まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

ようやくまえぶりにアステルだせたーv
でもテセアラでもアステル組がでるのは当分先だ…あう…
うちのアステルさん、顔のわりにかなり腹黒さん(しかも天然)なのであしからず。

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膨大な量のグラフの一部を覗きこむ。
「…おかしくないか?このマナの量の推移」
「でしょ?」
二人が許可をとり定期観測をしているいくつかの地点にて
マナの不安定な増量が、あるときを境にぱったりとなくなっている。
「テセアラの成り立ちを考えてみれば、衰退世界だ、というシルヴァランドにもっていかれてる。
  そう考えもしたんだけど、レネゲード曰く、技術力はあちらはないらしいからね。
  しかもいつのまにか安定している」
定期観測していた全ての場所にて同じ数値が、しかもここしばらく続いているのである。
こんなこと今まで一度もなかったというのに。
「何かの意思がはたらいている、としか」
「何か、とは何なんだ?」
「たとえば、魔物とか」
「魔物!?」
魔物の存在と世界を構成するというマナと関係があるなどと考えたことすらない。
いや、いったい誰が考えつくというのだろうか。
さすがというか突拍子もないことを考える、つくづくおもう。
「あくまでも仮説だよ。リヒター。魔物がマナの調停役をかってでている、そう仮説をたててみたんだ」
「何のためにだ?」
「だって。マナを制するものは世界を制する、でしょ?
  それに、これみてよ。生態系部門の資料なんだけどさ。
  ほら、今までかたよっていたマナのすくないとおもわれていた地にて、
  新しい魔物達が観測されはじめてから、マナが…」
たしかに、みれば数値が連動している。
水のマナが極端にすくなかったところに水系の魔物がふえ、その後水のマナが安定している。
それは火、風、といった極端にすくなかった地において謙虚にみられている。
全ての地においてその属性の魔物があらたにここ最近みうけられるようになっている、との報告。
「なるほど。魔物は人間や俺達を滅ぼして世界を一人占めしたがっているというわけか」
「う~ん…」
うなりつつも、
「よくわからないんだ。なんか違うとおもうし。精霊と魔物…もっと調べないとね。
  大樹カーラーンが枯れてしまった時代からのことをもう一度詳しく調べ直す必要があるとおもう。もし…」
「もし、なんだ?アステル?」
「もし何もみおとしていないとしたら、これから起こる何かの前兆かもしれない……」
「…しかたない。俺もてつだう」
「ほんとう!?なら、リリアーナにもてつだってもらおう!」

衰退世界、シルヴァランドにて世界をもう一度統合しよう、という動きが始まったらしい。
八百年も衰退している世界だというのに何をいまさら、という感じではあるが。
王国が極秘の阻止活動を始めた、ときいたのは、一年前。
古代大戦の結果、大樹カーラーンが枯れて、マナを生み出すものがいなくなり
その後、世界は二つにわけられた。マナの均衡はあやういが・・・テセアラは繁栄している。
子供でもここ、テセアラでは誰もが知っている事実。

「きっと、王立図書館に昔の資料とかのこってるはずだよ。いざ!」
「まて。すぐに閲覧許可がでるわけが・・・」
「大丈夫。ちょっとおどし…もとい、お願いしてみるから」
今、確実におどす、といった。
だがそれをスルーする。
結局のところ、アステルのお願いという脅しの成果もあり、
翌日から、彼らの閲覧許可はおりることに……

光と闇の協奏曲 ~ヒトの心と想い~

うわ~、ぎゃ~。
何ともいえない叫びがこだましている施設内。
よくよくみればディザイアン達は魔物の攻撃をうけたあと、
体が綺麗に消えていっているのがみてとれる。
それは存在としての消失であり、マナの消失を意味している。
いきとしいけるものは全てマナで構成されいかされている。
それはエルフ達にとっては常識で、しかし人はそのことすらをわすれてしまっている。
ただ、死ねば時間とともに体が消える、という認識くらいしかない。
「今のうちにとにかく、人々を解放しましょう。…きになるのは、捕らえられていた人達の体に。
  エクスフィアの一つもみあたらなかった。ということね」
魔物が人々を斬りつけるのをみてはいる。
そして、さらにきになるのは、パルマコスタでの出来事。
あのとき、救いだした人々が同じようなことをいっていたのを思い出す。
「…もしかして、魔物達はエクスフィアと人とを切り離しているのかも…」
「どういうこと?姉さん?」
「パルマコスタの人間牧場を覚えていて?あのときもひとびとが同じようなことをいっていたわよね?」
しかも施設に侵入したとき、ディザイアンの姿はほとんど見当たらなかった。
そこにいたという痕跡はあったというのに。
死神とおもえし魔物が自分達をきりつけて、きづいたら石がなくなっていた。
それは助けだした人達すべてに共通していた言葉。
いわれてみれば、とロイドも思い出す。
あのとき、たしかに異様なほどにしずまりかえっていた牧場内。
まったくディザイアンがいないのにロイド達はとまどったが、エミルはそういえば平然としていた。
自分達と違い、とまどっていなかったようにおもえなくもない。
「でもだからといって、ぐずぐずしている時間はないわ。
  魔物達が人々を傷つけない、ともかぎらないのだし。ここは二手にわかれましょう。
  クヴァルをおうものと、人々を救出するもの」
「ええ!?バラバラになるの!?」
ジーニアスが不安そうにいってくるが、
「そうよ。捕らえられている人達の解放が遅れたら、クヴァルを倒したとしても成果が半減してしまうわ」
だんだんと悲鳴が聞こえなくなってきているのもきにかかる。
移動してゆくたびに廊下のいたるところにおちている鎧らしきもの。
もっともディザイアンの姿…すなわち、おそらくそれをきていたであろう中身はみあたらない。
「あのエミルって子…魔物を使役できるのかい?」
しいなはそれがきにかかる。
魔物が人になつく、など…魔物つかいという種族がいるのはしってはいるが。
それでも、彼らが使役できるのはこんなに一度に大量ではない、ときいている。
先ほどの話しの混乱はいまだに心の中にとのこっている。
だけども魔物の襲撃?がおこなわれている以上、ここを離れるわけにはいかない。
ここにきた目的はあくまでも村の人々、捕らわれているはずの人々の救出、なのだから。
「よろしい?私とロイドとクラトスがクヴァルを倒しにいきます。あなたたちもしっかりね。あとであいましょう」


施設の最深部にむかいながら、廊下におちている剣や鎧といったものをさけつつもひたすら奥へ。
まるで導くようにそれらの品が多くおちていっているのでどちらにむかえばいいのかすぐにとわかる。
やがてかなりの数の服がおちている扉の前。
「クヴァル!みつけたぞ!」
部屋の中にはいると、探していたクヴァルがロイド達のほうに背をむけてたっているのが目にはいる。
様々なパルマコスタの牧場でみたような機械があることから、おそらくはここが指令室なのであろう。
ふとみれば、背後がすけている何ものかとどうやらクヴァルは話しているらしい。
「ほう。それがロイドかえ?…なるほど、面影があるのぉ」
背後がすけている女性が薄笑いを浮かべてこちらをみつついってくる。
「やはりきたか」
クヴァルはちらり、とロイドを振り返ったが再び女のほうにと向きをかえ、
「話しをそらさないでほしいですね。プロネーマ。
  あなたが私のもとからエンジェルス計画の研究データを盗み出したのは明白なのですよ」
「しつこいのぉ。わらわは知らぬ、といっているだろう?」
どうやら映像?のような女性にクヴァルは何かを問いつめているらしい。
「強情な。さすがは五聖刃の長の座をかすめとっただけはある。プロネーマよ。
  私がこの劣悪種からエクスフィアを取り返せば五聖刃の長は私になるでしょう。
  その時に後悔しても遅いのですよ。強情をはるのもたがいになさい」
ブロネーマ、五聖刃の長。
パルマコスタのキリアにばけていた敵のことを思い出すロイド達。
おもわず顔をみあわせる。
「ねごとはねてから。ともうすな。そなたこそ。ロディルの口車にのって何やらたくらんでおるようじゃが?
  しっておるぞえ?あやつの口車にのり、地下にて何か実験していた、というのはな。
  ユグラシドル様の目、そうそうごまかせると思うでないぞえ?」
と。
「皆無事に逃がしたよ!」
「ディザイアン達もほとんどみえなくなっちまった。と同時に魔物もきえちまったよ」

まるでそれが合図かのように。
あれだけいた魔物達が忽然、とかききえた。
しずまりかえった施設の中で、人々を救助するのはわけもなく。
唯一の誤算があるとすれば、最近捉われたという人々以外はほとんど気絶していたことくらいであろう。
中にはどうやら、パルマコスタにてコレットをみたことがあるものがいたらしく…
…どうでもいいが、二度もつかまっていたというその人物はあるいみ運がない、としかいいようがないが。

とりあえずまだ動けまともな人達に全員を託し、別れていた他のメンバー三人もまたロイド達にと合流する。
ぶつり、と姿が消えるようにかききえるそんな女性の姿をみつつ、
「ふん。魔導砲のことがもれたのか?それとも魔血玉デモンブラッド のことが?…まあいい。
  そのエクスフィアを取り返せば嫌疑もはれるでしょう」
「くるぞ」
「やらせるか!」
ロイドは両手で剣をぬき、クヴァルをぐっと睨みつける。
この旅にでてから幾度となく…
そういえば、エミルと合流してからぱたり、と魔物との戦いという戦いがなくなってはいるにしろ。
胸のうちが灼けるかとおもうほどの怒りと憎しみを感じたのは今までになく、
ロイドにとっては始めての経験。
母さん、みていてくれ、俺は…俺は、こいつを絶対にゆるさない!
「ゆるさねぇ!」
ロイドがクヴァルにむかって突進する。
男は杖をふりあげ、ロイドの剣をがっきりとうけとめる。
「ふん。なかなかの力だな。おとなしくエクスフィアを差し出せばいいものを」
「誰がそんなことをするかよ!」
ロイドは懇親の力をこめて杖を押し返し、体制を立て直す暇すらあたえず、
右の剣にて男の胴をはらい、左は脳天から斬りおろす。
「やぁぁぁぁ!」
それはほんの一瞬の出来事。
ロイドのエクスフィアが淡く輝いたかとおもうと、移動速度が格段にとはねあがる。
「な…ばかな!?」
そのまま信じられない、という表情でどうっと床に倒れふすクヴァルの姿。
「…やったぞ。母さんの仇を…たおしたんだ!」
「ありがとうな。…だが、…仇はこの男ではなく、お前の父親だろう?」
クラトスがそんなロイドにといってくる。
「いや。父さんにそんなことをさせるきっかけをつくったのはこいつだろう?そうだよな。母さん……」
ぼんやりとした記憶の奥底に、家族でみた星空の記憶がある。
いつも母によく怒られてはいたがよくよくおもえば仲がとてもよかったんだろう、という感覚もある。
しかし顔はおもいだせない。
ときおり夢にみる、もう、あなたったら、ロイドはまだ子供よ?
優しい記憶の中にあるその声はおそらく母親のもの。
「ショコラの居所がわかったよ!」
「本当か!?」
ジーニアスの言葉にロイドがそちらを振り向くと同時。
「あぶない!」
コレットの絶叫。
いつのまにかクヴァルがたちあがっており、武器を振りかざしてロイドにむかって振り下ろす。
「ロイド!」
コレットが二人の間にかけ込んできたかとおもうと、ロイドを抱くようにしてかばう。
そのままクヴァルの杖は振り下ろされ、コレットの背中を直撃する。
「コレット!?」
あわててコレットを抱きしめるロイド。
「ロ、ロイド?平気?大丈夫?」
「あ、ああ。だけど…おまえ……」
「私なら、大丈夫」
どうみても大丈夫ではない。
だきかかえているロイドの手にもわかるほどにあからさまに血がべったりと付着する。
「平気ってお前……」
えへへ、とわらいながらいってくるコレットの表情に嘘はない。
ロイドの手にもかなりの血がぬるり、とついているというのに。
コレットは痛みを感じないせいか、ただいつもの笑顔をうかべているまま。
クヴァルは体制をととのえようとその場から一歩さがるが、
それをすかさずしいなが退路を防ぎそのまま符をかまえる。
すぐにでも術が発動できるように。
ロイドが怒りにまかせそのままクヴァルにと斬りつける。
ぐらり、とゆれる男の心臓をクラトスがそのまま無言で深く突き刺す。
クヴァルの体はロイドとクラトスの剣の両方に貫かれる格好となるが、
「クラトス……ぐぉっ…こ、このぉ。劣悪種がぁぁ!」
クヴァルが苦痛に顔をしかめながらもクラトスをにらみ返す。
「その劣悪種の痛み…存分にあじわえ!」
そういいつつも、幾度もクヴァルをきりつけ
「地獄の業火でな!」
さいごの一撃がとどめとなったのであろう。
そのままクヴァルはそのまま倒れる。

「コレット!」
「何て傷!」
リフィルとしいながかけよってきて、コレットの様子をみて悲鳴に近い声をあげる。
背中にはひどい傷ができており、どくとくと血がながれ、その背には赤身がしっかりとでている。
「コレット、しっかり!」
ジーニアスが顔色をかえてコレットに話しかけるが。
「コレット!傷は!」
「心配してくれてありがとう。でもね。でもほんとに大丈夫だから。なんかね。痛くないんだ」
血はいつのまにかとまり、コレットの服を赤くそめている。
それでもじわり、とにじみでている血はとまっていない。
「無事なわけないだろ!どうみても平気じゃないだろう!その傷は!リフィル、早く治癒術を!」
しいなが泣きそうな声をあげてくる。
「え。ええ」
リフィルがあわててコレットにかけよる。
痛みで気絶していてもおかしくないほどの・・見ただけでもわかるかなりの傷。
なのにコレットは平気そうな顔をしている。
嫌な予感がリフィルの脳裏によぎってしまう。
もう、天使に近づいているのでは。
という予感。

「…コレット。俺はもう黙っていられないからな!」
ロイドは皆を心配させたくないとばかりに笑顔をつくりつづけているコレットをみて、
やりきれなさに我慢ができなくなり、声をあらげる。
「皆…きいてくれ!コレットには、今、感覚がないんだ。痛覚がないんだよ!」
「な…何?どういうこと?」
ジーニアスの戸惑いの声。
「…コレットは天使に近づいている。でも、眠ることもできない。
  暑さも、寒さも痛みも何も感じられない。涙だてでなくなって…っ!
  天使になるって、人間じゃなくなるってことだったんだよ!」
それはロイドにとっては悲痛たる叫び。
その言葉にしいなも、ジーニアスも絶句する。

「ロイド。いいよ。私なら大丈夫だから…。それより今は、この牧場を何とかしないと。そうでしょ?ロイド」
コレットの台詞にかぶるかのように、
「あれ?皆ここにいたの?」
ふと聞き覚えのある声がしておもわずふりむくと、そこにはエミルの姿が。
その横にはウルフとそして紅き鳥の姿がみてとれる。
背後にいる亀のような魔物は初めてみるが、それもどうやらエミルにつきしたがっているっぽい。
「エミル!?お前、今までどこに!?」
「用事をすませてきてたんだよ。地下の施設は壊滅させたからね」
いって、ちらり、とコレットをみて、
「コレット。怪我してるようだけど。回復しないでいいの?血をうしなえば人は簡単に死ぬよ?」
その言葉にリフィルがはっとわれにともどりあわててコレットに回復術を使う。
みるまにコレットの傷がふさがってゆくが、失われた血は元にもどるわけではない。
コレットの白い服は血で背中が真赤にそまっている。
それが傷のものものしさを示している。
かけよった直後に斬られたので、髪がばっさりと斬られることがなかったのが不幸なかの幸いか。
コレットの長い髪にかくれ、斬り裂かれた服の場所はある程度はかくれている。
それでも赤くそまった服は見間違えようがない。
「エミルにはいろいろききたいこともあるけど。今はとにかく、この施設を破壊するのが先決ね」
「過激だねぇ。まあ、それが一番だろうけど」
そのままパネルを操作し、自爆装置を起動させる。
「自爆装置を起動させたわ。撤退するわよ!」
リフィルの言葉をうけ、全員がその場をあわてて出てゆく。
ロイド達が部屋をでてほぼ同時。
「クヴァル殿。あなたのおかげで魔導砲はもうすぐ完成です。
  魔血玉デモンブラッド のほうはまだまだのようですが。魔物を狂わすくらいはできるようですしね。
  エンジェルス計画はわしが責任をもって引き継ぎますからご安心くだされよ。
  ああ、もうきこえていませんかね。ふぉっほっほっほっ」
背後から…扉の向こうよりきこえてくる声。
(どうやらあれが、地下できいたロディル、という男らしいな)
(魔導砲…ですと!?)
エミルのつぶやきにイグニスがおもいっきり驚きの声をあげる。
(アクア)
(は~い。何ですか?)
呼びかければすぐさまにこたえてくる声。
(どうやらこいつらは魔導砲を開発しているらしい。
  最近、マナの乱れを感じるのは海のほうだ。配下のものにさぐらせろ)
(わかりました!)
「では、エンジェルス計画の研究の残り…いただいていきましょうかね…と、何!?
  データがとんでいる!?馬鹿な…」
一度電源をおとしたときに、施設のなかのデータも壊れるようにとしむけていた。
よりつよい力が加わったことにより、全てのデータがきえたといって過言でない。


激しい爆発をおこす牧場をみてロイド達はほっと息をつく。
そのあとに、火柱があがり、みるまに施設が地面にとしずんでいき、
そのまま火山の噴火のような火柱があがっているのがきにかかるが。
それもしばらくするとおさまりをみせている。
「…いったん、街にもどろう。話しはそれからだよ」
しいなが疲れたようにいい、
「ルインは今、めちゃめちゃだよ?…コレットが休めないんじゃないの?」
ジーニアスの素朴な疑問。
「助けだした人達は?」
「パルマコスタの人達もいたから。頼んではいるよ」
事実、パルマコスタの人もいたので、彼らに頼んだ。
とりあえず救いの小屋に避難したのちに、そこからバルマコスタに連絡をつけるらしい。
「…アスカードならよかろう」
「そうね。そうしましょう。ロイドもそれでよろしい?」
クラトスの言葉にリフィルがうなづくが。
「アスカードより救いの小屋のほうが近くない?それにあそこまで歩いていくまでに遠くない?」
エミルの至極もっともな指摘。
「それくらいならルインで簡易的な小屋でもつくったほうがよくないかな?」
それはたしかにそのとおりで。
ここ、アスカード牧場、とよばれている場所からアスカードまではかなりの距離がある。
近さでいけばルインがたしかに一番近い。
「簡易的な小屋…って、誰がつくるのさ?」
「え?ロイドってつくれるんじゃないの?」
ドワーフに育てられている、ときいている。
それゆえのエミルの台詞。
「だぁ!わかった、わかったよ!俺がつくるよ!みてろよ!親父じこみの腕をみせてやる!」
「…たしかに、そのほうがいいかもしれないわね。ではルインに戻りましょう。
  …エミル。話しをいろいろときかせてもらうわよ?」
「別に話すようなこともないですけど……」
リフィルの眼はするどくエミルを見据えている。
何しろ聞きたいことは山とあるのである。
あの魔物は何なのか、とか魔物をつかいエクスフィアを分離できるのか、とかいろいろと。
「あなたがなくてもこちらにはあるの。ともかく、いきましょう」
「そうだ。話す暇がなかったし説明できなかったけど。ショコラのことがわかったよ」
ルインにもどりながら、ジーニアスがいってくる。
コレットは今現在、ノイシュの背にとのせている。
どうやらノイシュは離れた場所でロイド達の帰りをひたすらにまっていたらしい。
「皆を逃がすときに聞いてみたんだ。
  ショコラっていう人をしらないかって。そうしたらここにいた、っていわれた」
ジーニアスの言葉に、
「ここ?アスカードの牧場にか?じゃあ、まだこの近くに……」
「ううん。それが少し前に培養種検査っていうのをうけたあと、イセリア牧場につれていかれたらしいよ」
「そっか…けど、ジーニアス。それってショコラが無事に生きてるってことでもあるんだよな」
ロイドが無理にあかるくふるまいつついってくる様子にジーニアスはうなづいてみせる。
「そもそも、そのショコラってあの子、話しをきくかぎり自分からついていったんでしょ?
  ほうっておいてもいいとおもうけどな。僕は」
「エミル…あなたねぇ……」
リフィルがじと目でみてくるが。
「だってそうでしょう?そもそも自分から好きで実験体?になりにいったのに。
  いくらあなたたちが善意で助けたい、とおもっていたとしても当人からしてみれば余計なお世話。
  とばかりにそんなヒトはどうせ逆恨みしまくるにきまってますし。
  そもそも、敵?というか相手のいうことをうのみにしてつかまりにいったっていう話しじゃないですか」
ぐさり。
エミルの言葉に嘘はない。
ないがゆえにエミルの至極もっともな言葉はロイドやジーニアスの心に突き刺さる。
たしかにあのパルマコスタの牧場のあと、エミルには説明はしてはいるが。
いくらそれが事実だからといって、それでロイド達が納得できるものではない。
「…あなたの人嫌いはあいかわらず…ね」
リフィルの盛大なるため息。
「好きになれる要素があまり見つからないんですよね。そんな人ばかりではないとおもいますけど。
  あの施設の地下で何がおこなわれていたとおもってるですか?
  人や魔物をつかった合成生物などの実験もおこなわれていたんですよ?
  そんなことをしでかす人をどうやったら心から好きになれるか
  僕のほうが聞かせてほしいですよ。切実に」
いってため息をひとつついたのち、
「そもそも、人がいなくても世界は周りますからね。魔物達がいなくなれば世界はまわりませんけど」
さらり、と世界にとっての理を説明しているエミルの姿。
「?それはどういう?」
意味がわからずにしいなが思わず問いかけるが。
「理解していないヒトに説明しても意味がないですから。自然の声すら忘れてしまった人には、ね」
そういい、全員を見渡しつつ、
「ヒトは本当に愚かでしかない。
  大自然の恩恵をうけていながら自分達だけで生きている、とおもいこんで。
  簡単に自然を穢し、大地を穢す。自分達も自然の一部だということをすっかり忘れてね。
  あげくは自分達の利益や欲のために他者を簡単に陥れる。
  ヒトという心にもいい部分もたしかにあるというのに、人を思いやる心。慈しむ心。
  他者を受け入れる心。それら全てをほとんどのヒトは忘れてしまっている。
  それが今のヒトのありようでしょう?」
確かにその通りでしかない。
エミルの指摘に誰も何もいいかえせない。
誰もが思い当たる点があるのだから言い返せるはずもない。
それはコレットにしても然り。
「…もしも、皆が同じ種族だとしたらそんな差別みたいなことはおこらないのかな?」
ジーニアスのぽそり、としたそんな言葉に。
「それこそまさかだよ。今よりひどくなるよ。絶対に。
  今のヒトの心は、自分とは種族が違うから、というあるいみ逃げの思考で種族そのものに
  その差別の心全体をむけているけど、それがなくなったら、それは全体、でなくて個体、にいくんだよ?
  それこそ、そうだね。パルマコスタで経験したとおもうけど、あの理不尽な処刑のように。
  自分達のなかで一番弱いものを見せしめとして簡単にけしてゆく。それこそ問答無用でね。
  一人の犠牲で満足して、自分達はそれが正しい、と完全に信じ切ってね。
  …一つの種族しかいない、というのはそういうことだよ。
  何のために多種多様な種族がいるとおもってるのやら」
互いに切磋琢磨するために多種多様の生命はいる。
「…と、話している間にルインについたね。あ。逃げてきた人達もいるみたい。
  僕、彼らと話してくるね。何か必要なものとかあるかもしれないし」
「あ」
言葉もないロイド達をそのままに、エミルは一人そのまま街のなかへ。
ちらり、とエミルに従っていた魔物達がロイド達をみたような気もするが。
そのまま魔物達もエミルに従うようにそのまま後をついてゆく。
街にはいるとともに、魔物達はどこへともなくきえてゆく。


人、というのものはたくましい。
あれほど恐怖体験をした、というのに故郷にもどってきてまずすること、といえば生活の場の確保。
すでに動けるものたちがあばら屋などをつくり、簡単な寝床などをつくっており、
また、壊れた家のなかからつかえる家具などをひっぱりだして、炊き出しなどもしていたりする。
食糧庫にしていた倉庫も燃やされて壊されてはいたがなかには無事な食材もあり、
それらをつかった簡単な料理も避難してきた人達の間ですでに配られていたりするこの現状。
皆、疲れているだろうに、コレットの服の血の量をみてただ事ではない、と判断したのか、
つかまっていた女の人達が率先し、壊れた家のなかからみつけた、という布団にコレットをねかしつける。
そんな人々にお礼をいいつつも、横になったコレットを痛々しくみることしかできないロイド達。
「…つかれてても、こんなに傷ついていても眠れないなんて……」
しいながすこし焦げ目のある布団をコレットにかけてやりながらいたわりの言葉を発する。
たしかに自分はこの子の命を自分達の世界のためにとねらっていた。
だけども、こんなつらい目にあっている子を殺すことなど自分にはできない、ともおもうのもまた事実。

「何でこの子はこんなことになったんだい?」
しいなの問いに、
「それは……」
リフィルがいいずらそうにいい、ロイドがかわりに説明をする。
詳しくコレットから説明をうけているのはロイドのみ。
それゆえに説明の責任は自分にある、とおもったらしい。

「…じゃあ、この子は…コレットは、封印を解放して天使に近づくたびに
  人間らしさ…みたいなものを失っているっていうのかい?」
「人間性の欠如!?そんな・・・っ!」
いつも笑っていたのでそんなことになっているなどジーニアスは気づかなかった。
いや、きづいていてもおそらくは気づかないふりをしていたのかもしれない。
そうふと自分が自分で嫌になってしまう。
「じゃ、じゃあ、最終的にはコレットはどうなっちゃうのさ」
「…最終的には、か。どうなっちまうんだ。本当に……」
あせったようなしいなの言葉に、ロイドが不安そうに思わずつぶやく。
「それに世界を再生したあとは、この地上でたった一人の天使になっちゃうんだろ。
  そんなの…つらいよ……」
「そ…それは……」
真実をしっているがゆえにリフィルが言葉をつまらせる。
この真実はいまだエミルもまだ気づいてはいない。
この場で知っているのはクラトスとリフィル、そして当事者たるコレットのみ。
「…先生。いいんです」
「でも、コレット……」
「みんな。ごめんね。心配かけて。今はちょっと大変だけど、
  完全に天使になったらもっと過ごしやすくなるかもしれないでしょ?だから大丈夫」
「でも、つらいじゃないか!つかれたら寝たいだろ。
  すきだったものの味をなつかしく思ったりしないのか?
  誰かと手をにぎっても、その人の温かさも感じられないなんて……世界再生なんてやめちまいなよ!」
それはしいなからすれば心からの本音。
すくなくともそうすれば自分が彼女を暗殺などしなくてもすむし、自分達の世界もすくわれる。
「ありがと。しいな。でもここでやめたら世界中の苦しんでいるひとが救われないから。
  私、世界再生のためにうまれたんだから、ちゃんと自分の仕事をするよ。ね?」
物ごころついたころからそう育てられているがゆえのコレットの台詞。
「そうだな。それが神子としての使命だ」
クラトスが淡々という。
「くそ!何かないのか!?コレットが天使にならなくてすむ方法が!」
ロイドがいらだちまぎれに、その場の土をおもいっきりたたきつける。
「ダメだよ。ロイド。このままでいいんだよ。私が天使になることで世界は再生されるんだよ?
  私が天使になるのをやめたら世界は再生されないし、
  そしたら苦しんでいる人達はそのままになっちゃうんだよ?
  今までも…これからも、きっとそうなんだよ。それが神子としてうまれたものの役目。だから……」
ずっと、そういわれ育ってきた。
そのために生きているのだ、と。
「っ!じゃあ、本当にこのままでいいっていうのかよ!」
「…うん。私、天使になる。お父様もそれを望んでいるんだもの」
何よりもロイドを守りたいがゆえのコレットの台詞。
「…どっちの親父だよ」
「きっと、どっちのお父様も…望んでるよ」
あのレミエルが本当の父親でないことはもううすうすはきづいている。
それでも心のどこかで信じたいと思いもたしかにある。
それはコレットの心の葛藤。
「…わかったわ。けどコレット。あなたが選んだ道は…とても辛い道なのよ?」
「はい。先生。私、覚悟はできています。幼いころからそう教わって育ってきましたから」
「ダメだ!俺はみとめない!絶対、何か道があるはずだ!
  お前のヒト、としての生を犠牲にしてまですくわれる世界なんて…そんなの間違ってる!」
ふとさきほどのエミルの言葉がロイドの脳裏によぎる。
人は、一人の犠牲の上にそれを当然のようにうけとめる、と。
今がまさにそうとしかいいようがないではないか。
すでに日はくれており、夜風がそよそよとふきぬける。
あのままあの場所にいたらどうしてもコレットにコレットがつらいとわかっていながらもあたってしまいそうで、
そのまま、一人その場をあとにする。
夜風をうけながら黙々と歩きまわってみるが、
コレットと世界の両方を救う道をみつけることはロイドにはできそうもない。
ふと、少し小高い丘の上にきらり、とひかるものをみつけ、そちらに目をやる。
それは街に入ると同時に別れていたエミルの姿。
だがしかし声をなぜかかけられない。
エミルの周囲にみたこともない…浮いている魔物?らしきものがみてとれる。
それは青色で人型の姿をしており、何かエミルと話しているようにみえなくもない。
答えをエミルならば知っているかもしれない。
だけども、それをエミルに聞くのは間違っている、ともおもう。
これは自分で答えをみつけなければいけないことなのだ、と何となく理解してしまう。
「間違えない…か。いうことは簡単だけど…だけど、俺は……」
もう、間違えない、そう自分に誓った。
だけど現状はどうだろう。
コレットを助けたいのにずっと逆にコレットに犠牲を強いているようなこの現状。
ロイドは気づかない。
この旅に隠されている、エミルがいつもいっている偽りの真実、というその意味を。


「…あちら側で動きが?」
「はい。いかがなさいますか?」
どうも大樹のことを調べ始めた人間がいるらしい。
「まあ、害はないようならば、ほうっておけ。それより、あれはみつかったのか?」
「いえ…それが…」
かの地、エルフの里よりうしなわれし書物。
今のこの地上においてはどちらの世界、テセアラにしろシルヴァランドにしろ、
解き放たれれば間違いなくアレのおもいのままになるであろう。
しかし巧妙にその気配を隠しているらしくいまだにつかめない。
「この葉を隠すなら森の中…か。書物がある場所を重点的に確認してみろ。
  ただし、耐性のあるやつのみにかぎるぞ?」
調べにいった魔物達が瘴気に侵されては意味がない……


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あとがきもどき:
薫:ようやくウンディーネとの契約に次回、たどりつけそうです。
  あとすこしだ~、シルヴァランド~。
  しかし、テセアラもまだ打ち込みおわってないのにこっち編集はじめてる私って汗

2013年6月17日(月)某日

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