まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
一話であるいみ一気にアスカード牧場を完了をば。
いや、一度ルインにもどしてないもので…
ともあれ、ようやくしいなが合流!
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「うわ~。ここからだと救いの塔が一望できるね」
街は今だに混乱しているが、あれほどまでに息苦しかった空気はもはやない。
エミル曰く、瘴気をうみだす品物がこの街ハイマに埋められていたがゆえにこの異常はおこった。
とのこと。
なぜにわかるか、ととえば、それはあいまいな笑みにてはぐらかされて今にいたる。
「しかし、救いの塔ってどこまでつづいてるんだろうな?」
「神子様がた。まだ混乱していますが、もしも救いの塔に近づきたい。
というのであれば、ぜひともうちを利用してくださいませ」
「あなたは?」
「私はここで飛竜をつかって観光事業をしているもの。
神子様がたがやってきてこの街は救われましたからね。
それにそちらのエミルという子には
私のところのつがいの子供を無事に送り届けてくれたというのもありますし
村人はその子のことを避けているようですがね」
何しろ魔物がエミルのいうことを素直にきいていたのをまのあたりにし、
人々はエミルのことを遠巻きにしていたりする。
それでも差別をあからさまにしないのは、コレットが神子だ、としっているがゆえ。
神子の神力のたまものだ、と人はかってにおもいこんでいたりする。
「救いの塔があらわれるたびにこの事業は展開していましてね。
神子様がたならばお金はいりません。是非ご入り用のときには声をかけてくださいね」
いいつつも。
「まだ私のところの飛竜達も完全とは言い難いのですぐに再開、というわけにはいきませんが。
何、数日のうちには再開できますので」
光と闇の協奏曲 ~アスカード牧場~
「これは!?」
ハイマを後にし、目指すはマナの守護塔。
エミルはその先の牧場にどうしてもいかなければいけない、といっているのだが。
ロイドもなぜかその提案には賛成らしく、牧場をほうっておけない、という意見的にはまとまっていたりする。
それゆえにマナの守護塔と牧場にむかう最中、ルインの街でひとまず休息を。
そうおもうが、なぜかルインの街のほうからみえるはありえない煙の量。
先日訪れたときは人々の笑顔や会話があったのに。
橋もすべてがほとんどこわされ、家という家はほとんど壊滅状態。
くすぶる煙がいまだに火の手をももっている。
「ひ…ひどい……」
ルインの街へと渡る橋のたもとにつくなりコレットは口元をおさえる。
向こう岸がすでに街の様相をさらしてはいない。
用心深くクラトスが先頭にたち、今にも崩れ落ちそうな…というよりはほとんど崩れ落ちている
最寄りすでに橋の機能をほぼはたしていない板きれもどき…を用心深くわたりはじめる。
家という家はすべて壊されるか、もしくは燃やされるかしてもより原型すらとどめていない。
あちこちできた瓦礫の山のせいで道がふさがれてしまっている。
いまだにくすぶる炎と煙。
「ひどい。この間きたときには……」
つい先日この街にはたちよったばかり。
それが数日でこんなになるなど信じたくはない。
コレットの呟きもまあわからなくもない。
「ねえ。噴水のところに…誰かいるよ!?」
街の広場にて人々の憩いの場となっていた噴水。
しかしその噴水も今や破壊され、装飾の円柱が倒れ、
あふれだした水は外の地面に流れ出してすでにいくつかの池をつくっている。
「誰かいるよ?あれは…もしかして、しいなちゃん?」
コレットがその姿にきづき目をみひらくが。
「ほんとかよ」
ロイド達は急いで噴水のほうへとむかってゆく。
「本当だ…」
ジーニアスがそこにうづくまっていたしいなをみつけ驚いた声をあげる。
「どうしたんだ!?傷だらけじゃないか!」
よくよくみればかなりの怪我をおっており、彼女は息も絶え絶え、といった模様。
それゆえにロイドもまたおどろきの声をあげる。
「……あんたたちか。今ならあたしにとどめをさせるよ。今のあたしには戦う力はのこってないからね」
ルインの街の広場にある噴水の前にてうずくまっている一人の女性。
それはまぎれもなくロイド達もみしっている…コレットを狙っているという暗殺者の藤林しいな。
「…ひどい怪我。先生、手当してあげて」
「……そうね。でもその前に何があったのか教えてほしいわね。
仲間がいるようだし。これが私たちを油断させる罠じゃないとはいいきれなくてよ」
「先生!」
「は!みてくれどおり、陰険な女だね」
「…陰険でけっこう」
リフィルは唇の橋をもちあげ、しいなの言葉を待つ。
「…この街をみてみなよ。何もかもがめちゃくちゃだ。…攻め込まれたのさ。ディザイアンに」
「…何」
「ここから北東に人間牧場ってのがあるのをしってるかい?」
「アスカード牧場のことね」
リフィルがうなづく。
「ここの街の人達は牧場から逃げ出した奴をかくまったんだよ。
…それがバレテ全員強制的に牧場送りのうえ、街は破壊されちまったのさ。
かくまわれていたやつは、怪我を治してのちにハイマに向かったらしいけど……」
その言葉に顔をみあわせる。
そういえば、あのハイマにて出会ったピエトロがいっていた。
逃げ出したあと、ルインの村でしばしお世話になった。と。
「…それじゃあ、あなたの怪我は……」
「何でもないよ。ちょっとどじっただけさ」
と。
「うわぁぁ!たすけてくれぇ!」
第三者の悲鳴。
「あ。…どうしたの?」
ふと逃げている男の背後にいる魔物…コカトリスの姿をみてそちらのほうに移動して、
魔物に視線をあわせてといかけるエミル。
怪我をおしてそんな魔物と男とのあいだにはいりこみ、札らしきものをかまえているしいなだが、
エミルが魔物と話しているのをみて驚愕していたりする。
気配にきづきどうやら訴えてきているらしき魔物の言葉は、エミルからすれば捨て置いてはおけないもの。
「…ディザイアンのやつらは、どうも魔物達までつれていったらしい…愚かな……」
おもわず声に素がまじる。
何か球のようなものをもっており、それをあてられたとともに魔物達は狂ってしまったらしい。
それが何を意味しているのかすぐさまに理解する。
おそらくは…あのハイマにてあった魔血玉であろうことは容易に予測がつく。
ぽたぽたと構えている格好からも血がしたたりおちているのがみてとれる。
それでなくても怪我がひどいのに空気そのものがずん、とおもくなったのをうけ、
たっているのもままならなくなり、そのばにがくり、とひざをつく。
「あ、すいません。えっと。怪我がひどいようだけど…」
ふと自らの機嫌が悪くなったことにより自然に影響がでていることにきづきあわてて抑え、
がくり、とひざをついたしいなにとといかける。
魔物はあいかわらずエミルの横に寄り添うにうにして足もとにまとわりついている。
「先生。手当してやってくれよ!」
「先生。お願いします」
「エミルでもいいよ?」
一人違うことをいっているジーニアス。
「…わかりました。本当に皆おひとよしすぎるんだから」
リフィルは彼女の体の上に杖をかざすと、そのまま治癒術を発動させる。
「…何であたしをたすけたのさ」
しいなのそんな台詞に、
「たぶん。あんたがあの人を助けようとしたのと同じ理由だよ」
いいつつも、ちらり、とエミルをみて。
「…まあ、なんでかその魔物はエミルになついてるっぽいけど」
どうみてもすりすりと擦りよっているようにしかみえないのでロイドとしても何といっていいかわからない。
「あんた…魔物なのに平気なのかい?…とりあえず、ありがとう。といっておくよ」
ひとまずお礼をいいつつもエミルにといかけてくるが。
「この子達は素直ですよ?
それにただ、この子達の親や仲間もディザイアン達がつれていってくれたみたいで…」
いいつつも、かるくコカトリスの頭をなでる。
「…そういえば、あなたは魔物が何をいっているのか何となくわかるっていっていたわね……」
幾度かまのあたりにしているのでリフィルがすこしばかりため息をつきつつも、
ハイマよりエミルをよくよく観察しているリフィルの姿。
「魔物の言葉が?」
そのことばに一瞬首をかしげるものの、だがしかしそういうものもいるのかもしれない。
そう思い直し、しばし目をとじ思考は一瞬。
「あ、あのさ…虫がいい話しかもしれないけど。あんたたちに頼みがあるんだ」
「たのみって?」
「この街の人には、一瞬一飯の恩義があるんだ。たのむ。この街の人達をたすけてあげてくれよ!
あたし一人ででも侵入しよう、とはおもってるけどさ…だけど一人じゃあ、全員をたすけられない。
街の人達をたすけだすためなら、そのためならあんたたちと一時休戦して協力してもいい」
「わかった」
頭をさげ、手をあわせてくるしいなの姿にロイドはほぼ即答。
「ロイド。本気なの!?」
リフィルの驚きの声。
「私は賛成」
「コレットまで!?」
「僕はどっちでも。どうせ僕は彼らがやってるという研究施設をぶっ壊すつもりだし」
「エミル・・・あなたときどき過激よね?」
「でも。リフィルさん。あんな品物をつくっているような施設、世界にとって害でしかないんですよ?
あれがばらまかれたほうがよほど驚異です」
直接にその被害をうけている様をリフィルとて目の当たりにしたわけではないが。
ハイマの村人より、いきなり人が異形になりはてた、というのはきかされている。
そしてまた、魔物もいきなり狂暴化していった、ということも。
そんな魔物にたいし、別の魔物が攻撃をしかけ、村を守った?というか魔物同士の抗争がはじまり、
人々は村にやってきた旅人の少女の指示にて村で一番頑丈な建物にと避難していたのだが。
「ジーニアスやクラトスはどうだ?」
「まあ、かまわんだろ」
「えっと…姉さん、ごめん!」
「もう!いいでしょう。好きにしなさい。考え方をかえれば四六時中監視できるってことだし……」
どうやら全員反対ではないらしい。
それゆえにリフィルはため息をつきつついってくる。
…まあ、約一名、どっちでもいい云々といってはいるが。
この旅の中でエミルがあまり人を信用していないというのは言葉のはしはしにはみてとれている。
おそらくは野営のとき一緒にいないのもそれが理由だろう、とあたりはつけている。
何しろ宿や救いの小屋などでも彼は同じ部屋には一応とってもそこでねたためしはない。
「ふん。あんたこと根首をかかれないようにきをつけなよ」
「何ですって!?」
リフィルとしいながにらみ合うと、コレットがすかさず間にはいる。
「やめてよ。先生もしいなちゃんも……」
「しいな。でいいよ。というかだからちゃんづけはやめとくれ……」
あわててしいながいってくる。
というより
やはり命を狙っていた相手にちゃんづけよばわりされている、というのはかなり気がそがれていたらしい。
「まあ、喧嘩するほど仲がいい証拠ともいえるけどね。僕んとこの子達も喧嘩はよくするからね。
どの子達、とはいわないけどさ」
(アクアとテネブラエはよくもまあ飽きずに言い合いしてますしね)
(だな)
もはやもう慣れっこ。
というよりも永き時をえてもかわらない、というのがあるいみすごい。
それでも重要なことはやはりセンチュリオン同士でもあることから
何もいわずに理解しあえているのも知っている。
それはエミルからしてみての素直な感想。
「え?あ、うん。じゃあ、そうよばせてもらうね!そっか。先生としいなは仲よしさんなんだ」
エミルがいっている子、というのはあのハイマであったアクアっていう子達のことなのかな?
アクアという子がいうには他にもいるっていってたし。
そんなことをふとコレットはおもう。
コレットは一瞬笑顔になるが、すぐさまに目をふせ、
「…この街の人…たくさん殺されたんだね…せめて、生き残った人達だけでもたすけてあげたい」
「ああ。ディザイアンめ!ぶっつぶしてやる!」
コレットに答えるようにしてロイドが拳を握りしめて叫ぶ。
「あれ?すいません。もしかしてやっぱり怪我してました?」
ふと、さきほど魔物のコカトリスに追われていた…というよりは、
たまたま魔物の進行方向にヒトがいた、というだけなのだが。
ともあれ魔物の前にたまたま方向をおなじくしていた人の姿をみつけエミルが声をかける。
「いや。怪我はしておらんが…」
それでもエミルの背後にいまだにいる魔物の姿をみてひっとおびえたような表情をみせる。
「お爺さん。家は大丈夫ですか?食べるものはありますか~?」
コレットがこちらにきづいたらしく、腰をかがめておびえたような表情をうかべている老人にと話しかけ、
そのままもっていた荷物野中からいくらかのたべものをだすと老人の手にとにぎらせてやる。
「おお。ありがとうよ。おじょうさん」
「助けがくるまで、がんばってくださいね~」
そういい、手をふるコレットをしいなは軽い吐息とともに身守るしかない。
「どうも調子がくるう女だね。まったく……」
こちらが殺気をむけようとも、いつもいなされる。
彼女が神子でさえなければいい関係をつくれたかもしれない、などという思いもいだくが。
だが今は、目的のために共闘するだけで、皆を…世界をまもるために。
そう自分自身にいいきかせる。
それがたとえ、間近っている、とわかっていても、世界を…皆をたすけるために。
「…この街も、イセリアと同じだね」
他にも生き残りがいるかもしれない。
そうおもい、街のなかをみてまわるが、もともとそれほど大きな街でもなく。
ゆえにぽそり、とジーニアスがつぶやく。
「いや。…イセリアよりひどい……街中の人間が殺されて生き残りも牧場につれていかれたんだ」
イセリアの村ではたしかに人は殺されたが、それでも全員、ではなかった。
「うん…せめて、生き残った人達だけでも…助けてあげたい」
「そもそも、こんなことをするのはヒトくらいなものだよね。
同じヒト同士でよくもまああきずにこんなことを繰り返すものだよね」
「…エミル。おまえあいかわらず人嫌いなおってないな……でも、これをやったのはディザイアンだぞ?」
「ディザイアンとかなんか名称でよばれていても、ヒトにはかわりがないよ。
知的生命体たる心あるものは僕にとっては僕にとってはすべてヒト以外の何ものでもないし」
「ちて?」
「…はあ。すなわち、知能が発達している生物ってことだよ。エミル。
君ってときどきヒトを客観的にみたようなものいいするよね?」
「でも事実でしょ?人はいつの時代も愚かなことをくりかえしてる」
「そういうエミルだって人でしょ?」
その言葉にエミルはただだまりこむのみ。
エミルは人ではない。
世界をまもりし精霊。
だが彼らにそれを説明する気はさらさらない。
それゆえの無言。
「と、とにかく。ディザイアンめ!ぶっつぶしてやる!」
「…ほんと、こういうのをまのあたりにしていたら、つくづく……」
一度完全に滅ぼしたほうが世界のためになるんじゃないのかな?
そんなことをふと思う。
一部の心あるものだけをのこし、全ての人間を粛清すればすくなくともこのようなことは起きないであろう。
もっともそれをしたとしても、時とともに人がふえてゆくとまた同じようなことを繰り返すだろうが。
たしかに人を滅ぼせばマナもすぐに満ちるであろう。
そもそもマナを極端に消費するのは人以外にはありえないのだからして。
そんな会話を横でききつつも、しばし考え込んでいたが顔をあげ
「あんた、エミルっていったよね?」
いきりエミルにとはなしかけてくるしいなの姿。
「え。あ。はい」
「親戚とかいないっていってたよね?」
「はい。一切いませんね」
「…本当によくにてるんだけどねぇ。あたしの知り合いと」
「まあ、世の中には似た人は三人はいる、といいますしね」
「それにしてもねぇ。…まあ、まつ毛の長さや髪の長さ、雰囲気は確かに違うけどさ」
間違いなく隣同士にいたら双子、でもまかり通るほどによくにている、としいなはおもう。
「でも、あんた魔物を使役できるのかい?」
「僕はただ魔物にはお願いしてるだけですよ?」
王たるそのお願いを魔物達が拒否するはずもなく。
あるいみ絶対的な命令、に近いのだから。
(そういえば。ノームのもとにいったときによくにた人がきていましたよ。ラタトスク様)
(ほう。この姿のか。…因子をうけついだか?)
自分がつくりし世界ゆえに、世界の記憶としてきざみこまれているこの姿。
ディセンダーとしての記憶はたしかにこの世界も受け継いでいるのは理解している。
無意識のうちに今までの世界の情報を組み入れて世界をつくるのはよくあること。
(…目をつくりだしてみるか)
(それはおやめくださいませ。いくら力がある程度御戻りになったとはいえ。
目はラタトスク様の御力をかなり削ぐ結果ともなりえます。なるべく御控えください)
大気に同化しているウェントスの台詞。
それにつづき、ルーメンもそんな言葉を肯定してくる。
なぜか先日のキンヌンガ・カップ意向、話しあいの結果、二人づつのローテーションで傍にいる、
ということを僕達はきめたらしい。
それならば四ロールで常に循環ができるから、とよくわからない理由にて。
アスカード人間牧場、といわれている地。
以前のときよりヒトの数がたしかに多いいようにみうけられるのは、
パルマコスタ地方での壊滅をうけてのこと。
だが当然そんなことをロイド達が知るはずもない。
しいなを含めた一行は、まずは様子見がてら近くにまできてみたのだが。
警備がやけに厳しく、どこにも隙がないようにみうけられる。
「すごい警備だね。この前とは比較にならないよ」
ジーニアスがいうが。
「面倒だし。強行突破する」
『え?』
「連れて行かれた子達が心配だ。…実験体にされてたまるかよ」
いつものすこしおっとりしたエミルの口調ではなくすこし強い口調となっているのがきになるが。
「…こい。サンドワーム達」
エミルが目をつむり、手を前につきだすとともに。
青くかがやく魔法陣らしきものが少し離れた場所にと浮かび上がる。
その魔方陣からわきでてくるのは巨大な魔物。
『我が配下たる魔物を実験扱いする人どもを排除しろ』
念派にてそんな魔物達にと命令を下す。
「うわ!?ま、魔物が!?」
「な、なんだってこんなところにサンドワーム…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
ディザイアン達の悲鳴がとどいてくる。
サンドワームは森林地方、もしくは砂漠地方でよくみられる魔物であり、
生半可な術や技は通用しない。
特徴的なのはどこでも蟻地獄のような穴をほり、相手をその穴にとひきずりこみ、
そのまま大きな口にて獲物を丸のみする、という魔物である。
ズズッン。
いたるところでどうやらサンドワームが出現したらしく、
施設をとりかこんでいた壁という壁がいたるところで崩れ、音をたてて消滅していっているのすらみてとれる。
「魔物の攻撃をうけている、応援をたのむ!」
ばたばたとディザイアン達が騒ぎつつも、魔物にむかっていっているのがみてとれる。
『・・・・・・・・・・・・・・・』
これは何といっていいものか。
そのまますたすたといつのまにか傍にいるまたまた別の魔物数体…
ゆえに思わず絶句というか言葉をなくすロイド達。
いつ傍にきたのかすらロイド達は気づかなかったが。
そのままぽっかりと崩れた壁であったところから施設の中へとそのままはいってゆくエミルの姿。
「あ、エミル!」
「そういえば…忘れてたけど、エミルって魔物…よべるんだったっけ?」
初めてあったころに見ただけなのですっかりわすれていたが。
「エミル。あの子はいったい……」
「まさか、やはり、あのエミルは……」
エミルのことは何もわからなすぎる。
これがここ最近顕著にあらわれている。
あのハイマのことでもそう。
エミルは瘴気だ、といっていた。
魔界の瘴気にハイマの地が侵されかけていた、と。
そもそも魔界ニブルヘイムなどお伽噺でしか知りえないものであり、どうして異変が瘴気だ、と断言できるのか。
エミルの知り合いだ、というアクアという少女はエミルだから、できっぱりと断言していたが。
…様づけしていたのがきにかかるが。
ハイマの件ののちに、やはり報告だけはしておこう、とエミルのことをミトスにと報告した。
それが間違いなのかどうかはわからないが、すくなくともすておけない、そう判断し。
「…魔物を使役?…まさか、まさかでも……」
「?コリン?」
しいなの肩にのっていたリスのようなものがそれをみて口調を震わせる。
傍にいたセンチュリオンの気配。
そして…今の波動。
いくら微精霊があつまり、人の手によりつくられし人工精霊とて
世界の要ともいえるものくらいは知っている。
否、その本質そのものに生まれながらにして刻まれている、というべきか。
世界に発生したその瞬間より、微精霊達はその波動をきざみこまれている。
ならばやはり、あのとき、水の神殿がある場所できいた名は勘違いではなかった。
ということに他ならない。
ゆえにただ、コリンはただ唖然、とするしかできない。
すくなくとも、しいなにはいえない。
誰にもいえない。
大樹カーラーンの精霊であり、この世界を創りし精霊である、ということは。
ロイド達の目的はあくまでも村人たちの救出。
しかしエミルからしてみれば人の救出などどうでもいい。
この地下にておこなわれている実験施設。
そこにそもそも用事がある。
「トリトニス」
エミルがそういうとともに、
パンッ。
またたくまに施設内の電気製品…すなわち機械類が一気に用をなさなくなってゆく。
機械にいきなり電撃を…しかもよりつよいものをながすと繊細な機械類はまたたくまにと壊れてしまう。
「いくぞ。センチュリオン共」
映像を映し出す機械を使いものにならなくしたのを確認し、センチュリオン達に指示をだす。
それとともに、エミルの周囲に八つの影がまたたくまにと浮かび上がりそれは形をなしてゆく。
「テネブラエは配下をつかい、捕われし魂達を以前のように解放させろ。
ソルムとイグニスはこの地の真下に溶岩を終結させろ。
ことがすみしだい…ここは一気に全て火山活動にて消滅させる」
「アクアはそのあとにこの施設があった場所の空間に水を。泉となせ」
「はい!わっかりました!」
「ルーメンは万が一、上空よりこの地を探られないように外に光りの屈折による結界を」
「はい」
てきぱきと八柱にと指示をだし、それぞれのセンチュリオン達が指示通りにと行動を開始してゆく。
ロイド達があわててエミルを追いかけるが、
すでにソルムの力において、内部を完全に把握していたエミルに追いつけるはずもなく。
そのままエミルはこれまた床そのものをマナにと還元し直接地下へと出向いていたりする。
わざわざ隠し通路などを通る必要性を感じない。
どうせあとかたもなく消滅させる気なのだから遠慮するつりはさらさらない。
ぷっ。
「な、何だ!?」
いきなり周囲が真っ暗にとなった。
「…電源がおちたようだな。…非常用電源が作動する、とはおもうが……」
真っ暗になった直後、ぼんやりとした灯りのみが周囲を照らし出す。
一人、内部にはいっていったエミルをあわてておいかけてきたものの、その姿はみあたらず。
というか。
「…ねえねえ。この穴、なんだろう?」
みれば床にぽっかりとした穴があいているのがみてとれる。
それは地下深くまでつづいているらしく、まったく底がみえない暗き穴。
その先には、制御室、とかかれているプレートが。
「落とし穴?」
「のわけないでしょ。…ともかく。もしかしてあの魔物が建物の中にまででたのかも…まずいわ」
もしもそうならばここにいる人々の安全がきにかかる。
リフィルがいいつつも、ふと壁にかかれているプレートにきづき、
「制御室がちかいみたいね。そちらにいってみましょう」
「捕まった人達、どこにいるんだろ?あとエミルも」
「わからないわ。ともかく、私たちは人々をたすけることを優先しましょう」
壁にとあつらわれている大きな窓のようなもの。
そこに輝きを放つ物体がいれられた箱?のようなものが
いくつも動く床にのって移動している様子がみてとれる。
それを管理しているらしきディザイアン達の姿も本来ならばいるのであろうがなぜかみあたらない。
今現在、ディザイアン達は非常用電源も長くもつものでもないので、電源の回復と、原因の特定に忙しい。
「ここは…エクスフィアの製造所なのね」
リフィルが映し出されているものにきづき、驚きの声をあげる。
「…そのようだな」
クラトスもそういうしかない。
知ってはいてもそれをいうわけにはいかない。
「これが全部エクスフィアか。すげぇなぁ」
ロイドが素直な感想を述べる。
ケースのようなものがずらり、とならんでいる模様がスクリーンらしきものにうつしだされているのがみてとれる。
エミルが落した電源はあくまでも地下施設に関するものであり、また全てをおとしてはいない。
理由は簡単。
ロイド達に真実をおしえるため。
最低限の電源は確保できているがゆえ、非常用の自家発電にていまだに装置は動き続けている。
「…し。隣の部屋から声がきこえる」
「?何もきこえないけど……」
コレットが音にきづき、ジーニアスが首をかしげる。
そんなコレットの言葉をうけてロイドは前にとでる。
コレットからロイドはきいている。
コレットが音に敏感になっている、ということを。
彼女がいうかぎり誰かいるにちがいない、という確信と、
痛覚がなくなっているコレットを護らなければいけない。
という思い。
痛覚はあるいみ人の生命線であり、痛みがあるからこそ体の限界がわかるもの。
それくらいはいくらロイドとてわかっているつもりである。
「きをつけろ!」
ロイドの言葉と同時。
ゆっくりと扉がひらき、部屋に数名の男たちがロイド達のいる部屋にとはいってくる。
「うぬ?お前たちは!」
中央の男がロイド達にきづき驚きの声をあげてくる。
「あ、お前は!?こいつらトリエット砂漠であったディザイアンだ!イセリアの村でも!」
その姿にみおぼえがあるロイドが声をあげる。
トリエット砂漠で出会ったことのある、ディザイアンの一味であり、
またイセリアの聖殿の前でもあったことのある男。
男…ボーダの両脇にいるディザイアンらしきものたちがロイド達に警戒態勢をとるかのように、
すぐさまボーダをまもるようにして前にでる。
いいつつもロイドが身構えるが、
「ふ。まだ我らをディザイアンだと思っているのか」
あきれたようなディザイアンの声。
「これは好機です。ボーダ様」
もうひとりのディザイアンらしきものがそんなことをいってくる。
「…くるか?」
いってクラトスが剣の柄に手をかけるが。
「まて」
そんな部下にたいし、制しの声をあげ、
「クラトスがいる。ここは一端ひくのだ」
クラトスをみつつそんなことをいってくるボーダ。
「え?知り合い…なのか?」
ロイドが不思議そうにクラトスに尋ねる。
リフィルの目がクラトスをするどく見つめる。
「…さあな。イセリアとトリエットで顔をあわせただけだが……」
ボーダはそれをきくと薄い笑いをうかべ、
「お互いのためにここはひきましょうぞ」
そのまま部下をしたがえ部屋をでてゆこうとする。
「勝手にするがいい」
クラトスはボーダの動きを目でおっていたが、
いきなり床をけるとコレットとその前にいるロイドの前にとでて盾になるかのように剣をかまえる。
刹那。
反対側のドアが音もなく開き、ディザイアンが光の球を放ってくる。
目もくらむような光につつまれるが、クラトスがそんなそれを防御する。
きづけばその隙をついたのかいつのまにかボーダ達の姿はみあたらない。
「コレット。ロイド、大丈夫!?」
ジーニアスが顔色をかえて心配そうに叫んでくるが。
「私なら大丈夫」
「あ。ああ。俺もだ…なさけねぇ。…反射的に何もできなかった」
できたのはコレットをかばうようにしてだきしめたのみ。
「ロイド。後ろだ!」
「…え?」
攻撃を防いだであろうクラトスもどうやら無事らしく、鋭い声をロイドにむけてくる。
ロイド達が振り返ると、いつのまにかそこに一人の男がたっているのがみてとれる。
細面の輪郭に細い目がきりあがり、酷薄そうな印象をうける男。
「ほう。これは驚きました。ネズミというからてっきりレネゲードのボーダかとおもいきや。
手配書の劣悪種とは。今の魔術をくらって生きているとはさすがといっておきましょう。
魔物の襲撃のどさくさにまぎれ入り込むとは。
いや、もしかしてこのたびの魔物も劣悪種たるお前たちの仕業か」
先日、魔物を操るものがいるらしいので生け捕りにせよ、と直々ユグラシドルから命令があったばかり。
「お前は何ものだ!」
ロイドが油断なくあらためて剣をかまえる。
「やれやれ。これだから劣悪種は。人の牧場に侵入しておいて何をいうのかね?」
あるいみこのたびの台詞はあいてのほうが正論。
「…いつもと逆だね。ロイド」
「お前なぁ。こういうときになぁ!」
突っ込みをいれてきたジーニアスにおもわず突っ込みかえすロイドであるが。
「ディザイアンの五聖刃…クヴァルだ」
そんなロイドの問いかけに答えたのはクラトス。
「ほほう。ご存じのようですな。…ふむ。フォスティスの連絡通りだ」
クヴァルとなのりし男はロイドの左手をじっと見つめ、
「たしかにそれは、私の界初したエンジェルス計画のエクスフィアのようですね」
その声をうけ数名のディザイアン達が部屋の中になだれこんでくる。
コレットがとっさにとりだしたチャクラムが宙をまい、クヴァル、という男を扉の前からしりそげる。
「ナイスだ!コレット!みんな、急げ!」
そのまま扉の向こうへと移動する。
扉の向こうはどうやらエクスフィアの製造場所であるらしく、
動く床にのっていくつものエクスフィアが運ばれていっているのがみてとれる。
さらに奥にすすむと、そこには大きな窓のようなものがあり、
だがしかし、決定的にちがうものがひとつだけ。
それは…
「な…なんだ?これは!?」
動く床にて運ばれているのは灰色の服をきた人間達。
みんなうつむいたままロイド達のほうをみようともしていない。
そのまま機械の中に吸い込まれ、あっというまにまえなくなる。
「いやっ!」
コレットが悲鳴をあげる。
コレットの耳には彼らの断末魔がきこえてきている。
そしてその吸い込まれた人と同じ数だけ順繰りにエクスフィアの容器が吐きだされてきているのである。
途切れることなく人は動く床によってはこばれ、その数だけエクスフィアが吐きだされている。
「まさか…これは……」
ジーニアスの声が震える。
「培養体にうめこんだエクスフィアを取り出しているのですよ」
背後から聞こえてきたクヴァルの声にリフィルは固い声にて問いかける。
問いかけずにはいられない。
「…まさか、エクスフィアは人の…人間の体でつくられているの?」
それは信じたくない内容。
「少し違いますね。エクスフィアはそのままでは眠っているのです。
奴らは養分を…すなわちマナを吸い上げて成長し目覚めるのですよ。
人間牧場はエクスフィア生産のための工場。
そうでなければ何がうれしくて劣悪種なんかを飼育しますか。
ここはその仕上げの場所。全てのマナを石に吸い上げさせ、石を目覚めさせているのですよ。
使えるようにね」
機械にすいこまれた人々は全てのマナをエクスフィアに吸い上げられるかのように、形すらのこらない。
その意識はそのまま石の中にと閉じ込められ、意識をもった石…すなわち力あるエクスフィアとなる。
クヴァルの言葉にロイド達は絶句する。
「ひ…ひどい……」
どうにか声をしぼりだすジーニアス。
「マーブルさん……」
それが何をいみするのか。
自分の手にあるエクスフィアの命。
そう、文字通り命であったのだ。
この石は。
ジーニアスの言葉にロイドは胸がしめつけられる。
「ひどいだと?ひどいのは君たちだ。
我々が大切に育てあげてきたエクスフィアを盗み使っている君たちこそ罰せられるべきでしょう?」
ぱちん、と指をならすと、ロイド達の前にディザイアン達が立ちふさがる。
ロイド達はいつのまにかおいつめられており、後ろはない。
「くそ。かこまれたか…」
「ロイド。君のエクスフィアはユグラシドル様への捧げもの。返してもらいましょう。さあ」
「ユグドラシル…それがあなたたちディザイアンのボスなのね」
リフィルがきづき声をあげる。
「そう。偉大なる指導者、ユグラシドル様のため、
そして我が功績を示すためそのエクスフィアが必要なのですよ」
「またか!俺のエクスフィアは、一体……」
ロイドがしっているのは母の形見、ということのみ。
「それは私が長い時間をかけた研究の成果。薄汚い培養体の女に持ち去られたままでしたが、
やっとようやく取り戻すことができます」
「ど、どいうことだ?培養体の女って…ま、まさか…」
ロイドの声が震える。
「……そうか。君は何もしらないのですね。そのエクスフィアは母親である培養体A012。
人間名、アンナが培養したものです」
「!」
母さん!?
ロイドがその名をきき唖然とする。
「アンナ、ってたしか…ロイドの…」
ロイドの家の横に母親の墓があるのはリフィル達もしっている。
ゆえにリフィルも何と声をかけていいのかわからない。
「アンナはそれをもって脱走した。もっともその罪は死であがないましたけどね」
「!お前が…お前が母さんを!」
「勘違いしてもらっては困りますね。アンナを殺したのは私ではない。君の父親なのですよ?」
「嘘をつくな!」
「嘘ではありません。要の紋がないままエクスフィアを取り上げられ、アンナは怪物となった。
それを君の父親が殺したのです。どうです?愚かでしょう?」
あのときの光景は彼にとって愚かとしかいいようがなかった。
それゆえのクヴァルの台詞。
「…死者を愚弄するのは…やめろっ!」
このままではアンナがロイドを殺そうとした、までこいつはいいだしかねない。
ゆえにクラトスが怒りの声をふくめ話しを遮る。
「くくくくくっ。所詮は二人とも薄汚い人間。劣悪種にいきている 価値などありません」
「ロイド。おちついて!」
今にもとびかかりそうなロイドをひっしでとめているコレット。
話している間にも動く床はうごきつづけ、人は機械にすいこまれていっている。
「父さんと母さんを馬鹿にするな!俺は!」
「やってしまいなさい」
クヴァルが部下に指示をだすとロイド達は四方を完全にと囲まれてしまう。
と。
び~び~び~。
どごぉぉん!
けたたましい警戒音と、そしてものすごい轟音。
それは地下からひびくかのごとくに、ずしん、とロイド達のいる床すら揺らすほどの衝撃。
「何だ、何ごとだ!?」
「ほ、報告いたします!クヴァル様!
地下の実験施設に何ものかがはいりこみ…地下施設が壊滅させられた模様です!」
ずずん、とした地響きがここにまでつたわってくる。
がこん。
という音とともにあれだけとまることなくうごきつづけていた動く床までもがとまっているのがみてとれる。
「く、クヴァル様、ま…魔物が…うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ふとみれば、ふわふわといくつもの魔物がういており、
それらはまたたくまにディザイアン達にとむかっていっている。
真赤な何かゆらゆらとうごめく魔物。
白や桃色、そして黒、といったぼろきれのような魔物。
そして…特徴的なのは大きな鎌をもった魔物の姿もいつのまにか壁をすりぬけてやってきており、
それらはディザイアン達、そしてそこにある箱や動く床にとまっている人達のほうにむかっていっている。
「や、やめろぉ!」
ロイドがそれにきづき魔物に声をかけるが、魔物はそのまま人々に大きな鎌をきりつける。
そのままどさり、とたおれてゆく人々。
はたからみれば魔物が人を殺したようにみえるであろうが、ただ人々の体とエクスフィアを切り離したのみ。
そのように彼らは命令をうけている。
「クヴァル様。ここは危険です!いったんおひきを!」
ディザイアンの一人がクヴァルにそんなことをいっているが。
「くっ!…ユグラシドル様が生け捕りにしろ、といった劣悪種のヒトがどうやら紛れ込んだみたいですね。
しかし、たしかに、興味がありますね。ここまで魔物を使役できるとは…」
いいつつも。
ここでは何もできない。
ゆえにそのままその場をあとにし、ひとまず管制室へとむかうクヴァルの姿。
「まて!」
ロイドがおいかけようとするが、
「まって。ロイド!今は人々をたすけるのが先だよ!」
ジーニアスがそんなロイドをあわてて止める。
ちなみにすでに行動にうつしていたのではがいじめになっている格好となっているが。
「いきてるよ!このひとたち!」
その場をあとにしようとしているクヴァルをおいかけようとする姿をせいし、リフィルが冷静に指摘し、
機械に吸い込まれる前のすでに意識がなく倒れている人にかけより、脈を確認していっているしいな。
ふときづけば、体にうめこまれている、というはずのエクスフィアがないのにきづく。
そしてその周辺に蔓のようなものをもつ、橙色のみたことのない魔物がいくつもいたりする。
しかしそれらの魔物は倒れている人にも、そしてしいなたちにも攻撃をしかけてはこない。
「まさか…この魔物達すべて…エミルがよんだ…のか?」
どうみても魔物達が対象としているのはあくまでもディザイアン。
自分達にまったく攻撃すらしかけてこないのが気にかかる。
エミルが魔物をよんだのをみたのは、トリエット遺跡でたったの一度きり。
彼はお願いしてきてもらっている、とはあのときいっていたが。
ロイドの茫然とした呟きと、
「あの子はいったい……」
そうつぶやくしかないリフィル。
時折エミルから感じるマナの独特のにおい。
それと何か関係があるのかどうかはわからない。
もしくはエミルのもっている世界樹の枝が関係しているのかもしれない。
考えても答えがでるはずもなく、エミルにきかなければ何もわからない、というのが実情。
「…エクスフィアが人の命からできていたなんて……」
クヴァルの姿がみえなくなり、そして人々が無事だ、ということをうけて、
ふとあらためてそのことにおもいあたり思わずしばし顔を見合すロイド達。
しずまりかえった中、ぽそり、としいながつぶやく。
「これ…マーブルさんの命なんだ……」
「私たちは…知らずに人の犠牲のうえに、ただの増幅装置、としてしか扱っていなかったのね……」
リフィルも自分が増幅装置、ときいてただ単純に興味があり使おうとしたときのことをおもいだし、
おもわず顔をしかめる。
「っ!こんなもの…こんなもの!」
ロイドがそのまま手にはめているそれを手にし、耐えきれないとばかりに投げ捨てようとするのの、
「まって。ロイド!それをとってどうするの?それはロイドのお母様の命でもあるんだよ?!」
そんなロイドをあわててとめているコレットの姿。
「でも、こんな人の命をもてあそぶようなものっ!」
「…しかし、これがなければ我々はとうにまけていた」
そんなロイドの手をぱしり、とうけとめ淡々というクラトス。
「わかってるよ。そんなの!けど!」
「本当か?今、エクスフィアをすててこの旅を無事におわらせることができるとおもっているのか?
それにここは敵の施設内。
ここで捨てたとすれば敵がすぐさまに回収するだろうな。お前はそれでいいのか?」
「それは……。わかってる。わかってるさ。こいつがなければ俺達はただの弱い人間だ。
これがあるから戦える。そんなことは…わかってる」
ここにエミルがいれば違う、と即座にいったであろう。
この地にいきるものには限界はあれど、成長するようにマナにて構築されている。
努力をすればかならず強くなれるようになっているのである。
それをせずにものにたよるから、その事実に人はきづかない。
「…でも、たしかにエクスフィアは誰かの命をくらってここに存在してる……」
目の前には魔物により破壊されたエクスフィアの入っていたであろう箱らしきものたちの姿。
中にあったはずのエクスフィアは魔物がそのままうばっていたり、また呑みこんだりしているのを
ロイド達のは目の当たりにしてしっている。
あまりにもいろいろとありすぎて、そんな魔物達をとめるどころか何もできなかったのもまた事実。
「それがどうした?犠牲になったものとて好きで犠牲になったわけでも、
エクスフィアとなったあげく捨てられることを望んでいるわけでもないだろう」
「…あのね。私…自分がエクスフィアを使っていないからこんなことをいうのかもしれない。
でもきいて。今、私たちがエクスフィアを捨てればディザイアンに殺されちゃうとおもう。
ううん。ここから生きてでることすらできないかもしれない。
そうしたら、これからもたくさんの人達がこうして石に命をうばわれちゃうんだよ?
私、そんなの嫌だよ。何のために世界再生の旅にでたのかわからないもの」
つらそうに顔をゆがめるロイドの腕にそっとふれてコレットが優しく諭すように語りかける。
「…コレットのいうとおりだ。エクスフィアを捨てることはいつでもできる。
しかし、今はエクスフィアの犠牲になった人々の分まで彼らの想いを背負って戦う必要があるはずだ。
…お前はもう迷わない、のではなかったのか?」
「理屈ではわかってる。わかってるんだよ!
…だけど…母さん…こんなものに命をすいとられて…つらくなかったのか?
俺がこれをつかって…許されるのか?」
「…お前ならどうなのだ?」
「…え?」
そんなロイドの呟きをうけ、クラトスが淡々といってくる。
「もしもお前がエクスフィアに命を吸い取られたとしたら、お前はどうしてもらいたい?」
「俺は……」
「…私なら、この世界の悲しい連鎖を断ち切る志をもつものに役立ててもらいたい。
…そうすることで、私が侵した罪が少しでもあがなえるのならば……」
「あんたの…罪?それは?」
「…私のことはいい。ようはお前がエクスフィアとどう接するか、ということだ」
「エクスフィア…か」
「クラトス。あなたやけに冷静ね?おかげで私もある程度はおちつくことができたわ」
混乱していたのはリフィルとて同じこと。
だが淡々とはなすクラトスにようやく頭がひえてくる。
人の命をつかいつくられていたエクスフィア。
普通は混乱してあたりまえなのに、クラトスにはその様子がみあたらない。
疑いたくはないが…まるで、まるでそう、始めからこのことをしっていたかのごとくに。
「…今はともかく。捉われていたものを救いだすのが先決だろう。ちょうど機械もとまっているようだしな」
クラトスの冷静なことば。
たしかに今ここで考えていてもどうにもならない。
ゆえに彼らは彼らのできることをするしかない。
「とにかく。人々をたすけることを優先しましょう」
「ああ。…こんなことしってしまって今さら知らん顔なんてもできないしね」
しいなも苦痛にみちた顔で自分がつかっているエクスフィアをじっとみる。
誰かはわからないが、その人の命の犠牲のうえにそれがあるのだ、と嫌でも理解できたがゆえの視線。
ともあれ、考えることはいつでもできる。
だが、人々をたすけだすチャンスは今しかない。
今が好機。
魔物達は自分達には眼もくれず、ディザイアンのみを襲撃している。
ならばこのすきに捕われている人々を救いだすこともできるはず。
リフィルの指摘に、それぞれがとりあえずエミルのことはひとまずおいておくことにして。
それぞれが人々をたすけだすことにと集中してゆく。
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あとがきもどき:
薫:そろそろ、この話し。ラタ様が躊躇しなくなってきています(笑
力がもどっている証でもありますが、そろそろ疑念におもいはじめてるリフィル達。
ついにクラトスはエミルのことをミトスに報告あげてます。
ゆえに、ミトスがだしてる命令は、いけどり命令。
魔物を使役する能力は、クルシスからしてもほしいですからね…
2013年6月16日(日)某日
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