まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……
編集してて、第三形態にいくまでに、容量が8KB、
この調子でいけば、今回でユリス戦はおわれるかなぁ・・と淡い期待をいだきつつの編集です。

事前にしっておいたほうがいいかもしれない、ちょっとした豆知識。
ボス戦にむけてのネタバレです。
みたい、というひとは反転をしてください。

ラスボス(?)情報

名前:聖獣ユリス
役割:すべての負を司る聖獣。
   負を生み出す人の心をも管理することが可能
   心を生み出すことも、また消し去ることも可能となっている。
概要:かつて、地上の人々の心がうみだした、負の結晶体ともいえる存在。
   マナが主体でない世界においては聖獣ゲオルギアスなどによって封じられていた経緯ももつ。
   いうまでもなく、リバースにでてきた、ラスボス、ユリスが参考にされています。
   が、その在り方は、レジェンディアのシュヴァルツに近くもあります。
   どちらかといえば、ツインブレイブのシュヴァルツ、といったほうがしっくりくるかも…
   (ツインブレイブのシュヴァルツ設定:
     人々の祈りを聞き続けた結果、その祈りは人の欲へと変わって膿となり
     身勝手に願いや祈りといった欲望を向けられ続け苦しみ続けた
     世界樹の生み出した、世界樹の闇そのもの。
     人間への憎しみ、敵意をむき出しにした存在で、
     魔剣エターナルソードを使って人類を消滅させることを目論む)
    ↑あるいみ、この話に似通ったような感じになってます。人類を消滅させてもかまわない。
    とおもっているあたり……
    もっとも、この話では、人類どころか惑星を消滅させてもかまわない、
    というさらにその上にいった思考になってはいますけども……


第一形態:(この話オリジナルのねつ造)
容姿:黒マーテル
概要:レジェンディアにでてきた、自身の分身ともいえるマーテルの黒バージョン。
   四千年、という年月におけるマーテル教の信仰の闇部分が形になったものといってよい。
HP:126,600
TP:999
(ノルン第二形態のステータスを参考にしてあります)
(lvでいけば80あたり推奨)
※HPが千をきると、第二形態にと変化します。

第二形態:(この話オリジナルのねつ造)
容姿:フォルトゥナ
概要:ディスティニー2にでてきた、ラスボス、神の卵から孵った神。
   原作ゲームではエルレインにほとんど見せ場をもってかれてる哀れな神様。
   私的には、まちがいなくシンフォニアの時代、
   クラトスが宇宙空間に放った、数多のエクスフィアが融合し、
   神の卵になった、と私はおもってます。
   この容姿なのは、かつて(古代大戦時)この姿の女性が神、と信仰されていたがゆえ。
   (当時…古代大戦時まではいくつもの信仰がいりまじって、宗教戦争も当たり前、という認識です)
HP:200,000
TP:999
完全耐性(魔法、物理)の技をもっており、定期的に切り替えてくる。(←この話独自の設定)
(フォルトゥナのステータスを第二形態は参考にしています)
※HPが千をきると、第一形態と同じく、第三形態…
 すなわち、”聖獣ユリス”としての姿へと変化します。

お供:ミニ天使達。
概要:ユリスの意志一つで生み出される、あまたなる眷属。
   人々の祈りが彼ら、”天使”を生み出している。
   リバースの”ユリスアイ”にかわるお供達です。
   デスティニー2にでてきた、ミニ天使?の敵シリーズ、です。

第三形態:(この話オリジナルのねつ造)
容姿:シュヴァルツ(この姿が聖獣ユリスとしての姿になります←人も獣、という扱いです)
概要:リバースにでてきた、ラスボス。人の心よりうまれたユリス。
   原作では聖獣王ゲオルギアスに封じられていた。
   形もさだまらない、悪意の結晶ともいえる黒い塊のような存在。
   この話はかつても同じようなことをしていましたが、
   ラタトスクの干渉によって、テネブラエの眷属になることで、
   力をより正しく使用できるようになっています。
   心を正しくもったことにより、形のない姿から、
   レジェンディアのシュヴァルツの姿へとなっています。
HP:320,000(本来の原作ではユリスは二万。シュヴァルツは十七万四千五)
TP:999
(アビスのネビリムのステータスを第三形態は参照にしております)


ちょこっと一言:
ラスボス戦、といえばやはり連戦で、しかも形態変化あり、ですよね!(マテ)
なので、lvやアイテム、装備などは必ずチェックを・・
255という最高lvにしてても勝てない敵、というのもいますからね・・・
テイルズシリーズにしろ、他の作品にしろ……
第三形態による(?)世界の混乱。(事実はラタトスクによる歪みの修正なれど)
エターニアのグランドフォール、あれによっておこってた地表の異常。
あれに近いものだとおもってください。
あと、台詞、あれ?どこかできいたことがあるような?
そうおもった人はお仲間ですv
これまでも参考にしてつくってますけど、勇者シリーズや、エルドランシリーズ、
(通称サンライズシリーズ)…いいですよねぇ。
今、あんなに興奮できるような作品ないような(汗)
というか、改めてみなおしたら(DVDBOX)・・あのクオリティ、
よく昔はセルのみでつくってたよなぁ・・とおもったり。(しみじみと)
当時は、録画設定してて、親にその設定上書きされてて(つまりはけされてた)
よく落ち込んだのを思い出します(マテ)
あのリシーズは年齢いってても興奮というか、のめりこめる何か、があったような。
・・・GGGの原型なんだろうか?やはりゴウザウラーって(マテコラ)


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重なり合う協奏曲~聖獣ユリス~

どれだれの攻防、どれだけの相手の攻撃をうけては回復を繰り返しただろう。
あいかわらず、切り札になりえるような力がたまらないままに。
やがて。
「お…おおおっ。なぜ…なぜ、なぜどうして!
  なぜ、人の望みよりうまれし私をあなたたち人が否定するの!?」
どろり、と目の前の黒いマーテルの姿がとけてゆく。
それはまるで、脱皮するかのごとく。
「かつてのときもそう。私は人の心より生まれた。人々が真に望んでいること。
  それは永遠の幸福!!そうであろう!ミトス・ユグドラシルよ!!
  貴様も私と同じのはず!無機生命体による千年王国を、と掲げていたお前まで私を否定するかっ!?」
どろり、と溶けだしたそこから現れたのは、マーテルとは似ても似て突かない、一人の女性。
金の髪をなぜか山盛りにしたようにとたばね、その瞳は凄烈なる金。
かつての人類が…魔族と今では化しているかつての人類が金をより重宝していたこともあり、
それらもふまえて、ユリスのヒト型形態そのものは、基本、金色が主体、となっている。
そしてそのことを、この場ではゼロスのみが、しっている。
ヴェリウスの心の試練の中で星の記憶をかいまみたゼロスだけが。
その服はどこかの神殿に仕えている祭司というか、神官たちを連想させなくもない。
先ほどまで真っ黒であったがゆえに、その服の白さがよく目立つ。
しかし、驚愕するのは、そこではない。
姿がかわるとともに、あきらかに、”力”が向上した。
対面している彼らには、その違いがよくわかる。
みしみしと、空間すらもきしませるほどの大きな力。
空間同士がぶつかり合い、彼らのいる空間に、ありえないオーロラのようなものがあらわれる。
それは、磁場、というか空間が不安定になっている証拠。
気をぬけば、周囲の重苦しいほどの空気に息ができなくなってしまいそうな、
そんな圧迫感がここにはある。
その圧迫感は、まるで、虚無にいざなうような、無気力にさせてしまうような、
そんな圧迫感、ではあるものの。
「くっ。マーテルの姿をしているときは力を抑えていた、というわけかっ!こいつは!」
ユアンが忌々しそうにそう言い放つ。
たしかに、この現状をみれば、そう、としかいえないだろう。
連続して様々な攻撃をうちこみ、相手が少しでも弱体化しているか、とおもえば、
逆に相手はそのマーテルの姿、という殻を脱ぎ捨てて、さらに力ある存在の姿にとかわってしまったのだから。
「ユアン・カーフェイ。クラトス・アウリオン。
  お前たちとてミトスの意見に同意していたのであろう?
  何ものにも害されない、何も考えない、無機質なる世界。
  そこに心などは必要とはしない、静寂なる世界を。私がしようとしていることとどこに違いがある?
  すべてが死してしまえば、もう、何も考えることはない。
  魂すらをも消滅させてしまえば、もう、何も。それこそ完全なる平和というものではないのか?
  ミトスよ。お前とて人々には救済が必要だ、そうおもっているのであろう?
  完全なる無こそ、人々にとっての救済、そうはおもわないのか?」
それは、姿をかえた、ユリスからの問いかけ。
その台詞に、クラトスもユアンも顔をしかめるしかできない。
この四千年ばかり、そんなミトスの考えに同意し、手をかしていたからこそ。
しかし。
「君とは根本的なところが違っているんだよ」
そんな”ユリス”の台詞をさらり、と一方的に否定するミトス。
そう、根本的なところが違っている。
「――僕は、たしかに。
  心ありしもののみが、無機生命体となっていきていけば、争いも何もかもがなくなる、とおもっていた。
  それでもいずれはもしかしたら心がうまれるかもしれない。それはわかってた。
  時を得て、そんな世界が違っている、と思うものがあらわれるかもしれない、というのも。
  この四千年、でもそういったものたちは現れはしなかった。
  ただ、僕の…いや、僕らがつくりあげた、クルシス、という力をもとめるものばかりで。
  姉様が復活して、世界を一つにもどしたとしてもまちがいなくひとは争いを繰り広げる。
  それを確信していながらも、僕はクラトスに約束した。世界を一つに戻すことを。
  かつての盟約がある以上、そこにいきるものたちがどうなろうとも、すくなくとも、大地は残る。
  大地の存続と、大いなる実りの発芽。それが盟約の条件だったから。
  一度、この惑星から大いなる実りとともに離れたとしても、その約束は違えられることはない。
  だからあのとき、僕は一度、この惑星から離れよう、ともおもった。
  でも、僕が本当に望んでいたのは、そうじゃない。
  …人が、真実の意味で、種族を問わずに、心から協力しあえる世界。
  それをずっと望んでいた。クルシス、という組織を束ねる僕、という存在が、
  世界の人々にとって、敵、とおもわれることで、人々が一致団結するんじゃないか。
  そういう淡い期待ももってたんだ。けど…結局、そういったものはこれまで一度も現れなかった」
皆が皆、クルシスのもつ力ばかりもとめ、団結して戦う、ということすらしもしなかった。
あるのは、他者を虐げてゆくばかりで。
「――八百年前、シルヴァラントの王族が、かの国が魔導砲を開発し、
  さらには精霊達を閉じ込め力を吸い出す装置をつくりあげたとき。
  僕はそれまでの行動から変えることを決めた。
  定期的にマナを衰退、供給しているだけでは、ヒトはかわることができはしない。
  ――そこに目に見える脅威がない限り、決して団結することはないだろう、とね」
そして、その役目を自分が担おう、とおもった。
どうせ、精霊達を閉じ込めた、封印した段階で、自らの命はこの世界にささげるつもりであった。
精霊達を封じた以上、オリジンを封じた以上、あのラタトスクがだまっている、ともおもえなかった。
でも、それでも。
自分の懇願を聞き入れてくれたかの精霊だからこそ、自分の命ひとつで、
世界が団結できるような世界にするためだ、と説明すればわかってくれる、とはおもっていた。
どちらにしろ、地上はすべての命が一度、浄化され、新たなる歴史を紡ぐはずだったのだから。
ラタトスクにその行動をさせたくはなかった。
するのなら、ヒトの手で。
大樹を枯らしてしまう、という愚かなる争いを始めた人の手で終わらすのが道理、とおもったから。
「――初期の段階では微精霊達の力を暴走させ、心を封じた形をとるとしても。
  いずれは、微精霊達もその穢れから解き放つ必要があるのもわかってた。
  その方法も、僕はすでに予測していた」
ユミルの森の水。
かの森の水は、大樹の根から供給されるマナによって常に高純度のマナを誇っている。
実際、かつてそれとなく、幾度とその予測を裏付けるために実験したこともある。
クラトスやユアンにだまり、天使化させたばかりのものを利用して。
「――四千年、という歴史の割には、救いの塔の中にあった棺が少なかったのはそういうこと。
  再生の神子の体をつかい、僕はそれらを検証し、確信をえてた。
  普通のヒトとなった神子は、繁栄世界におくって、マナの血族、として神託が下ったことにして、
  より強いマナの血族を生み出すために利用させてもらってた」
『!?』
その事実は、クラトスもユアンも初耳で。
ゆえに驚くしかできない。
いわれてみれば、救いの塔の中にあった棺は四千年、という時間のわりに、少なかったような気がする。
もっとも、数多くの神子がその器化に失敗しており、数までは把握しきれていなかった。
だからこそ気づきはしなかった。
「――契約の資格を持ち得るものを殺していたのは、それらがほとんど、
  どこかの組織に属し、命じられれば精霊達をも利用しかねない存在達ばかりだったから。
  そうでない血族に関しては見逃していたのに、でもそれぞれの国がそれを許しはしなかった。
  ……しいな。凛の名をひきつぎし、かつての自然とともにいきし島国の皇族の末裔者。
  君達の一族がその一つ。でも…八百年前のシルヴァラントが開発した魔導砲によって、
  君達の一族が隠れ住んでいた地も滅ぼされてしまった。
  かろうじて、当時の幼かったちいさな直系の姫がユミルの森に疎開していなければ。
  そしてそれらを護衛する民が、君達のいうところの忍たちがいなければ、
  君の一族はあのとき、完全に滅びをむかえていたことだろう」
かの一族に伝わりし、聖獣の力でもってして、彼らはシルヴァラント側からテセアラ側へと避難した。
それが、今のみずほの民、としての始まりともいえる。
「!?」
しいなにとってもそれは初耳で。
「――僕は、幾度うまれかわったとしても、やはり姉様が害されたとするならば。
  いくらでもこの方法を、これまでの生き方を選ぶ。
  彼、だけに人が起こした後始末をつけさせるわけにはいかないから。
  僕らのわがままによって、大地の延命を許してくれた彼のためにも。
  だからこそ、僕は世界にとっての”悪”であり、”統治者”になることを決めた。
  万が一、僕が殺されたとしても、僕らが利用していた石がある。
  その石に意識をこめて、自らの魂でもってして大樹をよみがえらせるつもりで。
  姉様がそれをしなかったのは…自分がそれをするわけにはいかない。そうおもっていたからだともおもう」
大樹の発芽はあくまでも、ヒトの命ではなく、マナによって。
大いなる意志の影響下で芽吹かせる必要がある。
そうおもっていたのだろう、ともおもう。
「――彼が、この惑星と交わしている契約を遂行していくために。
  君の意見は僕にとっては害、でしかない。
  もっとも…君からしてみれば、この惑星がなくなれば、彼の制限がなくなっていいじゃないか。
  とおもうのかもしれないけどね」
契約があるからこそ、ラタトスクはこの惑星にと縛られている。
それをミトスは理解している。
でも、だからといって、その契約を人のわがままで破棄というか、
ないがしろにさせてしまう、というのは間違っている。
絶対に。
世界の運営上、存続にかかわる理をひくのは、彼…ラタトスクだ、とそうきいた。
だからこそ。
彼が定めたことを、第三者の干渉によってないがしろになんてさせるわけにはいかない。
彼と、この惑星が契約をし、いまだその契約が続行中、という以上は。
「――確かに。魔族が干渉し、僕の心が負に侵されかけていたのもあるとはおもう。
  事実、それらの思いもほとんど薄れかけていたしね。ただ、
  僕が世界の害となりし、また平穏をもたらす統治者にならないと、という思いだけはのこってたけど。
  あの時、大樹が無事に…あの彗星が飛来したあのとき、発芽できていたとしても。
  ……僕はすくなからずとも、今のクルシスと同じような組織を間違いなくつくっていた、と断言できる。
  愚かなる、大樹を狙う人々をどうにかするために」
かつての思いを完全に思い出したのは、デリスエンブレムを常に身に着け始めてから。
忘れていたかつての決意が霧がはれるかのごとくに今では思い出せている。
そこまでいって、一度目をとじ、そして静かに。
「――ヒト、というものは必ずどこかしらで救済をもとめている。
  でも、求めるだけじゃあだめ、なんだ。自分から動かないと。
  仮初でも平和の時間が長く続けばその分、戦争などといったものを知らないものもでてくる。
  その結果、欲におぼれていってしまうのも、またヒトの心、というもの。
  …テセアラの現状がまさにそれを示しているようにね。
  完全に一つの組織で管理された世界。それが今の悪しき伝統を一度消してしまういい方法だ。
  そうもおもったからこその、千年王国。…僕がどうして永遠なる王国、といっていなかったのかわかる?
  千年もあれば、ヒトはそれぞれの心をみつめ、そして互いに協力することを覚えるだろう。
  そう、おもったのに……」
でも、結局は、四千年。
だれもそういった意味で行動を移すことはなかった。
ただ、自分たちがあたえた、偽りの神話。
それらを信じ…まあ、そのように仕向けたのも自分たちなれど。
「――クラトスが、僕を裏切り、地上におりて、子をもうけた、としったとき。
  僕は今いる地上の人々すべてを助けることはあきらめた」
あれだけそばにいたクラトスも、自分の心をきちんと理解してくれていなかった。
そう理解したからこそ。
結局、本当の意味でわかりあえることなどはできないのだ、そうおもった。
でも、だからといって。
「――君のいうところの、この惑星の消滅による、静寂なる無。それだけは認められない。
  仮にもヒトの数多なる念によって生まれた君がそれをしてしまえば。
  それこそ二度と顔向けできない、そうおもうから」
それはミトスの本音。
これまで誰にも話していなかった、本音。
否、おそらくラタトスクだけは気づいていたはず。
だからこそ、自らのそばにいてくれたのだろう。
自分が気づく、その時まで。
自らの中にたまっていた、瘴気などを取り除くために。
そして、まさに、世界の決定は下された。
世界はかつてのように一つになりて、ヒトは存続を許されるのか否か。
この一連の騒動は、そのためのヒトに対しての試練、なのだろう。
自身が無機生命体という心なき平和な世界という、偽りの平和でヒトを試そうとしたように。
「――君も、ヒトの心から生まれたからこそ、そして、テネテネ…テネブラエの眷属だからこそ。
  この計画に協力してるんでしょう?ヒトの心、とはあるいみで諸刃の刃。
  光にも闇にも属する。でも、闇は正しき闇はすべてを抱擁する。
  正しき闇の眷属になっている君だからこそ、その力を正しく今は使いこなせてる。
  でも…かつては違った。その力が暴走し、この地表すべてが瘴気におおわれてしまった。
  それが、彼が封じていた魔界、ニブルヘイム、とよばれし場所。
  君が彼をこの惑星から解き放ちたいと思うように、僕もまた、
  彼にはヒトの思惑などで契約を蔑ろになんてしてほしくない。
  だから…方向性はまったく違ってる、としかいいようがないよ」
そんなミトスの本音ともいえる台詞に、この場にいる全員がただただおどろき、
ミトスを凝視するしかできない。
いや、というか。
今、ミトスは何といった?
この目の前の、ユリス、と名乗った敵が…誰の、眷属だ、と?
ゼロスのみはしっているので、軽く溜息をついていたりするのだが。
「あ…あはははははは!さすがは、ミトス・ユグドラシル、といったところか。
  そこまで視とおしているとはな!そう。
  この試練に人が負けようが、私としてはどちらでもいい。
  というか、この私にこうして正しき心を与えてくださったあの御方を。
  どうして愚かなるヒトが闊歩するこんな世界に繋ぎ止めておく必要がある?
  すでに、かの御方が封じていた魔界は新たなる世界へとうまれかわり、
  その世界では新しき理のもと、かの世界にいたものたちは、一部を除き生を許されている。
  私は人々の思いの結晶。念の塊。
  それは、今も昔もいえること。私のありかたそのものが、人々が心の奥底で望みしもの。
  ヒト、だけではない。この惑星の意志とてそう。
  命あるもの、いずれは命つきる。でも、かの御方の庇護下にあるかぎり、それは免れる。
  そして、その力をヒトは欲のために求め、そしてかの御方の心を傷つける。
  ――センチュリオン様方は、かの御方に…大いなる意志に忠実ゆえに、かの御方の決定に従うしかない。
  でも、かの御方々も、大いなる意志の心を煩わせたくなどはない。
  それは私とてそう。だからこそ、私は許可がでた以上、こうしてすべての存在に干渉している。
  これでヒトがかわらなければ、ヒトなど所詮そんなもの。
  人々は私の力をうけ、それぞれが自滅してゆくだけ。
  かの御方が手を下すまでもなく、な」

何ごとにおいても、かの御方の心を惑わすのは、ヒトの心というもの。
それがわかっているからこそ、かの御方はヴェリウス、という心の精霊を生み出した、というのに。
その精霊の力すら、ヒトは利用しようとし、かの精霊は実体化をする力を失った。
それでも、引き留めたのもまた、ヒトの心で。
ヒトの心より生まれたユリスだからこそ、そのありようが、不可解ともいえるココロの在り方は理解しているつもり。
そして、このたびの試練。
その中で、目覚めたかの巫子姫は。
自らの意思で、この惑星の意志と契約を果たした。
そのことを、ユリスはテネブラエの報告でしっている。
でも、だからといって、この試練に手をぬくつもりは、ユリスとしてはまったくない。
むしろ、どんどん力をこめていき、世界に害にしかならないような輩は排除してしまえばいい。
できうれば、文明力すらたもてないほどに駆逐できれば御の字。
そうおもっているのも、また事実。

「ヒトの心、とはいつだって救いをもとめている。究極なる望み、それは。
  死、という完全なるしがらみからの解放をなっ!だが、ヒトの心とは死をおそれる。
  ゆえに、不老や、不死、長寿といったものにあこがれ、それらをもつものを迫害する。
  自分たちが持たない力だからこそ、その力をねたみ、あわよくば手にするために思考を巡らせる。
  だが、目に見える安らかなる救いがあれば、ヒトの心はそちらに目をむける。
  ヒト、とは目の前にある望みをどうしても受け入れてしまうがゆえに。
  私がしようとしている方法こそが、ヒトにとって、真の救済。真の幸福。
  ヒト、だけではない。世界にとっても。無に還る、ということは、大いなる意志の中に還る、ということ。
  余計なことはそののち、一切考えなくてすむ。それこそが真の幸福、ちがうといえて?」

それはあるいみで究極の問いかけ。
死は静寂。
世界がなければ、そこには喜びも悲しみも確かにうまれはしない。

「それ、この世界を、
  否、あまたなる宇宙空間を生み出している、彼の思いにそむく、とわかってていってるの?」
そんなユリスの台詞にミトスの冷めたような台詞が発せられる。
「すくなくとも。この世界がなくなれば、この惑星がなくなれば。
  かの御方は自由になれる。契約というしがらみがなくなり、かつてのように。
  気の向いたときにのみ、世界に干渉し、見守りしこととなる。
  かの御方の心の平穏を望むのならば、ミトス・ユグドラシルよ。お前も賛同するべきではないのか?」

「って、冗談じゃねえぜ!あのエミル君がどんな契約を、この星とやらとしてるのかはわかんねぇけど!
  でも、今をいきる俺様達とてこの星の大地の上にいきている以上、権利はある!
  というか、妹が死ぬ前提の世界なんてみとめられるかよっ!」
「…精霊ラタトスクと惑星との間にかわされた契約。その重さは私たちにはわからないわ。
  けども、これだけはいえるわ。私たちが大地とともにいき、自然とともにある。
  そうすることをこの世界に、それがてきるのだと納得してもらうことができれば。
  その契約も果たされた、と惑星の意志が判断し、契約完了という旨をいうのではないかしら?
  それに、死が真の救済、真の幸福、とはおもえないわ。
  少なくとも、私には。ヒトは、心があるからこそ、生きているからこそ、
  …いえ、死しても心があるからこそ、そこに幸福を感じることもできる。
  苦しみや悲しみを抱えているからこそ、より幸福を感じられるの。
  いずれは、私たちも死をむかえるでしょう。でも、その意志は、心は受け継がれてゆく。
  ヒトは、愚かではないはずよ。たしかに愚かなものもいるでしょう。
  でも、それを正そうとするものも必ずあらわれる」
それこそかつて不可能、ともいわれていた大戦を終結させた、という勇者ミトスのように。
ミトスの言い分も、そして目の前のユリスの言い分もリフィルのは理解できる。
できてしまう。
でも、だからといって。
ミトスが目指したもの、ユリスが目指すもの。
どちらも認めることなどはできはしない。
ミトスの前提は、いずれは自らの死をもってしてでも、世界に平穏を、というもの。
対するユリスは、どうせヒトは過ちを繰り返すのだから、すべて無に還り、静寂という名の平穏を。
どちらもリフィルとしては認められない。
それに、何よりも
「――それらを理解しているからこそ。彼は…エミルはこの惑星と契約を結んだのではなくて?
  かつて地上を浄化していたとしても、そののちに人はまた産まれていたはずよ?
  苦しみの中にも幸せをみつけだすことができるヒト、というその心。それを信じて」
それは、リフィルの、勘。
「――人の幸せ、とは千差万別。たしかに死はすべてに訪れるであろう平等、であり。
  真なる救済、といえるのかもしれぬ。だが、ヒトは未来を信じる心。
  自らの手で幸せをつかみ取りたい、と願う心。それらの心を踏みにじることでもある。
  かつて、私がミトス、という光を信じ…今また、ロイドという光に希望を見出したように。
  だが…私もミトスの真意がわかっていなかった、のだな」
ミトスがそのように考えていたなどとは。
クラトスはまったくおもってもみなかった。
ただ、ミトスがかわってしまった、とおもうばかりで。
それでも、何もしなかったのは、行動におこさなかったのは、クラトス自身。
ユアンですら行動をおこし、レネゲード、という組織を立ち上げた、というのに。
クラトスはだた、ミトスにいうがまま、いわれるままに、無碍に時間を過ごしていた。
何も行動しようとはせず。
いつかはミトスがかつてのミトスにもどってくれる。
そう信じるだけで。
「それはクラトスだけではない。私にもいえることだな。
  だが、ユリスよ。ヒトの思いより生まれたのがお前というのであれば。
  我らヒトが、死をいざぎよくみとめることなどはないだろう、というのもわかっているはず。
  人は、皆、自らの意思で、希望を、未来を、幸せをつかみ取ろう、と生きあがくのだから」
「愚か。人が、儚くも愚かでしかないヒトがいきあがき、そのたどり着く結末は?
  それぞれの自分の豊かさだけをもとめ、自らが生きる大地すら穢し、殺してゆくのがヒト、というもの。
  それぞれが、自らの力だけで真の意味の幸せをつかむことなどはありえない。
  この試練がおわったとしても、お前たちからはかの御方の加護は取り除かれているまま。
  大いなるマナの加護のなくなった世界を、お前たちはいきてゆけるのか?
  たとえ、マナを感じられなくてもいきていけるような新たなる理がしかれていたとしても。
  マナの恩恵をしっている豊かさというものをしっている人間が、それに甘んじることができるとでも?
  すでに、かの御方は決定を下された。マナというボウダイな力を人が感じ取れるからこそ。
  人は過ちをおかすのだ、と。お前たちもわかっていよう?
  このような、精神世界面に通じる場所以外では、すでにマナが感じられなくなっているということくらいは」
『それは……』
マナを直接感じることのできるジーニアス、リフィル、リヒター、ユアンが言葉を詰まらせる。
たしかに、普通の地上ではマナを紡ぐことができなかった。
ユアンやクラトスにしても、石の力を使わなければ、紡ぐことは不可能であった。
「絶望し、混乱する世界になるよりも前に、今ここで。
  すべてが消滅してしまったほうが、それこそ真の平和であり、幸福といえるのではないか?」
ユリスの言い分も一理あるかもしれない。
でも、それでも。
「――ヒト、とはそこまで愚かではない、と私としてはおもう。
  マナを利用した、様々な開発をしていたわが社からしてみても。
  ヒト、というものは逆境にも立ち向かう力をもっている。そう思う。
  事実、混乱する街の中で人々は互いに協力しあうことを時間とともに成し遂げていた。
  我らは、力に頼りすぎていた、というのは認める。
  その発端を担ったのがわが社である、というのもな」
彼らの会話の最中にどうやらリーガルとプレセアの時間停止の有効時間がきれた、らしい。
いつのまにかプレセアとリーガルの時間が動き出したらしく、
そんな彼らの会話にわってはいってくるリーガル。
「――かつて、マナの恩恵がなくても、世界が発展していた、というのであれば。
  …すくなくとも、マナの恩恵がなくとも、生きていけるという何よりの証拠。
  過去にあったという教訓をいかし、自然とともにある生き方を探すのもまた今をいきる我らの務め。
  誰かに管理されたり、強制されて、ではなく。
  それぞれ、各自が、自然とともにあることを意識すれば自然を蔑ろにすることもまずありえないだろう。
  このたびの一件で、ヒトは自然の力の大きさ、というものをよりつよく実感したはず。
  だからこそ、そのような愚かなことを考えるものは少なくともしばらくはでてこないはずだ」
しばらくは、といったのは。
人の心というものが、どこまでも豊かさをもとめ、暴走するものか、リーガルもまた理解しているがゆえ。
ゆえに、リーガルは、その会話をきき、いわずにはいられない。
「―そうして、かつてのように。元素を利用した兵器をつくり。
  この地表の命をもまきこんで、ヒトは破滅へとまた突き進んでゆく、というの?
  しっていて?かつてのこの地表が瘴気におおわれたのは、何も私という存在が生まれただけではない。
  その前提があったからこそ。
  当時の人々は、元素を利用した兵器をいくつもつくっていた。
  それこそ大地を死に至らしめる兵器をたくさん。それらをもってしてヒトビトは争いを繰り返した。
  その結果、大地は死に絶え、そして、私、という存在が具現化した」
あまりにも人々が大量に、世界を死に至らしめる兵器を利用したせいで、
そしてまた、力をもとめ聖獣達の力をも吸い出そうとしたがために。
世界は完全にと瘴気につつまれた。
それこそ、この惑星ができて間もないころの状態になったといってもよい。
その当時の人々が願いしは、こんな世界など滅んでしまえばいい。
そして、ユリスが具現化し、器を脱ぎ去った、精神生命体たる魔族、というものが誕生した。
それはこの惑星にとっての、終わりともいえる記憶。
ラタトスクが干渉しなければ、あのまま魔族達の思惑のまま、まちがいなく惑星ごと消滅していたであろう。
当時はかろうじてのこっていた、少しばかりの器ある生命体たちとともに。
「当時を知らないあなたたちにいっても無駄ね。
  どちらにしても。私はあなたたちと戦うことをやめはしないわ。
  私が勝てば、あの御方はこの世界から解放される。
  私が負ければ、その時には…さあ、どちらが正しいのか、人々が望んでいるのか、決着をつけましょう!
  私の力、それは人々の望みの力そのもの、あなたたちに勝機があるかしら?
  そこの狭間なる存在があつめている力もまた、人々の思いの力。
  でも、私の存在そのものが、人々の思いの結晶体であるのもまた事実!」
そういい、ふわり、と浮き上がる。
その背には真っ黒い鳥のような翼が二対。
「――原始杓光」
すいっと、ユリスが手を掲げるとともに、小さく言葉を紡ぎ出す。
刹那、上空、というか頭上を覆い尽くさんばかりの炎が突如として出現する。
炎は浄化。
かつて、炎の聖獣がメルトキオの地でおこなったように。
だが、ユリスの使用する炎は、たしかに浄化の炎、ではあるが、
それらはすべてを破壊する、という意味合いでの浄化の炎。
ユリスが生まれいでるきっかけともなった、古代における核の力にも等しき力。
この術は、地上にむけ、高熱と爆風を巻き起こす。
それこそ文字通り、高熱と爆風で何もかも浄化し、すなわち無に還す。
それは人の身にとっては、文字通り、下手をすれば一瞬で命を落としかねないほどの高熱の炎。
「!ダイダルウェーブ!ユアン!」
「まかせろ!サイクロン!!!」
その術が炸裂すればまず、自分たち以外は致命傷どころか命をおとしかねない。
ゆえに、即座にミトスが反応し、水の術を解き放つ。
だが、それだけでは、逆に炎と水によって発生した高熱の水蒸気。
その水蒸気によってさらに被害がでてしまう。
ミトスの台詞をうけ、すばやくユアンもさっし、
発生するであろう水蒸気を拡散させるためにと、風の術を解き放つ。
触れれば必ずやけどするであろうほどの高熱の水蒸気。
ミトスの放った術が、ユリスの放った炎をどうにか消し去るものの、
それによって生じる大量の水蒸気が消えてしまうわけではない。
この水蒸気だけでかるくヒト一人くらい殺せてしまうほどの熱量をもっている。
「なら、僕は…幻惑の霧よ 狼狽の葉てに見ゆるもの 最後の火をともせ!レイジング・ミスト!!」
ただ、霧散させてしまうのはもったいない、とばかりに。
ジーニアスが今まさに発生した水蒸気を意識して、術を紡ぎ言霊を紡ぎ出す。
この技のありようそのものが、高温の蒸気で相手を攻撃する、といったもの。
そして、今まさに。
ユリスとミトスの術によって高温の水蒸気が発生している。
ならばそれを利用しない手はない、とばかりにジーニアスが術を解き放つ。
だが、ジーニアスの放った術は、まったく効果がないのか、直撃してもまったくユリスは意にも介していない。
「耐性の変動、か。やっかいな」
それをみて、ミトスがぽつり、と声をもらす。
時折、そういった技をもっているものがいる。
主に魔物などに関して、ではあるが。
絶対防御、といえるのかもしれない。
物理攻撃無効といった物理耐性百%ほ誇る技。
そして、呪文攻撃無効、といった属性攻撃態勢百%を誇る技。
おそらくは、目の前のこのユリスの姿の形態がそれにあたるのであろう。
そう瞬時にミトスは判断する。
この技をもつものに対し、面倒なのは、攻撃をしかけてみるまで、
今がどちらの耐性をもっているのか、というのがわからない、ということ。
かといって、こういう輩は、自動回復の力をも持ち合わせていることが多い。
ゆえに。
「アステルさん!ひたすらに常にスペクタクルズで相手の情報を僕らに伝えることはできますか!?」
本来ならば、術が使えるものは、術を。
斬撃がつかえるものは、物理的攻撃を。
そうするところなれど、でも今はここに、ほぼ戦力にもならない人間がいる。
ならば、彼の力を借りたほうがよほど効率的。
すなわち、スペクタクルズによる、属性調べ。
かの品は、相手の状態をも視とおすことが可能。
「やってみます!今…そのユリスは、属性耐性がついてます!」
ミトスにいわれ、すばやくスペクタクルズを取り出し…というか、
どうやら自分に何ができるのか模索しながら、すでにウィングパックの中より、
様々な道具をいれていた道具袋をとりだしている、らしい。
もっとも、入れていたとおもわれるウィングパックは、アステルが魔物の糸でつくった布。
それから離したとたん、朽ちるように消えてしまったが。
「テセアラの神子、お前は勘だけはかなりいいでしょ!?
  何か違和感を感じたら、すぐにアステルさんに使用するように指示をだして!」
「……ユグドラシル様よぉ。その、勘だけはいいって、…まあ、いいけどな」
たしかに、勘はするどいほうだ、とおもう。
でなければ、幼少のころからあるいみで魑魅魍魎、ともいえる欲にかられた大人たちの中で生活などできはしない。
「今、こいつには術はまったくきかない。術しかつかえないものは、
  精神力を今は回復しておいて!それ以外のものは、たたみかけるよ!」
的確、といえば的確すぎるミトスの指示。
わざわざそう指示をするのは、彼ら…特にシルヴァラント組、ではあるが。
まちがいなく彼らはこういった戦いを経験したことがないだろう、という判断のもと。
本来ならば、再生の旅の中でそういった属性をもつ魔物と戦うこともあったであろう。
だが、話を聞く限り、エミルが合流したのは、イフリートの封印解放の場。
で、あるならば、彼らはまちがいなく、魔物との戦闘、などほぼ経験していないはず。
「――爆炎剣!!」
本来ならば、はじめから炎を纏った闘気を刃にまとわせる技。
だが、ミトスはその技を少しばかりアレンジして相手にたいし、だっと間をつめる。
それは、相手に斬撃が通じたその直後に炎の闘気をまとわせる、といった行為。
この方法であるならば、すくなくともまったく属性によるダメージがはいらない、というわけではない。
しかしそれはほんの数秒にもみたない一瞬の闘気の操作が必要となり、
普通ではできない。
そう、普通なら。
「――飛燕連脚!」
「猛虎豪破斬!」
ミトスが切りかかると同時、クラトスが飛燕連脚をときはなち、
いっきにユリスとの間合いをつめ、そのまま大きく剣をふりかぶり、相手にと剣を振り下ろす。
それとともに、その背後より、ユアンがダブルセイバーをかまえつつ、
その両端の刃をくるくると回転させつつも、斬り上げ、斬り下ろし、
彼らのいる足場よりも浮いている状態のユリスの真横より逃げ場をださないごとくに斬りつける。
連続して攻撃をうけるから、であろう。
そんな中でもふわり、とユリスは浮き上がり、
そのまま、
「――いでよ。我が眷属たちよ」
ユリスがすっと片手…ユアンがきりかかっている右側の反対側。
すなわち、左手をすっと掲げる。
ユリスの手より、いくつもの闇の球体が現れ、それらは、ふわりふわりとユリスの周囲をまったかとおもうと、
やがてそれはいくつものヒト型をなしてゆく。
それは、ちいさな少年、少女たち。
だが、特徴的なのは、それぞれの背に、翼をもっている、ということ。
白い翼に黒い翼。
ウィルガイアにてみた天使達と同じような、天使の羽を。
「――どうして、天使達が?ミトスさんたちがいるのに?」
その姿をみて、困惑したようなプレセアの声がぽつり、と紡がれる。
「いや。このものたちは、我らクルシスのものではない」
「おそらく、いや間違いなく。このユリスは人々の思いの結晶体ともいえる存在。
  であるならば、四千年にわたって人々が信仰している天使達の概念。
  それらがユリスの力でもってして形になったもの、とみて間違いないとおもう」

ミトスは知らない。
遥かなる未来、ラタトスクからしてみれば、過去。
穢された精霊石が融合し、微精霊達が集合体として実体化したとき、
同じような”天使”を生み出していた、ということを。

「ユリスは僕らにまかせて、皆はロイドの補佐を!
  人々の思いに打ち勝つには、人々の思い、しかありえないのだから!」
想いには想いを。
力でおしつけても、想い、というものは覆らない。
時としてその威力を増してしまう。
それをミトスはよくわかっている。
だからこそ、一度、心という感情をすべて殺してしまおう、とおもいついた。
それが、千年王国、という思想を起こす、すべてのきっかけ。
プレセアの台詞に淡々とクラトスが答え、その直後ミトスが返答する。
もっとも、その間も彼らはユリスに対する攻撃をとめてはいないのだが。
「――いくわよ。皆。ロイドには手をださせないように!」
「――皆!?」
「ロイド。集中して!ロイドが力を早くあつめればそれだけ皆の負担が少なくなるんだよ!?」
多勢に無勢。
ユリスが産みだした、彼女曰くの眷属は、かつてリーガルが足止めのためにのこった、
かの地で現れた天使達よりかなり多い。
それにしても、ミトス達は器用、というか、実戦経験が違う、というか。
ユリスと対峙しつつも、攻撃をくりだしてきている”天使”達をもかるくさばいている。
連携がうまくとれている、というのはあのようなことをいうのであろう。
それでも時折、ユリスの放った、術が無造作に解き放たれ、
集中しているロイドを連れて、ふわり、とその攻撃範囲からコレットがロイドともども逃れる。
そんな光景が繰り広げられていたりする。


「・・・・くそっ」
何となくわかりはするのに。
でも、力が、思うように集まらない。
いや、集まってはいる、のだろう。
だが、その集まった力のほとんどは、そのままユリスのほうに流れていっているような感覚をうける。
事実、流れていってしまっているのだろう。
ロイドが集めようとしている力も、ユリスが原動力にしているであろう力も所詮は同じ物。
集中しなければいけない、とわかっているのに。
それでも、皆が傷つくたびに、そちらに意識がむいてしまい、
せっかくあつまりかけた力がそのままユリスのほうにと流れていってしまっている。
巨大な魔法陣が現れては、魔法陣の内部にて荒れ狂う雷。
空から無尽蔵に降り注ぐ、光の雨。
ゼロスが時折、アステルに対し、何やら叫び、その都度、
アステルが、今のユリスの状態を皆に伝えているようだが。
周囲に無尽蔵にと出現する、天使達がユリスへの攻撃を妨げている。
「ユリスの回復力がまたあがってます!」
「ロイド!集中しなさい!あなたが他にきをとられてしまえば、
  ここに集っている力がすべてユリスにむかうことになるのよ!!」
アステルの指示が飛ぶ。
光の雨にうたれつつも、リフィルが全員を回復させ、
精神力がかなり減りかければ、アステルが袋よりグミを取り出し、術者に渡す。
そんな光景がもう幾度みうけられただろうか。
ユリスの放った術に倒れるジーニアス。
怪我をおっては、リフィルの回復術で回復するものの、回復術では失った血は戻りはしない。
皆が戦っているのに自分だけ、とおもってしまう。
自分も皆と戦うべきだ、と。
でもしかし。
自分がこの場に満ちている力を集めようとし、実際少しでも集め始めれば、
ユリスの攻撃の威力が弱まり、また召喚しているであろう天使達の数も減る。
ロイドが気を取られ、集中力をかいてしまえば、天使も増え、ユリスの攻撃の威力も増す。
そんなアステルの言葉をうけ、リフィルの叱咤がロイドにとむけられる。
叱咤しつつも、リフィルもまた、フォトンなどといった攻撃術でわらわらとあつまってきている、
天使達と戦っているのがみてとれる。
視界にはいる、皆が戦い、傷つく様子。
そんな中で集中し、力を集めなければならない、というこの状況。
わかっているのだ。
理屈では。
でも、心がおいついていかない。
自分が力を集めようとし、実際にあつめられたという実感がともなえば、
相手の攻撃などが弱体化している、というのも。
目に見えて、発生する術による余波が少なくなれば嫌でも理解ができる、というもの。
でも、それでも。
しかし、逆をいえば、みえるからこそ、皆が傷つく様子もみてとれてしまう。
ユリスはユリスで時折、どうやっているのかはしらない。
しらないが、ミトス達の眼前から突如として移動し、
いきなり別な所にあらわれてきていたりする。
幾度かロイドの真横や真後ろに出現したことも。
「ロイド!!」
「っ!シルヴァラントの神子よ!そいつの眼をふさいどけ!
  目にみえるから戸惑うのならば、みえなければいい!
  力とは、感じるもの。目にみえなくても集めることは可能のはずだ!」
ロイドがつぶやくとほぼ同時。
再びロイドの真横にいきなり出現したユリスに対し、
すばやくとんできたクラトスが、ロイドの名を叫びつつ、そんなユリスをその場より吹き飛ばす。
このままでは、まちがいなく、戦っている自分たちの体力がつきる。
しかし、肝心の力を集める役割を担うべき、ロイドは皆が傷つくたびに集中力をかいてしまい、
そのたびにせっかくあつめたとおもわれし力をすべて失わせてしまっている。
しかも、それらの力を敵…ユリスにあたえてしまう、というおまけ付きで。
クラトスに続き、ユアンもクラトスが吹き飛ばしたユリスに接近し、
そのまま、大きく武器をふり仰ぐ。
少しでも相手をロイドから遠ざけよう、としているのであろう。
ひたすらに虎牙連斬を繰り出して、相手を少しづつではあるがさらに後方にと下がらせているのがみてとれる。
そんな攻撃をくりだしつつも、ユアンがコレットにむけて何やら叫ぶ。
そう、目に見える光景によって心がまどわされてしまうのであれば。
目をみえなくしてしまえばいい。
無の力、とは所詮目に見えない代物。
いいかえれば、心で感じ取る力、といってもよい。
集めるのが心の力である以上、心の力を感じるのもまた、心の力でしかありえない。
「ふえ?目をふさぐって…そだ。ロイド、ちょっとごめんね?」
「コレット!?」
そういわれ、何かロイドの視界を防ぐものはないか。
そうおもい、ふとコレットの眼にとびこんだのは、
なぜかマフラーのごとく、ロイドの服についている、赤いピラピラ。
腰よりも長いそれは、目をふさぐにはあるいみうってつけ。
そのまま、それをぐいっとひっぱり、ロイドの目元にもってゆく。
いきなり背後からコレットに抱き付かれ、ロイドとしては戸惑わずにはいられない。
そのために、さらに集めかけていた力が再び散っていたりする。
キュッ。
「よし。これでいいかな?」
ロイドに背後から密着しだきつきつつも、ロイドの視界をロイドの服の一部で覆う。
「あとは…こう、かな?」
目にみえるものだけが、心を惑わす、のではない。
逆に目にみえないゆえに、音だけで不安が増幅することもある。
それをコレットはよく知っている。
ゆえに、ぴとり、とロイドにくっつきつつも、その手によって、ロイドの両耳をふさぐ。
そうすることにより、コレットはあるいみ無防備になってしまうが、
ロイドの耳をふさぐことのできるような耳栓がないのだからどうしようもない。
おそらく、意識すれば、耳栓のようなものも実体化、できるたろう。
でも、所詮は、意志の力でつくりだすもの。
ロイドが強く聞きたいとおもえばまちがいなく、効果はない。
密着しているコレットから、ぬくもりと、それでいてひんやりとした感覚もつたわってくる。
でも、一番肝心な心臓の鼓動がきこえはしない。
わかってはいるものの、やはりこうしてその事実を目の当たりにしてしまうと、
ロイドは何ともやるせなくなってしまう。
コレットは、こうしてそばにいるのに。
生きていない、というその現実。
ああ、プレセアたちもこんな思いを常に抱いているのかな?
ふと場違いながらもロイドはそんなことをおもってしまう。
肉体を失い、魂だけの、精神体だけの存在となっているアリシア。
大切な人が、魂のまま、その場にいるとわかっているのに、生きてはいない、というその現実。
ほんっと、俺ってきちんとわかってなかったんだな。
今さらながらにロイドは自分がいかに考えがたりなかったのか。
それを思い知らされる。
そこにいるだけでもいい。
そう、何度かプレセアやリーガルにいったことすらもある。
でも、それがどんなに残酷なことなのか。
ロイドは理解していなかった。
理解しようとしていなかった。
自分が、コレットと同じような立場になって、ようやく二人の心の葛藤、というものが理解できた。
理解できたというか、理解できたような気がする。
いきなり視界が赤くそまり…どうやら自分の服の一部をつかって、コレットは目隠しをしたらしい。
そして、耳にはコレットの両手がしっかりと、そえられている。
ぴとり、と空気の隙間すらなく強くおしつけられているそこからは、音、といえば、
何かくぐもったような、独特な音しか感じられない。
『ロイド、聞こえる?』
「コレット?」
いきなり、何も聞こえないはずなのに、コレットの声がきこえてきて、
おもわずロイドは後ろを振り向く。
『えへへ。ロイドの心に直接語り掛けてるんだよ?
  幽霊ってこういうこともできるんだねぇ』
のほほん、とコレットは振り向いた先で微笑んでいる。
ずきり、とロイドの心が痛む。
コレットの口から、自らが幽霊でしかありえない。
そうきくと、ロイドは心が苦しくなってしまう。
『ロイドが集めようとしているのは、皆の心の力。
  心、とは目にみえるものじゃないでしょ?だから、ロイド、感じ取って。
  さっきできたんだもの。ロイドにはできるよ。まちがいなく』
さきほど、ランスロッドを倒したあの時のように。
「…俺に…できるのかな?」
『ロイドにしかできないんだよ。さあ、ロイド、心をおちつけて、周囲を感じ取って?
  リフィル先生の授業にもある瞑想の時間のようなものだよ? 
  あ、でも授業と違ってねちゃったりしたらダメだからね?』
いつもその授業では寝ていることをしっているがゆえの、コレットの台詞。

「何としてでも二人には近づきはさせん!」
ぱきり、とリーガルの手につけられている、枷が外れる。
外れた手錠は、落下するよりも早く、そのままぼろり、と朽ち果てる。
「リーガル様、補佐しますわ!お姉ちゃんは自分でとべるから平気よね?」
「ちょっ、アリシア!?」
「リーガル様に、憑依もどきっ!」
この空間であるならば。
リーガルのマナを引き出すことは、さすがのアリシアとてできはしない。
だがしかし。
自分が憑依することで、リーガルを空中へと運ぶことはできる。
それはコレットがしていたことをみて、アリシアも自分もできる。
と踏んだからこその行動。
手の部分のみを実体化させ、それ以外は精神体…すなわち、実体のないままで。
この空間はいわば、心の空間、ともいえる。
意志の力がより強い力を生み出すことが可能。
そして、より精神世界面…アストラル・サイドとよばれている側面の世界に近い。
いうなれば、物質世界より、精神世界…すなわち、アリシアのような霊体。
すなわち精神体が活動するにはうってつけの空間といってもよい。
さきほどのように、負の力のみが強く表れているわけでなく。
この空間には、様々な心の力が集まってきている。
精神体のみの存在だからこそ、アリシアにはよくわかる。
そして、精神体には基本、重さはない。
ゆえに、その意志ひとつで、浮かぶことも、また何かをすり抜けることすらも可能。
生前のアリシアでは、リーガルを抱きかかえるようなことはできなかったであろう。
でも、この空間であるならば、それが可能となる。
「さ。リーガル様、思う存分やっちゃってください!」
「アリシア…すまぬ。一緒にたたかってくれるか?」
「はい!リーガル様!」
何やら二人の世界にはいりこんでしまいかけている、リーガルとアリシア。
「あ・・・あの子は……」
「あいつら、今が戦闘中だって…自覚してるのかねぇ?」
プレセアがこめかみをおさえ、つぶやけば、しいながあきれたようにぽつりともらす。
あるいみで、あまずっぱい空間が二つできあがっている、といってもよい。
誰と誰、とはいわずもがな。

「――三散華!」
リーガルによる、連続した蹴りと拳がくりだされる。
いつも、リーガルは、手に手錠をかけ枷をしていたがゆえ、蹴りだけの攻撃であったが、
今はその手錠は先ほど取り外したばかり。
ゆえに、両方による攻撃を相手…すなわち、たむろしてくる”天使”たちにむけて解き放つ。
「湧き上がる水流にのまれてきえよ!煌びやかな水の羽衣となりて基に捧げん!スプレッド!!」
こちらにむかってこようとしている数多の天使。
そんな天使達にむけ、ジーニアスが水の術…スプレッドを解き放つ。
沸き上がった水流が、むかってこようとする天使達を逃げ遅れたものたちをことごとく巻き込み、
そしてまた。
「正義を理となす尊き光よ、我は光偽り問うことも邪を貫くもまた一つの理…ホーリーランス!」
ジーニアスが巻き込みそびれた天使たちにむけ、すばやくリフィルが術を解き放つ。
いくつもの光の槍が虚空より出現し、そんな天使達を貫いてゆく。
完全なる命あるもの、ではないのであろう。
それらの天使達は。
ある程度のダメージをおえば、まるで周囲の空間にとけこむようにきえてゆく。
ミトス、クラトス、ユアンは相変わらずユリスと対峙しているらしく、
リヒターはリヒターで、アステルに近づこうとする輩を徹底的に排除していっているのがみてとれる。
思うところがあるのだろう。
リヒターとともに、ゼロスもまた、アステルの護衛のほうにまわっており、
それによってどうにかアステルの安全はかろうじて守られているらしい。
プレセアはむかってこようとする敵を少しはなれ、近づく前に撃退していっており、
そんなプレセアをしいなが符術でカバーしながら相手の動きをとめては
しいな自身も攻撃をくわえ、少しづつ、ではあるが確実に敵を倒していっている。
そんな中。
「…これ以上は時間の無駄。楽にしてあげましょう。…ラスト・ヴァニッシャー」
「「!?フィールド・バリアー!」」
詠唱をしているひまはない。
ものすごい力が頭上にと集まっている。
みれば頭上にどうみても、月?のような星、にもみえるナニかが二つ。
まちがいなく、この威力をまともにうければ命はない。
命はあったとしても、瀕死は免れないであろう。
頭上に突如としてあらわれた、巨大なる二つの星?…惑星、といったほうがいいのかもしれない。
ともあれ、それらがぶつかり合い、とてつもない衝撃派をつくりだす。
衝撃波だけでも、体勢を維持できないほど、たっていること、浮いていることすらも難しい。
リフィルがすばやく全体の防御力をあげる術を解き放つが、
これがどこまで効果があるのか、それはリフィルにもわからない。
だが、やらないよりはまし。
同じような思いにいたったのか、マルタとリフィルの声が重なる。
リフィルが基本、攻撃を主に繰り出せていたのはマルタの存在があってこそ。
回復に専念しているマルタであるがゆえに、周囲を飛び回りながら、
それぞれ完全に回復させているがゆえ、皆が皆、どうにか戦えているといってもよい。
「!アステル!」
「!?ロイド!!」
その威力が危険だ、と気づいたのであろう。
リヒターがアステルの体に覆いかぶさるようにして、アステルに衝撃が届かないようにと、
自らの身を盾にする。
そして、クラトスはといえば、剣を前にと掲げ、おもいっきり天使の翼を展開させ、
ロイドとコレットの周囲に簡易的な結界を創り出す。
「っ!ヒールウィンド!」
その威力の高さに気づいた、のであろう。
ユアンが高らかに、とある術を同時に解き放つ。
上空より解き放ったユアンの術は、ユアンの足元を中心として魔法陣が展開され、
魔法陣の上下ともども、その効果の威力を発揮する。
魔法陣の内部にいる、味方、と術者が認識したものの体力を一定の時間内において、
数回、体力を回復させるこの技は、
魔法剣士、とかつてよばれしものが利用していたひとつの術。
ちなみに、この技というか術は、クラス、ユアン、ミトス、そしてゼロスとマルタも扱える。
ユリスが放ったとてつもないエネルギーともいえる衝撃派の攻撃は、
それぞれをその場から吹き飛ばしかねないほどの威力をもちはするが、
かろうじてユアンの繰り出した回復術によって、気絶をするものなどはどうやら免れる。
「リヒター!?ミックスグミ…ああもう、ミラクルグミがあればいいのに!!」
アステルの研究のひとつに、完全体力回復と、完全精神力回復の薬の開発、というものもある。
エリクシールやミラクルグミ。
そういったものを人為的に大量につくりだせないか、という理由で、
趣味の一つとしてアステルはそれらも手をつけている。
エリクシールのほうは、ユミルの森を利用することによって、
よりかぎりなく近い品が一応つくれてはいる。
研究所のそれらを利用というか、非検体にされてしまったものたちは、
劣化エリクシール、と呼んでいたが。
それらの劣化版もここにくるまで、というか飛行竜にのるまでに使い果たしている。
本来の、貴重品ともいえるエリクシールはまだ袋の中に残ってはいる。
でも、残りはあとわずか。
自分をかばい、怪我をおったリヒターにと、アステルがむりやりにと、その口の中にグミを押し込む。
そして、追加とばかりに、ちいさな瓢箪の中にいれているとあるジュースもリヒターの口の中にと注ぎ込む。
いきなり流し込まれ、ごほごほとせき込むリヒターの姿がそこにはみうけられていたりするのだが。
「――ミトス!!」
そんな中、マーテルの声がその場にと響き渡る。


何もみえない。
何も聞こえない。
世の中に自分しかいないとおもってしまうほどの、静寂。
聞こえるのは、ふさがれた耳から、何か水に深くつかったときのような、くぐもったような音のみ。
それでも、自分だけではないとおもうのは、耳に添えられている手があるからこそ。
そして、心に…なのだろうか?とにかく、何もきこえないはず、なのに。
聞こえてくるコレットの声があるがゆえ。
見えるから、戸惑ってしまうのであれば、目をふさげばいい。
ロイドは、よく狩りで気配をたどるとかやってたでしょう?
その要領みたいなものだよ。
コレットにいわれ、集める力が、力、でなくて、獲物、すなわち食料だ、と認識してみる。
言われて意識してみれば、たしかに周囲には自分たちとは違う気配が漂っている。
無意識のうちに、手を伸ばすと、どうやらその力はつかめる、らしい。
らしい、というのはロイドの感覚でしかないが。
先ほども感じた、いろいろな人達の思い。
それらの”気配”に意識をむけてみれば、たしかに。
この場にはさまざまな人々の思いというか思念が漂っている模様。
そして、それらの力が一か所に集まってゆく感覚も。
そして、もより判別不能といえるほどの、”何か”。
巨大な光とも闇ともいえない、ものにむかって、それらは集まっていっている。
まるで、例えるならば真昼に出現した黒い太陽のごとく、
その存在は気配からしても際立っているのが感じ取れる。
もより、人では手出しができないほどの、大きな”何か”。
人々の思いは、それに吸い込まれると同時、同化するのか、もしくは吸収されるのか、
それ以後、ぱたり、とその気配をみせなくなる。
逆に”それ”が力を増していっているのがわかってくる。
ああ、そうか。
俺が集めようとしていたのは、”これ”なんだ。
なぜ、自分が力を集めようとしていれば、相手の力が多少はそがれていたのか。
認識してみればよくわかる。
この場に集っている力は、もう疲れた、早く楽になりたい。
誰か助けて。
そんな様々な思いがほとんど。
数多のたくさんの人達の思い。
負、というのはいまだによくわからない。
でも、それがヒトの心というのであれば。
感じる数多の人々の思念のようなこの感情が、そう、なのだろう。
だからこそ、手を伸ばし、そんな”彼ら”に対し、声をなげかける。
より強く。
「――皆、頼む。俺は、皆を護りたい。世界がどう、とかでなくて、大切な人達を護るために」
だからこそ。
「だから…力を…かしてくれ!!」
強制してあつめるのではない。
協力してもらうことが必要なのだ。
と漠然とだがそうおもう。
無理やり、力のみで集めようとするからこそ、力が散ってしまっていたのだろう。
この場に集っている皆にも大切に思う人がいるだろう。
家族がいるだろう。
家族を中には失い、絶望し、死んでしまいたい、と思う人もいるだろう。
でも、そんな人にもいいたい。
そんな絶望を他の人にも与えることのないように、この戦いを終わらせるために。
だから。
「――俺達が、俺達として、生きていくためにも!!」
ヒトに対する試練だ、とエミルもいっていた。
さきほど、ミトスも人々が協力することが必要だったみたいなこともいっていた。
難しいことはロイドにはよくわからない。
でも、これだけはいえる。
死んだら終わり、とおもっていた。
でも、そうではなかった。
でも、死ぬ前に、生きていたからこそ、魂となってもその想いが残るのだ。
ならば、生きているときに精一杯。
悔いが残るかもしれない。
取り返しのつかないことを選択するかもしれない。
でも、だからといって、第三者に理不尽に今の日常を壊されたくなんてない。
一番守りたいコレットも、自分がふがいないせいで、命を落としてしまっている。
真後ろにいるのに心臓の鼓動が一つもきこえない。
後悔はあとでもできる。
今、後悔ばかりに目をむけていれば、皆もコレットと同じように失ってしまう可能性が高い。
だから、今、自分にできることを。
「全ての人が、死という平穏を望んでいるのではないはずなんだっ!!」
ユリス達の言い回しはよくわからなかった。
世界を無に、というか地上を無にかえそうとおもっていた。
そういっていたエミルの台詞も、いまだにロイドはきちんと理解はできていない。
だけど。
だけども。
あの”心”の中でみた、折り重なる知り合い達が死んでいる光景。
そんな光景は現実になどさせたくはない。
「――だから、この場に集っている皆、力をかしてくれっ!!」
それは、ロイドの心からの願い。
心からの願いで発した言葉には力がこもる。
言霊、とでもいうべきか。
そして、この空間はあるいみ、意志力が力になる、といってもよい。
ただ、思念として、心の思いだけでこの場に集っていた数多の人々の”想い”。
そんな人々がロイドの言葉に反応を示す。
死にたい、とおもっているものでも、心のどこかでは誰かが助けてくれれば。
そんな思いを少なからず抱いている。
ロイドの言葉に従い、集まってくる、無数の人々の”想い”。
ロイドは今、視界をふさがれて、何がどうなっているのか。
皆が今、どうしているか、なんてわからない。
つい、さきほど、ユリスの攻撃によって、皆が瀕死に近い怪我をおったことすらもわからない。
クラトスが自分たちを守ったのもロイドは知らない。
知る由がない。
みえないロイドの瞼の裏、というか脳裏に、人々が集まってゆく光景がふと浮かぶ。
それは、幾多の人々。
知っている人もいる。
知らない人もいる。
人々の集まりは、やがて、大きな光の球体のようだ、とロイドは認識する。
「――ミトスっ!」

声は、マーテルとほぼ同時。
マーテルが叫ぶのと、ロイドが叫ぶのと。
ロイドの頭上。
そこに大きな、やわらかな光をたもつ、球体が出現している。
柔らかな光の中には様々な色がひしめきあっている。
「――我が意志によりて具現化せし、聖なる魔剣よ!聖剣よ!
  今こそ、この場の力を喰らいて、力となし、目の前の”敵”を打ち砕かん!!
  ……天翔蒼破斬 てんしょうそうはざん!」
ロイドの集めたあまたなる思念、すなわち力を自らの意志で具現化した剣にと取り込む。
それらはすべては”石”の力を熟知しているミトスだからこそできること。
かの石は、周囲のマナ、だけではない。
すべての力をも取り込む特性をもっている。
ロイドの集めた数多の思い。
それらを剣にと凝縮し、そしてそのままの威力…否、
凝縮したがゆえ、その威力は高まっている。
ともあれ、そのまま剣が蓄えた力と、自らがもつ力。
それらをあわせもってして、闘気を最大限にたかめ、ユリスの頭上に”転移”したのち、
そのままいっきに、ユリスめがけて降りおろす。
転移、などといった技も、この四千年の間。
ゼクンドゥスの力を研究していたミトスだからこそできること。


『いっけぇぇぇぇぇ!!!』
そういったのは、誰だったのか。
自然と、そう声がでてしまう。
おそらくはこれで決まらなければ、後がない。
しいなが、ジーニアスが、ゼロスが、アリシアが思わず口にする。
「こしゃくな!防いでみせる!う…うぉぉぉぉっっっっっ!」
ユリスが集めた力と、ミトスの放った闘気の塊が拮抗する。
バチバチ、と空間そのものが揺らいでしまう。
「まずい!足場がくずれかねないぞ!飛べるものは、飛べないものの補佐を!!」
足場どころか、この場を形成している”力”こそも崩れかねない。
それほどまでに、巨大な力がせめぎあっている。
みしみしと、空間に亀裂がはいったようにみえるのは、おそらく目の錯覚ではない。
クラトスがそのことにきづき、全員に注意を投げかける。

何がおこっているのか。
戸惑うロイドのためにと、コレットがロイドの目隠しをとる。
そんなロイドの眼にはいったは、剣を振り下ろすミトスの姿と、
そんなミトスから発せられている衝撃のような光の塊。
いうなれば、光の帯?とでもいうべきだろうか。
ともあれ、それらをどうにか押しとどめ、さらには押し戻そうとしているユリスの姿。

「!ジーニアス、しいなっ」
「わかった!」
「はいよっ!!」
力は拮抗。
だが、ユリスはどうやらミトスの攻撃を防ぐのでどうやら精一杯。
で、あるならば。
ユリスの気を、少しでもそらせてしまえばいい。
かといって、あの攻撃からその攻撃によってユリスが範囲内からでてしまえば意味がない。
それにリフィルも気が付いた、のだろう。
かといって、周囲にいる無数のユリスの眷属たち…すなわち天使達が消えたわけではない。
この場で、遠くに対し、奇襲ができるとすれば、ジーニアス。
そして、少しではあるが、相手の動きを鈍らせる技が使えるしいな。
ゼロスはクラトスの言葉をうけ、アステル達のもとにといっている。
ユアンはリヒターの。
クラトスはクラトスで、リーガルのもとに。
クラトスの勘、ではあるが。
まちがいなく、この空間が壊れてしまえば、いくらアリシアが憑依していようとも、
普通の人間が空を…すなわち空中を飛ぶ、ということはまずありえない。
そう判断してのこと。
ゆえに、リーガルの近くに移動し、いつでも対処できるように、
リーガルの周囲にといる天使達を攻撃してゆく。

「人の生業に非ず その塵なる身を知るがいい 陰陽に告ぐ紅を捧げん、散力護符!!」
すばやく印を刻み、残りすくなくなってはいるが、躊躇せずに札を取り出し、力ある言葉を解き放つ。
しいなのはなった力ある言葉は、その言葉によりて、そのまま列になって、
ユリスのもとにとむかっていき、ユリスの体にとまとわりつく。
これらの術は、符、としいなが呼んでいる札が簡易的な結界の役割を果たし、
力ある言葉の種類によって、その威力を解き放つ、というもの。
それが符術使い、とよばれているものの所以。
自らの精神力と、自然界の力。
言霊、ともよばれる自然界への問いかけの言葉によりて、力を引き出す技。
ミトスの攻撃に反撃しているのも、裏を返せば攻撃力に近いといってもよい。
だからこそ、動きを鈍くさせる敏捷律を下げる技より、攻撃力を下げる符術をしいなは選択した。
「蒼き刃の無数に貫き凍り付くとき悲壮に眠れ、フリーズランサー!!」
ジーニアスはジーニアスで、氷の術を選択する。
炎、だとしいなの符を燃やしてしまいかねない。
風では符を散らしてしまうかもしれない。
選択した結果、ジーニアスが選んだのは氷の技。
この技であるならば、氷の槍を投げつけるようなものなので、離れていても効果はある。
というか、むしろ攻撃をしかけようとする敵から離れていなければ扱えない。
ジーニアスの声に従い、六つの氷の槍が虚空にと出現し、そのままユリスにむかってつきすすむ。
「こしゃくなっ!…って、く…あああああっっっ!」
しいなと、ジーニアスの術をかるく蹴散らそうとそちらに意識をむけるが、
その隙を逃すミトスではない。
より強く力をこめ、一気にユリスへとさらに闘気を高めてたたきつける。
拮抗していた光の帯が、やがてゆっくりとではあるがユリスにとせまり、
突き出しているユリスの手を飲み込み、やがて、ユリスの体全体を飲み込んでゆく。
それとともに、
「おのれ…おのれ、狭間のものよ!幾多ものヒトの心をたばねるかっ!
  だが、私は…私はぁぁぁっ!」
ドォォッン!
ユリスが完全に飲み込まれるのと、ものすごい衝撃が周囲を覆い尽くすのとほぼ同時。
その衝撃波によって、周囲に数多といた無数の天使達もことごとく消え去ってしまう。
「!みんな、一か所にあつまって!」
散っていれば、威力も半減してしまう。
どうもこの空間では、術の威力継続時間も短い、らしい。
ゆえに、新たに防御術を使用する必要性がある。
「空間がっ!!」
コレットが叫ぶ。
みれば、ぱきぱきと、空間にヒビがはいり、
やがて、轟音とともに、空間そのものがはじけ飛ぶ――



きらり、と目にはいる太陽の光がまぶしい。
思わず目をつむり、そしてあまりの明るさに目をみひらく。
そこには、先ほどまであったはずの空間そのものがみあたらない。
むしろ、上空からは太陽の光が降り注いでいる。
さらにまぶしく感じてしまうのは、太陽が沈みかけ、夕刻に近いということもあるのだろう。
眼下には海がみえ、このあたりがどこなのかはよくわからない。
雲が足元というか眼下をゆっくりとではあるが移動していっている。
「きゅ~」
「って、お前!?うわっ、完全に小さくなっちゃってる!?」
ふと、アステルの声がする。
みれば、アステルはゼロスにしっかりと抱きかかえられている。
そんなアステルとゼロスの周囲に小さな竜のようなものがくるくるとまとわりつきながら飛んでいる。
「それ、初期よりさらに小さくなってないか?」
銀色のその小さな竜のような生物?は、どうみても今では手のひらサイズ、でしかない。
すりすり、とアステルにその小さな体をこすりつけている。
「…そういえば、そいつが孵ったとき、アステルをまっさきにみてたな、こいつは……」
おそらくは、刷り込み現象が発生したのであろう。
つまりは、生まれてから初めてみたものを親、とおもいこむその現象が。
そのことを思い出し、リフィルに抱きかかえられつつも…というか、リヒターとしてはこの状態。
かなり心苦しいのだが。
どうやら、親を心配して、空間が壊れたこともあり、飛んできたらしい。
そう、リヒターは判断する。
ちなみに、飛べない人物たち。
すなわち、リヒターはリフィルに、リーガルはユアンに、アステルはゼロスに。
それぞれ抱きかかえられていたり、
両手でぶら下げられているようにもたれているような形でかろうじて落下は避けられている。
「というか。アステル君。そいつにある程度おおきくなってもらえることできねえか?
  足場がおまえさんたちにあるだけでも大分ちがうんだけど?」
まだ、完全に勝利した、とはおもえない。
それはゼロスの勘、でしかないが。
だからこそ、誰かを抱えているままでは、戦闘もままならない。
「えっと、あの水、たしかまだいれてたのがのこってたような……」
たしか研究用にかなりついでにあの時。
この飛行竜、とよばれし幼竜がユミルの森にでむいたときに、
アステルもまた水を大量にと確保している。
水を飲んでかつて大きくなったのであれば、再び水をあたえれば、
少しは大きくなるかもしれない。
そうおもい、
「神子様、しっかりとすいませんが固定しといてくださいね。
  えっと…水をいれてるやつは…と」
どうでもいいが、用途にあわせ、いくつもウィングパックをもっているのは、
おそらくこのアステルくらいではないだろうか。
それらはすべて、やわらかな絹?のような布でつつまれている。
その”布”でつつまれていたからこそ、アステルのそれらは消滅を免れているといってもよい。
ごそごそとアステルが水をいれているはずのウィングパックを懐…
すなわち、白衣の裏側にいつもつくってある裏ポケットの中から探り始めるそんな中。
「やったのか!?」
「僕たち、かったの!?」
ロイドと、ジーニアスの声はほぼ同時。
思わず、顔を見合わせる。
今、彼らは飛べないもの以外は、それぞれ、翼や羽衣といったものを展開してソラに浮かんでいる状態。
「この雲は…わた雲、のようね。なら今、私たちはかるくみつもっても、
  高度二千メートルあたりに浮いている、といったところなのかしら?」
一方で、周囲を注意深く確認しつつ、リフィルが客観的な感想をのべる。
雲の種類によって、大体どの程度の高さにいるのか、というのがわかる。
古き文献などによって、そういった情報はかろうじてシルヴァラント側にものこされてはいた。
もっとも、リフィルはヘイムダールにおいてそういった自然現象における事柄。
それらをすでに学んでいたからこそ確信をもっていえるのであるが。
まぶしいまでの太陽の光。
地平線のかなたに沈んでいこうとしている太陽。
上空からみれば、自分たちが住んでいる台地が円いことがよくわかる。
地平線は平らでなく、やわらかな曲を描いている。
「!皆油断しないで!!」
ミトスのスルドイ声が周囲に響き渡る。
それとほぼ同時。

「――滅びの時よ。ディメンショナル・マテリアル」

静かな、それでいてよく響くような”声”がその場にと響き渡る。
それは唐突。
真っ青な空に突如として出現する真っ黒い球体。
それらの球体が周囲の大気を、雲を、すべてのみこんでゆく。


「あれは…ブラックホールの術か!させない!…次元斬!!!」
先ほどの攻撃でかなり、自身の精神力もつかっている。
でも、それが何だというのだろう。
周囲の大気から力を石の力によってかきあつめ、それを自身の力となし、
その黒い球体にむけて、次元を切り裂く技を解き放つミトス。
あれはほうっておけばまちがいなく、地表に激突するだろう。
ゆっくりとではあるが降下していき、大地ごと飲み込んでしまうはず。
ここは、結界に覆われている空間、ではない。
つまり、戦いの余波は普通に大地に、この惑星に及んでしまう、ということに他ならない。
それにすぐさまにきづき、ミトスがすかさず反撃する。
「なっ!?あれでもまだ倒しきれてなかったのかよ!?」
ロイドの声は、まさにその場にいるほとんどのものの心を代表している、といってもよい。
だがしかし。
「――そうか。これはすべての人類に対する試練。これからが本番ってこと、なんだね」
自分たちだけが戦っているのでは、意味がない。
たしかに、地上でも戦いはおこっているのだろう。
だが、それはあくまでも人の心が産みだした存在達にたいしてのみ。
アステル達からきいた地上の様子ではすくなくともそのようにいっていた。
ミトスが険しい表情をうかべつつ、声のしたほうをふり仰ぐ。

闇が、集う。

「――我が名はユリス。かつて人の心がうみだせし、人の心を代表せしもの。
  かの大いなる意志が人の心を司る精霊をうみだしはしたが、
  私はそれ以前の存在。人は心の奥底では平穏を、静寂もとめている。
  だからこそ、私は不滅なり――」
声は、地上にいるすべての人々にと届く。
数時間前にきいた、声と似ているが、どこか違う。
戦っている彼らは気が付いていないが、かるく六時間以上がすでに経過していたりする。
それでも生理現象などといったものがおこっていないのは、
彼らが戦いの中で緊張しているからに他ならない。
「ヒト、というものが私というものを形づくる限り、
  ヒトが他者をねたみ、害し、虐げる行為をする限り、私は私としてここにありしものなり」

聞こえてくる声は、嫌でも人々の心にと突き刺さる。
誰しも一度はすくなからず、誰かをうらやんだりもする。
行動にはうつさなくても、そうおもっているものも多々といる。
ゆえに、誰もが思わず空を見上げてしまう。
空はどこまでも晴れている。
だが、ソラの中のとある一点。
遥かなる空中。
正しくいえば、正午の時期にはそのあたりに太陽があるであろうその場所。
そこに真っ黒い、球体のようなものがみてとれる。
あまりにも遠くて、彼らには黒い球体、すなわち黒い太陽、のようにしかみうけられない。
そしてまた。
夜である場所においても、それはみうけられる。
夜だ、というのに周囲の暗闇よりもくっきりと。
まさに周囲の光すべてをのみこんでしまったかのような、黒い球体…黒き月が。
ミトスが次元斬によって、力によってブラックホール、
すなわち重力の渦を壊したゆえに、この付近の空間というか次元そのものが歪んでいる。
だからこそ、この場の光景は、地上のすべての個所において、
まさに、今上空でおこっているかのようにと”みえて”いる。

「――さあ、今こそ真の救済の時!!」

ドォォォッン!!

その声とともに、世界各地において轟音と、大地の揺れ。
そして、山や海が荒れ狂う。
人々は知らない。
これは、まだ歪みののこっている大地を正常に戻すための最後の修正だ、ということを。
はたからみれば、ユリスの声によって、大地が悲鳴をあげているようにみえるだろう。
だが…真実は、そうではない。
ユリスが地上すべての人々を試すことがわかっていたからこそ、
あえて最後の修正をユリスの行動にあわすようにラタトスクが意識しただけ。

地上でそのような現象がおこっているなど、空中にういている彼らは気づかない。
否、気づくことができない。
ユリスのたかだかとした宣言とともに、彼らは真っ黒い、隣すらみえないほどの黒い霧にと包まれる。


ぶわり、と広がった黒き霧は、彼らを包み込んだだけでなく、地上においても降り注ぐ。
まるで、黒い霧のカーテンがおりてきたかのごとに。
ついさきほど、夜空、もしくは青空などがみえたばかりだ、というのに。
いったい、上空で何がおこっているというのか。
少し前にそれぞれが感じた、女神マーテルたちが戦っている。
そのことにおそらく関係はあるのだろうが。
それに、今の声。
声のトーンは異なれど、
あれは『女神マーテルはすでに我がうち』といっていたあの声の主なのではないだろうか。
で、あるならば。
やはり、女神たちはたたかっているのだろう。
テセアラの神子ゼロスが伝えてきたように。
先ほどみえた、黒い太陽や黒い月。
おそらく、そこが戦いの場。
で、あるならば。
「大天使の皆さまにまけず、我らも我らの役目をこなすぞ!」
「はっ!ふがいないといわれないためにも頑張りましょう!」
困惑する人々とは裏腹に、地上の各地にいる天使達は改めて気を引き締める。
地上を任せてくれた、ユグドラシル様のためにも。
正直、天使達からすれば、人など見捨ててもいいのでは。
とおもうのだが、だが心優しきユグドラシル様やマーテル様達のこと。
それをすれば自分たちは見捨てられてしまうだろう。
あくまでも、表と裏。
クルシスの裏がディザイアンという組織であるならば、
表であるクルシスそのものは、清廉潔白であることが必要となるのだから。
霧にとつつまれ、かろうじて形を保っていた、様々な建造物。
どちらかといえば、研究所や工場といった類。
そういった施設のことごとくが霧につつまれ、一気に朽ち果ててゆく。
きちんと指導ができる立場のものがいる場所においては、
天使達のそんな会話がみうけられ、
一方、下っ端でしかなかった天使達しかいない場所においては、
自然と彼らの中で指揮をとるものがあらわれていたりする。
天使達に共通している想いは皆同じ。
皆が皆、四大天使達、すなわちユグドラシルやマーテル達の力になりたい。
ということ。
彼らが戦っているとするのであれば、
地上の煩わしい出来事は、自分たちでできることならばどうにかするべき。
少しでも、四大天使の皆さま方の気苦労を減らすべく。
天使達とて、戸惑いはある。
これまで、忘れて久しい、自身で考えて行動する、という思考そのもの。
感情の起伏、といった面。
ついでにいえば、なぜか熱さ、寒さも感じられているこの違和感。
天使化をはたしている自分たちはそれらを感じることがないはず、なのに。
マナをきちんと扱えなければ、それらの体感調整も自身でコントロールすることは不可能。
きちんとコントロールができているのであれば、マナの翼が固定化してしまい、
翼、として物質化するなどはありえない。
それでもそんな戸惑いよりも先にくるのは、四大天使達に対する恩義と忠誠心。
だからこそ、天使達は行動する。
いくら野蛮で愚かで、下卑た下等生物、と見下してもおかしくはない人間たちが相手だとて、
四大天使の一人、ユアンから直々に指示がでた以上、することは決まっているのだから。
マナが紡げない、というのがかなり痛い。
いつのまにかなくなっていたエクスフィア。
そして、空から降り注いだ雨のような”何か”。
それにふれることによって、エクスフィアのような石のようなものがまた体に発生しているが。
それが何を意味するのかは、彼ら天使達にもわからない。
そして、地上にいきる人々にすら。
ともあれ。
自分たちという目にみえる天の御使い、という存在がいることによって、
人々をまとめることができる、とわかっているだけでも少しは違う。
中には彼ら天使にはむかうものもいはしたが、そういうものはこぞって異形と化して、
結果として討伐されてしまっている。
さすがは四大天使の一人でありユアン様だ、ともおもう。
ここで人々に恩をうっておけば、それだけミトスの理想に近づくことができるのだ。
その意味が、今の彼ら天使達にはよくわかる。
『我ら天使一同は、すべてはマーテル様とユグドラシル様の御下に!』
力が扱えない、という点については、万が一、何か不都合があれば、悪意の影響だ、とでもいっておけ。
そうユアンがいっいた台詞がここにきて功を奏しているといってよい。
すべては、今おこっている異変が原因で、天の力が使えなくなっている。
そう人々にいいわけすることができるのだからして。


「――いくら、あなたたちが私に挑んでこようとも。
  人間たちが誰かを疎み、そして蔑むかぎり、私は私として力を失うことはない。
  いわば、あなたたちは人々の心そのものに挑むという愚かな行為をしているに過ぎないのよ。
  マーテル。あなたはそれでもまだ、人々はいつくしむべきな存在だ、とでもいうのかしら?
  愚かで不完全でしかない人間などを?」

声、のみが地上の、否、生きとし生ける、正確にいうならば、”ヒト”としての定義にはいるものたち。
そのものたちにとなぜか聞こえる。
声のみがまるで、脳内に響くように。
そこに相手の姿などは当然みえない。
ただ、感じるのは、上空にみえている黒い月、もしくは太陽。
その中心からその声は発せられている、ということのみ。

「いいえ。いいえ。たしかに、あなたのいうような心のありかたもヒトの在り方の一つでしょう。
  でも、ヒトはそれだけではありません。互いに協力し、いつくしみあい、想いやる心。
  人によってその想いはそれぞれなれど。ですが…これだけはいえます。
  あなたの言い分も理解はできます。が、未来は、ヒトの未来はヒトが切り開いてゆくものなのです。
  過ちもあるでしょう、苦しみ悩むこともあるでしょう。 
  ですが、ヒトはそれらを糧に成長できるいきものだ、そう私は信じています。
  たとえ仮初の平和でも、その平和がやがて真実の平和となるように。
  ですから、いくらでもいいます。地上を、この世界を、人間たちを無くしてしまう。
  というのは私はみとめられません。
  今をいきるものたちには、それぞれの未来があるのですから」
だからこそ、ミトスに間違っている。
そう伝えたかった。
力で押さえつける世界では、意味がないのだ、と。
心を殺してしまう世界においてもまた然り。
そして、自分たちのマナで種子を発芽させてもそれでは意味がないのだ、とも。
確かに、約束においては種子を芽吹かせる、というものではあったが。
自分たち、という個をなげうってまでの発芽はまちがいなく、ラタトスクは認めないだろう。
そうおもっていたからこそ。
だが、マーテルは知らない。
他者の数多の思念や魂と融合してしまった結果、
そして、ミトスの魂が宿りし若木をみて、その木を自分がまもらなければ。
そのためには、ラタトスクは封印しなければ。
そういう思いにかつてはいたってしまったということを。
「…たとえ、欠点だらけだとしても。心があれば。
  その心に温かい血がかよっていれば。
  その血を熱く燃やすことも、また、誰かに分け与えることもまたできるのです」
その熱き想い、熱き心でもって、かつてミトスは地上の永きにわたる戦乱の世界。
それを平和にすることにと結びつけた。
地上の浄化がされるところを、幾度も幾度もラタトスクに懇願して、思いとどまってもらうこともできた。
すべては、心から、ヒトとしての思いが産んだ結果。
魂というか精神だけの存在になってしまった魔族達。
おそらくは、死せる原因ともなった出来事。
肉体を失ったときに思った願い。
それが顕著にあらわれてしまったのではないか、そうマーテルはおもっている。
絶望や恐怖、そして究極の望みは、死という無。
肉体が死にゆく中でおもったことが、精神体にもつたわり、今にまでいたっているのではないか、と。
心と魂、そして肉体はつながっている、とよくいわれている。
魂は肉体にひっぱられ、そして肉体もまた魂にひっぱられる、と。
だが、影響する要因がなければ、そこに変化はほぼみられないだろう、とも思う。
精霊にも心がある、動物たちにも。
そして魔物にも。
誰かを意味もなく排除しようとするは、人間のみ。
でも、それでも受け入れることもできるのをしっているからこそ、
マーテルはその考えを改めはしない。
…その結果、自分の命が奪われたのだ、という現実があるとしても。

「――本当に、あなたと私は平行線ね。
  でも、あなたはそうでも、地上の人々はどう、かしらね?」
甘い、とおもう。
ミトスのほうはまだいい。
害になるようなものは排除する。
その心構えができているようなので。
だが、マーテルはどうだろうか。
まちがいなく、害になるものも抱え込んで、結局自滅してゆくタイプだとユリスは思う。
人々の信仰心が、女神マーテルは慈愛の女神であり、世界の守護神。
そうおもっている心がそのままマーテルという存在に反映されてしまっているかのごとくに。
いや、実際影響をうけているのかもしれない。
長年において、この女性は大いなる実りに魂が入り込んでいたという。
いくら魂が、大いなる意志たる万物の王であるかの御方の授けた特殊な品。
それに入り込んでいたとしても、そこで影響をうけていない、とはいいきれない。
もしくは、もともとこんな性格だったのかもしれないが。
こういうタイプはユリスはよく知っている。
悪い人などいるはずがない、といいきり、余計な知識などをあたえ、
逆に世界を混乱に招きかねない、ということを。
それでもそんなやさしさに救われるものもいるのは事実なれど。
しかし、限度、というものがある。
まあ、象徴、としての”女神”ならそれでもいいのかもしれないが。
自分が活動するにあたり、言われていることの一つに、
自身とマーテルの言葉のみは、…マーテルの言葉は自身の任意で選んでもいいが…
ともあれ、地上の人々にもきかせるように、との”勅命”がある。
特にこの姿…本来の”聖獣”としての姿になってからは、その声を余すことなく伝えるように、と。
それらの会話をうけ、人々がどのような判断を下すのか。
ラタトスク様のお考えはよくわかりませんが、おそらくは、
人々がそれぞれ各自の心と戦えるか否かを試されるおつもりなのではないでしょうか?
とは闇のセンチュリオン様の談。
わざわざこんな面倒なことをしなくても、一度、無に還し、
ゼロから再び生命を再生させたほうが遥かに楽、なはずなのに。
だからこそ、ユリスは試す。
これで人が死んでしまっても、絶滅寸前になったとしても、それは人の心が弱かっただけ。
今の地上の人々は、惑星すらをものみこんで消滅するような技術はもちえていない。
人による惑星そのものの消滅、というのはゆえに今の段階では無理であろう。
本当ならばそうして、かの御方をこの惑星から解き放ちたいのは山々なれど。
「――あなたたちが守ろうとしている愚かな人達がどうするのか、みるといいわ。
  絶望に捕らわれながら…ゆきなさい。エンドオブフラグメント」
それは、この場にいる誰もがきいたことのない技の名前。


ユリスの周囲に浮かぶ、二十四個もの光の球。
そこから、無数の光の雨というかレーザーのようなものが降り注ぐ。
レーザー自体は追尾機能はないのか、かわせばどうにかなりえそう。
ゆえに、それぞれが、レーザー攻撃から回避すべくその場から一気に飛び退く。
ユリスと、マーテルが話している間にどうやらアステルはアステルで、
もっていた”水”を飛行竜にのませることに成功したらしく、
今ではちょっとした小さな飛竜程度の大きさに飛行竜そのものはなっている。
どうにかかろうじて二人程度は乗れるか否か、という大きさ。
すなわち、アステル達がはじめ”卵”より”還った”竜の大きさへとなっている。
さすがに小さな個体に三人ものれば、竜の飛行能力もおちるのか、
皆のいる場所よりも高度がぐん、と下がってしまう。
初め、アステルとリヒターが飛行竜の背に乗り移ったあと、
念のためにリーガルのもとにもいって乗れないか試してみたが、
ぐん、と高度がさがったゆえに、どうしようか思案しているそんな中でのユリスの攻撃。
皆のよけた光の帯というか筋が、幾重にも地上めがけて降り注ぐ。
その光は、歪んだ空間を超え、そのまま地上へとむかってゆく。


突如として晴れ渡ったはず、なのに。
あの声とともに、いきなり、黒い霧があたりを覆い尽くした。
だが、不可解なのは、その黒い霧はせいぜい、大人の腰あたり。
高くて胸あたり…百センチより少し高いくらいの高さで漂っている。
一瞬、視界は降りてきた黒き霧によって覆われたものの、霧が下のほうにてとどまったことにより、
上空の様子はどうにかみてとれる。
もっとも、当人ですら足元の様子がまったくもってつかめない、という現状となってはいるが。
なぜか、心というか直接脳内に聞こえてくるような、というか。
声のトーンはわからずとも、浮かんでくる”誰か”のやり取り。
何というか、いきなり頭の中にそんな言葉が浮かんでくるかのごとくに。
先ほどまでとはまた異なる。
先ほどまでは、きちんと女性の声らしきものから感じていた。
だが、今は。
それぞれの頭に直接、何らかの会話らしきものが浮かんできている。
まるで、そう。
何かの物語や会話を脳内で思い浮かべているときのごとく。
真の救済の時、という声とともに、大地が揺れた。
それからたっているほどもままならない揺れが定期的に断続的にと続いている。
そんな中でのいきなりの黒い霧の出現。
それだけ、ではない。
黒い霧の中になぜか崩れ落ちていくかのような一部の人々。
気分がわるくなったり、倒れたりしたのか、とおもい近づこうとすれば、
そこからなぜか黒いヒト型らしきものが出現する。
そしてそのヒト型は、分裂し、様々な形へと姿をかえる。
それは動物であったり、魔物とよばれる姿であったり、様々なれど。
共通しているのは皆が皆、真っ黒い全身をしている、ということ。
そして、そんな異形のものたちは、やはり、というか、これまで対峙していたものたちと同じように、
というべきか。
問答無用で近くにいるものたちにと襲い掛かってくる。
あるいみで足元すらもみえない霧が、完全にそれらの姿を覆い尽くし、
カモフラージュ機能として働いているのか、”敵”がどこから現れるのか判りにくくなっていたりする。
よくよくみれば、霧が少しばかり動いたりするので何かがいるかもしれない、というのはわかりはするが。
それが敵、なのかそうでないのか、はあまりにも黒い霧が濃すぎて判断はつかない。
霧の高さよりも身長のないものは、視界すべてが黒い霧に覆われているといってもよい。
そんな困惑している最中、突如として、空が明るく光る。
ふと空をみあげれば、ソラから無数に降り注いでくる光の筋。
地上にいるモノ達は知る由もないが、
上空にみえている”黒い何か”。
その空間が歪んでいることによって、攻撃として繰り出された光が地上に降り注がれる。
次元空間が歪んでいるといっても過言でない場所での攻撃の余波は、
空間を潜り抜けるとともに、いくつかの威力に分散し、
それこそ地上に大量の矢のごとく降り注ぐ。
まるで、天の怒りのごとく。


「び、びっくりしたぁ」
「キュ?キュキュキュ~!?」
ほっと、胸をなでおろしつつ、飛行竜…今は、大きさ的には幼竜、とでもいうべきか。
その背においてどうにか光の乱舞ともいえる攻撃から逃れたアステルが声をだすとともに、
何やら、上空にむかって、抗議っぽい声をあげている”竜”の姿。
「あら。この人達がよけた攻撃が地上に降り注いでも問題はないわよ?
  あの程度の威力では地表に傷一つつけられないもの。
  空間の歪みを通るに従い、威力は格段におちてしまうもの」
大地に傷がつくとしても、それはほんのわずか。
王様の決定にそむいてない!?
と抗議の声をあげてくる幼子にむかい、さらりといいきるユリス。
そんなユリスの声が聞こえたのか、ぴくり、と反応を示し、
「…地上?」
そうつぶやくコレットの声はどことなく困惑気味。
そんなコレットのつぶやきに、ただ、ユリスは口元をかるく歪ませ笑みをうかべたのち、
「…まずいわ。ジーニアス、リヒター、あなたたちはどう?」
リフィルの顔が一瞬、曇る。
「…確かに、まずいかも」
「同感だ」
リフィルの言いたいことをさっして、ジーニアスもぽつり、とつぶやき、
リヒターもまた、よくよくみれば、顔をしかめていたりする。
「「「…マナが、感じられない」」」
三人のつぶやきはほぼ同時。
「これまではどちらかといえば、アストラル・サイドに近い空間を魔族が作り上げていたからでしょうね。
  魔族は基本、精神生命体ときくわ。だからこそ、自分たちの有利になる空間を作り上げていたのでしょう」
より自分たちの力を使いやすくするために。
だからこそ、リフィルは溜息をつかざるをえない。
「マルタ。あなたはどう?」
「えっと…治癒術の力は可能、みたい。リフィルさんは?」
「私もそちらは問題ないようね」
たしか、治癒術の力の源、それはユニコーンの力だ、そうきいている。
そして、ユニコーンは聖獣の一種でもあるらしい。
で、あるならば。
精霊達の力は使用できないが、聖獣の力ならばまだ使用可能、ということなのだろう。
でも、聖獣の力を扱えるものなど、限られている。
この場で完全に聖獣の力を利用できるとすれば、それはしいなくらいであろう。
「っ!皆、よくきいて!治癒術は利用可能みたいだけど。
  普通のマナを紡いだ術は、私たちは利用不可能となってるわ!」
おそらく、この現象は自分たちだけではないとおもう。
そんなリフィルの叫びに答えるかのように、
「この地にいるデリス・カーラーンの民の血をひきし血の盟約はすでに破棄されているわ。
  当然よね?この大地に降りたつにあたり、力の放棄を掲げていたというのに。
  そのことすら忘れ、力があるのがあたりまえ、とおもい、他者を排除していって、
  結果的に負を量産する手助けをしていたのだから。
  その想いが、私や魔族達といった、負を糧とするものに力を与えると知っていながら、ね。
  いえ、知りながらもみてみぬふりをしていたといってもいいでしょう。
  本質を見誤っている存在達にはいい薬よね?そう思わない?」
くすくすと笑みをうかべ、何やら楽しそうにいいはなつ”ユリス”の姿。
「大いなる意志の加護をうけし、力を扱うものを許されているそこの存在達とは違って。
  あなたたちはどうなのかしらね?それでも私を止めようとあがくのかしら?」
加護があるからこそ、クラトスも、ユアンも、そしてミトスも。
盟約、という加護が失われている状態においても力を扱うことが可能な今現在。
「世界の恩恵すらもわすれ、自分たちの欲だけに生きる愚かなる人類。
  そしてそんな人類を擁護していたこの惑星ごと、人類は消滅すべきなのよ。
  私、という存在を人類が産みだしたのが何よりの証拠」
「違う!そんなのは間違ってる!よくわかんねぇけど。
  あんたがいうように、人々の心があんたという存在をうみだしたのだとしても!
  でも、ヒトは…エルフもヒトも、ドワーフも…心あるものたちは互いに協力しあい、
  手をとりあいかわることができる、できるはずなんだ!」
「あら?あなたたちに命をたすけられておいて、拒絶する。それがヒトの本質よ?
  貴方たちとてよくわかってるのではなくて?」
ロイドの叫びはさらりとユリスにいなされる。
「それは…それでも、俺は信じてる。人は、かわれる、いや、かわらないといけないんだって!」
口先だけで、きちんと本当に心からわかっていなかった自分がいえる立場ではないのかもしれない。
けど、だからといって。
変われないから、変わろうとしないからといって排除しようとするのは間違っている。
ああ、だからなんだろうな。
ミトスが心を封じてしまえばいい、という結論にいたってしまったのは。
心があるからこそ、他者を排除しようとしてしまう。
ならば、心をなくしてしまえばいい。
というような極論にミトスは思い至ってしまったのではないか。
ふとロイドはそう思う。
なぜだか、あの時から・・・エクスフィアがなくなってしまったあのときから。
自分でいろいろと考えをめぐらせるようになっている。
それがなぜ、なのかいまだにロイドにはわからない。
でも、忘れないからこそ、いろいろと考えられる。
これまで、なぜすぐに忘れていたのか、という疑問はありはすれど。
「俺は…俺はこれまで、散々、かわらないと、といっていて、本当の意味ではわかってなかったとおもう。
  でも…わからないなら、知らないなら、わかればいい。わかろうとする努力をすればいい。
  わからない、知らない、で逃げるんじゃなくて、知ろうとすること、それが大切だとおもうから」
パルマコスタでティアという女性から投げかけられた言葉。
無知、というのはどこまでも罪なのだ。
改めて思い知らされた。
知らない、とわかっても、自ら率先して知ろうともしなかった。
自分には関係ない。
その、関係ない、で知ろうとしなかったことがどれだけの悲劇をうんでしまったことか。
イセリアの襲撃にしてもそう。
きちんと、リフィル先生は授業で、監視装置などに関することも教えていた、というのに。
勉強は嫌い、自分には関係ない、とばかりに知ろうとしなかったゆえに、
姿が見られていないから大丈夫、とタカをくくって、村に迷惑をかけた。
いや、迷惑どころではない。
ロイドの知っている人達も大勢死んだ。
一緒に授業をうけていた友達も。
村の、大人の言いつけ、牧場には近づいてはいけない。
ディザイアンたちにかかわってはいけない。
その言葉を破ったから。
けが人だからといって、ケイトをかばった。
その心は間違っていない、とロイドは思う。
けども、先生のいっていたことも自分におきかえてみれば他の人達の反応もわからなくもなくて。
プレセアが心を失っていたあの状態が、ケイトが発案した、施した実験によるものだ。
わかっていたのに、ケイトに罪はない、といいきったあのときの自分。
クヴァルとケイトをおきかえられ、ようやく、いきりたっている人々の心がわかったような気がしたあのとき。
母が死ぬ原因となったクヴァルと、問答無用で適合者を調べるきっかけとなったケイト。
ハーフエルフ法、という差別を増幅させる法律を施行した元教皇。
元教皇の行動の原因に、エルフと恋におち、王家を追放され、
そして妻を殺された、というものがあったという。
ただ、結果だけをみて、そこにある現実だけをみて、背景にどんなことがあるのか。
それすらをも知ろうとはせずに、その場、その場で状況判断だけで理解したつもりになっていた自分自身。
幾度もリフィル先生にいわれていたのに。
すぐにそのことをロイドは忘れていた。
自分には関係ない、とばかりに。
それを今のロイドは自覚している。
でも、きちんと本当に自覚することが大切なのだ、ともそうおもう。
本当に大切だとおもうことは、忘れようがないのだ、ともおもう。
ゼロスの救いの塔での行動をよく忘れてしまっていたのは、
おそらくは、ゼロスも、皆も無事だったという安堵感から、
あのときの苦しい想いから逃げたいから、自分は忘れてしまっていたのではないか。
ロイドはそうおもう。
事実は、ロイドがそうおもったからこそ、アンナが干渉し、忘れさせていたのだが。
しかし、結果としては似たようなもの。
「――ヒトは、基本的に未知なるものを、回避しようとします。
  僕ら学者はだからこそ、未知なる現象などを解き明かし、その結果を示すことによって、
  そんな人々の未知なるものへの恐怖などを取り除くという役目ももっています。
  知らないから、現象がわからないから、理解が及ばないから。
  そういう数多の理由でヒトは、心の安定を図るためにそれらに理由をつけ、
  そして排除しようともする。そんな人間の脆くも不安定な心がユリス。
  あなたという存在をかつてヒトは生み出してしまったのかもしれません。
  でも、心があるからこそ、ヒトは、かわることができる。と僕もおもいます。
  あなたとて…”かわれた”のでしょう?」
彼女のいいようから、かつて彼女は”自我”というものがまちがいなくなかったのだろう。
だが、精霊ラタトスクの庇護下にはいることによって、その自我が芽生えた。
全ての命を司っているといってもいい、かの精霊ならば、それくらいは簡単であろう。
そうもアステルは予測がつく。
そして、ヒトの心の脆さも。
「もっとも、知ろうとしすぎて、その先ばかりをみつづけて。
  結果的に世界に害になるようなものをつくりだしてしまうのも、僕ら学者だ。
  というのはわかってはいますけど。
  けど…僕ら、ヒトも、世界を構成するヒトツ、なんです。
  あなたのいうように、この世界…惑星が消滅したとしても。
  それでも命は続いていきます。僕らのような生命体もうまれるでしょう。
  ヒトが絶滅したとしても、かならずいずれ、また同じような個体はうまれる。
  そして、僕は何もしないで死ぬ、というのは認められません。
  自らが動いてその結果、目的を達せられずに命を落とすこともあるかもしれません。
  でも、行動をせず、あのときこうすればよかった、と後悔して生きていくよりは、
  今、自分が正しい、とおもったことを行動することが最善だとおもっています。
  だからこそ…僕は、今ここにいる。たとえ戦力にならない、とわかってても。
  僕にも、戦闘力のない、非力な僕でも何かができるかもしれないですから」
自分の存在は、皆の足手まといでしかないだろう。
行動には責任が付きまとう。
それでも、できることはあるはず。
ちょっとしたサポートや知識の提供が命を左右することがあるのだ。
というのをアステルは様々な研究をしていく結果でよく知っている。
「そうね。かつての人類も、あなたたちのような科学者、とよばれる学者たちが。
  世界を破滅にとおいやる原因をつくりあげた。
  あなたたち、ヒトは毒よ。いわば猛毒。
  でも、毒は使いようによっては薬になるように、一概にすべてがムダとはいいきれない。
  けども、はじめからそれらがなければ、問題もおこりえないの。
  ほら…みてごらんなさいな?あれこそが人の心の本質。
  私の今の力になっている元」
ユリスが、すっと手を上に掲げると同時、
ユリスの頭上にいくつもの鏡?のようなものが出現する。
その光景は一部のものにはどこかでみたような錯覚をもたらす。
否、錯覚、ではない。
同じような光景を、一部のもの…アステル達以外は知っている。
テセアラの王城の中で、エミルがみていたあの光景。
いくつも不安定の中に浮かんだ鏡。
その内部においていくつもの場所が映し出されていた。
今目の前にあらわれたのは、まさにあの時とほぼ同じといってもよい。
あのときと決定的に違うのは。
それぞれの場所が、首から下の状態がまったくみえていない、ということだろうか。
よくよく目をこらしてみればわかるが、地面からある程度の高さまで、
黒い霧のようなものでおおわれてしまっており、地面がまったくみえなくなってしまっているらしい。
だが、それだけ、ではない。
その黒い霧の中より様々な異形のものがあらわれては、周囲の人々に襲い掛かっていたりする。
そんな異形のものたちを協力して倒すもの、もしくは誰かを犠牲にして助かろうとしているもの。
後者のほうは逃げた先であらわれた別なる異形のものに攻撃をうけ、
倒れ、姿がみえなくなっているようだが。
『な!?』
ミトス達…すなわち四人以外のほぼ全員の声が一致する。
そして。
「あの霧は人の心の悪しき部分。それらを”形”として認識させる効果があるの」
あくまでも、それらは人の心の闇を幻影として実体化させられたものなれど。
幻影とはいえ、それらを産みだした相手が強く思えば思うほど、現実とはかわらない。
そして…人の思い込み、というものは不思議なもので。
そこにある、こうなっている、とおもえば実際にそのような現象をもおこりえる。
例えば、そう。
思い込みだけで、やけどをおったり、もしくは死んだりするように。
「表面上では、協力しようといっていても、他者を虐げたり、憎んだり、そういった様々な心。
  それらが表面化したとき、ヒトはどうするのかしらね?
  疑心暗鬼がたかまるにつれ、私の力もまたましてゆく…おしゃべりが長すぎたわね。
  はじめましょうか?決着をつけるために。
  あなたたちのいうあなたたちの思いがかつのか。それとも私のように人の心の負が優るのか」
どうせほうっておいても、必ず人は破滅にむかっていくだろう。
そう、ハイマとよばれている地のように。


「ヒールストリーム!」
クラトスの声が周囲に響く。
その声をきっかけにし、クラトスを中心とした巨大な青白い魔法陣が展開される。
クラトスが放った技は、広範囲…すなわち魔法陣の内部における体力を回復させる術。
それとほぼ同時。
「エクスプローション・ノヴァ」
淡々としたユリスの声が紡がれる。
それは呪文詠唱も何もなく、紡がれた、ただ一つの言葉。
だがその言葉一つでユリスの周囲より、というかユリスを囲むようにあらわれる溶岩のようなもの。
それらがまるで生きているかのように、濁流となり周囲にいる彼らのもとにと押し寄せる。
「「優美なる慈愛の天使よ 我らにその心分け妙たまえ 光とならん フィールド・バリアー!!」」
押し寄せる溶岩流のようなもの。
直接触れれば無事ではすみはしない。
救いは空中で発動しているというのに、地上にむけて溶岩流のようなものが落下していっていない。
ということくらいか。
直撃すれば無事ではすまない。
かといって、規模的に回避も難しい。
であるならば、防御力を一時的に高めるしかない。
しいなと、マルタの声がかさなり。
その背にリヒターとアクセルをのせぎりぎりのところでそれらを回避して飛んでいる竜。
「うおっと。しいな、足場は可能か?!」
反射的によけたからなのだろう。
振り落とされそうになっているリーガルを片手でがしっとつかみ、
回避行動をしているゼロスが、しいなにと語り掛ける。
「残りの符を使えば…でもそれをしたらあたしは足場にかかりっきりになっちまうけど!」
片手でどうにかリーガルをかかえ、溶岩の流れより逃れたゼロスがしいなにと問いかける。
ゼロスのいうように。
たしかに、術を紡がず、力のみをこめて放てば、符による足場の作成は可能。
なれどそこにずっと力を籠め続ける必要性がある。
すなわち、他に手がまわらなくなってしまう。
そんなやり取りをしている最中にも、ものすごい熱気が彼らにと襲い掛かる。
じりじりとした熱が、彼らの体力を問答無用で奪い去る。
「くっ…双牙斬!」
相手に間合いをつめて、剣を思いっきり振り下ろし、そして今度は逆にと振り上げる。
相手にダメージが通っていないようにも感じるが、だがしかし。
この目的はあくまでも相手に術を使用させないようにするための攻撃。
連続して相手が攻撃を繰り出してきそうな気がし、
クラトスが一気に相手に間合いをつめて切りかかる。
だが、そんなクラトスの攻撃はほとんどやはりきいていないらしく、
「サンダーブレード」
高らかな、そして高らかではあるが静かなユリスの声とともに、空中に稲妻の剣が出現する。
ユリスが声を高らかに告げ、手を伸ばすと同時、どこからともなくいくつもの雷の剣、
否、剣、というよりは槍、といったほうがいいのかもしれない。
ともあれ、それらが無数に発生し、周囲に散らばっているそれぞれにむかって突き進む。
どうやらユリスのこの攻撃は、四方八方に雷の刃を飛ばすもの、であるらしい。
すなわち、一般に知られているであろう術とはまたかなり趣が違っているといってよい。
「ちっ!しかたないね!…おちるんじゃないよっ!」
どうしても、飛ぶほうに意識がむいてしまい、攻撃のみに意識を集中できはしない。
他の皆がどうなのかはわからないが、すくなくとも。
ミトス、クラトス、ユアン以外では、肉体をもっていないアリシア、マーテル、コレットくらいであろう。
空中に自然と浮かぶ、ということが今現在できるのは。
踏みしめる足場がある状態と、ない場合の差。
間髪いれずに術を相手が唱えられるのをみるかぎりやはり足場というものは必要らしい。
それに何よりも。
少しでも戦力がほしいというのが本音。
先ほどのリフィルの言葉からすれば、すくなくとも、ジーニアスの魔術は期待できない。
というよりはまちがいなく使用不可能、なのであろう。
で、あれば。
「ジーニアス、あんたはアステルの補佐をしてな!
  リヒターは少しでもヤツの足止め!いけるかい!?」
両手でいくつも印をくみ、残る符にすべての力をこめてゆく。
いうなれば、蛇拘符とよばれし技の一歩手前。
相手の体を取り巻いて動きを鈍くするその技は、逆をいえば、
その手前に敵の周囲に符を張り巡らせる必要性がある。
その符を一列、ではなく何重に横並びにすることによって、ちょっとした足場を創り出すことも可能。
だがそれは、先ほどゼロスにもいったように、しいなの集中力をものすごく要することとなり、
それを維持する間、しいなは他には手がまわらなくなってしまう。
できうれば、相手の…ユリスの術を止めるためには、前衛というか打撃の使い手が結構ほしい。
よくよくみれば、ユリスの周囲を黒い霧のようなものが集い、
ユリスが黒い霧を纏っているようにも垣間見える。
まるで闇の衣のごとく。
「う、うん。わかった!」
しいなの台詞に、自分は今は役立たずだ。
そんな思いにとらわれかけていたジーニアスが、はっとして、アステルのほうにとむかってゆく。
アステルは空がとべない。
いくら、幼き竜にのっているとしても、アステル一人では回復薬の配布が間に合わないはず。
というか、まだグミ等がのこっているのか怪しいところなれど。
一番いいのは、自身が飛べないものを運べればいいのだが、
いかんせん、腕力がほとんどないのはジーニアス自身がよくわかっている。
マナが…術が紡げない以上、自身もまた足手まといでしかない。
マナを感じることはできなくとも、風の流れなどを感じることはできる。
そこに一切のマナを感じられない、というだけで。
マナが感じられないというのはこれほどまでに不安になるものなんだ。
と改めて思ってしまう。
物心ついたころから常に感じていたものが、利用できていたものが利用できない。
それはかなり精神的にくるものがある。
これまで戦っていたのが敵のフィールド内、だとするならば。
今は普通の状態、なのだろう。
唯一、敵のフィールドといえるのは、おそらく敵がまとっているあの黒い霧?というか、衣。
その内部くらいではないか、と予測がつく。
事実、見上げれば、ゆっくりとではあるが夜の帳がおちてきているこの時間帯。
太陽はすでに地平線の向こうに沈みかけ、逆の地平線からは月らしきものがみてとれる。
らしきもの、というのは片方の月がなぜか黒くそまっており、
それが、一瞬、月、だとは判断がつかなかったがゆえ。
そんな中、しいなによる、”符”による簡易的な足場が完了する。
ユリスをぐるり、と取り囲むようにして、人ひとりくらい歩ける幅の紙の道。
ユリスにむけた攻撃に巻き込まれるのを考慮しているのか、ユリスから少しばかり距離は開いているが。
だがしかし、そこを足場にして戦えない、というわけでもないほどの距離。
彼らがそんな会話をしている最中も、絶えずクラトスが相手にと連続して攻撃を叩き込んでいるのがみてとれる。
「襲爪雷斬破!!」
バチバチバチッ。
ふと、そんな中、バチバチ、とした電撃のような音が鳴り響く。
ミトスが剣をふり仰ぐとともに、ユリスめがけて蒼い稲妻が落雷する。
相手に電撃が直撃し、ほんの一瞬。
ユリスの動きがとまったその一瞬の隙をみのがさず、間合いをつめたミトスもまた、
クラトス同様に、ユリスにときりかかる。
「どうやらその衣は属性、打撃攻撃の緩和ってとこみたいだね」
攻撃を自身でしたからこそ、相手に通じている威力が何となくわかる、というもの。
おそらく、今の攻撃はユリスにとって静電気がぴりっときた、程度でしかないであろう。
はっきりいって、ほとんどというかまったく攻撃の威力が相手にとおっていない。
先ほどの形態の耐性。
どうやらこの姿でもそれは健在、であるらしい。
それに加えて、攻撃の威力が通らない、というのはかなり厄介。
これはミトスの勘、でしかないが。
まちがいなく、完全に倒すというようなことはできないであろう。
確実に自分たちだけではなく、何かのきっかけがない限りは。
これが魔族などといったものであるならば、完全に敵、と割り切ることができはするが。
目の前のユリスと名乗っている輩は、テネブラエの眷属だ、と理解しているからこそミトスは思わず顔をしかめる。
まさか、本当にこの世界ごと消滅してもかまわない、とおもっているのではないだろうか。
このユリスは。
たしかに、そうすればラタトスクはこの惑星から解放されはするだろう。
だがそれは、眷属たるユリスが”王”の決定を覆すようなもの。
だからこそ、本気で、とは思いたくはないが。
あるとすれば……
「…地上の皆の反応次第…か」
いまだに、先ほどユリスが展開したであろう、地上の様子を映し出している鏡のようなものは健在。



攻撃はきいているのかいないのか。
とにかく、相手の広範囲にわたる攻撃の衝撃をかわすだけでもせいいっぱい。
唯一の救い、といえば一部の攻撃に限りはするが、敵のだした魔法陣の範囲からのがれれば、
その攻撃があたらない、といったところか。
それでも、隕石のようなものがふりそそぐ広範囲にわたる術などは防ぎようもなく。
治癒術の術の中にある防御の術などをマルタやリフィルが使用しているものの、
彼女たちの負担はかぎりなく増えていっている。
「うわっ!?またわいてでてきた!?」
ひたすらに周囲にちょっとした大きさの竜と、翼を出しているジーニアスが飛び回っている最中。
ふと、ジーニアスの叫びが攻撃をしかけているミトス達の耳にと聞こえてくる。
みれば、戦いはじめてしばらくしてから湧き出した”それ”。
鏡のようなものが揺らいだかとおもうと、そこから球体の、それでいて大きな目玉。
そのようなものがまたまた湧き出しているのがみてとれる。
いったいいつから湧き出してきただろうか。
気付いたら、この目玉の魔物のようなものはいきなりあらわれていた。
てっきり、ユリスが召喚した何かだとおもっていたのだが。
よくよく観察してみれば、無数に浮かんでいる鏡の中より湧き出しているのがみてとれた。
それも鏡の中の光景がより混沌の場と化したときに限って。
つまりは鏡の中の光景…地上におけるいくつかの場所において争いなどが始まった場合。
どうやらそういった光景が繰り広げられている場所が映し出されている”鏡”より、
それらはわきだしていっているらしい。
クラトスが一部の鏡に攻撃をしかけたこともあるものの、それらの攻撃はことごとくすり抜けた。
どうやらそれらの鏡は実体があるようでないもの、でもあるらしい。
つまりは目にはみえているが、物質をともなわないもの、なのであろう。
いうなれば、幻…立体映像のようなもの。
疑心暗鬼の高まった人々の負の感情によって生まれたいくつもの人によってうまれいでた
”負の具現化”たる存在が、とある形をもったもの。
これもまた、幻魔、とよばれし一部にすぎないが、
元々はユリスが完全に形にした、ともいえるもの。
かつてラタトスクがこの地に干渉し始める前にユリスがそれらの力を手足としたのが事の発端。
古今東西、人に問わず、生物といったものは、なぜか視線、というものに恐怖する傾向がある。
それゆえに、なのだろうか。
巨大なライチ、のような物体にぎょろり、と一つの大きな目だけがある、といったものが生まれいでるのは。
彼らは知る由もないが、これは以前より”ユリス”が、眷属、として扱っているもののひとつ。
いわば、ユリスの手足となりえるもの達。
今回は、地上の人々の負の感情を糧にそれらを生み出しているに過ぎない。
これらは、地上の人々が負に捕らわれるかぎり、再現なく生み出される。
だからこその、”霧”。
目の前の存在達が守ろうとしている輩によって生まれたものによって行動を阻まれる。
それは何と滑稽なことなのだろうか。
無数に湧き出してくるそれらの対応におわれ、ユリスそのものに攻撃がなかなかあたらない。
それどころか。
”目玉もどき”…ジーニアス名称、俗にいう目玉のようなものなので、”ユリスアイ”…
とジーニアスがつぶやいたことから、皆が仮初にそれらをそのように呼び称しているが…
ともあれ、それらが増えてゆにしたがって、ユリスに通じていたはずの攻撃もまったく意味をなさくなくっている。
どうやらこれらの異形の輩はユリスのうけた攻撃を身代わりにする効果ももっているらしい。
際限なく湧き出してくる”ユリスアイ”。
そして、かまうことなく広範囲の攻撃を繰り出してくるユリス。
ユリス・アイよりもレーザー光線のようなものがその巨大な目玉より発せられてており、
戦う力のないものは回避しつつもひたすらに周囲のものたちに回復アイテムをくばりまくっているのが今の現状。
一部のその”ユリスアイ”などは、どうやら相手の精神力や生命力を吸い取ることもできるらしく、
どんどんグミの消費が多くなってゆくばかり。
鏡のようなものが黒くそまるとともに、いくつもの”目”が湧き出してくる。
「ふふ。あなたたちが守ろうとしている人々の力によってあなたたちも敗北すればいいわ。
  あなたたちもわかるでしょう?それこそが人々の負の想いによってうまれたものだって。
  感情があるから、ヒトというものがいるから幻魔のようなものが生まれいでる。
  だから――ヒトというものは、感情なんて必要ないのよ。
  ひと、というものそのものも必要ない、ともいえるかもしれないわね。世界にとっては」
くすくすとふわふわと浮かびつつ、本気でそうおもっているようでそうきっぱりといいきるユリス。
「そんな…。感情があるからこそ喜びも悲しみも、いきていると感じることができるんです。
  一度、感情を表にだせなくなっていた私だからこそそれがよくわかります」
「コレットさんのいうとおりです。それに…あなただってヒトの心があるからこそうまれたのでしょう!?」
コレットとプレセアの声がほぼ重なる。
「――いきとしいけるものには皆、感情とやらがあるんじゃないのかい?
  なんであんたはそんな、ヒトだけに対してそんなに排除的なんだいっ!」
それとともに、しいなの声が張り上げられる。
精霊にも心があった。
動物にもある、と断言できる。
それなのに。
先ほどからのこのユリスのいいようは、まるですべてヒト、たけがわるいようなその言い回し。
「あら。世界とつながっているものは、感情はあれど、あなたたちのように他者に被害をもたらすような。
  そんな愚かな真似はしでかさないわよ?それぞれ個々の中でその折り合いをつけたり、
  もしくはその感情を表にださないようにしているもの。
  出したとしてもあなたたちヒト、のように広範囲に被害がでることは絶対にしないわ。
  どこかの誰かさんたちの生み出した負の穢れで一時的に狂ってしまったりしたらその限りではないけども。
  すべてなる世界にとって害になる根元はヒト、なのだから。
  私がヒトを排除しようとしても当然でしょう?」
そう。
あらゆる意味で人間だけ。
ヒト、とよばれしもののみが、世界を破滅においやっているといえる。
自分たちの欲のため、住みよい生活のため、世界を自然をないがしろにするのもひと。
自分たちの見た目の欲のために他種族を絶滅にまでおいやるのもヒト。
そしてまた、他者をまもきこんで広範囲によい意味で影響をもたらすことができるのもヒト。
だが…ヒトは前者の行動が大きすぎる。
後者の行動がかすんでしまうくらいには。
ヒト、という全体でみればどちらに比重がおかれているか。
他者を思いやることも、協力をしようとすらもせず、排除にのみかたよってしまう。
「感情があるからこそ、差別も争いもうまれる。だからこそ…ミトス。
  かつて人々から勇者とよばれしあなたもまた、感情を消してしまえばいい。
  そう結論づけていたんじゃないの?でも、いくら感情を消してしまっても時間とともに感情は育ってしまう。
  特に、ヒト、というものはね。あなたはそんなヒトに自らが討たれることで世界をまとめよう。
  そうおもっていたようだけども」
でも、それでは。
「でもその方法ではあなたが討たれたあと、同じようなことが繰り返されるのは目にみえている。
  ならば、すべてはあるべき姿に。もともとあの御方が慈悲をこの惑星にそそがなければ。
  この惑星の命もとうにおわっていたのだもの。ありえる姿にもどすこと。それのどこがいけないの?」
それは、ユリスとしては本音といえる。
もっとも、
「でもそれは、完全にあの方の意志に反しています」
そんなユリスにと静かに、それでいて気持ちもわかってしまうがゆえにそれでもあえて言い放つマーテル。
世界は絶望にあふれている。
静かに暮らしていたとしても、絶対、とはいいきれないほどに。
それをかつてマーテルはみをもって経験していた。
”今”の世界はミトスの手により偽りの歴史、信仰が根付いており以前ほどではないかもしれない。
それでも、やはり大きな争いとなりえる差別というものはなくなっていない。
ミトスとしてはアメとムチ、それをつかいわけていたつもりなのであろうが。
その結果、やはり争いの火種はなくなりはしていない。
「ええ。そうね。あの御方が交わされた契約を私などが邪魔をするのもおこがましい。
  でもそんなあの御方の意志を邪魔しているのもヒトの愚かな心に他ならない。
  世界を無にすることが意志に反するというのであれば、不安要素をすべて排除して、
  ゆっくりと、それでいてしずかにヒトを絶滅させてしまってしまえばいいでしょう?
  私が勝てばあなたたちはわずらわしい感情に左右されることもなく、
  ただ静かに死をまてばいいのだから。
  ヒトに救いがないのは今の状況でもさすがのあなたたちでもわかるでしょう?
  あなたたちが苦戦しているそれらはすべて、地上の人々がうみだせしもの。
  私の力の混じった霧はあくまでもきっかけにすぎない。
  人々が心の奥底でそのような要素をもっているからにほかならない。
  ほら、またうまれてきたわ」
ユリスが視線で指し示す先には、
数個といわず数十個以上の”黒い目”があらたに鏡もどきから湧き出していっている。
それでなくても、一つの目玉を撃破するのにかなりの力を要している。
息もそれぞれ自然とあがってきており、動きもだんだん鈍くなっている自覚がある。
肉体のないコレットとマーテルはともかくとして。
生きているかぎり、体は休息を欲する。
特別な石を身に着け、
自らの体内機能を完全に制御できているクラトスやユアン、ミトスですら疲れが見え始めている。
それでも彼らの動きはかわりはしのないが、他のものは違う。
皆が皆、生身の人間として生きている以上、疲労はたまる。
「まずいよ。姉さん。…グミの残りがつきかけてる」
アステルがもっていたグミの類。
グミだけではまちがいなく足りなくなるだろう。
かといって、落ち着いて綾里ができるような足場というか場所もない。
あるとすれば、アステルがのっている”竜”の背くらいなものだろう。
その竜ですら飛び回っているので落ち着いて作業ができるか、といえば答えは否。
まちがいなく、この”竜”がいなければ彼らは詰んでいたといってもよい。
ジーニアスが、残りわずかとなったオレンジグミ…すでにレモングミはつきている。
それをリフィルに手渡しながらそう告げる。
この場で一番、疲れがみえているのはマルタ。
彼女はこれまで戦いとはまったく無縁といえる生活をしていた。
コレットたちの旅に同行してからも、戦い、とよべるようなものはそうそう経験していない。
リフィルがひたすらにそれぞれに支援の術をほどこし、マルタが回復の術をかける。
リフィルのバリアーがなければ”敵”の攻撃一撃で体の表面を無機質化しているミトス、クラトス、ユアン以外は、
確実致命傷をおってしまう。
一つ、ユリスアイを撃破できたとおもえば、それの倍以上のユリスアイがわいてくる。
―――状況は、ユリスと対峙している彼らにとって、確実に分が悪い、としかいいようがない。
「あなたたちもあがかずに。静かな静寂な世界をうけいれましょう?」
それを、ミトス、あなたは望んでいたのでしょう?
ユリスの視線がミトスにむけられ、その視線はそのように物語っている。
「――ヒトの心の光がかつか、闇がかつか…か。でも、僕はあきらめないよ。今度こそ、最後まで」
あきらめてしまえば、それこそラタトスクに申し訳がたたないから。
”試練”を放棄してあきらめてしまえば、それこそ今度こそ本当の意味でラタトスクを裏切ってしまう。
だから、ミトスとしてはあきらめない。
あきらめられるはずがない。
この”試練”そのものが、ヒトがまだ自然とともにあるのがふさわしいのか否か。
それを確認するためのものである、とわかっているからなおさらに。



pixv投稿日:2018年8月○日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

これを編集している現在、2018年の11月1日。
レンタルサバさんの関係で、ネット接続が不安定になってたり。
というか、こちらで設定とか変更する必要はない、と問い合わせしたらもどってきたけど、
今のままでいいのかかなり不安です。
何だかサバさんのほうでセキュリティ強化をするらしくて、その関係で不安定になってるそうです。
・・・今つかってるFFFTP、そのままつかえればいいけどなぁ・・・
新しいバージョンのダウンロードして設定しなおすのは面倒なんたけど……
仕事場でもいきなり上司がなくなって(いや、本当に、面接中にいきなり倒れたらしい汗)
会社のほうも大混乱になっているというのに。
ストレス発散と逃避用のサイトのほうまで不都合あったら何だかなぁ…状態です涙