まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
まえぶりさんには、お気に入りのスキットの一つ。
二つのスキットをひとつにまとめ、一応まとめてみました(まて
そういえば、ふとおもたけど、これあまりスキット内容取り入れてないな…
忘れてました…(おい
とりあえず、某所より基本形のスキットを抜きだしてかきためました。
…PSPとかであれば簡単に確認できるんですけどねぇ…
普通のPSとか起動させるのは……
スキット全集の本とかださないかな…ナムコさん……
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戸惑いと、疑心暗鬼を含んだ視線。
それはつねに里にはいったときから誰もに投げかけられていた。
エルフ達は家にとじこもり、小さな子供は気になるらしく、顔をのぞかせてはいるが、
それでも大人たちがそんな子供をすぐさま家の中へとひっぱりこむ。
せっかく、食材屋などがあるのでたちよってみれば、人やハーフエルフにうるものはない。
とけんもほろろに断られ。
エミル達のこともきにはなるが、居心地がわるいことこのうえない。
ゆえに里をでてゆくと、すぐさまなぜかがっちりと里の入口が、
先ほどよりも武装しているらしきエルフ達にと囲まれてしまう。
二度とはいってくるな、とそれはまるでいっている模様。
「むかつくな。エルフのやつら」
そんな彼らの態度をみて、ロイドにしてはめずらしく不満の声をもらす。
「しょうがないわ。エルフ達にとって私たちは忌むべき存在なのだから」
ここ、テセアラでも、シルヴァランドでも。
自分達のような狭間のものには安住の地はない、というのだろうか。
ならばなぜ、自分達のようなものを産んだ…子供をつくったのだ。
といいたい、切実に。
リフィルの言葉には実感がこもっている。
「でも半分はエルフの血が流れてるのに!」
あるいみで親戚といえる。
なのにそこまで毛嫌いする気もちがロイドにはわからない。
そんなロイドの言葉をきき、
「だからじゃねえのか?なまじ自分に近いやつだからかわいさあまって憎さ百倍。
骨肉の争いなんてものはそんなもんだぜ」
あっけらかん、といいつのるゼロスの姿。
ゼロスはその骨肉の争いをしっている。
かつては、あの母の妹も母を慕っていた、という。
狂ったのはクルシスからの神託で、母が妹との恋人と結婚をきめられたとき。
慕っているからこそゆるせなかった。
愛しい人を奪う姉が。
そして、そんな姉がうんだ子供が。
その想いは憎悪となり、暗殺者をさしむけた。
そして、その母の妹がなくなってからもゼロスの命を狙うものはいまだに多い。
何もしらない異母妹をその地位につけていいように操ろうとしたものたちの手によって。
「なあ、どうしてエルフはハーフエルフをきらってるんだ?」
シルヴァランドならばまだわかる。
わかりたくもないが。
シルヴァランドで人を家畜同然の扱いをしているものたち…ディザイアン。
それらはハーフエルフで構成されている、という。
ゆえにその嫌悪の対象が種族全体までひろがってしまっていっている、ということくらいは。
いくらロイドとて理解できている。
だからといって理解と心がおいつくか、といえば答えは否、なのだが。
「村に災厄をもたらしたから…といわれているわね。
もっとも、私がヘイムダールにいたころから小さな差別はあったけど」
自分が産まれたときはまだそれほどではなかったような気がする。
狂ってきたのはいつだったか。
風の噂で神子がハーフエルフに暗殺しかけられた、そう話しを見張りの王国兵から聞かされたとき。
当時、話しをきくという理由にて、村にもかなりの数の兵士達がおしかけた。
そんなリフィルやロイドにむけ
「人間と同じじゃねえの?」
「人間と、同じ?」
さらり、というゼロスの言葉の意味がロイドにはわからない。
ゆえに首をかしげてといかける。
「自分と違うものは気味がわるいっていう理屈さ。
ましてエルフってのは誇りぱっかり高い生き物だからな。
人だってそうだ。欲におぼれ権力を手にしようとする輩は何をしでかすか。
他人をおしのけてでも排除してでものしあがろうとするもんだろうが」
「……俺達人間もかわらなくちゃいけないけどエルフも…かわらないといけないな」
ゼロスの言葉にロイドはいいかえせない。
言い返したい。
けども、自分もそのうちの一人であったことに間違いはない。
理由はともあれ、あのとき、世界とコレットを天秤にかけ、世界をえらんだ。
そのまえに、幾度も考える機会…世界再生についての疑問をもっていたはず、だというのに。
「そうだね。ヘイムダールではロイド達人間まで白い目でみられているものね。そういうの…よくないよ」
よくない、とはいえジーニアスとてわかっている。
でなければ、ずっと姉とともに放浪などしていない。
やっとみつけた安住の地とおもったあのイセリアでも。
ハーフエルフだ、としられれば村を負いだされていた可能性がはるかに高い。
「…頑固なエルフ達がいつかわかってくれればいいのだけれど」
人もエルフもかわらない。
同じ心を持っている存在同士。
だが、似ているからこそ嫌悪し、排除しようとする。
その心の愚かさ。
その愚かさが争いをまねいている、ということにヒトもエルフも気づいていない。
否、気づこうとしない。
「……ともあれ、この自然をみて心をおちつけるがよかろう。
周囲を心をおちつかせてみてみるがいい。美しい所だ、そうおもわないか?」
くるときもおもった。
水と自然が一体化しており、空気もとてもすがすがしい。
ここにいるだけで、心すべてが浄化されるかのような、そんな錯覚にすらおちいる。
水鏡の森、とはよくいったものだ、とリーガルはおもう。
「…本当ですね」
プレセアもそんなリーガルの言葉に同意する。
「これほど美しいものはそれをみるものの心をうごかす。
それが自然でも心でも。案外、エルフ達が外にでないのは、それを恐れているのかもしれぬな」
ここを通ることにより、自らのいやしさを認識すること、それを恐れているのかもしれない。
言外にそうリーガルはいうが、事実その通り。
だからこそエルフ達は滅多とあの里から外にでない。
出向くとしても水鏡の森のほうでなく、奥にあるトレントの森が主。
この湖…水面は心を映す鏡、とまでいわれている。
自分達の過ちなどを認められない、認めたくないエルフ達は無意識のうちに避けている。
「ふぅん。リーガル。あんた詩人だね。でもたしかに」
そんなリーガルにしいなが周囲をみわたしおもわずつぶやく。
たしかにここにいれば全てをわすれてしまいそうになる。
世の中でおこっている全ての煩わしいことなど、些細なことなのだ、とおもわせる何か、がここにはある。
そんな会話をきき、すこし顔をふせ、
「…私は…私の心は動いたのでしょうか?」
不安そうにプレセアがつぶやく。
「プレセア……」
その口調からまだ不安なのだろう、というのをすぐさまに察知する。
しいなとて知っている。
プレセアが実験体となって、どれほどの年月をえていたのか、ということを。
感情を取り戻せたとしても、完全に感情が元にもどったのではないのかもしれない。
そんな恐怖を抱いていてもおかしくはない。
人は案外、自分のことは客観的にみえないもの。
だから余計に不安になる。
「私は、私は自分の意思で考えているのでしょうか?
さっきの言葉は本当に私が思った言葉なのでしょうか?」
リーガルにつられ、ただいっただけで、そんなこと感じてもいないのかもしれない。
そうおもうと怖い。
「…考える、ということ。それ自体は本人にしかわからぬ。プレセア、お前は……」
リーガルが何かいいかける、が。
「ん~?綺麗っつっても水と木々だろ?たしかに水はすっごく澄み切ってるよな。
うまいんだったらいいけどなぁ。ためしにのんでみっか」
いいつつ、そのままかがみ、手で湖の水をかるくすくい、そのまま一口。
「お。うめえじゃん。プレセアちゃんものんでみろよ」
「はい…あ、おいしいです」
どこにもっていたのだろうか。
コップらしきものに湖の水をくみ、プレセアにとさしだしているゼロスだが。
それを一口、口にとふくみ、おもわずプレセアが目をまるくする。
まろやかでいて、甘みがある、ふしぎな味。
ただの水、のはずなのに、口にすると体力全てが回復するかのような、そんな不思議な水。
「だろ?じゃ、それでいいんじゃね?」
いってかるくウィンク一つ。
「…私のまけだな」
言葉で説明するよりも、自分で理解したほうがいい。
「もう、ゼロス。生水をぷレセアにのませないでよね!」
「いえ。ジーニアス。この森の水は問題ないわ。
簡単な病気程度ならこの水をのめばなおるとまでいわれているのよ。たしか」
「たしかに。ここの水はかなり重宝されている。テセアラ名水の中でも最高ランク。
コップ一杯の水ですらかるく場所によれば数万はとるからな」
「げ!ここの水ってそんななのか?よ~し、俺も!お、うめぇ!
なあなあ、この水もっていかれないかなぁ?」
「水だよ!腐るにきまってるでしょ!もう!」
「うん。とてもおいしい。水筒にここの水いれとこっと」
それぞれがかがみこみ、湖の水をくみだしてゆく彼らたち。
ぽん。
しいながゼロスの肩をかるくたたく。
「何だよ。しいな」
「別に。…あんたらしい、とおもってね」
さりげなく、人々の心をなごませる。
それがゼロスのいいところだ、としいなはおもう。
もうすこしこうまじめにしてれればしいなとてとても助かるのだが。
ロイド達は気づいていない。
いつのまにか先ほどまで感じていた何ともいえない感じが払拭されている、ということに。
光と闇の協奏曲 ~トレントの森、そして……~
ロイド達が族長の家に案内されている同時刻。
風がふわり、と吹き抜ける。
幾度かアステルが出向いたときにきいていたのは、この奥の森は魔物のあるいみ巣窟で、
一歩あるけば魔物に突き当たる、とまでいわれていた地…のはずなのだが。
たしかに虫っぽい魔物や、うまく木に擬態している魔物らしきもの。
それらはリヒターの指摘でアステルが気づくことができるほどの擬態の完璧さ。
行きどまりかとおもわれし場所もそこには魔物がおり、木の魔物がいたがゆえに隠されている道も多々とある。
が、どういうことなのだろうか、と不思議におもう。
森にはいってすぐに取り出した、マナの測定値。
が、その測定値がすでに森にはいったとどうじ用をたさなくなっている。
数値計が完全に振り切れ、あるいみ測定不能という現実を叩きだしている。
エルフの里の中ではここまで測定不能、という自体にいたるまではありえなかった。
このようなことになったのは、異界の扉とよばれし場所を観測にいったときと、
そしてまた、精霊達の神殿、とよばれしいったときに調べたときのみ。
ちらほらとみえている魔物は、アルラウネとよばれし魔物や、グリズリー、そして木と見間違うトレント。
レンジャーやGメイフライとよばれし魔物達。
しかしそれら全ての魔物がまるで道を譲る
…否、導くようにしてそれぞれ横によけているこの光景は何なのだろうか。
しかも、レンジャーと呼ばれし、人型の魔物などは、完全にその場に膝をついている姿すらみてとれるこの光景は。
『役割にもどれ。出迎える必要はない』
エミルの口から魔物達にのみ伝わる言葉が発せられる。
それはまるで周囲の空気を震わすかのごとくに、ざぁっとした風となりて森の中を吹き抜ける。
「ところで。どうしてアステルさんはここにきたい、といったんですか?」
エミルからしてみればそれがきにかかる。
まあ、精霊を調べている、といっているからおそらくは、オリジンの石板目当て、であろうが。
しかし、かの地において今現在、オリジンはこの大地…地表に具現化できない状態にある。
精霊体が完全に封じられている、というのではなく、地表にでるための道がふさがれている、その状態。
あくまでもかの石板は媒体であり、それにより器を本来の精霊体から物質化させているのに過ぎない。
その石板自体がクラトスの命…すなわちマナにより封じられている以上、オリジンがかの石板に姿を現すことはない。
「以前、あるエルフからきいたことがあるんだ。この森の奥には精霊オリジンが眠りし石板があるって。
古い文献によれば、精霊オリジンは全ての精霊の王。やはり精霊を研究しているものとしてはあいたいし。
四大精霊の主というマクスウェルはいまだに行方不明のままみたいだし。
古代の残された文献などをひも解いてもあるときから姿をみなくなった、というのが定説らしいしね」
それはエグザイアにマクスウェルが常に駐在しているからなのだが。
しかしそれをわざわざ説明するつもりはエミルにはない。
というより、説明する義務もない。
「しかし…ここは、マナが濃いな…」
たしかに気持ちはいいであろう。
が、しかし、強すぎるマナは普通の人にとっては時として危険ともいえる。
リヒターがおもわず眉をひそめる。
この森にはいったとたん、がしがしと何かが削られていっている感覚が嫌でもわかる。
「エミルはこの森にいったい何の用事があって?」
「この森の最深部にちょっと。とりあえず、あまりうろうろしてたら移動もできなくなりますよ」
それはあるいみ忠告。
精神力がつきるその直前、この森はそこにいるヒトを入口にと戻す。
そのような理がひかれており、また空間を繋げし霧が常に発生しているこの森の現状。
その日、その日により霧の発生している場所はことなれど、
大概は、奥につづく道には常にいつも霧が発生している。
今現在、その霧がないのは、ラタトスクがそのようにしているから、にほかならない。
エミルだけならば関係ないのだが、一応無関係ともいえる人が二人。
あの霧に触れて自分と同じ姿で好奇心旺盛となり、
逆に霧を回収して調べる、とかいわれたら面倒なことこの上ない。
それゆえに今現在は、奥にと続く…石板への正確な道の霧を払っている今現在。
「奥に続く道は、あの子達が導いてくれますから」
そういいエミルが指差すは、いくつも飛び交う蝶と、そして木々のふもとにいるプッシュベビー達。
ときおり、ウサギなどといった動物の姿もみてとれるが。
リヒターにしろアステルにしろよくこんなマナの濃い場所で生息できているものだ、とおもってしまう。
マナの測定値をはかる装置はいまだに測定不能となっており、この地が尋常ならざるマナにあふれていることを示している。
何となしに進んでいたが、すすむにつれ、ちょっとした空間らしきものがあり、
それぞれに道らしきものがいくつも別れているこの森。
エルフの里より森にとはいって、そんな空間を二つばかりこえた所にて気になっていることをといかけているエミルの姿。
たしかに、いわれてみれば、とおもう。
上に、上にと進んでいたが、そこにはかならず何かしらの動物、もしくは蝶が数体いた。
「あと、もし精神力…すなわち、マナを回復できるグミがあるなら常に形体しといたほうがいいですよ。
普通のヒトからすればこの強いマナにあてられて、逆にマナが吸い取られかねませんし」
マナはより強いものに惹かれてゆく傾向がある。
それは世界に還ろうとするマナの特性。
「オレンジグミとか、レモングミとか。もってますよね?
まあ、最悪、この森になってる果実で果物ジュースを作成すればある程度は賄えますけど」
にこやかにいうエミルの台詞に、
「ずいぶん詳しいのだな。お前はシルヴァランドの産まれではないのか?」
「こういう場所は慣れてますからね」
そもそも精霊達との会合にこの地をオリジンはよく使用していた。
たまには顔をおみせください!と懇願され出向いたこともしばしば。
地表の大樹が枯れてそのようなことは久しいが。
そんな会話をしつつも、また分岐点らしき開けた空間にとさしかかるが、
エミルは迷いなくそのまま上にとつづく道をあるいてゆく。
木々にかこまれた細い道。
その道をぬけてゆくと、また広い空間へ。
その次には、右、とまるで始めからしっているかのように、迷うことなくすすんでゆく。
普通ならば、まちがった道にはいったとたん、同じ場所にもどるようにこの場所の空間は歪んでいる。
そのように理がひかれている。
正確なる道をたどらねば、絶対に目的地にはたどりつけぬように。
「慣れてるって。たしかシルヴァランドではマナが涸渇してるって話しだったけど……」
「ヒトが知らない、気づいていない場所なんていくつもあるんですよ」
事実、シルヴァランドのものたちは、海にあるいくつかの小島のことを把握していない。
リヒターとアステルの問いかけにもエミルはにこやかに答えを返す。
といっても完全に答えになっていない答えだが。
歩くにつれて襲いかかってくる嫌悪感。
体内のマナが…アステル達いわく、精神力、とよんでいるそれが削られていっているような、そんな感覚。
精神力とよばれし力が涸渇しても死ぬことは滅多とないが、確実に気絶はする。
それは今まで人体実験にて行われた研究結果においても、研究院側のほうから報告があがっている。
アステル達のいる部署とは違う場所の分野にておこなわれている研究。
それは、ヒトが魔術をつかえるか、否か、という研究もおこなわれている。
無理やりにハーフエルフ達のマナを完全に吸い上げたのち、普通の人にそのマナを注ぎ込む。
今まで成功した例はきかないが。
大概、異なるマナを注入された人はそのまま異変をもたらし、死にといたっている。
その死はあるいみ文字通りの消滅。
体全てが一瞬のうちにマナにと還り、そのまま大気へと溶け消えた。
中には死なぬものもいたらしいが、大概は異形のものと成り果て、最後には死亡している。
アステル達はそんな実験の結果を知っている。
そして、その実験につかわれているものたちが、大概は身分の低いものたち…まずしいものや、
もしくは捉われたハーフエルフ達であることも。
ここ、最近はエクスフィアにマナを注ぎ込む研究が主流となっているらしいが。
エミルからしてみればどっちもどっちでどちらも許容できるものではない。
そんな会話をかわしつつ、アステル達の質問をエミルは答えになっていない返答でかわしてゆく。
その最中、さすがに息が苦しくなってきたらしく、質問の数がだんだんと減ってきているのがみてとれるが。
それでもひたすらにすすんでゆくことしばし。
エルフの里より森にとはいり、上、上、上、右、上、右上、右、右、下、下、左下。
鬱蒼としげる細いけもの道。
その道をすすみつつ、開けた場所にあるいくつもの分岐点。
それらの分岐点たる道を進む方向は、たしかによくよくみれば、そこにいくつか小さな動物や魔物がいる。
ときづくであろうが、ときおりその道には数体ものトレントたちが陣取っており、
その道すら閉ざしていたりもする。
が、エミルが傍にいくと、トレント達はまるで素直に道をあける。
まるでそれが当然、であるかのように。
どれだけ歩いたであろう。
すでにアステル達が消費しているグミの数は十は軽くこえた。
奥にすすむにつれ、嫌悪感がはげしくなり、それにともない、マナが濃くなっているのが手にとるようにわかる。
というのも、進むにつれ、マナ自体が目視で確認できるほどに、常に大気中にマナが漂っている。
淡き金の光りをはなちつつも、ここちよい香りをはなつ、緑色の光り。
それがマナの光りだ、といわれて久しい。
こうして目視できることなど滅多とないが。
研究院においてはとある場所ではよくみられている光景。
実験体達がマナにと還りゆくときによくみられている光。
やがて、エミルが右上の道を選び、すすんでゆくと、やがてぽっかりと開けた空間へと躍り出る。
ぽっかりと開けた空間の中心に、黒き石板が一つ。
「こ、これは!?まちがいない!文献の中にあった、遺跡にあったオリジンの石板!」
息をするのもあるいみつらい、というのに、どうやら研究魂に火がついたらしい。
その石板におもわずかけより、そこに刻まれている文字を必至によみはじめる。
懐より手帳らしきものをとりだし、解読していっているようであるが。
「僕、この奥に用事なんですけど…アステルさんは…きいてないですね」
どうやら、完全に石碑に夢中で聞いてないらしい。
それゆえに、そのまま石板にと手をかざす。
刹那、紅と緑の入り混じった光が石板をてらし、それまで鬱蒼と茂っていたはずの、
先ほど自分達がはいってきた入口、とは別の道がいきなりぽっかりと出現する。
それはまるで始めから何もなかったかのように。
まるで、草木が意思をもち、ざざっという音とともに左右にわかれ、道を創りだす。
「そっちにも隠された道が!?」
アステルがそっちにむかおうとするが。
「マテ!アステル!そっちは!」
そちらの道から離れていても感じるより濃いマナ。
何の対策も対処もしていなければ、逆にマナに酔い狂ってしまうほどの濃さがたしかにそこには感じられる。
それゆえにあわててアステルをとめているリヒター。
「あ。力つきても森の出口に戻されるだけですから、安心してくださいね。じゃ、僕はいきますので」
そんな二人とは対照的に何でもないようにその道にとすすんでゆくエミル。
エミルがその道にふみいるとどうじ、
まるでその退路をふさぐかのように…否、後者を入らせないように、というべきか。
道が現れたときと同様に、ざざっというおとをたてて、木々がまたたくまに移動し道を覆い尽くす。
「ああ。エミル君がいっちゃった。もう、リヒターがとめるから!」
「いや、止めないとお前が…しかし、あのエミルという少年は……」
あの濃いマナの中を平然としていた。
そもそも自分達はかなりつらかったというのにあのエミルという少年はまったくもってけろりとしていた。
そしてエミルの傍にいる二体の魔物達も。
たしか、昨夜リフィルというハーフエルフの同胞たる女性がいっていた。
あのエミルという少年は世界樹の小枝、とよんでいるものをもっている。と。
ならば簡易的にも世界樹の加護が加わっているがゆえに問題ないのかもしれない、ないが。
その現物をリヒターはみたわけではないので何ともいえない。
それはアステルにしても同意見であったらしく、現物をみないと判断がつかない、とのこと。
だからといって、みせて、といってみせてもらえるようなものでもないとおもう。
そもそも、エミルという少年がその枝をつかったのは
彼らの旅の中でも数えるほどしかない、というのだから……
この地は、大樹の根の解放点の一つ。
センチュリオン達の祭壇としてある場所とほぼ同じ場所。
精霊の王、全ての精霊を束ねるものとして生み出せし彼の拠点とすべく、
あえてそのように理をひいている。
この地はどちらかといえば、精神世界よりにちかい、といってもよいであろう。
普通の生物はまちがいなく、ここにしばらくいれば全ての精神力を周囲のマナにともっていかれる。
それでも無理にとどまろうとすれば、死亡するよりも前に森の入口に強制的にと転移させられる。
もっとも、気絶したものたちを、森の魔物達がそのまま森の出入口にと運んでいるだけなのだが。
「ふたりとも、擬態をといてもいいよ」
エミルの言葉をうけ、横にいたテネブラエとルーメンの姿がゆらり、とゆらめく。
次の瞬間、テネブラエはいつものような犬のような猫のような、
タキシードを着こんだようなそんな形へ。
ルーメンは光がそのまま形になったかのような鳥の形体へ。
ちなみに、ルーメンがまといしは、たしかに鳥のようなのではあるが、
ヒトがいうところのドレスのようなものに近いような形状をまとっているようにみえ、
ひらひらとした光りの布らしきものをまとっているようにみえなくもない。
やはり他のセンチュリオン達と同じく、特殊な模様がその体に刻まれてはいるにしろ。
主の命をうけ、本来いつもよくとっている、彼らにとっての基本形体へ。
「ラタトスク様はそのお姿をかえられないのですか?」
「ふむ…まあ、ここならば関係ないか」
ゆえにすっと目をとじる。
刹那、ゆらり、とエミルの体がゆらめき、次の瞬間、エミルの姿はかききえる。
背後がみえそうでみえない、エミルの変わりにそこにたたずむひとつの人影。
精霊体のラタトスクがとる形状は様々ある。
たとえば、栗鼠のようなものであったり、ハムスターのようなものであったり、蝶のようなものであったり。
その姿は統一されていない。
足元にもとどくかのごとくの長い銀色のようで金色にちかい髪。
光の反射をうけてきらきらと虹色にかがやく。
瞳の全体の色は金色で、その中心に紅き蝶の紋様。
顔立ちは、人がいうところの女、でも男でもなく、かといって、ぱっとみため、
誰もが身惚れてしまうほどにとととのっている。
服装は先ほどまでのものとは異なり、これまた何でできているのか、
否、精霊体なので材質などは関係ないであろう。
全ては彼の力にて具現化されているにほかならない。
これまた白いようでいて、光りの具合によっては色のかわる摩訶不思議なる布。
それらを体にとまきつけている。
ラタトスクが精霊形体において、人の姿をとるときによくもちいる姿。
精霊体となりし彼にとって、周囲にある木々などはあるいみ関係ないといえる。
人の姿を模しているときには、さすがに何かを素通り…文字通りの素通り。
つまり、つきぬけて進むことなどはできはしないが。
もっとも、ラタトスクがすすむたびに、周囲の木々が道をあけてゆくので、
そんな心配などする必要もないのだが。
みずほの里につたわりし、麒麟という伝承は、ラタトスクがかつて、
とある姿をとったときにその様子をまのあたりにしたヒトがつくりだせし伝承にすぎない。
まあ、そのあと、いろいろとかってにねつ造設定が組み込まれているにはいるが。
そのまま、手を口元にもっていき、息をふっとふきかせる。
刹那、きらきらとした光りが周囲にとまい、
その光りは森全体をつつみこむ。
おそらく空からみれば、森全体があわく光っているのが確認できるであろう。
どうやらオリジンが常にこの場に具現化できなくなっていたことにより、
ちょっとしたこの森そのものの理が多少乱れていたがゆえに、一瞬のうちに正しただけ、なのだが。
森そのものが、ラタトスクの祝福をうけ、歓喜にと震えだす。
その歓喜の波動は周囲にとひろがっていき、大気そのものすらもが喜びにと震えだす。
やがて目的の場所。
すなわち、大樹の根が地表にせり出している場所にまでたどりつく。
このあたりは完全に根のみの場所となっており、ぽっかりとした空間がひらけてはいるが、
空からは絶対にこの様子はみられることはない。
空からみたばあい、ここにも普通に木々があるように、と誰の目にもみえるようになっている。
地下深くからわき出る水と、せりだしている根。
その根からは小さな枝といくつかの葉が茂っているのがみてとれる。
これこそが、この森すべてのマナをになっているのも。
この森はわざわざセンチュリオン達がマナをはこばずとも、
ここより発生したマナを魔物達が循環することにより、常に理が正されている。
今現在、ゆいいつ、かつての大樹の気配にちかしい場所。
世界樹の間、とよばれし場所…この世界にとっての生命の場にもっとも近しい場所。
それに最も近しい場所であるがゆえに普通の存在はここにはたどりつけない。
マナを循環させる役目をもちしもの、でなければなおさらに。
すっと手をふると、きん、という音とともに、周囲の空気が完全にと結界にと閉ざされる。
しばし目をとじ、ただひとこと。
「具現せよ。我がうみだせし、全ての精霊達よ」
刹那。
いくつもの光が周囲にあふれだす。
それは、赤、緑、青、紺、茶、紫、白、黒。
そして別に淡く白く輝く光に金色、銀色の光り。
計、十一個のも光の球がその場にと出現する。
光はやがて形をとり、炎をまといし男性、翼をもちし小さな三姉妹。
青き色をたたえしおだやかな表情をした女性、
氷をまといし髪の短い動きやすい格好をしている女性。
どうみても巨大なモグラ、にしかみえない生き物。
常に電気を周囲に放っているかのごとくの球体。
白い光をたたえし、光りをまといし鳥。
闇そのものが突起したかのような、ゆらゆらとした何か。
三日月のようなものにすわっている女性に、この場では唯一の老人にしかみなえい男性。
そして、体格たくましい、まだわかき青年。
計、十一もの姿がその場に光りがぶれたかとおもうと、
その光りはまたたくまにそれぞれの姿をなし、その場にと出現する。
目の前にあらわれし、彼らこそが、ラタトスクがこの世界においてうみだせい精霊達。
全ての属性などを統べるためにうみだせし精霊。
この場は普通の地表とはことなる。
ゆえに本来ならば地上に具現化できないように楔でしばられていようが、
この地はあるいみ精霊界、といってもいいような場所にちかしいもの。
もっとも、そのような界はいまだにラタトスクは産みだしてはいないが。
正確にいうならば、ここは精神世界面に近い、といって過言でない。
『お久しぶりでございます。ラタトスク様』
精霊達全員が集うなど滅多とないこと。
全員がそろうなど幾星霜ぶりといってもいいであろう。
そんな中。
「久しぶりにみる顔もおるがのぉ。オリジン。お主何人に具現化を制御されておるんじゃ?」
ほっほっほっ、とわらいながらも、横にいる青年にとといかけている老人。
「油断したといってもいいがな。よもや石板にあのような自らのマナにて封印をかけるなど。
このような空間ならば我もまた姿を現すこともできるが……」
オリジン、とよばれし青年がおもわず顔をしかめる。
「負に捕われしミトスが何をしでかすのかは、さすがの我とて予測不可能であったからな。
よもや姉を失ったことにより道を踏み外すとはおもわなかったのだが……」
まっすぐであったがゆえに道にまよってしまったあのヒトの子。
それでもそれを正すべきものたちまでそれに賛同してしまったのだからタチがわるい。
ため息のようなものをつき、淡々とそういうそんな彼…ラタトスクの言葉に。
「ラタトスク様のせいじゃないとおもいますけどね」
頭のりぼんらしき赤いもの…正確にいえば掘削機をもしたもの…をまわしつつ、
巨大なもぐらもどき…ノームがそんなことをいってくる。
「まあいい。お前たちをこうして呼寄せたのには理由がある。
今現在、かつてミトスに預けた種子のことだ。あれには百いくつかの単位の人の魂が入り込んでいる。
ゆえに種本来の役割からはずれ、歪みが目にみえて著しい。
我との繋がりもそのせいで遮断されかけているようだしな」
異物がはいりこんでいるがゆえに、その縁が邪魔されている。
「我一人できめてもいいのだが、永きにわたり、今の世界のありようをみていたお前たちにといたい。
かつて、きめたように全ての地上を一度浄化するか。
それとも、あの種子を完全に浄化し、大樹の種子となすか。
それとも……」
最後に提案された内容は、精霊達にとっては目をおもわず見開いてしまうもの。
たしかに、人は過ちを繰り返す、であろう。
「四千年にわたりし人の念でできし偽りの愚像はすでに形をなしかけているからな。
それをする場合、あらたに界をつくり、お前たちをそちらのほうにと移動させる。
ならばこのように人にお前たちが利用されることはまずおこりえない。
自らの意思でこちらの界にはこれるようにはするがな」
それは提案、というよりは問いかけ。
「珍しいですな。あなた様が自らの判断でそうしない、というのは」
「さすがに眠っていた時間が地表においてはどうやら長かったようだからな。
大地や世界をつうじ、何があったのかは把握したが、直接みていたお前たちの意見も取り入れよう。
そうおもったまでのこと。さて、お前たちの意見は?」
いつのまにか、ラタトスクの背後には、八体の異形のものがひかえているのがみてとれる。
『我らセンチュリオンはすべて主の御心のままに』
八体の僕たちは一斉にそんなことをいってくるが。
「その場合、この場の異次元空間をもうすこしゆがめ、ここを全ての界への入口となす。
本来あるべき大樹もここによみがえらせる。ここならば問題もないだろうしな」
もともと、第三者の立ち入りが制限されていた場所である。
根でしかなかった場所に大樹を再生しても何の問題もない。
「すでに四千年、という時間において種子の中にいたヒトでしかなかったマーテルの魂。
その魂自体も変質をみせている。人でなく、精霊でもないもの、としてな。
あるいみ人工精霊にちかしいものへと変質している。
中にとらわれし他の魂とちがい、一番マーテルの自我がしっかりしているがゆえ、
おそらく、人工精霊、となったときには全ての魂との融合精霊となりえるだろうが」
今あるあの種子を発芽させたとき、その反動で確実に人工精霊へと転換する。
そのとき、マーテルであったあのものが何をするのか。
彼女はむかしから、その場ののり、というかあまり深くかんがえていないふしがあった。
可能性として、勝手に大樹を護ろうとし…かつてのように、力なき言葉のみで
種子を奪おうとした人をとめようとしたときのように。
「あの種子を発芽させた場合。その力をかりたヒトに勝手に新たな名をつけさせる可能性が高い」
『……たしかに』
この場にいる精霊達は、マーテルの性格をしっている。
そのマーテルの性格に他者の人格がまじれば…さらに思慮深くなくなることは容易に予測がつく。
名をつけること、それはすなわち、理をかえる、ということ。
あるいみ精霊との契約にちかしい、人による盟約、という楔。
それによって、完全に大樹カーラーンでしかなかった種子は別なものにとかきかえられる。
それがもたらす結果など、絶対に彼らは想像もしない。
否、おもいつきもしない、と断言できる。
そして、それをおこなわすとすれば、あのロイド達であろうことも容易に予測が可能。
「ならば、ヒトにはその新たに芽吹いた樹が大樹だ、と錯覚させておくのも一つの手だとおもってな」
ならば、本体である自らが司りし、世界そのものといっても過言でない世界樹に人の目はむかない。
そんなものがある、などと夢にもおもわないのだから。
「お前たちをこの場に一斉に呼んだのはそれらの意見をもききたかったからだ。
とはいえすぐに答えがでるものでもなかろう。
それぞれ考えた結果を護衛の魔物にでもつたえればそれでいい。
あのものたちからセンチュリオン達にと連絡がはいり、我のもとにもとどくからな」
それは、新しい世界の理をきめるための問いかけ。
彼ら、精霊はこの世界をどうみているのか、また彼らはどうしたいのか、という。
ラタトスクが勝手にそれを行うことはたやすい。
が、新たな界をつくったりする、ということは彼らをもまきこむことでもある。
だからこそのといかけ。
このままでいくのか、あるいは、地表から…人の目からのがれ、新たな界にてすごすか。
決めるのは、彼ら次第。
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あとがきもどき:
薫:ひさしぶり?にラタトスク様が精霊の主のような風貌ぶりをみせてます(こらまて
このお話しもいろいろとバターンあり。
まあ、他の話しさんでは、そのまま実りを大樹にしたりしてるのもあるから。
やっぱり、愚かだ、とわかりまくっている以上、目くらましのようなものをつくっても、
あるいみ問題ないかなぁ…とかおもったり。
さて、どのバターンを正道の話し、として編集するかな…うむむ……
2013年7月8日(月)某日
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