まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

温泉イベントのスケベ大魔王の称号は、ロイドはこの話しでは回避させてみましたv
これでエミルにそれを人にいわせたらセンチュリオン達が黙っていない…絶対にw

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「…ゼロス。お前何やってんだ?」
なぜかついたてに耳をおしつけているゼロスの姿。
そんなゼロスにあきれていっているロイドだが。
エミルはエミルでテネブラエが定期報告にやってきていたがゆえに、
外にとでていただけのこと。
「エミル様。このようなものほうっておいたほうがよろしいのでは?」
「だな」
「いや、まてまて。何でそのテネブとかいうやつがいつのまにいるんだ!?」
トリエット砂漠の施設にて、テネブラエとはあったことがある。
それゆえのロイドの突っ込み。
気づけばいつのまにか当たり前のようにそこにいるかつてみたことのあるテネブラエ、となのりしもの。
「定期報告にきただけだよ?テネブラエは。ね?」
「はい」
「いや、定期報告って……」
「し~。つうか話しがきけないじゃないかよ」
ゼロスがいいつつ、さらに壁にと耳をおしあてる。
そんな壁というか柵の向こうよりきこえてくる声。

「しいな…すごい」
「な、何がだい?」
「たしかにね」
「リフィルまで!?」
「どうしたらそんなふうになれるんですか?」
「わたしもききたい。私ぺったんこのままなんだもん」

「ふむふむ。やっぱり俺様の見立て通り、しいなは相変わらずボインちゃんで、
  コレットちゃんはぺったんこなんだな」
ゼロスが何やらそれをきき、そんなことをいっているが。
「…ヒトってへんなところきにするよね?別に授乳するのに不都合があるわけじゃないのに」
なぜにそんなことをゼロスがいうのか理解不能、とばかりにエミルは首をかしげる。
「ですね」
テネブラエからしてみても主の意見には同感せざるをえない。
大きさなどきちんと機能さえすればいいとおもうのはエミルだからゆえといえるであろう。
そしてまた、センチュリオン達にとってはそれらのことはどうでもいいこと。
彼らにとっての優先順位はあくまでもエミル…ラタトスクが最優先で、
そのつぎが、主が護りし大地、なのだから。
「「授乳って……」」
さらっというエミルのことばに、おもわずゼロスとロイドの声がかさなる。
「?それ以外に何があるのさ?」
それは本音。
子供を育てるにあたり、哺乳類として生み出せし存在達がもっている機能。
「わかってない。わかってないぞ!エミル君!いいか!」
そんなエミルの肩を、がしり、とつかみ。
何やら力説しようとしかけるゼロス。
が。
「ちょっと!そこのあんた!エミル様に何をいおうとしてるのよ!」
ざばぁぁん!
「うわぁぁ!?」
「「・・・・あ」」
おもいっきりのスプラッシュ。
現れた直後、どうでもいいがなぜにスプラッシュをかましているのであろうか。
そのまま水に押しつぶされて悲鳴をあげているゼロスの姿がそこにあるが。
水に押しつぶされたゼロスをみておもわずロイドとエミルの声がかさなる。
「アクア、どうかしたのか?」
まあしかし、エミルからしてみれば、アクアがいきなりいろいろとするのは、
もはやあるいみ慣れたもの。
それゆえに何もなかったかのように、現れたアクアにとといかける。
「エミル様。やっぱりこんなヒトなんかと一緒にいては精神にさわります!」
きっぱりはっきり。
いいきっているのは、なぜかやってきているアクアの姿。
「それは私としても同感ですね。やはり御戻りになっていだだけましたら私たちとしても安心ですし」
「それか、私といっしょに、きゃっ!」
なぜかこういうときだけ意見が一致しているテネブラエとアクアのこの二柱。
いつもは言い合いばかりをしている、というのに。
言い合いするほど仲がよい、とはよくいったものだ、とつくづくおもう。
「ウンディーネ!ついたての向こうにいるやつをつかまえとくれ!」
ゼロスの叫びとともに、しいなが何やらいっているのがきこえてくるが。
と。
「…ああ、それは私としても同感です。アクア様。テネブラエ様」
ふわふわと、うかびし水の精霊までもがそんなことをいってくる。
「お前までそういうか。ウンディーネ……」
おもわず口調が素にもどってしまうのは仕方ないであろう。
しいなに呼ばれでてきてみれば、そこにいるのはテネブラエとアクアという二柱のセンチュリオン。
どうやら風呂場を覗こうとしていたのはゼロスというヒトであるらしく、
すでにアクアが何かやっているっぽい。
エミルの…ラタトスクの腕をぎゅっとつかんで離さない様子から、
おそらくヒトがいらないことを吹き込もうとしたのだろう。
そうすぐさまに納得するウンディーネ。
「私たちとしましては、あなた様の安全が第一、ですので」
「そうですよ。エミル様」
「え?え?えっと…エミルって精霊とも知り合いなわけなのか?」
今までそんなそぶりはあまりみえてなかったような気もするが。
ロイドが目をばちくりさせつつもそんなことをいってくる。
「この子達と精霊達は付き合いながいからね」
嘘ではない。
彼らの直属たる上司の立場にあるセンチュリオン達。
ゆえにエミルの言葉に嘘はない。
それよりもきになるのは、今、たしかにウンディーネはエミルのことを『あなた様』とそういった。
様づけしているのがかなりきにかかる。
しかし、すぐさま。
「覗こうとしてたのはだれだいっ!」
そんな声が脱衣所のほうからきこえてくる。
「それより。アクア、お前も何か報告か?いつもの報告でいいものを。わざわざくる、とは」
「はい!…あ」
そこまでいいかけて、そこに第三者の姿があるのにきづき、すぐさま原語をきりかえる。
『石のありかがわかりました。どうやらネオ・デリス・カーラーンにおかれているもようです』
その言葉に思わずため息をつく。
ユミルの森に安置してあったはずの、力がみちるまでは動かさないように、といっていたはずの石。
「…力が失われている可能性があるな。…もってこれそうか?」
「はい!それは平気です。ではそのように命令をだしますね」
「手にいれたら我がもとに。確認しないといけないこともあるからな」
「はい!」
「ふむ。テネブラエ。お前も一緒にいけ。常に虚空から行動すれば気づかれることもないだろう」
アクアも水蒸気と同化することはできるが、やはり闇のほうが能率的にはよい。
常に影から行動がおこせるのだから。
光があればそこに絶対に影はうまれる。
そしてその影という闇をテネブラエは属性上利用することが可能。
『いけ』
『は』
エミルの言葉をうけ、またたくまにその場から二柱のセンチュリオンの姿がかききえる。
「えっと…今のは?いったい?」
「きにしなてもいいよ。ロイド。それより、ウンディーネ。あときまかせたからね」
「はい。おまかせを」
「いこ、ロイド」
「あ、ああ」
何か漠然としないが、そこに倒れているゼロスもきになる。
が、ここにいても下手に自分達も覗こうとしていた、とおもわれても意味がない。
やけにエミルにたいし、礼をとっているウンディーネにたいし疑問におもうものの、
ロイドもエミルにつられ、その場をあとにすることに。
やがて。
「やっぱりあんたかい、このあほみこぉぉ!!」
背後のほうからそんなしいなの声がきこえてくるが。
「…それぞれタオルをまいたままで正解だったわね。できれば水着とかあればよかったんだけど」
リフィルの盛大なるため息。
常に近くに大きめのタオルをおいていたがゆえにすぐさまに対応ができた。
気配を感じ、タオルをひっつかみ、ついたての向こう側にでてみれば、
そこになぜか倒れているゼロスの姿。
周囲が水にぬれていることから、召喚したウンディーネが何かしたのだろう、という予測をたてるしいな達。
まあ、間違いではないが完全なる真実ではない。
ゼロスがいたとき、そこにはロイドもいて、さらにはエミルも近くにいた、のだから。

光と闇の協奏曲 ~古代研究と水鏡ユミルの森~


「でも、こうした温泉施設がマーテル教会付属である、というのがすごいよね」
シルヴァランドではこのような場所はない。
救いの小屋にこういうのがあればまたかなり違うだろうに、とはおもう。
結局のところ、地の神殿をあとにし、外にでるとすでに日もくれかけており。
ならば、という理由にて近くの導き温泉に今日は一泊、ということで話しもまとまり、
ここに移動してきたのはつい先刻。
アステル達もレアバードをもっており、アステル曰く、借りた、とのこと。
リヒター曰く、アステルが脅し取った、といっていたが。
それをきき、しいながひきつり笑いをしたのはいうまでもない。
「リフィル様ぁ。ここは美肌効果もありますよ?よかったらどうですか?」
「そうなの?しいな?」
「まあね。…ゼロス、あんたまたのぞくきかい?」
「また、ということは前科があるのね?」
そういい、互いに顔をみあわせため息ひとつ。
「?」
コレットのみは意味がわかっていないらしく首をかしげているが。
「今日はここで休むんですか?」
エミルのそんな問いかけに、
「一応ね」
「ちょうど午後に工事もおわったらしいしな~」
ゼロスが聞いたところによれば、本日の夕刻、工事が全て完了したらしい。
ゆえに、いわく、一行が初めての客、とのこと。
神官曰く、神子様がとまってくだされば、マーテル教の付属温泉として拍がつき、
また一番湯につかったのが神子さま、というのでうりだせる。
何とも現実的なことをいってきたが。
「温泉……」
まだ父が生きていたころに温泉にきたことがある。
妹とともに。
この地へ。
ゆえにプレセアはおもわず当時を思い出す。
あのときは幸せだった、とおもう。
父がいて、妹がいて。
だが、プレセアにとって失われた十四年、という歳月は戻ってこない。
十四年といってもピンとこないが、近くに年月を把握できるヒトがいる。
ジーニアスの年齢は十二歳。
すくなくとも、彼が産まれたその時期より前に、プレセアにとっての時が止まってしまった、のだから……


温泉にもつかり、食事もすみ、あとは自由時間。
リフィルがアステルに気になっていたことをここぞとばかりにといかけたのは、
彼らがくつろぐ広間にて。
広間にはちょっとした長机がおかれており、簡単な談話ができるようにとなっている。
本日はまだ工事中だ、とおもっていたからか他に客はなく、
あるいみ彼らの貸し切り状態。

どさり。
いきなり目の前におかれる大量の書類。
「まさかいつももちあるいてるのかい?」
「当然!」
きっぱりいいきらないでほしい。
アステルのもっているウィングパックの一つにはいっていたのは、
大量、ともいえる書類っぽい資料の数々。
おもわずといかけたしいなにきっぱりとこたえるアステル。
「この資料にはかつての大樹カーラーンのことものってるよ」
「たしか。大樹カーラーンはマナを大量消費した戦争のために枯れた…だたっけ?」
さすがのジーニアスも目の前の書類の山をみてひくつくしかない。
たしかに問いかけたのは姉だが、自分達まで巻き込まないでほしい。
切実に。
それが素直な感想。
レネゲード、というものと王宮がつきあいはじめ、そしてアステルの研究にも注目された。
結果として王立図書館の禁止書物の閲覧許可もあたえられ、
ひたすらに調べまくっていた。
すでにひとかかえ以上にもなる研究結果のファイルができあがっていたりする。
それらのほとんどのファイルをアステルは持ち歩いていたりする。
曰く、いつ調べにいった先で必要になるかわからないから、という理屈にて。
「古代の書物にいろいろとかかれてたりしたことがまとめてあるんだ。
  いくら人の記憶からその存在の事実をけそうとも、完全に書物全てを処分はしきれてなかったみたいだね」
いいつつも、リフィルが興味がある、といっていた内容の資料をいくつか抜粋し、
「リフィルさんがいっていた内容はこれらになりますね。
  とりあえず、魔物と気象の関係をまとめて資料と。マナの測定値における推移。
  エルフの里からきいたところによると、大いなる実りは勇者ミトスがうばったまま、というけど。
  精霊が目覚めればきっと大樹も復活する、と僕としてはおもうんですよね」
そういえば、とおもう。
「以前、ユアンがいってた。かつてこの世界は大樹カーラーンが産みだす芳醇なマナに護られた世界だった、と」
「それを愚かにも人が枯らしてしまって今の現状だけどね。
  でもユアンって人とも接触とってみたいな。こんどボーダさんの関係者がきたらいってみよう。
  何かいろいろと話しがきけるかもしれない」
いくらアステルの研究が注目されていても、アステル自信、レネゲード達と完全に接触があるわけではない。
どちらかといえば、彼らがアステルの研究をあとおしし、それにともない保障というか、
技術面で優遇してくれる、というので王国からしても研究を教会側からしてみれば異端、とおもわれし内容でも、
継続させている、というだけの理由。
ただそれだけ。
「興味深いわ。眠っている精霊…その精霊の名が、ラタトスク、なのね?」
「ええ。えっと…あ、これですね。資料は」
いいつつも、一冊の分厚い資料のファイルを取り出し、
「古書によると、ラタトスクはキンヌンガ・カップっていうところで眠っているらしいです。ちなみに場所は不明。
  精霊ラタトスクはこれらによると、精霊であり、また魔物の王でもあるみたいです。
  あるいみ盲点ですよね。魔物を支配する精霊がいるなんて。
  魔物をつかってマナを安定させているみたいです。
  ラタトスクはセンチュリオンという八体の水や火や風など。
  それぞれの八属性を司る部下をもち、彼らが世界にマナを運んでいたらしいですけど。
  念のために許可をえてエルフの里の語り部のところにもいってみましたよ?
  そうしたら、大樹の周囲にそれぞれの属性を司るという文様がかかれている壁画がありまして。
  語り部いわく、大樹の精霊を護りしものたちの文様だ、といっていましたけどね。
  また、以前ノームのところにいったときに、土のセンチユリオン、となのるものとも相まみえましたし」
そこまでいってあらたな資料を手にとりその場にひろげつつ、
「以前に研究していたことが証明されたといってもいいんですけど。
  あと、この資料は月の満ち欠けにたいする現象かですね」
月の満ち欠けを含めた自然現象が世界のすべ手の生き物に影響を与えている。
そう前提した場合、そこにマナの干渉がはいれと、例え精霊の強い影響下でもブレが必ずでる。
火や水を司る精霊の微妙な力が熱帯や寒冷地に働いているように、それだけでは絶対に証明できないものがある。
それがマナの循環。
テセアラのもともとの成り立ちを考えれば衰退世界という場所にもっていかれているのかともおもったけども、
だけどもレネゲードがいうにはあちらにはそんな技術はないはず。
しかもあちらの精霊解放になるまえにすでに数値にブレは生じていた。
しかもあちら側の精霊が解放された、とこちらに連絡がはいると同時、
こちらでも数値の変動を調べたけっか、いつのまにか数値は安定していた。
何かの意思が確実にかかわっている、そう確実に第三者にもわかるほどに数値がそれを証明していた。
「…精霊、ラタトスク…ね」
「あれ?セン?どっかできいたような…?」
どこかできいたような名だとおもう。
それゆえに首をかしげるジーニアス。
いつのまにかロイドは難しい話しになってしまったがゆえにこくこくと船をこいでおり、
器用にもすわったまま眠っていたりする。
まあ、たったまま寝ることができるあるいみ器用さをもっているロイドだからこそできる技といえる。
「世界樹、それは世界を創造せしものなり。無より世界をうみだせしものなり。…ね」
「?よくエルフの里につたわりし伝承をしっていますね。
  そう、そしてその世界樹カーラーンの精霊がこのラタトスクです。
  古代の遺跡にも世界樹から全てが始まった、と描かれていましたしね。
  世界樹が芽吹き、大地をつくり、そして命をつくった。
  すなわち、世界樹が全ての源。この世界の根源たる存在」
それは今つたわりし、マーテル教の教えとは真っ向から対立するの。
世界をつくりしは、マーテルではなく、世界樹だ、そういっているのだから。
ゆえに教会側としてはこの事実をひたかくしにしている。
かのエルフの里を王家の許可がない限り立入禁止にしたのも、
エルフ達のためをおもって、ではない。
この事実を外部に漏らさないため、といって過言でない。
「精霊ラタトスクが死ぬことはすなわち、世界の滅亡。この大地がある限りそれが精霊が生きている証。
  …ずっと不思議におもってたんですよね。なんで大樹がかれたのに、
  いくら衰退世界と繁栄世界という仕組みになっているとはいえマナが涸渇しないのか、と」
「たしかに。ユアンがいっていた大いなる実りからうみだされるマナだけではまかなえる。
  ともおもえないわ。それに……」
ユアンがいっていた。
大いなる実りは死滅しかかっている、と。
そんな状態で世界を支えるほどのマナができるのか、といえばリフィルからしてみれば答えは否。
それでなくても、全てのものがマナでできている以上、大地が存続するかぎり、
そこに消費するマナはうまれる。
衰退世界とよばれしシルヴァランドでも、ヒトはうまれ、命はつづいていた。
つまり、最低限度のマナの消費はつづいている、ということに他ならない。
「これは僕のまだ仮説なんですけどね。エルフ達に確認しても返事がなくて…
  ユミルの森にある湖面の下。そこにびっちりと見たこともない根のようなものがあるんですよ。
  たぶん、あれは…大樹カーラーンの根だとおもうんですよね」
「根、ですって!?」
みれば、ジーニアスもねむくなったらしい。
おもいっきりうとうととしているのがみてとれる。
「そう。たしかに地表の樹というものはかれたのかもしれない。けど根はのこっている。僕はそう思います。
  …だから根から微弱ながらにマナは生み出されていた。ゆえに世界は滅びはしなかった」
「たしかに。つじつまがあいすぎるわ……」
それにセンチュリオン。
エミルの傍にいた魔物でもなく精霊でもない存在。
彼らは自分達のことをセンチュリオンだ、そういっていた。
エミルがもちし、世界樹の小枝。
初めてみたときには葉っぱなどついていなかったのに、
あのとき、たしかに小枝でしかなかったはずのそれに新芽が芽吹いていた。
あまりに世界の…世の中のことの常識を知らなかったエミル。
もしも、エミルがそのような精霊にかかわりしもので、
隔離された…隠れ里?のような所で生まれ育っていたとすれば。
すべて納得がいくものがある。
もしも、傍にいるのがセンチュリオン、という精霊の直属の僕だとするならば、
世界を渡ることも可能かもしれない。
ならば、ディザイアンという名をきいたこともなかったエミルのあのかつての様子が納得できる。
できてしまう。
「全ての精霊はラタトスクが生みだしたもの。
  いわば手足とすべく世界を循環させるために生みだした、んだとおもう。
  魔物にしても然り。うまくできてるとおもいますよ。こう理解すると。
  王がいて、配下がいて、さらにその配下のものがさらに下っ端に世界を循環させてゆく。
  そしてヒトはその中間地点にある精霊、という存在にすべての思考をうばわれそこで思考力をなくす。
  属性を彼らが完全に司る、と勘違いしてしまうからね」
事実、普通それが当たり前、とされている。
精霊達がそれぞれの属性を司るマナを操り安定させている、と。
なのに封じられているはずのそのマナが使用できるのはどうしてか。
という意見はずっと黙殺されてきていた。
「その、センチュリオン達を見分けるというか何か特徴は?」
リフィルの問いかけに、
「ああ。彼らを示すといわれている紋様は書き写してありますよ。それがこれです」
いって差し出された資料をひらけば、そこには特注のある紋様がいくつか描かれている。
テセアラのゼロスの屋敷でみたことがあるセンチュリオン達。
その瞳の中にあった紋様と、そのうちのそれぞれが一致することにおもわずリフィルは息をのむ。
…アステルがきになるのは、大樹にも文様がかかれていたこと。
そこだけ丁寧にしかも色つきで紅くそめられて。
属性をつかさどる文様も様々な色で染められていたが、その蝶だけの色彩はとても鮮やかだったのが印象深い。
「マナの数値を示す装置をつかっていろいろと調べてみていますからね。間違いはないかと。
  ユミルの森はマナに満ち溢れている。信じられないくらいに。かといってそのマナが周囲にもれることもない
  …たぶん、あの地は大樹の結界にまもられているんだとおもう」
「そういえば……」
かつてのリフィルの記憶でも、森で魔物が人を無意味に襲う、ということはまずなかった。
森とエルフは共存しており、魔物ともあるいみ共存していた、とおもう。
…里をでるまで魔物が人を襲う、ということすら信じられなかった、というのもある。
それでも魔物のテリトリーにはいればそれなりのことはあるにはあったようだが。
それらが覆されたのは自分達が里をおわれたとき。
いきなり狂いだした魔物達。
どうみても理性を失っていた、と当時のリフィルでもおもった。
村に響く悲鳴は今でも耳にと残っている。
「その精霊に会うことはできないのかしら?」
「それなんだけど。精霊達に話しをききにいっても話しがはぐらかされるというか。
  僕の予想では、異界の扉、とよばれし場所がギンヌンガ・カップだとおもうんですけど。
  古の遺跡の一部に、こうもあったんですよね。
  加護を与えし存在達をかの地から排除せん、と。
  大樹の精霊の加護をうけながら、その精霊を裏切ったヒトにたいする牽制なんだとおもうんですけどね」
そんな会話を横でききつつ、
「しかし…魔物を使役…か。エミルに通じるものがあるな……」
リーガルとて驚愕した。
伝説のフェンリルなどを呼びだしたエミルに。
そしてあの狂暴たる飛竜ですらエミルになついていた…というよりは従っていた、その事実。
それらを目の当たりにしていなければおそらく、そんなことはありえない、といいきっていたであろう。
「それに、エミル……あの子は世界樹の小枝だ、というものをもっているわ。
  …その小枝に生えていた葉っぱのマナのありようから、あれはマナの塊だったのは確認済みだしね……
  あの子と初めて会った時、あの子は世界情勢を何もしらなかった。
  もしも、その精霊と関係した場所で生まれ育っていたとすれば……」
「?あの僕とそっくりな子が、ですか?」
その言葉にきらり、と目をかがやかすアステル。
リヒターもおもわず目を丸くする。
「ええ。あの子に初めてあったとときのことからまず説明するわね……」
それはありえない出会い。
神子でしか開かないはずの封じられた精霊の神殿にいた子供。
魔物とともにいた子供。
そして、誰もしらないはずの隠し通路をしっていた。
ディザイアン、という人にとっての脅威すらしらなかった。
寒さの中でも薄着でそこにいた子供。
マーテル教そのものすら知らない節があったのにも驚いた。
かの古代大戦がいつあったのか、ということすら知らなかったようでもあった。
「私はとりあえず子供達をねかしてこよう」
完全にもはや眠りについている。
しかもこの話しは長くなりそうである。
お子様達の中で完全におきているのは、コレットとプレセアのみ。
ジーニアスとロイドは完全に夢の中に旅立っている。
それゆえに、話しが長くなる、と判断し、リーガルがすくり、と立ち上がる。
どうでもいいが、手に枷をはめたまま、子供達を抱きかかえられる、というのはあるいみ器用といえるだろう。
「そういえば、しいなと神子様は?」
ふとみれば、神子ゼロスとしいなの姿がみあたらない。
それゆえのアステルの疑問。
「ゼロスはわからないけど。しいなは定期報告に一度もどるっていって。
  レアバードにのっていったわ。エミルは…いつものようにまた外でしょう」
あいかわらず一緒に宿をとる、ということをしない、とおもう。
たしかに眠っているときなどは無防備になるので信用していないものといるのは危険なのかもしれないが。
それでもこれまで一緒にいたのだから、ともおもうのもまた事実。
まあ、一緒にいるという以上、完全に嫌われてはいない、とはおもうが……
「あの子はいつも外でねているのか?」
リヒターがおもわず問いかけるが。
「ええ。外のほうが気が楽だとかそういっていたわ。それにあの子の傍には必ず魔物達がいるのよ。
  その子達と一緒に宿にいるわけにもいかないだろうからって」
そういえば、とおもう。
エミルの傍にたしかに魔物のようなものがいた。
センチュリオンとして形をとっているのでないがゆえ、マナの流れをごまかすことは可能。
白い虎のような姿であったウェントスのマナは、魔物により近しい感じをうけさすものとなっている。
ハムスターの姿をしているソルムもいうまでもなく。
「しかし。何だってあんた、そんな手に枷をつけてるんだ?」
「……我が戒めだ」
戒めというだけで手枷をつけているなどかわった人間だ、とはおもう。
しかしどうやらこの手のものは、きいても絶対答えないであろう。
自分がそう、であるように。
ゆえにリヒターもそれ以上の追求をあきらめる。

深夜、しばし、アステル達とリフィルとの対話がつづいてゆく……


翌朝。
「え?マナなんとかっていうのがある場所がわかったって?」
昨夜、いつ寝たのかすっかり覚えていないが、きちんと布団にはいっていた。
ということは誰かがはこんだのか、はたまた無意識にむかったのか。
ロイドには定かではない。
「ええ。アステルのもっていた資料によれば、エルフの里にあるらしいわ」
アステルがもっていた資料の中には、マナリーフなどに関しての記述がかかれているものもあった。
コレットにつけている要の紋は完全なものではなく、クルシスの輝石を完全に制御するためにも、
それらをもとめている、とリフィルがいったところ、
なら、自分が一緒にエルフの里にいきましょう、という話しの流れになった昨夜。
聞けば、アステルはその研究分野ゆえに、いつでもユミルの森にはいれる許可を国からもらっているらしい。
「クルシスの輝石を制御する要の紋は僕も興味がありますしね。
  その制作過程とかにも。なのでしばらく一緒に行動しますね!」
「…おいおい。アステル…はぁ……」
いいだしたらきかない。
ゆえにリヒターは頭をかかえるしかない。
マナリーフがある、というエルフの里、ヘイムダールとよばれし場所にいくためには、
ユミルの森、とよばれている場所をぬけるしか方法はない、という。
そしてそのユミルの森にはいるのは、王国の許可証が必要、とのこと。
ユミルの森は、今いる導き温泉から東南方向にとあるらしい。
地図を広げられ説明をうけ、いつまた症状がでるかわからないコレットのことがまずは最優先。
そう話しもまとまり、アステルが許可書をもっている、ということもあり。
アステルに甘え、ロイド達は、要の紋をつくるのに必要な素材、マナリーフをもとめエルフの里へとむかうことに。


「…まちがいないわ。この先のヘイムダールがある」
鬱蒼としげっている森。
まさに森。
遠くからでもわかる、巨大な湖らしき場所に茂っている木々。
水の匂いが離れていても漂ってくる。
湖にある唯一の入口、という場所にとくると、記憶がよみがえってくる。
「姉さん?」
そんな姉の姿にジーニアスは首をかしげる。
「何でもないわ。いきましょう」
アステル達のいっていた、バージニアという名。
そして自分が王国に求められ、差し出すように、といわれていた、という。
そんなことはしらなかった。
覚えているのは、追われるようにしてこの里をでていったこと。
まだ産まれたばかりのジーニアスを連れて。
両親達がやけにあせっていたのは覚えている。
そして、絶対に誰かに話しかけないように、といっていたことも。
あれから十二年。
赤ん坊であったジーニアスは今や十二歳。
そして自分も二三歳にとなっている。
家族で旅をしていたのは一年あまり。
そのあと、自分達はあの場所にと置き去りにされた。
覚えているのは、母の泣き顔。
そして父が何か叫んでいる声。
いそげ、やつらがくるぞ。
そういっていた。
やつら、とはわからなかったが、アステル達の会話をきき、予測ができてしまう。
できてしまった。
いく先々にいた兵士達。
街にかたくなにはいろうとしなかった両親。
わからなくなってきた。
両親は自分達を捨てたのか、それとも彼のいうとおり、逃がそうとおもったのか。
この国の制度から。

「…ついにここまできてしまった。
  ……ヘイムダール…私が産まれそだった、純粋なエルフのみが暮らす集落……」
レアバードにて近くにまできて着地できる場所へと着地した。
上空からでもわかった、湖にある木々。
昔は上からみる、ということがなかったが。
だけども、わかる。
体が、心が覚えている。
それゆえにおもわずつぶやくリフィルの姿。
「先生?何怖い顔してるんだよ?」
そんなリフィルにきづき、ロイドが首をかしげつつといかける。
「いいえ。何でもないわ。さあ、いきましょう」
「あ、ああ」
上空から湖っぽいのがみえたから、先生、それでかな?
そんなことをおもいつつ、ロイドはそれ以上の追求をやめる。
目指すは、この先にある、湖に護られし、小島。
小島、といってもかなりの大きさで、湖の中心にぽっかりとある大地が広大な湖に護れらている。
それがユミルの森とよばれし場所。
別名、水鏡の森。

「うわぁ。綺麗な水だね!」
きらきらと太陽を反射させてひかる湖。
そう、湖、といって過言でない。
広大なる湖にいくつもの木々、そして小島があり、そこはちょとした異空間。
透き通った湖の底らしき場所にはびっしりと何かの根のようなものがみてとれる。
透き通った湖水は入り組んだ崖をぬらし、また湖の中にあるいくつかの小島。
その小島や湖の中から巨大な木々がいくつも生い茂っている。
それがユミルの森の全体像。
そんな湖の湖面に縦横にとめぐらされた木の橋がエルフ達の通路、として利用されている。
それは今も昔もかわらない。
空気が澄み切っているのが手にとるようにとわかり、それでいてここちよい風が常にとふいている。
周囲はマナにあふれ、よくよくみれば、木々からもうっすらとマナの恩恵をうけているのがみてとれる。
それは目視できるほどで、木々よりほのかなる光が常に立ち昇っている。


「あれ?」
水の上に浮かべられている木の橋をすすんでゆくことしばし。
一本しかない木の橋の上にたたずんでいる一人の男の子。
橋はそれほど広いわけではないので、自然とゆく手をふさぐような形となっている。
「こんにちわ」
みたところエルフの子供らしいが。
そんな子供はやってきた一行をじっと上目づかいに見つめている。
何をいう、というわけでなく。
その視線をさまよわせ、なぜかエミルの所にきて思わず目を見開いているが。
昨夜、アステルと同行がきまったのをうけ、念のためにエイト・センチュリオン達にいまの様子を確認した。
なぜか全員集まってきたが。
そのあと、彼ら曰く、いつもの行事…らしい、じゃんけん大会がはじまり、
おもわず額に手をあてたのはエミルからしてみれば記憶にあたらしい。
おもいっきりため息をついてしまったのは、彼らがやけに真剣であったゆえ。
だから、お供はいらない、そういうのに、なぜか異口同音でそれだけはできません。
とものの見事に声を重ねたセンチュリオン達。
今、エミルの傍にいるのは、ジャンケン大会を勝ち抜いた、ルーメンとテネブラエ。
テネブラエはいつものようにウルフの姿を模しており、ルーメンはかつてのように白い鳥へと擬態している。
ちなみに、ルーメンの姿は、ピヨピヨ、とよばれし鳥によく似ている。
真っ白い体にちんまりとした瞳、くちばしと脚のピンクが異様に白い体に目立つ容姿。
それが本来のピヨピヨ、という魔物だが、ルーメンの瞳の色は金色。
ゆえに普通のピヨピヨではない、と目をみれば一目瞭然。
なぜに風属性の魔物の姿に、とはおもったが、まあ光属性のルーメンからしてみれば、
どの属性もあまり関係ないといえば関係ないのだろう、それですませているこの現状。
エルフ達にもわからいように気配は遮断…もっとも魔物達はわかる程度…だが、
目を見開いている、ということは魔物とともにいることに驚いているらしい。
ちなみに、エミルの傍に魔物がいることにアステルは興味津津といった形でいろいろときいてきたが。
エミルはこの子達は家族なので、といってにこやかにいってそんなアステルの追求をさけている。
嘘はいっていない、嘘は。
そんなアステルに、リフィルがこの子は、魔物を『こ』と呼ぶ傾向がある、と説明していたのが印象深いが。
「なあ、ちょっとそこをとおしてくれないかな?」
「ダメだ!」
ロイドがそんな子供に視線をあわせ、といかけるが、子供はぴしゃり、と言い放つ。
「へ?何でだ?」
「・・・・・・・」
ロイドの問いに子どもは無言のまま。
先頭を歩いていた…というよりははしゃいできづけば先頭を歩いていた…ロイドとコレットが、
そのまま背後をみてくる。
そんなロイドの視線をうけ、ゼロスは苦笑しつつ肩をすくめる。
「どうして通してくれないんだい?」
そんな子供にたいし、しいなが前にでて、視線をあわせ問いかける。
「・・・・・・・・・・・」
さらに子供は無言のまま。
「一体どうしたというの?」
リフィルもきになり、子供に話しかけるが、
さらに子供は無言のまま。
「ああもう。黙ってたらわからないだろ!?」
ロイドがしびれをきらしたらしく、おもわず口調を強くしているが。
その声に子供はぴくり、と体を震わせる。
「…お兄さんたち、気が短いんだけどな~」
ゼロスがそんな子供に対し本気ではないがそんなことを言い放つ。
「ダメだよ。皆。この子、こわがっちゃってるよ。どうしたの?何か悩んでるの?」
コレットがそんな子供にやさしくといかけているが。
少しはなれた背後にて、そんな彼らの様子をみつつ、
「しかし、エミルの横にいるその魔物達、普通の魔物と何かちがいますよね?」
どうやらいまだに興味津津らしい。
たしかにただ、彼らに魔物の姿に擬態するように、といっているだけで、
その種族の魔物自体に擬態しろ、といっているわけではない。
ロイドたちがずんずんと先にすすんでゆくのをうけて、
一番後ろからエミル達、正確にいえばエミルの前にアステルとリヒター、そしてその少し前にロイド達一行。
そんな形でこの水の橋の上をすすんでいる彼ら達。
幾度ともなく問いかけてきたアステルの言葉をにこやかに笑みでかわしたのち、
「それより、先にすすめないみたいですけど……」
「エルフの子が通せんぼをしているようだな。力づくで押しのけていけばいいものを」
リヒターが憮然として言い放つ。
「もう、リヒター。そんなのはダメだってば。どうせなら眠らせてから素通りするとかさ」
どっちもどっち、であろう。
背後でそんな会話をしている最中も、コレットが優しく子供にと根気よく問いかけている様がみてとれる。
「何か悩んでるのだったら、よかったら私たちに聞かせてくれないかなぁ?
  何か力になれるかもしれないし、ね?」
腰をおろし、子供の目線でにこやかに問いかける。
そんなコレットの台詞にすこしばかり視線をさまよわせた後に、
「母ちゃんが……」
「ん?」
どうやらやっと理由をいうきになったらしい。
「母ちゃんが病気なんだ。助けるにはこの森にあるユミルの果実が必要なんだけど。
  でも、魔物がたくさんいて、僕には……」
顔を伏せる子供にたいし、
「ユミルの果実?」
聞きなれない言葉にロイドが首をかしげる。
「万病にきく、と呼ばれている赤い果実のことね」
リフィルがそんなロイドに追加説明をしているようだが。
「よし。わかった。なら俺達がそのユミルの果実をとってきてやるよ。そしたらそこを通してくれないか?」
誰に相談するわけでなく一人でかってにいつものように決めて勝手に答えているロイドの姿。
「本当か?本当にとってきてくれるのか?」
子供の声には疑念が含まれている。
それも当然、といえる。
人は嘘をつくもの。
約束、といって約束をまもるものなど滅多といない。
特にエルフの民は昔は純粋であったがゆえに幾度も人に裏切られてきた。
オリジンの元…あの石板のもとにエルフ達がかつて導いた結果。
まっていたのはミトスの裏切り。
世界の加護をもつものだから、というので信用したのに。
世界の守護者たる精霊より万能の加護を与えられしヒト。
なのに彼らは世界すらをも裏切った。
ゆえにあのときからエルフ達は徹底して人を信用しなくなっている。
「ドワーフの誓い、第11番。嘘つきは泥棒の始まり、だ。だから嘘はつかない。俺のもっともだからな」
何かが違う。
と。
「…モットーだろ、モットー」
そんなロイドに突っ込みをいれているゼロスの姿がそこにある。
「……まあ、とにかく。とってきてやるから、そこでまってろ。な」
どうやら間違っている、ということにすら気づいていなかったらしいが。
そんな様子が少し離れた場所からでもエミルには手にとるように視てとれる。
「わ、わかったよ」
背後にみえるは魔物を従えしヒト。
だが、ヒトとハーフエルフが共にいる、というのが信じられない。
背後のほうにはみたことのあるヒトとハーフエルフがいるにはいるが。
目の前の少女のマナも神子と同じようなマナをもっている。
ハーフエルフを無理やりに従えている、というわけではなく、自然とそれがあたりまえ、のようにそこにいる人間。
だからこそ子供からしてみればとまどわずにはいられない。
「で?この森のどこにあるんだ?」
「実は…詳しくはしらないんだ」
どうやら本気なのか、そんなことをきいてくる。
そんなヒトの台詞に子供はおもわず言葉をつまらせる。
「はぁ?そんなもの探せるかよ」
ゼロスがその子供の台詞におもわず突っ込みをいれるが、その言葉の続きは、
しいなの鋭い視線によってさえぎられる。
「ただ……母ちゃんがいってた。困ったときはこの森の蝶々が導いてくれるって」
この森にはいたるところに蝶がとびかっている。
蝶はラタトスクの象徴。
この地はラタトスクの加護がもっとも強き場所。
魔物がラタトスクの眷属ならば、蝶もまた眷属、といえる。
正確にいえば全ての動植物がラタトスクの眷属、といって過言でない。
「…この森の蝶は人の心に反応する…といわれているわ。
  何かに悩んだりしたら蝶を探せばいいかもしれないわね」
ラタトスクの意思をうけ、というよりあまりにかつて迷子が続出したがゆえに、
そのような理をひいたのはほかならぬラタトスク自信。
「わかった。じゃあ、お前は大人しくそこでまっていろよ」
子供にそういい、ロイド達がエミル達のいる背後のほうにまでひきかえしてくる。
「で、結局どうなったの?」
アステルの問いかけに。
「何でもユ何とかの果実ってのが必要になった」
ロイドの台詞に、
「ユミルの果実です。もう」
リフィルがあきれたようにおもわずそんなロイドに突っ込みをいれる。
「ユミルの果実?」
そんな会話をきき、すこしばかり首をかしげるアステル達。
一方、その話しをきき、ため息をひとつついたのち、
「トレント」
湖にうかびし橋の上より手を突き出す形にてエミルが一言つぶやいたその刹那。
バザァッ。
エミルが一言いうと、少し斜めの木らしきものがいきなり水面からおとをたてて動き出す。
それはバシャバシャとした水音をたて、ロイド達のほうへとちかよってくる。
それは巨大なる木の魔物。
トレント、とよばれし魔物の姿。
おもわず身構えるリフィル達。
が。
「ユミルの果実をもってきて。数はそんなになくていいよ」
近寄ってきた魔物トレントにエミルが手をのばすと、トレントはまるですりよるようにと甘えてくる。
そのまま、エミルの言葉をうけて、どこかにむかってゆくトレントの姿。
おもわず唖然とするロイド達。
エルフの子どもにしてもまた然り。
目をぱちくりさせているロイド達や、唖然としている大人たち。
そういえば、こうして目の前で魔物に何かお願いしているのみせたことなかったっけ?
ま、いっか。
そんなことをふとおもい、それですまし。
「あの子がもってきてくれるのでしばらくまちましょ」
のんびりとそんなことをそこにいる全員ににこやかにいっているエミルの姿。
「いやいやいや。ちょっとまて。おい。エミル…とかいったな?なぜに魔物がお前のいうことをきく?」
しかもどうみてもなついていた。
魔物は滅多と人になつかない。
いや、なつく種類はいるのはしっているが。
トレントとよばれし木の魔物はそうではないはずである。
ゆえにリヒターの疑問もしごく当然。
「え?僕はただあの子達にお願いしてるだけですし。あの子達は素直でいい子ですよ?
  …裏表があるヒトと違い、あの子達は裏表がなく純粋ですからね」
その台詞におもわず苦い顔をするリヒターはおそらく間違ってはいないであろう。
そんな会話をしている最中、ばしゃばしゃとした水音。
それとともに、なぜか先ほどは一体でしかなかったのに、
数体のトレント達がこちらにむかってきている様子が目にはいる。
それぞれの手替わりにしているのであろう、枝には赤い果実がそれぞれあるのがみてとれる。
「御苦労さま」
『ラタトスク様。このたびのご来訪は何か問題が?』
心配そうにといかけてくるトレント達。
魔物達はその気配でわかる。
目の前の人に擬態しているヒトの子が誰なのか、ということを。
『すこしばかりちょっと森に用事ができたのでな』
せっかくここにきたのだから、候補地を絞っても問題はないであろう。
それに何よりも、かの石板を通じればいくら具現化が制限されていはすれど、
会話を交わすことは可能。
『何か用事があればいう。ゆけ』
エミルの口からでる原語は歌のようであり、おとのようでおとではないもの。
何かをいっているのはロイド達はわかるが、それが何をいっているのかはききとれない。
エミルがそういい、手をすっとふるとともに、その場にいたトレント達がそのまま一斉にと散ってゆく。
ユミルの果実、とよばれしものは、桃によくにている果実。
万病にきく、というのはマナにあふれているがゆえ。
「はい。ロイド」
「え?あ、ああ……」
何といえばいいのだろうか。
トレント達がもってきた果実の数からしてみれば約十数個程度。
あまりいらない、といったのにある程度どうやらとってきたらしい。
エミルから手渡され、言葉につまるロイドだが。
「あの子にわたすんでしょ?」
エミルにいわれ、はっと我にともどり、そのまま引き返し、いまだに目の前でおこった現実が信じられないらしく、
目を見開いている子供のもとにもどり、
「えっと…ほら。約束のユミルの果実だ。はやく母ちゃんにもっていってやれ」
念のために数個、子供にとてわたしているロイドの姿。
ちなみにロイド一人では持ち切れない、というのでジーニアスとコレットで分断して果実を両手でかかえ、
手にしている光景がそこにはあるが。
ユミルの果実の大きさは大人の両手ですっぽりはいるくらいの大きさ。
ゆえにいくら十数個程度といえど量的にはけっこうかさばる。
「あ、ありがとう。…人間は不親切な生き物だって母ちゃんがいってたけど…
  でも、えっと…そこのヒトって……」
どうみても魔物を従えていた。
それに何より、魔物とともにいる。
あのトレントが素直に言うことをきいていたのを子供は目の当たりにしている。
だからこそとまどわずにはいられない。
エルフ達が知る限り、魔物を従えさせられるヒトなど、限られている。
しかも何か術とかそういうのではなく、ごくごく自然に魔物達から率先して手伝ってきていた。
それだけはわかる。
魔物達から発せられるマナは強制的にたいする嫌悪でなはなく、むしろ嬉々としていた。
エルフだからこそわかる、マナのありよう。
魔物の役目もエルフ達は知っている。
だからこそとまどわずにはいられない。
「それより、はやくお母さんを安心させてあげて?きっと心配してるよ?
  たぶんだまってでてきてるんじゃないの?」
「う、うん」
たしかに金髪の…よく村にきたことがあるヒトとそっくりな人の子。
魔物とともにいるヒトの子にいわれ、子供はおもわずうなづいてしまう。
たしかにここにはだまってでてきている。
「えっと。これお礼」
渡されてきたのは、ナビメタル、とよばれしもの。
ゆえに混乱するものの、今大事なのは母を治すこと。
それゆえにあまり深く考えないことにした…正確にいえばみなかったことにしたらしい。
子供がそんなことをいいつつも、手にしていたとある品物を手渡してくる。
「はい。先生」
「え?私に?」
「僕がもっててもしょうがないでしょ?」
実際問題、エミルがもっていても意味がない。
渡されてもリフィルもどうしていいかわからない。
しかもロイド達からこれ幸い、とばかりに手にしていた果実まで渡されてしまえばなおさらに。
とりあえず、もっているフードパックに果実をいれておく、ということくらいしか。
一般に、この果実はかなり高級品で、外部に売りだしたとすれば確実に百万以上の値がつく品。
リフィルはそのことを幼き日にきいているので知っている。
だからこそとまどわずにはいられない。
この果実は純粋なるマナの塊であり、また浄化作用をもっていることから、
万病の薬、としても重宝され、別名、蟠桃ばんとうともいう。
不老長寿の源、ともいわれ、幻の桃、とまでいわれている果実。
昔から邪気 を祓い不老長寿を与えるとまでいわれている果実であり、
それらを実らす木々はエルフ達にとっては信仰の対象ともいえる。
そして、この水鏡の森にはそれらの木々がいたるところにと生えている。
ちなみに形状が似ていることから、普通桃の枝ですら畑にさすと魔よけになる、とまでいわれていたりする。
「…ねえ。少しいいですか?あの子っていつもああなの?」
横にいるリーガルにふとといかけているアステル。
その役目柄、アステルはリーガルを知っている。
「あそこまで、というのはあまり私としてもみたことは……いや、以前にあったか」
それは飛竜の巣とよばれし場所で。
エミルが呼びだせし伝説の魔物。
「魔物を従えていることといい。今の様子といい。
  たしかリフィルさんがいうのには、あの子、たしか世界樹の小枝とかいうものをもってるんですよね?
  大樹の精霊の関係者か、もしくはその守護せし家系か」
世界樹を守護していた、という家系、というものはいまだに資料としてはないが。
あってもおかしくはないとおもう。
それがアステルの理論。
そうこうしている間にも、子供はお礼をいい、ぱたぱたと森の奥のほうへとかけだしていく。
「…エミルに関してはいろいろと聞きたいこともあるけど。今はとにかく、先をいそぎましょう」
リフィルの盛大なため息はおそらくこの場にいる誰もの心情を物語っているであろう。
「?なんか皆つかれてない?」
エミルからしてみれば首をかしげるしかできない。
別におかしいことはしていない。
ただ、近くにいたトレントたちにとってくるように、そういっただけ、なのだから。
みればなぜか横にてテネブラエとルーメンまでもがため息のようなものをついているが。
そして。
『ラタトスク様。あまり彼らの前で魔物達に命令を下さないほうがよろしいかと』
『特にそちらのアステル、というものは、自力であなた様の存在にたどり着いているものです。
  油断は禁物です』
口ぐちにそんなことをいってくるセンチュリオン達。
「心配症だな。あいかわらず」
そんな二柱におもわず苦笑してしまう。
ともあれ、一行はその先にあるという隠れ里へとむかうことに。


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あとがきもどき:
薫:きりのいいところでくぎったら、長くなってしまった……
  なんかだんだん一話が長くなってきている自覚あり……

2013年7月6日(土)某日

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