このままでは。
映し出されている光景は、クラトスにとって焦りをみせる以外の何ものでもない。
そもそもロイドは空中戦に向いていない。
それどころか、あのまま翼を展開したままであればマナが枯渇してしまう。
なぜ、どうしてロイドに天使の翼があるのか。
先ほどのエミルの言い回しではまるで、まるで生まれたときからそうであったような。
「ミトス…それに、ロイドも、二人とも、やめてよっ!」
映し出されるは、互いに空中にて剣を交えている二人の姿。
そんな二人をみてジーニアスが叫ぶようにいうが、
その声は当然のことながら異空間にいる二人の耳には届いていない。
空中にて剣を交える二人の姿。
ミトスは何を思ったのかエターナルソードをその腰にとしまい、
彼の獲物でもある愛用の”エクスカリバー”を手にしているのがみてとれる。
光属性を持ちえたその剣は、この世に存在する剣では最高の攻撃力を誇る、
とまでいわれている品。
もっとも、四千年前にミトスが手にいれてのち彼がずっともっていたがゆえ、
その存在自体が今では伝説化というか勇者伝説の中に登場するのみとなっているが。
空中にて繰り広げられているミトスとロイドの攻防戦。
しかしどうみてもロイドに不利、としかいいようがない。
そもそも本能でどうにか空を飛んでいるようであるが、
翼を使い慣れているミトスと比べその動きはあきらかにぎこちない。
「まて、クラトス、お前…さっきいっていたことを忘れたのか!?」
そんな中、よろけつつも石版の前に立とうとするクラトスにユアンがまったをかけるが。
「これは私にしかできぬ。というかこのままオリジンを解放しないわけにもいかぬだろう。
”彼”がここにいるのがその証拠なのではないのか?」
「…っ」
ちらりとその視線をエミルにむけ、そしてそのままユアンに視線をむける。
そのクラトスの言わんとすることをさっし、ユアンが思わず言葉につまる。
「どうせヒトのマナの檻とか考えたのはミトスなんでしょうけどね……
おそらく、精霊達をとらえていた精霊炉、しかも封魔の石までご丁寧につかって。
あれもミトスの案でしょ?ミトスはあの時も並ぶものがいないほど、
そういう面には通じていたはずだしね」
そんな彼らのやり取りをみつつ、溜息ひとつ。
先ほどまで真紅であったエミルの瞳はいつのまにか緑にともどっており、
圧倒されるまでの威圧感も今のエミルにはない。
本当に、さきほどの雰囲気が嘘のようとしかおもえない。
が、今のエミルの言い回しではやはりミトスのかつてを知っているのは明白で。
あのラタトスクなのか?本当に?
という思いがどうしても否めない。
否めないが信じざるをえない、というのも事実。
「これは、私がいいだしたことだ。私の責任でもある。
それに…このままでは、ミトスによってロイドが殺されてしまう。
…私はこれ以上、ミトスに罪を重ねてほしくはない……」
本音をいえば、ロイドもミトスもクラトスは選ぶこどできない。
どちらも大切で、いとおしい。
そんな大切な二人があのように戦っている。
自分には何もできないもどかしさ。
そんなクラトス自身にできること。
それはたった一つしかない。
「というか、ミトスのあれはあきらかにお前に対する嫉妬もあるだろ。どうみても」
ちらり、と映像としてみえているミトスの様子をみて溜息まじりにつぶやくユアン。
あれはあきらかに嫉妬も含まれている。
ミトスにとってクラトスは姉以外に唯一打ち解け、そして信頼できる人間であった。
それをユアンは知っている。
いるからこそ、子供というだけでクラトスの愛情をうけるロイドが気に入らないのだろう。
一息に相手に致命傷をおわせずにねちねちと攻め続けているのが何よりの証拠。
「…まあ、僕のところで勝手にあの子が話しているのも、その内容のほとんどが。
クラトスさんやマーテルのことばっかり、でしたからね…
ユアンさんのことは、なんで姉様はあんなやつと!とか散々愚痴ってましたし……
そんなことをわざわざなぜにいいにきたんだ、と幾度いったことか……」
そんな彼らのやり取りをきき、思わず当時を思い出す。
記憶が上書きされているがゆえか、当時のことはいまだに鮮明にと思い出せる。
まああの地を訪れるような人間もいなく新鮮でもあったので認めていたが。
「…あいつは、散々ギンヌンガ・ガップに訪れていたとおもったら何をやってたんだ…」
苦笑まじりに当時を思い出しているのかつぶやくエミルの様子に、
おもわずこちらもまた、盛大に溜息をつかずにはいられないユアン。
ちなみに、彼らが会話している言語はかつての言語。
今の時代では天使言語とも古代言語ともいわれしそれは、
普通のものたちでは理解ができない。
そもそも、ふつうに話すことすらままならないであろう。
何しろ文字を解読するにしてもきちんと発音がなっていない、ということもざら。
天使言語といわれて今の世界に普及しているそれですら、
当時と違い多少発音などがかわってしまっている。
ゆえに、ふつうに何でもないように会話している彼らの内容は、
いくら古代知識にたけていたとしてもほとんど理解不能といってよい。
当時の言葉を使い慣れている存在以外には。
古代の言葉をつかいこなし、なおかつそんなことをいっているということは、
間違いなくこのエミルがあのラタトスク、なのだろう。
…今のエミルの雰囲気からはまったくもって想像すらできないが。
「まあそれはそれとして。オリジンを解放するならしてくださいね?
まったく、あの子が封印されているせいで面倒でもあるんですから」
そもそも精霊すべてがそろった状態で新たな理を実行しなければ、
後々どこに歪みが発生するかわかったものではない。
何ごとも基礎は万全にして実行したほうが楽であることを
エミル…否、ラタトスクは知っている。
さらり、といいきるそんなエミルの台詞に。
「言われるまでもない。…あなたには迷惑をかけたようだな」
「現在進行形でね」
「「・・・・・・・・・うっ」」
さらっといわれ、二人同時に言葉に詰まってしまう。
「そもそも、ミトスとの盟約がなければとっくに人間見限ってるところだよ。これは」
それこそかつてのように、ヒトを滅ぼせと命じていてもおかしくないほどに。
「…少しきになっているのだが。なぜにそんな雰囲気なのだ?」
ユアンとしては目の前のエミルが精霊ラタトスクなのかどうか、ということよりも、
なぜあの威圧感にあふれた畏怖の念すら目の前にでれば確実におこってくる。
あの精霊がどうしてこんな雰囲気でヒトの姿をしているのかが理解できない。
「人にまぎれるにはこの雰囲気のほうが何かと楽だからね。
なんでか前、女性形態とってたらセンチュリオン達が危険だからとかいって、
それから基本男性形態とってるんだけど」
「「・・・・・・・・・・」」
さらりといわれるような内容ではない。
その危険という意味合いが何を指すのか。
何となく想像できてしまう。
しまえるからこそ果てしなく怖い。
「本当はこの星ではこうして外にでるつもりはなかったんだけどね。
目覚めてみれば現状はこれ、だし?彗星は勝手につなぎとめられてるし?
精霊達は精霊達で精霊炉なんかに封じられてるし」
「「・・・・・・・・・・・」」
「だったら状況を確認しつつ、センチュリオン達を目覚めさせがてら。
外にでたのも仕方ないでしょ?君たちの、特にミトスのこともきになったしね。
何を考えてるのかそれによってかつての盟約のこともあるし。
ミトスが完全に盟約を破棄するつもりなら、当初の計画通り、
地上を浄化したほうがてっとり早い、というのもあるし」
それをしなかったのは、盟約、つまりはミトスと約束していたがゆえ。
約束をたがえることはできはしない。
ミトスが死んでいたりするならば話は別であろうが。
かつてのようにその自我すらなく魂の痕跡だけで世界樹の命として宿っていたときのように。
「ミトスもいっていたけど、君たちヒトがしでかしたことはヒトの手で、だったよね?」
それは常にミトスがいっていた台詞。
「……ユアン。あとはたのむ」
「仕方なかろう。リフィル!それと神子たち!あとそこのマルタとかいったな!?」
「ふえ?!」
いきなり名を呼ばれ、目をぱちぱちさせるマルタに、
「言葉が流暢すぎて何を話しているのかは意味不明なのだけども。…何かしら?」
いきなり言語をかえ、自らの名をユアンが呼んだということには意味かあるのだろう。
おそらくは。
「クラトスがオリジンを解放する。その直後、お前たちには回復術をつかってほしい。
私のマナを分け与えるだけでは今のクラトスは確実に死ぬ。
かといって今、回復術をかけてもそれは逆に解放するマナが多くなり、
つまりはクラトスの負担が大きくなるゆえな」
それまで古代言語ともいわれている言語で話していたユアンだが、
リフィル達にむけて話すは今現在使用されている共通言語。
「こいつはまだ体が本調子ではない。この調子でマナを解放すれば。
ふさがりかけていたからだの傷が開いて確実致命傷となる。
私がマナを分け与えるゆえ、お前たちにはこいつの傷をふさいでほしい」
「…つまり、それをすればクラトスは助かる可能性がある、ということね?」
「わ、私やる!」
ユアンの言葉に少し考えるそぶりをみせ、すぐさまその可能性に思い当たり、
確認をこめてといかけるリフィル。
そんなリフィルの台詞にユアンが無言でうなづきをみせるとともに、
マルタがはっとしたように声をはりあげる。
「だって…ロイドにとってクラトスさんはパパ、なんでしょ?
そんな人がいなくなったら…やっぱり悲しいとおもうから」
マルタには父も母もいる。
でもその二人がもしも、そうおもうとマルタにとって他人事ではない。
マルタは知らない。
かつて、エミルが初めてあったマルタは当時すでに母親を亡くしていた、ということを。
そしてその父も。
ヴァンカードの総帥、として国に裁かれた。
さすがに大量虐殺などをしかもロイドの名をかたり、姿をかたりしていたり、
もしくは暴動にもちかい残虐行為をしていたことが拍車をかけ、
彼は民衆の眼前で公開処刑、とあいまった。
マルタにはそんな父を止めようとしたという温情がつき、おとがめなし、
とはなったのだが。
「お前にこんなことで死なれてはこれ以上あいつが狂いかねん。
それは避けなければならない」
クラトスがオリジンを解放し、もしも死んでしまうようなことになったとするならば。
そのとき、ミトスがどうなってしまうのか、それはユアンにも想像ができない。
それこそ、さきほどエミルが…否、精霊ラタトスクがいっていたように、
かつてミトスから持ち出した盟約を破棄するとかいいだしかねない。
目の前の精霊がヒトをいまだに見守るだけで済ませているのは、
ミトスとの約束があったからなのだろう、というのは今のやり取りだけで何となくわかる。
わかるがゆえにそれだけはさけなければ。
というかこの精霊、絶対にやるときはやる。
そもそも魔物たちに命じるだけでヒトの駆逐など”彼”にとってはたやすいことのはずなのだから。
トレントの森の最奥…と一般にはおもわれているこの地。
森の中の開けた空間にぽつり、とあるひとつの石版。
少し黒い光沢をもちしそこにはいくつもの文字のような模様のようなものが刻まれている。
その石版の手前に小さな台座のようなものがあり、
もともとこの地にあった石版の前にこの台座をミトスが追加することにより、
オリジンの封印、という形をくみあげた。
クラトスが石版の前にたち、すっと手を石版の前にとかざす。
そのクラトスのすぐ背後にユアンが位置し、
クラトスを挟むようにして、リフィル、マルタ、そしてゼロスが三角系をつくるかのごとく、
それぞれ、クラトスの両脇、そして背後。
それぞれにと位置していたりする。
コレットも加わりたかったが、コレットは回復術が使えない。
天使術といわれている中でそれらしきものはあるが、
それは自らのマナを生贄とし味方を回復させる技。
そんな技をコレットにつかわせるわけはいかないと、リフィルが却下した。
そしてクラトスも。
エミルに協力を頼みたいところだが、おそらくそれは間違っているのだろう。
ゆえにあえてユアンはエミルには声をかけていない。
そもそも自分たちが愚かな選択をした結果こうなっているわけであり、
むしろ問答無用で自分たち人間を排除してこないだけありがたいとおもうべきであろう。
そしてそんな彼らの行動をみてもエミルは何も口をだしてこない。
こない、ということは彼らの行動を見守るつもり、なのだろう。
ちらりと横にいるユアンに目配せをしたのち、そのまま目の前の石版にクラトスは手をかざす。
クラトスの身長よりも少し大きい手度の、何の変哲もないようにみえる黒い石版。
その石版にと手をかざし、その背に翼を展開し、一気に体内のマナのすべてを放出する。
それとともにクラトスの体から淡い光がほとばしり、
その光は光の粒となりて石版の中へと吸い込まれてゆく。
それとともに多少淡く石版が輝きをみせるとともに、
クラトスの体から血がまるで逆流するかのごとくに吹き出しはじめる。
ロイドは気が付いていなかったがロイドの攻撃はクラトスの内臓。
それらをかなり傷つけており、
クラトスがどうにか気力にてそれを悟られないようにしていだだけの事。
当然のごとく、その内臓をも保護していた力…すなわちマナをも放出した結果、
クラトスの体の至るところから血が逆流するかのごとく吹き出しているようにみえている。
その足元に血だまりをつくりつつも、そのまま背後に倒れるクラトス。
「リフィル!神子!マルタ!回復を!」
「え、ええ」「おう」「う、うんっ!」
倒れこむクラトスをユアンが支えると同時、ユアンが三人にと声をかける。
それとともに。
一瞬、石版の上に展開されていたミトスとロイドの戦いの様子。
その光景がまるで扇を閉じるかのごとくにゆっくりと閉じてゆく。
クラトスが無事なのか。
というかなぜにマナを解放しただけであのように血まみれになるのか。
そして二人の戦いの様子が消えてゆく光景。
目の前で起こっている現実についていけずにその場にただ立ち尽くすしかできないジーニアス。
そして、次の瞬間。
パキィッッン。
何かが割れるような音が周囲にと響き渡る――
「…なっ」
体から何かが抜けるような感覚。
この感覚には覚えがある。
精霊の力が体から抜け出すようなこの感覚は。
それが意味すること。
それを察知し、一瞬その動きが鈍る。
それ以上に、そこまでしてロイドを助けたいのか。
そんな何ともいえない悲しい思いが押し寄せる。
しかし、それ以上に。
あの状態でマナを解放してしまえばどうなるのか。
そのことにすぐさま思い当たり、一瞬、攻撃を加えていた動作に隙ができる。
そんなミトスの心の動揺に気づくことはないが、
なぜか連続して攻撃を加えてきていたミトスの攻撃。
その攻撃に一瞬というかあからさまな隙ができる。
今を逃せば反撃のチャンスはない。
「
ミトスのそんな隙を逃さずに連続した斬りを突き出し、そのまま剣をおおきくふりかぶる。
ながれるように斬り上げ、そして斬るロイドの剣が一瞬の隙をみせていたミトスにと、
これまで届くことがほぼなかったというのにそのままその身に一撃を叩き込まれる。
「くっっっ!」
ミトスのうめき声と、そしてそれとともに。
パキィィッン。
何かがはぜわれるような音が周囲にと響き渡る。
「…え…」
「クラトス、しっかりしなさい!」
「クラトスさん、しっかり!」
パキン、という音とともに視界が戻った。
なぜかミトスが隙をみせ、一撃を確実に叩き込んだという自覚はある。
それとともに周囲の景色がまるで鏡が割れるがごとくにハゼわれた。
それとともにまったく音すらなくなっていた空間が元にもどったことにほっとする。
おそらくは元の場所にもどったのだろう。
ミトスに勝ったのか?
そうおもったロイドの視界に飛び込んできたは、
血まみれで倒れているクラトスとそれを抱えているユアン。
そしてそんなクラトスに回復術かけつづけているであろう、
ゼロス、リフィル、マルタの三人の姿。
元にもどったと喜ぶどころではない。
目の前の光景にロイドの思考が追い付かない。
「っ!どうしてその状態でクラトスにマナを解放させたの!ユアン!」
そんな中、悲鳴にも近いミトスの声がそんな彼らにと投げかけれる。
はっとミトスをみてみればさきほどのロイドの一撃は確実にミトスをとらえていたのだろう。
ミトスは珍しく血をながし、その手からもぽたぽたと血が滴りおちているのがみてとれる。
「ミトス!?ロイド!?」
そんな消えた時と同様にいきなりあらわれた二人の姿をみて、
しかも二人とも傷をおっている。
そんな二人をみてこちらもまた悲鳴にも近い声をあげているジーニアス。
ユアンもそんなミトスにちらりと視線をむけ、
「…お前がロイドに手傷を負わせられただと!?
ありえないだろう!百歩譲ったとしても、そいつの技は付け焼刃程度だぞ!?」
ミトスと比べればロイドの腕は遥かにおちる。
だというのに、実際にミトスは手傷を負わされている。
「クラトスの様子は?!」
そんなユアンの台詞をさらり、とながし、そのままユアンの横にとかがみこむ。
「このままでは魂魄が抜け出してしまう。
どうやらエクスフィアが傷ついているらしい」
それはロイドとの戦いにおいて、ロイドが放った一撃。
ヴォーパルソードにて傷つけられたその一撃は、
クラトスの精霊石にと傷をつけ、その特性ゆえに一瞬にして石を凍り付かせてしまい、
その耐久性をも少なくした結果、かの石に今現在傷がついていたりする。
もともと、ラタトスクの命もあり、また力がみちていることもあり、
いつでも孵化できるほどに本来の性質にもどっていた微精霊達。
それでも彼らがクラトスの体にとどまっていたのは、
クラトスがオリジンの封印を担っていたからにすぎない。
微精霊達にとって精霊達を総べる王の存在は絶対。
ラタトスクの場合はすべてなる王、という形なのでこれまた絶対ではあるが。
ユアンの言葉に一瞬ミトスが目を見開く。
エクスフィアが傷ついている、ということはそれは天使化を果たしているものにとって、
死を示しているといってもよい。
しかもエクスフィア…微精霊達の卵ともいえる精霊石はその本質上、
上位精霊の力でもなければその力を回復することもままらない。
そのことをミトスはよくしっている。
姉マーテルの石が傷ついたとき、自分と姉の石はラタトスクよりもらった特別製。
ゆえに精霊達の力でもってしても修復不可能だ、とわかっていた。
「っ!」
自らの回復もそこそこにというか、回復することすら忘れているかのごとく、
そのままクラトスの横にと座り込み、クラトスの状況を確認しはじめる。
たしかにこのままでは。
かろうじて肉体における傷らしき傷はリフィルやゼロス、そしてマルタの手により治療されている。
が、肝心ともいえるクラトスの精神体…すなわち魂、もしくは魂魄といわれしそれは、
今にもその体から抜け出してしまいかねいほどにはてしなく危うい状況。
ユアンとミトスが何をいっているのか、ロイドはわからない。
否、言葉はわかる。
が、理解できない、したくない。
そもそもどうしてクラトスが血まみれで倒れている?
いやでもめにつく大地の赤黒いしみはまぎれもなくクラトスの血なのではないのか?
そんな彼らの背後では先ほどより気のせいかほんのりと光沢がましたかのような石版が。
「ロイドとの戦いで傷もふさがりきっていない中。
こいつはマナを解放した。まだ万全の状態ならば、
ハイエクスフィアが傷ついていなければここまでひどくはならなかったのだが…
先ほどの戦いでハイエクスフィアが傷ついてしまっていたようだしな……」
それは咄嗟的にクラトスが防御をしようとし手をかざしたとき、
その手につけいてる精霊石がロイドの攻撃をうけ傷ついたからに他ならない。
「…あ……」
ユアンの声が遠くに聞こえる。
クラトスとのやり取りで確かに手ごたえを感じていた。
クラトスを殺してしまわなかったというだけでほっとしていて、
あの戦いにおいて自分が何をしたのか。
それをまったく気にしてもいなかったことを今さらながらに思い知らされる。
理解できなく、否したくなくてその場に茫然と立ちすくむしかできないロイド。
何かをしようにも、また言葉を発しようにも体がいうことをきかない。
クラトスが、死ぬ?
マナを解放した云々といっているということは封印を解放、
すなわちクラトスのマナを解放したのだろう。
でもその死ぬかもしれない原因が、自分の攻撃が原因で?
認めたくない。
けど、ロイドの目の前にはいまだに力なく横たわっているクラトスの姿が嫌でも目につく。
「ロイド!何をそんなところで立ち尽くすしてるの!
君にもできることがあるでしょ!手伝って!クラトスが死んでもいいの!?」
いまだに茫然と立ち尽くしているままのロイドにむけてミトスが言い放つ。
「て、手伝えって…俺、どうしたら……」
いきなりミトスに怒鳴られ、かろうじて声を絞り出す。
そう、手伝えといわれても何をどうしたらいいのか。
そもそもロイドはリフィルのように治癒術をつかえるわけではない。
ゼロスのように初歩的な治癒術がつかえるわけでもなく、
かといってリフィルと同等ともいえる力を扱うマルタのようなわけでもない。
そんな自分に手伝え?
ロイドの思考はさらに混乱せざるを得ない。
そもそも目の前でおこっている現実にもおいついていない、というのに。
そんな困惑し現状を理解できていないようなロイドに対し、
「ちっ。手を。ロイド・アーヴィング!こっちへ!」
クラトスの横にかがみこんだままかるく舌打ちしたのち、片方の手をクラトスに伸ばし、
もう片方をすっとロイドのほうにとむけてくる。
自分に何ができるのか。
わからないままに、ミトスが自分を害するためでなくクラトスのために何かをしようとしている。
それは本能的にと理解できる。
理解できるゆえに、ふらふらとした足取りでそんなミトスの横にと移動する。
そのまま、座るように手で示され、
ミトスの真横というかクラトスを挟んだ形でその場に座り込む。
そしてミトスが手をつきだし、視線と言葉で手をあわせるように、
といってきたのをうけ、無意識のうちにその言葉にと従うロイド。
このままではクラトスは確実に死ぬ。
それは本能的に理解できている。
そして目の前のミトスはそれを食い止めようとしている、ということも。
ミトスの傷はいつのまにかリフィル達がクラトスにかけていたそれをミトスにもかけたらしく、
気付けばいつのまにかふさがっているのがみてとれる。
「僕が導く。不本意ながら実の息子であるというロイド。
君のマナでクラトスのマナを補充し回復を促進させる!」
クラトスのこの状態は魂が消えかけているがゆえ。
それでなくてもかつて魂を分けていたので魂の力は自分たち三人はかなり弱い。
そこにくわえ、怪我を負った状態でのすべてのマナの解放。
そんなミトスの言葉をうけ、
「!そうか!親子というものは少なからずマナが似通っている!
私のマナよりもロイドのマナならばクラトスにはじかれることなく融和がきく!」
はっとしたように思わずさけぶユアンの姿。
そう、親と子は必ずしも似通うところをもっている。
そしてそれはマナにおいてもまたしかり。
親から子へ、そしてその子へ、その特性は受け継がれてゆく。
それが本来の【生物】のありかた。
ありえない誕生を果たしているロイドであるがその特性、
すなわち親の特性、というものはいうまでもなく受け継いでいる。
自分たちのマナはなかなかなじまないようだが、
しかし不本意ながらロイドなら。
ユアンのマナもハイエクスフィアが傷ついているせいかまともにクラトスに届かない。
おそらくそれはミトスとて同じこと。
だからこそ、ミトスは不本意ながらロイドの協力を申し出たのであろう。
クラトスを助けたい。
という思いは少なくともロイドとて同じのはずだから。
「気持ちを集中して、僕にあわせて。
その思いを、気持ちを、クラトスを思う気持ちを同調させて!
クラトスの魂魄が体から離れてしまっては僕とてどうしようもない!」
エミルにいえばどうにかなるかもしれないが。
しかしクラトスを封印の要としてしまったのは紛れもないミトス自身。
ゆえにそんなわがままともいえることをラタトスクにいえるはずがない。
今でも何もいわず見守って様子をみている彼の信頼をこれ以上裏切りたくはない。
(クラトス、死なないで!)
(クラトス、死ぬな!)
ミトスにいわれるまま、何をどうするのかわからないが、
しかしロイドとてこのままクラトスを死なせてしまいたいとはおもわない。
ゆえにいわれるままにその思いをミトスに導かれるようにとそのままあわす。
ロイドの中からごっそりと何かが抜け出すような感触が感じられるが。
それ以上に体が熱い。
何がおこっているのだろうか。
ミトスとロイドが手を合わせるとともに、二人の体が淡く輝き、
その輝きはクラトスの中に吸い込まれるようにときえてゆく。
否、二人の輝きがそのままクラトスに吸収されている、というべきか。
「何が…おこってるの?」
あるいみ鞘の外ともいえるジーニアスがぽつりとこぼす。
「ミトスはロイドの力に同調させて、マナをクラトスさんに叩き込んでるんだよ。
もっとも、クラトスさんに生きる気力がなければ意味がない、けどね」
おそらく彼は死ぬことによって自分たちの責任から逃れようとしている節がある。
そんな事を許すはずがない、というのに。
「でも、マナを分け与えるなんて…二人は大丈夫、なのでしょうか……」
それは素朴なる疑問。
至極もっともともいえるプレセアのつぶやきに。
「そ、そうだよ。ロイドとミトスは……」
そこにユアンのことがすっかり抜け落ちているのは友達である二人を心配しすぎているゆえか。
「…みてください。ロイドさんの手の甲の……」
淡い輝きに包まれる彼らをしばし見ていた彼らだが、
ふとセレスがロイドがミトスと重ね合わせているほうの手。
その手の甲にとある石が淡く輝きを増しているのにふと気づく。
――困った人ね。いつまでも子供で。
ふわり、とした声がどこともなく響きわたる。
「…え?」
思わずその声に困惑した声をあげるリフィル達。
この声には覚えがある。
あの封印の中で、確かに聞こえたこの声は。
それとともに、ロイドの手の甲につけられているエクスフィアがかがやきをまし、
その輝きはやがて一人の女性の姿を形つくる。
「「おまえは…っ」」
その姿をみとめ驚愕した声をあげるミトスとユアン。
ユアンの声にはあからさに驚愕した声が含まれているだけではあるが、
ミトスのほうにはどこか恨みがましいような感情も含まれているのがみてとれる。
それはこの場にはいないはずの第三者の姿。
その姿が透けて背後がみえているとか、どうみても生きている人ではない。
ということは除くとしても。
ふわりとした淡い栗色の髪。
肩よりも少し伸ばされた程度の髪と、透き通るまでの青い瞳。
どことなく儚げで、それでいて温和な感じをうける女性の姿。
「クラトスをたぶらかしたアンナ・アーヴィング!何しにあらわれた!」
その女性にむけ、ミトスが吐き捨てるように言い放つ。
今、彼女にかまっているときではないのに。
少しでも気をぬけば、クラトスは間違いなく本当に死んでしまう、というのに。
なのにこの女性は。
なぜロイドのエクスフィアの中でおとなしくしていないのか。
――ロイド、私の愛しい子…そしてあの人が大切に愛したあなたも。
このままではあなたたちが犠牲になってしまうわ。
限界以上にマナを注ぎこんでいけばまちがいなく二人は命を落とす。
ミトスのほうはクルシスの輝石といわれている”王”の加護をうけた石があるゆえに、
完全に死ということはないのかもしれないが。
それでも。
――私が封じていた枷はこの子自身の手によって壊されてしまった。
私はこれ以上、この子の力を封じていることはできない。
もう、時間は残されていないわ。でも私には最後の力がある。
その力で、クラトス、そしてあなたたちに……
そんなミトスやロイド、そしてその場にいるほとんどのものの驚愕。
そんな彼らの態度に気づいているのかいないのか、
優しい、それでいてどこか憂いをこめた笑みを浮かべつつ、
儚げにそんなことをいきなりその現れた女性はいってくる。
「…母…さん?何をいって……」
――ロイド。あなたはつよいこ。私がいなくなってもあなたなら……
「どうい……」
――その力、穢れなき澄み渡りながるる……
ロイドがいいかけるよりも先に、その目をとじ、腕を胸の前でくみ、
そのままクラトスの上にふわり、と浮かぶようにして突如として何やら詠唱をはじめだす。
「!その呪文は!?まさか、肉体もないのにその呪文を唱えるつもりか!?
今のお前はどうみても魂だけの存在!そんな中で自らを犠牲にする回復術など!」
その詠唱の意味を悟り、
思わずはっとした表情で浮いている女性…アンナにと声をあらげるユアン。
アンナ・アーヴィング。
ロイドの母親にしてクラトスの妻であり、そしてまた、
エンジェルス計画の被験者であり、ロイドのエクスフィアの中に封じられしヒトの魂。
本当ならばあなたが大人になるまで、この力は封印していたかった…
いや、それ以上に、ヒトとしてずっと生涯を全うさせたかった。
が、ロイドは力をもとめた。
自分の封印の枷すら吹き飛ばすほどに。
そして自分にはもう時間は残されていない。
自分が宿りし精霊石たちも近いうちに孵化することに確実になる。
それでもまだしないのは。
自分を気遣って、そしてまたロイドを気遣ってくれているからだと理解している。
これ以上、彼らを【王】の命令に違反しているのでは。
という思いにとらわれてほしくない。
そして、きえゆくしかない自分にできること。
それは魂そのものをかけ、クラトスを、愛する人たちを助けること。
――魂の輪廻に踏み入ることを許し給え…リヴァヴィウサー
詠唱がおわり、決定打ともいえる力ある言葉が解き放たれる。
――どうか彼らをお願いします
力ある言葉とともに、アンナ、とよばれし女性の姿が突如として輝きにつつまれる。
そしてその輝きは彼女の全身をつつみこみ、
やがてそれはただの光の塊となりて、そのまま一気にはじけとぶ。
その光はきらきらとかがやき、クラトス、ロイド、そしてミトスの中へと吸い込まれてゆく。
「何が…母さん!?」
はっとしてロイドが自らの手をみてみれば、
母であるアンナの姿同様、ロイドの手につけていたはずのエクスフィア。
それもまたキラキラとした光とともに、ゆっくりとまるで虚空にとけるようにときえてゆく。
アンナが消えたことにより、アンナの願いによって、また約束によりとどまっていた微精霊達。
かれらもまた解き放たれ、王の命のままにその身を孵化させ、
大気にと還ったにすぎないのだが。
当然そんなことにはロイドは気づかない。
――ロイド。私の愛しい子供。どうか幸せに……
――あなた……
どこでもない、真っ白な空間。
このまま自分はこのまま死ぬのだろう。
それでいい、とおもっていた。
ユアン達が尽力をつくしてくれていても。
ロイドもミトスもどちらも選べない自分はこのまま死んでしまったほうが。
あの子たちのためにもなる。
そうおもっていたその矢先。
忘れようにもわすられない声がクラトスの心に響く。
「アンナ…なのか?」
「…ええ。ここはあなたの心の中。あなたはまだ死ぬべきではないわ。
あの子たちにはまだあなたが必要。
そしてあなたが死ぬことはあのかたも望まれていない」
懐かしき声が心に響いたとおもえば、真っ白な空間に忘れようにも忘れられない一人の女性。
そんな彼女の姿が一瞬のうちにと形成される。
この場所はクラトスの心の中の空間。
深層心理にある空間といってもよい。
「アンナ…私は……」
「何もいわないで。あなた。ロイドは私の封印を解いてしまった。
同じ封印は二度とかけられないわ。あの子が生まれたときからわかってた。
あの子のもつ力は……」
「アンナ、それは……」
クラトスにも知らされていなかった真実。
何かいいかけるクラトスの口元をそっとその指でおしとどめ、
「私にもはう時間が残されていない。けどこの魂のこの命。
あなたたちのために、この命をかけるわ。
私にとってもあなたが大切におもっていたあの子のことは大切だもの」
旅の最中、いつもきかされていた。
勇者ミトスのかつての様子は。
そしてそんなミトスをクラトスが尊敬していた、ということは。
どうしてかわってしまったのか、と嘆いていたのもしっている。
「アンナ、お前、いったい、何を……」
妻が何をいっているのか、クラトスには理解できない。
「クラトス。あなたは生きてあの子たちのそばにいてあげて。
あの子たちには父親が必要、なのよ」
「どうい…」
――その力、穢れなき澄み渡りながるる……
言いかけたクラトスの耳にどこからともなく、
目の前にアンナがいるというのに、同じくアンナの声が虚空から響くようにと聞こえてくる。
この、呪文は。
この詠唱の意味は。
「アンナ!?お前、まさかっ!!!!!!」
「クラトス、私が愛したたったひとりのあなた…あなたは、いきて…
あの子たちのためにも、そして私のためにも…」
「アンナ、まて!はやまる…っ」
早まるな!
そういいかけたクラトスだが、だが、そんなクラトスの叫びよりも早く。
――魂の輪廻に踏み入ることを許し給え…リヴァヴィウサー
「アンナァ!!!!!!」
無常にもアンナの詠唱は完了する。
それは自身を生贄とし、敵全体を攻撃・味方を回復する天使術。
だが、時として完全に死したる人物を自分を変わりにすることより、
現世に引き戻す効果ももっている。
それはレイズ・デッドとはまた異なり確実に百%の制度を誇りし蘇生術。
手を伸ばすクラトスの前で微笑むアンナの姿は光につつまれ掻き消えてゆく。
「母さぁぁん!!!!」
「…う……」
ロイドが叫ぶとほぼ同時。
それまでまったく息すらしていなかったクラトスがうめき声をあげ、その目をゆっくりと開いてゆく。
その瞳からは一筋の涙と、そして
「…アンナ……」
小さく大切な愛する名のものをつぶやくクラトス。
自分の命が愛する妻によりよみがえらせられたことを、クラトスは理解せざるをえない。
否、理解してしまったがゆえに。
「…また、私は死にぞこなったのだな…また彼女を犠牲にして……」
つうっとクラトスの瞳から涙が一筋流れ落ちる。
「…彼女の気持ちを無駄にするな。
あいつは自分の存在の消滅をもかけてお前を助けようとしたのだ」
ユアンとて何がおこったのか理解した。
否、理解できたがゆえにそういうしかできない。
先ほどまで息すらしていなかったクラトスだが、
今では確実にその顔に生気がもどってきているのがうかがえる。
「これは……」
クラトスが助かったことにほっとしつつも、それ以上に自らの中でかけていたはずの魂。
その力がある程度補充されていることに気づいたミトスが驚愕の声をあげる。
クラトスを助けるだけではなく、彼女は自分にもその魂を分け与えてきた、
とでもいうのだろうか。
クラトスを自分から裏切らせることになった最大の原因のあの人間が。
なぜ。
「…アンナを犠牲にして、また私は…」
「確かに生きるということは地獄の苦しみかもしれぬ。
だが、われらはそれを受け入れなければ。違うか?クラトス」
「そう…だな」
ユアンにいわれ、クラトスは静かに目をつむる。
体の中に感じる確かな妻の魂の痕跡。
それが自分が妻によって生かされたのだ、と嫌でも実感させられる。
「……馬鹿馬鹿しい」
どうして自分を恨んでいたとわかっている自分にまでその魂のかけらを。
でも実際、他者の魂とはいえ欠片が補充されたことにより、
かつてよりその力が充実しているのがミトスとしても嫌でもわかる。
命をかけて家族を守りたい、守ろうとしたその姿勢。
それがたとえ魂になっても。
その気持ちは理解できる。
できてしまう。
以前の自分ならばまちがいなく馬鹿馬鹿しいと本気で切り捨てていたはずの感情。
クラトスの脈を確認し、ほっとした表情を一瞬うかべ、
そのまますくっとたちあがる。
結局、クラトスは命をかけても自分の実の息子を選んだということなのか。
永い時間ともにいた自分よりも息子のほうが。
そしてそんな息子を産んだ女はなぜか自分に魂の欠片を勝手に押し付けてきえた。
魂だけの存在となりてあの術を唱えた場合どうなるのか。
それはミトスにはわからない。
かつていわれていたのは、魂自体が完全に消滅するのではないか、ということ。
それを確認したものは実際にはいない。
「!ミトス、あんた、何をする気…っ」
どこか生気が抜けたような表情をし、ほとんど無表情、
とでもいってもよい表情に変化したかとおもうと、
そのままふらり、とその場からたちあがり、
それまで収めていたエターナルソードを無言のままにと抜き放つ。
クラトスが目覚めたのをうけ、リフィル達三人もまた回復術をかける手をとめているが、
そんなミトスの表情にはっとした表情をうかべ思わずみがまえる。
今、何がおこったのか。
リフィル達とて理解が完全にできていない。
いきなりロイドの母とおもわれる人物が現れたとおもうと、
次の瞬間には光となってはじけるようにきえてしまったのだから。
クラトスは結局、ロイドを選んだ。
あの女がどうして自分にも力を分け与えたのかなんて、そんなの思いたくもない。
おそらくはクラトスが自分のことを彼女にもかたっていたから、なんて。
そんなの認めてしまえばずっと彼女を恨んでいた自分がバカらしくもおもえてしまう。
そもそもクラトスは彼女とであったから外にでたわけてはない。
外にでてから彼女と出会った。
まあ彼女と出会ったからこそ戻ってくる確率がなくなったといってもよかったあの当時。
ハイエクスフィアの実験体。
クラトスはクラトスなりに自分たちクルシスが何をしようとしているのか。
自分の目で見極めようとしたのかもしれない。
その結果、あのアンナという女性とであってしまった。
それをミトスが認めたくなかっただけで。
それはミトスもわかっている。
わかっていても感情が追い付いていかないのもまた事実で。
「――古の契約に従いて、エターナルソード…
いや、レイン・ゼグントゥス!世界をあるべき姿にもどせ!!」
そのままゆらり、とたちあがり、いまだに薄く輝きをみせている石版にと、
手にした虹色の剣をそのまま思いっきりうちたてる。
『な!?』
「ほぅ」
その行動に驚愕したような声をあげるロイドやクラトスたち。
唯一、驚愕した声でなく、そう選んだか、というような声をだしているエミル。
ミトスが石版に剣を突き立てるとほぼ同時。
石版がまばゆいばかりに輝きをみせ、
そ輝きは金色の輝きとなり、瞬く間にと世界中…否、惑星上にと広がってゆく。
突如として視界すべてが金色の輝きにと包まれる。
目の前にあらわれた大量の天使とおもわしき天の御使い。
そして発生してゆく異形の何か。
人々はそれが【幻魔】とよばれしものであること。
人々の負が実体化したものである、ということを知らない。
魔物のような、人々に危害を加える何か、という認識でしかない。
今はまだ。
光は世界すべて、否、惑星すべてを包み込み、
離れてゆく彗星のかわりに、空に新たな金色の、
しかも虹色のオーロラが突如として現れる。
光はうねりをみせ、やがてそれはさらにまばゆい光とともに、
次の瞬間。
惑星の外からみれば目に見てわかるかのように、
真っ青な一つの惑星が、本来のあるべき姿の惑星に契約のもともどりゆく。
ゴ…ゴゴゴゴッ。
まばゆいばかりに輝く視界を覆い尽くす金色の光。
それとともに嫌でも感じられる地響きのような音のような何か。
「な…何がおこって……」
あまりのまぶしさにロイド達は一瞬目をとじていたが、
次の瞬間、ロイド達は唖然とせざるを得なくなる。
立っていることすらままならないほどの地響き。
そして、それとともに。
―――あはははははっっっっっっっっっっっっ!!!
甲高い、女性のような高らかな笑い声がどこからともなく響き渡ってくる。
「みて!あれっ!!」
「ありゃ、なんだい!?」
はっとしたようにコレットが救いの塔がかつてあった場所。
いまだに歪なる大樹もどきが生えているはずの方向をみて思わず声をあらげるのをうけ、
そちらに視線をむけたしいなもまた、あるいみ絶句せざるを得なくなる。
救いの塔は完全に壊れてしまった。
そこにあるのはどこかまがまがしさを感じる巨大な大樹…のはず、だったのに。
その大樹がうねうねとうごき、まるで樹でできたような巨大な塔もどき。
そのように変化していっているようにみえるのはこれいかに。
しかもその塔からはかなり離れていてもかなりのまがまがしさを感じてしまう。
――ああ、ようやく、ようやく外にでれた!
忌々しいきれいごとしかいわないマーテルはすでに我がうち!あははははっ!
それはまるで狂ったような女性の声。
――我が眷属たる【幻魔】たちよ!地上にはびこる負を糧とし我が力となすがいい!
愚かな人間たちよ!お前たちは自分たち自身の負の力で自滅していくといい!
あはは!!!マーテルが”樹”の中にいるかぎり、これが枯れることはない。
マーテルが守ろうとするかぎり、世界に負はより満たされる!あはははは!
それはすべての命あるもの…特に知的生命体といわれしものたち。
そんな彼らの脳裏に直接響くような甲高い、それでいてどこか不気味さをも併せ持った声。
――われを神とあがめしものたちよ!この惑星にのこりしものたちよ!
今こそわれの名のもとにその力を集うがいい!あ~はっはっはっ!!
「・・・・・ウティス トゥンムティウイムンド エムド ウス グロン」
その光景をみて思わずぽつり、と溜息まじりにつぶやくエミル。
否、その口調はラタトスクのものといってもさしつかえがない。
一瞬、その瞳を真紅にし、おもいっきりこめかみに手をあててつぶやいていたりする。
自分たち精霊は嘘はつけない。
それは演技にしろ、必ずどこかでウソという前提があれば歪みが生じる。
が、精霊ではない別のものたち、いうまでもなくセンチュリオンやその配下のものたち。
彼らはそんな理は当然のことながらもっていない。
たしかに任せる、とはいった。
いいはしたが。
どこぞのかつての時間軸できいたとある戦隊もののようなノリと雰囲気で、
まさかこうまで世界中の人々に【託宣】をするなどとは。
「…あいつはめったに使うことがなかったからな……」
まあ、魔族達が活性化しかねないというのでほとんど表にださなかった。
というのも理由なのだろう。
だが、それでもすこしばかり乗りすぎてはないだろうか。
そうおもうラタトスクはおそらく間違ってはいないであろう。
まあ、これが人を試すための演技というかためしであるということはいうつもりはないが。
そんなエミルのつぶやきは立っていることすらままならない地響きと、
救いの塔のありえない変化に戸惑っているロイド達の耳には届いていない。
――愚かなる人間たち!お前たちは先祖を同じとする同じヒト同士で争い、
そしてそのまま自滅してゆくがいい!
この世界にとってお前たちヒトは害虫以外の何ものでもないのだからな!あはははは!
「な、なんだ、何がおこって……」
何がおこっているのかロイド達には理解不能。
「マーテル…まさか、姉様…?」
そしてまた、その声をきき顔色を少しばかりかえているミトス。
その高笑いともとらえられるその声はあきらかに世界中にと響き渡り、
そしてその声は掻き消えるようにときえてゆく。
それとともに、ごろごろとした黒い雲が発生し、異形と完全に化した元大樹もどき。
その周囲全体を瞬く間に包み込み、あっという間に暗黒空間へと変化させてゆく。
その変化とほぼ同時。
この場にある石版が金色の輝きをまし、その光はやがてはじけるようにと周囲に霧散する。
それはまるで光の柱。
石版より金色の光の柱が立ち上り、八色の輝きがその場に集ったかとおもうと、
次の瞬間。
石版の頭上に美丈夫、ともとらえられる多少筋肉質の、
腕が四本ある男性のような何かが突如としてあらわれる。
一対の腕は胸の前でくまれ、
もう一対の手はつよく握り締められ握りこぶしをつくりだしているのがうかがえる。
そしてその現れた人影はかるくエミルのほうに視線をむけ、
目を閉じ一例したのち、そのまま目の前にいる人間たちにと向き直り、
「資格なき人間たちよ。何ゆえに私の前にその姿をあらわした?
私はすべてに失望している。お前たちもまた私を失望させるために現れたのか?」
淡々とそういうその声にはあまり感情は含まれていない。
むしろ人に対する絶対的な拒絶、という感じがうかがえる。
「まさか…精霊…オリジン、なのかい?」
伝説にある精霊の王。
天と地とヒトの源流ともいわれ、命数を把握せす王威、ともいわれている精霊の王。
実際のところは彼もまたラタトスクの子供の一人の精霊でしかないのだが。
ほとんどのものには精霊ラタトスクの存在そのものは隠されているといってよい。
そのあまりにも強い強大な力ゆえに。
オリジンが精霊の王であるならば、ラタトスクはすべての命あるものの王。
すべてを生み出し創り出し、そして混沌へと還す存在。
その姿をみて思わず唖然とした声をだすしいな。
契約の言葉を紡いだわけではない。
確か今、クラトスが封印とかいうのを解放した、というのは理屈では理解している。
しかしこちらから何の行動もしていないのに相手のほうから姿を現すなど。
「オリジン…だって?まさか…おまえはミトスとの契約に縛られていないのか?」
それはロイドとしての素朴なる疑問。
先ほどの母の衝撃…何がどうなったのか。
ロイドにはよくわからない。
ただわかるのは、手につけていたはずのエクスフィアが消えてしまったということと。
体の中に何か暖かな力が今までなかったのに満ちている、ということ。
そして、この石版の上にあらわれた浮いている男性のような何かがオリジンだとするならば。
オリジン解放のためのクラトスの死、という事態をどうにか免れたということに他ならない。
「…われの解放とともにミトスとの契約は破棄された」
それは封印される直前、オリジンがミトスにかけた制約。
「抗うつもりならお前ももうすこし当時あらがえ、まったく。
おかげでこんな面倒な世界になってしまっていただろうが」
「…申し訳ございません」
そういうオリジンに対し、思わずそういうラタトスクは間違っていないだろう。
そもそも封じられるにあたり、自分の封印の解除とともに、契約を破棄できるようにしなければ、
エターナルソードを取り上げる、とおどしたオリジンもオリジンだとはおもうのだが。
それをオリジンから聞いたとき、ラタトスクとしては呆れざるをえなかった。
そこまでする余裕があったのならどうしてもっとあらがおうとしなかったのだ、と。
せめてミトスを説得するなり何なりすればよかったのに、と。
溜息とともにそんなオリジンにと言い放つ。
「エミ…ル?」
さっきも感じたがエミルの雰囲気が、何か。
その変化にマルタは戸惑いを隠しきれない。
「われはもはや何ヒトたりともわれとわれそのもの行使できぬものとしれ。
私はヒトに絶望している。ヒトは愚かでしかない。
我が希望を見出したミトスですらわれらを道具扱いするような愚かな人には、な」
「…オリジン…それは……」
オリジンの言葉にミトスは何もいえない。
いえるはずがない。
そもそもオリジンたち精霊の意見もきかず、封印を選んだのはほかならぬミトス自身。
「父上の意見がなければわれがお前に裁きを、といいたいところではあるが。
しかし、すでにその必要はなくなった。お前たちヒトには新たな試練が下された。
かの現れしものは、お前たちヒトの心がもつ負の結晶。
お前たちの心が悪意で満たされているかぎり、
お前たちはお前たち自身でその身を破滅に追いやるであろう」
いいつつも、握りこぶしをつくっていた片方の手で、
すっとまかまがしい塔と化した巨大な樹もどきの方向を指さすオリジン。
『破滅って…』
その言葉にロイドを含めたほとんどのものが絶句せざるをえない。
もっとも当然のことながらエミルはその中にははいっていない。
そしてまた。
「…そう、これがかつてラタトスクがいっていた試練、なんだね」
ぎゅっと手を握り締めるかできないミトス。
「そもそも、あの実りにマーテルの魂が入り込んだ時点で種子に歪みは生じている。
穢れがたまると聡明であったお前ならばわかったはずなのだがな。ミトスよ。
我らは契約ゆえにお前を止めることはできなんだが。
しかし今、すべての精霊達とお前との契約は破棄された。
かの御方との盟約はいまだに継続中のようではあるが…しかし」
「……ウティ トェオスティ アエウド
ヂムッティ セヤ ティアン ンズワンススウヌン ティアウムグ?」
このまま放っておいたらいらないことまで言い出しかねない。
ゆえに、あらためていらないことをいうなといっていたはずだが?
という意味をこめてオリジンをにらみつける。
そんな主でもあるラタトスクの視線をうけ、少し目を伏せたのち、
「――バウティア アウス スティエティントゥンムティ」
あきらかにどうみても敬意の念をもってうやうやしく頭をさげ、
その手を胸の前にあてあきらかに敬意をもって行動してくるオリジンの姿。
そしてその瞳を再びあけたのち、
「ヒトはかわらない。われらが封じられていた四千年の時を得てもなお。
このままヒトは滅びを迎えるか、それともそのまま生きられるか。
ミトス、お前はかつてヒトの存続を願った。しかしヒトはかわらない。
お前があちら側にかわってしまったように、ヒトはよい方向にかわりはしなかった」
あのミトスならば、という思いはオリジン達にもあった。
だからこそ、自分たちの真なる王の存在を彼にも示唆し道を示した。
「所詮、かの地に移住していたものの子孫はその過ちを振り返ることなく、
再び過ちの道を選び、世界にとっての害虫の道を選んだにすぎぬ。
我らは二度とヒトには手を貸さぬ。それを心せよ」
オリジンの言葉とともに、その周囲に八つ…正確には九つの光が突如として浮かび、
それはまたたくまにそれぞれの形を形成する。
「あ、あんたたち!?」
それはしいなが契約している精霊達。
四大精霊ともいわれている水のウンディーネ、火のイフリート、風のシルフ、土のノーム。
そして、雷のヴォルト、氷のセルシウス、光のアスカ、月のルナ、闇のシャドウ。
そして四属性の長といわれている元素の精霊オリジン。
計、十つの姿がオリジンと思われし周囲に突如としてうかびあがる。
「契約の資格をもちしものよ。あなたとの契約は果たされました。
かつての契約者、ミトスの手によりて世界は元の姿をとりもどしました。
これにより、二つに分けられていた世界は一つの世界となりゆきました」
現れた精霊を代表してか、すっと前にとでてくるように月の精霊ルナが言い放つ。
「われとの契約の誓い。それは
【二つの世界がお互いを犠牲にしなくてもいい世界をつくるために。
イフリート、その力をかしてくれ】であったな。
今、このときをもってして二つにわかたれた世界のありよう。
マナを交互に使用するという世界のありようは元の姿にもどりゆいた」
「私と交わした契約。それは世界を一つに統合するそのときまで、という約束でしたはず」
――ミトスは世界を一つに戻す。というその約束すらたがえています。
では、新たな契約者。しいな。あなたにその約束を移行します。
あなたの誓約の誓い、それは世界を一つに統合するそのときまで……
「…あ…」
ふとしいなの脳裏にかつてウンディーネと交わしたやり取りが思いだされる。
イフリート、ウンディーネがそんなルナにつづいて言い放つ。
彼らは契約のときに、たしかにしいなとそのようなやり取りを交わしている。
そしてそれが契約の誓い、ともして誓われている。
それとともに、しいなはこれまでの契約を思い出す。
ウンディーネ、イフリート、シルフ、そしてネームにルナ、それにヴォルト。
セルシウスに関しても
しいなは必ず、その契約の誓いに【二つの世界】という言葉を入れていた。
そして、今、まさにミトスがほんとに世界を一つ統合した、というのならば。
否、間違いなくしたのであろう。
精霊はウソをつけない。
それはしいながよく知っている。
皆が住む二つの世界を助けてあげたい。
そのような趣旨のことをたしかにしいなは精霊の誓い、としてあげていた。
そして今。
世界が統合されたことにより、マナを搾取しあう関係がなくなった、というのであれば。
それすなわち、契約の誓いが果たされた、ということに他ならない。
「われらは今後、直接あなたたちに姿を見せることはないでしょう」
「どういう…まってくれ。あんたたちはこの現状を何ともおもわないのか!?」
先ほどの母親の衝撃からまだ完全に立ち直っていないのに。
ここで精霊達にまであるいみ見放されるというかその力が借りれなくなると。
そうおもってこその、あるいみ他力本願ともいえる、
しかし当人はまったく自覚していないがゆえのロイドの叫び。
「今からおこることにわれらは関係ありません」
「かのものの力の源は、ヒトの負の思念。
人が互いを互いに認めず、そして争う限り、かの力はつづくでしょう。
そして歪なる形で発芽してしまった大いなる実りもまた
世界に無尽蔵に植物の成長促進を促すでしょう。そこに何の問題が?」
精霊達からしてみれば、別にさほど問題はない。
というよりすでに【王】が決定している以上、それに従うのみ。
それに、彼らは【かの地】のヒトの行いを目にしている。
いるがゆえに、ヒト、というものがたしかに【王】のいうように、
完全に信じられない、というのも自覚している。
そして自分たちの力をミトスのときのように悪用されかねない、とも。
ミトスのときはまだいい。
いやあまりよくはないが。
精霊炉に自分たちの力を封じ、世界をどうこうするため…あるいみどうこうするため、
ではあったが、とにかく勢力争いや他者の命を奪ったりすること。
それらに精霊達の力を使用することはまずありえなかった。
その力をすべて姉マーテルの復活に注ぎ込んでいた以外は。
「そんな…じゃあ、あんたたちは世界がこのまま、
誰かが疎んじられているままの世界でいいっていうのかよ!」
世界が一つになったことにより、たしかにマナの搾取はなくなったかもしれない。
が、今、地上には別の要因もある。
空からおりてきているらしき大量の天使たち。
そんなロイドにむけ冷めたきった視線をむけつつも、
「それは、自らと違う生き物を認められないヒトという生き物の弱さから発生する事柄だろう」
「かつて、ミトスはいいました。ヒトの起こせしことはヒトの手で。
あなたはそんな人の愚かなやり取りに対してまで私たちの力を必要とするのですか?
なげかわしい」
冷めきったようなシルフの二女からの言葉がロイドにと突きつけられる。
ユーティスからしてみればどこか他力本願、
しかも自分たち精霊の力を頼っていたようなそんなロイドの発言にあきれざるを得ない。
おそらくこの少年は無意識でいっているのだろう。
だからといって無意識、自覚していないからいい、というわけではない。
本来、精霊とはめったとヒトに直接かかわりをもたない…特に上級精霊に関しては。
にもかかわらず、協力してもらえてあたりまえ。
その態度がユーティスからは許せない。
かつて、その態度に負け、ミトス裏切られたという経験があるからこそ余計に。
「でもっ」
でも、精霊達の力がつかえない、協力を得られない。
そのことにロイドはとてつもない不安を感じてしまう。
「それに、ヒトはそこまで愚かじゃないっ!」
そんなロイドの台詞をうけ、
「それは何も知らぬからいえることであるな。
どの種族にも属さぬ真実の意味での狭間なるものよ」
オリジンの言葉にむっとしたように、
「その狭間のものとか何とかいうのはよくわからねえけど。
けど、これだけはいえる!誰だって生まれた瞬間から生きる権利がある。
ヒトもエルフもドワーフも精霊も、皆自分であるっていうだけで、
生きている価値があるはずだ!」
それはロイド自身にも向けている言葉。
狭間のもの、どの種族にも属していない、といわれてもロイドにはピンとこない。
というか意味がよくわかっていない。
その言葉をきき、
リフィルとジーニアスが意味を理解しあきらかに顔色を変えていることにすら気づかない。
「その台詞はかつてのそこにいるミトスからもきいた。
ヒトも魔物も精霊も、エルフもハーフエルフも。
すべての生きとし生けるものが等しく生きていける世界。
が、実際はどうだ?ミトス・ユグドラシル。お前がだした結論は?」
「・・・・・・・・・・・」
ミトスはそんなオリジンの質問に答えられない。
答えられるはずがない。
クラトスのこともあり、そして何よりも、これ以上ラタトスクとの約束。
それを裏切りたくなくて、世界を一つもどしただけ。
人に対しての絶望にも近しい感情はそのままミトスの心にと残っている。
ヒトは救われない。
たとえ一部のものがそうでないとしても。
必ずどこかで間違いを起こす。
そう断言できてしまうほどに、ミトスはこれまでヒトというものを見すぎている。
四千年、という年月は伊達ではない。
「かつて私や他のものたちもミトスのその理想に共鳴した。
だからこそあの御方のこともミトスに教えた。しかし結果はどうだ?
けっきょく、かの御方がいっていたようにヒトとは救われなかったであろう?
言われていたはずだ。ヒトは必ず裏切りをみせる、とな」
「っ」
確かにいわれていた。
いたがゆえにミトスはただぎゅっと手を握り締めるしかできない。
そんなことはない、と言い切っていた当時の自分。
今の自分はかつてのように、精霊オリジンの言葉を否定できない。
「そんなことはない!」
しかしそんなミトスにかわり、ロイドが聞かれてもいないのに否定の言葉を紡ぎだす。
「ヒトはたしかに間違うかもしれない!
けど、生きているかぎり間違いを正すことだってできるはずだ!」
「取り返しのつかぬこともあるがな。しかしそこまでいうならば、
お前たちに見極める猶予をやろう。かの地で行われていること。
お前たちその自身の目で耳で、そして経験し、ヒトとはどこまで愚かでしかないのか。
それを十分に理解してなお、まだそのような戯言がいえるのか」
そんなロイドに呆れたように淡々といいはなつ。
そんなオリジンにとかわり、
「そうじゃのぉ。お前たち、特にロイドとかいったかの?
おぬしはヒトの裏をしらなさすぎる。
そこのミトス坊はそれらを目の当たりにしてもなお前に進んでいこうとしたがな。
しかも自分たちの力のみでわれらの力は魔族達がかかわったときのみに使用するのみで」
それだけですでにロイドはミトス負けている。
そもそもミトスは彼ら精霊の力はどうにもならない時以外には使用することはなかった。
たとえばハーフエルフたちを保護するために、大陸をうかせたりとか、
魔族が進行し、人々をかの侵攻から守ったりする時以外は。
人との争いに精霊達の力を用いることはまずなかったといってよい。
ちらり、とその視線をミトスにむけ、
いつのまにか現れていたらしきマクスウェルが、
オリジンの真横にふわふわとうかびつつ、
その真っ白いひげをいくどもさわりつつもさらり、と言い放つ。
「人の…裏?」
その裏という言葉でロイドの脳裏に浮かんだのはかつてのパルマコスタのドア総督の姿。
そして、魔物の卵を奪い、魔物たちにおわれていた盗賊らしき男たちの姿。
そして、実のところディザイアンたちと通じていたという、イセリアの村長。
「本当にお前のいう誰もが等しく生きられる世界。それが可能かどうか。
今、現在ヒトの手によって行われている現実をみてもまだそのようなことがいえるのか?
いっておくが、われらは手を貸さぬ。今後おこることはお前たちにかせられた試練。
ゆえに手はかせぬ」
「それは、どういう……」
オリジン達のいっていることが、いまだにロイドには理解ができない。
しかし、かの地で、という言葉でミトスは思い当たるところがあるのか、
すくなからずぎゅっとさらに手を握り締めている。
かの地で魔族が闊歩していることはつかんでいた。
けど、ミトスはそのまま放置していた。
あの地は今のところ隔離されたようになっているので実害はないゆえに。
「ヒトのだす負の力は私たちのような精霊にとって反物質にも近しい、
瘴気にも近しいものだからね~」
そんなロイドの戸惑いに気づいているのかいないのか。
さらっとした口調でいいきるフィアレス。
「センチュリオン様方ならばいざしらず。僕らごときじゃ耐えられないし」
「しいな。われらの契約者よ。あなたはかつて私たちにいいました。
無意味な犠牲を生み出す二つの世界をどうにかしたい。と。
しかし、現実は二つの世界に分かれていなくても、ヒトとは何をしているのか。
あなたも知る必要があるでしょう」
「どういう……」
セルシウスから紡がれた言葉に思わずしいなも思わず突っ込む。
『――時は来たれり。汝らヒトはあるべく試練の地へ――』
それはこの場にいるオリジンとマクスウェルを含んだ、
この場に現れた精霊すべてから発せられし言葉。
『な…うわぁっ!?』
それとともに、ロイド達の体が光にとつつまれる。
「さて。と。お前たちは予定通りに」
ロイド達の姿がこの場よりきえさったことを確認し、改めて現れている精霊達にと声をかける。
「おまちください!ラタトスク様!よもやまだ彼らと行動をともにするおつもりですか!」
すでにミトスの手の中にあったエターナルソード。
それは世界を一つにした段階で、ミトスの手から消えている。
というかミトスとの契約が完了し、その所有権は消えてしまっている。
それゆえか、いつのまにかヒト型に具現化していたらしきゼクンドゥスが、
オリジン達の気持ちを代表してか突如として目の前の彼らの【真たる王】にと語り掛ける。
「前にもいったはずだな。ヒトを見極める必要がある、と。
彼らがあの地をみてどう反応するのか。近くでみるのも別に問題はないだろう」
「おおありです!かの地には魔族達もいるのですよ!?」
「所詮、雑魚でしかないやつらだがな。しかし問題はないだろう。
すでにかつての魔界であったニブルヘイム。
かの地にも新しい理を引き終えた。プルートに従わぬ魔族達は、
この試練によってその身を滅ぼし消滅するか、もしくはヒトの心の中にと潜むであろう」
結局のところ、ヒトの心がすべてを握っているといってもよい。
それでも、精霊達からしてみればたまったものではない。
さきほどのミトスとのやりとりで、まちがいなくクラトスとユアン。
かの二人には確実に目の前の少年の姿をしている御方が、
ラタトスク様であることはわかったはず。
彼らがどんなことをしてくるのか。
魔族達にしてもまたしかり。
というか愚かなるヒトがその正体をしり、何をしでかすか。
『そういう問題ではあまりせぬ!!』
ものの見事にこの場にいるすべての上位精霊達の台詞が一致する。
「大げさだな。とにかく、お前たちは予定通りに。
この地の理を引き終えればお前たちをかの地に移動させる。
――もともと、その予定ではあったのだからな」
その予定が少しばかり遅くなった…本来ならばとっくに実行されていたこと。
そしてかつてのときはできなかったこと。
精霊達のそんな心配をさらり、と却下し、そのまま手をかるくかざすとともに、
「――開け」
ただ、一言。
それとともに、エミルの体が瞬く間にと闇につつまれ、その場から突如として掻き消える。
『(父上)(母上)(お母様)ぁぁぁぁ!!』
あとに残されしは、何ともいえない精霊達の叫びのみ。
「ここ…は?」
「こりゃぁ、あれは…メルトキオ、か?」
暗闇に目が慣れるまで少し時間がかかりそう。
ゆっくりとではあるが、しかし確実に上空を覆い尽くしていた彗星。
それはだんだんと上昇しており、彼らは気が付いてはいなかったが、
すでに空が見える程度のあたりまで軌道は上昇していたりする。
彗星が上空に現れたのち、このように周囲が完全に暗闇と変化した。
などということは一度たりとてなかったのだが。
周囲は果てしなく薄暗い。
しかも、なぜか雪が降り積もっているのはこれいかに。
しかし暗闇の中とはいえ、特徴がある城は遠目からみてもみてとれる。
「あの光、なんだ?」
そして城らしきものがある方向。
その一部に光の壁のようなものがみてとれる。
まるで光の壁がドーム状になっており、市街地あたりを覆い尽くしているのがみてとれる。
この場がどこなのか。
先ほどまでいたトレントの森ではない、というのは明らか。
周囲の状況を把握するため、ふわりとその翼を展開し、
周囲を見渡していたゼロスの目にうつりしは、見覚えのある城の姿。
「…雪…か」
ちらちらと降り続く雪は、ゼロスにとって忌々しい記憶を呼び起こさせる。
ドーム型の光の壁のようなもの。
それ以上に町の方向からまがまがしい気配を感じるのはおそらくきのせいではない。
暗闇の中降り続く雪。
視界がすべて暗闇と雪で覆われている。
この様子ではここ数日ばかりずっと雪が降り続いているのであろう。
いや、下手をすればこの町に異変があったというころからなのかもしれない。
「…おりるか」
忌々しい記憶がよみがえる。
まだ、彼らとともにいたほうがまし。
町のみえる方向をじっと空に浮いてみていたゼロスだが、
ふっととある声をひろい、おもわずその視線を下にとむける。
「ここは、どこ、なのかしら?」
「ゼロスが確認してくるっていって空にあがったままだけど。
こう暗いとゼロスの姿までみえないよね」
「そう?これくらいの暗闇なら僕らは多少みえるけど」
周囲を見渡すかぎり、ここかどこかの森の中、というわけではない。
というのがみてとれる。
というか雪が降り積もっているということは、フラノール、なのだろうか。
でもそれは少しばかり違うようなきがする。
「おそらくは、フウジ大陸…だとおもうが」
少し先に町らしきものがあり、その町並みがどうみてもメルトキオっぽい。
「というか。ユアン達も一緒に移動してきてるのか?」
どうやらこの場に移動させられたのは自分たちだけ、ではなかったらしい。
あの場にいたユアンやクラトスまでどうやら一緒に移動してきている模様。
「でも、エミルがいないよ?」
マルタがきょろきょろと周囲を見渡しつつもいってくる。
もっとも、周囲を見渡してもほとんど視界は真っ暗で、一寸先すらもみえない状況。
「これって、前にルインにいったときと状況にてるね」
「そういやそうだな。あのときもこんなに真っ暗だったっけ?」
あのときはエミルが呼んだシムルグに乗って空での移動、だったが。
たしかにコレットのいうように、この暗さはあの時の暗さによく似ている。
一寸先、足元すらみえないほどの暗闇。
「あいにくブルーキャンドルはもう残ってないからねぇ」
こう暗くてはどうにもならない。
「荷物の中からカンテラを出すしかないわね。火打ち石で火はつけましょう。
ふつうの蝋燭だけならばたしかまだいくつかあったはずよ」
夜目がきく、といえエルフの血族の特徴がこういう時には役にたつ。
ごそごそと荷物をウィングパックより袋を取り出し、
その袋の中をごそごそその場にてはじめだすリフィルの姿。
「…あれ?」
気のせいか、一瞬、少し先の暗闇がより濃くなったような。
おもわず周囲をきょろきょろとしていたジーニアスが、思わず目をこする。
ジーニアスがごしごしと両目をこすっているそんな中。
「あ、いたいた。皆ここにいたんだ」
そんな彼らのもとに聞きなれた声がふと聞こえてくる。
「エミル!よかった!またはぐれちゃったのかとおもった!」
その声をきき、ぱっと明るい表情をうかべ、声のしたほうに走り出そうとするが、
「まて。この暗闇でむやみに歩き回るのは危険だ」
そんな走り出そうとするマルタの手をつかみ制しているユアンの姿。
「むぅ!ユアンさん、邪魔しないでよ!」
そんなユアンにマルタが文句をいっているそんな中。
「…何さわいでるの?マルタもユアンさんも?」
マルタが向かうよりも先にどうやらエミルのほうから近づいてきたらしい。
いつのまにか近くにきていたらしきエミルがそんな二人の姿をみつついってくる。
そんなエミルの姿をちらりと確認しつつも、カチカチと火打石をかちあわせ、
そして蝋燭に炎をつけ、カンテラをともしているリフィル。
そのまま火打石をきちんとしまい、念のため荷物をいれている袋はそのままに、
ウィングパックのみボケットの中にとしまい込む。
そのまま片手にてカンテラをもち周囲を照らしてみれば、
ようやくこの場にいる皆の顔がまともにみえるくらいの明かりが確保できる。
「エミル、ここはいったい、どこなの?」
「メルトキオの近く、のはずですよ?
オリジンが言ってたとおもいますけど。
ここでは今、魔族達が何かやってるらしいですよ?」
さらり、というような内容ではない。
『なっ?!』
そんなエミルの台詞に思わず同時に小さく叫ぶロイド達。
そしてまた。
「オリジン達がいっていた試練って、これも含まれてるの?あれじゃなくて?」
あれ、といいつつミトス…この場には当然のごとくミトスもまた転移してきていたりする。
「エミル…これまでにも幾度もきいたけど。改めてきくわ。
あなたは、いったい誰、なの?」
さらり、ととてつもない内容をいわれ、これまで幾度か触れてもごまかされていた。
しかしここまでくれば聞かないわけにはいかない。
「?僕は僕ですよ?リフィルさんたちがリフィルさんたちであるように。
まあ、まさか地上にでることになるなんて思ってもなかったのは事実ですけどね」
それは答えになっていない。
エミルがディセンダー、なのか。
それとも、あのときミトスがいっていた単語…エミル自身が精霊ラタトスクなのか。
その答えがリフィルとしては知りたかったのに。
彼らが会話していたのはまぎもない天使言語の元となったといわれている古代言語。
しかしあまりに流暢すぎて完全にその会話は聞き取れなかった。
かろうじていくつかの単語が聞き取れたのみ。
よもや時間を移動するとも思ってもいなかった。
もっとも外にでたのはミトスの真意を確かめたかったという意味合いは大きいが。
こうしてヒトの姿にて外にでることになるなんて。
テネブラエが自分をかつてコアの状態で保護し、そしてヴァンガードにとつかまり。
マルタの声をうけ、改めて目覚めたあのとき。
アクアが案内してきたのでなければあの人間たちもかの地に招き入れはしなかった。
「エミル、あなたは……」
地上に出ることになるなんて思わなかった。
ということは、まちがいなくエミルはヒト、ではないのであろう。
だからだろうか、かつてエミルはヒト常識といわれているであろう様々なこと。
それをほとんど知りはしなかった。
記憶喪失なのだ、とばかり当時は思っていたが……
「どうして僕らも……」
自分は彼を裏切っていただろうに。
でもそれを責めるでもない。
それが何となくミトスとしては居心地が悪い。
そんなミトスの心情に気づいたのかにやりと笑みを浮かべ、
「(かつてのわれとの盟約は形はどうあれ果たされた。
歪んだ形ではあるがな。かつていったもう一つのことを確認するためだ)」
その言葉は直接、ミトスの脳裏に叩き込まれる。
その言葉に思わず目を見開くミトス。
かつて彼から、ラタトスクから言われたこと。
それは…ヒトは存続させるにふさわしいか否か。
人は愚かだけではない、と当時散々懇願し、猶予をもらったその期間が過ぎたということなのだろう。
「ま、約束は約束だからね」
『?』
ミトスにのみ叩き込まれた言葉は当然他のものには聞こえていない。
ミトスの問いかけに答えになっていない答え。
約束は約束、という返事をかえすエミルに首をかしげるロイド達。
というか、エミルは何かミトスと約束をしていたのだろうか?
ロイドはそんなことを思うが、リフィルははっと目を見開く。
かつての封印の中で、あの中にいたミトスがいっていたことをふと思い出す。
大樹が復活したら一緒に地上を旅をしようとラタトスクと約束をしている。
そうあのミトスはいっていた。
そして…精霊はウソをつけない。
小さな約束でも必ずその約束は果たすはず。
じゃあ…やはり、このエミルが大樹の精霊…ラタトスク?
一人困惑するリフィルに対し、そんなリフィルの気持ちに気づいたのであろう。
「…リフィル。それを口にするでないぞ。特に他者に知られれば大混乱になる」
小さく、リフィルの真横にいつのまにか移動し、
リフィルにのみ聞こえるようにささやくようにつぶやくクラトス。
クラトスのその言葉はリフィルの考えを肯定しているようなもの。
「とりあえず、ゼロスさんも降りてくるみたいだし。町にいきません?」
いいつつ、町がある方向…ロイド達にはみえていないが。
かろうじて、ゼロスとコレット、そしてミトス、クラトス、ユアンにはみえている。
ロイドは首をかしげつつ、指をさされた方角をじっとみつめているが、
視界がなれたのか、もしくはその身に宿りし力が馴染んできたのか。
やがてうっすらとではあるが周囲の状況がロイドの目にもみえてくる。
そんな会話をしているさなか。
「っと。エミル君も合流ってか。やはりここはメルトキオの近くらしいぜ?
町で何かおこってるようだが、町にいくっきゃないとおもうけど、そこんとこどうよ?」
ふわり、と上空よりゆっくりと降り立ちつつも、
その場にいる全員を見渡し何でもないようにいってくるゼロスの姿。
「町にいくしかなかろう」
いつまでもこんな雪の中、外をうろうろしているわけにはいかない。
それに。
「魔族がかかわっているのならばほうってはおけぬしな」
ユアンに続き、クラトスもまた鷹揚にうなづきつつもいってくる。
たしかに。
本当に魔族がかかわっているのならばほうっておくことはできない。
まあ、エミルがいうのであるのだから間違いなくかかわっているのだろうが。
しかし、なぜだろう。
あまりよくない思いがするのは。
「お、町っぽいのがなんかみえてきた。とにかく、町にいくんだろ?いこうぜ!」
「あ、ロイド!だからまってよ!っていい加減に少しはおちついてよっ!!」
なぜか暗闇の中なのに見え始めた周囲の景色。
それがなぜなのか気にすることなく、ひとりずんずんと進み始めるロイド。
ロイドとしてもいつまでもこんな寒いところにいたくない。
町で何かおこっているのならば、早く町にたどり着きたいというのが本音。
思い立ったらすぐ行動するのはロイドのいいところでもあり悪いところでもある。
そのままひとり歩きはじめるロイドにと、ジーニアスかあわてて追いかけつつも言い放つ。
「…少しは落ち着きがあってもいいのではないのか?お前の息子は」
「……言い返せぬな……」
そんなロイドの姿をみて、ちらりとクラトスを見て溜息まじりにいうユアンに、
こちらもまた溜息を深くつきしみじみといっているクラトスの姿。
「…血はつながってるんだろうに…どうしてああも落ち着きがないのかな…
やっぱり、種族が特定されてないから、なのかな…」
一方、ぽつりとそんなことをつぶやいているミトス。
ぴくりと、種族が特定されていない、という言葉にリフィルが反応をみせているが、
そんなリフィルにミトスは気づいていない。
「とにかく、いきましょう。暗いから、皆、離れないようにね」
ともあれ、明かりはリフィルの手元にあるカンテラ一つ。
ゆえに、リフィルのもつカンテラを念のためにとクラトスに預け、
クラトス達を先頭に町にむけて歩き出す。
そんな歩き出した彼らをみつつ、
「――さて。お前たちヒトがどのような結論をだすのか。我は見届けるとするか」
ちいさくその背後にて少し立ち止まり、すこしばかり笑みをうかべひとりつぶやくエミルの姿。
その瞳はいうまでもなく真紅。
これは彼らへの試練であり、また最終確認。
彼らがヒトが行っている行動をみてどう回答をだすのか。
今、この地には自分たちはかかわっていない。
ヒトの思いが、考えが、かの地をあのようにしているといってよい。
「エミル!もう、何立ち止まってるの!いこ!」
「あ、うん。ごめんごめん。いこっか」
そんな背後で立ち止まっているというかついてこないエミルにきづき、
マルタがひとり道をもどりつつ、エミルの手を握っていってくる。
マルタが声をかけたときにはすでにエミルの瞳は緑にと変化しており、
雰囲気もいつものエミルのものへともどっている。
さっき、オリジンのところでみたエミル…あの雰囲気、気のせい、だよね?
エミルは…エミルだよね?
マルタの中に小さな不安が芽生えているが、マルタはそれから目をそらす。
それを認めてしまえばエミルが完全にどこかにいってしまいそうで。
~スキット~テセアラの町にはいる前。移動した直後~
ロイド「というか、本当に真っ暗だし」
エミル「というか。ミトス。服…血で染まってるけど、大丈夫?」
真っ白なミトスの服はロイドの攻撃によってもたらされた鮮血。
すでに怪我をした腕の傷はリフィル達の回復術によってふさぎってはいるが。
それによって染まった白い服はそのまま。
ジーニアス「そういえば。ロイドの服もぼろぼろ、だよね……」
ミトスのそれとは違い、ロイドの服はかなり切り刻まれている。
ミトス「…ラ…ううん。エミル…うん。平気だよ」
自分が裏切っていたのを知ったはずなのに。
気遣ってくれるこの心が何ともいえない。
今おもえばいつもエミルは自分を見守ってくれていたのだな。
今さらながらに実感してしまう。
ラタトスクとの約束を蔑ろにしてしまっていた、というのに。
ユアン「というか、何でお前がロイドに手傷をおわされたんだ?」
ミトス「…油断したんだよ」
ユアン「だろうな。おおかたオリジンの契約が途切れたのをうけ、その反動、か?」
ミトス「…まあ、ね」
クラトス「・・・・・・・・・・・・・(アンナ)・・・」
ミトス「まあ、血の汚れはどうにかなるし。
不浄なる穢れを取り払わん。 クリエイト・ウォッシャー」
パシャッン。
ミトスの言葉とともにミトスの体を一瞬水の球体が覆い尽くす。
それとともにミトスの体に汚れていた汚れ…いうまでもなく血液を含む、
それらが水に一瞬のうちに染みだし、はじけるようにそれらの水は地面にとこぼれおちる。
ロイド「うお!?それなんだ!?」
ユアン「?そうか。今では失われてしまったのだな。
かつてはこの術は簡単な洗濯方法として主流、だったのだが……」
リフィル「何だと!?そのような術があったのか!?」
ユアン「ああ。常に戦いにおいてしかし体を清潔にしていなければ、
そこからどんな病気になるやもしれぬ。それで生み出されたのが…」
クラトス「この術だ。水の浄化の力を利用している、ときく。
戦争が終結しこの術じたいも利用者が失われていっていたからな」
ジーニアス「そんな術があったんだ……」
ロイド「よくわかんねえけど、風呂にはいるようなもんか?」
ミトス「わざわざお風呂とか、水浴びする必要がないってことだよ」
エミル「あ~。そういえばそんなのもあったね」
しいな「汚れはおちても服の破れとかはもどらないだろ?でも?」
ミトス「それはしょうがないよ。ゼクンドゥスの力があれば、
服の時間を巻き戻して元通りにとでもできただろうけど」
ロイド・ジーニアス・しいな「「「時間を巻き戻すって……」」」
エミル「あの子の力は時間を司るものも含まれてるからね」
プレセア「あの子って……」
クラトス「しかし、たしかに。ロイドの服はぼろぼろだな。
このままでは風邪をひきかねない。私のマントでも……」
ゼロス「はいはい。親ばかはそこまでにして。ロイドくん、着替えもってただろ?」
ロイド「おう!何なら皆も着替えるか?先生、ウィングパックに預けてたあれ」
リフィル「はいはい」
いいつつ、ロイドの着替えのはいったケースを取り出す。
ぱかりと開いたケースの中身はもののみごとに同じ服ばかり。
一同『・・・・・・・・・・・』
ロイド「何なら皆も着替えるか?」
エミル「…何でもってきてる着替えまで全部同じ服、なわけ?」
ロイド「だって俺、私服これしかないし。親父が全部同じ服にしてくれたんだ!
これってかっこいいよな!」
ユアン「…クラトス。お前の息子の感性はどうなってる?」
クラトス「・・・私にきくな……」
コレット「うわぁ。ロイドと同じ服。私もきがえようかな」
プレセア「着替えるにしても着替えの場所がありません」
ロイド「真っ暗なんだから気にしなくてもいいんじゃないのか?」
ジーニアス「そういう問題じゃないよ!コレットは女の子なんだよ!」
ロイド「?」
ミトス「…ロイドって……」
リフィル「…頭がいたいわ……」
ロイド「皆も一緒に着替えるか?皆同じ服だとかっこいいし!」
一同『遠慮(します)(しておく)(する)(するよ)』
クラトス「…ロイドとペアルック……」
ミトス「…クラトス…何顔をすこしばかり赤らめてるのさ……」
ユアン「…はぁ。とにかく、いくぞ。
着替えるならそのあたりででもきがえてこい。まったく」
コレット「暗闇だし、わたしもきがえようかなぁ」
ロイド「おう!コレットもきがえるか?」
しいな「やめときな!というかコレット、あんたは女の子なんだよ!?」
エミル「…何で同じ服とかにしたがるのかなぁ……センチュリオン達もそうだけど」
断固として拒否したあの戦隊ものの服。
それを思い出し思わず遠い目をするエミルは…間違っては、いない。
まあ拒否しても結局ギルドの決定で着せられてしまったのではあるが。
その真実をしるものはこの場には…いない。
※魔術・クリエイト・ウォッシャー(オリジナル)
水属性に分類する魔術。
消費TPは2
体についた汚れをすべて取り除く作用がある。
しかし傷などをふさぐ効果はない。
水属性とはいえ体が濡れることはない。
汚れのみを細かな水の球体が吸い取ることにより体を清潔にする。
戦乱の世において重宝されていた簡易的なお風呂がわりの術のようなもの。
今では失われた術扱いとなっている。というか知っているものはほぼ皆無。
詠唱:不浄なる汚れをとりはらわん
※ ※ ※ ※
王都メルトキオ。
かつてはちょっとした大き目の大陸の中にとあり、
また大陸同士にてつながれた橋にて孤立状態にはなってはいなかった。
が、今現在のこの地は完全に独立しており、またいまだに海路も復興していない。
というかそれどころか大陸の位置がことごとく変化しており、
人々がそのことに気づくにはかなりの日数が必要となるであろう。
町がある大陸全体が漆黒の闇に包まれているがゆえ、
本来あったはずの巨大な橋などがなくなっている。
というよりその付近の大地の形すらことごとく変化している。
という事実に当然のことながら一部の者以外は気づいていない。
そもそも異変が起こってからのち、
この地の人々は町の外にでることすらままならなくなっている。
リフィルのもつカンテラの明かりと、そして暗闇でも目がきく一部の仲間たち。
そんな彼らの案内のもと足元にある街道らしき場所を進んでゆくことしばし。
やがてその街道のつくりが石造りのものとなり、
暗闇の中、ぼんやりと一部少しばかり明るくなっているような場所がみえてくる。
明るくなっているとはいえ暗闇が取り払われているわけではなく、
かろうじて少しばかりそこに何かがあるのでは?とおもわれる程度。
石造りの道をすすんでいけばやがて巨大な門構えがみえてくる。
白い壁にと囲まれているそここそが、目的地でもある王都メルトキオ。
「…おかしいわ。見張りも誰もいないなんて……」
この門の前にはとある一件以後、かならず兵士たちが駐在していたはずなのに。
いるはずの兵たちの姿がみあたらない。
「ね…姉さん、あれ……」
「あれは……」
門をくぐり、町の中にはいってみれば、
その横に明かりをとるべきはずの街頭が四つ。
左右対象にそれぞれあったず、なのだが。
それらがぽっきりと根本のあたりから折れており、無造作に地面…
といってもここメルトキオの地面はすべて石で覆われているので、石の地面ではあるが。
その地面の上に誰も片づけるものがいないのか無造作に転がっているのがみてとれる。
よくよく目をこらせばキラキラと輝くような細かな欠片のようなものがみてとれるが、
それは街灯の灯りをともす場所につくられていたガラスが壊れた結果、
細かな欠片となりて周囲に散らばっているからというのがよくよく観察してみればみてとれる。
「これはいったい……」
「何がおこったというのだ?この町で」
唖然とした声をだすジーニアス、リフィルに続き、しいなも絶句せざるをえない。
カンテラにと照らし出される足場ともいえる地面には何かが焼け焦げたような跡。
それらしきものが気のせいかもしれないが、いくつもみてとれるにはこれいかに。
クラトスもその視線を周囲にさまよわせつつも思わず眉をひそめぽつりとつぶやく。
少し視線を手前にもっていけばそこには別の区画にいくための階段があるのだが。
その階段すらいくつかかけおち、石造りの階段はぼろぼろになっているのがうかがえる。
さらには、町からはいって階段の真横。
一行からしてみれば右手にみえるはずの宿屋であったかつてのその場所には、
なぜか焼け焦げたような木枠のみが存在するばかりで、
そこにあったはずの宿屋自体がみあたらない。
「こりゃ…宿屋サンター・カスが燃えてる…だと?火事か?」
どこからどうみても火事にあった、としかおもえない。
その光景を目にし、ゼロスがうなるようにぽつりとつぶやく。
「そんなことより。クラトス。ユアン。
…どうやら僕らもここに飛ばされた理由はあれ、にあるみたいだよ」
いいつつ、それまで黙っていたミトスが口をひらき、すっと階段の上層部あたりに指をさす。
そこには漆黒の闇があるばかり、ではあるが。
とある場所より一瞬、闇の色がより濃くなっているのがみてとれる。
もっとも、暗闇でも視界がきくミトスたちならでこそきづく事実。
視線をすっと左右にむけてみればどうやらそれはまるで壁というかカーテンのごとく、
ある場所を境にして町全体に影響をあたえているのではないか、とおもえるほど。
ちらりとエミルに視線をむけてみれば、エミルは無言のまま、
しかし多少顔をしかめているのがみてとれる。
「…何だ?あれは?」
「可能性、としてマナにかかわる何か、だろうけど…」
ユアンが顔をしかめるのをうけ、ミトスが何かをいいかけようとしたその矢先。
「そこに誰かいるのか?」
突如としてこの場にいるものではない第三者の声がどこからともなく聞こえてくる。
それとともに、バサリ、という翼がはためくような音。
ふと視線を上にむけてみれば、バサリと白と黒の翼をはためかせ、
左手のほうからとんでくる人影が三つ。
『天使!?』
クラトス、ユアン、ミトス、エミル以外の全員の声がその姿をみて同時に発せられ、
「おまえらがこれをやったのか!?」
その姿をみてとり、怒りをこめてそちらのほうをにらみつけるように叫ぶロイド。
「…ロイドって。ほんと状況とかよくみないで思ったことを口にするよね。
そこの焼け焦げた家のあと、どうみてもここ最近燃えたようにはみえないだろうに」
というか完全に炭と化している元宿屋はあきらかに昨日、今日燃えたものではない。
というのはまるわかりだというのに。
「ヒトを信じるとかいっておきながら、相手のいうことを聞く前に、
ロイドの中で勝手に自己完結して相手に悪役押し付けてるよね。いつもおもうけど」
それこそ相手の意見を聞くよりも先に、勝手に相手が悪いと決めつけている節がある。
そんなロイドをみてエミルがあきれたように溜息まじりにつぶやけば、
「そういえば。トリエットでも神子がとある民家の壊した壁をみて、
勝手にディザイアンの仕業だ、許せない!とか叫んでたらしいな。こいつは」
それは初めてロイドとジーニアスがトリエットに出向き、
そこでレネゲードたちにとらわれたときのこと。
あのとき、ユアンの指示もあり人にまぎれてふつうの恰好をしていたものたちが、
コレットが穴をあげた壁をみてロイドがそんなことを叫んでいるのを実は聞いていたりする。
その報告をユアンはうけているゆえに、今思い出したとばかりにユアンもうなづかざるをえない。
しかも、それがディザイアンではなくコレットの仕業としっても、
黙りこむばかりで自分のは発言を訂正しなかった。
「あ~。あのきれいにヒト型にくりぬかれていた壁ですか」
今では再生の神子が穴をあけた由緒ある壁とかいって
家主が坂手をとって観光名所にしかけているらしい。
ロイドがそんなことをいっていたというのはエミルにとっても初耳ではあるが、
しかしロイドならばありえる、とすぐさま納得してしまう。
そんな彼らの会話が聞こえているのか否か。
「あ!あの銀髪、かつてクラトス様の使いをかたったあの!?」
「…なんか気のせいかな?あの人…なんか見覚えあるんたけど……」
一人の天使がリフィル達を指さし何やらそんなことをいってくる。
その指をさす天使をみてジーニアスが思わず首をかしげるが。
「うん?たしかお前は【保管室】の……」
その姿をみてふと思い出したようにクラトスがつぶやく。
「「「な!?クラトス様!?それにユアン様も、どうしてこのような場所に!?」」」
クラトスのつぶやきが聞こえた、のであろう。
今さらにがらその場にいるクラトスとユアンの姿にきづき、驚愕した声をあげ、
あわててバザバサとその翼をはためかせ、そのまま地面に降り立つと同時、
そのままひざをつく翼をもちし人物…属にいわれている【天使】達。
「…あれ?ミトス。彼ら、君のことをしらないの?」
目の前にひざをついている【天使化】を果たしている三名。
彼らはクラトスとユアンに対してひざをおっているのがみてわかるが、
他のものにはまったくといっていいほどに目もくれていない。
そしてなぜかミトスに対しても。
「え?ああ、基本、こっちの姿は下っ端たちはしらないから」
そんな素朴なる疑問を抱いたらしきエミルの言葉に苦笑しながらも、
さらりといいきるミトス。
「そもそも、一部の者たち以外には姿すらめったにみせることなったしね」
「…四千年も何やってたのさ……」
そんなミトスの言葉にエミルとしては呆れざるをえない。
というか四千年もミトスは他のものとあまり接触をもたなかったというのだろうか。
…いや、ありえるか。
自分もかるくそれ以上の年月、センチュリオン達以外とは接触しなかったこともある。
それゆえにある意味、第三者が聞けば”いや、それは間違ってるから”。
と確実に突っ込みがはいりそうな考えにいたり、あっさりと納得した表情をみせるエミル。
「たしか。ケビン。お前はこの地の出身だったか…」
ユアンが何かを思い出したのか、ふとつぶやけば、
「は!ユアン様。いった何がおこっているのでございましょう?
私はたしかに、あの場にて任務についていたはずですのに。
気づけばいつのまにかこの地に移動しておりまして……」
ケビン、といわれしは、以前、リフィル達がウィルガイアにと出向いたとき、
マナのかけらを保管していた場所の管理をしていたはずの天使であることを、
今さらながらにリフィルもまた思い出す。
そんな彼らに何かいまだにわめこうとしているロイドに対し、
ジーニアスがロイドの服についているマフラーもどき。
それをぐっとひっぱり、思いっきり黙らせているのが目にとまる。
彼らもまた何がおこったのか。
まったくといっていいほどに理解できていない。
わかるのは、なぜかより自我がより鮮明になっている、ということくらい。
それぞれ、与えられた任務の場所で警護についていたはずなのに。
光に包まれたとおもえば、気づけばなぜか別の場所。
本来いるはずのウィルガイアではないことは視界にはいる町並みにて理解した。
何がどうなっているのか。
この場に転移してきたのは自分たちだけではなかったというのが不幸中の幸いか。
なぜかここ最近…正確にいえば、シルヴァラントにて変換の儀式。
それが始まってから、というべきか。
それまでは自ら思考するようなことはまずめったとなかったというのに、
かつてまだ天使化をする前の時のごとくに思考がより鮮明になっている。
どうやらそれは自分だけではなく他の同僚たちとて同じらしく。
いきなり転移させられ戸惑いつつも、ひとまず現状を把握しようと、
それぞれ数名のグループにとわかれこの付近を散策していた。
しかしある特定の場所より奥にいくことも、また空から入り込むことすらできず、
誰かに何かを聞きだそうにもこの付近には第三者の姿はみられなかった。
そんな中、ヒトの話し声らしきものがきこえ、やってきてみれば。
かつて四大天使の一人であるクラトス様の使いを騙った女性の姿と、
たしか捕虜とか何とかいっていた赤い服の少年らしき姿が目にはいる。
しかし次に聞こえてきた台詞と、そこにいる人物に気づき驚愕せざるをえない。
どうして四大天使様であるお二方がこのようなところにいるのか。
名を呼ばれたケビンというものがその疑問を口にできたのは、
その他のものにとって幸いなのか不幸なのか、それは彼らにもわからない。
ケビンに問われ、一瞬その視線をミトス、そしてエミルにとむけたのち。
そして無言のままかるく首を横にふる。
そして。
「お前たちのどこにまで情報が回っていたかはわからぬが…
シルヴァラントの神子一行がねずみたちにそそのかされ、
精霊の楔を解放している、ということは知っているな?」
三人の中、そのうちの一人がかの地…管制室を警備していたはず。
そしてそのことをユアンもまた知っている。
そして当然クラトスも。
「精霊の楔の解放…ですか。たしかに異変は起こっていましたが。
面目ないことにかの装置は完全に起動ができない状態になっておりまして……」
以前はただ、言われることだけを人形のような無表情でうなづくしかなかった
白い翼をもちし青年体の天使体。
「ああ。私が訪ねたとき、すでにウンディーネとヴォルトのラインが途切れていたな。
あのあと、完全にどうやら認識ができなくなったようだが……」
そこまでいい、視線でちらり、とエミルをみるユアン。
かの地はたしか、精霊ラタトスクによってマナでかの精霊自身の手により創造られた。
とかつてセンチュリオン達がいっていた。
だとするならば、目覚めていた精霊ラタトスクがかの地に何らかの干渉を加えていても不思議はない。
だからなのだろう。
地上のこと、特に精霊の折である精霊炉に関することや、
地上のマナのありようがきちんとコア・システムですら感知できなくなっていたのは。
「神子達一行がすべての精霊との契約を結びなおし、
そこにねずみたちが彗星のマナを大量に大いなる実りに照射した。
その結果、歪んだ形にて大樹カーラーンがあのように復活してしまったわけだが…」
この地からは歪なる形となった大樹カーラーンもどきの姿はみられない。
というかユアン達の視力においても暗闇に閉ざされてしまっている。
大樹のようでいて何かのまがまがしい塔のようにもみえる”何か”に変貌したソレ。
この地に飛ばされる直前、ユアンはそれをきちんと確認している。
あのヤケに脳裏に響くような甲高い女性のような高笑い。
あの声に”鍵”がある、というのはわかっているのだが。
いかんせん、情報がとぼしすぎる。
「かの大樹が歪んだ形とはいえ復活してしまったがゆえにこのような事態になったらしい。
たしか、お前はクラトスとそのことを確認しているのではないのか?」
マナの守護塔にてクラトスが止めにきたとき。
直前でクルシスのコア・システムが答えをはじき出した。
とたしかクラトスはいっていた。
ならばかの地を警備していた彼もまたその場にいたはず。
「は。はい。では……」
「あの予測では、大樹と彗星が影響しあい、彗星が大地に衝突する危険性があった。
それゆえにミトスがその危険性を回避するため、かの地と大地を切り離したのだ」
まるではじめから知っていたかのようにふるまうユアンのその様子は、
さすがとしかいいようがない。
一方で、もごもごとロイドが何かいいかけようとしている様子が見て取れるが。
そのたびに、
「――グエッ」
と小さな何か蛙をつぶしたような声が時折この場にてもれていたりする。
ロイドが余計なことを言いそうになるたびに、
見た限りジーニアスが必至でロイドをだまらせるべく、
ひたすらにロイドのマフラーをしっかりとにぎり、多少首を絞めているらしい。
たしかにこの場においてロイドが一言余計なことをいえばユアンのウソも通用しないであろう。
が、ロイドはどうやらそこにまで気づくことができないらしい。
いつのまにかロイドの背後にはゼロスが回り込んでおり、
それでも余計なことを言い出しかねないロイドの口を、
その手でふさげるようにいつでも待機しているのがエミルの目にとまる。
「彗星を切り離せば自然、かの地は本来の彗星の軌道上にもどってゆくだろう。
それゆえに、おそらくミトスは同胞であるお前たちを巻き込まぬよう、
あえて地上にその【力】で送り届けたのだ。
時間もなかったことから、どうやらお前たちのゆかりの場所に転移させられたようだが」
おそらく、もっとも個人個人で縁が強い場所にと転移させられたのだろう。
それを何となく察し、いかにもミトスが行ったかのように言い含めるユアン。
「しかし、彗星を切り離せてしまえば…そもそもユグドラシル様はどこに…」
どこにって。
そんな天使たちの困惑した表情をみて、
思わずその視線をミトスにとむけているリフィル、ジーニアス、
しいな、マルタ、セレスの五人。
「?ミ……」
ミトスはここにいるよ?
そんな空気を読むことなく、
ロイドと同様、きょとんとした表情でコレットが言いかけると同時。
「お前たちがここにいる、ということはこの付近をおそらく探索しているだろう。
今わかっていることだけでいい。――報告を」
マーテルのように天然さを発揮させられ、ここにいるミトスがユグドラシルである。
と天使たちに暴露されてはたまらない。
マーテルにも場の空気を読まずに相手のことをさらりという傾向があった。
このコレットとかいうシルヴァラントの神子もその傾向が強すぎる。
「は!ご報告させていただきます。といっても報告できるのは限られているのですが。
我らもつい先ほどこの地にいきなり転移していたばかりで……」
報告を、といわれ、ひざまづいたまま姿勢を正す天使たち。
彼らにとって四大天使であるユアン達の命令は絶対。
ゆえに、今彼らがわかりえた事実。
といってもその事実はとても少ない。
とある一定の場所よりは奥にもいけず、まして空からも入り込むことができない。
ただその事実のみ、なのだから。
「…つまり、ほとんどの場所に立ち入りができない、というわけか」
城壁に設置されている門をくぐり、
あきらかに人為的、もしくは故意に壊された街灯がみてとれた。
そして燃えたらしき宿屋。
そんな中、門をくぐってすぐにこの場にとあらわれたクルシスの天使たち。
管制室の警備員であったり、保管庫の警備員であったりと、
なぜか一部ロイド達とも面識があるものもいるようではあるが。
「は。城とおもわしき場所にはその、上空から近づくだけで何といいますか悪寒が…」
それこそ全身がまだ天使化を果たす前に感じた総毛だつような、
近づくことすらままならない、といわんばかりの不快感がおしよせてくる。
それでも無理に近づこうとするならば、体にあきらかに不調がおこり、
身動きすらままならなくなってしまう、というのがこの短い間に彼らが得た情報。
それぞれその場に跪いたまま
ユアンとクラトスの問いかけに淡々と答えるクルシスの天使の姿。
「あの火事に何か心当たりはあって?」
そんな彼らにとそれまで少しばかり考えるそぶりをし、
その顎に手をあてていたリフィルが
ちらりと視線を燃え尽きている宿屋にむけそんな彼らにと問いかける。
そんなリフィルの姿をみて、
「何をディザイアン階級風情が…そももそ……」
本当に彼らがディザイアンたちなのかも疑わしい。
クラトス様の使いとおもい、さらには畳みかけられるようにいわれ、
マナの欠片を渡してしまったのはほかならぬ自分。
ゆえに、その口調が自然、
無意識のうちにとげとげしくなっていることにまったく気づいていないケビン。
まあ、彼の立場からしてみれば仕方ないといえば仕方ないのかもしれない。
上司の意見に従って使いを名乗るものに重要な品を手渡したというのに、
その使いのものは実は真っ赤な偽物であった可能性のほうが遥かに高かったのだから。
だが、ともおもう。
今、こうして彼女たちは四大天使様のお二方といる。
だからこそ何が最善なのかわからない以上、
四大天使たる幹部のお二人の前で醜態をさらすわけにはいかない。
そこまで思い、リフィルを罵倒しかけた言葉を何とか飲み込み、
「それは知らぬ。われらがこの地にきたときはすでにあの状態だった。
この左手にある家々もほとんどあの状態だったしな」
「ウソをつくなっ!」
ジーニアスがひっぱるマラーの締め付けを何とか緩和するかのように、
その手を首にあて、きっと目の前の三人にむけて何やら叫ぶロイドの姿。
そもそも、彼らはウソなどついていない。
にもかかわらず、ロイドははじめから彼らが天使である、
という理由だけで決めつけていたりする。
思い込んだらたとえ周囲にどういわれても、その考えをなかなか覆すことをロイドはしない。
そして自分が悪いと思ったらその場では謝り反省する様子をみせるのに、
幾度も同じことを繰り返す。
「ロイド。あなたは少しだまってなさい」
「でも、先生!」
「ロイドって本当に後先考えることとか自分で考えることしないよね」
「それは同感」
そんなロイドにぴしゃりとリフィルが鋭い視線をむけて言い放つ。
いまだ何か文句をいいかけるロイドではあるが、
リフィルに強い視線でにらまれおもわず黙り込んでしまう。
そんなロイドの態度をみてあきれ交じりにエミルがつぶやけば、
こんなのが何でクラトスの実の息子なんだ?認められない。
という感情をありありとその声に含ませつつも同意をしめしてくるミトスの姿。
一方。
「ちょっとまて。この左は……」
「貧民街、ですわね。お兄様」
ちっ。
ゼロスの言葉に続くようにセレスがいえば、ゼロスが小さく舌打ちする。
いつも何かがあり被害をこうむるのは力なきものたち。
ゼロスの脳裏に貧乏ながら自分を慕ってくれていたかの地に住まう子供たち。
そんな彼らの姿がふとよぎる。
「…どうやら、あの状態はあの場所が関係しているみたいだね」
薄暗い町の中。
町の中であるというのに深淵ともいえる闇がひろがっている。
町の中にあったはずの街灯のことごとく壊れてしまっており、
また誰かがかがり火などを焚くこともしていないのか
灯りという灯りはリフィルがもちしカンテラのみ。
そんな部下でもある天使たちの会話をききつつも、
注意深くその視力を強化して周囲を見回していたミトスがすっととある一点を指し示す。
宿のあるその先。
ところどころどうみても焦げたあとがある石畳の大地。
高熱、もしくは酸か何かでとけたのかその先にある鉄格子らしきもの。
それらがぐにゃりと変形しているのがみてとれる。
「?あんたよく見えるねぇ。宿の奥のほうってことは。…精霊研究所のほう、だね」
ミトスのそんな指摘にあきれつつ、しいながふと顔をしかめる。
宿のさらに奥。
そこにあるのは間違いなく精霊研究所の施設。
よくよく観察してみれば、精霊研究所のある建物の敷地内。
そこを起点として闇のカーテンのようなものが張られているのがみてとれる。
正確にいえば闇の色をしているのではなく、空らみればその結界は、
淡い金色の光をまとっているのだが、いかんせん周囲の闇が濃いすぎる。
ゆえにその金色の光すらのみこみ、逆により深い闇のごとくにはたからみれば見てとれる。
「つまり、ここより奥には空からもふつうに歩いてもいけない。
と、そういうことなのか?」
目の前に跪く天使たちの言葉にユアンが改めて確認をといかける。
「はい。まだ偵察に出向いたものたちがどう調べているかは不明ですが…
しかし、あの、ユアン様がたはどうしてここに?」
「お前たちがしる必要はない」
「し、失礼いたしました!私たち下っ端が出過ぎたことをお聞きしました!」
少し声を低くしていうユアンの台詞にあせったような声をだす。
彼らからしてみれば幹部でもあり四大天使でもあるユアン。
彼を怒らせるということはありえないこと。
ゆえにすぐさまに謝罪の言葉を口にする。
もっとも、こうして口をきいている中にミトス・ユグドラシル。
すなわち彼らにとっての最高指導者がいるとしれば、
このように口をきくことすら恐縮ししてこなかったであろう。
「しかし、だとすれば、王城にいくことも、家にいくこともできない…か」
天使たちの会話を真実とするならば、この先にはどうやら進めないらしい。
まだ彼らもおそらく先刻きたばかりで完全に調べつくしてはいないだろうが。
しかしながらまちがいなく通常の手段ではここから先にはいけないことはよくわかった。
そんな彼らのやり取りをききつつ、すこしばかり顎にてをあて考え込み、
「こりゃ、また下水を通る必要があるかも、だな。
もっとも、あのわけのわからないカーテンもどきが地下にまで展開されていたとするならば。
まったくもってお手上げだが」
やれやれ、といわんばかりにかるく両手をあげて溜息まじりにいいはなつ。
そんなゼロスの言葉をうけ、
「たしかに。あとは、闘技場から王城にいく手段、かしら?」
たしか闘技場の奥の牢屋は城とつながっていたはず。
かつてのことを思い出し、リフィルが提案すれば。
「あ、あの。闘技場らしき場所には異形の化け物がやけに存在しております。
あの場所は危険かとおもわれます」
クラトスやユアンとともにいる、ということはあのときは偽物。
とばかりおもっていたが、
もしかしたらやはりディザイアンの新たなる幹部候補、なのかもしれない。
もしもそうだとするならば、今後のこともあり、うかつな態度はとれはしない。
なぜここまで自分の心がはっきりと、天使化するよりも前の状態。
それに近い状態にもどっているのかわけがわからない。
もしかしたら、天使化というものそのものが体になじみ、
幹部様がたのように自我がもどってきているのかもしれない。
そう自己完結しつつも答えるケビン。
『化け物?』
その言葉に思わずおうむ返しでといかけるしいな、マルタ、セレスたち。
一方、リフィル、ゼロス、ジーニアスも同時につぶやいたのち、
すこしばかり顔をしかめていたりする。
「は。はい。魔物、ではないとおもわれます。
黒い霧?のようなものをまとった、魔物のようで魔物でないもの。
しいて表現するとするなら、牛とライオンとゴリラを足して三で割ったような外見。
というのでしょうか……コウモリのごとくの翼をもっており、
そんな輩があの付近、というかこの右手にはうようよと存在しているのを確認しています。
近づくだけで何というかこう、気分が悪くなるような不可解な存在です」
嫌悪感が視界にはいるだけでもおそいかかり、逆にちかづけば、
完全に理性というか本能がそれ自体を拒絶するかのごとくに拒絶反応を示してくる。
そんな輩がいる場所にどうして幹部たる彼らがいくのを許容できようか。
この場にいる誰もが知るはずもないが、
それはとある暴動によりて命を落としたもののなれの果て。
その死体に下級魔族達が憑依した結果うまれしもの、といってもよい。
それらが”元人間”であることはどうやら彼らは気づいていないらしい。
そもそもこの地の魔物たちはすべてセンチュリオン達に保護させている。
そして力なき小動物たちにおいても。
なぜにヒトが起こしたことに動物たちや魔物たちが巻き込まれる必要があるのか。
そもそもあの男が魔族と契約し、この地を閉ざしたのが事のはじまり。
結局、この国の国王は身内であるというあのフィリプに甘い判断しかしなかった。
その結果がこの現状。
本当にヒト、というものは。
身内に甘いときもあり、時として残酷なときもある。
永き時を生きているラタトスクですら予測がつかない行動をする。
それがヒト。
貧民街。
それは町をはいり、左手に向かったさきにある場所の名称。
住むところを失ったものやお金を失ってしまったもの。
また訳ありのものたちが集まって住んでいる区画のこと。
先ほどまでいた場所は中心街、と呼ばれていた場所であり、
店や宿、そういったものが密集している場所でもあった。
どうやら燃えていたのは実は宿だけではなく店らしきものがあった場所。
そこにも壊れた家の残骸があるのみで、かつての痕跡すら残してはいなかった。
一応試してはみたが、階段の途中からやはり先にすすめらいらしく、
不可視の壁、いうなれば結界のようなものがありそこから先には進めなかった。
もっとも、エミルのみはその結界をたやすく実はすり抜けることができるのだが。
ミトスはミトスでレイン・ゼクンドゥスとの契約が先刻の世界統合。
それをもってして契約達成とみなされ契約が解除されているがゆえ、
マナで作られし結界を破ることができなくなっていたりする。
本来、階段を上った先には王城、そして上流階級が住まう区画。
いうなればゼロスの屋敷、などもそこに含まれている、のだが。
立ち入ることができないのであればどうしようもない。
いったい、何があったというのだろうか。
町に入ってすぐに感じていたことではあったが。
宿屋や道具屋といった店は焼け落ちており、
足場でもある石畳の地面もところどころかけており、
場所によっては完全に石畳が剥げてなくなっていたりする場所もあったりした。
天使達をあのままにしておくにはいかないだろう。
どうする?
とユアンがミトスに視線を投げかけ、
彼らの統括は、このテセアラの管制官でもあるユアンに任せる、とミトスがいい、
結局のところ、ユアンは天使達の現状をしるために一度一行から離れている。
ユアンとしても彼らをこのまま野放しにする、というのはどうやら認められないものであるらしく
それはユアンのほうから提案してきた、という形をとってはいたが。
「精霊研究所には入れなかったしね……」
念のため、精霊研究所のうにしいなが向かってみはしたが、
カンテラで照らされていてもわかるほどの黒い壁のようなカーテン。
それが研究所の前にあり中に立ち入ることすらできなかった。
もっとも、エミルのみはその気になれば簡単にはいることはできたのだが。
エミルはそれをしていない。
ロイドやしいな達が、ダメだ、入れない、というのをただ黙ってみていたのみで。
入った直後にあるはずのいくつか植えられていた樹はなぜか枯れたように枝だけになっており、
そこに雪が降り積もっているのがみてとれる。
それだけ、ではない。
この場所にはいくつもの家がひしめくように存在していたはず、なのに。
そこにあるはずの家々は無残に壊され、または壊れかけている。
壁の一部が壊れ、そこから雪が降り積もっているのが嫌でも目にとまる。
しかもそれは一か所、ではなくザクザクと雪を踏み進み、
カンテラであたりをおおうたびにどの家にもそれがみうけられ、
中には壁に何かで斬りつけられたような跡すらも。
こんな惨状であるゆえか、人の気配はひとつもない。
降り積もる雪に周囲に粉雪もまっている。
この光景をみてゼロスが思いっきり顔をしかめており、
そんな兄に気づいたのか、セレスが心配そうにぎゅっとそんなゼロスの手を握っている。
セレスとてゼロスの気持ちがわからないわけでもない。
でも、セレスにとっても複雑な気持ちであることはまた事実。
このようにメルトキオが雪に包まれたあの日。
セレスの母が、ある計画をたて、そしてゼロスの実母であり、
セレスにとっては叔母にもあたるセレーヌが死亡した。
ほかならぬ、魔術で殺されそうになったゼロスをかばって。
「…ちっ。なんでここに雪なんかふってやがるんだよ……」
ぽつり、と本来ならば心でつぶやいたつもり、だったのであろうが、
知らず小さくぽつりともらしているゼロスの姿。
この壊れた家々はまるでゼロスの心情を現しているようで。
ゼロスとしては何ともいえない。
むしろここから立ち去りたい。
しかし、神子、としての立場、そしてその身に教育されている事がそれを否定する。
この貧民街にすまう人々はあるいみゼロスにとっては癒しでもあった。
こびへつらうわけでなく、普通に気さくに接してくれた子供たち。
壊されている家の様子をみるかぎり、昨日今日、というわけではない。
むしろ確実に数日以上は経過している。
「「ひどい…どうして、こんな……」」
その町並みをみて絶句しているマルタとジーニアス。
無意識なのであろうが二人してほぼ同時にそうつぶやいているその表情は、
とても悲痛に満ちている。
「……人狩り、か」
一方で周囲を見渡しつつも、ぽつりと何やら悟ったようにつぶやいているクラトス。
そしてまた。
「だろうね。さっきのあの結界。かつてシルヴァラントで行われてたやつだ。
…まだ技術残っていたのか、はたまた開発したのか」
ミトスも先ほどのソレに触れたことにより、
それを確信しているらしくクラトスに同意するようにうなづきをみせる。
それはかつて、ミトスたちがふつうに生きていた当時。
国々においてよく使用されていた代物。
「クラトス!それにミトスも!何かしってるのか!?これやっぱりクルシスが…」
「いっとくけど、僕らは何もしてないよ。
そもそも機動部隊を動かしたのは、あのとき、アルタミラの一件だしね。
ここはもう陸の孤島と化していたから害はないとおもって放置してただけ。
魔族がかかわっているのは知っていたけど、まさかアレも復活させているとはね」
そういうミトスの言葉にはどこか自嘲がこもっている。
なるほど。
試練、ね。
どうして自分もここに飛ばされたのか。
それを悟り、思わずくすり、と自嘲じみた笑みを浮かべ、
「僕がどうするか。それを見るため、もあるんでしょ?」
そういいつつも、背後にいるエミルにと視線をむければ、
そんなミトスの視線をうけ、エミルは小さく口元に笑みを浮かべるのみ。
その笑みはかつて、ミトスがよくみていた代物。
ヒト、というかミトスを試すときにラタトスクがよく浮かべていた表情の一端。
だからこそミトスは自分の考えが間違っていないことに確信をもつ。
言葉でいわれたわけではない。
が、ここまで状況がそろっていれば間違えようもない。
かつてミトスは”これ”をしったとき、
とにかく奔走し、そんなことはやめるべきだ!とひたすら国に訴えたことがあるのだから。
「あれだとすれば、発生源は城、もしくは研究所ってところか?」
「研究所のほうでしょ。城のほうは魔族がいるし。アレ、魔族には毒だし」
他のものをほうっておいて会話をすすめているクラトスとミトス。
そんな二人の会話はその場にいるエミル以外には理解不能。
「…城に潜入するしかあるまい。魔族が絡んでいる、となると」
「そのためにはあの結界を壊さないとね。研究所の地下にたぶん装置があるんだろうし」
「アレを命じたのは国王か、それとも……」
「さあね。とにかく。このままってわけにはいかないでしょ。
ここをどうにかすること。それがどうやら試練っぽいしね」
どうやら間違いなくそうなのであろう。
そんなクラトスとミトスの会話をききつつも。
「どういうことなのか説明してくれないかしら?二人でわかっていないで」
意味が分かっていない誰もが思うであろう疑問を口にするリフィル。
あきらかに、ミトスたちだけがわかったように会話しており、
リフィルをはじめとしたロイド達には意味不明。
「ま、簡単にいったら、マナによる結界がこの地に施されてるってだけだよ。
それで瘴気にみちてる城のほうからのソレをどうやら防いでいるっぽいね」
本当にヒト、というものは。
まあ、そもそもあの瘴気を受け入れたのもまたヒト。
そしてそれを行っているものもまたヒト。
そんなリフィルの疑問に答えになっていない答えを口にするエミル。
ちなみにエミルは近くの壊れた家にその背をもたれかけさせており、
リフィルの疑問をうけてようやく民家にもたれかかるのをやめ、
かるく周囲をみわたしさらり、といいきるエミルであるが。
『マナの…結界?』
そんなことをいわれても意味がわからない。
ゆえに、マルタ、ロイド、ジーニアス、リフィル、そしてしいなの台詞が同時に重なる。
「城に潜入するには、たしか闘技場から入れたはず、だな」
かの地は牢屋にもつながっており、そしてまた城の地下にもつながっている。
あの闘技場自体はクラトスがこの地にて親衛隊帳をしていたころからあったもの。
今ではかなりつくりかえられたりはしているが。
「城にいくとすると、それかあとは地下水道から、だな」
ゼロスとしてはこんな雪にまみれた場所からとっとと立ち去りたい。
けど、ここに住んでいた人々の安否も気にかかる。
それに、今、エミルのいった、マナの結界、という言葉に不安を覚えざるをえない。
こんな暗闇で結界をはれるほどのマナの確保。
しかもこんな暗闇ではそう簡単に外にでることすらできないだろう。
さらにエミルのいうように魔族が絡んでいるとなればなおさらに。
そんな中でのマナの確保、など限られてくる。
それこそゼロスにとっても胸糞悪い、と思うほどの。
この地の精霊研究所はそこまで研究を進められていたのか、答えは否。
いや、でも、まさか。
一抹の不安がゼロスの脳裏によぎる。
精霊研究所の中でもある人物が研究していたこと。
そしてそんな彼の研究をあの元教皇が支援していたことをゼロスは知っている。
もしも、あの研究者が”アレ”を本当に完成させつくってしまっていたとするならば。
それは確実に世界の脅威、といっても過言でない。
もしもあれを本当に実用化したならば。
いや、まだでもあれは実験段階というか机上の理論だけであったはず。
「闘技場のほうはたぶん無理ね。さきほどの天使の言葉を考えると」
闘技場には魔物でもない異形のものがたむろしている。
そのようなことをたしかあの天使達はいっていた。
「地下水道…下水しかないだろうな。とにかく。陛下にあって状況をきかねぇと」
これが暗闇で完全に視界が雪で埋まっているのがみえないだけまだまし。
視力も意識すればゼロスはふつうに切り替えができる。
伊達に幼きころからこの神子としての力を利用していきてきたわけではない。
ゆえに、あえて今のゼロスの視力はふつうのヒトのそれにとあわせており、
ゆえにリフィルのもつカンテラがともす灯りの周囲しかみえてはいない。
カンテラの灯りもリフィルの周囲を中心として半径一メートルくらいしかともされていない。
それ以上はこのあたりの闇にカンテラの灯りすらとけきえてしまっている。
「…あれ?なんか気分が悪くなってきた……」
まるで毒にでもあったかのような倦怠感。
マルタがふらり、とその場でよろめく。
「ここは少量の瘴気も充満してるみたいだからね。
ホーリーボトル、町の中だけどつかっておいたほうがいいよ?はい、これ」
周囲が暗いがゆえになかなか気づかないのであろう。
暗闇で隠れているが薄紫色のような少し黒の混じった毒々しい瘴気。
それらがこの町にはすでに満ちている。
結界の中はアレが張られてからのち増えていないようではあるが。
しかしそれ以上の幻魔たちが増えているのが視てとれる。
クラトスやミトスは自らのマナを無意識のうちに薄くマナを展開しその体にとまとっている。
ゆえにこの瘴気の影響はまったくといっていいほどにうけていない。
『瘴気って……』
エミルの言葉で思い出すはかつてのアルタミラ、そしてエルフの里での出来事。
まさか、あのときのように。
あの時の異形のそれらはヒトのなれの果てだ、とたしかいっていなかったか?
だとすれば、ここに誰もいないのは。
そしてこうして家が壊されているのは。
町の人々の姿はいまだに一人もみていない。
多少ふらりとしたマルタにエミルがごそごそと腰につけているポーチから小瓶を取り出し、
ぼん、とマルタの手の上にとかるくおく。
エミルのいっていることはわからないが、しかし感じている気持ち悪さ。
それを取り払うためにホーリーボトルが有効なのだろう。
そう感じ取り、エミルから受け取ったそれを自らの体にふりかける。
「エミル。つまりここは、前のサイバックのようになっている、ということかしら?」
禁書の封印といわれている書物。
あの力か表にあふれ、サイバックの中は普通に移動できる状態ではたしかなかった。
ホーリーボトルを身にまとっていなければ、すぐさまに体の力が抜けてしまうほどに。
マナが感じ取れない、というのがここまでもどかしいとは。
いまだにリフィルはマナを感じ取ることができない。
おそらく弟であるジーニアスもそうなのであろう。
それまで当たり前に感じていた大自然におけるマナのありかた。
それらがかの大樹再生以後、まったくもって失われてしまっている。
念のためにリフィルもふつうに魔術を使用してみようと試みてはいる。
が、弟ジーニアス同様、リフィルもまた魔術を紡ぐことができなかった。
皆にはいっていないが使っている法術もいつも以上に精神を疲労しているように感じている。
「えっと。リフィルさん。あの場にはあの時。
僕、いってないんですけど……すべて終わった後にはいきましたけど」
「そうだったわね」
ユアンいわく、エミルがあの地にやってきたのはリフィル達が”石”を祭壇にくべたのち。
まあエミルがきてれたおかげで気を失っていたらしき自分たちは、
気付けばマルタやセレスをまたせていたみずほの里に戻っていたわけだが。
しかし、それにしても。
「…ホーリーボトル、まだあったかしら……」
あったとしても、持続時間のこともある。
エミルとリフィルがそんな会話をしている最中。
「…いくつかのマンホールも変形してやがるな……」
手っ取り早いのはたしかに地下から城にいく方法、であろう。
もしくは地下から町の中に入り込むか。
周囲にあるマンホールを少しばかり歩いて探してみれば、
熱にでもとかされたのか、それとも別のもので溶かされたのか。
とにかく金属でできているはずのそれは異様なほどに変形してしまっている。
これでは他のマンホールも同じようなものかもしれない。
つまり、変形してしまっているがゆえちょっとやそっと、
否、マンホールのふたを取り外すことすらもままならないっぽい。
「なあ。リフィル様。外から一応町、もしくは城にいけるか否か。
確認してみるべきだと俺様はおもうんだけど、どうよ?」
「そうね……」
このままここにいてもどうにもならない。
そもそも町の区画に入れないのであればどうしようもない。
この区画よりも上ではいったい何がおこっているのか。
それはリフィルにも想像がつかない。
ゼロスの言葉をうけ、しばしその場にてリフィルが思案をはじめ、
「………」
コレットはコレットで先ほどから断続的に聞こえてくる小さな悲鳴。
それをその聴力でとらえてしまったらしく多少顔色が悪い。
城にいくだけ、ならば王族専用の隠し通路があっはず、だが。
それは町の外にと続いている。
わざわざ、そこ。
つまり城の背後にまわるより、地下水路をとおったほうが遥かに早い。
ゆえに、
「一回外にでて、試してみるのもわるくねえんじゃねえかな?」
「それしかない、でしょうね……」
「エターナルソードがあったら次元斬で切り裂くこともできるけど。
世界を一つに戻したから契約完了、とみなされちゃってるしね」
すでにミトスとレインの契約は実行されたとみなされ完了している。
おそらくミトスとてわかっている。
自分が彼ら精霊を裏切ることなく、結果をすぐにだしていれば。
契約が実行されたあとも願えば手をかしてもらえただろう、ということは。
しかし、彼らははっきりと、これ以後は精霊達の力はかさない。
そのようなことを先ほどいってきた。
そもそもエミルがともにいるだけであるいみ奇跡。
…まあ確実に自分たち、ヒト、というものを間近で見極めるため、なのだろうが。
あの過保護ともいえる異様なほどの忠誠心の塊ともいえるセンチュリオン達。
彼らの姿がそばにないのもきにかかる。
そばにいないということは、ラタトスクに何らかの命令をされそれを実行している。
そうみてほぼ間違いないであろう。
ゼロスとリフィルの会話をききつつ、ミトスが少し考えたのちにぽつりとつぶやく。
「ん?あんた、その言い分だとエターナルソード、もうつかえないのかい?」
そんなミトスの言葉にきづき、しいなが多少首をかしげといかける。
たしかあの剣はミトスの力の象徴とか何とか。
かつて出向いたウィルガイアでいわれていたような。
端末にあった情報にもたしかそのようなことが書かれていたはず。
「かの精霊との契約というか約束は世界を分け、そして統合すること、だったからね」
力は強大。
ゆえにヒトの争いに使うようなことはままならぬ。
かの剣を手するとき、オリジン、そしてゼクンドゥスからミトスはそういわれている。
「君たちとレネゲードたちの手で歪んだ形とはいえ、
姉様ごとまきこんで大いなる実りが発芽してしまってるしね」
あれが本当に大樹カーラーンの変わりとなっているのか。
それに関してはおもいっきりミトスは疑っている。
ラタトスクのこと。
あれをカモフラージュとして本当の樹をどこかに創り出していてもおかしくはない。
そう予測をしているのだがあえてミトスはそれを口にはしない。
ラタトスクから説明をうけているわけではないのにその考えに思い当たるだけで、
ミトスがより先を見通す力にたけている、という何よりの証拠といえるのだが。
事実、ラタトスクはアレはアレ、として本当の【樹】を同時に生み出しているのだからして。
そういいつつ小さく首をすくめたのち、
「君が精霊との契約を上書きしてくれたおかげで精霊達との契約はすべて破棄されてるしね」
しいなによってミトスと精霊達の契約は破棄されている。
「――そういえば、何であんなものにかれらを封じ込めてたの?」
ぎくっ。
そんな会話にぽつりと、エミルが何やら割って入ってくる。
エミルとしてはそれが聞きたい。
なぜ、と。
エミルの言葉をうけ、はたから見てもわかるほど、ミトスがぎくり、
と体を硬直させたのがみてとれる。
「オリジンの封印もクラトスさんの命を檻としてのものだったし」
かつてのミトスからすればありえない。
そもそも自分に刃を向けてきたものですら許そうとするお人よしであったミトスからは。
かわっているな、とおもいつつ、そんなミトスを視ているのはラタトスクとて心地よかった。
だというのに。
おそらくオリジンが封印されたは、ミトスがまだあそこまで魔界の影響を受けていないころ。
のはずだとおもうのに。
「精霊石にしろ、知ってたはず、でしょ?」
あれらが微精霊の卵ともいえるべきものである、ということを。
精霊達の嘆きをよりミトスは知っていたはず、なのに。
「いくらマーテルがヒトに殺されたからといって、君らしくないでしょ?
……いったい、何があったの?」
加護を与えるにあたり、試練の中でミトスは大切なものを失う。
そんな経験もしていたはず。
なのに。
それに。
穢された状態の種子にマナを注げばどうなるか。
ミトスはわかっていたはず。
ミトスにたまりし穢れを払ったときに感じた残留の力。
あれは間違いなく魔族の痕跡。
薄く、普通の負のそれとわからないほどに擬態していたがアレは紛れもない瘴気そのもの。
――たしかに。ひとは裏切るかもしれない。ひどいことをする人間もたくさんいる。
でも、皆きっと、必ずわかってもらえる。僕はそう信じてる!
――そうして信じたヒトにコトがおわれば殺されたものを嫌というほどしっているが?
それでも、お前はそういうのか?
――それでも!僕は、ヒトの心を信じたい。だから、お願い・・・ラタトスク!
僕らヒトにまだチャンスをちょうだい!
あの真摯なほどに懇願してきたミトスの言葉はいまだにラタトスクの中にある。
どんなに裏切られても、でもいつか。
その思いはラタトスクの心の奥底にあるものと同じであったがゆえ。
いつか自分が生み出しているわが子である生命達は手を取り合っていけるはずだ、と。
実際、互いに協力してうまくまわっている星々もたくさんある。
光がつよければ強いほど、瘴気などはじきとばしてしまうはず、なのに。
ミトスは気が付いていたのかいないのか。
それを確認するための問いかけ。
いきなり問われ、ミトスは答えることができない。
そんなぎゅっと手を強く拳をつくり握り締めるミトスをちらりとみたのち
「…ふぅ。クラトスさん。ミトスがアレを提案したのは、いつ?」
かるく頭をふりつつ溜息をつき、答えを知っているであろうクラトスにとエミルは問いかける。
それはミトスは答えてはこないだろう、というある意味確信があるゆえの行動。
「…あ。ああ。…マーテルが種子と同化して四日目の朝、だな」
いきなり話をふられ、クラトスは何ともいえない表情をうかべる。
というか目の前の精霊は自分の正体をもう隠す気は…ないのだろう。
たぶん。
このような他のものがいる目の前でこんなことをきいてくる、ということは。
クラトスとしてはロイド達には最後までこの少年の正体を隠していたい。
というのが本音、なのだが。
しかし、なぜ今ここで。
そんなことを聞いてくるのかこの精霊の意図がまったくもってクラトスにはわからない。
四日…ね。
ということは、四日目に陥落した、もしくはつながってしまった。
そんなところかな。
クラトスの言葉にエミルは盛大にさらに溜息を深くする。
そんな中。
「まあまあ。そんな話はとりあえず、一度外にむかいながらでもできるっしょ?
まずは外にむかおうぜ。町の中にはいるにしても。城にいくにしても。
どっちにしろ、地下から向かうという方法か今のところ有効っぽいしな」
「…そうね。いつまでもここにいても仕方ないわ。
状況をきちんと把握するにしても、町、もしくは城にいくのは必要だものね」
ミトスとエミル…否、精霊ラタトスク。
かれらの間にかつて何かがあったのは明白。
そして今地表がこのように存在しているのもかつてのミトスが精霊と約束をとりつけた。
それゆえに大地は存続している、そうリフィルはかつて聞かされた。
二人の間にどんなやり取りがあったのかまではリフィルはわからない。
けども。
信じていたものに裏切られる。
その思いはリフィルとてよくわかる。
ヒト、ですらそうなのだからウソをつくことができない、
もしくは毛嫌いする精霊ならばどう思うか。
そんなの考えなくてもきまっている。
そんな二人の会話をききつつ、ゼロスがさらり、とわってはいってくる。
ゼロスとしては今、問いただすところではないとおもうし、
というか妹にこの精霊様の正体をあまり知られたくない、という思いもある。
どうもこの精霊様、完全に隠す気ゼロになってるような気がするんだよなぁ~。
そうはおもうが、以前、話すなといわれているので、まだ話していい、との許可はうけてない。
だからこそ自然、会話の流れの中で違和感のないように元の話の流れに戻すゼロス。
このあたりの話術の扱いはゼロスゆえにたけている。
そしてリフィルもまた、エミルが精霊であることに子供たちが衝撃をうけかねない。
その思いもあってあえてゼロスの提案に違和感なく同意する。
それでなくてもいろいろとおこっている今現在。
これでずっと一緒にいた人物が実は精霊でした。
しかも伝説にある大樹カーラーン。
マナを生み出す聖なる樹。
世界を生み出せし万物の源たるその精霊。
そもそもリフィルとしてもほぼいまだに半信半疑。
が、間違いない、のだろうという確信はすでにある。
クラトスの言葉からしてもそれは肯定しているといってもよい。
「地下ってことはあの下水道、か?」
エミルとミトスの会話の意味はよくわからなかったらしく、
ロイドが少しばかり首をかしげつつ逆にとといかけてくる。
幾度かあの場所にはいったことがあるのでロイドもさすがに覚えているらしい。
「あの小さくなるのたのしいよな!」
「…ロイド。今は楽しいとかそういうのをいっているときじゃないと思うよ……」
こう前向きなのはいいが、何だろう。
時と場合を考えてほしい。
ゆえに思わず瞼をおさえつつつぶやくジーニアスはおそらく間違っては…いない……
――いくらマーテルが殺されたからといって、君らしくない。
先ほどのエミルの…ラタトスクの言葉がミトスの脳裏をぐるぐるとめぐる。
――なぜ、彼ら…精霊達を封じたのか。
種子の中にと石ごと融合してしまった姉。
あれほどヒトは裏切るものでしかない、とラタトスクにもいわれていた。
そしてヒトというものは優しいこと、もしくは上手なことをいっておきながら、
最後の最後に裏切るもの。
今のクニというおけるものの権力者たちはお前の考えているようなものではないぞ。
散々忠告をうけていたのに、それでも停戦を結んでくれた以上、
わかってくれたもの、と安心していた、のに。
どちらかに自分たちがつけば戦力がかたよるし、自分たちの目的ともたがえてしまう。
どちらの勢力からも”国”に招くために手配をうけていたのはしっていたあの当時。
それでも、彗星の飛来が近づき、互いの国の王に連絡をとった。
彗星の飛来とともに大樹をよみがえらせる、と。
それゆえに一時期、カーラーンのあった地の壁…世界を隔てる壁を取り除く、と。
そのように報告した。
本当の意味で世界が平和になるのだ、と信じていたあのとき。
でも、結果は…互いの国の勢力は壁が取り除かれたのをうけ、同時期に襲撃をしてきた。
よりによって自らが彗星にマナの照射の準備に出向いていたそのときに。
戻った地表でみたは倒れた姉の姿。
姉を包み込むようにしてその場にとあらわれた、大いなる実り。
そこから先はミトス自身もあまり覚えていない。
姉を殺され、半狂乱になりミトスの全力のジャッジメントが炸裂し、
襲撃してきた兵たちはことごとく駆逐された。
種子を地表においておけばまた愚かな人間が何をしでかすか。
ゆえに種子ごと彗星にと転移した。
種子に取り込まれ、まるで眠っているような姉の姿をみるたびに、
これは悪い夢なのでは、とおもいつつ、現実であることをつきつけられ。
――ミトス。蘇らせて
ふと、声が聞こえたようなそんな気がした。
姉を殺され、ヒトに対しての憎しみが募ったミトスの心は、
それでなくてもつながっていた分霊体のそれとつながってしまった。
心にできた隙。
そこをつき、ミトスに干渉してきたものがいたことをミトスは知らない。
気付けなかった。
それほどまでに姉であるマーテルを失った衝撃が強かった。
――自分たちのために力を使って何がわるいの?
――うるさい精霊達はひとまず封じてしまえば……
それは悪魔のささやき…否、魔族のささやき。
いつものミトスであればあっさりと拒否したであろう。
だけど、姉が生き返るかもしれない。
その言葉は姉を失ったばかりのミトスの心に染み入ってしまった。
その声がたとえ悪魔の…魔族のものだ、とわかっていても。
その提案に乗ってしまいたくなるような…甘い、罠。
ああ、そうか。
僕はあのとき、魔族のささやきにのってしまったんだ。
それでも、魔族との契約までにはいたらなかった。
精霊を封じ、彗星、そして精霊の力をもすべて姉に注ぎ込めば。
数日はその声にあらがった。
けど、脳内に浮かぶ姉の姿で”私を見捨てるの?”といわれてしまえば。
言われていたのに、わかっていたのに。
魔族は…人の心の弱さに付け入るのだ、と。
そしてデリス・エンブレムを手にいれた自分たちを魔族達は手にいれようとしてくるだろう、
とも。
そしてあの声は眠るたび、姉の姿でささやいてきた。
時には精霊石を穢して利用すればいいじゃない、と。
あるいは、新しい体は若い少女がいい、などと。
はじめはそれらの言葉は無視していた。
けど、ほぼ毎日のように延々と続くその言葉にいつか自分はそれが正しいのだ。
そう思ってしまった。
思い始めてしまった。
ヒトは愚かでしかない。
だったら、愚かなものを有効利用するにあたり、牧場という言葉はふさわしい。
――それは、精霊石を穢す決定をした時のこと。
眠るたびに姉が殺される姿を緯度もみた。
こんなヒトを助ける必要があるの?と姉の姿でいわれ…
眠らないようにしてもその光景は頭から離れずに。
クラトスもユアンも自分のすることに反対はしてこなかった。
いや、自分が彼らに心配をかけたくなかったからいわなかっただけ。
――声が聞こえるのだ、と。
あの間からあまり出なかったのも、あの間にいればその声が遮断されていたがゆえ。
それ以外だとあの声は少し気をぬくたびに自らにささやきかけてきた。
そして決定的であったのが八百年前の出来事。
テセアラによるハーフエルフ大量虐殺。
そしてシルヴァラントにおける魔科学の魔導砲の開発とクルシスにむけた宣戦布告。
ヒトとは愚かでしかない。
守るに値するものではない。
そう決定づけたのはあの出来事といってもよい。
それまで数千年にわたりその声にあらがっていたというのに。
認めてしまえばヒトに対して様々なことをしても、
害虫を駆逐するのに何の不都合がある?という認識になってしまっていた。
クラトスがもどってきて、クラトスを心配する過程でヒトとしての心が浮上し、
そして彼らとともに旅をするにあたり、心にかかっていた靄が晴れたようになったのは。
まちがいなくエミルが自分に対して何かをしていた
…つまりたまりにたまった負の穢れ。
それをエミルは取りはらっていたのだろう。
今だからこそそれをミトスは自覚している。
自覚せざるを得ない。
そしてあの”声”の主もまた……でも、それは言い訳。
そのことをミトスはよくわかっている。
わかっているがゆえに答えに詰まるしかできない。
すべては自らの心の弱さが招きし今の結果、なのだから。
ピシャン。
どこからともなく水音が周囲にと響く。
ユアンの指示のもと、天使達が周囲を探索したらしいがやはり普通に町の中。
すなわち貴族区画とよばれし城のある場所にどうやってもたどり着けないらしい。
しかしそれでも収穫はあった、といえる。
みえない壁の向こう。
そこに異形のいくつもの影が我がもの顔をして闊歩しているのをその視野で確認したらしい。
つまりやはり何らかの異変が起こっている、というのは明白。
かつて町の中に潜入した方法。
町の外にある下水道。
そこからならば中に潜入できるかもしれない。
ゆえに以前にも通ったことのある下水道にとやってきている今現在。
「…この奥、まがまがしい気配を感じます」
入るのが戸惑われるほどの違和感というか不快感。
壊れた鉄柵の向こう側。
さらに真っ暗な暗闇をみつつぽつりとつぶやくプレセア。
真っ暗な中、段差のある場所を降りるのは問題もあり、
それぞれ視界のあまり聞かないものはゆっくりと足元を確認するかのようにと降り立った。
「いえ。それより。以前きたときより、柵が壊されている場所が増えているわ?」
リフィルもまたその気配に気づいてはいるが、それよりもきになること。
以前、ここを通ったときは人ひとり通れるか否か。
それくらいにしか柵は壊れていなかったのに。
今では柵のほぼ半分近くが壊れているのがみてとれる。
しかも壊れているというよりは、どちらかといえば柵が溶けてしまったような。
周囲は確かに薄暗いが、エルフの血を引くリフィルは夜目がきく。
ゆえにその変化にも目ざとく気づく。
「高熱で溶かしたような感じだね、これ」
ミトスも気づいたらしく、溶けた柵をしばらくみているのが目にはいるが。
「中はかなりの瘴気がうずまいているようだ。気をつけてすすむしかあるまい」
内部から感じるは紛れもない瘴気。
クラトスが顔をしかめつつも誰にともなくそんなことをいってくる。
それとともに、その背にマナの翼を展開する。
「クラトス。わざわざ翼ださなくても。体の周囲にマナを張り巡らせるくらい簡単でしょ?」
「こちらのほうが周囲にも影響を与えるからな」
そんなクラトスに対しミトスがあきれたようにいえば、
淡々とした口調でそんなミトスに返事をかえしているクラトスの姿。
「そういえば、禁書の中で翼は瘴気を遮る役割もあるといっていたわね」
瘴気とマナは反物質。
ゆえにマナを常に展開し具現化させるマナの翼は瘴気を中和、
もしくは霧散させるのにはうってつけ。
「ホーリーボトルの数もそう残っていないから…気を引き締めていくしかないわね」
ホーリーボトルの残りはあとわずか。
溜息まじりにつぶやくリフィルに対し、
「よくわかんねえけど。とにかく、中にいくしかないんだろ?」
身もふたもない、といえばそれまでなれど。
そんな会話をしている彼らを横眼にみつつ、そのまま下水道にとつづくトンネル。
その入口でもある穴の中にとすすんでゆくロイドであるが。
「あ!こら!ロイド!一人での行動は危険よ!」
「平気だって。先生。なんでか暗闇なのに目がみえはじめてるし」
そう。
つい先ほどまではほとんど何もみえなかったのに。
目が慣れてきたのかロイドの視界には周囲の光景がうっすらと、ではあるが見え始めている。
それは目が慣れてきた云々、ではなくロイド自身が生まれもっていた力。
それが馴染んできている証拠。
アンナ、という女性の枷というか封印がなくなったゆえにロイドの中で、
その力がその身に馴染んでいっているといってもよい。
半ば精霊達の力を受けながら生を受けたロイドは完全ではないにしろ、
その身一つでマナを操るすべというか生まれながらにもっている。
いわばアンナの体の中にいながらアイオニトスをその身に宿してしまったようなもの。
術の使用を今現在、ラタトスクがすべてにおいて禁止しているがゆえに気づいていないが、
ロイドはその気になれば実は術も扱えたりする。
もっとも、今の段階でヒトが術を使用できるのは、
ラタトスクの加護をうけているごくごく一部の三人のみ、という注釈がつくのだが。
内部に瘴気があふれているかもしれない。
それを聞いても深く考えずに内部にはいってゆくロイド。
禁書の中で様々な経験をしたであろうに思ったことはすぐ実行。
幾度もその都度反省したそぶりをみせるのにまったくもって経験をいかせていない。
そんなロイドの姿をみて思わず無意識のうちに溜息をつくエミル。
いくら種族という理が確定していないからといってそれは当人の資質というか思い次第。
きちんと思慮深く物事を考える、ということくらいは種族が定まっていなくてもできること。
つまるところこれまでともに旅をしてきたが、
目の前のことのみにとらわれ、その時が過ぎれば綺麗にその瞬間。
それまで反省していた様々なことを忘れてしまうのであろう。
以前のときもそうだったのかどうか、それはエミルも知らない。
もっとも、エミルは知るはずもないが。
かつての時間軸において、ロイドは助けようとしたショコラに糾弾されたことにより、
その心の奥底から深く傷つき少しは思慮深くなった、ということを。
しかしこの時間軸でそれはおこっていない。
エミルがショコラをさくっと助け出していたがゆえに深層心理の奥底から、
自らの行いについてふりかえる、という経験をロイドはしていない。
ゼロスの行動で少しはそういった面について耐性はできてはいるが、
しかしロイドの中ではゼロスが無事であったことからそれは深い傷として残っていない。
そしてそれらのことをエミル…否、ラタトスクは知らない。
かつての時間軸ではこの時期、本来ならばラタトスクはまだ、
かの間にて大樹暴走時に叩き起こされはしたが地表にはでていなかったのだから。
地下でもある下水道。
下水、というわりに水は臭くはない。
それというのもレザレノがここにて実験をしている水質浄化がうまくいっているがゆえ。
自然界のものを使用し水をろ過し浄化する。
そのまま汚れた水を垂れ流すだけでは巡り巡って自分たちの不利益となる。
それをかつてアルタミラにて経験しているゆえにそのようなものが設置されている。
一時期、今ほどアルタミラが発展する前、汚れた水をそのまま海に垂れ流し、
かの地は汚臭にまみれた時期があった。
もっともそれは百年ばかり前のことではあるのだが。
それよりも前の時代においては自然を蔑ろにあまりにもする場合、
クルシスからの制裁が加わっておりあからさまな自然破壊、というものはありえなかった。
その事実をクラトスは一応その立場上、管理する土地ではないとはいえ知っている。
その結果、テセアラが自然環境に関しては一応かなり気にかけていることも。
そのあたりはシルヴァラント側にも見習ってほしい、とおもうところではあるが。
マナが枯渇し数百年以上衰退世界であったあちら側はそこまでの考えに至らなかった。
その結果、ハイマの地などは木々もほとんど伐採しつくされ、
そしてまた、自然界にとってはなくてはならないはずの木々ですら人々は伐採し、
そのあとに植樹、などという救済処置も一切何もしなかった。
シルヴァラント側があのように衰退していったのは何もマナだけの問題ではない。
人々の認識が目先の利益だけを求めていった結果、マナの枯渇とあいまって、
人々の生活を圧迫するまでにマナを枯渇させていったにすぎない。
流れる水にも本来ならば瘴気が含まれるところであるが、
そのあたりはアクアの力も満ちたこともあり、
この地にいた魔物たちすべてにラタトスク自らが加護を施していたがゆえ、
水そのものは穢されてはいない。
真っ暗ともいえる下水道。
その足場といわずところどころにより濃い霧らしきものが漂っており、
それらはまるで意思をもっているかのごとくにうめいている。
実際、それらは自力で実体化のできない魔族達。
精神生命体でもある彼らは実力あるものであれば自力で実体化はできるが、
それ以外は大概、他者の器…すなわち他の生命体に寄生することにより行動が可能となる。
しかし地表の生命はすべてマナにて構成されている。
魔族達にとってマナは猛毒。
そんな彼らが依代とするにはまずその器となるべきものをみつける必要がある。
おそらくこの場にいるそれらもこの地にいる小動物。
それらならばどうにかなる、と踏んで誘いにのってやってきたのだろうが。
すでに魔物をとわず、この地にいたすべて…ヒトを除いて、ではあるが。
それらの生命にはラタトスクの加護がかかっている。
木々においては加護があるがゆえ、枯れてもいずれはそこから新たな命を芽吹かすことが可能。
リフィルのもちしカンテラの灯りのみが周囲を淡く照らし出す。
照らされた先にありしは赤黒いような霧のような何か。
暗闇では黒い霧のようなものにみえているそれは、
みようによっては鉄さびにもにた色にみえなくもない。
それらは意思をもってうねうねと触手のように灯り目指して細いいくつもの”手”。
それらを伸ばしてきはするが、クラトスが意図して展開しているマナの障壁。
それらによりて弾き飛ばされているのがみてとれる。
クラトスはマナの翼を展開することにより自身を中心とし、
ちょっとした範囲のマナの結界をどうやら張り巡らせているらしい。
その範囲にロイドをいれているのがクラトスらしいといえばそれまで、なのだが。
それをみてミトスが複雑な表情を浮かべているのに気づいているのかいないのか。
「まだ人体もマナで構成されているからある程度でこれすみますけど。
そうでなかったらいともあっさりと体は腐食して命を落としてしまいますけどね」
周囲をみつつ苦笑しながらエミルがつぶやく。
かつてマナから切り離したのち、人類はそのようになっていた。
もっとも、ラグナログ以後、一度瘴気に覆われてしまったことから、
完全にマナと切り離してしまえば他の生物にも危険が及びかねない。
ということで、今考えていること。
すなわち、かつてもやっていた、根本はマナではあるがマナから原子にと変換し、
それから生命を形成する。
その方法にとかつては切り替えていた。
もっとも、マナから原子へかえただけで根本はかわってはいないが、
かつての生命にとって瘴気は完全なる毒以外の何ものでもなかった。
それなのにヒトは再び世界樹を枯らすにいたった。
魔導砲などというものを魔族のささやきとその愚かなる野心のもと。
「こ、こわいこといわないでよ……」
エミルの言葉に一瞬、その光景を想像してしまい、思わずジーニアスが身震いする。
まるでエミルはみてきたようにいう。
いや、実際にみたことがあるのかもしれない。
エルフの族長がエミルのことをディセンダーと呼んでいた以上。
峡谷の語り部のいっていた大樹の代理人でもあるディセンダー。
…ならば、精霊達とまるで旧知のように意味のわからない言語で会話をしていても、
不思議ではない、とおもっているジーニアス自身がいる。
それでも直接エミルに姉のようにきけないのは、肯定されるのが怖いがゆえ。
エミルのこと、さらりと肯定しそうで怖い。
ならどうして自分たちの旅に同行していたのか。
その意図も。
そしてエミルとミトス。
あきらかに知り合いである素振りをみせているこの二人。
もしもエミルが”そう”であるならば、ミトスと面識があっても…おかしくは、ない。
気になるのはミトスがいっていた会話の一部。
そこに精霊ラタトスクの名らしきものが紡がれていた、ということ。
ジーニアスはいまだに天使言語を完全に掌握していない。
ある程度読むことはでき始めてはいるがそれを口にできるかといえば答えは否。
それでも文字を覚える過程で発音はコレットからある程度はきいている。
きいているがゆえに、人名?らしきものに気づいてしまった。
「まって。何かいるよ!あと、何かヒトの声みたいなのが……」
ふと足をとめ、耳に手をあてすますように、下水道の奥のほうにと視線をむけるコレット。
いくつかの足音、そして翼をはためかすような風をきるおと。
「な、何だ!?こいつ!?こいつはまえ・・っ!」
それとともに、バサリ。
何かが一行の近くに飛んでくる音。
ふとみあげれば天井近くの部分。
そこに異形の影がいつのまにか近づいているのに気付きロイドが今さらながら剣に手をかける。
というかすでにミトスもクラトスも臨戦態勢にはいっており、
それぞれすでにいつでも戦える構えをみせていた、というのに。
気付くのが遅すぎる。
無意識なのであろうそんなロイドをちらりとみてミトスが少しばかり溜息をついているが。
「禁書の中でもみましたね。あれ」
その姿をみて冷静に分析しタンタンといっているプレセア。
魔王を封印していたという封印の中でそれらは幾度もみている。
まさかあの場以外でもみることがあるとはおもわなかったが。
一見したところ人間と見まごうその姿。
鎧をみにつけ剣を手にし姿かたちはヒトのそれによくにている。
が、その背中の翼とさけた口がヒトあらざるものであることを示している。
そしてよくよくみれば頭につのがはえているようなヒト型もどきの魔族達の姿もみてとれる。
「ここはあの地と同じように疑似ニブルヘイムに近しい環境になってる。
ということ、なのかな?」
「正確には小窓を利用してこの地に瘴気を広げようとしている輩がいるから、だけどね」
人の心に入り込み、そして窓をこじあけようとしている輩がここにはいる。
というか、本当に懲りない、というか。
かつてのときですらダオスを彼らは利用しようとしていた。
いや、利用したというべきか。
「しかし……」
あのジェストーナはここでも活動をしていたのか。
まあデミテルやジャミルが動いていたのでそうではないかとはおもっていたが。
ちらりと奥をみやりエミルは溜息ひとつ。
それと同時。
ゴウッ!!
「「な、何だ!?」」
「「何!?」」
ジーニアスとロイド、リフィルとしいな。
それぞれの声が重なる。
身構えたその一瞬。
目の前に飛来してきた異形の姿をもちし魔族とおもわしき輩。
それの体が一瞬にして炎にと包まれる。
暗闇で燃えるその姿は一体や二体、ではない。
それと同時。
「何ものだ?こんなところにヒトが入り込めば命はないぞ?」
奥のほうから場違いともいえる女性の声。
歩いてくるたびに周囲の魔族達が炎につつまれ、あるいは水の球体にと閉じ込められている。
やがてその声の主はゆっくりとではあるが近づいてきて、
「何だ。お前たちか」
『ミラ(さん)!?』
その姿にほぼ異口同音でミトスやクラトス、そしてエミルやゼロス。
そんな彼らを除いた全員の声がほぼ一致する。
飛空都市エグザイアにてであったミラ、となのりし女性。
こんな場所で彼女に会うなど思ってもいなかったらしくロイド達が驚愕に目をみひらく。
そんなロイド達をちらり、とみたのみで。
「ああ。爺様がいっていたとおりか。というかエミル殿。
爺様がいっていたけど、できれば直接かかわらないほうがいいのでは、といっていたぞ?」
自分達は命令によって動けないから、お前がいってこい。
といって意味不明なことをいって叩き落されたが。
などとぶつぶついいながら、エミルのほうをみてそんなことをいってくるは、
金の髪に赤紫色の瞳をしている一人の少女。
淡い色彩の桃色の上下に分かれた服に膝まである長いブーツ。
ばっとみため、どうみても戦う恰好ではないのでは、というような、
長い金色の髪をたばねるでもなくそのままのばしているその少女。
その腰にさしている剣が彼女が剣術をたしなむとぱっとみため物語っている。
「あいつは…まあ、たしかに。君たちならば問題ないけど。
というか、ミュゼさんもきてるの?」
「ああ。姉様は今……」
相変わらず過保護きわまりないというべきか。
目の前にあらわれたミラと呼ばれし少女の台詞にエミルは苦笑せざるを得ない。
ミラ、と呼ばれた少女がいいかけたその刹那。
「あれ?エミル様?」
「あ。ほんとだ~。ラ…でなかった、エミル様だ~」
これまた第三者たる二つの声が同時にきこえてくる。
第三者の声をうけ、そちらに視線をむけたロイド達は絶句せざるをえない。
何やら子供っぽい甲高い声をだした主。
それはあきらかにヒト、ではない。
むしろどちらかといえば魔物、に近い、のかもしれない。
が、魔物ではないような気がものすごくする。
それはその場にいる誰もが抱いた直感。
「シャオルーン、それにフェニアか」
ユリスを利用するにあたり彼らにも一応つなぎはとっていたが。
しかし、今、シャオルーンはあきらかに、ラタトスク、といいかけていた。
あいかわらず失言をしでかす可能性が多いのは何といえばいいのやら。
ぱっと見た目は青いドラゴンのような姿をしているその姿。
鱗のない竜のような姿で顔はどちらかといえば犬に近い。
そしてその両手には体にそぐわない大き目の水晶を抱えているのがうかがえる。
そしてその首元にはふわりとなびくマフラーが。
ちなみに彼…シャオルーンいわく、その宝玉とマフラーが彼自身のトレードマークらしい。
そして対するは、着物をきた女性の姿をしているものの、
腕から先が鳥の翼となっている穏やかな雰囲気を纏いし女性。
「フェニア殿。それにシャオルーンも。ここにいた魔族達は?」
「うん。僕らの水と炎で浄化したよ~」
「もっとも根本をどうにかしなければ解決にはならないでしょうけども」
そんな彼らが近寄ってきたのにきづき、ミラが声をかければ、
にこやかな笑みをうかべ、そんなミラにと答えるシャオルーンと、
そしてすこし首をかしげつつもそんなことをいっているフェニア。
「どうしてあなたがここに…」
飛空都市にいたはず、ではなかったのか。
というかそもそもこの目の前のヒト言葉を話す”何か”はいったい何なのか。
「ああ。この子たちは聖獣、とよばれている子たちですよ。
そっちのシャオルーンが水を司る水の聖獣シャオルーン。
で、そっちが火の聖獣フェニア。もともと精霊達が生み出されるよりも以前。
この惑星を管轄していた子たち、でもありますけどね」
ラタトスクがこの地に干渉するまでは彼らはほとんど封印状態にあったといってもよい。
というか穢され、おもいっきりその存在の本質を狂わされていた。
リフィルの当然といえば当然の疑問。
それに答えるかのようにかわりにエミルが説明する。
「以前、僕らのときには彼らいなかったよ…ね?」
聖獣、という存在は知っていた。
いたがミトスは当時直接彼らにはあっていない。
ゆえに珍しくミトスまでもが困惑した声をあげてくるが。
「あの当時は争いが頻発してたからね。
ゲオルギアスを筆頭に属性を司るこの子たちは眠っていたから」
それこそ自らの内部でゆっくりと穢れを払っていた。
彼らの基本も自分たちと同じくコアとよばれし核がある。
それは自分たちとおなじく宝石のようなもの。
精霊達には手をださないようにいってはいるが、聖獣たちに関してはそうではない。
ゆえにおそらく、マクスウェルが彼らを選んだ、のであろう。
たしかに瘴気に対抗するにあたり、
浄化の炎を司るフェニアと、すべてを浄化する水属性のシャオルーンはうってつけ。
…光のギリオーヌの場合はあの子の場合はどちらかといえば反発が大きく、
周囲そのものすらをも消し去ってしまえばよいのでは、という極論に至りかねない。
それゆえの選抜、なのだろうが。
ちなみにこの聖獣たち。
センチュリオン達がかつて自らうみだした直属の配下の一員でもあったりする。
センチュリオン達と異なり、彼らは彼らの意思で惑星を渡り歩く属性をもたせている。
センチュリオン達がラタトスクの直接の配下で常に彼のそばにいるならば、
彼ら聖獣たちは
何か不足の事態などがおこればすぐにセンチュリオンのもとに連絡がいき、
そこからラタトスクのもとに連絡がつくよう、そのように彼らは創造られている。
センチュリオンコアとは違い、コアの状態のままだと周囲に害をおよぼす。
そのようなことはこの聖獣たちに限ってはありえない。
まあラタトスクはそこまで彼らに説明する気はさらさらないが。
そもそも地上を浄化し終えたのち、彼らを目覚めさす予定であったので、
ミトスたちが彼らを知らないのも道理。
『精霊達が生み出される前って……』
さらっといわれたエミルの説明にその場にいる誰もが同時に呟く。
さらりというような内容ではない。
絶対に。
「?精霊達が生み出される前って…どういうことだ?」
ロイドは意味がわからないらしく、首をかしげているが。
いまだに周囲にはフェニアの浄化の炎によって、
魔族達が浄化されており、周囲は炎の淡い光によって照らし出されている。
「もともと、この惑星というか世界はマナを主体としていた世界ではなかったからね。
マクスウェルがつかさどっている元素。元素、原子を主体とした惑星。
でも当時この惑星にいたヒトが愚かなことをして世界は瘴気に包まれてしまってた。
百年ごとに飛来する彗星ネオ・デリス・カーラーンのマナをうけ
この惑星はゆっくりと浄化されてたんだけど。まあそのあたりは割愛するとして。
結局のところ大樹とともにエルフ達がこの惑星に移住したのをうけ、
完全にこの惑星はマナを主体とした新たな大地を形成された。
そしてマナが満ちた世界になったのち、生まれたのが精霊達。
まあ、ヒトはかつての出来事すら記録にとどめていないようだけどね。
何しろあのエルフたちですら完全に伝承をつたえきってないようだし」
そうでなければユグドラシル姉弟を追放するような愚かなことをしなかっただろうに。
まがりなりにもかの家系は自らの大樹の御子の直系、だったのだから。
そもそもウィノナを迫害していた時点でそのあたりは明白であったといってもよい。
「エミル、あんたは……」
あんたは、いったい。
そういいかけたしいなの言葉を遮るように、
「でも、エミル様?なぜエミル様がこのような場所に?
ここにはあきらかに魔族達、しかも上級魔族の気配があります。
エミル様に気づかれれば奴らが何をしてくるか……」
「うん。まちがいなくエミル様を狙ってくるよね。あいつら」
困惑し、それでいて心配そうにいってくるその身を赤に宿している女性…フェニアと、
うんうんとそんなフェニアの言葉に同意するようにうなづいているシャオルーン。
ちなみにシャオルーンはふわふわとエミルの周囲にまとわりつくようにとびかっており、
ときおりそんなシャオルーンをエミルが撫でては気持ちよさそうな笑みを浮かべていたりする。
「それはそれでかまわないよ」
というかそれが目的。
ここで今後の憂いを取り払っていたほうが手っ取り早い。
何しろ彼らはこののち、ラグナログといわれていた戦いにもかかわり、
さらにはダオスを追い詰めるようなことをしでかしたのだから。
プルートとともにかの地に移住していないのはつかんでいた。
まあその前にこの地に干渉というかあの人間に干渉していたからという理由もあるかもしれないが。
「「かまって(よ)(くださいませ)!!」」
さらっというエミルの言葉にフェニア、そしてシャオルーンの台詞が一致する。
「…まあ、爺様も【エミル様はいってもきかれないでしょうけどな】
とかほぼあきらめの境地でいっていたからな。
しかし、エミル様だけでなくお前たちのような人間がここにいる、ということは。
この地におこっている出来事をどうにかするためにやってきた、ということか?」
そんな彼らの会話をききつつ溜息一つ。
いっても無駄だろう、という祖父の言葉をきいていたがゆえ、
ミラとしてはやはりか、という思いが否めない。
まあ、”様”を相変わらずつけているという時点でこのエミルという人間。
いや、ヒトかどうかも怪しいが…ともかくふつうではない、というのは明白。
四大元素の長でもある精霊マクスウェルが様をつける相手。
普通でないに決まっている。
「…ん?」
そんな会話をしているさなか、ふとミラが目をつむる。
ミラの脳裏に直接ひびいてくるとある声。
その声にミラは耳をかたむける。
「どうやらミュゼ姉様が準備が整ったらしい。
私たちはこの結界をひとまず壊すべく移動するが、お前たちはどうする?
このマナの結界によって瘴気は街中に充満していないようだが。
逆にこの原因でもある城にも立ち入りができなくなっているからな」
聞こえてきた”声”は準備が整ったという連絡。
「ちょっとまってよ。結界を壊すって……」
「その結界とやらで瘴気?だったかしら。
それが広がっていないというのであれば壊すというのは危険ではなくて?」
「しかし、それをしなければ魔族に操られている根本たる人間。
フィリプとかいう輩をどうにかはできないぞ?」
『!?』
さらり、といわれたミラの言葉にミトス、クラトス、エミルを除いた全員が絶句する。
フィリプ。
それはたしか元教皇の名前ではなかったか。
「…やっぱりこの原因もまたあのヒヒ爺のせいかよ」
予感はしていたが、やはりというか何というか。
吐き捨てるようにいうゼロスの心情は…まあわからなくはない。
「ここにかかわっている魔族は三体?えっと、ミラさん、だったよね?」
「うむ。おまえは?…みたところ大樹の加護をうけているようだが…
大樹の加護をうけている、というのは…新たにうけたという話はきいてないが?」
ミラが祖父でもありしマクスウェルからききしは、四人の存在。
「僕は……」
ミトス・ユグドラシル、といってもいいのだろうか。
目の前のこの少女に。
爺様云々、といっている内容もきになるが。
それ以上にこの少女からはマクスウェルの気配がしている。
契約が解除されているとはいえかつて契約していた精霊の気配を間違えるはずはない。
「僕は…ミトス。ミトス・ユグドラシル」
それでも黙っているというわけにはいかないであろう。
ミトスがなのると、ぴくり、とミラが反応する。
眉をおもいっきりしかめていることから、おそらく自分のことを聞かされている。
その可能性が遥かに高い。
「この子たちは今、精霊の試練の真っただ中、だからね」
「爺様たちの試練…か。なるほど、な」
試練云々ということはよくわからないが。
しかし精霊達が手をだせないといっていたということは。
すくなからずそこに何らかの意図があるのてあろう。
詳しく話をききたいところなれど、今はそんな時間はない。
「まあいい。ついてくるならばそれはそれで。しかし私達の邪魔だけはするな。
結界を構成しているのは、精霊研究所、といわれている地下施設であるようだからな」
「エミル様、護衛いたしますわね」
「あ、僕も僕も!」
「…こっちよりもミラのほうを。あの子はいくらマクスウェルの加護がある、とはいえ。
ふつうのヒト、なんだから」
いいつつ、くるりと向きをかえ、すたすたと奥にとすすみはじめるミラ。
一方でエミルの横にいつのまにやら移動したフェニアがうやうやしくお辞儀をしつついってくる。
フェニアとシャオルーン、彼らの言葉をききエミルとしては溜息をつかざるをえない。
自分よりもミラの護衛のほうが優先であろうに。
「ま、とにかく。いきません?ここでたっていてもどうにもなりませんし」
困惑している表情の全員にむってにこやかに語り掛け、
そのままエミルもまたミラにつづくようにして歩き出す。
「あ、まてよ!エミル!」
「あ、ロイド、まって!」
「あ。エミル、おいてかないで!」
「ロイドもコレットも、勝手な行動しないでよ!というかマルタも!」
「…結界とかいうのがなくなってしまったらどうなるのかしら…」
「…わかりません」
「結界とかいうのを存続させたまま城にいける方法が何かないもんなのかねぇ…」
そんなエミルをしばらく見送っていたが、はっとしたように駆け出すロイド。
そしてそんなロイドをおいかけるコレットに、エミルをおいかけだすマルタ。
そんな彼らをみてジーニアスが叫びつつもそのあとにつづいているが。
そんな彼らとは対照的に、
少しばかり考えるそぶりをみせてつぶやくリフィル。
そしてまた、リフィルの言葉をうけ困惑したようにつぶやくプレセア。
しいなはしいなで、よくわからないが結界を保持したまま何とかできないか、
というような視線をゼロスにとむけていたりする。
「俺様としてはこの結界というのがライゼンのやつが考案していたアレ。
それであったほうが脅威、だけどな」
「それ…は……」
その言葉が意味すること。
それがわからないしいな、ではない。
「もしもそうなら…俺は許してはおけねぇ……」
「ゼロス……」
ゼロスがぎゅっと手を握り締めているその様子はウソをついているようにはみえない。
あきらかに憤っている。
それは人道にあるまじきコト。
~スキット・下水道移動中~
リフィル「聖獣…たしか、マルタが契約した”タマミヤ”とかいうのも。聖獣、だったわね」
かつてシルフと契約したときにマルタが契約した猫のような何か。
たしかあれも聖獣だといっていたはず。
それゆえのリフィルの台詞。
エミル「シヴァですけどね。本当の名前は。まあいいんですけど。
あの子たちは契約のとき、契約主から名前を与えられることによって、
それが契約の施行となりますし」
フェニア「しかし。エミル様。よろしいのですか?
翁様がたからもききましたけど、そこのミトスという少年は……」
ミトス「…っ」
エミル「今のこの子は魔界の瘴気の影響はうけてないからね。
それに…まだかつての盟約は有効だし」
シャオルーン「甘い!あますぎます!エミル様!」
フェニア「まあ、エミル様らしいといえばらしいですけどね。
相手を甘やかすときにはとことん甘やかしますし」
シャオルーン「それはそうだけどさ。…よくもまあセンチュリオン様方が許してるよね」
リフィル「貴方たちはエミルとその…知り合い、なのかしら?」
フェニア「ええ」
シャオルーン「めったと直接お会いできないけどね~」
リフィル「…そう」
つまりはそういうこと、なのだろう。
まあエミルが精霊ラタトスクである以上、この聖獣、
となのっているものたちの言い分もリフィルはわからなくはない。
マルタ「そういえば、タマミヤ、パパたちのところにいるけど、大丈夫かな?」
エミル「シヴァがいればある程度の対処はできるから平気でしょ。
まあ、あの地にも移動してきているヒトたちがいるみたいだけど」
クラトス「彗星にいたすべてものが地表に移動している、のか?」
エミル「うん」
一同『うん、って……』
エミル「ドワーフたちもいたみたいだけど、まったく、何をしてるんだか。
許可あたえてたの、君たち四人のみ、だったよね?なのに」
彗星に立ち入る許可をあたえていたのはミトスたち四人のみ。
それ以外はあるいみ不法侵入、ともいえる。
ウィノナに関しては魂の根源が根源であるゆえに数には入らない。
ミトス「…つまり、あの地にいたすべてのものが地表に移動している、ってこと、だよね」
エミル「そうなるね」
ロイド「なあ、何でエミルはそこまで詳しいんだ?」
ゼロス「それより、ロイド君、一人で突っ走るのはやめとけよな。
さっきもお前さんムチもった青白い魔族っぽい輩につっこんでっただろ?」
ロイド「うっ」
ジーニアス「というか、倒しても倒してもわいてくるよね…あれ……」
ミラ「どうでもいい会話をしていないで。そろそろ目的地につくぞ」
目指す精霊研究所に続く道はすぐそこ。
pixv投稿日:2015年3月28日某日(Hp編集:2018年5月6日(日)開始
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あとがきもどき:
~~メルニクス語変換メモ~
のりのりだな
It's mentioned and is glue.
ウティス トゥンムティウイムンド エムド ウス グロン
仰せのままに
With his statement →バウティア アウス スティエティントゥンムティ
余計なことはいうなといったはずだが?
It must have said Don't say the excessive thing
ウティ トェオスティ アエウド
ヂムッティ セヤ ティアン ンズワンススウヌン ティアウムグ?
~~~
英語、とかでもそうですけど。
文字、としてよむのはできても、その言い回しとか意味不明というか聞き取り不明。
というのはざらにありますよね。
この話の古代言語扱いである古の四千年前の共通言語。
それもそんな感じ、とおもっていただけたらてっとり早いです。
つまり、文字として書かれていれば解読は可能だけど、
普通に流暢に話していたら、何はなしてるのかわからない、という。
わかる単語、単語付近では何となく察することはできるでしょうけどね。
いい例が、日本人の話す英語は本場のヒトにはほとんど通用しない、という・・
(特に学校で習った分野の言い回しでは・・)
エミル、さらっとミトスに暴露されたゆえか、隠す気ゼロです(笑
でも、いまだにジーニアスやマルタ、そしてプレセアは当然気づいてません。
セレスは兄に少しでもつかづこうと自力で天使言語習得してますので、
ところどころの単語、くらいは理解できてます。
ラタトスク、という単語は理解できてるけど、同一人物か否か、までは理解してないという
ゼロスはもうとっくにそれをしってましたから驚きはないですけど
リフィルはその学者気質で単語はかなり習得してますから、
エミル=ラタトスク、というミトスの言葉に気づいてただいまあるいみ混乱中。
ジーニアスはまだ完全に絶対に天使言語習得してないとおもいます。
スキットでもありましたしね。天使言語覚えていこう、という…(ゲーム本編にて
さて、あれ?クラトス回復のくだり、あのシーン、どこかでみたような?
というひとは、お仲間です!あの某作品のあのシーン、結構好きなんですよね。
なのでこの話に取り入れさせてもらってたりします。
さあ、鬱展開がつづいていくシーンにふたたび突入です。
そこを突破すれば、あ、あとはラスト一直線!が、頑張ります…
さて、アンナ・アーヴィングのログアウトとなりました(まてこら
彼女が幾度か姿を現してたのは実はより彼女の行動を鮮明にという理由もあったりします。
まあ、クラトスには文中でもいってますけどきついでしょうけどね。
二度もあるいみ奥さんを殺したようなもの……
でも、これはあるいみ決定事項だったんですよね。なぜか?
アンナの魂がクラトス、ロイド、ミトスに分け注がれたことに意味があるのですよ。
あるいみ、本当の意味でミトスはクラトスと家族になったようなものです。
というかロイドにとってミトスはお兄さん(笑)
いや、もともとクラトスの指導をうけて弟のような息子のような扱いをされていて、
さらには妻であるアンナの命も受け継いだ、というのもありますからね。
あるいみクラトスの息子といっても過言でないという。
そのあたりのスキットも考えてはいますけどw
ミトス、よかったね。手のかかる弟ができたよ!(まてぃ!
ミトスは今後苦労します。絶対に。
というかスパルタでロイドを教育してくれることでしょう(笑
マーテル、ミトス、ロイド、コレットとそろったら、
それはもう収集がつかなくなるというラスト付近・・・
そこまでいつになったらいけるかなぁ(遠い目……
さあ、ついにものがたりのラスボスともいえる登場です!
いや、真の裏ボスはあるいみラタトスク自身なんですけどね(←笑
時折、TOW要素やら、他のテイルズ作品要素。
それをだしてたので、何となくラスボスは何かと分っていた人はいたかと。
いや、負とか何とかだしまくってたから予測していた人は予測してたはずv
しかし、テイルズ作品って…ラスボスが判明してからもまた…長いんですよね(しみじみ
この作品にも例にはもれず。
ラスボス発生しても、なかなかそこにまでたどりつけません。
いくつかまだイベントこなさないとたどり着くことすらできません(こらまて
でもあと残りわずかというのも事実。
頑張ります!…鬱展開続きまくりますけど……
エクシリア要素がメルトキオのイベでは強くでています。
そういえば、ファミコン版ではオリジンって女性だったんですよね・・たしかTOP・・
だからかなぁ?台詞がそのまま”初めての主”となってたのは。
きっとリメイク前のオリジンはミラのようなきがひしひしと(こらまてや
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