まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ようやくのやくで異界の扉~~~
当時、シンフォニアさんで、ラタトスくのラタさん、という言葉もでなかったのに。
よもやあの地がラタトスクの守りし場所に通じているなど。
たぶん、ラタトスクで精霊がでてこなかった理由。
そこにあるんだろうなぁ…
だって、世界樹の精霊、ということはさ。
世界を産んだのは世界樹のわけで、つまりはその精霊、というわけで。
精霊達にとって、ラタトスクはうみの親みたいなものだし。
そもそも、デリス・カーラーンからきてる精霊だしな。
デリスカーラーンそのものがマナでできている惑星である以上、
ぜったいに、設定としてはマイソロジー設定だとおもっている私です。
すなわち、世界樹の種子たる大いなる実りが世界を創った、と。
シンフォニアさんの世界はもともとある世界に降り立った、という設定でしたからね。公式は。
もっともこの話しはその惑星もラタトスクが分霊体にて創っていた、という設定ですがv
もっとも、そのことをしるものはセンチュリオンのみとなってますvあしからずv
あと、魔界の実質支配しゃたる魔神(魔王ともいう)はしってますが。
しかし一番最高権力者のみが知っているだけで他のものはしりませんv
あとがきに別話4あり(32の続き)
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荒れている海。
周囲には竜巻が常に発生しており、近づくことすらままならない。
目的の場所に近づこうとするが、竜巻に阻まれ、中にはいることすらできはしない。
「…どうにかならないかしら?」
どうしても直接みて確認してみたい。
それゆえのリフィルの呟き。
「リフィルさん、どうしてもいきたいんですか?でも、どうして?」
あの場所にいっても何もない、というのに。
そこが門…扉の入口である、ということをしっている、というような感じでもない。
「私の記憶の中にある遺跡かどうか、どうしても確かめたいの」
覚えているのは母の泣き顔と、父の叫び声。
光につつまれ、母の涙をみていたはずなのに、きづけば知らない場所にいた。
さがしても両親の姿はおらず、自分が抱きかかえていたジーニアスのみ。
いきなりまったく知らない場所に放り出されたあのとき。
「確かめる、ですか?」
「ええ」
別に門にいきたいとか、扉に用事があるとか、そういったようではないらしい。
どうにかしてはいれないか、と島の近く、竜巻の被害をうけない位置からそちらをみていっているリフィルにたいし、
ため息ひとつ。
「…まあ、害がないのなら、いっか」
「…よろしいのですか?」
「内部には入れないようにしているから問題はないだろう」
ため息とともに、小さくつぶやくそんなエミルにたいし、
その背にのっているウェントスがエミルに対して問いかけてくる。
そのままかるく手をすっと横に振ると同時。
それまで吹き荒れていた竜巻が、まるでかききえるようにときえてゆく。
「…え?竜巻が……」
どうにかしてあの島に近づけないか、そうおもってみていたがゆえに、
リフィルは今のエミルの行動をみていない。
ゆえにいきなり、かききえるように竜巻がきえていき、リフィルは思わず目をみひらく。
「今なら入れるみたいですけど、どうします?」
「…どうして、いきなり……今日が満月、というのに関係があるのかしら?」
なぜいきなり竜巻が消えたのかはわからない。
しかし、たしかにあるいみチャンスではある。
それゆえに。
「いくわ。エミル、あなたはもどってもいいのよ?」
「僕もいきますよ。というかリフィルさんだけをあそこにいかすわけにもいきませんしね」
そもそも、侵入者がいるようならば排除してもいい、と命令をだしている以上、
自分がともにいたほうが、何かと不都合はない。
島全体はちょっとした大きさがある、というのに。
見渡す限りの平原、そして島のいたるところにある巨大な岩。
島の中心あたりには、ひときわ目立つ岩の塊のモニュメントにもみえなくもない、
まるでそれは石の陣を描いているかのよう。
別名、ストーンサークル、とよばれしものにかなり近い。
にたような形式で、とある風の精霊をまつっていた祭壇もこの規模に似通ってはいるが、
あの場とこの場で違うのは、この場は普通の岩が使われており、岩そのものに細工らしきものがなされていない。
それくらいであろう。
もっとも、この島にある全ての岩には奇妙ともおもえる不思議な紋様らしきものが全てに刻まれており、
それが何を意味しているのか、いまだに誰もが解明はできてはいない。
かなり上空からこの島の様子をみてみれば、
それは六紡星を紡ぎだしており、
きちんとした位置にそれぞれ岩がしっかりと設置されているのがみてとれるのだが。
「異界の扉…もしも、あの子達がいっていたことが事実なら、私は……」
アステルがいっていたあの台詞。
たぶん、異界の扉をつかって逃がしたんじゃないのかな?
研究院が国をあげて捉えようとしていたし。
そういっていた。
たしかに、追われていた。
何ものかに。
それが誰に、なのか当時のリフィルはわからなかった。
両親にきいても教えてはもらえなかったあの当時。
もしも自分が原因で…自分の知能を欲した国が追手をかけていた、というのなら、自分は…
今まで、ずっと親を…母を恨んでいた。
自分達を捨てた、と。
だからこそ確かめたい。
真実を。
光と闇の協奏曲 ~異界の扉~
「あ、皆」
「遅かったな」
資料室に向かう最中、エレベーターの目の前にてぱったりとアステル達と遭遇する。
「話しはいろいろきいてみたよ。やっぱりリフィルさん、一度ここにきたみたい」
きけば、午前中にこの場にやってきたらしい。
「それで、先生はどこにいったかわかったのか?」
アステルにたいし、ロイドが質問をかえすが、
「やっぱり、異界の扉にむかったみたい。でも最近はあの場所、はいれなくなってたはずなんだけどなぁ?」
ここしばらく、あの場所は異常気象のせいかたちいることすらできなくなっていた。
海も荒れ、空も竜巻が常に発生しており、近づくことすらままならなかったはず。
それゆえにアステルは首をかしげるしかない。
最も、アステルも、そしてここにいる誰もが気づかない。
そもそもそのようにしているのはほかならぬエミル…否、ラタトスク自身なのだから、
当事者がいればまったくもって問題はない、ということに。
「その、異界の扉、というのはどこにあるんだ?」
どちらにしても、そこにむかった、というのがわかったのはあるいみ重宝といえるのか。
「ここ、アルタミラから北にある場所にあるちょっとした島だよ」
「島、といっても岩以外にほとんど何もない不思議な場所だがな」
そんなロイド達にさらり、といっているアステルとリヒター。
伊達のあの場所も研究対象にしていたわけではない。
かの地に出向いたことも幾度もある。
ゆえに今現在、あの場所が立ち入ることすら困難になっている、ということも知っている。
草木もほとんど育たない、岩にかこまれた島。
そこにある岩にも不思議な紋様らしきものがすべてに刻まれており、何かの意味があるのでは。
とずっと王国においても研究対象としているがいまだにそれは解明されてはいない。
ただ、唯一いえるのは、満月の日、その島のマナの数値がそれまで以上に異様にたかまる、その程度。
そんな会話をしつつも、ひとまず資料室にすでにリフィルはいない、それがわかったゆえにエレベーターにて一階へ。
ふと、一階につくと、一階にあるロビーの片隅で、
「今夜あたり、異界の扉がひらくんじゃないか?」
「うわ。おっかねえな。黄泉の国、シルヴァランドへ流されちまう」
ソファーに座り、飲み物をのみつつも、会話している制服をきている男性二人の会話がロイド達の耳にとはいってくる。
そんな男性たちの会話が耳にはいったらしく、おもわず顔をみあわせているロイド達。
「ロイド、今のきいた?」
「ああ」
ジーニアスがいい、ロイドがうなづく。
「ちょっといいかな?」
「うん?」
彼らのすわっているソファーの横にいき、彼らに遠慮がちにと話しかける。
「今、話していた異界の扉ってどこにあるんだ?」
「…何ですか?あなたがたは?私たちに何か御用でしょうか?」
ロイドの質問にたいし、社員達であろう、彼らは姿勢をただしながらといかけてくる。
どうやらそのような社員教育を施されているらしい。
「すいません。異界の扉をみにいきたいんです。教えてくださいませんか?」
そんな彼らにぺこり、と頭をさげてお願いしているコレット。
「ああ。異界の扉なら、この街から海をこえて北にありますよ」
手にしていた飲み物をその場の机におきながら、
おそらく座ったままでお客様と会話をすることはよくないこと、といわれているのであろう。
そのままその場にたちあがり、姿勢をただし、そんなコレットにと返答してくる会話をしていたうちの一人。
「あの、目印とかありますか?」
「でかい岩がごろごろしてるから、すぐにわかるとおもいますけど。
ですけど、あの場所は観光名所でもありませんよ?それに今はたしか異常気象で近づくことも危険かと」
「それに何より、今夜は満月ですからね。噂が本当ならば扉が開いてしまい、
黄泉の国、シルヴァランドへつれていかれかねません」
そんな彼らにたいし、交互に説明してくる異界の扉のことを話題にしていたカンバニーの社員二人。
「…リフィルさん、そこにいるんでしょぅか?」
そんな彼らの台詞をきき、ミトスが首をかしげてといかける。
そもそも、あの地に立ち入ることができなくなっている、など今初めてしった。
もっとも、自分が世界を二つにわけてのち、なぜか中に入ることはできなくなっていたのは知ってはいるが。
それも全ては精霊が眠ったからだろう、そう、おもっていた。
もしくは、門をまもるために力をそちらにまわしているからだ、と。
「わからない。他に手がかりもないし、とにかくいってみよう」
どちらにしても他に手がかりがない以上、いってみるしかない。
それゆえに、教えてくれた彼らにお礼をいい、ひとまず彼らはその場を後にすることに。
「…リフィルさん、異界の扉に何の用があるんだろう?」
レザレノカンパニー本社をでつつ、ぼつり、とミトスがつぶやく。
あの地に用事、など精霊に用事でもなければ近づかないであろうに。
あの彼女はしっている、というのだろうか。
あの奥に大樹カーラーンの精霊がいる、ということを。
魔界と世界とを隔てるギンヌンガ・カップ、とよばれし場所があることを。
あの場所のことはことごとく人々の記憶からこの四千年で消し去ったはず、だというのに。
それゆえのミトスの台詞。
「姉さんが僕に何もいわないでいなくなっちゃうなんて……」
ジーニアスからしてみれば、姉が何もいわず…書き置きはあったが。
いなくなってしまったことに衝撃を隠しきれない。
それでなくても、自分達はここ、テセアラで産まれたこととか、
先日きかされた、エルフの語り部のこととか、さらにアステルからきかされたクルシスができた経緯。
いろいろありすぎて混乱してしまう。
「二人とも、そんな顔をするな。先生のことだ。
きっとその遺跡に興味があって、どうしても調べたかったんだよ。
だからはやくおいついて、一人で…いや、二人か?とにかく勝手なことをするなっていってやろうぜ」
「急ぎましょう」
「うん」
あのエミルも一緒なのだから滅多なことはない、とはおもうが。
「…まあ、エミルのやつもああみえて、けつこうお人よしのところがあるから。
たぶん、先生が一人でいこうとしていたのをみてついていったんだとはおもうけどな」
お人よしでなければ、シルヴァランドからここまで、しかもレネゲードに捕われていた自分達を、
魔物をつかってまで助けてくれるはずはない。
あのとき、エミルが魔物であるセイレーンにお願い…当人はそういっていたが。
とにかく、セイレーンの歌により、レネゲードから逃げられた、といっても可能ではない、のだから。
聞いたところによると、常に竜巻などが発生しており、最近は近づくことすらできない、ということだったのに。
いざ、いってみると、たしかに巨大な岩が上空からもみてとれ、そこが目的の場所だ、と理解ができる。
レアバードにて着陸してみるが、そこはみればみるほど不思議な場所。
見渡す限りの平原に、巨大な岩がいたるところにごろごろところがっている。
不思議なことに魔物の姿がまったくみえはしないことにも気にかかるが。
アルタミラにて情報を手にいれ、ここにやってきたときにはすでに日は暮れており、
空には丸い月がかかっている。
ここ、テセアラでは月のことをシルヴァランド、というらしい。
シルヴァランドでは月のことをテセアラ、といっているように。
同じようなお伽噺が互いの世界につたわっており、国の名前だけがことなっている、その違和感。
異界の扉、とよばれている場所にたどり着いたときには、完全に日は暮れており、
真っ暗な中、降るような星空と、満月の灯りが周囲を明るく照らし出している。
満月でなければ足元すらおそらくみえないほどの暗闇であろう。
周囲に光源になるようなものはまったくない。
満月の灯りをたよりに、広い平原の中をリフィルを探してあるく。
空からみたときはそうでもなかったようにおもえたが、この島自体の広さはそこそこあり、
探すだけあるようにもおもえるが、しかしほんとうに何もない。
木々すらもほとんど生えてすらいない。
「あ、先生!」
アステル曰く、この島の中心にストーンサークルとよばれている石の遺跡があり、
おそらくいるのならばそこにいるのでは、ということで中心にむかって歩いていたところ、
ふとコレットがその姿をとらえ、おもわず声をあげる。
「…よくみえるね。あんた」
そんなコレットにしいながおもわずいうが。
ロイドはおもわず顔をしかめる。
音がよくきこえるようになり、そして視力もよくなった。
それは天使化していたときにコレットがいっていたこと。
心が取り戻せてもまだ聴覚や視力は鋭いまま、であるらしい、と改めて認識してしまう。
何よりもいまだにコレットは羽がだせる。
それはあきらかに、天使に近づいている状態で体そのものが変化していることを示している。
「お。リフィル様、発見~」
ゼロスがコレットにつづきそんなことをいってくる。
たしかに、月灯りの下、平原の中央にある巨大な石群。
その石の前に一人でたたずんでいるリフィルの姿が目にとまる。
「あれ?エミルはどこだろ?」
きょろきょろと周囲をみるがエミルの姿はみあたらない。
「姉さん!」
そんな会話をききつつも、ジーニアスが姉にむかっておもわず叫ぶ。
「皆!?どうしてここに?」
そんなジーニアスの声にきづき、リフィルが驚いたように目を丸くする。
「どうして、じゃないよ!姉さん、もう!
姉さんが心配だからにきまってるだろ?あんな書き置きを残しただけで急にいなくなっちゃって!」
ジーニアスがそんな姉にたいしおもわず感情のままにまくしたてる。
「同族としてはほうっておけません。一人でこんなところにくのは危険です」
そんなジーニアスとは対照的に、淡々といっているミトスの姿。
「先生、どうしてこんな所へきたんですか?」
青白い光を周囲にそそいでいる満月をみあげつつも、コレットがリフィルにと問いかける。
「…ここは、私とジーニアスが捨てられた場所だから……」
そう答えるリフィルの唇にはさみしげにもにた微笑ににたようなものがうかんでいる。
「え?」
一瞬、リフィルが何をいっているのか理解できず、おもわず顔を見合すロイド達。
「コレットをたすけたとき、たまたまこの遺跡が目にはいって気にはなっていたの。
そして、二つの世界をつなぐ二極の話しをきいて確信したわ。
ずっと探していた風景は、この場所で、探していた遺跡はこれだったんだって」
「私たちは、たしかにあの日、ここから……」
思い出すは母の泣き顔。
必至に手をのばしたが、光りにつつまれた。
父の切羽詰まった声。
「まだ一歳にもみたないジーニアスを抱いていた私は、たしかにここからシルヴァランドに流れ着いた……」
しずかに目をつむり、そう語るようにつぶやくリフィルに対し、
「ああ。やっぱりですか。ここであなた達家族を見失ったという報告書はのこってたんですよね」
「しかし、ここがやはり本当にシルヴァランドに通じていたとして。
どうして家族全員で移住しなかったのだ?」
リヒターにはそれが理解できない。
家族でシルヴァランドに逃げ込めば、すくなくともテセアラ王家からは逃げ切られたであろうに。
「たぶん。全員でいったら、レネゲードに協力が要請されるとでもおもったんじゃないのかな?
今もだけど、二つの世界を行き来できるのはレネゲード達だけだし」
ちなみに、レアバードを手にいれても自由に世界の行き来はできない。
どうやら何かしらの手段が必要らしい。
アステルも奪い取った…もとい、お願いしてもらったレアバードにて幾度か試そうとしてみたが、
空間転移装置…次元転送装置は起動しなかった。
「あのとき、私たちは…私はジーニアスを抱かされて、この場所にいるように、といわれた。
そして…異界の飛びらがひらいて…シルヴァランドへきづいたら流れ着いていたの」
覚えているのは母の泣き顔と光の奔流。
「ずっと、ハーフエルフだから、うとまれて、捨てられた。そうおもっていた。でも……」
わからなくなった。
アステル達がいう研究院の追手から逃がそうとしたのか、両親の思惑が。
エルフの長たるプラムハルドもそのようなことをいっていた。
国からリフィルを差し出すように、と命令がでていた、と。
「では、今度こそ、黄泉の国へ送りこんでやろう」
リフィルの独白にそれぞれが何をいえばいいのかわからなくなり、おもわずだまりこんでいると。
刹那、岩影の一つから黒い影が躍り出る。
「誰だ?」
ロイドが思わず身構える。
エミルの声ではない、だけどもどこかで聞き覚えのある声。
「くちなわじゃないか!一体、何をいいだして……」
よくよくみれば、満月の光に照らされて、確認できるその姿は、みずほの里のくちなわ、とよばれていた男性。
「ようやくチャンスがめぐってきた。今こそ両親の仇をうたせてもらう」
「両親の…仇?」
くちなわの言葉にしいなが言葉をつまらせる。
「そうだ、お前がかつて、ヴォルトを暴走させたために巻き込まれて死んだ両親と里の仲間のためにも。
お前には死んでもらう」
淡々というその言葉に感情は一切含まれてはいない。
「そ、そんな!」
「それは事故だったんだろ!どうして今ごろになって」
コレットとロイドの言葉はほぼ同時。
「事故だと!?こいつが精霊と契約できないできそこないならまだ我慢もしたさ。
それがどうだ!シルヴァランドの神子暗殺失敗しておいて、みずほを窮地におとしいれて。
そのくせ本人はといえばちゃっかり精霊と契約してやがる」
「それは違います!」
そんな彼の言葉に即座にコレットが反応するが。
「ちがわねえよ。最初の契約の時は手をぬいたんだ。そして親父たちをころした」
でなければ、契約なんかできるはずがない。
そういわれ、たしかに、とおもった。
だからこそ、教皇側にとついた。
あのまま、得体のしれないものに里でいいようにさせておいていいのか、そういわれ。
「手なんか抜いてないよ!あたしは……」
あのとき、しいななりに頑張ったつもりではあった。
だけども、一撃のもと、全員が倒れ…自分以外が一瞬で命をおとしていたあの光景。
今でもそれは思いだせる。
「七歳児にそれをいうかね~?」
「だまれ!」
ゼロスがそんなくちなわにむかってさらり、というが、そんなゼロスの言葉をくちなわが遮る。
彼とて本当はわかっている。
わかっているが、認められないだけ。
両親が死んだのはしいなのせいだ、そうおもいこむことで、両親達が悪いのではない、
そうおもいたいがだけ。
おろちがしいなを恨んでいないのは、両親がしいなを陥れるための一員であった、としっているがゆえ。
両親がよくこっそりと集会をひらいてははなしていたのを彼らはしっている。
何をしているのかきにかかり、こっそりと両親のあとをついていっていたがゆえ。
だけど、両親がわるいのではなく、悪いのはしいな。
そう、ずっと思い続けてきた。
そうでなければ、両親が里そのものを裏切っていた、と認めることになるがゆえ。
認められないその心は思いっきり人の心の弱さといえる。
そのことにこのくちなわは気づかない。
気づいていても認めようとしない。
くちなわの合図とともに、周囲に武装している兵士達がわらわらと岩影より出現してくる。
こんなに接近していたのに気付かなかったのか、という思いもあるが。
そもそもこの場所は不思議な場所ともいえる。
気配を感知するその感覚がずれてしまう、というか。
まるで異空間にいるかのような錯覚におちいるような、そんな場所。
ゆえに、いつもはすぐにわかるような気配察知すらロイド達は気づくことができなかった。
「教皇騎士団か!?」
「おいおい。つうかこいつらどうやってここに?」
リーガルにつづきゼロスがいう。
「おあえつらえむきに、ここには誰も近づきはしない。
ついでに神子の命も奪えれば、我らの里は教皇様の手にて保護される」
それが里の精神に反している、とはくちなわはおもっていない。
むしろ、今の閉鎖的な状態に辟易していたのもまた事実。
「くそ!敵がおおくて話しにならねえ!」
みれば、いつのまにか自分達を取り囲むようにしている兵士達。
「くちなわ!お願いだよ!ロイド達は巻き込まないでくれ。
あたしが憎いんだろ。だったらあたしだけ殺せばいいじゃないか」
「何馬鹿なことをいってるんだ!」
しいなが一歩前にでて、そんなくちなわにと言い放つ。
そんなしいなにロイドがあわてて否定の言葉をだすが。
「いいんだ!くちなわ、たのむよ」
しいなからしてみれば、自分のせいで仲間を失うのはもうさけたい。
子供のときは里の人達を、そしてヴォルトの神殿では、コリンを。
そしてまた…彼らを。
それだけは。
だからこそのしいなの言葉。
「よし、いいだろう」
くちなわがそういうとほぼ同時。
「みて、あれ!?」
夜空のかなたで何かが煌めいているのが目にはいり、おもわずジーニアスが叫ぶ。
月の光りではまちがいなくない。
おもわず見あげた…くちなわ達や教皇騎士団達を含めた目の前で、
月よりまっすぐな光の帯が周囲の岩めがけて降り注いでくる。
その光りをうけた全ての岩に刻まれし紋様が、あやしく輝きをはなつ。
岩に刻まれし紋様が輝くのとほぼ同時、地面には魔方陣にもにた丸い何か
…扉…のような、とにかく、中央は赤みを帯びてひかっているなにか。
雲のようなふわふわとしたような淡い光をはなちつつ、不思議な何か、をつくりだす。
「もしかして…これが、異界の扉?」
ジーニアスがおもわずつぶやく。
リフィルもおもわず息をのむ。
あのときと同じ。
あのときも、空から光がふってきて、そして……
「…冗談じゃねえぞ!あほしいなが!」
それを確認し、ゼロスがすばやくしいなの腕をとり、そのまましいなを自分達のほうへと引き戻す。
「きゃあ!?」
手をつかまれ、おもわずしいなが叫ぶが。
「ロイド、こい!」
そのまま、しいなの手をひっぱったまま、ゼロスはその現れたあかみをおびた光りの渦の中心にとむかってゆく。
そのまま光の渦の中に身を投じた二人の姿がまたたくまにその場からかききえる。
「皆、異界の扉へ!」
たしかに多勢に無勢。
それゆえにリフィルが叫ぶ。
そんなゼロス達につづき、リフィルが走る。
ジーニアスはしっかりとミトスの手をつかんだまま、そのまま光の渦の中へととびこんでゆく。
それにつづき、プレセアもまた、光りの渦の中にとその身を投じる。
「こい、ノイシュ!」
自分の横で震えていたノイシュを奮い立たせ、ロイドもまた走りだす。
そんなロイドにつづき、リーガルもまた、光りの渦の中へとその身を投じる。
彼ら全員が光の渦の中にその身を投じたその直後。
光がまたたくまに収束し、そこにあった光の渦のような魔方陣のような何かは一瞬のうちにかききえる。
「くそ。式神の反応がきえた。シルヴァランドへ逃げ込みやがったか」
おいかけようとするが、すでに扉は閉ざされた。
ゆえにくちなわが歯噛みする。
しいなにつけていたはずの式神替わりのお守りと称してわたしたそれが、
その場にぽつん、と残されているのがみてとれる。
「しかし、なんてタイミングで扉がひらきやがる!」
せっかく好機だったとおもうのに。
ゆえにそのいらだちをそこにある岩にぶつけようとする。
が。
直後、まばゆい光が周囲を覆い尽くす。
「さてと」
全員が移動したのをうけて、姿をみせる。
せっかくここにきたので、すこしばかり扉の様子を確認しにもどっていた。
扉の封印に問題はおこっておらず、かの地に第三者が入り込んだ気配もない。
また、魔界とをつなぐ道にも何ものかが入り込んだ気配も感じなかった。
最も、別の小窓が開いているであろうそれからは、魔族の一部がこの地上に出ようとしている節がみうけられたが。
淡く光る光とともに、陣に浮かび上がるひとつの人影。
「おまえは!?」
たしか、しいなの仲間、否、シルヴァランドの一行の仲間であり、
そしてまた、頭領イガグリをたすけたという人の子。
その姿を認識し、くちなわがもおわず身構える。
今まさに、とり逃がしたばかりのシルヴァランドの一行。
そのうちの一人。
なぜこの子供だけがここにいるかはくちなわにはわからない。
わかるはずもない。
「この地で血を流そうとしたその罪の重さ、理解してるのかな?」
ゆっくりと目をみひらき、周囲をみわたす。
みれば、周囲を取り囲む数十人の兵士の姿と、そしてしいなを仇よばわりしていた人の子の姿がみてとれる。
そんな彼らの姿を確認し、おもわずくすり、と笑みをもらす。
くすくすくす。
エミルのくすくすとした笑い声がしばしその場に響いてゆくが。
かるくエミルがパチンと指を鳴らすとともに、周囲の岩という岩が突如としてゆらぎ、数多の魔物達が出現する。
静かな場においてエミルのその指を鳴らす音はなぜか異様によく響き渡る。
まるで、そう、島全体に響き渡るかのごとくに。
よりによって、ギンヌンガ・カップの入口で血を流そうとするなど。
ほんとうにこれだからヒトは。
つくづく愚かでしかない、そうおもう。
「当然、自分のもろい心を満たさんがために他者をないがしろにしようとしたことくらい、
君もわかってるよね?それと、そこの騎士団達、だっけ?
よりによって、何で自分達の心の闇にとらわれるかなぁ?」
とある人がうみだせし暗黒技。
それは人の心の負の力を糧としたものではあっても、その使い方さえまちがえなければ問題はなかった。
だというのに、全員が完全に間違った方向の暗黒面にと堕ち込んでしまっている。
魔物達は再現なくまるで岩からわき出るかのごとくにわきだしてきている。
普通ならば、そのままそこにいるどうみても力なき少年に襲いかかるであろうに。
しかし、魔物達にはそれがない。
みれば、魔物達全てがその現れた少年をまるで守るかのごとくにしているのがみてとれる。
魔物が人を守る、など。
それはありえないこと。
それゆえに、この場に居合わせている、教皇騎士団の面々も思わずとまどわずにはいられない。
「とれあえず、間違った方向に堕ちてしまってるものたちは、闇の迷宮に案内するとして。
…テネブラエ」
「は」
その言葉とともに、闇が収縮し、そこに犬のような猫のような何かが出現する。
「配下を呼んで、彼らを迷宮へ」
「御意。いでよ。我が僕よ」
それは伝説ともなっている人の心の闇より産まれしもの、といわれている魔物。
「ここでは血は流させないよ。面倒だしね。
君の処分はイガグリさんに任せるとしても、ね」
それだけいい、すっと手をかざす。
それとともに、くちなわ、となのった男の真下に水たまりが出現する。
「アクア、彼を丁寧に里にまで送り届けてあげて?ついでにこのたびのことを連絡しといてね」
「わっかりました!」
「なっ!きさまは…いった…!」
パシャン。
だが、その声は最後までは続かない。
そのままくちなわの姿は足元に出現した水玉りにまるで吸い込まれるようにしてかききえてゆく。
『うわぁぁぁぁぁ!?』
刹那、周囲にいた騎士団全てに闇がまとわりつき、彼らの体もまた闇に呑みこまれるようにして消えてゆく。
「さてと。僕もじゃあ、むこうにいくかな?皆はそれぞれ役目にもどれ。よいな」
始めの口調はかるいものの、後半の言葉はとてつもなく重い。
まるで別人が話しているかのごとくに口調も何もかもまったく異なるその言葉。
エミルの言葉をうけ、魔物達は現れたときと同様に岩の中にときえてゆく。
異なるのは、全ての魔物が一斉に、礼をとり、エミルに絶対服従の姿勢をみせている点であろう。
が、今、この場にはすでに第三者はおらず、それにかんし、突っ込みをいれるものは誰もいない……
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あとがきもどき:
薫:きりのいいところでぐきったら、すこしばかり短くなってしまった…
なので、ときおりだしてたひさかたぶりに別話しをば(まてこら
この話しもある程度のところまではストーリー軸にあわせて書いてはいるんだよなぁ…
途中から書きたい部分しか書きなぐってないけど…(実話…
「祭司長どの!ご無事でしたか!」
痛む腰をさすりながら、聖堂の入口まででてきた。
恐る恐るあたりをうかがってみるがどうやらディザイアンの姿はないようである。
かわりにところどころに魔物達がふせ、の状態で待機しているのがみてとれる。
そして入口階段の前にはのんびりとすわっているエミルの姿が視界にはいる。
彼女は自分の家であの光をみたあと、すぐにここにやってきた。
神託が下る際には祭壇の清めを手伝うことがずいぶん前からの祭司長との取り決めとなっていたがゆえ。
ディザイアン達が突如として侵入してきたのはちょうどその最中。
五、六人であったであろうか。
「神子はどこだ!?」
野太い声で叫ぶディザイアんの一人に、
「ここにはおらんわ!」
答えたとたん、ファイドラはつきとばされ、腰をうちつけた。
直後、どこからともなく魔物達がわきだして、そのディザイタン達に襲いかかる光景をまのあたりにした。
自分達にはまったくもって目もくれず。
「・・・・・・あ~。たぶんエミル殿か。これ」
ファイドラがあきれたようにつぶやき。
「ええ。エミル殿でしょうね」
「でしょうね」
その場にいた他の大人たちもその光景をまのあたりにして諦めの境地とともにため息をつく。
すでにもう大人たちも達観の息。
そもそもエミルがいる場所を襲おうとすればどこからともなく魔物があらわれエミルをまもろうとする。
これはこの半年で嫌でもかれらが見知った現実。
唖然とするその場にいた大人たち。
外からは何やら悲鳴、らしきものがきこえ、外をうかがうとディザイアンらしきものたちが、
おもいっきり魔物の衝撃をうけている光景が目にはいる。
「本当に興味深いわ。あの子って」
光をみてかけつけたリフィルもまたそんなことをいっていたりする。
魔物はなぜか素直にエミルのいうことだけはきく。
むしろ率先して何か命令してくれ、といっているようにもみえるのだからおそろしい。
昔、幼き日に魔物使い、という種族がいた、と里の文献でみたことがあったが、
エミルはもしかしたらその血筋なのかもしれない、とはおもう。
エミルがもしも人を襲え、などと命じれば魔物達はまちがいなく、それを実行するだろう。
という変な確信もある。
たかが半年、されど半年。
…どうやらエミルという存在が彼らにあたえた影響は…計りしれない…らしい……
しばらくするとディザイアン達の姿がみえなくなり、それでも魔物達は周囲に待機状態。
エミルも入口あたりでのんびりと座っているのがみてとれる。
その周囲にこれまたみたこともない魔物をはべらせて。
しばらくすると石段からのぼってくる人影がみえ、そこにさきほどでていった祭司長と、
そして見知っ顔立ち。
その姿をみてほっとするのもつかのま。
てっきり引き上げたとばかりおもっていたディザイアン達が聖堂の左右からばらばらと走りだしてくる。
「コレット!逃げるのじゃ!」
おもわずそれをみて叫ぶフィドラは間違ってはいないだろう。
ファイドラが叫ぶと、ディザイアンの一人…黒髪でがっちりした体格の人物がゆっくりとふりむき、
鋭い眼光でロイド達をふくむ祭司やコレットを見据える。
ちらり、と横眼で魔物にかこまれているらしい少年の影をとらえはするが、
魔物にはばまれてその容姿を確認することはできていない。
部下の報告をうけたときは驚いた。
魔物が、人々をたすけている、魔物の攻撃をうけている、と。
みれば実質、魔物が村人などにはめもくれず、自分達のみを攻撃していた。
そして、一人の子供?らしきものをまもるように魔物が無数、取り囲んでいた。
なぜ護っているのか、とおもったかといえば少年をとりかこむようにして周囲にたいし、
常に威嚇していたからにすぎない。
「あまりむちゃしたらだめだよ~?」
何ともいえないのほほんとした少年の声がぎゃくに煩わしく感じたのもまた事実。
まだ声変わりもしていない、すこし甲高い少年の声。
声からしておそらくは十代そこそこか、よくて十五、六くらいか。
「ポータ様。あれが神子のようです!」
おそらくは組織の制服、なのであろう。
揃いの金属制のヘルメットをかぶり、機能的なつなぎに革ベルトをしめた男たちの一人が、
ロイドや祭司達にかこまれているその中でたったひとりの少女をめざとくみつけ指をさす。
ポータと呼ばれた男は無言でうなづく。
この男だけは制服をきておらず、筋肉筋のあがった片腕をむきだしにしている。
「よし。神子よ。その命、もらいうけるぞ!」
ポータの野太い声が響いた瞬間、ロイドはコレットの前にと躍り出る。
「馬鹿な!そんなことやらせるかよ!」
いいつつ、ロイドはエクスフィアを装備した左手で腰の剣をぬき、続いてもう一か所の鞘から二本目の剣をぬく。
「ぼ、僕だって!」
それをみたジーニアスはポケットの中から剣だ魔をだしかまえる。
「だてに日ごろから鍛練してるわけじゃねえぜ!ディザイアンなんかに好きにされてたまるかってんだ!」
「そういうけど、ロイド。今までエミルに全戦全敗だよね」
「ほっとけ!」
何となく、ロイドがひとりで素ぶりをしていたところにエミルがいわあせ、
それじゃ、だめだよ。
といって、ならやってみろよ、といったところ、予想外。
エミルはどうやら武器の扱いもすごいらしく、ロイドではその剣技すら目にとめることができなかった。
それから、鍛練につきあってほしい、といわれ、エミルがとった行動。
それは…どこからともなく魔物をよびだして、この子達がつきあってくれるって。
とにこやかにいわれ…ほとんど死ぬような思いをして鍛練しているこの半年。
ロイド達がポータを睨みつけたとたん。
「ぶわっはっはっ!」
ひときわ大きな笑い声がひびいてくる。
みれば、別の男が聖堂の左からでてきており、
鉄骨の鎧に左手にハンマー、巨大な鎖つきの鉄球をぶらさげており、
体つきだけでもポーダ、とよばれた男よりは確実に数倍はある。
「ディザイアン、か。ぶわはははっ!」
男は何がおかしいのかひたすらに爆笑している。
「ん~。あ、ちょぅどいいかも。ロイド~、その人今日の鍛練にするね~?
皆、手をだしたらだめだよ~。あ、祭司様達は保護してね?」
わらわらわら。
そんな中、場ににあわないのんびりとしたエミルの声がとどいてくる。
と。
その声にあわせ、あっというまにコレットとそして祭司のみの周りにだけ魔物達が出現し、
それらはぐるり、と彼らを護るように取り囲む。
「ちょっとまてぃ!エミル!」
「ええ!?僕までまきこむの!?」
ロイドとジーニアスの悲鳴は何のその。
「ほう。魔物使い。か。途絶えて久しい、ときいていたが、いきのこっていたか」
魔物使い。
それはリフィルがエミルの能力…すなわち、魔物をてなづける能力をみてそうではないか、
と村人たちに説明している一族の総称。
エミルにきいても首をかしげ、テネブラエにいたってはなぜか話しをはぐらかされる。
姿を確認したいが巨大な…どうみても一回り以上はありそうな狼のような魔物やそのほかの魔物にとりかこまれ、
その中にいるであろう少年?の姿は彼らの目からは確認することができない。
「でぇぇぃ!やけくそだぁぁ!」
「うわ~ん!まだエミルの魔物の特訓のほうがましだよぉぉ!」
「うわ~。実戦か~。頑張ってね~」
「…神子様。緊張感ありませんね……」
そんな二人にのんびりと応援の声をかけているコレット。
そんなコレットをみて苦笑している祭司長。
「ふ。まあいい。なにか馬鹿にされてるような気がするが…
小僧!ではその憎いヴィーダルが相手だ!」
男は鉄球をぶんぶんふり回しながらロイドたちにと迫ってくる。
コレットのほうにいこうとした下っ端達はもののみごとに魔物の餌食になったのか、
ものすごい悲鳴をあげてその場に倒れ伏していたりする。
どうでもいいが完全に魔物達にあそばれているっぽく、
魔物達のあいだでぽんぽんとまるでお手玉のようにしてなげられているのはこれいかに。
人の体ってあそこまで軽くなるんだ、と変な感想を一瞬もってしまうほど。
「こっちはまかせて!ロイド!ファイアーボール!」
ボーダの元にのこっていた下っ端三人…どうやら魔物の攻撃をみてひるんでいたっぽい。
に、すかさずジーニアスが炎の術を炸裂される。
「いいな~。私も参加したい…」
「神子様!それはいけません!」
「え~?」
一人コレットは護られているのが嫌なのか不安顔。
彼女のおてんばぶりをしっている祭司達が必至におしとどめているのがみてとれる。
ロイド達がしばし応戦していると、下っ端達は聖堂の裏手にむけてはしってゆく。
「な~んだ、楽勝か?」
「そうでもないみたいだよ?」
ジーニアスが緊張した声でつたえる。
ヴィーダルが鉄球を振り回す音が繰り返し聞こえてくる。
まるで巨大なは無視が飛んででもいるようなとても鈍くて嫌なおと。
あるいみトラウマを刺激する。
「…うわ~…エミルがよびだしたデスビーナイツって魔物思い出すよ…この音…」
集団で、しかも魔法をつかってきたあの魔物はあるいみトラウマ。
ぽろぼろになったのは記憶にあたらしい。
「小僧ども。我らが崇高なる目的を邪魔だてするな!」
「な、なんだよ!目的って…うわっ!」
ジーニアスが火炎球をはなったが、先ほどと違いまったく聞かない。
「ふんっ」
ウィーダルは太い腕で炎を振り払うとちょうどそこへ振り下ろされたロイドの剣をハンマーでうけとめる。
「う~ん。あと百数える間にどうにかしないと。今日の特訓は海でリヴァイサンでもよぼっかな~…」
ぴききっ。
その台詞におもいっきり固まるロイドとジーニアス。
「んなのにかてるかっ!」
「あ、くじらさんか~。あのこかわいいよね!」
それをきき、ひとりはしゃいでいるコレットはともかくとして。
どうでもいいが、記憶がほぼない状態で、
ほとんどの魔物を呼び出せたエミルはさすが、としかいいようがない。
もっとも、魔物の種類をいえるテネブラエの存在があってこそ、ともいえるのであろうが。
「え?ならグランゲートのほうがいい?」
何かきいたことのない名前がでてきたがさきほどより洒落にならないような気がする。
それはもうひしひしと。
「じ、ジーニアス!本気でいくぞ!」
「うん!時間稼ぎおねがい!」
「おう!」
「ふははっ!無駄むだぁ!」
ジーニアスがすばやくたっと背後にさがり、ロイドがふたたびかまえ、
そして技の姿勢をとる。
「…魔人、千烈破!!!!!!」
ロイドがふるった刃からいくつもの風の衝撃が相手に襲いかかり、
相手がその風をなぎはらったその刹那。
ロイドがそのまま相手の懐にはいりこみ、するどい剣技を連続でたたきつける。
…人間、ほぼ毎日死ぬ気で特訓していれば嫌でもつよくなるものである。
「イラブション!!!!」
「な…なに!?」
ロイドの続く剣技にひるんだその矢先、ジーニアスの詠唱が完了する。
ちなみにこれらの詠唱はエミルにきくと何となくわかる、とのことらしい。
もっともエミルが使用する場合、そんなものは必要ない、のだが……
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
そのまま炎の渦にまきこまれ、何やら絶叫をあげて倒れるヴィーダル。
「あ。残念。七十までかぞえてたのに……」
「よ、よかった。たすかった!」
「うん。リヴァザイアンなんて洒落にならないよね…あれは」
呼び出されたときはもう死ぬかとおもった切実に。
と。
「…すごい音がしたとおもったら……これは、お前たちがやったのか?」
聞きなれない声がする。
魔物達がいっせいにその声の主にたいして威嚇状態に陥るが。
その姿をみてエミルは、はっとしたように一歩下がり距離をとる。
その目に宿るは、あからかな悲しみ。
「…まさか……」
そんな主の姿を横でみて、はっとしたような表情をしおもわずつぶやくテネブラエ。
ラタトスク様がこのような反応をする、ということは、まさか、裏切ったのは…彼ら?
ラタトスク様の地上での分身体を殺したのは…裏切ったのは……
クラトス、となのった人物はテネブラエにとっては懐かしいヒト。
声をかける前にエミルの反応をみてしまった、それゆえに気づいてしまった。
かの地を絶対にデリスエンブレムをもつ、そして加護をもつヒトが入れないようにしたのは……
判りたくないけど判ってしまう。
そして…自分達をどうしてあのとき、強制的に眠らせたのか、ということまでも。
おそらく、気づいていたのであろう。
彼らが、自分を『殺す』可能性が、ある。と。
自分達が眠りについたのは、ラタトスクが彼らに種を渡したのち。
実りの力をもたない種を渡したのは、人々に新たな希望を、というミトスの意見もあってこそ。
ラタトスクには未来を視る力もあった。
それゆえ、なのかもしれない。
ここに現れたのも未来を視たがゆえにの決定なのかもしれない。
しかしテネブラエが考えてもわからない。
そもそもラタトスクはそういったことを口にだすタイプではない。
というか、またか!という思いはある。
かつてのときもそう、であった。
彼らはラタトスクを裏切った。
魂が同じならば同じような道をたどるのか?とすらもおもってしまうが、
どちらにしろいろいろな意味で進歩がないのかもしれない。
もっとも、それを見越して一応は、メルネスに相談し、彼もまたしばし考えたのち、
自分がならば安定させるために眠りにつく、という提案をしてきたのだが。
だからこそ、ラタトスクは地上から大樹を消滅させた。
その事情をしっていたのは、ラタトスクとゲーテとメルネスのみ。
他の元素の主であるマクスウェルとオリジンは気づいていたようだが。
そもそもかのとき、一度他の精霊は還りゆいて、あらたに再生したものたち。
一度、惑星そのものが大異変に襲われ、他の精霊達は存在することすら危うくなってしまった。
それゆえに仕方なく、また自らの力で大樹としたのだが。
なぜかどこかでそのあたりの真実が彎曲して、そのときの隕石…
すなわち彗星が、デリス・カーラーンだなどといわれてたりするのだが。
デリス・カーラーンはラタトスクが呼寄せたにすぎないという事実ははっきりいって精霊達以外には知られていない。
そもそもあれで天界まで崩壊してしまったのは痛かった。
せっかく新たな理でどうにかしていた、というのに。
デリス・カーラーンはそのための布石。
また新たに理を引き直すためにすこしばかりの補佐に呼寄せたにすぎない。
魔物達も王の雰囲気で察したのかあからさまに殺気だっている。
何かがあればすぐにでもいっせいに攻撃できる体制。
声の主は三十歳前後、といったところか。
長く紅い前髪から除く眼光がするどい男。
「まさか、きさまがあらわれるとはな」
ポーダ、とよばれていた男がその現れた男をみて眉をひそめ唇をわななかせていってくる。
「あんた、あいつと知り合いか?」
ロイドがあらわれた男に警戒しつつ問いかけるが男は無言。
そもそもエミルを護っている魔物があからさまに警戒していることから、素直に味方だ、とは信じがたい。
「ここはのけ」
いいつつも、すらり、と剣をぬきはなち、ボーダにとつきつける。
「くっ!ここは一時撤退するぞ!」
そもそも魔物も多数いて、さらには子供ながらに強い詠唱力をもち、
ついでに子供なのに剣技もある程度はある人材。
何やら会話のはしにあの魔物使いの少年?が彼らを鍛えているらしい、というのは予測がつくが。
まあ、リヴァイサン云々は冗談だ、ととらえているのもまた事実。
…そもそも伝説上の最強の力をもつ、という魔物を従えられる人間がいるなど信じがたい。
それがいくら魔物つかいの系統であろうとも。
ポーダの命令にまだのこっていた下っ端らしきものたちがまっていたとばかりにあわてて逃げだす。
…どうやら魔物達と戦うのは嫌、だったらしい。
「え、えっと。とりあえず助かりました。私は祭司長のユーリといいます。あなたは?」
「何。私は何もしていない。ただ騒ぎがきこえたのでな。それに相手を撃退したのはそこの子供達だ。
子供ながらにいい腕をしているな」
「へへん。…下手にエミルに特訓うけてないぜっ!」
「エミルって特訓のとき容赦ないからね~……」
「…人格かわってるよな、あれ……」
いつもはのほほんとしているのに特訓のときには容赦がない。
もっとも丁寧な口調でこてんぱにやられるほうがかなりこたえるのもまた事実。
本性をださないままに特訓しているのはさすが、としかいいようがない。
「…エミル?」
そういわれ子供達が示す視線の先にはいきりたった魔物達の群れ。
そう、まさに群れ。
ことごとく彼にむかって今にもとびかからんばかりの殺気をむけてきてる多数の魔物。
「もう、皆。大丈夫だって。そんなに殺気たたないの」
一方でいきりだっている魔物たちにのんびりと諭しているエミルの姿。
しかもここにいる誰に襲いかかるわけでなく、何か統制がとれているように感じられる。
と。
「エミル様。襲撃者達は全員、撤退した模様です」
配下のものをつかい、周囲をきちんと探らせた。
どうやら彼らは完全に撤退、したらしい。
記憶を読み取る配下のものに影から接触させてみたが、どうやらエミルの容姿は気づかれていない模様。
そのことにほっとする。
もっとも気づかれていたらそく、記憶改善を行うつもりではあったのだが。
「そっか。御苦労さま。テネブラエ。あ。祭司長様。もう襲撃者はいないみたいですよ?」
「おお。それはそれは。これで滞りなく神託の儀式をおこなえますね」
エミルが一歩前にでると、さあっと魔物達が一斉に道をあける。
魔物達の中からでてきたのは、金の髪に緑の瞳をもつ十五、六くらいかとても華奢な少年。
長い髪を後ろでまとめており、おそらくのばしていれば女のこ?と見間違うばかりに整った顔だち。
服装はとてもかわっておりこのあたりではみたことのない服装をきこなしている。
ふとロイドは男の手にあるものにきづく。
あれは、エクスフィア!?
自分の左手にあるのと同じものを男の手にみつけ思わず驚きをかくせないロイド。
「神託の儀式?なるほど、その少女が今回の神子なのだな」
じっと男にみつめられ、コレットははっとし、
「そうだ!神託をうけなくちゃ。おばあさま。私はこれから試練をうけてまいります」
いいつつ、一歩前にとでる。
「はあ?試練って何だよ?神託じゃかったのか?」
「神子は神託をうけるにあたり、天からの試練と審判をうけるのじゃよ。ロイド。
しかし、おぬし少しみない間にかなり腕をあげたようじゃのぉ。ジーニアスもじゃ」
「えへへ。そうかな?」
「…基礎をしっかりと嫌でもエミルにたたきこまれてるもんね…ロイド」
「う」
照れるロイドにすかさずジーニアスがつっこみ、言葉につまるロイドであるが。
「ロイドはしょぅがないよ。でもさ。何で癖がありまくる二刀流にしたのかがわからないけど。
まあ、双剣士ってところかな?」
いまだにいきりたつ魔物たちをなだめたのち、てくてくとコレットたちのほうへあるいてゆくエミルの姿。
そんなエミルの横ではいつでも配下のものをすぐによびだせるように警戒しているテネブラエの姿もみてとれる。
「助かりました。エミル殿」
「いえいえ。なんか森がさわがしかったからきてみただけですから」
それも嘘ではない。
襲撃がある、とわかってきた、というのをいっていないだけ。
「…お前は、ロイド、というのか?」
「そうだけど?」
男はロイド、の名前をきき、少し驚いたようにロイドをみる。
その顔には失ったなつかしき面影がある。
まさか…な。
そんなはずはない。
あのとき、ロイドは…息子は、アンナとともに……
生きていればたしかに目の前の少年とおなじくらいであろう。
「人に名前を尋ねる前にまず名乗ったらどうなんだよ」
「そうか。それもそうだな」
だが、男はロイドにくるりと背をむけると、ファイドラにむかい、
「私クラトス。傭兵だ。マーテル教会より神子の護衛を、と頼まれた。ちなみに前金はもらってある。
何でもずっと失敗つづきゆえに今回は成功させたい、との意向らしい」
「?そのようなお話しはきいておりませんが?」
「ここまでまだ連絡がきてないのではないのか?この異常気象だ。通行もマヒしてるしな」
確かに指摘されるとおり。
この数年の異常気象でたしかに旅をするにしてもきつい状況になっている。
「依頼をしたとすれば、パルマコスタの教会、ですかね?祭司様?」
この大陸にはそんな依頼がだせるほどの大きな村もなければ街もない。
可能性としてはパルマコスタしか思いつかない。
「それは私にもわからん。私は使者から依頼をうけたのでな。とにかく前金はもらっている。
ゆえに私も傭兵として神子をまもる義務がある。だからここにきた」
「それはそれは。助かります。こちらにいる子が神子コレットです」
「なんかこの中から友達の気配がするから、僕もついてくよ」
「ほんと?エミル。おねがいしよっかな?」
「うん。だって友達がもしコレットに傷つけたら僕かなしいよ?」
「エミル。うん。そうだね」
「…エミルの友達って……」
「何で聖堂に魔物がいるの!?」
エミルが友達、と呼ぶのは大概魔物。
ゆえにそういうロイドとジーニアスはおそらく間違ってはいない。
「マーテル様もお許しになるでしょう。そもそも無駄な殺生はマーテル様も望まないはずです。
エミル殿。最上階まで神子をお願いしてもいいですかな?」
「うん」
「…いや、まて。魔物が…友達?」
ひとりクラトスが何やら考え込んだような様子であるが。
そもそも報告ではこの村にはこんな子供はいなかったはず、である。
にもかかわらずこの村の人達はこの子供に驚いていない。
ということは報告みすか?
そう判断する。
「あ。祭司長様。俺達もいっていいですか?」
ひとりぶつぶついうクラトスとは対照的に、祭司長にいっているロイド。
「しかし……」
「足手まといだ」
即答。
クラトスのそんな台詞に、
「なんだと?!」
「かえれ、といったんだ」
にべもなくぴしゃり、といいはなつ。
「嫌だ」
しばしのにらみ合い。
その瞳におもわずたじろぐ。
あの子もそうだった。
決めたことはまっすぐで…この瞳の輝きをやどしていた。
みていたら錯覚してしまいそうになる。
息子がそこにいる、と。
「あのぉ。傭兵さん?お願いです。どうかロイドも一緒につれていってください。
私、ロイドがいないと不安です。傭兵さん!」
「…コレット。クラトスだってば」
ジーニアスが小声で名前をいうがどうやらコレットは聞いていないもよう。
「勝手にしろ」
どうやらクラトスは折れたらしい。
というより正確にいえば、ロイドの視線をこれ以上うけていられなかった、というのが事実。
幼き日の息子の面影を宿したその少年、の視線を。
「ありがとな。コレット」
「ううん。本当のことだもん」
「あのぅ?僕もいくの?」
「ったりまえだろ!」
「ええ~!?」
ロイドに腕をつかまれたジーニアスが抵抗するが、
「子供の遠足ではないのだがな」
「なんだよ。子供でわるかったな。ちょっと感じわるいよね~」
「いこ。光りが消えるまえにいかないと」
ともあれ、エミルを加えたコレット・エミル・ロイド・ジーニアス、そしてクラトス。
五人はそのまま聖堂の中へ。
こんな感じで続きますvまえがきからリンクで別話し付属に飛べるように修正しました~
2013年7月16日(火)某日
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