まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

おまけのルインやパルマコスタ。
これらはコレットたちが光の道”ビフレフト”によって移動している最中の出来事です。
脳内映像としましては、彼らが光の道をすすんでいる最中、
映像がきりかわり、それぞれの場所を映し出している。
そんな感じです。
…言葉での表現がこのあたり難しいんですよね…
物語、完成はしてるんですけど、面倒なところは文章としてでなく
脳内映像で補充していた横着がこのあたりの文章力ででてきたという…
それもあって、打ち込みが脳内映像としっくりこなくてうちこみしてはやりなおし~
になっているという罠…
…しかも、これやってる最中、イフのほうも同時に打ち込みしてるんですけど。
(あれはあと2章にて3をおわらせ、内容的に4にいく予定<そこらラタ騎士物語)
それやってたら、前かんがえてたイフ2も打ち込み開始していたり…
(こっちは、ifのあのとき、ラタ様が気絶せずに大樹のもとにいっていたら?
  という物語となってます)
ラスト付近のアニメとか映画とか思い出してもわかるとおもいますが、
ひたすらにめまぐるしく展開が発展していくんですよね。
これ(逆行)もそんな感じとなってます。
パルマコスタもルインもいれなければ問題ない、ような場所ではありますが。
たしかい~~~~~ぜんのコメント返しでそれぞれの場所の表記もありますよ~
とコメント返ししてたのもあり、なのでおまけ、としていれてます。
物語の一部(本編)として打ち込みはしてるんですけど前後してよみかえしたら、
多少の違和感(唐突さ)を感じたのであえてこれらの街の視点はおまけ、として組み入れました。
……それはそーと…
おまけ部分としてこれ、ラストPにいれる予定で、pixさんに編集してるんですけど。
まだロイド視点やってる最中でこれ打ち込みいれたら…
(ロイド視点のところでこれ、実はメモ帳には本編の一環として打ち込みしてるので)
すでに文字数が二万五千こえているのは…これいかに?
おかしいなぁ…脳内の映像感覚では149あたりでおわるような気がしてたのに…
というか、これ、初期のころの文字数ですよね…(滝汗)

※ようやく本当の意味でロイド覚醒(な、ながかった・・・)
 今回、ロイドの心の試練シーンで、ティルズファンには根強い人気のあの方がでてきます。
 …リメイク版、もしくは○○○版くらい、生きるパターンがほしかったよぉぉ(涙)
 あれ、絶対、あのとき海底洞窟のあと、彼探してうろうろとしたり、
 リセットしまくったのはきっと私だけではないはず、と信じてます。

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重なり合う協奏曲~それぞれの決意~

白い中にも金の光が感じられる光の本流。
まるで川の流れのごとく、この光の中にはうねりがある。
よくエミルから聞いていた謎の言葉の旋律。
それと同じようなものを心の精霊ヴェリウスが呟いたとともに、そこに光がはじけた。
現れたのは一つの”何か”。
人の形のようでいてそうでないそれは、どことなくどこかでみたような。
【レムレス】とその人の形を上半身部分のみし淡い金色につつまれた液体のような生物。
マナのありかたから精霊のようであり魔物のようにもみえる”それ”。
――この子はレムレス。かつてのヒトである魔道士達が生み出した生命体。
淡々としたヴェリウスの声がいまだに脳内から離れない。
かつてのヒトは精霊達を自在に操ろうとし、また自分たちで精霊を生み出そうとしたらしい。
それは古代大戦よりも前。
正確にいうならば天地戦争とよばれし時代にまでさかのぼるらしいが。
今の人々がしっているのは古代大戦のことくらい。
数多もの微精霊や人々の魂。
それらをかつての”ヒト”はくみあわせ、よりによって人工的な命を作ろうとしたらしい。
それは古代大戦時にも行われかけたことらしいが。
レムレスとよばれたその”生物”とでもいうべきか。
元は幾多もの子供たちの魂をもとにうみだされたというのをきき彼らは絶句した。
絶句せざるを得なかった。
ヒトとは自らの欲のためならば平気で他人の命さえもてあそぶ。
エクスフィアの製造の器となった人々の非ではないヒトの命がかつて犠牲になったという。
さらにいえばこの四千年の間に命を落とした”神子”達よりも多くの”命”が。
――それでもあなた方はまだ”ヒト”を信じて行動するのですか?
問いかけられたその言葉に一瞬誰もが言葉につまりもした。
それでも。
たしかにヒトは愚かかもしれないが、それでもすべての人がそうではない。
そう信じているからこそ…いや、信じたいがゆえにその言葉にうなづいた。
その結果、”レムレス”の体から光がほとばしり、
それは一筋の光の帯となり空にむかってたちのぼった。
――ならば、おいきなさい。あなた方のその”心”が正しいか否か。それを確かめるためにも。

光の柱。
かつてのヒトはその柱のことをこう呼んだ。
”ビフレスト”と。
それが数多の子供たちの魂と微精霊達の犠牲によって生み出されたものであるのを、
今の世の”ヒト”は知る由もない。
それは天地戦争時代、空中都市たる大地にたどりついたときにつかわれし【力】――
簡単な概要…天地戦争のことは以前、
リフィル達は魔王リビングアーマー、とよばれていたものから聞かされてはいた。
いたが細かいところまできかされているわけではない。

「うわ~。この光の中、なんだか暖かいね」
「コレット…あんたねぇ。でもまあ、たしかに。どこか懐かしくもあるね。これは」
光に入るとともにまるで川の流れに巻き込まれるかのようにその場から”離れた”。
いまだに”結晶”の中にいるロイドやマルタのことはきにはなる。
でも、彼らが目覚めるのをまっていて手遅れになりました、では本末転倒。
まるでぬるま湯の中にはいっているかのような暖かさ。
しかも、今現在、その流れはそのまま続いている。
「みて!」
ふと進行方向であるであろうその先にぽっかりとした異なる光の円形のようなものがみてとれる。
おそらくそれが出口、なのだろう。
そのまま光の流れに放り出されるかのように、体がその光の中にと吸い込まれる。
突如として体に感じていた浮遊感が喪失する。
それとともに体に感じる脱力感と浮遊感。
ふと気づけば意識していないのに、それぞれの背に翼が展開しているのが見てとれる。
しいなもまた、その身に羽衣のようなものを纏った形にいつのまにかなっている。
「な、何だい…ありゃあ!?」
自分の身の変化に戸惑うよりも前に目の前にて展開している光景が信じられないらしく、
しいなが唖然とした声を張り上げる。
光の川の流れのようなものをぬけきった先。
目の前に展開しているのはいくつもの黒い異形の数々。
いくつもの光が周囲にととびかっている。
よくよくみれば、少し離れた先にはかなりの数の天使らしきものの姿があり
それらが異形のものたちと張り合うようにして戦っているらしい。
桃色の髪をしその頭にはねじれた羊のツノのようなものをもっている女性。
緑色のコウモリのような翼をもちてガーゴイルとよばれし魔物にその容姿は近いものの、
その手にミツマタの鉾らしきものを手にしている生物もどき。
なぜか体そのものは小柄なれど髪をオールバックにし、黒いムチなようなものをもって、
その背に黒いこれまたコウモリのような翼をもっている男性もどき。
それ以外にもいくつもの異形のものがみてとれ、空にいくつもの光の光線が行き交っている。
天使とおもわしき存在達も多々とおり、それらと常に戦っている模様。
思わずその光景に唖然としていると、どうやら敵対しているらしきものたち。
それらがこの場にあらわれた一行に気が付いたのか、
その攻撃の矛先を目の前に群がる天使達からしいなたちにむけ、
それぞれが一斉に”黒い炎”らしき球体を放ってくる。
それはぱっと見た目、火炎球ファイアーボールにみえなくもない。
ただ、その色が暁色ではなく、黒色だ、ということさえ除けば。
「みんな!くるわよ!相手はおそらく、エルフの里でもみた魔族という輩よ!」
あのとき、彼らには直接的な攻撃はきかない、そのようなことをきいた。
あのときはほとんど、魔族に操られていたり、変化してしまったエルフたちが相手であったが。
今回の異形のものたちは元が”誰”だったのか。
リフィルの叫びにそれぞれがエルフの里の出来事を思い出し、
一瞬そんな思案に襲われるが、しかし今はこの現状を何とかするのが先。
「先生!みんな!きます!」
「皆!戦闘準備を!!青嵐の靡く古の力を現出させ、儚き肉体を
  護る疾風の方壁と為さん!フォースフィールド!」
リフィルの言葉とともにリフィルを中心として光が集い、
彼女たちを含めたドーム状…というよりは、球体状の淡い光の膜がその場にて出現する。
本来、この術はドーム状のはず、なのだが。
足場のないこの場所では球体、という形で効力を発揮しているらしい。
戦闘中、使用すると、一定時間攻撃を術・技問わず80%軽減する技。
戦闘中でなければ敵との遭遇を一定時間、自分たちよりも格下の相手との遭遇を避ける術。
リフィルの術の完成と、敵からの攻撃はほぼ同時。
「「うわ!?」」
「「きゃっ?!」」
「くっ!」
その瞬間。
衝撃が彼らを襲い、ジーニアスとしいな、プレセアとコレット、リフィルの声が重なりゆく――



皆の白い眼が痛い。
自分が何も考えずに行動した結果、これまで幾度迷惑をかけていたのか。
周囲に目まぐるしく展開されるのは彼…ロイドのこれまでの人生経験そのもの。
その都度、反省しているそぶりをみせては本当はまったく反省していなかった。
怒られたり注意されたりしたときはしおらしく、そのときは本当に反省するものの、
時間をおけば綺麗さっぱりとそのことを忘れていた自分。
それは自分の心が見せている幻なのか。
はたまた目の前にて本当にみせられている光景なのか。
その判断はロイドにはできない。
心の精霊ヴェリウスにと会いに、イセリアの聖堂にでむき、
あの光の階段のようなものをのぼった。
人々の蔑むような視線と辛辣な言葉。
その時々感じた心の痛みが今あらたにロイドの心にと突き刺さる。
もう、何も考えたくない。
皆が自分のことを批難しているように感じるのは自身の気のせいか。
気のせい、とおもいたいのに心はそうはいっていない。
どんどん疑心暗鬼が強くなる。
もう、このまま何も考えずに閉じこもってしまいたい。
すでにロイドの心の中には共に一緒に行動していた皆のことはない。
あるにはあるが、皆が皆、実は自分を蔑んでいたのではないのか。
そんな疑心暗鬼にとらわれて、皆の心配をする余裕はまったくなくなっていたりする。
それこそが心の精霊がもたらした試練であるという機能性にすら気づかずに。
心が強ければ自らの意思でこの空間から抜け出すすべをみつけだせる。
事実、他の皆…マルタは除くが…はそれぞれ試練から抜け出しすでに先にいっている。
耳をふさぎまるで小さな子供…いや、まるで胎児のごとくに丸くなる。
耳をふさいだことにより、すべての音が遮断される。
その行為は”外”との拒絶。
すなわちあるいみ、ロイド自身を取り巻く世界への拒絶といってもよい。
拒絶するとともに周囲がすべて漆黒の闇となり、周囲に展開されていた景色もすべて消え去ってゆく。
星のない真夜中のごとく、あたりに静寂が訪れる。
もう、このまま何も考えずに……
そうすれば楽になる。
これ以上、誰も傷つけることもない。
自分が何か行動するたびに、これまで見せつけられた光景で誰かを傷つけていた。
それが嫌というほどに思い知らされた。
村を追放されるきっかけとなった事件然り。
パルマコスタの事件然り。
マグニスがあの街を襲う結果となったのも。
幻のごとく見せられた光景で、手配されている自分をおびき出す目的もあった。
そのように言われていた。
嘘か本当か。
その真偽はわからない。
けどもそれが嘘ではない、となぜだかわかる。
わかるからこそ自らの殻の中に閉じこもりたい。
その思いは無意識のうちに、母の胎内にいたときの恰好。
すなわち胎児のようにとその場にてロイドは丸まってゆく――

”負”とは不安や恐れ、そして恐怖をも増幅される。
この心の精霊ヴェリウスはまさに”負”を乗り越えるためのものだといってよい。
ヒトが忘れてしまっていた心がもつマイナス部分。
欲などといったものも”負”の一部。
ヴェリウスが一時、自らのことをわすれ”消えて”しまっていたこともあり、
そういった部分がどうやら蔓延してしまっていた。
それが今のこの世界の真実。

――魔神剣 まじんけん
いったいすべてを拒絶してどれだけの時がたっただろう。
それすらロイドは思考を放棄している。
そんなうずくまるロイドにむけて、
漆黒の闇だというのにどこからか衝撃派のようなものが投げかけられる。
それは耳を抑えて音を遮断しているはずのロイドの耳にも聞こえる”声”。
魔神剣。
魔神剣とは、武器を高速で振りぬき地面を這う衝撃波を放つ剣技。
ロイドも一応つかえる武技の一つ。
「うわっ!?」
丸まっていたはずのロイドはフイをつかれ、そのままその衝撃波を直接その身にあびてしまう。
漆黒の闇の中にその青白い衝撃派はやけに目立ちそのままロイドにと直撃し、
そのままロイドの体を元いた場所から吹き飛ばす。
「おいおい。少しは手加減してやらないのかい?」
吹き飛ばされ、嫌でも周囲の音が聞こえてきたロイドの耳に、
先ほどとはまた異なる別なる人物らしき声がきこえてくる。
尻餅…どこに床があるのかがわからない状態ではあるが、
とにかく漆黒の闇の部分が床?なのか、とにかく尻餅をついた格好のロイドの視界に、
みたこともない人影が二人、飛び込んでくる。
一人はまだ年若い少年。
年のころは自分よりも少し下、くらいだろうか。
漆黒の艶のある黒髪はなぜか風もないのに少したなびいているようにみえる。
前髪もその青き瞳を覆い隠さんとばかりに長いが、
その整った容姿、そしてその身にまとっている服。
薄紫色のマントらしきものを青い宝石のようなもので肩のあたりでとめ、
その宝石は左右対となっており、銀のプレートらしきものでさらに固定されている。
その下の青い生地に黄色の縁取りのはいった腰よりも少し下まである上着らしきものは、
その手首のあたりになぜか白と黒の布地があり、さらにその先には
レースのようなフリルの袖がついているのがみてとれる。
下にはいているのは真っ白なズボンで、その手には細い剣のようなものが握られている。
レイピアのようでいて違うそれは、ロイドもこれまでみたこともない形状の武器。
その柄の部分にある大きな宝玉のようなものが印象深い。
そしてもう一人。
こちらもまた整った顔立ちなれど、長い金髪になぜか青いツバの広い大きな帽子をかぶっている。
その帽子についている花と異様に大きな何かの羽らしきものが印象深い。
服装はどちらかといえば上半身部分だけでいえば、
ミズホの里でみた巫子とかいうものたちの衣装に近いような気もしなくもない。
なぜかゆとりのある青いズボンをはいており、
こちらはその腰の剣らしきものを携えている。
どちらもロイドにとってはみたこともない人達。
「――ふん。あの馬鹿の子孫がこの程度でどうにかなるものか」
「やれやれ。君も相変わらずだよねぇ」
――まったくですよ。坊ちゃん。
黒髪の少年が剣をかるくその場にて横にふり、
金髪の青年…こちらはどうみても成人しているらしい…が、
やれやれ、とばかりに手を大げさに横にして首を横にふっているのがみてとれる。
それと同時にこれまたどこからともなく第三者の声がし…
「うるさいぞ。シャル」
――まったく。坊ちゃんは素直じゃ……
「いい加減に黙れ」
――はいはい。おとなしく口をつぐんでおきますよ~…っと。
黒髪の少年がどこにいるかもわからない第三者の声にむけて何かを言うと同時、
そのまま三つめの声はきこえなくなる。
「ふん。おい、そこの臆病者」
「…む。何だよ。それ、臆病者って…もしかして俺のことか!?」
自分より年下とおもわれし少年…しかもなよっとしている…にいわれ、
おもわずむっとして立ち上がりつつも抗議の声をだす。
その目は相変わらず先ほどまでの他の存在達と同じ。
自分を完全に見下しているような代物。
上から目線…ってこういうのをいうんだっけか?
なぜかふとそんなことを思い出しつつも、思わず相手に対して抗議の声をあげるそんなロイドに対し、
「臆病者を臆病者といって何がわるい。
  たかが心の試練の闇に負けるような奴は臆病者で十分だ。
  さらにはすべてからにげて閉じこもろうとするような輩が臆病者以外の何だという。
  お前にとっては所詮、世の中すべてが【その程度】なんだろうよ。
  たとえそれがお前の恩師であり、仲間であっても、な」
剣をそのままロイドのほうにつきつけて、冷淡な視線でもってロイドを射抜くように見つめつつも
淡々といいきるその様は、完全にロイドを軽蔑しているのがありありと見てとれる。
「まったく。これがあの馬鹿の子孫かとおもうといらいらする。
  あいつは同じような馬鹿でも難しく考えることなく思ったまま行動しまくってたというのに」
「…いや、それはそれで、あのスタンという彼にも問題はあったとおもうんだけどね。私としては」
スタン?
どうやら人名らしきものがでてきたが、その意味はロイドにはわからない。
そもそもそんな名の人は知らない。
「自らが守る、と約束した女性すら見捨てて逃げ出すような輩はあいつの子孫にふさわしくない。
  それにあの子にも、な。今ここで引導を渡してやる。ありがたくおもえ」
「おいおい。リオン君。まがりなりにも彼は君の姉とスタン君の遠い子孫であるんだけど?」
「それがどうした。大切にしたいと思っている女性すら守れない輩。
  これ以上、あの子を傷つける前に死んだほうがあんたとしてもいいんじゃないのか?
  あの子はあんたの大切なアレンデ姫の子孫だろうが」
「いや。だからこそだよ。私としてはあの子が悲しむのをみたくないんだけども?
  私は結局、彼女をおいて先に逝った存在にすぎないからね。
  君だってそうだろ?リオン君。大切な女性のためだけ、に世界をも裏切った君だもの」
「だからこそこいつが許せない。たかが自分に向けられている数多の感情…
  よくないものを知っただけで自分の世界に閉じこもろうとするこいつがな」
大切な人。
そんな二人の会話をききつつも、おもわずロイドははっとする。
「あの子は誰ににたのか自己犠牲精神が多いからねぇ…あ、噂をすれば…だよ。はぁ~…」
「リヴァヴィウサー…か」
二人が会話をしている中、ふと何かに気づいたように視線を斜め上にとむける。
それとともに金髪の青年が額に手をあて盛大に溜息をつき、
リオン、と呼ばれた少年は少しばかり顔をしかめる。
「リヴァ……」
今、彼らは何といった?
その技の名はたしか…自分を生贄として敵を攻撃し、そして味方を回復させる術ではなかったか?
誰がそんな技を使ったというというのだ?
彼らが嘘をついているような様子はない。
本当は誰が、なんてわかっている。
だけども信じたくはない。
ゆえに思わずロイドの声がかすれてしまう。
「ミトスのやつも厄介な宗教観で神子という立場を確立させたものだな」
「…あ、羽をもがれた」
――ロイド。私の分まで…生きてね。
どこからともなく…聞こえるはずもないのにコレットの声がロイドの心にと響く。
「な……コレット!?」
ロイドがはっとして顔をあげるとほぼ同時。
漆黒の空間にぽっかりとどこかの景色が円形状にと映し出される。
異形のものたちと戦い、傷ついてゆく、リフィル、しいな、ジーアス、そしてプレセアの姿。
リフィルが回復術をかけるよりも早く、それ以上に敵の数が多すぎる。
映像越しだけでもわかる敵らしきものの多さ。
そして…コレットの詠唱が終わるとともに、
コレットの体から無数の光が四方八方にと発射され、
異形のものたちをことごとく撃ち落としてゆく。
そして…それとともにコレットの背に生えていた翼がきえて、
そのまま支えるものすらなく落下してゆくコレットの姿が。
――私、ロイドにあえて…幸せだったよ。ロイド…ごめんね。
――コレット(さん)!!!
落ちてゆくコレットを助けようとリフィル達が手を伸ばすが、
その手はむなしくかすり、コレットはそのままボスン、と黒い”何か”の中に吸い込まれてしまう。
それとともに、まだ残っていた敵が容赦なく残されたものたちに襲い掛かり……
「あ…あ…う…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!!!」
それが嘘ではなく現実でおこっている出来事なのだ。
となぜだかはっきりと【判る】。
今、皆はなぜかあの”敵”と思わしきものと戦っており…
そしてコレットは…自らを犠牲にして皆を助け、敵の一部を蹴散らしたのだ、と。
「ふん。図々しくて能天気でなれなれしい奴がだから僕は大嫌いなんだ。
  お前たちのようなやつは本当に大切な誰かを失わないかぎり気づこうとすらしないからな」
やり直せるものならばやり直してみるがいい。…やりなおせるなら、な。
リオン、と呼ばれていた少年の声がロイドの耳にと残る。
それと同時にロイドの心によぎるは、ハイマでの出来事。
救いの塔に初めて向かうその前日。
クラトスに言われた言葉が心をよぎる。
お前はもう間違えない、と誓ったのではないのか?
たしかに、そういった。
そういった…のに。
他人の視線、そしてその向けられる感情が怖いから、といって自分が逃げている間に。
皆は…コレットは何をしていた?
――ロイドさえいれば!
――それをいっても無駄よ。あの子は心の迷宮に捕らわれているまま。
  ここにきてもきっと足手まといになっていたわ。
聞こえてくるは、ジーニアスとそして淡々としたリフィルの声。
足手まとい。
それはかつて幾度もクラトスに言われていた台詞。
初めてあったときですら、足手まといだ、帰れ。
そういわれた。
――悲しむのはあとだ!今はこいつらをどうにかするのが先だよ!
――いきます!
しいなが符を構え、そしてプレセアが斧を構えふりかぶる。
なぜか半透明になっているアリシアらしき姿もプレセアのそばにみえるが。
手をのばせども、それはただの映像でしかなく。
当然のごとく、ロイドの手には届かない。
どこか遠くでこの光景が繰り広げられているかも、というのに。
自分はいったい、何をしている。
本当に、自分は……
思い出すはコレットがさらわれたときのこと。
あのとき、ひとりひとり、自分の目の前できえていった。
はじめ、自らがゼロスに手をかけた。
…後にあれは演技だった、としったわけだが。
あのときの仲間に手をかけて殺したという感覚をどうして自分は忘れていたのか。
そして、ひとりひとりが犠牲になっていくあの姿を。
皆が無事であったこともあり、あのとき感じた自分に対する憤り。
それらすべてを今の今までほとんど忘れてしまっていた自分に今さらながらに気づかされる。
――もう、何でこんな時にロイドはいないんだよ!ロイドの馬鹿
  悠久の時を廻る優しき風よ 我が前に集いて裂刃れつじんと成せ!サイクロン!
叫びつつも、ジーニアスが竜巻を作り出す術を唱え、
それにより、まだ目の前にいくばくか残っていた敵の中心で竜巻が発生し、
どうにか彼らの前に道を作り出す。
皆が戦っているのに、自分は…俺は…
周囲の人々にどう思われているのか。
本当は皆が自分を否定していたのではないか。
そうおもって自らの殻に閉じこもってしまったのはほかならぬ自分自身。
皆が今、どんなことをしているのかなんて欠片も思いもしなかった。
「所詮、きさまにはいくら口で”仲間”といいつつもその程度なんだろう。
  これ以上、あいつらの子孫が愚かな行為を繰り返すのをみるのも苦痛だ。
  今、ここで楽にしてやる」
立ち上がったロイドの目前に剣の切っ先がつきつけられる。
――坊ちゃんも素直じゃないからなぁ。
  まあ、ここで自分の心に閉じこもっていたら確かに安全だからね。
  体が死んでいても心は生きているわけで。ま、いわゆる植物状態に体はなってるけど。
「シャル?」
――ううっ。もう、何もいいません。
ロイドにつきつけていた剣を自らの目の前にもっていき、剣にはめられている
宝玉らしきものにとリオン、もしくは坊ちゃん、とよばれていた彼がかたりかけると
再びどこからともなく声がする。
よくよくみれば声がするたびに剣の宝玉が淡く光っているのがみてとれる。
まさか、とおもう。
「まさか…それ、エクスフィア…なのか?」
エクスフィア。
人の命でできた石。
そしてその中には人の精神体…魂すらも閉じ込める。
――失礼な。まあ、今はユニット…でなくてアイオニトスとかよばれてたっけ?どうでもいいけど。
  とにかく、僕らはユニットとよばれし物質から作られた【コアクリスタル】とよばれるものに
  使い手の人格を照射されて生み出されているものだよ。
  誰かを犠牲にして、しかも微精霊達を殺しかねないあんな野蛮なものと一緒にしないでよね。
「まあ、シャルティエ殿の言う通りだな。今でいえばヴェリウスの中に入り込んできた記憶からして
  あのアルテスタ殿とかがいうのがつくりしタバサ殿の中にいれていたという
  【コアクリスタル】がより近い代物、というべきかな?」
――うんうん。あのドワーフ。よくもまあ古代の技術をいまだに受け継いでたよねぇ。
「おしゃべりはそこまでだ。レイス。貴様もシャルのおしゃべりを助長させるな」
「はいはい。っと。ま、つまり何だ。
  もしも君がこの先に…君が口だけでではなく本当の意味で仲間とおもっていた、
  もしくはいる、という彼らの元にいきたいのならば。
  私たちを倒して道を開いてみろ、ということなんだけどね。
  私としてはあの子の望みが君に生きていてほしい、ということだから。
  このまま君がここで自分の心に閉じこもって何もしないままでもいいんだけどね。
  一応、ここだと君の体はヴェリウスに守られて死ぬことはないし。
  まあ、心…精神的にはいずれは壊れて死ぬかもしれないけどね」
ロイドは知らない。
知る由もない。
古代の技術…かつて、この世界の地上において繰り広げられた戦い。
天地戦争とよばれた時代にあったとある技術。
タバサの中にアルテスタはそれをつくり、自らの人格を投射した【コア】をうめこみ、
そしてロイド達一行に同行するようにタバサに命じていた。
そのタバサは今はもう、いない。
テセアラ城に突入したとき、タバサは”死んだ”。
シャル…シャルティエ。
どうやら剣の名がそのような名であるらしい。
人格を投射云々はよくわからないが、とにかくどうやらリオンとなのった少年がもっている
銀色にその柄部分のあたりは少しばかり黒く大きな宝玉を埋め込まれているこの剣は
よくわからないがとにかく意思をもっているらしい、というのは
これまでのやり取りで何となくではあるが理解した。
「まあ、リオン君に認めてほしければかつことだね」
「ふん。ここで僕に倒されるようならばお前はここからでて
  彼らのもとにいっても足手まといでしかない。
  お前がいこうとおもっているかもしれない場所というのはそういう”世界”だ。
  …魔族、との本当の闘いを甘くみるな」
「まあ、奴らは平気で相手の大切な人の姿を模すこともしてくるからねぇ。
  …私なんか大切なアレンデの姿を奴らはとってきたよ。まったく」
「僕はマリアンの姿だな。まあ、マリアンはあんな邪悪な笑みを浮かべたりしないから
  すぐに偽物、とわかったがな。目が曇りまくっているこいつだと
  すぐにだまされ、もしくは魔族の幻影にとらわれあいつらを傷つけ殺しかねない」
「ま、奴らは心の隙にはいりこんで幻覚をみせるのも得意中の得意とするからねぇ」
それにかかってまえば仲間は敵とみえ。
同士打ちの出来上がり。
「さて。君は”ウルスタル・ブイ”になりえるかな?」
それまでただ話に加わっていたレイスと呼ばれた人物が腰にさしていた剣をすらり、とひきぬく。
ここで逃げることは簡単。
だけども。
逃げていたのは自分。
それに何より、ここで彼らに勝てなければ。
皆のところにいっても本当に足手まといかもしれない。
今さらいって何になる、という思いもなくはない。
守りたかった彼女は…いまだに映像の中にはみえない。
どうやらそこは空中、らしい。
飛行力を失った人物が落下すればどうなるか…考えたくもない。
いくら体が頑丈なコレットだとて空から落下して…しかも生身のままで、
おちてしまえば死…最低でも致命傷は免れない。


~パルマコスタ~

「…マルタ?」
ふと、この場にいない娘の声がしたような。
パルマコスタは今、混乱の極みともいえる。
突如としてどす黒い雲に染まった空に吹き荒れる風。
それだけではない。
いまだにヒトが黒い霧かモヤのようにつつまれて異形の輩と化す現象も止まっていない。
それぞれの各自の体から発生した影のような異形の”何か”は、
その発生した当事者でなければ完全に消し去ることができない。
かろうじて誰にでもできる解決策というのが”ソレ”を海にと追いやること。
なぜかそれらは”海上”では活動をにぶらせる。
海岸沿いにそれをおいこみ、それを発生した当事者にトドメをささす。
しかし、黒い何かを発生させたものたちのほとんどは、
自分たちがなぜ攻撃をしなければならないとばかりに否定の言葉を発し、
その結果、黒い何かに直接殺されたり、もしくは他人がソレを殺すことにより、
当事者そのものも突然死してしまっている今現在。
血筋の契約者…古に盟約を交わしていたという【聖獣シヴァ】こと、マルタ命名【タマミヤ】。
直系の血筋にのみ代々語られていた聖獣としての名。
それは王家の血筋を見守りし聖なる獣の名。
代々の王家の血族が受け継ぎ、
そして認められたものが新たな名をつけるしきたりをもつという聖獣。
シヴァことタマミヤがいうには、すでにテセアラ側の聖獣の契約は断ち切られてしまっているらしい。
何でも”彼ら”を当時の王家のものが私利私欲で利用しようとしたがゆえ、らしいが。
聖獣との契約内容に、私利私欲のために彼らの力を使用した場合、
未来永劫その契約が断ち切られる、というものが含まれている。
マルタがこの黒猫にしかみえない【聖獣】をつれてもどったときには驚きもしたが。
今、そのシヴァは要望にそって、
黒い影というか異形のものたちを海岸沿いに追い込む役割を担ってくれている。
まるで牧羊犬のごとくに。
黒猫…どうみても子猫程度しかない大きさの黒猫に追われてゆく様は
人々の目に何ともいえない想いを抱かせていたりするのだが。
まあ、その黒猫が空を滑空していたりすれば普通の黒猫ではないのは嫌でもわかる。
「メリア…今…」
「ブルート、あなたもきこえたのね?」
それは愛しき娘の声なき悲鳴。
再生の神子とともにいるはずの娘の悲鳴。
聖獣との契約が復活した今、その手の”勘”はなぜか二人とも”冴えて”いる。
本来、かつてこの世界に降り立ったデリス・カーラーンの民たちは、
言葉を交えずとも会話を交わすすべをもっていた。
時とともにその素質は失われ、今ではそのことをしっているものすらほぼ皆無。
なぜ、離れていても意思疎通できるのか。
心で強く思えば相手に伝わる。
それゆえにそれぞれの場所で人々を守りつつの活動ができていた。
今、二人がいるのはかつてはそこにあったはずのパルマコスタ総督府。
今はもう建物が壊れ、一部分でしかその機能をはたしていない。
目立つのは建物の幾か所からいくつもはえた巨大な樹。
その根元は太い根らしきものがいくつも絡み合い、
壊れた土台となっていた煉瓦の足場の下からは、
こんこんと海水が湧き出しているのがみてとれる。
一度このパルマコスタは津波にもみまわれた。
被害が最小限ですんだのは、そのとき人々がほとんど高い場所に避難していたがゆえ。
続く頻発する地震に急激にひいてゆく海水。
木造でできていた家はことごとくそれによってなぎ倒された。
残ったのはレンガ造りで土台がしっかりとした建物のみ。
彼ら夫婦は知らない。
海の楽園アルタミラとよばれていたテセアラの地でも同じように津波が発生していたということを。
そしてその津波は、ロイド達がマナの楔の封印の役割をしていた最後の精霊と契約をし、
大樹の種子を歪んだ形で発芽させてしまったから、だと。
何がおこったのか調べようにもいろいろとありすぎて、
今ある現状をどうにか収めるのに必死だった、ともいえる。
そのあとにおこった街の異変。
現れた天使達の言葉にてさらに状況は悪化した。
よりによって混乱を招くだけなのでひたすらに隠していたドア総督とディザイアンの関係。
それをよりにもよって現れたクルシスの天使らしきものたちが暴露した。
街を覆い尽くしてゆく見たこともない木々。
そしてさらに訪れる天候の異変。
互いに無言でしばし見つめ合うことしばし。
「……恨まれるかもしれないわね」
ぽつり、とマルタの母であるメリルがつぶやく。
「……だが、私たちにとって何よりも譲れないものもある」
このままでは娘の心が壊れてしまうかもしれない。
自分たちはここから動けない。
そもそも、今、娘がいるであろう場所までたどり着ける手段がない。
なぜか”わかった”。
娘が今、窮地に…肉体的、という意味でなく精神的な意味で窮地に立たされている。
ということが。
これまで二人してひたすらに守り愛してきた愛娘。
人々の悪意ある視線や思惑からも守り切ってきていた。
それが”今”。
なぜか娘に今さらながらにつきつけられている、とはっきりと”わかる”。
それは親子ゆえの愛情か。
それとも血の盟約が活性化しているがゆえの事なのか。
それはわからない。
だけどわかることはただひとつ。
今、まさに二人の子供であるマルタが心を壊さんばかりの苦難に陥っている、ということ。
そして、今、【マルタ】がどこにいるのかも。
なぜだか二人には”理解ができた”。
ここからマルタがいるであろうイセリアの聖堂までかなりの距離がある。
そもそも、世界が一つになったらしい今の状態でかつての知識が役にたつとはおもえない。
天使達もいっていた。
世界は今現在、一つになっている、と。
四千年前の本来あるべき大陸…大地の姿にもどっている、と。
飛竜、という手段があるにはあるが、今ここで指導している自分たちがいなくなればどうなるのか。
それでなくてもドアのこともある。
人々が疑心暗鬼になりまくっている中、自分たちまで消えてしまえば。
このパルマコスタは終わる。
完全に。
ならば残る手段は…あるにはある。
一つだけ。
でもそれは、先祖代々の約束を裏切ることに他ならない。
かつての先祖は、八百年前、かの聖獣が悪用されることを恐れ、
かの地…パラグラフ王廟にその”力”を封じた。
どこにかの聖獣を封じていたのかすらかくしていた。
道しるべとなるべきものをもっていたとき”道”は示される。
その言葉だけを残し。
もう、恨まれているだろう。私たちは。
――だましていたのか!このハーフエルフ達が!
あのとき、叫んだ村人たちの声はいまだに二人の耳にこびりついている。
ドアとともにブルートもまたディザイアンに協力していたのではないのか。
という疑念がいまだに人々の中にあるのも。
ただ、今のところ天使達がブルートとメリアを擁護する立場をとったことで
表向き、メリアとブルートに町の人々からの糾弾はおさまっている。
そう、表向きは。
メリアが回復魔法で傷ついた人々をなおすたび、それでも批難したような視線をむける人々。
一度芽吹いた”疑念”という”負の念”はそうそうきえることはない。
人々を助けたいのも本当。
だけども、どうしても譲れないものがある。
それこそ人々からの批難も糾弾も受け入れて、断罪されてもかまわない。
とおもえるほどの”譲れない想い”が。
「「――我が盟約のもと、我らは願う。我らの願いを聞き入れたまえ。
   古の盟約を、今、ここに。いでよ。聖獣、饕餮 とうてつ」」
それは聖獣、としての彼のありようを示す名。
本来ならば、新たに付けた名を呼ぶだけでことたりる。
だが、この本質を示す【種族名】を呼ぶこと。
それこそに【意味】がある。
ブルートとメリア、二人の声がかさなりて、二人がそれぞれ右手と左手をつきあわせ、
その手にはめられし指輪と手にもつ石版の欠片のようなものを併せ持つ。
二人が併せあった手からまぶしき光が一瞬、周囲に満ち溢れる。

それは不可思議な空間。
右も左も真っ白で、先ほどまでいたはずの町並みすら何もない。
みえるのは互いの姿のみ。
「その名をよびし意味を理解してのことか?血の盟約者たちよ?」
血の盟約の実行はほんとうに久方ぶりのことであった。
まあ、あの場に【王】がいたがゆえに”応じた”とはいえ。
自分を”目覚めさせて”からこのかたここまではやくこのような展開になろうとは。
いや、予測はしていた。
【王】が”地上”にでてきており、ミトスが裏切っていた時点で。
そして【王】がミトスを許し…ヒトに試練を与え始めたときに。
しかし、今のこの盟約主たちがここまではやく行動してくるとは。
私利私欲のために自身の力を使用することは、自らの加護が彼らの血筋から途絶えることになる。
かつて、テセアラ王家やインフェリア王家と名乗っていた
今はなき王国からその力が途絶えたように。
第二次天地戦争。
あの紛争にかかわったものは、かの時代のことをそう呼んでいた。
しかし時がたつにつれ、今では古代戦争、といわれているあの時間帯。
その当時、かつてのあの時代のことを伝達し、覚えているものはほぼ皆無。
エルフたちは当時も静観をきめこんでいた。
語り部、とよばれしエルフ族のものがかろうじてそのものがたりを伝え聞いている程度か。
それでもそれはエルフたちにとっては望ましき記憶ではなかったらしく、
紡いで後世につたえてゆく、という手段をカレラはとっていない。
エルフたちにとって、微精霊達を穢し狂わしたあげくにつくりあげ、
さらには無垢なる魂によって生み出したいくつかの人工精霊達。
それらもあまり許容できるものではなかった。
あのとき、【王】が彼らに【理】を新たに授けなければ彼らはそのまま消滅の運命だっただろう。
目の前にいる【盟約者】にむけて言い放つ。
すでに今の彼…シヴァの姿は、とっていた子猫の姿ではない。
饕餮としての彼の姿は、見るヒトによってそれぞれの恐怖しているものにと変化する。
簡単にいえば彼の力を上回ったり、もしくはその恐怖を克服していない限り、
彼がもともととる姿。
饕餮…体は牛と羊を半分にわって足したような姿。
そして曲がった角…これはヤギのツノのごとくにねじれている。
そのツメは動物のスルドイツメと一部、ヒトの手のようなツメもいりまじっていて、
その顔は毛におおわれていながらもどこか人間に近い。
しいていえば、猿よりも人間に近しい顔、というべきか。
とにかく、そのような【饕餮】としての本来の姿をみることはない。
事実、今現在もブルートおよびメリアの”目”には、それぞれ異なる姿にと映っている。
しかし、今、二人にとって一番怖いものは共通しており、
それぞれ見ている饕餮の姿は互いに”マルタ”の姿としてうつっている。
ブルートのほうは血まみれになったマルタの姿。
そしてメリアのほうは土気色になり生気をうしなったマルタの姿、として。
声はそんな”マルタ”から発せられるのではなく、
どちらかといえばこの真っ白い空間そのものからきこえてきているかのよう。
そんな”声”の台詞に互いに顔をみあわせる。
いくら幻だ…と理解…そもそもここにマルタがいることこそがありえない。
マルタは今、イセリアのかの地にいるはずなのだから。
それだけはなぜだかきっぱりと断言できる。
それはブルートにしろメリアにしても同じこと。
「ええ。わかっているわ」
「一族を見守りし聖獣の力を私利私欲のために利用すれば、
  未来永劫、その加護を失う、というのも理解している」
そして、種族名で聖獣を呼び出すことが、その前提。
呼び出したはいいが、願いをいわない、もしくはいいきれなかった一族のものもこれまではいる。
それをしった他のものたちが、呼び出した者を殺し、願いが果たしきれなかった。
今、この場にいるのは二人の心…精神体のみといってもよい。
現実の二人の体はいまだにパルマコスタの地にて意識を失ったまま、
どちらかといえばたったまま気絶している状態になりはてているといってもよい。
「でも、それ以上に譲れないものがある」
「ええ」
「――ほう?」
その視線は覚悟をきめたヒトの視線。
ゆえにすっと目を細め、二人のヒトをじっとみつめるシヴァの姿。
ブルートもメリルもどうしてあのドアが街の人々を裏切る真似をしたのか。
とは常におもっていた。
しかし、もしも娘が同じような立場となったならば、自分たちも同じことをしていたかもしれない。
という想いがあったのもまた事実。
ただそれを口にしなかっただけのこと。
「我が娘の置かれている状況。それを何とかすることができるか?」
「あの子に私たちの言葉を届けることは可能?」
「…くく。ヒトというものは本当に面白いな」
だからこそ、【王】は完全にヒトを見限ることをしないのかもしれない。
我が子のためにはどんな事をも辞さないその姿。
動物や魔物たちにもみられるが、ヒトはそれがより顕著。
「我が力を直接貸すことはできぬが。お前たちの言葉と想いを届けることはできる。
  だが、わかっているな?その願いは、私欲、にあたる、ということを」
私利私欲のために自分たち聖獣の力を使用すれば盟約は消滅する。
かつて、聖獣達の力をヒトが悪用していたときの対策として聖獣達に設けられた新たなる理。
もっとも、この理を新たに生み出した精霊達にも適応しておくべきであったか?
と【王】が思っていたことを、シヴァは知らない。
…もっとも、今回のことと、シヴァ達のしらないかつての出来事をうけ
ラタトスクは精霊達にそういった新たなる理を新たに設けるようであるが。
そのあたりの説明は簡単にではあるが、センチュリオン達から聖獣達は聞かされている。
再び精霊達の力がヒトに悪用されかねない事態をふせぐため、聖獣達と同じような理をひく、と。
実際、すでに新たな理はもうひかれている。
ただ、ヒトがそれを知らないだけ。
「――よいだろう。汝らの想い…思念をかの試練をうけている彼女のもとに届けよう。
  だが、それでかの試練を打ち破るかどうかは、彼女次第、というのを忘れるな」
やはり、今、娘は何らかの事態に陥っているらしい。
試練、という言葉がきになるが。
天使の数多の降臨といい。
いったい世界で何がおこっているというのだろうか。
天使達がいっていた、世界が一つに統合されたことと何か意味合いがあるのか。
「――汝らの心を彼女の心の空間に届けよう。
  ――ヴェリウスよ。これは我の盟約の一つ。依存はないな?」
――かまいませんよ?まあ、これもあの御方の考えの一つなのでしょうしね?
シヴァの言葉とともに、どこからともなく第三者の声がする。
その声は、かつてどこかできいた声。
そう。
ヒトに試練が課された、といっていたあの謎の声と同一だ、
と二人が気づくのとほぼ同時。
二人の視界は再び光にと包まれてゆく――


今まで自分は守られていたのだ。
というのがよくわかる。
いや、気づいていても気づかないようにしていただけ。
――マルタはマルタのままでいいのよ。
自分が自分の意見や思想を他人に押し付ける傾向がある、というのはわかってはいた。
そもそも学校にて、同学年のものにもそういわれていた。
気付けば、ルアルディさんと一緒にいたら意見をおしつけられて面倒くさい。
といって、あまりヒトがよりつきもしなかった。
好意をよせたヒトからも、重い、とよくいわれていた。
常に自分の理想、思想だけを相手に押し付けていた自分自身。
エミルにもいわれていたではないか。
――マルタは自分の理想を僕に押し付けたいだけでしょう?
と。
そんなことはない。
エミルは自分の王子様なんだからこうあるべき。
そう主張していたのもまた自分。
でも、今この場では他人が思っていたであろう心の声がマルタの心にと響いてくる。
自分のわがままで振り回されていた人々の”声”。
どれだけ自分がわがままで、また他人の命を危険にさらしていたのか。
安全を考えれば無理やりに神子の旅に同行する、というのは許可できないこと。
神子の旅は危険と隣り合わせ。
それでもエミルがいるから、という
…自分を助けてくれたのだから、エミルこそが自分の理想の王子さま。
と思い込んだ自分が両親に懇願し旅にほぼ無理やり同行した。
自分に甘い両親が最後には折れる、というのをわかっての懇願だった。
神子といわれていたコレットは思っていたよりも普通の女の子だった。
でも、一緒に旅をしていて、マーテル教のおしえの一つがおかしい、とはおもいはじめていた。
なぜ、コレットが血を流し、傷つくたびに他人の罪を背負い浄化していくことになるのか。
傷つき血を流しているコレットの姿をみても心配する気配もなく、
逆にそんなコレットをより動かそうとした人々。
母のもとで治癒術の概念を学んでいたマルタにはよくわかった。
いくら神子といわれていても同じように血を流す。
しかも試練のたびに睡眠や食事といったヒトにとっては必要としか思えないものを失い、
最後には心すらをも失った。
神子はマーテルの器。
女神マーテルを復活させるための魂の器にすぎない、と。
だから、神子の心など必要ない、とばかりのクルシスの天使の言い分。
そして…自分が勝手に王子様、と公言してはばからなかったエミルの正体。
エミルはヒトではなかった。
精霊ラタトスク。
かつてこの世界にあったという、大地をはぐくんでいた大樹カーラーンの精霊。
世界をはぐくんだのは女神マーテルではなかったのか?
ユアンから語られたマーテル教…女神マーテルのありかたの否定。
物心ついたころから信じていたものの根本なる否定。
そして世界のありようと現実。
今まではとにかくガムシャラにいろいろあって頑張ってきたつもり。
ロイドのこともあった。
ロイドの父親が実はあのクラトスさんだったのには驚いた。
クルシスの天使だというクラトス・アウリオンの実の子供。
いいかえれば、ロイドこそ本当の意味での天使の子供であったとしったときの衝撃。
もっとも、あのときはロイドがかなり狼狽し、
いつもロイドの言動をきいていたマルタは呆れもしたのだが。
――誰が父親だろうが関係ない。コレットはコレットだろ?
――ハーフエルフだろうが何だろうが、先生は先生。ジーニアスはジーニアスじゃないか。
――自分は自分。
その言葉は言葉にしないだけでマルタにも慰めをあたえていた。
自分はかわらなくてもいいのだ、と。
それは逃げかもしれない、とわかっていながらもその言葉にすがっていた。
わかっていながらも目をそらしていた現実。
他の人が自分をどうおもっているのか。
その事実が今まさにつきつけられ、マルタの心はまさに崩壊寸前。
それでもどうにか保っていられるのは、
エミルがよくいっていた、『一番怖いのはヒトの心だ。』という言葉があるからこそ。
かつてしいながつれていた孤鈴であったというヴェリウスは心の精霊だ、という。
そして、これが自分の心と向き合うための試練なのだろうな。
というのも何となくではあるが理解しているがゆえに完全に狂っていないだけ。
ミトスのこともある。
ともに旅をしていたのが伝承にあるあの勇者と呼ばれてミトスであった、という驚愕の事実。
そしてかつてのヒトがおこなっていたというヒトをヒトとはおもわない実験の数々。
自分はどうすればいいのか。
どう行動すればいいのか。
ここまで旅に同行していた以上、最後まで見届けたいという思いもある。
でも自分が足手まといでしかないのもよく理解している。
治癒術が使えるゆえにどうにかなっているだけ、という自覚もある。
マーテル教を物心ついたころから教わり、ずっと信じていた。
それがすべて偽りでしかない、としった今回の旅。
再生の神子の真実。
世界の真実とクルシスのありよう。
そして…今まで気付いていたけど気づこうとしなかった自分のわがままぶり。
ヒトとは助け合わなければ生きていかれない。
そこに自分だけの主張をおしつけてもわだかまりを生み、
そして時には争いにと発展する。
――マルタってめんどくさい。
自分が友達だと思っていた子たちからもよくいわれていた。
自分にあわせてくれないのなら、もういい、と癇癪をおこしていたのも自分。
自分のこれまでのありようが、客観的視点…第三の視点でみればどれほど傲慢であったのか。
自身の周囲に展開されているのは自分のこれまで。
知り合い達の蔑みに満ちた視線の中で
まるで物語をみせられているかのごとくに展開してゆく自分の生きざま。
この旅で自分はどこまで変わった…否、変われたのだろうか。

いったいどれほどの時がたっただろう。
「…パパ?…ママ?」
ふと、それまで自分を取り囲んでいた幾多もの人々の姿がかききえる。
どこを見渡しても真っ暗、としかいいようがない空間。
その中に見覚えのある二つの人影が浮かび上がる。
いったい、いつの間に……
ずっと小さく耳をふさぐようにしていたマルタがふと顔をあげると、
暗闇の中に浮かび上がっているようにみえる両親の姿が見てとれる。
思わず立ち上がり、
「パパ…ママ!」
両親を呼びつつ、二人のもとにかけよろうと駆け出すマルタであるが。
走れど走れど二人の元にはたどり着けない。
手をのばせどもどんどん二人の姿は遠ざかる。
マルタが駆け寄っていこうとすればするほどに両親の顔がどんどん険しくなっている。
その視線はまるで、救いの塔にて自分たちを見下すようにみていたあの天使レミエルのごとく。
何もいわず、無言で見下したような視線をむけられおもわずひるむ。
視線があからさまに、マルタを拒否しているのがみてとれる。
いつも、暖かい言葉をかけてくれる両親がこんな表情をするなんて。
ふと、母親の口が何かをいっているのに気が付き、
その口が何をいったのかを理解したマルタが一瞬その場にと硬直する。
――わがままばかりいう子はもう私の子ではないわ。
――そうだな。
そんな母親の言葉に同意するかのように、冷たい視線をマルタに投げかけたまま、
父もまたそんな母の言葉に同意しうなづき、それまでマルタに向かい合っていた二人が
くるり、とマルタに対して背をむける。
そしてそのままそれでなくてもどんなに駆け寄っても近づかなかった距離が、
二人が背をむけたままあるいてゆくたびにどんどん距離が離れてゆく。
「――パパ!!ママ!!」
よべども両親からの返事はない。
それどころかどんどん距離は開いてくいばかり。
たしかにわがままばかりをいっていたという自覚はある。
というか様々な人にこの場でいわれ、嫌というほどに自覚した。
旅に無理やり同行したことについて、わがままをいって神子様を困らせるようなことをしたから
今のような状態になったんじゃないの?マルタのせいよね?
そもそも、再生の旅でこんなことになるなんて話も聞いたことがない以上、
旅の同行者として初めから認められていない部外者がついていったから
世界がここまで混乱してるんじゃないのか?
そんな言葉を投げかけてくるものもいた。
それは口にはださないが、パルマコスタでマルタのことを知っている一部のものが思っていた事柄。
ちなみにマルタは知らないが、ロイドの元にも同じようなことをいう人物が現れていたりする。
村に迷惑をかけただけではあきたらず、再生の旅に無理やりに同行した結果、
このような異変に見舞われているのではないのか?と。
それはかつて、ロイドとジーニアスの行為のせいで家族を失った村人の台詞。
村では面とむかってロイドにそんなことをいったことはないが、
心の中でおもっていることにはかわりなく。
ここは心の試練。
それぞれにかかわりのあるものたちが心の奥底にて思っている”試練をうけるもの”
に対しいだいている悪感情。
そういったものも視覚化することによって、心の試練を乗り越えるにふさわしいか否か。
そういう試練の意味をももっている。
――すなわち、どんな逆境においてもくじけない強さをもつか否か。
かつて、甘やかされているばかりのマルタならば、すぐさままにくじけたであろう。
だが、コレットたちの旅に同行することで、マルタはヒトの醜さなどを嫌というほどに目の当たりにした。
信じていたマーテル教、天界クルシスの偽り。
自分の心で判断しなければいけないことを、マルタは無自覚のうちにこの旅にて学んでいる。
だからこそ完全に自分の世界にだけ閉じこもる、というあるいみ逃げの選択をまだ選んではいない。
「「――マルタ!!」」
背をむき、遠ざかっていく両親たちの姿に絶望しているマルタの耳に、
マルタの頭上のほうからなぜか聞き覚えのある声が。
…え?
なぜ、どうして?
だって、パパとママは…
いまだに遠ざかっていく両親の姿はみてとれる。
だが、声は自分の上のほうからもきこえてくる。
困惑しつつも恐る恐る自分の頭上をみあげると、そこに”何か”がいるのがみてとれる。
頭上はどこまでもつづく漆黒の闇のごとく、天井、とよばれる部分があるのかすらわからない。
その中に、より闇がまとまっている場所があり、それは何となくどこかでみたような。
じっと目をこらしていけば、やがてその姿はマルタにとって見知った姿をその瞳に映し出す。
その大きさは子猫ほどのようでいて、じっとみていればだんだんその大きさが増しているのにふと気づく。
闇にも目がなれてきて、その黒い塊のようなものがようやく形をおびてくる。
「……タマ…ミヤ?」
『汝ら血族との盟約は先ほど破棄された。
  最後の盟約の掟にしたがいて、汝に最後の盟約主たちの心をとどけん』
マルタがその姿を、かつて自らが霊廟にて契約…といっていいものか、
とにかく共に連れ戻ったエミル曰く、聖獣だというその姿を認識するとともに、
マルタの心に直接、言葉そのものがひびいてくる。
「…破棄?」
たしか、一族との血の盟約に従い、とか目の前の”タマミヤ”はいっていたはず。
そもそも、父と母のもとにいるはずのタマミヤがどうしてここにいるのだろうか。
いや、タマミヤは聖獣。
空間を渡る能力ももっているらしく、たしかにどこにいようと不思議ではない。
しかし、今、たしかに、タマミヤは”盟約の破棄”といった。
たしか、詳しくはよくわからないが、何らかの言葉を唱えることにより、
盟約を破棄する前提になるとかならないとか…
マルタはいまだ完全なる正統なる盟約の継承者でない、
という理由で詳しくは聞かされていなかったが。
『汝の両親は娘であるそなたを助けるため、盟約の破棄を選んだ。
  盟約が破棄される前提条件として、”盟約者が私利私欲で聖獣の力を使うこと”というものがある』
これは、以前、この惑星において魔族化したかつての”人間たち”が、
聖獣達の力を悪用することにより、世界を完全に瘴気に満たしてしまった。
ということにも起因している。
この地に干渉を始めたラタトスクがそれゆえに、聖獣の契約の理について”書き換えた”。
もっとも、そこまでタマミヤこと”聖獣シヴァ”は説明する気はない。
むしろここまで説明しているのがかなりの譲歩。
本来ならばここまで完全なる正統な盟約を受け継ぎしもの以外には説明などしはしない。
だがしかし。
彼女とともにいたのは、すべてなる王にして母なるあの”ラタトスク”。
大いなる意思であり、すべてのうみの親。
”王”が彼女を気にかけていたことをしっているがゆえに、
ここまでシヴァは彼女…マルタに説明しているに過ぎない。
…まあ、”王”に懸想していたというか、懸想している彼女にはかなり思うところがありはすれど。
しかし、彼女の一人よがりの思いも嫌でも見つめなおさざるを得ないだろう。
”王”はすでに決定を下した。
今、地上で人々が受けている試練のそのあとに人々にまっているのは、
これまでにない”新たなる試練”ともいえるかもしれない。
…まあ、センチュリオン様がたやあのユリスがのりのりである以上、
ただのしがない聖獣である自らは何もいうつもりはない。
その理があるゆえに、これまで聖獣の力はヒトに悪用されることはまずなかった。
もっとも、愚かなるヒトはそこにも抜け道をかつては見つけ出してしまっていたが。

「私利…私欲?」
それこそ困惑する。
あの両親が、私利私欲のために”力”を利用しようとするなど到底おもえない。
どちらかといえばマルタからみても両親は他人のために逆に命をかけるのではないか。
とおもえるほどのあるいみお人よし。
それとも、このタマミヤの姿をしている存在もやはり自らの心がみせている幻、なのだろうか。
『血の盟約者の血族がのぞみしは、”自らの娘を助けるために自分たちの心を届ける”こと』
その言葉に思わず目をみひらく。
『ゆえに、汝の両親はいまだ混乱する街の民を守るより、
  盟約をもちい、汝を助けることをえらんだ。それは私利私欲のために力を利用する。
  という我ら聖獣の契約を反故にすること。
  それでもその願いをききいれしは、それが世界に悪影響を及ぼすものでないがゆえ。
  ゆえにその内容を聞き入れたまで』
混乱している街の民を守るより、自分を助けることを両親が望んだ。
その言葉にマルタはおもいっきり目をさらに見開いてしまう。
ありえない。
そもそも聖獣の力とは、伝説においては不可能を可能にする力でもある。
そのように母から昔話として幼きころに聞いたことがある。
タマミヤがどこまでの力をもっているかはマルタにはわからない。
だが、聖獣、と名乗っている以上…ましてもともとは王家の血筋と盟約をかわしている、
”守護の聖獣”というのであれば、その力は計り知れない。
その力をもってすれば街を守ることは可能なのかもしれない。
その力…街を守ることを放棄させてまで自分を両親が助けることを望む、とは。
『汝が今、うけしは心の試練。
  試練に打ち勝つことができねば心は永遠に閉ざされるか、もしくは心を壊してしまうのみ』
もしくは自らに自信を失い、それまでの力をまったくもってだせなくなるか。
言葉とともに、言葉に含まれたもう一つの意味もマルタの心になぜだかつたわってくる。
心を壊す、つまりは心を失ってしまう、ということなのだろうか。
おもわず自らの体をマルタは無意識のうちに抱きしめる。
脳裏によぎったのは、心を失った状態であったときのコレットの姿。
そして……
『子の安全を願うのは生物の摂理。
  だが、我らの力を利用するのは私利私欲とみなされる。
  我が力を汝ら一族に貸し与えるのはこれが最後だと心得よ』
マルタが最悪な可能性におもいあたり、顔を青くしている中も”タマミヤ”からの言葉は続けられる。
「「――マルタ」」 
マルタ。
マルタ。
私たちのかわいい娘。
あなたがどんな苦難にさしかかっているのかはわからない。
けど、あなた(おまえ)の心が悲鳴をあげているのが感じ取れる。
覚えておいてほしい。どんなに離れていても自分たちは常にあなた(おまえ)の味方だ。
ということを。
たとえそれがすべての人類を敵にまわしたとしても、
自分たちは娘であるおまえ(あなた)の味方だと。
だから、マルタ…どんな状況であれ、自分の心に従って、悔いのないようにいきて(いきろ)
心に浮かぶ、娘が今おかれている状況。
心無いものたちからむけられる悪意ある視線と言葉。
娘にとって、それはかなりきつい、とおもう。
どうして自分たちが側にいないのか、それがとてももどかしい。
本当ならばそばにすぐにでもいきたい。
今のこの現状…パルマコスタでおこっている騒ぎを放り出してでも。
人々のことは心配ではあるが、自分たちにとっては娘であるマルタこぞか宝ものであり、
何よりも守りたいもの、なのだから。
だけども、今、マルタがいる場所に自分たちは入れない、つれていくことはできない。
そういわれた。
ならば、できるのは。
自分たちの心と思いをあなた(おまえ)に届けること。
マルタ。
かわいいかわいい、私たちの娘。
信じて。
たとえどんなことがあろうとも、私たちはあなた(おまえ)を守る味方だ、と。

マルタの心に流れ込んでくるのは、パルマコスタ…町並みはかなり変わり果ててしまっているが。
すくなくとも見知った人々がいて、海のそばにある町並みといえばパルマコスタしかない。
蝙蝠をヒト型にしたような異形の化け物…あれもまた魔物なのかどうかもわからなないが、
それらが街を蹂躙している。
人々から発生する黒き靄が外にあふれ出し、真っ黒い異形の化け物をいくつもつくりだしている。
そしてそんな中で祈りをささげるように壊れかけている煉瓦の足場…
場所は背後の半分以上壊れている煉瓦の建物…かろうじてわかるが、総督府だろうか。
とにかくそんな建物の前で祈るように膝をついている両親の姿。
街の人々の悲鳴と叫び、そして混乱ぶりがマルタの心にと浮かび上がる。
この場にいながら、街の状況が手に取るようにわかる。
――私たちは私たちのできることをする。だから、マルタ。
  あなた(おまえ)も悔いがないように。
かならず、生きて再び会いまみえるために。
そんな祈りをささげる両親のもとに、異形のものたちが集まってきて、
その手にもっている槍?のようなものを一斉にとなげてくる。
「――パパ!!ママ!!」
キンッ、という音とともに二人にその攻撃がたどりつく前にそれははじかれる。
どうやら二人は法術”バリアー”をかけて祈りをささげていたらしい。
だけどもそれは完全、というわけではない。
やがて、バリアーの防御すら突破され、マルタの両親に槍が空から降り注ぐ。
さすがにその状態でひざまづいて強く祈るようなことは不可能、なのだろう。
はっとしたように二人がその場からたちあがり、おおきく飛び退く。
それと同時に先ほどまで二人が膝をついていた場所にいくつもの黒い槍のようなものが突き刺さる。


マルタの、娘の置かれている状況。
どういう原理なのかはわからないが、それこそが聖獣とよばれしものの力なのだろう。
祈りをささげるとより鮮明に娘の置かれている状況が心にと浮かんできた。
その心の光景には自分たちの偽物とおもわしきものが、今まさに娘を切り捨てようとする所。
自分たちがそんなことをするはずはないのに。
でも、弱った人の心というものはどんどん悪い方向にその思考をもっていってしまう。
そしてそれを二人はよく知っている。
「「――マルタ。悔いがないように」」
もっと、強く娘を感じていたかった。
けどこの現状で、どうやらゆっくりと祈りをささげるような行為を
あの化け物達はどうやら許してすらくれないらしい。
どうか、娘に自分たちの気持ちが真実、伝わっていますように。
そう願いつつ、心で娘のことを案じながらも攻撃してきたそれらに二人して再び挑んでゆく。
この場に彼ら二人以外の姿はない。
戦えるものはそれぞれの場所でこれら異形のものたちから街の人々を守り続けている。
ついさきほどまでは聖獣である”彼”にもそのことを願い、協力してもらっていた。
でも、娘を優先させ、もはやその聖獣の力はない。
後悔はない。
あの”黒猫”がいなくなったことで被害は大きくなるかもしれない。
けど、ならばそれ以上に自分たちが頑張ればいいだけ――


流れ込んできたのは、数多の異形のものたちに両親が立ち向かってゆく姿。
自分は、両親が頑張っているのにそんな自分はここで何をしている?
私のためにもしかしたら両親が糾弾されるかもしれない。
両親から流れ込んできた”心”を知ることでその可能性に思い当たる。
両親は街の人々を救うよりも自分を救うことを目の前のタマミヤにと願った。
そしてそれゆえに、おそらくもう、このタマミヤは自分たちに直接手をかしてはくれないだろう。
それが何となくではあるが理解する。
否、理解できてしまう。
「――パパもママも、頑張ってる。私がここで…ここでたちどまるわけには…いかない!」
たとえどんなに人々から批難の視線をあび、罵詈雑言をうけようとも。
これは幻。
本当に人々が心の中でおもっていた真実が
幻であるがゆえにこうして目に見えてわかるのかもしれない。
心の試練。
タマミヤは確かにそういった。
それにあの時、きこえた”声”も。
あの”声”は自分だけではない、おそらくすべての”ヒト”に聞こえたはず。
空より響いてきたあの謎の声も。
体を再び乗っ取られてしまったケイト。
自分たちはそんな状況を打破するためにも、心の精霊だという孤鈴のもとにやってきたはず。
――この世に悪があるとするならば、それは人の心だよ。
旅の中、幾度もエミルがいっていた言葉が心をよぎる。
ここですべてに目や耳をふさぎ、とじこもってしまえばすべてから逃げられる。
そう。
あのエルフたちのように。
世界でどんなことがおころうとも、自分たちは関係ありません。
とばかりに知らないふりをすることも。
でも…それでは本格的な解決になどなってはいない。
実際に見て見ぬふりをしていたがゆえに、歪なる世界がつくりあげられてしまった。
マルタは今ではクルシスがつくったという偽りの世界。
それを嫌でも思い知っている。
信じていたマーテル教の、世界の成り立ちですら嘘であったということも。
マルタがそう叫ぶとともに、再び周囲に幾人もの姿が浮かび上がる。
タマミヤはいまだにマルタの頭上にふわふわと浮いているままでこちらの様子をうかがっている。
マルタを幾重にも取り囲むようにして現れた人々からは、
マルタを批難し糾弾するような声がいくつもむけられる。
それはきくにたえないものであったり、マルタにとっては無自覚ではあったが
実は人を傷つけていたのだ、と改めて思い知るものであったりと様々。
「――私はたしかに。これまで知ろうとしていなかったのだとおもう。
  けど…これから私は少しづつでもかわってみせる。だから…消えて!!」
――本当に変われる、とおもうの?
マルタが叫ぶとともにマルタの背後からどこかできいたことがあるような声が。
でもそれはどこで聞いたのかがわからない。
――今までだって、他人に自身の理想や想いを押し付けておいて。
  少しでも違うとおもえば相手を批難していたあなたが変われる、かわっていけるとでも?
そう。
少しでも自分の思った通りでなければいつも否定していた。
旅の中でもそういうことはたびたびあった。
その都度、リフィルが何がよくないのか、根気よくマルタに言い聞かせてくれていた。
それすらも、きちんと自分は理解しようとしていなかったと今ではおもう。
先生のいうことはよくわからないから聞き流していればいいさ。
そういったロイドの言葉に逃げた、ともいう。
――エミルのことだってそう。自分の理想ばかりを相手におしつけて。
  違うことがあったら批難し、あいてを罵倒して。
そんなの私の好きなエミルじゃない!
幾度も自分の考えとは違う言葉や行動をするエミルに旅の中いったことがある。
その都度、エミルにはいわれていた。
自分は…マルタは自分の理想を押し付けているだけだ、と。
――これまでの人だってそう。マルタはただ、自分の理想を現実にしてその甘さに酔いたいだけ。
  そんなマルタ…あなたがかわっていける、と?
変われないのかもしれない。
けど、ヒトは変われる。
”ヒトはいつも愚かでしかない、けども変わることはできると思うんだ。”
以前、ふとつぶやいたエミルの言葉が脳裏をよぎる。
”でも…結局ヒトは過ちを幾度も繰り返すんだけどね。たとえそれが……であっても。”
あのとき、エミルが誰かの名前を口にしたのはわかっていた。
小さく、小さくつぶやかれたのでよく聞き取れなかった。
けど、今ならばわかる。
”たとえそれがあのミトスであっても”。
あのとき、エミルはうつむいて、たしかにそういった。
旅の中、ディザイアンの話題になり、コレットの天使疾患の話にまで及んだとき。
クラトスが周囲の見回りにいき、いまだに気絶したままのコレットを休ませていたあのとき。
クラトスがもどってきて、それっきりエミルは口を閉ざしてしまったが。
信じていたのだろう、と今ならばわかる。
エミル…精霊ラタトスクは、ミトスを、その仲間たちを。
でもその仲間たちが行ったのは四千年にもおよぶ世界の改変。
よく糾弾しなかった、とおもう。
ミトスと旅をすることになったあのとき。
自分ならばよほど相手にあたりちらしていただろう。
なぜ、どうして、こんなことになっていて、こんなことをしているのか、と。
けど、エミルはそれをしなかった。
まるで凍てついているであろうミトスの心をほぐすような行動はとっていたにしろ。
理想と現実は違う。
理想を現実にするために人はあがく。
そしてその落差に人は挫折し、あきらめる。
世間の厳しさを知る、ということはそういうこと、なのだろう。
けど。
「できない。できるわけがない。とあきらめていたら何もかわらないもの。
  私は…私にできることをする!意識するだけでもきっと何かが変わる、そう思うから」
できない、できるはずがない。
自分たちは何もできないから神子に任せておけばいい。
神子が怪我をすれば自分たちの災いももっていってくれる。
馬鹿か、といいたい。
けど、人々は…旅に同行する前のマルタですらそう信じていた。
神子といえども普通のどこにでもいる女の子でしかない、というのに。
そもそも、他人が怪我をすることで他の人達の怪我が防げるなど。
いったいどこをどうしたらそんなことが思えるのか。
でも、神子だから、という理由で人々はそれを信じていた。
当時の自分ですら。
そして、災いがあれば神子の祈りが弱いから、神子がきちんとしていないから。
すべての責任を神子、という存在になすりつけ、自分たちも何がわるかったのか。
それすらからも目を背けていた。
誰かに責任をなすりつけ、糾弾することは簡単。
でも…それは根本的な解決になどなってはいない。
どこからどうみても大怪我をおっているのがまるわかりのコレットの姿に
動じることもなかったルインの人々。
本来、人が怪我をしていたら心配するのがヒトとして当たり前、なのに。
怪我をしてあたりまえ、怪我をすることで自分たちの災いをも神子が引き受けてくれる。
そう本気でいいきったあのときの人々をマルタは忘れてはいない。
怪我をしているのがわかるのに、神子だというだけで傷の手当てもすることなく
神子をたたえて集まる人々。
神子、という立場の重さ。
その神子も天界クルシスによって生み出された犠牲者にすぎなかった。
救いの塔の中で幾多にもあった神子のなれの果て…うめつくすようにあった数多の棺。
死んで世界のためになる、死ぬために生まれてきた。
そう言い聞かされて育つという神子。
十六年しか生きられない、もし自分がそういわれたら。
コレットのようにあそこまで優しく他人に微笑むことができるだろうか。
人々からすべての罪をさも自分が悪いから、というようなののしりをうけてまで。
「私は…たしかにこれまで甘えてきて、逃げていたとおもう。
  けど、パパやママも頑張ってる。それに…コレットも。
  彼女にだってこれまでできていたことを自分ができない、なんておもいたく…ない!」
できない、だからやらない。
そう思った時点でそれは負け。
できないかもしれないがひたすらにその目標にむけて努力していくまで。
かつてのミトスはその方向性を間違えた…のだとおもう。
無機生命体化…すべてのヒトを同じそれにすることによって、差別も争いもなくなる世界。
そのために創設されたのであろうクルシスと、マーテル教という偽りの教え。
それまでのミトスは伝説にあるとおり、文字通り勇者にふさわしい少年だったのだろう。
とおもう。
”人とはよくもわるくも変わるもの。”
エミルの口癖が蘇る。
でも…
「どうせかわるのならば…できるかぎりいい方向に私はかわっていきたい…から!」
そしてそれを一人だけでなく、一人、また一人、とその思いを広げていけば。
いずれ、世界はかわるだろう。
すぐに、というわけにはいかないのはマルタだってよくわかっている。
ヒトを見下し、自分よりも格下にみる、というのはなぜかヒトはすぐに順応する。
それはおそらく、個々の心に潜む優越感、という甘いささやきによるもの。
第三者が自分よりも不幸であることによって、自分のほうがまだまし。
そうすることにより、自分はさほどひどくない、と思い込みたい、のだろう。
ディザイアンたちにつかまった人達にも、かわいそう、という想いはあった。
けど、自分じゃなくてよかった、家族でなくてよかった。
あの家族はかわいそうだけど、自分たちはまだまだまし。
そうおもっていた節がパルマコスタの街の人々の中にも流れていたとはおもう。
実際、マルタだってよくよく思い返せばそんなことを常におもっていた。
テセアラにおいて、ハーフエルフの立場が最低だというのも
そんな愚かなヒトの優越感が関係しているのだろう。
たとえその発足の原因が、自分の娘が自分と違って歳をとらないから怖い。
という何とも無責任ともいえる親の想いからきていたとしても。
人は自分と違うもの、少しでも違うところをもつ”異端”のものを恐れ、排除しようとする。
子供は無邪気に、より残酷に。
大人は…より物理的に。
あの教皇も自分の娘なのに、自分と違って歳をとらないから気味が悪い。
そんな理由でテセアラにハーフエルフ法などというものを施行させた。
すべては相互理解することなく、ただ排除してしまえば自分が楽だから、
知りたくもないから、という想いが発端となっている。
先入観というものはそう簡単にはなくならない。
今でもクルシスが実は偽りだといわれても、心のどこかでマルタ自身、いまだに信じている。
マルタの心の中にこれまでのコレットに対する街や村の人々の態度、そして言葉。
そしてクルシスやテセアラでの出来事。
様々な出来事がまざまざと蘇る。
心を閉ざし、自らの殻の中にとじこもる。
それはすべてを投げ出すも同じ。
心があるからこそ、自分は自分、という自信がもてる。
この世に悪があるとするならば、それは人の心だ。
たしかにそう、だとおもう。
周囲にいる数多に自分に対して悪意ある言葉を投げつけてきている人々の幻。
「私は…私は何をいわれようとも、私の信じた道を…いくっ!!」
決意をこめて、改めて高らかにと言い放つ。
マルタが力をこめて叫ぶとともに、マルタの体から淡い光があふれだし、
周囲の悪意をもたらしていた人々の残像をかき消してゆく。
やがて、すべての残像がかききえ、その数多なるヒトの消えた残滓ともいえる光の粒子。
それがゆっくりと一つの小さな”何か”にと変化してゆく。
青い瞳に薄茶色の髪を長くのばし、その頭には白い花の髪飾りをつけている少女。
白と黒を基調としたどこかでみたことのある服装をしている少女へと。
「…わた…し?」
ここに、鏡なんてあったっけ?
そうおもうが、目の前の”自分”はにっこりと寒くなるような笑みを浮かべている。
まるでリフィルがよくお説教をする直前の笑顔のごとく。
――信じて裏切られたり、自分の理想や想像と違ったら、そんなわけない。
  といってどうせ認めようともしないんでしょ?考えの押し付けだけ相手にして。
いいこと。ロイド。あなたがすくぐに思ったことを口にするのはたしかにいいことかもしれないわ。
でも時と場合によってはそれが災いすることもある。
だからあなたは、少しばかり言葉を発する前に考える、ということを学びなさい。
幾度もロイドが失言しては、リフィルが窘めていた光景がふとよぎる。
「たしかに。今までの私はそうだったとおもう。
  でも、私もかわっていきたい。ううん、かわらないといけないとおもうから」
――でも、同じようなことをいっているロイドだってかわってないんだから無理でしょ?
「ロイドはロイド。私は私。それに…」
なんか、ロイドってどこか子供っぽさが抜けていない、とおもう。
子供は口にだしたことをすぐにわすれ、意見すらもすぐに変えることがある。
感情のままにつきうごく。
ある程度分別がついた子供はそんなことをしなくなるのだが。
よくよく思えばロイドにはそれがあまりないような気もしなくもない。
というか、あのロイドと比べられたくない。
そもそも、もう十七になったはず…なのに。
なぜにあそこまでまるで十代前半の子供のようなのか。
あのジーニアスですらかなりしっかりしている、というのに。
十代前半どころか十代よりも前、といってもしっくりきてしまうのがかなり怖い。
「変わろうとしないと何もかわらないとおもうから」
ここは、心の試練だ、そう”タマミヤ”はいっていた。
ならば、目の前のこの”自分”は自分の心の一部か、奥底で思っていることが実体化したものなのか。
「――誰かに甘えて、依存して、そして責任を押し付けるばかりじゃ、
  何もかわっていかない、そうおもえるから」
特にあのイセリアで。
自分の我欲をよりつよく現したような村長の姿と台詞をみた以上、
あんな”自分”にはなりたくない。
あのイセリアの村長もパルマコスタのドアと同じ。
表面上は責任者として面目をたもっていながらもディザイアンと通じていた。
そんな汚い大人にはなりたくない。
大人はそれを処世術、というのかもしれないが、誰かを犠牲にしてまでの平和など。
無知は罪だ。
この旅でよりそれを強く思い知った。
思い込みというものがどれだけ強く、簡単に覆すことができない、ということも。
ああ、そうか。
だから、かつてのミトスたちは行動に移した、のだろう。
誰かが動かなければ絶対に世界はかわらない、そう思い。
今の自分の心と同様に。
そして…そんなミトスたちをエミルは…あの精霊ラタトスクは信じたのだろう。
エミルが旅の中、ミトスを見つめる目は優しかった。
どこか悲しみを含んでいたとも今ならばわかる。
すとん、と何の根拠もないがそう思える。
「――私は、コレットみたいになりたい。
  ううん。コレットだってつらいのはわかっている。
  けど、自分のつらさをも飲み込んで表にださず、誰かの力になりえる優しい人。
  そんな人になりたいから」
母も優しいが、非常さとやさしさを母はあわせもっている。
コレットがいっていた。
マーテル様の心が自分にはいってきたときに、マーテル様の優しい心がよくわかった、と。
コレットやマーテル様には及ばないかもしれないが。
自らの道を自らの力とそして”仲間”とともに切り開き、未来を次に託せるような。
そんな女性に自分はなりたい。
――そんなの無理だとおもわないの?
「無理かもしれない。でも無理だからってあきらめたくないから」
――このまま、ここで自分の夢の中に浸っていればいいのに。
  外にでたらこれまで以上につらいことがあるかもしれない、のに?
「そう。だね」
それはわかっている。
目の前の”自分”から紡がれる言葉はまさしく心理ともいえるマルタの心情を示している。
「でも、きっと。私にもできることがある、そうおもうから」
世界は一つになり、今後、世界の人々にとってもかなりの困難が襲い掛かるだろう。
今はまだあのよくわからない化け物もどきが襲撃しているがゆえに
人々はその対応に追われているはず。
父と母から伝わってきた光景に、パルマコスタもまた襲撃をうけているのを知った。
一人、一人ができることをしていくしかない。
父も母もがんばっている。
だからこそ、自分もまた、両親に恥じないように頑張りたい。
そのためには…
「誰に何をいわれても、私は前をむいていきたい!」
独りよがりで他人の思いなどほとんどきにもしなかったし、それが当たり前とおもっていた。
自分の理想や考えを押し付けてもそれが当たり前、そうおもっていた。
そんな自分をかえていきたい。
これまでのこともあり、
自分にこれまでよくない感情を抱いていた人々の思いはすぐにはかわらないだろう。
けど、かわらないから、といってかわろうとしなければ意味がない。
「私は…変わりたい。かわっていきたい!」
――それがたとえ茨の道、でも?
「どちみち、もう、私は引き返すつもりはないもの。
  あなたも私なら理解できる、でしょう?」
もう、今の自分はパルマコスタで両親に守られ何もしらなかった少女ではない。
盲目的にマーテル教やクルシスという天界を信じていたマルタという少女もういない。
世界の真実を知った。
再生の神子といわれているコレットのつらさもコレットからきいたわけではないが
何となくだが理解できた。
そして…繁栄世界とよばれているテセアラの神子の苦しみも。
世界が一つになり、繁栄していたテセアラ人がシルヴァラントの民を虐げない。
とは絶対にいえない。
誰かがどうにかしてくれる、という甘い考えは今後、通用しないということも。
「――私は、人の可能性を信じたい、から」
――馬鹿、だよね。
「馬鹿でいいよ。あなたも私も馬鹿で、ね」
ゆっくりと自分自身に歩み寄る。
きっとこの”マルタ”は自分の心が生み出している幻であり、
心の奥底にいる自分自身なのかもしれない。
否、間違いなくそうなのだろう。
何しろ目の前の自分は幻という感覚よりも自分の半身、という感じがする。
――これからどんなにつらいことがあっても?
「うん」
目の前の”マルタ”の顔が一瞬悲しそうにとゆがみ、
――私はいいだしたら聞かない、からしょうがない・・のかな。
ゆっくりと目の前にいる”マルタ”がマルタの元にと近づいてくる。
そしてそのまま、マルタの体を抱きしめるようにぎゅっとその背に手を回し、
――なら、結末を。私自身で見届けて。私もあなたの中でその決意が本物かどうか見届けるから。
「うん。私は後悔しないように精一杯頑張るつもり、だよ」
マルタもまた、抱き付いてきた自分自身の背にと手を回す。
二人のマルタが抱き合うような形となり、刹那。
マルタ達を包み込むような光の本流が周囲を埋め尽くしてゆく――


「…どうやらあなたは抜け出せたようですね。まあ、手助けがあったようですが……」
苦笑したような声がきこえてくる。
パリン、と何かが割れるような音がした。
はっと気づけば目の前にはいくつもの尾をもつ見たこともない生物の姿。
チリン、と首につけている首輪?らしきものから鈴の音がきこえてくる。
狐のような、それでいて、どこかで見たことがあるような……
いや、間違いない。
この姿は、あの時の。
「……コリン?」
声は違う。
けども、もしもあのコリンを大きくしたならば。
おとぎ話の中にある、狐は年とともにその尾を増やす、と。
十本以上はあるとおもわれしふさふさの尾をもつソレをみて、
ふと頭をよぎったは、かつてしいなとともにいた人工精霊だといっていたコリンの姿。
そして、あのときはいろいろあったが、あの時。
姿を変えて、ヴェリウス、と名乗りし大きくなった孤鈴の姿。
「よく私が元、コリンであるとわかりましたね。そう。私はかつてコリンであったもの。
  いえ、私がコリンという仮初の器に宿っていたというほうが正解でしょうかね。
  あの時、あなたもあの場にいましたね。私はコリンであり、ヴェリウスでありしもの。
  それより…シヴァ。あなたはそれでいいのですか?」
視線はマルタの斜め上。
はっとみあげればふわふわとういているヤギのような角をもちし
かつて初めてあの王廟の中で出会ったときと同じ姿をしている【タマミヤ】の姿が。
いや、タマミヤと名をつけてからは”彼”は常に子猫の形態をしていた。
初めてあったときと同じ姿をしている、ということは一度たりとてなかった。
「――血の盟約は破棄された。まあ、我らが直接ヒトの世界に介入しているよりは、
  この結果のほうが問題はおこることはない、とおもえるからよいのではないのか?」
親が子を守りたい、とおもうのはヒトの常。
人、だけではない。
すべての動植物などにもいえること。
しかしそれは自身の手で行われるべき。
決して”自分たち”のような強大な力をたよっていい、というわけではない。
それを許してしまえばいつでも自分たちの力がある、とヒトは特におごり高ぶってしまう。
「まあ。たしかに。古の血の盟約が続いていたのはかの国の血をひくものと。
  あとはあの子の血筋のみ、ですからね」
「聖獣・児雷也のほうはまあ問題あるまい」
「ええ。あの里のものたちはおいそれと悪用はしない、とおもいますしね」
それに、今現在、血をひきしものは、彼女…しいな一人だけですし。
そんなことを小さくつぶやきながらも、話すそんな彼らに対し、
「いったいどういう…って、ロイド!?」
いったい全体何がどうなっているのか。
困惑しつつも周囲を無意識のうちに見まわしたマルタの視界に一つの水晶の塊が飛び込んでくる。
それはこの無機質ともいえる空間の中にぽつん、とあり。
その中におもいっきり見覚えのある少年がうずくまり、まるまっているのがうかがえる。
「――そのものは、心の試練に打ち勝つことができず。
  自らの心に閉じこもってしまっているものです。
  あなたはそこのシヴァの協力もあり、ご両親の思いの手助けもあり
  心の試練を乗り越えることができたようですけどね」
おもわずかけより、こんこんと水晶をたたくが、水晶はびくともしない。
それどころかロイドはうずくまり、耳をふさいで完全に何かを拒絶するような恰好になっている。
「孤鈴であったころはあまり気にしていませんでしたが。
  どうもそこの子供は精神的にほとんど成長していないようですね。
  まあ、ずっと母親によって精神的な負担要素を取り除かれていた。
  というのが原因、なのでしょうが……」
そんなマルタに対し、溜息とも苦笑ともとれるコリンこと、ヴェリウスの声がきこえてくる。
「?どういうこと?」
「マルタ。あなたはしっていますよね?ロイドが身に着けていた【精霊石】。
  あなたがたがいうところの【エクスフィア】。
  それにこのロイドの母親が宿っていた、ということは」
「え。あ、うん」
あのとき。
オリジンを解放したあの直後。
ロイドが身に着けていた石から見たこともない女性があらわれ、
そしてクラトスに”命”を吹き込んだ。
それとともにロイドの手につけられていた石も弾けてきえてしまったわけだが。
「しいなとともにそばにいたからこそ、今の私だからわかることなのですけど。
  どうもあの彼女は子供に精神的な負担が少しでもかかれば、
  それを自らの力で排除していたようなのですよね…
  子、というものはどんな存在であれ、多かれすくなかれ。
  様々な経験を通じ、成長してゆくものです。
  それがよいことであっても悪いことであってもね。
  痛みを知らないものが他者の痛みをわかることがないように。
  どうもすべての負担要素を取り除いていたようなのです。
  マルタ。あなたにも覚えがあるでしょう?そこのロイドの優柔不断さを」
「まあ、あの方に指摘されても自身で本当に改めようとはしていなかったからな。このものは」
盛大に溜息をつくヴェリウスに、なぜかうんうんうなづいているシヴァの姿が。
本来ならば、心から改めようとするならば、いくら母親とてそれを防ぐことはしなかっただろう。
だが、所詮はその場限り、うわべだけの決意。
だからこそ、母である彼女…アンナは息子の心に負担がかかる事柄をことごとく排除した。
それは生きてそばにいられないがゆえの親ゆえの愛情、なのだろうが。
しかし愛情も過ぎればそれは逆に害悪となる。
痛みを知らないままに育ち、さらにそれが当たり前、と思い込んでしまった子供。
時折ふとしたことで心に負担を負ったことを思い出すことはあれど、
それの後悔や反省が長続きすることはありえなかった。
すべては、アンナがそれらをことごとく排除していたがゆえに。
そしてそれをロイドも疑問に思うことすらなくそのまま受け入れていた。
周囲もいくらいっても反省はしても身にしみていない。
それを身に染みて知っていた。
それでもロイドの底抜けの明るさと何も考えていない本能的な行動により
救われていた人々が実際いることも事実なれど。
旅の最中、幾度も”王”はそんな彼に気づくように促す発言を繰り返していた。
しかし、ロイドは見直そうとすることもせずに流されるままでしかなかった。
その結果が、これ。
母親の加護というものを失ったロイドに突き付けられた、人々の悪意の感情。
それに立ち向かう、というのを選ぶことなくロイドは逃げることを選んだ。
それこそ小さな幼子のように。
実際、ロイドの精神年齢は小さな幼子とほぼ同格、といえるのかもしれない。
何しろ”心の痛み”という要因をことごとく母親によって排除されていたロイドには、
心的成長、というものが見受けられていなかった。
それでも母親が消え、少しは成長の兆しをみせているのではないのか。
とおもっていたのだが、やはり完全ではないらしい。
「彼は現実から目を背け、自分の中に閉じこもることを選んでしまった。
  現実と向き合うことから逃げ出したのです。
  それに打ち勝つことが、最低限のこの心の試練をうける上での要因、なのですが……」
今のロイドの中には共に旅をしてきた”仲間”のことなどまったく考えてはいない。
ただ、他者からむけられる悪意に対し、逃げ出すことのみを優先している。
本当に他者を心からおもっていればそんなことはできないはず、なのに。
彼にとって、すぐさまに”消えない”悪意のこもった言葉や戸惑いの感情。
それを受け止めきれるほど”心”が成長しきっていなかったということなのだろう。
そんなヴェリウスの言葉をきき、マルタはふとおもう。
たしかに、これまでロイドと共に旅をしてきたが。
いつも毎回、その”時”が過ぎればロイドは綺麗さっぱり失念している、ということが多々とあった。
それこそきちんと説明をうけていたにもかかわらず、まったく見当違いのことをいったりとか。
エミルがよくロイドに忠告していたのもマルタは見聞きしている。
しているからこそ…わかりたくないがわかってしまった。
ロイドのこれまでのあるいみあの性格は、
ロイドの身につけていたエクスフィアに宿っていた母親の干渉によるものだ、ということが。
母がよく父にいっていたことを思い出す。
過度の子への干渉は、子の成長をさまたげる。
子供を信じて見守ることもまた親の役目だ、と。
しかし…どうも今の話をきくかぎり、ロイドの母親という人物は、
精神体…すなわち魂になってなお、ロイドを心配するあまり過度に干渉しすぎていたらしい。
「どうにか…ならないの?」
「こればかりは。これは彼の心の問題です。彼が自分で決着をつけなければならないことですから」
もっとも、あの”彼”がかなり内部でそんなロイドの姿をみてイライラを募らせていることから、
”彼”が出向くのは時間の問題、なのだろうが。
それを今、このマルタにいう時ではない。
「さて。ともあれ、経緯はともかく、マルタ。あなたは心の試練を乗り越えました。
  それは心身ともに自らの力と心に向き合ったということに他なりません。
  今のあなたならば”わかる”はず。あなたの中にあるであろう本来の”力”の一部が」
それは、もともとこの地に移住してきたというデリス・カーラーンの民たちがもっていた”力”。
今では歪んだ形で一部のみ蘇っているその”力”。
すでに、先に試練を突破したものたちはその”力”を得てかの地で戦っている。
「――下手に外から手を加えようとすれば、心が壊れる可能性も。
  それでもいい、というのであればやってみますか?」
ぴきっ。
心が壊れる。
その言葉をきき、マルタがその場に硬直する。
マルタの脳裏にうかんだのは、心を失ったときのコレットの姿。
ロイドがもしもあの時のような状態になって。
あのときはコレットの心は封じられたような形になっていたらしいので
心を浮上させることができたわけだが。
しかし、本当に心が壊れてしまったとするならば。
ガラスの目のように何も感情をもたないロイドの姿を想像しただけでぞっとする。
あの何も考えていない天真爛漫といっても過言でないロイドにそんな姿は似合わない。
というかむしろもうそれはロイドではない。
あの底抜けに何も考えていないいい意味で純朴、悪い意味で熱血バカ。
そんな彼があのような人形のような状態になるなど、認めたくはない。
「――ロイドの馬鹿ぁぁぁ!!」
おもわずどなり、おもいっきり水晶を蹴り上げるマルタは間違ってはいないであろう。
ただし。
「っ~~!!」
水晶があまりにもかたく、逆に蹴った足を自らの手を抱きかかえるハメにとなっているが。

「ったぁ…って、何これ?」
あまりの痛さに足を押え、ピョンピョン飛び跳ねていたはいいものの。
ふと気づけば体がふわふわと浮かんでいる。
そのことに今さらながらにようやく気づき、きょろきょろと周囲をみていたマルタだが、
そこにありえないものをみつけ思わず声をだす。
斜め後ろに視線を向けた先にみえたのは、白く透明に輝くようにみえる、
どこぞの”祭壇”でみた”天使”の翼のようなもの。
まさか、ここにあの天使達が、と身構えるが、そんな気配はどこにもない。
というか、マルタ自身が動くたび、その翼らしきものもマルタの背後に
まるでぴったりとついてくるように移動しているのはどういうことなのか。
「…あ…あはははは……」
思わず乾いた笑いが漏れてしまう。
まさか、とおもい意識し冗談半分で翼ようごけ~と念じてみれば、
パタパタと自身の思うがままに動いているソレが目にはいる。
まさか、と思い、消えろ、消えろ…と念じてみれば、すうっと翼が消える気配と。
そして。
「きゃ!?」
ドスン、という音とともに浮遊感がなくなり、そのままマルタは床にとたたきつけられる。
尻餅をつきつつも、恐る恐る、しかしまさか、という懸念とともに
今度は翼よでろ~と念じてみれば、ふわり、と体の中から何かが抜け出す感覚と、
そしてその背に生えている…のであろう。
さきほどみえた白く透明な鳥の翼…クルシスの天使達のもっている翼のようなそれが視界にはいる。
恐る恐る、つん、と肩越しにさわってみるがそれに質感はなく、
そのまま指はするり、と透き通った翼を突き抜ける。
しかし、翼そのものは何だか陽だまりの暖かさのようなものを感じなくはない。
意識して動かせば、ふわり、と浮き上がる自身の体。
…うん。
認めたくはないけど、私もコレットと同じような天使になっちゃったってこと?
はは…笑えない。
だが、人間というものは、どうしたらいいかわからない時にかぎって、なぜか笑ってしまう。
それはおそらくは現実逃避の一環、でもあるのであろうが。
それにしても、いきなり、何で?
そんなマルタの疑問に答えるかのように、
「もともと、この地に降り立った、デリス・カーラーンの民の末裔。
  それが今この地にいる人間たちのありようだからな。
  話によればデリス・カーラーンの民は自分の意思で体内のマナを操り、
  そのようにマナの翼を展開することができた、という。
  今の世界で微精霊達の力を悪用して翼を得ているのも、
  本来、それぞれがもつはずの力を無理やりに引き出しているからにすぎぬときく」
そんなマルタをみつつ淡々と述べるシヴァ。
もっとも、それをきちんとコントロールできるか否かは素質次第。
事実、完全なるマナの翼をもちしものは数えるものしかいない。
クラトスやユアンもマナの翼を完全に掌握できたという理由でかつては国、
そして研究者たちからも目をおかれていた。
クラトスのほうは貴族、という立場ゆえにそう無体な実験は行われはしなかったが。
ユアンは別。
ヴェリウスもシヴァもそんな事情は全く知りはしない。
ただ、センチュリオン達からきいた真実を簡単に説明しているだけ。
ラタトスクもラタトスクでひとが愚かなことをしているな、という程度で、
詳しく地上のことを逐一観察していたわけではない。
むしろ観察を強めたのはミトスたちが旅立ってから。
「クルシスが天使とよばるゆえんの翼は
  もともと今の地上の民がもっている力でもあるのですよ。
  心の試練を乗り越えたあなたは、
  古の力とも心と体が結びついた結果、利用できるようになったのです」
彼らの話の内容はマルタにはよくわからない。
だが、わかることはただ一つ。
どうやら自分はクルシスの天使がもつ翼のようなもを得てしまったらしい、ということ。
そして彼らのような本物の翼、というわけではなく、
むしろコレットたちのような神子がもつマナの翼の形で。
そこまでおもい、はっとする。
「コレット…そうだ、コレットたちは!?」
いろいろとあり、混乱していたが、一緒にいたはずのコレットたちの姿がない。
この場にいるのは、ロイドのみ。
もっとも、水晶の中に閉じ込められたように、しかもその中で完全に
うずくまっている彼を”いる”といっていいものかどうか判断に迷うが。
しいなも、リフィルも、ジーニアスも、そしてコレットもいない。
当然のことながらプレセアも。
ここが心の精霊ヴェリウスのいる場というのなら、彼らがいてもいいはず。
なのに彼らの姿はどこにもみあたらない。
ロイドのように水晶に閉じ込められている気配もない。
コレット、という言葉で一瞬、ヴェリウスが悲しそうな表情をするが、
それにマルタはきづけない。
「彼らは今、魔族達と戦いの真っただ中です」
そういうとともに、マルタの頭上。
ここは建物の中なのかどこなのかはわからないが。
とにかく天井らしきものは何もみえない。
わかるのは、足元にある床と、そしてふわふわ台座?のようなものの上にういているヴェリウスの姿。
四方に壁のようなものすらなく、どちらかといえば真っ白な空間が広がっているといってもよい。
よくよくみれば、壁はそこにある、のだが。
壁が本来のありかた。
すなわちヴェリウスの意識によってその概要を変化させるものにかわっているゆえに、
マルタの目からは壁がないどこか別の空間にいるようにしかうつらない。
ともかくそんな摩訶不思議な空間。
さきほどまでいた自分の心の中?だという空間に似ていなくもないそんな空間の頭上。
頭上の空間が一瞬、ゆらりとゆらめき、そして映し出されるは、
いくつもの異形の存在達と戦っているリフィル達の姿。
リフィルやジーニアス、プレセアといった面々までどうみてもマナの翼っぽいものがはえているのは、
マルタの目の錯覚か。
しいなはどちらかといえば翼、というよりは羽衣っぽいようなものをそのみにまとっており、
それによってなぜか”とんでいる”のだ、となぜだか理解できる。
なぜそんなことがわかるのか、それに気付いて戸惑うよりも先に、
リフィル達がどうみてもあからさまに人ではありえない何か。
しかも魔物でもないっぽい輩たちと戦いを繰り広げていることに驚きを隠しきれない。
「ま…ぞく?」
マルタの声がかすれる。
「ええ。マーテルを取り込んだ種子の影響でもありますけどね。
  かの種子はこれまでにも多くの少女たちの苦しみをも蓄積してきていました。
  本来、マナはその方向性によってはどんなものにも力を与えることができるもの。
  ”彼ら”はそんな染みついた、これまでに犠牲になった数千万異常の”神子達の負の思念”。
  それを利用して彼らの力…すなわち、瘴気の糧としているのです。
  だからこそ、あのように負が実体化するに至っています」
あの場にいるのはほとんどが精神体であり、実体を本来ならばもたざらぬものたち。
だが、方向性を逆にされたマナの力によって自力で実体化しているものたちばかり。
精神体であるがゆえに物理的なダメージは一切ききはしない。
意思力をこめた力でなければ実体化した精神体たる魔族達に太刀打ちはできない。
「まあ、マーテルを取り込んだかの種子が彼らの手にある以上、
  彼らは消滅することなく、延々と再生を繰り返しているのですけどね」
ダメージをあたえても、マーテルが種子の中より発する悲鳴…すなわち負の力にて、
逆に魔族達を活性化させる、という悪循環があの場では成り立っていたりする。
まああれでもかなりましである、というのはヴェリウスは理解している。
そうでなければとっくにマーテルの魂そのものが、彼らに利用されてしまっている。
種子の中に入れ込んだ”王”の意思の欠片があるゆえに、
魔族達はマーテルの魂に手出しができない。
しようとしてもすることができない。
以前、ゼロスがコレットがとらわれの身になったときに頼まれて行った行動が、
ここにきてあるいみ功をそうしている、といわざるをえない。
まあ、あの時から”王”にこの意図があったのかどうか、それはヴェリウスにはわからない。
もっとも、リアルに仲間を失う、という体験をロイド・アーヴィングという少年に経験させることで、
少しは自らの心の自立を促した、というのは何となくではあるが理解している。
結局は、あの時もアンナの影響もあって彼の反省と後悔は長続きしなかったようだが。
「それ…皆はしっているの?」
「さあ?すくなくとも、ミトスは気づいているでしょうが
  …乗り込むきっかけを探るどころか、
  多勢に無勢ということもあり、押されているのが現状のようですね」
よくよくみれば、クラトスやユアンだけでなく、ミトスの姿も垣間見える。
彼らはそれぞれ、光る武器をもち、異形のそれらにと立ち向かっている。
どうにかして樹にも塔にもみえるいびつなる形をしている”何か”に近づこうとしている。
というのが映像越しでも何となくだが理解できる。
マルタの問いかけに、少しばかり首をかしげ、さらりといいきるヴェリウスの様子から、
どうやらその事実はあの場にいるしいな達は知らないらしい。
あの様子ではミトスたちも彼女たちと接触をもてているのかすら怪しい。
「さて。マルタ・ルアルディ。あなたはどうしますか?
  その力を得て、あなたの両親の元にもどって両親を助けるもよし、それとも――」
異形の存在達と戦っているのは、何も彼ら、だけではない。
もう一つ映像が浮かび上がり、そこには両親たちが異形のものと戦っている姿が。
彼らと違うのは、こちらはほとんど黒い色をした大小さまざまな形をした
動物のような、ヒト型のような、とにかく様々な形をした輩と戦っているらしい。
しかもそれは耐えることなく、ヒトの体から湧き出しているようにみえるのは目の錯覚か。
「魔族達が活性化している以上、人の心に掬う負の力もまた、
  あのようにして具現化しているのです。根本を絶たないかぎり、
  この現象は地上からなくなりはしません」
すなわち、それはアレをどうにかしなければ、終わりがみえない、ということ。
「さて。どうしますか?」
再度、問われる。
両親が心配なのは本当。
だけど、両親の元にいって手助けしたとして、それはおそらく…焼石に、水。
「――私は――」
世界を救いたいだなんて大それたことを考えるわけではない。
ただ、自分の知り合いを、そして自分にできるとおもうことを、ただ、するだけ――


「ジーニアス!!」
先ほど、落下していったコレットのことはかなり気になる。
意識があればコレットにも翼があるので問題はない。
だが、ここがどれほどの高さなのか。
あの時コレットが放った禁断の術。
自らのマナを他者に分け与え、そして敵すらをも滅する術。
かつて、コレットの体を通じ、マーテルが行ったあの術を、
コレット自らが自分たちを助けるために使用した、というのは理解している。
理解したくもないが、せざるをえなかった。
落下してゆくコレットを追いかけようにも、
コレットが命を賭して葬ったはずの”敵”はまるで何ごともなかったかのように、
黒い霞の中から逆にさらに増えて誕生した。
先ほどからフォトンなどを連発し、さらには治癒術を繰り出しているが、
敵にまったく翳りがみえない。
一体どれほどの時間を戦っているのかすらもはやわからない。
周囲には至るところで雷のような稲妻が発生しており、
この場にいる天使達のいくばくかが敵に対してジャッジメントを放っている。
というのは何となくだが理解はできる。
「あたしに任せな!蛇拘符!!」
今まさに、ジーニアスに殴りかかろうとするガーゴイル、とよばれる魔物にもよくにた何か。
その手にもつ槍がジーニアスに突き刺さる直前、しいながすかさず符をかざす。
幾重にも重なった”符”が敵の体をそのまましばり、一瞬硬直させる。
「ジーニアス!今だよ!」
「!天空の風よ、降り来たりて竜とならんっ!…サイクロン!」
しいなが敵の動きを封じている合間を見逃さず、
すかさず呪文の詠唱をし周囲の敵を発生した竜巻にて吹き飛ばす。
ここまで敵が接近していれば、呪文を詠唱しているひまもない。
かといって、なぜか今現在。
というかまともに呪文を詠唱しなければ術が確実に暴走するという不思議な現象。
まあ、地上ではなぜかこれまた術がまったく発動しなくなっていたので、
それもふまえてありえないことではない、と納得できはするのだが。
だが、ここまで敵がおおく、まともに無詠唱で敵を攻撃できないというのはあるいみ致命的。
一人では確実に詰んでしまう。
今も姉が補助呪文で防御面などは多少安心できてはいるが。
しかも厄介なことに、どうやらこれらの目の前にいる異形のものたち
…魔物とはあきらかに違うこれら…は、物理攻撃が一切合切きかないらしい。
というより、まったく相手にダメージを与えていない。
プレセアもその斧での攻撃がほとんど意味をなさず、
属性攻撃を纏った術でのみ敵を撃退できている、というこの現状。
それぞれが自由に飛行できるようになっているがゆえにまだ敵の攻撃を回避とかできているが。
もしそうでなかったとすればぞっとする。
嫌でも実践で新たにえた力…翼の使い方は嫌でも身についていっている。
…幸か不幸かわからないが。
この場合は”幸”になるのであろう。
…おそらくは。
ジーニアスが起こした突風によって、周囲の敵は一時凪散らかされものの、
またすぐさま敵はまちがいなく突進してくるであろう。
「もう、キリがないよ!これ!」
さきほど落下していったコレットのこともある。
気ばかりがあせり、しかし現状、この状態の打破が思いつかない。
何しろ敵は倒しても倒してもなぜかどこからともなくわいてくる。
「おそらく…アレ、が原因、なのでしょうね……」
雲の上に突き立つように生えているようにみえる塔のような樹のような歪な”何か”。
魔塔、とでもいうべきか。
歪なる木の根がいくつもからまりあった元救いの塔であったであろうそれは
今やもはやまったく面影すら残していない。
その【魔塔】の頂上近く。
どうやら救いの塔のときのように頂上がみえないわけでなく、高さはそこそこ、であるらしい。
高さ的にはマナの守護塔よりも高く、それでいて救いの塔よりも低い。
マナの守護塔を二倍にした程度の高さ、であろう。
あくまでもこの場…すなわち遠目から見た限りの目視判断にすぎないが。
ジーニアスが叫ぶとともに、弟を心配して文字通り飛んで駆けつけたリフィルが
すばやくジーニアスに回復術を施したのち、忌々しそうに【魔塔】をみつめ小さくつぶやく。
「まあ。そうだろうけど」
そんなリフィルの言葉にしいなも同意を示す。
【魔塔】の周辺からあふれ出している黒い霧のようなものがあきらかに”敵”に力を与えている。
淡い色をもつ黒い霧が発生するたびに、頂上付近にみえるおそらくは”大いなる実り”とおもわしき品。
それらがあわく、黒ずんだ輝きを放っているのが遠目からでも嫌でもわかる。
「たぶん。マーテルを取り込んでいる大いなる実り。
  あれがこいつらの力の源になっているんだわ」
マナは魔族に対しては毒だというが。
毒も使い方を変えれば薬となる。
魔族がどういう扱いをしているのかはわからないが、おそらく”そういう”ことなのだろう。
彼らは何らかの形でマナを生み出すといわれている種子の力を、
彼らの力の源であろう瘴気か、もしくはそれに近しい何かに変えている。
「あの種子をあの場所から取り上げない限り。敵は無限にわいてでる…ってことかい?」
さすがにリフィルの言いたいことを察してかしいながおもわず眉を顰める。
それでなくても大量の敵。
間違いなく敵、なのだろう。
相対していても嫌悪感のほうが強く、忌避感が強い”敵”。
魔物たちと戦うときですらこんな感覚はまったくなかった。
エルフの里で、禁書とよばれていた書物の中で戦ったときよりもその嫌悪感は強い。
体が無意識のうちに相手を拒絶しているのが嫌でも理解ができる。
しっかりと意識を保っていなければ、嫌悪感にのまれまるで自分が自分でなくなってしまいそうな。
「でも…どうやっていくんですか?」
「「「・・・・・・・・・・」」」
至極もっともといえば最もなプレセアの意見。
それゆえにリフィル、しいな、ジーニアスは一瞬無言に成り果てる。
いまだに近づくことすらできないが、ミトスたちもどうやら同じ考え、であるらしく、
どうにかしてあの塔もどきに近寄ろうとしているのが嫌でも見てとれる。
しかし近づいてゆくたびに異形のものたちの数は増え、
どうも”敵”そのものも強くなっているような。
というのも、彼らの放つ”ジャッジメント”の一撃で消え去る敵が少なくなっている。
ほとんどここから見るかぎり、ミトス無双、ともいえる光景がみてとれているのだが。
ミトス、ユアン、クラトスの連携によって少しづつではあるがちかづき、
もう少しでたどり着けるあたりにその体はどうやら位置しているようではあるが。
最奥のほうの敵はどうやら並み居る普通の天使達でははが断たないらしい。
逆に被害をうけてミトスたちが彼らを後方の敵に回るように指示している光景も垣間見えた。
コレットのことは気になっている。
あのコレットだから無事であろう、とそれぞれが無理やり自分自身に言い聞かせている現状。
しかし、マナを他者に分け与える禁断の術だというあの”リヴァヴィウサー”を唱えて、
無事なのかそんな不安は確かにある。
しかし、コレットならば確実に自分よりこの脅威を優先してほしい。
そう願うであろう。
それはこの場にいるリフィル、しいな、ジーニアス、プレセアも理解しているゆえに、
不安に思ってはいるもののコレットのことを口にしていないだけ。
人は不安なことがあれば別なることに視点を向けようとする。
その不安から目を背けるためといえばそれまでなれど。
彼らが無言になっているそんな中。
突如として
ドゴガァァン!
何かが爆発するような音が鳴り響く。
「な、なに!?」
「あ、あそこをっ!」
眼下の分厚い雲の中。
その雲がゆっくりともりあがってくるのが視界に入る。
それは鈍い銀色のような輝きをもつ”何か”。
雲がもりあがり、そこから首、のようなものがわいてでる。
ごつごつとした鱗は優美のごとく。
このいくつもの術による攻撃の光が満ちている中、その鈍い銀色の巨体はよく映える。
竜、なのだろうか。
その銀色の細長い口元にはいくつもの鋭い歯らしきものがうかがえる。
頭にある長くのびた二本のツノ、のようなもの。
だが、あれを竜、といってもいいのであろうか。
その首元がなぜか骨格のようなものしかないようにみえるのはこれいかに。
そして、胴体と頭をつなぐ首らしき位置には骨?のような枠組みと、
しかし上半分は骨のような枠組みしかないが、下半分はしっかりと肉体らしきものがある模様。
ジーニアスが驚愕の声をあげ、しいながはっとしたようにそちらを指さす。
そんな中。
「いよっしゃぁぁ!!改良版、ツインボムの威力をみたかぁぁ!」
「…はぁ。お前なぁ……」
『・・・』
どこかで聞いたような声がきこえてくる。
やがて全体の姿が雲の中よりせりあがってくる。
それは全長十メートルはあろうかというほどの巨体。
上下にゆっくりと動いている翼を広げている様を考えれば、
翼長も十メートルといったところか。
…どうでもいいが、首らしき部分。
首の上の骨格部分らしきその隙間。
そこに人影らしきものがみえるのは気のせいか。
しかも、そこからおもいっきり聞き覚えのある声すらもしてきたのは。
「よっしゃ、次々いくよ~!!」
「ええい!少しは自重しろ!アステル!!!」
何やら嬉々としていくつもの何かの物体?らしきものをとりだして、
骨?と骨?の隙間から身を乗り出すように”それ”を投げようとしている金髪の少年と、
そしてそんな少年を必至に押しとどめようとしている赤髪の青年の姿。
『・・・・・・・・』
雲から姿をあらわしたその姿は、ぱっとみれば竜そのもの。
だが、何というか生物の感じ、というよりは、どちらかといえば人工的なような感じすら。
確かにいきものっぽいのに、何かが違う。
そんな印象をうける”それ”。
だが、それ以上になぜにここに”彼ら”がいるのだろうか。
『アステル(さん)にリヒター(さん)!?』
その場にいる全員…リフィルを含めた、リフィル、ジーニアス、プレセア、しいなの声が思わず重なる。
そんな中。
――皆。聞こえるか?
どこからともなく響くようなこれまた聞き覚えのある声が。
『今度はリーガル(さん)(かい)!?』
声はすれども姿は見えず。
思わず周囲を見渡すが、どこにもリーガルらしき姿はみあたらない。
声はいったいどこから、と皆が思うよりも先に、
「……おどろいた。文献にのこっていた古の飛行竜…再生させたのかい?!」
かつて、しいなは精霊研究所の一角で、その文献を目にしたことがある。
ソレが蘇れば空の支配権も夢ではない、と語っていた研究者たち。
だが、アレはすでに古代大戦と呼ばれていた時代には姿を消していたといわれていたはずなのでは。
古い文献にのみのこっているだけで、実在を疑われていた”それ”。
しかし、鈍く銀色にとかがやくその様式は、かつて手にいれたとある品を彷彿させるには十分。
そんな彼らの驚愕をしってか知らずか、
「よっし。次々いくよ~!!改良版、フィリアボムの威力をとくとご覧あれ!!」
「…ええい、のりだすな、枠組みの上に登ろうとするな!!」
身をのりだして、もう少し高い位置に移動しようとしているのだろうか。
骨っぽいものにとのぼろうとしている金髪の少年を必至におしとどめている赤髪の男性。
「――あったれ~!!ボムレイン!!」
そう金髪の少年…おそらく、まちがいなく声からしてアステルなのだろう。
王立研究所にもどっていたであろうはずの彼がなぜ。
困惑するリフィル達とは対照的に嬉々として何か黒くてまるい物体を次々となげている
”アステル”の姿と。
「リヒター!」
「まったく。しょうがないやつだ…いくぞ!トルネード!!」
何かを投げたのち、彼自身の腰をひっしに掴んでいる赤髪の青年…
やはりあの赤髪の人物はあのリヒターで間違っていなかったらしい。
相変わらずアステルに振り回されてるんだな…と
どうでもいいところでジーニアスはある意味同情してしまう。
乱雑に”アステル”がばらまいた黒くてまるい物体は、
”リヒター”によって発生した風の術によって器用にも埋め尽くす異形の集団のほうへとむけられ、
彼らの上空からいっきに”それら”は降り注ぐ。
ボン、ボンボンボン!!
『ぐがぁぁぁぁぁ!!』
『ぎゃぁぁぁっ!?』
黒くてまるい物体は異形のそれらに触れるとともに突如としてはじけ、
何かきらきら光る液体状なようなものを周囲にとばらまいている。
それらを身に浴びた異形のものたちからまるで悲鳴のような絶叫が響き渡る。


おもわず唖然としてしまう。
あれほどまで手こずっていた異形のものたちが、なぜにもがき苦しんでいるのか。
下手に完全に倒しきっていないがために、数が増えているわけでもない。
なぜかこれらの”敵”は倒せば倒すほど数が増えていたように感じていたゆえに
今いる数のままでもだえ苦しんでいるのはいいことなのか悪いことなのか。
何かきらきらと光るようなものが投げられた何かが異形の輩に直撃するとともに
周囲に飛び散るように舞っているのがみてとれる。
そんな唖然としている彼らの耳に、
――このまま目標にむけてつっきる。道を切り開くぞ。
くぐもったようなリーガルの声が再び聞こえてくる。
「お姉ちゃん。リーガル様のところにいこ。あれならばこの場をつっきれられるかも」
プレセアの横でふわふわと半透明の状態でプレセアたちと同じく”浮いて”いた”アリシア”が
そんな”声”をきき、銀色の飛んでいるぱっと見た目は竜。
飛竜とはまた異なる容姿のそれをみて首をかしげて姉であるプレセアにと語り掛ける。
アリシアは自ら武器をもったり、ということはまずできない。
そもそも今の彼女はたんなる精神体。
完全に実体化できるほどの力もない。
よくてこうして姿を他者に認識できる程度の力はそなえているが。
だがしかし、精神体とて力の使いようはある。
肉体という枷がないゆえに、よりつよく自然の力を感じることが可能。
だからこそ、常に姉の周囲に風を操り、ちょっとした風の結界をつくりプレセアを守っていた。
それでもさすがに多勢に無勢ともいえる攻撃すべてを防ぎきれるわけではないので
どうしても完全とはいいがたいが。
アリシアの声がきこえた、のであろう。
ちらり、とそれぞれに視線をむけるリフィルの姿。
リフィルと視線が絡み合い、しいなもまた、こくり、と同意するようにとうなづきをみせる。
何が何だかわからないが、すくなくとも。
足場もなく、さらには使い慣れない”翼”をもってして戦うよりは、
あきらかに足場がありそうなあの場所に出向いたほうが効率的、なのかもしれない。
思考は一瞬。
「いきましょう」
「いこう」
リフィルとしいなの声が、重なる。


ひんやりと、しかしどこかぬくもりを感じるその感触。
どこかでこの感触を見知っているような。
「これは…この感触はベルセリウムか!?」
ふわり、と巨体…といえるのかどうかはわからないが。
とにかく銀色に鈍く輝く竜…にしかみえない…その容貌はともかくとして…に近づき、
その体に触れ何やら驚愕の声をだし目を見開くリフィルの姿。
以前、とある”護符”をつくるためにと手にいれたことのある、
伝説の鉱物だという”ベルセリウム”。
そういえば、あの場で出会った”彼女”はあれからどうなったのか。
またどうしているのか、ふと今さらではあるがリフィルは思う。
「アステル!リヒター!あんたたち、どうしてここに……」
一方、”竜”の首元に降り立ったしいなはといえば、
その場にいる男性二人にと話しかけているのがみてとれる。
「しいなか。こいつがモトを断たねば意味がない、といいだしてな……」
そんなしいなに対し、どこか疲れたようにこめかみを抑えつついっている赤髪の青年。
「これ…どうしたんですか?」
「あ、それ私もきになります」
恐る恐る、といった感じで彼らのいる場所に降り立ったプレセアが困惑気味にと問いかける。
プレセアは自覚していないが、かつては無表情でしかなかった彼女もまた
本来のありかたを取り戻しかけていたりする。
最も、当人にまだその自覚はないにしろ。
そんなプレセアのそばでふわふわと浮かんでは興味深そうに骨格のようにみえる頭の上のほう。
すなわち、首回り…なのだろう、首元を覆うようにある銀色とも白色ともみえる骨。
まるで肋骨のごとくゆるやかな曲がりをもっているそれをみてこちらもまた問いかけている”アリシア”の姿が。
「研究所の職員がみつけてきたんだよ」
「世界が一つに戻され、地理を把握するために動けるものは探索にでていたからな。
  何でもサイバックから南東に下ったところの森の中にある小さな山脈地帯で
  新たな洞窟がみつかったとかで」
アステルがいえばリヒターが溜息まじりにそんなことを説明してくる。
何でも世界が一つに戻されたのち、これまでは陸路…というか”橋”でつながっていた首都。
その首都とも行き来ができなくなり、というよりは橋そのものがなくなっていた。
認識している地形ともあからさまに違っていることもあり、
また、謎の声のこともあり、世界が一つにもどったのでは。
という仮説のもとに幾人かの研究者たちが危険を承知で探索にでていたらしい。
サイバックに戻ったアステルとリヒターもまたそんな新たな研究にと駆り出された。
…もっとも、その合間にも異形の存在による襲撃は続いていたわけだが。
かつてアステルが精霊を研究してゆく過程でたまたま作り上げたという簡易的なマナ増幅器。
それが異形のものに効果があるというのがわかり、それで何とかしのいでいたらしい。
もっともそれは応急的な処置でしかなく、小さな範囲に結界を敷く程度の効力しかなかったが。
「探索に赴いていた研究者たちが
  その山脈地帯でみつけた洞窟の中から金属のような塊を拾ってきたんだ」
だが、それが普通の金属でないことは一度みたことのあるアステルはすぐにと気が付いた。
かつて、神子達とともに探しにいきみつけたことのある、伝説の鉱物【ベルセリウム】。
鉱物だけでも生物で。
あきらかな命の鼓動をもちしソレ。
しかしその形状は塊、というよりは、むしろ……
「こいつがその固まりの形状から卵みたいだといいだしてな。
  …いきなりそれに大量の水やら何やらを浸し始めたんだ」
こっそりと、別にあのノームの祭壇のある地にて回収していたというベルセリウムの欠片すら、
なぜか水と一緒にその固まりの周囲に配置するようにと桶の中にと浸したアステル。
他の研究者たちは何をやっている、とあきれ顔であったが。
だがしかし、変化はすぐさまにと訪れた。
卵のような形をしていたベルセリウムの塊がうねうねと動き出し、
やがてそれは別なる形を作り出した。
そして、あがる咆哮…というよりはこの場合は産声、というべきか。
小さな竜、のようなものがその場にあらわれたらしい。
しかも全身、ベルセリウムで覆われたというかベルセリウムでできた体をもちし”竜”が。

彼らは知る由もないが、以前、ラタトスクの命をうけ、かの地に卵を保護していたのはセンチュリオン達。
その洞窟もマナが多少なりとも豊富にあり、
また人もよりつかない位置にあったことからそこに保護していた。
時がくれば安全に目覚めて成長できるように、との配慮のもと。
だが、その卵をヒトが持ち出し…そして、今に至っていたりする。
彼らは飛行竜、とかつて呼ばれていた人工生命体でもあるベルセリウムでできた竜。
かつて人がつくりだした彼らはラタトスクの加護のもと、新たな一つの生命体として”理”を得ている。
彼らとほぼ同時期うみだされた”属性人工精霊”達もまた、”理”のもとに今では魔物、
として生態系としての位置をしっかりと確保しているのだが。

「まあ、何だかんだといろいろとあって、この子にのって移動できるっていうのがわかってね」
いやまって。
そのなんだかんだ、というのがかなり重要なのでは?
とおもわず内心、しいなが心の中でつっこみをあげるが、詳しく聞き出そうとすれば
それこそかるく一日以上はかかるかもしれない。
研究者というものは興味のあることはしつこいほどに話が長くなる。
そのことをしいなは身をもって知っている。
ゆえにその言葉を何とか押し殺し、
「そ、そうかい……」
そう、としかいいようがない。
というかむしろそれ以外に何といえというのだろう。
「そういえば、リーガル様の声がしてましたけど、リーガル様は?」
ふわり、ふわりとうかびつつ、半透明の体を浮遊させながらリヒターにと問いかけているアリシア。
「え?ああ。リーガルさんなら奥にいるよ。
  竜の心臓部?みたいなところがあってね。どうもそこでこの個体に指示がだせるらしくて」
ちなみに竜にも意思があるらしく、嫌だとおもえばその指示には従わない。
「アステル!この騒ぎがおさまったらしっかりと話しをきかせてもらいますからね!」
いつのまにかリフィルもアステル達の横に降り立ち、
がしりとアステルの肩をつかみ強い口調で言い放つ。
「そ、それより、さっき投げてたアレはいったい何なんだい?」
このままではラチがあかない。
そう判断してかしいなが気になっていたことを問いかける。
「え?ああ。あれですか?あの爆弾もどきの中には
  ユミルの森の水をふんだんにいれてあるんです。あと可燃物を少々」
もともと、ユミルの森の水の重要性は研究されていたゆえに、
かなりの量の水を研究院ではそれこそウィングパックの中に容器ごと保存していた。
突如として生えてきた数多の木々からそれらを守るため、
研究者たちがそれぞれの研究結果や必要な資材をウィングパックにつめ研究所から持ち出した。
今、サイバックの研究所は元の姿を保っていない。
そもそも街そのものの姿もかわってしまっていっている。
至るところから生えてきている木々と地盤沈下による浸水。
首都と聯絡がつかなくなり、サイバックにある学院の維持すら怪しくなっている。
そもそもこの混乱の中でも教鞭を一部とったり、もしくは研究している研究者たちは
あるいみつわものといえばつわものといえなくもない。
もっとも、今ここでサイバックにおける現状をしいな達に説明しても意味がない。
だからこそ、それがわかっているゆえに、そこには触れずに簡単な説明だけを選ぶ。
そんなアステルの説明に、ある意味、一を聞いて十を知る、という典型ともいうべきか、
「…なるほど。かの地の水はふんだんに確かマナが含まれていたはずね。
  この異形のものたちはあきらかに魔族に属するもの。
  魔族にとってマナは毒。だから効果が大きいのね」
可燃物云々が気になるところなれど。
おそらく水蒸気爆発の原理か何かを応用しているのだろう。
そう予測し、リフィルがアステルの説明に思わずうなづく。
たしかに、かの水を利用する、というのは盲点ではあった。
もっともわかっていてもそこまでの水の量を確保できていない以上、
その方法はとれそうにもなかったが。
「まあ、詳しいことはおいておくとして。
  結局、何がどうなっているんだ?これはリフィル?」
とにかく、元凶をたたくべきでしかない。
そう結論ずけたアステルの理論を却下する要因もなく。
アステルの開発していた瘴気を探知する装置…アステル曰く、
以前のヘイムダールの出来事をきき、ハーフエルフ測定値を少しばかり改造し
簡易的に作り上げた代物、であるらしい。
とにかくその装置をつかい、元凶とおもわしき瘴気がより強い場所を探り当てた。
それは空の上。
すなわち分厚い雲の上。
元をたたねば無制限に異形の生き物もどきは襲い掛かってくる。
サイバックだけでなく、おそらくこの現象は世界のいたるところでおこっているはず。
その可能性を確認するためにも、という理由にて。
当時はまだ小さかったこの【飛行竜】にのって情報が少しでもあつまっているであろう、
ミズホの里にと出向いたのち、そこからアルタミラへとむかったらしい。
アルタミラもかなりの異変に襲われており、すでに街という街の形状を保っていなかったが。
しいていえば密林地帯になりかけていた。
海面が上昇したのか、地盤が沈下したのかはわからないが。
地下という地下は水没し使い物にならなくなり、
高層ビルとよばれし建物も数多の植物に覆われ完全にその機能を果たしきってはいなかった。
レザレノ・カンパニーやファブレ伯爵の配下の手のものの活躍により、
かろうじて人々の人為的被害は最小限にとどめ置かれているらしい。
というのが今のアルタミラの実情。
下手に街からでても危険極まりなく、
かといって街にそのままいても危険すぎる。
すでに商業区を含めた一般ヒトたちもひとまず退避はさせている。
高速艇そのものの完全なる機能は果たせないままだが、
普通に船として運航するならば手動にきりかえればまだ何とかなる。
危険な街中よりも船の中のほうが安全だろう。
その判断のもと、ほとんどの街のものたちは今現在、海の沖にと船にて避難させている、
とのことらしい。
陸ではいまだに異形のものたちとの戦いが続き、いつおわるかもしれない戦局を迎えており、
そんな中で、かろうじて二人が乗れる程度の大きさの”竜”に乗ったアステルとリヒターが
アルタミラにと移動したらしい。
リヒターが簡易的な簡単なるこれまでの経緯をざっとこの場にいる彼らに説明したのち、
気になっていることを逆にと問いかけていたりする。
この中で一番現状を把握しているのはおそらくリフィル。
しいなもある程度は把握しているかもしれないが、洞察力に関しては、
リヒターもリフィルの鋭さは認めるところ。
伊達に幼いころ、その頭脳を乞われて”国”から手配をうけていたわけではない。
と納得がいくほどにリフィルは聡明。
もっとも、その聡明がたたって、リフィルの家族…セイジ一家は国から追われる立場となり、
リフィル達はリフィル達でまだ幼いジーニアスとともに姉弟のみだけでシルヴァラントに送られたわけだが。
「私たちも詳しいことを知っているわけではないわ。
  でも、一つだけいえるのは。大いなる実りをあそこから奪取しない限り。
  おそらくこの異変は止まらないとおもうわ」
いいつつ、リフィルが指差したは、かろうじてみえる範囲にある異形の塔もどき。
その上層部分にきらきらとムダに青白く輝いている蓮の花のような水晶のような”何か”。
勘、でしかないがアレをどうにかしなければ、この騒ぎの終息はない。
「ところで…シルヴァラントの神子様と、あのロイドっていう子は?
  …エミルのほうはまあわからなくもないけど」
エミルの正体を考えればこの場にいないのもわからなくはない。
そもそも、エミルが調べていたあの大樹の精霊ラタトスクであったことも想定外。
…関係者かもしれない、という予測はたてていたにしろ。
だからまあ、この場にかの精霊がいないのはまあわかる。
地上がこのようになっていれば、すくなからずかの精霊にもやることがあるのであろう。
だがしかし、なぜにシルヴァラント側の神子と、そしてあのロイドという子もいないのか。
「コレットは……」
そういいかけ、ジーニアスはおもわず顔を伏せる。
それで何かがあった、と察したのであろう。
詳しくきくことはせず。
「…そっか。とにかく、この場を突破してしまおう!」
コレットに何かがあり、ロイドというあの子もおそらく一緒にいるのだろう。
そう勝手に解釈し、アステルが話題をかえて言い放つ。
その予測はまったくの見当違いなのだが、真実を知らない彼にとってそう思うのは仕方のないこと。
「突破するっていったって、どうするのさ?」
「こうするのさ。リーガルさん、聞こえますか!アレを使ってください!」
――了解した。
どうやら声はこの足場の横にある配管のようにみえなくもない、骨もどき…
しかもラッパのような形をし穴があいているそこからどうやら聞こえてくるらしい。
「あれって、何さ?」
アステルのその行動に意味がわからず思わず首をかしげるしいな。
一方、意味がわからないのはしいなだけでなくプレセアたちも同様らしく、
それぞれに小さく首をかるく傾げているのがみてとれる。
「いっけぇぇ!「龍砲、発射」!!」
アステルの声と、配管もどきから聞こえてくるリヒターの声が同時に重なる。
それとともに、
グオオオオッ!!
大いなる雄叫びとともに、首元に乗っている状態の彼らの目には入りはしないが、
首の先にある竜の頭。
その頭の先にとついている細長い首が大きく開かれる。

ぱかり、と開かれた大きな口。
そこには鈍く白銀色に輝くいくつもの鋭い歯がみてとれる。
竜の顔は少しばかり細長い。
しいていえば、ワニを連想すればわかりやすい。
そんな口元をぱっかりあけたその口の奥。
そこに何かが渦巻いているのがみてとれる。
巨大なそれは水滴のようなもの。
まるで落下中の水滴が口の中、しかもノドの奥の中心にとどまるようにして浮かんでいる。
そして咆哮とともに、”それ”がいっきに解き放たれる。
声とともにその水の塊のようなものが大きくうねり、
やがてそれは水柱となりて”竜”の口からまるで砲撃のごとくに繰り出される。

横にただひたすらにのびるまっすぐな水の柱。
竜の口から解き放たれたその水は、行く手を遮る異形のものたちを瞬く間にと飲み込んでゆく。
水のようなソレはまちがいなく、水、なのだろう。
どうみても普通の水とはおもえないが。
水に飲み込まれ、もがくように、また溶けるようにきえてゆく異形のものたち。
「…す、すごいです……」
その光景を目の当たりにし、おもわずぽつり、と声をもらすプレセア。
そしてまた、その光景を目の当たりにし、すごい、と小さくもらしたあと、
「…もっと、はやく……」
もっと早く彼らが合流できていたら。
コレットがあんなことにはならなかったのではないのか。
そんなもしも、が頭をよぎり素直に喜べていないジーニアス。
ふとみれば、この攻撃に気が付いた、のであろう。
少し離れた先。
塔もどきに近づくために攻撃を繰り返して道を切り開こうとしていた”天使達”。
そんな天使達がまるで道をゆずるかのごとくに、三人の人物を背後にいざなうように
それぞれが統制したように空中で並んだのち、彼らの行く手を導くかのごとくに
天使達によるちょっとした”道”が空中にてつくられる。


「…これは驚いたな」
「大樹が枯れる前にはあの生体も見受けられた、とは話にきいていたが……」
少し困惑したような、驚いたようなそんな声がふと上のほうからきこえてくる。
天使達に道をつくられ、そこから移動してきたのは、
少年と大人二人。
その三人が三人ともこの場にいる誰しも面識がある。
赤茶色の男性がつぶやき、
青い髪の青年が何かを考え込むようにして何やらいっている様子がうかがえる。
そしてまた、
「ジーニアス!何で君たちまでここにいるの?
  ここは危険なのに。しかも、さっき、コレットがリヴァヴィウサーを唱えてなかった?」
金色の髪の少年が、ふわりとジーニアスたちの横に虹色の翼を展開させながらも降り立ってくる。
「ミトス!」
そんな少年の姿をみて、ジーニアスが声をあげ、しいなが何ともいえない表情をうかべ、
「そういうあなたたちは?」
彼らが何をしていたのか、リフィルは知らない。
今の”彼”がどう思って行動しているのか。
それによって今後の行動を考える予定がある。
おそらくジーニアスは気が付いていないだろう。
もしもミトスがいまだに千年王国…ヒトを無機生命体化にしようとしているのならば、
自分たちは戦わなければいけないかもしれない、というその事実に。
「これは僕たちの問題でもあるからね。それに…
  アレに取り込まれてる姉様を救い出さないと」
彼らの問題。
そういわれても、
「これはあなたたちだけの問題ではないわ。
  異変はまちがいなく世界中を襲っている。この混乱を乗り切らないかぎり、
  私たち”ヒト”には未来はないのではなくて?」
そう、もう彼らだけの問題ではない。
あの時聞こえてきた”声”がいうように。
「たしかに。…かの精霊もいっていたが、今回のこれは、
  すべての”人間”に対しての試練、でもあるのだろう」
かつて、タバサの中にあるアルテスタの人格とそれについての会話をしているがゆえ、
青い髪の男性…ユアンの表情はどこか思案顔。
「これはきっと、僕に対しての試練でもある、ともおもうから…
  アレがあそこまで力をつけてしまったのは、きっと僕のせいでもあると思うから……」
違う、とはいいきれない。
それどころか、永きにわたり魔族による影響をうけていたのは紛れもない事実。
自覚していなかったが、今ならばよくわかる。
彼らとの旅の中、異様に過去をふりかえったり自身の行動を振り返ったり。
今おもえば、自身の中にたまっていた自覚すらしていなかった”瘴気”を、
ラタトスクが何らかの形で浄化していっていたからなのだろう。
わかってみれば思い当たる所がおおすぎる。
暑さ寒さを感じないはずの自分がそういったものを感じたり、
病気などとは皆無になっていたはずなのに、病気になったり…と。
それでも自分を直接責めることなく、見守ってくれていた”彼”の思い。
自分が勝手に一人で決めたあの約束すら果たしてくれていた。
自分はその約束をずっと先延ばしにしていたにもかかわらず。
もしかしてもしかしなくても、約束が果たせないかも、とわかっていながらも、
姉の復活を優先させた。
本当は心のどこかでわかっていた。
姉マーテルをよみがえらせることに成功しても、
大いなる実りの力が失われてしまうのではないのか、ということが。
自分たち四人がもっているエクスフィア…ハイエクスフィアとおもわれている【石】。
かの石は精霊ラタトスクより授かった特別製。
本来の精霊石には孵化前の精霊達の自我があるらしいが、自分たちのにはそれがない。
ただ、純粋なる精霊の力のみが凝縮されて、自分たちが困らないように、
より困らないようにと授けられたあの石は、ある意味では大いなる実りとそう変わりはない。
異なるのは、それがマナを周囲に発散させるか否か、おそらくそれだけ。
精霊ラタトスクの力の結晶であることに違いない。
リフィルの言葉にミトスは否定することができない。
むしろどちらかといえば肯定するしかない。
姉マーテルとは違った、ジーニアスの姉であるリフィルはたしかに教師、
という立場にふさわしい考えをしているのであろう。
常に何かを疑い、生徒を最悪から守ろうとするその様はあるいみ教える立場としてはふさわしい。
だからといって危険から常に何もかも遠ざけるのではなく、
各個人個人に課題をかして考えさせることも忘れていない。
「大いなる実りに穢れをたまらせてしまっていたのも。
  あれを解き放つ原因になってしまったのも。元はといえば僕に原因があるから」
かつての…いや、彼らと旅をする前の自分ならばそんなことを考えても絶対に口にはしなかった。
自分の弱さをヒトにみせることをしはしなかった。
けども、もう、これ以上、かの精霊を失望させたくはない。
約束通り、大地の浄化は免れている。
世界の人々に対する…自分たちをも含めてだが…試練が課せられている、というのを除けば。
かつてあのとき、大地の浄化をする以前に、強大な敵があらわれれば一時的にヒトは手を結ぶが、
それは一時的な現象にすぎなかった。
自分たちのもとにきていた、水のセンチュリオン・アクアがいっていたことを思い出す。
かつて、自分たちもしらなかった天地戦争…と後の世ではいわれていた時代。
一度、人々はいがみ合うことをなくし、手をとりあって”敵”に挑んだことがある、と。
当時、かの精霊はあえてヒトビトが争いをこれ以上繰り広げないように、
魔物たちに命じ、ヒトを襲わせたことがあった、という。
ミトスは知らない。
その行動が、かつての世界の時間軸において、
ミトスと同じようなことをほざいた人間たちに心底呆れ、
それでも小さな希望に近しいものをもってして人間たちを駆逐しろ、と命じたことがあるなどとは。
もっとも、その時はほとんど本気でヒトなど滅んでしまってもいい、と思ったのはありはすれど。
「そういえば、ロイドはどうした?」
ぎゅっと手を伸ばしたままその太もものあたりで握り締めているミトスとは対照的に、
おそらく気になっていたのであろう。
ユアンがこの場にいないロイドのことについて問いかける。
先ほど、彼らが現れたときから一応、認識はしていた。
ただ、あまりにも”敵”がおおく、彼らのもとに近づくこともできず、
また近寄る理由もみあたらず、とにかくマーテルを救い出すことに全力を注いでいた。
前方にすすんでいく自分たちにとって、後方から現れた彼らを救援するなど考えもしなかった。
「ロイドは……」
ジーニアスがユアンの問いかけに思わず口ごもったその刹那。
――みんな!このまま突進するってリーガルさんがいうから、外は危険だから中にはいって!
――防御結界を展開する。皆、いそげ。このままあの”塔”に突進するぞ!
二つの声が伝導管のようなものから聞こえてくる。
一つはわかる。
先ほどから聞こえてきているリーガルの声。
だが、もう一つは……
「「「「「マルタ(さん)!?」」」」」
その声に思わず声をあげる、リフィル、ジーニアス、プレセア、アリシア、しいなの姿。
そしておもわずその場にて互いの顔を見合わせる。
「とにかく…積もる話もあるけども。まずは、中にはいりましょう」
どうやらこの首元…船首とでもいえばいいのだろうか。
これを船、といってしまうのはどうか、ともおもうが。
とにかくよくよくみれば頭とは異なる逆側。
胴体のほうに視線をむければそこには扉のようなものがみてとれる。
というか、これは生き物なのではないのか、とかいろいろと突っ込みたいところはありすぎなれど。
「よくわからぬが。…これでアレにつっこむというのは選択としては良好だろうな。
  きけ!クルシスの天使達!これより我らはこの竜体とともにかの塔に突進する!
  お前たちはこの竜体を守り、道を切り開く手助けをせよ!!」
『うお~!!』
『クルシス、万歳、ユグドラシル様に栄光あれ!!』
とっん、と足場をけり、龍の頭の上にと移動したユアンが、
その手にもった武器を大きく頭上に掲げ、声を大きく張り上げる。
それととに周囲にいるであろう数多の天使達とおもわれしものたちから
大いなる歓声のようなものが沸き起こる。
「…あいつはああいう扇動はお手のもの、だな」
そんなユアンの様子をみて、ぽつり、とクラトスがつぶやけば、
「クラトスも似たりよったりだとおもうけど?
  僕らと昔、旅をしているときにもおもったけど。
  伊達にテセアラにクラトスあり、とはいわれてなかったでしょ?」
「…昔のことだ」
それは昨日のことのようで、すでに四千年もの古の記憶。
あの時は常に未来を信じていた。
今のミトスはどうなのだろうか。
あの精霊とともにあったことで、あの時のミトスの心に戻っているのだろうか。
いまだにクラトスにはその判断ができない。
少なくとも、ヒトの心を忘れてしまったような【アイトラ】を使い捨てにしたときのミトス。
あのときのミトスとは違う、とはおもうのだが。
常に誰かの気持ちによりそい、相手のことをおもいやる。
それがミトス・ユグドラシルという少年だった。
だが、いつのまにかミトスの心はそこから遠く離れていってしまっていた。
気付いていながらも気づかないふりをし、結果として四千年もたってしまっていた。
ミトスの心に魔族が干渉しているかもしれない、などとは夢にもおもわなかった。
否、考えもつかなかったといってもよい。
ミトスの存在は、クラトスにとって、光そのものであり、闇に屈する姿など想像すらできなかった。
ミトスも元をただせばヒトの子にすぎない、というのをクラトスは完全に失念していた。
初めてあったとき、そしてその後のミトスの行動の光があまりにもまぶしすぎて。
違和感をかんじつつも、みなかったこと、なかったことにしていた結果がクルシスのありよう。
四千年という世界の障害。
七十年前、ミトスの態度をみてクルシスから立ち去ったあの時ですら、
魔族の関与など思いもしなかった。
ただ、ミトスも他の人間と同様にかわってしまったのだ、とおもっただけで。
思っただけでクラトスはそれを諭すことなく、逃げることを選択した。
他にもやりようはいくらでもあったにもかかわらず。
もしも、と思う。
あの精霊が干渉してこなければ、自分は本当にこのミトスを討つことができただろうか。
ロイドがいきていたことをしり、彼らに未来を託そうとおもい、
エターナルリングの材料を集めた。
ユアンにミトスを討つことをつたえ、彼らを導いてくれるようにも頼みはした。
…自分はオリジンの封印をときはなったあと、死ぬことがわかっていたから。
結局、今だからこそおもう。
自分があのとき、オリジンの封印の器をミトスに申し出たあのときですら。
自分は逃げていたのだろう、とおもう。
ミトスのあの提案…精霊達を封じ閉じ込める、というその考えから。
同胞たる同じ人間たちがやらかしたマーテルを殺めるという罪をつぐなう、
というこじつけのような理由をもちだして。
そんなクラトスとミトスのやり取りをちらり、とみて、
「何というか…違和感がありまくり、だね」
あのクラトスとミトスがともにいる。
何よりも二人が古代大戦の英雄である、というその事実。
それがいまだに信じ切れない。
真実だ、とはわかっているのだが、心がその事実をなかなか認められそうにない。
ぽつり、とつぶやくしいなの言葉に、
「それはわかります」
珍しく、プレセアもまた、ぽつり、と同意を示す。
時間の流れに取り残されている彼ら。
当時から姿はかわっていないらしい。
ならば、自分は?
エクスフィア…ハイエクスフィアによる体への影響。
しかし、自分はエクスフィアが消えてからこのかた、目に見えて体は成長している。
まるで止まっていた時が急いで動き出したかのごとくに。
ほぼ毎日、少しづつ伸びている身長。
毎日みていれば違和感をかんじないであろうが、ふとしたはずみにそのことを実感する。
今では身長はジーニアスより気づけば多少伸びている。
見た目、十代前半かそれ以下くらいでしかなかった自分だが、
今では十代後半といってもいいほどに。
気付けばコレットとおなじくらいの身長にいつのまにか伸びている。
今のプレセアの身長は約百五十センチ。
プレセアは知る由もないが、この二年後に本来ならばたどり着いている身長にとなっている。
元々が百三十八センチしかなかったのをかんがえれば、
この短期間に十二センチも伸びたことになる。
見た目は子供でしかなかった自分が大人びてきていることもプレセアは自覚している。
…まあ実年齢を考えればそれでもまだ子供っぽさが抜け切れてない、という現実はあれど。
そっと横の壁?らしき場所に手をあててみれば、どことなく生暖かい。
しかしながら、生暖かいながらも冷たさをも感じるその感触は、
かつて手にしたことのある、”ベルセリウム”と呼ばれている金属とほぼ同じもの。
どうも一人で考え込んでしまうと思考がより負に近い方向に傾いてしまう。
ゆえに、すこしばかり思考を変えようと何のきなしにそのあたりの横に手を当てたのだが。
「あ。気づきました?この竜体って、全部がほとんどベルセリウムでできてるんですよ。
  すごいですよね!」
プレセアが手を当てて、すこしばかり首をかしげているのに気が付いたのか、
そんなプレセアをみてアステルが目をかがやかせつつもプレセアにと話しかける。
「…ベルセリウム、とは、あの?」
「はい。あのウィノナさんという人をみつけた場所で発見されたあの物質ですね。
  ベルセリウムも調べた結果、無機生命体なのではないのか。という結論がだされています。
  どうもそれは事実でもあったようで。
  この”竜”そのものが、ベルセリウムで体を構成された器をもっているんです。
  本当、世界にはまだまだ知らないことが多いんだ、と思わずにはいられません」
目をきらきらさせつつ、てしてし、という音がまるでするかのごとく、
周囲の壁?をかるくたたきつつもそういうアステルの言葉に対し、
「確かに。冷たいながらもどこかアレは暖かくもあったわね」
リフィルが初めてベルセリウムに触れたときのことを思い出しつつ
プレセア同様、壁らしき場所に手をあて周囲を見渡しつつもぽつりとつぶやく。
「……ウィノナ姉様……」
そんな彼らの会話が耳にはいり、ぎゅっと無意識のうちにと手をつよく握り締めているミトス。
そんなミトスに気づき、
「ミトス?…大丈夫だよ。きっと。それより、ミトス。怪我とかない?大丈夫?
  あれからミトスとは別れたっきりだったから心配してたんだよ?」
そんなミトスを心配そうに覗き込むようにして声をかけているジーニアス。
ジーニアスからしてみれば、ミトスが多勢に無勢の”敵”にむかっていっているのを
遠目、ではあるが認識してしまっているがゆえに、心配でしかたがない。
ミトスが、勇者ミトスとよばれていた当人だ、というのはもうわかっている。
わかっていてもどうしても、一緒に旅をしていたときの、
弱弱しく感じるミトスのイメージのほうがどちらかといえば強い。

ジーニアスの瞳が少し不安そうに揺れている。
自分が”誰”なのかを知っても否定することなく心配してくれるヒトがいる。
自分は本当にことごとく周囲に完全に目を向けていなかったのだな。
改めてそう思う。
ラタトスクのことといい、ジーニアスのことといい。
どうせジーニアスたちも自分のことを知れば批難し、否定するだろう。
そう思い込んでいた。
”エミル”に関してはよく自分をみつめていることには気が付いていた。
どこか少し困ったような表情を浮かべて。
それでいてその瞳にはどこか慈愛が込められていた。
本当は心のどこかでわかっていた。
姉の魂が変質してしまう可能性。
精神体がいくら無事でも変質してしまえばそれは姉、といえるのか。
心の奥底では、ラタトスクに願いにいけば叶えられると何となくだが確信していた。
失われた姉の体を復活させてくれる、ということを。
でも、それはしたくなかった。
ラタトスクにあれ以上に人に絶望してほしくなかった。
姉の新しい体を用意するのにここまでの時間がかかるとはおもわなかった。
肉体は魂の器、とはいえ相性がよくなければ拒絶反応が当然起こる。
姉が姉でありつづけるためには、完全なる器が必要だった。
――樹を復活させても必ずお前たちヒトはまた枯らす。
  愚かな争いを同じヒト同士で繰り広げている限りは、な。
たしかに、人は争いをやめることはしなかった。
停戦協定を結ばせてもそれは仮初のもので。
本当はあの国々は自分たちが大いなる実り、すなわちマナを完全に独占しようとしていた。
――ヒトとは愚かでしかない。一部のものが努力したとしても、
  大多数のもの、特に権力などというものにおぼれた輩はいともたやすく約束を破る。
  たとえお前たちが大樹をよみがえらせたとしても、
  その力をもとめ、ヒトは簡単に裏切りをみせるであろうよ
  それでもお前は人を信じるというのであれば。
  大樹が発芽したそのとき、お前たちヒトに試練をかそう
  それを突破できたのであれば、地上の浄化は見逃してやろう
かつてのラタトスクの言葉が脳裏をよぎる。
意地を張っていないで、あのときすぐにラタトスクに意見をききにいけばよかった。
今だからこそそうおもう。
自分が一方的にいっていたにもかかわらず、
その言葉を律儀に守ってくれていたラタトスクの事がわかったからこそ。
自分の心を客観的に見つめなおすきっかけになった、といってもよい。
冷静になれば本来の自分の思考では考えないような思考に陥っていた最近の自分。
夢で毎日のようにうなされ、眠らなくなっていくばかりか。
ヒトは休息をとらなければ心身ともに疲弊する、というのは自分がよくわかっていたはずなのに。
目先の目的…姉を復活させたいという思いにばかりにきをとられ、
そして、結果として気付かないうちに、いや、もしかしたら気が付いていたのかもしれない。
それはミトス自身にもわからない。
でも、それは確実に魔族達に隙を与える口実になっていたのは明白。
もしかしてもしかしなくても、
姉を殺されたあのとき。
襲撃を決定した二つの国の上層部にも魔族の暗躍があったのかもしれない。
それは今となっては定かではないが。
でも。
一つだけ。
今現在、わかっているたった一つだけの真実というものもある。
「うん。心配してくれてありがとう。ジーニアス。
  でもこれは、前にもいったけど僕らの問題でもあるからね。
  …あのままの状態の姉様をほうっておくことなんかできないし」
本当に忌々しい。
あのような状態にありながら、まだ姉を利用しようとする彼ら魔族が。
いや、魔族に付け入るスキをあたえていた自分自身が許せはしない。

「あのままって……」
ミトスのいいたいことはわからなくもない。
というか、いったい何が起こっているのか。
ジーニアスには理解不能。
理解したくない、というほうが正しいのかもしれない。
何となく予測はつく。
つくがそんなこと…そんなありえないことがある、というのだろうか。
「大いなる実りに同化している姉様の感情。
  その思いを利用して、微弱に流れ出るマナを穢し、
  魔族達が自分たちの力に利用してるんだよ。
  あのわいてでてくる”敵”は忌々しいことに姉様の力を悪用してわいてでている。
  といっても過言でないんだよね。
  阻止するには何とか取り込まれている大いなる実りごと奪い返す必要があるんだけど」
おそらく、以前、彼らが実りの間にやってきたあのとき。
ゼロスがセンチュリオン・テネブラエより授かっていた血糊のベスト。
自分ですらごまかされたあのリアルすぎる代物。
残されていた映像からあの時ことを把握した。
あの時は何ともおもわなかったが、今ならば変なところで凝る闇のセンチュリオンの彼らしい。
そう思わざるを得ない。
そう思う心を口にすることなく、真実のみを淡々と語るミトスの口調からは、
ミトスが何を考えてそのようなことをいっているのかジーニアスには把握することはできない。
「マナはすべての源…どういう方法かはわからないけども。
  やはり、彼らは大いなる実りの力を悪用している、ということなのね」
「うわ!?姉さん、いつのまに……っ」
いつのまに。
というのがまさに心境。
それまで興味深そうにこの竜体?の内部をさわりまくっていたはず、なのに。
いつのまにかジーニアスの真後ろにやってきている姉のリフィルに驚き、
おもわずその場から飛び退くように横にのけぞっているジーニアスの姿。
「時間がおしいわ。ミトス。あなたたちが計画していた方法を教えて」
のけぞるジーニアスとは対照的に両腕を胸の前でくみつつ淡々というリフィルの姿に、
しばし目をぱちぱちと瞬かせたのち、
「方法、といっても……。とにかく僕らはアレの内部に突入しようと思っていたんです。
  姉様と同化している大いなる実り。あれをまず取り戻すのが先決ですからね。
  でないと敵がどんどん沸いてでてキリがないですし」
だからこそ、配下のものたちに道を切り開かせていた。
自分が指示したのではないものも、その意図をくみとり、自分たちに道を切り開こうとしていた。
だが、それ以上に敵の数が倒せば倒すほど増えていき、
なかなか先に進めなかったのもまた事実。
「というか。リフィルさんたちはどうして?」
まさか彼女たちまでやってくるとは思いもしなかった。
いや、彼らが見て見ぬふりをするとはおもえなかったので、あるいみ必然といえば必然なれど。
だがしかし。
リフィル達までマナの翼をもつようになるなど、予想だにしていなかった。
すでにエクスフィアは人の手に扱えるような状況ではない、というにもかかわらず。
配下に着けさせていたエクスフィアもすでにその力は失われている。
ほとんどの存在達いわく、忽然と掻き消えるようにきえてしまった。
とのことらしい。
自分たちが身につけているエクスフィア。
これは特別製であるがゆえに、かろうじてまだ個体としての原型をとどめているのであろう。
”精霊”の意思が宿りし”精霊石”はおそらくラタトスクが何かしたのだろう。
もののみごとに綺麗さっぱりと失われてしまっている。
ついつい、この姿だとどうしても、彼女のことを”さん”づけしてしまう。
もっとも、成長した姿の場合はそんな敬称をつけることなく、あえて意識して呼び方を変えてはいるが。
まあ、あの姿で彼女の名を呼んだことなどないので関係ないといえばない、のだが。
「心の精霊ヴェリウスの試練を終えたあと、ここにやってきたのよ」
「正確にいえば、どうするか聞かれて、ここにくる。と僕らが答えた、からだけどね」
ミトスの素朴ではあるが至極当然ともいえる疑問にリフィルが答える。
そんなリフィルに続き、ジーニアスが少しばかり修正をいれる。
「この場にいない人もいるみたいだけど……」
この場には、ゼロスと、そしてロイドがいない。
歩きつつそんな会話をしているそんな中。
廊下?のような道がおわり、少しばかり開けた場所にとたどり着く。
そこは吹き抜けの空間のようになっており、丸く広い空間が広がっている。
中央部分には浮いている小さな球体のような鈍く輝く銀色の球のようなものがあり、
その手前に人影が二つほどみてとれる。
そしてそんな二つの人影もリフィル達にと気が付いたのであろう。
「あ。皆!…って、ゲ。ミトスまでいる」
手をかるく片方かかげ、少しばかり顔をしかめそんなことをいってくる。
その場にいるのは男性が一人と少女が一人。
「げ。とはご挨拶だよね。マルタ」
そんな少女…マルタにむけてミトスがいえば。
「これまでの自分の行動を振り返って物事をいってよね。
  ともあれ、リフィルさんたちが無事でよかった。
  なんか、厄介なことになってるみたいだしね」
視線をリフィル、ジーニアス、しいな、プレセアにむけほっとしたような声をだす。
「どうしてマルタがここに?…ロイドは?」
あの場に残っていたのはマルタとロイド。
この場にマルタがいるならば、ロイドももしかしたら。
そう思い、ジーニアスが恐る恐る問いかけるが、マルタはかるく首を横にふるのみ。
それだけでジーニアスは理解してしまう。
いまだ、ロイドはあの”心の試練”から抜け出せていないのだ、と。
「マルタ。あなたは無事にあの試練を突破できたのね。おめでとう」
「う、うん……」
リフィルの台詞にマルタはあいまいにうなづく。
試練を突破できたのは自分だけの力ではない。
両親の願いとそれに答えた【タマミヤ】の力があったがゆえ。
「所で。どうしてリーガルがこんなところにいるんだい?」
しいなの素朴とはいえ当然なりの疑問がその場、というよりは、
部屋のほぼ中心にいる一人の男性にと問いかけられる。
見慣れていた囚人服ではなく、それに近い上半身が半袖のワイシャツに、
黒いズボン、というラフな格好をどうやらしているようだが。
彼はたしか、アルタミラに街のために残っていたはず。
その彼が、どうして……
「そうだよ。いったい……」
ジーニアスが困惑したようにいえば。
「それは僕らが迎えにいったからだよ。ジーニアス」
アステルがすたすたとリーガルの近くに歩み寄りつつふりかえり、
さらっと何やら聞き捨てならないことを言い放つ。
「迎え?」
その台詞に思わず姉やしいな、そしてプレセアと思わず顔を見合わすジーニアス。
「簡単にいうとね……」
どこから話していいものか。
すべてを話すのであれば結構な時間がかかる。
けど今は、その時間が惜しい。
「アステル。ともかく。このままコレを突進していかせてよいのだろう?
  話ならばその合間にでもできるだろうしな」
思案するアステルに、リーガルが淡々といいつつ、
部屋の中央に浮かんでいる球体らしきものを視線で指し示しつつも問いかける。
「そう。だね。リーガル。やっちゃって」
そんなリーガルの問いかけにアステルがうなづば。
「了解した。――目標。魔塔!!」
凜、としたリーガルの声が響き渡る。
グルウォォ!!
それとともに部屋そのもの、というよりは、
今彼らが”乗って”いる生物?の内部そのものに、吠え渡るような声が響き渡る。
ぐんっ、と何かが引っ張られるような感覚が一瞬し、
ふわりと体が浮き上がるような感覚が一瞬押し寄せる。
それとともに。
「みて。あれ!」
ジーニアスが何かに気づき、球体の上のほうを驚きつつも指し示す。
そこにはまるで窓のようなものが球体から扇状の光に映し出されるように出現し、
おそらく外の様子、なのであろう。
窓のようなものに外の様子らしきものが映し出されているのがみてとれる。
リーガルが手を虚空にむけ何やら動かすとともに、扇状の光の筋は左右、下方へと新たに出現し、
彼らの足元、そして天井部分といわず窓のようなものが光によって映し出され、
そこから外の様子がこの場にいながら確認できるのが見てとれる。
ぐんぐんと景色は移動しており、周囲には天使達が異形のものたちと戦っている光景がみてとれる。
前方にはぐんぐんと近づいてくる、たしかにリーガル曰く”魔塔”というにふさわしい、
歪な形の塔がどんどん近づいてくるのが嫌でもわかる。
中にいるからわからないが、外からみればものすごい勢いで竜体が並みいる異形をけちらして、
雲をかいくぐり、塔もどきのほうに飛んでいっているのだが。
風をつききり、飛ぶその銀色の体に近いその竜体はまさに優美といってもよい。
「この子は卵から孵化したときは小さかったんですけど。
  僕らが保管していたベルセリウムを喰らったのち、
  一緒にウィングパックのユミルの森の水をも飲みほしたらしくて。
  僕とリーガルを乗せられるくらいまで一気に成長してね」

本当にあのときは驚いた。
鉱石の塊のようにとみえたのが卵であり、そこから金属の塊のような竜のようなものが誕生した。
ベルセリウムを研究してゆく過程でそれらの金属は同化する特徴があるのをしり、
もしかして、とダメもとでパックの中にはいっていたソレを出してみた。
それ以外にも取り出していたものもあるにはあった。
生まれてすぐのソレはばくばくとそれらを喰らい、みるまに目の前で大きくなった。
もりもりと食べるたびに体が大きくなってゆく様は、
あるいみ生物学の常識を覆すに等しい光景でもあったが。
不可解な現象が起こっている今、さほど驚きはしなかった。
リヒター曰く、普通は驚く、とそんなアステルにあきれはしたらしいが。
とにかく、頭というか原因をたたかない限り、サイバックに起こっている異変。
人が異形と化したり、どこからともなく化け物のようなものがあらわれる。
というものは解決しそうにない。
まちがいなく上空の遥か先にみえる不可解な変化をとげた救いの塔が原因。
どこかともなく表れた、天界に住まうという天使達。
天使と異形のものとの戦いは、まるで神話のおとぎ話のよう。
天使達がヒトを見下し蔑む発言している様子もみてとれるが、
サイバックにいるほとんどのものはあまり戦いに向いていない。
どちらかといえば学者気質でもあるサイバックの街。
外にでて研究を繰り返す研究者たちは戦うすべをいくつかもっているが、
倒しても倒しても逆に増えてゆく異形のものたち。
目の前で知り合いが、友人が異形のものに体を乗っ取られてゆくという恐怖。
それでも人々が恐怖にかられ恐慌状態に陥ることがなかったのは、
どんな形であれ、目に見える形で天界の住人だという、
女神マーテルに仕えている天使達が街に降臨していたからに他ならない。
ほぼ孤立してしまったサイバックから救援をもとめる必要もあった。
水やベルセリウムを摂取すれば大きくなるのであれば、
生まれ出た竜体を大きくすればある程度の人数はその背に乗せて避難させることができるのでは。
その時はまさか内部にこんな場所を保有しているなど夢にも思いもしなかった。
首にまたがり、リヒターとともにユミルの森へとむかった。
サイバックより南東にくだり、ユミルの森へとたどり着いた。
水をごくごくと飲み、あっというまに竜の体は大きくなっていった。
ある程度の大きさになったとき、竜の体に異変があった。
首が変化しまるで道のようになった。
その奥には扉のようなものすら現れた。
古の遺跡であろう場所でみつけた古代の乗り物。
竜の体の中にはいり移動する壁画にかかれていたものに酷似していた。
意を決して体にのぼり、確認して驚いた。
この竜体こそが、壁画にかかれていた生命体なのだと嫌でも理解ができた。
動かし方とかはわからなかったが、壁画にかかれていた内容から想像はしていた。
そしてその想像はどうやらあたっていたらしく、
体の内部にあった球体こそがこの竜を操る要となった。
ユミルの森で巨大化した竜にとのって、サイバックに戻ろうと北上し、
そんな中でアルタミラの姿にと上空から気が付いた。
いろいろと試した結果、内部から外の様子をうかがえることができるらしく、
まさに古代の壁画に書かれていたとおり、空飛ぶ要塞といっても過言がなかった。
世界が一つに統合され、大陸の形はまったく変化してしまっている。
首都メルトキオとも連絡がつかない。
サイバックも異形のものたちに襲われていたが、アルタミラも同じようなもの。
まったくかわってしまっている地形。
それでもかろうじてそこがアルタミラだと理解できたのは、
木々や蔦に覆われてしまってはいるが、巨大な観覧車が空中からも認識できたゆえ。
レザレノ・カンパニーならば異形の輩を撃退できる武器を用意できるかもしれない。
その思いもあり、一度アルタミラにと降り立った。
レザレノ・カンパニーも壊滅的な被害をうけており、望む品は手にはいりはしなかった。
だが、彼らのもつ望遠鏡により、空のかなたで戦いが起こっているのをみた。
大本をたたかなければこの無限ループはおそらく止まらない。
その考えはリーガルも同じであったらしく、
リーガルもまた、すべてを終わらすためにアステル達と行動を共にすることを選んだ。
そして雲の中をつききり進んでいるとき、突如としてマルタが部屋の中にいきなりあらわれた。
光の塊が突如として出現し、そこからマルタが現れたのには、
さすがのアステルだけでなく、リヒターとリーガルも驚きを隠しきれなかったが。


「まるで液体金属、ね」
「言い得て妙、ですね。今のこの竜体の成分は約八十%水分となっていますから。
  人体の成分とほぼ同じ、といってもいいですね」
これまでの研究で人体の体もほぼ水の成分が含まれている、というのはテセアラでは常識。
もっとも、学者間の中の常識であり、一般の人々は信じていないものもいはするが。
「意思をもつ鉱石…ね」
先ほど触っていたがゆえに、アステルの言いたいことを瞬時に理解するリフィル。
一方、その言葉をきき、ミトスが一瞬、顔をしかめる。
それはまるで、ミトスが目指していた、無機生命体というありかたを
この竜は体現しているといってもよい。
姿形はヒトのままであったとしてもその本質そのものを無機物にしてしまい、
ヒトとしての感情や心をもなくし、差別のない世界をつくろうとおもった。
だが、よく考えれば精霊達に心があるように、
ヒトが無機物とおもっている数多のモノにも命は宿っている。
無機生命体と変化させた同胞たちも、大きな感情の起伏はなくしていったが、
自我そのものまで消え去ることはまずなかった。
そして、エクスフィアが消え去ったのち、そんな同胞たちも感情、
というものが目に見えてわかるほどに出始めている。
ただ、生きているだけの意思疎通もできない生。
改めておもえば自分は同胞たちを、世界をそのようにしようとしていたのではないか。
それは本当に生きているといえるのか。
姉があのとき嘆いていた、何ということを、という意味が今さらながらに理解ができる。
アステルとリフィルの会話を傍でききつつ、無意識のうちにと目をつむる。
「みろ。……塔、だ」
表情も険しく、ユアンが腕をくみながら、前方に映し出されている光景を視線で示す。
みれば、ぐんぐんと”魔塔”との距離は縮まっており、気付けばもはや目と鼻の先。
「突っ込むぞ!竜砲…発射!!」

リーガルの声とともに、飛翔している竜の口が大きくぱかり、と開かれる。
その口内の奥に水の塊のようなものが形成され、
それらは口内を覆い尽くすほどにとおおきくなり、淡い水独特の輝きをたもち、
やがて、咆哮とともに、その塊は前方にむけて勢いよく吐き出される。
まさにそれは、水の砲弾。
勢いよく発射された”水弾”は文字通り弾丸となりて竜の口から目の前にある
すでに原型をとどめていない”元・救いの塔”にむけて発射される。
リーガル曰くの”魔塔”にと直撃した水は周囲にその水滴をまき散らしつつも、
だがしかし、あきらかに塔に巨大な穴をあけるには十分。
水弾によって塔に穴があくのとほぼ同時、
水弾に追従するようにと竜の巨体もまたその穴にむけてその体を突っ込んでゆく――




pixv投稿日:2015年9月27日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

豆知識:登場人物紹介
登場:テイルズオブエターニア
名:レイシス・フォーマルハウト
年齢25歳。
旅の商人、レイスとなのり、エターニアの主人公たちに接触してきた彼。
実はインフェリア王の庶子であり、王家の一員。
あるいみで男児のいない王家においては王太子になっても不思議ではない生まれであるが、
その身分は徹底的に隠されている。
また、彼の母、ロナ・ウェンディアはエターナルの主人公、リッドの父親(ビッツ・ハーシェル)と、
あるいみサブヒロイン、メルディの父親、トランソム・バリルの幼馴染でもある。
エターニアの終盤にてシゼルの闇の極光術から極光壁で命がけでリッドたちを守り死亡。
最後に道標であるセイファートキーをリッド達に託す

…どうでもいいけど、序盤のあのツボの値段はぼったくりすぎだとおもいます……
いや、かえるまで資金ためましたよ…2ロール目は…(マテ)
だって、ツボというか入れ物がないとあのダンジョン、また戻るの面倒~(まてまて)

登場:テスルズオブデスティニー
名:エミリオ・カトレット(リオン・マグナス)
年齢:16歳
職業:セインガルド王国客員剣士
セインガルド国王に仕える若干16歳の天才剣士。
冷徹な性格だが意外にキレるのも早い。
更に人を見下すようなところ、
特定の人間に対して見せる優しさ等も持っており、なかなか複雑な性格

デスティニー至上、もっとも気の毒としかいいようのない仲間メンバー。
その生まれと壮絶な最後もあり(しかも最後のあとも気の毒でしかない)
(屍を敵に利用され、ラスボス戦でゾンビリオンとして敵として立ちふさがる)
絶大な人気を誇るテイルズ史上の中でも知らない人はいないのでは?
とおもわれるほどの人気美少年剣士。
デスティニーのラスボスであり、また天地戦争時代のラスボス”ミクトラン”
にあるいみ人生を狂わせられた哀れなる少年。
…なぜか小説版ではその設定をことごとく覆していたのがいまたに納得できません。
…何でボスをミクトラン、ではなくてハロルド(しかも男性にしてるし)
にしてるんですかねぇ…デスティニー小説……


ちなみに、この二人がここにでてきた理由。
二人とも、愛するもののために命をかけた、というあるいみ自己犠牲コンビ。
だからです(まて)
さらっとしか触れてませんが、実はロイドの祖先は、スタンとルーティ、が含まれてます。
コレットの先祖はレイスの異母妹であるアレンデ姫がいたりするのです。
レイスはアレンデに何もできなかった負い目もあり、
子孫のコレットが想いをよせているロイドに喝をいれにあらわれました。
リオンは…まあ、いうまでもなく。
彼って…ツンデレですよねぇ。
2ではよみがえらせた彼女を裏切ってまで甥っ子のために奮闘してますし。
こちらも血筋の子孫に喝をいれるために現れてます。
何げに、二人の名セリフ?がさらり、と含まれているのはお約束(だからまて)
リオンに関しては他作品の台詞も多少アレンジしていれてありますv
魔人闇(マリアン)の技がか~なり前にちらり、とでてきていたので、
もしかしたらオリジナル技つかってたリオンもでるのでは?
と予測していた人がいたとしたらその通りでした<マテ

~~~

一言:
…さて、どうでもいいんですけど。
ラストバトルにいくに従い、以前に完結していた話
(本来のこの話は脳内完結しております)の分岐点。
それにさしかかり、どれにしようかな~…と悩んでたり。
ミラとミュゼがでてきてる時点であちらの分岐から発生する小話は決定なのですが。
テイルズシリーズって…初期はともかく、ある程度すすんでいったら、
あるいみバットエンド?もどきがおおいですしねぇ……
(ヒロイン死んだり、身内死んだり、仲間死んだり、あえなくなったり…
  アビスにいたっては主人公ごと死んでるし・・・)
ちなみに、以前、感想返しでユニゾン(共同技)ありますよ~
といっていたやつ、別な共同バターンもおもいついたりしてて、どうしようか迷い中……
(これが完結しているやつのあるいみ障害…打ち込みしてたら、どんどん分岐を思いつく罠…)
でもなぁ…蓮の花、色が銀色に近い、しかも小型化おもいつき。
の時点でもう、あるいみ決定したも同然、という。
大いなる実りって、あるいみ”世界樹の花”みたいなものだし。
ドラクエ好きの人にはわかるはずv
特に4のリメイクで(マテ)
ついでに、月のRの映画版のラスト、この話の完結あたりにもってきてたりするしなぁ(マテ)
でもそっちのパターンにしたら、コレットの活躍がきれいさっぱりと消える罠(笑)
いや、すでにロイドの心の試練打ち込みの段階で、
コレットは一時的に離脱してるんですけどね……
ミトスとロイドの共同技はすでに決定、として。
プレセアとロイドをいれるか否か、なやんでたり…
それやったら、ゼロスとの絡みがへるしなぁ…(うむむむ・・・)
と、ラストバトルを打ち込みするにあたり、ものすっごく悩み中…
いやでも、一応、IFさんのアンケートでロイドが洗脳、と決まった時点で、
その時点で分岐思いついてたこれ、どっちにするのかはきめていたつもり…なんですけどねぇ。
基本は決めてたのでやるとして、没ネタ、としてそのシーンも打ち込みするかどうか(マテ)
どうでもいいけど、そろそろ脳内の映像が文章化するのにかなり困難になってきてる…
というかここまでもきちんと脳内映像がそのまま伝わっているかも謎…
ラタ様視点でいけば、ここまでなが~~くはならずにさくっといく話なんですけどね。
これ(自覚あり)
いい例が、IF打ち込みしがてら、IF2もなぜかやってるんですけど(かなりまて)
そっちは完全にラタ様視点だからなぁ…(しみじみと)
しかし、ラストバトル付近、うちこみしてたら、
この話のラスト円満?場面と、その後、の話が脳内をめぐってく~w
やはり、テイルズシリーズといえば後日談(かなりまてぃ!)
そもそも、逆行してる時点で本来の歴史との誤差も後日談でだすつもりで、
この話、完結してる(た)しなぁ…(脳内でのみ)
あと、どうでもいいけど、マルタが心の試練の中で立ち直るシーン。
というか両親の思いをうけとるシーン。
脳内では実はあそこからは曲つき、です(笑)
ダダ、ちゅーりら、ダダ~、みたいな感じの(あえて曲名省きます)
それぞれ読みてのみなさんが好きな曲を当てはめてもらえてもうれしいかも(笑)
マルタがリフィル達に合流してからは脳内の曲が少しばかりかわってますがw
この付近からほぼイベントシーンは曲つきとおもっていただいて間違いないかとv
ラスト付近といえばやはり挿入歌とかですよね!(まてこら)

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