まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

コレットの、例の感動?シーンさん。
終わりのほうに組み入れてます。感覚がないことをロイドに気づかれるシーンです。

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「なんだか強くなったね。ロイド」
いくら魔物はおそってこない、といっても山賊などといったものは当然いるわけで。
「うん。最近あまりむちゃしなくなったし。クラトスさんのアドバイスのおかげかな?」
「私は何もしていない」
「そんなこと…ないぜ」
「へえ。めずらしく素直だねぇ」
「よかったね。ロイド。いい先生に出会えて」
「…いや。私には人を教え導く資格はない。
  私はきつて、私を師とよんだものが苦悶の末におちてゆくのを救えなかった。…それは私の罪だ」
「罪、とわかっていてならあなたは何をしてるんですか?」
それまで黙ってきいていたエミルが口をひらく。
その目はじっとクラトスをみつめている。
ミトスがクラトスを師とあおいでいたのは知っている。
訪ねてくるたびによくミトスは自分達のことを延々と話すな、といっても話していたのだから。
「…何を、しているのだろうな。本当にわたしは…正すこともできず、ただ流されるまま…それでも……」
「本当に間違っている、とわかっていたなら何がなんでも止めるべきでしたね。
  あなたも。そしておそらくはあなたの仲間も」
それは、世界にとって、自分にとってあきらかなる裏切り行為。
「間違いを間違い、と正すひとがいなければ人はどこまでも間違いをつきすすみ、
  いずれは取り返しのつかない場所までいってしまうんですよ?それくらいわかっているでしょうに」
あの混乱の中、人々の戦争を終わらせようとしていた彼らがそれに気づかないはずがない。
エミルからすぐに視線をそらすクラトスにもう話しはないとばかりにそのままエミルもすたすたと歩き出す。
「本当に…私は…何を…しているのだろうな……」
クラトスの独白ともいえるつぶやき。
そして。
「クラトス?」
心配そうにクラトスをみてくるロイド。
「…ロイド。お前は間違うなよ」
「?」
ぽん、とその頭をなでてしずかに言い放つ。
今のクラトスの言い回しは、何かに確実に後悔…いや、進行形でしている、というようにとらえられた。
おそらくそれにエミルも思うところがあったのだろう。
しかし人には触れてほしくないことが多々とあることもリフィルは理解している。
ゆえに。
「もうすこしで峠をこえるわ」
峠にでてきた山賊もどきたちもどうにか撃退した。
いつものごとくに多くの荷物…リフィル曰く歴史的にも貴重な品々をいれたリュックサック…
その上にさらにこのたび手にいれた石板…をくくりつけ。
リフィルは重たいであろう石板をもつ、というロイドの申し出に一度も首を縦にふることもなく。
また荷物すら首をたてにふっていない。
曰く、こけて資料の品々を壊されてはたまらない、とのことらしい。
ジーニアスからしてみれば自分がもっていたいだけ、ときっぱりといいきり
リフィルに叩かれていたりしたのだが。
「うわ~。海がみえます~」
きらきらと、峠の下にみえるは広がる海原。
太陽の光をうけてきらきらと反射しているのがみてとれる。

光と闇の協奏曲 ~風の封印の先に~

「先生。海だぜ?」
ロイドが足をとめる。
峠の上からみたかぎりは近くにみえたが歩いてみれば距離は結構あったりする。
目的の場所は海の向こうみえている島にとあり、その島の手前で思わず立ち止まる。
「ここを渡らないと王廟ってところにいけないんだろ?」
ロイドの問いかけに、
「…そのようね」
水の苦手なリフィルは目の前に広がる海と石板に書かれている地図をみながらうなづくが。
その顔にはあからさまに拒否したい、という表情がありありとあらわれている。
「先生。こっちに橋がありますよ~。さっき峠から確認してましたし~」
リフィル達の目にはみえなかったが今のコレットの視界にて捕らえることはいともたやすいこと。
「よくやったわ!コレット。さあ、いきましょう」
「先生。橋を渡る間だけでもその石板や荷物をもってやるってば」
「けっこうよ」
「ちぇ。人が親切にいってるのにさ」
唇をとがらすロイドにジーニアスがささやく。
「いい加減になれなよね、ロイド。姉さんがあれらを手放すはずがないでしょう?」
「まあな」
たしかにジーニアスのいうとおり。
ふと、離れてついてきているエミルとノイシュを振り返る。
「あれ?何やってんだ?お前たち?」
ノイシュは幾度も背後をふりむきつつも、困惑したかのように低くうなっている。
そんなノイシュを苦笑しつつもエミルがその体をなてでいる、という光景がそこにある。
どうやらあの気配に気づいていないらしい。
そんなロイドの態度におもわずあきれもするが、それだけ警戒心がない、とも理解できる。
「別にいそがなくても。それに目的の場所は遺跡とかいうんでしょ?時間がたって消えるわけでもないし」
それこと次元を隔ててあるとあるダンジョンのように。
「それはそうだけどさ。エミル。もしつかれたんならノイシュにのせてもらってもいいんだぞ?」
「疲れてないよ。ロイドのほうは?」
「俺は平気。って、ああ!先生がとっとと橋をかけだしてる!ったく。とにかくいこうぜ!」
みればリフィルがこばしりにて橋を渡ろうとしている姿が。

橋を渡り切り、しばらくいくと、やがて石造りの建物の残骸らしきものがところかしこにとみえてくる。
そのまま奥にとすすむとその残骸はだんだん多くなり、やがて完全なる建造物…
まだ十分にその外観をたもっているそこ…へとたどり着く。
その遺跡の前にたどりつくと、リフィルがコレットをふりかえりつつ、
「中央の階段をのぼって、祭壇に地図を奉納するのよ」
「はい。先生」
リフィルの言葉に素直にうなづくコレットの姿。

一方。
どうやらこの場所には他のものもいるらしく念のために何かきけるかもしれない、
とロイドとジーニアスがこぞってそこにいる人々にと話しかける。
「観光にきたんじゃが…いまいちじゃのお」
一人の老人がいい、どこかがっかりしたようにいってくるが。
ここまで一人でこれたという事実にロイドからしてみれば驚きをかくしきれないのもまた事実。
「わんっ!」
そしてまた、遺跡の前の開けた場所では犬がはしりまわっている。
「遺跡をみにきたんですが…扉が閉まっていて中にはいれないんです。何か仕掛けがあるのかな?」
「犬と散歩にきています。ペコっていいます。かわいがってください」
遺跡の前には、看板がたっており、
パラグラフ王廟、観光案内。
とかかれており、王廟の簡単な歴史と、発見の経緯が記されているのがみてとれる。

「どうやら、あまり参考になる話しはなかったようね。さあ、コレット」
「はい」
そのまま祭壇へと近づくと、上部がひとりでに左右にとわかれ、
ちょうど石板の幅ほどの空間があらわれる。
「どうやら、パラグラフの地図に反応しているようね」
リフィルがそこに石板をさすようにコレットに指示をだす。
すると地面からわきだすように、今まで何もなかった祭壇の前に神託の石板、とよばれしものがあらわれる。
「神託の石板だ!」
「やっぱりここが封印なんだな」
ジーニアスがいい、ロイドがうなづく。
「じゃあ、手をおきますね」
コレットが石板に手をおくと、正面の壁が重たい音を叩いて開き、
中につづくまっくらな入口が現れる。
「よし。さくさくっと片づけるか。はいろうぜ」
「?風の音がする……」
ロイドにつづいて中に足を踏み入れたコレットが耳をすませる。
それは王廟の最深部のほうから吹いてきているように感じられた。

「よし。今だ!」
コムケした石の陰に実をひそめていたが、
一番最後にはいっていったエミルの背中が視界から消えたとたん。
そのまま祭壇の前にと飛び出し、中に入ろうとこころみる。
「コリン!」
煙とともにあらわれたリスのような三本の尾をもった動物…コリンとよばれしそれは、
ふるふると尻尾を震わせるとその場で頑張っているノイシュと対峙する。
「しいな。はやくいってて!コリンがこのへんなのとめておくから!」
「ああ。今度こそ失敗しないよ」
走り出した、しいなが王廟の中へきえるまで、コリンは小さくとがった歯をみせてノイシュを威嚇しつづける。
「グルル…く~ん……」
ノイシュは橋の向こうからつけてきたものの正体に、困ったようにと泣き声をあげる。
実際に困ってしまう。
この目の前のコリンとよばれしものは、人工精霊体であることは気配でわかる。
微精霊が形をなし、人工的に意思をもたされしもの。
気配的にうまれてまだそれほどはたっていないであろうが、
かんぜんに自我、というものが確立しているらしい。
ならば、世界における役割を、王からあたえられても不思議ではない。
どうやらまだ感じる限りそのような役目は与えられていないようではあるが…


「おおおお!たくさんの石板があるな!」
薄闇に目がなれたリフィルが壁にうめられし石板をなですざり、うわずった声をあげる。
ちなみに、リフィルの荷物は、遺跡の中にまでもっていけば、逆に戦闘の邪魔になる。
というクラトスのもっともな理由にて、
こういった場所の中にはいる場合のみ、ノイシュの背にくくりつけられている。
ノイシュの逃げ足の速さはリフィルもしっているのでその提案をしぶしぶうけいれているこの現状。
「おお!何かわくわくするぜ。探検家気分だな」
「…おまえはいつも最初だけは威勢がいいな」
うきうきというロイドにたいし、クラトスがあきれたようにいってくる。
「?やっぱり風の音がする?」
ふと、そんな一行をそのままに、エミルがすっと先にとすすむ。
その先に魔物らしきものがみてとれるが、魔物はなぜか逃げようともせず、
ましてやそのままエミルの目の前で立ち止まり、しばし視線をかわしているのがみてとれる。

一方で、
「何がかいてあるのだろう。さぞ貴重な資料だろうな。ああ、よみたい!たったいま、この場で!」
「先生。そんなものはあとにしろよ」
「なんだと!?そんなもの、だ!?ばか者が!ここは王廟、というだけあって。
  古の王家の墓なのだぞ!盗掘を防ぐためにどんな仕掛けがあるやもしれない。
  だからこれらのことをきちんとよんで、だな……」
「姉さん。それならもうエミルとクラトスがみつけてくれたよ。床と壁から針がでてくるようになってるんだ」
正確にいえば、エミルが魔物と何やら会話していたかとおもうと、
魔物が罠の仕掛けを発動させてくれて理解させてくれた、といったほうが正しい。
「…何だと?」
よくよくみれば、針は一定期間の感覚をおいて、壁や床から出入りしているようにみえる。
「まっすぐすすんだらまちがいなく串刺し、だな」
トラップをジーニアスとともに調べていたクラトスが説明する
そのまま足元に転がっていた瓦礫をひょい、と投げてみせる。
ビュ。
それまでゆっくりとした動きをみせていた針がおそろしい早さで床からせりあがる。
瓦礫はたちまち、粉々にと砕け散る。
「…そ、そうか」
それをみてごくり、とリフィ。がノドをならす。
さずかに冷静になったらしい。
「死にたくなければ私についてくるのだな」
クラトスが剣をぬいたまま、用心深くすすんでゆく。
実は直接、最深部までつながっている道もあるのだが、エミルはいわない。
そもそも知っていてもいう必要がない、というのが素直なところ。
ハーピーやスケルトン、といった魔物がなぜかよってはくるが攻撃はしてこずに、
よくよくみればエミルに礼をとっているのがみてとれるが、
罠に注意してすすんでいる一行にそこまでの余裕はない。
やがて長い時間をかけ扉の向こう側にとつづいている階段の前にと一行はたどりつく。
「やっと祭壇かよ。ダンジョンはもうあきたぜ~」
「…根気のないやつだ。途中で暴走して串刺しになるタイプだな」
「うっ」
クラトスの言葉にロイドも何もいいかえせない。

階段をのぼりきると、幾度かみなれた祭壇がみえてくる。
そこは屋外の新鮮な風がふいており、いつのまにか王廟の屋上にまでやってきていたらしい、
といまさらながらにロイド達は理解する。
「おい。きたぜ?」
祭壇から青い空へむかって立ち昇る光りの中から大きな影があらわれる。
「…まって!すごいマナを感じるよ!?」
ジーニアスが足をとめる。
「風の封印のガーディアン。ハスタールだ。油断するな」
クラトスが巨大な鳥のようにみえるそれをみながらいってくる。
ハスタールの全身を覆う羽は青色で、翼の先は緑から黄色へとかわっている。
風の精霊三姉妹を護りし魔物、ハスタール。
すでにセンチュリオン達を覚醒させているがゆえに、彼らとも繋ぎをとっている。
ちらり、とハスタールはエミルのほうをふりむき、かるく頭をさげたのち、
それでも、命じれている以上、ここで話しかけるわけにはいかないのも理解している。
そもそも傍にセンチュリオンがいる以上、人にしかみえなくてもそのヒトの姿をしているモノが誰なのか。
ウェントスの直接の配下でもあるハスタールがわからないはずもない。
バサバサッ!
「うわ!?」
はばたいたハスタールから風の刃が発せられる。
それは風の術、エアスラスト。
まともにエアスラストをうけてよろめいているロイド。
「魔神剣!」
クラトスが剣技をはなつが、もののみごとにハスタールの周囲の風にとはばまれる。
そもそもウェントスも力をとりもどしてきている以上、
直属の配下であるハスタールの力もまた回復してきている。
普通のヒトになど倒されるはずもない。
(ハスタール)
(は!)
いきなり念派にて話しかけられおもわず硬直し、それでも姿勢をあらためる。
空中にと完全にたちすくみ、羽をきちんと正している様は、
ロイド達からしてみれば、馬鹿にされているようにしかうつらない。
(今からお前を吹き飛ばす動作をする。それにあわせて姿をけしておけ)
(了解いたしました)
王が何を考えているのかはわからないが、命令は命令。
しかも直接の命令である。
これ以上の誉れはない。

獅子飛燕脚ししひえんきゃく
エミルの言葉とともに、突如として巨大な風の塊がロイド達の横をふきぬける。
ふとみれば風の塊はまるで獅子の姿をかたちどっており、
そのままエミルがそれとともにかけだしたかとおもうと、
突如としてハスタールの目の前にと移動しており、それはほんの一瞬のできごと。
いつのまにかハスタールはそのまま吹き飛ばされており、そのままハスタールの姿はかききえる。
『・・・・・・・・・・・』
なんかデジャヴが……
おもわずロイドはトリエット遺跡での出来事をおもいだす。
あのときもエミルの一撃によって封印の魔物がもののみごとに撃退されてしまっていた。
「…なあ、エミル?今、何やったんだ?」
「え?ただ、獅子戦吼ししせんこうと、
  飛燕連脚ひえんれんきゃくをあわせた技をはなっただけだよ?」
嘘ではない。
『いや、だけって』
というかそんな技はきいたことがない。
いや、たしかかなり腕のたつ剣士は闘気を様々な形にすることができる。
とはクラトスからもらった指南書に書かれてはいたが。
ゆえにクラトスも含め、思わずその場にいたコレット以外の全員の声がかさなる。

と。
――再生の神子よ。よくぞここまでたどりついた。さあ、祭壇に祈りをささげよ。
声が上空より聞こえてくる。
「…はい」
「大地を護り育む大いなる女神マーテルよ。御身の力をここに!」
コレットが祈りをささげると、やがて光りがいつものようにとおりてきて形づくる。
それは、エミルが水の祭壇にて水鏡にてみていた光景とまったく同じもの。
「ここは大三の封印。よくぞここまでたどりついた。神子コレットよ!」
「……はい」
「クルシスからそなたに天使の力を。我らが祝福をうけとるがいい」
一筋の光がコレットの体に吸い込まれるようにしてきえてゆく。
「…は、はい。ありがとうございます」
「次の封印はここより北西。世界の中心を望む場所。かの地の祭壇で祈りをささげよ」
「…わかりました。……レミエル様」
「また、次の封印でまっている。我が娘、コレットよ」
旅の終焉はちかい。はやく真の天使になるのだ。よいな。
それだけいいはなち、レミエルとなのりしものはそのまま表れたときとおなじようにきえてゆく。

(というか、魔科学転送の無駄遣い、だな)
(たしかに天使。ですね。かつての大戦時の生体兵器。まだいきのこっていたのですか)
それをみてソルムまでもがそんな感想をいってくる。
あれから四千年も地上で経過していた、というのにもおどろいたが。

「……真の天使…かぁ」
レミエルが消えてしまうと、コレットは祭壇からロイド達のいる場所へともどってくる。
どうでもいいが無理やりに無機生命体に変化させていっているがゆえに、
コレットの体そのものの異変がハンバナイ。
マナが著しくみだされ、その機能すらまともにはたしてすらいない。
当人、そして周囲の人もそれにきづいてすらいないのがばかばかしくなってくる。
しかもこれを試練、とうけとめているコレットの心にも。
何かが違う、とそろそろ気づいているであろうに。
エミルのそんな思いは当然コレット達に伝わるはずもなく、
「どうした?」
「ん。何でもない。真の天使になったらきっとすごいんだろうなって」

完全に融合し無機生命体になったものは、無機生命体と有機生命体を任意にて変化させることが可能。
ずっと無機生命体のままでいればあきらかに体に変調をきたし、
いずれは体そのものが全て結晶体となってしまう。
ゆえに内部の一部のみを無機物になど変化させたり、もしくは感覚などといったものを変化させてゆく。
それがかつて、人が開発した天使、とよばれし生体兵器としての本質。
それすらもエミルにとってはマナを無理やりに歪ませているので許容できざるえない内容であるのだが。

「封印ってあとどれくらいあるんだろ?」
「わからないわ。こればかりは……」
「とにかく、前にすすむしかなかろう」
クラトスの至極あるいみでは最もな意見。
「あれ?エミル?」
「あ、ちょっと後からいくよ」
みればエミルが連れていた鳥の魔物がうずくまっているのがみてとれる。
「今ので怪我でもしたのかしら?」
「少しやすんだらすぐにおいつきますから」
「でも……」
コレットがいってくるが。
「コレットは早く少しでも休んだほうがいいとおもうよ?」
マナが無理やりに歪められ、悲鳴をあげている。
時間がたてばまちがいなくそのまま彼女は倒れるだろう。
マナをむりやりに歪めたその歪みは今度は痛覚という痛覚を彼女からうばいさる。
それが手にとるようにマナの流れで嫌でもわかる。
いらいらしてくる。
それをあたりまえのようにうけいれているヒトにも。
だがそれが人のきめたこと、うけいれていることである以上、説明してやるつもりもさらさらない。
「まずは外にでたほうがいいだろう」
クラトスの至極もっともな意見。
それゆえにあとからいく、というエミルをその場にのこし、ロイド達はひとまず外へと出ることに。

ロイド達がこの場をたちさるのをみとどけたのち、
「…さて」
小さくつぶやくとともに、緑の光りが瞬く間にとあらわれ、そこに三つの影をつくりだす。

「「「おひさしぶりです。ラタトスク様。…ところで、どうして人のお姿に?」」」
どうやらセンチュリオン達も精霊達も思うことは同じらしい。
「地上の様子を探るのにはこの方が都合がいいからな。
  すでにウェントスから連絡がいったとおもうが、お前たちを利用していた歪なるマナの調整。
  それはこちらで本来あるべき姿にもどしゆく。それにより、お前たちの楔という役割は、
  今後、空間と空間同士、すなわち次元と次元をつなぎあわすためだけのものとなる。
  まあ、それも解除できれば一番いいのだが……」
すくなくとも、ヒトが精霊に契約とう楔をかしている以上…しかも原因はあるいみ自分。
「まあそれはこちらでも考える。近いうちにお前たちにかけられたミトスの枷ははずす」
その口調にはいつもロイド達と話しているときの温和さはまったく感じられない。
どこか威厳にあふれ、また畏怖をもかねそなえた、そんな声と態度でしかない。
だがそんな態度こそ、彼ら精霊にとっては見慣れた、そして見知ったもの。
「何かあればハスタールを通じ、連絡を。ウェントスから我が元に連絡がくる」
「「「わかりました」」」
ラタトスクが自分…属性を司りし精霊達のためにつけている護衛の魔物。
自分達の配下というよりは側近であり、また王の直接の僕たるものの直接の配下。
ヒトは認識すらしていないが、精霊にはそれぞれ護衛の魔物がついている。
それはすべては、世界をうみだせし、王の命令によるもの。
不都合があればすぐさまに魔物を通じ、連絡がつくように、との配慮。


「まて!」
入口付近の大広間までもどってきた直後。
突然、聞き覚えのある声がひびき、黒い影が階段の途中…地上へつづく階段の途中に浮かび上がる。
「この声は……」
「…嫌な予感」
顔をしかめるロイドとジーニアス。
「ようやくこの日がきたな。この古代遺跡がそのままきさまたちの墓場になる……」
そんな二人の間からコレットが嬉しそうにすすみでて、
「しいなちゃんもここにきてたんですね~」
にこやかにしいなに近づこうとする。
緊張感の欠片もない。
「ち、近づくな!動くな!ものにさわるな!」
「せっかくしいなちゃんとお友達になれたのに。どうして戦わなければならないんですか?」
すでに戦闘の構えにはいっているコレットにとっては友達にコレットが問いかけると、
しいなの顔が一瞬、泣き笑いの表情にと変化する。
「だれがあんたと友達になんか……というかちゃんづけするな!
  …と、とにかく!きさまらと慣れ合うつもりはない、皆のためなんだよ…覚悟!」
「くるぞ」
札らしきものを手にし、しいなは叫ぶ。
手をすばやくうごかし、韻をくみ、
蒼雷ソウライ!」
薄暗がりの中に式神があらわれる。
大きな天狗の顔を後方にやどし、本体は鳥のようにみえるそれ。
「みんな?みんなのためって…おい……」
ロイドがそう尋ねるが途中で口をつぐむとそのまま剣をあわててひきぬく。
話しかける前にソウライとかよばれていたそれが襲いかかってきたがゆえのとっさ的な行動。
「…これは何という敵なのかしら?」
「わんたろーですよ」
「違うだろ。どうみても」
「緊張感の欠片もないな……」

一時後。
「くっ…ど、どうしてかてない!?」
ロイドの剣圧に吹き飛ばされたしいながおきあがりつつも唇をかみしめいってくる。
「正義と愛はかならず勝つ!」
「あのなぁ。あのあほみたいなドワーフの誓いをひっぱりだすんじゃねえよ」
ジーニアスの台詞にロイドがあきれたように突っ込みをいれる。
「……何が正義だ!お前たちが正義なもんか!
  お前たちが正義だというのなら、あたしだって正義だ!」
うなだれていたしいなは、ジーニアスの言葉にきっとなり声をあらげさせる。
「お前も一緒になって正義、正義っていうな!はずかしいやつらだな!
  そもそも俺は正義なんて言葉がだいっきらいなんだ!」
「お前に何がわかる!お前たちが世界を再生するとき、あたしの国は滅びるんだ!」
ロイド達は一瞬、耳を疑う。
「再生すると…滅びる?」
「どういうこと?」
コレットは眉をひそめ、そして一歩前にとでる。

いや、もうそれはないけど。
おもわずそれをきき、内心突っ込みをいれるエミル。
そもそもセンチュリオン達にマナをきちんと平等にするように命じている。
八柱が覚醒し、自らも大樹の枝にて賄えるほどのマナを生み出している。
かつてほどマナが消費されていないので、均等に分け与えるのに無理はない。
完全たる依代がないままでも。

「まって。どういうこと?私が世界を再生したらみんな助かるんでしょう?違うの?」
「…たすかるよ。この世界はね!」
叩きつけるようにいい、しいなはくるり、と踵をかえす。

(…どうやら、やはり完全にあちら側はこちらをしっているようだな)
(ラタトスク様?いかがなさいますか?)
(お前たちの力もかなりみちてきたからな。一度全ての世界を視て理解する必要がありそうだな)
今の世界の…ヒトの、ありようを。

「まちなさい!あなた、何ものなの!他に仲間がいるのね!」
いいすてて階段をかけあがってゆくしいなにリフィルが何やらさけぶが。
「あの?何かあったんですか?」
一時おくれ、合流してきたエミルがそんな彼らにとといかける。
ちなみに戦闘が終わったころに背後にきていたが、声をかけなかっただけのこと。
「この世界?世界にこれもあれもないよなぁ?」
ロイドが意味がわからずに首をかしげているが。

ただ空間を彎曲し、隣り合う形で次元空間をいじっているたけでそこにある国同士。
かつては一つの世界であったものをむりやりにねじまげている。
オリジンのもつ空間を操る力にて。
それが今のこの世界のありよう。

「あの娘…まさか……」
「しってるの?」
いや、とクラトスはジーニアスにむかって首を横に振り、
「いや。それよりここをでよう。ここにはもう用がない」
クラトスの指摘は至極もっとも。

王廟をでたとたん、コレットの体がぐらり、と揺れる。
「コレット!」
倒れるコレットをあわてて抱きとめるロイド。
「天使疾患ね。はやく横にしてあげましょう」
「大丈夫か?」
「また…迷惑かけちゃうね」
「いや。そんなの平気だけど……」
コレットを支えていたが、あわてて支えたのでふんばりがつかず、
かといって足元は朽ちた石、すなわち砂であふれており、
そのままおもわず足を砂にとられてしまう。
そのまま、コレットをだきとめたままその場にこけてしまう。
「…ってぇ!」
「もう、何やってんだよロイド!コレット。大丈夫!?」
コレットが一瞬大きく目をみひらき、自分の手とロイド、そしてジーニアスの顔を見比べる。
「どうしたの?コレット。いたかった?どこか怪我したとか?」
心配そうにいってくるジーニアスにたいし、あわてて返事をするコレット。
「う、ううん。何でもない。ぼ~としちゃった」
あわてておきあがり、ロイド達の視線から逃れるように体をひねる。
「天使疾患ね。早く横にしてあげましょう。野営できる場所と、薪と……」
リフィルがてきぱきと指示をだす。
「わかってるよ。姉さん。ロイド、いこう」
ジーニアスに促されてもロイドはただしばらくその場にたちつくす。
自分の手とそしてコレットをみつめつつ。
まさか、コレット……
まさか、とおもうが、手についているソレはあきらかに無理をしている、というのがわかる証拠で…
「あ。なら、僕は薪あつめてくるよ。ロイド達は安全な場所を確保してきて」
「え?でも、エミル一人じゃ……」
ジーニアスの心配そうな台詞に対し、
「そのあたりの魔物にお願いしたら薪くらいすぐにあつまるし」
「…そういえば、砂漠でもそうしてたっけ……」
砂漠ですらあの量の薪…魔物の枝だったらしいが…があつまったのである。
ここならば普通に木々がはえているのでたしかに確実、ではあろうが。
しかし、問題はそこではないとおもう。
切実に。
エミルからしてみれば魔物にお願いするのは当たり前だが、ロイド達からしてみればいまだによく理解不能。
というか、どうして魔物がエミルの言葉にのみは従うのかが理解できない、といったほうが正しい。


食事前に何とか復調したコレットは皆が眠ってしまうとそっと火の傍をはなれる。
いまだにエミルは見回りにいく、といって戻ってきていない。
仲間に背をむけるように足を投げ出して座る。
それから彼女は自分の腕にとさわり、ブーツの上からかるく足をたたく。
あきらめにもにたため息がもれるよりも早く、
「何やってるんだ?」
ふいに後ろから声をかけられて、はっとコレットは振り返る。
いつのまにかロイドがそこにたっていたりする。
「…どうかしたの?」
「コレット。手をみせてみろ」
「え?どうしたの?」
「いいから」
とまどうコレットに手をむりやりにと握る。
「怪我してるじゃないか。さっきころんだときだろ。
  こんなに血がでてる!ちゃんと止血しないから、まだこんなに…」
コレットの手のひらではまだかわききっていない血があきらかにみてとれる。
「で、でも痛くないから」
「え?」
「あ。ち、ちがうの。あんまり気にならない程度だからってこと」
「…コレット。ちょっといいか?」
いいつつも、一度その場を離れてゆくロイド。
戻ってきたロイドの手には二つのカップが握られているのがみてとれる。

「どうしたの?突然?」
「たまには二人っきりで話しでもしようとおもってさ」
「ロイド……うん」
「これ…ホットコーヒー」
「ありがとう」
ロイドから手渡されたコップを迷いなく受け取る。
「あついだろう?お湯が残っていたからいれてきたんだ。
  たまにはコーヒーでものみながら二人きりで話しをしようとおもってさ」
「ありがとう」
「まだ冷めてないだろう?やけどすんなよ?」
「うん。あつあつだねぇ」
コレットは笑顔でこたえる。
ロイドの顔から表情がきえる。
「…それ、アイスコーヒーなんだ」
「…え?」
「ジーニアスに冷やしてもらった」
「あ、あはは。そうだよねぇ。冷たいもんねぇ」
「嘘。…あいつはとっくに夢の中だよ。それ、本当はホットなんだ」
「!」
ばしゃ。
コレットの手からカップがすべりおちる。
足元にコーヒーがコップごとこぼれおちる。
こぼれたコーヒーは地面にみるまにすいこまれてゆく。
「…やっぱり。お前、いつからだ!なんにも感じなくなってるじゃないか!」
ロイドに肩をつかまれて、コレットはいやいやというように首を横にふる。
「そ…そんなことない……」
「嘘つけ!さっき転んだときにはもう感覚がなかったんだろ!」
「……それは……」
「あんなに血をだしているのに、俺が手を握っても平気なんておかしいだろ!」

コレットはしばらくロイドの顔をみつめていたが、やがて諦めたのか、
「…ばれちゃったんだ……」
弱弱しくもいってくる。
「…最近、お前、メシあまりくってないし」
ロイドはつらそうに顔をそむけて言い放つ。
「たべてるよぉ?エヘヘ」
「本当に数えるほどだろ。それに嫌いなものまで食べるようになったし」
よくよく考えればたべているときはエミルが料理当番のときにかぎる、のだが。
そこまでロイドは気づいていない。
「ピ…ピーマンのこと?あれはもう食べられるようになったの。ほんとだよ?
  …ちっとも苦くかんじないんだもん」
ロイドはふっとさみしそうに笑みをもらすとコレットに視線をもどし、
「それだけじゃないぞ。おまえ…ねてるか?俺がいつ目をさましても眠っているお前をみたためしがない」
「ね、ねてるよぉ~?えへへ。ほら、目もあかくないし」
「もう、俺に嘘をつくな!おまえ昔から嘘をつくときは愛想笑いするんだ」
「ち…ちがう……」
「…俺はそんなに頼りにならないのか?」
「…違うよぉ!だって、心配かけたくなかったから……」
「…何があったんだ?」
「…わかんない」
わかんない、とコレットはうなだれる。
「わかんないけど…最初におかしくなったのは、火の封印を解放したときだよ?
  急に何もたべたくなくなったの。食べものたべても味がしなくなった」

一人がつくる品物だけは別として。
それが不思議にもおもえたが、だけどもなぜかあたりまえ、とおもっていたのもまた事実。
あれは味というよりは何かの力が満ちてくるのが感覚的にもわかる料理。

「…味がしない?」
「無理してたべるともどしちゃうから、あんまりたべないでいたんだけど。
  でも…いつまでたってもお腹がすかないの」
「それ…それって……」
ロイドは自分の抱えていた不安が的超したことに頭を殴られたようなショックを感じる。
「次の封印を解放したらこんどは全然ねむくならなくなった。
  目をとじてもどうしても寝られなくて…それ以来、全然ねてない。
  それでこの封印でとうとう何も感じなくなって……」
「どうして、どうして何もいわなかったんだ!」
ロイドは思わず咎めるような口調でいってしまう。
本当に責めたいのは自分自身だ、というのに。
どうしてもっとはやくに気づいてやれなかったんだ!俺は!
そう思う気持ちはその気持ちとは逆にコレットをせめてしまう。
「だって、きっとこれが天使になるってことなんでしょう?
  そしたらこれくらいでうろたえてちゃダメなんだって……」
そんなロイドの台詞にコレットはうっすらと笑みをうかべつつも、最後のほうは言葉すくなにいってくる。
「これが天使になる!?食べなくなって、眠らなくなって、何も感じなくなることが!?」
「あ。でも目はよくなったの。すっごく遠くまで見られるようになったし。
  音もね。小さな音までよくきこえるよ?聞こえすぎて…少しつらいけど」
コレットがことさら明るい声でいってくる。
それがみていて痛々しい。
ロイドはソダ間欠泉にてコレットがあっという間にスピリュチュア像をみつけたときのことを思い出す。
あれも天使に近づいて目がよくなったせいだったっていうのか?
そうおもうが、そのときからずっと苦しんでいたとおもうと…自分自身がロイドは許せない。
「…ごめん。今までおれ、何もきづかなくて…ごめん」
たまらなくなり、コレットの肩をだきよせる。
「…皆には、いわないでね」
「どうして…っ!」
コレットがロイドの耳元で囁く。
「だって、せっかく一緒に旅をしてるんだもん。楽しくしていたいから。だから、ロイドも気にしないで」
「…ばかやろう。…自分が大変なのに…お、俺にまで気をつかうな……」
ロイドの目に小さくうつる焚火の炎が滲む。
「ごめんね。ロイド。せっかくロイドが私のためにないてくれているのに。
  すごくうれしくて泣きたいくらいに嬉しいのに…わたし、涙もでない。ごめんね」
コレットがつらそうに唇をふるわせる。
ロイドはただただだまってコレットをだきしめる。
これ以上、何かいったら声をあげてないてしまいそうで。
こんなにコレットは暖かいのに。

コレット、お前はお前だ。
俺が…俺は絶対にお前をまもる!約束するから!
華奢な体のぬくもりを感じながらロイドは己自身にと誓いをたてる。

しばらくどれくらいの時をすごしただろうか。
やがて無言で二人はそのままその場にとすわりこむ。
コレットがぽんぽんと抱きしめてくれているロイドの肩をたたき、座るようにいったからなのだが。

「コレット。ごめんな」
「何が?」
「俺、お前が苦しんでいるのも知らないで、天使に近づいているのを大喜びしたりして」
「ううん。私が天使になればシルヴァランドが助かるんだもん。喜んでもらっていいんだよ」
「だけどさ」
「大丈夫。大丈夫。ロイドが私のことを心配してくれただけで、十分だから、ね?」
「…いい方法、ねぇのかなぁ。お前もくるしまなくて、世界も救える方法がさ……」
「・・・・・・・・」
その答えにはコレットも答えられない。
そもそもこの旅そのものが、コレットにとっては……だけどもそれはいえない。
何よりもロイドを苦しませたくはないゆえに。


                            ――Go To Next


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あとがきもどき:
薫:ようやく風の封印まできました。な…ながかった。
  でももう14…何話になるんだ?!ちなみに、編集で40KB前後に収まるようにしております。

2013年6月14日(金)某日

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