まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

本来ならば、本筋でいくと、精霊を二体契約して、ミトスとの合流。
となるはずですが、先にアステルと合流させたがために、
テセアラのほうの精霊契約が後回しになってたりするこの話し(自覚あり。
その分、ミトスとの旅の時間が延びてますよ~ええ。
そもそも、アステルを同行させたことにより、アステルが連れ回してくれますので(かなりまて

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「あれ?リフィルさん?こんな朝早くにどこかにいくんですか?」
まだ夜もあけきっていない。
朝靄がかかっている最中。
こっそりと出てきたというのに、いつのまに、といえるであろう。
もっとも、またいつものように外で野宿をしていた彼、エミルにとっては、
気配を察知することなどたやすかったのかもしれないが。
「少し、気になることができてね」
「ロイド達にはだまって?」
「…ええ。どうしても自分の目で先に確認しておきたいの」
自分の中に考えをきちんと整理するために。
「ですから、止めても無駄ですからね?」
「別にとめませんよ?目的地は、異界の扉、とよばれし場所ですか?」
「え?ええ。だけど、エミル、あなたどうしてそれを?」
あのとき、エミルはあの場にいなかったはず、なのに。
そんなリフィルの指摘にエミルはただ笑みを浮かべるのみ。
「で、場所はわかってるんですか?」
「そ…それは…」
わかっているのはアルタミラの近く、ということくらい。
「まあ、近くまでなら案内しますよ?ウェントス」
「およびですか?」
「移動するのにちょうどいい大きさになってくれる?」
「御意」
その言葉とともに、その場に真っ白な虎のようなものが虚空より出現する。
その白い体には不思議な紋様のようなものがみてとれるが。
「それは……」
あのとき、かなり上空にいたとはいえ特徴は捉えていた。
あのとき、アスガードの上空にて、風の精霊を名乗っていた魔物。
その魔物を排除した、魔物のようでいてそうでない生き物。
伝説の魔物を使役していた、不思議な生体。
「エミル、その子は……」
「僕の家族の一人ですよ?この子はウェントス。テネブラエ達と同じ子です」
真っ白な虎のようでいて虎でない。
ミエルの言葉をうけて、人が一人のれるほどの大きさにまたたくまにと変化する。
そのまま、ふわり、とその背の横にこしかけるようにまたがるエミル。
「その子も、あのテネブラエとかいうこたちのように、センチュリオンとかいうの?」
「ええ。この子はセンチュリオン・ウェントスです」

エミルがセンチュリオンたる彼らを呼んだのは至極単純な理由。
彼らに乗ることでその姿を消すことも彼らの力をもってして可能となる。
わざわざ自分の力をつかうことなく、彼らの力だ、とごまかすことが可能であるがゆえ。
ただ、それだけの理由。

センチュリオン。
精霊ラタトスクに使えている、という属性を司りし精霊達をも従えているという存在。
そんな存在と、エミルがつれている彼らとが同一なのかはわからない。
が、これは直感。
確実にエミルには何かがある。
そもそも、同じような名をもつにたようなものがいくつもいる、とはおもえないのだからして……

光と闇の協奏曲 ~海の楽園アルタミラ~

海の楽園、アルタミラは街全体がホテルやビーチ、遊園地などをもつリゾート地。
それゆえにテセアラ全土から観光客などが押し寄せてくる。
そんな娯楽の街。
アルタミラは【ゆりかごから墓場まで】というキャッチコピーをコンセプトにしている、
レザレノ・カンパニーという会社が総力をあげて作り上げた街、らしい。
そう説明してきたのはほかならぬしいな。
テセアラ中の街の情報は一応把握しているらしい。
すごい、とロイド達がいうとみずほの民ならこれくらいの情報力は当たり前だ、そうかえされた。
一代リゾート地。
街のどこに移動するにおいても常に乗り物にのって移動が可能、となっている。
離れていてもきこえてくる、歓声をあげているのであろう、波と戯れているらしい家族の声。
レアバードから降りたロイド達が街の入口ゲートをくぐろうとすると、
リーガルが急にと足をとめる。
「どうしたんだよ?」
ロイドがそんなリーガルを振り返り問いかけるが、
「すまないが、私はここで待たせてもらう。お前達だけでいってくれ」
立ち止まり、たんたんとロイド達にむかってリーガルがそんなことをいってくる。
そんなリーガルに対し、
「どうしてですか?」
コレットが問いかけるが、リーガルは無言のまま。
「だんまりか。まあ、いいたくないならいいんじゃねえか?ロイド、いうとおりにしてやれよ」
気分が悪いとかそういうのではなさそうである。
「…わかった。帰りに声をかけるよ」
何か事情がありそうだとはおもう。
自分のように追放とかではない、とはおもうが。
結局のところ、リーガルはかたくなにここでまつ、というがゆえに、ロイド達のみで街の中へとはいることに。


そのまま道なりにあるいてゆくと、すぐ目の前には太陽の光が降り注ぐビーチが広がっているのがみてとれる。
どうやらさきほどの家族の声らしきものはここからきこえてきていたらしい。
「ん?なんかいつもより静かだねぇ」
しいながふと何か違うことにきづいてそんなことをいっているが。
「しばらく、異常気象がつづいたせいじゃねえのか?
  海が危険になったとかで、海水浴場の範囲も制限されてるってきくしな」
事実、異常気象となり、また海の魔物もみたことのないものが多発しはじめたのをうけ、
このビーチを管理しているレザレノが海水浴できる範囲をかなりしぼったといってもよい。
沖にみえている浮輪より以降は決してでることができないように、
さらに何か魔物などがはいってこないように、その下には網がはられている、という。
もっとも本当に魔物の襲撃などがあればそんな網などひとたまりもないであろうが。
「あれ?あの奥のほうにみえるひときわ高い建物って何?」
奥のほうにみえるひときわめだつ高い建物。
それにきづき、ジーニアスが首をかしげる。
「あれがこの街をつくりあげた、レザレノ・カンパニーの本社、さ。
  あんたたちも以前、通っただろ?あの例の橋もあの会社が設計、作成したものさ」
三千人分もの命をつかいしエクスフィアをつかった巨大な架け橋。
そのことをおもいだし、一瞬、一行に沈黙が訪れるが、
「姉さん、どこにいるんだろう?」
こんな海の近い場所にあの姉がすきこのんで近づくだろうか。
かつて、ジーニアスは姉がもらしたことをきいたことがある。
なぜに水が嫌いなのか、というその理由。
そのときのリフィルはあきらかに酔っていた。
それは恋人と別れた直後であったがゆえにもらしてしまったゆえに、リフィルの記憶にはない。
そのとき、リフィルはかなり酒に酔っていた。
昔、まだ両親が生きていたころに、何ものかに追われ、冬の海に投げ出されたことがあるのだ、と。
そのときのことを思い出し、本能的に体がすくんでしまうらしい。
海のほうには間違いなくいないであろうが、
かといってあの姉が遊園地のような娯楽のような場所にいる、ともおもえない。
イセリアやパルマコスタよりも確実に人は多い。
首都メルトキオでもおもったが、かの地はゆっくりと見てまわるような時間がなかったといってもよい。
ゆえにあまりの人ごみにジーニアスは戸惑い気味。
「さすがリゾート地。異常気象になっていたっていっても、人は途切れないねぇ」
少しまえまで、暖かい地方のはずのこのあたりまで雪がふっていた。
逆に雪ふる街として有名なかの街では雪がぱったりとやんでいた、ときく。
ゼロスもまさか、とおもい直接出向いて確認したがゆえに、
かの街から一切の雪景色が失われていたことは、今でもはっきりと覚えている。
雪がもどってきた、と報告をうけたのは、しいなたちがこちらに戻ってくる少し前。
それはちょうど、エミルがセンチュリオン達全員を蘇らせた時期とぴたり、と一致する。
その事実をここ、テセアラのものたちはしらない。
否、ロイド達とてしらない。
世界の異常気象がどうして収まったのか、というその事実は。
しいなが感心したようにそんなことをいい、
「ともかく。だ、とにかく声をかけまくって、リフィル様のことをきいてみようぜ」
うきうきとした様子でそんなことをいっているゼロス。
「あんたは。リフィルにかこつけて、ナンパするんじゃないよ!ちゃんと情報をあつめるんだからね!」
さすがにゼロスのことをわかっているしいな。
ナンパ禁止、というのをしっかりと声にだしていっているのがいかにも彼女らしい。
「ちぇ。わかってるよ」
とりあえず、人もかなりいる、ということもあり。
ロイド達は手分けして、リフィルの目撃情報がないか聞きこみを開始することに。

ビーチハウスやボート乗り場、シャワールームにいる観光客にまで
リフィルらしき女性をみなかったかきいているロイドとゼロス。
一方、ジーニアスは姉さんが海の近くにいるはずがない、と断言し、
もっぱらホテルのほうの聞きこみをしているらしいが。
「こんなに人がおおいのに、いちいちすれ違ったひとのことなんか覚えているはずないでしょ?」
サーフボートをかかえた女性…ロイドが声をかけた十数人目にびしゃりといわれおちこむロイド。
たしかにそのとおり。
そもそもロイドとていちいちすれ違った全員を覚えているはずもなく。
それに、水嫌いのあの先生がたしかにビーチにいる、というのはおかしいかもしれないな。
やっぱりジーニアスのほうについていっていたほうがよかったかも。
そうはおもうが、しいなにいわれ、ゼロスとともに聞きこみ担当になっているのだからどうにもならない。
ゼロスのほうは嬉々として女の子…なぜか女の子にばかり声をかけまくっている様子が目にはいるが。
そうこうしている中、もうこれでダメなら別の場所に、
そんなことをおもいつつ、ロイドが別なる人に…すでに何人に聞いたかも覚えてはいないが。
ともかく、ダメモトでといかけてみる。

「え?銀髪の女の人と金髪の男の子、ですか?
  その人達かどうかはわかりませんけど、
  ホテルのロビーで異界の扉について聞いてまわっている人がいましたよ?その人のことでしょうか?
  何かレザレノの本社にいけば詳しくわかるかも、とか誰かがいってましたけど」
レザレノ・カンバニーはその商売がらか様々な資料をけっうもっている。
希望すれば無料でその資料を閲覧させてくれることも多々とある、らしい。
「ありがとう!たすかったよ!お~い!ゼロス!」
何も手掛かりのない中でのあるいみ有力なる情報。
それゆえに、ゼロスを呼ぶ。
みれば、ゼロスは何やらまたまた女性と会話中。
「先生はどうやら確かにこの街にいる、いや、いたらしい。まだいるかどうかはわからないけど。
  もしかしたら、先生、レザなんとかっていうところの本社にいったのかもしれない」
「ああ。あのリフィルなら可能性があるかもしれないね。
  たしかあの本社は希望者には実害がない資料などは無料で閲覧させてたはずだしね」
いつのまにか全員があつまってきていた…といっても、アステルとリヒターの姿がみえないが。
集合場所にしていたのはホテルの前。
聞けば、彼らは真っ先に本社のほうへむかっていったらしい。
何でもあの本社には資料の閲覧があるから、とかいって。
それをきき、ロイドはがくり、とうなだれる。
「…はやくいってほしかった……」
あのリフィルのこと。
そんなものがある、とわかれば真っ先にそこにいっただろう、と簡単に予測がついた、というのに。
今まで聞きこみをしていた自分は何だったのか、といいたくなる。
切実に。
「ここ、アルタミラはいつくかのエリアにわかれているけど。その移動にはエレメンタルレールがあるからな。
  それを利用することになるんだぜ?たしかレザレノ本社にはエレメンタルレールでしかいかれないはずだぜ」
伊達に毎年ここに、旅業、と称してやってきていない。
さすがにゼロスはこの街のことには詳しい。
「とにかく、乗り場にいってみるしかないだろ。そういえば…ゼロス、お参りしとくかい?」
「…そう、だな。しといたほうがいい、だろうな」
『?』
しいなとゼロスが意味ありげにそんな会話をしているが。
「おまいり?」
「…ここ、アルタミラでは八年前にちょっとした事件が…ね」
「その事件で数名の犠牲者がでちまってるんだよ。その慰霊碑が…な。この先にあるのさ」
ゼロスはしっている。
その犠牲者をうみだせし哀れなる実験体として利用されてしまった女性の名を。
アリシア・コンパティール。
生きていれば、二十五歳になっていたはずの女性。
ゼロスが十四のときに起こった事件。
彼女が悪いわけではない。
海路から彼女をこの地に導いたのは、ヴァーリという男性らしい。
そこまではつきとめた。
彼は裁判にて、彼女を引き渡すかわりに鉱山の所有権を持ち出していたらしい。
しかし、招き入れた結果が、死者をだしたのもまた事実。
ゆえに彼の意見は裁判でもののみごとに却下された。
被害をだしておいてその意見はみとめなれない、と。
そもそも、かのエクスフィアにおいて暴走し異形となる存在の存在は認識されており、
その危険性も把握していたはずなのに、街に招き入れた罪は危険に値する、と。
それでも保釈金を積み上げ、投獄だけは免れた、とのことらしい。
その背後に教皇の息があったのはゼロスが調べあげた。
あのとき、アステルもたまたまこの場にいた。
両親とともに。
アステルの機転で観光客があまり犠牲にならなかった、といってもよい。
そのときに訪れていた研究院のおえらいさんの目にとまり、
アステルはそのまま研究院に引き抜かれる形となってしまったわけなのだが。
「慰霊碑…私、おまいりしたいです。それって亡くなった人達のためのものなんですよね?」
「ああ、まあね」
「ね。ロイド、おまいりしょ?」
「コレットさんって優しいんですね。だって見知らずのひとのために祈るんですか?」
そんなコレットにたいし、ミトスが首をかしげ、といかける。
「でも、私には祈ることしかできないから……」
私には祈ることしかできないのよ、ミトス。
亡くなってしまった人達に対しては。
そういっていた姉。
その言葉とコレットの言葉が重なる。
本当に似ている、とおもう。
その心が。
マナが似通っている、というのはその性格まで似るのだろうか。
ゆえにコレットの言葉におもわずミトスは黙り込む。
コレットと共にいればかつての姉との思いでが嫌でも思い起こされてくる。
いまだに目覚めない、姉。
蘇らせることができない姉。
そして、果たすことのできないかつての約束。
「ゼロスさんやしいなさんも?」
かつての記憶をおもいだしつつも、かるく頭を横にふり、かわりにゼロスとしいなにとといかけるミトスの姿。
「俺様は、ちょっとばかり関係してるからな」
混乱した中、あの場を収めたのは、ちょうどその時期、ここにやってきていたゼロス。
神子、という立場を最大限に利用して、混乱をどうにか納めた。
神子がいる、という安心感から人々がよりはやく混乱から立ち直った、といっても過言でなかったあの当時。
覚えているのは、血まみれの少女の姿と、
そして、嗚咽していたブライアン公爵の姿。
その手が真赤に染まっていたのが印象深い。
自分が介入するよりもはやく、プライアン公爵が異形のものの体をつらぬいた。
悲鳴とともに、異形のものの体がみるまに収束していき、やがて小さな少女の体にと変化した。
話しにはきいていた、エクスフィアが暴走し、異形とかすものがいる、と。
非道なる実験が研究院にて行われている、とも。
それまで実際に目にすることはなかったが。
エクスフィアの犠牲者。
後に、かの公爵の彼女は恋人であった、とも。
身分の違いから公爵家の執事がエクスフィアブローカーに下げ渡したのだ、と。
公爵家にはふさわしくない、という理由で。
ふさわしくないのならば、ただ屋敷から追い出せばよかったであろうに。
実験につかわせるために下げ渡した、というのに嫌気がさしたが。
しかもその理由が、家を守るため、というゼロスにとっては一番聞きたくない理由であった、というのも印象深い。
だから、だろうか。
ブライアン公爵の裁判のとき、目撃者達にあえてあのままでは異形のものにより被害が多発していた、と。
証言するように頼んだのは。
その結果、彼は裁判にて無罪となった。
やむにやまれぬ行動であった、とみなされて。

「あ、もしかしてあれがそう、なのかな?」
海に突き出している土地の先端。
そこに何か石碑らしきものがたっているのがみてとれる。
コレットの指摘にたしかにみてみれば、そこに石碑らしきものが遠目にみてとれる。
「…誰か、います」
その慰霊碑らしきものの前に、一人の男性がたたずんでいるのが目にはいる。
ロイド達もきになるらしく、そのまま石碑のほうへとあるいてゆく。
それはエレメンタルレールの乗り場にちかしい場所にあり、
周囲がみわたせる場所にぽつん、とたっている。
周囲は手入れがゆきとどき、常に誰かがそこを管理しているのがありありとわかる。

慰霊碑らしきものの場所に近づいてゆくと、どうやら前にいるのは男性、らしい。
慰霊碑に花を手向けているらしいかったが、気配を感じたのかゆっくりと振り向いてくる。
初老の上品そうな男性。
みただけで高級そうな服に身をつつんでおり、よく手入れされているようにみえる口髭と髪はほとんど白い。
「!?」
その柔和な顔がプレセアをみるなり驚愕の表情へと変化し声を詰まらせている様がありありとみてとれる。
「アリシア!?アリシアなのか!?」
ありえない。
が、おもわずそういってしまう。
「何いてるのさ。この人。プレセアはそんな名前じゃ……」
ジーニアスがいいかけるが、そんな彼の言葉をさえぎり、
「アリシアを…知っているんですか?」
「え?お前さんは一体……」
プレセアがいったその台詞にたいし、男性は困惑気味。
「アリシアは私の姉妹です」
「おお…そうか。そうだな。…アリシアはずいぶん前になくなったのだ。
  こんなところにいるはずがないな……」
自分のせい、という負い目があったがゆえに、信じたくない思いもいまだに強い。
あのとき、自分が余計なことをしなければ、と。
家柄をいったが、しかし、主にいわれ、はっとした。
所詮、彼のもともとも、普通の民であり、事業を興し成功したがゆえに今の地位にいるのだ、と。
「…亡くなった!?どういうことなんですか!?」
そんな彼の言葉をきき、プレセアが悲鳴に近い声をあげる。
否、実際に悲鳴といっても差し支えがない。
背後のほうで道行く人が何ごとか、とこちらのほうをみているが、
慰霊碑の前にいるのにきづき、犠牲者の家族か何か、というような形でみな、見て見ぬふり。
誰しも触れてほしくない、というものはある、というのを皆、いわれなくても理解しているがゆえの行動。
おもわずそんな彼の言葉にプレセアの声が大きくなる。
そんな彼女の様子から、どうやらあの事件のことを目の前の子供はしらない、らしい。
知らないならそれでいい、ともおもう。
家族が異形となって人をあやめた、など知っていてもいいことはない。
「…アリシアは貴族のブライアン家の奉公に来ていたのだが…事件に巻き込まれて亡くなってしまったのだよ」
しばしの沈黙ののち、男が静かにいってくる。
「亡くなったんですか?どうして!?」
コレットが驚いたように男性に尋ねるが、
「それは…私の口からはいえぬ。許しておくれ……」
男からしてみれば、それは説明できない。
何よりもきっかけとなったのはまちがいなく自分、なのだから。
実家にかえしただけでは意味がない、そうおもい。
ならば、と話しをもちかけられていた彼にとひきわたした。
どちらにしてもすべては自分の責任であった、と今ではおもう。
当時はとにかく家柄のみを重視し、排除しよう、という思いばかりがつよかった。
妾、ならば許容ができた。
なのに、主は、正妻に、そういっていたがゆえに、何とかしようとした。
実家にもどしただけでは主がおいかけていきかねない。
ならば、実験体としてひきわたせばあきらめる、そうおもったあの当時。
結果は…主に消えない罪、そして意識を植え付けてしまった。
どうして、あのとき、認めなかったのだろう。そうおもう。
あれからずっと、主は彼女に心を捉われたまま。
たった一人の後継者だ、というのに。
そんな彼の心情はロイド達はしるよしもなく。
ただ、何か深い事情がある、というのはその口調から何となくロイドも理解する。
「…この街にある、レザレノ・カンパニー本社の空中庭園にアリシアの墓がある。
  よかったらそこへいっておあげ。家族が…妹がきてくれればアリシアも喜ぶだろう。
  受付でこれをみせれば通してもらえるはずだ」
男は服のポケットから一枚のカードをとりだすとプレセアに手渡しいってくる。
「妹?プレセアがお姉さんじゃないの?変だな、妹がいるってきいてたのに」
妹が一人、そうきかされている。
その言葉をきき、ロイドがおもわず顔をしかめていることにジーニアスは気づかない。
ロイドはかつて、アルタステから聞かされている。
プレセアの家族…妹が実験に使われ、そして失敗した、と。
ちらり、とみればゼロスとしいなの顔色もうかない。
実験体に選ばれ、エクスフィアの影響で時がとまっていたプレセア。
感情すらも制御されていたその時間。
いまだに正確な時間をロイドは聞いていない。
聞くことができない。
それはあまりにもつらいことだ、とおもうから。
「きっと三姉妹なんだよ」
ジーニアスの言葉にコレットがにこやかにこたえているが。
コレットも事実をしらない。
ロイドはいっていない。
プレセアの妹も同じように実験に使われていた、ということを。
「それは?」
コレットの問いかけに、
「レザレノ・カンバニーの社員証だよ」
男はそういい、もういちどプレセアの顔を感慨深げにみつけ、その顔に悲しみを湛え、
そのまま慰霊碑のほうをむきだまりこんでしまう。

「…どうするんだい?プレセア?」
しいなが遠慮がちにとといかける。
「…すいません。確かめたいんです。いってもいいですか?」
「あ、ああ。どっちにしても今から俺達もレザなんとかっていうところには先生を訪ねていく予定だったし…」
実験において失敗し、異形と化してしまったというのなら、ならば、それを止めたものがかならずいたはず。
誰かが元に戻した…あのときのエミルのように、ドア夫人を元にもどしたのでなければ、
止める方法は…殺すしかなかったはず。
自分の父が、母にそうするしかなかった、というように。
それをしったとき、プレセアがどう思うか。
やはり、許せない、とおもうのだろうか。
それしか方法がそのときはなかったとしても、それ以外にも救う方法があったのならば、と。
知らなかった、ではすまされない、人をあやめた、というその事実。
それはドア夫人が元にもどったのをうけていまだにロイドの心のしこりとなっている。
あのとき、知っていれば…と。
父はどうおもったのだろうか。
母が異形と化してしまったそのときに。
記憶にない、あのときのこと。
三歳、という年齢ならば覚えていてもおかしくはないのかもしれないのに。
まあ記憶力があまりよくない、と自分でもおもっているがゆえに忘れているだけなのかもしれない。
だけども、確実に母とともにいたのは事実のはずで。
ダイクが自分とノイシュと母をみつけたときには、母はまだ息があった、そういっていた。
ならば、そのとき、自分は母とともにいたはず、なのである。
ロイドはそのときのことをまったくもって覚えていない。


「いらっしゃいませ~。ご利用、ありがとうございます~。
  尚、昼間のエレメンタルレールは遊園地、レザレノ・カンバニー行きのみを運行しております。
  どちらまでご利用ですか?ちなみに乗車料は全て無料となっております」
何でもエレメンタルレールというものでなければ本社まではいかれないらしい。
海の中の小島に位置しているカンバニー本社。
移動手段は、このエレンメタルレールか、もしくは海の海路をとおるか、
それか空から、くらいしかないが、街から本社にいく方法は、エレメンタルレールを利用するのみ。
「何とかっていうところの本社まで」
「もう。ロイド。レザルノ・カンバニーだってば」
「レザレノカンバニー。ったく」
ロイドならいざしらず、ジーニアスまで間違うなど珍しい。
それゆえにおもわずゼロスが突っ込みをいれる。
「…リフィルさん、そこにいるんでしょうか?」
「姉さんのことだから、資料とかとにらめっこしてる可能性は高いとおもう……」
遺跡モードになっていなければいいけど。
そんなことをふとおもう。
ミトスの問いにそんなことをおもいながらもこたえているジーニアス。
「は~い。ご一行様。レザレノ・カンバニーまでですね。ご利用、ありがとうございます。
  我が町がほこります、レザレノ・カンバニーは…」
運行係りとともに、どうやら案内人までのっているらしい。
添乗員?らしき女性からこの街の歴史というかレザレノ・カンバニーのことがしばし説明なされてゆく。
どうやらこれもまた観光の一環、らしい。

エレメンタルレールはさすが巨大企業…というらしいが、とにかく建物の前にまでたどりつくと、
そのまま再び移動を開始する。
さすがに離れていてもわかったほどの大きな建物。
近くにくるとその大きさに圧倒されてしまう。
このような大きな建物は、ロイド達からしてみれば、救いの塔やもしくはマナの守護塔。
それくらいしかみたことがないがゆえに、驚きを隠しきれない。
唯一、大きかったとおもうバルマコスタの総督府すらかすんでしまうほどの大きさ。
もっとも、メルトキオでみた城とくらべればはるかに小さい分野にはいる、のだろうが。
「いらっしゃいませ。失礼ですが、わが社にどのようなご用ですか?」
いろいろな人が建物の中にはいるといきかっているのがみてとれる。
二階部分までは自由に行き来ができるようになってはいるが、
それ以上の階にいくためにはどうやらチェックをうけなければならないらしい。
「いらっしゃいませ。アポイントはおとりですか?それともご見学ですか?」
受付らしき場所にいる女性にロイドが話しかけると、
すわっていた女性がにこやかに対応してくる。
「とりあえず、空中庭園ってところにいきたいんだ」
ロイドがそういうと、
「通行証はおもちですか?」
受付係りがにこやかにいってくるが。
「通行証かどうかはわからないけど…これ」
プレセアから渡されていた社員証とかいうものを受付にと提示する。
「これはジョルジュ様の!大変、失礼いたしました。あちらのエレベーターをお使いください」
いいつつも、一人のどうやら警備員、なのだろう。
一人の男性がちかよってきて、受付係りよりロイド達をエレベーターに案内するように、と指示をうけ、
ロイド達をあるエレベーター…というらしい。
ゼロス達いわく、何でも上階に自動で移動できる乗り物…らしい。
シルヴァランドではみたことすらない移動手段。
そんなものがあればあんな長い階段をひたすらに塔とかでのぼらなくてもすむのに。
ふとロイドはそう思う。


警備員につれられ、エレベーターのところまで。
このあたりは入口付近にいた観光客っぽい一般人らしきひとの姿はまったくみえず、
ちらちらとロイド達がきになるのであろう。
中には、あれ?神子様、何か用事なのかな?
などといっている声もきこえることから、どうやらここでも神子ゼロスは有名らしい。
周囲にみえるのは、制服らしき…まったく同じ服をきている社員達、なのだろう。
そんな彼らはちらちらとロイド達がきになるのか、みてはくるが、それぞれ仕事中、というのもあるのだろう。
わざわざロイド達に話しかけることもなく、それぞれせわしなく動いているのがみてとれる。
「さっきの人、ジョルジュさんっていうんだね」
「なんだか、対応からしてえらいひと…なのかな?」
ジーニアスとミトスがそんな会話をしているが。
「もしかして、レザレノ・カンパニーの社長だったりして」
「おいおい。しいなさんよ~。おまえ、情報収集はどうした?」
「え?でもたしか今のカンバニーは会長はブライアン家の公爵の一人息子がついてるだろ?
  社長はたしか、彼に後継者ができるまで公爵家につかえているものが代理でやってるってきいたけど」
名前はかんぜんに失念している。
「…そこまでわかってて、何できづかないのかね。この御姫様は」
「どういう意味だよ!」
エレベーターの中で何やらそんな会話をくりひろげているゼロスとしいな。
ゼロスからしてみれば、そこまでわかっていてなぜにきづかないのか、とそういいたい。
その公爵家の唯一の跡取りである子息の名前、それをおもえばすぐさまに理解可能だろうに。

空中庭園。
そうよばれている場所は建物の一番最上階にと創られているらしい。
緑が植えられ、色とりどりの花が咲き乱れている。
中央には池があり、水辺の涼を求めてやってきたのであろう、小鳥たちのさえずりがきこえてくる。
海の近くということもありしおかぜも多少、風にのって吹いてはいるが。
それでも高い建物だから、なのか、さほど潮風もきつくない。
そんな池のほとり。
そこにぽつん、とたっている石碑らしきものが目にはいる。
その周囲は綺麗に整備されており、その前には花がそえられている。
石碑の周囲には色とりどりの花も植えられており、雑草一つすら生えていない。
信じたくない、そんな思いでゆっくりとプレセアが近づいてゆくが。
その石碑に刻まれし一文。
それは、アリシア・コンパティール。ここに眠る。安らかに…享年十七。
そうかかれているのがみてとれる。
「アリシア…こんな姿に…何で…どうして…っ!」
こんな再開は望んでいなかった。
といっても、時がとまっている自分とあえば妹は混乱するだろう。
だから会うつもりはなかったが。
「これは…何ですか?」
石碑…墓の中央に埋め込まれているなにか。
それをみてミトスがおもわず声をだす。
墓石にこれをつけている意味がわからない。
ミトスからしてみれば、目覚めているっぽい石をこのような場所に放置しておくことはもったいなく感じてしまう。
「え?…ここに埋められているのはエクスフィアだ!」
墓の中央に埋め込まれているのは見間違いもなく、エクスフィアそのもの。
ゆえにロイドがそれに気づき、驚愕の声をあげる。
「どうして、エクスフィアが……妹の……」
プレセアの困惑した声。
しかし、ロイドは理解してしまった。
否、できてしまった。
実験体にされ、失敗した、というブレセアの妹。
そして、墓にのこされているエクスフィア。
マーブルの最後。
アスガード人間牧場でみた…エクスフィアがエクスフィアとなる肯定。
すべての命をエクスフィアに吸収され、形すらのこっていなかった捉われの人々。
信じたくない。
けど、これがここにある、ということは、まさか。
そんな思いからおもわずプレセアは一歩、あとずさる。
と。
『…お姉ちゃん、お姉ちゃんでしょ?』
墓の前にうっすらとした背後がすけた一人の少女の姿が形をなす。
声はどうやらその少女から発せられたもの。
面影はプレセアによくにている。
年頃の少女。
桃色の髪をツインテールに結び、メイド服に身をつつんでいる。
少女の体は透けており、エクスフィアらしきものがその胸で淡い輝きを放っているのがみてとれる。
「ア…アリシア?…アリシア!!」
面影がある、妹の姿。
ゆえにおもわずブレセアがさけび、手をのばすが、その手はその体をするり、とすり抜ける。
「見て!」
少女が姿を現すとともに、墓にうめられているエクスフィアが淡くかがやいている。
ゆえにコレットがおもわずそれをみて叫ぶ。
『…消える前にあえてよかった……』
透き通ったその姿は、あきらかに人が幽霊、とよぶ分野におけるもの。
だけどそこに恐怖とか、怖いとか、そんな感じは一切ない。
その姿にただ、ロイド達は黙り込むのみ。
「どうなっているの?まだ生きていてくれるの?消える?お願い、アリシア、教えて、こたえて!何があなたに!」
八年前。
何があったというのだろうか。
墓に刻まれし、アリシアの没年。
十七。
三歳違いの妹は、本来ならば二十五歳になっていたはず、だというのに。
あまりにも若すぎる、死。
そんな姉の言葉…その姿に驚いていないのは、アリシアはその体にエクスフィアを埋め込まれるときに、
姉の真実を聞かされていたがゆえ。
実験体にされ、時をとめられた、という姉。
その話しをきいたとき、たしかに息がとまったあの当時。
エクスフィアを埋め込むことを承諾してしまったのは、姉を解放してほしかった、というのもあった。
お前が協力すれば考えてやる、そういわれ、だからうなづいた。
…愛する人をを諦める、その意味をもこめて。
『私は…今、エクスフィアそのものよ。もうすぐ意識もなくなってしまう……』
「そんな……」
プレセアの声が、震える。
あのときからかわっていない姉。
止められてしまった時。
ただ、適合検査に適合した、ただそれだけの理由で選ばれてしまった姉。
それでも感情がもどっている、というのはあるいみで救いなのか、それとも。
それはアリシアにはわからない。
アリシアがしっていたのは、姉の時がとめられ、そして感情すら失ってしまっていた、その事実。
ヴァーリから実験体とされるときにきかされた、姉の置かれている実情。
『私の体はエクスフィアに奪われたまま死んでしまって……
  私の意識はエクスフィアに閉じ込められてしまったの……』
「あなたまでエクスフィアの被害に……」
絶句する。
自分だけでなく、妹までそんな目にあっていたなど。
だからこそやりきれなさにプレセアはぎゅっと手を握り締める。
そこからポタポタと血が流れるがそれすらプレセアは気づけない。
その痛みよりも、今の現実のほうがはるかに痛い。
『お姉ちゃん…お願い。私が消えるまえに…私の御主人さまを…ブライアン様を探してきて……』
「ブライアン?あなたが奉公にでた貴族?」
『そう、別れが私を殺すことで、私は……』
ふいに、アリシアの姿がうすくなり、そのまま姿はかききえる。
まるで幻のごとくに。
それまで淡く光っていた墓にうめられているエクスフィアの輝きもまたそれにともない薄くなり、
輝きを放たなくなっているのが目にはいる。
「アリシア!その人に殺されたの!?お願い、おしえて!お願い!アリシア!その姿を…っ!」
『…お願い…お姉ちゃん……』
プレセアの声にこたえるように、声のみがむなしく響く。

「…プレセア。大丈夫か?」
茫然としているアリシアの肩にそっと手をおく。
大丈夫、ではないとおもう。
幽霊、というものを初めてみたが、だけども怖いとはおもわなかった。
むしろ、それは悲しくも感じた。
「……ロイドさん、お願いします。アリシアの仇を……探してください」
俯き加減になりながらも、プレセアがロイドをみていってくる。
どうして妹が死ななければならなかったのか。
殺されなければならなかったのか。
今の会話において殺された、とは捉えられないだろうに、プレセアにはそこまでの余裕はない。
たったひとりの妹が若くして死んでいた、その事実に捕われ、言葉の意味を正確にとらえきれていない。
「ああ、わかってる!ブライアンってやつを叩き潰してつれてきてやる!」
「そうだよ。君の妹を殺すだなんて許せない!」
「……ありがとう」
プレセアの言葉にロイドがさけび、それにつづいてジーニアスもいってくる。
「訪ね人がふえちまったな」
ゼロスがため息とともにそういうのをうけ、
今はそういえば、ここにきたのはリフィルを探してだったのだ、といまさらながらに思い出す。
「アステルのやつもここにきてるはずだしね。たぶん資料室にいるんじゃないのかい?」
「資料室はたしか……」
しいながいい、ゼロスが思い出すようにいってくる。
「先生…ここにいるのかな?とにかく、その資料室とかいうのにいってみよう」
ここにいつまでいても、意味がない。
むしろ悲しみが増幅するだろう。
それゆえにロイドも気もちをきりかえて、その場をあとにしようとする。
と。
「…ロイド君よ。今のさっきの言い回しでどうやったらああいう解釈ができるんだ?」
知っているはずなのに。
その言い回しにゼロスがあきれたようにいってくる。
「……それは……」
そう改めてといかけられて、はっとする。
ブレセアにいわれ、自分は何といった?
ただ、感情に流されるまま、相手を叩き潰す、そういった。
仇、という言葉だけにとらわれて。
「たしか、おまえさん、間違えないって誓ったっていってたんじゃなかったのか?」
ロイドがよくいっていること。
もう間違えない、そう誓ったんだ。と。
だけど、結果はどうだろうか。
感情のままにうごいて、また同じような間違いをしようとしている目の前の少年は。
「あのときもそうだったよな。ロイド君は。みずほの里で、コレットちゃんの救出のときも」
「・・・・・・・・・・・・・・・・俺……」
感情のままに否定し、可能性をつぶそうとしていたあのときの自分。
ゼロスにいわれ、ロイドはただただだまりこむしかない。
「感情のままにふるまうのはいいさ。だけど、ロイド、あんたはもう間違えないって誓ったんじゃなかったのかい?」
しいなもそんなロイドにたいし、いっくてる。
しいなも真実をしっている。
だからこその台詞。
知っていたはずなのに、なのに感情にまかせ、いったのは事実。
真実を、アルタステより聞かされていた、というのに。
ロイドがいまいった言葉通りでいくならば、ロイドもまた裁きを受けなければならない。
よらないで、おばあちゃんの仇になんて助けてほしくない!
そういっていたショコラの声が蘇る。

「ミトス?どうしたの?」
ロイド達がエレベーターに向かってゆく中、ただじっとその場にたちどまり、墓石をみているミトス。
そんなミトスに気づき、ジーニアスが声をかける。
「…エクスフィアっておそろしいものなんだね……」
「そうだね」
天使化する、といったときのあの精霊の言葉は今でも覚えている。
愚かなヒトがあのものたちを兵器として利用した方法をとるのか、と。
かの精霊からアイオリアのことを聞かされた。
人が利用せし石を直接にあつかわなくても、その粒子を取り込むことでそれは可能になる、と。
愚かなことにあのものたちを利用してほしくはない、ともいわれた。
人が兵器として利用しているあのものたちも、自分にとっては大切なものなのだから、とも。
すっかりそのことを今の今まで忘れていた。
否、考えないようにしていた。
自分がしていることは、あの精霊を悲しませる結果にしかなっていない、などと思いたくなかったがゆえに。
ジーニアスはそんなミトスの心情に気づかない。
気づくことができない。
ただ、友達が心を痛めている、そうおもいジーニアスの心もつらくなる。
その心を痛めている理由がアリシアのことではなく、彼の過去に由来するものだ、とはおもわずに。
「…享年……」
墓に刻まれている没年齢。
十七。
事件があったのは八年前、だという。
プレセアは、アリシアは妹だ、そういっていた。
そしてあのアリシアの魂…幽霊も、プレセアを、姉だ。
と。
だとしたら、プレセアは……
【その子は私たちが確認しているだけで十四年間、成長していません】
ふとよみがえる、みずほの民の一人の言葉。
「…僕……」
ずっと忘れていた。
否、考えないようにしていたといってもよい。
見かけだけにとらわれていた。
自分は、今まで彼女に何といっていた?
自分より小さいだの、何だのといっていたとおもう。
だけども、目の前にある墓からは、すくなくともプレセアの実年齢がある程度は予測がつく。
姉、というからには、すくなくとも、一歳以上は年上、なのであろう。
双子にしても同い年。
だとすれば、プレセアは…どう考えてもすでに二十歳をこえていることになる。
見た目は十二の…自分と同じ年くらいの女の子だ、というのに。
理屈ではわかる。
わかってしまう。
けど、感情がおいつかない。
初めての恋。
子供扱いされている、とはわかっていた。
「ジーニアス?」
「ううん。いこう。ミトス」
ふと、墓をみつめうごかなくなったジーニアスにミトスが声をかけてくる。
さずかのミトスも心を読むことまではできない。
ゆえにジーニアスが何をおもっているのかなんてわからない。
エクスフィアにその魂を移動できる、というのはミトスはよく知っている。
その特性を利用して、姉の魂をどうにかとどめているのはほかならぬ自分。
もっとも、苗床にすぎない人の魂すらもその自我をたもてている、というのには驚きに値するが。
それもただの、ヒトが、である。
かつてのミトスならばそうはおもわなかったであろう。
ただのヒト、などといった見下すようなことは絶対になかった。
しかし、あのマーテルが害されたあのときから、ミトスは人にたいし徹底的な不信感をもっている。
クラトスですら一度は自分の元から離れていってしまったのだからして。


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あとがきもどき:
薫:ちらほらと、アステルの過去や、ミトスの過去。それぞれがクロスを始めています(まて
  ちなみに、アステルの両親が、事件のあったとき、かの街にいたのは、
  別に娯楽にやってきていたわけではありません。
  この街…アルバイトの自給がいいんです(笑
  アステルの両親達はかなり借金におわれていた、という裏設定なのでv
  で、子供ながらに聡明なアステルに研究院が目をつけて、あるいみお金で買い取った、ともいう(汗
  親はよろこんで差し出しましたよ…我が子を……
  なので、アステルは実の両親のことには研究院でも触れてません。
  いっても仕方がない、とわりきっているので…

2013年7月15日(月)某日

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