まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

この話し、ストーリー本編を前後してたりして再構成されてます。
まあ、すでにマナリーフがでてきたりしてるからわかるでしょうが。
今回もあまり話しが進んでないです・・・・あしからず……
別話9あとがきにあり。

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「皆さん、お待ちしていました」
どうやらまっていたらしい。
そんな研究員に対し、
「ケイトは彼女の希望でオゼットに連れていくことになったわ」
リフィルが代表して説明する。
「そうですか。まだケイトが脱獄したことは判明していません。
  まあ、おそらく教皇のメンツはまるつぶれでしょうけどね。いいキミです。
  皆さんが疑われる前にたしかにここから立ち去ったほうがいいのでしょうね。
  あ、これがブルーキャンドルです。使い方はアステルにでもきいてください。
  どうも、彼、まだあなた達に同行するつもり満々らしいですので」
「「あはは……」」
そんな研究員の台詞にただ苦笑いするしかないロイド達。
「ところで、エミルはいるかしら?」
「あ、はい。たぶん、研究所の書庫にいるかと。一階の左奥の部屋になります」
「ありがとう」
どちらにしても脱獄が判明する前にここからケイトを連れ出す必要がある。
足がない今、否、足のひとつにエレメンタルカーゴがあるにはあるが、
あれの使用はかなり目立つ。
まずは港にまでいく必要性があり、ここ、王都テセアラにはその肝心なる港がない。
何しろ海に面してはいないのだから。
あまりエミルに頼るのもどうか、とはおもうが、ミトスのこともある。
いくらゼロスの屋敷だとて安心はできない。
ここは、ハーフエルフを迫害している中心地、ともいえるのだから。

光と闇の協奏曲 ~再びオゼットへ、そして……~

「私、一人で考えてみます。父のことや、私のこと、ハーフエルフのこと……
  本当に、助けてくれてありがとう。それからプレセア……」
エミルにいうと別にかまなわい、ということで、夜の闇にまぎれてのオゼットの移動。
どうでもいいが、どうしてエミルの傍にいる魔物は瞬間移動もどきの何かができるやら、
そんな疑問がつくづくわくが。
かつて、ラーゼオン峡谷からオゼットに移動したときとに使用した、
光の鏡のようなものとはまた異なる移動方法。
目の前の空間がぽっかりとわかっかのように揺らぎ、そこに濃霧のようなものが発生した、
かとおもうと、その先に移動したい場所の光景がみえたときの驚愕は何といっていいものか。
移動した先はアルタステの家のほぼ目の前。
開けた場所もあるので移動するにはさしさわりがないのはたしかにそう、ではあるのだが。
「…はい」
「…ごめんなさい」
それだけいい、夜の闇にときえてゆく。
今、彼らがいるのはすでに人気のない廃墟とかしたかつてのオゼットの村の中。
あれからあらたに家々を再建するようなものもいないがゆえにうちすてられたそのままになっている。
「…何だか、かなしいね。どうしてこんな風になっちゃうのかな」
夜の闇に消えてゆくケイトをみつつ、ぽつり、とコレットが声をもらす。
「二つの勢力は必ず対立する。
  シルヴァランドとテセアラ、エルフと人間。天と地。富豪と貧困」
そんなコレットに対し、誰にいうでもなく淡々といっているリーガル。
「…そして、狭間のものは犠牲になるわ。ハーフエルフも、そして大いなる実りも神子も」
テセアラの貧民街の人々のように。
そういうリフィルの顔色はあまりすぐれない。
いろいろと思うところがあるらしく、何ともいえない表情を浮かべていたりする。
「そんなのダメだ。誰かが犠牲になればいいなんて」
そんな彼らの言葉にロイドがすぐさまに否定の言葉を発するが、
「でもな。人が二人いれば必ずどちらかが犠牲になるんだよ。優劣がどうしてもつく。
  それは国も世界も同じだ。平等なんて…幻想だ」
言葉で平等をうたっていてもどうしてもそこに優劣はつく。
それこそ弱肉強食。
自然界における動植物ですらそのような順序というか生態系をもっている。
そこに差別するかしないか、という違いはあるにしろ。
「産まれ、立場、階級、種族、そういったものに振り回されるんだよ」
言い捨てるようにいうゼロスの言葉には様々な想いが含まれている、らしい。
結局のところ、セレスに何かあっても、ということで、彼女はゼロスの屋敷にと残してきている。
どちらにしろ、この用件がおわればまた王都に戻る必要性があるがゆえ。
ヴァーリ達がいっていた、国王の毒云々をほうっておけない、というのもあるにしろ。
「でも…心は皆同じだろ?誰だって自分を否定されれば傷つくにきまってる。
  それなのに、そんなことを忘れてるんだ」
ロイドのいい分はたしかにそのとおり。
人は、互いを慈しみ、想いやる心をもっているというのにそれを忘れてしまっている。
否、それを他者にむけようとしていないものが多々といる。
だからこそエミルは苦笑するしかない。
かつては、人もたしかに、自然の一部、としてそのような心をもって接していた、というのに。
いつのころからか人は自分達だけが選ばれたものだ、という選民思考に捕われ、そして今にいたる。
自分達がいるから自然があり、自分達がどのようにしてもそれはあたりまえだ、というような、
何とも傲慢なる考え。
いっそのことそういった人全てを一つの世界…界でもつくり閉じ込め自滅させたほうが早いような気もしなくもないが。
一部にしろそうでない人がいるがゆえに、まだそこにまでは至っていないのもまた事実。
そうでなければとっくに絶望し、人を一度全て滅ぼして…絶滅させてしまっている。
「心は同じ……」
そんなロイドの言葉にミトスがぽつり、とつぶやく。
それは、かつてミトスの姉、マーテルがよくいっていた言葉。
心に色はないのよ。ミトス。
そういっていた姉。
そのことを思い出し、おもわず顔をふせるが、夜でもあることからミトスの表情は、
ロイド達には伺いしれない。
もしも表情をみていれば、何か苦悶するような表情に何かしら思うところがあったであろう。
「そうだよね。皆が皆、想いやって生きていけばいいのにね」
「…少しづつ、人は変われます。…変わらないといけない…とおもいます」
コレットは本心からいっているが、プレセアの言葉はどこか戸惑いがふくまれている。
彼女を許したわけではないが、許さなければいけない、という複雑な想い。
あの計画の責任者の一人としてたしかに、彼女、ケイトは携わっていたのだから。
しかも、計画に参加した理由が理由。
気持ちはわからなくはないが、他にも方法があったのではないか、とおもってしまうのもまた事実。
被害は自分だけではない、のだから。
「そう信じてできることからやっていくしかないな」
しかしロイドはそんな彼らの気持ちに気づかない。
言葉通りにとらえ、そんなことをいっていたりする。
「そうね。とりあえず、今の私たちがすることは、まずはミトスをアルタステのところに送り届けないとね」
ケイトの姿がみえなくなったのをうけ、あらためてミトスに向き直りそういうリフィルの台詞に、
「え?えっと、僕も皆と一緒にこのまま旅をするのは…」
戸惑い気味に、いきなり話しをふられ、そう答えるミトス。
結局、一緒にいて、かつての自分と今、自分がしようとしていること。
その矛盾に近いそれらにきづきはじめたのも事実。
だからといってもうすでに計画を進めている以上、とまることなどできはしないが。
精霊達が自分より彼らを選んだのもまた誤算。
たしかに彼ら、精霊をかの地の力で楔という枷をかけ閉じ込めていたのも事実なれど。
それは世界を救うため、と自分にいいきかせていたが、精霊達にとってはそうではなかったのかもしれない。
このままではまちがいなく、アスカもルナも契約をかわすであろう。
自分でもアスカとの契約はできなかった。
もっとも、アスカと契約していたのは姉なのでいちがいにまったく関係ない、ともいいきれないが。
救いはオリジンはどうあがいても彼らと契約することがない、ということくらいであろう。
少しの間なれど彼らと一緒にいてわかったのは、彼らはクラトスを犠牲にしてまで、
オリジンとの契約を望もうとするなどありえない。
オリジンの封印はクラトスのマナの全てをもってしておこなっているもの、なのだから。
「あなた、体調が思わしくないでしょう?これ以上、連れ回して悪化させてはもともこもないわ。
  これからどんなことが私たちの旅にはおこるかわからないのだから。
  本当はさっきあのままアルタステのところに預けたかったのだけど。
  あなたがケイトを一緒に送り届けたい、というからここ、村の中にまできたのだし」
「そうだよ。ミトスに何かあったら、僕、かなしいよ」
リフィルの言葉につづき、ジーニアスがいってくる。
どこかはかないような印象をうけるミトスはジーニアスにとって保護すべき人物、として、
その認識がなされていたりする。
実際はジーニアス達よりも格段に実力はミトスのほうが上だ、というのに。
そのことをジーニアス達は知らない。
いまだに気づいてすらいない。
「でも……」
「しかし、エミル、あの移動方法があるならもっと早くにいってくれればいいのに」
「え?滅多としないよ。急ぐ、というからこの子にお願いいただけで」
不満をすこし含んだロイドの台詞に、さらり、と笑みを浮かべてかえしつつ、
横にいる真っ白な鳥をなでるエミル。
いつものこととはいえ、気づけば自然にいつのまにかエミルの傍には魔物が必ず一体以上は存在している。
もうすでに今に始まったことではないのでロイド達は驚きはしないが。
「それに、人間、楽を覚えたらすぐにそれにすがろうとするしね」
それは事実、そして努力することすらしなくなってゆく。
そう、今の現状…エクスフィアと人がよびし、精霊石を人が利用して力を底上げしているように。
本来ならば個人での力の向上が可能だ、というのにそれすら人々は忘れてしまっている。

「じゃあ、アルタステさんと仲良くな」
結局、ミトスはしばししぶっていたが、ロイド達に説得され、
アルタステのところに残る、というのでおちつき、アルタステもまた、夜だというのに心よくミトスを受け入れた。
ミトスが折れたのはこれ以上、彼らとともにいれば今の決意がゆらいでしまいそう。
そんな思いもたしかにある。
ノイシュにのみもらした自分の気持ち。
疲れて全て終わらせたくなる思いがある、というのも本当。
だけども、姉を助けたいのもまた本当。
たとえ世界が本当の意味で救われたとしてもそこに姉がいなければ意味がない。
だからこそのこの計画。
姉さえよみがえれば、それから大樹をよみがえらせ、全て同じ人種に。
そうすればきっと、差別のない世界ができあがる、そうおもったからこそのこの計画。
だけども…生きている、とは何なのだろうか、とふとこの旅の中でおもった。
否、思ってしまった。
感情全てを無くしてまで生きながらえてゆく意味があるのか、と。
感情を全て殺した無機生命体による命の継続。
それに何の意味があるのか、と。
「うん。遊びにきてくれるよね」
そんな思いを表にだすことなく、それでも隠しきれないらしくすこしとまどったような表情で、
そんなことをいってくるミトス。
はたからみれば、ジーニアス達との別れを惜しんでいるようにみえなくもない。
真実はそれもあるが別の意味のほうが大きいのだが。
そのことにきづいているのはエミルのみ。
「あの村にケイトさん一人でおいてきて本当に大丈夫なのかなぁ?」
ミトスもアルタステに促されるようにとアルタステの家の中へとはいり、
とりあえずその場をあとにする。
コレットがケイトを心配してそんなことをいってくるが。
「…一人になりたいのでしょう。考えることはたくさんあるはずだわ。
  アルタステの所にいかず、一人のほうがいい、というのですもの」
彼女もいろいろと思うところがあるであろう。
父親に愛されたいがためにやったことは到底許されることではないとおもう。
命をかろんじている計画に加担したことは。
それでも、父親は娘を利用するだけ利用して、何の意図があってかしらないが切り捨てようとした。
ある可能性がリフィルの脳裏に浮かんでいるが確証がない以上、今は何もいえないのもまた事実。
「あの人も自分がハーフエルフだから苦しんでるんだな」
ロイドはロイドでその意味を完全に理解しておらず、
たかが種族、という立場のみでそんなことをいっていたりする。
あいかわらず考えていない、とエミルはおもうが。
しかしそれを当人が気づかなければどうにもならない。
もっとも、当人が気づこうとしていないというか改めようとしている姿勢がまったくみられない。
ロイド自身にはまったくもってそんな自覚などさらさらない、であろうが。
ロイドからしてみれば、自分は改善しようとしている、と思っている。
それは思っているだけで実行にうつしていない、ということに当人はまったくもって気づいてすらいない。
「そうね。でも、彼女゛かあの生き方を選んだのはハーフエルフだからではないわ」
「そうかな」
リフィルにそういわれても、まだロイドはわからない。
「そうよ。父親である教皇に愛してほしかったからプレセアの実験に加担した。
  それを血のせいにするのは…卑怯だわ」
そう、血のせいにするのは卑怯。
それは言外に自分さえよければ他者はどうでもいい、という考えに他ならないのだから。
「確かに、その通りだけど。ちょっとかわいそうだって俺おもうよ」
そこまでいわれて、たしかに、とはおもうが、それでもどこかふんぎりがつかない。
「甘いわね。いえ、その甘さがあなたらしいかもしれないわね」
そんなロイドの台詞にリフィルはため息をつかざるをえないが、
まあ彼のこの性格は今に始まったことではないこともリフィルは把握している。
目先のことのみに捕われ、肝心なことをよく失念するロイドのその本質は、
どうやらこの旅の最中でもほぼかわっていないらしい。
それがよいことなのか悪いことなのか、人それぞれの判断によるであろうがゆえに、
リフィルも何ともいえない。
もっとも、このロイドの能天気さに救われることもあるので一概にわるい、といえないがゆえのリフィルの台詞。
そんな会話をしている最中。
「この人のいなくなった廃墟とかした村で人の声がするとおもったら……」
ふと第三者の声がロイド達にむけてなげかけられる。
おもわず身構えるロイド達。
誰もいない、とおもっていたがゆえに警戒も何もしていなかったゆえの反応。
何しろエミルがいることにより、普通は襲ってくるはずの魔物はまったく襲ってくることはない。
それはこれまでの旅ですでにロイド達は実体験をもって理解している。
だからこそ魔物が多々といても警戒する必要もなくこうして夜の森を歩いていたのだが。
がさり、と草がふみわけられる音ともにあらわれたのは、年のころは四十かそこらであろう、
この場にはあまりにつかわしくないような一人の男性。
「…フリード叔父さん?」
ふとその顔に見覚えがあり、おもわずプレセアが声をあげる。
それは、かつてまだ父が生きていたころに時折家を訪ねてきていた人物。
父が病気になったときもいろいろと手をつくしてくれたことを覚えている。
そしてまた、妹が奉公にでる、といったときにツテをたよって王都を紹介してくれたのもまた彼。
プレセアがフリード、とよばしそんな彼は、ふとプレセア、そしてロイド達をざっとみつつも、
そして、しばしじっとプレセアをみつめつつ、
「プレセア、生きていたか。そして……心を取り戻したのだな」
その表情が多少ほころんでいるのが月灯りのしたみてとれる。
「プレセア、知り合いか?」
ロイドがどうやら知り合いらしい、というので警戒をときつつもプレセアにとといかける。
「パパの…知り合い、です」
プレセアの父は、かなり前に亡くなっていたはず。
その知り合い。
「叔父さんは…どうして……」
「なに。月が綺麗だからな。久しぶりにジークと向かい合って語り合おうとおもってな。
  私は、ラルフ。ラルフ・フリードという」
少し村を離れている間にあのようなことになっているとはおもわなかったが。
どうも教皇が何か、騎士団をつかい何かたくらんでいるので探ってほしい。
そういわれ、村をはなれていたその間にあの出来事はおこった。
もどってみれば、プレセアは心を失っており、ジークもまた病に伏せっていた。
正確にいえば、病、ということにしていたといってもよい。
かつて彼がうみだせしとある技は確実に彼の体をむしばんでいた。
その結果があのような出来事につながってしまった。
「うん?どうやら神子様もおられるようだな」
「うん?俺様はあんたのことをしらないんだけどな?」
怪訝そうな顔をうかべるゼロスに対し、
「神子様はいろいろな意味で有名ですからな」
「「納得(だわ)」」
そんな言葉にしいなが思わず賛同の声をあげる。
その台詞はなぜか異口同音でリフィルの声とかさなっていたりする。
「プレセアや神子様達はどちらに?」
「今から森を抜けようかと」
「ふむ。なら、夜の散歩がてら、私もそなたたちを森の外に送り届けよう」
そんなフリード、と呼ばれた人物の台詞に思わず顔をみあわすロイド達。
「あんたは、村の人達みたいにどこかに連れていかれなかったのか?」
ロイドがふと思いついたようにといかける。
この村のものは、クルシスのものの手により捉えられるか、もしくは殺されたはずなのに。
「出かけていてな。…もどったらこのようになっていて驚いたが。
  アルタステ殿から何があったのかはきいた。…クルシス、か。
  前々からジークとともに胡散臭いとはもおっていたが、やはりな……」
組織に所属しているときから何かしらの違和感を感じ、こっそりとさぐっていた。
その矛盾点に前の教皇も気づいてしまい、クルシスの甘言にのった今の教皇が、前の教皇を暗殺した。
そういわれ、おもわずだまりこむしかないロイド達。
しばし、何ともいえない無言の空気があたりにたちこめる。
誰も何もいわないままに、あるくことしばし。
月灯りのもと、静かなフクロウの声や虫の鳴き声のみがときおりきこえてくる森の中。
ガオラキアの森。
鬱蒼としげる木々の間から月灯りが地面をてらしだしている。
たしか以前は光りすら大地にあまりとどかなかったはずなのに、
どうやらどういうわけかある程度の光りは大地にとどくようになっているらしい。
ロイド達はしらない。
魔物達がマナの調停とともに、ついでに自然界の調整をもしている、ということを。
それは魔物だけでなく動植物にたいしてもまた同じこと。
全ては王の命ずるままに。
月灯りのみの薄暗い、といっても満月なので明るさ的には問題はない森の中。
「…かつて、この村には鬼人とよばれる男がすんでいた」
誰にいうともなく、ぽつり、と何やらかたりはじめるフリード
「彼の戦斧はすざましい技を繰り出したそうだ。
  …かつて、その男は教皇騎士団にいた。その男の名はジーク」
『!?』
その言葉に思わず顔をみあわせるロイド達。
プレセアの父の名がたしかジークであったはずである。
プレセアの父が元、教皇騎士団?
それはロイド達はしらなかった事実。
どうやらプレセアも知らなかったらしく、目を見開いているのがみてとれる。
感情を表に出すことが苦手なプレセアにしては珍しい表情の変化。
「教皇騎士団!?プレセアの父さんが!?」
ロイドの驚愕はおそらくこの場にいる全員…エミルを除く、がその想いに共通しているであろう。
あとさき考えず、思ったことをすぐに口にするロイドは、
他のものがプレセアのことを思って声にださないのとは異なり、あるいみで裏表がない。
そんなロイドの驚愕に答えるわけでなく、そのまま淡々と、
「先代の教皇の時代、ジークは騎士団随一の戦士だった。
  斧を震わせれば右にでるものはいないほどの」
「…でも、それならなぜパパはキコリに……」
プレセアが物ごころついたときにはすでに父はキコリの家業をしていた。
ここ、オゼットで。
「ジークはとある技の奥義を生み出した。そしてその技を会得した騎士団は変質していった。
  …暗黒部隊へとな。ジークの生み出した技の力の強力さに騎士団の面々はおぼれてしまったのだ」
その技を生み出した責任を感じ、ジークは騎士団を退団した。
その力を人を救うことではなく、人を陥れようとしはじめた騎士団のあやうさを感じ。
「よかれ、とおもってジークは人々を救える力なれば、とおもい、騎士団の面々にその技を伝授した。
  だが、結果は……」
当時のことを思い出し空をみあげる。
そんなフリードの言葉に、
「突如手にいれた力におぼれてしまったのね。よくあることね」
リフィルが盛大にため息をもらす。
そう、よくあること。
いきなりすぎた力をもったものがよく堕ちいる罠。
「…どんな、技、だったんですか?」
あの温和な父がうみだした技。
しかも力におぼれてしまうほどの強力な側面をもった。
気にならないはずはない。
そんなプレセアの問いかけに、
「ジークの生み出したその技の奥義は、とても理にはかなっていた。
  そして強力であった。それゆえに騎士団員達はこぞってジークからその技を学んでいった。
  その結果、ほとんどのものが力におぼれていってしまったのだが…
  ジークはそのことに嘆き、真の奥義を私だけに伝えてきこりとなったのだ」
「…だから、パパは貴族やお城の人に面識があったんですね……」
王都に時折父についていったときに面識があるようなそぶりをたしかにみせていた。
しかも相手が父をしっている場合もあった。
そのことを思い出し、プレセアが思わずつぶやく。
「プレセア。お前がいきていてよかった。私はお前に父親の言葉を…ジークの言葉を伝えなければならない」
その言葉に足をとめ、はっとしたように、
「パパの…パパの言葉!?パパは、パパはなんて……」
止められていた。
お前がキコリを、力をもとめてまでする必要はない、と。
それでも、とおもい力をもとめたのは他ならないプレセア自身。
その言葉の裏にある意味を考えもせず。
「心の闇に負けるな、と」
「心の闇……」
その言葉はリフィル達の心にもひびく。
それは誰にもいえること。
自らの負の心に負けること。
人はどこまでも堕ちてしまう。
立ち直るにしてもそれにともなう代償もそれにともない大きくなってゆく。
いい例が今の世界をつくりだしてしまったというミトス・ユグドラシルのありかた、であろう。
今までの人々の話しをきくかぎり、彼もまた確実自らの心の闇に負けてしまっている、
といっていいのだから。
だからこそリフィルはそのことにおもいあたりおもわずだまりこんでしまう。
「?心の闇?」
一人、理解できていないらしくロイドがひたすらに首をかしげているが。
そんなロイドをみて、
「…ロイド君は平和だねぇ」
おもわずあきれたようにつぶやくゼロスの言葉に、うんうんうなづいているしいな。
ロイドらしい、といえばそれまでかもしれないが、しかしそれは人の痛みを自分のこと、
として捉えて考えていない、というようにも認識されかねない。
事実、確実にしているつもりでもロイドはしていないのであろう。
後先考えず、自分がおもったことが正しい、とおもって行動しているからこその障害。
それによっておこる出来事をまったく配慮していないといってもよい。
「プレセア。お前には心がある。たとえ、時を失い、感情を失っていたとしても。
  それは、紛れもない真実なのだ。そして、心はたやすく動く。心とはそういうものだ」
そう、だからこそ、エミルはミトスとの同行を認めたといってもよい。
他者とともにいることにより、ミトスの心がかつての心に戻ることを期待して。
「そして、だからこそ。といえるのだが。それゆえに心はたやすく闇をも生み出す」
「……はい。それはわかります」
「…人は、皆、そうだ。心に闇を抱えている。が、その闇に負けてはならぬのだ。
  人は全てその心に闇をもってもいるが星をももっている。
  その星をつねに闇に曇らせることなく輝かしつづけること、それが人がすべきことなのだ」
そこまでいい、空をみあげ、
「人の心に闇があるのは当たり前なのだ。夜があり、昼があるように。
  光があり闇があるように。それを制御してこそ真の人間、というものだ」
「光でも闇でもない、狭間の存在。それが人、ですしね」
エミルの言葉に嘘偽りはない。
そのようにしてうみだしている存在。
それが人、というもの。
ゆえに人は闇も、光りも許容することができ、抱擁することができる。
きまった方向を自ら選べるといってよい。
なのに、どうしていつもいつも間違った方向に人はすすんでしまうのか。
その結果がもたらすこと、それすなわち負の具現化。
かつて、心あるものがうみだせし負の結晶ともいうべき存在は今ではエミルの配下に収まっているが。
人の心がうみだせしもの…ユリス。
かつて人がうみだせし負の力が満ちたときに生まれし思念たる存在。
デリス・カーラーンにおいて大地がかなり疲弊してしまったのは、かの誕生の起因にもよる。
何しろユリス単体で負の力を増大させることが可能であり、
全ての存在にたいし、負の力を増幅させるような効果をもっていたのだから。
もっとも力であっさりとラタトスクが屈させたので今は自分なりの役目をしているといってもよい。
かの地においてユリスによって世界が無にかえらなかったのは、
負の感情を司る精霊をラタトスクがその地において生み出していたからに他ならない。
もっとも、この地においてはまだそれらの精霊を生み出していないので、
今、もしも誕生、ということになれば率先してラタトスクが動くことになるであろうが。
「…心の闇を制御する…難しいですね」
プレセアがおもわずぽつり、とつぶやく。
ロイドだけは意味がわかっていないらしく、ひたすらに首をかしげているようだが。
「教皇騎士団の連中とは違い、ジークは闇にと打ち勝った。
  私も闇の侵攻を食い止めた。なぜだとおもう?」
「…わかりません」
それは本当にわからない。
すくなくとも、考えても今のプレセアにはわからない。
「よくわかんねぇけど。心がつよかったんじゃないのか?」
心の闇云々はわからないが、とりあえず、自分の弱い心にまけるか否か、という問いかけだとおもう。
ゆえにおもったことを口にするロイドに対し、
「そうだ。そして、信頼できる友がいた。どんなことでも語りあえる友がな。
  私にはジークが、そしてジークには……」
「叔父さんがいた、んですね」
何もかもを語り合える友、というのはなかなかいるようでいない。
人はどうしても人づきあいをしてゆく中で、互いに距離をおきつつも、平穏であるようにと行動する。
ぶつかりあっても、それでも友、といえる…親友とよべる存在がいる人はあるいみ幸せであろう。
すくなくとも、本音をぶつけあえることができるのだから。
そのためにたとえ、互いの意見がぶつかりあおうとも、最後にはわかりあえなくても、
それでも許しあえる、そのような存在とも
自分の全てをさらけださせ、全てを忘れても問題ないような、そんな存在。
「プレセア。お前にもどうやらいい仲間ができたようだ。
  ……仲間を信じなさい。他でもない仲間を信じる自分自身を信じなさい。
  疲れたら私のところにくるといい。ジークの話しをしてあげよう。
  皆さん、これからもプレセアのことを…友の忘れ形見をよろしくおねがいします」
それまでロイド達に対してはあまり気にかけていなかったような態度であったのに、
いきなり立ち止まり、ふかく頭をさげられ、ロイドはもおわずとまどってしまう。
が。
「こっちこそ。プレセアにはお世話になってるし。
  プレセア、これからもよろしくな!」
「はい。ロイドさん。皆さん、これからもよろしくおねがいします」
「プ、プレセアの闇は僕がはらうよ!」
プレセアの言葉をうけ、ジーニアスが思わず叫ぶ。
「プレセア、これをお前にわたしておこう」
「これは?」
手わたされたのは巨大な斧。
そういえば、体ににあわない大きな斧を彼、フリードはたしかにもっていた。
「これは、ジークから預かっていたかつて、あいつが騎士団にいたころにつかっていたものだ。
  …娘であるお前が使うのにあいつも文句はなかろう」
それは、ガイアクリーヴァーとよばれし斧。


「では、ケイトは無事、なんですね?」
遅いので心配していたのだが、どうやら無事にケイトは脱出できたらしい。
戻ってきたリフィル達から報告をうけ、ほっとする研究員達。
「あ。これは約束のブルーキャンドルです。…たぶんアステルに渡せば、
  またあの彼のことだからあなた方に無理やりにでもくっついていきそうなんですよね…
  そういえば、それ、何に利用されるんですか?」
何に利用するのかをきいていなかった。
それゆえのといかけ。
そんな彼に対し、
「闇の神殿とよばれし場所にいくつもりなの」
その言葉に納得せざるを得ない。
「ああ。たしかにあそこはかなり暗いですからね。ここ最近はその闇もかなり強くなってますし」
プルーキャンドルをもちいてもかろうじて周囲がみえる程度の闇になっていることは報告にあがっている。
なぜかある程度の場所から中に一時はいれなくなっていたりもしたが。
ここ最近は闇にまるで呑みこまれるかのごとくに入ろうとしてもはじかれる、という報告もうけている。
「しかし、今、あの神殿には入ることが難しくなってるようですが…
  なぜか、神殿にはいってしばらくしたら、出口にもどっている、という状況が続いているらしく。
  それは、雷の神殿でもかつてよくみられていた現象なんですけど」
伊達に精霊研究院、という部署にいるわけではない。
そんな彼らの説明に。
「いってみなくてはどうにもならないわね。それは」
リフィルもしばしかんがえこむ。
「ま、今日はもう遅い。今日はひとまず俺様の屋敷で皆休んでいけばいいさ。
  明日はちょっと城のほうにいく必要がありそうだがな」
もしも、ヴァーリ達がいっていたように国王に何かあれば、それこそ教皇の想いのままになりかねない。
たわいのない情報交換をしたのち、話しもおわり、ひとまずゼロスの屋敷に戻るために、
そのまま研究院をでようとする一行であるが、そんな彼ら一行のうちのしいなをよびとめ、
「しいな。コリンのことをきいた」
「…そうかい」
いつかはいわれるとはおもっていた。
ゆえにしいなの声がすこしばかり暗くなる。
「コリンは幸せだったとおもうぞ。外にでて、お前とともにいれて」
あのまま、ケースの中で一生を終えるより、よほどいい。
人工的につくられし精霊がどうなるのか、いまだに研究されていない。
そのまま消滅するのか、それとも。
わかるのは、人工的につくられし精霊は、周囲にいる微精霊達の集合体を形となして器に閉じ込める。
ということのみ。
そんな彼らの言葉にしいなはただしずかにほほ笑むしかできない。
あのとき、自分がもっと、心をしっかりともっていれば、コリンを失わずにすんだ。
そう思っているからこそなおさらに。


翌朝。
朝も早いが、それでも行動ははやいほうがいい。
さらにいえば朝のほうがあまり人もいないので都合がいい。
教皇が神子に対し、手配をかけたことをこの街の人々はしっている。
人々はそれゆえにいつ、ふたたび伝承のようなことがおこるのかはらはらしている、といってもよい。
王城に侵入するには、どうどうと正面からと、そして地下水路からも王城に通じているらしい。
正面からいき、下手に教皇の息のかかった兵士達と騒ぎをおこすのも何だ、ということもあり、
一行が選んだのは地下水路から城へとはいる道。
「誰か…います」
エミルはまだ少し気になることがあるから、というので研究院にとのこっている。
エミルからしてみれば、せっかくなので例の品の情報が手にはいるかも、という思いがあるのだが。
プレセアがふと何かの声にきづき、思わず足をとめる。
「前方の…階段の途中…のようです」
たしかに耳をすませば、男の話し声のようなものがきこえてくる。
それぞれ顔をみあわせ、そっと足音をしのばせつつ、声がしている方向にとむかうことしばし。
「それじゃ、これが代金だ」
ふとみれば、一人の兵士が太った男にどうやら金のはいった袋を渡しているところっぽい。
「へへへ。たしかに」
下卑た笑いをあげつつもそれをうけとる。
じゃらり、とした音が静かな空間に異様に響く。
「国王がくたばるまであとどれくらいだ?」
「そうだな。この毒ならもってあとひと月というところだろう。
  傍から見れば病死にみえる。そのような注文だったからな。
  ゆっくりとだが、だが確実に衰弱させて相手を殺す毒だ」
その声に聞き覚えがあり、おもわずその顔を確認し、おもわず声をあげそうになるロイド達。
毒を売っている、とおもわれるその男は、ロイド達もよくしっている相手。
アルタミラにて、ロイド達の目の前から逃げおおしたヴァーリに他ならない。
驚かないほうがどうかしている。
「もう少し御辛抱してくださるよう、教皇様にお伝えしてくれ」
そんな会話がきこえてくるが。
「はは~ん。なるほどね。やはりか。あの健康優良体の国王が病気だなんて。おかしいとおもったぜ」
セバスチャンからきいたときには、仮病をつかっているのかともおもったが。
どうやらそう、ではないらしい。
と。
「何ものだ!?」
どうやらその声に気づいたらしく、会話をしていた男達がロイド達のほうをむきつつ叫んでくる。
そんな彼らの前にゆっくりと、一歩前に歩みだし、
「神子様登場~」
軽い口調で二人の前にとすすみでるゼロス。
「しまった!ゼロスか!」
兵士らしい男がゼロスに気づき毒づいた声をあげてくるが。
「何だ?」
ヴァーリもようやく第三者がいることにきづいたらしく、何やら声をあげてくるが。
「きさま…ヴァーリか!」
「…!」
その姿をみとめ、リーガルとプレセアが思わず叫ぶ。
リーガルは名を、プレセアは声にならない声をあげ、おもいっきり相手にたいし、敵意をこめてにらんでいたりする。
ゼロス達に気づき、形勢不利、とおもったのか、階段を駆け上がり逃げようとする兵士る
そんな兵士にゼロスは素早くかけより、足払いをかける。
「うわ!」
声とともにその場にてすっころぶ兵士の姿。
「薬これはもらっとくぜ。これをどこで教皇に渡すことになっている?」
足払いをかけ、すっころんだ兵士から受け取っていたであろう毒らしきものをとりあげ、
すらり、と腰にさしている剣をぬきはなち、仰向けに倒れている兵士のノドにとつきつける。
それを横目でみたヴァーリは忌々しそうに舌打ちし、
「ちぃ。今、国王暗殺の事実を知られてはこまるんだよ!
  ここでくたばりやがれ!」
何やら完全に逆恨みともいえるようなことをいい、武器を抜き放ってくる。
「…許しません」
そんな彼の様子にたいし、プレセアが斧をかまえ、
「だまれ!」
リーガルもまた戦闘態勢にと突入する。
ヴァーリはそのまま、丸太のような腕を振り回しながらロイドのほうにとむかってくる。
ロイドはそれをよけざま、急所をはずし、男の太った体にきりつける。
よろけたところをリーガルが蹴り飛ばす。
「プレセア!とどめを!」
「…はいっ!」
それはリーガルとプレセアのあるいみ連携プレイ。
リーガルの蹴り飛ばしたヴァーリはほぼプレセアの前にと移動しており、
その隙を逃すことなく、プレセアは先刻もらったばかりの父の形見の斧をふりかぶる。
ブゥン。
斧をふりぬく音が風をうならしつつ周囲に響く。
「ぎゃぁぁぁぁ!」
薄暗い通路に腹をざっくりとえぐられた男の体が重たい音をたてて刹那転がりゆく。
「じ…冗談だろ…こんなところで死ぬのか…俺は…
  あのくされたアリシアのように…くちていくのか……」
「アリシアを…侮辱しないで!」
その言葉をきき、プレセアがさけび、もう一度言葉とともに斧を振るう。
今度こそ、とどめとなったのかヴァーリはぴくり、ともうごかなくなってゆく。
どうやら完全に絶命、したらしい。
「…こいつが、五聖刃とロディルと教皇をつないでいたんだな」
ヴァーリの体を見下ろしながらロイドがつぶやく。
「ああ…そして、教皇にはくちなわも通じている」
しいなが低く、ロイドの言葉につづける。
「…テセアラのエクスフィアはヴァーリからロディルに流れ。
  クルシスの輝石に関する実験も、ロディルからヴァーリを通じて教皇へ流れていたのね」
リフィルの言葉にゼロスもうなづかざるをえない。
「おおかた、教皇のやつ、協力するみかえりに国王暗殺を持ちかけたんだろうよ」
「不埒な!」
ゼロスの言葉に、リーガルが嫌悪感もあらわに吐き捨てる。
「よし。教皇のヤツをおいつめようぜ!けど……」
「はは。ロイドくん。教皇とのデートの場所なら、俺様ちゃ~んと聞きだしてるぜ?
  別に遠出はしないみたいだぜ?」
ロイドのいいたいことをさっし、にっと笑みを浮かべるゼロス。
そう、遠出はしていない。
むしろ、近くにいる、といってもよい場所に彼はいるらしいのだから。


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あとがきもどき:
薫:ようやく教皇失脚?というか失踪?イベントだ~
  これがおわらないと、姫様誘拐イベントにいかれない…
  次回で手配解除など、です。それから闇の神殿にいける…かな?
  ともあれ、ひさかたぶりに、別話の続きをばv


びっしりと霜がおりきり凍りついた街道。
ここ最近、よくふぶいていたらしいが今日はそうでもないらしく、
雪がちらほらと降っている。
「運がいいわ。私たちが砂漠超えをしたときもあまりふらなかったのよ。
  街についたときなんて街の人に驚かれたくらいですもの」
リフィルが天候をみながらそんなことをいってくる。
何でもこの半年ばかり異常気象による雪ははげしさをまし、
ついには少し先すらみえないほどにふぶくこともしばしばだったらしい。
が、リフィル達が砂漠にはいるのとほぼ同時くらいにそれらの雪が一瞬おちつき、
それでもちらちらと雪が舞いおちる程度になっている。
「ごめんね。ロイド」
真っ白な…本来ならば砂漠地帯なのでありえないほどに真っ白な街道をあるきつつ、
コレットがロイドに頭をさげる。
「何のことだよ?」
「手紙・・・よんだでしょ?私、ロイドに嘘をついた」
コレットは旅にでるまえ、ロイド宛てに手紙をかいておいた。
自分がいなくなっても悲しまないように、と。
「ああいうのは嘘っていわねぇんだよ」
「ありがとう。ロイド。優しいね」
「あ~あ。僕も優しくしてほしいな~。もうくたくたに疲れちゃったよ」
そんな二人をみてジーニアスがため息をつきつつちゃちゃをいれる。
「じゃ、先生にたのめよ。せっかく姉さんにあえたんだしさ」
「ええええ~!?」
弟の大声に戦闘をあるいていたリフィルが振り向く。
片方の眉がちなみにぴくぴくとあがっているのは気のせいではないであろう。
「何かいって?」
「あ、ああっと。何でもねえよ。先生。それよりちょとききたいんだけどさ」
ロイドがあわてて話しをかえる。
「火の封印ってこの近くなのか?というか何で砂漠なのに雪景色!?」
そこをかなりつっこみたい。
ここは熱砂の砂漠、ではなかったのか。
なのにこの真っ白な雪景色はこれいかに。
道の横はつみあげられた雪の壁がそりたっており、
場所によってはかるく大人の身長よりも高く雪がつみあげられているのがみてとれる。
「ええ。イセリアの聖堂でレミエルがいっていたという封印らしきものは、旧トリエット遺跡にあるらしいわ」
「トリエット遺跡?」
「エミル。あなた知らないの?」
「あ。すいません。それって習ってない…ですよね?」
「そういえば、まだあなたにはそのあたりの歴史は教えてなかったわね。
  今あるトリエットの街はかつては別なところにあったのよ。そうね。宿で詳しく教えてあげます」
「お願いします」
「げ。エミル。ここまできて勉強かよ!」
「ロイド。知ることは必要だよ?特に僕なんか何があったのかまったくわかってないんだもん」
それは事実。
そもそもあまり人の世情に関知していなかったのもあれば、
世界の安定のほうに力をそそぎ、ここ地表では四千年ばかり外にでていなかったというのもある。
それより前のことは常に旅をしながら把握していたが、
今がどうなっているのかはよくわかっていない。
すくなくとも、たかが四年程度くらいで完全に状況が把握できているわけではない。
「その遺跡って姉さんの好きな遺跡だよね……」
何かものすごい嫌な予感がする。
そうおもい、ジーニアスは盛大にため息。
「そういえば。先生。あのディザイアンのボスがもってた剣、もってきてたけど…」
「さっきの古そうな武器だね。姉さん、いろんなものあつめてるからさ……」
「いいのか?かってにもってきちゃって?」
「いいんじゃないの?」
ひそひそ話しをしているロイドとジーニアス。
一方で、
「へぇ。そんなことがあったんですか。ならその付近にあったオアシスは?」
「砂漠に埋もれた、とも遺跡に埋もれた、ともいろいろと説があるわね」
簡単な説明をかねてエミルに説明しているリフィルの姿。
「埋もれた?…?」
おかしい。
あの地はイフリートの加護があった場所。
簡単に埋もれるような場所ではないはずだが?
その台詞にエミルはふと首をかしげる。
イフリートが砂漠に住む生物のために加護をかしたオアシスだったはず。
それがなくなっている、というのに違和感を感じてしまう。
いくら捕らえられて力が発揮されないとはいえそれはあまりにありえないような気がする。
それに何より、あの地は砂嵐などに耐えられるよう、特殊結界に覆われていたはずなのだが。
それらはイフリートの力によって。
「調べてみる必要性がありそうか……」
「おお!やはりエミルはよくわかっている!そう、そうなのだよ!
  旧トリエット遺跡はまだまだ隠された謎があるのでは、といわれている場所で……」
エミルの呟きを別の意味にとらえたらしく、テンションがあがっているリフィル。
まあ、とにかく、まずはイグニスをおこしてから、それから調べてもおそくはない。

一面真っ白な砂漠地帯。
つもった雪のせいでたわんでしまっている屋店の屋根の数々。
店に人気がないのは、この寒さでは外で商売するにしても商売にならないからであろう。
当然、観光客の姿もほとんどない。
それでも根性あるのかときおり観光客っぽい姿もみえはするが。
そのほとんどが大概室内にとこもっている。
それでも今日はいつもより天気がいいせいか、ここ最近ではめずらしく、人々が外にでてきていたりする。
「ここ、半年くらいでいきなり雪が増え始めたらしいからね」
おそらくコアにもどった直後は天候などに影響を及ばすまでにはいかなかったが、
力が満ちるにつれどうやら周囲の気候に変化を及ぼしているらしい。
もっともこの変化はこの世界にある歪みをより顕著にしている、というだけにすぎないのだが。
「ほんと、凍えちゃうよね……」
「ジーニアス。お前さむくないのか?」
「さむいよ。でも家からきてきた服だけじゃ、この寒さはこたえる」
「エミルは平気なの?」
「え?あ、うん」
むしろいくらマナが乱れているとはいえマナが濃いがゆえに調子はいい。
歪みを正すためにあえて歪みをもってして正しているこの現象。
「おい。坊主!」
「え?」
宿に行く途中、果物屋なのであろう…看板に果物、の絵が描かれている小さな小屋。
そこにいた男性がロイドをみて声をかけてくる。
「え?えっと?」
「俺だよ。わすれちまったのか?」
男はとんとんと金づちをつかうまねをする。
「ああ!この小屋!」
ロイドは雪の重みで崩れてしまっていた小屋を修復していた男にノイシュを預けていたことを今さらながらに思い出す
どうやらすっかり店は元通りになったらしい。
うっすらと雪をかぶってはいるが、雪よけであろう板の向こうにはいくつかの果物が置かれているのが目にはいる。
「ごめんな。あのでけ~犬?ちょっと俺がはなしかけたら体をびくびくっとさせてにげちまったんだよ。
  わるかったなぁ」
ぽりぽりと頬をかきつついってくるそんな男に対し、
「そのことならいいんです。僕がみつけて別の場所にうつしてるから。ありがとう、おじさん」
「そうだったのか。嬢ちゃん達、リンゴたべるかい?」
いって、ひょいっと店のリンゴをコレットとエミルに投げ渡してくる。
「え?あ、あの?」
「お前さん達そんなに色白で、よほど寒いおもいしてるんだろ?」
たしかにコレットもエミルもあるいみ競い合えるかのごとくに肌は白い。
「この寒いのにそんなうすぎで。マフラーはしてるようだけど。上に何か羽織ったほうがいいよ?」
「あ、あはは……」
そもそも直接大気に触れていたほうが調子がいいのでわざわざ着こむ必要がないのも事実。
一つはエミルがうけとり、一つはロイドがキャッチし、そのままそれをコレットに手渡しているが。
「たしかに。エミル。あなた上着かったほうがよくなくて?」
「え。えっと。いいです。それに寒かったら皆がきてくれますから」
『納得』
その台詞になぜかジーニアス・ロイド、コレットの台詞が重なる。
さすがに普通の街の中まではイセリアのときのように出てこないようではあるが。
…おそらく魔物達も遠慮、という言葉をしっているのであろう……
「そういえば、ノイシュはどこにいるんだ?ジーニアス?」
「心配しないでよ。ロイド。宿屋に預かってもらってるんだ」
宿につくといったん全員がロイドとクラトスの部屋にと集合する。
ちなみに部屋わりは、ロイドとクラトス。
リフィルとコレット。
エミルとジーニアス、という割り当て。
「ちょっとよくって?」
リフィルはポータの落した武器に巻きつけていた布をばらり、とのける。
「これをみて。ここのところについている結晶のようなもの。これがエクスフィアというものなのかしら?」
エクスフィギュア、と正式には発音するのだが、ヒト、のうちでは。
「あ。ほんとだ!先生。間違いないよ!さっきは全然きづかなかったけど。
  クラトスもそうおもうだろ?あんただってエクスフィアを装備してるわけだし。わかるよな?」
「……まあな」
クラトスのそれは普通のそれとは異なるもの。
ハイエクスフィアとよばれしもの。
「やっぱりね…ジーニアスにきいたところによると、エクスフィアは私たちの潜在能力を引き出す、
  いわば増幅器というべきものなのね。私にも」
いいつつ、ずいっとリフィルはロイドに近づき、
「使えるだろうか。エクスフィア」
「…え?」
それをみてエミルがすこしばかり悲しい表情をしているのに気付いたのはこの場ではコレットのみ。
「?」
エミル、なんか悲しそう?
そうおもうが何か声をかけずらい。
ロイドがリフィルのすこしいっちゃったような視線をうけおもわずあとずさったとき、
「難しいだろうな。そのエクスフィアには要の紋がない。それでは人体に有害なだけだ」
淡々とクラトスがいってくる。
ジーニアスがそれをききさっと目をふせる。
エミルはエミルでじっとただ目をつむっている。
視えるのはジーニアスがつけているそれの魂の記憶。
本当に、ヒトは愚かでしかない。
どのような手段をもってしてそれらが創られているのかしらず、ただ増幅器、というだけでやみくもに信用する。
そこにどのような副作用があるのか、それがどうしてできているのか、などおもわずに。
ただ、利益になるから、約にたつからすぐに手をだしてしまう。
アレは本来、マナを無機質に変換させるべきものであるがゆえに、マナを主体としている存在にも影響してしまう。
かつての新たな理をつくるときに生みだした物質は今の時世でも有効。
もっともかつてよりさらになじみやすく、またすぐさまに変化できるように改善は加えてはいるが。
「先生。要の紋。俺の親父ならつくれるんだけどさ。俺はせいぜい紋章をほるくらいしかできないんだ。
  ごめんな」
親友のためにさっさと話しをきりあげようとするのだが、リフィルはあきらめきれない模様。
と。
何やらベットのしたからこれでもか、とおもえるほどの大きな荷物をひっぱりだす。
「知ってるわよ。抑制鉱石が必要なんでしょう?
  私のコレクションの中にひょっとしてそういうものはない?」
いいつつも、その荷物をその場にひろげだす。
「…って、先生…まさか、この大荷物、家からもってきたのか?」
「当然でしょう!?貴重な研究品をどうしておいてこられて!?」
即答。
「・・まじ?」
「あ~。ロイドは見送りに間に合わなかったもんね。姉さん、村の皆に大注目さ」
「とてもかっこよかったんだよ~」
「あれはかっこいいというようなものでなくてあきれていたのだとおもうが……」
にこやかにいうコレットの台詞におもわず突っ込みをいれているクラトス。
事実、そんな荷物をもって、といいかけた村人をリフィルは例のごとく正論?でいいまかせていたりする。
テネブラエが闇に収容しようか、ともちかけても他人にまかせられない、といって頑固としてゆずらず。
もっとも闇収納には興味があったらしくいろいろときいてきたが。
「…かついできたのか?ここまで?」
こくり。
ロイドのすがるような、嘘といってくれ、という視線にただクラトスはうなづくしかできない。
あきれるロイドにはおかまいなしに、リフィルは袋の中から茶色っぽい塊をごろごろととりだしては、
それらをうっとりと眺めだす。
「みよ。このバラクラフ王廟の聖なる壺!マーテル教会聖堂の宝剣に、アスカード遺跡からでた神官のカンムリ!
  これはハイマの鉱山からでてきた黄鉱石。そして……」
「あれ?先生。これ神官のカンムリではないですよ?ここの文字。これ巫女がかぶるものですよ?」
カンムリに刻まれている文字をみてよせばいいのに訂正をいれているエミル。
ちなみに古代文字で刻まれているそれは、たしかに風の巫女、と刻まれているのがみてとれる。
「何と!?巫女が!?どういうことだ!?」
「え。えっと。たしかアスカードの祭事は風の精霊を祀るために巫女が儀式を行うことで、
  そのときのたぶん衣装の一部じゃないかな~、かと」
ちなみにかの場所での祭事は四千年前以上から実はつづいているのでエミルも知っている。
ただその場所の名がアスカードではなかった、というだけのこと。
「ふむ。なるほど。そういう視点でもみることができるということか。
  エミル。やはりお前は考古学者にむいている!私が弟子にしてやろう!」
「ええ!?えっと…その……」
「何をいう!以前にわたしがいった歴史をしっかりととらえ自分で新たなる説をかんがえられる!
  これはまさに考古学歴史に新しい風を!」
自分で考えた、ではなく真実をしっているだけである。
「…エミル、姉さんに遺跡関係のことをぽろっとでも口走ったらだめだよ……」
そんなエミルに突っ込みをしているジーニアス。
そしてまた、呆れ半分そんなやりとりをみつつも、ふと壺の横に転がっている石にきづき拾い上げるロイド。
「先生、これは?」
話しがどうやらながくなりそうな気配もあり、話題をかえようとリフィルにといかける。
「ああ。それは遺跡のものじゃないの。いつだったか牧場の前におちているのをみつけたのよ。
  天使言語が掘られていたからもって帰ってきたのだけど、なんなのかよくわからな……」
「何いってんだよ。先生。これ要の紋だよ!」
「ええ?本当!?」
リフィルが疑わしそうにロイドからそれをうけとり、そのままクラトスへとみせてみる。
どうやらロイドのいうことが信じられないらしい。
「間違いない。が、紋章が途中で擦りきれてしまっているな。これでは使いものにはならんだろう」
いいつつクラトスがそれを再びリフィルにとかえす。
「ほ~ら。少しは俺を信じてくれよ。先生。
  大丈夫。これくらいなら俺がなおせるから。エクスフィア。装備してみたいんだろ?」
こくり、と興奮のおももちでリフィルがうなづく。
「そのかわり、といっちゃなんだけど。俺達も一緒にいってもいいかな?ついていってもいいよな?」
「もちろんだよ!」
コレットが即座にこたえる。
「私、間違ったことをしたとは思わなかった。けど後悔はしてた。本当はロイドとジーニアスに一緒にいてほしい……」
最後の瞬間まで、思いでを残したいから。
だがその言葉をコレットはのみこみ、じっとリフィルをみつめるコレット。
「はぁ。はじめからそのつもりでしょう?しらじらしい」
「よし!きまりだ!」
「やったね!ロイド!」
「……はぁ」
どうやらクラトスの気苦労はこれまで以上になる、らしい。

ぶるり。
「うう。さみ~」
みあげる空にはどんよりと雲がかかり、昼間よりもかなり多くの雪がふている。
しんしんと降り積もる様はここが実は砂漠地帯だ、ということを忘れさせてしまう。
それでも外にでたのは、ノイシュの飲み水が凍っていてはいけないから、という配慮から。
と、薄明かりのなか、人影がみえる。
その瞬間、激しい殺気を感じ、ロイドは後ろへとびすざる。
「うわっ!?」
「…ロイドか」
「ク、クラトス!?おどかすなよ!」
いいつつも手にもった桶は無事のまま。
…どうやらエミルに特訓の一つとしてときおり桶の水をこぼさずににげきってね~、
という魔物との追いかけゴッコの成果が多少なりとも発揮されたらしい。
ちなみに、もしもこぼしたらエミルの手料理ぬき、という罰地獄。
何しろエミルの手料理はこれまでたべたことのないくらいおいしく、
そしてこっている。
はっきりいって村の中でエミルの手料理ファンクラブというものが出来ている始末。
「す、すまない。だが、これからは私の後ろにたたないことだ。…しかし、よく桶をかやさなかったな?」
「え?あ、ああ。一応慣れてるからかなぁ?」
「なれてる?」
「あ。うん。エミルにさ。特訓と称して魔物とおいかけごっこで、
  水をこぼさずににけきってみよう。というのがあって……」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ失敗したら俺だけエミルの手料理抜きなんだもんなぁ」
一人おもいだしぶつぶついっているロイド。
ちなみに特訓で負けたりしたらエミルの手作りおやつぬき、ということもあ、
ロイドは必至に特訓をうけていた、という事実もあったりする。
何しろ料理でドワーフの誓い全てをおぼえたというロイドである。
その効果はかなり覿面であった、といえるであろう。
詳しくきいてはいないが、ここにくるまでにリフィルから少しはきいた。
何でもエミルがロイドに魔物をつかって特訓もどきをしているということを。
皆遊びたがってるからちょうどいい運動になるかなとおもって、
とはエミル談。
ため息とともにそのまま剣を鞘にとおさめる。
「…なあ、あんた。こんなところで何してたんだ?動物好きだったりするのかな?」
ノイシュはどうやらロイドが来てくれたことがうれしくてたまらないらしく、
しきりにくんくんいい、尻尾をうっている。
もしもロイドが声をきちんときけたなら、この人がロイドのお父さんだよ!
といっていたのに気付いたであろう。
「こいつ、案外、人をみるんだよ。慣れないやつには絶対なれないんだ」
エミルには初対面のときからべったり、であったが。
「そうなのか?たったいま、夕食の残りを私の手からたべたがな。腹がへっていたのかもしれないが…ロイド」
「何だよ?」
ロイドはといえば、クラトスが自分の食事をノイシュのために残してくれていたときき、
以外すぎる、とおもっていたりする。
金で働く傭兵など所詮自分のことしか考えていない、という先入観があったのだ、
と今さらながらにそのことに気付き自分が恥ずかしくなる。
常にいつもエミルにもいわれているというのに。
ロイドは先入観にとらわれすぎ、だ、と。
クラトスが瞬きもせずにじっと自分をみつめるのでロイドは居心地がわるくてたまらない。
息子、とわかってみてみれば、とてもよくにている。
その目は自分ではあるが、その口元は明らかに母親のもの。
母親ににるでもなく、父親ににるでもなく。
あの幼き日の面影のまま大きくなっていた我が子。
そういえば、シルヴァランドペースであった青い髪の男…
あいつも俺のことをじろじろみてたっけ?
今日は人にみられるひなのかな?
などと別の意味でおもっているロイドは真実をしらないがゆえに勘違い真っただ中。
「……あまり、夜更かしをするなよ。明日の出発ははやい」
「わかってる。先生の紋をなおしてたんだ。もうねるよ」
薄暗いせいでしかも背をむけたクラトスの表情はよめない。
「…布団をけとばして風をひくなよ」
「わあってるよ!」
おもわずどなりかえすが、クラトスはふっとわらったのみ。
そのままノイシュの前に水のはいった桶をおき、ぶぜんとしたまま部屋にともどる。
途中でふりかえってみると、クラトスはまだその場にじっと動かずに立ちつくしている。
水をのむノイシュをみているのか、考えごとをしているのかロイドにはよくわからなかった。
が。
「…なんで、あいつ俺の寝像がわるいのしってるんだ?先生からでもきいたのかな?…ジーニアス経由で」
実はロイドの寝像がわるいのはかなり有名。
以前、合宿があったときなど、そろって皆ロイドと一緒にねるのはごめん!といわれたほど。
もしもロイドがもう少しその場にとどまっていたら聞こえていたであろう。
「…お前は、あのときからずっとロイドをまもっていてくれたのだな…感謝する……」
「クゥン……」
妻と子をおうように飛び降りたノイシュ。
自分が追手と戦っていたせいでたどりつけないのをみてかわりに行動をおこした。
ようやく追手を全て撃退し、崖をおりたがそこには姿はみあたらなかった。
おそらくは、まだのこりの追手がいたのであろう。
ノイシュはおそらく…衝撃により元にもどった妻と、そして気絶している子を背負い、
その場を逃れたのだ、と推測ができる。
エクスフィギュアは致命傷などをおったとき、一時元の姿にもとれることがある。
もしくは異形のままでノイシュがケンメイに背中にのせて逃がしたか。
今ではどちらであったのかはわからない。
わからないが、すくなくとも、あのダイクがいっていた会話から察するに、
最後のとき、アンナは元の姿にもどっていた。
それだけがあるいみ救い。
…アンナが我が子を殺そうとしていたことを覚えていてほしくはないが。
「アンナとロイドを護ってくれたんだな。…あのダイクという人はいい人らしい。…ありがとう、な」
まっすぐに育っているのがみていてわかる。
そのまっすぐ前をみつめる瞳の光はかつて弟子がもっていたものとまったく同じ種類。
「ロイド…お前は、道を間違えるなよ…この父を倒して、でも……」
ミトスが止められないのならば、息子の手にかかって命をおとすのも罪のつぐないかもしれない。
それでも…ミトスがロイドのアレをあきらめるか、それがきがかり。
「…私は…どうすれば、いいのだろうな……」
決意が、ゆらぐ……


ではまたv

2013年8月30&31日(金&土)某日

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