まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
雷の神殿の回です。すなわちコリンが……
ほとんど電撃文庫の内容とかぶってますが、それはご容赦をば。
ともあれ、いきまーす。
次の更新からは遅くなる…かも…?
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「本当によろしいのですか?ヴォルトとの契約が失敗すれば、神子の奪還が難しくなります。
それにロイドは重要な手駒…」
神殿の前。
誰もこないように見張りながらも、入口にて腕をくんでいるユアンとボーダ。
そんな中、ボーダが横にいるユアンにといってくる。
「マナ」
「え?」
「マナの流れをよめば中で何がおこっているかがわかる。
状況がきびしくなったら手をかしにかけつければよい」
この地はマナにあふれている。
精霊達の神殿は常にそう。
たしかに先日よりマナがかなり増えているのがきにかかる。
しかも感じるのは精霊によるマナの循環すら断ち切られている模様。
いつも感じていたはずのマナの流れがまったくみあたらなくなっている。
それこそ、再生の神子一行が風の封印をといた、というその前後辺りから。
正確にいえば…アスカードでかの偽精霊を倒したとおもわれしそのときから。
「ふ。そんな目でみるな。…すこし、みてみたくなったのだ。アレの息子が、どれほどのものかをな」
ありえない誕生だとユアンとて自覚している。
無機生命体と有機生命体とが融合しているような自分達、天使のありよう。
そして、まだ不完全ながらもエクスフィアと融合せし間にうまれた、天然の子供。
すなわち、人工的に歪められたものでなく、あくまでも自然に。
それがあたりまえとしてうまれしあらたな命。
異種族同士での子供は生まれにくい、というのに。
「それに…あの子供がいる」
「…あの、エミル、とかいう子供ですか?」
「あの子は…何かが、違う」
傍にて感じた気配。
あの子供の近くには時折かのセンチュリオン達に近いような気配を感じることがある。
魔物を使役する子供。
それだけではないような。
どうみても普通のヒト、でしかないのに、ときおり感じるは、自然と一体化しているかのようなマナのありよう。
ちらり、と話しを耳にはさんだかぎり、かの子供は大樹の枝なるものを所有しているとかいないとか。
「それに…彼らが成功すれば、彼らに別の意味で協力を仰ぐことも可能だ」
水の祭壇の精霊。
かの地の精霊と契約し、あのユニコーンを解放したことまではすでにつかんでいる。
水の精霊と雷の精霊。
それは一対とかしている精霊の楔。
「ユアン様……」
「これ以上、マーテルを苦しませるわけにはいかんだろう。
大樹の精霊ラタトスクとの契約を反故にしたまま、というわけにも、な」
マーテルはこの大地をとても大切にしていた。
しかしかの精霊は、人があまりに愚かであったがゆえに、大地をいちど海に還そうとしていたときく。
今のありようが…精霊ラタトスクが目覚めてしまえばその決定を発動しかねない。
その前に、あるべきものをあるべき姿へともどそうとする。
ユアンの想いは…おそらく間違いでは…ない。
おしむべきは、ユアンの過ちは、すでに大樹の精霊ラタトスクは目覚め、
常にシルヴァランド一行とともにいる、ということ。
それを知らない、いまだに気づいていない、その一点につきる。
光と闇の協奏曲 ~雷の神殿と失いしもの~
雷の神殿。
フラノールから船で北西に進んだ位置にある島にとある雷の精霊を祀っているといわれている場所。
外からみればこけむしているようにみえるその建物の周囲には
いたるところにて落雷が起こっているのがみてとれる。
空はある程度晴れているのにひっきりなしに稲妻がひかっている。
ユアン達はどうやら神殿の入口でまっていたらしく、
ロイド達が到着するとともに中にとはいってゆく。
何でも手続きとかいうものが必要、とのことらしい。
「ここは関係者以外立ち入り禁止だ」
神殿に入る前にて立ち往生。
雷の神殿に入ろうとすると甲冑に身をつつんだ二人の警備の兵士がすかさず武器を振り上げて叫んでくる。
「許可はもらっている。我らはレネゲードだ」
いいつつ、ユアンがだすのは一枚の書類。
「こ、これは失礼しました」
「しばらくこの場は我らが借りうける」
「は。報告はうけております」
「これは。ようこそ。私は サイバックの王立研究院で院長を務めておりますシュナイダーといいます。
実は現在、雷の神殿は危険なので
王立研究院の許可がないと立ち入りできないことになっているのですが。
このたびは特例、ということでお話しはうけたまっております。
しばらくは危険回避のため、我らはあなた達がきたら一時期撤退するように、と。
今、この神殿内部は空間がかなり不安定です。
次元がどうやら狂っているもようです。おきをつけてください」
どうやら話しは通じていたらしいが、撤退云々は穏やかではない。
「おいおい……」
ゆえにゼロスがおもわずづふやくが、まあその気もちはわからなくもないであろう。
「何か気がかりなことがあるのか?」
リーガルが横をあるくリフィルにとといかける。
リフィルはここ数日、ユアン達から預かった書物を徹夜で解読していたのはしっている。
それゆえの問いかけ。
「ええ。今回の契約のことなのだけど。昨日、借りた書物にもかかれていたわ。
ヴォルトはかなり特殊な言葉をつかう。人間には判読不能、と。
わたしにうまく通訳ができればいいのだけど……」
「通訳がうまくいかなければ、うまく契約がいかない、というわけか。
そのあたりは、エミル、どうなのだ?」
「え?だからどうして僕にリーガルさんまできくんですか?」
なぜに彼らは自分にきくのだろうか。
それゆえのエミルの疑問。
ちなみに、今、エミルの傍にいるのはトリトニスとグラキエス達。
トリトニスは鼠のような黄色いみたこともない魔物の姿をしておりその大きさは人の子供ほどの大きさ。
グラキエスは前回とおなじく、うさぎのような姿をして傍にいる。
どちらにしてもあるいみで愛らしい姿、といえるのだが。
この組み合わせは何でもエイト・センチュリオン達がそろっては、
常になぜかじゃんけんをしてきめている、とのこと。
ちなみに勝ち抜き戦。一周するごとにジャンケンしては決めているらしい。
それをきいたときにはエミルはおもわずあきれたが。
「そもそもあの言葉を忘れてる人が僕からすれば信じられないというか……」
ヴォルトがつかいしは、この世界での始めの言葉。
移住したデリス・カーラーンの民がつかっていた言葉。
なぜかその言葉を懐かしく語っていたせいか、
ヴォルトはそれを自らの言葉となした。
あの当時。
トリトニス曰く、ヴォルトは少しでもラタトスク様に喜んでほしいのですよ、とのことだったが。
「やはりしっているのか?」
といかけるリーガルにエミルはただ笑みをうかべるのみ。
なつかしき記憶。
そういえば、とおもう。
ノルンは元気でやっているだろうか。
さみしがり屋のあのこは、と。
「おお!?ここには石板がない!?なぜだ!?
繁栄世界には遺跡の封印をとく必要がないのか?!実に興味深い!」
外からは苔むしたようにしかみえない塔、それが雷の神殿。
その神殿に到着した直後、いつものようにリフィルが目をかがやかす。
遺跡にたどりつくと、リフィルが目をかがやかしそんなことをいってくる。
周囲にある遺跡らしき柱にふれるとびりびりと体感できる。
どうやらこのあたり一帯が完全に帯電状態になっているらしい。
「とにかく、中にいくぞ!」
元気よく遺跡モードのまま中にとはいってゆくリフィルの姿。
神殿の中ははてしなく薄暗い。
前がみえない、だの何だのと文句をいっているロイドにため息ひとつ。
「…しかたない。こい。ウィルオーウィスプ」
すっとエミルが手を前につきだし、言葉をつむぐ。
それとともに、目の前に青白い魔方陣が浮かび上がり、
そこから三体ほどの青白い炎をまとった球、のようなものが出現する。
「な、魔物!?」
リーガルとゼロスがそれをみて身構えるが。
「うわ。ひさしぶりにみた。エミルの魔物よび」
「トリエット遺跡でみた以降なかったような気がする。あ、鳥の移動があったか」
「あと、アスガード牧場であったじゃない」
しかも強力なのが。
どうやらあの出来事はロイド達の中ではなかったこと、みなかったことに換算されているらしい。
そんなことをいっているジーニアスとロイド。
そんな二人に突っ込みをいれているリフィルであるが。
そのまま、エミルと、そしてあらわれた魔物をみて、
「エミル。すこしいいかしら?それは何?」
エミルにとといかけているリフィル。
そんなリフィルの問いかけに、
「え?ですからウィルオーウィスプ達ですけど?」
答えになっていない。
ちなみに火属性の魔物ではあるが、特徴は青白い炎をもっている、ということ。
暗闇を青白い炎がてらしだし、青白い光によって周囲の視界が確保される。
「この子達は雷とも相性がいいですしね」
その性質上、雷によって消えることもない。
それゆえの選択。
「…あのアスガード牧場でのことといい、あなたは本当にいったい……」
リフィルのつぶやきをエミルはさらり、と無視。
と。
「うわっ!」
何気なくであろう、通路脇にとある柱に触れたジーニアスが思わず叫びとともに飛び上がる。
「い、今、何かびりっときたよ!?」
よくよくみれば、ひっきりなしに、床や壁のどこかでかならず火花が散っているのがみてとれる。
しかもそれらの火花は気のせいか、ときおり空間ごと渡っているかのように、
たとえば右にあらわれた、とおもえばきづけば直後に左からでてきているものも。
エミルが…ラタトスクが命じているがゆえに、この場所は空間同士をつなぐ場となっている。
ゆえに、すこしばかり次元が歪んでいるだけのこと。
どちらの世界にもつうじる道がこの神殿の内部ではどこにでもつながっている。
「おそらく。この建物全体が帯電しているのだろう」
リーガルが壁にふれると、やはりぴりり、とした感じをうける。
それゆえのリーガルの説明。
「うわ。あぶね!こんなところ長いこといたらいつかくろこげになっちゃうぞ」
そうこう話していると、近くにどこからともなく雷、
正確にいうならば稲妻がいくつも床にとおちてくる。
どこから発生している、といいたくなるほどに。
どうみても何もない空中から突如として稲妻は発生しているらしい。
「この建物自体が帯電しているのであろうな。
たしかに、これではいつ我々に雷がおちてくるかわからんが…」
リーガルもその様をまのあたりにしおもわずつぶやく。
「じゃあ、何かの拍子に僕たちに雷がおちてくるかもしれないってこと?」
ジーニアスがおそろしそうに身を縮める。
「つっても、まだ精霊と契約してないし……まだ入口に差し掛かったばかりでこれかよ…」
ロイドのため息。
「早くヴォルトにあわなくてはな」
もしも灯りがない状態ですすんでいけば、みれば足場も狭い場所も多々とある。
考えるだけでおそろしい。
エミルが呼んだらしき魔物もきになるが…というより、ヒトが魔物を呼べ、さらに使役するなど。
リーガルとて聞いたことすらない。
しいなはしいなでここにくる前がずっとだまっているまま。
「どうしたの?しいな…やっぱり、不安なの?」
そんなしいなにふあんそうによりそいながらも肩にとまってといかけているコリン。
「…そりゃあ、そうだよ」
不安がない、といえばウソになる。
違うのはあのときは灯りは頭領自らがつけてくれていた、ということ。
「大丈夫。いざとなったら、コリンがしいなを守るから、ね?」
心配してくれているのであろう、そんなコリンの台詞に、
「…ありがたいけどさ。でもあんたじゃ…力不足だとおもうよ。もちろん、あたしもね」
力なく笑うしかないしいな。
どうしてもここにくればかつての…七歳の出来事が脳裏にフラッシュバックしてしまう。
それゆえの…弱気。
「…そんな後ろ向きじゃダメだよ。コリン。頑張るから。しいなも頑張ろう!」
「…ああ」
たしかにいつかは乗り越えなけれは゛いけない、とはおもう。
だけども…それをするときは一人で、とおもっていたのもまた事実。
また、大切なひとを自分のせいで失うのは…
……仲間を失うのは、もう二度と、そうおもっているがゆえのしいなの弱気。
そんな会話が耳にはいったらしく、
「しいな、大丈夫かなぁ」
背後を遅れてやってきているしいなをみて心配そうにいっているジーニアス。
「…信じてやるんだ。俺達がしんじないで誰が信じてやるんだよ」
コリンにもいわれた。
自分にできること。
それは今は信じることしかできない。
それゆえのロイドの台詞。
「美しい信頼関係だなぁ」
そんな彼らの会話をきき、横からゼロスが口をはさんでくる。
「ちゃかすんじゃねえ!」
ゼロスにたいしロイドがおもわずいいかえすが、
「ちゃかしてねぇよ。もしも、だ。今から契約を結ぶのが俺様の仕事だったりしたら、
さすがのロイド君も手放しじゃ信用できないだろ?」
「ホントだね」
そのことばにじとめとなり即座にいいかえしているジーニアス。
「ガキんちょは黙ってろっつ~の!ま、そんなわけで。時間の積み重ねがうんだ美しい信頼関係だなあってさ」
よくもまあ、他人を信じられるとおもう。
それゆえのゼロスの台詞。
「しいなは仲間だ。あたりまえだろ。お前だって仲間なんだし。信用してるぜ。俺」
「…ふ~ん」
人を信用させては裏切る様を幾度もまのあたりにしている。
それらを乗り越えて、人の中でわたってゆく様は嫌でもみについた。
こいつ、人に裏切られたことがあるみたいだったけど、まだまだだな。
そんなことをふと思う。
それに、とちらり、とエミルのほうをみる。
魔物を呼ぶこと、といい、その魔物が大人しく従っていること、といい。
さらに傍にいるであろうものたちはセンチュリオン、となのっている。
それはアステルの報告にありしかの精霊の特徴を示すものとよく似ている。
魔物の王、センチュリオン達を従えしもの。
大樹カーラーンの精霊、ラタトスク。
この世界をうみだせしもの。
しかしゼロスは気づかない。
よもやエミルがそのラタトスク、そのものだ、ということに。
関係者だろう、とは予測はつけているが。
まあ、誰しもおもわないであろう。
よもやそんな精霊が人の姿で傍にいる、ということなどは。
「…何だい?これ?」
最深部であろう。
そこにはくるくると四色の色を帯びた光りがまっている。
「前にきたときはこんなものは……」
以前にきたときには、ここにヴォルトがいた。
ヴォルトを呼び出す鍵となる避雷針のような祭壇があったはずの場所。
ゆえにしいながおもわずつぶやくが。
「あ、僕ちょっとこの奥に用事があるから」
いいつつ、エミルがすっと手をかざす。
それとどうじ、四色の光りがそれらの四色でくるくるまわる光をつらぬき、
その光りはゆっくりときえてゆく。
それとどうじ、背後の壁がゆっくりと開く。
『え?』
一同が唖然としている中、そのままエミルはそちらにあるいていき、
「すぐに避雷針がでてくるとおもうから、がんばってね」
それだけいいつつ、エミルは奥にとはいってゆく。
「エミル…あの子は…」
そういえば、とおもう。
トリエット遺跡でもエミルは隠された道をしっていた。
ここでもそうだ、というのだろうか。
ここはシルヴァランドではない、というのに。
やがてエミルのいうとおり、床より避雷針をかたどったかのような祭壇が床よりせりあがり、
バチバチ、という音とともにその真上に巨大な球体のようなものが出現する。
それは常に微妙に色わかえ、バチバチと音をたてている。
それとともに周囲にバチバチと電気らしきものが走っているのが嫌でもわかる。
その球体の中にあるは二つの真赤な目。
「これがヴォルト…てごわそうだねぇ」
ゼロスが球体をみてわざとらしく体を震わせいってくる。
「…いよいよだな」
リーガルがつぶやき、
「しいな。がんばれ。俺達がついている」
ロイドは祭壇の前にたつしいなの背中にと声をかける。
ロイドの声をうけ、こくり、とうなづくしいな。
今度こそ、今度こそ失敗できない!
そう心にいいきかせ、
「いくよ!」
息をととのえ、祭壇の前へ。
と。
「・・・・・・・・・・・」
祭壇の前にとたつしいなにヴォルトが何かを告げ始める。
くぐもっていてかとおもうと、ばちっとはじける。
そんな聞きとりずらい声。
耳に流れ込んでくる言葉にしいなは愕然とする。
わからない…少しは成長したかとおもっていたのに!
そうおもうが言葉はわからないまま。
「…まただ。昔と同じだよ!こいつは何をいってるんだい!」
精霊ウンディーネと契約し、あるいはヴォルトの言葉が理解できるようになっているかもしれない。
そんなひそかな期待を抱いていただけにしいなは落胆のあまり混乱して叫び一歩あとずさる。
と。
「我は雷を支配するもの」
リフィルがじっとヴォルトらしきそれをみて淡々といってくる。
「え?」
おもわずリフィルのほうをふりむくしいな。
「古代語だよ。しいな、古代語だよ。ヴォルトはエルフの古い言葉をつかってる!」
ジーニアスも気づいたらしく、しいなにむけて言い放つ。
「エルフの…古代…語?」
いまだにヴォルトは貝毒不明な言葉を常にいっている。
おもわずそれをうけて茫然とするしいな。
「前回の契約が失敗したのは、古代語を理解できるものがいなかったせい」
淡々とそれにきづき、そんなことをいっているプレセア。
「ラッキー!先生とジーニアスがエルフでたすかったぜ!」
「って、いたいよ、ロイド!」
目の前にいるジーニアスをそのまま後ろからはがいじめにし、
何やらそんなことをいっているロイドの姿がしいなの目にとはいってくる。
緊張感の欠片もない。
「何とかなりそうよ。私が訳すわ。
『我は雷を支配する精霊。我はミトスとの契約に縛られるもの。お前はなにものだ?』
そういっているわ」
リフィルの翻訳。
「また、ミトス?テセアラとシルヴァランドの両方の精霊と契約できるなんておかしくないか?」
ミトスときいてロイドは首をかしげる。
ちなみにようやくジーニアスを解放しているようではあるが。
「そうだよね。ミトスもレアバードで二つの世界を行き来してたのかな?」
完全に二人ともあることを失念しているのがわかる。
「おいおい。二人とも、ぼけちまったのか?
二つの世界にしたのはミトス・ユグドラシルってやつだってタイガのおっさんがいってただろうに」
そんな二人にたいし、ゼロスはあきれるしかない。
しかもタイガがいうには、勇者ミトスがこのような世界をつくりあげた、というのだから。
彼らの情報が信頼性にあたいする、というのはゼロスはよくわかっている。
「あたしはしいな。ヴォルトがミトスとの契約を破棄し、あたしとの新たな契約をすることを望んでいる」
リフィルにいわれ、ようやく落ち着きをとりもどし、それでも息をととのえつつも用件をきりだすしいな。
いまだに奥にといってしまったエミルはもどってこない。
精霊ヴォルトがまた何ごとかを告げる。
「『ミトスとの契約は破棄された、といっているわ。しかし、私はもう契約を望まない』ですって」
「ど、どうして!」
しいなの叫び。
「『人とかかわりはもうもたない。だから契約は望まない。ヒトはうらぎる』…うらぎり?」
ヴォルトの言葉にリフィルは一瞬考え込む。
ウンディーネもにたようなことをいっていたような気もしなくもない。
約束をたがえたときには契約の破棄を、と。
「…っ!それじゃぁ、こまるんだ!」
その言葉をうけ、あせり符を投げようとかまえるしいな。
「ダメだ!しいな!無理やり戦うなんて!しいな!むちゃするな!」
ロイドがあわててとめるが。
直後。
ビシァァッン!
ヴォルトが激しい電気を放つ。
それは放電するかのごとくのいくつもの電撃。
しいなの背後にいたロイド達全員が吹き飛ばされ、固い雪にと叩きつけられる。
「皆!これじゃぁ、あのときと同じじゃないか!」
しいなの脳裏にうかぶは、かつての光景。
七歳のときの光景。
吹き飛ばされた人達は、その一撃でもう…
「あ…ああ…あああっっっ!」
記憶のフラッシュバック。
しいなは両手で頭をかかえ叫びだす。
それまでじっとしていたヴォルトが祭壇をはなれ、しいなの方へと移動する。
素質を自らが見極めればよい。
それがトリトニスから伝えられた王の決定。
契約を交わすにしろ拒否するにしろ自由、といわれた。
しかし最低、ミトスとの契約破棄だけはみとめ、枷をはずせ、とも。
どうして王はヒトを許せるのか。
ヴォルトにはそれがわからない。
手ひどく裏切りをしたヒトだというのに。
エルフにしてもそう。
大樹が枯れたとき、エルフも戦争に加担していた。
自分達精霊をもとらえ、力としようとしていたヒト。
それはセンチュリオン達の力で阻止されたが。
それでも、王が信じた人ならば、と力をかした。
その結果が手ひどい裏切り。
四千年にもおよぶ世界の停滞と、大いなる実りの力がだんだん日々失われきているのも感じ取られた。
だからこそ、もう人は信用できない、というのがヴォルトの本音。
問答無用で力づくでねじ伏せようとする。
そんな人の心が許せない。
力が全て。
それゆえにヒトは間違いをおかす。
ゆえに、そんな行動をしようとした目の前の契約の候補者を許せるはずもない。
祭壇をはなれ、しいなと呼ばれていたヒトのほうへと移動する。
ヴォルトの中央が渦をまいて光をはなつ。
それは相手を再び攻撃するために力をためている証拠。
球体の中央が渦をまいてひかる。
彼女を攻撃しようと精霊が電気をためたのがみてとれる。
しいながはっと気付いたときにはすでにおそく、精霊の体がひときわつよく光を放つ。
「ああっ!?」
その瞬間。
何かが飛んだ。
しいなと、そしてヴォルトとの間に。
「コ…コリン!?」
しいなをヴォルトの攻撃からまもるために、コリンが捨て身で飛び込んだらしい。
電撃をまともにくらったコリンの体はしばらく空中でピリビリと震えていたが、
やがてそのまま床にとおちる。
ヴォルトの力は普通の雷ではない。
微精霊の集まりであり仮初めに人につくられし器がそれに耐えられるはずもない。
「…!コリン!…コリン!…どうして!」
コリンにかけよったしいなの背後から精霊が再び狙いをさだめる。
「しいな!」
次に電撃をさえぎったのはロイドの剣。
ヴォルトからすれば理解不能。
どうして愚かでしかないヒトを同胞たる…いくら人工的につくられし精霊とはいえ、
そんなヒトを身をていしてかばおうとしたのか。
目の前のまだうまれてまもないあらたな精霊…同胞たりえる存在は。
「しいな!しっかりしろ!」
そんなしいなに、ふと聞きなれた声がきこえてくる。
みれば、しいなの目の前にはロイドの姿が。
ロイドがしいなの前にてヴォルトの攻撃からかばっている様子が目にはいる。
「あ…無事…だったんだね!?」
あの一撃でもう命はなくなった、そうおもっていた。
昔がそうであったように。
それゆえのしいなの言葉。
「あたりまえだ、俺達はしなない、といったろ?」
そのことばにほっとするも、すぐさまにコリンのことを思い出す。
「コリン!」
コリンの横にかけより、体をつかもうとするが、
すでに実体がたもてなくなっているらしく、しいなの手はコリンの体をすりぬける。
「しい…な…」
コリンがよわよわしく話しかけてくる。
「しい…な。ヴォルトは人間を信じられなくなっているだけ。……コリンの昔とおなじだよ。
ちゃんと誓いをたててもう一度契約してごらんよ。しいななら…できるよ」
「コリン……」
しいなは涙があふれそうになっている目をしばたたかせ、コリンの名をよぶ。
ひっしに抱き上げようとするのに、コリンの体は手を素通りするばかり。
あの事故以来、里で孤立する自分を支え続けていたコリンの命が、今、きえかかっている。
それなのにどうにもしいなにはできない。
「ずっと…一緒にいるっていったのに…約束したのに…ごめんね…しいな…
……これ以上、力になれなくて…ごめんね…もう、実体をたもて……」
「死なないで…死なないで、コリンっっっっっ!」
「・・・・・・・・・」
なぜ命をかけて、自分の消滅をかけてまでそのようなものをたすける?あらたなる同胞よ。
それは問いかけ。
消えゆくコリンにもヴォルトの精霊原語で語られた言葉はわかる。
だから。
ねえ。雷の精霊ヴォルト様?しいなはね。しいなは、とてもやさしいの。
産まれたコリンに心をくれたヒト。きえるだけでしかなかったコリンの存在を確定させてくれたヒト、だから。
しいなは、裏切るようなヒトじゃあ、ない。
コリンが語りしは精霊原語。
すでに器にての言葉は発することはできない。
が、精霊としての精神体でならばそれは可能。
その言葉はしいなにはとどかないにしろ。
小さな体はビクン、と計連すると、そのまま静かにその場から消滅する。
人がつくりし仮初めの器。
それがコリンが今依代にしていたもの。
コリンそのものは理をもっていなかっだかゆえに自力での実体化はできないものであった。
そんなコリンに力をあたえたのが…しいなのコリンにたいする態度。
真摯にむきあう、一個体、としてあつかい、名をつけたことによりうまれし絆。
「コリーン!まって、いかないで!コリン!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
絶叫するしいな。
「しいな!しっかりしろ!ヴォルトをねじふせるんだ!
そうしないとお前はいつまでもヴォルトの影におびえていきていくことになるんだぞ!
そんなのコリンが喜ぶとおもうか!コリンの気持ちを無駄にするな!」
つらいこと、酷なことをいっている、とはロイドとて自覚している。
だが、今、目の前にはいつ攻撃をしかけてくるかわからない精霊がいる。
「・・・・・・・・・・」
膝をつき、ぼたぼたと涙をおとしながら、コリンの消えた床をなでまわしていたしいなは、
その言葉にきっと顔をあげる。
「…あたしを、命がけでまもってくれた皆のためにも…ヴォルト!お前の力をかせっ!」
――新たにうまれし精霊に心をあたえし人。まだ信じるに値するかもしれぬだろう?
ふときこえてくる王の声。
この奥の祭壇…センチュリオンの祭壇にいっている精霊ラタトスクの声がヴォルトにと聞こえてくる。
それでも、とおもう。
ヒトは大切なものをうしないしとき、堕ちることもあれば奮起することもある。
このモノはどちらになるのか。
ミトスは…堕ちた。
世界を裏切る方向へ。
このものにとって、あの精霊は何ものにもかえがたいものであったのであろうというのは、
今の絶叫で何となくは理解した。
それでもヒトは自分だけがかわいい生物でもある。
だからこそ王がそういうがヴォルトとしては確かめたい。
目の前のヒトの、決意、を。
ヴォルトは低いうなり声のようなものをあげると、しいなにとせまってくる。
それは唸り声ではなく、確認。
ならばその決意のほどを示してみよ、という。
「脅しはきかないよ!炸力符!」
しいなの札はまっすぐに、精霊めがけてとんでいき、球をつくっているその体をゆがませる。
ここでまけたら、何にもならない。
雷を使役する精霊との戦い。
ウンディーネのときとは比べものにはならないほどにきつい。
それでも、譲れないものがある。
「ヴォルト!覚悟!蛇狗翔符!」
懇親の力をこめて札を放つ。
ロイドがヴォルトの動きをとめるためにひたすらに剣をふるい続けていたおかげか、
次々と札をうけた精霊の内部で幾度も小さな爆発がおこる。
グワァァッン!
ヴォルトは大音響とともに一瞬、はじけ散る。
「やった!?」
肩でいきをしながら、しずかに元の球体に何ごともなくもどってゆく精霊の姿をみつめる。
かなりきつく攻撃をしかけた、というのに。
目の前のヒトは諦める、ということをしなかった。
その目にやどりし光に嘘はない。
かつて、堕ちる前のミトスがやどしていた光とおなじもの。
…王がまだ信じてみよう、とおもう気もちが少しだけわかる。
どちらにしろ、王にとってこの世界にある命は全て愛しき子供達であることを自覚している。
ならば、今、自分にできることは…
「・・・・・・・・・・・・」
「また何かいってるぞ!?」
ロイドがおもわず身構えるが。
「まって。訳すわ。『我は証をもとめる。汝が契約を施行するに相応しいに値するものかどうか。証を。
その証は、汝の力と心。我は証をもとめる。汝が契約するにふさわしいものである、という証を』」
「ええ!?」
「まだたりないの!?」
ロイドとジーニアスがその言葉をきき、おもわずのけぞるが。
「まだだ。示すべきは力と心。…心が、まだだ」
しいながそれにきづき、一歩前にとすすみでる。
「我、今、雷の精霊に願いたてまつる。我と契約を結びたまえ。わが名はしいな。
神秘の里、みずほに伝わりし古の盟約を…受け継ぐものなり!」
いいつつ、真っ白な符をかまえる。
「私を信じて、ここにきてくれた皆のためにも…
そして、コリンのためにも…ヴォルト!あんたの力をかしとくれ!」
それは宣言であり願い。
「…ヴォルトが誓いをたてろ、といっているわ」
…どうやら今のは誓い、とはとらえらななかったのか。
おもわずしいなは脱力してしまう。
だが、気をとりなおし、
「…さっきいったとおりだよ。あたしを命がけでまもってくれた皆のために。
そして、コリンのためにも皆がすむ二つの世界をたすけてあげたい」
それは心からの本音。
そんなしいなの言葉をきき、精霊の目が一瞬細められたようにみえたのは、しいなたちの錯覚か。
「…誓いはたてられた。我の力、契約者しいなに預ける。が、誓いをたがえたときは契約を破棄する、と」
「おわった……」
ゆっくりとしいなの手もとにおちてくるは、サードニックスがはめられた指輪。
と。
突然、マナが渦をまき、目の前にウンディーネがあらわれる。
それこそ召喚もしていない、というのに。
そしてその横にはヴォルトの姿も。
「な、なんだ!?」
「どうしたんだ!?」
ロイド達は何ごとがおきたのか理解できずに、ただあらわれた精霊たちをみつめるのみ。
「二つの世界の楔はときはなたれた……」
淡々とウンディーネが語ってくる。
それは響くような声で、どこかの誰かたちに語るかのように。
「・・・・・」
「まって。訳すわ。相対する二つのマナは…今、分断された?…どういうことなの?」
リフィルは精霊達をみあげる。
「どういうことだ?マナの流れが分断された、というのは?」
リーガルもその言葉に疑問を覚え精霊にと問いかける。
「マナは精霊が眠る世界から目覚めている世界へ流れ込みます」
それこそ王が…精霊ラタトスクが目覚める前までは。
ミトスによってそのようにさせられていた。
「二つの世界で同時に精霊が目覚めたのは初めてのこと。ミトスがこの仕組みをつくってから後なかったこと。
これにより、ミトスが創っていた二つの世界をつなぐ楔は消滅しました」
淡々と語られるウンディーネの説明。
「それって…つまり、シルヴァランドとテセアラとの間でマナが搾取されなくなったってことなのか?」
ロイドの問いに、
「・・・・・」
「二つの世界にある楔は一部解放された、といっているわ」
ヴォルトがそのように説明する。
「そう。二つの世界はやがて完全に分離するでしょう」
今、現在、空間を歪められて存在している世界は完全に分離する。
そして楔がなくなったことにより、
本来の姿にもどろうと歪みをただすべく自然の修正がはいるのが目にみえている。
「二つの世界が切り離されるってこと?」
ジーニアスの問いかけに、
「そりゃあいい。それならお互いにマナを搾取しあわなくても、
マナの取り合いをしなくてもすむっとことじゃねえの」
ゼロスがそのことに気付き、歓迎の声をあげる。
「いえ。まだ全部ではないわ。シルヴァランドの封印は五つ。
最後の塔に精霊はいなかったから四つの封印に対抗する精霊を目覚めさせれば全てのマナを分断できる。
…かもしれない、ということね」
リフィルはそういい精霊達をみあげるが、精霊達は無言のまま。
「じゃあ、テセアラの精霊を目覚めさせればシルヴァランドも救えるし、
テセアラも衰退しなくてすむんだな!」
ロイドの問いかけに、
「……すくなくとも、世界をつなぐ楔は消滅し二つの世界は切り離されるでしょう」
すでに自分達で構成されていたマナの楔というものはセンチュリオン達の復活によりなくなっているのである。
今、彼ら精霊にかせられしは、歪められた世界同士をつなぐ楔、としての役割のみ。
マナはかつてのようにセンチュリオン達によって正確に世界全てに平等にゆきわたっている今現在。
もしもこれがなければマナの楔がぬけたことにより、
二つの世界は分離し、やがて両方の世界の消滅、ということになったであろうが。
王の…大樹の精霊の目覚めとともにその危険性はなくなっている。
しかしそこまで目の前のヒトに教えるつもりもなければ、
そのような許可がでているわけではない。
下手なことをいい、王の考えの邪魔をするわけにもいかない。
ゆえにそのままウンディーネとヴォルトはその場からかききえる。
「そうか。封印には二つの世界をつなぐ、という役割があったのだな」
リーガルが感嘆したらしく何やらつぶやいている。
そんな考えなどおもったこともなかった。
だが、現実に今、精霊がそのようにいった。
かつて、世界が二つにわけられた、というのは習っていた。
その二つの世界がよもや精霊によって繋がれていた、などと一体誰が思うであろう。
「…しいなさんとこりんさんのおかげ、ですね」
「・・・・え?」
「二人が命がけでヴォルトと契約してくれたから。封印の役割もわかったんじゃないでしょうか」
プレセアのその言葉は、しいなの心にすとん、とひびく。
だけども、とおもう。
自分がもっとしっかりしていれば、コリンは…と。
「ああ。そうだよ。しいなとコリンのおかげだ。…ありがとう」
「コリン…ありがとう……」
その呟きにこたえてくれるものはもう、いない。
いつもなら、きにしないで、しいな。
そういっていた声はもう、しいなには聞こえない。
聞くことができない。
ヴォルトにむかっていったコリン。
そのときにはじけとんだ小さな鈴。
ふと足元に鈴があるのにきづき、そっとそれを拾い上げているゼロス。
今はまだ、悲しみで満ちているであろう。
だから今はまだこれは手渡せない。
ゆえにそっと懐にとしまいこむ。
「で、エミルはどこにいったっきりなのさ?」
エミルがむかったのは、この祭壇の奥。
どうみても何やら紋様がかかれている壁…にしかみえないその奥。
場の空気をかえるがごとくにゼロスが肩をすくめて問いかける。
「エミルのことも気になるけど…まずは、ここをでましょう」
いまだ契約したばかりのしいなをずっとここにおいておくわけにはいかない。
ここは、今まさにコリンを失った場所。
しいなの心をおもえば少しでもここから離したほうがいい、というのがリフィルの想い。
ジーニアスの言葉にリフィルがいい。
「…まあ、エミルならまたひょっこりどこからかでてくる可能性があるしな」
ふとトリエット遺跡のことを思い出す。
いきなりきえて、いきなり現れたエミル。
あのときも奥にとつづく道にときえていき、
またいきなりあらわれた道からひょっこりとでてきた。
あれがエミルとの旅の始まり。
そんなロイドの言葉に、
「そういや、おたくらとあの子の出会いっていつであったのさ?」
その言葉にふと顔をみあわせるロイド達。
いわれてみれば、コレットのあるいみなしくずしという決定があったとはいえ、
出会いは信じられないもの。
遺跡の中、しかも神子以外ははいれないはずの遺跡。
そこに魔物とともにいた…しかも雪の中、薄着で行動していた一人の男の子。
「そういえば、あたしもきいてないよ?」
しいながふと思い出したようにいってくる。
行動をたしかに共にしていたとはいえ、しいながしっているのはある程度すすんでから。
彼らと初めてであったのは、とある山道にて。
それより前のことをしいなはしらない。
「トリエット遺跡だよ」
「なんでか遺跡の中に魔物三体といっしょにいたんだよね」
「…そのあとなんか、一撃で封印の魔物をけちらしてたしな……」
手も足もでなかったのに、エミルのたったの一撃で。
あのときのことをおもいだし、ロイドはにがい顔をうかべる。
あのときよりは強くなった、とおもいたいのに。
それでもエミルに到底おいつけていないように思うのはおそらく気のせいではないであろう。
剣技についても、そして心についても。
ここにいつまでもいても、という理由もあり。
また、もう一つの理由としては、エミルがいなくなったことにより、
どうみてもエミルにつきしたがっていた灯りを生み出していた魔物。
それがいないのがかなり痛い。
ヴォルトと契約をすませた、というのにいまだに神殿内部からは落雷の音が鳴り響いている。
ところどころ空間が歪んでいるのか、風景すらも歪んでみえる場所も多々とある。
下手にこのままここにいても、どうにもならない。
そもそも空間の歪みは常に移動しており、下手をすれば彼ら自身もまきこまれかねない。
「さあて。次はいよいよコレットちゃんの救出だな」
慎重に慎重をかさね、ひとまずは外にでよう、
ということにて話しがまとまり、出口にむかい向かっている、
ロイド・ジーニアス・リフィル・リーガル・プレセア・ゼロスの六人の姿。
「…しいながおちこんでいるときにデリカシーがないなぁ」
そんな中、ゼロスが薄暗い道を注意深くあるきつつも、そんなことをいってくる。
そんなゼロスにあきれたようにいっているジーニアス。
いまだにしいなは無言のまま、後ろをずっとあるいているのがみてとれる。
「なぁにいってんだよ。すぎたことをくよくよいってるんじゃないよ」
「そんないい方……」
ゼロスのそのいいかたにプレセアも非難の声をあげてるものの、
「しいなの悲しみは、深く、つらい」
リーガルの顔も沈んでいるのがみてとれる。
「もう、ぜろすは少しだまっててよ」
「へいへい」
彼らはそのまましいなのほうへとむかってゆく。
そんな彼らをみつつ、
「…そんな風に腫れ物をさわるようにしていると、もっとおちこむんだよ。ぼけが」
それが彼女のトラウマを刺激している、とあのものたちは気づいてすらいないらしい。
今、ジーニアス達がとっている態度はまさに、しいながかつて契約を失敗したときの里のものたちと同じ態度。
その態度に非難の色があるかどうか、それだけの違い。
そこに侮蔑し排除するような視線がない、というだけで根本的にはかわりがない。
だからこそあえてゼロスは明るくふるまおうとしているのに、それすらわからないらしい。
「リーガルくらいはわかりそうだ、とおもったんだがねぇ。ったく。
いつまでも昔の恋人にとらわれてるんだ?あの公爵様は」
その呟きをききとがめるものは、誰も、いない。
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あとがきもどき:
薫:コリンとラタトスクとのやり取りは、次回のまえぶりさんにもっていきました。
あれいれたら60KBこえたので…汗
さて、しばらくは元となる小説のストックを打ち込みするのです。
ではでは、また次回にて~
2013年7月1日(月)某日
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