まえがき&ぼやき:→前書きを読まない、というひとはこちらへ。

pivixさんに投稿していた話の区切りとは変えてあります。容量的に……

今回は前半、ミトスVS魔族ジャミル戦です。
しかし、これ、やはり入れ忘れてた火の精霊との契約のときのスキットさん。
…ミトスとノイシュいれてないとミトスの心情さんがわかりにくいかな…
…メモ帳の後ろのほうにいれてたから入れ忘れてたんですよねぇ。前にもいいましたけど
やはりその時々のスキットはうちこみするときにやってかないと、
先に打ち込みしてたらそうなってしまうというちょっとした罠(コラマテ
あと、ジャミルの属性が水というのは公式です。
水なので、ならミリッツァ(リバース)の術がつかえてもおかしくないよね?
状態で戦闘シーンは作成されております(かなりまて

さて、ミトスに正体完全にばれているので自重という言葉がどこかにいってるラタ様です。
が、やはりあるいみミトスにかつて(昔)情がわいていたせいか
(何しろ裏切られたことをしって本気で怒り狂うほど)
当人と向かい合ったらどこか甘くなってるラタトスクだったりします。
まあ、これまでの旅でもラタトスクはミトスに対してどこか甘い対処してましたしね
(この話ではもう一つの理由として、記憶と知識がこの時代の自らと融合してしまい、
 古のことを鮮明に思い出せるようになってしまってるがゆえに反動が大きかったり…)
それはまあ、無意識のうちにミトスを認めていたからという理由だったりするのですが
ちなみに、それに気づいてたセンチュリオン達は
こぞってミトスをかつてたきつけてたりします(マテ
主であるラタトスクの心の休息、安定が一番のセンチュリオン達の望みですので。
つまりミトスがその存在たりえると期待していたわけですね。
何しろつれないことをいっていながらもミトスの来訪実は楽しみにしていた主。
それを彼らはしっていたがゆえです
主がかつて記憶封じて外にでてたとき、
友人関係であった人たちと心から笑えていたことをしっていたがゆえです。
今回の惑星では外にでなかった理由。
デリス・カーラーンで大樹を枯らせられるというヒトの最大の裏切り。
それを経験していたがゆえにあえてできるのに外にでなかったのでは?
と疑念におもってたりしたのもありますけども。
(そもそも彗星で移動してたときは外にでてたのに。
  魔界を封じるとかいう理由でひきこもった主を心配してた)
それもあってミトスが裏切っているかもしれないとしったとき、
何ともいえない思いにとらわれてしまっていたのもまた事実です
(この物語ではセンチュリオン達はあまり強くいってないのもそのせい)
原作時間の騎士時代、テネブラエはミトスが裏切っていたことを知らなったようですが
…知ってたらきっと怒り狂うんでしょうねぇ…
というか、世界樹の元にいったときユアンがいて、
クラトスと通信したときに違和感は感じてたでしょうけどね。テネブラエも…
アクアは、うん。
リヒターとともにいることでクルシスの実態何となくしってしまったようなきが
何とな~~く、アステルって興味もったこと、
精霊以外でもひたすらに情報集めていたようなイメージが…
そもそも王家の書庫の禁書コーナーにすら立ち入り許可されるほどの
研究者、ですしね。
さてと。とりあえずようやくロイドがそろそろ成長しますよ、の下りと。
しいなの血の正体の暴露。それがすみ、テセアライベはあとはジャミルと、
フィリプ元教皇との邂逅?でひとまず決着。
(もっともその前にあるいみラスボスなのでは!?という戦闘がありますが・・)
そういえば、ふと思ったんだけど、何でテイルズシリーズって…
自力移動さんの場合…気球がないんでしょうか(マテ
あの世界のこと、絶対に研究者、熱気球くらい絶対に開発してるとおもうんですけどね
特にテセアラ…どこぞの会社とはいわないけど、
観光の目玉の一つとしてやってそうなイメージが(苦笑
さて、ミトスVSジャミル戦。
場所のイメージとしてはファンタジアのユークリッドの王子様(マテ
ミトスのあるいみ、彼自身のけじめをつける戦いでもあります。
何しろ元凶に改めて気づいてしまったので(でもそれは自分の弱さと認めてるミトス)
それゆえの一人、けじめのための戦いです。
ある意味、一人でミトスをどうにかしようとおもっていたクラトスと、
似たもの同士といえなくもないという。
…まあ、弟子は師匠に似る、ともいいますしね(え?いわない?
ところで…ヴェリウスとの邂逅。
パターンが二つあるんだけどどっちにしようかいまだに悩み中…
気球にてイセリアもどって聖堂で邂逅するパターンと、
強く願うことによりヴェリウスとつなぎをとって、
ヴェリウスの力でヴェリウスの聖域にひっぱりこまれるパターンと。
…テセアライベがおわるまでにどっちにするかきめないとなぁ……
まあ、くちなわとの決着イベもパターンが二つあってあれを選んだわけで。
魔族の力で強制的に本物の評決の島に移動するというパターンが実はありました(笑
でも結界におおわれてるので島から外にはでられませんv
白黒の結界内の世界か現実世界か、の違いだけでした(マテコラ
そっちの場合、くちなわが消えて、結界維持してる石壊すのはクラトスだったり
石こわしたら強制転移で城にもどるパターンとなってましたv
つまりほとんどストーリー的にはかわらないという…
そういうわけで、上のヴェリウスのパターンもストーリー的にはかわらないんですよね…
飛行船スキットが入るか否か、なだけで……
しかし、ここまできてまだとあるパターンを悩み中…
いや、ミトスの過去との決着シーンさんで、ジャミルの上司?さんがでてくるのですけど。
そこでねぇ…ちなみに、これまで幾度かでてきたディスティニー要素。
さあ、その要素に近いものがそこでまたでてきたり。
…ディスティニー、といえば儚いリオンですよね…
またまた原作登場人物?の退場?になったりしますけど…
まあ、原作でももともと彼女はミトスに殺されて(壊されて)ましたしねぇ…
(しみじみ)


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重なり合う協奏曲~因縁の起因~

ここ…は?
淡い光の中に漂う自分自身。
覚悟をきめ、自らの決意を込めて叫んだその刹那。
体があつくなったことを覚えている。
【ようこそ。ようやく覚悟が心身ともに決まったようですね。
  ずっと私はこの時をまっていました】
「誰だい!?」
ここはいったいどこなのか。
というか今、自分はくちなわと対峙していたのではないのか。
右も左もわからない、ただ真っ白い光のみがあふれる空間。
足場も何もない、そんな空間にしいなは今現在浮いている。
【ここはあなたの深層心理の奥深く。
  古の精霊の御子たる意思を引継ぎし場所】
声のしてきたほうはしいなの背後から。
はっとしてしいながふりむけば、
そこには長い髪をこれでもか、というほどにのばしている漆黒の長い髪に、
そして文献の中でしかみたことのない、たしか十二単とかいう着物。
それをきこなしているどこか温和な感じをうけつつも、
それでいてどこか懐かしい感覚をうける女性が一人。
その手にはなぜか白木でできた扇が握られており、その口元にその扇はあてられている。
「あんた…は?」
敵意はない。
むしろどこかなつかしい。
どうしてなつかしいのかわからない。
でもその姿をみているとしいなはなぜか無償に何となく他人でないような。
そんな気分にとなってしまう。
【私はかつて国が滅びた時の最後の御子。
  日野出国や、ジャポネシア、ジパングなどといわれし国を治めしもの】
「それって…」
その言葉にしいなは思わず絶句する。
それはミズホの民の始祖ともいえる始まりの国のことではなかったか?
【しいな。いいえ凛の名を受け継ぎし我が血族の末裔よ。
  私はずっとあなたが生まれたときからあなたに覚悟がきまるこの瞬間。
  この時をずっとまっていました】
「どういう……」
それこそおかしい。
自分は拾われ子のはず。
なのに、今の目の前の女性の言い回しは。
歳のころならば二十歳前後といったところか。
穏やかな笑みを浮かべるその女性はしいなの戸惑いにただ笑みを浮かべるのみで、
【あなたに我が血族…我が御子のみが扱える聖獣を託しましょう。
  その力で再び世界に平和を。
  今度こそ大いなる意思であるあのお方の御意思にそえるように】
「ちょ!質問に答えておくれよ!質問の答えになってないだろ!?」
しいなが叫ぶとほぼ同時。
目の前の女性が光につつまれ、
「うわっ!?」
その光はしいなのほうへ一直線にとむかってきて、そのまましいなの中にと吸い込まれる。
――リンの名を受け継ぎしものよ。答えが知りたければ心の精霊を訪ねなさい。
あまりのまぶしさにしいなが一瞬目をつむる。
それとともに聞こえてくる女性の声。
それはかの国の御子たる女王にのみ引き継がれし真なる漢文字。
その文字をもじった、もしくは同じ呼び方の名が真名として必ず血をうけつぎしもの。
つまりは女王となるべくものには引き継がれる。
そして、しいなは知る由もないが、しいなも例にもれず、その名を引き継いでいる。
林檎リンゴ、と。
林檎とは、大地の恵みの象徴と古の国ではいわれていた。
再び力をもちしこの世界に生まれ落ちた力を受け継ぎしもの。
そんなしいなにつけられた…真名。


「これ…は」
体がとても暖かい。
でも、わかる。
今までになかった力が。
まるでずっと眠っていた力が解放されたかのような、不思議な感覚。
精霊達と契約した時とはまた違う、これこそが自分がもっていた力なのだ。
そう不思議と納得できるほどの力。
次に目を開いたときにはやはり先ほどの場所で。
目の前にいるのはくちなわの姿。
「ふん。何をしたのかはしらぬが。まあいい。
  仲間に気を取られて力がでなかったなどという言い訳はききたくないからな。
  お前を万全の状態で倒してこそ死んだ里のものたちに顔向けできるというもの」
しいなのそんな変化に一瞬、眉をひそめるものの、
しかし問題なはい、とくちなわは切り捨てる。
しいなが不思議な空間で謎の女性と会話していたのはほんの一瞬。
しいなは会話していたように感じていたが、それはしいなの深層心理でのこと。
現実にはほんの数秒も経過していない。
「いくよ!くちなわ!」
「こい!返り討ちにしてやる!」
先ほどまでの一方的に自らにやられっぱなしのしいなではない。
油断すればまける。
それはくちなわの直感。
蛇拘符じゃこうふ!」
すばやく懐からとりだした符がくちなわの周囲にまとわりつく。
はじめは一枚しかなかったそれは、しいなの言葉と同時分裂し、
まるでヘビのごとくくちなわの体にまとわりつきその動きを封じてくる。
「あまい!」
そんなそれらをくちなわはことごとくその手にもちし小刀にて切り裂いてゆく。
「…鎌鼬かまいたち!!」
くちなわが符に気をとられているその一瞬。
すばやく印をくみ、別なる術を発動させる。
いつもは符術を主体にして戦うしいなであるが、相手は電撃の使い手。
そしてその小刀の扱いもかなりたけている。
そもそもこれまで、しいなはくちなわたちに小刀勝負でかったことがない。
しいなの言葉に無数の風の刃が出現し、くちなわの体をきりきざむ。
この忍術のいいところは前方の敵、ほぼ広い範囲にて有効であるということ。
ちなみにこれは、周囲の微精霊達に印をくむことにより発動する品なのだが。
今、しいながそれを発揮できているのは、
しいなの中にといた先ほどの謎の女性の助力があるがゆえ。
かの古の女王は死してのち、子孫のためにその体を半精霊化させ、
一族のというか自らの力を受け継ぐものの加護をずっと担ってきていた。
それは世界というか精霊ラタトスクとかわした初代の”精霊の御子”であり、
”大地の神子”としての盟約があってこそなしとげられている現実。
国が亡び、そしてクルシスという偽りの組織が誕生してからのち、
それでも皇家につかえし古のミズホの民の先祖である彼らは、
そんな貴重たる血筋をずっと守り抜いていた。
藤林、という姓は、初代の女王が藤の花をすいていたがゆえに、
皇家に最も近しいものたちに受け継がれていた仮初の姓。
「何!?」
あせったようなくちなわの声が思わずもれる。
まさかしいなが符術ではなくふつう?の忍術をつかってくるとはおもわなかった。
しかも威力がかなり高い。
ここまでの風の刃は里の中でもどれほど使えるものがいるかどうか。
ドクン。
体が、熱い。
けどわかる・・・
なぜ、とかそういう疑問はなぜか浮かばない。
これこそが、自分があつかえる…聖なりし獣であり、
そして里を本来守護せしていたはずの存在。
ゆえに。
「――きな!!召喚!!児雷也じらいや!!」
しいなが声とともに大きく手を横にと広げて言い放つ。


「「「…何(だ)、あれ?」」」
おもわず唖然とした声をだしたはとらえられているといってもよい、
箱上の光の壁の中にとらわれている一部のものたち。
ジーニアス、マルタ、ロイドの声が同時に重なる。
それは仕方がないのかもしれない。
しいなの声にあわせあらわれしは、なぜだか巨大な蛙。
どうみても蛙。
そう、としか形容がしがたい。
それがどうみても小さな家一つくらいの大きさをほこり、
見上げるほどの大きさがあるような蛙でなければ違和感はなかったであろう。
【我が主よ。ようやくわれをよんだか】
そうだ。
どうして忘れていたのだろう。
ずっと生まれたときからこの蛙は自分のそばにいた。
いや、自らの心の中に。
ドスン!という巨大な音をたて何もない虚空から突如として煙とともに召喚されしそれ。
それはミズホの里につたわりし、伝承にある伝説の忍であり、
そしてまた初代王でもあったといわれている存在が使用とていたという召喚獣。
どこからどうみてもそうとしかみえない。
「うわぁ。おっきな蛙さん、何をたべたらあんなになるのかなぁ?」
「…いや、コレット、突っ込むところはそこじゃないから」
その巨大蛙の姿をみて、のほほんとしたことをいっているコレット。
そしてそんなコレットに突っ込みをいれているジーニアス。
そんな唖然としつつも、
どこか抜けているやり取りをしているロイド達にちらりと視線をむけたのち、
「やりな!!」
【――心得た。主の御心のままに】
しいなの掛け声とともに、その蛙がおおきくその口を開き、
そこからなぜか巨大な炎の息…すなわち吐息ブレスが吐き出される。




「…負けをみとめな。くちなわ」
しいなの背後に控えるは先ほどの巨大なる蛙。
みずほの里につたわりし四聖獣。
青竜、白虎、朱雀、玄武。
龍、虎、火の鳥、亀。
それらとは違い、民を王家そのものを守護しているといわれている伝説の聖獣。
そしてそれを扱えることができるのは。
あとにも先にも初代女王たる血筋をひきし、資格をもった正統なる継承者のみ。
今のしいなはそこまではわからない。
今はまだ。
しいなにわかるのは、この巨大蛙は実は自分が生まれたときから実は心の中にともにいた。
ということのみ。
なぜかそれだけはわかる。
不思議なほどに。
ずっとその存在を認識していなかったのはおそらくあの謎の女性がかかわっていたのだろう。
彼女はこういっていた。
覚悟がきまるこの瞬間をまっていた、と。
それがどういう意味なのかわからない。
そもそもなぜ拾われ子でしかない自分がこんな力をもっているのか。
もっともそれをいえば精霊との契約の資格をもっているというだけで
しいなにとっては理解不能ではあったのだが。
感覚的にこの巨大蛙はマルタがたしか契約したとかいう、
マルタ曰く、タマミヤとかなずけたあの猫もどきにとてもちかしい。
というかむしろ同質の存在。
巨大ガエルの吐き出す炎の息により、すでに満身創痍となっているくちなわの姿。
そんなくちなわにとどめをさすでもなく、巨大蛙を片手で制しつつ、
膝をついているくちなわを見下ろしつつも淡々と言葉をつむいでいるしいなの姿。
しかしそれはくちなわのプライドを刺激するのには十分すぎるもの。
あきらかに慈悲を与えられている。
罠にはめ、かつのは自分のはずだったのに。
だからこそ。
「俺を殺したくない、というわけか…そんな同情は…お断りだ。
  負けたのは俺が未熟のせいだ、さらばっ!」
がくり、とひざをつきつつも、このまま生き恥をさらすよりは。
そうおもい、その手にした小刀を自らののど元にと突きつける。
「だめぇ!」
その光景を目にいれ、コレットが叫ぶのと。
キッン!
しいながそんなくちなわの手にしていた刀をはじくのはほぼ同時。
「死んじまったら終わりだろ!あたしが憎くてもいい。恨んでいてもいい。だから……」
死ぬ手段をとられ、そのまま再びがくりとその場にひざをつく。
そんなくちなわをみつつ、少し悲しそうに言葉を選びながらいうしいな。
そう。
自分を恨むことでくちなわが生きてくれるのならば。
たしかにくちなわは里からしても許されないことをした。
里の掟、裏切りものには死を、ということもわかっている。
わかっていても、しいなはくちなわには死んでほしくなかった。
彼が本当は優しい、とこれまでのことが演技ではなかった。
そう思える要素があるからこそ、くちなわはやりなおせる。
これからの世界に必要なのだ、そうおもえるからこそ、死んでほしくはない。
「……両親の仇のお前に情けをかけられるとはな…
  俺もとことんまで落ちたもんだ」
自嘲気味につぶやくくちなわ。
その声はこの空間にやけにと響き渡る。
いつのまにかロイド達を取り囲んでいた謎の光の壁もどき。
それはいつのまにか消失してしまっている。
それはくちなわが負けたせいなのか、それはロイド達にもわからない。
わかるのは、一応の脅威は去った、ということのみ。
実際は、しいなが召喚したはある意味で精霊ラタトスクに近しい、
センチュリオン達の直属ともいえる聖獣の一柱。
【聖獣、児雷也】。
その濃密なるマナにあてられ、それらの簡易的ともいえる瘴気が消し飛ばされたといってもよい。
「……それでも…死ぬよりはましだ」
少しばかりしいなたちの元に近づきながらも、
そのひざを大地につけくちなわをみつつもしいなに続き言葉を発するロイド。
そしてまた。
「そうです。死んでしまえば何もできないんですよ?」
諭すように、そして心配そうにそんなくちなわに語り掛けているコレット。
まあ、語り掛ける段階で興味深いのであろうが。
散々巨大蛙を触ったうえに上にのっていたり…という動作をしていたりするのだが。
「…死ぬより苦しい生もある」
それは重苦しいほどに吐き出されたくちなわの言葉。
里のものの情報をこれまでずっと流してきて、
これまで幾人もの里の命を間接的とはいえ奪ってきた。
里の者たち以外の命などはどうでもいい。
でも、里のものの命を奪う手伝いをしていた事実はくちなわにとっては覆らない。
実際、それはくちなわの意思でしていたことであり、いいわけしようともおもわない。
そんなくちなわの言葉をきき、
「…それは私にもわかる。しかし生き続けることで答えをみつける。
  それもまたお前も私も罪の償いになるのではないのか?」
それは自らを罪人である、と認識しているがゆえのクラトスの台詞。
そんなクラトスに対し、
「クラトス。あんたも何勘違いしてるんだよ。
 死と生は同じ次元の話じゃないだろ
  生きることには意味があって、死ぬことには意味がない
  それだけでも比べられるものじゃない」
目をきょとんと丸くして、クラトスを諭すように、いかにも当然とばかりに言い放つロイド。
「死ぬことに意味がない…だと!?」
「ロイドが”次元”なんて言葉を!?しかも正しく使用してる!?」
「ロイド、あなた熱でもあるのではなくて?あなたがそんな言葉を間違いなくつかうなんて!」
そんなロイドの言葉をうけ目をくわっとみひらくくちなわと、
そんなくちなわとは対照的に、逆に驚愕に目をみひらき、
思わずその場から一歩のぞけるようにして大げさ…というか、
これまでのロイドをしっているがゆえ、なのだろう。
本気で驚き叫んでいるジーニアスと。
本気で心配したのであろう。
ロイドのその額にてをあて自らの体温とくらべつついいきっているリフィルの姿。
「…ジーニアス、先生…そりゃ、ないよ……」
いったい自分は何だというのか。
そんな二人の態度におもわずロイドががくりと肩を落とすが。
「…あ~、うん。まあこれまでのロイドのことをみてたら仕方ないんじゃないのかな…」
「うわぁ。この蛙さんの乗り心地とてもぷわぶわ、プニプニで気持ちいい!」
「「「・・・・・・・・・」」」
ぽつりとつぶやくマルタの声にかぶさるように、
なぜか蛙の上にのっていたコレットがその巨体をぷにぷにとさわりつつ、
何やら場違いの感想を述べている声がこの場に響く。
一瞬、何ともいえない静寂がその場を支配するが。
「…こほん」
小さく咳払いをし、そして気分を切り替えるかのように、
「私も死を選ぶことでそれがこれまでの罪の償いになるのだ。
  そうおもっていた。だが、違うとそれは思い知らされた。
  生きているからこそ、意味があるのだ。そう私はロイドから教えられた。
  そんな簡単なことでしかなかった、というのにな」
少しばかり自嘲気味にそんなくちなわにといいはなつクラトスの姿。
それに、とクラトスは言葉にせずとも思う。
それに今の自分の命は妻アンナにもらったようなもの。
これ以上、三度も妻を自分の手で殺すようなことはクラトスはしたくない。
「うまくはいえないけど、さ。
  人は誰かの…生きてきた姿を尊敬するからその誰かが死んだとき悲しむんだとおもう
  だから死ぬことに意味はない。あっちゃいけないんだ
  生きてきた人生に意味があるんだ。だから…生きなきゃだめだ」
それはロイドのカケなしのない本音。
古代の英雄たちの物語にあこがれた。
自分も彼らのようになりたい、と。
勇者ミトスに憧れ、ロイドは剣をその手にとった。
それはミトスの生きざまをつたえし文献に影響されたがゆえ。
もっとも当人はあのように文献にあるそれとは変わってしまっていたようだが。
それでも、かつてミトスがしたことにはかわりがない。
それほどまでに彼は不可能ということを成し遂げた。
「……生きていれば間違いは正すことかできる…かもしれません。
  ……でも死んでしまえばそこまでで間違いを正すことは…できません」
ロイドの言葉にぽつり、とプレセアがつぶやく。
死してもなお、影響をあたえる精神体として存在することは可能だろう。
でも、そこに未来があるのかといえば答えはでない。
「あなただってわかっているのでしょう?あなたの心の中にも神様はいるでしょう?
  良心っていう神様が。だってこれまでくちなわさん。
  しいなにとてもよくしてくれてたんでしょう?」
幼馴染だ、といっていた。
里で一人孤立するしいなにくちなわとおろちが声をかけてくれ、
それは救いであったとかつてコレットはしいなから聞かされたことがある。
その心に嘘はなかった、そう思いたい。
それにこれまでにも幾度も機会はあった。
なのにくちなわは本気でしいなを殺そうとはしていなかった、とおもう。
まあ、待ち伏せされたり、教皇騎士団をけしかけられたりはしたが。
「…それ、蛙から降りていえばより説得力あるとおもうけどね」
ぽつりとそんなコレットに思わずジーニアスが突っ込みをいれる。
たしかに蛙の背にまたがったまま、そういっても、どこか説得力に欠けてしまう。
「…俺に生きる意味があるとでもおもっているのか?」
まあ、蛙にまたがっているシルヴァラントの神子に対して突っ込みどころは山とあるが。
それでも、こんな自分に生きる意味があるのか。
そうくちなわとしては問いかけたい。
本当は心のどこかではわかっていた。
こんなのは間違っている。
しいなを恨むのはお門違いだ、と。
もともとは情報を隠してしいなを駆除しようとした大人たち…自分の両親を含めたものたち。
彼らが悪いのだ、と。
それでも心の奥底ではわかっていても心が納得しなかった。
しいなが失敗したせいで、両親は、里のものは死んだのだ、と。
里のものがしに、両親がしんだのにどうしてしいなは生きているのか、と。
なぜ両親たちの画策したとおり、その場で命を落とさなかったのか、と。
「……それは自分で探さねばならぬことだ。
  私もこの四千年、ずっと目をそらし続けていた。
  大きな決着すらロイドに押し付けようとして逃げようとしていた
  死んで楽に…逃げようとしていた私が貴殿にいうのは間違っているかもしれぬがな」
罪の大きさは遥かにクラトスのほうが重いだろう。
そうクラトスは自覚している。
でも、事情はともかく、罪を背負っているという面で
クラトスとくちなわには共通点があるといってもよい。
だからこそ、クラトスはいわずにはいられない。
同じヒトが起こした罪は自分の罪。
だからオリジンを封印し、オリジンの解放とともに自らも死ぬ。
そうすることで他者がミトスたちにした罪滅ぼしになる、とかつてクラトスはおもった。
でも、それはある意味でのちのことをミトスたちに押し付けるだけの逃げではなかったのか。
そう思う。
特に精霊ラタトスクが直接出向いてきていた真実がある以上、
あのとき、ミトスに賛同するのでなく、精霊の意見をきくべきだったのかもしれない。
まあ、きいたらきいたでかの精霊はやはりヒトは愚かでしかない、といいきり、
自分たち以外の、他にも幾人かはいるかもしれないが特定の存在地以外を滅ぼしていた。
その可能性のほうが遥かに高いが。
ミトスもあの狂気に満ちたあの状態からラタトスクと会話すれば落ち着きをみせていたかもしれない。
それはもしも、でしかなない話。
でもそれを選ばずにミトスのいうがままに精霊達を封印することを選んだのは。
ほかならぬ自分たち自身。
もしも当時、ミトスがマーテルが害されたのち、
ラタトスクを訪ねていたとするならば。
ラタトスクにでは地上をヒトを守るという盟約はどうする?と改めてきかれれば、
ミトスも落ち着きを取り戻したであろう。
あのミトスの狂気はあくまでもミトスの心に干渉してきた魔族ジャミルによるもの。
魔族のささやきと瘴気に侵されてしまった結果。
地上の浄化は見送られたとしても、国という国は確実にかの精霊は滅ぼしていたであろう。
今だからこそそうクラトスはおもう。
それは予測、でしかないにしろ。
これまでエミルとしてそばにいて感じたのは彼はすべきことをするときは迷わない。
そういったイメージがある。
「クラトス…俺、何となくわかってきたようなきがするんだ。
  そのままでいて、ただそこにいて生きているだけで意味はあるとおもう
  だって、誤解とかしていても死んでしまえばその誤解をとくことも、
  自分をわかってもらえることもできなくなる。
  だから…生きていなけりゃいけないんだ」
自分でそういって、ああ、そうか。
ロイドの中ですとん、と何かがおちる。
俺、ミトスにも生きていてほしいんだ。
そして友達が苦しんでいたら助けてやりたい。
そばで何ができるかわからないけども。
でも、誰かがそばにいてくれればそれだけで心強い
父と母を探し、幼き日、森の中にはいりこみ、ダイクに助けられたあのとき
ダイクが家族になろうといってくれたあのときの喜び
忘れかけていた過去の幼き日の記憶。
自分は一人じゃない。
誰も一人ではいきていけない
そして生きている以上、誰かに自分のもつわだかまりをぶつけてしまうこともあるのだろう
そこまで思い、ふとおもう。
?何で俺、今までこんなこと深く考えたこともないのに今はそうおもえるんだろう?
さっきのひとたちが原因…なのかな。
あきらかに元ヒトであったものたち。
それを自らの手を殺めてしまったという後悔。
ゼロスの時とは異なる真実に自分の手で罪もないであろうヒトを殺した、という懺悔。

「…ふ。俺もまだまだあまいな。お前のようなものたちに諭される、とは…」
いいつつゆらり、と立ち上がる。
目の前のこのクルシスの天使もまた苦しみを抱えている。
それが言葉の端々にみてとれた。
まあ四千年もクルシスの千年王国とかいうふざけた思想。
それにかかわっていれば後悔は腐るほどあるであろう。
「…いつかこの俺もそう思えたとき、しいな。お前を許せるようになるかもしれないな。
  …われらが民の最後の姫よ」
ゆっくりと立ち上がりつつ、そしてつぶやくように、
掻き消えるような小さな声で最後の声をぽつりとつむぐ。
「…え?それって、どういう……」
その言葉を聞きとがめ、思わずジーニアスが問いかけようとするものの、
「しいな、お前に渡していたお守りはもう用済みだ。煮るなり焼くなり好きにしろ。
  それにお前たちの位置を特定する式の術式がはいっているのは
  もうお前も気づいているだろう?」
だからこそ先回りができていた。
もっとも、あまり不都合があるときには
それらの干渉をあっさりとエミルが断ち切っていたわけだが。
「…わかってたよ。でも、あたしは捨てない。これはあたし自身の戒めでもあるから
  あたしが幼かったとはいえ、あのとき恐れてしまったから悲劇はおこった」
恐怖で体がひきつりうごけなかった。
そしてあのときも。
コリンが体を呈してかばってくれるまでしいなは過去を思い出し
動くことすらできなかった。
恐怖にかられ混乱するばかりで
また、同じ過ちをするところだった
だから
「事故とはいえわたしの未熟さであんたの両親を、里のものたちをまきこんじまった。
  いや、事故なんかで片づけられるものじゃない。
  ヴォルトと契約をするというのはあたしは聞かされていた。
  にもかかわらず事前の情報を自分の目でも調べて確認しなかったあたしの責。
  だから、これはあたし自身のけじめ。いましめだから。ずっともってるよ。
  それらの事を忘れないために、自分の力不足を戒めるためにもあたしはずっと持ってる。
  …くちなわ。あんたが里にもどってくるその時まで」
姫、という単語に違和感を感じるが。
もっとも、そのヴォルトの詳しい情報が里の一部のものたちによって隠ぺいされていた以上、
当時のしいなにはわかりようもなかったであろう。
「でも・・・しいな、それって、いつまでもしいなが罪の意識に縛られて
  しいな自身を苦しめることにならない?」
「でもね。マルタ。あたしが七歳のとき。ヴォルトと正面から対峙しなかったせいで。
  里のものたちが半数以上も死んでしまったのもまた事実なんだ」
自分を心配してくれているであろうマルタの気遣いはしいなにとってはうれしい。
けど、見誤ってはいけない。
「ヴォルトは雷を司る。事前準備を怠ったあたしに責はある
  避雷針替わりの符でも全員にもたせていればあの悲劇はおこらなかったはず」
でも、しいなはそれをしなかった。
それをしいなは悔いている。
もっとも、それはしいなのせいではない。
そんなのは必要ない、と情報を隠ぺいしていた一部のものたちが、
本当ならば統領が用意していたそれをわざと里におきっぱなしにしたのが根本たる原因。
「だからこそ、あたしは忘れちゃいけないんだ。
  あたしの行動で命を落としていった人たちのためにも」
そこまでいい、すこしばかり目をふせたのち、
そして再び顔をあげ、
「そして…その結果。そのためにくちなわは心に大きな傷をおった。里の人たちも。
  あのとき、コリンがあたしをかばって消えてしまった苦しみ。
  あの苦しみと同じ悲しみを里のものやくちなわたちに与えてしまったんだよ」
「でも、コリンは……」
そんなしいなの言葉に思わずロイドが口をはさむ。
あのとき、コリンは精霊として再びよみがえった。
かの精霊はいっていた。
もともとが精霊ヴェリウスであり、孤鈴というのは仮初の器でしかなかったのだ、と。
「ああ、そうだね。あのとき精霊、として再生を果たした
  けど、あのとき。
  あたしが恐怖にかられ混乱さえしなければコリンはあのような行動をとらなかった
  あたしのせいで…コリンが消えてしまった、というのは紛れもない事実なんだよ」
コリンでありながらコリンであらず
本来の姿にもどった、とはいわれたが。
それでももう、あの無邪気ともいえる孤鈴コリンはもうどこにもいない。
心の精霊ヴェリウスの中にたしかにその記憶は生きているだろう。
けど…それだけ。
心の精霊として再誕したコリンことヴェリウスは精霊としての使命。
その使命のもとこれ以後ずっと生き続けていくのだろう。
コリンにはそんな使命も何もなかった
ともに笑い、ともに生きていたあのコリンは、もうどこにもいないのだ
でも、一つの救いは
「……あたしはコリンの心とともにいきていく。これからもコリンと一緒にいきていく。
  心があるかぎり、あの子は…自分たちのそばにいる、そういってくれたから。
  …だから、だからくちなわが生きることの意味を感じてくれるその日まで
  里に胸を張って戻ってくれることができるその時まで
  あたしはこれを大切にこれまで以上にお守り、としてもっておくよ」
それはしいな自身への戒めであり決意。
自分の力におぼれないための。
自分の力不足にて誰かを犠牲にしないための。
「…お前がそうしたいのならば好きにするがいい
  だが…お前たちの言葉。真実かどうか俺はいつまでもみている」
口先だけではどうにもなる。行動に移さなければ意味はない
いいつつも、そのまま背後の樹にと向き直り、
そして。
キィィッン!
くちなわの背後にある巨大な樹。
その真横にうかびし黒い細長い石のような何か。
それにむけておもいっきり懐からとりだした小太刀を振り下ろす。
バリィッン!
くちなわがその石に刃をむけて振り下ろすとともに、
石が砕け散り、それとともに何かがハゼわれる音が周囲に響く。
それと同時。
ぐにゃり、とロイド達の視点がゆらぐ
「…俺を失望させるなよ。暁姫の血を受け継ぐものよ……」
ロイド達の視点がこの場にきたときと同様に反転するとともに、
くちなわの声のみが彼らの耳と届いてくる。
それが意味することに気づいたは、この場においてはクラトスのみ。


「ここは……」
周囲をみわたせば、そこはあいかわらず薄暗い城の一角。
「どうやら結界内部から解放されたらしいな。
  あのものが結界を維持してたであろう石。それを壊したことにより、
  元の場所にもどってきたのだろう」
リフィルが困惑ぎみにつぶやけば、今の状況を説明するかのようにクラトスがいってくる。
「城の中にもどってきた、ということかしら」
たしかにここは城の中。
しかし、あれほどいたはずの異形の元人間たちの姿がまったくみえない。
そしてこの場にいたエミルたちの姿すら。
「くちなわさん…どこにいったんでしょうか?」
階段の上にいたはずのくちなわの姿もそこにはない。
「さあねぇ。まああの様子だともうこっちに敵対はしてこないっしょ。…たぶん」
「たぶんってなぁ。ゼロス」
あっけらかんというゼロスの言葉にあきれたように問い返すロイド。
そうはいうがロイドの中にも今後くちなわは正面をきっては現れないだろう。
そんな妙な確信がある。
それはなぜ、かはわからないが。
「とにかく、玉座の間にいこうぜ。くちなわの奴のことはおわったかもしれねえけど。
  この国におこっている異変はまだ解決してないんだからな」
「そうね。…とにかく、今はすべきことをしていきましょう」
くちなわのことはたしかにきになる。
それに先ほどきこえたくちなわの最後の言葉。
もしかして、しいなは…
エルフの里につたわりし古の古代に滅びたという自然とともに、
自然そのものを崇拝し、そして自然とともに生きることで自然の力を借りて
不可思議な力を使っていたという神代の種族。
エルフにもっともちかく、そして最も遠いとされていた伝説の民。
それはもうエルフの里に古代からつたわる文献の中でしかしることのできない、
本当にいたのかすらもあやしい民の伝承。
もしも、リフィルの予感が正しいとするならば。
…しいなは、本当は捨て子、なんかじゃない。
そのようにして隠されていた正統なる…古にほろびし王家の末裔。
そう、としか思えない。
しかしその考えを口にすることなく、今すべき優先すべきことのみを口にするリフィル。
それをしいなにいっても、しいなも、そして皆も混乱するだけだ、というのはわかりきっている。
だからこそ、リフィルはいわない。
おそらく自らの考えは間違ってはいないのだろう。
そう予感めいた確証をもちつつもあえてそれには触れずに淡々と言葉を発するリフィル。
「いきましょう。…おそらく元教皇は王の間、にいるとおもうわ」
ああいう権力に固執しているものは必ず権力の象徴ともいえる場所にいるはず。
それゆえになぜか敵のいなくなったしずまりかえった二階にと続く階段。
その階段にリフィルはその足をいっぽ、踏み出してゆく。


~スキット~くちなわ戦から復帰のち~

コレット「そういえば、しいなのそれもお守り、なんだよね?
      私のこれとあるいみでお揃いだね!ロイドももってるよね?お守り!」
ロイド「え?ああ。前にお前がくれたフラノールの雪うさぎのことか?」
コレット「うん!」
ロイド「…これには助けられたからな。俺……」
しいな「そういえばコレット、あんたは聖なるお守りもってたっけね」
コレット「皆が協力してつくってくれたんだよ?私のために。
      だからこれは私の大切な宝物なんだ。えへへ」
しいな「宝物、か。そうだね。あたしにとってもそう、なのかもしれないね。
    たとえこれがくちなわの奴があたしの位置を特定するためだけ。
     そのためだけにくれたのだとしても。
     わざわざお守りの形にする必要はなかっただろうし、ね」
ロイド「そういや、お守りって何でお守りっていうんだろ?」
リフィル「素晴らしいわ!ロイドがそんなことに興味をもつなんて!
      ちょうどいいわ。ここでお守りとしての定義の授業を……」
ロイド「うげ!?やぶさめだったか!?」
ジーニアス「…ロイド。だからそれをいうのならば藪蛇だってば」
ゼロス「…おまえら、緊張感ってもんをしってるか?ったく」
クラトス「ある意味では大物なのだろう」
ゼロス「…あんた、息子がからんだらおもいっきり親ばかフィルターはいるよな……」
マルタ「でも、いまだにクラトスさんがロイドの父親っていう実感ないよね」
セレス「そうですわね。クラトスさん、どうみても若いですし」
クラトス「…それが天使化するということ、無機生命体化する、ということだ。
     石の力によって自らの代謝機能などを停止させることにより
      我らは老化を防ぐことができる。
      我ら天使化が死したとき、それは身に着けている石に精神が融合され、
      そしてそれこそが天使達の死だと昔からいわれている」
プレセア「…だから、アリシアも不完全とはいえ取り込まれてしまっていた…んですね」
クラトス「…一度エクスフィアをその身につけられてしまったものは。
      特に要の紋もなく取り付けられたものは必ず石の力に取り込まれてしまうからな」
リフィル「…エミルはたしか、エクスフィアは精霊石だ、とかいっていたわね。
      それこそ以前から……」
クラトス「…そうだ。エクスフィアとは本来、世界に漂う数多の微精霊達。
      それらが誕生する前の卵のようなもの。
      我らヒトには精霊の力は大きすぎる。ゆえにマナが精霊の力に耐えられず、
      どうしても暴走してしまうのだ。それを抑えるのが要の紋といわれている品だ」
リフィル「エクスフィア…精霊石…装備者の潜在エネルギーを引き出す石。
      そう世間では認識されていたけど、そんな真実があったなんてね」
ジーニアス「…そういえば、エミルは昔から石についても擁護してたよね」
リフィル「…そうね。悪いのはあの子たちではなくてヒトだ、といつもいっていたもの」
セレス「…結局。ブラムハルドさんとかいうエルフの族長さん。
     あの人がいっていたディセンダーって……」
ジーニアス「今それをいう!?セレス!?」
リフィル「…おそらく、エミルがこれまで私たちの旅に同行してきていたのも。
      そのあたりのことがあったから、なのでしょうね」
クラトス「…一番の理由は私を通じてミトスの真意を確かめるため、だとはおもうがな」
ロイド「…そういや、エミル、戻ってきたときいなかったけど」
ジーニアス「ミトスもだよ?」
プレセア「…おそらく、先にすすんだ、のではないでしょうか?」
クラトス「…私としてはミトスが古の盟約を破棄しないかどうかが恐ろしいのだがな」
もしもそうなったとするならば。
本気でこの地上はきれいに洗い流され浄化されてしまう恐れがある。
リフィル「…盟約、ね。契約とは違うのよね?」
クラトス「ああ。そもそもミトスは精霊達と契約するときですら、
      契約で縛ることはしたくないと申し出たらしいが、けじめはけじめ。
      といわれことごとく契約という形になってしまっていたからな。
      契約でなく約束、として受け入れてもらえたと当時のミトスはかなり喜んでいた」
マルタ「…というか、クラトスさんもミトスも、古代の勇者…なんか実感わかない……」
セレス「まったくですわ」
ジーニアス「…僕としてはエミルの事のほうが実感わかないよ…」
クラトス以外の一同『…確かに』
エミルは自身がディセンダーだといわれても否定をしなかった。
そしてオリジンとの邂逅のときにみせたエミルの変化。
もっとも、ディセンダーなどではなく精霊当事者だと理解してしまったリフィルは
何ともいえない表情を浮かべていたりするのだが。
ゼロス「とにかく、ヒヒ爺をどうにかしねぇとな」
セレス「陛下はご無事なのでしょうか?」
ゼロス「さあな。何しろ実の異母兄を殺そうとしていたやつだ。
     完全に無事ってことはないだろうな」
ほんとうに。
自分を殺そうとしていたと理解しただろうに、
なぜにあの国王陛下は断固たる処置をはやくとらなかったのか。
優柔不断なところはどうしてもゼロスはすきになれない。
何もかも後回しにすることで逃げているようにしかうつらない。

※ ※ ※ ※


ロイド達がくちなわによって異空間ともいえる空間に引き込まれ、
一方、残されたミトス、エミル、ミラ、ミュゼ、聖獣フェニア、シャオルーン。
そのまま襲い掛かってくる異形のものたちを排除しつつ、
真っ赤な絨毯の敷き詰められた階段を目的の場所にむかってすすんでゆく。
王の間に続く階段にのみ真っ赤な絨毯が敷かれており
一応これらが道順の目安になっている。
「うん?王の間にいくのではないのか?」
階段は途中で一度途切れており、そこは二階にとなっている。
そして二階部分の廊下からさらに先に続いており、
正確な王の間は屋上部分に続いていたりする。
正確にいえば王の間から屋上にでることができる位置に部屋がある。
絨毯がいまだに視線の先にみえる階段にあるということは、
おそらくその先に王の間があるのだろうと予測していたがゆえ、
階段から外れ廊下のほうに足を踏み出したエミルにと、
少し首をかしげてといかけるミラ。
「まあ。たしかに、気配からしてあの元教皇とかいうヒトは上にいるみたいだけど。
  でも、彼女のほうはこっちにいるみたいだしね」
「というか彼女はいつも操り人形を絶対につくって自分は安全な場所にいるしね。
  おそらく以前の行動から考えるにお姫様のところだとおもうし」
ミトスたちが最終的にたったの四人で長くつづく戦乱を終わらせることができた理由。
それは実はそこにもある。
王家を影からそそのかしていた魔道士を名乗りし女性の存在。
それをつきつめ弾糾した。
もっとも公開処刑になったわけだが、ミトスたちがそれでは彼女を殺すことはできない。
といっても魔族の何たるかがわかっていない国はそれを断行した。
…まあ、処刑したあと、ふつうならば首を切り落とされれば死ぬしかないのに。
生首、そして斬り放たれた胴体が高らかに笑い声をあげ、
そして消えていった光景はかなりの当時の人々の心にトラウマをうえつけ、
戦乱があるかぎり、我々は再びいつでもよみがえる!という言葉とともにきえていった。
理解不能ともいえる恐怖心。
それらもあって一気に和平にと結びついていった。
そういう意味では終戦に一役かったといいきれなくもないが。
ミラの問いにエミルがいえば、ミトスがすこし顔をしかめつつもいってくる。
魔族がかかわっているのには気が付いていたが、彼女たちであることまでは知らなかった。
いや、知ろうともしなかった。
ミトスからしてみれば魔族が介入し、テセアラという国が壊滅しても問題ない。
と判断したがゆえに。
そもそもテセアラという国は巨大になりすぎていた。
クラトスと約束したように世界を一つに統合したとしても、
この国は以前の国々と同じように、今度はシルヴァラントの人々を奴隷扱いしただろう。
それだけはミトスは確信をもっていえる。
それほどまでにテセアラという国は昔も今も身分制度がひどい。
民ですら勝手に定めた身分が自らよりも下のものをしいたげる。
それがテセアラという国の現状。
それは昔からかわっていない。
「フェニア。シャオルーン」
「「は、はい!」」
そんな会話を交わしたのち、その視線を二柱にとむけるエミル。
そんなエミルの視線をうけ、ぴしっと姿勢を正す聖獣ふたり。
「――事が終わり次第、この地のすべての浄化を、いいな?」
エミルの言葉に一瞬顔をみあわせ、そして。
「…よろしいのですか?」
そう問いかけるフェニアの声はどこかかすれているように感じるのは、ミラ達のきのせいか。
「どちらにしろ。この地は瘴気に完全に穢されている、浄化の炎が必要だ」
「……わかり、ました」
浄化の炎が及びしは生物の中であればその内部にたまりし穢れを取り払い、
そして、そうでない場合は……
「ちょっとまて。浄化、というが、この地にいる人たちはどうなる?」
「問題ない。命には別状はないからな」
浄化、とききまっさきにおもいつくはすべてを無にしてしまうこと。
ゆえにミラが少し顔をしかめエミルにと問いかけるが、
そんなミラの問いかけにさらりと何でもないようにいいきるエミル。
そう、問題はない。
あくまでも動植物やヒトには影響はない、のだから。
ゆえにエミルのいっていることにはウソはない。
その言葉の裏にあるものにきづき、ぴくりとミトスが反応を示す。
かつてミトスは瘴気に覆われた場所がどのようになったのか。
それを身をもって経験している。
わざわざイグニスを通じてイフリート達にそのときは後始末をさせることもなく。
ヒトが招きしことはそのまま放置していた。
自分たちがしでかしておいていざとなったら悲嘆し自分たちは悪くない。
そうなげくばかりのヒトにあきれていたといってもよい。
何しろ自分たちから事をしかけておいて、自分たちに都合がわるくなったり、
もしくは自分たちに被害がおよぶと自分たちは悪くない。
と責任転嫁ばかりをし、他人にその罪をなすりつけるしかしないヒト。
そして傍観するばかりで何もしようとしなかったエルフたち。
あのときもそう。
結局、ヒトは何もしようとはしなかった。
それどころか…ダオスの忠告すら無視し、
さらには自分たちの罪を覆い隠すためだけにダオスを悪者にし、
そして彼らがしでかしたことをすべてダオスにおしつけた。
ダオスはエルフたちにも協力を申し出ていたというのに、
エルフたちもそんなダオスに自分たちはかかわらない、といって聞こうともしなかった。
あのとき、マーテルとの盟約さえなければ…
今さらいっても仕方がないとわかっているが、どうしても思わずにはいられない。
そんなことを思いつつも、
「彼女たちには僕もついてるし。ひとまず町でその下準備をしてきてて」
「しかし……」
言いよどむようにしてちらりとその視線をミトスにむけるフェニアの姿。
その視線の意味を悟ったのであろう。
「…僕はラタトスクを傷つけたりはしないよ」
「そうでしょうか?あなたがこの御方を裏切っていたのは事実なのですよ?
  しかも精霊達まで」
彼らはセンチュリオン達から簡単なことはきかされている。
ゆえにフェニアの視線は少しばかり厳しい。
「過ぎてしまったことをいっても仕方なかろう。必要なのはこれからだ。違うか?」
「それは、そう、ですが……しかし、ヒトは幾度も裏切りをみせるのですよ?」
「そうだな。ヒトとは裏切るもの。当人にたとえそのきがなったとしても、な」
それはもうラタトスクの中ではあるいみ確定といってよい。
それでも。
「……それでも、ヒトはかわることができる。そうでなければヒトなど創造ってはいない」
ヒトたる狭間の心をもちしものをそうでなければ生み出してはいない。
それは可能性。
もっともその可能性にことごとく裏切られているのもまた事実なれど。

「…なんか、話の内容が壮大すぎてついていけないのだが……」
「ですわね。ミラ、私たちはどうします?父親というところにいきますか?」
「そうだな…」
どちらにしても、魔族とかいう輩が介入している限りそれをどうにかしなければ。
もしもかつて祖父からきいたことをあの人間がしているとするならば。
魔族をどうにかするか、もしくはアレをどうにかするしか決着をつける方法はない。
エミル達がそんな会話をしているさなか、こちらはこちらで姉妹にて、
そんな会話をしているミラとミュゼ。
上にいくたびに瘴気がより濃くなっており、
ミュゼは完全にミラに憑依するような形でこの場にいたりする。
精神体であるミュゼにとっても瘴気は毒。
普通の精神体ならば瘴気に触れるとともに狂わされ、そのまま堕ちるか、
もしくは悪霊、といわれし分野のものになりはてる。
そしてそういったものは、魔族達にとっては恰好の餌でありまた駒でもある。
そして魔族達に目をつけられたが最後、魂は永遠に魂の牢獄にととらえられる。
そこに圧倒的な相対する力が加わらない限り。

「そういえば、ミラさんもミュゼさんもこれまで戦いって、
  やっぱりマクスウェルの疑似敵達だけ?」
そんな姉妹の会話をききつつ、すこしきになっていたことをといかける。
今後のこともあり、彼女たちには疑似的なものでなく実際に経験を積ます必要がある。
マクスウェルがいっていた、彼女たちをこの地の監視者とするのには問題はない。
むしろ元人間というのもあり、嘘をつき相手をだますヒトを相手にするに、
それはそれでふさわしいといえる。
二人でマクスウェルとしての力を受け継ぐか、それとも片方をオリジンのほうに回すか。
それはいまだにラタトスクとしても決めかねているが。
どちらにしろこの地にいる大精霊達すべては移動させ、
そしてこの地上の理はヒトがマナを認識できないようにと書き換える。
そして自らの大樹のマナでなくとある方法で芽吹きそれが生み出すことができる薄いマナ。
ヒトが間違いをおかさないかぎり、そのマナの溜りからあらたな精霊…
本来の大精霊達までの力はもたないまでも簡単な次代の精霊達は生まれるはず。
かつての時間軸でロイド達があつめた精霊石。
それに気が付きそれらの穢れを浄化させたのち、
あのマーテルの生み出す薄いマナにおいてラグナログののち、
力のよわき新たな精霊達が生み出されたように。
アレラに関してはあの地にあった精霊石。
かの石がマーテルの生み出すマナを吸収し誕生したわけだが。
…なぜかヴォルトなどは元からいたヴォルトのマナをも吸収したためか、
ほとんどかわらない姿となってしまっていたのだが。
とはいえマーテルが生み出せた精霊はたったの四体。
つまり、四大元素ともいえる風火水土。それらの精霊しか生み出せてはいなかった。
新たなノームなどの容姿についてはなぜにあのような姿になったのか、
いまだにラタトスクとしては疑問におもっていたりするのだが。
「ああ。そうだが」
「そっか…なら、とりあえず、ミトスの戦いでもみてみたらいいとおもうよ?
  このミトス、これでも一人で精霊達との契約成し遂げてるしね。
  他人の戦い方とか実践とかこれまでみたことないだろうし。…今後のこともあるしね」
マーテルのようにただ嘆くだけの管理人はいらない。
いざというときに自ら対処できるものでなければ。
「君たちだって、あのマクスウェルと一人でたたかって認められた人間。
  ミトス・ユグドラシルの戦いに興味がないわけじゃないでしょう?」
かつて、ミトスは精霊達との契約はほぼすべて一人でのりきった。
おそらくあのマクスウェルのこと、養い子である彼女たちにそれを話していないはずはない。
ミトスに対し、たしかにこれまでしてきたこと、あのときしたことにたいし、
いろいろと思うところはあれど、
しかしミトスがおそらく無意識にしているのであろう。
時折見せる迷子のような、それでいて今にも泣き出しそうな小さな子供。
そんな視線をみていれば、あまり強く糾弾するのも何となく気が乗らない。
もっともセンチュリオン達がきけば、”地上にでられたときは相変わらず甘くなる。”
と八柱全員が皆同じ感想を抱くことは用意に想像がつくが。
「「…確かに。それは興味ある(な)(かもですわ)」」
そんなエミルの言葉にしばし考え込み、二人して顔をみあわせたのち、
しみじみとしたようにミトスをみつつも同時に言葉を発するミラとミュゼ。
「じゃ、決まりだね。ミトス。僕らはただ観戦してるだけで手はださないからね?
  もっとも、決着がついたあと、彼女の精神体はまかせてもらうけど」
分霊体を通じ、本体もろとも消滅させておいたほうが今後の憂いが一切たてる。
まあ、プルートについていかなかったのだから、それくらいは覚悟しているはず。
そしてそれはこの世界に残りし他の魔族達にもいえること。
せっかく一応、彼らも生きられる選択肢を与えたというのに。
それをけったのは残りしものたちなの、だから。


「何ものです!」
ノックもせずに扉をあけ放つ。
ざっとみたところ全体が薄桃色で統一されているちょっとした部屋。
というか色彩がこれではゆっくりと落ち着けないようなきもしなくもないが。
扉からはいったその先の部屋にはちょっとした小物類。
といってもテーブルや腰掛、そして様々な家具などがおかれており、
奥の部屋には天蓋つきのこれまた薄桃色のベットらしきものがちらりとみえる。
おそらく一人で優雅に飲み物でものんでいたのであろう。
カチャン、とテーブルに真っ白い陶器でできた紅茶カップをおく音が鳴り響く。
部屋そのものは一番端に位置しており、
テラス付のマドにはこれまたレースがたっぷりつかわれたカーテンがかかっている。
本来ならばここから日の光がはいり部屋全体をほのかに明るく照らしているのだろうが、
今現在この地は闇と瘴気におおわれており、当然のことながら窓の外にひろがるは漆黒の闇。
そういって立ち上がるはすこしふんわりとしたこれもたフリルのついたスカート。
胸のあたりから服が始まっている点においては
エミルが着ている服とどことなく似ていなくもないが。
はっきりいって日常生活ではおもいっきり動きにくいであろうドレス。
そうとしかいいようがないそれをみにまとっている金髪の女性。
その髪をなぜか縦ロールにして肩のあたりまでのばしている。
一番初めに部屋に踏み入りしはミトス、そしてそんなミトスに続いて、扉の向こう側。
つまり部屋の中にはいらずに様子をうかがうようにたっているエミル、ミラ、ミュゼの三人。
そもそも薄暗い中というかほぼ灯りのない真っ暗闇の中で何かを飲んでいるという行動。
それそのものがヒトからしてみれば異常、としかいいようがないのに
目の前の彼女は気づいているのかいないのか。
「ここをどこだと思って……」
「御託はいいよ。でも珍しいね。君が君自身が相手に成り代わるなんて」
腕を組みつつも、それでも警戒をとくことなく、
相手をにらみつけるように言い放つ。
そういいながら相手をみつめるミトスの瞳にはたしかにかつてのミトスにはなかった憎悪。
そういった感情がみてとれる。
「何を……」
「僕がわからないとでもおもった?ジャミル」
いきなりといえばいきなりの対面越しにその姿になりかわっているのものの名。
それをしっかりと口にする。
そんなミトスの口調と様子にこれ以上のごまかしはきかかない、
というか無意味、と悟ったのか、
その口元に本来のヒルダでは絶対にしないであろう表情。
にやりとした口元に笑みをうかべ、しかもその口がこころなしか耳元までさけかかっている。
「あらあら。姿を変えているのにすぐにわかるとは。さすがは勇者様。
  いえ、今はクルシスの指導者というべきかしらかね?」
それと同時、ヒルダ姫の姿をしていたはずのそれの体が一瞬より黒い靄にとつつまれる。
体全体を覆っていたそれが取り除かれたその場にあらわれれしは、
その背に黒いコウモリのような翼をもち、なぜかその体にはヘビをまきつけているその姿。

「…そういえば、あいつも好きな色は桃色だったな……」
ふとそういえば、と思い出し、扉の向こう側でぽつりとつぶやくエミル。
たしか以前、とある国の王子を傀儡つしてあやつりあの国に入り込んでいたときも、
彼女は桃色の魔道士服をきていたような。
「?あの女はいったい何なのだ?ヒト…ではないようだが?」
その姿を目の当たりにし少し困惑したようにそんなエミルにと問いかけてくるミラ。
「彼女はジャミル。昔からこういった国に入り込んでは人々の疑心暗鬼をあおって、
  ついでに戦乱の世を巻き起こしてる一角の一員ですね」
ほんとうに、よくもまああきないとしかいいようがない。
しかも手段はほとんど同じ。
その毎回毎回同じような手段にだまされ、あっさりと戦争を起こすヒトもヒトなれど。
まああのときはダオスの戦いに介入するよりは、
新たな魔科学をあの国に導入させるのが目的であったようだが。
人心をあおり、かの地にて魔科学を魔導砲をあのジャミルは開発させていた。
もっともそののち、それに気づいたモスリンたちがそれを破壊していたようだが。
当時、マーテルの盟約のせいで手がだせないかわりに何ともいえない気持ちで様子をみていた。
マーテルもわかっていたはず。
あのときの大地はマナによって構成されていたというその事実を。
なのに結局彼女は本当になにもしようとすらしなかったな。
それを思い出し、思わず無意識のうちにエミルは溜息をついてしまう。
「「…一員って……」」
「そもそも、かつての古代戦争?でしたか?
  それも小さな小競り合いから発展したのは彼女らの介入で大きくなっていった
  というのもありますし」
地上を一度浄化しようとおもったのは、そういった魔族達もふくめ、
すべてを一度無に還そう、そうおもっていたがゆえ。
「魔族達の行いは単純ですけどね。心に隙間をもちしもの。
  それらの心の迷いをついてそこにつけこむ。
  ただそれだけでヒトはあっさりと、相手を依存するようになる。
  そこに明確な意思と強靭な精神力がない限りは」
甘いささやきにどうしてもヒトは流される傾向がある。
それに打ち勝つだけの強い意志力と精神力。
かつてのミトスはそれをもっていた。
にもかかわらず魔族達におそらく付け込まれてしまっていたのはきっと。
ヒトはいつの時代もかわらない。
あのときのノルンの世界でも。
戦争のせい、といって自分たちが犯した罪を認めようとしなかったヒトの子供たち。
マナを強制的にひきあげて使用、しかも増幅するようにして力を転換すれば、
どうなるかわかっていただろうに。
なのにあの姉弟はそれを実行した。
してしまった。
しかもノルンが彼らに反省を促すために夢をみせても彼らは反省するどころか
その心に魔を宿すにいたってしまっていた。
あのときの彼女の心情をおもうと何ともいえない。
自分達の国を、世界を滅ぼした相手だというのに、
新たな精霊としてよみがえらせたダオスもあの二人を擁護していた。
それでも自分の民だから、と。


背後にてエミルがミラとミュゼに簡単な説明ほ施しているそんな中。
「僕、これでもけっこう自分に怒ってもいるんだよね。
  でもそれ以上に…きさまなんかが姉様のふりをして僕を堕とそうとしたのがゆるせない!」
しかも姉の姿をしてのあのささやき。
寝るたびに、意識を休めるごとにそれを行使してきためのまえのこの魔族。
でも、それが姉だとどうして信じてしまったのか。
姉があんなことをいうはずがないと、一番よくわかっていたはずなのに。
瞬間、ミトスのもつ力、すなわちマナが一気にぶわりと上昇する。
本来、ミトスたちに授けられた精霊の力がこめられし石は、
彼ら四人の手助けになるようにその感情とともにその力の制限も大きく異なる。
もともと、原液ともいえるラタトスクのマナのみを凝縮された石。
つまりは使用者の意思次第でどのようにも加工が可能。
そのような”石”をかつてラタトスクはミトスたちにと授けている。
そしてそれをミトスは石を授けられたときにきいている。
姉マーテルが普通のエクスフィアのように心を取り込まれて消えてしまうことはありえない。
そう思えたのもそれがあってこそ。
ある意味それは絶対的な信頼。
ラタトスクから授かっている石が姉の魂を消すはずがない、という頑固たる信頼。
しかし確かにそうではあったが、石が傷つけられ、
自己再生力にて石が再生を果たそうとしている中、
マーテルの魂を保護したかの石は大いなる実りの中へとはいってしまった。
マーテルの最後の意思。
何としても大いなる実りを守らなければ、という意思がその現象を引き起こした。
ヒトの心とは時としてありえないことを成し遂げられる力をももっている。
それは光にも闇にも属さず、またどちらにも属しているがゆえにできること。
そして…すぐにどうにかすれば問題はなかったのに、
そこに大量のマナを注いでしまったことで本来ならば少し経てば癒されるはずのソレ。
それが決定的に覆されてしまったといってもよい。
どうしてあのとき、それに気づかなかったのか。
ユアンのいうがまま、天使化したものたちの死の過程。
しかしそれは自分たち四人には当てはまらないとわかっていたはず、なのに。
おそらく目の前のこの”女”は自分を堕とすだけでなく、
どうにかして姉もまたひきこもうとしていたに違いがない。
しかし姉の魂は大いなる実りのマナにと守られていた。
だからこそあのとき、自分を通じ姉をどうにかしようとおもったのかもしれない。
姉マーテルのあの心はたしかに魔族達にとっては毒ともいえし純粋なる善意にあふれていた。
そういう輩を落したときの闇は際限なくそれこそ深淵のごとくに深い。
それをミトスはセンチュリオンからかつてきいたことがあった。
にもかかわらず、あのとき姉の体温がうしなわれ、呼吸も何もかもが停止したあのとき。
世界が止まったような感覚におちり、それらすべてのことが頭から抜け落ちてしまった。
慌てて戻ったときに最後の力をふりぼり、
姉が自分たちに向けたあの言葉の意味。
あの意味をいつのまにかはき違えてしまっていた自分の心。
虐げてくるヒトどうしてまもらなければいけないの?
そうあの”声”が意識の中で語りかけてきたあのとき、
それが姉の言葉ではない、とわかっていたはず。
なのにミトスはそれを姉の言葉だ、とうけとめた。
受け止めてしまった。
魔族はヒトの心の隙間、絶望につけいりその傷をえぐってる。
そう誰よりも知っているはずの自分自身がその魔族の計略にはまってしまった。
しかもそれに無意識ながらきづいていながらも
それを姉が望んでいるんだと思い込もうとした。
実際に年月とともにそれが姉の言葉だと、願いだと疑うことすらしなかった。
だって、自らが牧場をつくったとき、そしてディザイアンという組織をつくり、
ヒトをしいたげる方法をとり、テセアラという国とシルヴァラントという国。
それらに壊滅的なダメージをあたえたとき、心に浮かぶ姉は
いつもの悲しい顔でなく笑みを浮かべてくれていたのだから。
でも、それは今思えば姉の笑みではなかった。
どこか卑しくもヒトを見下したようなそんな笑み。
でも、ずっと悲しい顔しかみたことが…否、見せ続けられていたミトスにとって希望を抱いてしまった。
ああ、姉様はずっと自分たちをしいたげていた人たちに報いをあたえたかったんだ、と。
かつての禁書の封印のほころびが目立ち始めたのは確かそのころであったはず。
定期的にマナを回復させていたのが災いしたのか
また過去の過ちを繰り返そうとしていたシルヴァラント王家。
そして、ヒトをハーフエルフを生体実験と化していたテセアラ王家。
よりによってエルフの血をひきしものをその実験体として人狩りを始めてきた。
それはかつての悲劇と同じ幕開け。
かつての戦乱の世でもそれは日常的に繰り広げられていたこと。
だから、徹底的につぶした。
でも、再び二つの王家は同じことをくりかえしてきた。
だからこそ、シルヴァラントの国は滅ぼした。
これ以上、マナを発展させれば彼らはロクなことをしない。
そうミトスは思い知った。
そしてシルヴァラントの世界にディザイアンたちによる牧場。
そういったものをつくりあげた。
それにともない、あの三人に封印の強化を命じ、
その働きによってあの中からその長を選び出した。
それは八百年前ほどの出来事。
それまでは天使化できる精霊石を神子の体で生成しており、
エクスフィア…精霊石そのものにまで手出しはするつもりはなかったというのに。
約四千年もの間ずっと精神攻撃に耐え続けていたミトスを確実にヒトを見限る。
その行為に走ったのはほかならぬヒト自身。
ミトスはその間、そういった夢をみていることは一切心配させまいと話はしなかった。
もしも話していれば少なくとも違う結果を迎えていただろうに。
ミトスは姉以外にその弱音を決してみせることはなかった。
それがあるいみ災いしたといってもよい。
クラトスはたしかにミトス自身を信頼してくれてはいたが、
そんなクラトスもどこかミトス自身にたよっており、その理想を押し付けているというか、
ミトスを自らの希望の象徴として無意識のうちに扱っていた。
だからこそ、ミトスはクラトスの前でも決して弱音を吐こうとしなかった。
何しろミトスたちとクラトスが旅にでるときにいわれたこと。
――ならば、お前は私の希望だ。
そういわれた言葉がずっとミトスの中に残っていたがゆえ。
ユアンに頼ろうとしなかったのはいうまでもなく姉を奪う相手に弱音をみせたくない。
という何ともかわいらしい意地のようなものでありはしたが。
それが長い年月とともに蓄積し、そして完全にミトスはゆっくりと、
しかし確実に魔族達の思惑に侵されていっていた。
しかし、クラトス達はそう、とはきづかなかった。
ただ、ミトスがかわってしまっていっている、としかおもわなかった。
あの光にあふれてたミトスがそのようになっているなど、誰も疑いすらしなかった。
ミトスですらそれが当たり前だ、ヒトなんて虫けらのようなもの。
そのような考えに至り始めていた。
クラトスの真意を確かめるべく、あのとき地上におりて一行の仲間として加わるまでは。
自分が裏切っていたのを知りながらも旅の仲間として接してくれていたラタトスク。
そして何もしらないままに無邪気に受け入れてくれたジーニアスたち。
彼らとともにいることで自分が自分でなくなってしまうようで。
決意がにぶってしまうようで。
かつてノイシュに語ったように、変わってしまったのは自分なのだ。
と自覚せざるを得なかった。
でもそれは認めたくなかった。
それを認めてしまえば自分を信じてくれていたすべてのものたちを
完全な意味で裏切ってしまいそうで。
たしかにミトス自身の心に隙があり、弱かったからそうなった。
そういえなくもないかもしれない。
けど、その原因ともいえる発端となったのはまちがいなく目の前にいるこの魔族。
だからこそ、ミトスは己と、そして目の前の魔族であるジャミルが許せない。
あんな甘い誘惑に、あからさまに怪しい言葉にだまされてしまった自分が。
それでも、心のどこかで違うとわかっていながらも完全に拒絶をしなかったのは、
たとえそれが偽物かもしれなくても姉が生きて動いている光景。
それを延々と意識の中で、もしくは夢の中で見せ続けられていたがゆえ。
わかっていたはず、なのに。
アレは決して姉ではない、と。
「どうやらデミテル達の報告にあったように。
  じっくりと時間をかけてあなたにしみこませていた力がどういうわけかなくなったようね。
  いえ、理由としては一つしかないわね。
  よもやあなたのようなものが表にでてきているとはねぇ。
  まさか番人自らがこうして地上にでてきているなんて」
デミアンとつなぎがとれなくなったのもそのあたりに原因があるのであろう。
にやりとした笑みをうかべ、そしてそののちその視線をミトスの背後に向けたのち、
そのまるで血に染まっているかのごとくの真っ赤な唇をひらきそんなことを言い出す目の前の女性。
実際、かの魔族は絶海牧場の地においてラタトスクに消滅させられてしまっている。
薄い桃色の髪になぜかその頭には羊の角のごとくにねじまがった二対の角。
その血でぬれたような真っ赤な唇に再び笑みを浮かべたのち。
「それにしても、やってくれたようですわね。
  まさか魔界をそっくり移動させるなんて思ってもみませんでしたわよ」
その視線をエミル…否、ラタトスクにむけてそんなことを言い放つ。
「そういうお前たちはなぜにプルートの元にいかなかった?
  お前たちにとって強大な力をもちし支配者はむしろ好都合であっただろうに」
基本、魔族達は実力世界。
しかし突起した実力をもつものがおらずに魔王と称される魔族達が権力争いをしていたにすぎない。
ほとんどの魔王と称されるものたちの力は拮抗しており、
その中でも多少突起している実力をもったリリスなどはそういったものには興味がなく。
結果、野放し状態であった。
サターンなどもかつてはいはしたが、それは天地戦争時代に滅ぼされている。
問いかけられ、そのまま扉の真横にある壁に背もたれかかり、
腕をくみつつもそんな相手…ジャミルにと逆にとといかける。
その瞳は先ほどまでとは異なり、真紅にとかわっていたりする。
「あら。人間のいない世界など、面白くも何ともないですわ。
  たしかに惑星そのものはこの星と同じ規模であることはみとめましょう。
  けど、私はヒトが絶望しそしてその顔を苦痛にそめ屈辱に染まるのが好きなのですもの
  当然、あなたがた精霊達をそのようにしたいというのもありますけど、
  さすがにマナの主であるあなたやマナの塊でもある大精霊達にちょっかいをかければ
  こちらの存在そのものが対消滅の作用が働いてこちらが滅びてしまいますけど」
けど、本当のところはそのリスクを負ってでも精霊達の負の感情。
それは魔族達にとって麻薬にも等しい餌となる。
食事でたとえればそれこそ替えの利かない高級品。
しかし精霊達に直接かかわるのは魔族にとってはあるいみ自殺行為に等しい。
ゆえに彼らは精霊達が加護をあたえているものたちを代わりにターゲットとする傾向がある。
かつては微精霊達…中級精霊や上位精霊といった分野のものたちが、
よくヒトにたいしそれぞれ加護をほどこし、そしてともにいきていた。
今ではそのことをあのエルフたちですら忘れてしまっている。
しかし精霊の加護をうけているものたちの負の感情は精霊達の感情に比べれば確実に劣るが、
それでもふつうのヒトよりかなりおいしいのはいうまでもなく。
さらには”光”に愛されている証拠である加護をうけているものの魂は、
より”闇”に堕とせばその”闇”は深くなる。
それこそ魔族達の駒として使用しても問題がないどころかこぞって奪い合うほどに。
そんなジャミルの言葉にすこし眉を顰め、
「あいかわらずだな。お前もかつてはヒトであっただろうに」
それこそこの地におりたって彼女がヒトに干渉しているのをみるのは、
一度や二度といったものではない。
というかラタトスクとしてはよくもまああきずにヒトに関わろうとしているな、
という程度のものでしかないのだが。
基本、あまり魔界からでてこない魔族にくらべ彼女はなぜか地上によくでてくる。
彼女がその力の媒介にしているものが宝石といった分野であり、
そこにヒトの野心が入り混じるゆえに本体までとはいかずとも、
分霊に近しいものを地上にこうしてよく表してきていたりする。
マナは魔族にとっては毒ともいえるのにラタトスクとしては呆れる以外の何ものでもない。
これまではこの惑星の意思と交わした契約もあり直接干渉することはなかったが。
しかしかの地に魔族達を移住させるにあたり、一応、この惑星の意思の許可はとってある。
かの意識体は基本、自らがはぐくんで育てた命を失うのはしのびない。
そんな認識でいたのもまた事実。
その気持ちはラタトスクとても分からなくもないが、
その結果、
自らの死期を消滅の時期を早めてしまってはもともこもないとしかいいようがない。
「そんな大昔のことなど忘れましたわ。あなたがこの地に干渉する前のことですもの」
それに、性格としては彼女はヒトであったころからまったくもってかわっていない。
気に入ったものをとことん苛め抜くというその性格は。
もっともそこまでラタトスクは知らないし、知ろうともおもわないが。
「それに、いつの世もわたくしたち魔族を呼び出すのもまたヒトの心なのですわよ?」
「こちらとしてはいずれはお前たちも本来の姿に、とおもってのことだったのだがな」
母たる星の願いは彼女たち魔族も自身の子供たち。
ゆえに本来の姿にという願いもあった。
しかし彼らは自らの本質そのものを進化という過程において捨て去ってしまっていた。
たしかにかつてのようにヒトの体をマナときりはなせば、
ヒトの器を魔族達の仮初の肉として彼らをヒトとして生活させることはたやすい。
が、結局それは再び地上に混乱をもたらせる結果となりえる。
魔族としての記憶を封じヒトに転生させてもなお争いをやめなかった。
そのことをラタトスクは知っている。
そしてその結果としてラグナログなんてものもおこりはした。
地上が瘴気に再び覆いつくされたあのときのことをラタトスクは忘れてはいない。
それは今からいえば未来のことであり、それを防ぐための新たなる惑星の創造。
「それこそ余計なお世話ですわ。
  たとえあなたがこの惑星を含めたすべての生みの親であっても、ね」
「そこにまで気づいているのになぜに我が加護を授けたものにちょっかいをかけるのだ?」
大多数の魔族達はそこまで気づいていない。
リリスなどはそれを知り、完全にラタトスクに敬意を払ってはいるが。
しかしこの目の前の魔族はリリスとは逆の位置に存在している。
つまり真実にいきあたっているにもかかわらずなぜかいつもちょっかいをかけてくる。
それこそ精霊達が加護をあたえているものたちをわざわざ選んで近づき、
そして相手を堕落させてゆく。
そんなラタトスクの言葉に対し答えはなく、ただその口元に笑みをさらに釣り上げる。
「それはそうとして、そちらのおふたかたも美味しそうですわね。
  みたところマクスウェルの加護をもちし魂の持ち主のようですけども。
  そのマナの感覚からしてこの王家の血筋のもののようですわね」
そんなラタトスクとの会話をこれ以上続けるつもりはないのか、
ラタトスクから横にと視線をむけ
その先にいるミラとミュゼをみていきなりそんなことをいってくる。
ちなみにミトスはそんな彼らのやり取りをみてはいるが臨戦態勢はといてはいない。
ぴくりとそんなジャミルの言葉にミラが反応をみせるが。
「――いっておくけど、ジャミル。お前の相手はこの僕だよ」
「まあ、先ほど好きにしろ、といったしな。俺は手をださない。
  お前の気のすむようにしてみろ」
それにミトスの戦い方は確実にミラとミュゼの成長にも役にたつはず。
ジャミルにたいし警戒を解かずにいいきるミトスにたいし、
壁に背を預けたまま淡々といいきるラタトスク。
「あらあら、自らを裏切っていた相手に寛大なのですわね」
ジャミルとしてはラタトスクを裏切るように仕向けていたこともあり、
あっさりとこうも当事者であるラタトスクが許すような発言をしていること。
それが彼女にとっては想定外。
彼女の計画ではラタトスクは裏切られたことにより怒り狂うはずだったのだから。
…まあ、実際かつてのときは彼女の目論見はほぼ達成されかけていたのだが。
実際、ヒトにというかミトスに裏切られ、
しかも大樹すら奪われたことをしったラタトスクは地上をもう見限っていた。
あのままほうっておきヒトが自滅するのをまっていたといってもよい。
あるいみで魔物たちにヒトを滅ぼせといったのは
ヒトがうける苦痛をよりはやく終わらせたほうがいいだろう。
というある意味では親切心といってもいいものであったのもまた事実。
あのままほうっておいても確実にヒトは生活することはできなくなり、
生きていくことすらままならない状態になっていたのだから。
そしてある程度疲弊したところでいっきに地上をすべて浄化しやり直すつもりだった。
それこそがあのときラタトスクが抱いていた想い。
「たしかに。裏切られてはいたようだが。だが。
  ミトスと交わした盟約は授けた種子を芽吹かせること。
  すでにその過程でなされていた二つにわかれていた世界は統合済み。
  盟約の内容だけに関しては一応ミトスは果たしてはいるからな」
まあ、穢れた状態のままで種子は芽吹かされてしまったのは事実なれど。
さきに種子の中に力の一部を入れ込んでいたゆえに地表にそう被害はない。
「まあ、あれから四千年たっている、というのを除けばな」
しかし自分たち精霊にとってその年月は長くもあり短くもあるといってよい。
実際、ミトスが次なる彗星の飛来時にきちんと発芽をなせるかどうか。
それは難しいと思っていたのもまた事実で。
よくて二百年後かその次くらいであろうという認識であったのもまた事実。
それだけの時間があればいくら愚かなヒトでも仮初の平和になれ、
馬鹿なことを繰り返す可能性が低くなる。
あのままミトスたちが百年以内に種子を発芽させていたとしても、
おそらく内心ではマナを独占しようとしていたあの人間たちは
再びマナを駆逐しようとしたであろう。
まあ、ミトスが大樹を復活させたあかつきにはマナの使用を制限するつもり、ではあったのだが。
それとてラタトスクからしてみれば最低限の譲歩。
本来ならば地上を一度浄化する予定であったのだからして。
それに裏を返せば四千年もの間、少ないマナにて大地を存続させていたということに他ならない。
たとえそれが彗星に設置してあったシステムを利用したものだとしても。
マナを管理し文明すらをも調整しかつてのように大規模な発展をヒトは遂げることもなく。
微精霊達を穢す行動をしていたり、精霊達をとらえたりしていなければ、
どちらかといえばラタトスクとしてはその行動自体に不満はない。
むしろあのミトスがヒトの身でよくそこまでの想いにいたった、
という驚きのほうが強い。
力で押さえつけるのでは何もかわらないといっていたあのミトスが、である。
ヒトの生涯はとても短い。
そしてその世代においては不満を感じるものがいても、
世代を重ねるごとにそれが当たり前となり疑問を感じるものすらいなくなる。
そう、ヒトが自分たちの都合のいいように過去にあった出来事を彎曲し、後世に伝えていくように。
あのとき、ミトスが約束通りに大樹を芽吹かせていたとしても、
マナを制御してヒトがマナを多量に使用できなくなったとしていたとしても。
ヒトは間違いなく争いをまた始めたであろう。
ミトスたちとの約束をたがえ互いの勢力が襲ってきたというのならば、
間違いなくそうなっていたとラタトスクは確信をもっていえる。
「それに、どうせミトスが今のようになっていたのも。
  お前の干渉があったからだろう?ジャミル。
  ミトスが精霊達を悪用しようとすなど、どうかんがえてもあり得ないからな」
「あら。私はすこしばかりお手伝いをしてあげただけですわ」
「本当、君たち魔族はヒトの心の隙間に入り込むのがうまいよね。
  …あの時の僕はどうかしてたという自覚があるだけになおさらに、ね」
魔族の脅威は誰よりもわかっていたはず、なのに。
それでもその声にのってしまった自分の心の弱さ。
そしてそれを知ってもなお、いまだに完全に自分を見限ってはいないらしいラタトスクの言葉。
そこまで自分は信用されていたのだとおもうと何だかこそばゆく、
そして余計にミトスは自分で自分が許せなくなる。
ここまでラタトスクは自分を信用してくれていたのに自分は何をしていたのか、と。
自分があれほどまでに嫌悪していた微精霊達を穢し利用すること。
それをして当然で、それしか方法がないとおもっていた。
あの救いの塔で改めていわれたあのとき、それまで抱くことすらなかった疑問。
「――決着をつけよう。ジャミル。それこそ四千年もの縁の決着を、ね」
「そうね。あなたを殺せばよりおいしい思いができそうだもの。
  直接に精霊ラタトスクの負の感情を一手にうけることができれば、
  私はもっと強くなれるかもしれないもの。
  自らの加護を授けし愛し子が殺されればそんな感情も抱くでしょう?」
すっとジャミルにむけその手に光る剣を生み出して、
正確にいえばミトスのマナを剣の形に収縮させたそれをつきつけつつもいいはなつミトス。
そしてそんなミトスにたいし答えたのち、ちらりとラタトスクをみながらも
ジャミルがそんなことをいってくる。
「どうかな?ミトスはそこまで愚かでも、そして弱くもない。
  ……特に今のミトスは、な」
聡いミトスのこと。
マーテルを助け出す方法があるということにおそらく気が付いているはず。
アレは試練。
マーテルがよみがえるかどうかはミトスと、そしてヒトたちの行動と想い次第。


キィンッ!
ラタトスクの言葉をうけ、忌々し気にジャミルが顔をしかめたその刹那。
かるくパチンと指を鳴らすジャミル。
刹那、何かが固まるような音とともにミトス、そしてジャミルの視界が一転する。
何のことはない。
ジャミルがミトスとの戦いに邪魔が入らないように、
…まあ、あの精霊が本気になれば意味がないとわかってはいるが。
あの場にいたほかのものたちの邪魔も考えてこのような行動に出たにすぎない。
ジャミルが張りしは簡易的な結界。
ミトスと自らのみを閉じ込めたその空間はあるいみ空間の狭間といってもよい。
「あいかわらずこの空間、とは進歩がないね。ジャミル」
周囲には漆黒の闇が広がっており、
いくつかの色彩をもつ球体のようなものがういている。
足場という足場も不確定であり二人して足場のない空中に浮かんでいるのが今の実情。
深淵ともいえる闇になぜかくっきりとうかびあがる様々な色をもった球体…
知識をもつものがみればそれらは星…すなわち小さな惑星のようにもみえなくもない。
「ふふ。でもここは私の空間。
  すでに精霊すべての契約が途切れたあなたに勝ち目があるのかしら?
  時空の剣も手にしていないのでしょう?」
時空の剣。
それはエターナルソードと名付けたゼクンドゥスの剣の形態の別名称。
かの剣が精霊であることをしっているのはごくごく限られているものたちのみ。
よもや精霊自身が剣に擬態しているなどと、ふつうは思わない。
よくて精霊達が力を宿している品、そうとしか思われない。
それが一般的な認識。
そしてそれは魔族においてもまたしかり。
ごくごく一部の実力あるものはその真実につきあたっていたりはするが。
四大元素の長たる元素の精霊マクスウェル、そして精霊の長といわれしオリジン。
そして時と空間を司るといわれしゼクンドゥス。
彼らに認められ初めてその使用が許される、そう認識されているものがエターナルソード。
もっとも、ユアンの提案で今の世ではそれらの真実すら捻じ曲げられて伝えられているのだが。
精霊オリジンがミトスのためにつくったミトスのみが使える魔剣である、と。
そしてあろうことかそれを一部のエルフたちですら信じている始末。
真実を知り表だって声にだそうとしたものは
ことごとくクルシスが粛清していった結果ともいえる。
いつのころからだっただろう。
ヒトをヒトとしてみなくなっていったのは。
自分が直接手を下すのではなく画面の向こうで行われていること。
それで麻痺していったのか、それとも自らの心が凍結していっていたのか。
相変わらず差別され迫害されまくる同胞たち。
手を差し伸べても中には裏切る同胞たちの姿もあった。
姉を殺したのち、種子を手にいれることのできなかった互いの国の上層部は、
勇者ミトスが種子を独占し裏切ったという正式発表を世界に向けてときはなった。
もっともそれを信じるものはほとんどいなかったが。
何しろ休戦を結んでいたはずの互いの国が位相軸の違いも無視し、
かの地…聖地カーラーンを通じそれぞれの世界に侵略しようとしていた。
それははからずも
ミトスがオリジンを封印しようと決めオリジンを封印したその直後のことであった。
彗星の管理装置の中で物質を瞬時に創り出せるシステムを発見し、
それをもちい彗星と地上とを結びつける案をすぐさまミトスは思いつきそして実行した。
そして塔の作成…この場合は建造というよりもモニター越しに実行をしただけなので、
作成、といったほうがしっくりくる…ともあれそれをしたのち、
彗星にあったとある破壊システムを利用した。
それは雷のような光線で、実際に利用されていたのは彗星にて飛来中、
時折隕石などといった障害物を排除するための装置。
互いの国に落されたその雷のようなそれは、のちに裁きの雷、
ラーマラーヤの火などといって恐れられる要因となりはしたが。
城を、首都を破壊するときもミトスは躊躇することはなかった。
かつてあれほど、テセアラの首都が炎に包まれたとき嘆いていたミトスだというのに。
悲しいという感情がマヒしていたのかもしれない。
まだあのときは姉を失ったばかりで。
そしてそれをクラトスもミトスも止めようとはしてこなかった。
オリジンを封じたのち、精霊炉の作成にとりかかり、
そしてちょうどいいという理由にて彼らの神殿がある地にそれを設置した。
内部に多少手を加えつつ。
離れていても地上の事が彗星内部にてモニター越しに変更できる。
それはしかしどうやらミトスをはじめとしたクラトスとユアン。
三人にしかできないのもまた判明した。
実行許可に至っては代行者としてミトスがなぜか登録されていたようで、
ミトスの許可がなければそれらのことは実行することはできなかった。
ミトスが盟約を交わしたことにより何らかの不都合がないように、
とかつてラタトスクが眠りにつく以前に彗星に干渉しそのように設置していたのだが。
そこまで三人は知るすべもなかった。
ただ、オリジンと契約を交わしているからではという結論にといたっていた。
だからこそ、ユアンはあのような剣の偽造ともいえる物語を思いついた。
勇者ミトスという存在をよりヒトというヒトに神聖視させるべく。
「なめないでほしいね。たしかにもう精霊達との契約はすべて解除されてる。
  けど、僕はもともと、精霊達の力を戦いに利用しようとしたことはほとんどないよ?」
そう、精霊達と契約を交わしたのはあくまでも彼らの力を悪用されないがため。
そのような前提があった。
今思えば自分が精霊達をあのように閉じ込めて自由を奪ってしまったわけだが。
精霊達を精霊炉に封じたのも他者にその力を悪用させないがため。
国、というものはそれでなくてもそれまで幾度も精霊達の力を求めていた。
そのたびにミトスは彼らをあしらっていたのだが。
大いなる実りの取得に失敗した彼らが再び精霊達に目をつけるのは目に見えていた。
精霊炉と彗星を結び、彗星のマナの一部を精霊炉に分け与えることで、
大精霊達が具現化するだけのマナは一応確保はしていた。
もっとも休眠状態にする衰退側の精霊にはそれらのマナの提供はしなかったが。
いいつつもその手をすっと頭の上にとかざす。
ミトスがかざしたその手の中に光が集う。
正確にいえばミトスの体内より光が湧き出し、それらがミトスの手の中にと収束する。
それはマナを翼の形で放出し固定する原理を応用した技であり、
いわばマナを利用した魔法剣、といったところか。
必要なのは自らのマナをどこまで明確に武器として意識してそして形を想像できるか。
すなわち当事者のイメージにかなりこの技は左右されるといってよい。
漆黒の闇の中マナの光がきらきらと集いそれはやがて一つの形となす。
それはちょっとした大剣に近しいレイピアにみえなくもないようなもの。
その手で握る柄部分には鳥の翼のようなのがついており、
剣自体の全体の色としては白と金が合わさった不思議な色合いをしていたりする。
刃自体は大剣そのものよりも細く、形状としてはレイピアといったほうがより近い。
が、レイピアとよばれしそれよりも刀身部分が少し太く、
かといってふつうの剣よりも少し細い。
そんな品がミトスの手の中にと具現化される。
「忌々しい…あのままこちらの操り人形に成り下がればよかったものを」
あともう少しで堕とせそうだったのに。
あの人間のせいでヒトの心を取り戻し、
さらには大いなる意思ともいえる精霊の力によりこれまでこつこつとしみこませていた力。
それが完全に取り除かれていることがジャミルとしては忌々しい。
急激に瘴気をぶつけても対策をとられるであろうから、
長きにわたりじっくりとそれこそ気づかれないようにその心を穢すように干渉していたのに。
「僕をなめないでよね」
完全に具現化した剣を手にとりひたり、とかまえる。
漆黒の空間の中、ミトスの手にしている剣はまるで剣自ら光をはなつかのごとく、
はっきりと目立ちまくっている。
もしもラタトスクの干渉がなかったとするならば。
今だからこそわかる自身の中にあった瘴気の塊。
それをどうにかするためにもあえておそらく自らは彼らと戦うことを選び、
それを浄化させる方法をとっていたかもしれない。
それはミトスにとってもしも、でしかない話。
魔の瘴気に穢されているものは自力でその魔の瘴気を取り払うことは難しい。
きちんとした手順を踏めばそれは可能であろうが、
それらができるほどのマナ溜りといわれる場所は今のこの世界には数えるほどしかない。
精霊の神殿と呼ばれている場所か、エルフの聖域といわれているトレントの森か。
精霊の神殿のマナ溜りはミトスが精霊炉を設置していたことにより、
完全に理由不可能となっていた。
トレントの森にしてもオリジンを封印してからのちは、
かつてのようなマナ溜りができたという話はきいていない。
左手で剣をもち、右手を突き出すようにして構えたのちジャミルをひたりと見据えるミトス。
しばらく互いにまるで間合いをとるかのように見つめ合い、
そして
「はぁぁ!」
「魔神剣!」
ジャミルが大きく手をふりかぶり、そこから風の刃らしきものを突如として
ミトスのほうにむけて解き放つ。
ジャミルが解き放った風の塊のようなそれは、
風でできた鎌の刃のような形をなしそのまままっすぐミトスのほうにむかってくる。
が、直後ミトスが剣を振り下ろし解き放った衝撃派…
すなわち魔神剣の衝撃と衝突しそれらは互いにぶつかり合い、
互いに威力をそぎながら対消滅するようにときえてゆく。
ぶつかり合い、それによって一瞬、その場にないはずの風が吹き荒れる。
そのままその風の合間をぬって、ダッといっきに間合いをつめ、
瞬迅剣しゅんじんけん!」
ジャミルにむけてミトスの高速ともいえる強力な付きが繰り出される。
「ちっ!光在る所、影が在り、影が在りて、光が栄うる 全ては此処に収束しせり・・」
しかしこちらはこちらで負けてはいない。
ミトスの攻撃を一重でかわし、ふわりとその翼をもって浮き上がり、
両手を大きく広げ詠唱をはじめだすジャミルの姿。
それとともにジャミルの目の前に赤い魔法陣らしきものが出現する。
「サモン・デーモン!」
ジャミルの詠唱とともに力ある言葉が解き放たれ、
刹那、ジャミルの背後に巨大な異形の影が出現する。
それとともに大地という足場もない空間というのにもかかわらず、
ミトスの足元のほうから地響きのような音とともに、
漆黒の空間にもかかわらずいくつかの瓦礫のような、
簡単にいえば大小様々な石がミトスの足元、つまり下のほうから上にむかって
突如として湧き上がる。
粋護陣すいごじん!」
その攻撃があたるかあたらないか。
岩がミトスに届くそのほんの一瞬。
すばやく次なる技を使用し自らの安全を確保するミトス。
敵の攻撃を術、技をとわず一定時間の間防御する奥義といわれている技の一つ。
ミトスの周囲にマナの膜が張り巡らされ、
足元のほうからいきおいよくとびあがってくる大小様々なる岩は、
ミトスのそんなマナの防壁によってことごとくはじかれる。
すばやく技を唱え、そして
襲爪飛燕脚しゅうそうひえんきゃく!」
次なる技の名を叫ぶミトス。
それとともに、
ズガガァッン。
漆黒の空間に技によて発生した聖なる雷がジャミルの体を直撃する。
雷が直撃すると同時に連続して回し蹴りを加える飛燕連脚を叩き込み、
その一瞬の隙にジャミルの背後にまわりこむ。
聖なる雷とともにミトスの刃がジャミルを斬り降ろす。
そしてひるんだジャミルをそのまま回し蹴りによって大きく蹴り飛ばす。
さきほどジャミルが放った術は確かに強力なれど…相手に直接あたれば、であるが。
しかし協力な技ゆえに当然のことながら副作用もある。
その技を使用した直後、術後硬直というものがジャミル達魔族にもおこり、
一瞬の隙が生じてしまう。
その隙を逃すことなくミトスはそんなジャミルに仕掛けたのみ。


「ごふっ」
マナを直接叩き込まれたようなもの。
ゆえにおもわずジャミルがあるはずのない血を吐くような嗚咽をもらす。
実際、ミトスにきりつけられたそこはぽっかりとした空洞となっており、
あきらかにダメージをおっているのがうかがえる。
そんなジャミルの視界に間合いを一気につめてくるミトスの姿がうつりこむ。
「ちっ!ふきとべ!!スペクトルフィールド!!」
このままでは間合いに再び入られてしまう。
ゆえにすばやく技の名を叫ぶジャミル。
この空間そのものがジャミルの空間といってもよい場所。
ジャミルの言葉とともに周囲に浮かんでいた様々な色彩の小さな星のようなもの、
それらが干渉しあい漆黒の空間になぜか七色以上の色彩をもつのではないのか、
というような虹色の膜が突如として発生し、
そしてそれはジャミルの言葉とともにはじけ炸裂する。
スペクトルフィールド。
それは虹色の光のフィールドを炸裂させ周囲の敵を吹き飛ばす術。
かつてのそれは導術ともよばれていたが、天地戦争以後それを用いれるヒトはまずいない。
魔族達は古から使用しているがゆえにその力は利用可能。
威力はそれほどでもないが敵を間合いから吹き飛ばすには十分すぎる品。
「っ!魔神閃空破まじんせんくうは!」
一瞬、ジャミルの術によって生じた爆風をうけ後退せざるをえないミトス。
その風圧によって後方に下げられたミトスであるが、
すばやくその両手にて顔を保護し風のダメージを霧散させており、
ダメージというダメージはおってはいない。
むしろ、すぐさま体制を整えたのち、
魔神剣をすばやく放ち、その直後閃空衝烈破せんくうしょうれっぱを繰り出すミトス。
魔神剣によって生まれた闘気ともいえる衝撃波。
それがジャミルの放った技と一瞬相殺され、一部風のない空間ができあがる。
その空間を逃さずそこにふみこみ、そのまま連合している技を繰り出すミトス。
回転斬りですばやくジャミルをきりあげそのまま追い打ちをかける様は、
相手が女性の形態をとっているというのにまったくもって容赦はない。
「くっ!裁きの十字よ敵を討て!ブラッディクロス!!」
ジャミルの言葉とともに上空に巨大な闇の十字架が出現する。
魔族が利用する攻撃はその個体によって属性はありはするが、
基本、魔族は二つの属性をあわせもっている。
一つは魔族特有でもある闇に属する属性とそしてその精神体がもちし属性。
ジャミルが保有せしは闇と水。
闇の十字架から発生した闇の刃が敵と認識したそのものを十文字にと切り裂く技。
それこそがブラッディクロスといわれている技。
ある意味、ミトスたちがよく利用するグランドクロスの闇バージョンといえしもの。
「光の思念!」
それを目にしすばやく反属性に組する技を唱え詠唱を短縮しても発動させることができる
とある言葉を紡ぎだす。
ちなみにミトスが紡ぐ術の言葉とコレットが紡ぐ言葉は多少異なっている。
それは古の言葉か今の言葉か、という認識の違いでしかないが。
ミトスが本来、グランドクロスを用いるときにもちいる詠唱。
それは。
【明澄なる光よ、罪深きものに裁きを】というもの。
対して、コレットたちが使用する言葉は、
【黎明へと導く破邪の煌きよ、我が声に耳を傾けたまえ。
   聖なる祈り、永久とわに紡がれん、光あれ!】
つまりは文字数が古より今のほうがより長くなっていたりするという欠点がある。
それほどまでに今のヒトがマナを紡ぎだす力が落ちているということに他ならないのだが。
ミトスの略式された言葉に伴い、ジャミルの放った術とミトスの放った術。
それぞれミトスの上空には闇の十字架。
ジャミルの上空には光の十字架。
反する属性の性質をもちしそれらがほぼ同時にと浮かび上がる。
「グランド・クロス!」
ジャミルがブラッディクロスと叫ぶのと、ミトスがグランドクロスと叫ぶのは、
まったくといっていいほどにほぼ同時。
刹那。
漆黒の空間を闇と光が入り混じった黒と白の入り混じった光の光線が埋め尽くしてゆく――


「きえ…た?」
目の前で王女らしき人物成り済ませていたジャミルとなのった魔族。
その魔族とミトス・ユグドラシルの姿が掻き消えた。
おもわず目の前から二人の姿が消えたことに対し眉をひそめてぽつりとつぶやくミラ。
「!ミラ!」
そんなミラにはっとしたようにと叫ぶミュゼ。
二人が消えたその空間。
ジャミルが先ほどまでいた位置。
その空間が一瞬再び大きくゆがむ。
それはヒトのようでいて人にあらず。
現れると同時、それぞれが剣を振りかぶり、
その剣技の衝撃によって風が部屋の中だというのに吹き荒れる。
「それはアークナイト。魔族の中でも下っ端に近い輩で警備兵みたいな扱いのものたちですね」
アークナイト。
少し小さ目の山羊の角を左右にもち、その髪の色は緑。
両手に盾と剣、それぞれもっているその姿は容姿さえきにしなければ、
どこぞの剣士、もしくは傭兵もどきといっても過言でない。
上半身は胸を覆う銀色の胸当て…つまりはプレートメールを身に着けており、
にもかかわらずなぜか下半身は朱色のズボンのようなものをはいていたりする。
普通の一般に言われているデーモンたちよりもより人間に近く、
魔族なのにその容姿から魔物の一種とヒトと混合されていたりする。
一応、亜魔族ともいえるデーモンたちと違いある程度の知性もあり
少しばかり実力があると魔界において認識されている魔族達が好んで使う魔族のひとつ。
その数、およそ三体。
「足止め、のつもりみたいですね。
  ミラさんとミュゼさん。とりあえずこの三体、撃破できます?
  この程度の輩がさばけないと、マクスウェルも嘆くとおもいますけど」
マクスウェルに鍛えられているのであればこの程度は何なくこなせるはず。
というかこの程度の魔族であればふつうのヒトでもどうにかできる。
それこそ魔力押しでどうにかいけばこの魔族には物理攻撃もふつうに通用する。
それはこれらの輩の素材となっている器もまたヒトであるがゆえ、
憑依している精神生命体の魔族の力がつよいがゆえに、
その力でもってして器があまり異形に変形しないようにしているにすぎない。
もっともジャミルやジェストーナ達のように自力で実体化しているものもいはすれど。
自身の後継者候補として育てている以上、この程度の輩に勝てなければ、
それこそミラとミュゼにはマクスウェルのお説教がまっている。
マクスウェル自身に確認せずとも彼がやりそうなことくらい、一応把握しているつもり。
本来、このアークナイト自体はそう個別でみればそうつよくはない。
あまり力のないものでも簡単に打ち倒すことができる。
もっとも今現れたこれらはこの場所に満ちている瘴気。
それらをどうやら糧としており、またこの三体はそれゆえに自動回復が
普通よりもすこしばかりすぐれているらしい。
例えるとするならば、このアークナイトの生命力を数値に換算するとして、
基本的なアークナイト達の数値は四千ほど。
ちなみにその力のすべてを生命力というか実体化のほうにまわしているゆえに
そうつよい彼らの力を利用した”魔術”はつかえない。
一重に魔術といわれているが、マナを利用したそれと”魔”の力を利用したもの。
いつのまにかそれぞれが混同されいわれているにすぎない。
「ミラさんたちのお手並み、拝見ですね」
「…つまり、手伝う気はない、ということか……」
まったく動くそぶりもみせずにいいきるエミルの台詞に溜息をひとつつくミラ。
「僕が手をかしたらそれこそ、ヒトの試練ではなくなりますしね。
  今、地上でおこっていることはすべて、ヒトへの試練でもありますから」

ここの場合は魔族達の独断ともいえるものだが。
しかし、自分たち精霊が手をかさない、といった以上、
こういったことに手をかすつもりはエミルとしてはまったくない。
あくまでエミルが彼らにいまだについていっているのは、
彼らヒトがどう行動し、そして判断を下すか。
それを見極めるため。
かの計画を実行するにしても今のままヒトをそのままにしておいていいのか。
はたまたある程度は間引いたほうがいいのか。
まあ間引きの場合は幻魔をヒトの心がうみだし、
幻魔を生み出すほどの穢れをもつものたちはことごとく自滅していっているのが今の現状れど。
このまま時間が過ぎれば過ぎるほど自己欲の強いものは、
それぞれ自ら生み出した幻魔により命を落としていくであろう。
あの歪みし形で発芽させている元大樹…まああれも大樹そのものではあるのだが。
どちらかといえばあれは暗黒大樹に近しい。
属性として闇と光、その両方を併せ持った形として発芽させており、
つまり心のもちよう次第で世界に解き放たれているマナを悪用するか、もしくは正しく使用するか。
すべてはヒトの心にかかっているといってもよい。
もっともあまりにシルヴァラント側の大地のマナが疲弊していたこともあり、
一気に植物たちの成長を促すことにより自然の循環を行ってはいはするが。
まあこの地をほうっておいたのはそのあたりにも要因があるといってもよい。
かつてのとき、ここテセアラはシルヴァラントの民を見下し、
平気で民衆の前で蹴り殺したりするという行動をおこなっていた。
エミル自身が経験した限り、とある貴族となのりし男性が、
アスカードのアイーシャを無理やりさらおうとしていたことも。
あのときはハーレイの登場であの男たちはあの場から立ち去っていっていたが。
当時、リーガルやしいなが嘆いていたがテセアラの階層級が高ければ高いほど、
その傾向は果てしなくつよかった。
マナを切り離す作業の過程で世界に目をむけてその実態をより知った。
マルタ達がいなければやはりヒトは愚かでしかないと
魔物たちに命じたことを撤回しなかったであろう。
それほどまでにテセアラの民の人民思考は呆れるほどに強かった。
その結果やはりというか何というか。
テセアラとシルヴァラントの間において戦争がおこりはしたのだが。
それらを解決したはかつてともに旅をしたロイドたち。
あれは互いの世界の文明レベルが極端に異なるゆえにおこったといってもよい。
ならば、その中心たる場所がなくなれば。
便利さにおぼれ大地の恵みすら忘れかけているヒトにとってそれほど効果的なものはない。
だからこそ、ここが瘴気に覆われてもひとまずほうっておくようにと命じてあった。
瘴気に一時だけ覆われたのでは意味がない。
ある程度の時間をおけば、そこにマナが再びよみがえることにより、
瘴気に覆われ朽ちたすべての人工物は自然にと還る。
そしてそれは建造物などといったものにも当てはまる。
本音としてはアルタミラのほうもどうにかしたいのだが、
あの地は植物たちがより増殖しそれまであった人工物。
かの品々を確実に壊していっているといってもよい。
植物の力はヒトが思っているより果てしなく強い。
テセアラの主たる町は今現在、そういった植物の増殖であふれかえっている。
サイバックにおいてもまたしかり。
一部の頭の固い研究者たちはともかくとして、
アステル達はさすがというか。
すでに壊れ始めた建物を見限りテント生活にとはいっている。
あの地においても一部のものが暴動に近しいことをしていたりするが。
幻魔によってそれらが自滅するか否かはやはりそれもヒト次第。

「手厳しいな」
「本来ならミトスの懇願がなければとっくにこの大地は一度無に戻してましたからね。
  あまりにもヒトが愚かな争いを繰り広げてたから好きなようにやらして自滅させたのち、
  ある程度したら一気に地上を洗い流すつもりでしたし。
  …まあ、しつこいくらいに懇願してくるミトスの説得にうなづいた僕も僕ですけど…」
呆れるくらいにしつこかったな、と当時のことを思い出す。
今のミトスはあのときのようにあそこまで食い下がってくるかどうかはわからないが。
「一応、ミトスがこちらと約束したこと。
  種子を発芽させ、世界を二つにわけはするがそののち一つにもどす。
  その約束を果たしたわけですからこっちも約束を破るわけにはいきませんしね。
  約束とはいえ盟約ですし」
ヒトはあっさりと約束などといったことをたがえるが。
精霊としてある以上、ラタトスクは自らにもかしているその理をたがえる気はない。
「そもそも、あのときも一応提案はしたんですけどね。
  心あるものだけを残してならば地上を浄化する、と。
  でもそれでもミトスは納得せずにしつこいくらいに懇願しまくってきましたし……」
当時のことを思いだし、ふと遠い目をしてしまう。
どうもこの時代の自分との記憶も統合されてしまっているからか、
かつての出来事がやけに鮮明に思い出せてしまうというのもあるいみ問題なのかもしれない。
まるで昨日のことのように思い出せてしまうがゆえ、
ミトスが自分たちを裏切っているとしっても強硬手段をとることなく、
ミトスが何を考えているのか、その真意を確かめることに重点をおいた。
…かつてのとき、ミトスが何をおもっていたのか。
それを知ることができなかったという思いがありはすれど。
「――ミトスが約束を果たした以上。こちらも約束は約束ですから果たす義務がありますし。
  なので今ある地上を洗い流すことはしませんし。
  魔物たちに命じて人を滅ぼせという命令もくだしませんし。
  まあ、あまりにマナが枯渇している以上、そこに手はだしますが。
  それも大自然を活性化させるだけであり、それでヒトがどうするかはヒトの判断次第ですしね。
  マナのありようによってヒトの心がもちし負の力が幻魔として表にはでてますけど。
  それもまたヒトが自らしでかすことであり直接的な干渉をこちらがしているわけでもないですし」
あくまで、幻魔を生み出すのはヒトの心であり、
たとえその下地が世界に満ちていたとしても、それを実行しているのはまちがいなくヒト。
自らの心をきちんと制することができればそのようなものも生み出すことはないのだから。
ミラの問いかけにさらりとエミルがこたえると、
ミュゼとミラが一瞬顔をしかめてくる。
「まあ、今さらいってもしょうがないですけどね。
  まあ、それはそうとして。そういうわけで僕は手をだしませんので。
  ミラさんもミュゼさんも頑張ってくださいね?」
にっこりと、そんな二人にむけて笑みを返す。
ゆらりと揺らいだ霧のような影よりうまれし三つの人影。
その人影はそれぞれその手に武器を構えているものの、
襲い掛かってくるわけではなく、むしろかなり警戒しているのがうかがえる。
本来ならば問答無用で召喚された以上、主であるジャミルに敵対しているであろうものたち。
それらを排除するのが彼女たちの役割。
ちなみにジャミルはどちらかといえば自らが動かす駒は女性型の魔族が多い。
ジャミルの言い分としては男というものは自らにとって餌であり娯楽の要因であり、
ようはどうにでもなる玩具のようなもの。
すなわち使い捨てとするのにはこれ以上ないほどの素体なれど、
自らが指示する配下にするには力がたりない、という理由らしい。
ついでにいればこぎれいな男をみつければそれを自らの玩具にする傾向ももっている。
…まだヒトであったとき、男性に屈辱を与えられたのが要因でそのようになっているらしいのだが。
当のジャミルですらそのことを今でも覚えているかどうかすら怪しい。
「ジャミル配下のアークナイトは中にはふつうに術をも使用する輩もいますし。
  ここにいるものはどうやら技のみのもののようですけど」

本能的に目の前の金髪の少年?いや、少女か?
あらわれたアークナイトといわれた魔族達も男か女か判断がつかない。
そんな長い金髪に緑の髪の人物の言葉をききつつも警戒をあらわにする。
人のようでいてヒトではない。
ヒトがここまでのマナ…古にあった大樹の気配をさせているはずがない。
大樹の加護をうけているという人間たちですらここまでの強い気配を感じることはなかった。
どちらかといえば目の前のヒトのようにみえるソレは精霊に近いようなきもしなくもない。
が、アークナイト達はそれ以上のことはわからない。
ある程度の実力のありしジャミル達であればエミルがなにものなのか。
すぐに判断がくだせたであろうが、アークナイト達はそこまでの実力はもっていない。
そんな正体不明な…というか自分たち魔族とにってはあきらかに致命傷ともいえるマナ。
それを抱擁している以上、うかつにしかけることは危険。
そう悟り様子をしばらくみていたが、目の前のものたちの会話をきくかぎり、
その一番脅威であるものはどうやら手出しをしてくるつもりはないらしい。
もっとも会話の中にかなり聞き捨てならないことがいくつも含まれてはいはしたが。
あの勇者といわれたミトス・ユグドラシルというハーフエルフと盟約をかわせしは、
魔族達にとっては忌々しい象徴でもある番人であり、大樹の精霊。
それ以外におもいつかない。
今の言い回しだとまるで目の前の存在が当事者だといっているかのごとく。
…実際に当事者、なのだが。
どちらにしてもここでどうにか排除することはできなくても時間稼ぎをする必要はある。
主があの勇者ミトスを亜空間にとひきずりこんだ以上、時間稼ぎは必要不可欠。
本当ならば自分たちが盾となり主を補佐したいところなれど、
戦う相手が勇者とよばれ、そして大樹の精霊ラタトスクの加護をうけている存在である以上、
自分たちは足手まといにしかなりえない、というのもアークナイト達は自覚している。
もしも先ほどの会話で予測したことが正しいのであるとするならば、
自分たちはまちがいなく目の前の存在にはかてない。
時間稼ぎができるかどうかすらもあやしい。
が、一番脅威であろうものが手をだしてこない、というのであれば。
まだそこに道を見出すことはできる。
「…ジャミル様の計画を邪魔はさせません!」
三体いたうちの一人がすっと剣を手前につきだして、少し震えた声で言い放つ。
自分たちが呼び出されたのはあくまでも時間稼ぎのため。
それはわかっている。
なぜ主がそれこそ気の遠くなる時間をかけて堕とそうとしていたあのものが、
主が永い時間をかけて浸透させていたはずの魔界の瘴気。
それらが取り除かれてしまっているのか、など思うところは多々とあれど。

「ちっ。やるしかないのか」
「ミラ。油断は禁物ですわよ?」
「わかってる。ミュゼ姉様!」
アークナイトとよばれし魔族のうちの一人がそう言い放つとともに、
残りのふたりもまた身構える。
それをうけ、ミラとミュゼもまた身構える。
本物の魔族とやりあうのは二人ともこれが初めてといってよい。
しかし初めてだからといって無様なことだけはできはしない。
それこそさきほどエミルがかいったように、祖父であるマクスウェルから
無様なことをしてしまえばどんなお仕置きがまっているのか、考えたくもない。


「…へぇ」
思わず感心した声がもれる。
すこし意識をむけてみればあちら側。
すなわちくちなわによって異空間に移動している彼らのほうも、
あのしいなもまた血の盟約のもとに覚醒をはたしかけている。
かつて、この惑星上には三大勢力ともいわれている国があった。
それがテセアラでありシルヴァラントであり、そしてみずほの民の故郷である
すでに今はなき島国。
それぞれの王家に血の盟約をかわせし聖獣が保護獣としてついていたのだが。
テセアラ側の聖獣はよりにもよってその力を悪用しようとしたものがかつていたらしく、
完全に盟約そのものが破棄されている形となっていた。
そういえば、かつて目覚めたときもシルヴァラント側の聖獣の盟約も破棄されていたな。
そんなことをふとどうでもいいことながらも思い出す。
そしてミトス。
どうやら腕はおちてはいないらしい。
いや、かつてしるときよりマナの扱いにたけているというべきか。
どうやらかつて授けた石の力の応用をこの四千年の間に掴んでいるらしい。
道理で、と今さらながらに納得してしまう。
あのとき、ミトスの意思はそこにはなかったが、
それでも大樹の根より吸い上げたマナをそれなりに加工した形にて大気中にと解き放っていた。
自らが生み出す力はなかったものの。
ミトスたちに授けている石はいわば自らの力を凝縮させているような代物。
ミトスたちとともにいることにて新たな精霊がうみだせる下地にでもなれば。
そうおもっていたのもまた事実で。
しかしかつてはそれがあるいみで裏目にでた。
その最後の力をもってしておそらくミトス自らの魂を種子にと融合させ、
そしてマーテルはマーテルで数多の意識集合体と融合を果たし、
人為的に人工精霊と成り果てた。
ユアンやクラトスはそこまで気が付いていたのかはわからないが。
「ゆくぞ!アサルトダンス!」
そんなことを思っている中、目の前においてミラ達の戦いが繰り広げられてゆく。
ミラの優雅なるダンスを舞うような連続技がアークナイト達にと襲い掛かる。
前方に突進しながら連続斬りを繰り返し、
その突進する様子はまさに舞をまっているかのごとく。
「リザレクトハーツ!とオールアウト!」
そんなミラとほぼ同時。
ふわりと浮き上がり、舞いを舞うかのごとくに攻撃をくりだすミラにと、
なぜか空中から投げキッスをしているミュゼの姿。
なぜかご丁寧に桃色のハートマークをした個体が投げキッスとともに出現し、
それはミラの体にふれるとともにミラの体を淡い光が包み込む。
なぜ投げキッスで体力などが回復するのか。
いまだにラタトスクからしてみても疑問でしかないその技は、
かつてなぜか精霊達やセンチュリオン。
女性型のものたちが編み出せし技。
…正確にいえば当時いた、どこぞの科学者の影響で開発したといってもいい技なのだが。
なぜかマクスウェルがアレをいたく気に入り自分の技にしていたことを思い出す。
…ちなみにイフリート曰く、
マクスウェルに投げキッスを向けられる動作はかなり精神的にダメージを負うものがあるらしく、
マクスウェルがアレをするとそれまでなかなかいうことをきかなかったイフリートですら
なぜか急におとなしくなったりするという付属効果ももっていた。
もっとも、その過程で面白がってかわざとあの姿をたもったまま、
女性の口振りにしてその動作をしていたマクスウェルもマクスウェルなれど。
ともあれ投げキッスによる回復技”リザレクトハーツ”と、
そしてそれに連続するかのように攻撃技をくりだしアークナイト達の背後に回り込んでいるミュゼ。
飛び上がった状態でそのまま空中より落下するように攻撃をくりだすミュゼ。
ご丁寧に落下する直前に自らの髪の一部のみを具現化させ、
その長い髪で敵であるアークナイト達をけちらす様子がみてとれる。
しかし、アークナイト達もまけてはいない。
月閃虚崩げっせんこほう!」
言葉とともに一体が満月のような軌道を描きつつ、
舞うようにして攻撃してくミラにむけて突進してゆく。
本来、この技は光と闇、量属性を併せ持つ技のはずなのだが、
どうやら彼ら魔族達はどちらの属性も闇にすることにより使用可能としているらしい。
三日月のような軌道を描ききりつけたのち衝撃波を放つその様は、
彼らが本能だけでなく知能も使い戦っている何よりの証拠。
力量からしてみればミラ達のほうがあきらかに上をいっている。
が、実戦経験でいえばミラ達はあくまでも仮初の敵としか戦っていないこともあり、
どこか決定打にとかけている。
互いの技、そして剣や斧がしばらくぶつかり合う音が部屋の中にと響き渡る。
ミラとミュゼも大技をつかってこないということは、
ここが一応建物の中でへたに使えば自分たちの身も危険。
そう判断しているからなのであろうが。
もっとも、ときおり今現在は精霊達のマナを紡ぐことを禁止していることもあり、
それをしらないのかふつうに精霊術を使用しようとしてその手ごたえのなさ、
というか微精霊達から今はそれの使用許可が下りていない、という言葉をきいた直後、
なぜかそろってこちらを見てきたのはきにはなるが。
エミルが二人の戦いをみてそんなことを思っているなどとは当然知るはずもなく、
「精霊術が使えない、というのがここまで面倒とは……」
「同じく、ですわ。でも自らの力は使用できますし。
  ミラ、あなたも自分の力の技を開発すべきですわね」
「…ミュゼ姉様はそういえばつくってたな……」
しかも、その理由が祖父のお仕置きから逃れるためだけ、に生み出した。
というのだからそれをしったときミラは呆れたものである。
そもそも根性だけで次元を切り裂く力を開発するなどとは。
光と闇、そして飛空都市が時折はいりこむ次元の狭間。
それらの要素をよみとって彼女なりに分析し、
そして一部ではあるがその力を生み出すことにと成功した。
もっとも、その手ほどきで幾度かゼクンドゥスの元にと
マクスウェルがその力が暴走したときの危惧をかねて連れていっており、
それなりに今ではミュゼはその力が使用できる。
あくまでも簡易的なものであり完全なものではないにしろ。
人の魂でありながら半精霊にも近しい彼女であり、
その成長過程でマクスウェルたちの巨大なマナにあてられていたこともあって
そういった力もまたミュゼは身に着けていっている。
ある意味で、エターナルソードの力を使わずとも次元を移動し、
また切り裂く力を個別でもっているといってもよい。
…その力はかなり小さくマクスウェルなどのマナの補佐がなければ実行するには難しいが。
だが力は小さくとも使い道は多々とある。
たとえば次元を小さいながらも切り裂くことにより相手の攻撃を無効化するなど。
ミラやミュゼの一撃はマクスウェルの加護もあり、
その攻撃にはマナが無意識のうちに上乗せされている。
四大元素の長たるマクスウェルの加護は伊達ではない。
というかマクスウェルはこの二人にたいしかなり過保護になっており、
それゆえの効果、といえなくもないのだが。
攻撃を加えても加えても、たしかにダメージを与えているはずなのに、
すぐさまに回復している様子が手にとるように理解できる。
おそらく、目の前の魔族達は自動回復する能力か何かがあるのであろう。
対するミラ達はそんなものはもっていない。
むしろ定期的にミュゼがミラの体力を回復しているがゆえ戦いに支障がないだけ。
いくらマクスウェルの加護をもっているとはいえ、
ミラの体もまたマナでうみだされているものであることには違いない。
そして魔族達が使用する力はマナの反物質ともいえる瘴気。
つまるところ毒をまき散らされているといっても過言でない。
こちらは時間とともにゆっくりではあるが疲弊していくであろうに、
相手のほうにはそれがみられない。
そしてはたからみればダメージをうけてるようにみえないアークナイト達。
「姉様、ここは共同でいくしかないだろう」
「そうですわね」
このままでは確実にこちらの体力がつきてしまう。
どうやら与えるダメージよりも相手の回復力のほうが遥かに高いらしい。
ならば回復力よりもより大きなダメージを相手にあたえなければ決着はつかない。
そしてそんなダメージを与える方法。
それは互いに別々で攻撃をするよりも共同し攻撃をしかけたほうが遥かに高い。
ゆえに次なる手を打ち出すべく顔を見合わせているミラとミュゼ。
そして一方。
このままではラチがあかない、と判断したのは
ミュゼだけではなくアークナイト達とておなじ事であるらしく、
それぞれがとある技を繰り出すために三体が一か所にとあつまってゆく。
ふわり、とミュゼがその両手をひろげミラを包み込むようにして抱きしめる。
ミラもまた姉に背後から抱き込まれる形であるにもかかわらず、
胸の前で両手をくみ、その手の中でいくつかの印を紡ぎだす。
その手にミュゼの手が重ねられ、印が結ばれるごとに二人の体がかがやきだす。
「――『エレメント・フェザー』」
直後、ミラとミュゼの声が重なり、二人の体がより一層まばゆいばかりにと輝きだす。
それは双子であるがゆえに魂が近しい二人だからこそ編み出した技。
二つの魂を一時的に融合させることにより、それぞれが融合したもう一人の『自分』となる技。
ふわりとその背に透き通るようにあらわれるミュゼの背にあったかのような、
鳥の翼のようにもみえ、また蝶の羽のようにもみえたそれはそのままに。
見開いた瞳の色は真紅と緑色、つまりはオッドアイにとなっており、
雰囲気もミラとミュゼをあわせたどこか近寄りがたいものとなりはてる。
金色に近かった髪はほぼ若草色にと近くなり、その髪もひざあたりまで伸びてる。
「『時間が惜しい。覚悟』」
声はミラとミュゼ、まるで重なり合ったかのように二つの声が重なり紡がれる。
そのまますっとその手を前にと突き出すとともに、
何もない虚空から一振りの剣が出現する。
それはエターナルソードのようでそうではないもの。
ミュゼが生み出せし、彼女だけの次元を切り裂く彼女の能力たる剣。
ちなみにこの状態のとき、ミュラーゼと命名したはほかならぬマクスウェル。
何でもミラとミュゼ、二人の名前をかけあわせて命名したらしい。
二人が同化するのとほぼ同時。
重なり合った三体のアークナイト達もより濃い闇の霧にと包まれる。
霧は三つにわかれやがてそれらは融合するかのごとくに一つになりて、
そこから新たなひとつの人影が出現する。
アークナイト達はあまり知られてはいないがその性質上、
融合することによりその実力を乗算するかのごとくに強くなることが可能。
容姿はそのまま、しかしその力は先ほどまでのそれの三乗分。
「――ゆくぞ!我らが主よ!力よ!魔人闇マリアン!」
それはジャミルがまだ人であったころのミドルネーム。
ジャミルの力を借り、アークナイト達の剣技をのせて放つ技。
ちなみにこの技、力の源は何もジャミルだけ、というわけではない。
それぞれが心のよりどころとしているもっとも大切なもの。
それを思い浮かべることにより、ヒトもまたこの技を繰り出すことが可能。
もっともかつてこの技を利用した人間の想い人が同じ名をもつ”マリアン”であった。
というのはとてつもない偶然ではあるにしろ。
振りぬいたアークナイト達の剣に闇の力が集う。
この技は一気に敵との間合いをつめたのち、相手を確実に刺し貫く。
「『――クルーアル・グラヴィディ』」
真・アークナイトでもいうべきそれらが技の名を叫ぶとほぼ同時。
”ミュラーゼ”もまた技の名を紡ぎだす。
それとともに手にしていた剣が瞬く間により深い闇にと包まれ、
次の瞬間、背丈よりも大きな巨大な剣にと変化する。
ふたりの力をそのまま剣にこめ、勢いよくそのままむかってくる相手にむけて振り下ろす。
刹那、二つの衝撃派がぶつかり合い、視界が一瞬反転する。

それははからずとも、ミトスとジャミルが反する技を繰り出したのと同時刻。
異なる次元とはいえ放たれた技はあるいみで次元を切り裂く技といってもよい技のひとつ。
隔たりあう二つの世界にて繰り広げられた巨大な力は干渉し、
やがてまぶしいばかりの光と闇が入交りそれぞれの空間を彎曲し、
そのままヒルダの私室にて戦っていたはずのふたつの影は、
空間のゆがみにと引き込まれてゆく――



「…あれ?」
しいなとくちなわとの決着がつき、あの不思議な空間からテセアラ城にともどってきた。
階段をのぼり、この上にあるであろう王の間にむかっているそんな中。
ふとコレットがその足をとめる。
「なんか、今、あっちのほうから声が…あと、何か戦っているような音も…」
金属と金属が重なり合うような音とともにたしかに聞こえた聞き覚えのある声。
なぜかお守りの会話からエミルのことに話題がうつり、
それぞれが何ともいえない沈黙に満ちていた最中に気づいたこと。
コレットが視線を向けた先は階段の途中の廊下であり、どうやらその奥のほうであるらしい。
「あっちにはたしかヒルダ姫の私室があったはず…
  まさか、国王だけでなく姫にも何かおこってるってか?」
コレットの言葉に一瞬ゼロスが眉を顰め誰にともなくぽつりとつぶやく。
たしかにゼロスの耳にもそれらしき音がとらえられた。
ここに至るまでふつうの兵士やメイドたちの姿がみえないということは、
あきらかに第三者がかかわっているとみてほぼ間違いない。
「もしかして、以前のように王女様が人質とかになってるのかな?」
以前、元教皇フィリプがヒルダ姫をさらったのは記憶にあたらしい。
それゆえにジーニアスもまた顔をしかめつつぽつりとつぶやく。
「ありえるわね。でも…危険だわね」
たしかにそれはありえる。
だがそれはあきらかにあるいみで危険。
「危険…ってどういうことだよ。先生?」
「考えてもごんらんなさい。おそらくこの先にいっているのは、
  あのミトスとエミル、そしてミラ達なのよ?
  あの子たちが人質の安全を考慮するとおもって?」
ミラとミュゼに関してはわからないが、すくなくとも、
あの精霊マクスウェルに育てられている以上、
人の倫理観というものが欠落していてもおかしくはない。
そもそも同じ精霊であるエミルですらことごとくヒトを信じていないというのは、
これまでの旅で幾度もリフィルは聞かされている。
目的のためならば手段を問わないのでは、というのは前からおもっていたこと。
でも、今だからこそわかることもある。
あのとき、パルマコスタ牧場にて潜入したときに誰もいなかったあれは、
まちがいなくエミルが何かをしたがゆえ、なのだろう。
そうでなければあのようにディザイアンが一人もいないということはありえない。
ロイドの台詞にリフィルが腕を組みつつ多少考えるそぶりをしながら言い放つ。
これをいうのは子供たちからしてみれば酷かもしれないが。
しかしその可能性はかなり高い。
すなわち、もしもそこに敵がいるとするならば、
彼らは人質を気にすることなく目的を遂行しかねない。
ミトスに関してもクルシスの指導者という立場上、そういったことを気にするとは到底思えない。
そこに自分たちというかジーニアスなどがいれば話は別かもしれないが。
それにエミル。
精霊達が手をだすつもりがないというのであれば、
おそらく人質になっているものがいても手出しなどはしてこないであろう。
それでなくてもエミルはここの人間たちにあまりよい感情を抱いていないようにみえていた。
微精霊達の卵である精霊石をわが物顔で使い果たし、使用するだけ使用して、
使い物にならなくなったとおもえばすぐさまに破棄しまくっていたテセアラの人々。
そんなヒトにたいしエミル…否、ラタトスクがいい感情を抱くはずもない。
それにこの国の身分制度はあきらかにヒトの愚かさの象徴ともいえるもの。
いつの時代も人がかってに定めた”身分”という下りにて醜い争いは繰り広げられているのだから。
「そんな…ミトスもエミルもそんなことをするとは思えません」
そんなリフィルの言葉をききコレットが少しうつむき加減に言い放つが、
「…いや、以前のミトスならばいざ知らず。今のミトスならばやりかねない。
  …大事の前の小事、でしかたしかにないであろうしな。
  一人の犠牲にて大多数が救われるのであればそちらを選択するだろう。
  …昔のミトスは誰も犠牲にならない道を選ぼうとはしていたがな」
しかし今のミトスは間違いなくそうではない。
より理論的でまた被害が少なくなる方法をとるであろう。
エミルに関してはいうまでもなく。
そもそもエミルはもともとすべてのヒトといわず世界そのものを浄化して、
すべての命を一度無に還し世界を再生させるつもりであったのだから。
そのことをクラトスはかつてミトスが精霊ラタトスクに懇願する過程で知っている。
これまで救いの旅に同行していたのはまちがいなくミトスの真偽を確かめるためであったのだろう。
だからこそあのとき、救いの塔で、エミルはミトスに、そしてクラトスにと問いかけたのだろう。
そしてテセアラにきてミトスと合流してもミトスを正面から攻めるわけでなく、
そばにて見極めていたのだとおもう。
それはクラトスの予測でしかないが、しかしかのセンチュリオン達がいっていたことを考えれば、
その考えはまずまちがいなく正しい、と言い切れる。
それでも決定を下すときにはかの精霊は躊躇はしないであろう。
「…ひとまず、様子だけでもみにいってみる、というのはどうでしょうか?
  王の間はたしかこの上なのですよね?
  もしも人質がいるとするならばそちらをどうにかしないと、
  こちらも行動がとりにくくなるという可能性があります」
「でも、別れて行動するのは危険だとおもう。
  …そんなに部屋の位置は離れてないんだったら近くまでいって様子をみる。
  もしかしたらエミルたちがもうどうにかしてるかもしれないし」
プレセアの言葉につづきマルタが希望を込めていえば、
「そう、ですわね。もしかしたらヒルダ姫様を救い出しているかもしれませんし」
それは希望的予測。
セレスもそんなマルタに追従するようにといってくる。
「じゃあ、多数決を取りましょう。ヒルダ姫の部屋のほうにいくか。
  それとも先に王の間にいくか」
シルヴァラント側のみの旅ならば間違いなくコレットの意見をきいていた。
しかし今は状況が状況。
「姫の元にいったほうがいい、というひと」
「「「「はい!」」」」
リフィルの言葉にすばやく返事をしなぜか手をあげるロイド、ジーニアス、コレットの三人。
一方、マルタとセレスも三人ほどではないにしろ、かるく手を曲げる形で
手をかかげ賛成の意思をみせている。
「王の間にいったほうがいいという人」
「ほい」
軽い口調にて返事をかえすゼロス。
クラトスはなぜか考え込むそぶりをみせたのち、そちらの意見にうなづきをみせている。
「ヒルダ姫のほうが五人、王の間が二人…ね。プレセア、あなたは?」
「どちらを選んでも難易度は高い、とおもわれます。
  なので私はみなさんの意見に従います」
「俺様としては姫のこともきになるけども。
  もしも姫があんな姿にさせられていたとしたら、その姿をみるのもな~」
プレセアにつづきゼロスが軽い口調でいえばはっとした表情をうかべるロイド達。
たしかにその可能性はまったくもって考慮していなかった。
しかしこれまであの異形の姿をみるにあたりその可能性もなくはない。
カッ!
『な、何(だ)!?』
そんな会話をしつつ思わず立ち止まっているそんな中。
突如として薄暗かったはずの視界が一瞬まぶしくそまりゆく。
それは目をあけているのすらきついまぶしい光。
光はどうやら今問題としている姫の私室という方角から。
「何かあったんだ!」
「まちなさい!ロイド!」
「あ、ロイド、待って!」
光とともに一瞬、足場としている階段がぐらりとゆらめく。
地震とかそういったものではなく、どちらかといえばめまいがおこったかのように、
視点が一瞬揺らめきをみせ、はっとしたようにロイドがそちらのほうにとかけてゆく。
ミトスたちに何かがあったのかもしれない。
もう、誰も知り合いを失いたくはない。
そう思うがゆえ無意識のうちにロイドは階段からそれ廊下をかけてゆく。


「うわっ!?」
まっすぐに廊下をかけていたはずなのだが。
突如として目の前の景色が一変し思わず足をふみとどめる。
思わず背後を振り向くが、やはりここは城の中のはず。
なのにどうして。
続いているはずの廊下がぐにゃりと曲がり、さらに漆黒の空間になりはてており、
ついでにいえば続いているはずの廊下がなぜに天井部分らしき場所にあるのだろうか?
いや、よくよくみれば城に設置されている様々な装飾品。
それらが無造作に暗闇ともいえる空間に浮かんでいる。
しいていえばまるでどこぞの真空空間に様々な品が浮かんでいるかのごとく。
「これは…次元が歪んでいる…な」
その光景に見覚えがあり思わず追いかけてきたクラトスが眉を顰める。
「次元が歪んでいる、とはどういうことかしら?クラトス?」
「おそらく、強い力同士がぶつかりあったのだろう。
  魔族達が好んで使用する戦闘用の結界はあくまでもその場の空間をきりとり、
  亜次元となすもの。そこに強い力が加われば外にも影響を及ぼすことがある。
  このように、な。上下も何もなくそこにあるものすべてが
  次元の狭間に飲み込まれるかのごとくの状態となる。
  つまりこの先はこの場でありながらこの場ではない空間になっている可能性が高い。
  そしてこの空間はへたをすれば
  二度と本来の空間に戻れない狭間の空間につながっている可能性が高い」
それはかつての経験からいえること。
「よくわかんねぇけど、この先には進めないってことなのか?」
「進めないことはないが。間違った手順で進めば二度と元にもどれない。
  その可能性が高いということだ。元凶たる魔族を同行しない限りはな。
  魔族をどうにか第三者がたとえしたとしてもその空間に取り残されてしまえば、
  生存率は極めて低い」
ひくっ。
淡々と紡がれるその言葉の意味を理解しおもわずジーニアスの顔が引きつる。
城の中のはずなのに、目の前にひろがるは漆黒の何もないような虚無ともいえる空間。
そこに無造作に様々な城にあったであろう品がういており、
廊下部分らしきものが前後左右といわず上下さまざまに浮いて?いるようにみえている。
何がおこったのかはクラトスにもわからない。
が、言えることはただ一つ。
「ミトスはすでにエターナルソードはつかえぬはず。
  ゆえに何らかの要因で次元をどうにかする力が加わった、ということだろう」
もしかしたらあのミュゼとかなのった女性が関係しているのやもしれぬな、とはおもうが、
確定でない以上、不確かな予測をいうわけにはいかない。
よくよく目をこらせばいくつかの扉らしきものもふわふわとういているのがみてとれる。
そこからおそらくどこかに移動できる、とはおもうがそれもまた予測に過ぎない。
いいつつも溜息をひとつつき、次の瞬間、バサリとその背にマナの翼を展開させる。
「とう…クラトス、いったい、何を……」
「おそらくこの先にミトスもいるのだろう。
  私ならば彼の気配をたどることもできる」
父さん、といいかけてクラトスといいかえてといかけるロイドの台詞をききつつも、
ふわりとクラトスがその場から浮き上がる。
「な、なら俺も…」
「お前には無理だ。まだマナの翼をあつかいきれないだろう。
  それにこの空間で見失えば命の保証はできない。
  このような空間に入り込むのは初めてではない。私のことはきにするな。
  何がおこっているのか、確認したらすぐにそちらに合流する」
そう、このような空間に入り込むのは初めてではない。
むしろかの精霊の加護をうける際、あの試練の空間のほうが遥かに鬼畜であったといえる。
もっともそれを目の前のロイド達にいっても意味がないことは明白。
ロイドもマナの翼を展開することはできるようだが、
だからといっていまだに自らの意思で展開できるとはおもえない。
クラトスとしてはロイドには普通のヒト、としてすごしてほしかったのだが。
母であるアンナの力によって封じられていたらしいロイドの生まれながらにもつ力。
それをロイドがきちんと今後扱いきれるかかなり不安が残る。
下手に力を扱い間違えれば体内のマナを枯渇してしまい、
まちがいなくその先には死が待っている。
クラトス達のようにマナを補佐しているといってよい”石”をロイドは所持していない。
アンナがきえるとともにロイドの身に着けていたよりハイエクスフィアと呼ばれる石に近しいそれ。
それはきえてしまったのだから。
マナを制御できないものがどうなるのか。
それはクラトスは身をもってしっている。
我が子であるロイドまでエクスフィギュアになってしまったらとおもうと、
クラトスは気が気ではない。
できればロイドにはあの力は使ってほしくない。
しかし好奇心旺盛なロイドのこと。
自在にその力が使えることに気づけば必ずその力を求めるであろう。
その先にまっていることをすっかり失念して。
ならばクラトスにできることは。
その力の使い道をたがえてしまわないようにしっかりと教えることのみ。
この先にロイドをつれていけばそこにいるであろう魔族に取り込まれてしまう可能性もある。
だが自分一人ならば。
それにおそらく、これにはあの精霊もかかわっているはず。
手を出さないといっていた以上、確実に傍観しているのであろう。
自分たちヒトがどのような行動を起こすのか。
それを見極めるために。
そんなクラトスの想いが通じたのか通じていないのか。
「――わかったわ」
「先生!?」
「姉さん!?」
「リフィル?あんた……」
うなづきつつも肯定の意をしめすリフィル。
そんなリフィルの言葉に驚愕したようにはっとしてリフィルをみやる、
ロイド、ジーニアス、しいなの三人。
「こんなわけのわからない空間になっているのだもの。
  私たちがついていってもまちがいなく足手まといだわ。
  この先はクラトスに任せて、私たちは当初の目的通り、王の間に向かいましょう」
どちらにしてもこの先は空をとべるもの…クラトス以外では、
コレットとゼロスくらいしかついていかれないであろう。
それにクラトスのいっていたこともきにかかる。
特にコレットはふらふらと別なる場所に迷い込みかねない。
「お前たちもくれぐれもきをつけてくれ」
もしかしたらもしかしなくても。
このような空間を生み出せる魔族が相手とするならば。
またあのときのように、リビングアーマーと名乗っていた魔界の王の一人…
ランスロットが再びでてきていても…不思議では、ない。
これと似た空間をクラトスは知っている。
あの魔族達をあの書物に封印したとき。
あのときの戦いで似たような空間に放り込まれたのだからして。
まちがいなく初見でしかない彼らはこの空間で迷子になりかねない。
もしもそうなったとするならば命の保証はできはしない。
そんな言外にそういう意味を含めていうクラトスの言葉の意図に気づいたらしく、
リフィルがうなづきをみせ、その意見に肯定の意を示す。
「でも……」
「ロイド。クラトスを信じなさい。それに今の彼は命を無駄にはしないはずよ?」
それでもクラトス一人をこの先に進ませることにロイドとしては踏ん切りがつかない。
やはり全員でいったほうがよいのでは、という思いがどうしても捨てきれない。
それでなくてもつい先ほどクラトスは死にかけたばかり。
そんなクラトスを一人で向かわしていいものか。
そんな迷いがロイドの中にどうしてもよぎってしまう。
「そう、だな。私は死なぬ。いや、死ねないというべきか。
  …自らを犠牲にして私を助けてくれたアンナのためにも…な」
その言葉にロイドははっと目を見開く。
クラトスの命はロイドにとって母であり、クラトスにとって妻であるアンナに助けられた。
そういっても過言でない。
「とうさ…クラトス…あんた……」
「ゆけ。ここは私にまかせて、な」
そういうなりふわりと浮き上がり、上下左右ともわからない不可思議な空間。
その中にふわりとマナの翼を展開し飛び上がってゆくクラトスの姿。
クラトスがその空間に飛び込んだその刹那。
クラトスの姿がぐにゃりとゆがみ、目の前にいるはず、なのになぜかクラトスの姿は
遥か下のほうこうにみえている。
かとおもえば次の瞬間には上のほうにみえたり、と。
次元がくるっている、という意味をこうして直接に目の当たりにするのは初めて。
ゆえに思わず目を丸くしてしまうロイド達。
位相軸がずれているだの何だといわれても、直接こうして意識するようにみたことはなかった。
幻のごとく互いの世界の大地らしきものがたしかに見えてはいはしたが。
それでもやはりこう目の前でこういった光景をつきつけられれば嫌でも実感してしまう。
この先の空間は文字通り、位相軸がずれているどころではなく、
次元空間そのものがくるっているのだ、ということを。


~スキット~不思議空間?にてクラトスを見送ったのち~

しいな「あんたもねぇ。あそこまでいうなら最後まで父さんってよんであげればいいのに」
クラトスの姿を見送りつつ、というか摩訶不思議な現象を目の当たりしつつも、
ひとまず目的である王の間に改めて向かってゆくそんな中。
ふとしいながあきれたようにロイドにと問いかける。
ロイド「うっ…」
マルタ「お父さんっていうのが恥ずかしいんだったら、私みたいにパパはどうかな?」
ジーニアス「…ロイドがクラトスさんのこと、パパっていうのは何かイメージ違わない?」
セレス「では、お父様、ではどうでしょうか?」
ゼロス「もしくは父上様、だな」
ロイド「う、うるさいな!…だってなんか恥ずかしいんだよ…
     というか、パ…!?なんていえるか!!」
マルタ「もしロイドが女の子だったらクラトスさん、
     ロイドにパパっていってくれっていってそう」
ジーニアス「たしかに。でもそれだと今以上に親ばか子煩悩になってない?」
ゼロス「いや、それ以前にイセリアの森でロイド君が崖からおちたってとき。
     あきらめずらひたすらにさがしまくってたんじゃねえのか?」
リフィル「…そういえば、どうしてクラトスは
      ロイドのことをよく探しもせずにあきらめたのかしら?」
しいな「そういえば。
    ロイドのお母さんだというアンナさんの死体もそこにあったんだったっけ?」
リフィル「そうきいているわ。だからこそダイクの家にアンナさんの墓があるのだもの」
プレセア「…追手、でもまたかかったのでしょうか?」
一同(ロイド除く)『う~ん…』
クラトスのあの親ばかぶりをみるかぎり、あっさりとあきらめて絶望しクルシスにもどった、
とは思えないのだが。
おそらく何かがあったのだろう。
マルタ「そうだ!クラトスさんにロイドがパパ、教えてといったらおしえてくれるかも!」
ロイド「な!何で俺がパパって喚ぶのが前提なんだよ!?」
マルタ「だって、うちのパパ、私がパパってよんだときものすごい喜んでくれたよ?
     はじめはお父さんっていってたんだけど、
     パパってよんでくれってものすごいいわれたもん」
リフィル「…そういえば、
      マルタの父親のブルートさんもクラトスに負けず劣らずの親ばかだったわね」
しいな「あ~、たしかに」
マルタ「パパは私のいうこと何でもきいてくれるもん。それでいつもママにおこられてるの」
ジーニアス「…なんか、ロイドの話題から話がかわってない?」
ゼロス「ま、つまるところ。ロイド君の親もマルタちゃんの父親も同じ親ばかってことで」
セレス「でも、実のお父様ならば、
    やはり名前でなくてお父様よびしてあげるのはよろしいのではなくて?」
ロイド「うっ!お、俺だってなぁ!
     …そりゃ、よんでみたいけど、こう何というか今さらというか、恥ずかしいというか」
ゼロス「ロイド君が父親よびしたらあの親ばか天使、絶対に完全にこっちにつくとおもうけどなぁ。
     ありゃあ、いまだにミトスとロイド君の間でゆれてるぞ?」
ジーニアス「………」
しいな「そういえば。アンナさんの魂の欠片、ミトスにも吸い込まれてたよね?」
リフィル「そういえばそうねなぜかしら?」
コレット「わかった!ロイドのお母さんはミトスをロイドのお兄さんにしたいんだよ!
      よかったね!ロイド!」
ロイド「…は!?いやまてまて、何でそうなる!?コレット!?」
プレセア「…いわれてみれば。
      彼の中にロイドさんのお母さんの魂の欠片があるのだとするならば。
      二人はある意味では兄弟といっても差し支えはないですね」
コレット「きっとアンナさんはロイドにもミトスにも仲良くしてほしんいだよ!
      だから兄弟にしたんだよ!」
ロイド「はぁぁぁ!?ってまてまて、ミトスと俺が!?ってことは俺が兄か?!」
一同
『いや、絶対にどう考えても弟(だとおもいます)(だとおもうぞ)(でしょ)(だろうが)(だよ)・』
ロイド「何で皆して異口同音でいうんだよ!?俺が兄かもしれないだろ!?」
プレセア「忘れてませんか?ロイドさん。
      ミトスさんはあれでも四千年いきてます。どうみても彼がお兄さんです」
ロイド「うぐっ!」
ジーニアス「…というか、
       ロイドのクラトスさんのお父さん呼びの話題はどこにきえたんだろう…?」

※ ※ ※ ※




pixv投稿日:2015年3月28日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始

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あとがきもどき:

~テイルズ豆知識~
技:児雷也(じらいや)
出典:ファンタジア
使用者:藤林すず
消費TP;45→マイソロ3ではTP1
台詞
 忍法、児雷也!来い!
大ガマを召喚し、炎のブレスで敵を攻撃する。
始めに画面上空から降って来る大ガマにも攻撃判定があり、
この攻撃がヒットすると敵は長時間のけぞる。
 技が発動してから大ガマに乗るまでは物理攻撃に対して無敵。
そのため乱戦でも技を潰されないので安心して使える。
が、LUCの数値が15以下のとき児雷也を使うと失敗するので注意
PS/PSP版では闇の洞窟にいる忍者から54000ガルドで購入、

技:鎌鼬(かまいたち)
出典:ファンタジア
使用者:藤林すず
属性:風
消費TP:24
目の前の敵を風の刃で切り刻む秘技。
 前方の広めの範囲を攻撃し、威力も高め。唯一の秘技としては申し分ない性能を持つ。
GBA版ではモーリア坑道ドワーフの神殿地下3階の宝箱

技名:閃空衝烈破(せんくうしょうれっぱ)
威力:突き100
消費Tp14
吹き飛ばし+ダウン効果
回転斬りで敵を打ち上げ斬りによる追い討ちを掛ける剣技。
初出はエターニアのリッド・ハーシェル

技名:グランドクルス
天使術:威力1500
消費TP:40
属性:光
Grand Cross=占星術において4つの惑星が十字状に並ぶこと。
グランドクロスとは、光の十字架で攻撃する術。
陣で敵を浮かせ、十字状の光で切り裂く天使術
初出はシンフォニアのコレット・ブルーネル。
詠唱文
 黎明へと導く破邪の煌きよ、我が声に耳を傾けたまえ。
 聖なる祈り、永久(とわ)に紡がれん、光あれ!(行きま~す!)グランドクロス!

技名:ブラッディクロス
属性:闇
威力:840(280×3)
消費TP:24
ブラッディクロスとは、闇の十字架で攻撃する術のこと
闇の刃から生じる血塗られた闇の波動が敵を十文字に切り裂く。
原作では地面から出た槍で浮かしてから横方向に展開して引き裂いていたが、
マイソロでは初めから十字架が現れ、根元付近の波動で攻撃する
(この作品ではマイソロ仕様で十字現れてます)
基本ダメージは「(100+200)×2」となる
まともにヒットするとHPを2/3ほど持っていかれる
ただし、小さい敵、重い敵相手には1ヒットしかしない
詠唱
裁きの十字よ、敵を討て! ブラッディクロス

技名:アサルトダンス
消費TP:12
華麗な剣戟で連続攻撃する武身技。
舞うように敵を追い詰める
前方に突進しながら連続斬りを繰り出す。
攻撃が前方に集中しているので避けやすく
攻撃時間も長いので技中の反撃もしやすい

技名:リザレクトハーツ
消費TP:30
なぜか投げキッスで体力が回復する摩訶不思議な技。
威力の小さいものにティアハーツがある。

技名:オールアウト
消費TP:10
素早く跳躍し、攻撃を加える武身技。攻撃を当てると背後に回りこむように移動する

技名:魔人闇(マリアン)
消費TP:44
魔人闇とは、剣に闇の力を集め、敵を刺し貫く技。
リオンの代名詞的な技。
 読み方は上記の通りで、
「まじんやみ」でも「まじんあん」でも「まじんえん」でもないので注意。
ゲーム内では読み仮名がないが、PS版のナムコ公式攻略本に「マリアン」との表記がある

技名:クルーアル・グラヴィディ
共鳴秘奥義:使用者:ミュゼ&ルドガー(の合わせ技)
エクシリアにてでてくる技。
ルドガーとミュゼの共鳴秘奥義。
ミュゼが投げキッスでルドガーの双剣に闇の力を纏わせて斬り裂き、
最後に上空から二人で一気に斬り下ろす。
全秘奥義中最強の威力倍率を誇り、攻撃範囲も広い強力な共鳴秘奥義
※この話では姉妹が融合することによってできる技としてあります※


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