まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

前回、ようやく神聖都市の名がでてきましたー。
ようやくこれでロイド達がかの都市のことをしった、ということで。
あとは、ミトスの離脱&正体発覚まであと少し……

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「しかし、甘くないですか?」
「どちらにしろ、あのものたちは利用されていたにすぎん。
  それに、人の感覚でいえば長い間閉じ込められていたがゆえにほどよく力もたまっている。
  新たな理を運ぶ新たなしもべにふさわしいとはおもわないか?」
右も左も真っ白のようでいて、赤と緑の光が入り混じった空間。
「すでに魔物達全てには新たな理を組み入れた。大地にしても然り。
  動物たちに関しては次代にそれが反映されるように理を組み入れた」
今ある命の性質はある一点を除き、次には紡がれない。
「まあ、人は愚かにもその理すらを無意識のうちに排除してきたがな。
  共に滅びたい、というのならばそれもよし」
エルフ達は戸惑いを隠しきれていないであろう。
完全に制御されたマナ。
世界のマナが極力減ってきていることを彼らは実感しているはず、である。
今、地上において認識できるのは、それぞれの世界において互いの世界が空に浮かんでみえている。
ということ。
もっとも、その上下の区別はある、にしろ。
片方からみれば上空のようでいて、片方からみれば地上のほうがまた上空にある、という、
あるいみで歪んだ形にて現れているのは、同じ空間を共有していながら位相がずれているからに他ならない。
「彗星さえ残ればいい、という愚かな考えをいだく、とはな。笑止。
  …我がマナを大量消費する方法を覚えたヒトをかの地にちかづけるとでもおもったか?」
人は愚かでしかない。
それがエルフにしろハーフエルフにしろ。
もともと、エルフとよばれし彼らがかの地において開発してしまったもの。
それがこの地においても開発されてしまったのは、彼らがまったく懲りていない、ということを示している。
まだ、あの子は幼い。
そんな技術をもたせられば、間違いなく滅んでしまうであろう。
かの地の彼らの居住区を利用しているものたちは、そのままそっくりと移動させる。
別にこの惑星上における衛星が一つ増えようとまったくもって問題はない。
彗星は本来あるべき姿に戻す予定、なのだから。
それに、元々は全てを消すつもりだったのだから譲歩といってもよいとおもう。
まあ全てはミトスの決定次第にかかってはいる、のだが。
「ところで、ラタトスク様、かの地におちてきたものは……」
センチュリオン達の問いかけに、
「ふむ。マナの奔流の中にありて意識をたもっているまま、か」
……だとすれば、すこしばかり接触してみるのも…悪くは、ない。

光と闇の協奏曲 ~幻の二つの大陸と人の心~

「フォスティスってやつは、五聖刃の中でもちょっと雰囲気がちがってたな」
大樹とおもわしきものは収まった、というのに大地の振動はつづいている。
それがかなり気にかかるが、地震の余波とはそういうもの。
というリフィルの説明もあり、そんなものなのかもしれない、とあまり深くかんがえていないロイド。
先ほどの戦いのことを思い出す。
そしてまた、禁書の中の戦いも。
彼はあきらかに他のディザイアン達とは何が、とはいわないが異なっていた。
「あれは、過去にテセアラでおこったハーフエルフの虐殺事件の際
  首謀者の人間を一人残らずせん滅したディザイアンの英雄だ」
「英雄……」
倒れたコレットを誰が運ぶか、ということになり、始めゼロスが立候補したが、
それは女性陣、特にリフィルの提案によりそく却下された。
曰く、気絶しているコレットに何かされてはたまらない、とのことらしい。
その何か、がロイドにはよくわからないが。
なら、自分が運ぶ、といったが、それでは手がふさがってしまうといわれ。
そもそも、ロイドも信用ならない、とまでいわれてしまった。
どうやら以前、コレットを支えていたときにこけたことをいまだに覚えられていたらしい。
プレセアは背がなさすぎていくら力もちでもコレットをひこずるようになってしまう。
ノイシュでもいればノイシュに運んでもらう、ということもできるが。
すでにノイシュは以前にダイクの元にともどしている。
ならばリフィルが、というが、回復術を優先させればリフィルの手がふさがるのは避けたい。
リーガルは手枷をしているがために、いくら体格がよくても不可能。
ならやっぱり俺様が、というゼロスに、ロイドがこのあたりは庭のようなものだから、
といってどうにかコレットを連れてゆく権利をえたのはつい先ほど。
背にコレットを背負いつつ、隣をあるくクラトスの言葉にたいし、ぽつり、とつぶやかざるを得ない。
「騎士道精神にあふれ、同士にやさしく、敵には鬼人のごとくに対したという」
「…人からみればとんでもない悪党なのに、ハーフエルフからみればまさに英雄なんだな」
視点がかわれば、ということだろう。
人からみてみれば、ただの人殺しにみえるかもしれないが、きっかけをつくったのはほかならぬ人。
「…そうだ。だから戦いはかなしい。勝ということは相手の犠牲と憎しみをうむことだ」
その言葉に思わず言葉をつまらせる。
たしかに、クラトスのいうとおり。
戦いは確かに悲しみしか生み出さない、とおもう。
だけど、行動しなければ変わらない、ともおもう。
もしかしたら、とおもう。
何でも力で、とおもうこの心が全ての原因なのかもしれない、と。
力は力を生み出すしかない、というのをいまだにロイドはよく理解できていない。
力は力をうみ、より悪循環に陥る、ということをいまだに理解していない。
そしてその力はやがて自分達、強いては種族全て、大地すら巻き込んだ滅びをもたらす、ということすらも。
「…お互いを認め合える世界にフォスティスが産まれていたら、
   もしかしたら俺達、わかりあえていたかもしれないんだな」
「あるいは、そうかもしれぬ。しかし、もしも、はありえぬ。これが現実だ」
どんな世界においても、完全に認めあえる世界、というものはない。
小さな差別、偏見、そういったものは存在する。
それでも共に歩む世界はありはすれど。
この世界の人々はそのあたりの心の豊かさを忘れ去ってはや等しい。
それぞれの違いが互いに高みあいを競うこととなり、進化してゆくきっかけ、となる。
それが元々彼らにあたえられている理だ、というのに。
ロイドの台詞をクラトスはさくっと一刀両断する。
もしも、はありえない。
もしもがあるならば、あのときに戻りたい。
マーテルが殺されされてしまったあのときに。
あのとき、マーテルさえ殺されなければミトスは…しかし、ともおもう。
逆に大樹を蘇らせたとたん、人が再び争いを始めかねなかったかもしれない、と。
人は目的のためならばどんな非道なことにも手をそめてしまう。
かつても国に所属していて思い知っていたが、よもやミトスまで同じ道を歩む、とはおもわなかった。
そして、それを止めることもできなかった自分もまた同罪だ、ともわかっている。
判っているからこそ、もう、時間が残されていないのでは、という思いがある。
安定しているマナ。
クルシスの管理システム以外でマナを制御できるものなど…そう、はいないのだからして。

イセリアの村にはいると、ロイドは何ともいえない気持ちになってしまう。
いまだに、かつて燃えた家々がそのままになっている箇所が目にはいる。
とりあえず、ジーニアスが捉われていた人々を学校にと案内し…
一時的な住まいとするならば、あの学校が一番いいだろう、というリフィルの意見のもと。
たしかに、基本的な設備は学校の中には整っている。
そんな中、ロイドは急ぎ、コレットを背負ったままファイドラの家を訪れる。
ファイドラとフランクは突然もどってきたコレットとその一行に驚いたようではあるが、
しかしそれ以上にコレットが無事に戻ってきたことが嬉しいのであろう。
ロイド達をすばやく家の中へと招き入れる。
フランクがそっとロイドからコレットをうけとり…以前より軽くなったような気がするのはフランクの気のせいか。
精霊の話をきき、自分の愚かさが嫌でもみにしみる。
実の子であった、というのにどこか距離をおいて接していた自分自身に。
まるで壊れものを扱うように、そっとコレットを両手で抱きかかえ…曰く、お姫様だっこ、
と一般に呼ばれている抱き方をして、コレットの自室である二階へと寝かすためにとつれてゆく。
その間、ファイドラは常に来客があってもいいように用意しているらしきお茶をそれぞれにいれ、
リフィル達をテーブルにと招きすわらせ、それぞれお茶をふるまってゆく。
かつてきいたときとは人数が異なるような気がするが。
以前にやってきた、エミル、という子としいな、という子が今この場にはいない。
「そうじゃったか……」
それは以前、エミル、とよばれし少年と、しいな、となのった少女からきかされたこと。
あのときはいきなり精霊を呼び出され驚愕せざるを得なかったが。
先ほどのことを報告したのは、当事者であるがゆえ。
コレットがいっていた、ファイドラの姉である、とあの魔物、となのった少女は。
ならばここにくる可能性もなくはない。
彼らから説明をきき、ファイドラが深いため息をつく。
姉が魔物になっている、というくだりはロイドは言葉を濁したが、
リフィルが真実はいっておいたほうがいい、といい説明をくだした。
どういう理由でかわからないが、その心のままに変化してしまったようだ、と。
いいつつも、壁にかけられている先代の神子の肖像画をみやる。
そこには、笑みをうかべた先ほどみた少女と、ファイドラの幼いときの姿が描かれている。
ファイドラが姉のことを忘れないためにたいせつにしている肖像画。
救いの旅にでて、ディザイアンに殺されながらも瀕死にもかかわらず救いの塔までたどりついた、という姉。
その姉はファイドラのほこり。
それでも、救いがなされなかったことで人々は姉を悪しざまに言いはなったが。
「このことは皆にはいわないでくれ。きっと皆、混乱して大変なことになっちまう」
「そうじゃな。そもそも今の状況でそんなことはいっておられんじゃろう……」
すでに村にはかつて住んでいた、という少女達が幾人かやってきた。
そんな人間達はしらない、といといって村長が追い出そうとしたのだが、
どこからともなくわいてきた魔物達が気づけば村にと押し寄せていた。
問題なのは、その魔物達から発せられた声。
その声を知っていた者たちがいたがゆえに、また、姿がかわっていようとも、
身内であるものを見破ったものもいた。
魔物の戯言にだまされるな、という村長の言葉をうけ、
そんな魔物達をどうにか退けたものの、魔物が語った言葉。
村長の手によってディザイアンに引き渡された、という旨の内容。
その内容は村人の心にしこり、となって疑心暗鬼として残っている。
全ての人に利用されていた精霊石を解放するにあたり、
また、本来あるべき姿にもどすために、あえて捉えられていた人の魂達を彼らののぞむまま。
ほとんどのものが負に捕われていたこともあり、その負を浄化するために、
一時、その念の浄化をかねて魔物へと変化させられている。
そのような現象はここ、イセリアだけでなく世界中においてみられている。
特にここは、自らの手…正確にいえば村長の手により被害にあったものが大多数。
パルマコスタに関しては先の地震によって大津波で壊滅していることから、
今はまださほどの騒動に発展してはないにしろ。
ようやくそんなものたちを村から追い出すことに成功した矢先にともどってきたロイド達。
真の意味での世界の再生をするために旅をつづける、という旨は以前の報告できいている。
振動する大地、引き裂かれる大陸。
大地を覆い尽くす大津波。
そして、先刻の光の帯。
無数に救いの塔からはじかれた光の帯はことごとく大陸、そして山々を切り裂いた。
正確にいえば消滅させた、といってよい。
これほどまでに地震が頻発しているがゆえに郊外に出向いていたものはあまりいない、であろうが。
しかし、万が一旅業にでているものがいればまちがいなく巻き込まれているであろう。
と、何やら外が騒がしい。
「何だ?」
気になり、おもわず窓から外を確認する。
「な、何あれ!?」
おもわずジーニアスが窓から一歩、あとずさる。
先ほどまで不可思議な色彩をたもち、揺れ動いていた空模様があからさまに変化している。
そこにあるはずのものがなく、ありえないものがそこにみてとれている。
「…大地?」
おもわずばたん、と玄関をあけ空をみあげる。
そこには、まぎれもない、もう一つの大地が広がっている。
まるで、そう、まるで空にその大地が存在しているかのごとくに。
それとともに、無数の光の帯、のようなものが、地上とその空の大地を繋いでいるのもみてとれる。
「まさか…あれは……」
おもわず、はっとし。
「ロイド!今すぐにテセアラの地図をだしなさい、いそいで!」
「え、あ、ああ」
リフィルが何をいいたいのかわからずに、それでも以前に受け取っていたテセアラの地図。
それをあわてて取り出すロイド。
その地図をひったくるようにうけとり、しばし空と地図を見比べ、
そして懐からもう一枚の地図をとりだし、その地図をもさらに重ねるようにして見比べる。
しかしそれでは拉致があかない、とおもったのであろう。
そのま、地面にそれらをおき、その場にばっと膝をつく。
アステルにいってかつての世界地図はすでに手にいれている。
リフィルがとりだしたのはまさにそれ。
世界が二つ引き裂かれる前の世界であろうとおもわれし地図。
古の文献にのこっていたらしく、アステルがこっそりと複製していたものをもっていた。
それをリフィルがテセアラの技術にあるコピー、という技術においてわけてもらっていた代物。
そこに描かれているかつて神殿があった場所、そして空からのびている光。
その光の帯はまさにその位置と完全に一致する。
しかも、である。
こころなしか確実に少し前よりも上空にみえている大地が変動しているのがよくわかる。
そう、先ほどまでは真上にあったはずの大陸が少したつとゆっくり確実に移動している。
巨大であった大地は裂け、左右にわかれ、そしてまた
「おいおい。あれ、まさかテセアラっていうんじゃぁ……」
ゼロスもその空模様をみて絶句する。
自分がしっている世界地図とあきらかに異なっている空に映し出されている大陸。
よくよくみれば、王都があるであろう場所の周囲が隆起していっているのもみてとれる。
それは小高い山になっているから、であろうか。
離れていても、まるで王都を包み込むようにして山々が発生し、そしてその山を中心に、
ゆっくりと、王都を含めたその大地が移動していっている様子も。
「もしも、あれがテセアラとするならば、もしかして……」
過去の地図とみくらべる。
リフィルの懸念、そしてかつて会話していた内容。
世界が一つになった場合、大陸などはどうなるのか、という話しあい。
アステルとの会話では有意義に様々な意見交換ができたが。
精霊達の楔の解放。
頻発していた地震。
もしも、これまでの全てのそれらの自然現象にちかいものが、
世界が一つにもどらんとする反動ならば?
導きだされる答えは一つ。
ゆっくりと、しかし確実にまるで星空のごとくに大陸が移動していっているのが、
目標をきめてじっくりとみていれば嫌でもわかる。
理解せざるを得ない。
空には無数の稲妻のようなものが走っている。
気流の乱れも著しいらしく、雲のような何か、がものすごい早さで移動しているのがみてとれる。
そしてそれらは、救いの塔を中心に渦をまくように集まっている。
その光景はさきほどまでにあった大樹に近い何か、と同じもの。
先ほどまでのは異形であったが、今回の対象は救いの塔。
象徴、ともいえるそれにそんな現象がおこっていれば、人々が不安になるのは目にみえている。
それでなくても、皆、救いの塔にからみつく異形の樹のようなものを目の当たりにしていたはずである。
頻発する地震。
救いに塔に神子がむかった、というのにいっこうに再生されないシルヴァランド。
神子がしっぱいしたのならば救いの塔はきえているはず。
にもかかわらず、救いの塔はあいかわらずのまま。
すでにくちさかない者達の間では、神子が最後の試練から逃げ出したから、クルシスが怒っているのでは。
というような噂がとびだしている。
そしてその噂はとある組織をもってしてまことしやかに確実に広がりをみせている。
この今の異常なる事態はすべて、神子が悪いのだ、と。
まだ海を隔てたここにまでその噂は届いていはないが、すぐにその噂はひろまるであろう。
特にこのような現象になっている今においては、人は何か不安なこと、
信じられないことがあれば何でもすぐに他人の責任にしその心の安定を図ろうとする傾向がある。
その心の隙間につけいるかのごとくに、まさに今回の一件は彼らにとっては都合がいい出来事、といってよい。
「…どういうことなんだ?」
「わからぬ。もともと、神子は再生の儀式を完全には済ませていない。
  それにふまえ、大樹は救いの塔をも呑みこんで成長していた。
  位相の認識をごまかす障壁に関して、何かクルシスのコアシステムに狂いが生じたのだろう。
  おそらく実害はない、はずだ」
さすがにこの現象は異常、ということくらいはロイドとてわかる。
かつて、レアバードで移動したテセアラの大陸。
見知っている大陸とは多少違ってみえるようなきもするが、
ロイドもテセアラの地理を完全に覚えているわけではない。
それゆえに理由をしっているであろうクラトスにとといかけているロイドの姿。
クラトスとしても返答にこまる。
このような現象がおこる、など予測もしなかったこと。
可能性とすれば、位相がずれたときにおこっている次元の狭間。
その位相と大地のずれが顕著になった、ともとれかねないが。
歪んだ状態での発芽、とはえ大樹は大樹。
それにひきずられて二つの世界が元の姿に戻ろうとした可能性も捨てがたい。
しかし、とおもう。
精霊の力で、エターナルソードの力でわれているのに、大樹の復活。
というだけで自然にそのような現象がおこりえるのか、とも。
しかしかの大樹はすべての命の源。
何がおこってもあるいみ不思議ではない、のかもしれないが。
「…いえ、シルヴァランドの民にとってはこれはかなりの脅威よ。恐れといってもいいわ。
  救いの塔はそのまま、さらに空にはみたことのない大陸がみえている。
  まるで、そう、お伽噺のテセアラがおちてくるかのごとくに。
  コレットが…神子が救いの塔にむかったことは、おそらくシルヴァランドの皆につたわっているはず。
  にもかかわらず、再生はすんでいない、そしてこの異変…神子の責任が追及される可能性が高いわ」
空をみあげつつも、リフィルがそんなクラトスの説明をきき、立ち上がる。
その表情はかなりけわしい。
「何でよ?今までの神子だって失敗してるんだろ?」
だからこそ、八百年もの間、テセアラは繁栄していた。
シルヴァランドの再生が成功していなかったがゆえに。
「今までの神子は失敗とひきかえに命をおとしておる。
  しかし、コレットは生きてここにおるのじゃからな。
  そして、ここ、イセリアにもコレットが救いの塔に向かった、という情報ははいっておる。
  にもかかわらず、コレットはここにおる、のじゃからの」
ゼロスの言葉に、ファイドラが首をふりつつも答えてくる。
ハイマより、飛竜によって再生の神子が旅だった。
その噂はすでに世界中にひろまっているといってよい。
なのにその神子がここにいる、となると。
そしてこのたびの異変。
「可能性として、コレットが旅から逃げ出した、と捉えられる可能性があるわ。
  いえ、もしかしたらもうそんな噂がたっているかもしれないわ。
  この異変はすべて、再生の神子が旅から逃げ出したせいでおこっていることだ、と」
「…人は、傷つきつかれたとき、誰かに責任を押し付けずにはいられないのだな」
さきほどの自分のように。
リフィルの言葉にリーガルがおもわずうなる。
たしかに、ありえる。
特にこちら側では神子は救いの象徴、として世界中で期待されていた、という。
ディザイアンという脅威からすくってくれる、と。
「…コレットさんがかわいそうです」
あの優しいコレットのこと、そんな人々の想いすらうけとめ、そして謝る、のだろう。
彼女のせいではない。
今回の出来事はどちらかといえば自分達全員の責任、といってよい。
精霊との契約を終え、そして大いなる実りにマナを照射した。
それですべてが解決する。
そうおもっていた。
アステル、という人物が指摘していたではないか、と。
それにリフィルも。
「これは私にも責任があるわね。制御するものがいない状態での大樹を目覚めさせようとした。
  あれが本当に大樹であったかどうかは疑わしいけど…けども。
  おそらく、あの彼女達は、大樹の力によって魔物にと変化したのでしょう。
  大樹は全ての命の母であり源。…あらたな生命体に変化させる、ということくらいわけはないはずだわ」
しかし、だとすればそこに必ず意思がくわわっていなければおかしい。
自然に魔物に転化するはずもない。
エミルなら、絶対に何か知っている、とおもうのはリフィルのおそらく気のせいではないであろう。
が、問題のエミルは今はここにはいない。
しばしその場にて誰も何もいえずに静寂がおとずれる。
そんな中、
「……村の様子をみてくる」
ここで黙り込んでいても仕方がない。
それに何より、ここにつれてきた人々の様子もきにかかる。
おそらく皆が気づいたであろう。
この空の異常性に。
「僕も」
「じゃあ、皆でいこうや。話しをきいているとロイド達だけで歩くのはやばそうだ」
「私はここにのこる。いってくるがいい」
人は異常なことがおこっていると何をしでかすかわからない。
暴徒とかす人がいない、ともかぎらない。
それでも数がいれば人はしりごみし、行動をおこそうとしない。
だが、相手が弱い、単体だ、とおもえば人はつけあがる。
そして集団でその目標とした人物を徹底的に排除しようとする。
ゼロスはそのようなものたちを幾度もみてきている。
そうしたものたちをすべて乗り越え、生きてきたといってもよい。
ともあれ、ひとまず外の様子もきにかかる。
ゆえに、クラトスをその場にのこし、全員で外の様子を確かめにいくことに。

村人たちの間には、神子がもどった、という噂はどうやらすっかり広まってしまっているらしい。
まあ、みたことのない人間がいきなり村にいたりすれば、噂というものはすぐにとひろまってゆくもの。
特に今は人々は敏感になっている。
絶え間なくつづく地震。
一向に再生されない大地。
それに加え、先ほどみたまぶしいまでの光りの乱舞。
それにともなってきこえた轟音にもちかい地響きを伴った何か。
もしも目をこらし、牧場のほうをみていたものがいれば気づいた、であろう。
人間牧場がある位置より、盛大なる煙がたちのぼっていたことに。
ロイド達も戻ってきたのをきいたらしく、二人の姿をみればねぎらいの声をかけてくれる村人の姿もちらほらと。
が、そんな空気がかわったのは、ロイド達が学校の近くにさしかかったとき。
「おお、こんなところにおったのか!」
何やら怒りをまじえた怒号のような声。
「村長…」
振り返れば、村長が真赤な顔をしてその場にたっているのがみてとれる。
「まったく、けしからん!追放したものがかってに村にもどり、神子は盛大に失敗して、
  これじゃあ、世界はおわりだ!」
「あいかわらずそんなことをいってる」
この村長はかわらない。
以前からもそうだった。
エルフと偽りこの村いたあのときから。
ゆえにジーニアスがおもわず呆れて呟いてしまうのは仕方がないことなのかもしれない。
「おまけに、エルフだと思っていた連中はハーフエルフだと!?大方、村を襲ったディザイアンを手引きしたのもお前だろう」
「な、なんだと!?」
さすがに学校の近くで一人が騒いでいれば…というよりはこれほどまでに大声をだしていれば嫌でも目立つ。
ゆえにいつのまにかわらわらと人があつまってきていたりする。
そしてまた、学校の中から収容所から助けだされた人々も。
「村長、こんな子供に……」
それでなくても今はまさに村長にたいする疑心暗鬼が産まれているところ。
そんな中、こんなあるいみ身勝手ともいえることをいえばどうなるのか。
この人間はそんなことすらわかっていないらしい。
ゆえにこれ以上、村人の不快をかわないために、一人の村人の女性が村長にたいし声をかけるが、
「子供だろうが何だろうが、ハーフエルフにはかわりない!」
そんな女性の言葉をひとことのうちにぴしゃり、と吐き捨てる。
「あのなぁ!さっきからだまっきいていれば、勝手なことばかりいいやがって!
  先生もジーニアスも確かにハーフエルフだけどだからなんなんだ!
  ハーフエルフだっていいやつがいれば、人間にだって悪いやつがいるだろ!」
あまりに自分勝手ないいまわし。
この旅の中、人の悪意は時折みた。
家族を救うため、といって町全体をうらぎっていた人物も。
「ふん。子供が何をいうか。
  お前のようなドワーフに育てられたやつが神子の旅についていったのが失敗の原因だ!
  薄汚い収容人達までつれてきおって!
  ああ、まったく、よくも善良なわしら人間達をひどいめにあわせてくれた」
「いい加減にして!」
突如、一人の少女が学校からでていたのであろう。
その手にはみたところ水桶がもたれている。
その状態で村長の真横に近い場所で叫んでくる。
その少女はロイドもよく見知っている相手。
「聞いていれば文句ばっかり。何から何まで文句をつけて!あんた口以外まともにうごかないんじゃないの!?」
「ショコラ…」
「お~、よくいった。そろそろ俺様も我慢の限界だったぜ」
そんな彼女の台詞に、ゼロスがわざとらしくパチパチと手をたたき、絶賛の言葉をおくる。
「産まれや育ちや、その人にとってどうにもならないことをあげつられて攻撃する。
  ……あなたこそ人ではないです」
プレセアが淡々という。
その台詞に集まってきていた村人たちの冷たい、冷めたような視線が村長にむけられる。
否、もともとむけられていたといってもよい。
それでなくても、先日はいりこんてきた異形のものたちのこともある。
村長にだまされ、ディザイアンに引き渡された、といっていたかつての村人たち。
幽霊、という存在は完全には信じてはいなかったが、目の当たりにしたのもまた事実。
「何をいうか!ここはディザイアンと協定を結んでいるのだ!
  わしには村をまもる義務がある。そうだろう、皆!…ええい、何とかいわんか!」
続々とあつまってきている村人たちに同意を求めるが、すべての村人は村長に冷たい視線をむけるのみ。
そんな中、
「ジーニアスは村で一番頭がいいんだよ?村長さんがしらない因数分解ってのもしってるんだよ?」
「リフィル先生は怒ると怖いけど、でも答えがわかると一緒に喜んでくれるの」
「ロイドはお勉強はできないけど、村で一番つよいよ。僕、魔物に襲われたとき助けてもらったもん」
「コレットはね。いつも転んでばかりなの。でもなかないの。いたくてもなかないの。コレットはえらいの」
集まってきていた、村の子供達が口ぐちにそんなことをいってくる。
彼らからしてみれば、何とかいわないか、といわれたので思ったことを口にしたまで。
「…皆……」
その言葉をきき、リフィルがいきなり駆けだしてゆく。
「…姉さん」
おそらく姉も思うところがあるのだろうというのはわかるが、今は姉をおいかける状態ではない。
「う、うるさい、うるさい!子供はあっちにいきなさい!」
素直な子供達の言葉をうけ、村長があからさまにうろたえる。
「子供達のほうがよほど素直な目で神子様達をみてるじゃないの!
  あんたは何なの!あんただけじゃないわ!皆、神子様やロイド達にばっかり責任をおしつけて!
  あんたたちは何をしたの!?何もしなかったじゃない!
  すくなくとも、私たちをたすけてくれたのはロイド達なのよ!」
収容されていた少女…少女いわくパルマコスタの出身者らしいその言葉に、
集まっていた村人全員が一斉にうなだれる。
責任のおしつけ。
そう、ずっと神子に全てをおしつけていた。
そのことは事実。
まだ再生の旅が始まる前から、神子なのだから自分達とは違うといっておきながら、
何かあれば神子にたよろうとするその他力本願たる思考。
小さな子供におしつけるのはどうか、という意見もありはしたが、大多数の意見。
神子なのだからあたりまえ、という意見に忙殺され考えないようにしていた村人たち。
「あんた、それでも村長なの?それでも人間?ディザイアン達より性格わるいわよ?
  あんた自身がディザイアンにくみしてるからそんなことをいってるんじゃないの?」
冷めたショコラの声がひびく。
ドア総督はもっと勇敢だった、といえる。
ショコラはドアの真実をしらない。
だからこそ、自分達の責任者がこんな腐った男でなくてよかった、とつくづくおもってしまう。
「我々には力がない」
なおも何やら言いつのろうとした村長であるが、
「そうさ、でも力がなくても、疲れて帰った神子様達をたすけてあげることくらいはできる」
一人の村人が意を決したように顔をあげ、その言葉をつむぎだす。
ショコラのいったディザイアン云々。
この村長ならやりかねない、という思いが村人全員の中に芽生えていたりするのだが。
「村長、あんたの言葉は子供にも見抜かれるほどに底があさいよ」
「自分に力がないからって、神子様に何もかもおしつけといて、いざとなったら神子様をせめる。
  それはあんまりさ」
それに、ともおもう。
まだ救いの塔は消えていない。
つまり、まだ希望は残されている、という証拠でもある。
だからといって神子を失えば、全てがおわる。
村長がいっていることは、神子に責任をとってしね、といっているようなもの。
神子の喪失は文字通り世界再生の失敗を意味している、というのにもかかわらず、である。
「フォスティスは死んだそうだもの。もう村の誓約は何もないはずよ」
その場にいたわけではないが、だがしかし。
あれほど巨大なる爆発の中でいきている、とはおもえない。
離れていた場所にもやってきた爆風。
そして施設のあった場所からたちのぼった爆発の痕跡。
最も、そのあとに目にした光景がいまだに信じられないが。
彼女達は自分達は元、神子であった、そういっていた。
神子の真実をショコラ達は知らない。
知らされてはいなかった。
だけど、とおもう。
おそらく、彼女達は嘘をついていなかった。
ならば、このたびの異常は神子の再生の儀式に関係しているのではなく別な要因があるのでは。
と信じられないがその可能性があることを何となくだが察しかけているのもまた事実。
ショコラの言葉をきき、驚きどよめく村人たち。
つまり、この世界における認識されていたディザイアンの施設の管理者は全てこれでいなくなった、
ということになる。
それこそまさに、神子が再生の旅を成功させれば、ディザイアンは再び封印される、という認識のごとくに。
異なるのは、封印、ではなく彼らを直接倒した、ということ。
倒したのであれば二度と彼らが復活することはない。
「…きめた!あたしたちは神子様と牧場の人をうけいれる。みんなそれでいいね?」
一人の女性がしばし目をつむったのちに、きっぱりとそう断言する。
「村長、あんたにしのごはいわせないよ?」
そんな女性につづき別の女性もまた村長にたいし言い放つ。
この男にまかせていればロクなことにはならない。
これまでもこの男はロクなことをしてこなかった。
それは村人たちは身をもって知っている。
「「「そうだそうだ」」」
その言葉をかわきりに、集まっていた村人から賛同の声があがってゆく。
村長はそんな人々の様子にただたじろぐことしかできない。
「皆・・いいのか?」
「僕、ハーフエルフだよ?」
まさかの村人たちの擁護。
それゆえのロイドとジーニアスの台詞。
だがしかし、
「でも、あなたはこの村で育ったじゃないか」
リフィルとともにこの村にきたときのことは覚えている。
小さいのに大人ぶろうとしていた子供。
「それに、ロイドもこの村の一員みたいなもんさ」
村人たちが口ぐちにそんなことをいってくる。
「あ、ありがとう。皆…」
「くっ!勝手にしろ!」
ロイドが感謝の言葉をつむぐと、自分の立場が不利になってきた、と悟ったのであろう。
吐き捨てるように言い放ち、顔を真っ赤にしその場を立ち去ってゆく村長の姿。
「あり…がとう……」
ジーニアスは感激し、肩をふるわせ、感謝の言葉をのべている。
まさか、人間にこんなことをいってもらえる、などと思ったことはなかった。
いつも、自分達を迫害してきた人間ばかりをみていたジーニアスだからこそ、
この人々の温かさが心にしみる。
ロイド達のような人間もいるが、大人でこのような態度をしてくるものはまずいなかった。
「…私もごめんなさい。をいわなきゃ」
「え?」
ロイドはショコラの台詞に一瞬戸惑う。
「……助けてもらったのに、ずっと素直になれなかった。
  …私、牧場できいたの。あなたたちがおばあちゃんに優しくしてくれていたこと。…ありがとう」
「ううん。…よかった……」
ううん、といったひょぅしについにこらえていた涙がジーニアスの瞳からこぼれおちる。
「…俺、マーブルさんのこと忘れないよ。一生…忘れない」
ロイドは自分に言い聞かせるようにいう。
マーブル、という言葉をきき、あのときのことをみていた村人たちは何ともいえない表情となる。
ディザイアンがつれてきた異形の魔物。
だが、それは牧場の人間の変わり果てた姿だ、という。
ロイド達をかばって自爆した…姿は異なれど、その心はたしかに人であった。
そう、いいきれる。
短い間だけど、孫ができたみたいでたのしかったわ。
そういった女性の声はあの場にいた村人全てがきいている。
だからこそ、何ともいえなくなってしまう。
今の会話から察するのに、この少女はあの元人間の身うち、なのだろう。
祖母、といっている以上、身近な存在がディザイアンに捕われ利用された、ということに他ならない。
それはこの世界に生きる上でいつ誰の身の上にもおこってもおかしくはない出来事。
それが一般の人々の認識。

「先生、どうしたんだよ。急に」
その場にてこれまでのことを謝れらたり、もしくは村長の手前言い出せなかった、
などという村人たちの台詞をききつつ、何ともいえない気持ちになる。
ふと、先ほどいなくなったリフィルがきになり、その場をあとにすると、
リフィルはかつて彼女達がすんでいた家の前にと佇んでいるのがみてとれる。
じっと家をみているリフィルにとロイドが声をかける。
「いえ、何でもないのよ。ただ…いいえ、やっぱりいいわ」
「ふ~ん」
「それにしても、この村も案外捨てたものではなくてね」
排除しよう、というのではなく受け入れようとする、それは初めての経験。
いつもは問答無用で村ぐるみ、町ぐるみで自分達を追い出そうとしてきたのが人だ、というのに。
「リフィル様なら村長にもっときびしいことをいうとおもってたんだけどなぁ」
ぽつり、というリフィルにたいし、ゼロスが何やらいってくるが。
「あら?豚に説教する馬鹿がいて?」
あの村長の人間性は今にはじまったことではない。
自分達がこの村にすみついたのも、ファイドラの意見があってこそ。
それでもほぼ毎日のように嫌味やちょっかいをかけてきていたが。
時にはすまわせてやるのだから、と男特有の条件をもちだしてきたりもした。
もっとも、リフィルの手料理をたべた後に、直接的な干渉はしてこなくはなったのだが。
「…こりゃ、失敬」
リフィルの言い分はゼロスからしてももっともなこと。
そもそも、いってわからない人間、というものはどんな場所にも存在する。
そう、それがたとえ時をこえたとしてもいつもそういうものは存在している。
そして、下手に相手に理解させようとすれば相手はまちがいなくギャクギレし、
時には冤罪すらふっかけて罪に陥れようとする。
それが人の愚かさ。
「俺達はコレットちゃんに甘えてたのかもな」
ふと、村人たちがいっていた台詞が印象深い。
「よかったな。ジーニアス。村の皆に理解してもらえて」
「でも、村長は……」
「ああいう馬鹿はほっとけって」
たしかに、村人たちは自分達をハーフエルフだとしっていながら受け入れる。
そういってくれた。
けど、あの村長はそうではなかった。
沈んだ声でいうジーニアスにさらり、とゼロスがぴしゃりと言い放つ。
「頭の固い人はどこにだっているわ。少しづつ私たちが周りをかえてゆくしかないのよ」
そんなジーニアスにたいし、リフィルがいう。
そう、変えてゆくしかない。
今まではそう信じていても絶対に不可能、とおもっていた。
「じゃあ、イセリアは小さな第一歩ってとこだな」
「私にとっては大きな前進よ」
今まで一度とて成功したことはない。
が、ここにきて初めて、人々がきちんと受け入れてくれた。
その意味は…リフィルにとっては大きな一歩。
かつて、ミトス達、勇者ミトス達が行おうとして失敗した人々の認識の変化。
それが今まさに、人も各個人で勇気をもてばそれが可能なのだ、と実行された。
「え?先生?何かいったか?」
「いえ、何でもないわ」
もしも、この旅が無事におわり、そして世界が統合された後。
このような村が、受け入れる人の心の寛容さがあるのならば、自分がその後にすべきことは。
長い時を生きる自分達ができること。
今はまだそれを考える談ではないかもしれないが、だけどもおぼろげながらに未来の目標はきまったといってよい。
そう、こんきよく、説得していけば人とていつかはわかってくれる。
この村人達のように。
知らないから嫌悪するのならば、まず始めから知ってゆけばいい。
人は、未知なるものに恐怖し嫌悪し退けようとするが、知っているものに関しては、
どちらかといえば認識はあまくなる。
逆をいえば、しっているから、という理由であまり警戒をしなくなる、といってよい。

「コレット、もう大丈夫なのか?」
しばし、村を探索し、とりあえず村の出入り口、表口のほうへと歩いてゆく。
と、奥のほうからコレットとクラトスが歩いてくるのがみてとれる。
「う、うん。何とか、ごめんね。心配かけちゃって」
倒れた理由はおそらくは、精神的なものがあるのだろう、とはファイドラの意見。
そもそも、クラトスもわからなくはない。
彼も彼女達の悲鳴はきこえていた。
天使化している以上、聴力が鋭くなっており、きかなくてもいい彼女達の声なき声も聞こえていた。
クラトスは慣れているのでそれらを無視する、という方法を無意識にこなすが。
コレットはそうではない。
自分に向けられている悪意などといった直接的な感情をしかもかつての神子達。
すなわちコレットの同胞といってもいいものたちからうけたのは初めて。
まあ、歴代神子はそれぞれの世界に一人づつ、しかいないので、
それはそれであるいみで当たり前、といえば当たり前なのだが。
「コレットとどこにいくつもりだったのさ?」
ジーニアスが警戒を含んでクラトスに問いかける。
そんなジーニアスの台詞をきき、ため息をひとつつき、
「ファイドラ殿とフランク殿の依頼をうけてお前の父親のところに神子をつれてゆく」
「親父のところへ?どうしてだよ」
 連れてゆく意味がわからない。
「大地のことは、ドワーフにきけばいいって、おばあさまが」
以前につけたルーンクレストの影響で、あれから体は元にともどっている。
あの一件がなければダイクに自らの輝石のことをききにいくことになったであろうが。
「そうか、そうだよな。じゃあ、俺達も一緒にいくよ。たまには親父にも顔をみせないとな」
「そうするといい。私は神子を送り続けたらクルシスにもどる」
そんなクラトスの言葉にロイドが一瞬、顔をしかめる。
「でも、しいなさんはどうするんですか?」
「伝言を頼んでおいた。すぐに合流するだろう」
「わかった。じゃあ、親父のところへかえろう」
クラトスがいうのならば、そう、なのであろう。
そもそもそのあたりのことで嘘をく意味がない。
イセリアに戻るまで、そして牧場にいくまで余裕がなかったので周囲をよくみていなかったが、
木々の様子がかつての様子とはことなっているのがみてれとる。
まだ冬、でもないのに木々の葉の色はかわり、はらはらと木々の葉がおちていっているのがみてとれる。
「これは、いったい……」
先日までたしかにマナは安定していた、はずなのに。
今はマナのその感覚が著しく少なくなっている。
「…魔導砲の影響…ね」
「どういうこと?姉さん?」
リフィルがため息をつきそういうと、ジーニアスがいってくる。
「魔導砲は周囲のマナをつかいつくす、と以前文献でよんだわ。
  しいながイセリアの精霊の力をつかった、とはいえおそらくこちら側のマナも吸い取られたのよ」
木々はまるで冬のように今にも枯れ果てようとしている。
「おそらく、この現象はここだけ、ではないはずよ。
  イセリアの精霊を使用した以上、おそらくは……」
「…イセリアにも同じようなことがおこっている可能性がある、ということか」
リフィルの言葉にリーガルがおもわず顔をしかめる。
魔導砲の使用にそういった副作用がある、など現実にまのあたりにするまで考えてもいなかった。
魔科学。
たしかに便利な品物ではあるとおもう。
その技術によって、確実にテセアラは繁栄してきた。
しかし、その便利さゆえに、マナが涸渇してゆくとなれば、いきつくさきは文字通り破滅、しかない。
「マナにかわる新たな動力源を考える必要が早急にあるな。…エクスフィア以外の」
人を犠牲にしなりたつエクスフィアを動力源にする、というのは知ってしまった以上、認められない。
リーガルは知らない。
彼らもまだ知らない。
先の現象によってイセリアにしろここシルヴァランドにしろ。
今ある全てのエクスフィアが文字通り、魔物達にと保護されている、ということを。
すでに力を取り戻している以上、あらたな界も急激に吸い上げたマナによって作り上げられている。
今現在はラタトスクが時間率を調整し、かの界…ラタトスクが命名したところによれば、
精霊界とよばれし場所は、この大地を二次元、とするならば三次元に位置する、
いわば、テセアラとシルヴァランドの関係のような位相というか次元がずれた位置に存在する新しい世界。
時間率を調整し、文字通り時間をはやめ、今現在は世界における体勢をととのえている真っただ中。
この地に眠っていたエクスフィアがうまれし場所もすでにそちら側にと移動、させている。
「ロイドじゃねえか」
周囲の自然界の変わりように何ともいえない気持ちになりながらも、ダイクの家へ。
見慣れていたはずの木々もまた枯れかけており、はらはらと葉っぱが地面に落ちていっている。
その葉っぱすら本来ならばつもってゆくのであろうが、大地に触れたとたん、
まるで砂のようにおもいっきり崩れはててゆく。
そんな状態だ、というのにこれは一体どうしたことであろう。
ダイクの家にたどりつくと、ダイクは珍しく…なぜか美しく咲き乱れている花に水をやっているのがみてとれる。
周囲の木々も枯れかけ、花という花などみえなかった、というのに。
これは一体どういうことなのか。
しばし目をぱちぱちとさせ、見直してしまった彼らはおそらく間違ってはいない、であろう。
ロイド達の姿をみて、ぱっと顔をほころばせる。
そしてざっと視線をはしらせ、そこにエミルの姿がないことに、ああ、やはり、という思いもある。
ロイド達がいない間に出向いてきたセンチュリオン達。
そして、ドワーフを代表し、託されたこれらの草花。
本来あるべき姿にもどったときに、これらを大地に、そういわれた。
センチュリオンとかかわりのあるもの。
普通の人であるはずがない。
ソルムといった地のセンチュリオンといったものがくればダイクとて理解せざるをえない。
もっとも口止めされた以上、それをいくらロイドとて説明する気はさらさらないが。
「親父、元気か?地震の影響はないか?」
「この辺りは、硬い岩盤の上だからな」
それでも、異変はおこっている。
大地に何かがおこっている。
それは確信。
おそらく、この花にも何か、があるのであろう。
周囲の草花は完全に枯れた、いうのに。
託されたこれらのそれはまったく枯れる要素はみあたらない。
ロイドの言葉をうけ、さらり、と答えるダイクに対し、
「大地のことはドワーフであるあなたにきけばいい、と村のマナの血族より依頼をうけてきた」
「そういってもなぁ。こればっかりはわしらにも許容範囲外というか…
  確実にいえるのは、これは大自然にとっては必要なことなんじゃろうな。
  その証拠にあれほどの地震なのに、動植物達がまったく動じてなどおらん」
まるで始めからわかっていたかのごとくに。
否、おそらく判っていた、のであろう。
だからといってダイクにも説明のしようがない。
クラトスの言葉にダイクも首をかしげていわざるをえない。
「……魔物にでも詳しいものがいればもっとよくわかるんだろうか?」
ぽつり、というリーガルの台詞に、
「…エミルがここにいないのが痛いわね」
彼ならば確実に何かをしっている。
それは確信。
ゆえにリフィルもそんなリーガルの言葉に同意するように思わずうなづく。
「そうか。ドワーフ…大地の申し子ともいわれている親父でもわからないか」
「すまねぇ。やくにたてなくて。せめて今日はゆっくりとしていくといい」
ドワーフ達は別名、大地の申し子、ともいわれている。
いいつつも、ロイド達を家の中に招き入れようとするダイクであるが、
「私は失礼する」
そのまま、きびすを変えて立ち去ろうとするクラトス。
そんなクラトスに対し、
「まてよ。本当にクルシスにかえるのか?」
「私はクルシスの天使だ」
ロイドの問いかけに振り向くわけでもなく、淡々といいきるクラトス。
「だったら、何でユグドラシルの命令通り、大いなる実りの暴走を放置しなかったんだ」
あのフォスティスのいいまわしからしてみれば、おそらく何らかの命令があったのだ、と推測できる。
もっとも、神子達がおこした一件に関して手だしは無用、彼らは泳がしておく必要がある。
といったのはたしかにミトスなれど、大樹の暴走はほうっておいていい、
といったのはほかならぬプロネーマ。
大地の消滅の許容、という命令を下したのはミトスではない。
プロネーマがミトスの命、といつわり、彼に伝えていたのみ。
「私には私の考えがある。それだけだ。結果としてマーテルは失われなかった。
  ……これはユグドラシルの望みにかなっている」
「……あんたは、やっぱり敵なのか?」
その言い回しに、やはり、とおもってしまう。
もしかしたら、とおもっていたのに。と。
「……お前がクルシスやディザイアンを敵というのなら、私は敵だろう」
敵、とは何なのだろうか。
最近、ロイドもまたわからなくなってきている。
禁書の中でであった、かつてのユグドラシルだ、というミトス・ユグドラシル達。
彼らは心から大地の存続、世界の救済を望んでいた。
自分達にとって、たしかにディザイアン達は敵でしかなかった。
しかし、彼らはそのほとんどがかつて人に虐げられていったハーフエルフ達である、というのもまた知った。
自分達が悪、と断じたとしても、相手からしてみれば自分達のほうが悪そのもの、なのであろう。
また人間が自分達を排除しようとして動いている、と。
それは、ジーニアスに心情を以前、ぽつり、ともらされたがゆえに理解した感情。
禁書の一件のあと、宿屋でかったジーニアスの心とその葛藤はいくら鈍いロイドとて何となくではあるが理解ができた。
せざるを得なかった。
「俺はあんたを敵だなんて思いたくはない」
だからこそ、今ここでいわないときっと後悔する。
だから、意を決し、そんなクラトスにと語りかける。
背後で仲間達がおもわず息をのんだり…これはジーニアスのみ、であるが。
リフィルなどはため息をついている感覚が感じ取られる。
「どういう心情の変化だ?」
禁書の一件からロイドがいろいろと何か考えていた気配はつかんでいた。
しかし、面とむかってそんなことをいわれる、とはおもわなかった。
だからこその問いかけ。
「別にあんたを許したわけでも、あんたが好きなわけでもないけど。
  あんたは他のディザイアンみたいに大いなる実りも大地も見殺しにはしなかった。
  そういうやつを敵だなんて思うのは…おかしい、っておもったんだよ」
あのフォスティスがいっていた。
クラトスは、かつての勇者ミトスの剣の師だ、と。
だからこそ、ユグドラシルはクラトスに信頼をおいている、と。
にもかかわらず、うらぎるのか、これなのに人間は、と。
人は誰でもその行動にともなう理由がある。
それが理解できたといってよい。
どうしてクラトスがあのユグドラシルに従っているのか、という疑問はいまだにあれど。
しかし、かつての弟子…今もそう、なのかもしれない。
それにしては、様づけをしている、というのがかなり気にはなるが。
だとすれば、みすてられない、という思いもまあ、わからなくもない。
だけど、心のうちでは、師匠ならばどうして間違った道を進もうとする弟子をいさめないんだ。
いさめなかったんだ、という思いもある。
「……つよくなったな」
「え?」
いきなり、自分の問いかけに関係ないことをいわれ、おもわずロイドは短く声を発する。
「旅を始めたころのお前ならば、天使であるだけで全て敵だ、とみなしていただろう
  まるで人間やエルフがハーフエルフを、ハーフエルフが自ら以外を憎むように、な」
「そうかな。俺…そうだったかな」
改めていわれれば、たしかにそうだった、とおもう。
ディザイアンだけで悪、ときめつけ、そこにいい人がいたり、という思いはいっさいなかった。
彼らにも彼らなりの理由がある、ということなど想いもしなかった。
そして、クルシスが全ての発端、としったあのときは。
天使は全て敵だ、そうおもったのもまた事実。
それは、そう。
クラトスがいうように、種族が異なるのならば敵でしかありえない。
そうたしかに自分は…そうだ、おもっていたのだ。
いまさらながらにそのことに気付き、ロイドは愕然、としてしまう。
「人は誰しも自分と違うものを受け入れるのに抵抗がある。
  神子が世界を救い、ディザイアンは全て悪で、人間は全て正しい。
  という認識の世界にいればそれだけを信じているほうがたやすい。
  事実、お前はそれを信じて神子の旅についてきた」
淡々とかたられるクラトスの言葉。
それはたしかに的をえている。
あのとき、ロイドは何もかんがえていなかった。
コレットが世界をすくってくれる、ただ盲目にそう信じていた。
どうしてコレットが天使化する過程で苦しむのか、ということなど考えもせずに。
与えられていた情報、試練だ、ということだけでそれをうのみにしてしまっていた。
「そう、だな。そうだった」
それが何を意味するのか、まったく考えもせずに。
エミルに散々、いわれていた、というのに。
自ら考えようとしないものには説明する必要もない。
エミルがよくいっていた台詞。
今ならば、何となくだがわかる。
自分はたしかに何も考えがなさすぎたとおもう。
今もまだ、流されるままだ、というような思いがある。
「でも…ディザイアンがやってることは、許せないしクルシスも許せない。
  あいつらがやっていることは、自分達がされたことにたいする仕返しだろ?
  それじゃあ、新しい憎しみをうむだけだ」
復讐は復讐しかうまない、そういったのは誰だったのか。
「そうだ。それがわかったお前だからお前だから強くなったのだ。
  人や周りの意見に流されず、自分のみたものを信じるつよさ。
  そして自分が嫌悪するものへの理解。心の目てそれらをみて、なお、それが不快であろうと受け入れる。
  受け入れようとする勇気がお前の中に芽生え始めた」
ロイドはそこまでたいそうな想いを抱いたわけではない。
だけど、とおもう。
「コレットがよくいうんだ。どうして皆、仲良くできないのかな、って」
コレットからしてみれば、自分が死んだあとの世界で誰にも喧嘩などしてほしくなかったがゆえの台詞。
自分の命で救われた世界で皆が幸せになってほしい、そうおもっていたからこその台詞。
「ふむ、あの神子ならばそういうだろうな」
マーテルもよくそういっていた。
本当に性格はよくにている、とおもう。
さすがにマナが酷似しているだけのことはある、というべきか。
「でも、オレ、皆が仲良くしなきゃいけないとはおもわない。嫌いなやつは嫌いでもいい。
  いいやつもいれば悪いやつもいる。でも、そこにいることをお互いに許し合えればいいんだって思うんだ。
  ……あんたも、いてもいいとおもう」
同じ人同士でも醜い争いがあるのをしった。
同じ血をわけたものを殺そうとしていた教皇。
そして自分の欲ために周囲をまきこんでゆくというその行動。
さらに、研究院で行われている、という実験。
アステルから聞かされたときは絶句せざるをえなかったが。
人を人とはおもわずに、命を命ともおもわずに実験させられているものたちがいるというテセアラ。
表向きはきらびやかにみえる世界でも、ディザイアンがいないはずの世界だ、というのに。
裏をしってみれば、テセアラのほうがはるかにあるいみでシルヴァランドよりひどい、といってよい。
あちらは何しろ公認でそのようなことが行われている、というのだから。
「いや、私にはなすべきことがある。お前達とともに旅をすることはできぬ」
それらを全てあつめるまでは。
このような現象になってしまった以上、時間は残されてはいない。
これまで精霊の楔を抜いたにもかかわらず、マナが安定していた、ということに不思議を覚えなかったわけではない。
まるで、そう、嵐の前のしずけさのごとくの現象ではなかったのか。
という思いがいまさらめぐってくる。
「成すべきことって何だ?あんたがずっとテセアラをうろうろしていたのはそれが原因なのか?」
クラトスはそれには答えず、
「ロイド」
「な、何だよ」
「…ユグドラシルには気をつけろ」
それだけいって、そのまま振り返りもせずにその場を後にしてゆく。
「あ、お、おい!ったく、クラトスは何を考えてるんだ?」
クラトスに声をかけるものの、クラトスはふりむきもしない。
ロイドとしてはそういわざるをえない。
敵なのか味方なのか、わからない。
だけど完全に敵ではない、とおもいたいのはロイドの無意識の想いゆえ。
…ロイドはまだ知らない。
それが肉親であるがゆえの無意識の信頼である、という思いであることを。
「…ユグドラシルに気をつけろ?そんなの今に始まったことではないだろうに。
  あの貴公は何を考えているのだ、もしや……」
話しはきいた。
禁書の中でであった、あのミトスとそっくりであったという、ミトス・ユグドラシルのことは。
リフィルもその可能性が高い、と同意を示したが、子供達に混乱をあたえたくはない。
という意見もありその可能性はロイド達には話してはいない。
リーガルがぽつり、とつぶやく最中、ふと見慣れた姿がこちらに近づいてきているのがみてとれる。
「今でていったのはクラトスじゃないのかい?」
どうやら伝言をきいて、この地にやってきたらしい。
戻ってきたしいなの台詞に、
「ああ、クルシスにかえっていった」
「…そうか、やっぱり敵…なんだねぇ」
完全なる敵、というわけではないであろうが。
行動がつかめない、といってもよい。
「そうだな。それよりお疲れさま。しいな、あとおかえり」
「ああ、あんた達もね。よかったよ、大樹の暴走がおさまって、でも…
そんな彼らの会話にわってはいるかのように、
「とにかく、立ち話も何だろ?中にはいっちゃどうだい?」
いまだにロイド達は外にいるまま。
たしかにダイクのいうとおり。
ひとまず、ロイド達はしいなを迎え、ダイクの家の中にとはいってゆくことに。

「あたしさ、今まで精霊と契約する力をもっていたことをずっと恨んでいたんだ」
ぽつり、とお茶をのみつつ、しいながつぶやく。
「え?どうしてだ?」
「…あたしのみじゃなく、未熟な腕のせいで里の仲間を大勢なくしちまっただろ」
「ああ」
ゼロスは少し外の空気をすってくる、といいここにはいない。
リフィルは外にある花がきになるらしく、外の草花をみにいっている。
今、この場にいるのは、ロイド、コレット、ジーニアス、プレセア、リーガル、しいなの六人。
勝手しったる自分の家、ということもあり、お茶をいれたのは、
リフィルにつかまってしまったダイクにかわり、ロイドがいれたにすぎない。
「あたし、本当はミズホの民じゃないし。捨て子だったしね。たまたまガオラキアの森でミズホの頭領に拾われて…」
「しいな……」
そんなしいなのいきなりの独白にちかいものをきき、ジーニアスも何といっていいのかわからない。
「あたしに適正がある、とわかって……王家への忠誠の証として精霊研究所に派遣されたんだ」
おもわず、がたん、とロイドが椅子をたちあがる。
「それじゃあ、まるで道具扱いじゃないか!」
リーガルをみれば無言でうなづいている。
どうやらその筋というかあるいっていの者達にとってはしいなのことは有名。
「勘違いしないでおくれよ。あたしはそれを恨んじゃいないよ。頭領はあたしを大事にしてくれた
  頭領のためにも、一人前の召喚士になってやくにたとうって…そう、思ったんだよ」
はじまりは、頭領につれられ、研究院にいったとき。
そこにいた人工精霊という存在をみせられ、何となく言葉を発した。
あのときから、周囲の自分にたいする視線はあきらかにかわった。
だからこそ、余計に、なのかもしれない。
頭領の、祖父の役にたちたい、と子供ながらに強くおもったのは。
誰しも嫌悪するように、腫れ物をあつかうように扱いがはじまった。
「そうだったのか」
「でも、結局、ヴォルトを暴走させて、おろちやくちやわの両親も死んだし頭領も…
  あのときから、眠ったまま目覚めなかったしさ。それに、あたしの初めての友達だったコリンも……」
やはり、感知されないとはいえ、異種族の、エルフの血をひいていることはあるな。
なりそこないのハーフエルフが。
そういわれたかつての台詞。
マナの数値はたしかに人のそれ。
が、精霊と契約できるものは、エルフの血をひくものでしかありえない。
それが人々の中にある常識。
ハーフエルフとして認識もされない、かといって人としても認識されない。
完全なる異物。
そのような扱いをしいなはうけていた。
祖父が倒れ、もしも傍にコリンがいなければ、しいなの心はくじけていたかもしれない。
その純粋なる心すらをも踏みにじる、それがヒト、というもの。
ヒトのこころのありかた。
周囲がそうしているのだから自分もそうでかまわない。
虐げても、ないがしろにしても、何か無理難題をおしつけても、人でもないのだからいいだろう。
そんな傲慢なるヒトの想い。
「元気だせよ。お前が精霊を扱えたからあの大樹の暴走もとまったんだぜ?」
あのままだったらどうなっていたのか。
それはロイドにもわからない。
「……でも、こうなったのもあたしが全ての精霊と契約したからだろ?」
しいなの表情は暗い。
「それは、レネゲードだ!」
いきなりのロイドの台詞。
「「は?」」
おもわず短い声をもらしたのはしいなだけでない。
コレットとリーガル以外、すなわちジーニアスとプレセアの声が同時に重なる。
「レネゲードが適当なことをいったのがわるい。ってことにしとこうぜ」
「あはは、何だよ、それ。それって他人に責任をなすりつけるってことだろ?あたしは…嫌だね」
ロイドの言葉に顔をすこしひそめ、しいなが自分にいいきかすようにきっぱりとといきる。
そう、責任をなすりつける。
それはしてはならないことだ、としいな自身はおもっている。
そのように里のものは訓練も、そして教育もうけている。
「ロイドって…本気で何も考えてないというか、その場に流されて言葉をいうよね……」
あきれたようなジーニアスの台詞。
「…うっ」
さっきクラトスにいったことなのに、もう同じ過ちをしていることに指摘されてようやくきづき、
ロイドはおもわず口を閉ざす。
「それに、元はといえば、あたしたちが早合点して精霊と契約を始めたんじゃないのかい?」
そうしよう、ときめたのは、ヴォルトと契約をしたときに、ウンディーネが楔が解き放たれた。
そういったがゆえ。
そのあと、ユアンに精霊と契約をこなせ、といわれ、マナの流れを断ち切ることをきめたのは、
他ならぬロイド達自身でしかない。
「そうだけど…えっと…」
「わかってるよ。あたしたちがよかれとおもってしたことで、シルヴァランドの大勢の人間が命をおとした。
  これは忘れちゃいけないことさ。あんたはあたし以上にその重さをしってるってこともあたしにはわかってる。
  それに…」
おそらく、あの空にみえている大陸が、テセアラならば、同じようなことがテセアラでもおこっている。
これは確信。
「ああ。俺達はたくさんの人の悲しみや怒りや怨念を背負ってる」
ロイドはそこまで予測がついていない。
この現象がよもやテセアラ側でもおこっている、などとまったく思ってすらもいない。
他のものはその可能性にすでにいきあたっている、というのに。
あるいみで自分でいまだにきちんと物事を考えて推測していない、というのがよくわかる。
「そうさ、それを希望にかえるまで、あたしたちまけられないよ」
そういいつつも、胸にしまっているコリンの鈴にそっと手をあてる。
そう、ここまできた以上、立ち止まることはできはしない。
「そうだな。しいなの精霊を使役する力もそのためにあるのかもしれないぜ」
「そう…思いたいよ」
そんな二人の会話をききつつ、
「…僕、どんどん人間が嫌いになっていくみたいだよ」
ぽつり、とジーニアスが二人の会話がキリがいいところなのをうけ何やらいってくる。
いいたはくない。
けど、いわずにはいられない。
「ごめんな。ジーニアス」
「ロイドが謝ることはないよ。ロイドとか、イセリアの皆とか僕は好きだよ。
  だけど、村長みたいな人はきっとたくさんいるんだろうなって思うとさ…
  …今さらながらに、エミルのいっていたことがよくわかるよ。
  …どこに人間を信用…好きになれる要素があるのさ、か…」
それでも、絶望してないだけましだとおもってほしいよ。
エミルは初めてあったときにそういっていた。
そう、信用なんてできない。
だけど絶望にまではいたらない。
人間の中にもわかってくれる人がいる、と知っているから。
エミルも…こんな想いをずっと抱いていたのかな。
ふと思う。
魔物と共にあり、魔物を自分の友達、といいきる不思議な友達。
ジーニアスは友達、とおもっているが相手はどうなのかはわからない。
「前に先生がいってた。人はお互いを理解しあうために言葉をつかってるんだって」
かつてリフィルがいっていたこと。
「理解しようとしない人にはどうしたらいいの?」
「ジーニアス…」
「ごめん。ロイドにあたるつもりじゃなかったんだ。きにしないで」
いって、少なくなったコップにお茶をそそぎなおしつつも、こくり、と飲み干す。
きのせいか、このお茶はかなり甘い。
「あたればいいよ」
いきなりといえばいきなりのロイドの台詞。
「は…はぁ?」
まさかそういうとはおもわずに、おもわずジーニアスが間抜けな声をだす。
みればプレセアも予測外であったのであろう、目をぱちくりとさせているのがみてとれる。
「他の奴らはどうかはしらないけど、少なくとも俺とジーニアスは親友だよな?」
「う、うん」
少なくとも、ジーニアスはそうおもっている。
そしてロイドもまた。
「だったらどんどんあたりちらせよ。あたまにきたら俺も怒るかもしれないけど」
「むちゃくちゃだよ。喧嘩になるよ」
ロイドの言葉に呆れてしまう。
「上等だぜ。そしたら喧嘩して一緒に悩んで一緒に考えようぜ」
「ロイドってさ…ときどきさえたこというな、とおもっていたけど、やっぱり脳味噌まで筋肉じゃないの?」
そういわざるをえない。
考えていない、というか思ったことをすぐさまに口にだす、というか。
その先に何がまっているか、まちがいなく今のロイドの台詞は考えていない。
それはもう確信をもってジーニアスは断言できる。
「おまえな~」
そんなジーニアスにロイドが何やらいいかけるが、
「たしかに、誰しも本気で本音をぶつけることによってみえてくるものがあるであろう。
  本気でぶつかりあう、というのも悪くはないことだとおもうぞ。
  男たるもの、拳で語り合えることもあるはすだ」
「あ、あんたね…リーガル、何あおってるんだよ……」
そんな二人の会話に、しみじみうなづくようにして何やらつぶやいているリーガル。
そのリーガルのいい分に、しいなとしてもおもわずひいてしまう。
男って、と一瞬おもってしまったしいなはおそらく間違ってはいない、であろう。
「……うん。でも。僕と本気で喧嘩してくれるの、きっとロイドたけだね。
  ロイドだけだよ、僕がハーフエルフだったことも、僕が子供だってことも。
  何もかも忘れて本気で接してくれてるの」
皆が、子供だから、ハーフエルフだから、といって必ずそこに線をひいていた。
何も考えずに接してきてくれたのは、ロイドと、そしてコレットくらい、であろう。
ジーニアス自身もコレットに対しては線をひいてあまり接触しなかったというのに。
全てはロイドが発端。
ロイドにつれられ、ジーニアスもコレットに接するようになっていった。
「ジーニアスはジーニアスだろ?他に何かあるのか?」
ロイドからしてみれば、そんな感覚でしかない。
あるいみで何も考えていないがゆえの強み、ともいえる。
「皆がロイドみたいだったら、ハーフエルフはディザイアンや天使なんてものにならなかったかもしれないね」
ジーニアスのいいたいことを察し、おもわずしいなも苦笑まじりにいってしまう。
そう、皆がロイドのようであったら、このような世界にはなっていなかったであろう。
…まあ、別の意味で怖い世界になっていたような気がひしひしとするが。
「…皆がロイドさんみたい…皆、紅くなるんですか?」
プレセアが気になっていたことをぽつり、ともらす。
「いや、プレセア、いま、彼らがいっているのは服装のことではないとおもうぞ」
そんなプレセアにリーガルが突っ込みをいれる。
「あんたが突っ込みをいれるなんて、めずらしいね」
「ふ。しかし、ロイドが赤い、というのは事実だな」
熱い、ともいうが。
…人はそれを暑苦しい、ともいう。
主にその性格が。
「この服、気にいってるんだ。親父の手作りの服でどこにも売ってないんだぜ?
  前に親父がきにいって同じ服を10着くってもらっるてんだぜ?
  着替えはしっかりと毎日汚しても大丈夫なように予備があるからな!
  あと、皆が俺みたいになったら誰も学校にいかなくなるんじゃないのか?」
しかし、ロイドには彼らの会話の意味の裏が理解できない。
赤い、という言葉から服のことだと推測し、にこやかにいいはなつ。
「「「…十……」」」
その言葉におもわずひいてしまう、しいな、リーガル、プレセアはおそらく間違ってはいない。
「…ダイクさん、とめなかった…んですね」
「いや、むしろ息子に頼られたことをうけ、嬉々としてつくったのではないのか?」
「…あたまがいたいよ……」
何やらしみじみとそんな会話をしているプレセア、リーガル、しいなの三人。
「…ああ、以前の僕と同じ反応を……まあ、気持ちはわかるよ。
  …しかも、ロイドって、この服、小さいころからずっと同じものをダイクさんにお願いしてきてるんだよね……」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
どこか遠い目をしていうジーニアスの言葉に三人からしてみればおもわず無言になることしかできない。
何となくではあるが、ジーニアスの苦労がしのばれる。
ゆえに、おもわず無言で、ぽん、とジーニアスの肩に手をおくしいなの気持ちはまあわからなくはない。
「…服のことはもう僕は諦めてるけど。
  でも、ロイドと同じ性格だったとしたら、きっと皆、給食と、体育と図工とかにしか参加しないね、間違いなく」
それはもう確信をもっていえること。
「そして、宿題はいつもみせてくれ、といってきて、問答無用で人をどこかに連れ回したりとか」
「「・・・・・・・・・・・」」
その言葉に実感がこもっているのはおそらくしいなたちの気のせいではない。
むしろその台詞はいままでのジーニアスがロイドにうけていた行動、なのであろう。
それはもう聞かずとも確信をもって理解できてしまう。
無理やりに、嫌といっているのにロイドにずるずるとどこかに連れていかれているジーニアスの姿。
そして、ジーニアスがやっていた宿題を無理やりにみているロイドの姿が。
「うるさいな!ほっとけ!」
「……あはは。僕、ロイドとお別れしたくないな」
「しねぇよ。それにずっとついてくるってお前いってただろ?」
「うん、ずっと…ロイドが生きている間は、ずっと、ね」
「それはジーニアス、物理的に不可能とおもわれます。
  いつかはロイドさんも結婚し、家庭をもつはずです。共同生活は何らかにつけてかならず亀裂をうみだします」
「…プレセア。ここはあるいみでいい話しでまとめてやっとくれよ」
そんな彼らの会話にぽつり、とあるいみ真実である突っ込みをしているプレセア。
と。
「あら、何か盛り上がってるわね」
どうやら外の草木の説明というか観察するのは満足した、のであろう。
外にダイクとともにでていたリフィルが家の中へともどってくる。
そして、そのままカタン、と椅子をひきつつも、自然な形でジーニアスの真横にすわる。
「これからのことを話していたのかしら?」
「あ…うん、まあ、そんなところ、かなぁ?」
しいなとしてみれば苦笑せざるをえないが。
まあ、あるいみロイドとジーニアスの今後のこと、ともいえるのであながち間違ってはいない。
「今後のこどか問題ね。人為的に引き裂かれた二つの世界を救うためには、
  とにかくどのようにしてそれが行われたのかを詳しくしるべきだわ。
  オリジンの力によって世界が分断された、というのまではつかめたけど。
  そのオリジンの封印にかかわっているであろうクラトスのこともあるし。
  それに、このままでは、世界が混乱してしまうわ。こちらがこう、ということは、おそらくテセアラ側も…」
空にみえるテセアラの大地は、リフィル達がレアバードで見知ったものとは何となくだが異なっているような気がする。
救いの塔を中心にし、上下にわかれて存在しているようにみえているシルヴァランドとテセアラ。
かの大樹の暴走のあと、空が晴れたとおもったら、このような状況にとなっていた。
しばらく、空模様が不可思議な光のカーテン…オーロラにちかしい何かに覆われたかとおもうと。
あの暴走のように問題がない、と判断されこのままクルシスが放置している可能性が高いわ
しかし、このままではまちがいなく、混乱は必須だろう
こちら側の小さな村においても混乱しているのである。
「そういえば、姉さん、外の草花が気になっていたようだけど、どうかしたの?」
「ええ、すこしね」
近くでみたからこそ理解ができた。
あの草花はまったくマナの欠片も感じなかった。
ありえない。
自然界において必ずマナは必要不可欠だ、というのに。
ダイクにきけば、ダイクは誰にもらったのかはいえない、と首をふるのみ。
それはエミルが新たにうみだした、元素を元にした新たなる自然界の命の息吹。
マナから直接、ではなく元素たる物質を介入させることで、マナの認識を感じさせなくさせた結果の代物。
すでに自然界は新たな理を組み入れられたことにより、そのための変動がおこっている。
この木々が枯れてゆく、という現象はその余波にすぎない。
次に木々が新たな新芽をめぶかすとき、そこにマナの力を直接利用してはいない。
大地における、そして大気における全ての元素を元にした養分からして生きてゆく。
新たな自然界の…地上における理。
「どちらにしろ、あの少女達のいい分も一理あるかもしれぬな」
「神聖都市、ですか?」
叔母であった彼女がいっていた。
真実をしりたいのならば、いってみるがいい、と。
「でも、どうやっていくのさ?それってたぶん、敵地の真っただ中、だよね?」
「虎穴にいらずんば虎児を得ず、ね。たしかに、方法があるのならば出向いてみるのも一つの手ね」
「なら、救いの塔にむかってみたらどうだ?」
「うお!?ゼロス、いつのまに!?」
いつのまに戻ってきていたのか、ゼロスがそんな彼らの会話にとわってはいってくる。
「救いの塔はデリス・カーラーンに続いている、ともいわれている。
  答えは救いの塔にあるんでないのか?」
「あ、あれに近づけるの、かい?」
「テセアラ側の救いの塔ならばいけるかもしれぬな。しかしあれは神子の力がなければ入ることは不可能。たのめるか?神子」
「は~い、俺様、たのまれました~」
「…あんた、緊張感を感じさせないね。まああんたらしいけどさ…でも、ありがとう」
この言い回しは自分達の気持ちを楽にさせるためにわざと道化を演じていっている。
それをしっているからこそのしいなの言葉。
「きにしない、きにしない」
「なら、次の目的はきまったらね。テセアラの救いの塔へ」
どちらにしても、今ここで話しあっていてもわからないのならば。
あえて敵の懐にもぐりこむ、というのも確かに悪い手ではない。
今のところ他に方法がみあたらない、のだから。


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あとがきもどき:
薫:ファイドラがいった、あのとき、という話。お忘れでしょうが58目です。(まて
  ようやく、デリス・カーラーン編に突入です!…100話までにおわるのか?汗
  ではでは、また~♪

2013年9月21~24日(土~火)某日

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