まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回、省くかどうか、悩んだシーンが視点というか、
場所の視点がかわる形で幾度か入れ代わり立ち代わりでてきます。
ミトス視点、アルタミラ(リーガル)視点、ロイド(リフィル達)側視点などです。
いれなくても、さらっとリフィルの説明で流すことも可能な場面、
ではあるんですけどね(苦笑)
説明がくどくなっているのが今回の回のあるいみ特徴。
というか説明をきちんと(といえるのか?)いれていったらかなりの長さになる可能性が……
もっとも、意思の力でヴェリウス呼び出す場合。
それらのシーンはすべてカットできる、という利点もありますが。
こちらではスキットとか、世界の異変とかわかるようにいれたかったので、
そっちを選んだのでスキップ(笑)タイプではなくなってます。
ちなみに、世界が闇で覆われていくシーンのイメージ。
某勇者シリーズ(サンライズの)ファイ○ードとか、
ダ・○ーン、とかの最終回に近いイメージが脳内にv
テイルズでいえば、エターニアの惑星接近のあのイメージか?
さらに被害でいえば、某ゲームのシルバーストーリーの塔移動。
つまりは、塔が移動するたびに大地が…状態です。
ルーナ、シルバーストーリー…やったことあるひと、どれくらいいるかな(苦笑
さて、71のコメントにあったのですが(指摘コメントをうけたので)。
ロイドの年齢…あれ?皆の年齢、どこかでまちがってる…かな?かな?
一応、コレットが16になった日の神託で、そのときロイド達がすでに17となってたりしたので。
旅の最中にそれぞれ一歳づつはそれぞれ歳をとっているこの話では計算です。
途中からレアバードという反則ものがあるとしても、
世界再生の(一般的な)旅は確実半年以上はかかるものだ、とおもいますしね……
旅の終わり時点で、コレットが17(もうすぐ18)
ロイドが18って感じかな?
この話ではラタ様がかかわってるので旅に付属イベがつきまくってて、
原作よりも旅がすこ~しばかり長くなってる、という設定です。
私的には、原作って、世界樹発芽したとき、
実はコレットが旅たってちょうど一年目とかだったりして、みたいにおもってたり
ラタ騎士の時間軸が世界再生の旅から二年後、ですしね…
…もしかしてどこかでメンバーの打ち込み年齢ミスやってるのかなぁ……(たらり……

ちなみに、塔?が移動するにあたり、
世界統合後の地図(ファンタジアの)をみながらやってたり。
いや、前にプリントアウトしたのにシンフォニアのというか、
ラタ騎士での地名を上書きしてるんですよね。
それをおもえば、トリエット砂漠…よくあそこまでの密林になったなぁ。
12星座の塔がある大陸がトリエット付近…なんですよね…
で、ルインのある大陸が砂漠になってる…と。
そういえば、アスカードのあるあたりが、炎の塔のような気が……
さてさて。今回もゼロスによるロイド糾弾?のような内容がでてきますが。
ロイドってぜったいにきつく、しかも正面からきちんといわないと、
完全に理解できない子だとおもうんですよね。
というか聞き流す。しかもこの話では今現在アンナの加護もない!
というわけで、ロイドにはそのあたりのことをきちんと自覚してもらう回でもあります
だからこその心の精霊ヴェリウス~♪
ゼロス達その他のメンバーはすでに心の闇ともいえる糾弾は経験済みですし、ね。
ロイドだけがアンナの加護でそれをうけていない障害の複線がここにきて回収です。
ちなみに、以前、イセリアの村にいったとき、
しいなが感じたコリンの気配云々の複線回収もここで行われてます。
…まちがいなく、本編ゲームにおける時間軸では、
アンナの加護がいきていたがゆえに、無言を突き通すことによってうまれる誤解。
ヒトの誤解ほど怖いものはないというのに。
いくらラタトスクのことがあったとしても何もいわずに突き進んでいっていた。
そのように認識しています。
…絶対に、ラタトスクにユグドラシルという新たな名が知られることを恐れるより、
きちんと話し合うとかいう手段をとるべきであったとおもうのですけども。
もしくは、仲間たちにだけでも伝えて協力を願い出るか。
マーテルの加護が名付けたロイドにしかきかない、というのも、
本当にそうなの?とマーテルの意見には疑問しかない、という……
まあ、力もないんでしょうけどね。
人の精神集合体があるいみ人工精霊となったようなものだし……
※投稿分では147からの分です。

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重なり合う協奏曲~聖堂にむけて~

あれほど晴れ渡っていた星空は今はどこにも面影はない。
空にあるのはどんよりとした黒い雲。
それでもかろうじて薄い雲の間から月明かりが差し込み視界はそこそこ保たれている。
人々はかなり疲れた、のであろう。
ひとまずの状況説明が済んだのち、街の人々をここ闘技場にと案内した。
いつ雨が降り出すかもわからないこの天気。
しかも彼らは帰る家すらない。
城だけでなく彼らの帰る家も朽ち果て、炎とともに消え去ってしまっている。
原型を少しでもとどめているゼロスの屋敷の状態。
神子ゼロスの屋敷だから天の加護があって壊滅的なダメージをうけなかった。
そのような認識を人々はどうやらしている、らしい。
雲の隙間からすこしばかり月明かりがもれているだけの深夜。
アルタミラからきたというおろちの情報は外の現状を少しばかりであるが把握させた。
アルタミラの街にもやはり天使達は現れているらしい。
この街だけでなく、それぞれの場所にどれくらいづつかはわからないが
天使達はまちがいなく、ネオ・デリス・カーラーンから”飛ばされて”いる。
今のミトスに彗星に戻るすべはない。
もっていた転移の術を秘めた装置も起動しなかった。
彗星はまちがいなく、この惑星から離れてゆくであろう。
でも、その前に。
ジャリッ。
静かな夜に砂を踏みしめる音のみ響く。
さきほど、この町にいる天使達、そしてユアンとクラトスには命令を下した。
ユアンにはテセアラ領であったとおもわしき場所の現状を。
クラトスにはシルヴァラント領の。
そして地上に解き放たれたとおもわれる天使達をまとめるように、と。
今、この街に残っている下級天使達はたったの三体。
それ以外はクラトスとユアンと同様に世界の情報を集めるためにと送り出した。
指導者であるユグドラシルからの命令、ということもあいまって、
下級天使達はかなり感銘を受けた様子ではりきってこの場から飛び立っていったのだが。
下級天使達がもっていた…といっても一部のもの…に限るが。
元々ミトスたちのもっていた通信機器を通じ、世界の情報が先刻もたらされた。
いわく、救いの塔があったとおもわれる場所には今や何もない、と。
いや、あるにはあるが、木々は枯れ果て、
なぜか地上には水晶…しかも生物入りのものがころがっている、という。
記憶からするとこの大陸から一番近いとおもわれしユミルの森。
そこに偵察にいかせたものからは、大地に異様に草木が繁殖しているのがみてとれるという。
そして、空を覆い尽くす黒い雲。
この雲からはとても濃いマナをかんじとれる。
遠く離れていても感覚的にわかるほど。
何かが確実に起こりかけている。
魔族の介入などかわいらしいとおもえる”何か”が。
先ほどいなくなったラタトスクのこともある。
確実にかの精霊はこの世界に対し、何らかの行動をするであろうことは明白。
本格的にかの精霊が行動を何らかの形にてはじめたとするならば、
それこそ大いなる実りに取り込まれている姉の安否にも関係してくる。
かの種子はある意味、ラタトスクの分身ともいえるもの。
活性化してしまえば、脆弱でしかない人の精神体などあっという間に飲み込まれてしまうであろう。
その前に。
「夢の跡地…か」
すべてはここから始まったといってもよい。
テセアラ城のあったはずの跡地。
今や完全にその痕跡すらない。
姉とともに決死の覚悟でやってきたこの街。
いや、城というべきか。
――おねがいです!どうか…っ
散々兵士たちに懇願しても聞き入れてもらえなかったあのとき。
クラトスが騒ぎを聞きつけてやってきて、そこからすべてが始まった。
ここ、テセアラが自らの旅の出発地点でもあったといってもよい。
本当の意味での。
四年千の昔からそこにあったはずの城は跡形もなくなくなり、残るのはただ広がる更地のみ。
今、改めておもえばクラトスも、そして自分も互いに依存していたのだろう。
それまで他者に疎まれるしかなかった自分を求めてくれたクラトスと、
そして自分にできないことをしようという自分についてくるといったクラトスと。
――ならば、お前は私の希望だ。
そういったあのときのクラトスの言葉を忘れたわけではない。
そしてあろうことか、あのロイドにもクラトスはどうやら同じようなことをいった模様。
…つまり、クラトスにとっての希望とは、誰でもよかったのではないのか。
誰しも他人と血のつながった家族ならば家族を選ぶ。
姉であるマーテルが害され、他者がどうでもよくなってしまっていた自らの思考。
この地は原点であり、始まりの地。
だからこそ、”出向く”前に今一度目にしておきたかった。
これから世界はかわる。
よくも悪くも。
ラタトスクが完全に一行から離脱した以上、
かの精霊が何をしようとしているのかはわからない。
いや、何となくではあるが予感というか予測はできる。
おそらく、二度とマナを用いた愚かなるマネをヒトができないようにするつもりであろう。
そのためには…遥かなる昔にこの地にはマナがなかったという。
原初の始まりの理に戻すつもりなのかもしれない。
そのとき、マナによって生み出されている今いる地上の生命がどうなるのか。
「…いくか」
自分を幾度か裏切ったクラトスはもはや信用ならない。
いざとなれば間違いなく息子であるロイドを優先する。
それがたとえ戦闘中であったとしても。
そもそも、共に旅をしているさなか、リフィル達からそういえば、
というような世間話の一環で、戦闘にはいったとき、
クラトスが優先してロイドに小さい傷でもすぐさまに回復術をかけていた。
ということをミトスは聞いている。
ユアンのほうは、マーテルグッズ云々といっていたが確実にねずみ…
レネゲードとかかわりがあるはず。
まあ、こうなってしまえばあるいみ、レネゲードも利用しなければどうにもならないが。
彼らの最終目標。
それもまたロイド達からきいてミトスは一応知っている。
マーテルの解放と、そして自らが率いるクルシスの瓦解。
瓦解のほうは認めるわけにはいかないが、姉を助けたいという点では同意できる。
その助ける、というのが”死”という点でない限りは。
目をつむり、まさに翼を展開し飛び立とうとしてふととまり、
「…で?何のようなわけ?」
せっかくの旅立ちというか感傷を邪魔されたような感覚になり思わず淡々と問いかける。
振り向いた先。
唯一といってもよい、この場にのこっていた噴水広場というか、
バラ庭園のあった名残の場。
こぽこぽと大地より水が湧き出してはいるが、噴水の土台はすでにない。
ゆえにわいてでてきている水が周囲にたまり、ちょっとした水たまりというか、
小さな水の流れができそのままちょろちょろといくつかの流れを作り出している。
声をかけるとともに、びくり、と反応する気配が二つ。
もう一つの気配は驚いてはいないらしい。
「そういうユグドラシル様は何をしてたわけ~?」
そんなミトスにたいし、軽い口調で言葉を投げかけてくる赤い髪の青年。
「神子達にわざわざ説明する必要があるともおもえないけど?」
そもそも彼らは完全に眠っていたはずなのに。
いや、テセアラの神子に関しては少しの変化でもすぐに目を覚ますであろうが。
なぜここに、ロイド、そしてジーニアスもいるのだろうか。
少し視線を彼らの後ろにむければなぜか、しいなやリフィルといった姿もみうけられる。
なぜかシルヴァラントの神子などは胸の前で両手をくんで、
何やら祈るような恰好をとっているようではあるが。
「な、なんだよ。その言い方…っ」
そんなミトスの言葉をきき、むっとしたような声がミトスにとなげかけられる。
それでなくても優先順位を今まさに改めて思い知っていたばかりだというのに。
なぜこのタイミングで、と思わずミトスとしては舌打ちしたくなってしまう。
「別に君たちに…ロイドに説明する理由もないとおもうけど?
  僕は君たちにとっては倒すべき敵、でしょ?」
彼らが妥当クルシス、すなわちユグドラシルを目指していたのはしっている。
なぜか自分の正体がわかったのちは、わけのわからないことをいっていたようだが。
先刻はあのような状況であったのもあり、あるいみ共闘のような形になってしまったが。
「敵って…俺はっ!」
「僕の邪魔をするなら容赦しないよ。それがクラトスの息子であるなら特に、ね」
「ミトス…あんた……」
ミトスは自ら気づいていないが、クラトスの名をだしていることこそが、
ミトスがこれまでクラトスを特別視して何より依存していた証拠ともいえるもの。
そのことにきづき、しいながロイド達の背後から思わず声をもらすが。
「ミトス…あなた、一人でアレと戦いにいくつもり、なのでしょう?」
声をつまらせるしいなにかわり、しいなの横にいたリフィルが溜息まじりに問いかける。

街の人たちはだいぶ落ち着きをみせてきた。
とはいえ、一部の天使達がいなくなったことで、逆に見捨てられたのでは、
とパニックに陥るものたちもいるにはいたが。
それはゼロスの言葉により人々は落ち着きをとりもどした。
――神子様がそういわれるのでしたら。
その言葉だけでゼロスがどれほどこの街の人々に信頼され慕われていたのかがよくわかる。
そもそもかつて、ゼロスが元教皇の思惑で手配をうけときも、
街の人々はゼロスの無実を信じてやまなかった。
常に人々とのかかわりを重視していたゼロスならでは、ともいえる。
おろちがこの地にやってきたことにより、外で何がおこっているのか。
それをようやく街の人々は把握した。
闇に覆われ、外で何がおこっているのか把握しきれていなかったこの地。
さらには日々、いつのまにか、知り合い、隣人、そして家族が異形のものになったり、
また行方不明になっていた日々。
兵につれていかれた人々はいまだにもどってこない。
それが意味すること、すなわちもう生きてはいないのだと理解はできても信じたくはない。
そんな人々の心の葛藤がいらだちとなり、周囲にまき散らされている。
それでも天使という見た目でわかりやすいものたちがいたゆえに、
天界が助けてくれるならば、どうしてもっとはやく、
とそんな彼らにいらだちをぶつけるものもいたにはいた。
もっとも、そんな人々をみているせいか、天使達がいなくなったのは、
そんな人々に愛想をつかして見放されたのでは、と。
天使達に不満をぶつけていたものに今度は逆に他者からの不満が噴出しているのが現状。
人は苦しいとき、つらいときそのいらだちを誰かに、何かにぶつける傾向がある。
それがたとえ理不尽であったとしても。
心のどこかでそれは違うとわかっていながらも、他者を虐げる。
そしてその結果、そのような対応をとっていたものにもまた他人から同じような仕打ちをうける。
まさに、因果応報ともいえる連鎖。
街の人々を一か所に集めたはいいものの、それらの不満がたまっていたのか、
かろうじてゼロスの存在というかとりなしで一色触発という事態はさけられていた。
が、いつ街の人々による乱闘というかへたをすれば殺し合いにまで発展するかわからない。
それが今のテセアラの街の現状。
以前、エミルにもらっていたハーブをもちい、飲み物、
さらにはラベンダーでつくったという蝋燭を使用することにより、
人々の精神をおちつかせることには成功した。
副作用か、なぜかそれらを飲んだり臭いをすったものたちが、
もののみごとに爆睡してしまったという現状もあるのだが。
そんな中、ようやく人々がねしずまり、リフィル達も仮眠をとっていた最中、
ゼロスがなぜかこっそりと外にでいいったのにきづき、
リフィル達もまたゼロスをおいかけるようにと外にでた。
たどり着いたはテセアラ城があった、この町で一番高い位置にある”更地”。
そこにたたずむ金髪の少年は目をつむり、何やら感傷にひたっているようにもみえた。
声をかけるべきかどうかと戸惑っているさなか、その背に翼を展開し、
今にも飛び立とうとしていた気配をみせていた矢先。
気付かれていたらしく、いきなり振り向きざまに声をかけられた。
リフィルにもミトスが何を考えているのかわからない。
が、なぜかこれまでのミトスとちがい、
どこかすっきりしたようにみえるのは、リフィルの目の錯覚か。
ミトスが一人でこのような場所にいた理由。
そしてどこかにいこうとしていた理由など、一つにきまっている。
だからこそ、いわずにはいられない。
「ミトス…あなた、一人でアレと戦いにいくつもり、なのでしょう?」
しいなも思うところは同じであるようだが、声がつまり言葉にならないらしい。
なら、といかけるのは自分の役割。
これまでの旅の中、ミトスもまたリフィルにとっては生徒の一人でもありはした。
いくらミトスが強いとわかっていても、敵地に一人てのりこもうとする。
その思いはいただけない。
今は理由はともかくとして、敵は共通している。
ならばともに戦うほうがより成功率は跳ね上がる。

「そもそもアレとの戦いにリフィルさんたちは関係ないでしょ?
  元は僕が始めたといってもよい、あいつとの因縁。
  決着をつけるのは僕であってしかるべき、でしょ?」
聡いリフィルのこと、自分が何をしようとしているのか。
おそらく予測しているがゆえの問いかけなのだろう。
でも、これだけはゆずれない。
アレの卑劣さはミトスがよく知っている。
だからこそ、リフィルを、ましてジーニアスを巻き込むわけにはいかない。
他のものは優先順位的にそこまで絶対に、というわけではないが。
自らと同じような境遇であるこの姉弟だけには不幸な目にあってほしくない。
本来なら、コレットを器にしたのち、
この二人だけはクルシスに迎え入れるつもりでもあったのだから。

「俺たちだって無関係じゃない!」
ミトスの台詞にすぐさま反論するように叫ぶロイド。
そう、ロイドにとっても無関係ではない。
むしろロイドは自分のせいで、という思いのほうが強い。
ケイトがあの魔族?とかいうのに連れ去らわれてしまったのも。
自分がもっとしっかりしていれば防げたのではないか、という思いが捨てきれない。
そしてそんな自責の念はジーニアスももっている。
ジーニアスは自らがあのとき、あの石をひろったせいで、ケイトが。
そんな思いが胸中を占めている。
タバサの形見のつもりでひろったあの石がこのような結果をもたらすなど。
夢にもおもっていなかった。
けど、現実は現実。
石を壊すなり何なりして破片だけにしておけばこんなことにはならなかったのではないのか。
あの石を壊してしまえばほんとうの意味でタバサを殺してしまうような気がし、
ずっとジーニアスはもっていた。
いつかあえるかもしれない、アルテスタにタバサの形見として手渡すために。
ジーニアスのやさしさは時として厄介ごとを招く要因ともいえる。
そもそもジーニアスとロイドがイセリアの村を追放される原因となったこと。
ジーニアスが村の掟をやぶり、イセリア牧場にかよいつめ、
マーブルと仲良くなり、あげくはロイドまで巻き込んだ。
マーブルを痛めつけられるのがみていられなくて、ロイドに救いをもとめたのもジーニアス。
その結果、ロイドの顔がディザイアンたちにしられ、
そして協定を破った罰としてイセリアの村はディザイアンに襲われた。
コレットのときでもそう。
それまでさんざんエミルに偽りの真実でしかないようなことをいわれていたのに、
世界を優先するあまり、真実にきづくことなくコレットに苦痛を背負わすことになった。
自我をもたない、表情の抜けたコレット。
今でこそコレットは元に戻っている…本当にもどりきっているのか、それはジーニアスもわからない。
コレットはどんなに自分がつらいめにあってもそれを表情にだすこともなく、
また他者に苦痛や不満を漏らすこともない。
いつも自らすべてを飲み込んで周囲を安心させるような微笑みをたたえている。
どんな気持ちなのだったろう、とおもう。
十六までしか生きられない、世界に対する生贄でしかない、と言われ続けて育つ。
というものは。
もう、二度と誰も友達を…知り合いを失いたくはない。
そしてその友達にはミトスも含まれる。
だからこそ。
「ミトス一人じゃあぶないよ!僕らも一緒に…っ」
「足手まといでしかないんだよ。ジーニアス。
  逆にあいつにいいようにされて、君らが足を引っ張るのは目にみえている」
「そんなことっ!」
ミトス一人で死地に向かわせるわけにはいかない。
ミトスがあの勇者ミトスである以上、またクルシスのユグドラシルである以上、
彼が強いのはわかっている。
わかっているつもり。
でも、それでも。
一人では。
ジーニアスの台詞を無碍にもなく却下したミトスの台詞に怒気を含んで叫ぶロイド。
こっちが心配してやってるのに。
そんな思いがロイドの胸中を飛来する。
しかしロイドは気づいていない。
その思いこそ、押しつけであり、逆をいえば相手のことを何も考えていない。
自分の思いだけ優先しようとしている、ということに。
その言葉の裏に隠されているかもしれない、他者を巻き込みたくはない。
という思いにすらロイドは気づいていない。
「いっとくけど、今のヤツは厄介でしかないからね。
  あのケイトは他者の姿を模倣する術を身につけている。
  ロイド、君たちが知り合いの姿をしたものと本気で対峙できるとはおもえないんだけど?
  逆に、相手を信用しきって、僕の足を引っ張るのが目にみえてるよ」
ロイドならば絶対にそうする。
それこそ、この場にいない相手の姿になった”ケイト”が、
その当人と同じようなそぶりをみせただけですぐさまに信用してしまうだろう。
それこそ相手の思うつぼだと気付くこともなく。
そしてそんなロイドをおそらく、他のリフィル達も制御しきれないはず。
おもいっきり足を引っ張るのは明白で。
それなのに、一緒に戦おうといってくるなど、こちらの邪魔をしようとしている。
もしくは、ランスロッドの味方をしようとしているとおもっても仕方のないこと。
「君たちが知り合いや仲間といっている相手に攻撃をむけられるとはおもえないけどね。
  もっとも、あのときはそこの神子におもいっきり刀をむけてたようだけど」
テセアラの神子の手によりコレットを手にいれたとき。
一応、テセアラの神子は信用がならないこともあり、きちんと監視はつけていた。
仲間を見捨てる形で一人乗り込んできたロイドのことを思えば、それくらいするかもしれないが。
しかし、明らかにロイドは足をひっぱるのが目にみえている。
そしてそんなロイドにつられて、他のものも同じようなことをするであろう。
先ほどのランスロッドとの戦いのときのように。
先ほども彼らはケイトを助けようと優先するあまり、攻撃の手がなまぬるかった。
もっともあの空間で全力をだすことがよかったのかどうかはわからない。
すくなくとも、あのような場を作り出していた以上、何かしらの罠があるのは明白で。
事実、ランスロッドを倒したところ、あの空間は崩壊を初めていた。
「”誰か”の姿をしているケイト、もしくは洗脳されて操られているかもしれない、
  ”誰か本人”そんな相手とロイド、君は戦えるの?戦えないでしょ?
   絶対に相手を助けようとこちらの足をひっぱるのは目にみえてる。
   それに実力も乏しいしね」
「な!俺はお前にかったぞ!?」
「僕がクラトスのほうに気をとられたその隙をついて、ね。
  隙をみせた僕が悪いといえばそれまでだけど。
  あのランスロッドが隙を見せるとおもわないことだよ。
  逆に君たちをつかってこちらの隙をつくろうとするのは目にみえてるし。
  ゆえに、ロイド、君は邪魔でしかない。他のものたちも、ね」
説明しても間違いなく無理やりにでもついてくる。
ならば少しでもその枷になるように、理由を説明してやるのもまた一興。
ゆえに、ムダとはわかりつつも説明するミトスであるが。
「そんなの!一人で戦うよりは仲間もいたほうがいいにきまってる!」
「・・・・・・・・いってもやっぱりムダなようだね。
  ロイド、君は自分が強くなったとおもってるようだけど。
  君は弱い、よ。逆に君が皆を危険にさらしているとなぜに理解しない?
  いや、理解しようとしていない、とでもいうべきかな?」
いつも思いつきで行動し、周囲を巻き込んでもその場に限り反省はするが、
まったくもって懲りた様子はない。
共に旅をしていた中で、そんなロイドに対する愚痴を幾度ともなく、
ミトスはロイドの仲間たちから雑談の中できかされている。
それが種としてさだまっていないがゆえに、精神が安定していないとしても。
それはあまりにも共にいるものにとってはあきらかに致命的。
実際、ロイドの行動によって命を落としたもの…例をあげればイセリアの村の面々か。
そういうものもいるのもまた事実。
このまま話し合いをしていても時間の無駄。
それゆえに、ふわりと翼をはためかせ浮き上がるミトスに対し、
「一人でいかせるか!こうなれば力づくでも!」
話しても無駄なれば力で叩きのめしてそのあとにもう一度話すしかない。
ミトスも話せば一人よりは人数がいたほうがいいとわかるにきまっている。
そんなある意味傲慢ともいえる考えに気づくこともなく。
…たしかに時と場合によっては数がいたほうがいい場合もあるであろうが。
相手の”力”に対して耐性も何ももっていない”自称味方”がいても足手まといでしかない。
一人であの”ケイト”の元に向かおうとしているであろうミトスをとめようと、
すらりとロイドが剣を抜き放つ。
そんなロイドを冷めた視線で一瞥したのち、
「すぐにそうやって、力にたよろうとする。それも相手の思うつぼ、なんだよ。ロイド。
  でも、そっちが先に武器を抜いたんだからこれは正統防衛」
そのまま、すっと手をかざす。
それとともにミトスの手にマナが収縮し、光り輝く一本の剣があらわれる。
それはミトスが自身のマナを凝縮してつくりだした品。
このマナで直接つくられた武器は精神体に大きく作用する。
すなわち、肉体をもっているものには、その精神体…すなわち魂に直接に攻撃ができ、
その体には意識をすれば傷一つつけることはできない。
対して精神体そのものを討ち滅ぼすことすらも可能。
そのまま、生み出したマナの刃をそのままおもいっきり地面にむけて投げ放ち、
そして一言。
「雷よ!」
この技の使い勝手のいいところは自らの能力次第で威力の調整、
もしくはその効果のほどを変化させられるという点。
本来ともいえる技は直接、術によって巨大なる光の剣を敵の上空に出現させ、
そしてそこから無数の電撃を広範囲にわたり発生させるというもの。
しかし、今ミトスがつかいしは、巨大な剣を作る過程を省いた間接的なもの。
それだけ威力のほどもかなりおちており、
どちらかといえば、サンダーブレードというよりは、スパークウェーブのそれに近い。
もしくは、スパークウェブともいわれているその技は、
この中ではジーニアスなどがよく好んで使用している技の一つ。
余談ではあるが、これらの技を完全に使いこなせられるようになれば、
自力で空を飛ぶことすらも可能。
もっともそこまでの境地にジーニアスはいまだいたっていないが。
ミトスが投げ放ったマナの剣より周囲に一気に波動がひろがり、
この場一帯。
すなわちテセアラ城があったこの区画全体を包み込むようにして剣を中心として
そこから無数の稲妻のようなものが発生し、
バチバチバチィ!!
周囲にいくつもの稲妻がほとばしる音が響き渡るのと。
『うわっ!?』
『きゃっ!?』
『ぐっ!?』
それと同時にいくつかの悲鳴のようなものもその場にと響き渡る。

ミトスが何かを仕掛けてきたのにきづき、身構えてはいた。
自力で剣を作り出せるその行為にも驚きはするが、その剣を地面に投げ放ったことで、
何かをしようとしているというのも理解できていた。
間に合わない。
本来ならばきちんと詠唱をしたほうがいいであろうが、
それでも。
「フィールド…きゃ!?」
フィールドバリアー、すなわち味方全体の防御力を挙げる術を唱えようとするものの、
それよりも早くにミトスの術が完成し、あたりをとわず紫色の電撃が駆け抜ける。
雷の直撃をうけるとともに、それぞれに襲い掛かる体の脱力感。
本来、この術を受けた場合、確実に気絶するなり何なりするところなのだが。
ミトスが威力を調整…下手をすれば耐性のないジーニアスを殺してしまいかねないがゆえ
かなり威力を低くしていたがゆえに、それぞれがその場にひざをつく程度で済んでいたりする。
それでもその威力のほどは申し分なく。
ゼロスですら、どうにかかろうじてたっているのがやっとのほど。
その半数にも近しい稲妻をあわてて抜き放った剣に吸収させ、
周囲に霧散させたがゆえに、ゼロスの被害はさほどでもない。
逆にロイドなどは霧散させるどころか、その手にもっていた剣がある意味
避雷針のような役割をし、いくつもの稲妻を一手にひきうけてしまい、
完全にその場において大地に膝どころか体そのものを横たえてしまっていたりする。

「ま…まて…っ」
それでも何とかけだるいというか力が入らない体に鞭をうつごとく、
起き上がろうとしミトスのほうにと手を伸ばす。
そんなロイドを冷めた視線でみつつ、
「この程度で動けなくなる君たちは、本当に弱い、としかいいようがないんだよ。
  おとなしく、そこでしてることだね」
どちらにしろ、彼らはしばらくは動けないはず。
それはそれで好都合。
ランスロッドとの決着は、ミトス一人でつけたい、というのが本音なのだから。
少なくとも、自分を信じ、
これまでずっと見守ってくれていた…と思われるラタトスクの思いに報いるためにも。
信じられるのはもはや自分のみ。
その考えを新にし、そのままふわりと浮かび上がるとともに、
その場から後ろを振り向くことなく移動する。
目指すは上空にひろがりし雲の中心地。
そこにまちがいなく、ランスロッドと、そして姉を取り込んだ大いなる実りがあるはず。
ミトスの目的は、大いなる実りの奪還と、そして姉の救出。
そして…ランスロッドの完全なる消滅。


「…水の御心に熾きて、その癒しの加護を我等に清き羽衣で包まん……」
ナース。
そうつぶやいたリフィルのもとから、淡い光がきらきらと漏れ出でる。
よくよくみれば小さな翼のついた、しかもなぜかナース服、とよばれているものたちが、
ことごとくその手に注射をもって倒れているものたちに向かって突き刺しているのがみてとれる。
この技は未来においてはその回復量が比較的上がっているのであるが、
今の時点の彼らの理、すなわちマナの理に縛られている上は、
それぞれの体力における40%程度の回復術しかもっていない。
それでも全体にその回復がかかることから比較的便利といえば便利な治癒術の一つ。
ちなみにこの技、戦闘中などに使った場合、
そこまで気にする余裕はないがよくよくみれば、
戦場を走り回るようにしてそれぞれの体力を回復するという姿がみてとれる。
マナの理から外れ、表向きにはマナなくしても生活できるようにみえていた時代においては、
この術は対象者の体力をその術者のレベル、プラス数値に示すと、
体力の数値的に八百程度ほど回復させる効果をもっていたが。
そのあたりの調整もかつてのラタトスクがしていたのであるが。
今の時代のリフィル達、ましてや当時の時代にいたものたち、
アドネードの一族のものたちですら知らないその事実。
「「う……」」
ふらふらする体をそれぞれおこしながらもどうにか起き上がる。
すでにもう、ミトスの姿は見当たらない。
「くそっ、ミトスのやつっ」
「でも、かなり手加減はしていたはずよ。でなければ意識は完全に切り取られていたでしょうね」
おそらくは、相手の能力も不明…というか、
先ほどの戦闘でも足手まといでしかなかった自分たちを巻き込まないがためのミトスの行動。
なのであろう。
それにロイドはどうやら気づいていないのか、憤慨したように、そのまま、
手元の地面をがん、と拳をつくってたたきつけている。
「たしかに。あれは形はどうあれ、サンダーブレードか、
  もしくはスパークウェーブに近かったしね。…発動の初手がちがってたけど」
本来ならば、頭上に巨大な剣が出現する技のはず。
スパークウェーブに関しては、周囲を結界で覆い、それからというのがこれらの術の特徴。
さらにいえばかなりのダメージを負うはずのところ、
それぞれが脱力感を感じる程度、動けなくだけですんでいる。
それをおもえばあきらかにミトスは手加減してきたことがうかがえる。
「だからといって、攻撃してくることないだろ!?」
「それをいうかねぇ?先に剣をぬいたのは。ロイド君。お前さんだぜ?」
「そ、それは……」
「誰だって、剣を向けられたら、正当防衛で反撃するのは当たり前。
  そもそも、あのユグドラシルを本気で力で押さえつけられるとおもったのか?」
そうであればあきれるしかない。
いくら一度、偶然にも勝てたとはいえ。
あきらかにロイドの実力はミトスにかすりもしていない。
冷めたような呆れた声でいわれ、ロイドは思わず言葉につまる。
あのとき、オリジンの封印の地でミトスに勝てた。
そう声を大にしていいたいが、
でもミトスが油断を見せる手前までは一方的にやられていたのもまた事実で。
クラトスが死ぬかもしれない…オリジンを解放したことをしり油断をみせたミトス。
ミトスはそれに気づいて動揺したのに、それに気づくことなく攻撃した自分自身。
「でも、ミトスが……」
「でもも何もねえよ。だから俺様はお前さんたち。
  特にロイド君にはついてきてほしくなかったんだけどな。
  おかげで聞きたいことも聞けずじまい」
やれやれ、という様子でかるく両手をあげるゼロスの言葉に、
「そういえば、ゼロス。あんたがなんで一人でミトスのところにこようとしてたのか。
  それをまだきいてなかったね」
ゼロスが一人で行動しようとしているのにきづき、ついてきたが。
そのとき、ゼロスから聞き出したのは、ミトスが一人で行動しようとしている節があるから。
としかきいていない。
すでにゼロスはクルシスの手先にはなっていないはず。
それでも、ミトスが一人で敵にむかっていくかもしれないときいたロイドが、
ならとめないと!といって、ゼロスの意見もきくことなく、問答無用で突き進んだ。
ミトスがどこにいるのかというのは、何となく勘で城跡にいるのではとおもってきてみたが、
そういった点のロイドの勘はいらないところでよくあたる。
というか、いらないことを考えないほうがより正しき面をとらえられるというべきか。
そんなしいなの問いかけに、
「エミル君が俺様達から離れる前に、あいつと何か話してたらしいからな。
  できたら、あの精霊様が今後何をしようとしているのかきいてないか。
  聞き出したかったんだけどな」
「…エミルが、何だって?」
「おいおい。忘れてないかい?あのエミル君…
  いや、ここは精霊ラタトスクとでもいうべきか。
  本来なら、精霊ラタトスクはミトスたちの懇願がなければ、
  この地上を完全に浄化…すなわち無に一度戻してやり直そうとしていた輩だぞ?
  これまで表だって行動してなかったのは、
  おそらく、勇者ミトスとの盟約とかいうのがあったがゆえ。
  形はどうあれ、勇者ミトスと精霊ラタトスクとの間で交わされた盟約。
  大樹を発芽させるという条件は果たされた。正しき形でないにしろ、な。
  盟約が終了したあの精霊様が今後どうするか、きになるだろ?」
ゼロスが言わんとすることをさっし、はっと息をのむしいな達。
「?どういうことだ?」
一方、ロイドはわかっていないらしく、完全に首をかしげている。
「下手をしたら、地上の浄化とかいうのもありえるかもってことさ。
  そんなことになれば、クルシスの千年王国の非じゃねえだろ?
  一度、完全に地上から命の火が消えてしまう可能性もあるんだからな」
「そんな…っ。エミルはそんなことしないよ!」
マルタはセレスとともにあの場に、セバスチャン達とともにのこっている。
もしもこの場にマルタがいれば、ジーニアスと同じく、
完全にゼロスの言葉を否定したであろう。
ジーニアスの悲鳴にも近い否定の言葉に、
「いえ…ありえる、かもしれないわね。認めたくはないけども。
  …ああ、だからこその”ヒトの試練”なのかしら……」
あの声…ヴェリウスが語った”試練”の言葉。
もしもヒトがその試練に打ち勝てない、ふさわしくないと判断されたとするならば、
そういう可能性もある、ということ。
間違いなくエミルの…ラタトスクの決定一つで世界の命運は決まる。
それこそクルシスがしていたことがかわいらしく思えるほどに。
「たとえば。ヒトは世界にとっての害虫でしかない。
  幾度かエミルがかつていっていた台詞だけど…
  すべての人がそうである、と判断した場合。 
  もしもエミルが魔物たちに”ヒトを駆逐、排除しろ”と命令したとするならば?
  精霊ラタトスクとは、魔物の王。すなわち魔物たちはその命令を忠実にこなすでしょうね。
  さらに、彼はマナを司るといわれている精霊。
  彼がその気になればマナを狂わせヒトが住める世界ではなくする。
  そういう手段は彼はとれるもの」
リフィルは知らない。
かつて、ラタトスクが本当にヒトに絶望し、
魔物たちに、”ヒトを滅ぼせ”と命じたことがあるということを。
そして更なる昔をたどれば、ヒトの愚かさに絶望し、
惑星そのものに天変地異をおこし、惑星そのものを消滅させたことがある。
ということを。
その時の惑星においてラタトスクの巫子を務めていた少女は、
惑星消滅とともに、次なる世界の意思の道しるべとなることを選んだ。
今でもその彼女は、新たな”種子の精霊”として、
種子から芽吹きし世界を見守る立場として”力の場”に漂っている。
その記憶因子が受け継がれている割合は、その世界によって様々なれど。
「”試練”…ね。やはり一度、あの子にあいにいくのが正解なんじゃないのかねぇ?」
今はどうしているのかはわからない、かつてはいつもともにいた大切な仲間。
あの”声”がたしかに【ヴェリウスコリン】のものであった。
他の精霊達はオリジンの解放以後、召喚に応じない。
それどころか、召喚の契約の証である指輪すら消失している。
今後、精霊達が直接にヒトに干渉しようとはしない、という精霊達の言葉もある。
それにしいな自身もここまでいろいろなことがおこったゆえに、
久しぶりに孤鈴コリンに会いたいという思いもある。
たとえその姿がかつてと完全にかわってしまっていたとしても。
すくなくとも自分とともにいた時間を覚えているのであれば、
たとえどんなに姿形、
その存在がかわってしまおうとも孤鈴コリンであることには違いない。
「・・・・・・・・でも、しいな。コリンに会いに行く、っていってもどうするの?」
ミトスのことはかなり気にはなる。
ケイトの体を乗っ取ったあの魔族が、今度はミトスの体を乗っ取ったりでもすれば。
勇者ミトスと呼ばれていた彼が負ける姿は想像できないが、
でも一度、ロイドに負けてしまった姿を目の当たりにしているのもまた事実。
「それなら問題なくてよ。おろちからの報告にもあったのだけども。
  かろうじてつながった情報、なのらしいけども。
  通信機によってイセリアの村にいたレネゲードの一員から報告があったらしいの。
  何でも”聖堂にて精霊らしき姿をみた”というものだったらしいわ。
  その姿が獣のような姿をしており、いくつもの尾をもっていた、というの」
マナが乱れている中で、とぎれとぎれではあったものの、
どうにか通信機具が使用可能となっているわずかな時間帯。
その間、レネゲードの一員達は仲間同士で連絡を取り合っていたらしい。
その中には、重要なものも、さしてそうでないものもあった。
イセリアの村に入り込んでいる…レネゲードの一員がいたのも驚きだが。
ともかく、その情報に嘘がなければ、
あの聖堂にいけば何かしらの手がかりが得られるであろう。
「その報告をきいたとき、納得もいったのさ。
  以前、村にいったとき、たしかにあたしは感じた。あの子の気配を」
聖堂とよばれるものがある方向から、懐かしき気配を確かに感じ取った。
勘違いかもとおもっていたが、おろちの報告で確信にかわった。
おそらくあの子は、コリンは”聖堂”と呼ばれている地にいる。
他の精霊達が特定の場所にいたように。
あのときはいろいろとあり確認にいくことができなかったが。
「今一度、イセリアにもどってみるのも一つの手だとおもうのだけど」
「そう…だね。たしかに精霊達が消えるとき、心の精霊にあうべき、
  のようなことをいっていたのは事実だし…それに……」
精霊であるヴェリウスが力をかしてくれるかどうかはわからない。
しかし、あのとき、精霊達が会いにいったほうがいいようなことをいっていた意味。
必ずそこに意図はあるはず。
姉としいなのやり取りをききつつも、ジーニアスが自分を納得させるようにぽつりとつぶやく。
ミトスのことは心配でしかない。
でも、先ほどミトスがいったように自分たちが足手まといでしかないのならば。
逆にミトスの足をひっぱり、敵に対して有利に働いてしまう可能性が遥かに高い。
「ま、俺様もそれには賛成、だな。
  相手は魔族だ。しかもケイトは他人の姿を模倣することができる。
  また、ケイトが操られたというように、他者を操ることもあいつには可能かもしれない。
  今、この場にいない俺様達の知り合いが洗脳され操られ、
  俺たちの前に敵、として現れないとも限らない。
  魔族という存在はすくなくとも、心の動揺の隙に付け込むことにたけている。
  テセアラに伝わる禁書のうちの一つの内容にそのようなこともかかれていた。
  そんな心の隙をつくように、完全に魔族側に堕とす、とも」
教会につたわる、マーテル教がいまだになかったころの古の書物。
記憶球メモリーオーブに封じられているその内容は、
それこそテセアラにおける禁忌、としてつたわっている。
教会の隠し部屋にとある禁書コーナーに保管されているそれは、
教皇が把握していたかどうかは怪しい。
少なくとも、教皇の地位についていたあのフィリプが何もしらなかった。
というわけではないとおもうが。
「心を司るというあいつなら、その対処法もわかるかもしれねえしな。
  特にロイド君はあっさりとあいつらにのみこまれかねねえしな」
自分たちは一度、心の闇というか恐れているものに遭遇した。
しかし、ロイドはどうやら話を聞く限り、あのときあの場所で。
優しい空間に取り込まれていた模様。
すなわち、大切なものから批難、もしくは否定の言葉を投げかけられ、
存在自体を否定されたわけではない。
すくなくとも、ゼロス、そしてリフィル達も、一度それを経験している。
していないのはロイドだけ。
アンナの深いまでの愛情のため、ロイドはその出来事を回避している。
傷つくことから常に遠ざけようとしたアンナの母親としての親心なれど。
そしてそれはあのときだけでなく、これまでも。
すなわち、ロイドが物心ついてから、アンナがエクスフィアにやどったのち、
ずっとそのようにアンナはロイドに対し干渉していた。
嫌なことなどがあっても、
あえてすぐにロイドが忘れ去るようにともロイドが気づかないように干渉していた。
ある意味、今のロイドの性格は、アンナによる親心がもたらした結果ともいえる。
しかし、今のロイドにはそんなアンナの加護はない。
アンナの加護下にあっても自身のことですこしでも感情か高ぶることがあれば
取り乱す行為をしていたロイドが加護のない状態でそのようなことをうければどうなるか。
おそらくではあるが、ロイドがここまで他人に言い放つ言葉と自分が同じようなことを受けたときの印象。
それが違うのは、エクスフィアの中にあったという母親の魂が原因なのではないのか。
ゼロスはそう疑っている。
実際にその通り、なのだが。
親とは子供を守るもの。
しかし時には突き放すことも必要。
誰しも痛みを知らないものが、本当の意味で痛みを知りえることはできはしない。
表面上の言葉では、とりつくろうとも本当の意味で理解することは不可能ともいえる。
「なんで俺だけ限定なんだよ!」
そんなゼロスにおもわずロイドがくってかかるが。
「じゃあきくが。ロイド君。おまえさん、
  あの天使様が実の父親だとおもったときどんな態度をとってた?
  俺様やコレットちゃんには言い方はちがえども、
  ”親がだれであろうが、自分は自分”みたいなことをいっておいて?」
「そ、それは……」
もう、何を信じていいのかわからない。
そういって何もかも信じられないとわめいたのはほかならぬロイド自身。
他人に…コレットやゼロスには綺麗ごとをいっておきながら。
「似たようなことを、だ。
  たとえばお前さんが原因となって死んだイセリアの村の人たちの家族たち。
  そんな家族たちの非難の言葉を直接にむけられたり、
  あるいは、ロイド君一人が隔離されて、俺様達に、
  というよりガキンチョやリフィル様、お前の親父さんであるダイク。
  コレットちゃんらにロイド君を否定されるようなことをいわれたら?
  それこそ敵の幻影として。ロイド君のことだ。
  相手が幻影とか思うよりも先に、狼狽するほうが先にくるんじゃねえのか?」
それはある意味ゼロスからしてみれば確信。
間違いなくロイドは狼狽し、正気を失う。
それこそ、クラトスが実の父親だとわかったときのように。
そしてそんな心の動揺を魔族であるあのランスロッドが見逃すともおもえない。
そんな心の隙をついてロイドを洗脳してこない、とも言い切れない。
いや、確実にするであろう。
弱った心に付け込むのは何よりも彼らにとってはたやすいことであろうから。
そうでなくても、あの勇者といわれていたミトスですら、
長い年月をかけてゆっくりとその精神を汚染されていたように。
「そんな、皆がそんなことをいうわけないだろ!」
「でも、一人隔離された空間でそれをいわれたらどうよ?
  絶対に狼狽しないとはいいきれないんじゃねえのか?
  実際、あのときですらコレットちゃんの言葉がなきゃ、
  おまえさん、正気に戻ってないだろうが」
「・・・・・そ、それは・・・・・・・・・」
あのとき、コレットに”自分は自分だ。そういってくれたのはロイドだよ!”。
そういわれ、狼狽し何もかも信じられなくなっていた自分の正気を取り戻した。
それは事実であることからロイドは何もいいかえせない。
言葉ではそんなことはない、といくらでもいえるが。
実際にそんな醜態を彼らの前でさらしている以上、二度目がない、とはいいきれない。
自分はそんなことにはならない、とおもいはするが。
でも、自分もあのときまで、自分に害がふりかかるまで、
自分がそうなったらどうするのか、どうなるのか、とまったく考えてすらいなかった。
楽観的に自分ならば大丈夫、と心のどこかで楽観視していた。
「とにかく。一度もどろうや。イセリアの村にいくにしろ。
  いつまでもセレスたちを待たすわけにもいかねえしな。
  何より目覚めた人々がセレスに害意をむけない、ともかぎらねえし」
今の街の人々の精神状態は普通ではない。
何かのきっかけがあればすぐに崩壊してしまうはず。
城がなくなり、そして救いの塔すらも。
常にみえていたはずの塔はそこにはない。
暴徒と化した民衆ほど手におえるものはない。
ゼロスとて民をその手で傷つけたくはない。
力で制御してもろくなことにはならない、とゼロスはよくわかっているつもり。
ロイドはこれ以上、どうやら言い返す気力もないらしい。
まあ、自覚しあのときのことをきちんと自分でも理解している様子なので、
あえてあの時のことをたとえに出したわけだが。
ロイドが敵洗脳される可能性が今現在であれば一番高い。
例えばコレットの姿でロイドを完膚なく否定する言葉をいわれれば、
ロイドはまちがいなく自分を見失う。
そこにとどめとばかりに、信じているであろうリフィルやジーニアスも…
それがたとえ偽物であったとしても…ロイドはそのことに気づいていても、
まちがいなく正気を失ってしまうであろう。
それこそ姿を借りられている当人たちが出てこない限り。
「そうね。いつまでもここにいてもしかたないもの。一度もどりましょう」
リフィルの台詞にしいなもうなづく。
いまだにうなだれているロイドのことは気にはなりはするが。
ゼロスの言い分も至極もっとも。
しいな自身、周囲に批難されるつらさはよくわかっている。
しいなは何とか耐えたが、ロイドはどうであろうか。
おそらく間違いなく耐えられない。
自分たちがそばにいれば、それはまやかしだと否定の言葉を投げかけることもできるだろうが。
ロイドだけ、隔離された空間にとらわれてしまえばどうなるのか予測不可能。
「…俺は……」
そんなことはない、皆が俺を否定するなんて。
そういいたいのに、しかしあのように洗脳されたケイトをみた手前、
もしも仲間が洗脳され…自分がいる限りそんなことは絶対にさせない!
と思いはするが。
ケイトも絶対にまもってみせるとおもっていてもこの始末。
つまるところ…絶対、はない。
皆がそれぞれその場にロイドをのこし、闘技場のほうにむかっている後ろ姿を見送りつつ、
ただただロイドは強く手を握り締め、改めて自分の手を開いてじっとみつめる。
こういったとき、いつもは手につけていたエクスフィアから何かしらの暖かいような力を感じられていた。
が、今そのエクスフィアは、もはや、ない。


~スキット:すこしきびしいんじゃないの(かい)(かしら)?~
~城あとにロイド一人をのこし、闘技場に戻る最中の仲間たちの会話。~

しいな「しかし、ゼロス。今のロイドへの言い分はちょっと厳しくないかい?」
リフィル「ロイドの精神面では確かにありえるでしょうけど。
      あそこまではっきりと今いう必要性があったのかしら?」
ジーニアス「ロイドはそんなに弱くはないよ!…た、たぶん……」
コレット「でも、クラトスさんが実のお父様だとしったとき。
      ロイド、すっごく狼狽して動揺してたよね?
      もう、誰も何もしんじられない、とかロイドらしくないこと叫んでたし」
ゼロス「ま、コレットちゃんの言う通り。
     ロイド君はちょっと危機感が足りなすぎるんだよ。
     危機感も、その危機というか現状を自分自身に置き換えるという考えが皆無。
     そういっても過言じゃねえ。
     もっとも、今のロイド君は少しは本格的にそのことを見直すかもしれねえけどな」
ジーニアス「それって、これまでロイドは見直してなかったっていいたいの?」
ゼロス「実際にそうだろう?
     その時には反省、もしくは思い出したように反省の素振りをみせてても。
     それを実践にあいつが移したことはあったか?
     俺様が経験したり、聞いたりした限りではないとおもうんだが?
     あの禁書の記憶とよばれていた封印の中でもあいつはそうだったろ?」
ジーニアス「・・・・・・・・・・・・」
実際、ロイドがあの地でかなりの足をひっぱっていたのは事実。
ほとんどクラトスがそんなロイドのかわりに殲滅していたのであまり気にならなかったが。
ゼロス「俺様達が経験した、大切なものたちからあびせられる否定の光景。
     あの罠ですらロイド君はそれを経験してなかったようだしな」
リフィル「…私たちのもとには、お母様たちがでてきたあれ、ね……」
ゼロス「俺様はセレス、しいなはくちなわだったけどな。
     でもロイドくんはそれを経験していない。
     おそらくはロイド君が身に着けていたエクスフィアの中にいた
     ロイド君の母親が守ったから、なんだろうけど、よ。
     俺たちはそういう方法をとれるものがいる、というのもしっている。
     けど、あいつはどうよ?確実に狼狽して正気を失いかねないぜ?」
まちがいなく、こちらの話だけではロイドは本格的に理解していないはず。
リフィル「…難しいところね。過保護すぎても子供の成長は望めない。
      それはわかっていても、教え子がつらい目にあうのはみたくないわ」
しいな「…あたしにはコリンがいたから耐えられたけど。
     たしかに、ロイドは耐えられないかもしれないね。
     それどころかその隙をついて敵に利用されかねない」
相手のことを鵜呑みにしてしまうロイドだからこそ、それはあり得るかもしれない。
ヒトを信じるといっておきながら、本当の意味で信じ切れているのか否かは、
それはしいなにもわからない。
すくなくとも、ロイドからしてみればヒトを信じるのはあたりまえ。
それは常識なのだろう。
その本能がどうかはともかくとして。
ジーニアス「…けど、やっぱりあの言い方はちょっときつすぎるよ……
       そりゃ、ロイドはきっぱりといわないと、
       わけのわからないほど、物事を曲解していいようにしか解釈しない。
       そんなお気楽思考の持ち主だけどさ」
コレット「ロイドはただ、何も考えてないだけだよ」
ゼロス「…コレットちゃん、それあるいみ、ロイド君に対してはトドメだぜ?」
リフィル「あの子は考えて行動するよりも、直感で本能的に行動したり、
      物事をみないかぎり、たしかに曲解するわね」
しいな「…まあ、それはあたしもこれまでの旅で否定しないけど…さ」
ジーニアス「そんなことない、といえないのが悲しい……」
実際に、物事の奥深くまでロイドが考えているなんてジーニアスとておもっていない。
それが嫌でもわかるからこそ、言葉では否定しておきながら、
ゼロスがさきほどいったことが現実になりえるかもしれないという点を否定しきれない。
ゼロス「ロイド君もいい加減に本当の意味で大人になるときがきてるってことさ」
コレット「大人かぁ…何歳から大人の仲間いりなのかな?そういえば?
      もう、私も十七になってるし。ロイドも十八」
リフィル「一応、世間的には十八からは大人の仲間入りとは言われているけども」
しいな「あたしの里では二十からだね。正式には」
ジーニアス「…ロイドが大人?…いくつになっても今のままのような気がする…」
リフィル「…クラトスが、ロイドを頼むといっていた意味がよくわかるわ…
      私にも限界がある、というのに……」
ゼロス「教師という立場もつらいもんだねぇ~」
リフィル「まったくだわ」


※ ※ ※ ※


「くっ!被害状況は!?」
まさかこんなことが起こり得るなど。
メルトキオに入ったというみずほの里のおろちからの連絡。
あちらはあちらで随分と大事がおこっているらしい。
というか、城が消えてなくなっており、国王も王女も行方不明など。
ファブレ伯が今その事実はまだ口外しないほうがいい、という意見をだし、
それでなくても人々の不安がたかまっているこの時期。
まだその事実は人々に隠しておくべきであろうという判断が下された。
「…これが、あの謎の声のいう”試練”というやつなのか?」
「それはわからぬ。だが、違う可能性もある」
少なくとも、魔族とよばれる輩がかかわっている以上、
これらが皆、世界からの…否、精霊達からのヒトに対する試練だとはいいがたい。
嵐。
そうよぶのにまさにふさわしいといえなくもないが。
その被害は甚大。
直接にアレがこの上空を通過したわけではない、というのに。
見渡す限り目につくは、無機質なる空間。
いや、無機質というよりは、冷たい空間というべきか。
あれほどあったはずの木々はことごとく吹き荒れた風によって”爆ぜ割れた”。
比喩でもなく文字通り。
黒い雲より突如として降り始めた雹ともいうべき雨。
雹、と表現したは、それらが水分でありながら
固さを感じる音がたたきつけられるたびにおこっていたがゆえ。
しかし、体にふれると確かに固さは感じるものの、
そのまま不思議なことにすうっと体に吸い込まれるかのごとくに体にと吸収された。
体の中に吸い込まれるということ自体が普通の雨や雹でない証。
それだけではない、海もまたそれらの雨が降り注いだゆえか、
海というよりはどちらかといえば固さを含んだ液体となっており、
どちらかといえばかき氷のそれにちかしいものになりはてている。
ありえないことが現実におこっている今、
慣れ親しんだ海の異変、そして大地の異変。
人々が不安に陥るのは当然で。
それでなくてもこの地に足止めされていたようなものの観光客達。
もともとこの地にいたものは思うところはあれど、
それでも街のためにと尽力してくれている。
あれほどあった木々は雨に打たれるとともになぜか
パキン、
とかつての神子コレットの症状のごとく。
その全体を無機質ともいえる石…学者たちいわく、材質的に水晶らしい。
とはいっていたが。
とにかく、ことごとく木々が水晶にと変化し、そして風によって爆ぜ割れた。
それだけではない。
かろうじて残っていた木造の建物すら。
ことごとく水晶にと変化してしまっている。
アルタミラの象徴ともいえるレザレノ本社であるビルもまた、
その材質が雨にふれるとともにぴしぴしと結晶化していき、
やがて吹き荒れる暴風の前に崩れ落ちた。
当然のごとくに死傷者も多少でている。
従業員や住民の安否。
あれだけ頑張ってためていた蓄電器ともいえる電気をためた”缶”も、
ウィングパックに入れ込んでいないものは雨にふれるとともに結晶化してしまっている。
つまるところ使いようがなくなっているこの現状。
あれほどひたすらに充電していたというのに。
用をなさなくなっているという現実に落胆するよりも、
追われる現実がいろいろとありすぎて、何から手をつけていいのかがわからない。
それが今の実情。
時折、小さな子供をもつ親などが、子供の体の異変にきづき悲鳴をあげている。
という噂もちらほらとはいってきている。
きけば体の一部に石のようなものがあらわれていると。
今はその真偽を確認するように命じてはいるが。
この混乱の最中、どこまで正確な情報がはいるかはわからない。
地面そのものが水晶のようなものに石化してしまっていることから、
そこにはすでに大地のぬくもり、というものもない。
建物もことごとく暴風の前にガラスのごとくに崩れ去った。
暴風雨といっても差し支えのない一夜がすぎさってもなお、
いまだに空を覆う暗雲は晴れていない。
救いといえば身につけているものはかろうじて水晶化するような現象に陥ってはいない。
という点のみ。
身を隠すべき建物も失い、あれほどあった木々もかききえ。
今このアルタミラにあるのは更地にちかい大地のみ。
それといくばくかのもともとこの地にいた動物たち。
もっともその動物たちも体を覆われるかのような水晶の中にとりこまれ、
完全なるまるで水晶の原石のような置物と成り果てている。
謎の黒い異形のものはいまだに数を減らしていない。
それどころか刻一刻とその数を増していっている。
アレがたったの一夜…数時間程度でおわったからいいようなものの。
あの暴風雨がいまだ続いているかとおもうとぞっとする。
地下にしみこんだらしき雨?もどきが地下をも結晶化していなければ、
人々を安全に避難させることも難しかったであろう。
「カンパニーにあった通信機具もことごとく使い物にならない。
  というよりは”割れて”しまっていて跡形もない。
  レネゲードとかいう輩たちのもっている通信機具が唯一の通信手段でしかない」
見渡すかぎりの荒地といっても過言でなくなったアルタミラ。
そこに、かつての楽園というイメージは…ない。


「これは……」
かつて、救いの塔があった地。
歪な形で発芽した大樹が生えていたその地は。
今やかつての面影すらない。
この付近は軒並み、木々が立ち並ぶ鬱蒼とした森でもあったのだが。
まだ、この付近の地は被害は少ないほうといってもよい。
ここを拠点として”アレ”が発生したがためか、さほど風もつよくなかったらしい。
木々が水晶化していたり、大地もまた結晶化しているという点は他とかわりばえはない。
が、他の地点は風が吹き荒れたせいか水晶と化した木々は完全に割れてなくなっていた。
動物たちが内包されている水晶のみは無事であるようであったが。
おそらく、動物たちが内包されている水晶は何らかの形で、
というかまちがいなくラタトスクが関わっているのであろう。
不穏な気配を感じたがゆえ、飛行は雲よりも高くとんでいたが。
「…ここまで、不快に感じるとは…ね」
たしかに自分は目指していた。
誰も差別されない世界のために、すべての命が無機物となった世界を。
でも、望んでいたのは、いたものは。
「…僕が望んでいたのは、こんな冷たい世界なんかじゃ…」
改めて目のあたりにすることで、想像ではなく現実として嫌でも思い知る。
すべてが無機物となった世界。
そこにぬくもりなど一切ない。
姉が好きだといっていた自然の面影はもはやない。
大地のぬくもりも石の冷たさにとかわりはてている。
文字通り、それこそ世界が無機物のみの世界になったかのごとく。
これが一部だとはおもえない。
誰もが同じ、ものになれば差別もおこりえはしない、と。
心を失いただ生きているだけの世界。
一時期自分はそれを目指していた。
心があるから、感情があるから小さなこぜりあいのような争いがおこり、
より大きな争いになっていく、と。
そのための無機生命化。
しかし、こんな自然の姿は姉は絶対にのぞみはしない。
救いはおそらく、これらの水晶はラタトスクがかかわっているであろう。
ということ。
この水晶に何の意味があるのか。
おそらく、ヒトがあまりにもマナを消費し争いを繰り返すこと。
可能性として。
「…もしかして……」
もしも、自分がラタトスクならどうするか。
自分は無機生命化に人々を変えることを選んだ。
それこそ選別していった人々のみ。
そして一度は地上を無視し、一度宇宙空間にすら逃れようとおもった。
マナの少ない世界で、大いなる実りも失い、
そして彗星すら失った世界で百年も地上の人々が生き延びられるとはおもわなかった。
しかし、地上がそんな短期間で消滅してしまうとはおもわなかった。
一度、大地を離れてから後でも種子を目覚めさせればいい。
そうおもったあのとき。
あのとき、ウソ偽りなく姉はこんな穢れた世界から離れたいとおもっている、と。
姉に否定されたがゆえにそうおもったあのとき。
「…さすが、としかいいようがない…よね」
今回の騒ぎに乗じて自分の意識を目指していたものを客観的に見つめなおすことと。
そして、おそらくは。
今後、地上にいきるものたちがマナを直接感じ取れることができなくなるのであろう。
少なくとも自分ならそうする。
マナがわかるからこそ、それをヒトは悪用しようとする。
マナを感じ取れなくても、ヒトは生きていくことはできる。
そう。
かつて彗星から移住したデリス・カーラーンの民が、その能力を感じることを放棄したように。
強制的にそうしてしまえば、いずれ、ヒトはマナという認識すら忘れてしまうであろう。
かつて、この星の存在達はマナから変化していた今はマクスウェルがつかさどりし、
元素を軸として存続していた、という。
もしかして、もしかしなくてもかつての理であったというそれに戻すつもりなのかもしれない。
否、間違いなくそうなのであろう。
一時的に感じられなくなっていたマナ。
今は濃いが、しかし雲の上にでてみれば、やはりマナは感じることができなくなっていた。
雲の下でのみ、今のところマナを感じられることができるが。
この雲を取り払うのはおそらく簡単。
要となっているのはまちがいなく、あのランスロッドと、
そして歪に発芽した大樹をどうにかすればよい。
大地の存続に関してはおそらく確実に心配することはないであろう。
かの精霊が目覚めている以上、彼が口にしたことを反故にするとはおもえない。
人は簡単に嘘をつき、他者を裏切るが、精霊に関しては絶対にありえないこと。
「こんな光景を実際にみて、それでも僕が無機生命体化の世界を望むかどうか…
  おそらく、ラタトスクはそれを問いかけたいのでもあるんだろうね」
言葉にするよりも、実際に目にするほうがかなり効果的。
もし、これで自分が何も思いを抱かないとするならば、
おそらく確実にラタトスクはヒトを見限るかもしれない。
どちらにしても、世界の理を元に戻すことができるのは、
また変更などできるのは、世界の源ともいえる”彼”以外にはありえない。
雲の下で降り注いでいる雨。
雨といえるかどうかわからないそれは確実に大地を、否、世界をかえていっている。
おそらく、大地だけでなくヒトにも何らかの影響がでているとみてほぼ間違いない。
動物などは完全に水晶の中に閉じ込められているようになってはいるが、
さわってみるかぎり、そこに命の波動は確かに感じられた。
いってみれば、冬眠しているようなもの。
かれらはおそらく、大地が蘇り生きていくにふさわしい自然環境になるまで、
まちがいなくそのまま水晶に閉じ込められているまま、なのであろう。
動物たちのいない世界。
自然すら見渡す限りない世界でヒトの心がどのように変化するか。
荒廃したヒトの心ほど、ろくなことはしないというのを、ミトスは身をもって知っている。
その一端を自分がしようとしていたというのに今さらながらに思い知る。
ヒトをすべて無機生命化して姉をよみがえらせたとしても、
感情のない人形しかいない世界を姉は本当に望んでいたのか。
否、間違いなく望んでいない。
でも、かつての自分はそう姉マーテルも望んでいる。
そう信じていた、否、信じ込もうとしていた。
今だからこそ客観的にかつての自分を、その心を省みることができる。
ラタトスクがともに旅をしていたのも、
ゆっくりとたまりにたまった自らの中にある魔族の瘴気。
それをもしかしてもしかしなくても取り除くためであったのかもしれない。
自らの都合にいい解釈かもしれない。
けど、たしかに、”エミル”とともに、
これまで失っていた感情がより強く感じられるようになったのもまた事実。
「…いくか。これ以上、失望されたくはないし、ね」
まずはあのランスロッド。
おそらく確実におせっかい極まりないロイド達がくるまえに。
依代となっているランスロッドを滅ぼす必要がある。
依代ごと消滅できればいい。
そうでなければ、この身に取り込んでも今度こそ確実にランスロッドを滅ぼす。
かつての自分たちは封印するだけでそれができなかった。
でも、今度こそ。
姉が守られているとわかった以上、もはや憂うことはない。


「…洒落にならないね……」
定期報告として、アルタミラに残っているみずほの民からの連絡。
それは他者にきかせられるようなものではなかった。
思わずため息がでてしまう。
寝ないことに慣れているとはいえ、このような報告をうけるなど。
ミトスが一人でいなくなり、闘技場あとにもどったその刹那。
ぽつぽつと雨らしきものが降り始めた。
そんなとき、アルタミラのみずほの民より連絡がはいり、
この雨のような雹のようにもみえるそれが洒落にならない力をもっているらしい。
というのが判明した。
雨脚はだんだん強くなっており、外にでたものは雨に打たれるとともに
その動きを鈍くした。
体が冷えたからかもという理由で湯をわかし、家族のものが湯にはいるように促したところ、
雨に濡れたところがまるで石のように固くなっていた。
そろこそまるで鱗のように。
その光景に息をのんだのは、しいなだけではない。
その症状に心当たりのあるコレットもまた息をのむ以外なかった。
それはまるで、かつてのコレットがかかっていた病。
天使疾患とよばれし、体がエクスフィアになるという前振りの症状によくにていた。
彼らはエクスフィアをつけていない、というのに。
ゆっくりと湯につかりしばらくすると、その鱗のようなものはひいていったがそのかわり。
体の一部にエクスフィアのようにもみえる石のようなものがのこってしまっている。
それはまるで体の一部のごとく。
それでなくても降り続いている雨とともに、大地が水晶化しはじめている今。
外にでるのは危険、と判断せざるを得ない。
傘も役にはたたず、逆に傘までも時間とともに結晶化してしまい、
雨を防ぐ手段として効果的なのは身に着けているもののみは結晶化しない。
というなぜか摩訶不思議な現象を逆手にとり雨合羽を着込むことにより、
直接肌に雨が降れるということはないようだが。
だからといって、雨合羽の数がそうそうあるはずもなく。
「やはり、急いでこの一件の解決は図るべき、でしょうね。
  雨が原因なのであれば、雲の上にさえでてしまえばどうにかなるとおもうのだけども」
そこにいくまでいろいろと問題はあれど。
ここが首都メルトキオであるということが功を奏している。
調べた結果、地下水道の”力の場”と呼ばれているそれはどうやら変わった様子もなく。
ソーサラーリングの力をつかい、仲間を一時的に小さくして持ち運ぶことにより、
雨合羽不足は何とか解消できる、とのこと。
問題は、そこにいくまでの足。
確実に一台ほどのレアバードを犠牲にする覚悟がいる。
そうしなければ、空を飛んでいくことも、移動することもできないであろう。
この街に保管されていた地上運搬機でもあるエレメントカーも、
王立研究所の消滅とともになくなっている。
唯一あるのは、一行が自前としてもっていたたった一機のみ。
「しかし、いつまでもこうしているわけにもいかないっしょ」
唯一といっていいほどに無事であったこの競技場。
この闘技場そのものすら、ゆっくりと、しかし確実に水晶化が始まっている。
おろちのもっている通信機による連絡。
聞いていたのは、おきていた、リフィル、しいな、ゼロスの三人。
いまだ子供であるジーニアスなどはいろいろとありすぎたのか、
はじめは寝付かれなかったようだがすっかりと寝付いてしまっている。
あまりの不安に寝付かれない人々には、リフィルが術を使用することにより、
あるいみ強制的に一時的に眠りにつかせた。
一度、寝入ってしまえば精神的にも負担がかかっていた人々は、
今ではすっかりと寝入ってしまっており、
いまだこの闘技場の異変に気づいていない。
しかし、目をさますとともに嫌でも思い知るであろう。
石づくりであったはずの、石がなぜか水晶という物質にかわってしまっていることに。
「いくなら早いところがいいとはおもうけどな。
  雨脚がどこまで強くなるか皆目不明。アルタミラからの報告にあったように、
  ここも暴風雨に見舞われないとも限らない。そうすれば完全なる足止めだ」
それでなくても、ここアルタミラはあるいみ絶海の孤島と化している。
孤島というにはその広さはかなりありはするが。
アルタミラ以外の街や村がない以上、孤島といっても差し支えがない。
かつての古代地図でみるかぎり、完全に孤立してしまっているはず。
いつまで食料がもつかもわからないこの現状で、何とかしなければという思いは遥かに強い。
いつも力なきものに虐げられ、つらい想いをするのは身分の低いものたち。
神子という立場だからこそ、それがよくわかる。
しかし、今や貴族も何も関係ない。
あるとすれば、神子である自分に民がこんな状況であるというのに、
信頼をむけてくれている、というその事実のみ。
この現状に陥ったのが神子のせいだと言い出すものはここにはいない。
先日の国王の宣言がきいているのか、それとも高らかに響き渡った、
ケイトの体をのっとった魔族の”声”がきいているのか。
おそらくは、こんな現状だからこそ、誰かを非難するよりも、
救いをもとめる方向性に精神がむいているのであろう。
現れていた天使達もそんな人々の心に拍車をかけることになっているのであろう。
国王も王女もおらず、城すらきえてしまったこの地。
今、ここで人々を束ねることができるのは、おそらく神子である自分以外にはいないであろう。
それがわかるからこそ、ゼロスはこの地に残るつもりである。
彼らが心の精霊と接触し、何らかの手段を獲得するころには、
おそらくどうにか他所との連絡、もしくは移動方法も目安がつくはず。
否、そう信じたい。
空と海。
それ以外の移動手段はもはやこのメルトキオには残されていない。
一度は妹のために捨てようとおもっていたこの命なれど。
妹の体が健康になり、そして国王すら消えてしまった今。
妹を縛るものはもはやないといっても過言でない。
権力的には神子は国王と同等の発言権をもつ。
国王がいない今、ゼロスが指揮をとるのがいかにも自然。
妹を守るためにもそれをしなければ、妹に未来はない。
いつ何どき不満が自分でなく妹に向かうか。
それだけは避けなければならない。
何としてでも。
「とりあえず、お子様たちが眠っている間に出発する。
  というのはどうよ?今のロイド君ならぐっすりと眠ってるし。
  指輪をとってもきづかねえとおもうけど?」
城跡から戻ってきたロイドはかなり考え込んでいた。
心ここにあらず、といった感じではあった。
きつい言い方ではあったが、改めておそらくは自らの行動をかえりみて、
他者の足をひっぱりかねない、と自覚したがゆえであろう。
そもそも、禁書の封印の中でもロイドはあるいみで周囲の足をひっぱりかけていた。
それがあまりに表だって現れなかったのはクラトスがひたすら
ロイドにかかる負担を率先して排除していたからにすぎない。
それにロイドが気づいているのかいないのか。
先ほどの言葉で少しでも自覚してくれればそれにこしたことはない。
ロイドのまっすぐさはうらやましくもあるが、同時に危うくもある。
これまでに幾度か感じたが、ロイドの精神面は弱すぎる。
おそらく、確実にエクスフィアの中にいたロイドの母が守っていた結果だろうが。
その母親の魂も消えた今、ロイドは成長する必要があるとおもう。
世界は理由はどうあれ一つになった。
今のままの甘い考えでは確実にロイドは誰かに利用される。
テセアラの暗部では他者を洗脳する道具すら開発されていたことをゼロスは知っている。
この地のアノ施設は研究所とともに破壊されているだろうが。
他の場所で同じようなことが隠れて研究されていた可能性もゼロではない。
「…ゼロスのいうことをきくようで癪ではあるけど。
  今のうちにソーサラーリングの性能をかえておきましょう。
  おろち、雲の上にでてから移動するあてはあって?
  ソーサラーリングの機能で小さくなる時間には限度があってよ?」
何となくではあるが、雲の上にでてしまえばマナが利用できないような。
それはリフィルの直感。
この雲がマナの濃度を高めていると仮定すれば、その上空はいうまでもなく。
マナが感じ取れなくなったあのときと同じ状況になったりすれば、
マナを原料として飛ぶレアバードも無事ではまちがいなくすまない。
おろちがもってきた蓄電用の装置も時間に限りがある。
できうれば、レアバードは敵地に突入するときまで温存しておきたいところ。
「リーガル殿の意見で念のために気球ももってきている。
  八人程度までは移動が可能とのことだ。
  雲の上の気流まではわからないが、一台ほどレアバードを使用し、
  それで気球をひっぱっていけば目的地…
  イセリアの聖堂とよばれし場所くらいまでならばいけるのではないか?」
話を聞く限り、魔族に対抗するために会う必要があるとおもわれし心の精霊。
かつて、コリンと呼ばれていたその精霊は、イセリアの聖堂にいるらしい。
出向いて出会えるかどうかはわからないが。
しかし、しいなとの思いでが残っているとすれば確実に姿を現すはず。
もっとも、心の精霊ヴェリウスに出会えたとして打開策がみつかるかどうか。
それはおろちにもわからない。
精霊達が会いに行くようにといっていたというならば、そこに必ず意味はあるはず。
少なくとも、何もしないまま敵地に突っ込んでいくよりは。
「…しかたないわ。とりあえず、起きて騒ぎ出すまえに行動しましょう」
雨脚は今のところどうやら落ち着きをみた模様。
ならば今のうちに行動あるのみ。
プレセアは先ほど外にでておもいっきり雨にうたれたためか、
かなり疲労が激しく、リフィルの術にて眠らせている。
一時、表にでることができたアリシア曰く、
雨に打たれたことにより、プレセアの体に異変がおこっているらしい。
異変というよりは、元に戻ったともいえるそれは。
アリシアに指摘され、思わず胸元をリフィルがはだけて確認してみれば、
そこにかつて消えたはずのエクスフィアににた石が改めて現れていたりする。
かつてのそれよりも小さく透明なそれが何なのか。
雨に打たれた人々が体の各自ことなりはすれど現れている”石”と同じもの。
エクスフィアのように体全体を無機物化するようなものではない。
とアリシア曰くいってはいるが、それが真実かどうかは不明。
もし、かつてのコレットのように、またかつてのプレセアのように
感情が消えてしまうようなことになったりすればそれこそ意味がない。
時間がない。
そのことについてもできれば精霊達に問いたいところなれど、
精霊との契約が解除されているしいなはやはり幾度呼び出そうとしても、
精霊達は答えることがなかった。
ならば、理由をしっているであろうコリンにきく、というのが一番手っ取り早い。
…教えてもらえるかどうかはともかくとして。
一番騒ぐ可能性があるのはやはりロイド。
何しろゼロスはこの街に残る、といっているのである。
たしかに、天使達もいない今、国王がきえ、信望のある神子までも。
そうなれば街の人々がどのような行動をおこすのか。
リフィルとしても考えたくない。
リーガルにつづき、ゼロスまで離脱してしまうのはきついといえばきついが。
しかし、物事には必要事項というものがある。
つまりは何を最優先すればいいか、という順位がどうしてもくる。
リーガルはアルタミラを、レザレノ・カンパニーの社員たちを見捨てるわけにはいかなかった。
ゼロスもまた、神子であるという立場から人々を見捨てるような行動はできないのだろう。
それはこれまでコレットをみていてリフィルとて理解できる。
それがいいかどうかはいろいろと思うところがあるが。
コレットにしろゼロスにしろ他者のためなならば自己犠牲を問わない。
その考えが随所にみうけられる。
ゼロスはそのいつものふざけたような態度でぱっと見た目わからないかもしれないが。
しかし長くともに旅をしていればみえてくるものがある。
ゼロスの行動の一つ一つが演技、もしくは空気をあえてかえるため、
わざとふざけた態度をとっている、ということが。
「なら、あたしが地下にはいくよ。地下には何があるかわからないしね」
いまだ、地下水道にはあの黒い何かたちがいるかもしれない。
ミラがミュゼとともに周囲をみまわってくるといっていない今、
動けるとすれば、おろち、もしくはしいなくらい。
「――頼んだわ。しいな」
「まかせな。…たしかに。ゼロスのいうように。
  ジーニアスやロイドが起きたら騒ぐ可能性が高いし、ね」
癪ではあるが、ゼロスのいうように、
騒ぐ可能性がある彼らが起きる前に行動しておいたほうがいいであろう。
…特に、この現状では時間がおしい、のだからして。



いくつもの浮かび上がる映像。
白とも虹色とも、摩訶不思議な距離すらつかめない空間。
その中に一際かがやく球体と、この場に不釣合いのようでいて、
それでいてこの場になじみすぎている椅子がひとつ。
その椅子に腰かけているは、見ようによっては色彩が変化するようにもみえる
銀色のような長き髪をもちし存在。
「ふむ……」
その赤き視線をむけた先。
金の瞳に真紅の瞳孔。
地上にひろがってゆく黒い雲。
そこから降り注ぐ雨は地表すべてを一度塗り替える。
塗り替えるといってもかつて決定していたようなことではなく。
洗い流すのではなく、水晶による浄化と、それと同時に理そのものを変えるのみ。
かつても一度、大地は完全にマナの理を応用していた。
すでに要となる大樹は芽吹いている。
人に気付かれないように、かの森の理も変更した。
マナから直接、【命を創造】するのではなく、
かつてのこの惑星の理により近く、マナから元素へ。
そして元素から命へと。
これはその布石。
海もまた例外ではない。
とにかく、今後ヒトにマナという存在を気取られないように。
再び魔科学のような愚かな品が開発されないように。
もっとも愚かなるヒトのこと。
元素を利用した兵器をかつてのこの惑星のように確実に生み出すであろう。
それでも、それはその時に生きていたヒトが選んだ結果。
たとえ地上のヒトが死滅しようとも、大本がマナである以上、惑星の命は続く。
「さて。ミトスやロイド達はどこまで抗うことができるか…お手並み拝見だな」
ミトスもどうやら、自身がマーテルに何らかの形で保護を施していることに気づいた模様。
ミトスの性格からしても、確実にランスロッドとの決着をつけようとするであろう。
そして、種子の中に取り込まれている、否、あの歪なる大樹もどきに取り込まれている種子そのもの。
それすら取り戻そうとするであろう。
ミトスの責任感はそこまで強い。
今のミトスであれば、かつてのように。
そのためにあえてこのような回りくどい理の変更を選んだ。
――ミトスに彼が目指していたものの形を現実として見せるために。


まぶしい。
いつのまに朝になっていたのであろうか。
それにしても、体が異様にふわふわする。
おかしいな。
固い石の床でそのまま横になって……
「うおっ!?…って、な、なんだぁ!?」
起き上がろうとして違和感を感じ思わず叫ぶ。
「うわっ。ロイド、急に立ち上がらないでよ!危ないし!」
グラリと傾く足場。
それどころか何となくふわふわしている。
そんな彼に慌てて抱き付いてくるは聞きなれた声。
「な、何だよ、ジーニアス…って、ここ、どこだ?」
文句をいいかけ思わず周囲を見渡し唖然とする。
見上げたそこには布のような何か。
その中央にはガス?の炎のようなものがともっており、
どうやら今、自分たちがいる場所は籠のような中にいると漠然とながら理解する。
「まったく。ロイドはあいかわらず御寝坊さんだよね。
  もう、太陽は真上だよ?」
もっとも、移動している手前、時間は正確ではないかもしれないが。
そもそも東へ、正確には北東方向にとんでいっているはず。
星でもみれれば正確に把握できるだろうが。
今は突き抜けるほどの青空しか広がっていない。
ロイドの寝坊には慣れているが、ここまで目覚めないとはある意味で感心する。
おそらくは、きちんとした建物の中で眠っていたという安心感から、なのだろうが。
きょろきょろと周囲みれば、幾人かの姿がみえないのにふと気づく。
「…あれ?先生やしいな、それに…コレットは?」
この場に姿がみえないというのに不安がつのる。
いや。それだけではない。
「…それに……」
いるべきはずの目立つ赤い髪もこの場にはみあたらない。
狭い籠の中だというのに。
「…あ。コレットさん、戻ってきました」
ふときづけば籠の端にてとある方向を指さしているプレセアの姿が目にはいる。
「…というか、何がどうなってるんだ?」
何がどうなっているのかわからない。
そもそも自分たちは闘技場で寝ていたはずでは。
「ロイドって、宿屋とかでねたらいつも寝坊するよね…
  まあ、一応、説明は私からするね」
そんなロイドにむけてあきれたようなマルタの声が投げかけられる。
エミルがいなくなったのをいつまでも落ち込んでいても仕方がない。
いや、これもまたエミルに近づくための試練だとおもえば、
再び会えたときの喜びも大きいはず。
でも心のどこかでいなくなるなんてそんなの自分の好きなエミルじゃない。
とおもっている自分の心にも気づいている。
そしてそんな自分がエミルに理想を押し付けているだけではないのか。
という思いにも。
この場にいるのは、マルタを含め、ロイド、ジーニアス、プレセアの四人。
そして、この籠の中にはいないがこの前方。
この籠…気球につられた籠ごとこれらをひっぱっているレアバードが一機。
レアバードの上にはしいなとリフィルの姿がみてとれる。
しいな一人で本当ならばレアバードをひっぱっていくといっていたらしいが、
かつてしいなのドジを経験しているリフィルが一人は心配といって、
結局のところ二人でレアバードに乗り込むことにしたらしい。
そしてそれらを一番初めに目覚めていたコレットの伝言で
マルタを含めたプレセアとジーニアスもしっている。
知らないのは眠っていたロイドのみ。
「え?あ。コレット…お~い!」
姿のみえないコレットに対し不安を覚えていたが、
無事な姿をみてほっとし、おもわず身を乗り出すようにしてコレットにむけて声をかける。
「もう!だからあぶないって!」
ここがどこかきちんとわかっていないからなのか、
それともわかっていてこのような行動をとるのか。
「ここ、いっとくけど、ロイド。雲の上なんだよ?
  ロイドは自前の翼とかもってるから…自力で出せるのかはなはだ疑問だけど。
  僕らはそんなものないんだから、僕らを殺すき?」
いざとなればプレセアはその中にいるアリシアが何としても助けようとするだろう。
内部からマナを操り、もしくは自らの魂そのものをマナにと変換してでも。
しかし、ジーニアスにもマルタにも空を自力で飛べるような手段はない。
マルタの家系に使えるとかいうあのマルタ命名”タマミヤ”ならば飛べるかもしれないが。
はっきりいって今現在、雲よりも高い高度の位置にあるこの気球。
そんなところから振り落とされたくはない。
ジーニアスのそんな思いはつゆ知らず。
あらためて周囲を見渡すロイドの姿。
やはりロイドがいる場所はどうやら気球、とよばれているものの中らしい。
そう認識できるのは、かつてみた絵本のままのバナーとよばれしものが真上にあり、
そこから青白い炎が噴き出し、さらに上にとある布にむかっている様子。
暖められた空気は布の中にとたまり、浮力となりていくつか布からたれさがっている
紐によって籠ごとういているであろうということ。
さらによくみれば、ふわふわとういているその真下。
まるで黒い海のようなものがひろがっており、
さらには周囲には真っ白い薄い靄のようなものがときおりすりぬけている。
この現象は以前、経験したことがある。
飛空都市エグザイアにて。
雲と同じ、もしくは雲よりも高い高度にいたばあい、
空に浮かんでいる雲が水蒸気の靄のごとに感じられた。
つまるところ、まさか、ここは。
「…もしかして、ここ…エグザイアみたいに雲の上…とか?」
そうであればさきほどのジーニアスの慌てようも納得いく。
誰だって空から地上におちたくはない。
というか確実に死ぬ。
自力で空を飛ぶ能力がない限りは。
「そうだよ。だからいつものように騒がないでよね。
  僕、落ちて死にたくはないし」
ロイドのうっかりでそんな死に方はしたくない。
「まあ、とりあえず説明するね。
  おろちさんのもってた無線機でちょっとしたことがわかったらしくて。
  リフィルさんたちが私たちが寝ている間に時間がもったいない。
  というので出発したみたい。
  メルトキオの地下にあったソーサラーリングの力の場をつかって、 
  対象を小さくするアレ。あれで私たちを小さくして運んだらしいよ?
  寝ている間にやってくれたよね」
説明しつつ首をすくめるしかない。
いくら爆睡していたとはいえ、そんなことをされても目覚めなかった不覚。
もっとも、念のため寝覚めないようにリフィルが寝ている彼らにさらに術をかけたゆえ
彼らをおこすことなく無事に移動させることができた。
「ゼロスは街にのこってるよ。
  あれでも神子だから街の人たちを守る必要がある。とか何とかいって」
そんなマルタにつづいて首をすくめつつもジーニアスが説明する。
たしかに、ロイドが起きていれば反対し騒ぐ可能性が遥かにたかい。
でもだからといって自分たちが寝ている間に行動するとは。
時間がないとはいっていたが、どのように時間がないのかまでは説明をうけていない。
気が付いたときにはすでに雲の上で。
先に目覚めていたというコレットは、その翼を利用して、
いま、どこを飛んでいるか物理的に雲の下にでては地理を確認し、
操縦桿をにぎっているしいなとリフィルに説明する役割を自らかってでているらしく
時折羽休めに時折もどってきているが、基本ほとんどこの場にはいない。
あれだけいたはずの人数が一人へり、二人へり。
アルタミラにリーガルがのこり、そしてメルトキオにはゼロスが。
ミトスも一人でいってしまい、クラトスとユアンはミトスにいわれ別行動。
アルタミラで合流していたミラとミュゼ…ミュゼのほうは実体がないが。
彼女たちも彼女たちのすることがあるといい、一緒にきてはいない。
つまるところ、ジーニアス、リフィル、ロイド、コレット、そしてマルタとプレセアとしいな。
今現在六人しかいなかったりする。
セレスもゼロスとともに当然のようにのこったらしくこの場にはいない。
今まで大人数での移動に慣れてしまっているために、どことなく物足りなさを感じてしまうが、
しかしよくよく考えてみれば一番初めはロイドと二人っきりで旅をしはじめ、
コレットたちと合流することを考えてみれば、はじめのころの人数にもどった。
ともいえる。

「あ。ロイド!おはよう。よくねてたね~」
パタパタパタ。
さすがにここまであるいみ騒いでいれば嫌でもわかる。
天使化しているコレットはその聴力がいまだに敏感らしく、小さな音なども聞き逃さない。
ここ最近はどうにかそれらのコントロールができるようになった。
とは当人の談。
パタパタと翼をはためかせ、平行するようにとびながら、
ようやく起きたロイドにと声をかけてくるコレット。
「お、おう…」
よくねてた、といわれ何とこたえていいものか。
「ロイドって、変なとこで緊張感がないよね」
たとえ姉が術をかけていたにしても寝すぎだとおもう。
このたびの最中、治るかとおもったが宿にとまるたびにロイドは一番遅くなる。
野営のときはそうではないが、しかし野営のときもあるいみで寝相が一番悪い。
常に意識の一部を覚醒させて何かあればすぐに起きられるようにならなければ、
何かあったとき確実に致命傷になりかねない。
そんなロイドにジーニアスがあきれていえば、
「ロイドは疲れてたんだよ」
にっこりと笑みを浮かべ、
「あ。今山脈地帯の上を飛んでるところだよ?」
テセアラから北東へ。
世界が一つになった以上、これまでもテセアラでも観測されていたことだが、
自分たちがすまう地は丸い球体のようであり、
完全に南地点と北地点、北極点と南極点とばれているそこらでは、
羅針盤も方位磁石もきかない。
磁場がくるっている、とは科学者たちの談。
それに何より、雲の上。
高度を高く移動するならば、その気温も問題となる。
氷点下といわれる温度になるような場所を気球で飛行するのには障りがある。
だからこそ、進路を北東にとかえ、イセリアがある方角にむかっている。
そこまで詳しくロイドに説明してもおそらく、よくわからない、でかえされる。
ゆえに、要点だけ完結に説明するそんなコレットに対し、
「そんなことより、お前!何やってるんだよ!」
ロイドとしてはコレットが一人で行動していることが心配でならない。
たしかに今現在、自分以外で空を飛べるものがいるとすれば、
それはコレットしかないだろうが。
「何って…そういえば、ロイド。体は平気?」
「?何だよ…いきなり?」
「ううん。何でもないんならいいの」
地上の雨にうたれ、コレットは異変を感じた。
それは以前、自らの身にふりかかっていた現象にちかいが、
しかし一度経験しているからこそ”違う”とわかる。
あのときは冷たさしか感じなかったが、今回のそれにはそれがない。
そっと、自らの体の一部…結晶化してしまったような場所を無意識のうちになぞる。
これらは自らの胸につけているクルシスの輝石にまるで吸い込まれるように移動している。
もしかして、天使化したロイドにも同じ異変がおこっているのでは。
そう心配してのコレットの言葉なれど、どうやらその心配は杞憂らしい。
あの雨が原因なのかもしれないが、それをコレットは絶対に口にはしない。
「何だよ…それ……」
にっこりと笑みを浮かべるこれっとに対し違和感を感じる。
こういう表情のときのコレットは確実に何か隠している。
それもコレット自身のことについてか、もしくは他人をおもいやって隠すとき、
コレットはいつもその顔に笑みを浮かべる。
相手に心配をかけまいとして。
「それより、みて。ロイド、あれ」
「話をそらす…って、あれは……」
雲海の遥か先。
そこに澄み切るように晴れ渡ったそらに異様なほどに目立つ何かしらの物体がひとつ。
まるで空をつきぬけるようなその巨体は、遠目からは塔のようにみえなくもないが。
しかし注意をこらしてよくよくみてみれば、それが歪な形をした
いくつもの木の根のようなものがからみついた巨大な樹のようにもみえなくもない。
かなり遠くにあるのでここからでは完全に判断がきかないが。
そもそもその付近にいくつもの黒い塊のようなものがういており、
それを取り巻くようにうずまいている。
まるで、そう。
その塔のような樹もどきを取り囲む竜巻のごとく。
そこでいくつかの光の火花のようなものがちっているようにみえるのは目の錯覚か。
かなり離れているがゆえにロイドはわからないが、
それはミトスが一人でかの”敵”に立ち向かっている証。
ビー……
コレットとロイドが会話をしているそんな中。
突如として場違いな何かの音らしきものが鳴り響く。
それは幾度か牧場内できいたブザー音とかいう警報にちかいようでいてそうではない。
「あ、姉さんだ」
ふとみれば、ジーニアスの手の中に何かが握られている。
よくよくみれば、気球の中にどうやら連絡手段なのだろうか。
小さな無線?のようなものがにぎられている。
レザレノの中では主流となっていたたしか、電話機とか何とかいったような。
そんなことを思い視線をジーニアスにむけるロイドの目の前において、
『あ。ジーニアス?今、コレットからの報告で、そろそろイセリア地方にはいるはずよ?
  そっちはいい加減にロイドはおきたかしら?』
黒い細長い、それでいて上下が太くみえるそれ。
レザレノではこれを電話機とか何とかいっていたはず…
とにかくそれをもっているジーニアスのもとから、
この場にはいないリフィルの声がきこえてくる。
おもわず、ばっとレアバードがある方向。
つまり、ロープのようなものでひっぱっている前方をみるロイド。
そこにはたしかに、レアバードの上にリフィルとしいなの姿がみてとれる。
ということは、やはり離れた場所から声をとばし、会話を成立させているのだろう。
改めてテセアラの技術力とシルヴァラントの落差に驚愕する。
それはまるでディザイアン…もといクルシスが所有している技術のごとく。
「うん。ようやくね」
ほんとうによく寝ていたという実感がこもったジーニアスの言い回し。
宿にとまっていたときも、ロイドは一番寝坊していたことを思い出しているのか、
その声にはかなり感情がこもっている。
『そう。それはよかったわ。コレットにもたせたソーサラーリングで準備をしてちょうだい。
  この先に一か所、雲が切れている場所があるからそこから着陸するわ。
  皆小さくなってこちらに移動してきてちょうだい。
  コレット、そこにいるわね?』
「はい」
『皆を回収したあと、ガスをきって
  そのまま畳んだのちにウィングパックに回収してちょうだい』
ロイドも飛べるかもしれないが、ロイドの精神状態をみるかぎり、
いつ一人でアレに突進していくといいかねない。
おそらく一人で乗り込んでいるであろうミトスのことに気づかれる前に。
何としてでもロイドをその事実から遠ざける必要がある。
「わかりました」
そんなリフィルの思いは説明するまでもなくコレットにもつたわったらしく、
反論もなくコレットの同意が無線機電話ごしにとつたえられる。
リフィルの声をきき、おどろきあわてて自分の手を確認してようやく
自らの手にはめていた指輪が今はないことに気づいて驚きの表情を浮かべているロイド。
つまるところ、自分が眠っている間に指輪をぬきとり作業したのだろう。
「ということらしいから。皆、準備はいいかな?」
「問題はありません」
「というか、準備って、別にこれといってするようなこともないよね」
コレットの問いかけに淡々と答えるプレセアに、さらりといいはなつマルタ。
実際に何かをするというようなことはない。
そもそも、この狭い気球の籠の中。
眠っている間にいつのまにか自分たちは空におり、準備も何も…ない。

~スキット~ ~リングの力で小さくなって移動中~

ロイド「というか、いつのまに俺の手からソーサリーリングとってたんだ?」
ジーニアス「僕らが寝ている間だったらしいよ?」
プレセア「…リフィルさんたちは、寝ることなく行動していたのだ、とおもわれます」
コレットの手により、それぞれ小さくなったロイド達。
小さな鞄の中にそれぞれがいれこまれており、
今現在、コレットの肩にかけられたけさがけ鞄の中に
ジーニアス、ロイド、プレセア、マルタの四人ははいっている。
ロイド「おこしてくれればよかったのに……」
プレセア「しかし、リングの効能を有効利用したともいえます」
マルタ「ちょうど小さくする力にかえる場所が地下にあったというのもあるよね。
     …ところで、何か肌寒いような気がするんだけど?」
小さくなり、コレットの手によってすでに先ほどまでのっていた気球も回収されている。
今現在、コレットはレアバードと平行してとんでおり、
この先に小さくあいている雲の合間よりどうやら地上におりるらしい。
ジーニアス「でも、それぞれの場所で特定の力しか宿せないのは面倒だよね」
マルタ「…たしかに。…あれ?そういえば、エミルは普通につかってたような?
     そもそもロイド達のもっている指輪とは形がちがってたけど……」
プレセア「…エミルさんの正体を考えてもそれが本来の指輪なのではないでしょうか?
      もともと、ソーサラーリングは力の場の変更がなくても、
      使用者の意思のままに使用できるものだ、ときいたことがあります」
ジーニアス「マナをつかさどる精霊…か」
ロイド「…いまだにエミルが精霊って実感ないけどな……」
しかし、マナを司どるといわれているのならば、マナを操ることも可能なのだろう。
あのとき、クララを元に戻したときのように。
マルタ「時間制限中にきちんと着陸できるのかな?」
ロイド&ジーニアス「「・・・・・・・・・」」
ジーニアス「こ、怖いことをいわないでよね……」
ロイド「…翼だす練習しといたほうがいいかな?」
プレセア「やめといたほうがいいとおもいます。
      今、ロイドさんは小さくなってるので吹き飛ばされたらどうにもなりません」
それでなくてもレアバードはかなりのスピードがでている。
小さくなっている状態では耐えられるはずもない。
コレットのもっている鞄だからこそこの程度ですんでいるだけ。


※ ※ ※ ※


「ここね」
小さい隙間ではあるが、たしかに雲が途切れている。
確認するかぎり、この雲の下は雨がふっている気配はない。
この雨雲は移動しておらず、常に停滞状態をたもっているらしい。
この雨雲の下にあるさらなる雲は常に移動しているようだが。
雲の隙間から太陽の光が地上に降り注いでいるのが雲の上である上空からでもわかる。
ちらりと横を平行してとんでいるコレットをみつつ、手をふることによって合図する。
すでに先ほどコレットには指示をだしている。
リフィルとしいなののったレアバードが降り立ったそのあとでコレットもおりるようにと。
「しいな、準備は?」
「まかせな。いくよ!」
ぐっと操縦桿をにぎりしめ、高度をさげる。
もしも雨に打たれれば、上昇した時と同じように機体そのものが結晶化してしまう。
あのとき操縦していたしいなもまた、
雨にうたれ、体の一部が結晶化するという現象を経験している。
それは時間ともにしいなの額にと移動した。
それを悟られないようにするためにしいなはその額に鉢巻のようなものを今現在まいている。
エクスフィアよりも小さいが、額にあるがゆえ目立たないとはいいがたい。
リフィルにもそれは発生しており、リフィルの場合は耳付近。
髪にかくれみえていないが、確実にありえないものが体に発生しているこの現状。
コレがどんな影響をあたえるものかはわからないが、
危険があるかもしれないものを好き好んで弟や教え子にもたせたくはない。
コレットは目ざとくきづき、それゆえに彼女自身が偵察をかってでてきた。
一度、体が結晶化しかかった自分ならば問題はおこらない。
と根拠のないことをいいはって。
それが根拠のないことだとはわかっていても、空の上からでは正確な位置は把握できない。
まっさきに目覚めたコレットが気球をひいている二人にそういってきたのは、
コレットからしてみれば当たり前といえば当たり前のこと。
自分がやらなければ、確実にロイドが言い出しかねないという懸念がコレットにはあるのだろう。
それがわかるからこそ、リフィルは強く却下することができなかった。
それがよかったのか悪かったのか、いまだにリフィルも判断がつかない。
救いはあのときのように体が結晶化しはじめているというはたからみればないようにみえる。
ということ。
実際がどうかはリフィルもわからない。
しかし、この事実はなるべく隠す必要がある。
雨にあたれば、体が結晶化するようなことになるなどと。
いつまでも隠し通せるとはおもえないが。
その思いはしいなとて同じ。
一時、新たなレアバードに移動するために呼び出した児雷也によれば、
しいなたちの体に出現したその”石”は体に害あるものではない。
そういっていたのがせめてもの救い。
ぐん、と体に負担がかかる。
雲の上からの急激なる下降。
いつ雨が雲の下にも降り注ぐかわからない以上、降り立つのも時間の勝負。


「…何だ…これ?」
降り立つと同時にソーサラーリングの効果時間がとぎれた。
降り立った場所は見渡すかぎりの茶色い空間。
それはわかる。
この場には見覚えがある。
たとえ雰囲気がかわっていても、見間違えるはずがない。
しかし、踏みしめたそこに足をとられるほどの砂はない。
「まさか…ここ、トリエット…砂漠?」
見渡す限りのこの何もない場所と。
そして見覚えのある遺跡。
しかしその遺跡は今や水晶に完全におおわれてしまっている。
それだけではない。
ここは完全なる砂漠地帯であったはずなのに、
なぜに足場がここまで固くなっているのか。
というか、上空からおりたったのが旧トリエット遺跡の前とは。
「ぼさっとしてないで!これからが本番よ」
唖然とするロイド達にてリフィルの言葉と同時、
しいなが懐…なぜにそこから、といいたいが。
胸の間にしまっていたらしいひとつのウィングパックをとりだし、高く掲げる。
それとともに、目の前に一機のレアバードが出現する。
それは先ほどまでのレアバードと同じではあるが。
「…先生?これって……」
その機体が透き通るような物質にかわっているのはどういうわけか。
色彩は見慣れたレアバードのそれであるが、透き通るような材質のものなどみたことはない。
「姉さん?」
「説明はあとよ。これでいけるとこまで移動するわ」
ここから徒歩でイセリア方面にむかってもかなりの時間がかかる。
ならば、いつ機能停止するかわからないが、結晶化したレアバードを使うとき。
エレメンタルカーを利用すれば確実に移動はかのうだろうが。
あれまで結晶化してしまえばそれこそほんとうに足がなくなる。
「これでいけるところまでいって、そのあとはエレカーを利用していけば。
  ここからだとどうにかイセリア近くまでは移動できるはずだよ」
計算上ではうまくいくはず。
途中でとまってしまえばどうにもならないが。
結晶化現象が動力部に至るまで多少の猶予時間があるはず。
でなければ、レアバードで雲の上まであがれたはずがない。
「コレット」
「はい」
「ちょっ、先生、きちんと説明…うわ!?」
きちんと説明してほしい。
そうロイドがいいかけるが、それよりも早くコレットが再びロイド達にと指輪をむける。
コレットの指輪は左手の中指にはめられており、
すこしばかり手を突き出すかっこうにてその指輪の力を解放するようにしているらしく、
コレットの左手から発せられた力は瞬く間に目の前にいるロイドの姿を
一瞬のうちに小さく変化させてしまう。
「ジーニアスたちもね」
「まったく、詳しい説明くらいしてよね、姉さんたち」
きちんと説明されないまま、というのは何とも気分的によいものではない。
「あとでしっかりと説明はするから。とにかく今は時間がないの」
「時間がないって……」
小さくなったロイドはひょいっとコレットにつかみあげられ、再び鞄の中にいれられており、
鞄の中からひょっこりと顔をのぞかすように両手で鞄の端をつかみ、
外をみつめるような恰好でといかけている。
はたからみれば人形がひょっこりと顔をのぞかせているようでありとても微笑ましい。
さっきから、しいなも先生も、二言目には時間がない、と。
いったい何だというのだろうか。
たしかにこれは尋常ではないとはおもう。
炎の精霊がいた旧トリエット遺跡。
それは完全に水晶のようなものにとりこまれており、
はじめからここは水晶の置物であったかのような。
しかもそれだけではない。
ここは砂漠地帯のはずなのに。
なぜにここまでひんやりとした空気がただよっているのか。
その思いはロイドだけではない。
マルタもジーニアスも同じ思いを抱いている。
プレセアもまた、ここがトリエット砂漠とよばれていた場所だと把握したのち、
確実に何らかの異変がおこっていると感じ取っている。
おそらく、リフィルやしいな達が時間がない、といっているのも、このことに関係しているのであろう。
考えたくはないが。
眠っている間に移動したのも。
もしかして、メルトキオも何らかの異変が再びおそったからなのではないのか。
そんな不安がそれぞれの脳裏に去来する。
あの魔族の影響なのか。
それとも、これこそがヒトの試練の結果だというのか。
周囲の状況からは正確な判断がつかない。
ロイドにつづき、ジーニアス、プレセア、マルタと小さくされ、再びコレットのもつ鞄の中へ。
「先生」
「わかっていてよ」
そのまま自らもっている鞄、そして手にはめていた指輪をリフィルに手渡すコレット。
そしてそれととに、自らの手に指輪をはめ、指輪をコレットにリフィルが向けると同時、
コレットの体も瞬く間に小さく変化する。
小さくなったコレットをそっと手の平にのせ、そのままロイド達四人がはいっている鞄の中へ。
「…いきましょう。しいな」
「はいよ。…もってくれればいいけどね」
「そうね」
できうれば、イセリアの村までもってほしい。
事実、さきほどからレアバードにぴしぴしという音が響いている。
つまるところだんだんと結晶化していっている何よりの証拠。


スキット~聖堂にむけて;鞄の中での会話~

ロイド「というか、なんか先生たち、あせってないか?というか、あれなんだ?」
プレセア「わかりません。ですが、さばくがなぜか砂漠地帯でなく、
      石化状態となっていることでしょうか?」
ジーニアス「そこのところはどうなの?コレット」
コレット「私もよくは…あ、でも、時間がないというのは本当だとおもう。
      なんか、レアバードとかも結晶化現象がおこってるって。
      雲の下はその危険があるから雲の上を飛んでたってきているけど」
実際に結晶化した大地を雲の下におりたち目にしているからこそよくわかる。
かつてみずからの体におこったようなことが大地にもおきている。
否、大地だけではないのだろう。
すべての物質、そしてヒトに。
ロイド「だから、その時間がないって…どういうことなんだよ?」
さきほどから時間がない、時間がない。
説明くらいきちんとしてほしい。
ジーニアス「可能性として、ケイトの体をのっとった魔族が何かしてる。
       ってことだろうね。たぶん」
マルタ「よくわからないけどその可能性は高いとおもう。
     それに、ユリス、とかいったっけ?それにも関係してるかと」
ジーニアス「…ユリス。かぁ。あの声とともにそんな名前がでてきてたよね。たしか」
プレセア「魔族リビングアーマー曰く、彼らの神、ともいってました」
ジーニアス「…どれほどの力をもつんだろ」
ロイド「そんなことはどうでもいい。とにかく叩きのめせばいいだけだろ?」
マルタ「その方法は?対策もなしには危険だよ。
     それこそ、ケイトさんみたいに乗っ取られたらどうするの?」
ロイド「うっ」
プレセア「…たしかに。乗っ取られる危険性もありますね」
ジーニアス「…だから、なのかな?心の精霊にあいにいけ、というのは。
       洗脳とかそういった類はたしか、心を強くもっていればかからない。
       そうかつて何かで読んだ記憶があるよ」
マルタ「なら、この中で一番危険なのはロイドだね」
ロイド「何でそうなるんだよ!」
マルタ「だって、ロイドって、自分のことで何かおこったら今までだってものすっごく
     動揺してうろたえてたみたいだし?」
ジーニアス「たしかに」
プレセア「…ですね」
ロイド「そ、そんなことは」
ジーニアス「ない、とはいえないとおもうよ。
       ロイドがのっとられたら。それこそとんでもないことになるよ」
マルタ「それをあのクラトスさんがだまっているともおもえないけどね」
プレセア「…そうなった場合。あのクラトスさんのことです。
      ロイドさんを刺し違えてもとめようとするでしょう」
マルタ「だよね」
ジーニアス「心の精霊に生まれ変わったというか元にもどったコリンの元にいけば。
       そのあたりの対策もできるんじゃないのかな?」
プレセア「可能性は高い、です。精霊達にしろ、エミルさんにしろ。
      ヴェリウスにあいにいくように、といっていましたし」
ロイド「お、俺、鞄から顔をだして外みてくる」
マルタ「…あ、逃げた」
ジーニアス「…ロイドって、いつも自分が不利になりそうになったら逃げるよね…」
プレセア「…ロイドさん。少しは成長してほしい…です」
マルタ「…ロイド。プレセアにまでいわれてはずかしくない?」
ロイド「…うぐっ」
マルタ「ママがいってたけど、男の子っていつまでも子供なのかな?」
プレセア「…そう、なのかもしれません」
ジーニアス「ぼ、僕は大人だよ!」
マルタ「この中で一番歳が低いのにどこが大人なの?」
ジーニアス「すくなくともロイドよりは大人だよ!」
ロイド「俺のほうが年上だぞ!?」
ジーニアス「精神的には僕のほうが上だよ!」
マルタ「…どっちもどっち、だよね」
コレット「大丈夫だよ。ロイド。私はロイドが子供だっておもってないよ?」
ロイド「コレット!」
コレット「だって、ロイド、本当に子供だもん。思うとかじゃなくて」
ロイド「ひ、ひでぇぇぇぇぇぇ!!」
ジーニアス&マルタ「「あ~。納得」」
プレセア「……なんか話がずれていってるようなきがします……」

※ ※ ※ ※


「あらためてこの道をとおることになるとはね」
空からでもなく、完全に街道沿いに。
レアバードの軌道能力的に高くもはやとべはしない。
そんなことをすればすぐさまに飛行能力どころか移動する力もつきてしまう。
どうやらマナを取り込み推進力とする装置が半ば結晶化しかかっているらしく、
そこまでの力がのぞめない。
無理をして再びこれでとびあがりでもすれば、上空にて完全に飛行能力をうしない、
確実に墜落、という結果がまっているであろう。
「そういや、あんたたちは徒歩でこの砂漠を超えてたんだっけね」
「そういうあなたは?」
「あたしは、レアバードでちょくせつ、レネゲードの施設に移動してたからね。
  そこからは、入れ違いにならないように、峠で待ち伏せしてたのさ。
  北を進むにしても、海からいくにしても。峠越えは必須だしね」
幾度か村を出発してから戻りはしたが。
ほとんどが空や海からの移動。
改めてこの道を通ることに何だか感慨深いものがある。
もっとも、周囲すべてが結晶化していなければ、という注釈がつくが。
砂漠をぬけたさき。
先ほどから小ぶりではあるが雨が再びふりだしている。
それとともにレアバードの移動能力もだんだんとスピードがでなくなっている。
周囲に生えているはずの木々は完全に水晶化していたり、
あるいは完全に水晶のような石の中に閉じ込められた形となっている。
この付近は点在するいくつかの森にもみたない林に近いものがありはしたが、
それらもすべて完全に”結晶”の中。
かろうじて動いているのは、魔物たちのみ。
その魔物たちも結晶の中にとらわれているものもおり、
まるで水晶の墓場にもちかい雰囲気をこのあたりはたもっている。
アルタミラからの報告では、吹き荒れた暴風雨により結晶化した建物などはことごとく
綺麗さっぱりとハゼわれてしまったらしい。
木々までなぎ倒されているのかどうかはわからないが。
すくなくとも、街をおおっていた木々は綺麗に”割れた”との報告があった。
この付近は暴風雨が吹き荒れてはいないのか、林の中にある小さな狩猟小屋。
それらは結晶化しているものの、一応形をとどめている。
しかし木々のぬくもりも、草花のぬくもりも感じられない。
まるでそれこそミトスのいっていた無機生命体の千年王国。
ヒト、だけでなく大地そのものすら無機質になってしまったかのごとくの光景がここにはある。
時間があればおりたって、動物たちがどのような状態なのか。
それを確認したいところであるが、今はそれよりもはやく。
精霊達もいっていた、精霊ヴェリウスにあう必要性がある。
なぜに精霊達や、あのエミルですらそういったのか。
かならずそこに意味はあるはず。
もしかしたらもしかしなくても。
あのときのように精神攻撃を魔族達は好むのかもしれない。
あの場においても自分たちの心を打ちのめすような景色をアレはみせてきた。
「…リフィル。救いの小屋がみえてきたけどどうする?」
小屋すらも遠目でもわかるほどに完全に石化状態。
あの小屋は木造建築であったはずなのに。
イセリアからトリエットに向かう間にとある救いの小屋。
普通にあるけば十日ばかりかかる距離だが、レアバードの移動…
といっても空高くとべるわけでもなく、街道沿いを少し浮いた程度で飛行しているのだが。
「このままいきましょう」
「けど、もう……」
さきほどからだんだんとスピードがおちてきている。
操縦桿も強く操作すればぽっきりと折れてしまいかねないほどに、
みしみしと音がなっている。
救いの小屋はみえているが、ここからはだいぶ距離がある。
この付近には盗賊などがよくいたらしいが、彼らがどうなっているのか。
そこまで気に掛ける余裕はおそらく今の人々にはないのだろう。
ガクンッ。
そんなことをおもいつつ、しいなと会話している最中。
ガクン、という音とともにレアバードが地面にと接触し、
しばし、ずるずるとひこずられるような音をたてるとともに、
やがてきしんだ音とともに機能停止する。
「っ」
それとともにぴしぴしと機体そのものにヒビのはいるような音。
「まずい!はなれるよ!リフィル!」
「ええ!」
リフィルとしいながレアバードから飛び降りるかのように降り立つとほぼ同時。
パキィィッン、という音が周囲に響き渡る。
それでなくても結晶化している状態で無理やりに動かしていたゆえに機体に負担はかかっていた。
その負担の限度がきて機体全体に衝撃がはしり、
その反動で機体そのものにいくつものヒビのような亀裂がはいり、
次の瞬間。
まるでガラスが壊れるかのごとく。
レアバードの機体そのものがもののみごとに綺麗に割れていく。
しかもその割れ具合はとてもこまかく、
きらきらとした光の粒子のような粒が周囲にふりそそぐ。
それらはいまだに振っている小雨とあわさり、
現状さえかんがえなければとてつもなく幻想的な光景。
急いで飛び降りたゆえに、かぶっていたフードがぱらりとはずれ、
リフィルの頭を雨がたたきつける。
イセリア方面にむかっていくとともに、雨脚もまたつよくなっている。
雨合羽をしいなとリフィルともきこんでいても、完全に濡れないわけではない。
ロイド達のはいっている鞄は雨合羽の下にもっているので、
彼らには雨があたっていないのがあるいみ救い。
できれば聖堂付近、つまりは村の付近はふっていないことを祈りたいが、
この調子では怪しいかもしれない。
いったい、この”石”は何なのか。
そっと自らの体に発生している小さな石にふれるリフィルの耳に、
「先生?しいな?!何があったんだ?!」
「姉さん!?」
小さな声がリフィルの腰元からひびいてくる。
「心配なくてよ。それより鞄の中からでるんじゃありません」
よくよくみれば、鞄の蓋ぶぶんをおしのけ顔をだしているロイドの姿が目にはいる。
小さくなっている彼らからしてみればかなりの深さのはずだが。
翼をだしてとびあがったのか、それはリフィルにもわからない。
しかし、このまま鞄から外にだすわけにはいかない。
「…しいな、児雷也は可能、かしら?」
「さあ?どうかな?…今のこの現状であの子が大丈夫なのか否か。
  それが問題だとはおもうけどね」
「でも、すくなくとも、児雷也曰く、アレは問題ない、ようなことをいっていたわね?」
体には問題はない。
たしかに、体が結晶化する現象を指し示し、しいなの召喚せし聖獣、児雷也はそういった。
「でも、なんでだい?エレカーを、というんじゃなかったのかい?」
たしか、レアバードが使用不可能となれば、エレカーで。
そのように話し合ったはず、なのに。
それゆえにしいなの素朴な疑問もわからなくはない。
ないが。
「この現状を見る限り、…村を経由するより直接にいったほうがよくなくて?」
もしもこんな状態がイセリアの村でもおこっているとすれば。
否、間違いなくおこっている。
それでなくても竹林で覆われてしまっていたイセリアの村。
そこにこの異変。
いくら受け入れてくれる体制が一度できていたとはいえ、
こんな中で村にもどれば、パニックになった人々がどう行動してくることか。
たしかに村でゆっくり休みたいところではあるが、この現状ではそうはいかない。
下手をすれば…否、まちがいなくイセリアの村も謎の結晶化、という現象に見舞われているはず。
あの村長が、再び神子であるコレットのせいだ、と騒いでないともかぎらない。
「まあ、確かにそうかもしれないけどさ」
たしかにリフィルの言い分にも一理ある。
そこまでいいかけ、リフィルの視線にふと気づく。
声にだしてはいないが、肩にかけている鞄にちらりと視線をむけつつ、
小さく首をふっているのがみてとれる。
そんなリフィルをみて大まかな予測がしいなの脳裏をよぎる。
つまるところリフィルはどちらかといえばイセリアの村のことを気にしているのであろう。
しいなも虐げられていたもの。
どうしようもない…理不尽なことがおこり、
それにかかわっていた当事者がそこにいれば、人々の批難と不満が集中する。
それをしいなは身をもってしっている。
かつてのしいなは事情はどうあれ、同行していた仲間を失った。
それもしいながある意味未熟なせいで。
自分で契約をするという精霊のことをきちんと当時しらべていれば。
精霊ヴォルトが特殊な言葉を話すというのはわかったはず。
しかし、すでに情報はあつまっているという仲間の言葉を信じ、契約の場に赴いた。
その言葉が、しいなを陥れるためのウソだなど、当時は夢にもおもわなかった。
彼らもよもや、命をもってしてその償いをすることになろうとは思ってなかっただろう。
おそらくは、ただ契約が失敗し、里に…みずほの里の統領の養子にはふさわしくない。
そうケチをつけるだけのつもりだったのかもしれない。
彼らの間違いは精霊の力を過小評価しすぎていた点、この一つにすぎる。
式神とよばれるものですら、巨大な力を秘めているのに、
世界を構成する要ともいわれている精霊の力がヒトごときの思惑に入るわけにはないのに。
「この異変でも、あの巨大蛙…児雷也はアレでも聖獣、なのでしょう?」
かつて、バラクラフ王廟にてマルタが命名、タマミヤと出会ったように。
あれもそうはみえないが、聖獣だ、という。
そして、メルトキオでであった、炎の聖獣フェニアと水の聖獣シャオルーン。
リフィルの予測が正しければ、精霊と同じく、聖獣もまた今回の異変の影響はうけてないはず。
だとすれば、移動手段として頼んでみるのも一つの手。
ここまでの異変に精霊がかかわっていないというのはありえない。
というか、マナを司るというエミル…否、精霊ラタトスクが確実にかかわっている。
エミルはリフィルのこれまでの感覚だが、どこか合理的な面がある。
切り捨てるときは切り捨て、守るべきものは守る。
そうどこか徹底しながらも、ヒトに対してどこか甘さをも感じ取っていた。
おそらくそれは、かつて勇者ミトスと交わしたという約束が関係していたのかもしれない。
エミルも精霊である以上、ヒトとは異なり嘘はいわないはず。
それがたとえ口約束であり、相手からの一方的な言葉だとしても。
大地の存続という約束があるのであれば、この異変にも何らかの意味がある。
それにきになるのは、雲の下であればまったくマナを感じ取れないということ。
マナの流れすらつかみ取れないというのは普通ならばありえない。
まるで、そう。
何かに阻害されているかのごとくに。
「聖獣も世界を守る精霊と同じ立場とするのであれば。
  魔族の横暴を許しておけないのではなくて?」
しかし、精霊が手をだしてこないのは、真なる精霊の王ラタトスクの命があるから。
そうとしかおもえない。
もしくは、魔族がもたらす瘴気というものは、マナにとっては有毒。
つまりはマナの化身ともいえる精霊達にとっても毒ということ。
マナをもってして封じたという”魔界”。
瘴気に覆われているという魔界ニブルヘイム。
それを”扉”で封印している。
恐ろしいことにあのアステルは独自にそこまで調べていた。
というか、エルフの里に伝わりし伝承をそこまで聞き出していたアステルの手腕。
それを誉めるべきなのか。
…調味料などにつられたエルフもエルフ、という思いはおいておくとしても。
「まあ、一理あるかもだね。…精霊達が協力しない以上、
  聖獣とよばれているあの子たちもきになるところではあるけど」
それとあのミラとミュゼ。
どうも精霊マクスウェルにいわれ、地上におりてきているらしい、が。
そこにどんな意図があるのか、リフィルもいまだに予測不能。
しいなはもしかしたら、という思いを抱いてはいるが。
あのミラとミュゼは昔、海に漂っているところを保護された、という。
その時期はかつて王家が王家の血をひく子供が生贄として海に流されたときと一致する。
確実にあの二人はテセアラ王家の血をひくものたちであろう。
ゼロスもその予測はたてていた。
そんな二人…一人は精神体となりはてているにしても。
半精霊化ともいってもよいミュゼとその妹だというミラ。
国王と王女がいない今、その事実が明るみにでればまちがいなく彼女たちは祭り上げられる。
そんなことを思いつつも、そのことには触れず、
あえて聖獣のことのみにとどめおき言葉を発する。
まあ、このあたりの予測はかつてリフィル達にいったことがあるので、
リフィルもその点は考慮しているだろうが。
「とにかく、呼び出してみるよ。…移動だけなら問題ないだろうしね」
力を借りるとすれば何らかの枷があの児雷也にもかかっているかもしれない。
だがしかし、あの空間から脱出したとき、児雷也の背にのってリフィル達が助かった。
という事実もある。
いつ動かなくなるかもしれない文明の移動方法よりも確かに効率的にはいい。
「時間がおしいわ。しいな、お願い」
「はいよ。…盟約のもと、命ずる。いでよ、児雷也!」
それは無意識のうちにわかる、本能ともいえる行為。
児雷也との契約というかかのものを呼び出したときに無意識のうちにと自覚した。
定められた形の印をきる。
すばやくいくつか印を結ぶとともに、しいなの頭上に淡く輝く魔法陣のような、
しかし独特な模様をもついくつもの円が重なったような模様が展開する。
その陣が一際輝き、そしてそれはしいなの目の前。
すなわち陣の真下に集うかのように一つの形を成してゆく。
そういえば、こうしてまともに呼び出したのは初のような気が。
児雷也とつながってさほど時間はたっていないのに、なぜか昔からしっているかのような。
そんな不思議な感覚があの聖獣、児雷也にはある。
それはしいなの血が覚えている血の盟約。
マルタの血筋が聖獣シヴァこと、マルタ命名”タマミヤ”とつながっているように。

「呼んだか?我が主よ」
今の盟約主は目の前の少女。
ヒトの定義ではもう少女といえる歳ではないのかもしれないが。
児雷也にとって、ヒトとはどうしても幼く感じてしまう。
何しろ百年も生きていない弱きもの。
しかしその意思は時として予測不能なまでに信じられない動きをし成果をだす。
人の思いは奇跡を起こす、とはいつ誰がいいだしたものか。
もっとも、おそらく呼ばれるであろうことは予測済み。
そのようにもしも言われた場合は手をかしてもよい、といわれている。
この世界の理をヒトの目からマナからそらすため。
以前の理により近い形で変更する、ということも。
そのために地上にいるすべての生命体に一度、その理を定着させるため、
このたびの雨はすべての生命体に浸透する。
自分たち”聖獣”はその変化の対象外。
そもそも、核となっているのが、そもそも無機物でもあるコア。
聖獣とよばれし自分たちもまた、センチュリオン様がたと同様に、
その理に近い形で生み出されたことを児雷也は生まれながらにしっている。
この地にかつて封印される結果となりし出来事も。
そもそも聖獣の王たる存在が人々の負に侵され、瘴気によって狂わされた。
炎の聖獣フェニアがヒトを見定める存在をつくるべきでは。
という意見よりも前、それよりヒトが愚かなことをするのがとめられなかった。
消費されてゆく惑星の命。
聖獣たちが実体化する力を失い、
さらには愚かなるヒトは、聖獣たちをとらえ利用することを思いついた。
聖獣たちの力が悪用された場合、あっといまに惑星は死に絶える。
それがわかっていたからこそ、
聖獣たちは核ともいえるコアにともどり、それぞれの神殿にとこもり、自らを封じた。
宇宙そらにむけ、”惑星”の意図とともに真なる王にと救いを求めた。
広く広大なる宇宙そら
時間はかかったが、たしかにその祈りは届き、この惑星にマナが降り注がれた。
そして新たな惑星の理を得て、瘴気に覆われた地上は地下にと封じられた。
そして時とともに、”王”とともに移住してきた新たな”生命体”。
マナとともに生き、自然とともに生きていたはずのそれらもまた、
永き時の中で意見の違いから分裂した。
力を放棄し、自らの力でもって、どうしようもないときにのみ
自然の形を頼る形で基本的に自ら生きようとしたものと。
力におぼれ、それ以外は無意味とばかりに見下すものと。
力が使えることこそが、選ばれた証、など言い出したソレの意思は、
またたくまに傲慢になりかけていた存在達をも包み込んだ。
そして発生しはじめる元は同じだというのに言い方をかえ、
別なる種族としていがみ合い、排除しようとする存在たち。
そんな中でも絶えず自然とともにあり、その力を慢心するわけでなく、
懇願する形で使用することを得意としていた存在達がいた。
自然とともにいきることで、自然を友とし生きる存在達が。
それこそが、この新たなる主の先祖たち。
おそらく当人はそれを知らない。
真実は自らが気づかなければ意味がない。
「児雷也。あんたを足変わりに使うようで悪いけど。
  イセリア村の北にあるという聖堂まであたしたちを運んでいけるかい?」
なぜ、里に伝わりし聖なる獣が自分に従ってくれているのか。
それはわからない…はずである。
でもなぜか何となくではあるが、しいなは感覚でわかる。
マルタの時のように、自らの血…つまりは血脈に何か意味があるのでは、と。

…よもやしいなは、みずほの里の始祖ともよばれる直径だとは夢にもおもっていない。
最後の血縁者を守るべくイガグリやタイガが隠し通していた結果、
里のものに不信感をあおってしまったということもいまだに知りはしない。
もっとも、今では里のものはしいなを除き、その真実をしることとなっているが。
それを認められなかった”くちなわ”は、ひたすらにしいなの死を望んだ。
それが里の掟というかみずほの民としては間違っている、と把握してからも、
しいながすべてわるい、とその責任をしいなに押し付けようとした。
あのしいながそんな尊い血筋のわけがない、と自らに言い訳をし。

目の前に求めるままにと現れた、みずほの里につたわりし巨大なる聖なる蛙。
改めて地上でみればその巨大さに圧倒される。
文献では自在にその大きさを変化させられるという伝説の獣。
…獣、という部類に蛙が入るのかどうかという疑問はおいとくとして。
そんなある意味恐れ多いような獣を足代わりにするというのには気が引けるが。
しかしリフィルの懸念ももっとも。
それに、児雷也ならば空も飛べる。
最短距離でこの近くにある小山を飛び越え海にでてイセリアの北にいくことはたやすい。
以前、イセリアに出向いたときは、海からであった。
そういえば、とふとおもう。
海賊船カーラーン号はこの異変の中、どうしているのか、と。
まあ、あのたくましい海賊たちのこと。
どう考えても何かおこっているというような様子が思いつかない。
しいながふと、海賊船カーラーン号のことと、その乗組員のことを思い出している中。
「問題はない。祈りの聖殿のことだな?」
「「?」」
マナの聖殿、クルシスの聖殿。
そのようにあの地は呼ばれることもありはしたが、祈りの云々はきいたことがない。
おもわず首をかしげるリフィルと、同時に首をかしげるしいな。
しいなもイセリアの村でそのような呼び方をきいたことはない。
「あの地は形を多少かえつつも、古より存在していたからな」
はじめ、あの地は今ではバラクラフ王廟とよばれていた場所にも存在していた。
かつてはいくつもの場所があったのに、今のこっているのはたったの一か所。
それを今のヒトは知る由もない。
また、教える気も毛頭ない。
「よかろう。わが背にのるがよい」
その言葉にほっとした表情をむけ互いに顔を見合わす二人であるが。
「しかし、これより先の試練については我は手をかせぬ。
  いくら新たなる盟約主であるとしても、だ。これは心しておいてほしい」
足代わりくらいならば問題はない。
そもそも直接的に手をかさないのであれば多少のことは目をつむる、というお達しもある。
ゆえに、あの地につれていくことに抵抗はない。
新たなる盟約主というか契約主となったかの名を受け継ぐもののことはきになるが。
まがりなりにもかの名をうけつぐもの。
心の試練に負けるような精神力ではないはず。
もう一人のエルフの血を受け継ぎしものに関してはわからないが。
しかしおそらく大丈夫であろうという確信がある。
でなければ、あの魔王がつくりだせたまやかしの空間で自我を保てていたはずがない。
顔をみあわせている二人をみつつ、しかしその思いは口にすることなく
さしさわりのないことを口にする。
問題は短い間なれど、狭間の存在であろう。
精神がどうみても不安定にみえるのは、児雷也のきのせいではおそらくない。
当人がそれにきづいているのかいないのか。
しかし、よくもまあ、”大いなる王”の定めた理の外に誕生したものだ、と。
いくつもの偶然がかさりなあっての誕生なのだろうが。
それともアレはかつてのこの星の理がすこしばかり実体化したものなのか。
かつて、この惑星が魔族達によって瘴気に侵される前の時間帯。
かつてこの星はいくつもの他種族がすみ、そしてまれにその混血もうまれていた。
いまいる魔族達でそのことを覚えているものがいるかどうかも怪しいほどの遥かなる昔。
惑星が瘴気に覆われ、半ば封じられたような形であった自分たち聖獣。
そんな自分たちがこうして古のようにいられるのも、すべては王の慈悲のもと。
「試練…ねぇ。なあ、児雷也。今いったい何がおこってるっていうんだい?」
「試練は試練だ。我が口から詳しいことをいう許可は与えられてはおらぬ」
答えをいってしまってはそれこそ試練になりはしない。
盟約主たるしいなの言葉をうけ、
しかしその問いかけにいともあっさりと否定の言葉を紡ぎだす。
そんな児雷也…いまだにこの巨大蛙の存在にリフィルはあまれなれないが。
”許可”という言葉をきき、思わず眉をひそめてしまう。
この巨大蛙はとてもそうはみえないが…たしかにありえないほどに巨大ではあるが。
あのフェニアやシャオルーン、そしてマルタ命名”タマミヤ”などと同じ、
【聖獣】とよばれる種族らしい。
そんなあるいみで精霊達と同格かもしれない聖獣達にも命令できる存在。
そんな存在は確実に限られている。
それこそあのアステルが見つけ出した、古代の文献における、
精霊達の真なる王…すなわち、世界をうみせし真なる王。
魔物の王、大樹の精霊ラタトスク。
「…つまり、これもあのときのエミルのいっていた試練の一環、ということなのかしら」
王都メルトキオに転送されるときにきいた、ヒトへの試練という言葉。
すなわち、試練とはメルトキオの騒ぎだけではなかったということなのだろう。
これらの出来事でエミルがヒトの何を見極めようとしているのかはいまだに理解不能だが。
そんなリフィルのつぶやきに児雷也は何も言い返してはこない。
「…とりあえず、リフィル」
「ええ。そうね。聖殿までお願いするわ」
おそらくこれ以上といかけても答えはもどってこない。
であれば時間がおしい。
かの地に精霊ヴェリウスがいたとして、どのような結果がまっているのか。
心の精霊、というのであれば、心に関する何らかの試練がまっているのだろう。
何となくだがこれまでの精霊の試練、すなわち戦闘といった類ではないような。
そんな思いを抱きつつも、しいなと顔をみあわせ、児雷也の背にとよじのぼる。

二人が自らの背にきちん乗ったのを確認し、児雷也はふわりとその場にてうきあがる。
ここからヴェリウスが拠点としているかの地にいくならば、
少し斜め前にとあるちょっとした山脈を超えていったほうが遥かに早い。
山脈といってもさほど高くはない。
標高も千にもみちはしないが、砂漠地帯とこの先を隔てるかのようにそれはある。
そのまま二人を背にのせたまま、山脈のほうへ。
目指す先はヴェリウスが今現在、待機しているかの地。


スキット~児雷也の背にて:世界はいったい…~

リフィル「…すざましい、わね」
しいな「…だね」
先ほどから山脈に近づくにつれ、雨がふりだしている。
雨合羽の下にロイド達のはいった鞄をいれているので彼らは濡れてはいないようだが。
雨が容赦なく二人の体をたたきつける。
雨合羽越しにもわかる、普通の雨とは違う、どちらかといえば、
雹とよばれしものに近しいその雨。
着ている雨合羽もどういう原理なのか透明に近しい物質にと変化している。
古の文明のものがみたならば、それはまるでポリエステル繊維のようだ、
と表現するであろう。
…もっとも、ポリエステル繊維とは当然全く違う物質に変化しているのだが。
しかし、ふたりがすざましい、といったのは自分たちの服のことではない。
児雷也の背からもわかる地上のありよう。
山は雨にうたれてきらきらとかがやいている。
文字通り、輝いているのは立ち並ぶ木々がすべて結晶化しており、
遠目からみても普通の生木のままの樹木らしきものはみあたらない。
この様子では森にいた動物たちもどうなっているのか。
想像したくない。
しいな「…大陸がすべて浄化というか消えてなくならなかったとしても。
     世界がすべてこんなになったらあたしらヒトはいきていけるのかい?」
リフィル「…無理、でしょうね」
少なくともいきていく上で必要不可欠な食料。
それが手にはいらないと、飢えて死ぬ以外の未来はみえてこない。
リフィル「…おそらく、これらも試練というのであれば。
      エミル…いえ、精霊ラタトスクにも考えがあるのでしょうけど」
しいな「苦難の中で手を取り合う可能性、とか?」
リフィル「…なくはない、わね」
しかしそれ以上に糧をもとめて争いに発展するほうが現実性が高い。
リフィル「…この現象はおそらく、アレをどうにかしない限り続く、のでしょうね」
しいな「…大樹・・か。なあ、リフィル。あたしらのしたことは…間違ってたのかな?」
リフィル「…それはわからないわ」
少なくとも、自分たちが精霊と契約し精霊の楔を解放した結果。
この現象に結びついているのは間違えようのない事実、なのだから。



pixv投稿日:2015年9月27日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

※ようやくクラスマックスにはいります!
 ヴェリウスの試練のあと、ラストバトルにむけて突進です。

あれ?以前、マルタがイセリア村にいったとき、
きたことがあるとかそういった表現、してたっけ?あれ?
基本的には完結脳内してるけど、かいてて別パターンとかおもいつくので
そのときにどっちを選択したのかわすれてるのが玉にきず・・
父親と母親のちょっとしたほのぼの(どつく?)は入れたはずだけど…
今回は、心の精霊ヴェリウスの試練内容が前半です。
といっても、一部のものは幾度も心の試練にうちかっているので、
精神的に動揺するようなことがあってもすぐにもちなおします。
でも、母の魂で守られていたロイドは…?
エミル(ラタトスク)の介入にてなくなっていたイベントもどき、それらが出てきます。
ゲーム序盤である、村の焼き討ち。
…OAVだとあまりにほとんど救いがないので、
一応、こっちではゲーム原作基準としています。
見応えはたしかにあるんですけどね、OAV版のほうが。
でも、OAV基準だと、エクスフィアの扱いが異なりまくってるんですよね…あれ
あと、精霊の試練、しかも心のというわけで。
それぞれの心の試練がでてきます。
ロイドはいうまでもなく、マルタもすこしばかりアンチ要素がはいってるかも?
いや、というか、…ラタキシのマルタって、序盤、かなりうざい。
とおもったのはきっと私だけではないはずです
というか自分の理想をおしつけて、さらにはどこか他人まかせなところがある
あれ、記憶なかったエミルだからこそ受け入れられただけで、
普通なら、つきはなしますよね…(しみじみと)
まあ、あるいみテネブラエにだまされて(?)の行動というのもあるでしょうが…
でも、あの性格においては、マルタ、素でしたからねぇ…
ラタトスクを認めるような発言しながらも否定しまくってましたし。
言葉と行動が伴っていなかったな、というのがマルタに対しての印象です
バットエンドの日記では懺悔ばっかりでしたけど。
あれもすこし自己中心的かな?とおもったのも事実なわけで。
まあ、そんなわけでマルチアンチ?要素が少しそこではいりますが、
まあ、心の試練なので、マルタのそんな深層心理をあばき、自らに自覚を促す。
という要素を含んでいますので何とどご了解くださいな。
プレセアに関してはあるいみ、コンセプトは親の愛(マテ)
覚えてる人いるかな…いないだろうな…
プレセアの父親が”今”どうなってたかなんて……
なぜクルセイダーにしたのかがようやくだせる…
皆の飛行形態、イメージはあるんですけど、
きちんと文章として形になっているかかなり不安です…

しいな=天女
リフィル&ジーニアス=某女神ヴァルキュリアの飛行形態もどき
プレセア=シンフォニアの神子達と同じ形態
マルタ=蝶の羽もどき(決戦時に覚醒して駆けつけます)
ロイド=いうまでもなくほとんどクラトスと同じ形態(マテ)

↑を脳内に予想していただけたら大まかに言いたいことはわかるかと・・
…文章で表現できてたらいいなぁ…(自信は皆無です・・・)

今回でてくる古の言語のひとまずおさらい。
言語:見鬼(けんき)
古代中国において、超能力、
すなわち今でいうところの”霊能力”に近しい力をもったものを呼び称していた名。
簡単にいえば、人あらざるものを視る力をもったものたちの総称。

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