まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回もまたまた話しはすすんでおりません。
どちらかといえば、エミルの独白やら、周囲の思想の回想やら、になってます。
あしからず。副題がいいのがおもいつかなかった……

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「どうして…ぼくたちの言葉にほんの少しでも耳をかしてくれていれば、こんなことにはならなかったのに」
炎上する王都。
周囲に響き渡る悲鳴。
「ミトス」
「ヘイムダールでもそうだった。ボクラとはかかわりのない事件もぜんぶ僕らの責任にされて。
  ハーフエルフが疫災の原因だって、村をおわれて!」
「ミトス…」
「シルヴァランドははーふえるふを重用しているときいていってみたけど、奴隷同然のあつかい!
  テセアラだって他の国だって、皆ハーフエルフをおいたてる!」
「ミトス…なくな」
「それなら、僕たちはどこへいけばいいの!? 
  ねえ。クラトス。おしえてよ。あなたは僕がハーフエルフでも剣をおしえてくれたでしょ! 
  王へのとりつぎかたも教えてくれた。ユアンとの交渉の場をつくつてくれたのもクラトスでしょう!
  あなたは何でもできるじゃない!何でもしってるじゃない!」
「ミトス。クラトスにあたってはだめよ。わかっているでしょう?
  こういうことは、これから何度でもおきる。私たちはそれを乗り越えなければならないのよ」
「何どでも、おこる」
「もう、九百年以上前から、ヒトとハーフエルフの関係は歪みつつあった。
  これをかえることは簡単ではないわ。約束したわね。ミトス。
  絶望するなら静かにくらす道をえらびましょうって」
「絶望、じゃない。僕は…あきらめない。誰かが声をあげなければ何もかわらないもの」
それは、過去の記憶。
クラトスが…ミトスたち姉弟とともに行動するきっかけとなった、遥かなる過去の記憶。
ミトスにとっては始まりのきっかけともいえるその記憶。

光と闇の協奏曲 ~ヒトの心の複雑さ~

「パルマコスタの牧場は復活している様子はなかったわ。安心して…それはいいけど……」
人々が何やらわらわらと忙しそうにしているのはおそらく気のせいではないであろう。
「それはよかったです。あ、ドア夫人」
「まあ、とりあえず、改めまして。その説はお世話になりました。
  夫がかなりご迷惑をおかけしていたようで……」
淡い金髪の優しい雰囲気をもつ女性がにこやかに戻ってきたリフィル達にと話しかけてくる。
あのとき、元の姿にもどったものの、気絶していたその女性。
ドアが…助けるために、その地位と立場を利用し、街の人達を裏切るきっかけとなったドアの妻。
「夫がこれまでしてきた償いのためにも、私は私のできることをしております。
  そういえば、このたび、海岸で救助された人々がいっていたのですが、
  神子様がたがあの魔物をつかって人々をこちらにもどされたのですか?」
どうみても、体内にとりこんでいた人々を解放したあとにいなくなった魔物。
「それは…すいません、私たちにもよくは。
  私たちはあの捉われていた人達が海水に呑みこまれてゆく様をただはなれた場所から認識できただけで…
  きづいたらなぜかそこに魔物がいて、人々を……」
リフィルの言葉にうそはない。
ないが、エミルが魔物を使役云々、といえば絶対に話しがこじれる。
それゆえに言葉を濁す。
「ともあれ、皆さん、ご無事で何よりでした。ミトスさんも。
  部屋にいったらおられないのですもの。心配しましたよ?」
「あ、す、すいません……」
事実、部屋にいってみれば、そこにいたのはノイシュ、とよばれていた動物のみで。
心配していたのは事実。
それゆえのニールの台詞。
そんなニールにひとまず謝りの言葉を発するミトスは、この場合、謝らなければおかしい、
というよりはここで謝らないとリフィル達にさらに警戒を深められてしまう、という思いゆえ。
もっとも、その心の片隅に、本気で心配してくれてたということがわかったがゆえか、
そんな思いとは対照的に、ちくり、と心がいたむような感覚をミトスはうけていたりするのだが。
「ごめんなさい。勝手に抜けだして…」
「心配していたんですよ?」
「でも、無事でよかったわ。無事ならいいのよ」
「あ、は、はい……」
ドア夫人とは、総督府にあずれられてからすこししてからひきあわされた。
ドア夫人…すなわち、ドアの妻のことの報告はうけていた。
元に戻す方法などありはしないのに、ない薬にてドアを自分達の仲間にひきこむことに成功した。
と、実質、パルマコスタはこれで自分達のおもうがままだ、と。
その報告はプロネーマよりミトスにともたらされてはいる。
ゆえに概要だけはしっている。
エクスフィアにより、異形とかし、エクスフィギュアとなったはずのヒト。
アルタステのところで一泊したときに、ジーニアスからそれとなく聞き出したことの中に、
彼らがユニコーンの角をもっている、ということがわかり、それゆえに、
レイズデッドをリフィルが扱えるのならば、元にもどしていてもおかしくはない、ともおもう。
エクスフュギュアとは半ば無理やりにヒトのもつマナを歪めて異形と化してしまったヒトに他ならない。
ゆえに、マナさえ正せば元の姿に戻すことは可能。
最も、大概、元にもどったとしても、異形の姿になっているときの意識があったりするがゆえ、
ほとんどのものは元にもどってもその後、自殺、という形で命をたっていたりする。
それゆえにあまりかつても…大戦中も認識されていなかった、といって過言でない。
ミトスの言葉につづき、ほっとしたようにニールがいい、にこやかな笑みをうかべてクララがいう。
そのまなざしは子供を身守る母そのもの。
そんなまなざしをうけていたのは、ミトスは姉しかしらない。
ゆえに戸惑わずにはいられない。
「あ。そうだ。僕、ミトスにこの笛をかえさないと」
「そういえば、笛をふいてたみたいだけど…何があったの?」
笛が吹かれた経由をミトスは知らない。
「そういえば、ミトス。この笛には何か由来があるのかしら?何か特別な力でもあるの?」
笛をミトスにかえしている弟の姿をみつつ、リフィルがミトスにとといかける。
「え?さ、さあ?でも、姉様が、遥か昔に絶滅した木の実からつくられた笛だ、といっていました」
あの古代大戦中もあの木は絶滅しかかっていた。
世界の戦争をどうにかしよう、として旅をしていたときにたまたま遭遇したリンカの木の群生地。
そこに住んでいたドワーフから、マーテルに自分達をたすけてくれたお礼をかねて渡された笛。
そのドワーフ達も戦争に巻き込まれ、自分達が次にその場にいったときは集落は完全に滅ぼされていた。
何でも互いの国はドワーフのもつ技術力に目をつけ、その当時、率先してドワーフ狩りなるものをしていたらしい。
そしてまた、エルフやその知識を継承するハーフエルフ狩りもかの勢力陣達は率先しておこなっていた。
ドワーフ達は加護を授けている、という土の精霊ノームが大地に引き取る、といい。
どこぞの地下に彼らの居住区が創られたらしい、というのはミトスはきかされたが。
ハーフエルフ達に関しては、四大精霊と契約しおわったときに、マクスウェルのことを聞かされた。
それゆえに契約を願い出て…契約内容は、ハーフエルフや全ての命が虐げられることのない世界をつくる。
そのために力をかしてほしい、そういうもの。
その間、ハーフエルフや地上にいる同胞達が安心してくらせる場所がほしい、とねがい。
ならば、というので実行された、飛行都市。
それはマクスウェルが拠点としていた石板がありし島々全てをうかせる、という代物。
そこまでのことをミトスが望んでいたわけではないが、結果として、
マクスウェルは自分の加護下にある全ての島を浮かせることを選択した。
ミトスの言葉はあるいみ嘘で真実でもある。
遥か昔に絶滅した、といわれているのは本当。
が、それを姉、マーテルがいったわけではない。
あれは、目の前で乾かされていた木の実をつかい、ドワーフの職人が姉につくってくれたもの。
そのとき、ミトスにもつくられたのだが、ある戦いのおりにミトスはそれをなくしている。
正確にいえば、ミトスがうけた攻撃を笛がうけて、致命傷ともいえる一撃を防いだ結果、なのだが。
そっと笛を愛しそうににぎりしめるミトスの表情はやわらかくも、悲しそうでもある。
「ミトス…」
そんなミトスにジーニアスは何と声をかけていいのかわからない。
「…誰でも家族がいなくなるのは、つらい、です」
プレセアがぽつり、という。
「しかし、思いではのこる。よくもわるくも…」
リーガルの言葉には実感がこもっている。
彼女の存在が今の自分を形成した、といってもよい。
ずっとあるいみで孤独を感じていた自分に光と安息をもたらしてくれた彼女の存在。
それはリーガルにとても安らぎをあたえていた。
その結果、自分のせいで彼女があのような目にあってしまった、という負い目もある。
自分が特別な感情をいだかずに、ただの友人関係、主従関係、それだけですませていれば、
彼女はあのような目にあわなかったのだ、という思いも今でもあるが。
だけども、どちらにしても自分は彼女に惹かれただろう、とはおもう。
まっすぐで、どんな困難があっても、いつも笑って、それでいてまっすぐに前をむき、
間違っていれば、周囲がことばを濁すなか、ダメなものはダメ、間違っていることは間違っている。
としっかりと忠告してくれた彼女。
はじめは口うるさい、とおもっていた。
年下の女が、と。
しかしいつのころからか、その想いは特別なものへとかわっていった。
自分の周囲に同い年に近い子供がいなかった、というのもあった。
常に、あととり、という立場でしかみない周囲。
そんな中で、普通に接してくれていた彼女の存在がどれほどありがたいものか。
それにきづいたころから、なのかもしれない。
彼女の存在がなくてはならないものになっている、ときづいたのは。
それは幸せな時間であり、そしてまた苦痛にみちた時間の始まりでもあった。
決意を固めた結果…彼女は、ヴァーリにと引き渡されてしまっていた。
それも自分がいない間に。
「そう、ですね。想いでは…壊れませんよね」
リーガルの言葉にミトスもおもわずうなづきぽつり、とつぶやく。
姉と旅をしたあの時も、そして姉のために世界をかえよう、とおもって旅だったあのときも。
がむしゃらにすすんでいき、やがては師とよべる、ヒトとあったことも。
敵であったはずなのにいつのまにか自分達を心配?したのかついてきて、
…こともあろうに姉と恋仲になってしまった彼、のことも。
そして…世界を人知れずまもっている、かの精霊のこと。
全てを思い返しつつの呟きは、どこか感傷に浸っているようにもとらえられる。
「ところで、皆さまはこれからどうなさるのですか?」
クララことドア夫人が空気が重くなってしまった場の雰囲気をかえようとしてかといかけてくる。
「え。あ、ああ。とりあえず、世界再生の旅を、な、コレット」
「は、はい。えっと、頑張ってます」
ロイドの言葉にコレットがうなづく。
物ごころついたころからいわれていた世界再生、ではないにしろ。
互いの世界が犠牲にならないためにも、真の意味での再生を。
その思いに偽りはない。
「はい!期待していますよ!神子様!」
「真の意味での世界再生を、ね」
ニールの言葉につづき、意味ありげにリフィルがいうが、その意味はニール達にはわからない。
「そういえば、このたび保護したもののなかには、
  自分はえらばれし村の出身なのにとかよくわからないことをいっているひとがいたのですが…」
「選ばれしむら?」
「ええ。何でも御神木とかいわれるものを保護している村のものだからとか何とか」
「この世界でそのような御神木なんてものは、伝説の大樹カーラーンくらいしかおもいあたりませんので。
  おそらく、捉われていたがゆえの恐怖ゆえのざれごとだ、とはおもわれていますが」
『・・・・・・・・・・』
「それって、もしかしてオゼ…」
御神木を保護している村、祀っている村、といっておもいつくのはオゼット。
しかし、オゼットはシルヴァランドの村ではなく、テセアラの村。
なぜ、と一瞬おもうが、クルシスがどちらの世界をもあるいみで支配している、というのを思い出す。
それゆえにプレセアが一瞬眉をぴくり、とさせる。
「…あいつら、あの村のひとたちをまさか、牧場に……」
「ありえる。わね。だからなのね。あの村に一人もいなかったのは……」
襲ってきたのは天使だ、という。
が、クルシスの下位組織がディザイアン。
かの地の村人たちは一人もみあたらなかった。
が、かつてのルインのように牧場で働かせるためにつれていかれてしまっていたのならば。
つじつまはあう。
あいすぎる。
「あの村?」
「…山奥の村です。私たちが到着したときには、もう……」
リフィルの言葉に、
「ああ。なるほど。…ルインのような状況が他にも…しかし、山奥のほうの小さな村とかなら、
  まだ把握されてない村などもあるかもしれませんね。事実、小さな村などはよくできては消えてますし」
人々が定住の地をもとめ、小さな村というか集落をつくっては発展させようとしていることは周知の事実。
もっともそれが完全に発展していったことはまずないのだが。
あとは、ディザイアンの目からのがれ、安全地帯を探すためのあるいみ人々の模索、ともいえるであろう。
「そういえば、このたび、保護したもの達をあちら側の大陸に送り届ける都合がでてきたのですが。
  もし神子様がたがあちら側の大陸に用事があるのならことづけますが?」
あちら側の大陸出身、イズールドなどの出身者達もかの牧場から逃れてきた存在達の中にはいた。
それゆえに、故郷があるものは送り届けたほうがいいだろう、という話しがまとまったのはつい先刻。
さらに簡潔にいうならば、これ以上、いきなり収容者達を保護したとしても、
パルマコスタの街一つではゃしないきれない、という裏事情もあってのこと。
故郷があるならば故郷におくりとどければ、そこからは自分達の責任となる。
「え、でも……」
ロイドが何かいいかけるが。
「あ、僕は賛成。というか、ノイシュをダイクさんだったっけ?預けたほうがいいとおもう。切実に。
  これからどんなことがあるかわからないんだし。
  そもそも、いろんな場所にいくたびにノイシュ一人っきりでまたせとくのは気の毒だし。
  それに…あっち側でへんな人にノイシュがつかまっても嫌だし」
そちらのほうがかなり本音といえる。
プロトゾーンとわかったテセアラの人の反応がこわすぎる。
貴重な生体だといって、解剖するだの何だのいわれかねない。
そこに国からの命令、とでもはいってくれば、まちがいなくノイシュはのがれるすべはない。
「あ。こっちの世界にいるという、ロイドの育ての親というドワーフですか?ボクもそれはきになります。
  それに、こっちの世界のことをもっとみてみたいですし!
  こっちには砂漠地帯とかあるんですよね!?
  フラノールで、研究院でもいわれていた、精霊の影響で雪が降り続く場所があるのならば、
  砂漠になっている地域があってもおかしくない、という仮説はなりたっているんですよね!?」
「砂漠かぁ。そういえば、もう砂漠に雪はふってないのかなぁ?」
「神子様方が精霊を解放した後、雪がふった、という報告はあがってきていませんよ?
  最近の報告では、砂漠にみたこともない巨大な魔物がでる、というくらいでしょうか?」
「ああ、たしか、旅業をしているものたち曰く、その魔物はかつてマーテル教の祭司様をくらった魔物では。
  という意見もあるそうですわね」
「マーテル教の祭司様を、ですか?」
「ええ。たしか、アステルさん、とおっしゃいましたよね。ごぞんじなくて?」
「初耳です」
初耳も何も、こちら側、シルヴァランドのことをアステルがしるはずもない。
そんなアステルにたいし、頬笑みをうかべたまま、
「伝説ですわ。というより伝承、といったほうがよろしいのかもしれなくてですが。
  その昔、旧トリエット遺跡からまがまがしい雰囲気をもつ
  魔剣、とよばれしものをみつけたマーテル教の祭司様がおられましたの。
  その祭司様はその魔剣を封印するために砂漠超えをしようとしたのですが、
  途中で巨大な魔物に襲われ、そのままその魔物に喰われてしまった、という伝承ですわ」
「魔剣?それって何か闇の装備品みたいな響きですね」
「?闇の装備品って何だ?」
ロイドが意味がわからずおもわずといかけるが。
「ああ、もしかしてしりません?けっこう有名なんですけど…」
そこまでいい、そういえば、彼らはシルヴァランドの人間。
テセアラでは有名でもしらなくても不思議ではない。
そうおもいなおし、あらためて
「そもそも、昔、かつて世界を支配しようとした男がいたらしいんです。
  その名をネビリム。その男はやがて一人の剣士に倒されたらしいですけども。
  その倒されたかの怨念はネビリムの装備していた九つの装備に宿った、といわれています。
  それらの装備品は特定の人物を選んで魔剣士…すなわち、自らの傀儡たる道具に仕立て上げる、と。
  つまり、装備品の数々によって狂戦士のような立場になるわけですね」
『うげ』
そんなアステルの説明に、おもわずその場から一歩うしろにしりぞくロイドとジーニアス。
かなり洒落になっていない装備品である。
「……あいつか」
おもわず、ミトスが当時のことをおもいだし、ぽそり、とつぶやくが。
そのつぶやきはあまりに小さく、ロイド達にはききとれていない。
ききとれたのは、聴力がよくなっているコレットとゼロス、そして当然ながらエミルのみ。
「ちなみに、武具に選ばれてしまった人には武具のささやきが聴こえる、といいます。
  何でも武具に呼ばれている感じがするとかしないとか……」
「学説では、その武具のそれらは絶対に魔に属しているといわれている。
  いわゆる魔界がらみだな。ネクロノミコンがかかわっているのでは、という一節もあるが…」
「ネクロノミコンだと!?それはかつて、
  海中にしずんだといわれているあの伝説の使者をもよみがえらせることのできるという書物か!?」
リフィルがそんな彼らの会話に目をがかやかすが。
「アレは正確にはよみがえらせるのではないとおもうよ?」
正確にいえば、魔の瘴気をもってして操り人形となりし傀儡をそのばにうみだすという代物。
そこにまだ魂があればその捕われし魂は浄化することもできず、
そのまま操り人形として死ぬことも生きることもどちらもえらべず、
未来永劫ずっと、その苦痛を味わうことになってしまう。
もっとも、そこに強烈なマナを加えれば簡単にそれらの魂を浄化することもまた解放することもたやすいのだが。
さらにそれに詳しくつけくわえるならば、あのネビリムはリビングアーマーと契約をむすびしヒトであったのもまた事実。
ゆえに力はさほどない。
「…そういえば、姉さん、トイズバレー鉱山でなんかまがまがしい感じがするやつひろってなかった?」
あまりにまがまがしい気配であったがゆえに、忠告したのに、リフィルは珍しいものだから、といってきかなかった。
そのまま、たしか荷物の中にしまいこんでいたのをジーニアスは思い出す。
「へえ。そんなのをひろったんですか?というか…ああ、そういえばあなた達ははいれますか、あそこに」
たしかにリーガルが一緒ならば閉鎖されていたとしてもはいれるだろう。
なぜに閉鎖されているのに、と一瞬おもったが、管理者側たる彼がいるのならば話しはべつ。
ゆえに納得がいき、逆にリフィルにとといかけているアステルの姿。
「砂漠で巨大な魔物?んー?リヴァイウサーかな?それともあの辺りにいるとすれば……」
何か変なの呑みこんでる子がいるのかな?
そのあたりの報告はエミルは受けていない。
あのあたりにいるとすれば、火属性の魔物か、もしくは土属性の魔物のどちらか。
どちらにしてもイグニスかソルムに聞けばてっとり早いであろう。
「それに、気になっているのですが、最近、トリエット砂漠でよくディザイアンをみかけるとか……」
ちなみに、二つもの施設を壊滅させられたことにより、次なる場所に砂漠が選ばれ、
あらたに牧場を建設しては、という意見がだされたがゆえに、
ならば候補地をしぼれ、と許可をだしたのはほかならぬミトス自身。
ゆえにミトスは何ともいえない。
あのあたりのどこかにはおそらくレネゲードの組織の拠点があるだろうから、
それの発見にも役立つだろう、というので許可をだしたに過ぎない。
「そうね。一度あちらの大陸にもいってみる必要性があるかもしれないわね」
「え?先生?」
「精霊の解放がきちんとなされているのかを調べるのも役目ではなくて、ね?」
いってかるくウィンクひとつ。
それは言外に、しいなにたいし、精霊との契約を、といっているのだが。
その意味を当然ニール達がしるよしもなく。
「もし、でむかれるのでしたら声をかけてください。
  ちなみに、出発は明日になっております。それまではゆっくりなさるのもいいかと」
「そういや、先生、なんか俺、ねむくなってきた…」
「僕も…」
よくよく考えれば昨夜から一睡もしていないことになる。
それゆえにいまさらながらに眠気がロイドとジーニアスにおそいかかる。
「もう、しかたのない子たちね」
「ひょっとして、リフィルさんたち、眠らずに絶海牧場とかいうところを攻略、ですか?」
「不本意だけどね~。海底は時間がわからなかったのもあるけどな~」
「あたしは、役目がら、眠らないことなんてざらだからあまりきにしないけど……」
みずほの民のものははっきりいって数日不眠不休、ということもざら。
その任務の性質からして。
ゆえにしいなはあまり苦痛に感じていない。
コレットはいまだに完全に天使化が抜けていない、というか本質的には天使化になっている状態ゆえに、
ほとんどといっていいほどに眠気を感じていない。
ゼロスにしてもまた然り。
プレセアも半ば天使化しかかっているので眠気、というものはかなり無縁、といえる。
「え?皆ねむいんですか?」
「そりゃなぁ。牧場の中にいたときには何ともおもわなかったけど。
  時間がたってる、とわかったらなんかこう、どっと疲れが……」
「ふ。ヒトは軟弱だな。徹夜の一日や二日、あたりまえだろうに」
そんなロイドにたいし、リヒターがさらり、と何やらそんなことをいっているが。
「とりあえず、ロイド達も疲れてるみたいだし。今日はならここでゆっくりやすませてもらって。
  それから明日、隣の大陸にいくのでよくない?」
エミルのそんな提案に。
「そうね。たしかに。どちらにしてもまだあちらにはいけなそうだし……」
ここで月の名であるテセアラをだしてもニール達が不安におもいかねない。
それゆえに言葉をにごしそういうリフィルの台詞に、
「え?ミトス、まだかえせないの?」
「しかたがないわ。まだ移動ができない、というのですもの」
「そういえば、移動ができるようになったら連絡にくるっていってたよな。ボーダのおっさんが」
「・・・・・・・・・・」
ボーダという名に心当たりがあるがゆえ、ミトスはおもわずだまりこむ。
この八百年、自分をひっかきまわしてくれているレネゲードを束ねしもの。
ことごとく自分達の計画を邪魔してくれ、シルヴァランドの神子候補をことごとく殺してくれていた。
そのために、どちらの世界の神子の血筋もかなり濃くなったといっても過言でないが。
その結果、マーテルに酷似したコレットが産まれたのはいいことなのかはミトスにはわからない。
すくなくとも、これは好機、ともいえる出来事。
四千年の間、ずっとまちつづけいてた器になりえる存在。
これまでの存在は適合することなく全て死亡してしまっている。
ここまで酷似していて適合しなければ、あるいみてづまりともいえるのかもしれない。
そうおもわすほどにマナがとてもよく酷似しているといってもよい。
そんな彼らの姿をみつつ、声なき声にて。
ミトスの前にてユアンの名をだすべからず。
彼らの深層心理…すなわち、ロイド達の心の中にのみむけて言葉を発しておくエミル。
その言葉は直接、ロイド達の心に響くものであり、当人達は無意識のうちにうけとるがゆえにそのことにきづかない。


食事の用意がなされたのは、総督府の食堂にて。
何でも今は街の中がごたごたしているので、神子様一行は安全のためにこちらでおやすみください。
というニールやクララの配慮といえる。
「ミトス、テセアラにかえすにしても、でももう、村は……」
「アルタステがミトスを受け入れてくれるといっていたけど、アルタステに預けるのが無難かしら?」
「もしくは、こちら側にというのも一つの手ね。
  …あちらはどうやらすごすのもつらそうだし……」
ハーフエルフ、というだけで罪になり、捉えられるときいた。
こちらもまた差別はあれども、そこまではひどくない、とはおもう。
「なんで、差別があるのかな?皆がおなじ心をもっているんだから同じでいいとおもうのに」
ロイドがそんなことをいうが、
「まあ、心そのものに色はないからね。十人十色、とはいうけど。
  そもそも、差別するのは愚かなヒトのみ、だからね。自分達とは違うものをうけいれようとしないその心。
  そんな愚かなる心が疑心暗鬼などをうみ、やがて戦争などという愚かなことまでしでかすわけで」
いいつつも、自らが入れたハーブティーを口にふくむエミル。
エミルはだされている食事には手をつけていない。
いわく、あまりお腹がすいていないから、という理由らしいが。
「ヒト…そういえば、タバサさんって人間ではないんですよね?」
心云々や人間、の話しがでて、ふと思い出したかのようなプレセアのつぶやき。
「アルタステがつくった自動人形なんだって。びっくりしたよね」
たしかに普通に動いて話していたのに、人形、といわれてもピンときていない。
それゆえにコレットの台詞はびっくりした、といってもまったく実感がこもっていないが。
「人形…私と同じですね」
「プレセアは人間だろ?」
プレセアが手にしたフォークをとめ、おもわずつぶやくと、そんなプレセアにむかってロイドがいう。
「心を失っているときの私はただ動いているだけの人形でした」
そこに感情はなく、いわれたままのこと、すべきことをするためだけであった、とおもう。
おぼろげに記憶があるからたちがわるい。
自分がどのようなことをしていたのか記憶があるのだから。
「心とは何だろうか」
リーガルのそんな台詞に、
「心は心だよ」
さらり、としたロイドの言葉。
「うん。うれしいとか、かなしいとか、そんなのを感じるのが心だとおもう」
コレットもそんなロイドにと賛同する。
「では、タバサには心があるようにみえる。違うか?」
感情があるとしか彼女はおもえなかった。
人形、といわれても素直にしんじられなかったのもあるが、
古代の技術をつかえばそれも可能であろう、とは予測がついている。
それゆえにリーガルはあまり驚いてはいない。
もっとも、その技術をとりいれることはできないか、などとおもっていたりするのだが。
「はい」
そんなリーガルの言葉にプレセアがうなづく。
「そして、プレセアにも心がある。
  エクスフィアに支配されていたときも、心が表にでてこなかっただけで、
  内面では傷つき、悲しみ、喜んでいたはずだ」
「そうかも…しれません」
たしかに、感情をとりもどしたときそんな思いになったような気もしなくもない。
ゆえにプレセアも完全に否定ができずにうなづかざるをえない。
「じゃあ、タバサはなんなんだろう?人形でも人間でもないだなんて。
  まるで、どちらにも属せない、僕たちハーフエルフみたいだ」
「それは…」
あれは、ただの人形にすぎない。
姉様の器としてつくりだしたのに、適合すらしなかった、ただの機械。
ジーニアスの言葉におもわず叫びそうになり、その言葉をぐっとこらえて言葉をつまらせるミトス。
そもそも、彼女は姉の器があまりにヒトでは適合しないがゆえ、
天使化とは結局のところ無機生命体になるのだから、始めから無機物に融合させてみれば、
という思いからはじまった、カラクリ人形の開発。
けっきょく、適合することはなく、いらだちまぎれに破棄しようとしたが、
それをあのドワーフがひきとった。
その中に人工知能なるプログラムをくみたてて。
「簡単だよ。タバサはタバサ、それだけだろ?」
そんな会話をききつつも、さらり、とロイドが言い放つ。
「そうだね」
たしかにロイドのいうとおり、彼女は彼女でしかない。
そこに何なのか、という意見は必要はあまりない、とはおもう。
ヒトはそこに何か、という理由をつけて差別、という根柢にいきついてしまっているのだが。
当事者そのものを認めてしまえばそういうこともありえない、というのに。
「その通りかもしれません。私は私でしかないですから」
「真理、だな」
プレセアもそういわれ、たしかに自分は自分でしかないとおもう。
時が停止していたとしても、それはまぎれもなく自分で。
自分自身の変わりはどこにもいない。
そんな彼らの会話をききつつも、リーガルがぼつり、とこぼす。
それはすべてのものにいえる真理といえる。
存在も種族も関係なく、ただの一個体としてそこにある、のだから。
「ヒト全てがそんな考えなら愚かなこともおこさないんだろうけどね」
そんな会話をききつつも、おもわず素直な感想をもらす。
「いつの時代も人は愚かでしかない。自分と少しでも違うところをみつけてはそこを攻撃する。
  子供のころも自分と違うものをみつけては攻撃したりしても、
  それは一時のことで、子供はすぐにうちとけられる柔軟性があるのに。
  大人になるにつれその柔軟さをうしなって…あげくは世界をまきこむ戦いにまでまきこんでゆく。
  自分達だけで勝手にほろびるならば好きにすればいいとおもうけど、
  それに大地や自然までまきこんで…ほんと、救いようがないったら。
  全員が全員、そんな愚かな人間ばかりならばまだ楽なところもあるんだろうけどね」
「おまえ、とことん人をきらっていないか?気持ちはわからなくもないが」
リヒターのそんな台詞に、
「ちなみに、たぶん、君たちがいっているヒトというのと僕のいっているヒトとは違うとおもうよ?
  僕がいっているのは、全体的に知的生命体として誕生しているヒトそのものをさしてるし。
  そもそもさ、魔物達や動物達も知能をもっていてもヒトほど愚かなことはしないというのに。
  そもそも自分達がすんでいる大地すら滅ぼしてもかまわない、とばかりに利益と豊かさのみをもとめる。
  ほんと、ヒトはどこまでも愚かでしかないったら。
  その先にあることがわかっていても目をとじみないふりをする」
それらを乗り越える力を彼らはもっている、というよりはそのようになっているはずなのに。
心の機敏はともかくとして、そのような軟弱なものを生み出している覚えはない。
「それが、ヒト、なのよ。エミル。でもヒトは間違いをみつめて正すこともできる。そうでなければいけないのよ」
「それを正そうとしないヒトが多すぎるのが問題なんだけどね。
  自分がまぢかっているとわかっていても、そのままつきすすんだり。
  その先に何があるのかみえていても、そのまま行動していったりさ……」
ミトスもわかっているはずである。
大いなる実りに歪なる力が加わっている、ということくらいは。
人の念はもろいようでいて時には力ともなりえる。
数多の魂の念が大いなる実りそのものに注ぎ込まれている結果、
自分との繋がりすらもあやしくなってきている今現在。
それらの力を浄化するにしても実りにはすでにそこまでの力はのこされていない。
そもそも、異なる力を常に注ぎ込まれているいじょう、種子も力が削がれているといってもよい。
強いていうならば、とある原液に大量の汚水をそそぎこんでいるがゆえ、原液自体がうすまっている、というべきか。
リフィルのことばにエミルはふと遠い目をする。
ほんとうに、全てのヒトが愚かであったならば、ここまでかんがえなくてもすむというのに。
「本当に愚かでしかないよ。君たちがいうところの、ヒトもハーフエルフも、エルフも何もかも。
  僕らからしてみればすべておなじヒトでしかない、のに。
  自分達と違うから、ただそれだけの理由で、理不尽なこと、理解のできないことがあれば、
  自分達と異なるものにすべての責任をおしつけて、それで解決したようにみせかける。
  根本的な解決にはならないのに。中には責任をおしつけて生贄と称して殺すことも多々とあるしね」
ほんとうに、何をしてくれるんだ、とおもう。
戦乱がつづき、負があふれている状態で、血がながされれば、それこそ魔族のかっこうの餌になるというのに。
あのときもそう。
ながくつづく戦乱。
だからもうほうっておいた。
大地の最低限の存続できるだけのマナのみの供給にして。
「エミルってさ。人にたいし絶望してるような台詞をときどきいうっていわれない?」
そんなエミルの独白をききつつも、アステルが心配そうにとといかけてくる。
まだ短い付き合いであるが、どうもこのエミルは人嫌いの節がたたとみられる。
まだ短い間でしかないが、言葉の端々に謙虚にそれがみうけられる。
まあ、彼がかの精霊とのかかわりがある存在ならばそれもわからなくはない、のだが。
「絶望というよりもう呆れているという方がいいかな?完全に絶望してはいないよ?まだ…ね。
   十人の中に一人でなくても、百人、千人の中には一人くらい、あがこう、としているヒトがいるもの」
昔もも今も。
そうでなくてはとっくに人、という種族という種族は生み出しておらず絶滅させている。
「絶望なんてしちゃだめだよ。エミル?」
「そうさ。かならずどこかに道はあるはずだ!絶望なんてする必要なんてないはずだ!
  というか、おまえどこをどうやったらそこまでの人嫌いになれるんだよ?」
コレットにつづき、ロイドもそんなエミルの独白に答えるようにしていってくるが。
「…エミルの能力を考えてみて。わからなくもないわ。
  この子は魔物をあつかえる。それは逆をいえばこの子の力を手にすれば、
  魔物、という協力な戦力が手にはいる、ととらえられるのだからね」
リフィルの声はすこし暗い。
エミルの能力はたしかにノドから手がでるほど特に力をもとめるものにとってはほしいであろう。
何しろ伝説、とまでいわれている魔物すら呼びだせどうみても使役できる力。
それは絶対的なる力、といえるのだから。

絶望なんてしない。どこかに道はあるはずだ!

それは、かつて、ミトス自身がいっていた台詞。
だからこそおもわずミトスはだまりこむ。
クラトスと初めてあったあのときに、クラトスが同行する、といったときに自らがいった台詞とまったく同じ。
「人はね。自分より格下のものをかってみにつけて、自分はまだましだ、と勝手に心の安定をはかろうとするんだよ。
  それがまだ心の中だけにどとめおいておくならまだしも、それを表にだすから愚かなことを繰り返す。
  で、目先の利益や豊かさのみにとらわれ、まけたくないから、とかいうりくつをつけては競争をくりかえす。
  まあ、負けん気があるのはいいこと、なのかもしれないけど。その方向性を間違った方向にヒトはむけるからね」
いいつつ、コップをその場において、全員をみわたし、
「皆だってあるんじゃないの?たとえば、他人からまっとうなことを指摘され。
  何こいつこんなことをいてるんだ、みたいな感覚にとらわれたことが。
  それが真実を示していたとしても。もしくは自分達が意見してまったくききいれてもらえなかったりしたことが」
さらり、と何でもないように、それでいて確信をこめていいはなつエミルの姿。
『・・・・・・・・・・・・』
そんなエミルの台詞に、この場にいる誰もがおもいあたり、おもわずだまりこんでしまう。
アステルにしても然り。
子供ふぜいが、そういわれていた。
だから大人にまけないくらいに研究にうちこんだ。
どんなに頑張っても、ハーフエルフというだけで見下されていたリヒター。
そしてまた、どんなに人とともにあろうとしても、ハーフエルフというのがわかったとたん、
手のひらをかえしたように接してきた今までの人達。
そんな態度をセイジ姉弟は忘れてはいない。
忘れることなどできはしない。
身分が違う、という理由だけで理不尽にひきわたされてしまったアリシア。
かつて自分達の先祖というか曾祖父も普通の一般人の出であった、というのに。
ただ、国王から身分をもらった、という理由だけで同じ民であるはずのものをみくだす使用人達。
それが昔から家に雇われているものにしてもそのような考えをもっていたりしたことに、
リーガルは失望をかくしきれなかった。
ゼロスにしてもテセアラの神子制度の現状からしてもおもうところは多々とある。
エミルのいっていることはまさに正論。
自分の言葉をきいているのではない、神子、としてしかみられない。
自分をとおし、天界、というのをみているだけの、権力のみをみている大人たちや周囲のものたち。
ミトスもそんな台詞に思い出す。
クラトスとであい、クラトスが同行するきっかけとなったあのときのことを。
侵略の計画をしり、報告にきたのに、自分達の言葉をしんじなかったあげくに、
自分達がここにきたからこのようになった、と理屈をつけて自分達をせめた国王や王女。
ならば、なぜ。
どこにいっても迫害するのなら、なぜ自分達のような狭間のものをうみだした。
そういいたい。
「それなのに、人はさみしがりやで、誰かと手をとりあおうとする。それはいいよ。いいけど。
  だからってそれで産まれた命を他者がみとめることができなければ意味がないのにね。
  この世界に産まれた以上は、かならず存在する理由が認められている、ということなのに。
  必要ないならさくっと世界がそんなものたちは排除していることすらにヒトは愚かにも気づこうとしない。
  簡単に説明するとすれば、毒も使いようになっては薬になる、それをヒトは本質的に理解しようとすらしていない」
「どうしてみんな同じような心があるのにそうなっちゃうのかな?みんなが幸せにっていうのはむりなの
かな?」
エミルのいい分はわかる。
わかりたくないが、コレットもわかってしまう。
だからこそ、しゅん、となりつつもそういわざるを得ない。
「幸せは人それぞれ、だ。たとえば他人が幸せとおもっても当事者からとしてはつらいこともあろう。
  そして、自分にとっては正しいとおもっても他人にとってはそれが間違いであることも」
リーガルの言葉にもまた実感がこもっている。
アリシアのときも、ジョルジュはそれが正しい、とおもってのことだった。
身分云々、それをいいわけにしている、ということにそこにきづくこともなく。
そもそも、父もまた恋愛結婚だったのに今さら何をいう、というのがリーガルの当時の想いでもあった。
母もまた貧民街の出身で、それでもとある貴族の養女という手続きをとり結婚にこぎつけた、ときいている。
ジョルジョのしたことは、いわば自分が手塩にかけてそだてたリーガルを、
誰かにとられたくない、という無意識の想いがかさなってのことなのだ、というのをジョルジョは今では理解している。
アリシアの死亡、という結果をうけてようやく目がさめたといってよい。
何かとりかえしのつかないことにならなければ、人はなかなかその間違いの思考に気づかない。
気づくことができない。
気づこうとおもえばいつでも自分からその道をみつけだすことはできるのに。
「別に、許せなくてもいいんだよ。ただ、そこにいてもいい、そういうわかりあえる心がヒトには欠けてるんだよ。
  自然とともにあることすらわすれてしまった愚かなヒトは、ね」
自分達も自然の一部なのだ、という認識が綺麗さっぱりヒトの中からかけてしまっている。
本当に愚か、といわず何とする。
「でもさ。俺にはよくわかんねぇけど。誰かが声をあげなければ、そんな仕組みもかわらないわけだろ?」
何だか話しが理解できないようになってきた。
しかし根本的な本質な何かは何となくだが理解はできる。
それゆえにロイドが素朴な疑問をこめていいはなつ。
「ねえ。ロイド、今までそんな声をあげなかったヒトがいなかったとでもおもう?
  たいがいのヒトは始めはそういってどうにかしようとした。
  けど、…ほとんどのものは、大切なものが害されたりしてその身を同じところまで、
  ううん、それよりも以下に堕としめてしまってるんだよ」
ミトスのように。
「そりゃ、動物達や魔物達も心はあるから喧嘩もするよ?だけど、ヒトほど愚かじゃない。
  あの子達はきちんと自分達が世界の一部だ、と理解しているからね。
  でもヒトはそれすらわすれ、自分達だけが正しいとおもいこみ、世界は自分達を中心にしている、
  という傲慢な考えのもとに……
  そもそも、全ての責任を他者におしつけるのは、自分達の心の甘えである。
  そのことにすらヒトはきづこうとしないんだもの。絶望というより呆れる以外ないでしょ?
  それって赤ん坊が、言葉がつうじなくてだだをこねるのと同じだし。
  癇癪をおこしている規模がちいさいか大きいか、他者をまきこむかまきこまないか。
  それだれの違いといってしまえばそれまでだけどね」
マナも自分達のためだけにあるものだ、そうとらえ。
ほんとうに、つくづく愚かでしかない、とおもう。
自然の声をきけるものだけをのこし、幾度すべてのヒトを浄化してしまおうか、
そうおもったことも幾度もある。
一時、今いる命すべてを別の空間に移動させてしまえば、それは確実に可能、であろう。
「まあまあ。というか、重い話しはそこまでにして。というか話しの筋がすりかわってないかい?エミル君?」
「でも、真実でしょ?」
「まあ、そうだけどさ。ヒトの世界はそうそうはかわりはしないさ。
  かわってるのならとっくにかわってる」
ゼロスのいい分はあるいみ事実。
そう、かわっているのならばとっくにかわっている。
停戦協定がむすばれたとき、故意にミトス達がハーフエルフである、というのが隠されたように。
あのときに、ハーフエルフに対する認識は事実を人々が知れば、年月ともにやわらいでいったであろうに。
でも、国はそれをかくした。
人々にたいし。
それでも、ミトス達の存在をなかったことにすることができず、偽りの真実を国民達にと知らしめた。
「と、何か話しがながくなっちゃったね。僕、ちょっと外にでてくるね」
いいつつも、そのままその場をあとにするエミルを引き留めようとするが、
その引き留める言葉がみつからない。
しばしの沈黙。
「んで?結局これからどうすんのよ?テセアラにはしばらくもどれないんっしょ?」
「そうね。せっかくニール達があちらの大陸に送ってくれる、というのですもの。
  とりあえずは、あちら側の大陸にいるまずはイフリートとの契約を私はすすめるわ。
  あと、たしかに、エミルのいうとおり。ノイシュはこれからの旅、危険かもしれないから、
  ダイクに預けるというか家にもどしておくのが無難でしょうね。
  今までだって、ほとんどの場所にはいるときは、エミルがノイシュの傍にいたからことなきをえているけど。  
  もっと私の意見からしてみれば、エミルが戦力にくわわればかなり楽なのよね…
  あの子、ものすごく強いもの」
あの見た目からは想像もできないほどに。
ゼロスのさらり、としたその口調は、その場の沈黙をやぶるのに十分。
リフィルもゼロスがこの場の空気をかえるためにあえて話題をふったのを理解したがゆえに、
それに答えるように自分の意見をこの場にて説明する。
「え?あのエミルさんってそんなにつよいんですか?」
「ええ。わかっているだけでもね。精霊の封印をつかさどっていた魔物達ですら一撃なんて子…
  私たちでもあれは絶対にむりね」
「う~!いつか絶対にエミルにおいついてやる!」
「はいはい。ロイド、がんばれ~」
「うわ!ジーニアス、ぼうよみ!?くそ~!」
「……え?」
精霊の封印の守護に利用しているのは、かつてアクアが姉にいっていたゆえにその真実をしっている。
センチュリオン達の直属の配下たる魔物達。
精霊達とは別に、唯一といってもいいほどに直接にセンチュリオン達と繋ぎをとれるもの。
それもあり、彼らを封印の鍵にと利用した。
下手にこのことを報告されても、と判断したがゆえ。
鍵に利用したことにより、彼らはかの地からはなれなくなくなっている。
彼らとて理解したはずである。
自分達がそこから移動してしまえば、完全にマナが狂う、ということを。
それをみこしての鍵、という処置。
マナを調停する立場のセンチュリオンの配下ならば、わかっていてそのようなことはしないだろう。
それゆえの判断。
世界を二つにわけてからのち、彼らの力は削がれているというよりは、
本来の力がつかえなくなっていた、といってもいいであろう。
だからといって、普通、一撃ではたおせない。
ミトスですらそのようなことは不可能だ、そうおもう。
だが、今、たしかに、今、リフィルは一撃で倒した、そういった。
だからこそミトスはおもわず言葉をつまらせる。
伝説の魔物シムルグを使役?していたヒトの子。
かの精霊が人の形体をとったその姿に酷似している人の子。
「まあ、あの子が大樹の守護を担う一族とかならばわかりやすいけどね」
「ああ、その可能性はありますね。表にはしられていないですけど、絶対にありえるとおもいますし」
リフィルの言葉にアステルも賛同する。
「しかし、今は大樹カーラーンはないのであろう?」
「でも、あの子は世界樹の小枝なんてものをもっていたわ。
  ほそぼそとどこか辺境の地や山奥とかで血が続いていても不思議ではなくてよ」
リーガルの言葉にリフィルがいう。
「世界樹の…杖?」
「?杖でなくて小枝だよ?ミトス」
茫然とつぶやいたミトスにたいし、コレットがにこやかに訂正をいれる。
「世界樹の杖といえば、たしか女神マーテルがもっているのがそれだ、といわれているよね。伝説では」
「でもマナリーフをもらいにいったときに聞かされた話しでは。
  あの杖はマーテルが精霊ラタトスクより貸し与えられた、ともいっていたわ」
「・・・また、ラタ何とか、か。というかしいながその精霊みつけて契約すれば、
  なんかすべて丸く収まるような気がするの、俺のきのせいかなぁ?」
ロイドのさらり、とした台詞に一瞬しいながかたまり、
「む、むちゃいわないでおくれよ!たしかに興味はあるけどさ」
それでなくてもまだ精霊との契約はすんでいない。
いまだに怖い、というのもあるが、コリンにブザマなところをみせたくない、というのもある。
だからこそのしいなの台詞。
「かの精霊は契約はしないとおもうわ。現に加護をあたえたという勇者ミトス達にたいしても、
  契約はむすばなかったらしいもの。盟約はかわしても」
約束、といったその言葉を、ならば盟約としてうけとろう、そういったのはほかならぬラタトスク。
そんな彼に、ミトスは、もう、約束だからそんな堅苦しいのはいらないのに。
そういったあのとき。
彼らとともにいると、かつてのことを嫌でも思い出す。
思い出さざるをえない。
「とにかく、今はここにいる精霊との契約をすべきだろう。ここにいるのは…」
「旧トリエット遺跡にイフリートがいるわ。そしてマナの守護塔に精霊ルナが。
  パラグラフ王廟跡に精霊シルフが。精霊ウンディーネはすでに契約をかわしているもの」
「精霊との契約ですか。というよりこちら柄の気候変化とかに興味があるんですけど。
  ここの資料にはそんなものとかなかったんですよね。調べてる人いないんですかね?」
資料館にていろいろとよみあさったが、それらしきものはなかった。
「本格的に調べている、というのはないとおもうわ。そもそも外にでることすら危険ですもの。
  今までは下手に外にでていたらディザイアンにつかまることはざら、ときいたわ」
団体でいてもつかまり、牧場に連行されてしまっていた。
旅業にしてもまた然り。
そんな中で保護してくれる機関も組織もないのに、調べようとするようなもの好きがそうそういるはずもない。
しばし、今後のことについての話しあいが食卓において語られてゆく……


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あとがきもどき:
薫:よ、ようやく次回で海旅だ!ミトスとの旅がようやくまともにはじまる……
  まあ、船旅はさらり、とながす予定ではありますが。
  これ編集してるとき実はまだそこ打ち込みしていない、という悪循環…
  さて、がんばってうちこみしないとなぁ…
  あ、そういえば、ファンダムさんで過去勇者編のある程度がわかった箇所があったので、
  それを組み入れることに決定しましたv(かなりまて
  ではまた次回にて~

2013年7月22日(月)某日

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