森の中にと囲まれている小さな集落。
もっとも森がある、ということで気候も砂漠の中にありながらおだやかで、
このあたりは涼しい気温をたもっている。
どうやら木々が周囲の気温をさげている、らしい。
砂漠だ、というのすらわすれてしまうほどの緑の匂いと水の匂い。
大地にも様々な種類の草花が生えているのがみてとれる。
これほどの種類がそろっているのはここ、シルヴァランドでは珍しい光景。
もっともその理由の紐をといてみれば何のことはない。
ラタトスクが、すなわち、世界を創りし王が力をつかったがゆえ、
この地に様々な種子などを鳥達や動物、さらには魔物達が率先してはこんだにほかならない。
滅多とありえない王が祝福…と大地にすまうものたちはそう理解、している。
それは祝福でも何でもなく、ラタトスクからしてみれば力をただつかっただけ、なのだが。
ともあれ、そんな大地をさらによりよくしよう、と様々な生物が、魔物や動物達をとわずはりきったにすぎない。
それは草木等における自然のものたちにおいてもまたしかり。
「今、この新しい街の新たな名を考えているんですよ。
神子様の名をとって、ブリューネルにしよう、という意見もあるのですが」
「このあたりはオリーブの木がよく生えていることから、オリーブ、という意見もでています」
さすがに人々が集まっているのは新たにできたという泉の付近にかたまってはいるが。
人があつまるにつれ、森の中にも人々はまばらに家をつくっているらしい。
驚愕しつつも、森にと立ち入り、その先にある、という新しくできている、という集落へ。
森には様々な種類の木々がはえており、このあたりではみたことのない種類の木々までみてとれる。
やはりというか宿はここもどうやらうまっている、らしい。
宿、といっても簡単なテントのようなものをはり、そこが宿屋、として機能しているらしいが。
このあたりの木々はきけば、伐採してもしばらくすると成長速度が以上なほど早く、
それゆえに木々が現象することはない、とのことらしい。
とりあえず、水場を確保しつつも、ひとまず野宿をしても大丈夫な位置を確保したのちに周囲の探索と聞きこみを。
というリフィルの意見は至極もっともで、ひとまずはその場をまもるものと、
周囲の探索をする組にとわかれることに。
「あのとき、あまり力を解き放ったつもりはないのだが……」
おもわず素でつぶやいてしまう。
青々と茂る森。
たしかにあのとき、使える力を解き放ったのは事実。
「おそらく、あの当時、このあたりはかなりマナ不足でもありましたからね。
ラタトスク様の御力に過剰に反応して、なのでは?」
何しろあのとき、目覚めていたのはテネブラエとイグニスのみ。
ゆえにイグニスのいい分もわからなくはない。
ラタトスクとしての記憶もあいまいで、それゆえにあのとき地上でつかえる力を解き放った。
ただそれだけ、のはずなのに。
彼らがもともと使用する原語を扱っての会話ゆえに、ロイド達には意味がわからない。
それは原初の言葉。
はたからみれば、何か音律のような何かをつぶやいている、ようにしかみうけられない。
当時、このあたりのマナは涸渇状態であったといって過言でない。
そこに加えられた純粋なる、それも世界をうみだせし王よりあたえられた力。
それにより大地が必要以上に活性化しただけのこと。
エミルの…否、ラタトスクの視点からすれば別に普通のことだ、とはおもうが、
ヒトの視点からしてみれば、それはたしかにありえないことで。
人々が、奇跡だ、といってしまうのもまあ無理はない。
「しかし、なんかあのミトスって子、顔色がわるかったけど、大丈夫なのかねぇ?」
森にはいり、周囲をみわたし、なぜかミトスの顔色がわるかったのは事実。
この森はマナがあるいみで満ち溢れている。
ミトスの感覚、というかクルシスのコアシステムによる数値ではこのあたりに
これほどマナがあふれている場所は感知されていない、ということもあり、ミトスの顔色がわるかったりするのだが。
エミル達の言葉は小鳥たちのさえずりと重なり、あまり違和感をかんじさせていない。
結局のところ、エミルが一人で視回る、といったがそれをリフィルがよしとせず、
ならば、俺様がついていく、とゼロスがなのりでて、ゼロス一人じゃ何をしでかすかわからない、
というのでしいなも同行してきている今現在。
ロイド達は本日の食事確保のため、泉にて釣りをしているはずである。
なぜか泉にはどこからやってきたのか魚も様々に住みついているらしく、
すみきった水であるがゆえに、魚達が水の中を泳いでいるのがみえるほど。
泉、といっても大きさはそこそこあり、きけばゆっくりとではあるが、泉はゆっくりと、
しかし確実にすこしづつ大きくなっているっぽい、とのことらしい。
「プレセアちゃんなんか、熱射病っぽくなってたのに当人きづいてなかったしなぁ」
事実、暑さになれていないからか、プレセアはふらふらとしていたのだが、
当人がきのせい、とおもってほうっておいたがゆえに、森にはいり湖の近くにきたとたん、
くらっときていたのもまた事実。
それにリフィルがきづき、その額に手をあてて、どうやら体が熱をもっている、というのに気付いたらしい。
体調がおかしい、とおもったらすぐにいいなさい!といいつつも、
湖の水にてプレセアを横にしたのちにその額に浸した布をあててはいたが。
「…ふむ。そういえば、ゼロスさんたち、これ、たべます?」
いいつつも、そのあたりに生えている小さな何かの実、らしいものをとりつつも、
しいなとゼロスにとさしだすエミル。
「これは?」
「クランベリーですよ。このあたりはクランベリーが群生してるみたいですね」
たしかに、小さなつぶつぶのような実がいくつも草のようなものからはえているのがみてとれる。
「はじめてみるね。これ」
「たしかに。テセアラでもないぞ?こんな実」
「?そうなんですか?」
そういえば、とおもう。
一時この草花は互いの勢力陣がこぞって根こそぎ採取していたのを思い出す。
この実はあるいみで、互いの戦力たる天使とよびし生体兵器にとって、毒ともなれば薬ともなる。
そんな物質を含んでいる。
それゆえに互いの勢力がかつての戦いの折りにことごとく採取しまくり絶滅しかかっていたのもまた事実。
今ではたしかかなり高い山地、
正確にいえばリンカの木が群生している場所付近でしかみうけられなかったはずである。
「昔はよく、これを煮詰めて携帯食料とかジャムとかにしていたヒトもいたんですけどね」
それこそ人々にとっては必需品でもあった。
「うわ。何かぷちぶちしているけど、これ、甘いね」
「甘い?か?俺様はなんか甘酸っぱいような気がするが。
こりゃ、とってかえりたいけど…実はあまりなってない、な」
今、エミルがとったのがおそらく熟していた実、なのであろう。
他のはまだ完全に熟し切っていないのか、色がまったく異なるのがみてとれる。
手渡されたその小さな粒のようなそれは真赤なのにたいし、
蔓についている実はいまだに青いまま。
エミルのいう昔と人がいう昔、その時間軸に数千年以上の隔たりがあることにゼロス達は気づかない。
気づくことができない。
まあ、気づくことができたらそれはそれですごい、としかいいようがないであろう。
「おや?旅業かい?」
そんな会話をしていると、森の中から一人の男性が姿をあらわしてくる。
その手に弓らしきものをもっていることから、どうやら狩りをしにここにきているらしい。
「まあ、そんなところかな」
「えっと、その弓は…」
ゼロスがそんな人物にたいし、あいまいにこたえ、しいながその男が手にしている弓をみつつもといかける。
「ああ、この森にはボアが生息しているからね。魔物とはいえその肉はイノシシよりもやわらかく日持ちがするし。
狩りにでているんだよ。日干しにすれば携帯食料にもなるしね」
「…あまり、魔物を殺すのは僕としてはお勧めできないんですけど…」
というかやめてほしい。
切実に。
まあ、無意味に殺すのではないのであればたしかにそれは許容範囲、といえなくはないが。
「そうそう、これより奥にはいかないほうがいいよ?
最近では、エッグベアの目撃情報もあるからね」
それはベア、とよばれし熊の容姿をした魔物。
その魔物の強化版、とおもわれている魔物の名。
ちなみにその卵などは大きさもそこそこあり、また栄養がとれる、ということからけっこうな金額で取引がなされている。
もっとも、エックベアの肉、もまたあるいみ携帯食料の中でいえば高級品。
一切れが数千することもざら。
あるいみで、魔物すらをも食料にしているヒトがたくましい、というべきか。
もっともそれはもともとあるべき食物連鎖の理の一つにすぎない、といえばそれまでだが。
テセアラのものたちは忘れてひさしいそのあたりの食物連鎖はこちらのシルヴァランドでは、
人々はいきるために無意識のうちに古の行為を復活させているにすぎない。
エミルの言葉に対し答えるわけでなく、別なことをいってくる。
「へぇ。ボアってこのあたりにもいるんだ」
ユミルの森付近ではよくみうけられているときくが、それ以外の場所でその姿をみることは滅多とないときく。
それゆえのゼロスがおもわず素直な感想をもらす。
「あの。あたしたち、このあたりは初めてなんですけど。
というかこの森ができたのって、たしか一年前にはこんな場所、なかったですよね?」
しいながそんな男性にとといかけると。
「おお。よくぞきいてくれた。そうなんだよ。
これこそが、神子様の再生の旅が成功している証ともいえる奇跡の証拠!
かつてあった、トリエットのオアシスが火の精霊の解放とともに蘇ったといわれている場所でね。
この泉にきづいたのは、雪が完全にとけたあと、砂漠を移動していた旅人から、なんだけど。
何しろ泉がそこにあるだけでなく、そのときですらすでに緑に覆われていてね。
このあたりの草木は驚くほどに成長がはやい。おそらくこの泉は精霊の加護をうけているんだろう。
水を吸いつづけている草木は信じられないほどに成長し、
もしかして、とおもってとある人がそこに作物をうえてみれば、これまた驚くほどの成長率。
さらにどこからきたのか、木々などもあっというまに育っていき、
泉がみつかって半年後には今の森、さ。信じられるかい?」
「あたしは一年ばかり前にこのあたりにきたことがあるので、信じざるをえない、というか……」
泉が出現し、その周囲の草木は信じられない早さで育ち、半年後には今の森。
驚くほど成長が早い木々や作物。
水をすいつづけた作物は成長し、どこからきたのかいろいろなきもはえはじめ、
半年後には今のもりができあがっていた。
ゆえに男の口調も熱弁になってしまうというもの。
「しかも、この森は確実にその範囲をひろげていっている。
たぶん、伝説にある古のイフリートの業火より手前の自然にもどるのも時間の問題だ、
とまでいわれているんだよ」
ゆっくりと、しかし確実に森は範囲をひろげていっている。
もっともそこにすまう砂漠の生物に影響がでないというわけではないが、それは許容範囲内。
もともと、このあたりはいくつかの小さな森と砂漠が両立していた場所がら。
それがかつての姿にもどりゆいていっている、ただそれだけのこと。
「精霊の加護、ねぇ」
ゼロスがいみありげにエミルをみてくるが。
「え、あ、あの?ゼロスさん?僕の顔に何か……」
「いんや。ただ、エミル君は何かしってそうかなぁ、とおもってさ」
「さあ、どうですかね?たしかに、僕がロイド達と合流したのはイフリートの神殿で、ですけど」
そんなゼロスの言葉をにこやかに笑みでかえしておく。
「まあ、せっかくここにきたんだ。機会があれば、ぜひとも自分が経営している雑貨や、
オリーヴタウンをよろしく!」
「ちゃっかりしてるねぇ。雑貨や、というといろいろあつかってるのかい?」
「砂漠越えをするにあたり必需品ともいえる携帯食料などが主ではあるがな。
たちよってくれればすこしはおまけしてやるぜ?」
いいつつも、男は手をひらひらさせつつも、その場をたちさってゆく。
そんな人物の姿をみつつ、
「ちゃっかりしてるねぇ。こんなところでも自分の店の売り込みをわすれないって。
ところでさ。ゼロス」
「ん?」
「何だってエミルをみてあんなことをいったんだい?」
「いやぁ、だってエミル君なら何かしってそうだなぁ。とおもっただけだぜ?俺様は」
「エミルだってしるはずないだろ。あたしがしるかぎり、
シルヴァランドの神子一行は、イフリートを解放したあと、すぐにイズールドにむかって、
そしてそこの異変を解決したあとにすぐさまにパルマコスタにむかったはずなんだから」
「そのイズールドにむかう途中のオサ山道でしいなさんはなんでか扉からおっこちましたけどね」
「う!い、いわれないでおくれよ。それは!」
どうやら話題がそれた、らしい。
「ともかく、もうすこしこのあたりを散策して、それからリフィル様達のところにもどろうぜ。
そういや、エミル君。このあたりには何かもっともどれそうなたべものとかないのかねぇ?」
「え?必要ならこのあたりの子たちにいいますけど?」
いいつつも、エミルがかるく手をまねくと、
そのあたりにいたのであろう、小鳥がばさばさとエミルの周囲にとんでくる。
「とりあえず数はあまりなくてもいいから、この森になっている木の実やヒトがたべられるものを
集めてきてもらえるように皆にいってくれるかな?」
エミルの言葉をうけ、鳥たちはまるでこくこくとうなづくようにしたかとおもうと、
やがて一斉にばさばさと飛び立ってゆく。
「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
たしかに、いったのはゼロス。
それをだまってみていたのはしいな。
だが、何だろう。
この光景は。
どさどさと目の前におかれる大量の果物や木の実らしきもの。
丁寧に大きな葉っぱなどにつつまれており、直接大地においているわけではないあたり、
彼らもまた配慮、という言葉をしっているらしい。
「あ、ここ、ブドウの木まではえたんだ」
生態系までは完全に視ていない。
それゆえに素直な感想をもらすエミルであるが。
「とりあえず、皆、ありがとう。もういいよ。また何かあればよぶね」
もってきたのはどうやらこの森に生息している魔物や動物達、であるらしい。
魔物と動物がともにあること自体、ゼロス達からしてみればしんじざるをえない光景、ではあるが。
鳥達などは、それぞれが葉っぱのはしをもちながらも、
その葉の上にちいさな実などをのせてこの場にもってきていたりする。
「?ゼロスさん?しいなさん?どうかしたんですか?」
二人方だその場にたちすくんでいるのをみてエミルが首をかしげるが。
「…なあ、エミル。すこしきくけど、今までの旅でも、あんたがおねがいとかしたら、
こういうのはありえた…んだよね?」
「え?そりゃ、お願いすればきいてくれたとおもいますけど、何か?」
「…何でもないよ。はぁ。こりゃ、リフィルが危惧するわけだ。
あんたの力をクルシスが狙っているっていうのもいろんな意味でわからなくはないよ…」
強制的にいったわけではない。
エミルはただ、彼らにお願いをしただけ。
それでこのありさまなのである。
ゆえにしいなからすればため息をつかざるをえない。
これまでの旅でエミルが動物達や魔物達にこういったことをお願いした、というのをしいなはみたことはないが。
おそらく、確実にエミルがおねがいとかしていれば、食材などにはまったくこまならなかったであろう。
それくらいの判断はいくらしいなとて理解できる。
「とりあえず、このあたりも散策したことですし。食材も手にはいったのもありますし。
一度、リフィルさん達のところにもどります?
たぶん、ロイド達もそろそろ釣りおわってるとおもいますし。
…ほっといたらリフィルさんが魚料理とかしてかねませんしね……」
なぜに魚をやくだけ、なのに毎回、炭にするのだろうか。
それがエミルには理解不能。
さらには、普通に塩だけふればいいのに、かわったものを食材にふりかけては、
全体的に料理をダメにしてしまっているリフィル。
ほうっておいたら何をしでかえのかわからない、というのが本音。
しかも今はあのアステルもともにいる。
どうもあのアステルも自然にこれをいれればどんな反応がでるのか、などと悪気のない感覚で、
食事などに様々なものを混入する癖、があるらしい、とはリヒター談。
ゆえに、絶対にアステルを料理担当にはするな!とはいっていたのは記憶にあたらしい。
結局のところ最近は大所帯となったこともあり、当番制で二人ひと組にて当番をきめ、
食事の用意をしている今現在。
まだ、ミトスが誰とくむ、というのはきまっていないが。
アステルをとめられるのはリヒターだけ、というかなれている、という理由から、
しいなとゼロスの提案で彼らはいつもどおり二人にて当番にとわりあてられている。
すくなくとも、絶対にリフィルとアステルだけはくませられない、というのは心底思うしいなたち。
それは、かつてしいなからいろいろとアステルのことを聞かされていたロイド達とて同じ思い。
料理で死にました、もしくは体調が悪くなりました、身動きとれなくなりました、では洒落にならない。
切実に。
何しろエミルですら、何も自らがそれらの料理にたいしちょこっと干渉しなければ、
その料理の味などによりおもわずコアにもどるのではないか、という壊滅的な料理をつくりだすのである。
そもそも、組み合わせでは人には毒になりえるような物質すらつかっているのである。
あるいみ、よくもまあこれまで死人がでなかった、といえるといえばいえる。
それらはとにかく必死で姉が料理するときには常にジーニアスが傍にいて、どうにかとどめ置いていたからに他ならない。
そんな苦労をリヒターもまた野営時などにしているがゆえ、ある意味でジーニアスとちょっとした親近感からか、
心通わせていたりする今現在。
ともあれ魔物や動物達がもってきた果物達をフードバックにつめたのち、
エミル達三人もまた、リフィル達のいる泉の近くまでもどることに。
「おいおい、どうしたんだよ?いったい?」
もどってみれば、横になっているのがプレセアだけでなく、コレット、そしてミトスまでいるのはこれいかに。
おもわずゼロスがといかけるが。
「おそらく、疲れがたまっていたんでしょう。ミトスは顔色がわるい、とおもったら。いきなり倒れたのよ。
かなりの熱がでているの。救いはここは水場もちかいし、気温も安定してるけど。
ロイドがアステルといっしょに医者を探しにいっているけど、このあたりにいるかどうか…」
「リフィル。あんたの回復術でもなおらないのかい?」
心配そうにいうリフィルにしいながといかけるが、
「癒しの術はかけてみたけど、おそらく疲労、なんじゃないのかしら?
コレットもこれまでいろいろとあったし。
それにミトスやプレセアはいきなりこんな見知らぬ地にきたのですもの」
アステル達がもっていた野営用の布団をその場にひき、その場に三人を寝かしている今の状態。
プレセアもまさかシルヴァランドにくるようになる、とはまあ精霊との契約の話題でわかってはいたであろうが、
ミトスは違う。
あるいみでそのまま巻き込まれたようなもの。
それが彼らにとっての認識。
それゆえのリフィルの台詞といってよい。
やはり、倒れたミトスを介抱するにあたり、その胸にやはりみおぼえのあるものを目にはしたが。
なぜ隠しているのか、とおもう。
そもそも、一般人がそんなものをつけている、とはおもえない。
ミトスの胸にありしは、プレセアのつけているエクスフィアのようなもの。
その周囲にきちんと何かの台座があることから、まちがいなく要の紋はつけているのがうかがえる。
すなわち、このミトスはエクスフィアを装備している、ということに他ならない。
が、今までミトスはそのことについて何もいっていない。
エクスフィアの話題をだしても、自分も装備している、とすらいってこない。
もっとも、ゼロスに何となくきいてみれば、一時テセアラでも力をもとめたものたちが、
要の紋なしでエクスフィアをその身につけようとし、異形となってしまったものが多発、したらしいのだが。
そんなものたちから回収したエクスフィアによって、かの橋がつくられた、という裏事情もあったりする。
そこまでゼロスはリフィルに説明はしていないが。
「それで?あなた達、何か収穫はあって?」
「収穫、というかいろいろとたべものは手にいれられましたよ」
いいつつも、預かっていたフードパックより先ほど手にいれた果物などをいくつかとりだすエミル。
「あら、よく手にいれられたわね。というか森の中でどこか店でもあったのかしら?」
集落できいたところ、この森の中にはそういった小さな集まりもできている、らしい。
そんなリフィルの問いかけに、
「いや、エミルがいったらこの森にすんでる動物や魔物達が率先してもってきたよ、それ……」
「ありゃ、圧巻だったな~」
しいながそんなリフィルの言葉にため息まじりにいい、ゼロスがからからと笑いながらもそんなことをいってくる。
「リーガルは?」
ふとその場にリーガル達の姿がみえないことにきづき、しいながといかけるが。
「薪をあつめにいっているわ。リヒターとジーニアスはこのあたりはいろいろと草花もはえているから。
薬草がないか探しにいっているわ」
事実、このあたりには様々な草花がはえている。
薬草、ともいえるものが生えていても不思議ではない。
何でもリーガルは見かけによらず薬草、などにも詳しいらしく、というか自分でそういっていた。
ならば、とお願いしたのはつい先刻のこと。
どちらにしても倒れている子供達をおいたまま、誰もここにのこらないわけにはいかない。
それゆえに回復術のつかえるリフィルがこの場にのこり、
他のものはそれぞれに役割を分担しこの場から離れているがゆえにいないだけのこと。
「とりあえず、じゃあ、僕、あの子達からもらった果物をつかってフルーツジュースでもつくりますね。
熱があるのならのどごしのいいものがいいでしょうし」
ちなみに、この森にはリンゴもなっており、というか季節感はどこにいった。
といいたいほどに様々な時期に生息する果物が今現在、この森にははえている。
どうやらこの森を通じ、この周囲の歪みをも一緒に浄化しているせいか、
それによってどうしても生じてしまうちょっとした小さな力。
それらの力をこの森の木々に繁栄した結果、そのような生態系になっているらしい。
まあそれでこのあたりがきちんと循環するのならば文句はないが。
どちらにしても、この現象はいっときのもの。
あれから一年あまり地上時間では経過しているが、いまだに完全に大地そのものの歪みが修正されていない、
ということもあり、いきなり一気に修正すれば必ずそこにヒズミがうまれる。
それでもかつてよりは大分まし、にはなっているのだが。
ラタトスクが目覚める前、この地の…大地にあるべきはずのマナすら枯渇状態になりかけていた。
それは、大樹の根よりきちんとマナが供給されていたのにもかかわらず、
クルシスのマナの制御システムにより、それらのマナまでテセアラ側にと流されてしまい、
その結果、ここ、シルヴァランドの生態系が狂っていた、といって過言でない。
それが地上時間で八百年ばかり続いていたのである。
その歪みも大きさも経過した時間が時間。
まあ、このままゆっくりとヒズミをそのまま自然そのものに還元してゆけば、
あとは何の問題もなくなるはず、である。
それこそ百年かそこらあたりにて。
エミルにとって、その程度の時間はほんの一瞬にしかすぎない。
ヒト、からしてみればそれはとてつもない時間、ではあるにしろ。
そんなエミルの言葉をうけ、
「あたしは、ならおかゆでもつくるかねぇ。コメはみずほからもってきてるし」
「ああ。稲ですか?ここの水辺にもうえましょうか?」
「お、それいいねぇ。でもあたしがもっているのは精米しかないよ?」
「ああ、チュンチュン達にでもいえばすぐにここにうえてくれますよ。
それに、稲は種類によっては水質浄化にも役立ちますし。…ふむ。ウェントス」
「ここに」
言葉とともに、エミルの真横に出現する真っ白い鳥。
ミトスがいることから、センチュリオン、としての形態ではなく、一応魔物の姿を形どっているらしい。
「この泉の周囲に浄化作用のある稲穂を自生させる。たしかユミルの森に自生しているのがいたな?
ソルムと繋ぎをとり、ここにいくつかその苗を」
「御意」
エミルの言葉をきき、そのまま、すっとその小さな頭をさげ、現れたときと同様にその場からかききえる白き鳥。
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
そんな光景をみつつ思わず無言にならざるをえないリフィル達。
今、エミルが語っていた言葉の意味はリフィルにも詳しくはわからない。
何かをたしかにいっていたのは理解はできたが。
まるでそれは音、のようでいて音でなく、風の音のようでいて、まるでそれは歌のような旋律をもったそれ。
どちらかといえば、ヴォルトが使用している古代エルフ語に近い響きを感じさせる。
「とりあえず、砂漠地帯の大気はかわりやすい、といいますし。
特にこんな森があればなおさらに。テントとかだとこころもとないかもしれませんね。
砂漠に降る雨、というのはあるいみで豪雨、といってもさしつかえのないほどふるときもあるらしいですし」
それが本来のサバクの在り方。
マナがきちんと保たれていなかったがゆえにそんな砂漠地帯にとってありえるはずの気候まで、
ここシルヴァランドではみうけられてなどいなかった。
「家とかつくるのが好きな子がいれば話しははやいんですけどねぇ……」
そういう魔物はうみだしていない。
いたずら好きな魔物は多々とはいるが。
「いや。ちょっとまって。エミル、今、あなた、あの魔物?に何をいったの?」
何となく聞くのはこわいがきかずにはいられない。
「え?ただ、このあいだ、ユミルの森にいったときに、稲が自生してるのみてたので、
そこの苗をここに植えようとおもって、あの子にそれを伝達しただけですよ?」
「でも、あの森に生息している植物などはたしか聖なる泉に特化してる、ときいたことがあるわよ?」
あの地にはえている植物などは他の地にうえたとしても、ほとんど根付くことなく枯れている、ときいたことがある。
「問題はないとおもいますよ?そもそも、ここもあそこもあるいみ精霊の加護をうけた場所のようなものですし」
なぜかラタトスクが蘇らせた、という理由から、イフリートがこの地に加護をあたえているっぽい。
それはこの地にはいってすぐに感じた波動にて把握した。
「精霊の加護?」
リフィルの怪訝そうな問いかけに、それにくわえ、しいなやゼロスの声も同時にかさなる。
「え?気づいてなかったんですか?これほど自然の力にあふれているのに?」
「たしかに、ここはマナが充実してはいるけど…普通の場所とは確かに違うとはおもったけど」
たしかに、ここのマナはあのエルフの隠れ里のあるあの一体によく似ているとはおもったが。
エミルにさらり、といわれるとはおもわなかったのもまた事実。
「たぶん、リヒターさんも気づいてるとおもいますよ?僕としてはリフィルさんがそれに気づいていなかった。
というのがびっくりなんですけど」
伊達にアステルとともに精霊研究をしているわけではない。
精霊の加護のあたりのこともリヒターは自然と詳しくなっていたりする。
もっとも、その加護の様子もその一端しかつかめてないらしいが。
「そんなことより。いきなり天候がかわって、雨とかになったらどうすんだよ?
テントも確かにあるだろうが、テントくらいじゃ、雨がはいりこんだりしねぇか?」
そんな会話にわってはいり、ゼロスが何やらいってくる。
「なら、ロイド達がもどったきたら、ロイドに頼んでみたらどうですか?
たしか、ロイドって小屋とかつくるの得意でしたよね?ルインでもつくってましたし」
もっともあのときは、エミルが提案したから、なのだが。
「あら。それはいいわね」
「そのあたりの子たちにお願いして必要な材木とかは用意しときますね」
いいつつも。
「じゃ、僕はフルーツジュースでもつくってきますね。水辺の辺りで作業してます。
しいなさんもどうですか?おかゆつくるなら水必要でしょうし。ここの泉の水は、
あるいみでユミルの森の水と同じようなものだから普通につかっても問題ないようですけど」
「ああ。それはいいね。あそこの水みたいにおいしいのかねぇ?」
「あそこの水ほどマナが多く含まれてはいませんけど、そこそこは含まれているとおもいますよ?」
何しろ微精霊達ですらはりきってこのあたりを守護しているらしい。
彼ら曰く、ここ数千年は王の力をうけた場所がなかったから、とのことらしいが。
そんな彼らの言葉をきき、ラタトスクからしてみれば苦笑せざるを得なかったのもまた事実。
「親父にきたえられてた大工の腕がこんなところで役にたつとはなぁ……」
なぜか遠くをみがらも、その手をうごかしつつもいってくる。
「うわ~。さすがロイド、すごいね~」
「そういえば、あんた、ルインでも簡易的な小屋をかるく建ててたね」
そんなロイドをみつつ、ジーニアスが素直な感想をいい、しいながそういえば、と思いだしつついってく
る。
しいなはロイド達にちょっとしたご飯をかねておにぎりをもってきた。
リフィル曰く、お腹がすいているだろうから、そういわれ。
結局のところ、やはり宿もいくら病人がでた、とはいえ確保することができず、
状態的によくある熱射病だろう、と街のひとにといわれ、
そのためには涼しくして安静にしているのが一番、とのこと。
テントも一応売られてはいるが、それではこころもとない。
砂漠の気候はかわりやすい。
事実、このあたりは時折、いきなり雨が降り出すこともあるらしい。
材料となる材木は周囲にしっかりとあるがゆえ、もっとも生木にての作成はあまり好ましくはないが、
どういう原理なのかはわからないが、エミルがもっている小枝を近づけると、
みるみるうちに生木でしかなかったそれらがほどよい乾燥具合にとなりはてた。
エミル曰く、生木に含まれているマナをすこしばかりこの枝をつうじ、吸い取った、とのことらしい。
そんなことまでできるのか、とリフィルがエミルを問いつめていたりしたのがつい先刻のこと。
一応、街の人達に許可をとり、ここに簡易的な小屋を建ててもいいか、ときけば、了解の意をもらったがために、
コレット達を横にすべく、簡易的な小屋を今現在つくっていたりする。
小屋、といってもそれはちょっとしたコテージに近い。
いくらロイドとて雨の中、自分達だけはテントのほうにね、といわれるのも面倒なので、
せっかく材料があるのならば、とちょっとしたしっかりとした創りのコテージをつくっている今現在。
イセリアの村などにおいてロイドは家屋の作成なども手伝わされていたこともあり、
こういったところはあるいみ器用といえる。
医者はたしかにみつかった。
それゆえにこの場に連れてきてみたはいいが、医者のみたともやはり疲労、とのことらしい。
もっとも、その疲労にくわえ、熱射病みたいなものもまじってこのような症状になっているのだろう。
とのこと。
ついでに街などにいったときに、宿がとれないか確認してみたが、旅業のものがおおいらしく、
病人をうけいれる余裕はない、とまでいわれてしまった。
困っているときには助けあいたいが、そこまでの余裕もない、とも。
そのかわり、野宿するにあたり、ちょっとしたテントセットなどを無料でロイド達は譲り受けてはいるのだが。
その話しをきいた街の人が最近の天気がかわりやすいことをロイド達につたえ、
そしてまた、あまっているというテントをロイド達に渡してきた。
見て見ぬふりをする人の中での親切はまだまだヒトはすてたものではない、とジーニアスにおもわせたほど。
ロイドがある程度、開けている空間をみつけ、そこに小屋をたてているそんな今現在。
一方。
いまだに熱が下がらないミトスとコレット。
プレセアのほうの熱はある程度はさがったが。
どちらかといえば、コレットよりミトスの熱がなかなか下がらない。
それこそどんどん体温が上昇しているような気がする。
氷を魔術にてうみだし、体を冷やしてはいるものの、額にのせた氷がすぐさまに溶けてしまうほどの熱。
「この症状…まるで、オゼット風邪みたいだね」
しいながミトスをみつつもそんなことをいってくる。
「オゼット風邪?たしか、昔文献でみたことがあるけど…なかなか治りにくいとかいう、あの?」
「でも、オゼット風邪ではないとはおもうよ。オゼット風邪はここまで熱がたかくなると、
体に斑点が浮かび上がるのが特徴だからね。にかよった病気。
もっとも疲労と疲れからの高熱、ともかぎらないけど」
ミトス達の介護をしつつ、そんな会話をしているリフィルとしいな。
熱い。
体が何か燃えるように熱い。
天使化している以上、こんなことはありえないのに、これはいったい。
そうおもう。
しかし、意識すらもうろうとしてきてしまう。
この熱さはどこかでも覚えがある。
何だろう。
ぼんやりとした意識の中で、ふとおもいだす。
ああ、そうか。
この熱さは…あのときと…契約をしに一人でむかったあのときと……
周囲の魔物達がとてもつよく、クラトスにいわれ、先にいけ、といわれたどりついたかの祭壇。
燃えるような熱さの中での精霊の試練。
足元は常にマグマが煮えたぎっており、すこし気をぬけば自分達ですらマグマの中におちてしまうであろう。
クラトスいわく、自分は国によって天使化させられているから問題はない。
といい、ミトスを空にうかびながらも安全な場所にまで送り届けたそのあとに、空にうきながらも魔物と戦いをはじめた。
ああ、あのとき、イフリートから受けた試練の炎の熱さとこれは酷似しているんだ。
戦争を終わらせるために、精霊の協力も仰ごう、といいだしたのは誰だったか。
どちらにしてもこのままでは、ヒトはマナをつかいつくしてしまう。
そう危惧を抱いたのは姉マーテル。
事実、そのとおりであったらしく、大樹はすでに枯れかけており、いつ完全に枯れてもおかしくない状態。
大樹しかマナをうみだすことはできない。
それはエルフ達にとっては常識であったというのに、その常識すらヒトはないがしろにし、
マナを力としかみなさずに戦争に利用していたあの当時。
旅をつづけていく中で、どうしてハーフエルフがこれほどまでに嫌悪されているのかも理解できた。
理解できてしまった。
互いの勢力陣の上層部、しかも軍の協力者のほとんどがハーフエルフで構成されており、
彼らがマナをもちいた兵器などを開発している、とわかったときのあの衝撃。
ヒトに認めてもらたいたから、という理由だけで、世界をも裏切るような行為をしている同胞。
その結果、何がおこるかわかりきっていたであろうに、ただそこにいる人にとりいる、そのためだけに。
「…姉様……」
ぼんやりとした意識の中、目の前に心配そうにのぞきこんでいる姉の姿がふとうかぶ。
そういえば、昔、僕が熱をだしたときも、姉様はこうして眠らずにずっとつきそってくれてたな。
遥かな昔のこと、のはずなのに、昨日のことのようにおもいだせる。
おもわず無意識に手をのばす。
「…姉様……」
ぼんやりと目をみひらいたミトスがつぶやいたその台詞。
「大丈夫よ。ミトス。安静にしてなさい。すぐに元気になるから」
おそらく熱で意識がもうろう、としているのであろう。
自分を姉、と勘違いしているのはわかったが、それを訂正することなく、そっと手をにぎりしめる。
「よかった…姉様…いきかえった…んだね…あとは…ラ…ま…の約束……」
後半部分はおそらく意識がふたたび混濁したのであろう。
そのまま、目をみひらいていたミトスの目がとじられる。
ふとみれば、熱で意識をうしなったのか、それとも、リフィルを姉と勘違いし、安心したのか。
それはリフィルにはわからないが。
「…今、たしかに、あいつ、ラタトスク様との約束がはたせる、とかいってたな……」
小さくつぶやかれていた言葉は近くにいたリフィル達ですらきづかなかった。
が、聴力が鋭くなっているゼロスにはその言葉の意味がわかった。
「で?どういうことなんだよ?エミル君?」
「だから、どうして僕にきくんですか?ゼロスさん?」
今、この場にいるのはゼロスとエミルのみ。
ロイド、ジーニアスは小屋創りに必至になっており、少し離れた場所に小屋をたてている。
アステルとリヒターは病気にきく薬草などがこのあたりにあるかもしれない、
というのでこのあたりの散策におもむいている。
曰く、シルヴァランドはテセアラでは絶滅したとおもわれている薬草などもこのあたりで生息しているのをみたがゆえ、
ならば、そういった薬草もあるのでは、とのことらしい。
聞けば、何とか、という花もあるかもしれないからさがしてみる、とのことらしいが。
リフィルとしいなは、いまだに倒れたままのコレット、プレセア、ミトスの介護に忙しい。
しいなが介護に参加しているのは、しいなのつくったおかゆを病人である三人にたべさせるため。
ゆえにこの場にのこっているのは、必然的にエミルとゼロスのみになっている今現在。
ゼロスの言葉ににこやかに笑みをうかべたまま、さらり、とかわしつつも。
「……心の底から裏切っている、というのではないみたい…ではあります…けどね」
人は病気になったときなど本心がでる。
ならば、なぜ。とおもう。
それはぽつり、としたエミルのつぶやき。
皆で一緒に旅をしようよ!
そういっていたあのときのヒトの子の言葉。
今でも鮮明におもいだせる。
「…あの子は理解しているようで、理解してないんですよ。今の現状を」
「それは……」
「すでに人の魂という異物や念がはいりこんでしまっている以上、
一度浄化しなければ意味をなさないまでになっている。
それはわかるはず、なのに……」
誰にともなくつぶやくエミル。
分身体たる蝶を種子の中にいれたからこそ、ゆっくりとしかしそこにふくまれている異物を浄化していってはいる。
しかし、含まれている人々の念はかなりつよく、どこかにぶつけるかどうかしなければ、
おそらく確実なる浄化は不可能、であろう。
それこそ強制的に消滅させてしまえばそれまでであろうが。
マーテルにしても種子を守りたい、という思いが強いからゆえか、種子に融合、という形をとりつづけている。
それがどんな結果をもたらすか、すこし考えればわかるであろうに。
おそらく、本能のまま、護らないと、とおもっての坑道、なのだろうが。
ヒトの魂と完全に融合してしまえば、それはもより完全なる世界樹の種子、大いなる実りではなくなってしまう。
世界を生み出すほどの力は確実に削がれてしまう。
今でもすでにその力のほとんどは削がれてしまっている現状だ、というのに、である。
「エルフ達にしても、そうですけど。どうしてヒトはいつも愚かな過ちをいつも繰り返すんでしょうね。
過去のことでもそう。権力や欲におぼれたものがマナを利用しよう、といつの時代も……」
「俺様はマナのことはよくわかんねぇけど。たぶん、あれだな。
マナ、というわけわかんないが、ものすごい力をもっているものがそこにある。とわかるからじゃねえのか?
すべてを構成している力がマナなんだろ?」
「まあ、そうですね。全ての命は、この大地も何もかもがマナで構成されてますし」
「そんな力を我がものにすれば自らが世界を制覇できる、とでもヒトが愚かに考えるからじゃねえの?」
「……は~。ほんと、認識をかえないと、また同じ過ちを繰り返しかねない、ということですかね~?」
「じゃねえの?ま、ヒトなんてマナを信じていないものが多いんだし。
マナの存在自体をしらなくてもどうにかなるとはおもうけどな。
たとえば認識を誤認させるだけでも十分だとおもうぜ?
まあ、そこにハーフエルフやエルフ達の知識がはいればまた違うんだろうけどな」
「…それなんですよね。なんでいつもいつも、ほんきでいつも。
なんで欲におぼれたエルフ達が自然を破壊するような行為にはしるのやら…あのときも……」
それこそ、デリス・カーラーンにおいても。
きっかけは、エルフやハーフエルフ達がマナを利用した兵器を開発したのがすべての始まり。
それまでは、生活するにあたり便利な生活にねづいたもの、しか開発されていなかった、というのに。
「ヒトとは愚かだからな。いきつくところまでいかなと過ちにきづかねぇのさ。
…エミル君はそのあたりわかってるんじゃねえのか?」
「ですね。さてと、とりあえず料理はこんなものでいいですかね?」
「お、シチューできたのか?」
いいつつも、彼らがつくっていたのは今日の食事。
野菜をふんだんにつかった野菜シチュー。
ゼロスも今の会話に思うところはあるがあえてつっこまない。
そもそも、このエミルが精霊ラタトスクに何かしら関係がある、というのはもはやもう確信。
ときおりその言葉の端々に永い年月を感じさせる節もよくよ観察していればみうけられる。
今の言い回しでもそう。
「じゃ、俺様がもっていくな」
「じゃあ、僕はかたづけしていますね」
そういいつつも、ゼロスが大きな鍋にはいったままのシチューをリフィル達のいる場所へとはこんでゆく。
そんなゼロスをみおくりつつも、
「あのとき、ミトス達に任せるのではなく、さくっと理を書き換えていたほうがよかったのか?」
おもわずぽそり、とつぶやくエミルの気持ちはおそらく間違ってはいないであろう。
「しかし、ラタトスク様。すでにあのとき、理のひきかえの準備はなさっていましたよね?」
「マクウェル達の了解はとっていたからな」
どちらにしても。
今のままでは絶対に人はまた過ちをおかす。
ならば、目に見える力をヒトの目から隠してしまえばいい。
「やはり、つくるか。精霊界……」
「あまり無理はなさらないでくださいませ……」
傍にいるセンチユリオン達がそんなことをいってくる。
どちらにしても、もう、時間はあまり残されてはいない。
それほどまでに、種子の力はもう削がれているのだから……
――Go To Next
Home TOP BACK NEXT
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
あとがきもどき:
薫:このたびもあまり話しがすすまなかった…次でようやくイフリートvのはず。
次回のまえがきにて、ミトスたちの病気の原因にちょこっとふれときます。
しかし、本気で何話になるんだ?これ…汗
2013年7月26日(金)某日
Home TOP BACK NEXT