まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

今回、ラタトスクの騎士で、なぜにヴァンガードの総帥が、
ラタトスク・コアを用いようとしていたのか、そのあたりをすこしばかりねつ造設定をだしてますv
ラタトスクを語るときにはかかせないとある父娘がちらりとゲスト登場!(まて
まえぶりで、ゼロスが誰かにあっているようなことを示唆していますが、
決して、例の子煩悩ストーカー、といっているわけではありませんよ?
事実だとしても、それはゼロスはいっていないので、ばらしているわけではないのですv

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ザァン。
潮の音が響き渡る。
「お。しいな、眠れないのか?」
「ゼロス…あんた……」
なんでこんな真夜中にここにいるのやら。
否、考えなくても何となくわかる。
わかりたくもないが。
「そういうあんたは…」
「いやぁ、せっかくシルヴァランドにきたんだから、綺麗どころに声を…」
「このあほ!シルヴァランドにまできて恥をさらすんじゃないよ!」
おもわずそんなゼロスにたいし、くってかかる。
「お。元気でたみたいだな。なんだかお前、こっちにきてからこのかた元気なかったようだったが」
ひょい、しいなの一撃をかるくかわし、何でもないようにいっているゼロス。
二人がいるのは残橋の先。
周囲に人の気配はなく、月灯りが海面と、そしてそこにつながれている小型の船を照らし出しているのみ。
「ふん。あんたになぐさめてもらおうなんておもってなんかないから安心しな」
「うむ。その調子だ。それでこそおまえさんだな」
かるい口調ながらも、しいなの背後にたつゼロス。
「くちなわのやつ……」
可能性として、あのとき、みずほの里をでたときに渡されたあのお守り。
あれがおそらくは、式神の一種、だったのだろう。
しいなは気づかなかったが。
ふと腰につけていたはずのそれがなくなっているのにきづいたのは、さきほどの食事時。
「ま、そう奴をせめるなよ。あいつも昔からおまえさんと一緒にいたんだぜ?
  わかってはいてもどうせ大方教皇のやつにまるめこまれたんだろ」
あの教皇がしそうなことである。
「ほっといてくれ!それでも!あたしは、あたしはうらぎりもの、というのが大嫌いなんだよ!」
裏切りには死を。
それがみずほの里にある根柢の掟の一つ。
「お~こわ。女のヒステリーは犬もくわねえぞ?」
「大きなおせわだ!」
「まず、始めに誰が裏切ったのか、考えてみるんだな」
「なんだと!」
「ひぇ~、退散、退散…」
それだけいい、その場をあとにしてゆくゼロスの後ろ姿をみおくりつつも、
「あたしは…あたしは……」
いわれてみて冷静になれば、どちらが先に裏切ったのは、いうまでもなくあきらかに自分で。
ゆえにその言葉の歯切れも悪い。
依頼をうけたのはたしかに自分。
それでも、その依頼をあるいみ破棄した形になってしまったのもまた自分。
少し考えればわかったであろうに。
自分には、できない、と。
それでも、頭領が目覚めない以上、自分がするしかない、とおもっていた。
教皇がいったのは、この依頼をうければみずほの民には手をださない、というようなもの。
そしてまた、祖父を目覚めさせる方法を調べてみてもよい、という提案であった。
だから引き受けた。
…もっとも、その祖父はいつのまにか目覚めており、その前に自分もシルヴァランド神子暗殺、
というものができなかったのもまた事実だが。
自分に依頼があったのは、かの地で死んでしまってもいい、と里のもののほとんどがそうおもってのことであった。
その事実をもしいなはしっている。
しっていてもひきうけた。
否、ひきうけざるを得ない状況であった、といってもよい。
副頭領は無理をしなくてもいい、といってくれたが、無理に承諾したのはほかならぬ自分で。
たけども、承諾したのにその依頼を結局はたすことはできずに。
どう考えても、それは依頼主の依頼を徹底する、というみずほの掟を裏切っている行為といえる。
今ではそれをしても、どちらにしてもどちらの世界も救われなかった、と理解しているが。
そのときはそんなことはしらなかった。
テセアラのためにシルヴァランドの神子…コレットの命を狙ったのは間違いのない事実。
非情になりきれなかったのもまた、忍び失格、といえることも理解している。
忍者は常に非情らにならなければいけない、それが任務、というものなのだ、とも理解している。
理解していても心がおいつく、ともかぎらない。
特にしいなにとって、死は恐怖ともいえるものとなっている。
あのとき、何もできずに里のものたちが目の前で一撃で死んでいったあのときから。
自分以外のものが傷つくことを極端に恐れていた。
それがたとえ、対象者…標的であろうとも。
「あたしも、ロイドのことはいえないね。感情に流されちまって大局がみえてない…はは…忍者失格だね…コリン…」
以前ならば軌道修正してくれるコリンがいた。
けど、今は。
自分で全てを考えて行動しなければいけない。
前ならば、コリンに相談し、客観的にみることができていたのに、今はない。
ぎゅっと胸にしまいしコリンのスズを握りしめる。
それでも、すすまなければ。
身を呈して自分を守ってくれたコリンのために。
そしてまた、自分を信じてくれている彼らのために。
祖父たる頭領が目覚めた以上、すくなくとも自分に心残りはない…とおもうから。

光と闇の協奏曲 ~港町パルマコスタにて~

「もしも、世界が二つ別れたとするわ。大樹が復活したとしても。
  …どちらの世界も大樹はマナを供給できるのかしら?」
「もしくは、今までどおり二極で世界同士がつながっている状態のまま、かもしれませんね。
  ちなみに、僕の二極の説は、大樹があった聖地の場所と、異界の扉、この二か所ですけどね。
  その二か所のみで二つの世界を結んでいる、それが僕の仮説ですけど」
「大樹カーラーン。世界樹は無から世界を生み出すともいわれているから
  そんなことがあっても不思議ではないでしょうね」
事実がどこまでかはリフィルとてわからないが。
ここにもし、エミルがいれば確実に苦笑、もしくはだまりこんでいたであろう。
何しろ話題があるいみ自分自身のこと、なのだから。
「まあ、考えてもしかたないし。とりあえず、今はもっぱら当面、精霊との契約、だな。たのむぜ。しいな」
「はいよ」
ロイドの言葉にしいながうなづく。
「…ロイドって、ほんと、あるいみ行き当たりばったりなところはなおらないよね……」
たしかに今後のことは課題であろう。
精霊と契約を交わしたにしても、そのあとに何があるかわからない。
これまではがむしゃらであったのでジーニアスもそこまで考える余裕がなかったが。
たしかに、リーガルに指摘されたとおり、その後のことを考える必要性があるのもまた、事実。
「とにかく、めしにしようぜ、めしめし~!はらはへっては戦はできぬ!」
「めずらしい!ロイドがまともにことわざまぢかえてない!」
「ほんとう、明日は雨かしら?」
そんなロイドの言葉にジーニアスが本気で驚き、リフィルがしみじみとつぶやく。
「え?先生。明日、雨なんですか?なら虹がみれるかなぁ?」
「コレットちゃん。虹がみたいのか?」
雨、という単語に反応し、コレットがいい、そんなコレットにゼロスが問いかけるが。
「なら、こんど外で水の術でもつかって虹をつくろっか」
「あ、水浴びだね。たのしそう」
ジーニアスの言葉にコレットが別の意味で答えをかえしているのがみてとれる。
「……話しがずれていっているような気がするのは私のきのせいか?」
「いや、きのせいじゃないとおもうよ。リーガル」
「へぇ。シルヴァランドも文字は同じ…なんだ」
こちらはこちらで、メニュー表…木のメニュー表にきざまれし文字をみて、
何やら感心したようにこんな場所でも観察しているアステルの姿が。
「…この、肉鍋と魚鍋はどうちがうんだ?」
メニュー表をみてそんなことをいっているリヒター。
あるいみ、肉を使用しているのか、魚を使用しているか、の差だけなのだが。
アステルにつれられて外にでることくらしいかないリヒターにとって、珍しい料理であることには違いない。
「おにぎり…が、あります」
メニュー表にあるおにぎり、の欄。
そこには持ち帰りできます、の文字も。
ちなみに、持ち帰りで人気なのは、このおにぎり、もしくはサンドイッチ、そのどちらかになっているらしい。
どちらも猟師達の間では船の上で食べるのに楽だから、という理由らしいが。
ちなみに、おにぎりは昔からのプレセアの得意料理の一つ、だったりする。
お出かけする父によく昔からつくっていたから、といっても過言でない。
「そういや、ラーメンは…ないか」
「いやいや。しいな、ラーメンはそもそもみずほの独自の料理っしょ?」
みずほ以外でゼロスもきいたことがない。
もっとも、しいなからきき、ゼロスの屋敷の料理人にそれを再現させ、
さらにそれらをメルトキオにゼロスは普及させたりもしたのだが。
彼らがそんな会話をしている最中。
「あ~。もう、パパ、こんなところにまたいたぁ!」
何とも場違いのような少女の声がきこえてくる。
ふとみれば、そこにはツインテールにした長い髪を白い花でとめている場違いな少女の姿がみてとれる。
「お。マルタちゃん。御苦労さま」
「もう、どうせまたパパったら、王国復活とか馬鹿なこといってたんでしょ?ママがきいたら怒るのに」

真実、末裔だからたちがわるい。
その証拠の品もブルートは実は常にもっている。
血をひくもののみがあつかえる、というその紋章は、
正統なる後継者のみが扱える、らしい。
それをもってしてある遺跡の神殿にはいることも可能、らしい。
何でもそこに代々試練なる間があり、そこで手に入れた品を母にわたし結婚の申し込みをした、らしいが。
何でも王家の血をひくものは、その試練の間を経験し、そこにてふさわしき品がわたされる、とのこと。
試練の間にはいるときは、その目的をつげる必要があるとかないとか、そう少女は聞かされている。
マルタも幼いころに、父につれられそこにはいったことはある。
ひんやりとした空間。
父が誇っていたが、マルタからしてみれば恐怖のほうがつよかった。
まるで、そう、何の命もかんじられない、ひんやりとしたその空間は。
それは、かつて魔科学によりうみだされし品。
血…すなわち、マナのありかた…当時は遺伝子、と呼んでいたが。
とにかく特定の血をもつものみに反応し、鍵が起動する、という代物。
ひんやりとした空間、と感じたのは、そこにあるコアシステムによるものであり、
かの地は、常にその人工知能をもちし機械は扉が開かれるまでは眠りについている状態となっている。
その奥には当時つかわれていた魔導砲の制御システムもあったりするのだが。
それは血をひきしものにしか起動ができなくなっている。

「ほら、パパ、かえるよ。もう」
「うう。マルタ~。パパはいつか、国を復興し、お前達を王妃と王女に……」
「はいはい。寝言はねてからいおうね。ったく」
何やらちいさな少女にずるずるとひこずられるようにして大の男がひこずられて言っている様子が、
隣の席においてみうけられているが。
しばらくみていると、どうやら少女の母親、であろう。
面影がにている女性もやってきて、
そのまま二人して大の男をひこずりながら酒場をあとにしてゆく様子が目にとまる。
「……どの世界も男はやはり女の尻にひかれるのかねぇ…」
おもわずそれをみてゼロスがぽそり、とつぶやくが。
「とにかく、めしにしようぜ、すいませ~ん、注文をおねがいしま~す!」
「は~い!」
今までの話しの脈絡はどこにやら。
元気よく店員にと声をかけているロイド。
そんなロイドの姿をみて、思わず大人組みは顔をみあわせため息ひとつ。

「ここはたしか、パルマコスタ、というんですよね?成り立ちとかはどうなってるんですか?」
「ああ、それはね……」
一方で好奇心旺盛、なのだろう。
アステルがリフィルにこの街の成り立ちや仕組み、あり方などをきいている様がみてとれるが。
そんなアステルの姿をみてこれまた違う意味でため息をひとつつき、
「…衰退世界、シルヴァランド…か」
貴族などという身分がない、という。
王族、などというものすらいない世界。
そのかわりに、人々を虐げているというディザイアンがいる、という世界。
テセアラでは黄泉の国、もしくは月の国、とまでいわれている世界。
そこに今、自分がいることにとまどわずにはいられない。
しかし、かんじるマナのありようの感覚からテセアラでないことは疑いようがない事実。
主体となっている主たる成分のマナがあきらかに違う。
テセアラで常に感じていたマナと、こちら側のマナ。
リフィル達がいうには、今はどちらの世界もあまり変わり映えがしないように感じる、とはいっていたが。
それでも、空気の匂いがどこか違う。
ぱっとみるかぎり、身分差別とかなさそうにみえるが、どうやらハーフエルフもここではやはり迫害されている、らしい。
それはリフィル達の反応からして理解しているつもりである。
ちいさくつぶやきつつも、リヒターは窓の外を垣間見る。
そこにはかわらぬ月が輝いており、周囲をあかるく照らし出している。
まるで、人の思いなどすべてお見通しである、とでもいうかのごとくに。


翌朝。
宿で一夜をあかした後、朝一番にて宿屋にて。
ロイドが落ち込んでいる…ようにみえたミトスに向かい、
いきなりまくら投げだ!といって、マクラをなげ、ジーニアスにいわれ、
意味のわからないままに枕を投げ返し、いつのまにかまくら投げ合戦が始まったが。
それをききつけたリフィルにおこられ、全員が正座するハメになったのは昨夜のこと。
ミトスはそのような遊びをしたことがない。
そもそも、昔、そんな遊びをするような相手もいなかった。
その後にしても然り。
指導者、として求められた彼はそのような遊びをしたことはついぞない。
ゆえにあるいみで忘れていた童心を思い出させた、といっても過言でないが。
どうやら今現在、この街は、ドア夫人を中心として、ニール達がまとめていっているらしい。
「神子様!ロイドさん!みんなも!…あれ?エミルさんは?」
ロイド達がやってきた、という報告をうけ、ニールが対応にと出向いてくる。
ちなみにさすがに朝早いせいか、人の姿があるとすれば、ほとんどが、
猟師や、もしくはぱたぱたと動きまわる主婦らしき姿の人々のみ。
「あ、エミルはちょっと……」
みたことのない人物が増えているが、一番の恩人、ともいえるエミルの姿がない。
アステルをみて一瞬、エミルか、ともおもったが、髪の長さも違えば雰囲気も違う。
このあたり、さすがに一応、長年ドアの下で人を使う立場にあったものであるがゆえ、
雰囲気の違いというか他者を見抜く力はどうやらついているらしい。
「そこの人、エミルさんにそっくりですけど、もしかして御家族ですか?
  エミルさんには、たしか親戚も両親もいない、ときいてましたけど、みつかったんですね?!」
ニールが聞かされていたのは、記憶がなく、リフィルからおそらくは人里離れた場所でそだったのでは。
ということくらいしかニールは聞かされていない。
ゆえに、どこかで親戚などをみつけた可能性もなくはない。
そんなニールに対し、否定も肯定もせず、
「今、あの子は別行動をしているのよ」
苦笑しつつもリフィルが返す。
今、彼らがいるのは総督府からはいってすぐの場所。
総督府の中にとある貴賓室にと彼らは案内されて今にいたる。
「そうなんですか。ドア夫人がぜひともお礼を、といっていたのですけど…
  ところで、神子様、再生の旅は順調ですか?自然の状態もすこぶるいいですし。
  近いうちにディザイアンもきっとかならずいなくなりますね!」
事実、再生の神子が移動してからしばらくして、天候がおちついた。
あれほどあった異常気象もぴたり、とやんだ。
噂では、砂漠に降っていた雪もおさまり、また、ルインの街の異様な暗闇も取り除かれたらしい。
アスガードの街の突風も収まり、それら全ては再生の旅が順調である、と人々に思い込ませていたりする。
ある意味で事実でありまた異なるのだが。
人が真実を知るはずもなく、それゆえにそのような解釈になるのもまた仕方がない、といえよう。
「あ、えっと…実は……」
そんなニールに対し、コレットが馬鹿正直に真実を話そうとするが、
「あ、ああ。順調です!それより、ちょっとこいつを預かってほしくて」
そんなコレットの言葉をあわてて遮り、ここにきた目的である本題をとりあえず切り出し話題ほをかえる。
そもそも、別の世界だの、何だのといっても理解不能であろうし、
何しろここシルヴァランドにとってテセアラは月の世界のこと。
おもいっきり夢物語、ととらえられかねない。
それゆえの反応。
「?それはかまいませんが?この子は?」
ロイドにいわれ、ミトスに視線をむけ、ニールが首をかしげつつもリフィルにとといかける。
以前にいたクラトスといっていた傭兵の姿がみられないが、エミルが別行動をしている、というのだから、
おそらくはあのエミルさんと一緒なんでしょうね、
そうニールからしては解釈しているので、クラトスのことには突っ込んでこない。
「わけあって、一緒に旅をしているのだけど。これから私たちが向かう場所は、かなり危険なのよ」
服に触れたときに感じたあの硬いもの。
あの感触は、リフィルにはわかる。
あの感じた感触はあきらかにエクスフィアのものであった。
しかしそれはいわない。
そもそも、エクスフィアを一般人がつけている、ということ自体がおかしい。
プレセアのように人体実験に使われていた、というのならわからなくもないが。
それに、自分からつけているのであれば、どうしてエクスフィアをつけていても危険なんだよ、
とジーニアス達がいったときに、僕もあるから、といってこなかったのか。
それら全てがリフィルに疑念を持たせている。
そんなあきらかに得体のしれない子供をつれて移動するのは避けたい。
かといって、もしも何もないのであれば子供一人をほったらかしにしておく、というのはリフィルの信念に反する。
それゆえの提案。
「では、もしやパルマコスタ牧場へ向かわれるのですか!?」
そんなリフィルの台詞に、ニールが目をきらきらさせていってくる。
どうやら危険な場所、イコール、牧場跡地、と捉えたらしい。
「え?それってどういうこと?あそこはつぶれちゃったでしょ?」
そんなニールに対し、ジーニアスがいぶかしげにいうと、
「違うのですか?最近、ディザイアンが牧場跡地の泉付近をうろついている、
  という報告をうけて。我々も警備を厳重にしていたのです」
ジーニアスの言葉にニールが逆に眉をひそめる。
「まさか、マグニスが復活したのかな?」
そんなニールの言葉をきき、コレットが首をかしげ全員の顔をみわたすが、
全員の顔は困惑顔。
特にアステルやリヒターには何が何だかわからない。
こちら側のことを彼らは詳しく聞かされていない。
牧場云々、というのはこれまでの旅の中でエクスフィアの成り立ちの説明をする中でリフィルが説明をしてはいるが。
そこの牧場の主の名までアステル達に説明はなされていない。
「関係があるかはわかりませんが、ここしばらく、
  イズールドとパルマコスタを結ぶ海路にて、ディザイアンの襲撃をうける、ときいています。
  どうも海底に何か巨大な建造物をつくっているようだと」
せっかく海の魔物が落ち着いた、というのに。
否、いまだに巨大な魔物の目撃情報はありはすれど。
なぜかここ最近は魔物達は率先して人を襲ってこない、というのが皆わかったらしく、
警戒はすれども前ほどではない。
いわく、おそらく再生の神子の旅が順調であるがゆえに、魔物達も大人しくなっているのだろう、
とはほとんどの人の総意。
「あの海域にはたしか……絶海牧場があったわね」
それもあり、今では島の下を迂回するように海路がなされていたが、
島の上を回り込むようにしてイズールドに向かう海路となっている。
島の下を回り込む航路のほうが波が穏やかで航海するのにも安定していたのだが、
ディザイアンの襲撃などがあるのであれば、多少の危険はやむおえない。
それに最近は、滅多と海が荒れる、ということもないので、猟師達もそちら側の海路をつかっている。
貴賓室の壁にかけられている大きな地図。
そこには危険地帯として、牧場のある場所に徴がつけられている。
「きになるな。ロディルが建設している魔導砲やれしれない」
リーガルがそんな会話をきいておもわずつぶやく。
ニールからしてみればなぜに手枷をつけているのかかなり疑問ではあるが、
彼らが何も触れない、というのは何か理由があるのだろう。
そう判断しあえてつっこみをしてこない。
そのあたりはさすが、人を納める立場に関係していた人物、といえるであろう。
まあ、中にはそういう自分を拘束するような趣味があるような人もいる、としっているがゆえに、
あえて触れない、という理由もあるにしろ。
「気になるなら確かめてみればいいんじゃねぇの?」
そんな彼らにあっけらかん、とあたりまえのようにゼロスがいう。
たしかにゼロスのいうとおり。
確かめてみなければ何ともいえない。
「それに、魔導砲が外れでも、パルマコスタ牧場が本当に復活したのなら、
  この街もルインの二の舞になっちまうよ」
かつてのルインの惨状を思い出し、しいなが伏せ目がちにといってくる。
あの街も、牧場から逃げ出したものをかくまったから、という理由だけであのような目にあった。
このパルマコスタも同じく、牧場から逃げ出した者達をかくまっている状態。
同じようなことにならない、とはいいきれない。
それゆえの懸念。
「そうだな。とりあえずパルマコスタの牧場へいってみようか。皆もそれでいいか?」
ロイドが確認をこめて全員をみわたすが、その言葉に全員無言でうなづきをみせる。
「と、いうことらしいわ。無事にもどったら彼を引き取りにきますから」
どうやら話しがまとまったのをうけ、リフィルがあらためて、ミトスをニールに託すべく話しかける。
「そうですか。わかりました」
まあ、ぱっとみため、たしかに危険なのかもしれない。
もっとも、ジーニアスと同じくらいの桃色の髪の少女もいるが。
その少女には不釣り合いなほどの巨大な斧がその背にもたれている。
たいして、ミトス、といわれた少年は剣も何ももっていない。
何らかの形で保護をしている子供、ととらえるのが一般的、であろう。
ゆえに深くは追求せずに素直にミトスを受け入れることを了解する。
「ジーニアス。気をつけて。リフィルさんも、ロイドさんも、皆も」
本当はついていきたいが、あまりにごねたら怪しまれる。
それゆえに、素直にここはいうことを聞くふりをして、とりあえずジーニアス達にと話しかける。
一番心配なのは器の存在。
傷とかついてほしくない。
姉の大切なる器。
それゆえの台詞。
「ああ、しばらくまっててくれよ。ミトス」
そんなミトスの心情をしるはずもなく、ロイドがいうが。
「うん。それから、ジーニアス。よかったらこれ、もっていって」
「これは?」
懐からとりだした一つの笛をジーニアスの手にとにぎらせる。
「ボクの亡くなった姉様の形見」
リンカの笛。
その音色は千里をかける、とまでいわれている品。
自分達のような天使化をしたものならば、どんなに離れていてもその音色を捕らえることは可能。
「そんな大事なもの!」
形見、といわれジーニアスがあわててそんなミトスにおしかえそうとする。
が、そんなジーニアスの手をおしとどめ、
「危険になったらこれをふいて。何ができるかわからないけれど。もしかしたら助けられるかもしれないから」
どちらにしても、器に何かあれば意味がない。
また同じような適合する器がいつ誕生するかどうかわからないのだから。
「わかったよ。かならずもどってきてこの笛、かえすから」
押し返そうとするものの、逆に笛をにぎらされ、ジーニアスは心があつくなる。
そんな大切なものを託してくれる、それはすなわち、自分を心配してくれているのだ、と。
そしてまた、かならずこれを返すまでは無事でいてね、という気持ちがこめられている、と。
だからこそ、決意と感謝をこめてミトスにと語りかけるジーニアス。
ある意味で正解であり、ある意味では間違っているその思考。
が、その間違いにジーニアスは気づかない。
「じゃあ、僕たちも…」
そんな彼の会話をききつつも、アステルがいいかける。
が。
「まて、アステル!お前は戦力にはならないだろう!?」
おもわずアステルのくびねっこをつかみしっかりと言い含めるリヒター。
「え?でも」
「逆に足手まといになるとおもうぞ。俺としては。
  それより、俺としてはここの資料などを閲覧許可をもとめることを進める。
  こんな機会は滅多とないだろうからな」
シルヴァランドの資料を閲覧できる機会など、そうそうはない。
それに何より、得体のしれない子供をここに残しておく、というのは危険すぎる。
それはリヒターの直感。
「たしかに、ミトス一人でも心配だし。アステルさんたち、お願いしてもいい?ミトスのこと?」
ミトス一人をここに残していく、というのは確かに心配。
しかし、アステルとリヒター、まあ旅をあのテセアラでよくしている、というのだから腕のほどは確かだとおもう。
ジーニアスからしてみればせっかくできた同年代の友達を守ってほしい。
それゆえのといかけ。
「ニール、二人ほど増えてしまうけどかまわないかしら?」
たしかに、監視役はのこったほうがいい。
リヒターにちらり、と視線をむけられ、即座に判断し、ゆえにリフィルがあらためてニールにとといかける。
「ドア夫人もお役にたてれば御喜びになるとおもいますよ?まかせてください」
そもそも、アステルはエミルにそっくり。
そして、ドア夫人こと、クララはエミルによって自分を元の人の姿にもどしたことを聞かされている。
どうみてもそのエミルの親戚、もしくは血縁者としかおもえないそっくりな人。
そんな彼らを保護するのに、何の戸惑いもあるはずもない。

「パルマコスタの人間牧場が復活していたらどうしよう」
牧場へ向かう道すがら、コレットが不安そうにつぶやく。
あのときのことを思い出す。
ショコラがつれていかれた、といわれたあのときのことを。
ついこの間のことなのに、かなり前のように感じなくもない。
「大変なことになっちゃうね」
コレットの思いはジーニアスもわかる。
この道のりをすすんだあのときのことは、また同じようなことがおこるかもしれない。
それゆえの不安。
「ああ、また街を襲われて関係ない罪もない人がころされる」
しいなの口調もすこし固い。
しいなはそのとき、パルマコスタの牧場にかかわっていたわけではないが、
アスガードの人間牧場にかかわっているがゆえにその思いもまた複雑。
「…エクスフィアもまたつくられちゃうんだね」
コレットが顔をふせる。
あのときの衝撃。
アスガードの人間牧場にて、エクスフィアが人よりつくられているのを目の当たりにしたあのとき。
自分のクルシスの輝石がエクスフィアの進化系、というのならば、
自分が身につけているこの石も誰かの命を犠牲にしてつくられている、といってよい。
あのときは自分がエクスフィアをつかっていない、とおもっていたからあのようなことをいったが。
事実は自分もまた使っていたことになる。
進化系、というのだから、もしかしたらより多くの命を犠牲にしているのかもしれない。
それがコレットからしてみればやりきれない。
そのクルシスの輝石をつくるために実験体にされていたプレセア、という存在がいる以上、
同じような実験がクルシスにおいてされていても不思議ではない。
「エクスフィア製造、か。話しにはきいていたが…人間牧場とは下劣な施設なのだな」
エクスフィアを人に無理やりに寄生させ、その命ごとエクスフィアを覚醒させる。
それゆえ、なのだろうともおもう。
その力の…潜在意識のみを高める、という名目のもと、力をもとめたものたちが、
こぞってエクスフィアを身につけ…そして、異形とかしていったテセアラの内部事情。
その事実をしるものはごくわずか。
「ああ。俺はエクスフィアのために殺される人をこれ以上増やしたくないよ」
ロイドの言葉は嘘偽りのない本音。
「……そう、だな。アリシアのような犠牲者はもう、産まれてはならない、そう思う……」
ぽそり、とつぶやかれたリーガルの言葉はロイドには聞こえていない。
「…?」
アリシア?
それってたしか、プレセアの……
その小さくつぶやいた声をきき、コレットが思わず首をかしげるが。
リーガルさん、プレセアの妹さんのこと、何かしってるのかな?
あのとき、リーガルはそこにいなかった。
そういえば、とおもう。
リーガルは常にプレセアを気にかけている。
たしかによくにていた、とおもう。
あの幽体としてあらわれた、アリシアと、そしてプレセアは。
もしも何らかのかかわりがあり、リーガルがプレセアを気にかけている、というのであればつじつまがあう。
「……つじつま…」
そこまでおもい、おもわず自己嫌悪におちいり、深くうなだれてしまうコレット。
あるいみで、もしも牧場が復活した、というのならつじつまがあってしまう、ということにきづき。
「コレット?どうしたの?」
そんなコレットの様子に気づいたのであろう、リフィルがコレットにとといかけてくるが。
「私…世界再生を途中でやめちゃったんですよね…神子なのに……」
「事情があったのだから仕方ないでしょう?それに、再生をしていてもそれは仮初めの平和でしかなくってよ?
  逆に世界が滅亡していたかもしれないわね」
もしも、コレットがマーテルの器として、マーテルが目覚めていたとするならば。
大いなる実りといわれしものが失われていたとしたら。
その可能性のほうがどちらかといえば強いかもしれない。
もしくは、器として適合せずに、コレットもまたあの救いの塔の中にあった数多の棺の仲間入りをしていたか。
そのどちらかでしかなかっただろう、リフィルとしてはそうおもう。
「…先生。私、正直にいいます。私、自分を取り戻せてとてもうれしかった。あのとき……
  自分のことばかり考えてました。シルヴァランド達の人達のことを忘れて……」
常に声をかけても誰も…否、エミル以外には気づいてもらえず、
触れようとしても、なぜかそういえば、エミルには触れられたが…それ以外のものたちには素通りしていたあのとき。
そこに自分の体があるのに、ふわふわと自分の意識だけが抜けだした形でいたあの当時。
自分が自分としていられることが嬉しい、そうおもった。
あのとき、たしかに自分はシルヴァランドのことを忘れていた。
その事実は否めない。
ゆえにおちこんでしまう。
「コレット。私はね。あなたが今、世界の人々を思いやっているその心を忘れないかぎり、
  その心がある限り、あなたは神子そのものだとおもうのよ。
  あなたがその気持ちを忘れないかぎり、あなたはやはり世界再生の神子、なのよ」
「先生……」
「自信をもちなさい。あなたは今までの神子ができなかったことをしようとしているのよ?
  偽りの再生でしかなかった二つの世界。その二つの世界を真に再生させようとしているのだから、ね?」
真の意味での再生の神子。
世界をあるべき姿にもどすため。
だからこそ、今自分達はこうして行動している。
今のような歪なる世界を元にもどすために。
そっとコレットにふれつつ、やさしく語りかけるリフィルのことばに、コレットがようやく顔をあげる。
おそらくコレットは自分が再生の旅を中断したから牧場が復活したのかもしれない。
そうおもっている。
そんなのはコレットのせいではない、というのに。
あのとき、自分達もまた世界とコレットを計りにかけ、世界を選んだ。
それまで、幾度かエミルに偽りの真実、といわれていたのにもかかわらず、である。
クルシスの…マーテル教の教えが全て、とおもっていたのだから、というのはいいわけにすぎない。
一人の命のマナにて、勇者ミトスの次代からうけつがれている…そう、おもっていたのもまた事実。
しかし、真実はまったくことなっていた。
なら、あるべき姿にするために、自分達でできることをしてゆくしかない。
「コレットちゃんはまじめだねぇ」
「…あんたがふまじめすぎるんだよ!」
その思いは世界を救おうとするまさに救世主、神子とよばれる姿、なのだろう。
ゆえにそんなコレットの言葉をきき、ゼロスがいうが。
そんなゼロスにたいし、しいながつっこみをいれる。
「ほんとうに。あんた、コレットのツメの垢でものせまてもらいなよ!」
「え?しいな?わたしの手、よごれてる?垢たまってるのかなぁ?ロイド~。私の手よごれてるかな?」
「ん?よごれてないぞ?きになるのならジーニアスに水の術だしてもらって手をあらえばどうだ?」
「うん、そうする~。ジーニアス~」
「「・・・・・・・・・・・・」」
そんなコレットの姿をみておもわず顔をみあわせ無言になるゼロスとしいな。
まあ、気持ちはわからなくはない。
「…なぜに、シルヴァランドの神子と話すとき、必ず話しがずれてゆくのだ?」
「不思議です。コレットさんとの会話はかならず話題がずれていきます」
リーガルとプレセアまでもがそんなことをいっているが。
おそらくその気持ちは全員が一致する思い、であろう……


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あとがきもどき:
薫:ちらりと登場、マルタとブルートvその家族v
   この話しでは、コアをもとめていたのは、動力源にするために、
   実はすでにブルートは魔導砲のことをしっていたがゆえに、ひたすらに力をもとめてたりv
   という裏設定さんがあったりします(力をもとめるあまりに
   まだそこまではブルートさんは狂ってませんけど、統合後は…さて?ふふふふふv

2013年7月18日(木)某日

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