まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやくエグザイア~、ついでにマクスウェルの登場です。
ミトスがいるのに大丈夫?という突っ込みはあるにしろ(自覚あり
バージニアがあのようになっている理由、
私の話しではちょっとしたねつ造をつけております。
いや、絶対にだって、たかが夫が死んだだけで精神破壊とかありえないでしょ…
何か重要な理由がないと……


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「ふむ。わしの力を同胞をたすけるために利用したい、とな?」
「うん。このままじゃあ、皆、互いの勢力陣に利用されてしまう。
  いつか、争いがなくなり、世界がハーフエルフを差別することがない世界になる。
  そのときまで、だから、あなたの力をかしてほしい。マクスウェル」
戦争を終わらせるために自分達の力を利用しよう、というのではなく、
あくまでもそこにいきるものたちを救いたいから、というその心。
珍しく四属性を従えたヒトがいるのはわかっていた。
こんなご時世に、ともおもった。
ゆえに精霊達にとといかけた。
このような世界にあって、名にゆえにヒトと契約を結んだのか、と。
それは、彼ら四属性を束ねし役目をあたえられているがゆえのといかけ。
「まあ、方法はなくはない、がの?」
「ほんとう!?」
「うむ。なに。わしが加護を担っているこの範囲の小島全てを利用すればよいことじゃて。
  …しかし、ことがことじゃからのぉ。すぐには返事はできんぞい?」
「かまわない。でもここに連れてきたら皆の安全は保障されるの?」
「わしの力で結界をはれば愚かなヒトどもははいれなくはなるじゃろうの」
もっとも。
「もっとも、まだおまえさんの実力を試してもらってはおらんが。
  覚悟はよい、かの?」

飛行都市エグザイア、とよばれるものができた、始まりのきっかけ……
あのとき、大陸を浮かして人を保護してもいいか、とセンチュリオンを通じ、連絡がきた。
精霊達からあがく人がいることをきいていたがゆえに許可をだした。
それでも、ヒトはその小島にたいし、攻撃を執拗にしかけだし、
マクスウェルが選んだのは島々ごと空に避難し、空中にて結界をはる、というもの。
いくら愚かなヒトとて、たかが動力源や使い捨ての道具にするためだけに、
どこをとんでいるかもわからないものを確保しようとはおもわないだろう。
それゆえにうまれし飛行都市。
マクスウェルと契約を交わした時、まだミトスは諦めていなかった。
大樹の精霊の存在すらしらなかったあの当時。
あの当時の心を少しでも思い出して、感じることがあってほしい、そうおもうからこそ…ここにつれてきた。
すでにマクスウェルはその旨はつげてある。
しかし、かの石板のもとにミトスはつれていかないこともいっている。
ひきとめておく理由になるものがちょうど、ここにある、のだからそれを利用しない手は…ない。

光と闇の協奏曲 ~飛行都市エグザイアにて~

歩いてみればよくわかる。
ここが、空にうかんでいる島々において構成されている、ということが。
おそらくは、小さな小島がいくつもあわさっているのであろう。
それぞれの小島は何でできているのかわからない、
不思議な白く鈍くひかるような橋によってつながっている。
遥か上空からみれば、この都市はちょうど六紡星の形をつむいでいることがみてとれるが、
普通に移動しているだけではそのことにまで気づかない。
とりあえず、どうみても壊れているレアバードをそのままにしておくわけにもいかない。
それゆえに一度、ウァングパックにしまい、発着場…おそらくは、空港変わり、なのだろう。
そこから橋をわたり、街へとむかうロイド達。
「うん?ああ、あんたたちかい?かわりもののおきゃくさんっていうのは。
  珍しいね。ハーフエルフとヒトの組み合わせなんて。
  ここはエグザイア。ハーフエルフに残された最後の楽園さ」
おそらくはこの場をまもりし番人、のようなものなのだろう。
いわば、空港の出入り口をまもりし警備者といってよい。
簡単な武装をしていることから警備をしているのだろう、というのがある程度予測はつく。
「やはりここがエグザイアなんですね!?」
目をきらきらとさせつつといかけているアステル。
ずっと文献にはのこされていても、実在を疑われていた伝説の地。
あるいみ、ここ、エグザイアはシルヴァランド同様に伝説化していたといって過言でない。
ハーフエルフにのみつたわりし伝承。
アステルもまた、研究院にてハーフエルフ達と仲良くならなければ、
この地のことをしらないまま、であったであろう。
「ふむ。島が空を飛んでいる…というか、ここが上空だ、というのが信じがたいな」
リーガルがいいつつも、周囲をみわたす。
普通に大地があり、そこに自然もある。
たしかに空気が薄く、さらには雲としかおもえないものも近くにういており、
さらにしばらくさきほど大地の橋に移動し下をみていれば、島影がやがて海にとかわりっていっていた。
それはすなわち、この場所が動いている、ということをしめしている。
もっとも、遥かなる地上からはみあげても、巨大な雲がそこにあるようにしかみえず、
当然、そこに島がある、などとは誰もおもってすらいない。
この島の下部には雲がぴっしりとついており、下からみれば雲がういているようにしかみえなかったりする。
唯一、確認する方法はといえば、この島よりも高くとんで上から確認することのみ。
飛竜の巣も同じ高度にあったことから、彼らは以前、ちらり、とこの島の存在を確認していたのだが。
あのときは、コレットのこともありこの場にあまり気をとられなかったのもまた事実。
たしかに普通にしていれば気にならなかったが、時間とともに空気の冷たさを感じたのもまた事実。
それゆえにロイド達はわたされていたフードつきローブをそれぞれはおっていたりする。
ベンギニストフェザーでつくられている、というそのローブは保温性にすぐれており、
当然のことながら外気温からきているものを保護する効果をもっている。
きょろきょろと周囲をみていると、ふと何やら話し声がきこえてくる。
「確かに、ここでは迫害されることなく穏やかに暮らせることができる。
  だが…それだけだ…」
ふとそちらのほうをみてみれば、アステルが何やらメモのようなものを手にとり、
ひたすらにそこいらにいる住人に話しかけている様子がとびこんでくる。
「…また始まったよ…」
その姿をみてしいなが盛大にため息をつく。
「また、って?」
意味がわからずにロイドがきくが。
「アステルのやつは、初めて出向いた場所はそこにいる全ての人から話しをきく癖があるんだよ。
  何でもアステル曰く、そこにすんでいる人のほうがそのあたりのことに詳しいからって」
たしかにその言い分はわかる。
わかるが、しかし気になることをいま、いわなかったか。
全ての人から、と。
そういえば、とおもう。
あのエルフの里では全員がアステルのことをしっていたような感じをうけた。
まあ幾度も訪れているからだとおもっていたが、そうでないとするならば。
「ちなみに、少しでもひにちがたってたら、また同じようにするんだよね。
  いわく、数日でも情報が何かあるかもしれないからって。
  …そのせいでアステルのやつがどこかにでむいたらなかなかもどってこないらしいよ」
ある意味で、小さい子供が…九歳のころ、それを王都でやったつわものとして知られていたりするのだが。
そこまでしいなは詳しく説明はしない。
小さなころから子供らしくない思考をしていた、といえばそれまで、なのかもしれないが。
しかし、子供ながらに全員と話しをする、その発想に大人が唖然とした、ともきいている。
しいなの深いため息に何か感じるものがあったのであろう。
おもわずこめかみに手をあてているリフィルと、こちらはこちらで、
話しをきいたことがあるがゆえに、しみじみとうなづいているリーガル。
「まあ、アステル君だからなぁ。俺様の家にもいきなりはいってきたつわものっしょ。あいつは」
神子様の家なんですか?ここ?
などといっていきなりはいってきた研究服をまとった子供。
当時、セバスチャン達が困惑していたことを思い出す。
それゆえにゼロスもどこか遠い目をしていうしかない。
それぞれがそれぞれにそんなことを思っている、などと夢にもおもわないのであろう。
みれば、ひたすらにそのあたりにいる人をかたっぱしからつかまえては、
いろいろと何やらはなしかけているアステルの姿がそこにある。
しかたなく、アステルがあまり変なことをしないように釘をさす必要があるとばかりにリフィルが近づくと、
「このレグザイアは初代村長がマクスウェルと契約し、空を漂いつづける空中都市となったそうだ。
  何千年も前のことだから真相はわからないけどね」
ちょうど何やらそんな情報がアステルにもたらされているところであったらしく、
思わず顔をみあわせるロイド達。
「ねえ、今、マクスウェルって……」
「ああ。こんなところで四大元素の長の名をきけるなんて。
  もしかしたら、ここでマクスウェルがどこにいるのかわかるかもしれない」
ジーニアスのことばにしいながこくり、とうなづく。
ミトスはどこにマクスウェルがいるのかしっている。
正確いえば、この大地そのものがマクスウェルの加護下にあるはず。
あのとき、精霊達を楔にしたあのとき、自分の目から隠れたはずのマクスウェル。
オリジンのほうはクラトスに提案し、具現化するのに必要とおもわれし石板。
そこに彼自信のマナをかけて封印をほどこした。
当時は自分の千年王国の理想など話してはおらず、
下手をすればヒトがオリジンの力をもとめるかもしれないから、と言葉巧みに言い含め。
実際、二つの陣営では精霊を使った兵器というものを開発していた。
自然界に生息している微精霊達を殺し、マナに変換することにより力をえていた。
微精霊達がみうけられなくなると、彼らはその矛先をヒト…それもハーフエルフにむけた。
人よりもマナにあふれ、そして魔術をつかえる、という理由で。
ハーフエルフ達は大概、自らの居場所をさがしていたものが大多数であったがゆえに、
彼らの力を必要としている、そう国がいえば、ほとんどのものがそれにだまされた。
結果としてまっているのはマナをすい尽くされたあげくの消滅しかない、というのに。
マクスウェルの地に送ることができなくなった以上、そういったものたちの幾人かはミトスは救いあげた。
クルシスの組織に組み入れることで、彼らを死からすくった、といってもよい。
あれほどまでにエミルからいわせてみれば、嫌悪していた、
マナを歪めるヒトの技術をつかい、彼らを天使化することにより。
ディザイアンという組織を作り上げることになり、全てのハーフエルフ達を天使化することはなくなったが。
そのことは、エミルは彗星ネオ・デリス・カーラーンと意識を同調させたときに視て知っている。
自らが眠っていた間におこっていた簡易的なことは大まかにはつかんでいる今現在。
「アステル」
そんなアステルの背後から話しかけるロイド。
「え?ああ。すいません。でも、これで確信がもてました。
  おそらく、この島は精霊マクスウェルの力でういているものだとおもわれます。
  何しろ、マクスウェルは四大元素たる精霊の長。分子を司るといわれています。
  だとすれば……」
話しかけられふとおもいだす。
今は彼らとともにいるのだ、と。
いつもはリヒターと二人っきりなので同行者が他にいたことを完全に失念していたらしい。
「だぁぁ。勉強のごたくはいいから。それより、エミルがどこにいったかきいてないか?」
ロイドがききたいのは、そんなおもいっきり精霊に対する勉強というか知識、ではない。
気がついたときにいなかったエミルがどこにいっているか、ということ。
どうやら自分達をたすけてもらうために一人でこの街にはいった、のではあろうが。
どうでもいいが、この街にはいたるところに小さな魔物っぽい姿もみえているのはどういうわけか。
しかも、それが当たり前のように人々は普通にすごしている。
ここにいる魔物達は必要だからいるのであって、人に害をなす存在ではないものたちばかり。
まあ、中には悪戯好きな魔物はいるにはいるが。
それはほんの些細なこと。
「えっと、僕によくにた子をみた、とはいってましたよ。この奥のほうにいった、ということです」
「この奥…って、まだこの街、奥があるのか?」
そんなロイドの疑問がきこえたのであろう。
「ここ、エグザイアはいくつもの浮き島からなっている街なんだよ。
  そっちの奥にいけば市長の家のある浮き島にいけるよ。
  こっちのほうは住宅街、でもって、こっちが商店街…といっても、扱っている品は自給自足の品ばかりだけどね」
何しろこの狭い空間のみで維持している街である。
「ちなみに、さらにその奥には僕達の命の生命線ともいえる畑地帯にたどりつくよ」
マクスウェルの加護があるからなのであろう。
この大地は草木が枯れ果てるようなことはない。
そしてまた、水がかれることもない。
そのあたりは、下手な地上よりはかなり恵まれている、といってよい。
何しろ飢餓もおこらなければ、水不足、という事態に陥るわけでもない。
あるいみで理想郷、というのはあながち間違ってはいないのかもしれない。
少なくとも、何かにおびえてくらす、というのはこの地にすまうがきりありえない、のだから。

こうしてあるいていると、ここが空の上だ、というのを完全に失念してしまう。
どうみても普通の大地とかわりはない。
もっとも、時折、足元や胸元を空に流れている雲…なのだろう。
それらが移動してくるので、ひんやりとした感触がどうしてもふえてしまうが。
ロイドからしてみれば空にうかんでいる雲はきちんとした形をもっているようにみえるので、
普通にさわれるものだ、とばかりおもっていた。
それをいったとき、リフィルがあきれ、水蒸気のことは授業でおしえたわよね?
といい、逆にあらためて雲ができている理由というか原理をまたまたおさらい、
とばかりに昏々と説明されてしまったが。
もっとも、そのほとんどをききながし、すばやくそのあたりにいた人にと話しかけているロイドであるが。
しかも話しかけた相手がどうみても老人のようであることから、
リフィルとしても強くはいえない。
あまり大声をだせば、ロイドがちかづいている相手に迷惑がかかる。
「…何であのこはああいうことばかりに知恵がまわるのかしら…頭がいたいわ…」
「…苦労しているのだな」
何だか新人教育を思い出す。
それゆえにリーガルの言葉には実感がこもっている。
そんなリフィル達の心情にまったく気づくことなく、
「こんにちわ~」
人がいたのでこれ幸い、と話題から逃れるために話しかけているロイドの姿。
「うん?なんじゃ。ヒトとはめずらしいの。そういえば、人が迷い込んできたとか先ほど騒いでおったの。
  お前さん達がそうかい?」
いきなり話しかけられ、それがみたこともない人であることに驚かざるをえない。
もっとも、普通のヒトではないような気がするが、それが何なのかがわからない。
普通の人のマナでもない、かといってハーフエルフのマナでも。
じっとみなければわからない違和感。
それもそのはず。
ロイドが身につけているエクスフィア。
それにはロイドの母親の精神体がはいっている。
子供を守るためにあえてエクスフィアの力を利用し、周囲にロイドのマナが違和感ないようにかんじさせている。
もっともその事実をロイドは知らないが。
「そんなにここでヒトってめずらしいのか?」
そんな老人の言葉に逆にロイドがといかける。
「ここ、エグザイアはハーフエルフ、もしくはエルフしかすんでおらぬからの。
  里をおわれ、行き場をなくしたエルフ。里に居場所をみつけられなかったもの。
  そして…世界そのものに居場所をなくしておったわしらハーフエルフしか、の。
  ヒトがいるとすれば、それはたいがい、身内以外の何ものでもないからの」
ここに人がまったくすんでいないわけではない。
むしろ、家族になったものはすんでいる。
…とはいえ、ハーフエルフと人の寿命の差は歴然で、どちらにしろヒトは先に死んでゆくのだが。
「?爺さんにも家族がいるのか?」
そんなロイドの問いかけに、
「わしらはこのエグザイアに移り住むまでつらい日々をおくっていた。
  行き場をなくしたハーフエルフはここエグザイアに移り住むしかないのじゃ。
  しかし、ここに移り住んだゆえに、孫達にも恵まれた。ここならばテセアラの兵士もおってはこぬからの」
そういう視線の先に、何やらはしりまわっている小さな子どもの姿が目にはいる。
「あれがお孫さんか?」
「うむ。あちらにおるのがわしの自慢の妻じゃ。そしてその娘じゃよ」
始めの子供を忘れたわけではない。
テセアラに連れて行かれ、実験体として利用されてしまった子のことは。
しかしそれらをわざわざ人に説明する必要はない、とおもう。
そんな話しをきき、とりあえず挨拶し、とりあえず視線の先にいる、
小さな子の傍にいる二人にと話しかける。
さきほどそこの人からきいたから、といえばまだ若い女性が苦笑しつつ、
「うまれたときからここにいる私は、お母さん達のいうことがよくわからないわ」
そういってくるが。
「娘はこういいますが。しかしわからなくていいんです。あのつらい記憶は私たちの世代だけで十分です」
つらい記憶。
その言葉に憂いが、そして悲しみがどこか含まれていることにきづいたのはごくわずか。
ロイドはその違和感にきづかない。
否、気づくことができない。
「ここエグザイアは完全に地上から隔離されている。
  ここにすんでいる僕たちもどのあたりの空を漂っているのかわかってないんだ」
おそらくは、珍しい旅人ゆえ、なのだろう。
気になっていたのか、まだ若いハーフエルフの子供がそんなことをいってくる。
どうやら若い世代はロイド達に興味があるらしいが、よくよくみれば大人たちは警戒を完全にといてはいないらしい。
それは、アステルが来ている服装にも起因する。
アステルは常に白衣をまとっており、それはテセアラの研究院に属していることをものがたっている。
もっとも、ハーフエルフとともにいることから、ハーフエルフを道具としかみなさないものたち、
とは違う、のではあろうが。
しかしだからといってテセアラという国がどんなことをしでかしていたかしってるものたちからしてみれば、
警戒せざるをえないのもまた事実。

しばし、この地にすまう人々から話しをきいていけば、どうやらエミルは奥のほうにある、
市長のある浮き島のほうへむかっていったらしい。
その浮き島もいくつかのどうやら区域にわかれているらしく、浮き島だというのに、
小さな泉があり、その泉の上、すなわち民家の二階部分より橋がかかり、
泉の向こうの大地に移動するようにとなっている。
その橋をわたり、ふと、その奥のほうに小さな家らしきものがみてとれる。
と。
「そこに近づくのはおやめよ」
どうやらロイド達が家にちかづく、とでもおもったのか、
ひとりのハーフエルフの女性がそんなロイド達にと話しかけてくる。
どちらにしても、まったく知らない土地。
さらにいえば狭いようでいてけっこうひろいこの飛行都市。
アステルとリヒターはここに生息している植物などに興味があるといい、
ならば、というので集合時間を大体一刻後にときめ、
アステルとリヒターはそれぞれ調べたいことを優先すべく、今ロイド達とは別行動中。
ゆえに、今現在いるのは、ロイド、コレット、ジーニアス、リフィル。
しいな、ゼロス、リーガル、プレセア、そしてミトスの計九人。
一緒に行動しているのは、あえて迷子にならないための措置、といえる。
「何で?」
そんな女性の言葉にジーニアスが首をかしげる。
滅多と外部から誰かがはいりこまないこの街であらわれた一行は、
あっという間に街の中に噂、としてひろまっていたりする。
この地にすまうものからしてみれば、自分達の平穏を乱さないのであればいてもいいが、
できるだけはやくに地上にもどってほしい、とおもっているのもまた事実。
外部に触れることにより若いものたちが変な考えをもってもらっても困るのである。
平和で隔離された場所で育った若いものたちは、外の…特にテセアラの現状をしらない。
地上に降りれば殺されるかもしれない、ということすらわかっていない。
だからこそそんな困った考えをもつまえに、地上にもどってほしい、というのが本音。
そしてまた、滅多にこない客人だからこそ、みせたくない部分は見せたくない、というのもまた本音。
「エルフの女の人が住んでいるんだけどちょっとかわりものでね」
それだけいって言葉を濁す。
どうしてそのようになったのか原因はしっている。
しかも、目の前にいるうちの一人はあきらかにその女性と瓜二つ。
知らないですむならば知らないほうがいい、ともおもう。
誰しも身内が狂っているところなどはみたくない、とおもうから。
それゆえの善意の忠告、だったのであるが。
「…まさか!この家にお母様が!?」
さきほどもこの街の市長という人物にあわないほうがいい、といわれた。
だとすれば、考えられるのは母がこの家にいるという可能性。
それゆえに、そんな女性の言葉をきき、あえてその家の扉をノックする。

「誰?」
こじんまりとした家の中はさほど家具もなく、扉をノックし、返事もないがゆえにひとまず扉をあける。
鍵がかかっていればそこでおわっていたであろうが、扉には鍵がかかっておらず、
それゆえにそのまま家の中にはいることができたのはあるいみいいことなのか悪いことなのか。
家の中にはいると奥のほうからきこえてくる声がひとつ。
リフィルの記憶の中にあるその声によく似ている。
それゆえにリフィルはおもわず内心動揺するものの、何とかこころをおしころし、
「失礼。ちょっと、お尋ねしたいんですが…!?」
出てきた女性をみて絶句する。
女性はなぜか人形ををだいており、その目はどこか視線があっていない。
「あら。ハーフエルフね。私の子供もそうなの」
そういって、自分の子供、といったその先にあるのは、女性がだいている人形でしかないもの。
歪な形で縫われたそれは、不器用ながらもつくったのだろう、というのがうかがえる。
リフィルが絶句したのは、そこではなく、その人形にもそしてその姿にも覚えがあったがゆえ。
あれは、リフィルがまだおさないときに、自分に妹か弟ができる、
そうしったときに頑張ってつくった人形。
見間違えるはずもない。
目はうつろではあるが、その視線に含まれている慈愛の光はまさしくリフィルの記憶にあるがまま。
「…人形じゃねえか……」
それをみてゼロスがぽそり、とつぶやくが。
どうやら女性がいっているのが彼女がもっている人形のことだ、と理解したがゆえの言葉らしい。
「ほら、利発そうな顔をしているでしょう?この子はリフィル。私の自慢の娘よ」
玄関先にて家を訪れた彼らにそういってくる女性…バージニア。
「「「!!」」」
その言葉にその場にいたロイド、ゼロス、ジーニアス、コレットが絶句する。
ちょうど家にはいった状態であったので、その背後には他の同行者達の姿もみえているが、
家の中にはいっているのは、今現在、リフィル、ロイド、ジーニアス、コレット、そしてゼロスの五人。
それ以外は玄関先でたっている状態の彼らの後ろにいる状態となっている。
「…え?姉さんと同じ名前…まさか……」
ジーニアスの瞳がゆれている。
そもそも、目の前の女性はあきらかに姉にそっくり。
だからこそとまどわずにはいられない。
「今ね。お腹の中に二人目の子がいるの。名前もきまっているのよ。
  女の子ならジーン。男の子ならジーニアス。どう、素敵な名前でしょう?」
いいつつも、抱いている人形をあやしながらもいってくる。
「…え?じゃあ……」
ジーニアスが何をいえばいいのかわからないのか、姉をみあげるが。
リフィルはただ無言で口をひきしめる。
生きている、とはきかされていた。
エルフの守護木が無事だからいきてはいるだろう、と。
そしてまた、この街の市長達があわないほうがいい、といっていたことの意味を察する。
どうみてもやんでいる。
心が。
理解したくないが、理解できてしまう。
もしも、わからなかったら、といっていた彼らの言葉の意味が。
「…あの、あなたはバージニアさん…ですか?」
コレットが恐る恐る女性にとといかけると、
「ええ。そうよ。よくご存じね」
にこやかにコレットにたいし返事をかえしてくる。
相手の言葉に反応できる、ということはすくなくともどこか理性はのこっているということになる。
しかし、バージニアの瞳はリフィル達を捕らえてはいない。
「!」
その言葉にジーニアスがいっぽ、あとずさる。
「…冗談ではなくてよ」
「先生……」
「冗談ではなくてよ!どういうつもりなの!
  私たち姉弟があなたに捨てられてからどうやって生きてきたとおもうの!?」
それは心からの叫び。
そうではないかもしれない、というのはわかっている。
わかっていても叫ばずにはいられない。
バージニアは、母は自分の心の記憶に閉じこもっているのだから。
「な、何です?急に大声をだして…リフィルがおきてしまいますわ」
「リフィルは私です!あなたが捨てた娘は私よ!そんな人形なんかじゃない!
  ジーニアスだってちゃんといるわ!何で一緒に…っ!」
あのとき、一緒にきてくれればよかった、とおもう。
自分達だけ逃がすのではなく、家族で移動する、という方法もとれた、とおもう。
当時はわからなかったが、アステル達から事情を聴いている今ならばいえる。
覚えているのは母の泣き顔。
父の切羽詰まったような声。
いくら追い詰められていたのかもしれないが、十程度の子供と一歳にもみたない子供。
そんな子供二人がシルヴァランドにいったとして無事にいきられる、とおもったのか。
もっともそこまでおいつめられていた、のではあろうが。
「何をいっているの?おかしな人ね」
「おかしいのはあなただわ!その人形は昔…っ!」
リフィルがいいかけるよりもはやく。
「…ああ。リフィルが泣きだしてしまったわ。もう、でていってください!
  …ああ、いい子ね…リフィル……怖いお姉さんたちはもういっちゃいましたよ。もう泣かないで……」
いきなり人形をあやしだすバージニア。
「・・・・・・!」
その様子に何ともいえない気持ちになるリフィル。
どうやら彼女の目は目の前にいるのにすでに家からでた、と認識しているらしい。
完全に自分の夢の中に捕われているその様子。
みていられない。
それゆえにそのままきびすをかえし、家をとびだす。
「姉さん!」
そんなリフィルをあわてておいかけるジーニアス。
残されたロイド達はどうしていいのかわからない。
ふとみれば、バージニアは人形をだきかかえ、いつのまにか再び家の中へとはいっていっている。
バージニアに話しかけるのが先か、それともリフィルの様子をみにいくべきか。
「…ロイド、先生が心配だよ」
「…だな」
あの様子ではまともにバージニアに話しかけたとしても答えてはもらえそうにない。
何ともいえない気持ちをかかえたまま、ひとまずロイド達も家をでることに。

「…馬鹿にしてるわ。自分で子供をすてて、その記憶すら捨ててしまうなんて……
  どうしてあのとき、一緒に私たちとシルヴァランドに移動してくれなかったの…っ」
家族が一緒ならば耐えられたはず。
十になったぱかりの子供がまだ赤ん坊ともいえるジーニアスを育てていくのがどれほど大変だったか。
「姉さん…なかないで……」
ジーニアスも何と声をかけていいのかがわからない。
と。
「…バージニアにあってしまったか……」
いつのまにやってきたのであろう。
市長、となのっていた人物がいつのまにか家の近くにまでやってきているのがみてとれる。
「あのひとは、どうしてここにいるんですか?」
コレットがそんなエグザイアの市長にと問いかけるが。
「数年前、ユミルの森で行き倒れている夫婦をみつけた。それがバージニアと夫のクロイツだった」
「お父様だわ……」
「?そんな報告は俺様しらないが……」
ゼロスがそんな彼の言葉をきき、眉をひそめる。
「数年、といっても、そうだな。お前達人からすれば昔なのかもしれないな。
  たしかあれは、今から十年くらい前のことだ…」
『!?』
その言葉にロイドたちが顔をみあわせる。
「十年って、それって、じゃぁ……」
しいなが二人をみつめる。
あのとき、異界の扉とよばれる場所でリフィルがいっていた台詞。
一歳にもみたないジーニアスとここに捨てられていた、と。
もっともそれは捨てた、のではなく逃がした、のほうが正解なのだが。
しいなとて知ってはいた。
王立研究院が求め、手にいれらなかったハーフエルフの子供のことは。
それがリフィルだとはわからなかっただけのこと。
「…私がジーニアスとシルヴァランドに流されたのは十一年前。なら、お母様は……」
あのあと、すぐにここにやってきたことになる。
「いったい、何があったんですか?」
戸惑いながらもといかけるコレットの言葉に、ワードナは首をふりつつも、
「クロイトはメルトキオからエルフの村の調査に遣わされていたらしい。
  バージニアと恋仲になってヘイムダールへ残ったようだが」
「…でも、村に住んでいたハーフエルフの一人が父を兵士に売り渡そうとした。
  大きな騒ぎになったわ。エルフとハーフエルフとの間で暴動がおきて……」
あのときのことは覚えている。
だけど真実をアステル達から聞かされている今はその自分の認識は間違っていたのだ、
というのがわかる。
あれは、まちがいなく、父を、ではなく自分を、であったのであろう。
それにあらがったのが両親なのであろう。
だからこそリフィルは何ともいえず言葉をつまらせてしまう。
両親達を喜ばせたいばかりにいろいろと知識を求めていたことが、仇になるとは。
当時のリフィルは夢にもおもっていなかった。
おそらく今、当時にもどってもリフィルは知識をもとめることをやめないであろう。
すごいわね、と喜んでくれる両親の顔がみたいがゆえに。
「騒ぎの原因、とされてしまったバージニア達は追放されたそうじゃ。
  …すべては仕組まれていたこと、であったというのに、な」
すべては、彼らを隠れ蓑にしてあるものをかの里から奪い去るためのハーフエルフの狂言。
そして、エルフの語り部にすら後継者にできないか、といわれている頭脳明晰な子供。
それらを手にいれるための画策。
「…各地を転々としたが、しかし、ハーフエルフへの風当たりはつよく……
  国から追われている以上、一か所にもとどまれなかったときく」
「父親は?さっきいたのは先生のお母さんだけ、だった、なら父親はいったい?」
ロイドがきになりといかける。
「…クロイツはみつけたときすでに病にかかっていた。この村にきてまもなく息をひきとった。
  バージニアがおかしくなったのは、その日からだよ」
「勝手だわ!勝手に私たちをすてて、勝手に忘れて……自分だけ、夢の世界にいくなんて!
  シルヴァランドに私たちを逃がした、それですむとおもったの?
  小さな私がジーニアスを育てていくのがどんなに…っ」
それでもいつかは、両親が迎えにきてくれる。
そうおもって、しばらくは移動した先のあたりでがんばっていた。
離乳食が始まっていたジーニアスがあるいみ救いとはいえた。
通りかかったとある女性が救いの手を差し伸べてくれなければ、
あのまま間違いなく二人とも死んでいたであろう。
聞けばその女性にも二歳になるかならないかの子供がいるので人ごととはおもえないから、
そういっていた。
「……バージニアは、それでもおまえさんたち二人の行く末を気にしていたよ。
  …伝説の地、シルヴァラントなら…ハーフエルフも差別されていまい……幸せになっていてほしい、と」
「もうやめて!」
何を信じたらいいのか、ごちゃごちゃになってわからない。
「…バージニアの日記を預かっている。…もしも必要だと思うならいつでもとりにきなさい」
そういい、立ち去ろうとする市長にむかい、
「なあ、すこしいいか?…彼女がああなったのは、今、あんたは夫がしんだから、といったよな?」
ゼロスが何かをさぐるようにとといかける。
「……クロイツは病気だったのだ」
何かを確実に隠している。
それはもう直感。
それだけいい、
「私は家にともどっている。とりあえずお前達を地上にもどす方法もまだ確定していないからな」
レアバードにのっていた以上、さらにはその乗り物がどうみても壊れていた。
ここにこれた以上、害があるものではないとはおもうが。
しかし、ともおもう。
彼女の子供達がいるからこそ、マクスウェルはこの地に招き入れてたのではないか、と。
墜落し、死んでしまうのがしのびない、とおもっていたのかもしれない、とも。

「はい。マダム」
「あら、マダムだなんて。あら、もしかしてそこのあなた…
  ああ、前にバージニアがいっていた娘さん、なのね。ならそっちの子がジーニアス、ね」
何ともいえない空気の中、近くをとおりかかった女性をつかまえいきなり挨拶をしているゼロスの姿。
ゼロスに話しかけられ、女性はほほえみ、そしてふと、リフィル達にときづく。
その言葉におもわず目を見開くリフィルトジーニアス。
「私たちを…ご存じ、なんですか?」
リフィルがいうと、
「あなた、バージニアにそっくりですもの。…そう、ここにいる、ということはバージニアの様子をみてしまったのね。
  …あなた達でも彼女を正気にもどせなかったの…そう……」
そういう女性の表情はどこか憂いをこめている。
「教えてください。母は…どうしてあんな…母がもっていたのは私がかつてジーニアスが産まれるとき。
  私がつくった人形…それを、どうして……」
人形を大切にしていたからこそ、娘の身代りにしているなどとリフィルにはわからない。
「…知らないほうがいい真実、というのもあるのよ。
  彼女は彼女の夫が死んだときに、ああなってしまった。
  市長にあったかしら?市長がたしか、バージニアの日記を預かっていたはずよ?
  この街で地上におりることができるのは市長とそのお供のもののみ。
  それもきまった時期、でしかないけど。いつか娘達にあえたら渡してほしい。
  そういってかつてバージニアが市長にあずけていたもの」
「?地上におりる?それは?」
「マクスウェルの加護のもと、数年に一度、地上への道が、開かれるの。
  かつてはよくその道をつうじ、地上におりていた人達もいるのよ?
  だけど、その人達は大概もどっくてるか、もしくは…もどってくることすらできなかった」
だからこそ、今ではもう市長くらいしか地上におりるものはいない。
地上におりても、まっているのは死が大前提とわかっていてわざわざおりるものはいない。
しいなの疑問に答えるかのようにこたえてくれるその女性。
「市長の家がわからないのなら、案内するわ」
その言葉にしばし顔をみあわせ、
「お願いします」
「全員でいくのも何じゃねえのか?」
「たしかに。あるいみでデリケートなことだしね。
  なら、シルヴァランド組と、あとミトスでいいんじゃないのかい?
  ミトス、あんたは動揺してるジーニアスの傍にいてやってくれないか?
  同年代の子がいれば少しは心の支えになるだろ?」
ゼロスの言葉にしいながうなづき、それまでだまっていたミトスにと話しかける。
「え?僕なんかがいても…いいのかな?」
それは戸惑い。
誰だって、大切だ、とおもっていたヒトに自分がわかってもらえなかったらつらい、とおもう。
ミトスとて蘇った姉に、あなたはだれ?のようなことをいわれればおそらく立ち直れないだろう。
それが判ってしまい、なぜかふと脳裏に浮かんでしまい、だからこそとまどわずにはいられない。
「我々はマクスウェルの情報をもう少し集めてみるということか?しいな?」
「ああ。そうさ。すくなくとも、この街の人は情報をもっているとおもうからね」
「…エミルさんもきになります」
プレセアのいい分もたしかにある。
いまだにエミルはこの街のどこにいったのかみつかってすら…いないのだから。

「きたか。日記をよむかね?」
結局のところ、ゼロスの提案はあるいみで至極まっとうで。
かといって個人的な事情に全員を振り回すわけにもいかない。
今優先すべきは、精霊の情報。
それを理解しているからこそ、ふた組にとわかれ、リフィル達は市長の家へ。
リフィルは自分達だけでいく、といったが、ロイドやコレットに心配だから、とおしきられた形となり今にいたる。
「はい」
それでも勇気がふみだせない。
リフィルは気づいていないが体が少し震えていたりする。
そんな姉の手を無言でぎゅっとにぎりしめるジーニアス。
「先生。これ……」
動くことができないでいるらしいリフィルにかわり、ロイドがうけとり、リフィルにとその日記をてわたしてくる。

「今日……」
手わたされたバージニアの日記というもの。
おそるおそるリフィルがそれを開き読み始める。

……願いが届いたのか。異界の扉が開いた。リフィル。ジーニアス。力のない母を許してください。
いくら王立研究院といえども、シルヴァラントにまでお前たちを追いかけてはいかれないでしょう。
あの薄汚れた牢獄で…一生、奴隷のように使われるくらいなら……
逃げ落ちて…自由に……

それは、アステル達がいっていた通りの内容。
みおぼえのある母の字。
始まりの出だしはそのようにかかれており、それにえにリフィルは知らず涙を流してしまう。
泣いたことなど…あのとき、かつてハイマにてある人物と一夜をともにした後にしかなかったというのに。
「これ…どういうことなんですか?」
始まりの出だしからそのような内容。
アステル達からきいてはいたが、コレットが戸惑いを含んでといかける。
「…リフィル。お前さんはよほど優秀だったのだろう。
  王立研究院ではお前の頭脳がほしくて仕方がなかったようだ」
「それで…どこにも定住できずに…旅を続けていたの?私の…ために?」
素直に自分を差し出していれば家族はあのような目にあわなかったのかもしれない。
しかし、ここにリヒターがいればまず違う、と即座にいったであろう。
奴らは自分の目的の者以外は殺してでも奪おうとする、と。
それはリヒター自身も目の前で両親を殺されているがゆえにいえる台詞。
ヘイムダールにて、リフィルがやはりいまだに噂になっているというセイジ姉弟だ、とわかったときに、
リヒターがそういっていたことをリフィルは思い出す。
自分のせいで、家族が、といったリフィルにいったリヒターの言葉。
ジーニアスがいないときにいったのは、リヒターなりの配慮、だったのであろう。
「…結局、異界の扉まで追いつめられ、お前たちを逃がしたらしいの。
  …その日記には詳しくその経緯がかかれている。…もっていくがいい」
「お母様…っ」
いろいろと覚えては褒められるのがうれしかった。
長老達も天才だ、といっていろいろと教えてくれていた。
伝承者にもあい、いろいろと教わった。
水を吸い込むように覚えていったのは、それを覚えて母に話すと笑ってくれたから。
それが嬉しかったから。
「じゃあ…僕たち…邪魔だから…嫌われてたから捨てられたわけじゃないんだね」
「ああ。そうだ。そうだとも……」
「…よかったね。姉さん」
「この日記は……」
「もっていきなさい。お前たちの母親のものなのだから」
そのままぎゅっと日記をだきしめるリフィル。
「それと、ミトスもありがとう」
「え?僕何もしてないよ?」
「でも、傍にいてくれる。だから…ありがとう。それと、ごめん。
  僕、君に嘘をついたことになるよね。両親は死んだっていってたのに、お母さんは……」
「家族が生きていることはいいことだとおもうよ?…生きてさえいればいつかはわかりあえるとおもうし」
それはするり、と出てきた無意識の言葉。
自分の口からそのような台詞がでてきたことに気づき、ミトスは一瞬自分の口元に手をもっていってしまう。
姉を失う前ならば絶対にいっていたであろう台詞。
だけどもいつからかそうはおもわなかったその想い。
しかし、今はするり、と心からそう思えたのもまた、事実。
何かが自分の中でかわってゆく。
そのことに戸惑いを隠しきれない。

「ここは平和ですね。事件とかも何もないんでしょう?」
それは何のきもない問いかけ。
様々な人に話しかけては情報収集。
伝説ともいわれていたこの地にこれたことはあるいみ重宝。
ゆえにひたすらに聞きこみをつづけているアステル達。
その言葉に一瞬、とある人物が視線をずらす。
「…何かあるのか?」
その違和感にきづき、リヒターが問いかけるが。
「昔、どうしても忘れられない事件があったので」
そういう住人の表情は、暗い。
「昔、ということは解決はした、のか?」
「解決…ええ。客観的にみれば解決、といえるのかもしれないわ。
  でも……いまだに当事者は心を壊したまま。私たちは何もできなかった……」
それはあるいみで懺悔にも近い言葉。
そう。
あのとき、彼らは…この地にすんでいるものは何もできなかった。
近づけば、自分達まで巻き込まれてしまうがゆえに……
「…今から、十年ばかり前、になるのかしら?ある夫婦を市長が保護してきたわ。
  ユミルの果実をもとめ、地上におりていたときに見つけた、といって。
  聞けば、エルフとヒトとの夫婦。子供は、ときけばシルヴァランドに逃がした、と」
それは独り言にもちかいつぶやき。
ユミルの果実をもとめ、森にでむいていたときにみつけたひと組の夫婦。
国に追われている、ときき、ならば自分達の街にくるか、と手をさしのべると、
戸惑い気味にその手をとってきた。
その地にいたのも、果実ならば夫の病気を治せるかもしれない、とおもい、
追放処分をうけているにもかかわらず、こうしてやってきたのだ、と。
「本当ならば一緒にいきたかったらしい。けど兵士達に追われていた彼らには、
  子供達を逃がすだけで精いっぱいだったって。
  この地は二つの世界を行き来している。だから子供をみつけたら一緒にすめばいい。
  そういった市長の言葉がきめてになったらしく、彼らは移住をきめてここに移り住んだわ」
ここ、エグザイアならば追手をきにすることなく、家族で暮らせるから、と。
「夫だという人間は変わった病気を患っていたわ。
  それは、体が結晶化する、というよくわからない症状の病気」
「「!?」」
その言葉におもわず顔をみあわせるリヒターとアステル。
「やがて、その病は体全体におよんでしまった。だけど、それだけではすまなかった…」
全ての体が結晶化してしまい、それでも、意識があった。
ヒトでなくなった夫はそれでも夫だから、とバージニアが呼びかけていた。
しかし問題になったのはその体が及ぼす影響。
なぜか彼が触れたもの全てが一部、結晶化してしまう、という効果をもっていた。
ハーフエルフ達だからこそわかる、マナが暴走していると。
だからこそ、レイズデッドのような高位の癒しの術が使えるものたちがどうにか彼にと術をかけた。
それで体の半分は元の姿にもどれはしたが、そのときから、クロイツは自我を失うことが多くなりだした。
やがて、あるひ限界が訪れたのであろう。
いつものように症状をおさえるため、かといって周囲に影響をおよばさないがため、
発着場にて治療をおこなっていたときに、それはおこった。
いきなりクロイツが苦しみはじめるとともに、その体はまたたくまにと異形へと変化した。
それまでは体そのものが結晶化したような人の姿をした状態であったというのに、
その姿はまるでどこをどうみても、ここエグザイアにつたわりし、エクスフィギュアとよばれし、
かつてヒトがマナを乱しヒトを兵器として利用していた姿そのものへ。
必至で夫を呼び掛けるバージニア。
その鋭いツメがバージニアをとらえ、バージニアが傷ついたとき、自我をとりもどしたクロイツがとった方法。
それは…
「…彼は、自ら、飛び降りたの。…おそらく、守ろうとしたのね。自分から、バージニアを。
  そして…この街の人達を……」
今でも覚えている。
傷ついた体にて悲鳴をあげるバージニアの絶叫。
そして、異形とかしたその姿でも、子供達とともにいつか平和に。
そういって自ら飛び降りていったクロイツのあの最後。
バージニアの怪我はかなり重かったが、それでも何とか命はとりとめた。
ヘイムダールの里をでるときに、手引きをしてくれた男達からクロイツはとある石を呑まされていた。
念のための薬だ、といって。
体内に呑みこまれた石は時間をかけてゆっくりと、だが確実にクロイツの体をむしばんでいた。
「彼はかつて、里をでるときにある石を呑まされていたらしいの。
  それは、エクスフィア、とよばれし石。本来ならば要の紋がなければ人体に影響がでてしまう。
  そんなものを体内に取り込んでいた彼は……」
バージニアの話しをきき、まさかとおもいクロイツがつけていた日記をみてわかった事実。
バージニアもその石はのまされたらしいが、体が受け付けず、
のました当事者が離れた直後に吐きだしてしまった、とも。
その石をバージニアがまだ所有していたことから、それがエクスフィアであることがわかった。
それは、彼らは知らなかったがエンジェルス計画の一端。
エルフとヒトとに石をのませ、そこから生まれる子供の適正をみようとした実験の一端。
…プレセアの研究が、ハイエクスフィアの調子がいいことから教皇がおもいついた新たな実験。
それを知ったとき、バージニアは狂った。
否、実験のことまではしるよしもない。
当然、この街の人々も知るはずもない。
わかるのは、自分達が里をでるときに呑まされた薬といっていたものが全ての原因だ、ということ。
あのときの薬は自分達の気配をごまかすためのものに必要だ、そういわれてのまされた。
目に見えて狼狽し、衰弱してゆくバージニア。
あるとき、バージニアが大切にしていた人形をバージニアにもたせた一人の行動が、
彼女のその後を決定づけた。
あろうことか、バージニアはその人形を娘、と認識してしまい…そして、今にいたる。
彼女は夫を失ったすべてのことをなかったことにし、
夫は今仕事にでている、子供達はここにいる、と思い込むことで心の安定を図ったのである。
その事実をこの街に住む人々はしっている。
だからといって、どうにかしてやれることもできない。
できるのは、ただ、時が彼女の心を癒してくれる、それを期待することのみ……

「ねえ。リヒター、リフィルさんたちに説明…したほうがいいのかな?」
「…すくなくも、ジーニアスはともかく、リフィルには説明しておいたほうがいいだろう」
「でも、こんなところまで、エクスフィアの被害が……
  地上にここからおちたってもしかして十年くらいまえの隕石衝突?に関係してるのかな?」
研究者達の見解では、何か固いものがおちてきた結果できたクレーターだ、といっている。
そんな場所がテセアラにとある。
「さあ…な」
アステルの言葉に、リヒターもただそういうことしかできない。
もし、そうだとすれば、あのクレーターは一人の人間の命の証、ともいえるもの、なのだからして……


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あとがきもどき:
薫:ようやく打ち込み完了~
  ちなみに、クロイツの死亡さん。バージニアが自分の手で、というパターンもありました。
  が、それはジーニアスにとってもそれをしったらつらいかな?とおもったので。
  あえて自殺?のバターンをもってきてみました。
  それくらいの理由がないと、心を壊すとかならないとおもうんですよね。
  もしくは、夫がしに、子供達の死亡もどこからか噂で嘘なのにきいてしまったり、とか…
  次回でようやくマクスウェル~

2013年8月1日(木)某日

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