まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。
pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
裏設定:
前回、元々ラタトスクのいた時間軸の世界。
マルタはこの話のままの状態ではあったのですが、
当然、神子コレットと知り合うことは、世界再生中にはありませんでした。
何しろ、スピリチュアの像を神子一行は手にいれていたので。
そのまま再生の書をもとに旅をつづけており、旅にでていたマルタ達とは入れちがいになっています。
ドアがいなくなり、ブルートは夫人やニールとともに町の人々をまとめており、遺跡にいく機会は皆無となっていたところ、
その後、頻発する地震。さらには救いの塔消滅。となり。
あげくは、大樹暴走のときにおいて、マルタは母親を失います。
それは、暴走による被害をくいとめようと、マルタの母親がうけついでいたユニコーンホーンの力をつかいきり、
人々をたすけようと尽力したがゆえ。人々をたすけ(瞬間移動させた)自分は建物の下敷きに。
ブルートのもっていた指輪が古の血の盟約の契約の証であったことから、
マルタはそんな命を奪うような力なんていらない、とばかりに、
感情のままに、母からつたえられていた盟約の誓いの破棄の言葉をとなえ、
それにより、彼らの血の盟約は破棄されます(大樹の加護の消滅)
そのとき、ブルートがうけついでいた指輪も破棄の言葉をうけて消滅。
マルタも使用できていた法術系統が使用できなくなります。
ブルートにしてもしかり。
で、二年後のあのラタトスクの騎士の時間軸にすすんでいった。
というこの話しでの裏設定です。
盟約を破棄したとはいえ、かつては盟約をかわしていた血筋。
ゆえにラタトスクはマルタの言葉に反応して覚醒できた、という裏設定となっています。
で、今のこの話しでは、マルタはとうぜん、悲劇がおこっていないので、
その盟約の破棄の言葉をいってないがゆえ、いまだに血の盟約は継続中となっています。
あしからず。
※漢字変換等、利用しているというか利用させてもらっているサイト様。
テイルズ、用語集ダウンロードテキスト↓
○○○○://taletalesource.blog69.fc2.com/blog-entry-2553.html
(念のために上部を伏せ)
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重なり合う協奏曲~間欠泉と水の精霊~
ソダ島遊覧船乗り場。
救いの小屋も兼用しているそこは、一階が受付場と、礼拝堂になっており、二階が宿屋となっている。
「あなた方が神子様ご一行ですね!話しはきいています!とりあえずソダ島遊覧船乗り場へようこそ!
ソダ間欠泉の見学にはこの遊覧船が便利です。
というかよそ様で船をかりたりしないかぎり、この方法しかありません。
本来、往復で一人あたり二百ガルドになりますが、神子様がたからお金はとれませんわ。船をご利用になりますか?」
ひとまずまずは受付場にちかより話しかければ、コレットの姿をみてそんなことをいってくる。
それはいいのだが。
「……神子はこっちだよ?」
「え?」
なぜ、エミルをみて目をきらきらさせていっているのだろうか。
たしかに今のエミルの格好はローブを着こんでいるので金髪という点では、神子だという少女にみえなくもない。
それほどまでにエミルはどちらかといえば中性的な雰囲気をもっている。
そのながい髪は今日は前にとみつあみにしてたらしている。
確実に髪をほどけば、女の子、と間違われるというかそうとしかみえない。
「そういえば、エミルも金髪だもんね~。私とエミル、血がつながってるのかな?」
「それはないとおもうよ」
まあ、自分の子供、という点ではそうかもしれないが。
血云々、という繋がりではない。
この世界にいきるすべて存在がエミル、否、ラタトスクにとっては子供といってよい。
ジーニアスがぽつり、といいつつコレットを指差し訂正している最中、
のほほんとした口調でコレットがエミルにといってくる。
「出発するのはもう夜になりますから、明日にしたほうがいいですよ?
今日はここでおやすみになりますか?神子様一行ならばおだいも結構です。
むしろ、神子様がとまった救いの小屋!といって売り出すこともできますし!
本来なら、一人百ガルドいただきますけど、当然無料にさせていただきます!」
『・・・・・・・・・・・・』
「最近、ここにこられるひともすくなくなって、運営が厳しいんですよね…
この前まで、ソダ島の岩の取り除きにネコニンギルドに依頼をしてたのもありますし」
何やら力説してくるうけつけの女性。
神子がとまった、ということを押し出してどうやら今後、営業につかう気満々、らしい。
すでに太陽は沈んでおり、夕闇がおしよせてきている今現在。
たしかに今から海を渡り島にと移動する、というのはあまり勧められた行動ではない。
海岸線にでてしばらくすすんでゆくとみえた建物。
それがどうやら救いの小屋であるらしく、ここにきている今現在。
きになるのは、この小屋の前に壊れたタライがいくつかおいてあったこと、であろうか。
「たしか、ここから海をわたれば、ソダ間欠泉にいけるのだったな」
クラトスがそんな受付の女性にといかければ、
「はい。そうなってます~。ちなみに、さきほどもいいましたけど、
これ意外の手だと、どこかで船をかりて移動するよりほかはありません」
にこにことそういってくる受けつけの女性。
「皆さんは、え~と、一、二……」
コレット、ロイド、ジーニアス、リフィル、クラトス、しいな、エミル、マルタを指差しつつ、
「全部で八人ですね~。女の人が五人に男性が三人ですね」
「エミル、あなた、女の子とおもわれてない?」
「あ…あはは……」
どちらにでもなれるので何ともいえない乾いた笑いをうかべるよりほかにない。
リフィルのことばに乾いた笑いをあげているエミル。
「え?その子、男の子なんですか?なら、男女四人づつ、ですね。
じゃあ、部屋は二つでいいですかね。男女別で。ちょうど四人部屋が今ならあいてます~」
その台詞にリフィルはしばしクラトスと顔をみあわせ、
「なら、それでお願いできるかしら」
「は~い。八名様、ご案内~」
「あ。外に犬がいるんだけどさ」
「はい。きちんと厩もありますよ~。そちらに案内します~」
どうやら、きちんと馬などで移動するひとのために、そういった設備もあるく、
「なら、お願いするよ」
「はい。まかせてください。あ、今晩の食事はどうされますか?」
「本来はどうなってるの?」
「この横の食堂で食べていただくようになってます~」
ここは、観光施設、ということもあり、そういった飲食店も一応設置されている。
もっぱら海の幸を主体とした料理やになるにしろ。
救いの小屋の中からも移動できるその店は、知る人ぞしる穴場。
ディザイアン達にどうして襲われないのか、という事情に、ここにある海鮮料理店にてだされる料理を秘密裏に、
ディザイアンの一部がきにいっているからではないか、という噂すらある。
事実、街道沿いにある…といっても、海岸線沿いにあるここを襲っても意味がないかもしれないが、
すくなくとも、この場は一度もディザイアンの襲撃をうけたことがないらしい。
この建物そのものは二階建て構造になっており、一階部分が礼拝堂となっており、そして簡単な受付場。
さらにはちょっとしたくつろげるスペースらしきものも設置されている。
そして二階にあがればいくつかの小部屋があり、といっても数的にはさほどない。
一行が案内されたのは、その二階の奥の部分。
どうやら四人部屋になっている扉が二つ、平行するようにと並んでいる。
さらに隣の建物では、一階建てでしかないにしろ、大広間状態にし、観光客を雑魚寝で受け入れている、らしいのだが。
まだ早いけども、疲れている、ということもあり、ひとまず食事をすまし、今日のところはひとまず休むことに。
「……なあ、クラトス」
「何だ?」
ベットにこしかけつつ、ぽつり、とつぶやく。
四人部屋であるこの部屋にとまるのは、ロイド、ジーニアス、クラトス、エミルの四人なれど、
今、そのエミルの姿はみあたらない。
近くをすこし散歩してくる、といって彼は一人別行動中。
もっとも、あたしもついていく、といってしいながついていっていたりするのだが。
マルタもついていく、といいはっていたが、なぜかすい魔にかてなかったのか、
そのままぽてり、と眠ってしまい、リフィルがため息とともに部屋につれていって今にいたる。
「何だ?」
隣のベットでは、すでにジーニアスが寝息をたてている。
しかし、ロイドはなかなか眠れそうにない。
「俺、強くなったのかな?」
コレットを守りたい。
しかし、あのときの街の人々の様子。
コレットの体調すら気にせずに、祭りに参加させようとした町の人々。
皆、神子だから平気だろう、というようなことをいっていた。
コレットもまた、そんな人々の期待にこたえようとしていたようにおもう。
その、張り付けたつくりものの笑顔で。
自分もまた、コレットにそれを強いてはいなかっただろうか。
コレットが、神子が世界をすくってくれる。
自分は、あのとき、パルマコスタでそういった。
そのときは何ともおもわなかったが、
体調がわるいのに、神子であろうとするコレットをみていれば、何かが違う、とおもえてきた。
そして、きになるのは、船できいた船員の台詞。
なんで、なら、古代大戦がおわって四千年もたつのにマーテル様はめざめていなく、
また、マナがある時代とない時代があるんだ?
なら、マーテル様は目覚めたり、眠ったりしてるのか?おかしすぎるだろう?
と。
世界を育み、育てたという女神ならば、目覚めたらそんなことになりえるはずがない。
それは彼にとっては確信に近いことだったのだろう。
たしかにいわれてみればそのとおりで。
でも、それをいえば、教会か権威者から異端、といわれ殺されそうになり、
そしてアイフリードに拾われた、そういっていたあの彼の言葉。
何が真実で、何が偽りなのか。
そして、エミルがいっていたあの言葉。
――え?だってあのヒト、ハーフエルフでしょ?
マナの守護塔にて封印を解放したときにいったエミルの言葉。
――は?何それ?でもコレット達のいう括りでいえば、コレットは人でしょ?
今のあのヒトはハーフエルフでしょ?コレットまったくその血筋でもないし
――え?有名ですよ?というか当時の人々も遺跡にそれらの事実を刻んでいるはずですけど。
リフィルさんはみたことなですか?かつての争いの記録を刻んだ遺跡とか
――まあ僕がいうことじゃなかったのかもしれないけど。
けど、まわりにながされて、真実でないものを真実だ、とおもいこまされてたら。
本当の真実をしったときに傷つくのはコレット、それに皆でもあるんだし
あのとき、エミルはたしかに、まわりに流されて、真実でないものを真実だと思いこまされていたら。
そういった。
そのときは何をいっているのかわからなかったが。
あの男の話しをきき、ふと、マーテルを蘇らせる再生の旅、
コレットが封印解放のたびにくるしむこのたびの真偽。
それをまさにエミルはいったのではないか、とあれからずっとロイドの中ではくすぶっている。
思いこまされている。
真実を知らずに、…そう、エクスフィアの真実のように。
ただ、身体能力を、ヒトの限界まで高めて引き出してくれる石。
その情報しかしらなかったように。
そんなロイドの様子をみて、クラトスの中で、ロイドの中で、
この旅、否、マーテル教の教えに疑問を抱いてきていることを確信する。
それでいい。
ロイドは間違えないであろう。
自分達とはちがい、きっと。
「確かに、剣の腕はあがったようだな。だが……」
「だが?」
そんな思いを顔にだすことなく、淡々とクラトスはロイドの質問にこたえてゆく。
「それだけで強くなったとはいえぬことをしっているのだろう?だから、私に聞かずにはいられなかった」
「・・・・・・・・」
クラトスのいい分は、まさにロイドにとっては図星。
ゆえに思わずだまりこむ。
クラトスにいっていいものなのか。
再生の旅とはいったい何なのだ。
マーテルとは、いったい。
なぜ、四千年にわたり、このようなマナがある時代とない時代。
すなわち、ディザイアン達の封印が強まったり弱まったりしているのか。
そもそも、封印、というのもあやしいもの。
戦争の原因になったディザイアンを勇者ミトスが封じ、
ミトスの魂が大いなる実りとなり、それをなげいた女神マーテルは天にきえた。
マーテル教の教えにはそうある。
これまでも幾度もくりかえされてきた、封印の強化と、そのほころび。
「おまえの求める強さ、おまえの求める道が何なのか、それはおまえにしかわからん」
クラトスのいい分はまさにそのとおり。
ロイド自身が答えをみつけなければいけないもの。
「そう、だな・・・」
だからこそ、ロイドはうつむくことしかできはしない。
そのままうつむくロイドをみつつも、
「だが、戦いの技術でもまだおまえの知らぬことがあろう。
仲間とともに戦い、敵を倒してゆく。その先に見えるものがあるのかもしれん」
そのときには、ロイド、私を。
そうおもうその心を押し殺し、ロイドの質問にこたえるクラトス。
「・・・わかった。いつか見つかると信じて今できることからやってみるよ……らしくなかったかな、俺!」
「フ・・・」
あの船の上でまさか精霊ラタトスクの話題がでたことには驚いた。
ミトスがおこした偽りの歴史。
女神マーテルが大地を育んだなんてまっかな嘘。
それをなしえていたのはかの精霊。
彼らはどうやらそこまでは詳しくなかったようではあるが。
それでも、大樹が世界の源だ、というのは皆が皆、理解していたようにおもう。
ミトスが彼らをしれば、まっさきに始末を命じるであろう。
それこそ、マーテル教、という宗教で人々の心をコントロールしているミトスならば。
真実にたどりつく要因たる彼らを見逃しておくはずもない。
「明日もはやい。お前もはやくねるといい」
「うん。わかった。おやすみ。クラトス」
「…ああ。おやすみ、ロイド」
そのまま、クラトスに話しをきいてもらえ、すこしはふっきれたのか、そのままベットにと横になる。
すこしすれば、やがてロイドのもとから寝息らしきものがきこえてくる。
どうやら疲れてはいた、らしい。
「しかし、本当にいったい何がおこっている、というのだ?」
眠れないはずの神子が眠れることも、味覚を感じないはずの食事に味を感じることも。
さらにいえば、あのパルマコスタ牧場よりあの後、まったく魔物にすら襲われてすらいない。
敵度な恐怖を当事者に与え、負の感情をだし、
石の精霊を負によって犯し、それをもってしてその身を無物化へとかえてゆく。
その方法が…あるいみでまったくとれていないといってよい。
マナの守護塔にしても然り。
魔物はいるのにまったくもっておそってもこなかった。
おかしい。
封印の場にいる魔物達は、クルシスの監視システムというかマナの制御装置により、
そこに目をつけたミトスが魔物達を狂暴化させていたはず、なのに。
まるで、そう、まるで統率がとれているかのごとく。
…それこそ、センチュリオン達がきちんと彼らを管理しているかのごとくに。
そして、やはり気になるのはエミル。
エミルの傍にはいつのまにか魔物があつまり、また自然にエミルの手伝いをしていることが多い。
魔物を呼び出すことすら可能にしているあのエミルは。
パルマコスタでみたエミルのあの力。
あの使用した枝。
彼曰く、これは自分にしか使えない、そういっていた、あの木の枝のようなもの。
ミトスにこのままつくか、それとも。
まだ、クラトスの中で確固たる決別はできていない。
このまま、ずるずるといけば、かならず神子はマーテルの器にさせられてしまうであろう。
そうわかっているのに。
しかし、今の状態の神子コレットがどこまで適合するのか。
適合しなければ、ミトスは諦めてくれるのではないか。
そんな淡い期待がないわけではない。
このまま、微精霊達の力によってコレットの体が急激な変化をとげなければ。
しかし、封印解放のとき、強制的にマナは歪められていっている。
次の封印をとけば、彼女は今度は痛覚、すなわち感覚を失うことになる。
「…水の封印の結果による…のか。やはり」
このままいけば、しいなという女性は召喚士の資格をもっている。
ミトスが精霊との契約の誓いをたがえている以上、彼らは契約の上書きを了解、するだろう。
またヒトと精霊達が契約するかどうかは別として。
ミトスとの契約破棄、これはおそらく精霊達も了解するはず。
ならば、マナをそれぞれが分断する、というその仕組みが壊れることとなる。
一つでもそのラインが壊れれば、ミトスは自らの計画を見直さざるをえなくなるであろう。
できれば、そのときに自分の考えを改めてほしい、という思いが捨て切れない。
「…私も、まだまだ甘いな……」
――クラトス!絶対に僕らの手で、大樹をよみがえらせて、世界をすくおうね!
ああいっていたあのときのミトスは…もう、いない。
けど、かつてのミトスに戻ってほしい、というのも本音。
人は、過ちを正すことができる、そうおもえばこそなおさらに。
※スキット~ソダ島遊覧船乗り場到着~しいな、エミル散歩中~※
エミル「で、何だってまた、しいなさんが一緒にきてるんですか?まあいいですけど」
あまりよくないが。
しいな「あたしもよくわかんないよ。あんたに用があるのは、この子だよ」
ぽふん。
その言葉とともに、しいなの目の前に煙とともにコリンが出現する。
コリン「ねえ。ほんと、あなた、誰?あの食事、マナの塊だよね?」
エミル「そういう君の調子はどうなの?」
コリン「え?」
エミル「…まだ、本調子にまではもどらないか……」
マナを直接摂取していけば、おのずと自らの本質も思いだすであろうに。
どうやらまだ、そこまでには至っていないらしい。
しいな「?どういう意味だい?あんた、何を……」
エミル「しいなさんは、その子とどこであったんですか?
珍しいですよね。人工的につくられた人工精霊の器に入れられている子なんて」
しいな「あんた…なんで、それを……」
エミル「え?気配でわかるでしょ?」
それにこのコリンとなのりしものは、本来はヴェリウスであり、
それこそヒトの心を代表しその心を護り司るべき精霊でもある。
コリン「普通はヒトにはわからないんだよ!あのハーフエルフの姉弟でも僕のことはわからないのに!」
エミル「それは、知ろうとしないからじゃないのかな?少しでも世界とかかわりがあれば、わかるとおもうよ。
…人は、世界と繋がりがあることを忘れ去ってしまっているから。
それを忘れているヒトが気付かないだけで。普通は誰でも気付くことができるんだよ」
コリン「??あれ?なんか、どっかで……」
かつて、それを嘆いていたような気がする。
そんな記憶はないというのに。
自分がそう嘆いていたような、あいまいの記憶。
ふと、そんな思いがよぎり、コリンが首をかしげるが。
しいな「…あんた、ほんとうに、いったい、何、なんだい?」
魔物にいうことをきかせられる能力、といい。
しかも、エミルはディザイアンに異形とかせられていたドア夫人を元の姿にもどした、という。
リフィルがいっていた。
エミルは最高位ともいわれる術のひとつ、レイズ・デッドを使用した、と。
その詠唱はきいたことすらなかったものであった、ということも。
コリンがいうには、あのハイマにて、瘴気を消したのも彼ではないか。
といっている。
なぜ?ときくが、何となく、としかコリンもこたえられない。
間違えようのなかった大樹の気配。
今はその気配はまったくエミルからは感じられないが。
エミル「…僕は僕でしかないですよ。しいなさんがしいなさんであるように、ね」
しいな「またその返答かい。返事になってないだろうが」
エミル「あはは。でも、事実でしょ?それより、しいなさんは、前にといかけた質問の答え、みつかりましたか?」
それは、この世界についての問いかけ。
彼女が本当はどうしたいのか、遠まわしではあるがしいなにといかけたエミルの言葉。
しいな「あたしは…あたしは、本当はこんな世界間違ってる、とおもう。
誰もが犠牲にならなくてすむ世界があるのなら…そうなってほしいよ」
マナを搾取しあい、どちらかの世界が犠牲をしいられる。
この世界のありようはしいなからみても歪んでいる。
その事実をしらされれば、特にそうおもってしまう。
エミル「…なら、それを素直に口にすれば、しいなさんの懸念は一つは解放されるとおもいますよ」
しいな「それは、どういう……」
エミル「さてと。そろそろもどりましょうか。あまり長く留守にしても、皆に心配かけちゃいますし」
しいな「あんたを心配するのはあのマルタって子なんじゃないかい?」
エミル「マルタは今ごろは夢の中じゃないですか?」
しいな「…そういえば、あんた、あのとき、マルタに何をしたのさ?
すぐに爆睡するなんて、あんたが何かしたんだろ?」
あのとき、エミルのほうにかけよったマルタだが、崩れ落ちるようにしてその場に倒れそうになった。
あわてたが、寝息をたてていたことから、疲れているのだろう、とはクラトスはいっていたが。
それにしてはタイミングがよすぎたといってよい。
エミル「僕は何もしてませんよ」
そう。
嘘はいっていない。
何しろマルタを眠らせたのは、なぜかマルタの態度に憤慨したアクアなのだから。
※ ※ ※ ※
「…たらい、だよな?」
「たらいだ……あの叔父さんのいってたのって…本当だったんだ……」
「…たらい、か」
唖然とした、ロイド、ジーニアス、そしてクラトスの呟き。
ソダ島へと渡る遊覧船がある、という桟橋。
が、そこにあるのは、どうみてもちょっとした大きさのタライ。
どこからどうみても、木製の丸いそのつくりのそれは、タライである、としかいいようがない。
むしろそれ以外にみえるものがいたらきいてみたい。
よくよくみれば、海岸沿いにいくつものタライらしきものが積んでいるのがみてとれる。
先日、この場にきたときに、観光客の一人がいっていたことを思い出す。
ここ、ソダ島にくるにはタライにのってが主流だ、と。
「うわぁ。面白そう!あの話しをきいたとき、私挑戦してみたかったんだ!」
一人、対照的にはしゃいでいるコレット。
「こ、こっちの技術っていったい……ちょっとまちなよ。まさか、ここからあの島までいくっていうのか!?」
目的の島は、かろうじて目線にて見えるかみえない程度の位置にある。
それでも水平線の彼方であることは疑いようがない。
きちんと安全管理されているアトラクション、としてならゆるせるが。
もしかしてこの広大なる海をこのたらいで渡れ、というのだろうか。
どう考えても普通なら無事にたどり着けるはずのない距離というか、しかも、このタライについているのはオールのみ。
つまり、オールをこいで島にまでいけ、ということに他ならない。
しいなの叫びはしごく最も。
「…勇者ミトスの奇跡がおきないかな……」
「ああ。絶対絶命のときに海がわれて、勇者ミトスをたすけたという?」
「おう。たしか、それで勇者ミトスは別の大陸にわたれて難を逃れたっていうだろ?」
勇者ミトスの中でも、彼が女神マーテルの加護をうけている、といわれている逸話のうちの一つ。
「・・・・・・・・・・・・・・」
そういえば、あのとき。
アクアも彼らが気になっていたのか、力をかしていたな、とふと思い出す。
まだあの当時、彼らは自分…すなわち、ラタトスクのことは知らなかった。
が、ウンディーネとの契約を結んだ彼らのことを、アクアは少しばかり興味があったらしく、
ちょくちょくみていたことはしっている。
そして、彼らの手助けをしたことがあったな、と当時のことを思い出す。
ヒトにあまり深入りするな、ヒトは我らの力をことごとく利用しようとするのは、お前とてわかっているだろう。
とそのとき、アクアをよびつけて、懇々と説教をしたのもまた覚えている。
エミルがふと、かつてのこと…ミトス達がまだ、勇者とよばれし前のことを思いだしていると、
「わ、私はここでまっています。さあ、皆でいってらっしゃい」
少し顔色もわるく、しかも一歩後ろにさがりつつ、リフィルがそんなことをいってくる。
「?どうしたんだよ。先生」
「別に。何でもありません。よくって?私はのりません」
ロイドが首をかしげといかけるが、リフィルはびしゃり、と言い放つ。
「先生。面白そうですよ。のりましょうよ~。私、前に話しをきいてみて、のってみたいっておもってたんです~」
そんなリフィルににこにことコレットが話しかけているが。
「話、といえば。もうあの岩は取り除かれたのかな?」
ジーニアスがふと思い出したらしく、ぽつり、とつぶやけば、
「募金箱がなかったからな。おそらくは取り除かれたのではないか?
たしか、あの救いの小屋兼船乗り場受付場にて募金を募っている、といっていたはずだが」
実際、宿屋となっている場所にも、受付場にも、さらには礼拝堂のどこにも、そのようなものはみあたらなかった。
あのとき、あの人物がいっていたことが正しければ、
救いの小屋内においてギルドに依頼するための募金が募られていたはずである。
それがなかった、ということは、おそらく目標金額を達成し、ギルドに依頼を果たしているのであろう。
「そっか。とりあえず。いこうよ、姉さん」
クラトスの言葉にうなづきつつも、姉の手をにぎるジーニアス。
「きゃっ」
ジーニアスが手をにぎり、ひこうとしたその刹那。
リフィルの口から短い悲鳴のような声が洩れいでる。
「「「きゃっ?」」」
そんなリフィルの声に驚いたらしく、
クラトス、そしてしいなまでもが口をあけたり、目をぱちくりさせたりしてリフィルを眺めているのが目にはいるが。
ロイドにしてもまた然り。
「…きゃ?先生…まさか、水が怖い…とか?」
たしか、以前、両親と旅をしたときに海に投げ出されたのが原因、とかいっていたような。
かつての旅の中できいたリフィルの水嫌いの理由。
まあ、今はきいてもいないので自分が知っているのはおかしいが、
大地の記憶を読み取れば、また海の記憶をよみとれば、知ることが不可能、というわけではない。
しかし、ロイドの言葉を認められない、のであろう。
あくまでも去勢をはりつつ、
「きゃあ、楽しみ!といいかけたんです!」
そう断言し、そのままつかつかとタライのほうにむかっていき、そのまま勢いのままにタライにととびのり、
「ほ~ら、ちっとも怖くなくてなくてよ!ほ~ほほほほ!」
しかしそれがたらいのはしにしがみつき、微動だにしないままでいっていれば意味はない。
「…無理しちゃって、姉さん、声が裏返ってるよ……」
「…いじっぱりだなぁ」
「ふ」
「へぇ。あのリフィルにも怖いものがあったんだ。意外だよ」
呆れたようなジーニアスに、ロイドもまた苦笑せざるをえない。
クラトスもかるい笑みをめずらしく浮かべていたりする。
リフィルの顔色ははたからみてもわかるほどに真っ青になっているのに、
あくまでも弱みをみせようとしないのはリフィルらしいというか何というべきか。
「それで、どうするんですか?あ、僕、ノイシュと一緒にのりますね」
「え?でも、エミル……」
自分が一緒に乗ろうとおもっていたのに。
ロイドの言葉に。
「ロイドはコレットと一緒でいいんじゃない?リフィルさんは、あの様子だと、一人じゃ心配だし……」
「え~、この変な動物の馬鹿ぁ!せっかく狭い空間でエミルと二人っきりになれる機会だったのにぃ!」
マルタがひとり、おもいっきり頬をふくまらせ文句をいっている。
「…ああ、なるほど」
マルタ対策で、ノイシュと一緒といったわけね。
たしかに、ノイシュの体はおおきく、一緒にのれば、もう一人追加、というわけにはいかないであろう。
マルタの必要な王子様発言をかるくいなしているエミルをみているがゆえ、ジーニアスはそれだけで納得してしまう。
「私がリフィルとのろう」
ため息とともにクラトスがそういい、動こうとしないリフィルがのったタライにと乗り込む。
みれば、やはりリフィルは完全に腰がひけている。
というか、みたところ確実に腰をぬかしている模様。
「……は~」
誰にともなくクラトスはそんなリフィルの様子をみてため息をついてしまう。
いつもは冷静沈着である彼女にもどうやら苦手なものは存在していた、らしい。
そうつくづくクラトスは思ってしまう。
当人はこれでバレテいない、とおもっているようだが、どうみてもバレバレ、である。
「なら、コレットは俺とだな。ジーニアスはどうする?」
「しいなは?」
ロイドにいわれ、ジーニアスがしいなにと問いかける。
「あたしは、このこと一緒にのるよ」
「む~。え?わたし?」
いまだに、エミルと一緒に移動する、という権利をノイシュに奪われ、
文句をいいまくっていたマルタが、しいなの言葉にきょとん、とした表情をうかべる。
「あんた、どうみても箱入りだろ?こんなの慣れてないだろ?」
そもそも包丁すら握らせてもらっていなかったという彼女が、こんなことに慣れているはずもない。
というか、確実に彼女がこのオールをこいでも、転覆する。
それはもう確信。
それをわかっていて、ほうっておけるほど、しいなは非情ではない。
「じゃ、僕一人?…ま、いっか。…そのほうが気楽だし」
人のおもみでタライが転覆しては、もともこもない。
結局のところ、エミルがノイシュとともにのり、ロイドはコレットと。
クラトスはリフィル、そしてしいなとマルタ。
そしてジーニアスは一人、計五隻のタライにて、一行はソダ島へと向かうことに。
「く~ん、く~ん……」
こわい、こわい、溺れる、溺れる。
そういいつつ、その体をふるわせる。
そんなノイシュをみつつ、ため息ひとつ。
「あのな。お前は以前の生体系をうけついでるだろうが。というか、忘れてるだろ。絶対に」
「くぅ」
あ。
と短い声をあげるノイシュに対し、
「…わすれてたな。やっぱり」
思いっきりため息をついてしまう。
ちなみに、オール等には何も手をつけていない。
というより、むしろ勝手にタライが動いているといってよい。
正確にいえば、タライの下にもぐりこんだ魔物が動かしているのだが。
あの戦いの中、無事に生き延びたプロトゾーン。
そのほとんどが戦いに利用されないために海に還る、という選択をした中で
地上にのこった彼らが生き延びたのはほんのわずか。
そもそも、彼らは海にて誕生した生命体。
なのに水を怖がる、というのはいただけない。
「…おまえ、もう少し、今度は心を強くしたほうがいいぞ?
ヴェリウスが力を取り戻したらお前の精神力の強化をいってみるか?」
「きゅわん!?」
えええ!?
「何をいう。そもそも、今のままではお前もだめだ、とわかってるだろうが」
「きゅううう」
ぴしゃり、といわれ何ともいえなくなってしまう。
たしかに、王様のいうとおりだけど。
主人と仰いでいたクラトスは王のことに気付いていない。
そして、主人に託された子供も、そして子供の仲間達も。
「きゅわおん?」
王はどうなさるおつもりですか?
傍にいる以上、何らかの目的があるのだろう。
その正体を隠してまでここにいる理由はノイシュにはわからない。
そもそも、彼はかの地から動いたことすらなかったのだから。
知っているのは王の分霊体たる蝶が世界を見回ってということ。
なのに、どうみても自ら実体化し地上にでてきているその意図がノイシュにはわからない。
「…いつまでも、この現状をしった以上、ほうっておくことはできないからな」
それは本音。
世界の歪みが取り返しがつく段階で手をうたねば面倒なことになるのは目にみえている。
地殻にはいまだにかつてこの惑星がたもっていた瘴気は健在。
もしも地上が歪みにより壊れでもすれば、瘴気は瞬く間に地表を覆い尽くすであろう。
それこそ扉とは関係なしに。
「まあいい。お前は無理をするなよ?いざとなれば海に還るがいい。いいな?」
「きゅううん……」
それは王なりの優しさだ、とわかっている。
彼らプロトゾーンはのその意思にて進化を退化させることすら可能の生命体。
たしかに海に還ってしまえば、地上のわずらわしさからは逃れることはできるであろう。
そう、かつてのノイシュの仲間達がそうしたように。
でも、ノイシュはロイドの誕生のそのときから、ロイドの傍にいる。
ミトスが戦争を止めようとしたあのときも、
クラトスがテセアラに仕えていたときからノイシュはクラトスに飼われていたのだから。
人の変わりようもまのあたりにした。
かの地、彗星内部において、天使達はたしかにノイシュには優しかったなれど。
しかしそこに感情がこもっているものはほとんどいなかった。
ただ、命じられたから、ノイシュの世話をこなすだけ。
クラトスが地上に戻る決意をしなければ、ノイシュも考えていたかもしれない。
このままここにいるわけにはいかない、と。
自らを進化、もしくは退化させることを選んだであろう。
しかしそれは、もしもの話し。
結果として、クラトスはアイドラ…コレットの祖母、ファイドラの姉の一件により、地上に降りることを決定した。
ミトスと完全に懐をわかつために。
ノイシュはずっと間近でみてきたのである。
「…まあ、お前の気持ちはわからなくもないがな。
人とは、もろく…そして強い。しかし、残虐なことを平気でおこない、世界を破滅させようとするのもまたヒトでしかない。
方向性さえまちがわなければ、より自然と共存できる、というのに、な」
それは様々な世界創造において常におもっていること。
そのままそっとノイシュの体をなでてやる。
「きゅ~……」
王……
ノイシュはそんな王の言葉に何といっていいのかわからない。
視線の先では、クラトスがオールをこぐ最中、
リフィルが死にそうな顔にて、そのままクラトスの足もとにしがみついている光景も。
女性らしいところもあるのだな、などとクラトスが小さく呟いている言葉すら、
今の状態のリフィルにはどうやら届いていない、らしい。
「…どちらにしても、世界は元の姿、あるべき姿にもどす」
王がそういうのならば、確実にそうなるのであろう。
ノイシュはただ、その言葉にうなだれるよりすべはない。
ソダ島。
以前きたときにもロイド達は感じたことだが、やはり殺風景な島、という印象がやはり強い。
「…やっとついた…のね……」
ぐったりとした様子でリフィルがつぶやく。
みおぼえのある島と、そして残橋がみえ、そこに接岸したのはつい先ほど。
「面白かったね~。ロイド」
コレットはロイドがオールをこぐのに、私もやってみたい、
といい、幾度かオールを操作し、ぐるぐるとタライがその場にて回転したり、
ということもあったのだが、それらを含めて面白かった、といっているらしい。
「海水がはいってきて転覆するかとおもったよ!」
ジーニアスがそれにきづき、ロイドが止め切れていない、と判明し、
止めようとして、とばっちりをうけ転覆しそうになったのはつい先ほど。
コレットはそのことについて反省しているのかいないのか。
「ほら、先生」
「あ。ええ。ありがとう」
「貴重な体験だったな」
先に到着していたロイドが、いまだにタライの中でかがんでいるリフィルにと手をさしのべる。
いつものリフィルならば自分でします、というのだろうが、今のリフィルにはどうやらその余裕すら残っていないらしく、
そのまま素直にロイドの手をのり、タライから残橋の上へとひきあげられる。
その間、クラトスがタライが転覆しないようにバランスをとりつつも、
リフィルが残橋にあがったのを確認し、クラトスもまたタライから残橋へ。
「というか、こっちの移動手段って…遊園地のアトラクションならともかくさ」
しいながため息とともにぽつり、とつぶやく。
安全手段が確保されていない中でのタライによっての海の移動。
転覆などしたらどうするのか。
こちらには海上保安官なるものがいるのかすらもあやしい。
「う~。でも、しいなのおかげでたすかった~」
「どうかしたの?マルタ」
マルタがしんそこほっとしたようにそういうのにきづき、ジーニアスがといかけるが、
「以前、ここにパパ達ときたときに、パパが私とのる、ときなくて。
でも、パパがタライにのったとたん、タライがずぶずぶと沈んでいってね…」
「「「・・・・・・・・・・・・・」」」
あの身長もあり、あるていど体格もいい彼ならばありえそう。
思わずその言葉に顔をみあわせる、ロイド・ジーニアス、コレットの三人。
「ずぶずぶって、どうなったの?それから」
きになったらしく、ジーニアスがその先を促すが。
「パパはそのまま海におちちゃって。でも私に間欠泉をみせるんだ~!
とかいいだして、ママと私がかなりなだめすかしてどうにかしたんだけど。
最終的には、ママがパパを眠らせて、そのまま気絶させたままあの救いの小屋をあとにしたんだけど」
「マルタの母親って……」
何だろう。
何となくおもいっきり、鈍器でおもいっきり頭をなぐって黙らせている様子がふとうかぶ。
どうやらその思いはロイドも同じであったらしく、ジーニアスと顔を見合わせて乾いた笑いをあげている。
いや、でもまさかな。
もしも、今マルタから感じているこの感覚が確かなれば、相手を眠らせる技をしっているはず。
なのに、なぜだろう。
実力行使をしたのだ、という妙な確信があるのは、これいかに。
「と、とにかく、先にいかない?」
これ以上話しをつづけていれば、その予測を裏付けてしまう言葉がマルタの口から語られかねない。
ゆえに、それとなく軌道修正をかねて提案するエミルの台詞に、
「お、おう。そうだな」
「うん。僕も賛成~」
ロイドとジーニアスも同じ思いであったのか、エミルの言葉に即座に賛成してくる。
「…ママがパパの頭を杖でなぐって……」
きこえない。
実力行使していたという事実は聞こえていない。
うん。
『へぇ。あの子の母親、けっこうやるじゃない』
…アクア、たのむから、見習うな。切実に。
その言葉をきき、影の中よりアクアが感心したような声をあげているが。
たしかに、アクアもよくそういった行動はする。
するが、見習ってほしくない。
切実に。
そんなエミルの思いは当然誰にも知られることなく、
そのまま今のマルタの呟きは、どうやらロイド達も無視、というか聞こえなかったこと、にしたらしい。
そのまま、残橋から島へつづく道へと移動してゆく。
かつて、シムルグにのった場所である桟橋。
今回はそこに本来のここにくる手段、すなわちたらいにのって接岸した。
その先にはみおぼえのある『この先、間欠泉』とかかれている看板が。
「へぇ……」
そこに案内版らしきものがあるのをみてとり、それをまじまじとよんでいるしいな。
そこには間欠泉の由来というか仕組みが簡単に書かれていたりする。
「…本当にお湯が噴き出てるよ……」
定期的に吹きだしている間欠泉を目の当たりにし、しいなが何やらぽそり、とつぶやいているのがみてとれる。
「すご~い、すご~い。今度、パパをおいてママとここにくるのもいいかも」
マルタはマルタで、ブルートがきけば、おそらく確実に絶句するか泣くだろう、
というようなことをいってはしゃいでいるのがみてとれるが。
「あれ?」
「どうした?神子」
「この前、はいれなかった場所がはいれるようになってるみたいです」
たしかに、前回きたときには立ち入り禁止となっていた展望台につづいている、という階段。
そこに張られていたロープも、そしてそこをふさいでいた大きな岩は今は見当たらない。
「あ。ほんとだ。たしか展望台につづいているという階段、だよね。あれ」
「前きたときには岩でふさがれてたからなぁ」
「ネコニンギルドに依頼するとかいっていたから。きちんと岩は取り除かれているようね。
まずは、あの展望台というところにいってみましょう。
前回きたときにいかれなかったところを重点して探してみて、
何もみつからなければ、次なる手段を考えるよりほかにはないわ」
最悪、自分が手にしている品と交換で、かの書をみせてもらう、という交渉も考えなければいけないであろう。
そんなことを考えつつも、たしかに前回見れるところは一応確認はしている。
ならば、前回確認できなかった場所を、ということで、そのまま階段をのぼっていき、展望台へ。
「いらっしゃい。雑貨は必要かね?」
以前にこの場にきたときはいなかった露店商人。
みれば、以前よりも観光客の数も増えている。
周囲をみれば、同じ目的、なのであろう。
数名の他の観光客達の姿がみてとれる。
そんな彼らにたいし、営業しているらしい露店商人らしき姿もそこにはある。
たしかに展望台、といわれていることはある。
高台から眺める間欠泉は圧倒的で、間欠泉が噴き上げるたびに、小さな虹が出現しているのがみてとれる。
この場はその虹と間欠泉がちょうど重なってみえるあるいみ絶好の場所といってよい。
だからこそ、ここを展望台にしている、のであろうが。
「あれ?」
「どうしたの?コレット」
いきなり、ふときょろきょろと周囲をみていたコレットが声をあげたのをうけ、ジーニアスが首をかしげつつ問いかけるが、
「あの、掲示板みたいなところにある、あの石板……」
ふとコレットが虹とかさなる間欠泉をしばし眺めたのち、
展望台の奥のほうにある掲示板がある場所のほうをみて少し首をかしげる。
何か、そう、何かみおぼえのある何かがそこにある。
「そういえば、なんかあるな。あれがどうかしたのか?」
ロイドの視線にもたしかに何かみたことあるような石碑らしきものがみてとれるが。
しかしロイドはそれが何なのかまだわからない。
「なんかみたことがあるような気がして。…きのせいかな?」
「ふむ。まずはいってみましょう」
いまだ、間欠泉をみてはしゃいでいるマルタはそのままに、コレットがきになる、といっていた掲示板の元へ。
「あ、これ。何とかって石板じゃないか」
「神託の石板だな」
「わ~。だからみおぼえがあったんだ~」
「おお!これぞまさに神託の石板!」
いきなりのリフィルの大声に、この場にいた観光客の誰もが、何ごとか、とおもいリフィルのほうにと視線をむける。
彼らの目にうつりしは、大人と子供達を含めた旅業の一行の姿。
そのかたわらには、あの動物何?とおもう大きな何か、が傍にいるが。
その姿をみて思わず皆が皆、同じ思いにかられていたりする。
中には、
「もしかして…」
といっているものの姿も。
パルマコスタから発生した噂の一つにこういうものがある。
再生の神子の一行の傍には、何の動物かはわからないが、
巨大な何か犬のようで犬でなく、少し大きめの不思議な動物がいる、と。
「そうか!ここが水の封印なのだな!くくく、すばらしい!」
皆の注目が集まっていることに気付いていないであろう。
興奮したように高らかにいいはなっているリフィル。
その言葉にこの場にいた観光客の大半が、息をのんだことにすら気づいていないらしい。
「…ノイシュ。ここにのこりたい、というのは却下だからな。こんな状態の民衆のもとにお前はおいてはいかれない」
おそらく、ノイシュはこの場にのこりたい、というであろうが。
リフィルの言葉に人々が気付いている以上、そんな中にノイシュ一人を残していくわけにはいかない。
ノイシュの傍にちかより、ノイシュにもわかる魔物達に通じる言葉にて語りかける。
「きゅう……」
あるいみで絶対的な命令。
それゆえにノイシュからしてみればうなだれるよりほかにない。
「ラッキー。再生の書なんていらないんじゃないか?この調子だと」
「しかし、今後のことを考えれば必ず入手したほうがいいのは事実だろう」
「馬鹿だな。ロイド。姉さんは何よりも古代文明優先なんだから」
人々の注目が注がれていることに気付かないのか、そんな会話をしているロイド、リフィル、ジーニアスの三人。
そんな中、
「じゃあ、石板に手をおいてみるね~、せ~の」
コレットが石板のくぼみに手をおくと、ズバーン、という勢いのいい音とともに、間欠泉の向こう側。
すなわち岩場の向こうの壁の一部というか巨大な一枚岩が崩れ落ち、そこにぽっかりと洞窟への入口が出現する。
続くようにして、
コレットの足元から入口へいざなう水でできた道が間欠泉の真上にとかかり、洞窟へと一直線にのびてゆく。
『おおおおお~~!』
声の主は、ロイド達と、そしてそこにいた全ての旅行客のもの。
「あれが、神子様」
「再生の神子様よ!」
とかいっている声もきこえてきているが。
「すご~い、私、歴史的瞬間にたちあってるのよね。ね、エミル!」
「…な、なんで僕に同意をもとめるのさ」
あのときと違い、自分以外にもヒトはいる、というのに。
マルタが同意を求めるのならば、リフィルのほうがいいような気がする。
切実に。
ゆえに、そういうエミルは間違ってはいない、のであろうが。
「エミルは乙女心がわかってないね~」
そんなエミルをみて、しいなが何やらいっているが。
というか、煽らないでほしい。
マルタはすぐに調子にのるところがある、のだから。
「くくく。さっそく調査にむかおう!」
高らかにいいつつ、その足を水の橋の上にとのせるリフィル。
ふにゃん、とした感覚ではあるが、重みにて水の橋が壊れたり、もしくは踏み抜くようなことはおこらないらしい。
「…調査じゃないだろ。調査じゃ」
橋の下からは、あいかわらず、定期的に水蒸気が噴き上げてきている。
この橋のかかっている部分は間欠泉が噴き出す真上ではないにしろ、
それにともなう水蒸気はどうしても周囲に霧散している。
「これのほうがあのタライよりよほど危険だろ…うわっ!?」
恐る恐る水の橋に足を踏み出し、歩きだそうとしたロイドだが、
おもわずバランスを崩し、そのまま落ちそうになってしまう。
そんなロイドの手をすかさずにぎり、体勢をととのえさせているクラトスの姿。
「どんなときも気をぬくな。生き残りたくばな」
ロイドにそんなことをいっているのがみてとれる。
「あ~あ~。あんたは完璧だよ。どうせあんたは俺みたいに失敗なんてしねえんだよな」
たしかに今、クラトスが体勢を元にもどしてくれなければ、間欠泉が噴き出るこの橋の下におちていたかもしれない。
が、そのクラトスのものいいに、ロイドはかちん、ときてしまう。
どうせ俺は失敗ばかりであんたは失敗なんてするはずないから、失敗する俺の気持ちなんてわからないさ、とばかりに。
「……私にもミスはある。大きなミスを犯している……」
そんなロイドの思いがわかった、のであろう。
クラトスが多少目をふせつつも、そんなことをいっている。
「?へ?」
「何でもない。今のは失言だ。ゆるせ」
「失言?いまのが?わかんねぇなぁ」
そのままいい、クラトスもまた水の橋をわたってゆく。
そんなクラトスをみて首をかしげているロイド。
「……クラトス……」
ならば、どうして、今からでもおそくないのに。
なぜにそれを訂正しようとしていないのか。
オリジンの封印に使われしマナはあきらかにクラトスのもの。
マナの檻。
なぜそこまでする必要があったのか。
自分達精霊を裏切っただけでなく。
クラトスのいう大きなミスとはおそらくそのことなのだろう。
それ以外のことも含めて、なのかもしれないが。
ミトスを、いさめることのできなかったことを含めて。
「エミル?」
「何でもない。いこっか。いくよ、ノイシュ」
「…わふっ」
そんなエミルの様子にきづいたのか、マルタが首をかしげてといかけてくるが、
そのままノイシュの肩に手をおき、ノイシュをうながすエミルにたいし、
「あれ?エミル。ノイシュもつれてくのか?」
「こんな状況で、ノイシュ一人をのこしていけ、と?」
エミルにいわれ、ふとみてみれば。
なぜか、そこには、ひざまずいていたり、祈りをささげていたりする観光客の姿が。
「うわ!?何だこれ!?」
「…神子、というのがバレタみたいだね」
しいなもその光景に覚えがあるがゆえにぽつり、といわざるをえない。
しいなのしる神子もまたこのような光景によくであっている。
テセアラとシルヴァラントという世界の違いがあれど、人々にとって、神子とはやはり雲の上の存在、であるらしい。
ロイドはどうやら人々の様子にすら気づいていなかったらしく、驚きの声をあげているが。
「興奮したヒトは何をしでかすかわからないからね。それなら、一緒にいったほうが安全、安心でしょ」
「あ~。たしかに。ノイシュがおびえて、間欠泉の中にダイビングしても困るしね」
ジーニアスもエミルのいわんとするところがわかったのであろう。
人見知りをし、臆病なノイシュが人にかこまれれば、そのまま混乱し、間欠泉の中に飛び込んでしまいかねない。
それは、ノイシュの死を意味している。
と。
「どうした!おまえたち!はやくこんか!くくく。ああ、どんな遺跡なのだろう。お前達、はやくこい!」
道を渡り終えたらしいリフィルが洞窟の入口の前にて何やらさけんでいるのがみてとれる。
「とにかく、いこ」
たしかにエミルのいうとおり。
ここにいつまでいてもしかたがない。
それゆえに、そのまま、足元にきをつけつつ、それぞれ現れた水の橋をわたってゆくことに。
全員が道を渡り終えると、自然と水の橋はまるで始めからなかったかのようにときえてゆく。
「あ!道がきえてる!」
それをみて、ロイドが思わず叫び、
「ほんとだ。どうやってかえるんだろ?」
ここから飛び降りる、というにしては距離がありすぎる。
というか、それ以前に確実おちて、間欠泉によって熱死する。
そんなロイドやジーニアスの会話をききつつも、
「…神子に反応して道が復活するのではないか?」
クラトスがぽつり、とそんなことをいってくる。
「コレット、やってみて!」
マルタが目をきらきらさせて、コレットにいえば、コレットが洞窟の入口にある足場の先にとたつ。
それとともに、その橋がかかっていた二つの石碑らしきものがあわく輝き、それとともに、再び水の橋が出現する。
みたところ、石に反応し、橋が出現する仕組みをとっているらしい。
「すっげ~、何かかっこいいな!」
その仕組みにまで気づいていないのか、ロイドがはしゃいだ声をあげているが。
岩が取り除かれ、そこから現れた洞窟の中にとはいると、水場特有のひんやりとした空気が辺りにと満ちている。
人の手が加わっていることを示すかのごとく、通路となっている左右には、白い柱がいくつか並んでいるのがみてとれる。
が、その白い柱の上にあったであろう、石の柱は壊れており、土台部分しか柱はこの場には残っていない。
どうやらこの洞窟は、地下に、地下に続いているらしく、少し端によれば、そのまま下に落下しかねない。
申しなけ程度にところどころ、柵らしきものがあるにしろ、それも完全ではない。
入口付近にはいくつもの柱の土台があるのがみてとれるが、それ以外の場所にはそうそう土台もみあたらない。
「契約か~。どんなことをするんだろうな!はやくみてぇ!」
洞窟の中にはいり、ロイドが興奮したようにいってくる。
「…本当に契約するのかい?」
そんな彼らにたいし、しいながぽつり、とつぶやくが。
「契約って何?」
マルタはその意味がわからずに首をかしげるのみ。
「何いってんの?しいながいいだしたんでしょ?しいなはね。ここにいるであろうウンディーネと契約する予定なんだよ」
そんなしいなの言葉にジーニアスがあきれつつもいい、マルタの疑問にこたえるべく、簡単に説明していたりするのだが。
「精霊との契約!?なんか素敵!」
マルタがその言葉をきき、目をきらきらさせる。
「私の遠い、遠い御先祖様も精霊と契約したっていう話しだよ」
「そうなの?マルタ?」
「うん。ママがいうには、この大地にたどり着く前、その前の世界、というけど。その意味が私にはよくわかんないんだ」
コレットが首をかしげてといかければ、マルタが首をすくめていってくる。
「?何それ?大地にたどり着く前とか、その前の世界、とか」
ジーニアスも首をかしげざるをえない。
「まさか…いえ、まさか…ね」
リフィルのみが何かに気付いたらしく、ちいさくつぶやいているのかみてとれるが。
「ふむ。おじけづいたか?」
そんな彼らの会話とはうらはらに、クラトスがしいなにと問いかける。
「う、うるさいね!」
そんなクラトスにたいし、しいながおもわずムキになりつつ言い返す。
「コレット。お前は…封印を解放してもいい、のか?」
二度の封印解放のあと、コレットは倒れた。
それゆえに心配しつつロイドがといかける。
「うん。大丈夫。心配してくれてありがとう」
そんなロイドにコレットはにこやかにほほ笑むのみ。
「?神子様しか封印解放できないのに、何いってるの?」
マルタはそんな事情をしるはずもなく、ただ何いってんの?こいつ。
というような表情でロイドを見て言い放っていたりする。
「とにかく、先をいくぞ!ふははは!この先がどうなっているのか楽しみだ!いざ、調査にいかん!」
「だから、調査じゃないだろ……」
一人、はりきるリフィルの言葉に、ぽそり、とつぶやいているロイド。
そのまま、リフィルが先にすすみだしたのをうけ、ロイド達もまた、奥に進んでゆくことに。
ゆるやかな下り坂。
その先に階段があり、それをおりてゆけば、さらにまた緩やかな下り坂。
「お!宝箱があるぞ!」
ロイドがすばやく、柱の陰にある宝箱らしきものにきづき、ちかづいていき。
「すげ~、これ何だろ?」
その中から勝手に品物をとりだしてそんなことをいってくる。
「人魚の涙ではないか!すばらしい!」
リフィルがそれをひったくり、またまたテンションをあげている。
「?ねえ。なんか、リフィルさん、おかしくない?」
マルタがさすがにおかしい、ときづいたらしく、首をかしげていっているが。
「…うう。マルタにもばれた……姉さん、遺跡マニアなんだ。で、遺跡とかみたらあんなふうに……」
「そこ!マニアではない!学者といえ!」
ジーニアスのため息まじりの説明がきこえたのか、すばやくリフィルから訂正の突っ込みがはいる。
「……リフィルさんがリフィルさんでないみたい」
そんなリフィルの姿をみた、マルタがぽつり、とつぶやけば、
「それはあたしも同感だよ。まあ、学者気質ってやつはおおまかあんなさ」
「そうなの?しいな?」
「ああ。あたしのしってる奴らもそうだからね。…まだ、解剖だの、実験だのと言いださないだけまし、とおもうよ」
それに加え、人体実験なども加わっているのだから洒落にならない。
しいなとマルタがそんな会話をしている最中、
「おお!ここもすばらしい!」
リフィルがみているのは、小規模なれど、間欠泉が噴き出している場所。
みれば、柱の周囲から間欠泉が噴き出しているらしく、元々は足場であったのであろうが水に浸り、
そこにお湯がいきおいよく数か所から吹きだしているのがみてとれる。
その空間をぬけ、さらに先にすすんでゆくと、やがて、これまで薄暗かった洞窟が一気に明るさをましてゆく。
それまでは普通の足場でしかなかったものが、足元が完全に人の手がくわわっている、とわかるわどに、
しっかりと石で敷き詰められた床となっている。
「すばらしい!ソダ間欠泉の中にこんな遺跡があるとは!そもそも、なぜここに神殿をたてることになったのだ?
ここでなければいけない理由でもあるのか?う~む、興味深い!」
目をきらきらさせ、周囲をいったりきたりはじめるリフィル。
「…先生~、俺達は封印解放にきてるんだろ?早くいこうぜ~」
たしかに、この場は今までの場と違う。
どうみても人の手がくわわっている。
しかし、だからといってここにはリフィルの為にきたわけではない。
あくまでも封印解放、そして精霊の契約を果たすためにやってきたのだというのに。
そんなロイドの問いかけに、
「何だと!ロイド!お前は知的好奇心がないのか!遺跡を前に、歴史や古人におまいを馳せないのか!
そもそも、ここの石碑をみてみろ!あきらかに古代語らしきものが記されている!
天使言語とは異なるが、しかし、この模様はいったい?」
近くにある石碑らしきものに文字と紋様が刻まれているのにきづき、リフィルがそれをしみじみながめはじめる。
「そ、そんなこといわれたって……」
「しかし、なぜ、なぜだ!なぜこれほどの遺跡に、壁画や石板といった先人の記録がのこっていないのだ!?
これはどうみてもその部類ではなさそうだし」
何やらぶつぶついいはじめているリフィル。
「…というか。神子しか入れないから残したって仕方ないからじゃないのか?」
たしか、リフィルがそういっていたはず。
封印の場は神子にしか封印がとけない。
と、ならばそんなものを普通残せるはずもない。
「ロイド!」
いきなり名をよばれ、がしり、と肩をつかまれ、ロイドはおもわずびくり、としてしまう。
「は、はははい!?」
声が裏返っているのは、怒られるかもしれない、という思いがあるがゆえ。
咄嗟的に頭をかばっていることからもそれがうかがえる。
「なかなかよい着眼点だ!」
「・・・・・・・・・・・」
「もう。姉さん。いい加減にしてよね」
ジーニアスがため息をつき、
「うわ~、すごい。すごい。地下にこんな遺跡があるなんて。
これでエミルとふたりっきりなら、どさくさにまぎれてエミルにだきついて、それで、それで…きゃっ!」
「……クラトスさん、先にいきませんか?」
「だな」
マルタの言葉をさらり、と無視し、とりあえずクラトスにと話しかける。
クラトスもどうやら無視することに対しては依存はないらしい。
「あ。これ、燭台っぽい。火をともすのかな?ロイド!」
「うえ!?な、何だよ」
ジーニアスがリフィルがみている石碑らしきものの横に、燭台のような台座をみつけ、ロイドにといきなり話しかける。
「ロイドのソーサラーリングで、これに火をともしてよ」
「これ、火属性じゃないぞ?」
「…そういえば、マナの守護塔で属性変更してたっけ」
「なら、ジーニアス。お前の出番だぞ」
「はいはい。えっと…ファイアーボール!」
ボッ。
かなり威力を小さくした炎の球により、燭台に火がともる。
「この大きな水がめと、そしてこの天秤、何か意味があるのかなぁ?」
コレットがさらにその横にある大きな水がめと、その前にとある天秤をみて首をかしげていっているが。
たしかに、そこには、ちょっとした奥側に、大きめの水瓶と、そしてその前に天秤が設置されているのがみてとれる。
どうどうとした水が水がめの後ろより流れ落ちており、どうやら地上から水がこの場にと流れ落ちてきているっぽい。
「あ。こっちにも石碑がある。で、こっちにも燭台。これが仕掛けなのかな?えい」
左側にある燭台と、右側にある燭台。
水瓶をはさむようにしてある燭台に火をともすが、
『?』
「…何もおこらないね」
「だな」
火をともしてみたが、どこかで仕掛けが解除された、という様子もない。
ゆえに思わず顔をみあわせる。
「この天秤、もうすこしで傾きそうだけど。そこに意味があるのかなぁ?」
マルタが水瓶と天秤がきになるらしく、それらを調べていたが、
「ねえ。さっきよりこっちがわにかたむいてるよ」
先ほどは完全に片方に偏っていたのに、ジーニアスが火をともしたのち、たしかに少しばかり傾いている。
「ふむ。ならば、まだどこかに燭台に火をともす必要があるのかもしれないな。さあ、仕掛けをさがすぞ!」
「いや。火ではないのではないか?こっち側の天秤にのっている器には少しだが水がはいっている。
水をいれれば均等になるのではないか?」
たしかに、先ほどまで傾いていた側の天秤の計りには、水のはいった器がおかれている。
逆のほうに傾いている、ということは、この器に水をいれれば、この天秤は均等に保たれるであろう。
「たしか、ここにくる前の部屋に、力の場みたいなのがあったけど」
「何!?エミル、なぜに早くいわない!」
「え?でも皆先にこっち側にきてたし」
実際、エミルが一番後ろからノイシュとともに歩いていたがゆえ、先にリフィル達がこの部屋にはいったまでのこと。
「力の場、ということは、ここに関係した力にソーサラーリングの性能がかわるってことかな?」
「だろうな。精霊の封印だということは、マーテル教会の聖具であるリングを利用した仕掛けがあってしかるべきだ」
ジーニアスの言葉にクラトスがうなづき。
「ロイド!前の部屋にもどるぞ!」
「ちょ、ちょっとまってよ!先生!」
「ええい、はやくしろ!」
ずるずるずる。
『・・・・・・・・・・・・・・』
そのまま、ロイドの首根っこをつかむようにして、そのままひこずるようにして移動しているリフィルの姿。
「ロイド、成仏してよね。僕、あの状態の姉さんには逆らえないから」
「…は~。先がおもいやられるな」
ジーニアスが祈るようにいい、クラトスがため息とともにそんなことをいいはなつ。
「…ヒトってほんと、行動がよめないよな」
「ウォン!」
ぽつり、とエミルがつぶやけば、ノイシュも賛同し首をおおきく縦にとふってくる。
「ふむ。力の場で間違いようだな。ロイド、ソーサラーリングを!」
「わ、わかったよ」
ひこずられるようにこの場につれてこられ、その奥に二つの宝箱があるのにきづいたが。
すばやくリフィルはその中身を確認している。
中にあったのは、状態異常回復のボトルであるパナシーアボトルと、そして女性の装備品らしき銀のサークレット。
「うわ!?今度はソーサラーリングから水がでてきたぞ!?」
力の場に反応し、ソーサラーリングの性能が変化する。
これまでは光を放つ性能であったものが、水属性へと変化する。
「ふむ。ソダ間欠泉は水が豊富だからそれに反応したのだろう。ここはいわば水の力の場というところだな。
この力ならば離れたところにも水を提供できるだろう」
リフィルがそれをみて的確ともいえる予測をいっているが。
「でも、なんか水がでるだけじゃなんか弱そうだな。あ、でも水鉄砲にはいいかも!よ~し!とりゃ!えい!」
リングから水が飛ぶのが面白いのか、そのまま水を幾度もとばしはじめているロイドの姿。
「…ロイド、何やってるのさ」
そんなロイドの姿をみて、少し遅れてやってきたジーニアスがあきれたような言葉を投げかける。
「お。ジーニアス。これみてくれよ!とりゃ!」
「うわ!?人にむけて水をとばさないでよ!」
ジーニアスの姿をみて、有無をいわさずに、ジーニアスに水をとばしているロイド。
「おもしれ~!水鉄砲がわりだ!」
「いいな~。ロイド、楽しそう」
「いや、コレット。あれは遊んでるっていうんだよ」
「…ふ。まだまだ子供、ということか」
コレットがそんなロイドとジーニアスの追いかけゴッコをみつつ、にこやかにいい、
そんなコレットにマルタが突っ込みをいれ、クラトスが小さく笑みを浮かべてそんなことをいっていたりする。
「さあ。これであの器に水をためるぞ!ゆくぞ!ロイド!」
「もう、ロイド、いいかげにんしなよ!…スプラッシュ!!」
いまだにジーニアスにむけて、水を飛ばしていたロイドにたいし、
どうやらさけるのも疲れたのか、すばやく呪文をとなえ術を解き放つジーニアス。
「うわっ!?…てぇ。ジーニアス、びしょぬれになったじゃないか!」
「自業自得だよ!」
ジーニアスの弱めの術により、ロイドがびしょぬれになっているが。
たしかに、あるいみで自業自得、というよりほかにない。
「水のおもみで逆にかたむいちゃったね」
「あ、でもみて。あそこ」
マルタが指をさせば、この足場よりも下にみえている道の一部。
そこにみえていた通路がふさがれたのがみてとれる。
やはりここが仕掛けで間違いはないらしい。
みれば、小さな四角い石も通路にみてとれるが。
「なら、さっきあった別の道からいくのかな?」
さきほど、ロイドの水攻撃から逃げている間に、あの部屋に別の道があったのをみつけている。
そんなジーニアスの言葉に、
「まあ、いくだけいってみたらどうかな?ここはどうみても行き止まりだし」
事実、ここにいつまでいても、下におりる手段はないらしい。
ならば別の道を探したほうが賢明、というもの。
ざっとみるかぎり、いくつかの道らしきものはたしかに眼下にみえてはいるが、そこにたどり着けなければ意味はない。
もう一つの道は、先ほどの場所から右側にみえていた少し下の位置にとでる道であったらしい。
きちんと整備されている、どうみても人工的でしかない足場をすすんでゆくことしばし。
「…魚とか、ヒトデとか、もううんざりだよ……」
見えるのは、魔物、なのであろう。
魚やヒトデ、といった生物達の姿。
すなわち、水属性の魔物達の姿がそこいらにみえている。
が、彼らは一行に襲いかかるでもなく、そこらかしこにみてとれる。
変わり映えのしない光景の中、魚やヒトデ、といったものしかみえない、というのは、何ともいえない。
まだ襲いかかってきたりするのならば、まだ緊張感があるであろうに。
グリーンローバーなどもうねうねとしつつも、一行には見向きもしてこない。
もっとも、よくよく注意をしてみればわかったであろうが。
影に潜むセンチュリオンの気配にきづいたらしく、全ての魔物がエミルに対し礼をとっている、ということに。
そんなジーニアスの呟きに、
「ぼやくな。神子は根を上げていないぞ」
いつもは真っ先に根をあげるロイドが愚痴をいっていないゆえにクラトスがいうが、
「ジーニアス、ふぁいと!」
そんなジーニアスにコレットがにこやかに話しかける。
「うぅ~・・・ロイドより先に飽きたらまずいよね。がんばるよ、ボク」
「で、そのロイドはどうしているのだ?」
なぜか姿がみえない。
と。
「すげえ!ほらほら!水が出るぞ!ソーサラーリングってへんてこだよなー。どうなってんだろ?」
後ろのほうから聞こえるロイドの声。
「そういえばおもちゃを持たせてたんだった・・・」
がくり、と肩をおとすジーニアス。
「きゅわぁん!」
それとともにきこえてくるノイシュの悲鳴。
「もう。ロイド、ノイシュがいやがってるじゃない」
ノイシュの体をマトに見た手てか、幾度も水を放つロイドにたいし、あきれつつもエミルが止めるために話しかけるが、
「ついでに、これでノイシュのやつを洗えないかとおもってさ」
どうやら、今のロイドの行動は、ノイシュを洗おうとしての行動、であったらしい。
「…やるなら、こんな中でなくてきちんとした所でやってあげなよ」
というか、時と場合を考えていない。
絶対に。
「エミルって優しい。さすが私の王子様!」
『・・・・・・・・・・・・・・・』
そんなエミルの台詞に、マルタが体をくねらせつつもそんなことをいっている。
そんな光景が少し離れた位置でみうけられており、思わず無言になっている、ジーニアス、リフィル、クラトスの三人。
「と、とにかく先をいそごう」
クラトスがみなかったことにしたらしく、先を促す発言をし、
「そうね。…あとでロイドにはしっかりとお仕置きが必要のようだしね」
リフィルがこれでもか、といういい笑顔にて言い放つ。
「…ほどほどにな」
どうやら、クラトスもまたリフィルのお仕置きを止める気は、ない、らしい。
アーチ型の橋の下をくぐりぬけ、さらに階段を降りてゆけば、
その先はどうやら舗装がされていない道に続いているらしく、
周囲には海水がいたるところに満ち溢れているのがみてとれる。
ところどころから吹きだしている間欠泉が、洞窟内部を適度な温度に保っているといってもよい。
それでも、地上ほど勢いよく吹きだしているのではなく、どちらかといえば水蒸気に近い吹きだし口。
「…あ」
「どうやら、ここがさきほどふさがれた道のようだな」
しかし、歩いてゆく最中、道はつづいているはずなのにふさがれている行き止まりに突き当たる。
先ほど天秤の器に水をいれたときに傾いた仕掛けにて閉ざされた道。
どうやらこの道がそうであったらしい。
「仕方ないわ。一度もどりましょう」
力の場にてソーサラーリングの性能を戻し、ひとまず先ほどの水瓶のあった部屋へ。
器にいれた水はどうにもできないので、燭台の火を消して様子をみる、
そんなリフィルの提案に、ロイドが片方の燭台の火をけせば、
先ほど閉じたはずの道の扉が開かれてゆくのがみてとれる。
「あ、ロイド。道がひらかれたよ」
「おそらく、先にあちらの道からいってここにくる、のが正解なルートだったのかもしれないわね」
リフィルがいい、
「しかし、ここがあのソダ島の地下なんて、なんだか不思議~」
マルタが素直な感想をもらしていたりする。
たしかに、あの島の地下にこんな遺跡があるなど、おそらく誰も思っていないであろう。
もともと、ここは水の神殿が過去に建設されていた場所、なのだが。
それこそ離れ小島に海の恩恵を湛え、かつてのヒトがつくりし神殿であったといってよい。
みるかぎり、どうやらそれから後、ヒトの手がかなり加わっているっぽいが。
「しかし……」
「どうしたの?クラトス」
「いや。魔物の姿はみえるのに、まったく襲ってこないな、と不思議におもったまでだ」
「そうね。でもそれは、おそらく……」
確証はないが、まちがいなくエミルの存在にかかわっている。
それはもうリフィルの確信といってよい。
「あの子の影響だとおもうわ」
「エミル…か」
「コレットの危険が少しでも減っているのは喜ばしいことだわ」
「……そう、だな」
クラトスからしてみれば何ともいえないが。
本来ならば魔物との戦いの中でハイエクスフィアとの融合が進んでゆくはず、なのだから。
「このおもし、あの扉の下においたら、扉が完全にしまらないんじゃないのか?」
「おお。ロイドにしてはめずらしくまともな意見。でもそうだね。移動させようよ」
そんな会話をしているクラトスとリフィルの視線の先では、
道においてあったブロックのような石を運んでいるロイドとジーニアスの姿が。
先ほど閉じられていた扉の真下にその石をおくことにより、扉が完全に閉じられるのを防ぐことにしたらしい。
「なんか、神子様の精霊の封印って面倒なんだね」
「ふえ?」
「さっきから、同じ場所をいったりきたり。なんでこんなに面倒な仕掛けになってるんだろ」
マルタがため息とともにいい、コレットが首をかしげる。
「そうだよな。というかマナの守護塔の仕掛けは町の人達が解除してたからよかったけど。
あれもなんだか面像そうな仕掛けだったよな~」
ロイドがそのときのことを思いだしたのか、そんなことをいってくる。
ロイド達が通ったときにはすでに仕掛けは全て解除されていた。
あれを自分達で解除していればどれほどの時間がかかったのか、想像すらしたくないらしい。
「おそらく、知能と覚悟をためす試練の一環なのでしょう」
「それにしても、いったりきたり、エミル~、私、つかれた~。おんぶして~」
「…だから、何で僕にいうの?ならノイシュにまたのせてもらえば?」
「む~!エミルのいけずぅ!」
「マルタ。エミルにおんぶというのはいただけないわ。エミルの体力を削ぐことになるもの。
疲れたのならノイシュにのることをお勧めするわ」
「リフィルさんまで!ああ、私とエミルの愛は常に邪魔ものに遮られるのね。
でも、障害があってこその愛!それを乗り越えたときこそ二人は永遠の愛でむすばれるのよ!」
「・・・・・・・・・・いきません?リフィルさん」
「そうね」
「あ、皆、まってよ~!」
「…エミルのやつ、あるいみ、マルタの扱い、スルーするのが慣れてないかい?」
「スルー意外にどうにもできないのだろう」
しいながぽそり、といえば、クラトスもまたそんなことをいってくる。
ああいう手合いはいえばいうほど自分の世界に浸ってしまう。
かつてそのような人物が自分にアプローチをかけてきていたことがあるがゆえ、クラトスの言葉は実感がこもっている。
もっとも、そのかつて、というのはテセアラ王家に仕えていた時代、なのだが。
そんな会話をしつつも、先ほどの水瓶のある部屋に再び移動し、先ほど消した火を燭台にと再びともす。
がこん、という音がすれど、先ほどおいた石が邪魔しているらしく、完全に扉はしまっていない模様。
そのまま再び先ほどの場所へ。
そのまま先をすすんでゆけば、再び天秤があり、器に水がいれられるらしい。
その器に水をひたすと、がこん、という音とともに、隣にみえていた足場がゆっくりと浮上してゆくのがみてとれる。
それはやがて、先ほど水瓶のあった足場の横にと制止する。
みればあの場からどうやらその場に移動が可能、であるらしい。
そのまま再び移動し、浮上した足場へと。
「あ、これ」
「転送装置のようね」
浮上した足場には、ロイド達も見慣れている転送装置らしきものがみてとれる。
「おそらく、この先が封印の場のようね。いきましょう」
「精霊か・・・!どんな風に契約するんだろうな!早くみて~!」
この先に精霊がいる。
そうおもうと、ロイドの心はわくわくしてくる。
それゆえに、興奮したようにそんなことをいっているが。
「またそんなこと言って」
「途中で飽きるのではないか?リングにあきたとおもえば今度は精霊、か」
ジーニアスとクラトスがそんなロイドにため息まじりに言い放つ。
「うるさいなー!興味あるんだから、仕方ねえだろ!」
「興味があるはいいけどさ」
「飽きっぽいのが問題だというのだ」
ほぼ同時に、ジーニアスとクラトスからそんな言葉がロイドにむけられるが、
「うるさいな!二人でたたみかけるように言うな!」
「うるさいってことないでしょ!」
「おまえの姿勢について言われているのだぞ!」
ロイドが否定の言葉をいい、ジーニアスとクラトスがそんなロイドをたしなめようとするが。
その声のトーンはだんだんと高くなり、周囲にと響き渡るほど。
「三人とも!うるさくてよ! 今はこの先にいくのが先決よ!」
「「…はい」」
リフィルの叱咤をうけ、黙り込んだロイド達もまた、そのまま無言で転送装置の上へ。
そのまま転送装置にのり、彼らの体は青白い光にとつつまれる。
光とともにたどり着いたは、まったく別の部屋。
転移した先は白い石でつくられたちょっとした創りとなっており、その中心に祭壇のようなものがみてとれる。
「じめじめしてんなぁ。はやくかえりてぇ」
ロイドがぼやき、
リフィルはリフィルであるいみ興奮気味。
白い建物の中に設置されている台座は、他の精霊の封印の場でみたものと同じもの。
「…この感じ。マナが押し寄せる感じ…火の封印と同じだよ」
それとともに水のマナがおしよせ、そこに三つの影をつくりだす。
人型のようでいて人ではないそれらはしばし祭壇の上にと佇み、
どうやらこちの動向を見極めているように傍目からはみてとれる。
「これは、封印の魔物、ノーディスとヴーニスよ!」
リフィルがここにくるまでの石碑にかかれていた原語をどうやら解読していたらしく、何やらそんなことをいっているが。
『どうなさいますか?』
センチュリオンアクアの気配も傍にあることから、彼らにはこちらのことがわかった、らしい。
とまどうような彼らの声がエミルにと念話によって届いてくる。
「ふむ」
さて、どうするか。
彼らとノーディス達を戦わせてもいいが、別に必要のない争いはさせたくない、というのもある。
「ゆくぞ!」
エミルが思案している最中、いきなりロイドが一人つっぱしり、いきなり剣を抜き放ちノーディス達にとむかってゆく。
「もう、ロイド!先走らないでよね!」
ジーニアスがそんなロイドをみてあわてて詠唱を初めているが。
「え?え?魔物?え?エミル、私、こわ~い」
マルタはマルタでそんなことをいっていたりする。
『…まあ、お前達も思うところがあるだろうしな。…クラトスのみなら攻撃を加えても許可をしよう』
『御意に』
そもそも、彼らの封印にかかわっているのは、クラトスのみ。
ロイド達はあるいみ被害者というか巻き込まれているだけの存在でしかない。
エミルの決定をうけ、彼らの攻撃は、問答無用でクラトスにたいし、集中攻撃、という形で実現してゆく。
「何だって、こいつらクラトスにばかり!?」
「おそらく、この中でクラトスが一番脅威、とおもわれてるのよ。脅威のものから排除する。それは基本戦術よ」
「つまり、俺達は戦力外か!むかつくう!」
何やらそんな声がきこえてきているが。
ちなみに、今、エミルがいるのは転送陣の真横。
すなわち、祭壇よりは少しはなれている位置にて、ノイシュとともにその行動を身守っていたりする。
マルタは初めてみる戦闘、なのか、心配そうに、
それでいて目をきらきらさせて、そんなロイド達の行動をみているようではあるが。
ちなみに、エミルとノイシュ、マルタが転送陣の傍におり、
それ以外の全員は祭壇の間の目の前にいて攻撃をかわしているのがみてとれる。
もっとも、彼らにかかわる攻撃は、クラトスにかけている攻撃の余波、でしかないにしろ。
「む~…もう、神子様達、何やってるのよ!…シャープネス!!!」
マルタがあまりに決着がつかないことに焦れた、のであろう。
一歩前にでて、詠唱し、攻撃力上昇の術の力ある言葉を解き放つ。
それとともに、ロイド達全員の力が一時的に上昇する。
やはり、この力は。
古に交わした血の盟約。
ユニコーンの元にてかわしたその盟約。
どうやら今の時代にまで細々とではあるがその盟約の血は受け継がれていた、らしい。
今のマルタの力の使用でそうはっきりと確信がもてた。
それでか。
それであのとき、マルタの言葉で、俺は…
そう確信がもてるが、だとすれば、何かがあり、マルタはあのとき盟約を破棄していた、という事実にもつきあたる。
まあ、今考えてもあのときのマルタに聞けるわけでもないのでどうにもならないことなれど。
『まずい。お前達、怪我をする前に、まずは撤退を』
かの術はその力を数倍にと押し上げる。
いくらノーディス達とて、センチュリオン達、とくにアクアが力を取り戻している、とはいえ。
怪我をおわない、とはいいきれない。
ロイド達の剣技が振り下ろされたその直後。
エミルの言葉をうけ、彼らは光とともにはじけ飛ぶ。
それは、エミルの言葉をうけてこの場から撤退しただけのことなれど、
そのタイミングから、ロイド達の攻撃により、姿がはじけとんだ、と見えないこともない。
それとともに、周囲にみちる水蒸気。
と。
シュン。
という音とともに、祭壇の間に柱のようなものが出現し、青い光の柱が出現する。
その青い光の柱の中にうかびし、女性の影。
――よくぞここまでたどりついた。さあ、祭壇に祈りをささげよ。
祭壇の内部のあたりから響くような声が、部屋の中にとこだまする。
「はい」
その言葉をうけ、コレットが祭壇の間にとちかづてゆく。
「え?今の声って?」
「し。はじまるよ」
マルタが首をかしげ、横にいるジーニアス達にといかけるが、そんなマルタをジーニアスがかるく制する。
しかし、始まる、といわれてもマルタには意味がわからない。
「大地を護り育む大いなる女神、マーテルよ。御身の力をここに!」
コレットの祈りとともに、コレットの背に淡い桃色の透き通った翼が出現する。
「コレットに…羽が…天使の羽…コレット…本当に神子様なんだ……」
その光景は実情をしらないヒトにとっては神秘的意外の何ものでもなく。
唖然としたようにつぶやいているマルタ。
「うん。僕もあれ初めてみたときはおもったよ」
「ああ。綺麗だよな。あの桃色の羽。コレットによく似合ってるし」
そんなマルタの台詞に、ジーニアスとロイドがうなづきつつも同意を示す。
ふわり、と翼によってコレットがうきあがる。
それとともに、空中に光が出現し、その光りがはじけてきえる。
「ここは、第三の封印。よくここまでたどり着いた。神子、コレットよ!」
「うそ……」
その場におもわずぺたん、とすわりこんでいるマルタ。
マーテル教の祭典にかかれている天使の姿がそこに現れたのをうけ、おもわず力が抜けた、といってよい。
白い翼はまぎれもなく天使そのもの。
現れた白い翼をもつ男性の服はマーテル教の祭司服に近い。
神秘的な光とともにあらわれし翼をもちし男性。
どこからどうみてもマーテル教の経典にかかれている天使そのもの。
神子は天使の子だ、という。
だとすれば、あの人がコレットの?
そんなことをふとおもうが、何だろう。
何となく目の前のあの天使からは何というかいい感じをうけない。
マルタがそんなことをおもいつつ、天使とコレットをしばし眺めている最中、
「…はい」
コレットと天使…レミエルの会話はつづいてゆく。
やはり、改めてみれば、このレミエルは自分をみていない。
たしかに、しいなのいうように、その目は道具をみるそれである。
注意してみなければコレットとて気づかなかったであろうが。
指摘をうけたからこそ理解できるものもある。
そんなコレットの心情に気づいてすらいないのか、
「クルシスからそなたに天使の力を。我らが祝福を受け取るがいい」
その天使、レミエルの言葉とともに、コレットの周囲に光がはじけ、
その光りはコレットの体内というか胸元につけているクルシスの輝石、とよばれしものの中へとすいこまれてゆく。
「…は、はい。ありがとうございます」
淡々といわれるその言葉に、コレットが言葉をつまらせつつも答えている様子がみてとれるが。
「次なる封印はここよりはるか北。終焉を望む場所。かの地の祭壇で祈りをささげよ」
「…わかりました。レミエル様」
相変わらず用件しかいわない。
「また次の封印でまっている。我が娘…コレットよ」
消えるときに、申し訳ない程度に娘云々、といっているが、その目はどこまでも冷めたもの。
そのまま、光りとともにきえてゆくそんな男をみつつ。
「何あれ?天使様ってもっと優しい雰囲気とおもうのに。 あれって、天使騙ってる偽物なんじゃない?」
マルタがあるいみで図星ともいえることをいっているが。
あいかわらず、というか。
やはり、前回もおもったが、むりやりにかの精霊石に宿りし微精霊達を歪めているらしい。
急激な穢れはどうしても微精霊達にも変化をもたらしてしまい、どうしても一時的にしろ狂ってしまう。
あとでまた、微精霊達のマナを落ちつけておく必要がありそうだな。
とおもうが、しかしいまだにコレットがそれを受け入れている、その現状が理解不能。
「さて。どうするのだ?このまま続けてウンディーネと契約を結ぶのか?」
レミエルが消えた、ということはこちら側の監視もなくなっているであろう。
それゆえにクラトスがしいなにと問いかける。
このまま契約するのか、それとも一度出直すか。
「続けようぜ。戻るのもめんどくせ~し。早く契約ってやつをみたいしな」
クラトスの言葉にロイドがいい、
「「契約、契約~」」
異口同音で、同じ言葉をはっしているコレットとジーニアス。
ちなみにコレットの両手は前で祈るようにくまれており、
ジーニアスは何かきたいをこめたかのように、これまた手を握り締め、その目をきらきらさせていっている。
「精霊の契約。かぁ。なんかロマンチック。…さっきの無愛想な天使もどきはなかったことにする」
マルタがあるいみでレミエルにとっては非情ともいえることをいっているが。
まあ気持ちはわからなくもない。
どうやらマルタの中で、あのレミエルが天使、というのは認められないことであるらしい。
「確かに。興味深いわね」
ジーニアス、コレット、マルタに続き、リフィルまでも興味深そうにそんなことをいっているが。
「……契約、か」
精霊の契約。
かつて、ミトスはその契約をほとんど一人でなしとげた。
クラトスに迷惑はかけられないよ、そういって。
かつてのミトスのことを思い出し、クラトスは思わず言葉を濁してしまう。
エミルもまた、ミトスが一人で契約の儀式に挑んできた、
というのはセンチュリオン達から精霊を通じてきいたことを聞かされている。
「か、簡単にいうんじゃないよ!し…失敗するかもしれないし」
しいなが両手をさげたまま、その手をぎゅっとにぎりしめ、声を震わせそんな彼らに言い放っているようではあるが。
『アクア。ウンディーネとの繋ぎは?』
『はい。ばっちりです!ディーネちゃんはうまくやってくれるとおもいます!』
目を閉じ、アクアにて問いかければ、すぐさま返事がもどってくる。
「大丈夫だって。なんだかわかんねぇけど」
そんなしいなの言葉に、ロイドが根拠のない自信を込めた言葉できっぱりと言い放つ。
「そうだよ~。しいななら大丈夫だよ~」
ロイドに続き、コレットもまた信頼した様子できっぱりといっているのがみてとれるが。
「……何もしらないくせに」
根拠のない信頼。
ゆえにしいなは思わず顔を伏せてしまう。
「?しいな?」
マルタがそれにきづき、首をかしげるが、
「まあいいよ。巻き込まれて怪我しても恨まないどくれよ!」
そうまるで吐き捨てるように言い放ち、そのまま祭壇の前にと立ちふさがる。
しいなが祭壇の前にたつと、祭壇の上に水色の光りが収縮してゆく、
「すごい。水のマナが…」
「集まっているわね」
その光りは水のマナの光り。
その光りはやがて、どんどん大きくなっていき、やがてマナは一つの形をなしてゆく。
やがて眩しい光とともに、マナがはじけ、やがて祭壇の上に、一人の女性の姿があらわれる。
青き髪に青いドレスを着こんだ女性。
「……ウンディーネ」
久しぶりに直接みたような気がする。
それはもう果てしなく。
たしか、直接彼らと面をあわせたのは、今の段階では彼ら精霊を創ったのが最初で最後だったような気も。
ほとんど、分霊体でもある蝶を通じ、連絡をとっていたがゆえ、
本体ともいえる体にて接触したことはあのとき以外なかったといってよい。
その姿をみて思わずぽつり、と名をつぶやく。
なぜかエミルのほうをみて、一瞬、ウンディーネが目を見開いたようではあるが、しかしすぐさまに首を横にふり、
「契約の資格をもつものよ。私はミトスとの契約に縛られるもの。あなたは何ものですか?」
そこにセンチュリオンの気配、さらにはレティスの気配があることから、
あの少年にしかみえない人物がラタトスクだ、というのだろうか。
どうみても気配は人のそれ。
が、センチュリオンやシムルグのレティス達が普通の人間の傍にいる、など考えられない。
だとすれば、アクアの報告にあった、王が地上にでている、というその地上での形態、なのだろう。
なぜに人の姿を模しているのかはかなり気になるにしろ。
しかし、この場には、かつて自分達をうらぎりし、クラトスもいる。
ゆえに、ラタトスクのことを気付かれるわけにはいかないとばかり、
かるく目線にて礼をとっただけで、目の前にいるしいなにとといかける。
そんなウンディーネの台詞に、
「ミトスって、古代大戦の勇者ミトスか?」
ロイドがミトス、という名前に反応し思わずつぶやき、
「ミトスって、剣士のくせに召喚までできたんだ」
ジーニアスもまたそんなことをいっている。
まあ、彼はもともと、術を主にしており、その剣の技はクラトスが指南したにすぎないのだが。
どうやらそのことをロイド達は知らない、らしい。
「あら。そうとはいえないわよ。ミトスの名前は男の子の名前としてはありがちだから。勇者ミトスとは限らないわね」
「でも、リフィルさん。この封印の神殿って神子達しかはいれないんですよね?
なら、勇者ミトスでないのなら、これまでの神子様の一行にくわわっていた誰か。ということになりませんか?」
マルタがふと何か思いついたらしくそんなことをいっている。
「御先祖様が一緒に旅したスピリチュア様にもミトスって名前の人はいなかったはずですけど」
母や父からきいた言葉を思い出しつついうマルタの台詞であるが。
そんな中。
「我はしいな。ウンディーネとの契約を望むもの」
精霊と契約するときは、あくまでも強きで。
それがしいなが習った最低限の前提。
精霊は弱いものには従わない。
ゆえに、契約を交わすときには、はったりも必要。
そうしいなは習っている。
が、そんなしいなの台詞に、
「このままでは…できません」
ウンディーネの口から、否定の言葉が紡がれる。
「な…なぜ!?」
ヴォルトの時とは違い、言葉が通じている、というのに、できないとは。
ゆえにしいなが思わず反射的にとといかける。
「私はすでに契約を交わしています。私たち精霊は二つの契約を同時に交わすことはできないのです。
盟約ならば別なのですが。私はミトスと契約を交わしているのであなたとの契約はできません。
前の契約が施行され続けるかぎり」
それとなく、その言葉のうちにヒントを含めているのはさすがウンディーネというぺきか。
思わずそんな彼女の言葉をきき苦笑してしまうエミル。
今の説明で、精霊の契約、そして盟約、ついでに契約のあり方まで説明している。
さすがというよりほかにない。
自分はだいたい面倒なのでそこまでヒトに対し詳しく説明したことは一度たりとてないのだが。
「ミトスってやつとの契約…か。どうしたらいいのさ!研究機関じゃ、こんなこと習わなかったよ!」
しいながウンディーネからむきなおり、
背後にいるリフィル達のほうをむいて、意見をもとめてなのかそんなことをいってくるが。
しいなは気づいていないらしい。
その言葉に、研究機関、という単語をつかっている、ということは。
そういう組織をしいなは知っている、ということに他ならない、ということに。
そして、ここシルヴァラントではそんな機関は当然存在していない。
「ど、どうしよう。ロイド」
コレットも想定しなかったゆえに、とまどいつつも、ロイドに意見をもとめるが。
「う~ん。よくわかんねぇけど。だったらさ。前の契約をなかったことにしてもらえばいいんじゃないか?」
ロイドらしい、何も考えていなゆえの台詞といえば台詞だが、あるいみ的を得ている言葉でもある。
「どうやって!?前の契約者のミトスってやつがどこにいるのかもわからないのに!」
当人を見つけ出して契約の破棄を願ってもらうにしても、どこにいるかすらわからない。
「しいながそれをいうんじゃだめなのか?」
ロイドが首をかしげていうと、しばらく何か考えていたのであろう。
それまで目をつむっていたクラトスがやがて決意したように瞳を開き、
「……精霊との契約には、誓いが必要だ。契約者が誓いを護る限り契約は行使されつづける」
「・・・・・・そうです」
クラトスの言葉に賛同したくはないが、それは事実。
というか、なぜにこの目の前のクラトスという男はミトスをとめなかったのだろうか。
ウンディーネもまたそんな思いを抱いているがゆえに、
ミトスの協力者でもあったクラトスに対し、いろいろと思うところがあるらしい。
「それは知ってるよ。精霊は、契約者の誓いに賛同し、契約を交わす」
しいなの言葉に、
「そうだ。だからお前はロイドのいうとおり、過去の契約の破棄と自分との契約を望めばいい。
前の契約者が誓いを破っているかもしれないし。もうなくなっているかもしれない」
ミトスがウンディーネと契約したは、誰もが差別されることなく、また犠牲にならない世界をつくるために力をかして。
というもの。
精霊も人も、すべて地上にいきる全ての生き物が誰もが平和にくらせる世界。
そのために君たちの力を貸してほしい。けど、君たちの力は決して悪用しない。
戦争にももちいない、命を護るために使わせてほしい。だから…
あのとき。
ウンディーネとの誓いのときミトスが口にした台詞。
クラトスはその誓いをその背後にて見つめていた。
そして、契約の上書きとして、世界を存続させるのに、マナを一年ごとに循環させるのに力をかしてほしい。
その誓いすらミトスは破っている。
だからこそ、今のミトスがその誓いを破っている、と断言できる。
できてしまう。
「そんな簡単なことでいいの?」
ジーニアスがクラトスの言葉に首をかしげつつといかけるが、
「簡単というが、前の契約者がいきていたり。契約の誓いを破っていなければどうにもならないことだ」
クラトスのいい分はあるいみ間違ってはいない。
ただ、クラトスはすでにその誓いが破られている、と知っている、ということを除けば。
しらない、とはいわせない。
アクアの報告によれば、ウンディーネとの契約のとき、クラトスもまた、その場にいたはずなのだから。
「わかったよ。それでやってみる」
いいつつ、再びウンディーネにと向き直り、
「ウンディーネ。我が名はしいな。ウンディーネがミトスとの契約を破棄し、私とあらたな契約を交わすことを望んでいる」
目の前にいるウンディーネにと改めてといかける。
そんなしいなの言葉をきき、
「よいでしょう。ミトスは我々精霊との誓いを破っています。新たな契約者、しいな。あなたとの契約を認めましょう。
ミトスとの契約は今、あなたの新たな願いにて破棄されました。
そして、新たな誓いを立てるために、契約者としての資質を問いましょう」
淡々というウンディーネの台詞をきき、
「え?精霊の誓いを破ってるって……」
「そんなことしてるの?前の契約者のミトスって」
「なら、やっぱり勇者ミトスじゃないんだろうな」
マルタがとまどったようにいい、ジーニアスが目をぱちくりさせていい、ロイドがしみじみとそんなことをいうが。
「勇者。ですか。ヒトはそのように確かに彼を呼んでいるようですが……以前の彼ならばいざしらず、今の彼は……
ともあれ、あなた方の力を試させてもらいます。契約するに相応しいかどうか。武器をとりなさい」
「以前?今?どういうこと?勇者ミトスは命を落としたと伝承に……まさか……」
リフィルが何かに気付いたのか、言葉をつまらせる。
つまり、勇者ミトスとよばれているものは、まだ生きており、
そして、かつてこの精霊ウンディーネと契約したのもその勇者ミトスで、
契約の誓いを破っている、という可能性が今の言葉で浮上した。
たしか、精霊は嘘をつけない、そうきいている。
「え?精霊はたしか、嘘をつけないんだよね?どういう……」
しいなもしいなで、ウンディーネの言葉に戸惑い気味。
かつての彼、そして今の彼、ウンディーネがそういった、ということは。
伝承にある勇者ミトスが命を落とした云々、というのが実は偽りだ、ということに他ならない。
つまり、勇者ミトスはまだ生きている、ということ。
どうやって四千年前の勇者が生きているのか云々はともかくとして。
思いだすのは、マナの守護塔でエミルがいった台詞。
古代大戦のときの天使というあの下り。
そこにヒントがあるような気がはてしなくする。
しかし、だとすれば、
ならば、マーテル教の教えが真っ向から否定されているといってもよい。
【勇者の命はマナとなり、それを嘆いた女神は天にきえた】
このマーテル教の根底ともいえるその教え。
今、その教えが精霊の言葉により真っ向から否定されたと同意語。
クラトスはクラトスでまさかウンディーネがそういう、とはおもわなかったらしく、
みれば目を思いっきり見開いているのがみてとれるが。
自分達精霊との誓い、そして自分との約束。
それらを破っておいてまさか精霊の口からそのことが知らされるとは思っていなかった、とでもいうのだろうか。
だとすればどこまで……
ミトスもそう、なのだろうか。
おもわず目をつむり、しみじみヒトとは愚かでしかない、とつくづくおもってしまう。
そうでないヒトもいる、とはわかってはいるが。
「ウンディーネ。それはいったいどういう」
しいながウンディーネにあらためて問いかけようとするが、
「いきます。あなたたちの資質、みせてもらいましょう。スプレッド!」
問答無用でウンディーネがしいなにたいし、攻撃を繰り出してゆく。
『さすがディーネちゃん。少ない言葉で今の現状をヒトに不審がらせてるし』
『アクア。お前はウンディーネに何をいったんだ?』
目をつむりつつも、アクアと念話にて会話を交わす。
『え?ただ、私はディーネちゃんにそれとなく
人間達に、人が偽りの真実を信じ込まされていることをそれとな~く知らせてあげてって』
『なるほど。な』
精霊は嘘をつけない。
今のウンディーネの言葉で、ロイド達にもマーテル教とかいう教えがおかしい。
そう疑問に思い始めるであろう。
産まれたときからそう信じ込まされている嘘を嘘と認める。
それはなかなかにヒトからしてみれば難しいのかもしれないが。
しかし、真実はただ一つでしかない。
「ちょっとまて!戦うのかよ!?」
ロイドがあせったようにいいはなつ。
すでにウンディーネより解き放たれた水の術は、ものみごとにクラトスに向かってゆくが、
クラトスはその攻撃からとびのき、その直撃はうけていない。
しかし、何というか。
ウンディーネによる資格をためすはずの攻撃。
だがしかし。
「…あいつ、私怨でやってないか?」
どうみても、クラトスにばかり集中攻撃している模様。
ついでにいえば、本気になりかけているっぽい。
『まあ、気持ちはわかりますけど。私だって、ラタトスク様が止めていなければ、もう直接にミトス達に……』
『それは私たちとて同じこと』
アクアと会話をしている最中、影の中にといるグラキエスまでそんなことをいってくる。
『本当。ラタトスク様は、昔から人の姿を模されているときは甘くなりますよね』
『そうそう。ディセンダーとして出ているときはあくまでも甘かったですし』
何やら昔話に話しが移行してしまいそうな気配。
そんな会話をしている最中も、
「交霊招符、孤鈴!」
しいなが孤鈴を召喚し、コリンがぽすん、とウンディーネの頭の上におちる。
「ヴェリウス!?あなた、その姿は!?」
どうやらウンディーネは知らなかったらしい。
思いっきり驚いているのがみてとれる。
「む~。あの子みたいなこといわないでよ!僕はコリンだよ!」
「…記憶を失っているのですか。みたところマナがまだ足りないようですね」
頭の上におちてきた孤鈴をそのまま手をぷらんともちつつも、目の前にもっていき、そんなことをいっているウンディーネ。
「ふむ。心の精霊たるあなたが契約をした、というのがいささか疑問ではありますが。
では、そちらの子は心優しきものであるのには違いないですね。が!」
ぽんぽんと孤鈴をなでつつも、そのままクラトスにむかって詠唱を開始しようとしているウンディーネ。
というか。
「…ち」
カキッン。
澄んだ金属音が響き渡る……
『え?エミル?』
これまで戦闘に参加していなかったはずなのに。
いつのまにかエミルが前にでてき…いつ移動してきたのかすらもわからなかったが。
気付けばウンディーネの攻撃を剣にて完全にと食いとめている。
ウンディーネがクラトスにむけていた武器がエミルの剣によって受け止められているのがみてとれる。
その光景をみて、思わず間の抜けた声をだしているロイド、ジーニアス、しいなの三人。
「ウティ ブインス テイィ トゥオスア。エルティアイオグア エ フンルウムグ ウス クアイパム」
――やりすぎだ。気もちはわかるが
「アイバンヌンディ」
――しかし
「…え?」
エミルの口から発せられる旋律のような何か。
それに続き、ウンディーネの口からも同じ旋律が発せられる。
それをきき、リフィル達はとまどわずにはいられない。
「エ ディンエスイム バウル ムイティ ブン ウフ ウティ クウルス ワルンエディ エムヤトゥイディン」
――殺せば理由がわからなくなる。
「ウティ スワイオルド ブン エブルン ティ アンエディ エルスイ アディイトゥ エ スイオル」
――魂からも聞けるはずです。
そこまでいい、目をしばし閉じたのち、きっとクラトスをみつめ、
「エビティ オス、アン ウス ヤイオ!」
――彼は、我らを、あなた様を!
「ティアンヤ ブンティ ディエヤンド オス!」
――彼らは我らを裏切りました!
それはウンディーネの本音、なのだろう。
何かウンディーネが叫んでいるように聞こえるのは
リフィル達の気のせいではおそらくないであろう。
その思いはラタトスクとて同じこと。
だがしかし。
「・・・スンルフ ウス オスンホル エムド アン バドエス ティアドトゥ ティ ワイトゥプンムスエティン エイディ ウディ」
――・・・我は生きて彼らにつなぐなわせたい。
そう、彼らを殺してしまえばそれまで。
ならば、生きて、自分達がしでかした後始末をきちんとさせる、というのも一つの手。
きちんと彼らには罪に向き合い、そしてこの後、世界が一つにもどったのち。
それによっておこるヒトによる混乱、もしくは戦乱を抑える必要がある。
自分達精霊がそれに口出しすることはできない。
あくまで人の世界におけることは人の手で。
その種をまいたのは、彼らミトス達四人、なのだから。
「・・・ウ オムドンディスティエムド」
――・・・わかりました。
しばしの見つめ合いののち、どうやらウンディーネのほうが折れた、らしい。
彼女もわかっているはずなのである。
ここでクラトスをあやめても意味がない、と。
ただ、感情がおいついていないだけ。
そう、あのときの自分のように。
苛立ちまぎれにアステルを殺してしまったあのときと。
「ティザ ティアン プエススエグン イフ アウス スティエティントゥンムティ」
――仰せの通りに。
ウンディーネの瞳から、敵意が消えてゆく。
…さま?
水の精霊ウンディーネが、様?
彼女が様をつけるなど、存在は限られている。
マナの塊ともいえる料理の数々。
しかし、もしもそうならばいえない。
それに、今の会話。
今のはあきらかに原初たる精霊原語。
それを扱えるこの人間は。
時折感じた大樹の気配。
ならば、大樹カーラーンの関係者、と考えるしかない。
かの大樹にそういう関係者がいた、とたしかどこかで遠い記憶の中、きいたような気がする。
が、コリンはそれを思い出せない。
「――いいでしょう。今は、孤鈴というのですか。
その子と契約をかわせし、心やさしき人の子よ。あなたとの契約をみとめます」
ウンディーネがそういうのをうけ、エミルもまたその横にと移動する。
「え?え?えっと……」
何がどうなった、というのだろうか。
今のエミルの歌のような何かが、ウンディーネを説得した、とでもいうのか。
歌のような旋律の言葉。
どうみても会話をしていたエミルとウンディーネ。
その内容まではわからないが。
「力を失い、消えかけていたその子を助けてくれたのはあなたなのでしょう?
人の子よ。我らが同胞を助けてくれたあなたに力をかしましょう」
「え?コリンは、でも、研究所で産まれた人工精霊で……」
消えかけていた、というのはどういういみなのか。
しいなの戸惑いは、コリンにもつたわるが。
「?僕もよくわかんない」
ちょこちょことしいなの元にもどり、しいなの肩に移動し、首をかしげているコリンが嘘をいっている様子はない。
本気でコリンもまた意味がわかっていないことがうかがえる。
というか、先ほどから、ウンディーネはこのリスのような何かを、ヴェリウス、と呼んでいる。
それはたしか、心の精霊、とよばれしものであり、ミトスがずっと探していた精霊。
心を司る精霊ならばマーテルを蘇らせることができるかもしれない。
と、本格的に探していたはず、なのに見つからなかった精霊。
しかし、孤鈴となのっている精霊はそんな気配はさらさらない。
が、精霊が嘘がつけない以上、何か関係があるのであろう。
ミトスに報告すれば、この娘もまた捕獲対象になってしまうな。
そんなことをふとおもう。
そんなクラトスの耳に、
「え、えっと?つまり、あたしと契約してくれるってことなのかい?」
何が何だかわからない。
というか、いいのだろうか。
きちんと戦っていない、というのに。
「ええ。私との契約にあなたは何を誓うのですか?
――あなたがここにいるのは、おそらく、今のシルヴァラントとテセアラのありよう、でしょう」
その言葉にはっと顔をあげるしいな。
「何で……」
「…一年ごとの循環、という契約はたがえられています。
ゆえにあなたとの契約が果たせました。さあ、あなたは何を私に望むのですか?」
それって、まさか。
一年ごとの循環。
八百年に及ぶ、こちら側のマナの衰退と、あちら側のマナの繁栄。
が、今のウンディーネの言葉をもちいるならば、本来、マナというものは…
つまり、精霊もこの世界の仕組みに関係している、ということになる。
「あたしは…あたしは、誰かが犠牲になって、救われる世界なんてまっぴら。
誰もが、どちらの世界も犠牲ならない世界にするために。
この瞬間にも苦しんでいる人達の為に、ウンディーネ。あんたの力をかしてほしい」
「――ミトスは世界を一つに戻す。というその約束すらたがえています。
では、新たな契約者。しいな。あなたにその約束を移行します。
あなたの誓約の誓い、それは世界を一つに統合するそのときまで……」
「え?それはどういう…ウンディーネ!?」
その言葉からすれば、二つの世界を一つに戻す方法がある。ということ。
すなわち、マナを搾取し合う世界でなくなる、ということを意味している。
しかし、その質問には答えることはなく、
「――わかりました。私の力を契約者、しいなに」
その言葉とともに、ウンディーネの姿は光とともにはじけとぶ。
そして、マナが収縮し、やがてそれは小さな一つの形となり、ゆっくりとしいなの手にそれは移動するようにおちてくる。
それは小さな指輪。
アクアマリンがはめ込まれているその指輪は契約の証。
かつて、ドワーフ達が作成した精霊との契約の証の指輪。
「やったね!しいな!」
しいなが祭壇からおりてきたのをみて、ジーニアスが素直な感想をしいなにむける。
精霊がいっていた意味はジーニアスにはわからないが。
というか、世界を一つに?二つの世界?
というか何でお月さまが関係あるの?
そんな思いがよぎってはいるにしろ、契約できたことにはかわりない。
それゆえの賛辞。
「そうだね~。すごいね。しいな~!」
そんなしいなにと、コレットもまた素直に言葉を投げかける。
その表情から本気でしいなが契約ができたことを喜んでいるのがみてとれる。
「て、照れるじゃないか!」
ここまでほめられることは、あの七歳の事件以後なかったゆえにしいなとしては照れるしかない。
人の素直な気持ち、しかも純粋なる善。
いつもしいなに向けられていたのは、殺意や悪意、そして・・・恐怖といったものでしかなかった。
唯一違ったのは、里の副頭領と、そして幼馴染の兄弟達。
そして、腐れ縁となったかの男性。
「いや。本当にすげえ!ああ、早くウンディーネを呼ぶところがみてえな~!」
ロイドが興奮してそんなことをいっているが、
「…クラトス。あなたやけにいろいろと詳しいのね」
精霊との契約。
普通、詳しいはずがない。
リフィルのそんな問いかけに、
「…精霊については少々詳しい知り合いがいただけだ」
「普通、そんな知り合いなんて……」
いるはずがない。
特に、シルヴァラントでは。
しいながいっていた、研究所、というのもきにかかる。
そんな施設があるなど…いや、かつてリフィルはそれをきてたことがある。
それは幼き日。
あの里を家族で追い出されるまでの日々に。
王立研究所。
よくよく考えれば、国もないのに王立研究所などありえない、はずなのに。
先ほど精霊がいっていた、シルヴァラントとテセアラ。
つまり、精霊の言葉を深く追求すれば、世界が二つある、ということに他ならない。
そして、世界を一つに戻す、といったあの言葉からもそれが真実だ、と疑わざるをえない。
精霊は、嘘をつけない。
それが世界にくみしている存在であるがゆえ、とそうリフィル達は聞かされている。
また、血における本能も、そうだ、と訴えかけてきている。
そして、気になるのは
「エミル。あなた、ウンディーネと何を話していたの?あの言葉はなに?」
エミルは精霊と何かを会話していた。
リフィルですら知らない原語。
歌のような旋律をもつ言葉。
そんな言葉、リフィルはきいたことが…否、どこかできいたことがある。
そう、あれは、里にいたときの祭りで、大樹に感謝をささげるという祭りの中において。
世界にささげる聖歌。
あの旋律がまさにエミルのそれだ、と先ほど思いだした。
ウンディーネとエミルの会話らしきものを聞く最中で。
――この意味はなぁに?お母様。
――これはね。聖なる癒しのその御手よ…
幼き日には母からきいた言葉がよみがえった。
そんなリフィルの言葉にエミルはただほほ笑むのみで、そして。
「それで、これからどうするんですか? このまま、王廟跡にいくんですか?それとも先にユニコーンのところに?」
それとなく話題をかえて今度のことを問いかける。
そんなエミルの言葉にはっとなり、
「先生。王廟の封印は後にして、先にピエトロさんを助けにいきませんか?」
コレットがリフィルに問いかけるようにしていってくる。
「ユニコーン?もしかして、ユウマシ湖の底にいるあのおうまさん?
素敵!もしかして、精霊と契約したのってあのお馬さんを救いだすため?」
「あ。ああ。そうさ」
しいながいうが。
「でも、先に王廟にいってそれからユウマシ湖にむかったほうがいいわ。
ハイマにいくのには、あの地下遺跡の道を通らせてもらうとして。あ、でも、王廟にいったらマルタを町に……」
「私もユニコーンを直接みたい!ね。いいでしょ!?コレット!
用事がすんですぐにもどってこい、とはいわれてないんだもん!というか、エミルとはなれたくないっ!」
「「それが理由(か)(なんだ)」」
マルタの叫びに異口同音でジーニアスとしいなが呆れたような声をだすが。
「どちらにしろ、王廟には向かいましょう。そのほうが近道ですからね」
何か話しをはぐらかされた。
しかし確かに今後の予定、というものは必要で。
エミルにはあとでしっかりときくことにしましょう。
そう心の中でリフィルは決意する。
クラトスが思いっきり動揺しているのがみてわかる。
ウンディーネがそこまで説明する、とは夢にもおもっていなかったらしいが。
というか、ウンディーネも契約に関することは口にできないのではあるが、
契約を破棄された以上、契約をたがえられた内容は口にすることは可能としてある。
ゆえにそれらを用い、クラトスに意図返しをしたようであるが。
…どうやらかなり腹にすえかねていたらしい。
そんな中でのリフィルの質問。
一方で、
「よかった……」
しいながほっとした表情で、手の中にあるアクアマリンの指輪をながめつつぽつり、とつぶやく。
「しいな、おめでとう!」
そんなしいなに、孤鈴が肩にのったまま、しいなに賛美の言葉をおくっている。
「ああ。ありがとう。…精霊研究所で習ったことがようやく生かせたよ」
そんなしいなの言葉に、
「そうだね。あんないやな連中から習ったことでも、役に立つんだね」
あからさまに含みがある言い回しで孤鈴が何やらいっているが。
そんな孤鈴を悲しそうにふとみつめ、
「まだ・・・あいつらのことが許せないかい?」
それが許せないのなら、自分は、という思いゆえのしいなの問いかけ。
故意ではなかったにしろ、里の民を三分の一も死なせてしまったのは事実。
「・・・コリンのこといじめたんだもん。大っ嫌い。コリンの友達はしいなだけ」
いいつつ、そのふさふさの尻尾をしいなの頬にとすりよせる。
「うん・・・」
「しいながコリンを助けてくれたから、コリンもしいなを助けてあげる」
尻尾をふりふりしつつ、純粋なる思いでいっているのがよくわかる台詞。
孤鈴は精霊ゆえに嘘はつけない。
そして純粋でもある。
「わかった。ありがとう、コリン。でも、ウンディーネはあんたを別の名でよんでたのは…」
「わかんない。だって孤鈴研究所で目覚めてからしかの記憶しかないもん」
もしかして、あの言い回し。
ウンデーネは元々、孤鈴を知っているのかもしれない。
そして、気になるのはエミル。
エミルもどうやら孤鈴をしっているような言い回しをしている。
――今の君の名は孤鈴っていうんだ。
――まだ完全ではないのか?
そう、孤鈴にエミルがいっていたのをしいなは聞いている。
ヴェリウス。
おそらくその名に意味がある。
ウンディーネがいっていたその名に。
が、精霊研究所でもそんな名の精霊など、しいなは聞いたことすらない。
「なあなあなあ!」
「な、なんだい?」
孤鈴とそんな会話をしている最中、いきなりロイドに話しかけられ、思わず戸惑いぎみにこたえるしいな。
「なあなあ、どうやって精霊って呼びだすんだ!?」
「あ、私もそれしりたい~」
「僕も」
「確かに。興味深い内容ね」
「私も、私も!」
目をきらきらさせて、しいなにといかけているロイド。
そんなロイドに同意するかのように、コレットがいい、続けてジーニアス、
そしてリフィルにマルタまでもしいなにと注目する。
「え。えっとね。呼びだす文句は、『召喚士の名において』といって、そして呼びだす対象者の名を紡ぐんだ。
孤鈴の場合は、そこまで形式を踏まなくても名前だけで出てくれるんだけど」
「すっげぇ!よくわかんねぇけどすげえ!格好いいよな!精霊と契約するって!」
しいなが言葉を選びつつも説明すれば、ロイドが興奮したように言い放つ。
「そ…そうかい?」
こんな感想をもたれたのはしいなも初めて。
精霊と契約することができる、とわかってから、
皆、しいなを見る目がどこか恐怖にかられ、もしくは蔑んできた、というのに。
純粋に喜ばれたという記憶はしいなの中にはほとんどないといってよい。
ゆえに新鮮であり、とまどわずにはいられない。
「なあなあ。どんな感じなんだ?」
「そうだねぇ・・・体の奥から自分とは違う大きなものが押し寄せてくるって感じかな」
コリンの力も初めて召喚したときはそんな感じだったことをしいなは思いだす。
「何かわかんねえけど、すげー!俺も召喚士だったらよかったな~」
そんなしいなの台詞に、ロイドが心底うらやましそうにそんなことをいっているが。
「・・・でも、あたしは召喚士なんて嫌だったんだけどね」
しいなからしてみれば、自分がこんな力をもっていたから、皆を傷つけた。
という思いがぬぐいきれない。
契約をしたあのとき、里の存在達がしいなをみるめがことごとく変化した。
そしてしいなの知らないうちに、研究院の派遣がきまっていた。
そのときには、人身御供などという言葉は思いもしなかったが。
「ふ~ん?何でだ?」
ロイドはそんなしいなの過去の事情はしらない。
だからこそなんで精霊と契約できる力がないほうがいい、などというのかがわからない。
「…精霊との契約は成功する、とは限らないってことさ。
現に、今のウンディーネとの戦闘でもあたしら、彼女に傷を負わせられたかい?
……時と場合によっては命を落とすこともあるのさ。…大切な人達すら巻き込んで、ね」
「うっ。でもなんであの精霊、クラトスばかり集中攻撃してたんだろ?しかし…命を落とすって…まじか?」
まさか、命をかけて、というとはおもわなかったゆえに、ロイドがおもわずすこし引きつつといかける。
「まあね。…今回、よくわかんないままに、契約してくれたのは、おそらく…エミル、あんた、精霊に何をいったんだい?」
それ以上、ロイドに追求されたくないがゆえに、話題をエミルにとふり問いかける。
おそらく、エミルが何かいったからこそ、契約が成し遂げられたのであろう。
それはしいなの勘。
「なら、しいなさんに逆にききますけど。もししいなさんが、望まない契約。
もしくは、契約を誓っている相手がその契約をたがえている、というのに。
その契約があるがゆえに縛られ続けなければいけない、と知れば、どうおもいます?」
「それは……」
まさか逆に問いかけられるとはおもわずに、しいなは言葉につまってしまう。
ぴくり。
その言葉にクラトスが何やら多少反応しているのもみてとれるが。
「ウンディーネのあの言い回しからすれば、彼女も同じ思いでしかない、ということですよ」
「…なんか、うまく話しをはぐらかされいないかい?」
何だかうまくごまかされたような。
そう思うしいなはおそらく間違ってはいないであろうが、
エミルからしてみても、これ以上、詳しく説明する気はさらさらない。
それゆえに。
「どうですかね。とりあえず、外にでませんか?」
話題を変えるべく、リフィルにと問いかける。
「そうね。ここにいつまでいても仕方ないもの。…今、時間はいつくらいなのかしら?」
かなり遺跡の中でうろうろとしていた。
確実に数時間以上は経過しているであろう。
「…すでに昼はすぎているようだな」
リフィルの言葉をうけ、クラトスが懐から懐中時計をとりだして時間を確認する。
「なら、今日はここで野営ですね。それとも暗くなりかけている夜の海を渡ってもどりますか?」
エミルのいい分に、
「え、遠慮するよ」
「遠慮するわ…ああ、かえりもまた、あれにのらないといけないのね……」
すかさず否定の言葉をはっするジーニアスに、がくり、とうなだれているリフィルの姿。
どうやら話題を変えることには成功、したらしい。
行きは仕掛けを解除しつつの道のりであったゆえに時間はかかったが、帰りの道はさほど時間はかからない。
「ようやく外だ~!」
外の光りが眩しく感じたのか、ロイドがおもいっきり腕を伸ばす。
「コレット。お願いね」
リフィルの言葉をうけ、コレットが石碑が二つ並んでいる中央にたつと、来たときと同じく、水の水が出現する。
「おお!神子様がたがでてこられたぞ!」
「封印が解放されたのね!」
何やら下のほうからそんな声がきこえてきているが。
みれば、展望台の上。
そこに先ほどまでいた観光客のほとんどがどうやら集まってきているらしい。
「うげ。何、あの人だかり……」
それに気づいたらしく、ジーニアスが思わず一歩、後ろにと退く。
「…他に出口は……」
リフィルがいうが。
「おそらくないだろう」
クラトスの淡々とした言葉。
道はあるにはあるが、それをするならば、また奥にと戻る必要がある。
ちなみにそれは魔物達やセンチュリオン達といった存在達専用の通路でしかない。
「いくしかなかろう」
「……そうね」
ため息をつきつつ、眼下をみやるリフィル。
さほど広くない展望台に、十数名くらい人々があつまっている。
どうやら彼らは、コレットが洞窟からでてくるのを、今か、今かとまっていたらしい。
ノイシュを共につれていっていて正解だった、とうべきか。
橋を渡り切り、全員が展望台にたどりつけば、あっというまに人だかり。
「…あの?」
なぜ、人々はエミルのほうにやってきているのだろうか。
「あなたが神子様ですね!」
「そのおそばにいる不思議な動物が何よりの証拠!」
「…え…えええ!?」
どうやら完全に勘違いをされている、らしい。
確かにコレットと同じ金髪であるが。
ついでにいえば、ロイドにソーサラーリングを向けられて、髪が濡れたので今は髪をほどいており、
ふわっふわのウェーブのかかった髪は腰のあたりまでそのまま伸ばされている。
彼らはコレットが石板に手をあてていたところまで確認していない。
ただ、金髪の子が、という噂が広まっており、一行をみてみれば、金髪の子は二人。
しかし、ノイシュの横にいたのがエミルであったことから、人々は盛大に勘違いをしたらしい。
人々があっというまにエミルの元におしよせて、そのままコレット達はそんな人々に押しやられる格好になってしまう。
「!コレット!!!!!!!」
そのまま、人ごみにおされ、
階段の辺りにまで押しやられたコレットが、ふらり、とよろめく姿をロイドは視線のはしにとらえるが、
人々に阻まれ、コレットに近づくことすらままならない。
「まずい。ノイシュ!」
「わおん!」
あのままではコレットは階段を転げ落ちてしまう。
すでに、そのまま体勢をくずし、コレットは幾段かの階段を転げ落ちていっている。
『え?』
コレットを押し出すようにして、我先に神子様の元へ。
もっともそれこそ勘違い、なのだが。
よくわからない動物がいきなり人々の上を飛び越えたかとおもうと、そのままその動物は階段へ。
そして、そのまま階段を転げ落ちているコレットを口にくわえ、どうにかコレットを助けだす。
「どけ!…コレット!大丈夫か!?」
「あんたたち、いい加減にしなよ!のいて!」
さすがに神子一行のうちの一人が階段から落ちたのが自分達のせい、とようやく気付いたのであろう。
そこにいた人々が何ともいえない表情をうかべる。
「神子は無事か?」
『…え?』
クラトスのものいいに、戸惑いの声をあげる人々。
「あんたたちがおしのけたコレットが再生の神子だよ」
ジーニアスがそんな人々に吐き捨てるように言い放ち、そのまま階段をかけおりてゆく。
階段のところどころについたべっとりとした血。
「コレット!?」
「…あ、ロイド……えへへ。階段からおちちゃった…」
「落ちたじゃないだろ!って、コレット、お前、その傷!」
コレットが足にはいているスパッツがもののみごとにやぶれ、そこに血がにじんでいる。
みれば、手にも血がにじみ、それだけではない。
「あんた、そんこといってないで!ひどい怪我じゃないか!」
駆け下りてきたしいなが、コレットの状態をみて思わず声をあげる。
「ロイド!あんたは水、真水でないとだめだよ!
そこの階段、小さな石とかがかなりあるから、この傷の中に石がはいってるかもしれない!
コレット、わるい。痛いかもしれないけど、我慢しとくれよ」
「ふえ?私は大丈夫、だよ?しいな」
「大丈夫のわけないだろ!この傷で!」
コレットの膝はぱっくりと割れたようになっており、そこから赤身がおもいっきりみえている。
そしてさらにその肉を階段で転げ落ちたときにすった、のであろう。
赤身の肉が何ともいえない土をともなった色に変化していたりする。
どうみても大丈夫のはずはない。
「先生!早く、コレットの傷をなおしてやってくれよ!」
ロイドもその傷をみてリフィルに叫ぶ。
「まちな。傷を治すのは、先に石を取り除いてからだよ!」
「何でだよ!」
傷口にはいりこんでいる石を取り除くのは、さらに痛みをともなうだけなのに。
なら、さくっと治癒術で回復させたほうが、そう思いロイドが叫ぶが、
「あんたは、コレットの右足がダメになってもいいのかい!
不純物をいれたまま傷をふさいだら、肉の中でそれが悪化して。
下手したら足を斬り落とさなきゃいけなくなるんだよ!
いいから、水をもってきな!!!!土や砂をまずは洗い流さないと!
いっとくけどこのあたりにあるであろう塩水はだめだからね!」
ぴしゃり、としいなが言い放ち。
「…ゼロス。まさかあんたにもらったこれが役にたつとはおもわなかったよ」
いいつつも、小さな何か卵のような物を腰の小さな鞄から取り出しているしいな。
そして。
ボフン。
しいながその卵のような何かを握ったかとおもえば、次の瞬間。
それまでなかったはずの木の箱らしきものがしいなの目の前にと出現する。
その箱には大きく、十字の模様が描かれている。
「それって…」
「ウィングパックさ。あたしの腐れ縁のやつが、怪我をしたらつかえっておしつけてきたやつでね」
かちゃかちゃと、その木の箱。
いうまでもなく救急セットがはいっているそれを開き、必要なものを取り出してゆく。
中には、ちょっとした針や糸…どうみても病院でつかわれるそれらまではいっている。
あいつ、あたしを一体何だとおもってるんだい!?
おもわずここにいない腐れ縁の赤い髪の男性のことをおもい、愚痴をいいたくなるが。
しかし、こうなった以上、この中にはいっている道具はかなり助かる。
「コリン!コレットの傷をみて、石がどこにあるか、指摘しておくれ!」
「うん。わかった!」
精霊であるコリンは、体内の異物を見分けることができる、という。
「しいな、水!」
ジーニアスが腰にもっていた水筒をとりだし、しいなに受け渡す。
「さんきゅ。コレット、染みるだろうけど、我慢しておくれな。ここには、麻酔がないから」
自分達のように訓練を積んでいるならばいざしらず。
そうでない人物に簡易的に処置を施すというのはかなりの激痛が走るはず。
ざっとみるかぎり、このまま治癒を用いても、きちんとした形で元にもどるとは限らない。
ならば、異物を完全にとりのぞき、傷口を幾針か縫い、
その上で治癒術をかけたほうが、痕跡は綺麗さっぱりのこらない。
ばしゃり。
「…うわ、いたそう」
ジーニアスがその傷をみてぽそり、と目をそむけつつもつぶやいているのがみてとれる。
しかし見ているだけでも痛々しい、というのに。
「?あんた…?」
コレットはただきょとん、としているのみ。
「ち。清潔な布はないかい!傷口の砂などを取り除くのに必要なんだけど!」
しいなが叫ぶが、人々はいまだに展望台の上で戸惑いの表情のまま固まっている。
つまり、彼らは人違いをしたあげく、さらには本物の神子に怪我を負わした。
ということに他ならない。
「あ、綿でよければ」
「それでいいよ。というか、あんた、よくそんなのもってたね」
「花をみつけてもってたので」
エミルが綿花を差し出し、それをしいながピンセットにて小さくちぎり、救急セットの中にあった消毒液を併用しつつ、
慣れた手つきでコレットの怪我の手当てを施してゆく。
「ずいぶんと慣れているのね」
「あたしらの任務では怪我は日常的だからね。こういった処置は自力でできるようにとことん訓練されるのさ」
リフィルの問いにしいなは答えつつも、いくつもの汚れた綿がその場にほうりなげだされる。
それは血に染まっており、その血は土もまじり、何ともいえない。
それはすなわち、傷口にそれほどまでに汚れが付着している、ということ。
「もう水が・・・そうだ、ロイド!ソーサラーリング!」
「そ、そうか!これがあった!」
いまだに属性は水のまま。
たしか出ていたのは塩水ではなかったはず。
ジーニアスがはっとそのことにきづき、ロイドがはっとして己の手をみやる。
「なら、この中にいれとくれ!リフィル。あんたは、そこらにある一つでもいいからタライをクラトスともってきて!
腕の怪我は一気に水にいれて洗い流したほうがはやい!」
「わかったわ。いきましょう。クラトス」
どうやら大けがの対処にもしいなは手慣れている様子。
「あ、あの、私たち……」
戸惑いつつも、階段を下りてきた観光客らしきものが、何やらいってこようとするが。
「邪魔しないどくれ!というか、あんたたちなんでこの子を階段からつきおとしたんだい!」
『・・・そ、それは・・・・』
しいなの叫びに人々は言葉をつまらせる。
何をどういおうと、彼らがコレットを押しのけて、階段から突き落とした。
という事実はかわりない。
別人を神子、と勘違いをし、本物の神子を怪我させてしまったのは、他ならぬこの場にいた観光客達の行動の結果。
「っ!コレット、しっかりしな!コレット!」
ふとみれば、コレットの目が閉じかけている。
それは痛みによるショック症状によくみられること。
突発的な大けがは、ヒトはショック症状を引き起こす。
「ワオン!」
「ないす!ノイシュ!そのままコレットをささえてやっとくれよ」
そのまま倒れそうになるコレットの背後にノイシュが回り込み、
そのままコレットの体を支える格好となる。
「エミル。あんたはその人達をどこかにやっとくれ。またこの子にたむろして何かされてもこまるからね」
神子、というだけで、体調がわるくても、怪我をしてても…まあ、彼が怪我をしたことはないにしろ。
近寄り、無理難題をいう人間がいる、というのはしいなはよく知っている。
それゆえの台詞。
「わかった。さて、皆さん。そろそろ戻らないと皆さんは夕焼けの中、もしくは夜の闇の中、海を渡ることになりますよ?」
普通にここに渡りきるまで、数十分は必要となる。
それは慣れているものの時間であり、最低一時間は渡りきるのにかかってしまう。
「し、しかし」
「しかしも何もあるかい!あんたたちがいたら、この子が気をつかって、下手に傷口が悪化しかねないんだよ!
神子のことをおもうのなら、はやくもどりな!」
しいなの一喝。
おそらく、コレットは人々が乞てくれば断らないだろう。
それこそ怪我を押してでも人々に答えようとするのが目にみえている。
「しいな。タライはこれでいいかしら?」
「ああ。十分さ。ジーニアス。その中に水を術でいれとくれ」
「わかった。スプラッシュ!」
「魔術!?まさか、ハーフエルフ!?」
「まさか、神子様の一行にハーフエルフがいるわけが……」
それをみて人々からそんな声があがっているが。
「グダグダいって怪我の治療の邪魔すんじゃないよ!
あんたたちはこの子を、神子を怪我の悪化でころしたいのかいっ!」
「で、でも神子様は人でないから死ぬわけ……」
「今までだってこっちの神子は幾度もしんでたんだろ?ありえないわけないだろうが!
そもそも、ヒトでないってなんだい!それ!神子も人間だろうがっ!」
「…そういえば、以前のアイドラ様も怪我が元で死んだって……」
ぽつり、と一人が何か思いだしたようにいえば、さらに人々は押し黙ってしまう。
バシャリ。
タライに水が入ったのを確認し、コレットの傷ついた手を…服の上からでも傷ついた、のであろう。
白い服がまたまた血でべっとりとそまっている。
あのとき、アスカード牧場のあのときのように。
「…んとに、あんたは馬鹿だよ…神子ってのは、どうして…こう、馬鹿ばっかなりなのさ」
自分を犠牲にし、ヒトの為につくす。
それがまるで当たり前、として行動している二人の神子。
しいながしる神子もまたそのうちの一人。
その行動は道化を装っているにしろ。
彼もまた自分を悪者にして他人を救わんとするところがあるがゆえの台詞。
「ふう。どうにか大丈夫、かな」
とまどう人々をかまってなどいられない。
ひたすらにコレットの傷口についた汚れと、そして内部にはいりこんでいた異物。
それらを小さな針やピンセットで取り除き、完全に異物がなくなったことを確認したのち、針と糸をもってして、
一番怪我のひどい膝の縫合をしたのちに、リフィルにたのみ、ようやくそこで治癒術の出番。
リフィルの治癒術より、淡い光がコレットの体を包み込み、
しいなが縫合したゆえか、傷跡もあまりのこることなく、傷はふさがれる。
「しかし、かなりの血がでたのは事実だよ。この子はしばらく安静にさせとかないと」
すでに、幾度水を取り換えた、であろう。
縫合中に出た血はおけの水を幾度も赤くそめ、そのたびに水を取り換えた。
「潮風もたぶん体にはきついとおもうよ」
「でも、どうするのさ?タライにのらないと、もどれないよね?」
ジーニアスのいい分は至極もっとも。
「…仕方ないわ。あまりとりたくなかった手段だけど。
エミル。お願いできないかしら?コレットを安全な場所で休ませたいの」
人々の目がある中での移動は好ましくない。
が、このままここにコレットをおいていても好ましくないのもまた事実。
「え?つまり、空の移動で、ということですか?」
「ええ。…あまりあなたに頼りたくはないけども。
この子、無理をするから。目がさめたら、自分を慕ってくる人々を無碍にはできないでしょう」
間違いなく、あの人間達はコレットが目を覚ますまで居座るような気がする。
今はしいなに怒鳴られて、遠巻きにみているしかないにしろ。
「?空の移動?それって?」
マルタが意味がわからずに首をかしげるが。
「クラトス。あなたは、人々がこれ以上邪魔してこないように彼らを引き留めておいてちょうだい。
あなたなら後から合流することもできるでしょう?」
何を、とはいわない。
「しかし、それでは神子は誰がつれてゆくのだ?」
そんなリフィルの問いかけに、クラトスが逆にとといかける。
コレットの意識はいまだに戻らないまま。
今では熱すらもでてきていたりする。
それは、天使化における過程で必ず毎回でる副作用。
「僕がつれていきますよ。ロイド達じゃ、たぶん、コレットをラティスに乗せることもできないでしょうし」
「どういう意味だよ!エミル!」
「ならきくけど。コレットを抱きかかえたままで、ラティスの背にロイドは移動できるの?
コレットの体に負担をかけることなく?」
「そ…それは……」
エミルが今から呼ぶのが、あの乗ったことのある鳥なのだとすれば、
足場はふわふわ、ふかふかの毛で不安定といってよい。
そんな場所にコレットの体に負担をかけることなく、コレットを背負う、
もしくは抱いたまま移動できるか、といえば、ロイドは答えに窮してしまう。
「あら。エミル。あなたは平気なの?」
「とび乗れば問題ないですし。なら、善はいそげですね。…こい」
エミルが目つむり、言葉を紡ぎだすとともに、空に蒼い光をはなつ魔方陣が出現する。
「あ」
マルタが何かいうよりもはやく、ひょいっとエミルがコレットを抱き上げる。
それはコレットの体に負担をかけないがために、横抱きのまま。
アスカード牧場にてクラトスがコレットにしたように。
「うう…コレット…ずるい、けど、コレットはけが人、病人…あ、でも私が怪我をしたらエミルは……」
「マルタ。まさかあなた、エミルに横抱きしてほしいから、といってわざと怪我とかしたら。
そっこく、あなたを町に連れていきますからね。
当然、あなたの両親にもそのことは伝えてしっかりと言い聞かせてもらいますからね」
ぎろり、とマルタをにらみつつ、きっぱりといいきっているリフィル。
コレットは好きで怪我をしたわけではない。
というのに。
この子は。
クラトスが剣を構え、人々を牽制している最中、ゆっくりと現れたシムルグのラティスは残橋へとちかよってゆく。
「オルカたち。この五隻のタライを元の場所へ」
コレットを抱いたまま、残橋にちかづき、エミルが小さく言葉をはっする。
それは、魔物達に向けた声。
きゅいっ!
その言葉を受けて、そのあたりにいた見た目はイルカでも大きさのことなる魔物のオルカ達が、残橋付近にと出現する。
「――アクア。彼らに元の場所をおしえてやれ」
『はい。わっかりました!』
目をつむり、アクアにいえば、アクアが即座に反応し、アクアの気配は海の中へと移動する。
そのまま、ばさり、と降り立ったラティスの背をめがけ、とん、とかるく残橋をける。
ふわり、と浮き上がるとともに、衝撃も何もなくエミルはラティスの背にと移動する。
「エミルって…すご」
コレットを抱いているままだ、というのにあそこまで高くジャンプができるとは。
エミルはどうみてもエクスフィアをつけていない。
つまり、今の飛躍力はエミル自身がもっている、ということに他ならない。
マーブルの命そのもの、とわかっても、エクスフィアにたよるしかない自分。
そして、誰の力もかりずにその力を手にしているエミル。
「…借り物の力じゃ、だめ、なんだ……」
ぎゅっと手にしているエクスフィアをにぎりしめるジーニアス。
「え?え?」
「ほら。行くぞ。マルタ」
いきなり現れた何ともいえない優美な姿をした鳥。
それはまさに、神鳥シムルグ、それ以外にはみえない。
唖然とし思わずかたまるマルタにたいし、ロイドがそのままマルタの手をひっつかみ、そのまま残橋へと移動する。
マルタはあまりの衝撃に、ロイドに手をひかれていることすら気づいていない。
「クラトス。私たちは救いの小屋でまっているから。小屋でおちあいましょう」
「つまり、私をここにおいていく、と?」
「あら?あなたは旅の傭兵、なのでしょう?ならすぐにおいつけるでしょう?
あなたがおいつく間、すこしでもコレットを休ませてあげたいのよ。
あの子、絶対にすぐに無理をしようとするから。あなたをまっている。
という名目があればあの子を休ませる時間もかせげるわ」
あるいみコレットを休ませるにはこれ以上、といってもよい手といえる。
クラトスがくるまで待ちましょう、といえば、コレットは間違いなく、自分達だけでいこう、とはいわないはず。
そんなコレットの性格をみこしているがゆえのリフィルの台詞。
ついでにいえば、興奮した人々の後始末をクラトスに押し付けることもできる。
まさに一石二鳥。
クラトスばかり狙った精霊、そして精霊の守護者達。
そして、ウンディーネはあきらかに、クラトスをみて何か敵意をこめて叫んでいた。
その言葉の旋律は何をいっているのかわからなかったにしろ。
精霊の契約のことに詳しかったことといい、
あのとき、イセリアにて、ものすごく不自然なタイミングで現れた、というクラトス。
クラトスに対する疑念はリフィルの中で日々膨れ上がっている。
エミルに対する疑問はあれど、エミルはおそらくまちがいなく、コレットを傷つけよう、とはしないであろう。
それは確信。
だが、クラトスは、目的の為ならば平気で他者を傷つけるであろう。
クラトスがいつも優しいまなざしでみているロイドであっても。
クラトスがロイドを見る目が優しいのは、クラトスがかつて失ったという我が子を重ねているのかもしれない。
たしかに、クラトスとロイドの髪の色、さらに面影もどことなくにていなくもないかもしれない。
だからこそ、我が子の面影を重ねている、という可能性もある、と結論づけているのだが。
よもや、リフィルはしらない。
クラトスが死んだ、といっていた息子がその実、ロイド自身である、ということを。
優美な鳥、どうみても神鳥シムルグの姿を目の当たりにし、人々は今現在、唖然とし、あるいみ呆けているといってよい。
ならば移動するのが今が絶好の機会。
「いくわよ。ジーニアス。しいなも、ね」
「あ、ああ」
というか、クラトスをここにおいてくのかい?
そう視線で問いかけるが、リフィルは無言でこくり、とうなづく。
確かにこの後、おこりえるであろう混乱を収める人がいたほうがいいであろうが。
「…彼のいないところで確かめたいことがあるのよ。しいな、あなたにも協力してもらってよ」
「え?」
クラトスが街の人々の前で彼らをとどめ置いているのを確認し、そのまま残橋にと現れているシムルグのもとへ。
「え?え?」
何やら足元がふわふわする。
ようやく、はっとマルタが我にもどったのは、その頬に冷たい風を感じたがゆえ。
ばさり。
翼の音が耳にととどく。
「さすが、空の移動ははやいわね」
すでに、島は遠くにみえている。
「で、この鳥でどこまでいくつもりなんだい?クラトスのやつには救いの小屋、といっていたけど」
しいなの問いかけに。
「エミル。峠を越えた先の救いの小屋までお願いできるかしら?
アスカードはコレットのことをしっているし。ハイマはピエトロのこともあるし。
この子が目をさましたら余計に気をつかいかねないもの。
かといって、ルインはもっての他。 体調の悪いこの子をかつぎだしてでも、騒ぎ始めかねないわ」
すると、のこるはかの地にある救いの小屋。
あの場はあまり旅業者も尋ねるような場所ではない。
だいたい、救いの小屋によらず、ほとんどのものがルインを目指す。
よったとしてもそれは一時しのぎであり、そこで休むものはあまりいない。
そうリフィルは聞き及んでいる。
「あ、あの!?ここって…きゃ!?」
びゅう。
立ちあがったマルタの顔を風が吹き抜ける。
「マルタ。あまり動かないほうがいいよ。いくらこの鳥の背が大きいとはいえさ。おちたらひとたまりもないよ?」
「おちたらって……」
ジーニアスにそういわれ、ようやく何かがおかしいことに気付く。
足元はふわふわしており、何かの毛?らしきもののような気も。
さらに空が近いようにみえるのは気のせいか。
だがしかし、
「……嘘」
その視線をさらに別の場所にむけてみれば、眼下のほうにみえるは、
小さくみえる大地と、そして山、さらにはその先に海らしきもの。
それらを統合すれば、今現在、マルタはそらの上にいる、ということになる。
その景色は、ハイマにてかつて父とともに見た景色とよく似ている。
すなわち、高いところから見下ろしたその景色に。
「ここって…空の上?」
おもわず、ペタン、とすわりこめば、たしかにほんのりと今いる足元はどうみても毛。
ちらりと視線を横にむければ、巨大な羽が幾重にも重なった翼らしきものが上下にゆっくりと動いているのがみてとれる。
「エミル。コレットの様子はどう?」
「熱は下がったみたいです」
水差しに呑みものを含ませ、コレットにエミルが何かを飲ませていたのには、リフィルも気づいていたが、
前回のこともある。
確かに熱で息もあらかったコレットだが、呼吸は落ちついているっぽい。
以前、空での移動のときには、この峠の先は闇に包まれていた。
が、今回はくっきりとその先までみてとれる。
遥かな視線の先にそびえたつ救いの塔の存在も、くっきりと視界にて確認可能。
「…なあ。少しいいかい」
コレットの様子を少し確認したのち、まだコレットの意識がもどっていない。
「何かしら?」
「コレットのことさ。あの子…どうなっちまったんだい?」
「どうって…?」
しいなの言葉はロイドにはわからない。
「おかしいんだよ。あんな大けがしたのにさ。コレットのやつ。
傷の手当てをするときも、傷口から石をとりだすときも、まったく微動だにしなかったんだよ。
あたしたちみたいに拷問とかでも口を割らないように訓練しているならともかく。
あの子は普通の子、なんだろ?普通、痛い、とか何とかいうし。
消毒液をかけたときには、無意識に身をよじってもおかしくないんだよ。…けど、あの子にはそれがなかった」
まるで、まるでそう。
まったく痛みを感じていないかのごとくに。
不思議におもいつつも、一番大きな石を取り出すために、赤身がでている肉をえぐったときですら。
悲鳴一つもあげず、コレットはきょとん、としていた。
ありえない。
「おかしすぎるんだよ。まるで、感覚がない、痛覚…すなわち、痛みを感じていないかのように。
コレットのやつ、きょとん、として手当てをうけてたし……」
しかも、痛くないかい、といえば、大丈夫、平気。迷惑かけちゃうね。しいな。
と逆にしいなをねぎらう声をだしてきたほど。
「マナの守護塔でもあの子は倒れたよね?そして、今回の封印解放でも。
あのレミエルってやつがコレットに授けている天使?とかいう力。あれに関係してるんじゃないかい?」
「……天使への変化には試練がつく、とレミエルはいってたよ」
ジーニアスがそんなしいなの台詞にぽつり、とつぶやくが。
「はん。試練。ね。だけど、痛みを感じなくなったりするのどこが試練なんだい?
まるで、ならお前は怪我をしてそのまま死ね、といってるようなもんじゃないかい」
『・・・・・・・・・・・・・』
しいなのいい分は至極もっとも。
「え?え?どういう?」
マルタはマルタで意味がわかっていない。
「一度、この子にきちんと聞いたほうがいいとおもうよ。
もしも、一過性のものじゃないんだとしたら…この子の命が危険だよ」
「あら。あなた、コレットが命を落としたほうが都合がいいのではなくて?」
「…別の可能性をウンディーネが示したからね。それを確認するさ。あたしだってこんないい子をみすみす…」
「え?しいなさん?リフィルさん?」
そんなしいなとリフィルの会話はマルタには理解不能。
「痛覚ってのはね。命における危険信号なんだよ。だけど、痛みをかんじなかったら
命にかかわる怪我をおっても気付くことなく、気付いたときには手遅れってこともありえるからね」
しいなの言葉にしばしその場に静寂が訪れる。
「…早急に確認したほうがいいわね。けど、コレットが素直に認めるかどうか……」
コレットのこと。
もしもそうだとしても、心配をかけまいとして絶対にいわない、であろう。
「?痛覚?コレット、もしかして痛いとかわからなくなってるの?」
どうも意味がわからないが、話しを要約すると、どうやらそうらしい。
あのとき、マルタはコレットの傷をみて、一瞬気を失っていたがゆえ、あの間の詳しいやり取りはきいていない。
「その可能性が高いってことさ。一時的なものなのか、それとも……」
それとも一生ものなのか。
もしもそうだとすれば、それは何と残酷なのだろう、としいなは思う。
「でも、コレットがそれに僕たちが気付いたとなったら。余計に畏縮しちゃうよ。
ごめんなさい。心配をかけちゃうね。って……」
ジーニアスならではの台詞。
だがしかし、コレットならば確実にそういう、であろう。
「何とか、それとなく確認し、当人から理由というか自覚がききだせればいいんだけど……」
腕をくんでいうしいなに、リフィル達もまた考え込む。
「…なあ、その役目。俺に任せてくれないか?」
それまで黙っていたロイドがゆっくりと口を開く。
「ロイド?」
「……俺、またコレットを護れなかった。あいつを護るってきめたのに。あいつの傍にいれば、こんなことには!」
あのとき、水の橋をわたったあのとき。
ロイドはしいなに精霊との契約のことについて、しつこくきいていた。
コレットの傍にいればあの怪我は防げたであろう。
それがロイドからしてみれば悔やまれてならない。
精霊の解放をしたあと、コレットの体調がおもわしくなくなる、
というのを知っていたはず、なのに。
自分の好奇心を優先し、コレットのことを失念していた結果がこのありさま。
痛々しいまでの血にぬれたコレットの服。
敗れた足を覆っていた黒いスパッツ。
そこにはすでに白い肌が除いているが、ついさきほどまでは、赤身がもりあがるほどに怪我が著しかった。
ぱっかりとわれた傷口からはとめどなく血がながれでていた。
アスカード牧場のときと同じ。
あのときは、ロイドをかばってコレットは背中をクヴァルに斬られた。
あのとき、もし傷が深ければ、コレットの命は確実になかったであろう。
そして、今回。
階段を転げ落ちたコレットの打ちどころがわるければ、コレットはやはり命を落としていた。
全ては、注意していれば防げたこと。
クラトスに少し前に
【どんなときも気をぬくな。生き残りたくばな】
そういわれたばかりであった、というのに。
しかし、しいなが精霊と契約したことに浮かれ、気をぬいていたのは事実。
それゆえにコレットが傷をおったといってよい。
「たしかに。ロイドならコレットも油断するかもだね。でも、コレットも結構鋭いよ?」
普段はのほほんとして、天然ボケをかますのに、
自分のこととなれば、どこか鋭く、うまくボケによってかるく交わす傾向がある。
そんなジーニアスの言葉に、
「俺に考えがあるんだ」
いいつつ、ロイドが皆をちょいちょい、と招き寄せる。
ロイドからロイドが考えた計画がその場にいるしいな、ジーニアス、リフィルにと語られる。
マルタは聞いてはいるが、ただ首をかしげるのみ。
というか何で直接きかないんだろう?
という気持ちのほうがいまだマルタからしてみれば強い。
まだコレットとの付き合いが短いがゆえ、コレットの性格を完全につかみきっていないらしい。
ロイドから語られたそれは、たしかに効果的。
「杞憂、ですめばいいんだけどね」
「…そう、だな」
しいながぽつり、とつぶやき、ロイドもまたその言葉に同意する。
彼らがそんな会話をしている最中、マルタはただひたすらにハテナマークを飛ばすのみ。
「リフィルさん。みんな。そろそろ救いの小屋近くにきたのでおりますよ」
そんな会話をしている最中にも、どうやら目的の場。
すなわち、ハコネシア峠を超えた先の救いの小屋近くにまでたどりついた、らしい。
そのままゆっくりと、シムルグは下降してゆく。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
以下:メルニクス語への変換状態。
やりすぎだ。気もちはわかるが。↓
It does too much. Although a feeling is known ↓
ウティ ブインス テイィ トゥオスア。
エルティアイオグア エ フンルウムグ ウス クアイパム
しかし
However
アイバンヌンディ
殺せば理由がわからなくなる
A reason will not be clear anymore if it kills
エ ディンエスイム バウル ムイティ ブン ウフ ウティ クウルス
ワルンエディ エムヤトゥイディン
魂からもきけるはずです
It should be able to hear also from a soul.
ウティ スワイオルド ブン エブルン ティ
アンエディ エルスイ アディイトゥ エ スイオル
彼は我らを、あなた様を!
About us, he is you!
エビティ オス、アン ウス ヤイオ!
・・・彼らは我らを裏切りました!
They betrayed us!
ティアンヤ ブンティ ディエヤンド オス!
・・・我は生きて彼らにつなぐなわせたい
・・・Self is useful and he wants them to compensate for it
・・・スンルフ ウス オスンホル エムド アン バドエス ティアドトゥ
ティ ワイトゥプンムスエティン エイディ ウディ
・・・わかりました
・・・I understand.
・・・ウ オムドンディスティエムド
仰せの通りに
To the passage of his statement
ティザ ティアン プエススエグン イフ アウス スティエティントゥンムティ