「なあ、ジーニアスって本当はこの学校にくるはずだったんだろ?」
パルマコスタの学園。
一度総督府にもどり、ニールに事の顛末を話し。
ドアが死んだことに悲しみはあったらしいが、夫人がいきていたことには驚いたらしい。
いくら牧場が破壊されたとはいえディザイアンの脅威がなくなったわけでなく。
ゆえに総督府の中で話しあい、ニールが仮初めの代表者にと選ばれたらしい。
すでに日もかたむきかけており、今からでるとまちがいなく救いの小屋にいくまでに日がかげる。
ゆえに今日はこの街で宿を、ということになり。
そういえば、この街をゆっくりと視回っていなかったがゆえに、せっかくなので街を見回ることにしたロイド達。
街にあるという学問所にはいると、ロイドがふと思い出したようにジーニアスにと問いかける。
「え。うん、一応推薦されてたんだけど……」
正体がばれかけて、姉とともににげるようにしてこの街をたちさった。
「君が?こんな小さな子供が超難関であるこのパルマコスタ学問所に推薦で?」
「あははは。どうせはっりただよ。ぼくなんかここの入学試験に六回目の挑戦で合格したんだから」
そんな彼らの台詞をきき、むっとして言い返すロイドであるが。
「何!?馬鹿にするなよ。ジーニアスは九九だっていえるんだからな!」
おもいっきりそれは反論になっていない。
「小さい子でもそれはわかるよ?ロイド」
おもわずそんなロイドにつっこみをいれるエミル。
「そうだよ。何レベルの低いことをいってるんだよ。普通二歳くらいにはもう覚えるよ、それ」
「二歳はむりかなぁ?私が覚えたのは六歳だったよ!」
にこやかにいうコレット。
「…まあ、ロイドにとっては…高レベルなんでしょうね……」
リフィルが盛大にため息をつくのをみて首をかしげ、
「え?あの?すいません。リフィルさん。もしかしてロイド、ガウス相互報告とか、
可換法則とか、大数の法則とか知らない…とはいいませんよね?」
それは古にエミルが…否、ラタトスクが人につたえし法則。
「ガ?か?何だそりゃ?」
ロイドはわかっていないらしく首をかしげるのみ。
「あはは。類は友をよぶっていうだろ?このがきも所詮その程度ってことさ」
そんな会話をきき、けらけらとわらう、この学園の生徒らしきもの二名。
「な、なんだと!おまえらなんかジーニアスの足元にもおよばないぞ!」
ロイドがそんな彼らにさらにいいつのるが、
「…面白い。じゃあ、僕と勝負するか?」
「するよな?」
「も~。自分のことじゃない、とおもって!」
どうやらロイドの中では勝負をすることが決定事項、になっているらしい。
そんなロイドにジーニアスが思わず叫ぶ。
「いっておくが、僕はこの学問所の首席だ。後でなきをみてもしらないぞ」
どうやらいつのまにか、勝負をすることにきまったらしい。
ここの生徒って暇なのか?
おもわずそう思うエミルはおそらく間違ってはいないであろう。
「試験問題を準備しておく。準備ができたらにかいの一番奥の部屋にこい」
いってこの場をあとにしてゆく生徒二名。
そんな彼らを見送りつつも、
「…最近、勉強してなかったからなぁ……」
ジーニアスがぽそり、とつぶやく。
「そうね。すこし特訓しましょう」
「空き部屋をかりるといい」
「…なんで、勝負することにきまったんだろ?ヒトってほんとわかんないや」
(それは同感です)
そんな至極もっともなエミルの意見に、センチュリオン達の意見が同時に重なる。
どうやら彼らもまた同じ意見、らしい。
「じゃあ、私とジーニアスが復習している間に皆も勉強しておきなさい。ちょぅどいい機会だわ」
「…うえ……」
どうやらもちあるいているらしい数冊の教科書らしきものがロイド達にと手渡される。
「?」
今の文字をそういえば把握してなかったな。
ふとおもい、そのまま目をつむり、本にむけて意識を集中する。
それとともに用紙にかかれている…基本、紙につかわれている材料は、木の皮かもしくは動物の皮。
ゆえにそこに刻まれているマナを読み取れば何がかかれているのか手にとるようにとわかる。
その情報と文字をみくらべ、今の時代の文字を把握してゆく。
「よし。勝負だ」
「負けないよ!」
何やら勝手に盛り上がっているジーニアス達だが。
「話しはききましたよ。公正を期すために問題は私が用意しました」
話しをきき、なぜかこの学園の学長がわざわざでばってきている模様。
ほんとうにここのものは暇なのか?
おもわずエミルは首をかしげてしまう。
「ついでだから皆も試験をうけてみてごらんなさい」
「え~?俺もかよ?」
「まあ、ものはためしに…ね。それに、エミル」
「え?あ、はい?」
「あなたもうけてみなさい」
「え?」
「まあ、記憶が定かでないあなたにいうのも何だとおもうけど。
問題をみて何かおもいだすかもしれないでしょ?」
「は、はぁ……」
まあヒトが彎曲した歴史などといったものでなければ大概のものは答えられるであろうが。
「では、結果を報告しましょう。最下位は…ロイド・アーヴィング君。25点」
「うわ。25点だってよ」
「今までで最高得点だね。おめでとう。ロイド」
「へへ」
コレットの言葉にロイドが照れて頭をかくが、ここは絶対に照れる所ではない。
それだけはいくらエミルとて断言できる。
絶対に。
「以下、次の通りの順位だ。コレット・ブリューネル君210点」
「・・あれ?百点満点じゃなかったのか?」
「…四百点満点だよ」
「・・・・・・・・」
ジーニアスの言葉にロイドはそのままだまりこむ。
「クラトス・アウリオン君。380点。リフィル・セイジ君。400点」
「先生が満点なのは当たり前だろ?あれ?エミルは?」
「エミル・キャスタニエ君か。君ねぇ。全部古代語でなぜにかくかなぁ?」
「え?」
どうやら無意識に今では古代語、というもので書いてしまったのがいけなかったらしい。
ちなみに計算などもすべてかつての計算式でやっており、
実は今では失われた法則などもつかっていたりする。
ちなみになぜに古代語、といえば答えは単純。
暇だったのでキンヌンガ・カップにて地上にある書物を読んでいたから、これにつきる。
人の想像力、というものは捨てたものでなく、ちょうどいい暇つぶしになっていたのもまた事実。
「でも僕、それしかつかったことが…」
ちなみにここ最近では、という注釈がつく。
その最近、というのも地上時間に換算すると四千年前にさかのぼるが。
「どこに住んでたんだね。まったく…翻訳するのに時間がかかるよ。これは。
とりあえず、肝心のジーニアス君とマイティだが、それぞれの点数を発表しよう。
マイティ・ワシントン君。398点。ジーニアス・セイジ君。400点」
「やった!」
「そ…そんな……」
がくり、とうなだれる、マイティ、とよばれし少年。
対照的にジーニアスはガッツポーズ。
「どうだ!ジーニアスはすごいんだぜ!」
自分のことではないのにロイドが逆にそんなことをいっているのがきにかかるが。
「…完敗だよ。…馬鹿にしてわるかった」
さすがに結果が出た以上、認めないわけにはいかない。
それゆえの台詞。
「へへ~。どんなもんだい」
ジーニアスもしばらく勉強をしていなかったので不安であったが、結果がでてほっとする。
「それにしてもジーニアス君は優秀ですな」
学長の言葉に。
「ええ。年齢のわりにとてもよくできた子です」
リフィルが誇らしげにそんな彼にと返事をかえす。
「さすが我が校の推薦をうけただけのことはある。どうですか?ここにのこられて共に学んでは……」
推薦云々、ときき、以前の資料をみたときにたしかにあった、ジーニアス・セイジの名。
姉の都合で街を立ち去ったゆえにこの学園にくることはなかった子供の名。
「そうだ。そうしろよ。きっと君はこの学問所はじまっていらいの天才になるぞ?」
マイティの言葉に嘘はない。
何よりも彼の考えとすれば切磋琢磨するものがいたほうが互いに伸びる。
それがこの学園、そして彼自信の理論。
その考えは間違いではない。
「す、すげ~な、ジーニアス……のこっても、いいんだぜ?…いや、残ったほうが……」
ロイドがいいよどむ。
いくらロイドとてこの学園がかなり有名だ、というのは知っている。
それゆえに戸惑わずにはいられない。
「それにエミル君、だったよね。ここまで古代語をつかいこなしているのもすばらしい。
いまだに解読されてないような言葉らしきものまでこれにはかかれているしね」
「は、はぁ?そうなんですか?」
エミルからしてみればそれはわからない。
「ここまで知識が偏っていたとは…」
ちなみにリフィルからエミルが記憶喪失っぽい、というのは彼、学長は聞かされている。
リフィルがおもわずつぶやき、どんな辺境の人里離れた場所でこの子は過ごしていたのだろうか。
そんな思いにとかられてしまう。
親がいない、親戚もいない、そういっていた。
「ううん。僕は皆についていく。世界が平和になったら改めて勉強するよ」
ジーニアスがそういい。
「エミル君はどうします?特別枠でもくめますよ?」
「え?ん~。必要を感じないからいいです。それに今まで学びの場とかに通ったことないですし」
「ないの!?君!?」
「え、あ。うん。ほとんどが見聞きしてただけからね」
それも嘘ではない。
世界を、という注釈がつくだけで。
まあエミルが学校に通うとなればセンチュリオン達が絶対に黙ってはいない。
自分達もかよう、といいだすのが手にとるようにわかる。
ラタトスク様を人の群れの中に無防備でいかせるなどできません!そういうのがとても目にみえてしまう。
「いいのか?ジーニアス?」
ロイドが戸惑いつつジーニアスにと問いかける。
「もちろん。だっていっただろ?ずっとロイドについていくって。村をでるときにさ」
「ああ!」
ジーニアスの言葉にばっとロイドの表情が明るくなる。
「では、この入学許可証をあたえよう。旅がおわったらいつでも学問所へきなさい。
エミル君にも、推薦書をわたしておくよ。君のその古代知識は埋もれさせておくにはもったいなさすぎる」
「は、はぁ。ありがとうございます?といえばいいのかな?」
もらってもどうせつかわない。
そもそも精霊である自分に学校にかよえ、という人の気持ちがわからない。
まあ精霊、というのを黙っているので普通の人でしかない、とおもっているからこそ、であろうが……
「はい。ありがとうございます!」
反対に、喜びの声をあげているジーニアスの姿がみてとれる。
「…あ、羊皮だ。これって食感好きなこがたしかいたなぁ」
どうせなら羊の皮が好物なこにあげるくらいしかない。
エミルにとってこれはその程度のもの。
「食べさすんじゃありません!」
何となく予測がついてすばやくリフィルがあわててとりあげる。
「旅がおわるまでこれは私があずかります!
あなたにもたせていたらきづいたら何かに食べさせました、としかねません!」
何しろエミルは近寄ってきた魔物達や動物などににこやかに自分のたべものすら与えているのである。
それは大概、野宿をしているときに依ってきた動物などに限る、が。
それでも移動中に飛んできた鳥などにもどこにもっていたのかたべものをあたえているのをみている。
それゆえのリフィルのすばやい動き。
「…もしかして、そのこって野生児?」
「それはわかんない」
ジーニアスもそんな横にいる少年、マイティの台詞にただただ苦笑するしかない。
とくん。
力が満ちてくる。
そのままそっと部屋をあとにする。
宿の部屋の関係で、リフィルとコレットが同じ部屋。
ジーニアスとエミルが、ロイドとクラトスが同室となっている。
完全に眠っているのをかくにんし、そっと部屋をあとにする。
夜の空気はひんやりとしており、周囲に闇の帳をみせている。
「…ソルムか」
「はい。ラタトスク様」
言葉とともに、目の前にちょっとした大きさの亀のようなものが出現する。
「どうやらお前も完全に目覚めたらしいな」
まあ自力でルーメン達がやってきていることから他のセンチュリオン達も自力の可能性はある。
とはおもっていたが。
「テネブラエ・それにルーメンやイグニスといったものたちが周囲をうろうろとしていれば嫌でも目覚めます」
それは苦笑にもにた声。
「まあ、お前のいる神殿は全ての属性のものたちがいるからな」
地下であるがゆえ、それでいて全ての属性がそろっている場所でもある。
ゆえにこそ縁をむすぶのにセンチュリオン達が出向いていたのであろう。
同胞の波動を感じ、さすがにどうやら目覚めたらしい。
「まずは永きにわたる眠りにてお前たちの力も完全ではないだろう。
しかし実体化してきた、ということはある程度の縁は結び直してきたようだな」
地上にてつかえる力が確実に増えたのがわかる。
扉の封印とは別にセンチュリオン達の力がみちるとともに満ちる力。
「今、他に目覚めているものたちにも命じている。全ての魔物達との縁を結び直せ。
そして配下の魔物を使い、マナを紡げ」
そっと目の前の亀らしきものに触れると同時、力がそのままソルム、とよばれしそれにと注がれる。
「ゆけ」
その言葉とともに、再び大地にととけきえる。
「テネブラエ・ルーメン、イグニス、そしてソルム、ようやく四柱、か」
残りはグラキエス、アクア・トリトニス、ウェントスの四柱。
まあ明日いく予定の場所にいるのはわかっているので残りは正確にいえばあと三柱。
しかし大地を司るソルムが目覚めたのは大きい。
ソルムの力にて自らの力をつかわなくても大地を通じ世界を見渡せる。
まあウェントスやアクアが目覚めればそちらの力、風や水といった力をもってしても可能だが。
「皆さんにはいろいろとご迷惑をおかけしました」
「このあとはどうするの?」
なぜか街にもどって助けだされた人達に埋め込まれていたというはずのエクスフィアはなく。
きけば魔物達が鎌をふりおろし、エクスフィアを取り除いていたらしい。
魔物がエクスフィアを狙うなどきいたこともなかったが、
しかし同じように牧場にいた全員が同じような体験をしているからこそ疑うわけにはいかず。
結局、ダイクにお願いの手紙を託すこともなくなった。
「とりあえず、街の有力者達で総督府を再編するつもりです」
ニール達は話しあい、今後のことを決めるらしい。
「頑張れよ。俺達も必ずショコラをみつけるからさ」
「よろしくおねがいします」
「じゃあ。みんなそろそろいこう」
「どうか。おきをつけて。またこの街におたちよりください」
いつまでも頭をさげるニールの姿を背後にし、一行は街をでることに。
「…ショコラに誤解されたままになっちゃったね」
「でも。…本当のことだ」
「悪いのはディザイアンだよ!ロイドは何もわるくないよ!」
街を出発する最中、ぽつり、というジーニアスにロイドがしずんだ顔でいってくる。
そんなロイドにあわててジーニアスがそんなことをいっているが。
「…中途半端な善意は悲劇をうむだけだ」
そんな二人の会話をきいたのか淡々と話しに割り込んでいってくるクラトスの姿。
「っ何!」
ロイドがそんなクラトスにおもわずくってかかるが、
「正しいことをしようとおもうならそれに伴う力が必要だ。
お前たちには…それがかけていた。力不足だったわけだ」
「ひどいよ!ロイドは…ロイドは…」
たしかにクラトスのいうとおりかもしれない。
だけどジーニアスにはそれが認められない。
「もういい。ジーニアス。悔しいが確かに、クラトスのいうとおりだ。俺は…あの悔しさをわすれない。
マーブルさんや村の人の命を失ったこと…わすれない」
「そうだ。それでいい。…強さや力は腕力だけではないのだ。罪を認める強さ。忘れない強さ。それも必要だ」
「なら、クラトスさん。あなたは、その罪を認めているのですか?」
「……さあ、な。認めてもどうにもならないこともある……」
罪だと認めているのなら、どうしてミトスをいさめないのか。
じっとみるエミルの視線からおもいっきりそらしているクラトス。
エミルの質問におそらく思うところがあったのであろう。
そうでなければ意味がない。
「…なあ、ジーニアス。俺、やっぱり間違ってたのかな?」
「ショコラのこと?」
「大丈夫。いつかきっとわかってくれる日がくるって」
「だといいけどな」
「誰?」
「だあれ?」
ひとまず次の目的地はソダ島。
そこに向かうその最中の森の中。
ふと森の中に人の気配を感じ、そちらにいってみると。
そこに何やら馬車があり、数名の人の姿がみてとれる。
「おや。お客さんとはめずらしい。何か用かな?」
馬車には梯子がかけられており、簡易的な住まいにしているのがみてとれる。
馬車とはいえその歯車は大きくできており、どんな大地も進めるようにと工夫がされているらしい。
「いや。ただ通りがかっただけだよ。おじさんたちは旅業の途中?」
みればどうやら親子なのか一族なのか子供らしき姿が数名みてとれる。
「私たちは世界の動物を見ながら旅をしているんだ。動物学者なんだよ」
「へえ。この物騒なご時世にかわってるなぁ」
ばしっ。
「いてぇ」
そんなロイドにリフィルがおもいっきり頭をはたき、
「すばらしいわ。学業のために諸国を旅するなんて」
リフィルが感激してそんな声をもらす。
「旅をしながら…?もしかしてあなたのお名前はノヴァといいませんか?」
ジーニアスの台詞に。
「そうだけど?君は?」
「やっぱり!あなたが発表した世界の動物のまとめには感激しました!
生態系もさることながら挿絵もすばらしかったです!」
ジーニアスが力説していってくる。
「はっはっは。いろいろと珍しい生き物をみるのが好きなだけだがね。
それでスケッチをしているだけだよ」
「あのね。あのね。私たちね。大きな光る鳥もみたことがあるんだよ!」
小さな女の子がそんなことをいってくる。
「「「光る鳥?」」」
ロイド・ジーニアス、コレットが同時につぶやく。
「…もしかしたら、光の精霊、アスカかもしれないわね。
伝承によればアスカは巨大な鳥の姿をしているそうだし」
ルーメンじゃないだろうな。
おもわずそうおもうエミルは間違っていない。
基本光り属性なので時折光をはなつ鳥の形状をとることがある。
というよりルーメンの基本形体があるいみ光る鳥である。
「ほう。あの鳥は精霊なんですか?なるほど。どうりで視たことのない種類なわけだ」
「なあ。そのときの話しをきかせてくれよ」
ロイドが興味があるのかといかける。
「何かの役にたつかもしれないし。興味もあるし。僕もききたいです」
「それなら私よりも息子達にきいたほうがいいとおもうよ。
実は私はあの鳥をちゃんとみれなかったんだ」
「わかった。きいてみるよ」
「なあ、光る鳥にあったときのことを詳しくきかせてくれよ」
「ああ。あれはオサ山道だったよ。頂上付近で野営をしていたときにその光る鳥が現れたんだ」
「オサ山道か……」
「それとあの日はとても風がつよくてね。傍にあった不思議な音をだす木の実がその風でゆれて。
綺麗な歌みたいだったよ。娘もいたくよろこんでね」
「不思議な音をだす木の実?何だ、そりゃ?」
「あの、それっていつごろの話しですか?」
とりあえず確認をこめてエミルが問いかける。
「一年ほど前だね」
ならばルーメンではなさそうである。
そのことにあるいにほっとする。
そもそも姿は人にみられないように、といっているのに
魔物と縁を結んでいるところを人がみれば面倒なこと極まりない。
「おそらく・・・・それは、昔は高地に群生していたといわれるリンカの木ね。
その実は風にゆれると鈴の音のように綺麗な音をだしたというわ」
「へえ。そんな木があるんだ。でもさ。それならオサ山道にいけば精霊アスカにあえるんじゃないか?
精霊かぁ。おそらくすごいんだろうなぁ」
結局封印を解放はしたがロイド達は直接まだ精霊をみたことがない。
否、実は真横に真たる精霊がいるのだが、その事実にロイド達は気づいてすらいない。
「だめだよ。あそこの樹はもうなくなっていた」
ちなみに息子の名前はアルドイン、父親の名がノヴァ、そしてその娘の名がメイ、
その母親がサラというらしい。
何でも一家で旅をしながら動物学者をしている、とのこと。
「誰かがきってもっていってしまったのか。それとも土砂崩れか何かで流されたのか……」
「たしかに。俺達がいったときにはそんな木、なかったもんな」
「でも、坑道を抜けたから山頂のあたりまではわからないよ?」
ジーニアスの最もな台詞。
「結構旅をしてきたけど、あの木はもうあそこ以外どこにも見つけたことがないよ」
「乱獲や天災などで絶滅したと思われている木ですもの。…簡単にはみつからないでしょうね」
「…まだ乱獲なんてものやってたんだ…ヒトは……」
おもわずそうつぶやくエミルは間違っていない。
かつてのときも、あの実をもとめ、人はあの木を伐採しつくした。
ゆえに人のこない高い位置にそれらを配置し、それにあわせ品種をマナを調整して改良したのだが。
「う~ん」
ロイドはそれらをきき何やら腕をくんでうなっている。
「娘がそのとき。傍で木の実をひろっていたし。娘にもきいてみたらどうだい?」
そういわれ、娘のほうを指差す男。
「あのね。私メイっていうの。あのね。あのね。あの日にね。
私、木の実をたくさんひろったの。綺麗な音がなるんだよ?」
「それって…ちょっとみせてくれないか?」
「うん」
「これは…リンカの実ね」
リフィルがそれをみていってくる。
「これが、リンカの実?」
「ああ。たしかに綺麗な音がするな」
「それあげる!まだいくつもメイもってるもの!」
「ありがとう。もらっておくよ」
「あの鳥は険しい山中などでしか出会えないのではないでしょうか。それも歩いてはいけないような……」
サラの言葉に、
「どうして?何でそうおもうんだ?」
まあそれは事実。
あまりに人が乱獲するのでラタトスクがそのようにかの木の理をかきかえた。
「歩いていけるところは私たちもう、すでにほとんど旅をして訪れましたもの。
そんなことで出会えるのならば私たちはとっくにもう幾度も出会っていてもおかしくないとおもいますわ」
「とりあえず、彼らが光る鳥に出会った状況をまとめるわね。
まず、オサ山道の頂上付近でであった。
これはその光る鳥が高いところでしか現れないことを示しているわ。
次にリンカの木があって、その実が旋律をかなでているように綺麗な音をだしていた。
そしてその日は風邪がつよく、リンカの実の音色が風にのって遠くまで運ばれた。
といった感じね」
「あの人達が世界中を旅したあと、もう一度オサ山道にはいってみたけど
もうリンカの木はなくなっていたっていってたね」
「で、今までの旅ではリンカの木はみつからなかった、ってことですよね?」
「少なくとも歩けるところにはなかったっていってたな」
「ということは。精霊アスカとおもわれしものにあうためには、
歩いてはいけないようなところを探して、リンカの木をみつける…ということになるわね」
「そんなの無理じゃないか。あ~あ。精霊アスカってのみたかったなぁ」
よべば確実にくる、
というかルーメンとすでにアスカは繋ぎをとっているゆえにくるけど。
そうおもうがそれはいわない。
「そうね。まあ必要に迫られてはいないし。封印とは関係ないでしょう。おそらくは。
仮にリンカの木をみつけたとしても枯れていたりしたらどうにもならないわ」
「風で音を運ばないといけないし、旋律をかなでるのも難しいしね」
「枯れている木は先生の癒しの術でも何ともならないのか?」
「私の力だけでは無理ね。枯れてしまったものを癒すためには何か強化するものでもないと…
それにリンカの樹の生命力を引き出すのも必要だわ。
そう、エクスフィアのような…小さな欠片でもいいのだけど……あ、でもエミルならできるのではなくて?」
いきなり話しをふられ、おもわず、
「は?」
きょとん、とした声をだす。
「あのとき感じたあの膨大なるマナは普通ではなかったわ」
「たしかに。視覚できるほどのマナなんて、普通じゃないとはおもったけど。
あのときエミルがつかってたのって何なの?」
「え?ただの枝ですけど?」
事実、ダタの枝である。
エミルにとっては、という注釈がつくが。
「質問をかえるわ。あなたのつかっていた枝は、何の木の枝なのかしら?」
「え?カーラーンの小枝ですけど?」
『・・・・・・・・・・・・』
しばしの静寂。
そして。
「な、何ですって!?まさかあの伝説の大樹カーラーンとでもいうの!?」
「伝説でも何でもないですけど……」
「そんなものがあるなどきいたことが…いや、ありえるか?」
ふとかつてマーテルがつかっていた世界樹の杖をおもいだし、クラトスがいいよどむ。
「あ。でもこれをほしいとかはなしですよ?これ僕にしかつかえませんし。
それに他に他言するのもなしで。変にヒトがしったら面倒ですしね。
力づくでどうにかしよう、というものはいつの時代もいるでしょうし」
「そ、それより、エミル。その枝というものを手にさせてはもらえないかしら!?」
リフィルの目がらんらんと輝いている。
「それは遠慮します。というよりこれですから僕以外はもてませんってば」
いいつつも、腰から枝をだし、どうみても普通の枝。
しかもなんだか枯れかけているっぽくもみえる、こげ茶色の小枝でしかない。
リフィルがそっと手をのばそうとするが、ぱしり、と突如として鋭い痛みがリフィルの手にとおそいくる。
「い、今のは?」
「ほら。だからいったでしょう?そもそも僕以外は絶対にもてないんですから。
枝に認められないかぎりもつことも触れることもできませんよ?」
それは事実である。
そのようにしているのはほかならぬエミル自身。
「す、すばらしいわ!かつてマナを生み出したといわれし伝説の!
ああ、あの伝承はやはり真実、いや真実なのはわかっていたけど、
だけどこうして現物が実在している、というのは!」
「うわ!姉さんの遺跡モードが発動してる!エミル、それしまって、しまって!」
リフィルの目はらんらんとエミルが手にしている小枝にむけられているまま。
「だからいいたくなかったんですけど……まあたしかに。
これを媒介にしているかぎり、多少の治癒力は使えますよ。
枯れた樹をもとにもどすくらいはたやすいでしょうね」
とりあえず話題を軌道修正しておくことをわすれない。
(エミル様。情報をだしすぎでは?)
(ルーメン、真実は、いつも時として少しだけおりまぜたほうがこちらのごまかしに気づかれない)
事実、嘘はいっていないのである。
それが大樹の小枝であることも。
元々は、それが世界樹の杖とよばれしものの縮小形状である、というのをいっていないだけで。
ちなみに今現在、エミルの傍にいるのは光のセンチュリオンたるルーメンであり、
今、ルーメンは真っ白い鳥のような姿で傍にいる。
ちなみに大きさは鶏程度。
「大樹の枝…ならば、弱っている大地にマナを注ぐことも可能なのか?」
ひとりリフィルは何やらぶつぶつといっているが。
そんな彼らの会話をききつつ、
「いやいや、法則をみつけだすとはすごい」
「でも、会うのが難しいってわかっただけだよ?」
「まあ、そういうことになるが……
一応、今、君たちがアスカに関することをまとめたことはメモしておいた。
聞きたくなったらいつでも話しかけてくれ。しばらく私たちはまだこのあたりにいるからな」
「あ。あの、今のその僕のことは…」
「いわないよ。もっともいっても誰もしんじやしないよ。
それに、君たちも本当にその子のもっているそれが伝説の大樹の枝かどうか確かめるすべはないだろう?
その子の家にはそうつたわっているのかもしれないけど、違うかもしれない」
「たしかに。いわれてみればそのとおりだな。事実を彎曲して継承されてゆくものは多々とある。
リフィルが手をだしてはじかれたのは、おそらくは血縁者とかでしかもてない。
とかそのような契約でも扱われている素材にかかっているのならば説明は簡単につく」
「それもそうか。かの伝説の大樹カーラーンの枝が実在してたら今ごろもっと騒がれてるか」
クラトスのことばにジーニアスがそんな納得の仕方をしているが。
別にそれを訂正する気はさらさらない。
そもそも偽物、とおもっているならばそれはそれで問題はない。
すくなくとも害はない、のだから。
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あとがきもどき:
薫:さらり、とあるいみチートアイテム(笑)でてきました。世界樹の杖v
マーテルがもってた、あの木の葉っぱのような杖。
あれって絶対に世界樹の杖だとおもうんですよねぇ。
何しろラタ様から世界の加護、デリスエンブレムもらってた人達ですし。
マーテルの生命活動停止した場合、悪用されないように、
とラタトスクがもどってくるように設定していた、という裏設定です。
2013年6月9日(日)某日
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