「…ここは?」
「あ、大丈夫?ロイド。全然目覚めないから心配したよ……」
「ここは…コレットは!?」
重たいマブタをあけたロイドはその体をぴくり、とさせると
あわてて寝かされていたであろうベットから起き上がる。
ぼんやりする視界のなか、たっているコレットの姿がみてとれる。
「コレット…大丈夫か?コレット…」
ちかづいてゆくが、コレットの表情は無。
「コレット…ごめん。俺、お前を護れなかった。もう間違えないって…そう決めたのに……」
そのままぎゅっとコレットを抱きしめる。
「結局、心を失ったままなんだ。何をいっても反応しないんだ……」
ジーニアスが悲しそうにいう。
「ロイド。ここを覚えていて?ここはトリエット砂漠なの。
ほら、あなたが以前に敵につかまってしまった。あの基地よ」
しいなが周囲をみてくる、といって判明したこと。
それはこの場所はトリエット砂漠の中にある、とのこと。
自分達をここに案内してきた中にあのボーダの姿もあったことから考えて、
ここがどこなのかいわずともリフィルはすぐに察知した。
これはかつて、ロイドがつかまっていたあの施設だ、と。
「…!ディザイアンの基地…か!?」
ロイドはいまだ混乱ぎみ。
「それが、ここのものたちはディザイアンではないそうよ」
リフィルがそんなロイドに訂正をいれる。
「は?突然何をいってるんだよ。先生」
そんなリフィルの言葉に意味がわからないとばかりにといかけているロイド。
「…いっぺんにいろいろあったから混乱しちゃうよね。僕もそうだもん」
ジーニアスもいまだに混乱して、どうにかじぶんなりに情報をまとめようとしている最中。
「そうね。ちょっと長くなるかもしれないけど。ざっと今の状況を整理してみましょうか」
リフィルが子供達、そして自分自身をも落ち着かせるためにあえてそんな提案をしてくる。
「まず、私たちの状況ね。
私たちは救いの塔で殺されるところをこの基地のディザイアンによくにた集団に助けられたの。
彼らは自分達をレネゲード、と呼んでいるわ」
「何か混乱する話しだな」
混乱するどころではない。
「とにかく。ここにいる連中はディザイアンでなくてレネゲードっていう連中なんだな?
まあ、どっちでもいいけどよ。そういえば、しいなは?」
ふとみればしいなの姿がみあたらない。
あのとき一緒にいたはず、だというのに。
「しいなはこの施設の様子を調べに一人で行動していてよ?
私たちも気絶していて、しいなが調べた内容でここがトリエット砂漠にある施設だ、とわかったのですし」
リフィルの言葉に嘘はない。
気づけば見知らぬ場所に寝かされていた。
記憶にあるのは、塔のうえでユグドラシル、となのったものから攻撃をうけたところまで。
「話しを元にもどすわね。どうやらレネゲードはディザイアンと対立しているようね。
わざとよくにた姿をしているのも理由があるのでしょう」
「理由…ね。わかった。よくわかんないけど、とりあえず。
俺達はディザイアンによくにた組織レネゲードってやつらに助けられた。
それはそれでいいとして、あのユグドラシルとかいう天使は何ものなんだ?それにクラトスは……」
あのときの光景。
クラトスの背中に生えた青い羽。
あれはまぎれもなく天使の翼であった。
「そのことなんだけど…ユグドラシルが残した言葉を覚えていて?
これは…推測だけれども、マーテル教会が信仰する神、
天界の組織『クルシス』はディザイアンと同じ組織ではないかしら?」
「ま、まってくれ!訳がわかんないよ!」
なぜいきなりそういう結論になるのか、ロイドはさらに理解不能。
「落ち着いて。ロイド。ディザイアンがクルシスの一部。あるいは手先だと考えればつじつまがあうの」
「ディザイアン五聖刃ってなのってたやつも、前にユグドラシルがボスだっていってたよ。ぼく覚えてる」
「そして私たちの目の前にあらわれたユグドラシルもいっていたわ。
自分は、クルシスとディザイアンを統べるものだ、と」
「ディザイアンとクルシスが同じ組織なら、じゃぁ、クラトスは?
…ユグドラシルに頭をさげたあいつは、本当に……」
「…クラトスさん…自分で名乗ってた。クルシスの四大天使だって……ぼくたち…始めからだまされてたんだ」
ジーニアスの声は暗い。
「おそらく、クラトスはユグドラシルの直属の部下なのよ。
コレットが世界再生の旅から逃げないように監視でもしていたんでしょう」
「…俺達は、最初からずっとだまされていた、というわけか……レミエルにも、クルシスにも…クラトスにも!」
そういい、横にいるコレットをぎゅっとだきしめるロイド。
「…コレット……」
直立不動で感情も何も感じられない、ただの人形のような状態のコレットをただぎゅっと抱きしめる。
それでもコレットの表情には何の変化もみられない。
ロイド。ロイドが悲しんでいるのに私は何もできないの?
まどろむような感覚で、ときおり意識が浮上しては、こうして横から様子をみている自分にとまどう。
目覚めないロイドにあせっても、自らの意識体であろうそれはふれることすらできなかった。
コレットがそこにいるのにジーニアスも誰もそれにきづかない。
皆の眼はコレットの体、にのみ注がれている。
と。
「ようやく目覚めたか。気がるに触れないほうがいい。
今の神子は防衛本能にもとづき、敵を殺戮する兵器のようなものだ」
みればイセリアなどをおそったボーダという男が。
ふとみれば、部屋の扉扉が開かれ、その前に青い髪の男と、そしてその背後にボーダとなのっていたもの。
そしてディザイアンとよくにた格好のものが数名、たっているのにきづく。
そんな言葉におもわずきっとみる。
「お前らが…レネゲードなのか……」
「そう。我々はディザイアンに…いや、クルシスに対抗するための地下組織だ」
「じゃぁ、クルシスとディザイアンは本当に同じ組織なのか?」
「天使とディザイアンが裏で繋がってる!?」
ジーニアスがその言葉に驚きの声をあげる。
わかっていても第三者からいわれるのとではわけがちがう。
「その通りだ。クルシスは表ではマーテル教をあやつり、裏ではディザイアンを統べている。
ディザイアンはクルシスの下部組織なのだ」
イセリアを襲ってきたボーダという男が追加説明をしてくるが。
「クルシス…マーテル教が信仰している、女神マーテルを守りし神の機関『クルシス』…
そのクルシスと…天界とディザイアンが通じている…やはり私の推測は間違っていなかったというわけね」
それはマーテル教の教えとは根本的に異なるもの。
「ち、ちょっとまってよ!クルシスはじゃあ、何のために。なんだってそんなまだるっこしいことをやってるの!?」
ジーニアスの言葉とは対照的に
「お前たちは何をしようとしているんだ。どうして俺達をたすけたんだ」
きになっていることをといかけているロイドの姿。
「神子を殺してマーテル復活を阻止しようと考えていたが…今の神子には下手に手だしはできん。
それに、一ついっておく。マーテル教はクルシスが世界を支配するためにつくりだした方便にすぎん」
『!?』
それはあきらかに世界の根柢をくつがえすもの。
ゆえにロイド達は絶句せざるをえない。
「天使と名乗ってはいるが、奴らはクルシスの輝石…
ハイエクスフィアとよばれし特殊なエクスフィアを用いて進化したハーフエルフなのだ。
当然、神なのではない。マーテルにしても、然り。だ。
もっとも、マーテル教会も神子もそんなこととは知らないはずだがな」
ふと、エミルがときおりつぶやいていたことを思い出す。
偽りの真実。
エミルはよくそういっていた。
それが何を意味するのかあのときはロイド達にはわからなかったが……
「天使も…ハーフエルフ…なの?」
ジーニアスの声がかすれる。
「ああ。ディザイアンの一部も、そしてクルシスも、我々もハーフエルフだ」
ジーニアスが思わずリフィルの顔をみるが、リフィルはそしらぬふりで話しにききいっている。
「……クルシスは、何が目的なんだ?世界を支配するためだけにこんなことをしているのか?」
「全て我々にきくつもりか?少しは自分の頭をつかったらどうだ?」
ロイドの質問にあきれたようにいってくるリーダーとよばれている青年。
「女神マーテルの復活のため…かしら?
ディザイアンを操って、人々の心を恐怖でしばり、
そしてマナの血族に神託を下して婚姻を管理し器となる神子をつくりあげている。
かなりまだるっこしいやりかたなのがきになるけれど。
もう一つ。マーテル復活を阻止しようとして動いているのがレネゲード。
イセリアの教会を襲ってきたのはあなた達ね?そこのボーダという男が何よりの証拠」
「ほう。みごとですな」
リフィルの指摘にボーダが感心した声をあげる。
「シルヴァランドには互いにマナを搾取し合うもう一つの世界がある」
「テセアラだな」
「そう。そしてこの歪な二つの世界をつくりあげたのが、クルシスの指導者、ユグラシドルだ」
『!』
全員がおもわず声をつまらせ驚きの表情をうかべる。
「世界を…創る!?ばかばかしい!そんなことできるはずがないよ!」
ジーニアスが即座に否定するが。
「そう思うのならここでの話しはおわりだ」
「いえ。ありえるわ。…大樹、カーラーン。かの力がもしもあったのならば…
伝説ではこうあるわ。大樹、世界樹は無の空間よりし世界をうみしものなり、と」
文字通り無から世界を作り上げる、それが世界樹、だ、と。
エルフに伝わる伝承。
「…大樹カーラーンの力ではない。がにたようなものだ。
かの精霊は魔界との扉を守るためにいまだ目覚めてはいないはず…
いや、これは関係ないか。だが、これ以上、約束をたがえるわけにはいかないのだ。
世界を分けたのは精霊、オリジンの力だ。ユグラシドルはオリジンと契約をかわし、
その力をこのような歪な世界をつくりあげることに使用した。精霊をうらぎってな」
裏切り。
ふと、ウンディーネとのときの契約をリフィルは思い出す。
しかし精霊をうらぎるなどできるのだろうか。
だけども問題なのはそこではない。
「…まって。ではこの二つの世界を作り上げたのがユグラシドルならば。
オリジンの力をつかえば、世界は元通りになる、とでもいうの?」
「今は無理だ。オリジンも…他の精霊も契約の楔に縛られている」
ひとつほど、その楔は解き放たれたが。
「…お前たちはそんな連中相手に何をしようとしているんだ?
それだけじゃない。お前たちはコレットの命をねらってた。俺のことも、だ。
到底味方とはおもえない。なのにどうして俺達をたすけた?」
そんなロイドの問いかけに、
「…まんざら馬鹿ではないらしい。
神子の天使化はふせげなかったが、マーテルとの同化は阻止することができた」
ちらり、とコレットをみつつも淡々といいはなつユアン。
「何!?」
「我々の目的はマーテル復活の阻止。そのためにはマーテルの器となる神子が邪魔だったのだ」
それだけいい、深くため息をついたのち、
「…もっとも、神子は完全天使化してしまった。
今の神子は防衛本能に基づき、敵を殺戮する兵器のようなもの。いや、実際に兵器か。
ゆえにうかつに手だしはできん」
「…お前たちは味方じゃないのか?」
もう何が何だかわからない。
味方とはおもえないが、敵ともおもえない。
彼らの真意がわからないがゆえのロイドの問いかけ。
「ふ。味方…か」
そんなロイドの言葉にかるく笑みをうかべ、
「しかし、マーテル復活の阻止という我々の目的を果たすために最も重要なものは…
すでに我らが手中にある。もう神子など必要ない。
ロイド・アーヴィング。我々の目的を果たすためにもっとも重要なのがお前だ」
「俺?俺が何だっていうんだ?」
いきなり指摘され、ロイドは驚愕の声をあげる。
「きさまが知る必要はない」
「おまえらは…敵なのか?」
「そういうことになるだろうな。ロイドを捕らえろ」
リーダーの言葉をうけ、その場にいた兵士達が一斉にロイドをとりかこむ。
そんな会話をしている最中。
一人の部下らしきものが部屋のなかへとはいってくる。
「ユアン様。敵が侵入いたしました」
「…敵?」
ちらり、と報告してきたものをみるが、すぐさまに感じる違和感。
「なるほど…ねずみか!」
すばやく剣をぬき相手に攻撃をしかけるユアンであるが。
ぼふんっ。
直後、はいってきた人物がなげた煙玉のようなものが視界を覆う。
「しいな!?」
「あなた、どこにいって…!」
この建物のなかをみてくる、そういってどこかにいっていたというのに。
「話しはあと。それより、これをもってな!」
すばやく、コレットのなかに小さな石なようなものをいれ、それぞれに小さな石をてわたす。
「何?これ?」
「はやくしな!…でないと……」
~~~♪
どこからともなく声がしてくる。
それはまるで子守唄。
澄んだ声にて聞こえるそれは、そのまま体をゆだねてしまいそうなほど。
「石を!まきこまれるよ!」
しいながすばやくコレットの懐に石をいれこむのとほぼ同時にしいなが叫ぶ。
あわててそれぞれが石をつかむ。
「!これは、セイレーンの歌声!?きくな!お前たち!」
ユアンが叫ぶがすでにおそし。
ばたばたと、そのままその場にとたおれてゆくレネゲードの一員達。
「くっ!」
「ユアン様!?」
「いかん。ハイマでの傷がひらいたか!?」
「くっ。クラトスめ。どこまでも私の邪魔をする…」
「ハイマでの傷、だと?まさかあのときクラトスを襲ったのは…!」
ロイドがいうが、彼らも歌の魔力にさからえないらしく。
そのまま、ばたり、パタリとその場に倒れ伏してゆく。
「…うわ~…目の当たりにこうすると、何ともいえないね…」
ディザイアンのような服装に身をつつけんでいたしいなが服をぬぎすてつつもいってくる。
「しいな、あなた?」
「説明はあと。とにかくここから脱出するよ!」
「神子を…コレットを人間に戻す方法がある、といったらあんたたちはどうする?」
「世界の果てまでつきあうぜ!」
「その言葉に嘘はないね」
「ああ」
「しいな!みつけたよ!エミル様達がそこでまってる!」
廊下にとびでたしいなにたいし、ぽふん、と煙とともにあらわれてくるコリンの姿。
何やらしいなにそんなことをいっているが。
「ついておいで」
廊下のいたるところに倒れている人々。
その服装はどうみてもディザイアンのそれではあるが、
おそらくは活動するのにそのほうが都合がいいから、なのであろう。
ほとんどというか全員どうやら眠っているらしく…
「…すざましいわね」
おもわずぽそり、とリフィルがつぶやく。
今だに歌のようなものは聞こえてはいるが、
おそらくは手渡された石がこの歌の魔力を遮断する効果か何かをもっているのであろう。
ちなみに、遮断、というよりは睡眠防止100%耐性の力などが付随されているがゆえに彼らは眠らないだけ。
「…クラトスさん。最初から僕たちをだましていたんだね……」
「どこかおかしいとは思っていたけど…でも、結局はみすごしてしまった……愚かしい自分が嫌になるわね」
「ちっくしょう!クラトスの野郎…絶対ゆるせねぇ!」
「ロイド…エミルはだからクラトスに常に警戒してたのかな?」
「さあ?わからないわ。それは……それより、しいな。エミルはほんとうにここにきているの?」
ハイマで、救いの塔へ行く前にエミルはあの地にのこった。
彼があれからどうしていたのかリフィル達は知らない。
「エミル様はこられてるよ?」
たしかコリン、といった、しいなのペット。
当人いわく、精霊、らしいが。
尻尾が三本あるどうみてもリスもどき。
「それにしても…くそ!!俺がいったい何だっていうんだ!?
レネゲードの連中め。敵なのか味方なのかはっきりしやがれってんだ!」
「ロイド。おちついてよ」
「ああ。ごめん。つい。とにかくコレットをたすけないと。
マーテルの器なんてものにされちまったら。コレットが死んじまう」
手をひっぱっても何もいわず、表情もかわらず、コレットはまるで人形のようにそこにいるだけ。
「そういえば。きいていなかったけど。ねえ。しいな」
「な、何だい?」
「あなたのそのエクスフィアはどこで手にいれたものなの?」
「これは…こっちにくるときにつけられたんだよ。王立研究院でね」
「テセアラではエクスフィアを装備するのが当たり前なのかしら?」
「そんなことはないよ。元々はレネゲードからもたらされた技術なんだ。
それを研究して今じゃ、機械にエクスフィアを取り付けたりするのが一般的だよ」
「ちょっとまて。まさかレネゲードとテセアラは仲間なのか!?」
「仲間…かどうかはしらないよ。ただ、二つの世界の仕組みについて情報をもたらしたのはレネゲードだ。
そういわれてるよ。神子の暗殺計画も奴らの提案で、たぶん教皇のやつが暴走したんだとおもうけど。
あいつらが陛下よりもさきに教皇に吹きこんだにちがいないよ。
テセアラの繁栄を望むなら神子を殺せってね」
「ひどい…」
「あのじじいの考えそうなことさ」
そう吐き捨てるしいなはどうやら思うところがあるらしい。
「そういえば、あのユグドラシルって奴がクルシスの一番偉いやつなのかな?」
「ええ。おそらく眠っているというマーテルが象徴的存在で、
ユグドラシルがその計画を遂行しているのでしょうね」
「クラトスはあのユグドラシルって奴の部下だったんだね」
「…あいつ、コレットをマーテルにしてどうしようっていうんだ」
「…それよりも、マーテルがどうして器となる体を必要としているかが気になるわ」
リフィルが考え込むが、
「そうか。それってつまり体がないってことだもんね」
「なあ…体がなくてその…心だけっていう存在になっても生きていられるもんなのか?」
「現にコレットは心を失っても生きているわ。逆もありえるのでしょうね。
それに世の中には幽霊、という認識もあることですしね」
「そういえば…そうだな」
たしかに幽霊、という存在が嘘か真かはわからないが、すくなくとも認識というか、
誰もが知っているのもまた事実。
ゆえにロイドとジーニアスもリフィルの案に納得するしかない。
「どうしてマーテルが体を失ったのかがわかれば
ユグドラシルが何をしようとしているのかも判るかもしれないわね」
「とにかく、いこう。テセアラへ!…もう、何もかもコレットに全部おしつけるのは…いやだ!」
間違えないと誓ったのに、また間違えた。
ディザイアンとクルシスが繋がっているとわかった以上、コレットを犠牲にしてもそれは偽りの平和で。
己の偽善者ぶりに嫌気がさしてしまう。
「そういえば、きいてなったけど、どうやってテセアラにいくのさ?」
ジーニアスの素朴な疑問。
「二つの世界を行き来するには次元のひずみを飛び越える必要性があるんだ。
ここがレネゲードならば必ず、あれがあるはずさ。コリンがみつけてくれたようだしね」
「あれ?って?」
「レアバード。次元のひずみを乗り越えることのできる…乗り物さ」
「今のコレットには何をいっても無駄みたいだね」
「くそ。あのとき、世界とコレットを天秤にかけられて、俺は一瞬世界を選んじまった。
…それがまやかしの平和だったってのに……」
「…仕方ないわ。自分の決断一つで世界わ滅ぼすかもしれないとき、
簡単に仲間の命を選べるほうが…おかしいのよ」
「でも俺は…あのとき、コレットを身捨てた。俺は…偽善者だ…ちくしょうっ!」
「エミル!?」
「ノイシュ!?」
扉の向こう側にのんびりと座っていたのは、救いの塔からこのかたみていなかったエミルと。
なぜか宿にのこしてきていたはずのノイシュの姿。
ジーニアスとロイドの声は同時なれど、叫んでいる言葉が違う。
ジーニアスがエミルの名をよび、ロイドはノイシュの姿をみておもわず叫ぶ。
「エミル様、皆つれてきたよ!」
「お疲れさま。コリン。やっぱり新たな理もたない?」
「え、えっと。コリン、まだいい!」
それはたしかに名誉なこと、なのかもしれない。
だがしかし、今はこのまま、しいなとともにいたい。
「まあ、時間はあるんだからゆっくりでいいよ」
そのように提案されたのは、しいなとわかれ、この場をみつけたとき。
すでにエミルはこの場にやってきており…
どう移動してきたのか聞かないのは、彼ならば何があっても不思議でない、というか。
世界のどこにでも瞬時に移動できる、と本能的に知っているがゆえにコリンは驚かない。
「あなた、今までいったいどこに…」
「だって、ノイシュをハイマの宿においてきてたでしょう?この子一人残しておくわけいかないじゃないですか」
それは確かにそうではあるが。
リフィルの戸惑いの声ににこやかにこたえているエミル。
聞きたいことは他にもある。
どうやってここにきたとか、いろいろと。
「ねえ。エミル。ここの人達全員がねてるけど…何したの?」
「え?ただ僕はお願いしただけだよ?セイレーンに。ちょっと歌をうたってね、って」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・』
セイレーン。
それは海の魔物といわれ、その美しい歌声で船乗りをまどわし、そのまま海にとひきずりこむ。
とまでいわれている魔物である。
みればエミルの横にそのセイレーン・・・なのだろう。
直接みたことがないので何ともいえないがたしかに歌を歌っている女性型の魔物の姿がみてとれる。
「もういいよ」
その言葉をうけて、それまで歌をうたっていたその魔物がぴたり、と歌をとめ、
『私はこれからどういたしましょうか?』
澄んだ声にて問いかけてくる。
「用事があればまたよぶよ」
「マイちゃん。お疲れさま~」
『うわ!?』
ふとみれば、ふわふわとエミルの横にういている青い姿をした女性の姿。
何となくどこかで見覚えがあるような気がするが。
どうみても人の姿はしているが人ではない。
青白い肌に長く伸ばした青い髪。
耳はヒレのようで魚の形をしたピアスがその耳元をゆらしている。
そんな青き肌?のような姿をしたソレが魔物にとにこやかに語りかけていたりする。
「アクア。だからいきなり出てきたら他にもヒトがいる場合はびっくりするってば」
慣れているのか、あきれているのか、ため息とともにエミルがそんなそれにといっている。
「え~?でも、あのクラトスがいなくなったんですよ!いつもの姿ででてきてもいいんですよね!?」
「…まあ、かまわないけどな」
クラトス。
その言葉にすっとリフィルは目をほそめ、
「どういうことなのかしら?それにその声…それにその名。あなたはハイマでのあのアクアさんなの?」
「え?!でもあのアクアって子は人だったよね!?」
ジーニアスの驚愕の言葉。
「しょうがないでしょ?エミル様にいわれて、人の姿になってたんだもの」
魔物でもない、感じたことのないマナのありよう。
精霊を直接みたからこそわかる。
魔物でも精霊でもない、と。
それなのに世界と調和しているような不思議なマナ。
それゆえに戸惑いをリフィルもジーニアスもかくしきれない。
「用事があればまたよぶね。それじゃ」
アクアかそういうとともに、ぱしゃん、とした水の陣がうかびあがり、
セイレーンの姿は床がいきなり水のようになったかとおもうとその場にと沈んでかききえる。
「は!?そういえば!つまり、人の姿になっていれば常にエミル様のおそばに!よし、ならば!」
何かにきづき、ぽん、とてをうちそんなことをいいだしているアクア。
そんなアクアをみてエミルはただため息をつくのみ。
「…アクア。あなたはエミル様のいわれたことを理解していないようですね?」
「うげ!陰険テネブラエ!何よ!いいじゃない!
せっかくこうしてラタ…エミル様と一緒にいられるのよ!滅多とないことなのよ!」
『ってまた魔物!?』
「魔物ではありません。失礼な。私はセンチュリオン・テネブラエです。まったく」
あらわれた黒い猫のような犬のような服のようなものをまとっているようにみえて、
不思議な紋様がきざまれし体をしているつかみどころのない生物。
「まあ、愚かなヒトにいっても仕方ありませんね。
それより、アクア。あなたはあなたのお仕事があるでしょう?」
「え~?エミル様ぁぁぁ~……」
「テネブラエ。つれてっていいよ」
もはやあきれたようなエミルの声。
「そ、そんなぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ほら、いきますよ。まったく。ああ、エミル様。次はルーメンとイグニスがおそばにいますので」
「エミル様ぁぁ!」
何やら哀愁にもにた声をあげつつも、何やら懇願しているらしきアクアの姿がそこにある。
「・・・・・・・はぁ。だからいらない、といってるんだが……」
何だろう。
この会話は。
おもわず顔をみあわせるロイド達。
しいなにしても然り。
「とっとといけ」
エミルの言葉をうけて、そのままその二つの姿はまたたくまにとかききえる。
「すいません。あの子達どうもにぎやかで……」
そういうエミルは苦笑するしかない。
「エミル…あれはいったい?」
「僕の大切な家族ですよ?かわいいでしょ?」
『かわいい…(か)?』
おもわず異口同音でそうつぶやくリフィル・ジーニアス・ロイド、しいなの四人。
「まあ、あの子達のことはともかくとして。ともかくここから脱出しないと」
いや、ともかくって…
突っ込みどころは多々とある。
たどり着いたは施設の一角。
そこにずらり、とならべられている乗りもののようなもの。
「これは?」
「レアバード。次元のひずみを乗り越える機械さ」
コントロールパネルを操作し、ブログラムと起動をいじる。
「あたしの世界では、天使疾患、とよばれているものの研究が進んでいる。
コレットを人間に戻す方法があるかもしれない。そうすればあたしもコレットを殺さずにすむ。
もう一度きくよ?次元をこえるゆうきは?」
しいなが問いかけてくるが、もうロイド達の心はきまっている。
「自動操縦に設定してある。いくよ」
空にむかってそのまま上空。
暗き空間にはいったかとおもうと、まるで上下が逆転したような、そんな感覚。
それまで下にみえていた大地がいきなり上にみえたかとおもうと、そのまま上にとつきぬける。
その直後に、それまで下であった場所が上になり、上下が逆転したかとおもうと、
一瞬、上下それぞれに大陸がみえるのがみてとれる。
「こ、これは…!?」
リフィルがおもわずつぶやくが。
「ここが空間の狭間。世界と世界をつなぐ場所さ。…このままつっきるよ!」
それとともに、ぶわり、とした感覚がリフィル達にと襲い掛かる。
やがて、分厚い雲をぬけたかのように視界が開ける。
あちらをでたのは夜であったが、こちらもまた夜らしい。
月灯りが周囲を照らし出す。
ふと視界の端にうつるみおぼえのある建造物。
「…あれは、救いの塔?!」
自動操縦になっているとはいえ、バランスをとるのは必要。
リフィルがそれに気づき驚きの声をあげ、
「どうして?ここはテセアラでしょう!?」
そんなリフィルの後ろに乗っているジーニアスが思わず叫ぶ。
「あたりまえさ。救いの塔は繁栄世界に出現するんだ。
そっちだってコレットが神託をうけたから救いの塔が出現したんだろ?」
そんな真横を飛ぶしいながそんな二人にと淡々と空の上にて言い放つ。
「二つの世界、二つの塔……!
聖地は?ここにもマーテル教があるのでしょう?聖地はやはりカーラーンなの?」
「そうさ。あの救いの塔がある場所が聖地カーラーン。あんたたちの場所と同じだよ」
しいなの説明。
ちなみに、ロイドの後ろにはコレットがのっており、
ジーニアスとリフィルが同じ乗り物。
エミルとノイシュが同じ乗り物にのっていたりする。
しいなのみ一人でのっている状態なのだが。
「聖地カーラーンってのは古代大戦の停戦調印場所だよ。二つあったらおかしいじゃない!」
「そっちがまがいものなんじゃないのかい?
こっちの博物館には勇者ミトスが二人の古代王を聖地カーラーンに招いて、
停戦の調印をしたって資料ものこってるんだよ?」
「こちらも資料ならあってよ。パルマコスタの学問所に調印式に使われた道具が残っているらしいわ」
「どっちがか偽物か。あるいはどっちも本物か」
「そんなわけないでしょ!」
そんなロイドにおもわずジーニアスが叫ぶ。
「おこるなよ。ただいってみただけだろうが」
「え?ロイドの言葉が正解だけど?」
『・・・え?』
「え?って…まさか、しらないの?」
エミルからしてみればてっきりもうしっている、とおもっていたのだが。
どうやらそう、ではないらしい。
「たしかに、大樹カーラーンがかれて、マナを生み出すものがいなくなり、
その後、世界は二つにわけられた、とは習ってるけど……」
しいながそういうが。
「どうもまだよく君たちヒトがわかっている事実というものがつかめないな…ま、いいか」
それですませてしまうエミル。
「ま、いいか。って……」
ロイドも何といっていいのかわからない。
「無駄話はそれくらいにしときな。そろそろ目的地につくよ!」
そんな会話をさえぎりしいながいってくる。
「って、ちょっとまって。しいな?あのもしかして街…のようなところにこれはむかってないかしら?」
どうみてもむかっているのは街の方向。
街だとわかるのは、あきらかにきらきらとした灯りがともっており、
人が住んでいる、というのがわかる壁のようなものにかこまれた場所にむかっているがゆえ。
「そりゃそうさ。目的地はここ、テセアラの首都、王都メルトキオに設定したからね。町の正面に降りるはずさ」
「…もう、中にはいったけど?」
『え?』
エミルの言葉にたしかにいつのまにか街の中心にむかって、しかも下降中。
『うわぁぁ!?』
「…ラタスク様、わかっててもいいませんでしたね?」
「そのほうが面白そうだったからな」
思わず横にいるウェントスから突っ込みがはいるが、さらり、とそれを肯定する。
何でも空を飛ぶことになり、心配だからといって様子をみにきていたらしいのだが。
本当に過保護というか心配性すぎるとおもうエミルの気持ちはまあ間違ってはいないであろう。
そのままブログラムミスによるものとはいえ設定されるがままに、
街の広場の中央へとレアバード達は降下を初めてゆく……
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あとがきもどき:
薫:ようやくテセアラ編に突入vそろそろクラトスがいなくなったので、
センチュリオン達もエミルにいわれあまり自重しなくなってくる予定(まて
次回、ようやくゼロス登場ですv
2013年6月22日(土)某日
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