まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。


ゼロスの登場シーンといえば、
やはりあの取り巻きのお嬢様がた。
ゆえに、馬車での移動のときに彼女達はでてきた、という設定さんになってますv
しばらくアステル組達とはすれ違い~(笑

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「ゼロス様ぁぁ!」
馬車をおりると数名の女性達が。
「お。俺様のかわいいハニー達、どうしたんだい?」
「どうしたも。ゼロス様。今日は私の家に訪ねてきてくださる、と」
「私の家にもですわ」
「広場で騒ぎがあったとききまして。心配で。
  何でも空からふってきた大女が、こともあろうにゼロス様を指名したとか!」
「な!」
どこまで話しが彎曲しているのか。
おもわずしいなが手をにぎりしめる。
「なに?この子?御祭でもないのに天使様の仮装なんかしてばっかじゃないの?」
今のコレットの姿は常に光の翼がでている格好。
「信じられない。このブス」
「な、何だって!?」
「よせよせ。ジーニアス。あの人の家には鏡がないんだよ」
「何ですってぇ!?」
「…もう。馬鹿なこたちね。ごめんなさいね。うちの生徒達が迷惑をかけたみたいで」
「何よ。この女も!」
「う!ま、まけた!」
あからさまにリフィルの容姿は自分達より勝っている。
「ごめんな。ハニー達。こんど必ず埋め合わせはするからさ。
  今日はちょっと急に来客がはいっちゃったのでね。これもお勤めお勤め」
「神子様としてのお仕事なら仕方ないですわ」
「でも、神子様、次はかならず私の家にいらしてくださいませね?」
ゼロスの言葉にあっさりとひきさがる女たち。
「…しいな。このテセアラの神子って……」
「きかないどくれ。リフィル」
心底つかれたかのようなしいなの声。
何となく理解してしまい、それ以上の追求はリフィルもできはしない。
だが、心の中ではしっかりとコレットをまもらないと、そう決心を強くしたのはいうまでもない。

光と闇の協奏曲 ~新たなる仲間と~


「それにしてもびっくりしたなぁ。俺、空を飛んだのなんて俺、産まれて初めてだったぜ」
「空を飛ぶっていうのは滅多にできない経験ですものね」
しみじみいうロイドにため息とともにいうリフィル。
「空からおちる経験もね。しかも街のどまんなかに」
じとめで横にいるしいなにいっているジーニアスに、
「し。しかたないだろ?たしかに行き先を街にとは設定した…とおもうけどさ。
  街のど真ん中にいくなんてあたしですら…」
あさってのほうをみつついっているしいな。
「…へんなところでしいなってドジ発揮するよね」
「ど、どういう意味だいっ!」
「それにしても、変ね」
ふと、食事の手をとめ、顔に手をあて、
「何がだよ?リフィル?」
「しいな。あなたはたしか、封印を解放したら砂時計のようにマナが流れる。そういったわね?」
「ああ。そうだよ?」
しいなはリフィルが何をいいたいのか理解できずに首をかしげる。
「あれ?でもさ。姉さん」
「ええ。ここのマナは封印の旅の最中にいきなり整ったというか満ちた感じになったマナと同じだわ
  たしかにそれほど濃くはないかもしれない。けどとても安定してるもの」
「うん。シルヴァランドのマナと同じ濃さだね。昔はシルヴァランドもかなりマナが薄かったけど。
  たしか…アスカードの封印を解いたあたりだったかな?マナが濃くなってきたのは」
「しばらくあとにマナが信じられないほどに整ったように思えたけどね」
「ああ。それは僕もおもった」
そんな会話をしているこの姉弟。
「へぇ。そんなことがわかるのかい?あんたたち?」
そんな二人に感心したように問いかけているしいな。
「そりゃわかるさ。ジーニアスと先生はエルフだからな」
ロイドのどこか誇らしげなそんな言葉に。
「?どうしてエルフだとわかるのさ?」
しいなが首をかしげ問いかける。
「そりゃ……エルフだからだよ」
『・・・・・・・・・・』
「ロイド。答えになってないよ。それは。そもそもヒトのなかではエルフくらいなんだよ。
  常に世界の声に耳をかたむけて、それを感じられているのは。
  そのエルフ達ですらその声がきこえなくなってきているみたいだけどね。
  ヒトは鈍感すぎる。動植物や魔物達は常に自然に対して敏感だ、というのにね」

翌朝。
とりあえず豪華すぎる朝食のあと、出発するにわたり、ふと昨日の話題がぶりかえす。

だされている飲み物にのみ手をつけながらさらり、と説明しているエミル。
「鈍感って、どういう意味だよ。エミル」
「言葉のとおりだよ。まあ、ヒトと比べたらどんな生命体も敏感、ってことになるけどね」
いいつつも紅茶を一口。
「あ、あいかわらず、人間というかヒトにたいしては辛らつだね。あんた……」
これまでの旅でも幾度とみえた人間にたいするエミルの概念。
ゆえにしいなもそういうしかない。
一体今までどうすごしていればそんな考えにいたるのか、というほどに。
時折その言葉に信じられないくらい長い年月をえたような感覚をうけるのはしいなの気のせいか。

「それはそうと、ゼロスは?」
ロイドの問い。
「ゼロス様は、お出かけでございます」
朝食の場はだというのにゼロスの姿がない。
それゆえのといかけ。
「あ、あいつはまた朝帰りかい!?」
『また…って…』
おもわずそんなしいなの台詞にリフィル・ロイド、ジーニアスの声がかさなる。
「ゼロス様もなにかとお忙しい身の上でありますので」
そういうのは、この屋敷につかえているセバスチャン、という初老の老人。
タキシージをきこみ、窮屈そうな白い手袋をし、
口髭がビン、とはっているのはおそらく手入れに余念がないがゆえであろう。
そんな会話をしている最中。
「お、皆そろってるねぇ」
ゼロスがいいつつ部屋にとはいってくる。
「ゼロス様。おかえりなさいませ」
「おうよ。今かえったぜ。とりあえず食事がすんだら出発とするか。
  その前にマーテル教会に一応出発の挨拶にいくが、あんたらもいくか?」
いまだにここ、テセアラの教会、というものにはいったことがない。
ゆえにゼロスの提案にうなづくリフィル達。
ユアンから真実を聞かされてはいるが、
ずっと信じていた信仰というものをすぐに捨てられるはずもなく。
この様子ではやはり、彼のいっていたとおり、こちらの国の人々も、
かの女神という存在が偽りだ、というのは知らないらしい。
女神そのもの、というのがいるかどうかもあやしい。
リフィルはそう思っているのだが、クルシスが言っている限り、
すくなくとも関係するものはいるのであろう、と予測はつけているが。

「マーテル教会にようこそ。これは神子様。いったい?」
年老いた祭司らしき人物が教会の入口にてゼロスに気づき話しかけてくる。
開け放たれた教会内部は、内部の装飾、祭司達の衣装のそれ。
それらどれをとっても同じマーテル教会とは思えないほどにシルヴァランドのそれとは豪華極まりない
「ちょっとやぼようでしばらくここを離れる。何かあったらいつもの報告で」
「わかりました。神子様もおきをつけて…って、おお。失礼。
  プレセアか。祈祷は城で行われる予定だ。神木は城にはこんでくれ」
振り向くと一人の少女がこちらにむかって歩いてくるところ。
淡いピンクの色の髪をふたつにわけてゆっている。
なぜか巨大なマルタ…持ちやすいようにとってをつけているが、
それをひっぱっている、といいう光景をのぞけばどこにでもある普通の子供にみえなくもない。
だがエミルはそのヒトをみてもおわず眉をしかめる。
また人為的にマナが歪められている。
それこそゆっくりとした成長速度になるかのごとくに。
そのせいであるべきものまで制御というか封じられてしまっている。
生命ならば必ずあるべき、感情、というそれが封じられていることにあきれてしまう。
ヒトはどこまでも愚かになれるのであろうか。
そうおもってしまうエミルはおそらく間違っていないであろう。
「…はい」
よばれたであろう少女はそのままもと来た入口のほうへもどってゆく。
ズズ…ゴゴ…
あるくたびにひこずる音がする。
「か、かわいい」
「え?あのマルタがか?」
ジーニアスの台詞にロイドが素でぼけをかます。
そんなロイドにおもわずジーニアスがにらみ返すが、
「うん?プレセアちゃんに神木なんかたのんでたのか?」
「教皇が依頼したようです」
「教皇が、ねぇ。あいつは何をたくらんでやがる?
  ちょっといいかな?俺様、あの子を無事に送り届ける役目もおってるんだ。
  旅の最中にあの子の住み家によってもいいか?」
「プ・プププレセア。あの子、プレセアっていうんだ。
  賛成、賛成、第賛成!女の子一人で家に返すのは危険だよね!うん!」
「おこしゃま…わかりやすいなぁ。おい」
そんなジーニアスをみてゼロスがけらけらと笑いだす。
「今のプレセアって子もエクスフィアをつけてたな?ほんとこっちにはそんな習慣があるのか?」
「そんな習慣はないよ。ただ、あの子はね…ちょっとわけありなんだよ」
『?』
しいなのはぎれのわるい台詞にロイド達は首をかしげるのみ。
「そ、そうだね。かわいいね」
「…人の話しきいてないだろ。ジーニアス……」
ふとみれば、さきほどのプレセア、と呼ばれていた少女が誰かと話しているのがみてとれる。
「…そうか。じゃあ、この仕事がおわってからでいいから神木をアルタミラまで運んでくれ」
「…わかりました」
体格てきにはどちらかといえばふくよかな男性。
しかし纏っている気はあまりよくないもの。
欲にまみれ、マナそのものも濁っているのがみてとれる。
「うむ。順調だな。さっそくロディル様に報告だ」
そういい、男は教会の前から立ち去ってゆく。
どうでもいいが、あれほどまでに怨嗟の気をまとっていて当人がきづいていない、ということに、
エミルからすればあきれる以外の何ものでもない。
本当に人は鈍感すぎる。
つくづく思ってしまうのも仕方がない。


結局のところ、ゼロスがプレセアを迎えにいくといい王宮にむかったがゆえに、
ロイド達はマーテル教会大聖堂でまっておくように、といわれこの場にてまつことしばし。
「では、改めて、自己紹介しとくな。俺様はゼロス・ワイルダー。ゼロス君ってよんでね」
「あほ神子で十分だからね」
「つれないなぁ。しいな」
「あんたがあほなこというからだろうが」
「ともあれ、これからしばらく一緒に旅をすることになるんだ。仲良くしようぜ」
いいつつ全員をあらためて見渡し、
「えっと。野郎二人はいいとして、ゴージャスな美人がリフィル様だろ?
  クールなかわいこちゃんがコレットちゃん。で、こっちがプレセアっと。
  そとにいるアステルのそっくりさんがエミル君っと」
それぞれ指をさしつついってくる。
「なんでエミルだけ名前をよぶのさ?」
ジーニアスの素朴なるつっこみ。
「あの子にそっくりなアステル君には俺様ずいぶんとよくしてもらってるからねぇ」
主に合コン、という意味合いで。
それと情報収集も。
「この子、プレセアちゃんはオゼットの村にすんでるんだ。
  今からいく王立研究院がある大陸にある村さ」
「王立研究院?」
「たしか、しいな、あなたが以前そんなことをいっていたわね?」
「あ。ああ」
ロイドが首をかしげ、リフィルがふと気付いたようにしいなにとといかける。
そんなリフィルの問いかけをうけてうなづくしいな。
「あの空をとぶ乗り物は?」
「街中に着陸したからね。国が管理下においたはずだよ」
「あれがあれば楽だったのにな~」
ジーニアスの質問にゼロスがこたえ、ロイドがため息まじりにそんなことをいっている。
「研究院の使用には王家の許可がいるからな。このゼロス様の頼みなら陛下も一発オッケーよ」
「僕たちを監視するんでしょ?それくらいあたりまえじゃないの?」
「かわいくねえガキだなぁ」
視線にてジーニアスを示しつつも言い放つゼロス。
「王立研究院ね。そこでコレットの症状のことがわかるのかしら?」
「あそこはいろいろと研究してるからな。精霊、魔物、天使、なんでもござれ、だ」
「魔物も研究してるの!?」
ジーニアスの驚きの声。
「おう。最近では俺様としては面白いレボート報告があがっててな。
  教会のやつらは異端だの何だのといってはいるが」
「「面白いって?」」
きになったらしく、ロイドとジーニアスの声がかさなる。
「またアステルのやつさ」
「ああ。まぁぁぁぁぁぁぁぁた変な論文でも発表したのかい?あのこは」
何やらゼロスとしいなのみでわかったように呆れたようにいっているのがきにかかる。
「…ねえ?エミルのそっくりさんっていったいどんなひとなんだろ?」
「俺にきくなよ」
アステル、という名のものがエミルのそっくりな人物である、というのは、
ロイド達にとってはもはや周知の事実。
もっとも当人にあったことなどは一度もないのだが。
ゆえにジーニアスの質問にロイドもそう答えるしかない。
何しろ知らないのだから。
「ともかく。王立研究院もオゼットも、海をこえた向こうの大陸にあるんだ。
  だからついでに送っていけるってわけ」
とりあえず話題を元にもどそうと、ゼロスが簡単にと説明してくるが。
「だ、大賛成!」
ジーニアスが即座に賛成の意を示す。
「あなたはそれでいいの?」
「…いつもおくってもらってる……」
どうやらこの言葉からここにきたときはいつもゼロスに送っていってもらっているらしい。
「じゃあ、改めて聞くけど。俺達はどこへいけばいいんだ?」
「サイバックって街だ。グランテセアラブリッジを渡った先にある。ここから北東の方角だな」
「王立研究院かぁ。わくわくするなぁ。さっそくいこうぜ!みんな!」


「うわ~。テセアラでの初冒険だね」
「…ジーニアス。遠足じゃなくてよ」
街をでて思わずいうジーニアスにすかさず突っ込みをいれているリフィル。
ふと視界の端にみえてくる巨大な橋。
「すげ~!でっかい橋だな!」
見下ろすと青く澄んだ海水が美しく、きらきらと太陽の光にと反射している。
橋は海と空との間にひかれた白い線のようにそこに存在している。
ぱっとみため、反対側がみえないのは、大陸同士をつなぐ橋であるからであろう。
「聞いておどろけ。田舎もの。こいつはアルタミラ大陸とフウジ大陸とをつなぐ、
  世界一のはね橋だ。制御に三千個のエクスフィアが使われてるんだぜ?」
ゼロスが腰に手をあてて上機嫌でロイド達にむかっていってくる。
「三千個…」
「三千人分の…命…か」
「しっちまうとね……」
それぞれが橋の両脇にある大掛かりな制御装置と、
それらを管理しているらしい施設に目をやり視線をおとす。
「ん?何だよ。暗いかおしちゃってさ。しいなまで。どうしたんだよ?いったい?」
そんなロイド達三人の態度にきづいて怪訝そうにいうゼロスであるが。
「…そうね。あなたには話しておきましょうか。あなたが神子ならば…知っておいたほうがいいわ」
リフィルがため息とともに話しだす。
エクスフィアの成り立ちを…

「…ハードな話しだな。それまじもんなのか?」
「こんな嘘つくかよ」
ロイドが強い口調で言い放つ。
「あたしはその現場にいあわせた。ディザイアンとかいう連中が人をつかって……」
アスカードの人間牧場でしったいまわしい事実。
体内のマナを狂わされて人あらざるものにかえられてしまったものたち。
ぽつりぽつりとしいなの口からも説明がなされる。
ああ、そりゃ、暗殺どころじゃなかったわ。
それだけで納得してしまう。
そんな光景をまのあたりにすれば、元がやさしい彼女のこと。
完全に感情移入するに決まっている。
「ちなみに一つだけ訂正はさせてもらうけど。
  悪いのはあの子達じゃないよ?君たちがエクスフィアとよんでいるあの子達こそ被害者だよ。
  そもそも勝手に眠っている中をむりやりおこされて?かってに力をくわえられて?
  あの子達からしてみたらいい迷惑極まりないよ。
  それで諸悪の根源のようにいわれるのは筋違いもいいところ。
  本来ならば害などあるはずない子達なのに」
「何だよ。エミル。そのいい方。だけどエクスフィアが人を養分にしてるのは事実だろ?」
むっとしたようなロイドにたいし、エミルは冷めた視線で、
「あの子達を勝手にヒトに対してつかっているのは誰なのさ?君たち・・・同じ、ヒト、でしょ?
  そもそもあの子達は自然界の一部。それを勝手にヒトが自分達の都合のいいように使用して。
  そもそも何?他者の力をつかって潜在能力を引き出す?
  しかもあの子達に人を無理やりに養分にさせたあげく?ありえないったら。
  僕からしてみればそれこそ愚かだとしかいいようがないよ。
  努力もせずに、他の力で力をおぎない、そしてその力を奪いあい、争いをおこす。
  ヒトってどこまでも愚かなことをすれば気がすむのさ」
「お前、あいかわらず人嫌い…なおらないな……」
ロイドのため息。
ここまで徹底して嫌っていれば何ともいえない。
「努力…ねえ。それはたしかにわかるな。しかし力がなければ護れないこともあるだろうに?」
ゼロスのそんな台詞に対し、
「その力が借物だと意味がないっていってるんだよ。そもそも借り物の力は限界が絶対に訪れる。
  力をもとめるならば自らの力で手にいれないと意味がないんだよ」
それこそ限界まで努力して。
「…まあ、どんな力も使うものの心構えしだいってか?
  それに、まあ、そうはいっても。今さら死んだ人が生き返るわけでなし。
  人間明るくいきなきゃねぇ。前向きに、前向きに…と」
エミルのいい分はわかる、わかるがそれでも努力をしてもどうにもならないこともある。
産まれで全てがきまってしまうように。
だからこそのゼロスの台詞。
「…前向きなのか、軽薄なのか……」
リフィルのつぶやき。
「なあ、お前のそれはクルシスの輝石、なんだろ?だけどしいなもエクスフィアを装備している。
  このプレセアも。こっちでは当たり前なのか?」
「俺様がもらったエクスフィアは妹にあげちまったらなぁ。
  ちなみに提供者はレネゲードってやつらからだぜ?
  教皇騎士団とかしいなの分もそうだし。けっこうな人数の分をまとめてもらったはずだぜ?」
「なら、プレセアのもそうなの?」
ジーニアスが問いかけるがプレセアは無言のまま。
「いや、その子のは違うな」
ロイドがいい、そんなロイドの質問にゼロスが答え、しいながうつむく。

ゼロスが橋の入口へと近づくと、係り員の男らしき人物がとびだしてきて頭をさげる。
「いらっしゃいませ!神子様!」
「おう。いらっしゃったぜぃ」
「連絡はいただいております。そちらのシルヴァランドの皆さまも。ようこそ。
  マナの濃度がかつてより薄くなっておりますのでどちらさまもお気をつけて」
「え?これで薄いの?だって以前のシルヴァランドと比べたらあっちは出がらしとか、
  干からびてるとか、そんな感じだよ!?」
ジーニアスが叫ぶ。
「研究院の発表ではマナが異様に安定しているらしいんですよね。
  今まで不足していたマナの属性もきちんと安定して保たれているらしいんですよね。
  神子様、何かきいてますか?」
「いや?まだ正式にはきいてないぜ?」
「さようですか」
正式には、ということは別のところからは何か聞いているらしいと判断するが、
自分のようなものがきくことではない、と判断したらしい。
「どうでもいいけど、ノイシュ。その怖がり何とかしようよ?…次に進化したらどうするのさ?」
それは本音。
震えているノイシュの体をかるくなでつつもとりあえず話しかける。
ちなみに語りかける言葉は混沌の言葉であり原初の言葉であるがゆえにロイド達には通じない。
「グルルル・グルルル…キュゥゥン…」
ものすごい数の人の魂が、悲鳴が!
何やらそんなことをいって震えているが、エミルからしてみれば苦笑せざるをえない。
まあたしかに、もともとこの子は並みいた中でもおっとりとはしていたが、とはおもう。
あるいみ慎重すぎたがゆえにあの大戦をいきのびられた、といってもいいかもしれない。
そんなノイシュに気づいたらしく、
「何だよ。海が怖いのか?けどこんな立派な橋なんだから問題ないだろ?
  お前こっちにきてからというかこの前からちょとおかしくないか?」
ロイドがノイシュをなだめていると、ゼロスが傍にとやってくる。
「ロイド。俺様、ずっと気になっていたんだけど…」
「これは俺の友達だ」
先回りしてこたえたロイドにゼロスはのぞけってみせ、
「ひゃぁ。野蛮人の友達かぁ。で、これは何ていう動物なんだ?」
なんかどこかでみたというかみせられたような記憶があるんだよなぁ。
そんなことをふとゼロスは思う。
「でけ~犬」
「は?犬?」
「そういうことになってんだよ」
そういうと、そのままノイシュをぐいっとおし、
「ほら、いくぞ」
「…あまりひどいと本気で記憶操作しかねないよ?」
びくぅ。
「まあ、我が子にそんなことはしないけどさ」
ため息まじりにいったエミルの言葉にびくり、とノイシュが反応する。
あいかわらずロイド達はエミルが何か呟いた、くらいにしかとらえてはおらず、
何をいっているのかは理解不能。
「そんなわけでぇ。みんなのあだ名をきめたいとおもう」
「何だよ、いきなり」
話しの脈絡が続いていない、とおもうのはおそらくロイドのきのせいではないであろう。
みればしいなはため息をついて手を横にし、
リフィルはとりあえず気にしないことにしているらしい。
「俺様は、ゼロス君。プレセアちゃんは、おちびちゃん。これは前からいってるし。
  コレットちゃんが、天使ちゃん。ロイドはお前、ジーニアスがガキ。エミル君はエミル君でいいや」
「僕とロイドだけ適当だね」
「何でエミルだけ名前なんだよ!?」
ジーニアスとロイドがそんなゼロスに突っ込みをいれているが。
「アステルとそっくりなやつをへんな名でよべるか!」
即座に反論してきているゼロスの姿。
「「エミルのそっくりさんっていったい……」」
そんなゼロスの態度をみて異口同音でつぶやくロイドとジーニアスの二人。
「気にしたらだめだよ。というかかかわったら大変に危険な人種といえる。
  笑顔で実験台になって、というどころか平気で実験段階の薬とかを食事に混ぜて、
  笑顔で経過をきいてくるようなやつだからね……
  何をするにしても実験に失敗はつきもの、といいきるし」
つらつらとのべるしいなの台詞はたしかに近寄りがたい、といえるであろう。
「あら、気があいそうだわ」
『・・・・・・・・・・・・』
興味があるとばかりにいうリフィルの台詞にしばし全員が無言となりはてる。
「というわけで。リフィルには絶対にあわせないんでほしいんだよ」
とりあえず今の台詞はきかなかったことにしたらしく、しいながジーニアス達にと提案というか懇願する。
「うん。心にきめとく」
「俺も頑張って覚えとく……つまり、遺跡モードの先生よりたちがわるい…と」
一瞬、全員がだまりこみ、ため息とともにいうリフィルに即座に反応しているジーニアスとロイド。
「常に料理中のリフィルを想像してみたらまず間違いないよ」
「「あ~……」」
しいなのどこか遠くをみていうつぶやきに、思わず同意してしまうロイドとジーニアス。
彼らの会話の意味はゼロスにはわからない。
が、一つだけわかることもある。
もしも、である。
アステルの報告してきたセンチュリオンという精霊の直属たる配下。
彼の傍にいるのがそのセンチュリオンだとしたとすればの過程だが。
とてつもない力をもっているかもしれない精霊の関係者に変な名などつけられるはずもない。
精霊の機嫌をそこねれば何がおこるか、ゼロスは一応知っている。
それこそしいな、という実際に経験者がいるのだから。
「まあまあ。んで、リフィル様がゴージャスウルトラクールビューティ」
「いやよ。そんなの」
「え~。じゃあ、女王様」
「「あ、ぴったり」」
ごんごぃぃん!
「「ってぇぇ!」」
同時にぽん、と手をたたいたロイドとジーニアスにすばやくリフィルのゲンコツが振り下ろされる。
「こ、こほん。あのね。もう少しまともなものはないの?」
「うう。ぴったりだとおもったけど。でもまあ、先生は先生だとおもうんだけど」
頭をおさえつつも、まだこりていないのかロイドがつぶやく。
「ん?そうか…いや、でも先生っていうのもいい響きだよなぁ……魅惑の女教師、か。うひゃひゃひゃ」
「…もう、勝手にしてちょうだい」
「んじゃ、リフィル先生、で、ね」
「すきになさい」
「エミル君はつけるとしたら…王様が無難かなぁ?」
「何でさ?」
「何となく?」
即座に反応したジーニアスにさらり、というゼロスであるが。
(…もしかして、この人間、ラタトスク様に気づいたのでは?)
(まあ、接触してこない以上、いう必要もないだろう)
ちらりとこちらをみていってくるゼロスの台詞に念派のみで会話をするエミル達。

「こうしてみると、この二人、なんだかにてないか?」
「そうか?」
「あんまり笑わないしよ。やっぱ女の子は笑わないとな!」
「…コレットは笑いたくても笑えないんだ。そんなこというな!」
「わ、わるかったよ。もう、あついやつだなぁ」
「ゼロスぅ?あたしはコレットのこと説明したよねぇ?なのにそんな口きくわけ?
  そんな馬鹿なことをいうのはどの口だい!なぐるよ!」
「って、なぐってからいうことないだろうが!しいな!」

「コレットは、元気になる~、コレットは元気になる~」
「・・・・・・・」
「…だめかぁ」
「何やってんだ?」
「な、何でもないよ!…ただ、コレットが正気になるようにって……」
「そっか」
「…早く元にもどるといいな」
「ああ…そうだな」
ひたすらに長い橋をわたるのが暇なのか、
歩きながらそんな呪文のようなものをコレットにいっているしいなの姿。
それをみてロイドが首をかしげているが。
いまだに橋の先はみられない。
大陸同士を結ぶ橋はそこそこの長さがあり、渡りきるのにそこそこの時間がかかる。
本来ならばこの橋は大陸を移動する乗り物で大概移動することに使用されるのだが。
歩きで渡ろうとするもの好きは…滅多といない。


グランテセアラブリッジを渡りきると、サイバックはすぐ目と鼻の先。
ゆるやかな入江に抱かれるようにしてつくられている街。
それがサイバックという街らしい。
ふと前からあるいてきた人物に思わず目をみひらく。
「クラトス!くっ!コレットをつれていくつもりか!?」
いいつつも、そのまま剣の柄に手をかけて、いきなり抜刀しているロイド。
「街中でお前とやりあうつもりはない。
  …お前は何をしているのだ?そもそも街中で剣をぬくな」
目のに歩いてきた人物は足をとめ、こちらにむけていってくる。
「な、何?」
「たしかに。いきなり剣をぬくのはどうかとおもうわ。ロイド」
気持ちはわからなくもないが、ここは街の入口。
騒ぎになりかねないゆえのリフィルの言葉。
そのまま、すばやく剣をぬきはなち、ロイドをかるくいなし、再び剣をしまい、
「お前の腕ではまだ私を倒すことはできぬだろう」
「馬鹿にするな!」
「事実をいったまでだ。それともう一度きく。
  わざわざ時空をとびこえ、テセアラにまできて何をしているのだ、とそういっているのだ」
淡々としたその口調はとがめるようなもので。
「それは、コレットをたすけるため」
なぜクラトスがここにいるのだろう。
だがしかしコレットを渡すわけにはいかない。
みればロイドだけでなくしいなも、そしてリフィル達も警戒態勢をとっている。
「神子をたすけてどうなる?結局二つの世界がマナを搾取しあう関係であることはかわりがない。
  ただ、再生の儀式によって立場が逆転する、ただそれだけのことだ」
「おいおい。こいつは何なんだい?」
ゼロスのみが意味がわからずにそんなことをいっているが。
「テセアラは、衰退しはじめてるのかい?」
しいなの言葉に、
「…いや。……まだこの世界からも救いの塔がみえる。
  あれが存在するかぎり、ここはまだ繁栄世界ということだ」
マナが一定量ある場所にみえるようにしている。
だが、ここしばらく、デリス・カーラーンのシステム数値と、
地上のマナの数値が違うのでは、という報告もあがってきているのもまた事実。
「もっとも、神子がマーテルの器となった暁にはテセアラも繁栄時代に別れをつげることになるだろう」
マーテルの器。
その言葉をゼロスは口の中でおもわず反復する。
「くそ。どうにもならないのか!?この歪んだ世界をつくったのはユグラシドルなんだろう!?」
「って、おいおいおい!?」
ゼロスはそんなことはきいていない。
世界が二つにわけられたというのは習ってはいるが、
それをしたのがクルシスだ、とは知らされていない。
ユグラシドルというのはクルシスの女神マーテルにつかえし天使、そう聞かされている。
「ユグドラシル様にとっては歪んでなどいない。
  どうにかしたければ自分で頭をつかえ。…お前はもう、間違えないのだろう?」
「…ああ。やってやる。互いの世界のマナを吸収し合うなんて愚かな仕組みは俺がかえさせてやる!」
「ふ。せいぜいがんばることだな」
そのまま言い捨てるだけいいすて、そのまま横をすりぬけてゆくクラトスの姿。
「…あいつ、何だってこんなところに?」
「クルシスがコレットをまだ諦めてない、ということでしょう。こんなところで戦闘にならなくてよかったわ」
「で、質問。あいつは何なんだ?しっかしえらそうなやつだな。すかしたしゃべり方しやがって」
「…後で説明するよ。ゼロス。あんたはその下品なしゃべり方を直したほうがいいんじゃないかい?」
一人理解していないゼロスにたいし、しいなはただ深くため息をつくしかできない。
「でひゃひゃ。これが俺様ってね~」
「とにかく、街にはいりましょう」
「…クラトスさん、何しにきたんだろ?」
「俺がしるかよ。くそ!」
そんな会話をしつつも一行は街の中へ。


「なんだか研究者みたいな人がいっぱいいるねぇ」
白衣や制服をきた若者が行き交うのをみてジーニアスがいう。
なぜか白衣をきているものはこちらをみて、ぎょっとなったようにして、
なぜか遠巻きに離れていっているのが気にかかるが。
「そりゃ、ここは学園都市だからなぁ」
ゼロスの説明。
「研究委院ってのはどこだ?はやくいこうぜ。皆……」
いって足を進めようとするロイドだが、プレセアが一歩も進んでいないことにきづく。
「この街は…嫌い……はやく…オゼットへ……」
「ご、ごめんね。プレセア」
「ちょっとまっててくれよな。おちびちゃん。す~ぐおわるからな」
理由をしっているがゆえにゼロスもそういうしかない。
「テセアラ王立研究院は元々、王政の管轄下にはなかったんだ。
  今から二代前の陛下が王立っていうことにしたらしいんだよな。
  そしたらまあ、いろんな研究がすすんじまって。今じゃ、テセアラの最高学府よ。
  ここに籍をおくためならば死んでもいい、とでもいいつていうやつらが五万といるんだぜ。ほれ、ついた」
もっともその裏では非人道極まりない実験もされている。
なぜかことごとく白衣をきているものが立ち止まってはあわててよけていくのがきにかかる。
その視線をよくよくみてみれば、その視線の先にいるのはエミルである。
「…なあ、もしかして、エミルのやつ、そのアステルとかいうやつに間違われてるとか?」
「そっくりなやつに近づくやつがいるかい、君子危うきにちかよらず、だよ」
「・・・・・・・・・・」
いったい、アステルという人物像がわからなくなってくる。
これほどまでにあからさまに避けられるって…
おもわずロイドは遠い目をしてしまう。
なぜか、遺跡モードのリフィルのような状態で
エミルが数名一緒になって高笑いしている様子が浮かび、
おもわずぶるり、と体を震わせる。
「なら、僕このあたりでまってるよ。ノイシュのこともあるしね。
  さすがに街中の中央まではつれていけないでしょ?」
そもそもここは研究の街。
ノイシュがプロトゾーンだ、と気づくものは多々といるであろう。
それゆえのエミルの提案。
実はこっそりとソルムに命じて一行以外には普通の犬のように視えるように幻影をかけているので
滅多にばれることはないようになってはいるのだが。
この街では人間などをつかった実験などが日々日常的に行われていることを、
エミルは視てしっている。
たしかにみれば異様に震えまくり、すでに一歩もうごけない、という様子のノイシュをみて、
ロイドからしてればため息をつかざるをえない。
「ならまたごめんだけど。ノイシュをお願いするな」
「…私も、のこります。ここは、嫌い……」
「ええ!?そんな!プレセアぁぁ!?」
「ジーニアス。いやがる女の子に強制するものではなくてよ。
  なら少しの間お願いするわ。すぐにもどってくるから」
いってエミルとプレセア、そしてノイシュをその場にのこし、
ロイド達のみ研究院へとむかってゆくことに。


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あとがきもどき:
薫:クラトスいじり(まて)は公式さんでも認めてますしね(だからまて)
  あのドラマCDって…笑、状態。クラトスさんの登場シーンもあらためてみれば、
  おもいっきり親ばかしてるのがよくわかりますよね。とっても。
  子供(ろいど)のためにゼロスに情報流すって…v

2013年6月24日(月)某日

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