まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
今回のまえぶりさんは、コレットの独白というか一人称をば。
救いの塔にいくところのコレットの心情をば。
…容量的にミトス登場は次回…かな?
########################################
やっぱり、すごくつらくなっちゃった。
それに、すごくこわい。
だけども。
最初からわかってた。この旅はこんな風にしか終わらないんだって。
一緒にいる時間が長くなれば長くなるほどおしまいはつらくなる、そんなこと…わかってた。
でも、でもね。私・・・後悔していない。
ねえ。ロイド。本当だよ?私、すごくうれしいんだ。
私は、心と記憶をなくしちゃうけど、それとひきかえにロイドのいる世界が生まれ変わる。
それって、たぶん、私の命がこの世界にあふれるってことだよね。
そしたら、そしたらね…風になって、空になって大地になって。
私、ずっとロイドと一緒にいられる。それが、うれしいんだ。
だから…後悔なんて…本当はあるけど、してないから。
だから…さよなら、ロイド……
光と闇の協奏曲 ~救いの塔へ~
「ところでさ。ここからどうやって救いの塔までいくの?山をこえないといけないんだよね?」
「そうか!」
「ど、どうしたの?」
「竜観光のおじさんだよ!あの人にたのんでドラゴンを貸してもらおう!
ドラゴンなら救いの塔までだっていけるはずだぜ!」
「なるほど。その手があったわね」
ぽん、と手をうち叫ぶロイドに、感心したような声をだしているリフィル。
そして。
「ほんとうにあなたは、こういうことのみは頭がまわるのよね」
「へへ」
「…この回転が勉強のほうにまわってほしいわ。切実に」
リフィルの切実とした訴えはロイドには届かない。
ハイマ。
先日までの騒動がうそのように、それでいていまだに復興最中のこの街。
いきなり人が異形になったり、魔物が魔物同士で争いをはじめたり。
健康なものがばたばたと原因不明の症状で倒れたり、といろいろとあったが。
神子一行がたちよったあと、その原因不明の異常も綺麗さっぱりと解決した。
そんなハイマがある山の頂上。
かなりの数の観光客、もしくは旅業、冒険者たちが
一斉に一人の男性を前にしてたむろしている様子がみてとれる。
そんな男性の横にはまだ若い飛竜が一体ほどきちんとお座りして存在していたりする。
「塔は結界にまもられていて近づけない。遠巻きにぐるりと一周するだけだ。
それでもよければ、一人、一万ガルド」
「法外だ!」
「おい。この前までは六千だったじゃないか!」
「ふざけるな!」
「嫌ならいいのですよ?そもそも今この街にはお金が必要なのですよ。
先日の魔物の襲撃で街そのものが壊れまくっています。
そんな中、収入源である私のもとに寄付依頼がきてもおかしくはないでしょう?
私だって生活があります。このこたちの食事もありますしね」
いいつつも、子供のころから育てている飛竜をなでる。
「それに。です。別にこっちは乗ってください。と頼んでいるわけではありませんよ?
好きにすればいい。でも、これを逃したら次に塔をおがめるのは何十年後になるやら」
ハイマが魔物におそわれた、という話しをききつけて、幾人かの冒険者たちがあつまり、
またそれが解決した、ときき、塔を近くですこしでもみよう、という観光客がおしよせている。
ここしばらくは気候もおだやかで、人々は再生の神子が成功している証だ、といわっていたりする。
「おや。神子様ご一行ではないですか?おかげさまで竜観光は起動にのっていますよ?」
周囲では、一万ガルドなど法外だ、などという声がしているが。
神子、という言葉に人々の視線がこちらにとむく。
「あなた様はこの街の恩人でもあり、神子様の御力にたてるのでしたらいつでもいいですよ。ただ…」
「ただ?」
「救いの塔の周囲は危険だときいておりますので、観光も塔の周辺を飛ぶだけとなっています。
塔の周辺には何か視えない力がはたらいており近くまではいかれませんのでね」
「とうとう、最後の封印を残すのみ…か」
「今晩は自由行動にしましょぅ。ただし、村の外にはでないこと。よろしい?」
「うん」
「……わかった」
「明日の朝には出発だな」
「それじゃあ、皆、ゆっくり休みなさいね」
「…ありがとう?いいのよ、そんなの…コレット…ほんとうに、いいの?
あなたの今後を知っていて私にはこんなことしかできない。だけど……」
「…お前の旅ももうすぐ終わるな」
「…こんな終わりを望んでいたわけじゃねえ」
「そうか?神子にすがって始まったお前の旅だ。当然の結末だろう?」
「…神子にすがった?」
「覚えてないのか?お前はこういったのだ。
自分達には神子がついている。世界を再生する救世主が、と」
「ああ…そうだ。そういった。だから神子を護るって……」
「一番大切なところで神子の力にたより、すがることが守るということなら
私の知らない間に言葉はずいぶんと様変わりしたのだな。
そしてあの神子は自らが犠牲になることで全てを解決しようとしている」
「あんた、何がいいたいんだ?」
「お前は…間違えるな。大切なものを見失うな」
「よくわかんねえけど…わかったよ。でもさ、間違えたらやり直せばいいんじゃないかな?」
「……ふ。やりなおす。か。やり直せるものならばそうするがいい」
「…わかっていないだろう。ロイド。神子があそこまでかたくななのは、おそらくは、お前の……」
離れてゆくロイドにたいし、づふやくクラトス。
「神子は死を選ぶ。他ならぬ、お前の言葉でな……」
「明日でシルヴァランドは救われるんだよね…じゃあ、テセアラは?」
「お前はどうするつもりなんだよ。しいな」
「さぁてねぇ。今はもうここまできたらコレットを信じるしかないだろ?
しかし。クルシスとやらも胡散臭い。
リフィルのいうとおり、四千年もずっとこの状態、というのがおかしい」
世界を救う力があるのならばとっくに世界は互いの世界も救われていてもおかしくない。
眠っているという女神マーテル。
何かがマーテル教のおしえはちぐはぐすぎる。
ここ、シルヴァランドにきてそれをより深く確信した。
「…それに。さ、こっちの神子は信用できそうだし。うちのあほ神子とちがってね!!」
その台詞のみには異様に力がこもっているように感じるのはロイドのきのせいか。
「ってお前の所にも神子がいるのか!?信用できない神子なんてのがいるのか?」
「いるにきまってるだろ。うちのところにもマーテル教はあるんだ。テセアラの神子だよ。
いけすかない奴でさ。
ああ、うちの神子もあんなに素直ないい子だったらどれだけ世界が…いや、いっても無駄だね。これは」
「…どんな神子なんだよ」
「きかないでくれ。世界のはじだから」
「は、はじ!?」
そこまでいわれる神子っていったい…ロイドはおもうが、しいなの坐った目をみてそれ以上の追求をやめる。
あるいみ懸命な判断、といえるであろう。
「…二つの世界。二人の神子。
…ああ。神さまなんてものが本当にいるのならどうしてこんな世界をつくったのかねぇ?」
「そうだな。ぶっとばしてやりたいよな」
「アハハ!ほんとにねぇ。…ほんとにどついてやりたいよ」
「コレットのところにいっておあげなさい。…最後なんだから」
「最後?」
「…人、としての最後の夜だから」
「先生。学者なんだろ?どうにかならないのか?」
「……まだわからないの?おばかさんね。学者だから天使になっていくコレットに興味があるのよ」
「嘘だろ?先生」
「さあ…どうかしら?ほら、もういきなさい」
「…救いの塔がすぐ近くにみえる。ずいぶん遠くにきたね」
「ああ。そうだな」
「こんな時、自分が馬鹿だったんだなって思うよ」
「……何で?」
「これでよかったのか、悪かったのか。それすらわからないから」
「…そんなこと、誰にもわからね~よ。わかってるって思ってるやつが馬鹿なんだって」
「…そうかな?」
「そうだよ」
「コレットは…いいの!?ねえ!コレットは、こんなおわりかたで、本当に!」
ジーニアス、ロイド、コレットにて夕方、見晴らしのよい崖の上へ。
そこにて会話しているこの三人。
「もうすぐ世界が再生されるのか……」
「ごめんね?何であやまるんだ?」
「最後なのに、話すことができないから?へんだって?
ばーか。そんなのどうでもいいよ。どんなになってもお前はおまえ。
たとえどんな姿になったってコレットはコレットだろう?
天使になってもマーブルさんみたいになっても、俺はお前のことへんだなんておもわないよ、絶対にだ。
そ、それより俺のほうこそお前に謝らないと……」
「?」
「結局、皆にばらしちまったからな。お前のその…今の状態のこと……」
「そうだ!世界を再生する記念にこんどこそ、その首飾りよりもっといいものつくってやる!
旅がおわったらかならずな!だからさ。首飾り。かえしてくれないか?」
いわれて、コレットはいつも首にかけていた首飾りをはずし、ロイドにとてわたす。
「…半人前以下。四分の一人前のでき。預かっておく。
イセリアにもどったらどんな宝石にもまけない、最高の首飾りに仕立て直す!
俺さ、今ならそういうのがつくれそうな気がするんだ。
出来上がったら、改めてもう一回、お前にプレゼントし直すよ。
天使になってもコレットはコレットだ。だから…一緒にかえろう。俺たちのイセリアに。一緒に、だ」
「…ずっとまってる?天使になっても、ずっと、まってる?」
ほほえみつつも、ロイドの手をとり文字をかく。
「ああ。期待しててくれ!…最後にきいてもいいか?」
「…本当に後悔しないのか?天使になってもいいのか?」
「…本当は、少しこわい…そうだよな」
「でも・・・自分の人間としての命と引き換えにシルヴァランドが産まれかわるなら。
自分の命が世界中にあふれるってこと。そう考えたら大丈夫……?」
「…おまえってつよいな」
「…風がつめたいな。そろそろ宿にもどろう。…あ。ごめん。お前…かんじないんだったな……」
「ロイド!こ、コレット、もう戻ろう?ね?」
「ロイドの馬鹿!コレットの気持ちかんがえてあげてよね!」
感じない、などといわないでほしかった。
ほんとうに、空気をよまないというか。
そんなロイドにほほえみ、先にもどるね、そう口元をうごかして、この場をあとにしたコレット。
そんなコレットをあわてておいかけているジーニアス。
「わ…わるい。本当に、俺は馬鹿だな…くそ。どうにもならないのかよ…」
「おや。あなたは、たしか……」
祈らずにはいられない。
いや、いのっても原因はその祈りの対象者なのだから祈っても無駄かもしれない。
だけど何かせずにはいられない。
ふと、声をかけられる。
たしか以前、ハイマで治癒術をほどこして人々をたすけていたときにみたことがある。
ここ、ハイマのマーテル教の祭司長。
「祭司様」
「神子様の…いつ、おたちに?」
「明朝。夜明けとともに」
「…明日。シルヴァランドは滅びの運命から解き放たれるのですね。
世界再生の旅はなしとげられ…希望にみちた未来となる」
「祭司さまぁ!ご本よんで……あ。ご、ごめんなさい」
「すまないね。もうすこしまってもらえるかい?」
「はい!わかりました!またねぇ!」
「…神子殿とはどういったご関係で?」
「神子は…コレットは、私の学校の生徒です」
「それは…おつらいでしょうな……」
「…本当につらいのは、私ではありませんから……」
「マーテル様も罪なことを。なぜ人の命でしかマナをあがなえないのでしょうか?
かつて勇者ミトスが死してマナとなって世界を救ったように、神子の命にてマナが蘇る。
これは我らマーテル教の祭司にのみつたわる真実」
「…ええ。そして神子とその養父母達にのみその事実はしらされる」
「あなたは…」
「私はみたとおり、エルフです。ゆえにコレットのために教師として雇われました。
…あの子にすこしでも、ヒト、としての想いでを、という願いで……」
願わくば短い人生ですこしでもいい想いでを、という願いにより。
「?今の、クラトスだよな。どこにいくんだ?」
夜。
ハイマの宿の二階。
部屋数もないことから、全員で一つの部屋でねることになり、
しかしコレットのみはベット一つをあてがわれている。
横ではぐ~すかとねているジーニアスの寝姿が。
「…また、エミルはきてないのか」
宿にはいるときにはいるのに、いつも自分はいい、といって一緒にとまった試しがない。
それはエミルと旅をしはじめてからこのかたずっと続いている。
クラトスが部屋をでていったのにきづき、ロイドもその後をおいかける。
ジーニアスをおこさないようにそっとベットを抜け出し宿の外へ。
どうやらクラトスは外にとでたらしい。
宿の横の小さな小屋。
さすがにここ、ハイマは冒険者の街といわれているだけのことはあり、
乗獣などにかんする宿舎もある。
その一角にノイシュも当然のことながら預けられているのだが。
その宿舎の一角。
ノイシュの前にまで夜だというのに移動しているクラトスの姿。
そして。
「…これからもお前にはロイドを身守ってもらわなければならないな」
「く~ん、く~ん」
ロイドと一緒にすまないの?親子なのに?
そういい、首をかしげつつも声をだしているノイシュだが、クラトスにはノイシュの言葉はわからない。
「…私には、やらなければならないことがある。私のかわりに……」
そういいかけるクラトスの背後に突如として人が転移してきて、そのまま攻撃を加えようと手をかざす。
それをみて、
「クラトス!あぶない!」
青い髪の男性が今まさにクラトスを攻撃しようとしているのがみてとれる。
はっと振り向いたクラトスはとっさに剣を抜き放ち、相手にと斬りつける。
「くっ!」
「まて!」
男はあらわれたときと同様、そのままその姿をけしてゆく。
「今の…たしか……」
砂漠の捉われた施設の中でみたことがある男だとロイドはきづいて声をだすが。
男は傷をおさえたまま姿をけした。
それは魔科学による転移によるもの。
マナがそれと同時に一瞬乱れる。
「大丈夫か!?クラトス!」
「ロイドか。…たすかった。ありがとう」
「いや。そんなのはいいけどよ……クラトス。何ものだ?今の。
なんかみたことがあるような気がするんだけど」
「…おそらく、例の暗殺者だろう。深手は追わせたはずだが、逃げれてしまったな」
「そうなのか?でも暗殺者?なんかやっぱりみおぼえがあるんだよなぁ」
「それより。ロイド。そろそろ宿にもどれ。夜ももう遅い」
「あんたはどうなんだよ」
「私は寝ずの番をする。ここ、ハイマではこの前まで混乱真っただ中だったようだしな」
あの瘴気がまたでてこない、ともかぎらない。
それゆえのクラトスの言葉。
「…ロイド」
「ん?何だ?」
「……死ぬなよ」
「あ。ああ。何だよ。急に?」
「…きにするな。…明日は救いの塔だ。ゆっくりと体をやすめておけ」
「あ。ああ」
そのままその場をたちさるクラトスをみつつ、
「なあ。ノイシュ。お前、クラトスと何をはなしてたんだ?」
きゅ~ん、きゅ~ん。
ノイシュが必至にクラトスを止めるように、と話しかけるがロイドにはその言葉はつうじない。
それゆえに、ぽすっとノイシュの頭に手をやり、
「あっ、そ。とりあえず俺、ねるわ」
ふわ~、とあくびをしつつもロイドは再び宿へともどってゆく。
うっすらと空があかるくなってくる。
それと同時にそっと宿をでる。
まだ朝霧がふかく、誰もが寝静まっている時間帯。
皆まだ寝静まっているのを確認し、そっと部屋を抜け出し宿の外へと一人でるコレットの姿。
ふと、コレットが一人、宿からでるとそこにいるべきはずのない人物が腕をくんで立っているのがみてとれる。
「前一人では飛竜をあやつれまい?」
そういってくるのは、クラトス。
どうやら自分の考えはばれてたみたい。
そうおもい自分自身に苦笑してしまう。
やっぱり、すごくつらく、そして怖かった。
後悔はしていないが、それでも一人で、というのは怖かった。
心の支えにするつもりだった首飾りもロイドに渡してしまった以上、今は一人ぽっち。
そういってくるクラトスにコレットは深く頭をさげる。
何もいわずに手伝ってくれる彼に感謝して。
「あ。コレット」
『エミル?』
不思議なことにエミルは自分が心でおもったことがわかるらしく、
言葉がなくても、指で何かかかなくても会話はなりたつ。
「…なぜお前がここにいる?」
本来ならばここにいるはずがないであろう、エミルにおもわずクラトスが問いかける。
「今日はここでやすんでたんですよ。ここの子達と話しもありましたしね」
ここは飛竜の宿舎。
宿にいつものようにいっていない、というのはしっていたが。
ここにいるとはクラトスも知らなかった。
「ロイドも馬鹿だよね。何も昨日、首飾りを一度返してなんていわないでもいいものを」
『…しょうがないよ。ロイドはあの首飾りが半人前以下だっていってたもん』
今ならばいいものがつくれそうな気がする。
それは嘘ではないのだろう。
ロイドが返してほしい、といってきたとき断ることもできたがそれをしなかったのは。
一つでもロイドのもとに自分の想いでをのこしておきたかったがゆえ。
「かわりにならないかもしれないけど。これ」
いって、エミルが差し出してきたのは、綺麗な紅い細工がほどこされた蝶の髪飾り。
『エミル?これ?』
「一人で塔にいくきでしょ?首飾りの変わりにはならないかもしれないけど、ね」
「…お前はいかないのか?」
「どちらにしても、僕はノイシュと一緒にここでまってるつもりでしたしね。
ノイシュを塔につれていくわけにはいかないでしょう?」
たしかにこの旅の中、どうもエミルの優先順位はノイシュを優先しているふしがある。
それは節々にみうけられているので、そういわれてもあるいみ納得してしまう。
クラトスの問いかけににこやかに答えているエミルの言葉に嘘はないのだろう。
『ううん。ありがとう。エミル』
小さなパレット式の蝶の髪飾り。
それをそのまま髪にとつける。
みたところブローチにもなるらしく、小さな針のようなものもついている。
こころなしかふと体がかるくなったような気がするのは、
やはり今までつけていた首飾りがなくて心がさみしく感じていたからか。
やはり一人で向かうのはこわいが、すくなくとも何か他者との繋がりがあるものがあれば。
少しは気がまぎれるのもまた事実。
「私は飛竜を借りてこよう。神子はここでまっていろ」
そういいつつ、クラトスは飛竜の小屋の中へ。
「コレット、これだけは忘れてないで。…世界は、生贄なんかでは救われない。
大地は生贄を望んではいない、ということをね。
偽りの真実に流されているままでは、逆に世界を破滅においやりかねない、ということを」
『?エミル?』
よくエミルはときどき偽りの真実。
そういっている。
その意味はコレットにはわからない。
「…ヒトの命なんかの小さなマナ程度では世界を満たすどころか消滅するのが関の山。
にもかかわらず、古今東西、どうしてヒトはそれに気づかないのか……」
それはエミル、否、ラタトスクとしての本音。
ふともれたその言葉は精霊原語であるがゆえに、コレットには理解不能。
クラトスとコレットの乗った飛竜が朝焼けの中、とんでゆく。
やがて塔に近づくとクルシスの輝石が反応し、塔の周囲の結界が音をたててかききえる。
きらきらとした光の粒が周囲にたちこめ、それらはまたたくまにときえてゆく。
「!!」
何か音がした。
それゆえに宿の一室にてとびおきるロイド。
「まさか!?」
横をみれば一緒にねたはずのコレットの姿がない。
「みんな!おきろ!コレットが!」
ロイドがさけび、あわてて全員を揺り起こす。
どうみても、むなさわぎがする。
まちがいなく、コレットは一人で塔に向かった。
そう確信がもてるがゆえに。
「何でだよ。何かんがえてるんだよ!コレット!」
「あの子、一人でいったのかい!?どうして!」
しいなが叫ぶが。
「エミルは?」
「まだいないよ!ともかくいそごう!おいつかないと!」
ともかくまずは、飛竜の小屋にいくしかない。
それゆえにあわてて宿をでて、まずは森の中を駆け抜ける。
と。
「…先生?」
「姉さん?」
「リフィル?」
竜小屋にむかい走っている最中、リフィルが足をとめる。
それにきづきロイド達も足をとめそのままリフィルをふりかえる。
「…ごめんなさい。コレットに…口止めされていたの」
「…姉さん?」
「…再生の旅は人としてのしにゆくための旅。感覚をうしない、涙をうしない、声をうしない…
そして、旅の終わりには神子は人の全て…心と記憶をささげることを求められるわ」
「なに…いってるんだよ。先生」
ロイドにはリフィルが何をいっているのか理解できない。
「それらを自ら望むことで、神子は真の天使となる。
そして、天使となった神子の肉体に女神マーテルが宿る。
それが…世界再生の真実。コレットはそれを最初からしっていたわ。
でも十六年間。それを一人の胸にその真実をしまいこんできた」
「な!あんた、しってたのか!?」
しいなが驚愕の声をあげ、
「冗談だろ?先生。コレットはしんじまうってことか!?」
「ひどいよ、姉さん。どうしてだまっていたんだよ!」
それぞれに抗議の声をあげるロイドとジーニアス。
「しっていたらコレットをとめられて?」
「当たり前でしょ?!」
ジーニアスが即座に応答するが、
「この世界が滅んでも?」
リフィルの言葉にロイドもジーニアスも何もいえない。
と。
「あたしはいくよ」
「しいな?」
一人進んでゆくしいな。
「あの子の気持ちはわからなくない。けど、あの子は今、言葉もはなせない。
もしもレミなんとかってやつに直談判するにしても。言葉が話せないのにどうやって?
あたしは…あたしは、テセアラを守るために、もしもあの子が再生を果たすなら……」
「しいな!」
それはかつて、しいなにいわれたこと。
もしもダメなときはあたしはあんたを…コレットを殺すかもしれない、と。
ロイドが叫ぶが。
「あたしにだって守りたいひとがいるんだよ!あんたたちのようにね!
あたしだって、あの子を殺したくはないよ!でもっ!
テセアラだったらあの子の症状を完治させることもできてじか談判とかできたかもしれないけどさ!」
そのことばにふとジーニアスが首をかしげる。
「何でしいなのところだと完治させることができるかもっていうの?」
それは素朴な疑問。
「うちのところの神子はこれまで代々、似たような症状で産まれたものがいるんだよ。
クルシスの輝石をもってうまれてきた神子が輝石と一体化してね。
それらはほとんどが感情もなく、産まれたときからコレットのような輝く翼をもっていたってきくよ。
そのためにあたしらのところでその症状についた名前が天使疾患っていうのさ。
こっちでもリフィルがそういっていたのには驚いたけどね。
神子を失うわけにはいかないという理由でそのあたりの研究も盛んなのさ」
「!じゃぁ、テセアラにいけばコレットもなおるの!?」
それは希望。
ジーニアスが眼をがかやかせる。
そんな会話をしている最中。
「あれ?まだみんなこんなところにいたの?さっき、コレットとクラトスさんが飛竜にのって塔にむかったよ?」
いつのまにか飛竜の宿舎近くにきていたらしい。
ふと聞き覚えのある声がしてみてみれば、なぜか飛竜に囲まれているエミルの姿。
ちなみに周囲には魔物達の姿もみてとれる。
そしてその背後にはノイシュの姿も。
「な!エミルは知っていてついていかなかったのかい!?」
しいなの問いかけに、
「僕の優先はあくまでもノイシュ。この子を塔になんてつれてけないよ」
きっぱり。
そういってノイシュをやさしくなでるエミル。
今までもエミルはたしかに人…つまり自分達よりも常にノイシュを優先させていたな。
と思い当たるところがあったのでふとそんなことを思うロイド達。
「それに僕は自分から自分で考えようともせずに流されるままに選ぼうとしているものを止めるつもりもないしね。
偽りの真実に踊らされ、君たちならいくら何でも気づくかとおもったけどね」
「どういう…?」
「自分達で調べよう、もしくは考えようとしない人にはいつもいってるよね?僕。
説明する気はないって。で、どうするの?このままコレットを一人でいかせたままにするの?」
「コレットを死なすわけにはいかない!」
ロイドがそういい、足を一歩ふみだす。
「なら、この子達つかってもいいよ?」
エミルの言葉に、周囲にいた飛竜…どうみても野生…達が一斉にいななく。
「ロイド…あなた」
「姉さん。僕もいく」
「ジーニアス!…仕方ないわね。そうね。私も確認したいことがあるし…いきましょう」
エミルによくいわれる偽りの真実。
そして、テセアラトシルヴァランドの関係。
四千年以上にわたる、女神マーテルの復活の失敗。
エミルはどうも動くきはないらしい。
その場にエミルをのこし、ロイド達はコレットとは大分遅れ、塔へとむかってゆく。
そんな彼らを見送りつつ、
「さて。と。彼らはどう選択するかな?」
「きゅぅぅん……」
「え?彼らが行動しない場合はやはり地上を浄化するのか?って。…そうなるかな?もしくは……」
大幅に人というヒトを粛清し数を減らすのもまた選択肢の一つ。
塔の深部へ続いているであろう階段。
その先にあるのは何でできているのかわからない、透明な階段。
上すらみえないほどの柱を中心にして光の螺旋階段が続いており、
ふきぬけらしき塔のなかは不思議な空間でみたされている。
何とも形容がしがたい空間のなか、
無数の箱のようなものがところせまし、と螺旋を描くように漂っている。
エミルにいわれ、飛竜にのり救いの塔へとやってきた。
結界がある、といわれていたがすんなりとはいれたことに疑問を覚えたが、
再生の神子の手により結界が解かれているのだろう、というリフィルの言葉に納得し、
開かれていた塔の入口より内部へと。
そこにただよっている幾多もの箱のようなものをみてロイド達は絶句する。
「…な、なんだこれって…死体!?」
近くにういてきたその箱の中をみて思わず驚愕の声をあげるロイド。
箱のなかには…どうみても人、がはいっている。
それも死んだときと同じ状態なのだろう。
ほとんどが…自分達と同じ年頃の…若い、少女。
「ということは…まさか…この浮かんでいる全て…棺…なのね……」
階段をのぼりつつも、リフィルがつぶやく。
「おそらくは…今まで、世界再生に失敗した神子達…なのかもしれないわ」
みあげても天井すらみえないほどの高い塔。
雲すらをも突き抜けてあった塔の下から上、上から下、へと棺らしきものはゆらゆらと、
塔の中の空間を漂っている。
それこそ無数に。十、二十といった単位でも、百、二百の単位ですらない。
おそらくは万、数十万くらいはあるかもしれないほどの棺の数。
「どういうこと?!姉さん!」
「…世界再生はマーテルの器となりしもの。でもまだマーテルは復活していないわ。
つまり…女神マーテルの器となれなかったものたちの慣れのはて……」
「そんな…そんなこと、みとめられるかよ!コレット!!」
しばらくすすむと、透明な床らしきものがとぎれており、その先にあるのはみおぼえのある転移装置。
それにのると、どうやら一気に最上階にまでたどり着けるらしい。
目指すは塔の最上階――
――Go To Next
Home TOP BACK NEXT
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
あとがきもどき:
薫:さて、打ち込みしたがいいものの、ボツにしたシーンをば。
「コレットか。世界再生か。どちらかしか選べない。私たちにはそれを選ぶことができない。
だから、コレットは一人で…レミエルにじか談判をかねて……」
その言葉にジーニアスも何もいえない。
だがしかし、一人無言でそのまま先をすすみだすロイドの姿。
「ロイド…」
「俺はいく」
「でも」
「俺はコレットをまもる!」
「ロイド、だけど」
「あいつはいつだって、誰かのためにくるしんできた!自分のためじゃなく、誰かをすくうために。
一人でたたかってきたんだ!なのに…なのに、なのにさ。
コレットのために戦ってやるやつが一人もいない。
そんなの…そんなのかなしすぎるじゃないか!
俺が…俺がたたかう!コレットのために俺がたたかってやる!
俺に何ができるのか。それで世界がどうなるのかわからない。でも俺はいく。
いかなきゃだめなんだ!」
「あたしもいくよ。あの子をみすみす死なせるわけにはいかないわね」
「ようやく覚悟はきまったみたいだね」
『え?』
ふわり。
いつのまに聞いていたのだろうか。
木の上からふわり、と飛び降りてくる金の髪。
「エミル。おまえ……」
「そもそもさ。このままあの子をみすてても、世界が救われるはずもない。どちらかといえば逆だからね」
「どういう……」
ロイドがいいかけるが。
「そこにいる人が説明してくれるんじゃないのかな?」
いいつつも、背後の木の後ろにいる気配にと話しかける。
「…どうやら、目的は一致したとみていいようだな。しかし気配を消していたのに気付いていたとは…」
「あんたは!」
トリエット砂漠にて彼にはあった。
あの施設で。
木の背後からでてきたのはロイドにとってはみおぼえのある青い髪の男性。
「説明をしている時間はない。我々は神子が完全な天使になるのを阻止するために救いの塔へとむかう」
それと同時に、背後に一気にとびあがる数十匹もの飛竜の姿。
「人手はおおいほうがいい。一緒にくるか?」
「あんたがなんであの場にいたのかとか、何でここにいるのか、とかいろいろとききたいけど、
今はコレットをたすけるのが先決だ!」
「ユアン様。準備はととのいました」
「御苦労。ボーダ。私はいけぬが…あとはまかせたぞ」
「は」
「レネゲードのボーダ!?あんたたちレネゲードかい?!うちらのところに技術提供をしている、あの!?」
しいなが驚愕の声をあげるが。
どうやらボーダと認識があるというか知ってはいるらしい。
「で、君たちはどうするの?」
エミルのじっとした視線に、ロイドは決意もあらたにうなづきかえす。
昨日のクラトスの言葉がよみがえる。
やり直しがきけばいいがな。
と。
何もせずに死なせてしまうなど、絶対にみとめられない。
「エミル。あなたはどういうつもりなのかしら?」
「前にいったでしょ?リフィルさん。僕が旅をしている理由は異常を直すためだって。
まあ僕もこの旅の真実をしったのはつい最近なんだけどね」
全ての世界に意識をむけて、それでようやく理解した。
どうりで種に異物がはいりこみまくっているわけである。
「でも、もう世界の異常気象は……」
「異常を起こしているのは気象だけじゃないからね」
「…お前は、エミルというのか?」
ユアン…エミルにとってはみおぼえのある人物であり、
かつてはミトス達と敵対していたが、マーテルにほだされ、仲間になったとある人物。
そして何よりも…マーテルの恋人。
「ええ。とりあえずはじめまして、というべきですかね?」
この姿では、という注釈はつくが。
「…どうせなら、もっとはやくに行動おこしてほしかったですけどね……」
おもわずぽそり、とそんな彼の横をすりぬけつつもエミルはつぶやく。
「ロイド達はあの子にのっていけばいいよ」
いって空を指差すエミルに対し、
「お前は?」
「僕はもう、いるから。おいで」
それとともに、エミルの真横に不可思議なる魔物のようなものがあらわれる。
猫のようで猫でなく。
トリトニスならばユアン達に直接、面識がないので乗り物、として利用しても問題はない。
「その気配…それは……」
かつてにたような気配をもつものを知っている。
「いくよ。トリトニス」
どちらにしろ、無駄に飛竜達を殺させるわけにはいかない、のだから。
「あの気配…まさか…魔物でも、ましてや精霊でもない、あの気配は…まさか……」
「レネゲードのユアンっていったよね?あんたがレネゲードのリーダー?」
「そういうお前はみずほの民のものか」
「…間違いないようだね。あたしの里をしってるってことは。ああ、そうさ」
「そういえば、教皇がかってに依頼をしたとか報告があったな……」
そういいつつも、
「今は時間がおしい。ついてくるならついてこい。こないなら大人しくまっておけ」
「あ、まてよ!」
ピィ!
ユアンの口笛を合図にし、幾匹かの竜がばさり、とおりてくる
OAVのシーンをもとにかいてたやつです。あしからず…
2013年6月20日(木)某日
Home TOP BACK NEXT