まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

ラタトスクの一人称ですが、俺、とか我になっていたりすることが多々とあります。
それは完全なる精霊、としての一人称であれば”我”となりますが、
どちらかより、たとえばヒトに心情が偏ってたりしたりした場合は”俺”になります。
つまりは、世界の創造主、としての一人称が”我”ですね。
その場の雰囲気でラタトスクは一人称を使い分けていますので、あしからず。
ちなみに、ラタトスクの騎士の原作ゲームでは、ラタ様の一人称は、”俺”です。
でも、世界の創造主なんだから、”我”のほうがしっくりくるよなぁ。
の感じでそうなってたりします。
…まぎわらしくてすいません(汗)
…我、のほうが威厳あるようにおもえませんか?(マテコラ
何しろ、実際、このラタトスク、性別不明(どちでもなれる)の設定ですし。
つまりは、完全なる虚無というか”無”そのものですしね…このラタ様。
何しろ世界の始まりの根源ともいえる存在ですので。
(この世界というか宇宙そのものを作り出した根源でもあるわけで)
ちなみに、男性の姿をとってるのは、センチュリオンの懇願もあるからです。
いや、女性体になってたときにラタ様天然さはっきして、
ある意味で貞操の危機になったことが幾度も(笑)←でもラタ様は気づいてませんv
涙ながらのセンチュリオン達の懇願もあって、
大概、男性の姿におちついてますが、時折センチュリオン達も暴走しますv
(海賊船カーラーン号でのイベントがいい例ですv)
(ちなみに女性形態では文句のつけどころがないほどに絶世の美女です。
  精霊体のときは男でも女でも通用するほどの美の持ち主でもありますが。
  精霊体の容姿のままでヒトの姿に実体化したらまちがいなく、男?女?
  どっちでもとれるほどの見惚れる姿ですv)

さて、体ノットリイベント。
本来のシンフォニア原作ゲームであれば、
ここは好感度が一番高いヒトがミトスにその体をのっとられます。
ちなみに時間率はオリジンを倒し契約したその直後です。
この話ではそれらもおもいっきりかわってしまっていますけど。
前回でもつぶやいてましたが、まさかの正統ルートのヒロイン枠ともいえる
のっとりイベはケイト担当でした(マテ)
まあ、ミトス→魔王リビングアーマー。と変更していたりもしますけど。
そもそもロイドが体をのっとられかけたその時間、
ミトスはラタトスクと会話の真っ最中だったりしますしね(苦笑
さて、ようやくラタトスクはミトスからその本意を聞き出せたこともあり、
今後、完全に傍観(観察ともいう)に徹します。
そもそも、ラタ様が地上にでてた一番の目的。
ミトスの真意をしること、でもありましたしね。
すでに世界を変革させる下準備も整ってますし。
世界の改変にラタ様は今後力をそそぎます。
といってもラタトスクからしてみれば片手間、ではあるんですけどね。
…きっと、ラタ騎士本編で千年も時間がかかったのは、
すべての(生きとしいけるもの)含め、全体的な理の変更をしたからかと・・
でも、たぶん、ラグナログ後、簡単なマナの完治能力とかは復帰させてるみたいですしね。
というか、大地とかもたぶん、マナから原子(元素)へ変換の理にやりかえてるかと
でなければ、歴史の小説さんで魔導砲ぶっぱなしたときの自然界の壊滅振りが説明つかない(マテ)
ちなみに、エミルが離脱するとき、マルタの迷言?ともいえる、
”そんなの私の好きなエミルじゃない!”をいれるパターンも思いついてたのですが。
以前、マルタがそれっぽいことをこの話ではいっていたし、
それに今後の戦いを考えれば心理的に負担(ひどいこといったという思い)
もはいるし、こっちのパターンは別にいっか、とかるく却下してたりします。
エミルがラスボス(?)戦では離脱するのははじめからきまってたことですしね。
つまりエミルはあるいみ裏ボスポジションで、
彼らの迷走ぶりを観察している立場だという(こらまて)
いや、大いなる意思って、もともとそういうところはあるとおもうんですよね。
つまりは、傍観。
ただ見守って、ときには罰を与える、みたいな。
でも、あまりに限度がひどいと、自らもかかわる、みたいな?

ついに塔もどきが空中に解き放たれました(笑)
イメージとしては、某ゲームのルーナみたいな感じです。
移動するラストダンジョン……

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重なり合う協奏曲~最終試練の始まり~

かつて、クラトスは残りの天使達とともに彗星とともにこの地上を去った。
しかもよりによって穢されたままの精霊石を宇宙空間に解き放ってしまった。
穢されたままの精霊石はやがて穢された状態のまま意思をもち、
そしてヒトの精神も含んでいたがゆえにとある歪なる存在にと変化を遂げた。
”フォルティナ”という存在に。
もっと早くに気づいていればよかったのだが。
理を変更していき、そしてようやくひと段落したときには
すでにクラトスはかの彗星から精霊石を宇宙空間に解き放っていた。
正確にいえば捨てたというべきか。
あのとき、最後の通信になるかもしれないとかの地にて連絡がついていたとき。
ラタトスク、としての人格を封印していなければ、
いや、あのときも自分自身を完全に取り戻せていたとはいえはしないが。
完全に自分という存在を認識していれば、あのようなことはさせはしなかったのだが。
今でもあれは悔やまれる。
その結果、いくつかの世界が翻弄されるハメになったのだから。
とある惑星に衝突した彗星も
モトをただせば変わり果てた精霊石のなれの果て、であったのだからして。
その世界では、レンズ、と言われていたようだが。
ミトスもクラトスと同じように、天使達を連れて移動するつもりであったのであろうか。
それは口にはしないが心のどこかでずっと思っていたひとつの疑問。
かつて、惑星デリス・カーラーンの民が彗星に移住し新たな世界に移り住みたい。
そういってきた彼らの思いとその決意は、代を重ねるにつれその覚悟すら失われていた。
力を放棄し、ただただ自然とともに生きることを望んだはずの彼らだ、というのに。
結局は力にすがりついたまま、力を放棄したものをさげずんで。
自分たちとは違うのだ、と見下して。

「世界を存続させるために地上を浄化するつもりだ。
  そう伝えたときのお前の表情は…いまだに覚えているがな」
くくっとした笑みとともに同じく空をちらりとみたのち、
当時のことを思い出しミトスに向かって言い放つラタトスク。
あの決定を彼に伝えたのは、
あまりにもミトスがしつこいほどに話をきいてほしい、と懇願してきたがゆえに、
すでにもう決定はしているという旨を伝えただけ、だったのだが。
よもやそこに食いついてくるとはおもってもいなかった。
「――今ある限りある命、ヒトがいなくなっては意味がない。
  ヒトも世界を構築する命のヒトツ、だったか」
ミトスにいわれ、あの時、アステルにも言われた言葉。
「すべての命は皆、平等だ、ともお前はいっていたな。
  そのあたりはさすがにもう考えは変わっている、とみたが?」
「…厳しいね。でも、うん。たしかに言っても無駄なヒトにはムダでしかない。
  逆に信じた結果もっとも大切なものを失うということを身をもって知ってしまったし。
  でも、世界を存続させたい、という思いだけは変わってない、つもりだよ。
  姉様が蘇ったあと、しばらく融合具合を確認しつつ、
  無駄に発展しまくったテセアラが完全に衰退し文明が破壊された上で、
  世界を一つにもどし、クルシスという組織を地上に下ろすつもりだったんだ。
  …彗星とともに別の惑星へ、という考えもなかったけじゃあない、けど。
  けど、それだと先祖と何もかわりはしない。
  僕らの子孫が同じことをその惑星でするかもしれない。
  それだけは避けなければいけない、そう思っていたから」
大樹をよみがえらせても愚かな人間は必ずでてくる。
繁栄に慣れきったテセアラ側は間違いなく自滅という道を進んでいったであろう。
ディザイアンという輩を作り出すにしても、
テセアラという国が捉えていたハーフエルフたちに話をつければ事足りた。
何しろ地下に一生幽閉されていた彼らである。
話をもっていけばすぐにのってくるのは目にみえていた。
それほどまでにテセアラ側のハーフエルフたちへの扱いはここ十数年ばかりひどかった。
シルヴァラント側においてもおあつらえの人材がいた。
あの末裔とかいうブルート達のもっている力は侮れはしないが、
それでも傀儡ばりにするのには都合がよかった。
特にかの地はマーテル教を信じ切っている地。
神託という形で事をなせばすんなりとうまくいくはずでもあった。
クラトスが再び確実に裏切っているとわかるまで、たしかにそのように計画していた。
クラトスの裏切りを知ってからのちはもうどうでもよくなっていたが。
大地さえ残ればいい、ヒトなんてしったことか。
どうせ僕らが行動しなければ大地もヒトも滅んでいたんだから。
それに彗星にいる志を同じくする同志たちはそれにまきこれない。
大いなる実りが暴走し、大地が切り裂かれても
それをしたのは他ならぬヒト自身。
深く考えもせずに目先の情報と思い込みによって行動したその結果。
つまり悪いのはヒトであり、それすなわち再生の神子一行こそが罪。
ラタトスクが目覚めていたからこそこのようになっているが。
目覚めていなかったら大地は本当の意味で大樹の暴走により
引き裂かれてしまっていただろう。
そして愚かにもそれを止めるために彼らは魔導砲を絶対に利用したはず。
それでなくても薄くなっているマナを喰らい尽くし、
精霊達という巨大なマナを利用したあげくに。
そんなものを狂った大樹に照射すれはどうなるのか、考えもせずに。
「聖地カーラーンに大樹をよみがえらせるよりも前に、
  そこに新たに本当の意味での聖地、【クルシス】の拠点を移すつもりだった。
  天使達と一緒にね。そこを拠点にして千年王国を築き、
  そして愚かなヒトが考えを抱くものがいなくなったのを確認してからのち、
  真の意味で世界の再生…大樹をよみがえらせるつもりだったんだ」
聖地をつくり、大樹をその中心に添えることにより、
他者の悪意から大樹を守れ、さらには聖地としての神秘性もあげる。
それがミトスが大樹をよみがえらせるにあたり考えていた計画。
だからこそ・・以前、フラノールの地にて、
エミルから言われた言葉に動揺もした。
聖地というイメージはどんなものを想像するか、
またあったとしたらどんなところか、そう問われ。
まるで自分が心の奥底で考えているのを見透かされたようで。
「かつてあったという。惑星デリス・カーラーンの大樹の聖地のように」
センチュリオン達から聞かされた、かつての聖地。
ヒトが大樹のためにと作り上げた地。
「……お前は……」
ミトスの考えはまさに、ラタトスクが今回しようとしていることとほぼ同じ。
ある意味で似たもの同士ですよね、ラタトスク様と。
アクアやテネブラエたちがいっていた意味は当時はよくラタトスクはわからなかったが。
自らがすべてをかぶり、そしてよりよい道を模索する様は、
ラタトスクもミトスもよく似ているといってよい。
当事者たちはまったくそのことに気づきもしていないが。
「もしも万が一、大樹に発芽するだけの力が残っていなかった場合、
  僕の命そのもので大樹の発芽を促す覚悟もしていたしね」
ミトスにとってはそれが本音。
魂をかつて分けた経験上、どうすればいいのか感覚的にも理論的にもわかっている。
「自らの魂の一部を移植することによって促すつもりでもあったんだ」
しかしその思いはミトスの肉体そのものが失われたことにより、
ミトス本来の魂をもってしてかつてそれは行われた。
発芽するだけの力を失っていた種子にミトスの魂が入り込むことによって、
そしてそれを補佐するかのようにマーテルが力を貸した結果、かの苗は芽吹いた。
…ラタトスクを目覚めさせにいくことなく。
ユアンもクラトスも大樹カーラーンから名がかわり、
精霊ラタトスクとのつながりは途切れたのだとばかり思っていた。
よくよく考えればわかったはずなのに。
かつても大樹が失われた状態にもかかわらず、ラタトスクはいたのだから。
ラタトスクという精霊の本質を完全につかみ切れていなかった何よりの証拠。
だからこそ…あのようなラタトスクを封じるなどという考えに至ったのであろうが。
【聖地】を中心として選ばれしものたちを無機生命体化にしていき、そして目指す千年王国。
すべてが同じ種族となりて、差別も何もない平和な世界。
それを作り上げる予定、であった。
「君にばかり負担をかけるわけにはいかない。ヒトの行いは僕らヒトの手で解決を。
  その思いは…今も、そして昔も変わっていない…そのつもりだよ」
その過程で傷つけ虐げ、そして裏切り行為をしたとしても。
目指すその先に正しき平和があるのならば。
いつのころからかその思いも思考の奥底に封じられ、表に滅多とでなくなっていた。
クラトス達はミトスが何の反応も示さなかったとおもった神子アイトラの一件。
しかしそれは表情にださなかっただけで、ミトスの心にあきらかに光を指した。
その光景はまさに姉の姿と同じであったがゆえに。
それでもクルシスの指導者としてそのことを微塵も感じさせなかった。
クラトスにもユアンにも。
あの時から再び、ミトスは姉が殺されたあの日のことをかつてのように眠ればみるようになっていった。
クラトスが地上に降りてそれは一層はげしくなった。
魔族の深層心理攻撃から心を守るために封じていた心があるときミトスの中で
小さいながらもよみがえった。
クラトスのまるで生気を失った人形のような様子をみて、
本当に自我のない千年王国は正しいのか、そう思うまでにもいたっていた。
大樹をよみがえらせれば、ラタトスクが微精霊達を利用しているのを黙って見逃す。
ともおもえなかった。
その時は自分がすべての罪をかぶり、微精霊の解放と、
その力を得た人々の延命を懇願するつもりでもあった。
たとえ自らの命と引き換えにしても。
自分はそれだけのことをしたのだ、という自覚はあった。
「…お前というやつは……ダオスのようなことを……」
「?ダオス?それってウィノナ姉様からきいたことがあるような?」
ぽつり、と昔ウィノナが独り言で語っていた名。
他人の名前だとはわかったが、あまりにも悲しそうな表情ゆえに聞けなかった名。
「昔。お前と同じようなことをしていたやつの名だ。
  マナを守るため、あえてマナを浪費するヒトに対し喧嘩を売った…な」
マーテルの盟約さえなければあのような結果には。
「――ずいぶんと話が弾まれていますね」
ラタトスクがそうつぶやいたその刹那。
虚空より突如として第三の声が響き渡る。
「――テネ……」
「テネブラエか。話をきいていたのか?」
ミトスがその名をいいかけて言葉につまり、
その姿をちらりと見たのち、淡々と言葉を紡ぐラタトスク。
「失礼。なかなか話に割り込める間がなかったもので。
  それにわれらとしても気になっていたので」
ゆらり、と夜の闇から溶けいでるようにして現れしは
黒い燕尾服のようなものを纏っているようにみえる猫のような”何か”。
「ラタトスク様が正体を隠されていない以上、
  われらも姿を現しても問題はないでしょう?ラタトスク様」
「まあな。お前たちもミトスの事についてはいろいろと思うところもあっただろうしな」
だからであろう。
なぜかいつのまにか全員が自らの影の中に潜んでいたのはわかっていた。
そしてこちらの会話に意識を集中させていたのも。
特にテネブラエやアクアなどはいろいろと思うところはあるとは思う。
裏切っていたことがわかっても、心のどこかで信じていたかったであろう。
というのもわかっている。
自らですらそうである以上、センチュリオン達の気持ちも分からなくもない。
「これまではミトスたちに気取られぬよう、と命じていたからな」
それでも時折、ふとしたはずみで姿を現したり、存在をにおわせていたりしはしたが。
「それで?わざわざでてきた、ということは、”アレ”か?」
「はい。どうやら面白いまでにこちらの手の平の上で踊ってくれるようですね。
  まあ好都合ではありますけども、くくくっ」
アレが自らの配下だとわかっているであろうに、
それでも信仰、というものは本当に、とつくづく思う。
そしてその思いはテネブラエだけでなくラタトスクとて同じ。
「彼ら魔族にとっては、負の具現たる”ユリス”は、彼らにとっての神にも等しい存在であるからな」
実際、自分たちが支配下に置く前までは彼女はかなり好き勝手していた模様。
そもそもこの地がニブルヘイムになったのも、
ユリスが完全に自我を失い暴走したという経緯もあったりしたという。
それらの情報はこの地に元からいる聖獣たちからの情報と、
この地に宿りし星の記憶からなれど。
「”ユリス”……それって、姉様をとらえてるようなことをいっていた?」
マーテルは手の内。
そのようなことをあのとき響いてきた声はいっていた。

震えるようなミトスの声とほぼ同時。

「『あはははははは!我は不滅なり!愚かなる人間たちよ。
   天使達よ、汝らは我らが崇高なるかの神によって滅ぼされるがいい!』」

「く、くそ!まて!」
空に浮かぶ一つの影と、そしてなぜかこの闘技場に向かってかけてくる
これまたいくつかの人影。
まるで月を背景にしてたたずむかのように、そこに一人の女性が浮いている。
その姿はいつもの”彼女”のものではあるが、
体全体が黒い靄にと包まれて、その原型すらほとんどとどめてはいない。
高い位置にいるがゆえ、地上のことはよく見える。
もっとも視力強化しているミトスと、そこにいるのがラタトスクである、
という理由があるにはあるが。
かけてくる人影はロイドとジーニアス、そしてリフィルといった面々。
そして空から聞こえてくるは、ケイトの声とそれに重なりしこれまた聞き覚えのある声。
「あの声は…ランスロッド!?」
はっとしたように上空をふり仰ぐミトスに対し、
「本当に、こちらの思うように動いてくれますよね」
「どちらにしろ、ヒトに対する最終試練は始まったというべきか」
それこそ本当の意味で。
テネブラエの言葉に腕をかるく組んだのちにかるくうなづくラタトスクに対し、
ゆっくりと振り向くミトス。
アレの”呪い”が解けていなかったからこそ、まだ消滅していないのはわかっていた。
けど、なぜ。
しかしケイトの中にもかの痕跡は残っていなかったはずなのに。
痕跡の欠片でもあれば、マナの翼に触れ無事でいられるはずがない。
「くそ!ケイトを返せ!!!!!!」
「『ゴミどもが邪魔だ。我が力を思い知るがよい。来たれ、死の翼よ』
二つの声が重なったような声とともに、突如。
上空から巨大な火の塊が地上にむけて解き放たれる。
それはまるで巨大な火の鳥のような形をしているようにみえる火の塊。
地上に直撃すれば被害はどうみても尋常では…ない。
「ちっ!」
それは無意識の行動。
ラタトスクとセンチュリオン・テネブラエにまだ聞きたいことはあるにしろ、
今はあの解き放たれた”死の炎”をどうにかするのが先。
あの炎はすべてのものを焼き尽くす。
それこそ生きたまま。
それをミトスは経験上知っている。
その地獄としかいえない光景も。
意識あるまま体が焼かれてゆく様は何ともいいようがない。
天使化しているものたちとてそれは例外ではなく、
自己再生能力を最大限にしなければ生き延びることすら難しい。
かつてのとき、相手が魔族であったがゆえに、ミトスは精霊の力を用いた。
火には火を、そして反する力、氷の力をもってしてその被害を最小限に食い止めた。
そのまま、タンッとミトスは飛び上がり、向かいくる火にと立ち向かう。

精霊の力、契約はすでに途切れている。
今の契約者はこの事態を把握していないのか使用する気配すらない。
説明しにいく時間もない。
もっとも説明しにいくよりも先に死の炎がこの街を覆い尽くすであろう。
この街を守るような理由はない。
それでもこの街にはジーニアスが、リフィルがいる。
それだけで、ミトスにとって守る行為をすることは迷い様がない。
たとえこの国がハーフエルフたちを虐げていた大本の原因だとしても。
「手加減はしない!アクア・スパイク!」
相手は火。
威力を最大限に高めた術を飛び上がりつつ、向かいくる炎にむけて解き放つ。
アクア・スパイク。
渦巻く水流を高速回転させながら敵にぶつける術。
本来のこの術は下級魔術に属すれど、使い手の力量によっては高位魔術にもなりえる術。
本来ならば水の渦は一つなれど、ミトスの放った水の渦は、
十数個という数にのぼり、落ちてこようとする炎にむけて
空中にとどめ置くかのごとくに真っ向から対峙するかのようにぶつかりゆく。
空中において炎と水がぶつかりあい、周囲に大量の水蒸気があふれ出す。
その熱気は地上にも届き、ある意味ではサウナにも近しい状態といえなくもない。
「「ミトス!」」
迫りくる炎に対峙しているそんな最中。
ミトスにむかって飛び上がってくる人影が二つ。
空の異変を感じ取り、離れた場所にいたクラトスとユアン。
それぞれがこの解き放たれている術の脅威を把握したゆえに、
すばやくこの術が地上に解き放たれないためにも飛び上がってきた。
精霊達の力がない以上、完全にコレを相殺させることはできはしない。
そのことはクラトスもユアンもよくわかっている。
かつてですら精霊達の力を使ってやっと、といった具合であり
それでも被害は免れなかったという経緯をもっている。
「いくぞ、クラトス!」
「わかっている!」
これをどうにかするためには、ひとまずもうすこしばかり起動を上空にそらさなければ。
「星の記憶に眠り聖印を死の記憶と共にきざまん!骸の灯火…フォトン!」
真空裂斬しんくうれつざん!!」
「「くらえ!旋風光破せんぷうこうは!」」
ユアンの放ったフォトンの光を纏ったクラトスが
そのまま一直線にいまだにミトスが水の渦で上空にとどめおいている炎の塊にむけて
上空…すなわち一直線に縦方向にむかいつつ回転斬りをおもいっきり振り下ろす。
その威力には魔神剣のすなわち闘気の力も加わっており、
ミトスの放つ水竜とクラトス達の放った技とで、
拮抗していた炎がゆっくりとではあるが上空にと押し戻される。
「地下に眠る無常の水脈、地上に引き出して竜の血脈とならん!
  ダイダルウェーブ!!」
次なる手とばかりに唱えるユアンのもとに、地上から突如として巨大な水の本流がまきあがり、
ユアンの頭上に集まったとおもうとともに、
上空の炎めがけてその巨大なる水の塊、
空中において発動した巨大な波がその炎をのみこまんとしてつきすすむ。
「幻惑の霧よ、狼狽の果てに見ゆるもの最後の炎をともせ!レイジングミスト!」
このままでは巨大な熱量を含んだ高熱の蒸気がよくもわるくも地上に影響を及ぼす。
ユアンが術を放ったその直後、それまで発動していた術を一瞬のうちにきりあげ、
素早く次なる術を詠唱し、その技を解き放つミトス。
レイジングミスト。
それは立ち上る高熱の蒸気で相手を攻撃する技。
ミトスが行ったのは応用ともいえる技ともえない代物。
ユアンの放った術により発生しうるすべての高熱の蒸気を
術の形態をもってしてその方向性を周囲に、ではなく上空にいる”敵”に限定しただけのこと。
巨大な炎がこれまた巨大な津波…空中にて発動しているがゆえに、
それは津波といっていいのかどうか疑問なれど。
「『お…おのれ!どこまでも邪魔をするか!ミトスとその仲間たちよ!
   ここはまだこの”器”が万全でないがゆえにひくが、覚悟しておくがいい!
   この地上は我ら魔族のものだというのをお前たち人間は身を以て知るだろう!
   ふははははははは!!!
   我を倒したくば暗黒の大樹とかしたかのもとにまでくるがよい!
   すでにマーテルもかのうちに取り込まれ、我らに染まりきる!
   ふははははははははは!』」
大量の炎と水を含み、さらには高熱と化した蒸気が押し寄せそのままでは
その蒸気に飲み込まれるその刹那。
忌々しいという思いが口調に現れた捨て台詞のようなものをのこしつつ、
黒い霧に一瞬のうちに”ソレ”は包まれ、あっという間にその場からかききえる。
それは大量の蒸気が直撃するまさにその瞬間の出来事。


ポッポッ…
ザァァ…
空より熱気を帯びた暖かな雨が降り注ぐ。
本来ならば百度以上の高温を保っていた蒸気であるが、
地上に降り注ぐ間にその温度は低くなり、
四十度そこそこにまでその熱さは抑えられていたりする。
空からふりそそぐはちょっとしたお風呂のお湯程度の雨でしかないが。
地上の人々…メルトキオの民にとっては何がどうなっているのか理解不能。
謎の声とともに、いきなり上空に火の手があがり、
これまた何ものかが上空にてその炎を食い止めていた。
それくらいしか一般の人々は認識できていない。
それでもわかるのは、謎の声の主…女のようでいて男のような声をだしていた、
空に浮かんでいた月に浮かぶ人影らしきそれ。
それが発した言葉のみ。
すなわち、マーテルも…女神マーテルも取り込まれており、
このままではよくわからない敵の手の内におちてしまう、ということのみ。

「リフィル!ロイド!一体何があったんだい!?」
上空にていまだに逃げた影のあった場所をにらんでいるミトスたちの耳に
地上より聞こえてくるとある声。
騒ぎが起きていることしり、駆け付けたしいながみたのは、
空に発生した直撃すればこんな街程度は軽く消滅するであろうほどの巨大な火の塊。
そしてそれを食い止めているであろう、誰かたち。
キラキラとマナの翼がみえるかぎり、天使達のうちの誰かなのではあろうが。
しかし、捨て台詞のようなものを聞く限り、
あの炎を食い止めたのはどうやらあのミトスであるらしい、と推測する。
そして闘技場に向かう最中の長い橋の上にて空を見上げているロイド達の姿をみつけ
事情を知っているであろう彼らにと問いかけたにすぎない。
そんなしいなの疑問は、何が何だかわからない街の人々にとっても共通した思い、
といえなくも、ない。

「ち。逃げられたか」
忌々しそうにつぶやくミトス。
「まて。何かくる」
ふとそんなミトスを制するかのように片手をかるく挙げたのち、
そのまま片方の手を耳にとあてがうクラトスの姿。
いまだにこの三人は空中にて浮いており、
逃げたとおもわれる相手のいた場所をにらみつけていたりする。
それは小さな音なれど、だんだんとその音は大きくなってくる。
キィィ…ン…
何か金属のようなものが飛んでいるようなそんな音。
その音はだんだんと大きくなってくる。
はっと何かに気づいたようにユアンに視線をむけるクラトスだが、
ユアンはクラトスの視線をうけかるく首を横に振る。
つまりこれはユアンがらみのものではない、ということ。
では。誰が。
警戒する彼らの視界に見覚えのあるシルエットが飛び込んでくる。
それは月明かりのもと、くっきりと浮かび上がる空に浮かびし飛行物体。

「「レアバード!?」」
月明かりに背を向けるように空に金属のような音ともにあらわれた何か。
思わず空をふり仰いだしいなやロイド達が目にしたは、見覚えのありすぎるシルエット。
機体は真上あたりでいったん停止し、そのままゆっくりと突如として下降を開始し始める。
「降りてくるよ!?」
なぜにこのタイミングでレアバードが、とおもわなくもないが、
この付近で着地できる場所を見定めたのであろう。
闘技場の中心にむけて、ゆっくりと上空にみえているレアバードの機体は降下を開始する。
それをうけ、思わずそれぞれに顔を見合わせるロイド達。
上空においてはミトスたち三人がそれぞれ顔をみあわせて、
無言でそれぞれうなづいたのち、レアバードをおいかけるようにして彼らもまた下降を開始する。

「あ。おろちさん」
下降してきたレアバードに乗っていたは、ミズホの里のおろちの姿。
いまだにミトスと異変を感じてやってきたのであろうクラトスとユアンは上空。
ロイド達もこちらにむかってやってきている最中。
降りてくる機体を目にし、そのままふわり、と自らも闘技場の中にと降り立った。
施設の中で一番高い場所にいたゆえに、
高さ的には十メートル以上の高さから飛び降りた形なれど、
彼にとってはそんなことは意味はない。
「うん?エミル殿か。しいな達は……」
「今、こっちにたぶん、向かってきているんじゃないのかな?
  たぶん、レアバードの姿はみえただろうから。
  月明かりにうかびあがるようにしてそのシルエットがみえてたし」
月を背景にし、かの人影から入れ替わるように出現した様子を人々は目にしていたはず。
もっとも上空にて戦闘によって発生した蒸気が生ぬるい雨となり
地上に降り注いでいる以上、すべてのものが空を見上げていたわけではないので
全員がそれを目撃しているというわけでもない。
いまだに蒸気が元となった雨は降り注いでおり、
完全に晴れた空の下、雨が降り注ぐといういわば狐の嫁入り、
とミズホの里でいわれている現象に近い状態となっているのが今現在。
「僕はたまたまここにいただけだから」
正確にはこの場にてミトスと会話をしていたから、なのだが。
それをわざわざ目の前のレアバードから降りてくる人物…おろちにいう必要もない。
「そういうおろちさんは、たしかアルタミラにいたんじゃあ?」
たしかおろちもまたアルタミラにいたはず。
もっともここにきた理由は簡単に把握できるが、
そもそも彼らにはいまだエミルは自らの正体を暴露していない。
ゆえにいつものエミルとしての態度で普通に接しているにすぎない。
テネブラエはそばにいるがいつものように姿をけしているゆえに、
おろちの目にはその姿はうつっていない。
おろちもエミルが高い場所から飛び降りてきたところを目撃しているが、
彼らとてできることでもあるのであまり疑問視はしていない。
「ああ。リーガル殿に頼まれて、な」
「「おろち!?」」
「ミズホの民、か」
闘技場の会場入り口における場所からこの場にロイド達が飛び込んでくるのと、
しばらく上空にて様子をうかがっていた三人が下降してきたはほぼ同時。
ロイドとしいなの声とともに、ユアンの怪訝そうな声が場に響き渡る。


「さてと、全員そろったようだな」
闘技場の施設の中。
コロッセウムともいわれているメルトキオというか、テセアラが誇る円形闘技場。
この施設は約五万人ほど収容できると一般的にはいわれており、
それらが現実なものかどうか、完全にこの施設が満員になったことはほとんどない。
闘技場の施設の横には噴水も創造られていたのだが、
このたびの騒ぎによって噴水そのものは完全に失われ、
ちょろちょろと湧き出る水のみが大地そのものに流れ出ていたりする。
中心である開けた空間にひとまず関係者一同が介している今現在。
その横にはおろちの乗ってきたレアバードがそのまま放置されている。
これまでのレアバードと違い、その翼の下にドラムカンのような筒のようなものが
二対、取り付けられているのが印象深い。
ロイドとジーニアス、そしてリフィルが異変に気づき
媒介となったであろう人物を追いかけていた最中におこった出来事。
何が起こったのか理解不能であったのはおろちだけではない。
「ねえ。ロイド。あれって、…ケイトさん、だった…よね?」
声は何者かのそれと重なっていたが。
コレットの視界にはたしかに空に浮かんでいる黒い霧のような靄につつまれた
ケイトの姿をとらえていた。
「僕のせいだ…僕があんなものをもっていたから…ケイトに渡したから……」
「ジーニアスのせいじゃない。あんなの…誰も思いもしなかった」
ランタンの灯りと月明かりのみが周囲を照らし出す。
「簡単にいえば、あの魔族は滅んでいなかった、ということよ。
  アレはあの瞬間。タバサの中にあったとある品にその精神を映していたらしいの
  そして、こちらの隙をついてケイトの体をのっとってしまった……」
いまだに自らをせめている弟の肩にそっと手をおきつつも、
リフィルがかわりにこの場に集まっているメンバーにと説明を開始する。

それは、ロイドがジーニアスをつれ、リフィルに頼まれた食事をもってきた時間にさかのぼる――


歪な形をつくっているまがまがしき”何か”。
元の樹の形をとどめながらも、すでにそれは樹ではあらず。
「『人間たちの信仰を一手にあつめているマーテルが
   堕ちたときにどのような形になるのか見ものであるな。ふふ』」
永き時をかけて、ゆっくりと外部から干渉していたのに。
「『忌々しきは番人…か。だが、今の彼女にコレが耐えられるかな?』」
せっかく、彼女を堕とすために神子とえらばれし彼女たちの負の憎悪。
それらをあおってはあえて目の前の女性が救いの手を差し伸べるように暗躍していた。
なのに、彼女が取り込んでいたというか目の前の”もの”に入り込んでいたはずの無数の思念体。
その気配が今や一つもない。
かわりにあるのは強いかの精霊の気配のみ。
それまでなかった小さな蝶のような赤い”何か”。
それが目の前のモノ…大いなる実りとよばれているものの中にとみうけられる。
「『今やこの地上は一神教に近しい宗教に支配されている地といってもよい。
   ならば、それらの信仰の反応を変えればわれらの力にもなりえるもの』」
本当はあの少年でもよかったが、これはこれで都合がいい。
いまだに目をつむり、胸の前で両手を組んだような形の女性。
淡い青い光を放つ蓮の花のような水晶の中にといる女性。
そのままソレにむかっててを伸ばす。
ピリッとした痛みが触れた手の平にと感じられ、
触れた場所からジュージューという何かが溶けるような音とともに
あっという間に手が焼けただれたようにと溶けだしてゆく。
それでもヒトの体を器としているゆえに、さほどの被害は感じない。
小さくそのまま”言葉”を紡ぎだす。
それとともに、ゆらり、と手を突き出している人物…女性の体が
蓮の花のような水晶の前でゆらり、とゆらぐ。
それこそまるで水面でもあるかのごとくに。


エミルとミトスが闘技場でそれぞれの思いを語り合っているとはつゆ知らず、
リフィルにいわれ、ケイトに食べさせるというか飲ませるための料理を手にし
ゼロスの屋敷にまで移動し終えたロイドとジーニアス。
道中、ちょっとした空にみえる月の話題になったりしたものの、
変わり果てた町並みに何ともいえない思いを抱きつつもたどり着いたゼロスの屋敷。
「おかえりなさい。あら?ジーニアス。あなたもきたの?街の人たちのほうはいいの?」
屋敷…といってもいいのかわからないが。
しかし他の建物と比べればきちんとかろうじて形を保ってるだけましといえる建物。
屋敷の中にあった調度品などは崩れ落ちた壁から内部に瘴気が入り込んだためか、
ほとんど朽ちてしまっており、あれほど豪華であった屋敷の内部の面影はそこにはない。
セバスチャンにと案内され、戻ってきたロイドをみれば、
その横には弟でもあるジーニアスの姿。
ジーニアスの手に小さな鍋が握られていることから、簡単な雑炊か何かをもってきたのであろう。
たしか、今、街の人々に配っているのもその系統であったはず。
リフィルはこの場から離れてはいないが、トクナガからの情報でその事実は把握している。
「うん。あ、ケイト、目がさめたんだね?大丈夫!?」
姉に言われ、うなづいたのち、
そこに上半身を起こしているケイトをみつけ少しばかり弾んだ声をだすジーニアス。
操られていた後遺症のこともある。
しかし多少顔色が悪いような気もしなくもないが、意識ははっきりしている模様。
「…ごめんなさい。私、またあなたたちにも迷惑をかけてしまったようで……」
ジーニアスの姿をみて少しばかりほっとしたような表情をみせ
しかしすぐさまに少しばかり悲しい表情を浮かべるケイト。
「…リフィルさんに聞きました。タバサさんが……」
かつてはタバサ、と呼んでいた。
アルテスタがつくったたかが人形でしかない輩だと。
しかし、アルタミラにてしばらく行動をともにしていくうちに、
人形とはいえ意思疎通が可能であり、なおかつ心があるのでは、
と思い始めてからは呼び捨てにはできなくなった。
プレセアなどに関してもさんづけの敬称を付けたいところなれど、
今さらそのような呼び方をしても彼女を傷つけるだけであろう。
それほどまでに彼女…ケイトは自分がプレセアに何をしていたのか、という自覚はある。
あのようなことになるまでは、プレセアをただのモルモット…
すなわち実験体の一つ、としてしかみていなかった。
自分たちを虐げるヒトをどうあつかってもかまなわい、と。
しかし、オゼットにて一人でいろいろと考えていく上で、
今まで自分がしていたことの愚かさにも改めて気づかされた。
そして、天使の街にてクラトスから聞かされたかつての勇者ミトスの話。
ヒトは堕ちるときにはどこまでも堕ちてしまう。
自分もそうだったのではないのか?
自分のためならば他人などどうでもいい。
その考えは自分が憎み、蔑んだ愚かなるヒトとかわらないのではないのか。
父のため、という名目でこれまで命を蔑ろにしてきた自分の行為。
それはハーフエルフだからという理由で虐げるヒトと何ら変わりはしなかった。
心のどこかではわかっていた。
でも、それを考えないようにもしていた。
自分たちハーフエルフを迫害している人間たちをどう扱おうとも、
それは報復であって当たり前の行為で何の問題はない、と。
そしてそれが父のためになるのなら。
「ケイトに少しばかり話をきいていたのだけども。
  彼らはアルタミラに攻撃をしかけてきたそうよ」
ケイトから語られたは、魔族とおもわしき異形のものたちがアルタミラを襲った。
ということ。
そして目的がケイト自身の身柄であることをしり、ケイト自らが投降したということ。
それはロイドを送り出したのち、リフィルがケイトから聞き出した事柄。
この地だけではないだろう、とは心の奥底で感じていたが、
改めて聞かされるのとでは話は別。
かの地にはまだミズホの民などがいたのでそう被害は大きくなっていない、
と信じたいところなれど、魔族の力というものを目の当たりにした以上、
ミズホの民たちの力がどこまで通じるか未知数。
しかも、黒き異形のものが闊歩している中での魔族の襲撃。
ゼロスの叔父だという人物がここに来る前は頑張っていたようだが。
被害はどの程度のものなのか。
タバサからも聞いてはいたが、襲撃をうけた、ということに間違いはないらしい。
そして、ケイトが自分の身を彼らに差し出した、というのも。
あのタバサが嘘をつくともおもえなかったが、視点が変われば見方もかわる。
ケイトの話しぶりからは、自分のせいでアルタミラが襲われた、
というのをかなり気にしているようにリフィルは感じ取れた。
リフィルはいっていないことがある。
それをきいたとき、ケイトは自分はあのとき、
一度つかまっていたときに処刑されているべきだった。
そうすれば、自分のせいでこれ以上罪のないヒトが命を落とすこともなかったのに、と。
ケイトを助けたのはリフィル達。
ケイトが捉えられたのはリフィルとジーニアスを助けようとしたロイド達に手をかしたゆえ。
自分が生きていることで、父が自分を求めているというのは心のどこかでうれしいが。
いまだに道具としてしかみていない、というのにさみしさも感じているケイト。
その心情が手に取るようにとわかりリフィルとしては何といっていいものかわからない。
そしてそれをたとえロイドにいったとしても、
ロイドは逆にある意味でもっての正論でもってして余計にケイトを追い詰めかねない。
だからこそ、リフィルはそのあたりのことをぼかして戻ってきたロイド達にと説明する。
「あなた方にもまた迷惑をかけてしまったようで……」
そういって上半身を起こしたケイトの顔色はまだ悪い。
「記憶が…あるの?」
その言い回しから、操られていたときの記憶があるのかと予測し恐る恐るジーニアスが問いかける。
問いかけつつも手にもっていた鍋を木でつくられているらしき椅子の上におき
ココナツの実を割ってつくっている容器をその場にと用意しその容器の中によそい
その容器を姉にと手渡す。
ジーニアスから容器をうけとり、それをそっとケイトにと差し出すリフィル。
いまだに簡易的な寝床に横たわっているというか、
そこから上半身のみを起こしているケイトは自力で起き上がるほどの体力はまだ回復していない。
ジーニアスから器をうけとり、
その器をケイトに手渡しつつも、片手でケイトの背中を支えるリフィル。
金属などで作られたスプーンなども腐食しておりつかえたものではない。
かろうじて無事なのは木々でつくられたいくつかの品々のみ。
実際、今この地にのこっているものといえば枯れ果てた木々くらいなもの。
それと廃墟といっても過言でないほどの朽ち果てかけたいくつかの家屋のみ。
しかもそれらの家屋もほとんどがヒトの手による襲撃で焼け落ちてしまっており、
あるいみで人々は自分たちの居場所を自分たちの手で破壊したといってもよい。
「すいません。…ええ。操られている間もずっと意識はあったわ。
  …ただ、体の自由がきかなかっただけで……」
意識はあっても体はいうことをきかなかった。
命じられるままに非道なことをするしかない自分自身。
そしてそれらを笑ってみている父親。
ああ、本当にこの人は私のことを娘とではなく道具としてしかみていなかったんだ。
その事実をつきつけられ、精神的にも追い詰められた。
それでも何とかあらがい、彼らだけでも、とあのとき抵抗した。
「私だけ生き残ってしまった…生きている意味はあるのでしょうか……」
他人の命を蔑ろにしてまで愛情を求めた父はもう、いない。
「…タバサさんが命をかけたのも、私のせいだ、というのに……」
アルタミラでタバサが機械人形だとしったときの研究者たちの反応。
そして、アルテスタの人格を封じているという”コアクリスタル”の存在。
あのような現状であったがゆえにそこまで手を伸ばしてはこなかったが。
彼らはあきらかに興味をもっていた。
リーガルによる統率がなければ間違いなくタバサを解体してでも
その状態をすべて理解しようとかの地の研究者たちはしていたであろう。
それがなかったのはアルタミラの現状がそこまでの余裕がなかっだたけのこと。
増殖してゆく木々、そして黒い異形の存在。
そして繁殖してゆく木々によって壊れてゆく家屋類。
地下施設もすべて水没してしまい使用不可能となっていた。
そこに未知ともいえるドワーフの技術の結晶ともいえる機械人形のタバサの登場。
彼女を解体してその力を街に、といっていたものもいた。
ブライアン公爵がそれをとどめおいていたのをケイトは知っている。
ケイトもまた、エクスフィアを研究していたことを知られており、
人格投影をしているというコアクリスタルの開発にこのたびの一件がおちついたら
協力してほしい、とレザレノの研究者の一部の上層部のものからいわれていた。
何でもエクスフィアがことごとくきえていっている現状で、
新たな動力源となる資源が必要不可欠だから、という理由にて。
自分の一言でタバサの…正確にいえばアルテスタの人格を投射しているという”コア。
それが利用される流れになりかけていたのはしっていた。
どちらにしても、タバサを殺してしまったのは自分。
タバサが自爆という形をとったのもおそらくは軍事利用というか、
その人格を投射するという技術を悪用されないため、というのもあったはず。
アルテスタ当人が生きていたとしても、その技術を誰かに伝えるとはおもえない。
ある意味で、タバサは生きた…というか現存する唯一の”動く教材”といってもよかった。
「違う!あんたのせいじゃない!」
そんな思いを抱きつつも吐き出すようにしてつぶやいたケイトにむかい、
ロイドが間髪入れずに否定の言葉を投げかける。
「でも……」
「あまり気を病まないで。とにかくいまは安静が第一なのだから。
  ロイド、あなたも言いたいことはあるでしょうが、今はやめておきなさい」
それでなくても今回の騒動。
城が消え、闇が消え去り大分時間はすぎている。
人々が冷静になって物事を考え始めるには十分なほどに。
今回の発端となっていたのが元教皇と、それに関与していたその娘。
街の人々の不満がケイトにむけられるのは考えるまでもなく。
これからのケイトをどうするか。
かといって自分たちと行動をと申し出ても確実にケイトはこばむ。
オゼットに一人戻ったとしても今回のこともあり、
興奮した民衆がオゼットにおしかけない、ともかぎらない。
今はまだ彼らは気づいていないかもしれない。
救いの塔がなくなっているというその事実に。
聞けば救いの塔が消えるよりも前のこの街は漆黒の闇に包まれていたらしい。
それこそ以前、一時期この周辺を覆った闇のごとくに。
街一つ、消えたのである。
他の場所がどうなっているのか想像するのも恐ろしい。
アルタミラの様子をみるかぎり、他の街も崩壊寸前となっているとみてほぼ間違いない。
ヒトは何か不測の事態におちいったとき、誰かに罪をなすりつける傾向がある。
いい例が神子であったコレットの立場。
神子の立場にあるコレットが怪我を負ったりしても、
それは自分たちの罪を神子がかわりにせおってくれるからだ。
とありえない考えが人々の中には根付いていた。
いや、いるというべきか。
今回の件にて、神子が失敗したといいだす人々がいてもおかしくはない。
まだ、ここテセアラでは以前のテセアラ国王の宣言もあってどうにかなるだろうが。
シルヴァラントのほうはリフィルとて予測できない。
しかもあの【声】はすべての人々に聞こえていたはず。
神子に何かしらの不満をもつものがあらわれても不思議ではない。
そんな中で、神子よりも罪をなすりつけてもかまわない、という人物があらわれれば?
…それこそ、あのときのマグニスのときのように公開処刑を、
という考えを抱く人々が現れてもおかしくはない。
そう、ケイト、という罪人を公開処刑することによって、
人々の不満を一手にそちらにむけさせるべく。
もっとも、それは神子であるコレットにもいえること。
ゼロスのほうは地位からして問題ないであろうが。
今回の出来事は、神子が失敗したからだ、と人々が言い出しかねない。
まあ、あの【声】を聞いている以上、そうそうそんな安易な方向に流れる、とは思いたくないが。
ヒトとは時として集団になれば考え付かないようなことをしでかしてしまう。
そしてそれをリフィルはかつての経験上、身をもってしっている。
「…ままならないわね」
おもわずぽつり、と言葉が漏れる。
「?先生?」
そんなリフィルの言葉をとらえ、首をかしげるロイド。
そんなロイドの様子にこの子は今後のことを改めて考えることをしていないのね。
と逆にリフィルは少しばかり頭がいたくなってしまう。
ロイドの欠点の一つ。
その場さえよければよい、あとのことはあとのこと。
とその思考を後回しにしてしまうところ。
自分の行動がどのような結果をもたらすか、まったくそれを視野にいれていない。
このたびの中で少しはそれらのことも考えられるようになったようにおもっていたが、
根本的にまだまだそこまでの改善にはいたっていないらしい。

ゼロスの情報から、どうやらこの国の上層部のほとんど。
この国にいた権力者たちはことごとくいなくなっている模様。
…まあ、城にいたのであれば確実に”駒”とされていたであろうから、
生きている、というほうがかなり怪しい。
生き残っているのはこの王都から離れた場所にいたもののみ、とみてほぼ間違いないであろう。
それぞれの貴族屋敷などにいたものたちも、
黒い異形のものたちに襲われて数多のものが命をおとした、ときいている。
ゼロスが聞き出してきたのであるからしてそれはほぼ間違いのない事実のはず。
この国は荒れる。
間違いなく。
第一王位継承者とみられる王女も結局はみつかっていない。
もしかしたらあの異形と化した中にいたのかもしれない。
考えれば考えるほどにその思考は深みにはまってしまう。
そんなことをおもっていると、ふと弟であるジーニアスの様子に目がとまる。
なぜかじっと手の中をみつめている。
そういえば、さきほど胸のポケットから何かを取り出していたような。
「ジーニアス?」
「あ、ごめん。姉さん、これ、みてたんだ……」
「それは…」
たしか、ケイトに回復術をかけている最中、
タバサが自爆したあとにふってきた罅の入ったとある石。
リフィルもジーニアスがそれを拾ったのはしっている。
児雷也の背におちてきた、あの場にはそぐわない石。
エクスフィアのようでいて、異なるその石。
もっとも、ケイトの治療を優先していたのでリフィルも詳しくみたわけではないが。
「うん。あのとき落ちてきた石…タバサがいってたでしょ?」
旅の中、彼女の人工知能はクリスタルのようなものの中に組み込まれている。
そう聞かされたことがある。
それはもともと、タバサという器がマーテルの精神体を移すために
新たな精神体の器として体に組み込まれていたものらしい。
もっとも、マーテルの器から破棄されてから後、
その”クリスタル”の中にアルテスタがタバサの元となる人工知能を植え込んだらしいが。
しかも自己学習能力を兼ね備え。
あの時、落ちてきた石をみたとき、ジーニアスはこの石がタバサの意識なのではないか。
そうおもえた。
もしくは、アルテスタの人格と知能を投射しているという石か。
目の前で自爆したタバサを目の当たりにし、ジーニアスが抱いた思いは前者。
ケイトの話を聞いている中で唐突に思い出したそれ。
それゆえに懐からそれを取り出し眺めていたジーニアス。
ケイトがいいたいこともわからなくもない。
タバサから聞いた話によればケイトをもとめ、アルタミラが襲撃されたといっていた。
自らを卑下していくその心情は、ジーニアスにはよくわかる。
自分さえいなければ。
かつて姉に対し、ジーニアスが抱いた思いと形はどうあれ共通する思い。
もしも、これにタバサの人工知能とかいうものが組み込まれていたのならば。
器をかえてもしかしたらタバサをよみがえらせることも不可能ではないかもしれない。
そう。
ミトスが姉であるマーテルの精神を別人の体に移し替える器を求めたように。
ヒビが入っている以上、無事とはいいがたいが。
アルテスタの人格か、それともタバサとしての人格?か。
手にしている石にはどちらが宿っているのか。
それはジーニアスにはわからない。
だけどすくなくとも、どちらかはコレにはいっていたのだろうとはおもう。
あの場においてタバサ達が自爆した頭上からコレがふってきたことの意味は、
どう考えてもそうとしかおもえない。
アルテスタやタバサの人格ともいえるソレラを入れ込んでいるという”石”。
エクスフィアとは異なり、魂そのものを取り込むようなことはないという。
旅の中で完全に詳しくは聞き出せなかったが、
エクスフィアのように魂そのものが永遠に封じ込められているというものではない、らしい。
…もっとも、人格と記憶を投射するオリジナルがいた場合、
一時はそれぞれの相乗効果で潜在能力が爆発的におしあげられるらしいが、
永き時間ともにいれば、オリジナルの精神そのものにも負担がかかる、とのことらしい。
それゆえに、古…古代大戦よりも前にすたれてしまったというその技術は、
今ではアルテスタくらいしかうけつぎ実行できるものがいない、とも。
「コアクリスタル、というものなのかしら?」
たしかタバサはそのように説明をしていた。
古の、遥か太古の戦乱時に開発された技術だと。
「?コア・クリスタル?」
どこかできいたような。
実際、ロイドはタバサが説明したときにその話をきいている。
が、ロイドはそこまで詳しく覚えていない。
そもそも船の中でのリフィルによるリフィルいわく課外授業の中でその話題に触れていた。
当然、授業のようなものをロイドが真面目にうけているはずもなく。
もっともその都度、リフィルに怒られてはいたのだが。
リフィルのつぶやきをきき、首をかしげつつもジーニアスの手の平の中をみる。
そこにはちょっとした大きさのエクスフィアとはまた異なる石のようなものが握られている。
「これ、タバサが自爆したあと、落ちてきたんだ……」
まるで彼女の形見のごとくに。
これを手にいれてから城からの脱出。
改めてじっくりとみる時間がなかったのもまた事実。
「そう、なのか?」
ロイドがそんなジーニアスが握る石にむかっててを伸ばしたのとほぼ同時。
それまで輝きすらもなかった石が、ロイドの手が触れた刹那。
突如として輝きを増す。
「な、何!?うわっ!?」
「ぐっ!?」
それとともに、ふわり、とその石は浮き上がり、
それとともに石から闇がヒト型をとっているかのような、
漆黒の人影を幻影のごとくにその場に出現させる。
それとともにロイドの体の自由がまったくきかなくなり、
まるで麻痺でもうけたかのごとくに体が完全にと硬直してしまう。
『我に残されている時間はない。お前の体を貰い受ける』
ゆらゆらとゆらめく黒い人影はまるでロイドの内部に浸透してゆくかのごとく、
ゆっくりと重なりをみせる。
「な!?や、やめろっ!」
「まさか…いけない、リビングアーマーよ!
  その”石”に精神体の一部をうつしていたんだわ!」
アルテスタの人格が投影されていた、とある”コア”。
古にはコアクリスタルとすらいわれることがあったそれは、
今ではつくることができるのはアルテスタをおいて他にはいない。
タバサの自爆により傷つきその機能は内部にいたアルテスタの人格も失われていたが
その抜け殻にともともとが精神生命体でもあるランスロッドが入り込んだ。
それでもマナの自爆によって受けたダメージは半端なく、
ランスロッドの力において形成していた”場”はすべてなすすべもなく崩れ去った。
ロイドの体は硬直し、抗おうにもいうことをきかない。
ジーニアスが取り出した、あの空間で拾ったという”ひび割れた石”。
クルシスの輝石のようでいて異なるそれをジーニアスは捨てずにもっていた。
児雷也の背の上で落ちてきたそれは、タバサの形見のような気がして捨てられなかった。
どちらにしろ、ヒトの精神体を移すという過程で生み出されていたであろう品物。
あの一瞬、おそらくあの”魔王”はその精神体を石にと移し生き延びたのであろう。
『忌々しきあやつの理に縛られぬもの。我の器にするのはちょうどいい』
「このままではロイドの体が乗っ取られてしまうわ!」
ゆっくりと、しかし確実に黒い人影のような靄のようなそれは、
ロイドの体に重なるようにして入り込むような気配をみせている。
ロイドの胸元の前にふわりと浮いたままの石からにじみでている黒い霧。
その気配はまぎれもなくあの空間で感じていたまがまがしき気配そのもの。
「っ!ロイドさん!」
この気配は嫌でも覚えている。
というか忘れようがない。
自分をこれまで散々操っていた相手の気配を見間違えるはずがない。
――ヒトもエルフも皆同じ。
そうきっぱりと迷いなくいいきったかつてのロイドの言葉がケイトの脳裏をよぎる。
それはほぼ無意識の行動。
そのままほぼ倒れこむような形でいまだに立ち上がることすらもままならない体に鞭をうち、
よろけるようにして硬直しているらしきロイドにむけておもいっきり手を伸ばす。
体がよろけた反動にてケイトの予想以上に力がでたらしく、
ドンッ!とそのままロイドをその場から突き放す。
それははたから見ればケイトがロイドにむかってよろけるようにして
押し倒したようにしかみえない行為なれど。
ロイドをおもいっきり両手で押し切るとともに
浮かんでいる石をぎゅっと反射的にと握り締める。
「『くそ。邪魔されたか。まあいい。この娘でもな。
   幸い、我が力がまだ内部に残っているようだしな。この体はもらってゆくぞ!
   我は不滅なり!今こそこの地上に恐怖と混乱を、ふはははははは!!』」
ケイトが石を握り締めたその刹那。
ふとケイトの瞳から光という光が消える。
それはまるで虚無のごとく。
操られていたときと同じく無表情。
そのケイトの口から紡ぎだされるは、ケイトの言葉と、
それ以外にあの空間内部で耳にしていた声。
その二つが折り重なったような何とも言い難い形容しがたい”声”。
「ケイト!?まて!ケイトをかえせ!」
はっと体の自由がもどったロイドが目にしたは、
またまた操られているかのようなケイトの様子。
「『本来ならばあやつの理がかかっていないお前の体が理想ではあったのだがな。
  まあこの娘も使い道がある。そこでお前たちはみているがいい。
  あやつがどう干渉してくるかはわからぬが。
  あやつ自身があやつら精霊は関与しないようなことをいっていた以上、
  我らを直接とめるようなこともできないであろうしな。
  さあ、今こそわれら魔族の悲願を果たすとき!』」
「『あははははははは!!』」
最後の笑い声はリビングアーマーことランスロッドの声とケイトの声が完全にかさなり、
どちらが笑っているのかわからない。
そう言い放つとともに、ケイトの体から真っ黒い炎のようなものが吹き出し
それは頭上にむけていっきにたちのぼっていき、
その黒い炎は天上部分すらも崩壊させ、そのまま夜空にむけて解き放たれる。
それとともに、ふわりと浮かび上がり、そのまま夜空にむけてとびあがってゆく”ケイト”。
「ま、まて!」
ロイドの静止の声もむなしく、高笑いのみをひびかせて、
ケイトはそのままふわり、と空中を闊歩するがごとくに浮遊してゆく――


「…と、いうわけで。どうやら魔王に体をのっとられたらしいケイト。
  彼女をおってここにまでやってきたの」
「…僕のせいだ。僕があんなものを拾っていたから……」
リフィルによる回想ともいえる説明が終わるとともに、ジーニアスがうなだれる。
「あれ、ね。そういえば昔も同じようなことをした奴がいたってきいたような……」
「たしかに、いたな。ミクトランというやつが」
この場にいるのは異変を感じて集まってきたミトス、そしてエミルも含んでいる。
当然のごとくクラトスやユアンもかけつけてきており、
全員を踏まえての説明会となっている今現在。
ミトスが少しばかり昔を思い出すようにつぶやけば、
その横でしみじみとうなづきをみせているエミルの姿。
ちなみにエミルのその瞳は緑のそれではなく真紅のままであり、
それゆえにロイド達からしてみれば多少の違和感を感じていたりする。
かつて、のちに天地戦争といわれていた時代の独裁者。
ミトスたちの世代では夢物語というか神話のような扱いで、
ほとんど信じているものはいなかった古の出来事。
「そもそも精霊石に精神体を融合させる云々、というのは。
  とある遺跡から過去の伝承を読み取った輩たちが始めたことでもあったしな」
結果としてかなりのヒトだけでなく他の生物も被害にあった。
これだからヒトは、と呆れたあの当時。
だからこそ、それぞれあまりに命を命とも扱っていない場所には、
天変地異をセンチュリオン達に命じて時折おこしていた。
それでもヒトは愚かなもので、ついには”天使化”なるものを生み出した。
さらにはマナを使った魔科学兵器すら。
「そういえば。エミル。瞳の色がいつもと違って真紅なのはどうして?」
「別にここには関係者しかいないから隠す必要もないしな。
  それに何よりお前たちに今現在同行しているとはいえ、
  宣言したようにこれよりのち、お前たちに手助けするということはありえない。
  これより先はお前たちヒト、としての試練でもあるのだからな。
  かつてミトスが懇願してきてこの世界の浄化は免れた。
  しかしお前たちヒトは変わることなくこれまで歩みを続けてきている。
  …まあ、ミトスによる情報操作があったにしろ、だ」
宗教という楔で人々をまとめ上げたミトスの手腕はさすがとしかいいようがない。
ヒトは昔から、なぜか盲目的に自らが信じた宗教というものには命をかける。
その教えを否定するものは悪でしかない、と断言するほどに。
「…その試練なのだけど、あの魔王も関連しているのかしら?」
「正確にはお前たち、ヒトの心の在り方の試練でもあるな。
  ――お前たちが本当に、かつてのミトスがいったように変われるのか否か。
  それを見極める試練でもある。…どちらにせよ、アレは面白いまでに動いてくれるようだがな」
こちらが指示をしたわけでもなく、その本能のまま、欲望のままに。
リフィルの問いかけに思わずくくっと笑みを浮かべたのち、
そのまま腕を胸の前で組んだままさらりと言い放つその様は、
彼らの知っている【エミル】という少年とは程遠いもの。
「ヒトは追い詰められない限り、その本性をみせようとはなかなかしないからな」
それは本音。
それこそ追い詰められることにより、各自の人格がわかるといってもよい。
中には他人を犠牲にしても自分だけは助かろうとするものもいる。
そしてすべてをあきらめてしまうもの、もしくはすべての責任を他者に押し付けるもの。
そして…それぞれがどうにかしよう、と抗うもの。
ミトスは、否、かつてのミトスたちはその一番最後に分類される”ヒト”であった。
「形はどうあれ、ミトスと交わした盟約の一つ。
  大いなる実りを大樹としてよみがえらせるというその盟約は一応は果たされてはいる。
  負の穢れによって歪んだ形とはいえ、な。
  大地の存続というもう一つの盟約もそれゆえにたがえはしない。
  だが、そこにヒトが生き残れるか否かは、今をいきるお前たち次第としれ。
  アレはそれを見極めるのには十分な効果があるであろう」
ミトスの本音は先ほどの会話で把握した。
ならばこちらも少しばかり手の内をみせてやるのもまた一興。
何しろ今後一切、自分は彼らに直接手を加えるということはしない予定なのだから。
真紅の瞳に対しての問いかけには答えになっていない、とはおもうが。
それから後、彼の口から語られたそのことはロイド達には衝撃すぎるもの。
クラトスとユアンはどこか予感があったのか、
しかしそれぞれつよく手を拳にして握り締めているのがうかがえるが。
「…ああ、どうやら始めたようだな」
『…え?』
”エミル”のつぶやきの意味はその場にいる誰もがわからない。
そもそもこの場にいるおろちもエミル…だとはおもう。
しかし瞳の色の異なる雰囲気も違う彼に対し何となく畏怖を感じてしまっていたりする。
それとともに、それまで満天の星空であったはずの空に瞬く間に黒い雲らしきものがおおっていき、
あっというまに星空、そして月ごと完全に隠してしまう。
それこそまた漆黒の闇の再来のごとくに。
「さて、と」
いいつつも、そのまま組んでいた腕をときつぶやく”エミル”に対し、
「…もう、いくの?ラタトスク?」
まるでお預けをくらった子犬のごとくの表情をして顔を陰らしつつつぶやくミトス。
そんなミトスの表情をみてユアンとクラトスがかなり驚いたのか目を見開いていたりする。
「ここにくるまでにいったがな。俺にもしなければいけないことがあるからな」
ミトスとの会話を終え、この場にくるまでにミトスには一応話してはいる。
四千年という位相軸をずらして存在させていた大地の歪みはそう簡単には収まらない。
しかも今回、無理やりに大地をずらし、本来の姿に戻したことにより、
センチュリオン達の統率によって魔物たちの努力のたまものともいえるが、
目に見える形での異変はさほど地上にてはおこりえてはいない。
「?いくって……」
そんな二人の会話の意味はロイド達にはわからない。
そもそも、これは本当にあのエミルなのか?
いつも温和な雰囲気であったエミルなのに、この威圧感ともいえる感覚は。
時折、この感覚は旅の中で感じたことはありはしたが。
あのとき、オリジンの封印を解いたときにも感じた違和感。
「――開け、境界の扉」
戸惑う彼らを背にしたまま、すっと片手を虚空にと突き出すエミル。
それとともに、ぐにゃり、と空間が揺らぎ、黒い渦のようなものが出現する。
「さて。と」
呟くとともに改めてそこにいる全員にとむきなおり、すこしばかり目をつむる。
そしてゆっくりと開いたその瞳は先ほどまでの真紅とはちがい、
彼らもよくみなれた緑の瞳。
「僕の旅はここまで。今まで楽しかったよ。
  僕にもやらなければいけないことがあるからね。
  一応だまっていくのも考えたけど、こういうのはけじめも必要だとおもうし」
一年近く、ともに旅をしてきた人間たちに別れの挨拶くらいはすべきであろう。
「エミル?」
「どういう……」
いきなりそんなことをいわれ、ロイド達からすれば困惑以外の何ものでもない。
「ミトスの本音もきけたし。以前約束した”一緒に旅をする”というのも
  一応今回のことで果たしたことでもあるからね」
一方的に言われていたことではあるが、否定していない以上、約束は約束。
困惑したような表情をうかべ、戸惑いの声をあげているコレットとジーニアス。
「な、ここまでって。この現状をお前はほうっておくっていうのか?!」
しばらく唖然としていたロイドであるが、
エミルの言葉がようやく理解できたのか、怒ったように叫びだす。
「ほうっておくも何も。いったはずだよ。これは君たち”ヒト”への試練だって。
  元々、僕は地上のヒトをすべて一度無にする予定でもあったしね。
  それこそかつて、ミトスの懇願にほだされてそれは撤回していたけど。
  本当にヒトは存続に値するか否か。
  それともやはりヒトとは世界にとって害虫でしかないのか。
  この試練はそれを見極めるためのもの。
  そもそも、いったでしょ?これ以上、僕ら精霊が君たちの手助けをすることはないって」
もっともいったのは八大精霊達なれど。
「…せいれ…い?」
その言葉をきき、困惑したような声をあげているおろちの姿もみてとれるが。
そういえば、統領であるイガグリは関係者であると把握しているであろうが、
彼らには正確にはエミル自身が精霊であることをいったことはない。

たしかに普通のヒトではないとはおもっていたが。
さらりと今、目の前の少年がいった台詞は自身も精霊であるかのような言い回し。
しかし、それだとかなり納得もいく。
雷の神殿で半ばとらわれていた状態のイガグリ統領の魂…
精神体を保護していたことも。
それからあとにあったことも。
それでもどうみてもヒトでしかない彼が精霊だ、というのに驚きを隠しきれない。
感情を表にださないようにと訓練しているみずほの民であるおろちとて、
いきなりといえばいきなりのその発現に思わず目を見開いてしまう。
ロイドにむけて、あきれたように小さく溜息をついたのち、
そのままくるん、と手を円を描くように小さく回す。
エミルの動作とともに虚空に出現していた黒い渦は瞬く間にエミルの背後にと
ゆっくりと降りてくるかのごとくに移動してきたかとおもうと、
次の瞬間。
そこには漆黒の、それでいて黒い鈍い輝きをもつどうみても扉?
としかおもえないようなものが、突如としてその場にと現れる。
「最後にもう一度だけ忠告。一度、ヴェリウスの元を訪ねたほうがいいよ?
  このままアレに挑んでも、今の君たち…特にロイドかな?
  確実取り込まれるのは目にみえてるし」
というか確実に狼狽する。
以前はあのアンナという人間の制御があったがゆえにどうにかなっていたようだが。
その守りも今のロイドにはない。
ロイドという存在はあるいみで不安定そのもの。
理がしっかりとないがゆえに、その感情もまたもろい。
種、としての理が確定していないがゆえの欠点。
ヒトでもあらず、精霊でもあらず。
かといって半精霊という立場でも、また人工精霊達にもあらず。
この一件が終わったのちはロイドも含め、
自ら理を歪めるにいたっている”自称天使達”に新たな”種”として確立させるつもりではあるが。
今はまだそれをしていない。
そもそも、それをするに値するか否かを見極めるための試練ともいえる今回の一件。
それにはあのランスロッドの行動は渡りに船ともいえること。
まあ、ほとんどの同胞が新たな惑星に移動したのをうけ、
半ばヤケになっている節が見え隠れしているような気もしなくもないが。
黒い扉に両手をかけるとともに、その扉が両開きのごとくにゆっくりと開かれる。
その先にあるのは暗闇とは違ったまばゆいばかりの虹色の空間。
ゆらゆらとゆらめく虹色のような白い空間が扉の先には広がっている。

「エミル!?わ、私…私っ!」
ここでエミルに何かいわないと。
二度と会えなくなるようなそんな不安がマルタの心に押し寄せる。
私、エミルのことがっ!
そう言葉を紡ぎかけるマルタであるが、それは声にはなならない。
あせればあせるほどに声ではなく、口がぱくぱくと動くのみ。
マルタが何をいいたいのか何となくではあるがわかる。
しかし、ここでマルタに声をかけるわけにはいかない。
そもそも、彼女はヒトとしてきちんと生涯を全うしてほしい、という思いもある。
かつての時は自らがかかわったために彼女の人生は波乱万丈ともいえるものであったのだから。
「じゃあね。皆」
そのまま両手で両開きっぽい黒い扉をおしひらき、
そのまま白く輝く不可思議に虹色に輝く空間にとゆっくりと歩んでゆくエミルの姿。
「エミっ…っ!」
エミル!
そうマルタがエミルの名前を全部言いかけるよりも早く、
パタン、と無常にもエミルを吸い込んだ扉は閉まり、
それとともに、すうっとはじめからなかったかのように、
今出現したばかりの扉は周囲の空気に溶けいるように掻き消えてゆく。
エミルにむけて手を伸ばしたはずのマルタの手は、ただただむなしく空中に突き出されるのみ。

――みせてもらおうか。
  ヒトはやはり愚かで世界にとっての害虫でしかないのか。
  それとも。
  ヒトもまだ捨てたものではない、とおもえるのか。 
  それはお前たちの行動次第――

扉が消えてゆく直前、この場にいる全員の脳裏に【声】が響く。
それは説明されてはいないが、”エミル”の声であると誰ともなく理解する。
「…そういう、ことか」
深い、それでいてとてつもなく深い溜息とともに、
一瞬、その場にみちた静寂を打ち破るかのようにクラトスが
言葉を吐き出すようにつぶやきをみせる。
「あの精霊が”エミル”としてわれら…いや、再生の神子の旅に同行していたのは。
  ミトス。お前の本音を聞き出す目的と、それとかつてお前が一方的にいったという約束。
  それを果たすため、だとみて間違いなかったようだな」
おそらくは、神子達とともに旅をしていればいずれはミトスにあえるはず。
そういう思惑もあったのであろう。
もっとも、旅に誘ったのは神子達である以上、
あの精霊にとってもそれは予想外であったことなのかもしれないが。
関係者であろう、とはおもっていた。
そもそも、魔物たちがいうことを聞いていた時点で関係者以外の何ものでもない。
とはわかっていた。
それでもしっかりとした確信がなかったからミトスに報告をあげていなかっただけで。
いや、予測できていても、自分は逃げていたのだ、と自覚してはいる。
そんなクラトスのつぶやきに、
「そういえば、あの精霊にとってエルフもヒトも、ハーフエルフも関係なく、
  ドワーフなどといった種族もすべて、”ヒト”という括りであったな」
当時、ヒトの国に強制的とはいえ協力していたドワーフたち。
まあ、ドワーフ狩りのような非道なる行いにて国々が強制労働させていた、というのもあるが。
ユアンとて、実験体として与えられたハイエクスフィアがなじみ、
完全に天使化していなければ、まちがいなく道具として扱われていたであろう。
いくらユアンの片親が当時のシルヴァラントのとある権力者であったとしても。
そもそもユアンがミトスたちに近づくことができたのは、
一重に国からの密命があったという理由もある。
でなければ、当時、それなりの地位についていたユアンが隊を放り出してまで
彼らの旅に同行されるのが許されるはずもない。
もっともユアンはそのことをひたすらに隠し、ミトスたちの偽善を暴く。
といった理由をつけて旅に同行していたわけだが。
「いったい……」
どこか納得したようなクラトスとユアンとは裏腹に、
意味がわからないとばかりに視線をさまよわせ、その視線をしいなにとむけているおろち。
「…とりあえず。エミルに関していろいろと感じるところもあるだろうけど。
  おろち、あんたがここにきた理由をきかせてくれないかい?
  あんたたちはたしか、アルタミラの警護にあたっていたはずじゃあ?」
統領の命令でおろちたちはかの地を守っていたはず。
そのおろちがなぜこの場にやってきているのか。
しかもレアバードにのって。
マナが乱れてレアバードの運転は怪しいといわれていたはずだが。
普通におろちはこうしてレアバードにのってやってきた。
まあ、みるかぎり、レアバードにみたことのない部位。
どこからどうみてもエンジンっぽいようなものがついているのがきにはなるが。
筒のようなドラムカンにもにた、それでいて異なる部位は、
レアバードの翼のしたに、これでもか!というほどにでん、ととりつけられている。
エミルが精霊だというのであれば、たしかにあのとき精霊達がいっていたように、
今後、直接的に自分たちにかかわってくるようなことはしないのであろう。
精霊達のあの決定ももしかしたら…と思わなくもないが、
今は消えたエミルのことよりも、なぜここにみずほのおろちがいるのかが重要といえる。
アルタミラに何かあったのか。
それとも統領からの何かしらの指令が下ったのか。
しいなはそれを知る必要がある。
今、何が重要なのか。
しいなとて何が何やら混乱しているという事実はかわりない。
しかし、おろちに問いかけるその姿は混乱している様を微塵も感じさせないほど。
伊達に七歳よりのち、里のものたちのつめたい視線と仕打ちに耐えて生きていたわけではない。
「あ。ああ。たしかにそうなんだけどな」
しいなに問われ、改めて気をもちなおし、問いかけに答え始めてゆくおろち。
しいな達がアルタミラから離れたのち、何があったか説明すべく。


「完成だ!」
『わっ!!』
歓声が沸き上がる。
外では異形のものたちが人々を襲っているのは知っている。
剣できりつけても霧散したとおもうとすぐに再生するそれらは厄介極まりない。
ファブレ伯爵が指揮をとり、何とか人々の被害を最小限に食い止めているものの、
街を覆い尽くすほどの木々の存在もあいまって、人々には疲労の色が見え始めている。
異形のものたちは少なくなっていくどころか時間とともに増えていっている。
日々浸食してゆく木々。
すでに街の大半は木々に埋もれたといっても過言でない。
かつての観光名所であったアルタミラの面影は今となっては懐かしいとすらおもうほど。
みしみしといつ植物の蔓に覆われ崩壊してしまうかもわからないレザレノ本部。
そもそも屋上の空中庭園に生えていた草木もまた以上なほどに成長しており、
屋上から木々の根が階下の階層を完全に浸食していたりする。
きっかけはとても小さなこと。
常に増えていくしかないとおもっていた異形の存在。
しかし、子供をかばって攻撃をうけようとした母親に対し、
なぜかソレは攻撃をすることなく、逆に霞のようにときえていった。
そのとき、母親から暖かな光のようなものが湧き出たという
マナを認識することのできるハーフエルフ達の影響もあり…
ちなみに、ここレザレノにはハーフエルフ達も幾人か勤めている。
かつてリーガルがハーフエルフ検索装置にちょっとした手心を加えるようにと指示し、
ハーフエルフであっても反応しないものでこの街は調べられることになっている。
だからこそ、ハーフエルフ達をエルフと偽りレザレノ・カンパニーとして採用していたりする。
もっともこれは、約八年前…正確にいえば今から九年前より少し前。
約十年ばかり前に採用されている事柄なれど。
ともかくマナを認識できるものがそれに気づき、今回の一件の打破につながるのではないか。
という仮定をつくりだし、とにかく倒しにいくたびに実験を重ねていた。
幸い敵は無尽蔵といっていいほどにわいてきている。
それこそローテーション制で何とか異形のものたちを排除していた
従業員であるハーフエルフ達を疲労させるほどに。
何でもそれらの異形からは、マナとは異なる波動の感覚が感じられるらしい。
マナの検索装置の反応をどうにかこうにか反転することにし、
ソレにあわせ強くマナをそれに重ねるようにして異形の輩にむけたところ、
どうにか相手を撃退することに至りはした。
もっとも、その知識もこの街にとやってきていた一人の女性と、
機械人形であるというタバサという女性の協力のもとではあるが。
どういう仕組みなのかはわからないが、機械人形の中には、
この国で唯一認識されているドワーフの人格が複写されており、
このたびの騒動についても多少のアドバイスをうけていた研究部署の面々。
これまで護身用にと開発されいまだに発表されていない、
研究者たちいわく命名の”スタンガン”。
それにその威力をあわせ、何とか個人でも異形の輩を撃退できる品を模索することしばし。
ようやくそれが完成に至り、誰ともなく人々から歓喜の声が沸き上がる。
と。
カンカンカンカン!
歓声にわく部屋の中、突如として外から鳴り響いてくる鐘の音。
それは異常があった場合、人々に危険を知らしめるための鐘の音。
「大変です!そらからこれまでにない異形のものたちが襲ってきました!」
それとともに、バタン、という音とともに研究者の一人が駈け込んでくる。
「奴らは言語を発しています。ケイトなるものを手渡せ、と」
「っ!」
「あ、ケイトさん!?」
話もそこそこにそれをきき、部屋から飛び出してゆくケイトの姿。
そして……


「…そして、ケイト殿は街にこれ以上の被害をださないという条件を相手につきつけ自ら投降した」
「ケイトがアルタミラを守るためにそのような行動をしたというのはきいてるよ」
タバサからそのあたりのことは説明をうけている。
自衛の道具云々の開発あたりは聞いてはいないが。
「そうか。タバサどのが説明したのだな。
  とにかく、ケイト殿が投降したのち、リーガル殿の指示もあり、
  お前たちに移動手段を確保させたほうがいいだろう、という話になってな」
リーガルは混乱する街から離れることはできない。
今、まさに混乱しているとわかっている中で現場を離れるという選択は
リーガルにとっては許容できるものではなかったらしい。
それでも何とかレアバードに取り付ける、本来ならば水上拘束遊覧船。
それに取り付けていた水を取り込み高速噴射するというジェットエンジン。
それをすこしばかりいじり…というか二、三隻の船を解体しそれを取り外し
それに改良を加え、アルタミラで自作した雷エネルギー。
それをもとに水に電気を通すことにより発生する力を利用し、
遠心力などを確固たるものとし推進力となしとげた。
「アレを含め、とりあえず八機用しかつくれていないが」
いまだにウィングパックの中にしまっていないレアバードにちらりと視線をむけたのち、
懐から一つの別なるウィングパックを取り出す。
そんなおろちからウィングパックをうけとりつつ、
「アレを取り付ければ普通にレアバードでの移動が可能、ということかしら?」
アレ、といって視線をむけるは、おろちののってきていたレアバード。
「動力となる”電気”が限りあるゆえに、一度にとはいえないが。
  まずは、アレを取り付けたのち、気球もあわせての移動をしたらいいのでは?
  という意見がでてはいる」
リフィルにウィングパックを手渡したのち、かるく溜息をつき、
「本当ならばもっと早くにこれらを渡せるはずではあったのだが。
  タバサ殿がケイト殿をおいかけて街からでていった後、
  何とか数がそこそこそろったのをうけ、私が代表して運ぶことになったのだが…」
あまり戦力を裂くわけにはいかない。
おろちはある意味で戦力たりえる存在なれど、弟のしでかした罪が消えたわけではない。
何しろ弟であるくちなわのせいで、みずほの民の情報が外に流出しているのである。
どこまで情報が漏れているのか。
強行一派だけに彼が情報を流していたとはいいがたい。
みずほの民の特徴として使えるものは何でもつかうという傾向がある。
里の位置すら漏れている可能性が遥かに高い。
しいなの血筋が統領から正確に発表されたのち、
しいなにそれまでむいていた批難はくちなわに、つまりはおろちの家系にとむけられている。
弟がああだっのだから、兄であるおろちも里を裏切るのではないのか。
という疑心暗鬼が里のものたちの一部のものに芽生えているのもまた事実。
それを払拭させるためにもおろちはかつてのしいなのように、
どんな困難な任務でもこなす必要性があったりする。
何しろ命をかけてもまもるべき、”皇家”の血筋を害そうとしたのである。
それも唯一、生き残っている最後の”皇女”を。
しいなには、まだそのことは告げるべからず、と統領から厳命が下っている。
そして副統領からも。
それでなくても七歳から今まで、十数年にわたり、里のものがしいなにしていた仕打ち。
心無い中傷や嫌がらせ、さらには殺そうとしていたものすらいる中で、
血筋がわかったからというだけで手のひらをかえした里のものをみて、
しいなが里に幻滅を抱きかねない。
しいなが里を見限れば、本当の意味でみずほの民は滅びを迎えることとなる。
みずほの民の潜在意義は皇家につかえるいわば隠密といわれていたものたち。
そのことをきちんと里のものに教育していなかった自分にも責はある。
と副統領や統領たちはいっていたが。
それらもすべては、しいなの御身を守るため。
かの地のいわゆるテセアラ側からいってみれば【王家】のものがいきているとしれば
テセアラ王家が何をしてくるかわかったものではない、という懸念。
事実、しいなの両親はテセアラ王家に追われていた。
その血筋と能力を恐れられ。
だからこそ、ガオラキアの森の一角でひっそりと暮らすことを選んでいた。
イガグリがあの地に里をつくったのも、かの血筋を見守り護衛するため。
目をとじ、イガグリ達からうけていた説明を思考の中にめぐらせつつ、
「準備がととのい、この地にまでやってきたはいいが、
  闇の壁のようなものがあり、中にはいることすらできない状態だったのだ」
空からこの地にやってきたが、降りることすら、また島に近寄ることすらできなかった。
「しいなのもっているとある品でしいなの位置は把握できていたからな。
  その波動をつたえるのも俺だけという理由もあって俺が選ばれたのだが……」
「ある品って…もしかして……」
おろちの言葉に懐からそっと小さなお守り袋をとりだすしいな。
それはかつて、しいながくちなわから手渡されたお守り袋。
そしてそのお守り袋の中にはくちなわの”式”がしこまれている。
位置を特定できるというとある”式”が。
ゼロスの報告だけでは動き回るしいなたちの行動を完全に把握できていたわけではない。
しいなのもつお守りがあったからこそ、教皇たちは先回りなどができていた。
そして、おろちとくちなわは双子。
普通、他人の式を扱うことは至極困難。
だが、波動が近い双子ならば話は別。
何よりもおろちは弟であるくちなわの式はとてもよくみなれている。
だからこそ、そんな式の波動をとらえることは簡単で。
本来ならば護衛が必要なはずのしいなに里の誰もがいまだについていない。
せめて位置だけでも常に把握しておいたほうが、というのが里の総意。
「ああ。そうだ。それにはいっている式の波動。
  それの波動をおってやってきたのだ。…実際問題。
  空からみておもったが本当に世界は完全に様変わりしているようだがな…」
いいつつ、疲れたように息を吐き出すおろちの様子に嘘はみあたらない。
かつてはグランテセアラブリッジによって大陸同士がつながれていたはずのこの地。
しかし、大陸の位置すら完全にかわってしまっていたりする。
そもそもアルタミラとサイバックなどがある大陸がほぼ隣同士になっており、
またトイズバレー鉱山のある大陸に挟まれた形になっているのにも驚いたが。
何よりもこの首都のある大陸が孤立した形でそれらの大陸よりもかなり北。
そんな位置に移動しているのが信じられない。
あの定期的に襲っていた地震は大陸が移動している反動であったのではないか?
そんな予測すらおもってしまうほどに。
もっともその予測はあたらずとも遠からず、なのだが。
詳しい事情をしらないおろちにそこまでの詳しい事情はわかりはしない。
「ようやく黒い壁が取り除かれ、この地にはいることができたんだが……」
困惑。
そうとしかいいようがなかった。
そもそも、メルトキオのある大地の形が空から見ていたからこそよく理解できた。
まったく変化してしまっている。
かつてのテセアラの地図はまったくもって役にはたたないと嫌でもわかった。
この地で何があったのか。
それはおろちにもわからない。
わかるのは、この大陸に入り込むのをこばんでいた闇の壁が取り除かれた。
というその一点のみ。
救いの塔があったとおもわしき場所にはあいかわらず不気味な塔っぽい何か。
がそびえたっているのもここにくるまで一応目視で確認してはいる。
「しかし、これはどういうことなんだ?」
一瞬、場所を間違えたかとおもった。
メルトキオの町並みは完全に失われ、あろうことか城の姿すら跡形もない。
この闘技場を発見しなければ、場所を間違えたのではないのか。
とおもえるほどに、メルトキオという街の面影はまったく皆無といいほどに
今のこの地は変わり果ててしまっている。
建っていたはずの家々は失われ、目視できるはいくつかの草木のみ。
しかもその木々も枯れ果てたように幹と枝のみをさらけだしていたりする。
「お前たちがトレントの森にいったというのはわかっていた。
  だが、式の波動をたどればまったく別の場所…しかもここは王都ときた」
おろちたちが把握しているのは、彼ら一行がオリジンとの契約のため、
エルフの里のある聖域にむかったということ。
それゆえに困惑してしまうのも無理からぬこと。
そんなおろちの言葉に一瞬、顔をみあわせるしいなとリフィル。
そういえば、と今さらながらに思い出す。
ここには、強制的に移動させられたということを。
オリジンの解放とともにこの地に移動させられた。
それ以後、第三者、つまりみずほの里のものたちとは当然接触をしていない。
しいていえばやってきたタバサくらいであろうが。
そもそもタバサがどうして魔族の結界の中にはいれたのか。
それは彼女が機械人形であり、またアルテスタの知識にて
一時的に結界を無効化してすり抜ける技をもっていたからにすぎない。
簡単にいえば、体全体を薄いマナでおおい、その上に瘴気を纏わせることにより
同質なものだとその結界自体に認識させ割り込むことができるのだが。
大地とともにいきるドワーフだからこそ、マナの質を見極めることは可能。
もっとも、アルテスタほどその感受性の高いドワーフは今ではもう残っていないが。
「そもそも、オリジンの解放は…いや、できているのだろうな。
  あの声のこともあるし」
そんなおろちの言葉にやはり、あの”声”は自分たちだけに聞こえていたわけではない。
とリフィルもしいなも確信する。
約一名、まったく意味がわからないのかすことばかり首をかしげているロイドもいるが。
「さきほどのリフィル殿の説明で魔族といわれるものが絡んでいる。
  というのは確実にわかったが。そもそもアルタミラにも奴らの配下はやってきていたしな」
リフィルの回想というか説明により、大まかなことは把握した。
もっとも、あのケイトの身におこったこと、に関してのみだが。
リフィルの説明にはどうしてここにいたのかとか、何がおこっていたのか。
そういう根本的なことには触れられていなかった。
何しろリフィルは混乱をさけるため、聖獣とよばれし彼らのことも説明しておらず、
また、ミラとミュゼのことも説明していない。
彼女たちのことを説明するとなれば、それこそ飛空都市のことまで説明する必要がある。
そしてそれは、今は必要ないこと、とリフィルは判断し説明から省いている。
「とにかく。今は時間がおしい。
  ざっと話を聞いただけだが、コリン…ああ、今はたしかヴェリウスだったか?
  エミル殿がいっていたように会いにいくというのも一つの手ではある。
  どうやらあの黒い異形の”何か”達は
  ヒトの心の負の感情によって具現化するようだしな。
  心を見守るという精霊ならばその対処手段も」
アルタミラにて人々の体からあの黒い異形のものたちが発生するのをいくつもみた。
彼らにはいっていないがおろちとて、アレを発生させてしまっていた。
もっとも、黒い自分と戦い、その黒いもうひとりの自分から吐き出される思いを
自らが受け入れ認めることによってアレは再び自分の中へときえていった。
自分の中にいるもう一人の自分。
掟などにとらわれることなく、すべてを壊してなかったことにしてしまいたい。
という無意識化の願望。
忍としての訓練を受けていたおろちとて自らの内面を暴露されるようにいわれたとき
動揺を隠しきれなかった。
そしてそれは他の仲間たちにもいえた。
ブライアン公爵もまた、黒いもうひとりの自分を生み出していた。
それでもなぜか、愛していたとかいうアリシアという少女の話になり、
なぜか黒い影と意気投合してきづけばまた一つにもどっていたという逸話があるが。
しかし、中には自らが抱く醜い思いを認められないものもいる。
そういう輩はもう一人の自分に体をのっとられるか。
もしくは当人自らが異形の姿に成り果てるか。
認めずソレを排除したことにより、当事者が廃人同様となるか。
どちらにしても自らが心の闇と向き合わないかぎり、アレに対する対処はない。
それはアルタミラにて嫌でもおろちは思い知っている。
この地はアルタミラほどひどいことになっていたのかどうかはわからない。
実際はアルタミラよりもかなりひどいことになっていたのだが。
フェニアによる浄化の炎にてその痕跡がまったくといっていいほどに消えてしまっているだけ。
この地においてはほとんどのものが自らの心の闇を認められず、
人格を壊しそこにランスロッドに引き寄せられていた下級魔族が憑依し、
完全なる下級悪魔…レッサーデーモンやブラスデーモンとよばれし異形のものにと変化していた。
そしてそれらは当然のことながら人々を襲っていた。
そんな中、現れた天使達。
住人達にとっては天の救いがあらわれた、と勘違いしても不思議ではない。
事実、ユアンの指揮のもと、助けられた人々は、
よりマーテル教を盲信的なほどにこれまでにないほどに信じ込んでしまっていたりする。
かの声はこの地にまで届いていたようだが、漆黒の闇に閉ざされた地にて、
彼らは何がおこっているのか理解することすらままならなかった。
そもそもこの街からでてゆくことすらあやしかった。
よくぞそれでもここまで住人の命がもったという理由は、
暴徒と化した人々がおそった国が保有する貯蔵庫よりある程度の食べ物が
自然と人々の間にいきわたっていたからに他ならない。
…もっとも、その食べ物をめぐりいくつもの争いもまたおこっていたりもしたのだが。
そもそも貴族街が襲撃されたのもその一端。
この街が異変に襲われてから大分たつ。
ずっと暗闇に覆われていた人々はどれほどの時間が経過したのか、
完全に把握してないにしろ。
ようやくこの地に立ち入ることができたばかりのおろちはそこまで情報に詳しくない。
いくら彼らみずほの民が情報収集にたけているとはいえ、
立ち入ることすらできず、また間者とつなぎすらとれていない状態で、
何がおこったのか把握してれてはいない。
それでも、いわけなればならないこと。
その優先順位だけはおろちはきちんと把握している。
「心の精霊…かつてのコリン、ね」
コリンがヴォルトの攻撃に貫かれ、そして姿をかえたあの一件。
それは今でもその場にいたものたちの心に深く刻み込まれている。
本来ならば、エミルがあの場にいなければ。
また、エミルが常にコリンにマナを供給していなければ、
コリンはあの場で一度完全に姿をけしてしまっており、
しいなの心にかなりの影を落としていたというのを彼らは知らない。
知る由もない。
エミルの介入にてその場にて姿を取り戻したヴェリウスしか彼らは知らない。
「そうだ。かつてしいなと共にいたコリンが心の精霊というものにかわったのは、
  我らみずほの民とて把握している。
  アルタミラの精霊研究者がいうには、
  どうもヒトの体から湧き出している黒い何かはヒトの心に巣食う負の感情。
  どうやらそれらが具現化されたものらしい。
  実際、負とは異なる生なる心にてそれらが消滅したのも確認ずみだ」
暖かな光とともにそれをのみこみ、異形ものは消滅した。
ほとんどが家族を、大切なものを守ろうとした人物限定でおこっていたが。
「…イセリアの村長のときもそれに近いことを確かいっていたわ…
  つまり、自らの心ときちんと向き合わなければ逆に飲み込まれかねない。
  ということかしら?」
「しかり。あの声がいうのが事実なれば…まあ、事実なのであろうが。
  実際、救いの塔のあった場所はまがまがしい塔のような何か。
  樹と塔が合わさったような不気味な外観なものに変化してしまっているしな。
  遠目からその塔に何かがとらわれているようにみえなくもないが。
  アルタミラにあった遠視望遠鏡なるものによってかの場所を確認してみれば、
  蓮の花のような淡い輝きをもつ何かがかの場所に取り込まれているのがみてとれている。
  …あの”声”を引き合いにだして考えれば、女神マーテルがとらわれている。
  という可能性は少なくない」
ぴくり。
その言葉にミトスが盛大にと体を震わせる。
そして。
「あの歪んで発芽した大樹の中に本当に蓮の花のようなものがみえたの?
  それって、青白い輝きをもつ蓮のはなのような水晶みたいな?!」
それが事実であれば、大いなる実りは完全に発芽したというわけではないのかもしれない。
…まあ、かの精霊がかかわっている以上、何かしらの手をうっているのは明白なれど。
女神というのはクルシスがうみだしたウソであるのはわかっているが。
それでもマーテル教のとなえる女神を呼び捨てにしていれば何らかの不都合がでてきかねない。
みずほの民の情報収集力はいうまでもなくかなり優秀。
ついでにいえばとある一件より、レネゲードの協力もあいまって、
今では完全にマーテル教自体がクルシスによる自作自演でつくられた偽りのものだ。
というのを里のものは把握している。
「あ、ああ。ここにくる前、アルタミラから移動するにあたり、
   簡易望遠鏡である程度近づいて確認してみたからな」
それでも完全に近づくことはままならなかったが。
聞けば近づけば近づくほどにあまりの不快感と体力が根こそぎ奪われる感覚。
それもあって完全に近づくことはできなかった。
そんな説明をしつつ、いきなり反応してきたたしかミトスとかいったか…
の態度に戸惑いつつもおろちが答える。
それをきき一瞬思案するような表情をみせたのち、
「とにかく、姉様を助けなきゃ……」
「まて、ミトス。やみくもにいくのは危険だ。
  今はランスロッドも待ち構えているだろう」
「でも!もしも姉様に何かあったら!」
「あの精霊がかかわっていたのだ。
  簡単にマーテルに何かあるとはおもえん。
  というか、センチュリオン・アクアなどが悲しむようなことを、あの精霊がするとおもうか?」
マーテルとアクアは仲がよかった。
わざわざミトスやロイド達と行動をともにしていたあの精霊が、
自らの僕たちが悲しむようなことをするとはあまりおもえない。
何だかんだといいながら、けっこうあの精霊はミトスをというよりヒトを気にかけている。
そんな感じをうける。
実際、かつてロイド達を救いの塔から助け出したときレネゲードの人員に
主だった被害はうけなかった。
あの精霊がその気になれば構成員など瞬く間に死んでいてもおかしくはなかったはず。
…まあ、牧場の構成員に関しては確実にあの精霊がかかわっているであろうが。
というか、牧場における自爆装置はあのように完全に建物を消滅させるような威力はない。
それを建築にもかかわったユアンはよくしっている。
にもかかわらずあのように綺麗さっぱり消えていたということは、
確実にあの精霊がかかわっているという何よりの証拠。
…もしくは目覚めていたセンチュリオン達の独断か。
今にも一人で翼をもってして飛び上がりかねないミトスを冷静にととどめるユアン。
「かつての大陸に戻っているとすれば、ここが夜である以上、あのあたりはこれから日が暮れるはず」
地図ではかなり省略して昔も描かれていたが、
かの大陸とこの闇の神殿がある大陸とは実はかなり離れている。
どちらかといえばこの地はかつての争いで失われたという
南極といわれた位置にほど近い。
もっとも、古の大戦、古代大戦…自分たちが生まれるよりも前に、
南極、北極といわれていた氷の大陸はもののみごとにマナが不足し
完全に海にとかえってしまっていたらしいが。
まだ世界が一つであったころの地理を思い出しつつ言葉をつむぐユアンはあるいみ冷静。
ユアンとてマーテルの状態が心配といえば心配。
だからといって何の策もなく、敵に挑んでゆくことを許容できるはずもない。
おそらくミトスは止めなければ、いや止めても一人でも行動しそうな雰囲気。
「やつら魔族は夜になると活性化する。せめて夜があけるのをまったほうがいい」
ユアンの言葉にクラトスも同じようにうなづきをみせつつもミトスに進言するが、
「でも、あのランスロッドが向かった先。まちがいなくあの場所でしょ?
  あいつが姉様に何をするかわからないじゃないか!」
ミトスとしてはそれが不安。
かつての自分がうけたような精神的な攻撃をもし姉がうけたとするならば。
歪なる形で発芽…完全ではないのかもしれないが、
ともかく大樹もどきが発芽している以上、姉の精神体に何らかの影響がない、
とはいいきれない。
「……ミトスはマーテル様のことが心配なんだね」
「当たり前だろ!」
ミトスの焦りが手にとるようにわかり、すこしばかり顔をふせつぶやくコレットに対し
思わずいらだったようにいいきるミトス。
「きっとマーテル様は大丈夫だよ」
「何を根拠に!この…っ」
出来損ないの神子が!といいかけるがそれ以上の声にはならない。
にこやかな笑みを浮かべているコレットの表情が、
一瞬、マーテルと重なっているかのごとくの錯覚をミトスはおこし声に詰まってしまう。
「あのね。何ていっていいのかわからないけど。
  私、以前、マーテル様を受け入れたことがあるでしょう?」
かつてコレットはその身にマーテルの精神体を受け入れたことがある。
というか強制的に受け入れさせられたというべきか。
「ああ。あったね。あのときはゼロスにかなり迷惑かれられたけど、ね!」
しいなの言葉に少しばかりとげがあるのは仕方がないであろう。
そもそも、あのときのゼロスの行動は今思い出しても腹がたつ。
ロイドといえばその時のことを思い出したのか若干顔色がわるい。
為せばなる、の精神で突入していった救いの塔。
ゼロスを手にかけたあのときの生々しい感触。
そして一人、一人と自分を先にすすませるために離脱していったときの後悔。
何の策戦も立てずに行動した結果、最後の最後にはジーニアスまで。
最終的に皆助かっていたので今では思いで話の一つでしかないが。
そうでなかったとしたらぞっとする。
そういえば、と改めてロイドは不思議におもってしまう。
あのときあれほど後悔して自らを戒めていたはずのあの感情。
いつのまにかそれらの感情はなくなっていた。
思い出せどもまるで他人事のように綺麗さっぱりと。
ロイドは知らない。
我が子にそのときの感情を再び経験させないようアンナが抑えていた、ということを。
本来ならばあの出来事はロイドの心にかなりの問いかけをするにふさわしきできごと。
しかし、精霊石の中にいるアンナによってそれは抑えられていた。
ロイドが悲しい思いをしないように、ただそれだけのために。
しかし、今現在、アンナが入り込んでいた精霊石はすでにない。
それゆえに思い出したロイドの感情を制御するものはもはやいない。
あのときの自分の行動と考えのなさ。
あの時のことを思い出し、自己嫌悪におちいりつつも、
おもわずぐっと無意識のうちに手を握り締めているロイド。
ある意味で、コレットを助けるためだけに皆を見殺しにするしかなかったあのとき。
すべてを助けたい、というその思い。
しかし現実は時として非情でしかない、というリフィルの言葉の意味。
これまでその時は考えていてもすぐにわすれていたこと。
崩れゆく床の部屋の中でリフィルが言った台詞がロイドの中にと蘇る。
――わからないのなら。人がいきる、ということがどういうことなのか。
  これからの人生で学び取りなさい。あなたへの最重要課題よ。
  …そして、それがあなたの先生としての最後の教え、です
あのときいわれたリフィルの言葉。
すっかりなぜか忘れさっていたその言葉がロイドの心にぐさりと突き刺さる。
なぜに忘れていたのか。
それがロイドにはもどかしくてたまらない。
あれほどつらい思いをしてあのときいろいろと決意したはずなのに。
気付けば忘れさっている自分の心に今さらながらにようやく気付く。
そんなロイドの様子をみて少し心配そうな表情を浮かべるものの、
今はともかく、ミトスに何とかして説明しようと言葉をつつげるコレットの姿。
「何ていったらいいのかな?あのときね。
  私の中にマーテル様の意識もあったけど、
  マーテル様の意識の一部はあの大いなる実りの中にもあったの。
  あのとき、ゼロスが現れたとき、マーテル様を包み込む暖かな感じ。
  それを感じたの。あのときはわからなかったけど。
  今ならば何となくだけどわかるの。あれ…エミルがもっている暖かさだったと思う」
まるで包み込むかのような暖かさ。
確かにあのとき、マーテルの精神を包み込むかのような暖かさをコレットは感じた。
客観的に感じていたがゆえにわかったのかもしれないが。
そして、その感覚は今思えばつねに自分たちを見守っていた
エミルの雰囲気というか暖かさそのもの。
それはコレットの直感でしかないが、でもおそらく間違っていない、とおもう。
「あのとき、ゼロスが何か種子の中にいれているのもみえていたの。
  ゼロスにきけば詳しくわかるとおもうけど……」
しいなの怒りはもっともなれど、
とらわれていたコレットは実際に経験していないがゆえに何ともいえない。
それでもあのとき、
現れたゼロスが何か種子の中に入れ込むような動作をしたのは”視えて”いた。
自分の体がマーテルの意思と合わさって自由にならなかったが、
周囲のことは客観的にみてとれていた。
まるで自分自身を二つの視点からみるかのごとくに。
この場合は三つというべきかもしれないが。
ともかくあのとき、ゼロスが何かをするとともに、
マーテルの精神体を暖かな”何か”が包み込んだ。
それからすぐにマーテルの精神体はコレットから離れていってしまったが。
それが何なのかコレットがきちんと把握するよりも前に。
「ああもう!思い出したらまた腹がたってきた!
  あのときのあいつは絶対にやりすぎだよ!」
「それについては同感ね。まあ敵をだますにはまず味方から、とはいうけども」
あの時のことを思い出し、再び怒りをあらわにしているしいな。
そんなしいなに同意しつつも、ちらりとロイドをみやるリフィル。
ロイドはあのときのことを思い出したのか、ぎゅっと手を握り締めている。
そういえば、あのときロイドは反省した素振りをみせていたが。
やはり時間とともに何ごともなかったかのようにふるまっていた。
今のロイドの表情は、あきらかにどうして忘れていたんだろう?
と自らを批難する表情であることを、リフィルはこれまでの経験上、
ロイドを教えていた時間の中で身をもって知っている。
ロイドはよく自らに都合の悪いことはすぐわすれ、
思い出したときに同じような表情を浮かべていた。
ひどいときにはそんなことあったっけ?といいきったときもあったほど。
すべてはロイドを守っていたアンナによる効果であったわけだが。
そんなことを第三者がわかるはずもなく。
いつのまにか、ロイドには忠告などしても無駄だ、
というあきらめのような風潮が村人の中にも芽生えていた。
実際、あれほど強く忠告したにもかかわらず、
ロイドは牧場に近づき協定を破る行動をし村にディザイアンたちを招く結果となった。
ディザイアンたちの牧場は、魔科学というものにて周囲や離れたところも観察しているというのは、
ディザイアンについての授業でリフィルは口をすっぱくして教えていた事柄の一つ。
だからこそ、かの地に近づくことは命を大切にするためにも好ましくない、と。
それすらいつも授業をまともにうけていなかったロイドは忘れていた。
というか覚える気がなかったともいえる。
さすがのこの子も今回のことで少しは成長した、のかしら?
ロイドの教師としてはリフィルはそう思いたい。
すくなくとも、口でいうよりも実際に経験するに勝るものはないのだから。
「テセアラの神子があの精霊と通じていた可能性は高いな。
  そもそも、神子の妹のセレスの病弱体質は普通の治療でなおるものではない。
  そもそも生まれついての体質であったはずだからな」
それはより近いマナ…遺伝子ともかつてはよばれたものたちを掛け合わせていっていたがゆえ
あまりに近しいマナゆえに体質にと歪みが生じていた。
より血が近しいものの間にはそのような虚弱体質のものや
五体満足でないものが生まれてくることが多々とある。
ここテセアラにおいては生きていく上で、また周囲に対する体裁が悪い、
という理由でそういった子供たちは生まれながらに抹殺される。
そしてシルヴァラントでは生きていく上でやはり子供が生きづらい、
という名目のもと、やはりそういった子供は闇から闇へと葬られていた。
「だが、いつのまにかテセアラの神子の妹は健康体を取り戻している。
  そんなことができるのはあやつ以外には考えられぬ以上、
  テセアラの神子があいつと何らかの接触をもっていたことは確実だろう」
というか確実に何らかの行動を起こしていたはず。
それほどまでにテセアラの神子は妹のことだけはひたすら取り組んでいた。
妹が少しでも幸せになれるように、健康体になれるように。
そして、幽閉されている修道院から自由になれるように。
そもそもクルシスに協力しはじめたのも、
自らの地位を妹にゆずり彼女の安全を確保しようとしたゼロスの思惑から。
それをミトスが利用しようと動いたにすぎない。
ミトスが直接指示するのではなく、ユアンやプロネーマといったものが
クルシスからの神託、としてつなぎをとる形となりて
ゼロスはクルシスにとっての諜報員のようなものにと成り果てた。
しかしゼロスはしたたかでもあった。
クルシスだけでなく、テセアラに接触をもとうとしていたレネゲード。
彼らにもつながりをもとめ、情報を提供するかわりに彼らからも情報を。
という等価交換ともいえる協力体制をこぎつけていた。
そんな神子だからこそ、また頭の回転がよすぎるがゆえ
エミルがかの精霊の関係者であると見抜き何かしらの取引をしていてもおかしくはない。
という確実に何かしらのやり取りはしている、とユアンは踏んでいる。
実際そんなユアンの思惑はしっかりと当たっていたりする。
「…そういや、あのときのゼロスが使ってた血糊のはいった防護服。
  …テネブラエって名乗ってた奴が用意したとか何とかいってたような……」
懇親の力作です!とあの時たしかに表れていっていた。
『・・・・・・・・・・・』
「…テネテネのやつ、何してるの?」
ロイドのぽそりとしたつぶやきに一瞬その場に沈黙が訪れる。
思わずぽそっとつぶやいたミトスの心情はあの場にいたものたちと、
ユアン達も含めて皆が抱いた思い…すなわちあきれさせるを得ない。
いったい、あの犬もどきは何をやっているのだ。
とセンチュリオン・テネブラエ…エイトリオンとも名乗っていたその姿を思い出し、
それぞれの思いが相談したわけではないのにほぼ一致する。
「…あれはそういえば、そういった人をおちょくることに関しては嬉々として参加していたな……」
そしてアクアとよく言い合いになっていた。
「――テセアラの神子に確認したほうがよかろう」
「あの神子が素直に話すか?」
溜息とともにつぶやくクラトスに対し、こめかみに手をあてつつも
こちらもまた盛大に溜息をつきつつつぶやくようにいうユアン。
あの神子のこと。
おちゃらけた様子で話をはぐらかしてくるのが目にみえている。
「お。皆集まってるな~。というかやっぱりおろちか。
  レアバードが闘技場に降り立ったのがみえたからきてみたんだが…
  何か、今、俺様の名前を呼んでなかったか?」
幾人かが完全に話をはぐらかすゼロスの姿を脳内で想像し、
リフィル、ユアン、クラトス、そしてしいなが溜息をついたその直後。
「…噂をすれば何とやら…だよね」
「ですね」
この場に入口からはいってくるちょうど今、話題に上っていた赤い髪の人物。
その姿をみとめ、ジーニアスがあきれたように溜息まじりにつぶやけば、
そんなジーニアスに同意とばかりにつぶやくプレセアの姿。
誰が言い出した諺なのか。
よくダイクも口にしていた諺の一つ。
噂をすれば何とやら。
すなわち、噂をしていればその当事者、もしくはその出来事が起こり得る。
それをまさに実証したかのように現れたゼロスをみて
呆れたようにつぶやく彼らはおそらく間違ってはいない。
その場にいたものたちもまた、同じ思いを抱いたのか、
クラトスはこめかみに手をあてており、ユアンは盛大に溜息をついている。


レアバードが闘技場にと着陸した。
その情報は生き残っていた一部の教会関係者達からゼロスは報告をうけた。
もともとゼロスに表だって協力していたものは一切残ってはおらず…
聞けば、闇に閉ざされしばらくしてどこかに兵たちにつれていかれた、らしい。
生き残っているものたちはしらないが、連れていかれたものたちは
マナを吸い取られもはや生きてはいない。
このような現状になってまで、元教皇についていこうという輩はもはやいない。
それどころかそんなことをすれば、この街に降臨した天使達にどんな天罰が下されるか。
それこそかつて噂であったスピリチュアの降臨再来どころではない。
異様に従順になっている教会関係者や城の関係者…
どうやら城にいなかった一部の兵たちは今回、被害者からは免れてはいるらしい。
城が綺麗に消えてしまった今、城にいた仲間たちの生存は絶望的。
神子であるゼロスの説明により…さすがゼロスというかすばやくウソをウソで塗り固め、
女神マーテルが本来封印していた存在…すなわち、魔族といわれている輩がいる。
伝承では愚かなるものディザイアンを女神が封じていたとなっていたが、
そのディザイアンすらその魔族といわれる輩たちの捨て駒にすぎないことと、
無事にとはいいがたいが大樹を発芽させるに至りはしたが、
魔族の力の源といわれている負の力。
その力があまりに世界に満ちすぎており、歪んだ形で大樹は発芽し、
それを抑えようとした女神ごと彼らはとらえてしまった、と。
その内容はある意味であの世界に響き渡った【声】を否定するでもなく、
別の意味で肯定せざるを得ないもの。
自らに常に下っていた神託も、このたびシルヴァラントの神子と旅をしていたのも、
クルシスからの神託にて魔族の動き…封印がとけかけているという神託をうけたがゆえ
国王陛下も自らがこの国を離れる許可をあたえたものの、
しかし内容が内容。
クルシスからの神託にて不穏な動きを常にしているかの教皇には伝えるべからず。
とあったことからそれを秘密裏にしていれば、ゼロスを反逆者として教皇が手配をかけてしまった。
教皇を廃嫡できたものの、魔族の動きは収まってはおらず、
以前のサイバックでの騒動や、エルフの隠れ里があるというユミルの森での騒動。
それらもすべてはそれがらみである、というような説明がゼロスの口からなされている。
嘘も方便とはいうが、物事をあまり矛盾なく、
それでいて納得させるだけの物語を即席で創り出すその様は、
あるいみゼロスはミトスと共通する部分がある。
ゼロスは知らないが、
その話の筋道はまさにミトスが考えている世間にむけての表向きの理由そのもの。
今回の騒動が収まるか、ある程度おちつけばクルシスからの発表として考えている内容そのもの。
魔族のことについて人々に語られていなかった、マーテル教の経典にものっていない。
その事実については、愚かなるヒトがそんな魔族をよみがえらせようと行動しかねないから。
という懸念ゆえ、神子とそしてクルシスが認めたもののみに真実が語られている。
といった内容をゼロスは神官たちを通じ人々に説明している。
本来ならばこれは機密事項なれど、今の状況が状況。
勝手に話した責はすべて自分が負う、とまでいいきったゼロスに
人々のさらなる尊敬が向かったのはいうまでもない。
セレスもまた生き残っていた人々に声をかけては見舞っており、
さすがは慈悲ぶかき神子ゼロス様の妹御だ、と。
神子ゼロスを害そうとしたというセレスに関する表向きの軟禁理由。
それを信じていたものですら、その噂はあの教皇が行っていたというのもあり、
彼女もまた教皇の被害者であるという認識が人々の中に芽生え、
逆にセレスは人々から聖女扱いをし始めていたりする。
セレスが魔術をつかえるのも神子の妹、神子の血筋であるがゆえに疑問に思うものはいない。
それこそ逆に治癒術…このたびの中でセレスはリフィルから治癒術の施しをうけており、
簡単な治癒術ならば使いこなせるようになっている。
まだ高位の術は使いこなせはしないが。
初期の治癒術、”ファーストエイド”の威力は格段にと上がっている。
もっとも、高位の術をあまりつかえない理由の一つに、
高位の術はそれなりに精神力を昇華する。
それでセレスの身が…それでなくても今は健康体になったとはいえ
何かあってはいけないという過保護極まりないゼロスの反対によって
表向きセレスはつかえない、ということになっている。
実際はこっそりと練習をかさね、かなりの頻度でその効果はでているのだが。
それこそ、以前、旅にでた当初のリフィルに匹敵する程度には。
「ああ。それは俺様もみえた」
そもそも指揮を任せられる役職についていた輩たち。
そのことごとくが消えてしまっている。
おそらくほとんど城につめていたのであろう。
ゆえに生き残っているのは役職についてはいるが城つとめではなかったものたち。
ある意味、頭でっかちの輩たちがほとんどいないこの現状は喜ぶべきなのかもしれないが。
これまで民を見下していた生き残っていた貴族たちですら、
今はかなりその考えを改め、というか民たちにたいし常に恐怖を抱いている。
見下していたものたちの暴徒化したその姿は貴族たちにかなりのダメージを与えているらしい。
まあ自業自得しかいいようがないものもいはするが。
非道なる行いをよくしていたものたちは暴徒化した民の手によって引きずりだされ、
それこそ彼らが民にしていたような非道なる行いによって命を落としたものも数しれず。
それはかつての彼らが民にしていたこと。
身分が自らよりも下なのだから何をしてもいい、と思い上がっていた貴族達に
魔族の瘴気の影響もあり人々が暴徒化しそんな彼らに制裁を加えていた市民たち。
三度、闇につつまれるという経験をした人々の不安はほぼピークに達しており、
神子ゼロスにすがるという行動にでるのは心理的にも仕方のないこと。
それほどまでに人々にマーテル教の教えは根付いている。
さらには女神の使いといわれている本物の天使まで現れている以上、
救いを求める人々の心はいうまでもなく。
その天使達はユアンの命令でなるべく民に対して冷たい態度をとらないように、
という内容がくだされており、しかし愚かなる劣悪種に優しい態度がとれるはずもなく。
どちらかといえば可もなく不可もなく、といった態度、
すなわちかかわってこない限りは完全にいないものとして扱う、
という態度で天使達はこの街に滞在しており、
動かない天使にかわりゼロスが動くハメになっている今現在。
公爵という立場ゆえ、ゼロスはロイド達は実際にこれまでのゼロスを知らないのでしらなかったが、
人を扱うその手腕は国王すらうならせるものをもっている。
それこそ、ゼロスの女癖の悪さ…と思われているそれを踏まえてあまりあるほどに。
リーガルいわく、ゼロスの女癖さえなおせばこれほど統治者にむいているものもいない、
と言わしめるほどに。
とりあえず、街がこのような姿になった以上、街を維持してゆくために必要なこと。
必要とおもわれる行動、それにともなう責任者。
こうみえてゼロスはつかえる人材はすべて頭にとはいっている。
城にいたであろう使える人材はやはりみあたらないがそれ以外の使えるもの。
身分とわずに役目をあたえ、今後のことがスムーズにいくようにと采配していっていた。
そんな中、ケイトが空に浮かんで飛び去ってゆく姿を目にし、
その後、レアバードがこの街にちかよってくるのも認識していた。
ケイトの身に何がおこったのかはわからないが、すくなくともロクなことではないのであろう。
だからといってこの場の責任を放り出して駆けつけることなどできはしない。
人々がさほど混乱せずにある程度落ち着いているのもゼロスの尽力のたまものといえる。
あとは何かしらの精神向上を抑える効果でもあるのでは?
とおもえるほどのおいしい料理の配布。
まあ、あれはエミル君がつくってたのもあるしなぁ。
これまでの旅でエミルのつくる料理がそのような効果があることをゼロスは知っている。
知っているがゆえに今回ばかりはエミルのその料理に感謝せざるをえない。
アレがなければもっと今この街はよりひさんなことになっているであろう。
それがわかるがゆえゼロスとしては何ともいいようがない想いを抱いてしまう。
先刻、エミルが闘技場のほうにむかっていったのはしっている。
たしかその前にはミトスもあちらのほうにむかっていっていたはず。
彼らはおそらく何かしらの会話をしたはず。
おそらくは…かの精霊はミトス・ユグドラシルの本音を聞き出しているであろう。
ミトスの本音、それはゼロスにもわからない。
わからないが予測を立てることはできる。
それをうけ、あの精霊がどのような判断をするのかまでは予測不能。
そんな中でのレアバードの飛来。

「外部と連絡がつくようになったのでしょうか?」
三度闇に包まれてのち、まったく外部との連絡手段がなくなっていた。
サイバックの研究機関で開発されていた通信手段もとれず、
伝書鳩といった手段すらとれなくなっていた。
そもそもこの場から逃げられる手段をもっていた翼あるものたちは、
異変の前にこの街から一斉に避難しており、
ヒトにかわれていたハトなどはなぜか鳩小屋がひらかれており、
それらのハトも飛び立ちもどってきてはいない。
ちなみに鳩小屋などを解放したのはセンチュリオン達の命令をうけた魔物たちなれど、
当然そんな事実をたかが人間たちがしるはずもない。
困惑ぎみに語り掛けてきた神官の一人に対し、
「闇が取り払わられたということはその可能性もあるだろう。
  レアバードということは、みずほの民かレネゲードという可能性も高い」
今、あれを所有しているのは一部のみずほの民とレネゲード。
クルシスの天使が地上におりてきている以上、
どうも強制的に転移させられていることから彼らがレアバードをもっている可能性は低い。
そもそも日常的にウィングパックを持ち歩いているゼロス達ならばともかくとして
あの天使達がそんなものをクルシスにて持ち歩いているとはおもえない。
ならば、身一つで地上に放り出されたとみてほぼ間違いはないはず。
「まずは自身が様子をみてくる」
「危険でございます!神子様!」
自らが率先して動くその姿は、民を思いやってのものだ、と
神官たち、ましてや民たちは思っている。
ゼロスの本来の思いはどうであれ。
「大丈夫だ。お前たちは民が不安にならないよう、気を付けてくれればいい」
「しかし……判りました」
おそらくいっても無駄。
ゼロスに護衛をといっても、自分により民に、と聞き入れないのも目にみえている。
それゆえに折れるしかない。


闘技場の内部にはいり、おそらくはレアバードが着地しているであろう広間。
そこに足をむけてみれば、自らの名をその場にいるものたちが口にしているのが聞き取れる。
どうやらこの中にはしいなたちもやってきているらしい。
まあ、あの現状をみてこの場にかけつけてきたのであろう。
「お。皆集まってるな~。というかやっぱりおろちか。
  レアバードが闘技場に降り立ったのがみえたからきてみたんだが…
  何か、今、俺様の名前を呼んでなかったか?」
何かその場の空気が何ともいえない雰囲気をもっている。
それゆえに場を和ます意味を踏まえ、あえていつものお気楽な態度。
すなわちおちゃらけた様子の演技をしつつ、内部に足を踏み入れる。
それとともにちらりとゼロスのほうをみて溜息をつくもの、
リフィル、ユアン、クラトス、そしてしいなは旗からでもわかるほどにあからさまな溜息をついている。
「…噂をすれば何とやら…だよね」
「ですね」
あきれたようなジーニアスのつぶやきと、なぜかそれを肯定しているブレセアの声。
一斉に自分に視線が向けられてくるのを感じ、軽い口調をあえてしつつ
内部にはいったゼロスにとジーニアスたちの声がきこえてくる。
「んで?何でここにおろちがいるのか、とか。俺様、ききたいんだけど?
  まあ天使様たちはわかるとして」
あれほど騒いでいれば嫌でもわかる。
ざっと見渡した限り、この場にエミルの姿がみえないことが不振に思うが。
まあ、何となく予測はつく。
おそらくあの精霊が何よりも優先したかったのは、
ミトス・ユグドラシルの心からの本音を知りたいということだったはず。
当人からそのように話をされたわけではないが、
これまでのエミルのミトスの態度をみていればそれは察知することは可能。
面と向かって対話を果たしたのであれば、
精霊達のいったいたように自分たちヒトに直接的な干渉はしないとばかり
どこかにいっていても不思議ではない。
ゆえにエミルのことには触れず、一番きになるおろちのことについてといかけるゼロス。
レアバードにわざわざのってこの地にやってきたということは、
アルタミラ、もしくはみずほの里で何かあったというのだろうか。
そうだとしてもあまりあせった感じがみうけられない。
そもそも、あのレアバードについているドラムカンっぽいものは何だというのだろうか。
水上スキーといわれているものにあれに似たものがついた品を
レザレノが所有しているのは知っているが。
「え?あ、ああ。何でもマナが乱れていても飛べるような品ができたらしくて。
  それをおろちはもってきてくれたんだ。それよりゼロス、ききたいんだけど…」
ゼロスの問いかけにさらっとした説明をしつつ、ゼロスのほうに歩み寄りつつ
じっとゼロスの瞳をみてといかけるしいな。
はたからみれば
しいながゼロスを少しばかり上目づかいに見上げているようにみえなくもないその光景。
「うん?何だ。しいな。俺様に改めて惚れ直したってか?」
「んなわけあるかい!コレットがいってたんだけど。
  あんた、大いなる実りに何かいれた、とかいうのは本当かい?」
「なんのことかな~?」
「うすらとぼけるんじゃないよ!あのときはそこまであんたの行動を問い詰めなかったけど。
  これはもういろいろと聞き出さないといけないみたいだねぇ」
「ちょ、ちょいまち?しいなさ~ん?その手にもっている金属製のバットはどこから?」
というかどこに隠し持っていたのだろうか。
バットというか鉄棒。
「護身用にきまってるじゃないか。さ、しっかりきりきりと白状しな!」
しいなが棒の一部に手を触れたとたん、
ジャキン!という音がするのではないかとおもうほどに、
金属製の棒のようなももの先端にとがった金属製の針のようなものがいくつもあらわれる。
「うおい!?ってあぶな!というか何でいきなりそんな話になってるんだよ!?」
ゼロスとしてはあのとき、完全にしいなたちの視界からは死角になっていたはずなので、
アレをあの内部にいれた…というか近づけたこともみえていなかったはず、
とおもうのだが。
しいなのいう大いなる実りに何か、という一件はあの時のこと以外には考え付かない。
すなわち、蝶の形を形どったとある品を大いなる実りに近づけたあのときしか。
ロイド君はあのとき完全にコレットちゃんに目を奪われていたはずだし。
そもそもあの一瞬のことをあのロイド君が気に留めているとはおもえない。
自らの背後にいたしいな達がそれに気づいていたはずもない。
いたとすれば、あの場を脱出したのちの折檻時に問い詰められていなければおかしい。
「おとなしくなぐられな!」
「冗談!属にいう”とげ付バット”なんかでなぐられてたまるか!」
『・・・・・・・・・・・』
しいなが鉄の棒をゼロスにふりかぶれば、それをひょいとさけるゼロス。
第三者からしてみれば、おもいっきりじゃれあっているようにしかおもえない。
…しいなが手にしている武器が直撃すればかなりのダメージを負わす品だ、
とわかっていても、何だろう。
おもいっきりじゃれあっているようにしかみえないというこの光景は。
「…まあ、あの神子がつけていたという品が、
  センチュリオン・テネブラエの作だったというし。
  おそらく彼を通じて何らかの品が手渡されていても不思議ではないな」
神子があのとき身に着けていたという防護服。
内部に血糊やご丁寧に内臓もどきまでも編み込まれていた品だという。
まあ凝り性であったあのセンチュリオンのこと。
その報告をみずほの民からレネゲード越しにうけたとき、
おもわず溜息をついた記憶をユアンは忘れてはいない。
いまだにじゃれあうように追いかけごっこ…としかいいようがない
ぶんぶん鉄針のついた棒を振り回しているしいなをさけまわっててるゼロスをみつつ
呆れたようにつぶやくユアン。
「…いい加減にしなさい。しいな。気持ちはわかるけども。
  話がまったく進まないわ……」
ゼロスを問い詰めるにしても、これでは話がすすまない。
といよりも。
「おそらく、ゼロスは何もしらない、とおもって間違いないでしょうね…」
何しろあの血糊の精密さもゼロスははじめ知らなかった模様。
ならばアレと一緒に手渡されていたかもしれないものが何かも説明されてない可能性が遥かに高い。
というか彼ら…あのセンチュリオンとかいうものたちが説明しているとは思えない。
こめかみをおさえつつ、しいなに注意を促したのち、
ぽつりとつぶやくリフィルの台詞にクラトスとて同意せざるをえない。
あの闇のセンチュリオンならば相手をひっかきまわしてもおかしくはない。
そうクラトスはかつての経験上、確信をもって断言できることから呆れざるをえない。
まあ、彼らの性格が古と今とで変わっていなければ…であるのだが。
「…とにかく。今は情報をまとめるのが先決であろう」
こめかみを抑えつつも提案するクラトスの意見はしごくもっとも。
「ち」
「ち、って今、舌打ちしたよな、しいな、お前なぁ。
  俺様としてはもうちょっとおとなし目な愛情表現を期待するとして…」
「だ・れ・が!愛情表現だぁぁ!」
『・・・・・・・・』
「…痴話げんか?」
おもわずぽつりとつぶやいたプレセアの台詞は…
……おそらくこの場の誰もの心情を現しているであろう。


~スキット:しいなとゼロスとその他たち~

ゼロス「ったく、しいなのやつ、照れ隠しにあんなもんをふりまわしやがって」
ジーニアス「いや、あれは照れ隠しとかじゃないとおもうけど」
リフィル「それより、あれだけ説教したのに話してないことがあったのが驚きね」
ゼロス「いやいや、リフィル様~?あれは説教というよりは拷問……」
ユアン「…まあ、あの闇のセンチュリオンがかかわっていたのなら仕方なかろう。
     あやつはよくひっかきまわすのが好きだったようだしな」
ミトス「それでよくアクアと喧嘩してたよね」
クラトス「マーテルが加わって話が脱線していくまでな」
ミトス&ユアン「「あ~……」」
しいな「話が脱線って。コレットみたいなこというねぇ」
クラトス「そういう点はシルヴァラントの神子はマーテルによくにているな。
      素で相手の話を脱線させてゆくところなどとくに」
ユアン「マナが似通っていたら性格も似るものなのかもしれぬな」
ミトス「姉様はそこのコレットほどどじじゃなかったよ!」
ユアン&クラトス「「いや、似たり寄ったりだ(とおもうぞ)(とおもうが)」」
リフィル「…興味深い研究内容ではあるわね。マナが似ていると性格も似るのか否か。
      ふむ。実に興味深い」
ジーニアス「うわ!?姉さんの学者魂にスイッチがはいった?!」
コレット「マーテル様かぁ。ものすごくミトスのこと心配してたものね」
ロイド「そういえば、コレット。お前、マーテルを体にうけいれたとき、
     マーテルの考えがわかったとか何とかいってたっけ?」
プレセア「…この天変地異はもしかしたら、ロイドさんがまともなことをいっている。
      これに関係してるのでしょうか?」
ロイド「どういう意味だよ!」
コレット「え?ロイド、天変地異がおこせるの?」
ロイド「天地、ってことは、空と大地だろ?おこせるって、寝てるのか?」
コレット「空も大地も寝ることあるのかなぁ?」
おろち「…ものすごく話が脱線していってないか?」
ゼロス「…ま、コレットちゃん、だしな。それにロイド君だし」
しいな「…ああ。ロイドのことだし。天変地異の意味わかってなさそうだしねぇ」
ロイド「む。何だよ。それ」
しいな「じゃあ、説明できるかい?」
ロイド「馬鹿にするな!えっと……」
ジーニアス「…できそうにないね」
しいな「だねぇ」
リフィル「マナの相違で性格が似る云々があるのであれば。
      ロイドのこのあまりにも学ばないその性格もマナによるものか?」
ユアン「…それはこじつけではないのか?」
ミトス「いや。わからないよ。そもそもロイドはどの種にも属していないはずだし。
     本来ならば異なる種同士での子供は生まれないって前センチュリオンもいってたし。
     僕ら天使体といわれているものはもともとの種があって
     その種の理をすこしばかりねじまげてはいるけど、基礎たる理はそのままだし」
リフィル「ふむ。種、としての理か」
ロイド「というか、どの種にも属してないって…?なんか前にもいわれたけど…」
ミトス「言葉通りだよ」
ユアン「たしかに。クラトスに子ができたときいたときは、
     本当にお前の子か?と問いたかったほどだしな。 
     我ら天使体となったものが子供をもうけたなどきいたこともなかったし」
おろち「…やはり、話がだんだんと脱線していってないか?」
しいな「ま、いつものことさ。けど、それはそれとして気になるね。
     どの種にも属してないって、何なのさ?」
ミトス「言葉通り。本当の意味でロイドは狭間の存在だからね」
ジーニアス「それって……」
ロイド「む。俺はハザマとかいうやつはしらないぞ!」
一同(ロイド&コレットを除く)『・・・・・・・・・』
クラトス「…リフィル殿。ロイドを…頼む」
リフィル「…私にも教育者としての限界はあってよ…」
ジーニアス「ま、ロイドは非常識人、ということでいいんじゃない?
       常識人のロイドなんて、想像したら鳥肌立つし」
しいな「ああ。今よりも熱血馬鹿になってそうだよね」
ゼロス「それについては同感」
コレット「みんな。ロイドは非常識なんかじゃないよ。ただ何も考えてないだけで。
      おもったことをすぐに実行したり口にしたりするだけで」
ゼロス「…コレットちゃん、それ、トドメ……」
おろち「…なぜにここまで混沌とした会話になっているのに
     皆、話をつなげられているのだ?」

もしここで、彼らをよく知る者がいればこう答えるであろう。
いつものことだ…と。


※ ※ ※ ※


「…ふぅ」
木をくりぬいてつくられた椅子に深くもたれかかる。
つい先ほど、タバサ達を追いかける形でこの地を飛び立ったみずほの里のもの、
おろちなるものからの伝書鳩による通達があった。
やはり地形という地形はかわっており、
古の地図だという地形にざっと空から見たかぎり世界は変貌を遂げている、とのこと。
さらには、首都のある大陸は原因不明の暗闇に覆われており、入ることすらままならない、と。
入れる手段が判明次第、内部にはいり、かの地にいるであろうしいな達と合流する。
そのような趣旨がかかれていた伝書鳩による手紙。
無線機なるものが使用できれば一番問題ないのだが。
レネゲードたちの所有している無線機は小さなものならば使用可能であるが、
本来の使用方法…すなわち、姿まで相手に投影する。
という方法は今ではまったく使用不可能となっているらしい。
曰く、これまでは彗星からのマナを利用して機具を使用していたが、
それらのマナの供給は今では望めない、ということらしい。
さらにいえば彼らの拠点としていた施設もまた海水、
もしくは木々の繁殖などによってまったくもって使い物にならなくなっており、
かろうじて待機していたレネゲードの構成員たちがそれぞれに
持てる品だけもって拠点から避難しているという経緯もあるという。
フラノール地方にあった彼らの拠点も使い物にならなくなっているらしく、
また、トリエット砂漠にあった拠点も同じく使い物にならなくなっている、とのこと。
ようやくある程度つながった無線によって判明したその事実。
ここアルタミラにある様々な機具とて今やほとんど使い物にならなくなっている。
一つの例をあげるとするならば遊園地。
かの地は完全に木々で覆いつくされ、それこそジャングル・アトラクションなのではないか。
といわれるほどに木々と、そして海水が完全に浸りまくっていたりする。
首都メルトキオにて何がおこっているのか。
おそらくまたロクなことではないのだろう。
トレントの森に向かったはずの彼らが
なぜに首都にいるのかとか、いろいろと思うところはありはすれど。
「た、大変です!会長!」
「どうした?」
ああ、本当に休む暇もないとはこういうことをいうのかもしれない。
必要とおもわれし電力はどうにか人力にて蓄えた。
それでもすぐに尽きてしまうだろうが、人力による発電は定期的にしてゆくしかないであろう。
つい先ほども人力による充電をしたばかり。
いまだに街の被害全貌の把握はままならない。
しかし、すくなくともこの街に残っていたタバサの協力にて、
ドワーフ族のもっていた土木建築の技術というか知識が
この街の建築関係者にもたらされたことにより少しは改善してはいる。
鉄などといった鉱物類は場所が場所ということもあり、
すこしばかりの加工をしなければこの町では使用を継続することはままらない。
すぐに塩害の被害がでて腐食するにきまっている。
どうやらこの街に生えている木々の中には漆化に属しているものもあったらしく、
それの樹液を使用することによって腐食に対し爆発的な効力を発揮するという。
今は鉱物類で作られた品々はいつもろくもぐすれさってしまうかわからない。
実際のところ、被害にあっている建物のほとんどはすべては人工的な物質でつくられているものたち。
石などといった品々で建てられているそれらは他のものとちがってさほど被害はないようにみえる。
それでも隙間などから小さな草花などが生えており耐久性にかなり問題があるようだが。
少しばかりの休憩ののち、ファブレ伯爵と打ち合わせをしなければ。
そんなことをおもいつつ、一時の安らぎによって紅茶を飲んていた彼――リーガルのもと
顔色をかえた従業員の一人らしき人物がとびこんでくる。
とびこんでくる、といってもリーガルが今いる場所はレザレノ・カンパニーの入口付近。
玄関先にあたるそこにはちょうど景観もかねてかねてから植えていた藤棚がある。
その下に設置していた休憩スペース。
そこにある木をくりぬいてつくられた椅子にすわっていたリーガルのもとに
なぜかあわてたようにかけてくる一人の人物の姿が目にはいる。
「どうした。また何かあったのか?おろち殿がもどったのか?」
そう簡単に戻ってくるとはおもえないが。
というか彼に申し送られた命令の一つにたしか、しいなを守るように、
というイガグリ統領からの命令もあったはず。
ならばおろちが戻ってくるとすれば、必然的にしいなもともにということとなる。
しいなだけ、ということもありえないであろう。
だとすれば、必然的にまた何かが起こったと考えるほうが確実。
ゆっくり紅茶を楽しむこともままならないのか、とおもいつつも、
残った紅茶をぐいっと一気のみして立ち上がる。
「い、いえ。西の物見やぐらからの緊急連絡です!
  西のかの地。異形の塔に異変あり、とのことです!」
「…何!?」
西のかの地。
高くそびえたつ木々の枝を利用してつくられた見張り台。
どうやらアルタミラ自体はこれまであった島ごと完全に異なる位置に移動したらしく、
そして異形の塔、と伝令がいってきているそれは、
かつては救いの塔があり、歪な形で発芽した大樹がはえている場所にあらわれた
大樹とおもわしきまがまがしき”樹”を巻き込んであらわれた異様な塔のような代物。
大樹のようで大樹でなく、塔のようでいて塔でない、
そして見た目かなりのいびつさを遠目からみてもはっきりと感じ取られるその品は
遠視を強化した望遠鏡で確認するかぎり、その内部に青白いハスの花のような水晶。
それを内包し周囲にどすぐろい霧にもちかい何かを発生させていた。
海面の状態をみるかぎり、引き潮のときはどうやら陸続きになるらしく、
一部のものをそちらにみえる大陸のほうに調査にむかわせてはいるが、
いまだに彼らは戻ってきていない。
今のアルタミラの位置からほぼ西に存在しているそれ。
この異変は確実にソレが関係していることもあり、
念のために常に監視を命じていたのはほかならぬリーガル自身。
「今、いく」
いったい全体、また何がおこっているか。
リーガルはまだ知らない。
丁度、それと同時刻、おろちがしいなたちと合流し、
ゼロスがしいなに追いかけまわされていることも、リーガルは知る由もない。

「…何だ?あれは…?」
何だ、としかいいようがない。
双眼鏡の向こう。
山間の向こうに見えていたはずのいびつなる塔とも樹ともいえない何か。
どちらかといえば樹と塔が合体したかのような歪なる形をしているソレ。
山並みの向こう側にあるがゆえにその全貌は確認できなかったのだが。
それがどうしたことか。
もくもくと大地のほうから湧き出している黒い霧というか雲のようなもの。
それにまるで引っ張られているかのようにゆっくりとそれが浮上を開始している。
どす黒い樹の根らしきものが視界にはいるとともに、
その黒い根の周囲に黒い雲がまとわりつき、
あっという間に漆黒のドームのような形を作り上げる。
はじめは何か動いているような感じをうけたらしい。
気のせいかとおもっていたが、やはり動いておりついには浮上を開始したという。
それは山よりも高い位置まで浮上するとともに、さらにその周囲に黒い雲を発生させる。
それとともにそれまで晴れていたはずの空に黒い雲が突如としてながれてきて
あっというまに空そのものを覆い尽くす。
それはまるで豪雨がふるときの黒雲のごとく。
黒いドーム状の球体のようなものの上に広がる黒き雲のようなもの。
この場合、雲といっていいのか霧といっていいのかわからないが、
見た目、どうみても黒い雲にしかみえないゆえに、雲といってもいいであろう。
それはある程度の浮上をとげるとともにぴたりと静止し、
今度は逆にゆっくりと動き始めているようにもうかがえる。
きになるのは、黒い雲の下からいくつもの黒い粒のようなものが地上にむけてばらまかれている。
というその一点。
それが何なのかは望遠鏡からでは判別不能。
「…何か近づいてきてませんか?」
気のせいかとおもっていたが、それは確実にゆっくりと動いているらしい。
なぜにそういいきれるかといえば、
それまで山並みの向こうにあったその全貌がゆっくりとではあるが
全体像が見渡せるほどにとなってきているのがうかがえる。
それとやはり気のせいでも何でもなく、黒い何かを地上にむけてばらまいている。
それが何なのかはわからない。
だがしかし、碌でもないことであるのは明白。
「く!誰か、ボータ殿に連絡を…いや、私自身がでむく!」
おろちとほぼ入れ違うかのようにこの地にやってきたレネゲードのボータ。
何が起こっているのかはわからないが、すくなくとも彼らレネゲードの協力を仰ぐ必要性が出てきた。
アレに少しでもちかづき、何がおこっているのか調べる必要性がある。
これまではアレがある山並みが軒並み噴火らしきものをしていたゆえに
近づくこともままらななかったが。
いまだに山並みにおける火山噴火らしき活動は続いている。
しかし、リーガルの勘が告げている。
これは大変なことになる、と。

「…何だというのだ……」
それが偽らざる本音。
物見やぐらから監視していた歪なる塔。
それがなぜか黒い雲のようなものに覆われたかとおもうとゆっくりと浮上を開始した。
ここからでは全貌はよくよくみてとれなかったが。
地面近くの様子まで観察できていたものがいたとするならば、
まがまがしき塔もどき…歪なる形の樹にもみえ、また塔にもみえるそれらの一階部分。
正確にいえば大地に突如として黒き雲のようなものが発生し、
それらが建物?を取り囲んだのち、少ししてゆっくりとそれらが浮上を開始した。
そのような感想というか意見をもたらしたであろうが、
かの地、かつて救いの塔があった付近は山々や森におおわれており、
そこまで詳しくみているものはほぼ皆無といってもよい。
かろうじて、その森の中にある小さな村でもその異変には気付けない。
否、気づくどころではないといってもよい。
何しろ突如として救いの塔が崩壊…正確にいえば崩壊して消えていったとおもえば
わけのわからないうちに黒い異形のものたちが森にとあふれかえっている。
村人たちはわが身を守ることに精一杯でそこまで気に掛ける余裕がない。
何しろ黒き異形なるものはまるでヒトを親の仇とばかりに狙ってくる。

救いの塔付近。
それはよりもっともこの四千年の間、ヒトの血が流された血でもあり、
殺された、人々の怨嗟の記憶というか念がこびりついている。
かつてラタトスクが解放したのはあくまでも塔の中にいた代々の神子たる魂達。
周囲のそれらまでわざわざ解放してはいない。
そもそもこびりついているそれらは念であり魂ではない、といった理由もあるのだが。

ともかく、何がおこっているのか理解不能。
だがしかし、確実に理解できないとはいえ勘がつげている。
「街の人々につたえよ!アレから発生する黒い何かにふれてはならぬ!と!」
双眼鏡でのぞいたその先に、浮かんだ塔を支えている?のか土台がわりになっているのか。
とにかく黒い雲と真っ黒い半球体のドームとなったようなそこからいくつもの
黒い雨のようなものが地上に降り注いでいるのがみてとれる。
それだけではない。
あろうことか、それはゆっくりとある程度の距離まで浮上をするとともに移動を開始した。
…それもこちら側…すなわち、アルタミラがあるであろう方角にむけて。
アルタミラからみてみれば、それらがあるのは南西側。
すなわち、それはゆっくりとではあるが北東のほうにと移動を開始しているようにみうけられる。
黒い雨のようにみえたそれはよくよく目をこらしてみてみれば、
小さな球体っぽい何かであるらしく、それらが地上にふりまかれるとともに
なぜか地上からも霞のようないくつもの黒い塊のようなものが湧き出している。
それだけではなく、緑と金色の入り混じったような光の粒のようなものも浮上し
それらは瞬く間に待機中の中にとけるようにきえていっている。
遠目、しかも望遠鏡越しなのでわからないが、
それらがすぎさったあとの大地はただただ荒野ともいうべき光景が広がっていたりする。
かろうじて木々などは枯れた状態でのこっているものの。
そこにいた大小様々の生物などはなぜか水晶に閉じ込められるかのように
あるいみオブジェのように大地に点々と存在しており、
はたからみれば荒地に水晶
…しかも中身?入りが広がる大地が広がっているようにしかみえない。
水晶はマナの加護にて生物を保護するために一時的に仮死状態にしているだけであり
それらに閉じ込められた生命体たちに命の別状はない。
小さな草花などはすでに種子となりそれぞれその命をマナにと”還して”いる。
それは”新たな理”にむけた次代に種の命をつなぐため。
はじめは雲のようなものも小さかったのだが、大地からわきあがる黒いものを吸収し、
どんどんその規模はおおきくなってきている。
さらにはそこからひろがるように、まるで大雨が降る時の前兆のごとく
普通に分厚い雲のようなものまで発生し、それまで晴れていた空を瞬く間にと覆い尽くしてゆく。
つい先ほどまで晴れていた空もいつのまにか雲に覆われてしまっている。
それでなくても木々が密集し夜ともなれば視界が闇に覆われてしまうというのに。
それでも双眼鏡の向こうにみえる景色は暗闇なのにまるでくっきりと、
暗闇の中に浮かび上がるかのごとくにしっかりと”視えて”いる。
これだけでも異常事態がおこっている、というのは嫌でもわかる。
「…もし、あれがここにきたら……」
何がおこっているのかはわからないが、少なくとも碌なことにはならない。
そう彼…リーガルの直感が告げている。
それでなくても夜のアルタミラは今では危険がいっぱい。
かつてのアルタミラは夜は夜で楽しみがある街であったというのに。
ところどころにおかれている松明の灯りのみが変わり果てた町並みを照らしている。
伝書鳩によってもたらされた首都アルタミラがある大陸の現状。
古代地図だという大陸の配置にまちがいなくかわってしまっているらしき今。
精霊の力の巨大さ、というものが改めて感じられ思わず畏怖してしまう。
ほんの短き間に世界は急激に変貌をとげている。
ロイド達がオリジンの解放のためにあの地にいって以降、
世界は確実に転換期を迎えているといってもよい。
あの謎の声が示したとおり、まちがいなくヒトにとっての試練の日々がここにある。
救いの塔がきえ、かわりにあらわれたまがまがしき建造物らしきもの。
救いの塔は人々の心のよりどころともいえた代物。
救いの塔が消え去ったとき、それは衰退世界になりかわった証拠。
テセアラに住むものならば誰もがそう教えられている。
中にはこの騒動はやはり、神子であるゼロスを一時にしろ、
テセアラという国が手配をかけたがために天罰が下っているのではないのか。
という声すらみてとれる。
さらにあらわれた幾多もの天使の姿がより人々にその不安を掻き立てている。
それこそおとぎ話の中にあるスピリチュアの悲劇の再来のごとく。
かつて、天は神子を害そうとした国と関係者に裁きを下した、という。
伝承の中、さらには教典やおとぎ話の中でしかみたことがないような天使達。
それらを目の当たりにした人々はかなり恐縮し、
中には天の裁きならば、とあきらめているものすらいる始末。
しかもタチがわるいことに天使からも謎の黒い霧もどきが発生し、
さらに強い個体の黒い異形のものが発生しているという報告もうけている。
全体的に天使達はヒトを見下している節がみられる、とも。
それでもあからさまにそんな態度をみせるものはごくわずかで、
ある程度の役割をもっているものは、ヒトに対し嫌悪感は抱いているのではあろうが、
あからさまに見下したような態度はとってきていない。
そもそもこの街におりたった…というか空から降ってきた…ともいう、
彼らの一部は救いの塔があった場所に飛んでいき、結局もどってきていない。
密集するように生えている樹木達。
それらは翼を用いて飛行する彼ら天使達にとって過ごしやすいとはいいがたい。
そもそも大きく翼を広げるにしても木々の上にでる必要がある。
かといって、彼らは普通に歩いて移動する、という行為に慣れていないのか、
…間違いなくあまり慣れていないのであろう。
彼ら今となっては木々の枝伝い、
もしくは船でしかゆくことのできない演劇場。
そこをほとんど拠点にしているといってもよい。
リーガルがどうにか話を聞き出すことができたのは、
この街に飛来した天使の中でリーガルを見た覚えがある天使がいたため。
かつてリーガル達がウィルガイアを訪れた際、侵入者として認識されていたがゆえ
人に関心のない天使達もリーガル達のことは一応覚えてはいたらしい。
すぐに攻撃態勢をとってきていた彼らを何とか口車…というよりは、
何がおこっているのかわからない以上、うかつなことはしないほが。
というような趣旨のことをしかもミトス・ユグドラシルの名までもちだし説得し、
今のところ天使達による住民の被害はでていない。
自らの目の届かないところではどうだかしらないが。
それでなくても考えなければいけない事案が山とあるというのにこのたびのコレ。
リーガルの脳内を様々な考えがよぎるが。
それでも、彼がすることは決まっている。
それはこの地にいる人々を守り通すこと。
「とにかく、手のあいているものは、簡易小屋でもいいからつくれ!
  雨に濡れない場所を確保せよ!」
あれはおそらく雨、なのではない。
遠目からでも雨ならばまっすぐに落ちる。
が、あからさまにふよふよとまるで意思があるかのように望遠鏡越しにも
黒い粒のような何かはうごいている。
今はまだゆっくりだが、あれが急激に移動を開始しはじめれば。
……何がおこるかわかったものでは…ない。



pixv投稿日:2015年6月2日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:
前回の容量的にこちらにをば
~一言ちょこっとつぶやきと説明コーナー~
~スーパームーン~
スーパームーン(Supermoon)とは、
満月または新月と、楕円軌道における月の地球への最接近が重なることにより、
地球から見た月の円盤が最大に見えること。
天文学的に外からの視点で説明すると、太陽-地球-月系において、
月が地球に対する近点(近地点)にあると同時に、太陽と地球に対し
月が衝(望)となった時の月のこと。
「スーパームーン」という用語は、天文学ではなく、占星術に由来する。
月は地球の潮汐に関与しているため、
スーパームーンによって地震や火山噴火の危険が高まるとの主張もあるが、
それを示す証拠は今のところ確認されていない。
満月周期は、月が近点で、太陽及び地球と並ぶ間の期間であり、
約13.9443朔望月(約411.8日)。
従って、ほぼ毎回14回目の満月がスーパームーンとなる。
しかし、周期のちょうど半分でも、満月は近点に近づき、
その直前または直後の新月は、スーパームーンとなる。
従って、1回の満月周期毎に3回のスーパームーンが生じる。
13.9443と14の差は、1/18に非常に近いので、
スーパームーンの周期自体が18回の満月周期(約251朔望月、20.3年)の周期で変動する。
従って、約10年の間は最大のスーパームーンが満月、
次の10年間は最大のスーパームーンが新月となる
スーパームーンの反対の現象である、遠点での惑星直列は、
マイクロムーン(Micromoon)と呼ばれるが、この用語はスーパームーンほど広まっていない。

~~~~
~この世界の月の概要~
大きい方がシルヴァラント(公転周期は約35日)、
小さい方がテセアラ(公転周期は約42日)。

~手のひらの上で踊らされている~
戯言によって相手の思惑通りに行動する様。
疑似言語:手の平の上で転がされている

~ユリス~
リバースの最終ラスボス。
人間たちの負の感情が具現化した存在。
ある意味ではマイソロのゲーテと同じようなものなのでは?
と思うかもしれないが、ゲーテは精霊であり自我があるものの、
(ついでにいえばゲーテは負を糧とするように生み出されてるという理由あり)
ユリスのほうは人々のたまりにたまった負の念。
それが実体化したといっても過言でない。
というか、あの攻撃方法。
体の一部にしか攻撃゛きかないという点では、
クロノトリガーの太陽石のイベントでビットの一個のみにしか攻撃が通用せず、
それ以外に攻撃をくわえたら、攻撃反射&敵回復してくる暗黒石を連想させる敵。
しかも雑魚的が多い分、初見ではユリス、これってかてるの?
と思う人は絶対に多かったはず…(実際そんな意見多いようですv)
この話ではそんな負の具現化した存在を、
ラタトスクの命でしっかりとテネブラエが直接配下に収めております。
かつて、ラタトスクたちがこの世界に干渉するよりも前、
この地上が瘴気に満ちた世界になっていたのも、ユリスの暴走があったがゆえ。
魔族達はそれゆえに、ユリスを邪神としてあがめています。
もっとも、その性質上、邪、ではなく大御神、という感覚であがめていますけどもw

~ケイトののっとり~
やはり、シンフォニアといえばのっとりイベント!でしょう
あれ、リフィルのっとったとき、ミトスの口調がかなり優しいんですよね…
やはり、リフィルとジーニアスにミトスと姉の姿を重ね合わせているからではないかと
何しろどちらの姉弟とも、エルフの里で生まれ育って、追放された。
というそこまで同じ境遇ですしね……
ミトスたちが追放されたのも実はマーテルのもつ力をヒトがねらって
里に混乱をまきおこそーとした、というのがあるのでは、とおもってたり
いやだって、マーテル、世界樹の杖…はじめからあれもってますよね(汗
つまり、ユグドラシルの家系はかつての大樹の巫子の関係者なんじゃないかな~
とかおもってたり
だからこそ、精霊達も力を貸したのもあるとおもうんですよ、ええ。

~ミトスの心情~
ちなみに、ミトスの心情、これはおもいっきり私、薫の独断です。
いや、魂になってまで、その欠片をもってして
大いなる実りと同化し、世界樹として再生したミトスは絶対に、
心の奥底でずっとラタトスクにばかり負担をかけているのを気にかけていた。
そうおもってます。
何しろたった一人であんな場所で世界を見守り続けている。
そのことにも思うところはあったのではないかと。
センチュリオン達とも仲良かったようなスキットが”ラタ騎士”でもあったことから
ミトスはセンチュリオン達からもラタトスクのことを聞かされていたのではないのかな、と。
あのときのテネブラエ、知らなかったんでしょうね。
でもって、ラタ様もミトスたちが裏切ったことに気づきはしたが、
彼らセンチュリオン達にまでつらい思いをさせたくない、と
それはいっていなかったのだとおもいます。
だからこそ、何もいわずに【デリスエンブレム】をもったものが侵入した場合、
自分以外には決してとけはしない石化という罠を仕掛けたのではないか、と。
確実に殺すわけでなく、石化させるだけで生きたままのその状況。
罠という理を新たに追加したラタトスクからしてみれば、
まだ心のどこかで彼らを信じたい、という思いがあったのでしょうね。
で、ヒトに完全に絶望しかけていったのが、テセアラ側の横暴なる態度。
…絶対、ラタ様、あの地から地上の様子を視ていた、とおもうんですよね。
でなければ、アステルのあの言葉でかっとなり、
そのまま攻撃、とまではいかなかったんじゃないのかなあ…と。
おそらくかつてその言葉はミトスにも言われた言葉と全く同じであった。
というのもあったでしょうが。
何よりも新しい樹が誕生した、というアステルのその言葉は、
逆をいえばミトスたちがラタトスクを裏切った何よりの証拠、というわけでもあって
…切ないですよね…
何もしらなかったアステル達からしてみれば仕方ないかもしれないけども。
…アステル、古代の文献をあさるのはいいけど、
何がおこったのか、きちんと確認くらいはすべきだったのではないのかなぁ…
と私的にはおもってたりします。
きっと、しいななら、ぽろっといってくれたに違いない(マテ
もしくは文献からヴェリウスに先にいきついていれば
あの悲劇はおこらなかったのではないかな、と予測してたりもします。

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