まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
容量的におそらくは、絶海牧場さんはこの一話でおわるはずv
どこで区切るかが大問題…
ともあれ、いっきますv
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「やはり、テセアラとこちらでは細かい部分がことなっているようだな」
「だね。でもこうして見比べてみれば、クルシスによって歴史が彎曲されているのがよくわかるよ」
シルヴァランドに残されしかつての資料。
ニールを通じ、今は亡き夫にかわり総督府をまもっている、というクララという女性。
ドア夫人の許可もあり、保管されているという資料を閲覧している今現在。
こちらの世界ではたしかに差別などというものはあるが、テセアラほど謙虚ではない。
国、という概念がないせいか、差別はあれどもさほどひどくない、そうおもう。
何よりも、貧民街などというものが存在していない。
それぞれのものが、生きるために必至になっている、というのはみてとれるが。
すくなくとも、衰退世界、とよばれているわりに活気にみちている、そうおもう。
結局のところ、許可がでて、気づけば一晩中、資料室に閉じこもっていたようではあるが。
窓から差し込んでくる光がそれを指し示している。
そんな会話をしている最中。
「大変だ!浜に巨大なクジラの魔物がやってきたぞ!」
何やら外のほうが騒がしい。
「何だって!?」
「ここ最近、あらわれているという海の魔物か!?」
「いや、魔物とはいえくじらだろう?浜にうちあげられたら死ぬのでは?」
「しかし、陸でも活動するクジラの魔物は目撃されてるぞ!?」
そんな会話がきこえてくる。
「リヒター!」
「いくのか。ったく」
「こっちでの魔物の生体を調べるのにいいチャンスだよ!」
テセアラでの魔物の生体系は魔物部門を扱う部署のものたちからいろいろときいている。
アステルもまた調べてはいる。
が、こちら…シルヴァランドの生態系に関してはまったく知らないといってもよい。
ゆえにアステルの目がきらきらとかがやく。
「…いっても無駄だろ。が、ここのものたちの邪魔はするなよ?」
こちら側の魔物の強さはわからないが。
だがしかし、ここ最近、マナが安定したその直後から、
異様に魔物がつよくなってきている、とは報告があがってきている。
それはこちらの世界でも同じなのかはわからないが、用心にこしたことはない。
それゆえのリヒターの忠告。
「わかってるって。うふふ。解剖とかできるかなぁ?」
「…わかってない。わかってないぞ…絶対にこいつは・・・は~……」
アステルのいつものごとくのその様子にリヒターはため息をつかざるをえない。
どうも研究対象を目の前にすると、このアステルはかなり変わっている、と、
リヒターですら思わざるをえない、のだから……
光と闇の協奏曲 ~絶海牧場にて~
絶海牧場。
パルマコスタの南に位置し、海底にとつくられし人間牧場。
入口は、孤島にあり、そこからしか海底牧場にははいれない、らしい。
きくところによれば、これまでの牧場のどこよりも複雑な構造をもっている、らしい。
ここにくるまで簡単な牧場の構造などもレネゲードのボーダよりロイド達は聞かされた。
「そこまで複雑にしている、というのはおそらく、魔導砲のことがあるからね」
ロディルはクルシスにすら反旗を翻そうとしている、とボーダはいう。
ならば、それにそなえ、自分の拠点とすべく複雑怪奇なる施設をつくっていても不思議ではない。
そんなリフィルの言葉にうなづき、
「我々はここの魔道炉に用がある。ここをまっすぐに進めば牧場へつながっているはずだ」
孤島にとある入口からはいると、どうやら地下にとつづく道らしきものがあり、
ガラスのようなものでできた海の中にとつづく道らしきものが地下にむかってのびているのがみてとれる。
こくり、とうなづくロイド達をちらりとみて、そのまま移動しようとするものの、ふと足をとめ、
「そうだ。一ついい忘れていた。お前達、行く先々で牧場を破壊しているようだが。
魔道炉は大いなる実りの発芽に欠かせないのだ。ここは破壊するなよ?」
それでなくても、他の施設の魔道炉がなくなったことにより、古代の魔道炉を使用するはめとなり、
かなりの手間をかくことになってしまったのもまた事実。
それゆえにボーダが忠告がてらにいってくる。
まだ、解放されているままのかの装置に手を加えるのならまだしも、
いまだに完全に解放されていない装置に手をくわえるのは、あきらかにクルシスのコアシステム。
すなわち、世界管理制御システムに感知される可能性がある中での作業。
それが牧場にある魔道炉ならばまったくもって問題はなかったはず、なのに。
「だってよ。先生」
「別意味なく破壊していたわけではなくてよ」
ロイドの言葉にリフィルがため息まじりにいってくる。
そもそも、破壊したのは事実だが、あそこまで破壊というか消失するなどおもっていなかった。
そこまでクルシスの、否、ディザイアンの自爆装置がとてつもないものだったのか。
そうは絶対におもえない。
あきらかに、何かの力が加わっている、とはおもう。
それが何か、まではわからないが。
自然の力が何らかの形でくわわりあのようになったか、もしくは魔物の力によるものか…
果てしなく後者のような気もしなくもないが、ひしひしと。
何しろあの侵入時には人っ子一人、捉われていた人々以外にはおらず、
また、次なる牧場においてはエミルがさくっと魔物を呼び出して…
どうみてもエミルの命令、であったのであろう、魔物がディザイアンを襲っていた、のだから。
「ふむ。やはり魔導砲とやらを無効化させるためには、管制室にいく必要があるのだろうな」
そんな会話をききつつも、リーガルが淡々といってくる。
「オレの勘では、多分一番奥だな。施設から行くとたぶん最上階になるんじゃないのか?」
「さすがロイド~」
そんなロイドの言葉にコレットが感心したようにいい、
「もう、何どもこういうところにきてるもんね。わかって当たり前だよね」
さらり、と流すようにいってくるジーニアス。
「・・・・」
ジーニアスの言葉におもわずロイドはだまりこむ。
「というか、これから地下にいくんだから、最上階、という表現当てはまるのかな?」
「・・・・・・・・・・」
実際問題、いまだにまだロイド達は小島にある入口にといる状態。
この入口からどうやら牧場につづいている道がある、らしいのだが。
海の中に建設されているという牧場はどうみてもここからみれば地下にあたる。
それゆえに、最上階云々、という表現はどうかとおもう。
さらなるエミルのつっ込みにロイドはさらに無言となりはて、もおわずそっぽをむいてしまう。
「よ、よし。と、とにかく、その管制室とやらをさがしにいこうぜ!」
「「あ、話題そらした」」
ジーニアスとエミルの突っ込みはどうやら聞かなかったことにしたらしい。
そんなロイドにたいし、エミルとジーニアス、二人の声がかさなる。
長くつづく筒のような中をすすんでゆくことしばし。
どれくらい歩いたのかすらもはやわからないが。
筒のような通りを抜け、今度は狭い足場のような場所を動く台座にのって進む場所にと。
そんな足場をぬけ、すすむことしばし。
やがて広い空間にとおどりでる。
おそらくここが、牧場の施設内、なのだろう。
その中央らしき場所には巨大な塔のようものがみてとれる。
ゆっくりとした下降した筒の道を超えた先に、転移装置があり、その転移装置にのった先にたどり着いた場所。
辺りはほんのりと薄暗い。
転移装置により、牧場のとある一角に転送されたのだ、と理解するのはそう難しくはない。
先ほどとはまったく雰囲気の異なる場所。
その中心にはエレベーターらしきものがみてとれる。
さすがに、レザレノ・カンパニーにて一度乗ったことがあるがゆえに、いくらロイドとて理解はできる。
その規模の大きさはともかくとして。
隠れてみていれば、そこからディザイアンらしきものたちが移動しているのがみてとれればなおさらに。
ざっと周囲を確認してみるが、どうやらこの牧場にあるのであろう移動手段はその塔の中に設置されている、
エレベーターが一つだけ、らしい。
「どうやら、ディザイアン達はこのエレベーターをつかって移動しているみたいね。
とすると、話しは簡単ね」
リフィルがしばし思案しながらもロイド達をみながらいってくる。
「先生?」
「ディザイアンに動かしてもらえばいいのよ。そうすればきっと管制室に自動でつれていってくれるわ」
「ああ。なるほど。つまり、動かさざるをえない状況にするってことかい?…あくどいね」
リフィルのいいことを察し、しいながいってくるが。
そもそも、敵を利用しよう、とおもいつくのがあくどい、といわず何というのだろう。
それゆえのしいなの台詞。
「し。何かきこえる」
そんな彼らの会話を遮りコレットがつぶやく。
「人の声?…こっちだ!」
それは救いをもとめる声。
ゆえに用心深くも周囲を確認しつつ、それでも声のほうへとかけだしてゆくジーニアス。
そして。
「ああ!?きて!ここ、牢獄になってる!つかまっている人達がここに収容されているんだ!」
そこに捕われているヒトをみつけ、おもわずジーニアスが場所も場所だ、というのに大声で叫ぶ。
ジーニアスの声をきき、ロイド達もおもわずその場からかけだし、ジーニアスのいる場所へ。
「助けてくれ…助け…」
「誰か……」
弱弱しい声ががっしりとした扉の向こうから漏れてきこえてくる。
男のものもあれば、息もたえだえの女のものもあるらしい。
「ここでもエクスフィアをつくっているのかな?」
扉は頑丈で、開きそうにもない。
扉の向こうの様子もわからないが、きこえてくるものは本物で。
それゆえにジーニアスがぼつり、とつぶやく。
エミルはすこしばかり目をとじて、扉の向こうに意識をむけて視る。
どうやらこの奥にいるものたちは、エクスフィアというよりは、魔血玉の栄養にさせられているっぽい。
それゆえにおもわず眉をひそめるエミル。
「そうかもしれないわね。とにかく、救出するのならはやくしましょう。
ロディルに時間を与えるのは得策ではなくてよ」
リフィルの言葉に、壁を調べていたゼロスがふりかえり、
「判ってるよ。リフィル様ぁ。俺様、スイッチ発見~♪なんかいっぱいあるぜ?」
たしかにそこにはいくつものスイッチらしきものがあり、そのどれかがおそらく扉を開く、かぎ、なのだろうが。
そのまま、手当たり次第というか勘に従ってスイッチにふれてゆくゼロス。
と、それまで硬く閉ざされていた扉がすんなりとひらき、獣の牙のような鉄格子らしきものも開いてゆく。
扉が開いたことにより、これ幸い、と収容されていたのであろう人々がどっと外にとおしでてくる。
何しろあの場にいただけで命を吸い取られてゆく感覚であったのである。
逃げ場もなく、仲間がやがて溶けて血の海の中に沈んでゆくのをみていることしかできなかった。
そんな中、逃げ道ができれば、われさきに、と押し出るのは心情的にわからなくはない。
扉からでてきて人々がみたのは、そこに見慣れぬ人々。
なぜか女子供…大人はたったの一人っぽい。
しかもディザイアンの服をきているわけではなく、一人ほど手枷をしている男性がかなりきにかかるが。
「皆!もう大丈夫だ。出口はあっちだから、急いでな!」
ロイドがそんな彼らに自分達が通ってきたトンネルの方向をゆびさし語りかける。
「あ、あの…」
とまどうそんな彼らに対し、
「コレット、羽をだして」
「ふえ?」
「いいから」
「あ、はい」
リフィルにいわれるままにと羽をだす。
ふわり、とした桃色の輝く羽がコレットの背にと出現する。
「私たちは神子一行です。あなた達をたすけにきました。さあ、はやくここから逃げてください」
もっとも、ここから出たとしても小島である以上、そこから身動きがとれないであろうが。
そのあたりはぬかりはない。
一人の収容されていたものに、筒のようなものをにぎらせる。
「それは、救難信号です。それを空に放てばパルマコスタから応援がくる手筈になっています」
ここにくるにあたり、ニールに頼んでいたこと。
どちらにしても絶海牧場にいくつもりではあったので、足がなくては困るので、
とニールにリフィルがあらかじめ、旅立つときに相談していた。
そのときに、ニールから手渡されたのがこの救難信号。
信号弾となっているそれを空に放つことにより、バルマコスタの船がそちらにむかいくる手筈になっている、はず。
それゆえのリフィルの台詞。
『おお!神子様だ!天使様だ!!』
再生の神子が旅たっている、というのはシルヴァランドのものでは知らないものがいないほど。
それは牧場に捕われているものたちですら、救いの象徴、として希望としてこっそりとつたわっている。
ゆえに、目の前に羽をもつコレットの姿をみて、おもわずおがむ収容されていた人達の姿すら。
「急いで!」
リフィルの指摘に、とまどいつつも、この場をあとにしてゆく人々の姿。
「また地上であおうな!」
そんな彼らにむけてロイドが片手をあげて応援の言葉をおくるとほぼ同時。
「危ない!」
さすがにこれだれ大声で、しかも騒ぎをおこしていれば気づかれないはずもなく。
騒ぎをきつけかけつけてきたのであろうディザイアン達がロイド達にむかい攻撃をしかけてくる。
条件反射できりかかってきたものを剣をぬきつつ退ける。
「く!ロディル様に報告を!」
どうやら他にも仲間がいたらしく、仲間が倒されたのをみてとり、エレベーターを起動させる姿がみてとれる。
「そうはいかないよ!」
しいなが思わず叫ぶが。
「あれ利用したらいいんじゃないの?」
どうやら完全に失念してるらしい。
それゆえにエミルがロイド達に提案する。
何を、と詳しく説明する必要はない。
そんなエミルの言葉にそれぞれが顔をみあわせ、そのまま彼らは走り出す。
そして、そのままエレベーターに乗り込んでいたディザイアンをそのままぽいっと逆にほうりだす。
全員が乗り込むとほぼ同時、エレベーターの扉がしまり、ぐぃん、とエレベーターは動きだす。
「そういえば、ボーダはどこにいったんだろ?」
ここにくるまで彼らとは出会わなかった。
それゆえにロイドが首をかしげてつぶやくが。
「彼らは彼らのすることをしにいったんじゃないの?」
「たしかに、エミルのいうとおりね。問題は、このエレベーターが管制室に続いていればいいのだけど……」
このエレベーターはみたところ、階を示すボタンがない。
あるにはあるのだが、特定のカードキーがなければその階を示す扉は開かないようになっている。
先に乗り込んでいたディザイアンが
カードキーをつかい、階を選ぶボタンを押したところでロイド達が乗り込んだがゆえに、
どの階に続いているのか、ロイド達とてわからない。
どちらかといえばそのままディザイアンをのこし、説明役としてのこしていれば不都合はなかったであろうに、
とエミルはおもうが、こちらが意見するよりも先にぽいっと中にいたヒトを放り出したのだからどうにもならない。
「ま、いってみればわかるんじゃねえの?」
「あんたねぇ。まあたしかに、いうとおり、なんだけどね」
「この階を示すであろう文字…天使言語、だわ」
そこにかかれてる文字はあきらかに天使言語。
リフィルが興味深そうに階を示しているであろうそれをしみじみとみているが。
「もう、姉さん、今はそんなことより…」
ジーニアスがあきれたようにいうのとほぼ同時。
がくん、とエレベーターがとまり、それとともに扉がひらかれる。
どうやらどこかについたらしい。
エレベーターから降りると、まず目にはいったのはいくつもの機械類とスクリーン。
どうやら制御室らしいその部屋の奥のほうから、ロディルがこちらをみて不敵な笑みを浮かべているのがみてとれる。
「「ロディル!」」
その叫びはプレセアとリーガル、ほぼ同時。
なぜ生きているのか、いろいろとおかしなことはある。
あのとき、たしかにゼロスに殺されていたはず、なのに。
「生きておったのか。神子くずれとその仲間達よ。ゴキブリ並みの生命力じゃのぉ」
「え?ここのゴキブリ、そんなにいきてないよ?あの子達が誕生してまだ…」
いまだ誕生して一万年もたっていない。
ゆえにおもわず素にてエミルが首をかしげるが。
その意味はこの場にいる誰にも理解不能。
「ヴァーリと二人で、私をだました、んですね……」
「おお。プレセアか。お前がその小さい体でクルシスの輝石を創りだしてくれていれば、
私ももっと大事にしてあげたのですがねぇ」
「消えなさい!」
ブレセアがおもいっきりその姿にむけて斧を振り下ろすが、その姿はままたくまにとかききえる。
「幻影か」
「いえ、立体映像ね」
どうやら近くにいたとおもわれたロディルは立体的に映し出されていた映像にすぎなかったらしい。
リーガルのつぶやきにリフィルが即座に突っ込みをいれる。
「フォッフォッフオッ。まあ、そういきりたたずに。投影機をみなさい。
これからちょっとした水中ショーをおみせしよう」
ロディルの横にとあるスクリーンが映像を映し出す。
解放されたばかりの人々が喜びに満ちた表情で通路を歩く姿がそこには映し出されている。
が、突如として人々の足がとまる。
「あ!」
コレットが叫ぶ。
通路の下から海水が勢いよくあがってきている様子が映し出されているのがみてとれる。
「やめて!みんな、しんじゃう!」
「ひ…ひどい!」
海水はどんどんと満ち溢れてゆくが。
「まったく、これだからヒトは……アクア」
「は~い」
ふわん。
そんな光景をみつつ、ため息ひとつつき、僕の名をぽつり、とつぶやくエミル。
それとともに、突如としてその場に出現する青き色をまといし異形の人型の何か、が出現する。
長く伸ばした青い髪、青白い肌。
身につけている服は白っぽく、鰭のような耳には魚型のピアス。
ついでにいえば足が地についていない。
否、正確にいうのならば人間のような足がない。
ふわふわと当たり前のようにそこにういている。
それこそ、エミルの横にいるのがあたりまえ、とでもいうように。
「あの人間達を、外へ。どいつを呼んでもかまわん」
「わっかりました~!」
腕をくみつつ、ため息とともに、アクアに淡々というエミル。
そんなエミルの言葉をうけ、
「いでよ!我がかわいい僕ちゃんたち!」
アクアの言葉とともに、すくりーんの向こうの水面が、ゆらり、とゆらぐ。
スクリーンの向こうでは、
「な、ま、魔物!?」
「うわぁっ!?」
「なっ!?」
気づけばいつのまにか水のような何かにその場にいた全てのヒトがつつまれており、
なぜか海面とともにういてきた巨大なくじら、のようなものにあっというまにとのみこまれる。
「ああ!?みんなが!!」
ジーニアスが思わず叫ぶが。
「心配ないよ。あの人達はあの子達がきちんと外につれていってくれるから」
さらり、と何でもないようにいいはなつエミル。
それとともに、別の魔物らしきものが、口をおおきくあけたかとおもうと、
その魔物の中にいきおいゆく海水が呑みこまれてゆき、あっというまにその場の海水がまたたくまにときえてゆく。
『・・・・・・・・・・・・・・』
「エミル様、こんなものでいいですかね?すこしおとなしかったかなぁ?」
「まあ、いいんじゃないのかな?」
『いやいやいやいや』
そんな会話をしている、アクア、とよばれしマモノのようでいて魔物でない何かとエミルの会話。
おもわずそんな二人に内心突っ込みをいれざるをえないその場のものたち。
それはロディルとて同じこと。
ゆえにエミルとアクア以外の声が同時に重なる。
ロディルもロイド達と同様に思わず突っ込みをしたものの、
が、ふと、アクアをみて、しばし考えるようにしたのちに、
「その紋様…水のセンチュリオン・アクア、とおみうけしましたよ。
なるほど、どうやらただの魔物使い、というわけではないそうですね。そこのものは」
アクアの瞳の中にとある紋様。
それは知識として与えられたものの中のひとつ。
顎に手をあて納得いくかのように笑みを浮かべていたりする。
「エミル様、こいつ、瘴気を放ってます」
「だね。末端さえとらえれば、本体も芋蔓式にみつけられるしね」
警戒を含め、アクアがエミルの前にかばうようにたち、
そんなアクアにさらり、と何でもないようにこたえているエミルの姿。
「さてと。背後にいるであろうヤツは今、どこにいる?」
それは問いかけ。
しかし、そんなエミルの指摘に不敵に笑い、
「ふ…ふはは!これはいい、
もしかしたら絶対的なる力をもちし、ラタトスク・コアをわがてにすることもできるやもしれん!
コアがどこにあるかきさま、しっているな!?」
高らかにわらいつつもエミルにたいし逆にそんなことをいってくるロディルの姿。
「ふん。あなた達のようなものに教えるとでもおもって!?」
アクアがそんなロディルにむかいしいいはなち、
そのまま、
「エミル様。こういう輩は話しあいは無駄です。やっちゃいましょう!」
そんなことをいってくる。
「ラタトスク・コア?」
リフィルがその言葉をききおもわず考え込む。
精霊ラタトスクと同じ名をもつ何か。
絶対的な力をもつ、とまで目の前のロディルはいっている。
「しかし、魔導炉につづく通路を海水で満たしたかったのですが…魔物を使役されると厄介、ですねぇ」
海水を呑みこむ魔物などきいたこともないが、事実そこにいるのだからどうしようもない。
「魔導砲はクルシスの輝石があれば完成する。
なお、絶対的なる世界をも創造できるほどの力をもちしラタトスク・コアがあればなおよし!
どちらにしても、我がトールハンマーさえあれば、クルシスもユグドラシルもおそるるにたらず!
あの救いの塔とて崩れ落ちるであろう。さあ、コアの場所をはいてもらいましょうか?」
「ったく、これだからヒトは…力をたかがヒトに扱える、と本気で信じているのか?愚かな」
それはエミルからしてみれば本音といえる。
扱えるはずもないのに扱える、と本気で勘違いしまくるヒト。
いつもの温和なエミルの口調ではなく、おもくるしい台詞。
この空気はかつて、ロイドは感じたことがある。
あのトリエットの遺跡で。
一瞬、空気がずん、とおもくなったように感じるのはロイド達のおそらく気のせいではないであろう。
目をつむり、頭を横にふっているがゆえに、エミルの瞳が緑から深紅に戻っていることに気付いたものは誰もいないが。
「何とでもいうがいい。私はようやくクルシスの輝石を手にいれた!
どうれ、まずは私が装備して、輝石の力を試しがてらに、お前をとらえ、
コアの場所をじっくりと聞きだすとしますかね」
いいつつも、ロディルはその手を自らの懐の中へと差し入れる。
懐にもっていた何かをそのまま握りしめるのとほぼ同時。
『な!?』
その変化みてロイド達が思わず一歩あとずさる。
目の前のロディルの体が突如として変化してゆくさまがありありとみてとれる。
それは、マーブルやクララの変わり果てたあの姿によく似ている、とはおもう。
が、何か表面がどちらかといえば無機質のようにみえなくもない。
彼女達の変わり果てた姿の基本の色は、緑であったのに、ロディルの色は、黒。
「ふはは!力だ、力がみちてくる!ここで貴様らを殺し、
器である神子をわがてにし、そしてラタトスク・コアをもわがてに!
さすれば世界は我が手のうちに!」
何やらたからかにそんなことをさけんでいるロディル。
「…僕達よんでもいいですよね?」
あまりに愚かな人の考え。
ゆえにアクアがエミルにたいし、許可をもとめるが。
「まて」
そんなアクアを押しとどめる。
いつのまにかすでにロイドは剣を抜いており、襲い掛かってくるロディルにたいし、その一撃を剣にてかわす。
「…彼らの出方次第をみてからでもおそくはなかろう?」
「本当に甘いとおもいますけど~……」
「我らが手をだせば一瞬、だしな」
「それはそうですが」
みれば、いつのまにか臨戦態勢にはいったのであろう。
エミルとアクアを覗いた全員が戦闘態勢にはいっており、それぞれが武器を構えているのがみてとれる。
ロディルが唸り声をあげ、醜く変化した腕を振り回しながら襲いかかる。
鋭い足のツメが床を蹴る音が無機質なる部屋にと響き渡る。
ロイドの耳もとにて風がうなる。
すんでのところでよけたロイドは横にいたゼロスが振り下ろした剣がロディルの体から離れるタイミングを見計らい、
ロディルに対し、体当たりをくらわせる。
「獅吼翔破陣!」
獅子戦吼で敵を吹き飛ばし、地面を叩きつけた衝撃でダウンさせる技。
ロイドの放った衝撃派はロディルの足をすくいはするが、ロディルは倒れこまない。
そのまま、ロディルは術を発動させる。
周囲の重力を少しばかり変化させる、空気を重くする、グラビディ。
過重力空間がその場に簡易的にと出現する。
過重力、といってもたかが二倍から三倍程度の代物。
エミルからしてみれば些細な変化でしかない代物だが、
ヒトにとってはたかがそれだけでもいろいろな意味で脅威、といえる術。
「危ない!回避なさい!」
おそらく、注意深くみていれば気づいたであろう。
エミルの周囲に常に風がまとわりついており、全ての攻撃を無効化させている、ということに。
この場にいながら、エミルにはまったく攻撃の余波の一つもむかっていない、ということに。
リフィルが全員にたいし、回避を促す。
「ロイド!」
ロイドの背後にまわり、コレットがバラライボールをなげつける。
「ぐわっ!」
ロディルはコレットの雷をあび、くるったように腕を振り回す。
「お~お~。でかい図体だねぇ。ロイド君は後ろへまわれよ。はさんじゃおうぜ!」
ゼロスがにっと笑みをうかべながらも剣を片手にはしってゆく。
「へぇ。けっこう頑張りますね。この人間達」
「一対複数、だけどね……しかし、皆、うごきがまだまだ甘い、よね」
「まあ、所詮は他力本願の力をつかっている人ですし。仕方ないのでは?
自分達が努力して力をつけているの、この場ではあのゼロスって人だけでしょ?
あの彼はどうやら自力で修業をかねて石がなくてもある程度の力が発揮できるみたいですけど」
さすがにセンチュリオンだけのことはあり、みただけでそのあたりの把握は可能。
それゆえのアクアの台詞。
「何で自分で努力しようとせずに安易な方向にいつもヒトってはしるのかなぁ?
努力すればそれなりに結果がみえる、はずなのに」
そのように理はきちんとひいている、はずなのに。
何やら必至でロディルにたいし戦いを繰り広げている彼らとは対照的に、
何やらのんびりと観察しつつそんな会話をしているエミルとアクア。
いつのまにか彼らはエレベーターのあたりまで下がっており、じっと彼らの戦いを観察していたりする。
ちらり、とエミルをみてみればこの戦いに手をだすつもりは今のところはない、らしい。
いろいろとエミルには聞きたいことは山とある。
たしかに、今、ロディルはアクアとなのりし精霊でも魔物でもない彼女をみて、
水のセンチュリオンだ、そういった。
精霊ラタトスクにつかえし、属性を司りし配下の名を。
アステルから、そして語り部からリフィルはその名をきかされている。
それに、とおもう。
かつての砂漠の施設において、彼らはエミルのことをこうよんでいた。
そしてまた、ゼロスの屋敷においても。
我らが主、と。
精霊に使えしものが他者と契約を結ぶのかはわからない、ないが。
精霊達ですらしいな・・・すなわち、契約主のことを、そのまま、契約者、とよんでいる。
そこにおそらくエミルが何なのかを知る手段がある、ともおもう。
が、今はとにかく目の前のロディルをどうにかするのが先決。
ゆえにその考えを今は頭の片隅にとおいやりつつも、
「フォトン!」
リフィルは術を炸裂させる。
しばらくの攻防戦の後。
ゼロスとロイドの剣がクヴァルの心臓をほぼ同時につらぬいてゆく。
「…グ…グゥ!?何ということだ…私の…私の体が朽ち果ててゆく…!」
ありえない。
輝石によって異形になるのも、そしてまた、体がくちるのも。
だからこそ。
「だましたな、プロネーマ!」
憎々しげに吐き捨てると、そのままよろよろと管制室の隅にしつらえてある機械のほうへとむかってゆく。
何かが体から抜ける感覚。
おかしい、それが素直な感想。
魔族の力を借りている自分のはずなのに、こんなことはありえない、と。
ロディルの体がぼろぼろと床にとおちる。
「は…しかし、ただでは死なんぞ。貴様たちもみちずれだ!」
その腕がくちる寸前、ロディルの腕がそこにあるスイッチらしきものをおしてゆく。
警報装置が鳴り響く。
「いけない、自爆装置だわ!」
リフィルが叫ぶ。
「…愚かな。そもそも、輝石の意味もわからずに利用するからだ」
そんなロディルに静かにちかづいてゆくエミル。
「エミル?」
「エクスフィアの力の源は、精神力といっても過言でない。
そしてまた、魔族達の本質もまた精神生命体。なぜに魔族がエクスフィアを利用しないとおもっていたのだ?
おまえは?本質を理解しようとせずに、力におぼれし愚かなるものよ」
エミルが語りしは天使言語。
ゆえにロイドのは理解不能。
魔族にとって、あるいみエクスフィアは毒にちかいもの。
マナの次に危険とされている代物。
そんな魔族の力をうけた人がエクスフィアを利用しようとすればどうなるのか。
わかりきっているであろうに。
つくづく、人は愚かでしかない、とおもう。
淡々と言い放ち、エミルがそんなロディルの体にと手をかざす。
刹那、赤と緑の入り混じった光がロディルの体をつつみこみ、
ロディルの体はまたたくまに光りの粒子となりて周囲の大気にと溶け消える。
『な!?』
「魔族の瘴気にむしばまれた人の器は、マナに還ることもなくこうしてきえるのみ」
それはあるいみ、相殺といってもよい。
それぞれの力がそれぞれの力を削いで消してゆく。
「エミル、あなたは…いえ、今はそれどころではないわね」
けたたましくなりひびく警報。
「爆破するなってボーダさんがいってたよね?」
この警報音には覚えがある。
それゆえのコレットの台詞。
「くそ。とめるんだ!」
「無理です。私たちの中でこの機械を扱えるのは、おそらくリフィルさんくらいしか……」
ロイドの叫びにプレセアがいう。
ロディルが最後の力で起動させたであろう装置の前にリフィルがたち、その装置を操作する。
「これは……」
装置をみつつリフィルが何やらつぶやいているのがみてとれるが。
「先生!」
「俺様達はテセアラ産まれでも、魔科学の仕組みなんざほとんど勉強しないからなぁ」
「あほ神子!あんたと一緒にしないでよね!あたしだって精霊研究所で鍛えられてるんだ!
けど、これはあたしたちだけじゃあ…っ!」
リフィルの横にしいなも移動し、互いに装置を操作する。
が、一つすすんでゆくごとに求められるパスワード、すなわち鍵。
解除するための鍵をもとめられ、作業は難航してしまう。
「く!とても私としいなだけじゃおいつかないわ!」
とても複雑すぎる機械。
そもそも、一つ打ち込みするたびにパスワードが必要となるような複雑すぎる。
あるいみで厳重なるセキュリティ、といえるであろう。
「コリン…力をかしとくれ!」
コリンはこういう機械類にはなぜか勘がするどかった。
パスワードなども、コリンの勘にしたがっていれば大概間違ってなどいなかった。
それゆえのしいなの言葉。
さすがに人の心よりうまれし精霊。
理をもっていない当時とはいえ、そのものに刻まれている心を読み取ることなどコリンには簡単であった。
その事実にしいなはきづいていなかったが。
しかしこの場にコリンは当然ながらいるはずもなく。
リフィルとしいなが奮闘することしばし。
と。
奥の扉から駆け込んでくる気配がいくつか。
みれば、どうやらボーダとその部下二人がはいってきたらしい。
「我々がひきうけようぞ!お前達はそこの地上ゲートから外にでて脱出するのだ」
「ボーダ!無事だったんだな。今まで、どこに……」
ロイドがといかけるが、ボーダはそんな話しはあとだ、といわんばかりに、
入口とは反対側にあるゲート…すなわち扉を指差し、
「そんなことはあとでいい!早く外へでろ!お前達がいては足でまといだ!」
「でも……」
「ええい!足手まといだといっている!」
たしかにここにいても何もできないのも事実。
「任せてもいいのかしら?」
「お前達はバスワードをしらないだろう。我らはすでにパスワードなども調べつくしてある。まかせろ」
その言葉にほっとする。
パスワードを知らなければ解除ができない。
いくらリフィルとてパスワード、すなわち鍵をしらなければどうにもならないのもまた事実。
「いきましょう」
「でも、先生…」
「私たちがここにいたら、逆に気をつかわせてしまいかねないわ。
私たちは待つしかないのよ。エミル、詳しく話しをきかせてもらうわよ?
そもそも、その子、あのアクアさんよね?あと、あの魔物はなに!?」
「何、といわれても、あの子達はあの子達でしかないですし。ね。アクア」
「ですよね。エミル様」
あいかわらず答えになっていない、とおもう。
そんな会話をしながらも、ボーダが示したゲート、すなわち扉をくぐり、外へとでる。
そこはどうやら管制室の外にある部屋につづいていた扉らしく、巨大な窓からなかがみてとれる。
ボーダと部下達が必至で自爆装置解除に取り込んでいる様がそこにはみてとれるが、
その足元にじわじわと水が押し寄せているのが嫌でも目にはいってくる。
それゆえに、それまでエミルをといつめていたリフィルもそれにきづき、ぴたり、と追求をやめ
おもわずそちらのほうにと視線をくぎ付けにしてしまう。
しずかに、しかし確実に、水はゆっくりとではあるがふえている。
「海水が……」
「大変だ!あそこの扉をあけてやらないと!」
ロイドがたった今、閉めたばかりの扉に手をかけるがびくともしない。
「ダメだ、あかないよ!」
ロイドにつづき、ジーニアスも扉を開こうとするが、扉はぴくり、ともうごかない。
「どけ!」
そんな二人にたいし、リーガルが肩で二人をおしのけ、
扉をがんがりと蹴りだすが、びくともせず、
ゆえにかわりにそこにある窓にたいしケリをくわえるがこれまたびくともしない。
いうまでもなくこの窓は強化ガラスをつかっているのでちょっとやそっとの衝撃ではびくりともしない。
最も、ロイド達の概念には強化ガラス、という代物すらないのでなぜ窓が壊れないのかがわからない。
「ボーダ達だわ。水がくることをしっていて、わざと鍵をかけたのよ」
リフィルがそのことに気付き、茫然とつぶやく。
「どうしてですか?」
コレットには意味がわからない。
それゆえのといかけ。
「扉が開けばここにも水がおしよせてくる。ここはみればわかるとおり、
天井がガード状に覆われているわ。水の逃げ場がないのよ」
天井からは空がうかがえるが、その天井はドームのような透明な材質で覆われているのがみてとれる。
それゆえにリフィルは現状を把握しておもわずつぶやかざるをえない。
「私たちを…助ける…ため?」
そのことにきづき、プレセアがつぶやき、コレットと顔を見合わせる。
「そんなのだめ!何とかできないの!?」
「くそ!みているだけなのか!?」
コレットがいい、ロイドもあきらめもわるく、そこにある窓をがんがんと剣にて叩きを割ろうとする。
強化ガラスがそのような攻撃でびくともしない、というのはわかりきっているだろうに。
ここにつかわれている材質のものは、水圧にもたえられるように透明のようでいて結構分厚い。
そんな中、くぐもったような声が部屋の中にときこえてくる。
「自爆装置は停止させた」
くぐもったような声にて部屋の中にきこえてくるボーダの声。
どうやらスピーカーのスイッチをいれたらしい。
「ボーダ!あの扉をあけろ!俺達で上のドームを破壊すれば!」
そんなボーダの声にこたえるようにして、窓のほうをみながらも叫ぶロイド。
「我々の役目は大いなる実りへマナを注ぐために、
各地の牧場の魔道炉を改造すること。それもこの管制室の制御でもって終了する。
お前達には我らが成功したことをユアン様に伝えてもらわなければならない」
淡々とかたられるその言葉に嘘はないのだろう。
死にたいする恐怖とかそういうのは一切みあたらない。
「そんなこと自分でつたえろ!いいから扉をあけやがれ!」
「真の意味で世界再生の成功を願っている。ユアン様のためにも。
マーテル様を永遠の眠りにつかせてあげてくれ…」
そういう間もゆっくりと水はどんどん増している。
「だめぇ!」
コレットが叫ぶが。
「…ねえ。何あわててるの?」
そんな彼らにたいし、おもわず呆れた口調でといかける。
「エミル、おまえなぁ!」
おもわずそんなエミルにくってかかるロイドだが。
「しいなさん。わすれてない?ウンディーネの力をつかえば?」
『…あ』
ウンディーネは水を司る。
ゆえに完全に失念していた、といってもよい。
エミルの呆れたような指摘に、その場にいた全員の間の抜けたような声が同時に重なる。
「しいな!」
「わかってるよ!ウンディーネ!」
しいなの召喚とともに、その場にとウンディーネが出現する。
「契約者よ。私に何か用ですか?」
「ウンディーネ!あの部屋にはいってる水というか海水を何とかしておくれ!」
「とめるか、もしくは逆流っていえばいいとおもうけど…」
しいなのあせったような声にたいし、ぽそり、とついか訂正。
「人間ってほんとかわってますよね。エミル様。肝心なときに肝心なことをよくわすれるもの」
「だね。中には本質がでるヒトもいるけどね」
そんな主従の会話をききつつ、ウンディーネは苦笑せざるを得ない。
そもそも、アクア様がセンチュリオンの形態にてこの場にいることも心配ではあるが、
まあ、王がそれを許可している限り、自分達が何かいう立場ではない。
それくらいはウンディーネとて理解している。
「わかりました」
その言葉とともに、一気に、ざぁっと隣の部屋の海水がひいてゆく。
『・・・・・・・・・・』
何ともいえない静寂。
死を覚悟していたのに、水がひきついでにいえばどうやったのか、扉も開かれる。
装置を解除していたボーダ達からしてみれば何がおこったのか理解不能。
なれど。
「お疲れさま~。というかさ。ボーダさん。
あのユアンさん一人にしたら何しでかすかわからない。とかおもわなかったの?
みたところあのユアンさんってかなりぬけてない?」
「そ…それは……」
そういわれ、ボーダとしても口ごもるしかない。
扉から入ってきたエミルに開口一番にいわれたその台詞。
事実、かなりぬけている。
しっかりしているようでかなりおっちょこちょい。
エミルからしてみれば、かつて蝶によって彼らの旅を視ていたがゆえに識っているのだが。
「ボーダ!俺達はお前を犠牲にして助かってもうれしくも何ともないんだからな!」
「もう、私たちのせいで誰かが犠牲になるのは、嫌です」
そんなエミルにつづき、ロイドとコレットまで部屋の中にとかけこんでくる。
そして、ボーダにこれでもか、というほどに叫んでいる様がみてとれるが。
「にぎやかですね。アクア様」
「まあ、エミル様に害がないのなら私はいいけど」
「たしかに」
何やら元の部屋ではのんびりとそんな会話をしているウンディーネとアクアの姿がみてとれるが。
彼らからしてみれば、何よりも優先すべきはラタトスクの無事と安全。
それゆえに彼らの台詞もわからなくはない。
もっとも、その感覚でいえばできれば戻ってほしい、というのが切実、なのだが。
センチュリオンや精霊達とて同じ思いだったりする。
それゆえの台詞。
「で、ディーネちゃんはどうするの?その後、何か問題とかないよね?」
「ええ。問題はありません。水のマナも滞りなく。おかげさまで」
ちなみに彼らが話している原語は精霊原語。
ゆえによくよく注意しなければその意味はリフィル達ですらわからない。
センチュリオン達が全員めざめ、世界のマナの循環は安定している。
さらにいえば、ラタトスクがマナを生み出しているのであろう、マナの量も安定している。
精霊達はラタトスク自身がマナを生み出せることをしっている。
ゆえに大樹がない状態でのマナの生成も何の疑問ももっていない。
ロイド達が隣の部屋、すなわち管制室にはいり、ボーダにくってかかっているそんな中。
「皆さん、後ろを!」
バサリ、とした羽音をききつけ、プレセアが背後をふりむき思わず叫ぶ。
「な、なんだ!?」
みれば、先ほどまでロイド達がいた部屋。
外につづいている、といわれた部屋の天井部分の扉らしき場所より飛竜の幼体がとびだしてくる。
その体の水玉紋様がまだ幼体であることをものがたっている。
「おそらく運搬用の飛竜ね。自爆装置の解除で檻が開いてしまったんだわ」
それをみて冷静に分析し、いっているリフィル。
始めにでてきたのは三頭。
その後につづき、数頭の飛竜もまた部屋の中にでてきているのがかいまみえる。
「出口はあそこからしかない。他の道に戻るのはおそらく危険だ」
自爆装置を解除したことにより、他の道にどのような影響がでているかわからない。
それゆえにボーダがいい、
「我らが奴らをひきつける。その間にお前達は外へ」
「あのな!まだおまえはそんなことを!」
それは自分達が犠牲になってでも彼らを外にだそう、とおもっているのが言外にありありとみえる。
ゆえにロイドがそんなボーダにと叫び返す。
「いかん、やつら、くるぞ!」
リーガルがいい、身構えるが。
『・・・・・・・・・・・え?』
クルルルル…
何だろう。
この光景は。
ばさり、とこちらにむけて急降下してきた飛竜の全てが何やら甘えたような声をだし、
それぞれが首をうなだれ、エミルにたいしすりよっているこの光景は。
ゆえにその場にいるものすべてが思わず目を見開いてしまう。
「よかった。アレの消滅で君たちも正気にもどったようだね。
まったく、魔界の瘴気で君たちを操るなんて、本当に人ってどこまでも愚かだよね」
いいつつも、飛竜達の首につけられている首輪らしきものにかるく手をふれる。
それとともに、首輪は光りとともにかききえる。
光の粒子になったかのごとくにきらきらと首輪は光りながらきえてゆく。
「ここに捕われて利用されていたのは何人?」
クルワァッ。
エミルの問いかけに、一体の飛竜がいななく。
「二十、か。君たちは飛竜の巣からつれてこられてるみたいだから、
とりあえず、ウェントスに君たちを巣まで送り届けさせるよ。ウェントス」
「およびですか?」
「この子達を安全に巣まで送り届けてあげてね?」
「わかりました」
唖然としているロイド達の目の前で、何やらそんな会話をしているエミル達。
エミルがいうのと同時、その場に真っ白い虎のような何かが出現する。
それは、かつてアスガードの遺跡の上空にあらわれた、あの魔物の姿と一致する。
「ねえ。それより、どうやって外にでるの?」
「そこの軌道エレベーターを使えばいいだろうけど。
この子達もいるし。てっとりばやく、あの天井を壊そうか」
「壊すって…あんなに離れてるのにどうやってだ?」
ロイドの疑問も至極もっとも。
「久しぶりだし。ちょっとやってみるかな」
「「エミル様!?」」
そんなエミルの言葉に、アクアとウェントスの声がかさなる。
そのまま、するり、と腰にさげている剣をぬきはなち、すっとその剣を背後にと。
エミルが何かしでかすみたい、と判断したロイド達はおもわず距離をとる。
気のせいか、エミルが構えた剣は、どうみても炎にもにた光りをいつのまにか纏っている。
「アイン・ソウ・アウル!!」
そのまま、剣を天井にむけて振り払う。
巨大な光の塊が天井にむけてつきぬける。
まぶしいばかりの光りの帯。
何色もの…よくよくみれば八色の、否、九色の光の束の帯とわかるであろう。
それらは天井すらをも突き抜けて、空をかける一筋の光りとなる。
「うん。問題ないみたい」
「エミル様!いきなり御力をつかわれるのはやめてください!」
「そうです!危険です!」
何やら口ぐちにそんなエミルにたいし、アクアとウェントスがいってくるが。
「え~?今のは力でもないし。ただの技だし」
「それでも、です!今の技はエミル様にしか扱えないものでしょう!?」
「せめて、普通のヒトが使用する技にしてくださいませ!」
ロイド達からしてみれば、唖然、としてしまう。
たしかに先ほどまでそこにあったはずの天井はもののみごとに綺麗さっぱりと消失している。
しかも、天井が壊れた音もしなければ、まるで、光りに呑みこまれ完全に消失してしまったごとくに。
失われた天井が元あった場所からは突き抜けるような青空がみてとれる。
「そんなことよりも、ここから出たほうがよろしいのではないでしょうか?」
いつのまにか現れていたのか、テネブラエがそんな彼らにむかい淡々といってくる。
ごくごく自然にそこにいるので、始めからまるでそこにいたかのごとくに違和感がまったくない。
「テネブラエのいうとおりだし。これだけ空間がひらけていたら、
レアバードも起動できそうだし。ここからレアバードでロイド達も外にでたら?」
『・・・・・・・・・・・・』
どこをどうつっこめばいいのだろうか。
ゆえに、しばし無言になってしまうロイド達の姿がしばしみうけられてゆく……
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あとがきもどき:
薫:ついに完全にストックキレた今日この頃…
これまではストック大量?というかそこそこあったから毎日更新がどうにかなってたけど…
しかしついに50話…次からようやくシルヴァランド放浪(まて)の予定ですv
2013年7月20日(土)某日
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