まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
クヴァル牧場に関しては、この話しの16,17にあります。
ついでに、エミルが壊した部分、に関しては51話の絶海牧場の付近です。
…ここにくるまで何話経過しているのやら汗
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「どうかしたんですか?ミトスさん?」
「え、いや、今、ジーニアスの声が聴こえたようなきがしたから……」
あれは、いったい。
救いの塔を覆い尽くさんばかりの樹。
まさか本当に、大樹が芽吹いた、というのだろうか。
しかし、そんな気配はない。
あれからするのはどちらかといえば、魔物の気配。
ここからでは木々が邪魔をしてよくよくみえないが、もどかしい、とおもう。
翼をだして移動すれば、こんな揺れなど関係ないのに。
正体を隠しているがゆえに翼をだすことすらままならない。
あんなまがまがしい気配をもつものは大樹などではない、断じて。
それに、とおもう。
上のほうにきらきらと視えるみおぼえのある花のようなもの。
あれがある、ということは大樹、ではありえない、とも。
ならば、可能性として考えられること。
かの力をもちい、何かが発生したと考えるのが妥当、であろうか。
険しい表情で空を見上げているミトスにたいし、家からでてきたタバサが問いかける。
彼女に罪はない、というのはわかっている。
いるが、姉と同じ顔でそういわれれば、何ともいえない気持ちになる。
姉の器、として作成させた、というのに。
適合しなかった、器。
同じ無機質たる機械人形だからこそ無機生命体化している自分達にあう、とおもったのに。
ドッン。
刹那、さらなる激しい揺れが周囲をゆるがす。
「きゃ」
「うわ!?」
思わず反射的に上をみあげる。
ここ、アルタステの家は崖を利用して、その崖をくりぬいてつくられている。
ミトスがみあげたその先に、大きな岩に亀裂がはいっているのが視界にはいる。
「あぶない!」
それはもうとっさの行動。
ゆっくりと、その亀裂のはいった大岩がこちらにむけておちてくる。
自分のほう、ではなくタバサの真上に。
彼女はどうやら動けないのか、それとも判断ができていないのか。
とっさ的にタバサをその場からつきとばす。
一瞬、ミトスの視界には、そこにいるのはタバサではなく、姉マーテルのようにみえていた。
姉の真上に岩がおちてくる。
そう錯覚したといってもよい。
「ミトスさん!」
岩の直撃をうけて倒れるミトスをみてタバサが悲鳴をあげる。
「う…姉さ…ん……」
違う。
そう、こいつは姉じゃなかった。
姉さんなら、ミトス、そうよんでくれる。
何で姉さんと姿が同じだからって僕はこんな…そう思う最中、ミトスの思考はゆっくりと沈んでゆく。
そういえば、とおもう。
これまで睡魔などに襲われたことは、天使化してからのち一度もなかったのに。
ロイド達と行動をともにするようになって、そういった機能が再びはじまっている、と。
痛みも感じるようになっている。
天使化が解けたわけではない、というのに。
意識を失う直前に、脳裏によぎるは、悲しそうな姉マーテルの表情。
姉さま、どうしてそんな悲しそうな表情をするの?
もうすこし、まってて。
あの子の疾患はどうやら完全になおっている。
それに、精霊達との契約を泳がせていたのはそれらがおわったのちに油断するであろうからこそ。
まってて。
姉さま、もうすぐ蘇らせてあげることができるから。
だから、そんなに悲しそうな顔をしないで……
「タバサ!?今の音は…こりゃ、いかん!ミトス!しっかりしろ!
タバサ!この岩をのけるんじゃ!」
「はい」
機械、ということだけはあり、タバサの力は異常。
ミトスがタバサをかばわなくても、実は片手で岩を受け止めることすらできたほど。
ミトスの思考がそこにいたらなかったのは、姉と同じ容姿であるからこそ、判断力がかき乱された。
といってもよい。
意識がもうろうとするミトスが意識をうしなう前にきいたのは、アルタステの声。
そのままミトスの意識は深い意識の中へと沈みこんでゆく……
光と闇の協奏曲 ~牧場とかつての神子達~
「牧場へは私がいこう」
「貴公が?マナの照射をとめに?敵対する貴公一人をいかせる、とでも?」
リーガルの至極もっともなる意見。
そもそも、ユアンがいうには、クラトスは鍵となるオリジンの封印にもかかわっている、という。
そんな人物を簡単に信用できるはずもない。
それに、ともおもう、もしもリーガルの抱いている予感が正しいとするならば、
おそらく、このクラトスは…だから余計に信用がならない。
そもそも、彼は気づかれてない、とおもっているのかもしれないが、
この旅の最中、あるすみストーカーのごとくによくこちらをうかがっていたことを知っている。
…夜などには当人は口にだしているつもりはないのかもしれないが、
よく独り言をいっていたりもしたのだが。
その独り言の内容から、推測することは嫌でも可能。
「我らの同士をむかわせる」
そんなクラトスをさくっと一刀両断のごとくにユアンが淡々といいきるが、
「レネゲードにはやってもらわないことがか多い。余計な手勢をさくな。
魔導砲の準備、各地の魔導炉の停止、お前達の手勢をこれ以上さくわけにはいかん」
それでなくてもうごけるものがどれだけいるのか、この現状では予測不能。
「俺がいく」
「何いってんだい、こっちは魔導砲へむかわないと」
そんな彼らにたいし、ロイドが口をはさみ、そんなロイドに対し、しいなが不満をもらす。
事実、魔導砲にいかなければ、あれはとまらない、ともおもう。
あれに近づいて攻撃を、といわれても絶対にむり、と断言できる。
レアバードですら高く上昇できないのである。
かといって、こんな中、歩きであの場に近づけるか、といえば答えは否。
「しいなとレネゲードとで魔道砲へむかってもらおう。俺達とクラトスでイセリア牧場に潜入する」
いいつつ、しいなのほうをみて、
「しいなは、俺達の指示で魔道砲をうて。しいなだって、クラトスの指示だけを信用できないだろ?」
「そういつはそうだけどさ」
たしかにロイドのいうとおり。
クラトスは信用ならない、というのは事実。
敵なのか味方なのか、はっきりしないというのもあるが、
確実なのは、クラトスはクルシスに所属している天使だ、ということ。
しかも、最大限の重要精霊であろうオリジンの封印にもかかわっている、という。
そんな人物を信用できるか、といえば答えは否。
「…ショコラか?」
それから何か言いかけようとするが、口を閉ざしたロイドをみつつ、クラトスが静かに問いかける。
「…え?」
何で、とはおもうが、そういえば、とおもう。
あのときはまだ、クラトスは共に旅をしていた。
まさか敵、クルシスの天使だ、などとはゆめにもおもわずに。
だからこそ知っていてあるいみ当然といえば当然、なのだが。
エミルには自業自得、だとショコラに関してはいわれたが。
そもそも、相手のいうことをうのみにした当人の責任、とエミルは断言していた。
それでも、とおもう。
直接的に殺したわけではないにしろ、戦闘不能の状態まで傷つけたのはほかならぬ自分自身。
だからこそ、ショコラに対し、何といっていいのかわからない。
自分がかかわらなければ、マーブルはまちがいなく、あんな状態で死ぬようなことはなかった。
そう断言できそうだからなおさらに。
しかし、どうしてこう、クラトスは自分の心をこうもいいあてるのだろう、とおもう。
かつての旅のときにしろ、そして今にしろ。
不思議な気持ちを抱いたように感じるのは、おそらくロイドの気のせいではないであろう。
「そうか。ショコラは確か、イセリア牧場へ送られているんだよね」
「ロイド、ちゃんと覚えてたんだね」
そんなロイドの台詞に、ジーニアスがぽん、と手をたたき、コレットがにこやかにといってくる。
「…わかった。お前達にまかせる。あとは頼んだぞ」
コレット達の知っている牧場で、まだ捕らわれの人達を解放していないのは、イセリア牧場のみ。
パルマコスタとアスガードの人間牧場に捕われていた人達はかつて解き放っている。
あれから牧場が復活した、という話しはきかないゆえに、新たな犠牲者はでていない、とおもいたい。
絶海牧場にしても、少し前にと捉われていた人達を解放した。
…まあ、あの捉われの人々を救出したのはエミルが呼びだしていた魔物なれど。
そんなロイド達の様子をしばしユアンは眺めていたが、のやがてため息とともにボーダと顔をみあわせる。
そして。
「わかった。お前達のいうとおりにしよう」
「ああ、まかせてくれ!いくぞ、みんな!」
大樹のような何か、は暴走しつづけている。
やまない大地の揺れ。
引き裂かれてゆく大陸。
海にと沈んでゆく大地。
今は一刻も猶予もならない。
ゆえにそれぞれが顔をみあわし、自分達ができること、すべきことをするためにと行動を初めてゆく。
「どうして私を同行させたのだ?お前達が魔道口を停止させるのならば、私は必要ないだろう」
イセリア牧場の門の前にまでくるまでにはいろいろとあった。
やはり、大陸沿いに出向くのは不可能、と判断し、
レアバードにて低空飛行。
その間、ロイド達は眼下の大陸の様子に絶句せざるを得ない。
そこにあったはずの大陸は海の一部と化しているか、もしくは元々海であったのではないか。
というのうな模様をかもしだしており、また、そこは平原、であったはずなのに、
大地が勃起して、突如として小高い丘、否、山のようなものができあがりかけていたりする。
低空飛行をしてゆく中で、いくどそんな山々にぶつかりそうになったことか。
それゆえに、海からいったほうが安全、とリフィルが提案し、
海の上を低空飛行し…それでも、海にも数多の魔物の数がみてとれたが。
海はロイドがみたこともないくらいに荒れている。
これほどまでに魔物がおおければ、もしも津波がくる、とわかっていても、
海に逃れる、ということすらではないであろう。
どうにか海を超え、そしてやってきたイセリア地方。
ついこの間まで見知っていたはずの大陸の面影はもはやそこにはみあたらない。
唯一このあたりはあまりかわっていないように上空からはみられるが、それも完全、とは言い難い。
かわらないのは、イセリア牧場にとつづくこの森くらいといってよい。
ここは、ロイド達が知っているとおりの様子をかつてのままに保っている。
そんな中、クラトスがふとロイドに訪ねてくる。
今さら、といえば今さらの質問。
ロイドの本音とすれば、クラトスがいくら敵だ、といわれても、やはりかつては仲間として、
そして真身になって剣の稽古にもつきあってくれた相手。
いわば、剣術における師匠ともいえる相手。
だからこそ、戻ってきてくれてうれしいのもあり、このまままた一緒に、という思いもある。
そうすれば、きっと、クラトスもオリジンの解放に力をかしてくれる、という思いもある。
それが自分に都合がいい思いかもしれないが、クラトスが自らオリジンを解放してくれるのにこしたことはない。
リフィル達がいったような方法でクラトスが精霊を封印してない、と信じたい。
「……クラトスは信用ならないからだ。
たまたま、今回、俺達もレネゲードもあんたも利害は一致したけどいつどうなるかがわからないからな」
「監視しておくには近くにいたほうがいいものね」
ロイドの台詞にリフィルがうなづき、淡々といいはなつ。
その台詞はかつて、しいなにもいったもの。
「なるほど。賢明な判断だ」
そうこうしている最中、牧場の門の前にとやってきて、しばし門の周囲を探ったのち、
「どうやって潜入するの?門はしまってるよ?」
門はかつてのようにしっかりとしまっている。
異様なほどに内部が静まりかえっているような気がするが。
「俺が崖から敷地の中に飛び降りて門をあけるよ」
以前、マーブルをたすけようとしてやった方法と同じ。
ロイドがそういうが、
「いや、私がいこう。この程度の門ならとびこえればいい」
いって、クラトスが羽を出現させ、ふわり、と舞いあがる。
「…なら、コレットちゃんに飛んでもらえばよかったんじゃないか?」
「「あ」」
ゼロスの指摘に思わず声をもらすロイドとジーニアス。
クラトスはたしかに何を考えているかわからない。
「ふえ?えっと、羽だせばいいの?」
ぱたぱたと、その台詞をきき、羽を出現させているコレット。
そうこうしていると、門の鍵が開かれたのか、重苦しい門がゆっくりと開いてゆく。
どうやら内部に門の開閉を操作する装置か何かがある、らしい。
そのまま施設の中へ。
あれほどいたはずのディザイアン達の姿がまったくもってみあたらない。
入って少しいくと何かの装置らしきものがあり、クラトスが手なれた様子で作業をはじめる。
と、その装置の上に立体映像のようなこの施設の間取りが表示される。
そんなクラトスをみやり、
「またあんたとこうやって戦うとはな」
「…ふ、不服か?」
何といっていいのかわからずに、とりあえず思ったことをつぶやいているロイド。
そんなロイドの台詞に小さく笑みをうかべ、淡々といっているクラトス。
「卑屈だなぁ。もちろん手放しで喜んじゃいないし、信用しているわけでもないぜ」
どうもクラトスのこの言い回しはいくらきいても慣れない、というかその心のうちがわからない。
それはかつての旅の最中でもいえること。
常に冷静で表情を崩したことなど滅多にみたことすらない。
「そうだ。それでいい。私とお前は敵同士、なのだからな」
クラトスとロイドがそんな話しをしている最中。
「魔導口はここだね」
映し出されている一点をみつつ、しいなが指をさす。
「牧場を破壊しちゃえばいいんじゃない?」
その方法がてっとり早い。
それゆえのジーニアスの提案。
「それをするなら収容されている人をたすけないと。今回は時間がないわ」
そんなジーニアスの提案をさらり、と却下しているリフィル。
「魔導口のみを停止させてその間にショコラを救出しましょう」
どうやら間取り的には他の牧場とさほどかわりがないようにみえる。
どこの、とはいわないが。
「その捕らわれの人々、というのはどこにいるのだ?」
リーガルの素朴なる疑問。
「この辺りじゃないのかな?」
今まで出向いた施設と同じ、ならば、おそらくこのあたりに収容施設があるはず。
まあ、あの絶海牧場の間取りは他の牧場とかなりかわっていたが。
「魔導口にいく土地有にあるぜ。同時に助けだせるかもしれないぞ」
たしかに、収容施設とおもわれし場所は、目的の場所の進行方向にみてとれる。
「それでは時間がたりません。七十%のロスです」
今は少しでも時間が早いほうがいい。
時間がながびけば長いほど、地上における被害は広がってゆく。
「クヴァルの牧場と同じだ。あのときとは状況は違うが。
戦闘力はおちるが、戦力を分割するしかないだろう」
あのときは、エミルが呼びだしたであろう魔物達が施設の中にとたむろしていた。
しかし、この静けさは、ともおもう。
施設にはいったというのにディザイアンの姿が一人もみあたらないのはこれいかに。
まるで、そう、すでに何ものかがこの場に潜入しているかのごとくに。
ふと、レネゲードの言葉をおもいだす。
牧場が魔物の襲撃をうけている、と、彼らはそういっていた。
しかし、この場には魔物の姿が欠片もみあたらない。
「どうする?俺は魔導口へいくよ。ショコラに嫌われてるし」
「それじゃ、パーティーをわけないとね」
まだ、面とむかってきちんと謝罪できるかどうかわからない。
謝罪して許されるのもでもない、ともおもう。
知らなかった、とはいえ傷つけたのは事実。
フォスティスとおそらく戦うことになるであろう、というクラトスの台詞をうけ、
魔導砲の停止作業は、ロイドとクラトスが中心となり、
ショコラをはじめとした囚人たちの救出にはジーニアス達が向かうことでひとまず話しはまとまりをみせる。
「ロイド、きをつけてね」
「僕、ショコラをみつけたら、ちゃんとロイドのことを話すからね」
そもそも、マーブルのことは、自分に責任がある、とおもう。
あのとき、ロイドをつれていったのは自分。
そして、マーブルさんをたすけて、といったのも。
自分が約束をやぶり、あの場所にいっていたことがすべての発端だ、という自覚がジーニアスにはある。
「さ、俺様たちもいそごうじゃねえの」
「そうだな」
ゼロスとリーガルがコレット達をうながす。
「牢の位置はわかるか?」
「う、うん、だいたいね」
リーガルに問いかけられ、うなづきながらも、ジーニアスは何といもえない不思議な気分にと捉われていたりする。
ここが、ジーニアスにとって、この旅の全ての始まり、といってもよい。
イセリアの牧場。
自分とロイドの旅はここから始まった、といってもよい。
そしていま、その始まりの地ともいえる場所へとかえってきた。
マーブルさん、今、ショコラをたすけるからね。
そっと、腕にはめているエクスフィアをなでつつ、自分自身にといいきかす。
きらり、とこころなしか、エクスフィアが答えてくれたような気がふとするジーニアス。
ジーニアスの手につけているエクスフィアはマーブルが培養したもの。
いわば、マーブルの命の化身。
そして、この旅によって得られた知識からすれば、このエクスフィアにはまちがいなく、
マーブルの魂がやどっている、そう確信がもてる。
このエクスフィアが破壊、もしくは消滅しないかぎり、マーブルの魂に安息はおとずれない、とも。
ともあれ、念のためにそれぞれに別ルートをとおり、進んだほうがいいであろう。
その意見もあり、それぞれがそれぞれに、別々の道をすすんで行動することに。
……エクスフィア……我らの命……
「な、何…これ……」
ゆらゆらとうごめく、人型のような、何か。
それらの数は無数、といってもよい。
しかも、彼らはあきらかに、エクスフィアに反応している。
悲しみ、怒り、そんな思いがそれらからひしひしと感じられる。
扉をひらき、少しすすんだ先、しっかりと閉じられた…仕掛けを解除して進んだ扉のさき。
その先にいたのは無数の、人の形をした、影のような、何か。
中にはしっかりと人の形をたもっているが、姿がすけているものもいる。
「きゃ!?」
「うお!?」
それらは、ふと、コレットとゼロスの旨にとあるエクスフィア…ハイエクスフィアに気づいたのであろう。
神子…神子がいるから、我らは……
そんな声をだしつつも、じわじわとせまってくる。
「…おそらくは、幽体、とみたが…しかし、こいつらは……」
老若男女、とわずにそこにいる。
と。
「…おぬしら、何ものだ?」
ふと、しっかりとした声がなげかけられる。
みれば、フードとマントをはおった老人のような人物がそこにいる。
思わず身構える彼ら、が。
「うむ?その波動は…なるほど、な」
ふと、コレットの頭についているとあるものに目をむけ、納得したような表情をし、
その手にもっている異様に大きな杖のようなものをかつん、と床につけつつも、
「ここは、すでに我らの手によって浄化はなされた。この地にとらわれし幼生達はすでに解放がなされておる。
もっとも、その幼生たちにむりやりに寄生されておった人々の魂はそのとおり、じゃがの」
姿はたしかに老人、なれど、違う。
「ま…魔物?」
そのマナの流れは間違いようがなく魔物のもの。
しかし、ここまで思考が、意識がはっきりとしている魔物と対峙したことは、
今の今までジーニアスはほぼ皆無、といってよい。
だからこそとまどわずにはいられない。
そんな彼の背後には、おそらく捉われていた、のかもしれないが、たしかに幾人かの人らしきものの姿が。
そして、
「まさか…やっぱり、神子様!?」
そのうちの一人。
一人の少女がコレットの姿をしばしみたのち、声をあげてくる。
その声は、ジーニアス達がしっているもの。
「お、おい、しりあいか?」
「というか、今、神子様って……」
戸惑いの声は他の人間達から。
「…助けに…きてくれた、んですね」
信じられない、というような表情でコレット達をみわたしていってくる。
「うん」
そんなショコラにたいし、にっこりとほほ笑んでうなづくコレット。
しかし、とおもう。
そこにジーニアスの姿をみとめ、おもわずあとずさってしまう。
マーブル、祖母を殺したのは、ロイドとそこの少年…ハーフエルフの少年である。
そう、ディザイアン達から聞かされた。
真実はマーブルが自爆、したのだが、しかしきっかけとなったことには間違いがない。
神子は全てを救うもの。
そう教わり成長してきたがゆえに、神子であるコレットまで憎む気持ちにならないのは、
あるいみ教育のたまもの、というべきか。
「貴公はどうやら、話しがわかる、とみた。貴公はその……」
「わしか?わしはここのものたちの管理をまかされたただの老人じゃよ。
まったく、テネブラエ様もわしらネクロマンサー使いが荒い、というか。
主様は主様であいかわらず甘いというべきか……」
何やらぶつぶつといっているその老人。
しかし、今、聞き捨てならない名前がでてきた。
今、たしかにテネブラエ、そういった。
「ここにいる幽体達…は、いったい……」
老人と会話をはじめてからか、彼らをとりまこうとしていた異形の姿のそれらの動きはとまっている。
「うん?このものたちか?かつてこの地において実験に使用された人の魂の慣れのはてじゃよ。
中には念のみがとどまっているものも多々とおるがの。
ほとんどがそのつよき負の念において自ら浄化の過程をあゆめなくなっておってのぉ。
まったく、人というものはしつの時代も愚かなことをしでかすものじゃて。
今は大事な時期ゆえに、こやつらが暴走しないように、との主様からの命らしくての」
何やらぼやきにもにたようなことをいいつつも、
「ともあれ、お主ら、人間があらわれたのならばちょうどよかろうて。
こやつらはお前達にまかせることにしようかの。
我らはあまり人間が、というか完全に人間は好きではないからの。
こともあろうに主様にはむかい、うらぎったものをどうしてこう助けなければならないのか。
主様には主様の考えがあってこそ、とはわかっておるが……」
む~、とうなるその顔をよくよくみれば、フードの下からのぞくその顔は、
どちらかといえばガイコツに近い。
魂の慣れのはて、そうきき、おもわず息をのむジーニアス達。
つまりは、そういうこと。
ここにいる姿がすけているものたちは、かつて人であったものたち。
この場にはいないが、中にはジーニアスも見知っているものがいたりする。
ジーニアスがイセリアにやってきて行方不明になった人達もその中にと含まれている。
「しかし、人とはほんとうに理解不能、じゃのお。
自業自得で捉われていたものをあらためて救いにくるとは、おもわぬか?そこの娘よ」
びくり。
自業自得。
そういわれて、指摘されたショコラは何もいえない。
あのとき、いわれるままに、敵であるディザイアンの言葉をうのみにし、
彼らに自分から捕まったのは、ほかならぬショコラ自身。
マーブルが異形に変化させられ、フォスティスに連れてゆかれ、もどってくることはなかったときですら、
彼らは捉えている培養体である人間達に、あの培養体は人間に殺された、そういった。
それを信じるものはまずいないといってよい。
それが先日、この施設にはいりこもうとしたものたちだ、といわれればなおさらに。
彼らはマーブルがあの少年を孫のようにかわいがっていたことをしっている。
そして、もう一人の赤毛の少年は自らの身をかえりみずに、
ディザイアンにお仕置きされそうになっているのを救ったことも。
だからこそ信じるものはいなかった。
ショコラにその旨をいい、第三者に説明され、
ようやく自分が愚かなことをしたのだ、と理解したが後の祭りであったといってよい。
それでも、ロイド達が完全に悪くないのか、といえば答えは否。
この人達にかかわったから、祖母は殺されたといってもよい。
そんな感情がショコラの中でひしめきあっている。
ちなみに、目の前にいる老人の姿をしている魔物。
彼の魔物としての種族はネクロマンサー使い。
魔物の上位に位置しているゆえに、テネブラエ達から直接に支持をうける立場でもあり、
ときおり用事があれば王たるラタトスクに呼び出されることもありえる存在。
ここにくるにあたり、テネブラエから愚かなる人間、ショコラのことは王自らから聞かされている。
聞かされた、といっても念派によりつたわったことを、あらためて彼らの直接の上司にあたる、
闇のセンチュリオンたるテネブラエから詳しいことは聞かされた、のだが。
「では、わしらはわしらの役目をはたすとするかのぉ。ではの」
「あ、ま」
まって、というよりもはやく、またたくまに、その姿はその場からかききえる。
まるで始めから誰もいなかったのごとくに。
直前にその真下に魔方陣のようなものがあらわれたのを除けば。
しばし、何ともいえない空気があたりにとたちこめるが、
「…あたしのこと…ちゃんと、覚えていてくれたんだ……」
神子が自分のことを覚えていてくれた。
そのことが何ともショコラの胸の中をみたしてゆく。
見た目はガイコツにちかい老人、とはいえがりがりにやせ細った老人のみためはそんなもの。
そもそも、様々な異形なものが闊歩する中、導いてくれる得体のしれない人物?であったが、
それでもここから逃がす手伝いをしてくれるかのものについていっていた。
「あ、あのね。ショコラ…ロイドは…ショコラのこと、忘れたりなんかしなかったよ」
その台詞をきき、ショコラの顔が一瞬こわばる。
「…マーブルさんのこと、なんだよね?でも、マーブルさんの為にもショコラ。あなたをたすけにきたの」
コレットの言葉をうけ、この場にいないロイドの姿を確かめるように、しばしショコラは視線をさまよわせる。
そんな彼らの会話をききつつも、
「話しはあとだ。他のものたちは?」
そんなショコラとは別の人物にリーガルがといかける。
「あ、皆、うまく逃げたみたいです」
別の人物がリーガルのといかけに答えるが。
その腕にはめている手錠から、一瞬顔をしかめるが、彼もまたここに捕われていた一人なのだろう。
そう勝手に解釈する。
「それはよかった。この後は我らが責任をもって保護しよう」
今のリーガルの服装は、かつての囚人服ではなく、普通の彼の仕事着ともいえるきちんとしたもの。
ゆえにその手にはめられている手錠がかなり違和感がありまくる。
もっとも、だからこそ最近になって連れてこられたもの、もしくは直前につれてこられたもの。
というような勘違いが産まれていたりするのだが。
そこに、神子、とよばれたコレットがいればなおさらに。
彼らはその噂で、神子一行が牧場を解放していることをしっている。
ディザイアン達は情報収束に躍起になっていたが、噂、というものはひろまるもの。
それが救いをもたらすような噂ならばとくに。
「さてと、ロイド君が苦戦してるといけねぇよな。俺様も加勢してやるとするか」
いつのまにか、かの老人が消えるのと同時、そこにいた異形のものたちもかききえている。
ネクロマンサー使い。
魂を自らの部下とし操りし魔物。
そういった魔物がいる、という認識はなされているが姿をみたものがいないのもまた事実。
理由は簡単。
であったものはまちがいなく、すでにこの世にはいないか、もしくはその魔物の部下にとされているのだろう。
というのが一般的な人々の認識。
魔物が人をたすける、などという話しは滅多にきいたことすらない。
あったとしても人はその真実をねじまげる。
魔物がそんなことをするはずがない、と。
魔物は忌むべきものであってあたりまえ、なのだからそんなことはありえない、と。
ここにくるまでに何ともいえない気持ちに襲われた。
自分達にむかってきたのは、どうみても人間であったものたち。
下手に人の姿をたもっているのだから余計に罪悪感もひとしおといってよい。
それでも、むかってくる彼らを排除しなければ先にはすすめない。
しかし、普通の攻撃はまったく通用しない。
リフィル曰く、それらはどうみても幽体、すなわち精神体に近しい魔物なので、
光属性の攻撃が有効、といって、光属性たるフォトンを使用しどうにかことなきを得ているが。
こういったものは、まちがいなくしいなの担当ね。
などとぼやいていたが、ぼやいてもどうこうなるものでもなく。
どうにか仕掛けを解除しつつも目的の場所にとたどり着いた。
もっとも、ここにくるまで、ディザイアン達の姿がみあたらず、
そのほとんどが異形と化した元人であろうものたち、の相手でしかなかったが。
彼らが消えるときの断末魔が耳についてはなれない。
どうして自分達の命を犠牲にしてまでエクスフィアがつくられなければいけないのか、と。
人が力をもとめるから、自分達のようなものが産まれるのだ。
それらはすべてロイド達にとっては耳がいたいこと。
その犠牲のうえになりたっているエクスフィアを使用しているがゆえになおさらに。
微精霊の元ともいえる精霊石たるエクスフィア。
それにとらわれていた人間達の魂は、魔物達の手によって解放されている。
すでにこの地にあったすべてのエクスフィアは魔物達の内部にと保護されここにはない。
本来ならば、魔物達の内部において彼らは成熟し、そして世界にときはなたれる役目をもつものたち。
それを人がかってにその欲のために歪め、利用しているにすぎない。
その事実を人はしらない。
知ろうともしない。
「そうはいかない」
魔導砲にちかづこうとするロイド達をさえぎるようにあらわれるひとつの人影。
その人物をみて、おもわず身構えるロイド、リフィル、クラトス達。
「お前は…フォスティス!」
イセリアを襲撃してきた、ここ、イセリア牧場の主だ、というディザイアン。
彼の姿は忘れようにもわすれない。
ゆえにロイドがその姿をみておもわず叫ぶ。
「ほう、私のことを覚えていたか。やはりイセリアでお前を逃がしたのは失敗だったな。
この始末、私自身の手でつけてみせる」
目の前にある巨大な…クラトスがいうには、これが魔導炉、らしい。
デリス・カーラーンよりマナをうけとる装置。
それが今は逆作用をはなっているのを示すかのごとく、青白い光がにじんでおり、
今まさに作動中であることがみてとれる。
「同族だからって容赦はしないわ。道をあけなさい」
彼がもしも、リフィルがしるかの英雄ならば、話しはつうじるはず。
それゆえのリフィルの問いかけ。
もっとも警戒は怠っていないが。
「……同族のお前達ならばわかるのではないか?我らをさげずむ人間の大地など必要ない、と。
リフィル・セイジ。愚かな人によりしエルフの里をおわれしもの。
愚かな人さえいなければ、お前達は里を追われることも、家族と引き離されることもなかっただろうに」
テセアラにおいて国におわれた家族のことは、彼もまたしっている。
否、調べたといってもよい。
「それとこれとは話しが別よ。それに生きてゆくためには大地は必要です」
そんな彼の言葉をぴしゃり、とたたみかけるようにと断言する。
そう、生きてゆくうえで大地は必要不可欠。
それは人だけでなくすべてのほとんどの命においていえること。
「笑止。我らにはデリス・カーラーンがある。全ての命の源。マナそのものの大地がな。
人間によって穢された大地など、滅びたところで何の問題もありはしない」
「……その愚かしい理屈。クルシスからの入れ知恵ね?」
かの英雄、とはおもえない台詞。
彼は、同族、だけでなく自然をも慈しんでいたはず、なのに。
子供ながらに、彼の英雄話…人によっては英雄でも何でもないかもしれないが。
だけど、共感を覚えたのもまた事実。
虐げられた仲間をたったひとりで救いだし、彼らの仇をうちし、英雄フォスティス。
彼に救われた中にはエルフもいた。
ゆえに、エルフの中ですら、ハーフエルフだ、というのに、彼をこっそりとほめていたものすらいた。
そのことをリフィルは幼い日々においてしっている。
そして、かの禁書の中においても、彼はこうあるべきだ、という信念をもっていた、とおもう。
「……ユグドラシル様の勅命は絶対だ」
彼も少し思うところはあるのであろう、すこし間をおいたのちに、リフィルの言葉に返事をかえしてくる。
「たしかに、人は愚かよ。でも、そこにいきる大地、木々や動植物、それらの自然には何の罪もないわ」
それらを巻き込んで、デリス・カーラーンさえのこればいい。
その考えがどうしても理解できない。
それに、ともおもう。
人は愚かなるヒトだけではない。
そう、ロイド…まあ、彼は考えがない、といってしまえばそれまでだが。
それでも、心ある人はいる、と信じたい。
否、信じている、といってもよい。
これまでの旅で人の心の醜さも、表も裏もいろいろとみてきた。
だからこその台詞。
「我らをさげずむ人間の大地など必要ない!
人間は一度、この大地ごと、浄化されたほうがいいのだ!」
フォスティスはそういいつも、改造されているであろうその左腕をさっと振り上げる。
「それは……」
全ての大地の浄化。
それは、まさに自分達が種子をうけとるときに、いわれていたこと。
お前達がどうにかする、というのならば猶予をやろう。
そういわれたあのときのことを思い出す。
あるいみで、フォスティスがしようとしていることは、この世界に本来あったであろう、
出来事を行うとしているようにみえなくはない。
むしろ、どちらかといえば世界の理にかなっている、のかもしれない。
大地の一斉浄化。
それは…かつての古代大戦の時代、かの精霊が地上にたいし、それを施そうとしていたように。
「ロイド!ショコラ達がいたよ!たすけたよ!」
ジーニアスが叫びながら制御室にとかけこむと、
ロイドは今まさに炉のうちまでフォスティスを追い詰めた所であることがみてとれる。
「遅かったな。大丈夫、もう勝負はついている」
ロイドは背中ごしにそう答えると、最後の一刀をフォスティスにと繰り出し、
「やぁぁ!」
「ぐうっ…ば…バカな…っ!劣悪種ごときに、なぜ、…そんな、馬鹿な…うおお!」
フォスティスの体がぐらつき、重量のある左腕が炉にむかって振れる。
クラトスがとどめをさそうと踏み出しかけるが。
「そうはさせん!私も五聖刃と呼ばれた男。ただではしなん!劣悪種ども、道連れにしてやる!」
いって、その気力をふりしぼり、自分とロイド達を道連れにしようとしたのか、
制御装置のほうへとその手をのばす。
「……ディザイアン一の英雄、とうたわれたお前がそのような末路をたどるのか?フォスティスよ」
そんな彼にたいし、冷めた口調で、それでもどこか哀愁を漂わせたような声で淡々といいはなつクラトス。
その言葉にはっとし、
「……そうか。わかったぞ!人間でありながら魔力の匂いを漂わすもの。お前がクラトスか」
にがにがしくクラトスをにらみつける。
話しにはきいたことがある。
人でありながら、ユグドラシルを補佐せしもの。
ユグドラシルに剣術をおしえ、彼を導いた人。
国すらをも出奔し、彼とともにあゆみし人間。
それをきいたときには、人間の中にもそういう捨てたものでないものがいるのだ、と
つくづくおもったものである。
それはおそらく、すべてのハーフエルフ達が抱いた想い、であろう。
なのに。
「……それがどうした」
だというのに、目の前の彼は、この人間はっ!
「っ!ユグドラシル様のご信頼をうけながら、やはり我らを裏切るのだな!
だから人間など信用できぬのだ!ユグドラシル様…我らハーフエルフの千年王国を必ずや!」
ならば、憂いとなるであろうクラトスを道連れに、と思い手をのばすが、
その前にふられたロイドの技により体勢をくずし、そのまま、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
青白い光をはなつ炉の中にフォスティスの体はゆっくりと、しかし確実にと吸い込まれ堕ちてゆく。
「はぁはぁ…よし、これで魔導砲をとめられるぞ」
どうやら装置らしきものは一つ、ではないらしいが。
二つの装置らしきものがあり、しかしそれをみてもまったくさっぱりロイドには理解不能。
ゆえに。
「…何が何だかさっぱりわかんねぇ!」
思わずその場にて叫びだすロイドの姿。
「機械ならまかせなさい、といったでしょう」
「ならば私も手伝おう。これは一人で操作すれば時間がかかる」
いいつつも、ロイドをおしのけ、装置の前にたつリフィルとクラトス。
「……あんた、何でもできるんだな。剣も魔法も、機械の操作も」
ロイド達にできることは今はない。
できることといえば情報交換のみ。
やはり、ジーニアス達のほうにも幽霊のような存在達はでてきたこと。
それをまとめていた魔物がいた、ということ。
そして、そこでテネブラエの名がでてきたこと。
それらをふまえれば、このたびのこの一件にも、どこかでエミルがかかわっている可能性が果てしなく高い。
まったく姿をみないディザイアン達。
力を紡げなくなったディザイアン達は、
魔物の一種とかした自分達がさげずんでいた彼らによって、なすすべもなく殺されていった。
それがこの施設における真実。
フォティスがここに残ったのは、一人でも同族を逃がさんがため。
かろうじて復活した転移装置にどうにか同胞たちをのせ、
デリス・カーラーンにと助かった同胞達を逃したのちに、この地を任されている責任感から、
一人この場に残っていたにすぎない。
どうして一人もディザイアン達の姿がみえなかったのか、という疑問には、
捉われていた人々が教えてくれた、らしい。
彼らが捉えられている目の前で、魔物達によって殺されてゆき、
彼らは目の前で光の粒となって体そのものを消していった、そうきかされた。
その現象をロイド達はみたことがある。
そう、パルマコスタで。
ドアがたどった末路と同じもの。
ゆえにしばし無言になったのち、ふとロイドがクラトスにたいし話しかける。
何か言葉をいわないと、この場がもたない、というのもある。
そしてまた、自分達が手をかけたあの異形の人の姿をしたものたち。
あれはおそらくは、予想したくないが予測できてしまう。
この地において実験に使用された人々の慣れの果てなのだ、ということが。
だからこそ何かまったく違うことをいわざるをえない。
少しでも気分を変えるために。
でなければ、罪悪感に押しつぶされそうになってしまう。
そのほとんどの相手の始末をリフィルに押し付ける形になってしまったがゆえになおさらに。
自分の攻撃が通用しなかった、といういいわけはしたくない。
結果としてリフィルにたよりきってしまったのはいうまでもなかったのだから。
クラトスにしても、その剣に何やら術をほどこし葬っていっていたが。
彼いわく、剣に光り属性の術をかぶせればこういった輩にも対処が可能、とのことらしい。
ロイドはいまだにその術というか技を使用することかできない。
術が使えないロイドにはその方法がとれない。
しかしそれはいいわけにすぎない。
足手まといにはなりたくなかったのに、足手まといになっていた自分。
耳にのこる人々の断末魔。
どうして自分達が、自分達の命をぎせいにしてお前達はなぜに力をもとめる、そういった内容の台詞。
心が、いたい。
「……人より少々長生きなのでな」
そんなロイドの問いかけを無視するわけでもなく、しかし完結にこたえるクラトス。
「…あんたは、やっぱりあの古代の英雄の一人、なのか?でも、さっきは人間っていわれてたし。
だけど……ユグドラシルの信頼をうけてるって…あんた……」
ならば、やはりこのクラトスは、あのクラトス、なのであろう。
伝説にのこる、勇者の仲間のうちの一人。
そして、今はクルシスを構成する天使の一人。
あの禁書の中で出向いた彼らの記憶も当人だ、といっていた。
心のどこかで信じ切れてはいなかったが。
「……私のことより、今は大樹の暴走をとめるのが先だ」
いいつつも、淡々と作業をこなしてゆく。
やがて、す~と炉から光がきえてゆく。
「作業終了時間、ちょうどです。お疲れさまでした」
時刻を確認し、プレセアがそんな二人にと声をかける。
「さっすが先生!」
「調子がいいわね。けど役にたててよかったわ。あとはしいなに連絡を」
「って、まって、何か様子が……」
リフィルがいうとほぼ同時。
び~、び~。
けたたましい警告音が鳴り響く。
【強制的な動作の終了を確認しました。これより安全装置の作動により、この装置は爆破されます。
くりかえします。強制的な解除を確認しました。これより……】
何やら無機質な音声が周囲にと鳴り響く。
「って、どういう意味だよ!?」
「いけない!ここは危険だわ!とにかくはなれましょう!」
自分以外の第三者がこの装置を止めた場合、フォスティスがかけていた最後の保険。
今、まさにその保険が作用しはじめる。
けたたましい警戒音がなりひびく。
「って結局こうなるのかよ!」
「とにかく、いそいで!助けだした人達は!?」
「全員、外で待機しているはずだ」
「いそぎましょう!規模がどれほどになるかわからないわ!」
とにかく今は、ここから脱出するのが先決。
けたたましく鳴り響く警報音の最中、ロイド達を含めた一行は、
あわててその場をたちさることを優先することに。
どちらにしても、この場に長居すればするほど、かならず爆発まきこまれる。
それは、フォスティスが先ほどいっていたとおり。
彼らを道連れにする、という願いが果たされることになってしまう。
それだけは許容できない。
自分達にはまだやるべきことがある、のだから。
「ロイド!はやく連絡を!」
「あ、ああ、わかってる!」
走りつつも、ともあれ今はしいなにと連絡をいれるのが先決。
ユアンから手渡されている通信機の電源をいれる。
「合図だ。それはそうと、なにかさわがしくないかい?」
通信機の向こうよりきこえてくる何かけたたましい音のようなもの。
『こっちは問題ない。それより解除は完了した。しいな、たのむ!』
通信機の向こうからきこえてくる声。
説明だけしたのちに、ぶつり、と音声はたちきられる。
「?…よくわかんないけど。ともかく。いくよ!」
すでに自分達はここ、魔導砲の前にとやってきている。
ここにくるにあたり、ほとんどが水没していたりしており、施設、としての機能はほんど果たしていないこの地。
この魔導砲に関しても途中までは水没していたがゆえに、ウンディーネの力をつかい、
どうにかこの部屋にまでやってきたにすぎない。
まあ、この部屋そのものが水没していなかったのが不思議なほど。
まあ、以前、エミルが壊したあの天井がなければ間違いなく中には入ることができなかった。
レアバードにてあの場から中にはいって今にいたる、といってよい。
「蒼ざめし永久氷結の使途よ、威き神が振るう紫雷の槌よ
気高き母なる大地の僕よ 大いなる暗黒のふちよりいでしものよ
契約者の名において命ず、わが前につらなり陰の力と化せ!
たのむよ…皆。魔導砲、発射!」
しいなの言葉をうけて、この場にセルシウス、ヴォルト、ノーム、シャドウが姿を現す。
そのまま彼らは中央、そこにある装置を取り囲むようにして自然とあつまってゆく。
すでにこれらのことはラタトスクよりきかされている。
こうなった場合、人は間違いなくこの行動をとるであろう、といったのは他ならぬラタトスク自身。
さすがに一応は我が子のことだけのことはあり、人のことに関してもある程度はわかっているらしい。
もっとも、この人間たちの考えが素直すぎてわかりやすい、というのがあるのかもしれないが。
マナが、収束する。
しいなは知らないが、彼らのマナだけでなく、全てのマナが。
そこにある装置を媒介にし、紡がれたマナは勢いよく海をこえ、世界を走ってすすんでゆく。
それらはやがて、救いの塔にむけて直撃する。
直撃した瞬間、その紡がれたマナは、救いの塔にかけられている障壁、
それらの障害もあり、四方八方にと飛び散り、さらに大地に被害をあたえ、
場所によっとは確実に完全に大地を引き裂いてゆく。
それはもう、文字通り。
綺麗さっぱり消滅させるかのごとくに。
山々は消え、大地は消え、そして新たな地震とともに勃起した大地が新たな山となる。
周囲にと分散した光は世界全てを眩しく覆い尽くし、空全体を不思議な色模様にとそめあげてゆく。
やがて、何かが壊れるような音とともに、光はそのまま塔へと直撃し、
その光りは塔を覆い尽くしている樹らしきものをも呑みこんでゆく。
ああああ……きゃぁぁぁぁ……
幾重にも重なったかのような、若い女性のような悲鳴のような何か、が周囲にと響き渡る。
それは大気とともにまるで大気そのものが震えているがごとくに。
ロイド達は、そこにあったはずの花のような何か、が大気に収束してゆくのを確かにみた。
正確にいえば、空にまるで吸い込まれるようにときえていったのを。
ロイド達は知らない。
そこにはデリス・カーラーンの障壁によって隠されている彗星そのものがある、ということを。
そして、大いなる実りはその彗星と塔を結んだ間にとある、大いなる実りの間、
と呼ばれし場所に再び収束した、ということを。
しかし、すでにそれは実りであって実りではなくなっている、ということすらもロイド達は知るよしもない。
アルタステの家のベットに寝かされていたミトスははっと意識を取り戻すと起き上がろうとする。
が、
「起きてはいかん!」
アルタステの強い腕に肩を掴まれ、そのまま再び仰臥の姿勢になる。
今の…今の声は…
ふと目をあげると、タバサが心配そうにとのぞきこんでいるのがみてとれる。
その表情が姉のそれとかぶるが、姉と異なるのは、その表情があまりに変化がない、ということ。
姉…様。
そうだ、自分はこの人形の姿が姉とかぶり、彼女をかばって岩の下敷きになったのだ、と。
人の子の…普通のハーフエルフを演じていたがゆえに羽をだすこともなく、そのまま下敷きに。
致命的な怪我ならば、まちがいなく一度、エクスフィアそのものに体ごと収束させていたであろう、ということも。
先ほどの声は、様々な声に交じってたしかにきこえた、なつかしき声。
あれは、あの声は…
姉様……
しらず、ミトスの瞳から涙がこぼれおちる。
涙?冷たい、と感じてはじめて自分が泣いていることにふときづく。
やはり、おかしい。
自らの身に…この天使化、否、無機生命体化しているこの体に何かがおこっている。
まるで、まるでそう、あの加護をうけとり、手放すまでは感じていたあのときのように。
体の生体機能が…確実に、もどってきている。
加護を…デリスエンブレムを封印の鍵として利用している以上、ありえない、とおもうのに。
誰かの介入をうけたわけでもない。
だとすれば、考えられるのは、地上にいるから、という理由がしっくりくる。
しかし、ありえない。
ありえるはずがない。
可能性があるとすれば……
デリス・カーラーンのコア・システムでもわからなかった地上の安定したマナ。
互いの世界にわたり、自分達が行っていないにもかかわらず、マナが安定し、
あろうことか、シルヴァランド側においては砂漠化が一瞬で緑地化した、という。
それはイフリートの解放、という…ただのマナの循環の転換、陰陽の切り替え、
というだけでは到底おこりえないこと。
自分以外にももしかしたら、何ものかが加護をうけたものが何かをしている可能性。
そうすると、思いつくのは、あのエミル、という少年。
かの地にてかの精霊がとった人の姿とまったく瓜二つのあの少年。
魔物を従え、世界樹の小枝とよばれしものをもっている、という。
姉マーテルですら、精霊ラタトスクより、世界樹の杖を授かった、否、借り受けた、というのに。
ロイド達にそれとなく、彼が手にしている指輪のことをきけば、彼は始めからもっていた、という。
ソーサラーリングもクルシスが管理しており、世界にいくつもあるはずがない。
今、地上においてあるのは、ロイドが身につけているあの一つのみのはず、だというのに。
「…時間が……」
もしも自分の予感がただしければ、もう、時間はない。
マナの管理でおもいつくのは、精霊ラタトスクの存在しかありえない。
かの精霊はマナを司る役割をもつ精霊だ、ときかされた。
眠っていたはずなのに、起きたとすれば、姉を蘇らせるにしても時間は残されていない。
一度、ギンヌンガ・カップへの出入り口である異界の扉を調査させる必要性がでてきた。
それはもう優先的に。
「…今の、なきごえは?」
ふとロイドの耳にもその声はとどき、独り言のようにおもわずつぶやく。
その声はジーニアスにも聞こえたらしく、天をあおぐ。
先ほどまで空は不気味なほどに風が渦巻いていたものの、
今ではその変わりに、空模様が不可思議な色彩をかもしだし、
赤のような緑のような、どこかでみたことがあるような色彩。
そのような光、というか雲、というべきか、ともかくそんなものにと覆われている。
相変わらず上空では風が吹き荒れているのか、それらが絶え間なく流動してるのが目視でも理解できる。
「マーテルだろう。暴走した実りはマーテルそのものだ」
「そう、なのかな?」
淡々というクラトスであるが、ジーニアスは何となくだが、それだけではない、ような気がする。
だからといって、違う、という根拠もない。
だからこそ、そうとしかいえないままに言葉を発する。
と、クラトスの足元…爆発はちょうど、魔導砲が塔を直撃したのとほぼ同時。
それゆえに完全に離れきっていなかったロイド達のほうにも爆風は確実にむかってきたが。
それでも、離れていたがゆえに被害はない。
もくもくとたちのぼるキノコのような煙の規模から、かなりの大規模な爆発をかの施設はした、
ということくらいは理解できるが。
クラトスがいつのまにか取り出していたのか、通信用、なのであろう通信機らしきもの。
らしきもの、というのはロイド達はそういったものを使用したことがないので正確にそう、といえないだけ。
王立研究院、そして人間牧場でそれらしきものを幾度かみたのみ。
「通信機、か」
それをみてゼロスがぽつり、とつぶやく。
注意してみていれば、懐のあたりにふと手をあてたことに気づいた、であろうが、
そのことに気付いたものは誰もいない。
ゼロスがそれが通信機だな、といわなければまちがいなくそれがそうだ、とはいいきれなかった。
通信機、といわれたそれからロイド達も知っている声がきこえてくる。
「大いなる実りは聖地カーラヘンの地中に再び収束した。
大いなる実りも大地も失わずにすんだようだ……とりあえず礼をいおう……ありがとう」
その声はユアンのもの。
どこにいるのかはわからないが、どうやら通信機を通じ、報告をしてきたらしい。
その声にどこか悲嘆の色がみえるのは、リフィルのおそらく気のせいではないであろう。
通信機の前にとひざまづき、
「大いなる実りが無事、ということは種子と融合しているマーテルも無事なのだな」
通信機にむかってといかけているクラトスの姿。
「お前にとってはよろこぶべきだろう。私にとっては……残念なことだがな」
一斉一隅のチャンス、であった。
マーテルの解放はならなかった。
それに、ともおもう。
今ので実りに含まれていたであろうマナが大々的にと失われた。
それは数値でも明か。
すでにもう残滓、といえるほどしか収束する種子には感じられなかった。
「・・・・・・・・・・・・・・」
そんなユアンの言葉にクラトスは何もこたえない。
「…何とか収まったみたいだぜ」
その会話をききつつ、ロイドがほっとしつつ、全員を振り仰ぐ。
「でも、なんだろう…何だか……」
体から力が抜けてゆくような、そんな感覚。
完全に問題が解決したわけではない、とおもう。
気をぬけば、がくり、と膝をついてしまいかねないほどの、あからさまな世界のマナの変化。
「あ…」
「コレット?」
とある方向をみて何やら固まっているコレットの姿。
そんなコレットの様子をいぶかしり、ロイド達がそちらのほうに視線をむけたその刹那。
ロイド達はその場に一瞬硬直してしまう。
そこには、数多の薔薇の花のような何かを抱いた木々の魔物の姿。
そして、それらをまるで先導しているかのごとく…少女達の姿がみてとれる。
歳のころは自分達とそうはかわらないところ、といった年頃か。
が、異なりしはそれらの背中に白や黒、といった翼のようなものがみてとれる、ということ。
それをみて、
「まさか…ありえん」
小さくつぶやいているクラトス。
あの兵器として改造されている天使達はかの地からでることはないはず。
それこそ、ユグドラシルの命で鐘が鳴らされぬかぎりは。
『今の神子』
『どうしてあなたはそうして生きているの?』
それらの少女の口から紡がれる台詞。
「え…」
コレットはただ戸惑うことしかできない。
その中に、見知った姿…絵姿でしかみたことがない姿をみればなおさらに。
「……おば…さま?」
それは、コレットの前の神子。
ファイドラの姉であった、という少女の姿。
その姿はどことなくファイドラの面影を映していなくもない。
「フィーから聞かされてはいるみたいね。そう、私はあなたの前の神子。
このたびのここ、シルヴァランドの神子、どうしてあなたはそうしていきているの?」
にこやかにそういう少女の笑みは笑っているのにどこか怖い。
「まてよ、前回の…神子?」
思わずその言葉にロイドが問い返す。
「そう、私たちはあなた達が救いの塔にはいってきて、祭壇にいくまでずっとみていた。
しってる?失敗作、といわれた私たち神子は救いの塔の障壁を生み出すために、
死ぬことも成仏させてもらうこともできず、永遠に棺の中にいれられ、
意識があるままにずっと自由もきかないままに拘束されることになるんだよ?
四大天使と共にいたあなたなら、私たちを解き放ってくれる、とおもったのに…」
その言葉に思い出すはあの大量にとあった棺の数々。
「なのに…なのに、あなたは、こともあろうに私を殺した相手にたすけられた!」
それは悲鳴に近い叫び。
救いの塔にまでどうにかやってきて、あと一つで封印は完了、というところで、殺された。
ほとんど無機生命体化していたがゆえに何とか命をつなぎ、救いの塔にむかったものの、役立たずよばわり。
あのときの絶望は忘れない。
失陥しているマナに用はない、と言い放たれた。
その台詞に思わず顔をみあわすロイド達。
あのとき、あの場から助けだしたのはレネゲード達。
だとすれば、目の前の少女がいっていることの意味は…
「私たちが信じていたマーテル様はマーテル様で、ただ、ごめんなさい、と謝るばかり。
私たちに何もしてくれはしなかった……」
身動きできない意識の中できこえていた女神マーテルとおもわしき声。
そこまでいいつつ、そのままくるん、と一回転し、
「けど、もうそんな窮屈な思いも全ておしまい。私たちは新たな器を得たの。
私たちを憐れんだ御方がこうして私たちに新たな体を授けてくださった」
「新しい…器…だと?」
クラトスがその言葉にびくり、と反応する。
そんなことができるはずがない。
できるのならば世界は今のような状態にはなっていない。
「でも、あなた…そのマナのありようは…それは……」
「さすがにハーフエルフのその女性にはわかっちゃうか。そうよ。私たちは魔物、として産まれかわったの。
感謝するわ。あなた方があれにマナを大量に照射してくれたことによって、
私たちの枷は解き放たれた。塔に縛り付けられていた私たちの封印は解かれたの」
みればいつのまにか人型の同じような少女は増えてきており、コレット達の前方をふさぐほどになっている。
「おばさま……」
かつて、旅にでて死んだ、という自分の前の神子。
ファイドラの姉たる人物。
「私を身うち、だといってくれるなら、どうしてクルシスのいうとおり、マーテルの器にならないの?
私たち神子はそのために生かされていた。神子とはマーテルの器になるための生贄。
一人でもマーテルをあの中から追い出すことができれば私たちも解放されたのに」
「まてよ。マーテルの復活は種子の滅亡、ときいた。あんたがもしも再生の神子だった、
というのならそんなことを望むのか?」
コレットの前に一歩すすみでて、かばうようにしてロイドが言い放つが。
「あら、あなたこそ何をいってるの?ああ、その天使から聞かされてないのかしら?
私たちは魔物と変化したときにすでに理解したわ。
かつて、勇者ミトスたちに種子が託されたとき、種子の目覚めがない限り、地上はどうなるか、ということを。
とっととそうしてくれていればよかったのよ。そうすれば私たちのようなものがうまれることもなかった」
「それは…神子であったはずのあなたが、世界をみすてる、ということなのかしら?」
リフィルの問いに、
「あら、ちがうわよ。ハーフエルフの聡明たるあなたならわかるんじゃないのかしら?
本当の意味で世界を救うのよ。馬鹿な考えをする人間、ハーフエルフも人間もエルフも関係ない。
すべて一度、原初の状態にもどり、あらたに再生しなおすこと。
それがすべての命にとっても幸せだとおもわない?」
その言葉には嘘はないようにみえる。
「…大樹がなければ世界は再生されないわ」
その言葉に、その場にいた魔物達であろう少女達がおもわず顔をみあわし、
『あはははは!』
盛大に笑いだす。
「本当に何もしらない無知なヒト。王たるラタトスク様がおられるかぎりそれはありえないわ」
それは断言。
ラタトスク、その精霊の名がでたことに思わず顔をみあわせるロイド達。
アステルがいっていた。
かの精霊と繋ぎをとる必要性が一番高い、と。
「まて、あの精霊は魔界の門を護るのにそこまで手はまわらないはずだ」
そう、かつてがそうであったように。
「あれから情勢はかわってるのよ。あなたがた人が愚かにも裏切った、ということを知られた以上はね」
くすくすくす。
笑みをこぼしつつ、
「詳しく知りたいのならば、ウィルガイアにいってみなさいな。全ての答えはそこにあるわ」
「ウィルガイア?」
そんな都市の名はきいたことがない。
首をかしげるロイドにたいし、
「…デリス・カーラーンの内部にある天使達の街、神聖都市とよばれている場所のことだ」
クラトスが警戒をとかずにいってくる。
目の前の少女の姿をした彼女達の思惑がわからない。
「ここで、あなたを捕らえて救いの塔へ、とおもったけど気がそがれたわ。
あなた達は本当に何もしらない、知ろうともしていない。それはかつての私たちと同じ。
まあ、せいぜいあがいてみることね。私たち全員はすでに解き放たれた。
それぞれの想いのままに。そうそう、これだけはいっておくわ。
私たちの仲間の中には、神子の血族があるからこんな目にあったんだ、とおもっている子達も多々といてね。
おそらく、イセリアに出向いているころじゃないかしら?」
その言葉にさっと顔をあおざめさせる。
「そんな、どうして!」
「マーテルのマナと同じ、もしくはそれに近しいマナになるから、という理由で創られたのが私たちの一族。
そのために婚姻も徹底的にクルシスに管理されている。
それは、そこのテセアラの神子がよく御存じでしょう?」
「…俺様のこともすべておみとおしってか…」
「いったはずよ。私たちは身動きとれないまま、ずっと救いの塔に捕われていた、と。
あの場には世界の…二つの世界の念全てがあつまってくるわ」
だからこそ理解できていた。
せざるをえなかった。
「私は…おばあさまから、あなたのことをよくきかされていました。
誰にも平等にわけへだてなく愛情をそそぎ、誰からもすかれていた、と
私は、そんなあなたのような神子になりたく頑張ったつもりです、そのおばさまが、どうして……」
「どうして?人とは本当に愚かでしかなかったのよ?きかされなかったのかしら?
私のかわいい妹の孫、私にとっては姪っ子にあたるあなたは。
私がどうしてディザイアンだ…と当時はおもっていたレネゲードのボーダという人に殺されたか。
しってる?私は、殺されたのよ。当時のイセリアの村長の策略のせいで、ね!」
それは悲鳴にちかい叫び。
「え?」
「救いの旅が成功すれば、繁栄世界となる。そうすればディザイアン達は消えてしまう。
当時の村長は、ディザイアンと不可侵条約云々、といっていたけど、とどまることは何のことはないわ。
ディザイアン達から常に資金を受け取っていたのよ。そして必要な数だけ人材を送り届けていた。
私が成功させれば自分の懐にはいってくるお金がなくなる、そんな理由で、ね」
「たぶん、今の村長も同じようなものでしょう。
私たちと同じように、かの地で命をおとし、このたび魔物に変化したものたちがいうには、
村長にいわれ出向いたさきにディザイアン達がいた、といっていたものもいたし」
そこまでいって、にこり、と再び笑みをうかべ、
「あなたたちはであったのでしょう?元、人であった私たちと同じように魔物になった彼らに」
施設の中で、そのようなものたちは多々とみた。
「彼らは元は人間。そんな相手をあなた達はどうしたのかしら?
話しかけたりして事情をきいたりした?問答無用で倒したのじゃなくて?」
その台詞に何ともいえない表情をうかべるしかできないロイド。
「戯言はおよしなさい。あなたは何がしたいの?何が目的なの?
あなたのマナのありようは、魔物のそれであるけど、何かが違うわ」
そう、見知っている魔物と何か、が違う。
それが何か、とはわからないにしろ。
「別に、ただ、そこにいる子達もまた私たちの仲間よ。
もっとも、この子達は私たちと違って心を壊してしまったがゆえに
こうして生前の姿をとれなくなってしまった、哀れな同胞たち」
傍にいる薔薇の花のようなものをもった樹の魔物に手をかけそっとつぶやく。
「フェリスおばさま!」
おもわずコレットが名を呼ぶが。
「ああ、久しぶりだわ。その名をきくのは。あなた達はこの子達を殺せる、かしら?
あなたもどうして旅の最中に無機物化しなかったのか…あなたは運がよかったのよ。
それがどうして、あなたなの?ならあの御方にかかわったあなたには全てを終わらせる義務があるはず、
なのにあなたはそうしていつまで逃げているの?」
エミルがコレットに世界樹の新芽をわたしていなければ、まちがいなくコレットの体は無機物化。
すなわちハイエクスフィアにと変化していた。
と。
「フェリス。あちらへの道が開けたらしいわよ」
「あら。そう。なら問題ないわね。私たちはいくところがあるから、それじゃあね。
四大天使、クラトス・アウリオン。あなたはそこでいつまでも視ているがいいわ。
あなたたちがおこなったことが、どういう結末をむかえてゆくのか、をね」
別の少女がいうとどうじ、何やら彼女達が言葉をつむぎはじめるのとどうじ、
彼女達の足元に魔法陣のようなものがうかびあがる。
それと同時、彼女達の姿は魔方陣の中に吸い込まれるようにときえてゆく。
彼女達が消えたの合図にしたかのように、
目の前にいる無数の薔薇の花をもった樹の魔物が一斉に雄たけびをあげ攻撃態勢をとってくる。
「くっ!…やるしか、ない、のか!?先生、こいつらを元にもどすことは…!」
元、人間、彼女達はそういっていた。
このような姿をしていても、彼女達は元々は、人間なのだ、と。
「…ここは、強行突破するしかなかろう。いくぞ!お前達は収容されていた人達をまもれ!
私が道をきりひらく!」
汚れ役は自分だけ、でいい。
それゆえのクラトスの言葉。
おそらく、彼女達の言葉に嘘はないはず。
何しろこの場にいる魔物の全ては、少女の念が魔物と化した、とよばれている魔物の一種、なのだから。
悲しいまでの悲鳴が聞こえた。
人殺し。
あなたはどうして、マーテルの器にならなかったの?
そのままあなたがなれば、この歪んだ世界ごとこわせたのに!
クラトスの放ったジャッジメントの術をうけ、声なき声が嫌でも耳にと届いてくる。
光に包まれきえてゆく魔物達。
その断末魔はあきらかに人のそれ。
ぐらり。
「コレット!」
その言葉をうけ、否、コレットのみに向けられた悪意による気。
魔物達による悪意ある気は普通の人間には害となる。
それは無機生命体化しかけているコレットとて例外ではない。
悪意の波にまるで呑みこまれ、あらがいようもなく意識が刈り取られてゆく。
普通の人にいわれても平気、というわけではない。
ただ、気丈に、神子ならばこうあるべき、とおもってこれまでやってきていた。
しかし、今の害意はあきらかに、自分と同じ神子であった少女達から向けられたもの。
だからこそかたくなに拒絶もできなければ、ただコレットとすれば謝るしかできない。
ただ、倒れるときにごめんなさい、とつぶやいたコレットの瞳には一筋の涙がきらり、とひかる。
「大丈夫。気を失っているだけよ。村につれていきましょう」
倒れたコレットに気づき、ロイドがあわてて声をかけるが、
そんなコレットをすばやく抱きかかえ、異常がないか確認し安心させるようにリフィルがほほ笑んでいってくる。
「イセリアへ?!僕もロイドも追放されてるんだよ!」
「コレットの家はイセリアにあるのよ。それに牧場に収容されていた人達をここにおいておくわけにはいかないわ」
「……そうだな、イセリアにいこう。たとえ俺は追いだされてもいい。
…たぶん、今のコレットには心おちつける場所が必要だ、とおもう」
かつての神子だという彼女たちから投げかけられた言葉。
おそらくそれは、同じ神子であったからこそコレットに深く傷をつけたとおもう。
彼女達もかつては世界を救うために命を投げ出す覚悟をしていたはずなのに。
あのときのコレットと同じく。
そんな彼女達がどうしてあんなことをいうのかロイドにはわからない。
ロイドは一人、孤独にさいなまれたことが一度もない。
だからこそわからない。
人が孤独に陥ったとき、人は愚かなる想いにとらわれ、どんどんと闇に捕われてしまう、ということを。
正しき闇ではなく、狂ったその狂気、という闇に。
「では、しいなはイセリアへもどらせる。でなは」
何やら再びユアンと話していたらしいクラトスであるが、ふと通信機よりユアンの声が紡がれてくる。
ユアンもまた、今クラトスから報告をうけた。
かの地に捕われていたはずの神子達の魂、となのる魔物にであった、と。
それが何を意味するのか。
魔物をうみだせるもの、となればもはや疑いようがない。
確実に、大樹の精霊が何らかの形で今回のことにかかわってきている。
裁きのときは、すぐそこに迫っている。
そう認識できてしまう、否、せざるを得ない状況、といってよい。
が、まだクラトスは決心がつかない。
そもそも、解放したとしても、オリジンと新たな契約をむすばせるべき品物がまだそろっていない、のだから。
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あとがきもどき:
薫:は、話しがすすんでない…汗
まさか、魔物となった少女達をいれたら容量がかなりにいくとは汗
…幻の大地もどきは次回、ですね…
あれ?翼がある…魔物?あれ、あれ?とおもったひとは、わかるはず。
ファンタジアなどにでてきた新たな翼をもつ女の子の魔物さんたち。
彼女たちの原型です(まて)
まだ、魔物に変化、というか転化したばかりなので彼女達は人、の心が根強いです。
が、時とともに魔物としての自覚をもってゆく、という裏設定。
ようやく次回で二つの大陸、あるいみでドラクエ6のような世界ができる・・・(こらこら)
何はともあれではまた次回にて~
2013年9月18&19&20日(水木金)某日
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