まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ようやく水の封印&風の街です。本気で何話になるんだ?一部のシルヴァランドだけで??
ちなみに飛ばされそうになるのは、この話しではジーニアスです。
別の話しではコレットがいつものどじ(まて)で羽をだして、そのままふきとばされかけ、
全員が数珠つなぎになってる、というパターンもありますよ(だからまて
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「胡散臭ぇ……」
おもわずそうづふやく。
アクアもいることから、それでいてとりあえずここは水が豊富。
そのままそこに水の球をうみだし、それを水鏡にしてロイド達の様子をうつす。
その光景をみたときの第一印象はそうとしかいいようがない。
背中に純白の鳥の翼を生やし、それを優雅に羽ばたかせる『ソレ』は、何のことはない、
ただの天使化したハーフエルフに過ぎない。
ハーフエルフを差別するはずの人間が、天使化しているとは言えただのハーフエルフに頭を下げ、
クルシスとやらの祝福を乞う。
傍から見れば滑稽で仕方のない風景。
マナを感知できるエルフやハーフエルフは相手を見ただけで同族がどうか分かるはずだが、
リフィルとジーニアスが気付く様子はない。
彼から見れば、天使化していようがハーフエルフはハーフエルフにしか感じられないのだが、
同族に気付かれない何かがあるのだろうか。
天使化は体内のマナを彼らの感覚でいえば大きく変化させるから、恐らくそのためなのだろうが。
とは言え、その体内マナの変化などエミルにとっては些細な変化に過ぎない。
天使化による変化など微々たるもの。
「馬鹿馬鹿しい。何がクルシスの祝福だ」
「ラタトスク様。これって何なんですか?」
「しるか。とりあえずヒトどもがなんかやっている、ということくらいだな。
それにミトスが絡んでいる、ということくらいだ」
「え?」
どうやらまだアクアはあの姉弟達が裏切ったことを知らないらしい。
まあ、マーテルとは仲がよかったからな、こいつは。
そんなことをおもいつつも、そのままその光景にと視線をもどす。
天使化したハーフエルフの言葉に合わせ、コレットの体が光に包まれる。
知らぬ者は皆その神々しい光に騙されているが、
ただ単にコレットの体を天使化――無機生命体化に一歩近づけただけ。
既に天使化している筈のクラトスはこの光景をどう見ているのか。
うつされしクラトスはいつも通りの無表情。
天使が翼を大きく羽ばたかせる。
同時にゆっくりとその姿が上昇し、光に包まれ――消えた。
ただの魔科学による転送。
『我が娘……コレットよ。早く真の天使になるのだ。よいな……』
そんな声が映像の中よりきこえてくる。
偉そうな、腹立たしい声。
「我が娘? コレットがてめぇみたいな胡散臭い奴の娘なわけねぇだろ。そもそもヒトとハーフエルフだろうに」
「なんかヒト、へんなことしてますね。あの子、天使化してますよね?
え?今また戦争でも愚かなるヒトははじめようとしてるんですか?」
アクアの疑問は至極もっとも。
「何をたくらんでいるのかはまだわからんが、
どうやらあのコレットという娘を無機生命体にして何かをしようとしている、というのはこれで確定だな」
しかもわざわざ祝福だ、などと偽って。
そのまますっと腕を横にふり、映像をかき消す。
それとどうじ、浮かんでいた水の球がはじけて消える。
「アクア。お前も全ての魔物達との縁をあらたに紡ぎ直せ」
「はい!わかりました!」
「今、目覚めているのはテネブラエ・イグニス・ルーメン・ソルム、そしてお前だ。
ウンディーネとも繋ぎをとり、マナを正常につむげ。
どうも今のマナのありようは歪められた上に管理されているようだしな。
この感覚はおそらくは、彗星デリス・カーラーンにのこしていたマナの管理システムだろう」
感覚でわかる。
まだこの地上に大樹を移すまえに彗星より大地にマナを分けていたあのときと同じもの。
光と闇の協奏曲 ~水の封印と風の街~
「?どうかしたのか?」
「いや……あの娘をどうやらとめたようだな」
気配であのしいなとなのった女性がきているのはわかっていた。
どうやら入口にてエミルにと止められてしまったらしい。
クラトスがエミルが残るのを賛成したのは、彼女の存在もあることながら、
世界樹の小枝なる本物かどうかはわからない…が、
そんなものをもっているあやしい子供をこの封印の場につれてくるのがはばかられた、というのもある。
そもそも火の封印ですらエミルの一撃でいともあっさりと封印の魔物達は撃退されたのである。
それでは試練になりはしない。
危険に身をさらさせることにより、よりハイエクスフィアはより進化をとげる。
そのためには彼が傍にいた場合、彼があっというまに決着をつけてしまう可能性が高い。
それに気になるのは、彼が合流してからこのかた、なぜか魔物が襲ってこない。
もしかしたら本当にあの少年がもっているのが世界樹の小枝だとすれば、
その大樹の気配に魔物がよってこない、というのもうなづけてしまう。
クラトスにはマナを感じ取ることができない。
いくらハイエクスフィアにて天使化しているとはいえ、マナの流れをつかむことは到底不可能。
微弱な気配でもおそらくは魔物にはわかる、のかもしれない。
「何がだ?」
ロイドが首をかしげてそんなクラトスにいってくるが。
「神子を狙っている例の女暗殺者だ」
「つけてきていたのか!?」
「…きづかなかったのか?」
つかずはなれず、背後からついてきていた、というのに。
「た、たまたまだよ。いろいろと考え事をしてたし」
「…どんなときも気をぬくな。生き残りたければな」
「あ~あ。あんたは完璧だよ。どうせあんたは俺みたいに失敗なんてしねえんだよな。
だからエミルが残るのに賛成したのか」
「…私にもミスはある。大きなミスをおかしている……」
それは自嘲に近いつぶやき。
「…へ?」
「…何でもない。今のは失言だ、許せ」
「失言?今のが?わかんねぇやつ」
道の端々に柱にしきものがみえてはいるが、ところどころ壊れているのもみてとれる。
ひんやりとした空気はここが海の上だからなのか、
火山島だというのに熱気にあふれていない、というのに多少驚いてしまう。
それでも足場の下をみればところどころから水が噴き上げており、ときおり水しぶきがかかってくる。
「魔物の姿はみえるけど…襲ってこないな…」
そのあたりにふよふよと…魚らしき魔物や様々な水属性であろう魔物の姿がみえる、
というのに彼らはなぜかせかせかと動きまわっているばかりでこちらにはまったく目もくれていない。
目覚めた水のセンチュリオン・アクアの指示でマナの調整を行っている魔物達からすれば、
ヒトなどにかまっている暇はない。
魔物がまったく襲ってこない…しかもみえている、のにそのことに怪訝におもいつつも、
とにかくひたすらにしたに、下にとおりてゆく。
やがて視界がひらけ、どうみても人工的?な建造物であろう神殿らしき場所にとたどりつく。
今までのようにただ岩場を切り開いたものでなく、階段やあきらかに人の手がくわわりしもの。
よくよくみれば周囲の壁には水が流れ落ちており、
その水が反射しある程度の光りを確保しているのがみてとれる。
水でできた柱のようなものが幾得にもあり、それらが天井をささえているのもみてとれる。
やがて巨大な水ガメとその前に天ピンのようなものがある場所にとたどりつき、
その先にみおぼえのある転移装置のようなものがみてとれる。
転移した先は白い石でつくられたちょっとした創りとなっており、
その中心に祭壇のようなものがみてとれる。
「じめじめしてるなぁ。はやくかえりてぇ。エミルも大丈夫かなぁ?」
一人のこしてきたエミルを気遣いおもわずつぶやくロイド。
「…封印の解放が先だ」
「わかってるよ」
「…この感じ。マナが押し寄せる感じ…火の封印と同じだよ」
それとともに水のマナがおしよせ、そこに三つの影をつくりだす。
人型のようでいて人ではないそれらは、そのままロイド達にむかって襲いかかってくる。
「これは、封印の魔物、ノーディスとヴーニスよ!」
魔物を倒し終えると祭壇から周囲を覆いつくほどの水蒸気が立ち上る。
それとともに、祭壇の上に柱のようなものが出現し、青い光の空間ができあがる。
その中心に一瞬、女性らしき姿を認知したような気がするロイドであるが。
だがそれは一瞬のこと。
青い光の空間はまたたくまにと消失し、そこにはただ水の球体がふわふわとういているのみ。
と。
再生の神子よ。よくぞここまでたどり着いた。さあ、祭壇に祈りをささげよ。
聞き覚えのある声が上空よりふってくる。
「あ。はい。大地を護りはぐくむ女神マーテルよ。御身の力を今、ここに」
祈りをささげつつも羽をだす。
やがて光りがはじけ、そこにあらわれるレミエルの姿。
「よくぞ第二の封印を解放した。神子コレットよ!」
「はい。お父様」
「・・・・・・・・クルシスからの祝福だ。そなたにさらなる天使の力をさずけよう」
「…は?はい…?」
「次の封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。かの地の祭壇で祈りをささげよ」
「お父様、わたし何か御不興をかうようなことをしましたか?」
「…別によい。そなたが天使になればいいだけのことだ。また次の封印でまっている、我が娘…コレットよ」
用件だけいってしまうと、レミエルは現れたときと同様、光りにつつまれ…はじけて消える。
「なんだアイツ。相変わらずエラソーな感じ」
ジーニアスが不満を隠さずに呟く。
が、直後に後ろのリフィルに思い切り頭を引っ叩かれた。
「コレットに謝りなさい」
涙目になって叩かれた頭を押さえるジーニアスにリフィルが厳しく言うが、コレットは首を横に振った。
「いいんです。お父様……レミエル様って本当に偉そうだし」
そう言って微笑むコレットだが、無理に笑っているようにしか見えなかった。
彼女も気付いているのだろう。
あの天使が『我が娘』と言いながらもその声に全く愛情が篭っておらず、目も冷めたものだったことに。
「さて、次の封印を探すとするか。……相っ変わらず分かりづれーけどな」
「ここから遥か北、終焉を望む場所か。どこなんだろう……」
「レミエルももっと分かり易く言ってくれればいいのによー」
「ぼやくな。……行くぞ」
「あ。おかえり。日がくれかけてきてたから。とりあえず野営の用意はしているよ?」
水の橋がふたたび出現し、そこからでてくるロイド達五人。
すでに日はかたむき、潮も満ち潮から引き潮にとかわっている。
この場にいた観光客達も神子一行が出てくるのを今か、今かとまっていたが、
帰りも暗くなったなか、タライで移動するのは危険と判断したのか、
ずてに観光客達はこの場にはのこっておらず。
今のこっているのはエミルとノイシュ、そして少し離れた場所にいるしいなのみ。
「ただいま。しかしあいかわらずわかりにくいやつだなぁ」
おもわずぼそりとつぶやいているロイド。
「何が?」
「ああ。コレットの父親とかいう天使のやつさ。レミエルっていうんだけどさ」
ロイドが簡単に説明をしてくる。
「コレット」
「なに? エミル」
「その天使がコレットの父親って、本当?」
とりあえず聞いてみたかったがゆえの問いかけ。
あの光景をここからみていた、ということはいわない。
本来ならばありえないことなのだから。
「ええ、そのようね」
答えたのはリフィルだった。
「マナの血族である神子は、天使の血を引いている。
コレットはイセリアにいる父親と血が繋がっていないと言われているの」
「わたしのこの輝石、クルシスの輝石って言うの」
コレットが、胸に輝く赤いエクスフィアを示す。
クルシスの輝石。
大層な名前で呼ばれてはいるが、それがヒトを天使化させるエクスフィア、
『ハイエクスフィア』であると知っているのはエミルと、恐らくクラトスだけであろう。
「わたし、この輝石を握って生まれてきたんだって。
輝石を持って生まれた神子は、十六歳の誕生日に再生の旅に出る決まりなんだよ」
「へえ……そうなんだ……」
たったそれだけで、あの天使がコレットの父親だと思っているのか。
些か滑稽に思えたが、彼らがそう信じているものを否定するわけにはいかないであろう。
だがコレットは生粋の人間、あの天使はハーフエルフ。
二人の血が繋がっているわけがない。
「俺は血が繋がっていなくても、親父は親父だと思うけどな」
口を挟んだのはロイド。
彼も育ての父親であるダイクとは血が繋がっていない。
それどころか種族さえも違う。
だがロイドがそれを気に掛けていないことはエミルも知っていた。
そんなロイドだからこその発言に、コレットは安心したように微笑んだ。
先程の作り笑いから一転した明るいその表情。
「そうだね。僕もそう思うよ」
「えへへ。ありがと、ロイド、エミル」
エミルからしてみればこの大地にいるものは全て子供ではあるが、
それでも嘘をついているあのハーフエルフ。
あのレミエルという天使はいただけない、とおもう。
子供が親を慕うのは自然の摂理ともいえるが、
その情を利用して何かをさせようとしているのがみてとれる。
「コレット?顔色がわるいけど?」
「へ、へいきだよ?」
みたかぎり、同意の上で無機生命体化しているわけではなさそうである。
マナがいきなり無理やりに変質させられて悲鳴をあげている。
その反動で人としての機能がいくつも失われていっているのも感じ取られる。
有機生命体にとっては必要不可欠ともいえる機能がどうやらこのたびの強制的な変化にて歪みをみせている。
「へ…へいき…」
「コレット!」
そのままぐらり、と倒れそうになるコレットをあわててエミルは抱きとめる。
確実に抱きとめなければ階段からコレットは転げ落ちていたであろう。
「先生!またコレットが!」
ロイドがあわててコレットのもとにとかけよってくる。
「大変だわ。とにかくすぐにやすませましょう!」
「野営の準備…そういえば、エミルがしていた、といったな?」
「そうね。エミル。その場所に案内してくれる?」
「あ。はい。ここから少し離れた場所なんですけど」
いいつつも、コレットをそのままロイドに預け、彼らを用意している場所へと案内する。
「それにしても…封印を解放するたびにこうだとすると。コレットもつらいわね。
さしずめ、天使疾患、というところかしら」
「コレット、大丈夫?つらい?」
「ううん。大丈夫。またすぐになおるから…ごめんね?」
「もう。おまえ、謝るの禁止な」
「えへへ。ごめんなさい」
ぱちぱちぱち。
焚火のはぜる音がする。
エミルが野営の準備をしていたのは間欠泉のすこし先。
この島では珍しく緑が生い茂りし場所の一角。
ふと夜中に目がさめる。
「コレット。起きてたのか?」
みればコレットが一人離れた場所でしずかに月をみあげているのがみてとれる。
「えへへ。なんか眠れなくて」
「よくなったっていっても。倒れたんだから、ちゃんとねなくちゃだめだぜ?」
「うん。もうすこしたったらちゃんと寝るから」
「でもなぁ」
「ほら、クラトスさんだって起きてるし。エミルなんか見回りにいってるんだよ?」
「クラトスは寝ずの番をしてくれてるんだからいいんだよ。
エミルは…また一人で見回りにいったのか?起こしてくれればいいのに」
「ロイドがよくねてたから遠慮したんだよ」
「ちぇ。なんかエミルにまで子供扱いされてるような気がするよ。ともかく早くねろよ?」
「うん」
「よし、じゃあ、お休み」
「…わたしの分も素敵な夢をみてね。ロイド……」
なぜか寝つかれない。
否、眠気すらおそってこない。
食事の味すらわからなくり、今度は眠気がなくなった。
自分の体なのに自分ではないような。
試練だとはいうがどこまで自分がかわってしまうのかが怖い。
今現在、唯一、味が感じられるのはなぜかエミルが時折いれてくれるハーブティーのみ。
それ以外は味も何も感じない。
ちなみにいまだにエミルがこの一行で食事当番をしたことはない。
そもそもエミルが合流してからあまり野営をすることもなかった、というのも事実。
何しろ魔物がおそってこないのでさくさくと旅がすすみ、
大概夜がふけるまえには救いの小屋などといった宿泊施設にたどりつけているがゆえ。
ソダ島をあとにし、とりあえず次にむかうはアスガード。
途中、救いの小屋にとたちより、祭司達にとスピリュチュア像を一応返した。
祭司達は喜んでいたが、まあ見た目にはかわりがないので問題はないであろう。
やはりというか像の内部にて鉄分がかたまり、今やかの像は鉄の像となっていたりする。
かろうじて樹の形をたもっているのはそのままの成分がこびりついているがゆえにそうみえるにすぎない。
今、エミルの横にふわふわとうかんでいるのは水色の物体の魔物。
いうまでもなくアクアの擬態姿、なのだが。
ちなみに、アクアが選んだ擬態の姿はなぜかアラクネの姿。
人の姿になる!といったがそれをラタトスクが却下した。
クラトス達にいらないことをいいかねないがゆえの却下。
目覚めているセンチュリオン達が順番でラタトスクのもとにつくというのをきき、自分が今から傍にいる!
とあるいみごりおし。
どうでもいいが配下の存在達までつかい、
魔物達にセンチユリオン達に繋ぎをとらせるその根性だけはすごいとおもう。
あとで何か一つだけいうことをきく、という約束とともにどうやら傍にいる権利をかちとったらしい。
「あ~あ」
「どうしたのだ?」
「そろそろ封印解放っていうのも……」
「あきたか?」
「…ち、ちがうよ。俺、ちゃんと村の人達とか犠牲になった人達のこと忘れてねぇょ!」
「ならばいい」
「ごめん。…つい……」
つい、でそんなことが口にでるということは、心構えができていない証拠ともいえる。
しかしロイドはそのことに気付かない。
気づくことができない。
「通行証は…もっているな。よし、とおれ」
ハコネシア峠の関所をぬけ、西にと移動していった先にあるのが遺跡の街、アスカード、というらしい。
らしい、というのはエミルがしっているのはかつてかの遺跡がシルフィー、と呼ばれていた時代であり、
今の名まではしらなかったがゆえ、といえる。
エミルが認識している時までは、風の村、として有名であったそこは、
今は遺跡の街、として名をはせているらしい。
山間につくられし小さな集落。
集落に近づくにつれ風がよりいっそうつよくなる。
風は一方から吹きつけるだけでなく、多種多様な方向から吹きつけてくる。
「まるで山頂をあるいているようね」
おもわずつぶやくリフィルの言はまさに的をえている、のかもしれない。
『…ウェントス』
風にウェントスの波動を感じる。
ゆえにその風にのせ、意思をつむぐ。
エミルの言葉は当然ロイド達には気づかれていない。
気づいているのは傍にいるアラクネの姿をしたアクアのみ。
アスガードとよばれし街の入口に差し掛かったとき、びゅう、という音をたてて、一行の前に埃がまいあがる。
観光地である、というのはおそらくパルマコスタと同じ、なのであろう。
ところどころに旅業なのか旅行者らしき姿もみてとれる。
きになるのはところどころに最近壊れたばかりのようにみえなくもない建物というくらいか。
「あれだけつよかた風が街の中ではほとんどかんじれないね」
街にはいるとそれまで感じていた風がほぼかんじられない。
ゆえにジーニアスがぼそり、とつぶやく。
「おかしいわ。この程度の風で街がぼろぼろになりかけるなんてことはないとおもうけど……」
リフィルも周囲に目をやり困惑顔。
「風が強い日があるんじゃないのか?」
ロイドがそういいかけ、
「きゃっ!?」
何もないはずなのにいきなりコレットがこける。
と。
そんなコレットが今までいた位置を何かがものすごい速さで通り抜けてゆく。
ごう、っという風がコレットの真上でおこり、それは山肌にとぶつかり、一気に上昇してきえてゆく。
それとともに、小さな鳴き声のようなものが周囲に響き渡る。
「あれをみて!」
ジーニアスがおもわず空をみあげ、びっくりしたかのような声をだす。
空にいくつものつむじ風が発生しており、その中心がぽっかりと分厚い雲がとぎれ、
そこにはいくつもの稲光が発生しているのが嫌でもわかる。
びゅうっ。
それと同時、唸りをあげるかのように強い風が吹きつける。
身をかがめ、どうにか姿勢をたもつのがやっとのロイド達。
クラトスですらふんばってすこし身をかがめているのがみてとれるが、
エミルはただ上空をじっとみつめていたりする。
恐怖と混乱にとりつかれ、まったく周囲がみえていない。
まあまだ幼生体なのでそれはわからなくもないが。
いきなり親とはぐれ、混乱しているのが手にとるようにわかる。
「うわっ!」
この中では一番軽いであろうジーニアスがそのまま風にもっていかれそうになり、
その体をふわり、とうきあがらせる。
「ジーニアス!」
すばやくリフィルが弟の手をつかむものの、リフィルまでもっていかれそうになっていたりする。
「先生!?」
あわててコレットとロイドがそんなリフィルにとしがみつく。
「この強い風の中をいくのは危険だ。一度避難したほうがいいだろう。
壁画の間と呼ばれる洞窟があったはずだ。そこなら風を避けられる」
淡々とクラトスがそう提案し、
「たしかに。危険ね。一度風が収まるまでしばらくまちましょう」
いまだに風はつよくふいており、気をぬくと小さな子供くらいは吹き飛ばされるくらいの威力はある。
「ちょ、ね、姉さん?」
いつのまにかしっかりと手をにぎられ、戸惑いの声をあげるジーニアスだが。
「この中では一番あなたが危険なのよ」
「エミルの傍にいるその子はよくとばされないな~」
感心したような声をあげているロイドがさしているのはいうまでもなくアクアであり、
その姿は魔物のアクアスピリッツ、という種類のものとなっている。
見た目はアラクネ、とよばれし生体体にちかいもの。
大きな耳に小さな体。
小さなつぶらな二つの目。
ちょっとしたマスコットのようにもみえなくもない魔物の姿を形どっている。
(ヒトって不便ですね。ラタトスク様)
そんな彼らをみつつアクアが話しかけてくるが。
(だな)
エルミからしてみれば風をそのまま体感したとしても、そもそも風もエミルの一部といえるもの。
気づくものがいれば気づくであろうが、風はエミルの体をまとわりつくようにはふきつけるが、
彼に傷をつけるような吹き付けかたはしていない。
「私が先にいき風よけとなる。いくぞ」
そのまま、すぐさきにとある洞窟らしき場所をめざしクラトスが誘導してゆく。
「す、すばらしい!これがアスカード遺跡の壁画の間!」
「うわ。姉さんの遺跡モード…」
みれば街のひとらしき姿も避難してきているらしく、ちらほらと人の姿が垣間見える。
この壁画もアスカード遺跡、とよばれしものの一つであり、石舞台とならんで観光の目玉となっているらしい。
「ロイド!この壁画の由来をのべよ!」
「え!えっとぉ……」
「なげかわしい!すぐに答えられないとは何ごとだ!」
「この遺跡はクレイオ三世よりも前にかかれている、というのがもっぱらの学説で、
一説にはその壁画の中に古代大戦をかいているとおもわれし絵もあることから、
この壁画は古代大戦どきにかかれたのではないか、という説も。
壁画のかかれている壁はまだ奥につづいてはいるが、まだ全容は解明されておらず、
時折近年でもあらたな小さな道がみつかりその先に壁画がみつかることも」
ジーニアスがそんなロイドに追加説明。
壁画を保護するために、壁の前には侵入防止用のローブがはられており、
その前に壁画を説明するための案内版が設置されているのがみてとれる。
壁画の中には樹と、そして翼をもつ青年、そして女性の姿がかかれているものも。
どうやら大戦時の内容をかいた壁画も存在しているようだが、
みていたらむかむかしてくるのが嫌でもわかる。
「僕、外の様子をみてきますね。ついでに宿をとってきます」
「あ、おい。エミル!?」
そのまますたすたと外にでてゆくエミルをあわててロイドはおいかけようとするが、
「こら。ロイド。まだ授業はおわってないぞ!」
「いつ授業になったのさ!」
そのままなぜかリフィルにつかまっていたりする。
民家のほとんどは木製の扉にて閉ざされており、おそらくは風よけであろう。
いくつも支えらしきつっかえ棒らしきものがされているのがみてとれる。
中には麻袋の中に土をつめこみ、それを重しにしているような場所も。
街の中ではひときわめだつ壊れた風車。
その横に岩肌を切り抜いてつくられているのであろう家のようなものがあるのがみてとれる。
宿は避難していた洞窟の少し先にとあり、風車は道の先、かなり奥のほうにあるのだが。
ひとまず宿を確保して、そのまま少し高台へとのぼる。
このあたりには避難してきているものが少ないのか、周囲に人気はみあたらない。
と。
ひときわ大きな風が周囲にと巻き起こる。
風はやがて一つの姿を形どる。
それはちょっとした大きさの巨大な虎のようなもの。
「…ウェントス。ようやくおきたか」
すっと目をとじ気配を感知していたがゆえに、ゆっくりと目をひらく。
さきほど、風に気配をのせて移動させたことにより、さすがの彼も完全に覚醒したらしい。
「ちょっと。ウェントス。この風は何よ!」
「というか。アクア。なぜその姿なのだ?」
気配でわかるが、彼女がなぜ他の魔物の姿を模しているのかがわからない。
それゆえの台詞。
「俺が頼んでいる。お前たち本来の姿だと何かと不都合をかんじるものと今は共にいるからな。
さて、ウェントス。お前も永き眠りにより縁がほとんど途切れているだろう。
縁を結び直せ。が、その前にあの迷子になっているインセイの子を保護してこい」
いまだに、きゅいきゅいとなきつつも、このあたりをとびまわっているインセインの子。
さすがにほうっておくにはしのびない。
風のセンチュリオン・ウェントスが覚醒したのをうけ、
このあたりにただよっていたマナの歪みはまたたくまにと改善されている。
それゆえにいきなり呼び声すらもきこえなくなり、とまどっている様子が手にとるようにわかり、
混乱し、さらに突風をおこしては、岩肌にぶつかりまくっているインセインの子の姿が。
「そもそもお前が原因なのだからな?お前の波動、というか俺に呼びかけていたその声をきいて。
お前の属性配下たちが集まってきていたようだしな」
そういわれるとぐうのねもでない。
「いけ」
なぜに人の姿をひさかたぶり…この惑星にきてから一度もとっていなかったのに
とっているとかいろいろと聞きたいことはあるが、しかし主の命令は絶対。
ゆえにそのまま礼をとり、いわれるままにその場から風とともにかききえる。
一時もしないうちに風は瞬く間にと収まりをみせ、やがて本来のここちよい風へと変化する。
「さて。とりあえず一度、彼らのところにいくか」
風の問題を先に解決したのであとはもう何の問題もない。
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あとがきもどき:
薫:ちなみに、ウェントスのセンチュリオンとしての通常形状は、
白虎(四聖獣の)を想像してください。イグニスは鳳凰。としております。
トリトニスは雷獣。それぞれ脳内で変換していだたけたらありがたいですv
2013年6月11日(火)某日
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