まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

なぜに、牧場がまったくのこってないの?という疑問は、
前のほうの7話を参考までにv
まえぶりのはミトスとノイシュの「古い友達」のスキットですv

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宿の宿舎に預けられていたノイシュ。
そのままでは、というのでニールがとりあえず総督府のほうへとひきとった。
あの場にいては、街のものがヘタに何か騒ぎかねない、という理由から。
ミトスにあたえられたのは、とある一室。
来客などがあったときに利用している、という寝室。
ちょっとした客間をかねており、簡単な家具などはそろっている。
その部屋にひとまずノイシュも同室、としていれられている。
「…怖がらないで。何もしないよ」
部屋につれられてきたとたん、ミトスしかいないのをうけて、ノイシュがかなり警戒し、
そのまま後ろにじりじりと退く。
そんなノイシュにたいし、ミトスが静かに語りかける。
かつては共に行動していたのに。
警戒される原因は自分にある、とはわかっている。
「くぅん?」
どうやら敵意がない、とわかったのだろう。
疑問符をうかべ、首をかしげているノイシュにたいし、ミトスはおもわず苦笑をうかべる。
「そう、いい子だね。お前はかしこい子だものね」
人に利用されていたプロトゾーン。
あのときはこの姿にまで進化していなかったが。
知っているものはしっている。
勇者ミトスと同行していた中に、プロトゾーンとよばれし、ノイシュ、という名の生命体がいたことは。
それらの伝承はほとんどあまりかたりつがれてはいないが。
「くぉんっ」
その様子からして、世界を裏切っているようにはみえない。
だけど事実は一つしかない。
ノイシュはかつての優しかったミトスをしっている。
そしてまた、彼が命令し非道なる行いを始めた、ということも。
だからこそとまどわずにはいられない。
ミトスは気づいているのだろうか。
王、のことに。
それゆえにノイシュの戸惑いは深い。
「…正直いうとね。ノイシュ。ボクは疲れたんだ。もう、いきているのが嫌なんだ」
誰にともなく話しかける。
それは誰もきいていない、とわかっているからの心からの独白。
聞いているのはノイシュだけ、そうおもっているからこその独白。
「きゅ~ん……」
生きているのが嫌、などと。
かつてのミトスからは信じられない言葉。
それゆえにノイシュが悲しそうな声をあげる。
「ふふ。そんなことをいうもんじゃないって?でもね。…ボクは間違っているのかもしれない。
  …そう思い始めてしまったボクは…生きている意味がない気がするんだ」
短い間ではあるが、彼らにふれあった。
そして、アルタステの場所にて聞かされたこと。
リフィル達の会話。
ただの駒でしかない、とわりきっていたはずなのに、現実にみてしまえば決意がゆらぐ。
自分は間違っていない、はずであった。
だけども、引き裂かれた家族。
プレセアとアリシア。
望まぬままに引き裂かれたのは自分の境遇と重なる。
それが人の手によるものであったのか、自分の命令による所以だったのか、という違い。
石の中に閉じ込められた魂。
完全に融合すれば、石の精霊、として進化することも可能なのかもしれないが、
人為的に無理やりに強制的に融合しているせいか、逆に人の精神がいつも石にと呑みこまれている。
それはこの四千年の間の実験で嫌でもおもいしった。
本来の天使というものは、石そのものが意思をもった石の精霊であった、とセンチュリオンから聞かされている。
そのような存在になれば、差別も何もなくなる、そうおもって開始したこの計画。
千年王国。
人を見下すことしかできない人間を苗床に、ときめたのはほかならぬ自分。
姉を殺した人間なのだから、利用してもかまわない、そうおもった。
心の片隅ではそれが間違っている、それは今まで自分が、姉が嫌悪していた人の行動とかわらない。
そうかわっていても、そのままつきすすんだ。
その結果が今にとつながっている。
「クォォゥ」
「うん。ジーニアスもリフィルさんも、ロイドも…いい人だよ。好きだよ。
  仲間にしてもらってうれしいんだ。でも……」
あんな出会いであったというのに無条件で信じているヒトの子。
リフィルの視線には警戒の色が多少みうけられてはいるが、それでも完全に嫌っているほどではない。
かつて人々の迫害をうけながらも停戦協定にもちこんだ経験は伊達ではない。
「クゥン、クゥン」
間違っている、とおもうのならば今からでも遅くない、とおもう。
それゆえにノイシュがミトスに語りかけるが。
「…ごめん。今のはわすれて。ボクらしくなかったから」
そう、自分らしくない。
ここまできたらもう後にはひけない。
すでにクルシス、という組織も巨大になり、皆が自分が創るであろう千年王国を待ち望んでいる。
誰もが…ハーフエルフが差別されることのない平和な世界。
全てが同じ種族で構成され、差別のない、世界。
しかし、本当にそうなのだろうか。
彼らはいっていた。
差別、とは人の心が生み出すもので、同じ種族であってもそのほうが差別はひどい、と。
いわれてみれば、たしかに。
ヒトのほうが著しい差別制度、というものをもっている。
身分にしても然り、貧富の差にたいするものにしかり、自分と少しでも異なるものを受け入れようとしない人の心。
そんな人の心が数多の差別を生み出している今の世界。
人の心のありよう。
ミトスは人にしか目をむけていないが、ハーフエルフとてそれは同じ。
同じハーフエルフの中でも優先意識などといったものにより他者を見下している。
それらが根本的な差別の根柢にある、とわかっていても、である。
心なき千年王国、それがほんとうに正しいのか。
それとも、わからなくなってくる。
だからこその独白。
なぜかここ最近、かつてのことをよく思い出す。
おそらく、あのロイドというヒトの…クラトスの子が、かつての自分によくにているからだ。
そう気づいたのはつい先日。
かつての自分とよくにているのだ、とおもう。
まっすぐで、猪突猛進で…あそこまで思慮がなかったりはしなかった…とはおもうが。
そして、コレット。
雰囲気もその性格も姉によくにたヒトの子。
姉のマナに酷似したものをもって産まれた待ち望んだ、姉マーテルの器たる神子。
「間違っているのは、僕か、それとも……」
あらがおうとしている彼らなのか。
わからない。
気になるのは、安定しているマナの感覚。
テセアラにおいてもシルヴァランドにおいてもマナの気配が完全に安定している。
完全に精霊の楔が抜けたわけでもないのに、マナがまったく流れてすらいない。
精霊の楔は文字通り、マナをそれぞれの世界に流すことにより繁栄と衰退を繰り返していた、というのに。
精霊達にそこまでの力があるのならば、この四千年の間にも同じようなことがあったであろうに。
このようなことは初めて。
まるで、第三者の意思が加わっている、かのごとくに……

光と闇の協奏曲 ~レネゲードのユアン~

牧場跡地。
かつてリフィルが爆発させたが、リフィルの想像よりもかなり大規模の爆発、であったのであろう。
たしかに離れていても地響きなどがつたわってきていたあの当時。
キノコのような雲がまいあがり、その下において何があったのかロイド達は知らない。
あのあと、この場に確認にもおとずれてはいない。
「…もののみごとに建造物のケの字もないんだけど…姉さん……」
残されているのは巨大なる穴、その穴に水がはいりこみ、ちょっとした泉らしきものになっている。
しかも、その泉は澄み切っているので奥までみえはするが、
そこに建造物のケの字もみあたらない。
かつて、エミルがこのあたりの歪みを建造物にて相殺したがゆえに、
人工的なものは一切この場には残されていない。
広大なる更地…その更地にはすでに草花が生えており、小さな木の芽が芽吹いているのもみてとれる。
澄み切った水はその深さを判断させるのに狂うものではあるが、すくなくとも、かなりの深さはあるであろう。
それくらいの判断はできる。
水の中にこれまたみたことのない魔物のようなものがうろうろとしており、
また、どこからやってきたのか、魚らしき普通の生物の姿もみてとれる。
たしかにあったはずの高い塀や建物の壁などが一切合財見当たらない。
「あの爆発でここまで綺麗になくなるものなのかしら?」
おもわずリフィルがつぶやいてしまうのも無理はない。
誰かが片づけたにしては綺麗すぎる、ともおもう。
「魔物…の仕業、とか?」
「そういえば、ここに侵入したとき、すでに誰もいなかったんだったっけ……」
人々を救出しにきたはずなのに、ディザイアンの姿はまったくなく。
残されていたのは、捉われていた人々のみ。
牧場主だというマグニスの姿はそこにはあったが、それ以外のディザイアンをみたのは、
あのマグニスのもとが初めてであった。
それほどまでに誰もいなかったあの牧場。
あのとき、捉われていた人々がいっていた。
魔物が襲撃してきた、と。
「そういえば、建造物を好んで食べる魔物がいる、とはきいたことがあるけど……」
しかしこのあたりでそんな魔物が生息している、などきいたことはない。
可能性として、あるとすれば…
エミルが呼びだした可能性。
「ここに、その牧場があったのか?」
痕跡の欠片もない。
それゆえにリーガルが首をかしげてといかけるが。
「ええ。そう、なんだけど……」
ぽっかりと森の中にある深い湖。
穴、といってもよいが。
それは、かつてここに施設があった場所が綺麗さっぱり穴とかしたに過ぎない。
この施設にも地下があり、その地下施設まで綺麗さっぱり消失したことにより、
ここにちょっとした穴がぽっかりとひらいたにほかならない。
その穴に水がはいりこみ、泉のようになっている、ただそれだけのこと。
そんな会話をしている最中。
「まっていたぞ」
木陰のほうから何やら声がしてくる。

「レネゲード!?」
みれば、木陰からあらわれたのは、みおぼえのある姿のものたち。
ボーダ、となのっていたものと、おそらく部下、なのだろう、みたことのある服装をしているものが二名ほど。
「そうか、ニール達はディザイアンとレネゲードの区別がついてないんだ」
たしかに彼らの服装はディザイアンと瓜二つ。
自分達とて説明されなかったままだと、確実に同じだ、とおもっていた。
ゆえにおもわず納得し、おもわずジーニアスが声をだす。
「お前達をまっていた」
ロイド達の前にすすみでて、腕をくみつつも、淡々といってくるボーダに対し、
「おかしな話しだな。我々がここに向かうことが予想できたというのか?」
リーガルが警戒を含め、一歩前にでてそんな彼らに問いただす。
「さあ、どうだろうな?」
ボーダがそういい、苦笑するとほぼ同時。
「あ、それ僕がいったから」
横のほうから何やら聞き覚えのある声が。
『って、エミル!?』
「いきなり皆がいなくなったから驚いたよ~」
どうでもいいがエミルの周囲にいる数多の魔物は一体全体何なのか、といいたい。
切実に。
このあたりには生息していないであろう、イノシシのような魔物…ボアやボアチャイルド、
といったものの姿までみえているのはこれいかに。
かわいらしいテントウムシのようなような魔物はまわあわかる。
このあたりに生息している、といわれており、誰もがしっているセブンスター、とよばれし魔物は。
「うん?ゴールドスター?」
その中に金色の羽をもつてんとうむしもどきをみておもわずゼロスがつぶやくが。
こっちにも同じ魔物がいるんだ、そうおもってのおもわずのつぶやき。
ゴールドスター、とよばれている黄金色の羽をもつてんとうむしもどきの魔物は、
王都メルトキオ付近でよくみうけられる、という魔物。
にこやかにロイド達にいってくるその姿はいつも通りで。
緊張感の欠片もかんじさせず、いつもの温和な笑みを浮かべている。
「いやまて、かなりまて。どうやっておまえここにきたんだよ!?」
思わずロイドがつっこむが。
「え?普通に」
あいかわらずの答えになっていない答えで首をかしげて返答してくるエミルの姿。
「その普通、がかなりきになるんだけど?」
リフィルのいい分は至極もっとも。
「エミルさん、無事だったんですか?くちなわや教皇騎士団がいたとおもうんですけど」
そんなエミルにたいし、プレセアが声をあげる。
たしかに一人できりぬけるにしても多勢に無勢…だったはず。
それゆえのといかけ。
「え?ああ、あのひとたち?みんなが丁寧に退場願ってくれたからね」
「皆って……」
その皆、というのに何となく思い当たり…思い当たりたくもないが、エミルがいう皆。
理解したくないが理解できてしまい、おもわず全員がだまりこむ。
「…我々が異界の扉にむかったときには、魔物達がこぞって教皇騎士団達に襲いかかってたぞ…
  あの闇はなんなのだかいまだに教えてもらってないがな……」
ロイド達の心情がわかったのであろう。
ボーダが大きなため息とともに、彼らにそんな説明をしてくるが。
「え~?ただ、あの子達が闇にちょこっとあの人間達を呑みこんだだけですよ?」
ちらり、とみられたエミルはにこやかにそんなボーダに返事をかえす。
『闇に呑みこむって……』
聞くのがこわい。
はてしなく。
エミルがいう、コ、が何をさすのかはいうまでもがな。
「こっちにきてから、ここの子達にきいたら、皆がパルマコスタのところに移動したっていうし。
  なんかレネゲードの人達があそこにきたから。
  で、きけばレネゲードの人達が皆がこっちに移動したんだろうっていうからつれてきてもらったんだ」
嘘ではない。
まあ、自力で移動もできたのだが、彼らがやってきたのでついでに利用しだたけのこと。
「あ。そういえば、常にお空に鳥さんがとんでたね~。あの子がエミルにいったのかなぁ?」
そういえば、エミルと別行動をしているときには常に何らかしらの小さな魔物が上空にいた。
ここにきてからも、小さな鳥のような魔物が上空を飛んでいたのをコレットはみてしっている。
それゆえにコレットがいうが。
「…なあ、どこからつっこめばいいのか、わからないのは俺だけか?」
「違うとおもう。けど、まあ、エミルだしねぇ……」
ロイドの気持ちもわからなくもないが、ジーニアスも何とこたえていいのかわからない。
おそらく、このことに関してきちんと答えられるものはこの場にはいないであろう。
「……また、情報源は魔物…なのね……」
頭がいたいわ。
そうつぶやきつつも、リフィルがこめかみを押さえる。
おそらくその気持ちは間違ってはいないであろう。
みれば、レネゲードのボーダ、となのっている男性もため息をついている。
おそらくは、理不尽極まる光景を目の当たりにしたのだろう、というのは何となくリフィルも予測がつく。
魔物が人間を闇に呑みこんでいた、といったが。
リフィルはそんな光景を目の当たりにしたことはない。
ないが、何となく予測がついてしまい、おもわず敵だというのに同情を隠しきれない。
「…と、ともかく。だ、お前達。我々と手をくまないか?」
どうやらあまり考えないことにしたらしい。
もしかしたらこれまで何かあったのかもしれない。
あのエミルのこと、目の前で何やらしでかしていても不思議ではない。
ボーダのあからさまな話題変換にたいし、同情を禁じ得ないものの、
「呆れたこと。ロイドやコレットを散々ねらってきて、虫がいいとはもおわなくて?
  たしかに、飛竜の巣では利害が一致して協力はしましたけど、それとこれとは別ではなくて?」
たしかにリフィルのいい分にも一理ある。
そもそも今回の彼らの目的がわからない。
あのときは、コレットの救出、マーテルの器の阻止化、という理由があったにしろ。
「…あのときと今とでは状況が違う」
「ユアン!」
茂みの向こうからでてくる人影ひとつ。
その姿をみておもわずしいながさけぶ。
「以前にもいったとおもうが、大樹カーラーンのことは知っているな?」
いきなり何をいいだすんだ、こいつ?
というような視線でゼロスがユアンをみるが、
「ああ。聖地カーラーンにあったっていう伝説の大樹だろ?」
さすがに幾度もきかされれば、ロイドとて名前を間違うことは滅多とない。
それゆえにさらり、とその質問にこたえるロイドであるが。
「無限にマナを生み出す聖なる木。世界樹、ね」
なぜにここでカーラーンのことがでてくるのか、リフィルにも理解不能。
「一般的にはお伽噺、とされている大樹ではあるな。古代大戦により枯れたという伝説の大樹」
リーガルもそれまではお伽噺、とおもっていた。
アステルや、そして語り部のところでいろいろときくまでは。
それゆえの台詞。
「そう。前にもいったとおもうし、お前たちもすでにつかんでいるではあろうが、一応説明をあらためてしておく。
  大樹カーラーンは実在した。しかし、古代カーラーン大戦によるマナの涸渇で枯れ、
  今では聖地カーラーンに種子を残しているだけだ」
以前の説明は途中でとまっていた。
それゆえに改めて説明をしているユアンはあるいみ律義、といえよう。
エミルはそんなユアンの姿をみつつも、
あのときも、いつもユアンが説明役になってたっけ。
ふと当時のことをおもう。
蝶という分霊体によって彼らの旅を視ていたあのとき。
あのときもいつもラチがあかない彼らのかわりに説明役はユアンがおっていた。
何しろマーテル達にまかせていたらいつのまにか話しが脱線しまくっており、ラチがあかなかった。
といってもよい。
なのでまあ、視ているだけでもけっこうラタトスクからしてみれば面白かった、という事実もあるのだが。
ヒトも面白いものだな、とおもったのはラタトスクの内面だけの秘密。
「え?最後の封印に大樹の種子があるんですか?大いなる実り…でしたっけ?」
コレットがそれをきき首をかしげるが、
「そう。その大いなる実りは聖地カーラーンにとある」
伝説では、勇者ミトスが神から授かった、といわれている大いなる実り。
その神とはマーテル教ではマーテル、ということになってはいるが。
実際にはことなる。
うけとったのは、大樹の精霊ラタトスクより。
かの種子は託された。
「世界にマナを供給する大樹の種子。大いなる実り。
  二つの世界を一つに戻すためには大いなる実りが必要不可欠だ」
淡々というユアンの台詞。
「二つの世界を、一つに…ですって?」
たしかに自分達もそれは可能性にはいれていた。
しかし、レネゲードの党首であろうユアンの口からいわれるのとではまたおもみがちがう。
それゆえにリフィルが改めて問いかける。
「我々はかつていったはずだ。ユグドラシルが二つの世界をつくった、と。
  もともと、世界は一つだった、それをユグドラシルが世界を二つにひきさき、ゆがめた」
「ラーゼオン峡谷の語り部さんもいってました」
プレセアの言葉に嘘はない。
かの地にて、ある程度のことは彼らはきかされた。
そしてまた、アルタステの家においても。
「ほう。あの語り部にあったのか?ならばどこまできいたかはわからないが、まあきけ」
その言葉に一瞬、目をみひらくものの、彼らの言葉をさえぎりつつも説明をつづけようとするユアンであるが。
「なあ。世界を二つに引き裂くなんてことが本当にできるのか?」
あのときもおもったこと。
本当にそんなことができるのか、その思いはいまだにロイドの中にとある。
「ユグドラシルにはできた。魔剣の力をつかってな。
  そして、今、二つの世界は大いなる実りからにじみでるわずかなマナをうばいあって、
  何とか今まで存続しているのだ」
さすがに、語り部、そしてアルタステ、さらにはユアン、三人から同じような説明をなされれば、
いくらロイドとて信用するしかない。
それは他のものにしても然り。
信じられないようなことではあるが、三人が申しあわせてでもいいかぎり、
まったく同じような説明がなされる、ということはありえない。
「…だから、繁栄と衰退が繰り返され、再生の神子が旅立つ……」
それが今の世界の仕組み。
プレセアがおもわずぼつり、とつぶやく。
そして、神子には必ず犠牲が強いられる。
「しかし、大いなる実りが発芽すればそれもおわる。大樹が、世界樹が復活するのだからな」
ユアンの言葉に嘘はない。
あるとすれば、今のままの状態で発芽しても、それは力なき樹が蘇るだけで、
普通にマナをあたえても、今のままでは世界樹、としての機能はあの実りから発芽するだけでは果たせない。
「あのときもききそびれたんだけど。どうやったらその大樹は復活するんだ?」
結局、あのときもどうやればいいのかききそびれた。
それゆえのロイドの素朴なる疑問。
「……大いなる実りは死滅しかかっている。それを救うために純粋なるマナを大量に照射する」
「そんなもの、地上にあるはずがないわ。つまり、てづまりってことなのかしら?」
ユアンのいい分はわからなくはない。
が、地上にそんな純粋なマナなど…一つだけ心あたりがあるにはあるが。
それは、エミルがもちし、世界樹の小枝、とエミルがよびしもの。
あれはまぎれもなく、マナの塊だとおもう。
その小枝からなぜか芽吹いた新芽すらマナの奔流にみちた塊であったのだから。
しかし、その小枝くらいで世界樹を復活させられるのか、ととわれれれば、リフィルは否、と即座に答える。
「いや。クルシスの拠点のある彗星、デリス・カーラーンはそもそもが巨大なマナの塊でできた彗星だ。
  それをこの大地の遥か上空にユグドラシルが魔剣の力をもってしてつなぎとめている。
  それをつかえばいい」
そんなリフィルの懸念は始めからわかっている、とばかりにユアンが説明してくるが。
「でも、それが本当なら、どうしてユグドラシルは大樹を復活させないんだ!?」
ロイドがそんなユアンにおもわずくってかかる。
「…ロイド、アルタステさんがいってたことわすれたの?それは……」
そんなロイドにたいし、あきれた視線をむけて淡々といいながらも、
すこしばかり声をしずませていっているジーニアス。
今だにジーニアスの中でももし自分がそうなれば、どうすればいいのか。
という答えはでていない。
それゆえに声も沈んでしまう。
世界か、姉か。
究極の選択。
世界を選べば姉は死ぬ。かといって姉を選んでも世界を道ズレにすべてが死んでしまう。
ならば、世界を選ぶしかない、とは理屈ではわかっている、わかっていても選べない。
「あ……」
あいかわらず、その場の流れに流され自分で考えることなく本能のままに叫んだり行動したりするのは直っていないな。
そんなロイドをみてエミルがそんなことをおもうが。
ジーニアスにいわれ、ようやくそのことをおもいだし、ロイドもバツのわるそうな表情をうかべ、
そのまま顔をしかめるが。
また、やっちまった。
という思いのほうがロイドからしてみれば強い。
いつもその場にながされて、深く考えようともせずに言葉をはっする。
自分の悪いくせ。
言葉だけならまだいいが、行動にまでうつしてしまう自分。
その結果、今まで散々とてつもないことをひきおこした、という自覚があるのに。
間違えない、というばかりで行動がともなわない自分。
それゆえに自己嫌悪におもわず陥ってしまう。
「ほう。あのドワーフ。そこまでくわしかったのか?どこまできいた?」
彼らの様子からどうやら真実を聞かされているらしい、そう判断したユアンが逆にと問いかける。
真実をしっているものなど今の地上世界には滅多といないとおもっていたのに。
それゆえのといかけ。
「…勇者ミトスが、…人間に殺された姉、マーテルを復活させるために、その力全てを注ぎ込んでいるって……」
ジーニアスの声は重い。
「ついでに、当時の勢力陣達が生きとし生けるものからマナを吸い上げていた、というのも聞かされたわ」
ジーニアスにつづき、リフィルが追加説明をする。
ヒトから、生きているものからマナを吸い上げる。
たしかに命全てはマナにて構築されてはいるが、それをおもいつく人の心の何とおそろしいことか。
つくづくそうおもってしまう。
「…あの男、そこまで詳しかったのか。その通りだ。
  マーテルは人間に殺された。二つの勢力陣から大いなる実りをまもってな。
  あれからずっと、デリス・カーラーンの膨大なるマナはすべてマーテルにささげられている。
  マーテルを復活させるために」
「本当…なのね」
ユアンにまで肯定され、それが真実なのだ、とリフィルに嫌でもおもいしらされる。
ならば、かつてヒトからマナを吸い上げようとしていた、というのもまた事実、なのだろう。
ヒトのマナを人為的に乱し、生体兵器にしただけではあきたらず、
当時の勢力陣達は何をおもってそんなことをしたのか、リフィルにはわからない。
わからないが、すくなくとも、自分達以外はすべてただの駒でしかない、とおもっていたのであろう。
それくらいの予測はつく。
それがもたらす結果などまったく考えもせずに、自分達の欲望のままに。
「…マーテルは、クルシスの輝石の力……
  …ハイエクスフィアの力で大いなる実りに寄生し、心だけが生きながらえている。
  マーテルがこの状態で目覚めれば、大いなる実りは彼女に吸収されて、消滅してしまうだろう。
  逆まもた然り。それを阻止するために…大いなる実りが発芽してマーテルが消滅してしまわないように、
  ユグドラシルはマーテルの寄生した大いなる実りを精霊の封印、という楔で守っている。
  成長しないように、な。実りが成長し発芽してしまえばマーテルが失われてしまう、それゆえに」
「…ようやく納得がいったわ。だからレネゲードはマーテルの復活を阻止しようとしているのね」
かたくなにレネゲードがマーテル復活を阻止しようとしていたことも。
そのためにコレットの命を狙っていたことも。
たしかに手っとりはやい方法であろう。
器になるであろう神子を殺してしまえば、マーテルの復活はありえない、のだから。
また、かつての技術がのこっていたとするならば、生きているだけでマナをその体からとりだして
マーテルに注ぎ込んで復活させかねない、ならば殺してしまえばその懸念もなくなる。
わかりたくないが、わかりすぎるほどの単純明快なる理由。
「そうだ、我々は大いなる実りを発芽させる。
  …その結果、マーテルは種子にとりこまれ、消滅するだろう。そして…大樹カーラーンが復活する」
「もし、そうなったら二つの世界は元にもどるんですか?」
ユアンの淡々とした説明に、コレットがといかける。
それがずっときになっていた。
精霊と契約するにしても、世界がどうなってしまうのか、わからない以上、
今より悪くなる…とは思いたくはないが、それでも最悪の可能性がうかんでしまうのはコレットだからといえるだろう。
「それはわからん。わからんが。種子が消滅してしまえば世界は滅びる」
おそらく大地は残るであろう。
かの精霊との約束は、種子を芽吹かせること。
それが失敗するならば、世界を浄化する、そういっていた、という。
世界の浄化。
それすなわち、大地そのものを一度すべて無にかえす、ということを指し示している。
それは、マーテルのもとによくきていた水のセンチュリオン・アクアがそういっていたので間違いはない。
ラタトスク様は実行されるときは躊躇なくするけども、いつもその心を痛ませているから、
私たちはそんなラタトスク様に心痛をあじあわせたくはない、ともそういっていたセンチュリオン。
精霊に心があるのか、ともおもったが、まあ世界を生み出しているほどの精霊。
そしてまた、自分達も精霊とかかわり、彼らも人とかわりがない心があることをしった。
忘れていたわけではない、この四千年。
しかし、マーテルがどんどん種子と融合してゆく数値をみていて懸念がでてきた。
だから、ミトスに忠告した、というのに…なのに……
だからこそのレネゲード。
マーテルを完全に解放、するための。
「だから、マーテル様には涙をのんできえてもらうってか?」
ゼロスのそんないさめるような、ちゃかすような口調に対し、
「マーテルはすでにあのときに死んでいるのだ!デリス・カーラーンのマナがなければ、とうに心もきえていた!」
おもわずそんなゼロスにたいし、大声でいいかえす。
ユアンらしくない、といえばそれまで。
だけど、ユアンからしてみればそれが全ての真実。
「ユアン、お前……」
そんなユアンの様子に何か感じるものがあったのであろう。
ロイドが何かいいかけるが。
「ともかく、だ。今まで大いなる実りは衰退世界の精霊によって守護されていた」
頭をふりかぶりつつも、とりあえず話しを元にもどしつつ、説明の続きを開始しはじめるユアン。
このあたりのきりかえはかつてに鍛えられた、といっても過言でないであろう。
すぐに切り替えしなければ、どんどんと話しが脱線していっていたあの当時。
クラトスも口下手で、話しをまとめるのはあるいみユアンしかいなかったあの当時。
だからこそ、ラタトスクも彼らにまあ、任してみてもいいだろう、とおもった。
あがく人に任せてみても遅くはない、そう判断し。
「マナの楔…か?精霊のいっていた」
リーガルの台詞に、
「そうだ。そして、楔は抜け始めた。大いなる実りの守護は弱まっている、といってもいい」
うなづくユアン。
「私たちが二つの世界の精霊と契約を始めた…からですね」
今、契約しているのは、ヴォルトとノーム。
こちらの世界ではウンディーネと契約をしている、とプレセアは聞かされている。
「なるほど。だから私たちと手をくみたいのね。私たちにはしいなという召喚士がいる。
  あなたが飛竜の巣にいったときと、ヴォルトの神殿でいいたかったのはそういうことね」
納得はいくがかといって完全に信じられるものではない。
それゆえにリフィルが油断なくユアンをみつつも言葉を発する。
あれ以後、レネゲードによる神子襲撃はたしかにない。
「ユアン。お前はクルシスか、それともレネゲードなのか?
  あのエルフの人がいっていた、お前はあのお伽噺の中の四英雄の一人…なのか?」
勇者ミトスとその仲間達。
お伽噺では触れられていない、勇者の仲間達の名。
「四英雄…か。そう呼ばれていたころもあったな。ミトスもマーテルがあのようにならなければ……
  マーテルも…愚かな人が停戦協定を無視し、あのとき一致団結したように攻め込んでこなければっ!」
あのときのことは覚えている。
ミトスが力を解放するために、デリス・カーラーンにとおもむいていたあのとき。
それでも、クラトスが何か嫌な予感がする、というので周囲を警戒していた。
その予感にあわせたかのような襲撃。
なのに彼らは別働隊で、主戦力は別方向から大いなる実りがありし、聖地へと移動してしまっていた。
マーテルの叫びは今でも耳に残っている。
そして、その最後の遺言も。
『いって、ユアン、お願い。希望をついやさないで。あの人達もかならずわかってくれるわ。大樹がよみがえれば』
そういわれ、敵襲を察知したらしく戻ってきたミトスにあとをたくし、敵にむかっていったあの当時。
おもわずぎゅっとにぎりしめる手に力がはいる。
その手からは無意識にぽたぽたと血が流れ落ちるが、それすらユアンはぎついていないらしい。
その様子から、それが全ての真実だ、というのが嫌でもロイドたちに思い知らせる。
「…私は、マーテルの遺言を実行したい。ただそれだけだ。
  マーテルの遺言は、『誰もが差別されることのない世界を』、ただ、それだけ」
その言葉に嘘はない。
「でも、今のありようは…クルシスがやっていることは……」
ジーニアスも何といっていいのかわからない。
誰もが差別されることのない世界。
それはとてもすばらしい、とおもう。
だけど、クルシスのやっていることは間違っている、そうおもう。
差別どころではなく、誰かが犠牲になるこの世界のありよう。
そんなのは間違っている、そうおもう。
「…全てが同じ種族になれば、差別もなくなる。ミトスはそう考えた。それゆえの千年王国計画、だ。
  マーテルの遺言が歪められている、というのはわかっていた。いたが…私もあのときはそれに賛同した。
  エクスフィアを生成するのは、その力をもってして全てを無機生命体に変えてしまえばいい。
  全てのヒトを同じ種族…無機生命体にするため、そのための計画、だ。
  が、この現状のままでは、種子は失われてしまう!そして、マーテルも、だ!」
確実に、今もしマーテルが目覚めたとしても、それはかつてのマーテルではないであろう。
大樹の種子にとどまっていた人の魂が元通りであるなどとはおもえない。
むしろ変質していなければおかしい。
本来の天使の由来…そう、精霊石の精霊のごとくに。
「質問に答えていなかったな。……私は、クルシスでもあり、そしてレネゲードの党首でもある。
  もう、時間は残されてはいない。
  マーテルの復活がさきか、それとも種子が完全に死滅してしまい世界が滅んでしまうのが先か…
  そうなってしまえば、精霊ラタトスク様との約束は……」
目覚めればまちがいなく、地上の浄化がなされるであろう。
それはユアンの懸念。
マーテルが大切にしていた大地…今の自然が失われてしまうことの恐怖。
「ラタトスク…それよ」
「何がだ?」
ユアンの台詞にがふるように、リフィルが叫ぶ。
そんなリフィルにユアンが首をかしげるが、
「語り部からきいたわ。あなたたちは精霊ラタトスクから加護をうけとった、と。
  あなた達がほんとうにあの伝説となっている四英雄ならでは、だけどね」
本当に彼らがあの伝説の四英雄なのか、その判断はできない。
だけど、真実なのだろう、ともおもう。
だからといって目の前の人物が四千年以上もいきている、というのはなかなか信じがたい事実だが。
「我らの加護はミトス…ユグドラシルの手により、デリス・カーラーンへつづく鍵として利用されてしまっている。
  …ミトスは、かの精霊よりうけとりし加護すら利用し、鍵としてしまっている。
  ゆえに、今の私の手元そのものに、デリスエンブレムはない。
  …もっとも、我ら以外のものは、あれはミトスが…ユグドラシルがつくりだせしものだ、
  と認識しているであろうがな」
真実をしっているのは、当時のものたちのみ。
マーテルがいないいま、しっているのは、クラトスとユアンの二人のみ。
当事者であるミトスはいうまでもなく。
「マーテルは誰よりも…弟であるミトスよりもおそらくは、何よりもこの世界を、大地を愛していた。
  そんな大地を消滅させるわけにはいかないのだ。私ととしても」
「ユアン、あなた、まさか……」
その言葉の節々に感じるマーテル、という人物への思い。
いくらリフィルとて嫌でもわかる。
「マーテル様は、ユアン様のおくが…」
「ボーダ。余計なことをいうな」
ボーダが何かいいかけるが、ユアンがそれを制する。
「申し訳ありません」
獅子身中しししんちゅうの虫、か」
リーガルがそんな彼の告白に顔をしかめておもわずつぶやく。
「し…何だ?それ?」
ロイドはその意味がわからない。
獅子身中しししんちゅうの虫。内部にいながら害をもたらすもの。
  獅子の体内に寄生しておきながら、獅子を死に至らせる虫の意味からきている諺です。
  恩を仇でかえす、飼い犬に手をかまれる、などという類義語もあります」
意味がわかっていないらしいロイドに淡々としたプレセアの説明の声が響く。
「ま、ようするに裏切り者、だな」
あるいみ単純明快なるゼロスの説明。
ロイドにはわかりやすいようにそういったほうがはるかに速い。
それはこれまでの旅の中でゼロスはわかっているつもりである。
「裏切り者…か」
裏切り者、ときいて思い出すは、あのくちなわ。
どちらが先に裏切ったのか、それはあきらかに自分で。
くちなわだけを裏切りもの、といえない立場だ、としいなは理解した。
してしまった。
それゆえにしいなの表情もまたくらい。
だからといってくちなわのあの行動が許されるわけではない、とはわかる。
教皇とつるみ、里をどこにむかわせたいのか、という思いのほうがはるかにつよい。

「これで手のうちは明かしたも同然だ。さあ、どうするのだ?」
ユアンの言葉にはっと我にともどり、ロイドをみるしいな。
「…わかった。信じる」
そんなユアンにうなづくロイド。
「ロイド、本気なの?」
リフィルが確認をこめて問いかけるが、
「信じるさ。こいつは裏切りものとしての立場をあかした。それってやばいことなんじゃないのか?」
どこからクルシスにその情報がもれるかわからない、というのに。
彼はそのことを認めた。
だから信じるにあたいする、それに、ともおもう。
「ドワーフの近い。だますよりだまされろ、だ」
「うん。私も信じる、それに、ユアンさんがマーテル様を大切におもっているのはよくわかった。
  ユアンさん、血が……」
ロイドにつづき、コレットもうなづく。
かなり力強く手を握りしめていたのであろう。
ユアンの手からはぽたぽたとした血が滴りおちている。

天使化している、とはいえそのあたりの生体機能まで彼らは変えているわけではない。
そこまでしてしまえば内臓まで無機物化してしまい、逆に死に至るか、
もしくは心というか意識すら表にだすことが難しくなるだろう、ということはきかされている。
もっとも、ユアンが天使化したのは、戦争に駆り出されたゆえであり、
クラトスにしてもまた然り。
マーテルとミトスのみは、その天使化の過程が彼らとは違っていたのだが。
天使化をきめたのは、人がうみだせし魔への扉を封じんがため。
あのとき、ラタトスクも彼らに忠告はした。
だけど、彼らはこうもいった。
自分達人がおこしたことで、これいじょう、君たち精霊…ううん、君に負担をかけたくない、と。
それほどまでにまっすぐであったヒトの子。

コレットにいわれて初めてきづく。
ぎゅっとにぎりしめていた手から血がでていることに。
「…ファーストエイド」
その手にむかい、自ら治癒をほどこしておく。
それとともに淡い光がユアンの手をつつみこむ。
「…お前達は、たしかロディルの牧場へむかうのだったな」
傷を癒し、再びロイド達にむきなおり、改めてといかけてくるユアン。
「本当によくしってるねぇ。こっちに密偵でもはなってるんじゃないのか?」
ゼロスがそんなユアンにたいし、逆に問いかける。
「本当だよな」
たしかに、とおもう。
ロイドは気づかない。
かつて、彼らが捉えられていたとき…というか、彼らをたすけたあのときに。
自分達にこっそりと発信機なるものがつけられている、ということに。
それは神子…すなわち、コレットのクルシスの輝石の中にいれこんでいるので気づかれていない。
ただそれだけの理由。
「まあいいや。魔導砲ってのが完成するまえにどうにかしたいんだ」
「それに、ロディルには貸しがあります。あの状態で生きていることにも不思議におもいますけど」
よくもまあ、あの爆発の中、生き延びられていたとおもう。
というより、確実にゼロスの一撃は致命傷になっていた、とおもうのに。
「牧場と魔導砲はシステムが連結しているはずだ。管制室を無効化すればいい」
そんなロイドとプレセアの言葉にたいし、淡々と説明してくるボーダの姿。
「やけに詳しいのね」
そんな彼らが異様に詳しいことに疑問におもいながらもリフィルがといかける。
これが罠でない、とはいいきれない。
ないが、ユアンがマーテルという女性をすくなからず、大切に思っている、というのは今のやりとりでわかった。
そして、おそらく、勘違いでなければ、ユアンとマーテルは…
「我々もロディルの牧場に侵入する必要背があったからな。これまで調べていだたけのこと。
  我らとしても侵入する予定ではあったのだ。奴の牧場の入口まで道案内ができるが、どうする?」
ボーダがそんなロイド達にとといかけてくるが。
「どうするもこうするもねぇよ。手をくむんだろ?当然たのむさ」
ロイドの答えはほぼ即答。
「あんたたちは何のために牧場にむかうんだい?」
しいなの素朴なる疑問はおそらく間違ってはいないであろう。
なぜ彼らが牧場に用事があるのか、すくなくともしいな達には理解不能、なのだから。
「マナを大いなる実りに発射するための準備だ」
彼らからしてみれば何がおこったのかあるいみで理解不能ともいえた。
もっとも、二つの施設における魔物の襲撃に関しては、それをうけた間者としてもぐりこんでいた、
レネゲードの者たちは、そのときにその施設よりどうにか一部脱出し、
その胸をレネゲードに…すなわち、ボーダに伝えたわけだが。
その報告をうけ、彼らが調べた結果が、施設の完全消滅。
利用しようとしていた装置も綺麗さっぱりときえており、
しかたなく、古代に使用していた、というマナの調停装置がある、といわれている、
神殿にとおもむいた。
精霊の神殿に、まだディザイアン達の施設をつくるまえに、簡易的においておいた、というその装置。
それらをつかうしかない、とのユアンの判断により。
もっとも、四千年も使われていなかったのでその調整に時間がかかってはしまったが。
今はただの精霊の檻として起動しているそれが、かつてはマナの調停を担う装置であった、
というのをしっているのは、おそらく四大天使、とよばれるものたちのみ、であろう。
その転換がミトスに気づかれていないのは、それらを管理している部署がその変化に気づいていないがゆえに、
ミトスに報告をあげていない、ただそれだけのことにつきる。
「と、いい忘れていた。大いなる実りにマナを発射する準備のために、
  レアバードの空間転移装置がつかえなくなっている。
  テセアラへ戻るのは牧場潜入の後までまて、いいな」
ふと肝心なことをいいわすれていたのにきづき、あらためてロイド達にむきなおり、
いきなりそんなことをいいだしているユアン。
もっとも、ロイド達からしてみれば、レアバードで移動ができるかもしれない、
という可能性を綺麗さっぱり失念していたので、いわれるまで今の今まで気づくこともなかったのだが。
「わかった。というかレアバードはこっちでも利用できるのか?」
まだ試していないのでロイドにはわからない。
「普通に飛行するだけ、ならな。こちらの世界のマナも安定しているようだし問題はないだろう。
  が、空間転移をするためにはエネルギーを補充する必要がある。
  その補充は我らの基地からでなければできはしない。
  移動するにしても我らの基地から基地へ、という形になるだろう。
  まあ、マナが少なければ動力不足で墜落はするだろうが……」
本来ならば、こちらのシルヴァランドで神子が精霊の封印をといた時点で、
テセアラのマナがすくななり、レアバードを起動させるのも難しくなっていた、はずである。
何よりも、彼らがレアバードをとっていったとき、動力はあまり残されていなかったはず。
空間転移にもちいられるマナは普通に移動するよりもはてしなく多い。
ゆえに、空間転移をしただけですぐに墜落していてもおかしくはなかった、というのに。
まあ、あの直前にちょうどエネルギーを補充していたからかどうやら街までは保ったようではあるが。
そこまでユアンからしてみれば説明する義理もなければ責任もない。
ゆえにそのことには触れず、淡々と事実のみを説明する。
ついらく、という言葉をきき、一人だけ噴水におちたのをおもいだし、
おもわずしいなをにらんでいるジーニアス。
ロイドの視線もしいなにむかうが、しいなはただただから笑いをするしかない。
あのとき、自分のドジで街の中心街に墜落…というより着地してしまったのは、
いいわけのしようのない事実、なのだから。
「…準備ができたらボーダに声をかけろ。あとは頼むぞ。ボーダ」
「おまかせを」

ユアンもいろいろとあるらしく、一緒に行動はしないらしい。
まあ、たしかに、クルシスに属しながらもレネゲードを運営しているのだから仕方ないものは仕方がない。
ユアンがいなくなり、とりあえず、今後の作戦を改めて確認中。
「ボーダ。もしかして、ユアンはマーテルの……」
そんな中、リフィルがきになっていたことをといかける。
答えてくれるかどうかはわからないが。
「これは一人ごとです。ユアン様はマーテル様と婚姻を結ばれておりました。
  ユアン様はそのときの結婚指輪をとても大切にされておられます」
その大切にしていた指輪を無くしていることをボーダは聞かされていない。
聞かされていれば死に物狂いで今もなお探しているであろう。
クラトスを襲撃したとき、クラトスの反撃をうけ、ハイマにてユアンは指輪を落としてしまっている。
それをもっているのはロイドだが。
当然、この場の誰も…否、エミル以外はしるよしもない。
「婚姻…って、あいつ、結婚してたのかい!?」
しいなの驚きの声と、
「マーテル様と結婚って…あいつがか?」
ゼロスが信じられない、とばかりにおもわずつぶやく。
まあ、あのクラトスですらロイド、という息子がいるのだから、おかしくはない、
ないだろうが。
「もっとも、婚姻後もミトス様にいつも邪魔されていたようですけど。
  ミトス様曰く、家族なったんだからいつも一緒なんだよね、といって常に寝所まで一緒だったそうです」
『・・・・・・・・・・・・・・』
そんなボーダの言葉に全員が一瞬黙りこむ。
「つまり、何か?クルシスの指導者であるという勇者ミトスの実体は、
  蓋をあければ究極のお姉さんっこ…つまり、シスコンってか?」
ゼロスのあきれたような声。
そんなシスコンにこんな世界が管理されている、となると何だかむなしくなってくる。
しかも犠牲を強いる世界、なのである。
ゆえにおそらくゼロスの呟きは間違ってはいないであろう。
「…まあ、姉様以外はいらない、とまで以前はいっていたようですけどね…クラトス様がおっしゃるには……」
『・・・・・・・・・・・・・』
何だろう。
ものすごく勇者ミトスの偶像と、そしてクルシスの指導者たるあの彼のイメージがかなりかわる。
おもいっきり。
だからこそ、ロイド達はおもわずだまりこむしかない。
「ユアン様にもどこを好きになったのか、と以前聞いたことがあるのですが。
  でてくるのは何というか愚痴というかのろけというか…
  マーテル様がどんなのにのんびりして、空気をよまないとか、のほほんとしてるとか。
  料理が壊滅的に下手で、きづいたら毒キノコまで平気に綺麗だったからいれた、とかいったとか。
  そんな話題がぽんぽんと……何もないところでよくこけていたとか、もういろいろと」
「…何か、どこかの誰かににてないか?」
ぽそり、というリーガルに、
「……毒キノコをシチューにいれるって、それってコレットが前やったことあるよね?」
ジーニアスがかつてのことを思い出しつつおもわずつぶやく。
昔、イセリアで。
これ綺麗だからいれるー、といっていれてしまい、大騒動になったことがあったりする。
「料理が壊滅的に下手なのになぜか甘いものだけは得意で、とか、いろいろと。
  究極すぎるおひとよしで、他人が嘘をついていてもそれらを信じいつも痛い目にあっているのに
  それでもひとを信じようとするだの…おかげでいつも苦労していた、だの。
  あるいみで愚痴のオンパレードでしたが」
「…ちなみに、ご結婚を決意された理由は、ほうっておいたらマーテル様はかならず、自分の料理で死ぬ。
  そう確信したらからしいですよ?」
『・・・・・・・・・・・・・』
何だろう。
マーテル教のイメージと、何といっていいのか、イメージ崩壊もいいところ。
「もともと、ユアン様もあまりにお人よしすぎる彼らが挫折するところがみたくて、
  というか絶対に挫折する、とおもって旅になしくずしてきについていくはめになったようなんですが。
  元々は敵対する勢力に所属していたようですからね。ユアン様は。
  クラトス様はテセアラのとある貴族でしたが、
  国の方針に反発して国を出奔なさってミトス様についていかれたようですが」
いってため息一つ。
「口癖は、あれのおそろしいところは、こっちがいくら敵意をもって何かいっても、
  いつのまにか話題をそらされ、自分のペースにもっていかれ、さんざんひっかきまわされることだ!
  とよく、昔、酔われたときにいわれていました」
『・・・・・・・・・・・・・』
思わずその視線が全員コレットにむかってしまう。
「ふえ?」
そんな視線の意味がわからずにコレットは首をかしげるが。
「…ああ。うん、器に選ばれた理由があたしには何となくわかったよ」
「奇遇ね。しいな。私もそうおもったわ」
コレットをしばしみつめ、ため息とともにつぶやくしいなに、そんなしいなに賛同しているリフィル。
一方で、
「ひっかくって、マーテル様ってツメがながかったのかなぁ?あ。もしかして正体は、実はねこにんとか?」
「ねこにんかぁ。あれ?でもさ、あのユグドラシルはねこにんではなかったよな?」
「あ、わかった。天使だからきっと姿もかえられるとか?」
「おお。すごいな。それ、コレットも姿かえられるようになるのか?」
「羽はまだだせるから私もそういえば天使なんだよね。ねこにんになれるのかなぁ?」
「「「いや、それ絶対に無理(だから)(だろ)」」」
何やらまったくズレタ会話をしているコレットとロイド。
これが素でいってるのだから洒落になっていない。
そんな二人に思わず異口同音で突っ込みをいれている、ジーニアス、ゼロス、リフィルの三人。
「…マナが似ている、というのは性格までにるのか?何かユアン様からきいたイメージにちかいのだが…」
一人、そんなことをつぶやいているボーダ。
そんなボーダにむかい、ぽん、と肩をたたきつつ、
「気にしたらだめだよ。きっと」
似ている、とおもっているのは自分だけではないのだから、エミルとしてはそういうしかない。
エミルの目からみても、ほんとうに雰囲気がよく似ている、とおもうのだから。
まあ、あののほほんぶりで戦争をしていた上層部のものたちすら混乱させていたマーテル。
そのほけほけぶりはともかくとして、まだ人も捨てたものではないな。
そうおもえたあの当時。
だからこそ、蝶を常に彼らのもとにおいておいた。
何をしでかすのか予測がつかなかった、というか視ていてちょっとした気晴らしになった、といっても過言でない。
人があまりに愚かなことをしまくる中で、あるいみちょっとした安らぎのようなものであったのも否めない。
「それより、侵入なんですけど、ボーダさん達の移動手段はレアバードと飛竜なんですよね?」
「ああ。お前をここにつれてきたときはレアバードにのせたがな」
とりあえずこのままでは話しが続かない。
それゆえにさりげなく話題を変換すべく話題をふるエミル。
「我らもあまり戦力は裂くことはできない。ゆえにお前達とは別行動になるが……」
「僕はそれでかまわないですけど。僕もちょっと気になってたんですよね。
  魔導砲と、あと……」
どちらにしろ、確実にあの人間はアレと契約を交わしている。
直接に触れてみればどこからその力が流れているのか把握するのにはうってつけ。
何よりも、これ以上、アレを創られるわけにはいかない。
「エミルのもいくの?」
大概、いつもどこかにはいったりするときは、ノイシュ優先で滅多についてくることはないのに。
めずらしい、とおもう。
それゆえのジーニアスの台詞。
…まあ、あのアスガード牧場のときは何といっていいのかいまだにジーニアスは説明のしようがないのだが。
「ダメ?まあ、ダメだっていっても一人ででもいくつもりだけど」
「…あなたを一人にしたほうがよほど危険よ」
それでなくても、クルシスはどうやらエミルの力をねらっているっぽい。
それに、目のとどく範囲にいてもらったほうがすこしは気がやすまる、というもの。
エミルが次にどのような魔物を呼び出すかわからない以上、手の届く範囲にいてもらったほうがいい。
それゆえのリフィルの台詞。
「それで、その問題の絶海牧場、というのはどこにあるんでしょうか?」
その位置はプレセアは聞かされていない。
シルヴァランドにいるものならば誰しもしっているのだが、当然テセアラ組はそこまで詳しくしるはずもない。
「ふむ。では位置を説明しよう」
いいつつも、ぱさり、と懐より地図…かなり正確な、をとりだして説明をしはじめているボーダ。
このあたりのマメさが八百年もユアンの懐刀としてレネゲードを維持してこれた所以なのだろう。
そうそんなボーダの様子をみながらも判断するエミル。
大地に意識を同調させ、彼らの活動機関が約八百年…地上時間において、ではあるが。
それくらいの期間におよんでいることはひとまずつきとめてはいる。
もっとも、八百年、というのはエミル、否、ラタトスクにとってはつい昨日のことのような感覚ではあるのだが。

しばし、ボーダによる、手順と、そして説明がその場においてなされてゆく……


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あとがきもどき:
薫:原作(ゲーム)では、サブイベントでユアンとマーテルが何かかわりがある。
  みたいな感じではでましたが、完全にはでませんでした。
  ユアンとマーテルの婚姻関係vこちらではさくっとボーダの口より語ってもらいましたv
  あれ、ぜったい、ユアンが指輪なくしてるのにきづいたら、
  ボーダレネゲードのものたちに命じでもして絶対に探していた、という確信があるv
  しかし、大切な結婚指輪をなくすユアンって…ほんと、どじっこユアン、といわれる所以ですな。
  とふとおもったりv
  次回でようやく絶海牧場~おそろしいことにすでに50話にいく……

2013年7月19日(金)某日

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