まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
さてさて。貼り付け編集してみましたら、種子の発芽のところでちょうどいい具合に。
というわけで、ようやく今回、ユリス戦完了と、大いなる実りの発芽、です。

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重なり合う協奏曲~試練の結果と大いなる実り~

突如として晴れ渡った空。
戦いは女神マーテル様がたの勝ちではなかったのか。
不安は時間とともに鬱憤となり、中には女神たちに対して文句を言い出すものもでる始末。
下手に空が晴れ渡っているだけに、とれほどの時間が経過していっているのかがよくわかる。
ついでにいえば視界の見えないところから襲い掛かってくる敵がさらに人々の恐怖を煽ってゆく。
霧から逃れるには霧よりも高い場所に移動してしまえばよいのだが、
かろうじてのこっていた建物などの外壁も今はもう面影もない。
突如として発生し成長している木々などにのぼり被害をさけようとしたとしても、
それは完全、とはいいがたい。
阿鼻叫喚。
まさに、そういった言葉がふさわしい、といえるのだろう。
互いに協力を一時期していたものたちですら、疑心暗鬼に陥り、
逆に味方を疑い攻撃を初めている個所が多数の場所にてみうけられはじめていくばくか。
もうどれくらい時間が経過したのかはわからない。
いえるのは、かるく半日以上は経過しているであろう、ということ。
空が晴れ渡り、すべてがおわった、とおもったのに。
中には戦っているとおもわれる女神たちへの不満を口にするものまででてくる始末。
不安は不安を呼び、疑心暗鬼がたかまり、それによって”霧”の影響で異形の輩…
幻魔が数多と生まれいでる。
相手を不満に思う心。
相手がいなければいい、と思う心。
排除してしまえばいい、というような思う心がより幻魔を攻撃的なものへと変化させてゆく。
だが、それに人々…否、大人たちは気づけない。
ノドの乾き、そして空腹がより判断を鈍らせ、より攻撃的な精神面へと変化してしまう。


大人たちは頼れない。
彼ら…子供たちの身長では霧につつまれて大人たちがどんな行動をしようとしているのか。
もしくは霧の上…つまりはだいたい地面より百数十センチばかり上で何がおこっているのか。
視界をあるいみ、霧にて遮断された、霧が立ち込める範囲より小さきものは判断不能。
でも、それでも。
「………ちゃん?」
視界が遮られ、そんな少年、少女たちの視界にくっきりと浮かび上がる幾多の影のようなもの。
それは、二度と会えなくなったとおもっていたかつての友達や知り合いの姿。
「・・・・・・・・」
声が、きこえる。
友人、友達、そして…家族。
実体がない、というのはみただけでもわかる。
それは幻覚なのかもしれないが、それでもそれらの”声”は今の現状の様子、
そして打開策ともいえる案を教えてくれる。
――怖がってはだめなのだ、と。
この霧は、恐怖や不安、そういったものを増幅し、具現化…すなわち実体化させる要素をもっているのだ、と。
もっと詳しくいえば、それぞれがもつ、不安や恐怖などといったものが自分自身…
そういったものをもっているものにたいして異形の姿として反射しているだけだ、とも。
信じる心こそが、力になる。
それが、この霧の本質。
黒い霧の状態となっているのは、人々の心が疑心暗鬼といった、負の側面に偏りすぎているからだ、と。

「お母さんたち、こわがっちゃだめだよ!
  私からはお母さんたちはみえないけど。だけど!
  この中で、怖くないっておもったら、相手もきえたもん!
  怖がるから、相手を信じないから、よけいにあの変な生き物が攻撃してくるんだよ!」
「そうだよ!だって、友達がそんなことを思うはずがないっておもったら。
  目の前であいつ、きえたもん!」
いったいどれほどの時間が経過したのか。
さらには太陽がのぼりはじめていたりするのをみるがきり、
確実に、半日は経過してしまっているであろうほどの時間。
そんな中で、足元のほうからきこえてくる子供たちの声。
子供たちもどこにいるのかわからない。
ある程度の身長があるものならばともかくとして。
幼い子供たちは、すっぽりと霧にと包まれてしまっている。
「たぶん、きっと。お父さんたちが、相手を疑うから。そうかもしれないっておもうから。
  だから、あの敵さんたちもどんどん力をつけたり、増えていってるんだよ!
  そんなんじゃ、おそらでたたかってる神子様たちにわらわれちゃうよ!?」
自分たちのような小さな子供にも分け隔てなく接してくれていた神子ゼロス。
子供たちにとって、そんな神子は尊敬する人物であると同時に、大好きな人物でもある。
大人たちにはみえていない、だろう。
自分たちの眼には、行方不明になっていた、友達も多々といる。
現れているのは、黒い、攻撃をしかけてくる変ないきものばかりではない。
幽霊、とでもいうべきか。
大好きで、仲のよかった友達の姿も多々とみえる。
そんな友達たちはいうのだ。
神子様たちが自分たちを解放してくれたのだ、と。
実験材料として殺された自分たちの魂をこうして解放してくれたのだ、と。
だから、自分たちもまた神子様のために力になりたい、と。
メルトキオ、という土地柄、神子の住処であるからこそ、子供たちは神子ゼロスとの付き合いも永い。
彼らは物心ついたころから、神子ゼロスを見知っている。
大人たちは、神子様を特別な存在だ、というけども。
でも、特別だからといって、大好きなお兄ちゃんであることには違いない。
そんな大好きなお兄ちゃんが戦っているとわかっているのに、
どうして大人たちが足をひっぱるようなことをしなければいけないのか。
それが子供たちには理解不能。
怖い、とおもえばおもうほど、どんどん異形のものはふえてゆく。
でも、信じれば。
友達を、仲間を強く信じれば。
逆にそれらはきえていった。
だから確信をもっていえる。
この現象は、自分たちの心の恐怖などが産みだしている現象なのだ、と。
目の前の光景に惑わされる大人より、子供たちのほうが先に真実にとたどり着いた。
だからこその子供たちの言葉。
柔軟な思考をしている子供たちだからこそ、
”霊”もしくは残留思念となっている”彼ら”の言葉の意味を正しく理解できた、ともいえる。
「そ、そうだ。あの声の主もいってたじゃないか!
  この黒い靄というか霧のような現象は、俺達の…人の心の悪しき部分を形にする効果があるって!」
「まさか…じゃあ、この今、私たちが戦っているのは・・・私たちの心が産みだした…もの?」
子供たちの声に促され、それまで疑心暗鬼になっていた一部の大人がはっとした声をだす。
たしかに、いっていた。
では、だとすれば。
「信じないとだめなんだよ!それに、喧嘩しても仲直りしないとだめだって。
  いっつもいってくるのは、お母さんたちだよ!?」
子供のほうが素直な心をもっている。
逆に大人たちは、変な意識が邪魔をして他者を認めようとしない傾向がある。
だが、子供は別。
排除もしようとすれば、逆にすぐに相手を許し、受け入れる心がある。
もっとも、その排除の方向性が加減がわかないがゆえに行き過ぎる傾向もありはする。
成長するにつれ、その柔軟さも周囲の環境によって失われてしまうわけではあるが。
「何もみえてない僕らが無事で、
  何でしっかりと周囲がみえてるお父さんたちが攻撃をうけてるのかが何よりの証拠でしょ!?」
子供たちの台詞に…姿はみえないが、に大人たちは顔をみあわせる。
いわれてみれば、たしかに。
視界のきかないであろう子供たちのほうが不安のはず、なのに。
一部の親などは、自分のことばかり考えて、子供のことをすっかり失念していたものもいる。
目の前の異形のものにとらわれ、子供たちがいることを忘れていた大人たちも多々といる。
そんな中での、子供たちからの叱咤の声。
「そうです。信じましょう。ゼロス様を。神子を。天使様を。女神マーテル様を。勇者ミトス様を。
  私たちが互いに疑心暗鬼に陥いるだけで、彼らを危険にさらすのですから。
  私たちができるのは、信じること…違いますか?」
『ヒルダ姫様!?』
「そうです。みなさん、信じてください。お兄様…神子様を。みなさんを!
  そして、地上は大丈夫なのだ、と安心させましょう!
  わたくしたちにもできることはあるはずですわ!」
ふとみれば、いつのまにかこの場にやってきたらしく、
大人二人に支えられているこの国の第一王女であるヒルダの姿と、
神子ゼロスの妹だという、セレスの姿が。
城をあのようにした元凶の輩。
魔族とかいう輩の呪いで小鳥の姿にかえられていたという、ヒルダ姫。
いまだ一人で歩くこともままならないほど衰弱している、ときいていたのに。
それでも神子ゼロスの妹御とともに、こうして人々に励ましの言葉をかけている。
それをこの町の人々は知っている。
「お兄様…地上のことは、わたくしたちにお任せください!
  だから…お兄様がたは心行くまで戦ってくださいな!」
ぎゅっ、と胸元のペンダントを握り締めつつ、空をふりあおぎ、セレスが叫ぶ。
必ず、この声はとどくはず。
そう。
あの王城の中で、空間を隔て、兄に自身の声が届いたように。
「そ、そうだ。神子様だけじゃない。勇者様だって、女神様だって戦ってくださってるんだ!!」
おそらく、まちがいなく。
あの場に、降臨した勇者ミトスとその仲間たち。
そして女神マーテル様もいるはず。
神子様もそんな彼らとともに戦っているはず。
なのに、自分たちが。
いつも神子様がたに守られていた自分たちが彼らの足をひっぱってどうするのだ。
誰が叫んだともわからない。
でも、それは皆の心に共通する心に去来した想い。
「いつもお母さんたちいってるもんね!手をあげたほうがまけだって!
  手をあげるから、よけいにこじれるんだって!」
その相手がヒトであれ、魔物であれ。
こちらが手出しをするから余計に被害が大きくなる。
そうでない輩もいるのを特に子供たちはしっている。
子供だからという理由で話もきいてもらえないことも多々とある。
けど、これだけはいえる。
今の、両親…大人たちのありかたはまちがっている、と。
そんな子供たちの言葉をきっかけに、ざわざわとしたざわめきが人々の間にひろがってゆき、
そして。
『神子(ゼロス)様、頑張って~!!』
子供たちの大合唱ともいえる声が、その場にと響き渡る――



「ばっかみたい。あなたたち、何にもわかってないじゃないのよ」
呆れたような声が少女の口からふともれだす。
ああ、本当に。
恩人がいなければ、とっくにこの町はみかぎっている。
それと自分を慕ってくれている子供たちがいなければ、
馬鹿馬鹿しい大人たちなどとっくに見限っているといってもよい。
自分たちがこんな目にあうのは、神子がきちんと役目をはたしていないからだ、だの。
あの謎の声のいったことをこの大人たちは理解しようともしていない。
どこまで真実なのか、そうでないのか。
だがしかし、判明していることもある。
あの謎の声は、人々の心の負の側面が大樹カーラーンを歪なものとしてよみがえらせた。
そういっていた。
そして、別なる声。
もし、あの声のいっていたことを正しく理解しようとすれば、
あの声の主は人々の心によって、生み出されてしまったもの、と考えて間違いないだろう。
他者を蔑ろにし、さらには自分たちでは何もしようとしない大人たち。
何ごとにおいても自分から動かなければ、自らの未来はつかみとれないのだ、と理解しようともしていない。
「少し考えてもわかるでしょうに。ああ。それとも、図体だけおおきくて、脳みそはまったくないのかしら?
  まだ、カラスとかのほうがかしこいかもね?」
『何だと!?』
少女の台詞に周囲にいた別の大人たちが憤怒したような声をあげてくるが、
「あんたたちがそうして、互いを憎みあうからこの異形もどんどんふえてるって何で気づかないのかしら?
  ほとんど霧で視界を遮られてる子供たちはまったく被害もうけてないのに、
  被害をうけているのは、馬鹿馬鹿しいことを繰り返している大人たちだけ。
  ほんっと、バカみたい。さすがに何もかも他人にすべてをなりかわせることができるんだ。 
  と思い込んでいただけのことはあるわよね。ほんっとあるいみで感心しちゃうわ」
自分自身の痛みなどは他人が成り代われはずもない、というのに。
彼らは本気で神子が自分たちの痛みなどを変わりにうけてくれる。
神子が傷つけば自分たちはそれだけ痛みがなくなる、そう思い込んでいた。
別にマーテル教の経典にそのようにかかれているわけではない。
彼らが勝手にそう思い込んでいただけ。
神子が死ぬはずがない、自分たちの受けるはずであった痛みで死ぬはずなどありえない。
と、これまでの神子が再生の旅で命をおとしている、ということから目をそむけ。
「アリスちゃん。こんな馬鹿なやつらに何をいっても無駄だよ。馬鹿は死んでもなおらないってね」
「ああ。そうね。逆にそのまま死んで、あの謎の声の主の手下になりはてたほうが幸せかもしれないわね」
頭に血がのぼり、気のやすまることのない異形の輩の襲撃で精神がたかぶっている大人たちは、
そんな彼女たちにたいし、さらに怒りをましてゆく。
真実をいわれると、認められない輩たちというものは、自然と真実をいったものに対して牙をむく。
この場にいる彼ら…この町の大人たちとて例外、ではない。
まだ、女性の大人たちのほうが理性的、といえるであろう。
彼女たちは子供たちが無事なことに疑問を抱き、真実にたどりつくものもすくなからずとも出始めてはいる。
だが、男たちはどうだろうか。
ほんとうに、馬鹿馬鹿しい。
「争いばっかりやる馬鹿たちを気絶させたりしただけで、敵がでなくなってる。
  ということは、こいつらをうみだしてるのはあんたたちの心そのものだって。
  何でわからないのかしら?ほんっと、バカみたい。
  あなたたち、はっきりいって、子供たちよりも知能がひくすぎるわよ?
  ううん。この場合は子供以下、というか虫以下かしら?」
それまでにらみ合い、もしくは仲間であるはずなのに、いがみあい喧嘩していた大人たちが、
そんな彼女に対し、一斉に視線をむけ、敵意新たにむきなおる。
「ほんっと。図星をさされたからって逆に怒るなんて。子供たちのほうが遥かにましね」
子供たちの言葉から、この霧が使いようによっては有利にもっていける、というのを
アリスはわが身をもって実践している。
これほどあるいみで便利なものはない。
アリス、とよばれた金髪の少女はこの町の出身ではない。
ただ、この町にやってきたのは、以前、とある事情で別の町を追放されたとき、
親切にしてくれたとある家族がこの町に住んでいるから、という理由のみ。
「この霧はねぇ。あなた達のような不安や恐怖。そういったものをあおって、異形のものをつくりだし。
  それらを産みだしたり、もしくは生み出すきっかけになったものを攻撃する特製をもってるのよ。
  少し観察すればわかるというのに、逆に敵に力を与えるしかないおバカさんたち。
  自分を信じればそれらも自分の有利になるものにかえられるっていうことにも気づかない、おばかさん」
実際、子供たちが無事なのもそこにある。
子供たちは互いを信じることによって、霧のもつ”力”によって彼らをまもるものを生み出している。
霧にかくれてその姿はみえはしないが。
子供たちいわく、死んでしまった家族や友人、といったものも霧の中にて認識することができるらしい。
「そうだよ!おじさんたち!僕たちは上のほうで何がおこってるのかよくわかんないけど。
  でもこの霧は僕たちの心に、想いに反応するって僕らだってもうわかってるよ!」
「そうよ!それに、強くおもえば自分たちをまもってもらえるものがあらわれたし」
「思うようにいろんな姿になってくれるよね。まもってくれる子たち」
「うん!おもしろいよね!」
恐怖よりも子供たちは好奇心のほうが優り、だからこそ大人たちとは違い柔軟にこの状況をうけいれ、
そしてまた、乗り越えるどころか完全に使いこなしているこの現状。
凝り固まった思考をし、相手を排除しようとする思考をもつ大人たちでは決してできないこと。
アリス、という少女の声に続いて聞こえてきた子供たちの姿はみえない。
子供たちの姿は黒い霧によって完全に埋もれてしまっている。
この町で子供の数はそう多くはない。
「アリスはねぇ。自分を信じてるの。何があっても所詮、信じられるのは自分だけ。
  自分自身に確固たる自信があればこの程度は何でもないのよ」
「おじさんも、おばさんたちも!怖がったり喧嘩したりするんじゃなくて。
  知り合いを、友達を、町の人達をまずしんじなよ!
  僕らは嫌だからね!何の感情もなくなっていきるなんて!」
「そうよ!あの謎の声のいってた感情を失うってことは。
  もしかしたら、生きているっていうことを感謝する心もなくなるってことかもしれないし!」
近い場所にディザイアンの基地があったからこそ、日々、いきていられることに感謝はしていた。
「たのしいこと、たべものをたべておいしい、とおもうこと。友達とあそんでうれしいとおもうこと。
  それらの心もおじさんたちの今の状態だと全部なくなっちゃうよ?」
それは、霧の中から聞こえる、子供ながらの本音。
「たぶん。この霧は、あの謎の声、おそらくは女神や神子に敵対しているあいて。
  あなたたちのような愚かな大人たちが異形のものをうみだして、襲撃を繰りかえすかぎり、
  相手側に力をあたえているのでしょうね。ああ、ほんっとうに滑稽でしかないわ。
  あなたたち、以前も大怪我した神子様を手当てもせずに封印解放の儀式に送り出したっていうし?
  あなたたちのような輩が世界を破滅においやるんでしょうねぇ。
  ディザイアンなんかがいなくても、あんたたちのようなものが世界を、あなたたち自身を。
  破滅に、終末に導くに違いないわね」
ふぁさり、と金髪の髪をかきあげつつも、片手にもった革の鞭にて、
襲い掛かってきた黒い異形の輩をぴしっとたたきつける。
「この…よそものが!」
一人の大人の声をきっかけに、大人たちの不満が一気に少女アリスへとむけられる。
「アリスちゃんには指いっぽんふれさせないぜ!」
「ふふん。このアリスちゃんが、あなたたちのようなおバカさんをちょっとばかり、
  しつけて、あ・げ・る」
そんなアリスの前に立ちふさがる少し痩せ気味の背の高い男に、
鞭をぴしっと両手でもって、その口元に笑みを浮かべる少女。
どうやらこの町の大人たちは、いってもわからないらしい。
ならば、力でたたき伏せてわからせるのみ。
「…ほんっと、馬鹿みたい」
見捨ててこの地を立ち去る、ということもできる。
でもそれは、アリス自身のもつ矜持が許さない。
「僕らもお父さん、お母さん、おじさん、おばさんの目をさまさせようよ!」
「うん!僕らも何かできるかもしれないし、じゃなくてしないとね!」
おそらく、空の上では神子様が、復活したのであろう女神マーテル様と頑張っているはず。
ならば。
自分たちも何かをしなければ、ただただ守られているばかりでは、自分たちの未来はつかめない。
とある町では大人たちはそのことに気づくことなく滅亡へとむかっていった。
互いに疑心暗鬼になり、それぞれ殺しあうまでに発展していき、
今ではかの地に人の姿はもはやない。
不穏な空気を感じたものは町をでて、近くの町、アスカードなどに避難をした。
一部のものは飛竜を使い、少し離れた町などにも避難しているが。
それ以外のものは、もはや人あらざるものと成り果てている。
そのような事情を子供たちは知るよしもないが。
子供たちだけではない、この場の誰もがまだ知らない。
子供たちからしてみれば大人たちの態度が不思議でたまらない。
自警団、というようなものをつくって大人たちは協力してこれまで町をまもっていたはず、なのに。
今では逆に互いをののしりあい、町を危険においやろうとしている。
それは、霧のもつ特性、心に潜む悪意が増幅されているからこそおこされているものなのだが。
片鱗はあった、のであろう。
少なくとも、大怪我をしている神子様を封印解放の儀式に向かわせようとしていたあの時にすでに。
子供たちとておかしい、とおもいつつも大人たちにいさめられ、強くいうことができなかった。
アリス、という少女にいわれ、初めて大人のいうことが正しいわけではない。
と改めて認識できたといってもよい。
大人たちはアテにならない。
ならば、自分たちで頑張るしかない。
アリスという少女がいうように、最終的に信じられるのは自分自身、なのだから。
だから。
「僕らは僕らで頑張るから、だから…女神様も、神子様もがんばって!」
以前にこの町たちよった神子達一行にむけて子供たちは祈る。
どんな相手と神子様たちがたたかっているのか、なんてものはわからない。
でもきっと。
戦いにかって、もどってきたとき以前たちよった場所の人々がいなくなっていたら、
きっと、あのほんわかした雰囲気の神子様は悲しんでしまう。
そうおもうから。
それは子供たちだからこその純粋な願いと想い。


いつの時代、どんな種族でもいえること。
いつだってきっかけをうみだすのは、まだ幼い子供たち。
中には成人してからのちも世の中を動かすような行動をするものもいはするが。
だが、真実にたどり着くのはいつだって子供が先。
だが、子供は大人たちの目を恐れ、気づいたことを子供たちだけで共有したり、
もしくはその心の奥底にその考えをしまい込んだりする。
何かしらの事情によって大人たちがアテにならない。
そう判断してしまえば、子供たちだけで団結して行動を起こすこともある。
それは大人たちからしてみれば些細な、かわいらしい、それでいて馬鹿馬鹿しい小さな抵抗。
そんな子供たちの抵抗は大人たちの思惑によってその考えや思考を消し去れらてしまうか、
もしくはちょっとした小さなさざ波程度の思考変化を大人たちにあたえるか。
それはその時々の、その場に対応した、もしくはかかわった大人たち次第。
それでも、子供たちの”声”は、疲弊しかけた一部の大人たちの心に少なくとも届きはする。
そう、”謎の声”を振り返り、思い出す程度には――

そして、それは小さなきっかけ。
でも、そのきっかけは、ゆっくりと、しかし確実に。
それぞれの場所にいる小さきものたちからもたらされる。



「これは…?」
始まりはちいさなきっかけ。
それまで、どす黒いような鏡となりはてた数多の”窓”の所より、
いくつもの数えきれないほどの”目”が発生していた。
だが、どの窓からだった、のだろうか。
気付けば、浮かんでいる窓のあちこちで、黒い鏡の中に淡い金色のような光が混じりだした。
中には黒というよりは、ほぼ金色にて埋め尽くされ始めている鏡の姿もある。
「この光は…さっきの……」
金色の鏡からわきあがってくる、光の筋ようなもの。
それはつい先ほど感じた数多の人々の心の想いによくにている。
鏡より漏れ出でだす、金色の帯のようなもの。
いくつかの鏡から発生する細い、とても細い小さな金色の光のオーロラのようなそれら。
それらに触れれば、そこから感じるのは、純粋なる、それでいて女神マーテルや、
そして神子という存在にむけての信じる心。
無意識、なのだろう。
敵、数多と発生してくる目を対処すべく、発生源の近くにといた。
その近くにゼロス自体の妹の姿をみとめた、というのもある。
どうやらこれらの鏡のような、窓ともいえるそれらは、それぞれの個所を映し出しているらしく、
知り合いらしき姿もちらほらとよくよく目をこらせば垣間見える。
ある窓には、ゼロスの妹のセレスの姿が、ある窓にはファブレ伯爵の姿が。
とある窓にはコレットの祖母のファイドラの姿に、マルタの両親の姿も垣間見える。
少なくとも、近くで観察していた限り、
あの黒い瞳もどき…一応、的確に指示を飛ばすためにも仮称が必要だ、
ということで、敵がユリス、となのっているのもあり、
そんなユリスの生み出した目だまもどき…という理由で、
”ユリス・アイ”、とよんでいるそれら。
どうやらそれらの発生は地上の人々の様子によって発生しているらしい。
というのもつかめてはいる。
つかめてはいるがこちらからはどうしようもないのもまた事実で。
先刻感じた人々の思いとは裏腹に、どうやら地上においては、
人々の小競り合い…すなわち、争いをやめているというわけではないらしい。
そんな争いが激化している地上の様子を映し出している窓から、
より多くの”ユリス・アイ”が湧き出してでてきていると感じられる。
そんな中において、この金色の光は先刻感じた人々の思いの力。
いや、近いどころか光に触れれば流れ込んでくる人々の思い。
それらがひしひしと感じられる。
触れたのは、妹がいる…おそらくはメルトキオを映し出しているであろう”窓”
そこからあふれ出してきている淡い金色の光の帯。
神子様、お兄様。
ゼロス様。
そんな強い想いがこの光の帯からゼロスには感じ取られる。
自分たちは自分たちで頑張るから、頑張ってほしい、と。
心のこりや気になることがあれば、発揮できる力も万全とはいいがたい。
そんな人々の思いが、願いがこの光からより強く感じられる。
先刻のように粒子、のようなものではない。
でも、たしかにこの金の帯のようなものには人々の”心”がしっかりとこもっている。
で、あるならば。
「ロイド!さっきと同じようにこれらの光を集めることができるか!?」
「むちゃいうなよゼロスっ!うわっ!またこいつらはっ!!」
よくよくみれば、集中的に”ユリス・アイ”達はロイドを狙っているらしい。
ロイドだけ、ではない。
回復係りともいえるリフィル、そしてマルタをも重点的にと狙っている。
周囲を取り囲む無数の”ユリス・アイ”。
それらに対して剣を振う。
ジーニアスたちのほうにいきたいが、ゆくてを阻むそれらによって、
そちらに飛んでゆくことすらもできない。
自分の背に天使の翼ともいえる光羽が生えているのはもう慣れた。
というよりは、今はそんなことを考えているひますらない。
とにかく気を抜けば下手をすれば命を落とす。
肉体を失っているコレットとマーテル。
どうやらこれらの輩の攻撃は、コレットたちにも有効、であるらしく、
だからこそロイドは気を抜けない。
もしも魂だけ…いまだに信じたくはないが…になっている彼女たちに何があれば。
それこそ完全にコレットが消えてしまうのではないか、という恐怖。
その恐怖が優ってしまい、ロイドは光の帯のもつ特製に気づけない。
というよりは、敵をさばくのに必死でそこまでの余裕がない、ともいえる。
ちらりとみれば、ミトスはミトスであいかわらずユリスと切り結んでいるらしい。
飛行竜の背にのって、飛び回っているアステルの姿も垣間見えるが、
どうやら背にのっている状態だというのに疲労感が見え隠れしている。
よくよくみれば、古代の四英雄、と呼ばれたもの以外はほとんど息を切らし始めている。
「ともあれ…くらいな!ディバイン・ジャッジメント!!」
すでに何発目ともわからない、技を繰り出す。
ゼロスにとってこの技は無数の光の雨で敵のみを攻撃するという効果があるので、
このようなときにはとても都合がいい。
どういう理屈なのかいまいちよくわかりはしないが、
基本、仲間には意識しない限りはこれらの攻撃の技や術は巻き添えをくらわすことがない。
もっとも、この術は精神力をためるのに多少の時間がかかりはするが、
だが、広範囲にわたって敵がいる場合にこれほど重宝する術はない。
知力と攻撃力によって効果がきまるこの術はあるいみ、ゼロスにとっての切り札の一つ。
ゼロスの放った術によって、ゼロスを中心として繰り出された魔法陣の中にいた、
無数のユリス・アイ達がことごとくゼロスの術によって翻弄され、また消滅してゆく。
「よっし!今のうちに…っ」
周囲の敵は一応今ので消滅した。
だが、時間をおかずにすぐさま敵は”窓”より湧き出てくる可能性が高い。
いまだに天使術などが使えているのはおそらくは、
ゼロスは身につけている”クルシスの輝石”が原因だ、と踏んでいる。
気になるのは大技を使うたびにこころなしか石が小さくなっているように感じることか。
その原因もおそらくはおもいあたっている。
確実にもはや、このクルシスの輝石の中にはエミル曰くの微精霊、は存在していないのだろう。
いわばこれはもはや、クルシスの輝石、というよりは”アイオニトス”というべきか。
クルシスの輝石…エミル曰く、中級精霊、もしくは上位精霊が宿る精霊石。
その卵ともいえる抜け殻。
抜け殻ではあるが、そこにはたしかにマナが存在している。
そして、ゼロスのような神子…天使化したといわれている存在は、
それらの力を使いこなしてこれまできている。
もっとも、ゼロスのように完全に使いこなせていたものはこれまでの歴代ではいない。
とはミトス談。
技を使うたびに、石のマナを消費して使用しているのだろう。
間違いなく。
そして、今からすること。
それが意味することは…
でも、それ以外には方法がない。
「ロイド!俺様がこれらの光の道しるべとなるからこれらを束ねることに集中しろ!
  リフィル様達はそんなロイドの補佐を!
  俺様の直感がただしければ、この光の霧の帯は…っ」
一気に翼をはためかせ、ロイドのそばに飛んでいき、
ロイドの周囲にいた敵を雷をもちいた”技”にて駆逐する。
襲爪雷斬。
本来ならば二人の技を用いて利用可能であるのだが、
ゼロスはそれらの不都合を自らの技と同時に合わせることで、
一人での発動を可能とし発動させる。
この技の併用は幾度かこの技を共同で発動させたことがあるからこそ思いついた技。
ゼロスの掲げた剣より発生した雷はロイドの周囲にいたユリス・アイ達を一時でも退ける。


「――わかったわ。ロイド。まかせたわよ」
ゼロスのいわんとすることを瞬時に察する。
垣間見る限り、ミトスにもこちらにくる余裕がない。
で、あるならば。
先ほどとは異なり、”光”を集め、ミトスに投げ渡すのが正解、であろう。
それほどまでにミトスはユリスと接戦を繰り広げている。
もっとも、これ、といって徹底的なほどに打開策がみえているわけではなさそうだが。
それでも、ユリスの広範囲詠唱を止めている連撃はさすが、としかいいようがない。
確かに、光の帯のような淡い筋のようなものに触れればそこから人々の思いが、
願いが感じ取れる。
先刻のあの現象のように。
違うのはあの時とは違い自分たちの周囲にそれらの”想い”が集っていないだけ。
しかしどうやらこれらの想いは”ヒト”に反応するらしく、
近くによれば、その帯の道筋は人のほうにとむかってくる。
それでもまとわりつく、というようなことはないようだが。
どちらかといえば体を素通り、もしくは近くを通過してゆく、というべきか。
だが、それらの光もずっとあるわけでなく、ある一定の距離を移動するとともに
周囲にかき消されるように溶け消えている。
ゼロスがそれとなく確認してみたところ、ヒトに一度でも触れれば、
それらの光の帯はどうやら距離を多少なりとも伸ばすことが可能、らしい。
ミトス、ユアン、クラトスはあてにならない。
そもそも、彼らかユリスと対峙することを放棄すればまちがいなく広範囲呪文、
もしくは技がユリスより発せられる。
今現在は、ミトスかユリスとほぼ一対一で対峙しつつ、
周囲に発生しているユリス・アイをクラトスとユアンが駆逐し、
ミトスの攻撃を妨げないようにしているというのが実情。
窓よりユリス・アイが発生してからのち、しいながつくっていた、
”符”による足場はほぼ役に立たなくなっている。
リヒターはそれゆえ、ひたすらアステルのそばにてよってくる敵を蹴散らしており、
リーガルは飛べないゆえに自由がきかないことを心配したのか、
救いの塔での内部のときのようにアリシアがリーガルに憑依し、
浮かすことを可能としている今現在。
「皆!ロイドのところまで道をつくるわよ!
  一定の距離をたもって!
  ロイド、あなたはあつまってくるそれらをさっきのように束ねなさい!」
本当は口にはだしたくない。
だが、おそらくロイドはいわなくては理解してくれないだろう。
それに何より。
皆がこの”光の帯”がさきほどの光の粒と同質のものだ、と気づいているかも怪しい。

そんなリフィルの言葉をうけ、
「――では、私も手助けいたしましょう。弟への道は私が」
「ロイドの防御は私が担当するね」
マーテルとコレット。
二人の言葉とともに、小さくなっている大いなる実りが淡く、銀色にと輝く。
いつのままにか、ちいさな大いなる実りはマーテルの目の前にとふわふわと浮いている。
マーテルとコレット。
二人の精神体…すなわち魂の一部がまだ中にあるがゆえ、
さらにいえばマーテルは長年、大いなる実りの中にいたがゆえほぼ一体化していた。
といってもよい。
もっとも、あの時から…一度、コレットに憑依したあのときから、
大いなる実りとのつながりがこれまでとは違って稀薄になっている、
というかそれまで感じ取れていた大いなる実りの巨大なる力。
それらを感じ取れなくなっているのもまた事実ではあるが。
感覚でわかる。
大いなる実りそのものの力はつかえないものの、自らの魂の力をつかえば、
多少なりともその利用が可能である、ということが。
コレットにこの役目はおわせられない。
大いなる実りの力は無限大。
マーテルであるならば、長年内部にいたせいか見極め、というか加減というものが何となくわかる。
それに何よりも。
長年、流れ込んできていた力は自身の魂にと蓄積されている。
それらの力を媒介として、今現在はコレットにもその力を分け与え、
魂だけの存在とはいえ防御の術…すなわち治癒術を利用している今現在。
もっとも、大きな術は使用不可能であるが、バリアーやヒールといった負担の少ない術。
それらはどうにか使用できている。
そして何よりも。
この光のモヤからは人々の思いが、純粋なる祈りが感じられる。
永きにわたり、嘆きの祈りなどをきいていたマーテルにはそれがよくわかる。
そして、それらの祈りは、神子、そしてマーテル自身にむけられていることも。
「――数多の人々の願い、そして祈り。
  たしかに人は愚かで救いがないのかもしれません。
  でも、だからこそ人々は互いに手を取り合い、また協力しあうことも可能なのです。
  ユリス。私はずっと眠りの中で人々の数多の祈りを聞いてきました。
  人は決して、誰かを傷つけるためだけの存在ではないのです。
  心のもちようによって、それぞれにとっての光にも闇にもなりえるのですから。
  我が名はマーテル。人々の祈りよ、私の声にどうか答えて!
  ユリスを止めるための力を今、ここに!」
凛、としたたかだかとしたマーテルの声が周囲に響き渡る――


それはまるで”導き”。
否、神託に近いのかもしれない。
マーテルに、神子に祈りをささげていたものは、突如としてその”声”を感じ取る。
誰ともなく理解する。
聞こえてきているこの”声”はまちがいなく、女神マーテル様のものだ、と。
その女神マーテル様の力をもってしても、どうやら敵は巨大な力をもつらしい。
強大なる力をもっているらしき、今回の”敵”。
女神マーテル様の力をもってしても封じるしかなかったという敵。
そんな敵に対し、自分たちの行いが力をあたえ、さらには女神様方を苦しめている。
このままでは。
自分たちの行いのせいで、もしかしてもしかしなくても女神様方が負ける可能性がある。
そうなれば。
感情という感情をなくし、ただ生きているだけの存在となる可能性が高い。
いや、あの”声”の意図からして、ヒトを生かしておくという可能性はかなり低い。
感情を無くしてしまう、というそんな状態をとある人々は知っている。
それは彼らが忌み嫌っていたとある一人の少女の状態によって。
自分たちが忌み嫌っていたあのような輩と自分たちが同じになることは、
選ばれた民である自分たちにあってはならない。
ここにいたっても、いまだにそんな選民思考の抜けないとある元村のものたちは、
そのような思いを抱く。
そんな元村人たちの感情に反応して、新たなる幻魔がより生み出される。
元村人たちはすでにほとんど、自らが産みだした幻魔と同化などし、
もしくは周囲に対する逆恨みともいえる恨みや怒りにて
ほとんどその姿を人、として原型をとどめていない。
他のものたちが、女神マーテルや神子に対し、希望ともいえる祈りをささげ、
もしくは心の中で願いつつ戦っているにもかかわらず、彼らはそんな想いすら抱かない。
抱こうとすらしていない。
それが自身の命運をわけている、ということにすら気づこうともせずに。
人々の願いと祈りによって、少しづつ、地表を覆っていた黒い霧に淡い光が混じりだす。
それに反発するかのように、自分のことしか考えていない、
他者などどうでもいい、と心からおもっているものたちは、
その光にすら反発し、より自身の命運を決めてゆく。
異形と化して、周囲のものに襲い掛かるもの、
体の構成すら失い、魂となって周囲におそいかかるもの。
どちらにしても、そのような存在達は、ヒト、としての生を終えてゆく――


いくつもの”窓”より生じる淡い金色の光の帯は、
だんだんとその多さを増してゆく。
まるで、先ほどのマーテルの声にこたえるかのごとく。
それらの光の帯は、一定の距離で消えてしまうが、だが逆に、
他の光の帯と合わされば、その光の帯はより大きくなり、
そして光の継続時間もまた伸びてゆく。
ユアンとクラトスにこの作戦は含まれていない。
というのも、いまだユリスと激闘ともいえる戦いを繰り広げているその近くにおいて、
ミトスの邪魔になるであろうユリスの眷属?ともいえる、
”ユリス・アイ”などの撃破に覆われている。
いくらミトスといえど、ユリスと、襲い来る数多のユリス・アイ。
同時に相手にすれば、まちがいなくユリスに隙を与えてしまうのがわかっている。
ユリスは少しでも隙をみつければ、すかさず広範囲の術をもちい、
この場にいる人々を駆逐しようとしてくる。
その威力は下手をすれば一撃で命を落としかねないほどの。
ユリスをどうにかミトスがまだ抑えている今だからこそ。
ミトス達にユリス・アイとの戦闘で近づくことすらできない存在にしかできないこともある。
まず、ゼロスが発端となり、光の帯をいくつも移動しつつも束ねてゆく。
ほそく、いつでも消えてしまいそうであったそれらの光の帯は、
ゼロスの移動とともに、よりその太さ、継続時間を伸ばしてゆく。
そんなゼロスの意図に気が付いたらしく、リーガルや、アステルとリヒター。
もっとも、この二人に関しては飛行竜に乗っての移動なので一緒に行動しているが。
ともあれ、彼らもゼロスとは反対側。
すなわち、それぞれに位置を移動し、そこらにある窓から発生している光の帯。
それらを誘導するためにと移動を開始する。
ゼロス、リーガル、マルタ、ジーニアス、アステル・リヒター組。
そしてプレセア、しいな、リフィル。
彼らが飛びまわり、やがて、光のか細かった帯はしっかりとした太いものとなりて、
ロイドの近くにいるコレットの元へと向かってゆく。
光の奔流はコレットの体…コレットは今現在、半実体化している状態ゆえに、
どうやら任意で物に触れたり、ふれなかったりできるらしい。
もっとも、ユリス・アイの攻撃は、精神体となっているコレットやマーテルにも通じてしまうのだが。
『――ロイド(さん)(くん)!!』
光の帯は太くなるごとにその移動距離も伸ばしている。
皆が移動し、光の帯を合流させ太くさせていったことにより、
様々な場所にある”窓”からの光がロイド達の目前にて合流するような、
そんな現象が今、この場にておこっている。
「…ムダなあがきを…っ」
「君の相手は僕だよっ!っと!」
そんな光景を視界に捕え、ユリスがそれらをけちらそうと技を繰り出そうとするものの、
すかさずそれをミトスがユリスの体勢を崩して阻止していたりする。
そんな二人のやり取りがロイド達の元にもきこえてくるが。


「よくわかんねぇけど…ようはさっきとおなしようにすればいいってことなんだよな?」
おそらく、この光の帯の塊は、先ほどの現象と似通ったものなのだろう。
八方向から伸びてくる光の帯はコレットを通じ、一本となっている。
それらはまるで光の川、と言って差し支えがない。
とりあえず、これを離れた場所にいるミトスに届ければ、何とかなるんだよな?
そう漠然とおもうが、こんな光の川のようなものをどうやってとどければいいのやら。
と。
「あ。投げてわたせばいいか」
できる、できない、ではなくてやる。
「うん。なすがなる!ドワーフの誓い、十六番だっ!!」
それはもう感覚的なもの。
周囲の光をボールのごとく丸いまるくなるように、と直感的に手をこねこねとしはじめる。
要はやわらかい土というか粘土細工を思い浮かべればいいよな。
そんな軽い思いつきで、なせばなる、の精神にてその行動を開始する。
ロイドがこねこねと、作業?のようなものをしている最中にも、
皆は飛び回り、発生している光の帯を導いている。
やがてか細かった光の帯はしっかりとした太さをもち、
ロイドの近くにまで消えることなくしっかりと、個々の力のみでその存続が可能となってゆく。
この光からは、皆の様々の想いが感じられる。
ロイドにすらはっきりと。
脳内に地上で人々がそれぞれ戦っている様子もなぜだか思い浮かぶ。
それは”鏡”の映像越しではない、それぞれの視点といった様子にて。
やがて、ロイドの目前に、
とてつもない巨大な、光の球のようなものがゆっくりとではあるが、作成されてゆく。
それらを束ねるたびにロイドには疲労感がつのってゆくが、
だが、それがどうした、の精神と根性でともかく光をたばねてゆく。
さきほどの攻撃ではユリスに致命的なダメージ、というかユリスを止めることは不可能だった。
であるならば、さきほどよりもより大きな力が間違いなく必要のはず。
とにかく力を圧縮してゆくような感覚で、それでいて投げやすい球状。
それらをイメージしつつ、ひたすらに作業をこなすロイド。
ロイドが作業を始めると同時、周囲のユリス・アイは、
近くにきたものたちが率先してそれらをかりとっており、
ロイドの近くには近寄らせないようにしているのも作業がはかどる要因ともいえる。
やがて光を圧縮し、金色の光がより金色になり、さらにはそれを通り越し、
真っ白い光のような球が出来上がる。
それらはまるで太陽の光のごとく。
「よっし。…ミトス、うけとれぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
両手にてその球を抱きかかえるかのごとく
…実際には球体が大きくて手につかむことすらままならないが。
それはもう気分というもの。
両手にてミトスがいる方向にむけて、ぶんっと、おもいっきり投げる動作をする。
とてつもない重いものを投げるような感覚で。
ミトスにむかって、それらを投げると同時、再び意識を集中し、
いまだにあつまってきている光を束ねることに集中する。
あのユリスとなのった輩がたかが一撃で倒せるとはおもえない。
むしろ、下手をすれば避けられる可能性も。
で、あるならば。
この光が続くかぎり、追撃を続けていけば、可能性も開けてくる。


「なっ…っ」
短い驚愕したようなユリスの声。
『いっけぇぇぇえ!!ミトス!』
「これで…終わりだぁ!!!!!!!!!」
闇が光にて消し去れるように。
ミトスが先にロイドが投げた光の塊を受け取るとともに、
”石”の周囲の力を取り込みわが物とする、という特性をいかし、
とてつもない巨大な大剣に変化させ、ユリスにと振り下ろしていたが、
そんな光の大剣をユリスが両手にてそれらの威力をどうにか押し殺していたそんな中。
追加、とばかりロイドのほうから再び光の球体が投げつけられる。
正確にいえば、光の球をつくりつつ、ミトスの近くに接近し、
ミトスのほぼ真横より、ユリスめがけそれをたたきつけたに他ならない。
ミトスの攻撃を防ぐだけで精一杯であったユリスは虚をつかれたかのように、
防御をする力に隙が生まれる。
そんな小さな隙をミトスが見逃すはずもなく。
そのまま、大きな光の大剣を振り下ろす。
光の斬撃とロイドの投げた光の球。
それらがあわさり、先刻同様、ユリスを中心としたちょっとした光の空間が出来上がる。
ミトスの振り下ろしている金色の光を帯びた大剣が、ゆっくりと、
しかし確実にユリス本体へとせまってゆく。
ユリスからしてみれば、これらを本気をだせば払いのけることは可能、ともいえる。
だがしかし。
一定のとある”力”が人々から集まった場合、
今回の試練は”まあまあ合格としてよい”という趣旨の命令も受け取っている。
他者を蹴落とそうとする”心”よりも、誰かを信じ、また誰かを思いやる心。
それらが優った場合はヒトは絶滅させるにはまだ早い。
そのような”命令”をうけている。
ユリスとしては”王”を悲しませる輩は一度消してしまってもいいのでは。
とおもっているのも本音なれど。
なれど、命令は絶対。
誰かに頼り切る、のではない。
自分たちにできることをし、その上で相手を信じる。
そんな思いが、心がこの光からはユリスは感じ取れる。
それと同時。
――ユリス。今回のお前の試練はひとまず終了としよう。ご苦労だったな。
「…っ」
――仰せのままに。
直接、心に響いてくる”王”の声。
どうやらこの”力”のあつまりは、一応合格点、であるらしい。
で、あるならば。
自分は、ならば”敵”らしく。
それでいて、人々にしっかりと楔を打ち込むべきであろう。
ゆえに。
「私は消滅などはしない!人々が私、という存在をかつてうみだしたように!
  私は人々が望む限り、何度でもよみがえる!
  人間たちよ。仮初の平和を再び満喫するがいい!
  やがて、おのれ達も気づくはず。無と静寂、滅びこそが真の平和な世界なのだ、と!
  あははははははっ!!!!!」
高らかにそう叫びつつも、ユリスは光の奔流にと飲まれてゆく――


パッンっ!
ユリスにと叩き込みこまれた、数多なる人々の思念。
隣人を、家族を、恋人を。
大切に思う心が、ユリスのいっていたあり方を否定する。
ユリスが基本、初期の姿として、用いるのは、人々が心の奥底で望んでいる姿。
マーテルの姿を一番最初にしていたのがいい証拠。
今をいきるものたちが望みしすがた、かつての人々が信仰対象にしていた姿、
そして、心をもちし姿を持ち得た姿へと、ユリスはダメージをうけるとともに、その姿をかえていった。
ユリスが弾けるとともに、ユリスからいくつもの黒い、小さな塵のようなものが霧散する。
それは地表めがけて降り注ぐ。
その塵は当然、この場にいる全員の中にも降り注ぐ。
それらは、彼らが深層心理でもっていた、負の心そのもの。
それらを否定するも、受け入れるも、彼ら次第。
そしてそれは地上の人々にもいえること。
否定し、封じ込めることはたやすい。
だが、封じて否定するだけではいずれはその感情は爆発する。
受け入れて、自覚することこそが何よりも大切。
それを、心の試練を突破したものたちは十分にと理解している。
だからこそ、受け入れる。
自らの心の暗い部分を。
塵らしきものが振れるとともに、感じる自らの”負の心”。
試練を受けていないリーガルとて、自分の負の心は自覚している。
一緒に生きよう。
君も(お前)も、自分、なのだから。
それぞれが、それぞれに共にその感情とともに生きていることを選ぶとともに、
するっとそれらの感情は人々の心の中にと再びもどってゆく。
このたびの試練によってほぼ強制的に引きずりだされていた人々の負の心が。


「おわった…の?」
マルタがぽつり、と皆の感情を代表したかのように声を漏らす。
「いいえ。いいえ。まだ終わっていないわ。種子を発芽させなければ。
  地上にいきるものたちのために。私たちのために」
終わりはみせたが、霧というか黒い雲が晴れているからこそよくわかる。
地表のいたるところで、噴火活動が活発化しているらしい。
山という山からは煙が噴き出て、このままでは確かに、
人々は暮らしにくい地表になってしまうであろう。
上空から視界にはいるだけでもそう、なのである。
世界全体でみれば、このような現象がどれだけの範囲でおこっているか。
ふるふると、マーテルが首を横にふり、
そして、その手にしている杖をすっと、一点にとむける。
ユリスのあるいみ領域が消え去った今。
どうやら彼ら全員は、種子が発する淡い光の膜、のように保護されているらしい。
けども。
自分たちの光の膜とはうらはらに、ゆっくりと種子は上空へと昇っていっていたりする。
まるで空に還ろう、としているかのごとくに。
マーテルの言葉をうけ、はっとリフィルがその杖の先をみてみれば、
ゆっくりとではあるが、種子が上空にふわり、ふわりとのぼっていっているのがみてとれる。
手を伸ばしてもとどきそうにない。
自分たちは地表におりていっているようで、その距離は嫌でもゆっくりと開いていっている。
「ロイド……」
「コレット…でも、…でもっ!」
あの敵がいっていた。
自分たちが種子を発芽してしまえば、コレットも、そしてマーテルも消えてしまう。と。
自分が発芽させれば、悲しむという感情もなくなるのだから、そのほうがいいだろう、と。
そっと、首をいやいや、とダダをこねる子供のように首を横にふるロイドにと、
そっとコレットの手が添えられる。


「――ミトス」
一方で、静かに、マーテルがミトスをみつつも言葉を紡ぐ。
「…うん。わかってるよ。姉様。大丈夫…大丈夫だから……」
そういいつつも、ミトスの声も震えている。
ラタトスクがかかわっている以上、姉が完全に消えてしまうことはない。
そうはおもっていても、それでももしかして、という思いが消えてしまうわけではない。
でも、これが最後のチャンス。
この種子を発芽させなければ、完全にラタトスクはヒト、というものを見限ってしまうだろう。
地表の存続はなされても、ある意味での地表の浄化が成し遂げられてしまう。
世界各地でおこっているらしい火山活動の影響下で人々が暮らしていけるか。
といえば、答えは…否。
酸素不足で人は死に絶えるかもしれない。
食料不足で、大地が溶岩に覆われて。
「感じるでしょう?もう、私も、そしてマーテル様も生きてはいないの。
  魂だけの存在。もしかしたら種子に取り込まれている状態では、
  大いなる実りそのものに取り込まれて、私たちという魂すらも消えてしまうかもしれない」
「――だからこそ、ミトスは常に、彗星のマナを注ぎ込んでいた。
  マーテルが大いなる実りに取り込まれてしまわないように、な」
ロイドの手をそっととり、その手を自らの心臓部分にとあてて諭すように話すコレット。
そんなコレットの台詞に、ユアンが顔をしかめつつもそう補足する。
「これは。ロイドにしかできないの。ロイドと、そしてミトスにしか。
  ロイドが集めたその力をミトスがマナに変換して、種子に注ぎ込むことによって。
  …新しい大樹カーラーンは発芽し、地表は、世界は安定する」
「でも、それは、俺の手で、コレットを消してしまうっていうことにっ!!」
「…いいえ。ロイド。それは違うわ。種子が発芽しても私たちは消えることがない。
  私たちの魂は、あの中で保護されているから。ただ、種子の中から解放されるだけ。
  でも、発芽しなければ、保護されている状態がいつまでも続くとは限らない。
  今、だからこそ私もマーテル様も解放される可能性があるの。
  だから…だから、きっと、ロイド。必ずまた、あえるから。
  たとえ、それが姿がかわって、生まれ変わった姿であったとしても。  
  私も、そしてマーテル様も、再び、皆と出会えるから」
ロイドの手を自身の胸の部分にあてたまま、コレットが優しく微笑む。
まるでそう。
ダダをこねる幼子に優しく説明し、説得するかのごとくに。
「いけない!どんどん種子が上空にのぼってゆくわ!」
ミトスとマーテル。
コレットとロイド。
彼らがそんな会話をしている最中、リフィルが声を荒げて思わず叫ぶ。
みれば、どんどん大いなる実りは、ふわり、ふわりと上空にと上昇していっている。
「このままでは大いなる実りは完全に失われてしまうぞ!?」
「そんなっ!?」
はっとしたようにリフィルが叫ぶとともに、リーガルもまた思わず叫ぶ。
マルタなどはその手を口にあてて、何ともいえない声をあげている。
大いなる実りを発芽させれば、今、こうして姿をあらわしているコレット、
そしてマーテルが消えてしまうかもしれない。
かつて、ユアンのいっていたように。
大いなる実りが発芽して大樹が目覚めれば、マーテルは消えてしまう、と。
そこにコレットが今では加わってしまっている。

「――ロイド。間違えないで。今、大切なことは何?
  ロイドがしなければ、他の人達がそれをする。
  ゼロスにしても、皆にしても、皆はその力にたえられずに、魂ごと消滅してしまう。
  ロイドにしか、できないんだよ?」
ロイドがしなければ、間違いなく、ゼロスが自分がやる、と言い出すだろう。
同じ、神子、として育ったもの同士。
人々のためならば命をささげてもあたりまえ。
そのように育てられている神子、という立場であるからこそ。

「ま。ロイド君には無理でしょ?コレットちゃんを消すことになるかもしれない。
  っていうコトなんだから。だけど、俺様としては種子を発芽させなきゃいけない。
  せっかく、人々の負の心の権化ともいえるユリスを倒したとしても、
  このままじゃあ、セレスが安心して暮らせる世界なんて夢のまた夢。
  もしかしたらセレスが自然災害で命を落とすかもしれない、
  ひもじいおもいをして餓死とかするかもしれない。そんなのは…認められねぇからな。
  ロイド君には酷っていうもんだろ。だから俺様がやるわ。
  さっきのユグドラシル様の様子をみてて何となくだけどもやり方はつかんだしな」
「いや。神子。それは無理だろう。…先ほどの力を注ぎ込む過程で。
  お前はクルシスの輝石を失ってしまっているのだぞ?」
事実。
少しでも力になるように、無理をして自分に集っている力を集めた結果、
ゼロスの身につけていたクルシスの輝石は、もはやない。
あの時、完全に割れてしまい、ゼロスの体に光の粒子として取り込まれてしまっている。
「ロイドには無理だ。だから私がいこう。
  私の体をすべて結晶化させてしまえば、それも可能のはずだからな」

「っ!?」
皆の声が、会話が嫌でもロイドの耳にと届いてくる。
自分が迷っている間に。
自分の決断で、まよいのせいで、今度はいったい、誰が死んでしまうのか。
いや、ただの死、ではないだろう。
・・おそらく、それは魂ごとの消滅であり、永遠の…死。
自分にしか扱えない、という異なる力を束ねる力。
ゼロスにしろ、クラトスにしろ。
どちらが成し遂げても、大樹が芽吹いたのち、そこに彼らの姿はありえないだろう。
束ねたのは先ほどので二度目なれど。
たしかに力は巨大すぎた。
飲み込まれそうになってしまうほどに。
事実、気を抜けば、様々な思いに飲み込まれてしまいそうなほどに。
「――ロイド。間違えないで。今、間違ってしまえば、大切な人々を永遠に失ってしまうんだよ?
  私とマーテル様は、大丈夫。だから、ロイド……」

「コレット…、う…うわぁっっっっっっ!っ!ミトス、やるぞ!!」
迷っている時間はない。
自分が迷っていれば、ゼロス、もしくはクラトスが間違いなく消滅してしまう。
それこそ自分ができることをしなかったせいで。
そんなことは、認められない。
認められるはずがない。
コレットだけでなく、ゼロスやクラトスまで失ってしまうなど。
コレットがこのような現状になってしまったのももとはといえば、
ロイド自身が自らに投げかけられた様々な負の思念。
それらをききたくなくて、皆が自分を批難する声をききたくなくて。
閉じこもっていた結果、コレットは自らの命をかけて皆の体力を回復させた。
それこそ、かつての母、アンナのように。
あの時の母は、魂だけの存在にて、リヴァヴィウサーを唱えた。
魂の力でもって、クラトスに自身のマナを分け与えるために。
コレットは、自らの命をかけて、疲弊してゆく皆に、
…自分はそこにいなかったが、とにかく皆の回復を優先させた。
自分が側にいれば、防げたかもしれない。
少なくとも、コレットが落下してゆくときに助けられたかもしれない。
消えゆくコレットは、敵に…ランスロッドに捕えられ、利用されそうになっていた。
それを、ロイドはあの空間で、嫌でもみせつけられた。
コレット、と知っていて攻撃をしたミトスに何も思わないところがないわけではない。
でも、あのままではコレットが、皆を攻撃していたであろうことは事実で。
そこにいなかったロイドがとやかくいう権利はない。
そうロイドとしては思っている。
それをいってしまえばそれこそ、自分は口先だけでしかない。
そう新たに自分自身につきつけるようで。
自分が迷っていたから、間違えたから、コレットが。
そして、今度はクラトスやゼロスが。
いや、彼らだけではない。
下手をすれば地上の人々すべてが。
だからこそ、コレットを案じる心をひとまず封じ、今できることをすべく声をだす。
声をださなければ、世界とコレットを図りにかけ、コレットを今度は選んでしまいそうで。

「…わかった。いくよっ!!」
どんどん種子は離れてしまっていっている。
眼下にうつりこむ地表の様子は、今はまだ。
おそらく人々の生活圏のあたりに噴火の予兆はないのだろう。
山脈あたりから噴火活動っぽいものがよくよくみてとれる。
「ロイド」「ミトス」
飛び上がる、ミトスとロイドに寄り添うようにして、
マーテルがミトスに、そしてコレットがロイドにと寄り添う。
そのまま、ロイド、ミトス、マーテル、コレットの四人は、
光の膜につつまれた球体から抜け出し、一気に大いなる実りにむけてとんでゆく。


「皆、少しでも二人の手助けをするわよ!」
このまま、光の膜につつまれて安全地帯にいるわけにはいかない。
「皆さん…僕らはとべません。ですから…僕らは祈ってます!信じてますから!」
とべない、リーガル、アステル、リヒターからすれば、
この中から出てしまえばまちがいなく、地表へむけて真っ逆さまに落下してしまうだろう。
高度はかなりある。
ゆえに死は免れない。
あの空間の消滅とともに、手にしていたはずのウィングパック達。
それらもことごとく一緒に消滅してしまった。
黒い霧のような力に耐えられなかったのか、それとも何らかの要因でマナにと還ったのか。
そこまでアステルにはわかりはしないが。
どんどん、アステル、リヒター、リーガルを包み込んだ光の膜は、地表にむけて落下していっている。
そこから翼を展開させ、ばさり、と翼を…空を飛ぶ手段を得ているものたちは飛び上がる。
光の膜をぬけ、今まさに上空にとのぼってゆく”大いなる実り”へと。

まだ、感じることができる。
人々の願いを、想いを。
皆が皆、戦っていた自分たちを信じてくれているその思いを。
おそらくは、戦いが終わったことを皆、何らかの形で実感しているだろう。
だからこそ。
「わかってるだろうけど。…チャンスは一度きり、だよ?」
目の前の異変にとらえられ、その解決に取り組んでいた人々にとって、
山々の噴火、というのはさらなる脅威にととらえられるだろう。
それによって発生しているであろう地震にも。
実際、地震に襲われている場所の人々は、今では膝をつき、祈りをささげていたりする。
皆が皆、神子や、復活した勇者ミトスと、四大天使とよばれたものたちが救ってくれる。
そう信じ。
皆、先ほどの戦いで疲れている。
自分たち四人…正確には三人、だが。
三人以外のそれぞれが身に着けていた精霊石。
…エクスフィアとよんでいたそれらも、先ほどの戦いで砕けて散ってしまっている。
あの場に集う、負の力に耐えきれずに。
ミトスやユアン、クラトスの石が無事なのは、ラタトスクの手かはいっている特別製、だからなのだろう。
そうとしかおもえない。
「…息苦しくなってきたわ。急いで!もう、時間が残されていないわ!」
息苦しくなってきたということは、かなりの上空にとさしかかってしまっているということ。
これ以上、種子が上昇してしまえば…自分たちにはできることがなくなってしまう。
息ができなくなってしまう。
それでも、かなりの圧力を今でも感じている。
まるで、みしみしと体が悲鳴をあげているかのごとくに。

「いくよ、ロイド!」
「…わかってる。コレット、皆…力を…かしてくれ!!」
コレットが消えてしまうかもしれない。
でも、今はそんなことを考えないように頭の中から取り払う。
今、できることを。
今しかできないことを。
リフィルの声がかわきりとなり、ミトスが精神力を集中しはじめる。
ミトスが精神力を集中させるとともに、
ミトスの目の前に、巨大な一振りの虹色にと輝く剣が出現する。
エターナルソード、と呼ばれていた剣に瓜二つの”剣”が。
それは、ミトスの精神力で具現化したもの。
力を束ねるという点では、この剣を模したほうがミトスにとっては扱いやすい。
そこに精霊セグンドゥスの意志はなくとも、疑似的なものとはいえ、
力を束ね、そして解き放つには十分な効果をもつ。
種子を目覚めさせるのに必要な力がどれだけいるのかわからない。
それでなくても、人々から感じる思念がどんどん弱くなってきている。
それらをどうにかかき集める必要がある。
先ほどまではユリスの影響もあって、心を強制的にユリスが集めていたがゆえ、
あれほどまでの力を集めることができたのだろう。
両手を前にと突き出し、ロイドは意識を集中する。
手の平を前にと突き出し、ゆっくりと目をつむる。
気配を感じるのは得意といえば得意。
微弱な気配をも見逃さないようにして、それらの気配を集めるようにと意識する。
それとともに、ロイドの中からぐんぐん何かが失われているような感覚が襲い掛かる。
それは先ほどの比ではない。
突き出している手の平の先に集めている収束する”力”。
人々のさまざまな想い。
それらはすでに、まったく知らない人々の心は感じられないが。
だが、自分たちにかかわっていた人々の心はまだ身近に感じられる。
ごっそりと減ってゆく感覚。
これが、精神力を失う、ということなのだろう。
よくよく思い返してみれば、トレントの森と呼ばれていたあの場所でも、
このような体のけだるさは感じていた。
今はあの時にくらべれば、その倦怠感は果てしなく強いが。
少しでも気をぬけば、その反動で集中力が途切れてしまう。
そんなロイドにと、そっと、横から手片手をそえて、もう片方の手を、
ロイドが突き出している手の平のほうへと、ロイドと同じように突き出すコレット。
コレットがロイドの左側より手をそえるとともに、ジーニアスもコレットと同じように、
自然とロイドの突き出している手にと手をそえ、コレットと同じようにもう片方の片手を突き出す。
ふとみれば、マルタが、リフィルが、しいなが、プレセアが。
そしていつのまにか姿を現しているらしい、アリシアが。
それぞれが、ロイドの突き出している手の平の先。
ゆっくりとではあるが、力が集い、球体になりかけているそれにと両手をつきだし、
かざしているのが見てとれる。
ロイドに強く感じる、皆の心。
そんな皆の心を無駄にはしたくない。
リフィル達の思いとともに、彼女たちをも心配している人々の心もまたロイドにと伝わってくる。
それは、これまでの旅で彼らが得た、人脈そのもの。
人と、人とのつながりの証。


まだ、おそらくおわっていない。
上空より降り注いでくる、黒い霧雨のようなもの。
それらは人々の体の中にと吸い込まれていった。
それとともに、ぐらぐらと、大地がさらに震動を始めた。
少なくとも、立っていられないほどに。
「…コレット」
「…ロイド」
「お兄様…」
「リーガル様……」
「しいな姫様……」
イセリアで、メルトキオで、アルタミラで、みずほの里で。
様々な場所にて皆が皆、知人を、大切な人を、家族を心配し祈る光景がいたるところでみうけられ、
それらの感情は、やわらかな光となって、そのまま上空へと再び上ってゆく。

家族を、友人を、大切に思いあう心というものほど強いものはない。
それこそ、空間を超えて、その思いが通じ合うように。
もっとも、その強いきずなが時として、逆に作用し骨肉の争いと化してしまうこともあれど。


一抱え以上。
いや、それ以上。
光の球体が、ロイド達の突き出していた手の平の先にと出現する。
それはあるいみで、もう一つの太陽、といってもいいほどの輝きをもつ球体。
それらを球体としてとどめているのは、まぎれもなくロイドの”力”によるもの。
制御しているだけで、どんどん精神力がもっていかれている。
「ロイド、いくよっ!!」
「…ああっ!」
『目覚め(ろ)(て)(な)(てください)!!大樹、カーラーン!!』
ミトスの掛け声がかわきりとなり、ミトスがその光の球体。
それにと具現化していた剣を突き立てる。
それとともに、ミトスが具現化していた剣にと、その光がまとわりつき、
光を纏いし巨大な剣がその場にと出現する。
制御を離れた力はすぐさまに霧散してしまう。
であるがゆえに、チャンスは一度。
誰ともなく、この場にいた全員。
その光景がなぜだか”視えて”いる、アステルとリヒターもまた、
思わず自然と声を同時に、皆と重ねる。

ミトスのもつ、剣が、種子にむけて振り下ろされる――
それとともに、まぶしい、先ほどと同じ。
真っ白い、銀色の光が周囲を、否、世界を覆い尽くす――


白い、白い、どこまでも白い光。
でも、不快な光、ではない。
むしろ、柔らかな、それでいて安らぎをもたすような。
そんな光。
誰ともなく自然と人々は理解する。
本当の意味で、大樹カーラーンが、今、目覚めの時をむかえたのだ、と。
かつて、歪んだ形で発芽したという大樹のありかた、ではなく。
真に、世界を安定させていた、大樹…世界を支える樹、としてよみがえったのだ、と。
あの謎の声のいっていたように。
ヒトの試練が今、ようやく終わりをむかえたのだ、と。
誰ともなく、自然と祈りをささげだす。
それは、女神マーテルにむけたもの。
全ては、女神マーテルの導きのもと、とそう人々は信じているがゆえに。


白い光に包まれている中でも、”判る”。
ゆっくりと、力を満たした種子が降りてくる。
この”力”を利用し、契約のもと、ついでに近くにいた人々も同時に”移動”させた。
これまでのように、自覚をしないままの彼らでは意味がない。
そう判断したからこそ。
ヒトと、エルフ。
彼らが、ハーフエルフといって差別を始めたそのときから、すべては始まった。
といってもよい。
自分たちの先祖…彗星からこの惑星に移住したものたちが、
力を捨てるか、そのまま力を保持しているか。
それだけの差、でしかなかったというのにもかかわらず。
自分たちとは違うのだ、とそれぞれが差別を初めてしまったのが要因。
迫害されたハーフエルフとよばれたものたちが、過去の、古のデリス・カーラーンにおいて、
かの惑星の文明を破滅においやった魔科学を復活させたあのときから。


魔科学に目をつけたのは、魔族達。
マナを消費するそれは、直接的にマナに干渉できない魔族にとって、
とてもよいあるいみで武器ではあった。
うまくすれば、古のこの惑星に移住してきたものたちが住んでいた惑星のように、
大樹を、マナを産みだす樹を枯らせる可能性すらをも含めていた。
そして、大いなる意志をも。
後者に至ってはまったくもって不可能、というよりほかではないのだが。
大いなる意志、ともよばれていた精霊の真実を知らないものからすれば魔科学は魅力的であった。
ゆえに、魔族達はヒトの心をそそのかし、率先してその技術を発展させていった。
ヒトは欲と、そしてそれのもたらす一時の豊かさにおぼれ、その技術をどんどん応用していった。
その結果、大樹カーラーンが枯れ果ててしまうほどに。


「コレット…お前…」
「コレット…そう、いよいよ、なのね?」
「コレットさん……」
「…さよなら。はいわないよ。どちらかといえば、いってらっしゃい、だね」
淡い、淡い光が、コレット、そしてマーテルの体を包み込んでいる。
きらきらと、コレットとマーテルの体はかがやき、
今では光の粒子がかろうじて、コレットとマーテル、それぞれの形をつくっているに等しい。
それはまさに、二人が消えてしまう。
その現象を指し示しているようで。
ロイドが茫然と言葉を紡ぎ出す。
心のどこかでは、種子を発芽させてもコレットがこのままずっと、
自分のそばにいてくれるものだ、と信じ込んでいた。
でも、現実は。
リフィルは覚悟していたらしく、静かに言葉を紡ぎ出す。
プレセアは何といっていいのかわからない。
傍らに、魂だけの存在となっているアリシアがいるからこそ余計に。
そんなコレットにむけて、しいながさらり、といい放つ。
そう、これは別れではない。
コレットはそう。
少しでかけるだけ。
勘、でしかないが、すぐに彼女たちとはあえるような気がするから。
それはしいなの直感。
「ま。コレットちゃんは今度生まれ変わったら、もう少し自分に素直になるこったな。
  俺様も、クルシスの輝石がなくなったとはいえ、これからのこともあるしな」
混乱しているであろう国をまとめる必要がある。
神子、という立場にいた自分だからこそしなければいけないこと。
「姉様……」
ぎゅっ、とミトスは手を握り締める。
目の当たりにすれば、やはり心が痛む。
大丈夫だ、とはおもっていても、絶対は…ない。
「ミトス。また後で会いましょう…じゃあね」
「っ!姉様っ!」
「大丈夫よ。ミトス。かならず、かならずすぐにまた会えるから……」
「えへへ。しいなのいう通りだよ、それじゃあ、ちょっと、いってきます!!」
コレットとマーテル。
それぞれがそういうとともに、光が弾け、彼女たちの体は周囲の光にと溶け消える――
「っ!!コレットぉぉぉぉ!!」
きえてゆくコレットに向け、ロイドが手を伸ばすが、そこには白い空間が広がるのみ。



ふわり、ふわりと銀色の光に包まれた、小さな蓮の花のようなものが地表に降り立ってくる。
周囲の木々は、完全にと水晶化してしまっている。
かつては救いの塔があったこの場所。
深い山脈と森にと囲まれているこの大地。
風が、大地が”時”を告げる。
そう、新たなる”時”の。
「我、ここに明言せし。我が名は、ウィノナ。
  ウィノナ・ピックフオード・サリウム・キチェ・イフ・カーラーン!
  大樹カーラーンの巫子姫にして、巫子頭、カーラーン国の王妃にして聖女!!
  我が名の元に、新たなるこの惑星の契約と、大いなる意志との新たなる盟約。
  我がすべてをもってして、新たなる”ことわり”を今、ここに!!」
ゆっくりと降り立ってくる水晶の蓮の花のようなそれにむかい、
大きく両手を広げ、おりてくるそれらをまるで包み込むかのごとく、
たかだかにウィノナが宣言する。
宣言とともに、ちょうど種子がウィノナと名乗りし女性の手と手の間。
その間にはいり、まばゆいばかりの光が種子と、そしてウィノナの体全体から発せられる。
まぶしいまでの光でその場にいるものたちは誰もが認識不能。
もしもしっかりと、みることができるものがいるとするならば、
種子と、ウィノナの体が光となってまじりあい、それによってまばゆいばかりの光を発生させている。
そう認識できたであろう。
まぶしいまでの光は、やがてやわらかな光となりて、いまだに世界中に広がった銀色の光。
それらの光の余韻を示すかのごとく、
今度は柔らかな銀色の光と金色の光が入り混じった光が世界中を覆い尽くす。


空に柔らかな、光の、銀と金の入り混じった光のカーテンがかかっている。
まるで地上を祝福しているかのごとくに。
「ここは……」
ついさきほどまで、上空にいたはず、なのに。
「え?あれ?…ウィノナ…姉さん?」
「ウィノナ母様!?」
きょろきょろと、思わず周囲をみわたしぽつり、と声を漏らすロイド。
そして、ふとその視界に見覚えのある女性の姿をみつけ、
同時に声をあげているアステルとミトス。
「テルくん。それに、ミト君も。それに他のみなさんも。
  ありがとう。あなたたちのおかげで、大いなる実りは無事に発芽したわ」
ふわり、と優しい笑みを彼らにむける、ウィノナ、と呼ばれし女性。
だがしかし。
何かが違う。
そう、彼らの記憶にあるウィノナ、という女性と、何か、が。
長いやわらかそうな髪質の金髪はそのまま。
どことなく幼い印象をうけていたはずの表情は、今ではなぜか、そうは感じない。
深い、まるで海の色を連想させる青色の眼はそのままに。
しかしその青色の瞳の中に、ちらちらと緑色の光もまた見受けられる。
それは以前のウィノナにはなかったこと。
透き通るようなソプラノの声はそのまま。
まるで小鳥のさえずりのごとくに。
テル君、ミト君、とよびつつ、アステルとミトスをみていってくる。
「あなた…ウィノナさん、だったわよね。どうして……」
困惑した声は、リフィルから。
そう。
なぜ彼女がここにいるのか。
結局、彼女が”誰”なのか、いまだにリフィル達はしっかりと理解していない。
アステルのいっていた、人の死を予測することができるというウィノナ。
ミトスいわく、自分たちの育ての親の生まれ変わりだというウィノナ。
リヒター曰く、その能力ゆえに研究所の実験材料として扱われていたというウィノナ。
みれば、ここにはウィノナだけ、ではない。
なぜか背後のほうにはエルフたちらしき姿もみうけられる。
「って、ブラムハルド村長?」
ふとその中に、見知った姿。
エルフの里の長老であり、村長である人物をみとめ、リフイルが思わず目を見開く。
「セイジ姉弟…それに、古代英雄の四人とあのときのものたち、か」
この場にいきなり連れてこられたといってもいいエルフたちは困惑するしかない。
それ以上に、先ほどのウィノナの台詞が、この場にいるエルフたちの脳裏から離れない。
離れてくれない。
彼女はたしかに、こういった。
大樹カーラーンの巫子姫であり、カーラーン国の正妃だ、と。
それの意味することを、彼らは考えたくはない。
というか信じたくはない。
大樹カーラーンを祀る国など、もはやとうにない。
その巫子を補佐するといわれていたユグドラシル家も四千年前、
唯一残っていた姉弟を、エルフたちは里から追い出した。
エルフたちは自分たちの都合の悪いことはひたすらに隠す。
そしてその事実を、ほとんど次世代につなげることはない。
だからこそ、語り部、と称して真実を後世に伝えるために、
かの峡谷に住まいしものは、エルフの里から出奔している。
村長、と呼ばれた初老のエルフがちらりとこの場にいる全員をみわたしぽつりと漏らす。


「失礼。今、あなたは、大いなる実りが発芽した、といっていたが…それが?」
みれば、そこに小さな本当に小さな、一本の若木らしきものがある。
少し手を加えれば、折れてしまいそうなほどの、小さな若木。
混乱はしている。
だが、何よりも現状を把握し、情報をいち早く手にすることが必要。
それゆえに、リーガルがそんな彼女…ウィノナと呼ばれた女性にと語り掛ける。
「ええ。すでに大いなる実りは一度、歪んだ形で発芽してしまい、その力をほとんど失ってしまっていました。
  今、ここに発芽したは、人々の思いの力をうけて発芽したもの。
  いわば、人の心が産みだせし奇跡のようなもの。
  大樹カーラーンが、この惑星と大いなる意志の契約のもとこの大地に根付いたものだとすれば、
  この新たなる樹は、新しき”[ことわり”のもと、芽吹いたもの」
歪んだ形での発芽。
今思えば、すべてはあのときから始まっていたような気がする。
あの時から、地上における混乱のすべてが始まったような。
それらに思い当たり、何ともいえない表情を浮かべるクラトスとユアン。
「じゃあ…でもどうして、まだマナが感じられないの?」
今、みえている小さな若木が大いなる実りから発芽した新しい大樹とするならば。
なぜどうして、マナが感じられないのか。
「…それは、あなたがた、エルフの血族と、大いなる意志との間で交わされていた盟約。
  それらをエルフたちが破棄させるにいたったから。
  ゆえに、今のエルフの血族達は、かの御方が産みだしたマナを感じ取ることは不可能、でしょう」
ひっ、とした声は数名のエルフたちから。
「…やはり、か」
あの時から感じてはいた。
かの大いなる意志が決定を下した、あの時から。
がくり、とその場にひざをつくブラムハルド。
「…少し待ってちょうだい。ウィノナ…さんをつけたほうがいいのかしら?
  今、あなたは、ラタトスクが産みだしたマナは感じられない、そういったわね?」
かの御方。
それは間違いなく、エミル…精霊ラタトスクを示しているはず。
「ええ」
リフィルの指摘に否定をしない。
ということは間違いなく、これまで感じていたマナはエミルの…
否、精霊ラタトスクの恩恵、でもあったのだろう。
そして、おそらくは。
エルフとの盟約の破棄。
あのとき。
トレントの森にむかっていくあの時。
エミルがいきなりあらわれ、エルフたちにむけて発した言葉。
森に向かうまでに、エルフたちの会話はきこえていた。
曰く、マナをまったく感じられなくなった、と。
確かに、あの時から、リフィルもまたマナを”特殊な環境敵の拠点”以外ではほぼ感じられなくなっている。
あのとき、エミルがいったあの台詞こそが、そうであったのだろう。
意味不明だとおもわれたあの時のブラムハルドとエミルとのやり取り。
それが今さらながらにリフィルの脳裏によみがえる。
「じゃあ、その発芽した若木は……」
困惑したような声はジーニアスから。
「先ほどもいいましたように。この新しい樹は、この世界の人々の願いによって発芽したもの。
  ゆえに…これまでの大樹カーラーンのありかたとはかわっています。
  皆の願い。種族を問わず、共に手をとりあい協力しあうその心。
  それらの願いが、心が集まって、こうしてこの種子は目覚めを迎えた。
  ゆえに、この樹には新しい名が必要となります。
  大樹カーラーンにかわり、世界の人々を見守る、という意味で。
  人々がその思いを違えないかぎり、新たなるマナがこの樹よりうまれいで、
  エルフたちも、すべてのものも、そのマナを扱うことが可能となるでしょう。
  この地より離れ、新たなる”精霊界”に移動した精霊達。
  かの御方がうみだせし精霊とは異なり、この樹より生まれるマナで新しい精霊が生まれることも。
  でも、今のこの樹はまだ見てのとおり、小さな若木。
  強い風が吹けば、折れてしまいかねないほどの小さな木。
  このままではすぐに枯れてしまうでしょう」
「そんな!?どうにかならないのかい!?」
ウィノナの台詞にしいなが反応する。
精霊達が移動した、というそもそも驚愕な台詞もきになるが。
だがそれよりもせっかく芽吹いたとおもわれる樹が枯れるかもしれない。
そのほうがしいなにとっては衝撃的。
「この大樹をいつくしみ、そして人々が互いに協力しあうその心。それを忘れないこと。
  私は新たなる、この樹の精霊として再生を果たしています。
  人々のその思いがあるかぎり、その思いが私の力にもなる」
「…母様?精霊って……」
困惑したような声はミトスから。
「ミト君。前に、私はいったわよね?本当ならば、この立場は、マーちゃんがなるはずだった。
  でも、それはマーちゃんであってマーちゃんではありえなかった。
  今でこそありえないけども。
  かの御方によってすべての魂が浄化されていたからこそ決してありえないけど。
  だけど、あの御方が干渉していなければ、マーちゃんはすべての少女たちの思い。
  神子として死したものたち、種子に集っていた数多の思念。
  その思念と融合を果たした上で新しい、人工精霊になってしまっていた。
  …マーちゃんでありながら、マーちゃんでなくなってしまっていた。
  だから、私はこの惑星と契約をした。人々が、いつくしみあう心を忘れない限り。
  新しい樹をいつくしむ心を忘れないかぎり、私がこの樹を守る精霊、となることを」
『!?』
息をのむ気配はいくつも。
つまり、それは。
「そんな…母様、どうして!?」
ミトスの悲鳴に近い声が、何とも痛い。
「ミト君…私はね。信じているの。人を、ミト君、あなたたちを。皆を。
  だって、今この地上にいるものたちは、すべてあの御方のマナによって生み出された命。
  皆、家族であり兄弟、姉妹、なのだから」
皆が皆、失念してしまい、忘れてしまっているが。
根本となっているマナはすべて、大いなる意志であるラタトスクが産みだしているもの。
この大地にしろ、動植物にしろ、ヒトにしろ、すべてが。
ゆえに、元をただせば、
「――皆、同じ、母なる御許より産みだされている”命”。
  子供はいずれは親から離れ、そして独り立ちをする。
  そして今、大いなる意志とともに精霊達がこの世界を見守る立場におきかえ、
  直接の干渉をしない、と宣言された今。地上の命を代表して見守るものも必要だった。
  私は私のできる役割、それをこの惑星に進言し、そして認められただけ」
「でも……」
もしかしたら、また自分たちのせいで、母様が。
そう思うとミトスは何ともいえない想いにかられてしまう。
いつもそう。
エルフの里でも、あの時も。
いつも常にウィノナにはミトスは守られているばかり。
「この新しい樹は、すべての命を見守るために生まれた、人々の希望という名の結晶。
  ヒトも、エルフも、ドワーフも。地上にいきるものたちすべての命を見守る樹。
  ――ゆえに、新しい名が、この樹には必要となります。
  名、とは盟約であり、契約、です。
  この樹に新しい名がつけられるとともに、
  正式にこの樹は大樹カーラーンにとかわる、新しきマナを産みだす可能性をもった樹、となります」
「つまり、名前をつけることで、その樹と、他の命を結びつけるってことかい」
さすがはみずほの民だけのことはあり、しいながすぐにその可能性にとたどりつく。
名、とは縛り。
契約そのもの。
名で縛ることによって、相手に個性すら与えることができる。
消滅に近いものを繋ぎ止めておくことすら。
…かつての、孤鈴のときのように。
「そうです。この樹は、世界をつなぐ、そこにいきるすべての命を繋ぐべく再生した新たなる命。
  だからこそ、新たな名が必要なのです。ゆえに、ロイド、あなたに名付けをお願いします」
「・・・・・・は?ちょ、ちょっとまてよ。何で俺!?」
穏やかに微笑まれ、いきなり話をふられたロイドは戸惑わずにはいられない。
「――あなたが、真の意味での狭間の存在であるからです。
  あなたは、どの種にもその産まれから属してはいない。
  人にも、精霊にも、当然エルフにも。どの種の理にも属していないのです。
  それゆえに、あなたはこれまで感情面などにおいてはかなり不安定であったでしょう。
  でも、狭間であるからこそ、あなたは無の力を扱うことができ、
  また、何ものにもなれるものでもあった。
  ゆえに、何ものにでもなれる可能性を秘めているロイド、あなただからこそ。
  あなたの名づけは、あるいみでは地上にいきているすべての種を代表したものにもなりえる。
  あなたにも利点はあります。名をつけることによって、
  あなたには、この新しい大樹の加護がかかり、あなたは”個”として世界に認識されるでしょう。
  これまで不安定であった、あなた、という”個”が世界に認められることとなるでしょう」
いきなりの話すぎて、ロイドは理解がおいつかない。
それでなくても、さきほど、コレットが消えた衝撃から立ち直っていないのに。
「――あなたが、新たなる名をつけることによって。私の可能性も広がる。
  …この騒動で命を落としたものをよみがえらせる力すら……」
『!?』
その衝撃は、この場にいる誰もが感じ、思わず絶句する。
「それって……」
命を落としたもの。
すぐに思い出せるのは、コレットの存在。
「そんなこと…可能…なの?」
マルタの声は震えている。
そんなの、命をよみがえらせるなど。
まるでそれは神の領域、ではないか。
「世界との契約が完全に確定され、この樹が”つなぐもの”としての力を得れば。  
  …一度に限り、それは可能です。全ての命、とは限らないでしょうが。
  他のものが名をつけるのでは意味がないのです。
  どの種の代表にもなりえるロイド、あなただからこそ。
  あなたが名付けることに意味があります。
  あなたの”名づけ”が、あなたのもっている”可能性”という力をこの樹に託すこととなる――
  その可能性の力が、不可能にも近い奇跡をも呼び起こすでしょう」

もしかしたら、コレットが、生き返る?
自分が、この樹に名前をつけることで?
実感がわかない。
でも。
それでも。
自分の益だけを求めているのかもしれない。
コレットを助けたいためだけに、世界のためとか考えていないのかもしれない。
でも、それでも。
何よりも、優先して助けたい人。
それは――
「俺は…俺は、コレットを…そして、マーテルも助けたい!
  この騒動で命を落としてしまった人達も!だから…皆、いいか?」
今までのロイドなら、勝手に名づけをしてしまっていたかもしれない。
でも、それではだめなのだ。
この場にいるのは自分だけではない。
「仕方ないね。でもロイドの名づけのセンスって…あまりよくないんだけど。
  ウィノナさんは知らないのかなぁ?」
やれやれ、といったようにジーニアスが両手をかるく掲げるが、
その表情は少しばかり緩んでいる。
「変な名前をつけたら許さないからね。タマとか、ミヤとか」
「…それ、マルタさんがあの聖獣につけてた名前ですよね?タマミヤ……」
マルタがいえば、ぽつり、とプレセアがそんなマルタに突っ込みをいれ、
「…姉様……」
ミトスは何かおもうところがあるのか、ぎゅっと手を握り締めているのがみてとれる。
そんなミトスの様子をみつつ、ふと。
「…なあ。ミトス。このウィノナのさんって…
  お前たちの、ミトスとマーテルの育ての親、だった人、なんだよな?」
かつて、ミトスはいっていた。
このウィノナは自分たちの育ての親だ、と。
「…四千年前、僕らがまだヘイムダールにすんでいたとき。
  今のウィノナ姉さんの産まれはしらない。けども僕にとってはそれがすべて」
そう。
ミトスにとってはそれがすべて。
ウィノナがウィノナであるかぎり。
ミトスにとって、記憶にない母親よりも、育ててくれた彼女こそが、母親そのもの、なのだから。
姉と、自分が大きくなれたのは、他ならぬウィノナの存在があったからこそ。

「…記憶と姿形をそのままに、幾度も転生を果たす、その力、か。
  研究所の一部のもののみが、彼女から聞かされてはいたが……」
改めていわれれば、それはとてつもないこと。
そうリヒターは思わずにはいられない。
前世のことを覚えており、なおかつ、人の死の未来がみえるなど。
そんな永遠ともよべる生き方。
それはリヒターの予想を遥かに超えている。
それではまるで。
まるでマナが続くかぎり、永遠をいきる、かの精霊達のようではないか。

「――よし。きめた!その樹の、新しい名前は…
  『ユグドラシル』…ユグドラシルだ!!」
「――今、ここに新たなる名と、新たなる契約のもと、理を!!」
ロイドの力強い宣言とともに、ウィノナが大きく手をかかげ。
それとともに、爆発的にウィノナと、そして小さな若木との間に光が発生する。


『な!?』
それはまさしく幻想的。
ウィノナと若木がまじりあい、それとともにみるまに若木であったはずの、ちいさな樹。
それらがまたたくまに成長を遂げてゆく。
まるで、乾いた砂が水を吸い込むかのごとくに。
大樹。
見上げても近くからはその頂上がみえないほど、一気に若木は成長を遂げてゆく。
それはまさしく幻想的な光景。
成長した木々には、銀色の神秘的な無数の葉がついており、銀色の葉が周囲に舞い散る。
銀色の枝に銀色の葉。
その枝にと今度は白銀色の花、のようなものが芽吹き、
それはまるで、さきほどまでみていた大いなる種子そのもののようで。
それらが一気に開花し、やがてその花がしぼみ、
なぜかそれらの花は舞い散る銀色の葉とともにふわり、と大樹から離れてゆく。
いくつにも、数えるほどの馬鹿らしいほどの花の種子…といえるのかわからないが、
とにかく、それらの種子は柔らかな光とともにふわり、と無数にと空中にと浮かび上がり、
それらは”樹”を中心にして、まるで世界中に広がってゆくかのように飛び去ってゆく。
それはまるで光の球体が世界中に広がってゆくかのごとく。
空中よりみていれば、その幻想的な光景がはっきりと理解できるであろう。
成長した”銀の大樹”より無数の光の球が世界各地にむけて飛び去ってゆく。
その様子が。


ふわり、ふわりと銀色の種子が大地にとたどりつく。
大地にたどり着いたその種子から、なぜだか花のつぼみのようなものが出現する。
その花が、ゆっくりと開いてゆく。
その花の大きさは、まるで人一人が入れるほどにとてつもなく大きい。
『――コレット(さん)(ちゃん)!?』
「姉様!?」
「「マーテル!?」」
声は、ほぼ同時。
地上に芽吹いた、少し大き目の淡い銀色の光をはなつ、巨大な花のつぼみ。
そのつぼみが開花するようにゆっくりと開いた二つの花。
その中にみえたのは、
みえたのは――
静かにたたずむ、二つの人影――


「コレット…コレット!!」
そのまま、無意識のうちに駆け出し、そのままぎゅっとその姿を抱きしめる。
もう、手放さない、といわんばかりに。
ぬくもりが、心音が、本当にコレットが蘇ったのだ、と。
生きているのだ、とロイドにと実感させる。
それを実感し、より強くロイドはコレットをぎゅっと正面から抱きしめる。
「ロイド…えへへ。ただいま!」
「――ああ。お帰り。コレット…っ」
奇跡。
まさに、奇跡といっていいだろう。
死んだものがいきかえるなど。
本来ならばありえない。
ありえるはずがない。
「姉様っ!!!!!!」
一方で、ミトスもまた姉にむかってかけだし、ぎゅっと抱き付いていたりする。
子供の姿のままでなので、マーテルの胸に飛び込むような形になってはいるが。

「これは…一体……」
いまだに、樹からは、無数の光の球体のようなものが飛び散っていっている。
もしも、この現象が。
今、目の前でおこっている現象が、世界各地で見受けられているのだとすれば。
それは、それこそまさに、神の奇跡、というよりほかにはない。
「――今ので、この樹に残されていた聖なる力は使い果たしました。
  今、このとき、瘴気に覆われ、その魂ごと消滅したものを除き。
  また、私利私欲のために瘴気にとらわれたものを除き、再生を果たしたことでしょう――」
静かにウィノナから告げられる台詞は、それはまさに信じられないことで。
「信じられん…信じられんが。こんな力をもつ樹を、人がほうっておくか?」
それはユアンにしては当然なる懸念。
大樹が再生を果たし、このような奇跡を成し得たというのであれば。
愚かな人々が次にすることなど、答えはきまっている。
誰しもが、その奇跡の力を自分たちのためだけに。
そうおもってしまうだろう。
以前のあのとき。
大樹カーラーンを芽吹かせようとしたとき、二つの国の陣営が争いを仕掛けてきたときのように。
「――だからこそ、守る地が必要です。そして、その地の雛型は、ここに――
  盟約のもと、聖樹ユグドラシルの名のもとに、かの地よ、この雛型をもとに再現せよ!!」
ウィノナの言葉とともに、…というか。
なぜだか一部のものにとっては、見知ったというかみたことのある、
ちょとした模型を中にいれている水晶、のようなもの。
それがみえているのはどういうことか。
というか、あれはフラノールでつくり、エミルが記念にといって、
水晶の中にとじこめた”あれ”ではないのか。
などといろいろと疑問はある。
しかしそんな彼らの疑問は何のその。
ウィノナの言葉とともに、彼らの周囲に、大地に和らかな光がひろがっていき、
その周囲に生えていた無数の水晶化していた木々。
大地ともあわさって、それらは姿を瞬く間にと変えてゆく。
まるで。
そう。
”水晶の中身”が現実化、したかのごとく――


「コレット…俺、俺、もう、間違わない。間違わない。
  けど、俺、馬鹿だから、幾度も間違うかもしれない。悩みまくるともおもう。
  でも、コレット。お前がいれば。皆がいれば。間違いもなくなるとおもうんだ。
  悩んで、苦しんで、笑って、泣いて。その感情すべてをコレットとともに感じたい。
  だから…だから…」
何といっていいのかわからない。
でも、ぎゅっと自身を抱きしめ返してくれているコレットのぬくもり。
そのコレットにロイドはどうしてもいわずにはいられない。
「俺、馬鹿だから、何っていったらいいかわかんないけど…
  でも…でも。これからは、俺と一緒に悩んでくれるか?」
自分は口下手だ、とわかっている。
でも、それでもどうしてもコレットにはいっておきたい。
このぬくもりが今度こそ失われてしまわないように。
「どうしてそうなるの?今までだって一緒だったじゃない。
  笑ったり、悩んだり…ずっとロイドと一緒だった。
  ロイドがイセリアにきてから、私は私なんだってしっかりと認識できた。
  だからね?ロイドが、ダメだ、嫌だっていっても、ずっとロイドと一緒だからね?
  あ、でも迷惑だったらいってね?私は少し離れた位置でいつでもロイドを見守ってるから」
「迷惑なんてっ!」
「あ~…こほん。おふたりさ~ん?いつまでだきあってるのかねぇ?」
いまだに、ロイドはコレットを抱きしめているまま。
そんな二人にと、ゼロスがこほん、とせき込みつつも茶々をいれる。
一方で。
「…信じられない……」
「すごい。これが大樹…としての力」
奇跡。
そういうよりほかにない。
ウィノナにいわれ、大樹に新たな名をつけた。
それとともに、ウィノナが宣言するとともに、
苗木であったはずの小さな木が、一気に成長を果たした。
それは巨大なる銀色の葉をもつ、一本の大木。
まさに、大樹、といえるかもしれない。
それとともに金色を帯びた銀色の実のようなものをいくつもつけたかとおもうと、
それらはウィノナの宣言とともに空中へと飛び去った。
そのうちの二つ。
地表におちた花のような銀色の蓮の花のような種子らしきもの。
さきほどまでみていた、小さくなった大いなる実り。
それとほぼ同じものが大地に触れるとともに、そこに巨大な銀色の花が発生し、
そこから見慣れた姿が、それぞれ一人づつ、現れた。
それだけでも驚愕、なのに。
突如としてこの場に、真っ白な、それでいて透明にもみえる、
いくつもの建造物らしきものが出現した。
光がまるで具現化したかのごとくに。
しかもそれは、どこか見覚えのあるもので。
ゆえに、それに気づいた、気づいてしまったがゆえに信じられない、という思いの方が強い。

「あなた方によって、ヒトの心によって、この大樹は大樹カーラーンの分身から、
  この世界、惑星とヒトをつなぐ役割をもつもの、世界樹、として再生を果たしました。
  世界樹とは文字通り、世界とをつなぐ、みちびきの樹。
  この世界樹は世界の人々の心の結晶、ありかたそのもの。
  人々が、互いを思いやる心、世界をいつくしむ心。愛する心。信じる心。
  それらを失わない限り、この世界樹は失われることはないでしょう。
  そして…人々の心の力が満ちたとき、そこから新たなる未来…
  人々の心が産みだした、新たなる精霊も生まれいでることができるでしょう」
この場にウィノナとともに現れた、一部のエルフたちは我知らず、
その場にひざまづき、祈りをささげている。
それはまさに、大いなる意志の導き…神の導き。
ただの荒野にも近しかっただけのこの場所は。
いつのまにか高い壁のようなものに覆われた、ドームのようなものにとおおわれている。
そして、その外には、何らかの町並みらしき建造物の姿すら。
壁の向こうが透けてみえるがゆえに、その事実に気づき誰もが唖然としてしまう。
それでなくても、死んでいたはずのものが生き返る。
そのような現象がおこっている。
マーテルとコレット。
その現象は、二人、だけではない。
エルフたちの周囲にもいくつかの”花”が開き、そこから数名のエルフたちが蘇っていたりする。
それが意味することは。
…理不尽に、今回の試練にて命を落とした一部のものが蘇っている、という何よりの証拠。

「姉様…本当に、姉様、なんだよね?」
「ええ。ミトス…本当に心配をかけましたね?」
「っ!姉様っ!!」
ラタトスクを信じていた。
でも、実際には不安でもあった。
魂だけの存在になっている姉が姉のまま、蘇られるのか、と。
先ほどとはことなり、姉には心音がある、ぬくもりがある。
生きている、と実感がもてる。
まるで幼い子供のように、ミトスはマーテルの胸に迷いもなく飛びつき、その顔をこすりつける。
泣かないようにしようとしても、自然と涙はあふれてきており、それ以上の言葉にはならない。

「マーテル…本当によみがえったのか。私は、私は…っ!」
「ユアン。ありがとう。あなたは私のために尽力をつくしてくれていたのでしょう?」
マーテルを消滅させるために、いくら世界を救うため。
マーテルが望んでいるからとはいえ、それを進めていたユアンとすれば。
マーテルに何と声をかけていいのかわからない。
ミトスを抱きしめたまま、その視線をユアンにむけて優しい笑みを浮かべるマーテル。
ユアンはそんなマーテルに対し、感無量というのもあり何と声をかけていいものかわからない。
「でも、よかった。ミト君。マ~ちゃん。あなたたちが貴方たちのままでいられて」
二人の様子をみて、心からそう思う。
自分はこの惑星と契約をし、契約精霊となってしまったけども。
でもそこに後悔はない。
「え~…と。ウィノナ姉さん…どういうことなの?これ?
  いや、今の姉さんのありかたが、人とは違ってるってわかるけど、一体…
  ものすっごく興味深いんですけど。死んでいたはずの彼女たちが蘇ってる点でも」
困惑。
まさに、困惑としかいいようがない。
目の前にいるのは、アステルも見知っている”ウィノナ”のはずなのに。
国の実験によって異形にさせられ、そして神子一行の手によって元の姿にもどっていた”ウィノナ”。
なぜ彼女がこんな場所にいるのか。
そもそも、いまだにウィノナがいったい”誰”なのか。
いまだにアステルはよく理解できていない。
だからこその問いかけ。
興奮もあるが、それ以上に研究者としてのこの現象にとても興味がある。
「私はね。この惑星の意志と契約をしたの。
  ラタトスク様が授けていた種子が発芽し、樹となしえたとき。
  私がその樹の意識生命体…樹の精霊、となることを。
  ラタトスク様とこの惑星が交わしている契約は、この世界をかつてのありようにもどすまで。
  でも、また人は過ちを侵してしまうでしょう?
  人がおこせしことは、ヒトの手で。
  この世界に降り立つことを望んだ私たちの先祖が決めた当時の決意のままに。
  そして、その契約をしたという私のわがままを、ラタトスク様は認めてくださった――」
もしも、ユリスがかっていても、自分はこうして樹の精霊、として再生を果たしていた。
…ヒトの感情を吸い上げる精霊、として。
「私の力となったのは、地上の人々の互いを思いやり、協力しあうというその心。
  そして…その心が満ちていた種子だからこそ、こうして奇跡もおこせる…
  でも、その奇跡もほんの一部。誰かが誰かを思いやる心があるからこそ成し遂げられている奇跡――」
誰かをかばい、そして他人のために死んでいったものたち。
自我欲で自滅していったものたちはそれには含まれない。
本当ならば、全員を再生してしまいたい。
でも、それは許されていない。
そして…魔族によって消滅してしまった数多の魂も、この奇跡の一部として認められていない。
あくまでも。
「あくまでも今回のユリスによる試練が始まってからのみの範囲でしか私の力では奇跡を起こせないけど」
ランスロッドがユリスの力を得てからの、それからの出来事にしか干渉は許されていない。
魂そのものが保護されていない。
「あれ?…リフィル?あんた、それ……」
「え?何これ?」
そんな会話がなされている最中。
ふと、自分の体に変化を感じた、また目にはいるリフィルの体に変化を感じたしいなが、
ジーニアスが、ふとした声をあげる。
「…これは…石…か?」
自分が胸につけている石はかわっていないようにもみえる。
が、実際はかわっているのが何となく勘でわかる。
ゆえに、ゼロスもぽつり、とつぶやく。
みれば、この場にいる全員が全員。
なぜだか何らかの形でその体のどこかの一部に、ちいさな石のようなものをみにつけている。
というか、石が体にあらわれている。
まるでエクスフィアを体に埋め込まれているかのごとくに。
基本的にざっとみるかぎり、胸の中心あたり…すなわち、鎖骨と鎖骨の間の少し下、あたりか。
もしくは額と髪の生え際付近に、その小さな石らしきものはみうけられる。
「あなたたちの、というよりも、世界中の人々の体に現れた石は、契約の証そのもの。
  人々の思いがこうして世界樹を誕生させたように。
  ヒトが世界にとって害ではありえない、と示した証。
  時がくれば、石は自然と消えるでしょう。人々が望めば石はずっと子孫にまで残るでしょう」
選ぶのは、ヒト。
自分たちが試練に打ち勝った証ともいえる、石をそのまま未来に、子孫にうけつがさせるか。
それとも、それらをなくしてしまい、伝承だけでこの出来事を後世に伝えるか。
「――ユリスは、消えてしまったわけではありません。
  人が人であるかぎり、ユリスの思念は、いつでも人々の心にあるのですから。
  そんな思念が高まったとき、ユリスはまた産まれてしまう。
  この新たなる世界樹はその目安ともなりえるでしょう。
  人々の間に、疑心暗鬼が高まり、世界に負が満ち溢れれば、この樹も枯れてしまいます。
  そして、その時には…今度こそ、ヒトはユリスによっての正しい道へと進んでゆくことでしょう。
  静寂に満ちた世界か、それとも死、という精神体ごとの消滅、という世界か。
  その時の人がどちらを選ぶかはわかりませんが」
「…つまり、状況次第では、また争いがおこりえる、ということか」
リーガルが深い、深い溜息をつく。
ようやく、すべてがおわったとおもったのに。
でもどうやらそうではないらしい。
「――今はまだいいでしょう。協力しあい、強敵を打倒した、という認識が強いでしょうから。
  でも、時間が過ぎれば、人は、のど元を過ぎれば熱さを忘れる、という諺があるように。
  そういった考えをもつもの、不満をもつものはあらわれるでしょう。
  今の地上は、これまで生活していた文明といった文明を維持できる状態ではない、のですから。
  すべて、どの種族も関係なく、無、すなわちゼロ、からの出発です」
「いやいや。ウィノナ姉さん。それあまり答えになってないとおもうんだけど。 
  というか、実際、僕らの扱いどうなるんだろ?研究院もそんな状態だと維持できないだろうし」
「まずは国の立て直しが先決だな。協力してくれる者たちを集い、
  早急なる復興支援、復興計画が必要となってくるな」
ウィノナの言葉に、アステルが、かるく手をふりつつもいい、
それでいてふと思い出したようにいえば、
リーガルもまた、思案するかのように顎に手をあてつつも言葉を紡ぐ。
「――どんな手段でもまとめる役割、機関が必要、だな」
あまり褒められた手段ではないが。
そういう場所がなければまちがいなく、人は暴走する。
リヒターはそう断言できる。
できてしまう。
「……なら、それは、きっと僕たち、クルシスの役目、だね。違う?」
「だな。これまでの謎の声、そしておそらくは人々にみせられていたはずの光景。
  それらをふまえても、クルシス側にそれをしてもらえば俺様達はたすかるが?
  何しろこっち、テセアラはテセアラ十八世陛下は死去。ヒルダ姫様は行方不明、ときてるからな」
ごしごしと自然と流れていた涙をこすったのち、
何もなかったかのようにミトスがそんな彼らにと言い放つ。
正確には、彼らに、というよりはウィノナにむけて。
そして、さらりとそんなミトスの台詞に肯定の意をすかさず発するゼロス。
「…あ。そっか。そういや、前、母さんにみせられてた光景。
  それが現実になるだけなのかな?
  たしか、母さんはあのとき、父さんがミトスを説得して。
  そして大樹をよみがえらせて、そこに聖地とかいうのをつくってそこにつとめてるって……」
ふと、そんな彼らの会話をきいてロイドが口をはさむ。
さきほどのゼロスの言葉もあって、ようやく抱きしめていたコレットを解放してはいるものの、
その視線はちらちらと、コレットを気遣っているのがよくわかる。
そんな中できこえてきた、彼らの会話。
ゆえに、ぽん、と手をたたきつつも、納得したとばかりにロイドがいう。
あの時、弟子を説得して、という言葉は意味がわからなかったが。
今ならばわかる。
ミトスはあの時もいっていた。
クラトスの弟子、と。
オリジンの解放のあの時に。
弟子としては、子供というだけでクラトスの弟子とは認められない、と。
つまり、あの”世界”で母がいっていた、父が弟子を説得して云々、
というのは間違いなくミトスのことであったのだろう。
クラトスがミトスを説得し、大樹が発芽し世界が一つになって平和になった世界。
あれはただの幻であったが、それが現実となりえる可能性。
あの”場”での”常識”が、現実になるのかもしれない。
「フラノールで、エミルのいっていた、聖地の姿、心のありどころの地の姿。
  あのときから、エミルはこのことを見越していたのかな?」
ふと、ジーニアスが思い出すのは、当時のこと。
フラノールの雪まつりで、エミルが皆にいったあのセリフ。
「えっと。なら。翼をもった天使のみんなも、というか翼をもった者たち全員、
  今後は、あの時きめた、フェザー・フォルクっていう呼び方になるのかな?」
「――かつて、この地上に降り立った当時は、皆が皆。マナの翼をもっていたのよ。
  マルタさん。でも時とともに皆はその力を、そのありかたを。
  自分たちと力の、自然の付き合いかたを失念してしまった。
  エルフたちとてそう。力がつかえてあたりまえ。
  そこに力への、自然への感謝の気持ちもほとんどなく。
  自然の力を感じ取ることすらをもできなくなってしまっていた」
だからこそ、センチュリオン達に暴言をはいたり、戦いを挑もうとしたりとしたのであろう。
「今、ここにいるマルタさんを含めた一部の人々は、心の精霊ヴェリウス。
  かの精霊の力をもってして本来もっていた生来のヒト、としての力が発現しているに過ぎない。
  種、というよりは先祖返りした存在達の呼称、といったほうが正しいかもね」
それだと種による差別も何もないであろう。
「そうすると、人々に伝える伝承、というか正式発表は……」
ウィノナの言葉をうけ、ミトスが一人、思考に突入する。
「あらあら。ミト君は昔から、そういうたぐいの上手な説明を考えるのは得意だったものね。
  ならば、世界の人々にむけての発表を考えるのはミト君にまかせるとして。
  マーちゃん。…あなたは、わかっているわよね?私がこうしなければ、あなたは……」
そんなミトスの様子をほほえましくもみつめ、その視線をマーテルにとむけるウィノナ。
その姿が透けていることから、彼女がもはや人ではなく精神生命体であることを物語っている。
それこそ、さきほどのマーテルやコレットと同じように。
「ウィノナ母様…わかっています。私たちは、いつでも母様に助けられてばかり……」
どうして、ウィノナ母様が生まれ変わっているというのに自分たちのために、
自分という存在まで変質させたのか。
あのままでは、ミトスは、弟はとまることなく。
まちがいなく、その命をおとし、力を失っていた種子にその命を託したであろう。
そして、自分は。
そんな弟を助けるために、数多の少女たちをも助けるために。
少女たちの思念と融合し、そんなミトスを助けるために種子の力をつかって、
いわば人工精霊化していた、と断言できる。
少女たちの思念と融合してしまった自分が自分のままでいられるか、そんな不安要素は考えもせず。
「しかし…これは、あの精霊の力、なのか?それとも種子の力、なのか?非常に興味深い…
  というか、なぜにフラノールでお前たちが考えた、あの聖地のありかた。
  あれが物質化して、ここに再現されてるんだ?」
リヒターもものすっごく今の現状に興味がある。
だがしかし。
何もなかったはずの空間に、場所に、土地に。
力の発動とともに、水晶らしきものでできた巨大なる建造物というか、町ひとつらしきもの。
それがいきなりあらわれれば、そちらのほうが興味が優る。
「ああ?それは、私が契約を果たしたということを報告したときに授かったものよ?
  私の依代、というか核となりし樹を守る場所は大切だろう、って」
「…授かったって…エミル、からかい?」
あれからずっと、エミル…否、ラタトスクは姿をみせていない。
でも、その力の大きさは、影響は至るところで嫌でも感じられた。
「ええ。懐かしいわ。聖地セレスティザムを模したこの場所は。
  かつての惑星、デリス・カーラーンにおいて、
  私はこの聖地、神殿の大樹の巫子頭、巫子姫の立場にあった――」
『!?』
その言葉に、息をのんだのは、ゼロスを除いたほぼ全員。
「…あ。なるほど。だからか。あの闇のセンチュリオン様が。
  あんたの名前を叫べばいい、っていってた意味。
  あんたの名前に、カーラーン、がついてた意味は」
なぜ、あの名を叫べばいい。
といわれたのか、今さらながらに得心がいき、ぽん、と手をかるくたたくゼロス。
あの大いなる実りの間にて。
ゼロスが発したその名の意味。
それがようやく少しは解明されたといってもよい。
「ええ。ゆえに私は彗星に移住するときにも、私は”私”としてそこにいた。 
  何しろ、ラタトスク様があの彗星をうみだされるときに、”私”はすでにいたのだから。
  私は惑星デリス・カーラーンの時代から、
  かの場所での時と時空の精霊、セグンドゥス様の加護をうけている。魂そのものに。
  私の意志がつづくかぎり、私は記憶を継承し、ずっと私が私として誕生し続けている。
  すべては、私が愛した人々を見守るために――
  時には私の命をもってして、運命をも覆す、その力を持って」
自らの命と引き換えに、違う未来を。
本来ならば決まっているはずの未来に新しい道筋を。
かつて、自身が、あの国を、当時の国を守れなかったあのときに。
当時のかの惑星の精霊セグンドゥスと交わした契約。
人、であるがこそ、契約の重複も可能であるがゆえにできていたこと。
「…私は信じているわ。ミト君。そしてマーちゃん。そしてこの世界にいきる人達を。
  私はこの惑星と契約をし、契約精霊となってしまったがゆえにこれまでのようにはいかない。
  命をもってして未来を変えるということもできない。
  でも、皆を守り、導くことはできる――目安になることはできる。
  私という、世界樹に陰りがみえたとき、それは世界に混乱が訪れる前触れの証なのだから」
「――そして、あなたが枯れてしまえば、今度こそユリスが再び復活する、というわけね」
「ええ」
ウィノナの言葉も衝撃ではあるが、今は驚いている場合ではない。
少なくとも、彼女は命をかけた。
ミトスを、マーテルを、世界の人々を助けるために。
自分の存在というものを変質させてまで。
みこ、というのがコレットたちのようなものを示すのか、それはリフィルにはわからない。
けど、その責任の重さ、というのは何となくだが理解ができる。
できてしまう。
「マナをあきらかに感じられなくなり、使用できなくなった世界は混乱をきわめるでしょう。
  でも、それらのマナを使用していた様々な道具なども今回の出来事によって失われてしまったはず。
  その子のように機転を利かせていない限りは、ね。
  おそらく、魔物たちの姿をも人々は認識できなくなっているでしょう。
  これまでの世界とは、まったく違う新たな世界が今後待っているのですから」
ウィノナの視線はアステルを示している。
アステルが手にしていたウィングパックは魔物の糸でつくられた布もどきで包まれていたがゆえ、
消滅を免れていた。
もっとも、今はそのウィングパックも消滅してしまっているようだが。

「…なら、その混乱を我らが再び抑えていこう。それが我らにできる贖罪でもあるだろうしな」
「そう。だな。今までだってクルシスとしてふるまっていたのだ。できない道理はない」
クラトスの台詞に、ユアンが賛同を示す。
精霊達を裏切りながらも、彼らはヒトを見限るでもなく、試練という形でその意志を確かめられた。
問答無用で地上のすべてなる浄化、という方法もとられなかった。
「あら。でも。ディザイアンのような負の側面はつくらないようにね?
  あのようなものは、ユリスの呼び覚ましを早くする要因でしかないわよ?」
クルシスが存続する、というのは間違っている、そう思う。
けども、これから世界が混乱するであろう。
というのは、今のロイドならばわかる。
わかってしまう。
コレットが、マーテルが蘇ったように。
おそらくではあるが、世界中でこのような似た光景がみられているのではないだろうか。
マーテル教の教え、というものはどこまでも人々の心にと根付いている。
そのマーテル教を産みだしたクルシスという、天界の立場。
その天界が公式に発表すれば…すくなくとも、大混乱はさけられる。
これまでの自分では決しておもわなかった、可能性。
それすらをもロイドは自分で考えることができている。
これまでは考えようとしても、ま、いっか。
でそれらをなかったことにしてしまい、すぐに考えすらしなくなっていたというのに。
今までの自分であれば、クルシスの存続はまちがっている。
そういっていた自覚がある。
クルシスがなくなったあとの混乱など考えもせず。
でも、今はそれが考えられる。
だからこそ、彼らの意見に反論などできはしない。
「…珍しい。あのロイドさんが反論してません。クルシスの存続は間違ってる、とかいいそうですのに」
「…やっぱ、あんた、へんなもんたべてるんじゃないのかい?」
「!?まさか、ロイド、人々の心の力、無の力を束ねたことによる後遺症とかがあらわれてるのでは!?」
そんなロイドの様子に三者三様。
プレセアが、ぱちくりと目をみひらきつつもいい、
しいなが心底心配そうにいい、クラトスはクラトスで見当違いの心配をしていたりする。

「――テセアラの神子、シルヴァラントの神子。君達にも協力してもらうよ。
  うん。いい案が、新しい神話になりえる物語がうかんたから、ね?」
そんな中。
ミトスが何やらおもいついたらしく、にこり、とほほ笑む。
それは、先ほどロイドのいった台詞にも関係してくる。
ミトスが今、思いついた案であれば。
…世界中の人々が、これまでのように、人々を、というか自分たちハーフエルフを迫害する。
そういったこともなくなるだろう。
それも視野にいれたうえでの、”新しい神話新約聖書”。
そんなミトスにウィノナの優しい微笑みがむけられ、
周囲に銀の大木より、数多の銀の葉が飛び散ってゆく――



やわらかな光が降り注ぐ。
どこからともなく舞い散ってきた、銀色の葉。
それらが地面に触れるとともに、荒れ果てていた大地が瞬く間にと再生を果たした。
水晶化している草木はそのままに。
しかし新たな草木が確かに芽吹いている。
昨日までの出来事が嘘であったかのごとくに。
一夜あけ、人々の興奮もある程度は収まりをみせている。
世界再生。
その言葉の意味が、今まさに現実を帯びている。
救いの塔は、もうみえない。
けど、大地は命にあふれている。
死んだはずの仲間が、知り合いが、家族が蘇る、という奇跡もおこった。
崩壊してしまった町並みなどは元にはもどらないが、でも”生きて”いる。
いつか、誰がいったのかはわからない。
でも、誰もが自然と、生きていればどうにかなる。
どうにかできる。
してみせる。
そんな風に人々は自然とそのように思えてくる。
地域によっては、それは柔らかな月の光であったり、様々ではあるが。
だが、どの大陸もやがて、夜はあける。
夜がきて、朝がくるように。
文字通り、新しき”朝”が。



pixv投稿日:2018年11月○日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:
ロイドの投げつけたボール。
判る人にはわかります。
イメージ的には、ドラゴン○ールの元気球(笑)
ベジータ○戦にての悟飯ちゃんの投げたアレを思い浮かべれば簡単かと(マテ)
人のよみがえりシーン。
マイソロ1ですべてが蘇ったあのシーンを連想してください。
もっとも、あのマイソロとは違い、こちらは全員、ではないですけどね。
マイソロ1では他世界(他惑星)ごと再生してたっぽいしなぁ…あれ…
しかし、ようやく、ゼロスの救いの塔でのウィノナの名前の回収シーンと。
フラノールで何で理想郷オブジェをつくったのかという回収がようやくできましたv
あの時点でここまで予測していた人は間違いなくいたでしょうけどね(苦笑)
さてさて、残すもわずか。本当にわずか。
それぞれの個別エンディング(笑)のちの、千年後、のみです。
もうしばらくお付き合いくださいな。

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