まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやく、シンフォニアストーリー、ラストまでゲーム本編、過剰書きにメモ帳に書き上げ完了v
といっても、フラノールの街、からですけどね(苦笑。
ひとまず、クラトスルートと正規ルート、その他ルートのイベントも書きだし&メモも完了。
え?ラタトスクは?・・・あれはまだ手をつけてないです…あう…
ひとまず、来月ユニゾンパック発売ですし。
・・・・その前にPS3本体かわないとな。
というか、…十二月にドラクエさんの追加パッケージがでるんですが…
まだ、LVもイベントも全部こなしてないんだけどな…あう……
ともあれ、まえがきさんの話しは意味不明かもです。
でも、打ち込みするv
なんで?とおもわれるかもしれませんが。
これはひとつの複線ですv負の実体化がじわじわと迫ってますよ~というv
ともあれ、いっきますv負云々のネタはテイルズつながりのマイソロから~♪

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「くっ…こ、この世にこれ以上の力があるとは…ぬぉぉぉぉ!」
「は~は~…や、やったか?」
おもわず肩で息をつく。
がっくりと膝をつくアビシオンの体が、まるでぶれるように、幾度も幾度も点滅を繰り返す。
やがて、それはぶれるように二重になり、その姿を二つにと変化させる。
一つは、アビシオンそのもの、そしてもう一つは、さきほどロイド達が戦っていた、
黒き姿をしているアビシオンの姿へと。
「なぜに私の邪魔をする?お前達とて、その姿。
  王立研究院のものであろうに。それにハーフエルフ。
  あんな、失敗作が力をふるうより、私が、正当なるものがその力を扱うにふさわしいというのに」
黒いアビシオンからそんな声が発せられる。
「正当なる…ものだと?」
リヒターが何かを思い出したのか、おもわずつぶやく。
「そう。あれは失敗作以外の何ものでもない。数多なるハーフエルフと魔物とをくみあわせ、
  ようやくつかえるものができたとおもえば、我らに反抗せしもの。
  しかも、アレのせいで我らの一族まで役立たずよばわりした、テセアラ王室にマーテル教会!
  当時、私の先祖は、王立研究院の長を務めていたというのに、全ての責任を押しつけて追放したものたち。
  かの力をつかえば、クルシスですらテセアラの支配下におけるはずであったのに。
  しかし、そんな我らの一族を、テセアラ王室は首都より追放した!
  我らこそが、真なるテセアラの王位継承権をもっていたというのに、だ!
  我が先祖の無念をかつての力をとりもどし、果たすこと。それはすなわち、当然の権利!」
そして、いまいましそうに。
「力を分断し、我らの支配下におけるとおもいしときに、教会の…神子の妨害がなければな!
  おかげで武具はばらばらに。ようやく全ての武具が、力を分断したものがもどったきたのだ。
  お前達に邪魔はさせない!」
そうさけび、黒いアビシオンが襲いかかってこようとするが、
「…それは、違います」
よろよろとしつつも、意識をとりもどしたのか、アビシオンが起き上がる。
「私たちは、先祖が犯した罪を、つぐなうべきなのです」
よろよろとしつつも、黒い自らに語りかけるアビシオンだが。
「ふん。しかし、お前とてネビリムの力をもってして、王位を継承しようとしたであろうが。
  あらたな王朝、自らの王朝をな!」
「…たしかに。私は、今の制度が間違っている。とおもい、そう思ったのも事実です。
  しかし、そんな私の心が、魔族にとって格好のつけいる隙を与えてしまった……
  しかし、私はわかったんです。自分が魔族の力をつかい世界を支配しようとも、
  また同じようなことは必ずおこる、と。
  かつて、王室の密命でハーフエルフと魔物との合成物キメラを作成していたように。
  我ら一族は、そのような愚かなることを再び起こさないようにするために。
  だからこそ、闇の装備品を全て封印すべきなのです。
  魔物は通常の力ではどうにもなりません。闇の…魔族の力がない限り、は」
「しかし、再び同じことを王国はしている。十年ばかり前、再びそのような出来事がはじまっている。
  だから、お前は力をもとめたのだろう?王国を、自らがかえるために」
アビシオン同士の会話は、リフィル達にとっては衝撃ともいえる。
もっとも、ロイドのみは意味がわからないのか、首をかしげているようではあるが。
「…アステル、リヒター、どういうことなのか詳しくあとで教えてもわうわよ?」
王立研究院に所属している彼ら二人。
彼らならば今の会話の意味の説明ができるはず。
リフィルにあるいみ睨まれ、アステルとしても苦笑せざるを得ない。
今、アビシオンがいった台詞は、まぎれもなく、研究院の闇の部分、
すなわち、テセアラの闇の部分に他ならない。
「魔の力はあらたな魔の力をよびこむ、というのが私にはわかったんです。
  あの伝説の冥王プルートが現れたように……」
「力にはより強大な力をもって支配しなければ何もかわらんだろうが」
そんな二人の会話をききつつ、
「違う!」
思わずロイドが口をはさむ。
力で支配するなど間違っている。
それは、まるで、まるで…今のクルシスのありようとまったく同じ。
だからこそ反射的にと叫び返しているロイド。
「何が違うというのだ。人でも、エルフでも、ましてやハーフエルフですらない世界のどの種族かもわからぬものよ」
「は?俺は人間だぞ?それより、力は力で解決するなんてまちがってる!話しあえばかならずわかりあえる!」
「戯言を。話しあいと生じて罠にはめる。それが人ではないか。
  我らの先祖もそのようにして、呼び出され、そしていきなり反逆者の汚名をきせられて、追放され、
  身近な血族はすべて、テセアラの手により処刑されたと伝え聞いている。
  権力をもちしものが、話に応じるはずもなかろう。全ては力でねじふせるのみ」
「…たしかに、そうかもしれない。けど、そうでないかもしれない。
  あなたも、そうか。私、なんですね。私は…自分の心にある闇を認めようとはしなかった。
  そう。私は常におもっていました。なぜ、私たちの一族だけこのような目に…と」
いいつつも、ふらつく足取りでもう一人の自分…今ならばわかる。
この黒い自分は、自らの心に救っていた闇の心、そのものだ、と。
闇、というよりは…負の心だ、ということが。
「そう。クルシスに天界にたいしても、我らが勝手にそのようなことをしでかした、とかつて彼らはいった。
  人々にもそのように発表がなされた。ゆえにわれら一族はひっそりと日陰を生きるしかなかった」
しばしそれまでそんな彼らの会話をだまってきいてはいたが、
「で?結局、おまえさん達は何がしたいんだ?俺様達の邪魔をするならば容赦はしないぜ?」
一歩、前に進み出て、そんなことをいっているゼロス。
「もう、神子様、そんないい方はないとおもいますよ?」
「「神子…だと?」」
アステルの言葉に、二人のネビリムの声が、同時に重なる。
「過去は過去、今は今。…まあ、今の国王陛下がなってない、のは事実だけどな」
何しろ争いをさけて、ひたすらに傍観主義、になっている国王である。
事なかれ主義、ともいう。
「…なぜ、神子がそのようなものたちとともにいる?」
「なあに。世界もかわるってことさ」
「…あんたにしてはいいことをいうね。そうさ。あたしたちは、そのために旅をしてるんだ」
めずらしくまともなことをいうゼロスにたいし、しいなが一歩前にとでる。
「あなたた達の先祖がうけたという屈辱はわからなくもありません。
  ですが、その真実をあなた達が声をださないかぎり、まちがいなく国は、
  そんな事実はなかったものとして、またあなた方の先祖の名誉回復も保障しないでしょう。
  ネビリムさん。あなたがそんなに過去におこった出来事にたいし詳しいのは何か資料か何かが。
  のこっているからではありませんか?それを公の場にだすことにより、
  かつての過ちも人々に知らしめることができるでしょう。
  それを僕にだまされたとおもって預けてみてくれませんか?悪いようにはしませんから」
にこやかにそんな彼らにとアステルが言い放つ。
「……その白衣。お前も王立研究院に所属している研究者だろうに。
  にもかかわらず、人とハーフエルフ、そしてそのどちらでもないものとともにいる、というのか」
負を具現化し誕生している人格だからこそわかる。
そのマナのありようが。
本来ならば、エルフなどでなければわからないマナのありかた。
が、負ももともとは、闇に属するもの。
そしてここは闇の神殿。
その力も増している。
だからこそわかるものがある。
人でもなく、エルフでもなく、ハーフエルフでもないにもかかわらず、マナが歪んでいない、不思議な存在。
人の姿をしてはいるものの、人ではありえない存在。
・・・最も、彼らは知らない。
その当事者たる本人がまったくそのことに対し、無自覚である、ということを。
しばし、互いによる見つめ合いが続けられ、しばらく後に何やらうなづきあったかとおもうと、
そのまま、二人のアビシオンは、再び重なるようにと一つになってゆく。
負が具現化した人格も、心の奥底では望んでいたこと。
それは、過去の真実を白日のもとに世に知らしめたい、という思い。
…もしも、研究院が発表するならば、それは国が認める、ということ。
だからこそそのあたりの利害が一致したがゆえに融合を果たしたにすぎない。
負の心も、偽りのない心をいったアビシオンの心も、彼の思いには違いは…ない。

光と闇の協奏曲 ~王都からの使者~

「あああ…せっかくの貴重な研究材料が……」
「…先生」
がっくりとしているリフィルに対し、何といえばいいのかわからない。
「では、これは研究院で預かりますね。しかし、ここに書かれているのは、
  かつて失われたテセアラの歴史、ですね」
ネクロノミコン、とおもわれていたそれは、どうやらネクロノミコンではなかったらしい。
どちらかといえば、かつてテセアラで行われていた実験の数々のその詳細。
そしてそれにともなった実験結果などが書かれていたに過ぎない。
それをちらり、とみたリフィルがおもわず顔をしかめたのはいうまでもない。
何しろそれは、人を人とはあつかわず、また、多くのハーフエルフを犠牲にして行われていた実験の数々。
アビシオンは自らを見直す旅にでます、といいあの場から立ち去った。
残されたは、彼がもっていた、リフィルがネクロノミコンと勘違いした一冊の書物。
リフィルが自分がもっていたい、といったものの、しかしリフィルのほうは、きちんとした研究施設があるわけでなく。
結果として、やはりというべきか、研究院に所属するアステル達がそれを預かる方向にて落ち着いた。
権利をもらえなくて、がっくりと肩をおとしているリフィルをみつつ、
呆れたような口調で苦笑いをするしかないロイド達。
ジーニアスに関してはもはや諦めている、というような表情をしてはいるが。
「それより、テネブちゃんがいきなりでてきておどろいたね~」
「…あたしは、魔界の魔王ともいわれている、冥王プルートとよばれしものがでてきたのに驚いたよ」
コレットがのほほんといい、しいなが疲れ果てたようにぽつり、とつぶやく。
そんなしいなの言葉に、はっと我にともどり、
「そうよ。あのプルートとなのりしものよ!あの威圧感!あれはまちがいなく、
  エルフの伝承の一つにありし、魔界を全ている、という魔王プルートだというの?
  だとすれば、そんな存在が敬意を示していたあのテネブラエとかいう彼は、
  間違いなく、例のセンチュリオンで間違いない、とみてもいいわね」
「でも、テネブちゃんがいたのにエミルはいなかったね~?どこにいるんだろ?」
「この闇の神殿の中にはいないんじゃないか?いたらこっちにくるだろうし」
一方でそんな会話をしているコレットとロイド。
「しかし、闇の装備品、というものが手にはいったのは収穫だわ」
「…先生……」
ことばたくみに、アビシオンが旅にでる、といったときに全ての装備品を譲り受けたリフィルは、
ある意味さすが、としかいいようがないが。
「その装備の数々に関してはまだ不明なんですよね。
  あ、でもサイバックの研究室の施設をつかえば、性能はわかるとおもいますよ?
  一度、皆さん、サイバックにこられませんか?それに、あと残りの精霊は光の精霊のみなんでしょう?
  …さきほどの言葉もきになりますし」
精霊との契約がおわった後、という感じのことを、あのテネブラエ、となのっていたものは確かにそういっていた。
それに、ともおもう。
「それに、おそらく、これだけ地震が続いていますし。何か報告があがってるかもしれませんし。
  神子様がたの旅の何かの役にたつ情報がはいっているかもしれませんよ?
  世界の情報を集めるならば、研究院はもってこい、ですからね」
「…伊達に世界各地に人員が派遣されてはいないが……」
しかも、今現在はアステルの進言もあり、自分達のようなハーフエルフもまた施設からでているはず。
アステルの言葉につづき、リヒターがぽつり、とつぶやく。
たしかにアステルのいい分はわかる。
わかるが。
「…アステル。して、本音は?」
自分からあそこに一度戻ろう、などいいだす時には必ず何か裏がある。
それゆえにリヒターがおもわず反射的に問いかけるのは間違ってはいない。
もっともそのような事情はロイド達がしるよしもないが。
「え?僕はただ、これがあれば、ときどき発生する、という。
   学術図書館の行方不明事件の解決口にならないかな、とかおもってないよ?」
にこやかに笑みをうかべていうことではない。
絶対に。
「…おもってるんだな」
その言葉をきき盛大にため息をはきだすリヒター。
たしかに、この十年ばかり、時折、かの場所で行方不明者がでることがある、という。
それも、月単位であったり、年単位ではあるが。
この中に何か解決策になりえるようなことが書かれているかもしれない。
そう、たとえば、古の隠し施設、などとかに関してなど。
「で、どうするの?ロイド?」
「へ?何が?」
「…はぁ。話しをきいてなかったのね。アステルがいうには、一度、
  サイバックの研究施設にもどって情報をあつめ…もとい、整理してみてはどうか、といってるのよ」
「どちらにしても、次なるルナとの契約で精霊との契約は完了するんだ。
  そうすれば、あのレネゲードがいっていたとおりなら、大樹を復活させることができるんだろ?」
「精霊との契約がおわった後、世界がどうなるかはわからぬ。今一度、それぞれの意見を話しあうためにも、
  たしかに、落ち着いた場所に移動する、というのはよいだろう」
きょとん、とするロイドにリフィルが説明し、しいな、リヒターがそれぞれ意見をいってくる。
「研究院ねぇ。…まあ、いいんじゃないか?」
ゼロスとしても少しきになることがある。
セレスがもっていたあの石。
身につけただけで体が回復するような石など、ゼロスは聞いたことすらない。
否、一つだけあるにはあるが…しかし、あれは、と。
もしかしたらそのあたりの情報もかの場所にならあるかもしれない、ともおもう。
かつて、ラタトスクが人々にあたえし、マナを凝縮せし石。
ネルフィスこと、人がいうところのエバーライト。
あのとき、エミルに確認してみたが、笑みを浮かべるだけで正確なる回答が得られなかった。
ゼロスはたまたま家の書物でかの伝説の鉱物のことをしっている。
が、今の時代、その伝承の欠片すらほぼのこっていないのもまた、事実……


サイバック、王立研究所。
ここにくるのは何だか久しぶりのような気がする。
もっとも、つい先日は王都にある研究所のほうへ出向く用事があったにしろ。
「しかし、地震の被害がかなりでてきているわね……」
改めてみてみれば、大地にも、そしてまた、ところどころ崩れたがけなどもみてとれる。
さらに、家などの石垣もこわれ、簡易的な応急処置がなされている所も。
「…何だか、不思議な感じです……」
「?プレセア?」
ふと、町にはいり、プレセアがぽつり、とつぶやく。
「…って、げぇ!?あ、アステル博士!?」
ふと、一行が進んでゆく中、すれ違いざまに一人の青年が思わずアステル達の姿をみとめ思わず叫んでくる。
「あれ?えっと、たしか、君は。あ、そうだ。たしか君はホレス、だったよね?」
「…お前、変なところで研究所にいる人々の名はしっかりと把握してるんだよな……」
そんな人物にたいし、リヒターが呆れまじりにぽつり、とつぶやく。
「ホレス…まさか…、あなたは…!」
その姿をみて、思わずプレセアが傍からみてもわかるほどに一瞬硬直する。
「?プレセア?どうかしたの?」
そんなプレセアに気づき、ジーニアスが声をかけるが。
「ん?僕がどうかしましたか?…って、あれ?君は、プレセアさん?
  って、そんなわけないか。プレセアさんは僕よりずっと年上のはずだしね。ごめんね。お嬢ちゃん」
プレセアの姿にきづき、ホレス、と呼ばれた青年がそんなことをいってくるが。
その言葉に思わずロイドがプレセアをみる。
「…ほとんどのもには、かのことは知られてないんだよ」
しいながそんな彼らの心情を代表してか、ぽつり、とつぶやく。
この街で、実験が行われていたことを知っているのはごくごく一部のものたちのみ。
いまだに中枢にすらはいっていない研究院所属見習いの彼らが知るはずもない。
「あ、アステル博士!僕は、あなたを尊敬します!あなたの発表された数々の功績は疑いようがありません!」
「あはは。そんなことないよ。そういえば、君の妹さん、だっけ?音楽家になるために勉強してる、
  とかいってたとおもったけど、あれからどうなったの?」
…伊達に、研究所の中でも情報収集をかねてひたすらに会話を様々な人にしているわけではない。
目をきらきらさせて、アステルにいってくるそんなホレス、とよばれし青年にたいし、
アステルがにこやかにとといかける。
「はい。この間連絡がありました。もしかしたら、次の発表会に出られるかも、と!」
「それはよかった。ならもしそうなったらそのときには上司に休みがとれるようにかけあってあげるよ」
何やら二人してそんな会話を繰り広げているが。
「あ、あの。今、プレセアって……」
ジーニアスが戸惑い気味にととそんなホレスにとといかける。
「ん?ああ。人間違いだよ。ごめんね。僕が幼いころ暮らしていたオゼットで、
  仕事で家を空けがちだった両親のかわりに、僕ら兄妹によく世話をしてくれたお姉さんがいたんだよ。
  その人にその子がよく似ていたから、でもそんなはずないよね。
  プレセアお姉さんは、もうすぐ二十八になるはず。きっと結婚して子供も産まれてるんだろうね。
  気がかりなのは、先日、オゼットが何ものかに壊滅させられた、ときいたことだけど……」
「…やっぱり、ホレス…じゃあ、妹の名はジャネット……」
顔を曇らせたホレスの言葉に、プレセアがぽつり、とつぶやく。
「え?妹のことをしってるの?あ、もしかしてプレセアお姉さんたちの親戚か何かかな?
  そういえば、プレセアお姉さんの妹のアリシアはアルタミラに奉公にあがってるって、
  昔噂できいたことがあるよ?もし親戚なら一度訪ねてみればいいよ」
「・・・・・・・・・」
その言葉に一瞬、何ともいえない沈黙が訪れる。
姉の名がプレセアで、妹がアリシア。
まちがいなく、プレセア当人のことを、目の前のこの人物は話している。
そしてまた、プレセアが今、本来の年齢であれば何歳なのか。
今さらながらにロイド達は自覚する。
否、してしまう。
今、たしかに、彼はプレセアは二十八になる、といった。
すなわち、それが意味することは…今の肉体年齢のときからずっと、プレセアの時はとまったままであった、
ということを暗に示しているに他ならない。
「このホレスは研究院に先日はいってきた学者の卵なんですよ。
  研究院にはそういう学者の卵として採用されるものが多々といますが。
  実際に採用されるのはごくわずかです」
アステルの説明に、くるり、と背をむけ、
「そう、ですか。…ロイドさん達、いきましょう」
そのまますたすたとその場をかるく頭をさげたのち歩きだす。
そんなプレセアに対し、
「あ、ああ。…プレセア、このままでいいのか?ホレスに本当のことをいわないのか?」
あきらかに、今の彼はプレセアのことをいっていた。
目の前にその当事者がいるのに、ともおもう。
だからこその問いかけ。
「いいんです。今のホレスに私という存在を示しても意味のないことです。
  失われてしまった時間はもどってきません。混乱させてしまうだけです……」
下手をすれば、怖がられてしまう。
それこそ、歳をとっていない、ということで、化け物、と。
「でも。ホレスはオゼットのお姉さんにあいたい、とおもってるよ。きっと」
「…オゼットのお姉さんは、もう、いないんです。
  あの子の中のプレセアお姉さんは、普通の人間。私は…村の人達に化け物、と呼ばれていました。
  だから…いいんです」
「違う。それは違うよ!プレセア!」
そんなプレセアにコレットが涙まじりの声で必至に抗議の声をあげてくるが。
「…いきましょう」
いくら違う、といわれても、止まっていた時間は疑いようもなく。
もしも慕ってくれていた人に化け物、とよばれればと思うといえるはずもない。
弟のように思っていた。
だからこそ、怖がられたくはない。
「しかし、いくらシルヴァランドの神子よ。お前が違う、といっても。
  人はそうはみない。昔のまま姿のかわらぬものをみれば、人は異端、とみなし迫害する。
  下手をすれば問答無用で化け物、魔物だといい排除しようとする。
  …人の話しもきかずに、な。それが人、人間というものだ」
そう、ただ自分達と違うから、という理由で、問答無用で排除する。
それが、人。
だからこそハーフエルフは迫害されている。
ここ、テセアラでも、シルヴァランドでも。
「…何で、自分達と少しでも違うものたちをうけいれようとしないのかな……」
「…人だけでなく、全てのものが、かわらないと、それは難しいわね……」
うつむき加減につぶやくコレットにたいし、リフィルが自らに言い聞かせるようにと話しかける。
と。
「神子様!!ああ、よかった、こちらにおられたのですね!」
ふとみれば、兵士らしき人物がこちらにかけってくるのがみてとれる。
「え?神子…様?その、赤い髪…ま、まさかあなた様が神子ゼロス様!?
  し、しらないこととはいえ、御無礼をいたしました!
  …さすが、アステル博士ですね。神子ゼロス様とともにいるとは!」
あわててその場にひざまづき、いきなり礼をとりはじめるホルスの姿。
「俺様は別にきにしないぜ?そうか、あんたがあのジャネットちゃんのお兄さんかぁ」
「あんた、しってるのかい?この子の妹?」
「おう。大概メルトキオにやってきた女の子のことなら俺様が知らないものは……」
「あんたにきいたあたしが馬鹿だったよ!」
いつものようなあるいみ掛け合い漫才のようなものをはじめるゼロスとしいなとは対照てきに、
息をきらせてはしってきた兵士が少し離れた場所でたちどまり、再敬礼をしたのちに。
「神子様、国王陛下がおよびでございます。神子様に出会えたらお城に出向くように、と」
そんな兵士の言葉に眉をひそめ、
「おいおい。それこそおかしくないか?陛下直々に俺様の顔は二度とみたくないとかいってたんだが?」
「それは…ともかく、我々は神子様に御力添えを必要とすることがおこったから。と。
  伝達するように、と大臣や陛下から直接指示がありまして…
  詳しい内容は我々も…申し訳ありません。し、しかし、我々はけっして神子様に害を加えようとはしておりません!
  なので、身の丈三メートルもあるというスピリチュア様の再来に我らを喰わせることは何とぞ!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・」」」
今、何かとてつもないことをいわなかったか?
この兵士は。
「ふえ?」
無言で思わず視線をコレットにむけたがゆえ、コレットがその場にて首をかしげているのがみてとれる。
「…まあ、何だ。とにかく、先にいってみたほうがよくないか?」
スピリチュアの再来、とおもわれているのはコレット。
その話しがどうしてそんな誇大して広まっているのか。
そもそも、喰わせるって何だ?とはおもうがあまり詳しくきくようなことでもない、とおもう。
逆をいえばきいてしまえば何となくではあるが後悔するような気がする。
それはもうひしひしと。
「…はぁ。仕方ねぇ。俺様はひとまず、屋敷にもどって、セバスチャンから報告をうけたのち、
  それからどうするかきめることにするわ。御苦労だったな」
「は!神子様からねぎらいの言葉をいただけるとは、ありがたき幸せ!失礼いたします!」
再び敬礼し、その場をたちさってゆく兵士の姿。
「さて、と。というわけなんだが。先に研究院にいくか、それとも王都にいくか、だが」
「わざわざ伝令兵を派遣している、というこは何かあったのかもしれないわ。
  研究所は何かあったのか確認してからでも遅くはなくて?」
「あ。なら、その武具らは僕があずかっておきます。神子様達がもどってくるまでに。
  その武具の性能や属性などをできるだけ詳しく調べ終わっているようにしますので」
「魔将ネビリムの力が失われている、とはおもえないわ。そんなものを調べても平気なのかしら?」
アステルのいい分にリフィルがいうが。
「僕らのところの研究は精霊だけを研究しているわけではないですからね。
  魔物などを研究している部署もあれば生物そのものを研究しているもの。
  また、自然界を研究しているもの、マナを研究しているもの、と様々です。
  人が使用する以上、何かしら外部にもわかる変化、というものはあるはず、なんですよ。
  短い期間でどこまでそれらを解明できるか、それは僕ら研究者の腕のみせどころです」
きっぱりとそういわれてしまえば、それ以上リフィルとしても断れない。
そもそも、リフィル一人が研究するのと、設備も施設も整っている場所で研究するのとではどちらがいいか。
何もしらない素人がみたとしても、どちらが最善かは一目瞭然。
「…わかったわ。しばらく、あなたにこれらを預けます。ロイド、あなた達もそれでいいわね?」
「…つうか、なんか勝手に話しがすすめられてないか?」
「仕方ないよ。ロイド。でも、専門で研究している人達なら、武器が人を操るとかいう伝説の真偽も、
  解明してくれるかもしれないし」
もっとも、真実を知ればしったで自分達がどのような判断を下すのか、それはこの場にいる誰にもわからない。
「んじゃまあ、レアバードでひとっとび、といきますか」
ゼロスの言葉に誰ともなく同意をしめし、ともあれ一行は再びレアバードにて王都へともどることに。
「…しいな、今度は失敗とかしないよね?」
「な!前の失敗を今いわなくてもいいだろう!?」
「それは問題ないわ。今度の操縦は自動操縦ではないのだから」
「……リフィル。あんたもさらり、と毒づくね……」
かつて、レアバードにて王都に…しかも、町の中に着陸した。
ここ、テセアラに初めてきたときに。
どうやら彼らはそのときのことをいまだにすこしばかり記憶していたらしい。
しいなからしてみれば、忘れてほしい出来事、なのだが。
そんなたわいのない会話をしつつも、それぞれレアバードにのり、王都テセアラへとむかってゆく、
ロイド・コレット・ジーニアス・リフィル・しいな・ゼロス・リーガル・プレセアの八人。
レイバードの機体は四つ。
それぞれ二人づつ乗り込み、そのまま空をつきすすんでゆく――

「ゼロス様、テセアラ十八世陛下の使者がお待ちでございます」
王都、テセアラ。
ここ、テセアラの中心地であり、また、首都でもあるこの街。
そんな町の中にとあるゼロスの屋敷に戻ると、ワイルダー家の執事がそのようにつたえてくる。
「ここにも、か。俺様の顔など二度とみたくないとかいってたくせにねぇ?
  まあ、伝令兵すらだしてたくらいだ、話しだけはきいてやる。案内しろ」
「応接間にてお待ちでございます」
どうやら、伝令兵だけでなくわざわざ屋敷にまで人をいつ戻るかわからないのか向かわせていることから、
何らかの差し迫った何か、がおこった、とみて間違いはないのではあろうが。
しかし、あの国王が、恩を着せるわけではないが、助けたにもかかわらず、
お礼をいうどころか二度と顔をみたくない、といった人物がだしたという命。
勘繰らないほうがどうかしている。
いぶかしがりながらも、使者がまっている、という応接間へ。
「神子様にお知らせいたします。陛下が大至急、神子様の御力を乞いたい、と仰せでございます」
ゼロスの姿をみとめ、びっと最上礼をとりつついってくる使者たる存在ものの姿。
敬礼をしつつ、
「是非、お城におこしください、ということです」
「何かあったのか?」
そういう使者の台詞に対し、ゼロスが問いかける。
「それは…この場では……」
そう言葉をにごし、そして、周囲をはばかるように、小声にて、
「……事は、ヒルダ姫様のお命にかかわることでございますので……何とぞよろしくお願いいたします」
何やら物騒な台詞がでてきたのは気のせいではないらしい。
命にかかわる、とは穏やかではない。
「姫の、ねぇ。どうするよ?ロイドく~ん?」
「そうだな。気になるし、城にいってみようぜ。先生達も、それでいいよな?
  というか、なんで先に俺にきくんだよ……」
いきなりどうする、といわれても。
それに、人の命がかかわっている、ときかされて断れるはずもない。
それゆえに即答し、それでもおそるおそるリフィルにと問いかけるロイドの姿。
「コレット、あなたはどうしたいの?」
「え、命にかかわる、というんだったらほうってはおけませんし。気になりますし」
今、この世界における自分達の立場のありかたは、
シルヴァランドの神子の護衛、という立場を国に対してはとっていた。
まあ、嘘はいっていないので問題はないが。
しかし、この世界での神子のありようを考えれば、やはり神子の意見を優先している、
といったほうが何かと亀裂ははいらないであろう、というのはこれまでの経験でもよくわかった。
かつての再生の旅と今の真の意味での再生の旅。
それにたいする神子の発言の力の有無がかわったわけではない、とリフィルはおもっている。
ただ、一つだけいえるのは、あのまま、コレットが命をおとしていたとすれば、
それは逆に世界が…二つの世界が滅亡しかねない、とわかった今は、
コレットが命をなげだすことにたいし絶対に賛成はできはしないが。

城にこうしてくるのはこれで三度目。
一度目のときは、感情を失ったコレットを救うべく、国王にこの世界を旅する許可を得るための謁見の場として。
二度目は、国王がマーテル教、教皇に毒をもられている、ときいたとき。
そして、今、この三度目。
まあ、念のため、以前に不敬罪、といわれてもおかしくないことをしでかしたロイドやジーニアスに対しては、
城に向かうにあたり、今一度、礼儀作法、というものをことごとく口をすっぱくしていいきかせたが。
ジーニアスはともかくとして、ロイドがどこまで理解できているのかが不安材料。

「神子か!よくきてくれた!」
神子が姿を表すとどうじ、それまで玉座に座っていたはずのテセアラ国王。
国王自らが椅子をたちあがり、ゼロスの前にとでむいてくる。
そのこと自体があるいみ、礼儀作法からしてみればありえないこと。
もっとも、それはあきらかに神子の立場というか位の扱いが、
国王とほぼ同格であることを示している、といってもよい。
それほどまでに、ここ、テセアラでの神子の立場、というものはかなり重い。
国王もそれをわかっていたがゆえに、神子を疎んじていたのもまた事実。
何しろ、国王、という職務は、誰でもできるが、神子はそう、ではない。
天界にみとめられ、しかもクルシスの輝石をもちしうまれし天使の子でなければ勤まらない。
天使の子がそこにあるだけで、ここテセアラの繁栄は約束されているといってもよい。
何か事がおこれば、まちがいなく民は王家、ではなく神子につくであろう。
それをしっていても、神子の手配を許したのは、教会と権力争いをしたくなかった、という理由から。
教会内での面倒事にかかわりたくなかった、ともいえる。
それがどういう結果を招く、とか何もかんがえずに許可をだしたといってよい。
最も、そのせいで、民にはさらに王家にたいし不満を抱かしてしまったのではあるが。
何しろ、かつての伝説のまま、スピリチュアの再来、として天使がここテセアラに降臨した、という。
しかも、神子とともに。
それが意味することは、かつて王家が神子をないがしろにしたときの歴史が物語っている。
ことなかれ主義が招いたことなのか、そのあたりはわからない。
しかも、そのスピリチュアの再来、とよばれているものは、シルヴァランドの神子、という。
かの地は救いの旅をしていた、という。
繁栄世界を反転させるため、の。
完全に再生の儀式は完了していないようではあるが、しかし天使の力はあきらかに宿している模様。
それは、繁栄世界の神子にのみゆるされし、天使の力、のはず。
その力をやどせしシルヴァランドの神子。
ここ、テセアラの神子、ゼロスの力を国王はみたことはないが、しかし輝石をもってうまれ、
そして三歳の折りに儀式をすませている以上、人ではありえない、ということは自覚はしている。
だからこそ、あまり積極的にかかわってこなかった。
自分達とはことなる、天使の子、天使の使者だ、という理由で。
「いやいやいや。私の顔をごらんになるのはもうごめんだとうかがっておりましたゆえ、
  お目にかかるのも心苦しくおもっておりましたが」
ゼロスもそんな国王の思いをかつてはわからなかったが、歳とともに理解し、
だからこそあまり王家にはよりつかなかった。
ゆえに、ちょっとした嫌味をいうくらいは許される、とおもう。
そもそも、真実、ゼロスは目の前の人物にそのように直接、いわれたのだから。
そんなゼロスの言葉をうけ、
「神子様!何と無礼な!」
背後に控えていた国王陛下の側近たる大臣の役職についてる人物が何やら叫んでくるが。
彼もまたあるいみで同罪、といえるであろう。
彼もまたゼロスをさけていた人間の一人、といってもよい。
彼らは、ゼロスを一個人、としてではなく常に神子、として、人ではないもの、としてあつかってきた。
だからこそ名を呼んだことはない。
常に、神子、と呼んでいる。
人でないものの名を呼ぶ必要はないだろう、という何とも傲慢なる理由にて。
「無礼?ゼロスに助けてもらっておいて、お礼の言葉もなしに、
  さらには二度と顔もみたくない、とかいって追いだしたくせに、何をいってるんだ!」
おもわずそんな自分勝手なるヒトの言葉にたいし、かちんときてジーニアスが叫び返す。
姉にいわれ、礼儀云々は理解していたつもりではあるが、
それでも、やはり人とは愚かでしかない、とおもう。
権力云々、というあたりがいまだによくピンとはこないが、しかし。
大衆を束ねし立場のものがこのような態度であるからこそ他の人間の態度もかわらないんだ。
という絶望感もわいてくる。
「……返す言葉もない。だが、神子よ。厚かましいことは承知の上。そなたに頼みたいことがあるのだ」
そんなジーニアスの言葉に、一応はそういうものの、心底反省している、という気配はまったく見当たらない。
それどころか、さらり、と話題をかえて話題をふってくる。
何ごとにも順序がある、とおもう。
それが人のありかたであり、礼儀だ、とおもう。
まず、必要なのは、何をどうしてほしい、という言葉や、謝罪の言葉。
それがあるからこそ、人は人たりえる、というのに。
それすらを忘れてしまっている彼らはあるいみで、心を完全に失っている、といってもよい。
「ヒルダ姫様がかどわかされた!」
国王の言葉につづけるように、大臣が有無をいわさず、何やらそんなことをいってくる。
「かどわ?」
「……誘拐された、ということよ。ロイド……」
かどわかされる、の意味がわからないらしく、首をかしげるロイドに、
ため息まじりにぽつり、と説明をいれているリフィル。
前みたいに不敬罪、と捉えられない行動をして、問答無用で処刑というか罪になるような真似はしないように。
そう散々いわれたからか、今までだまっていたロイド。
まあ、たしかに、口を開けば確実に不敬罪としかとらえられない口調でしか話せないであろうロイドでは、
だまっているほうが確実、といえばいえるのであろうが。
「ええ!?誘拐!?」
何やらおもいっきり驚いているロイドをさらり、と無視し、
「ヒルダ姫が?それはまことでございますか?」
そこにいる国王と、そして大臣に確認するかのようにといかけてるリーガル。
あるいみさすがといえばさすがの判断の問いかけ。
これ以上、ロイドにいらないことをいわせないための、問いかけ、ともいえる。
「おお。ブライアン。そなたもそういえば、神子達の一行に加わっておったな。
  そうじゃ、ヒルダが…我が娘が教皇騎士団に連れ去られたのじゃ」
無罪になったにもかかわらず、自らの罪を罪、として常に自らを罰しているというのは、報告にあった。
あのとき、多発していた異形なるものが起こした凶行をとめるには、
そのものの命を断つしかない、というのはその時にはすでに暗黙の了解となっていた、にもかかわらず、である。
王家としても、家臣に力をつけさせようと、エクスフィアを装備させ、
異形となりしものがいたがゆえに、原因がエクスフィアであることはしっていた。
ただ、それを公表していないだけ。
真偽のほどを確かめさせるために、王立研究室にて研究はさせるように指示はしたが。
「…あいつら、まだ悪いことをしてたのか」
というか、こりていない、とおもう。
やっぱりあのとき、とり逃がしたのが間違っていた、とロイドはおもわずつぶき顔をしかめる。
あのとき、あの場にて取り押さえられてさえいれば、姫様が浚われる、
というようなことはおこらなかったはずなのに。
と。
数えるほどしかあったことがないが、あの綺麗なお姫様が危険な目にあっているのが、
もしかしたら自分の行動の結果かもしれない、とおもうといたたまれなくなってくる。
あのとき、どうにかすれば逃がすことなくとりおさえることができたかもしれない、
とおもうからこそその思いは余計に。
「それで?どうして私が呼ばれたのでしょぅか?」
まあ、たしかに。
ヒルダが浚われたことは大問題であろうが、そこでどうして神子の力が必要。
と彼らがいってくるのかがわからない。
否、わからなくはない。
相手があの教皇だとすれば、考えられることは、ただ一つ。
「奴らは神子とヒルダ姫を交換せよ、といっている」
そんなゼロスの疑問というか予測を裏付けるかのように、大臣が淡々といっくてる。
「ちょっとまてよ!それはゼロスに身代りになれっていってるのか!」
「…ロイド…申し訳ありません。陛下…」
リフィルがそんなロイドの態度にコメカミをおさえ、ひくひくと顔をひくつかせているのがみてとれるが。
「かまわぬ。こちらが理不尽なことをいっているのは承知の上。
  しかし、我々とて神子を失うわけにはいかぬ。
  ヒルダと交換するとみせかけてきゃつらを一網打尽にしたいのじゃ」
それでなくても最近つづく、頻発する地震。
民からは、神子を教皇が手配などかけたからでは、という不安がたかまっている。
そんな中で、神子を自分の娘の命がかわいいから差し出します、といって、民が納得するともおもえない。
さらにいうならば、先日の、スピリチュア再来、の噂はあっという間にその場にいあわせた兵士の証言もあり、
ここ、テセアラの間だけでなく他の街などにも急激に広まっている今現在。
そんな中で、王家が神子にそのようなことを強制…とまではいかなくても、依頼した、とおもうとすれば。
これ以上の災害が起こりかねない、というのがほとんどのものの総意。
もっとも、国王自らとしては、今現在、地震が多発しているのは、神子を手配したからではない。
とおもっているのだが。
事実、理由は異なるが、しかし民からすればそう、ではない。
地震が多発している、すなわち天災がつづく、ということは、天界を怒らしたがゆえ。
おそらく、その余波を見抜けなかった、その前兆としてかつての異常気象がおこっていたのでは。
という話しすらまことしやかにささやかれている今現在。
「そんなにうまくいきますか?いや、いくでしょうか?」
そんな国王の言葉をきき、おもわずしいながぽつり、ともらす。
王家が以前から、神子に関することを傍観していたことを、このしいなは知っている。
ゆえに、口ではそういうが、子供かわいさにゼロスを生贄にさしだしかねない、という気持ちもある。
はっきりいって、しいなは今の王家をまったくもって信用していない。
…まあ、以前、幼少時にゼロスのもとで、さんざん王家に連なるものがゼロスにたいし何をしていたのか。
それをしっているからこそ、ともいえるのではあるが。
「…はぁ。いいぜ。別に」
「ゼロス!本気でいっているのか!?」
「ゼロス、本気でいってるのかい?」
ゼロスの言葉に対し、ロイドとしいなの突っ込みが同時にかさなる。
「何にしても、ヒルダ様には非はないわけだろう?
  それに教皇の連中に決着をつけるチャンスじゃねぇか」
「それは……」
「……わかった。ゼロスがそういうんだったら…協力しよう」
たしかに、ゼロスのいうとおり、なのだろう。
だからこそしいなは言葉につまる。
つまるしかない。
しいなは、あの姫君にあまりいい思い出はない。
ゼロスの護衛についていたとき、かの姫は、自分のことを、
「ああ、あなたがあの噂のみずほの里の死神、ですか」そういってきた。
そしてまた、「あたが傍にいればゼロス様にも死が近づいてしまいます。とっととおかえりなさいませ。
死の里に」
そういわれたあのときの台詞を今でもはっきりと覚えている。
出会うたびにそのような口調でいわれていればよい印象をもっていないのも至極当然といえるであろう。
ロイドからしてみれば、当事者であるのはゼロス。
あるいみで仲間であっても部外者である自分が口をだせる立場でもない、ともおもう。
逆に、関係ないから、といってほうっておこう、といえるような問題でもない、とおもう。
事は、人の命にかかわっている、のだから。
だからこそしぶしぶながらも、ゼロスのいい分にも一理あり、うなづくしかないロイド。
「では、神子様とその共のもの達は兵士達とともに、グランテセアラブリッジへむかってくれ。
  教皇騎士団はそこにあらわれる」
大臣のその言葉をうけ、
「わかった。じゃ、いこうぜ。日付の指定は?」
「それは……」
きけば、相手は日付の指定、までしてきていたらしい。
だからこそ、日にちも時間も限りあることから、伝令兵などを総動員し、
神子であるゼロスを探していた、らしい。
指定されている日付は本日で、時刻は夕刻。
あるいみで、この日、ゼロスがやってきたことで国王にしろ大臣にしろ、
ほっとしたのはいうまでも…ない。

グランテセアラブリッジ。
テセアラのある大陸と、他の大陸をつなぐ、海をまたいだ巨大なる橋。
それの動力力としているのが、三千にもおよぶエクスフィア達。
この橋はただの橋、ではなく、要所、要所で吊り橋のように跳ね上がるように設計がなされている。
ちなみに、その設計、建設を担当したのは、いうまでもなくレザレノ・カンバニーであり、
この設備の設計を生み出したのはリーガル・ブライアン。
レザレノ・カンバニーの会長職にあり、今はロイド達とともに旅をしているリーガル当人。
ゆえに、リーガルはこの、ブリッジ…つまり、橋のことは熟知している。
本来ならば安全面のために機密、にしている制御室。
しかし、教皇がそこを指定した、ということは制御室に手のものが入り込んでいる可能性がある。
そういわれ、なら、あたしが、といいしいなが率先し制御室へと出向いていった。
テセアラブリッジを進んでゆき、その中心部。
その中心部でまつことしばし。
時間からすこし遅れ、目的の人物…教皇騎士団の制服に身をつつんだ兵士達の姿があらわれる。
そしてとりかこむように、みおぼえのある女性の姿も。
しかし、違和感もある。
どういった状態で浚われたのかはわからないが、ドレス…しかもどうみても、城できていた服のまま。
謁見室でかつてみたドレス姿にてかこまれている女性に何となくだが違和感を感じるリフィル。
いつ、浚われたのかはわからないが、それでもおかしい、とおもう。
ドレスはざっとみるかぎり、ほつれも何も汚れすらもみあたらない。
しかも、何かマナがおかしい。
まるで、何か歪んでいるかのごとくに。
まるで、そう。
エルフの秘術の一つ、他者にその姿を模倣する、その術をつかっているときのごとくのマナの歪み。
しかし、あれとはまた異なるもの。
まさか、とリフィルが口をはさむよりも早く、
「神子とヒルダ姫は同時にあるきだせ。交換がおわったところで橋をつりあげる」
相手の兵士…教皇騎士団の制服に身をつつんだ兵士らしき人物がそんなことをいってくる。
すなわち、それが意味することは…
「……ゼロス、大丈夫かな?」
「…大丈夫…かな?」
ロイドは気づいていないが、ジーニアスは気づいたらしい。
つまり、リーガルの懸念、すなわち、この橋の管制室に彼らの手のものが紛れ込んでいる可能性。
そのことに。
ゆえに、ロイドとジーニアスの台詞はほぼ同じなれどその意味合いは全く異なっている。
ロイドは意味を理解していないがゆえに、ゼロスの身を心配しいっているのに対し、
ジーニアスは一人で別行動をしているしいなを心配しての台詞だったりする。
「わからないわ。油断しないで」
そんな二人に対し、警戒を呼び掛けるリフィル。
もしも、リフィルの懸念があたっているとすれば、この取引そのものがすなわち、罠である。
ということ。
ならば相手が何をしでかしてくるかわかったものではない。
そんな中、ゆっくりと、橋の中央あたりにてゼロスと姫らしき人物がすれ違う。
と。
「!おまえ、姫じゃね~な?」
すれ違いざまにすぐに違和感に気づき、ゼロスがすれ違った王女の姿をしている女性にと語りかける。
「…わた…私は…!」
その言葉にあからさまに動揺したそぶりをみせるその女性。
姿形、そして服装はまぎれもなく、ヒルダ姫のそれ。
しかし、
「俺様の目はごまかされないぜ~?姫はもうちょっとスレンダーなんだからな!」
何というか、体格が違う。
否、違わないのかもしれないが、決定的な部分がことなっているというべきか。
ぼふん。
「ケイト!?どうしてケイトがここに!?」
ゼロスの言葉とほぼ同時に、効力がきれたのか、ヒルダ姫の姿をしていたそのものの体が煙にとつつまれる。
しいながここにいれば、それはみずほの里につたわる、変身術の一つだ、と説明があったであろう。
煙の中からあらわれたは、ヒルダ姫ではなく、ロイド達もよくしっている人物。
先日、とある事情でオゼットに送り届けたはずの女性。
だからこそ驚きの声をあげているロイド。
彼女の手配がかかっているのかどうかはわからないが、
牢獄から脱獄させていたのは事実。
彼女も率先してオゼットからでてくる、とはおもえない。
ふとみれば、様子がおかしい。
「…逃げ、て。父は…教皇は…神子様も…姫も…殺すつもり…です」
ケイトが、逃げて、というと同時に、その体が崩れ落ちる。
どうみても息があらくなっている。
姫の姿をしていた女性…ケイトがそう言葉を発するのがわかっていたのか、
ケイトの背後にいた兵士達が一斉にケイトにと武器をかまえているのがみてとれる。
「くそ!あいつら!」
さすがに相手が何をしようとしているのかはわかる。
すなわち、ケイトを殺そうとしている、というのは一目瞭然。
ゆえに、一言叫んだのち、そちらにと駆けだしてゆくロイドの姿。
「あ、まちなさい!ロイド!もう、仕方がないわね……」
他にも潜んでいるものがいるかもしれない。
ゆえにリフィルが思わず止めようとするが、すでにロイドはかけだしており、
それに続いてジーニアスもまた駆けだしていっている。
兵士の剣がケイトに降り下げられようとするが、そんな剣をキン、とした音とともにゼロスが抑え込む。
それとほぼ同時、駆けつけたロイド達と、
教皇騎士団の制服を纏った男たちと、それぞれその場にて、ちょっとした小競り合いが開始されてゆく。

「毒をもられているな。大丈夫か?」
どうにか騎士団達を撃退し、その場にうづくまるケイトの傍にちかよってみれば、
息もあらく、今にも意識をうしないかけている。
みれば、口からは血がでており、視点もどこか虚無気味。
「父は…ガオラキアの森…に…」
それでも、意識を失いかけてもなお、これだけはいなわければならない。
とおもい、気力だけでどうにか意識を保っていたのであろう。
それを伝えるとともに、抱きかかえているロイドの腕の中で、かくん、と意識を失うケイト。
「お、おい!しっかりしろ!」
そんなケイトの様子にあわててロイドが叫ぶ。
顔色が悪い。
肌の色がだんだんとどす黒く変色してきているような気がするのはロイドの気のせいか。
「リカバー!!……大丈夫。まだ間に合うわ。メルトキオでちゃんと治療してあげましょう」
その変化があきらかに毒によるもの、と判断し、即座に解毒の術をケイトにかけているリフィル。
「スペクタクルで状態を調べてちょうだい。ジーニアス」
「あ、う、うん。…姉さん、この人の状態…衰弱状態になってる。
  あと、まだ毒の効果が……」
「…普通の術では解毒しきれない、ということかしら。厄介ね……」
「しかたねぇ。…あまり気はすすまねぇが、こいつを俺様の家につれていって治療するしかねえだろ。
  …こいつが教皇の娘、というのはその筋のものは知っている。
  そして、こいつが教皇とともにどんなことをしていたのかも、な」
マーテル教会の権力者たる教皇に面とむかって文句をいうものはいなかったが、
それでも、民の間に不満があることは事実。
弱者をひたすらに虐げる法を教皇は行使した。
それらがあまり多くないのは一重にゼロスの尽力があってこそ、ともいえる。
だからこそ、教皇はゼロスを目の上のタンコブ扱いし、邪魔におもっていた。
力なきものをすべてないがしろに贄とし自らの権力を求めていた教皇にとって、
マーテル教、すなわち、クルシスの使いともいわれている神子の存在はあきらかに邪魔であった。
だからこそ、彼が幼き日、彼を恨む彼の母親の妹をたきつけて、刺客をはなった。
もっともそれは失敗におわってしまったが。
そして、その刺客は今現在も延々と教皇の手により時をおかずとしてよくしむけられている。
今現在、共に行動しているリーガルですら、教皇の口車にあるいみのってしまったほど。
最も、リーガルも教皇がしてきていた様々な悪事を完全に把握していたわけでなく、
今はしいなからいろいろときき、自らの判断の過ちを悔いているのではあるが。
「くそ!教皇め!自分の娘のケイトを自分のこんなことのためにばかり利用しやがって!」
「しかし、急いだほうがいい。今日高たちは、いつ姫をなきものにするかもしれぬ」
ロイドが憤慨したようにおもわず叫ぶ。
たしかにリーガルのいうとおり。
「ガオラキアの森、だったな。いこう」
兵士にことづけてケイトを首都に運んでもらってもよかったが、
しかし、ケイトがどういう理由からかはわからないが、すくなくとも、
姫の姿を騙っていたのは事実。
王家の名をかたること、それすなわち重罪に値する。
ゆえに問答無用で罪人、として再び捉えかねない、というしいなの意見もあり、
ならば、というのでゼロスとしいなが共に一度、首都テセアラにケイトをつれて戻ることに。
しいな曰く、おそらく、ケイトが呑まされているのは、里につたわりし秘薬の可能性がある、らしい。
ケイトが使用していたという変身術。
それは、里につたわりし他人の姿を模す変装術、であったらしい。
それは、ケイトの懐から人型のような紙がでてきたことからしいなは完全にと確信した。
そんなものがつかえるものといえばかぎられている。
あれからくちなわの動きがみえない、とおもったらどうやらいまだに教皇の元にいたらしい。
そのことにきづき、しいながおもわず顔をしかめたのはいうまでもないこと。

「ゼロス様、よろしいのですか?この女性は…お嫌いなのでしょう?」
「…いいんだよ。彼女も昔、俺のおふくろを殺したあのハーフエルフも、教皇の犠牲者だ。
  …あいつの娘っていうだけで嫌うっていうのは、ちょっとやめてみることにするわ。
  …だからといってこいつのしたことが許されるかどうか、というのは別問題だけどな」
「判りました」
「……神子様……」
屋敷にもどり、執事にとケイトをまかし、レアバードにてガオラキアの森の入口にてロイド達と合流する。
目指すは、森にいる、という教皇の一味を今度こそ、捉えること。


「まて!な、なぜ、この場所が…そうか、ケイトだな!あの裏切りものめ!」
森の奥。
倒した騎士団の一人がもっていたとおもわれし地図のようなもの。
そこに印がかかれており、その場はどうやらガオラキアの森のすこし奥まった場所。
そのあたりの森はあまり深くはなく、また魔物も比較的少ない…といわれていた場所。
なのではあるが、ここ最近はこのあたりも魔物がふえ、再調査の必要がある、と研究院ではいわれている。
待ち合わせの場所にやってきたは、もくろんでいた石、ではなく、その中身つき。
クルシスの輝石は持ち主が死なないかぎり、当事者から引き剥がすことはできない、といわれている。
もっとも、当人が取り外そうとして自らの意思で取り外したりすることに問題はないものの。
無理やりに引き剥がそうとすれば、そうしようとした存在が不可思議な死をとげる。
と古よりいわれている。
そのあたりの研究もすでにここ、テセアラでは解明されており、
神子がつけているクルシスの輝石の台座。
それにどうやらちょっとした仕掛けがあるらしく、強制的に云々、という形をとった場合、
それが発動し、輝石の力が相手に逆流し、相手のマナを狂わすことがある、という研究結果がでているのも事実。
だからこそ、教皇はクルシスの輝石を欲した。
強大なる力を秘めている、とあきらかにおもわれるそれ、を。
しかし、クルシスの使いでなければ、輝石は使用できない。
ならば、誰でも…そう、自分でもつかえる輝石を開発すればいい。
そう考え、そして知識をとある存在よりうけ、そして実行した。
クルシスの輝石を、ハイエクスフィアを人工的に産みだすその実験を。
その実験にあたり、疎んじていた娘を利用したのは、彼女がもつエルフの知識は確実ゆえ。
なのに、彼らがここにいる、ということは、再びあの娘は自分を裏切ったということ。
それでなくても、様々な実験の責任をおわせ、処刑を決めていたというのに。
その牢獄から逃げ出し、さらに今。
ゆえに忌々しく言い捨てる。
「裏切りもの、だと?ふざけるな!ケイトの心をもてあそび、踏みにじりやがって、もうゆるさねぇ!」
そんな教皇の台詞にロイドがかっとなり、剣の柄に手をかけるが。
「まぁまぁ、あつくなるなって。教皇さんよう。もういいかげんに諦めなって」
そんなロイドをいなしつつ、ゼロスが教皇にむきなおり、一応説得する。
一応はいまだ、目の前の男は国王より罷免、という立場をとっていない以上、
これでもマーテル教会の教皇の立場にいるもの。
それゆえの問いかけ。
「ふん!この国は、元々わしのものだったのだ。それを取り戻そうとして何がわるい?」
それはあるいみ、ゼロスからしての精一杯の譲歩、だったのだが、
そんな優しさをきっぱりきってすてるようにいいはなつ。
「はん。やっぱりあの噂は本当だったのか」
「?噂って?」
意味がわからずに、首をかしげているジーニアス。
「教皇は、前国王が平民に手をつけてうませた子供だっていう噂だよ。
  それがあってこいつは一足とびに教皇にまで出世したってその筋じゃ話題になってた」
疑問におもっているらしきジーニアス達に、しいながそれとなく説明する。
それはみずほの里ではあるいみで有名すぎること。
事実、裏付け調査をかつてしたらしく、それが事実だ、ということを里のものはつかんでいる。
「そうだ。今のぼんくら王が死ねばこの国はわしのものになるはずじゃった。
  それを、神子よ!お前が邪魔をした!」
それはどうかんがえても逆恨み。
「だからって、どうして御姫様を誘拐するんですか!?」
コレットからしてみれば、関係ない人を巻き込んだ時点で信じられない。
そもそも、どうしてそんなことのために他者を、ましてや自らの身うちすら巻き込むのかも理解不能。
せっかくの親子、血縁者だ、というのに。
相手が自らを疎んじて遠ざけていたり、また敬遠しているわけでもない、というのに。
「姫に用はない。わしはこの娘をつかい、神子の宝玉と王座を手にいれたかっただけだ!」
そう。
姫すらをも輝石の力をもちい、傀儡にしてしまえばすべてはうまくいくはずであった。
体内にアレをのませればある程度成功はする、というすでに実験成果は得られている。
そのために、傀儡用の装置も開発させた。
その効能はかつて魔物や人にて実験済み。
エクスフィアをくみこみし、他者を洗脳し従属させし装置。
それさえつけてしまえばこっちのもの。
「だから、俺様をよびだしたのか」
いくら、神子の偽物を仕立てようと、そこにクルシスの輝石がなければすぐに判明する。
しかし、ともおもう。
こいつ、失念してないか、とも。
神子が、不可解な死をとげたとき、クルシスの輝石は、今までの歴史上、
綺麗さっぱりいつのまにか消えてしまう、というその事実を。
それは、クルシスがその力を人につかわせないようにしむけているシステムの一つ。
「ここで貴様らを始末すればまだチャンスはある!傭兵ども!こいつらを倒せ!
  報酬の額を倍にしてやる!かかれ!」
その言葉とともに、どうやら奥のほうに控えていたらしい。
幾人かの傭兵らしき人物がわらわらとでてくるのがみてとれる。
「?騎士団の姿がすくないわ…」
「ふん。あいつらはくちなわのやつが用事があるからといってつれていっておるわ!」
「!やっぱり、くちなわとあんたは!」
その言葉にしいなが目をみひらく。
しいなはしらないが、彼らをつかい、里にくちなわは襲撃という名の教皇側につくように。
しいなを時期頭領になど間違っている、と訴えにいっているのだが。
そもそも、以前、里から罪人として捉えられていたのにもどってきて、
さらには武力でそのようなことを力づくでいうことをきかせようとすれば里のものがどうでるか。
それすらをもくちなわは失念している。
その結果、ことごとく撃退をうけ、騎士団達は壊滅し、くちなわのみ逃げおおせていたりするのだが。
今のしいなやロイド達がそんなことを知るよしもない。

「お…おのれ……」
やはり、金ではらったものはそれなり、ということなのであろう。
そもそも、まともな思考の持ち主ならば、神子に逆らうということがどんなことなのか。
ここ、テセアラで知らないものはまずいない。
にもかかわらず、お金に目がくらんだこのものたちは、どちらかといえば考えがないものたちばかり。
かつて、同じようなことをしたがために、国と、そして近隣の街などが天使の手によって、
ことごとく壊滅した、という史実があるにもかかわらず、である。
すべての雇っていた傭兵達はロイド達の手により排除された。
目の前にはがっくりと膝をつき、いまいましげにロイド達をにらんでいる男性。
「よし。おまえをこのまま、メルトキオにつれてゆく」
「いたよ。お姫さん」
そんな中、この近くに姫がおそらく幽閉されているはず、というので、
しいなとプレセア…このあたりのことはプレセアが詳しい、というので道案内をたのみ、
結果として別行動をしていた二人がヒルダ姫をみつけこの場に戻ってきたのと、
ロイド達が全員を倒し、ゼロスが教皇に武器をつきつけるのはほぼ同時。
「ああ、よくきてくれました」
しいなたちにつれられて、この場にやってきたヒルダ姫。
どうやら今度は本物らしく…ゼロスの姿をみとめ、何やら場違いなはずんだ声をかもしだす。
「いや、そんな」
しかし、それはゼロスに向けられたものにもかかわらず、自分にむけられた、
とおもったらしく、おもいっきり照れているロイドの姿。
…どうみても、また考えてもロイドにいっている、ということはありえない、というのに、である。
「ゼロス!あなたなら私を助けてくれると信じていました!」
目をきらきらさせ、そういって手を旨の前でくんで夢見る乙女のような表情でかたってくる姫君の姿。
「…悪いな。ロイド君」
そんなロイドにとどめとばかりの言葉をなげかけているゼロスに、
あきれたような視線をむけているジーニアス。
「う、うるさい」
「というか。姫様がロイドに話しかけるはずないじゃん。ばっかだなぁ」
ジーニアスですらわかる。
そもそも、自分達がテセアラの姫と会話したときなど、たかがしれている。
そんな自分達をまっていた、など誰がいうものか。
と。
「こ、これは!神子様が姫様をお助けくださったのですか!?」
あの場にいた、すなわち、偽の取引現場にいた兵士達からの報告で、
あらたに兵を編成し、この森にとむかわせていた国王達。
だが、やってきた兵士達がみたものは、すでに倒されている面々と、
…どこにもっていたのかわからないが、なぜか縄でくるぐるまきにされている教皇の姿。
何でも、この先に、狩猟小屋があり、ちょうどいいから、という理由で、
しいながそこから失敬してきたらしく、暴れられても面倒。
という理由でそのまま教皇を気絶させしばりあげるのとほぼ同時。
「そうよそうよ。教皇はメルトキオに連行してくれ。さあ、姫。兵士達がお城へお送りいたしますよ」
いいつつも、姫にたいし、礼をとるゼロスに対し、
「ゼロス、あなたは?」
不安そうに、それでいてすがるようにと語りかけてくるヒルダの姿。
「私もあとからまいります。ご安心を」
その言葉をうけ、ほっとした表情をうかべ、それから何かおもいついたのか、ぱっと笑みをうかべ、
「わかりました。ブライアン公爵。それにお供のものたちもありがとう」
そのまま、兵士達につれられ、護衛されつつも、ヒルダは王都への帰路へとつくことに。
そんな彼らの後ろ姿をみおくりつつ、
「…何か、納得いかね~」
どうみても、彼女にはゼロスしかうつっていなかった。
じぶんたちはまるでおまけ、とばかりのあの態度。
ありがとう、といったが、そこにあまり感謝の気持ちが感じられなかったのは気のせいではないであろう。
「はん。いけすかない姫様だよ」
ここにくるまでも、やれ、死の里のものがなぜだの何だの、
と散々いわれていたしいなである。
ゆえにそう愚痴をいってしまうのは仕方がない。
「まあ、いいんじゃねぇの?んじゃ、国王陛下に報告にいこうぜ」
「そうね。いつまでもここにいてもね。一度、もどりましょう」
「あ、あの。ここまできたから、せっかくだからミトスのところに……」
リフィルの言葉にたいし、ジーニアスがとまどいぎみにといってくる。
「たしかに疲れたな。よし、そうしようぜ」
「…まったく。まあ、相手はレアバードがない以上、たしかに一日くらいは問題ないのかもしれないけど」
結局のところ、そろそろ夕刻で、日もくれかけており、
レアバードで移動するにしても、体もやすめたほうがいい、という理由もあり。
今日のところは、この近くにとあるアルタステの家にとむかって休むことに一行は合意することに。

「よくきたな、神子!ブライアン公爵、それに神子の共のもの達よ」
翌日。
王都にもどり、城にとでむくと、謁見室に通され、国王自らがそんなことをいってくる。
こんどはどうやら王座にすわったまま、何やらいってきているようではあるが。
その横の王座というか玉座…本来ならば王の妃がすわるべき場所にはヒルダ姫がすわっている。
「…だから、共じゃないんだってば」
少し離れた位置にて、リフィルにむりやりにぐいっと頭をさげさせられたロイドがぽそり、とつぶやく。
散々いっているのにもかかわらず、どうもこのロイド、いまだに礼儀作法の云々がわかっていないらしい。
「でも、僕たちがコレットの共、というのはそのとおりだよね?もともとは」
「…そういや。コレットも神子、だったね」
さらに正確にいうならば、村をおわれ、半ばむりやりにおいかけてきた、といったほうが正しい。
そんなジーニアス達の会話をきき、しいながおもわずぽそり、とつぶやく。
ゼロスも神子ではあるが、コレットも神子。
テセアラの神子とシルヴァランドの神子。
それを考えればたしかに、国王のいう、神子の共のもの、というのはあながち間違いではない。とも。
頭をさげたまま、小声でそんな会話をしているロイド、ジーニアス、しいな達。
リフィルからしてみれば気が気ではないが。
どうやら小声なので相手のほう、すなわち玉座のほうにまでは聞こえていないらしい。
それがあるいみ救いといえば救い。
「教皇はあらためて罷免され、尋問を行うことになりました」
「これで本当に教皇の件はかたづいたんだな?」
国王が自ら声を発することなどは本来は滅多とあってはならないこと。
ゆえに形式にのっとり、かわりに側近である大臣がゼロス達にむかっていってくる。
ゼロスもそれが当然、とばかりに大臣にむけて何やらいっているようではあるが。
「そういうことですな」
どうやらこの大臣も思うところが多々とあったらしい。
まあ、これまでもこっそりと神子と連携し、教皇がどのようなことをしていたか。
というのをしっていたがゆえ、といえばそれまでだが。
…その仲立ちにアステルがかかわっている、というのはともかくとして。
「……わしは、考えをあらためることにした。今日高のようなものにつけいらせぬためにも。
  今一度、教会と神子と、手をた携える施政を行いたい。どうじゃ、神子。協力してくれぬか?」
しみじみとうなづきあっている大臣と神子をしばらくみたのち、
国王がゆっくりと、しかしどこか深く疲れたようにして言葉を発してくる。
教会の、否、クルシスの、天界の怒りが怖いから、粛清、天罰をうけるのは困るから。
という理由で無関心でいたがゆえにおこった今回の出来事。
そもそも、もっとはやくに国王自らが…ゼロスがかつて暗殺されかけた、
ゼロスの母親が殺されたときにこの国王が動いていれば自体はここまでならなかったであろう。
少ししらべれば、あの刺客もまた牢獄の中で今の教皇の手により口封じのために殺されていた、
のだから。
少ししらべれば、そのとき、面会にかのものがやってきてさしいれをわたしている。
というのまではわかった、というのに、である。
相手が教会のものだから、という理由で捜査も何もしなかった、王国の不手際。
「そいつは、こいつらとの旅がおわってからの話しだな。……ただ」
「ただ、何だ?」
めずらしい、とおもう。
神子がこのように言葉を濁し、さらにはいいよどむ、など。
だからこその国王のといかけ。
「……教皇が強制的に施行したハーフエルフ法を何らかの形で撤廃してくれ。
  人にしろハーフエルフにしろ、悪いやつは悪いが、いい奴もいる。
  ハーフエルフだけが法で問答無用、というのはおかしいからな。……それだけだ」
「ゼロス……」
ゼロスの言葉をきき、しいなが何やらいいたげに言葉をもらす。
ジーニアスはしんじられない、とばかりにゼロスをみているが。
よもやゼロスがそのようなことを言い出す、とはおもってもいなかった、らしい。
ケイトをたすけたときに、しいなからきかされた。
ゼロスの母親は…かつて、ゼロスを殺しにきた刺客…ハーフエルフの刺客にゼロスをかばって殺された、と。
人間が自分達ハーフエルフを差別するから、だから人間は嫌い。
だからといって…他人を害してもいいのか、といえば…答えは、きまっている。
それをすれば、ディザイアンやクルシスとやっていることがまったくもってかわらない。
かつては、あいつもハーフエルフにたいし思うところがあったんだけどね。
まあ、アステルの奴がねぇ…
そういったしいなは何ともいえない表情をしていたが。
「神子が、そのようなことをおっしゃるとは」
「…すぐに、とはいかぬ。差別の根は深い。しかし前向きに考えよう」
やる、とはいっていない。
ただ、考える、といっただけ。
「じゃあ、俺様もロイド達との旅がおわったあとのことは、前向きに検討するさ」
それはあくまでも、互いの駆け引き。
その駆け引きの意味合いがロイドにはまったく理解できない。
その言葉に含まれている意味にすら。
何ともいえないぴりっとした空気が一瞬、謁見の間にとたちこめる。
そんな中、
「ゼロス、このたびの私の無事と神子の復権を祝って祝賀パーティーを行うことになりましたのよ?
  あなたも参加してくださるでしょう?」
どこかはずんだようなヒルダの声がそんな空気をきりさき発せられる。
「うむ。そうだ、そうだった。神子はもちろん。
  シルヴァランドの神子とその共のものたちも、存分に働いてくれたようじゃ。
  王家専属のディザイナーにお前達の衣装を創らせておる。
  できあがったら神子の家にとどけさせよう」
「祝賀会の日付はおってご連絡いたします。ぜひご参加ください」
「皆、本当にごくろうだったな。感謝しておるぞ」
「では、本日謁見は、これまで。神子よ。それにほかのものたちよ。大義であった。さがるがよい」

「…な~んか、えらそうだよな~、あいつ」
「……ロイド。あのかたは、この国の国王陛下なのよ?国をすべているおかたなの。
  偉くてあたりまえでしょう?」
「村長とかよりもか?」
「……シルヴァランドには身分がない、とはきいたが、皆このような考えなのか?」
「…お願い。リーガル。この子を基準にしないで……」
「…リフィル様も苦労してるんだねぇ。うひゃひゃ」
「…とにかく、王立研究院にいってみましょう。アステルが何かつかんだかもしれないわ」
ともあれ、王家よりの依頼はこなした。
この自分にとっては貸しにもおもえるこの行動が、自分達の今後にいい影響をあたえればいいのだが。
そうリフィルはおもうが、しかし、ともおもう。
相手は考えてみよう、といっただけで実行する、とはいっていない。
「……根深いわね」
「?先生?」
「何でもないわ。いきましょう」
おそらく、この子供達は理解していないであろう。
国王はああはいったが、確実に差別たる法をすぐさま撤廃はしないだろう、ということを。

ともあれ、ヒルダ姫を救いだしたのもあり、アステルのもとに一行はむかうことに。


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あとがきもどき:
薫:今回は、サブイベントの、姫さま誘拐シーンのみ、でしたv(まてこら
  さら、と流したクチナワの所業。
  くちなわ、かなり周りがみえなくなってますv
  そもそも、一度、里にひきわたされているにもかかわらず、脱獄し里を出た時点で、
  里からしてみれば抜け忍の認識だ、ということすら失念していたりします。
  …瘴気の影響を濃くうけていた教皇の傍にいたがゆえに、負におかされかけている。
  といっても過言でないです。
  で、だんだんと恨みをつのらせてゆく・・という悪循環。
  ともあれ、では次回にて~
  ・・・・そろそろ、サイバックの学術図書館にいけるかな……

2013年9月6&7日(金&土)某日

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