マナの守護塔はルインから北の方角に位置しており、
ルインからすこしはなれた島にと存在している。
周囲には渦巻く海流がその流れをたぎらせ、船ですら島にちかづくことはできはしない。
それがこのマナの守護塔、とよばれし場所。
「ここは……」
なぜこんなところに、と一瞬おもったが、ちかくにきて納得がいってしまう。
ここは光翼の神殿の入口がある場所。
崖にいくつも掘られている岩の紋章。
近くで『視る』と、どちらかといえば塔、というよりは
巨大な建造物、といういい方のほうがしっくりとくる。
「…これは……」
しかし小高い丘のような場所につくられているそこは、ちょっとした島の中央に位置しており、
唯一の入口ともいえる橋がもののみごとに焼け落ちていたりする。
海につながりしここは海流の流れがはやく、
常に水が渦まいており、船での移動は困難とまでいわれており、
かつて、ここに塔をたてるときには、マーテル教の創始者が水の精霊の力をかり、
海水を一時きりわけたときに、橋をかけた、という伝説がのこっていたりする地でもあるらしい。
結局、一晩休めば平気だから、というコレットの言葉…事実、血もとまり、怪我も治癒術で完治した。
こびりついた血は洗濯し、リフィルの風の術の応用でかわかした。
着替えなどは壊れた家の中より親切な村人がコレットに提供してくれた。
殺された娘のものでよければ、と。
「ここがマナの守護塔とかいう場所かい?
昨夜の聞きこみでここには何でもボルトマンとかいう人がのこした治癒術の書物があるとか。
それにはたいていの病気や症状を直す方法がかかれている、という情報があった。
もしかしたらコレットのその症状が直せるかもしれない」
「そうなのか!?しいな!」
「あ、あたしにきかないでくれよ!村の一人がそんなことをいっていただけなんだからね!」
ちなみに、以前、コレット達に鍵をてわたしてくれた村長はすでに殺されていたらしく生きてはいなかった。
最後まで街を護ろうと抵抗し、村人をかばってころされた、とのこと。
ロイドががしり、としいなの肩をつかみ、ひっしの形相でといかけるが、しいなはたたただあわてるだけ。
結局のところ、エミルがリフィルに問いつめられることもなく
…そんな雰囲気ではなかった。というのもあるが。
とりあえず翌日、あらためて旅を再開しているロイド・コレット・ジーニアス・リフィル。
クラトス・シイナ、エミルの七人。
今、エミルの傍にいるのはウェントスで常に風に同化して傍につきしたがっていたりする。
「他に入口はないのかしら?」
塔はみえているのに、隔てる海が邪魔をして塔の近くにすらいかれない。
「いかだをつくるとかは?」
「あの渦のなかいけるとおもって?」
みればところどころ湖のなかにいくつもの渦がまいているのがみてとれる。
ロイドの言葉にぴしゃり、といいきっているリフィルであれが。
「…船をつくるにしても、通常ではたどり着けぬだろう」
クラトスがしばし考えたようにそういい。
「じゃあ、どうするっていうのさ?」
ジーニアスがいってくる。
「そうだな。一番いいのは、伝承のとおり、水の精霊の力をかりる…というところだろうが。
肝心な召喚士がいないからな……」
クラトスが淡々とつぶやき。
「召喚士はすでに絶滅した、といわれているものね」
クラトスの言葉にリフィルがため息をつく。
「危険を承知ででもイカダをつくってゆくしかないわね。他に入口がないのですもの」
ディザイアン達は何をしてくれたのか。
ルインの街にあった船という船はすべてこわされ、さらには燃やされていた。
さらにこの塔にづつく橋すらも燃やしつくしてくれていたらしい。
そんな彼らのことばをしばしじっときいていたしいなであるが。
「あ、あたしがするよ」
やがておずおずと決意したかのようにそんなことをいってくる。
「え?」
リフィルがしいなをふりむき声をあげる。
「方法はなくはないっていったんだよ。あたしがやる。
…こっちの世界にいるはずの…ウンディーネを召喚して水のマナを操ればいいのさ」
「ウンディーネ、って精霊の?」
「というか、こっちの世界って何なのさ?それに精霊を召喚するったって召喚士がいないじゃないか」
ジーニアスが口をとがらせる。
「あ…あたしが。まだ契約はしていないけど、契約さえできれば…召喚できるよ」
そういうしいなの口調はすこし暗い。
戸惑いを隠し切れていないといった口調。
「え?すご~い。しいなって召喚士だったんだぁ」
コレットが素直に感心してそんなことをいっているが。
「符術士だよ!…召喚もできるけどさ」
「召喚士は途絶えて久しい、ときいていたけど……」
リフィルがじっとしいなの顔をみる。
「…いろいろあるんだよ。どうするんだい?いやならあたしも、無理にとは……」
昔をおもいだし、しいなの表情はかなり沈んでいる。
「って、ちょっとまてよ?ウンディーネがいれば、水を操れるんだよな?」
ふとロイドかにきづいたかのように、ふとといかける。
「あ。ああ。そうだけど?」
「先生!だったらウンディーネの力であのユニコーン!」
「そう、そうね。ユニコーンの力ならばコレットの症状を直せるかもしれないわ」
湖の底にいたユニコーン。
「ロイド。あなたにしてはめずらしく頭の回転がよかったわね」
こういう時だけなぜか頭がまわるのに、その判断力がどうして勉強にむかないのかしら?
そんなことをおもいつつもいっているリフィル。
「しいな、たのむよ!ウンディーネと契約して、できたらユニコーンと接触されてくれ!」
「ユニコーン!?こっちの世界じゃ、まだユニコーンがいきのこってるっていうのかい?」
『まだ?、こっの世界?』
「あ、い、いや。何でもないよ。…なら、水の神殿までいこう。ウンディーネはそこにいるはずだよ」
「ソダ間欠泉だね。いこう!」
「うん!」
「…やれやれ。回り道になるな」
「・・・・・・・・・・・そうね。だけど……」
だけど、少しでもコレットのことを思えば。
リフィルからしてみれば回り道も悪くはない。
再び一行はもと来た道を引き返す。
ユウマシ湖から救いの小屋。
そしてハコネシア峠を抜け、その先にとある目指すはソダ間欠泉。
「精霊かぁ。どんな風に契約するんだろうな!早くみてぇ!」
「…また、そんなこといって」
「途中であきるのではないか?」
「うるさいなぁ。興味あるんだから仕方ねえだろ!」
「興味あるのはいいけどさ」
「あきっぽいのが問題だというのだ」
「うるさいな。二人でたたみかけるようにいうなよ」
「うるさいってことはないでしょ!」
「お前の姿勢のことについていわれているのだぞ!?」
「三人とも、うるさくてよ!」
「に、にぎやかだね?」
おもわずどんびきしているしいな。
だけども悪くない、とおもう。
七歳からこのかたうしなわれていた喧騒。
あの神子とともにいるときしか味わえない暖かさがあるやり取り。
「…クラトス。俺、つよくなったのかな?」
「…たしかに。剣の腕はあがったな。だが……」
「だが?」
「それだけで強くなったとはいえぬことをしっているのだろう?
だから聞かずにはおれなかった……
お前の求める強さ、お前の求める道が何なのか。それはお前にしかわからん」
「…そう…だな」
「だが、戦いの技術でもまだお前の知らぬことがあろう。
仲間とともに戦い、敵をたおしてゆく。その先にみえるものがあるのかもしれん」
「…わかった。いつか見つかると信じて。今できることからやってみるよ。らしくなかったかな。俺」
「ふ……」
「…やっぱり、こわいの?」
「ああ。…また、失敗するかもしれないだろ?」
思い出すのは七歳のときの契約の儀式。
「大丈夫。しいなが失敗しそうになったらコリンが助けてあげるから」
「…ありがとう」
「…微精霊の集合人工精霊なのによく心が育ってるよね。その子」
「うわ!?エミル!?いつのまに!?」
すこしはなれてついていっていたのに、いつのまにか背後にエミルがいて驚きの声をあげる。
「…あんた、この子が…人工精霊だって…わかるのかい?」
「わかるよ?でも久しぶりだな。人工精霊をみるのは。
しかもまだ理も得ていない子か。…何か希望ある?」
「え?」
「そこまで意識がしっかりしているのならば新たな理を得るのに不都合はなさそうだからね」
「?理?」
しいなにはその意味はわからない。
が、コリンにはわかる。
否、わかってしまう。
「あなた…さ…は……」
そんなコリンに対し、自らの口元にかるく手をあてたのち、
「その器は人につくられし仮初めのものみたいだけど」
ゆえにいまだに人工、という縛りにしばられており、完全に大自然と同化した精霊とはなっていない。
「ちょっと、あんた、人工精霊をみるのは久しぶりっていってたけど?みたことあるのかい?」
久しぶり、ということばに気づき、しいながといかけるが。
「え?あるよ?そもそも昔ヒトがつくりし人工精霊はこの世界にも普通に精霊として存在してるしね。
クレイゴーレム然り。エビタフ然り。
かつての魔道士達がつくりし火の人工精霊イグナイダーに水の人工精霊マズラー。
地の人工精霊エンフォーサに光の人工精霊リバレーター。
水の人工精霊シンカーに闇の人工精霊バニッシャー。
風の人工精霊バーガーに雷の人工精霊アウェイクナー。
この子達が唯一元々いた子達と似た容姿になってるかな?
理を得てからはあのこたちは全て魔物としてひとくくりにされてるけど」
何やらしいなですら知らない名がつらつらとでてきているのはこれいかに。
「基本元素精霊の力が借りれないなら精霊を創ればいい、というヒトの発想はどうかとおもうけどね」
そのためにかなりの微精霊が犠牲になったあの当時。
あまりに精霊達を殺しまくるので、ラタトスクが自ら制裁を下したのもまた事実。
もっとも、創られし精霊達は魔物の一角として理にくみこんだが。
産みだされし命には罪がないゆえに。
「…ディザイアンはハーフエルフ、なんだよね?」
「ああ。ほとんどがハーフエルフだといわれているな」
「どうしたんだ?急に」
「同じ血をひいているのに、どうしてあんなひどいことができるのかと思ってって……」
「そうか、お前はエルフだもんな」
「う・・・うん」
「そうだよな。半分は人間の血もひいてるって考えたらあんなひどいことできないよな」
「…ハーフエルフは迫害されている。だからではないのか?」
「それは、奴らがディザイアンとして俺達を家畜扱いするからだろ?」
「…卵がさきか、鶏がさきか……」
クラトスのつぶやきに、
「もともと迫害したのはほかならぬエルフ、そして人だとおもうよ?
エルフのほうは世界を乱す、という理由で。人は自分達と違うものをうけいれられず」
「何だよ。それ。エミル」
「人の心が弱い、ということさ。自分達は歳をとるのにエルフやハーフエルフは歳をとらない。
実際は歳をとるけど人のそれとはあきらかに老化現象速度がことなる。
人は自分と違うものに恐怖し、その恐怖ゆえに迫害し差別し…そして排除しようとする。
受け入れる心よりも恐怖という負の心がかち、
さらには彼らには力もある。その結果種族全体を迫害するようになる。
それは魔物とかにもいえるけどね。いい子達ばかりなのに人はあのこたちを無意味に殺し恐怖する」
「そんなことするわけないだろ!差別とか!」
「しない、といいきれるの?実際にしてるじゃない」
その言葉にジーニアスも聞いていたらしいリフィルもただ黙りこむしかない。
「それにさ。同じ産まれなのにかってに身分とかつくって差別してたりもするしね」
耳がいたい。
しいなにとってもそれは耳のいたいことで。
テセアラは身分差別が著しい。
「きちんと判り合おうとすれば手をとりあい協力することすらヒトはできるのに。
それすらせずに他者を利用だけ利用して切り捨て排除する。
何かあればすぐに人にすがりたより、ことがすめばその頼った人を敵とみなしさらに排除。
自分達の信じる道を突き進んでいたとしても、その結果、
力をおいもとめる他者が身内などを殺め、もしくは人質にし、そのものをおとしめる。
ほとんどのヒトはそちら方面にいってしまってるのが今の実情でしょう?」
手をとりあい協力しよう、というものはほとんどいない。
その割合がかわれば世界のありかたもまたかわる、というのに。
「…まるでいろいろと視てきたようにいうのだな。お前は」
クラトスがぽそりという。
クラトスとてみてきた。
この四千年の人のありようを。
天使になる前から今のときまでずっと。
「人の愚かさは嫌というほどにみてますからね。自暴自棄になった人も。
そして…身内が害されたことにより堕ちたヒトも…ね」
まだ完全に堕ち切ってはいないのではあろうが。
完全におちていれば、ミトスはかつて自らが封じたかのリビングアーマーの力を使うはずである。
それをしていないだけ、まだどこかで救いがあるかもしれない。
そうおもっているのもまた事実。
…すこし情がわいていたのかもしれない。
あまりにしつこく、しつこく、人がこなくなったかの地に訪ねてきてた人。
かかわりはセンチュリオン達くらいしかいなかった中で、
自分にまっすぐに話しかけてきたあのヒトの子達に。
裏切った、その事実はわかっている。
それは種子の現状をみればわかる。
すでにあの人の子…ミトスには、種子を発芽させるつもりはさらさらないのだ、と。
ソダ間欠泉。
たらいにのりつつ、間欠泉へ。
水の神殿の最深部まで無事にやってきているロイド・ジーニアス・リフィル・コレット。
シイナ・エミル、クラトスの計七名。
「「契約、契約う~」」
うきうきうき。
もののみごとにうきうきとしたコレットとジーニアスの声がかさなる。
はたからみても、わくわく、わくわく、とした表情でいるのがみてとれる。
「たしかに興味深いわ」
「……契約、か」
「簡単にいうんじゃないよ!…し、失敗するかもしれないし」
「大丈夫だって!なんかよくわかんねぇけど」
あっけらかんといいきるロイド。
「そうだよ~。しいななら大丈夫だよ~」
「……何もしらないくせに。まあいいよ。巻き込まれて怪我しても恨まないでくれよ!」
唇をひきしめ、祭壇の前にとたつ。
水のマナが収縮し、その場に一人の女性の姿をつくりだす。
青くかがやく女性。
飾りのついた長い髪を腰までたらしているのがみてとれる。
すでにアクアを通じ、ウンディーネには連絡をとっている。
かるく目のみで礼をとったのち、目の前にいるしいなにとむきなおり、
「契約の資格をもつものよ。私はミトスとの契約にしばられしもの。あなたは何ものですか?」
アクアからの連絡によりクラトスがいるがそのことには触れるな、ともいわれている。
本来ならばなぜ裏切ったのかをといつめたい。
が、父なる存在には考えがあるのがわかるがゆえに
自分達が口をはさめる筋合いではないのも理解している。
「ミトスって。カーラーン大戦の勇者ミトスか?」
「ミトスって剣士のくせに召喚までできたんだ」
「ミトスの名前は男の子の名前としてはありがちだから勇者ミトスとは限らないわね」
(勇者…ねぇ。いまだにこの俺を裏切っているというのにな。
ヒトは大切なものを失ったときは狂うとはわかっていたが、よもやな……)
((ラタトスク様……))
あまりに熱心にかよってくるがゆえに情がわいてきていたのはしっていた。
それゆえにセンチュリオン達も何といっていいのかわからない。
「我はしいな。ウンディーネとの契約を望むもの」
「このままでは…できません」
「な…なぜ!?」
その言葉にしいながおどろき身を乗り出す。
「私はすでに契約をかわしています。二つの契約を同時に交わすことは私たち精霊はできないのです」
「ミトスってやつとの契約か…どうしたらいいのさ。研究機関じゃこんなこと習わなかったよ」
「その研究機関、というのが興味があるのだけど……」
リフィルのするどいつっこみ。
「ど、どうしよう。ロイド?」
「う~ん。前の契約をなかったことにしてもらえばいいんじゃないのかな?」
「どうやって!?前の契約者のミトスって奴がどこにいるかもわからないのに!」
「精霊との契約には誓いが必要だ。契約者が誓いをまもるかぎり、契約は行使されつづける」
もっとも今は誓いをまもってはいないが。
唯一ある誓いといえば世界を二つにわけてマナの消費をふせぐ、というもののみがいまだに有効といえる。
しかしそれにつづくその消費であまったマナを大樹の復活にあてる、という誓いは果たされていない。
「……そうです。それがたとえ一部分でもそれゆえに私たちはいまだに契約に縛られている」
「それは知っているよ。というか一部分?何か気になる言い回しだね。
ともかく、精霊は契約者の誓いに賛同し、契約を交わす」
「そうだ。だからお前はロイドのいうとおり、過去の契約の破棄と、自分との契約を望めばいい。
前の契約者が根本的な誓いを破っているかもしれないし。もうなくなっているかもしれない」
「そんな簡単なことでいいの?」
「簡単、というが。前の契約者がいきていたり、誓いを破っていなければどうにもならないことだ」
淡々と説明しているクラトスに対し、
「…わかったよ。一応やってみる」
そんな彼らの台詞をきき、あらためてウンディーネにとしいなは向き直り、
「ウンディーネ。わが名はしいな。ウンディーネがミトスとの契約を破棄し、
私と新たな契約を交わすことを望んでいる」
じっとその眼をみつつも宣言する。
「あらたな誓いをたてるために、契約者としての資質をといましょう。武器をとりなさい」
「え!?戦うのか!?」
ウンディーネの台詞にロイドが笑みをけす。
「人数は四人までとさせていただきます」
それはラタトスクを戦闘に参加させないようにというためのあるいみ話しあいの結果だしている結論。
そもそもラタトスクにかなうはずもないのである。
それに何より彼がうごけば全てが終わる。
「人数をきめなさい」
「契約するしいなは確実にいるわね。回復役に私と…あとの二人は…」
リフィルが何やらいっているが。
「僕は参加しないよ?」
「え?」
「参加したら意味がないとおもうからね」
「…まあ、今までの戦闘をみるかぎり、一撃でおわりそうではあるけどさ。なんかくやしいぞ……」
ロイドがくやしそうにエミルをみていってくる。
二度とも一撃で封印の魔物を撃退、である。
いくらロイドとてその力量がわからないはずもない。
「ロイドとしいな、そしてリフィルさん、あとはコレットかジーニアスでいいんじゃないのかな?」
「コレットは心配だし。僕がいくよ。姉さん」
「ふえ?」
「そうね。コレットは参加しなくてもいいわ」
痛覚がなくなっているコレットを戦闘に参加させるなど怖くてできるはずもない。
「決まったようですね。それでは、あなたたちの資質、みせてもらいます」
「いくよ!炸力符!」
しいなが札をはなつと、ウンディーネはもっている槍をかかげて応戦してくる。
「スプレッド」
封印の間の床より水がわきだし、水柱が激しく吹き上がる。
「うわあっ!」
しいなとロイドはその水圧にと跳ね飛ばされる。
「ファーストエイド」
リフィルがそんな二人にと癒しの力を発揮する。
「降霊召符、
しいながいうと、空中にコリンが出現し、ウンディーネの頭上におちる。
だが、ウンディーネはこともなげにコリンを手ではらいのけ再び術の発動体制をとる。
「させるか!」
ロイドが獅子戦吼でウンディーネに体当たりを喰らわせると細い体がのぞける。
ちなみにこれは、かつてエミルが封印の場にて使っていたのをみて覚えたもの。
その好きにジーニアスの術が完成する。
「イラブション!」
水と反対属性をもつ炎の術。
「きゃぁぁっ」
その場にウンディーネは倒れ伏す。
が、すぐさまにほほ笑みを浮かべた精霊が何ごともなかったかのように祭壇の上にふわり、とうきあがる。
「…あなたたちを、みとめます。見事です。では、誓いをたてなさい。私との契約に何を誓うのですか?」
ウンディーネは頬笑みをうかべしいなとに問いかける。
しいなの顔にぱっと喜びの表情がうかぶが、それはすぐにきりり、とひきしめられる。
「今、この瞬間にも苦しんでいる人達がいる。その人達を救うことを誓う」
「判りました。私の力を、契約者、しいなに。…しかし条件があります」
凛とした声にウンディーネはうなづく。
が、それにつづけ次なる言葉を発する。
「条件?」
「あなたがその誓いをやぶりしとき、また他者を傷つけるためにこの力を利用しようとしたとき。
この契約は破棄されます。よろしいですね?」
「あ、ああ。かまわない。それでいい」
なぜそれほどまでに細部にこだわるかはしいなにはわからないが、
力を他者を傷つけるために利用しようなどとはおもわない。
「では…契約の証を……」
ウンディーネの姿が水とともにかききえ、あとに残されしはひとつの指輪。
それはゆっくりとしいなの手のなかにとおちてくる。
水の契約の証…アクアマリンの指輪。
「やったね!しいな!」
「そうだね~。すごいね。しいな」
「て、てれるじゃないか!」
「いや。本当にすげえ!あ~、はやくウンディーネを呼ぶところをみてぇな~!」
「…クラトス。あなたやけにいろいろと詳しいのね?」
旅を進めるごとに疑念がわいてくる。
ディザイアン達はことごとくクラトスのことをしっていた。
リフィルの台詞にクラトスはただ腕をくんだままで淡々と言い放つ。
「精霊については少々詳しい知り合いがいただけだ」
「…そう」
普通、そんな詳しい知り合いなどいるはずもない。
「無事にすんだみたいだし。じゃ、ここからでようよ」
ちなみに、今現在は問題がないから、という理由で
エミルがノイシュをこの場にまでひっぱってきていたりする。
ノイシュとて魔物がうろつく中をいきたくはない、ないがエミルにいわれてはどうにもならない……
エミルの言葉に全員がうなづき、そのまま洞窟の出口へともどってゆくことに。
「おい。すっげえな。お前!」
「な、何だよ。急に!」
出口にむかっている中、ロイドがきらきらとした瞳でしいなにと語りかける。
「精霊だよ。精霊!」
「何だっけ。わら、契約者の名において、とか何とかいって呼びだすんだろ?」
呼び出し方をどうする、ときかれ、しいなが教えたことにはおしえたが。
「格好いいよな!精霊と契約するって!」
「そ、そうかい?」
眼をきらきらさせていってくるロイドにしいなは多少ひきぎみ。
「なななななぁ、どんな感じなんだ?」
「そうだねぇ…体の奥から自分とは違う大きなものが押し寄せてくるって感じ…かな?」
契約したときに感じた自分ではない力の感覚。
ゆえにそう、としか説明がしようがない。
「何かわかんねえけど、すげ~!俺も召喚士だったらよかったな~」
「…でも、あたしは召喚士なんて嫌だったんだけどね……そのせいで、皆が……」
七歳のときの契約の儀式。
頭領の孫たるもの、精霊と契約ができてしかるべき、といわれ。
あのときはまだ自分が拾われ子だとはしらなかった。
純粋に祖父と信じていた。
あの失敗のあと、自分は拾われ子だと非難してくる人々からつきつけられた。
「ふ~ん?というか皆?」
「…精霊の契約の儀式は成功する、とはかぎらないってことさ。普通は成功しない。
精霊の試練は生半可なものじゃない。
…なぜかウンディーネはかなり手加減してくれていたとおもうよ?」
だから契約できた、とおもう。
それは確信。
ハコネシア峠の宿。
「天使…って、なんなんだろうね?」
それはしいなにとっても疑問。
あの神子も天使、という神子としての役割。
「わからない。…ただ、このままじゃ、コレットがつらすぎる」
「ううん。そんなことないよ。だって…私は。
私は天使になって世界を救うために…今まで生きてきたんだもの」
「違う!コレットはコレットとして生きるためにうまれたんだ!…そうだろ」
「…えへへ。そうだね。けどそんなこといってくれるのはロイドだけ、なんだよ?」
神子としていつもぽつん、とひとりぽっち。
そんな自分に声をかけてくれたロイド。
ロイド達の存在がコレットにとってどれだけ救いとなっていたかおそらくロイドは気づいてはいない。
大地を通じ、過去の景色を垣間見たがゆえにある程度は把握した。
視た、といっても大地や自然が記憶していた事柄、だけだが。
子供をたすけるために殺された母親、その子供に母親がいったお前などうまなければよかった、という台詞。
それを静かにみていたのはその場にうえられていた並木達。
木が当時のことを記憶しており、それゆえにラタトスクにも伝わった。
それはテセアラとよばれし地にて今健在、神子の地位についているものの記憶。
「よし。頼むぞ。しいな。ウンディーネに俺達を運んでもらってくれ」
ユウマシ湖のほとりにたち、ウンディーネを召喚するしいな。
「…まて。それは無理だろう」
「?どうしてですか?」
「…ユニコーンは、清らかな乙女しか近づくことができないのよ」
「少なくとも、私とロイドとジーニアスは無理だ。エミルは…どうかな?」
もしも彼がもつのが本当に大樹の枝ならば近づくことは可能であろう。
「あら。クラトス。エミルも男の子よ?」
「その子のもっている枝が問題だ。本当の大樹の枝ならば……」
「ああ。なるほど。そういうことね。いまだに本物かどうかもわからないけど。
だけどあのハイマにてあの状態の土地を元通りにしたあの力。
おそらくは、本物…といってもいいとおもうわ」
息苦しいまでの空気が一瞬にて変化した。
エミル曰く、枝の力を使った、とのことらしいが。
その説明に嘘はない。
ただ枝を通じ、自らの力を発揮させただけなので、エミルからしてみれば嘘はついていない。
ただ真実をきちんと説明していないだけ。
「よくわかんないけど。女だけしか近寄れないなんてよりごのみするなぁ。
エミルがわからない、というのはエミルは女の子でも通用するとおもうからわからなくはないけど」
「どういうことかなぁ?ロイド?」
そんなロイドににこやかに笑みをうかべてといかける。
ちなみにエミルの眼は笑っていない。
「え?いや。ただエミルって普通にスカートとかはいたらどうみても女の子……」
しかも髪ははてしなくながく、お尻のあたりまであるのである。
体つきもとても華奢で色が白い。
これで強い、というのだから絶対に世の中まちがっている、と実はロイドは常々おもっていたりする。
直後。
がぶ。
「いてぇぇ!」
エミルの傍に控えていた二体の魔物がもののみごとに一斉にロイドの足と手にくらいつく。
「ほら。ロイドが馬鹿なこというから、エミルの横にいる魔物達がおこったじゃないか」
「片足とか片手くらいはたべてもいいけど殺したらだめだよ?」
「いや、エミル。それたぶん死ぬから」
おもわずにこやかにいっているエミルに突っ込みをいれているしいな。
「冗談だよ。それにその子たちも本気じゃないよ。本気だったら今の一撃でロイドの手足なくなってるよ?」
「わ…わらえねぇ……」
ロイドはひきつることしかできない。
「じゃあ、姉さんたちだけで」
ジーニアスはみなかったことにしたらしい。
「私は残らせてもらうわ。コレット一人でおいきなさい」
「あ、あたしは資格なしだっていいたいのかい!?」
「「「資格?」」」
しいなの言葉に、コレット・ジーニアス・ロイドの声が同時にかぶる。
「さ、三人して声をそろえるんじゃないよ!」
「…では、コレットとしいなでいけばよかろう」
「何で先生はだめなんだよ?」
「大人だからよ」
「たしかにもう、姉さんは二十さ…」
ぼがっ!
「女性の年齢をたやすくいうものではありません?いいこと?ジーニアス?」
あまりの痛みにその場にうづくまるジーニアス。
「大人の女の人もだめなんだ~」
意味がわかっていないコレットがそんなことをいっているが。
「と、ともかく、召喚するよ!」
「
「たのむよ。ウンディーネ。あたしとコレットをユニコーンのところまでつれていってくれ」
「わかりました。湖へ……」
「…マーテル、か?」
おだやかな声が周囲に響く。
「?マーテル?女神マーテルかい?」
「いえ。私はコレット。彼女が…」
「しいなだよ」
「マーテルではない…と?そんなはずはあるまい。
この気配、そしてこのマナ。盲いた私にもはっきりとわかる。お前はマーテルだ」
ユニコーンはまぶたを震わせ、みえない眼で懸命にコレットをみようとしている模様。
「私?」
「そうだ。私が行かされてきたのは、目覚めたマーテルの病を救うため……
お前は同じ病をかかえているではないか?」
「!わかるのかい!?コレットがやんでるって!?」
「…わかる。尋常ならざるものとして暴走している」
「コレットをたすけてくれ。ユニコーンの力にはそういう力があるんだろう?」
「…あの。私はいいんです」
しいなの言葉を否定するように横に首をふりつつ、
「コレット!」
「私は再生の神子になるために産まれてきたからそれでもいいんです。
だけど、私以外、きっと人間なのに
無理やりに姿をかえられてしまっている人が他にもいる。とおもうから。
必ずそういう人達は助けてあげたいんです。私のためでなく、他のひとのために」
それは心からのコレットとしての本音。
「…再生の神子…お前は再生の神子だったのか……もってゆくがいい」
マーテルの器としていかされている少女。
幾度かの失敗ののちに、ユニコーンはこの地に封じられた。
感じるのは安定したマナ。
流れていたマナが滞りなく、世界を循環している。
そして…ユニコーンとて魔物の一種。
目覚めの波動がわからないはずもない。
そして何よりも。
ちらり、とみれば視界の端になぜか魔物の姿に擬態しているセンチュリオン様がたが二体。
センチュリオンとともにいる少年はどうみても人、でしかありえないのに。
だけどもわかる。
その波動にて。
どうしてヒトの姿をしているのかはきになるが…おそらくは、ミトスが何をしているのか。
それがきになってのことだろう。
ラタトスクがミトス達に加護をあたえたことは魔物達には知れ渡っている。
だからこその世界の加護…デリス・エンブレム。
永らく封印されていた自分の枷が解き放たれたのはあるいみ好機。
マーテルを蘇らせるために大いなる実りをミトスが使いはじめたあのときに。
ユニコーンとしては反対した、その結果、この地に封じられた。
君がいないと姉様の病がなおせないじゃないか、そういわれ。
好きで協力していたわけではない。
それでも種子の消滅に力を間接的にでも貸してしまっていたかもしれない事実は彼にとっては重い。
何よりも、世界の守護たる精霊が目覚めた以上、何もこのたびの生に思い残すことはない。
「ど、どうしたんだい!?」
ユニコーンの姿がだんだん薄くなってゆく。
それをみて驚愕の声をあげているしいなの姿。
「…我々にとって、角は命そのもの。私の役目はおわった」
「そんな!」
「案ずるな。私から新たな命が誕生する。その新しい命が終わるとまたそこから新しい命が始まる。
そうやって、我々は生き続ける。永遠に生き続ける。マナが続くかぎり……」
ユニコーンはそう静かにつぶやきなから、ついにはそのまま大気の中へとかききえゆてく。
最後に、ラタトスクに深く一礼をしたのちに完全に大気へと還りゆく。
「二人とも、大丈夫だったか?」
「…?しいな、ないてる?」
もどってきた二人の顔は暗い。
「……ユニコーンが…角を…くれたの」
「……そうか。ではユニコーンは死んだのだな」
コレットの言葉に淡々と答えるクラトス。
「!あんた、しってたのかい!?」
そんなクラトスにしいながくってかかるが。
「ユニコーンは角をなくすと死んでしまう。死ぬことでまた新しいユニコーンが誕生する。
だからユニコーンは死と再生の象徴なのね。同じ意味では不死鳥フェニックスがそうね。
彼らは己の体を炎でやき、その灰の中から蘇る、といわれているわ」
追加説明をするかのようにリフィルがそういってくる。
「…あたらしい、ユニコーンが…うまれるんですか?」
とまどいつつもといかけるコレット。
「産まれているかもしれないわね」
そんなコレットにやさしく諭すようにいっているリフィル。
「……産まれているといいな」
しいなも同意見らしく、しみじみと想いにひたっているのがみてとれる。
「……俺たちも、せっかくユニコーンが命とひきかえに託してくれた角を大事につかわないと」
「そうだよ。コレット!これで元の体にもどれるかもしれないよ!」
死んだ、ということをきき、しんみりとしたが、ふとロイドとジーニアスがいってくる。
ジーニアスに関してはこれでコレットが元にもどれる、という期待をこめて。
「…うん。でも…今はいい」
「どうして!」
「今はまだ、世界を再生する途中だから…だからこれは本当に必要な人がいるときにつかってほしいの」
「そんな……」
へんなところで頑固なのは昔からかわらない。
だけどもロイドからしてみれば痛々しくてみてはいられない、とおもう。
「…大丈夫。ちゃんと世界を再生したらこれを使わせてもらうから。…ね?」
「……わかったよ」
そういうコレットにそういうしかできないロイド。
当人にその気がないのならばどうにもならないのも理解できる。
「先生がもっていてください」
コレットがユニコーンの角をリフィルにと手渡す。
ふれるとともに感じる暖かな力。
リフィルの中に今までなかった力がわいてくるのが感じ取られる。
「どうやらこの角のおかげで新しい治癒術を身につけたようだわ。
…でもこの術だけではエミルみたいにより強い効果は発揮できないみたいだわ。
どこかでこの治癒術を別の形に発展させる方法を調べなくては……
そうすれば、エミルが使用したような術で異形になった人々も救えるはずよ?」
感じた力はレイズデットの力の発動。
だけどもまだ何かがたりない、というのもわかる。
だからこその言葉。
「というか、あんた何やったのさ?いったい?」
しいなはそのときのことをしらない。
それゆえの質問。
「ただ、マナを無理やりに暴走させられて異形の姿にさせられていた人を元の姿にもどしただけだよ?
マナの乱れを正常にもどしてやればそんなのは簡単だよ?」
さらり、と説明するエミルに対し、
「それが普通は簡単ではないのよ。そもそもマナの乱れとかがわかるのはエルフ、
もしくはエルフの血をきひしものしかいないわ。
そんな私たちですら彼女のマナの乱れはわからなかったのに」
リフィルが呆れたように、それでいて何かを探ろうとするかのごとくにエミルをみていってくる。
「あのような状態になっている人をみたのは初めてではなかったですからね」
それは事実。
かつてヒトはあれらをつかい戦争をしていた。
ゆえに嘘ではない。
「方法を調べるって…そんなのどこにあるんだよ?」
リフィルのいった方法を調べる、という言葉に思わず突っ込みをいれているロイド。
「このあたりは治癒術の発症の地だといわれているわ。他にも手がかりはきっとあるはずよ。
ともかく、これでマナの守護塔にはいれるわね」
「わかった。ともかくこのあたりの街や村をまわりながら守護塔へむかおう」
どちらにしても守護塔が次の封印の場所。
コレットのことをおもえばいきたくないが、いかなければいけないのもまた事実。
それゆえのロイドの提案。
「まっていて。コレット。きっとあなたの望みはかなえてみせるわ」
「コレット。本当にいいのかよ?ユニコーンの角をつかわなくて。お前がとってきたんだろ?」
「うん。私の体は天使になろうとしているだけだから……」
「でもおまえ、満足に食事もできない、満足に眠れない…それでもいいのかよ!」
「…それが、天使になるってことだと思うから……」
「そんなの間違ってる」
「・・・・・・・・」
「誰かが犠牲になるなんて…そんなの、間違ってる」
「ごめんね。でも、ありがとう。ロイド」
でも、それがこの世界のありかた。
かつて勇者ミトスの命がマナになったように、神子の命がマナになる。
それが世界再生。
そしてのこされし器は女神マーテルのものとなる。
それが神子につたえられている世界再生の真実。
かたくなにそう信じ、またそう教えられているコレットはそのことすらが嘘だとは気づかない。
気づくことができない。
「マーテル様ってのは女神なんだろ?」
「…そのようにいわれているな」
「女神も病気になったりするのかねぇ?」
「なるんだろうな」
「そんな馬鹿な」
「でもよ。コレットが天使になるってことを考えれば人間と天使は似たようなもんってことだろ?
そして、天使はたしかマーテルにつかえている、といわれてたぞ。たしか?」
「そんなもんかねぇ。神様が風邪をひくなんて何かうさんくさいじゃないか」
「ま、たしかにな」
「まあ、精霊達とかは病気とかはないからね。あるとすれば負や瘴気に侵されて狂うくらい?」
「って狂うのかよ!?」
「魔界の瘴気はマナにとっては毒だからね。瘴気にとってのマナも然り」
「エミル…お前、やけにくわしいな?」
「え?これは魔物達の間では常識だよ?魔物達だって瘴気で狂わされることがあるからね」
「そういえば、あんた本当に魔物とはなせるのかい?」
「しいなが式神と心を通わせるのと原理は同じようなものだよ」
似て異なるものではあるが。
嘘ではない。
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あとがきもどき:
薫:ちなみに、この話し。精霊の皆さま、産みの親たるラタトスクには敬意を払ってます。
世界そのものの産みの親ですからねぇ…ラタトスク(世界樹)って……
ようやく次でマナの塔v
2013年6月18日(火)某日
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