まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

…あれぇ?ファンダムのシーンの台詞集、書きだしたA4用紙…どこいった?汗
パソのメモ帳には一部しかまだ書き写してないのに…あうあうあう…
クラトス編ではロイド達の背後でのクラトスの様子が描かれていましたからねぇ。
…おかしいな?…本気でどこにいったんだろう汗
ちなみに、副題が某、いつまで時間がループするの状態の。
しかもなぜに高校生なのに出席日数やら単位やらで退学にならないの?
の状態の思いつきネーミングの探偵のようだ、とは気にしないでくださいv
あれもあるいみでサザエさんループvv
さてさて、あとがきに恒例?の別話、15です。この次にあるとすれば次はようやくパルマコスタv

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「…エターナルソードが目の前にあるのに何もできないなんて……」
目の前にあるのはまちがいなく、この世界を元にもどすための要だとおもうのに。
何もできないのがもどかしい。
ユグドラシル達がたちさり、一応は剣にちかづけないか、といろいろとやってみた。
だが、すべてみえない壁にと阻まれた。
「…仕方がないわ。私たちにはどうすることもできない。
  と知っているから、ユグドラシルは剣をここにおいていったのよ」
それ以外にもここにおいておく必要性がある、のであろう。
それはもう直感的な確信。
「ユグドラシルのいっていた、資格、とは何だろう」
資格がないものには無駄だ、と確かに彼はいっていた。
「おそらく、精霊の契約のことじゃないのかい?オリジンから授かったってさっき調べた内容にあったはずだし。
  契約によっておそらくこの剣をあいつは預かったんだよ。
  どうせ口先さんすんでまるめこんだか、それとも……」
ロイドの言葉にしいながこたえ、考えられる可能性を口にしようとして思わず口ごもる。
これを口にしてしまえば、彼がこうして世界を二つにわけたことを認めてしまわなければならなくなる。
そうおもうからこそ、それはいえない。
二つの世界にわけなければ、大地はマナ不足で消滅していたからじゃないのかい、とはいえはしない。
「大地の存続。それを条件としてユグドラシルが提示した、のかもね。
  おそらく、期間は彗星、デリス・カーラーンが惑星に最接近するそのときまで、として。
  精霊達にとっては彗星の接近までの時間は微々たるものでしかないでしょうし」
「が、勇者ミトスは姉を殺され、精霊たちを裏切った…か」
「でしょうね。それからずっとこの世界は四千年もの間、停滞してしまっている……」
リフィルとリーガルがそんな会話を交わしている。
おそらく、それは間違いない、のであろう。
そして、さきほどの行動、そして台詞。
もう、確信をもっていえる。
自分達の知っている彼が、予測していたとおりの者であった、ということが。
…でなければ、身を呈してジーニアスをかばうような真似をするはずが、ない。
それゆえに無言で互いに顔をみあわせうなづきあう大人たち。
どちらにしても、子供達を護るのは大人の役目、なのだから。

光と闇の協奏曲 ~真実はいつも一つ~

「もどってきたんですね」
ロイド達が無事に脱出したのは先ほど確認した。
もっとも、神子が脱獄したことが判明し、今では大騒動になってはいるようだが。
救いの塔の外へとでて、おもわずぽつり、とつぶやくケイト。
いきなりクルシスの拠点だという場所につれていかれ、
そこにて要の紋を作成しているドワーフ達の詰め所をかねた研究所にと送られた。
クラトス曰く、彼女は地上でハイエクスフィアの作成を人工的に成功に近づけたものだ、そう紹介し。
要の紋がどのように創られているのかの見学としてつれてきた、
といかにも最もらしいことをいうクラトスの言葉をドワーフ達は疑うことなく、
ケイトを心よく受け入れていた。
クラトスが迎えにきたときも、ドワーフ達のほうがもう見学はおわりか、と残念がっていたほど。
中には、五聖刃の候補にあんたならなれるかもな、とまでいわれてしまった。
彼女のやり方ならば、人を犠牲にする、のではなく、その人をつかってハイエクスフィアを量産できるかもしれない。
もっとも、ハイエクスフィアとなりしエクスフィアを植え付けられた人間の犠牲はあれど、
今ほど大量に人を犠牲にしなくてもすむかもしれない、というドワーフ達の思い。
もっとも、ウィルガイアにおいても魔物によってエクスフィアが消えてゆく被害が多発している最中、
ドワーフ達からしてみれば、ラタトスク様が目覚められたのだろう、
ならばこのような世界も終わりをみせるか、というような感覚でしかないのだが。
しかし、ミトスの契約というか加護が失われたわけではない。
ドワーフ達がミトスに協力しているのは、ラタトスクの加護をうけているがゆえ、なのだから。
エターナルソードの契約には、二つの要因が必要となっている。
一つは、精霊オリジンとの契約、そしてもう一つはラタトスクの加護の証たるデリスエンブレムの所有。
エターナルソードをミトスが所有している限り、ミトスが加護をうけていることには疑いようがない。
「どこへおくればいい?サイバックか?」
そんなケイトにと、勝手にクルシスの拠点につれていき、
またこうして地上にもどしてきているクラトスが何やらいってくる。
「いえ」
「ならばオゼットか。あそこはもう何もないが」
そういえば、とおもう。
ケイトがいた場所もオゼットがあるあの森だった。
なぜ人がいなくなった村にいるのかクラトスとてよくわからないが。
「できるなら私はあの村を復興させたいのです。父の故郷ですし。プレセアにもひどいことをしてしまいましたから」
「…そう、か」
ふと、かつて、妻…アンナがいっていた彼女の故郷の話しを思い出す。
ルインの街のその名の由来を。
ルインとは、古い言葉の意味で、廃墟、という意味を指し示す。
それは、古代デリスカーラーンからの原語、だという。
「…ならば、ルインのようになる、のだな」
「え?」
「何でもない」
ケイトにルインのことをいっても、彼女はわからないであろう。
彼女はシルヴァランドにいったことがないはず、である。
古代大戦で破壊され、そして再建設された町。
たとえ廃墟になったとしても、また復興するため、という理由から、町の理由がルインへと改められた。
破壊と再生は常に紙一重。
だからこそつけられた名。
「ルイン、とはたしか、古代語で廃墟、という意味なのでは?」
「さすがに博識、だな」
そんな会話をしている最中。
「くらえ!」
突如としていきなり攻撃が二人に…正確にいえばクラトスにむけて繰り出されてくる。
「くう!ユアン!何のつもりだ!」
みれば、どうやらユアンがそこにきている、らしい。
いつのまに、という思いもあるにはあったが、そういえば、とおもう。
こいつは、ロイドのエクスフィアというか要の紋に発信機をつけていたな、と。
「どうということもない。ただ我々とともにきてほしい」
淡々と語られるユアンの台詞にはまったく悪びれた様子がない。
「ことわるといったら?」
「ここで戦うことになる。本気で戦えば互いに無傷ではすまないだろう
  そこのハーフエルフの女もまきこまれるかもしれんな」
いつのまにか、今の一撃を防ぐためにケイトの傍を離れていたせいか、
ケイトの背後にはレネゲードの一員とおもわしき者達が控えているのがみてとれる。
「わたしのことはきにしないでください」
ケイトはそういうが、そういうわけにはいかないであろう。
これ以上、クラトスとしては関係ないものを巻き込みたくはない、というのが本音。
「よくてなづけてあるな。だが忘れてわけではなかろう?
  おまえの息子のそばにテセアラの神子がいることを」
「ロイドに何をするつもりだ」
ユアンの言葉にクラトスの視線が一瞬見開かれる。
ゼロスがクルシスにも、レネゲードにも接触をとっていることはしっている。
いるが、今まで直接、ロイドに何か、危害を及ばすようなことはなかった…わけではないが。
少なくとも先日までは、ロイドとユアン達レネゲードは協力体制を引いていたはずである。
「おとなしく我々とともにくればどうということはない。今のところはな」
「わかった」
おそらくユアンの台詞に嘘はない。
何かの考えがある、のであろう。
だからこそ、ここはうなづくしかない。
「クラトスさん!」
「きにするな。ケイトをおまえたちにまかせてもよいか?」
「よかろう。部下におくらせる」
このあたりの律義さに関してはクラトスはユアンを信頼している。
…まあ、昔からどこかが肝心なところで抜けているところはあるにしろ。
「ならば私をどこへなりとつれていくがいい」
「この調子でおとなしくいうことをきいてくれるのならばいいのだがな。つれていけ」
「「は」」
「クラトスさん!?」
ケイトの叫びにも近い声が聞こえるが、彼女を巻き込まずにすむのであれば、それでいい。


「よっしゃあ、メシにしようぜ、メシメシ~」
「元気だなぁ」
「そういえば、今日の当番はゼロス、だったわね」
食事は当番制。
といっても、全員一致の意見でリフィルはなぜか配膳係、のみに設定されているのだが。
アルテスタの家にともどり、とりあえず、クルシスの拠点であろう、ウィルガイアで見聞きしたことを報告しているロイド。
「?どうかしたの?ジーニアス?」
ちらちらと自分をみてくるジーニアスにきづき、ミトスが首をかしげつつといかけるが。
「あ、あのね、あの……」
言葉をいいたいのにいえない。
ミトスがあの勇者ミトスで、あのユグドラシルなの、と。
もう、確信をもっていえるのに。
それに、この古ぼけた笛はミトスにとって大切なもの、のはずなのに。
返したいのに、どこで拾ったのか、ときかれれば答えに窮する。
だからこそ、
「…ミトス、僕たち、友達…だよね?」
「え?う、うん。どうしたの?」
「なら、いいんだ、僕、信じてるから」
それだけいい、
「今日の担当は、ゼロスとリーガル、だったっけ?」
「うむ。味付けは神子のほうが得意とするところなのでな」
リーガルも自分の舌に自信があるが、ゼロスほどいろいろとこった料理をたべているものもいない。
神子、という立場上、そういった機会にも様々な形でゼロスは恵まれている。
運ばれてきた料理の数々。
「ん?…なんか、飯くったら、ねむくなっちまった…俺、先に横になってるわ」
「食べてすぐに寝たら体にわるいよ?」
「大丈夫か?やはり疲れがたまってるんじゃないのか?」
「大丈夫だよ。ただ、ちょっと横になるだけだから」

熱くるしさに思わず目がさめる。
起き上がろうとするが、体に力がはいらない。
ぼんやりしている最中、しばらくすると、体がしびれていることにふと気づく。
!体がしびれてる…なぜ?
しかしだんだんと体が軽くなっていく感覚。
ふと自由になった瞳をあけると、そこになぜかユアンの姿が。
どうやら、ユアンがロイドに何か術を施し、しびれを解除してくれているらしい。
なぜユアンがここにいるのかが気になるが。
「……父親にあいたくないか?」
「!?親父に…親父に何かしたのか!?」
自由になった体にて、どうにか起き上がる。
多少体が重くかんじるのは、ロイドの気のせいか。
しかし、父親、といわれて黙っていられない。
まだしびれが多少のこってはいるが、そのままユアンに促されるままに、
ロイドとしては外にでてゆくしかすべはない。

「ここにつれてくるとはな」
ユアン達につれられてきたのは、アルタステの家。
だとすれば答えはおのずと明らか。
「クラトス様。無駄な抵抗だけはなさいますな」
「ユアンのやつ、手段はえらばぬ、というわけか」
おそらくは、種子の発芽が今の状態では完全にはならない、そう理解し、
だからこそ当初の予定通り…オリジンの解放とエターナルソードの使用、の計画に踏み切ったのであろう。
がちゃり。
「ユアン、こんな夜中に、いったい何を……」
扉が開く音とともに、ロイドが扉の向こうからでてくるのがみてとれる。
クラトスからしてみれば、隠しつづけていたことがついにロイドに知られてしまうのか、という思いのほうがつよい。
知っていてほしい、けど知らないままでいてほしい。
様々な葛藤があるものの、こうなってしまってはどうしようもない。
「クラトス!レネゲードはクルシスとは敵対関係なんだろ!なのにどうして……」
ユアンにうながされ、外にでたロイドがみたのは、レネゲード達、なのであろう。
ディザイアン達によくにた格好の武装兵達にかこまれているクラトスの姿。
「しずかにしろ。もっとも、皆薬がよくきいてくっすりねむっているだろうがな」
そんなロイドに淡々といっているユアン。
その言葉にはっとする。
「薬だと?!親父はどこだ?親父に何かしやがったらおまえら全員ただじゃすまさないぞ!」
薬、という言葉でもしもダイクに何かがあったのなら、とおもってしまう。
あの父親はどこかが抜けている。
もっとも力ではドワーフたるダイクに彼らがかなうはずがない、ともおもうが。
薬でももられていれば、話しは別。
おそらく誰も起きてこないのは、全員が何らかの形で薬を盛られた、のだろう。
変なものを食べた記憶はないので、もしかしたら家の中に、
何かの効果を含んだ煙か何かを流しこまれたのかもしれない。
「わめくな。ロイド。久々の親子の対面にそんな無粋はないだろう、そら」
いいつつ、ロイドの肩を、どん、とおす。
「うわ!?」
ユアンに肩をおされ、おもわず一歩前につんのめるようにして進みでる。
それを合図にしたかのように、すばやくロイドの背後に二人のレネゲード達が、
あっというまにロイドに武器をつきつけ拘束する。
拘束、といってもロイドの自由が完全に奪われたわけではない。
ただ、ロイドにむかって武器をつきつけられている状態である、ということのみ。
「やはりそうか。ハイマで私をねらった暗殺者はお前だったのだな」
そんなユアンにたいし、クラトスが、やはり、というような口調で言い放つ。
そうではないか、とおもっていた。
あのとき、自分は諦めてしまったが、ユアンは諦めずに着々と準備をしていたことをクラトスは知っている。
そして、ユアンほどクラトスにとって家族が鍵である、と理解しているものもいないであろう。
「クラトス。息子の命が少しでもおしいとおもうのなら、我々に従え」
いいつつ、剣をすらり、と抜き放ち、クラトスのもとにとつきつけるユアン。
「何を……いってるんだ?」
ロイドは、ユアンのいっていることが理解できない。
理解できない、というよりは無意識のうちにしたくないという思いが働き拒絶反応を起こしている。
「オリジンの封印を解放しろ。さもなればロイドはここで死ぬことになる」
さすがに、そこまでいわれれば、ロイドとて理解する。
理解せざるを得ない。
剣をつきつけられているのは、自分。
そして、今、ユアンは、クラトスにこういったのである。
息子の命が少しでもおしいとおもうのならば、と。
ここに、ロイド以外の…レネゲードに捕らえられているものは見当たらない。
だとすれば、答えは…信じたくはないが、一つしかない。
「う…うそだろ?クラトスが俺の…親父なわけないだろ……おれは信じない、信じられない!」
それはもはや錯乱に近い声。
ああ、やはり傷つけてしまったか、そんな思いがクラトスの中をよぎる。
「実の息子にここまで否定される気持ちはどんなものだ?」
「ふ」
それはもうわかりきっていたこと。
今さら、父親だといってどう顔をあわせればいいのだ。
まだ、全ての材料はそろっていない。
すくなくとも、自分が父親としらないままに、ロイドに後を託したかったのだが。
ロイドならば間違えないであろう。
かつての、あの当時のミトスと同じ志をもっているようなロイド、ならば。
だからこそ、息子に…ロイドにかけた。
ミトスが、世界を見殺しにする、そういいきったとしった以上、もう迷いはない。
自分のしっているミトスはもう、いないのだ、と。
いや、本当は決心していたのだ。
あのときに。
それでも家族をうしなったあのとき、もう全てがどうでもよくなった。
それに、ともおもう。
確実大樹の精霊は目覚めているはず。
ならば、あのときの人の過ちは同じヒトである自分が責務を負うべきだ、ともおもうのもまた本音。
もう、すでにミトスと刺し違えてもミトスをとめる覚悟はできていた。
だからこそクラトスは動じない。
本気でユアンがロイドを殺すつもりがない、というももうすうす理解しているがゆえに。
ユアンとてわかっているはず。
一度は裏切った自分達には再び力はかさないだろう、と。
それはクラトスがユアンにいったこと。
エターナルリングのこともいってある。
よしんば世界を戻すことに成功したとして、そこにヒトが生き残っているか、
否、人だけではない、知的生命体とよばれしものたち全てが生き残っているか、といわれれば答えに窮する。
あのエミルがいっていた。
彼にとって、知的生命体とよばれしものはヒトでしかない、と。
おそらくそれは、精霊達の視点でもそうでしかないのだ、とおもう。
ミトスと契約していた精霊達もいっていた。
同じ人同士でいがみあい、争いをするヒトは愚かでしかない、と。
「その様子では、オリジンの解放に同意するつもりはないようだな。
  それならば、お前にしんでもらうだけだ!くらえ!」
「うわ!?」
ユアンが目配せすると、ユアンの部下の一人が、ロイドに切っ先をつきつける。
「!」
クラトスが思わず動こうとするが、
「動けば息子の命はないぞ。……貴様は、家族ができてかわったな。
  十五年前のあのときも、我々がかけつけたとき、おまえはアンナを化け物にかえられて、
  抵抗のすべを失っていた」
その台詞をきき、ロイドがその表情に怒りをにじませて顔をあげる。
「え?」
「…アンナも、お前にさえついていかなければ、あのような姿になることもなかった。
  …あるいみで、哀れな女だ」
どうやって出会ったのかはわからない。
クラトスがクルシスを…ミトスを見限って地上に降り立ったのは七十年前。
クラトスが提案した、人工的な人形、エクスフィアをもちいたからくり人形を器の変わりに、
という実験が失敗してのち。
やはり、人形なんかじゃ、姉様はきにいらなかったんだよ。
そういっていたミトスの姿は今でもユアンもはっきりと思いだせる。
クルシスから逃げていたクラトスと、そして培養体であったアンナ。
どちらにしても追われることには変わりがない。
そして、息子がうまれたとき、クラトスはミトスを討つことをすでに決めていた。
だからこそ、ユアンに後のことをたのむ、とまでいってきた。
それなのに、あのとき、アンナを手にかけ、息子まで失った、と理解したクラトスは、
完全に抜けがらのようになってしまっていた。
あのミトスですら心配するほどに。
まだ、ミトスに人を心配する心がのこっているのならば、どこかに救いは…
と当時のユアンですら思ったほど。
「な!母さんを愚弄するな!」
しかし、ロイドは当然のことながらそんな彼らの事情は知らない。
言葉ままに、母親が愚弄された、ととらえおもいっきりいきりたつ。
少し冷静に考えればどうみても愚弄してるわけではない、とわかったであろうに。
混乱し、さらに母親を愚弄されたとおもいこんだロイドはそのことに気付かない。
気づこうとすらしていない。
そのまま感情のまま、ロイド自身を拘束しているレネゲード達を振り払い、
感情のままにユアンに殴りかかろうとする。
その攻撃をユアンは体をひいてさけると、そのまま術の攻撃態勢にとはいる。
別に殺そうとおもっているわけではない。
ただ、動けなくしたほうが、この頭に血がのぼったどうみても誰ににたのか不明なれど、
熱血馬鹿としかいいようのない子供をおちつかせるのに効果的だ、と判断しての行動。
クラトスの子なのに、慎重深さがかなり足りなさすぎる。
育った環境にもよるのかもしれないが。
その瞬間。
理屈ではなく、クラトスの体が本能的に動きをみせる。
それはもう、咄嗟的な行動、といってよい。
あるいみで無意識の行動。
クラトスは低い体勢で大地をけり、ユアンとロイドの間に大きく身をわりこませる。
それはほんの一瞬のこと。
ユアンの術が繰り出されるのと、クラトスが割ってはいったのとほぼ同時。
ロイドの手前で炸裂するように放ったユアンの術は、
クラトスが間にわってはいったことにより、おもいっきりクラトスを直撃する。
「クラトス!?」
何がおこったのか、ロイドには理解できない。
いや、したくない。
敵だ、とおもっていたあれほど自分達を裏切っていたクラトスが。
こともあろうに、自分の本当の父親で、そして今…
「あ…あ…」
「…無事か?なら…いい……」
ロイドを抱きかかえるようにしてかばったクラトスは、そのままゆっくりと地面にと倒れこむ。
どさり、とした何ともいえない音。
と。
「ユアン様、報告が……」
ユアンの背後より、ボーダがあらわれ、ユアンに何ごとか耳打ちする。
どうやら報告があったらしい。
移動するようだから気をつけろ、と。
「わかった、後はまかせたぞ。ボーダ…死ぬなよ?…やはり、人の親だな、クラトス」
「は」
ユアンが放つ攻撃にきづき、クラトスが思わずロイドをかばうようにして攻撃をうけた。
その光…思いっきり術の直撃をうけ、その場に倒れ込んでいるクラトス。
息子をかばったクラトスをみて、そういいすてつつも、その場から立ち去るユアン。
その姿はまくたたくまに、森の中にと消えてゆく。
かばって傷つく様はみていられない。
それはマーテルを思い起こさせる。
あのときと、同じ光景。
人が奪おうとした大いなる実りを護り、命を落としたマーテル。
そのときの攻撃でマーテルが宿していたハイエクスフィアも欠けてしまった。
大いなる実りにマーテルがハイエクスフィアごと取り込まれなければ、
確実にマーテルはあのとき、死んでいたであろう。
だけども、ともおもう。
あのとき、マーテルが大いなる実りに融合、という形をとならなく、あのまま死んでいたら。
今のような世界も…ミトスも今のようにまではならなかったかもしれない、と。
もしくは完全に人の愚かさのせいで種子が失われてしまっていたか。
そのどちらか、でしかありえない。
「クラトス…あ…あ……う…うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
本来ならば天使化しているクラトスは自身の体を無機化することが可能。
が、今のクラトスはそれすらできない。
意識がもうろうとし、マナをうまく操れない。
クラトスとて理解している。
自分が無意識に行った今の行動は、マーテルを連想させてしまう、と。
それは、ユアンにとってはきつい光景であったであろう、ということを。
そんな中、ロイドの慟哭にも近い叫び声が夜の闇の中にと響き渡ってゆく。
静かな夜だからこそ、その声はよく響く。
「ロイド!?どうしたの!これは、一体……」
「こりゃ……」
その声に目を覚ましたコレットと、そしてゼロスとがアルタステの家の中よりでてくるが。
コレットが目にしたのは、レネゲードのユアンと、そしてロイドの前に血を流し倒れているクラトス。
レネゲードとクラトス。
そしてロイドの様子。
それだけでゼロスは何となくだが状況を察する。
ロイドはまだ叫びつづけている。
「俺は…俺は、一体、何を信じたらいいんだ!?」
頭をかかえるようにして、半狂乱になって叫んでいるロイド。
「ロイド、しっかりして!」
「嘘だ!クラトスが…俺達を裏切ってコレットを苦しめたあいつが、俺の父さん!?」
コレットの声は今のロイドには届かない。
「…ちっ!こら!ロイド!俺を失望させるなよ!お前が今までいってきたことはすべて嘘っぱちか!
  立場も人間も何も…関係ないんだろ。心は同じなんだろ?
  たかが、父親程度のことでぐらついてるんじゃねえ!」
このように取り乱している、ということはやはり、というべきか。
口ではいいことをいっておきながら、本質的なことをこのロイドは理解していなかったという証拠。
人には散々、関係ない、といっておきながら、いざ自分の身にふりかかればこのありさま。
ロイドが心からそうおもっているのか、それともただのうわべだけの偽善者なのか。
何も考えていない熱血馬鹿としかいいようがないロイドだからこそ、偽善者というのはありえないが。
考えていないからこそ、残酷な方向をとっている、という可能性もある。
それでなくてもゼロスは前々からクラトスがロイドを利用していたことにいらだっていた。
親は子をまもるべきはず、なのに、クラトスは逆にロイドを利用していた。
だからこそ、いらいらしてしまう。
そんな中でゼロスが思わず叫んだその言葉はゼロスにとってあるいみ本音、といえるであろう。
誰も信じられなかったゼロスを信じる、といったロイド。
その台詞がうわべだけのものなのか、そうでないのか。
ただ、何もしらないだけの、綺麗ごとをいうだけの子供でしかないのか。
何もしらない無垢なる子供は時に残酷なことをも平気でおこなう。
それがヒトであるならばなおさらに。
「ロイド!自分を見失わないで!
  誰の血をひいていても、どんな産まれだったとしても、あなたはあなたでしょう!」
それは神子達の声。
世界を再生するための神子と、偽りの責務を与えられた神子達の声。
「…俺は…俺?」
コレットの言葉と、ゼロスの言葉にようやく少し正気にと戻る。
ロイドにとって、どこかで覚えがあるような台詞。
「どんな姿になっても、天使になっても私は私だって…そう、いってくれたのはロイドだよ!」
そう。
そうだった。
自分はたしか、コレットにそういった。
なのに、自分は?
クラトスが父親だ、ときかされて、混乱した。
自分はなら、敵の子なのか、コレットを殺そうとしているやつの子なのか、と。
そして、こんな世界をつくった仲間の子なのか、と。
だが、それはロイドがかつてコレットにいった台詞を自分が否定していることと同意語。
誰の子でも関係ない、そういいきったのはほかならぬロイド自身。
「俺…は……」
そのことを思い出す。
あのときの自分は本当にコレットの気持ちをわかっていったのか?
ただ、うわべだけで、そういったのではないのか?
そう思っていたのは本当だった。
だけど、自分の身にふりかかれば、それがどれほどつらいことなのか。
今さらながらに理解した。
今までは口ではいっていても理解していなかったのだ、と嫌でも思い知らされる。
何も考えてないよね、ロイドって。自分で理解しようとしてないでしょう。
そうエミルにいわれていた言葉すらロイドの脳裏によみがえる。
そう。
自分は理解しようとしていなかった。
それがどんな意味をもつのか、ということすら。
それを理解し、一瞬自分が道化におもえてきてしまう。
今度は他人を巻き込んでのこと、ではなく、自分自身にたいし。
間違えない、といったのではなかったのか?誓ったのではなかったのか?
だけど、この体たらく。
頭では理解していたつもり、だったのにまったく理解できていなかった。
それに感情がついていかない。
自分が…どれほど愚かなことをいっていたのか、今さらながらに理解した。
けど、だからといって自分が掲げていた理想を覆すようなこともしたくない。
矛盾した思い。
「…それに、クラトスさん、ロイドをたすけてくれたんだよ」
「…ああ、そう、だな」
陰っていた月がゆっくりと姿を現す。
なぜか、昼間は常にもう一つの大陸が視えているはずだというのに、夜はまともに夜空がみえている。
このあたりは、アルタステ曰く、おそらくは互いの世界を認識させるシステムの誤差が生じているのでは。
ということらしかったらしいが。
「……ありがとう、でもやっぱり、俺はあんたを父さんとは呼べない」
「…ロイド」
倒れているクラトスの横に膝をつき、だけどロイドが意をけっして話しかけている様子が、
コレット達の目にはいる。
その台詞にコレットが悲しそうな顔をし、ゼロスが舌打ちしたことにも気づかない。
やっぱり、こいつはうわべだけでしかない偽善者だったのか。
というような思いをゼロスが抱いたのは、ロイドが知るところではない。
「あんたの、クルシスのやり方は嫌なんだ。今までたくさんの人が死んだ。
  シルヴァランドやテセアラの人も。レネゲードやクルシスも。
  ディザイアンも、皆、犠牲になった人達だ。
  でも、目的の為には犠牲がでてもいい、なんて思えないよ。死んでいい命なんて、ない
  死ぬために産まれる命なんてあっちゃいけないんだ。
  オレはコレットをたすけるために、世界を見殺しにはしない。
  最後の最後まで、皆が生きる道を探したい」
ほら、やっぱりこいつは偽善でしかない。
偽りの美しい理屈では、世界はなりたたない。
それでも、まだ偽りの理想、誰も犠牲にしたくない、という理屈をいうロイドにたいし、
呆れるしかないが。
と。
パチパチパチ。
ゼロス達の背後から拍手する音がきこえてくる。
「素晴らしく臭い演説だったね。御苦労さま」
ゆっくりと扉からでてくるのは、まちがいなくミトスの姿。
「ミトス?」
ミトスが少し手を動かすと、まずロイドの近くにいたレネゲードが吹き飛んでゆく。
そして、ボーダの体が地面にたたきつけられる。
「僕が気づいていないとでもおもった?残念だったね。レネゲードの薄汚い鼠が。
  クラトスにはプロネーマを監視につけていたんだ。ロイド達に情報を流していたみたいだったからね」
「く!やはり、ユグドラシル!」
ゼロスからの報告で警戒していた。
間違いがない、という報告は、禁書の一件ののち。
いまいましげにボーダがつぶやく。
「!?な、何…」
「なかなか、面白い趣向だったよ。でもようやくレネゲードの要といえるお前とこうして接触できた。
  よくもまあ、僕の義兄さんをそそのかしてくれたものだよね。
  本当なら、義兄さんも殺してやりたいところだけど、
  クラトスがあのアンナとかいう女性にそそのかされたように。
  同じように、君にそそのかされただけなんでしょう?
  だから、義兄さんは、姉様に免じて許してあげるつもりなんだ。
  だって、姉様が生き返ったとき、あれでもいないと姉様が悲しむからね。
  きっと、君の死体をみれば義兄さんも…ユアンもきっと僕の元にもどってきてくれる。
  クラトスとは違って、姉様が蘇るんだからね!」
いいつつも、倒れているボーダの体を幾度も、幾度もけり続ける。
その表情には笑みが浮かんでいるが、どこか狂気をはらんでいる。
「や、やめろっ、ミトス、お前は、一体……」
ロイドが思わずその行動にたいし、止めようとする。
と、さすがに騒ぎに気がついたのであろう。
薬がそれとも完全ではなかったのか。
それはロイドにはわからない。
だが、ユアンのいっていた薬の効き目はどうやら切れたらしく、
家の中にいた全員が表にでてくる様子が目にとまる。
アルタステもタバサも何ごとか、といった様子で表にでてくるが、
彼らが目にしたのは、狂ったように笑いながら、ボーダを蹴りつづけているミトスと、
そして、なぜかロイドの前で倒れているクラトス。
そして、吹き飛んだ…おそらくは、ボーダがいる、ということは、レネゲードの構成員達。
「一体、どうしたんじゃ!?ぬ、こ、これはいったい!?」
困惑したアルタステの声。
「ミトス!?君は、…やっばり……」
ジーニアスはそれ以上、何もいうことができなくなり、ただ拳を握りしめて震えていたりする。
「やっぱり?やっぱり信用できなかった?正解だね。ジーニアス。
  …僕もお前なんか信じていなかったよ!!」
それはどこか悲しみを込めたような叫びにもきこえなくはない。
それを振り切るように、ミトスはジーニアスにむかって手をあげる。
が、やはり躊躇してしまう。
彼にとっては初めての友人、友達だ、といってくれた同胞の子供。
姉と二人、いきてきた…ヘイムダールを追われた、かつての自分達と同じような境遇の姉弟。
あるいみ第二の自分達姉弟といってよい。
ゆえに、指先はリフィルも通り越し、隣にいたプレセアにむけて、ぴたり、ととまる。
「いかん!」
気づいたアルタステがプレセアの前にと走り出る。
その直後。
ミトスの指先から放たれた術が、おもいっきりアルタステにと直撃する。
そのままミトスの攻撃をまともにくらい、アルタステは崖にと激突する。
「ミトスさんは、私を、助けてくれました」
「う、うるさい!」
そんなアルタステに近づいたのち、タバサがミトスのほうをみていってくるが、
その様子がミトスにとってはいらいらしてしまう。
ゆえに、それはもう反射的にタバサにむかってそれこそ手加減なく術を解き放つ。
ミトスから発せられた光は文字通り、手加減することなく、タバサの体をつらぬいてゆく。
その場に、どさり、という重い音をたてて倒れるタバサ。
「ミトス、たすけてくれました、ミトス……」
仰向けに倒れたタバサは同じ言葉を、何ども、何ども繰り返す。
「……プログラムが壊れたか……」
リーガルのぽつり、とした言葉が全てをものがたっている。
「ミトス、助け、てくれました…ミ…ト…スぅ……」
ミトスの名を幾度も、幾度もよんだのち、やがてタバサの機能が停止したのか、
ぴくり、ともうごかなくなってゆく。
「何てことを!あなたは自分を犠牲にしてタバサを護ったのに!」
それにあのときも。
リフィルの悲鳴に近い台詞。
「どうして?ミトス、どうしてだよ!何でタバサやアルタステさんを傷つけるのさ!
  あんなに仲良くしていたじゃない!」
タバサにかけよるが、タバサはびくり、とも反応しない。
ジーニアスからしてみれば信じられない、信じたくはない。
だからこその台詞をミトスに投げかける。
「は。タバサ…不気味なほど、僕の姉様に生き写しのあの人形!
  ずっと、気にいらなかった。姉様の器、として創りだされた人形にすぎないのに、
  あいつは、姉様の心をうけとめきれなかった、姉様を目覚めさせることはできなかった!
  あいつが成功していれば、神子を器にする必要もなく、姉様も無事によみがえっていたばすなのに!
  姉様を宿せなかった、できそこないの器。見てるだけでヘドがでる!」
あまりにも神子が適合せずに、毎回、毎回むごたらしい死。
それにともない、なぜか種子のマナが減少する、というシステムが数値をはじき出したこともあり、
クラトスが進言した。
人をつかわずに、機械仕掛けの人形…ロボットを使用すればいいのでは、と。
自分達無機生命体も、いわば無機という点ではかわりがない、と。
ひとまず、マーテルの精神を保護してしまえさえすれば、
ゆっくりとマーテルの体をミトスの構造をもとにしてでも、新たにホムンクルスなどで代用できるのでは、と。
今の状態ではホムンクルスをつくるまでの余裕はあまりない。
あれを使用するにはマナを大量に使用する。
マーテルの精神を一度、保護し、大樹を蘇らせたのち、着手すれば、というクラトスの意見。
たしかに、一理ある、とおもい、実行した。
なのに、完成した人形は、いいところまでいったとおもったのに、
最後の最後で姉の精神を拒絶した、拒絶したようにミトスはみえた。
クラトスがそれからクルシスから地上に降臨したのは、ほぼ間もなくであった。
そのこともあり、ミトスはタバサをみているといらいらしてしまう。
どうしても瓜二つであることもあり、つい姉がそこにいる、と錯覚し、心を開いてしまいそうになる自分。
それは、まるで毒。
そう、ロイド達の旅についている中で、かつての自分達、姉とクラトスと、そしてユアン。
その旅を思い出してしまうかのように。
「っ!俺の親友を裏切りやがって!俺も友達だとおもっていたのに、ミトス!お前!」
毒づくミトスを眺めたまま、ジーニアスはただ茫然と、涙を無意識、なのであろう。
流し続けていたりする。
何だかいろいろとありすぎる。
ゆえに思わず感情が爆発し、ミトスにおもいっきりくってかかろうとし殴りかかろうとするロイド。
が。
「ロイド、やめて!ダメだよ、二人とも、僕の友達なんだから」
ジーニアスがそんなロイドとミトスの間にとわってはいり、涙を流しながら懇願する。
かつて、ミトスにいわれたこと。
ロイドと僕が喧嘩をしたら、ジーニアスはどっちにつく?
まさか、それが現実になる、なんておもわなかった。
思いたくはなかった。
あのときは、ロイドのほうに非が絶対あるから、といいきったが。
しかし、現実は……
と。
ミトスの横に光がはじけ、そこにみおぼえのある女性の姿が輪郭をとってゆく。
たしか、プロネーマ、となのりし女性だった、と思いだす。
「…ユグドラシル様、まだ傷が癒えておらぬのでしょう?ここは他の天使達におまかせを」
ジーニアスをかばって、プロネーマの攻撃をうけたときの傷。
まだそのときの傷はミトスは癒えていない。
幾度もプロネーマから進言をうけていたが、どうしてもデリス・カーラーンにもどる気にならなかった。
まるでぬるま湯につかっているかのごとくに。
「…わかった」
もう、ここにはいられない。
ちょうどいい機会だ、ともおもう。
ここを離れる気にはなっていた。
ただ、姉にそっくりな彼女の傍をはなれがたかっただけ。
ゆえに、プロネーマにうなづき、ロイド達の目の前でユグドラシルの姿へと変化する。
それこそが、無機生命体である証拠。
聴覚、視覚、痛覚等の感覚を自ら必要性に応じて制御することができる。
そして、もっとも親和性のたかいものは、自らの肉体の時間をも自由に変化、操るまでの力を有す。
ある意味で、神の領域。
もっとも、精霊達がいうには、それは神の領域、というよりは、
自分達のような精霊…人工的な精霊に近づいただけ、とかつての四人はいわれたが。
「そこをどけ!」
そんなジーニアスにたいし、ロイドがどなる。
いっぱつ、殴ってやらないと気がすまない。
「笑わせてくれる。ほんとうに愚かでしかないよ。ロイド、君は。
  死ぬたのめ命なんてあっちゃいけないだって?
  だったら君たちがつけているそのエクスフィアは何なのさ?
  よく冷静に考えてみるんだね。君たちこそ人の命を糧にして力を得ているのにさ」
それは冷めきった声。
「…あ……」
「ジーニアス、君ならわかるはずだ」
「ミトス…僕は……」
「ユグドラシル様」
ミトスの言葉に何といっていいかわからない。
だが、それよりもはやく、プロネーマが声をかける。
「そう、だね。このままだとクラトスが危ないしね」
いいつつ、すっと手を掲げると、プロネーマがつれてきた、のであろう。
幾人の天使達がクラトスを抱きかかえる。
そのまま、ふわり、とうきあがる。
ミトスはしばしじっとジーニアス達をみていたが、やがて目をつむり、
光とともに天へとのぼってゆく。
「いまいましいっ!」
きっと、捨てゼリフとともに、プロネーマにジーニアス達が睨まれたのは、彼らの気のせいではないであろう。
彼女にとって、彼らはミトスを惑わす害悪でしかありえない。
やがて、その場に静寂が訪れる。
先ほどのことがまるで嘘であったように。
そこにはクラトスも倒れていない。
が、倒れている幾人ものレネゲードと、タバサ、そしてアルタステ。
それが嘘でなかったことを物語っている。
「大丈夫か!?ボーダ!」
しばし、じっと自分の手につけているエクスフィアをみていたが、はっと我にともどりボーダにとかけよる。
あれほど激しく蹴られていたのである。
幾度か行動を共にしたこともある人が目の前で死んだり、怪我をしたりするのはみたくない。
何もできない自分の無力さをあらためて見せつけられてしまうから。
「…問題はない、が、ユグドラシルがユアン様のことをしっていたのが問題だ」
首をふりつつも、ふらつきながらボーダがその体をおこす。
といつてもまだ立ち上がるだけの力がないのか、完全に体がふらついている。
あの言い回し。
おそらく、ミトスは気づいたのであろう。
自分達を…レネゲードを指導しているものが、誰、なのか。
「ユグドラシルとの接触を恐れ、ユアン様のことを知られるのを恐れ、
  ユアン様をこの場から立ち退かせたというのに」
「……仕方あるまい」
「ユアン様!?どうして……」
それは、さきほどこの場を立ち去ったはずのユアンの姿。
そのまま、ボーダの前にすすみでて、回復術をボーダにとむけてゆく。
暖かな光がボーダの体を癒してゆく。
「連絡があった、どうやらミトスは我のことに気付いているようだ、とな。
  ならば今さら隠れていてもどうしようもあるまい。…まあ、義兄、とまだ呼んだことに驚きだが」
それは本音。
いつもは、ユアン、としか呼ばなかったというのに。
義兄、と呼ばれるなどいったいいつの時以来か。
「義兄?」
そういわれ、ロイドは意味がわからず思わず首をかしげる。
「……そういえば、あなたは、マーテルの夫だ、といっていたわね。
  そういうことね。つまり、あなたは義理のミトス・ユグドラシルの兄というわけね」
リフィルがいまだに茫然としている弟をきにかけつつも、その台詞に納得いったという表情をうかべる。
たしかに、義理の兄、になるであろう。
ミトスと、そしてユアンは。
ミトスの姉だというマーテルと婚姻していたというユアン・カーフェイ。
ならば、ミトスにとって、姉以外の家族、だともいえるべき存在。
「…オリジンと契約し、エターナルソードと契約する。
  そして魔導砲であのまがまがしい塔を破壊し、大いなる実りを発芽させる。
  それが、我々が建てた計画だった」
いいつつ、回復術をかけつつ、倒れているレネゲードの仲間達にも回復術を施してゆく。
どうやら致命傷になっているものはいない、らしいことにほっとする。
これ以上の手勢はなるべくならば失いたくはないところ。
「…ロイドよ。ディザイアンの内通者からお前の存在をしり、これでクラトスを動かせる。と確信した。
  我らもまさか、あの息子が生きていた、とはおもっていなかったからな。
  ノイシュとともに、アンナと一緒に崖下におち、崖下には着衣の欠片しかのこっていなかったからな。
  だが、これでクラトスを動かせる、と確信した」
あのとき。
ユアンもあのとき、遅れてではあるがあの場にいあわせた。
だからことの顛末はしっている。
「そういうこと、ね。あなたはオリジンと契約してエターナルソードを使うつもりだったのね」
ならば、ユアンがクラトスを狙っていたこともうなづける。
さすがに聡明たるリフィルというべきか。
短い会話の中で真実を見抜いた、らしい。
「…お前は、ミトスの千年王国に賛同しなかったのか?」
かつての仲間だというのならば、どうして賛同しなかったのか、という思いもある。
それに、家族だ、というのならばなおさらに。
「…あの計画は、マーテルの遺言をミトスが歪めて捉えた結果だ。
  大地を二つに分ける、というのは仕方がないにしても。
  しかし、ミトスは違うといっても聞き入れなかった。
  …それに、当時は私も目の前でマーテルを人に殺され、人に対して憎しみしかなかった。
  だから…強く反対しなかった、のかもしれない。
  マーテルが真に望んだことではない、とわかっていても、愚かな人間に罰を、と思ったのもまた実だ」
「それは…でも……」
マーテルは人の手により、大いなる実りを護って殺された、という。
停戦させたはずの二つの勢力…テセアラとシルヴァランドの軍勢達の手によって。
どちらにしても、そのとき、愚かな人が力を欲のままに手にしよう、
として愚かな行動をしなければ、今のような世界になることはなかった、であろう。
それくらいはいくらロイドとて何となくだが理解できる。
理解できてしまう。
すべては、そのとき、攻撃をしかけたヒトがわるいのだ、と。
「…お前達にはわかるまい。あのときの私のあの絶望が!」
「ユアン……」
マーテルの倒れた体から…その下半身から流れ出た血。
そこに小さな塊をみつけ、理解した。
理解してしまった。
彼女は新しい命を宿していたのだ、と。
殺されたことにより、その命すら失われてしまった、ということを。
ユアンがぎゅっと手をにぎりしめる。
その手からはたえまなく血が滴りおちている。
ユアンのその台詞に、ロイド達は何ともいえない気持ちになる。
愛するものを目の前で失う。
ゼロスもまた何ともいえない気持ちになってしまう。
ゼロスはどちらかといえば、ユアンにたいし、嫌悪感というよりは仲間意識のほうが強い。
内容はともあれ、互いに愛していた…家族を目の前で殺されたものどうし。
ゼロスは自分を狙ってきた暗殺者から母親を。
ユアンは…
だから、クラトスは嫌い。
息子が生きていたのならば、親としての務めをはたすべきではないのか、と。
利用するだけ利用し、傷つけるだけの親は、親とはいえない。
でも、それでも肉親、血をわけている親なのである。
ケイトが、そう自分の父親である教皇の計画が非道だと理解しながら協力したように。
「…マーテルの遺言、とはどんなもの、だったのですか?」
プレセアがぽつり、とといかける。
「…あいつらしい遺言だった。誰もが差別されることのない世界をみたい、そういっていた」
「うごくな。ボーダ、お前の傷は結構深いぞ」
いいつつも、その場にかがみこみ、ボーダに回復術をかけつづけているユアンの姿。
ボーダはもう大丈夫、といったが、まだ完全に回復したわけではない。
仲間達にも簡単な治癒はほどこしたが、まだ完治しているわけではない。
「ユアン様、私のことより、今は……」
しかし、ボーダは自分のことより、今はすべきことを、と箴言する。
「わかっている。時間がない、というのであろう。
  ユグドラシルに同胞達が殺される前に、レネゲード達を退避させなければ。
  こういうときのために避難所はすでに設けてある」
いいつつも、動けるようになったらしいボーダとともにユアンもまた立ち上がる。
それにあわせ、他のレネゲード達も周囲にとあつまってくる。
「まってくれ。オリジンの封印は、本当にクラトスにしかとけないのか?」
立ち去ろうとする彼らにたいし、ロイドが万が一の可能性をかけて問いかける。
「そうだ、クラトスの体内を放射することで、封印はとける」
みもふたもないユアンの言葉。
「そんなことしたら、死ぬしかないわ」
「そう。そこにいるクラトス自身の命をかけた封印だ。
  クラトスがそのまま死ねば、オリジンは解放される」
あのまま、クラトスを見殺しにしていれば、オリジンは解放されていた、というわけであろう。
「だから…なのね」
どうしてユグドラシルが自分を…ミトスを裏切っていたはずのクラトスをつれてもどったのか。
気にはなっていた。
あのままクラトスが死んでしまえばオリジンの封印はとける。
とけてしまう。
リフィルからすれば、世界と、クラトスの命と、どちらかしか選べない、となると、世界を選ぶにきまっている。
それはかつてのコレットとシルヴァランドを天秤にかけていたように。
あの時とは違う、偽りの真実による再生、ではなくこれはまぎれもなく選びようがない事実。
やはり、としかいいようがない。
予測はしていた。
クラトスが封印にかかわっている、としったときから。
それは、命をかけた封印なのではないか、ということを。
「そんな…クラトスの命…それと、エターナルソードはひきかえだったいうのか!?」
愕然とするしかない。
リフィルはその可能性が高いとわかっていたのであまり驚かない。
しかしロイドはそんなことはありえない、そう勝手に思い込んでいた。
「しかし、ロイドよ。お前にエターナルソードをつかうことはできないだろう。
  あれは召喚の力を必要としない、ただ、オリジンに認められればいい。
  しかし、たった一つ、お前にはどうにもならないものがある」
そう、たりないのだ。
それは、愚かな人がその力を悪用しないがためにオリジンがかけた保険。
「どういうことだ。ユグドラシル…あいつも、ミトスもそれをいっていたけど」
「あれは、ハーフエルフにしか使えぬ。いや、契約の指輪がない以上、エルフの血をひくものにしか扱えぬ。
  かつて、第三者に使用され悪用されないようにオリジンがそのように保護をかけている。
  もっとも、いざというときのためにエターナルリングという契約の指輪がありはしたが。
  その指輪は十五年前に破壊されている」
クラトスが地上で行方不明になっていた指輪をみつけだしてもっていた。
が、クラトスがクルシスにもどってきたとき、それは破壊されている。
「あれは、オリジンがミトスのために創りだした剣、と一般にはいわれていたようだが。
  真実は異なる。あれは精霊ラタトスクよりオリジンに託されていた剣。
  時間と空間をあやつりし、力を秘めた剣の姿をしているがあれも紛れもなき精霊のひとつ。
  ただ、力が力ゆえに契約の指輪、というものをつくっていなかっただけだときく。
  ミトスに貸し与えるにあたり、万が一、ミトスが動けなくなったときのために、
  あえて一時的にではあるがオリジンの許可のもと、指輪もったものが使用できるようにはなっているようだが」
「…それは、誰からきいたのかしら?」
それはあるいみで隠された真実というべきか。
だからこそリフィルは疑問に思う。
どうしてユアンはそこまで詳しいことをしっているのか、と。
「マーテルがラタトスク自らから聞きだしたらしいぞ?ミトスとマーテルはよくラタトスクの間。
  とよばれし、ギンヌンガ・カップに訪れていたからな」
ミトスなどは、ラタトスクと友達になる約束をしたんだ!
と嬉しそうにいっていた。
センチュリオン・アクアが、それ、絶対あんたが、ラタトスク様に一方的にいったんでしょ?
とたまたまそこにいたときにミトスに突っ込みをいれていたが。
そして、世界が平和になったら皆で旅をしよう、とも約束したんだよ!
そういったその台詞に。
え?ラタトスク様が地上にでられる、とおっしゃったの?…めずらしい。
めずらしい、という言葉に当時、ひっかかりを覚えはしたが。
それは、当時のユアンにとっても優しい記憶。
「もっとも、それを公言しないようにとめたのもまた私ではあるがな。
  大樹の精霊のことをしれば、愚かな人が何をしでかすかわからない。
  ならば、その剣はオリジンに認められたものにしか扱えない。
  …オリジンがあいつのためにつくりだした剣、と他にはいったほうがあとくされがない、とな」
それが真実だ、と今ではほとんどのものに思われている。
ウィルガイアに生活している天使達ですら。
否、四大天使以外、その真実をしるものはいないといってよい。
「……また、ラタトスク……?」
おもわずジーニアスが眉をひそめる。
まただ、とおもう。
事あるごとに、重要な箇所に関してはかならずでてくる、精霊ラタトスクの名。
世界樹カーラーンの精霊だ、というその名。
「…ミトスは、よりによって、ラタトスクより授かった、世界の加護たるデリスエンプレムすら利用している。
  その力を利用し、自らのいる場所への鍵となした。加護の力をわざわざそれぞれに分けてまで、な」
ユアンだからこそ、マーテルからいろいろときいている。
ユアン。愛してるわ。
そういう優しいあの声はもう、聞かれない。
聞こえるのは、大樹の中にありし彼女の精神体からの嘆きのみ。
「……私にはやるべきことがある。ではな」
「あ、おい、まてよ!」
語ることはすでに語りつくした、とばかりに、ユアンはレネゲード達をつれてその場を後にしてゆく。
そんな中。
「先生、アルテスタさんは……」
コレットが、アルタステの前に杖をかざしているリフィルにとといかける。
その言葉にはっとする。
アルタステもミトスに攻撃をうけていた。
あれほどつよく崖に叩きつけられたのである。
うちどころがわるければ、否、そうでなくても重傷なのにはかわりがない。
自分のことしか見えていなかったことに今さらきづき、ロイドもあわててアルタステのほうへとかけよってゆく。
「ロイド、か」
細い息のなか、アルタステがロイドをとらえ、言葉をつむぐ。
「無理しちゃだめだ!」
言葉を発するとともにその口から血がふきでる。
「…内臓までやられているわね」
リフィルの声が重い。
「先生……」
「リフィルさん、アルタステさんは、私を助けてくれました」
「わかっていてよ」
ロイド達にはどうにもできない。
「ち。しゃあねえな」
いいつつも、ゼロスが手をかざす。
「あら、助かるわ」
「この中で回復術がつかえるのは、俺様とリフィル様だけだから、しゃあないっしょ」
たしかにそのとおり。
一人よりも二人のほうが、回復もはやい。
やがて、苦しそうであったアルタステの息がどうにか整ってくる。
それをうけ、外にこのままおいておくよりは、という意見のもと、アルタステを家の中へ。
タバサも運ぼうとしたが、あまりにもおもく、ロイドがもとうとしてもぴくり、ともしない。
プレセアですら、その体を動かすことができなかったほど。
「ミトス…どうして、こんなひどいことを……」
ベットに横になり、どうにか全員で…ひごするようにしてタバサを家の中にまでつれてはいった。
ジーニアスの何ともいえないつぶやきは、おそらく彼もまだ感情の整理がついていない証拠。
「とりあえず、応急処置は巣ましたけど、早く医者をつれてきたほうがいいわ」
リフィルの指摘は至極もっとも。
「そうだな。アルタステはエクスフィアをつかってないからな。治癒術の効果も薄いはずだ」
ゼロスの台詞は至極もっとも。
もっとも、知っているからこそ、アルタステは使用していない、のであろう。
他者の命を使用してつくられたものを、利用する。
ドワーフたる彼にとってそれはあるいみ禁忌に近いこと。
「あたし、いい医者をしってるよ。前も利用しただろ?ほら、あの」
「ああ、あのフラノールの」
以前、ミトス達が倒れたときに御世話になった医者。
あのときは、まだこんなことになるなどおもっていなかった。
ミトスがいて、エミルがいて…
そういえば、とおもう。
エミルは知っていた、のだろうか。
ミトスのことを。
「ああ、あの医者の腕は確か、だからね」
「いこうよ、ロイド。お医者さんを読んであげよう」
「よし、フラノールだな、いこう」
頭の中はまだ混乱している。
ただ、じっとしていれば余計に混乱がましてゆく。
ゆえに、すぐさま行動することを選択する。
動くことにより、少しでも思考を紛らわせるために……

「…やっぱり、ミトスがユグドラシルだったんだ」
自分達が知っている地形とあからさまにこちら側もかわっている。
レアバードでの低空飛行。
やはり上昇すると、気流の流れが激しいらしく、レアバードですら安定をたもてない。
ゆえに低空飛行にてフラノールへ。
コレットとゼロス、そしてリーガル、そしてプレセアはあの場にと残った。
アルタステを看病するものが必要であり、また食事の用意も必要だから、という理由で。
プレセアは自分をかばってくれたアルタステを看病したい、という理由で。
「ジーニアス、あなたも気づいていたのね。どうしていわなかったの?」
それは問いかけ。
さすがに機体を多く移動させれば、何がおこるかわからない。
というわけで、二柱のレアバードでそれぞれ二人づつ、のっての空の移動。
「も、って、姉さんも?」
姉の言葉に、おもわず、姉の背に顔をふせていたジーニアスがぱっと顔をあげる。
「あんな場所で彼にあえば誰でも疑念を抱きます。
  服も声も、名前も何もかもが瓜二つの人がそうそういてたまるものですか。
  それに、あの子はエクスフィアをその身に宿していた。それを私たちには一切いわなかった。
  警戒していないほうがおかしいでしょう?」
いわれてみれば、とおもう。
そもそも、出会いからして、今おもえば不自然なことばかり。
どうしてあんな場所に一人でいたのか、とか。
あれほど、皆が…アステル達がハーフエルフがこんな場所に一人で住めるはずがない、
そういっていた、というのに。
ただ、同い年に近い同族の友達ができた、ということで浮かれていた自分に今さらながらに気づかされる。
「…僕、それでも、信じたくなかったんだ。僕と友達になってくれて、あんなに優しかったミトスが……」
ずっと自分を…自分達をだましていたのだ、とは思いたくはない。
「ジーニアス、彼に囚われないで、そして惑わされないで。彼のいう方法では争いはなくならないわ。
  …争いを生み出すのは、いつの時代も、心、でしかないのだから。
  同じ種族同士になっても争いはなくならない。それは確実にいえることよ」
「わかってる…わかってるけど、だけど、涙がとまらないんだよ」
いいつつ、再び姉の背に顔をうずめるジーニアス。
こらえたような鳴き声は、おそらくリフィルにしかわからないであろう。
この場にゼロスやコレットがいればそのかぼそい鳴き声を聴覚にて捉えたであろうが。
「ジーニアス…きっと、あなたと共にいたときには、あのミトスは、あの地でであったミトスに戻っていたのよ。
  だから、まだ闇に呑みこまれる前の勇者ミトスとしてあなたに接していたのかもしれない。
  あなたを助けたのが何よりの証拠。おそらく彼は思いだし始めているのよ。
  かつての自分を、昔の自分の志を。だけども、行動を止められないだけ。
  彼のさっきの表情、自分も信じていなかったといったとき、彼は泣きそうな顔をしていたわ。
  あの表情に嘘はなかったとおもうわ」
そう、そう想いたい。
そういえば、とおもう。
ことあるごとに、エミルはミトスに何をいっていた?
クラトスに関しても。
おそらく、エミルは始めからしっていた。
クラトスにたいし、警戒していたエミル。
彼は知っていたのだ。
彼らが四千年前…世界を、裏切ったものたちだ、と。
「…姉さん……そう、だね。僕、ミトスを説得、できるかな?」
「彼がどう選択するか、によるでしょうね。罪をみとめて生きるか、それとも死をもってして償いをするか」
どちらにしても、それはつらい、ことであろう。
世界を守護せし精霊をも裏切っていた、というのであれば、死後も安息をえられるかもあやしい。
「…僕、ミトスに次にであったらちゃんと話してみるよ」
そんな弟の決意をききつつ、
「……そういえば、あの書物の中にあった、彼の記憶はどうなったのかしら?」
ふと、あのときのことを思い出す。
「そういや、どうしたんだろ?」
あのとき、本の中から飛び出てきた三つの影。
クラトスとユアンはそれぞれの体内にと吸い込まれていった。
が、ミトスはそういえば、あのままだったようにおもえなくもない。
「……まだ、オリジンの石板のもとにいる、のかもしれないわね。
  もしくは、エミルがつれているか。エミルだとすれば…何か考えがある可能性があるわね」
リフィルとて、この現象がおかしい、とは気づいている。
もしも、クラトスがいうように、システムがはじき出した、という答えが事実ならば。
こんなように、大地が変動したりすることはありえない、と。
それこそ、問答無用で暴走した大樹は文字通り、大地を消滅させていたであろう。
だが、そうはなっていない。
まるで、かつての大地にもどろうとするかのように、大地は切り裂かれ、
そして移動していっている。
そこに意思がくわわっていない、とは一体誰がいえるであろう。
そして、そんなこどかできる存在、といえばおのずから答えはみえてくる。
アステルが、優先的に探してみる、といっていた…大樹の精霊、ラタトスク。
この世界をうみしもの――


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あとがきもどき:
薫:ようやく物語の佳境ともいえるシーンに突入。
  というわけで(何がというわけなの?)ひさかたぶりに別話しをばv
  こちらもそろそろストックというか書きなぐっている箇所に近づいてきている…
  ある程度いったら、大樹復活のシーンにとばして書いてるからなぁ…これ……

漁師に案内されてやってきたグミ職人だ、というベルクの家。
ベルグは仕事着であるらしいエプロン姿のまま寝かされており、昏々と眠っているようにみえる。
付添は近所のわかものがひとりきり。
家族のいないベルクのために友人達が交代で看病にあたっているらしい。
「姉さん、どう?」
ジーニアスが尋ねると、ベルクの体を調べていたリフィルは、
「……この、模様。まさかヒッカリカエルの毒じゃあ……」
幼き日にのみみた記憶がある。
ジーニアスと二人きになってはみたことのないもの。
露出している肌に特徴的な模様が浮かんでいるのがみてとれる。
「この模様は……ノストロビアか?しかしあれはフラノールにしか生息していない特殊な魔物であったはずだが?」
ここ、シルヴァラントには生息していないはずの魔物である。
ゆえにもわずぽつりとつぶやくクラトス。
というかリフィルはテセアラの地名をいったことにどうやら気づいていないらしい。
「ええ。私も文献でそのようにみた記憶があるわ。だけど記憶にあるこの特徴的な模様。間違いないとおもうわ」
フラノールという地名は久しぶりにきいた。
それこそ十数年ぶりに。
「ならば、ローズマリーが必要だな」
「あなた詳しいのね」
「…以前に知り合いがそれの毒にかかったことがある」
かわいい、といってだきついて毒にかかった彼女。
おろおろとしたミトスに、そしておもいっきりあきれつつもどなっていたユアン。
そして…そして、それから?
何かを思い出しそうになるがだがしかしその感覚はすぐにと失われてしまう。
真実は、エミルが苦笑しつつローズマリーのことを伝えたに他ならない。
まだ、マーテルが人に殺される前の優しい記憶。
「たしか。高エネルギーを体内に吸収すると発光爆発して皮膚に触れた生物を昏睡状態にする…だったはず」
かすむ記憶の向こうにその知識がある。
そう説明してきたのは誰だったか。
「爆発!?じゃあ、もしかして今この村でおこってる放火事件って?」
「…可能性は高いわね」
「ねえねえ。姉さん。それって魔物なんでしょ?エミルにきけばわからないかな?」
「難しいわね。まあ魔物と出くわせばエミルかテネブ達が聞けるんじゃなないかしら?」
もはやもう楽観的というか達観しているというか。
魔物に関しては彼らが適任、というような認識が彼らの中に産まれているのはこれいかに。
真実をしらないままにそう認識してしまっているのだからあるいみ人とは本当に環境になれる生物だといえよう。
「あ。でも。その毒で眠っているなら解毒したらこの人目をさますんですか?」
コレットの心配そうな言葉に。
「ヒッカリカエルの毒は普通の毒とは違うのよ。いわばウィルスのようなもの。
  今いったクラトスのいうローズマリーで解毒するしかない、とたしか文献で読んだことがあるわ」
「姉さんの治癒術でもむりなの?」
「たしかに、ユニセロフとの戦いで新しい治癒術はなせか身につけたけど…わからないわ。
  まだあの術は試したことがないもの」
「でも、試してみる価値はあるんじゃないの?」
たしかにジーニアスのいうとおり。
「…実験になってしまうけど、いいのかしら?」
「その新しい治癒術、というのは?」
クラトスはそれは初耳である。
というかユニセロフとか洒落にならない魔物の単語がでてきたような気がするのはどういうことか。
ユニコーンの一番上位種に属するそれこそいうなれば神話レベル的な魔物の名。
それがユニセロフである。
「やってみるわ。…レイズデッド!!」
リフィルの呟きにおうじ、淡き光がベルグの体をつつみこむ……

カンベルト洞窟の内部はひんやりとしずまりかえっている。
「…ち。かなり生態系に影響がでやがったな」
おもわず素でそう愚痴るラタトスクはおそらく間違ってはいないであろう。
いつもエミルとしてある緑の瞳ではなく、今の彼の瞳は深紅。
「メルネス。このあたりにのみ簡易結界は可能か?」
「ああ」
「なら頼む。ここの生態系を元にもどす」
「わかった」
ぱちん、とセネルが指を鳴らすとどうじ、この洞窟のみに海のマナによる結界がほどこされる。
「我名のもとに。再生せよ」
とん、とラタトスクが地面に手おき、そうつぶやく。
刹那。
大地より緑と赤が入り混じった光りがくるくるとわきだし、それはやがて暖かな光となり、
洞窟全体にと降りそそぐ。
刹那。
光りにふれた場所からすべての生態系が本来あるべく姿へともどってゆく。
「よし。完了」
「結界とくぞ?」
「ああ」
言葉とともにこの洞窟にかけられていた簡易的な結界が一瞬のうちにと解き放たれる。
それはほんの一瞬のことであったがゆえに、よほど近くにいないと気づかなかったであろう。
爆発的なまでのマナの奔流に。
結局のところ海岸沿いで呼びだしたノストロビア曰く、ここで食べていたコケなどが枯れてしまい、
しかたなく人里にでたはいいものの、匂いにつられてグミをたべたらしい。
どうやらかまぼこグミがきにいったらしくひたすらたべていた結果。
カマボコグミの原料となっているジェリーフィッシュの特性を受け継いでしまったらしく、
変化がおこってしまったっぽい。
どちらにしろすでに雪におけるマナの調整はもうこのあたりにおいては必要がない。
なのでどうするか問いかけたところ、この洞窟が気にいったのでここにすむ、とのこと。
「しかし。ラタトスク。お前もあいかわらず甘いな」
「ふん」
彼らがかまぼこグミをきにいった、というのでかといって彼らが人里にでるのは彼らにとっても不利となる。
ゆえにまったく同じ食感のコケをこの地に生息させたラタトスクはたしかに甘いとしかいいようがない。
「ラタトスク様ですからね」
「そうですね。主ですから」
そんなセネルの言葉にしみじみといっているテネブラエとイグニス。
そっけない態度の中に世界に生きる全てのものに慈愛をもっているのを彼らはよく知っている。
「いっとくが。セネル。あいつらの前では俺はあくまでも記憶を失っているっぽいエミル・キャスタニエだからな」
「それをいうなら、俺も一介の雇われ自称マリントルーパー、だからな?」
「本当にこのお二人は……」
「仕方ないだろ。お二人が人にまぎれて生活するのは今にはじまったことではない……」
何ともいえないセンチュリオン二体のあきれたようなため息が、
よみがえった洞窟の自然の中、しずかにただただコダマしてゆく。

「う……」
小さく呻き目をあける。
「ベルグ!?」
看病していた村人が驚きおもわず声をかける。
治癒がつかえるというエルフの女性が何か術をかけたとおもうと、
ベルグの体が光りにとつつまれた。
みるまに腕にうきでていた模様がきえ、顔色もよくなり目をさます。
「…あ、あんたたちは?」
そこに見慣れない一行をみて首をかしげるベルグ。
「お前はしばらく昏睡状態になってたんだよ。この旅の人達が直してくれたんだ。
  なんかあのマリントルーパーの兄ちゃんの知り合いらしいぜ?」
「…知り合いなのはエミルであって僕たちじゃないんだけどね」
おもわずそう突っ込みをいれているジーニアス。
実際、エミルはたしかに知っているのかもしれないが、
ジーニアス達は彼のこと…セネルといった彼のことをまったくしらない。
「で、何があったのか説明してくれるかしら?」
「あ。ああ。あのひ……」
いきなりグミをつくっていると目の前に光の塊が現れた。
「それが、ひっかりカエルだったというわけね?」
「そんな名前なのかはしらないが。とにかく光る蛙だったのは確かだな。 
  とにかくすっごくまぶしくて。サングラスをしていなかったら気絶してただろうけど。
  で、その光る蛙のやつはいきなりできたばかりのかまぼこグミをくいはじめやがった。
  そうしたら突然、まわりが火をふいて。消そうとおもって蛙を手ではらったら、
  その瞬間に気分がわるくなっちまって…」
息もくるしくなってきたので新鮮な空気をもとめて外にでた、まではおぼえている。
そこから先の記憶がない。
「なるほど。殴ったときに毒にふれたわけだな」
クラトスが納得がいったとばかりにおもわずつぶやく。
「あ、あれって触れただけで毒にやられちまうのか?!これから気をつけないとな」
「あの。ところで、グミってあらたにつくれます?」
「あ。忘れてた。たしかセネルって人がグミをつくってほしい手伝いしてくれっていってたっけ?」
それが船にのせてもらうための条件。
「かまぼこグミか?できるが、ただかまぼこグミの在庫は全部もえちまったよ」
「新たにつくることはできないのかしら?」
リフィルのといに、
「できないことはない。けど材料がないんだよ。かまぼこぐみの材料になっているのは、
  トリエットの湖にいるジェリーフィッシュっていう魔物なんだ。
  ちなみに生きたままでなければ意味がない。魔物らは時間がたつと姿をけしちまうからな」
ちなみに作業はゆえにスピード勝負。
「まだ病み上がりのこの人にとりにいけ、とはいえないわね」
「…船のためだ。我々がとりにゆくしかなかろう」
クラトスが深く、深くため息をついたのは…いうまでもない。

トリエットのオアシス。
エミルの姿がみえないので村の出口にいた人物にきいてみれば、
マリントルーパーの兄ちゃんと村の外に出向いていったらしい。
とりあえず、一度トリエットにグミの材料をとりにいくと伝言をたのみ、再びもと来た道を戻りだす。
「…つかれた~…」
「やっぱり。魔物達はエミルがいたから襲ってこなかっただけみたいね」
よくよく観察していれば、魔物達が狙っていたのはクラトスだ、と気づいたであろうが。
移動するときは一日で移動できたのにすでに魔物に襲われ二日目に突入中。
もっとも途中から魔物の襲撃はぱたり、とやんだが。
魔物達が彼らを襲っているのに気付いたイグニスが一応ラタトスクにお伺いをたて配下たる彼らに命令したに過ぎない。
「というか。なんで魔物あんたばかりねらってたんだ?」
「…さあな」
魔物達はよくよくみればクラトスばかりをねらい、どちらかといえばロイド達は完全に無視していた。
魔物達とて許してはいない。
彼がエミルをかつて殺した、ということを。
その当時、いきていなくても彼らはマナという繋がりで王とはつながっている。
だからこそその事実は本能的に刻まれている。
「途中から魔物さんたち襲ってこなくなったね?」
「たまたま、かもしれなくてよ?ようやくオアシスについたわね」
トリエットのオアシス地帯。
目当ての魚はここにいる、らしい。
「釣りかぁ。ひさしぶりだな」
「だね。なんでかエミルがいたら海の幸とかまで魔物達がもってきてたし」
事実、エミルがきてから海の幸などがほぼ毎日のようにおくられてきていた。
エミルが海にでたとたん、である。
ゆえにここ最近、というかこの半年ばかりロイド達は釣り、というものをやったことがない。
「ベルクからもらったつりざおでとっととつりましょ。パルマコスタにいくためにも」
「釣りざおを数本もらってきてよかったな!ジーニアス、競争だ!」
「まけないからね!」
「…お子様たちは元気だな……」

ぐにゃり、とおかれたジェリーフィッシュ。
「こ…コレットにまけた…」
「まけた……」
がくり。
なぜかロイドはカメをつりあげ、ジーニアスはなぜか靴とかそういった生活用品。
唯一つりあげたのはコレットで、一人きゃいきゃぃとはしゃいでいる。
「とっとと網にいれてもどるぞ」
どうでもいいが、なぜにこけた刹那、これをつりあげたのやら、とはおもう。
コレットは竿がひいたから、ひきあげたのではない。
こけたとたんに竿をぐいっとひっぱってしまい、そこにこの魚がひっかかっていた。
「あとはグミが出来上がるのをまつだけね」
「そういえば、放火の原因ってどうなったんだろ?」
「「「あ」」」
完全に失念していた。
「…まあ、エミルが残ってるんだし。何とかしてるんじゃないのか?」
「というか、もしも原因が魔物さんならエミルが話しあいで解決してるんじゃないのかな~?」
「ありえる」
ジーニアスの問いかけに、おもわず異口同音でクラトスを覗いた全員がつぶやき、
そのあと少し考えてロイドが発言し、それにつづいていっているコレット。
ジーニアスもありえそうだ、となぜか納得していたりする。
「…とにかく、もどりましょ。…イズルートに」
…どちらにしても、パルマコスタにはいかなければならない、のだから。

「おう。あんたたち。ジェリーフィッシュはとれたかい?」
ベルグの家にはすでに何人かの弟子達がきており、火を起こしては様々なグミをつくっているのがみてとれる。
どうやらこのベルグは様々なグミを創りだすこの地での職人のようなものらしい。
「はい。これだよな」
いってロイドがそれを手渡す。
「マリントルーパーの兄ちゃんがいうには、もう放火事件はおこらないっていうし。
  何でも原因の魔物をどうにかしたらしいしな。あとはグミを各種つくれば今回のこちらの注文もおわりってわけだ」
どうやらいまつくっているグミの各種はセネルが依頼をうけていた、という商品、らしい。
網の中のジェリーフィッシュはしずかにぐったりしているのがみてとれる。
なぜ彼らが回復薬にもなるグミになるか、といえば魔物そのものがマナを運搬する存在だからといえる。
が、人はそのことをしらない。
もしも知っていれば無意味に魔物を駆逐したりはしないであろう……


ピシャン、と冷たい空気が周囲を照らす。
神殿の最下部。
そこは海の底だというのにもかかわらず、いたるところに草木が生い茂り、
さらにいうならば周囲の壁には外の海底がしっかりとみてとれる。
水が太陽の光りを海の底だ、というのにしっかりとつたえており、
少しばかりの光は中のそれぞれにある水晶にて反射しある程度の明るさはたもたれている。
「ラタトスク様!メルネス様!」
ぶらぶらとその中心にある椅子にてすわり、目を閉じていたその刹那。
波動を感じてぱっと椅子からとびあがる。
「あのな。幾度もいうけど、今のこの姿の俺はセネル・クーリッジだ!」
「アクア。御苦労さま」
「心配してたんですよ!一年前にいきなりラタトスク様の御力が地上から消えて!
  私のところにも魔族の下っ端やってきましたけど、マナの乱れを感じてあわてて戻ったはいいですが。
  すこしばかりここでの力の制限こえちゃったらしくてコアにもどっちゃって……」
しゅん、となるは青き体をした人型の女性。
今現在、この地上においてはセンチュリオン達は主たるラタトスクの許可がないかぎり、
一応力の上限、というものが定められている。
それはこの地にあまり悪影響をあたえないためのラタトスクの処置、なのではあるが。
何しろ彼らの基本はこの太陽系の存続としての力。
たかが一つの惑星には十分すぎるほどの力となりえる。
それゆえの処置。
「あ。イグニス。あなたもおきたの?」
「お前たちとちがい、ラタトスク様がこなければまだ力が安定しなかったがな」
それは事実。
「とりあえず、アクア。例のヒトが動き始めたから。前いった計画を始動するよ。
  ついでに入り込んでいる魔族をどうにかしながら、ね」
「はい!あ、私もご一緒してもいいんですよね?ね?」
「アクアはメルネスの補佐」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!あ、配下のものにやらせますから!ね?ね?」
どうやら一緒にいきたいらしい。
「…すまん。エミル。俺も配下のものでいい。こいつが傍にいたら下手に正体をヒトにしられかねない」
そもそもこのアクア、けっこうこうみえておしゃべりなのである。
そしてぽろっと姿をあらわすこともしばしば。
ゆえにセネルの懸念は…おそらく間違ってはいないであろう。
「…ついてきてもいいけど、姿というか大きさはかえてね?」
「はい!」
「あと、あくまでも僕は今、記憶喪失ってことになってるから、そのあたりよろしく。
  記憶喪失で旅に同行したエミル・キャスタニエっていう設定になってるから」
「記憶喪失、ですか?」
「あ~。うん。あとクラトスとかもいるけどこちらが知ってることを悟られないようにね」
「…え?あの恩知らずがですか?…まあ、ラタトスク様がいわれるなら……」
ロイド達がオアシスに魚をとりにいったというのでその間にならばアクアを迎えにこよう、
というのでここにやってきているセネルとエミル。
ここは、ソダ間欠泉の地下深くにある…正確にいえばその近くの海底にとある海底神殿。
その最深部が水のセンチュリオン、アクアの神殿となっている。
ちなみに予断ではあるが海の精霊メルネスの拠点は小さな小島、である。

「よし。これで荷物は全部だな」
依頼をうけていたグミの配送の荷物はこれで全て。
「ああ。わるかったな。兄ちゃん」
「いや。こちらこそ。これで依頼が達成できる。依頼失敗は契約上後々響くからな」
それは本音。
「とりあえず船は船着き場にもってきてある。
  あんたたちパルマコスタにいくんだろ?のせてってやる。あとエミル!
  お前もつきあえ!あそこと契約したとき行方不明のお前をみつけてほしいっていう依頼もしてたんだよ」
「えええ?!何それ!きいてないよ!」
「お前はほっといたら何に一人で首つっこむかわからなかったからな」
セネルからしてみればそれは本音。
「エミル。あなたずいぶんと心配されていたみたいね」
「あ…あはは……」
しみじみいうリフィルにから笑いするしかない。
その心配が自分の身を案じて、ではなくこの惑星規模で何かおこしかねない、という心配だ、
とエミルは直感的に悟っている。
それゆえにただただ苦笑いするしかない。
「しかし。民間のマリントルーパーにしてはやけにしっかりとした作りの船だな」
見た目は真っ白でそれでいて機能的にも十分。
ちなみにある程度の大きさをもかねている。
クラトスのそんなつぶやきに対し、
「ん?ああ。ときどき妹と一緒に航海もするからな。シャーリーに狭い船室なんかにあわないっ!
  とうぜん、シャーリー専用の寝室はしっかりとねやすいようにしてある!
  食事も滅多なものをたべさせるわけにはいかないから厨房もしっかりとしたものにしてある!」
ぐっと握りこぶしをつくり力説するようにいっているセネルの姿。
「…シャーリー?」
そのあまりのあるいみ変わりようにおもわずエミルをみつめるロイド。
「……セネルの妹……昔から、セネル、妹のことになると身境がないんだ……」
もっとも、身よりのなくなったシャーリー達をセネルがひきとって育てている、という注釈はつくが。
『……あ~……』
何やらいつのまにか妹の素晴らしさを熱弁しはじめているセネルの姿。
「セネル。わかったから、わかったから。とりあえずはやくいこ?
  あまり遅くなってもセネルも困るんじゃなないの?依頼に期限はなかったの?」
「…シスコンなのね」
ぽそっというリフィルの言葉に。
「…シスコン、のようだな」
これまたぽそっといっているクラトス。
「シ?何だ?それ?」
「シスター・コンプレックス。妹とかお姉さんとかを溺愛することだよ」
「納得。ならジーニアスもそうだな」
「ちょっ!何でそうなるのさ!」
「お前何だかんだといいながら、いつも先生の食事の用意とか家事全般とか家でやってるだろ?」
「あれは!僕のためにやってるんだぁぁ!」
リフィルの食事にしろ家事にしろ壊滅的なのである。
よくもまあこれで自分が育った、としみじみいえるほどに。
しかもためこむだけガラクタ、というガラクタをためこむ性質。
これで整理整頓をするものがいなければ家が怖いことになるのはわかりきっている。
それゆえに身についただけのこと。
それをシスターコンプレックスと同等にしてほしくない、切実に。
「おっと。そうだったな。とりあえず飛ばしていくぜ!
  なに。この俺の操縦する船ならばパルマコスタまではすぐさ」
普通ならば半日はかるくかかるが。
ちなみにこの船の動力源は実はネルフィスを使用していたりするのでまったくもって問題がなかったりする。
もっともそれをうまくごまかしてはいるにはいるが。
うまく偽造してエクスフィアのようにみせかけているのはあるいみさすが。
何しろこの船、どちらの世界でも共通してセネルは使っている、のだから。


2013年10月6~10日(日~木)某日

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