まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回、大津波などの表現があります。
…大震災を思い出していや、というひとは、まわれ右をしてください。
容量的に、後ろに恒例?の別話しの続きをば。14になりますv

########################################

「皆の結論をきかせてくれ」
夜があけ、皆が結論がでたらしく、それぞれがロイド達のもとへとやってくる。
「僕は、シルヴァランドへ帰る。ミトスもわかってくれたし。
  それに、僕、ロイドにずっとついていくって約束したからね」
それに、世界を統合してさえしまえば、二度と会えないわけではない。
まだ、可能性はそこに残されている。
否、統合しないとどちらかの世界が滅亡してしまうのがこのたびの精霊の契約で確定してしまう。
何としてもそれだけは果たさなければならない、ともおもう。
「私もよ。シルヴァランドはこれから復興する世界だわ。教師が必要だとおもうの」
下手をすれば統合したのち、文化が進んでいない、という理由で、
テセアラ側から差別をうける可能性がある。
そのときに、きちんとした教育をうけていないシルヴァランドのものたちでは、
いいように彼らにされてしまう可能性がなくはない。
今のテセアラは表ではきらびやかにみえるが、裏ではそうではない、
というのをアステルからいろいろと聞きだした。
裏では公然と、人体実験などといったものも国の許可のもと行われている、とも。
あるいみ、ディザイアン達よりタチがわるい。
テセアラのタチがわるいところは、それらに協力した場合、
報償金が支払われる、ということ。
ゆえに、自らの 子供などをお金目当てに売り飛ばす親などもいるらしい。
さらには人の命を何だとおもっているかのような実験も行われている、という。
…魔物と人との融合体を実験としてつくりだし、マナの安定度をみている実験もなされている。
という話しをきいたときには絶句したが。
人の命を何だ、とおもっているのか、そういいたい。
それにつかわれている実験体がほとんどが、ハーフエルフ、そしてまた貧民街、
とよばれし場所の出身者であるらしい。
そんな実験にシルヴァランドの人達がその人達のかわりにつかわれかねない。
知識は無知であればあるほど、相手につけいらす隙を与えてしまう。
ハーフエルフ達…異種族といわれしものの差別をなくそう、というどころの話しではない。
「あたしはもちろん。シルヴァランド組さ。ミズホの皆とはわかれをすませてきた。そっちはどうなんだい?」
もっとも、一時のことだから、という理由もあったが。
どちらにしても、時間がかかったとしても、かならず世界を統合させる。
それは大前提。
だからこそ、里のものたちも納得した。
どういう意味かはわからないが、何でもエミルからちょっとした提案が頭領になされていた、らしい。
その提案、というものは、まだ話すときではない、としいなは聞かされてはいないものの。
「会社はジョルジュに任せてきた。私はアリシアのような犠牲者を産まないためにも、ロイドに協力したい。
  我が力は微々たるものかもしれぬが……」
これまでもそうだったのだから、一時の間、彼にまかせても問題はない。
どちらにしても、互いの世界を救うために、また犠牲者をこれ以上ださないためにも、
たしかに世界統合は必要不可欠。
それまでの間、留守をたのむ、そういってでてきている。
その間、連絡がとれなくなってしまうかもしれない、という旨は一応つたえてある。
まあ、戻ったときは戻ったときで仕事の量が半端なく多くなっているであろうが。
それらも覚悟の上。
「…私は正直、どちらにしていいのかわからないです。ただ、ロイドさん達がいなければ。
  私の時間はもどってこなかった…だから、ロイドさん達に私の新しい時間を預けます」
プレセアはいまだにどちらにいけばいいのか自分で結論がでない。
ただ、彼らが自分の感情を取り戻してくれた、というのだけは理解している。
彼らがいなければ、自分はあのままもしかしたら感情のないままに死んでいたかもしれない。
それに、ともおもう。
世界が切り離されることと、自分のような被験者をださない、ということ。
それはかならずどこかで結びついてくる、とも。
「ゼロスは?」
「何だよ。結局、皆、好きこのんでわざわざ衰退世界へいくのかよ。
  世界が分断したら神子はいらなくなる。したら俺様は晴れて自由の身だ。
  シルヴァランドのまだ見ぬハニー達に気をプレゼントよ」
もっとも、世界が統合したあと、神子が二人、ということになり、
互いの神子は最後の神子、として名が残るであろうが。
問題はクルシス。
それに、ともおもう。
離れているときにまたまた連絡があったあの男のいいぶんもきにかかる。
「皆一緒なんだね!」
全員の話しをきいてコレットが弾んだ声をあげる。
やはり、このまま別れてしまう、というのはさみしくおもっていた。
それに、クルシスが自分を…マーテルを蘇らせる、ということをあきらめた、とはおもえない。
必ず何らかの接触してくるはず、そうはおもっているが、今のところクルシスからの接触はない。
「そ~いうこと」
そんなコレットの言葉を受けてか、ゼロスがかるく言葉を発する。
もっとも、ゼロスに関しては、かの人物よりも他にも接触があったりしているのだが。
すでにゼロスの中ではどちらにつくか、という結果はだされている。
そもそも、というかやはりというべきか。
メルトキオでなぜか再び最下位した、彼のいうことを信じるならば、
かの修道院のあたりに異様に魔物がふえたらしく、侵入者達を撃退している、とのことらしい。
そんなことができるもの、といえば答えは限られてくる。
しかし、クルシスからの接触ではそのようなことには触れていない。
ことあるごとに、妹がどうなってもいいのか、ということをいわれているのみ。
彼らはおそらく、今の現状をしらない。
そしてまた、妹が完全に…おそらく、まちがいなく、健康体になっている、ということすらも。
ならば、とおもう。
彼に協力しつつ、世界側につく、というのはあるいみ真理。
どちらにしても、世界が消滅してしまえば、また大地の存続がなされないかぎり、
自分はともかく妹の身すらあやうくなってしまう、のだから。
「よ~し、皆、いこう!世界を切り離すために!」
「未開の野蛮人を文化人にしてやらねぇとな」
「未開の野蛮人とかいうな!」
さらり、といわれたゼロスの言葉におもわずロイドがつっかかる。
その台詞はゼロスが全員をかるく緊張感からほぐすためにいったものだ、
といまだにロイドは理解していない。
理解できていない。
「…はぁ、あんたも、あいかわらず、だねぇ」
唯一、理解できているしいなが苦笑しつつそうつぶやくが。
「そう、そういうこと、ね」
伊達に魑魅魍魎がはびこる世界で神子として生きていたわけではないみたいね。
アステルからいろいろと情報を聞き出したがゆえにリフィルも曇った視野でなく、
まじることない正確な視点でゼロスの行動をみることができるようになっている。
以前は、ゼロスは女性に何らか含むところがあるのだろう、とおもっていたが。
しかし、よくよく考えればたしかにゼロスの行動は理にかなっている。
いつの時代も、あるいみ情報を制しているのは、ほかならぬ女性、なのだから…
そう、人の口に門はたてられない、女性のおしゃべりほどより濃いものはない、のだからして。

光と闇の協奏曲 ~最後の封印とその結果~

「まて!」
最後の精霊との契約。
マナの守護塔とよばれし場所の最上階にとある封印の間。
そこに近づこうとするロイド達にとむけられる声。
みれば、どうやらここで待ち構えていたのであろう、そこにはクラトスの姿が。
「クラトス!邪魔をるな!」
そんなクラトスにかっとなりつつロイドが叫ぶ。
そもそも、彼がオリジンを封印している、と判った以上、彼はどうしても敵、でしかない。
信じたくはないが。
彼が素直に精霊を解放してくれていればこんな面倒なことは行わなくてすむのに、とも。
「そうはいかん!今、デリス・カーラーンのコアシステムが答えをはじきだした。
  精霊と契約すれば大いなる実りは完全に失われてしまう!」
「それこそが我らの願うところだ」
「ユアン…っ!」
いつのまにやってきたのであろう。
そんな彼らの問いに割って入るように、柱の陰からユアンがでてくる。
どうやらユアンもまた、この場でロイド達をまっていた、らしい。
そのまま、ロイドがにらんでいるクラトスの間にわってはいり、剣をひたり、とかまえるユアンの姿。
「わからないのか!ユアン!お前の望む結果はえられん!」
いいつつも、クラトスが剣をぬく。
そんなふ二人をロイド達はただみまもるしかできない。
「だまれ!この機会を逃すとおもうか!ロイドよ。こいつの相手は私にまかせろ。
  お前達は一刻も早く、光りの精霊との契約をすませるのだ!」
いって、クラトスにと剣をかまえる。
ユアンにうながされ、
「あ、ああ。わかった」
それだけいい、それぞれ顔をみあわせ、そのまま封印の間にとつづく転送陣へ。
「ユアンさん…大丈夫かな?クラトスさんも……」
ユアンにしろ、クラトスにしろ互いに思うところはあったのではあろうが、
それぞれに自分達を一度は助けてくれていた相手。
だからこそ心配になる。
「あなたらしいけどね。コレット。ユアンはともかくとして。
  …クラトスとはいずれ、オリジンの一件で事をかまえることを忘れないで」
封印がどのようになされているのか、も鍵となってくる。
そんなコレットとリフィルの会話をききつつも、
「これで大いなる実りの守護がとけるんだな」
ここまでくるのにながった。
精霊達がマナの循環、すなわち、テセアラとシルヴァランドにマナをそれぞれ、
衰退と繁栄、というようにマナの転換作用を担っている、としってから。
ついこの間のようであり、かなり前のような気もしなくもない。
ユアンからきかされた、大いなる実りの守護の解放と、そしてマナの楔の解放。
これですべてがうまくいく。
そう、こんな歪んだ二つの世界の仕組みは。
マナ、なんてよくわからないものを搾取しあい、それぞれが悲しい思いをするようなこんな世界はこれで終わりを告げる。
そんなことをおもいつつ、感慨深げにロイドがつぶやく。
ロイド自身の感覚とすれば、いまだにマナ、というものはよくわからないもの。
という認識でしかない。
人は、目にみえるものしか信じない。
ロイドも説明をうけてもピン、ときていない、というのが本音。
ただ、リフィル達がそういうから、そんなものなのか、という認識でしかない。
なくてもどうにかなるだろう、という楽観的な考えしかもっていない、というのもある。
その結果が何をもたらすか、までは考えが及ぶことはなく。
「しいな。よろしくね」
「わかってるよ」
ジーニアスにいわれ、しいなが一歩、祭壇の前にとすすみでる。
そして。
「我が名はしいな、ルナとアスカがミトスとの契約を破棄し、私と新たな契約を交わすことを望んでいる」
しいなの声とともに、祭壇から青い光がたちのぼる。
それはやがて、一人の女性の姿をかたちどる。
「アスカは?」
三日月のようなものにのっかりふわり、とういている女性は姿をあらわすとともに、
きょろきょろと周囲をみわたし、目の前にいるロイド達にとといかけてくる。
「くるはずさ。約束したからね」
「そうですか。それならばいいでしょう」
しいなの言葉をうけ、姿を現しているこの地に捕われている精霊ルナが言葉をはっする。
それととともに、
「あ、アスカがきたよ!」
ジーニアスが空を指し示すと、上空からばさり、と精霊アスカが舞い降りてくるのがみてとれる。
アスカはまるで始めからきまっていたかのように、ルナの真横にとふわり、と立ち並ぶ。
「……いいでしょう。あなたたちに力をかせるものか。その力を確かめさせてもらいます。力を示してみなさい」
すでに、もう精霊達にも今後のことは説明がなされている。
そして、自分達の契約の…ミトスとの枷の解放とともに、かの種子にたまりし歪みを修正する、とも。
それにより、世界に混乱がおこるであろうが、それは元々は人がおこしたこと。
人は知るべきだ、という意見に反対はない。
むしろ、人は自分達の愚かさにたいし目をそむけすぎている、とは常々おもっていた。
これからおこるのは、そんな人の行動を正すきっかけになるのか、
それとも、より人の手により愚かな道にいたるきっかけになるのか。
それらすべては今現在をいきる人の手にとかかっている。
どちらにしても、もう、決定は下された。
かのかつての種子には本来の大樹、としての力はすでにない。
そのことも聞かされている。
あるのは、歪んだ人の思念体達によって穢されてしまった力、のみだ、とも。
だからこその決定。
ちょうど、ヒトがそのことに気付かずに行動をおこそうとしているのならば、
それを利用してそれらの穢れをはらうべき行動を、というのは自然の流れともいえる。
もっとも、ラタトスク自らが覚醒していなければそれはよりおそろしいことになっているであろう。
管理するものをうしなったものが多大なる力をうければどうなるか。
考えなくてもわかること。
精霊達ですらわかることを、人がわからずに行動しようとしている、という愚かさも目にあまる。
まあ、あの彼は昔から抜けているところがありましたしね。
そうふとおもうが、ルナはそこまでは口にはしない。
また、するきもない。
全ては、ヒト自身がきめたこと、なのだから。
「ああ。こんな形で精霊から力を試されるのは何だか初めてのような気がするけど…
  これは俺達にとっては大切な願いだ。みんな、いいな?」
ロイドが皆をふりむきざまにといかける。
二柱の精霊との戦い。
それがどんな意味をもつのか、ロイドにはわからない。
だけども、彼らと契約をむすばないかぎり、世界がマナで繋がれている、という現状はかわらない。
まだ、ミトスとの契約破棄だけを、といわないだけまし、なのかもしれない。
かつて、精霊ヴォルトとの契約のとき、ヴォルトはミトスとの契約の破棄、という部分だけを認め、
それ以外の部分、すなわち、しいなとの契約は認めない、そういっていた。
それをいわれないだけまだまし、とおもうしかない。
「準備はできてるよ。いこう、ロイド!」
ジーニアスがそんなロイドにと答えてくる。
「これが、最後の楔、だ!いくぞ!」
いいつつも、ロイドは剣の柄に手をかける。
これで全てがおわる。
これがおわれば、わらってコレットと皆とこれからも共にいられる世界になるのだ、そう信じ。

「…一応、あなた達を認めましょう。さあ、誓いをたてなさい。私との契約に何を誓うのですか?」
「…一応、というのがきになるんだけど……」
自分達は精霊を倒すつもりでどうにか奮闘した。
が、精霊の力は強大。
どうにかぼろぼろになりつつも、何とか精霊二柱を床にたたきつけることはできた。
どうやらそれが彼らが勝った、という証、になるらしい。
これならば、まだ、あの禁書の中で戦ったミトス達との戦いのほうが熾烈を極めていた、ともおもう。
最も、空から降り注ぐ光の術に対抗するすべは、リフィルによる防壁の術しかないゆえに、
かなりのダメージをくらったのもまた事実なれど。
が、威力からしてみれば、あのミトスが使用していたジャッジメントのほうがつよいような気がする。
ルナが使用した、光の術、レイ、といったがあまり威力を感じなかったのはロイドの気のせいか。
「大いなる実りの発芽と、二つの世界の真の再生を誓う」
「…いいでしょう。私たちの力を、契約者、しいなに」
しいなの言葉に、光りがはじけ、精霊達の姿が光とともにはじけきえる。
それとともに、しいなの手にひとつの指輪がゆっくりとおちてきて手の中にとおさまりゆく。
それは、精霊との契約の証、トパーズの指輪。
「やったか!」
しいなが契約を交わし終えたその直後。
あらい息をつきながら、ユアンが転送陣から移動したらしく、息をきらせつつも駆けこんでくる。
「しまった!」
そのすぐ後ろからクラトスも追いかけてくる。
ざっとみるかぎり、クラトスもユアンも致命的な怪我はおってはいないらしい。
と。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ・
刹那、ものすごい地響きが周囲、否、大地を震わせながら鳴り響く。
それはロイド達ですら立っていられないほどの振動。
「な、何だ!?どうしたんだ!?」
「え?ま、また地震!?」
「とにかく、ここは危険だよ!外へ!」
ここは、高い塔のてっぺん。
下手に足場をふみはずせば、いちもくさんに塔の真下にまっさかさま。
そうなれば確実に命はない。
これほどの揺れ。
塔が崩れてもおかしくない、というほどの巨大なる揺れ。
揺れは収まるどころかだんだんとその大きさを増してゆく。

たび重なるマナの照射。
すでに耐えきられるはずもない。
狂い、歪んでゆくのが嫌でもわかる。
それをさえぎっていたものは、今はない。
そして、その中にありしものたちをさえぎっていたものも。
強大なる力が全ての大地に及び、大地そのものを押し上げ、ひきさいてゆく。
大地のところどころより発生する太い何か。
それが何なのか、誰にも、そう、人間達にはわからない。
轟音をとどろかせ、竜の首のようにうねりつつ、それは全ての世界に範囲を広げてゆく。
それが、木の根だ、と理解するのは到底無理からざること。
しかも、その木の根から、どうみても魔物、とおもえしものがわらわらとわきだせば、
人々はもはや逃げ惑うしかすべはない。
悲鳴と轟音と、そして何ともいえない魔物達の雄たけび。
木の根からあらわれたそれらは、影のようなものもいれば、人型のものもあり。
そしてまた、完全なる木の魔物のような格好のものもいれば、姿形は様々。
なれど、言葉をかろうじてはっせられる魔物の声をきいたものたちはたしかにその耳に、
その声をたしかにとらえた。
『私たちは何のために、何のために生贄にされたの?』
それは、まだ若い少女達の声。
これまでにクルシスの手により生贄とされた、神子たる少女達の節なる念。
それらの念が、今まさに魔物、として具現化し、世界に解き放たれた。
世界規模からしてみればただそれだけのこと。
が、人にとってはそのことは大きな意味をもつ。
いきなり、人の言葉をはなす、魔物が自分達のすむ町に、村に、現れた、のだから――

「一体、何がおこたんだ!?」
ただ、茫然、とつぶやくしかない。
土煙りを通して視える、巨大な樹…なのだ、とおもう。
歪なる姿をしているそれは、緑の欠片すらまったくみえない。
むしろどちらかといえば死の色に近くみえるそれはどうみても美しい、とはいえない。
問題なのは、それらがうねるような幹により、救いの塔をまるで呑みこむようにして、
うねるようにして今もなお、どんどんと成長しているようにみえること。
しかし、その頂点付近。
その付近に何やら花に近い何か、があり、それらを樹の幹がまるでつつみこむようにおおっており、
その中にどうみても人らしき人物がみえるのはロイドの目の錯覚か。
「…めちゃくちゃじゃねえか……」
ざっとみただけでもわかる。
大地が切り裂かれ、おしやられ、すでにこのあたりの原型はあまりとどめてすらいない。
さらにいうならば、この場は小さな海流によって隔てられていた孤島、であったはずなのに。
それらの海の水はまったくひあがり、今はこの塔のある場はほとんど陸続きになっていたりする。
水が干上がり、大地がせりあがり、まるではじめからそこに水などなかったかのごとくの様子。
土煙りの中でも、さすがに周囲を覆っていたはずのそれらがなくなっている、というのに驚愕せざるを得ない。
「ねえ?あれが大樹、カーラーン、なの?」
マナの欠片も感じない。
むしろ、どちらかといえば、あまりよくないような感じがする。
みているだけで、何というか不安にかられてしまう、そんな感覚を抱いてしまう。
「…誰だろ?どこかであったような……」
そんな中、ただじっと、いまだに視力が異様によくなっているままのコレットが、
じっと土煙りの向こうにいる、花のような何かの中にいる女性の姿をみつめぽつり、とつぶやく。
そう、どこかであったような気がする。
だけど、それがどこか、なのかがわからない。
「マーテル!?」
と、ロイド達から遅れ、塔からでてきたユアンが、その女性の姿にきづき思わず叫ぶ。
「マーテル?あの木にとりこまれようとしている女性が?」
リフィルがそんなユアンの言葉に驚いておもわずユアンの顔をのぞきこむ。
だが、ユアンの耳にはそんなリフィルの言葉ははいっていない。
「誰かに似ている。あれは、たしか……」
そんな中、コレットがどうにか誰ににているのか、という記憶をひっしにたぐりよせようとしているが。
ノドまででかかっているのに、わからない。
そう、たしかに身近で、そう、身近でみたような気がする。
それはおそらく気のせい、ではないはず、なのに。
「なぜ、マーテルがあのようにグロテスクな大樹と復活するのだ!?」
「やはりこうなってしまったか…」
ユアンが叫び、クラトスが重苦しくもつぶやいているが。
「どういうことだよ!」
そんなクラトスの言葉にかっとなり、ロイドがおもわずクラトスにつっかかる。
「大いなる実りが精霊の守護、という安定を失い、暴走したのだ」
「そんな馬鹿な!精霊は大いなる実りを外部から遮断し、成長させないための手段ではなかったのか!?」
そんなユアンの言葉に首を横にふりつつ、
「それだけではない。二つの世界はユグドラシルによって強引に位相をずらされた。
  本来なら互いに分離して時空の狭間へ呑みこまれてしまうところなのだが、
  二つの世界の中心に大いなる実りが存在しているからこそ、それは回避されていた」
「そんなことは、キサマの御託をうけなくてもわかっている!」
伊達に四千年あまりもミトスの傍にいたわけではない。
この八百年あまり、ようやくマーテルの解放のめどがたった、というのに。
「大いなる実りは離れようとする二つの世界に吸引され、どちらかの位相にひきずりこまれようとしている。
  ゆえにいつ暴走してもおかしくない不安定な状態にあった」
「まて」
そんなクラトスの言葉にユアンの顔色がすっとかわる。
「まさか…それでは、精霊の楔は大いなる実りを二つの世界の狭間にとどまらせるため、
  檻として機能していた。そういうことか」
「その通りだ。安定を失った大いなる実りにお前達がマナを発射した。
  その結果、それは歪んだ形で発芽し、暴走している。融合しかかったマーテルものみこんでな」
あれが大樹なのかどうかはわからない。
否、大樹なのだろう、とはおもうのだが。
だとすれば、何なのだろう。
あの樹の上あたりにある、どうみても実りにみえるあの花のようなものは。
もしも、あれが自分達の見知っている大いなる実り、とするならば、
だとすれば今目の前にある、これは一体…
だけども、いえることはただ一つ。
このままでは、あれごとまちがいなくあの樹は成長してゆく。
それはもう間違いなく。
「理屈づけはどうでもいい!このままだとどうなるんだ!」
そんな二人の会話の意味がまったくわからず、叫ぶようにとといかける。
意味がわからないことよりは、この先どうなるのか、というほうが重要。
「…クラトスの言葉が事実なら、シルヴァランドは暴走した大樹に呑みこまれ消滅する。
  シルヴァランドが消滅すれば聖地カーラーンと異界の扉の二極で隣接するテセアラもまた消滅する。しかし……」
ユアンとしても、クラトスの言葉に思わず目をみひらいたものの、
よくよくみれば、マーテルがいるあの花のようなものは、まちがいなく、
自分も見知っている、元々マーテルがすいこまれているはずの種子そのもの。
ならば、今この場にて暴れているアレは、大樹ではない、というのだろうか。
それとも、大樹、とは種子をのこしたまま成長してゆくものなのだろうか。
大樹そのものがわかならいことづくしなので、そうではない、ともいいきれない。
あれが大樹?馬鹿な。
そんなはずはない。
大樹から感じるはずの、枯れはてた残骸でしかなかったあの場においても感じた暖かなマナ。
そのマナがあれからはまったくもって感じられない。
どちらかといえば、あのマナのありようは…
「…みんな、死ぬんですね」
プレセアがぽつり、とつぶやく。
心のどこかで、アリシアも父もいない世界など、全てを道ズレにしてなくなってしまえばいい。
と自分の心の奥底でささやいている自分がいることに気づき思わず驚いてしまう。
「……あの歪んだ大樹と、デリス・カーラーンに住む天使以外はな」
あれが大樹なのか、といわれれば違和感がある。
何かが違う。
だけども、完全に違う、ともいいきれない。
きになるは、どうみてもあの呑みこまれようとしているあの花のような水晶のようなもの。
あれはどうみても自分達が見知っている大いなる実りそのもの。
大樹が発芽すれば、種子は消えてしまうのではないのか、という疑念はある。
が、大いなる実りが球根のようなもの、ならば、たとえ芽吹いたとしても形はのこる。
「何とかしないと!」
「何とかっていったった、どうすんだい!」
ジーニアスがいい、そんなジーニアスにしいながつっこむ。
「…ユアン。きさま、この始末、どうつけるつもりなのだ?」
ユアンだけの責任、ではない。
自分達もとある可能性。
…精霊がいないままの大樹の発芽。その場合の懸念はたしかに予感していた。
ただ一言、制御するものがいないのに大樹を復活させても平気なのか。
その問いかけをしなかっただけ。
しかし自分の非をみとめることはなく、ユアン全てに責任転嫁をおしつける。
心のどこかで違う、とはおもっているのだが、誰かに責任をおしつけることしかできない。
この結果は自分達全員の責任でもある、というのに、である。
それでもいわずにはいられない、というのはあるいみ人の愚かさの象徴、ともいえるであろう。
リーガルもまたそんな人の一人にすぎない。
だからこそ、感情のままに、その想いをユアンにとおしつける。
それは間違っている、とわかっていても目の前の惨状…あからさまに、
大地に何かがおこっている、とわかるような変化がおこっている以上、誰かにやつあたりをせざるを得ない。
そんな行動が全て、人と人とのいがみ合いに発展していった、というのに。
感情のままにうごくこと、それの危険性、あまりの出来事のとき、人はそれらの理性すら失い、
本能のまま、感情のままに周囲にわめきちらす。
それが個人のことだけ、ですめばいい。
しかし、時としてそれではすまないのもまた事実。
そんな中、
「…こいつだけの責任、かねぇ?」
一人、冷静にそんなことをぽつり、とつぶやいているゼロス。
あるいみこれは予測の範囲内。
精霊の関係者とおもわれしエミルが何もしなかったのも。
万が一、元の世界に、一つの世界にもどるにしても、それぞれの世界地図はかつての地上とかわりすぎている。
ならば、どこかでそれらの歪みを訂正する必要があるだろう、と予測はつけていた。
おそらく、ではあるが、この立っているのすらやっとの揺れと、
どこからともあがっている、土煙り。
それは遠くのほうにもみうけられることから、このあたりだけの現象ではないことがうかがえる。
互いの世界が一つにもどったときに違和感がないように、大地を作り変えても何ら不思議はない。
そこに、精霊ラタトスクの意思が加わっていればなおさらに。
それらを証明するように、空をみあげれば今まで以上に魔物の姿がみてとれる。
魔物達はこぞって空を飛びまわり、また、周囲の大地にも魔物達がそれぞれ動きまわっているのもみてとれる。
魔物達は王の命により、このたびの大地改革、すなわちかつての姿に戻すために必要なマナの調整と、
そして、それと共に王から命じられた新たななる理をもってして新しいものを世界に解き放っているにすぎない。
魔物達の体をつうじ、新たな理は今をもってして世界中にと解き放たれている。
センチュリオン達の配下に還りゆいた魔物達に新たな理を埋め込むことはラタトスクにとっては簡単なこと。
だからこそ、魔物達を使っている。
もともとの役割に新たな中間地点を設けただけなので魔物達にさほどの負担はかからない。
最も、精霊達以外がそのような事実を知るよしもない、のだが。
「……マナの流れをきりかえて照射をとめることはできる」
しかし、とおもう。
本当に、あれはマナの照射が原因で暴走している結果か、とも。
だからこそ、言葉に確証がもてない。
「しかし、それではあの大樹を納めることはできない。サイは投げられたのだ」
クラトスも違和感を感じてはいるが、ハーフエルフたるユアンとは異なり、
クラトスはマナの流れまではつかむことができない。
だからこそ、あれが大樹の暴走した姿なのだ、と疑ってやまない。
そもそも、デリス・カーラーンのコアシステムのはじき出した結果では、
そのようになる、という結論がなされた、のだから。
よもやそこに、ラタトスクが自分の干渉がない場合の結論をはじき出せ、と干渉している、
などとはゆめにも思わずに。
「テセアラでもあの大樹は同じように暴走しているのか?」
それがきにかかる。
それゆえのゼロスの問いかけ。
「いや、それはなかろう。影響をうけて地震程度はおきているだろうが……」
「そうね。おそらくコレットの世界再生によって、シルヴァランドの精霊が影響をうけて活性化しているはず。
  だから、シルヴァランドの精霊にひきずられてこちらで大樹が暴走しているのよ」
だけど、ともおもう。
あれが本当に大樹カーラーンの暴走している姿なのか、と。
マナの欠片も感じない。
強いて感じるのは、あれから感じるのは…魔物に近いマナの流れ。
離れているので完全に確証をもってはいえないが。
「……いや、あんたら確認したわけじゃないだろうが……」
もしも、ゼロス自身の予感がただしければ、この大異変は確実に、テセアラにも及んでいる。
おそらくこれは、精霊達とは関係ない、何かの力というか意思がくわわったものだ、と漠然とだがいいきれる。
だけども確証がない以上、ゼロスも強くはいえはしない。
「それは正しい。精霊達はそれぞれ、陰陽の二つの役割を神子の再生によって交代でうけもっている。
  現在、陽であるマナの供給を担当しているのがシルヴァランドの精霊だ。
  だからこそ、大樹はマナの過剰摂取で暴走しているのだろう」
クラトスがそんなリフィルの予測に付随するように追加説明をしてくるが。
本来、クルシスが行っていた仕組みがそうであっただけであり、
ラタトスクが目覚めた結果、その仕組みはとっくに解除されていることを彼らは知らない。
リフィルやクラトスの説明をきいても、ロイドには理解不能。
それゆえに、首をかしげつつ、
「よくわかんねぇけどさ。だったら、相反するもう一方の精霊の力をぶつければ中和されるんじゃないか?」
「ロ、ロイド?意味わかってる!?」
いきなりあるいみでまじめなこと?に近いことをいうロイドにたいし、
ジーニアスが思わずロイドにむかってといかける。
ついでにロイドの額に手をあてることも忘れない。
ロイドがまともな、しかも科学的なことをいうはずがない。
あるとすれば熱がある可能性がある、そうおもっての行動。
「馬鹿にするな!前に先生が磁石のプラスとマイナスは中和されるっていってた。そういうことだろ?」
「…はぁ。前にやった磁石のプラスとマイナスの授業のこと、ちゃんと覚えていたのかしら?
  あなたにしては珍しいわね。あなたが言ってることはちょっと違うけれど、あなたにしてはさえてるわ」
いいつつ、
「ロイドがきちんと授業の内容を覚えているなんて。…だからこうなってるのかしら?」
などとリフィルがあるいみで、はたからきけば失礼きわまりないことをつぶやいているが。
だがしかし、ジーニアスまでうんうんとその台詞にうなづいているのはこれいかに。
「…ロイド君の授業態度って……」
そんな二人の姉弟の態度に思わずゼロスがぽつり、とつぶやく。
「ロイドって、立たされても寝られるんだよ。すごいよね。
  授業の最中もチョークを投げられてもずっとねてるし。寝る子は育つってよくいうよね」
ぽつり、とコレットがあるいみとどめとばかりの説明をいれているが。
とりあえず、ロイドの授業態度はきにはなれど、今はそれどころではない。
ゆえに、さくっとそんなロイドの授業態度のことを完全にスルーし、
「かりにテセアラ側の精霊をぶつけるとして。どうやってぶつけるんだい?
  あんなふうに暴れている大樹の足元にまでは近づけないよ」
しいなが、大樹、とおもわれしそれを指差しといかける。
視る限り、うねうねとした幹はどんどん成長をつづけ、そこにある救いの塔すらをの呑みこみ、
どんどんと成長しているのがみてとれる。
このままでは救いの塔すべてを呑みこむのではないか、というほどのいきおい。
さらに、その周囲にもいくつものねじれた幹のようなものが発生し、
周囲をとりかこむようにでてきているのもみてとれる。
「…魔導砲だ」
しばしそれをみつめつつ、破壊する方法。
どちらにしても、あれは並大抵なものではどうにもならない。
特に救いの塔を呑みこむように成長している、ということは、
救いの塔にかせられている障壁すらをも呑みこんでいる、もしくは、障壁の中において成長している、と判断してもよい。
かの障壁は簡単に壊せるものではない。
「魔導砲って、あのロディルがつくったという機械ですか?」
ユアンの言葉に、プレセアが思わずといかける。
以前、コレットが連れ浚われていたときに、コレットをあれの動力源にしようとしていた、
とロディルがいっていたことを思い出す。
「あれは、元々、我々がロディルを利用してつくらせていたものだ。
  精霊の守護をとめるまえは、ロディルに救いの塔を破壊させて直接種子に近づくつもりだった」
もっとも、ロディルに開発させていたそれは、いつのまにか変わった性能をもつものになっていたが。
威力が上がったこともあり、これならば障壁をも打ち破れる。
そうおもったがゆえに任せていたのもまた事実。
「魔導砲にテセアラの精霊のマナをこめて大樹にぶつけてはなつ、ということか。
  たしかにそれ以外、方法はなさそうだな」
「まずは現状のマナの照射をとめなくては。マナの照射がつづけば、大樹はますます成長して宙をどころの騒ぎではないわ」
「では、こうすればいい。ユアンよ。きさまがどこに所属し、何をしていたのか。
  私はきかなかったこと、みなかったことにする。
  だから今すぐにレネゲードへ指示をだし、マナの照射をとめろ。
  ロイド達は魔導砲へむかえばいい」
「よかろう」
そんな会話をしている最中、なぜか息を切らせた鎧をきこんだ人物がこちらにとかけよってくる。
そして、その場にてけい礼し、
「ほ、報告いたします!イセリアに侵入していた同士からの報告です。
  現在、異様な魔物とおわもわれしもの襲撃をイセリア牧場がうけている模様!
  かの魔物達は、牧場だけでなく、他の地域にもみられ、現在、どんどん増えている模様!」
「どういうこと?」
「わかりません。見た目は普通の少女、なのですが…その少女にあわせるようにして、
  一般にレイス、とよばれし魔物達までも沸いてきており…特に牧場付近がそれらが多いです。
  報告では各町や村にはなっている同士達からも同じような現象がおこっている、と。
  今、現在、牧場は魔物との戦闘で大混乱しています」
牧場にある装置は、上空にと浮かぶデリス・カーラーンよりマナをうけとるもの。
その流れをいじり、標準を大いなる実りにかえた結果おこっているのが今の実情。
「それに、今現在、大地もかなり隆起したり、分断されたりしかけています。
  上空のマナもまた流動しており、空の移動も危険です!」
かろうじて通信システムより入った報告を上司に伝えるのがやっと。
たしかに、よくよくみれば、土煙りで詳しくはわからないが、空模様も何やらおかしい。
たしかに、空もまた渦をまいているかのような様子にみえなくもない。
見た目は少女のような魔物、といわれ、思わず顔をはっとさせるリフィル。
なぜかふと、救いの塔の中でみた無数の今までの神子たちの棺をおもいだす。
そして、たしか、アステルいわく、魔物の中には少女の念が集まって産まれたとおもわれている魔物がいる。
そういっていた。
それは研究所の魔物に関することを扱っている部署がはじきだしている結果、らしい。
少女の姿をしている魔物、まさか、とおもう。
おもいたくはない、ないが。
「侵入している奴らからの報告は?ボーダは何といっている?」
「それが、磁場も乱れているらしく、通信もまともにとれない状況です。
  かろうじて、どうにか支部に報告にもどった同士から現状を聞かされたらしく、
  さきほど、我々の通信機にその情報が伝わってきました」
ボーダがユアンを心配し、護衛にとつけていたレネゲード達。
「ふむ。私は一度戻る。何がおこっているのか、把握する必要があるからな。
  他の照射装置付近の報告をボーダより詳しく説明をうける必要がでてきた」
たしか、ユアンにしろ、その報告をうけて何がおこっているのか理解不能。
そうこうしている間にも、大地の振動は絶え間なくつづいている。
「!いけない、ここは危険だわ。とくかく、離れましょう」
びし、とした音にきづき、はっとみあげれば、マナの守護塔に亀裂がはいっていっている。
おそらくこの大地の振動に耐えられなくなり、今にも壊れそうになっている、というのが予測できる。
それゆえに、はっとしたリフィルの声に全員がマナの守護塔をみあげるが、
たしかに、ぐらぐらとゆれ、どんどんとひび割れがはげしくなってきている。
崩れるのも時間の問題、といえるであろう。
「く。と、とにかく、ルインの街に避難しよう!町の様子もきになるしね!」
しいなの言葉に是非もなく、ひとまず彼らはその場をはなれ、一番近くの村。
ルインへと向かうことに。

水が、海の水がいきおいよく沖へとひいていっている。
ぐらつく大地を早く進むのは容易ではなく、レアバードをだし、低空飛行にてその場を後にする。
リフィル達がその場をあとにしたその直後。
ズズズッン…
ものすごい音をたてて、マナの守護塔が崩れてゆくのが視界にとうつりこむ。
「ああ!マナの守護塔が…」
「おおお!貴重な数々の文献がぁ!」
レネゲード達のもっているレアバードにも便乗してそれぞれのせてもらい、どうにかその場を離れたロイド達が目にしたのは、
崩れ落ちてゆくマナの守護塔の姿。
少し上空に登ろうとすればものすごいまでの乱気流のようなものが発生しており、
レアバードそのものすらも巻き込まれてしまいかねず、きちんとしたコントロールすらできない。
乱気流はどうやら、あの暴走しているとおもわれる大樹のような何か、のほうから発生しているらしく、
周囲の風すら巻き込んで、それは一つのあるいみ嵐のような形式をたもっている模様。
コレット達がマナの守護塔が崩れたことに対して心配の声をあげるのと、
リフィルが心配しているのは別のことらしく、リフィルはかの地に安置されていた数々の書物。
それらのことを心配して声をあげていたりする。
そんなリフィルにおもわず呆れたように視線をむけるロイド達。
どちらにしても低空飛行だ、というのに視界はわるい。
というよりは、そもそもマナの守護塔があった場所が場所。
たしか周囲は山に囲まれていたはず、なのに。
大地が隆起し、変動している、というのはどうやら嘘、ではないらしい。
事実、先ほどまで普通であったはずの大地が隆起し、今では歩くことすらままならないほどにみえなくもない。
「まずいな……」
視力がいいがゆえに、みえるものがある。
「…先生、海の水が……」
土煙りのむこうにあるはずの、海の水が完全にと干上がっている。
その現象がおこすもの、それは以前に授業で習った。
「海がどうかしたのかしら?」
リフィル達には土煙りの向こうにある海の様子までは視界にはいらない。
天使化している彼らだからこそみえるといってよい。
「おいおいおい。まさかこれに加えて津波ってか?」
ゼロスがおもわずその光景をレアバードからたちあがり、目の前に手をかざしつつぽつり、とつぶやく。
心配なのは、本当にこの現象がテセアラでもおこっていないか、ということ。
何となくだが、あちら側も同じようなことがおこっているような気がする。
それはもう、ひしひしと。
「海の水が…ものすごい勢いで沖にひいていっています……」
コレットのいわんことを察し、リフィルがさっと顔を青ざめさせる。
「このあたりで高台は!?」
リフィルの声に、
「いや、このあたりはかつて、水の都、とまでいわれていた場所。それは……」
完全なる高台はない、といってよい。
「手分けして、とにかく村のひとたちを避難させないと!
  せっかく助かっている人達が津波の犠牲になってしまうわ!」
リフィルの悲鳴にも近い、声が周囲にと響き渡ってゆく……

それは、ゆっくりと、しかし確実なる自然現象の一つ。
海がまさにもりあがった。
そういってもよい。
せりあがった海の水は、またたくまに轟音となり、全てを呑みこんでゆく。
ある場所においては呑みこまれた建造物が音をたてて崩れてゆく。
しかし、揺れが収まったわけではない。
人々はただ、その自然現象にたいし、おびえ、ただひたすら逃げ惑うのみ。
神子にたいし、教皇が非道なことをしたから天が怒ったんだ。
そして、それを止めようとしなかった王家、ひいては国にたいしても。
誰ともなくそんな噂が流れだす。
それに付随し、救いの塔にまとわりつくようなどうみてもまがまがしい樹のようなもの。
さらに、町の中にすらながれこんできた様々な魔物。
魔物達のほとんどは彼らから人に害する、というような行動をとるものはあまりいないにしろ、
中には人を害するものもいる。
そしてまた、施設が破壊されたがゆえに、管理人がいなくなったのをうけ、
まだ気力のあったものたちがこぞって隠された実験施設から抜け出してゆく。
それらの施設はなぜか、入口付近のみがこわされ、外にとつづく新たな道ができあがっている。
捉われていた人達がそれにきづき、我先に、と揺れがつづくなか、我先にと脱出してゆく。

どうにか人々を何とか安全…とはいいがたいが、とにかく津波の被害がないであろう、高い場所にまでレアバードをもちい誘導する。
その間も押し寄せる波はとどまることなく、周囲は今現在、大地であった場所であろうに、
そこはすでに海の一部と化している。
「それで?」
そんな中、ユアンに報告に、とやってきたボーダより今現在の情報の説明をうけているロイド達。
「イセリア牧場に侵入していた同士達による、マナの切り替えは不可能、か?」
「今、装置に近づく暇がない、とのことです。それに……」
これをいっていいものかどうかは迷う、
「かまわん。こいつのことはいないものとして考えろ」
ちらり、とクラトスに視線をむけたボーダのいいたいことを察し、言葉をうながすユアン。
「は。同士達の説明によれば、侵入した魔物達は、牧場内にある全てのエクスフィア。
  それらを取り込んでいる模様。また、人に寄生させられているエクスイフィアも同様です。
  ゆえに、ディザイアン達もまた突如としてエクスフィアを失い力が震えないままに、
  魔物達に翻弄されている、とのことです。我らのほうはエクスフィアを使用シテいないので、
  そこまでの被害はありませぬが……」

ユアンの方針で、彼らは基本、エクスフィアをほとんど使用していない。
永き時の研究の結果、人はエクスフィアを使用しなくても底力をあげることが可能。
それにゆきあたり、基本、ユアンはそれを徹底するように申し渡してある。
それでも使用していなければ怪しまれることから、それぞれの武器や防具、
それらに組み込み使用しているように見せかけてはいるものの。
なぜか、エクスフィアを魔物にとられた彼らはマナが紡げなくなっている、ときいた。
マナを紡ごうしてもその流れが感じられない、と。
そしてまた、かの国ではエクスフィアを扱っている装置全ての場所に魔物があらわれ、
それらの装置を魔物が襲撃し、あるいみで大混乱になっているといってよい。
続く地震に、巨大な津波、さらには魔物の襲撃に、唯一の象徴たる救いの塔は、
あきらかにまがまがしい樹のようなものに包み込まれていっている。
いまだ混乱の中にあるが、少し落ち着けば、人々の不満は間違いなく、
教会、そして王家に向かうであろう。
特にテセアラに関しては。
そもそも、先日の噂…スピリチュア再臨、の噂もある。
だとすれば、神子をないがしろにした王家、そして教会、そして・・・国。
それら全てにたいする天界の怒りをかったせいでこのようなことになっている。
人は理不尽なことがあれば、どうしてもその矛先を何かにむけようとする。
特に今回はうってつけともいえる材料がそろっている。
全ては、教皇が神子をないがしろにし排除しようとし手配しようとしたことに始まっており、
そしてそれを王家すらもとめなかったせいでこうなったのだ、と。
過去の出来事、という実績がある以上、誰もその噂の真偽を確かめようとすらせずに、
確実に盲目的にその噂こそが事実、と思い込むのは道理。

しばし、ボーダによる今現在の、あの大樹とおもわれしものの暴走の結果、
世界に何がおこっているのか、という報告がこの場においてなされてゆく……


                            ――Go To Next

Home    TOP     BACK    NEXT

$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$

あとがきもどき:
薫:基本的には、大樹暴走のときの被害より、どちらかといえば、
  この話しのほうが洒落ならないくらい、世界にたいする被害は甚大です。
  まあ、ゲーム本編のあと、地震の影響で壊滅してたのは、間欠泉や、パルマコスタの街。
  くらいでしたからねぇ…なんでそれだけ?という疑問が多々とあり。
  まあ、ラタトスクであの暴走で死者がでてた、というのはわかりましたが。
  あのあとのスキットで、皆が無事で、とコレット達がいっていたので誰も犠牲にならなかったの?
  とはおもってたけど、やはりいたじゃん、犠牲者、状態…
  ともあれ、ようやく話しがすすんでゆきますv
  ではまた次回で~
  さて、容量的に恒例の別話しをば。


「もう。いきなり大声ださないでよ。とっさに耳ふさいだからよかったけど」
「ってふさぐな!一年前に急に姿をみせなくなったとおもったら!!」
しかもセンチュリオン達の連絡もぱったりと途絶えた。
「……あいつらに、襲われたのか?」
「…あ、うん。ちょっとどじっちゃって……」
「あれほど油断するなっていっただろうがぁぁ!!」
本日二度目の絶叫。
そもそも彼が動く、というのもセネルからすれば賛成できなかったのである。
ゲーテにしても然り。
しかし当人が自分の責任でもあるし、ふさぎきれなかったのも自分の責任、といってきかなかった。
かなりの言い合いののちに、コア…すなわち本体と実体をわけて出向く、というので何とかおちついたが。
『仕方ないだろう?そもそも魔界の小窓が開かれてたのを閉じて。
  そのせいでさらに周囲にみちていた瘴気を浄化してたところに、
  いきなりまあ雑魚ではあったが魔族の襲来。ついでに歪んだ負に犯されたものどもの襲来。
  それら全てを浄化していたら扉の近くに何ものかが近づく波動。
  すぐさまとってかえり、それらを撃退し、絶対に近づけないように全ての力をもってして封印してきたんだから』
『んな状況になってるならなんで俺らをよばなかった!』
『…センチュリオン達もいたからまあ大丈夫かな?とおもったんだが…』
『我ら、私以外はラタトスク様があまりに膨大なお力を行使なさったこともあり、
  あとは乱れたマナを修正している最中におもいっきり瘴気の攻撃を浴びてしまいまして。
  それらを瞬時に調整して世界には影響がないようにしたのですが、そのときの衝撃で、
  とっさに防衛本能的にコアにもどってしまいまして……私はおそばにいたから事なきをえましたが』
『門に次元の扉に生命の場。全てにほぼ全力の力で特定者以外…許可のない者以外ははいれなくしたはいいが。
  …実体化するまでの力がなくてな。しかたなく本体をつかって実体化したら…なぜか記憶がとんだ』
『記憶がとんだ、じゃねぇぇぇぇぇぇぇぇ!!』
突如として意味不明な言葉ではなしだしている、セネル、と名乗った人物とエミルの姿。
クラトスもこの言葉には聞き覚えがない。
さもあらん、彼ら精霊が原初の言葉として使用しているものであり、今の天使達ですら知らないはず。
『ゲーテのやつはそのときに生じた負の処理でうごけなかったしな』
『お前は今の自分の立場をかんがえろぉぉ!お前に何かあったらそく、命の場の消滅なんだぞっ!』
言葉はわからないが、相手…すなわち、セネルが何か完全に怒っている、というのはよくわかる。
何やら言い合うそんな二人の雰囲気にのまれてしまい、近寄ることすらできないリフィル達。
もしく近づいていればエミルの瞳が緑から紅にかわっているのに気付いたであろう。
『実体化したはいいが動くこともままらなくてな。運命の鍵をにぎるものの近くに出たのは確かなのだが』
『…エミル様からお聞きしていましたしね。それにノイシュもいましたので、エミル様の保護をお願いしたのですよ』
『…よくやった。テネブラエ』
テネブラエをほめるセネルはあるいみ正しい。
『本当に。我らが主は毎回むちゃをなさるから……』
イグニスまで盛大にため息をついているのがエミルからしてみればものすごく不満きわまりない。
テネブラエのその説明をきき、大きくため息をついたのち、
「……は~。…とりあえず、あんたたちがこいつを保護してくれてた、というのはわかった。礼をいう。
  いきなり連絡がとれなくなって心配してたんだ。…記憶喪失なんてもんになってやがるとはな。
  俺はセネル・クーリッジ。一応マリントルーパーをやってる」
マリントルーパー。
海の治安を守る、海上警備兵。
「あ…あはは……」
「で、エミル?あなた記憶は完全にもどったの?」
「え?えっと……どうだろ?」
「…知り合いに感化されて、一部だけ、ってことなのかしら?まあいいわ。
  とりあえずあなたの事を知っているひとがいた、というのは重宝ね。
  えっと、セネル…だったかしら?この子の故郷というか家をしってるかしら?
  ご両親心配してるとおもうのだけども……」
「ん?俺にもエミルにも両親はいないけど…あ」
嘘ではない、もっともセネルからしてみれば本質的な親はエミルに当たる。
あるいみ片親はいるが、あくまでも両親、ではない。
基本、彼らは嘘はつけない。
つけないが屁理屈だけはすばらしい。
こじつけ、ともいうが。
そこまでいいかけてあわててはっとしたように口をとざすセネル。
ちなみにさすがというかこのあたりもセネルもちょっとした演技がはいっている。
そんな親はいない、という言葉をきき、リフィルもまずいことをきいた、というような表情になる。
エミルがそこまで思い出しているのかわからないが、思い出していなければ、
今の自分の質問でもしかしたらあいたいとおもっていた親がいない、ということをつきつけたことになる。
「というより、さっき物騒な台詞でてなかった?襲われた、とか何とか…エミル、誰かに狙われてるの?」
さきほどの会話の中に不穏な台詞があったのに気付き、といかけているジーニアス。
「まあ、運悪く巻き込まれたってところか?…おもいっきし俺としても不本意だが。
  知った以上、ほうっておけなかったしな」
ジーニアスの台詞に不満たらたらながらにセネルが答える。
「何があったんだ?」
どうやらロイドも気になったらしい。
「詳しくはいえない。が、あるものがとある場所からぬすまれてな。
  で、俺らがそれを目撃したとか勝手におもわれて。
  とりあえず俺らは俺らでその原因を調べてた矢先にこいつが行方不明、ときた」
ちなみに、関与している、と思われた、というのは追手が勝手に自分達…すなわち、ヒト、としてであるが。
見られた、と思われて狙われていたにすぎない。
さらにいうならば盗んだところをみられた、というのではなく、
それを使用しようとしている相談をしているのをみられた、という注釈もつく。
ぶぜんとしつつ、腕をくんで淡々といかにも嫌そうにいっているセネル。
どうやらその言葉に嘘はないらしい。
その様子からみてもあからさまに嫌いや巻き込まれている、という態度がみてとれる。
もっとも、真実は自分達がうごくしかないか、という意味での嫌いや、なのだが。
「…おまえどんなトラブルに巻き込まれてたんだよ…目撃したと勘違いされただけで狙われるって……」
あきれを含んだロイドの気持ちはおそらく、その場にいるセネル達を覗いた全員の気持ちであろう。
「さあ?僕も詳しくしらないよ。いきなり命をもらおう、とかつっかかってこられた、だけは覚えてる」
それも嘘ではない。
もっとも、センチュリオンがともにいたせいか、ラタトスクの関係者だな!
と向こうがいきり立ってきた、というのを除けば。
「襲われて、で、気づいたらあの森にいたらしいんだけど……何であそこにいたんだろ?僕?」
「はぁ。エミル様は安全な場所まで移動させられたのですよ」
誰に、とはいわない。
そしてエミルが、ともいわない。
淡々と嘘ではないが真実でもあるいみない事実のみを説明するテネブラエ。
ちなみにこの説明はロイド達にむけたもの。
そもそもセネルには説明しなくてもすぐに利用は察せられるはずなので説明する必要もない。
「あ。もしかしてエミルの友達っていう魔物さんがたすけてくれたのかな?」
「あ~。ありえるね。空の魔物ならそんなエミルをたすけてどこかに運ぶかもしれないし」
「…そーいえば、あの森、ガルーダの生息地だったな…エミルともあれ、仲いいし」
そこにいる子供達三人は、どうやらコレットの意見でそういうこともありえる、となぜか納得しかけているようである。
まあこの半年、かたっぱしから魔物がエミルになついては、
エミルのいうことだけ、はきいている様をみていれば、そんな感覚にもなってしまうのかもしれない……
「それで?その襲撃者は、今は?」
リフィルもその話しをきいておだやかではない。
何しろまだ半年だけ、とはいいつつも、勉強熱心なかわいい教え子が命を狙われている、ときかされれば。
それゆえに心配になってセネルにと問いかける。
もっとも、狙われていた理由がそういう理由であることにほっとしはするが。
何しろエミルの能力はどう考えても人が欲のためにほしがりそうな代物。
魔物を無条件で従える、などこんな都合のいいコマ、はない。
もっともそんなことにエミルを利用しようとした人間がいるとすれば、
即、魔物の餌食になるであろうことは想像に難くない。
それがこの半年でリフィルが学んだこと。
「さあな。しかし俺らも狙われてたしな。が、やられっぱなしもしゃくなので、
  とりあえず情報をもとめて俺は今、パルマコスタと契約を結んでいる。
  あそこはいろいろな情報がはいってくるしな。最近の海の荒れ模様で腕のいい操縦士は何かと重宝されてるしな」
そもそもセネルの操る船が沈む、など絶対にありえない。
というより航海がまともにできるのは、彼だから、としかいいようがない。
「バルマコスタ!?僕たち、パルマコスタにいきたいんだ!もしかしてパルマコスタにもどる予定ある!?」
「ここには用事できたんだが…しかし問題が発生していてな」
「問題?」
「ああ。荷物を引き取りにきたんだが。最近ここで原因不明の放火が続いているらしい。
  それが解決しないことには荷物がそろわない。荷物を運んでいかないと俺の仕事が達成したことにならない。
  放火が続いている、というのもあって船をこの船着き場に乗りつけるのもあやしいから離れた場所においてるしな」
いって指し示した先に、たしかに少し沖のほうに小さな船?のような影がみてとれる。
「なんだ。あんたらこのマリントルーパーの兄ちゃんの知り合いか?
  みてのとおりさ。最近、海にでっかい魔物がでるとおもっていた矢先にこれだよ。
  ここしばらく原因不明の放火事件に俺らは悩まされてるんだ」
セネル、となのった人物とはなしていた漁師らしき男が首をすくめていってくる。
「一年ほどまえにいきなり海が荒れ始めたとおもったら…やっぱしか」
さすがに海のマナを運ぶアクアがコア化したのであればそれはそれで仕方がない。
まさかとおもい神殿に足をむけたところ、力を失いコア化しているアクアの姿が。
ため息とともに海のマナを補充したところ目をさましたのは記憶にあたらしい。
もっともすぐには目をさまさずに、数カ月ばかり海が荒れたままになってしまったのもまた事実だが。
いくらセネル…メルネスとて大きく力を使うことはいまはできない。
それをすれば確実にミトスに気づかれる。
彼は精霊全てを捕らえることに躍起になっている。
海の力が相手に捕らえれればそれこそこの世界はおわってしまうであろう。
もっともそんなことになるまえにメルネスは自らを眠りの封印という状態にもっていくつもりではあるが。
「放火事件とは穏やかではないわね」
リフィルの問いに、
「ああ。みてくれよ。この箱の残骸を。これは本当ならこの兄ちゃんに本日運んでもらうはずだった品物さ。
  パルマコスタにもってゆくグミ各種がここに積まれていたんだが。
  気がついたらこのありさまさ。今この兄ちゃんにそれを説明していたところなんだ」
漁師らしきおとこが首をすくめながらいってくる。
「俺としても仕事は仕事だからな。荷物をもってかえらなければ依頼達成にはならないし。
   で、今とりあえず新しいグミを作ってもらうという交渉をしていたんだが……」
いいつつ、じっとリフィルたちをみつめ、
「おまえら、パルマコスタにいきたいんだったら、この依頼の完遂を手伝ってくれるならつれていってやるぜ?」
腕をくみつついってくる。
「いいの!?セネル!」
「つうかお前がいるのに断れるかよ。というかゲーテもウェイグも心配してたんだぞ?連絡くらいしてやれ」
「え?あ…あはは……」
そういえば、記憶を取り戻してから連絡していないのにきづく。
「?それもこの子の知り合いかしら?」
「ん?ああ、昔なじみの…朋、だな」
そのいいかたからおそらくどうやらエミルと今でてきた名前らしきものたちは幼馴染という関係らしい、
とリフィル達は推測する。
「他に船をさがしたほうがよくないか?」
クラトスのそんな問いかけに、
「兄ちゃん。いっちゃなんだが今、船をだすようなつわものはいないぜ?
  そもそもいきなり天候がかわるような荒れた海だ。この兄ちゃんが規格外なんだよ。
  荒れた海でも荷物を無事にとどけられる凄腕のマリントルーパーって今じゃ人気なんだからな」
いいつつ、ぱしぱしとセネルの肩をたたく漁師。
セネルにかかれば一部分のみ、海を凪いだようにするくらいは…造作もないこと。
「あ、あの。放火ってほうっておけません。お手伝いできるならお手伝いを私はしたいです!」
「俺も!」
「僕も!」
どうやら子供達三人はこの事件にかかわる気、まんまんらしい。
「よし。きまりだな。んじゃ、あんたたちにはかまぼこグミの材料とってきてもらおうか?」
「「「かまぼこぐみ?」」」
その言葉におもわずききかえすロイドたち。
「グミをあらたにつくってもらおうとするにも材料がたりないんだよ。
  まあその職人もなんか放火にまきこまれて寝込んでるって今きいたとこなんだけど」
「なら、姉さんの治癒術がきかないかな?」
「あんた、治癒がつかえるのか?」
「ええ」
「それはたすかる。ベルクのやつはあれから目をさまさないんだ。…このあたりには医者もいないしな」
医者はいても海のむこう。
ゆえにどうすることもできなかった。
漁師がそういい、リフィルにたいし頭をさげてくる。
「エミルはこっちだ」
「え。あ。うん」
がしっと首根っこをつかまれて、エミルはセネルと名乗った人物にずるずるとひこずられていっている。
「ベルクの家に案内してやる。できれば直してやってくれ」
船乗りの男性がロイド達にむきなおりそんなことをいってくるが。
「あ、エミル!」
「まあまあ。ロイド。エミルだって知り合いにあえてうれしいんだよ。
   いいなぁ。知り合いに感化されて記憶がちょとでももどるって……」
つまりそこまで親しい間柄であった、ということなのだろう。
「ねえ…ロイドは僕が記憶をうしなったとしたら、僕のことみつけてくれる?」
「あたりまえだろ!というか俺がそんなことにはさせたりはしないよ!」
「うん。ありがとう。ロイド」
とりあえずクラトス達はベルク、というぐみ職人の家へ。
そしてエミルはエミルでセネルとともに別行動をすることに。

「…エミル。わかるか?俺には残留のマナは感じられるが何か、まではわからんのでな。これ、魔物のマナだろ?」
すでに黒こげになっている現場にやってきているエミル達。
たしかにセルネもマナを感じられるがその種類が何か、まではわからない。
だからこそ、魔物の王たる彼に意見をきくためにここへとつれてきた。
「うん。これ…ノストロビアだ。本来ならば氷の地方、グラキエスの管理下の元にいるんだけど。
  ここの歪み訂正のために一時こっちに移動させてきてたんだ。ちなみに移動させたのは四年前ね。
  この子たちの環境に近い洞窟の中で時がくるまで生息してたはずだけど、何で街中で?」
すでにあるいみ邪魔となるロイド達は別行動。
ゆえに素で会話をしているこの二人。
「ああ。セルシウスの管理の土地か。そういえば、ウェイグは今、フラノールっていう街にいるからな」
「フラノールだね。了解。あっちがわ?」
「あっちだな。感謝してやれよ?あの地が一番異界の扉にちかいからって、監視をかねてるらしい」
「大丈夫なんだけどな。封印だけはしっかりとしてきたから。…別の小窓はともかくとして」
かの地から異界…それこそ別の惑星になっている魔界からの瘴気がもれだすことはない。
「イグニス。悪いけどウェイグに連絡とってくれる?」
「わかりました」
そういい、すっとイグニスの姿はかききえる。
本来ならばグラキエスにお願いするところだが、まだ彼は目覚めさせていないがゆえの処置。
「あの子達の核って高級グミの元になるから人間に乱獲させられるからって人里には近づかないように。
  っていってるはずなんだけどな?」
基本的に彼らは氷の神殿にすまう魔物である。
「お前が記憶喪失になってる間に何かあったんじゃないのか?」
「う~ん……とりあえず、よぼっか」
「そうしてくれたら助かる」
呼ぶにしてもここではまずい。
ということで二人はそっとその場をあとにしてゆく。
目指すは人気のない海岸沿い……


2013年9月16&17日(月&火)某日

Home    TOP     BACK    NEXT