「おお!ほんとうにあれが海にういてる!」
「ほんとだ~」
以前、これ…目の前にある船をダイクがつくっていたのをみたことがあるがゆえ、ロイドとコレットが感嘆の声をあげる。
もっとも村よりでることのできなかったコレットを、
ロイドがこっそりと連れ出してみせにいき、それがばれてこってりとロイドはお説教を当時くらっているのだが。
ルインの残橋より小型船にて沖にでて、そこで待機している、という船に乗り込んだはつい先ほど。
その大きさは壮大、といってよい。
パルマコスタでみた蒸気船とタメをはれるほどの大きさ。
船体にところせまし、と刻まれている紋様は、ロイドも幼き日に幾度か手伝ったことがあるがゆえに覚えている。
沖に浮かびし雄大な姿といってもよいその船は、しずかにそこにういている。
いくつもの舵らしきものは、人力でオールをこぐゆえのものであろう。
船にそなえつけられているマストもかなりの大きさで、ちょっとやそっとの嵐でもびくともしなそうな造りの船。
「うわ~。船首にものすっごい綺麗な女の人の像があるね。あれって、女神マーテル様?」
船にのりこみ、ジーニアスが船首のマストにつけられている像にきづき、船員の一人であろう人物にとといかける。
船に乗り込めば、幾人かの船員らしきものがちょこまかとうごいており、
それぞれがロイドと同じような服装をきているのがみてとれる。
ちなみにロイドの服はいまだにアイフリードがてわたしたそれのまま。
「いや。あれは大樹の精霊だよ」
がんっ。
その言葉をきき、おもいっきりその場によろけ、体を船体の端にぶつけているエミル。
「エミル?」
そんなエミルの様子に首をかしげるしいな。
「い、いや、何でもない、何でもないよ?」
かわいた声でそういうよりほかにない。
しかし、しかしである。
ちょっとまて。
あれが。あれが俺だと!?
そうおもうエミル…ラタトスクの気持ちはわからなくもない。
船首のマストにつけられているのは、その手に水かめを手に抱えるようにもち、
長いウェーブのかかった髪を蝶の髪飾りらしきものでとめた…かなりスタイルのよい女性の像。
ちなみに裸体に申し訳程度に布らしきものが纏わせてあり、
それらの細工もあるいみ見事、というよりほかにはないのだが。
だが、問題なのはそこではない。
あんな姿、ここでとったことも、他の世界でもあまりとったことないぞ!?
あるいみ混乱しているエミルの耳に、
「この船は、お頭の意向で、大樹の名をつけただろ?
だから、この船には大樹の精霊にかかわる品を特注してつくらせてあるんだよ。
この船の八か所にある柱には、それぞれ精霊ラタトスクに仕えているという
何と、センチュリオン様がたの紋様が刻まれてるんだぜ?」
がんっ。
その言葉をききさらによろけてしまう。
かなりまて。
自分のことはあの当時ですらあまり知られていなかったというのに。
というかかの戦乱の最中ですら自分のことは忘れ去られてひさしい精霊であったはず。
にもかかわらず、なぜにここでその話題がでてくるのやら。
「センチュリオン?」
ジーニアスが首をかしげるが、
「おう。俺達もしらなかったんだけどな。何でもドワーフのダイクさんがいうには」
まずい。
かなりまずすぎる。
ここで彼らにセンチュリオン達のことを知られるわけにはいかない。
切実に。
「あ、あの。ところで、僕たちはどこにむかえばいいんですか?」
「エミル?大丈夫かい?なんだか顔色がわるいよ?」
すばやく話題をかえるべく、その船員に話しかけるエミルにたいし、しいながエミルの顔をのぞきこんでいってくる。
「あ…あはは……」
かるく笑みを浮かべる以外どうしろ、というのだろうか。
まさかこんな船があるなどとは。
うかつだったといわざるをえない。
というか、ロイドの養父とかいうダイクというドワーフは何をしてくれた、何を。
たしかにドワーフ達は、大地の守護をうけし種族だから
センチュリオン達のことも、そして自分のことも本能的に知っている。
それはわかっているが。
頭をかかえるしかない、というのはこういうことをいうのかもしれない。
きっと。
エミルがそんなことを思っていると、
「まだ船旅は始まったばかりですもの。…客室に案内してもらえるかしら?」
リフィルからしてみれば、とっとと海がみえるこの場所、すなわち甲板から立ち去ってしまいたい。
「お。すまんな。パルマコスタにつくのは明日の昼ごろだからな。今日のおまえらの寝床に案内してやるよ。
お頭、旅人をのせるために客室もかなり整備してるからな」
いいつつも、エミル達を船内にと案内してくる乗組員その一。
どうやら話題をかえるのには成功、したらしい。
そのことにほっとする。
「精霊、ラタトスク、大樹の精霊……」
みれば、ぶつぶつと何やらいいはじめているリフィルの姿が。
まずい。
ものすごくまずい。
リフィルが何やら思案し始めているのがみてとれる。
彼らがどこまで自分のことをドワーフのダイクから聞かされているかにもよるだろうが。
たしかリフィルは水が嫌いであったはず。
しかし、好奇心のほうが勝らない、とはいいきれない。
パルマコスタにつくまでの船旅の中で、そのことを聞き出しかねない。
まさか、魔物の王ということまではダイクというドワーフは説明していない、と思いたい。
切実に。
案内された客室は、三段ベットとなっている部屋。
左右にそれぞれベットが備え付けられているというか、設置されており、部屋の中央には机と椅子。
ちょっとしたくつろげるスペースも確保されている。
何でも、海路を進もうとする旅業のものもある程度いるらしく、距離によって異なる運賃を一人当たりからとり、
目的地にと運ぶという役割をこの船にてしている、とのことらしい。
そうでもしなければ、資金をやりくりするのに収入源がほとんどない、という実情らしいが。
ならば、それを主体にして海賊、という括りをやめればいいのに、とおもうが。
彼らいわく、海賊は海の男の憧れだからやめるきはない、とのこと。
船内の客室というか寝室に案内され、目的地につくまでは自由にしてもいい、といわれ。
ロイドとジーニアス、そしてコレットは船内を探検にいく、とばかりに、すばやくそのままこの場から立ち去っている。
リフィルは右側に備え付けられているベットに腰をかけ、何やら思案中。
やがて、船がでるぞ~という言葉と、汽笛の音。
それとともに、ざざっと船が動き始めたのが感じ取れる。
ふわり、とした感覚は船が動きだした何よりの証拠。
人によってはこの感覚に酔う、という存在もいるらしいが。
しかし、何というか。
「…は~」
勘弁してくれ。
切実におもう。
とりあえず、何となくあの場にリフィルとともにいれば質問攻めにあいかねない。
自らがパルマコスタにて使用したあの小枝が、大樹と関係しているのではないか、と。
それはもう直感的なもの。
事実、たしかに大樹カーラーンの小枝ではあるにしろ。
ゆえに、風にあたってくる、とばかりにこうして甲板にでている、のだが。
おもわず、くた、と船端に頭をつけてしまうのは仕方がないであろう。
「でも、このお姿、いいセンスしてるとおもいますけど?」
「あのな…アクア……」
というか、どこからききつけたのやら。
いつのまにやらアクアももどってきており、
しみじみと船首につけられているその像をみて、そんなことをいってきていたりする。
姿は消しているので他のものには視えていない、とはいえ。
「そもそも何だ。なぜにお前達が集まってる!?」
どう、ということはない。
頭を抱えたくなる原因の一つに、なぜにこの場に、アクアだけでなく…
まあ、戻ってきて鳥の姿で傍にいたルーメンはともかく。
なぜに、グラキエス、そしてイグニス、さらにはウトェントスまでいるのやら。
ついでにいえば潜入を命じていたはずのソルムやテネブラエまでいるのはこれいかに。
「何をいわれます。久しぶりにラタトスク様の偶像を人がつくっている。
とルーメンから念話にて連絡がありまして。それを見極めにきたのですよ」
うんうん。
さら、というテネブラエの言葉になぜか同時にうなづいているセンチュリオン達。
その言葉にさらに脱力してしまう。
「おまえらな……」
そういえば、かつてディセンダーとして表にでていたときもこうだったことを今さらながらに思いだす。
そして、思わず、はっと身構える。
とすれば、彼らが次にいってくること。
それは
『ラタトスク様!ぜひともこのお姿になってみてくださいませ!』
異口同音で発せられるセンチュリオン達の声。
ちなみに全員の目が期待をこめて目がきらきらと輝いている。
「だれがなるか!というか、お前らはお前らの役割をとっととしろ!
ルーメン!ウェントス!お前らはまだ完全に縁の強化がすんでないだろうがっ!」
毎回、なぜか彼らは人がラタトスクの偶像たる像をつくりしときに、その姿に近い姿になってみてくれ、といってくる。
それはいつの世界においてもいえたこと、なのだが。
今はそんなことをいっているときではないとおもう。
切実に。
「え~?でも、ここ最近、ラタトスク様、女性形態になられてませんし」
「そうですよ。そもそも、大樹の精霊とは、母性にあふれた慈愛の象徴。
そう人が認識されているのですから、このお姿もいいのでは?」
「あ~の~な~」
こういうときに限ってなぜにアクアとテネブラエはここぞとばかりに協力するのやら。
「ヒトの目があるところで誰がなるか!というか、お前らはきちんと役目をはたしにいけ!」
『え~』
不満そうなセンチュリオン達の声。
こいつらは、まったく。
「とっとといけ!」
問答無用でそのまま彼らを異界の扉を使用し、
……ちなみに海の中に創ったので、この場にいる他の人間達には気づかれていないはず。
そのまま海にたたき込むようにセンチュリオン達を海にたたき落とし、そのまま扉の中にと押し込んでおく。
「…ったく。なんか無駄に疲れたようなきがするぞ……」
そのままその場にて、くたり、としばしうずくまる。
たしかに、扉の間にて世界を身守り時間の中で、暇だったこともあり、人が姿を模したものをつくったりしたときには、
センチュリオン達の求めに従いその姿になったりしたことは多々とあるにしろ。
あれはあくまでもこの世界においてはあのギンヌンガ・ガップ内でのこと。
天地戦争、そして古代戦争、とよばれし戦争がはじまり、そういったことも皆無となったが。
くたり、とあるいみ気分的に撃沈しているそんな中。
「お。エミル。こんなところでどうしたんだよ?」
背後の方から聞こえてくる声。
「あれ?エミル。まさか具合わるいの?なら船室でやすんでないと」
ふと視線をむけてみれば、ロイド、ジーニアス、コレットの姿が。
きょとん、とした感じのロイドの台詞に、ジーニアスのそんな声がきこえてくる。
どうやら船の散策をしていてここにまでやってきたらしい。
まずい。
まさか、今の会話…原初たる言葉で話ていたので気付かれてはないだろうが。
今のコレットの在り様からすれば、センチュリオン達が姿を消している程度ならば認識できる。
まさか、今のあいつらの姿をみられたか?
おもわずそう身構えるエミルであるが、
「もしかして、エミル。船酔い?」
コレットが心配そうにいってくる。
どうやら今のセンチュリオン達の姿は見られていなかったのか、もしくは気にしていないのか。
どちらにしろ、コレットがそのことに触れないことにほっとする。
「そう。だね。船室もどるよ。も、寝てるね。僕」
こうなればもう、あるいみそのまま意識を同化させがてら、
この体そのものは眠っているように見せかけておいたほうが楽であろう。
少し瞑想したのちに、厨房にでもとじこもろう。
気分転換をかねて。
そう自分の中で納得し、ロイド達をその場にのこし、エミルはそのまま船室のほうへ。
どこかふらふらとしているエミルの後ろ姿をみおくりつつも、
「そういえば、エミル。この船にのったときからよろけてたけど。エミルも風邪ひいたのかな?」
「あいつ、けっこう無理してるんじゃないのかな?コレット。お前も少しでも気分がわるくなったらすぐにいうんだぞ?」
「うん」
そんな会話をしているジーニアス、ロイド、コレットの三人。
そして、そのまま船首にある像をみつつ、
「これ、乗組員の人にきいたけど、大樹の精霊ラタトスクの像なんだってさ」
「大樹って、あのお伽噺のマナをうむ樹のか?そんな精霊っているのか?」
「いたんじゃない?ダイクさんのお墨付きっていってたし。
それに間違いなくいるとはおもうよ。いや、いた、なのかなぁ?」
そのあたりはジーニアスにもよくわからない。
だがしかし、ドワーフのダイクがいる、といった以上、まちがいなくいるのであろう。
「すごい綺麗な人だよね~」
「まあ、これはあくまでも想像で創ったってあの人達いってたじゃない」
精霊の像をつくるにあたり、彼らの意見を様々にとりいれ、この形になったらしい。
目指すは絶世の美女、であったらしいのだが。
いわく、むさくるしい男ばかりの船旅に、美女の像があるだけでも潤うから。
という理屈で依頼したらしきこの像。
その理由をエミルがしれば、さらに撃沈したであろうが、幸運にもこの話しはエミルにはまだ伝わっていない。
そもそも、エミルからしてみれば、なぜに自分の名というか、自らを模したという偶像の像をつける!?
という思いがいまだにぬぐいきれていないのだから……
シルヴァラントとテセアラ。
それぞれの同盟国の領土を基としてふりわけられた二つの世界。
たかが数百年程度ならば自然界にもあまり影響はなかったはずなのに、だからこそ許可をだした、のだが。
いかんせん、四千年、という年月は自然界にも多少の変化をもたらしている。
もっとも生息分布がかわっていたり、絶滅していたり、という分野が多いなれど。
船室にともどり、そのまま横になり、目をつむり意識を世界にと同化させる。
かつての本来あるべく大地にもどしたとき、そこにいきる動植物に負担はかけたくない。
ざっと視て確認するにあたり、どうやら適材適所に振り分けるのが一番いいらしい。
あとは人がすまいし場所なれど、ヒトの生息している場は、大地を含めてもほんのわずか。
ならば、彼らの住み家ごと、どこかに振り分けてしまえばよい。
まあ、かつてのときのように、テセアラ王国をあの離れ小島に移動させてしまう。
というのはすでに確定事項なれど。
そもそも、あの国はほうっておけば何をしでかすかわからない。
まだ隔離された島ならばそうそう変なこともしでかせないであろう。
世界の統合のその一瞬。
時をとめ、ヒトが住まいし場所を隔離し、大地のみを先に修正したほうがよさそうである。
そのためには、センチュリオン達の完全復活が必要となる。
すべての魔物との縁を結び終えたのち、彼らにかしている小さな枷を一度取り払うのもいいであろう。
かつてのときは、世界が一つに戻る波動をうけて、何ともおもわずに統合し、
その結果どうやら人々が大混乱に陥っていたようではあるが。
あのとき、ぼんやりとではあるが覚醒していたあの当時。
まあその後にまさか大樹との繋がりが断ち切られるとは夢にも思いもしなかったが。
いつのまにか部屋からリフィルはいなくなっており、今部屋にいるのはエミルのみ。
もっとも、クラトスがいないから、という理由にて、アクアとグラキエスが傍にいたりするにしろ。
ベットに腰かけたまま、すっと手を上にと伸ばす。
刹那、空中に二つの世界の大陸が示される。
そのまま、くるり、と手をまわすと、かつての大地に戻す過程がその場にて、立体映像よろしく示される。
そのまますこし腕をくみしばし思案したのち、
「お前達はどうおもう?」
今の状態で世界を戻すにしても、やはりいくばくかの動植物達の移動は必須。
ついでに大地をいじる必要も。
一番いいのは、てっとりばやく、地震や火山活動、といった形で先に大陸を分断しておくべきか。
重なりし部分、というのはどうしてもでてくる。
そのあたりを一度切り離してしまえば、あとの移動はたやすいこと。
重なりし部分のあたりは、ざっとみるかぎり救いの塔とよばれしものしかないことから、
そのあたりに何ら不都合はないっぽい。
あとは人がすまいし町や村、そういった箇所を振り分ける必要がでてくるであろう。
そのままにしておいてもいいが、一度隔離してしまったほうが混乱も少なくてすむ。
あのとき、切り離した大陸の境目としたのは、大樹があった場所。
かの地を二つの世界を繋ぐ要にする、という意見をだしたのはほかならぬラタトスク自身。
かの地ならば、二つの世界を存続させるのに不都合はないから、という理由にて。
あの地の奥には世界樹の間、とよばれし場所があり、その場所はこの世界の生命の場にと続いている。
ざっとみるかぎり、ミトス達はそこに気づいてないようだが。
まああの地に普通の存在がはいりこめば、逆にその体も、精神体もマナに取り込まれ、
そのまま世界にマナとして還りゆく。
「数百年くらいだと今みたいに魔物達や動植物の分布も問題なかったのですがね」
ため息まじりのグラキエス。
「なんで、あの子達はあの約束を裏切ったんだろ……」
ぽつり、とつぶやくアクアはいまだにどうやら思うところがあるらしい。
彼らが約束したのは、次の彗星が接近するまで。
一年ごとのマナの循環。
動植物にもあまり変化がないように、一年ごと、という約束だったはずなのに。
だからこそ、地上の大地の浄化というのを見送ったというのに。
「デリスエンブレムは、物理攻撃なども防ぐ役割があるはずなのだがな。
しかし、マーテルが害された、ということは、
そのとき、マーテルはあれを身につけていなかったということに他ならない。
そのあたりのこともしっかりと彼らにはいっていたはず、そうだな?アクア」
「はい。私はきちんといいました。なのに」
アクアをつうじ、かの加護の効能はきちんと伝えてあったはず。
だとすれば、彼らはそれを身につけていなかった可能性がはるかに高い。
今ですら、クラトスにしろユアンにしろ、どうやら自分達の自室にそれをおいており、常に身につけてはいないらしい。
ミトスにいたってはその力を分けているのが視てとれる。
「まあ、考えていてもしかたないだろう。これが現実、なのだからな」
そう、考えてもどうにもならない。
そんな会話をしている最中。
『わ~わ~、そこだ、いけ~!』
何やら騒がしき声が甲板のほうからきこえてくる。
「うん?」
何やら外が騒がしい。
「何かあるのか?」
そのまま意識をそちらにむけて視れば、なぜかクラトスとロイドが一騎打ち。
というか、どうやら甲板にて剣の修業をしているらしい。
それを取り囲んだこの船の乗組員たちが、やれそこだ、何だの、と声を張り上げている。
「ああ。そうだ。アクア」
「はい!」
「精神世界面にて、ウンディーネに連絡を。
あのしいなというものと契約をさせ…ミトスとの契約を破棄させる。うまく誘導するように、とな」
「はい。わかりました!」
その言葉をうけ、アクアの姿が、ばしゃん、とした音とともにはじけ消える。
「グラキエス。お前はセルシウスのもとに。…どうも奴はまた負に負けそうな気配を漂わせているからな」
本当に、どうして多少の負の穢れくらいでちょっとぱかし狂うのか。
あの近くにかの王国が人体実験場をつくったらしく、
そこから発生している負の穢れにより、今にもセルシウスは狂いかけといってよい。
まあ、あるいみセルシウスが狂い人の世界に害がでてもそれはヒトの自業自得でしかないが。
それで魔物達に被害がでてはもともこもない。
「優先すべきは、魔物、そして動植物でよいからな。ヒトは何かきっかけがなければ過ちを認めようとしないからな」
それは断定。
「かの施設は破壊しても?」
「お前の一存にまかす」
「はい」
それだけいいつつ、雪の結晶をその場にちらし、グラキエスの姿もその場からかききえる。
きらきらとした、水と雪の結晶が辺りにまい、一時部屋の中がきらきらと輝きをます。
「さて。と、甲板にでてみるか」
この騒ぎでずっと横になっていてもそれこそ不振がられかねない。
それに、そろそろ夕方になるはず。
この船にのりし乗組員たちの食事はどんなものかはわからないが、
しかしあまりまともなものをつくっていないような気がする。
それはもうひしひしと。
ならば、少し提案し、厨房を借りるのも…悪くはない。
カン、キン、キン。
「いけ~!そこだ!」
「兄ちゃん、がんばれ~!」
声援が周囲にととびかっている。
船室からでて甲板にでてみれば、何やら剣と剣をまじりあう音。
そして、やんややんやといった人々の声。
「えっと…何の騒ぎなの?これ?」
とりあえず、甲板にでて、近くにいたジーニアスにと問いかける。
船内からでてすぐの場所の近くにジーニアスがいたがゆえに、てっとりばやくジーニアスにといかけたまで。
そんなエミルの問いかけに、
「あ。エミル。もう大丈夫なの?」
船室からでてきたエミルに気づいたらしくジーニアスもまた話しかけてくる。
みれば結構の乗組員たちがこの場にあつまってきているっぽい。
それでも確認していた全員ではないにしろ。
「えと……ロイドとクラトスさん、何してるわけ?あれ?」
みれば、マストの下で剣を交えているのは、クラトスとロイド。
二人とも真剣をつかい、何やらやっている模様。
「ロイドがいつものように、クラトスさんに剣の稽古をお願いしたんだよ。
で、きづいたら船員たちもあつまってきてこのありさま、さ」
どうやら乗組員たちは退屈していたらしく、
ふってわいたあるいみイベントを楽しむべく、この場にあつまってきているらしい。
というか、それぞれの持ち場の役目はどうした?
とエミルからしてみれば切実にいいたいが。
船を動かす、というのはこの船は動力を人力で賄っているために、どうしてもどこかに不都合がでるであろうに。
人力とは別の力を動力源にしているならともかく。
そんな中。
「よ~し、野郎ども!今日はここで一夜をすごすぞ!碇を卸す準備をしろ!というかいつまでも遊んでるんじゃねぇっ!」
操縦を握っていたアイフリードが舵のある上のほうから叫び、そこにいる彼の子分たちにと一喝を下す。
アイフリードの言葉をうけ、ばらばらとこの場をたちさってゆく男たちの姿。
「どうやら、このあたりで今日は一夜、すごすらしいね」
夜の間も運航するのは、彼らの中では危険行為、と認識されているらしく、
ある程度安全な場所に碇をおろし、夜があけるまでそこで停船するらしい。
停船、といっても海のど真ん中であり、周囲の小島の姿すらみあたらない。
「あ。そういえば、ジーニアスは厨房のあるところってしってる?」
「ううん。でも、何で?」
「ちょっと、何かつくらせてもらえないかな~、とおもってさ」
どうやらジーニアスは知らないらしい。
いまだにロイドとクラトスの剣の訓練はつづいている。
というかロイドのほうが意地になり、クラトスから一本はとる、といきこんでいるようだが。
クラトスのほうは、腕一本でそんなロイドをかるくいなしつつ、ロイドの剣の悪いところをずばずばと指摘していっている。
まあ、ロイドの型はあるいみ、猪突猛進。
いうなればわかりやすい。
ゆえに本当に対峙したとき、相手にあっさりと隙をみつけさせてしまう。
その欠点をかろうじて二刀流が防いでいる、といった程度。
剣の腕をスキル制にするとすれば、ロイドの剣の腕はまだ半分、すなわち五十にもなっていない。
ちなみに、千で完全にその技を自分のものとしたことになる目安の数値。
クラトスやミトス達はいうまでもなく様々な技をすでにその身のものとしている。
ロイドはまだまだ発展途上、というところ。
「ロイド、無理しないで、でもがんばって~」
コレットの応援する声がきこえてくる。
どうやらコレットもまたロイドの特訓をみている、らしい。
「とりあえず、じゃ、僕そのあたりの人にでもきいて、厨房にいってくるね」
いまだに特訓を繰り返しているロイド達をそのままに、近くにいた船員にきき、そのまま厨房へとむかってゆく。
「…何これ?」
いわば、魔窟、というべきか。
ところせましとかさねられている汚れた鍋や皿の数々。
料理を手伝いたい、といったところなぜか泣いて喜ばれ、つれてこられたこの厨房。
というか、料理をつくる場だというのに、片づけすらできていないのはこれいかに。
「手がたりないんっす」
うなだれる船員その一。
は~。
思わずため息がもれだしてしまう。
「とりあえず、ここは僕がやりますから」
聞けば、人でがたりず、他の雑務と兼用しているがゆえに、どうしても片づけなどがおざなりになってしまうという。
「でも、一人じゃ……」
「まあ、何とかしますよ」
何でも見張りの交代にでなければならないらしく、今日の夕食は簡単なパンのみですまそう。
そうおもっていたとのこと。
「さて、と。こい。ルビーティア」
この場にのこっていた船員がいなくなったのをうけ、言葉を紡ぎだす。
刹那、淡い魔方陣が出現し、そこより服を着こんだ耳のとがった、下半身が蛇の女性が出現する。
いつもはリリスのメイドとして彼女の屋敷にて働いているのだが。
家事全般を得意とする魔族、という理由で選んだにすぎない。
「およびでございますか?…って、ラタトスクさま…ですよね?そのお姿はいったい?
テネブラエ様から地上にでられている、とはお聞きしておりましたが」
直接に呼ばれたのでなければ絶対にわからなかったという自覚があるほどに、
今のラタトスクの気配は人のそれとかわりない。
困惑したような、ルビーディアのアリカの声。
ちなみに彼女はテネブラエの配下のとある魔族の一人に使えしメイドでもあったりする。
まあ、あの彼女も魔界においては七大魔王の一人、とよばれし最古参の一人の魔王なれど。
「気にするな」
「気にするな、といわれましても…それで、私をよびし…って、何ですか、この惨状はぁ!?」
そこまでいいつつ、そこに山とつみあげられている汚れた鍋などを目にし、思わずさけんでいるアリカ。
「厨房にはいったはいいが、どうもここを管理していたヒトがきちんとしていなかったようでな。
お前は家事全般が得意だろう?」
「まかせてください!こんな汚れた厨房などもってのほかですわ!!
で、ラタトスク様?厨房に用事、ということは、何か料理をされるのですか?」
どことなく、目が異様にきらきらしているようなきがするのは気のせいか。
「まあ、暇つぶしにはなるからな」
「はい。お手伝いいたします!ふふふ。ラタトスク様と一緒に料理…ふふふ……」
何だろう。
その含み笑いに何か意味があるような気がしてしまうのは。
とりあえず。
「とりあえず、アリカ」
「はい?」
「この人の姿のときには、我のことはエミルとよべ、いいな」
「はい。かしこまりました。エミル様ですね」
「もどりました。ラ…エミル様!って、アリカ!?」
周囲の人の気配がないゆえ、なのだろう。
その場に突如として出現するアクアだが、そこにいるアリカにきづき、何やら声をあげてくる。
「おや。これはアクア様」
「エミル様、何でアリカがここに!?」
そんなアクアの問いかけに、
「俺がよんだ。この厨房のありさまだったからな」
アクアがざっとみてみれば、たしかにこれはない。
どうやらここはあの船の厨房らしき場所、らしいが。
この汚れた食器の山は何だ、というよりほかにない。
「む~。なら、私もお手伝いします!」
「ふふ。負けませんわよ。アクアさま」
「私だって!」
?
何を負けない、というのだろうか。
この二人は。
なぜか顔をあわすたびに、負けないだの何だのといっているような気がするのはラタトスクの気のせいか。
「まずは、この食器の汚れ、そしてこの部屋全体の汚れをどうにかしちゃいますね!セイント・バブル!!」
アクアの言葉に従い、部屋全体をシャボン玉の泡がいくつも包み込む。
この泡は、基本は穢れのみを払う効果をもっている。
そして、この場における穢れ、とは、いうまでもなく、食器などについている汚れの数々。
ついでにいえば、部屋全体の汚れも著しい。
「アクア様。それは、いわゆる最終手段なのでは?やはり、こう、手でやってこそ、とおもうのですが」
そんなアクアに何やらいっているアリカ。
「まあ、はやくすむにこしたことはなかろう」
そうこうしているうちに、浮かんでいるシャボン玉全てが一気に黒くそまっていき、
それらはそのまま、はじけるようにして、アクアの手の平の中へとおさまってゆく。
汚れは水へと還り、そしてその水はアクアの中でマナへと還る。
「さて。掃除もすんだことだし。二人には料理の手伝いをたのむが、問題ないか?」
「「はい、まかせてください!」」
ちなみにアリカに料理をつくらせれば、いつも血に絡んだ生の料理になるので人に食べさすのは余りお勧めはできない。
が、しかし、それ以外の気配りなどは、アリカはあるいみ右にでるものはいないといってよい。
「アリカ。一応、その下半身のそれをヒトのそれにとかえておけ」
「はい。わかりました」
その言葉とともに、なぜか黒いアミタイツをはいたヒトの足にと変化させているアリカの姿。
アリカは別にこちらが指示をしなくとも、常に微弱なる魅了の術を纏っているがゆえ、
別段ここで使っても問題はないはず。
魅惑の効果で当事者がそこにいても、ヒトは違和感を感じない、のだから。
「へえ。さすがは腕でくってる傭兵ってか」
ひゅう。
口笛をふきつつも、いまだにロイドの剣の剣術指南をしているクラトスにとちかよってくアイフリード。
すでに命令は下し、あとはこの場に碇をおろし、今日の夜はここにて停泊。
夜明けとともに出発することになるがゆえ、船を操縦する必要がないゆえに、舵よりはなれ、甲板へ。
「そもそも、貴殿がこの子をだまさなければこうはならなかったのでは?」
クラトスからしてみれば、目の前の人物は実の息子をある意味だました人物。
ついでに、海賊士願書なるものにまで契約書をかわされた。
「きちんと確認しなかったそいつもわるいとおもうがね」
そんなアイフリードの台詞に、
「この子の海賊志願は私としては認められないのだが?」
誰がすきこのんで実の息子がだまされて海賊になるのをだまってみすごせようか。
「へえ。なら、こうしよう。ここに、そいつがもうひとつかわした、宝探しの手伝いの契約書がある。
そうだな。あんたは腕に覚えがあるようだし。
一騎討ちであんたがかったら、そいつにわたした志願書は破棄してやるよ」
「その言葉、間違いなかろうな」
「お~、おっかねぇ。なら、そこの美人のお姉さん」
「え?私かしら?」
「あんた、どうやらこの一行の監視役というかまとめみたいだしな。
あんたがなら証人だ。まあ、俺としては腕のたつあんたと手合わせしてみたい。というものあるがな」
アイフリードとしては、自分の腕がどこまで通じるのか。
それが知りたいというのもある。
あのディザイアン達にも遅れをとらない、と豪語はしているが。
「いいだろう。そのかわり、本当にロイドの海賊志願は私がかてば、撤回してもらう!」
「ちょっとまちなさい!勝手にあなたたちで話しをきめないでよ!」
リフィルが何やらいっているが。
「なあ、結局どういう意味なんだ?」
そんな彼らのやり取りを理解していないロイド。
「つまり。クラトスのやつは、あいつとたたかって、自分がかったら、
あんたがだまされた形で海賊志願というか海賊候補生になってるのを撤回させようとしてるんだよ」
あきれまじりにいっているしいな。
甲板のほうがにぎやかなので、どうやらしいなもまた表にでてきていたらしい。
「クラトスさんって、なんかロイドに変なところが甘いような気がするの、僕のきのせいかなぁ?」
そんな彼らの様子をみつつも、ぽつり、といっているジーニアス。
あるいみその台詞は的を得ているのだが。
それがなぜなのか、ジーニアスにはわからない。
「おお。お頭がなんかやる気になってるぞ!」
「こりゃ、みものだ!よ~し、お頭がかつのに百ガルド!」
「いや、なら俺はあっちの赤毛の兄ちゃんに百ガルドだ!」
何やら船員たちによるかけが始まった模様。
「ま、クラトスがかてば、あいつがきちんと約束をはたしてくれれば、
あんたは海賊見習いから解放されるってことになったみたいだね」
まあ、あたしはどっちでもいいけど。
いいつつも、
「しいな?どこにいくの?」
「あたしはちょっと気になることがあるからね」
そういいつつ、ひらひらと手をさせその場をあとにしてゆくしいなの姿。
「はぁ。仕方ないわね。では、私が僭越ながら審判を務めさせていただきます。それでは、開始!」
リフィルの言葉とともに、甲板にて、クラトスとアイフリードの一騎打ちが展開されてゆく。
「それで?コリン?」
「うん。間違いないよ。感覚でわかる。
これ、精霊ラタトスク様に仕えているという、エイト・センチュリオン様達の象徴たる紋様だよ。
世界との繋がりのあるものにはわかるんだ」
ふりふりと、尻尾をゆらし、船の八か所にと設置されている、柱に刻まれし、球体。
船員がいっていたことにしいなは心当たりがあった。
正確にいえば、コリンと契約した後、人工的とはいえ精霊が誕生したのをうけ、コリンから研究所のものたちが、
情報をしいなを通じて引き出そうとしていたがゆえというべきか。
そのときに語られた、大樹の精霊の存在。
そして、世界を安定させるべく、センチュリオンの存在。
それは王立研究院における元々の概念を覆したといってよい。
この世界がもともと瘴気に満ちた世界であり、その精霊が魔界との門をつくり、
隔て、大樹とともにマナをもってして世界を育んだ。
それをきいたときには、それは女神マーテルでは、という意見もでたが。
コリンはそんな名前きいたこともない、ときっぱりと否定した。
精霊は嘘をつけない。
その精霊が女神マーテルを知らない、というのは研究所のものたちにとっては衝撃的で。
あるいみ最重要機密事項として扱われ、そのことには触れないように、とのお達しとなっている。
それでも秘密裏にそれらを研究しているものがいないわけではない。
「ドワーフ、か」
「ドワーフはもともと大地の精霊ノーム様の加護をうけている種族だから知っていてもおかしくはないとおもうけど…」
そこまでいい。
「あ、あのね。しいな」
「何だい?」
「…もしかしたら、精霊達にきけば何かわかるかもしれない。
もし、次にいくところに水の精霊、ウンディーネ様がいたら、しいながその…ううん、何でもない」
「水の精霊、ウンディーネ。か。どちらにしろ。ピエトロを助けるためには契約しないといけないんんだろうね……
あたしに、できるのか?あのとき、皆を殺してしまったあたしに……」
「しいな……」
コリンが心配そうな声をあげ、そっとしいなの肩にとのぼり、体をすりつける。
あのときの光景を忘れたわけではない。
言葉がわからなかった。
何をいっているのかも。
直後、雷が皆を直撃した。
自分を護った祖父は、いまだに目覚めない。
里のものも自分を許していないのはわかっている。
この任務につかされたのも、死んでもかまわないから、という理由であったこともわかっている。
それでも。
たしかに、あのときまで。
七歳のあの日まで、里のひとたちは自分に優しかったのもまた事実。
アレ以後、目の仇にしていようとも。
そもそも、祖父がかの森でしいなを拾ってくれなければ、しいなは確実に死んでいた、のだから。
「うわ~。すごい星」
空に瞬くは、満点の星。
遮るものも何もない海原であるがゆえに、星はくっきりとみえている。
「コレット。おまえな~。あまり外にでてたら風邪ひくぞ?」
「えへへ。でも、もうすこし」
昼間のクラトスとアイフリードの決闘。
軍配がクラトスにあがるかどうか、という最中。
どこからともなくいい匂いがただよってきて、それにきをとられたアイフリードに隙ができ、
結果としてクラトスがアイフリードの剣をはじきとばした。
クラトスの勝利をうけて、
リフィルがロイドがかわした海賊志願書をその場にておもいっきり燃やしていたりしたのがつい先刻。
いまだに船内は、エミルのつくりし料理をはさみ、何やら船員たちというか、
アイフリードの部下たちである海賊たちはどんちゃんさわぎ。
こんなおいしいものは食べたことがないなどといって、かなり御満悦。
そこに見慣れない女性を目にしたが、ロイドは海賊の一員なのだろう、と気にもとめていなかったりする。
どうでもいいが、たしか教科書でみたメイド服とかよばれしものをきていたあの女性は、
なぜにエミルに様づけしていたのか、というのが気にはなれど。
クラトスは何があるかわからないから、といって食事の場には移動せず、
そのまま甲板にて見張りをする、とのことらしく、
ならば、というのでロイド達がクラトスに料理を運んできたのだが。
ふとみあげた空が満点の星空であったことから、コレットはそのまま甲板にて空を見上げていたりする。
「ねえ。ロイド、綺麗だね」
「あ。ああ。しかし、本当にディザイアン達の姿がみえないんだな」
海面上には遠巻きながら、魔物であろう、何かが進んでいるような影が見え隠れしている。
よくよくみればこの船の下にもそういった魔物はいるのであろう。
が、あいかわらず、魔物の姿はみえているというのに攻撃されてこない。
それどころかこのあたりはたしか、絶海牧場があるとかで、
ディザイアン達の襲撃がおおい、とロイドは旅業の存在達からきいていた場所。
この少しさきのどこかにディザイアン達の人間牧場がある、といわれている。
その正確な位置まではつかめていないが、大体の位置ならば把握されており、
ゆえにそのあたりには極力誰も近づかない、というのが常識であったのだが。
周囲をみわたせど、その影も形もみあたらない。
もっとも、この船以外に船影すらもみあたらないが。
月灯りが周囲をやさしくてらしだしている。
「しかし水の精霊か。どんなのかはやくみてぇな。コレットの封印解放もできるし。けど、コレット。お前、無理してないか?
一度だけでならず、二度までも封印解放したあと、お前……」
トリエットの異変と、マナの守護塔の異変。
偶然、では片づけられないような気がするのはロイドの気のせいか。
「大丈夫だよ。それに、レミエル様もおっしゃってたでしょ?
天使への変化には試練がついてまわる。と。私、はやく天使になるね。
そして、この世界の皆をすくってみせる。それが私の役目なんだから」
そう、そのために産まれ、そのように育てられた。
世界に命をささげるために。
その心を押し殺しつついうコレットの心情をしるはずもなく、
「コレットが世界を救済したら、今度は普通の旅にでような。
お前が救った世界がどれほどすばらしいのか、その目にやきつけるためにさ」
「え?…そう、だね。ロイドには世界を見てほしいかな」
しかし、しいなのあの台詞がコレットの中でしこりとなっている。
あんたが世界を再生したら、あたしの世界が滅びるんだよ!
あの必至にさけんでいたしいなの言葉に嘘はないようにみえた。
それに何より、きになることもある。
船の中をロイド達と探索しているときにきいたあの言葉。
船員たちがいうには、あの紋様がかかれているのは、世界を司る存在を象徴した印らしい。
この世界は大樹の精霊により、育まれた、女神マーテル様は?
ときくと、ドワーフのダイクさんはそういえば、マーテル様のことをいわなかったな。
とか首をかしげていた。
王の力が正気に戻してくれる。
熱に浮かされている時に、心の中にきこえてきたあの声。
そこに何かヒントがあるような気がするのに答えがわからないもどかしさ。
さらには、別の船員がこんなこともいっていた。
俺、マーテル様を実は信じていないんだよな。
だって、本当にマーテル様が目覚めたんだったら、なんでこんな世界になるんだ?
古代大戦より後、あれから四千年もたっているのに。
そのあいだ、マナがある時代とない時代。それがあるのがおかしいだろ?
なら、マーテル様は目覚めたり、眠ったりしてるのか?おかしすぎるだろ。と。
まあ、これを教会のやつらにいえば異端、といわれて追われる立場になったところ、
お頭が俺をひろってくれたんだけどな。はは。
そういっていたその男性。
命をささげ、女神マーテル様を蘇らせる。
それが再生の神子としての役割。
しかし、改めて第三者からいわれ、違和感をかんじなくもなかった。
ロイドですら、そういえばそうだよな、なんでだ?
と首をかしげていたほど。
事実、八百年前までは、ディザイアン達はいなかった、らしい。
でも、それより前は?
神子として疑問を抱くのはおかしいのかもしれない。
けど、一度疑問に思いだしてしまえば、その疑問ははからずしも心の中に種を残す。
いくら、人々の心を宗教、という括りで洗脳しようとも、真実にたどり着くものはすくなからずとも存在している。
そして、そういったものは、人々の手により、クルシスの手により抹殺されている今の世界。
そこまではコレット達とて知るよしもないが。
そしてそのことは、エミルですらまだ知らないこと。
「水の精霊か。楽しみだな~」
「うん。そう、だね」
次の封印をとけば自分はどうなってしまうのであろうか。
やはり、エミルが用意した飲食用の品以外は、味も何も感じない。
結局、あれから横になっても眠れはしなかった昨夜の事実。
今夜、きちんと眠れるのか、それがコレットからしてみれば怖い。
もしも眠れないとすれば、あの封印で失われたのは睡眠をとる、という人からは必要不可欠のものである可能性も。
一番怖いのは、もしもそうだったとして、同室になるであろう、ロイドにそれを気付かれること。
じっとみつめる夜の海面はしずかに月灯りを反射し、全ての不安も何もかも呑みこんでゆきそう。
そんな静寂にと包まれている。
「もうすこし、空みててもいいかな」
「かまわねぇけど。しかし、先生、どうしたんだろ?」
「さあ?」
いつもなら、食事をもっていくのは自分が、とかいいそうなのに。
今日にかぎっては、なぜかあのメイド服をきこんでいた女性をしばし観察していた。
別におかしいような感じはしなかったが。
耳が大きくとがっているのがかわっているな、とはおもいはしたが。
ざぁん。
そんな会話をしている二人の耳に、波が船体に打ち付ける音がきこえてくる。
波の音、そして船内からきこえる海賊たちの陽気なる声。
外にでている二人の周囲だけ、そこはまるで別空間のように、感じられてしまうほどに、
それほどまでに外は静寂に満ちている。
そして、空をじっとみつめるコレットの横顔をみつつ、
俺、まだまだ弱い。
こんなんじゃ、コレットをまもれない。
もっと、もっとつよくなる。
ぎゅっと自らの手を握り締め、決意をあらたにしているロイド。
アイフリードとクラトスとの戦いをみて、クラトスが自分にたいし手をぬいている。
それはもう確信できた。
二か所も牧場を破壊した以上、ディザイアンがどうでてくるかわからない。
だからこそのロイドの決意。
たとえ自分がどうなろうと、コレットだけは。
コレットにしか世界を再生することができないのだから。
ロイドは気づけない。
その思いこそが、コレットに対し全てを依存している、というその事実に。
そして、そんなロイドの思いがわかってしまうがゆえに、
コレットが自らの運命に抗う気がなくなっている、ということに。
「おまえ、うちの専属コックにならないか?あの姉ちゃん達だけでもいいから!」
「・・・・・・・・・・・・・」
がしっと手をつかまれ、いきなり何をいわれるのか、とおもいきや。
飲めや騒げやの夕食光景。
それらも終わり、それぞれに船員としての役割があるからというので、アイフリードから解散命令がでたのはつい先ほど。
そもそも作ったスープ等を綺麗さっぱりと平らげてしまい、料理がなくなった。
という理由もあったりするのだが。
エミルも片づけをしようとしたのだが、アクアが洗いものはすぐにすむから、といい。
アリカもアリカでエミル様はゆっくりとしていてください。
と何やらいわれ。
あるいみエミルは手持無沙汰。
ちなみに、アクアはアリカが人の姿のそれになっていることから、
いつもとる人間形体にと変化しての手伝いとなっているにしろ。
やはりというかかつての世界、カーラーンにとあった学生服を着こなした格好にて。
汚れた食器等はアクアの手により全て綺麗にされ、
そのまま厨房係りの船員にききつつも、食器等は本来あるべき棚にと戻している最中。
それでもあの二人が何をするかわからない、という心配もあいまって、
エミルもまたその手伝いをしていた、のはつい先ほどまで。
すでにアリカはあまり長い時間拘束していてもリリスから不満がでそうであるがゆえ、リリスの元にと戻したというのに。
姿がみえないのはどこかで何かをしている、とアイフリードは思っているらしい。
「じょうだん!エミル様。やはり私、ずっとこの姿でおそばにいましょうか?」
『あのな。お前はその姿でクラトス達とも面識があるだろうが』
そう。
だからこそ、アクアはクラトスのいる甲板にまではでてはいない。
厨房と食堂となっている広場のみを往復させていたのみ。
そんな中。
「おかしら!」
「どうした?」
アイフリードを呼ぶ声が甲板のほうからし、息をきらせた船員のひとりが部屋にと駆けこんでくる。
「それが、空に、ディザイアンの飛竜らしきものが!」「何だと?すぐに全員に灯りを全てけすように指示しろ!」
「がってん!」
夜の海の上に、灯りがいくつもあれば、そこに誰かがいる、といっているようなもの。
その報告をうけ、アイフリードもそれ以上エミルに追求することなく、ぱたばたとその場をあとにしてゆく。
「では、エミル様。私はいつものようにしてますね」
「わかった。お疲れさま」
「えへへ」
頭をなでると、ふにゃり、と笑みを浮かべ、そのまま水がはじけるようにしてアクアの姿はかききえる。
「…きえた?エミル、少しいいかしら?」
「はい?」
彼女達をみたときから感じていたが。
今のアクア、と呼ばれし女性は、魔物でも、ましてコリンから感じたマナの塊でもないマナのありよう。
そして、エミルがアリカ、とよんでいた女性のマナは魔物のマナそのものであった。
人目がかなりあったがゆえにそれを追求することはできなかったが。
「今の子は……」
「え?アクアのことですか?僕の家族の一人ですよ?」
にっこりとそんなリフィルにいっておく。
「さっきまでいた、アリカ、という人のあのマナ、彼女は魔物…よね?」
「そうですけど?食事の支度をするのに、人手がいるのできてもらったんですけど」
「きてもらったって……」
リフィルがいいかけると。
バタバタと、部屋にとかけこんでくる足跡が二つ。
「先生!なんか、騒がしいけど、どうしたんだ?」
「なんか、船にいる人達がこぞって灯りを消し始めてるんだけど」
ロイドとジーニアスがリフィルがまだいるであろう食堂兼広間にとかけこんでくる。
ちなみにこの船の構造は、船内は三段構造となっており、
一番下の層が倉庫、二段目の層が船を動かすのに必要なオールを動かす仕掛けのある場所。
そして、三段目が広間や食堂、そして寝室等、というようになっている。
二段目の層にも乗組員たちの簡単な寝室があり、交代制で仕掛けを動かす役割をになっている。
仕掛けの仕組みはいたって簡単。
人力で歯車を回すことにより、少ない動力にて船にそなえつけられているオールを動かす。
といったしろもの。
「コレットはどうしたのかしら?」
ロイド達とともにいたはず、なのに。
「コレットなら何かあったらいけないから、どうにか部屋につれていってるよ」
自分も船員たちを手伝います、というコレットであったが。
クラトスの意見。
もしも夜の海で何かあっても対処が難しい、という意見もあいまって、
コレットはそのまま部屋にと戻されていたりする。
「空にディザイアンがのっているとおもわれる魔物の姿が認められたそうよ」
「リフィルさん。僕たちも灯りを消すのをてつだいませんか?」
話題がそれたのはあるいみ助かる。
「夜の海にあるはずのない灯りがあれば、そこに誰かいる、といってるようなものですし」
たしかにエミルのいうとおり。
「ディザイアンなんかけちらしてやる!」
ロイドがそんなことをいってくるにしろ。
「ロイド。ここは海の上なんだよ?相手が炎とかつかってきたら僕らは逃げ場ないんだよ?」
「そうね。ジーニアスのいうとおりよ。ここは身をひそめてやりすごすのがいいでしょう」
ジーニアスのいうように、ここには逃げ場はまったくない。
それこそ木造である船に炎の術でもはなたれれば、それでおしまい。
最低限の灯りのみ船にはともしているものの、それらを全て消すとなれば、どうしても人手は必要。
「まずは、アイフリードのところにいってみましょう。エミル、あとからいろいろときかせてもらいますからね」
今はともかく、近づいているかもしれないディザイアン達をやり過ごすのが先決。
「ロイドは念のために、コレットの傍にいてあげてちょうだい」
「姉さん、僕は?」
「ジーニアスは私と。空からくるかもしれない敵に対応しないといけないもの」
自分達の術くらいであろう。
万が一、空からディザイアン達がおそってきた場合。
てきぱきとその場にて指示をだし、リフィル達もまた甲板へとむかってゆく。
「…今、この近くの上空をとんでるのは、違うけど…ま、いっか」
ぽそり、といったエミルの台詞は、すでにいなくなったリフィル達にはきこえていない。
どうやら、かの地に捉えられていた飛竜達をうまくセンチュリオン達が解放したらしい。
中には無理やり、卵の状態から育てられていたものたちもいるようだが。
センチュリオン達と直接、契約を結ぶことにより、本来あるべき本能がつよくなっているがゆえ、
彼らの役目にさほど影響はあたえないであろう。
まあ、まだ幼体が多いようなので、そのあたりは彼らを同じ種族の巣につれていったほうがよさそうだが。
そもそも、なぜ、彼らの巣を人が好き勝手に居座って、さらにはそこに設備をつくっているのやら。
彼らの巣とすべくはずの浮き島は、今はどうやらミトスの手によって、ちょっとした空中要塞になっているらしい。
あの施設もどうにかしなければ。
「とりあえず、一応、火を消しにいくのを手伝いにいきますか」
別にあれらがディザイアンと呼ばれし存在達ではなく、飛竜達のみ、とわざわざ伝える必要性もない。
それこそ本来ならばわかるはずのない事実、なのだから。
ぼ~
汽笛の音が響き渡る。
「パルマコスタがみえたぞ~」
昨夜の騒動が嘘のような朝。
結局のところ、船の灯りを全て消し終え、しばらくなりをひそめつつ、
リフィル、クラトス、ジーニアスも船員たちとともに甲板にて襲撃にそなえていたが、
恐れていたディザイアンの襲撃もなく、そして一夜があけた。
寝つかれない、というコレット達にエミルがハーブティをつくり、
それを手渡していたゆえに気がたかぶりねつかれなかったロイド達ですら、しっかりと睡眠はとれている。
一応は、海賊船、ということで。
このまま船を港に接岸する、というわけにはいかないらしい。
それゆえに、小舟にのり一行はパルマコスタへ。
「あの服、けっこうかっこよかったのに」
ロイドが何やらぶつぶついっているが。
クラトスがアイフリードとの一騎打ちにかったこともあり、
ロイドの海賊見習い、というその肩書はどうやら取り除かれたらしい、が。
資金不足だから服もかえせ、といわれ、ロイドがしぶしぶ返したのはつい先ほど。
「ほんと、ロイドのセンスって……」
やれやれ、とばかりに手をかるくあげていっているジーニアス。
きゅ~ん……
先ほどまでいた船はおおきく、ノイシュもゆとりをもってそこにいれたが、今のっている小舟はさほどおおきくない。
ちなみに、ノイシュ、ジーニアス、ロイドがひと組となり、クラトス、リフィル、コレットが一組。
そしてしいなとエミルがひとくみ、と小舟三隻にわけての港への移動。
それぞれ小舟からおりたち、港へつき一息ついたところでロイドがぽつり、とつぶやき、
あきれたようにそんなロイドにたいしジーニアスがいっている。
この港は、馬車の乗り入れも想定しているらしく、ある程度の大きさを誇っている。
ゆえにノイシュくらいがそこにいても違和感はない。
ないが。
「とにかく。まずは祭司をみつけましょう。ここにいる、とのことでしたものね」
アウグスト祭司はここ、パルマコスタにやってきているはず、とルインの祭司たちはいっていた。
「スピリチュアの財宝、か。よくわかんないけどきっとろくなもんじゃないよ。死を呼ぶ天使の財宝なんてさ」
しいながぽつり、と何やらいってくる。
「?ちがうよ~。しいな。スピリチュア様は私の御先祖様なんだよ~?」
死を呼ぶ天使、など物騒なものではない。
しいなの言葉にコレットが首をかしげつつも訂正をいれる。
「マーテル教会の創立者よ。
彼女が世界再生と協議の伝承を行って、マーテル教は世界中にひろまった、といわれているわ」
そんなコレットにつづき、リフィルが追加説明。
「はあ?何いってるのさ。死を呼ぶ天使スピリチュアはマーテルの力で逆らうもの全てを八つ裂きにしたんだろうが。
当時の神子をないがしろにしたという理由で、それにかかわったものをことごとく」
しいなの言葉に、
「何いってるの?しいな。ばっかじゃないの?
スピリチュアは気高さと慈愛にみちた神子だったっていう話しだよ?何かと勘違いしてない?」
そんなしいなにジーニアスがいうが、
「馬鹿でわるかってね。…そうか、こっちではそんな伝承になってるのか……
まあ、どうでもいいけどさ。それよりこれからどうするのさ?」
「「「こっち?」」」
また、その言葉。
まるで、世界が二つあるかのようなしいなのものいい。
今に始まったことではないが。
これまでも幾度かしいながそのようなことをいっていたのをリフィル達は耳にしている。
ゆえに、ジーニアス、リフィル、コレットの声が同時にかさなる。
ロイドはその違和感に気づいていないらしく、ただ首をかしげているのみ。
「まずは、教会にいきましょう。…騒ぎが大きくなるまえに、ね」
この街では一行のことは知られすぎている。
神子がまたこの街にやってきたとなれば、町の人々がどのような反応をするか。
ルインの街ですらお祭騒ぎになっていたのである。
パルマコスタ牧場につづき、アスカード牧場が壊滅した、という情報が、この街にまで届いているかどうかは疑問なれど。
しかし、ヒトの噂は千里を走る、ともいう。
警戒しておく必要はあるであろう。
そんなリフィルのいい分に、ロイド達がこくり、とうなづく。
「さ、いきましょう」
いつまでもここにいても仕方がない。
そんなリフィルの言葉に従い、ひとまず一行は町の中へ。
「これは、神子様ではありませんか」
パルマコスタのマーテル教会。
パルマコスタの広場に位置している教会。
向かい側には総督府が存在しており、そして教会の横にはパルマコスタが誇るパルマコスタ学問所もある。
町のあるいみ中心地、といってよい。
毎回ここにくるたびに、幾人もの信者、なのであろう。
町の人々らしき姿がみえているが、今日はいつにもまして人の数がほとんどいない。
「お久しぶりです。マーチ祭司長様」
「あの、こちらにアウグスト祭司様がおみえになっている。ときいたのですが……」
教会につくと、さすがにすぐにコレットに気づいた、のであろう。
祭司がコレットの元にとかけよってくる。
そのままかるく礼をとるそんな祭司に対し、リフィルがコレットにかわり問いかける。
「アウグスト様ですか?今は総督府にいかれていますよ。ああ、ドア夫人も皆さまにはお会いしたいでしょうし。
ぜひとも立ち寄られてはどうでしょう?何でもドア夫人は皆さまにお礼をいいたい、とのこと。
聞けば、皆さまがたが牧場に捉えられていた夫人を助けだしたとか。
その先、ドア様が命を落としてしまったのは何ともいえませんが……」
どうやら彼もまた、真実は聞かされていないらしい。
「そういえば、今はどうなっているのですか?」
ドアがいなくなり、この街をまとめるものがいなくなっている。
それは事実。
みたところ、ドアが街の人々を裏切っていた、というのは伏せられているらしいが。
そんなリフィルの問いかけにたいし、
「次なる総督はまだ決まっておりません。何しろドア総督には跡取りがいませんでしたので。キリアも行方不明ですし。
おそらくは、ドア夫人が再婚した相手が次の総督になるかと。もしくは民意にといかけることになるでしょう。
そのときには有力候補になるのはやはりブルート・ルアルディ殿でしょうけどね」
ぴくり。
その名をきき、一瞬エミルが反応する。
ブルート・ルアルディ。
それは、マルタの父親であり、かつてのヴァンガードの総帥。
リヒターにいいように使われ、そしてソルムのコアにてその心を狂わせた存在の中の一人。
リヒターの甘言にプルートがのったのかどうか、そこまでラタトスクは知らないが。
しかし、彼がきっかけとなり、そしてソルムのコアを手にしたことにより、あの血の粛清の惨劇はおこったといってよい。
そもそも、あのときテネブラエが捉えられ、自分もコアとなっていたあのとき。
コアの力は簡単に人のこころを狂わしていく。
それこそ自然一つをどうにかできるほどの力に人の精神が耐えられるはずもない。
「まあ、そのときには、おそらく神子様が世界再生を果たした後になるかとおもわれます。
ここだけの話しですが、かのプルート氏はシルヴァラント王朝の末裔。
しかも直系の家系の出ですからね。世界が再生されたのちは、彼がこのシルヴァラントをまとめてくれるでしょう。
皆、心のどこかで王朝の復活を望んでいますしね。かれの家には代々受け継がれている王家の証もありますし。
民心をまとめるには問題ないでしょうし」
まさかここであのブルートの話しがでてくるとは。
エミルはただじっと目をつむり、その話しをききいるのみ。
余計なことはいえるはずもない。
センチュリオン達ですら知らないのだから。
「何ですって!?では、この街にあのまことしやかに噂されていた王家の末裔のものが?!」
リフィルがその台詞に驚きの声をあげる。
「ええ。ここ、パルマコスタの祭司長になったものと、そして総督になったもののみが知る事実ですが。
神子様がたならお教えしても問題ないでしょう」
どうやら昔から、かの人物が王家の末裔であることは一部のものには知られていたらしい。
まあだからこそ、ヴァンガードなるものを設立できたのかもしれないが。
「それはぜひともあっていろいろと……」
「姉さん。今はそんな場合じゃないでしょう?」
どうも本筋から脱線しかねない。
ジーニアスがリフィルにあきれたように突っ込みをいれているが。
「今、ブルート殿も総督府にいかれているはずですよ。今後の話しあいのために。
何しろ、牧場から救いだされた人々の数は結構いましたからね。
彼らを故郷に送り届けるにしても、彼らをそのまま受け入れれば、
ディザイアン達の報復にあうのでは、と小さな村などでは躊躇されていまして。
今は目下、彼らがすまう場所を急遽作成中ではありますが、今後どうなることですか」
牧場から救いだされたはいいものの、戻る家があるものはいい。
しかし、そうでないもの達はどうすればいいのかわからない、というのが本音。
かといって、男性等ならば、この街の自警団に組み込んで何とか、ということもできるであろうが、
ドアを失ったこともあり、そして、今現在、どこからもれたのか、
ドアがもしかしたらディザイアンにくみしていたのでは、という疑惑もまことしやかにささやかれている。
まあ、それは疑惑、でなく真実であるのだが。
「ブルートさんがいうには、そんな彼らをまとめ、どこかにあらたな村をつくってはどうか。 という意見がでていましてね。
候補地として、再出発の意味をこめて元ディザイアン達の牧場跡地があがっていますが。
あの地の施設があった場所は湖となり、水には困りませんしね」
マーチ祭司長の台詞は、助けだした後のことをまったく考えててなかったロイドに衝撃をあたえていたりする。
彼らを牧場から助けだせばそれで終わりだ、とロイドはおもっていたのだが。
助けさえすれば、彼らは元いた場所にもどって元の生活戻れる、と。
しかし、ルインの一件をまのあたりにもした。
彼らは、牧場から脱走したものを匿ったから、というだけでルインの街に攻め込んだらしい。
そのようにディザイアン達が叫んでいるのを助かった町の人達がきいている。
だとすれば、故郷にもどった彼らが、彼らが原因で町や村が襲われかねない。
ディザイアンは全て消えたわけではないのだから。
「・・・・・・・・・・」
「エミル?」
彼が自分を今は知らない、とわかっていても、何ともいえない。
かつて、自分にかかわったがゆえに、その罪をおうことになった男性。
今の話しをきくかぎり、常に民のことを考えている人物であったらしい。
エミルが知っている彼は、すでに心が狂わされてしまっていた彼。
ソルムを覚醒させたのちはつきものがおちたように自分と会話を望んできたあの人間。
おもわず目をつむり、考えこむエミルの様子にきづいたのか、首をかしげてといかけてくるしいな。
「え?あ。何でもないよ。あ、リフィルさん、僕、じゃあ、食材とか買い物してきますから。
リフィルさん達は総督府にいく、というのはどうでしょう?」
「え?エミルはいかないの?クララさんにあわないの?」
彼女を元にもどしたのはエミルなのに。
目をばちくりさせていってくるそんなジーニアスに対し、
「あまりあのことは騒がれてほしくないからね。いいですかね?リフィルさん」
「そうね。でも、エミル。あなた一人だと心配よ」
リフィルのいい分もわからなくはない。
「大丈夫ですよ。じゃ、用事がすんだら僕も合流しますから」
「そう?あなたがそういうのなら。でもあまり無理はしてはだめよ?」
リフィルの台詞にあいまいに笑みを浮かべ、ひとまずその場をあとにする。
そんなエミルの背後では、神子、という言葉をききつけた、のであろう。
町の人々がコレットに話しかけようと、教会にいた人々がこぞってあつまっているのがみてとれるが。
皆がいうのは口ぐちにおなじこと。
”神子様、一刻もはやく世界再生を”
しかし、彼らはわかっているのであろうか。
世界が元の姿、すなわち一つの姿になったとしても、その後努力するのは自分達でしかない、ということを。
は~
まさか、ここで彼らの名をきくとは。
『?ラタトスク様?』
「何でもない。我があの力を使用した、というのはあまり広まってほしくはないからな」
それこそ下手に欲にかられた人間達がむらがってくる可能性も。
マナを操り、クララを元にもどしたしたことに後悔はない。
ないが、それをしり自分を利用しようとするものがあらわれない、などとは絶対にいえない。
まあ、ため息をついたのはそれが理由でないにしろ。
――エミル!
――エミル、私の王子様!
――私、忘れない、エミルのこと、忘れないから!ずっと、ずっと、ずっとっ!
目をつむれば、いまだに思いだす、あのときのマルタの泣き顔。
自分にむけていたあの笑顔も。
記憶を失っていたあのとき。
マルタが自分を美化し思いこんでいたのはわかっていたが、それでも。
あのまっすぐさにどこか救われていたのもまた事実。
愚かでしかないヒトの中で、まっすぐに、自分のできることをしようとしていたあの彼女。
なのに、そんな彼女をヒトは…ロイド達の尽力がなければ、
彼女は民衆の叩き上げにあい、まちがいなく処刑寸前までいっていた。
あのとき、魔物をつかい、彼女を助けたのが間違っていたのか、
でも、そうしなければ、彼女はまちがいなく殺されていた。
いまだにそのときのことをおもうが、どちらがよかったのか結論はでていない。
マルタの転生体を幾度か視ることはあったにしろ、それはマルタであってマルタでない別の存在。
この地でのマルタは、まだ両親とともに暮らしているのであろう。
母は大樹の暴走時に死んだ、そういっていたはず。
まだその暴走はおきていない。
まあ、自分が目覚めていないのに、マナを照射すれば、
制御するものがいなくて樹が暴走することなどたやすく理解できたであろうに。
ミトスはそのことにすら気づいていたのに、あのときとめなかった、ということは。
やはり、ミトスは自分とかわした盟約のうちの一つ。
”世界を壊すのはまってほしい、自分達がどうにかしてみせるから”
あの約束を忘れている、ということなのだろうか。
わからない。
リフィル達とひとまず別れ、町の中をそんなことを考えつつあるいているそんな中。
「ちょっと、いい加減にしてよね!」
どき。
聞きなれた声。
忘れるはずもない。
忘れようにも忘れられないその声。
忘れられない声がエミルの耳にと聞こえてくる。
「いいじゃねえか、ちょっとくらい」
甲高い女性の声と、そしてその声にからむようにしてきこえてくる知らない声。
おもわず、声のしたほうに視線むけてしまう。
みれば、数名の男にかこまれている少女の姿が目にはいる。
長い栗色の髪を二つにたばね、その頭には白い花。
その目は澄みきった青空のごとくの青色。
男は三人にたいし、少女はひとり。
どうやら三人がかりで彼女に絡んでいるもよう。
「だから!私はあんたたちに用事なんてない!」
「つれないなぁ。マルタちゃん。俺達があそんでやるっていっているのに」
「しつこい!」
・・・・何だろう。
ものすごくあの男たちが気にいらない。
それがなぜかはわからないが。
「ちょっと。その子、嫌がってるじゃないか」
「うん?なんだぁ?」
かかわる気はなかった。
けど、ほうっておけない。
というより、この絡んでいる男達にたいし、異様にむかむかしてしまう。
「こんなひょろりとしたやつはほうっておいて、いこうぜ」
「いや!」
絡んでいた男の一人がいきなり少女の手をにぎる。
むか。
「っててて!なにすんだ!」
「嫌がってる女の子に、君たちこそ何しようとしてるのさ?」
なぜ自らの気持ちがむかむかするのかわからないままにその手をおもいっきりひねりあげ、少女…
マルタの手からひきはがす。
「よそもんが、邪魔するんじゃねえ!」
「あぶない!」
懐にもっていたらしい、小さなナイフをとりだし、威嚇してくる男たち。
それをみて少女が悲鳴のようなものをあげているが。
「お仕置きが必要のようだな」
むかってくる男たちにたいし、淡々とつぶやき、
むかってくる男たちの手をねじあげ、そのままそのあたりにと投げ飛ばす。
「く。こいつ、こんななりしててつええ!」
「まて!たしかこいつ、神子様の…」
「まず!」
どうやらエミルがコレット達とともにいたのをみたことがある人物であったのか、
一人が何かに気付いたようにいい、その場から駆けだすようにと逃げだしてゆく。
『お~!』
何やら周囲から喝采がむけられているが。
みれば、野次馬のごとく集まってきていた町の人々が、エミルにたいし、拍手喝采をむけているもよう。
「あ、ありがとう。あ、あの!私、マルタ・ルアルディっていいます!」
きらきらきら。
目をすこしばかりうるうるさせ、エミルをすこしみあげていってくる少女。
エミルの記憶にあるマルタより多少幼さをのこすが、まちがいなく彼女はマルタそのもの。
「きにしなくていいよ。それじゃ」
これ以上、彼女にかかわるべきではない。
それゆえにその場をたちさろうとするが。
「あ、あの!あなたのお名前は!?」
「いや、僕、急ぐから。じゃ」
このマルタは自分を知っていたあのマルタではない、とわかっている。
それでもどうしてもかつてのことを思いだしてしまう。
そのまま足早にその場を立ち去ろうとするが、
「あ、まって!」
すばやく人ごみにまぎれ、気配を遮断する。
こうすることにより、彼女は自分の気配を追うことはできないであろう。
「?らしくありませんね。ラタトスク様」
「アクアか。何となく面倒なことになりそうな気がしてな」
それはもう果てしなく。
あの目は覚えがある。
自分を自分の理想のままと信じ、その理想の像を押し付けようとしてきた当初のマルタの瞳そのもの。
どうやらやってしまったらしい。
ここでは彼女にかかわる気はまったくもってなかったというのに。
「たしかに。あの子を近づけるのは私は賛成しかねます。あの子のあの目、ラタトスク様によりによってっ!」
「アクア?」
いくら人に姿がみえない、とはいえ、姿を消した状態で現れているアクアもアクアだが。
なぜにマルタにたいし、アクアは憤慨した様子なのだろうか。
「ラタトスク様によりつく虫は排除しなければ…ふふふ」
「……アクア?」
何だろう、虫?
何やらアクアの含み笑いが果てしなく面倒事のような気がするのは、ラタトスクの気のせいか。
「とりあえず、買い物にいくか」
「しかし、わざわざ買い物をされる必要もないのでは?
今のラタトスク様ならば様々な物を創るくらいは簡単なのでしょう?」
主の力が目覚めしときから満ちているのはアクアも気づいている。
さらに、自分達エイト・センチュリオンが魔物との縁をつよめることにより、
さらに主であるラタトスクの力は絶対なものにと近づいている。
それゆえにアクアからしてみれば首をかしげざるをえない。
「前にここにきたときに手にいれたお金があるしな。俺がもっていても仕方がないし。
まあ、彼らとともにいるかぎり、必要な品もあるだろう。それにつかっても問題なかろう」
「…ラタトスク様。いつまで彼らとともにいるおつもりですか?クラトスに気づかれてはもともこもないのでは?」
それは、ラタトスクを彼らが裏切っているがゆえの心配。
「その時はそのときだな。…ミトスとの接触が早まるからそれはそれでいいかもしれぬがな」
ミトスが完全に自らの闇に、負に負けて堕ちてしまっているのだとすれば。
彼を元に戻すためにあえて封印、という手も考えなければならないかもしれない。
それこそ穢れを払うべく、穢れを払う作用のある水晶にと閉じ込めて。
「ああ!あなたは!」
「…え?」
え~と。
これはいったい?
なぜにマルタがここに?というか、コレット達とともにいる?
思わず混乱してしまう。
「あなたも神子様も一行だったのね!やっぱり運命ねこれは!」
「・・・・・・・・あの~?リフィルさん、説明求めていいですか?」
何やら一人、はしゃいでいる栗色の髪の少女。
困惑しつつ、そこにいるリフィルにと問いかける。
とりあえず必要になるであろうグミなどをかいもとめ、
それを元にしてミラクルグミなどを創りだし、ひととおりグミの種類は確保したのち、
食材もある程度かいたし、そのままそれらを複製しておいた。
買い物をすまし、リフィル達がいるであろう、総督府にまでやってくると、
なぜかコレット達とともにマルタがいるのはこれいかに。
「あ、エミル。マルタをしってるの?」
コレットがそんなことをいってくるが。
「エミルっていうの?すてき!あのね。エミルはね。
私が絡まれてるところを助けてくれたの!名前もいわずに立ち去っちゃって」
そんなコレットの言葉に、はしゃいだ様子で説明しているマルタの姿。
「あら。エミル。あなた、彼女をたすけたの?」
「偶然、というか…三人の男のヒトになんか絡まれてたっぽくて……」
そのエミルの言葉をきき、
「うわ。それ、ここに一緒にあのプルートって人がきてなくてよかったよ。
またマルタとプルートさんの親子喧嘩が勃発しかねない状況じゃない、それ!」
ジーニアスが、なぜかずざっと後ろに一歩さがりそんなことをいってくる。
「?」
「私、これから神子様の一行に加わることになりました、よろしく!
ふふふ。私の王子様のエミルがいるなんて、私とエミルはきっと運命の赤い糸で…きゃっ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・リフィルさ~ん……」
説明をもとむ。
切実に。
どこかすがるようなエミルの視線と口調に気付いたのか、盛大にため息をつき。
「成り行きでね。あなたと別れたあとなんだけど……」
リフィルの口からどうしてこうなっているかの経緯が語られてゆく。
「アウグスト祭司長様」
「これは、神子様ではありませんか」
「神子様。それに皆様も、お久しぶりです」
パルマコスタの総督府。
「その説はお世話になりました」
淡い栗色の髪…光の加減によっては金髪にみえる髪の女性が頭をさげてくる。
鮮やかな緑色のドレスを着こなしている女性。
実際は元々は金髪だったらしいのだが、精神的な要因もあり色素がぬけており、完全な金髪には戻っていないらしい。
その女性が深く頭をさげてくるのをうけ、
「いえ、私たちは何もしてませんわ。…あなたを元にもどしたのはエミルですもの」
そう。
あのとき、リフィルは何もできなかった。
ドアを救えなかったことが、リフィルの中にいまだにしこりとなってのこっている。
光となってきえていったドアの最後。
マナを狂わされたものの末路がそのような状態になる、とは知識ではしっていたが。
実際目の当たりにしたのはあのときが初めてといってもよかった。
総督府の中にはいれば、そこに三人の人物がおり、
一人は見慣れたニール、そしてもう一人は緑のドレスをきこんだ女性。
そして、もう一人はリフィル達も初めてみる顔の人物。
もののみごとにそっているのか、それとも本当に禿げているのかわからないが、つるん、とした頭が印象深い。
「ええ。神子様もお元気そうで。再生の旅は順調のようですな。
先日、神子様方が今度はアスカード牧場も壊滅した。と聞き及んでおります」
その言葉に苦笑せざるをえない。
どうやら、誰かがここにまで、アスカード牧場を壊滅させたことをつたえている、らしい。
誰かがこの地にやってきたのか、それとも伝書鳩を利用したのかはわからないにしろ。
「むごいことです。牧場から救われた人達に聞き及びましたが。
ディザイアン達がつけているエクスフィアなる石は、ヒトの体にて培養されているとか」
「それは……祭司様?」
どうやらそのことをしっていた、もしくはその直前にまで移動させられていたものがいたのであろう。
そのことをしっていた捉えられていた人がいた、となると。
「人の潜在能力を引き出す便利な石。しかし、その裏には…
神子様。一刻も早く、世界再生を。あのような品が二度とつくられぬように。
あの石のために今までどれほどの命が失われていることか」
「あの。そのことは、どれだけの人が知っているのでしょうか?」
リフィルからしてみればそれがきにかかる。
真実を人がしり、どう行動するか。
中にはエクスフィアを手にいれ便利なもの、として使っているものもいるだろう。
「いえ、内容が内容ですので、口止めしてあります。
しっているのは、私たち、そしてマーテル教会の祭司様がたのみです」
そんなリフィルの疑問にキールがこたえてくる。
「それで、神子様は本日はどのような御用件で?」
「あ、あの。アウグスト祭司長様にお聞きしたいのですが。
アウグスト様はスピリチュアの財宝なるものをもたれているとか」
「ああ。スピリチュア様が身につけておられた法具ですかな?」
「それを俺達に渡してもらうことできないか?」
「スピリチュア様の法具をお求めで?…ふむ。どうしましょう。ブルート殿」
「私としては、神子様一行が求めているのならば、それにこしたことはない。ですが…」
どうやら背のたかい、なぜか頭にどうしても目がいってしまう人物が、先ほど話題にでていたブルート、という人物らしい。
この人が、王家の末裔。
リフィルはしみじみその人物をみてしまう。
たしかにどことなく風格はある。
彼が何か行動しようとすれば、その王者の風格、というのだろうか。
それにひかれてついていくものは多少はいるであろう。
「パパ!」
「マルタか。こんなところにまできてどうした。まさかまだ諦めてないというのではないだろうな!?」
そんな会話をしている最中、ぱたん、と扉がひらき、部屋の中にはいってくる一人の少女。
長い栗色の髪を二つに頭の横でたばね、その二本の髪の束をたらしている少女。
というか。
「「「パパ!?」」」
思わずその少女と、目の前の男をみくらべて、ロイド、ジーニアス、そしてしいなの声が同時にかさなる。
どこをどうみても似ていない。
どこか怖い感じをうけるこの男性と、このかわいらしい少女が親子、というのだろうか。
おもいっきり信じられない。
「あ。もしかして、パトロンのパパ、とか……」
しいなが何気にあるいみひどいことをぽつり、とつぶやくが。
「マルタさんは実のブルートさんの娘さんですよ。母親似の」
おそらく、彼らの思いがわかった、のであろう。
ニールがぽつり、とそんな彼らにといってくる。
「うわ。…お父さんにになくてよかったね」
それをきき、ぽつり、とジーニアスがいっているが。
そんな彼らの目の前においては、
「パパこそ、私にだまって!どうせ法具を手にいれて、伝承にある石碑と首飾りを手にいれにいくつもりなんでしょう!?
パパ一人でいくなんてずるい!私だっていきたいもん!」
「何をいう!お前にいかせられるわけはないだろう!」
「そういうパパはじゃあ、仕事はどうするのよ!私がいったほうが、万事丸くおさまるじゃない!」
「そういう問題ではない!」
『え~と……』
なぜか目の前で言い合いをはじめているまったく似ていない親子だというこの二人。
「…説明をもとめてもいいか?」
クラトスもさすがに気になるのか、ニール達にとため息をつきつつもといかける。
「あ。はい。今のこの街の現状は神子様方は御存じないかもしれませんが。
ドア総督の不信感がじわり、じわりと広がっているんです。
総督にいわれ、義勇兵として出撃していたものたちが、ディザイアン達に待ち伏せされていた。
そういうことが幾度かあった、と囚われていた人々の証言から判明しまして」
ドアが街の人を裏切っていたことをしっているニールとしては
何ともいえない、というのが実情なれど。
「それで、ブルートさんが、ならば民の心を安心させるために、自ら名乗りをあげる、とおっしゃってくれまして。
しかし、それには、王家の証となる代々つたわるという指輪だけでなく。
何でもかつてスピリチュア様とともに当時の王家の一員がとある地に封じた、
王家の首飾りなるものが必要、といわれまして。
彼の家には、その首飾りは、風の封印であるパラグラフ遺跡の中にある。そう記されているらしいのですが……」
そこまでいい、ため息ひとつ。
一方では。
「そもそも、パパが名乗りをあげる、といったらママは賛成しなかったのに、何で今さらなのよ!」
「再生の神子により世界が再生されれば、世界は必ず指導者が必要となる。
今は町や村ごとにきちんとした法律などもないが、必ずまとめる組織は必要となる。
それはマルタ、お前にもわかっているはずだ!」
「だからって、何でパパがそれをやるのよ!いくら王家の末裔っていっても!
ママも静かにくらせないの、といってたじゃない!」
「マルタ。お前は、イトコ同士の私たちの間にうまれた、王家の血をより濃くうけつぐものだ。
それはお前にも話していただろう」
「そんなの、物ごころついたころからいつもいわれてからしってるわよ!
だけど、私がいいたいのは!仕事ほほうってまで、何どこかにいこうとしてるのか!ということよ!
そもそも、この前まで家族で旅行したのだって。
パパは許可をとったとかいってたけど、パパの部下達の人達、誰もきいてなかって嘆いてたじゃない!」
「うわ~」
いまだに言い合いをしている親子の姿。
その会話をききつつ、おもわずジーニアスがつぶやきつつも遠い目をしてしまう。
というか、この人、何やってるの?
仕事をほうっておいて、家族旅行?
しかも…それなりの地位にいるらしい、が。
部下にも内緒でって。
それは痛い。
はてしなく。
「だから私がいくっていってるでしょ!私だっていつまでも護られる立場じゃないんだから!もう子供じゃないんだから!」
「何だと!?子供じゃないとは…は!?まさか、お、男か!?男ができたのか!?
ゆるせん!マルタ、パパの目の黒いうちは男女交際はみとめんぞ!というか、清い交際もダメだ!」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
何だろう。
何か話しが脱線している。
ものすごく。
おもわず無言になってしまう、リフィル、しいな、クラトスの三人。
「私の王子様があらわれたんだもん!だったら私も王女の資格をとりにいってもいいでしょ!」
「何だとぉ!どこのどいつだ!私のマルタにちょっかいをかけたのはぁぁ!」
「…ブルートさん、親ばかで有名なんです」
「「「よくわかった(わ)(よ)」」」
そんな彼らのやり取りをききつつ、ぽそり、と疲れたようにいうニール。
その言葉に、同時につぶやく、しいな、リフィル、ジーニアスの三人。
「うむ。子を心配するのは親の特権だしな」
ぽそり、とクラトスが何やら一人、そんなことをつぶやいているにしろ。
「なあ。というか、パラグラフ王廟が、なら風の封印ってことなのか?」
さらりとそんな親子喧嘩を繰り広げている二人を無視し、
先ほどいわれた言葉がきになったらしく、そんなことをいってくる。
「ええ。かつてのスピリチュア様との旅に、彼の先祖…王家のものが加わっていたらしくて。
七聖者、とよばれている存在のなかの、護りの巫女、とよばれしものですね。
彼女は当時の神子より、神子が武器としていたチャクラムを授かり。かの地に封じた、ともいわれています」
ニールの言葉に補足するように、
「それで、王家の証が二つそろいしとき、王家の証は空にしめされん。
その言葉を実行しようと、ブルートさんが遺跡に出向こうという意見を出されているのですが」
そこまでいい、いまだに言い合いをしている二人をみてクララもため息ひとつ。
「どこのどいつだ!手塩にかけたかわいい娘をぉ!」
「かっこよかったなぁ。ああ、私の王子様、金の髪に緑の瞳、きゃっ」
金の髪に緑の瞳って……
思わずロイド達の脳裏にうかぶは、今は別行動しているエミルの姿。
それゆえに思わず顔をそれぞれ見合わせてしまう。
「これ以上、仕事を放棄しないでください。とブルートさんの配下のものたちが彼の家族になきつきまして…
で、それならどうしても必要なら、マルタさんがとりにいく、といいだしまして……」
いまだにぎゃいぎゃいと言い合いをしているその親子。
そんな彼らにたいし、
「あの~?その子も遺跡にいくのなら、なら私たちとともにいってはどうでしょうか?」
「「え?」」
コレットの言葉に、ぴたり、と制止する親子と、そしておもいっきりかたまっているニール達三人。
「あ、あの、神子様?」
ニールのとまどったような声。
「ブルートさん、でしたよね?娘さんが心配、なんですよね?
でも、遺跡はまだ封印をといてませんから、中にはいれませんけど。
でも、私たちとともにいけば、すくなくともブルートさんの心配もないのでは?」
この様子では一人ででも出発しかねない。
どちらにしろあの地には自分達もいくのだから、旅は道連れ、ともいうし。
だからこそのコレットの提案。
それにもう一つの理由として、マルタ、とよばれている女の子は、どうみてもコレットと年がちかい。
しいなは聞けば、コレットより二つ上だ、という。
コレットは今十七歳。
少女はみたところ、十四か五のそこらあたりであろう。
コレットからしてみれば同性の友達ができる、という機会でもある。
「本当!?神子様!うれしい!ほら、パパ、神子様もこういってるんだし!パパはさっさと仕事にもどる!」
コレットの言葉をうけ、がばっとコレットの元にかけよっていき、コレットの手をしっかりにぎりしめ、
ブルートにむかって、手をひらひらとさせているマルタとよばれし少女。
「しかしな!マルタ!女の子が危険な旅にでるのはパパはゆるせんぞ!」
「パパこそ何いってるのよ。御先祖様の七聖者とよばれし曾曾曾…
と、とにかく御先祖のおばあさまも、女の子だったんでしょ?再生の神子様と同い年だったから旅に加わった。
そういつもパパ、話してくれてたじゃない」
「しかし!御先祖様は十七だが、お前はまだ十四だ!」
「二歳くらいかわらないわよ!ということで。はい、決定!よろしくね!神子様!わたし、マルタ・ルアルディ!」
叫ぶブルートをさくりと制し、しっかりとコレットの手を両手で握りしめ、にこやかな笑みをうかべてそんなことをいってくる。
「うん。よろしく。私はコレット・ブルーネルだよ。コレットってよんで?」
そんなマルタにたいし、にこやかに笑みにて返事をかえしているコレット。
「神子様を名前よびでいいの?!」
「うん。だってこれから共に旅するんだし、だったら私たち友達だよね?もう」
「うれしい!神子様と友達になれるなんて!」
この場にいる他のものを無視したままで何やら二人で盛り上がっている。
「お、おい、コレット…」
「はぁ。コレットはいいだしたら聞かないから……」
とまどいつつも声をかけるロイドに、ため息とともにつぶやているリフィル。
「ああ、私の、私のマルタが……」
そして、がくり、とその場に人目がある、というのにもかかわらず、がっくりと膝をついてうなだれているブルートの姿。
あるいみ混沌とこの場は化しているといってよい。
「…と、いうわけで、彼女も同行することになったのよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
疲れたように説明してくるリフィルの言葉にはどこか哀愁がこもっている。
どうしてこうなった?
そんな思いがエミルからしてみればぬぐい捨て切れない。
そもそも、この世界においては彼女と接触をもつつもりはさらさらなかった、というのに。
「ふふ。よろしく!私の王子様のエミル!これって運命よね!
そして、旅の最中、二人の間には愛がめばえ、そして愛の結晶が…きゃっ!」
完全に自分の世界に浸っている。
体をくねくねさせるとき、彼女はいつもそうだった。
…どうやらここの彼女もあのときの彼女と性格的には同じ、らしい。
「……なんか、僕、おもいっきり遠慮したいんですけど……」
「もてる男はつらいねぇ」
一人、自分の世界にはいっているマルタの様子に、ぽつりとエミルがつぶやけば、ジーニアスがそんなことをいってくる。
「ジーニアス。他人事だとおもって。そもそもみるかぎり、どうみても彼女、自分の理想を僕におしつけようとしてない?」
「あら。よくみてるわね」
「……いきなり王子様とかいわれたらわかります」
それはもう、かつてのときも、ひたすらにそういわれていた、のだから。
『何ですってぇ!?ラタトスク様に近づく害虫が旅の一行に!?』
え~と?
なぜに影の中にてアクアが憤ったような声をあげているのだろうか。
それがげせない。
ぽん。
そんなエミルの肩に手をおき、
「まあ、パコ何とか遺跡までの辛抱だ。エミル」
「そうね。彼女はそこで品物を手にいれれば、危険な旅でもあるもの。
そのままこの街にもどして私たちは旅をつづけましょう。あと、バラクラフ王廟跡です」
ぴしゃり、とロイドの台詞を訂正するのをわすれずに、ため息まじりに、諦めたようにいっているリフィルに続き、
「…ブルートさんからくれぐれ!も!マルタに怪我とかさせないように。とか念をおされたからねぇ」
やれやれ、といいつつ、そんなことをいってくるジーニアス。
それはもう必至の形相で。
おもわずジーニアスだけでなく、リフィル、そしてクラトスがひいてしまうほどに。
ちらり、とクラトス達にも救いをもとめるが、どうやら彼らも諦めてしまったらしく、
首をかるく横にふっているのがみてとれる。
どうやらマルタの旅の同行は決定事項、らしい。
「…は~」
思わずため息がもれてしまう。
というか、本当にどうしてこうなった?!
そもそも、その首飾りとかは、リヒターがあのとき、バラクラフ遺跡の中でお礼といって自分に渡してきた品なんじゃあ?
そんな思いがふとよぎる。
そういう理由があったのならば、マルタにあの首飾りをわたしたときに、
すんなりと別行動していた自分を許した、というのがわからなくもないが。
まあ、考えていても仕方がない。
というか、どうやらマルタをおいていく、という考えは彼らの中にはないらしい。
本当に、どうしてこうなった。
とりあえず、
「…あの。リフィルさん。これからどうするんですか?」
とりあえず現実逃避をかねて、今後のことをといかけるエミルは間違っていないであろう。
そんなエミルの心情を知るはずもなく…ある意味で理解しているようではあるが。
「法具は手にいれたことだし。今からソダ間欠泉乗り場に向かいましょう。…いきたくないけど、仕方がないわ。
それに、第三者も加わったのならば。エミル。あなたに頼るわけにもいかないもの」
それでなくても神鳥シムルグの姿は誤解をまねく。
当事者達が女神マーテルに仕えてなどいない、といいきったとしても。
下手をすれば、エミルまでその関係者、すなわち女神マーテルの関係者。
とディザイアン達、そして人々にすら思われかねない。
ソダ間欠泉。
ソダ島、とよばれし場所は、パルマコスタから東の位置にと存在している。
以前、ソダ島にいったときには、エミルが呼びだしたシムルグによって空から移動したゆえに、
完全なる陸路はこれが初めて、といってよい。
前回は少し遠回りをしたが、今回目的としているのは、
あくまでもソダ島であるがゆえ、そのまま東へ東へ、と旅路をとってゆく。
パルマコスタから以前はスピリチュア像を手にいれるべく、
救いの塔へ出向いたがゆえに、どうみても迂回路形式で遠回りになったのだが。
パルマコスタに到着したのが昼近く。
かるくパルマコスタにて昼食をとり街道沿いを東にむかってすすんでゆく。
今回はわざわざ救いの小屋に立ち寄る必要もないので、
そのまま、ソダ島へとむかう街道沿いを進んでゆくことしばし。
「しかし、陸路の乗り物がないってのは不便だね」
しいながぽつりと歩きながらいってくる。
地図によれば近いようにみえなくはないが、しかし、とおもう。
シルヴァラントの地図は、テセアラの地図とことなり、かなり簡易式。
距離がいまいちつかめない。
パルマコスタからソダ島遊覧船乗り場までは、街道沿いを普通にすすみ、約三日ほどかかるらしい。
「?しいなは、竜車にのりたかったの?」
「竜?ああ。高速竜車かい?それより、なあ、エレカーはつかわないのか?」
彼らがいう竜車はしいなの知っている竜車なのかはしらないが。
陸路を使うなら、エレカーが早いだろうに。
そんなしいなの言葉に、
「えれかー?何だそりゃ?」
ロイドがしいなの言葉に首をかしげ、ジーニアスもまた首をかしげる。
「……そっか。こっちにはないんだね」
ぽそり、というしいなの台詞に、ぴくり、と反応しているクラトス。
テセアラでは陸路を使うのに、レザレノ・カンバニーが主体となり、エレカーが馬車の変わりとなって久しい。
乗合馬車ならぬ乗合エレカーすらあったりする。
しかし、それはあくまでもテセアラでのことで、こちら側、すなわちシルヴァラントにあるはずもない。
「その、こっち、というのは何だよ。お前ときどきそんなこといってるよな?」
今までに幾度となく、こっちだのあっちだの、しいなはよくいっている。
それゆえにさすがに疑問におもったのかといかけるロイドに対し、
「いいっていいって。こっちの話しさ。あはは」
かるく笑みをうかべ、何とか話題をかえようとしているのがまるわかり。
たしかそういえば、テセアラにはエレメンタルカーゴ、通称エレカー、とかいう乗り物があったはず。
しいなはおそらくそのことをいっているのだろうが。
それは世界を視たときに確認している事柄。
「エレなんとかはしらないけど。私はあれ苦手。ハコネシア峠を通るときにのったことがあるけど。
ハコネシア峠は坂がきつくてたしかに大変なのはわかるけどさ。
うちのパパが……もう、二度とのりたくない!竜車よいするっていってるのよ!
慣れれば平気とか何とかいって無理やりにパパが乗るから!」
む~、とした口調で口をとがらせつついうマルタ。
ことあるごとにエミルにちかづき、手を絡めてこようとするがゆえ、
それとなくエミルはリフィルの横にと避難していたりする。
クラトスの近くに、とおもったのだが、なぜかセンチュリオン達から、大々的に却下されてしまったゆえに、
リフィルの横を歩いている形となっている今現在。
なぜか、常に二柱は今後、傍にいることがセンチュリオン達の中で決定が下された、とのことらしいが。
それをうけ、ウェントスやルーメンが必至となり
残りの縁の強化に取り組んでいることを考えれば、いいことなのかもしれないが。
そういえば、マルタは竜車が苦手だ、とかつていっていたな、とふと思い出す。
「あ~。竜車って面白いよね~。どす~ん、どす~んって。マルタものったことがあるんだ~」
コレットの真横をあるきつつ、そういうマルタにたいし、にこにこと話しかけているコレット。
ちなみに、今の一行の並びは、一番始めにロイドとノイシュ。
その後ろにしいなとジーニアス。
そしてその後ろにコレットとマルタ。
その後ろにリフィルとエミル。
そして一番後ろにクラトス、という並びで街道を進んでいる今現在。
一応、マルタに怪我をさせては、というので、護衛の対象者であるコレットと、
どうやらひとくくりにしたほうが護りやすい、という理由からの並びではあるらしいが。
にこにことそんなことをいってくるコレットに対し、
「え?コレットも?」
意外。神子でも竜車に乗るんだ。
そんなことを思いつつ、マルタがコレットにといかけるが、
「うん。あれ、面白いよね。前にね、のったとき、竜車がどすん、どすん、って動くたびに揺れるから、
それにあわせて、私もゆれたら酔わないかな。とおもって一緒にジャンプしてたら……」
「してたら?」
「よっちゃった」
「・・・・・・あの?コレット?それで楽しかったの?」
「うん!」
「…きにしたらダメだよ。マルタ。コレットはそんななんだから」
その会話がきこえていたらしく、ため息とともにジーニアスがマルタにといってくる。
「でも、意外」
「え?何が?」
マルタがいきなりいい、何が意外なのかわからずに、首をかしげるコレット。
それはジーニアスも同じらしく、同じく首をかしげていたりする。
「コレットってと。再生の神子なのに、全然えらそうじゃないし。なんか不思議だよね。そうおもわない?しいな」
いきなり話しをふられ、
「え?あ、そうだね。というかあの子はどちらかといえば天然ボケじゃないかい?」
というか、命を狙っている自分に一緒にいこう、などいう子がいるとはおもえない。
いや、実にここにいる、のだが。
話していてもどうも用件が脱線されまくる。
ゆえに、しいながコレットに感じているのは、天然ボケ、これにつきる。
「そっか。たしかに」
「ふえ?何?」
そんな二人の会話をきき、きょとん、と首をかしげているコレット。
「「「ううん、何でもない(よ)」」」
異口同音に口をそろえていう、しいな、ジーニアス、マルタの三人。
そういえば。
「そういえば、ボケの花がそろそろ咲く時期だよね」
ボケといえば、そろそろこのあたりに花が咲く時期のはず。
そんなエミルの言葉に、
「あ。そだね。このあたりにも咲いてるかな~」
「あの花は山間部に近いところに咲くからね。ボケの実好きな子たちもけっこういるし」
「あ。たしかに。あの実はおいしいよね~。ロイドがよく山でとってきた実をわけてくれてたんだよ」
「そうなんだ。なら、ビワの実とかも?」
「うん」
「「「「・・・・・・・・・・・・・」」」」
そんな会話をはじめるエミルとコレットの会話をきき、なぜか無言になっているリフィル達。
「…なんで、天然ボケの話しからボケの実の話しになるのさ…」
「エミルとコレットを一緒にしたらだめだ、うん。ダメなんだよ。しいな……」
がくり、となぜかうなだれて、そんなことをいっているしいなとジーニアス。
「それより、先生。そろそろ日もくれてきてるし。今日はこの近くで野宿か?」
「そうなるわね」
「野宿。それすわなち、一つ屋根の下でなく、一つの空の下で一緒にエミルとねられるってことよね!
さむくないかい?マルタ、とかエミルがいっちゃって、そして…きゃっ」
「・・・・・・・・・・リフィルさん。僕、夜の間、周囲見回ってきてますので」
「え?またエミル、夜に見回りいくの?」
「うん。皆はねてていいよ。あ、今日の料理もなら僕つくりますね。
この先に小川が流れてるっぽいですし、そこでなら今日はやすみますか?」
事実、この先にちょっとした山から流れ出ている小さな川がある。
「エミル。あなたはこのあたりの地理に詳しいのかしら?」
「え?えっと……」
詳しい、というかすこし意識すれば判るので、詳しいといういい方は違うようなきがする。
「あ。ほんとうだ。水の音がする」
「ふむ。どうやら滝があるようだな」
コレットがそういい、クラトスもまたいってくる。
彼らの耳にはかすかにきこえる滝がおちる音がきこえているが、その音はいまだにロイド達の耳には聞こえていない。
「クラトスにコレットがいうのなら、そう、なのかもしれないけど…とにかく、いってみましょう」
どちらにしろ、野営をするのなら、水のある場所があるのは心強い。
そのまま、一行は音がしている、という方向へとむかうことに。
ドドド。
周囲に山間から流れ落ちる音が響き渡る。
山間から流れ出ている水は、小さな滝となり、
そして流れ落ちた滝の水はちょっとした川となり、そのまま大地を流れていっている。
「本当にあったよ……」
しいなが、ぽそり、とつぶやき。
「じゃ、ロイド達はいつものように、薪をおねがいできるかな?」
「おう!まかせとけ!ジーニアス、競争だ!」
「今日はまけないよ!」
野営のたびに、薪を拾う、というのはどうやら慣れているらしく、
そんなことをいいながら、今晩休む場所をきめ、その場にて野営の準備をしはじめる。
「じゃあ、私は石さがしてかまどつくるね~」
「コレット。大丈夫?前みたいに脱線するんじゃあ……」
「こ、今度は平気だよ!…たぶん」
コレットが立候補してきたのをうけ、エミルが確認をこめてといかけるが、
コレットの声は最後のほうは小さく、どこかたよりない。
「前みたいに脱線する、とは?」
しいなのといに、
「え?ああ。あのときしいなさんはまだいませんでしたもんね。前、コレットがかまどをつくる、といったとき。
河原にあるめずらしい石などをあつめるのに夢中になって、かまどつくりを完全に忘れてたことがあるんですよ」
「てへ」
エミルの言葉にかるくしたをだして照れたような表情をするコレット。
「かまどつくりかぁ。面白そう。ねえ。コレット。私におしえてくれる?」
「え?私が?」
マルタにいわれ、コレットがおもわず目をぱちくりさせている。
コレットにしてもマルタの言葉は意外であったらしい。
「うん。いつもうちのパパって、異様に過保護で、こういうのやらしてもらったことないんだよね。
ママに料理をおそわろうとしても、包丁があぶないとかいってなかなかもたせてもらえないんだ」
ああ。それで。
あのとき、マルタの料理は壊滅的だったのか。
今さらながらにその理由が判明した。
そんな会話を傍目でききつつもおもわずため息をついているエミル。
どちらにしろ、絶対にマルタ、そしてリフィルには料理は任せられない。
一番怖いのは、リフィルとマルタがともに組んで料理をしようとしたあのとき。
気が遠くなりかけたことは今でもはっきりと覚えている。
あれってあのとき、絶対にコアになりかけてたんだよな。
今さらながらにふとおもう。
「じゃあ、まだ早いから、今日はじっくりと時間をかけて煮込むこともできますし。今日はカレーにしますね」
いいつつも、袋から鍋をとりだし、川のもとへ。
今日はせっかくある程度時間があるのだから、カレーの元からつくっても問題はない。
そのまま、水をくみ、かまどができるまで、
そのあたりの大きめの岩を利用し、そこにこれまた袋からとりだしたマナ板をおき、食材をさくさくと取り出してゆく。
「でも、包丁があぶないって、その武器は何もいわれなかったの?」
「パパがいうには、悪い虫を追い払うのに武器は必要だからって。ママもスピナ使いだし。コレットはチャクラム?」
「うん。私の武器はこれだよ~」
エミルが料理の下準備を始めている中、コレットとマルタは話しながら、どうやら同じような大きさの石をあつめつつ、
きちんとこのたびはちゃんとかまどをつくっているらしい。
ロイドとジーニアスはそのあたりの木々の中に踏み入り、薪となる木を物色しているっぽい。
少し意識すれば彼らの様子など手にとるように理解可能。
そしてまた、この感覚からして、ルーメンとウェントスが絆を回復させ完全復帰するのもそう遠くはない。
今晩か、それか明日くらい、といったところか。
そういえば、アクアも虫とか何とかいっていたが。
人が虫とよくいうのは、ヒトの血を吸う蚊や、刺したりする虫達であろうに。
あんな大きな武器でいったいどうやって対応するのやら。
それとも、ヒトを襲う魔物達をたとえていっているのか。
どうもセンチュリオン達に絆を回復させいわかったのは、
やはりかつてのように魔物達はヒトにたいしいい思いを抱いていない模様。
だからこそ、センチュリオン達との絆がきれたのち、
それぞれの思いのまま、世界にはびこる害虫、とばかりにヒトをおそっていたようなのだが。
まあたしかにそう、そうなのだが。
自然を破壊するのもヒト。
しかし、自然を助けようとするのもまたヒト、なのである。
気持ちはわからなくはないが。
大樹カーラーンを枯らしたのは、ほかならぬヒトがマナを搾取しつくしたゆえ、なのだから。
本当に、ままならない、とつくづくおもう。
ヒトはいつの時代もどうして、自分達の住まう場を壊そうとするのだろうか。
目先の欲にかられただけで。
あのとき、デリス・カーラーンにおいてもそうだった。
そして、ユグドラシルに関しても、ヒトの手によりかの樹は滅びを迎えた。
そういえば、とおもう。
マルタから微弱なれど、とある気配を感じるのはどういうことなのか。
あのとき、かの気配はマルタから感じることはなかったというのに。
マーテルと同じ気配。
かつて自らが加護を授けた、護りの巫女のその気配を。
もしも彼女もまたその血統なのだとすれば、かの加護の盟約を破棄するための言葉を知っているはず。
その盟約の言葉が伝えられているかはわからないにしろ。
もしも自分の考えが正しいのならば、あのときの彼女は盟約の誓いを破棄していたこととなる。
古にかわされたその盟約を。
しかし、ならば理解ができる、というもの。
もしもあのとき、破棄していたとはいえ、それまで盟約の血筋であったことにはかわりなく。
あのとき、力を失っていた自分を覚醒させるには十分すぎるほど。
それでも、完全でなかったがゆえに、完全覚醒にならなかったのだろう、ということも。
当人に確認してみる、もしくは彼女が今の時点でどこまでの『力』が使用できるか。
にもよるだろうが、一度直接見ればこの考えもまた確信がもてるであろう。
そんなことを思っている最中にも、どうやらコレット達はかまどをつくりおえたらしい。
「あ。おかえり。ロイド。それにジーニアスも」
「おう!」
「薪、けっこうあったよ!」
ちょうどいいタイミングでどうやらロイドとジーニアスも戻ってきたらしい。
「じゃ、僕はこれから食事の用意するから、ロイド達はどうする?」
「ここ、川があるし。魚でもとろうぜ!」
「魚?でもつりざおないよ?」
「そりゃ、素手でとるんだよ」
川を指差しいうロイドに、首をかしげるマルタ。
「それより、今のうちにリフィルさん達と一緒にお風呂変わりの水浴びとかしてきたらどうですか?」
おそらく汗をかいているであろう。
そんなエミルの提案に。
「そうね。たしかに。清潔を保つのは必要だものね。
さて、じゃあ、コレット、マルタ。しいなも。水浴びする場所をさがしにいきましょうか」
「え~?私、エミルの手伝いしたい~」
「あら?汗をかいてる汗臭い状態で傍にいたら、相手はどうおもうかしら?」
「う!い、いきましょう!」
リフィルの言葉に、マルタが不満をもらすが、さらり、というリフィルの言葉をうけ、すかさず意見をかえているマルタの姿。
そのまま、ずんずんと森の中につづいている川のほうにあるいてゆくマルタの姿がみうけられるが。
「…姉さん、だんだんとマルタの扱いがなれてきたよね」
パルマコスタからでてまだ数時間だ、というのに。
あきれつついうジーニアスの言葉に。
「ああいう子は扱いやすいのよ。エミルも協力してくれればもっと扱いやすいわよ?」
「…遠慮します」
にっこりと笑みを浮かべ、リフィルにいわれるが、そんなリフィルの言葉を否定しておく。
「水浴びか。水さえためれば、あたしの符術で火がおこせるから。お湯にすることも可能だよ」
「あなたの符術、かしら?その術には興味があるわ」
そんな会話をしつつも、リフィル達もまた、森の中へとはいってゆく。
そんな女性陣を見送りつつも、
「薪があまってるし、これで焚火で塩焼きとかつくろうぜ。魚、魚~」
「ヤマメとかがいるみたいだね」
みれば、ロイドとジーニアスはすでに川の中にとふみいっている。
クラトスは、少し離れた場所で周囲を警戒している模様。
というか、クラトスが離れてくれれば、センチュリオン達を呼び出すこともできるのに。
ひとまずおおめにつくり、センチュリオン達ようの分も確保するとして。
いくら時間があるとはいえ、このたびは簡単に、さくさくと、肉の変わりとなる豆腐を形づくる。
ついでにコンニャクも。
豆腐は固く水きりし、そこにしっかりと味を染み込ませた状態のもの。
その状態にて今にも袋からだしたかのごとく、袋の中にて生成する。
以前、これらはデリス・カーラーンで、ダイエット食品として使用されていたもの。
それは、彼らがまだマナを兵器利用に転換していなかったときのこと。
ふとそれを思いだしたがゆえに、今それを再現したのだが。
玉ねぎ、じゃがいも、ニンジン、をそれぞれ食べやすい形にきったのち、
すこし遊び心にてそれらの形を様々なものへとかえておく。
菜種油を鍋にいれ、玉ねぎ、おろしにくにん、おろしショウガをいれて炒めることしばし。
玉ねぎがアメ色に…すなわち、こげ茶色に近くなるまで炒めたのち、具材をいれてさらに炒めてゆく。
その合間、トマトをつぶし、そのまま別の鍋にて煮込んでその形を崩し、どろり、とした形状にまでともってゆく。
味等を確認しながら、さらにカレー粉、小麦、バターをいれてまぜいため、
そして水をくわえ、同時につくっていたトマトのそれを同時にくわえ、そのまま味を調えてゆくことしばし。
周囲にカレー特有のにおいが充満しはじめる。
「お。うまそ~なにおい!」
その手に幾匹ものヤマメを手にしたロイドが近づきながらそんなことをいってくる。
みればどうやら、ある程度の魚がとれたらしい。
まあ、その格好はあまりほめられたものではないが。
どうせ濡れるのだから、という理由なのか今のロイドの格好は腰に布をまきつけているだけ。
ジーニアスをみれば、苦笑をうかべていたりする。
そのまますっと無言で指をさせば、クラトスがおこしている火の向こう。
そのほぼ近くにある木の枝にロイドの服がかけられている。
「…えっと、もしかしてそのままで川にはいって服をぬらした口?」
エミルの問いかけにジーニアスがつかれたように首を盾にふる。
この調子では、一応はとめたが聞き入れてはもらえなかった、らしい。
「ジーニアス。これ、木の串にさして、焼きはじめようぜ」
「あ、ちょっと!ロイド!…まったく」
首をかるく横にふり、
「そういえば。姉さんたちが、僕らにもお風呂にはいってこいっていってたけど。エミルはどうする?」
「え?僕はこれみとかないといけないし。先にジーニアス達がいっておいでよ」
聞けば、何でもこの先の川の水を一か所せき止めて、
そこにしいなが術より、火を投げ入れ。簡易的な露天風呂をつくりだしているとのこと。
すでにさっぱりとした様子でリフィル達もまたもどってきており、今晩の寝床の準備をみればリフィルはしている模様。
そのあたりにある草木を簡単にかきあつめ、ちょっとした寝床をつくっているっぽい。
いつもはたしか、そのまま地面に横になるだけで、申し訳ない程度に毛布をつかうくらいなのに。
マルタが加わり、他人から預かっている、という思いがあるせいか、どうやら寝床をつくっているっぽい。
ロイドがとってきた魚をクラトスが無言で木の串につきさしつつも、
そのまま火の回りにつきさしていっているのがみてとれる。
そんな彼らの様子をちらり、とみつつも、そのまま鍋をかきまわすことしばし。
「うん。こんなものかな?」
しっかりとしたとろみと、そして甘み。
ほどよい酸味がどうやらきいているもよう。
もっと甘い方がいいというヒトもいるかもしれないゆえに、木の実をわった入れ物に、はちみつも一応用意しておく。
このハチミツはさきほど、ヴィシオズよりうけとったもの。
すこしこのあたりにいる子をよび、分けてもらえるかきいところ、
なぜかこぞって彼らがあつめていたはちみつをもってきた。
いわゆる天然もの。
なぜか、彼女の子供達をひきつれてやってきたときは、クラトスが警戒していたが。
しかし、危害を加えないどころか、はちみつをもってきていのにきづいたのか、盛大にため息をついていたにしろ。
※スキット~パルマコスタ出発夜。初日。露天風呂にて~女性陣~※
マルタ「うう。エミルと一緒にはいりたかったよ~」
しいなの符にてどうやったのかはわからないが、
川をせきとめた場所の水をお湯にして露店風呂変わりにしてはいっている今現在。
しいな「というか、あんたなんだってそんなにエミル、エミルって」
そんなマルタにあきれたようにいっているしいな。
ちなみに深さはちょうど座ればそれぞれ首のたりくらいまでにしているので、ゆっくりとつかっても問題はない。
マルタ「だって、エミルは私を助けてくれたんだよ!これこそ私の王子様でしょ!」
力説するマルタの言葉に。
リフィル「その理屈でいえば、パルマコスタのショコラもエミルが王子様ということになるわね」
淡々といっているリフィル。
マルタ「…え?」
しいな「ああ。そういえば、あんたたちとエミルがであったのは。
そのショコラとかいう子がディザイアンに浚われてしまって、
エミル一人がディザイアン達から救いだせないかとおもって助けにでて。
そして、一人で助けたのちにこれまた一人で牧場に侵入しようとしたところで出会った。そういってたっけ?」
いぜん、なぜあのエミルという子とともにいるのか。
それをしいなはきいたことがある。
そのときにしいなは一応説明をうけている。
リフィル「その前には、パマルコスタで、マグニス…パルマコスタ牧場の主の名なのだけど。
そのマグニスがショコラの母親を公開処刑しようとしていてね。
エミルは一人でディザイアン達に逆らおうとしてたわ」
あのとき、ロイド達がこなくても、エミルは一人でそれをなしとげていたであろう。
ちなみに傍にいるテネブラエが僕たる魔物を呼び出していた可能性すら。
もっともそんなことをリフィル達がしるよしもないが。
コレット「つまり、エミルは皆の王子様、なんだね!」
にこにことそんなことをいっているコレット。
マルタ「そんな…そんな、ちがうもん!エミルは私だから助けてくれたんだもん!」
まあたしかに、マルタだから、というのはあるが。
確実にエミルは誰がそうなっていても助ける、であろう。
特に今のエミルは人の姿を模しており、
また、かつて自らが【アステル】を感情のままに殺めたことを後悔している、のだから。
しいな「…はぁ。この思いこみ、どうにかならないのかねぇ」
そんなマルタの様子にため息をつくしいなに、
リフィル「恋する乙女は盲目、とはよくいうわね」
リフィルのいい分もまさにもっとも。
たしかにマルタはすべての事柄が自分のいいようにしかみえていない。
コレット「え?マルタ、目がみえないの?」
盲目、という言葉をきき、コレットが心配そうにマルタにといかけるが、
マルタ「え?私、視力はいいよ?」
コレット「え?マルタも?私も最近、第一の封印といてから異様に目がよくなってるんだよ」
マルタ「目がよくなるの?天使様にちかづいたら?」
コレット「よくわかんないけど」
しいな&リフィル「「・・・・・・・・・・・・」」
何やらこの二人も話しが脱線していっているのに気付いていないもよう。
それゆえに、二人して思わずむごんとなり、同時にため息をついているリフィルとしいな。
マルタ「それにしても…しいな、すごい……」
ふと、マルタがいきなりそんなことをいいだして、しいなの背後にまわりこむ。
しいな「な、なにがだい?そのうらやましそうな顔はなんなんだい!?ちょ、ちょっと!?
あんた、どこさわろうとして!やめないかいっ!」
そのまま、腕をまわし、その大きさをたしかめるようにと触ろうとする。
リフィル「確かにね」
たしかに服の上からもわかるほど。
胸元がひらいている服だから余計にその大きさがわかる。
しいな「リフィルまで!」
しいなが悲鳴に近い声をあげているが。
マルタ「男の人ってやっぱり大きいほうがいいのかなぁ……。
ママはその場合は性格を改善すればいいのよ。貧乳フェチに!
とかいってたけど、それってどういう意味なんだろう」
しいな&リフィル「「…あんた(あなた)の母親って……」」
そんなことを娘にいうな、という思いは一致団結。
コレット「いいなぁ。どうしたらそんなになれるの?私、ペッタンコのままなんだもん」
自分のそれをさわりつつ、む~と口をとがらせていっているコレット。
どうやら多少はきにしていた、らしい。
マルタ「そんなことないよ!コレット、私よりおおきしい…う~」
マルタもまた自分のそれをみつつもうなっている。
しいな「あ。あのさ。マルタはまだ十四、なんだろ?これからさ。うん」
そんな二人にあわてたようにいっているしいな。
たしかに年齢から考えればまだこれから、といえる可能性が二人にはある。
コレット「私、もう十七なのに……」
しいな「あたしは十九、リフィルは……」
リフィル「あら。女性に年をきくものではなくてよ。私はもう成人、すなわち二十歳を超えてますからね。
二人とも、まだこれから希望はあるわよ」
コレット&マルタ「「ほんとうに!?」」
希望をこめて、きらきらと目をかがやかすマルタとコレット。
が、すぐさまコレットは顔をふせてしまう。
自分にはこれからがない、と気付いてしまったがゆえに。
リフィル「え…ええ・・・たぶん」
しいな「まあ、牛乳はよくのんでたけどさ…うち、牛かってるし」
コレット「牛さん!?牛さんの乳をのめばいいの?」
最後の封印をとくまでに大きくなれるかなぁ。
そんなことを思いつつもといかけているコレット。
そんな急激にどうにかなるものではない。
とそれを口にすればすかさずリフィルの訂正がはいったであろう。
マルタ「よし。パパにいってパルマコスタ牧場、という牛の牧場をつくってもらおう!」
コレット「うわ~。いいな。マルタ。牛さんがいっぱい。なんだかたのしそう」
リフィル「…せめて、名前はかえなさい。やるな、とはいわないから」
しいな「それじゃ、パルマコスタにあったっていう人間牧場と同じ名前だよ……」
リフィル&しいな「「は~……」」
※ ※ ※ ※
「うわ~、おいしい!このハチミツも最高!」
器にあるはちみつを少したらしただけでも味はかわる。
別なる容器にて蒸した形でお米もきちんと炊けている。
「こっちでお米がたべられるなんて…感動だよ」
しいなもしいなでそんなことをいいつつも、容器にいれられたカレーを口にしているが。
「……なんでこんなにマナがこれ、濃いの?」
そのしいなの横では、しいながコリンを呼び出し、コリンにもまた食べさせているようだが。
しいなから手渡された料理をたべつつ、困惑したような声をあげているのがみてとれる。
「うう。お、おいしい…これ、エミルがつくった…んだよね」
なぜかそんなことをいいつつも、スプーンをうごかしているマルタ。
「え?口にあわなかった?」
「そうじゃない、そうじゃないけど…何よ!このおいしさに、それに無駄にこった野菜は!」
いいつつ、スプーンに細工が施されているニンジンを取り出しさけんでくる。
ちなみにマルタが手にしているのは、草花を模した細工をほどこしているもの。
ちょうど一口サイズよりも小さくしている具材はそれぞれ別々の形にしていたりする。
簡単にいえば、ニンジンの中に模様をいれたりし、他は形そのものをかえていたりしているだけ、
なのだが。
マルタがつきだしてきたのは、犬の姿をもした人参。
「?え?子犬だけど?」
首をかしげるエミルに、
「う~、私がいいたいのはそこじゃないぃぃ!」
マルタがなぜかそんなことをいいだすが。
「ほんと。エミルの料理って無駄にこってるよね。毎回おもうけど」
あむ。
スプーンを口にはこびつつも、ジーニアスがそんなことをいってくるが。
「え?だって料理って、見た目と味で楽しむものでしょ?」
それにこうしたほうが他の子達もよろこんでたし。
それは今も昔もかわりがない。
そうおもいつつ、首をかしげるエミルにたいし、
「エミルの器用さはロイド以上かもしれないわね」
「エミルってほんと、いいお嫁さんになれるよ!」
「…だから、なんでおよめさん?」
またその話題。
にこにこというコレットの言葉にがくり、とうなだれるよりほかにない。
「・・・エミルのおよめさん、いいかも。あれ?でもその場合は私がおむこさん?あれ?」
マルタがそんなことをいいつつ首をかしげているが。
というかどこをどうすればそういう考えにいたるのやら。
「おかわりもありますから。あ、あと飲み物もつくってますからどうぞ」
精神安定の効果のあるものと、少しばかりの睡眠効果を促すもの。
普通にラベンダーを使用すれば、即効性の効果がでるがゆえ、それはあえて多少おさえていたりする。
「「「おかわり!」」」
エミルの言葉とほぼどうじ、ロイド、ジーニアス、マルタ、しいなが同時にお皿をさしだしてくる。
「・・・・・・・・・・・・・」
クラトスは無言でもくもくとカレーを口にしているが。
「クラトスさん?あの?口にあいませんか?」
「いや。そうではない」
エミルの言葉にかるくいいつつも、じっと料理をみつめるクラトス。
やはり、というべきか。
味覚をあえて閉じたというのに、しっかりと味が感じられる。
焼き魚のほうの味はしない、というのに。
エミルのつくりしこれは、なぜ?
そんな思いがクラトスからは捨て切れない。
ありえない、このような経験はかつてもあった。
それは…かの加護をさずられた後。
あのデリスエンブレムを身につけていたとき、普通の料理などの味がわかるようになっていた。
そのために、マーテルのつくりし料理をたべたときに、悶絶しかけたことをふとクラトスは思いだす。
というか、ハーフエルフの女性は壊滅的に料理が苦手なのか?
このリフィルといい、マーテルといい。
ふとクラトスはそんなことをおもってしまう。
マーテルもなぜか、なぜか普通につくっているはずなのに、料理が壊滅的に苦手であった。
彼らと旅をするにあたり、それをしったとき、思わずクラトスが自ら料理をする、といいだしたほどに。
しばし、わきあいあいとした食事光景が、川べりのもと、繰り広げられてゆく。
パチパチ。
焚火の音がハゼ割れる。
「・・・眠れぬか?神子」
すでにお腹いっぱいになったがためか、ロイド達はその場にて爆睡しているのがみてとれる。
「あ・・・いえ・・・だいじょぶです」
エミルは見回りにいっており、今、この場にはいない。
「うふふ。エミル~、そんな、へんなところさわっちゃ…きゃっ」
「・・・・・・・・・・眠れぬ夜が長くて辛いのなら星を数えるといい。全て数えきるには・・・人生はあまりに短いが」
リフィルが簡易的に作成した寝床にてマルタが寝返りをうちつつも、
何やら寝言をいっているのがききとれ、一瞬クラトスは無言になったのち、
きかなかったことにしたらしく、そのままコレットにと再び話しかける。
「・・・そうですね。そうしてみます」
何となく体の中がぽかぽかと暖かいような感覚。
それはコレットの気のせいなのかどうかはわからないが。
「あ。たしか、エミルのつくった飲み物がまだのこってましたよね」
「ああ。そこにある」
寝る前に飲んだらいいよ。
と食後ようにエミルがつくっていた飲み物。
ヤカンからそれを手にしたコップにそそぎ、そっと手にし口にとふくむ。
「うん。あったかい」
くすぶるかまどの上におかれているヤカンの中身は、いまだに適温をたもっている。
「クラトスさんにいわれたように。星をかぞえつつ、ねてみることにします。おやすみなさい」
「…ああ」
飲んだあと、かるく川の水でコップをそそぎ、簡単にあらったのち、そのままコレットもまた横になる。
しばらくすると、コレットのもとから寝息らしきものがきこえてくる。
「…どうなっている?…神子は……」
第二段階を経たはず、である。
ならば、睡眠がとれなくなっているはず。
それとも、彼女は完全に自らの意思でそれらの機能がコントロールできる、というのだろうか。
普通、天使化しかけたものが自らの意思でそれらの機能をコントロールできるはずもないのだが。
しかし、現実に、眠ることができないはずのコレットは、みたかぎり確実に眠っている。
マナの暴走にて睡眠機能が第二段階においてはおこり、眠れなくなるはずだ、というのに。
「やはり、これに原因がある…のか?」
味覚をとじても感じる味。
そこにヒントがあるような気がする。
クラトスもまた、じっと手にした飲み物をみてぽつり、とつぶやく。
直前に摂取しているがゆえに、コレットの体内のマナの歪みが抑えられ、
それゆえに一時的にコレットの体は元の機能をはたしている。
が、そのことにクラトスが気付くことは、まずできるはずもない。
しばしの静寂。
ほ~、ほ~と梟の鳴き声のみが周囲にとひびきわたり、
ばちり、と火がハゼ割れる音と川の流れるおと、そして滝の音のみが夜の闇にととけこんでゆく。
「う~…うう……」
何やら唸り声のようなものがきこえ、クラトスがふと警戒しつつみてみれば、
寝ているはずのしいなの様子があきらかにおかしい。
どちらかといえば、うなされている、というべきか。
と。
「頭領!みんな!逃げて!!」
いきなり叫び声とともにがばり、とその場にて飛び起きるしいな。
クラトスが思わずあらためてそちらに目をむければ、どうやらしいなが汗をびっしょりとかきとびおきたらしい。
「どうした?すごい汗だが……」
火の番をしつつ、しいなにとといかける。
この娘はまちがいなく、テセアラのみずほの民であろう。
ならば、任務中の何かの夢をみてうなされていた、というところであろう。
そう予測をつけながらもといかけるクラトスであるが。
「うお?どうしたんだ?しいな?」
その叫び声に目がさめた、のであろう。
ロイドもまた眠たげな目をこすりつつ、しいなにとといかける。
すわ、敵襲か、とおもい飛び起きたのだが、どうやら違うらしい。
周囲には敵の気配は感じられない。
ロイドが判らないだけ、なのかもしれないが。
「え?何?何?…あれ?しいな?どうしたの?すごい汗……」
ジーニアスもまたその声に飛び起きるが、周囲をざっとみるかぎり、どこにも敵らしき姿はない。
ならば、今の声の主であろうしいなに視線をむければ、しいなは何やら息もあらく、汗をかなりかいている。
「い、いや、何でもないよ」
いいつつも、汗を布でぬぐいつつ、そのまま立ち上がり、水辺の元へ。
「しかし、うなされていたようだが……」
「しいな?…大丈夫?」
コレットもその叫びに起きたらしく、心配そうにしいなの元へとちかづいていき、
クラトスの言葉からあまりよくない夢をみたのだろう、とあたりをつけ、
気分をおちつかせるために、のこっているであろう飲み物をとりにいく。
「本当に何でもないんだよ!」
思わずいらだちまぎれにしいなが叫ぶが。
「そっか。…ごめんね。しいな、よくない夢をみたときには、暖かい飲み物のんだらいいんだよ。はい。これ」
コレットが手渡してくるその心遣いがしいなにとってちくりとした胸の痛みとなってしまう。
あたしは、あたしの世界のためにこんないい子を殺さないといけないのかい?
マナを搾取しあう世界。
衰退世界と繁栄世界。
どうして二つの世界があるのか。
研究院のとある研究者は、かつて世界は一つであったが、
世界は天の意向で二つにわけられたのではないか、とそういっていた。
なら、その天の意思、とは?
わからなすぎることばかり。
いえることは、そのために、これまでも数多の命が犠牲なっている、ということか。
「あ、ありがとう。……また……あのときの夢……」
コレットからコップをうけとり、お礼をいいつつも、ぽつり、とつぶやく。
最近はこの夢をみることはなかった、というのに。
やはり、精霊との契約をしなければならない、というその心がかつてのことを思い起こしているのだろうか。
そんなことをおもいつつも、しばしじっとコップの中に注がれた飲み物をみつめるしいなの姿。
「しいな?本当に大丈夫?」
心配そうなコレットの声にふりあおげば、心底心配した様子でしいなをみているコレットの姿が。
「ああ。…平気さ。ちょっと、嫌な夢をみちまってね」
「そっか。今度はいい夢をみれればいいね。しいな」
「…ありがとね」
そのまま、ぐいっとコップの中の飲み物をのみほし、かるく川の水で顔をあらう。
しかし、どうやらかなりの寝汗をかいているらしい。
ゆえに。
「あたし、ちょっと汗を流してくるよ」
「え?でも、しいな一人じゃ……」
「大丈夫さ。…さっきつかった露天風呂を利用するだけだから」
心配そうな声をあげるコレット達をその場にのこし、そのまましいなは一人、森の中へとふみいってゆく。
「あ。海がみえてきたよ!」
コレットが視界の先に海がみえてきたことに気付き、声をあげる。
山間を囲む街道を進んでゆくことしばし、たしかにコレットのいうように、
視界の先にきらきらとした海面らしきものがみえてくる。
が、ロイド達の目にはかろうじて、きらきらする何かがある、というくらいしか認識できない。
山を回り込むようにしてある街道。
その街道のさきに、小さな小屋らしきものがみてとれる。
そして、そのさらに先に広がる広大な海。
パルマコスタを出発してはや二日。
ようやく海がみえる位置にまでたどりついたらしい。
すでに日は暮れかけており、夕焼けが海面を赤く染めている。
「ようやく海がみえてきたよ~。ず~と山間の道をあるいててつかれちゃった」
マルタが足をさすりながらいってくる。
たしかに、ソダ島にむかう街道筋はほとんど山間を通っているので坂道なども多々とある。
ちょっとしたハイキングならぬ、山登りに近いといってよい。
たしかに道なれていないものは疲れても仕方がないのかもしれないが。
「疲れたらならノイシュにのせてもらうか?」
そんなマルタにロイドが首をかしげつつも話しかけるが、だがしかし、何かをおもいついたのだろう。
ぱっと顔をかがやかせ、
「ううん。エミル~、おんぶして~、お姫様だっこでもいいよ!きゃっ!」
そのまま、エミルのほうにだっとかけより、腕をからませつつもいってくる。
「は~…ノイシュ。マルタを」
ため息とともに、マルタの手からするり、と逃れ、ノイシュにと語りかける。
「うぉん!」
エミルの言葉をうけ、ノイシュがマルタの横に移動し、その口であむっとマルタの服をひっつかみ、
そのまま口をふりつつ、その反動で、自らの背にぽすり、と乗せる。
「ちょ、ちょっと!私がせっかくエミルに…もう!」
せっかく、なんだ、というのか。
何か無駄につかれる。
切実に。
ぽかすかと、ノイシュに文句をいいつつも、ノイシュの背にて、ノイシュの背中を叩いているマルタの姿がそこにはあるが。
「…リフィルさん。マルタのあれ、どうにかなりません?」
盛大にため息をつきつつ、リフィルにと問いかけるそんなエミルに対し、
「そうね。あまりにひどいようならしっかりと言い聞かせないといけないでしょうけど。
でも、あれはあれでかわいいものじゃない?
あなただってかわいい子に言い寄られてまんざらでもないでしょう?」
本当に嫌ならば、もっと手ひどいことをいうはずだが、エミルにはそれがない。
うまくさらり、と毎回毎回かわしている。
リフィルからしてみれば、嫌ってもいないが、そこまで親密になりたい、ともおもっていない、という感じをうけるが。
しかし、エミルがマルタにむけている視線は優しいもの。
どうしてエミルがマルタを避けようとするのか、それがリフィルにはわからない。
「マルタには、理想と現実。その実情をしっかりと把握してもらわないと。
今後、彼女、痛い目にあいますよ?彼女の身分?ですか?
利用しようとしてちかづいてくる輩も多々といるでしょうし」
あの当時はヴァンガードの総裁の娘、というくだりでしか人々はみようとしなかったが。
この世界であの組織が勃発するかどうか、それはわからない。
しかし、いつまでも夢見るだけでは、彼女は前進できないであろう。
「まあ、みるかぎり、あの子は夢見る乙女って感じだけどさ。しかし、そのソダ島ってところはまだなのかい?」
しいながどうやらノイシュの背をたたくのをあきらめた、のであろう。
ふてくされつつも、ノイシュの背にぽすん、と顔をうずめているマルタをみつつもきいてくる。
「もう少しのはずよ」
「この山をぐるり、とまわっているこの街道を抜けた先。
その海岸沿いにあるはずですよ。たしか、救いの塔と乗り場が一緒になってたんじゃなかったかな?」
念のために、そのあたりは視て確認している。
エミルがかつて目覚めたときにはアクアの影響なのか、間欠泉はすでに稼働していなかった。
それはアクアが仕事をサボリ、水のマナを循環させていなかったがゆえ。
リフィルの言葉にエミルがそんなしいなに追加説明。
「間欠泉か~」
ロイドが以前、かの地に出向いたときのことを思い出し、しみじみとつぶやくが。
「さて。ロイド。ここで質問よ。間欠泉とは何かのべよ」
そんなロイドにいきなり質問をはじめているリフィル。
「え?いきなり何だよ、先生!?」
戸惑いの声をあげるロイドであるが。
「おさらいよ」
あのとき、ジーニアスがきちんと説明をしていた。
それをしっかりと覚えているのか、その確認。
「え…えっと……」
案の定、というかロイドはリフィルの質問に言葉を濁すのみ。
いつもそう。
ロイドは自分の興味あること意外はいつも綺麗さっぱりと忘れてしまう。
まさか、とおもい、問いかけたのだが。
どうやら間欠泉に関してもそうであるらしい。
「はい。先生!間欠泉とは一定の周期で温泉が噴き出している所のことです!」
「コレット…あなたにいったのではなくてよ」
元気よく、手をあげて、そんなリフィルの質問にこたえているコレット。
リフィルが盛大なため息をついているそんな中。
「…え?…間欠泉って…水じゃないんだ……」
「「え?」」
「え?あ、あはは。ジョークだよ、ジョーク。
ぽつり、とつぶやいたしいなの言葉に、リフィル、ジーニアスの視線がむかう。
ここ、シルヴァラントには火山帯があるゆえに、お湯が噴き出る。
というのはあたりまえなれど、テセアラにおいてそのような地は一つしかない。
いまだになぜ、と論議をかもしている氷の神殿の地底湖のみ。
「まあ、この調子だと、今日は間欠泉乗り場兼救いの小屋とかいうところで休むことになりそうですね」
「そうね。たしか遊覧船乗り場は救いの小屋と兼用だったはずだもの」
この調子でいけば日がくれるころに救いの小屋にたどり着けるであろう。
「さあ、もうひといきよ」
リフィルの言葉にロイド達がすなおにうなづく。
「は!そういえば、あの小屋にはあまりベットがすくなかったはず。なら、エミルと同衾…」
何やら不穏な台詞をいっているマルタ。
どうやら何かたくらみをおもいついたらしい。
「…クラトスさん。僕、ノイシュといっしょに寝ますね」
「…そのほうがよさそうだな」
マルタの様子からして、夜、エミルのベットにもぐりこみかねない。
そんな懸念がクラトスの中に芽生えていたりする。
他人のことなので問題ないといえばないが、息子の前でそんな光景はみせたくないのが本音。
まあエミルのことなので上手にかわすであろうが。
救いの小屋まで、あと少し。
pixv投稿日:2014年2月8日某日(Hp編集:2018年4月22日(日)
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あとがきもどき:
登場魔物知識:
ラタトスクの騎士:魔物図鑑No168
ルビーディア。
悪魔の伯爵につかえている、というメイド。主人をいたぶるのが趣味のサディスト。
(この話では、悪魔の女伯爵、魔王リリスのメイドとなっています。
リリスはラタトスクがこの地におりたったとき、彼のことをしっていたがゆえ、
さくり、と彼の配下におさまっています<世界を創った当事者としっていたがゆえ)
魔物図鑑No062
ヴォイシス
ビーの頂点に君臨する気高き女王。
その存在感は他者をふるえあがらす