まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回は、たぶん、話しが進む…かなぁ?
内容的にかなりはしょったり、しているつもり…ではありますが。
禁書の中にいる、かつてのミトス達の記憶…だせればいいなぁ…
ともあれ、いっきますv

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「リフィル、あらあら、お寝坊さんね」
「お…お母…様?」
「もう、姉さんったら、いつまで寝てるのさ」
「え?」
「はは。またいつものように本を読みすぎたんだろう」
「お父様!?」
何だろう。
これは。
はっとおきれば、どこかなつかしい気配をまといし場所。
それに、とおもう。
どうして、父と母がここにいる、のだろうか。
しかも、二人とも笑っている。
「どうして、お父様とお母さまが……」
母は、あのエグザイアにて心を失っていたはず。
それに、父までいるのはこれいかに。
「姉さん、もう、いつまでねぼけてるのさ!お父さんとお母さんがいるのあたりまえでしょ?
  どんな夢をみてたのさ。まったく」
「…夢?」
今までのことが、全て…夢?
自分達は、たしか、ヘイムダールを追われ、そして、ジーニアスと一緒にシルヴァランドに捨てられ…
否、逃がされ、そして……
「だめだこりゃ。姉さん、こりゃだめだよ。お母さん」
「あらあら。仕方ないわね。きっと、昨日、プロボーズされてたみたいだから、それがきになってるのね」
「…ええ!?どうして、お母様が、それを!?」
すっと、流れ込んでくる記憶。
記憶?
彼とは、あの地にて別れたはず。
なのに、どうして?
一夜をともにした、あの彼が、別れたはずの彼が私にプロポーズをしている記憶がある、の?
「…まあ、仕方ないか。姉さん、不器用だから、一人では後継者には不安だ、とかいわれてるもんね。
  配偶者がきまったら考える、というので族長たちと話しはまとまってるっぽいし。
  けど!何だってあの人なのさ!姉さん!」
目の前にいるジーニアス…そう、これが弟のジーニアス。
記憶にあるよりも少し成長しているような気がしなくもないが。
そう、ここは、自分達家族が住んでいる家。
ヘイムダールの一角にとある、家族全員が暮らしている家。
何だってそんなことを忘れていたのだろう。
「さあ、今日は、リフィルの記念すべき、結納の日ね。たのしみね。
  リフィル。あなたもこれで、名実ともにヘイムダールの大人の仲間入り、ね」
「いいな~。姉さん」
「そういえば、ジーニアス。王家の研究院より誘いがかかっていたが、どうするんだ?」
「ん~。興味はあるんだよね。さすがだよね。王様って。
  エルフもハーフエルフも分け隔てなく、力あるものは採用し、実力主義って」
「かつては、ハーフエルフは差別されていたけども。だけども、伝説の勇者達が頑張ってくれたのよ?」
「しってる!勇者ミトス!当時の技術によって天使化というものになってまで、地上に平和をもたらしたんだよね!
と。
コンコン。
「あら、お客さまみたいね」
「こんにちわ。バージニアさん。リフィルさんはもう用意はできていますか?」
「あら、大変。護り人のマーテルさんだわ。リフィル、支度をいそぎなさい。
  今日は、あなたが大樹カーラーンの祝福をうけるべく、護り人とともに出向く日よ?」
「あ、す、すぐにしたくします!」
どうしてそんなことを忘れてたんだろう。
そう、大樹にまもられし、エルフの里、ヘイムダール。
私はずっと、ここで家族とともに育ってきたではないか。
違う。
ううん、違わない。
こっちが現実。
今までみていたのは、夢。
……本当に?
『…い…先生!』
誰かが私を呼んでいる。
「リフィルさん?支度できましたか~?もう、ディセンダーもこられてますよ~?」
「ええ!?大樹の使者が!すぐにいきます!」
ディセンダー。
大樹とともにうまれし、世界を護りしもの。
自由の灯。
ディセンダーがいる限り、世界に希望の光がついえることはない、といわれている存在。
…その当人の性格がのんびりとしている、というのはともかくとして。
『…先生!』
ああもう、頭に何か声がひびく。
何か覚えがあるような声のような気もするけども。
だけど、今は。
「いそがなくちゃ!」
大樹のもとで、誓いをたてることにより、私は今日、リフィル・セイジから、リフィル・ニブルヘムとなる。


ゆっくりと、確実に、浸食されてゆく。
それは、幸せなる記憶。
幸せと絶望は紙一重。
幸せを強く感じれば感じるほど、それにともなう絶望は強くなる。
汝、幸せの中の時間をすごすなかれ。
汝が絶望するその瞬間、汝は我の眷属となりにけり…
さすれば、汝のその後継者と目されし知識も我のもとになり、
ラタトスクにすらうちかち、全てなる世界の王に我がなりかわらん。

光と闇の協奏曲 ~禁書の記憶~

「先生!!!!!!!」
入ってすぐにみつかったリフィル。
が、それをよし、というべきか。
黒き水晶のようなものの中にリフィルは捉われており、
ゆっくりと、リフィルの体そのものすら黒く染まっていっているように垣間見える。
「まずい…これは……」
それをみて、クラトスがおもわず顔をしかめる。
「ロイド、お前がエミルから預かったものをかせ!」
「な、なんでだよ!?」
「いいから、はやくしろ!手遅れになる!リフィルが魔の眷属になってもいいのか!?」
それは、魔の水晶。
捉われたものの魂を穢し、堕としめ、そして自らの眷属となすおそるべきもの。
魔の力がこめられしもの。
「ロイド!かして!」
ロイドがとまどっている最中、ロイドが手にしていたそれをジーニアスが横からかっさらい、
「クラトスさん、どうすればいいの!?」
「お前達にはそれを扱うのはむりだ、かせ!…使い方は以前に使用したことがあるからわかっている!」
ジーニアスの言葉に、クラトスがいい、ジーニアスは何かいいかけるが、しかし姉をたすけるのが先。
ゆえに、そのままクラトスに石をてわたす。
「魂炎よ、邪なる力をうちはらい、我がマナをもってして聖なる力に還らせん!!」
それは言霊。
ここ、ニブルヘイムに近しい空気をもちし、アストラルサイドにちかい空間においては、
言葉に込められた力が真なる力を発揮する。
そして、さらにいうならば、クラトスの中には、オリジンも封印されている。
正確にいうならば、オリジンの具現化を制限している封印、というべき、なのだが。
マナの使用は、裏をかえせばオリジンの封印を緩める結果ともいえる。
刹那。
クラトスがもっている石より、あかぐろい炎のようなものが、一気に噴き上がる。
それとともに、クラトスの背に蒼い羽が出現する。
それは天使の証たる翼。
ピキッ…
クラトスの握りし石より光とともに炎が水晶を包み込んでゆく最中、
ピシリ、した音が周囲に響く。
「今だ!やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
水晶にヒビがはいったのをこれ好機、とばかりに、ロイドがすかさず、剣をぬきはなち、
水晶を砕くべくそれにときりかかる。
「ま、まて!ロイド!そんなことをすれば…!」
下手をすれば中に捕われているリフィルの魂ごと粉砕しかねない。
「まって、ロイド…って、んきゃっ!」
こけっ。
パリィィン!
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
コレットも何か気づくものがあったのであろう。
そんなロイドをとめようとし、前にでようとするが。
何もない空間、のはずなのに、そのまままえのめりにおもいっきりこける。
そのまま、ふらついた体にて水晶にぶつかるようにこけるとともに、
ぐらり、と水晶が傾いたかとおもうと、乾いた音とともに、リフィルが中に捉えられていた水晶ごと砕けちる。

「…さん、姉さん!」
「……ジーニアス?」
誓いの言葉をいったあと、相手の誓いの言葉をまっていた中。
突如として、自らの胸にと相手の腕がつきささった。
誓いは、全てと一体化になること。
そういいつつ、相手の体が一気に崩れてゆき、そして…
そんなとき、ものすごい衝撃を感じた。
ふらつく思考で意識を浮上させてみれば、心配そうに除きこんでいる弟の姿。
さきほどまでみていた弟よりも若干まだ幼い…そう、じゃない。
「私は…いったい……」
思考が混乱している。
「…お前は、黒の水晶に捕われていた。あの水晶は、そのものが心より願っていたことを現実、とおもわせ。
  幸せの絶頂になったときに、その全てを破壊し、捉えたものの心を破壊する」
何やら聞き覚えのある声。
「…クラトス?」
どうして、彼がここ、にいるのだろう。
というか、そもそもは。
「ここは…どこ?」
記憶にあるは、たしか…ずきん、とした思考の中、ようやく思い出してくる。
直前に自分が何をしていたか、ということを。
「は!?アステルは!?私たちは、そう、たしか本の中からでてきた黒い何かにつつまれ、そして…!」
そして、きづいたら、あのヘイムダールの家にて、家族とともに暮らしていた。
それは、リフィルが心の奥底で願っていたこと。
家族で平穏に、かの地で過ごせていればよかった、という思い。
その願いが願望、として夢の形をとりみせられていた白昼夢。
その夢に完全に捕われたが最後、抜け出すことすらできなくなり、
そしてやがて幸せの絶頂のときにその夢の世界はくずれさる。
そして、得られるは完全なる…絶望。
ふと、自らの手をみてみれば、透けているような気がするのはこれいかに。
「気をしっかりともて。ここは、疑似的空間、ニブルヘイム。
   心の強さ、精神の強さが実体化の力となる。そうでなければ幽玄のごとくの存在になりはてる」
そんなリフィルにたいし、気のせいか少しばかり顔色がわるいクラトスがいってくる。
「クラトス。あんた、今、それで何をしたんだい?」
しいなのといかけに。
「この石をもちい、私のマナを浄化の炎…魂炎に変換し、かの黒の水晶にぶつけたまで。
  かの水晶はいわば瘴気の塊。マナには弱い。
  魂炎、とは魂そのものがもつ命の炎の力を炎、という形をもってしてマナにと変換したもの」
使いすぎれば確実に命を落とす、が。
まあ彼らのような無機生命体化している存在にとっては、死は完全なる死ではない。
が、この石は、全ての命のマナを力にと変換する。
それがたとえ、無機生命体であろうと有機生命体であろうとも。
最終的につかいしは、意思…すなわち、魂そのものがもつ力。
力がよわければ、そのまま石の力にまけて、魂そのものが消滅する。
死、ではなく、もじどおりの消滅。
未来永劫、輪廻すらかなわない、世界からの消滅。
「幽玄のごとく…そう、つまり、今の私は、魂だけの存在、というわけね」
少し意識を集中してみれば、肌の濃さがもどってくるのがかんじられる。
どうやら自分の意思で姿は変更、可能、らしい。
それこそ幽霊のような姿になるにしろ、普通の肉体があるような姿にしろ。
それはあるいみで便利といえば便利で、逆をいえば不便でもある。
気をぬけば、実体化するどころか、魂としての姿を保つことすら本来ならば難しい。
そう、意思、すなわち精神力が強くないものにとっては。
「??」
ロイドは意味がわからないらしく、ただひたすらに首をひねっているが。
「まあ、リフィル様も無事に助けだしたことだし。とにかく先をすすもうぜ。
  あと、アステル君だけど、どこにいるのやら」
きょろきょろと周囲をみたわすが、ここにある黒い水晶の中にアステルらしき姿はみあたらない。
この場は様々な大きさの黒い水晶がところせまし、と丸い部屋のような場所においてあり、
正確にいえば、そこに生えているようにみうけられる。
この部屋はかわっており、壁、というものがみあたらない。
どちらかといえば、色彩のない迷彩色の空間の中にまるで足場が浮かんでいるかのごとくの印象をうける。
「念のためにいっておく。おそらく、かつての封印強化で断層は増えているとはおもうが。
  一つの層に大体、この場は三つと三つの部屋というか足場より成り立っている。
  そこそこにいる封印の魔物を倒すことにより、先につづく道が開かれるようになっている」
そういいつ、
「ロイド、これがみえるな?」
「え、あ、ああ。これは一体?」
ふと、クラトスに渡していた石の中にやどりし炎のようなものが、いつのまにか数個にわかれている。
たしか、エミルから渡されたときには、大きな炎が一つだけ、中にはいっていたはず、なのに。
しかも、その炎の大きさがとてもか細くなっている。
「これが、魂炎、とよばれしものだ。これが全てきえたとき、我らはこの世界からはじき出される。
  これを補充するには、この地にいる魔物たちを倒すこと。
  この魂炎がきえるとき、この空間からはじき出されるのが先か、
  もしくは魂そのものの消滅か、そのどちらかになってしまう」
いいつつ、
「各部屋…フロアには色彩がかけられている。
  たとえば、青いフロアならば、スイッチのようなものがあるがゆえ、
  それをソーサラーリングでうつことにより、道が開かれる。
  赤いフロアの場合は、その場にいる全ての敵を倒さない限り、先に進めない。
  緑のフロアはこれ、といって何をするでもないが、それぞれのフロアには燭台がある。
  それらに、ソーサラーリングで炎を宿すことにより、それぞれのフロアの封印が解かれるようになっている」
「…ずいぶん、くわしいのね。クラトス」
何やら事こまかな説明をしてくるクラトスに、リフィルの思考もいつもの彼女のものにともどりゆく。
魔界の魔王を閉じ込めている、といわれている禁書。
そんな書物のことに関してなぜクラトスが詳しいのか、という疑問がおこる。
「…まあな」
「もしかして、この中に封じられている魔界のもののことにも詳しいのかしら?」
「…これ、には、ヘルナイトとリビングアーマー、とよばれし魔界の王達が封じられている。
  こいつは攻撃力が高く、また、攻撃の射程が長い。また、回転攻撃をしかけてくる。
  リビングアーマーのほうは、これは魔界の実力者のうちで、第七位の実力をもっている魔王の一人だ。
  この書物は主にこの二柱の魔族を封じるためにある、といっていい」
それ以外にこの中にいるのは、かの魔族達に捉えられた魂など。
すべてが魔界の瘴気に侵され、もしくは眷属となされているものたちばかり。
自分達があのとき封じたときですらかなりの数がいたが、今はどうなっているかわからない。
たしか、五聖刃の長をきめるときに彼らにこの書物の封印強化、という任をミトスが与えていたはずだが。
自分達が封じたときはたしか、この世界は十五の層からなりたっていたはず。
が、封印強化のあと、どうのようになっているのか、まではクラトスはわからない。
そういいつつ、
「ロイド。そこの燭台にソーサラーリングで炎を」
「え?あ、これか?」
たしかにいわれてみれば、不釣り合いな燭台がこの場にはある。
「ロイド!あぶない!」
「え?うわっ!?」
その真横にある黒い水晶だとおもったもの。
それが突如としてうごきだし、ロイドのほうにむかっておそいかかる。
それは、水晶の容姿をもつゴーレムのような魔物。
「くそ!こんな中にまで魔物がいるのかよ!」
体が気のせいかおもくるしい。
「気をつけろ。この中でのダメージは直接に魂…すなわち精神体をも傷つけることになる!」
クラトスが叫ぶとほぼ同時。
ブラック・クリスタルゴーレム、とでもいうべきか。
ともあれ、ゴーレムとの戦闘がなし崩し的にとはじまってゆく。

「ふい~、びっくりした」
ゴーレムの出現に影響されたのか、次から次へとでてくるでてくる。
どうやら、この部屋にある黒き水晶の半数近くは魔物であったらしい。
どうにかそれらを撃退し、クラトスのいった燭台のほうにとあゆみよる。
ソーサラーリングをかざし、炎をともす。
ボ…ボボボ…
それとともに、燭台に青白いような炎がともる。
と、まるでその炎の灯りに呑みこまれてゆくがごとくに、
まだ他にもいたのであろうゴーレム達の姿が薄れてゆく。
「…これで、この階のどこかに移動用のワープゾーンが出現しているはずだ」
「…本気でくわしいな。あんた」
そんなクラトスにたいし、ゼロスがいうが。
「…すこし、な」
あのとき、まさか今のようになるなどとはゆめにもおもっていなかった。
この場にのこしている自らの記憶の一部。
それが今の自分をみたらどうおもうだろう。
そして、ミトスも。
この地に自分達の記憶の一部を封じたとき、まだミトスは今のように堕ちていなかった。
国同士の争いを止めるために行動していたあの当時。
争いがなかなかなくならないのは、これが原因だ、とつきとめられたのはよかったのか悪かったのか。
「…炎をともしたことにより、この階にいるであろう魔物達は、聖なる燭台の炎の灯りにて、
  ひとまず抑えこまれている。今のうちに次の階にむかうがいいいだろう」
「でも、アステルが…」
「ここにいない、ということは、別の層に飛ばされている可能性もある。
  これに捕われた場合、どこに移動するかわからないはず、だからな」
リフィルの問いに答えるように説明しているクラトス。
「とにかく、あまり時間もないことだし。とっとといくならいこうぜ?
  たしか、タイムリミットは夜明けまで、とかエミル君がいってただろ?」
リフィル達の肉体が保つのはそれが限度、たしかそういっていたはず。
たしかにゼロスのいうとおりではあるが、
「魔物さんがいないなら、手分けしたこの階にアステルさんがいるかどうか探してからにしませんか?」
そんなコレットの台詞に、
「いや、それは危険だろう。封魔の石の近くにいればともかく。
  そうでないかぎり、自らのマナを消費しつつ、この世界では移動することになってしまう。
  下手をすれば、肉体を構成するマナすら枯渇し肉体すら消失しかねない」
「げ」
クラトスの言葉におもわずジーニアスがうなる。
それはかなり洒落にならないような気がする。
それはもうひしひしと。
「これが近くにあればその問題もないの?」
「その石は周囲の力をとりこむ性質があるからな。簡単な防御膜がかかっている、とおもえばいい」
確実、ではないが薄い膜が張られているようなもの。
「で、結局、どうするよ?ロイド君?」
「そうだな……」
どちらにしろ、この場にもしリフィルのように捉われているならば、声をかけても反応がないはず。
ゆえに、時間の制限はあるにしろ、ほうっておくわけにもいかず、
ともあれ、この階を一通りみて回ることに。

「おかしいなぁ……自分が幽霊もどきになってるのは理解できるけど」
しかし、一緒に吸い込まれたはずのリフィルの姿がいけどもいけどもみあたらない。
不可思議な空間、とでもいうべきか。
右も左も壁、という壁ではなく、むしろどちらかといえば、亜空間っぽい、という表現がしっくりくる。
意思一つで、体が透けたり、はっきりとするのだから、わからないほうがどうかしている。
まあ、研究院では、幽体離脱、という分野での研究もしていることから、
こういった現象がありえる、ということは見知っているがゆえに動じていない、というのもある。
「…あれ?こっちのほうから声がする…」
ふと、こんな空間なのに、とおもう。
さっきから、魔物とは異なるような魔物っぽい何かを多々とみる。
測定値をもっていれば計測することが可能なのに、ともおもうが。
さすがに意識を集中させても、そういったものはいくら精神世界面にちかいっぽいとはいえ、
やはり、そう簡単にものを創造できたりはしないらしい。
精神世界面においてはそれぞれの精神力によって様々なものを物質化できるのでは、
という予測もたてられていたが、どうやらその予測ははずれ、であるらしい。
まあ、力がたりない、という可能性も否めなくはないが。
完全に実体化するようにして力をいれれば、力が何やらごっそりと抜けるような感覚。
いろいろと試した結果、ある程度の姿を保ったままで、完全に実体化する手前があまり違和感を感じない。
ということにたどりつき、多少体が透けた状態ではあるが、一応人型をたもちつつ歩くことしばし。
「くそ!あの豚どもが!小癪な真似をしやがって!」
何やら聞きなれない声がする。
というより、こんな場所で人の声がする、ということ自体を疑問に思う。
「落ち着け、マグニス」
これまた別なる声。
「落ち着いていられるか!このマグニス様ともあろうものが、
  ニブルヘイムの豚どもにとじこめられちまったんだぞ!」
何やらその会話から、どうやら、ここに閉じ込められたというかすいこまれているのは、
自分達だけではないらしい、ということを理解する。
「だからこそ、落ち着けといっているのだ。このまま魔界に住みつくわけにはいくまい」
どうやら、声の質からして、男性が二人、らしい。
と。
「そうじゃ。おちつけ。せっかく、をらを達は封印強化の任を果たしたのじゃ。
  これでわらわたちの中から五聖刃の長を決めてくださる。
  ここで焦っては脱出できないぞえ?」
五聖刃?
それって、たしか、リフィルさん達がいっていた、ディザイアンの幹部の名?
ふとそのことにたいし、疑問に思うが、
「わかってる!だから早くこんなところを…」
見ればこの空間ににつかわしくない、人物が三人ほど。
「あの~、すいませ~ん」
どちらにしても情報がほとんどなきに等しい。
それゆえに、そんな彼らの姿が確認できるとどうじ、おもいっきり大声をだす。
「うん?なんだぁ?こんなところに…何もんだ?」
「ふむ。格好からして、どうやら白衣?…研究所のものではないのかえ?
  たしか、ユグドラシル様が幾人かすいこまれたとか何とかいってなかったかえ?」
「いや、気をつけろ。魔王達の幻惑かもしれん」
何やら女性…かなりの美人、ではあるが、がいい、何やらみおぼえのある人物がそんなことをいってくる。
「…あれ?もしかして、フォスティスさんですか?」
以前、イセリアの牧場にて、アステルは面識がある。
それゆえの問いかけ。
「なんじゃ、フォスティス、知り合いかえ?」
「いや、私はしらぬ」
「ならば、おそらく、先日のお主の行いによって助けだされたもののひとりかもしれぬの。
  どうやら魂のみがこの場に捕われているようじゃが。姿がすけておるの」
いいつつも、じっと、女性のほうがアステルのほうにとむきなおり、
「そこなお主、なぜにお主はここにいる?」
「え?それが、気づいたらすいこまれてたというか」
「やはり、犠牲者か」
「?」
そんな彼らの会話にアステルからしてみれば首をかしげざるをえない。
「しかし、まて。魔王の幻影でない、とはいいきれない。
  おまえ、担当部署はどこだ?」
「え?研究しているのは精霊に関してですけど……」
「あの部署か」
あの、といわれてもアステルには理解不能。
「あ、あの?フォスティスさん?ですよね?その、そこのお二方は?」
「ふむ。我をしらんかえ。我はプロネーマ。こやつがマグニスだ」
「え?」
たしか、マグニス、という名は、リフィル達が倒した、といっていた名ではなかったか。
だとすれば、まさか、とおもう。
自分が調べたかぎり、勇者ミトスは自らの記憶の一部をかの書物に封じ、
それを封印の鍵とした、とあった。
そして、さきほどの彼らの会話。
封印強化の任。
それらを考えると、彼らもまた記憶だけの存在、ということもありえるかもしれない、と。
少しの会話でそこまでたどり着けるアステルもさすがとしかいいようがないが。
ともあれ、
「あの。僕、ここから出たいんですけど、どうすればいいんでしょうか?」
「それは我らにも言えることだな」
「精霊研究部門に所属している、ということはお主も我らの仲間であろう。
  魂だけの存在になっている場合、我らの同族か否かというのが把握できないのが面倒じゃな」
肉体があれば、そのマナのありようで同胞かどうかはわかるが、魂にはそれがない。
「け。まあどうみても弱そうであるから敵ってことはなさそうだな」
「ともあれ、我らも脱出の方法を早く見つけ出す必要があろう。
  ユグドラシル様もきっと吉報をまっておられるはずじゃ」
どうやら彼らはこちらに対し、敵意はない、らしい。
もっとも、自分が戦えない、とみてとってのことなのかもしれないが。
「あやしいのはその後ろの燭台では?」
この場には不釣り合いなる燭台。
炎がともっていないにもかかわらず、ぽつん、とそこにある。
どうみてもこの空間には不釣り合い。
「じゃが、これにはいくら術をかけても炎はともらぬ」
いいつつ、プロネーマが術…火炎球ファイアーボールを放つが炎は瞬く間にとかききえる。
「そもそも、お主がかの石をなくしたのが原因であろうが?」
あの石をつかえば外にでられる。
そうきかされていたのに。
魔族達と戦ったことは覚えている。
が、気づけばもっていたはずの石がみあたらなくなっていた。
彼らがだした結論は、石を魔族が奪ったか、もしくは壊したか、というもの。
彼ら…この場に残されし、思念体でしかない彼らは知らない。
本体たる彼らは当時、その任を果たしたのちに、きちんと外…すなわち、現実にもどっている。
ということを。
「こういった、仕掛けの解除はよく、ソーサラーリングで解除できる場合がありますけど」
というか、古代遺跡などの仕掛けはほとんど、かの品物をつかわなければ解除は不可能。
王立研究院で疑似的に近しい威力をもつものを作りだして兼用してはいるが、
本物までにはいまだ到底及んでいない。
本来のアステルもその疑似ソーサラーリングをもっていた、のだが。
今は思念体でしかない以上、ないものをねだってもどうにもならない。
アステルのそんな言葉に、
「かの品はマナを込めて力となす品ときいておる。仕方がない。
  気はすすまぬが、フォスティス、マグニス、我ら三人の力をあわせ、これに炎を幾度かぶつけるしかあるまいて。
  お主は…どうもそのような姿、精神体でしかなければ術はつかえぬだろうしの」
もっとも、肉体があっても、アステルは術は使えない、が。
どうやら、魂だけの存在なので術が使えない、と勘違いされている、らしい。
「しかたねえ。ここからでるためだ、やるぞ!」
「…あ、なら、僕、何かないか、このあたりを探してきます」
「ふむ。気をつけるのじゃぞ?そもそもこの地であまり移動すれば、
  お主の魂そのものがこの空間にのまれかねん」
同胞、とおもっているがゆえにプロネーマの台詞も優しい。
これが、ヒト、だとわかればすぐさまに手の平をかえすであろうが。
アステルとしても、ハーフエルフだ、と聞かれたわけでもないので嘘をついているわけではない。
何もいわないほうが、うまくいく、ということがある、という典型的な例、といえよう……


「…これは……」
ロイド達が、黒き霧のようなものにつつまれ、本の中に吸い込まれてかなりたつ。
横にしているリフィルとアステルの体の発光もいまだに収まる気配はない。
「このままでは、二人の体のほうがもちませんけど、どうにかなりませんかね…」
横にいた研究者、すなわち、ここ医務室担当でもある人物がそんなことをいってくる。
「マナが流出しかけているのならば、マナの濃い場所に体を安置しておけば……」
「精霊研究部のマナ収束装置は?」
「あれはまだ、人をいれるまでの大きさには開発がすすんでいませんし」
もっともちいさな小動物を中にいれるくらいにまでは開発はすすんでいるが。
だからこそ、コリンが産みだされた。
周囲の微精霊達を結集し、新たな仮初めの器をもたせた人工精霊、として。
本来ならば、中に吸い込まれたものの器は、その器を核として、周囲に瘴気をまきちらす。
それがなされていないのは、一重にこの場にエミルがいるがゆえ。
エミルによってその流出が防がれているに他ならない。
そもそも、エミルの分身たる力がこめられたブローチもコレットとともに中にはいっている今現在。
それくらいのことは簡単にできる。
「エルフの聖地、とよばれし場所ならば」
「しかし、エルフ達は聖地には立ち入ることは許可しないだろう」
これまでも、彼らは研究したいから、といって交渉しているものの、一度として許可されたことはない。
「どうなさいますか?」
エミルにのみ聞こえるようにテネブラエ達が問いかけてくる。
すでに探していた品物をみつけた以上、全てのセンチュリオン達は、エミルの影の中にと待機している。
万が一、のこともありえる、という心配ゆえに。
「そうだね……、あの。何でしたら、僕が、この二人をエルフの里につれていきましょうか?」
「え?君が?」
「まあ、君はアステルによくにているから、エルフ達も許可するかもしれないけど……」
アステルにたいし、エルフ達が邪険にしないことは、彼らもまた知っている。
「ええ。このままだと、二人の肉体は確実に消滅してしまうでしょうしね」
自分が力を加えればそれはありえないが、それをすればマナを完全に扱える、といっているのと同意語。
まあ別バレタから、といって困ることもないような気もするが、しかし人は何をするかわからない。
特に、自分達の欲のために様々な実験を繰り返しているような組織ならばなおさらに。
「前にも里にはいったことありますし。それに、これをもっていけば、エルフ達も嫌、とはいえないとおもうんですよね」
いいつつ、エミルが指差すは、机の上におかれている一冊の本。
全ての原因であり、全ての発端。
そんなエミルの提案に、しばし王立研究院所属の従業員二人は、しばし顔をみあわせてゆく――


「…誰だ!?」
「え?」
気配を感じた。
何ものかが、石をもって中にはいってきた気配を。
だからこそ、意識を実体化していた。
そんな中、ふと気配を感じ、おもわず身構える。
いきなり声をかけられて思わず硬直する。
というか、自分はたしか、何か出口がないか、とうろうろといろいろそこにある品々を調べていたはず、である。
ある一角にきたときに、いきなり何か浮遊感のようなものを感じ、きづけばまったく再び別の場所。
何やら聞き覚えのある声。
ふと振り返れば、そこには、
「あれ?クラトスさん?」
クラトスは、幾度か研究所にやってきたことがあるので面識がある。
思わずぱちくりと目をみひらくものの、だがしかし。
「え?」
「誰かきたの?……って、あれ?え?え?」
思わず、目をみひらいたのは、アステルと、クラトス達の背後からでてきた少年とほぼ同時。
アステルは驚いたように目をみひらき、そしてまた、少年のほうも目をみひらいている。
「ええ!?いや、そんなはずないよね。うん、そんなはずはない。
  えっと、君は?僕は、ミトス。ミトス・ユグドラシル。えっと…あの御方のわけ、ないよねぇ?」
「…ミトス?」
ミトス、となのりし金髪の少年。
といってもアステルもよく見知っている少年がそう名乗る。
そんなミトス・ユグドラシル、となのった少年にたいし、クラトスがいぶかしんだようにといかける。
「何ものだ?お前は?」
「って、ユアン、剣をつきつけたらだめだって!…下手にそっくりだからびっくりしたよ。
  みたところ、君は魂だけの存在、みたいだね。この本に吸い込まれちゃったの?
  そこまで封印の力、弱まってるのかな……」
そういいつつおもわず顔をしかめるその少年。
「あ、えっと。僕はアステルといいます」
どうも、目の前の少年は自分の知っている彼、のはずなのだが。
まったくもって、こちらのことに気付いていないらしい。
というより、むしろ初対面のような対応をしてきている。
ならば、とおもう。
先にであった、あのディザイアンの幹部であったというマグニスやフォスティス達のように、
目の前の彼もまた、過去の記憶、というか思念体である可能性が高い。
「アステルっていうんだ。だよねぇ。…びっくりしちゃった。てっきり、その姿で表にでられたのかと」
そういって笑うその姿に邪気はない。
だがしかし、
「あれ?でも、外にでるなら、人としての名とかいってなかったっけ?センチュリオン達が」
何やらそんなことを確かあのとき、アクアが姉にいっていた。
ゆえに、首をかしげざるをえない。
「…まて、ミトス。もしや、とおもうが。そこの少年は、あの御方と姿が同じ、とかいわないよな?」
「え?そのまさか。髪の長さとかは違うけどね。そっくりだよ。
  だから僕、びっくりしちゃった。てっきり、ギンヌンガ・カップから出てきたのかと。
  でも違うのか。…なら、僕たちの本体はまだ大樹カーラーンを復活させてはいないのかな?
  だって約束したし。大樹がよみがえったら一緒に旅をしようって」
「…お前が一方的にいっただけだ、と私はにらんでいるのだが?
  お前達、姉弟はまったく人の話しをきかんからな」
赤い髪の男性…クラトスがいい、青い髪の男性がそんなことをいっている。
ギンヌンガ・カップ。
それは、アステルがずっと探している精霊ラタトスクがいるであろう、伝説の場。
ならば。
「…あ、あの?もしかして、あなたがいっているのは、精霊ラタトスク、のことですか?」
恐る恐るそれゆえに問いかける。
「あれ?ラタトスクをしってるの?」
「…だから、様をつけろ。お前は、ったく」
「え~?でも、ユアン。彼は友達だもん。友達に様づけとかはおかしいよ」
「…お前が一方的に友達になろう、と言いつのっているだけだ、と我らはきいたが?」
センチュリオン・ルーメンから。
苦笑しつついっていたのは記憶にあたらしい。
ゆえに、ユアンの突っ込みは間違ってはいない。
絶対に。
「でも、本当にそっくりだなぁ。髪のばすか、もしくは彼が髪を短くしたら見分けつかないよ。間違いなく」
しみじみ何やらアステルにとって聞き捨てならないことをいっているような気がしなくもない。
アステルは、自分にそっくりな人を約一名、知っている。
でもまさか、とはおもう。
「あ、僕は、その、精霊のことを研究していて。それで……」
「ああ、それで大樹カーラーンの精霊ラタトスクのことをしってるんだ。
  でも、大樹カーラーンの精霊のことは一般には知られていないはずだし。
  だとすれば、僕たちの本体がそのことを世間にいって、大樹を目覚めさせてるのかな?」
「あ、あの、大樹カーラーンは……」
この言い回しから、自分達が何をしているのか、というのは知らないっぽい。
だとすれば、とおもう。
「あ、あの。あなた達は、いつごろの記憶体、なんですか?」
「あ、僕たちが記憶ってわかるんだ。僕たちがこれを封じているのは、
  今まさに、テセアラとシルヴァランド。二つの戦争が開始されるか回避されるか。
  まさにその時、だけどね。どうもこのせいで戦争の気配が強くなってたっぽいから」
そういいつつ、
「戦争は回避できたの?たぶん、君、未来から、だよね?僕たちからみたら。
  君からみたらきっと過去、なんだろうけど」
「え。ええ。戦争は…そう。テセアラとシルヴァランドの戦争は終結しています」
今のところは。
もしも世界が一つになればどうなるかはわからないが。
しかし、シルヴァランドには、テセアラのような王家という主体、というか、
国を治めるべき立場たる組織がない。
身分差別にこりかたまっているテセアラ人がシルヴァランドと万が一、統合を果たしたとして、
そんな彼らを受け入れられるか、という疑念があるにはある。
まあ、どちらにしろ、彼ら神子の一行が…二つの世界の二人の神子達とその仲間達が、
精霊との契約を得て、どうなるかは、それは誰にもわからない。
アステルにすら予測は不可能。
彼らがいうには、精霊の楔を全て解放し、大樹の種子である大いなる実りにマナをあてがい、
大樹カーラーンを復活させる、とはいっていたが。
「でも、おかしいな。君が例の石をもっているわけでもなさそうだし。
  たしかに、この中に、封魔の石がはいってきた気配を感じたんだけどな……」
それも力のみちた。
少しまえに、完全でないそれを感じたことはあったが。
それは自分達がいる最下層よりも上のほうで何かをしていたことから、
おそらく、本体が封印強化という方法をある程度の力がたまったのをうけてほどこしたのであろう。
と予測はつけている。
首をかしげるそんなミトスに対し、
「お前はみたところ、幽体、すなわち精神体のみの存在らしいな。
  …まさか、巻き込まれたのか?この書物のもつまがまがしさに。巻き込まれたのはお前ひとりか?」
そういってくる青い髪の男性…ユアン、とよばれしそんな人物の問いかけにたいし、
「え?あ、いや。もう一人、その、リフィルさんってひともいたはず、なんですけど。
  ここにはきてませんか?一緒に巻き込まれたはず、なんですけど……」
「ここは、封印の最下層だからね。僕たち以外の人がきたのは、君が初めて、だよ。
  だから、てっきり、君が封魔の石をもっているのか、ともおもったんだけど……
  でも、何で、きみ、ここにたどりつけたの?」
「さあ?」
それはアステル自身がききたい、とおもう。
最も、事実は簡単なところにある、のだが。
アステルがこっそりとエミルからとっていた髪の毛一本。
その波動をうけて、書物のもつ力が多少緩和されたがゆえ、にすぎない。
もっとも、ここにはいるときに、その力はすでに霧散、してしまっているのだが。
多少のマナはまとわりついており、ゆえにリフィルにしろアステルにしろ、
すぐさまに魂の消滅、という形にはならなかった。
そんな会話をしている最中。
「…あ、上のほうの封印が解放されてるっぽい。これは、まちがいなく封魔の石の力」
ふと、上層部のほうにて封印が解除されたのを確認する。
聖なる力がこの地に一部ではあるが満ち溢れている。
それは、魂炎の力。
聖なるマナの光り。
「僕たちの本体がきたのかな?」
「だとすれば、我らの役目もようやくおわるな。
  そもそも、この封印は、封魔の石が完全に熟成するまでの仮初めのもの」
「しかたないよ。あれ以上、ラタトスクに負担をかけるわけにはいかないでしょ。
  これもそもそも、人が愚かにも産みだしてしまった魔界の小窓なんだから」
何やらさらり、と精霊ラタトスクの名がでてきた。
さらには、魔界の小窓、とも。
「僕たちの本体なら、姉様もこないかな~、僕、いい加減に姉様にあいたい……」
「しかたなかろう。マーテルはマーテルのすべきことがあるのだからな。
   そもそも、大いなる実りをラタトスク様よりうけとったのち、マーテルが守護につく、
   というのは彼女のもつ力ゆえに仕方がないことだろうが。
   彼女は、ラタトスク様より、世界樹の杖、を授かったのだからな」
「そうだ。まだ争いの火種が取り除かれたわけではない。
  そんな中、人が種子の存在をしればどうなるか。我らの本体もそれはわかっておろう。
  が、そこのものがいうには、争いは回避されているようだから、
  …くる可能性もすてきれないが、だが、大樹カーラーンはまだ復活していないのだろう?」
「え、ええ……、あ、でも、復活させようと行動している人達がいるのはしっています」
それは嘘ではない。
「あ、それって僕たちの本体のことだよね。きっと」
「あれからどれくらいの時がたっているのか、ここでは時がわからぬからな」
何やらそんなことをいっている。
彼らはどうやら知らない、らしい。
自分達が、何をしたのか。
まちがいなく、ここにいるのは、伝承にある、あの勇者ミトスとその仲間達、なのであろう。
勇者ミトスとその仲間達。
四人の天使達のうちの三人。
そしてまた、天界…すなわち、クルシスをうみだせしものたち。
再生の神子、という形式をとり、マナの転換、という方法をうみだしているものたち。
そして、神子をつかい、マーテル・ユグドラシルを復活させようとしている、ということすらも。

アステルが、最下層において、この地を封印しているものたち。
すなわち、ミトス達と出会っているそんな中。
「だぁぁぁ!なんなんだよ!ここは!」
理不尽。
まさに、理不尽、といってもいいとおもう。
下手にうごきまわれば、きがつけば、体がすけてくる。
クラトス曰く、それは魂炎の力が減ってきている証拠だ、という。
かといって、この地にいる魔物達はみたこともないものたちばかり。
しかも、何だろう。
その鳴き声が人のそれに近しいがゆえに、どうしても嫌悪感がぬぐいきれない。
ロイド達は知らない。
ここにいるものは、全て、もと、人であった、ということを。
クラトスは知って入るが、そのことを伝えてはいない。
無駄に彼らにこれ以上の罪の意識をもたせたくはない、という彼なりの想い、なのではあるが。
時として真実を教えないほうが罪となることもある。
おもわずロイドが愚痴をこぼす。
場所によってはそこにいるすべての魔物をたおさなければ、先にと進めない。
かといって、何もしないでいい階があるのか、といえばそうではなく。
それなりに頭をつかう仕掛けのようなものがなされている。
そのほとんどをリフィルがその思考でといているにしろ。
最も、クラトスの助言があればこそ、といえるのだが。
ごっそりと力がぬけてゆく感覚が半端ない。
というか、でてくる敵、が強すぎる。
そもそも、ほとんどの物理攻撃はきかず、何かしらの属性を秘めた攻撃でなければ通用しない。
かといって、それをつかえばさらに体の疲労感が半端ない。
あるいみでの悪循環。
ここにくるまでかなり強い敵とも遭遇した。
クラトス曰く、この禁書に封じられている魔族の一人、だという、ヘルナイト。
事前説明のあったとおり、たしかに闇属性の物理攻撃を主にしてきたが。
戦いの最中、時折体が透けてしまい、攻撃がまったく通用しなくなったりもした。
どうにか勝てたのは、ゼロスやクラトスの光属性の術があってこそ、といえよう。
「というか、あんた本当に神子だったんだよねぇ。とおもったよ。あたしは」
この中で、あるいみであまり力になれていないのはしいな、であろう。
精霊達を呼び出そうとしたが、声のみがきこえてきて、その場では自分達の力は利用できない、
そういわれた。
何でも、この場では、彼ら精霊達そのものが瘴気に侵されて狂ってしまう可能性が高い、らしい。
それでも光属性たる精霊ならばどうにかなる、とはいわれたが。
その肝心なる光属性の精霊とまだ契約は交わしてはいない。
唯一、あまり問題がない、といわれた闇の精霊では、完全なるダメージをあたえられない。
むしろ、下手をすれば相手を回復させる場合もあったりした。
ゆえに、精霊との契約前の本来の戦いかた。
属性を武器にまとわし、戦うという方法をしいなはとってはいるのだが。
クラトスとゼロスによる光属性の術、ジャッジメント。
クラトスが使用できるのは天使だからわかるとして、なぜにゼロスも、といえば、
クラトス曰く、真の神子たるものは、天使と同じ扱いであるがゆえに術が使用できるらしい。
もっとも、ゼロスも天使とあるいみ化しているのではあるが、当人がそれをいっていない以上、
他人がいう必要はないのでクラトスはそこまで説明はしていない。
そしてまた、コレットも使用できる、とのことだが、コレットはいまだに自分で意識してそんな術を発動させたことはない。
もっとも、そのようなものが使用できる、とはおもっていなかった、というのがあるにしろ。
「五層おりたところで、魔王ヘルナイトね…いったい、どれだけの奥があるのかしら……」
リフィルの盛大なるため息は、今後のことをおもうがゆえ。
そもそも、この中にはいってからどれほどの時間が経過しているかはわからない。
時間間隔がまったく捉えられない。
ここには、星も空もなく、不可思議な空間が広がっているのみ。
「もしかして、倍数字の層で何かあるのかな?」
「うげ。あんなのがまだ他にもいるってことか?」
ジーニアスの言葉に心底うんざりしたようなロイドの声がおもわず漏れる。
「それは次でわかるんじゃないかい?あれをいけば、次の層は十層目だし」
目の前には、燭台に炎をともされ、あらわになった転移陣。
ロイド達はしるよしもない。
この先に、自分達が倒した、かつての敵。
ディザイアンの五聖刃がひとり、マグニスの思念体がいる、ということを。
そしてまた、イセリアの牧場の統治者になっているフォスティス、
そんな彼らの長たるプロネーマがいる、ということを。


ある意味で、二人は今のところは仮死状態。
移動させるにしても、どう移動させていいのかわからない状態において、目の前で行われた不可思議な現象。
エミルが何やら水晶のようなものをかざすとどうじ、二人の体はまたたくまにと水晶の中にと吸い込まれていった。
「それは…?」
戸惑いの声をあげる研究者の問いかけにたいし
「ただ、この中に彼らを保護しただけですよ?」
正確にいえば、エミルのつかいしは、ちょっとした保存球のようなもの。
ちなみに大きさなどは関係なく、生物すらをも出し入れ自由。
もっとも、その中身がマナで満ちているがゆえにできる技といえる。
そうでなければ、まちがいなく生物は物質の中にいったとたん、ことごとく息絶える。
「さてと、あとは……」
ロイド達の動向を常に監視していた以上、ロイド達の気配が突如として途絶えたことに気づいたはず。
間違いなく、この辺りに彼らの同士達を派遣しているはず。
ならば、
「とりあえず、僕は二人の器と、これをもってエルフの里にむかいますね。何か問題ありますか?」
にこやかにいわれ、思わず顔をみあわせる。
「ちょっとまってくれ。…誰かを同行させる。ならば問題はないだろう」
どうして物騒におもえる気配をまとう本が中にあったのかはわからない。
だがしかし、研究所にあったのは事実。
持ち出し禁止の棚にあったものを勝手に部外者が持ち出しすることなどは本来許容できない。
しかし、誰か監視するものが傍にいれば話しは別。
特例、という形でどうにか物事を推し進めることも可能。
「たしか、今、シュナイダー殿がこられていたはずだな?シュナイダー殿ならば問題なかろう」
サイバックの王立研究院の所長たる彼ならば禁止棚の書物を持ち出したとしても問題はない。
きちんとした身元がわかっているがゆえ、またそれなりの地位についているものたちは、
時と場合によってはそれらの棚にある書物を持ち出すことを許可されている。
何やらエミルをそのままに、勝手に話しをすすめている。
そして、
「とりあえず、話しをつけにいってみる」
いって、一人が部屋を後にする。
「…どうなさいますか?」
この場にいる誰の目にも、すなわち人の視界にはうつらないように姿を隠し、
姿を現したセンチュリオン達が問いかけてくる。
「断れば面倒なことになりそうだな。まあ、問題はなかろう」
精神力がもたずに森の出入り口に戻されようが、それまで干渉する気はさらさらない。
それに何よりも、
「さて、ユアンに繋ぎをとるとするか」
どうせならば、とっととできれば封印を解除してほしいところ。
過去の自らと向きあい、その心にきちんとしたふんぎりをつければそれにこしたことはなし。
何よりも。
「いい加減ではあるからな。今後、オリジンがこちらの地上に実体化できずに枷がかけられている、
  というのは不都合でもある」
理を実行するにしても、精霊達全ての理も同時に書き直す必要がある。
それらはこの大地そのものに同調させる必要性があるのだから、本当にヒトというものはロクなことをしてくれていない。
「それとなく、ユアン達の耳に、我が禁書をもって、エルフの里にいくことを伝え聞くようにしろ。
  ウェントス」
「御意に」
風を司る、ウェントスならば、そのような情報をさりげに人の意識の中に組み入れることは可能。
そもそも、一緒に同行するものがサイバックの研究院所長ならば、
ヒトというものは目新しい話題、とばかりにとびつくはずである。
それがどこからの情報か、というのを疑問におもうことはなく。
こんな話しをどこかできいたんだけど、というような認識で周囲に促さずとも広めてゆくであろう。
こちらは、ただきっかけをあたえるだけ、でよい。


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あとがきもどき:
薫:ちなみに、補足~。
  本来の出現は、全四階層、二十フロア。
  五フロアにてヘルナイト。攻撃は闇属性の物理攻撃
  十で五聖刃。十五でリビングアーマー。二十層にて、ミトス・クラトス・ユアンとの三英雄との戦い
  となっておりますv(原作ゲーム基準PS2版にて)
  さてして、ロイド達がミトスとの合流&リビングアーマー戦…これ、はしょるかなぁ…(まて
  容量てきに長くなりそうなので、ひとまずここにて区切りです。
  次回で、ロイド達、禁書を脱出!ついでにユアンと再び合流(まて
  ではまた次回にて~♪

2013年9月10&11日(火&水)某日

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