雷のマナの解放。
神殿の中より感じるそれは、彼らが成功した証。
その前に人工的な気配をもつマナがひとつ、失われはしたが。
そのあと一瞬、水のマナをも感じたが、それはすぐさまに消え去った。
それはほんの一瞬のことで、一瞬乱れたかとおもえばすぐさまにマナは整っていた。
違和感。
マナの乱れを正せるものなど…唯一の存在を除いて彼…ユアンは知らない。
「無事に契約ができたようだな」
ふと、神殿からでてくるロイド達にきづいて声をかける。
そして、ざっと彼らをみわたし、
「あの子は?」
たしかエミル、とよばれていた子供がいないのにきづく。
「ああ。エミルは……」
ロイドがいいかけると。
シュッ。
雷の神殿の横にとある壁。
そこにはいくつかの模様が刻まれており、その一角の壁がぽっかりとした空間となりはてる。
その空間の先には延々と地下へ続く階段らしきものがみてとれ、
そこからゆっくりとでてくる影が三つ。
暗闇だというのにやけに目立つ淡き金の髪。
先刻までいた灯りをともす魔物は今は傍にはいないようではあるが。
ロイド達は以前みたことがある、
アラクネのような魔物と、そしてひさしぶりにみるような気がするウルフのような魔物。
二体の魔物をひきつれた、エミルの姿がゆっくりとその階段をのぼりきり、
そのまま開かれた壁の入口らしき場所から姿をみせる。
エミルが外にでると同時、壁は何ごともなかったかのように元通りの壁にとすぐさまにもどりゆく。
「あれ?みんなもう外にでてきてたの?」
もうすこしあの場にとどまっているかとおもったのに。
それゆえのエミルの台詞。
「エミル!お前どこにいってたんだよ!」
「え?だって僕が用事があったのはあの奥だし」
嘘ではない。
「前もそうだったわよね。あなた、トリエットの遺跡でしられざる道をしっていたわよね?」
リフィルの眼は何かをさぐるようにエミルを見据えている。
「魔物達にきけば彼らはいろいろとしってますよ?」
嘘ではないが真実でもない。
もともと、エミルだからこそしっているのであり、
魔物達はその性質上、それらの場所への出入りを許可しているにすぎない。
「そういや、あんた、魔物の言葉がわかるっていってたっけ……」
しいながどこか遠くをみながらも、それでいて納得、といったようにおもわずつぶやく。
そういえば、とおもう。
コリンはなぜかこのエミルをいつも様づけしていた。
しかも畏縮していたかのように敬っていたようにもみうけられた。
結局その理由はきけずまま。
コリンはもう、傍にいない。
「ヴォルトとの契約は?」
「ああ」
コリンの犠牲がなければ、ばっちり、ということばをつかいたいところだが、
犠牲の上での契約は成功、とはいえないとおもう。
と。
ぐらっ。
一瞬、大地が振動する。
四つの柱の楔にて支えられていた二つの世界のうちの柱の一つが消滅したことにより、
バランスが一瞬くずれ、大地が振動しているにすぎないのだが。
「ユアン様。今の地震は…まさか、精霊の楔がぬけたのでは!?」
「だろうな。おまえたち、たしかウンディーネと契約をかわしていたな?」
ロイド達ですらさきほどしったばかりの精霊の楔。
それをいかにも始めからしっていたかのようなユアンの台詞。
「あ、ああ。だけど、なんだってあんた、精霊のことを……」
「お前たちの同行はつねに調べていたからな。ゆうまし湖のユニコーンを解放したのも把握ずみだ」
あのユニコーンはマーテルを直すためにむりやりにいかされていたもの。
だからこそユアンはしっている。
そういい、ちらり、とエミルをみつつ、
「…お前たち、大樹カーラーンをしっているか?」
ユアンがそんなことをいきなりいってくる。
「それってエミルがもってるっていう小枝だよな?」
ロイドがいい。
「いえ。おそらく、あなたがいっているのは伝説の世界樹のことかしら?」
リフィルがユアンが何をいおうとしているのかさぐろうと、警戒しながらといかける。
「伝説、ではないのだがな。だが、そう。マナを産みだす聖なる樹。生命の源となりえる樹のことだ」
そんなユアンの台詞に、
「おいおい。でもあれっておとぎ話しだろ?何でいきなりそんな…?
エミルのもっている枝がなんか普通じゃない、というのはわかるけどさ」
そもそもあれから生えたという葉っぱですらロイドでもわかるほどの何かがあった。
「ふ。では、逆にとおう。今、この世界を支えているマナはどこから産まれている。
また、産まれていたとおもっているのだ?」
ユアンの問い。
「え?…え~と?そういや、マナってどこからくるんだ?」
考えたことすらなかったがゆえにロイドが首をかしげる。
そんなロイドをみてかるくため息をつくと、
「大樹カーラーンは実在した。古代カーラーン大戦によるマナの涸渇で枯れるまでは…
そして、今もふたつの世界をつなぐ楔に守られてその種子は残されている。
…聖地、カーラーンに」
ユアンがいうと。
「まって。聖地カーラーン、とは、クルシスが拠点としている、という?」
リフィルが驚いたようにとといかける。
「決してまじわらぬ二つの世界を四つのマナの楔で結び、その中心に大いなる実りをおいている」
「大いなる実り?それって、勇者ミトスの英雄譚にでてくるお話しだよね?
聖地カーラーンで死んだミトスの魂のことをそうよぶって」
ジーニアスはそう習っている。
だからこそユアンの言葉に首をかしげつつもそうこたえているのだが。
「それはすべてユグドラシルが…クルシスが後から付け加えたねつ造だ。
大いなる実り、とは大樹カーラーンの種子なのだ。
お前たちも互いの世界をしったのならばわかるかもしれないが。
かつて、二つの世界はただ一つの世界だったのだ。
大樹カーラーンが生み出す豊潤なマナに守られた、な」
「…な、なんだと!?」
その台詞にロイドは混乱する。
「何だって!?じゃあ、世界が二つにわけられたっていうあの伝承は……」
テセアラでつたわっている伝承。
大戦の後、世界は二つにわけられた、と。
ゆえにしいなが驚きの声を発するが、
しいなは里で孤立していたがゆえに、エルフの里の伝承をいまだに教えられていない。
ゆえに正確なことをしりはしない。
里ですら内容が内容だけに上層部のものしかしらされないない、あるいみ
「そう。かつて世界は一つだったのだ。
それをユグドラシルが二つに引き裂き、ゆがめた。精霊オリジンから授かった力を使って、な。
ユグドラシルが二つの世界をつくったというのはそういう意味なのだ」
「けど、そんなことってできるのかよ?世界をひきさくなんて?」
ロイドが首をひねる。
「精霊オリジンの力を使った、といったはずだ。ゆえにユグドラシルにはできた。そして今現在。
引き裂かれた世界は大いなる実りからにじみでる、わずかなマナをう場合って何とか存在している。
大いなる実りが目覚めれば、奪い合いは不要になる。
大樹から二つの世界を支えるにたりるマナがうまれるのだからな」
「二つの世界…繁栄と衰退が繰り返されるこの仕組み。だから再生の神子が旅立つのね…」
リフィルが納得いったようにおもわずつぶやく。
「どうやったら大いなる実りが目覚めるんだ?」
そんなロイドの問いかけに。
「これ以上はいまはいえん。まずは神子の奪還が先だ。
だが、神子がマーテルの器にされてしまえば、大いなる実りは決して目覚めることはない」
「どういう……」
ユアンの言葉の意味はロイド達にはわからない。
「とりあえず、みずほの里にもどらない?ノイシュも心配だしさ」
そんな会話をさえぎるように、にこやかにエミルがいってくる。
そして。
「それで?コレットの救出の準備はユアンさん達は整ったんですか?」
話題をさらり、とかえてといかける。
「…ああ。すでにレネゲードの構成員達を呼び寄せている。
出発は、準備が整い次第、すぐにでも」
みずほの里。
滅多と第三者がはいることがない里だというのに、今現在はかなりのものが里にと滞在している。
広き庭にはいくつものレアバードがおいてあり、レネゲードの構成員だ、という人々がゆきかっている。
レアバードの点検、そして飛竜などの体調管理。
それら全てが完了しだい、明日、夜明けとともに出発する、ということで話しはまとまった。
いきおいこんでも精神がもたないだろう、という理由から、
出発まではそれぞれ気分をやすめるがよかろう、というタイガ達の言葉にしたがい、
ロイド達は今現在、ちょっとした休息タイム。
「…わたしはかつて、とある大切な人の症状を直すために世界中を回った。
その際、ヘイムダールという場所にもいった。ユミルの森にも。
エルフの隠れ里にも。エルフは人間との交流を好まない。彼らをみたのはあのときが初めてだった」
視線の先では、必至にプレセアにどうにか笑ってもらおうとしていろいろとやっているジーニアスの姿が。
その横にはそんなジーニアスを心配そうにみているリフィルの姿。
そんなリフィルにぽつり、と誰にともなくいきなり話しだしているリーガル。
「何がいいたくて?」
おもわずそんなリーガルをリフィルがにらむ。
その手ににぎった杖に力がこもる。
「君たちはエルフではない。似ている。だが違う。君とジーニアスはエルフと人間の混血。
ハーフエルフだ。…シルヴァランドでもハーフエルフは理不尽な差別にさらされているのだな。
世界はたがえども自分達と違うものを差別する心は同じということか。
…安心してほしい。他言するつもりはない。…種族違いの恋、か」
リーガルのことばにリフィルは顔をくもらせる。
たしかに、生粋のエルフに出会っているものならば違いがわかるであろう。
それこそ、マナがわからなくても。
「実るはずのない恋だわ」
どうみてもジーニアスはプレセアに恋心を抱いている。
当事者たるプレセアはまったくそんなことを思ってもいないようではあるが。
「…実ることを祈ろう」
歳の差とかは関係なく。
本当に好きな存在同士がむすばれる世界。
自分もそうありたかった世界。
だからこそのリーガルの台詞には実感がこもっている。
「諦めたほうがいい。そのほうが傷つかない。そういいきかすのが大人の役目。そうはおもわなくて?」
リフィルの言葉はまさに正論。
正論すぎて反論はできはしない。
が。
「それでも祈るべきだと…私は、そう、信じたい」
「…ええ。そうあるべきなのでしょうね。本当は…きっと」
リフィルとてわかっている。
だが、それが許されないのがいまの世界のありよう。
ハーフエルフ、というだけで迫害される、今の世界…二つの世界のありよう。
ふと、視線をずらせば縁側にて、武器の手入れをしているロイドの姿がリーガルの眼にとはいってくる。
そんなロイドにちかづくひとつの影。
そのまま、その人影はすっと一本の剣をさしだし、
「きれるぞ。つかえ」
ロイドの目前にそれをさしだしていたりするのがみてとれる。
「俺は親父の剣でいい」
選別、としてわたされたダイクの剣。
そんな中。
「総員、騎乗準備!」
どうやら全ての準備がととのったらしく、ボーダの掛け声が周囲にこだまする。
そんな声をききつつも、
「父親はすきか?」
ユアンがそんなことをロイドにとといかける。
「あたりまえだ」
それは即座の返答。
「あいたいか?」
「コレットをたすけて、全てをおわらせたらな」
ユアンがいっているのは実の父親。
が、ロイドがいっているのは養父たるダイクのこと。
その認識の差にロイドは気づかない。
「ゼロス」
里にもどるとどうしても嫌でもおもいしる。
いつもは傍によりそっていたあのぬくもりがそこにはない。
ゆえに屋敷の中にはいることもできず、そのまま門のところにてすわりこんでいた。
屋敷の庭のほうからは、どうやら準備がすんだのか、ボーダの掛け声のようなものがきこえてくる。
と。
ふと門の前にて座り込んでいたしいなの目の前に一本の花がさしだされる。
「姫君にプレゼント。暗く沈んでるなんてらしくないぜ?」
顔をあげてみてみれば、黄色い花を一輪もち、しいなにそんなことをいってきているゼロスの姿がそこにある。
「あたしは、別に」
いいつつも、顔を足元にうずめていれば意味はない。
今のしいなの格好は膝をかかえてうずくまっているようなもの。
「お前をまもっていけたんだ。あいつも本望だろうぜ」
「そうかな・・」
あんな別れをするなどおもわなかった。
直前に会話したのは、ひどいことをいった、という自覚がある、役不足だ、といった自らの言葉。
「人工精霊だって、研究所で一生終えるところをお前とであえてがらりとかわったんじゃないのか?
親友以上。自分が存在する以上、希望だったはずだぜ?そのお前が前をむかないでどうすんだよ」
ゼロスのいいたいこともわかる。
すくなくとも、コリンにあってしいなは救われた、そうおもっている。
一人ぽっちでしかなかったしいなの初めての心の安らぎたる仲間。
「でも…」
「まあ」
それでも自分がふがいなかったから、コリンが、根性がたりなかったから殺してしまった。
その想いはぬぐいきれない。
そんなしいなに、いきなりずいっと顔をちかづけ、彼女の顔をのぞきこむようにし、
「え?」
「これからは俺様がしいなをたすけるから安心しな。ハニー」
いって、にっこりわらい、手にしていた花をすっとしいなの…なぜか胸元にとさしこむゼロス。
しいなの胸の谷間にもののみごとに花が一輪、そえられる。
「っ!馬鹿いってるんじゃないよ!あほ神子!あたしは最初から何ともないよ!ふんっ!」
自分を奮起させようとしてくれているのが嫌でもわかる。
彼はいつもそう。
昔から。
だから、今は…
「…ありがとね」
「うん?」
「すず、拾ってくれてありがとね」
ヴォルトの神殿から里にもどってくる最中にゼロスからわたされた、コリンの鈴。
コリンの唯一の忘れ形見。
たまには素直にお礼くらいいってもいいだろう。
そうおもい、そっぽをむいたまま、しいながお礼をいう。
「ほら!用意もできたみたいだし、いくよ!ゼロス!」
「へいへいっと」
そのまま屋敷の中にとかけこんでゆくしいなの後ろ姿をみつつ、
「あいつも心の中にしまい込んじまうのかね……」
自分のように。
それと、きになるのはエミルのこと。
コリンが死んだ、というのにエミルはそのことにまったくもって触れていない。
触れてすらいない。
意味真に、ぽつり、と真の精霊は死んだりはしないからね。
そういっていた台詞もきにかかる。
コリンは人工精霊であった。
そこに何かあるのか、それとも…
ユアンがいっていた大樹カーラーン。
戻るときに確認してみれば、お伽噺にある神からさすがった云々、というのは
かの大樹の実りは、大樹の精霊からたしかに勇者ミトスが預かったもの、らしい。
どうしてそこまでユアンがそのことに詳しいのか、ゼロスからしてもわからないが。
しかし伊達に神子として生き残るために情報を集めていたわけではない。
レネゲードの存在がこのテセアラで確認されたのは八百年ばかり前だ、という。
そのような古書がアステルによりかつて発見されている。
エミルと大樹の関係。
それはゼロスにはまだわからない。
ないが、すくなくとも、無関係ではない、とそうおもう。
何しろエミルの傍には、センチュリオン、となのっているものがいた、のだから……
出発直前。
簡単な作戦の最終打ち合わせ。
作戦、といってもしいなが雷雲にとつっこみ、ヴォルトを召喚。
そのまま飛竜の巣に奇襲をかける、というものだが。
「大丈夫か?」
「あ…ああ」
レアバードに乗り込むしいなの表情は硬い。
それゆえにロイドがそんなしいなにと問いかける。
「ありがとな。お前と。コリンのおかげだよ。これからコレットをたすけにいけるのも」
ロイドがそういうが、
「あたし、コリンに謝らないと」
うつむきながらぽそりというしいなの姿がそこにある。
「どうしてだ?」
「コリンに…力不足だなんていっちまったからさ。不足していたのはあたしの根性だったみたいだ。
あのこにひどいことをいっちまったよ」
ずっとあの言葉がしいなにのしかかっている。
自分に覚悟がたりなかったから、コリンは…
人工的につくられた精霊がどういう経緯をたどるのか、しいなはしらない。
少しおちつけば、エミルに聞けばわかるかも、とおもうかもしれないが、
今のしいなにはそれすらおもいうかばない。
何しろエミルはかつてつくられた、という人工精霊達のことすらしっていたのである。
いつものしいなならばエミルが何かしっているかも、という結論にたどりついてきいていたであろう。
「コリンの鈴にいのれよ」
「鈴に…?」
しいなが鈴を手にし昨夜、縁側ですわっていたのをロイドはみている。
それゆえの台詞。
「コレットがよくいってた。祈るってのは自分の中にいる神様に語りかけることなんだって。
鈴にいのったら、コリンに届かないかな」
「・・・ほほ。そうだね。祈るよ。コリンに。ありがとう・・・それから、ごめんって」
精霊の力の源はマナなれど、存在するにあたり、その存在意義に対する理がある。
しいなは気づかない。
ロイドもきづかない。
その祈りがより、コリンを真なる精霊に生まれ変わらせる力となりえることに。
ラタトスクより世界の理をえたコリンにとって、人の心の祈りはコリンの力にもなりえる、ということを。
レアバードと飛竜、それぞれ乗り込み、向かうはコレットが捉われている、という飛竜の巣。
空の上から前回はゆっくりとみることのなかった街並みがみてとれ、
おもわずロイド達は目をまるくする。
かつて、空をとんだときには夜であった、ということもある。
やがて海上へとでるとともに、雲がより集まっている場所があるのがみてとれる。
そして、その雲の周囲にいくつもの飛竜らしきものが舞っているのも。
「雲の中を突入するぞ!」
ユアンの合図とともに、一斉に皆、高度をあげ、雲の中へと突入する。
分厚い雲の中は常に雷がなっており、すぐにでも落雷をうけてしまいそうなほど。
「しいな!」
「ああ、わかってる。ヴォルト!」
ここを抜け切るまでずっとヴォルトを召喚しつづけるのはたしかに精神力がきついかもしれない。
そうはおもうがやらなければならない。
しいながヴォルトを召喚するとともに、一行の周囲に雷の結界が施される。
エミルが乗りしは自らが呼んだ一頭の竜。
なぜかそれをみてリフィル達が顔をひきつらせてはいはしたが。
リフィルもかつてみたことがある。
遺跡の街、アスカードにて。
それは伝説ともいわれし、お伽噺にあるティアマトとよばれし竜。
さすがにそれをよんだのをみたときには、レネゲードのものも、
またユアンもそれぞれ表情がひきつっていたが。
巨大な積乱雲。
その中心に飛竜の巣はあるらしく、常に周囲は風と雷でたちいることすらままならないほど。
風は常にそれぞれ逆方向にふきあれており、普通に飛んで近づいただけで、まずその風にとはばまれる。
が。
「こい」
エミルの言葉に従い、空中に青白い魔方陣が浮かび上がり、そこからでてくる一体の魔物。
「……吹雪を」
ただの一言。
エミルがそういうとともに、エミルが呼びだした魔物から、とてつもない猛吹雪が吹き荒れる。
『・・・・・・・・・・・』
え~と。
何といえばいいのやら。
めずらしくエミルも一緒にきているのはいいものの。
周囲にふきあれるは猛吹雪。
エミルが呼んだ魔物により、雷が鳴り響く中、吹雪が吹き荒れている。
「効率的でしょ?これだとあの子達も傷つかないし」
自分が命令を下すことは簡単。
「無意味にあの子達を傷つけてもほしくないですからね。あの子達も利用されているだけだし」
ちなみに、その雪にマナを含ませていることから、反する性質をもつものは、
それにふれると消滅する、という効果をもたせていたりする。
ノイシュはかの里にとあずけてきている。
飛竜は寒さによわい。
ある程度の寒さになると冬眠する性質をもっている。
特にここにいる子達は。
だからこそのエミルのこの行動。
命令をくだし、彼らを操っている枷をはずし、自分達を利用していたものに罰を、ということはたやすい。
どちらにしても、この雪により枷をはずされた彼らがとる行動はきまっている。
誇り高き飛竜の一族を人が無粋な機械にて操っていたのである。
その罪は万死以上に値する。
寒さに震えた飛竜達がとる行動。
それはこの中でも唯一暖かな場所にとむかうこと。
それは魔道砲とよばれし塔がある場所であり、周囲に一気に竜達が飛来する。
そのまま正気にもどりし飛竜達がてっとりばやい攻撃対象。
すなわち、魔道砲にと攻撃をことごとくしかけてゆく様がみてとれる。
「…エミル一人でも侵入ってはたせるんじゃないの?」
ぽそり、とつぶやいているジーニアスに対し、
「…アスガード牧場と同じ…ね」
あのときも魔物達が一斉にうごいて、施設のディザイアン達を一掃していた。
「ちよっとまちなよ!そんな問題じゃないだろ!?あれ何さ!?」
一人、はっと我にともどったしいなが空にうかぶそれを指差しさけんでいるが。
「え?フェンリルだけど?」
『・・・・・・・・・・・』
いわずもがな。
いつもは門を自分のかわりに護ってくれているフェンリルのムーを呼びだしただけのこと。
かなりまて。
といいたいのはおそらくそこにいるエミル以外の誰もが同じ思いであろう……
「エミル!?」
ふとみれば、一番大きな飛竜が、エミルの乗っている竜のほうへととんでいっている。
ロイドがおもわず叫ぶが、
そのまますっと手をのばすエミルの姿。
みれば、立ち上がったエミルの前にて飛竜は首をうながさせ、エミルのされるがままになっているのがみてとれる。
唖然。
そう、唖然とするしかない。
この場にいるロイド達だけでなく、一緒に行動していたレネゲードの一員達とてそれは同じこと。
そもそも、本来、飛竜とは、竜族の亜種といわれているものであり、
肉食をこのみ、動くものを捕獲し餌とする、といわれている魔物。
たしかに亜種であるからこそ、幼いころから飼えばどうにか騎乗する魔物として飼育することは可能だが。
しかしそれでも、飼い主以外にはなつかない、それがあるいみ常識で。
その常識がことごとく覆されている目の前の光景。
飛竜の鳴き声らしきものが周囲にとひびく。
「…やはり、利用されていたか。愚かなるはやはりヒトか。それで?」
うなだれる首をゆっくりとやさしくなでつつも、この飛竜の長たる彼にとといかける。
くるくるとノドをならし、どうみても飛竜はとてもなついているようにみうけられる。
いくら飛竜の中には人が調教できるものがいる、とはいえ
目の前の飛竜は何もせずにエミルにと従っているようにみえなもくもない。
雪に含ませたマナにより、瘴気に近しいものにて狂わされていたそれらもまた正気へともどりゆく。
キッン。
澄んだ音をたてて、飛竜達の首もとにつけられている装置らしきものが凍りつき、
きらきらと壊れていっているのが傍からでもみてとれる。
飛竜達はあるいみでの洗脳がとけ、しばし呆然とするものの、すぐさまにとある波動にきづき我にともどる。
長の近くに感じる気配、その波動は間違えようのない『王』のもの。
「…あれが、問題の魔導砲か。ここにはあれだけか?」
こくり、エミルの問いかけにうなづく飛竜の長。
「この地においてヒトが勝手に手をくわえし場所はあとで元にもどすとして、お前たちも思うところがあろう。…許す」
離れているがゆえに、エミルが何を飛竜と話しているのかロイド達にはわからない。
が、天使化しているがゆえに聴力が発達しているユアンはその言葉をききとがめ、おもわず眉をひそめる。
何を許す、というのだろうか。
だがしかし。
「くわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
その言葉をうけ、盛大にいいなく飛竜。
それとともに、一斉にその場にいたすべての飛竜達がそこにある魔導砲へと体当たりし、
中にはパイプらしきものからはいりこみ、おもいっきりその口から炎を吐いていたりする。
うわぁぁ!?
ぎゃぁぁ!?
何やらそんな悲鳴らしきものが遠くのほうからきこえてくるが、
「…飛竜達がまったく襲ってきません……」
プレセアがぽそり、といい。
「信じられん……」
リーガルもおもわずつぶやく。
中には飛竜にのっていたディザイアン、であろう。
おもいっきりそのまま飛竜にふりおとされたり、もしくはそのまま喰われたりしている姿も垣間見える。
気づけば数匹、エミルの周囲に飛竜…しかもかなり大型の、があつまってきており、
まるでエミルを護衛しているかのごとくに周囲にとどまっているのがみてとれる。
「…魔物使いの能力…」
それだけではすませられない何か、がそこにはある。
エミルが本当に魔物使いなのかどうかはわからない。
が、すくなくとも、エミルが魔物を…否、魔物がエミルを襲わない、というのはこれで確定といってもよい。
何しろ操られているばすの飛竜ですらエミルにまったくもって攻撃をしかけることすらせず、
操っていたはずのものたちに逆に攻撃をしかけている今の状況。
そうこうしている最中。
どぐわぁぁんっ!
何ともいえない音が鳴り響く。
みれば、巨大な飛竜がそのまま、魔導砲に体当たりしたらしく、
その衝撃に耐えかね…本来ならば衝撃をも吸収する結界がほどこされていたそれ…
それらは今現在、このあたりに吹き荒れている吹雪のマナにより綺麗さっぱり無効化されていたりする。
ゆえに物理攻撃も簡単に通用し、もののみごとに空に浮かぶ島よりでていた二つの塔が崩れ落ちる。
ディザイアン達が攻撃をしかけようとしても、なぜかマナがつむげないでいる模様。
「…ウェントス。あとはまかせた。ムーはある程度したらもどっていいよ?」
『は』
『わかりました』
そのまま、ひらり、と竜の背から飛び降り、大地の上へ。
その言葉をうけ、大気が歪む。
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あとがきもどき:
薫:そろそろ初期は記憶喪失バージョンのやつに近づいてきている今日この頃。
だんだん自重しなくなってきているラタトスク様(まて
あちらのほうははじめっから自重、ということばなしの全開ですからねぇ(笑
というわけで(何が?)その初期記憶喪失バージョンの一部分をば。
マーテル教会聖堂は、村の北門を抜けた先にとある。
校舎を抜けだしたロイド、コレット、ジーニアスは門の手前まできたが顔を見合わせてしまう。
いつもならば洗濯するにぎやかな女の人の話し声がきこえ、
まだ学校にあがるには早い幼児が元気に走り回っている時間。
「あ!お父様!」
ふとコレットがそこに見知った人影をみて声をだす。
「コレット!無事だったのか」
コレットの父親…フランクは、コレットの姿を家の中からみつけたらしく、心底ほっとした表情をする。
「フランク叔父さん。皆はどうしちゃったの?」
ジーニアスの問いにフランクは眉をひそめ、
「大丈夫。皆隠れているよ。ディザイアンが侵入してきたんだ」
「え?だってこの村は不可侵条約を結んでいるはずだろ?やつらの牧場に関知しないかわりに、
こっちのことも襲わないっていう」
ロイドが眉をしかめると、
「ああ。そのせいかどうかはわからないが…やつらは村を素通りして聖堂のほうへむかっていった。
…もっともどこからともなく現れた魔物達が奴らをずっと牽制してたのが大きいがな……」
ディザイアン達が村にはいるとどこからともなく空から大地から魔物が出現し、
あっというまに彼らを取り囲んだ。
ちなみに村人に関してはまったく魔物達は興味を示さず。
「…あれ、逆にディザイアンのほうが驚いたんじゃないのかな……」
ぽつり、というフランクの気持ちは…まあ、わからなくはない。
そういえば、とおもう。
エミルがきてからこのかた、村に害意をもったものが入り込もうとするならば、
どこからともなく魔物達があらわれてそんな奴らを牽制していたりする。
そして、エミルが近くによれば魔物達はこぞっとエミルに甘える、という循環がここ半年つづいている。
もはやゆえに慣れたもの。
「あ~。エミルがらみか」
「納得」
「魔物さんたち、エミルのこと大好きみたいだもんね」
「あれは大好きってレベルじゃないだろ。おい」
しかも、この半年。
エミルがきてから魔物が村に食料などまでとどけているのである。
唖然としないほうがどうかしている。
村人たちは今ではたすかる、といって状況になれてしまっているのだが。
常識的に考えて絶対にありえないこどか実情おこっているこのイセリア村の現状。
しかし慣れてしまったゆえに子供達も村人たちも動じない。
…人は、状況になれる生き物である、という典型的な例、であろう。
ディザイアンとの不可侵条約はコレットが産まれたことで、彼女をまもるために、
ディザイアンと村との間で結ばれた契約だ、コレットはそう祖母から聞かされている。
祖母のファイドラはコレットの母親がなくなったあと、彼女をたすけてくれた大切な家族であり母親がわり。
「そういえば、おばあさまは!?」
そこに祖母の姿がないことにきづき、コレットの顔が青ざめる。
「お義母さんは聖堂だ。儀式の準備のために出かけていった」
「けど。聖堂にはディザイアン達がいるんだろ?大丈夫なのか?フィドラばあさん」
「心配いらないよ。ロイド。祭司の方々が一緒だからな。それよりコレット……」
フランクはコレットのほうに向きなおると慈愛のこもった目で娘をみつめる。
「はい。わかっています。お父様。神子としての使命。必ず果たしてみせます。ご安心ください」
コレットはそういうとほほ笑みながら父親を見つめ返す。
「頑張るんだよ。私は何もしてなれないが……」
産まれたときから決まっていた運命。
どうにもできないむなしさ。
救いの塔が出現しなければいい、と祈っていたのに。
しかしお告げにより娘の運命は…もう、決定的に決まってしまった。
フランクは胸が一杯になってしまい、そこで言葉をとぎらせ、
そのまま家の中へともどっていってしまう。
そのままそこにいれば泣いてしまいそうで。
彼女にたいして謝ってしまいそうで。
…神子としての使命、それは命を世界にささげる、ということなのだから……
「お父様……」
「とにかく。聖堂へいってみようぜ。ばあさんも心配だし」
「そうだね。でもよく考えたら姉さんもあそこにいったんだった。
ばったりあったりして」
ジーニアスはぶるっと肩をふるわせる。
「お前、怖がりすぎなんだよ」
ロイドは苦笑し、親友の背中を押した。
こんな感じで、もはや村人たちを含めてロイド達ですら、慣れになれてしまってマヒしてますv
エミル=魔物が従う&貢物をしてくる。という常識になってるこの現状v
人間、状況になれる生き物なのさ~(こらこらこら
2013年6月2日(火)某日
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