まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ただいま、ようやくきちんと画像スタイルさんがでない理由が判明し。
ひたすらに修正中…
スタイル指定が二か所になってたせいでした…あう…くすん……
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神子がいるというのは、飛竜の巣、といわれる場所らしい。
レネゲードのいうことがどこまで真実かはわからないが、彼らが嘘をつく必要性も感じない。
とりあえずロイド達に報告がてらもどったところ、ロイドがちょうどコレット用の要の紋かわりの
首飾りを仕上げたところらしく、またプレセアの感情も戻っていた。
ロイド達も場所をなぜかクラトスから聞かされていたらしく、その場所も飛竜の場所。
なぜクラトスが、という思いもあるが、しいながレネゲードが接触してきたことをまずつたえ。
彼らがいうにもコレットがつれていかれたのは飛竜の巣、とよばれる場所だ、とつたえたところ。
なぜかやってきたクラトスまでもがそういっていた、とはロイド達談。
ひとまずここで話していても何にもならないこともあり、全員で里へとむかうことに。
光と闇の協奏曲 ~しいなとヴォルト~
「どうしてコレットは使いものにならない、というのかしら?」
みずほの里の近くにまできたとき、リフィルがぽつり、とつぶやく。
「あ。それ俺も考えてた」
ロイドがうなづく。
「神子なのにマーテルの器になれないって意味か?」
「でもそんなはずはないわ。神子として産まれそだったのだから、素質はあるはず……
もしかして、私たちの知らないことがまだあるのかもしれないわね」
「…だったら、なおさらはやくコレットをたすけださないと」
ロイドとリフィルが話しているうちにみずほの里がみえてくる。
「ちょうどよかった。レアバードのありかがわかったところだ」
ロイド達が里につくと、何やら客人がきている、といい、また頭領達が話しがある、とのこと。
ゆえに頭領屋敷にそのまま移動したロイド達。
案内された客間とよばれる部屋でまつことしばし、
はいってきた頭領と副頭領から発せられたる言葉はレアバードを発見した、ということ。
「クラトスのいったとおりだ」
「あいつ、敵のくせに何で助けるようなことをするんだ?」
「……ふっ」
どうでもいいが、なぜに彼らがここにいるのだろう。
そこに座っているユアンがかるく笑みをうかべて笑っているのがみてとれる。
ロイド達がここにきたとき、すでに彼らは先にこの部屋にと座っていた。
みおぼえのある青い髪と黒い髪の男性達。
ユアンとボーダ。
「何だってあんたらがここにいるんだよ」
「しいなから聞いてはいたけど。あなた達が接触してきた、と。コレットの行方をしっている、ときいたわ」
いらだつロイドをせいし、リフィルが問いかける。
「情報の出所は?…一応話しだけは聞かせてもらいましょうか」
「先生。やっぱり罠にきまってるぜ」
感情のままにいらだちをかくさないままにいいはなつロイド。
どうでもいいが、ここがよその家だ、ということを失念しているのではないか。
そうおもうエミルはおそらく間違ってはいないであろう。
「そうだよ。レネゲードが僕たちをたすける理由なんてあるはずないよ」
ジーニアスもそんなロイドとどうやら同じ意見らしい。
どうもこの二人のヒトの子は感情のままにうごいて反省がない。
つくづくおもう。
この二人が感情のままにうごき、周囲がどうなったか、そのことにたいして反省の色がない。
そのときは反省してもすぐにまた同じ過ちをくりかえしているのが一目瞭然。
「…二つ。理由は二つある。一つは、神子に完全天使化を果たされては困る。という点だ。
マーテルの器として完成されてしまっては困るという点で、我々とお前たちは立場を同じくしている」
淡々とそんな二人の台詞をさらっと無視し、完結に用件だけをのべているユアンの表情に動きはない。
「どうだかな。お前たちが何のためにマーテル復活を妨害しているのか。俺達はまだきいてない。
立場が同じかどうかそっちの事情をきいてから…」
ロイドがたちあがりつつも、そういいかけるが。
「二つ。神子の奪還にはお前たちの協力が必要だ。ボーダ」
そんなロイドのことばをさらっとさえぎり、横にいる部下の名をよぶユアン。
「は」
ユアンにいわれ、ボーダがとりだしたのは一枚の地図。
そこには細かな大陸などが書き込まれており、その一点をボーダは指し示す。
「クルシス…クヴァルが神子を監禁しているのは、飛竜の巣」
「飛竜の巣……」
クラトスがいっていた。
神子は飛竜の巣にいる、と。
「雷雲に覆われた天然の要塞。雲が晴れたタイミングを見計らって、飛竜かレアバードで接近する。
それしか攻略の方法はない。しかし、うかつに接近すれば対空砲火の的になるだけ。そこで、だ」
いいつつ、懐から一冊の古びた本をとりだし、ロイド達の前にととあるページをひらいてつきつける。
そこには何やら炎っぽいものがかかれており、
そのよこにはみたことのない文字が…おそらくは古代文字。
がびっちりかかれているのがみてとれる。
「これは……精霊?」
リフィルがそれを覗いておもわずづふやくが、
「いかにも。雷を支配する精霊。ヴォルト。精霊ヴォルトと契約を結んで使役する。
そうすれば、雷雲の中をつっきっての奇襲攻撃が可能となる。
そこで我々は精霊との契約を代々受け継ぐといわれるこのみずほを訪ねた。
聞けば術の継承者はただ一人。藤林しいなに頼むようにと告げられた」
淡々と説明してくるユアンの台詞。
「しいなが?」
みれば、上座にすわりしイガグリ達がうなづいているのがみてとれる。
「彼女は、何と?」
リフィルの問いかけに、
「お前たちに相談してから返事をする、と」
そういわれれば、ユアン達とてかれらに任すしかない。
ゆえにしいなをさがしていた。
まさかしいなのほうから出向いてくるとはおもわなかったが。
「反対!反対!」
「あたりまえだ!こんなやつらとくめるか!」
即座にジーニアスが否定の言葉をいい、ロイドもまた感情のままにと否定する。
「敵の戦力は?」
そんな子供二人とは対照的に冷静に現状を把握しようとといかけているリーガル。
「精錬された兵士が百名以上。
加えてクルシスに飼いならされた…というより操られた超大型の飛竜が控えている」
「じょぅとうだぜ!」
「上等だよ!」
「こっちにはあたらしい仲間もいるんだ!」
「そうさ!」
「しいなに、ゼロスに、リーガルにプレセアも!俺達だけで十分だ!」
何やら勝手にもりあがるお子様二人組。
現状を理解していない、というのがまるわかり。
「で、また勝手に一人でつっぱしって、戦力差も考えずにつきすすんで。
ぼろまけしたあげくに助け出せられる可能性をつぶす、と」
「「うっ」」
さらっといわれるエミルの台詞にうなるしかないロイド。
「ほんと、進歩がないよね。感情だけでうごいて、今までどんなことになってたの?ロイド?
それとも本当はやっぱりコレットをたすけたくはないんでしょ?」
「ち、ちがっ!」
「違わないでしょ?君のいっていることはそういうことだ」
「きついようだが、私もエミルの意見に賛成だ。
協力できるものならば協力したほうがいい。少しでも安全にあの娘を取り返すためにもな」
「そうね。それだけの戦力がいるとなると、協力したほうがいいわ。
コレットを無事にとりもどす可能性が増えるから」
リーガルとリフィルにいわれお子様二人は苦い顔をしているが。
「ほんと、感情のままに動くとどうなるか、今までのことで理解してないのが不思議だよ」
あきれたようなエミルの台詞。
いわれておもう。
イセリアで感情のまま、牧場で行動した結果、何がおこった?
ショコラにたいして、とまどったあげくに彼女に説明できないまま、彼女はどうした?
常に偽りだ、といわれていたのに世界とコレットを計りにかけて、何をまちがえた?
つまり、また今、自分は感情のままに間違いをおかそうとしていた、ということにようやくきづく。
それゆえにロイドは黙り込むしかない。
しばし黙りこんだのち、
「…っ!ユアン。お前、クルシスとどういう関係なんだ!」
一番重要で、それでいて肝心なことをユアンにと問いかけるロイド。
そんなロイドの言葉にユアンはだまったまま。
「…しいなの後見人としてひとつ、昔語りをしておかなければなりますまい。頭領、よろしいですね?」
「うむ」
「しいなはかつて、精霊ヴォルトとの契約を試みたことがあるのです。
あの子には素質があった。ゆえに里のものに認めさすという理由においても、精霊との契約。
それが必要でした。あの子が七歳になったとき、それは実行されました」
「周囲のものがうるさかったからの。素質があろうとも頭領一族にはみとめられぬ、と。
じゃが、あの子はわしらにとっては最後の希望。わしらが失いつつあった召喚の資格をもつもの」
それがもとからいた古人達にとってはおもしろくなかったらしい。
どこのだれともしらない子供が召喚の資格をもっている、ということに。
「…何が不足していたのか。いまだにそれはわかりません。
ヴォルトはしいなを主とは認めず、暴走し、契約の儀式に同行したものたちは…」
そこまでいい、タイガが言葉をつまらせる。
「いまだにこの里のもたちはそのときのことを根にもっておる。しいなのせいではない。
悪いのはわしら動向したものたちがヴォルトの言葉をわかるものがおらんかったせいじゃというに。
あのとき、里をあげての召喚士のあらたな再臨ということもあり、四分の一を引き連れていった。
じゃが…それが裏目にでた。わしはそのときからこのかたずっと目覚めぬまま。
この十数年間ずっと寝た切りじゃった。
そのせいでしいなが里のものにどんな目にあわされておるのか。しりもせなんだ……
忍びともあろうものが任務のことで他者をなじるとは情けないことじゃて。
そんなんじゃからわしらの里から召喚の力が失われたんじゃろうが……」
今までだまって成り行きをみまもっていた頭領イガグリがそんなことをいってくる。
召喚の力は文字通り世界との結び付きをしめすもの。
つまりは、他者と…世界と、異なる者同士が手をとりあうことが最低限の条件となりえるもの。
排除しようとするその精神で、召喚の力が宿るはずもない。
「どちらにしても我らには手段がない。ゆえにお前たちの判断にまかす」
ユアンは淡々と言いつのる。
ロイド達はただただ顔を見合わせるしかない。
「盟約をたがえている以上、彼ら精霊は君たちに加護をあたえない。
みずほの里につたわりし盟約、それを君たちはわすれてるわけではないのでしょう?」
彼らに精霊が協力するにあたり、古にかわした盟約という約束。
加護をあたえるかわりに精霊が彼らにのぞみしことはただ一つ。
それはかつて、彼らがまだある島国に存在していたころからつづいている盟約。
自然とともにあり、自然とともに生活するうえでなされた、精霊達との約束事。
すでにその島国の名すら伝説というかお伽噺の中でしかない。
かつての古代大戦、とよばれる戦いにおいてかの島国は綺麗さっぱりと消滅した。
それこそ人の愚かさにより。
「耳がいたいですな。そのとおりですじゃ。じゃが…若い存在達はそれを忘れかけておる。
まあ、目がさめてかなり一喝し、さらには鍛え直してはおりますがのぉ」
イガグリからしてみれば、さくっとそのことをいわれ耳が痛いことこの上ない。
「エミル?」
エミルが語りしはリフィルも知らない言葉。
それはみずほの民が古より使っていた言葉。
この場でわかるのはユアンくらいであろう。
タイガも一瞬目をみひらくが、しかし頭領からエミルが精霊と会話していた、というのをきいているがゆえに、
かつてのみずほの民の民族言語をしっていても不思議ではない、と判断する。
「みずほの民の四分の一が死んじまった。そうきいてる。結構有名な話しなんだぜ。
…ここ、テセアラの民でみずほの民の話題がでるときには必ずといっていいほどにでるほどにな」
夕暮れをばっくに塀にと座り、ひたすらにコリンをなでているしいなの姿が渡り廊下からみてとれる。
「いくら任務だったとはいえ、ほとんどのものがしいなをよくはおもっちゃいねぇ。
あいつはずっと七つのころからここ、みずほの里で一人ぽっちだったんだよ。
先日になり頭領イガグリが目をさましたようだけどな。
しいなはそれまでずっと…あいつは依頼でうけたお金を全て里につぎこんでる。
…そのしいながまたヴォルトとの契約を望む。…いろいろと思うところがあるんだとおもうぜ。
あいつ自身にも、そしてこの里のものにも、頭領さんたちにもな」
ゼロスの淡々とした言葉。
「…ヴォルトは以前書物でよんだことがあるのだけど。かなり特殊な言葉をつかう、というわ。
もしかしてその言葉を理解できるひとが同行者の中にいなかったのでは?」
リフィルの問いかけに、
「さあな。そこまで俺様も詳しくは…」
そもそも同行していたものでいきのこったのはイガグリだけなのである。
そのイガグリもこの間までずっと床にふせっていたのできけるはずもない。
しいなにきけるはずもなければ、
言葉がわかるものがいなかったのか、ときけるような内容でもなかったのもまた事実。
「この書物にもそのようにかかれている。ヴォルトは特殊な言葉をつかう、と」
「その書物、みせてもらってもいいかしら?」
ユアンがそういうと、リフィルが興味があるらしくそんな二人にとといかける。
「リーダー?いかがいたしますか?」
「いいだろう。我々は協力を要請している立場、なのだからな」
この書物には精霊に関する様々なことがかかれている。
この書物はユアンがむかしから愛用している書物。
ゆえに、これには簡単ではあるが大樹カーラーンの精霊についても多少なりともかかれている。
それは、大樹カーラーンには宿りし精霊がいた、という程度でしかないが。
しかしそこにかかれしものは、カーラーンの精霊は魔物の王でもある、ということも記載されている。
かつての古代言語でかかれているのでリフィル達に解読できるか、といえばあやしいかもしれないが。
しかし古代言語とはエルフの古代語に通じている。
リフィルは幼き日、十をすぎるまでエルフの里で育っているがゆえにその原語を知っている。
「いそいで解読してみるわ。何か手がかりがあるかもしれないもの」
ぱらり、とめくればそこにかかれているのはあからさまなエルフの古代語にちかしい言語。
本をうけとりつつも、リフィルがいう。
「汚さないようにな」
「そんなことするはずないわ」
そもそもみただけでもわかる、かなり古い。
リフィルにとって古きものは保護対象にあたいする。
それゆえにぞんざいに扱えるはずもない。
チリン。
ふと鈴の音にきづきみてみれば、庭の先にたたずむコリンの姿。
しばらく考えをまとめるために、そしていろいろと思うところがあるがゆえ、
縁側、とよばれし場所にとすわり、ぼんやりと庭をみていたロイドの耳に、
ききなれた鈴の音がする。
その音の方向をみてみれば、めずらしくひとりにてそこにいるコリンの姿。
「おまえ、人間がつくった精霊なんだってな。タイガさんにきいたよ。
王立研究院で実験体にされていたおまえをしいながみつけて契約したって」
ちかよってくるコリンにたいし、ロイドが庭先に腰をおろしつつ問いかける。
「…心配?」
「え?」
「契約、心配?」
そんなロイドをみあげつつといかけてきているコリン。
「ヴォルトとの、か?」
契約、といわれおもいつくのはそれしかない。
「ま、そりゃあ、心配といえば心配だけど……」
「しいなのせい!?しいなが昔、契約に失敗して、仲間が皆死んじゃったから?しいなが信用できないから?」
「お、おい」
「しいな、一生けん命やってる!だから、しいなのこ…」
ロイドの言葉に異様に懸命となり叫び始めているコリン。
「まて、まてまてまてって!ちょっとまてよ!」
一気にたたみかけられるようにいい、相手が何か勘違いしている、とようやくロイドもきづく。
それにくわえ、ようやく自分が冷静に物事をみつめないと、という思いにつきあたる。
「っ!」
コリンの体がびくり、と震える。
「…はぁ。そうじゃない。考えてただけだ。俺には何ができるんだろうって」
「…え?」
「しいなはつらい過去と向き合ってる。俺達のために。コレットを救うために。
リーガルやプレセアも何か昔のことをひきずっているように感じるし。
決着をつけきれてないような感じるし。アルテスタさんやゼロス、テセアラの皆が俺達をたすけてくれてる。
でも、俺はあいつらに何もしてやることもできない。
…エミルにもさっきいわれたとおり。いつもその場の感情に流されて間違いをおかしてる。
間違えない、というばっかりでいつも間違ってばかりで……」
自分で考えていない。
感情にながされて、いつもいつも間違ってばかり。
先刻のことでそれを嫌でも思い知った。
わかっていたつもりでも、やはり自分はいつも間違ってしまう。
間違えない、そういっているのは口だけで、自分は何もかわっていないのだ。
そうまるだタダをこねる小さな子供のように。
「…信じてあげて」
「え?」
「しいなのこと、信じてあげて。そして、エミル様も」
コリンのそれは本音。
世界の王たる精霊が何を考えているのかなんてコリンはわからない。
だけども手ひどく裏切られている、そのことは知っているから。
それゆえの言葉。
「?おまえそういえば何でエミルのことなんでいつも様づけ?」
「そ、それは……、そんなことより、しいなのこと信じてあげて。
それがロイドがしいなにしてあけられる一番のこと」
「信じる…か」
「信じて裏切られるのはつらい。けど、信じてもらえないのはもっとつらい。
信じることって、簡単なことじゃないから……。何があっても信じてあげて。
それが、ロイド…君たちヒトができることだ、とおもうから」
それだけいい、顔をしたにむけ、
「しいなは、お仕事してもらったお金を今まで全部里のためにつかってる。
シルヴァランドの神子の暗殺を引き受けたのだって、
頑張りつづければいつか村の人達が許してくれるって信じて。
でも…しいなはいつもこの里では一人ぽっち。タイガさんはよくしてくれたよ?だけど……」
周囲はそうでなかった。
やはり拾い子など里にはふさわしくない。
この子がきたから里に災厄が。
そうずっといわれ育ってきたこの十数年間。
よくもまあひねくれて育たなかったものだ、とはおもう。
それはしいなの心が純粋であり、それゆえに契約の資格をもつがゆえに歪まなかったその信念。
「…コリン、ときどき思う。いっそ信じるのやめちゃえばしいなは楽になるって」
「まてよ。そんなの」
たしかにそれは楽であろう。
逃避しているだけで何もしない、のであれば。
「ロイドだって…ロイドだって、クラトスを信じて、裏切られて…心、痛かったでしょう?」
コリンの言葉に何もいえない。
「心は人も精霊もかわらない。生きているもの全に心はあるんだよ。だから……」
だから、ラタトスク様もきっと。
そうおもう。
人に裏切られ、大樹をからされ…そして、今の世界のありよう。
それでも、と。
「…俺、馬鹿でよかったかもな」
「…え?」
「裏切られたときのことまで考えられないから。信じたいとおもったら信じる。俺にできるのはそれだけだ」
何もかんがえなくて、そのままつきすすんでゆく。
その結果、かなりの被害などがでたのはこの旅が始まってからのような気がするが。
今までもよくあったが、それらは小さなことで、いつもジーニアスやコレットがどうにかしてくれていた。
そのことにふとおもいあたり、ロイドからしてみれば苦笑せざるをえない。
自分はいつも他人に守られてここまできていたのだ、と。
「ロイド。しいなを信じてあげて」
「ああ」
「信じつづけることを信じつづけて」
「ああ」
「…おれ、しいなを探してみるよ。里の外にはいっていないだろうし、みつけて話しをしてみる。
俺だってイセリアでたくさんの人達を…あのとき、俺は仲間がいたから救われた。けど……」
しいなにはそんな存在はいなかった。
その差は大きい。
あまりに里のものがしいなを迫害するがゆえ、神子ゼロスの護衛を引き受けたタイガ。
その任務をしいなに任せたのは、しいなを里のものから守るため。
そのときからしいなとゼロスのあるいみ似た存在同士といえる繋がりという腐れ縁はつづいている。
ロイド達からすこし離れた位置にとはえているちょっとした木。
その木の背後によりかかる人影ひとつ。
ゆくりとそんな二人の会話をききつつもロイドがたちあがったのをみてその場から立ち去る。
そんな彼の姿をみつつ、
「綺麗ごとだよね」
「エミル。おまえ」
いつのまに傍にきていたのであろう。
ゼロスの目が見開かれる。
「信じ続けることを信じて、か。そうしたくてもできないときもあるけどね。
世の中には絶対に譲れない優先順位というものがある」
「…そう、だな。エミル君には何かあるのか?絶対に譲れない優先順位ってやつが」
まだ出会って間もないが、ときおりこのエミルはヒトを客観的にみているようなものいいをする。
それゆえの問いかけ。
ゼロスの抱いている疑問がもしも正解ならば、おそらくこのエミルは…
そんな思いもあっての問いかけ。
「あるよ?僕の優先はあくまでもこの大地の存続」
「…大地?」
これまた象徴的な言葉だとおもう。
「君たちヒトでしかないからね。いつも大地を穢し、世界を破滅に導きかねないのは。
逆に大地を救うことも君たちヒトはできる、というのに。
全員がそんな愚かなものばかりだとあるいみで信じなくてすむから楽なんだけどね。本当に」
それは本音。
「エミル?」
その言葉にはながき年月をなぜか感じさせるものがある。
「…あのロイドって子は僕の知ってる子によくにてる。
まっすぐで…でも、心の闇に堕ちてしまったある子に」
「堕ちた?」
「何でもない。ゼロス。君も間違えたらだめだよ?
言葉の裏に隠された真意を履き違えたらだめだからね」
母親がいったあの台詞は本気ではなかった。
ただ、素直になれなかっただけ。
それでも幼い子供にはその言葉は衝撃で、自分の生を否定されてしまったようなもの。
やがてその場をたちさるエミルをみつつ、
「言葉の裏に隠された真意…か。エミル君…いや、やはり精霊ラタトスクの関係者…か?」
つぶやくゼロスの言葉は、ただただ風にと溶け消える……
コリンはロイドがたちあがると同時、姿をけしており、
ロイドはしばし里の中を探索する。
里の奥のほうに地蔵らしきものや石碑らしきものがあり、そこにみおぼえのある姿をみつけゆっくりと近づく。
野菜畑を超えたさらに先にとある地蔵がたちならぶ、石碑らしき場所。
そこにはロイドがみたこともない文字で何やらいくつもかかれており、
かなりの数の地蔵が並んでいるのがみてとれる。
そんな地蔵の中心というか並ぶ地蔵の先にある巨大な石碑らしきもの。
その前にてすわりこんでいるしいなの姿。
「大丈夫だよ!いざとなったら、コリンがしいなをたすけてあげる。
昔、しいながコリンをたすけてくれたみたいにさ」
「だめだよ…あたしは……」
「…あ」
コリンの視線をめぐり、しいなが振り向く。
「ロイド……」
「探したぜ。しいな」
「…あたしには無理だよ。きいたんだろ?あたしのやっちまったこと……
あたしがヴォルトとの契約に失敗したから大勢の人間が死んでしまったこと……」
「ああ。きいた」
しいなはろいどの視線をさけるようにとうつむく。
「…しいな。おまえはまた失敗する、とおもっているんだな?」
「今度失敗したら…あたしはあんたたちを殺ちまうかもしれないんだ。そんなこと…できないよ!」
「しいな。聞け。俺はしなない。俺達は誰もしなないさ」
「なんで…だよ」
しいなかのおずおずとロイドをみあげる。
「しいなは成功するからさ」
「どうして成功するっていえるんだい?!あたしは一度失敗してるんだよ!」
何もわかっていないようなロイドのいいかたにしいなはおもわずいらだちをかくしきれずに叫び返す。
どうして話しをきいたのにそんないい方ができるのか。
そのいらだちはしいなからしてみても、おそらく第三者からしてみても納得できるものであろう。
「成功する。俺達はすでに何度もしいなが契約した精霊に助けられている。
今度もきっと成功する。俺が保障する。しいなは昔のしいなじゃない。
もう精霊と契約をかわしているじゃないか。大丈夫だ。うまくいく。俺が保障する」
「大丈夫だよ!しいな!コリンも協力するよ!」
コリンがふさふさとした尻尾をふる。
「悪いけど、コリン。あんたじゃ、力不足だ…もちろん、あたしもね」
尻尾が一瞬、びくり、ととまる。
「あのとき…ヴォルトが暴走したんだ。…とてつもない力で…もし、また同じことがおきたら……」
しいなは視線を空中にとさまよわせる。
思い出すのはあのときの光景。
ヴォルトにはじかれ、気がついたらついてきてくれていた皆がたおれている光景。
「心配するなって。そのときはおれがやつをぶったぎってやる!それでおわりだ、な!」
「ロイド…そんなことしたら、もともこもないじゃないか」
しいなは気弱くわらうが。
「…けど、わかったよ。あんたがそこまでいってくれてるんだもんね。…やってみるよ」
どちらにしても、コレットをたすけるためにも、
また、彼らと協力しなくてもレアバードが必要となる以上、
ヴォルトとの契約は必要不可欠、なのだから。
「なあ。おろちとくちなわって兄弟なんだろ?面白い名前だな」
「両方とも、みずほの古い言葉で、へびっていう意味なのさ。
でもそれが本当の名前じゃないんだよ?」
「偽名なんですか?」
プレセアが首をかしげてといかける。
「ちょっと違うけど。みずほには字っていう別名をつける習慣があってね。
本当の名前を隠す習慣があるのさ」
真名には力がある。
真名をもちいて相手を束縛する術も存在している。
それは精霊達とて同じこと。
最も、ラタトスクの真名の場合は、口にしてしまっただけで、
その世界そのものが消滅するほどの力を保有しているのであるが…
その真名をしっているのはセンチュリオン達のみ。
「へぇ。本当の名前はなんていうんだ?」
「さあね。それは本人と親と頭領しかしらないよ。あとは結婚する相手だね」
翌朝。
結局のところ、ユアン達はすこし用事があるというので落ち合う場所は雷の神殿、ということになり。
神殿までは自分達で移動することにときまり、出発の用意をしがてらふとロイドが気になったらしく問いかける。
昨夜、ロイド達の案内をしてくれたのがくちなわ、という青年であり、
かわった名だな、とおもったのが質問の発端。
「しいなさんの名前も字なんですか?」
といかけるプレセアの台詞に、
「ああ。そうさ」
あたりまえ、とばかりにこたえているしいな。
と。
「プレセアちゃん。俺様、しいなの本名しってるぜ?」
そんな会話にわってはいってきているゼロス。
「え!?なんであんたがしってるのさ!」
「しいなの本名は、妖怪暴力鬼女っていうんだぜ?」
「…ゼロスっ!」
「ほらみろ!やっぱり暴力女じゃないか!」
ちなみに、ゼロスがしっている、というのは嘘ではない。
ただ、それをしいながしらないだけ。
そんな中。
「…ジーニアス。シャツがでています」
ふと、横にいるジーニアスのシャツがでていることにきづいていっているプレセア。
「えっ。ど…どこ?」
「私が、なおします」
「あ、ありがとう」
「…ジーニアスは、まだ子供なんですね」
普通に成長していればジーニアスくらいの子供がいてもおかしくはない。
それゆえのプレセアの台詞。
この世界での結婚は十六からで結構早い。
「え?こ、子供なんかじゃないよ!僕だってもう大人だよ!」
「…そうですか?そうですね。ジーニアスは大人ですね。そういうことに…しておきます」
子供は背伸びをしたがるもの。
特に男の子は。
「もお、また子供扱いした!プレセアだって僕とかわらないのに!」
「そう…ですね」
「地雷ふみまくってるよね。ジーニアスって」
「どういうことだよ?エミル?」
そんな会話をきき、ロイドがきいてくるが。
「このまえ、この里できいたことを覚えていたらあんなことはいわないってことさ。
…あの子は好きで自分の成長時間をとめたわけではない。そんな子にあんなこといってどうするのさ?」
「…あれって…本当…なのか?」
「天使化は成長速度をとめる。あの子のあれは完全なるものではないにしろ、
生物としてあるべき成長速度が歪められていたのは間違いのない事実みたいだからね」
マナのありようがゆっくりとなっているので嫌でもわかるその事実。
「普通に生活して、普通に結婚して子供を産んでいたら、
あの子はたぶん、ジーアスくらいの子供、もしくは少し下くらいの子供がいてもおかしくないだろうしね」
「…あのプレセアって子…どれくらいの時がとめられてたんだ?」
「それをきくの?ロイド?彼女にとってはそれがつらいことであっても?」
「それは……そう、だな。きけない…よな」
以前、この里のものからきいたのは、プレセアが実験体にされたのは十四年前。
そういっていた。
もしもそのときから時がとまっているのだとすれば…考えたくないがおそろしいとおもう。
エクスフィアは人としての心や機能だけでなく、成長までとめてしまう、ということなのだから。
いくらロイドとてそれくらいはわかる。
それが当人が望まない形でされた、というのならばなおさらに。
「ん?な、なんだろ…今の感じ……」
ふと雷の祭壇に出向く出発の日。
何かぞわり、とした感覚をうけおもわずたちどまる。
「妖精くん」
「うわっ!びっ、びっくりしたぁ」
ふとふりむけばそこにはプレセアの姿が。
「ごめんなさい。妖精くん」
「あ、あの。コリン、いちおう精霊のつもりなんだけど」
おもわずそんなことをいうコリンはおそらく間違ってはいないであろう。
一応、というのはまだ世界にきちんとした理をえて存在しているからではないがゆえ。
今のこの体は人につくられし仮初めのものだ、とコリンは自覚しているがゆえ。
本当の精霊ならば自力で実体化することが可能なれど、コリンはそれができない。
今実体化できているのは、人がつくりし仮初めの器たる体があるからにすぎない。
「じゃあ、精霊くん」
「な…何か調子くるうなぁ。…何か用?」
そんなコリンの態度には関係なく、ただ呼び方だけかえてくるプレセアの姿。
「お手」
「…へ?」
「…お手」
いきなりいわれ、目をまるくする。
が、よくわからないままに、とりあえずよく犬がやっているようにやってみる。
このあたりはさすがに仮初めの精霊とはいえ素直、といえるであろう。
「こ、こう?」
ぽすっ。
コリンのちいさな手がプレセアの手にとのせられる。
「・・・・・・・・・・」
ふにふに、ふにふにふにふに…
「ひ、ひやぁぁぁ!な、何するのさ!」
「…肉球」
そのまま笑みをうかべ、手をふにふにとしてくるプレセアにたいし、コリンはただ叫ぶしかできない。
「く、くすぐったいよぉ!」
「あれ?コリン。いつのまにプレセアと仲良くなったんだい?」
「し、しいな。助けてぇ!」
「?何やってんだい?プレセア?」
「…肉球、すばらしいです」
「え?ああ、コリンのそれはふわふわしてるからね。ってコリン。嫌なら姿けしなよ?」
「そ、そうする!」
ぽふんっ。
そのまま姿をけしてゆくコリンをみて
「…あ」
虚空をつかんだ手をしばしなごりおしそうにみているプレセアの姿がのこされる。
「まあ、あの子はあまり体をさわられるの好きじゃないから、あまりさわらないでやっとくれな?
…昔をあの子はおもいだしちゃうからさ」
それは、研究施設内で様々な実験をされていたときのこと。
「…すいません」
「悪気があったんじゃないんだろ?ならいいさ。あたしからもいっとくよ」
悪気があったわけではないだろう。
それゆえのしいなの言葉。
プレセア達がそんな会話をしている最中。
「くそ。ロディルのやつ。コレットをどうするつもりなんだ」
レネゲードは用事があるといって準備ができしだいここにくる、といって立ち去っている。
ロイド達は別行動にて雷の祭壇にまででむくことに。
「クラトスやレネゲードの言葉を信じるなら、
コレットはデリス・カーラーンに連れていかれたわけではないはずよ。まだ希望はあるわ」
しかも独断で行動している、といっていたことからクルシスが把握しているかどうかすらもあやしい。
「そうさ。コレットがマーテルになっちまったらあたしたちにはどうにもならないけど。
今ならまだ、ロディルから取り返せばいいだけなんだから」
だからまだ希望がある、としいなは思う。
「どうしてコレットばかりこんな目にあうんだ。くそっ。神子なんてくそくらえだ!」
一方で、
「リーガルさん…私の顔に…なにかついてますか?」
ロイド達がそんな会話をしている最中。
コリンを解放し、旅の準備がてらに武器を手入れしていたプレセアがふと視線に気づきといかける。
「いや。何もついてないが……」
「…でも、さっきから私のこと…みてます」
なぜかじっと武器の手入れをしている自分をみている。
それゆえの問いかけ。
「あ。いや。何でもない。すまなかった。…どうかしたのか?顔色がすぐれないようだが……」
「コレットさん。無事でしょうか?」
表情にだしているつもりはなかったのだが、でていたらしい。
そのことに一瞬、自分でびっくりするものの、でてくるのはコレットを心配する声のみ。
「…無事であることを願うしかない」
「私…必ずコレットさんをたすけます。
私のせいでロディルに連れていかれてしまったんですから」
「…そうだな。過去はかえられぬ。できることをやるしかない。ただ、真摯に……」
「…はい」
そう。
できることをするしかない。
過去は、かえられない、のだから。
失われた時間が取り戻せないのと同じように。
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あとがきもどき:
薫:ようやく次で雷の神殿~コリンー、と叫ぶあのシーンにまでいけるかな?
問題はそこまでやったらもうストックがない…
いいかげんに本体にしてるメモ帳の続きを打ち込みしないと……
とりあえず、次回は雷の神殿ですv
2013年6月30日(日)某日
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