まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。


今回はほとんど話しはすすんでないです。
というか、ほぼリンカの木とアスカのみv
というわけで(何が?)あとがきに別話11をば。
…あとがき別話もついにトリエット遺跡にまでいったなぁ…

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絶望。
残された感情はまさにその通りといってもよい。
世界を救うために、危険な旅の果てにたどりついた先。
女神マーテルを蘇らせるための旅。
それはしっていたが、しかし、疑問にもおもった。
救いの塔の中にあった大量の棺。
その中にいたかつての神子らしき少女達の姿。
意識がほぼ封じ込められている中でも外の言葉はわかる。
それが意味することは…ディザイアンも、天界も全ては、
全てはクルシスの自作自演であった、ということが。
なら、自分達が命をかけていた意味はいったい。
花のようなものの中にいる年頃の女性。
クルシスの指導者だ、というユグトラシルが姉様、と呼んでいる。
そもそも、女神に弟がいた、などとはきいたことすらない。
羽があるからたしかに天使、なのだろうが、だとすれば、女神というのがおかしいとも。
「また失敗か。できそこないめ!」
意識が表にでないままに、そのまま同じく棺に閉じ込められ、そのまま塔の力の一部へと。
違う。
自分達はこんなことのために旅に…神子としての役目を終えようとしたわけではない。
絶望、そして怒り…そして、裏切られていたという悲しみ。
信じていた全てが偽りであったという、どうしようもない、絶望。

「……負の力がかなりたまっているな。これを変換し、その力のみであの子達をうみだせるか」
塔の内部の様子を視て前々から計画していたこと。
自らの一部たる分身を入れているがゆえにできること。
それは、今ある四千年に及ぶ神子達の負の念を全て変換する、ということ。
そうすることにより、すくなくとも、彼女達の魂そのものは負の楔から解放される。
それにより解放を望むか、それとも復讐を選ぶかは、それは彼女達しだい。
何しろ、そのような状態にすくなくとも彼女達は自らすすんでなっているのだから、
そこまで救いをほどこすつもりは、さらさらない。
思念体と精神体とを分けること自体、かなり優遇しているといってもよい。
「どちらにしろ。思念体達がどのように行動するか、我は命は下さぬがな」
それは、彼女達の思念がきめること。
産まれおちたのち、どうするかは、少なくとも、魔物、としての本質さえ果たしてくれればそれでいい。

光と闇の協奏曲 ~リンカの木と精霊アスカと…~

人が立ち入らない山の奥にあるのでは、という予測をもとに、
ボーダから預かったレアバードにて、シルヴァランドの上空を探すことしばし。
ボーダはわすれていた、といい、リンカの木の目撃情報をレアバードの通信装置にてロイド達にと伝えてきた。
彼らがいうには、シルヴァランドペースと呼んでいる彼らの拠点の北東に位置する山の中で、
リンカの木をみたことがある、らしい。
どちらにしても他に情報がないこともあり、とりあえずその場にとやってきているロイド達。
「……かれちゃってるねぇ」
たしかに、目撃情報は正確、ではあったのであろう。
だがしかし、目の前にあるリンカの木らしきものは完全に枯れてしまっているのがみてとれる。
実をつけていないどころか、枝歯も朽ち、命を宿しているようにはみうけられない。
大地に手をつけてみれば、土もかわききり、さらさらとした感触がむなしくつかんだ土を風にとまってゆく。
「予測はしていたけども。ここ、シルヴァランドはマナが涸渇していたのだもの。
  リンカの木はマナが濃い場所に生息する、ともきくわ。
  でも、まだ希望はあるはずよ。癒しの力を強化し、生命力をひきだし、
  そして、土を栄養があるのもにかえてやれば」
リフィルはいいつつも、その視線をしいなにとむける。
「まかせときな!…あ、けど、リンカの笛はどうするんだよ?」
それがきになる。
そもそも、以前にもっていたリンカの笛はすでにジーニアスがミトスにかえしている。
「大丈夫さ。以前もらったこの小さい実だと無理だけど。
  もしも復活したリンカの木に大きな視がなれば俺が笛を作るよ。
  ミトスがもっていたのと同じようなやつでいいんだろ?」
「え?ロイド、つくれるの?」
しいなの問いにロイドがこたえ、そんなロイドの答えにジーニアスが驚きの声をあげる。
「親父仕込みのこの腕をみせてやるさ!プレセアもいるしな!」
「はい。私、手伝います」
何しろこのプレセア。
テセアラではけっこうその筋では有名な細工師、らしい。
ロイドの名は知っているものがまずいないというのに。
彼女のつくった様々な細工ものはテセアラの貴族の間で結構流行しているらしいとロイドは聞かされている。
…まあ、なぜに熊のほりもの?という疑念はあるにしろ。
なぜに熊の掘りものが幸運を呼ぶ品としてもてはやされているのか、
テセアラ側の感性がいまだにロイドにはよくわからない。
「というわけらしいぜ?リフィル様、それにしいな?」
そんなロイド達の反応をみたのち、ゼロスがさらり、と二人にたいし問いかける。
「ええ。私のほうはいつでもよくってよ」
「ああ、いつでもいいよ。じゃ、いくよ。気高き母なる大地のしもべよ!」
しいなの声にこたえるかのように、突如として空中にノームが光とともに出現する。
「なんだぁ?」
のんびりとした声はあいかわらず、というところか。
もっとも、ノームからしてみれば、いらないことをいうな。
と散々センチュリオン達からもおどされているがゆえに、
ここにくる前にもかなり注意をうけていたがゆえにいらないことをいわないように、
とお口にチャック、と常に心がけているがゆえに短い返答になっているのだが。
当然、そんなことをロイド達がしるよしもなく、
「ノーム、このあたりの土一帯を元気にしてやってくれ!」
「む~ん、わかった~」
ノームの言葉とともに、辺りがまばゆく一瞬光る。
刹那、まるで乾いた砂漠の砂のごときであったはずの土が、
まるで水を得たかのようにつやつやとした輝きを取り戻す。
用事は済んだ、とばかりにその場からかききえるノーム。
「オッケーだよ。リフィル」
その場にかがみ、土がさきほどとは異なることを確認したのち、リフィルにと話しをふる。
そんなしいなに対し、
「ええ。次は私の番ね。ユニコーンの角よ…私に力を化して…レイズ・デッド!!」
朽ちた木の前にたったリフィルがいいつつ杖を構えるとほぼ同時。
淡き光が朽ちた木を包みこむ。
豊かなる大地の恵みと、癒しの力をうけ、リンカの木の幹にと変化がおきる。
それはまるで乾いた砂が水を吸収するかのごとくに、
新しい枝が伸び、瞬時にその枝から香る若葉が芽吹いてゆく。
「…すげぇ。樹液のめぐる音が聞こえるみたいだ」
おもわずロイドがつぶやくが。
「…ロイドにしてはめずらしくまともな感想だよね。でも同感。すごい……」
ロイドと同じことを思っていたが、まさかロイドがそんなことを思う等とはおもってもおらず、
ゆえにジーニアスも驚きつつも同意の声をあげているが。
「わぁ~。すごい!リンカの木がよみがえりました~」
コレットが目をきらきらさせて、復活したリンカの木を仰ぎ見る。
「実もこんなにたくさんなってますね。…興味深いです。
  マナの数値が爆発的に確かに高まってましたし……」
ちゃっかりと計測装置をとりだしてマナの測定を行っていたらしいアステル。
「ほぇ~。さっすがリフィル様、すごいぜ」
「ロイド、プレセア、あとはまかせたわよ」
「わかりました。ロイドさん」
「ああ、あれなんかいいんじゃないか?」
枝にたくさんついている薄紫の木の実をあれこれみくらべて、
その中から一つを選んで木にひょいっとのぼり、それをもぎとっているロイドの姿。
形がよく、大きさも手ごろ。
ゆえにくりぬいて笛をつくるにはうってつけ。
「これにしよう。くりぬきやすそうだし」
いいつつも、
「じゃあ、一晩くらいかかるとおもえけど、ちょっとまっててくれ」
「ええ」
どちらにしろ、一晩かかるのならば、ここで野営をする必要がある。
それゆえに、それぞれ野営の準備に取り掛かる一行。
一心不乱に細工にとりこむロイドの姿をはためでみつつ、
一行は野営をしつつ今後のことをひとまず話しあうことに。
「…なあなあ、最後の精霊と契約をする前に、俺達の身のふりかたをかんがえようぜ」
ロイドが笛をつくっているそんな中、野営の場にて集まり、
火を囲んで今後のことを話しあう。
「あら。ゼロスにしてはまともな意見ね。でもたしかに。そうね。でもすぐに結論をだせる問題でもなくてよ」
ゼロスの言い分は至極もっとも。
どうなるかわからない以上、考えておく必要があるのも道理といえる。
「仮に世界が切り離されたとしても、世界を行き来できる確立はどれほどのものだろうか」
精霊と契約することにより、マナを互いに搾取する関係はうちきられる。
それは理解できたが、それをやった後、世界がどうなるかがわからない。
「それはわからないわ。ただ、かなり低い確立にはなりそうね」
リーガルの言葉に少し考えつつも言葉を選びつついっているリフィルの姿。
「…テセアラの街をまわってみませんか?最後の精霊はここ、シルヴァランドにいます。
  しいなさんは精霊と契約したらテセアラへ戻れないかもしれません」
たしかに彼らのいうとおり。
それゆえに今まで黙っていたプレセアが静かにそんなことをいってくる。
「そうだね…みずほの里の皆にも話しを伝えておかないと……」
もしもそうならば、きちんと里のものに説明をする必要がある。
最も、その前にできれば里のものをこちらに移動させたい、というのもあるが。
それらのことも、時期頭領としての候補に上がった以上、きちんと話しあう必要がある。
「その前に、アビシオンさんをたすけてあげたいです」
もしも、世界の行き来ができなくなるのならば、今現在、頼まれていること。
すなわち、アビシオンの呪いを解く手伝いをする、という一件をどうにかしておきたい。
それゆえのコレットの台詞。
「そうね。闇の装備品のこともあったわね」
確かにそんなお願いもきいていた。
どうも失念しがちだが。
「なら、こうしましょう。闇の装備品を集め終わったのち、それからそれぞれテセアラの街をまわりましょう。
  そうして皆の気持ちを固める、それでいいかしら?」
どちらにしても、皆の気持ちのこともある。
すぐには決められないのもまた事実。
だからこそのリフィルの提案。
「つまり、先生。私たちと一緒にシルヴァランドにくるか。それともテセアラへのこるか、ですか?」
ちらり、とロイドのほうをみればいまだに必至に細工をしているのがみてとれる。
どうやらかなり集中しているらしく、こちらの会話はきいていないらしい。
そんなロイドの姿を横目でみつつ、首をかしげつつもリフィルにといかけているコレット。
「う~ん。僕としてはシルヴァランドはかなりきにはなるけど。
  所属してるのが研究院だからな。…やはり精霊ラタトスクを見つけ出すのが先決なのかな?
  かの精霊なら確実互いの世界を行き来できるすべをもってるとおもうんですよね。
  何しろ伝承のとおりなら、この世界というか大地は精霊ラタトスクが生み出せしものなんですし。
  一番、疑惑のつよいのはあの異界の扉のある遺跡なんですけどね~。
  あそこ、この前、リフィルさんが尋ねた以降、また入れなくなってるんですよね…報告では」
闇の神殿にいくまえに立ち寄っていた研究院で、再びあの遺跡にはいれなくなっている。
ということをアステルは聞いている。
そもそも、あのとき、どうしてリフィル達があの地に入れたのか、というのも
いまだに研究院の内では疑問視されていた。
ただの岩が集まっている遺跡ではないというのは、かの地のマナの測量の結果もわかってはいた。
にもかかわらず、まったく出入りがきかなくなっているということは、
少なからず、何らかの外的要因が必ずそこにある、ということに他ならない。
なのに、たまたまというべきなのか、それとも何か原因があったのか。
あのとき、リフィルが移動したとき、まちがいなく自分達もかの地に入ることができたのもまた事実。
「そういえば、あの闇の神殿からこのかた、まだあのエミルが戻ってきてないようだが…
  あの子は本当にお前達の元にもどっくてるのか?」
そもそも、なぜあの子供が彼らとともに行動しているのかがリヒターにはわからない。
世界樹の小枝、とよばれしものをもっている、ともきく。
魔物すらをも従えることができる、不思議な力をもった子供。
しかもアステルにそっくりなことからどうも邪険に扱えもしない。
時折、不思議な感覚にエミルの傍にいるときに陥ることがあるが、それが何を意味するのか、
リヒターには判らない。
ハーフエルフだからこそ、エミルが無意識に生み出している純粋なるマナに反応している、
ということに彼は気づかない。
もっとも、それにはジーニアスやリフィルも気づいていないので何ともいえないが。
「あの子にもあの子の用事があるでしょうし…その用事というのがかなりきにはなってるけどね」
リヒターの言葉にリフィルからしてみればため息をつかざるをえない。
そもそも、常に自分達の旅に同行する、と確実に言質をとったわけではない。
今までいて当たり前のような気になっていたが、いつこの一行を抜けてもたしかにおかしくはない。
リフィルからしてみれば傍でエミルが何ものなのか見極めたい、という思いのほうが強いのだが。
しかしいまだにきちんとした確証がもてないのもまた事実。
確実に、世界樹カーラーンに何らかのかかわりがある存在だとはおもう、のだが。
火を取り囲んでの会話。
パチパチとした火の子の音のみが静かに響く。
空には半月が浮かんでおり、周囲をある程度あかるく照らし出している。
少し離れた場所でロイドが火の灯りをたよりに細工をこつこつとしており、
木の実を削っている音がコツコツと響くが。
そんな会話をしている最中、どうやらジーニアスはねむくなったらしく、
こくこくと船をこいでいたりする。
「じゃあ、アステルさん達はテセアラに残るんですか?」
「どちらにしても、勝手に研究室を抜けるわけにもいかないし。
  でも、もしも世界が統合されたら研究室もどうなるかもわからないしね。
  もしかしたら王立研究しつの精霊研究室は閉鎖になるかもだし。
  でも、人は絶対に精霊達のことを詳しくしっておくべきなんだよね。
  かつての古代大戦のことにしても、マナの扱い方をきちんと把握するために」
そういって、
「リヒターはどうするの?」
「…お前をほうっておくわけにはいかんだろうが。
  まあ、あの教皇がいなくなったことで少しはすごしやすくはなるだろう。
  次の教皇がどんな政策をするかはわからんがな」
次の国王や、次なる教皇が行う政策によってはハーフエルフの待遇もまた今以上に悪化する可能性すらもある。
「ま、俺様にまかせとけって。何しろコレットちゃんのおかげで、
  今まで以上に俺様の発言権は認められたようなものだしな」
コレットがあのとき、天使の羽をだしたことにより、スピリチュアの再来、とおもわれている。
すなわち、天使に逆らうこと、すなわち天罰が下る、そう人々が認識しているといってもよい。
「…それが不安なのだが」
そんなゼロスに対し、さらり、といいはなつリヒターに対し、
「うむ。それに関しては同感だ」
「同じく」
「なんだよ~。俺様、信用ないな~。ショック~」
リヒター、しいながほぼ同時に答え、そんな彼らにたいし、ゼロスがそんなことをいいはなつ。
「そうおもうなら、日々の生活をあらためるんだね!」
「ひゃひゃひゃ。俺様が俺様でなくなってどうするのよ?しいな、やきもちか?」
「ば…ばかっ!…ったく、シルヴァランドの神子、コレットを見習いなよ!」
「ツメの垢でももらえばどうだ?」
「ふえ?先生、私の手、よごれてますか?」
「…コレット、今のはもののたとえなのよ……」
何やら会話がカオスな方向にむかっていっている。
「あ、俺さま、周囲の見回りしてくるわ」
「…逃げたな」
「逃げましたね」
「あいつうっ。ったく、都合がわるくなったらいつもそうだ」
いいつつ、その場をたちさるゼロスにたいし、リーガルがぽつり、といい、
アステルもまたうんうんうなづき、しいながこぶしを握り締める。
「コレット、あなたも疲れたでしょ?休めるときにやすみなさい」
「え?あ、でも…ロイドが……」
「あなたが倒れては意味がないのよ?」
「…はい」
あまり眠たくはないが、それでもかつてのように完全に眠れない、というわけではない。
とはいえ以前のように完全に爆睡、という状態にまではまだもどっていないようだが。
ともあれ、それぞれ大人組みが交代で火の番をすることにし、今日のところは休むことに。

「ジーニアス、これを」
結局のところどうやら徹夜して朝まで作業にかかったらしい。
明け方前にできあがり、それから軽く眠ったはいいものの、精神がたかぶりほとんど寝ていない。
どうやらロイドが作業している間でも、ぐっすりと眠っていたらしいジーニアスが
眠い目をこすりつつ沖出しているのがみてとれる。
「うん。ばっちりだよ!ロイド!」
すこしばかり重いそれをうけとり、ぱちぱちと幾度か瞬きをし、
そういえば、と思いだす。
それゆえに、
「じゃ、しいなに知らせにいかないと」
自分に真っ先にできたことを教えてくれたのはうれしいが、
そのまま朝食の支度をしているしいなの元へと移動する。
「笛ができたって?じゃあ、食事は後回しだね。
  早い所皆を集めて、さくっとすることをすませてしまおう」
朝食、といってもかるくスープを作ろうとしていたのだが。
まだ完全に創り始めたわけではない。
まずは、水を用意したり、というところから食事の支度ははじまっていたりする。
このあたりはさすがに山の頂上付近であることから、川なども見当たらず、
かといって、どこかに湧水がわいているようにもみうけられない。
かといってこのあたりに食べられるような木の実があるような木々もあるはずもなく。
…どうやら昨日のリンカの木の復活で、それにともなう周囲の草木もある程度は蘇っているようではあるが。
フードパックよりいくつかの食材をとりだし、用意をしようとしていたそんな矢先、
ジーニアスがロイドの笛ができた、という報告をもってきた。
ゆえに、食事の用意をとめるしいなはおそらく間違ってはいないであろう。
さくっと用事さえすませば、わざわざ全員分の食事を創らなくてすむ、のだから。
ロイドやジーニアスのよびかけにより、それぞれがリンカの木の下にと集まってくる。
アステルは何やら水晶のようなものを手にしているが。
それはロイド達はどこかでみたような気もしなくもない。
それはかつて、シルヴァランドでロイド達が再生の書と言われし品をみたときと同じもの。
別名、記憶球メモリーオーブ
大きさが異なるがゆえに、同じ種類のものだ、とはロイド達は気づかない。
気づくことができない。
全員が集まったのを確認し、
「じゃあ、最後の仕上げだよ。ジーニアス」
しいなにいわれ、前にも吹いたことがあるから、という理由でこのたびもジーニアスが選ばれる。
~~♪
澄み切った音色が空にとのぼってゆく。
その音はどこかできいたような、そんな不思議な旋律。
強いていうならば、よくエミルが何かそれに似通った旋律に近いものを口ずさんでいるようだが。
リンカの木の音色は精霊原語にほぼ近いもの。
ゆえにその音色の音程によっては精霊達と原語で会話することすらも可能。
もっとも、それすらも人は忘れてしまって久しいが。
今、この世界でそのことを知っているのはまちがいなくエルフのしかも一部のものたちのみ、であろう。
音とともに、風がしいながシルフを呼んでもいないのに吹き抜ける。
澄み切った音がどこまでもたかく、空たかく響き渡ってゆく。
どれくらい音色に聞き入っていたであろう。
ふと、バサッ。
何やら羽の音らしきものが上空より聞こえてくる。
「きた!」
ふと、上空に羽音とともに何やらまぶしい光を感じ、思わず笛を吹いていた手をとめる。
「あれをみろ」
「…アスカ……」
たしかに太陽とは異なる灯りが真上の方角にみてとれる。
太陽はまだ地平線のあたりにある、というのに、である。
みあげた場所には光につつまれた、双頭の頭をもつ鳥がみてとれる。
そのままゆっくりと、双頭の頭をもちし鳥…
精霊アスカはゆっくりと、リンカの木の上にとまいおりる。
そして。
「私を呼ぶのはだぁれ?って、エミル様のもとにいた人間達ね。私に用事なのかしら?」
ロイド達を見下ろすように、澄んだ声にてそんなことをいってくる。
また様づけ。
精霊が様をつけるエミルの正体がかなりきになる。
精霊が様をつけて敬意を示すなど、本来はありえないはずである。
それは、精霊を研究しているアステルだからこそつくづく思う。
「ノームのときといい。どうして精霊達はあのエミルに様をつけて敬意を示してるんですか?」
アステルの問いかけにアスカはただほほ笑むのみ。
本当によく似ている、とはおもう。
まあ、王がどのような姿をしようともそれはたしかに問題ないといえば問題ないのだが。
しかしそれでも、王とよくにた人間、ということに多少戸惑わずにはいられない。
ゆえに精霊達はいくら質問されようが、まちがいなく言葉を濁すか、そのまま答えはしないであろう。
精霊達は基本、嘘はつけないが、質問などに答えなければいけない、という決まりもない、のだから。
「アスカ。あんたの力が必要なんだ。あたしと契約をしてくれ!」
このままでは、いつものようにアステルが話しを脱線させかねない。
それゆえにあわててしいなが用件をアスカにむけて言い放つ。
「契約?…ルナは?私は以前にいいましたよね。ルナと一緒でなければ契約はしない、と。
  私はルナと一緒でなければ契約などしたくはありません。人は簡単に裏切りますからね」
そう、口ではいいことをいって、あげくはうらぎってゆく。
そんな人を幾度もみてきている。
そう、あのミトスですら…心の闇に負けてしまい、自分達を…世界を、ラタトスク様を裏切った。
そうおもうがゆえにアスカの言葉には厳しさがこもっている。
「じゃあ、ルナと一緒に契約をする、というのでいいかい?」
「では、時がくれば私はルナの元にいきましょう」
それだけいい、再び羽をばたつかせる。
そんなアスカに対し、
「ところで、あなたはミトスと契約をしていないのかしら?」
今のところ全ての精霊達が勇者ミトスとよばれしものと契約をしていた。
アスカがルナのいた精霊の封印の場にいなかったこともきにかかる。
それゆえに疑問におもったリフィルの問いかけにたいし、
「…私は、ミトスとは契約をしていません。契約をしたのはルナです。
  今でもあれは間違っていたのでは、と時々おもいますが…でも、あのときのミトスは…
  いえ、これをいっても仕方がありませんね。…あなた方はあの御方の思いを裏切らないことを願います」
それだけいいはなち、そのまま、ぱさり、と羽をばたつかせ、再び空にとまいあがってゆく。
まるでもう用はすんだ、とばかりに。

「なあ、しいな、あれでよかったのか?」
引き留めるまもなく、飛んで行ったアスカをみつつ、横にいるしいなにとといかけているロイド。
「契約はしてくれるっていうんだ。あせって今する必要はないだろ?
  それに…精霊達は人間に対し、かなり疑心暗鬼になってる。
  力づくで挑もうとすればそれこそ本末転倒だよ」
これまでの精霊との契約でも、全ての精霊が、契約をたがえた時は契約破棄を自分達のほうからできるように。
そういってきている。
かつて契約をした勇者ミトスに裏切られているのであれば、精霊達のいい分もわからなくもない。
人に力を貸したくない、という思いも。
ヴォルトなどは、まっさきに契約破棄は受け入れるが、契約はしたくない、といいきっていた。
あのとき、七歳のときの儀式とはことなり、ヴォルトの雷の威力はかなりすくなかった。
それが意味することはしいなはわからないが、だけども何となく、ではあるが、
エミルの存在があったからなのでは、とおもっているのもまた事実。
何しろかつてのときは、始めのヴォルトの一撃により、
あれほど精鋭であった里のものが全てといってもいいほどに一撃で死んでしまったのである。
ロイド達がそんな威力の雷をうけて無事でいられた、とはおもえない。
やはり、これまでの精霊との契約同様、どうかんがえても手加減してもらっている、としかおもえない。
「…ふむ。たしかに。ルナとアスカはともに光に属する精霊。
  楔としてルナにその役割があるのなら、無理にここでアスカと契約しなくてもいいだろう」
精霊の機嫌を損ねればどうなるかわからない。
それでなくても、以前のこともあり、精霊達は人を信用していないっぽい。
それゆえのリーガルのいい分はおそらく間違ってはいない。
そんな中、
「それより、精霊がいってる、あの御方って、
  僕としたらやっぱり精霊ラタトスクのような気がするんですけど……
  そもそも、以前、ノームが今なら精霊とあうことは簡単とかいってたのもきになってるんですよね。
  結局いまだに手がかりはあのエミルさんだけですし。絶対にかかわりがあるとおもうんですよね~」
いいつつ、
「それに、きになるのは、あの結構話し好きなノームが何もいわずに消えたのもきになってるんですけど」
それこそ余計なことをいっさいいわず、土を蘇らせたあとすぐさまにきえていた。
いつもならいらないことを延々とよく話しかけてきた、というのに、である。
「アステル、気にしすぎではないのか?」
そんなアステルにたいし、あきれつつも一応忠告しているリヒターの姿がそこにある。
「そうかな?でも、あのときもそうだったじゃない。いらないことをいわないように。
  って、センチュリオンと名乗ったソルムとかいうものに釘さされてたでしょ?」
「…たしかに、そうではあったが…しかし、あのエミルが知っていたとしてもいうとはおもえないぞ?」
それこそ話しをはぐらかされるであろうことは容易に想像ができる。
最も、そのときの会話はロイド達はしるよしもない。
そもそも、ロイド達と出会うまえにノームのところにいったときにノームからいわれていた台詞。
もしもあのとき、センチュリオン・ソルムがやってこなければ、
間違いなくノームはぽろり、とラタトスクが人の姿で地表にでている、といっていたであろう。
そんな彼らの会話とは対照的に、
「あとは、ルナさんのところにいって改めて契約してもらうだけですね~」
にこやかにそんなことをいってきているコレット。
確かにその通り、なのではあるが、何かが違う、とおもうのもまた事実。
もっとも、アステルが話しの方向性を変えてしまったゆえに、
コレットがいったことが本来の話しの筋道、という点では確かにコレットのいうことは正しい。
アスカが立ち去ったリンカの木のふもと。
冷たい朝の空気が彼らの肌をなでてゆく。
「…結果、二人の精霊から同時に試されることになるわね。…仕方のないことだけど」
アステルのいい分もわかる。
しかしコレットのいうとおりだというのもまた事実。
しかし、ともおもう。
精霊との契約にともなう戦いは、どうも確実に精霊達から手加減をうけているような気がひしひしとする。
普通、絶対にこんなに簡単に精霊との契約が完了してゆく、とは到底おもえない。
召喚士であるしいながいるから、という理由だけでは絶対にない。
ゆえにため息まじりのような口調になってしまうリフィルの気持ちはおそらく、
その言葉すべてに心情が含まれているであろう。
「二人同時か。…いろいろと準備などをしてから挑んだほうがよかろう」
風の精霊シルフとのときの契約を思い出す。
あのとき、あの場に移動したのは、しいなは当たり前として、
ゼロス、プレセア、リーガル、そしてシルヴァランド一行であるロイド達四人。
シルフ三姉妹との戦いも結構苦戦していた。
このたびもまた、四人で、と指定されたとするならば、苦戦を強いられることは必然。
準備を万端にして挑まなければ、何かあってからではおそい。
かといって、精霊に対して戦うにあたり、何を用意すればいいのか、というのは思いつかないが。
リーガルの言葉に、うんうんとうなづいているリフィルの姿。
そんな大人組みの思いは露知らず、
「しかし、すげぇ。本当にアスカが現れたな。やっぱりかっこよかったな!
  あのシムなんとかっていう鳥と並んでみてみたかったぜ!」
背にのっていたので見比べてはいないが、かなり壮観であることは疑い用がない。
あの鳥もかなり優雅で神秘的、という言葉がかなり似合っている、とおもった。
「シムルグだってば…。はぁ…。…ねえ。ロイド、この笛、ミトスにあげたらだめかな?」
そもそも、あの魔物の鳥ですら伝説、とまでいわれていた鳥である。
そんな伝説の神鳥とまでいわれていた魔物を呼べるエミルの力はジーニアスからしてみてもきにはなる。
が、しかし、幾度もその名をきいたはず、だというのにきちんといえないロイドにたいし、
呆れる以外、何といっていいものか。
ゆえに、盛大にため息をついたのち、手にしている笛をみつつもロイドにとといかけているジーニアス。
「へ?何でだ?」
せっかくつくったのに、ミトスにあげたい、といわれ、きょとん、とした声をだす。
「あのとき、笛をふいたからわかったんだけど。
  あの笛、あと一度でも吹いたりしたら壊れそうなほどに劣化してたんだ。
  …僕が力いっぱい吹いてしまったから壊れる可能性が高くなってるとおもうんだ……」
あのとき、壊れていたらミトスに合わせる顔がなかったともおもう。
姉達にいわれ、力一杯ふいたが、それでも壊れなかったことを心底喜ぶべきか。
だけども、ものがあるのだから、その音色に思い出を託したくなるときもあるであろう。
だが、もしも使ってしまえば壊れる可能性があると気づけば、
それこそ宝箱にでもしまってそのうちにその音の思いですら思い出せなくなってしまう。
思いでの品は大切にしまい、類似品で音のみを味わってもいいとおもう。
「そっか。よし、いいぜ、ミトスにわたそう。もう使うこともないだろうしな。
  それに必要だったらまたここにとりにきて笛をつくればいいし」
木がここにある、とわかったのだからまたつくればいい。
「いくつか予備をとっとくか」
手ごろな大きさの実はまだいくつかある。
ゆえに、しばし木をみあげ、再びいくつかの実をとりに木によじのぼっているロイドの姿。
「うん。ありがとう、ロイド!」
そんなロイドにお礼をいっているジーニアス。
そしてまた、
「なら、ついでにご飯を近くの街にでもたべにいかないかい?」
「あら。いいわね。ならこのままパルマコスタにむかいましょうか。
  あそこはたしか朝早くからお店もあいていたはずよ」
しいなが提案し、リフィルが答える。
かの町は港があるがゆえに、かの地の店の開店時間は早い。
全員を見渡すが、どうやら反対意見はないらしい。
女性陣からしてみても、わざわざ自分達で全員分の食事の用意をするよりは、
簡単にすませられるものならそちらのほうが断然に楽。
ひとまず、一行は、リンカの木のあるこの場所から、海をこえた先にとある、
パルマコスタに向けてレアバードにのって移動することに。

絶海牧場、そしてパルマコスタ牧場が壊滅した、というのもあり、人々の表情は明るい。
しかし、何だろう。
何だか町がいつもより騒がしい。
「何かあったのか?」
町にとはいり、近くにいる人物にとといかけているロイド。
「さあ?私もつい先刻パルマコスタにきたばかりなんだけど。
  何でも教会と町の人がちょっと騒ぎになってるみたいだよ?」
そんなどうやら旅業をおこなっているらしき人物の言葉におもわず顔をみあわせる。
「何でも、ディザイアンの人間牧場から脱出したらしい人達が、
  自分達は天使につかまって、牧場に送られたとかいっててね」
「「!?」」
それをいうとすれば、まちがいなく、かの地、オゼットの住人であろう。
彼らはまちがいなく、天使達の襲撃にあい、そしてそのまま牧場に送られていたっぽい。
しかし、普通の一般人からみれば、どうして天界の天使とディザイアンとが繋がるのかが理解不能。
しかし、少し前、海でみつかった、絶海牧場に捕われていた人々からきいたところによると、
彼らの村は、ある日、突如として天使に襲われたらしい。
そして、そのまま彼らに捕われ、きづいたら牧場に送られていた、と。
それが一人や二人ならば嘘をついている、とおもえるが、
人数的には十人以上に上るのだから教会側としてもその真意を測りかねている。
さらに困ったことに、かつてドアによって集われた勇士達もまた、
攻撃をしかけたところ、ディザイアン達に取り囲まれて捉えられた、という証言まででてきている始末。
それらもすべて真実なのであるいみタチがわるい。
「前、このパルマコスタの総督であったドアという人の婦人がどうもディザイアンにつかまっていたらしくてね。
  もしかして、ドア総督は夫人をたすけるために人々を裏切っていたのでは。
  という話しすらあがってきてるらしいんだよ。そこに天使に村が襲われた、という話しだからね」
人々が疑心暗鬼になる要素はそろっている。
だからこそ、人々は真実をもとめ、教会にとつめよっている。
一人一人では教会にたいし、声をあげることなどできはしないが、
とある人物を代表として、疑問におもった人々はだんだんと集まりをみせているらしい。
あまり知らないらしい旅人にかわり、どうやらこの街に住んでいるのであろう、
すこし初老の女性がそんなことをいってくる。
「始めのころは、きちんとプルートさんがそんな彼らをまとめてたんだけどねぇ。
  最近は、何というのか、プルートさん自らが何だかこう、物騒になってるっぽくてね…」
どこかで聞いたような名である。
「うん?たしか、以前、酒場でマルタちゃんとかいう女の子にひっぱられてった人物の名じゃなかったか?」
王朝がどうの、という話しをしていたがゆえにゼロスはその人物達の名を覚えている。
そういったことは常に頭にいれておかないと、自分にいつふりかかってくるかわからない。
これまでいきてきたゼロスがみにつけているあるいみ処世術。
「おや。あんた、マルタちゃんをしってるのかい?」
「いや、以前、酒場でちょっとな」
そんなゼロスのいい分に、
「ああ。よくプルートさんは酒場でよくお酒をのんでいたからねぇ。
  それにしても、なんでわざわざ総督府の組織があるのに自分達で組織を立ち上げるなんて……」
「失礼。それはいったい?」
そんな初老の女性にリフィルが問いかける。
「総督府は信用がならない、自分達の身は自分達で護ることに意義がある。
  とかいってね、ヴァンガードとかいう自警団もどきをたちあげたんだよ。プルートさんは」
それは何人にも支配されない、自由を軸とした組織。
シルヴァランド人であることを誇りにかかげた組織ともいえる。
クルシスにも、そしてディザイアンにも屈しない、と明言し人々の権利と自由をうたったプルートの説。
それにだんだんと感化されていっているものが、ディザイアンの人間牧場がなくなったこともあり、
すこしづつではあるが増えていっているらしい。
何やら最近は、なぜか武装しはじめているのが気にかかる、とはその婦人談。
「もし、教会にいくつもりなら、今は人々がすこしばかり何をしでかすかわからないから。
  先に総督府にいってみるといいよ。まあ、あのプルートさんだから心配はない、とはおもうけどねぇ」
しかし、ここ最近、彼の妻がふせっている、ともきく。
何かはわからないが、何かよくないことがおこりそうで仕方がない。
それは本能的な勘。

たしかに、とおもう。
以前にきたときより、なぜかそれぞれ武装してるっぽい人の姿が目にとまる。
この街ではあるいみ有名であるがゆえに、それぞれフード付きローブを纏っていて正解というべきか。
しかも何やらざわめきたっているのはおそらく気のせいではないであろう。
と。
「きゃっ!」
「ふえっ!?」
きょろきょろと周囲をみていたからか、突如として走ってきた一人の少女といきなりぶつかってしまう。
そのまま衝撃でそのままその場にすとん、と尻もちをつくコレット。
そしてまた。
どうやらぶつかった人物もまた、少女、らしい。
年のころはざっとみたかぎりコレットと同い年くらいであろうか。
「あ、あの、ご、ごめんなさい!…っ!」
少女があわてて起き上がろうとすると、そんな少女の背後のほうから。
「いたか?!」
「いや、こっちにはいない」
などといった声がきこえてくる。
あからさまに、その声をきき、びくり、とした表情をうかべ、その手にふつりあいな、
何かをくるんでいるのであろう長細い布の包みをぎゅっと握りしめている少女の姿がみてとれる。
「おわれてるのか?」
あからさまに、おびえを含んだその様子は、その声の主…武装している人達から追われている。
とみてまず間違いはないであろう。
声はだんだんと近づいてきている。
ぱさり。
「え?」
そのまま有無をいわさずに来ていたローブを少女にとかける。
フードつきのローブを着ていたがゆえに、その姿はよくわからなかったが、
ローブをぬぐと、少女ですらどこかでみたことがある少年の姿がそこにある。
「あ、あなたは、たしか……」
以前、広場などでその姿をみたことがある。
だとすれば…
「ロイド?」
リフィルが怪訝そうな表情をうかべるが、
「先生、こいつをたのむ」
そんなロイドの態度にため息を盛大にひとつついたのち、
「はぁ。まったく、仕方のない子ね」
いいつつ、
「あなた、こっちに」
「え?あ、あの、あなた達は…まさか……」
フードの下にみえる顔はみおぼえのあるもの。
かつて、この街の広場で行われた公開処刑。
そのときにいた…再生の神子の一行。
それにきづき、コレットにぶつかった少女がおもわず目をみひらく。
その青い瞳が印象深い。
少女が何かいいかけるとほぼ同時。
「うん?なんだ?」
「人数からして旅業のものだろう」
そこにローブをまとった数名と、何やら目麗しい男性の姿をみとめ、声をだしている男たち。
みれば、それぞれが武装らしきものをしているのがみてとれる。
「そこのお前達!不釣り合いに大きな荷物をもっていた人物をみなかったか!?」
上から目線にてたかびしゃに何やらいってくる。
「そこの赤い男、どこかでみたようなきがするんだが?」
「そういえば、ディザイアン達がだしていた手配書ににてるような気もするな」
ディザイアン達がかつてロイドにかけていた手配書は一般の人々目にもふれる場所にと張り出されていた。
「な!あんな手配書とどこが似てるっていうんだよ!」
そんな彼らの台詞にロイドがおもわずくってかかる。
「いや、すまんすまん。同じ赤い髪にはねたくせげがよくにてたからな。
  しかし、荷物をもった人物はみなかったか?」
「荷物なら俺達ももってるぜ?というか旅業のものなら誰でももってるとおもうけど?」
たしかに、赤い服の男性…ロイドのいうとおり。
どうでもいいが、服もあかければ、髪も赤い。
赤で統一しているのならば、そのセンスが疑われる。
赤はどちらかといえば目立つ色ではあるが、どちらかといえばずっとみているには目がつかれる色でもある。
そんな色の服を好んできている、というその意味がわからない。
そんなことを思いつつも、男達はそれぞれ顔をみあわせ、
「ち。旅人にきいても無駄だ。とにかく、いくぞ!総帥がもどってくるまえに何としてでもみつけだすんだ!」
「だな。お前達、この街で騒ぎをおこすんじゃないぞ。邪魔したな」
いいつつも、どうやら関係ない、と捉えたらしく、そのまま男達はそのまま走り去ってゆく。
「あ、あの、ありがとうございました」
男達の姿がみえなくなり、ほっといきをつく少女。
「えっと、たしか、以前、酒場でみたことあるけど。お嬢さんはマルタちゃん、だったよね?」
「ふえ!?あ、あたしの名をしってるんですか?」
いきなり名をよばれ、おもわず戸惑いの声を上げる、逃げていたらしき少女。
「あ、あの。あたし、マルタ・ルアルディといいます。あの…もしかして、もしかしなくても。
  その…神子様一行…ですよね?」
人数が多いので確実にそう、とはいえないが。
しかし、たしか噂では、絶海牧場が壊滅したのは、神子一行の手によるものだ、ときいている。
そのとき、神子一行はけっこうな人数のお供のものがいた、とも。
「とにかく、こんな所で立ち話しも何ですし。どこかに移動しましょ」
リフィルの提案に。
「しかし、この少女が追われているのならば、食事処なども危険ではないのか?」
たしかにリーガルのいうとおり。
というか、なぜに手枷…すなわち、手錠らしきものをかけていて、
しかも囚人服っぽい服をきている人物がこの一行に加わっているのであろう。
とも少女…マルタはおもう。
栗色の髪に蒼い瞳。
その長い髪は左右に上のあたりで束ねられているのがみてとれる。
その結び目につけている真っ白い大きな花が印象深い。
それがロイド達一行の感想。
「追われていた事情もきになるし。一度、総督府にむかいましょう」
ここで立ち話しをいていれば、いつ何どき、あの男達がやってくるかわからない。
マルタ、と名乗った少女をつれ、ロイド達はひとまず総督府へとむかってゆくことに。

「あ、あの。これ、神子様一行がもっていてくれないでしょうか?」
総督府につき、少女が語ったのは、少女の父は、ブルート、といい。
何でもこの街であらたな自警団なる組織をつくりあげた、らしい。
聞けば、一番始めは路頭に迷っていた人々を受け入れるために創りだした組織、らしいが。
いって、少女がさしだしたは、不釣り合いなほどに大きな長細い布のたば。
「これは?」
リフィルがうけとり、机の上にその長い何かの布をまいたそれをおき、
布をとりはずすと、そこには不釣り合いなほどに大きな杖が。
「…何ですか?これ?何かまがまがしい感じがするんですが……」
それをみて、ニールがおもわずいっぽ、退く。
「これ、組織の人がパルマコスタの外れの草原。
  ……ディザイアンの施設があった近くでみつけたといってもってきたんです。
  でも、これを手にいれてから、ママの体の具合はわるくなるし、
  パパはなんか人がかわったみたいになるし……」
それまで、人を傷つけたりするようなことはせずに会話のみで相手をたしなめていた、というのに。
最近では、力こそ全て、といったような言い回しをよくしている。
「それに、これ、なんかこう、みているだけで不安になるようなのに。
  パパはそうじゃない。これをみていたら気持ちが落ち着くとかいって…
  絶対に、これがパパの変質の原因だとおもうの」
マルタ・ルアルディと名乗った少女の言葉に、しばしうなづきつつ、
「たしかに、最近のブルートさんはおかしかったですけど、しかし、これが原因…というのは、いささか」
たかがどうみても杖一つで人がかわったようになる、とはおもえない。
だがしかし、一方でロイド達一行はそれぞれ顔をみあわせる。
このまがまがしい感覚。
おそらく間違いはないであろう。
それに、何よりも。
「ロイド、どう?」
「ああ。間違いない。ネビリムの剣が反応してる」
「僕のもってる武器も反応してるよ」
使い勝手がいい、というのと威力がつよい、というのでジーニアスはかの武器を使用している。
それが魔の武器、魔の装備品、と呼ばれているとはわかっているが、
どうしても威力が高い武器を重宝してしまうのは、それはそれで仕方がないことだといえる。
「これは、闇の装備品で間違いなさそうね」
まさかこんなところでみつかる、とはおもっていなかったが。
「?闇の装備品?それって何ですか?」
「装備品に関してなら僕が説明するよ。えっと、マルタさん、だったよね?」
「あ、は、はい」
金の髪に緑の瞳。
よく、母が聞かせてくれている物語の王子様のようなその風貌。
まあ、服装がなぜか白衣、なのはきにはなるが。
これが、異なる白い服ならばまちがいなく王子様、で通用するかもしれないその容貌。
ものごしの柔らかそうなアステルの笑みをうけて、おもわず顔をあからめる。
「まず、闇の装備品、とは、かつて魔族に心を奪われた、ネビリム、という人の念がはいっている品。
  そういわれています。そのネビリムはとある人物に倒されたのですが。
  その怨念は彼の装備していた九つの武具に宿った、といいます。
  そして、それらの闇の装備品はネビリムの意思をつぎ、互いに引き合う、ともいわれています。
  また、念がこもっているそれらの闇の装備品、とよばれしものは、
  特定の人物を選んで魔剣士…すなわち、自らの傀儡として眷属にしたてあげ、
  一生闇の装備品の奴隷にする、ともいわれています。
  特徴は、選ばれた、もしくは素質のあるものは、まがまがしい感じをうけることなく、
  闇の装備品が傍にあるとここちよい、とかんじたり、もしくは頭がいたくなってり、
  また、音や声がきこえたりするそうです」
「!」
アステルの説明に思わずプレセアが目をみひらく。
プレセアもまた、かの品が傍にあるとき、常に頭がいたくなり、何か声のようなものがきこえていたようなきがした。
それゆえにプレセアは驚かずにはいられない。
「より眷属にふさわしい力をもつものには、武具のささやきがきこえる、ともいわれています」
「…パパは、何か声がきこえるっていってた…まよったら、これにきいたら教えてくれるんだって…
  ま、まさか、パパはそんな危ないものに魅入られてるの?パパは…どうなるの!?」
それは悲鳴にちかい、マルタの言葉。
「どこまで浸食されているかにもよりますが。すくなくとも、武器が近くにないかぎり、
  万が一浸食されかけていたとしても、それ以上の悪化はないとおもわれます」
「その、侵された人を治す方法はないのかしら?」
「魔族の瘴気に充てられる、というのがもっともな説なので、
  一番てっとりはやいのは、マナをより多くその身にうける、ことですね。
  かつて、同じような出来事がエルフの里でもあったらしいですが、
  それらの瘴気らしきものに侵された人々は、マナの濃い、エルフの聖地につれていって浄化した。
  ともきいてます」
そんなアステルの説明に、
「エルフの聖地?そんな場所きいたこともない……。それに、マナが濃い場所なんて。
  ここ、シルヴァランドにあるはずもないし…」
「もしくは、別な方法もあるにはありますけどね」
「?別な方法?アステル。それはどういう方法なんだい?」
しいなの素朴なる疑問に対し、
「封魔の石、というものがあるらしいんです。それは周囲の力をマナに変換、
  または、持ち主の生命力をマナに直接変換する効果がある、といわれています。
  もっとも、命そのものをマナにと変換するがゆえに肉体も完全に消滅してしまいますが……」
そこまでいい、言葉を濁し、
「封魔の石は、エルフの里にあった、らしいんですけど。
  今現在は行方不明、らしいんですよね……」
ユミルの森の水に浸していたはずなのに、そこの保管場所から忽然ときえていたらしい。
エルフの族長曰く、もしかしたら書物をうばったものと同一かもしれない、とはいっていたが。
そんな彼らの会話をききつつも、
「ねえ。あの。変なこときいてもいい?もしかして、神子様達って…ラタトスク・コアってのしってる?
  もしくは、センチュリオン・コア、でもいいんだけど。
  パパが…組織の人達にそれをみつけだせっていってるのきいちゃって……」
「?きいたことはないですが。しかし、ブルートさんの動向はどうやら今後気をつけておく必要性がありそうですね」
センチュリオン、という言葉と、ラタトスク、という言葉に反応しアステルはおもわず目をみひらく。
こちらの世界、シルヴァランドでも精霊ラタトスクのことの伝承がどこかにのこっていたのか。
それとも、まったく別要因による情報なのか。
アステルの研究結果として、センチュリオン達というのは、それぞれコアをもっている、と確信している。
彼らの本体は、特殊な紋様が入った宝石のようなもの、というのはとある場所の石碑よりよみといた。
万が一、それにふれると、普通のものは、完全に狂ってしまう、とも。
その巨大なる力にあるいもおぼれる、といってもよい。
そんな会話をききつつ、ふかく息をついたのち、
「…エミルがここにいたら、詳しく説明してくれるかもしれないけどね」
たしかに、リフィルのいうとおり。
エミルはどうもセンチュリオン、という存在とともにいる。
しかも、アステルいわく、それは精霊ラタトスクの直属のしもべ、らしい。
おそらくエミルは確実にそのあたりのことを知っている。
だがしかし、エミルはいまだ、闇の精霊の神殿でわかれたまま合流してきていない。
いつ戻ってくるかわからない以上、リフィル達が勝手に第三者にいっていいものか判断はつかない。
すくなくとも、下手をすればそれは、世界に…世界樹にかかわりがありえる、のかもしれないのだから。

しばし、彼らによる会話がその場においてつづけられてゆく……


                            ――Go To Next

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あとがきもどき:
薫:ついにちらり、とだせたヴァンガード♪(こらこらこら)
  このお話しは、ブルートはセンチュリオン・コアの影響でかわった、のではなくて(まて)
  闇の装備品によって、魔族につけいられた、という設定になってますv
  …もっとも、今後ブルートさんが活躍するのは、世界統合後、になりますがね(まてこら)
  次回でようやく闇の装備品、ネビリムもどきとのイベントに~
  とりあえず、恒例?の別話しをばv


「お帰りなさい」
もはやもう突っ込むのもかなり疲れたといってもいい。
ゆえにスルーすることにきめたクラトス。
先ほどよりは魔物の数は少しは減ってはいるようだが、
それでも多種多様…おそらくこの遺跡の中にいる魔物全ての種類はいるであろう。
そんな魔物達にかこまれてのんびりとしているエミルの姿が目にとまる。
リフィルが旅をしていたら嫌でもわかる、といっていた意味が確かに判りたくないが判ってしまう。
 これが半年も続いていたとなればたしかに達観した境地になってしまったのだろう、ということも。
…?
何故か昔もこんなことがなかったか?
そんなことをふと思う。
ユアンが共に行動することになった後、マーテルがのほほんとかまい、
ユアンが何やらいって、ミトスがマーテルの味方をし、ほぼ毎日が突っ込みどころ満載の大混乱であった。
たしかに、自分達四人以外にも、誰か、がいた。
そう、いたはず。
それが誰、なのかはおもいだせない。
心とは複雑でそして繊細でもありそしてまた計りしれない力をもつ。
いくらラタトスクが記憶を封印しようとも心の力までも封印できるというわけではない。
たしかに魂そのものを管理することも可能なれど、心は個々がもついわば財産のようなもの。
時に心は奇跡すら生み出す力をもっている。
心の中にあるかつての良心のかけらという思いはクラトスを悩ませる。
記憶は完全に封じられ、そしてまた消されてしまっている、というのに。
心が覚えているかつての記憶。
「ところで先生。次の目的地は?」
そこにいたファイアーバードをなでつつも、戻ってきたリフィルにとといかけているエミル。
「バルマコスタを目指すべきね。この大陸ではこれ以上の手がかりは得られないとおもうわ」
この大陸にはこれ、といって目立ったような場所がないとおもうがゆえのリフィルの台詞。
「世界最大の都だよ。マーテル教会の聖堂もあるし、学校もある。きっと何か手がかりがみつかるよ」
リフィルに続いてジーニアスがいい、
「だが、バルマコスタを目指すならオサ山道をこえなければならない。
  それほど険しい山道ではないが準備していくにこしたことはないぞ」
淡々と説明しているクラトス。
が、その視線はあきらかに先ほどまではいなかったはずの、テネブラエの上にいる鳥にとむいている。
テネブラエとなのるものと同じ気配をまといしもの。
エミルが干渉していなければあきらかにそれぞれの属性の力を強く感じ取っていたであろう。
「そうだな。トリエッタで買い物してからいこうか」
「ところで。さっきからきになってたんだけど…エミル?」
「はい?」
「テネブラエの上にいる紅い鳥は…?」
リフィルの問いかけ。
たしかに部屋にはいるまではいなかったはずの見たこともない紅い鳥がテネブラエの上にちょこん、と乗っている。
「あ、この子はイグニスです」
「離れ離れになっていたのですけど、さきほど合流できたのですよ」
にこやかにエミルがいい、テネブラエが追加説明。
「鳥、とは失礼な。私はセンチュリオンです。センチュリオン・イグニス」
「「って鳥がしゃべったぁぁ!?」」
リフィルの問いに小さな鳥…ちなみにテネブラエの背中にちょこん、とのっている。
紅き羽にオレンジ色の尾羽をもったすこしかわった鳥。
尾は炎のように羽がはえており、ぱっとみためおもわず火の鳥?という言葉が浮かぶ容姿。
イグニス、と紹介された鳥が話したのをうけ、驚愕の声をあげているロイドとジーニアス。
そして、
「センチュリオン?それってたしか、テネブラエ。あなたもそうだ、といってる種族よね?」
「種族とはまた違うのですが…まあにたようなものですね」
「たしかに。この子も魔物でもなく精霊でもない、不思議な感じがするわね。あなたと同じように」
じろじろとテネブラエと鳥を見比べていっているリフィルであるが。
「エミル。この子も友達なの?」
「この子は友達というより家族だよ?」
「他にもあと六体ほどいるのですが、離れ離れになっていましてね。一年ほどまえに。
  他のものともうまく合流できたらいいのですが……」
いってテネブラエはため息一つ。
「じゃあ、い~ちゃんだね!」
「い、い~ちゃん?何ですか!?その呼び方は!!」
「テネブちゃんの家族なんでしょ?」
「テネブ…ちゃん?!…テネブラエ。そのように呼ばれてるのですか?」
「…いわないでください。イグニス。この子には何をいっても無駄だったんです……」
「い~ちゃんがだめなら、イグちゃんはちょっとごろがわるいからイクちゃんだね!」
「…エミル様…何とかいってください……」
「無理だとおもうよ?テネブラエも散々いったけど治してくれなかったもん」
「……センチュリオンとしての誇りが……」
「「は~……」」
なぜかきょとん、とするコレットにたいし、センチュリオン二人は同時に盛大にため息をはく。
「離れ離れ?一年前?…ひょっとして、その子が記憶喪失になったのとかかわりが?」
「…不本意ながら……我々が傍についていて情けないことですが」
イグニスの声はどことなく不満そう。
「あれ?今きづいたけど、綺麗に氷がとけてるな?」
きょろきょろと周囲をみてみれば、ぴっしりと凍っていたはずの周囲の壁が
もののみごとに溶けている。
「きっと封印解放がなされたから、じゃないのかな?」
そもそも火の封印の箇所が凍りついていたなどどんな現象だ、といいたい。
しかも砂漠に雪がふっていた、などと。
「とりあえずこの周辺の雪は全部もうとけたって。さっききいたよ?」
連絡もうけたし自らも確認している。
ゆえにエミルの台詞に嘘はない。
「聞いた・・・って、ああ、魔物からか」
「とりあえず外にでましょ」
たしかにここにこのままいても意味がない。
そのままエミルを再び加え、一行は外へとでてゆくことに。

「うわ~!完全に雪がとけてるよ!」
きらり、とした太陽がとてもまぶしい。
まだ気温はすこし涼しい感じではあるが、雪はすでに影以外にはのこっておらず、
あたりにちょとした湯気のようなものがたちのぼっていたりする。
それらは瞬時に蒸発しては大気中にときえてゆく。
これらの水蒸気が全て蒸発したとき、この地は確実に元の砂漠へともどるであろうことは想像に難くない。
「…火の封印解放の威力ってすざましいのね」
リフィルがそれをみておもわずつぶやく。
あれほどあった雪が封印を解放しただけでなくなっている、という現象に驚かずにはいられない。
真実は違うのだが、リフィル達は気づかない。
そもそもイグニスの解放は、彼らは胞子がみせた夢、と捕らえてしまっているのである。
ゆえに気づくはずもない。
と。
遺跡からでて、砂漠に足をつけたその刹那。
がくり、と膝をおりその場にしゃがみこむコレットの姿。
「コレット!大丈夫か!」
「へ…い…き……」
あわててロイドが抱き起こす。
が、平気といいつつもぐったりとして声にも力がない。
「ちっとも平気そうじゃないよ。顔色が真っ青だもん。どうしよう。
  僕が調子にのってはねを出し入れさせたから」
「馬鹿なことをいってないの!ほら、唇が紫いろになってるわ。急いで街の医者にみせないと」
ジーニアスの台詞にたいし、リフィルがぴしゃり、と言い放つ。
コレットの唇は紫いろにとかわり、ぐずぐずしている暇はないようにロイド達の目にうつる。
「早く医者にみせましょう。街にもどって」
「まて。動かすな」
クラトスがリフィルを遮る。
「どうしてだよ?」
「先ほどの天使の話しを思い出せ。天使への変化には試練がともなうのだ。
  医者にみせるよりここで安静にしたほうがいい」
「でも、このままじゃ心配だ」
ロイドがいい。
「ノイシュにのせていってもらえば?まだ雪が完全にとけてないんだし。
  このままここで休むにしても体によくないとおもうよ?気温の変化もどんどん上昇するだろうし」
「それは……」
あれほどあった雪が一気にとけている以上、たしかにこれからいっきに気温は上昇するはず。
「クラトスのいうことにも一理あるけど。たしかにこのままここにいても危険ね。
   砂漠特有の暑さにいつ戻るともしれないわ。…まだ、時刻は昼ごろですもの」
これが夕方とかならばまだいい。
が、雪がなくなり太陽がてりつけている以上、どんどん気温があがるのは疑いようがない。
しかもこのあたりには休めるような木陰というものが存在していない。
「だい・・・じょうぶ。ほんとうに少しやすめば平気。迷惑かけてごめんね」
「ば~か。いちいち謝るな。しかたないだろ。急に天使ってやつになっちまったんだから」
「じゃあ、ノイシュに頼んでコレットを運んでもらう。それでいいかしら?」
「異議なし!」
「何なら友達よぼっか?…ってもう待機してる……」
ふとみれば、少しはなれた場所になぜか数体のラクダの姿が。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
ちょこん、とひざをおりいつでも移動できるようにしているっぽくみえるのは彼らの気のせいか。
否、気のせいではないのであろう。
「…まあ、エミルだしねぇ」
「そだね。エミルだし」
「エミルだしな」
それをみて一瞬驚いたものの、すぐさまそれで納得しいるリフィル、ジーニアス、ロイドの三人。
「まて。だからどうしてお前たちはそうあっさりと納得する!?」
幾度目になるのかわからないクラトスの突っ込みのむなしき声がひびきわたる。
「ほら。文句をいっていないで。おいていきますよ。いきましょう。エミル様」
しかしリフィル達はもうなれたもの。
てきぱきとノイシュにコレットをのせたあと、念のためにその後ろにロイドがまたがり、
そしてエミルとともにそこにいるラクダのほうへと歩いてゆく。
一人驚愕し固まっているクラトスに淡々といいはなち、エミルをうながしているテネブラエ。
「私が大きくなり運んでもいいのですが?」
「それだときっと街のひとが驚くとおもうよ?」
「え?もしかして大きさとかかえられるのか!?それ!」
「それ、ではありません。センチュリオン・イグニス!です!」
「興味深いわ」
リフィルのみが興味を示しているが。
「うわ~。ラクダかぁ」
「…いいな、ラクダさん……」
「コレットはだめ。ノイシュのほうが安定してるからね。乗りたいなら明日もまた頼んであげるから」
「うん」
どうやらコレットはつらいながらもラクダにのりたいっぽい。
「…精神的につかれるぞ…はぁ……」
ここにくるまでいろいろと常識外れのことを目の当たりにし、クラトス的にはかなりまいっていたりする。
それにすっかり慣れてしまっいるらしい彼らにたいしてもあきれざるをえないが。
まあヒトはよくもわるくも状況になれきってしまう、というのはクラトスは身をもってしっている。
ゆえにただただ盛大にため息をつくしか…ない。


ではでは~♪

2013年9月3日(火)某日

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