まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回、きりのいいあたりでくぎったら、本気で副題にあてはめてもいいシーンがない…汗
なので、あるいみこじつけ副題に…あう……
あとがきに別話5あり

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「竜車って、コレットのったことがあるんだ。いいな~」
そんなジーニアスの台詞に。
「うん。一度だけだけどあるんだよ?」
「すげぇよな。なあ、コレット、それってどなんだった?」
にこやかにいうコレットの台詞にロイドが目をきらきらさせつつもといかける。
「あのね。あれ、たのしいんだよ~。
  竜が足を踏み出すたびに、どす~ん、どす~んって揺れるの」
「…な、なんか、乗り心地わるそうだね?」
にこやかにいうコレットの台詞にジーニアスの声が一瞬曇る。
ロイドもまた想像したのであろう、その笑みが多少ひきつっている。
「えっとね。こつがあるんだよ。リズムにのるといいんだって。
  だからね、一生懸命、竜のテンポにあわせてたら」
「「あわせてたら?」」
コレットの言葉におもわず異口同音でといかけているジーニアスとロイド。
「酔っちゃった」
「・・・・・」
「それってさ、本当にたのしい、のか?」
ジーニアスが一瞬むごんになり、ロイドがあらためてといかける。
「ううん」
「…でも、たのしかったんだろ?」
「うん!」
「わけわかんねぇよ!」
「…コレットだからね……」
いろいろな意味で会話になっていない、とおもうが。
しかし彼らにとってこんな会話はあるいみ日常的なもの。
「……そ、それですむものなの?」
そんな彼らの会話をききつつも、恐る恐るといった様子でといかけているミトスの姿。
「コレットだから、ですますのがいいんだよ」
ジーニアスが悟ったようにミトスにと話しかける。
マーテルだから、ですますほうがいい。
そう、以前にクラトスにいわれた台詞をミトスは思い出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
どうしてここまでのほほんとしている性格がにているのだろう。
マナの酷似、というものは性格までにかよらせてしまうのだろうか。
傍にいたら実行をとまどってしまう。
まるで手にかけること、それ自体が姉に手をかけるような錯覚におちいるほどによく似ている、のだからして。

光と闇の協奏曲 ~砂漠と移動とその街と~

「珍しいわね。砂漠に満ちる霧…ね」
ひんやりとした空気がここちよい。
ゆらゆらと陽炎のように、水蒸気が大地を覆い尽くしている。
足元の全てが水蒸気によってできている霧でおおわれており、それは地面から膝のあたりまでおおいつくしている。
リフィルが周囲をみつつ、そんなことをいっているが。
「…どうでもいいけど、呼んでないんだけどな……」
おもわず、ぽそり、とつぶやいているエミル。
みれば、そこにいくつかのラクダのような魔物の姿がみてとれる。
正確にいえば、ラクダを束ねている魔物、というのが正解、なのだが。
「うわ?先生、あれって野生のもしかしてラクダってやつじゃないのか?」
「これもまた珍しいわね。・・・中に何か違うのが…いえ、動物の中に魔物が?」
ラクダの群れの中に、たしかに魔物がいるのがみてとれる。
『ラタトスク様の少しでも御力になりたい、といっていたもので…ご迷惑でしたでしょうか?』
イグニスがそんなエミルにたいし、多少申し訳なさそうにいつもの言葉にていってくる。
「はぁ。ま、いいけどね。あ、皆さん。とりあえず、この子達が町までつれていってくれるみたいですけど。
  どうします?それともやっぱりレアバードでいきます?」
いいつつも、エミルが一歩前にでると、ラクダの中にいたであろう魔物がすっと膝を前にとまげて、
まるでエミルの前にひざまづくような格好にとなる。
みれば、その背後にいるラクダ達全てがその場に前足のみをついたような姿勢になっているようではあるが。
そこにいる魔物の頭をかるくなでつつも、エミルが背後をふりむきつつも、リフィル達にとといかける。
結局のところ、坑道の中をうろうろしまくるアステルを強制的にリヒターがひっつかみ、
そのままくびねっこをつかんだ形で道を抜け切ったらしい。
ロイド達が山道を渡りきるよりも遅くなった時点でどれだけ道草をくっていたのか、というのがよくわかるほど。
アステル達テセアラ組がやってくるより先に、山道を超えきったはいいものの、
そこにずらり、とならんでいたラクダをみておもわずロイド達が驚いたのはついさきほどのこと。
「…魔物が、ヒトになつく、の?」
その光景をみてミトスがぽそり、とつぶやく。
報告はうけている。
魔物つかいの子供。
だが、魔物のほうから近寄ってくる、というのは何といえばいいのだろう。
これまでもエミルの傍に魔物がいるのはみてはいるが、
こうして相手のほうからよってきたのを目の当たりにしたのは初めて、といっても過言でない。
ゆえにミトスがおもわずぽそり、とつぶやく。
「なんか、さっきのエミルの冗談、といい、本気でエミルがいったら実行しそうだよな」
「同感」
ロイドのそんな言葉にぽそり、とジーニアスが同意をもらす。
坑道をぬけ、ロイド達と合流したアステル達がみたものは、
砂漠を覆い尽くしている霧と、そしてそんな霧の中、まるで臣下の礼をとるかのごとくに、
その場にすわりこんでいるラクダの数々。
群れの数からして二十体はいるであろう。
そこにはまだ産まれてまもないちいさなラクダの姿もみえはする。
マナが安定したことにより、彼ら動物もまた、命をはぐくむことにあまり懸念がなくなった、といってもよい。
「砂漠の移動にはたしかに、ラクダが定番ですけど…エミル、あなたがよんだわけ?」
「いえ。僕は呼んではないんですけどね。この子達の好意、のようですけど」
それも嘘ではない。
事実、エミルがそのように命令を下したわけでも呼んだわけでもない。
イグニスがいうには、彼らからそのような打診があった、というのだからこれもまた嘘ではない。
「砂漠地帯にいるラクダと平原にいるラクダとでは何かちがいますね」
アステルが興味深そうにそのラクダ達をみていっているが。
ちなみに、アステル達が見知っているラクダのコブは一つ。
ここにいるラクダ達のコブは二つ。
あるいみ種類が異なっている。
砂漠の移動に重宝されているコブが二つあるラクダは、その隙間に体をいれれば安定する、
という理由からも人の足、として中には調教している人間もいるほど。
それでも滅多に野生のラクダはつかまらないがゆえ、その運賃もまたかなり高い。
「で、どうします?この子達、自分達をつかってもいいっていってますけど」
というか、むしろ役に立ちたい、という気配をおもいっきりはなっている。
何しろ王のために直接役にたてることなどまずありえないこの状況。
自分達のようなもので王の正体がヒトに露見することなく防がれるのでは、動物や魔物達にとってもそれは幸いなこと。
「うわ~。ラクダさんだ~。話しにはきいたことがあったけど。
  私がのったことのあるのは竜車だけだな~」
「お。コレットは竜車にのったことがあるのか?」
「いいな~。僕はまだない。どんなだった?」
「えっとね。面白かったよ~」
何やらロイド達はロイド達で別の話題でもりあがっているようではあるが。
「いつ霧が上空に移動するともかぎらないわね。下手に空も危険かもしれないわ。
   でも、エミル…そのこたち、本当にのせてくれるのかしら?野生のラクダが人をのせるなんて」
大概、いつも警戒してすぐに野生のラクダは逃げる、という。
もしくはラクダの群れの暴走にまきこまれ、ひとは命をおとすか、そのどちらか。
「まあ、僕はせっかのこの子達の好意を無駄にしたくないですから、この子達といきますけど」
「なあなあ。俺ものせてもらえるよな!?な!」
「念のため、子供組は我ら大人とともにのったほうがいいだろう。エミルは…」
「あ、僕は一人でいいですよ。この子たちもいますし」
「コレットは私とね。ロイドはゼロスとでいいかしら?」
「え~?リフィル様ぁ。何だって俺様がロイド君と一緒なのよ~?」
「あなたにプレセアやミトスは預けられないもの。へんな知識をあたえかねないわ」
「リフィル様、そりゃないよ~」
「あはは。たしかに。なら、ミトスはあたしがうけもつよ。これでも一応動物の扱いにはなれているからね」
みずほの術の中には口寄せの術、というのもあり、動物達を使用するものもある。
かつては大きな動物すら使役できていたらしいが、今では小鳥が限度、ともいわれている。
「ノイシュはついてこれるか?」
「くぉぉんっ!」
ロイドのといかけにひとこえいななき、ノイシュがこたえる。
「よ~し。なら、ミトスは俺とだな」
「え?」
「先生、いいだろ?」
「コレットやミトス一人はたしかに危険ね。この子達、ラクダからおちかねないもの。
  ミトス、あなた、ラクダにのったことはあって?」
「え?あ、昔、姉様達と……」
それこそ旅をしているときに。
「え?でもラクダがいるのは、たしかアルタミラよりも東側、だったとおもうけど」
事実、アステルが把握しているかぎり、ラクダ、とよばれし種族はそのあたりにしか生息していない。
「…昔、旅をしていて、それで……」
「定住の地をもとめて旅でもしていたのか?よくハーフエルフ狩りの兵士につかまらなかったものだ」
あれほど兵士達がうろうろしている、というのに、である。
ざっとみたところ、ミトスの年齢は十四程度。
ハーフエルフは成人までは普通に人と同じように歳をとる。
成人すればその成長がとまり、青年期が人とくらべ異様にながい。
ゆえに、ヒトは自分達ばかりが歳をとるのに、まったく外見がかわらないハーフエルフ達を畏怖してしまう。
自分達とは違う、と。
「海を渡るにしても、かならず、その過程で検査が行われるはずなんだがな」
「・・・・・・・・・・・・・」
事実、乗車券を手にいれるとき、そして船にのりこむとき。
幾度も人々は検査をうける。
自力で海をわたれるほど、海はあまくない。
さらにいえば、かの大陸とオゼットの付近は大陸的につながっていない。
リヒターの言葉にだまりこむ。
生息域のことまでは失念していた、といってもよい。
だから、問題ないだろう、とおもってのったことがある、といったのだが。
「誰かがかいならしたラクダをもっていたのにのせてもらったんじゃないのかい?」
しいながそういうが、ミトスはだまりこんでいるまま。
「しかし、それでも、旅券をもっていないものをのせることなかれ。という法律があるぞ?」
「ああ。そういえばあったねぇ。でもま、裏ではそれまもってるような人はすくないとあたしはおもうよ」
何ごともその場においての臨機応変。
そこに兵士の目がないのであれば、その時に応じて判断、というものもあるであろう。
それゆえのしいなの台詞。
「とりあえず、ここで話しこんでいても時間ばかりすぎていきますけど?」
たしかに見上げた空はゆっくりとではあるがだんだん上空にさしかかってきている。
今はまだ霧が立ち込めているからいいものの、霧がなくなったとたん、
うだるような暑さが確実におそいくるであろう。
エミルにいわれ、上空をみれば、たしかに太陽がだんだんと上空に近づいてきているのがみてとれる。
「仕方ないわ。とにかく、まずは町にむかいましょう。話しは町の宿で、ね」
そんなリフィルの言葉をうけ、それぞれがラクダの背にのり、ひとまず向かうはトリエットの街。

砂漠の街、トリエット。
かつて、ロイド達がここにきたときは、この辺りは雪に完全にと覆われていた。
「トリエットかぁ。ここでエミルとあったのがこの間のことなのにずいぶん前のような気がするよ」
「あれからもう一年近くたっている、ものね」
旅にでて、もうすぐ一年が経過する。
「僕からしてみれば、君たちがあそこにいたことに驚いたけどね」
「それはこちらの台詞よ。封印の遺跡の中に人のコが、まして魔物とともにいるなんて」
出会ったのはトリエット遺跡の中。
イフリートの封印とおもわれし遺跡の中。
コレットにしか扉をあけることができないはず、なのに、その中にいた人のコ。
それも魔物をひきつれて。
さらに、隠されているのであろう隠し通路までこのエミルはしっていた。
封印の魔物、クグゥグハを一撃でたおしたあげく、その奥にある通路にきえてしまったあのとき。
リフィルにいわれあのときのことを思い出す。
あのときはまだ、地上にでてきて間がなかったがゆえに、記憶があいまいであった。
自分の本質すらもよくわかっていなかった。
ただ、起こしてマナを修正しなければ、という思いだけがあったのもまた事実。
もっとも、クラトスをみて、すとんとある記憶がよみがえってきたのもまた事実なのだが。
あのときのように、力を無理に分離することなく、今は封印のほうもしっかりと守られている。
あのときはまだ地上のマナが安定していなかっだかゆえに、封印のほうに力を削いでいたがゆえ、
どうしても地上で発揮できる力がすくなく、そのために記憶があいまいになっていた、のではあるが。
「そういえば、あのとき一緒にいた魔物さんたち、あれからみないよね?エミル?
  ウルフのような魔物はよくみるけど」
そういえば、あれからあの魔物の姿をみていない。
そのことにきづき、ロイドがふと首をかしげる。
「え?ああ、あの子たち?まあ、用事があればいつでもよべるし」
「たしか、あのとき一緒にいたのが、インプとキマイラだったっけ?」
あのときのことはジーニアスも覚えている。
遺跡の中にいた、魔物とともにいたヒト。
「ねむってた樹の魔物さんもエミルが何かしてたよね?」
「エミルってばディザイアンもしらなかったしね~」
「仕方ないでしょ。本当にしらなかったんだから」
「そういえば、エミル。あれから記憶もどったの?」
「そういえば、すっかり失念してたけど、エミルって記憶喪失だったっけ?」
今さらながらにおもいだし、じっとエミルをみる子供達組。
そんなロイド、コレット、ジーニアスの視線に笑みをうかべたままで答えることはせず、
「そろそろ、霧があがるようですね」
「え?あ。本当だわ」
ゆっくりと、確実に霧が上空にとたちのぼっていっているのがみてとれる。
そして霧は大気にかききえるようにして、ゆっくりと霧散してゆく。
それとともに、ゆっくりと、しかし確実に上昇しているのがわかる周囲の気温。
「そういえば、パルマコスタにキャスタニエっていう家族がいるみたいだけど。エミルと関係があるの?」
伊達に、パルマコスタにのこり、資料を閲覧していたわけではない。
ドア夫人よりエミルの話題になり、そのフルネームをなのったときに聞かされた、
かの町にいるというキャスタニエという一家。
「え?僕とは関係ないですよ?偶然の一致でしょ?」
事実、偶然というより他にはない。
「エミル・キャスタニエという子供もいるらしいぞ?」
「それこそ同姓同名、ですね。でも、僕の名はたしかに、エミル・キャスタニエ、ですけど。
   エミル・レジェンド・ラ・キャスタニエ。が僕の名ですし。その人達ミドルネームあるんですか?」
「そこまではきいてないけど」
てくてくとラクダの背にのりつつも、そんな会話をしているエミル達。
アステルの問いかけににこやかにさらり、とこたえるエミルの言葉に嘘はない。
この姿においてはいつもこの名を古より利用しているゆえに、エミルの言葉に偽りはない。
あくまでも、この名は、ディセンダー、としての名、なのだから嘘はいっていない。
嘘は。
真実を完全にいっているわけではないにしろ。
「このラクダさんって、竜車みたいにまったくゆれないんだね~」
そんな会話をしている最中、コレットがそんなことをぽつり、とつぶやく。
「あ。なにかみえてきました。あれが街…なのでしょうか?」
視界の先にきらきらとした水の反射のようなようなものがみえ、
そこにいくつかのテントっぽい何かのようなものがみてとれる。
そんなプレセアのつぶやきに。
「ええ。トリエットはオアシスを中心にして存在している街ですもの。
  宿がきちんととれればいいのだけど…そうでなければ野宿になってしまうわね」
それでなくても大所帯。
宿がきちんととれるかどうかすらあやしい。
「あ、テント一式ならウィングパックに常に携帯してるので僕らのことはおかまいなく」
「でも、砂漠の夜をなめてはだめよ。氷点下にもなりえる気温になるのよ?」
アステルにたいし、リフィルがそういうが。
「氷の神殿やフラノールほどではないとおもいますよ?
  あちらは普通にあるいていても凍り憑くことすらあたりまえですし。
  なのでペンギニストフェザーを使った衣服が何よりも重要となってますし。
  あれがなかったら確実に皆、服ごとこおりつくこともざらですからねぇ」
「あれ?フラノール?…たしか、ヒッカリ蛙が生息しているとか前姉さんがいっていた地方じゃあ…」
「……テセアラにあったのね。ならこちらで知っているはずもないわね。
  きいたことのない地名だから、昔の資料だから街がなくなったのだ、とばかりおもっていたわ」
イズールドに初めてたちよったときに、ふせっていた人物を蝕んでいた毒。
ヒッカリ蛙、とよばれし魔物の毒に侵された村人をたすけるためにローズマリーをとりにでむいた洞窟。
そこでなぜか村の中ではぐれていたエミルがいたのにはあのときも驚いたが。
「…種族名とか、ヒトってなんでか違えて勝手に名付けるの好きだよね……」
エミルからしてみれば、ヒトがつけるななどどうでもいいようにおものうだが。
しかし、種族名をきちんといえない、というのもどうか、とおもう。
何のために種族名、という理をひいているとおもっているのか。
人間達は。
「そもそも、なんであの子達をひっかり蛙、とよびだしたんだか。ノストロビア、というきちんとした種族名があるのにさ」
エミルの呟きは小さいものであり、そのつぶやきはミトスとゼロス、そしてコレットの三人にのみきこえていたりする。
プレセアも半ば天使化しているとはいえ、まだそこまで聴力の強化、という事態にまでははいっておらず、
ゆえにそのつぶやきはきこえてはいない。
アステルやジーニアス、リフィルの会話にたいし、ぽそり、とつぶやくエミルの気持ちはおそらく間違ってはいないであろう。
何しろかってに人が魔物にたいし、あるいみ愛称のようなものをつけ、
それが種族名だと人がかってに勘違いをおこしている、のだからして。

以前にここにきたときには、雪に覆われていて、ここが砂漠だ、というのを忘れてしまうほどであった、というのに。
暑さを含んだ風が街を吹き抜けており、別名、砂漠の花ともよばれている街の本来の姿を現している、といってもよい。
以前にはなかった、黄味を帯びた細かい砂がとこかしこにまっている。
「うん?おお。去年の坊主達じゃないか」
ふと、街にとはいり、ロイド達の姿をみて、声をかけてくる男性が一人。
「えっと……」
「忘れたのか?お前さん達が犬っころかよくわかんない動物を預けていっただろうが」
その言葉に、思い出す。
おもわず顔をみあわせるロイドとジーニアス。
「あ、あのときの!」
「おう。またこの街に用事なのか?その犬っころもどきも一緒ってことは。
  なんか以前より人がふえてるなぁ。そういえば、お前さん達もアレをみにきたのか?」
「「あれ?」」
ロイド達はその意味がわからずおもわずジーニアスと顔をみあわせる。
エミルもすこしばかり首をかしげるものの。
「いやぁ。神子様の力というのはすごいんだなぁ。
  精霊が解放されたとどうじに、以前に失われたオアシスが復活して、
  今ではそのオアシスの付近にあらたな街を、という活気がでているからな。
  何しろ救いの象徴ともいえるんだ。昔の天使様のイフリートの業火で失われしオアシスの復活。
  何やら隣の牧場のほうから脱出した人達もやってきて、新しい街を、という話しになってるらしいぞ」
「オアシス?」
その言葉にロイド達は顔をみあわせる。
というか以前の旅で精霊を復活させはしたが、そのようなものはしらない。
「……あ」
しばし首をかしげていたエミルであるが、あることを思い出す。
たしかに、あのとき、力の一部を解放した。
あの当時つかえる力をたしかに解き放った。
すっかり失念していたが。
「せっかく久しぶりにであったんだが、今日は店は休みなんだ。わるかったなぁ。
  昨日の砂嵐で屋根がとんじまってな。やっと今なおしたところだからな」
たしかにその手に金づちのようなものが握られている。
「そういえば、占い師がいっているんだが、近いうちに地震がおこるらしいから。
  おまえさんたちも気をつけておいたほうがいいぞ?」
金づちを手にし、そこにいるロイド達一行にそんなことをいってくる。
「占い師?そういえばここにいる占い師はよくあたる、ということをきいたことがあるけど」
リフィルがふと思案する。
たしかに、以前にここにたちよったとき、占い師の場所で遺跡などのことをきいたのもまた事実。
占い師のおかげで、イフリートがいる、とおもわしき遺跡の場所を特定できた、といっても過言でない。
(そういえば、ここにいるとある人間は我らの声、すなわち大地の声を多少聞くことができるものの末裔のようですね)
ふと、イグニスがそんなことをいってくる。
そういえば、とおもう。
たしかにまだ少なからずその声を多少きくことができるヒトがいるのはエミルとて把握している。
あるいみ、マナが薄くなったがゆえに自己防衛的に自然に繋がりをもとめるモノが本能的に先祖がえりした、
といっても過言でない。
いくら愚かなヒトだとて、生存本能、というものはある。
それは、ラタトスクが決定した大地への伝達。
その末端をどうやらヒトがその感覚を捕らえて人々に伝えている、らしい。
もっとも、完全にその感覚を過去のヒトのように取り戻しているわけではないので、
完全なる把握はできていないようではあるが。
まあ、どちらにしても、元の大地にもどすために、それぞれの大陸をある程度は切り分ける必要がある。
そのためにすでにその旨は精霊達にもつたえており、
またセンチュリオン達にもその旨を魔物達に伝えるようにと伝達している。
魔物達からそこに住まう動物達にも連絡がいっている今現在。
これから何が起こるのか理解していないのは、地上において、あるいみヒトだけ、といっても過言でない。
「地震…ね」
その言葉が何を意味しているのかはわからない。
わからないが、何かこうひっかかるような気がするのはリフィルのきのせいか。
「しかし、オアシスが新たに蘇った…というのが僕としてはきになるんですけど?」
アステルがそんな会話にわってはいり、といかける。
「うん?そっちの子とよくにてるけど、兄弟か何かか?」
ちらり、とエミルとアステルを交互にみつついっくてる男性に苦笑しつつ、
「その蘇ったというオアシスはどのあたりにあるのですか?」
否定も肯定もせずに男性にとといかけるアステル。
そんなアステルにたいし、
「うん?ああ、精霊が眠っているといわれていた旧トリエット遺跡の近くだな。
   何しろぴたり、と雪がやんだその後にオアシスが現れたこともあり、
   これは神子様の世界再生がうまくいっている証拠だ、と皆がいってるよ。
   しかも…ああ、これは直接いってみたらわかるよ。まあ、実際にみてみれば嫌でも理解できるよ」
何か含みがあるそのものいい。
(…何か特別なことをした覚えはないのだが……)
(あ、もしかして、ラタトスク様の御力でマナの循環があの場が満ち足りていることに理由がある、とか?)
あのときのラタトスクの力はたしかにほんの欠片ともいうしかない力であったが、
それは精霊、としての基準によるもの。
ヒトの視点からしてみれば、それはあるいみでありえないもの。
瞬く間に満ち溢れたマナの循環は、短期間にてその場に青々としげる森を生み出していたりする。
そんな男のものいいに、エミルがしばし首をかしげ、念派においてセンチュリオン達と会話を交わすが、
当然そんなエミルの様子は、はたからみれば意味がわからずに首をかしげているようにしかうつらない。
トニトルスはエミルの腰の鞄にちょこん、と入っている状態なので、
だまっていればどうみてもぬいぐるみ、もしくは人形、にしかうつらない。
街にはいるときに、その大きさをかえ、念のために、と彼らがとっている形態でもある。
イグニスもまた、その体の大きさをかえ、エミルの肩にちょん、とのっている状態なので、
たとえそれが魔物の幼生体のようであってもそこまで詳しくみるひとはあまりおらず、
ああ、鳥を肩にのせてるんだ、という認識くらいにしか人々は捉えていない。
あのときは、コレットの体調のこともあった。
それに翌日には朝早くにあの場を立ち去ったこともあり、遺跡のほうにまで注意をむけていなかったのもまた事実。
リフィルがそんな街の人の話しをきき、しばしその場にて考え込むが。
「とりあえず、先生。宿にいかないか?」
「え?あ。そうね」
ここで考えていても仕方がない。
何しろ人数が人数、なのである。
早めに宿を確保しておく必要があるのもまた事実。
ロイドにいわれ、とりあえずその男性にと挨拶し、一行はひとまずこの街にとある宿にとむかってゆくことに。
トリエットの街から旧トリエット遺跡まではちょっとした距離がある。
含みのある街のひとのものいいに、とりあえず、宿にいってみたところ、
宿は今晩はあいてない、とのこと。
ここ最近増えた旅業の一行でずてにうまっている、らしい。
そしてまた、もう一つの新しい街、まだ村というよりは集落にちかいが、そちらならば、といわれ。
きけば、何でも新しくできたオアシスにその集落が創られているらしい。
オサ山道をこえて、トリエットの街は西側にとあり、さらにその西側にと旧トリエットの遺跡はある。
大陸の北にむかってゆくと、それまでには街という街はなく、大陸の端付近にルインの村があるだけといってもよい。
この大陸は砂漠がある、ということもあり、あまり小さな集落などはみあたらない。
もっとも、ディザイアンの人間牧場があるがゆえにそんなものが発展しない、というのがあるにしろ。
砂漠の街はかつてよりは人でにぎわっており、あのときは雪におおわれ、人々もあまり外にはでていなかった。
それでも、今は人々は外にでて、あるいみで活気に満ち溢れている。
中には、あの寒さがなつかしい、といっている人の姿も垣間見える。
まあ、これほどうだるような暑さなれば、あのときの寒すぎた時期がなつかしい、とおもえるのであろう。

必要な水や食料をある程度街にて補給し、とりあえず、いわれるままに、そのオアシスができた、という場所へむかうべく、
街の西側の出口から外にでる。
しばらくすすむと、砂漠なのに、その先にみえる信じられない光景が視界にととびこんでくる。
「あれは……」
砂漠の中にみえる青々としたちょっとした森。
そう、オアシスどころではない、森、といって過言でない。
周囲は完全に砂漠、以外の何ものでもない、というのに。
「うわ~。すごい。前にきたときはあんな森なんてなかったですよね?先生?」
「ありえないわ…いえ、ありえる、のかしら?
  かつての文献にこうあるわ。イフリートの業火がおこるまえまでは、
  火の精霊の加護にあった泉の周囲には青々とした森が広がっていた、と」
当時もイフリートの影響でたしかに熱くはあったが、砂漠もたしかにありはしたが。
今のように一面砂漠、というほどではなかったという。
それをみて、コレットがおもわず声をだす。
街にはいるとともに、ラクダ達もすでに別れているがゆえ、このたびは歩きでの移動。
コレットが封印を解放したことにより、その加護が蘇った可能性もいなめない。
だからといって、たかが一年あまりでこのような森になりえる、というのがリフィルからしては信じられないが。
「え?あの森は以前にはなかったんですか?」
アステルがその手を目の上にやりつつ、そちらのほうをみながらもリフィルにとといかける。
「ええ。なかったわ。そもそもこの砂漠にはいくつかの小さなオアシスのような場所はあっても。
  あのようなどうみても森、といえるようなものはなかったもの」
「えっと、たしか、コレットさん達、シルヴァランドの神子が封印を解放したのは、
  今から一年くらい前、でしかないですよね?」
「ええ。そのはずね」
「で、たったの一年であんな森ができた、と?」
リフィルの言葉にリヒターが懸念の表情をうかべるが。
「たぶん、精霊イフリートが関係してるんじゃないのかな?
  火を司る精霊ではあるけど、精霊の加護がもしも大地にいきわたればありえる、のかもしれない。
  精霊の力はいまだに不可解というか理解不可能のところも多いし」
アステルのいい分はしごくもっとも。
人が理解している範囲などごくごくわずか、でしかない。
「大地の精霊ノームならそれもわかるけど、他の精霊でも自然の加護とかあるのかねぇ?」
しいながそういい、
「なら、ノームにきいてみればいいんじゃないか?」
しごくもっともなロイドの意見。
「・・・・・・・・・・・と、とりあえず、あそこにいってみない?」
ノームを呼び出してきかれでもしたら、あのノームのこと。
ぽろっといいかねない。
いや、確実にいう。
いくらこちらが口止めしていようとも、あのノームの口の軽さは何というか。
どちらかといえばおっちょこちょい。
アクアは感情のままに真実をぽろっと言い放つことがあるが、ノームは素で考えもなしにいうことが多々とある。
ラタトスク様が力を解放なさったからだよ~、とかいわれれば洒落にもならない。
あの子のことだからたぶんまちがいなくいう。
そう確信しているがゆえにエミルがさらり、と自然の流れでその会話の修正をうながすが。
「たしかに。トリエットの街で宿がとれなかった以上、あちらでもとれるかはわからないが。
  しかし、あのような森があるのならば、砂漠で野宿をするよりは確実に安全ではあろう」
砂漠の気温の変化は文献でしかしらないが。
それでも、砂漠で一夜を明かすよりはたしかに安全、ともいえる。
そこに魔物などがいなければ、だが、しかしここ最近、魔物にまったく襲われていない、というのもまた事実。
暑さにテセアラ組は慣れていない、といっても過言でない。
ゆえに体調のこともある。
何しろテセアラにはこのような砂漠地帯、などはない。
豪雪地帯はあるにしろ。
どうりで、きちんと説明を街のひとがしてくれなかったはずだ、とおもう。
たしかに砂漠の中に森がある、など普通は信じない。
しかも、それが一年前まではなかったはず、だというのだから。
「精霊の解放ってすごいんだな~」
ロイドがしみじみそんなことをいっているが。
「…本当に精霊の解放、だけが原因なのかねぇ?」
ゼロスが意味ありげに含みをふくめてエミルをみてくるが。
そんなゼロスの視線をさらり、とながすエミル。
まあ、心当たりがあるだけに何もいえない、というのが本音なのだが。
「え?イフリートの解放…で、あんな森ができたっていうんですか?」
ミトスも半ば茫然、としつつもそんなことをいっているが。
まあ、普通はありえない、というのはわかるであろう。
そこに全ての精霊が加わってのことならばまだしも。
「ロイド。おさらいよ。この地にあったというかつてのオアシスはどうしてなくなったのかしら?」
「えええ!?えっと…イフリートの業火の事件で失われた…だっけ?」
「ロイドにしてはきちんといえたわね。
  そう、前、前回の再生の旅のときに、イフリートが解放され、
  そのときに火のマナが精霊とともに解放されたゆえに、
  オアシスが蒸発してしまった、ともいわれているわ。
  解放したはいいものの、その解放自体に問題があって精霊が暴走してしまったからだ、と。
  これはかつて授業でも教えたわね?」
そのために、このあたり一帯は砂漠と化したのだ、とこのあたり、
否、シルヴァランドに住むものならば誰しもしっている。
そういえば、当時、負に負けて一瞬暴走したとかイフリートのやついっていたな。
ふと、あのときの会話を思い出しおもわず遠い目をするエミル。
あのときイフリートのもとにでむいたときに、イフリートから話しはきいている。
そもそも、負ごときにまけるとはなさけない、とはおもうが。
すぐさま、それにきづいた護衛の魔物達がセンチュリオンの祭壇から力を補充し、
イフリートにあて、その負の浄化を図ったがゆえに砂漠化は一部、ですんだ、らしい。
「まあ、火の精霊イフリートは破壊も司るけど、同時に再生も司る、といわれているわ。
  ゆえに、不思議ではない、のかもしれないけど…しかし、すざましいわね。精霊の力、というのは」
「…あ、ああ、そう、だね」
精霊の力を使役できる、召喚士がみずほの里でも重宝されるのがよくわかる。
一年前までは形もなかったのはしいなとて目にしている。
このあたりはたしかに小さなオアシスはありはすれど、あのような森などはみあたらなかった。
そしてまた、かつて召喚士がことごとく権力をもとめたものたちによって殺されていった理由も。
こんな巨大な力が手にはいらないのならば、ならば危険、とみなし駆逐していったというその考え。
その考えが嫌でも理解できてしまうがゆえに、しいなとしては言葉をつまらせるしかない。
リフィルの説明に、ことばをつまらせつつも、しいながうなづく。
「森…とりあえず、あの森の中に、その新しくできたという泉、があるんですよね?」
プレセアがそれまで黙っていたが口をひらく。
森などを目にすると、プレセアの心は何となくおちつく。
そもそも、このあたりはかなり暑い。
気のせいか、どうもさきほどからくらくらとするような気がしているのもきにかかる。
「精霊。世界を構成せしものの力、というのはすごいのだな」
リーガルもそんな彼らの会話をきき、おもわずつぶやかざるをえない。
一年前まではなかった、という森。
しかし目の前にひろがるはちょっとした幅のある森といってもかごんでない青々と茂る木々。
おそらく上空からみても、砂漠の中にぽっかりと緑の空間ができている、というのがわかる、ほどに。


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あとがきもどき:
薫:きりのいいところのあたりで区切りました。
  ちなみに、このお話し、メモにうちこみしつつ、そのときの気分で岐路をきめてます(まて
  いや、いろいろとあるんですよ、いろいろと。
  どのパターンさんをもってこようかな、とかおもったり。
  まあ、確実にいえるのは、ミトスは生存する、ということ、のみです。あしからずv
  さて、容量的にすこしばかり、おまけの別話をばv


「しかし、すごい数のモンスターだなー」
聖堂にはいり、扉をひらき階段へ。
そこには道にわらわらと異形のもののすがたがみてとれる。
が。
「これは神子にあたえられた試練の…はず、なんだが……」
「まあ、予測はできたけどね。これ……」
「かわいいね~」
「でしょ?この子達とても純粋だからね」
「「「・・・・・・・・・・」」」
聖堂にいる魔物全てがエミルになついているのはこれいかに。
しかも、幽霊っぽいものがその尾?らしきものをぱたはたとふっている。
ゾンビもどき?…種族名をエミル曰くゾンビやゴースト、らしいが、とてもわかりやすい種族名である。
スライムなどはそのぷるぷるとした体で体全体で喜びを表現してるっぽく、
何かとてもかわいくおもえてしまうのはこれいかに。
ロイドはどうやら動じておらず、ジーニアスはすでに達観の息。
ひとりコレットだけがエミルにそのかわいさをとかれてはしゃいでいる光景はあるいみ何といっていいものか。
世の中の常識という常識を覆す光景がまさにいま、ここにある。
しかし、とおもう。
かつてこのような光景をクラトスはみたようなきがする。
それは、いつ?
思い出そうとしても思い出せない。
思い出そうとするとずきり、と頭痛がおそいくる。
「あれ?なあ、あそこで光っているのは何なんだ?」
ふと、薄暗い部屋の中、ひかっているものにきづいてロイドがコレットにと問いかける。
小さな台のうえに置かれているどうやら指輪がひかっているらしい。
「えっと。これはね」
「ロイド。これはソーサラーリングだよ。マーテル教会の聖具さ」
「へ~。これが」
「これが?」
エミルもそれをまじまじとみて、ふと自分の手に視線をおとす。
ちなみにエミルの左手の中指には一つの指輪がはめられており、
そこには九種類の色違いの石がはめ込まれていたりする。
形は三つの台座がクロスしたようなものになっており、それぞれ二つづつ石がはめこまれており、
その中央には紅くかがやく石がはめ込まれている。
それをよくみればその石の中に特殊な模様が刻まれているのにきづくであろうが。
それぞれの石にひとつづつ、特注的な文様がはいっているそれ。
それはエミルにしか使用できないものであり、そももそ、目の前のリングの元となったもの。
ずいぶんと性能低いなぁ。これ。
それをみてしみじみそんなことをおもうエミルはおそらく間違ってはいない。
すくなくとも、いちいち力の場にて力を変換しなければどうやら威力すら発揮できないらしい。
「なあなあ。これ、俺がもってていい?」
目をきらきらさせてロイドがいってくる。
そういうがいなや、さっとリングをもちあげる。
「たしか入口には封印があったよね。それでひらくんじゃないのかな?」
いつもは開かれている先への扉が特殊な力で今日は封印されていた。
コレットがそういいつつ、ロイドの手のなかにあるリングをみつめる。
「じゃあ、先にすすめるね」
「よおし!いくぜ!」
「…はぁ。お子様は元気だな……」
何やらあまりに魔物がエミルになつきまくっているのをみて、精神的にまいってきているらしい。
さもありなん……

「ここが最上階のようだな」
「はい。ここが祭壇です」
コレットが指し示すほうをみて思わずロイドは目をみはる。
部屋の中央にしつらえてある丸い祭壇。
ファイドラによって清められていたその祭壇の万中に、明るく輝く小さな石が安置されているのがみてとれる。
「じゃあ、あそこでひかってるのがクルシスの輝石か」
「そうだよ。私、あれを握って産まれてきたんだって」
光は美しいオレンジ色で、すべてのものをつつみこむような暖かさをかんじさせる。
なんだかコレットみたいだな、それをみてふとロイドはそんな感想をいだく。
「エミルもくればよかったのに」
「仕方ないでしょ?この最上階には魔物ははいれないってきいたよ?」
友達をおいてくのもかわいそうだし、僕はここでまってるよ。
そういって屋上へつづく転移陣の前でエミルはここまでのぼってきていない。
実際のところは完全に監視がはいるであろうその場所をさけた、というほうが正しいのだが。
「みて。光が」
「あ!上!みて!」
ジーニアスが叫ぶ。
ロイド達が天蓋をあおぐと、輝石の放つそれとは明かに違う白い光が降ってくるのがみえる。
「…学校でみた光ににてない?」
「ああ」
ロイドはジーニアスにうなづきながらクルシスの輝石の輝きが、
す~と弱くなるのにも気づく。
まるで呼応でもしているかのごとくに。
それまではまるで暗くてみえなかった天蓋の内側に施された装飾を照らしながら、
光りはゆっくりと降りてくる。
「な…なんだ!?あいつは!?」
ロイドは光に包まれて出現した男をゆびさす。
「あれが、天使だろう」
「天使……」
クラトスの言葉にオウム返しにつぶやきながら、
彼は天使がマーテル教会の紋のはいった衣装を身につけているのをみとめる。
「じゃあ、まさかあの人がコレットの本当のお父さん?」
ジーニアスが目をまるくする。
神子は天からの授かりものであり、フランクは養父にすぎない、とイセリアなら誰でもしっている。
確かに美しいプラチナブロンドの髪も、コレットにそっくりとおもうが、
それをいうならエミルの輝くばかりの金髪のほうがコレットに似ている、ともおもう。
この男のプラチナは…何というかどこかくすんでいる。
コレットやエミルの金髪は太陽がよくにあうが、この天使たる男性はどうしても似合う、とはロイドは思えない。
それはゆっくりと人型をなし、しかし特徴的なのは、真っ白な翼。
「我が名はレミエル。マナの血族の娘コレットをあらたな神子として天に導くクルシスの天使。
  世界の中心で眠るマーテル様を目覚めさせるときがきた」
それから声がはっせられ、コレットがはっとし、胸の前で指をくむと頭をたれる。
レミエル、となのった男が輝石の上までおりてくる。
と、石はまるで生き物のように祭壇から浮上し輝きを放ちながらコレットの胸元へと収まった。
石が紅い宝石になった
…綺麗だ。
ロイドは横眼でクルシスの輝石をみながらそうおもう。
それは村の少女達が身につけるプローチのようでもあり、色白のコレットによくにあっている。
「今、このときよりコレットは再生の神子となる。
  我々クルシスはこれを祝福しシルヴァラントに救いの塔をあたえよう」
レミエルがゆったりとした動きで聖堂の窓を指し示す。
そちらに視線をむけたロイド達は驚きのあまり一瞬、言葉をうしなってしまう。
何もなかったはずの空に高くまっすぐに伸びる塔が窓からみえる。
ずいぶん遠いい。
おそらく距離的にはハイマ、のあたりであろう。
その頂上を雲の中にかくしている救いの塔、をながめつつそんなことをふとおもう。
「あれが救いの塔か」
おもわずつぶやくロイドに、
「女神マーテル様を!?姉さんが話していた伝説のとおりだよ!これで世界がすくわれるんだね」
ジーニアスが嬉しそうにバンザイをする。
「再生の神子コレットよ。救いの塔を護る封印をとき、
  かの地に刻まれた天のきざはしを上れ」
レミエルの言葉にコレットは静かに頭をさげる。
「神子はたしかにその任をひきうけました」
「よろしい。我らクルシスはそなたが封印を解放するごとに天使の力を与えよう。
  そなたが天使としてうまれかわったとき、この荒んだ世界は再生される」
「ありがとうございます。かならず世界を再生致します」
「まずはここより南の方角にある火の封印を目指すがいい。かの地の祭壇で祈りをささげよ」
「はい。レミエル様。あ、まって。お待ちください。レミエル様。レミエル様に伺いたいことがあります。
  レミエル様は本当に私のお父さ……」
コレットはすでにその姿を消し始めたレミエルの下にかけよってとまどいつつもといかける。
「まずは火の封印だ。よいな。わが最愛の娘コレットよ」
「お、お父様!やはりレミエル様が私の本当のお父様なのですね!?」
「次の封印でまたあおう。わが娘よ」
コレットは肩をふるわせ、涙ぐみながらきえてゆく天使をいつまでもみつめている。
「神託はすんだようだな。ではいくか。神子よ」
「…あ、はい」
「我々は先にいくぞ」
一方で淡々としたクラトスの口調。
「あ。二人とも、ありがとう。よかったらあとでうちによっていってね」
そういいつつ、その場から先にと外にでてゆくクラトスとコレット。
「いっちまった…」
「あの噂、本当だったんだね」
「何が?」
「コレットは天使の子で今のお父さんとは血がつながっていないって」
「血がつながってなくても父親は父親だとおもうけどなぁ」
「ご、ごめん」
「ば~か。変なきをつかうなよ」
「天使って本当に翼がはえてるんだなぁ」
「うん。マーテル教の経典と同じだね」
「でもよ。服をきたり脱いだりしたりするのめんどくせえよな?」
「え?そ、そういえば、そうだけど」
「洋服にさ。翼を通す穴もあけなきゃいけないし」
「・・っていうか、ロイド、そんなこときにしてたの?」
「だってきになるだろ?寝るときだって邪魔になるだろうし。天使って案外不便なのかもな」
「…そうだね……」

「おかえり~」
ほんとうにヒト、というものは。
それでもまあ親にあいたい、とおもう気もちもわからなくはないとはおもう。
しかし、言葉に感情がこもっていないというのに気付いているのかいないのか。
「あのね。あのね。エミル」
「うん。おちついてね。コレット。用事はすんだんでしょ?ならいこっか。皆もきをつけてね?」
ここにいるのは主に闇属性。
ゆえにさくっとコレット達がいない間にテネブラエが改めて契約を強めている。
そういうとともに、ちらり、とテネブラエに視線をむける。
このまま彼らをここにのこしておけば証拠隠滅でかならずミトスは彼らを殺す。
その前に保護を、というのはエミルの意見。
彼らは暗闇を好むことからテネブラエの寝床でもある闇の神殿に移動する、という話しはすでにしてある。
エミルの言葉とどうじ、魔物たちが黒き霧のようなものにつつまれ、やがてその姿をかきけしてゆく。
それは役目がおわったときにミトスが行う行為。
それに見せかけた全体の保護。
「?」
いつもならば建物をでてからクルシスの管理システムは行うはずだが?
そうおもうがまあこういうこともありえるか、ですまし。
「用事はおわった。エミル…だったか?」
「失礼。クラトスさん、でしたよね?エミル様にあまり近づかないでいただきたい」
すっとテネブラエが間にわってはいるように注意を促す。
「テネブラエ。ダメだよ。すいません。このこって異様に過保護なんですよね~」
「あたりまえです!」
「テネプちゃん、エミルが好きだものね~」
「当然です。命をかけてますので」
「…命はかけなくていいよ……」
もっとも自分がいる限り、彼らは決して死ぬことはないのだが。
「…いや、…それは話せるのか?」
「それ、とは失敬な」
犬のような猫のようなそれは魔物でも精霊でもない不思議な生物のように感じる。
どちらにも属しているようでいてどちらにも属していないような、そんな感覚。
強いていえばどこかで感じた気配に似通っているようなきもするが。
それが何なのかクラトスは思い出せない。
いいつつも、エミルはテネブラエの頭をかるくなでたのち。
「じゃ、村にもどろっか?祭司長様達もきっと外でまってるよ?」
「うん!私もはやくご報告したいもの」
クラトスをさくっと無視し、何やら会話をしている二人の姿。
そしてまた、クラトスを油断なく警戒しているテネブラエ。
「…何だ、というんだ?これは一体……」
どうも報告と異なることがここではおこっている模様。
しかし、彼は気づかない。
もしも報告しよう、という気になったとき、その感覚が奇麗に消し去られてしまう、ということに。
すくなくとも、すでに簡単な精神干渉はおこなわれている、ということを。

聖堂の入口でまっていたファイドラは無事に神託をうけて降りてきたコレットの顔をみとめると、
しわだらけの顔をさらにくしゃくしゃにして喜んだ。
「お、おお!コレットや!いや、神子様!」
「おばあさま、私、これから……」
神託をうけた以上、孫娘、としてではなく神子としてあつかわれる。
これは親にもいえること。
ずっとそう教わってきた。
それがさみしくもあるがそれが使命でもある、とコレットはもうわかっている。
「とりあえず、村にもどろうよ?塔も出現したみたいだし。きっと村で皆がまってるよ?」
「うん!」
会話しつつ歩いてゆく二人の子供の背後では、
「…失礼。あのエミル、という子供は、いったい…?」
「クラトス殿にも感謝ですじゃ。再生の旅は危険でありますからの。
  さずかに続けざまに失敗していれば、教会の威厳にもかかわるとあなたにお願いしたのでしょう。
  あのエミル殿はいいこですよ?…まあ、すこしかわった生来の能力があるみたいですが、の」
ちなみにファイドラはエミルが魔物を呼び出せることをしっている。
エミルが呼びだすとき不思議な言葉らしきものを使っているのもきになるが。
当人にきいても首をかしけるのみであったのでおそらく無意識、なのであろうことはわかっている。
「救いの塔も出現しました。…今回の旅は成功してほしいものですじゃ」
「私がきたからには成功させる」
何しろクルシスの…否、デリス・カーラーンのシステム検査では、彼女は器に98%最適。
という数値が叩きだされているのだからして……


次回でようやくオリジナルイベントにいける…かな?
しかし、オリジナル、といえるのかあやしい今日この頃……

2013年7月25日(木)某日

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