まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
おや?とおもう人もいるかと。
この話しの魔血玉さんの基本設定さん。
…ウランなどといったものを想像してくれて間違いないです。
もともと、自然にあったものだけど、人為的に集めると、その結果は…みたいな。
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伝わってくるのはコレットにわたしている分身体たるブローチより、
アルタステによってかつての真実が彼らに語られている、という状況。
停戦がなったよ。
そういい報告にきたときのあのときのミトスの嬉しそうな顔は今でも思いだせる。
「で?ゼロスさんは、一人のこった、というのは、単刀直入にききますけど。
僕に何か用ですか?」
わざわざ彼らと別行動までして、自分の元に残る、ということは、何か話しがあるから。
そうとしか思えない。
現に彼はよりよい方向を目指し、それぞれの場所に簡単な情報を流している。
そのことをエミルはしっている。
それら全ては妹を守るためだ、ということも、魔物達に調べさせたがゆえに知っている。
「本気で単刀直入だねぇ。エミル君は。なら、こっちも単刀直入にきくけど、
エミル、おまえさん、何もんだ?…精霊ラタトスクの関係者、なのか?」
それは直球。
ずっとおもっていた。
傍にしたがいしセンチュリオン、というものたち。
世界の調停をしているような、しかも精霊をも配下にしているような輩が、
ただの人に従うはずもなければ、護衛につく、とまでいわないはずだ、と。
「関係者。って、この大地にいきているもの全ては関係者だとおもいますけど?」
事実、全ての命はラタトスクが生み出したもの。
今は直接とは言い難いかもしれないが、そこにあるマナは全てラタトスクがうみだせしもの。
そのマナよりうまれし命はたしかに、関係者、というよりは、
ラタトスクにとってすべての命は子供と同じ。
この大地も何もかも、すべて自らの力によって存在している、のだから。
「ならきくが。そこにいる常にいる魔物たち。それ、おそらくセンチュリオン、となのったやつらが。
姿をかえているだけなんじゃないのか?」
それはもう直感。
たしかにぱっと見た目は普通の魔物、としかみえないであろう。
が、だたの魔物があのような扉をつくったりする、というようなことをきいたことがない。
あのとき、エルフの里にて。
センチュリオン、となのりしたしか、テネブラエ、となのったか。
そのセンチュリオン・テネブラエが出てきたとき、ウルフの姿をした魔物がきえていた。
だからこそたどり着いた答え。
「あのとき、そこのウルフもどきはいなくなっていた。かわりにテネブラエってやつがでてきた」
さぁっ。
風、が吹き抜ける。
そんなゼロスにたいし、エミルはただにこやかにほほ笑むのみ。
「もし、そうだ、といったらどうするんですか?」
「別に。ただ、俺様も立ち回りってもんがあるしな。
それに…もしもそう、だとしたら俺らがどうあがこうとも、どうにもならないだろう。
ただ、俺様としては、妹に害が及ぶのならばとことんあがくつもりではあるがな」
「ああ。あの修道院に収容されている、という妹さんですか」
にっこり。
ゼロスは妹のことは一度も話していない。
その妹が修道院にいる、ということも。
だが、自然とエミルは当たり前のようにいってくる。
あのときからおもっていた。
何よりも優先すべきは大地の存続だ、とエミルがいったあのときから。
エミルはただの人ではない。
シルヴァランド人でも、おそらくテセアラ人でもない、何か。
特殊な一族、なのかもしれない。
それこそ大樹カーラーン…世界樹にかかわりがありし一族なのかも、と。
「もし、おまえさんが妹の体を健康体にする方法があるなら教えてほしい。そうおもっただけだよ」
「…そもそも、血を濃くしていけばかならずそこに不都合がでるのはわかりきったことだというのに。
なんであの子もそんな選択をしたのやら。
あまりに近しすぎるマナ同士の交配は、確実に変調をきたす。
それはマナが濃くなりすぎて、器としている肉体が保たれなくなってしまうがゆえ。
単一生殖にしている子達には関係ないんですけどね。
もしも、あのマーテルに最もちかしいマナをもつものが産まれたとしても。
そこにかならず何かしらの現象は現れる、というのに」
コレットのいい例がその体ににあわぬ怪力。
ゼロスの妹はそうではなくて虚弱体質、という形で誕生した。
マナは全てを構成、構築しているもの。
ゆえに、そこには様々な現象を引き起こす可能性をも秘めている。
それがたとえ人体にとって有害なことでも、である。
内臓疾患や骨格異常、他の生命にとってはそれが進化をするのに必要であっても、
人にとっては毒としかなりえない力。
ある世界ではそれらのマナのことを、遺伝子、と呼び。
劣性遺伝子、優性遺伝子、といって考え分けていたこともあった。
学者達が説明するのにあたり、マナ、だけでは全体を現すがゆえに、
あえてそのような提言をしていたのは、ほかならぬかつてのデリス・カーラーン。
「全ての命には絶滅を回避するために最低限の性能がもたされてますからね」
もたしたのはほかならぬ自分。
それでも、愚かな人の手により、その自然の仕組みすらも覆されてしまうことも多々とあるが。
「健康体に戻したいのならば、マナを完全に正す必要性がありますよ?
それは生まれながらにしてマナのありようが狂っている状態ですし。
普通の方法ではまずむり、ですね」
「だからといって、エクスフィアにて健康体に見せかけはしていたとしても、
もし、エクスフィアが暴走したら…っ!」
要の紋をつけしものでも、暴走することがある。
それはゼロス…神子の立場だからこそ耳にはいる真実。
暴走し、人でなくなったものたちがたどる結末は…死。
レイズ・デッドを用い人にもどせたとしても、記憶があるものたちは、
自分達が異形になったことに心がたえられず、自ら死をえらぶ。
どちらにしても死しかまっていない。
また、実験体に利用されてしまうものも多々といる。
変化する前と変化したあと、ではどのようにマナがかわっているのか。
それを見極める必要があるとかいう命を命ともおもっていない理由にて。
「…クルシスは信用ならねぇ。かといって研究機関はもっとあぶねぇ。
俺様は、あいつに…あいつにだけは幸せになってもらわないといけない」
自分という存在がうまれなければ。
産まれたときに握っていた石。
天使は母体となるべきものに力をあたえ、自らの子を託す、そういわれていた。
父は自分の子ではなく、天使の子、だといい。
母は天使の子をうむためだけに恋人と引き裂かれたのか、となげき。
そもそも幽閉されていた母。
自分というものがみごもるまでは、屋敷に軟禁されていた、ときく。
父も自分の意思でなく、薬によって母を…
望まれてうまれた命ではない。
本当に望まれるべきは妹だ。
ずっとそうおもっていた。
「…自己犠牲は何もうまんぞ?ゼロス・ワイルダー」
いつものエミルの口調ではない。
ふときづけば、いつのまにかエミルの瞳の色が緑から深紅へとかわっている。
『…エミル様?』
傍にひかえている魔物達がそんなエミルにと声をかけてくる。
「他者のために尽力をつくす。その心意気は悪くはないが、な」
そう、悪くはない。
自分のため、というよりは他人のため、その心意気が心地よくも感じる。
もっとも、そのために犠牲になってしまうものもいるかもしれないが。
しかし、自分の欲のためにつきすすむものたちよりはよほどここちよい。
「お前は何を望むのだ?ゼロス・ワイルダー」
「…俺様の命と引き換えにしてでも、妹…セレスに自由と健康を」
それは心からの本音。
妹を自由にさしてやりたい。
あんな幽閉された修道院などではなく。
誰にも利用されるようなことはなく。
そろそろ妹も適齢期になってしまう。
だとすれば、血を残すために何がおこなわれるか…考えるだけにおそろしい。
ざぁぁっ。
ゼロスの周囲に風が吹き抜けてゆく。
小さな可能性かもしれない。
だけどその可能性にかけてきた。
母が死んだあのときから、ずっと。
だからこそ、ゼロスも譲れない。
だから、のこった。
可能性が強いかもしれない、妹をたすけられるかもしれないエミルに直接に話すために。
今の言い回しからして、確実にエミルは勇者ミトスのことを何らかの形でしっている。
それは確信。
だからこその理由。
光と闇の協奏曲 ~新たな同行者と消えたリフィル~
「ロディル…か。魔道砲、というのがきになるな」
しばしの静寂ののち、アステルがふとそんなことをもらす。
「かつての古代大戦、またその後の世界異変のきっかけとなったものではないか。
そういわれている禁断の兵器。トールハンマー、か」
伊達に古代のことを研究してはいない。
古代の呼び方も彼らはしっている。
「うむ。ロディルの奴の目的は魔道砲の復活。どうやらそれをたくらんでいるらしい。
奴はどこからか魔道砲の図面を入手してシルヴァランドに建設しているようじゃ。
それだけではない、さらに厄介なことに魔族の媒介たるとある石の開発までしているようだがの」
それは魔血玉とよばれしもの。
石を通じ、その石を間接的な媒介とし、魔族がこの地上に具現化するためのもの。
小さなものならばあまり問題はないが、それが巨大になってくるとまたことなる。
欠片程度のものならば世界に害はない。
が、ある程度の大きさになると世界にある浄化機能だけではどうにもならない。
できたとしても、十年、百年単位の周期が必要となってくる。
もっとも、目の前の人間達にそれを説明してわかる、とはおもえない。
もともと自然界にあった物質がなぜ、集まることによって害となるのか。
それが理解できるものもいるかもしれないが、理解しそうにないものがいる。
そうすれば、精霊ラタトスクの本体、というものにまで話しが発展しかねない。
それは避けたい。
精霊ラタトスクがコア、とよばれしものを本体としているのは、あるいみ公然の秘密。
それをしった人がどのような行動をおこすのか…想像にかたくない。
まちがいなく、力をもとめ、精霊をコアにし、その力を我がものに。
そうおもう輩はすくなからずとでてくる。
かつての戦いの檻においても、センチュリオンのことを魔族からきいた人が、
センチュリオン達をコアにし、その力を我がものにしようとしたように。
人の手に扱える力ではない、というのに自分達ならばその力が利用できる。
そう愚かな判断をする人の手によって。
だからこそ話しの流れを自然と軌道修正させるため、
「奴は牧場の主でもあるからな。収容されているものはおそらく皆、その建設に駆り出されているのだろう」
「ロディル…。イセリアの牧場主がフォステス。パルマコスタの牧場主がマグニス。
そして、のあスカードの牧場主がクヴァル。五聖刃、といってたわね。
ならば、絶海牧場の主がそのロディル、なのかしら」
「奴はたしか海を担当しておったはずじゃが」
リフィルがしばしかんがえこみつつも、今までしっている牧場と、その主の名をあげてゆく。
パルマコスタにて、ドアの娘の姿をかたっていたものが五聖刃の長プロネーマのことをいっていた。
クグァルが立体映像のようなもので話していた相手が、
そのプロネーマ、という女性らしいが。
「おそらく、奴はあれらが完成したときに自分の王国でもつくるつもりなのじゃろう」
それも魔族の力をつかい。
アルタステの言葉に、しばし俯き加減ではあったものの、
「…そんなことのために、人々を…苦しめているんですか?」
プレセアには理解できない。
まだ、勇者ミトスであったものが、クルシスの指導者となっている、という理由ならわかる。
わかりたくはないけどもわかってしまった。
それは大切な人を生き返らせるため。
死したものを蘇らせる。
それは世界の理に反しているのかもしれない。
けとも、可能性という手段がそこにあれば、人はどうしてもすがりたくなるであろう。
自分が、失われた時間を取り戻したいように。
「勇者ミトスが二つの世界をつくった。か」
「オリジンより与えられし魔剣の力を使用した、ときくがの。
決して混じり合おうとせぬ二つの勢力。停戦協定をむすばせてもそれを簡単に破棄する愚かなる勢力陣。
ゆえに完全に世界を二つにわけ、二つの世界をマナの楔で結び、
その中心に大いなる実りを安置し、世界を守っている、ともきいたがの」
世界を二つにわけた実情というかその詳しい内情までアルタステはしらない。
そもそもその真実をしっているのは、勇者ミトスの仲間達、くらいであろう。
クルシスに所属しているものたちも詳しい仕組みは聞かされてはいない、のだから。
アルタステがしっているのは、世界がこのようになった理由。
その原因と結果。
今につづく現状の真実にすぎない。
「…だから、二つの世界に勇者ミトスの話しがつたわっていたんだ」
ずっと不思議にはおもっていた。
救いの塔も同じならば、勇者ミトスの伝承もおなじ。
そういえば、とおもう。
さらり、とエミルがあのとき、この国にきたときにいっていた。
どちらも正しいけど、と。
となれば、エミルはあのときから、否、始めから世界の真実をしっていたことになる。
あるときは何ともおもわなかったが。
「二つの世界は互いに行き来することができるのか?」
リーガルの素朴なる疑問。
レアバード…レネゲードがもつあれならば可能、なのだろう。
事実、それによりこうしてシルヴァランドの神子一行がやってきている以上は。
いまだに自社ではその開発に成功していないが。
「勇者ミトスの英雄譚ででてくるお話しでは、大いなる実りとは、
古代大戦を終結させた勇者ミトスの魂のこと。そのはずでは?」
ミトスからしてはこの流れを修正しておきたい。
それが真実だ、としても。である。
でなければなぜ、このような偽りの物語を二つの世界にマーテル教をつうじ、
普及させた理由がなくなってしまう。
「それこそお伽噺じゃの。なぜそのようにしたのかは、わからぬ。が、おそらくは……」
勇者ミトスの魂でマナをみたした、そして神子の命でそのかわりを。
その仕組みのためにつくりあげた、ユグドラシルの偽りの歴史。
「おおかた、大体理解できたわ。
マーテル教の一部の、上層部のもの、そして神子の家系のみにつたわりし真実。
勇者ミトスの魂によって世界にマナが供給され、
そしてその勇者ミトスの魂のマナ…大いなる実りの力が陰りをみせたとき、封印がとかれはじめる。
そのために、神子、というものが天界よりつかわされ、神子の命をもってしてマナとし、
封印を構築しなおし、世界に神子の魂によってマナが供給され世界は救済される。
おそらく、勇者ミトスの英雄譚をマーテル教を通じ広めたのも…神子、という制度に疑問を抱かせないため。
よりマーテル教を真実性があるようにしらしめるため、じゃないかしら」
「おそらく、間違いなくそうでしょうね」
リフィルの言葉にアステルもうなづく。
物ごころついたころから聞かされる勇者ミトスの英雄譚。
そしてマーテル教の教え。
そんな中でそだっていけば疑問におもうものはまずいない。
疑問におもったとしても周囲から何をいってるんだ、こいつ、というように迫害されるのは目にみえている。
事実、アステルがかつてそうであったように。
両親にすらそのようにもおわれ、結果として九つのときに親に売られるようにして研究院入りした。
「二つの世界は二極から今でも行き来ができるらしい。
…その二極、というのはわからぬ、とされておるがの」
知ってはいるがいえるはずもない。
そもそもひとつは、精霊が守りし場につづく場所。
それゆえに言葉をにごす。
「古代大戦…テセアラとシルヴァランド、二つの国による争い…
だから、なのね。互いの国の月がそれぞれの名でのこっている、というのは」
過去にそれぞれの世界があった、としっているのならば、月の名にしてもおかしくはない。
真実を聞かされる前におもっていたこと。
しいなから二つの世界のことを聞かされたときにおもっていたこととはかなり異なってはいるが。
あのとき、リフィルはこうおもっていた。
古代大戦、とは二つの世界における争いであったのだ、と。
それはどうやら間違いはなかったようだが。
異なっていたのはもともと一つの世界であった、ということ。
異なる位軸に位置している世界同士が争った、そうおもっていた。
「その二極のうちの一つは聖地カーラーンでしょうね。
だからこそ、どちらの世界にも、シルヴァランドにもテセアラにも聖地カーラーンがある。
おそらく、聖地カーラーンは二つの世界を結ぶ扉、なのでしょう」
「僕の調べではもともと、聖地カーラーン、とよばれている場所は、
世界樹、大樹カーラーンがあった場所だ、とわかっています。
つまり、世界の中心、ですね」
リフィルの言葉にアステルが追加説明。
「…これまで、二極については様々な意見をきいてきたが…
しかし、もともと、世界が一つであった、というのは……」
リーガルとてしらなかった。
たしかに世界は二つにひきさかれた、それはしっていた。
が、もともと隣り合う世界同士がふれあうことができなくなった、その程度にしかおもっていなかった。
「あら?他にはどんな意見があったのかしら?リーガル?」
「うむ。異界の扉、という伝説がアルタミラにつたわっている。
そこが二極だ、とするものもいるようだ」
「ああ、あの地は不思議な場所ですよね。マナの測定値もいつも限界地突破してますし。
計測不能なんですよね。あそこって」
「その異界の扉、には詳しいのかしら?アステル、あなたたちは?」
「いまだに研究院の課題の一つですからね。あの地の真実をつきとめる、というのは。
満月の日に扉がひらくとかいわれていても、研究院達がそのときにいっても、
絶対にそんな現象はおこらないんですよね……」
雑念が混じっている以上、そのようなことをラタトスクが許すはずもない。
そもそも、扉を開くように設定するか否かは、それに応じた純粋なる願いに呼応するようにしている。
かの石碑達にそのように陣をひいている。
ミトスが世界を二つにわけたときに、ラタトスクがつくりし理の一つ。
「異界の扉…」
岩がごろごろとしていたあの空間。
自分とジーニアス、その岩の中心におかされ、泣いていた母。
父の切羽詰まったような声。
「…その、異界の扉、という場所をおしえてもらえるかしら?」
真実を、しりたい。
「え?いいですよ?あ。そうか。リフィルさんはもしかしたら、
かの地からシルヴァランドに流された…というより逃がされた可能性がたかいんですよね。
なら、リフィルさん達がいったら扉がひらかないかなぁ?
いまだに机上の理論でしかないんですよ。あの地がシルヴァランドに通じている、というのは」
「ってまて!アステル!お前はシルヴァランドにいくつもりか!」
「え~?いけるのならいきたいじゃない?
それに、僕らが手にいれたレアバードってなんでか空間転移装置が起動されてないんだよね」
わたしたら何をしでかすかわからない、そうおもったがゆえにロックされている。
というのをアステルはしらない。
そもそも、レネゲードの一人がわいろのようにして彼にわたした品物である。
彼のような研究一筋のようなものに空間転移機能が備え付けられているそれをわたせば、
どうなるか何となく想像しなくても理解はできる、というもの。
ゆえにロックをかけた手渡したレネゲードの一員はおそらく正しい。
「何か一気にいろいろきいて、俺の頭じゃ、もう何が何だか……」
ロイドも何が正しくて何が悪いのかわからなくなってくる。
自分達が正しい、そうおもっていた。
あのときもそう。
世界を再生することがそれが正しいのだ、と。
その結果、別なる世界を滅ぼすなど夢にもおもっていなかった。
そして、コレットを殺すことになる、とも。
あのとき、自分がいったあの台詞。
コレットが、神子が世界を救ってくれる。
いざというときには神子にコレットにすがっていた自分の言葉。
あのハイマにてクラトスにもいわれた。
あの言葉が再び脳裏をよぎる。
「…そろそろ日がくれる。よかったら泊まっていきなされ。今日はつかれたじゃろう。
…ミトス、じゃったか?お前さんもいくところがないのなら、しばらくわしのところにおるといい」
村の襲撃につづき、クルシスができたその経緯たる真実。
おそらく彼らの頭の中もごちゃごちゃし、整理する時間が必要であろう。
それゆえのアルタステの提案。
すでに窓からみえる外の景色は夕暮れの闇が近づいてきているのがみてとれる。
「…え?でも、僕、ハーフエルフなのに……」
ハーフエルフとしりながら、泊まっていけ、というものは今までこのかたほぼいなかった。
あの旅をしているときにしてもそう。
停戦を結ばせたあとでも、ハーフエルフ、としれば手のひらをかえされた。
勇者ミトス、という名ではとまれるが、ミトス、というハーフエルフの個人、としては受け入れてもらえなかった。
「かまわんよ。ここにはわし以外には、わしの創ったタバサしかすんでおらん」
何やら今、聞き捨て成らない言葉がきこえたような気がする。
「アルタステさんがつくった?」
ロイドが聞き返すが、
「うむ。タバサは自動人形じゃ。ドワーフに人形にハーフエルフ。
何も問題なかろう?」
「自動人形。そこまで人工知能が発達してるのもすごいですよね。
うちの研究で人に魂を機械に融合させる、という方法もとられてますけど」
「しかもそれをエクスフィアに無理やり人の魂を融合させてな。
今のところことごとく失敗しているらしいが」
こちらもまた何やら聞き捨てならない単語がでてきているような気がする。
アルタステにつづき、アステルとリヒターがそんな会話をしているが。
その事実をしっているがゆえにしいなはただ顔をしかめるのみ。
リーガルもそれをしり、だからこそかの地を封鎖した。
これ以上、犠牲をうまないために。
そのために、エクスフィアにかわりしエネルギー源を開発、研究させてもいる。
「そんな…タバサさんが…お人形さん?」
コレットにはそれが信じられない。
たしかにそこには感情がある。
自分が感情をうしなっていたときとは明かに違う。
そこにはたしかに心がある。
「…機械生命体…ね」
ぽつり、とかつてエミルがさらっといっていたことをリフィルは思い出す。
「このタバサには自ら周囲の情報をよみとり、進化してゆくようにプログラムをなしている。
まあ、人工知能、といったところかの?」
「古代大戦により失われたといわれている技術の一つですよね。それ」
「うむ。かつてはこのような人工知能をもった機械達もまた戦争に駆り出されたらしいからの」
てっとり早い動力源として利用されたのが、エクスフィア達。
もっとも、ほとんどのエクスフィアが不都合をおこしその性能を停止させて以後、
わざわざ機械をイチから創るより、人をつかった兵器のほうが早い。
という何とも愚かな人が考え出しそうな理由で、その後はほとんど人が兵器、として利用されたが。
そのために、わざわざホムルンクスまで生みだされた。
それも兵器、とするためだけに。
「そうね。たしかに、今からどこかにいく、というのも危険だわ。
でもこんな大人数で泊まらせてもらってもいいのかしら?まだ外に二人ほどいるのだけど?」
「かまわんよ。もっとも狭いかもしれんがの」
リフィルの言葉にさらり、と肯定を示し、
「では、私は食事の用意をしてきます」
いってこの場をあとにし、台所のほうへとむかってゆくタバサの姿。
「ならお言葉にあまえたいけど…プレセア、大丈夫か?」
「…私のことは気にしないでください。それにずっとここに住んでましたし」
感情をうしなっていたとはいえ、おぼろげに覚えている。
彼、アスタルテが自分によくしていてくれたこともしっている。
だからといって、感情と理屈が一致する、というわけでもないが。
すくなくとも、彼が手をかさなければ自分はこのようなことにはなっていなかった。
それがわかっているからこそなおさらに。
「あ。じゃあ、今夜はジーニアスもリフィルさんも一緒なんだね」
ミトスの言葉に。
「うん!いっぱい遊ぼうよ!
僕、ミトスが初めてのハーフエルフの友達なんだ!」
今の話しの重さもミトスと一緒にいられる、ということでジーニアスの頭からふっとんでしまう。
「友達?…友達に…なってくれるの?」
ハーフエルフとしり、離れていった人達。
勇者ミトスがハーフエルフだ、と周知されなかったのは、
ハーフエルフごときが停戦をむすばせた、と人やエルフが認めたくなかったがゆえに、
故意に隠されたといって過言でない。
友達になりたかったものがいた。
あの閉じられた空間から連れ出してあげたかった。
自分と同じくらいの年齢に姿をあわせてくれたのは、
すくなからず、姉がいうには自分達にたいする配慮なのでは、とはいっていたが。
世界をどうにか救おうとしている自分達にたいするあの精霊なりの心遣いなのでは、と。
今でも友達になりたい、とおもっている。
姉を蘇らせたのちに、大樹を復活させれば、約束を果たすことになる。
そうしたら、全員で世界を旅をしよう、そうおもう。
そのときに彼がディザイアン達のことをしるとどう反応するのか。
そんなことを今まで考えたことはなかった。
「もちろん!」
ミトスの心情をしるはずもなく、にこやかにジーニアスがいってくる。
「…ありがとう」
自分と同じ境遇の子供。
里を追われた年齢も同じならば、姉と二人きり、という境遇も似ている。
世界をどうにかしよう、とあがいているところも。
かつての自分達と重なる。
重なってしまう。
これまで過去を振り返るようなことはあまりかなった、というのに。
どうも調子がくるう。
狂ってしまう。
だからこそ素直にきづいたらお礼の言葉をつむいでいた。
そのことに気付き、ミトスは自分自身に驚きを隠しきれない。
「大人数だしね。あたしも手伝うよ」
そんな子供達の会話を横めでみながらも、しいながたちあがり、
タバサの後にとつづいてゆく。
「タバサは何が得意なんだい?」
「いろいろです。今夜は皆さんたくさんですから、カレーにしましょうか?」
「お。いいねぇ。カレーか。隠し味にパイナップルをいれると酸味がでておいしくなるよ」
「パイナップル、ですか。リンゴはまろやかになりますよ」
「具は何をつかうんだい?」
地域によってカレーの具は様々。
ちなみにみずほの里で主流となっているのは主に山菜やもしくは里でとれる野菜達。
ある意味でかなり重い話しだったとおもう。
クルシスの真実。
否、クルシスができたその経緯。
何ごとにも理由がある、そうわかっていてもやはり知っているのと知らないのとではわけがちがう。
タバサがそのことに触れないことにほっとする。
あえて料理の手伝いを願いでたのはあの場の空気に耐えられないがゆえ。
「…きて、ロイド。おきて!」
昨日はいろいろとあった。
それゆえに横になると自然といつのまにか寝入ってしまっていた。
昔から難しいことなどを考え始めるとすぐに眠ってしまう傾向がある。
そう養父たるダイクにもいわれていたが、どうやらこのたびもその傾向がでたらしい。
何やら耳元が騒がしい。
声の主はコレット。
コレットの声。
「ロイド、起きて!大変なの!」
コレットの様子は尋常ではない。
まさか、やはりあれから天使が襲ってきた、とでもいうのだろうか。
寝ぼけざまにそんなことをおもいつつ、
「…なんだよ。どうしたんだ?」
周囲をみてみれば一緒にねていたはずの他のものたちの姿はない。
横にいるのはコレットのみ。
「先生がいなくなっちゃった!」
「…何だって!?」
眠気もふきとぶコレットの台詞。
いなくなった、とは尋常ではない。
まさか、クルシスが何らかを仕掛けてきたという可能性も否めない。
もっともその場合だと、コレットを真っ先に狙うだろうが。
コレットに促されるようにして、そのままロイドも家の外へ。
外にでてみるとどうやら全員がすでに外にでていたらしく、
ロイドがどうやら一番最後まで眠っていたらしい。
「ロイド!」
ジーニアスがロイドの顔をみるなりかけよってくる。
「どういうことなんだ?先生がいなくなったって……」
「姉さんが、調べたいことがあるからって、
書き置きを残して出ていっちゃったみたいなんだ」
「私、夜明け前にレアバードが南の方にとびたってゆくのを見ました。
あれがリフィルさんだったのでは?」
「南のほう…というと、アルタミラのほうか」
「そういえば…昨日のリフィル様、ちょっと様子がおかしかったよな」
異界の扉がどうの、といってすこし考え込んでいた。
「昨夜、リフィルさんに詳しく異界の扉のこととか聞かれたんですけど。
ちなみに僕らのほうでつたわっているリフィルさんのこともおしえときました」
「先生の?」
たしかにここ、テセアラで産まれているならば何かしっていてもおかしくないかもしれない。
が、伝わっている云々、という理由がわからない。
「ある意味で有名だからな。王立研究院が手配書までかけて捉えられなかった子供の名は」
しかも死体すらみつからず。
そしてまた、その両親も結局のところユミルの森付近で見失った、ときく。
アステルのそんな言葉にロイドが首をかしげ、
意味がわからない、とばかりにコレットとジーニアスも顔をみあわせて首をかしげる。
そんな彼らに淡々といっているリヒター。
「姉さん一人だなんて、心配だよ」
「いや、たぶん、あのエミルという子も付近にいなかった。
それを考えると一緒にいったのではないのか?」
外で寝ているのはしっていた。
結局、リヒターとアステルもまた外で野宿をしたがゆえ。
その理由は、付近に満ちているマナの測定をするためもあり、
また、せっかくここにきたのだから、このたびの襲撃で何か変化があるかもしれない。
という理由からこの付近を調査していたからに他ならない。
「ノイシュ、そうなのか?」
「クゥ~ン……」
常になぜか一緒にいるエミルが傍にいないせいかノイシュの声もはりあいがないように感じられる。
心配しなくても大丈夫だよ。
そういって自分をなでて、リフィルに提案し、一緒にでていった王。
もっともセンチュリオン達が傍にいるかぎり間違いは起こらない、とはおもうが。
たしかに、王を結果として裏切っているミトスの傍にいるよりはあきらかにセンチュリオン達からしても
リフィルとともに出かけたほうが安心、と判断したのであろう。
それくらいはいくらノイシュとてわかる。
かつてのまっすぐであったときのミトスと今のミトス。
クラトスとともにクルシスを出てからはその思いは彼とて強くなっている。
「先生をおいかけよう。エミルと一緒だとしても、だ。
今、それぞれが離れ離れになるのは絶対によくない」
昨夜は着の身着のまま眠ってしまっていたらしい。
ゆえに支度もすぐに簡単にすませられる。
「あ、あの?僕も一緒につれていってもらえませんか?」
そんなロイドの言葉につづき、ミトスがおずおずといってくる。
そんなミトスの言葉をきき、ノイシュが警戒したような声をあげていたりするのだが。
「何いってるの!?ダメだよ。危ないんだよ?」
そんなミトスの台詞にジーニアスが即座に反応する。
「それは、わかってます。でも、心配なんです。
最近のテセアラはみたことのない魔物がたくさんでるっていうし。
…それに、僕、自分以外のハーフエルフの出会ったのは初めてだから。
リフィルさんには無事でいてもらいたいんです」
何よりも自分と同じような境遇に目の前の子供をさせたくない、というのがある。
たったひとりの姉。
姉を失う悲しみは、ミトスは理解している。
自分はまだ姉を復活させる手段が残されてはいるが、普通に死んでしまえばそれこそ永遠の別れ。
昨夜のアステルやリフィル達の会話で、このテセアラに新種の魔物が増えていることを初めてしった。
報告にはまったくあがってこなかった地上の真実。
ディザイアンという組織を任している五聖刃たちからもそのような報告はあがってはこなかった。
もっとも、二か所ほど、あまりに報告がないがゆえに、確認にむかわしたところ、
そこにあったはずの施設が奇麗さっぱりと消失していた、という報告はうけはした。
どうやら何らかの影響で地下のマグマが何かしらの影響で地上に噴き出してしまった結果らしい。
どうみても火山活動の一環、とおもえるような痕跡が残されていた、という。
一つの場所などは施設があった場所はもののみごとに陥没し、完全なるちょっとした泉になっている、とも。
マグニスのほうはたしか石を自らに埋め込んでいなかったがゆえに、
万が一死んでいたとすれば、それは死でしかないが。
クヴァルは完全なる輝石ができあがるまではうめこまない、と簡易的にしかつけていなかった。
石にその精神を移動させているかどうかすらあやしい。
事実、探させてはみたが、意思がやどったともられる石はみつからなかった、ときく。
「だけど、気もちはわからなくもないけど、やっぱり駄目だ。危険すぎる」
自分達はまだエクスフィアを身につけている。
が、ミトスは何もつけていない。
しかも、昨日、あのような目にあったばかりの何もしらない子供でしかない。
それに、とおもう。
今の自分の力では万が一一緒にきていたとして、クルシスに襲われたとき、
彼を守り切れるか、といえばロイドには自身がない。
優先順位的にコレットを守っている間に、ミトスに何があるかもわからない。
今、一緒に行動しているものたちは自らの身をまもる手段はそれぞれにもっている。
しかし、ミトスはどうみても戦えるようにはみえないし、おそらく経験もないであろう。
それゆえのロイドの拒絶の言葉。
「ロイド。僕からもお願い」
しゅん、となったミトスを見かねたのか、ジーニアスがいってくる。
「足で纏いにはなりませんから」
むしろ、ミトスからしてみればロイド達のほうが足手まといといえるであろう。
技量がまだまだであるのはみただけでもわかる。
もっとも、できる、という雰囲気をまったくみせていないのは、ミトスもさすがとしかいえないが。
そのあたりはエミルも同じようなもの。
エミルもぱっと見た目では、かなりの力をもっている、などとは誰も気づかない。
気づくことができない。
「…しょうがねぇな。勝手にしろ」
昨日の今日なので誰かとともにいたいのかもしれない。
まして同じ同族、という仲間意識で悲しみを少しでも紛らわそうとしているのかも。
昨日の話しの衝撃がすくなからずミトスという少年にあたえている影響もいなめない。
それゆえにロイドもそれ以上はつよく拒否することができず、
結局のところ、流されるがままに同行の許可をだす。
「ありがとう。えっと。ロイドさん」
「ロイドでいいよ。ジーニアスの友達なら、俺の友達だ」
友達の友達はみな友達。
ダイクがよくいっている言葉。
「は、はい。頑張ろうね。ジーニアス」
「ありがとう」
昨日出会ったばかりの自分達のことをここまで本気で心配してくれる。
それゆえにジーニアスの心は感慨深い。
ミトスが一緒にいく、といった理由の一つにたしかにリフィルのこともあるが、
異界の扉にむかった、というのがきにかかっている、というのもある。
かの地は、かの精霊がいる場所につづく唯一の出入り口、なのだから。
「ジーニアス。お前のレアバードにのせてやれよ」
「うん!」
「ノイシュはしかたない。俺と一緒だな」
「クワウッ!」
「何ならその子はおいていってもいいぞい?」
「いや、つれていくよ。こいつ一人ぽっちにさせたらおそらくさみしがるだろうし」
そうでなければここまで連れ歩いてなどはいはしない。
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あとがきもどき:
薫:ようやく次回でアルタミラ~(一度目)
そのあとようやく異界の扉イベントだv
…あと何話しで精霊集合になるんだ?ううむ……
2013年7月14日(日)某日
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