下水道を進んでゆくことしばし。
本来ならば力の場を利用して体を小さくしたりしなければならないのだが、
そのあたりはフェニア、そしてシャオルーンの力もあいまって、
小さくならなければすすめない位置などにはシャオルーンが水の通路をつくりだし、
わざわざソーサラーリングでの体の大きさの変換。
それをしなくても進むことができたのだが。
目の前にみえるのは上につづいている長くつづく梯子。
しかしその前には地上にもあった鈍く光を放つ壁のようなものが立ちはだかっている。
「あ。ミラ。って、あら?たしか、あなたは……」
「こんにちわ。ミュゼさん。ミュゼさんもきてたんですね。
というか、体から抜け出してるようですけど、大丈夫なんですか?」
彼女は一度死に、そしてマクスウェルの力をもってして新たに生まれ変わった存在。
光の壁の向こう。
そこにいるのは真っ白な髪を長く伸ばした一人の女性。
白い髪は途中から金色とも緑色ともいえない色彩を帯びており、
体を包み込むような淡い色彩の変わった服装をみにまとっている。
その背には蝶の羽のようにみえなくもない白い翼のようなものをたたえており、
金色の瞳とそして何よりも特徴的なのはとがった耳。
暗闇であるがゆえ髪は白にみえなくもないが、
正確にいえば薄緑色をしていたりする。
光の加減によっては薄緑色、もしくは白にとみえる。
それがこのミュゼの髪の色。
「その耳…まさか、あんた、エルフかい?」
声をかけてきた女性の姿を認識し思わずしいながといかける。
「ミュゼさんはエルフじゃないよ。まあマクスウェルの力の影響で、
見た目がちょこっとエルフに近づいてるだけ、だしね」
そんなしいなの素朴なる疑問に代わりに答えているエミル。
しかも目の前の彼女は今、精神体そのものといってもよい。
どちらかといえば精霊の扱いに近しい存在。
実際、マクスウェルは彼女をよみがえらせるとき自らの眷属としてよみがえらせた、ときく。
いわば元人間でありながら精霊化しているといってもよいが、基本はヒトの魂のまま。
ゆえにミラと同じくともに彼女もまた成長をとげてゆく。
もっとも力が満ちれば彼女もまた自分の意思でその姿を変化させることは可能なれど。
「ミュゼ姉様は私と違って赤ん坊のころに死んでしまったらしいからな。
爺様の力で蘇ったと聞かされている」
それでもミラにとって姉は姉。
たった一人の大切な身内。
一応、赤ん坊の体そのものにもマクスウェルが術をかけ、
肉体、という肉体は一応はもっているものの、
どうやらここにはその肉体をかの地においてやってきているらしい。
「あなたたちの一部はかつてエグザイアにこられたことがありましたね。
初めましてというべきなのでしょう。
そこのミラの姉で、ミュゼ・ラナ・マクスウェルと申します」
ころころと笑みを浮かべるその様はミラとは違い人間味にあふれている。
「エミル様はともかくとしてヒトがここにいる、ということは。爺様たちの精霊の試練。
その試練がそこの人間たちに加わったということなのかしら?」
「まあそういうことだね。ミュゼさんがこれを切り裂くの?」
「ええ。私はおじい様から力を与えられていますから。
もっともゼクンドゥス様ほどではありませんが」
ミュゼがもちし力は空間と重力を操る、といったもの。
マクスウェルだけが力を加えたゆえにゼクンドゥスほどの力はない。
あくまでもこの惑星限定の力ともいえるそれ。
ついでにいえば彼女がある程度育ったとき、
こっそりとマクスウェルはゼクンドゥスのもとを訪れて協力を要請している。
ゆえに彼女の精神体内部にはゼクンドゥスの分身体ともいえる
時空の力を有した剣。それをも保有していたりする。
そもそもミラ、そしてミュゼともにマクスウェルが自分たちがいなくなったのち、
この世界を治めさせるために育てていた命。
当人たちにも時期後継者、という内容は話しているとラタトスクは聞かされている。
かつてエグザイアに立ち寄ったとき、そのようにマクスウェルが話していた。
そしてここに移動するにあたり、エミルのことをミュゼはマクスウェルから聞かされている。
曰く、大樹の分霊体ともいえるディセンダーとよびし存在だ、と。
まあウソ、ではない。
完全なる真実ではないが。
ラタトスク自身であることはいまだ彼女たちは聞かされていない。
いいつつころころと笑みを浮かべたのち、
「ミラ。やはりこの奥の地下施設に原因があったわ」
「やはり、か。姉様は平気だったのか?」
「近づいたらさすがの私も危険ね。今の私は実体がないもの。
逆にあの装置にとらえられかねないわ。
床に施されている魔法陣には気を付けて。あれはマナを吸い上げる効果をもっているわ」
「わかった」
『?』
姉妹だ、と名乗った二人の会話の意味はロイド達にはわからない。
リフィルも意味がわからずに首をひたすらに傾げているが、
しかしその視線はじっとミュゼ、となのりし少女にとむけられている。
歳のころはミラと同じく十八かそこら。
いや、あれからかなりたっていることから十九にもしかしたらミラもなっているかもしれない。
エグザイアに初めて立ち寄ったとき、ミラは自分のことを十八歳だ、といっていた。
そんな会話を交わしたのち、
「少し離れていてくださいね」
いいつつも、ミュゼがすっと手を伸ばす。
それと同時、ミュゼの手の中に光が集う。
それは一瞬ではあるが剣の形を形成し、
そのままミュゼが勢いよくそのままその光の剣を振り下ろす。
ヴッンッ。
ミュゼが振り下ろしたその先。
そこにちょうど人が通れるかどうか、くらいの穴がぽっかりと出現する。
先ほどまで光る壁、つまりは結界があったはずのそこ。
結界の一部にもののみごとに穴があいてしまっているのが嫌でもわかる。
「あまり時間はもちませんわ。入るのならばはいってくださいね」
「空間を一時期ねじまげて結界の一部を無効化ってところかな?」
「あら。さすがですわね。ゼクンドゥス様と契約していたミトス・ユグドラシル」
「っ。…気づいてた、の?」
「ええ。以前、おじい様につれられて、あなたの様子をみにいったことがありましたから。
でもあのとき、あなたは青年の姿であったとおもうのですが?」
「…クルシスの指導者のときには青年の姿をしていた、からね」
まったくもって気づかなかった。
というかいつの話、なのだろうか。
そのことがミトスとしてはきになるが、しかし今はそんなことをいっている時ではない。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず、ね。行きましょう」
何が起こっているのかリフィルにもまだわからない。
けど、ここで先にすすまなければどうにもならない、というのだけはわかる。
ゆえに、リフィルが真っ先に一歩を踏み出す。
「リフィル様。さっすが根性すわってる~。んじゃ、俺様も。
セレス、俺からはなれるなよ?何があるかわかんねえからな?」
「はい。お兄様」
リフィルがミラにつづきその穴をくぐり、それにつづきゼロスとセレスが同時にくぐる。
「さてと。僕らもいこっか」
「あ、エミル、まってよ!」
それにつづきエミルもまたその穴をくぐり、そんなエミルをおいかけるマルタの姿。
「…いこう。クラトス。アレがまた開発されているというのなら。
僕らはそれを止める権利があるからね」
「…そう、だな」
ミトスの言葉にクラトスはうなづかざるをえない。
まちがいなく開発されてしまっているのだろう。
自分たち…クルシスの目から逃れる形で。
精霊研究所。
そこはテセアラに存在している王立研究院。
テセアラの研究所は主に精霊を研究している部署でもある。
人工的に精霊をつくり、マナを自在に扱えないか、といった名目のもとにつくられており、
しかしその実態はあくまでも裏でのことで表向きには精霊を研究することにより、
世界をより過ごしやすくする、という名目でまかり通っている。
一般の…といっても許可をうけていれば、であるが。
基本的に地下一階まである、と認識されているその場所は、
実はさらに地下がありそこにて秘密の実験が繰り返されている、
ともっぱらメルトキオの一部のものたちの間では有名。
下水道からつづく梯子をのぼって出た先はどうやら倉庫の一角、であったらしい。
そこから外にでてみれば、ひんやりとした空気があたりをつつみこんでいる。
先ほどまであった地下の下水道に充満していた瘴気はそこにはないが、
こころなしかどことなく居心地わるいような気がするのはおそらく気のせいではないであろう。
本来ならばこの場所はいつでも厳重な警備体制が引かれているものの、
今はひとっこひとり見当たらない。
精霊術や機械技術といったものもここでは秘密裏に研究されており、
精霊の力を封じ込めた機械類ができないか、と日々研究されていたりする。
地下だ、というのに比較的天井は高くつくられているのは実験をするのに不都合がないように。
「人っ子一人いねぇっていうのがおかしくはねぇか?」
ゼロスもここの厳重な警備体制をしっている。
そもそもゼロスですら立ち入りを禁止されていた。
それでもゼロスが知っているのはしいなに頼み内部を探ったことがあるがゆえ。
がらんとした廊下の左右にはいくつかの小部屋らしきものがみてとれる。
ひっそりと、誰の気配もしないというのはさすがに違和感がありまくる。
照明という照明もあまりともされていないらしく、壁にあるランプはほとんどが沈黙状態。
カタ…カタカタ。
ふと、しんと静まり返った施設の中。
ふとどこからともなく機械音らしきものが響いてくる。
「機械音?」
しかも何かキーボードっぽいようなものをたたいているような。
「あ、先生。あの奥の部屋。あそこから光が漏れ出してます」
すっとコレットが指し示すは、たしかにほとんど灯りという灯りもない施設の中。
ただ一か所の部屋の隙間からぼんやりと灯りが漏れ出しているのがみてとれる。
「…気をしっかりともってね」
『?』
光が漏れ出している部屋にむかおうとするロイド達に、
エミルが何ともいえない表情を浮かべぽつりとそんなことをいってくるが。
そんなエミルの言葉の意味はロイド達にはわからない。
「…またアレを目の当たりにすることがある、とはね」
「まったくだ。いつの時代もヒトとは愚かでしかないのだろうか……」
一方でエミルが言いたいことを察してミトスが溜息まじりにいえば、
クラトスはクラトスで多少表情をふせつつ何やらそんなことをいってくる。
「いったい……」
そんな彼らの反応をいぶかしり、リフィルが問いかけようとしたその矢先。
――ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛アア゛アア゛ッ~~~!!
何ともいえない絶叫のような、それでいて断末魔のような。
いくつもの重なった声が突如として周囲にと響き渡る。
「!声はあの部屋のほうからです!」
「まちなさい!コレット!」
その声をうけはっとしたようにコレットが灯りのもれている部屋のほうにと駆け出してゆく。
この声は尋常ではない。
そんなコレットをあわてておいかけてゆくリフィル。
「ちっ。嫌な予感が的中ってか」
「…お兄様?」
「気になるなら、ここでセレスさんとまってようか?」
「…いいのか?」
「あれみたら、僕、本気でヒトを滅ぼしてもかまわないかな、とかおもっちゃうしね」
「「「・・・・・・・・・・・」」」
本当にあれをみるたびにいつもヒトというものの愚かさに嫌気がさす。
魔物たちに加護与えていなければまちがいなく彼らヒトは魔物たちすら利用しようとしたであろう。
すでにコレットをおいかけて走っているリフィル、ジーニアス、ロイドはこの場にはいない。
「え、えっと。エミルったら冗談きついんだから、もうっ!」
多少ひきつったように、エミルの台詞を冗談だ、といってほしいとばかり、
乾いた笑みをうかべてあえてわざとらしくマルタがそんなことをいってくるが。
そんなエミルの台詞が嘘ではない、とわかっているがゆえ、
ミトス、クラトス、ゼロスとしては無言にならざるを得ない。
「じ、冗談きついよ。エミル。あ、あは。あはは……」
ひきつった笑みをうかべマルタにつづきいっているしいな。
しかし心のどこかでエミルのその台詞が冗談ではない、というのがわかってしまう。
だからこそしいなは何ともいえない思いにとらわれてしまう。
エミルがそこまでいう”何か”。
いったいこの先で何がおこっているのか。
いや、しいなは知っている。
実際に人体実験をしているその光景をしいなは目の当たりにしたことがあるのだから。
室内に足を踏み入れれば目につくはぼんやりと青白い光をともしているいくつもの筒。
かつてコレットが似たようなものに入れられていたことを嫌でも思い出すそれら。
ずらりと定期的に左右対称に並んでいるそれ。
その内部には液体のようなものがいれられており、
時折何もはいっていないのにコポリ、と泡立つ様子がみてとれる。
コレットが駆け出し踏み入った部屋。
そこはあきらかに何かの実験場。
思わずその光景をみてコレットが足をとめてしまう。
その光景はかつてコレットはみたことがある。
この光景は見間違いでなければ自分がロディルに連れられていった場所。
あの空間によく似ている。
自我を取り戻してからみたのであまり詳しくないにしろ、見間違えるはずもない。
そんな筒が並べられている部屋。
その部屋の奥にさらに扉らしきものがあり、明かりはどうやらそこから漏れ出しているらしい。
バンバン!と何やら何かを強くたたくような音もコレットの耳には届いてくる。
それとともに水がこぽこぽと波打つ音も。
「ひっ!」
「こ、これは!?」
「あのときのコレットと同じ!?」
小さな悲鳴は我知らず、プレセアの口から発せられる。
そしてまたその先にある光景を目の当たりにしロイドが驚愕した声をあげ、
一方ジーニアスもコレットにつづき立ち入った部屋の光景をみて唖然とした声をだす。
何もはいっていなかった筒が立ち並ぶ部屋。
その奥にさらに足を踏み入れてみてみれば、そこには男女とわず筒状のカプセル。
それには人間たちが入れられており、それぞれが必至で抗うかのように
バンバンと出ようとして筒を内部からたたいているのが見てとれる。
「…たすけ…もう……」
一方、その中でも比較的小さな子供。
子供が入れられている筒。
ゴポリ。
それとともに子供のはいっている筒の泡がさらに濃度を増す。
それとともに子供がぐったりと筒の中で力をぬき、
それとともに一気に子供が泡につつままれるようにその姿を溶け消え去す。
同時。
連動するかのごとく筒が青白く光り輝き、壁につたっているいくつもの細い管もどき。
それらが淡く輝きをまし青白い光が管をつたっていくかのごとく部屋全体を照らし出す。
それとともに薄暗かった部屋全体の様子が照らし出され、
そこにあるいくつもの十数個にも及ぶ筒のようなそれ。
それらすべてに”ヒト”が入れられているのがみてとれる。
男女とわず、小さな子供から老人まで。
子供の入っている筒をかわきりにしてか、他の筒からも盛大にゴポリ、
という気泡の音が発せられる。
『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ』
悲鳴とも何ともいえない悲しき声。
泡とともに筒の中の液体にまるで溶け消えるように中にはいっている人間たちは消えてゆく。
はじめからそこに誰もはいっていなかったかのごとくに。
「い…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
それが意味すること。
どういう原理なのかはしらないが、彼らは殺された、のであろう。
そのことに気づきコレットが悲鳴をあげる。
どうして、なぜ。
「ひ、ひでぇ…何でこんな……」
あとにのこりしは、そこに人がはいっていたとは思えないほどの静寂にみちた筒と、
コポコポと気泡をたたえている筒のみで。
何が起こったのか理解できずロイドはそういうしかできない。
と。
「うん?なんだぁ?侵入者、か?」
コレットが嫌嫌をするように首を振っているそんな中。
奥の部屋らしき場所からゆっくりと男性の声とともに人影が出現してくる。
出てきたのは二つの人影。
どうやら二人とも男性、であるらしい。
「どうやらそのようですね。こんなところにまでやってくるのはとんで火にいる夏の虫。
あなたがたはどのような声を聴かせてくれるのですかね。…おや?
おやおや~?その胸の輝石は…これは素晴らしい。
あなたはシルヴァラントの神子、ですね。ということは。
いるのでしょう?ゼロス殿」
「ちっ。やっぱりか。ライゼン。相変わらずえげつない研究をしているようだな」
何が起こっているのか大体予測できてしまったがゆえに、
こんな光景は妹にはみせたくない。
ゆえにセレスをエミルに預け、少し遅れゼロスもまた部屋にとはいってくる。
マルタは気になっていたようではあるが、
エミルとセレスを二人っきりにさせるほうが嫌であったのか、
マルタも部屋の外でエミルとおとなしくまっていたりする。
もっとも、悲鳴をききつけ何ごとかとおもったらしく部屋の入口にまでやってきて、
部屋の中をのぞき込むような恰好をしているのがみてとれるが。
ゼロスの名を呼びし、そしてライゼン、と呼ばれた男はにやりと笑みを浮かべ、
「これは意なことを。私は世界のための研究をしているだけですよ?」
「どうだか。…生きた生命体からマナを取り出す研究なんてどこが世界のため、なんだか」
口元に笑みを浮かべた白衣をきている青年に対し、ゼロスが吐き捨てるように言い放つ。
そんな白衣の服をきている男の背後には、
その背に大きな剣を携えている一人の男性。
ひげを生やし、ぱっとみためはどこぞのごろつきのような感じをうけるが、
その目は視界にはいるものすべてを見下しているような、そんな印象を抱かせる。
「おい。ライゼンさんよ。こいつらは始末するのかしないのか?」
「神子のもつマナはとてつもなく重宝するでしょうね。
それにちょうどいれておいた道具が消えてしまったこともありますし。
そこにいる子供はどうやらハーフエルフのようですし?
かなりのマナが取り出せることでしょう。生きたままとらえてくださいね?
ジェストーナ」
ライゼン、とよばれし男性にと背後にいた簡単な皮鎧をきている男性が声をかけると、
そんな彼をちらり、とみつつライゼン、と呼ばれた男が言い返す。
そのやり取りからして、白衣をきている男がライゼン、
そして武器をもっている男がジェストーナである、とロイド達は推測する。
今目の前で起こったこと。
それの理解がロイドの中ではおいついていない。
というか、今、この白衣をきた男は何といった?
ゼロスは何、といった?
――生きた生命体からマナを取り出す。
そんな物騒なことをいっていなかったか?
ジーニアスや先生が散々いっていた。
たしか生命を構成しているすべての源がマナである、と。
そんな生命体から強制的にマナを取り上げればどうなるのか。
まっているのは当然…死、しかありえない。
「まさ…か」
骨一つ残さずに消えてしまった人々。
まさかこのカプセルに入れられていた人々は
すべてのマナを取り上げられてしまったから消えてしまったのか?
「っ!何であんたはこんなことをしてるんだよ!」
混乱する思考の中、何とかロイドが叫び声とともに相手に問いかけるが、
「これは異なこと。これは必要なことなのですよ?
この吸い出したマナによって町は結界という名の安全地帯となっています。
ある日を境に城から湧き出した何ともいえない霧もどき。
それにふれると人々はばたばたと倒れたりもしくは異形とかしたりして。
ここにいるジェストーナさんが教えてくれたのですけどね。
何でも城から湧き出したのは瘴気とかいう魔界の毒、らしいんですよね。
魔界の毒たる瘴気に対応できるのはマナのみ。
ならば人々を守るため、マナをてっとり早く確保する必要があるでしょう?
彼らの犠牲によって貴族街にいるすべての人々が守られているのですよ?
貧民街などにすまうゴミ以下のものやハーフエルフを有効利用して何の不都合が?」
そんなロイドの問いかけに、何をいっているとばかりにいいはなつライゼン、
とよばれし白衣の青年。
――本気でヒトを滅ぼしてもかまわないかな。と思えてしまう
先ほどのエミルの言葉がしいなの中で反復する。
ああ、そうだね。エミル。
こんな人のろくでもない行動をみていれば、
そんな力をもっていれば、そんな考えに陥ってもおかしくないだろうね。
あたしらですら、こんな輩は生かしておいてはいけない、とおもえるんだから。
ゼロスにつづき部屋にはいったしいなもまたそんなライゼンの台詞をききながら、
何ともいえない表情をうかべ、ぎゅっとその手をつよく握り締める。
いつだってそう。
いつも犠牲になるのは力なき弱きもの。
そして虐げられしもの。
「彼らとて満足でしょう?何しろ貴族たちの力になりえる、のですから」
「ふ、ふざけるな!!!人の命を何だとおもってる!」
「彼らはヒト、ではないのですよ。家畜以下、生きていても意味がない存在」
「そんな言い分あってたまるか!誰しも生まれた限り生きていく権利があるはずだろ!
あんたのようなやつがどうこうしていいわけじゃないっ!!」
ディザイアン達にも感じたこの何ともいえない気持ち。
「ロイド。これをかつて国をあげてやってたんだよ。人間は、ね。
僕らをとらえ、人狩り、なんてものをやってのけて。
またこれを復活させてるとは本当にヒトとは学ばないよね」
叫ぶロイドの背後からゆっくりと部屋の中にとはいってくるミトス。
そしてそんなミトスにつづき、クラトスも部屋の中にはいってくるが。
はいってくるなり一閃。
その手にいつのまにか抜き放っていた剣をそのままクラトスは一閃させる。
ガッシャァァッン!
それとともに周囲にある筒がピシリ、とはぜわれ、
内部の液体ごと部屋の中にと壊れゆく。
「話にききました、古代大戦の英雄たちのお出まし、ですか」
ちらりとミトス、そしてクラトスに目をやり笑みをうかべたのち、
「ここはまかせましたよ。ジェストーナ。私はあの場所にむかいますから」
「おう」
「ま、まて!」
「おっと。お前達の相手はこの俺、さ」
奥のほうに消えてゆくライゼンを追いかけようとロイドはするが、
そんなロイドの前に立ちふさがるジェストーナ。
「くそ。そこをのけっ!」
「どの種族にも属さない輩はどのようなマナを保有しているのかな」
「何を……」
「相変わらず、だね。ジェストーナ。四千年ぶり、かな?」
「だねぇ。前のときはお前たちのせいで我らの計画は費やされたしな」
「お前たち魔族はあいかわらず、ということか」
ロイドをみてにやりと笑みをうかべるジェストーナをみつつ、
そのまますっと一歩前にとすすみでるミトス。
クラトスもまた武器を構えつつ、ぴたりと相手にその剣先を突きつけていたりする。
「「「四千年って……」」」
いかにも知り合い、といったような口調のミトスとクラトスの様子に、
ロイド、ジーニアス、しいなは戸惑わずにはいられない。
「以前、シルヴァラント側に加担していた魔族だ」
「こいつがいる、ということはやはりまたジャミルが暗躍してるってことだろうね」
「だろうな」
ジェストーナ、ジャミル、デミテル。
この三人…ヒト、といえるのかどうかもあやしいが。
かつてはヒトであったことには違いないので、ヒトという下りでも間違いはない、のだろうが。
毎度毎度、人の世界に入り込み、世界に混乱を招いていた。
停戦のち、ジャミルなどはとらえられ処刑されはしたものの、
その生首が浮かび上がり高笑いしつつ消えていったというのは、
その場にいたものならば誰しもがしっている事実。
もっともそんな史実はミトスの手により消し去られてしまっているのではあるが。
「ま…ぞく?ウソ…だろ?」
これまでみたどの魔族とも違う。
どこからどうみてもヒトのそれ、でしかありえない。
目の前のこのどこにでも探せばいるような無骨な男が魔族だとでもいうのだろうか。
あからさまにわかるつのも翼もない。
そんな輩が魔族だ、といわれてもロイドにはわからない。
「まったく。ジャミルのやつがあんたを虜にしてみせる、といって。
長い時間かけてたわりに、あいつは根本的なところが抜けてるよなぁ」
「っ。とにかく、お前たちのすきにさせるわけにはいかない」
いいつつも、ミトスもまたスラリ、と剣を抜き放つ。
それとともに、ぼわり、とミトスの剣が淡い光にと包まれる。
ミトスが得意とする技の一つ。
魔法剣ともいわれしそれは、剣にマナを上乗せして攻撃する技。
「な、何がおこってるの?」
いったい何がおこているのか。
悲鳴とともに部屋をこっそりと覗き込むようにみてみるが、
そこにあるはクラトスに壊された何かの容器らしきものの残骸のみ。
「ここは彼らにまかせて、僕らはこのまま地下にむかおうか」
「地下?」
「ミラさんやミュゼさんもそこに向かうつもり、なんでしょう?」
エミルの背後にいるのはミラとミュゼ。
ロイド達が灯りがもれている部屋に出向いていったのち、
ミラとミュゼはその場をほとんど動くことなくしばし情報のやり取りをその場にてしていた。
困惑したマルタの様子をちらりとみただけで、さらりといいはなっているエミル。
どちらにしても、あの場はミトスたちに任せておいても問題はないであろう。
問題なのはこの地下にありし装置。
あれはほうっておくわけにはいかない。
「というか、エミル殿はいかないほうがいいのでは?」
「…そういえば、爺様が”エミル様がいったらそれはそれでおしまい”。
みたいなことをいっていたが……」
「…あいつは何を口走ってるんだ…ったく」
ぽつりとつぶやくミラの言葉をうけエミルとしては溜息をつかざるをえない。
まあ確かに。
そもそもマナの吸収容量すらを許容オーバーしてしまうことは明白。
つまるところは装置が逆流してしまい暴発してしまいかねない。
まあそれはそれでかまわない、とおもうのだが。
というかこの施設そのものを綺麗さっぱりと消し去ってしまったほうが後々の憂いがない。
まあ、それをするにしても。
「とりあえず、地下には道具扱いのために捕えられてる人たちがいるだろうし。
マルタやセレスさんはフェニア達と一緒に彼らを救い出してくれるかな?
フェニア。二人をしっかりと守ってあけてね」
「それはかまわない、のですが。しかし、エミル様…何をしでかすおつもりですか?」
「別に?ただ前と同じことをちょっとここでもするだけ、だよ」
フェニアの問いかけににっこりと笑みをかえすエミル。
そう。
ディザイアンとよばれし牧場でこれまでしてきたこと。
ただ、それに近しいことをするだけ。
精霊研究所。
メルトキオにある王立研究所の別名、ともいえるその場所。
下水道よりその内部にはいりこみ、研究所の地下らしき場所にとたどり着いた。
目の前で起こっていることがロイドにとって理解がおいつかない。
否、ロイドだけ、ではない。
ジーニアスたちもまた理解したくない。
よりによって生きたままの人間からマナを取り出す研究…しかも実験をしている、とは。
そしてミトスとクラトスがいう目の前の男性。
どうみてもどこかにいそうな傭兵っぽいような中年男性。
ジェストーナ、とは呼ばれていたが。
魔族であるといわれてもどこからどうみてもヒト、でしかありえない。
なのに。
「うそ…(だろ)(でしょ)?」
唖然とする、というのはこういうことをいうのかもしれない。
ミトスが切りかかった相手。
ジェストーナといわれていた男性は確かにミトスよって切り付けられた。
しかし切り付けられたそこからは血が一滴もでることなく、
ぽっかりとした暗闇がそこにはあるのみでしかも向こう側がみえている。
ヒトの形をした人あらざるもの。
そのことをそれによって強くロイドは実感せざるをえない。
同じことを思ったのであろう。
ジーニアスも目を見開いてそんなジェストーナを凝視していたりする。
「ロイド。呆けるのなら邪魔だから下がっててよね」
「なっ」
そんなロイドを一瞥し、そのまま再び目の前の魔族ジェストーナにむけてだっと間合いをつめるミトス。
ミトスにいわれロイドは思わず文句をいいそうになるものの、
「ロイド、あ、あれっ!」
ふとみれば先ほどクラトスが壊した筒が散らばっている場所。
そこに広がっていた液体のようなそれら。
それらがうねうねとうごめいているのがみてとれる。
それらはやがてヒト型となりて、ゆっくりとしかし確実に敵意をもってロイド達にとむかってくる。
はっと何かの気配にきづき、ジーニアスが思わず叫ぶ。
「くそ~!いったい全体何だっていうんだよ!」
「落ち着きなさい!とにかく、ここを切り抜けるしかないわ!」
すでに出入り口たる入口付近も水もどきでできた異形の何かによってふさがれている。
つまりまだ部屋にはいってきていなかったエミルたちと分断されたということに他ならない。
そのことにリフィルは思わず舌打ちしたくなるものの、今はこの場を切り抜けることが先。
「くるよ!」
「く、くそ~!!」
とにかくこの場を切り抜けるしかない。
半ばヤケになったロイドが叫ぶとともに、無意識のうちにその身のマナの翼を展開するロイド。
「ロ、ロイド?」
ふわりといきなり背中に翼を生やしたロイドにジーニアスが戸惑いの声をあげるが。
「よくわかんねえけど、とにかくこいつら、ゆるせねえ!!」
人の命を何ともおもっていない輩。
ディザイアンたちのようにヒトをヒトともおもわないその行動が。
あの筒の中には小さな子供もいた。
消えてしまった、ということは死んでしまったということ、なのだろう。
それがロイドには許せない。
許せそうにはない。
カツン。
足音のみが静かに鳴り響く。
「しかし、よくもまあマクスウェルがミラさん達を向かわすの許したよね」
あのとき、エグザイアにてかなりミラやミュゼに対し甘くなっている。
というのを会話の中で実感したというのに。
横をあるく二人にと少し気になったがゆえに問いかける。
そんなエミルに対し、
「しかし、エミル殿はいったいいつ、うちの爺様と知り合いになったのだ?」
「あら。ミラ。このエミル殿はヒトのようでありながらヒトではないとおもいますわ」
不思議そうな表情を浮かべるミラに対し、ミュゼが何やらそんなことをいってくる。
「?どうみてもヒト、でしかないが…」
「あ。そっか。ミュゼさんはどちらかといえばほぼ精霊よりになってるから。
気配を感じるんですね。動植物、魔物、そして精霊達くらいかな?今の気配わかるのは」
マナの感覚はヒトの体として擬態しているがゆえヒトのそれには違いない。
が、しかしその身から発している大樹の気配、それは紛れもない事実。
ディセンダーとして外にでていたときに常にとる気配といっても過言でない。
「暖かな、それでいて不思議な感覚がいたしますわ。
おじい様からは何とも聞かされていませんけども」
どこか懐かしく、それでいて暖かな、そんな不思議な感覚をこのエミルからは感じる。
「まあ、ヘイムダールのブラムハルドが言ってたから別に今さら隠さなくてもいいか。
今の”僕”のこの姿は”ディセンダー”そのもの、だからね」
この姿をとっているときは、という注釈がつくが。
もっとも精霊としての地を出すときには雰囲気も当然のことながら変えている。
「「ディセンダー?」」
聞きなれない言葉にミラとミュゼが顔を見合わす。
この姉妹、似ていないようで根本はよく似ている。
ミュゼは今現在実体のない精神体…どちらかといえば精霊体に近しい姿であるゆえか、
ミラの真横をふわふわと浮かんでいる状態となっている。
「簡単にいうと大樹の分身みたいなもの、かな?別の子を生み出してるときもあるし。
こうして自分が表にでることもあるし。”外”にでる目的は大体同じ。
――ヒトを見極める。それにつきるけどね」
まあ、彗星で移動しているときはかの地に移住したものたちを見守るのもあり、
外によく出ていたわけだが。
「ふむ。つまり、エミル殿はヒトの姿をしてはいるが、完全にヒトではない、と?」
「まあ、そうなりますね。マクスウェルたちとも旧知ですし」
というか自分が生み出したわけだが。
嘘はいっていない、ウソは。
ミラの問いかけにさらり、とこたえるエミルに対し、
ミュゼとミラは何やら考え込むそぶりをみせているが。
このエミルという少年。
今の言い回しであればまちがいなくヒト、ではない。
むしろどちらかといえば精霊より、にはいるのであろう。
もっとも真実は精霊そのもの、世界を創造りし”創造主”なのではあるが。
「…ともにいた人間たちはそれをしっているのか?」
それはミラにとっても素朴なる疑問。
「知ってるというか、予測はついてるとおもいますよ。
先刻、ブラムハルドがさらっとディセンダーって僕のことよびましたしね」
彼らがヘイムダールにやってきたとき、ブラムハルドが彼らの前でそのように呼んでいた。
まあここまできて別にもう隠すつもりもまったくない。
むしろミトスが今まで気づかなったというのがエミルとしては苦笑せざるをえない。
まあ、予測はしていても確信がもてていなかった、というのが妥当であろうが。
ミトスの前ではあまり隠すそぶりはみせなかったはず、なのだが。
それでもここに至るまで完全に確証には至っていなかったようである。
「フェニア。シャオルーン。お前たちにはあまり害はないとおもうが。
しかし、アレはかつても開発されていたやつに近いはずだ。気を付けろよ?」
結局、フェニアとともにマルタとセレス。
彼女たちにこの地にいるかもしれない捕えられている人々。
それの探索を一応お願いしてみたのだが。
フェニアがまずさきに率先し、この建物の中をみわたし、
結果、この施設の内部にはとらえられていないことが判明した。
ゆえに、結局のところマルタはこちらにと残り、
セレスは兄が心配だというので彼らのいる部屋にと戻っていった。
「私たちよりも、あなた様のことを考えてくださいませ」
「…というか。アレ、エミル様の力”吸った”ら…暴発するんじゃないの?」
エミルにいわれ、
同じくともにすすんでいるフェニアとシャオルーンが逆にそんなエミルにと問いかける。
どう考えてもそんな未来しか思いつかない。
そんな彼らにたいし、エミルはただ笑みを浮かべるのみ。
そんな会話をしている間に、ようやく目的地でもあるとある部屋の前にとたどり着く。
廊下をすすみ、さらに隠された階段を下りてしばらくいったその先。
その先にあるのが目的の場所。
そして今、目の前にありしは閉ざされた扉。
扉の横には小さな箱らしきもの。
そこに細い穴があいており、何かをそこに通すことにより扉はどうやら開くらしい。
その箱の下には文字がかかれている文字盤があり、その上には液体パネルのようなもの。
「認証式、か」
「姉様」
「お姉さんにまっかせなさい。潜入したときにセキュリティーカードは取ってきてるわ」
取ってきている、というよりは盗ってきている、というべきなのかもしれないが。
まあ許可なく手にいれていることには違いはない。
うきうきしつつ、なぜか胸元に入れていたらしい小さなカード。
四角い黒光りするそれをなぜかうきうきしながらとりだして、
そのまま、細い穴のあいているそこにと上下に滑らすようにといれこむミュゼ。
――ピッ。認証を開始します。暗証番号をどうぞ。
それとともに四角い箱から無機質な機械音がきこえてくる。
「えっと…XILLIA…っと」
文字の下に記号もまた書かれており、変換キーとかかれているそこを押し、
文字から記号にと画面をかえたのち、ミュゼがぽちぽちとその綴りを打ち込んでゆく。
――カードと認証番号を確認しました。ロックを解除します。
ガコッン。
そんな音声のもと、ゆっくりと目の前の扉が右にとスライドされる。
開かれた扉の向こう側。
そこはかなり広い地下室、となっているらしい。
少し意識をむければこの部屋から外にむかっているであろう空間があり、
そこにちょっとした線路もどきが設置されているのがうかがえる。
どうやらそのまま城の真裏。
そこにまでその道はどうやらつづいているらしい。
がらん、とした開けた部屋の中央。
そこに鎮座しているように置かれているのは一見、天体望遠鏡もどきにもみえなくもない。
どちらかといえば天体望遠鏡と巨大大砲。
さらにはかつてよくみていた戦車といわれしヒトが乗りし兵器の一種。
それら三つをかけあわせたかのような全体のフォルム。
「ち。小型式の精霊砲…か」
魔導砲のさらに上位版。
これが厄介なのは精霊炉の応用も取り入れていることから精霊達も捕獲が可能、というところ。
こんなものまで開発していたとは。
思わず素がでて舌打ちせざるをえないエミル。
かつての天地戦争といわれていた時代、これがいくつもつくられ、
一時期精霊達が枯渇しかかったことがあった。
あまりにもひどかったのでその国はラタトスク自らが津波を用い壊滅させはしたのだが。
おそらくこの技術というか知識を提供せしはまちがいなく魔族達、なのであろう。
そういえばかつての時間軸でエミルが封印の間にて理を引き換えていたあの時間軸。
王都メルトキオで何かの装置が暴発しかなりの被害がでたことがあったはずだが。
おそらくこの装置があのとき関わっていたのかもしれない。
その”事故”ののち、大量の微精霊達が大気に解き放たれたのをおもえば、
おそらくは当時城に集められていたとかいう精霊石たち。
それらの力を利用しようとし逆に暴走し精霊石たちの力を解放するにいたったか。
その結果、メルトキオの城がほぼ半壊し、遷都することになっていたような。
便利性が悪いという理由でたしか遷都された新たなる場所はアルタミラであったはず。
時をえて、かの地の名前はかわりはしていたが。
ふとかつての時間軸のことを思い出し、ラタトスクとしてはさらに舌打ちせざるを得ない。
しかしそれ以上に気になるのは。
「…精霊石をふんだんに使ってやがる……」
思わず舌打ちせざるを得ない。
理を書き換え、センチュリオン達の力も満ちたこともあり精霊石たち、
すなわち微精霊達は孵化できるようなものはすべて孵化させた。
しかし目の前の装置に取り込まれてしまっている数多の微精霊達。
彼らは精霊炉も兼ねているその装置に取り込まれ、自由が利かなくなっている。
さらにエミルが舌打ちしたくなる理由がもうひとつ。
「…無理やりに取り出したヒトのマナ。その負の感情という穢れによって
無理やりに狂わしていやがるな……」
精霊石を狂わすことによってその力を暴走させるのが目的だったのかもしれないが。
捕えられている微精霊達の狂った悲鳴と叫び。
それがエミルには手にとるように理解ができる。
ざっとみるかぎり装置の下にはレールが引かれており、
それによってどうやらこの装置は移動が可能となっているらしい。
装置自体がもつ特性からかどうやらウィングパック。
それに収納することはこれに関してはできなかったようではあるが。
もっとも、おそらくは試そうとはしているであろう。
しかし精霊石を使用する以上…しかも穢された。
精霊の力が暴走し、ウィングパックの性能を打ち消すのが目に見えている。
エレメンタルカーやレアバードが普通にウィングパックに入れて持ち運びができるのは、
それらに使われている精霊石が原石のまま。
つまりはヒトに無理やりに埋め込まれて穢されたものではないがゆえ。
装置の下部分にコントロールパネルものらしきものがみえ、
そこに小さな液晶パネルがあるのがみてとれる。
「?あの周囲にある床の模様。あれは何だ?」
何となくただの模様ではないような気がする。
少しばかり眉をひそめ、装置の周囲らしきものに幾重にも重なった円陣のような模様。
誰にともなくそんなことをいっているミラ。
「ふむ。マナに反応し踏み込んだものを拘束する魔法陣、だな。
…ミラさんとミュゼさんはここでまっててください。
下手に移動したらあれに二人ともとらわれかねませんし」
それまで無意識のうちにいつのまにか素で独り言をいっていたが、
あえて意識してヒト、としての口調にもどし横にいる二人にと語り掛けるエミルの姿。
「しかし。エミル様、おひとりでは危険では……」
「そもそもセンチュリオン様方は?」
「あの子たちは今はニブルヘイムで瘴気あつめてるからね~」
「「・・・は?」」
さらり、といわれた内容に思わず目を丸くするシャオルーンとフェニア。
というかニブルヘイムというのは魔界のことではなかったか。
魔界というのはかつてのこの惑星そのもの。
目の前の彼の力にて位相軸がずらされ大地が再び形成された。
ある程度大地が安定したのちニブルヘイムは地下深く、地殻深くにと移動されている。
「まあ、もうあそこはニブルヘイムとはいえないけど。
あの地いた大体の魔族達は新たにうみだした暗黒大樹の精霊プルートとともに、
この先につくった惑星に移動させたからね」
あの地にのこったは自らの力におぼれたり、もしくは自分本位のものたちばかり。
力ありしものは大概プルートに屈服しともに移住をきめている。
ジャミルを筆頭とした彼らがこの地にのこったのは、おそらく彼らが計画していた内容。
それを放り出してまで新たな魔王ともいえるべきプルートに従うつもりがなかったのか。
そのあたりはさすがのエミルも当事者でないがゆえにわからない。
「今、八柱達の力を総動員して、瘴気を束ねてるところ。
ある程度すましたら戻ってくるとはおもうけど」
ちなみに瘴気は一つの塊とするように命じてある。
それは新たなる”核”。
かつてこの地が…といってもかつての時間軸ではあるが。
地上が瘴気に覆われたときにとった方法。
あのときは地上の瘴気をまとめ、一つの核…
つまりはコアをつくりだし、新たな精霊、として生み出した。
まあ、当人はちょこっといろいろとやらかして一時、
マクスウェル達の後継をついだミラ達に封じられてしまっていたが。
あのときはたしか、ミラがマクスウェルを、そしてミュゼがオリジンを受け継いでいた。
もっとも、ヒトと契約するようなことになればなぜかマクスウェル自らが
見極めのために姿を現していたようではあるが。
「あれをどうにかできれば地下深くに今は封じ込めている瘴気類。
それをある程度表のほうにひっぱってきて早めに浄化できるしね」
今は地下深く。
地表から千キロ離れた位置にと存在しているそれら。
もっとも地表のマナなくしては地下深くの瘴気がそれこそマグマのごとく、
地表に湧き出してしまいかねないのだが。
そのための封印の扉。
しかしこれをすませれば封印の扉の意味はなくなる。
理をかえ、次なる段階に進むことができる。
「今はたしか、古の人間たちがメソスフェアと呼んでいた場所。
そのあたりにかの地は封印している、のでしたわよね?」
「うん。この地に干渉し始めて
それからマナにてゆっくくりと地下深くに閉じ込めていったからね」
それは遥かなる過去の記憶。
この惑星の悲鳴をうけとり、干渉を始めたこの地にとっては再生ともいえる始まりの記憶。
「数万年もあれば完全に元の地殻の状態に復帰できるはず、だよ。
瘴気を量産してた魔族達がいなくなった以上は、ね」
もっとも、ヒトとは愚かなもの。
再び大地を穢し瘴気を充満させていきかねない。
あのとき、愚かなヒトが地表を穢し瘴気で覆い尽くしたあの大戦のときのように。
あのときも一度、ユグドラシルは枯れかけた。
にもかかわらずマーテルは何もしようとしなかった。
それどころか自分にたいしついにはエルフたちにまでの干渉を止めるように、
精霊の盟約、として突きつけてきた。
一度完全に文明が破壊され、さらにはヒトもかなりの大多数減った地上。
それでもヒトはまた愚かなことに手をだした。
エルフとヒト、そして狭間なるものたちが。
そして結果としてマーテル、そしてユグドラシルは滅んだ。
この時間軸ではそんなことはおこさせない。
そもそも、世界樹の精霊マーテル、というものは生み出させない。
そんな思いを抱きつつ、それを表面上にだすことなくにこやかにいいきるエミル。
かつての時間軸のことをしっているのはエミルだけ。
でも・・・それで、いい。
ムダにほかのものがかつてのありえたかもしれない未来のことで気をもむ必要はない。
そう思うからこそ、エミルはセンチュリオン達にすらいっていない。
その記憶を継承させてはいないのだから。
「この惑星の少し先。そこに同じ大きさの惑星を創造った、からね」
さらっという内容ではないとおもう。
絶対に。
「「いや、
その意味がわからずに同時に異口同音に呟いているミラとミュゼ。
一方、フェニアはその翼の手をこめかみにあて頭をかるく横にふっている。
そしてまた。
「すごいすごい!さっすがラタトスク様!!」
目をきらきらさせて興奮したようにエミルの周囲をぐるぐると飛び回り始めているシャオルーン。
そんなシャオルーンの姿に一瞬目を細めつつ、
「本体が無機物のコアであるお前たちもへたに踏み入ればとらえられかねないからな。
とりあえず、ここでまて。あれをひとまずどうにかしてくる」
フェニアもシャオルーンも元は自分たちと同じく、というかそのように創造った。
姿は聖獣とよばれしそれなれど、本質は水晶玉のようなもの。
センチュリオン達同様、コアとよばれし本体というものがある。
いわば彼らの姿は彼らの力をもってして姿を形造っているようなもの。
そしてシャオルーンの台詞に目を見開くミラとミュゼ。
彼女達は精霊ラタトスクのことを聞かされている。
というかあの地、飛空都市エグザイアでその存在を知らぬ存在はいないといってもよい。
大樹カーラーンの精霊であり、すべてなる母であり父なるもの。
すべての命あるものの生みの親であるという精霊。
彼女たちの育ての親である精霊マクスウェルもまたそんな精霊ラタトスクに創造られた、
生み出されたのだ、と幼き日に彼女たちは聞かされたことがある。
だからこそ、無邪気に興奮したようにエミルの周囲を飛び回っているシャオルーン。
その彼が言った言葉に目を見開くしかできない。
今、この水の聖獣シャオルーンはエミルのことを”ラタトスク”とよんだ。
しかしそれにたいし、エミルは否定も何もしていない。
それに先ほどの会話。
惑星を”創造った”とかありえない内容がぽんぽん飛び出していた。
しかし幸運というのか不幸、というのか。
ミラやミュゼ、そして聖獣である彼らだからこそわかる古の言語。
それにて会話をしているゆえにマルタは彼らが何を話しているのか理解不能。
「しかし、おひとりで向かうのは危険では……」
「問題ないよ。認識されないようにしていけばいいたけだから」
完全にマナを認識できないようにさせてやればよいだけのこと。
フェニアの心配そうな声をうけつつも、そのまま一歩部屋の中にと踏み出すエミル。
いまだにラタトスクにまとわりつくように飛んでいたシャオルーンには
ミラ達とともに待機しておくように、ときつく言い含め。
床に刻まれた模様のようにもみえる魔法陣。
幾重にも重なっていることから模様のようにみえるそれら。
よくよくみてみれば古にてこの惑星にて使用されていた言語。
それらも使用されているのがみてとれる。
ルーン文字とよばれしそれらはこの魔法陣が何たるか。
それを指し示しているといってもよい。
たしかに防犯対策としてはうってつけ、なのかもしれない。
とある特定の品をもっていないもの以外はこの円に踏み込んだが最後。
侵入者のマナをもってしてそのマナを吸い上げ、さらにはそのマナでもって楔となりて拘束する。
そのような効果がこの魔法陣達には含まれている。
生物は生きている限り完全にマナを遮断することなどできはしない。
ましてそれがヒト、という生物ならばなおさらに。
マナ、そして元素を感知し起動するそれ。
しかしそんな効果もエミルの前では無に等しい。
普通ならば足を踏み入れただけでマナを吸い上げられ、
そのままその場にて拘束されるはずの魔法陣の罠。
しかしそんな魔法陣の上を何でもないように通り抜け、
部屋のほぼ中心にとある機械らしき場所の前にまでたどり着く。
コントロールパネルらしき光る台座に手を触れると当時、
ヴッン、という音とともに液晶パネルにいくつもの文字、そして画像が浮かび上がる。
「…試作品、か」
試作品でも無視していいような代物、ではない。
しばらくその文字、そして画像をいくつも浮かび上がらせてはざっと確認することしばし。
「おや?こんなところにまで侵入者ですか」
ふと反対側。
反対側にみえる扉らしき場所。
そこから一人の人物が部屋の中にはいってきたのがみてとれる。
その姿を見て思わず顔をしかめるエミル。
その魂のありようは、幾度みても見間違えるはずがない。
というか、こいつこのころからこんなことを繰り返していたのか。
つまるところへたに中途半端にこのころから魔族にかかわっていたためか、
魂の浄化が完全に果たされず転生を繰り返しては同じことを繰り返していたのだろう。
ラグナログの時しかり、ミッドガルドのときしかり。
いつでも彼が”魔導砲”を復活させていた。
そして精霊捕縛装置すら。
そもそもアスカをとらえた装置も元はこの人間…正確にいえばこの人間の遥かなる来世ではあるが。
とにかくこの魂をもちしものがアレを開発し、そして光の精霊アスカはとらえられた。
緑の髪に独特のあるトンガリヘアー。
その瞳に宿るは野心あふれた光でしかない。
「ここは一般人は立ち入り禁止、ですよ。
…どうやらヒトではないものもまぎれているよう、ですが」
その視線はエミルの背後にいるフェニア達にとむけられている。
まあフェニアもシャオルーンもあきらかにヒトとはことなる容姿。
ついでにいえばミュゼの姿もヒトのそれとは少し違っているといってもよい。
「どうやってそこにまでたどり着けたのか興味深いですが。
これを目撃した以上、あなたがたもこの装置の力となってもらいましょう」
ちらりと反対側の扉近くにいるフェニア達に視線をむけたのち、
そして装置のすぐ真横にいるエミルに視線をむけ何やらそんなことをいってくる。
「お前は……」
「申し遅れました。私はライゼン。ここ王立研究所のメルトキオ支部。
精霊研究課の責任者をしております」
うやうやしく、まるで演技がかったそぶりをみて…実際に演技をしているつもりなのであろう。
かるく片足を背後にさけ、片手を胸の前にもってきて頭をさげてくるライゼン、
と名乗りし男。
そういえばあのときも、あのときもこの男の名は”ライゼン”と名乗っていたな。
ふとかつて視るしかできなかったときのことをおもいだし、エミルはおもわず眉をひそめる。
というか、なぜにあのときマーテルはこの男に魔界のことをほのめかしたのやら。
世界樹を調べにきたライゼンにたいし、こともろうにマーテルが知識を与えた結果、
ライゼンが魔族と接触をもち、そして再び魔科学が地上によみがえってしまった。
結局のところ、あのときのラグナログのときにしてもそう。
ヒトが望むから、といって余計なことを知識としてあたえ、
結果として自らの身を破滅においやっていったあのマーテル。
ヒトが望むから与えただけ、と当のマーテルはいっていたが。
本当に精霊、としての自覚が皆無であった、としかいいようがない。
そして何かことがおこれば嘆くばかりで、自分では何もしようともせず、
さらには手を下していた自分にたいし、ヒトに干渉しないように、と、
精霊の盟約をもってしてヒトに対して直接的な干渉を封じてきた。
つまり種をまくばかりでそのあとのことは何もしない、また手をださせない。
それがかの精霊マーテルという存在であった。
人の精神生命体の複合体であるがゆえ、精霊として世界を守るという自覚が皆無だった。
としかいいようがない。
目の前の男をみていると当時のことを思い出し、沸々とした怒りが再びこみ上げてくる。
今さらいっても仕方ないといえば仕方ないのだが。
だからこそ、この時間軸ではあのようなことが起こらないようにといろいろと手を回している。
それでもヒトは愚かでしかない以上、いくらこちらが対策をうったとしても、
いずれは同じような過ちを再び繰り返してしまうのであろう。
ヒトとはそういうもの。
特に欲と知識欲にかられた人間がいる限り。
ライゼン、と名乗った人物はわざとらしいまでにうやうやしくお辞儀をしたのち、
改めて装置の横にいるエミルをまじまじとみて、
「しかし、世の中には似た人間が三人いる、とはいいますが。
アステル・レイカーによく似ていますな。身内か何ですかな?」
「まあ、似ている、というのは認めますけどね。でも身内でも何でもないですよ?」
そもそもアステルがこの姿に似ている、というだけのこと。
意識していなかったが無意識下のうちにこの世界にもかつての世界の記憶層。
それらがどうも繁栄されていた結果ともいえなくもない。
「それより、ライゼン、とかいいましたよね?こんなものをつくって何する気だったんですか?
それに、この場所は生命体からマナを直接に取り出す実験もしているようですし」
ちらりと意識をミトスやロイド達のほうにむけてみれば、
今現在、ジェストーナと戦闘の真っただ中、であるらしい。
すでにあの場所にいたすべての人間たちはマナを強制的に搾取され、
皆が皆カプセルの中にて溶け消えてしまっている。
それゆえか周囲に配慮する必要はないとばかり周囲の機材も巻き込んで、
ちょっとした大立ち回りをしているようではあるにしろ。
今、ざっと確認したところ気になる文面が目にはいった。
あくまでもこれは試作品の一つであるらしいが、動力源の確保として、
見逃せない単語が詠唱パネルにと記されていた。
「ふむ。まあここに入り込んできた以上、あなた方もどうせこれの糧となるのです。
ヒト非ざるものもいるようですしね。冥土の土産に教えてさしあげましょう。
これはね、試作品なんですよ。ロディル殿達がつくられたマナを使用した魔科学装置。
魔導砲…トールハンマー、といいましたか?その改訂版です。
これは精霊炉と呼ばれし機能と魔導砲を一緒に併合しましてね。
機動力はマナ。エクスフィアとよばれているものが本来は微精霊達の集合体。
いえ、正確にいえば大気に溶ける前の卵状態、とでもいうべきでしょうか?
それをとある魔道士の素晴らしきお方からお聞きしましてね。
これまではエクスフィアを用いて起動試験を幾度かしていたのですが。
とある時期を境になぜかエクスフィアが掻き消えてしまいましてね。
魔道士様がいうには内部には微精霊達はとらえられているままだけども、
このままでは使用ができなくなる、というので以前から理論上可能であろう、
机上にて展開していた生物からマナを取り出す研究を実行したのですよ」
こういうときのヒトはなぜか丁寧なまでに説明してくるか、
もしくは何もいわないかのどちらかではあるが。
大体、当事者がそれらにかかわっていたり、また開発に携わっていたりした場合、
自分の研究成果の集大成を自慢したいがためか聞いてもいないことまでも
ご丁寧に説明してくる傾向がある。
どうやら目の前のこのライゼン、となのりし男もその傾向があるらしい。
「城のほうから障気、でしたか?ヒトや建造物には害にしかなりえない代物。
それが発生したのが好機でしたね。
実験体になったものたちは喜んでその身を差し出してくれましたよ?」
目の前の男はそういうが、絶対にそれは違う、とそれだけは断言できる。
彼の視点から見る限り、喜んで、ととらえられるのであろうが。
実際に被写体にとされたものはそうではないであろうことは想像に難くない。
「ああ。本当に素晴らしいでしょう?ヒトのマナだけでかなりの性能を誇るのです。
魔道士様からお聞きした、”ラタトスクコア”というものを手にいれればどれほどのものか。
この私が、いやこの国がクルシスにかわり世界の覇者となるもの遠い日のことではないのですよ」
そう。
パネル表示されていた中に、動力源の最有力候補、として自らのコアのことが書かれていた。
おそらく魔族達が自らのことを示唆したがゆえ、なのだろうが。
そういえば、とふとおもう。
かつての時間軸においても魔族によって狂わされた…まああれは、
リヒターが種をうえつけ、さらにはソルムのコアにて精神を狂わされた結果ともいえるが。
とにかくマルタの父であるブルートが自分のコアを近しいことに使用しようとしていた。
いつの時代もヒトというものは強大な力があるということをしれば、
それを悪用しようと分不相応にも行動してくる。
彼らにその”力”が扱いきれるはずもない、というのに。
あの時だってそう。
リヒターは魔族の思惑などどうにかなる、とタカをくくっていた。
…話をきいたときは唖然としてしまったが。
というか魔族はヒトの心の隙間に入り込む。
そしてヒトはかならずしもそんな心の隙間をもっている。
たかが千年にも満たないヒトの子が魔族の思惑をどうこうできる、
とおもっていた時点で馬鹿でしかない、とおもえるほどに。
そもそも魔族が死人をよみがえらせたりする場合、魔族の駒としての眷属として。
かつて自らが殺したアステルというヒトがよみがえるのではなく、
魔族の眷属としてよみがえらせられる。
それこそ人の心をもったまま、魔族のいいなりになる永遠に搾取される贄として。
あのとき、その場にいたアクアがそれをみていながら止めなかったのは、
おそらくヒト、というものに半ば絶望していたというのもあるのだとおもう。
何しろ表にだしているコアが破壊されるということはこの世界との契約が途切れるということ。
つまりは惑星自体に契約をもってして遠慮することもなくなるという前提がある。
それは今の時間軸においてもかわりはしないが。
「……愚かな」
思わずぽつりと呆れた声がエミルの口からふと漏れる。
本当にヒトとはいつの時代も愚か、でしかない。
自分たちがもてあますほどの力を自分たちならば制御できる、と盲信している。
信じきっている。
自分たちならば問題ない、きちんと制御でき、また正しく使用できる、と思い込む。
実際は手に負えない力を使用した場合、それによる副作用が必ずどこかで発生する。
そのことを考えようともしようとしない。
そしてそんなエミルの心情は当然のことながらライゼンと名乗りし男は理解していない。
理解できるはずもない。
彼はひたすら、自分の研究成果によっており、
目の前のこの侵入者たちも彼にとってはただの実験体の一部となる、
という認識しかないゆえに。
――ギャァァァッ!!
ライゼンが恍惚とした表情でそんなことを言い放ち、
エミルがぽつりと声を漏らしたその刹那。
どこからともなく断末魔のような悲鳴が響き渡る。
それはまるで虚空からきこえてくるかのような、そんな叫び。
「あ、ミトスがやったのか」
というか、さすがというか何というか。
自らのマナを展開させ、それを剣となしてそのままジェストーナに叩き込んだらしい。
魔族にとってマナは猛毒。
直接、しかも精神体そのものに叩き込まれてしまったそれは、
ジェストーナにとって致命傷になりえる代物であったらしい。
何やらその光る剣をみてロイドが興味津々で問いかけ、
リフィルもまた興味深そうに何か聞きたそうにしている光景が”視てとれる”が。
「な、何?この声……」
目の前でおこっていることはマルタにとっては理解不能。
エミルがエミルでないような。
一人おいていかれてしまっているような感覚に陥っているそんな中、
突如としてきこえてきた何ともいえない断末魔のような叫び。
ゆえにマルタが不安そうに何やら周囲をみわたしそんなことをいっているのが目にはいるが。
「どうやら上にいた侵入者はただもの、ではないようですね。
まあいいでしょう。どうやらあなた方も上のものとお仲間のようですし。
あなた方を人質にすれば彼らも手も足もでないでしょう」
断末魔のようなその声の主があの場所を任せたジェストーナのものである、
と認識してか少しばかり顔をゆがめたのち、
しかし使えないものには興味がない、とばかりあっけらかん、と言い放ち。
「どうやってそのコントロール装置のもとにまでいったのかはわかりませんが。
起動装置はそれだけ、ではないのですよ」
笑みを浮かべ、そして懐に手をつっこみ何やらごそごそと何かを取り出す動作をしてくる。
ライゼンが懐より取り出したは小さな長方形の箱、のようなもの。
手のひらサイズに収まりしそれは、エミルたちのほうからはみえないが、
もっともエミルには手にとるように”視えて”いるのだが。
青と赤、丸いボタンのようなものがついており、
そのボタンの下にスライドされて開く隠された文字盤が”視て”とれる。
おそらくは、この装置のリモコン装置か何か、なのであろうことは簡単に予測可能。
あちらでは、今のは何だだの、ミトスに詰め寄っているリフィルの姿と、
それに同調しているロイド。
そしてそんな彼らに今はそれどころではない、とたしなめているクラトスとジーニアス。
何やらちょっとしたカオスともよべる光景が繰り広げられているようだが。
「さあ、いい声で鳴いてくださいね?
あの容器にいれなくても陣を発動すれば簡単にマナは吸い上げられるのですよ」
あの異形のものたちはどのような声をきかせてくれるのでしょう。
そんな言葉を続けざまにつぶやいたのち、
手にしているリモコンらしきそれの赤いボタンをぽちり、と押すライゼン。
ピッ。
ピピピッ。
ライゼンがリモコンを操作するとともに、エミルの真横にあった液晶パネル。
それにエミルが触れてもいないのにいくつもの画像と文字が映し出される。
それとともに、ヴッン、という音とともにエミルの真横の装置。
それらにいくつもの光の筋が浮かび上がり、起動音とともにゆっくりと、
砲台にもみえなくもない筒のようなそれがゆっくりと天井にむけて移動する。
ガコン、という音ともに天井にむけてほぼ垂直に近しい形で上をむいたその筒の先。
そこから光がほとばしり、その先に魔法陣が幾重にも展開され、
その魔法陣はやがて天井を埋め尽くすほどの数となりて光を発する。
その輝きは青から赤、そして鉄さびにもにた色合いにとなり、
光はそのまま部屋全体を覆い尽くす。
それとともに床に描かれている魔法陣も呼応するようにと輝きだし、
薄暗いはずの部屋がそれらの光によってはっきりと確認できるほどの光。
本来ならばそれらの光はこの部屋にいる特定の品。
それをもっていないものすべてのマナを吸い上げる効果をもっている。
そう、本来ならば。
「…はぁ」
完全に自分たちが獲物というか餌でしかないという認識しかもっていないらしき目の前の男性。
まあ確かにこの場にいるのが自分でなければ彼の目論見は達成されたであろう。
それがわかるからこそ、エミルは盛大に溜息をつくしかできない。
そのまますっと片手をつきだし、かるく孤を描くかのごとく、ちょっとした文字を空中にと描き出す。
エミルが手を動かすとともに虚空にまるで筆でももっているかのごとく、
光り輝く認識不能の文字なのか、それとも文様なのか。
とにかくわからない代物がふっと浮かび上がり、
エミルがつよく手を前に突き出すと同時。
そのエミルが描いたはずのソレはエミルの目の前にて起動している装置にと直撃する。
ビ~、ビ~、ビ~、ビ~!
それとともに先ほどまで赤茶色に近しい光に包まれていた部屋全体。
それが突如として真っ赤な光にと包まれる。
それと同時に鳴り響くけたたましいほどの警戒音らしきもの。
エミルがしたことはものすごく簡単でしかない。
今エミルが描いたそれは、自らの力の一部をたたきこむもの。
すなわち、装置そのものがその力の大きさに耐えられず許容オーバーをおこし
警告音が鳴り響く、という現状が起こっていたりする。
わざとマナを吸い上げてそれを成し遂げてもよかったのだが、
自らの背後にはフェニア達やミラ達もいる。
けっこう二人に対し爺馬鹿になりかけていたマクスウェルが
自分の行動で少しばかりでも危険にあったとでもしれれば延々と愚痴をいわれかねない。
マクスウェルは結構、ねちねちこんこん、しかも時間を気にせずによく愚痴る。
それをラタトスクは嫌というほどに知っている。
なぜにあのような性格になったのだろうか?と常々思っていたのもまた事実。
ちなみにそのしつこさは、精霊達の中でもあるいみ有名。
ついでにいえば少しばかりお茶目心もつよく、ちょっとしたいたずらなども昔からよくやる。
マクスウェル曰く、それらは愛のムチだ、と言い切っているようだが。
…そんな言葉を教えたものが誰なのかわかっているがゆえ、
ラタトスクとしては溜息をつかざるをえない。
というか、生まれて間もない精霊達にテネブラエたちは何を吹き込んでいる。
と激しくあきれた彼らを生み出して間もなかった当時の事がふとよぎる。
しかし、それにしても。
「本当にヒトは愚かでしかない。コアをヒトが利用できると本気で思っているのだからな」
まあ、人工精霊化してしまっていたマーテルですら自分たちを利用できる。
コア化して扉にはめ込んでしまえば問題ない、とおもっていたほど。
自分たちの力の意味をまったく理解しようとしていなかったあの当時。
それよりのちもきちんと理解していたのかすらもかなり怪しいが。
「きさま…何をした!?」
あきらかに目の前の金髪の少年が何かした。
虚空に手を滑らせるとともに光る文字のような模様のような”何か”。
それが現れたかとおもうと、装置にそれがたたきつけられた。
何をしたのかはわからない。
けど、
「ふ…ふはは!お前をとらえその力、徹底的に研究するのも悪くなさそうだ!」
未知なる力に恐怖するどころか逆に捕えられるかもしれない喜びにわくライゼン。
ライゼンにとって未知なる力とは、自らの知的好奇心を満たす実験材料に他ならない。
事実この地にほぼ幽閉されていたハーフエルフたちは彼の手にて
どれだけの数のものが生きながら生体実験をかねて解剖されたかわからないほど。
術を紡げるものの体の一部を移植すればヒトでも術を紡げるのではないか。
そんな実験もこの地では繰り広げられていた。
もっとも、大抵それらを施されたものは拒絶反応がおこり死亡していたのだが。
ここではエミルが目覚め、この地に漂う負の残留思念。
それらを確認したときにそのようなことが行われていたことをエミルは知っている。
そしてその筆頭に立っていたのがこのライゼンをはじめとしたものたちであることも。
本当にヒトのよく、とはキリがない。
その欲望の果てに世界を犠牲にしようが自分たちは悪くない、といいはる。
それがヒト。
「――思い上がった愚かなるヒトよ。我らが力はおまえ達などに扱えるものではない」
すっと目を細め、低い声でそんなライゼンにと言い切るエミル。
エミルがそういうのと同時、一気に部屋の空気がまるで、ズン、という音でもあるかのごとく、
息さえするのも苦しくなる。
「…あらら。あの人間、愚かですわね。エミル様怒らせてるし……」
「…エミル様が本気で怒ったら容赦ないってセンチュリオン様方もいってたよね……」
そんなエミルの様子をみてエミルから少し離れた背後にて、
なぜか壁のそばにとすすすっと静かに移動して小さくなっているフェニアとシャオルーン。
ライゼンはそんな変化にすら気づいていない。
自分の勝利というか相手を必ずとらえることができると盲信しているがゆえ、
ひたすらに笑い声をあげ、手にしているリモコン装置をいじりだす。
それはマナの吸い上げのパーセンテージを上げる操作。
しかし…それは今の状況では悪策、でしかない。
「エミル……」
そんなエミルの態度をみつつ、マルタはただ強く手を握り締めるのみ。
それしかできない。
自分との立ち位置。
それが決定的に違うような、自分とエミルの間にある壁。
それを間近で感じてしまいマルタは何ともいえない思いにとらわれる。
どっちが本当のエミル、なの?
マルタの中で答えはでない。
目の前で雰囲気のかわったエミルと、マルタが知っているエミルと。
あきらかに違いすぎるがゆえに。
こんなのエミルじゃない。
私の好きなエミルじゃない。
そう思う心と、エミルはエミルじゃない、という心がマルタの中でせめぎあう。
かつてエミルにいわれたことがある。
自分はエミルに理想を押し付けているだけなのではないか、と。
私…エミルのこれまで何をみていたんだろう?
そんな思いにマルタはとらわれてしまう。
エミルの雰囲気変化はこれまでにも幾度もあったというのに。
それをマルタは考えないようにしていた。
無意識のうちに。
それをマルタは今さらとはいえさらに強く実感してしまう。
せざるを…得ない。
けたたましく鳴り響く警告音。
「な、何!?」
「わからないわ。だけども何かあったのは事実ね」
エミルがライゼンと対峙している同時刻。
ジェストーナを退けたというか滅したミトスに詰め寄っていたリフィル達。
その手にもつ光剣はどういう原理だのといろいろとリフィルが詰め寄っていたのだが、
ジーニアスがミトスの肩をつかんでゆする姉を必至で引きはがそうとし、
クラトスはクラトスで軽く溜息をついたのち、思いっきり頭を横にふっていたりもした。
そんな中、突如として部屋の中、というよりは施設全体に鳴り響いているであろう警告音。
「おそらく、エミルたちがいない。あのライゼンとかいう輩が行った先にいるのであろう。
彼が奥にいったとき機械音がした。そこにエレベーターか何かあるのだろう」
チン、という小さな音をクラトスは聞き逃してはいない。
出入り口は一つしかないのに自分たちの横を通りはしなかったということは、
他にも移動手段があるということに他ならない。
「先生、気になってたんですけど…
あのカプセルに入っていた人たちのように、ここにとらえられている人たち。
まだ他にもいるんじゃないでしょうか…?」
そうであれば助け出したい。
何としてでも。
コレットが不安そうにそんなリフィル達にと意見を漏らす。
「そうね。どこかに見取り図がわかる端末でもあればいいのだけども……」
「この施設の中の内部構成ならあたしは全部一応把握してるよ。
ハーフエルフたちを収容していた場所はこの階よりも上にあたるしね。
たしかこの先のエレベーターで警備室にもいけたはず、だけど。
あとここよりも地下でへんなものが開発されてた、ということくらいねぇ」
ゼロスに頼まれ、そしてしいなもこの場所に出入りするようになり、
念のためにとしいなはこの内部施設は一通り確認している。
だからこそコリンを見つけ出せたといってもよい。
隠されたように実験材料としてケースに入れられていた
その小さな体を斬り刻まれたりして様々な実験を繰り返されていた。
しいなと引き合わされたときなどは、孤鈴は憔悴しきっており、
ヒトの姿をみるだけでぶるぶるとあの小さな体を震わせていた。
コレは自分たちが生み出した人工精霊だ。
そういわれた。
できそこないのお前でも人工的な精霊ならば契約できるのではないか?
たしか研究員の一人にそんなことを言われたあの当時。
でもあのときのしいなは、その震える小さなキツネのようなその姿をみて助けたい。
ただ心の底からそう思った。
だからこそ、きいた。
自分がこの子と契約できたらこの取扱いを考えてくれるか、と。
この地はしいなにとっても思いでの地でもあり、そして忘れたい地でもある。
孤鈴と契約したのち、周囲の視線があきらかにかわった。
しいなを実験材料、としてしかみなくなった。
ハーフエルフ判別装置にも幾度かけられたかわからない。
エルフの血をひくものでなければそんなことは不可能のはずだ、と。
それでもそんな彼らの扱いを認めたのは、
自らの失敗によって里のもを大半失ってしまったという負い目があったがゆえ。
「……
「……しいな……」
ふっとどこか悲しげな表情をうかべ小さくつぶやくしいなの姿。
そんなしいなになにともいえない表情をうかべて名を呼ぶコレット。
あのころからそばにいた孤鈴は本来の姿、心の精霊ヴェリウスにと戻りしいなのそばにはいない。
元に戻っただけなのだ。
そうしいなは自分に言い聞かせてはいるが、やはりそばにいるのといないのとでは雲泥の差。
「考えている時間がおしいわ。ここは二手にわかれましょう。
あの奥にいったライゼンをおいかけるものと、
いるかもしれない捕えられた人たちを助け出すものと」
いるかどうかもわからない。
が、先ほどの様子…消えてしまった人々をみるかぎり、彼らだけとは限らない。
生きたヒトからマナを取り出す。
そんな恐ろしい実験がこの地で行われているという事実に何ともいえなくなってしまう。
テセアラでのハーフエルフ、そして身分層が下位のものの扱い。
たしかにそれらはゼロスやしいなから聞いて知ってはいた。
でも、ここまで実験動物扱いしているなどとは思ってもいなかった。
否、思いたくなかったのかもしれない。
もしかして昔からこのような傾向はあったのかもしれない。
だからこそ両親は自分たちをシルヴァラントに逃がしたのかもしれない。
母の日記にかかれていた一文がリフィルの脳裏によぎり胸が締め付けられてしまう。
「あのライゼンという輩はほうってはおけないから。
さっき聞こえてきていた音からしてたぶん地下にむかったんだとおもうし」
小さな金属音をきちんとミトスは聞き分けている。
あのエレベーターらしきものが動く音はたしかに地下にむかって進んでいっていた。
音がだんだんともぐっていっていたのが何よりの証拠。
「じゃぁ……」
組み分けを決めましょう。
リフィルがそう言いかけたその刹那。
ドォォッン!!
ビ~、ビ~、ビー。
『警告、警告。地下エリアにて爆発が発生しました。地下エリアにて爆発が発生しました。
火災発生、火災発生。消火装置き……』
ドゴガァッン!
消火装置が起動します。
無機質なる機械の音声が部屋に備え付けられているスピーカー。
それより伝わってくると同時。
さらなる爆発音がなりひびき、床といわず部屋全体がぐらぐらゆれる。
地下で起こったという爆発の規模がとてつもないのだ、
とその揺れから嫌でも理解ができる。
できてしまう。
「ちっ。クラトス。先にいくよ!」
「ま、まて!ミトス!」
ここからどこにあるかわからない階段を探すより、
エレベーターがあるであろう場所から移動したほうが遥かに高い。
こんな爆発が起こっているであろう中でわざわざエレベーターに乗り込むつもりはない。
かるく舌打ちをしたのち、そのまま奥の部屋にと駆け出すミトス。
そこにはやはりというか予想どおり一つのエレベーターが設置されており、
その扉に手をかけおもいっきり力任せに開ききる。
体内のマナを少しばかり調整することにより力もまた信じられないほどに引き出せる。
もっともこの力は普通のエクスフィアでは引き出せはしない。
様々な実験の結果、やはり自分たちのもつこの石が特殊なのだと理解せざるをえなかった。
まあ、精霊ラタトスク自らが自分たちのためだけにつくってくれた石。
いうまでもなくかなりの力を秘めており、また引き出すことも可能でもある石には、
そこに微精霊の意思はない。
ラタトスクのマナ…しかも純粋なる原液ともいえるマナが凝縮されている石。
それこそがミトスとマーテルが身に着けていた、否、いる石といってもよい。
クラトスとユアンはであった当時すでにそれぞれの国によって天使化を果たしていた。
クラトスとユアンにもそれぞれラタトスクから石をミトス経由で託されてはいたが、
しかしラタトスクはその石はお前たち姉弟のものとは違う、ともいわれていた。
だからこそ…ミトスは自在に体内のマナを操り、自らの時間すらをも操り、
成長速度すら自在にあやつれる。
力任せに扉をひらき、そのままマナの翼を展開しその身を扉の向こうにある筒抜けの穴。
エレベーターが移動するためのその穴にとその身を躍らせる。
そんなミトスをあわてておいかけたロイド達が目にしたは、
力任せに開け放たれたエレベーターの扉と、その先にある空洞ともいえる吹き抜けの穴。
「…うわ~。かなり深いねぇ。この穴」
コレットが穴を覗き込むようにしてそういえば、
「しかたないわ。揺れが続く中、エレベーターを使うのは危険よ。私たちは別の道からいきましょう」
おそらく他にも道はあるはず。
「じゃあ、あたしはいるかわからない捕えられている人たち。
その心当たりっぽい場所を探索してみるよ」
「んじゃまあ、俺様もしいなについていくわ。俺様がいたほうが捕えられてるかもしれない人たち。
そんな彼らが安心できるだろうしな」
テセアラにというかメルトキオに住まうものでゼロスを知らないものはほぼいない。
一部のものは知らないにしても、ほとんどの市民は神子ゼロスのことを知っている。
「わ、わたくしもお兄様と一緒にいきますわ。女狐と二人きりになどさせませんわ!」
『・・・・・・・・・・・』
ゼロスがしいなと行動する、といった直後。
しっかりとゼロスの手に絡みつくようにしがみつき、きっとしいなをにらみつけながらいいきるセレス。
その光景に一瞬何ともいえない空気があたりによぎる。
「…私もゼロス君たちといきます。…きになることもありますし」
たしかここメルトキオにはプレセアの知り合いというか、
幼き日に面倒をみていたジャネットもいたはずである。
もしも彼女が捕まっていたとするならば、プレセアは自らの手で助け出したい。
実験材料にされていないことをただただ祈るばかり。
妹のように自分にかかわったものがまた実験道具扱いにされるのは。
エクスフィアがすでにない自分がどこまでできるかはわからない。
けども、もしかしてという可能性がある以上、プレセアはじっとしていることなどできはしない。
「そう。なら、ゼロス、しいな、セレス、プレセアに頼もうかしら」
「あ、それといい忘れていましたわ。フェニアさんといっていましたが。
彼女がこの施設の中を調べたところ、とらえられている人はもういない、
とかいっていたようですが……」
『・・・・・・・・・・・・・・・・』
『それを早く(いえ!)(いってよ!)(いいなさい!)(いってほしかったなぁ)』
ぎゅっと兄の手にしがみつきながら、今思い出したとばかりに言い切るセレス。
一瞬、その場に沈黙が訪れ。
次の瞬間、その場のこっているものたちによってセレスにそう突っ込みが入ってゆく。
たしかにそんな重要な事実は早くいってほしい。
そういえば、このセレス、かなり遅れてこの部屋の中にはいってきた。
ミトスがジェストーナと戦っている最中、彼らよりも遅れて部屋にはいってきたはず。
入ってきたときゼロスが問いかけたところ、
エミルたちは地下に向かったようなことを確かいっていたようだが。
ジェストーナとミトスたちとの戦いに気を取られ今の今まであまり気にも留めていなかった。
「セレス、そういう重要なことはもっと早くいおうな?」
「はい。ごめんなさい。お兄様……」
敬愛する兄にいわれ、その場にてしゅん、とうなだれるセレス。
そんなセレスの頭をかるくぽんぽんとなで、
「ま、そういうこったらしいし。俺たちもエミル君たちと合流しようぜ?
どうもこの揺れは尋常でないっぽいしな」
「たしか、地下から地上に抜ける隠し通路があったはずだから。
そこからここから脱出はできるはず、だよ」
先ほどから至るところから爆発音のようなものがきこえてきている。
そもそもこの部屋にある壁にとはしるように設置されているパイプのようなもの。
ざっとみるかぎり時折それらもスパークした閃光とともにいきなり小刻みに爆発をし始めている。
この機密ともいえるエリアに入る手段は限られている。
認証式のエレベーターを使うか、それとも通気口をつたってひたすらすすむか。
つまるところ、ここから地上にと脱出するにはその隠し通路をつかったほうが遥かに安全。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛っ」
何がおこったのかわからない。
ふと気が付けばいつのまにかミラに抱き込まれるようにして抱きしめられていて、
しかも向かい合わせに抱き込まれてしまったがゆえ、何が起こっているのか理解不能。
マルタの耳に聞こえてきたは、
ライゼンとか名乗った男性の何ともいえない叫びのようなもの。
エミルが何かをしかける。
そうきづき、この場にて唯一、一般人であろうマルタ。
そんなマルタの手をつかみ、ぎゅっと自らに抱き寄せ、
マルタにその光景をみせないようにと抱きしめているミラ。
このマルタという少女はエミルのことというか精霊ラタトスクのことを知っているのかどうか。
それはミラにはわからない。
けど、まだ若いしかも十代の少女が目の前の光景をみていいのか、という思いはある。
エミルの横にありし装置は小刻みに光り輝き、そしていくつも小規模な爆発を繰り返している。
それとともにキラキラとした光が周囲にあふれ、
エミルの周囲を幾度か旋回したのちに空気中にと溶け消えるようにきえていっている。
部屋の中には爆発による爆風が吹き荒れている。
爆風によってミラの長い髪が背後にたなびいている様子もうかがえるが。
熱のこもった爆風。
本来ならば熱風にも近しいそれはシャオルーンの水の力もありて軽減されている。
シャオルーンが周囲に水の膜を展開していなければ、ちょっとしたやけどをしたのではないのか。
というほどの熱量をこの爆風は帯びている。
もっとも、それに気づかないエミルではなく、
シャオルーンが何もしなくても実は彼らの周囲にはちょっとした結界が施されているのだが。
完全に効果を遮断することもできたが、
フェニア達もいることもありそこまでエミルはしていない。
まあ、この場においてそういう面を気にしなければいけないのはマルタのみ。
ミラはあれでもマクスウェルに鍛えられているいわば次代のマクスウェル。
以前の時間軸においてもマーテルのあまりにも愚かなる思考。
そしてマーテルのマナによって生み出された精霊達。
彼らの人間よりの考えにマクスウェルもオリジンもついてはいけなかった。
そのせいかラグナログののち、オリジンなどはミラにその役目を変わらないか。
と持ち掛けていたあの当時のことをふとエミルは思い出す。
結局あのときはマーテルは消滅しユグドラシルも消滅してしまい、
さらには惑星そのものすら恒星爆発を起こしてしまったわけ、なのだが。
しかも新たな種子を芽吹かせようとしたそのタイミングにおいて。
よもやその結果というか余波もどきで、かの惑星の意思もあり過去にとばされる。
なんてことになるとはおもってもみなかったが。
そんなことを思い出しつつも目の前にてわめくライゼンをじっとみつめるエミル。
胸の前にて両腕をくみ、自らが起動させていた装置。
その装置の効果に取り込まれ
生きながらマナをすべて吸い出されている光景が目の前にて展開されている。
他人に散々同じようなことをしておいて、自分がその立場になったとたん、
助けをこう様は何様だ、としかいいようがない。
「――すべてなる源へと還れ」
魂そのものが完全に浄化されないとわかっている以上、
目の前のこの男の魂の存続。
それを認めるわけにはいきはしない。
エミルがそうつぶやくとともに、ライゼンの周囲に黒い球体のようなものが突如として出現する。
そしてその球体は見る間に床にはいつくばり天井に手をのばし助けをこうライゼンの姿。
その体全体を包み込んでゆく。
かの球体は虚無そのもの。
すべてを無に還す代物。
腕をくみつつ見つめるエミルのその視線の先。
やがてライゼンの姿はまるではじめからそこに誰もいなかったかのごとく、
無に飲み込まれそのまま完全にとかききえてゆく。
ライゼンの姿が掻き消えるとほぼ同時。
ドゴォォッン!
それまで小規模なる爆発を繰り返していた装置が盛大に大きく爆発しはじめる。
爆発の規模は瞬く間におおきくなりて、まるで炎がいきているかのごとく、
天井すらつきやぶりつつ、装置そのものを紅蓮の炎にとつつみこんでゆく。
ゲホッ。
思わずむせこんでしまう。
しいなの先導にて地下にと向かう階段。
その階段の下のほうから熱気を帯びた風が吹き抜けてくる。
多少の埃っぽさを感じるのはおそらく気のせいではないであろう。
とれとともに盛大なる爆発音が離れていても聞き取れる。
すでに先ほどまでいた部屋。
それは彼らが部屋を出るとともにいくつものパイプが小規模なる爆発を繰り返し、
それによって飛び散っていたのであろう粉塵に引火し盛大なる火事を併発していたりする。
とにかく逃げるしかない、というので地下にとむかっているのだが。
そもそも地上にむかう道が閉ざされてしまっている以上、しかも下水道につづいている倉庫。
そこにいたる道の廊下すらすでに炎に包まれてしまっていた。
結果として地下にあるという隠し通路。
そこから退去するしか方法はない、ということで階段を駆け下りている、のだが。
「煙を吸い込まないように気をつけなさい」
いいつつリフィルもまたその手にハンカチをもち口元に押し当てている。
長くどこまでもひたすらつづく階段。
煙によってそれでなくても薄暗い階段はより見えにくくなっている。
それぞれ階段を踏み外さないように壁に手をつきつつゆっくりと降りているものの、
救いはここまで火の手がむかってきていない、ということであろう。
途中、防火扉らしきものがありそれをどうにか起動させ閉じたことにも原因はあるだろうが
そうでなければとっくにこの階段そのものが炎にまかれてしまっていても不思議ではない。
階段をひたすらおりてくことしばし。
なぜかひんやり、とした空気が突如としてあたりにと立ち込める。
それとともに。
ふわり、と何かが前のほうから浮いて進んでくるのがうかがえる。
「あら。みなさん。フェニアさんが誰かがきているようだ、といっていましたけど。
あなたたちだったのですね」
ふわふわと階段の途中に浮かびしは、たしかミュゼと呼ばれていた少女。
薄暗い中だというのになぜか少女の体そのものが光っているようにみえ、
薄暗い中でも少女の姿はくっきりと認識可能となっている。
どこかおっとりしたような感じもうける少女の雰囲気。
定期的に爆発音が鳴り響く中でこの態度は何ともいえない思いにとらわれる。
「たしかミュゼ、だったわね。エミルたちはこの先にいる、のしら?」
「ええ。さきほどミトスさんもこられたようですけどもね」
ライゼンが無に飲み込まれてゆく最中、奥の部屋からミトスが現れた。
どうやらミトスはエレベーターの穴をとおりここまでやってきたらしい。
まあエレベーターそのものの天井を剣にてきりさき、
そのまま力づくで扉をあけて出てきたようだ、とはフェニアの談。
しかしそこまでミュゼは目の前にいる彼らに説明する気はない。
「ちょうどよかったですわ。この先のことも一応片付いたようですし。
あなたがたを迎えにいかなくてはいけないか、とおもっていたところですもの」
この施設はあと少しで完全にと連鎖反応で爆発を起こす。
さきほどからけたたましいほどの警告音が周囲にというか建物全体にと鳴り響いている。
それでもその音はこの施設より外には漏れ出してはいない。
ムダに防音設備だけはしっかりと設備されているこの施設。
施設の中で何をしようとも外に音が漏れないよう、そのように設計されているらしい。
「エミル様がいわれるには、この先の通路から外にでられるそうです」
エミルの正体を完全に知ってしまったがゆえか、
いつのまにかミュゼのエミルの呼び方が、殿から様にと変わってしまっていたりする。
「たしか開発途中の兵器を外に運び出す隠し通路、だったはずだよ」
そんなミュゼにかわるようにしいなが何やらそんな説明をしはじめる。
「その通路は安全、なのかしら?」
「さあ?でも聖獣シャオルーンさんがおられるから問題ないかと。
それにフェニアさんもおられますし、ね」
様をつけてよんでみれば様づけは堅苦しい、といわれフタリにかんしてはさんづけにしているミュゼ。
実際、フェニアはイグニスほどではないにしろ、実力的にはイフリートとほぼ同じ。
炎を操ることなどわけはない。
そしてシャオルーンは水の聖獣。
つまり熱気などもその水の特性において防ぐことが可能。
「ま、ここまでけたたましい警告音がなりひびいてんだ。
はやいところここから抜け出したほうが正解だと俺様はおもうし。とっとといこうぜ」
「…何か俺たち何もしてないような気がするけど……」
そもそもジェストーナと戦ったはミトスとクラトスのみ。
ロイド達は手も足も出なかったというかそのスピードについていけなかった。
もっとも切り付けられても血一つながさないジェストーナの姿に唖然としていた、
というのはあるにしろ。
何しろ切り付けられたそこはぽっかりとした空洞ができるのみで、その背後がみえていたのだから。
見た目がヒトでしかない以上、唖然としたのは記憶に新しい。
疑似空間ともいえるあの封印の中ではなくここは現実世界。
魔族とはどういうものなのか。
それらを改めて突き付けられたといってもよい。
ゼロスの言葉に何ともいえない思いを抱きつつもぽつりとつぶやくロイドの姿。
ミトスとあの男の戦いをみていてミトスは確実に自分との戦いのときに手を抜いていた。
それがわかってしまったからこそロイドとしては何ともいえない思いにとらわれてしまう。
ユアンがいっていた自分の剣は付け焼刃程度、という意味がよく分かった。
自分はまだまだ。
それを実感してしまったがゆえ、ロイドは無意識のうちに強く握りこぶしをつくり
強くその手を握り締める。
握り締めるしか…ない。
いったい何がこの部屋で起こったというのだろうか。
床にぽっかりと高熱で何かがとけたような巨大な穴。
そしてまた天井すらを突き抜けてさらには吹き抜けのごとくになっている見上げる空。
遥かなる頭上にみえるは漆黒の暗闇。
部屋にはいるとともにあきらかにこもっ熱気が頬を伝う。
「…なあ、ここにあった魔導砲もどきのアレはどうしたんだい?」
この場所は教皇の指示のもと開発されていた魔科学兵器があったはず。
たしか精霊炉とかいうものと魔導砲を掛け合わせた品だというのをしいなは調べて知っている。
国王にすら秘密裏に開発されていた兵器の試作品。
長い階段をおりきり、開けた部屋にとようやくたどり着いた。
この場所こそがこの施設の最深部。
貧民街にまで地下室としての広さを広げているはずのこの場には今は何もない。
何か気落ちしているようにみえるマルタのそばに
ふわふわとうかびしシャオルーンとなのっていた動物もどきが浮かんでいるのがみてとれるが。
「あ。みんな」
「遅かったね。というか僕がきたときにもすでにもうここの決着はついてたんだけどね」
そんなしいなのつぶやきに気づいた、のであろう。
部屋のぽっかりとひらいた穴の向こう側。
そこにて向かい合い何か会話をしていたらしきエミルとミトスがしいなたちを振り向きつつ、
かるく手をあげてそんなしいな達に声をかけるエミルに、
溜息をかるくついたのちにそんな彼らにと語り掛けているミトスの姿。
エミルがミトスに問いかけていたのは単純なこと。
再び幾度も同じ過ちを繰り返すしかないヒト。
今でもお前はそんなヒトを救おうとする意思があるのか否か。
そんなエミルの問いかけにミトスは答えることができなかった。
ヒトはどうでもいい、と確かにおもっている。
思ってはいるが、それをいってしまえばラタトスクはすべてをかつての決定通り、
世界すべてを浄化してしまうであろう。
心あるものをのこしたとしても結局は同じ過ちを繰り返すだけだ、そういって。
――われとお前の間て交わされている盟約はいまだに実行中。
ミトス・ユグドラシル。お前はどう結論をだす?
問われ、言葉につまっていたその矢先、階段を下りてくるいくつもの足音にとふと気かづいた。
彼らがこの場にやってきたということはすぐに返事をかえさなくても今はいいはず。
そのことに心のどこかでミトスはほっとする。
かつてのようにすべてのヒトを助けたい、という思いは今のミトスの中にはない。
やはりヒトとは愚かなことを繰り返す。
それはもうミトスの中でも決定事項として根付いてしまっている。
思考を制御し、マーテル教という宗教で人をあるいみ洗脳しても、
ヒトはこのように隠れてはいつも同じようなことを繰り返してきた。
そのことをミトスはよく知っている。
かつてのときは、それでもヒトはわかってもらえるはず。
そういってしつこくラタトスクにと懇願した当時の想いと今の想い。
ヒト、とはかならず裏切るもの。
そう、信頼していたあのクラトスですら自分を裏切ったように。
それでもクラトスを嫌いになりきれないのは、
世の中の常識や剣、生きるすべといったものをクラトスが教えてくれたがゆえ。
姉しかいなかった世界を広げてくれたのもまたクラトスであったのだから。
おそらく今やってきた彼らは知らないであろう。
この施設の崩壊とともに完全にメルトキオの一部を覆い尽くしていた結界。
それが取り除かれそののちにまっている出来事を。
ミトスは瘴気に覆われた地区の結界が取り除かれた場合何がおこるのか。
そのことを身をもって経験している。
彼らが戦乱を終わらせようとあがいていたあの時代、魔族達も暗躍していたのだから。
ヒト、なんて滅んでしまえばいい。
当時はよぎらなかった考えが今のミトスの脳裏にはよぎる。
それでも中には信じられるヒトもいる。
自分はどう結論をだすべきなのか。
おそらく、かつての盟約を自分が破棄するといえば、
躊躇なく目の前の精霊はかつて決定したとおり世界を一度無に還すであろう。
無から有へ、あらたな世界を生み出すために。
地上すべてを海によって浄化する、かつてそのようにミトスは聞かされたのだから。
今の地上が残っているのは自分の懇願を受け入れてくれたからであることもミトスはわかっている。
だからこそ、答えに詰まってしまう。
選びしものたちを彗星に移動させて保護するという策はもうつかえない。
ほかならぬラタトスクの手によりかの地からあの地にいたものたちは追放されてしまっている。
そして姉のこともある。
狂った状態のまま発芽している大樹の中に取り込まれている姉マーテル。
考えなければいけないことはいくつもある。
でも、今はまず。
「とにかく、ここにいつまでもいたら危ないし。
ジーニアスやリフィルさんたちもきたことだし。まずは外にでない?」
この施設は間違いなく全体的に爆発する。
マナを悪用していたこの場所をラタトスクが見逃すはずはない、のだから。
困惑している表情の彼らにむけて少し苦笑気味にふわりとうかびあがったのち、
彼らの目の前に着地するようにトン、と床にとおりてやってきたジーニアスたち。
目の前にいる九人に対し少し困ったようにといいきるミトスの姿。
その様子はクルシスの指導者、としてのものではなく、
どうみてもこれまでともに旅をしてきた仲間であるミトスそのもの。
どちらのミトスが本当のミトスなのか。
クルシスの指導者と名乗るミトスと、そして勇者といわれていたミトスと、
そして自分たちとともに旅をしていたときのミトス。
ふとそんな考えがロイドの中によぎり、そういえば、とふと視線を穴の向こうにむけてゆく。
穴の向こうにいるのはいつもとかわらない様子のエミル。
しかし心なしかエミルの雰囲気が何となく違うような気がするのはロイドの錯覚か。
ロイドは気づいていない。
それは錯覚でも何でもなく、ロイドが生まれながらにもつ力。
アンナが消えたことにより、本能的にエミルから漏れ出している大樹の気配。
それにうすうす感づき始めている、というその事実に。
あるいみロイドの誕生過程もまた人工精霊のそれに近しいものがある以上、
本能的にロイドも大樹の気配を感じ取ることが可能。
が、ロイドはそれに気づいていない。
「そうね。いろいろと聞きたいことはあるけども。今はここからの脱出を優先させましょう」
たしかにいつまでもここにいるのは危険であろう。
ゆえにリフィルもまたミトスの言葉にうなづかざるを…得ない。
~スキット~地下研究所から地上にむけて隠し通路通行中~
セレス「…?マルタ?大丈夫?」
マルタ「あ、う、うん。平気…平気…だよ?」
リフィル「とてもそうはみえないわ。顔色が少しわるいわよ。
まあ、あんなのをみたあとでは仕方ないのかもしれないけどもね」
もしかしたらエミルたちと進んでいったその先にもあのような装置。
つまりヒトがとらえられ、そして消えてゆく光景をみてしまったのかもしれない。
もしくはエミルの正体に気づいて顔色がわるいのか。
どうもどちらの理由も、というのが正しいようなきがリフィルとしてはしなくはないが。
これまでエミルのことをことごとく自分の王子様だのといっていたマルタである。
エミルを自身の理想の王子様のように思い込んでいるそぶりも多々とみせていた。
エミルのほうはそんなマルタをかるくさらりとあしらっていたようではあるが。
ジーニアス「結局、あそこで何があったの?」
ミトス「僕がついたときにはもうおわってたし……」
というか容赦がないというか何というか。
ミトスが目にしたは黒い球体に吸い込まれ消滅してゆくライゼンの姿。
マナをもてあそんでいた人間に対し、エミル…否、ラタトスクが容赦することはない。
というのを改めて突き付けられた感じがしたのもまた事実。
プレセア「…それより、ここはどこにつづいている、んですか?」
しいな「途中に防火扉がまたあってよかったよ。でないとここなんてあっというまに煙だらけ。
たしか、あたしの記憶では城の背後につづいていたはずだよ」
クラトス「ふむ。すでに結界も消えたはず。ならば城にテラスから侵入できるな。
ざっとみたところあまり増築もされていないようだしな」
エミル「あ。そっか。クラトスさんは昔、テセアラの女王騎士団の親衛隊長でしたもんね。
ロイド「…よくしってるな。エミル」
エミル「以前、ちょっとね。散々勝手に話してきた子がいたし」
そもそも一方的に自分の近況をひたすらにミトスは話してきていた。
コレット「?以前って、いつ?」
ゼロス「しかし、マナの結界、ねぇ。ヒトから強制的にマナを吸い上げる、か。
マナを吸われた人間は跡形もなくのこりゃしねぇ。
…あるいみ完全犯罪だな。ありゃ」
さらりと数千年前とかいいだしかねない。
ゆえにそんな彼らの会話を遮るようにゼロスが割って入ってくる。
リフィル「たしかに。ヒトは忘れがちだけども。
この世界にあるすべての命の器はすべてマナにて構成されているもの。
そのマナをとりあげられたら存在はできない、わね」
ロイド「マナ、かぁ。あの化け物のような樹が大樹カーラーン、なんだろ?
大いなる実りっていう種子の状態でマナがにじみ出てるとかいってたけど」
リフィル&ジーニアス「「うそ!?ロイドがまともにおぼえて(るだと)(る)!?」」
セレス「異常なまでの植物の急成長も発芽にかかわりがあるのでしょうか?お兄様?」
ゼロス「さあなぁ。ま、無関係じゃないでしょ。無関係じゃ」
プレセア「…私は、あの声のいっていた、ことがきになり、ます」
ジーニアス「…そういえば、マーテル様が手のうちとか何とかいってたね…あの声…」
ミトス「…姉様は種子と完全に同化してしまってたから……」
エミル「そもそも四千年もマナの塊でもある実りの中に入れ込んだままって……」
本当になぜにその途中で自分を訪ねてこなかったのやら。
ユアンにしてもクラトスにしても、エンブレムを渡していた以上、
また眠っていても彼らがあの場所…部屋につづくあの方陣を踏んだ時点で目覚めるように。
そのようにしていた、というのに。
ミトス「・・・・・・・・・・・・・」
クラトス「ミトスを責めないでほしい。それを促進してしまったのは私なのだから」
エミル「その通りだね」
本当に、なぜにとめることなく封印なんてことを選んだのか。
いまだにそれがラタトスクとしては意味不明。
ロイド「いや。エミル。よくわかんねえけどきっぱりといいきることないんじゃ……」
エミルたちの会話の意味はロイドにはわからないが、
しかし、エミルがにべもなく何やらきっぱりと切り捨てるようにいっていることが気にかかる。
それゆえにロイドがそんなエミルに対し何やらいってくるが。
エミル「だって事実だし?どうせクラトスさんからいいだしたんでしょ?
オリジンをはじめとした精霊の封印の方法はミトスが考えたとしても。
ミトスがクラトスさんをあるいみ人柱のようなことに自らするともおもえないし」
クラトス「…その通りだ。同じヒトがしてしまった過ちは私の命でつぐなうべきだ。
…当時の私はそう、おもったのだ」
エミル「ほんっと、へんなところて頑固だよね。テネブラエもいってたけど」
クラトス「・・・返す言葉もない……」
ミトス「・・・・・・・・・・・・」
ゼロス「おっと、そろそろ出口がみえてきたぜ?
いやぁ、ようやく辛気臭い地下からおさらばってか」
たしかにゼロスが示すように。
空気があきらかにかわってきている。
目指す出口はすぐそこ。
※ ※ ※ ※
ひんやりとした空気が肌にここちよい。
しかしそれ以上に、
「な、何だ…これ……」
「気持ちわるい……」
地下からつづくであろう隠し通路。
どうやら城の後ろにとある塔に続いていたらしく、隠し扉をとおり外にとでた。
相変わらず周囲は漆黒の闇。
目の前には闇の中であるにもかかわらず、
なぜかまがまがしいほどに鈍く光っているようにみえるテセアラ城の姿が。
城全体に毒々しい色のキリのようなものがまとわりつき、
それらがうねうねとヒトの無数の手のごとくにうごきまわっているのがみてとれる。
まだ背後にいるがゆえに唖然とした声をだすロイド達は気づかない。
城の正面にまわれば結界が解かれてしまったことにより、
これらの無数ののびる”手もどき”が住宅街にとおしよせ、
それらが触れるたびにことごとく建物が朽ちはて見るも無残な形になっているということを。
ゆっくりとしかし確実にその範囲を広げていくその様は
あと数刻もすればテセアラの町すべてを飲み込んでしまうほどのもの。
「ふむ。これが爺様がよくいっていた魔界の瘴気、か」
「ええ。マナの加護がないと溶けた溶鉱炉のようになるというアレ、ですわね」
かつてこの惑星は瘴気におおわれ、瘴気の海といってもいいように成り果てていたという。
もっとも、それを教えてくれた祖父であるマクスウェルも、
そのときは自分はまだ生み出されてはいなったが、と笑っていっていたが。
「あそこにみえてるテラスからどうやら城の中にはいれそう、だな」
どうやら不可思議な壁のようなものはすでにみあたらない。
「あの位置はたしか陛下の寝室の隣の隣あたりだな。まあ、無難か?
わざわざ城の裏口というか通用口からはいっても城の中がどうなっているかわからねぇし」
城に努めていた兵士たちのこともきにはなる。
しかしそれ以上に、城の中から獣のような唸り声がひっきりなしに聞こえてきているのは。
「元教皇のやつがいるとすればまちがいなく玉座、だろうしな」
おそらくあの教皇のこと。
自分が玉座にすわり悦に浸っているに違いない。
「陛下はまあどうでもいいがヒルダ姫のことがきにはなるな」
どうでもいい(のか)(んかい)!
さらりとつぶやかれたゼロスの台詞に一部のものたちの心情がものの見事に一致する。
「身内の情っていって散々あいつを野放しにしていたツケだろうしな」
そもそもとらえたそのときにすぐに処刑でも何でもすれば、
今回のようなことにはまずならなかっただろうに。
いや、それ以前に。
国王を毒殺しようとわかっていながらも生かしておいた国王の気持ち。
身内としてはありえるのかもしれないが、国を民を守るべき統治者としてはダメにきまっている。
たしかにゼロスの言い分には一理ある、というか至極もっともとしかいいようがない。
いくら自身の身内だからといって周囲に被害をもたらすようなものを庇護し、
さらにはその取締りもしないような輩では”王”としての自覚がないとしかいいようがない。
そもそも神殿との勢力争いにもかの王は口をはさむことはなかったらしいときく。
一番の原因は自分の息子だからという理由にて王位継承権をはく奪したにもかかわらず、
神殿にと招き入れた前国王にあるのであろうが。
バサッ。
そんな会話をしているさなか、頭上より翼がはばたく音がきこえてくる。
その頭に角をもちコウモリのような翼をもちその尾はまるでとげ付の鞭のごとく。
その姿をめにし、かるく溜息をつくエミル。
それはかつてはヒトであったもののなれの果て。
瘴気で弱ったその器に魔族が憑依し形をなしたレッサーデーモンといわれしもの。
その数、およそ数十。
「…どうやらテラスからの侵入は危険ってか?」
おそらく確実に彼らを倒してもすぐに援軍がくるであろう。
城の二階部分よりも上。
そのあたりをぐるぐると旋回するようにとんでいるその様はこの城そのものを護衛している。
そのようにみえなくもない。
それらの姿を目の当たりにし、ぽつりとつぶやくゼロス。
そして。
「…しゃあない、か。城のものの専用口から内部にはいるしかねぇ、か」
あたまをかるくぽりぽりとかきつつも溜息をはきながらそんなことをいってくるゼロス。
全員が空を飛べるのであればたしかに見回りっぽいあの異形のものたち。
あれらがいなくなったあと、飛んで内部にはいりこめばいい。
だが、自分はともかくとしてこの場にて空を飛べることができるのは、
神子である自分たち、そしてミトスとクラトス。
ロイドについてはまだ自力でその翼の展開は不可能であろう。
エミルくんは・・まあ、かるく飛ばずとも飛びあかれそうだけどな。
つまり、空をとべないものは、リフィルとマルタ、そしてしいなとセレス。
そしてプレセアとジーニアスの計六人。
数がいる敵を蹴散らすのに誰かを抱えてとんでいるのは戦術的にも無理がある。
かといってジャッジメントで敵を薙ぎ払ったとしても、すぐに増援がくるであろう。
軽く溜息をつきながら自らの頭をわしゃり、とかきむしったのち、
「ここからだと、城の中につづく扉はこっちだ。ついてきな」
テセアラ城はあるいみでゼロスの庭のようなもの。
しいなもまたこの地に滞在する以上、その間取りはきちんと把握していたりする。
もっとも完全、ではないにしろ。
「何なら僕らが先に先行していこうか?」
「やめろ。というかやめとけ。というかお前絶対に手加減しないだろ。
昔の伝承にあったようにスピリチュアの悲劇のごとくに振舞いかねないだろ」
それこそ問答無用で空から城にむけて一気に威力を最大にしたジャッジメントでも放ちかねない。
というかこのミトスというかクルシスの指導者であるユグドラシルならばやる。
そんな確信がゼロスにはある。
「クラトスとユニゾンアタックをかねてジャッジメントを放てば手っ取り早いし。
どうせあいつは玉座にいるんでしょ?」
そういえば、彼らの行動をみていたとき、
よく四人がかりでジャッジメント・カルテットという技を四人の複合技で繰り出して、
向かってくる敵兵を薙ぎ払っていたことをミトスの台詞にふとエミルは思い出す。
本気なのか冗談なのか…おそらくは本気てあろうミトスの台詞につづき、
「たしかにそれはその通りかもしれないが。
城の中にいるものたちをも巻き込む必要もあるまい。
生きているかどうかも怪しいがな」
ミラがしみじみとそんなことをいってくる。
そんなミラの言葉に続くように、
「そうねぇ。生きていても魔族の贄となっている可能性が高いものねぇ。
魔族に取り込まれて器を奪われてしまったものを救う方法はただひとつ。
その肉体ごと消滅させるしか魂を解放できないものねぇ」
魔族がかかわったときの対処法。
マクスウェルによって叩き込まれているその戦法をさらりと言い放つミュゼ。
「瘴気に覆われてた場合、例のカビも使用できないしね」
『いや、あれは危ないから』
心底残念そうにいうエミルの台詞に飛竜の巣にて経験したものたちの声が一致する。
というか武器すらも砂になるとはこれいかに。
そもそもズボンのベルトの金具すらも砂となってズボンがずり落ちそうにもなったりした。
今、この闇につつまれた空間であんなものを使用されでもしたら、
それこそ町一つがかるく消滅してしまうにきまっている。
あのときも簡単にしいなに手渡されていた小瓶。
あんなものの中にあんな物騒な”カビ”がはいっているなど。
一体だれが想像できたというのであろう。
もっとも、ここまで瘴気に覆われてしまった以上、
建造物なども瘴気によって穢されてしまいマナの構成がくるってしまい、
瘴気の源であるこの地にいる大本の魔族。
それを倒し瘴気が消えた刹那、
瘴気によって穢された建造物などはいともたやすく崩壊するのが目にみえている。
それをこの場にて理解しているのはエミルとミトス、そしてクラトスのみ。
ミラとミュゼはそこまでマクスウェルから詳しくはきいてはいない。
ただ、瘴気とはマナとは相反する物質であるがゆえ力のよわいほうが消滅する。
そのようにと聞かされている。
そしてまた、瘴気はマナを狂わせる。
マナが穢れ、狂い、そして最後にはマナが瘴気に取り込まれてしまう。
もっともより強いマナをもつものにはそんなことはおこりえないのだが。
かつての時間軸によってマーテルが生み出したマナ。
それによってあらたに誕生させた精霊達はいともたやすく瘴気によって狂い、
そして消滅していった。
「フェニアもシャオルーンも今は問題ないだろうけど。一応は注意しといてね」
そもそも彼らには前科がある。
瘴気まけ、負にまけ存在ごとくるってしまっていたという前科が。
まだこの地にて精霊達を生み出す前の遥かなる時の記憶。
「とにかく、いくしかあるまい。おそらく原因となっている魔族はこの中だ」
「
「だろうな。…かつてのときも私が抜けたあと、姫に魔族がとりついたことがあったしな」
それこそクラトスの心を乱すためだけに。
ミトスの台詞にクラトスは盛大に溜息をつきざるをえない。
まさかこの地でこのような形で再び魔族とまみえることになろうとは。
良くも悪くも因縁があるのだろう。
テセアラ、という国自体に。
かつてクラトスはこの国の貴族の一員でもあった。
テセアラにその人あり、とまでいわれた屈強の戦士。
その実力、家柄もあいまって王女殿下の親衛隊長も務めていた。
アウリオン家といえば当時のテセアラで知らないものはいなかったほど。
「やはり。ミトス、またあの女が絡んでいる、とおもうのか?」
「デミエル、ジェストーナ、ジャミル。この三人はいつもつるんでたからね。
ほぼ間違いないとおもうよ。国にかかわるものを誘惑しては操る。
というのも彼らの常套手段だしね」
そんなクラトスとミトスの会話の意味はロイド達には意味不明。
「よくわからないけども。かつても同じようなことがあった、ということかしら?」
「戦争の最中、魔族がかかわってきた時期があったからな」
リフィルの問いかけに淡々とこたえるクラトス。
「つまり、四千年前の古代大戦時代…ってこと?」
いまだにクラトスやミトスが四千年前の人物である、と実感がもてない。
もてないがそれはまぎれもない事実でしかないというのもジーニアスはわかっている。
「ほんと、おとなしく他のものたちと移住すればいいものを……」
『は?』
ぽつりとつぶやくエミルの言葉に思わずその場にいた全員の顔…といっても、
ミラやミュゼ、そして聖獣二柱達は先刻きいていたがゆえ何ともいえない表情をうかべるのみだが。
ともあれ、ほとんどのみなが思わずエミルの顔を凝視する。
「何でもない。ところで皆で中にはいるの?」
「町の様子が気にならない、というのもウソになるけどね。
でもユアン達がいるんだからどうにかなるんじゃないのかねぇ。
いくらユアンだってこんな状態たと天使達をうまく使うだろうし」
それこそクルシスの加護といって人に恩をうるとすれば絶好の機会ともいえる。
「僕を含めても十二って…結構な数になるとおもうんですけど……」
「たしかに。分断したほうがいいかもだな。ちょうど人数的には十二人いるんだし。
六人づつでちょうどなんじゃねえの?」
ロイドをはじめとし、ジーニアス、リフィル、コレット、そしてマルタ。
ゼロスにセレスにしいなにプレセア。
そしてミトスとクラトスとエミル。
ちょうど二つ、もしくは三つで割り切れる人数。
城といっても内部は広い。
それに。
「陛下がどこかに幽閉されている可能性もすてきれねえしな」
そう。
かなり情けない国王だとしても、あれでも一応国王は国王。
もしもどこかにとらわれているのだとすれば助け出さないわけにはいかない。
そんなゼロスの言葉に眉を顰め、
「テセアラ十八世…か」
「わたくしとしてはいい気味、ともおもうのですけどもね」
「たしかに。というか実感がない、というのが本音だな」
ふとみれば、顔をしかめ何やらそんなことをいっているミラとミュゼ。
「あ~…まあ、人間なんてそんなものだし。
何を考えてるのかしらないけど、昔っから生贄とか人柱とか…
それによって負の穢れで魔族を呼び寄せるしかない、というのに」
もしくはその人柱にしたものの思念でそこを守る術をかけていたりなど。
「それにヒトがかってにつくった宗教とかはいったらもう厄介極まりないですけどね…
そもそも、この地にあるという双子を忌み嫌うというアレも一種の宗教ですよね」
「まったくだ。爺様が私たちを保護してくれなければどうなっていたか」
「まあ、ミラが助かっただけでも私は嬉しいわよ?」
「…姉様……」
「?どういうことですの?」
二人の世界に半ばはいっているミラとミュゼをみつつ首をかしげるセレス。
「そういや、お前は城にいったことはなかったんだったな……
歴代の王と王妃の肖像画をみていたら予測はつくんだがな……」
ちらりとそういいゼロスが視線をむけしはミュゼのほう。
「生贄とか人柱とか、穏やかでない台詞がでてきたわね。
でも国王陛下が自業自得、という意味は……」
そんな彼女たちの会話をききつつ、リフィルが少しばかり首をかしげてくる。
「リフィル殿…であっていたとおもうが。
そもそも、生まれたばかりの我が子を海に流すような親。
そんなことを平気でやるものは因果が巡ってもしかたなかろう?」
「そうですわ。わたくしなんか衰弱死してたらしいですし。
もっともおじい様のおかげでこうして生きてはいますけども」
『親って……』
「あれ?ロイド達はきいてないの?マクスウェルから?
ミラさんとミュゼさん。今の国王だったっけ?あの人の実の子だよ?」
『・・・・・・・・・は?』
さらり、というエミルの言葉になぜかゼロス以外の全員の目が点となる。
「今から十九年前…といってもそろそろ二十年になるのか?
ヒルダ姫が生まれたその日。朝方はやくに側室の女性も双子の王女を産んでいたのさ。
しかし、この国にとっては双子は禁忌扱い。
どちらかを殺すか、もしくは遠くに里子にだすか。
が、この国は二人とも殺すことを選び、どうせ殺すならば、という理由にて、
教皇の指示もあり生まれたばかりの赤ん坊を海に人柱、として流したのさ。
王妃が生んだ子供を優先して、な。王妃が生んだ子供が今のヒルダ姫だ」
「まあ、ふつうに考えたら、生まれたばかりで自分では何もできない赤ん坊。
そんな子供を海に流すってことは海の生物の餌にしてください。
といってるようなものだよね。
まあ、クジラ達が保護して、マクスウェルの目にはいったから無事だったようだけど」
吐き捨てるようにいうゼロスに続き、さらりとこれまたいいきるエミル。
「ちなみに、これ、エグザイアでマクスウェルからきいたから間違いないよ?
ミラさんたちも出生の秘密、きいてたんだ」
「いきなり聞かされたというのが事実だがな。
実の血族が何やらしてるからどうにかしてこい、といって地上に叩き出された」
「血のつながりは否定しても否定しきれないところがあるから。
へたをすればエグザイアにも被害が及びかねない、といわれましたわ」
エミルの言葉に心底嫌そうに眉をひそめつつそれぞれいってくるミラとミュゼ。
「まあ、赤ん坊である我々を海に流したというテセアラ十八世を実の親だ。
と聞かされても実感として現実に親だとまったくおもってすらいないがな」
「まったくですわ」
「そんな……」
ミラとミュゼにとって親とは育ててくれたマクスウェル。
そしてあの町の人々。
それで十分。
ゆえに実の親だとかいわれても、そもそも自分たちを殺そうとした輩を親と思えるはずもない。
生まれたばかりの赤ん坊を海に流した。
それはあまりも衝撃的な事。
嘘であってほしいが、精霊マクスウェルがそういったのであるならば。
おそらくそれは真実、なのであろう。
それがわかってしまいコレットが悲しそうな表情を浮かべる。
「昔から、テセアラは双子は禁忌扱いにしてたからね。
双子は王位を国を脅かすとかたしかいってたっけ?クラトス?」
「…かつて、双子の王子が国を巻き込んで争いを繰り広げたことがあったらしい。
それ以後、完全に禁忌扱いされていたのは事実だな。
おそらくいまだにそのときの風習がいまの時代にも残っているのだろう」
そんな彼女たちの会話をきき、ミトスがクラトスにと話をふる。
ミトスもそういう風潮があったことを知っている。
そしてクラトスもその立場上、当然のことながら知っていた。
それは四千年前も今もかわらないヒトの愚かとしかいいようがない風潮。
「そっちのミュゼ様だっけか?先代国王の后、王妃様に瓜二つだからな」
「そうなのか?」
「さあ?そうなのですか?」
さらりと爆弾発言をするゼロスの言葉に同時にミラとミュゼが首をかしげてといかける。
「おう。先王の王妃様はきれいな緑の髪をしておられたらしくてな。
おそらく、あんたらの髪にそれぞれ緑がはいっているのもその遺伝だろう」
ミラの髪の一部…くせ毛?人によってはアホ毛、ともよばれるような、
ぴん、とひと塊だけとびでている髪。
その髪は金色、ではなく緑色を帯びている。
ミュゼに至ってはどちらかといえば全体的に青草色をしているようにみえなくもない。
「無抵抗でしかない無力な赤ん坊を殺そうとするものが、
そもそも国を治めるのにふさわしいか、というのに僕は疑問を覚えるけどね」
「それ…は……」
エミルの言葉にロイドは言い返そうとするが、だがしかし。
赤ん坊を海に流したなど信じられない。
そんなことをあの国王とかなのった人物がしたなどと。
しかも実の子供を。
嘘をついているんだというのはたやすい。
たやすいがおそらく彼女たちはウソはついていない。
それにリフィル先生も散々いっていた。
精霊はウソをつくことができない、と。
では、精霊マクスウェルからきいたというエミルがいる以上、
目の前の彼女たちがいっているのは真実。
何かいわなければいけない、とおもうのにロイドは次なる言葉がでてこない。
――人間なんてそんなもの。
エミルの言葉が耳にいたい。
たしかにエミルはであった当初からヒトを信用していないという言動はよくしていた。
いたが、以前よりよりそんなエミルの言葉がロイドの心に突き刺さる。
まるでその言葉は自分たちにも向けられているように思えてしまう。
…実際にそう、なのだが。
「エミル君はあいかわらず辛辣だねぇ。
まああの陛下が王の器でない、というのは確かだな。
われ関せず、見て見ぬふり、保身にばかり走る男だし。
実際、あの元教皇が暴走してもみてみぬふり、だったしな」
そして自分に被害がむかっても強く糾弾すらしなかった。
娘すら被害にあっている、というのに。
そんな国王だからこそ、上層部に汚職が蔓延していることにすら、
あの国王はしっていながら放っている。
ゼロスがそんな彼らをある程度はお灸をすえたりしているがゆえ少しはましなだけ。
それなのに外面だけ、はいいときた。
そんな国王の実態を脳裏に浮かべ、ゼロスが肩をすくめつつもいってくる。
そして。
「ま、ここで陛下のことをとやかくいってもしかたないし。とにかく中にはいろうぜ?」
何ともいえない空気が立ち込めるそんな中、ゼロスの言葉に、ただ一同はうなづくしかない。
「…こりゃあ……」
おもわずゼロスが周囲を見渡しぽつり、とつぶやく。
ゼロスに案内され入ったそこは厨房の裏口であるらしく、
本来ならば料理人たちがひっきりなしにこの場にいるべき場所。
ロイド達もかつてここには訪ねてきたことがあるがゆえに、
思わず周囲をきょろきょろと見渡してしまう。
おそらくは何かをつくりかけ、であったのであろう。
鍋の中にはよくわからない液体のようなものがはいっており、
だがかなり時間が経過したのであろう。
完全に液体そのものが固まってしまって原型をとどめていない。
いつもは熱気にあふれている厨房は今はしんと静まり返り、人っ子一人みあたらない。
それだけ、ではない。
厨房の前にいつもは常にいるはずの兵士たち。
そんな彼らの姿すらみえはしない。
人の気配がないかわりになぜか獣の唸り声のようなものがひっきりなしにと聞こえてくる。
しん、と静まり返った厨房。
そこから城の中にむけて足をふみだせば、
いつもは必ずといっていいほどにあれほどまでいるヒトの気配がまったくない。
厨房の先には仮眠室があり、白いベットがおかれていたりもするのだが。
前にここにきたとき、厨房見習いの女の子とかいたはずだけど。
そうおもい周囲をきょろきょろ見回すがやはり人っ子一人みあたらない。
そんなロイドの様子をちらりと見たのち、
「おそらく、フィリプとかいうやつは玉座にいるのだろうな」
「まあ、そうだろうね。あいつはかなり王座に執着してたらしいから」
ミラが誰にともなくつぶやけば、ミトスがうなづきながらも同意を見せる。
城の中も相変わらず暗闇でしかないが、
それでも城の壁に設置されているランタンの灯り。
それらがかろうじて周囲をぼんやりと照らし出しているゆえに一応みえないことはない。
「・・・たしか、謁見の間はこの先、だったわね。いきましょう」
厨房から廊下にとでてそのさきにとある扉をくぐった先。
たしかそこから謁見室にいけたはず。
薄暗い城の中。
獣のような唸り声がしていることに不安を感じないわけではない。
だけども先にすすまなければどうにもならないのもまた事実で。
自らに言い聞かすようにリフィルがいいつつその足を扉のほうへとむけてゆく。
厨房をぬけ、仮眠室である小さなベットがいくつかある部屋をぬけ、
そのままゆっくりと扉をひらく。
『ヴルル……』
扉をくぐり城の中へ。
扉を開くとともにさきほどからくぐもったように聞こえてきていた唸り声。
それらがより一層大きく感じ取れる。
「先生、まって、何か…います!」
リフィルがそのまま廊下にでようとするとコレットがはっと気づいたように声をかける。
廊下の先というか階段にとつづく道。
厨房からでて左に進んでいくと二階にむかう階段があり、
その階段の両脇の壁にはロウソクの灯りがともされている。
そんな階段の前。
そこにうずくまっている黒い影。
「…お兄様、あの石像…やけにリアルですわね」
そしてそんな階段の両脇。
黒い何かがうずくまっているその両脇になぜか石像らしきものがたっているのがみてとれる。
それにきづきゼロスの服をぎゅっとつかみつつ、セレスが不安そうにつぶやいているが。
実際、よくよくみれば鎧を着こんだ今にも動き出しそうな、
それでいて驚愕というか恐怖で顔が硬直しているような表情をしている石像。
そんな石像が階段の横、すなわち蝋燭台の下にと意味もなく置かれている。
「ありゃあ……」
まさか、とおもいちらりとその視線をエミルにとむける。
そんなゼロスの視線にきづき、エミルはかるく頭を縦にふる。
それだけでそれが何を意味しているのかゼロスには十分。
あの石像はもと人間であり、この国の兵士であった、ということ。
「……先生…あれ……なん、なんだ?」
一方、コレットにいわれそちらのほうをじっとみていたロイドであるが、
ふとあることに気づき、かすれた声をおもわずリフィルにむけてもらしていたりする。
時間とともにどうやら無意識のうちに体内のマナを操るすべを身に着けていっているらしく、
無意識のうちであろうが意図せずロイドは自らの視力をどうやら高めているらしい。
石像と石像の間にはさまれ、階段の前をふさぐようにうずくまっているそれ。
見た目は何かの動物。
だがしかし、その頭が今はうずくまっているがゆえよくよくみなければわからないが、
いくつかの長い頭…まるでヘビのようなそれにとわかれており、
その数、およそ十数個。
ついでにいえばそれらのヘビもどきの頭の部分のほぼました。
そこになぜか人間の顔がそれぞれ張り付いていたりする。
『あ゛あ゛あ゛…殺して…殺してくれ……』
ふとそんな中、こちらの声に気づいた、のであろう。
いくつかのへびもどきがその鎌首をもたげじっと声のしてきたほう。
すなわち一行のほうにその顔をむけてくる。
その声はヘビの頭の下にはりついているヒトのそれから。
虚無となっているその瞳からは絶えず血の涙が流されている。
「魔族達の力で無理やりに
「みたいだね。あいかわらず趣味がわるい」
その姿をみて眉をひそめぽつりとつぶやくクラトスに、
溜息とともにそんなことをいっているミトス。
もっともクラトス達はそういうが、かつてヒトは自らそれと同じようなものをつくろうとしていた。
いや、今でもというべきか。
王立研究員の生物部においてそういう実験がなされていたというのは、
センチュリオン達の報告からラタトスクは知っている。
魔族達がそれを行った場合、素材としたヒトの負の思念をより高めるべく、
あえて素材のヒトの思念をそのままのこしその体を変質させる。
それはどうやら昔も今もかわっていないらしい。
ヒトの体内のマナを狂わせ瘴気で完全に穢したのち、
いくつかの器を合成しそれらはつくられる。
つまりかるくみつもっても目の前の
かるく十人ばかりのヒトが素材となっているとみてほぼ間違いはない。
ざっと”目”で視るかぎりこういったモノはこの城の中にはいくつかいる。
それ以外はどうやら石化してオブジェのごとく設置されているようであるが。
すらりと剣を抜き放つミラ、クラトス、ミトスの姿。
どうやらよくよくみればその黒い塊のようなものはひとつ、ではなく。
三つの塊が重なっていたゆえに一つの塊にみえていたらしい。
「ま、まてよ。いったい何をする気……」
そんな彼らの様子にきづき、ロイドがかすれた声をもらしてくるが。
「何をするって。どうみてもロイドくん。あれを駆除するしかないだろうが」
「け、けど!あれ…もしかして人間……」
「だろうな」
そんなロイドにあきれたようにゼロスがいえば、ロイドがはっとしたようにいってくる。
そんなロイドにいともあっさりとこたえるゼロス。
「ま、まてよ!罪もないヒトを殺すっていうのか!?」
あのような姿になっていてもヒトはヒト。
罪のない人間を殺すなど。
そう思うがゆえにロイドが声をはりあげる。
「うるさいよ。ロイド。世の中きれいごとだけじゃどうにもならいんだよ。
それに、ああなった人間は殺すしか救いの道はない。
魔族の瘴気によって魂ごと完全に取り込まれてしまうまえに。
魂が魔族に取り込まれてしまったらそれこそ未来永劫。
ああいったものたちの魂は魔族の眷属となって救いはない」
「で、でも!」
ミトスの冷たいものいいに、ロイドがさらに声を張り上げようとするが。
「おやさしいロイド・アーヴィング。ならどうしろというの?
あれをあのまま放置してあの人間たちを魔族の仲間入りにさせ。
永遠に苦痛でしかない苦しみを味あわせたい、とでも?
それはまあ素敵な思いやりだね」
ロイドのものにいいにミトスが珍しく嫌味をこめて言い返す。
きれいごとばかりで現実をみていないその様子は吐き気すらする。
魔族がどういうものかしらず、地獄とよばれているような光景を目の当たりにしていないがゆえ、
そんな甘いことがいえるのだとしかおもえない。
ミトスはそんな光景をかつての戦乱の中で嫌というほどに見知っている。
あれほど嫌悪していた行為のはずなのに、気づけば自分も同じようなことをしていた。
それをきちんと今のミトスは自覚している。
でもだからといってそれは必要なことであったとおもうがゆえ、
反省はすれど後悔はしていない。
それをしなければ世界は幾度も争いにみちた状態になっていたかもしれないのだから。
「まあ、アマちゃんでしかないロイドくんにはきついだろうな。
もっとも、そうはいってられないだろうけどな」
「だね。どうやら今のロイドの大声で集まってきたみたい」
みれば反対側。
その扉の先があけはなたれ、いくつもの異形の”何か”が近づいてきている。
それぞれの姿はことなれど、共通する部分が一つある。
それは様々な動物などに近しい体をもつそれらの場所に
一つ以上のヒトの顔が張り付けられたように、また取り込まれたようにしてある。
ということ。
ゼロスの言葉をうけ、エミルがすっと視線をそちらにとむける。
それでなくてもここはあるいみ敵の本拠地に近しい場所。
そんな中で大声をだせばどうなるか。
侵入者がいます、と宣伝しているようなもの。
「ロイドの馬鹿!大声だしたら敵があつまってくるのはわかりきってるのに!」
「感覚としていまだにマナは紡げなそうだわね。ジーニアス、あなたのほうは?」
「僕もまだ無理……」
いまだにマナの使用許可はラタトスクはしていない。
そもそも瘴気が充満している以上、より強い覚悟と精神力。
それがなければマナは紡げない。
ジーニアスもリフィルもその域にはかの封印を解放する段階で養っているようだが。
「なら、ジーニアスたちは回復に専念したらどうかな?」
マナが紡げない、戦力にならない、足手まとい。
それでもできることはある。
それは補佐。
グミやアイテム、そして治癒術などを利用して戦うものを補佐することはできる。
「爺様の戦闘訓練がどうやらいかされる、な」
「ミラ。油断は禁物ですわよ?」
「わかってる。姉様」
だんだんと追いめるようにゆっくりとちかづいてくる
「くるぞ!」
『るぐわぁぁぁ!!』
クラトスが叫ぶとほぼ同時。
それらの異形のものたちが一斉にと襲い掛かってくる。
それぞれにいくつものヒトの顔をもち、それらはほとんど殺してくれ、
とひたすらに懇願しているその様は何ともいいようがない。
さらには中には腐敗しているのかどろりと肉が腐食したえずぼたぼたと、
その血と肉の塊を動くたびにおとしている輩すら。
「く…くそぉ!」
まただ。
とおもう。
また、罪もないヒトを殺さなければいけないのか、と。
あきらかに彼ら…取り込まれているっぽいものたちには意思がある。
そんなものたちを自分の手で殺す、もしくは傷つけなければいけない理不尽さ。
けど、何もしなければまちがいなく自分たちが殺される。
ミトスの先ほどの言葉がぐるぐるとロイドの中をかけめぐる。
――おやさしいロイド・アーヴィング。ならどうしろというの?
あれをあのまま放置してあの人間たちを魔族の仲間入りにさせ。
永遠に苦痛でしかない苦しみを味あわせたい、とでも?
それはまあ素敵な思いやりだね
そんなのは思ってもいない。
けど、彼らを傷つけたくない、というのも本音。
でも、ミトスのいうように放置していれば彼らは魔族の一員となってしまうのであれば。
ロイドの中で答えはでないまま、襲ってくる異形のそれらに剣をむける。
向けるしかできない。
魔族達により傀儡に近い道具にされたものたちを救う方法。
それはたった一つしかない。
仮初に捕えられている器から解放するには、
その器そのものの命を絶つ必要がある。
そうすることにより捕えられた魂は解放され、
そしてヒト、として死を迎えることができる。
一度取り込まれてしまったものはそうしなければ再びたやすくとりこまれ、
ときには魔族として転生を果たしてしまう。
ラタトスクが手をかせば簡単にそれは解決できることではあるが、
そこまでラタトスクはするつもりはない。
これはあくまでも彼らヒトへの試練。
彼がどのような判断をするか見極めるための。
かつてのマーテルのようにただなげくばかりで何もしようともせず
ただそのまま破滅を迎えようとするのか。
それとも禁忌に手をそめているのをわかっていながら豊かさのためにそれに目をつむり、
世界を破滅においやるのか。
はじめは小さな事柄かもしれない。
けど、ヒトとは増長していくもの。
どんなに豊になったとしてもそこに満足という思いはない。
もっと、もっとと世界をないがしろにしてまで豊かさをもとめようとする。
かつて、今は魔族といわれているものたちがそのようにして、
この惑星そのものを瘴気の塊にしてしまったときのように。
そしてかつての時間軸においてもヒトはその欲望を優先させ、
結局は世界を破滅にとおいやった。
――ヒトはそこまで愚かじゃない。かならず世界樹をまもってみせる!
あのときそういったロイド達の想いはやはり後世にはうけつがれなかった。
時とともにその思いすらわすれられ、さらにはその真実すらゆがめられ。
そしてヒトを守ろうとするばかりで自らに精霊の盟約という楔をもってして、
ヒトの世界への干渉を禁止したかのマーテル。
ダオスのときですらそう。
自らのおかした過ちを結局かの国はすべてダオスの責任として世界に発表し、
自分たちがおこなった罪をひたすらに隠し通した。
そして当時はかの開発に反対していたあの国ですら再び魔科学を開発していた。
だからこそ世界樹ユグドラシルは急激にその力を吸い上げられそして消滅に至った。
ラグナログ以後、理をすこしばかり置き換えていたゆえに、
マナがなくなればどうなるのか。
それすら考えようとしなかった人。
そしてそれをおそらく知っていたであろうに何もしようとしなかった、自称”天界人”達。
まあ彼らは彼らでラグナログを勃発させ地上を再び瘴気にみたした張本人たちであるがゆえ
何もしようとしないというのは彼らの本位だったのであろう。
何しろヒトの魂は自分たちの手ごまでしかない、と傲慢な考えをもっていた輩たちなのだから。
エミルがそんな思いを抱いているそんな一方で、
ミトスたちはひたすらに剣を振い襲い掛かってくる異形のものたちを殺していっている。
命を絶たれたそれらはそのまま床にと溶けるようになったのち、
幾人かの人の姿に一瞬もどったとおもえば、そのまま光のごとくに消滅してゆく。
取り込まれた直後ならばまだヒト、としての体を保つこともたやすかったであろうが。
彼らがこのようにされて結構な時間が経過している。
もしも以前、この国で異変がおこっている、と彼らがきかされたとき、
そこでこの国にきていればこういったものたちも多少は救えることができたであろう。
だが、この国を優先しなかったのはほかならぬ彼ら達自身。
ゆえにエミルは何もいうことはない。
と。
「やはり、寄せ集めのものたちでは話にならぬ、か。
くるとおもっていたぞ。しいな」
階段の上。
そこから投げかけられてくるとある声。
その声は男性のもので、そしてまたしいなもよくしっているもの。
「その声…」
その声が誰のものなのかきづき、はっとした表情を浮かべるリフィルに。
「くちなわぁぁぁぁぁぁ!あんたの…あんたの仕業かい、これはぁぁぁぁぁぁあ!!」
階段の上にいる忘れようにも忘れられないその姿。
ミズホの独特なる衣装を着こんだその男性にむけしいなが声をはりあげる。
階段のほぼ上がり切った先。
二階からゆっくりおりてくるは、
しいなの故郷でもあるみずほの里の忍のひとり、くちなわであり、
そしてまた、里を裏切っていた当事者。
「くちなわ!あんた、なんだってこんな…っ」
おもわずぎりっと歯を食いしばる。
なぜ、こんな。
人の命を命ともおもわないようなことを。
彼がここにいるということはまちがいなくこの異形とかしたものたちのこと。
それにかかわっているのは明白。
「ふん。われらの目的に賛同しないものは道具として利用してあたりまえだろう?
フィリプ様のもと、われら忍はこれまでの闇ではなく表にて生活ができるようになる。
それのさまたげになるものたちを使って何がわるい?
それに、しいな。お前にだけはいわれたくないっ!
わざと精霊との契約を失敗し里のものを…両親を含めた里の半数以上を殺しておいて!
シルヴァラントの神子暗殺をひきうけても神子に絆され里の掟をうらぎり、
その過程であろうことか精霊と真実契約していたお前には、な!」
しいなが里の根底にある滅びし国の王族の末裔だといわれても、
だからといって認められるはずがない。
たしかに自分たちは主をもってこその忍。
でも、それでも両親を里のものをわざと殺したものにどうして賛同ができようか。
本当は心の奥底ではわかっている。
アレはしいながわざとやったのではない。
両親たち、しいなを快くおもわないものたちがこぞってヴォルトにかかわる内容。
精霊ヴォルトは特殊な言葉…古代エルフ語を話すということをあえて伏せていた結果であると。
でもそれをしっても心がそれを認めることはできない。
しいなが両親を里のものを殺してしまったのは事実であり、
そもそもしいなが精霊と契約をすると賛同しなければあのようなことにはならなかった。
七歳の子供に何をいうと第三者がきけばそういうであろう。
だが、くちなわはそんな思いはまったくない。
そもそも忍たるものは幼きころから掟を厳守とすることを学ばされる。
掟の前には感情すら殺すものである、と教えられて育つ。
なのに、しいなは。
当時のしいなに課せられた使命。
恐怖にかられ、ヴォルトを暴走させたあげく、一人無事にもどってきた。
同行したものはほとんど大怪我をおうか、もしくは死んでしまったというのに。
使命を果たせない場合は死をもって償うべき。
そういった風潮が里の中に暗黙の了解としてある中でしいなの態度は。
七歳であったというのは言い訳。
里のものは幼きころから忍として教育をうけるのだから。
だからこそくちなわは許せない。
里の掟というか使命をはたさずにそれでも庇護されるべきだというしいなの存在が。
「だからって、こんなことに手をかしていいとおもってるのか!?」
自分が傷つけた相手がヒトにもどり目の前できえてゆく。
助けたいのに助けられない命がある。
すべてのヒトを救いたいという思いは確かにある。
でもこう目の当たりにすると。
以前、先生にいわれたことがようやく俺わかったような気がする…
――世の中は不条理なのよ。ままならないほどに、ね
そのとき言われた言葉は意味がわからなかった。
そんな難しいこと俺わからない、といって考えようともしなかった。
一つしか選べない。
どちらを選んでも後悔する。
かつて自分がよく口にしていたこと。
どちらを選んでも後悔するならそのときに後悔しないことを選ぶ。
そう自分でいっておきながら、その結果やはり後悔する。
世の中、誰も犠牲にしたくないという思いだけではどうにもならない。
それが嫌でもこうして現実としてつきつけられれば理解できる。
できてしまう。
おそらくは無理やりであろう異形とかせられてしまっている人々。
ヒトとしての意識をもったまま異形にさせられ、
救うには殺すしかない、などと。
何も知らなかったマーブルの時の事例とはあからさまに前提が違う。
これまでも幾度かこういう機会はあったはずなのだが、
実際に無関係なものを自らの手で殺めるというのをしていない…
していたとしてもそれは敵対していたものであるがゆえ、
敵だから倒してあたりまえ、とそういった考えを抱いていなかった。
ディザイアンだから倒しても問題ない。
魔物だから、ヒトに害をなす存在だから。
ディザイアンたちにも大切なものたちがいる。
それを考えないようにしていた自分自身。
コレットが傷つけられたとき、相手を問答無用で攻撃した。
あのときコレットは無事であったが、もしコレットが命をおとしていたとするならば?
それはもしも、でしかないが、ありえたかもしれない現実。
そんな様々な感情がロイドの中で入り混じっている中であらわれたくちなわという存在。
ゆえにそんな自らの心の中に渦巻くなんともいえないやりきれない思い。
これまでこんな思いになってもすぐにその思いは霧散していたというのに。
でも今回はそれはない。
ないがゆえ、
それを吐き出すかのごとくにくちなわにむけて思わず叫ぶロイドの姿。
ロイドは知らない。
これまでずっと、それらの感情は、我が子を苦しませたくない。
という思いゆえアンナが干渉し、きれいに消し去ってしまっていたということを。
そして今。
アンナの意思が消えてしまったがゆえ、
ロイドは自分の意思でようやく考えることができている。
ということを。
目の前にままならない現実もあるのだと突きつけられたことにより、
ようやくロイドはそのことを自覚する。
自覚せざるを得ない。
それこそ心の奥底から。
ロイドがそんなことを思っているなど当然知る由もないが、
だがしかし、
「そうだよ!そもそもこのヒトたちが何したっていうのさ!!」
そんなロイドの叫びにつづきジーニアスも思わず叫び返す。
いくら何でもこれはひどい、とおもう。
特に異形とさせられているヒトの意識があるがままというのがやりきれない。
今のジーニアスは術が紡げない。
それゆえにとどめをさすのは人任せになってしまっている。
ロイドや他の皆の手を汚させて自分だけただ見ているだけ。
それがジーニアスにはもどかしい。
だからといってジーニアスには剣をふるうだけの力はない。
体力もこの旅である程度はついたけど、他の人にくらべて格段にと劣る。
というか病弱だったというセレスにすら負けてしまうほど。
姉から初期治癒術であるファーストエイド。
それを習いかろうじてそれが今では使用できるようにはなってはいるが。
でも、足でまといでしかない、という思いはジーニアスの中にはずっとくすぶっている。
どうしてマナが紡げないのか。
おそらくはあの歪んだ形で発芽してしまった大樹に原因があるのであろう。
自分が術をつかえれば。
ロイド達の手をわずらわせずに、相手を燃やし尽くすこともできたかもしれないのに。
そうすればすくなくとも、直接手をかけることもなく、
前衛で相手を攻撃している彼らの負担を軽減できたのに。
「彼らには面影があります。…城で働いていた人たち、ですよね。この人達は」
幾度か城に入ったことがあるがゆえに理解ができる。
できてしまう。
いくら感情が制御されていたとはいえであった人をすべて忘れているわけではない。
中には見覚えのあるこの城で働いていたメイドたちとおもわしき顔。
そんな彼女たちの顔がみてとれる。
ジーニアスにつづき、階段の上にといるくちなわをじっと睨むようにしてみつつ
淡々と言葉を紡ぎだしているプレセア。
そんな会話をしているさなかにも異形とかしているものたちは絶えず襲い掛かっており、
そのたびに、ぐしゃり、という何ともいえないおとが周囲に響き渡っている。
プレセアのもつ大斧もその都度おもいっきり振われており、
大斧の直撃をうけたそれらはそのまま壁にたたきつけられるようにして、
絶命したのち一瞬人の姿をとりもどし、そのままその姿をかき消していっている。
「悪趣味にもほどがあるだろ。これは。
異形に変化させたもの、そして石化させたもの。
あのヒヒ爺はいったい何がしたいんだ?え?くちなわさんよ?」
人が消えてゆく光景。
こんな光景はできれば妹にはみせたくなかった。
かといって妹にジーニアスたちとともに守りに入っていろといっても聞かないであろう。
元人間だとおもわれし異形のものと戦うにあたり、セレスをきにかけつつも、
なるべくセレスの近くに近づいたそれらはゼロスがことごとく駆逐している。
それでも数が数。
いったいどれだけのヒトを犠牲にしたのか。
兵士たちやこの城で働いていたメイドたち。
おそらくこの様子ではこの城で働いていた様々なものたち。
それらがすべて異形、もしくは石化などされているとみてほぼ間違いない。
国の”王”になりたいのであれば、行動が矛盾しているようなきもしなくもない。
そもそも国とは民あってのもの。
民がいなければ必ずその反動は”王”にも及ぶ。
それがヒトの世界の”王”としてのありかた。
「神子か。フィリプ様は今の穢れた信仰につかっている人々の救済を望んでおられる。
フィリプ様のあらたなる世界の礎となること。それこそが救済。
偽りのマーテル教、などではなくフィリプ様が神としてこの世界に君臨されるのだ」
淡々とそんなことをかたってくるが。
「そんな救済なんて誰もいらないわよ!」
そんな彼にたいし、マルタがむっとしたように言い放つ。
「では、マーテル教の救済はどうなのだ?
衰退世界の神子がマーテルの器となりて死して、マーテルの器となりしこと。
それこそが世界再生の救済、それのどこと違う?」
――コレットは自らの体を差し出すことでーテル様を復活させるのだ。
これこそが世界再生!マーテル様の復活が世界の再生そのもの!
そんなくちなわの言い分は救いの塔でのレミエルの言葉を連想させる。
ふと、ロイド達の脳裏にあのときの救いの塔でのやりとりがよみがえる。
「所詮ヒトは少なからず必ず死ぬのだ。ならば崇高なる目的のため、
その身をささげ死んだほうがそれぞれのためだとおもわないか?」
『ふざけ(ないで)(ないでよ)(ないでください)(んな)』
くちなわの言葉に異口同音で、リフィル、ジーニアス、プレセア、ロイドの声が重なる。
「そんなの間違ってますわ!」
セレスが声をはりあげるが。
「そもそも、神子の妹よ。お前は考えたことはないのか?
その神子がいるからこそお前は理不尽にも孤島の修道院に押し込まれ。
お前の母とてマーテル教というものがなければあのような末路をたどることもなかった」
クルシスの神託さえなければ。
ゼロスの母もセレスの母も好きな人と結ばれていたであろう。
クルシスの神託によって引き裂かれた恋人たち。
「…それでも、誰かの犠牲の上によって手にいれられるものなど。きまっています」
自分が修道院に押し込まれたのもそれはセレス自身、自分の罪なのではないか。
そうおもっている。
知らなかったとはいえ兄を兄の母である叔母を犠牲にしていたという負い目。
さらには母は自分を表舞台に出すために、兄の命を狙った。
それは到底許されるものではない。
自分はそんなこと、神子の地位など望んでもいなかったというのに。
ただ、母と兄がいてくれればよかった。
大切な家族がいてくれれば。
父が死に、セレスにとって家族は兄と母だけであった。
腹違いとはいえ兄がいるのをしり、うれしかったあの当時。
なぜ母が兄にあいにいってはいけないのか、あわそうとしなかったのか。
幼き日は考えることすらしなかった。
しようともしなかった。
「マルタとかいったな?お前もだ。クルシスさえなければ。
お前は今でもシルヴァラントの王家として生活できていたであろうに。
八百年前、クルシスがシルヴァラント王朝を滅ぼしたのは紛れもない事実。
すべての発端はマーテル教。ならばそんな宗教などけして新たなる新なる指導者。
それを迎え入れるのは悪くないとはおもわないか?」
王朝が滅ぼされたは世界を二つにわけてもあいかわらず魔科学を発展させようとしていたがゆえ。
小さなものならば見逃されていたが、当時の王家は魔導砲を復活させようとしていた。
そこに王家に入り込んだ魔道士を名乗りしとある女性たちの思惑。
それらがあったにしろ、クルシスを打倒し世界の覇者に。
そう当時の王家が決定したのは紛れもない事実。
そしてそのことをくちなわはフィリプと手を結んだとある女性から聞かされている。
「御託はいいよ。それより、彼女はどこ?
こんな手をつかうのは、どうせ彼女でしょ?…ジャミルはどこにいる?」
いつのまに。
それがロイド達の思い。
くちなわが一人、話している間いつのまにか翼を展開し、
音もなくくちなわの背後にまわりこみ、
その首元にすっと剣の刃をつきつけているミトスの姿。
「――さすがはクルシスの指導者、そして古代の勇者というべきか?
だが…甘いっ!」
そういうなり、懐に手をいれ、その懐の内部にいれていたらしき何かの球体のような石。
それを思いっきりそのまま床にとたたきつけるくちなわ。
刹那。
パリィィッン!
何かが割れるような音が周囲にと響き渡る。
それとともに。
「!ロイド!」
あせったようなクラトスの声。
それとともにロイド達の視点が反転する。
「…どうやら関係者のみ結界にとらわれてしまったよう、ですわね」
音とともに一部のものたちの姿がまるで床に飲み込まれるようにときえていった。
しん、としずまりかえった城の一角。
溜息とともにフェニアがそんなことをいってくる。
「残ったのはミトスとフェニア達と、あとはミラさんとミュゼさん…か」
みればこの場にいたはずのマルタ達の姿もない。
どうやらあのくちなわとかいう人間は彼にかかわったもの。
それらをかの空間に引きずり込んだらしい。
「クラトスもあの程度のことには反応できたはずなんだけど……」
忌々しそうにクラトスが消えた空間。
あせったように息子の名を呼び、そしてロイド達とともにクラトスもまた消えていった。
やっぱりクラトスは僕よりもロイドを選ぶの?
そんなにも血のつながった子供のほうがいいの?
ミトスの中で何ともいえない思いが渦巻く。
先ほどまでこの場にいたはずのロイド、ジーニアス、リフィル、コレット、マルタ。
そしてゼロス、しいな、セレス、プレセアたちの姿はない。
そしてなぜかクラトスの姿すら。
今この場にいるは、エミル、ミトス、ミラ、ミュゼ、そして聖獣であるフェニアとシャオルーン。
「まあ、あの程度のこと、自力で乗り越えられないようだと話にならないし。
彼らは彼らでほうっておいてもいっか。それよりジャミル達、かな?」
「だね。でもそれでいいの?だって……」
そんなエミルの言葉に何かいいたそうな視線をむけつつ、
言葉をくぎるミトスの姿。
ミトスからしてみればこれまでラタトスクは彼らと旅をしていたはず。
彼らに思い入れがあるのではという複雑な思いを抱いていたりする。
はじめに彼と一緒に旅をしよう、といったのは自分なのに。
そんな思いが根底にあるというのにミトスは気づいていない。
「別に彼らと一緒にいたからって彼らを優先してるわけでもないし。
そもそも彼らとともにいたのも見極めの一環でもあったしね。
それにあの程度、君は昔、一人ででも乗り越えてたでしょ?」
そのことをラタトスクは知っている。
魔族達の結界にとらわれても、努力し常に勝っていたミトスたちを。
そもそも精霊の試練に立ち向かうのにすらミトスは一人でほとんど戦っていた。
精霊の存在をしり、当時のヒトは精霊の力すら利用しようとしていた。
そんな国々の追手をクラトスとユアンは退けていたあの当時。
ミトスが精霊達と契約を結んだのは何も彼らの目的だけのためではない。
あのままではヒトが愚かにも研究されていた精霊炉。
つまりは精霊をとらえる装置に精霊達を…よりによって大精霊達をとらえる実験をしかねない。
その危惧もあってこそ。
「…精霊達を個人、ととらえ、そして対等な関係を望んだミトス・ユグドラシル。
…精霊達の懇願やセンチュリオン達の懇願がたしかにありはしたけども。
彼らの話をきいたからこそ、自分の元に訪ねてくるのをあのとき許したわけだし」
そうでなければいくら精霊達が懇願しようとも、
ミトスたちの話をきこう、とはおもわなかった。
好きに人間たちにやらせておいて、最終的には地上を浄化するつもりだったのだから。
ふたたびゼロからのやり直し。
今度はデリスカーラーンの民の末裔をもすべて浄化し、
本当の意味で一からこの世界の再生をなしとげるつもりであった。
それこそかつてこの惑星がたどった進化の道筋の通りに。
契約はしたものの、ミトスは基本、精霊達と友人関係を望んでいた。
それを精霊達は好ましい、と感じていたことをラタトスクは知っている。
かわった人間がいる、というので彼らの同行をたしかに”視て”はいた。
そしてあろうことか、自分に対しても友達になろう!とってきた目の前の子供。
ラタトスクにとってはすべては子供。
それはどれだけ歳を相手がなそうが関係ない。
世界そのものすらラタトスクにとってはいつくしむべく大切な”我が子”なのだから。
「…なのに目覚めて外にでてみれば、嫌悪していたはずの精霊をとらえる装置。
それを利用して精霊達をかの装置に繋ぎ止め。そして宗教によって人々の心を掌握し。
……だれかが君の名前をかたってしているのじゃないか、とすら淡い希望も抱いたけどね。
けど……」
かつての時間軸においてマーテル教という存在をしってしまった。
そして今。
世界が統合される前にこうして外にでたことにより、何がおこっていたのか。
何がおこっているのかはっきりと自覚した。
これらのことはミトスの意思で引き起こされていることなのだ、と。
「ヒトは変わってしまう。どんな形であれ必ず変わる。
周囲の思惑、そのときの感情。そして…環境の変化などで。
でもそんなことにもめげずに何があってもまっすぐにひたすらに前をみつめていた。
…試練においてもお前はヒトが堕ちる原因となろう事柄。
それらをすべてはねのけ、その資格を得た。にもかかわらず、まさか、とはおもったがな」
最後のほうは素の口調になりほぼ自嘲気味につぶやいてしまう。
そう、まさか、とおもった。
だからあのとき。
ミトスに裏切られた、彼らに裏切られたとしったとき。
マナの調停も何もほうりなげ、このまま世界は滅びてしまってもかまわない。
目覚めたあの当時、そう思った。
センチュリオン達が自分の目覚めの波動で目覚めマナを狂わせているのはしっていた。
そもそもまっさきにテネブラエが目覚めてやってきていたのである。
たしかに世界は統合され、そして大樹の種子もめぶいていた。
だが、その種子は力がなくなりそして新たなヒトの魂がはいりこみ、
さらには自らとのつながりがヒトとの契約によってかきかえられてしまっていた。
しかもそのヒトの魂はミトスの波動を宿せしもので、そしてそんなミトスのそばにいたのは、
なぜか複合した精神融合体となっていたマーテルの精神体をやどせしもの。
もう一度ヒトを信じてみよう、とおもったものたちの信じられない裏切り。
裏切られたことがわかり、彼らを自らのもとにこれないようにと罠をしかけた。
もしもかの地にやってきたとしても石像と化し、
彼らが救おうとした世界がどこにむかっていくのか、みせつけるために。
なのにそんなヒトの罪を知ろうともせず、きれいごとしかいわなかったあの人間。
かつてのミトスと同じようなことをいってきたあのアステルという人間は。
ヒトというものに絶望していた自分をいらだたせるのには十分すぎた。
あのままリヒターにあの場でコアを破壊されてもかまわない。
そう心の奥底でおもっていたのもまた事実。
自らのコアが破壊されることにより、すべての大地は消滅するのだから。
もっとも、攻撃をうけコア化した自分をテネブラエがそれを認めるはずもなく、
そのまま持ちさってしまったわけだが。
それは今では誰もしることもない、かつての記憶。
そしてヒトはまだ捨てたものではない、とおもえたあの旅の結末。
なのに、結局ヒトはやはり裏切った。
世界樹ユグドラシルを枯らすにいたった。
そしてあの精霊マーテルは精霊としての自覚がないまま、
干渉しないように自らに精霊の盟約をつきつけヒトへの干渉を封じてきた。
それもヒトの手により地上が瘴気に覆われたそのあとで。
かつてあった大地の記憶をそのまま地表にはりつけて、
地表を覆った瘴気はとある球体をうみだし、そこに新たな精霊の意思を宿した。
マーテルにはまったくそんな力は宿りもしなかった。
またそんな力を求めようともしなかった。
ただ、ヒトに流されるまま、そして乞われるままに知識をへたに人に与えてしまっていた。
魔界の存在など人々はすでに忘れ去っていたというのに。
その知識を与えてしまったのはほかならぬマーテル自身。
どこまでも自分を裏切るのだ、とおもった当時の想いはいまだにラタトスクの中にはある。
ノルンの危機に関してもダオスがヒトとかかわり、
その人間がとある人間と深いかかわりをもっているという理由にて接触を盟約のもと禁止された。
マナを守ろうとしたダオスを追い詰めたはほかならぬ当時のマーテル自身である、
といっても過言でない。
その結果、ミッドガルドでの魔科学の発展、そしてユークリッドにおいても
魔科学は発展していき…最終的に世界樹ユグドラシルは枯れてしまった。
あのとき。
ダオスが封印から解き放たれ、それをしったユークリッドにおいて、
秘密裏にマナが薄くなっているのならば生体エネルギー、それを利用できないか。
とそれらの概念が組み込まれた魔導砲が発射され…そして完全に世界樹は滅んだ。
そして人々が暮らしていくべき大地すら。
そもそもラグナログのち、大地そのものはマナにて構成してはいた。
その上にすまうものたちは完全にマナと切り離してはいたものの。
瘴気をおさえるにあたり、マナにて大地は構築していた。
大地の強化はユグドラシルが生成していたマナ。
それを大地に取り込ませ、大地を存続させていたにすぎない。
それなのにヒトはマナを利用し大地を消滅させるにいたっていた。
ラグナログのち、それまではマーテルの生み出すマナは扉の封印にとあてていた。
けども、あの事件ののち、その理をかきかえた。
それをマーテルはしっていたはず、なのに。
結局、ヒトを自らどうこうすることもなく、そのまま滅びを迎えてしまった。
過去に意図せずともやってきた上はどうしても確認したいことがあったのもまた事実。
どうしてミトスはかわってしまったのか。
自分との、自分たち精霊達をどうして裏切ってしまったのか。
当事者の口からその思いを、理由をどうしてもきいてみたかった。
なぜ、と。
だからミトスと接触できるであろう世界再生の旅とかいうのに、
彼らの懇願もありて同行することにした。
そこにクラトスがいたことも拍車をかけた。
かならずミトスと接触ができる、そう踏んだ。
ミトスと直接接触することで、ミトスの魂が瘴気に侵されかけているのにも気が付いた。
それは彼らの魂の片割れともいえる分霊体から流れ込んできているものでもあり、
そして別の要因も少なからず感じられた。
だから時間をかけてゆっくりと、ミトスの中からそれらの穢れを取り除いた。
瘴気はヒトの思考をくるわせる。
それこそセンチュリオン達の力によって精神が狂わされてしまうかのごとくに。
「――ヒト、というものは光と闇をあわせもって創造られている。
かつてお前にはいったことがあったな。ヒトは光にもなれれば闇にもなれる、と」
「…うん。覚えてる」
それは幾度目かの来訪したとき、めずらしくラタトスクのほうから会話があった。
僕たちヒトとはいったい何なの?というミトスの問いかけに珍しくも答えてくれた。
クラトスまで消えてしまったことで心が揺らいでいるそんな中、
エミルにいわれ、ミトスはかるくうなづくしかできない。
それはまだ姉が生きていたあのころ。
自分たちで世の中をどうにかしよとあがいていたあのころのこと。
この四千年の間ほとんど忘れかけていた当時の記憶そのもの。
「何を光とし、何を闇とするかは各自の心次第。心構えひとつ、
視点をかえただけでそれはまったく逆のものとなりえる、と。
それでもお前は自らの信じる道を定めてその自らが光と決めた道に向かって歩いていた。
どれほどのヒトに裏切られ、虐げられ、時には絶望を与えられようとも、な」
いつも自分のことは後回しで、人々のため、世界のために。
その先に皆が笑いあえる世界がくるのならば、と。
「お前たちに授けている石は特別製。しかし世の中にある精霊石にはすくなからず、
そこに微精霊達の意思が宿っている。それもお前はしっていたはず、だな?
にもかかわらず微精霊達の意思を穢しそれを利用しようとしていた。
そこに魔界の瘴気の影響があったとしても。
ミトス。なぜにマーテルが害されたというときにわれの元を訪ねてこなかった?」
あのときに訪ねてきていれば。
やはりヒトは救いようがない、と結論をづけてミトスたち以外、
ミトスたちに心の底から賛同していた存在たち以外、まちがいなく消し去っていた。
もしくは悪意ある感情をもつものを魔物たちに駆除させていた。
「別にマーテル教とかいうものに対して何もいうつもりはない。
そもそも、ヒトというものは自らに都合のいいようにそういったものをつくりあげる。
そんな傾向があるのもまた事実だからな。
なぜにディザイアンなどという架空の存在をつくりあげたのかはわからぬが……」
しかもそれらはミトスたちと同じハーフエルフという設定で。
「『虐げられるのならば虐げかえせばいい。でもそれじゃあ何もかわない。
今と今までと何もかわらない。だからこそ僕らは変わらなければいけない。
変われるはずなんだ』かつてのお前は我によくこういっていた。
だから、地上を浄化するのはまってほしい、とな」
「うん…そうだね。僕のしつこいくらいの懇願で君は…
…ラタトスクはその決定を先送りにしてくれた。
それは僕だってわかってる。わかってたんだ。
君と姉様とクラトスとユアンと、皆で平和になった世界を地上を旅してみたかった。
その思いは…昔も今もかわってない。でも、姉様は……」
姉が殺されてしまった。
姉がいない世界など想像すらしていなかった。
しかも信じていた二つの国、という勢力に裏切られた結果。
「アレ、は我が与えし人類の試練そのもの。
ゆえにわれの管轄ではあるが、干渉はしない。
その意味がお前にはわかるな?」
「…自分たちの力でそれを乗り越えてこその試練…というんでしょう?
姉様がアレに取り込まれているとわざわざあの声がいっていた以上、
必ずそこに意味がある、というのも僕は理解しているつもり…だよ」
いつのまにか真紅の瞳でみつめられ、ぎゅっとミトスは強くその手を握り締める。
約束をたがえていた自覚はある。
そして彼ら精霊を裏切っていた自覚も。
しかし面とむかって非難されるのではなくじわじわとこちらの意思を確認するかのような物言い。
それが逆にミトスの心をつよく揺さぶりかける。
「お前には…まあいい。今はとにかく、この大地にのこりし魔族達のことが先決だからな」
まだミトスには問いかけたいことがある。
しかし今はまだそのときではない。
「――ラタトスク。あのジャミルとの決着は僕にまかせてほしい。
僕がこんなことをいえる立場じゃないのもわかってる。
でも…僕は彼女と決着をつける必要がどうしてもあるんだ」
常に夢で、そして意識の中で甘くささやくように語りかけてきていた、
姉だと思いこもうとしていたあの声は。
今でははっきりとわかる。
あの声を姉だと思い込んだのは間違いなく自らの心の弱さによるもので、
その心の隙間に付け込まれたのだ、ということが。
だからこそミトスは自分で決着をつけたい。
少なくとも自分に非があったとしても原因となったであろう要たる存在。
それを見逃すわけにはいかない。
何よりもそれをしなければ自分は前にすすめない。
それをしなければ目の前の彼…ラタトスクに合わす顔がない。
…もっとも今こうして現実には対面しているわけだが。
それでもミトス自身がそれを許せない。
そんなミトスの懇願をうけかるく溜息をついたのち、
「お前にできるのか?すくなくともお前の中にたまっていた瘴気の波動。
あれはあのものの波動でもあった。
あのままではお前のその器はあのものにいいように操られていたやもしれぬ」
間違えようのない事実のみを言い放つ。
そしてそれにあらがうすべはミトスにはなかったであろう。
あるとすれば自らの意思をもって命を絶つこと。
しかしミトスたちに預けている石は彼らの魂を保護する役割をももっている。
魔族達にとらわれないために何らかの手をうつ必要があったはず。
あのとき、ロイド達がミトスたちを倒したとききはしたが。
おそらくそれはミトスの最後の良心でもあったのであろう。
このままでは完全に自らが魔族の傀儡になりかねない、という思いはあったはず。
あのときも魔族達の干渉をうけていたのかどうかはわからないが。
少なくとも、目覚めるよりも”前”に自らが干渉してない以上、
それまでの時間軸の流れはかつてとまったく同じのはず。
種子にと宿り、新たな樹として再生を果たした、意思すらなくしたミトスの魂の欠片。
あそこにミトス・ユグドラシルとしての意思はまったくなかった。
そしてマーテル・ユグドラシルとしての意思もまた数多の少女たちの念にほぼ埋め尽くされていた。
彼女たちがマーテルとしての人格をあえて表にだしふるまっていたに過ぎない。
マーテルでありながらマーテルではない、複合精神生命体、
人工精霊マーテル、として。
「だからこそ。僕は僕自身のけじめをつけたい。わがままだってわかっている、けど…」
「お前は本当に以前から言い出したらきかぬからな。好きにしろ。
だが…さすがにあのものたちはやりすぎた。
今度こそかのものたちの魂ごと無へとかえすが、異論はないな?」
魔族達もかつては自分たちと同じヒトであったとするならば。
まだ彼らもかつての心を取り戻せるかもしれない。
そうかつてのミトスはいっていた。
それが無理なことであるとわかっていてもその可能性をミトスは捨てきれていなかった。
そんな心の迷いがミトスを完全に魔族達を消滅させる。
その決意を揺るがせていた。
そしてそのことをラタトスクはしっている。
「それは…仕方のないことだ、とおもう。ラタトスクの思うがままに……」
かつての自分ならばそれはまって、と絶対にいっていた。
けど、救いようがないものがいるというのをミトスは思い知った。
わかっていたけども、それでもかつての自分はヒトの心というものを信じたかった。
そしてかつてはヒトであったという魔族達の心すら。
でも結局、そんなミトスの願いと思いはことごとく裏切られた。
涙を流しつつ、ミトスが魔族を滅したのは一度や二度ではなかった。
「では、好きにしろ」
もっとも当時、ミトスの懇願もあって決定的な対応をしなかった自らにも非はあるかもしれない。
ラタトスクとしてはそう思う。
そしてまた、ミトスの願いというのもあったからこそ、
魔族達を完全消滅にまではさせなかった。
わざわざだからこそ、新たなる精霊、瘴気を糧とした精霊プルートというものをかつてはうみだした。
そして今も。
かつてと違うのは、今回のプルートは暗黒大樹の精霊として生み出した、ということ。
でも確実に一部の魔族を消滅させなかったゆえに後々までその遺恨はのこり、
またアレらも幾度となく地上の人間に干渉をしまくっていた。
慈悲をあたえても結局アレラはその意味をわかろうともしない。
それを嫌というほどにラタトスクはしっている。
ならば、彼らの根底にある望み。
無へと還る。それを実行すればよいだけのこと。
わざわざ周囲を巻き込ませる必要性などまったくもってないのだからして。
「…ありがとう。ラタトスク」
「いっただろう?お前とかわした盟約はいまだに実行中。健在である、とな」
精霊は約束を破ることをかたくなに嫌う。
そしてそれは口約束であってもかわりがない。
そのことをミトスはよくしっている。
しっているからこそ、これまで自分が精霊達を裏切っていた事実。
にもかかわらず自分との約束がまだ健在だ、といってくれるその言葉がとてつもなくミトスに響く。
面とむかってののしられたほうがまだ幾分か気分は楽だったかもしれない。
でも。
ああ、そうか。
そうだね。アクア。テネブラエ。
…君たちがいってたんだよね。ラタトスクはすべてを包む込み母でもある、と。
時には荒々しくすべてを飲み込み、また時には優しくすべてを包み込む母なる海のごとくに。
そしてだからこそ、センチュリオン達は主であるラタトスクの心を誰よりも心配していた。
判断を下してもいつもその心では悲しみにあふれているとしっていたからこそ。
そのことをかつてミトスはきかされた。
聞かされていた。
ぽん、とうつむくミトスの頭をかるく撫でたのち、
「ゆくぞ。魔族の気配はこの上だ」
「うん」
そのまますたすたと階段をのぼりはじめるラタトスクのあとをあわてて追いかけてゆくミトス。
ラタトスクとしてはかつてのときはミトスの心を知るすべはなかった。
目覚めたときにはすべてが裏切られていたそのあとで。
だからこそ、時間を移動した以上、どうしてもミトスの本音というものが知りたかった。
本当にミトスが心の底から自分たち精霊を…自らを裏切ろうとしていたのか。
人工精霊と化したマーテルも、そしてユアンも語ろうとはしなかった。
一応マナの切り離しを命じたセンチュリオン達にさぐらせてはみたが、
結局その本心はかつてのときは知りようがなかった。
ロイド達もミトスのことに関しては口を閉ざしていた。
詳しく話そうともしていなかった。
でも、ずっと心の奥底で疑問におもっていたのもまた事実で。
ヒトはかわりはすれど本質はかわらない。
にもかかわらず、どうしてあの”光”にあふれていたミトスが…と。
くちなわが懐から取り出し、床にたたきつけたのは隔離空間というか、
特定の空間に移動させるいわば鍵のようなもの。
魔族達がよくこのむ空間を切り取り亜空間にしそこに対象者を引きずり込む。
魔族本体ならばわざわざ媒介となる品など必要としない。
が、魔族達の力を凝縮したとある品を作り出すことにより、
その魔族があらかじめつくっていた空間に対象者をひきずりこむことは可能。
そして先ほど発動されたのはまさにそれ。
かの空間は鍵となったついとなりし品を壊さないかぎりそこから抜け出すことはできない。
クラトスまで引きずり込まれてしまったというか追いかけてしまったのは、
ミトスとしては何ともいえない思いのほうが強いが。
あのメンバーでかの品のことをしっているとするならばクラトスだけなので、
あるいみでクラトスが同行したことによりジーニアスとリフィルの生存率もあがるであろう。
エターナルソードがあれば空間を引き裂きそれらの亜空間に入り込むことは可能なれど。
今はすでに手にしていない力のことをいっても仕方がない。
だからこそ今自らがすべきこと、しなければいけないこと。
それを優先し、ラタトスクのあとをおいかけてゆくミトス。
引き込まれてしまった特にジーニアスとリフィルが無事でありますように。
と心の中でそっと思いつつ。
「な、なんだ、ここ!?」
「ここ…は…!?」
誰からともなくそんな声が漏れ出し周囲に響く。
突如として視界が反転した。
確かに先ほどまでテセアラ城の中にいたはず、なのに。
視界が反転する前、あせったようなクラトスの声が聞こえたような。
「ロイド、無事か?…どうやら無事なよう、だな」
そんな中、少しあせったようなクラトスの声。
思わず背後をそれぞれふりむけば、油断なく周囲を警戒しつつ、
そしてロイドの姿をみとめ、ほっとしたような表情を浮かべているクラトスの姿が。
周囲は白と黒一色に埋め尽くされており、ついでにいえばどうみても城の中ではない。
黒白のみの景色なのでよくよく注意しなければわからないが、
今彼らがたっている場所。
どうやらどこかの外らしき風景がひろがっており、
木々らしき黒い何かもみてとれる。
しいていうならばそこはどこかの入江にあるかのような小さな小島。
一本の巨大な樹に周囲には川?らしきものがあるのがみてとれる。
川も真っ黒でそこに水がきちんとあるかどうかもあやしいが。
「ここは…まさか、評決の島かい!?」
この光景には覚えがある。
景色が白と黒一色、という違いはあれど。
里の中でも重要ともいえる場所。
それゆえにしいなが見間違えるはずがない。
なぜ、どうして。
たしかに城の中にさきほどまでいた。
なのにこの風景は。
しいなが驚愕の声をあげるとほぼ同時。
「…そうだ。ここは里の聖なる地」
それと同時、ざっと周囲をみたかぎり、
おそらくは川…なのだろう。
その中洲。
中洲らしき場所にある小さな場所。
しいなは今、島、といったがたしかに言いようによっては島といえなくもない。
たんなる中洲だといってしまえばそれまでだけども。
そして唯一そびえたっている一本の巨大な樹。
巨大、といっても大きさ的にはトレントの森の木々。
それくらいの高さ程度がある樹がなぜか一本だけぽつんとそびえたっている。
そんな樹の横には不自然にと浮かぶ黒い水晶の原石のようなとがった細長い石が
ふわふわと何の手も加えられていないであろうに空中にと浮かんでいる。
それを目にしクラトスの目が一瞬、細められるがそのことに誰も気づいていない。
皆が皆、樹の背後から現れた人物。
先ほどまでたしかに階段の上にいたはずのみずほの里の忍、
しいなの幼馴染でもあるという、”くちなわ”にとその視線は注がれている。
「お前に屈辱をあたえ、引導を渡すのにこれほどふさわしき場所はないであろう?
とあるお方がお前を殺す、そのためだけに用意してくださった舞台だ」
その口調はとてつもなく淡々としており、
しかし少なからず高揚しているような感覚をうけなくもない。
「しいなよ。我が両親の仇。この聖なる地を模したこの場所で、
お前の命を貰い受ける!お前とてみずほの民のはしくれ。
この場所の意味をしらないわけではないだろう?」
いいつつすっと身構える。
そんなくちなわにたいし、すっと目を細め、
「つまり、あんたはあたしと決闘をしたいってことかい」
そこまでくちなわに恨まれていたのだという思いと。
彼をこれ以上、悪事に染めてはいけないという思い。
「しかし、お前は素直には従わないだろうからな。だから…」
いって、パチン、とくちなわが突如として指を鳴らすとほぼ同時。
「うわ?!」
「な、何これ?」
「これは…触れるな!触れたら最後、死ぬぞ!!」
しいなの背後で驚愕したロイド達の声が突如として響き渡り、
そしてあせったようなクラトスの声。
はっとしてしいなが振り向けばそこには何やら赤茶色のような光る膜のようなもの。
それらが突如として発生し、正確にいえば膜というよりはちょっとした箱のようなもの。
それらがしいなの背後にいた全員。
みるかぎり、この場にはどうやらエミルやミトス、そして聖獣となのっていた彼らはいないらしい。
だがしかし、ロイドをはじめとしたジーニアス、リフィル、コレット、
プレセア、ゼロス、セレス、マルタの姿はみてとれる。
なぜかそこにクラトスの姿もあるのがきにかかるが。
どうやらあのとき、
視界が反転したときに聞こえたクラトスの声は気のせいではなったらしい。
つまり九人が淡く光を放つ箱もどきのようなものにとらわれたような恰好となり、
驚愕した声をどうやらあげたは、ロイドにつづきジーニアスのようではあるが。
そんな彼らが思わずその光る膜もどきに触れようとした刹那。
クラトスの焦った声が響き渡る。
今にもそれに触れかけていたロイドがびくり、と体を硬直させる。
「それはおそらく、瘴気を元にして構築された結界、だろう。
…お前たちも以前、救いの塔に出向いたときに似たような罠をみたことがあるはずだ」
そんなロイドをみてかるく溜息をついたのち、クラトスが淡々と言い放つ。
「あ、あのときの……」
それが何を意味するのか。
クラトスの言葉の意味を理解し一瞬、ジーニアスの表情が青くなる。
あのとき、光の壁に押しつぶされる覚悟を決めたあのときのこと。
そのことをジーニアスは忘れたわけではない。
あのときはもう、皆、罠にはめられ、ジーニアスとロイドの二人しか残っていなかった。
光の壁を壊すため魔術を使い、でも術のあとは体が硬直することもあり、
ロイドのみがかろうじてひらいた小さな割れ目からあの罠から脱出することができた。
「多勢に無勢では意味がないからな。
お前一人に俺が一人でかつ。そのことに意味がある。
これは由緒ただしき決闘だ。しいなよ。お前がことわれば…
お前の仲間とおもっているあやつらがどうなるか、わかるな?」
その台詞にしいなはさっと顔を青ざめる。
ジーニアスからしいなはあのときのことをきいている。
穴に落ちてあとのことを知らなかったしいなであるが。
ゼロスに救われ合流したそのときに、ジーニアスとロイドを襲った光る壁の罠。
そのことを聞かされている。
「それはそこのクルシスの天使がいうように瘴気でできた壁だ。
ヒトの体はマナでできている。そしてより濃い瘴気はそんなヒトの体を溶かすに十分。
触れたら最後、いきながらその体は溶かされ、そして死んでゆくだろう」
ひゅっ。
紡がれたくちなわの台詞に思わずしいなが息をのむ。
「そんなのウソにきまってる!」
そんなくちなわに対し、ロイドがそんな箱の結界もどきの中より叫びかえすが、
「…いや、この感じはまちがいなく。これは瘴気だ。
私や神子二人、マナの翼を展開すれば完全に体が溶かされることは免れるだろうが。
しかし残りのものはそうはいくまい。…ロイド、それはおまえとて、だ」
ロイドが意識してあのマナの翼をだせるのか。
それはクラトスにもわからない。
どうやら無意識のうちに取り出せるかもしれないが、そんな不確定な要素で
ロイドを危険な目にクラトスはあわせたくはない。
ロイドがそれに触れそうになったとき心臓が止まるかと思った。
アンナに託された大切な息子。
自分の不注意でロイドの身になにかあったとするならば、
今度こそクラトスは自分自身が許せない。
だからこそあえて強い口調でロイドを押しとどめた。
「つまり、触れたが最後、力の弱いほうが負けてしまう、ということかしら?
マナと瘴気は反物質ときいたわ。つまり反属性作用が発生する。
そういうことでいいのかしら?クラトス?」
「そういうことだ。これを打ち破るにはよりつよいマナの塊。
それをぶつけるしかない。がこの空間はおそらく魔族のテリトリー内。
かつてお前たちがはいりし禁書の封印よりもより術をほどこしている魔族の力。
その影響が遥かに強い。次元を切り裂く力でもあれば話は別、であろうがな」
クラトスの言葉にすこしばかり考えるそぶりをみせてリフィルがいえば、
クラトスもまたそんなリフィルにとうなづきかえす。
そう。
エターナルソードでもあれば、次元斬にて空間そのものを切り裂くことが可能。
というよりはこの結界を壊すことすら可能であるが。
ロイドは結局エターナルソードと契約をしていない。
否、できなかったといってよい。
まさかミトスがあの場にて世界を一つに統合させるとはクラトスとておもわなかった。
それによってミトスと間違いなくエターナルソードの…
精霊ゼクンドゥス、時と次元を司るというかの精霊との契約は断ち切られたはず。
というかミトスも先ほどそのようにいっていた。
…もっとも、かの精霊曰く、今後精霊の力はあてにできないようなことをいっていたゆえ、
もしもいまだ契約が続行中だとしても力を貸してもらえるかどうかは返答に困る所なれど。
クラトスは知るはずもないのだが。
実際、ラタトスクがかつて目覚めた時間軸のとき。
彼が外にでたとたん、しいなは精霊達を召喚することができなくなっていた。
それはセンチュリオン達の目覚めの波動もあり、
精霊達がこぞってその力に狂わされかけたのもあり、
また”真なる王”の気分を害しては、という思いから召喚に応じることはなかった。
何しろ精霊達は自分たちが半ば原因で”真なる王”でもある”ラタトスク”を、
結果的に裏切ってしまったかもしれないという思いをもっていた。
まさかヒトが、あのマーテルがロイドに新たな名をつけさすなど夢にもおもっていなかった。
あの樹にはマナを生み出す力はない、というのはみただけでわかっていた。
大地があのとき安定したのは少なからず”王”の意思があったがゆえ。
もっともそんなかつての、今の時間からすれば未来のことを彼らが知るはずもない。
そしてそれは精霊達やセンチュリオン達にもいえること。
ミトスがかの契約をするまでこういった場合の対処をする方法はある。
しかし、それは今のクラトスでは心もとない。
それはクラトスが一番よくわかっている。
つい先刻クラトスは体内のマナをすべて放出してしまったばかり。
ユアンやミトス、そしてロイド…そしてアンナの犠牲によってクラトスは今、ここにいる。
クラトスは何でもないようにふるまっているが真実はマナが枯渇状態にある意味近く、
気を抜けばいつでもクラトスは気絶してしまうほどに消耗してしまっている。
それでもそうならないのは長い年月生きてきたゆえに身に着けた耐久性、
そしてクラトス自身の気力ゆえ。
リフィルとクラトスが会話しているそんな中。
「お前が決闘をうけない、というのならばそのものたちはそのまま結界に押しつぶされ、
生きたまま溶けてゆくだけだ」
しいなが自らをにらみつけているのをわかっていながらもその口元に笑みを浮かべたのち、
パチン、と再び指を鳴らすくちなわ。
それとともに、ゆっくりとではあるがロイド達を取り囲んでいた光の壁もどきが、
左右、前後、そして頭上からゆっくりと彼らとの距離を縮めだす。
「皆!!!…わかった。その決闘、うけるよ。だからっ!」
おそらくくちなわはウソはいっていない。
そして自分が決断をしぶればしぶるほど、皆に危険が及ぶ。
「いい覚悟だ」
そんなしいなの言葉をうけ、ふたたびくちなわが指をならす。
それとどうじ、ゆっくりとロイド達ににじりよるようにして幅を狭めていた光の壁もどき。
それらがぴたり、と静止する。
「本来ならば決闘には立会人がつくもの。
この俺の懐の広さに感謝するのだな。
お前の仲間たちすべてがその立会人となる。
あの中でお前が無様にこの俺に殺される姿をみせつけることでな!」
立会人。
それは勝負の成り行きをただ見守り、どちらが負けをみとめるか、
あるいは死んだときにそれを確認する役割のことを指し示す。
本来ならば儀式にのっとっての立会人は一人、ときまっているのだが。
どうやらクチナワはここに引きずり込んだすべてのものたち。
そんな彼らを立会人、としてこの場に引きずり込んだらしい。
しいなが負けて彼らがじわじわと生かされて溶かされ死んでいく。
それで苦痛にゆがむしいなの姿を想像するだけでくちなわは愉快になってくる。
くちなわは自らが負ける、などと欠片もおもっていない。
しいなの性格は幼馴染であるがゆえわかっている。
手のひらを反すまで自らはしいなに優しい態度をとっていたがゆえ、
しいなが本気になれるはずがない。
「いくぞっ!しいな!」
「っ!」
くちなわの掛け声とともに、くちなわが一気にしいなとの間合いを詰めてくる。
「このままじゃあ、しいなが!」
あせったようなマルタの声。
「そもそもここからでたとしても、この違和感あふれる空間からでないことには」
一方、冷静に周囲をみわたし分析しつつもリフィルがその手を顎にあてつつつぶやいてくる。
彼女たちを取り囲む壁もどきの光の何か。
それに触れればクラトス曰く、体が溶けてしまうらしい。
そうきかされて、ためしに、とおもって触るような輩はまずいない。
ロイドが好奇心におされ触ろうとしたが、クラトスとリフィルとジーニアス。
それぞれが、リフィルがマフラーをひっつかみ、クラトスがロイドの手をつかみ、
そしてジーニアスがそんなロイドにしがみつくことで何とかそれを阻止しはしたが。
目の前で行われているのはあるいみで一方的な蹂躙といえしもの。
くちなわの攻撃により何もない空間のはずなのにどこからともなく落雷音がひびき、
しいなの体に稲妻が降り注ぐ。
それは忍の術の一つ、
くちなわがその手で印をくみ力ある言葉を発動するとともにその攻撃は対象者。
すなわちしいなにと降り注ぐ。
ちなみにこの技はしいなも使用可能。
なれどしいなが主体とするは主に符術。
一応、しいなも小刀の扱いは習得している。
それをあまり多用しないだけで。
もっとも、忍すべてがこの術を使用できるといわけではない。
相性、というものがあり使えない属性のほうが遥かに多い。
しいなは幼きころからそれらすべての属性ともいえる技。
それを覚えることができていた。
それでもいざ、というときにそれが使用できないのであれば意味はないのだが。
しいなも反撃しようとはしているのだろう。
しかしそこに迷いがみてとれる。
みれるからこそマルタがあせった声をだす。
「…でも、たしかに打つ手はない、です」
実際、武器で壁を叩き壊してはどうかとおもい、
プレセアが手にもった武器でいきなり攻撃してみたのだが。
あろうことかクラトスが言っていた通り…武器のほうが溶けてしまった。
光の壁もどきに触れるとどうじ、それこそどろり、と何の前触れもなく。
そして溶けたそれは大地にこぼれおち、地面に吸い込まれるようにしてきえてしまった。
もっともこの足場となっている大地が本当の大地かすらも怪しいが。
何しろ虫や小鳥といった一切の音がしない空間。
周囲を流れているようにみえている小川らしきそこからも
川のせせらぎ、というものはまったくきこえない。
しいていうならば一つの空間をそのまま時間ごと切り離してしまった絵のごとく。
黒と白の色調しかない、というのもそう表現したほうがしっくりくるといってよい。
「きゃぁっ!」
『しいなっ!!』
そんな中、くちなわと対峙していたしいなの悲鳴が響き渡り、
はっとしたようにそちらをみて異口同音でしいなの名を喚ぶロイド達。
その中にはクラトスは含まれてはいないが、ゼロスもはじめとした八人が、
一斉にしいなの名を呼びその安否を気遣っていたりする。
「その程度か?」
悲鳴をあげその場に膝をついたしいなを覚めた瞳で見下ろしつつ、
それでいて侮蔑にみちた視線をむけてタンタンと言い放つ。
「くっ」
そんなくちなわに対し、しいなは何もいえない。
あからさまに自分にむけてこられている殺気。
そして先ほどまで自らが倒していた関係のなかった城の従業員たち。
彼らには何の罪もなかったであろう。
なのにあのような姿にされて、あげくは自分たちにと殺された。
どうして。
幼き日。
そして成長してからも自分に優しくしてくれていたくちなわの姿。
それが思い出されてしまい、本気で戦わないととおもっていても力がはいらない。
そんなしいなの態度に舌打ちし、そして視線をしいなの背後にむけ、
「この程度か…拍子抜けだな。せめてもの情けだ。
お前の大切な仲間ともども、黄泉に送ってやろう。
無様だな。無能なお前を仲間といい信じたばかりに死ぬのだからな」
そうくちわがつぶやき、再び指を鳴らす。
「み、みんな!?」
はっとしたしいなが背後をふりむけば、どんどんと追い詰められているのであろう。
皆が一か所にかたまり、迫りくる光壁に対抗しているのがみてとれる。
しいなの目にとびこんできたはその手にもった大斧の武器。
プレセアのもちし武器がきれいに刃先からのちがきえてなくなっている、ということ。
くちなわがいっていた溶ける、というのはウソでも何でもないのだ。
改めてその現実を突きつけられたようで、しいなの全身にすっと冷たさが走る。
「み、みんな!?」
しいなの焦ったような声がきこえる。
「しいな、俺たちのことはきにするな!」
今は自分たちのことよりもしいな自身のことを。
それゆえにロイドが声を張り上げる。
だんだんと近づいてくる迫りくる光壁に対抗すべく、
誰ともなく打ち合わせもしていないのに中心にあつまり、
それぞれが固まって周囲をみわたす。
みれば頭の上。
その遥か先にみえる壁のようなものもゆっくりと近づいてきている。
まるでそれはかつての再現。
ジーニアスとともにかの塔の中を進んでいたときの再現。
それをロイドは思い出す。
あの時と違うのは、この場には皆も…エミルとミトスはいないが…いる、ということ。
「でも!」
「俺は、俺たちはお前を信じている!だから、お前も…俺たちを信じろ!
前にもいっただろ?俺たちはしなない。誰もしにはしない!」
ロイドの強い口調とともに、内部にいるクラトス以外のものがうなづくのがみてとれる。
それはかつて、しいながヴォルトとの契約に挑むときに言われた言葉。
「皆…」
自分に迷いがあれば。
まちがいなくこのまま皆は、また自分のせいで。
それだけは…嫌だ!
自分が死ぬことよりも仲間といってくれた大切な人たちが死ぬことのほうがかなりつらい。
ゆえにきっと表情をひきしめて立ち上がるしいなの姿。
そしてそのままくちなわをまっすぐな目にてにらみつける。
そこには先ほどまで迷いがあったはずの表情はみあたらない。
「…あたしは、逃げない。くちなわ。あたしはもう小さいころのあたしじゃない。
あたしには守るものがある。守りたいものがある。だから……
あんたのその迷い、あたしが断ち切ってあげるよ!
あたしはしいな、藤林椎名。ミズホの里の統領、藤林伊賀栗の…孫だっ!!」
あえて漢名を意識して叫ぶは決意の表れ。
そう、自分はしいな。
藤林椎名。
ミズホの里の統領、藤林伊賀栗のたった一人の孫娘。
そして祖父曰く、次代の統領。
自分がそんな器なのかはわからない。
けど、これだけはいえる。
自分は仲間を、里のものをこれ以上、失いたくはない、と。
そしてくちなわも。
今は道を踏み外しているかもしれないが、自分が守るべき里のものなのだ、と。
「あたしは、あんたに…かつ!」
しいながそう叫んだその直後。
しいなの体が淡い光にと包まれる――
pixv投稿日:2015年3月28日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始
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あとがきもどき:
テセアラ城の様子さん。
どちらかといえばドラクエ8さんのトロデーン城。
ことごとく人が石化してるあの様子を思い浮かべたらちかいかと。
あんな感じでヒトが石化しまくってます。
テイルズシリーズでいうなれば、ファンタジアのとある女性の家のように……
ついでに異形化してしまった人々が闊歩してます(マテ
もっともトロデーンは茨がありましたがテセアラ城にはないですけどね。
そのかわりに魔族がいるー(汗
城とか建物とかのシーンかくとき、
一応、間取りを確認すべく保存してる動画さん(マテ)見直しているのですけども。
ゲームの間取りと現実の間取りを考えて、多少間取りを変えてたりするのもあります。
…王の間ってどう考えても一階にある、ような代物じゃないような…
階段を上った先、というのが何となくイメージとしてあります(苦笑
謁見室は一階でもいいでしょうけどね。