まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやく、禁書もおわり(支離滅裂なのはお約束?)♪
ようやく、本編ストーリーにもどりますv
禁書でネックなのは、ロイド達がミトス・ユグドラシルと出会った、という点と。
あとは、彼らの記憶が~という点ですv
え?ユアンとクラトスは当人にもどったけど、ならミトスは?
という突っ込みは後々、彼のみが本体?にもどっていない理由、あかされます(あるいみ伏線
ともあれ、ようやく話しがすすみます。いっきまーすv

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「ああ、もう、何が何だかわかんねぇ!
  というか、ユアンがいってた、クラトスがオジリンを封印ってどういうことだよ!?」
「…オリジン、だよ。ロイド」
きづけば、森の外。
というよりは、ヘイムダールへとつづく、ユミルの森のすぐ近くにと倒れていた。
「おそらくあの場は、生身の人間はそこにいるだけでマナを消費するゆえに、
  マナが涸渇しはじめたら強制的に森からだされる、ときいています。
  おそらく、その森の機能が働いたのかと」
そんなロイドにジーニアスがため息まじりにいい、アステルがぱんばんと白衣についた埃をはらいつついってくる。
「というか、また、エミルさんがいません。彼らはどうしたんでしょうか?」
周囲をみるが、いるのは自分達だけ。
ゆえにプレセアがぽつり、とつぶやく。
「エミルに関しては心配はいらないとおもうわ。…あの子、記憶、しっかりと戻ったのかしら?
  あの言い回しだと…いえ、今はそれより。しかし、成果はあったわね。
  あのエミルがまちがいなく、何らかの形で精霊達とかかわっていること。
  そしてまた、探し求めていた精霊オリジンのこと」
「…姉さん、体はもう、平気なの?」
「心配しないで。ジーニアス。私はそんなにやわではありません」
きっぱりとそういわれれば、まあ、姉さんだし、とおもってしまう自分がいることに気づき、
思わず苦笑せざるをえないジーニアス。
「クラトスが封印していた、というのは盲点、だったわ」
そんなリフィルのつぶやきに、
「先生?つまり、どういうことなんですか?」
コレットが首をかしげつつもリフィルにとといかける。
「これは、私の勘、でしかないけども。
  おそらく、コレット。あなたが封印の場にて精霊を解放したのと同じようなものなのよ。
  あのとき、精霊の試練におかれていた魔物のかわり。それがおそらくクラトス、なんだわ。
  クラトスがどういう立場で精霊オリジンを封印しているのかどうかはわからないけども。
  でも、これだけはいえるわ。彼に精霊を解放させないかぎり、世界は二つのままだ、と。
  少なくとも、ユアンのいうとおり、今の精霊との契約を優先させ、大樹を復活させたとしても。
  大樹カーラーンは一つしかないのよ。下手をすれば芽吹いた世界以外のもうひとつの世界。
  そちらはマナ不足で滅んでしまう可能性も捨てきれないわ」
「それじゃ、意味がないじゃないか!」
リフィルのことばにおもわずしいなが叫ぶ。
「だからこそ、オリジンと契約をする必要があるのよ。
  かつての出来事の説明を覚えているかしら?精霊オリジンの力をもってして、この世界は二つわけられた、と」
それは、峡谷において聞かされたこと。
だとすれば。
「オリジンを解放し、契約をかわすことができれば、世界を一つにすることができる。
  そうすれば、大樹が一つしかなくても世界は滅びを向かえずにすむはずよ」
「なら、クラトスに解放してもらえばいいんだな」
「そう、簡単にいくかしら?彼はクルシスに所属しているものよ?
  そして、先ほどの様子からみても、おそらくは、クルシスの幹部、なのでしょう。
  あのミトス・ユグドラシル、となのったあの少年があのユグドラシルだとして」
びくり。
その言葉にジーニアスが体をふるわせる。
ミトスと同じ名、同じ顔、同じ声で、ユグドラシルだ、となのったあの少年。
自分が友達になったあのミトスではない、とおもいたい。
切実に。
ジーニアス達がしっているのは成長している青年の姿のユグドラシル。
しかし、天使となった彼らは歳をとらない、ともきいた。
そのあたりにあるいみで救いを求めている、といってもよい。
「そもそも、コレットの旅についてきていたときもそうだったけど。
  彼はコレットが逃げ出さないようにと向かわされていたクルシスからの監視者。
  そう、簡単に私たちのいうことをきいて解放してくれる、とはおもえないわ」
「…なあ、先生?あれが本当に、今の世界をつくった、というあのユグドラシル、なのか?
  姿も違ってたし。何より…」
あの言葉に迷いはなかった。
大樹をよみがえらせる、そういっていたあの少年の言葉に嘘はなかった、とおもう。
「……ヒトは、かわってしまうのよ。ロイド」
「誰だって、成人君子じゃねぇからな」
そんなロイドに、リフィルが顔をふせぎみにいい、ゼロスがぽつり、とおもわずつぶやく。
「…ゼロスがいうとなんか真実味があるような気がする」
「…人は、生きている限り、心に悪、とよばれるものが必ず芽生える。
  しかし、それを律することができるのも、また人だからこそ、だ。そういう格言がありますよ」
そんな彼らにたいし、アステルがさらり、といい。
「それより、リヒター、どこいっちゃったんだろ?なんか、あのミトスさん達がいってたんだけど。
  誰かが中にはいってきて、どこかにだされた感覚はあったっていってたけど」
根本的な封印の鍵だからこそ、ミトス達はその波動を捕らえていた。
それがどこに、まではつかめなかったが。
「私たちがあの場からはじき出された以上。リヒターもまたどこかにはじき出されているんでしょう。
  私たちが同じ場に現れたのは同じ場所にいたから、でしょうし」
たしかにリフィルのいい分は一理ある。
「とりあえず、それで、これからどうするんだよ?リフィル様は助けだせたわけだし?」
たしかにゼロスのいうとおり。
ロイド達がサイバックに立ち寄ったのは、リフィルが倒れた、ときいたがゆえ。
「そうだな。皆、どうする?次の精霊との契約がたしか最後、だろ?
  俺達と旅をつづけるか、それとも……」
しばし考えたが、考えてもわからないものはわからない。
それゆえに、とりあえず、目先に迫っていることをといかける。
そんなロイドの問いかけにたいし、
「ロイド、いきなりそう、急に結論だなんてでないよ。一晩くらいはまってあげようよ、ね?」
「…それもそうだな。たしかに、いきなり、だもんな。だけど、次の精霊の契約で最後だ。
  オリジンのことはそれから考えるしかないだろ。
  じゃあ、オレとコレットはメルトキオの近くでキャンプを張ってるから皆、決心がついたらきてくれ」
何やら一人で勝手に話しをすすめているロイドであるが、
「ちょ、ちょっと。ロイド、本気?」
「ジーニアス、お前、だって、ミトスと別れたくないんだろ?それに…お母さんのこともある」
「そ、それは……」
「なら、リーガルにはあたしからそうつたえるよ。あたしも最終的な話しあいをしに里にいく必要があるしね」
「なんだかねぇ。まあ、時間をおく、というのは必要なんじゃねえの?」
たしかにゼロスのいうとおり。
結局のところ、オリジンのことは考えてもどうにもならない。
クラトスが封印の鍵である、というのがわかっただけ前進、といえる。
「たしかに。元々、世界にマナが足りないから、という理由で二つの世界に分けられていたはず、なのに。
  大樹カーラーンがないままに世界を一つにしたとしても、そのまま世界そのものが滅びますしね」
さらり、と何やらかなり物騒なことをいっているアステル。
まずは、精霊との契約を全ておわらせ、大樹を蘇らせることを先決したほうがいいであろう。
大樹が蘇ってから世界を一つにしたほうが滅び、という危機を回避できるはず。
「どちらにしても、今のままではどうなるか不明、ですしねぇ。
  不思議なことにマナが安定はしてますけど、これが何かの前触れ、ともかぎらないですし」
こんな現象は今までになかったこと。
だから、きにかかる。
何ごとにおいても、何かおこるときには、前触れ、という現象が必ずどこかにみられるもの。
ならば、今のこの現象、今、異様に整ったマナは何かの前触れなのでは、とおもってしまうのは、
おそらく学者だから、という理由だけではない。
たしかに、何かが世界でおこっている。
それだけはアステルも確信をもっていえること。
「まあ、何にしろ。一度、アステル君を送りとどけたほうがよくないか?
  何しろ俺様たち、きづいたらここにきてたわけだし?」
何がどうなったのかはわからないが、少なくとも、まちがいなく、エミルが何かをした、のであろう。
それだけは確信をもってゼロスもいえること。

光と闇の協奏曲 ~最後の契約にむけて~

ゼロスのいうとおりでもある。
最後だから、という理由から、とりあえず
ひとまずアステルを送り届けがてら、一度、再びサイバックへと戻ることに。
「あ、アステル。それに皆さんも」
もどってみれば、彼らを出迎えるとある人物。
「あれ?シュナイダー院長?」
その姿をみとめ、おもわず声をかけるアステル。
「おお。アステル。無事だったのか。うん?リヒターは?」
「それが…リヒター、まだもどってませんか?」
自分をおって、禁書の中にはいった、というのはきかされた。
だからこそ心配になる。
「うむ。しかし、驚いたぞ。お前達が消えた、ときかされたときには」
いいつつ苦笑せざるをえない。
まあ、あんな代物がこの場にあった、というのにも驚愕せざるを得ないが。
「本の在庫表と照らし合わせてみたが、やはりあの本はもともとこの場にあったものではなかった。
  というのが先ほど判明したばかりじゃ」
そんな彼の言葉に、
「シュナイダー、で、俺様達が本にはいったのち、何があったんだ?」
ゼロスがそんなシュナイダー、とよばれし男性にとといかける。
おそらく彼は知っている。
あの本をあの場所にもって出ていた以上、あった場所が場所。
ここ、王立学術資料室から持ち出すにあたり、かならず許可、もしくは後見人が必要となる。
いくらエミルがアステルに瓜二つ、といえど、身うちにしろ簡単に持ち出しの許可が出ない以上、
かならず、誰かとともに一緒でなければ、あの場にあの本を持ち出していることはまず不可能といえる。
「おお。これは神子様。そういえば、神子様も中にはいられていた、というのでしたな。
  ええ、エミル君、といいましたか?彼といっしょに、あの本の瘴気を抑えるのに必要だから。
  といわれ、エルフの隠れ里の聖なる地、トレントの森にはいったのですが…
  おはずかしながら、我らの精神力が途中で切れてしまいましてな」
エルフの族長に話しをききたかったのだが、何やらとてもたてこんでいるらしく、
今はそんな暇がない、といわれ、かといって、今は他者を受け入れる余裕はない、までいわれてしまい、
そのままあるいみ追いだされるような形で里をだされた。
まあ、せっかくなので、水鏡の森の異変も最近報告があがってきていることもあり、
皆が出てくるまで待機しようとおもい、しばらく水鏡の森を散策していたのだが。
ロイド達はあのまま、森の中に再び入らなかったので合流することはなかったが、
もしもあのとき、中にはいっていれば、まちがいなく、彼と合流したであろう。
「我々もついさきほど、エミル殿がよばれた、ガルーダ、という鳥の魔物に乗せられ、
  このサイバックに戻ってきたばかりなんですけどね」
エミルが魔物をさらり、と呼びだしたのは驚いたが。
エミルが何か呟くと同時、不思議な陣があらわれ、そこから魔物が出現した。
すわ、魔物、と身構えるが、魔物はどうみてもエミルに従順しており、
そのときの驚きは記憶にあたらしい。
「その、エミルですけど、どこにいったかわかります?」
「何でも、ミズホの里に用事があるとかいって、我々をおろしたあと、
  そのままガルーダに乗っていきましたぞ?」
アステルの問いかけに答えたシュナイダーの言葉に思わず顔をみあわすロイド達。
「エミルが、里に?何の用なんだろ?」
しいなが首をかしげるが。
「どちらにしろ、後からミズホにいってみようぜ。…タイガさんに報告もあるし」
たしかにロイドがいうことにも一理ある。
「たしかに。そうね。タイガさん達にはきちんと報告はしておくべきね」
このまま光の精霊と契約を交わしたのち、ミズホの民がシルヴァランドに移住できるかどうか。
最も、オリジンを解放し、二つの世界を一つにする、という最終目標をたがえたわけではない。
が、その間、どうしても二つの世界は切り離されたままになってしまう、ともおもう。
そんなリフィルのつぶやきに、
「とりあえず、情報を整理しませんか?あ、ここの空き部屋でも利用して。
  かまいませんよね。シュナイダー院長」
彼らと旅をしてきて、精霊のこともいろいろとわかった。
一番きになるのは、あのエミルのこと、なれど。
「うむ。まあ、神子様も共におられるのだ。よかろう。神子様がたもそれでよろしいかな?」
そんなシュナイダーの言葉に思わず顔をみあわせる。
たしかに、一度情報とかを整理する必要があるかもしれない。
それに何よりも、今後の話しあいのこともある。
「そうだな。先生、どうする?」
「そうね。一度、今後のこともあるし。きちんと話しあいの場は必要かもしれないわね。
  …次の光の精霊が、精霊の楔の最後のはず、なのだから」
「とりあえず、これまで僕が研究していた精霊のことも踏まえて説明しますね。
  リフィルさんたちも詳しくお願いします。今までのこともありますし」
アステルは、テセアラでも屈指の精霊研究の第一人者、という。
何でも古代の遺跡などからも様々な情報をよみとり、真実に一番近い、とまでいわれている、らしい。
そういえば、これまで本格的にこういったことを話しあったことはなかったような気がしなくもない。

サイバック、王立研究所、その空き部屋。
何でもいつもはここにて様々な研修会がなされているらしい。
が、今日はその研修がなく、自由につかってもいい、とのこと。
「でも、次の契約で終わり…なんだよね。何だかいろいろとあったよね」
しみじみというコレットの言葉には様々な想いがこもっている。
「だな……」
旅にでた直後は、コレットが再生の旅をすることによって世界が救われる、とおもっていた。
しかし、真実はそうではなく、あの旅はコレットを殺すための旅でもあった。
それを知らずに自分はコレットに何をいっていたのだろう、とも今ではおもう。
コレットの性格はわかっていたはず、なのに。
コレットは間違いなく、自分を犠牲にしてでも他人をたすけようとする、と。
ゆえに、ロイドもおもわず旅にでた直後と今を思い返し、ぽつり、とつぶやく。
「それで?そういえば、未開のシルヴァランド人からみて、どうよ?ここテセアラは?」
「ゼロス、あんた今さら何いってんだい?」
「なぁに。どちらに残るにしても、こうして質問をしたほうが、自分達の気持ちを整理できるかもだろ?」
あきれたようなしいなのといかけに、さらり、といっているゼロスの姿。
「シルヴァランドか。あたしだって信じてはいなかったさ。月にある伝説の国。
  だけど…あの国は、暖かい…そう、おもうよ」
ディザイアンに踏みにじられていても、そこにある人の好意、というぬくもりは嘘ではなかった。
ここ、テセアラのようにあからさまに誰かを陥れたり…というのもあまりみなかった。
もっとも、長くすんでいればそういうことも多々とあるのではあろうが。
「すごいよ。何でもかんでも、発達しているって感じでさ」
ジーニアスの言葉はまさにおもったがまま。
シルヴァランドにはないものが、ここテセアラにはたくさんある。
エクスフィアを使用している、という様々な道具はどうも好きにはなれないが。
いい例が、あの無駄に数をつかっているという長い橋、であろう。
「その分、金も地いも、貧乏人の差もきびしい」
「…そうだな」
「……みたい、だね」
表向きにはわからないが、ここ、テセアラは身分差別がたしかにひどい。
ハーフエルフだからとかいうそういった次元でなく、同じ人同士なのに差別がある。
ジーニアスは自分の種族のこともあり思うところがあり、
ロイドはロイドでどうして同じ人同士なのに差別があるのかいまだに理解ができず、
ただうつむくことしかできはしない。
いまだに、国王云々、といわれてもロイドにはピン、とこない。
どちらにしても同じ人じゃないか、という思いがあったりする。
リフィルにことごとく、不敬罪になる、といわれても理解していない。
「俺様が産まれたときから神子だったみたいに、皆、産まれたときから身分がきまってる。
  ……息苦しくてしかたねぇ」
「…ゼロス……」
ぽつり、と最後に小さくつぶやかれたゼロスの言葉。
おそらくそれはゼロスの本音、なのだろう。
それはしいなにはよくわかる。
ゼロスがどれだけ孤立していたか、それは同じく一人であったしいながよくわかっている。
だからこその同士。
ゆえに、あるいみゼロスとはしいなは腐れ縁だ、といっているが、完全に嫌っているわけではない。
むしろ親近感をもっている。
「…ゼロスは、テセアラが嫌いなのか?」
しかし、ロイドはそんなゼロスの事情はほとんど知らない。
あるいみでうわべしかみていない、といってもよい。
ゆえにこそ不思議におもう。
まるでそこにいるのが息苦しい、といっているかのようないいまわしに。
「いや、多分、嫌いじゃないな。嫌なところもひっくるめてよ」
嫌なこともあっても、自分が生まれ育った場所なのは間違いがない。
裏も表もあるいみ精通しているゼロスだからこそいえる台詞。
「誰だって、育ったところを嫌いになれる奴なんてそうそうはいないさ。
  …たとえどんな理不尽な、もしくは虐げられてたりしたとしても、ね」
そんなロイドにとぽつり、といっているしいな。
そう、誰しも心から嫌いになれるはずがない。
何らかの形で育った場所には愛着、というものがわくのが道理。
人はそれらの感情すら自分の心をごまかして生きようとするが。
「そうね。たしかにしいなのいうとおりね。それにしても……この国の研究施設はすばらしいわね」
アステルが用意した精霊達の資料はとても興味深い。
聞けば、ここ、王立研究院にはそれぞれの部署にあわせ、様々な機関や研究施設がある、とのこと。
もっとも、所属するとすれば、ハーフエルフであるリフィルは一生、この地に縛られることになる、とはアステル談。
それに関してはゼロスも同意していた。
今のテセアラの現状では、まちがいなく、そうなる、と。
「そうなのか?先生?」
ロイドにはその充実性はまったくもって理解不能。
ゆえに、首をかしげざるを得ない。
「はぁ。あなたは興味なさそうね。ロイド」
そんなロイドにたいし、リフィルはため息をつかざるを得ない。
「あなたはもう少し、いろいろと興味をもつべきよ。そもそも、あなたは興味あること以外、
  いつもいつもまじめに授業すらきかないし……」
「…ロイド、器用にもたたされてても立ったままねてたしね」
リフィルの盛大なため息に追従するかのように、ジーニアスがぽつり、とつぶやく。
「立ったまま寝れるのはロイドの特技なんだよ。ね!
  すごいよね~」
「いや、コレット、それは絶対に褒めるところじゃないとおもう」
ジーニアスがにこやかにいうコレットにたいし、おもわず突っ込む。
「右に同じく。まあ、みずほの民ならばたったまま寝るのはおてのものだけどね」
「ふえ?そうなんですか?」
「ああ、もっとも、私らみずほの民は睡眠をとっているときも常に緊張感をもっているからね。
  何事かあればすぐさまに臨戦態勢になれるように修業はしてるよ。
  簡単なところで寝ていてその頭の上に岩を落としたりする修業、とかね」
「?ねてて岩がおちてくるんですか?」
「ああ、常に周囲の気配をつかむための修業の一つさ」
何やら話しが脱線しているような気がするのは、おそらく気のせいではないであろう。
そんなコレットとしいなの言葉を遮り、
「とりあえず、ここに用意したのが、これまで研究している精霊達の文書ですね。
  ロイドさんたちが契約すべき、精霊オリジンに関する古代の文献もここに参考までにもってきてあります。
  オリジンは全ての精霊の主、といわれています。それは皆さんご存じなんですよね?」
そんな問いかけに目をそらすロイド。
「一般には、それでいいかもしれませんが。事実は少しことなります。
  正確にいえば、地水火風を束ねる精霊がマクスウェル。
  そして、残りの精霊は、雷、闇、、氷、光、といわれてますよね」
「ええ。そして、光の精霊は、月の精霊アスカと、光の精霊アスカ、二通りいる、といわれているわ」
「おそらく、大地の存続に関して必要不可欠な四大元素。
  それを束ねる精霊、というのでマクスウェルはいるのだとおもわれます。
  最も、一般に知られていないだけで他の精霊ガいない、とも限りませんけど。
  いい例が、精霊ラタトスクですね。大樹カーラーンの精霊。
  ほとんどの研究者が失念してるんですが、大樹とともに精霊が誕生した。
  と古の伝承にもありますように、全ては大樹カーラーンに始まっているんです」
「大樹とともに精霊達もこの地に誕生した。
  つまり、つまるところ精霊達の産みの親ともいえるのは、大樹カーラーン。
  そして、その大樹を司る立場であろうラタトスクに通じているはずなんです」
それがアステルが今の今まで研究した結果、たどりついている結論。
「僕の仮説になりますが。かつて、ラタトスクが勇者ミトス達に種子を託したその理由。
  いわく、精霊の契約に近い約束か何かが交わされたのだとおもわれます。
  精霊の力をもってすれば種子の発芽はおそらくいつでも可能であったでしょうが。
  それをしなかった、ということは、まちがなく人に見切りをつけかけていた精霊が、
  何らかの取引のような約束か盟約が交わされたのだ、と推測しているんですけど」
アステルのこの仮説は事実、正しい。
真実を聞かされたわけでもないのに自力でそこまでたどりついているアステルは、さすがとしかいいようがない。
「たとえば、僕が精霊の立場になったとして。
  どちらにしても人が始めたことは人の手でどうにかしろ。といいたくなるでしょうし。
  マナが涸渇したのも、大樹を枯らしたのも人が無意味に大量に、必要以上のマナを消費したがゆえ。
  人々がおそらく自らの過ちに気づくまで、もうほうっておこう、
  という気になってもおかしくないとおもうんですよね……」
そんなアステルの予測は、コレットの身につけているプローチより、エミルの元へととどいている。
人の身でそこまで自力でたどりつけている、ということに思わず苦笑してしまう。
まあ、あのままさすがに一度、全てを浄化しよう、としたというところまでは予測できているかどうかは不明なれど。
事実、かつて、ラタトスクがこの地にくる前のカーラーンにおいてはそのようになっていた。
あまりに人が愚かなことをつづけるので、彼らに自覚を促す意味でほうっておいたといってもよい。
この地においても同じように、魔界などを隔てた以上、憂いもなくなったがゆえにそうしよう。
そうおもっていたのだが。
そこにあがくものたちがいた。
地上において、生きることにたいしあがくものたち。
その想いと行動は、かつて自らが大樹の分身、として地上にカーラーンにおいて出向いていたときと同じもの。
この地においては一度もそのような形態をとっていなかったゆえになつかしかった、
というのももしかしたらあるかもしれない、ともおもうが。
当然、そんな離れた場所…もっとも、ラタトスクはその気になれば、
全てを視ることが可能なれど。
この会話がエミル…すなわち、ラタトスクに通じているなどとはロイド達は夢にもおもっていない。
「精霊の感覚てきには、人の一生などほんの一瞬のこと。
  だからこそ、まだ猶予があたえられていたんじゃないか、とおもうんです。
  が、おそらく何らかのきっかけで、その猶予期間はすでに過ぎてしまったのではないか、と。
  それが世界における異常気象のきっかけとなったんじゃあ、と予測をたてているんです。
  僕の勘では、確実に大樹の精霊、ラタトスクは目覚め、何らかの行動を起こしているとおもうんです」
そんなアステルの説明に、
「なら、何だって、精霊が目覚めているんだったら、大樹は復活してないんだい?」
素朴なるしいなの疑問。
大樹の精霊、というのならば、大樹が復活していてもおかしくはない。
「もしも、ラタトスクとミトス達が交わしたのが契約ならば、精霊は契約をたがえることはしません。
  つまり、ミトスが種子を発芽させる、といって契約というか盟約を交わしていたとしましたら。
  当事者たるラタトスク自らが大樹を発芽させることは盟約を反故することになり、
  ゆえに、手だしをしていない可能性があります」
「そういえば、精霊さんたち…ほとんどが裏切られた、みたいなことをいってたよね……」
精霊達と契約を交わしたときの台詞を思い出し、コレットがうつむきながらもぽつり、とつぶやく。
「精霊達は何よりも、約束や盟約を大事にします。彼らの存在意義にも関わってきますからね。
  そんな盟約を人が完全なまでに破棄していない以上、どうにもすることができないかと。
  いってみれば、しいなさんが、ミトスとの契約を破棄するように、と精霊達に盟約を交わすことと同じです。
  ミトスとの盟約を破棄してほしい、と願えば、おそらくかの精霊も自由がきくようになるのではないか、と。
  …もっとも、だからといって大樹を復活させてくれるかどうかはわかりませんけどね」
そこまでいいつつ、
「最も、ユアンさん、でしたっけ?彼がいっていたという大樹を発芽させる。
  もしも彼が勇者ミトスの仲間であるユアン・カーフェイ当人ならば、彼が発芽させることでも、
  約束を果たしたことと判断されるでしょう。その場合、
  手伝いをしたロイドさんたちは、ユアンさんたちの協力者、という立場で精霊には理解されるかと」
「それって、なんかちがってない?だって頑張ってるのはロイドなのに?」
ジーニアスの台詞に、
「精霊達にとって、人は全て同じようなものだとおもいますよ?
  彼らにとって人はヒト、でしかないんですから。おそらくヒト、というくくりも、我々とは異なるかと」
そんなアステルの台詞に、ふとリフィルはおもいだす。
エミルがかつていっていたこと。
君たちがいうヒトと僕のいうヒトとはおそらく違う、そういっていた。
彼はエルフもヒトも、ハーフエルフもかわりない、そういっていた。
どちらにしても、ヒトにはかわりがない、と。
愚かなことをするのは、人でしかありえない、ともそういっていた。
あのときはあまり深く考えなかったが、よくよく考えればたしかにエミルの言葉の端々に、
何か違和感を感じていたのもまた事実。
そして何よりも、どこに人を好きになれる要素があるの?まだ絶望しないだけましとおもってほしいよ。
そういってもいた。
それは、彼と出会ったまがないときにエミルがいった台詞。
「ここ、テセアラでは、精霊ラタトスクに関しても研究がすすんでいる、のかしら?」
「そもそも、精霊の存在を信じているのは僕らくらいなんですよね。
  僕がエルフの里から真実だ、と証拠をつかんでくるまで誰も信じようとしませんでしたし。
  今でも、まだ世界をつくったのは女神マーテルだ、といって、
  僕の考え方は異端、といっている人達が大半、ですからね。特に上層部の人達は」
もしもそんなことが精霊にしられたら、世界がどうなる、と彼らはおもっているのだろうか。
ともアステルはおもう。
下手をすれば完全に人、という種族をみはなしかねない。
ヒトはマナがなければ生きていかれない、というのに。
アステルの予測が正しければ、かの精霊はおそらく、マナを切り離す、もしくは加護を失わすことができるはず。
全てなるマナを司りしもの。
それが大樹の精霊ラタトスクだ、そうアステルは確信している。
だからこそ、すべての精霊の産みの親でもある、と。
マナを生み出し、管理せし存在。
「人為的に壊されたとおもわれし遺跡などの壁画や資料などにも、
  それらしきものが書かれていた形跡があるんです。そういったものの全てがほとんど破壊されてますけど」
おそらくそれは、自分達にとって不都合な真実だから、といってねじまげられた偽りの真実を人に信じ込ませるために、
あえてそのようにクルシス、という組織が行ったのであろう。
でなければ、かの精霊の部分、もしくは世界創世記のあたりに関してのみ、
ことごとくその部分だけ破壊、もしくは破棄されているはずもない。
あきらかに人為的な手がくわわっている何よりの証拠。
「…そういった遺跡がこちらにはのこっているのね。
  おそらく、シルヴァランドにはのこっていない、いいえ、のこっていたとしても。
  おそらく発見は不可能、なのでしょうね。…ディザイアン達がいるかぎり」
彼らがいるかぎり、そういった遺跡が発見されれば、彼らによって破壊される可能性が高い。
そういえば、とおもう。
今までの歴史も、無意味ともおもえる破壊活動をディザイアン達は多々としていた。
もしもそこに歴史的価値をもった遺跡があったのならば、
アステルの今の仮説を正しいとすればあながち間違ってはいないのであろう。
「そういえば、あなたに聞きたいのだけど。あなたの意見としてはどうなのかしら?
  精霊の研究の第一人者、あなたのことはきいているわ。
  シルヴァランドとテセアラ。精霊達がマナの楔によってマナの循環を担っている。
  これはあなたも予測していたのよね?」
「ええ。そうですね。ですから今はありえないことがおこってるんです。
  そもそも、全ての属性のマナが安定して世界にある、ということ自体が」
「?え?でも、ここテセアラってずっと繁栄世界といわれてたんだよね?
  …僕らのとこのシルヴァランドが衰退していたかわりに」
自分達の世界のマナもこの世界に流れてきていたはず、なのに。
そんなジーニアスの台詞に、
「今までの精霊達は、それぞれ、陰陽の役目を負わされていただけです。
  それはノームにも確認をとっています。が、より強くでるのはどうしても陽のの精霊。
  すなわち、それぞれの世界にいる精霊の力のマナしか強くなりえるはずがないんです。
  …クルシスがうみだした、という今までのシステムならば。
  が、世界の異常気象ののち、全ての属性のマナが安定しています。
  以前、リフィルさん達とともにシルヴァランドにいったときも調べてみましたが、
  今現在は、どちらの世界も、シルヴァランドもテセアラも、
  まったく同じマナの数値になっているんです。完全に平均化されているんですよ」
そこまでいいってひといきつき、
「これはおそらく、精霊ラタトスクが何らかの形で目覚めたがゆえの結果と僕はおもっています。
  かの精霊が目覚め、魔物達に命じ、マナを安定させているのだ、と。
  だとすれば、みたことのない魔物の増加などにも説明がつくんです。
  ノーム曰く、ラタトスクはしばらく眠っていたようですしね」
「じゃあ、大樹を復活させなくても、世界は安定してるってことか?」
そんなロイドの問いかけに、
「いえ、それはないとおもわれます。おそらく、マナが不安定になっているがゆえに、
  何らかの対処を命じたのでしょうが。基本的に、もしもヒトが…
  彼らミトス達が、精霊と大樹の発芽を約束しているとなれば、発芽がなかったり、
  もしくは種子が失われたりした場合、精霊が人にたいしどのような判断を下すかわかりません。
  下手をすれば、人は世界にたいする害虫、とばかりに駆逐するように、と魔物達に命令したり、
  もしくは人からすべてのマナの加護を取り上げる可能性もありえます」
そんなアステルの説明。
すなわち、魔物に命令、という部分でふとロイド達の脳裏にエミルのことが思い浮かぶ。
エミルは自在に魔物を呼び出し、そしていうことを聞かせることができる。
また、魔物達から自らも率先しエミルのいうことをきいていた。
エミルがおそらく命じたのであろう魔物達の行動を、幾度かロイド達は目の当たりにしている。
アスカードの牧場で、そしてまた飛竜の巣、とよばれし場所で。
それ以外にも思い当たることが多すぎる。
エミルですら、そう、なのである。
もしも、精霊自らが号令を発すれば…どうなるかは推して知るべし。
最も、エミルがそのラタトスクそのもの、なのだがロイド達はその事実を知らない。
「さすがに、こちら組織的に研究しているだけのことはあるわね」
個人での研究ではここまでの資料はそろわない。
また、その確証たるあとずけ資料なども。
パラパラとアステルの用意した資料をめくりつつ、リフィルが感心した声をだしつつ、
「……テセアラとシルヴァランドが切り離されたら…私はこういったものも。
  そしてまた、テセアラ史の研究に着手することはできなくなるのね……
  私は…自分の過去を失うことになる……」
「姉さん?」
「…ごめんなさい。私よりここで育った皆のほうがつらい気持ちのはずね」
リフィルのすこし沈んだ言葉にジーニアスがといかけ、
そんな弟にたいし、リフィルがやさしくほほ笑む。
そんなリフィルに対し、
「リフィルさん。まあ、オリジンと契約し、世界を元の姿にさえもどしてもらえば。それも解決しますよ。
  その後、今度は改めて共同研究を共にする、という手もありますよ?」
そんな二人の会話をききつつ、
「オリジン、か…クラトスのやつ……あいつがオリジンを封印している、とあのユアンはいってたよね?」
ユアンがあの場にていっていたこと。
それは、クラトスがオリジンの封印にかかわっている、というその事実。
「おそらく、クラトスにしか解けない封印、なのでしょう。精霊達の封印が神子、にしかとけなかったように」
しいなの台詞にリフィルがうなづく。
「精霊の封印は、神子のもつクルシスの輝石、ハイエクスフィアに反応し神殿の封印がとかれる。
  というのは判明しています。また、輝石の封印は、救いの塔にも関係していますけどね。
  救いの塔へは、神子のもつ輝石をもってして、その正当な持ち主がもってこと力を発揮する。
  と。何らかの形であのクラトスさんが封印をしていたとしますと。
  彼のもつハイエクスフィア・・おそらく、彼のもまたハイエクスフィアだとおもわれますが。
  その力を利用して、なのか、もしも最悪の形の封印だとすれば、問題がありますね」
「?最悪、の形…ですか?」
それまでじっとだまって会話に参加せずにきいていたプレセアが首をすこしかしげてといかける。
「ええ。これは我々の研究でもそういった方法がある、とまだ確証は得られてないのですが。
  いえ、小さな微精霊とかでの実験結果はなされた、というのはきいてますけど。
  自らのマナをもって相手を封印する、という方法があるんです。
  解放するためには、その封印したもののマナ全てを解放しなければ封印はとけない、という」
「え?それって、まさか……」
「?マナの解放?」
ジーニアスがその意味にきづき、おもわず顔を青くさせるものの、ロイドは意味がわからず首をかしげるのみ。
「つまり、自らのもつ、封印した当事者のマナ全てを解放することにより、
  とかける封印、というわけですね。かつての権力者などがそういったものをした。
  という文書ものこっています。有名なところでは危険な魔物をその身に封じたり、ですね。
  その場合、その封印の対象は、一族のものが受け継ぐように継承がなされるらしいです。
  当事者が死んでしまえば、確実に封印されたものが解放されてしまいますからね」
アステルのそんな説明をききつつ、
「最悪の可能性も考えておくべきね。オリジンとの契約をもとめ、世界を一つに戻すためには。
  クラトスがその封印をしていない、ともかぎらないわ。
  だとすれば…」
「だとすれば、何だよ?先生!?それにアステル!?」
何となくだが嫌な予感がし、ロイドがおもわず声をあらげる。
「…クラトスを殺さなければ、精霊オリジンは解放されず、世界はこのまま二つにわかれたまま。
  ということよ。そして、そうなれば大樹がもしよみがえったとしても、
  大樹のない世界は確実にマナがなくなり消滅してしまう。精霊ラタトスクの介入がない限りは、ね」
「もしもそう、だとして。クラトスさんにたのんだら解放とかしてくれないんですか?」
そんなコレットのといかけに。
「この方法は、自らのマナにおいて封印する、という前提になりたっている封印方法です。
  たとえ、お願いしてそれが認可されたとしましても。当人のマナを全て解放、という前提は覆りません。
  …人は、その器を構成しているマナ全てをうしなえば、確実に死にます。
  それはすべての命にいえることです」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・』
「もしもクラトスがその方法をとっているとなると。私たちはクラトスを殺さなければならなくなるわ。
  どちらの世界も救うためには」
「そんな……」
「でもまだ、姉さん、そう、ときまったわけじゃ、ないんだよね?」
「可能性の話しよ。だけど……」
「何となくですけど、この方法をとっているような気がします。
  勇者ミトスって、クラトス・アウリオンの弟子、だ、という文献がのこっているんですよね。
  彼がミトスに剣術を教えた、と。テセアラの禁止文書コーナーに残っていましたし」
そこまでいって、ひとつのレポートのようなものをとりだし、
「クラトス・アウリオン。かつて、テセアラの貴族階級において、王女の親衛隊長を務めていたもの。
  シルヴァランドよりやってきたミトスとマーテルというハーフエルフの姉弟にたぶらかされ、
  国を出奔したもの、となっていますが。この後にだされた書物によれば、
  勇者ミトスのお供をすべくテセアラ王が命じた、とあるんですよね。
  つまり、彼らが功績をたてたことをうけ、王家は真実を捻じ曲げて発表した、とおもわれます。
  一番の原因は、その当時、クラトスという騎士は民にとても信頼されていたらしいですね。
  テセアラにクラトスあり、とまでいわれていたらしいですし。鬼神、とすらいわれていた、とも。
  彼がでむいた戦闘では必ず彼が勝利に導く、とすらいわれていたようですね」
それには古代の歴史の大まかなことがまとめられている。
興味があったのでかつてアステルが調べた成果がまとめられているレポートの一つ。
「もしも、そう、だとしたら、僕たちは選ぶ必要がでてくるってことだね。
  クラトスさんの命と、世界の統合。どちらか、を」
「「そんな……」」
その声はロイドとコレット、ほぼ同時。
「もしそうだとして、何とかならない、んですか?」
「誰かを犠牲にするなんてまちがってる!」
そういう二人にたいし、
「こればかりはどうにもならないわね。…クラトスがオリジンにしている、という封印が。
  この最悪の方法でない、ということを祈るしかないわ」
二人にはそういうが、リフィルもおそらく、アステルのいったとおりの封印ではないか、という予感がある。
だとすれば、自分達が他の精霊達と契約を交わしているのに、クルシスが何の干渉もしてこない。
ということもうなづける。
精霊達との契約をおえたとしても、肝心なるオリジンとの契約はどうあがいてもむり、
とわかっているからこそ、泳がされている、とおもってもいいであろう。
しばし、そんな彼らによる今後の話しあいと、そして予測について会話がこの場においてなされてゆく……


「パパのお墓にいかせてください」
とりあえず今後のこともある。
一時にしろ、精霊との契約をかわしたあと、世界がどうなるかはわからない。
ゆえに、アルタステや関係者達に説明はしたほうがいい、という理由にて、
まずはアルタステのところに、という理由でここ、ガオラキアの森にとやってきた。
リフィル達からしてみれば、あのミトスと自分達の知っているミトス。
リフィルからしてみれば、どうみてもあのミトスがあのユグドラシルなのではないか、という疑念がつきない。
あのミトスはあきらかに、エミルとは違った意味であやしすぎた。
反応をみてみたい、という思いもあるが、弟のことを思えば強くはいえない。
どうも弟であるジーニアスは、どこか完全に別人、と思い込んでいるふしがある。
まあ、気持ちはわからなくはない。
が、時として感情とそういったことは切り離して考えなければまちがいなく人は過ちを犯す。
それがわかっているからこそ、リフィルは冷静に感情に流されないように、と心がけている。
時としてそれもなかなかに難しい時はあるにしろ。
ガオラキア付近につくと、プレセアがロイド達にといってくる。
たしかに、どちらにしてもアルタステのもとに出向くのならば、あるいみ通り道。
ゆえに断る道理はない。
しいなは、先にみずほの里にいっておく、といってすでにこの場にはいない。
「…私には、もう何も残されていません。でも、私がこの土地を離れてしまったら、
  パパのお墓を身守ってくれる人がいなくなってしまう……」
誰もいない家の前。
その家の前に静かにたてられている墓。
小さな花が添えられているのは、おそらく、先日であったあの父の友人、という人物がそえたものなのだろう。
すでに唯一の肉親たる妹はもう、いない。
妹を殺した、というリーガルを完全に許せてもいない。
仕方がなかった、ですませられるものではない。
しかし、ともおもう。
妹は異形とかして関係ないものたちをあやめてしまった、ともきいた。
そして、つまるところ、自分が力をもとめ、あの提案を受け入れてしまったことが全ての始まり、
なのかもしれない、とも。
自分が適合しているから、妹もうまくいく、とそうヴァーリはいっていたという。
力をもとめた結果、めぐりめぐって妹まで巻き込んでしまったのはほかならぬ自分。
そういった自責の念もある。
「プレセア……」
しずかに墓の前でたたずみそうづふやくプレセアにジーニアスは何といって声をかけていいのかわからない。
ジーニアスは基本、大切な人の死を目の当たりにしたことはあのマーブルのとき以外はなかったといってよい。
常に姉に護られていた。
自分が化け物、と呼んだその人物が、自分を孫のようにかわいがってくれていた彼女だ、
としったときのあの衝撃。
そして、そんな彼女を攻撃してしまった自分自身。
そしてそんなプレセアにたいし、ロイドも何と声をかけていいのかがわからない。
ロイドも目の前で誰かが死んだ、という経験はない。
否、あるにはあったのだが忘れている。
それは母親のこと。
当時の記憶に関してはロイドはまだ忘れ去ったまま。
より身近な大切な人を失った記憶がないゆえに、声をかけるにしても何といっていいのかがわからない。
「…おかしいです。物理的には何も拘束されていないのに、心はここに縛られています」
「プレセア。……誰だって、簡単には自分の住んでいた世界を捨てることなんてできないよ。
  俺がプレセアの立場でもすごく悩むとおもう」
自分も、母親の墓をのこしたままで選択を迫られたとすれば。
確実に悩む。
マナの搾取という循環をたちきったとしても、世界がもとの姿にならないかぎり、
確実にもどってこれる、という保障はない。
ゆえにロイドとしては精いっぱいの声をなげかける。
「プレセアがテセアラに残りたいのなら、最後の精霊と契約する前に僕たちと離れたほうがいいよ。
  …僕はそんなのは嫌だけど。でも、プレセアがそう、願うなら……」
時がとまっていた十数年間。
しかし、それでもここはプレセアの産まれそだった地。
村人に迫害されていたとしても、今はその村人たちすらいない。
本来ならば二十八歳だ、というプレセア。
しかし、その姿はどうみても十代そこそこでしかない。
ハイエクスフィアをつけている以上、自力で自分の肉体の時間率を調整できるのかすらもわからない。
もしもできない、のであればプレセアはずっとこの姿のままでいることになる可能性がある。
そう、あの書物の中でみたクラトス達のように。
四千年前の記憶の姿だといった彼ら、しかしユアンにしろクラトスにしろ、
今とまったく姿はかわっていなかった。
唯一の救いは、ユグドラシル…とおもわれしミトス・ユグドラシル、となのったあの少年。
あの少年が自分達のしるユグドラシルと同じならば成長もできる、ということ。
が、その方法をジーニアスはしらない。
プレセアもわかっているのかどうかすらあやしい。
完全なるハイエクスフィアでないのならば、時が動き出す可能性もあるにはあるが。
全てが予測不可能。
時の流れに取り残されるのは自分達だけ、とおもっていたが、
それらを考えればもしかするとプレセアのほうが時の流れに取り残される可能性がある。
そう、みにつけているエクスフィアがある限り。
「考えてみます。ありがとう。…しばらく、一人にしてください」
プレセアの想いはわからなくもない。
ゆえに無言でそれぞれ顔をみわたしつつ、
「わかった。なら、俺達はアルテスタさんのところにいってくる」
いいつつも、プレセアをその場にのこし、ロイド達はアルタステの元へと向かうことに。

「おかえり!ジーニアス!リフィルさん、皆!」
アルタステの家の近くにくると、なぜか外にたたずんでいる二つの人影。
みれば、何やら二人して空を見上げているのがみてとれる。
二人して空を見上げていたようではあるが、近づいてくるジーニアスにきづき、
ぱっとジーニアス達のほうにむきなおりそんなことをいってくるミトスの姿。
どうやらタバサと共に空をみて何か、をしていたらしいが。
「こんなところで何をしてるの?」
無邪気にもみえるミトスの姿にジーニアスからしてみればほっとする。
うん、名前が一緒、というのはそもそも、ミトスという名はよくつかわれている名。
姿が同じなのもまた、世の中には三人、似た人がいる、という。
しかも相手は四千年前の人物。
今の時代にそっくりな人がいたとしてもおかしくはない。
もしくは、血縁者であれば先祖がえり、ということもありえるかもしれない。
そう自分自身に納得させ、ミトスにと走り寄ってといかけているジーニアス。
「ミトスさんに雲の種類を習っていました」
「雲の形で天気とか天災とかわかるんだよ」
そんなジーニアスに対し、タバサが淡々と説明する。
人工知能を掲載されているタバサは自ら学習することによりある程度成長することが可能。
基本となる人格はマーテルを参考にされているのであるが、性格的にはまったく似てもにてつかない。
「すごい、ミトスってすごいよ!」
うん、やっぱり人にそういうのを教えるミトスはあのミトスとは違うよね?
それに、僕らが知っているユグドラシルは大人の姿だし。
あのミトスは四千年前の姿、そういっていたし。
もしかしたら天使、というのは大人になって成長をとめることができるのかもしれないし。
そう自分を無理やりなっとくさせつつも、ミトスにたいし絶賛の言葉をおくる。
そんなジーニアスに対し、
「そんなこと…こんなことくらいジーニアスだってしってるでしょう?」
「…僕は学校にいっていたから。ミトスは独学でしょ?やっぱりすごいよ」
過去から今につづく、知識として自然現象のことはある程度はのこっている。
かつての方式などといったものが多少のこっているがゆえ、あるいみで中途半端な状態であるともいえる。
古代大戦最中はそれらの知識は一般にも普及していた。
自分達の身は自分達で護らなければ、どうにもならない、という不安もあって、だが。
しかし、今の時代はそれがない。
テセアラに関しては自然現象が何らかの形で発生する場合、
マナが変調をきたすので、その報告が国から発表される仕組みとなっている。
シルヴァランドに関しては、人々はそれどころではない、ともいえる。
常にディザイアンの恐怖に捉えられつつも日々を生活してゆくのがやっと。
唯一、そういった知識を人々にあたえるのも、学校、という教育の場でしかない。
親から子へそういった知識を与える場合もありはすれど、それはごくほんのわずかにすぎない。
「てれちゃうからやめてよ。今日はどうしたの?一休みしにきたの?」
ミトスのそれらの知識は姉からほとんど教わったもの。
しかし、姉のことを聞かれれば、まちがいなく、どこかで矛盾が生じるであろう。
ゆえに、さらり、と受け流し、会話を別な方向へと誘導する。
「あ…」
ミトスにいわれおもわず言葉につまってしまう。
「実は…」
ジーニアスは説明しにくいであろう。
ゆえに、ロイドがかわりに一歩前にでて説明する。
あれ?
ミトスの近くによったからであろう。
ちょっとした違和感を感じざるをえない。
あの場で、出会ったミトスと、よくよくみれば目の前にいるミトスとまったく同じ服装。
さらにいうならば装飾品まで同じ、というのはこれいかに。
真似してるのかな?勇者ミトスの。
勇者、とよばれているくらいだから肖像画とかもあるだろうし。
シルヴァランドには正確な肖像画はないけどこっちにはあるのかな?
そんなことをふとおもう。
しかし何といえばいいのか。
あの場で出会ったミトスと、目の前にいるミトス。
雰囲気がとても似ているとおもうのはロイドの気のせいか。
あのユグドラシルと勇者ミトスが同一人物だ、といわれても嘘だ、としかおもわないが、
もし、このミトスと勇者ミトスが同一人物だ、といわれても、あ、そうなんだ、くらいにしかおもなわい。
それほどにあの場でであった記憶だというミトスと似通っている。
はっきりいって同一人物だ、といっても過言でないほどに。
まあ、あのミトスはものすごく強かったが。
このミトスがそこまで強い、とはどうしても思えない。
否、思いたくないのかもしれない。
保護対象、とおもっていた人物がよりよって自分より強い、というのは。
それはロイドにとっては二度目のことでもある。
エミルはそれほど強そうではない、というのに手もあしもでなかった。
さらにミトスも、となればロイドからしてみれば、自分は立ち直れないかも、などとすらおもってしまう。
まあ、いまだにエミルを追い抜いてクラトスも追い抜く、という思いを捨てたわけではないが。
しばし、ロイドによる簡単な説明をききつつ、やがて俯き加減に、
「じゃあ、ボク、もう、ジーニアスや皆とあえなくなっちゃうの?」
下をむいたままそういってくるミトスの姿。
「いや、まだわからない。その可能性があるから皆、どっちにのこるか決めてるんだ」
そんなロイドの言葉に、
「いやだよ!せっかくあえたのに!世界をつないだままにしておけないの?」
今のままでいい、とおもう。
そうすれば、目の前にいる神子を器にして姉は蘇る。
蘇ったあと、全ての人を同じ種族にし大樹を復活させれば愚かな争いもなくなる。
そう、そのはず。
だからこそ、今のままでいい。
それでなくても今、種子はなぜか不安定。
不安定なのは自分が世界を二つにわけたときからではあるが、
ここ最近はそれがかなり顕著に表れているような気がしなくもない。
異なる数値。
デリス・カーラーンではじいている地上のマナと、現実の地上のマナ。
その安定数がことごとく異なっている。
それが種子に関係しているのかどうか、まではミトスにはわからない。
だが、姉を蘇らせるにあたり不安材料はなるべく少ないほうがいい、というのも本音。
どういう方法を用いたのか、神子は疾患を患っていたはず、なのに。
その症状はなぜか完治している。
マナの欠片がクルシスより持ち出された、という報告はない、というにもかかわらず。
もしかしたら地上に残っていたのか、ともおもうが、
しかしそれらはすべて地上を探索させて地上にそういった品は残さないようにしていたはず、である。
「そうしたら、シルヴァランドとテセアラはお互いを傷つけあうことになるんだよ」
ミトスがそんなことを思っているとはゆめにもおもわず、ジーニアスがそう諭す。
「…そう、だよね。ごめんね。わがままいって」
いいつつも、その場を走り去る。
そのまま、ばたん、とアルタステの家の中へ。
「ミトス!まってよ!」
そんなミトスをあわてておいかけているミトスの姿。
と。
「どうしたんだ?ミトスが顔を真っ青にしてとびこんできたぞ?」
家のほうをふりかえりつつも、玄関からでてくるアルタステの姿。
ミトスがあのように感情を表すのは珍しい、とおもう。
というよりあの子は感情というものをあまり現さなかったのに。
「…多分、ジーニアスにあえなくなるからだとおもう」
ロイド達にきづき、ちかづいてくるアルタステに、ロイドが言葉少なながらも説明する。
「ロイドさん達は、シルヴァランドとテセアラを切り離すそうなのです」
そんなロイドにかわり、タバサがかわりにアルタステに対し完結に補助説明をしてくるが。
「そうか。それで二つの世界の行き来が難しくなる、と考えたのじゃな?」
それだけで納得してしまう。
今は、マナによって繋がれているといわれている世界。
そのマナの流れがなくなってしまえば行き来できるかどうかすらあやしい。
そもそも、切り離したのち、二つの世界が存続できるかどうかすらあやしいかもしれない、とも。
「違うのか?」
「いや、それはおそらく正しい。二つの世界は互いに二度と接触することのない世界になるじゃろう」
下手をすればどちらかの世界が消滅、という可能性もなきにはあらずなれど。
どちらにしても、マナが少ない以上、確実にマナの涸渇が世界の滅亡、ということにはかわりがない。
そんな会話をしている最中、アルタステの家の中よりジーニアスが外にとでてくる。
その表情は多少暗い。
「…ミトス、さみしそうだった。僕……」
「ジーニアス。お前、こっちにのこるっていうんじゃないだろうな」
ロイドの言葉にはっとする。
たしかにそっちに気持ちが揺れているのも本当。
何よりも初めてできた同じ種族の友達と離れたくない、という思いもある。
だけども、ロイドとも離れたくない、というのも本当。
どちらを選べばいいのか、ジーニアスにはわからない。
「わかんない。ごめん。僕も気持が揺れてきちゃった」
「そうか」
「ねえ、ロイド、ミトスを説得するのに、僕、しばらくここにのこってもいい?
  ミトスにはきちんとわかってほしいんだ」
「…ああ、わかった。なら俺達だけでみずほにいくよ」
たしかに、話しあいをする時間は必要、なのであろう。
ロイドがともにいれば、何となくだが、あのミトスのことを問いかけそうなきがする。
いや、確実にきくという自信がある。
そしてそれは何となくではあるがミトスを困らせるだけになるような気がひしひしとする。
誰だって、昔の勇者ミトスとお前とそっくりなんだけど何かしってるか?
といわれて戸惑わないものはまずいない。
…もしもそこで動揺とかされれば、もしかしたら、という思いが現実になってしまう、
というのをあるいみで畏れているのかもしれないが。
ともあれ、ジーニアスをアルテスタの家にと残し、ロイド達のみでみずほの里へと向かうことに。

「おお。ロイド殿か。話しは聞かせてもらいましたぞ。すぐにでも世界をきりはなそうという状態だとか」
みずほの里。
みずほの里は以前きたときと変わりがない。
変わりがあるとすれば、きのせいか周囲の魔物がさらに増えているような気がしなくもない。
「ミズホの民はシルヴァランドへの移住を希望してるんだよな」
たしか、そのようにいっていたはず。
「国王からあるいみで我らは睨まれておりますからな。我らにテセアラでいきる道はない。
  この里にしがみつく意味はないのです、しかし……」
元教皇に協力していたのが、里のものだ、という理由もある。
そしてまた、しいながシルヴァランドの神子の暗殺依頼をうけおったのに、それに失敗していることも。
そもそも、国はみずほの民をあるいみで疎んじていたのもまた事実。
国家機密などをも把握しているみずほの民は何かあれば駆逐しよう、という動きがあったりもする。
「ん?何か?」
そんなタイガの言葉にロイドが首をかしげてといかける。
「……いえ。しかし、早すぎますな。我らはここに残らざるをえないでしょう」
今はあのことを説明する必要はない、とおもう。
決めるのはどちにしても頭領。
今、出かけている頭領がどのような結論をだすのか、それに自分達は従うのみ。
ゆえに言葉をにごし、とりあえずの結論を話すタイガ。
「え?」
「皆、任務についちまってるんだ。レネゲードに潜入している連中。
  メルトキオにいる連中。それに、一部はレネゲードを通じてシルヴァランドにいる」
タイガの横にてしいなが説明をしてくる。
一応、一通りのことは説明しおえている。
あの禁書のことについても。
その後、エミルが…しいなが里についたときにはまだいたエミルではあるが、
何やら頭領イガグリとしばし話したのちに、どこかに二人で出掛けていって今にいたる。
「我々は現在、シルヴァランドにいるものをしいなに任せることにしました」
「しいなに任せるって…しいなは、シルヴァランドにのこるってことか?」
「あたりまえだろ?あたしがいなきゃ、精霊とは契約できない。……あたしは、テセアラを離れるしかないのさ」
今さらながらのロイドの問いかけに、何をいってるんだい、とばかりにあきれてしいなが言い放つ。
たしかにしいなのいうとおり。
しいながいなければ契約はできない。
契約の資格をもっているのはしいなのみ。
だからこそ今さらそんなことをいうロイドのいい分にしいなとしてもおもわずあきれてしまう。
まあ、失念していたのはロイドらしい、といえばそれまで、なのだが。
「いいのか?」
「しかたないよ。そうでないと、世界も、あんたたちもこまるんだからさ」
「ミズホはいずれ、ここをさり、テセアラの別の土地へ移住します。国王の目の届かぬところに」
すでにその提案はエミルより成されている。
今、頭領イガグリがいないのもその場をエミルに案内されているがゆえ。
…まあ、あの地をいってきたことには驚いたが。
たしかに、隠れ里にするにはあの場はうってつけ、といえるであろう。
…普通の人が入り込んでも間違いなく、迷う、のだから。
まだ確定していないのでしいなにはそのことを話していない。
また、話さないように、とお達しがでているのも事実。
今、大きな仕事をしているしいなに負担をかけないように、というイガグリの配慮。
「すまない。おれ、ミズホの皆と約束したのに…」
彼らとの約束を破ることになる。
なんか、俺、約束してはその約束を破ってばかりだよな。
そんなことをふとおもう。
自信の行動をその場かぎり、思いつきなどで行った結果、この旅においてよい意味に反映されたことはない。
自分で考えていない、とよくエミルに旅の最中にいわれていたことがあるが。
ロイドって、流されるままで自分で考えようとしないよね、と。
たしかにそうだ、とおもう。
さきほどのしいなへの問いかけにしてもそう。
わかっていたはず、なのに。
しいながいなければ精霊との契約はできない、ということは。
なのに感情のままに、何も考えずにといかけた。
それがしいなの気持ちを逆なでするかもしれない、というのに。
「いや、一部はシルヴァランドへ移住するのだ。約束は反故にはされていない」
それに、ともおもう。
もしも、エミルのいうことが事実なれば、二つの世界、というものそのものがなくなるのである。
それを今、ロイド達に説明するつもりはさらさらないが。
彼は本来あるべき星としての姿にもどるだけだから、二つの世界とか関係なくなる。
そういっていた。
しかし、元々人が信じていたものとはかわるけどね、と。
どういうことか詳しくは語られなかったが、かの世界の安定を司るという、
センチュリオンとともにありしもの。
おそらく、大樹の精霊と、この世界をうみだせし精霊とかかわりがある存在の言葉が意味することは重い。
「きにするんじゃないよ。ロイド。
  あたしがシルヴァランドで頭領のおこしたイガグリ流の忍び術をおしえていけば、
  それでミズホの転移は成功したことになるんだからさ」
「さあ、我らのことはいい。世界を一刻もはやくきりはなされよ」
自分達の役目はそれから。
精霊との契約が完了したときに、おこるであろう、といわれた事柄にたいする行動。
そして、だからこそ君たちのようなものがこの場に移動してもらったほうが助かる、ともいわれた。
人間世界はまちがいなく混乱するであろうから、とも。
その言葉に何らかの不吉な予感を抱かせなくもないにしろ。
「そのためには、皆がどっちにのこのるかだ、だよ。
  そういえば、レザレノ・カンバニーに任務についている里のものから、リーガルからの伝言を預かったらしいよ?」
リーガルは一度、会社にもどる、といっていまだに一度も戻ってきていない。
まあ、日数的にはさほどたっていないにしろ。
かの禁書の一件のときにもリーガルはその場にいなかった。
「どうする?先生?」
「そうね。リーガルにも話しをききにいくべき、ね。あれからいろいろとあったもの」
そう、いろいろと。
オリジンの封印のことが確定した事実をまだリーガルは知らない。
それに、ともおもう。
後のことを託せる大人がいるとすれば、それはまちがいなくリーガルしかいない、とも。
ロイドの問いかけにそんな心情を表にみせることはなく、淡々というリフィル。
「じゃあ、次はリーガルさんのところ、ですか?」
「あたしはもう少しここに残るよ。いろいろと引き継ぎとかもあるからね」
次期頭領、といわれていたしいながいなくなることに関していろいろとあるのかもしれない。
上にたつものがいなくなる、という感覚がいまだにロイドにはわからない。
ないが、戻ってこれなくなるかもしれない、という可能性がある以上、いろいろとあるのだろう、とはおもう。
コレットが首をかしげていうと、リフィルがこくり、とうなづきをみせる。
とりあえず、しいなをこの場に再びのこし、
ロイド、コレット、リフィル、ゼロス、プレセアの五人にて次はアルタミラへと向かうことに。

海の楽園、アルタミラ。
ここはいつきても熱気にあふれている。
熱気、というよりは観光客のうわついた陽気、というべきか。
「あいかわらず、ここはいいな~。うひょ~、水着美人のお姉様がたがたくさんいる。
  俺様、挨拶してこよ~と」
「あ、おい、ゼロス!…って、いっちまったよ……」
たしかに、道ゆく道に水着姿などでうろついている人物がいるのは目につくが。
ゼロスをとめる人員であるべきしいながこの場にいないのも拍車をかけているのかもしれない。
あっさりとその場を離脱し、観光にきているであろう水着姿の女性達に声をかけているゼロスの姿。
そんなゼロスの姿をはためにみつつ、盛大にため息をつき、
「…私たちは、とりあえず。レザレノの本社にいきましょう」
どちらの世界に残るのか、といえば、ゼロスはここ、テセアラの神子。
おそらくはこちら側にのこる、とおもわれる。
それに、こちらにはゼロスの妹もいる。
あまり会話をしたことはないが、ケイトを救いだしたときに面識はある。
いきなり闘技場に乱入してきた、というゼロスの妹、セレス・ワイルダー。
何でもどこぞの修道院にはいっている、らしいが。
なぜ、ともおもうが、納得せざるをもえない。
神子の家系は、その血筋を絶やさないために、あえて分断されることをリフィルは知っている。
もっとも、シルヴァランドに関しては、その危険性を考えて…主にディザイアンの。
本家の主流以外は隠されている、というのが事実なれど。

「…私には、レザレノ・カンパニーを護る義務がある。
  しかし、世界を切り離すことは、アリシアのような犠牲者を生みださぬために必要なことだ。
  私にはどちらも投げ出すことはできない」
何というか違和感がある。
いつもロイド達が見知っていたのは、囚人服っぽいものをきているリーガル。
今のリーガルはきちんとした服に身をつつんでいる。
もっとも、その手にはめている手枷はそのまま、なれど。
ぴしっとした服装に手枷…かなり似合わない。
違和感がありまくる。
受付において、出向くと、ちょうどロイド達を見知っていたものが近くにおり、
会長に用事ですか?といわれうなづくと、そのまま会長室へと案内された。
目の前の机の上に束になっている書類のようなものからかなり忙しいことがみてとれる。
ロイド達は知らないが、留守の間に、会長の決済をまっていた書類がかなりの数になっていたらしい。
ジョルジュに任せている、とはいえどうしても会長の決済が必要となるものは必ずでてくる。
どうしても急ぎのときには、伝書鳩をつうじ、リーガルのもとにその報告がもたらされるようにはなってはいたが。
そのつど、どうすべきかの判断を手紙という手段でリーガルが返答していたにすぎない。
「リーガル、オレはリーガルがオレ達に協力してくれることも。
  ここに残って切り離されたあとのテセアラを導くことも同じくらい、意味があることだとおもうよ」
ロイド達がやってきたのをうけ、休憩、という理由にて空中庭園にとやってきた。
アリシアのお墓の前に恒例となっている彼女のすきだったお菓子などを備えたのち、
ロイド達にそんなことをいっているリーガルではあるが。
プレセアはじっとそんなアリシアの墓をただただながめるのみ。
しばらく家の前にて墓をみていたが、アリシアにあいたくなってこの場にやってきていた。
そこにロイド達がやってきたことにはプレセアとしても驚いたが。
かつて、ここにはアリシアの魂が封じられていたエクスフィアがあった。
だけど、今はそれもない。
ここにあるのは、ただ、アリシアの名が刻まれた墓標のみ。
あのとき、アリシアがいっていたこと。
それは、自分だけでなく、エクスフィアもエミルが救ったようなことをいっていた。
光につつまれ消えていったアリシアの姿は今でもはっきりと思いだせる。
さすがにあれほどの書類のようなものの山をみれば、
リーガルが忙しいのだ、というのはいくらロイドとて理解ができた。
会長、という言葉の意味はわからないまでも。
とにかく、あのようにたくさんの書類をどうにかしなければいけない立場なのだ、というのは理解した。
自分ならばまちがいなく眠っている。
あれほどの書類というかわけのわからない文書の羅列がなされているのをいちいち読んでもいられない、とも。
「アリシアとパパは、私にどちらを望んでいるんでしょうか?」
もう、そこにアリシアはいない、というのはわかっている。
それでも、近くできいてくれているような気がするのもまた事実。
自分がテセアラから離れた場合、こうして墓参りもできなくなる。
もっとも、墓をみるたびに、やはりどうして殺したのだ、という想いがわいて出なくもない。
たしかに、ここ、テセアラでは異形とかしたものは元にもどせない、といわれていた。
が、事実は、リフィル達はかつて異形とかしたヒトを戻したことがある、
と、プレセアはパルマコスタにおいてきいている。
そこにいた、総督夫人、という人物がかつて異形とかしていたが、
リフィル達の手によって元の姿にもどった、と。
もっとも、姿を元に戻したのはエミルなれど。
だけども、それはすくなくとも、元に戻す方法があった、ということに他ならない。
殺さずとも、という思いがどうしてもぬぐいきれない。
「二人はきっと、プレセアが一番だとおもうことをしてくれればいいとおもってるんじゃないかな」
「私が、一番だとおもうこと…」
「リーガルもだぜ。リーガルにとって一番だとおもうほうを選ぶべきだよ」
「そうだな。考えてみよう」
「ロイドにしてはまともなことをいうのね。でも、たしかにその通り、ね」
たしかに自分の心に素直に。
ロイドのいい分もまあわかる。
「とりあえず、リーガル、今までのことを簡単に説明するわ。そして、今後のことも」
「わかった」
最後の契約にむけ、どちらに残るかひとまずきめること。
そのためには、まずは精霊との契約は必要不可欠なれど、
クラトスが封じている、というオリジンの解放も含まれる。
「クラトス…か」
どこか不器用な感じがしていたあの人物。
彼がロイドをみる目はすくなくとも、慈愛にみちている。
まるで、そう、身うちを慈しむかのごとくに。
強いていうならば、親が子を慈しむときにむけるまなざしによくにている。
事実、そのとおり、なのだが。
「とりあえず、以前も話しにでたとおもうけども。
  今一度、それぞれ考える時間を設けよう、ということになったの」
そんなリフィルのいい分に、
「じゃあ、オレとコレットは、とりあえず、テセアラの外れでキャンプを張って皆をまつことにするよ」
リフィルもいろいろとアステルやリーガルと話しがある、ということではあるし。
ジーニアスはジーニアスでミトスのもとにいる。
プレセアは一人になりたい、といっていたがどうやらアリシアの墓にきたかったらしく、
たまたまここで一緒になったが。
それぞれ考える時間が必要だ、とはおもう。
アステルは研究院に所属する研究者の立場からテセアラから離れられないらしい。
それに何よりも、いまだにあの場から行方がわからなくなっているリヒターのこともあるらしい。
「たしかに。それぞれ考える時間が必要、なのは確かだろう。それに……」
もしも、世界が行き来できなくなったとしたときのことを考える必要があるのもまた事実。
オリジンを解放し、世界を統合しないかぎり、種子が発芽し大樹が復活したとしても、
二つの世界が存続してゆける世界になるかはなはだ疑問。
あのユアンが精霊と…大樹の精霊との繋ぎ、もしくはどういった契約を交わしたのか、
というのもまだききだせていない。
が、精霊達は、かつて勇者とよばれていたミトス達がうらぎった、そういっていた。
つまりは、精霊ラタトスクに関しての何かも裏切っているのであろうと予測はつく。
リフィルとリヒターによる今後の話しあいというか予想が語られてゆく最中。
その話しについていけずその場にてたったまま寝始めているロイド。
こういう時だというのに、緊張感というか緊迫感がない、というか。
あるいみで何も考えていない、あるいみ大物といえるその行為。
もう少しものごとを深く考えればその話しあいは重要な意味をもつ、ということがわかるだろうに。
この後に及んでも、このあたりのロイドの性格は、あまり物事を考えない、という性格は、
まったくもってかわっていない、らしい……


「ロイドと二人きりなの、久々だね」
テセアラの外れ。
リフィルは再びアステルのもとに話しがあるといって移動しており、
ゼロスはゼロスで用事がある、といって今はいない。
ゆえに、今現在、この場にのこっているのはロイドとコレットのみ。
「そういえば、そう、だな。皆それぞれの街で今後のことを考えてるんだよな」
しみじみとおもってしまう。
そういえば、こうしてコレットと二人きり、など旅にでてこのかたなかったような気がする。
パチパチと炎がハゼ割れる音が響く。
「ジーニアスや先生もここ、テセアラへ乃こるのかな・・・お母さんと一緒にいたい…よね。
  家族だもん」
その親が心を病んでいるとわかった以上、心情として傍にいたい、とおもうはず。
それに何より、ここは二人が産まれた地、なのである。
「それは……」
「それに、ゼロスも。プレセアもリーガルさんも、こっちに残るかもしれないんだよね。
  ゼロスはここテセアラに家族がいるし。リーガルさんは会社の会長さんとかいう人だし。
  しいなはみずほの里の時期頭領っていうし。プレセアはお父さんのお墓を護りたいだろうし」
そうおもえば、皆との旅も終りなのだ、とおもってしまう。
かといってこの旅の終わりに何がおこるか、まではコレットはわからない。
やはり自分はマーテルの器となってしまうのか、それともロイドのいうように、
誰も犠牲にならない世界が再生されるのか。
「そう、だな」
「…何だか、さみしい、ね。それに、しいなは時期頭領、っていっても。
  精霊との契約ができるのはしいなだけ、なんだし……」
「そう、だな」
コレットのことばに、そうだな、としかいえない自分をもどかしく感じる。
だけど、ロイド自身に何かできるか、といえばできることなど何もない。
だからこそ、相槌をうつしかできない。
「私、神子なのに、何もできないのかな?
  しいなだって……ミズホの人達は、テセアラに残るんだから、
  自分だけシルヴァランドにいかなきゃいけないのはつらいとおもう。私、無力だよ……」
「コレットは無力なんかじゃないよ」
無力、という言葉にだけは反論できる。
無力さでいうならば、どちらかといえばロイド自身のほうが無力、というほうがいいえて妙であろう。
「ロイド……」
「俺達は、皆、少しづつ力をもってるんだとおもう。もちろんコレットも。
  皆で力をあわせて協力してきたからこそ、ここまでこれたんだろ?」
一人だと何もできなかった。
否、それどころか、あのとき、コレットを殺す選択をした。
それが偽りの平和をもたらすため、もしくは世界を滅亡させるための儀式だ、と知らないままに。
散々、エミルに偽りの真実、といわれていたのにもかかわらず、である。
考えようとしていなかった、といってもよい。
たしかに、少し考えればマーテル教の教えは矛盾していることが多すぎた。
ただ、いわれるままに、それをやみくもに信じて成長していたから、というのはいいわけにすぎない。
「…うん」
「俺達は仲間だ。だから世界が離れ離れになっても、皆。
  それぞれの世界で、俺達が目指してきた世界のために、力をあわせていけばいいとおもう。
  そうしている限り、離れ離れになっていても俺達はつながっている」
そういうロイドの心の中に、大樹が芽吹いた後に二つの世界が別れたままだった場合、
どうなってしまうのか、という予測はまったくない。
というより考えていない、といったほうが正しい。
あれほどリフィル達が忠告している、というのにもかかわらず、
とりあえず、目先のことしか考えていなかったりする。
「離れていても仲間、なんだね」
「ああ、だから皆がきめたことを俺はだまってうけいれる。そうきめた」
「そうだね。そうしてあげないといけないよね」
「…星が、綺麗だな」
「…うん、そうだね。…世界が滅亡しかけてる、なんて嘘みたいに……」
「とりあえず、次の精霊の契約でマナの搾取という理不尽な衰退世界や繁栄世界。
  そんな世界はなくなるんだ」
次の精霊との契約で完全にマナの繋がりを断ち切ることができる。
それがもたらす結果に関してロイドは気づいていない。
忠告されていても気づこうとすらしていない。
「私たちが精霊と契約したら、ユアンさんたちが種子にマナをあてがって発芽させる、んだよね?」
「なんかそんなこといってたな。で、めでたくマナを生み出す、という大樹の復活、だろ?
  それで全てが丸くおさまる。な?」
世の中はそんなに簡単なものではない。
もしも、うまくいったとしても、大樹が復活するのがどちらの世界側なのか。
リフィル先生もそのことを懸念していたし。
だけど、ロイド、そのことわかってないのかな。
…わかってないんだろうね、ロイドらしいけど。
そんなことをおもいつつも、
「…うん。全ては、精霊の契約、なんだよね」
光の精霊達との契約にしろ、精霊オリジンとの契約にしろ。
…もしも、クラトスがリフィル達の懸念していたとおり、自らの命を構成しているマナにおいて、
精霊を封印しているとするならば、次に戦うのは…あのクラトスさんになるかもしれない。
私、きちんと戦えるのかな?
戦わなくても、その場合、クラトスが死なないかぎり精霊の解放はない。
どちらをも救う手段はない。
そう、かつて、自分が命とひきかえに世界を救う、そうおもっていたように。
その役目がこんどは精霊の封印、という立場においてクラトスになりかわっただけ。
そこまでいい、しばしじっと炎をみつめるコレット。
自分や他人が犠牲になるような世界は間違っている、そう今ではおもえる。
けど、それだと全てが滅亡してしまう。
大樹が復活したとしても、マナの循環を断ち切ってしまえば、
片方の世界には確実にマナは行き渡らないであろう。
そうなれば、マナが涸渇した世界がたどりつく先は…滅亡、すなわち消滅、しかない。

どちらともなくそれぞれにだまりこんだ二人の間を、ただ静かに炎がはぜわれる音のみが響いてゆく……


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あとがきもどき:
薫:ちなみに、アリシアの回は66話目ですv
  今回は、ほとんど、最後の精霊と契約にいく前のたちより回になっています。
  そういや、小説版はこのあたり、すっぽかされてましたね……
  さてさて、次回でようやく精霊との契約をばv
  そうしてこの話しでは、あの大問題となった大樹暴走は?になりますv
  ではではvvまた次回にて~♪

2013年9月14&15日(土&日)某日

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