まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

前回にて、ゼロスが甘酸っぱい、といい。しいながあまい、といったクランベリーの実。
しいなのほうは甘い、といったのにゼロスは甘酸っぱい、といったあの台詞。
あれに実は意味があったりした、という。
理由は以下のまえぶりにてv
ゼロスも小さいころに天使化させられているゆえに、
マナの歪みを常にもっている状態なんですよ~。一応はv
ゼロスがうけた天使化さんのほうは、成人するまではエルフ同様に普通に成長する、
というような形式のものです。
なのでゼロスは二十歳から歳をとることはありません…

########################################

人の魂や念という異物がはいりこんでいる。
エミルはたしかにそういった。
それが何に、とはいってはいないが。
しかし、今のこの現状からして推測ができる。
できてしまう。
エミルのいっているのは、大いなる実り、とよばれているもののことである、と。
浄化をしなければ意味をなさないものになっている、という言葉の意味はわからないが。
しかし、おそらく、今のままでは、ユアン達がいっていた、大いなる実りの発芽。
それは完全にはならないのであろう。
それは直感。
それにたいし、どうやらエミルが何かをしようとしている、というのはわかるが。
それが何なのかゼロスにはわからない。
「立ち回りとしては、クルシスやレネゲードより、やはりエミル君のほうにいたほうが問題はないんだがなぁ。
  エミル君もその立場を完全におしえてくれれば俺様も楽なんだがな。…って、むりか」
強大なまでの力をもっているであろう精霊ラタトスク。
その関係者。
よもやエミルがそのラタトスク当事者だ、などという思いはさすがのゼロスとておもいついていない。
が、すなくとも、センチュリオン達が様をつけている以上、かならずつながりはある。
もしくは直接ラタトスクに繋がる存在、というのはもはや確信をもっている。
「俺様は…妹が無事ならば。あいつが何の不都合もなく暮らせる世界になるのならば、それでいい」
神子の立場を妹に譲渡したとしても、妹がろくな目にあわないのは、嫌でもわかっている。
もっとも、クルシスには、神子の立場の解放、というもっともらしい理由をつけて接触をとっているが。
「しかし、プレセアちゃんにミトスに、コレットちゃんねぇ…この三人が病気になった。
  ここに何か意味があるような気がするのは、俺様のきのせいか?」
ゼロスは気づかない。
気づくことができない。
エミルにいわれ、たべたあの実が実はその病気を防いでいるのだ、ということを。
かの実は体内のマナの歪みを一時的に抑える効果をもっている。
そして…コレット達のかかっている病気は、まさにこの場にもつ浄化作用の一環。
すなわち、体内のマナが強制的に狂わされているプレセアやコレット、そしてミトスのマナを強制的に正すため、
そのために体が反応し発熱しているにすぎない。
熱、という形態をとり、体内のマナの歪みを正している、というその事実に。

光と闇の協奏曲 ~火の精霊~

「おそらく、明日一日ほど、安静にしていれば、熱はさがるとおもうわ。
  プレセアの熱はもうさがったのだけど…」
「…ご心配、おかけしました」
いまだコレットとミトスの熱はさがらないが。
プレセアはどうやらもう起き上がれるほどにはなっているらしい。
ロイドの創った簡易的な小屋…ちょっとしたコテージは、どうやら日が暮れるまでには完成し、
その中に全員が入っている今現在。
それでも、何かあってはいけない、というので外にテントをはり、見張り役も交代制ですることになってはいるが。
どうにかおきあがれるようになったプレセアが、手渡された飲み物をのみつつも、そんなことをいってくる。
「きにするんじゃないよ。疲れもたまってたのさ。…あんたもいろいろとあったからねぇ」
初めてであったときには自我がほとんどない状態であった。
自我をとりもどしてから彼女がしったのは、取り残されてしまっているその長い時間。
唯一の肉親でもある妹の死。
何かそこにひっかかりをしいなは感じるが。
エクスフィアで暴走したブライアン家に勤めていた元メイド。
被害が拡大するまえに、プライアン家当主自らが手を下した、そうしいなはきいている。
異形とかしてしまったものの手により幾人かが命を奪われているのはまぎれもない事実。
命をたたれ、元の人の姿にもどったのち、ブライアン家の当主、ブライアン公爵は自らが罪をおかした。
といって自主、したらしいが、しかし事情が事情。
裁判で無罪になったというのもしいなはしっている。
もっとも、そこまでしっていてなぜにきづかないのか、というのがゼロスからしてみれば本音といえる。
ブライアン公爵の本名を思い出せば、すぐさまに納得がいくであろうに。
「まあ、ここで全員で三人が回復するのをまっているより、
  とりあえず、幾人かがここにのこって、先にイフリートととの契約したほうがよくないですか?」
壁にその背をもたれかかし、エミルがそんな彼らにといってくる。
「エミル。おまえそれって薄情じゃねえか?」
ロイドがそんなエミルにいってくるが。
「でも、ロイド。ここでみんながいても、どちらにしてもイフリートの神殿にいくんでしょ?
  病み上がりの人達をさすがにロイドもあの遺跡につれていく、とはいわないよね?」
「そ…それは……」
エミルのものいいはまさに正論。
あの遺跡の中には魔物も多々といた。
それゆえにロイドは言葉をつまらせる。
「たしかに。エミルのいうとおりだね。契約ならあたしは確実にいるよね」
「僕は精霊との契約っていうのについていきたいです!それに、遺跡にも興味があります」
「…アステルが暴走しないように俺もついていく」
アステルが元気よくいい、リヒターがため息とともにそんなことをいってくる。
「リフィルさんはコレット達についていたほうがいいでしょうし。
  ジーニアス達はどうする?」
エミルの問いかけに、
「え?僕は・・・ミトスの傍にいてあげたい。きっと病気のときって心ほそいとおもうんだ。だから」
「ふむ、ならば私もここにのころう」
アリシアの面影を残した少女をほうっていくことなど、リーガルにはできはしない。
「じゃあ、遺跡にいくのは、しいなさん、アステルさん、リヒターさん。この三人は決定として。
  リーガルさんとリフィルさん、ジーニアスはここにのこる、ということで。
  で、ロイドはどっちにする?」
「俺は……コレットが心配だし……」
村でも病気とか滅多にしたことのないコレット。
しかし、精霊との契約も大事なのもわかっている。
だからまよってしまう。
「ああもう。あんたは何も心配せずにコレットの傍にいておやりよ。
  へたにあんたがこっちにきたら、コレットのことだ。心配して病状を悪化させかねないからね」
ロイド、大丈夫かな~、とかぼやきつつ、うわのそらで、ロイドの名をいいかねない。
「じゃあ、ロイドもここにのこって、皆のことをお願いね。
  遺跡には僕も以前いったことがあるから、なら案内役で僕もいくとして。
  遺跡組は、しいなさん、アステルさん、リヒターさんでいいかな?
  あ、ゼロスさんもお願いしてもいいですか?」
「お、俺様御指名~?おっけ~。おっけ~」
「たしかに。こいつをここにのこしていっていたら、病気のコレット達に何をしでかすかわからないもんね」
「しいな、ひでぇな。俺様は誠心誠意をもって看病するぜ~?そいねでもなんでもござれ、だ!」
「それが危険だっていうんだよ!」
「…しいな、ゼロスも連れて行ってちょうだい。私たちの目をはなしたすきに何かあってもこまるわ」
「リフィル様までひどいな~」
何やら会話の方向がずれている。
「とりあえず。まとめますね。遺跡にいくのが、僕とアステルさん、それとリヒターさん。
  しいなさんとゼロスさん、僕を含めて五人ですね。
  で、こっちに残るのが、リフィルさんリーガルさんとロイドとジーニアス。
  プレセアさんたちのことをおねがいしますね?」
プレセアの熱はさがった、とはいえいまだに万全ではない。
もっとも、熱がさがったということは、プレセアの体内にあった歪みが一応は排除された、ということなのだが。
もっとも、それにより、ゆっくりと浸透していたその力が今後プレセアにどう影響するかは、
それはプレセア自信がきめること。
歪みが取り除かれたことにより、自らの中にある力にきづくはず。
そのときに、うけいれるかどうかで、プレセアの今後がきまるといってもよい。
普通の人にもどるか、それとも完全にほかの実験につかわれていたヒトと同様に分離するか。
きめるのは当人次第。
その場合は、精霊石の粒子の欠片がプレセアの中にとどまり、
ブレセアもまた、古代の天使…生体兵器ではないほう、の種族に変化する、であろうが。
もっとも、その本質からして生体兵器としてうみだされた天使に近いほうにしかならないが。
本来の天使とは、あるいみで石の精霊、なのだから。
「ええ。あなたたちも気をつけて」
たしかにこのままここに全員がいたとしても、病み上がりのものたちをあの遺跡につれていく。
というのはリフィルとて避けたい。
あの場所はあの当時はかなりひんやりとしていたが、本来もともとはイフリート。
すなわち火の精霊の神殿のはず。
ならば、ものすごい熱さを本来はともなっていても不思議ではない。
そんな場所にやみあがりの子供達をつれていくことなどできはしない。
「精霊イフリートかぁ。文献や遺跡の壁画ではみたことがあるけど初めてだよな。
  ノームみたいな話しがわかる精霊だといいな~。何がイフリートって好きなんだろ?」
「…アステル。おまえ、ノームのときみたいにお酒とかで懐柔するきか?」
わくわく、といった様子でいうアステルにたいし、リヒターがため息まじりにそんなことをつぶやいているが。
「…あ、ノームってお酒で懐柔されてたんだ……」
そういえば、昔からあのこ、お酒好きだったっけ。
そんなことをおもい、おもわずつぶやきつつもエミルが遠い目をする。
ちなみに、ノームが酔っぱらったとき、それまで以上にしゃべりじょうごになることを、ラタトスクは知っている。
ノームいわく、自分は土を司るからより吸収がいいのだ、といっているが。
たしかにそれもあるが、しかしアルコール成分は本来ならば精霊には悪影響をおよばさない。
それらがおよぼす効果を無効化することができるのに、あえて酔っぱらうことを選択するノームは、
そのときの感覚がきにいったからにほかならない。
ちなみに同じような理由でイフリートもそのふしがある。
ちなみに、イフリートの場合はからみ上戸。
そもそも、かつてヒトが彼らの神殿にお酒を奉納したことから、その影響は今現在までつづいている。
「とりあえず、ゼンは急げ、ともいいますし、さくっといっときます?
  ここからあの場所はさほど離れていませんし」
そもそも、この場所は旧トリエット遺跡のかなり近くといってよい。
イフリートの神殿から出たリフィル達が野営をしたその近くなのでほとんど目と鼻の先。
ただ、この現象はリフィル達がいる場所とは反対側であったがゆえに、
リフィル達があのときいきなり緑が復活した、ということにきづかなかっただけのこと。

旧トリエット跡。
その奥にあるというイフリートの神殿。
かのオアシスからその残骸というか痕跡がかろうじてみえる距離にいちしているこの場所は、
かつてはオアシスの恩恵にてにぎわっていた場所、ともいえる。
もっとも、あの場所にオアシスが…すなわち、水源が復活したことにより、
このあたりも少しずつではあるが活気をとりもどしていっているらしいが。
いずれ近いうちに森林はかの遺跡をものみこみ、かの遺跡も森の中の神殿、とかつてのように戻るであろう。
「遺跡、といってもかなり崩れていますね…」
「このあたりは風雨にさらされていたみたいですからね。
   本来の神殿ならばこのようなことにもならない、はずなんですけどね」
その証拠にもともとあった神殿の一部は、たしかに砂に埋まってはいるが、その形をそのままの形でたもっている。
「そういえば、エミルって、ここであのリフィルさん達と出会ったってきいたけど」
砂に埋もれている遺跡。
しばらくすすむと、ぽっかりと開いた穴、のようなものがあり、そこはどうやら地下につづく道、らしい。
その手前には石碑らしきものがあり、テセアラでもみおぼえのある神子の家系をしめす紋章が刻まれているのがみてとれる。
「これは、天使言語、ですね。これが封印の鍵、となっていたのかな?」
当事者達がこの場にいないので確認のしようがないが。
「なんかそうらしいですよ?コレットが手をかざしたらこの道ができたってロイド達がいってましたし」
そんなエミルの説明に。
「しかし、そのとき、お前は一緒にはいなかったのだろう?が、遺跡の中にいた、ときくが。
  どうやってはいったんだ?」
「そもそも、この入口はあとから勝手につくられたものですからね。
  もともあった祭壇を祀りし場所の上に上書きというか増設されるようにして
  神殿とかよばれるものがつくられてたっぽいですし。
  そもそも、鍵がひつような祭壇とかって意味がないでしょ?本当の入口は砂に埋もれていますけど。
  それ以外の道もこの場所にはいくつかありますし」
その言葉に嘘はない。
「エミルってここの隠し通路とかに詳しいのかい?」
しいなのといかけに。
「詳しいかどうかは別として。ここの子達は皆把握してますからね。聞けば簡単にわかりますし」
もっとも、エミルが詳しい、というのは事実だが、それを言外にいうことなく、
実際に魔物達もそのあたりのことはしっているのでエミルの説明に嘘はない。
「そもそも、なぜに魔物の言葉がわかるのだ?お前は…」
リヒターのそんな普通の感覚からしてみればしごくもっともな意見に対し、
「僕からしてみれば、なんで自然の声すらヒトはきけなくなっているのか、といいたいんですけど」
目にみえるものだけを信じ込み、そこにあるものから目をそらしつづけているヒト。
「とりあえず、ここからおりていきます?それとも別の入口からいきます?」
「俺様としてはとっとと地下におりたいんだけどな~。いくら夕方になっているとはいえ熱すぎるだろ。
ここ」
事実、すでに夕刻に近いとはいえ、いまだに太陽は空にあり、気温もかなり高い。
まだ地下ならば多少はすずしいはず。
それゆえのゼロスの台詞。
「以前にここにきたときは、まだちょっとした事情でこのあたりは雪に覆われていましたからね」
イグニスが完全に覚醒していなかったがゆえにこのあたりのマナが狂っていた。
ゆえに一番生体系に影響がでているこの場所にエミルは具現化してきたにすぎない。
センチュリオン達の影響にて、一番マナの安定がくるいかけているそこを無意識に選んだ、といっても過言でない。

地表の建物は風雨にさらされ、かなり朽ちていた、というのに、内部はさほどそうでもなく、
ひんやりとした空気が一瞬ただよっている。
もっともそれは始めの区間のみで、一つ扉を超えた先は、地上とくらべるのもばからしいほどの熱気を含んでいるのが体感できる。
どうみても人の手がくわわっている遺跡。
この遺跡はあからさまに人工物の気配がぷんぷんしている。
もっとも、元々はここは溶岩地帯でしかなかったのだが、その上にクルシスが神殿を増設しているがゆえ、
かつての面影はほとんどまったくといっていいほどにのこっていない。
この地下にはどうやらその痕跡は残されているらしいが。
古代大戦時に開発された、というカーボネイドをふんだんにつかった床や壁。
階段からおりきったときには、まともな床の部屋であったというのに、
扉をくぐるとそこにあるは、眼下にみえるは紅い何か。
「これは…溶岩、か?」
にえたぎる溶岩、マグマ、といつてもよいであろう。
常に何かがもえたぎっている。
おそらく足場からおちてしまえば一瞬にて体は失われてしまうであろう。
リヒターがそれをみつつおもわずつぶやく。
「すごい!さすがは火の精霊!やはり化説はまちがってなかったということだよ!リヒター!
  火の精霊は火山活動とかも司ってるといわれてるから絶対にこういったマグマとかよばれしものも
  扱えるとおもってたんだ!」
一人、何やらきらきらとした目でそんなことをいっているアステル。
そんな彼らに苦笑しつつ、
ふわふわとなぜか一気にこのあたりにいた、のであろう、様々な魔物達が瞬く間にとよってくる。
そのままエミルが無言にて、手をすっとふると同時、魔物達は一斉にちらばっていき、
意図されたことをそれぞれがこなしはじめる。
よくよくみれば、足場となっているレンガのようなそれらは途切れており、
おそらくどこかに仕掛け、があるのであろう。
ざっとみただけで判断しているアステルはあるいみさすが、としかいいようがないが。
「うわ。魔物達、あれって…仕掛けをもしかして解除してるのかい?」
しいながおもわずあとずさる。
みれば、魔物達が部屋のところどころにあるらしい、何か
…正確にいえば、仕掛けの鍵となっている松明、なのだが。
それぞれ魔物達がその五か所にある松明に火をともしてゆくとともに、
足場がせりあがってきているのがみてとれる。
一度、神殿を解放した場合、誰でも中にはいれてしまうがゆえに、仕掛けなどは一度解除されたとしても、
しばらくすると再びその仕掛けは起動するようにとなっている。
そのあたりはかつて、ラタトスクがおこなっていたものと変わり映えはしていないようではあるが。
魔物の姿はやはり多々とみえはする、というのにまったくもっておそってはこない。
それどころかほとんどの魔物は道の横にしりぞき、
また、空をとびし魔物ですら、足場の横のほうに移動しているのがみてとれる。
ぱっとみため、どうみても道なりに魔物達が整列し、まるで姿勢を正している…正確にいえばかしこまっている。
という表現がしっくりくる。
そんな魔物達の姿をみつつ、
『かしこまる必要はない』
魔物達にのみわかる言葉にて言葉を発するエミル。
そういわれても魔物達からすればとまどいを隠しきれない。
「…イグニス。おまえ、もうちょい、この子達に融通、ということを教えない?」
おもわずため息とともに横にいるイグニスにエミルがそういうが。
「しかし、それは仕方のないことかと」
もののみごとに一言のうちにと却下されてしまう。
当然のことながら、エミル達の会話はこの場にいる誰もが理解不能。
どうやらいっても無駄、らしい。
ゆえにまたまたため息をつきつつも、
「とりあえず、ここの子達がこの場所の仕掛けを解除してくれたみたいですし。
  奥にいきましょう」
ここには確かに人の原語をあやつることのできる魔物はいるが、あまりに畏れ多くもあり、
自ら声をかけるようなつわものの魔物はまずいない。
「魔物がこれほどまでに近くにいるのに…やはり、襲ってこない…だと?」
あの地の神殿のときもそうだった。
そしてまた、あのトレントの森、とよばれし場所にても。
ゆえにリヒターがおもわず眉間をよせつつつぶやいている様がみてとれる。
「やっぱり。あたしのきのせいじゃないとおもうんだけど。
  ぜったいにエミルって魔物達からこう、なんか畏怖っぽい感じをうけてるんじゃないのかい?」
今までも感じていたこと。
それゆえのしいなのといかけ。
魔物達の雰囲気からして、どうも眼上のものに目通りする、そんな感じがぬけきれない。
否、目上のもの、というよりはより高みにいるもの、絶対に近寄ることすら許されないもの。
そんな感覚をこういった光景を目の当たりにするとうけてしまう。
ずらり、と道なりに整列し、その場にぺたん、と座り込んでいたり、もしくは頭をさげている魔物達。
そんなしいなの感想は、この場にいるゼロス、アステル、リヒターも同意であるらしく、
何やらそれぞれ顔をみあわせていたりする。
「まあ、エミル君だしねぇ。しかたねえんじゃないのかい?」
そんなしいなにさらり、といいきるゼロスにたいし、
「何でさ?」
「だって、そのエミル君。世界樹の小枝とかいう、世界樹、大樹カーラーンの一部ともいえるやつをもってるだろ?
  大樹カーラーンはマナを生み出す聖なる源ともいわれてるやつだ。
  魔物はアステルの説ではマナに敏感らしいしな。そんな魔物達がその気配を察知できないとはおもえないしな」
あるいみでゼロスの言葉はまさに正論。
「ええ。僕が調べたかぎりでは、魔物達は精霊ラタトスクの命をうけ、
  それぞれの属性を司る直属のしもべ達によってマナの調停をしている、ということです。
  かなり古い古の文献にそう記載されていました。おそらく間違いはないとおもいますよ」
ゼロスの言葉をうけ、アステルが同意をしめし、こくこくとうなづく。
「その精霊ラタトスクの直接のしもべというのは、八つの属性をつかさどる、セ…」
「とりあえず、はやくいきません?下手したら夜になりますよ?」
センチュリオン、といいかけたアステルのことばを自然にさえぎりエミルがうながす。
「いくら近くにオアシスをたたえた森ができている、といっても、砂漠の夜は危険ですよ?
  下手したらヒトなんて簡単に凍死してしまえるほどに気温がさがることもありますからね。
  今の時期はさほどではない、とはおもいますが」
このあたり、冬場には夜はマイナス三十度をこえてしまう。
オアシスのあたりは比較的安定しており、よくて二十度前後あたりまでしかさがりはしないが。
「へぇ。このあたりそんなに寒くなるんですか?フラノール地方といい勝負ですね?
  このあたりにもペンギニストが生息してるんですか?」
「え?あの子達は寒い地方にしかいない子達ですから、ここにはいませんよ?
  たしかにあの子達の羽は断熱に適していますけど。
  そのせいでヒトはあのこたちをいっとき乱獲したほどですしね」
それゆえに、あの場所にのみ生息域を限定した。
かの地ならば、グラキエスやセルシウスの加護がいきているがゆえに、
人が愚かなことをしでかそうとしても、すぐに対処がきくがゆえに。
「ああ。それは文献にものこっています。そのせいで生息数がすくなくなって、
  必要な断熱素材であるペンギニストフェザーが手にはいらなくなって、
  凍死してしまう人が続出したとか」
ここにもし、シルヴァランド組がいたのならば、なぜにテセアラ側のことなのに詳しいのか。
という突っ込みがはいったであろう。
が、この場にいるのは皆、テセアラのものばかり。
ゆえにそんな突っ込みをしてくるものがいないのもまた事実。
ちなみにその史実は実は古代大戦時のとこのことであったりする。
「いつの時代も、ヒトは目先の欲しか考えないんですよね。愚かなことに。
  その結果何がおこるか、すこしかんがえればわかるというのに」
「まあ、それがヒトなんじゃねぇの?それをきちんと制御できるかどうかは当人しだいってな」
「…めずらしく神子がまともなことをいってる」
ゼロスの言葉にリヒターが目をぱちぱちさせておもわずつぶやく。
「どういう意味よ。リヒター」
「言葉通りだ。普段からそのようにまじめな言葉をいってくれていれば我らとしても助かるのだが?」
「ちっちっちっ。それじゃ、俺様のキャラじゃないって」
「…はぁ。シルヴァランドの神子を見習ってほしいものだよ」
かるくいいはなつゼロスのことばにしいなが盛大にため息をつきつついってくる。
歩きつつの会話であるからか、いつのまにかすでに奥のほうまでいっており、
「あ、どうやらこの部屋はぬけるみたいですね」
部屋の中央部。
そこにある転移装置をみてエミルがにこやかにいってくる。
「この転移装置はどこにつながっているのだ?」
「たしか、イフリートのいる場所の前につながってましたよ?」
エミルの言葉に嘘はない。
もっとも、この転移装置はクルシスがあとからつけくわえているものであり、
本来のイフリートの祭壇はこの真下。
すなわち、あのヒトが祭壇、としんじている真下にある。
「祭壇はどんなになってるのかな?こっちがわって」
「テセアラ側とあまり変わり映えはしないとおもうよ?
  あたしがしってるのは一部でしかないけどさ」
アステルの言葉にしいながこたえる。
たしかに、全ての精霊の祭壇はどうやらクルシスは統一してつくっているっぽい。
創りの形式はすべて確認してみたがどれもおなじ。
かつて、シルヴァランド側が精霊を捕らえようとして開発していたその装置。
それを応用しているのではあるが。
おそらくそれをしっているのは、この場にはいないであろう。
ラタトスクやセンチュリオン達という存在を除けば。


転移装置をこえたさきにあるのは、円陣の祭壇、のようなもの。
「ここもやはり、魔科学でつくられているっぽいですね。ノームの祭壇とほぼ同じみたいだ」
アステルがその祭壇をしばし観察し、違いをみつけようとしているものの、
「ここは…火のマナがみちているな……む。マナがこくなった。でるぞ!」
リヒターがおもわず身構えるとともに。
円陣の祭壇の上に突如として炎が一気に燃え上がる。
炎が収縮し、そこにはマッチョ、といってもいいほどの筋肉質…にみえる、
紅い何かがそこにある。
その頭には二本の角?のようなものがあり、肩には肩あて、なのかもしれないが、
すくなくともするどいツメが幾得にもかさなったようなものがあり、
それらが背後で翼のようにみえている。
ながい髪は炎の鬣のようであり、つねにもえさかっている。
体よりも大きな手にはそのくるぶしのあたりに、盾?のようなものがつけられており、
しかし、下半身には足はなく、まるで魚の尾びれ、のようになっている。
魚のおびれ、といっても長い種類の魚のようなもので、にゅるり、とのびている下半身が印象深い。
その体のところどころに不思議な紋様のもののようなものがみてとれるが、その意味はしいなたちにはわからない。
それは、現れるとどうじ、なぜか手を前にだし、一度ふかぶかと敬礼のようなものをとってくる。
そして。
「契約の資格をもつものよ。我、ミトスと契約するもの」
深く、それでいて響き渡るような声がそれより発せられる。
「我はしいな。イフリートとの契約を望むもの。ミトスとの契約を破棄し、我と契約することをのぞむ」
一歩前にでて、祭壇の上にういているイフリートにむけ、契約の言葉を発するしいな。
ちらり、とそのイフリートの視線がエミルにむいたことにきづいたのは、ゼロスのみ。
そんなイフリートの視線をうけ、小さくこくりとうなづくエミル。
どちらにしても、彼らの精霊の楔、すなわち、ミトスとの契約破棄だけはさせなければならない。
今現在、すでにミトスは精霊との盟約をたがえている状態、なのだから。
「我と契約できるほどの資質があるのかためさせてもらおう」
いいつつ、イフリートが身構えるが。
「あなたが火の精霊、イフリートですね!すばらしいです!」
「…うん?」
そんな彼らの会話にわってはいるかのように、アステルが目をきらきらさせつついってくる。
そして。
「あ、これ、お近づきの印です」
いいつつも、すっと、いつのまにとりだしたのかあるものをてにし、それを祭壇の前へ。
「おお!?これはもしかして、ヒトがいうところのバーボンではないのか?」
その容器の特徴からしておそらくは間違いないのであろう。
そんなイフリートの言葉に、
「フラノールバーボンです」
さらっとこたえているアステル。
目の前に精霊がいる、というのにまったくもって動じていない。
「フラノール…ああ、セルシウスが管理しているあたりのものか。
  ならば寒い地方ならばこそ、アルコール度数もたかかろう」
イフリートがこのむは、アルコール度数の高いもの。
いわく、体内の炎が燃えたぎる感覚がきにいっている、かららしい、のだが。
「こんなのもありますよ?」
いいつつ、またまた別のお酒をとりだし、目の前にさしだしているアステル。
「おお!これはもしかすると、清酒ではないのか!?」
「ええ。みずほ名物、大吟醸、ほまれ、といいます」
そんな彼らの様子をみつつ。
「……アステル。また精霊を酒で懐柔するつもりか?」
あきれたため息とともにつぶやいているリヒター。
ゼロスのみが、横にいるエミルがおもわずぴくり、と顔をひきつらせているのにきづいているが。
どうやらあの精霊は気づいていない、らしい。
そんなエミルの変化にきづくことなく、
「近頃は人が我がもとにこういった貢物をしなくなってひさしいからな。ありがたくうけとろう」
いいつつも、そのままそこにある壜…本気で壜ごとかっさらい。
そのままいっきのみ。
「くは~!やはりアルコールはいい!こう、体の奥から燃えるような!」
何やらそんなことをいって一人悦にひたっているが。
「……イフリート?」
深く響くような声がするとともに、周囲の空気がまたたくまにと変化する。
それは息をするのも、たっているのすらままならないほどに。
「え?あ、え、えっと……」
すっかり酒に心をうばわれて失念していた。
目の前に、王、がいる、というその事実に。
空気の変化と、そのうける雰囲気からして怒っているのがまるわかり。
ゆえにイフリートはとまどうしかない。
イグニスに助けをもとめようとするが、すでに二柱たるセンチュリオンはいつのまにか背後に避難しているらしい。
「そこに正座!」
一歩前にでて、有無をいわさずにいいはなつ。
「は、はいっ!」
エミルに…否、ラタトスクにいわれ、素直にそのままその場に正座。
簡単にいえば、祭壇の上にしっかりと座り込んだ形になっていたりする。
「まったく、あのね。君は。なんでいつもいつもそうなの!?そもそも、何!?
  前にもあったよね!?そのお酒につられ、君が加護をあたえた人が何をしでかしたのかもうわすれたわけ!?」
「うぐっ」
あるいみで仁王立ち。
しかしにこやかに笑みをうかべているのに目はまったく笑っていない。
事実、上機嫌になったイフリートが加護をあたえたものが、かつて人の世界で好き勝手をしたことがあった。
自分の不始末は自分でつけろ、というラタトスクの言葉をうけ、イフリートが直接手をくだしたことがある。
それはまだ、人々が古代大戦、といわれている戦争が始まるよりも前のこと。
「それに、ノームとのみくらべをしたときも!あのとき、大地が陥没したのを忘れたはいわさないよ!」
もうそれは切実におぼえている。
「…うわ。ひさしぶりにラタトスク様が御怒りになってる…」
「このモードのラタトスク様っていろんな意味で怖いですよね……」
下手に丁寧な口調なのでタチがわるい。
いつものごとくの口調で上から目線のようなかたちで配下のものをいさめるいい方ならばまだしも、
ぐさぐさと突き刺すようないい方を丁寧口調で言い放つのだから、精神的ダーメージは計り知れない。
そんな主の姿をみて、震えているイグニスとトニトルス。

「え、えっと、エミル?」
何だろう。
エミルからうける雰囲気がいつもと違う。
息をするのも何となくくるしいのは、あきらかに、火の精霊のせい、ではないとおもう。
切実に。
「…マナがものすごく濃くなってるぞ…何だ?これは……」
ハーフエルフだからこそわかる。
精霊が現れたときよりもはるかに濃いマナがこの場に満ち溢れている。
それこそ気をぬけば倒れてしまいそうなほどに。
「…どうやらお説教はしばらくつづくようですし。あなたがた人にはこの場の空気はきついでしょう。
  こちらの部屋へどうぞ」
ふときづけば、いつのまにかしいなたちの横にみたことのない魔物の姿がみてとれる。
しかも確実に人語を話している。
それは炎をまといし犬のようなもの。
「失礼。私はクドゥグハ。イフリート様の護衛を担っているものです。
  …あの様子ではしばらく、おわりそうにないですからね」
「すこしいいかい?エミルは何をいっているんだい?」
精霊原語、のようなものであるのはわかる。
わかるがしいなはそれがわからない。
エミルがつかっているのは精霊原語、とはいえども古のもの。
ゆえにおそらくヒトでは確実に理解することは不可能に近い。
「ああ。エミル様はイフリート様にたいし、多少お灸をすえられているのですよ。
  精霊、というものは。しかもイフリート様は炎のマナを管理する立場のもの。
  そんなものが人がみついだお酒などにまどわされるな、と」
しいなのことばにさらり、と何やらそんな説明をしてくるが。
「え~?僕は別にまどわしてなんか…」
「お前のあれは確実に惑わしてる、といってもいいとおもうぞ?」
そんなアステルにじと目でリヒターは突っ込みをいれたのち、
「エミルのいうことを精霊ともあろうものが素直にきく、のか?」
「エミル様ですから」
これまた、クドゥグハ、となのった魔物も答えになっていない答えをかえす。
そういいつつも、壁にとかかれている紋様の一つの前にいき、その場にクドゥグハ、となのった魔物がたつと、
そこにぼっかりとした入口が出現する。
「この奥でしたら、ヒトも快適にすごせるかと。普通の扉にしておきますので。
  あの様子では…おそらく、お説教は一晩くらいかかるやもしれませんしね……」
みれば、いまだに昏々と説教をつづけているエミルの姿がみてとれる。
口調が丁寧なことがよけいにイフリートに恐怖を植え付けていたりするのだが。
そんなことはおかまいなしとばかりにエミルはいいつのる。
ほうっておいたら調子にのる彼らのこと。
ゆえにいさめるラタトスクの心情としては、おそらくはまあ…間違っては、いないであろう。
この場に他のものがいる、というのを無視、してのことでなければ。

案内された部屋は先ほどまでの部屋とはことなっており、
ひんやりとした空気がただよっている。
周囲にはいくつもの紋様、天井をみれば、その中心に蝶のようなものがえがかれ、
その周囲に八つの紋様が色つきで描かれているのがみてとれる。
そしてその部屋は八角の部屋となっており、それぞれの壁には八つの何やら特性をしめしているっぼい紋様が。
「これは…精霊達を示す、紋様と。天井のあれは、精霊ラタトスクを示しているのであろう印と、
  あと、センチュリオン達を示すという紋章ですね」
部屋に案内し、いつのまにかクドゥグハは何かありましたら、そのあたりにいる魔物に用事をいってください。
そういってこの場をはなれた。
みれば、水の精霊を示す扉の前には水属性、の魔物、なのであろう。
ちいさな水辺、らしきものがあり、そこにふわふわと小さな魔物達が浮いてあそんでいるのがみてとれる。
ノームを示す扉の前にいた、のであろう。
樹木の魔物がなぜかせかせかとうごき、その場にいくつかのねどこっぽいものをつくっているのがきにかかるが。
どうやら魔物達はこの場にやってきたしいな、アステル、リヒター、ゼロスこの四人の寝床をつくっているっぽい。
ちなみに、しいな達はしらないが、酒で懐柔されてしまうのはイフートだけでなくノームもまた然り、
ということなのでその場にノームを呼び出し、エミルは一緒に説教をしていたりする。
それを知った他の精霊達は、自分の身にふりかかりませんように、とただただおびえるしかない。
「しかし、どうみてもあのイフリート、エミルにたいし、おびえてたぞ?」
ぽそり、とつぶやくリヒターの心情はまあわからなくはないであろう。
精霊とは、人にとって絶対的な力をもつもの。
なのに、そんな精霊がたかがヒトの子にたいし、おびえる、などということをするのだろうか。
という思いもある。
様子をみようと、はいってきた扉のほうにいき、手をかけるが、
あまりにも重苦しい空気をかんじ、それ以上うごけなくなったのはつい先刻のこと。
ドアを通じてもわかるほどの何かの気配。
その何か、はしいな達にはわからない。

なんだろう。
ようやく外にでれるようになったというか、空気がやわらいだ。
それとともに、しいな達がいることを思い出したエミルが彼らがいる部屋にとやってくる。
そして。
「あ、すいません。あまりにあの子がちょっと馬鹿なことをしそうなもので。つい」
「「「いや、ついって」」」
どこをどうつっこめばいいのやら。
「とりあえず、しいなさん、あらためてあの子との契約、お願いできますか?」
「あ…ああ」
いつのまにか、イフリートの呼び方が、無意識のうちにコ、という呼び方になっているのだが。
エミルはそれに気づかない。
あのこ、といわれ一瞬何のことかわからなかったが、すぐさまにおもいあたり、
おもわずリヒターとゼロスは顔をみあわせる。
どうやらしいなはその呼び方の違和感に気づいていないようではあるが。
部屋からでてみれば、なぜかぐったりとした様子のイフリートの姿が確認できる。
「え、えっと…とりあえず、契約…いいかい?」
何だろう。
精霊にたいし、ここまで同情するようなことになるとはおもっていなかった。
精霊なのにこころなしか顔色がわるいようにもみえなくもない。
しかもその姿がちょこっと薄いような気がするのはしいなたちの目の錯覚か。
「…よかろう。そなたの誓いを我にと示せ」
「あれ?精霊の試練はいいのかい?」
「下手に今力をつかうと、我とて具現化することができなくなる」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」
一瞬、そのことばに顔をみあわせ、そしてそのまま視線をエミルにとむける。
「エミル…あんた、イフリートに何やったのさ?」
「え?僕はただ、誠心誠意、心構えが何たるか、というのを説いただけですよ?」
にっこり。
しかも、自らの気というか気配を解放して。
解放した状態で丁寧な口調で説教をする。
それは精霊達にとって何より精神的なダメージを負わせてしまう。
それでなくても、ラタトスクの気配そのものが精霊達にとっては畏怖すべきもの。
そんな自分達の産みの親からそのような状態でいわれれば…説明するまでもない。
何となく、精霊にたいし、憐憫たる感情を抱いてしまうのは、おそらくしいなたちの気のせいではないであろう。
誰しも、そう、ヒトですら延々とにこやかに笑みをうかべられたままで説教をされれば、精神的にダメージをおう。
それが的をえていることならばとくに、である。
説明するならば、善意からでた悪意のない言葉が逆に人をより深く傷つけることがありえるように。
「…なんか、あんたに同情するよ。と…ともかく。
  あたしの誓いはただ一つ。二つの世界がお互いに犠牲にならなくてもいい、しなくてもいい世界をつくるために。
  イフリート、あんたの力をかしてほしい」
何やら姿をたもっているのもやっと、という感じがしてしまう。
それほどまでにイフリートの姿は薄い。
「よかろう。我の猛る炎をそなたに貸し与えよう。が、使いどころをまちがうでないぞ。
  我が炎に焼きつくせぬものはない。汝がその盟約をたがえしとき、汝との契約は破棄される。
  それでもよければ我はおまえと契約をむすぼう」
「…あんたも、ウンディーネと同じようなことをいうんだね。わかった。それでいい」
しいなのことばにうなづき、イフリートがこくり、とうなづいたかとおもうと。
その姿は再び炎になって次の瞬間、炎がはじけとぶ。
それとともに、収縮した小さな炎の光りがやがて一つの形をなす。
ゆっくりとしいなの手もとにひかりながらもおちてくる物体ひとつ。
それは、紅き石をはめこんだ、小さな指輪。
ガーネットをはめ込んだ小さな指輪。
「え?精霊が…きえた?」
「まったく。あの程度で実体をたもつのがきつくなるって、根性がたりないったら」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
何やらエミルから物騒な台詞がでてきたような気がする。
それはもうひしひしと。
が、しかしその言葉はどうやら全員がきかなかったことにした、らしい。
「とりあえず、これで火の精霊との契約はおわった。イフリートと対をなしているのは」
「たしか、シルフ、ですね。テセアラにはいなかったので、ここシルヴァランドにいるのでは?」
「たしか、パラグラフ王廟とかいわれていたところにいたはずだよ。
  前回のコレットの再生の旅であたしもいったことはあるからね。もっとも…」
奥まではたどりつけなかったが。
「まあ、何にしても契約は成功したことだし。外にでないか?
  あれからどれくらいの時間たったのかわかんねぇし」
感覚的におそらく一晩くらいは経過しているであろう。
何しろこの場所にきたときすでに夕刻ちかかったのである。
たしかにゼロスのいい分も至極もっともなれど、
「またあそこの熱い部屋をぬけてもどるのかい?」
真下に溶岩が常に流れていたあの部屋。
おもわずうんざりしたような口調でしいながつぶやく。
いくら熱さになれている、隠密活動とかで、とはいえ、あの暑さはいだだけない、とおもう。
そもそも、再生の旅を阻止するためにここにやってきていたときも、
この神殿にはいらなかったのは、はいれなかったこともあるが、
あまりの暑さにしいながダウンしかけた、という理由もあったりする。
「あ、なら。さっきまでしいなさん達がいた部屋から外にでます?
  あそこ、地上につづく直通通路もありますし」
さらり、というエミルの言葉に。
「そんなものがあるのかい?たすかるよ」
いいつつも、そのまま部屋があったほうの壁にむかってあるいてゆくエミル達。
そんなエミルとしいなをみつつ、
「で、神子様、どうおもいます?あのエミルって子。僕はやっぱり精霊の関係者だとおもうんですけど」
「何ともいえないなぁ。しかし、俺様の意見からしてみれば、
  もしもそうなら、なんだってクルシスのやつらをさくっと粛清しないんだとおもうがね」
世界をうみだすほどの力があるのならばたやすくできるはず。
もっとも、いつもエミルがミトスをみている視線から何となく予測はつくが。
悲しみにみちたその瞳は、どこか憂いをもこめている。
それでも完全に失望しきっていないその瞳。
「……あまい、な」
おそらくは、見極めてからでもおそくない。
とでもおもっているのだろうか。
ゆえに、おもわずぼつり、とつぶやくゼロス。
「ここの遺跡の隠し通路とか、ほとんどの人がしっていてあたりまえなんですかね?」
「それはないんじゃねぇのか?
  そもそも、この遺跡はコレットちゃんが封印を解除するまで誰もはいれなかったはずらしいしな。
  そもそも、テセアラの神殿だって、かつての再生の神子が解放しているがゆえに今でこそ誰もがはいれるけど、
  以前は、救いの塔のごとく、クルシスの輝石と神子の力がなければはいれないはずだぜ?」
実際、救いの塔はたしかにそこにあるが、神子、という存在がなければ中にはいることすらまなならない。
それはテセアラの研究者達ならば誰もがしっていること。
伊達に八百年も繁栄世界であったわけではない。
中には救いの塔を研究しよう、としたものもいるにはいた。
が、神子の力がなければ中にはいれなったこともあり、その研究がすすんでいない、ただそれだけのこと。

結局のところ、たしかにエミルのいうとおり。
八角の部屋の一部、アステル曰く、イフリートを示す紋章がある壁からどうやら道がつづいていたらしく、
エミルが手をかざすとどうじ、赤と緑のいりまじった光がその壁をてらし、
そこにぽっかりとした穴がひらき、その奥に地上につづいているのであろう階段が出現する。
その階段のすこししたには、やはり壁があり、その壁にはこれまたイグニスを示す紋様が描かれているのだが。
この道は、以前エミルが通った道。
この奥、つまり下にいけばそのままイグニスの祭壇のもとにとつづいている。
エミルが以前に道を開いたときには、直接イグニスの祭壇からであったがゆえに、
途中の壁の封印も解除されていたにほかならない。
壁の奥にかくされていた長い階段をのぼってゆくと、やがて視界に何やらあかるい光がみえてくる。
そのまま階段をのぼりきってみれば、そこはこの遺跡にはいった直後にあった部屋にとたどりつく。
すなわち、床がしっかりとあり、床と壁にまもられた、地上からはいってすぐの空間、に。
「こんな隠し通路があるんですね。…テセアラ側の精霊の神殿にもこんな道があるのかな?」
アステルが何やらかんがえこみつつつぶやき、
「エミル。きになっていたのだが。さっきの光、あれは…」
あきらかに、濃いマナを感じた。
エミルが手をかざすとともに。
リヒターの問いかけにエミルはただ笑みをうかべたまま、
「とりあえず、外にでません?」
かるくその問いかけをさらり、とかわし、外にむかって歩きだす。
エミルから感じる気配には、マナを感じ取ることはできない。
その感覚はまぎれもなくヒト、といってもいいであろう。
が、さきほど光をはなったときのエミルから感じた気配は…精霊に近いようでいて、精霊でない。
そんな不思議な感覚。
そう、まるで世界につうじている光をまとったもののごとく、そんな印象をうけた。
元々、今のエミルの姿はディセンダー、として常に降臨していたときのもの。
精霊達にのみ通じる光を纏いし存在。
マナに敏感なものであればすくなくとも多少の違和感を感じることはできるであろうが、
しかし、その本質をみきわめることはまず不可能。
しかし、当然のことながら、そんなことをリヒター達がしるよしも、ない……


                            ――Go To Next

Home    TOP     BACK    NEXT


$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$

あとがきもどき:
薫:いろいろと迷ったすえに(まて)エミルのお説教をちらり、といれましたv
  アステルをだしたらどうもそちら方面にいってしまう。
  私の中のアステルのイメージって…なんか、小悪魔的なイメージなんですよねぇ。
  何となく……
  でなければ、九歳のころからあんな大人ばかりの研究所でやっていかれなかった。
  とおもってるのもありますが。つまりたくましくなった…と。
  そのあたり、ゼロスと似通っているのでゼロスとアステルはかなり仲がいいです。
  私のこの作品においてはv
  次回のまえぶりで、ソウルイーター…かな?
  ではまた次回にて~



2013年7月27日(土)某日

Home    TOP     BACK    NEXT