まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
ようやくドア総督といえば裏切り?の理由シーンにきた。
次の編集くらいでようやく人間牧場…かな?
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パルマフルーツという道具屋。
処刑されそうになっていた主人とその娘の住まいはその道具屋の二階であるらしく、
興奮する民衆をどうにかまいてこの場にとやってきた一行六人。
「本当にありがとうございました」
いって頭をさげてくる。
「主人はドア総督の義勇軍に参加し、ディザイアン達との戦いで命をおとしました。
私まで殺されたらショコラは…娘はひとりぽっちになってしまうところでした」
お茶を運んできた娘をみて、女性…カカオ、というらしい、カカオがそういってくる。
「私の母も…牧場へつれていかれてしまっているものですから」
「この店、もとはおばあちゃんが始めたものなのよ?」
ふと視れば、ふわり、とその横にジーニアスの手から抜けだした精神体がよりそっているのがみてとれる。
それは心配そうに、それでいて安心したようなその視線。
エミルが気づいているのに気づくと、驚いたように、それでいて深く頭をさげてくる。
娘と孫をたすけていただきありがとうございます。
精神体よりそんな声が聞こえてくる。
どうやらジーニアスが身につけている石の中に精神体が閉じ込められてしまっているらしい。
古よりエクスフィア、とよばれし石は、
本来ならばマナと器たる物質をつなぐためのものとして生み出されしもの。
魔物以外で使用するのは困難なものなのに、かつてのヒトはそれを兵器、として利用しはじめた。
その性質を利用して。
ショコラがお茶の入ったコップを配りながらいってくる。
「だからおばあちゃんがかえってきたときのために。
この店はどんなことがあっても護らなくちゃとおもっているの。
でも、ディザイアンのせいでお客がへってしまって……
今はマーテル教会の旅行代理店で働いているの。それもこのお店を維持するため。
神子様にこういうのも悪いけど、私、別にマーテル様を信じているわけじゃないの」
「ショコラ!神子様の前で何てことを!」
「わかってるは。お母さん。神子様にはもちろん感謝している。
けど、マーテル様はどう?お父さんのこともおばあちゃんのことも、
お母さんのことも護ってくれなかったじゃない。そんな神様あてにならないわ」
こういうところのヒトは愚かだとおもう。
「…願えば何でも救いがある、とおもうこそのほうが間違いだよ。
たとえ世界を身守るものがいても、それはあくまでもみまもるのみで。
どうにかするのは、あくまでもヒトでしかない。下手に力あるものが手をだせばそこに歪みが生じる。
その歪みはやがて世界をもまきこんでしまう。ならきくけど。
君たちは、ただ助けて、というだけで何か行動をおこしたの?
ただ、誰かが何とかしてくれる。誰かにまかせておけばいい、そうおもっているんじゃないの?」
冷めた目でそういうエミルであるが。
「何よ!何もしらないくせに!」
ショコラがきっとなりこちらをみてくるが。
「いいすぎよ。エミル。人は…そこまで誰もが強くないのよ」
リフィルが何やらいってくるが。
「本当。人っていつもおろか。
何かあればすぐにすがるくせに、それがすぎればその恩恵すらわすれ牙をむく…」
たとえリフィル達が人助けをしたとしても、ハーフエルフだ、とわかったとたんに迫害してきたヒト。
エミルの台詞はそんな過去の記憶をリフィルに蘇らせる。
「いつもいつも他人まかせ。自分達でどうにかしよう、とするものはほんのわずかしかいない」
「エミル?」
その口調に憂いとさみしさが入り混じっているように思うのはロイド達の気のせいか。
そんなエミルの独白にも近い台詞を黙って聞いていたコレットであるが。
「…うん。そうだよね。でも…でもね。私はやっぱり神様はいるとおもうよ。
ショコラさんにも、私にも、ね。それにエミルにも」
神様、とよばれたことも多々とある。
世界をうみせしものだからこそ。
「神様、というよりは良心、という心だと僕はおもうけどね」
だからこその言葉。
何が間違いで何がただしいのか。
それを見極めるための良心。
ヒトがほとんど忘れ去ってひさしいもの。
おそらくまだ納得はいかないのだろう。
エミルをきっとにらんだままで、それでもコレットには何かおもうところがあるらしく、
「そっちの子のいうことは理解したくない。けど神子様のいうことは理解できるかもしれない。
だから、神子様がそういうのなら私も信じてみる。一応ね」
「理解したくないならしないでもいいよ。理解しようともしないものに説明しても意味がないから」
「エミル…あなた……」
自分で考えようとしない愚かなものにこれ以上の説明をしてやる必要はさらさらない。
リフィルが悲しそうな表情でエミルをみてくるが、そのままエミルは目をとじ壁にともたれかかる。
(まったく。人とは本当に愚かな。自ら考えようともせずに流されることしかえらばない愚かなる人。
この様子ではあっさりと他者にだまされ真実すら見極めようとしないな。あのものは)
(まったく。なげかわしい。ラタトスク様がせっかく真理を教えられた、というのに)
(歪みの何たるか、世界の何たるかすら忘れたヒトにこれ以上教えるつもりはないからな)
「とりあえず、私はもうでかけるね。お母さん。次のアスカード旅業の時間だから」
「え?こんなことがあったのに、皆旅行なんてするのかよ?」
ロイドの驚きの声。
「こんなことがあったからこそ、人は神に救いをもとめるのだろう。たとえそれが熱心な信者でなくても、な」
クラトスが淡々といってくる。
本当に、ヒトとは愚か、でしかない。
嘆きかなしみ、願うばかりで行動しようとしないひと。
それでもまだ、祈りのために旅をするだけまだまし、といえるのかもしれないが。
ショコラが部屋をでてゆくとリフィルは再びカカオをねかしゆっくり休んで早く店をあけられるように、と
しばしの後にその場をあとにしてゆく。
あまり街に長期滞在していれば、興奮した街の人達にどんな目にあわされるかわからない。
そんなクラトスの提案に、リフィルもうなづき、そのまま街を後にする。
目指すはソダ島遊覧船乗り場。
光と闇の協奏曲 ~ディザイアンとドア総督と~
救いの小屋にと続く山道は相変わらずの上天気。
流れる雲をみあげていると、パルマコスタでの出来事は夢だったのではないか、
そうおもえるほどのどかだな。
そんなことをロイドはふとおもう。
峠にちかづき、やがて救いの小屋が再びみえかけたそのとき。
「神子様、皆さま!」
「ん?誰だ?」
みたことのないものが、こちらにむかってかけてくる。
「どうしたんですか?」
「ドア様からの伝言です。再生の旅、しばしお待ちいただきたい、と」
かけてきた男はきっと息をきらせつつも敬礼し、コレット達にといってくる。
「どういうことだ?」
「実はマーテル教会付旅業案内人がディザイアンに浚われたのです。
これを気にドア様はパルマコスタ軍総力をあげて
マグニスの納める人間牧場を襲撃することになさいました」
「それとこれとどういう関係があるのさ?」
たしかにあるいみで関係ない。
ゆえにジーニアスの台詞は間違ってはいない。
「我々が襲撃をかけるのに呼応して皆さまに誘拐された旅業案内人を救出していただきたいのです」
「誘拐された案内人ってどんな人なんですか?」
「ショコラという娘です」
「ショコラが!?」
「…何てこと。カカオさんがあんな目にあったばかりだ、というのに」
つい先刻わかれたばかりのショコラが捕まった、という事実にロイド達は驚きを隠しきれない。
ちなみに、マーテル教からしてみれば旅業でディザイアンにつかまれば、
それは信仰心がたりなかったゆえにつかまった、とあるいみ切り捨てた教えをといていたりする。
ヒトはその点の矛盾に気づかない。
マーテル教の説くの教えは全てを平等に、というものだ、というのに。
そしてまた、ロイド達がおどろいたのはそこではない。
パルマコスタに所属している、マーテル教付随の旅業案内人はショコラ一人ではない。
たしかかなりの数がいるはずである。
その中でなぜ…よりによってあのショコラなのか。
すぐさまに、昼間の出来事と結び付けて考えてしまうのはおそらく間違ってはいないであろう。
おそらくは…牧場によるみせしめ、と。
「神子様、何とどよろしくおねがいいたします」
「ロイド。助けてあげようよ」
「ああ。そうだな」
「やはり助けにいくのね」
「あたりまえだろ。ほっとけるかよ」
「ありがとうございます!詳しいことは牧場でニールがお話しいたします。何とぞよろしくおねがいいたします」
リフィルのため息とは別に、クラトスは何やら考え込んでいるらしく無言のまま。
どうみても罠だ、とわかっているのに、いや、わかっていないのだろう。
この子供達は。
…まあ、牧場、というところで何をおこなっているか、知る必要もあるか。
…必要とあらば、滅すればいい、ただそれだけのこと。
パルマコスタの牧場に近づくにつれ、ロイド達は嫌な気分にとりつかれはじめる。
エミルはエミルで歪められしマナを感じ取りおもわず眉をひそめていたりする。
それも個体数が一つ、二つ、といったものではない。
この周辺のマナすらその歪みのせいで狂っているのが手にとるようにとわかる。
「ジーニアス、この感じって……」
「うん。イセリアの牧場と同じ…だね」
何やらロイドとジーニアスがそんなことをいっているが。
どうやらこの二人は別のここと同じような施設をしっているらしい。
「イセリアだけじゃなったのか……人間牧場ってのは」
「もう、マーブルさんのような犠牲者をだしたくないよ」
「ああ。もう犠牲者はいらない。いくぜ、ジーニアス!」
マーブル、というのはジーニアスがつけている石の中に封じられてしまっている精神体
…すなわち魂の名。
パルマコスタで彼女が表にでてきていたときに名を名乗られているがゆえにエミルは知っている。
もっとも、その姿は他の誰にもみることができなかったようではあるが。
(ラタトスク様。いかがなさいますか?)
(まずは様子をみる)
イグニスが語りかけてくるがゆえにそのように返事をかえしておく。
やがて高い門と壁らしきものがみえてくると、
「お待ちください」
わき道の茂みからニール、と確かなのっていた人物が現れる。
「ニール。きいたよ。ショコラがさらわれたんだって?俺達、頑張ってたすけ……」
ロイドがいいかけると、
「いえ。そのことでお話しがあるのです」
「ああ、救出の手順だろ?」
ニールは答えない。
「こちらへ」
彼は茂みのほうに一行をみちびき、そして。
「皆さんには、このままパルマコスタ地方を去って頂きたいのです」
「でもそうしたらショコラさんはどうするんですか?」
コレットがといかける。
「そうだよ。パルマコスタ軍と連携を取って、ショコラさんを助け出すんでしょ?」
「いえ、それが……」
「やはり…罠か?」
「……嫌な方の想像が当たっていたようね」
ジーニアスにつづけ、クラトス、リフィルと続けざまにいってくる。
「…え?クラトス! それに先生も! どういうことなんだよ?」
わかっていないらしく、ロイド何やらいってくるが。
「そのとおりね。エミルは気づいていたみたいだけど。奴らが軍をつぶさない理由は二つしかないわ。
無力だからか、あるいはディザイアンにとって有益な。つまりは都合のいい存在だからよ」
ニールはクラトスとリフィルの話しをきいて何どもうなづき、
「さすがは、神子様とおともの方たちだ。おっしゃる通りです。
ドア様は…ディザイアンと通じ、神子様を罠に陥れようとしています。
…昔は本当に街のことを考えておられたのですが……」
「じゃあ、どうして……」
「とにかくこのまま牧場に潜入しては神子様の身が危険です。
ショコラのことは私に任せて、皆様はどうか先にお進み下さい。一刻も早く世界を再生するために」
「…ふむ。確かに世界再生のためには、ここを捨て置くべきだろうな」
コレットたちは――コレットとロイドとジーニアスは牧場の人たちを見捨てたくないだろう。
だが、冷静な大人二人に諌められてしまえば、諦めざるを得なくなるのではないか。
そんな二人に対しコレットが反論する。
「駄目です! このまま見過ごすなんてできない!」
「そうだよ。もしこのままにしておいたら、
パルマコスタもイセリアみたいに滅ぼされちゃうかもしれない。そうでしょ、ロイド!」
イセリアで何かがあったらしい。
それはエミルは聞かされていないが、まあざっと視た世界においては、
イセリア、とよばれし村が壊れていたのを視ているのでそれにかかわりがあるのかもしれない。
「そう。それはその通りよ。でも私はクラトスの意見に賛成したいわね。
街が滅ぶのが嫌なら、今後不用意にディザイアンと関わらないことだわ」
正論すぎる論理。
残酷にも聞こえてしまうが、リフィルの言葉はあるいみ正論。
理不尽な逆恨みのようなものをするものは幾多もいる。
ましてや命を命ともおもっていないようなものに力なきものが手をだしたとして、
完全に消滅させられるならともかくとして、禍根というか痕跡の一つものこせばまちがいなく後にとつながる。
「そんなのだめだよ。世界を再生することと目の前の人を助けることって、相反することなのかな。
私はそうは思わないの」
「うん、僕も思わない。すくなくとも…何もしようとしないヒトよりは共感がもてるからね」
あがくからこそ、ヒトにはまだ救いがある。
そうおもっているのに、それさえくなったヒトにはもう絶望しかのこされていない。
あがき、何とかする、またすることができる、それが人が人である所以。
光と闇、その両属性をあわせもってうみだした、人たる種族たる所以。
そんなことばにロイドとジーニアスも深くうなづいているのがみてとれる。
「この旅の決定権を持つのは神子であるコレットなのですから。皆もそれでよろしい?」
皆と言いながらも、リフィルの視線はクラトスに向いていた。
彼も神子の意見が最優先という条件には納得しているらしく、リフィルの視線を受けて小さく頷いた。
「俺ははなからそのつもりさ。いったろ。牧場ごとたたきつぶしてやるって」
「しかし…」
「いいっていいって。コレットが嫌だって言ってるんだから」
今までずっと黙っていたニールはまだしぶっている。
当然ともいえる。
自分の街のゴタゴタでシルヴァラントの唯一の希望である神子を危険に遭わせるわけにはいかないのだから。
少なくとも彼らは神子が世界を救う、と信じ切っているのだから。
再生の旅を完了させることにより。
「さて、これから取るべき方法は二つ…。
まずはこのまま正直に牧場へ突入してショコラと牧場の人々を救い出すこと。
こうなった以上牧場を放置しておくことは、第二のイセリアの悲劇を生み出すでしょうから。
もう一つはドアの真意を確かめること。
彼が罠を仕掛けたのなら、牧場の配置もきっとよく分かっているでしょう。
……少しだけおしゃべり好きにしてあげましょう」
その目がわらっていない。
「…ドア様に何をするのです?」
ニールかすこしひいている。
「きかないほうがいいよ。姉さんの折檻はすごいから」
ばしっ。
ジーニアスの言葉にリフィルの拳が炸裂する。
あ、なんとなく親近感。
自分もよくやるなぁ。
ふとそんなことをエミルは思う。
そのように手はださないが似たようなことはやる。
たとえば配下のものをよんだり、もしくは技の実験体としたり…
「順当に考えれば、まずドアを押さえるのが正解だろう」
「ロイドはどう思う?」
「パルマコスタに戻ろう。まずはドアの口から話を聞こうぜ」
「そうだね」
「でもなるべく早くショコラさんを助けてあげようね。きっと一人で心細いはずだから…」
「まあ、ロイドもたまには冷静な判断をしてくれるのね」
「どういう意味だよ、先生」
「そのまんまの意味だと思うよ」
短い期間だがものすごくあのミトスとこのロイドの性格がよくにているのは理解した。
それゆえの台詞。
「ロイドって分かり易いもんね」
「ジーニアス、お前なぁ…」
少し目をとじ、内部を探る。じゃれているロイドとジーニアスはさくり、と無視する。
ヒトがヒトを実験体とし、あの子達を強制的に目覚めさせ、マナをゆがませ、
さらには無理やりに人の精神を内部にとおしこめている。
そのせいでこのあたりのマナが著しく歪んでいってしまっていることにすら気づかずに。
(…テネブラエ)
(ここに)
呼ぶと同時、すぐさまに声がかえってくる。
(配下をよべ。そうだな。かのものに捕われし魂を解放させるのと、愚かなるものには粛清を)
(御衣)
(責任者とおもわしきもののみは残しておけ。応援をおそらく呼ぶであろうしな)
少しでも数がへらせるならそのほうがいい。
無機生命体とはいわば精神生命体とあるいみ対極にありしもの。
ゆえに、有機生命体との繋がりを精神生命体との繋がりをたつことにより、分離は可能。
マナのありようがもともと異なっているゆえに分離することは可能、なのだから。
「そのようだな。…では、いくぞ」
「私は……」
「あんたはここにいなよ。これからあんたの上官を締め上げるんだ。…みないほうがいい」
「ここで牧場の様子をみはっていてくださいね?」
「…はい」
「あのマグニスとかいう奴、品性の欠片も感じないね」
「まったくだわ。力で全てを支配しようとしている。その力も所詮はエクスフィアにたよったものだというのに」
「あんなやつ、ぶっつぶしてやる」
「あの男にも命がある。マグニスを倒すことは一つの命を奪うことだ」
「じゃあパルマコスタの人達が報復されるのをだまってみていろ、というのかよ!」
「そうではない。敵を倒すとうことはその命を背負うということだ。それを忘れるな、といっているのだ」
「命を背負う…か。そうだな。俺はちょっとカッカしやすいみたいだな。気をつける」
すぐにかっとなるあたりはミトスとは似てもにてつかない。
やはり性格がにていても全部が全部似ている、というわけではないらしい。
「でも、すぐにきづいて反省するのだからまだいいとおもうわ」
「て、すぐに反省したことすらわすれちゃうんだよね」
「うるせえ!まぜっかえすな!」
街にはいるとふとなぜかジーニアスが思案顔。
「ジーニアス。元気ないね。大丈夫?」
そんなジーニアスにコレットが問いかけているが。
「あ。ごめん。この学校に僕も通うはずだったんだなっておもったら…ちょっとね」
「残念だったわね。…勉強したかったんでしょう?」
「…うん。でもいいんだ。こうやって世界再生に協力するなんて滅多にできない経験だし」
リフィルがそんな弟にたいし、罪悪感をもちつつもなぐさめる。
「ごめんね。大変なことに巻き込んじゃって」
それをきき、じぶんのせいとおもいこみ、謝っているコレット。
「何いってるのさ。僕とロイドはおまけでついてきてるんだよ。コレットは気にしないで」
「うん。ありがとね」
「あ、あのね。ロイドにはこのことはいわないで。
ロイド、村のこと気にしてるとおもうから僕のことまで負担をかけたくないんだ」
「そうね。わかったわ」
「というか、村で本当に何があったの?…まあいいたくないならいいけど」
エミルにはそういえば説明していない。
ゆえにエミルの台詞にその場にいた三人がだまりこむ。
と。
「お~い。先生たち、何してるんだよ!」
元気なロイドの声がきこえてくる。
「話しはここまで。とにかく、いこ!まずはドア総督のもとに!」
今は先にすべきこどかある。
過去をふりかえっている場合ではない。
それゆえにジーニアスは元気よくロイドのもとへとかけだしてゆく。
パルマコスタの総督府。
しかしドアのいるはずの総督部本部には誰もいない。
どうやら全員で人間牧場にでむいていっている、というのは嘘ではないらしい。
「誰もいないな」
「?したのほうから何か声がきこえるよ?」
「?そうか?きこえないけど?」
「気配がするね。階段の下からみたいだけど」
しかもそこに歪んだマナが二つほど感じられる。
どうやら階段は地下へとつづいているらしい。
「…誰もいないのだ。そこの階段をいってみるべきだろう」
「そうだな」
長くつづく階段はどうやら総督府の地下へとつづいているらしい。
クラトスの意見にとりあえず階段を下ることに。
クラトスが先頭に立って階段を下りた。
ロイド、コレット、エミル、ジーニアス、リフィルの順に後に続く。
クラトスが先に下りたのは、何かあったときにロイドが下手に飛び出さないようにするためだろう。
現に今、地下の光景を見て頭に血の昇ったらしいロイドが飛び出そうとしてクラトスに押し止められていた。
地下にはディザイアンが二人いた。
武装したディザイアンの前には中年の男性がいて精一杯の虚勢を張っているように見えた。
それが先日のドアである、というのはすぐにとわかる。
しかし改めてみると傍らの少女の姿をしているものは少女にあらず。
マナが人為的にかなり歪められている。
おもわずそれをみてエミルが眉をひそめるが。
「妻は……クララはいつになったら元の姿に戻れるのだ」
ドアが震える声で問う。
「まだだ。まだ金塊が足りないからな。段々少なくなって来るな」
ディザイアンはそんなドアを見てせせら笑った。
完全に相手を見下した笑い方。
「これが精一杯だ!」
ドアが声を張り上げてもディザイアンは小馬鹿にしたように笑い続けている。
「通行税に住民税、マーテル教会からの献金。これ以上どこからも絞り取れん!!」
「まあよかろう。次の献金次第ではマグニス様も悪魔の種子を取り除いて下さるだろうよ」
そう言い捨て、ディザイアンはエミルたちのいる側とは反対にある扉から出て行った。
最後まであの嫌な笑みを浮かべたまま。
残されたドアは拳を強く握り締め、俯く。
拳は遠目からでも分かるほど震えていた。
「お父様…」
父親と同じ金色の髪を頭の高いところで二つに分けて纏めている一見可愛らしい少女。
だがそのマナのありようからして親子ではないのは一目瞭然。
元々はハーフエルフたるヒトとエルフのマナがいりまじったものであったのだろう。
それが人為的に嫌なほどに歪められてしまっている。
人間ともハーフエルフとも違う、いびつに歪められた不自然なマナ。
ドアはそれには気づいていないらしい。
まあそれも当然かもしれない。
マナを感知できるのはエルフの血を引く者のみであり、人間にマナは感知できない。
そして人間の姿をしているとは言え正真正銘の精霊である――しかもマナの流れを司る精霊
ついでにいえばこの世界をうみだせしものたるエミルにはエルフ以上にマナの流れが分かる。
それこそ手に取るように。
どうでもいいが我が子ではない、となぜに気づかないのか。
それすらに嫌悪する。
いや、わかっていても信じたくはないのかもしれない。
人のこころはもろくも弱い、というのをエミルはしっている。
そしてその弱さゆえに…魔族がつけいる隙をつくり、世界を混乱にまねいてしまう。
「もう少しだ。もう少しでクララは元の姿に戻れるのだ。旅業の料金を底上げして…」
ドアは少女に語りかけているように見えて、その実少女を見てはいないようだった。
少女はその姿を見て、哀れみのような表情を浮かべる。
だがエミル以外にそれに気づいた者はいないようだった。
「どういうことだよ」
ロイドの声に、ドアが素早くこちらを振り向く。
ロイドはゆっくりとドアに前に姿を現した。
今度はクラトスも止めなかった。
「何だよ、そのツラは。まるで死人でも見たような顔じゃねぇか」
「ねぇロイド。その台詞、ありがちだよ」
「うるせー!」
格好よく決めたつもりだったらしいロイドはジーニアスに茶化されて顔を赤くする。
だがドアはそのやり取りさえ目に入っていないようだった。
声を震わせ、一歩後ずさる。
「何故、神子達がここに…。ニール! ニールはどうした!」
「ニールさんはいなくてよ」
「そうか…。ニールが裏切ったのか!」
ドアが歯をギリ、と噛む。
「あんたの奥さんがどうしたってんだ?人質にでも取られているのか?」
「人質だと…? 笑わせる。妻なら…ここにいる!」
ドアが壁に不自然にかけられていた布を勢いよく剥ぎ取った。
布で隠されていたのは、壁ではなく牢だった。
どうやらここは地下牢、らしい。
いわば座敷牢。
一本一本が人間の手首ほどの太さがある頑丈な鉄格子はちょっとやそっとの力では普通では壊せそうにない。
その中には、異形の生物が押し込められていた。
「…!!」
クラトスが息を呑む気配。
人に近い形をしてはいるが、その大きさは優に三メートルは超えるだろう。
異様に長い腕の先には短剣ほどもある鋭い爪が三本。
あれに貫かれたら命はないだろう。
頭部と思われる部分には鋭い牙が覗いた大きな口と、不気味な光を放つ目の様な器官。
突然の光に驚いたのか、その『生物』は地に響くような低い声で咆哮した。
「な、何、このバケモノ…」
ジーニアスが震える声で呟き、よろよろと後ずさる。
その隣でコレットが胸の前で両手を握りしめ、悲痛に訴える。
「泣いてる…。あの人、苦しいって泣いてる。化け物なんて言っちゃダメだよ…」
「エクスフュギュア……」
おもわずエミルがつぶやく。
かつての大戦のときに人がうみだした…愚かなる人をつかった生体兵器。
人為的にマナを乱され、人あらざるものにされてしまった人の末路。
悲しみと苦しみの入り混じったマナが嫌でも伝わってくる。
元々は人間。
マナを不自然に無理矢理いじられ、結果人あらざる姿になってしまった人間。
その姿をかつてヒトはこうよんだ。
エクスフィギュア、と。
クラトスがその声にきづいてエミルのほうを凝視してくるが、エミルはただしずかに目をとじるのみ。
「ま…まさか…」
ロイドの声はカラカラに乾いていているようにみえる。
どうやらロイドもこれが何かわかったらしい。
「そうだ。これが私の妻、クララの変わり果てた姿だ!」
「だから、亡くなったことにしていたのね」
「父が愚かだったのだ。ディザイアンとの対決姿勢を見せたために、先代の総督だった父は殺され、
妻は見せしめとして悪魔の種子を植え付けられた。私が奴らと手を組めば、妻を助ける薬を貰えるのだ」
いらっ。
おもわず、いら、っとしてしまう。
悪魔の種子?
かってに人があのこたちの眠りをさまし、勝手に利用したあげくに、そうよぶ人の愚かさ。
「エクスフュギュアとなったものを直す薬はない。
体内のマナを無理にいじられて、マナが暴走したあげくの姿がその容姿。
直す方法はただひとつ。マナを正常な形にもどすのみ」
「貴様が一体何を知っているというのだ!」
「あなたが知らないだけでしょう?マナの暴走を直すくすりなんて存在していない。
ヒトがつかえしものの中では治癒術では、レイズ・デッドによりマナは正される。
かの力はマナを正常な形にもどすもの」
ひどく冷静に淡々と目の前にいるドアにと言いつのる。
「エミル…お前は……」
クラトスが何かいいかけるが。
どうやら目の前の男はディザイアンとやらがいった薬、というものを信じ込んでいるらしい。
いや、そう信じ込まざるを得ないのだろう。
妻を化け物に変えられてしまった苦しみを、ありもしない薬を信じることで少しでも減らそうとしている。
本当に愚かだとおもう。
自分の心の弱さをその結果、他者をまきこむ決定をくだしている目の前のヒトを。
「あなたはディザイアンの言葉を信じるんですか?
ディザイアンなんかを信じて、この街の人たちを裏切って。
薬なんてものはあるはずもなければ、彼らがレイズデッドを扱えたとしても直すともかぎらない。
ああいう輩は利用するだけ利用してきりすてるのがおちだ」
「そうだよ! あんたはパルマコスタの人たちを裏切ってるんだ!」
ジーニアスが震える手を握り締めて叫んだ。
その顔色はよくない。
「知ったことか! 所詮ディザイアンの支配からは逃れられん」
「コレットが…神子が世界を救ってくれる!」
ドアの言葉にロイドがすかさず反論する。
それもどうかとおもう。
あるいみ人任せ。
まあそう信じ込まされている、というのがあるにしろ。
「神子の再生の旅は絶対ではない。前回も失敗しているではないか!
それにこの街の者は私のやり方に満足している。ただ、私がディザイアンの一員と知らぬだけだ」
「黙れ! 何がお前のやり方だ!」
ロイドが叫ぶ。
「あんたの奥さんは確かに可哀想さ。でもな、あんたの言葉を信じて牧場に送られたばかりに、
あんたの奥さんのようにされた人だっているかもしれないんだぞ!」
エミルの隣で、ジーニアスが「マーブルさん…」と小さく呟いた。
それだけでエミルは納得してしまう。石に閉じ込められたマーブルというヒトの魂。
おそらくマーブルというものも同じような実験体とされたのであろう。
そして・・おそらくは、ジーニアスとロイドはそのことを目の当たりにした、そんなところか。
「黙れ小僧! 自分だけが正義だと思うな!」
「ふざけろ!!」
ドアの声は最早怒鳴り声。
怒りに声が震えている。
だが、ロイドはそれすらも掻き消すほどの大声で吼えた。
「正義なんて言葉、チャラチャラ口にすんな! 俺はその言葉が一番嫌いなんだ!」
ロイドは怒りに声を震わせ、ドアに怒鳴りつける。
「奥さんを助けたかったら、総督の地位なんて捨てて、薬がなくたって治す方法を探せばよかったじゃないか!
あんたは奥さん一人のためにすら地位を捨てられないクズだ!」
「ロイド、止めて!」
コレットが今にも泣き出しそうな声で訴えてくる。
何故止めるのかと、ロイドは思わずコレットを見る。
「皆が強い訳じゃないんだよ。だから、もう止めてあげて!」
「コレット…」
今にもドアに殴りかかりそうだったロイドは、戸惑いながらも握り締めていた拳を下ろした。
だが、エミルはまだ許せない。
ロイドも許したわけではないのだろうが、コレットの意見を尊重しようとしている。
エミルには、それが出来ない。
出来そうにない。
ドアは、パルマコスタの人間全てを裏切っていた。
信頼しているほど、裏切られたときの衝撃は大きい。
パルマコスタの人々はドアを信頼しきっていた。
それなのにドアはその信頼を裏切ってディザイアンに加担していた。
許せるわけがない。
「信頼したものに裏切られる気持ち、あなたにはわからないのか?」
それは冷たい台詞。
こんなヒトをみるたびに、ヒトを一度消してあらたに創りなおそうか。
幾度もそうおもってしまう。
「クララさんを治す方法、私達で探してあげよう?
そしたら総督だって、もうディザイアンの味方にならなくてもいいんだから」
「…私を許すと言うのか」
「あなたを許すのは、私達ではなく街の人です。でもマーテル様はきっとあなたを許してくれます。
マーテル様はいつでもあなたの中にいて、あなたの再生を待っていて下さるのだから」
「私の中に…」
まただ。
また「マーテル」だ。
これは一体誰を指しているのか。
そんなものはいるはずがない、というのに、彼ら人はそれを信じ切っている。
「――馬鹿馬鹿しい!」
そんなコレットの声をさえぎる声。
声の主は、ずっとドアの影にかくれていた少女。
少女は可愛らしい顔には不似合いな禍々しい表情でドアを睨み付け、その細い腕でドアの胸を貫いていた。
エミルは気づいていたが止めるきはなかった。
そもそも自分で方法を探そうともせずに安易な方法にたよったものを許すほどエミルは…世界は優しくない。
「人間ごとき劣悪種にマーテル様が救いの手を差し伸べて下さることはありません」
酷く冷たい声。
「キリア…?何を…」
少女は口の端だけを歪めて笑うと、父親の胸を貫いていた腕を一気に引き抜いた。
胸と口から鮮血を吹き出しながらドアがどさりと崩れ落ちる。
明らかに致命傷。
「何をするんだ!」
「お父さんでしょ!? どうしてこんな…」
ロイドとジーニアスが叫ぶ。
その横でリフィルがドアに治癒術をかけるべく飛び出そうとしたが、
既に剣を抜いたクラトスに押し留められていた。
マナが、歪む。
目の前の少女のマナが激しく、歪に動き出す。
エミルは歪められて悲鳴を上げるマナに悲しみがおしよせてくる。
体を構成しているマナが、助けて、と悲鳴をあげている。
この世界にすまうものの全ては、エミルの…否、ラタトスクがうみだしたマナにて構築されている。
だからこそ嫌でもわかる。
わかってしまう。
ここまで歪められてしまうと…かなり手がくわわっている。
それにこの少女は自分でのぞんでそれをうけいれているらしい。
ならばわざわざ元にもどしてやる必要性を感じない。
ならば、マナをその器から解放してやるのみ。
それゆえにエミルも無言で剣をぬく。
「ふざけるな。私はディザイアンを統べる五聖刃が長、プロネーマ様のしもべ。
五聖刃の一人であるマグニスの新たな人間牧場とやらを観察していただけ。
優れたハーフエルフである私に、こんな愚かな父親などいない」
今や少女は完全に姿を変えていた。
肌の色は禍々しい紫に染まり、頭の両脇で纏めていた髪は太く捻れた角に変化し、
両の腕の先には鋭い爪。
リフィルとジーニアスが動揺しているのが気配で分かる。
少女は自らをハーフエルフだと言った。
ハーフエルフは人間とエルフとの混血だが、外見は人間と大して変わらない。
元々人間とエルフの外見の違いも耳以外にはほとんどないのだから。
それなのに、この自分をハーフエルフと称する少女は人間にもハーフエルフにも見えない。
マナだって、ハーフエルフのものではない。
ハーフエルフであるリフィルとジーニアスが戸惑うのも当然なのかもしれない。
この少女は元々は確かにハーフエルフだった、それは間違いない。
が、それを、戦闘能力を上げるためだろうが、無理に人工的にマナを操作し、結果その代償がこの姿。
原理はドア夫人と同じだが、自分の意思で姿を変え尚且つ制御しているこの少女とドア夫人との差は大きい。
かつての戦闘のときにヒトがうみだした…愚かなるマナの操作方法。
いまだにこの世界にその技術がのこっていることにいらだちをかんじてしまう。
あれはあってはならないもの。
そういっていたはずなのに。
それすらもどうやらあのミトスは…駒としてつかっている、その事実に。
「愚かな父親ですって…!?」
コレットが珍しく声を荒げた。
彼女の意思に従い、背に淡い色の翼が現れる。
それを見てか、ロイドはここでやっと剣を抜いた。
ジーニアスは距離を取り、呪文詠唱に入る。
「愚かではないか! 娘が亡くなったことにも気づかず、
化け物の妻を助けようとありもしない薬を求めるなどと。あはははは!!
しかし、きさま…なぜレイズ・デッドのことをしっている?」
少女が嘲笑しつつも、エミルにたいし視線をなげかけてくる。
それにたいしエミルはただ無言のまま。
「こいつ…!」
「許せない!」
ロイドが正面からキリアに斬りかかり、後ろからコレットがチャクラムを放つ。
キリアは片手でロイドの双剣を受け止め、もう片方の手で飛んできたチャクラムを払う。
そのままその手でロイドに斬り付けた。
持ち前の反射神経で後ろに下がったロイドだが、避けきれなかったらしく頬から血が流れていた。
「ファーストエイド!」
すかさずリフィルの治癒術がかかる。
だが傷も塞がらないうちに、両手が自由になったキリアがその鋭い爪をロイド目掛けて振り下ろした。
慌てて交差させた双剣で受け止めるが、腕力ではキリアが勝るらしく、
ロイドは顔に苦悶の表情を浮かべた。
この状態ではロイドを巻き込んでしまうため、
ジーニアスは詠唱の終わった術を放つことが出来ずに必死でマナを制御している。
一方でクラトスは早々に詠唱を破棄し、ロイドの援護に駆け出した。
が、エミルの方が早かった。
キリアがロイドと斬り結んでいる隙にキリアの背後に回ったエミルはその無防備な背中に一気に斬り付ける。
「ぎゃああああああああ!!」
「うるさい!」
絶叫を上げるキリアを横に蹴り飛ばすと、
間髪入れずジーニアスが術を放ち、無数の風の刃がキリアを切り裂いた。
「グレイブ!」
詠唱をしていたクラトスが放った術によりキリアは大地より突き出た槍に体を貫かれ、呻き声と共に倒れ伏す。
「馬鹿な…」
キリアが呻く。
その血まみれの体は小さく痙攣し、声もまた掠れている。
「ならばせめて…」
だがキリアはその体で起き上がった。
身構えるエミル達だが、キリアは彼らに背を向け、
「この怪物を放ち、お前達に死を!」
ドア夫人を閉じ込めていた牢が開かれた。
キリアは顔に狂喜の表情を浮かべたままどさりと崩れ落ち、今度こそ動かなくなった。
その体を容赦なく踏みつけ、ドア夫人の巨体が姿を現す。
「またかよ…」
ロイドがぽつりと呟いた。
「また、辛い思いをしている人を倒さなきゃいけないのか…?」
俯き、握り締めた拳を振るわせるロイドの隣で、エミルは静かにドア夫人を見上げた。
一抱えほどの太さのある長い腕を振り上げ、恐ろしい咆哮を上げるドア夫人は、
目の前のロイドとエミル目掛けてその腕を振り下ろした。
「ダメ!!」
コレットが叫び、クラトスの舌打ちが聞こえた。
どうすることもできずに立ち尽くしているロイドの顔に恐怖の色が現れる。
「…とまれ」
だが、二人を叩き潰すはずだった腕は、寸でのところで止まった。
エミルの言葉に呼応したかのようにドア夫人の動きがとまる。
「…無理やりにかえられて、つらかったね。…リフィルさん、治癒術でレイズ・デットはつかえませんか?」
そっと手をさしのべると、なされるがままにドア夫人はその場にべたり、とすわりこむ。
エミルの手はしずかに座り込んだドア夫人の頭をなでるのみ。
魂も器も、全てが悲鳴をあげている。
「…ごめんなさい。そんな高度な治癒術は……」
「レイズ・デットはかなり高位な治癒術。使えるものもごくわずかだろう。
だが…なぜそれがその術でもとにもどる、そういえるのだ?」
いえるも何も。
かつてそれを人につたえたのは、他ならぬ精霊達。
あまりにも非道なるそれをみて精霊達にその旨をつたわせて、
ユニコーン達にその力を授けたのは他ならぬエミル…否、ラタトスクなのである。
自分のマナにて強制的に元にもどすことは可能。
だが、他者の目もある。
「そうですか。なら、仕方ないですね」
いいつつも、腰にさげてるベルトから小さな何かをとりだすエミル。
それは何かの小枝?のようにみえなくもないが。
そのまま、その枝をドア夫人にむけ、
「大いなる癒しを今ここに レイズ・デッド」
エミルの言葉とともに、瞬く間にマナの奔流が異形の姿をつつみこむ。
人があつかう術に迷いがあればそれは決定打にかける。
が、エミルが使用するものはまぎれもなく世界の力。
視認できるほどの濃いマナが枝を中心にして一気にうずまく。
狂わされ、発生していた負が術者を呑みこもうとして黒き腕をのばすが、
ふとその瞳にきづきその腕をとめてしまう。
おそらくは、対峙しているものでなければわからないであろう。
エミルの瞳はいつもの翡翠色ではなく、深紅にとかわっている。
『我がうちにともどれ、歪められし哀れなるものよ』
エミルの口からはっせらる声はクラトス達にすら理解不能の不思議な音のような旋律をもっている。
どさり。
やがてマナの奔流がまたたくまにとかききえ、そのあとにどさり、とした音。
それは淡き金色の髪をした一人の女性。
エクスフィギュアという単語もそうだが、レイズデッドでマナの流れを正すことができるなど。
今のこの世界でしっているものがいる、とはおもえない。
クルシスに属するものならばいくらかしっているかもしれない。
それは人為的にマナの改造をうけたものには伝えられるがゆえに知っている、というだけのこと。
何よりもエクスフュギュアという単語はすでに忘れ去られてひさしいはず。
クルシスですらその名はつかっていない。
あの異形とかしたマナの乱れをみださせたヒトの姿のことを。
「すごい…」
目にみえてわかった、濃いマナの奔流。
それはまるでエミルが手にしている枝、から出たような気がするのはジーニアスの気のせいか。
「レイズ・デッドでマナの歪みが正された、とはいえこの人はかなり衰弱しています。
どこかできちんと養生させるべきだとおもうのですが……」
いいつつも、そこによこたわっているドアをみすえ、
「これが答え。薬ではなおらない。なぜに治癒術をつかえるものをもとめなかった?」
淡々と言いつのる。
「私は…まちがっていたのか……クララ……キリア…違う、とは感じていたのだ…だが…」
認めたくなかった。
娘までうしなった、ということを。
「どうか…身勝手とはおもうが…ショコラをたすけてやってほしい。
お前たちをおびき出すために使われた哀れなるあの娘のことを…キリア…今、傍に……」
一筋の涙をながし、そのままドアはそのまま目をつむる。
はっと我にともどり、あわててリフィルがかけより、治癒術をかけるが、反応はない。
「先生?」
ふるふると首をよこにふるリフィルにたいし、
「エミル。エミルにはできないの?」
とまどいつつもといかけてくるコレット。
「救う必要があるの?このひとは街の人達全員をうらぎっていた。
すくなくとも、生かしておいてもそれをしった街の人に殺されるのがおちだよ。
彼の勝手な判断でこれまでどれだけの街のひとが殺されたりしたのか
君たちだってわからないわけじゃないでしょ?」
ゆっくりとドアの体が光りをおびる。
歪んだマナを直接にあびせられたがゆえに体を構成しているマナが実体をたもてなくなっているのがわかる。
そのまま、姿は光りにまみれ、またたくまにと小さな音とともに霧散してゆく。
「な!?」
「これは…まさか、マナの…消失!?」
生物の体はマナで構築されている。
それはこの世界の常識。
マナを完全にうしなえばその器は消え去る、というのもまた常識。
だがしかし、死んですぐにこんなに消えるなど今まできいたことすらない。
ゆえに驚愕の声をあげているジーニアスとロイド。
クラトスはこの光景をしっているがゆえに何もいわない。
「…お前は、治癒術をつかえるのか?」
それは一番ききたいこと。
それゆえのクラトスの問いかけ。
「…世界の恩恵をわすれてしまったヒトには無理かもしれませんね。
でも本来ならば誰でも素質さえあれば使用できますよ。
なぜか認識的にエルフの血がはいってなければできない、なんておもわれているっぽいですけど」
それは事実。
いいつつも、手にしていた小枝をそのままベルトの中にと差し込み元へと戻す。
「で、この人をどこかで休ませないといけないんですけど。どうします?」
エミルのといに、はっとなり。
「…教会へつれていきましょう。ここは今、人がいないし」
教会ならば何もいわずに保護してくれるであろう。
それゆえのリフィルの提案。
「…私の治癒術は人一人すくえないの?」
エミルの今の治癒術をみたからこそその想いはとても強い。
「先生?何かいった?」
「いえ、何でもないわ」
コレットの言葉に小さく否定の言葉をはっするリフィル。
「そろそろいこうか」
そんな彼らに淡々とクラトスが言ってくる。
「お前。そのいい方はないだろう?」
「落ち着け。ロイド。我々がなすべきことは?」
「…ショコラをたすけ、このあたりを支配するマグニスを倒すこと」
「その通りだ」
「…わかってる。あんたのいうとおり。すまない……」
「いこう。ディザイアンを倒そう」
「その前にこの人を安全な場所におねがいしますね?」
失念してるっぽいので念のためにとといかけているエミル。
「クラトス。おねがいしてもいいかしら?」
「ああ。わかった」
クラトスがそのままひょい、といまだに目覚めないドア夫人をかかえその場をあとにする。
底に倒れていたはずのキリアの姿ももはやない。
完全に肉体が崩壊しマナへと…大気へとその構築されていた成分は大気に還りゆいている。
あとには、ただ静寂がのこされるのみ……
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あとがきもどき:
薫:ちなみに、エミルがもってるのは正真正銘、大樹カーラーンの小枝ですv
そもそもカーラーンはラタトスクの分身体のようなもの、という設定ですし。
ラタトスクが大樹をうんだ、というこれらは設定ですので。
ゆえに、大いなる実りがなくても自力で実りをつくれます。うちのラタ様はv
いわばまあ、間接的においている触媒、のようなものですね。世界樹は。
あと、世界構成をするのに楔のような役目をおわせているのが世界樹です。
2013年6月7日(金)某日
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