まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

さてさて、容量的にどこまですすめるのか…
ちなみに、副題は、まあ、さらり、とながしているけども一応は重要?な場所にしてみました。
あとがきに別話4あり

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ざわざわ。
海岸に打ち上げられたというよりは、のぼってきたっぽい巨大なクジラの魔物。
人々はどうしていいのかわからず、下手にちょっかいをかけて魔物の反撃をうけてもどうにもならず。
みれば話しをききつけたのか、街の人達の大半が遠巻きにこの場に集まってきているのがみてとれるが。
「皆さん、危険ですからさがってくださ~い!」
総督府の従業員が人々にたいし、そんな声をあげているが。
と。
突如としてクジラが盛大に潮を吹く。
それとともにその場にちょっとした潮の噴水が噴き上げる。
さすがにかなりの巨体の潮吹き、というのもあり周囲に水しぶきが舞い散っているようではあるが。
「あ、お、おい、あれは何だ!?」
ふと誰ともなくそれにきづき、おもわず声をあげる。
クジラが吹いた潮の中から、何か球体のような何かもともに吹きあげられているのがみてとれる。
それらはそのまま、海岸にと打ちつけられたかのように、ぽよん、とした音とともに、
バシャッン。
大地…正確にいうと砂浜に触れたとたん、水がはじけるような音がする。
よくよくみれば、水のような球体の中には人が捉われており、
それらの人々はこれまたパルマコスタの一部のものたちにはみおぼえがある囚人服。
砂浜に打ち上げられたは、どうみてもどこかに捕われていた人々、なのであろう。
伊達にこれまで、パルマコスタ牧場、そしてまたアスカード牧場から逃げてきた人々を保護していたわけではない。
もっとも、クジラの魔物に呑みこまれて…正確にいえば、呑みこんだのではなくて、
移動するために保護した、のだが、当然人々がそんなことをしるよしもなく。
このまま自分達は魔物に喰われて死ぬ、とおもっていたせいかすべてのものが気絶していたりする。
幾度かくじらは潮をふき、そのたびにその潮とともに人が噴き出されてゆく様は、
何といっていいのか、その説明ができるものはこの場には誰もいない。
「…アステル、あれをどうみる?」
「めずらしい。クジラの魔物って人をのみこんでも老廃物として吐き出すのかな?」
「いや、違うとおもうぞ」
そんな光景をみて、リヒターとアステルがそんな会話をしていたりするが。
しばし、クジラが潮を吹き、それとともに人が噴き出される。
そんな光景が幾度かつづく。
と。
突如として、南の空がいきなり明るくなる。
「あ、あれは何だ!?」
ふと誰かが南の空のほうをゆびさしてみれば、
そこには、なぜか七色…否、九色に輝く光の帯が空を突き抜けるかのように立ち昇っている光景が目にはいる。
「あれは…あの方向には、たしか絶海牧場があったはずでは……」
ここから位置は詳しくわからないが、たしかに方向としては間違ってはいない。
二ールがその光景をみておもわずつぶやくが。
そんなニールの言葉をききとがめ、
「え?つまり、ロイドさんたちに何かあったのかも、ということですか?」
「まさか、とはおもいますが……神子様達…ご無事なのでしょうか…」
手渡していたはずの合図すらいまだにない状態。
もっとも、ニールは知らない。
いま現在、砂浜に倒れている一人にその品物がすでに手渡されているからだ、ということを。
やがて、すべての人を吐き出しおわったのであろう、クジラの魔物は、用事はすんだ、
とばかりにその巨体をくねらせ、そのまま再び海の中にと舞い戻る。
光の帯は空をつけ抜けるようにしばし輝いていたものの、まるで霧散するようにとかききえる。
「僕たち、様子をみてきます」
いいつつも、懐からウィングパックを取り出し、ボタンを押す。
それとともに、その場にぽふん、とレアバードが一機、出現する。
それをみて、その場にいた人々が思わず目を見開いているのだが。
そんな人々の驚きにアステルは気づかない。
「こちらには、ウィングパックはない、のか。アステル、一人で勝手にいこうとするな」
ほうっておいたらどこにいくかわからない。
それはもう長年の付き合いからしてリヒターも理解している。
ゆえに、リヒターも手持ちのウィングパックのボタンをおし、中に納めているレアバードをその場にと取り出す。
「あ、あの?その乗り物はいったい…」
ニールの戸惑いの声はおそらくこの場にいる全てのものの心情を現しているであろう。
「これ、空がとべるんです」
「説明になってないぞ。とにかくそこの人達を安全な場所につれてゆくのが先決ではないのか?」
自分達のことよりも、砂浜に倒れている十数名の安全が優先のはず。
それゆえのリヒターの台詞。
たしかにそう、なのだが。
しかし、説明がほしいのもまた事実。
「それじゃ、光りがみえたほうにむかって、レッツゴー!」
「まて!アステル!一人でだから先走るな!」
そのまま飛び立つアステルをあわてておいかけてこちらもまたレアバードに乗り込み飛び立つリヒター。
人々は唖然とするしかない。
空をとぶ乗りもの、などきいたことがない。
あるとすれば、ハイマで飛竜によって観光事業をしているものくらい。
あんなどうみても人為的に創られたようにみえる乗り物、など。
ここ、パルマコスタですら知らないのである。
ここよりも発展している街、というのがある、とは彼らはきいたことすらない。
「神子様達が天界からさずかった乗り物でしょうか?」
「その可能性はありますね」
しかし、彼らが神子一行である、というのはすでに皆がしっている事実。
ゆえに、その乗り物は天界より与えられたもの、という認識にと落ち着いてしまう。
あるいみで事実ではあるが、かなり間違っている解釈なのだが、とうぜん、人々はそれにきづくことはない。

「あれは……」
あの光りは、まさか。
危ないからまっているように、そういわれ、部屋にといた。
窓からみえる光の帯。
あの光りには覚えがある。
剣をつかったときに発する光がまさにあの光によくにている。
そのまま、窓をあけはなち、すっと目を閉じ意識を集中。
懐にいれている簡易的な転移システムを起動させる。
行き先は、マナの守護塔の最上階。
エターナルソードの状態を確認すべくのその行動。
「…クォォッン……」
消えてゆくミトスにたいし、ノイシュの遠吠えのみがしばしその場にとひびきわたる。

光と闇の協奏曲 ~リンカの笛と精霊アスカ~

ロイド達がパルマコスタをでていったのは、朝もはやく。
しかし牧場にたどりついたのがお昼前、それからボーダによる説明などによって、
絶海牧場にたどりついたは夕方近く。
そして、今、外に青空が広がっている、ということは。
「うわ~。俺達、一晩中、牧場の中をうろうろしてたのか……」
そうとわかればなぜかいきなり眠気がおそってくる。
それまでは気が高ぶっていたせいかまったく眠気、というものは襲ってこなかった、というのに。
どうやらエレベーターのある階にまでたどりつくまで、かなりうろうろとしていたがためか、
結構な時間がたっていたっぽい。
「とりあえず、我々は報告もあるのでここで別れる。が……」
「何か?」
「何か、じゃないわよ。エミル…」
みれば、虎のようなものにまたがっているエミルにたいし、リフィルが盛大にとため息をつく。
ため息をつかざるをえない、というのが正解、といえよう。
「エミル様、とりあえず呼んでおきましたが」
「うん。ありがとう。ウェントス」
そんな言葉とともに、何やら鳥のような声が上空より聞こえてくる。
ふわり。
バサリ、とした羽音。
おもわず全員がレアバードより上空をみあげると、
そこには白を基準とした翼の先や尾羽が緑。
その足もとは薄い青い羽毛にと覆われている。
とさかのようなタテガミのようなものも薄い青い羽毛のようでいて、その姿は優美、そのひとことにつきる。
「まさか…あれは、伝説にある神鳥か!?」
ボーダがその姿をみて思わず叫ぶが。
「あ、ラティスをよんだんだ」
「はい。すこしばかり拗ねてましたので」
あまりラタトスク様に呼んでもらえない…と拗ねていたがゆえに選んだらしい。
「そういえば、ラティはあまり呼んでなかったっけ?」
「まあ、このたびはあまり契約なさっているほかの子たちもあまりおよびになられていませんし」
主のいなくなったギンヌンガ・カップを周回していても意味がない、とは彼女の談、らしい。
ロイド達からしてみれば、唖然、とするしかない。
「あれは、まさか、また伝説の鳥!?」
リフィルも思わず目をみひらいているものの。
また、という言葉に実感がこもっているのは、以前、トイズバレー鉱山から戻るのに、
エミルが同じ魔物を呼び出しているのをみているがゆえ。
もっとも、ボーダ達からしてみれば当然、初めてみるわけで。
「ラティスはあのとき呼ばなかったからねぇ。以前呼んだ子はラズリのほうだったし」
ちなみに、以前呼んだシムルグとこのシムルグはつがいゆえに、
夫のほうが呼ばれたことに対してすこしばかり拗ねていた、というのも考慮した結果、らしい。
何やらウェントスとよびし魔物でも精霊でもない、彼ら曰く、センチュリオン、と名乗りしものと、
エミルは洒落にならないような会話をしているような気がする。
はてしなく。
自然に語っているのは古代エルフ語ともよばれしもの。
かつての惑星において利用されていたその原語は、今ではヴォルトのみが使用している言葉でもある。
リフィルはその意味を判断し、おもわず契約だの何だの、という単語をつかみとり、
さらに驚きを隠し切れていなかったりするのだが。
それはボーダ達にしても然り。
彼らもその役目柄、またはユアンの指導もあり一応、古代エルフ語は習得している。
それゆえに戸惑いを深くせざるを得ない。
「ラティ、ならお願いしてもいいかな?」
「おまかせくださいませ。というか我らももっとおよびください!
  そもそも、このたびは、ほかのものもあまりおそばに呼ばれてないとか。
  何かあってからではおそすぎます!」
『って、しゃべった!?』
鳥から発せられる声にジーニアス達が驚きの声を発する。
「ラティス。それは我らもよくよくいっているのですけどね…せめて、数体くらいはおそばに常においておいてください、と」
「え~?でもお前達が常にいつも二体はいるんだから問題ないでしょ?
  僕からしてみたら、お前達も必要ないとおもうんだよね」
『それだけは許容できません!』
なぜか、エミルの周囲にいつのまにか、光りの球が瞬時にうかび、
それぞれの光の球より異口同音の声が発せられる。
赤、緑、茶、紫、紺。
そしてまた、その横にふわふわとうかびし、アクア、となのっているものと、
テネブラエ、となのっているものすらこくこくとうなづきながらも同時に言葉をはっしていたりする。
「…本当に過保護……どこをどうまちがったんだろう?」
おもわず、ぽつり、とつぶやくエミルの言葉をとらえられたのは、この場ではコレットとゼロスのみ。
突如として現れた僕全員…まだ姿はあらわさず、
光のみ、というのがあるいみ少しは彼らも自重しているのかもしれないが。
深くため息をついたのち、
「お前達はとりあえず、やることはきちんとやるように」
いいつつ、手をかるくふる。
と。
「では、せっかく全員そろっているわけでもありますし。次のお供をきめますか?」
「…テネブラエ…あのね……」
テネブラエの言葉をうけ、光が瞬く間にゆらり、とゆらぐ。
「…百歩ゆずってきめるのはいいけど、ここではするな!」
それはもうため息まじりの言葉、といってもよい。
そんなエミルの言葉をうけてか、光はなごりおしそうに…そうみえたのはおそらくロイド達のきのせいではないはず。
ともあれしばし光をまたたかせたのち、アクア達とともに瞬時にその場からかききえる。
まるでそう、大気に溶け込んでゆくかのごとくに。
「何だってあんな過保護になっちゃったのかなぁ…あの子たち。以前はあそこまでではなかったとおもうのに」
そうおもい、ふと以前を思い出す。
「…いや、そうでもない、か?」
ディセンダーとしているときにも必ずひとりは傍にいた。
そのまま、ふわり、とウェントスの背からシムルグのラティス、とよびし魔物の背にと移動し、
エミルは盛大にため息ひとつ。
リフィル達からしてみれば今の会話というか現状についていかれない。
そもそも、何がおこっているのかすら理解不能。
アクア達が消えたのをうけ、はっと我にともどり、
「エミル!その魔物は前にもきいたが何なんだ!?」
「え?だから、シムルグですけど?」
「エミルさん、答えになっていません」
さらり、というエミルにプレセアが冷静にと突っ込みをいれてくる。
「でも、その鳥、前にもおもったけどすっげえ綺麗だよなぁ」
「あ、それは僕もおもった。以前にのったのは、トイズバレー鉱山からもどるときだったよね?」
そのときのことを思い出し、大人組はすこしばかり顔をしかめるが。
エミルがなら空をとべる子をよびますね、といってさらり、とよんだその光景は今でもありありと思いだせる。
もっとも、今また同じ魔物がすぐそこにいるのだが。
ロイドとジーニアスのそんな会話に、
「いいな~。私もその子にのりたい」
「え?のりたいの?なら、こっちくる?」
「いいの!?」
コレットがつぶやくと、エミルがいい、そんなエミルの台詞にぱっとコレットが目をかがやかす。
以前のときにはコレットはいまだ元の状態になっていなかったがゆえに、
きちんと体と魂が一体化していなかったといっても過言でない。
たしかに鳥にのったことはのったが、そのときの感触はコレットにはない。
綺麗な鳥さんだな~というのは魂の状態で視てわかってはいたものの。
シムルグの背はかなり幅があり、数名程度がのってもいまだに余裕があるほど。
「お、なら、俺も」
「あ、僕も!」
そんなコレットにつづき、ロイドとジーニアスまでもがそんなことをいってくる。
「あなたたちね…はぁ~……」
リフィルがとめるまもなく、
「あ、この子達の横にレアバードつけて、それからレアバードをパックにもどせばいいよ」
たしかにそれくらいの背の幅はある。
ゆえに、いわれるままに、レアバードにてのりつけて、
背に乗り込んだのちに、レアバードをウィングパックにともどすロイド達。
ちなみに、今現在は、ロイドとコレットが同じレアバードに。
リフィルとジーニアスが同じレアバード。
プレセアとリーガルが同じレアバードにとのっており、
ゼロスとしいなはそれぞれのレアバードにと乗り込んでいる。
ゼロスはもともと自分用のレアバード、というものをもっているらしく、
もっともゼロスのもっているそれは試作品のようなものなので、次元を、すなわち世界を超える力はもっていない。
レザレノ・カンバニーがつくりあげた、ネオ・レアバード、というべき品。
もっともカンバニー側からしてみればまだまだ改良の余地あり、とみているのだが。
カンバニーと研究院が共同開発したその品は、
神子にまず献上され、その性能を確認してほしい、といわれているからに他ならない。
ジーニアスが鳥にのる、というのでリフィルもしかたがないとばかりに鳥の横にとレアバードをのりつける。
以前にのったときにこっそりと抜いた羽は今でもリフィルは実は大切にもっていたりするのだが。
「…リーガルさん、私もあちらにいってもいいですか?」
「うむ。…まあ、問題はないだろう」
どうでもいいが、手枷をしたままレアバードを操るその様はまさに器用、としかいいようがない。
プレセアの懇願をうけ、リーガルもまたレアバードをシムルグの横にと移動させる。
「…ともあれ、我々はユアン様のもとにもどる。報告もあるからな。
  テセアラに戻るのはしばしまて。すぐには移動は不可能だ。
  戻れるときになったら配下のものを連絡によこす。
  それまではここ、シルヴァランドの精霊達とでも契約をしておけ」
「うわ。上から目線だねぇ。まあ、すぐに戻れない、というのなら仕方ないんじゃないか?」
そんなボーダにたいし、ゼロスが肩をすくめいいつつ、しいなをちらりとみる。
「問題は、ここ、シルヴァランドでは空を飛ぶ乗りものなんて、飛竜くらいしかおもいつかないわ。
  騒ぎにならないように、普通に徒歩、もしくは人気のない場所ならばエレメンタルカーでの移動が好ましいわね」
このあたりは人の気配がない海の上ゆえにこうして普通に飛んでも問題はないが。
普通に空を飛んでいる状態ならばいいが、
着陸したとき人々がどう騒ぐか、リフィルからしてはそれが心配極まりない。
「あ。そういえば、以前、パルマコスタで船にのせてくれるっていってた人がいたよね?
  私、あの最新鋭とかいう船にのってみたい」
「お!そういえば、そんなこといわれてたな!よ~し、ならその船でイフリートのところにいこうぜ!」
「イズールドかぁ。なんかこの間のはずなのにかなり前のような気がする」
「しょうがないよ。コレット、あれからもう一年近くたつんだよ?」
再生の旅にでてからそろそろ一年が経過する。
そんな会話をしている子供達はすでに全員、シムルグの背にとのりこみ、
それぞれのんびりとそのふわふわの羽毛を体感していたりする。
「まずは、パルマコスタに戻りましょう。エミル、あの魔物が呑みこんでいた人達は結局どうしたの?」
『あ、そういえば』
リフィルの指摘があるまで、どうやら一部のものたちはすっかりあのことを失念していたらしい。
「あの人達ならば、人里近くで解放するように、といっておいたはずだから、
  どこかの浜辺で保護していたひとたちを解放しているはずですよ?」
ちなみに、アクアが呼びだした魔物に念波にてそのように命令を自ら下したので嘘ではない。
「では、我らはまだすることがあるので、これで」
いいつつも、ボーダ達がその場からとびたってゆく。
そんな彼らをみおくりつつ、
「では、我らも…」
リーガルが我らも戻ろう、そういいかけたその刹那。
「あれ?何かがとんでくるよ?」
コレットがふと視線を北のほうにむけておもわずつぶやく。
みれば、その先にみえるのは二つの影。
ロイド達も目をほそめるが、その姿は確認できない。
が。
「うん?ありゃ、アステル君とリヒターじゃないのか?」
ゼロスもまた目の前に手をかざし、そちらのほうをみつつ、その姿をみとめおもわずつぶやく。
やがて。
「お~い!って、あああああ!?もしかして、もしかしなくてもその魔物は!?」
「…まて。かなりまて!何で伝説の魔物シムルグがそこにいる!?
  というか何であたりまえのようにその背にお前達はのっている!?」
レアバードにて接近してきた二人がまず目にしたのは。
レアバードに囲まれるようにしている、真っ白い輝きをもつ巨大な鳥の魔物。
その姿は伝承にまさにあるとおり。
この魔物は絵本などにもその姿が記載されていることもあり、知る人ぞしっている魔物でもある。
また、古代遺跡の壁画などからもその姿はよく確認されているがゆえに、
神の使いの鳥、とまでいわれている魔物。
そんな魔物とおもわしき背にどうして普通に乗っているのかが、アステル達からしてみれば理解不能。
「何なら、アステルさんたちものります?」
「いいの!?ぜひに!!」
「まて、アステル!危険かもしれないだろうが!」
「え~?でも、すでにロイド達ものってるんだし?」
たしかに、今さら、といえるだろう。
すでに、エミルだけでなく、ロイド、コレット、ジーニアス、そしてプレセア。
五人の子供達がすでにその背にのっている模様。
あと一人や二人増えてもその巨体からしてみればまったくもって問題がなさそうに垣間見える。
おそらくこの場にいる全員をその背にのせてもいまだに余裕があるであろう。
それほどまでの巨大なる鳥。
リヒターがとめるまもなく、すばやくエミルにいわれるままに、シムルグの横にのりつけ、
そのまま、レアバードよりとびおり、すとん、とシムルグの背にと着地する。
そのまま、手をかざし、レアバードをウィングパックにともどし、それを懐へ。
ウィングパックを小さなケースにいれているらしく、そこにいくつかの番号がふられており、
その番号の中に何をいれているのか、というのがかかれているのがみてとれる。

「そういえば、ジーニアス。ミトスから笛あずかってたよな?どんなのかみせてくれないか?」
「え?何で?」
「何となくきになって。みたことのない様式の笛だったしな」
大概細工ものなどをダイクのもとで行っていたロイドですらみたことのない形であった。
それゆえのロイドの問いかけ。
「でも、これ、ミトスのお姉さんの形見だから下手にいじっても……」
渡された姉の形見だという一つの笛。
たしかにみたことのない形の笛ではある、とはおもったが。
「笛、ですか?」
そういえば、あのとき、ジーニアスはあのミトスという子供から何かうけとっていたようにはみえたが。
そこまで詳しくアステルもみていない。

結局のところ、シムルグの背にアステル達ものりこんだことにより、
残されたリフィル達も盛大にため息をつき、ならば一緒のほうがいいのでは、
という判断のもとに全員がシムルグの背にのっている今の現状。
どうでもいいが、エミル、ロイド、ジーニアス、コレット、リフィル、しいな、ゼロス、
ブレセア、リーガル、アステル、リヒターという十一人が乗っている、というのに、
いまだに余裕があるシムルグの巨大さにはさすが、というより他にないであろう。
それぞれがくつろいでいても余裕があるほど。
古代の文献では小さな町を覆いつくすほどの巨体、とあったがこの姿からみればそれも納得せざるを得ない。
エミル曰く、彼らはその大きさを元々の大きさまでならば自在に縮小もできる、らしい。
リフィルやアステルが、なぜにそんなに魔物の生体に詳しいのか、と問い詰めてはみたが、
わかるからとしかいいようが、といわれたのもまた事実。
さらにいえば、シムルグからも、エミル様ですから、といわれてしまい、何ともいえない気持ちになっていたりする。
彼らは、この姿のときには、エミルと呼べ、とセンチュリオン達から連絡をうけているがゆえに、
なるべく気をつけるようにしている。
特に人前では。
ぽろっとラタトスク様、といってしまい、王の正体が露見してしまえば、
愚かな人がラタトスク…創造主の力をどのように悪用しようとするのか考えるだにおそろしい。

「うん。ミトスから、お守りにって渡されたんだ。…ミトスのなくなったお姉さんの形見って……」
その姉がどうしてなくなったのか、ジーニアスは聞かされていない。
聞けるような内容でもない。
「…大方、人間達に殺された、というところだろ。ハーフエルフの姉ならばハーフエルフだ。
  この国ではそんなことが当たり前におこなわれているからな」
リヒターがそんなジーニアスの心情をわかってか、さらり、と言い捨てる。
「もう、そんないい方!…でも、その可能性はたかいよね。あの村付近にいたのなら特に」
何しろあのオゼットの村にいたものは、ハーフエルフ達とみれば、すぐさまに国に報告するようなものたちばかり。
唯一ちがっていたのは、国から…正確にいえば、教皇騎士団を脱退し、あの村に住みついたとある人物のみ。
もっとも、彼が生み出したといわれるとある術によって今のような暗殺部隊になってしまったのも否めないのだが。
旅をするにしても、この国ではハーフエルフ達にはかなりつらいものがある。
生活するのならば、リヒター達家族のように山奥のほうで隠れ住む、というのが無難なのであろう。
しかし、オゼットのような特殊な樹などが生息している地域ではそんな安息すら得られない。
だからこそ、アステルにしろリヒターにしろ、あのミトスという少年をいぶかしんでいるのだが。
国の巡廻が定期的にあるような場所にいる、ということ自体がありえない、のだから。
「そういえば、ミトスからあずかっていたわね。みせてくれるかしら?ジーニアス?」
「あ、うん。…でも、姉さん、こわさないでよ?」
姉にまでいわれてしまえば、ジーニアスもいや、とはいえない。
ゆえに懐にしまっていたその笛を取り出す。

「この形状は…まさか…」
それをみつつ、しばしながめたアステルが、はっとしたような顔をする。
そしてそのまま、
ぱさぱさと懐より小さな一冊の本らしきものをとりだし、ぱらぱらとめくり、
「あ、やっぱり!特徴が一致してる!もしかしてこれ、リンカの実でつくられた、リンカの笛では!?」
アステルの目がきらきらとかがやく。
「リンカの木はたしか数千年前にすでに絶滅した、といわれてないか?」
そんなアステルにたいし、リヒターがおもわずつっ込みをいれるが。
「どこかにのこっているのかもしれないよ?たとえば、人もはいれないような山奥、とか。
  たしか、伝承というか僕が調べた限りでは、この笛の音は精霊アスカがもっともこのむとかいわれてたはずなんだけど」
伊達に精霊研究においては第一人者、といわれているわけではない。
さらり、としたアステルの台詞。
「一説にはその笛は千里をかける、とかとても美しい音色を醸し出しだす、と古代の文献にはありましたけど」
「精霊アスカ…興味深いわ。でも試してみる価値はあるかもしれないわね。
  もしもその文献が事実だとすれば、精霊アスカと契約できるかもしれないわ」
リフィルがしばし思案顔となり、ジーニアスにふりむき、
「ジーニアス。試してみなさい」
「…ええ!?」
「吹いてみるのよ。その笛を」
「ええええ!?何で!?」
「考えてもごらんなさい。精霊アスカはどこにいるのかわからないのよ?
   ダメでもともと。もしもそれで精霊アスカにであればしいなに契約してもらうこともできるのよ?」
姉のいいたいことが理解できずに叫ぶジーニアスにたいし、淡々としたリフィルの説明がなされてゆく。
「でも……」
「あなたがやらないのなら私がふきます。かしなさい」
「や、やるよ!やればいいんでしょ!姉さん!」
姉に渡せばどうなるかわからない。
それゆえに、意をけっし、大きく息をすいこみ、笛にと口をつける。
それとともに澄み切った音色が笛より響き渡る。
それは不思議な旋律。
「…なつかしいですね。この音色」
ふと、背にのっているシムルグがぽつり、とそんな声をもらしているが。
かつてはよく聞いていたこの音色。
しかし愚かな人が木々を伐採したことにより、世界にこの音色が響き渡らなくなってかなりひさしい。
と。
バサッ。
何やら翼のような羽音がどんどんとちかづいてくる。
「みて、あれ!」
「あれは…光る鳥!?」
「まさか、本当に精霊アスカ!?」
みれば、輝きをたもった鳥がこちら側に近づいてきているのがみてとれる。
それはやがて、その場に上空にと停止する。
二つの頭をもつ、まばゆき光をもった尾羽がながいその鳥。
「懐かしき音色がした、とおもったら…ラティスではないですか。お久しぶりです」
「これはアスカ様。お久しぶりです」
何やら鳥同士でそんな会話がしているのがロイド達の耳にきこえてくるが。
ちらり、とラティスの背をみてみれば、その背にいくつかの人がのっているのがみてとれる。
そしてまた、自分達の王の姿も。
ぱっとみたかぎりでは、普通の人、とおもうであろうが、感じる波動が王である、としらしめる。
人の姿に模している、というのはきいていましたけど、本当に人の子の姿をされてるのですね。
そんなことをおもうが、しかし、傍にいるはずの気配がない。
それゆえに。
「……センチュリオン様がたの姿がみえないようですけど……」
「ああ、センチュリオン様がたなら、おそらく今ごろはジャンケン大会かと」
「…納得しました」
センチュンオン達が、王の傍にいるためにジャンケンで傍にいるメンバーをきめている。
というのはあるいみ精霊達の間ではすでに暗黙の了解となっている。
というより、自分達のところに伝達にきたセンチュリオン達が、ジャンケンにまけた!
といっていたがゆえにしっている、といっても過言でない。
そんな愚痴をいっている、とエミルがしれば、何をやってるんだ、お前達は、とあきれて説教をまちがいなくするであろう。
「…久しぶりなのでいろいろと話しもしたいのですが…そうもいってられませんね」
ふと、こちらにむかってくる気配にきづき、顔をあげる。
「アスカ様?」
「ふむ。そこにいるものは召喚士のようですね。私に用事があるのならば、
  リンカの木のもとで私を呼ぶといいでしょう。が、私はルナと共でなければ契約はしませんよ?
  そういえば、ラズリと一緒でないのは珍しいですね」
「夫は今、ヴェリウスの元に。そろそろ具現化できるほどの力が満ちているようなので」
「ああ、なるほど。では私も新たな同胞のもとにでむくとしましょう。それでは」
ばさばさとその場にとどまりつつも、深くその二つの頭をうなだれて挨拶をしたのちに、
そのまま、ばさり、とその場からとびたってゆく。
「あ!」
しいなが何かいうよりもはやく、その飛び立つ様のほうがはるかに強い。
「そういえば、そんな報告がはいってきてたっけ……」
おもわずエミルがぽそり、とつぶやく。
新たな理をもってして新たな精霊としてこの世界に組み入れたあの存在は、
今はとある場所にてその力をためている状態。
「今のは間違いなく、精霊アスカですよ!すごい!その笛はやはりではリンカの笛!?」
「というか、この鳥…というかこの魔物、精霊と知り合いなのか?」
どうみても知り合いのような会話をしていた。
それはもう誰がきいても、まちがいない、といえるほどに。
互いに人語を操れている、というのがかなりきになるが。
ちなみに彼らが会話していたのは精霊原語であり、ゆえにその会話の内容は、
ロイド達にはわからないが、リフィルや精霊原語に通じているものならば理解は可能。
「…エミル、そのあたりはどうなの?」
「え?この子達は精霊達とは知り合いですよ?」
「…私たちは誕生してもうそろそろ七千年になりますからね。精霊様がたとも交流がありましたし」
そんな疑問に答えるかのように、かわりにシムルグのラティスが返事を返す。
その言葉に嘘はない。
もっとも、基本的に彼ら夫婦はギンヌンガ・カップにてラタトスクの守護、というか、
かの地の守りについていたので、滅多と地上にその任についてのちはでることはなかったが。

「…えっと……」
笛の音がきこえたからレアバードにてやってきてみた。
それはいい。
いいが、何だろう。
これは、なぜに伝説の魔鳥がそこにいるのだろうか。
しかもその背にジーニアス達はのっている。
「あれ?ミトス?ミトス!どうしたの?こんなところに?」
ふと、何かとんできたのにきづき、よくよくみてみれば、そこにはレアバードにのっているミトスの姿。
なぜか上空にてロイド達をみて戸惑いの表情をうかべているのがみてとれる。
「どうしてあなたがレアバードを?」
そんなミトスの姿をみとめ、リフィルが注意深くといかける。
「え、えっと。ごめんなさい。やっぱり僕、心配で…いてもたってもいられなくて。
  そうしたら、レネゲードっていう人達にあって、レアバードっていうこれを貸してもらってそれで……」
レアバードにのったまま、鳥の少し横に移動させつつ、魔物シムルグがこちらに攻撃をしてこないか、
そんな警戒態勢をとりつつも、言葉を選らびつつもミトスがこたえてくる。
アスカが話しもそぞろにこの場からいなくなったのにはわけがある。
そもそも、いまだにミトスはアスカを捕らえようとしていた。
ゆえにアスカは常にミトスの目をのがれるようにして互いの世界を行き来していた。
ミトスが近くにやってきているのをうけて、この場から立ち去った、ただそれだけの理由。
「まあ、そんなことより。とりあえず、皆、パルマコスタにもどらない?
  ロイド達もなんかねむそうだし?」
たしかに気をぬけば眠気が襲ってきているのは事実。
エミルにいわれるまでもなく、ときおりロイドなどは眠気によって船をこくこくとこいでいたりする。
もっとも、ロイドは立ったままでも寝られる器用さをもっているので、
このままほうっておいたらそのままの姿勢で眠ってしまうのは時間の問題だといえよう。
「ミトス…危険かもしれないのに、ありがとう!心配してきてくれたんだね!」
ジーニアスからしてみれば、危険かもしれないのに心配し、
しかもレネゲードにお願いしてまでレアバードをかり、やってきてくれたミトスに感激してしまう。
「ミトスってすごいや!」
自分の身の危険もかえりみずに、心配しての行動なのだろう。
それゆえに素直にそういうジーニアスに対し、
「う、ううん。そんなこと……」
心配だったのは、たしかにジーニアス…同じような境遇の子供のことも心配だった、といえなくもない。
が、何よりも心配だったのは器が失われてしまうかもしれない、というほうのほうがつよい。
それなのに素直なる視線をむけられてミトスからしてはとまどわざるをえない。
「…ニール達に話してきたのか?」
そもそも、あの短時間の間にレアバードをかりられたのか?という疑念はつきない。
そもそも、簡単に人に貸したりするような代物ではない、とリヒターからしてもおもっている。
それゆえに今のミトスの台詞には違和感を感じざるをえない。
そもそも、自分達があの場からとびだったとき、たしかにまだミトスは、
ニールもいっていたが、危険なので部屋にのこしてきています、たしかにそういっていたのだから。
そんなリヒターの疑念は何のその、
「僕、ミトスと友達になれてほんとうによかった!ミトス、ありがとう!」
「え?あ…う、うん、僕もうれしい」
くる直前に視えたのは、精霊アスカの姿。
自分が近づいてくるのを察知してどうやら逃げられてしまったらしいが。
姉が死んでからずっと、精霊アスカは自分の目からのがれている。
ルナのほうはすんなりと捉えることができた、というのに。
もっとも、アスカは姉と契約をかわしていたので仕方がないといえば仕方がなかったのかもしれないが。
ジーニアスの言葉にとまどいながらもおもわず無意識のうちにミトスの口はお礼の言葉を紡ぎだす。
まっすぐな、まったく疑っていないその素直な瞳にみられていると、何だかおちつかなくなってしまう。
それは、かつてミトスがもっていた瞳の輝きそのもの。
今の彼が失ってしまったもの。
そんなミトスの姿をしずかにすこしばかり悲しみの表情をうかべエミルがみていることにふときづき、
リフィルが一瞬首をかしげる。
エミルがミトスをみるときによくうかべているその表情。
それが何を意味するのか、今だにリフィルには判らない。
「あの、それより、その魔物って……」
「え?これか?これは……」
「この子はシムルグのラティスだよ。それより、そろそろ到着するよ?」
会話をしつつも、とりあえず飛行は続けていた。
念派においてゆっくりとではあるが移動するように、といっていたからなのではあるが。
ミトスもそれにあわせ、レアバードを操っていたらしく、すでに眼下にはパルマコスタの街並みがみえている。
ロイドがいいかける言葉をさえぎりエミルがいい、
「パルマコスタがみたえみたい。レティ」
「わかりました」
そのまま、ばさり、とその優雅な体をくねらせて着地態勢をとりはじめる。
「え?あ、えっと…まって!」
なぜに伝説ともいわれている魔物…神鳥、とすらかつてはいわれていたかの魔物がいるのか。
それがミトスにはわからない。
あの鳥をみたことがあるのは、ギンヌンガ・カップではありはしたが、
地上では一度もなかった、というのに。
かの空間を優雅に飛んでいた鳥の姿は今でも鮮明に覚えている。

「お疲れさま。何かあったらまたよぶね?」
「では、私は一度、あちらにもどります」
「うん。ムー達にもよろしくね」
その言葉をうけ、ひとこえいななき、ばさり、とその優雅な巨体を空にと翻す。
そのまままるで青空に溶むかのごとくにその姿はまたたくまにとみえなくなってゆく。
よくよくみれば、その姿が銀色に輝く雲のようなものにつっこみ、その姿がかききえたことに気づくであろうが。
それに気づいたのは、この場ではゼロスとコレット、そしてミトスのみ。
文字通り、まるで雲の中に吸い込まれ、その姿をかきけした、そうとしかみうけられない。
それはまるで、かの峡谷からオゼットにむかうときにつくりだされたあの空間を彷彿させる。
そう、異なる場所同士をつなげたかのごとくに。


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あとがきもどき:
薫:さてさて、今回の話しはまた進んでない…自覚はあります。
  きりのいいところでくぎったら、すこしばかり短く?なったので。
  ひさかたぶりに、別話のIFのほうをば。
  ちなみに、たぶん次回も要領的に話しはすすまない…です…あう……


「祭司長どの!ご無事でしたか!」
痛む腰をさすりながら、聖堂の入口まででてきた。
恐る恐るあたりをうかがってみるがどうやらディザイアンの姿はないようである。
かわりにところどころに魔物達がふせ、の状態で待機しているのがみてとれる。
そして入口階段の前にはのんびりとすわっているエミルの姿が視界にはいる。
彼女は自分の家であの光をみたあと、すぐにここにやってきた。
神託が下る際には祭壇の清めを手伝うことがずいぶん前からの祭司長との取り決めとなっていたがゆえ。
ディザイアン達が突如として侵入してきたのはちょうどその最中。
五、六人であったであろうか。
「神子はどこだ!?」
野太い声で叫ぶディザイアんの一人に、
「ここにはおらんわ!」
答えたとたん、ファイドラはつきとばされ、腰をうちつけた。
直後、どこからともなく魔物達がわきだして、そのディザイタン達に襲いかかる光景をまのあたりにした。
自分達にはまったくもって目もくれず。
「・・・・・・あ~。たぶんエミル殿か。これ」
ファイドラがあきれたようにつぶやき。
「ええ。エミル殿でしょうね」
「でしょうね」
その場にいた他の大人たちもその光景をまのあたりにして諦めの境地とともにため息をつく。
すでにもう大人たちも達観の息。
そもそもエミルがいる場所を襲おうとすればどこからともなく魔物があらわれエミルをまもろうとする。
これはこの半年で嫌でもかれらが見知った現実。
唖然とするその場にいた大人たち。
外からは何やら悲鳴、らしきものがきこえ、外をうかがうとディザイアンらしきものたちが、
おもいっきり魔物の衝撃をうけている光景が目にはいる。
「本当に興味深いわ。あの子って」
光をみてかけつけたリフィルもまたそんなことをいっていたりする。
魔物はなぜか素直にエミルのいうことだけはきく。
むしろ率先して何か命令してくれ、といっているようにもみえるのだからおそろしい。
昔、幼き日に魔物使い、という種族がいた、と里の文献でみたことがあったが、
エミルはもしかしたらその血筋なのかもしれない、とはおもう。
エミルがもしも人を襲え、などと命じれば魔物達はまちがいなく、それを実行するだろう。
という変な確信もある。
たかが半年、されど半年。
…どうやらエミルという存在が彼らにあたえた影響は…計りしれない…らしい……
しばらくするとディザイアン達の姿がみえなくなり、それでも魔物達は周囲に待機状態。
エミルも入口あたりでのんびりと座っているのがみてとれる。
その周囲にこれまたみたこともない魔物をはべらせて。
しばらくすると石段からのぼってくる人影がみえ、そこにさきほどでていった祭司長と、
そして見知っ顔立ち。
その姿をみてほっとするのもつかのま。
てっきり引き上げたとばかりおもっていたディザイアン達が聖堂の左右からばらばらと走りだしてくる。
「コレット!逃げるのじゃ!」
おもわずそれをみて叫ぶフィドラは間違ってはいないだろう。
ファイドラが叫ぶと、ディザイアンの一人…黒髪でがっちりした体格の人物がゆっくりとふりむき、
鋭い眼光でロイド達をふくむ祭司やコレットを見据える。
ちらり、と横眼で魔物にかこまれているらしい少年の影をとらえはするが、
魔物にはばまれてその容姿を確認することはできていない。
部下の報告をうけたときは驚いた。
魔物が、人々をたすけている、魔物の攻撃をうけている、と。
みれば実質、魔物が村人などにはめもくれず、自分達のみを攻撃していた。
そして、一人の子供?らしきものをまもるように魔物が無数、取り囲んでいた。
なぜ護っているのか、とおもったかといえば少年をとりかこむようにして周囲にたいし、
常に威嚇していたからにすぎない。
「あまりむちゃしたらだめだよ~?」
何ともいえないのほほんとした少年の声がぎゃくに煩わしく感じたのもまた事実。
まだ声変わりもしていない、すこし甲高い少年の声。
声からしておそらくは十代そこそこか、よくて十五、六くらいか。
「ポータ様。あれが神子のようです!」
おそらくは組織の制服、なのであろう。
揃いの金属制のヘルメットをかぶり、機能的なつなぎに革ベルトをしめた男たちの一人が、
ロイドや祭司達にかこまれているその中でたったひとりの少女をめざとくみつけ指をさす。
ポータと呼ばれた男は無言でうなづく。
この男だけは制服をきておらず、筋肉筋のあがった片腕をむきだしにしている。
「よし。神子よ。その命、もらいうけるぞ!」
ポータの野太い声が響いた瞬間、ロイドはコレットの前にと躍り出る。
「馬鹿な!そんなことやらせるかよ!」
いいつつ、ロイドはエクスフィアを装備した左手で腰の剣をぬき、続いてもう一か所の鞘から二本目の剣をぬく。
「ぼ、僕だって!」
それをみたジーニアスはポケットの中から剣だ魔をだしかまえる。
「だてに日ごろから鍛練してるわけじゃねえぜ!ディザイアンなんかに好きにされてたまるかってんだ!」
「そういうけど、ロイド。今までエミルに全戦全敗だよね」
「ほっとけ!」
何となく、ロイドがひとりで素ぶりをしていたところにエミルがいわあせ、
それじゃ、だめだよ。
といって、ならやってみろよ、といったところ、予想外。
エミルはどうやら武器の扱いもすごいらしく、ロイドではその剣技すら目にとめることができなかった。
それから、鍛練につきあってほしい、といわれ、エミルがとった行動。
それは…どこからともなく魔物をよびだして、この子達がつきあってくれるって。
とにこやかにいわれ…ほとんど死ぬような思いをして鍛練しているこの半年。
ロイド達がポータを睨みつけたとたん。
「ぶわっはっはっ!」
ひときわ大きな笑い声がひびいてくる。
みれば、別の男が聖堂の左からでてきており、
鉄骨の鎧に左手にハンマー、巨大な鎖つきの鉄球をぶらさげており、
体つきだけでもポーダ、とよばれた男よりは確実に数倍はある。
「ディザイアン、か。ぶわはははっ!」
男は何がおかしいのかひたすらに爆笑している。
「ん~。あ、ちょぅどいいかも。ロイド~、その人今日の鍛練にするね~?
  皆、手をだしたらだめだよ~。あ、祭司様達は保護してね?」
わらわらわら。
そんな中、場ににあわないのんびりとしたエミルの声がとどいてくる。
と。
その声にあわせ、あっというまにコレットとそして祭司のみの周りにだけ魔物達が出現し、
それらはぐるり、と彼らを護るように取り囲む。
「ちょっとまてぃ!エミル!」
「ええ!?僕までまきこむの!?」
ロイドとジーニアスの悲鳴は何のその。
「ほう。魔物使い。か。途絶えて久しい、ときいていたが、いきのこっていたか」
魔物使い。
それはリフィルがエミルの能力…すなわち、魔物をてなづける能力をみてそうではないか、
と村人たちに説明している一族の総称。
エミルにきいても首をかしげ、テネブラエにいたってはなぜか話しをはぐらかされる。
姿を確認したいが巨大な…どうみても一回り以上はありそうな狼のような魔物やそのほかの魔物にとりかこまれ、
その中にいるであろう少年?の姿は彼らの目からは確認することができない。
「でぇぇぃ!やけくそだぁぁ!」
「うわ~ん!まだエミルの魔物の特訓のほうがましだよぉぉ!」
「うわ~。実戦か~。頑張ってね~」
「…神子様。緊張感ありませんね……」
そんな二人にのんびりと応援の声をかけているコレット。
そんなコレットをみて苦笑している祭司長。
「ふ。まあいい。なにか馬鹿にされてるような気がするが…
  小僧!ではその憎いヴィーダルが相手だ!」
男は鉄球をぶんぶんふり回しながらロイドたちにと迫ってくる。
コレットのほうにいこうとした下っ端達はもののみごとに魔物の餌食になったのか、
ものすごい悲鳴をあげてその場に倒れ伏していたりする。
どうでもいいが完全に魔物達にあそばれているっぽく、
魔物達のあいだでぽんぽんとまるでお手玉のようにしてなげられているのはこれいかに。
人の体ってあそこまで軽くなるんだ、と変な感想を一瞬もってしまうほど。
「こっちはまかせて!ロイド!ファイアーボール!」
ボーダの元にのこっていた下っ端三人…どうやら魔物の攻撃をみてひるんでいたっぽい。
に、すかさずジーニアスが炎の術を炸裂される。
「いいな~。私も参加したい…」
「神子様!それはいけません!」
「え~?」
一人コレットは護られているのが嫌なのか不安顔。
彼女のおてんばぶりをしっている祭司達が必至におしとどめているのがみてとれる。
ロイド達がしばし応戦していると、下っ端達は聖堂の裏手にむけてはしってゆく。
「な~んだ、楽勝か?」
「そうでもないみたいだよ?」
ジーニアスが緊張した声でつたえる。
ヴィーダルが鉄球を振り回す音が繰り返し聞こえてくる。
まるで巨大なは無視が飛んででもいるようなとても鈍くて嫌なおと。
あるいみトラウマを刺激する。
「…うわ~…エミルがよびだしたデスビーナイツって魔物思い出すよ…この音…」
集団で、しかも魔法をつかってきたあの魔物はあるいみトラウマ。
ぽろぼろになったのは記憶にあたらしい。
「小僧ども。我らが崇高なる目的を邪魔だてするな!」
「な、なんだよ!目的って…うわっ!」
ジーニアスが火炎球をはなったが、先ほどと違いまったく聞かない。
「ふんっ」
ウィーダルは太い腕で炎を振り払うとちょうどそこへ振り下ろされたロイドの剣をハンマーでうけとめる。
「う~ん。あと百数える間にどうにかしないと。今日の特訓は海でリヴァイサンでもよぼっかな~…」
ぴききっ。
その台詞におもいっきり固まるロイドとジーニアス。
「んなのにかてるかっ!」
「あ、くじらさんか~。あのこかわいいよね!」
それをきき、ひとりはしゃいでいるコレットはともかくとして。
どうでもいいが、記憶がほぼない状態で、
ほとんどの魔物を呼び出せたエミルはさすが、としかいいようがない。
もっとも、魔物の種類をいえるテネブラエの存在があってこそ、ともいえるのであろうが。
「え?ならグランゲートのほうがいい?」
何かきいたことのない名前がでてきたがさきほどより洒落にならないような気がする。
それはもうひしひしと。
「じ、ジーニアス!本気でいくぞ!」
「うん!時間稼ぎおねがい!」
「おう!」
「ふははっ!無駄むだぁ!」
ジーニアスがすばやくたっと背後にさがり、ロイドがふたたびかまえ、
そして技の姿勢をとる。
「…魔人、千烈破!!!!!!」
ロイドがふるった刃からいくつもの風の衝撃が相手に襲いかかり、
相手がその風をなぎはらったその刹那。
ロイドがそのまま相手の懐にはいりこみ、するどい剣技を連続でたたきつける。
…人間、ほぼ毎日死ぬ気で特訓していれば嫌でもつよくなるものである。
「イラブション!!!!」
「な…なに!?」
ロイドの続く剣技にひるんだその矢先、ジーニアスの詠唱が完了する。
ちなみにこれらの詠唱はエミルにきくと何となくわかる、とのことらしい。
もっともエミルが使用する場合、そんなものは必要ない、のだが……
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま炎の渦にまきこまれ、何やら絶叫をあげて倒れるヴィーダル。
「あ。残念。七十までかぞえてたのに……」
「よ、よかった。たすかった!」
「うん。リヴァザイアンなんて洒落にならないよね…あれは」
呼び出されたときはもう死ぬかとおもった切実に。
と。
「…すごい音がしたとおもったら……これは、お前たちがやったのか?」
聞きなれない声がする。
と。
魔物達がいっせいにその声の主にたいして威嚇状態に陥るが。
その姿をみてエミルは、はっとしたように一歩下がり距離をとる。
その目に宿るは、あからかな悲しみ。
「…まさか……」
そんな主の姿を横でみて、はっとしたような表情をしおもわずつぶやくテネブラエ。
ラタトスク様がこのような反応をする、ということは、まさか、裏切ったのは…彼ら?
ラタトスク様の地上での分身体を殺したのは…裏切ったのは……
クラトス、となのった人物はテネブラエにとっては懐かしいヒト。
声をかける前にエミルの反応をみてしまった、それゆえに気づいてしまった。
かの地を絶対にデリスエンブレムをもつ、そして加護をもつヒトが入れないようにしたのは……
判りたくないけど判ってしまう。
そして…自分達をどうしてあのとき、強制的に眠らせたのか、ということまでも。
おそらく、気づいていたのであろう。
彼らが、自分を『殺す』可能性が、ある。と。
自分達が眠りについたのは、ラタトスクが彼らに種を渡したのち。
実りの力をもたない種を渡したのは、人々に新たな希望を、というミトスの意見もあってこそ。
ラタトスクには未来を視る力もあった。
それゆえ、なのかもしれない。
ここに現れたのも未来を視たがゆえにの決定なのかもしれない。
しかしテネブラエが考えてもわからない。
そもそもラタトスクはそういったことを口にだすタイプではない。
というか、またか!という思いはある。
かつてのときもそう、であった。
彼らはラタトスクを裏切った。
魂が同じならば同じような道をたどるのか?とすらもおもってしまうが、
どちらにしろいろいろな意味で進歩がないのかもしれない。
もっとも、それを見越して一応は、メルネスに相談し、彼もまたしばし考えたのち、
自分がならば安定させるために眠りにつく、という提案をしてきたのだが。
だからこそ、ラタトスクは地上から大樹を消滅させた。
その事情をしっていたのは、ラタトスクとゲーテとメルネスのみ。
他の元素の主であるマクスウェルとオリジンは気づいていたようだが。
そもそもかのとき、一度他の精霊は還りゆいて、あらたに再生したものたち。
一度、惑星そのものが大異変に襲われ、他の精霊達は存在することすら危うくなってしまった。
それゆえに仕方なく、また自らの力で大樹としたのだが。
なぜかどこかでそのあたりの真実が彎曲して、そのときの隕石…すなわち彗星が、
デリス・カーラーンだなどといわれてたりするのだが。
デリス・カーラーンはラタトスクが呼寄せたにすぎないという事実ははっきりいって精霊達以外には知られていない。
そもそもあれで天界まで崩壊してしまったのは痛かった。
せっかく新たな理でどうにかしていた、というのに。
デリス・カーラーンはそのための布石。
また新たに理を引き直すためにすこしばかりの補佐に呼寄せたにすぎない。
魔物達も王の雰囲気で察したのかあからさまに殺気だっている。
何かがあればすぐにでもいっせいに攻撃できる体制。
声の主は三十歳前後、といったところか。
長く紅い前髪から除く眼光がするどい男。
「まさか、きさまがあらわれるとはな」
ポーダ、とよばれていた男がその現れた男をみて眉をひそめ唇をわななかせていってくる。
「あんた、あいつと知り合いか?」
ロイドがあらわれた男に警戒しつつ問いかけるが男は無言。
そもそもエミルを護っている魔物があからさまに警戒していることから、素直に味方だ、とは信じがたい。
「ここはのけ」
いいつつも、すらり、と剣をぬきはなち、ボーダにとつきつける。
「くっ!ここは一時撤退するぞ!」
そもそも魔物も多数いて、さらには子供ながらに強い詠唱力をもち、
ついでに子供なのに剣技もある程度はある人材。
何やら会話のはしにあの魔物使いの少年?が彼らを鍛えているらしい、というのは予測がつくが。
まあ、リヴァイサン云々は冗談だ、ととらえているのもまた事実。
…そもそも伝説上の最強の力をもつ、という魔物を従えられる人間がいるなど信じがたい。
それがいくら魔物つかいの系統であろうとも。
ポーダの命令にまだのこっていた下っ端らしきものたちがまっていたとばかりにあわてて逃げだす。
…どうやら魔物達と戦うのは嫌、だったらしい。
「え、えっと。とりあえず助かりました。私は祭司長のユーリといいます。あなたは?」
「何。私は何もしていない。ただ騒ぎがきこえたのでな。それに相手を撃退したのはそこの子供達だ。
  子供ながらにいい腕をしているな」
「へへん。…下手にエミルに特訓うけてないぜっ!」
「エミルって特訓のとき容赦ないからね~……」
「…人格かわってるよな、あれ……」
いつもはのほほんとしているのに特訓のときには容赦がない。
もっとも丁寧な口調でこてんぱにやられるほうがかなりこたえるのもまた事実。
本性をださないままに特訓しているのはさすが、としかいいようがない。
「…エミル?」
そういわれ子供達が示す視線の先にはいきりたった魔物達の群れ。
そう、まさに群れ。
ことごとく彼にむかって今にもとびかからんばかりの殺気をむけてきてる多数の魔物。
「もう、皆。大丈夫だって。そんなに殺気たたないの」
一方でいきりだっている魔物たちにのんびりと諭しているエミルの姿。
しかもここにいる誰に襲いかかるわけでなく、何か統制がとれているように感じられる。
と。
「エミル様。襲撃者達は全員、撤退した模様です」
配下のものをつかい、周囲をきちんと探らせた。
どうやら彼らは完全に撤退、したらしい。
記憶を読み取る配下のものに影から接触させてみたが、どうやらエミルの容姿は気づかれていない模様。
そのことにほっとする。
もっとも気づかれていたらそく、記憶改善を行うつもりではあったのだが。
「そっか。御苦労さま。テネブラエ。あ。祭司長様。もう襲撃者はいないみたいですよ?」
「おお。それはそれは。これで滞りなく神託の儀式をおこなえますね」
エミルが一歩前にでると、さあっと魔物達が一斉に道をあける。
魔物達の中からでてきたのは、金の髪に緑の瞳をもつ十五、六くらいかとても華奢な少年。
長い髪を後ろでまとめており、おそらくのばしていれば女のこ?と見間違うばかりに整った顔だち。
服装はとてもかわっておりこのあたりではみたことのない服装をきこなしている。
ふとロイドは男の手にあるものにきづく。
あれは、エクスフィア!?
自分の左手にあるのと同じものを男の手にみつけ思わず驚きをかくせないロイド。
「神託の儀式?なるほど、その少女が今回の神子なのだな」
じっと男にみつめられ、コレットははっとし、
「そうだ!神託をうけなくちゃ。おばあさま。私はこれから試練をうけてまいります」
いいつつ、一歩前にとでる。
「はあ?試練って何だよ?神託じゃかったのか?」
「神子は神託をうけるにあたり、天からの試練と審判をうけるのじゃよ。ロイド。
  しかし、おぬし少しみない間にかなり腕をあげたようじゃのぉ。ジーニアスもじゃ」
「えへへ。そうかな?」
「…基礎をしっかりと嫌でもエミルにたたきこまれてるもんね…ロイド」
「う」
照れるロイドにすかさずジーニアスがつっこみ、言葉につまるロイドであるが。
「ロイドはしょぅがないよ。でもさ。何で癖がありまくる二刀流にしたのかがわからないけど。
  まあ、双剣士ってところかな?」
いまだにいきりたつ魔物たちをなだめたのち、てくてくとコレットたちのほうへあるいてゆくエミルの姿。
そんなエミルの横ではいつでも配下のものをすぐによびだせるように警戒しているテネブラエの姿もみてとれる。
「助かりました。エミル殿」
「いえいえ。なんか森がさわがしかったからきてみただけですから」
それも嘘ではない。
襲撃がある、とわかってきた、というのをいっていないだけ。
「…お前は、ロイド、というのか?」
「そうだけど?」
男はロイド、の名前をきき、少し驚いたようにロイドをみる。
その顔には失ったなつかしき面影がある。
まさか…な。
そんなはずはない。
あのとき、ロイドは…息子は、アンナとともに……
生きていればたしかに目の前の少年とおなじくらいであろう。
「人に名前を尋ねる前にまず名乗ったらどうなんだよ」
「そうか。それもそうだな」
だが、男はロイドにくるりと背をむけると、ファイドラにむかい、
「私クラトス。傭兵だ。マーテル教会より神子の護衛を、と頼まれた。ちなみに前金はもらってある。
  何でもずっと失敗つづきゆえに今回は成功させたい、との意向らしい」
「?そのようなお話しはきいておりませんが?」
「ここまでまだ連絡がきてないのではないのか?この異常気象だ。通行もマヒしてるしな」
確かに指摘されるとおり。
この数年の異常気象でたしかに旅をするにしてもきつい状況になっている。
「依頼をしたとすれば、パルマコスタの教会、ですかね?祭司様?」
この大陸にはそんな依頼がだせるほどの大きな村もなければ街もない。
可能性としてはパルマコスタしか思いつかない。
「それは私にもわからん。私は使者から依頼をうけたのでな。とにかく前金はもらっている。
  ゆえに私も傭兵として神子をまもる義務がある。だからここにきた」
「それはそれは。助かります。こちらにいる子が神子コレットです」
「なんかこの中から友達の気配がするから、僕もついてくよ」
「ほんと?エミル。おねがいしよっかな?」
「うん。だって友達がもしコレットに傷つけたら僕かなしいよ?」
「エミル。うん。そうだね」
「…エミルの友達って……」
「何で聖堂に魔物がいるの!?」
エミルが友達、と呼ぶのは大概魔物。
ゆえにそういうロイドとジーニアスはおそらく間違ってはいない。
「マーテル様もお許しになるでしょう。そもそも無駄な殺生はマーテル様も望まないはずです。
  エミル殿。最上階まで神子をお願いしてもいいですかな?」
「うん」
「…いや、まて。魔物が…友達?」
ひとりクラトスが何やら考え込んだような様子であるが。
そもそも報告ではこの村にはこんな子供はいなかったはず、である。
にもかかわらずこの村の人達はこの子供に驚いていない。
ということは報告みすか?
そう判断する。
「あ。祭司長様。俺達もいっていいですか?」
ひとりぶつぶついうクラトスとは対照的に、祭司長にいっているロイド。
「しかし……」
「足手まといだ」
即答。
クラトスのそんな台詞に、
「なんだと?!」
「かえれ、といったんだ」
にべもなくぴしゃり、といいはなつ。
「嫌だ」
しばしのにらみ合い。
その瞳におもわずたじろぐ。
あの子もそうだった。
決めたことはまっすぐで…この瞳の輝きをやどしていた。
みていたら錯覚してしまいそうになる。
息子がそこにいる、と。
「あのぉ。傭兵さん?お願いです。どうかロイドも一緒につれていってください。
  私、ロイドがいないと不安です。傭兵さん!」
「…コレット。クラトスだってば」
ジーニアスが小声で名前をいうがどうやらコレットは聞いていないもよう。
「勝手にしろ」
どうやらクラトスは折れたらしい。
というより正確にいえば、ロイドの視線をこれ以上うけていられなかった、というのが事実。
幼き日の息子の面影を宿したその少年、の視線を。
「ありがとな。コレット」
「ううん。本当のことだもん」
「あのぅ?僕もいくの?」
「ったりまえだろ!」
「ええ~!?」
ロイドに腕をつかまれたジーニアスが抵抗するが、
「子供の遠足ではないのだがな」
「なんだよ。子供でわるかったな。ちょっと感じわるいよね~」
「いこ。光りが消えるまえにいかないと」
ともあれ、エミルを加えたコレット・エミル・ロイド・ジーニアス、そしてクラトス。
五人はそのまま聖堂の中へ。


この調子でちまちまとこの別話IFさんあげてたら、ある程度の場所にまでいくかな?
ともあれ、ではまたこの話のIFはまたいつかv

2013年7月21日(日)某日

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