まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
そろそろ副題になやみだしてる今日この頃…
ようやくディザイアンのシーン…先はながい……
########################################
「まずは、この再生の書ね」
偽物がもっていた再生の書。
それにかかれているのは天使言語。
水晶にきざまれし原語は天使がつかわせし技術ともいわれ、
スピリュチュアが再生の神子となったスピリュチュアのおとものものに授けたもの、ともいわれている。
何のことはない、単なる記憶球なのだが。
どうやら今の時代のヒトはそのことを知らないらしい。
「この再生の書は、この街で最初の説法をおこなわれたスピリュチュア導師がこの街にのこしたものよ。
これには全ての封印の場所が示されている、といわれているわ。
どうやら天使言語のようだけど……コレット、たのめるかしら?
ああ、封印の場所とおもわれし場所だけ抜粋して解読してくれるかしら?」
首をかしげているエミルにと追加説明をするかのように、
「マーテル教を開いた、最初の神子スピリチュアルが行った世界再生の旅の全てを記録した書の事よ」
それがどうしたとロイドは首を傾げ、
ジーニアスはそれが何でパルマコスタの教会に繋がるのかと首を傾げた。
さらにエミルからしてみればマーテル教事態をしらないのできょとん、としていたりする。
コレットとクラトスは納得したように頷いたが、リフィルは分かっていない二人の為に言葉を続ける。
「一冊だけ作られた『再生の書』はバラクラフ王家に納められたんだけれど、
王朝が滅んだ時に持ち出され、この街の教会に保管されていたのよ。
パルマコスタは、スピリチュアルが最初に説法を行った場所だから」
説明しつつも、再生の書をゆっくりと机の上へ。
そのままメモリー宝珠を起動させる。
「ふむ。かなりの量だな」
水晶の上に立体映像的な経典が浮かび上がり、それは普通に触ることができ、
本のようにぱらぱらと開くことが可能となっている。
「なんてかいてあるんだ?」
「コレット。封印に関する部分のみ抜粋して読みあげてくれ」
「はい。とぎれているところはとばしますね。荒れ狂う炎、砂塵の奥の都にて街を見下ろし闇を照らす。
清き水の流れ、孤島の大地にゆられ、あふれ巨大な柱となりてそらに降り注ぐ。
気高き風、古き都。世界の…巨大な石の中心に祀られ邪を封じ、聖となす」
「気高き風。古き都。世界の頂の中心にありし場所。
巨大なる封印の中心にまつられし扉はは邪を封じ聖となす」
「ってすご~い。よめるんだ。かすれてるこの文字」
「ほら、ここ。よくみてみたらきちんと文字がのこっていたのがわかるでしょ?」
「あ。ほんとだ~」
「…というか。エミル。おまえ、天使言語がわかるのか?」
「なんとなく?」
コレットがきちんと翻訳できなかったそれをさらっと横から修正しこたえているエミルに対し、
びっくりしたような表情をうかべているリフィル。
そもそも眠りにつく前までのことならいまだに記憶があいまいではあるものの、
そういった知識程度ならば今のエミルでも思い出せている。
「えっと…煌めく…神の峰を見上げ、世界の柱を敬構え…古き神々の塔の上から二つの意大なる……
このページ、虫食い?になっているのできちんとよめません……」
「じゃあ、封印の数がどれくらいか、というのもわからないんだ」
「そのようだな」
「あれ?でも最初の荒れ狂う炎、というのは砂漠ってことだし。
炎の封印のことだろ?他はどういうことだろ?」
「おそらく。風の封印は…アスカード遺跡だろう。アスカードにいけば手がかりがあるはずだ」
「神の峰をみあげ、っていうのは?」
「多分、マナの守護塔だとおもう。
あそこからは救いの塔の周りの山がみえるからそれが神の峰なんじゃないかな」
「で?そこは何の封印なんだ?」
「えっと…わかんない」
「…まあ、いいや。封印の場所はわかったんだし。さっそくいこうぜ。
あ、エミルも一緒にいくよな?」
「え?あ。うん。たぶんこの清き水の流れの孤島の大地は間欠泉のある島のことじゃないのかな?」
そんなエミルの言葉に。
「なら、ソダ島ね」
リフィルが即座に反応をしめす。
いいつつ、
「ソダ島?」
ある事実にきづいたのか顔色をかえて小さくつぶやいているリフィルの姿。
「地理からして、ならソダ間欠泉にいったあとにアスガード、だね。
それからマナの守護塔、か。すごいや。一気に三つも封印の場所がわかった!」
「アスガードにいくにはハコネシア峠をこえねばならない。通行証がいるのではないのか?」
「そうね。祭司長様に相談してみましょう」
「天使言語かぁ。難しいんだね」
ジーニアスが再生の書というものを見終わったあとそんなことをいってくる。
「そうかなぁ?」
コレットが首をかしげるが。
「うん。僕、何がかいてあるんだかよくわからなかったよ」
「私は子供のころから天使言語の本ばかりよんでたから」
よくよく考えれば一般的には普及していないかもしれない。
コレットにとっては普通でも。
「僕も勉強すれば読めるようになるかな?」
「天使言語はこの世界に伝わる言葉の基礎となたものだ。文法にそれほど大きな変化はない」
クラトスが淡々とそんなジーニアスにと説明する。
「うん。よかったら教えてあげるね」
「私も多少なら指南できよう」
「よ~し!おぼえるぞ!エミルは何でしってるの?」
「?え?何で、といわれても……」
そもそも、元となった言葉はデリス・カーラーンからのもの。
知っていて当たり前なので何ともエミルからしては説明のしようがない……
光と闇の協奏曲 ~再生の書とディザイアン~
朝早く、宿を出立し、昨日のうちに相談したところさくっと通行証は発行された。
教会発行の通行証なので身分証明にはうってつけ。
「シルヴァランドが衰退してるっていっても、やっぱり都はたべものがちがうよな~」
ロイドが昨夜の久しぶりに充実した食事を思い出しながら、
つかれた、といってほとんど手をつけなかったコレットの分までしっかりと平らげていたりする。
「また山道かぁ」
「自然児のくせに」
そんな言い合いをしている様は何となくほほえましい。
「そういえば、エミルもあまりたべなかったよな?」
「僕は基本的にあまりもともとたべないから」
というかたべないですむ、というのが実情である。
エミルの力の源はあるいみ世界そのもの、といっても過言でないのだから。
「ここから峠までは一本道ですからね。救いの小屋からソダ島までの分かれ道になっているもの。
途中で救いの小屋があるからそこで休憩しましょう」
「救いの小屋?」
「エミル、あなた…昨日の課外授業で
あなたが基本的な世界の常識が抜けている、というのはわかったけど。それもしらなかったのね。
マーテル教会が旅業や巡礼の人達のために休んでもらうためにつくった小屋のことよ。
世界中のあちこちにあるのよ」
「そうなんですか。一応、他人のためになることもしてるんですね」
「その一応、というのがきにかかるんだけど?」
たしかに旅のものたちにとって休める場所、というのは必要不可欠であろう。
もっともそのせいで魔物達にまで影響がでるようならばほうってなどはおけないが。
ハコネシア峠、とよばれている場所はいくつもの山脈がつらなりし場所であり、
救いの小屋とよばれる場所も少し小高い場所にとあるらしい。
救いの小屋から峠に向かう道と、ソダ島に向かう道それぞれわかれており
方向別に看板がたっているのがみてとれる。
「やっとついた~」
救いの小屋に到着したのは日が暮れる一刻ほど前。
中にはいろうとするロイドの腕をクラトスがしっかりとつかむ。
「何するんだよ。…あ」
クラトスが無言で示すその先には、みおぼえがありおもわずロイドが小さく声をあげる。
このあたりでは見慣れない服装。
が、エミルにとってはなつかしき服装。
かの大戦どき、まだとある大陸の民がこのんで使用していた服装によく似ている。
彼女はスピリチュア像に向かい、一心に祈っている様子がみてとれる。
「……ラのみんなを救えるようにどうぞお助け下さい」
テセアラ…
小声で聞き取りにくかったが、確かにテセアラと言った。
天使化しているクラトスにも聞こえたであろうがクラトスは何もいわない。
そしてまた、テセアラとはミトスがわけている世界のもう一つの名であることをエミルは知っている。
さすがに縁を結び直すときにイグニス達、そしてそちら側にいたテネブラエから聞かされている。
コレットはといえば横目で彼女を祈ると、彼女と同じように両手を胸の前で組み、
だが祈るではなく目の前の女性を見つめている。
その表情は柔らかい。
なぜあの場のものがここにいるのかが不明。
そもそもここのものたちは互いの世界をしらないのではないのだろうか。
すくなくとも、門の付属効果ともいえる次元の扉が使用された形跡は感覚的に少し前にはあったが、
頻繁にはつかわれてすらいない。
ロイド達はテセアラというもう一つの世界が存在していることを知らない。
シルヴァラントから流れるマナで繁栄している世界テセアラ。
今のシルヴァラント人は、シルヴァラントが衰退し続ける本当の理由を知らないのだ。
それはミトスが提案した事柄であり、マナをよりはやく実りに集結させ、
そしてまた人々の戦乱をおさめるための手段。
なぜかその手段は目的をたがえたままで四千年、という時が経過している。
「ロイド、邪魔しちゃ悪いから出直そうよ」
とりあえず、ロイドの後ろ襟から伸びる白い紐を軽く引っ張る。
「……そうだな」
そもそも自分達がここにきたのは、今日の宿をとるためでもある。
そのためには奥にいる祭司達に話しをつける必要がある、とはリフィル談。
だが、六人が踵を返したその瞬間、祈りをささげていた女性がが勢いよく振り返ってくる。
「待て!」
鋭い声に思わず足が止まる。
「ここで会ったが百年目! 今度こそお前たちを倒す!!」
「ここはみんなが祈る場所だ。やめようぜ」
「わ、わかった…」
符を構え、今にも飛び掛ってきそうな勢いだったが、ロイドの言葉にあっさりと退いた。
だが敵対していることには変わりはないだろう。
現に殺気こそ抑えてはいるが、こちらに敵意をぶつけてきている。
友好的には全く思えない。
対するコレットが怯えるでもなくにこにこしているのが不自然だが、
まあそこはコレットだから仕方のないことだろう。
そもそもあのマーテルがこうだったのである。
よくにているマナをもっている以上、性格がにていても不思議ではない。
「俺、ロイドって言うんだ。お前の名前は?」
「は…?」
「ロイド?」
ロイドまで妙なことを言い出した。
ポカンと口を開けたまま固まったのを見て、エミルは何だか可哀想に思えてきた。
そこにコレットまでが追い討ちをかける。
「あ、私はコレットです。まだ神子としては半人前なんですけど、頑張って世界再生してみますね」
「お、お前の名前なんか聞いてない!」
硬直から脱したしいなが慌てて怒鳴る。
「あ、そうですよね。ごめんなさい」
「あたしはお前を殺そうとしているんだぞ!」
更に慌てるのを見てエミルは思い出す。
これはあのときと一緒だ、と。
けんもほろろに追い返そうとしたときと。
のほほんとマーテルがいい、にこにことミトスがいい。
ルーメンが何やらたのしそうににこやかにいい。
…おもいだしたらむかむかしてくる。
調子が狂わされるヒトだ、とは当時おもったが。
まさかここまで似通っているなどとはおもわなかった。
だけど、彼らは裏切った。
種に歪められたマナを注ぎ込んで行けば種が歪んでしまう、とわかっていただろうに。
あまりにしつこく、またらちがあかないので折れたのをふと思い出す。
そのときは、まだヒトもすてたものではない、とおもえた、はずなのに。
みれば目の前の女性も知らず知らずのうちにコレットのペースに飲み込まれている。
うろたえる彼女を見ていると、敵対しているという事実を忘れそうになってしまう。
「知ってます。でも話し合えばきっとお互いわかり合えますよ」
命を狙われているのだから、普通はわかり合えるはずはない。
だがそのうちわかり合えてしまうところがコレットの恐ろしいところなのだ。
しかも計算してるのではなく、彼女は常に素だ。
ギンヌンガ・ガップに訪れたあのときと同じ。
のほほんとした姉と弟。
過去をおもいだし思わず遠い目をしてしまう。
この子たちもまた裏切るのだろうか。
今はまっすぐでも、大切なものが傷ついたとたんに。
「お前、人の話を聞いているのか!」
「聞いてますよ~。だって、えっと……殺し屋さん」
「しいなだ! 藤林しいな!!」
遂に女性が名乗る。完全にコレットのペースだ。
「しいなさん、お祈りなさってました。祈ることは、心が豊かになることです。
私もお祈りします。だからきっとわかり合えます~」
「……お、恐ろしい…」
思わず呟きが漏れる。
聞こえたらしいジーニアスと目が合うが、彼は小さく肩を竦めただけだった。
「あ、あたしは、お前をちゃんと殺せるようにって……。
もういい! 気が削がれた! 次こそ覚えていろ!!」
一方的に怒鳴りつけ、しいなとなのったヒトは慌しく小屋から走り去る。
入り口のところで入ろうしていた司祭とぶつかりそうになったその姿は
お世辞にも忍には見えなかったが、
あの煙といい、感じる式神の気配といい、
おそらくはかのジパングの系統をうけついでいるものなのだろう。
そうエミルは判断する。
古よりかの地には忍び、とよばれる種族がいたことをエミルはしっている。
まだ四千年後にもその系譜がつづいているのか、という問いかけはともかくとして。
まあそのうちに世界全てを見渡せるほどに力がもどれば視て確認するのもわるくはない。
しかし、とおもう。
彼女がコレットの命を狙う理由。
テセアラは、シルヴァラントから流れるマナで繁栄している。
そのせいでシルヴァラントは逆に衰退し、両世界間の文明レベルの差に広がりが生まれる。
事実、テネブラエ達の報告ではかなりの文明の差がでている模様である。
ざっと視れるかぎり確認しただけでもかなりの文明の差は歴然としていた。
神子を殺すということは、世界再生をさせたくないということだ。
シルヴァラントが再生されると、マナがテセアラに流れなくなり、結果テセアラの繁栄が止まる。
テセアラ人としては、シルヴァラントの世界再生は歓迎できない。
それは分かる。
リフィルの説明には世界再生についての説明もあった。
「神子の旅ってのは、ディザイアンを封印する旅なんだぞ。なあ、コレット」
「うん。そして女神マーテル様の試練をこなすと、世界を護る精霊が復活してマナも復活するの」
「こんなの常識だぜ? お前なんで知らないんだ?」
「常識だなんて、ロイドにだけは言われたくないと思うよ」
「うっせ、ジーニアス!」
得意げに説明するロイドをジーニアスが茶化し、ロイドに小突かれる。
日常茶飯事らしく、コレットはのほほんと二人を見守っているが、リフィルは違った。
「ロイド以上にこの世界について無知な子がいるなんて思わなかったわ…」
なぜか盛大にため息をつかれてしまう。
というか困惑するしかない。
ディザイアンを封じるための旅だなんて聞いたことがない。
そもそもディザイアンというもの事態がわからない。
それに何よりも。
世界を護る精霊って、誰のことだ?といいたい。
復活するということは今はいないのか、ただ眠っているだけなのか。
確かに自分…ラタトスクはギンヌンガ・ガップの扉を守護しているが、
それが女神マーテルとどういう関係があるのか。
というかマーテルという名でおもいだせるのは、
ミトス・ユグラシドルの姉でありマーテル・ユグラシドル。
人を救いたい、とあまりにしつこく、しつこくこちらの話しもまったくきかず、
しつこく、さらにしつこくいってくるのでもはやなげやりに、世界樹の杖をかしてやったあのヒトの名。
そもそもその女神マーテルというのは何だというのか。
あの少年の姉と同じ名なのはただの偶然か?
分からないことだらけで混乱してしまう。
女神とよばれしものでそんなものはうみだしてすらいない。
自分が眠っていた以上、あらたなそういたものがうみだされるはずもない。
何が真実で、何が偽りなのか。
だが、彼らは彼らの真実に疑問を持っていない。
神子の世界再生の旅は、女神マーテルの試練をこなし、精霊を復活させ、
ディザイアンを封じ、マナを蘇らせるための旅であると。
「どういう・・ことなんだ?」
「どうもこうも。お前ほんとうに何もしらないんだな~」
ふと説明をうけた時のことを思い出す。
「おや。これは…その輝石は!?では、あなたがマナの神子様。このような場所におこしくださり恐縮です」
いいつつ神官達がその場にとひざをつく。
しいな、となのった女性が小屋からでていき、何かいいあいをしている、と連絡がいったのか、
表にでてきた神官たちがコレットの胸元の石にきづいてそんなことをいってくる。
「あ、あの、たってください。私はまだ神子の役割をはたしていませんし」
「ここには、スピリュチュア像にお祈りにこられたのでしょうか?」
一人がそうといかけるが。
ただ宿をもとめにきた、とそういいかけるよりもはやく。
「も、申し訳ありません!神子様!実は、そこにあるスピリュチュア像は偽物なのです!」
一人がいきなりの暴露。
『・・・・・・・・・・・』
一瞬、その場が静まり返る。
「ど、どういうことなのだ!?」
祭司長、とよばれていた人物が、暴露してきた祭司にとといかけるが。
「実は…ここにある導師スピリュア像は私が用意した偽物でございます」
「ど…どういうことだ?」
さらにといかけている祭司長。
「一昨年の旅業で本物のスピリチュア像を紛失してしまったのです」
「旅業って、マーテル教の修業旅行だろ?なんで像をもっていくんだよ?」
ロイドの疑問はしごく当然。
「スピリチュア像は頭頂部の後光としてダイヤモンドが使われております。
盗賊達から護るために我々が修業の旅にでるときには常に携帯させていただいております」
「一昨年も恒例に従いまして、スピリチュア像をソダ島までお運びいたしました。
…ですが、そのとき間欠泉の中に像をおとしてしまったのです」
「……何でそんなとこにもっていったのさ。も~。これだからヒトは……」
ジーニアスが呆れたようになにやらいっているが。
「面目ございません。何しろ初めて見る間欠泉にひどく感動いたしまして。
気づいたときには像は間欠泉の向こうにおちておりました。
困り果てた私はイセリアに住むドワーフの元を訪ねまして、同じようなものを依頼しつくってもらったのです」
「イセリアのドワーフ?あ、それダイクさんじゃないのかな?」
「さすがダイクね。腕がいいわ」
「…親父。どんな仕事してるんだよ…」
「先生。私たちどちらにしてもソダ島にいくんですよね?どうにかならないのかな?」
「あなたならそういうとおもったわ。コレット…」
盛大なるためいき。
「なら俺がとってくるよ」
「間欠泉は熱湯です!あぶないでしょう!」
「あ、そうか」
「ロイド。馬鹿じゃないの?地学の時間に習ったことわすれたんでしょ」
「う、うるせーな」
「…あきれたな」
なんだろう。このものたちは。
まるで漫才突っ込みをしているようにみえてしまう。
緊張感の欠片もない。
「間欠泉をとめられないかなぁ」
「ソダ島の間欠周期はかなり早いときくが」
「何かでふさぐとか?」
それゆえにおもわずぽつり、といってしまうのは仕方ないことだとおもう。
そもそも漫才のようなやり取りはいつまでたっても終わりそうにないのだから。
「そうだよ。それだ!ジーニアスで魔術で蓋をしてもらえばいいんだ!エミル、いいこというな!」
「魔術って何をつかうのさ」
「氷をば~ん、とおとすとか?」
「了解。やってみるよ。ありがたくおもってよ?」
「ドワーフの誓い、第一番。平和な世界が産まれるように皆で努力しよう、だ。
たのむぜ。天才魔術士さん」
どうやら話しはまとまったらしい。
が、何だかな、とおもってしまうエミルは…おそらく、間違ってはいないであろう。
「あれ?何だかさわがしいな」
朝はやく、なぜか救いの小屋はほぼ満員状態。
「どうかしたのか?」
ロイドのつぶやきに中年の夫婦が振り返る。
「知らないのかい?ディザイアンがバルマコスタにむかったそうなんだよ」
「なんだって!?」
「しかも、この近くの牧場のマグニスまで一緒らしいんですよね。
私たちはしばらくここで足止めです。救いの小屋にまではいくら何でも手だしはしてこないでしょう。
マーテル様の加護がありますからね」
その台詞に思わず無言で顔をあわせているロイド達。
「パルマコスタにもどりましょう!」
「いうとおもったわ」
「ここは無視をして先に旅を優先すべきだ、と私としてはもおうが」
「私もクラトスの意見に賛成ね」
「そんな!こまっているかもしれないひとをほうっておくなどできません!」
「コレットがそういうのなら、仕方ないわね。本当にお勧めはできないわよ」
本当にお人よしだとおもう。
このあたりはかつての彼らとおなじありよう。
だからなのかもしれない。
ずるずると彼らととにもいる、というのは。
パルマコスタに到着すると、街の広場には処刑台らしきものがあつらえてあるのがみてとれる。
「ああ!あのひとたしか、道具やの!」
ふとみれば、処刑台の上にて首をロープにかけられ
今にも処刑されようとしているのは道具やの女主人であるらしい。
女性はぐったりしたまま動かない。悪い予感は当たるものだと誰かが言っていた気がする。
誰が言っていたのかまでは覚えていないが、現実に目の当たりにするとその誰かを恨みたくなってくる。
もしくは自分がそうおもったから世界にとって現実になっているのかもしれない。
そんなことをふと思う。
全く意味のないことだと分かっていても、
目の前で繰り広げられる惨状にエミルの胸には絶望にも似た感情が込み上げてきた。
パルマコスタの中央に位置する大きな広場。
そこに多くの人間が集まっている。
広場の中央にいは木製の巨大な絞首台。
青ざめた顔の女性が首に縄をかけられ、今にも殺されようとしているのがみてとれる。
人々は絞首台を囲むように自然と円状に集まり、誰もが重い表情で処刑を見つめているばかり。
女性を助けようとする者は誰もいない。
当然だ。
誰も好き好んで自分が絞首台に上がろうとするわけがない。
女性を助けようとすれば、次は自分が殺されるのは目に見えて明らか。
誰も自分の命が一番可愛い。
人間――普通の人間ならそれが当たり前。
そう分かっていても周囲の人間にまで苛立ちを感じてしまう。
「兵士はどうしたんだよ!?」
ロイドの声に。
「ここの兵達はいま、演習でではらっているのさ。その隙をついたかのようにあいつらが…」
誰ともなく説明をしてくる。
「これだから人間は――」
おもわずそんな呟きがもれてしまう。
おそらく、まちがいなく、これは示し合わせたものであろう。
でなければ、兵がまったくいない、というのはありえない。
絞首台の前には武装した二人のハーフエルフが立ち、ニタニタと厭らしい笑みを顔に浮かべている。
問答無用で殴りたくなる衝動がおそってくるが。
契約しているものたちを呼び出して駆逐してしまおうか、という思いすらでてきてしまう。
広場に集まるパルマコスタの住人達、そして絞首台の女性の前を威圧的に歩くハーフエルフ。
今から人が一人殺されるというのに、何が楽しいのか。
人を処刑するのが楽しいだなんてふざけている。
命の何たるか、というのをわすれている愚かなるヒト。
『衰退世界シルヴァラント』を荒らす、主にハーフエルフで構成された集団。
話でしかその存在を聞いておらず
エミルがその姿を見たのはこれが初めてだったが、一瞬で激しい嫌悪感を抱く。
エミル…否、ラタトスクのそんな思いをうけて周囲の温度が一気に一瞬冷えはじめるが。
「どけ! マグニス様がお出ましだ!」
ディザイアンの一人が武器を振り上げ、近くにいた人間を追い払う。
怯える人間の姿に、ディザイアンは嘲笑を上げ、それがエミルの癇に障る。
「東の牧場のマグニスだ…」
エミルのすぐ近くにいた男性が怯えた声で呟く。
本当に小さな声だったのに、ディザイアンは耳ざとく聞きつけたらしい。
先ほど姿を現した大柄な赤毛のハーフエルフが虫けらを見るような目で近づいてきた。
ディザイアン――マグニスは男性の首を掴み…否、つかもうとしたのであろう。
が、その手は瞬時にエミルの手にとひねりあげられる。
「何をしようとしました?今?」
その声はとても低く、聞いているものが一瞬畏縮してしまうようなもの。
周囲の人間がえもいわれぬ圧迫感を感じおもわず黙りこむ。
「マグニス様、だ。豚が…、く、この、はなしやがれ!」
つかんだ手を必至にふりほどこうとするが、意味はない。
「なら、はなしてあげますよ…っと」
そのまま、ぶんっ、とおおきくふりかぶり、そのままマグニス、といわれている男を投げ飛ばす。
一瞬のことなのでリフィル達も理解不能であったらしい。
マグニスが投げ飛ばされた、というのにきづいた人々があわてて距離をとる。
「く…こ、この劣悪種がぁぁ!」
何やら投げ飛ばされ、大地におもいっきり体をうちつけたマグニスがエミルをにらみながらいってくるが。
どっちが、とおもう。
「どっちが。害虫なのはそっちだろ?」
それは本音。
こういうヒトがいるから、争いはなくならない。
世界にとって害にしかならない、ヒト。
はらだちまぎれに近くにいたものに八つ当たりをしようとしたのか、
起き上がり別方向にいこうとしたそんなマグニスにと小さな石が投げつけられる。
「この、薄汚い豚がぁ!!」
マグニスが、石を投げたらしい少年に殴りかかろうとしている。
エミルは迷わず駆け出し、そのまま問答無用でげしり、とマグニスをけり飛ばす。
「や、やめろ!」
蹴り飛ばすとどうじ、気配を解放しかけているのにきづき、あわてて気をおさめる。
それにより震えていた空気が収まり、はっと我にともどったロイドが声をあげているのがみてとれる。
「――魔神剣!」
ロイドの言葉とともに放たれる剣圧の衝撃派。
数瞬遅れてマグニスの背中に衝撃波が当たる。
「駄目よロイド! ここをイセリアの二の舞にしたいの!?エミルもいきなり何してるの!?」
リフィルがはっと我にともどりいってくるが。
「リフィルさんこそ何をいってるんですか。何もしてないヒトを殺そうとしていたんですよ?あれは」
もはやあれよばわり。
名前を呼ぶかちもない愚かなるヒトでしかない。
世界にとっての害虫。
「よくもマグニス様を! さっさとくたばるがいい!」
残されたディザイアン達が各々武器を手に取り襲い掛かってくる。
が、もののみごとにエミルはかるくいなし、
そのままディザイアン達を一撃のもと、しかもかるくとん、と叩いたのみで気絶させてゆく。
「何言ってんだよ、先生! ここはディザイアンと不可侵契約を結んでいる訳じゃねぇだろ!
目の前の人間も救えなくて、世界再生なんてやれるかよ!」
「不可侵条約云々はわからないけど。だけど黙っているわけにはいかないのは事実だね」
そのまますっと目をとじる。
テネブラエ達の力が満ちたことにより、かなりの力がもどってきているのがわかる。
昨夜のうちにその波動をうけてかルーメンも合流した。
ゆえにある程度の力は使用可能。
ルーメンもまたテネブラエとともに縁を結び直すために今ここにはいない。
そのままそのあたりに…なぜかころがっていた木の棒を手にとり、
というよりおちていたようにみせかけて、エミルが今まさにつくりだしたのだが。
それを手にとり、おもいっきり襲ってこようとするヒトを叩き伏せる。
たかが木の棒の一撃をうけてたおれるディザイアン、とよばれしヒト。
「わ、私もこんな処刑、黙ってみていることはできません!」
いいつつコレットもその手にチャクラをもって前にと一歩でてくるのがみてとれる。
ふと、ロイドの顔をみたディザイアンの一人がはっとなり、
「おまえは!手配ナンバー0074、ロイド・アーヴィングだな!」
ロイドの名をきき、マグニスが振り向く。
「ほう。お前がロイド。そのエクスフィアが例の…こいつはちょうどいい!
それをこっちによこせ!そうすれば俺は五聖刃の長になれる!」
「勝手なこというなよ!」
いまだにエミルにひねりあげられた手がいたいのか、手をさすりつつもそんなことをいってくる。
「ふん。まずは見せしめとしてあの女からだ。さっさとやっちまえ」
その声をうけディザイアンが女性の足元から小さな台らしきものを取り除こうとする。
が。
「あぶない!」
コレットがなげたチャクラムは孤を描き、
処刑台にとつながれていた女性のローブをさっくりときり、彼女の手の中へともどってゆく。
「お母さん!」
道具やで一度あった娘だ、という女性がそんな道具やの主人のもとにかけよっている姿がみてとれる。
群衆からどよめきがおこる。
「よし。神子の意思を尊重しよう」
いってクラトスが一歩前にでて剣を抜き放つ。
「神子様!?」
「あれが神子様なのか!?」
「御力をおかししてくださるというのか!?」
街の人達の表情に喜びがはしる。
ほんとうに虫唾が走る。
自分達は何もせず、ただそこにある救いになるであろうものに願いをたくし、
願いがかなったらかなったでそのあとで手のひらをかえし、
また失敗したらしたで、責任をおしつける。
その人の心のありようが。
「神子様!おお、コレット様!偉大なるマナの神子様!みなさん、畏れることはありません。
神子様がここにおられますぞ!」
騒ぎをききつけやってきたマーチ祭司長がそんなことをいい、
広場に集まっていた街の人達から歓声がおこる。
うぉ~、というような声とともに。
そんな街の人々におされたらしく、じりじりとあとずさるディザイアンらしきものたち。
「くそっ、どいつもこいつも、俺様をバカにしやがって。お前達!この連中の始末は任せたぞ!」
数歩下がると光に包まれて消えた。
退却したらしい。
それによって、マナが乱れるのが嫌でもわかる。
たかが移動に魔科学による転送をつかうな!
おもわず叫びたくなるのを何とかこらえる。
すぐさまに今乱れたばかりのマナを修正する。
まったく、本当にろくなことはしてくれない。
残った下っ端達をようやくその気になった群衆がとりかこむ。
勝負はついたも当然。
何しろ今現在、ハーフエルフたるディザイアン達は術を使おうとしておそらく気づいたであろう。
マナが紡げないことに。
エミルが彼らがマナを紡ぐことを意識して禁止したがゆえ、マナは彼らに恩恵をあたえない。
「さがっていてくれ!」
ロイドとクラトスが街の人達に傷をつけないように注意をしながら。
エミルはエミルでとりあえず街の人達…とくに女、子供を優先に安全な場所へと誘導してゆく。
たちまちのうちにディザイアンたちを退けてしまうと、やがてさきほどの女性が母親をかかえてやってくる。
「ありがとう。何とお礼をいったらいいのか……」
「礼にはおよばない。神子の意思を尊重したまで」
「ねえ。送って行ったほうがよくない?ここにいたら面倒なことになるとおもうんだけど?」
いまだに群衆は熱気たっている。
たしかにここにいたら下手をすればコレットの身が危険になりえるかのうせいもある。
ハイになった人の怖さはリフィルとてよく知っている。
ゆえに、エミルの提案を素直にうけいれざるをえない。
――Go To Next
Home TOP BACK NEXT
$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$$
あとがきもどき:
薫:マグニスでてきました。ふとおもったんですけど。
ぜったい、リヒターの父親ってマグニスですよねぇ?あれ?口癖からして。
あれ?でも息子を研究施設に軟禁させるような、そんなことマグニスが…するかな?
叔父とかという関係かな?それでも助けようとしそうだけどな。
マグニスって身内にはとことん甘いようなイメージがある……
2013年6月6日(木)某日
Home TOP BACK NEXT