お前にそれを託すまでは私はお前と共に戦うことはできない」
「やるべきことって……」
「エターナルソード。それをお前に託すまでは……お前も死ぬな」
「クラトス!どこへ!」
そういい、クラトスはその場から背をむける。
クラトスの耳にとどいてきたのは、まちがいのない天使の翼の羽の音。
羽ばたきが聴こえるということは、物理翼をもつ下級天使達に他ならない。
このままでは、ロイドだけでなく町の皆をも巻き込みかねない。
「……ユグドラシルをこのまま放置するな。今のあいつはいくらでも命を犠牲にできる。
  コレットを奪われる前に…ユグドラシルを、ミトスを…とめてくれ」
「ああ。止めてやる。デリス・カーラーンにのりこんで、あいつを止めてやるさ!」
ロイドのことばをききつつも、クラトスはその背に翼をだし、あっというまに、
高台のその場から飛び立ってゆく。
そんなクラトスの飛び立った空をしばしながめていると。
きゅ~ん。
ふと、ロイドの傍にノイシュがなきつつよってくる。
「ん?ノイシュ。何をくわえてるんだ?」
ウォーン。
何かを訴えるような声。
よくよくみれば、ノイシュは何かを加えており、それをロイドの手にと口ごとすりつける。
ノイシュが加えていたのは、古ぼけているロケットペンダント。
「ペンダント?こんなもの、どこで……これ、クラトスと…母さん?」
かちり、とロケットになっているそれを開くと、そこには赤ん坊をだきかかえている男女の姿が。
一人は、クラトス。
今とまったく姿はかわっていない。
もう一人はロイドは知らないが、どこかなつかしく感じる笑みを浮かべている女性。
「じゃあ…この赤ん坊は…俺……」
ウォーン、ウォーン。
それは、テセアラでは主流だという写真機というものによってとられたのであろう。
肖像画よりも鮮明に、家族の姿をそこにうつしだしている。
クラトスの傍で笑みを浮かべている女性、そして赤ん坊。
赤い髪の赤ん坊。
ならばおそらく間違いはない、のであろう。
この赤ん坊がロイドであり、そしてロイドをだいているのが、ロイドの母、アンナなのだろう、ということが。
よくみれば、アンナの胸のところにエクスフィアらしきものがみてとれる。
それはプレセアと同じ位置につけられており、さらに胸がしめつけられる。
「そっか。クラトスから預かったんだな」
クウォーン。
「わかった。これはオレがもってるよ」
いいつつも、しばし、クラトスが飛んで行った空をみあげる。
クラトスがいっていた。エターナルソードを自分にたくす。
その意味がロイドにはよくわからない。
今、あれはミトスが所有しているはず、なのに。
「まさか…クラトスのやつ…一人で……」
全ての決着をつけるために、一人で行動しても、彼の性格からして…おかしくは…ない。
何ともいえない不安。
だが、その不安に答えてくれるものは、ここには、いない……


                            ――Go To Next

Home    TOP     BACK    NEXT

$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$

あとがきもどき:
薫:エミルの影がまったくみえない、というあら不思議(こらこらこら
  ラタ様、そろそろ本格始動ですよ~うふふふふ~
  すでに理を新たに引き返されていることもしらないロイド達。
  次にてコレットが囚われる場所までようやく突入。
  …間の仲間達が次々にわかれてゆく様は、さらり、と流す予定(まてこら
  マーテルが疑似復活するあたりまでいけるかなぁ?
  ともあれ、ではまた次回にて~♪

2013年10月11~16日(金~水)某日

Home    TOP     BACK    NEXT